(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルス(HBV)ノックアウト
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240730BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240730BHJP
C12N 7/04 20060101ALI20240730BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240730BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240730BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240730BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20240730BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20240730BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/11 Z ZNA
C12N7/04
C12N5/10
A61K31/7088
A61K48/00
A61K38/46
A61P31/20
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503721
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 US2022073981
(87)【国際公開番号】W WO2023004375
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521476126
【氏名又は名称】エメンドバイオ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル、ラフィ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA96X
4B065AA96Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA30
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4C084ZA75
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4C086AA01
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4C086ZA75
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4C086ZC75
(57)【要約】
配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、並びにその組成物、方法及び使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞においてB型肝炎ウイルス(HBV)配列を改変する方法であって、
少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、又はCRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列;及び
17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第1のRNA分子、又は前記第1のRNA分子をコードするヌクレオチド配列
を含む組成物を前記細胞へ導入することを含み、
前記CRISPRヌクレアーゼと前記第1のRNA分子の複合体が前記HBV配列を二本鎖切断する、方法。
【請求項2】
前記第1のRNA分子のガイド配列部分が、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二本鎖切断が、HBV遺伝子若しくはその一部分、HBVコード配列若しくはその一部分、HBV制御配列若しくはその一部分、及び/又は保存HBV配列の配列にもたらされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第2のRNA分子、又は前記第2のRNA分子をコードするヌクレオチド配列を前記細胞へ導入することを更に含み、前記第2のRNA分子とCRISPRヌクレアーゼの複合体がB型肝炎ウイルス配列を更に二本鎖切断する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のRNA分子のガイド配列部分が、前記第1のRNA分子の配列以外の、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ヌクレオチドの配列が、前記HBV配列を含む分子から切除される、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記HBV配列から切除されるヌクレオチドの配列が、HBV遺伝子若しくはその一部分、HBVコード配列若しくはその一部分、HBV制御配列若しくはその一部分、及び/又は保存HBV配列を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1又は第2のRNA分子が、前記第1及び第2のRNA分子によって切除されるHBV遺伝子、HBVコード配列、HBV制御配列、及び/又は保存HBV配列から500塩基対までに位置する配列を標的とするガイド配列部分を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が肝臓細胞又は肝実質細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞がヒト対象内にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト対象が、慢性又は急性B型肝炎にり患している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記HBV配列が、HBV共有結合閉環DNA(cccDNA)分子に位置する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記HBV配列が、HBV配列が組み込まれたゲノムDNA分子に位置する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第1のRNA分子を含む組成物であって、前記第1のRNA分子が、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む、組成物。
【請求項15】
少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼを更に含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第2のRNA分子を更に含み、前記第2のRNA分子がHBV遺伝子を標的とし、かつ前記第2のRNA分子のガイド配列部分が、前記第1のRNA分子のガイド配列部分の配列とは異なる配列である、請求項14又は15に記載の組成物。
【請求項17】
前記第2のRNA分子のガイド配列部分が、前記第1のRNA分子の配列以外の、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を細胞へ送達することを含む、前記細胞においてB型肝炎ウイルスを不活性化する方法。
【請求項19】
請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を、B型肝炎を有する対象の細胞へ送達することを含む、B型肝炎を治療する方法。
【請求項20】
請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を細胞へ送達することを含む、前記細胞においてB型肝炎ウイルスを不活性化するための、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項21】
細胞においてB型肝炎ウイルスの不活性化に使用する、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬であって、前記医薬は、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞へ送達することにより投与される、医薬。
【請求項22】
B型肝炎を有する又は有するリスクがある対象の細胞へ請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を送達することを含む、B型肝炎の治療、寛解又は予防のための、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項23】
B型肝炎の治療、寛解又は予防に使用する、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬であって、前記医薬は、B型肝炎を有する又は有するリスクがある対象の細胞へ請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物を送達することにより投与される、医薬。
【請求項24】
細胞においてB型肝炎ウイルスの不活性化に使用する、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
B型肝炎の治療、寛解又は予防に使用する、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2021年7月22日に出願された米国仮出願第63/224,581号の恩恵を主張し、その米国仮出願の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
この出願全体で、括弧に入れて参照したものを含む、さまざまな刊行物を参照する。この出願において全体として言及された全ての刊行物の開示は、この発明が属する技術分野及びこの発明と共に使用される技術分野における特徴の追加の説明を提供するために、参照によりこの出願に組み入れられる。
【0003】
配列表への言及
この出願は、「220721_91770-A-PCT_Sequence_Listing_AWG.xml」と名付けられたファイルに存在するヌクレオチド配列を参照により組み入れ、そのファイルは、サイズが23,850kbであり、MS-Windows(登録商標)とのシステム互換性を有するIBM-PC機フォーマットで2022年7月19日に作成され、この出願の一部として、2022年7月21日に出願されたXMLファイルに含まれている。
【背景技術】
【0004】
B型肝炎ウイルス及び肝臓感染症
B型肝炎ウイルス(HBV)は、B型肝炎肝臓感染症(「B型肝炎」とも呼ばれる)の原因物質である。CDCによれば、B型肝炎は、多くの人にとって短期間の病気であるが、肝硬変又は肝臓がんのような深刻な健康問題に繋がる可能性がある長期間の慢性感染となる可能性がある。慢性感染のリスクは、感染時の年齢に関係している:B型肝炎の乳児の約90%は慢性化し、一方、成人でB型肝炎にり患した人で慢性化するのは2%~6%のみである。慢性HBV感染症の効率的な治癒は、HBV複製と持続のための鋳型である長寿命のウイルスゲノム中間体であるHBV共有結合閉環DNA(covalently closed circular DNA、cccDNA)の排除を必要とする。
【発明の概要】
【0005】
細胞においてHBVゲノムDNA分子を破壊するためのアプローチを開示する。本発明のいくつかの側面で、このアプローチの結果、HBV遺伝子の発現がノックアウトされる。いくつかの態様では、本開示は、HBV配列の保存領域又はその一部分を破壊する方法を提供する。いくつかの態様では、本開示は、HBV配列の制御エレメント又はその一部分を破壊する方法を提供する。いくつかの態様では、本開示は、HBV配列のコード配列又はその一部分を破壊する方法を提供する。いくつかの態様では、HBV共有結合閉環DNA(cccDNA)分子内及び/又は哺乳動物宿主ゲノムDNA分子内で、HBV配列が標的化され、改変される。いくつかの側面では、この開示は、HBV共有結合閉環DNA(cccDNA)分子の配列を標的とし、改変する方法を提供する。
【0006】
本開示は、B型肝炎ウイルス(HBV)を含有する細胞においてHBV遺伝子を改変する方法であって、
少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、又はCRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列;及び
17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第1のRNA分子、又は当該第1のRNA分子をコードするヌクレオチド配列
を含む組成物を細胞へ導入することを含み、
CRISPRヌクレアーゼと第1のRNA分子の複合体がHBV遺伝子を二本鎖切断する、方法も提供する。
【0007】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第1のRNA分子を提供する。
【0008】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を提供する。
【0009】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、B型肝炎を有する対象の細胞へ送達することを含む、B型肝炎を治療する方法を提供する。
【0010】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、B型肝炎ウイルスを含有する細胞へ送達することを含む、細胞においてB型肝炎ウイルスを不活性化する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、(直線化された)HBV cccDNA(直線化された)分子の概略図を示す。
【
図1B】
図1Bは、HeLa細胞の次の感染に使用するために、どのようにHBVセグメントがレンチウイルスベクターにクローニングされたかを示す。
【
図2】
図2は、HeLa細胞におけるHBVを標的とするガイド分子の活性を示す。特定のガイド分子を、野生型OMNI-79(WT)ヌクレアーゼ又はOMNI-79 V5570バリアントヌクレアーゼと同時トランスフェクトして、ガイド分子のオンターゲット活性を決定した。DNAトランスフェクションの72時間後に細胞を収集し、ゲノムDNAを抽出し、ヌクレアーゼ切断部位を含む領域を増幅し、次いで、次世代シーケンシング(NGS)により分析した。グラフは、感染多重度(MOI)2でレンチウイルスをトランスフェクトした細胞における3つの独立したトランスフェクションの編集率(%)±STDVを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
別段の定義がある場合を除き、この明細書で用いる全ての技術的及び/又は科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。この明細書に記載したものと類似又は等価の方法及び材料は、本発明の態様の実施又は試験に用いることができるが、代表的な方法及び/又は材料を以下に記載する。矛盾する場合、定義を含めて、この明細書が優先する。加えて、材料、方法及び実施例は例証となるのみであり、必ずしも限定することを意図するものではない。
【0013】
用語「1つの(a、an)」は、列挙された成分の「1つ以上」を指すことが理解される。単数形の使用は、具体的に別段の説明がある場合を除き、複数形を含むことは当業者に明らかである。したがって、用語「1つの(a、an)」及び「少なくとも1つの」は、この出願では同じ意味である。
【0014】
この教示をより良く理解することを目的として、かつ教示の範囲を決して限定することなく、別段の指示がある場合を除き、この明細書及び特許請求の範囲で用いられる、量、パーセンテージ又は割合を表す全ての数及び他の数値は、あらゆる場合において、用語「約」により修飾されていると理解される。したがって、反する指示がある場合を除き、明細書及び特許請求の範囲に示した数的パラメータは、得ようとする所望の性質に依存して変動してもよい近似値である。最低でも、各数的パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を考慮しかつ通常の丸め技術を適用することによって解釈される。
【0015】
別段の説明がある場合を除き、形容詞、例えば、本発明の態様の特徴を示す状態又は関係を修飾する「実質的に」及び「約」は、その状態又は特性が、それが意図される適用についての態様の運用に受け入れられる許容範囲内までで定義されることを意味すると理解される。別段の指示がある場合を除き、この明細書及び特許請求の範囲における用語「又は」は、排他的な「又は」というよりむしろ、包含的な「又は」であると見なされ、それが結びつける項目の少なくとも1つ又は任意の組合せを示す。
【0016】
本出願の説明及び特許請求の範囲において、動詞「含む」、「含有する」及び「有する」並びにそれらの活用形は、その動詞の目的語が、必ずしも、その動詞の主語の成分、要素又は部分の完全な列挙とは限らないことを示すために用いられる。この明細書では他の用語は、当技術分野におけるそれらの周知の意味により定義されることを意図する。
【0017】
本発明のいくつかの態様では、DNAヌクレアーゼは、標的部位でDNAを切断し、細胞修復機構、例えば限定するものではないが非相同末端結合(NHEJ)、を誘導するために利用される。古典的NHEJでは、二本鎖切断(DSB)部位の2つの末端は、迅速であるが、不正確でもある様式で共にライゲーションされ(すなわち、小さな挿入又は欠失の形態の切断部位におけるDNAの変異を頻繁に生じる)、HDRでは、無傷の相同DNAドナーを使用して、切断部位を囲むDNAを正確な様式で置き換える。HDRは、切断部位における外因性DNAの正確な挿入を媒介することもできる。したがって、用語「相同組換え修復」又は「HDR」は、細胞内で、例えばDNAの二本鎖及び一本鎖切断の修復中に、DNA損傷を修復する機構を指す。HDRは、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、二本鎖又は一本鎖切断された配列(例.DNA標的配列)を修復するために「核酸鋳型」(この明細書では、核酸鋳型とドナー鋳型は同じ意味である)を用いる。これは、例えば核酸鋳型から、DNA標的配列への遺伝子情報の移動が生じる。HDRは、核酸鋳型の配列がDNA標的の配列と異なり、かつ、核酸鋳型ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの一部又は全部がDNA標的配列へ組み入れられる場合には、DNA標的の配列が変化(例.挿入、欠失、変異)する可能性がある。いくつかの態様では、核酸鋳型ポリヌクレオチド全体、核酸鋳型ポリヌクレオチドの一部分又は核酸鋳型のコピーが、DNA標的配列に組み込まれる。
【0018】
この明細書では、用語「標的化配列」又は「標的化分子」は、特定の標的配列とハイブリダイズできるヌクレオチド配列、又はヌクレオチド配列を含む分子を指し、例えば、標的化配列は、標的となる配列と少なくとも部分的に相補的であるヌクレオチド配列を有する。標的化配列又は標的化分子は、単独で、又は他のRNA分子と組み合わせて、CRISPRヌクレアーゼと複合体を形成できるRNA分子の一部であってもよく、標的化配列が、CRISPR複合体の標的化部分としての役割を果たす。標的化配列を有する分子がCRISPR分子と同時に存在する場合、RNA分子は、単独で又は他の1つ以上のRNA分子(例.tracrRNA分子)と組み合わせて、CRISPRヌクレアーゼの標的を特定の標的配列とする能力がある。限定するものではない例として、CRISPR RNA分子のガイド配列部分又は単一ガイドRNA分子は、標的化分子としての役割を果たしてもよい。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。標的化配列は、所望の配列を標的とするようにカスタムデザインできる。
【0019】
この明細書では、用語「標的とする」は、標的化分子の標的化配列を、標的化されるヌクレオチド配列を有する核酸へ優先的にハイブリダイズさせることを指す。用語「標的化する」は、可変性のハイブリダイゼーション効率を包含し、したがって、標的となるヌクレオチド配列を有する核酸の優先的な標的化があるが、オンターゲットハイブリダイゼーションに加えて、意図しないオフターゲットハイブリダイゼーションも生じる可能性があることは理解されている。RNA分子が配列を標的とする場合、RNA分子とCRISPRヌクレアーゼ分子の複合体は、ヌクレアーゼ活性のためにその配列を標的とすることは理解されている。
【0020】
RNA分子の「ガイド配列部分」は、特定の標的DNA配列とハイブリダイズできるヌクレオチド配列を指し、例えば、ガイド配列部分は、ガイド配列部分に沿って標的化されるDNA配列と部分的に又は完全に相補的であるヌクレオチド配列を有する。いくつかの態様では、ガイド配列部分のヌクレオチドの長さは、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49若しくは50、又は、およそ17~50、17~49、17~48、17~47、17~46、17~45、17~44、17~43、17~42、17~41、17~40、17~39、17~38、17~37、17~36、17~35、17~34、17~33、17~31、17~30、17~29、17~28、17~27、17~26、17~25、17~24、17~22、17~21、18~25、18~24、18~23、18~22、18~21、19~25、19~24、19~23、19~22、19~21、19~20、20~22、18~20、20~21、21~22若しくは17~20である。好ましくは、ガイド配列部分の全長は、ガイド配列部分に沿って標的化されるDNA配列と完全に相補的である。ガイド配列部分は、CRISPRヌクレアーゼと複合体を形成できるRNA分子の一部であってもよく、ガイド配列部分がCRISPR複合体のDNA標的化部分としての役割を果たす。ガイド配列部分を有するDNA分子が、CRISPR分子と同時に存在する場合、RNA分子は、CRISPRヌクレアーゼの標的を特定の標的DNA配列とする能力がある。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。RNA分子は、所望の配列を標的とするようにカスタムデザインできる。したがって、「ガイド配列部分」を含む分子は一種の標的化分子である。いくつかの態様では、ガイド配列部分は、この明細書に記載したガイド配列部分、例えば、配列番号1~18936のいずれかに示すガイド配列と同じ配列、又は1、2、3、4若しくは5ヌクレオチド以下の異なる配列を含む。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。これらの態様の一部では、ガイド配列部分は、標的配列と完全に相補的であり、配列番号:1~18936のいずれかに示す配列と同じである配列を含む。この出願全体で、用語「ガイド分子」、「RNAガイド分子」、「ガイドRNA分子」及び「gRNA分子」は、ガイド配列部分を含む分子と同義であり、用語「スペーサー」は、「ガイド配列部分」と同義である。
【0021】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子は、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む。
【0022】
RNA分子及び/又はRNA分子のガイド配列部分は、修飾ヌクレオチドを有してもよい。ヌクレオチド/ポリヌクレオチドへの代表的な修飾は、合成であってもよく、天然に存在するアデニン、シトシン、チミン、ウラシル又はグアニン塩基以外の塩基を含むヌクレオチドを有するポリヌクレオチドを包含してもよい。ポリヌクレオチドへの修飾には、合成で、天然に存在しないヌクレオシド、例えば、ロックド核酸を有するポリヌクレオチドが挙げられる。RNAの安定性を増加又は減少させるために、ポリヌクレオチドを修飾してもよい。修飾ポリヌクレオチドの例は、1-メチルプソイドウリジンを有するmRNAである。例えば、修飾ポリヌクレオチドとその使用の例は、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,278,036号、国際公開第2015/006747号及びWeissman and Kariko (2015)を参照。
【0023】
この明細書では、配列番号で示す「連続するヌクレオチド」は、ヌクレオチドの介入を一切含まない、配列番号に示した順序での配列のヌクレオチドを指す。
【0024】
本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分は、25ヌクレオチド長であってもよく、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する20~22ヌクレオチドを含有してもよい。本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分は、22ヌクレオチド長未満であってもよい。例えば、本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分は、17、18、19、20又は21ヌクレオチド長であってもよい。そのような態様では、ガイド配列部分は、配列番号1~18936のいずれか1つに示す連続する17~22ヌクレオチドの配列における、それぞれ17、18、19、20又は21ヌクレオチドからなってもよい。例えば、配列番号18937に示す連続する17ヌクレオチドの配列のガイド配列部分は、以下のヌクレオチド配列のいずれか1つからなってもよい(連続する配列から排除されたヌクレオチドには、取り消し線が引かれている):
【0025】
【0026】
本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分のヌクレオチドの長さは、20を超えてもよい。例えば、本発明のいくつかの態様では、ガイド配列部分のヌクレオチド長は、21、22、23、24又は25であってもよい。そのような態様では、ガイド配列部分は、配列番号1~18936のいずれか1つに示す連続する20、21又は22ヌクレオチドの配列を含有する17~50ヌクレオチド、及び、標的配列の3’末端、5’末端、又は両者に隣接するヌクレオチド(の配列)に完全に相補的なヌクレオチドを含む。
【0027】
本発明のいくつかの態様では、CRISPRヌクレアーゼ、及びガイド配列部分を含むRNA分子は、標的DNA配列と結合して、標的DNA配列を切断するCRISPR複合体を形成する。CRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cpf1は、追加のtracrRNA分子なしで、CRISPRヌクレアーゼ及びRNA分子を含むCRISPR複合体を形成してもよい。あるいは、CRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cas9は、CRISPRヌクレアーゼとRNA分子とtracrRNA分子の間でCRISPR複合体を形成してもよい。特定の標的DNA配列とハイブリダイズできるヌクレオチド配列を含むガイド配列部分と、CRISPRヌクレアーゼ結合に関与する配列部分、例えば、tracrRNA配列部分は、同じRNA分子中に存在できる。あるいは、ガイド配列部分は1つのRNA分子に存在し、CRISPRヌクレアーゼ結合に関与する配列部分、例えば、tracrRNA部分は、別のRNA分子に存在してもよい。ガイド配列部分(例.DNA標的化RNA配列)及び少なくとも1つのCRISPRタンパク質結合RNA配列部分(例.tracrRNA配列部分)を含む単一のRNA分子が、CRISPRヌクレアーゼと複合体を形成し、DNA標的化分子としての役割を果たすことができる。いくつかの態様では、ガイド配列部分を含むDNA標的化RNA部分を含む第1のRNA分子と、CRISPRタンパク質結合RNA配列を含む第2のRNA分子は、塩基対形成により相互作用して、CRISPRヌクレアーゼの標的をDNA標的部位とするRNA複合体を形成し、あるいは、融合してCRISPRヌクレアーゼと複合体化し、CRISPRヌクレアーゼの標的をDNA標的部位とするRNA分子を形成する。
【0028】
本発明のいくつかの態様において、ガイド配列部分を含むRNA分子は、tracrRNA分子の配列を更に含んでいてもよい。そのような態様は、RNA分子のガイド部分とトランス活性化crRNA(tracrRNA)の合成的融合体としてデザインされてもよい(Jinek et al., 2012参照)。そのような態様では、RNA分子は単一ガイドRNA(sgRNA)分子である。本発明のいくつかの態様は、個々のtracrRNA分子及びガイド配列部分を含む個々のRNA分子を利用するCRISPR複合体も形成してもよい。そのような態様では、tracrRNAは、塩基対形成を介してRNA分子とハイブリダイズしてもよく、この明細書に記載した発明のある特定の適用において有利である可能性がある。
【0029】
用語「tracrメイト配列」は、塩基対形成を介してtracrRNAとハイブリダイズし、CRISPR複合体の形成を促進するように、tracrRNA分子に対して十分に相補的な配列を指す(米国特許第8,906,616号参照)。本発明のいくつかの態様では、RNA分子はtracrメイト配列を有する部分を更に含んでいてもよい。
【0030】
本発明では、「遺伝子」は、遺伝子産物をコードするDNA領域、及び、遺伝子産物の産生を制御する全てのDNA領域を含み、前記制御領域の配列は、コード配列及び/又は転写配列と隣接しているか、していないかを問わない。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳制御配列、例えば、リボソーム結合部位及び配列内リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス付着部位、並びに遺伝子座調節領域が挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。
【0031】
「真核」細胞には、真菌細胞(例.酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、及びヒト細胞が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0032】
この明細書では、用語「ヌクレアーゼ」は、核酸のヌクレオチドサブユニット間のホスホジエステル結合を切断する能力がある酵素を指す。ヌクレアーゼは、天然物から単離してもよく、又は天然物に由来するものであってもよい。天然物は、生きている生物体であってもよい。あるいは、ヌクレアーゼは、ホスホジエステル結合切断活性を保持する、改変された又は合成されたタンパク質であってもよい。遺伝子改変は、ヌクレアーゼ、例えばCRISPRヌクレアーゼを用いて実現できる。
【0033】
この明細書では、用語「保存領域」は、いくつかの異なる種又は株にわたる配列同一性を有する、ヌクレオチド分子又はアミノ酸分子の領域を指す。同様に、本明細書では、用語「保存配列」は、いくつかの異なる種又は株にわたる配列同一性を有する配列を指す。例えば、HBV DNAの保存配列は、HBVのいくつかの異なる株、バリアント、又は血清型にわたる配列同一性を有するHBV DNA配列である。配列同一性は、例えば、いくつかのHBV株、バリアント、又は血清型にわたる、少なくとも70%配列同一性、80%配列同一性、81%配列同一性、82%配列同一性、83%配列同一性、84%配列同一性、85%配列同一性、86%配列同一性、87%配列同一性、88%配列同一性、89%配列同一性、又は90%配列同一性であってもよい。
【0034】
本発明のいくつかの態様では、細胞においてB型肝炎ウイルス(HBV)配列を改変する方法であって、
少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、又はCRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列;及び
17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第1のRNA分子、又は当該第1のRNA分子をコードするヌクレオチド配列
を含む組成物を細胞へ導入することを含み、
CRISPRヌクレアーゼと第1のRNA分子の複合体がHBV配列を二本鎖切断する、方法を提供する。
【0035】
いくつかの態様では、第1のRNA分子のガイド配列部分は、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む。
【0036】
いくつかの態様では、二本鎖切断は、B型肝炎ウイルスDNA配列にもたらされる。いくつかの態様では、二本鎖切断は、HBV遺伝子若しくはその一部分、HBVコード配列若しくはその一部分、HBV制御配列若しくはその一部分、及び/又は保存HBV配列にもたらされる。
【0037】
いくつかの態様では、二本鎖切断は、HBVコード配列、HBV制御配列、及び/又は保存HBV配列の上流又は下流500ヌクレオチドまでにもたらされる。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。いくつかの態様では、HBV保存領域が標的化される。
【0038】
いくつかの態様では、この方法は、17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第2のRNA分子、又は当該第2のRNA分子をコードするヌクレオチド配列を細胞へ導入することを更に含み、第2のRNA分子とCRISPRヌクレアーゼの複合体がB型肝炎ウイルス配列を更に二本鎖切断する。
【0039】
いくつかの態様では、第2のRNA分子のガイド配列部分は、第1のRNA分子の配列以外の、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む。
【0040】
いくつかの態様では、ヌクレオチドの配列が、HBV配列を含む分子から切除される。
【0041】
いくつかの態様では、HBV配列から切除されたヌクレオチドの配列は、HBV遺伝子若しくはその一部分、HBVコード配列若しくはその一部分、HBV制御配列若しくはその一部分、及び/又は保存HBV配列を含む。
【0042】
いくつかの態様では、HBV遺伝子又はその一部分が切除される。いくつかの態様では、HBV制御配列又はその一部分が切除される。いくつかの態様では、HBV非コード配列又はその一部分が切除される。
【0043】
いくつかの態様では、第1又は第2のRNA分子は、第1及び第2のRNA分子によって切除されるHBV遺伝子、HBVコード配列、HBV制御配列、及び/又は保存HBV配列から500塩基対までに位置する配列を標的とするガイド配列部分を含む。
【0044】
いくつかの態様では、HBV配列は、HBV cccDNA分子から切除される。
【0045】
いくつかの態様では、HBV配列は、HBV配列が組み込まれているゲノムDNA分子から切除される。
【0046】
いくつかの態様では、細胞は肝臓細胞又は肝実質細胞である。
【0047】
いくつかの態様では、細胞はヒト対象内にある。
【0048】
いくつかの態様では、ヒト対象は、慢性又は急性B型肝炎にり患している。
【0049】
いくつかの態様では、HBV配列は、HBV共有結合閉環DNA(cccDNA)分子に位置する。
【0050】
いくつかの態様では、HBV配列は、HBV配列が組み込まれているゲノムDNA分子に位置する。
【0051】
本発明のいくつかの態様では、第1のRNA分子を含む組成物であって、前記第1のRNA分子が、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む、組成物を提供する。
【0052】
いくつかの態様では、組成物は少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼを更に含む。
【0053】
いくつかの態様では、組成物は、連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含む第2のRNA分子を更に含み、第2のRNA分子はHBV遺伝子を標的とし、前記第2のRNA分子のガイド配列部分は、第1のRNA分子のガイド配列部分の配列とは異なる配列である。
【0054】
いくつかの態様では、第2のRNA分子のガイド配列部分は、第1のRNA分子の配列以外の、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドを含む。
【0055】
本発明のいくつかの態様では、細胞においてB型肝炎ウイルスを不活性化する方法であって、上記態様のいずれか1つの組成物を細胞へ送達することを含む方法を提供する。
【0056】
本発明のいくつかの態様では、B型肝炎を有する対象の細胞へ上記態様のいずれか1つの組成物を送達することを含むB型肝炎を治療する方法を提供する。
【0057】
本発明のいくつかの態様では、細胞においてB型肝炎ウイルスを不活性化するための、上記態様のいずれか1つの組成物の使用であって、細胞へ前記組成物を送達することを含む、使用を提供する。
【0058】
本発明のいくつかの態様では、細胞においてB型肝炎ウイルスの不活性化に使用する、上記態様のいずれか1つの組成物を含む医薬を提供し、前記医薬は、前記組成物を細胞へ送達することにより投与される。
【0059】
本発明のいくつかの態様では、B型肝炎の治療、寛解又は予防のための、上記態様のいずれか1つの組成物の使用であって、B型肝炎を有する又は有するリスクがある対象の細胞へ組成物を送達することを含む、使用を提供する。
【0060】
本発明のいくつかの態様では、B型肝炎の治療、寛解又は予防に使用する、上記態様のいずれか1つの組成物を含む医薬を提供し、前記医薬は、前記組成物を、B型肝炎を有する又は有するリスクがある対象の細胞へ送達することにより投与される。
【0061】
本発明のいくつかの態様では、細胞においてB型肝炎ウイルスの不活性化に使用する、上記態様のいずれか1つの組成物を提供する。
【0062】
本発明のいくつかの態様では、B型肝炎の治療、寛解又は予防に使用する、上記態様のいずれか1つに記載の組成物を提供する。
【0063】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に示した態様のいずれか1つのRNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNA分子;並びに、RNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNAを細胞へ送達することについての使用説明書を含む、細胞においてB型肝炎ウイルスを不活性化するキットを提供する。
【0064】
本発明のいくつかの態様では、この明細書に示した態様のいずれか1つのRNA分子、CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNA分子;並びに、RNA分子;CRISPRヌクレアーゼ、及び/又はtracrRNAを、B型肝炎を有する又は有するリスクがある対象の細胞へ送達することについての使用説明書を含む、対象においてB型肝炎を治療するためのキットを提供する。
【0065】
本発明のいくつかの態様では、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子を含むHBV遺伝子編集組成物を提供する。いくつかの態様では、RNA分子は、CRISPRヌクレアーゼと結合する配列を有する部分を更に含む。いくつかの態様では、CRISPRヌクレアーゼと結合する配列はtracrRNA配列である。
【0066】
いくつかの態様では、RNA分子はtracrメイト配列を有する部分を更に含む。
【0067】
いくつかの態様では、RNA分子は1つ以上のリンカー部分を更に含んでいてもよい。
【0068】
本発明のいくつかの態様では、RNA分子のヌクレオチド長は、1000、900、800、700、600、500、450、400、350、300、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、又は100までであってもよい。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。本発明のいくつかの態様では、RNA分子のヌクレオチドの長さは、17~300、100~300、150~300、100~500、100~400、200~300、100~200又は150~250であってもよい。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。
【0069】
本発明のいくつかの態様では、組成物はtracrRNA分子を更に含む。
【0070】
本発明のいくつかの態様では、細胞においてB型肝炎ウイルスを不活性化する方法であって、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を細胞へ送達することを含む方法を提供する。
【0071】
本発明のいくつかの態様では、B型肝炎を治療する方法であって、配列番号1~18936のいずれか1つに示す配列内の連続する17~50ヌクレオチドのガイド配列部分を含むRNA分子、及びCRISPRヌクレアーゼを含む組成物を、B型肝炎を有する対象の細胞へ送達することを含む方法を提供する。
【0072】
本発明のいくつかの態様では、少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ及びRNA分子が、対象及び/又は細胞へ、実質的に同時に又は異なる時点で送達される。
【0073】
いくつかの態様では、tracrRNA分子が、CRISPRヌクレアーゼ及びRNA分子と、実質的に同時に又は異なる時点で、対象及び/又は細胞へ送達される。
【0074】
本発明のいくつかの態様では、HBVゲノムDNA分子(例.HBV cccDNA)、又はHBV配列が組み込まれている宿主ゲノム分子から配列を除去することを含む方法であって、第1のRNA分子、又は第1及び第2のRNA分子が、除去される配列に隣接する領域を標的とする、方法を提供する。
【0075】
本発明のいくつかの態様では、HBVゲノムDNA分子、又はHBV配列が組み込まれている宿主ゲノム分子から配列を除去することを含む方法を提供する。いくつかの態様では、配列は遺伝子又はその一部分である。いくつかの態様では、配列は、タンパク質をコードする配列又はその一部分である。いくつかの態様では、この方法は、HBVゲノムDNA分子のオープンリーディングフレーム全体、又はHBVゲノムDNA分子の遺伝子全体を除去することを目的とする。いくつかの態様では、配列は、HBVの非コード配列又はその一部分である。いくつかの態様では、配列は、制御エレメント又はその一部分である。いくつかの態様では、切除される配列のサイズは、10塩基対(bp)~100bp、10bp~3000bp、100bp~300bp、100bp~600bp、100bp~800bp、100bp~1000bp、250bp~300bp、250bp~600bp、250bp~800bp、250bp~1000bp、又は250bp~3000bpである。それぞれの実現可能性は、個別の態様である。
【0076】
本開示の組成物及び方法は、B型肝炎の治療、予防、寛解又はその進行を遅くするために利用してもよい。
【0077】
いくつかの態様では、B型肝炎ウイルスを不活性化する方法は、2つのRNAガイド分子を細胞へ送達して、HBV遺伝子を標的とし、不活性化することを含む。
【0078】
本発明では、B型肝炎ウイルスを不活性化するためのこれまでに説明したストラテジーのいずれか1つ又は組合せを使用してもよい。
【0079】
本発明の態様では、RNAガイド分子は、二本鎖切断(DSB)を生じさせ、誤りがちな非相同末端結合(NHEJ)機構及びフレームシフト変異の形成を誘導することによりヌクレオチドの挿入又は欠失をもたらすために、cccDNA分子又は宿主ゲノムにおけるHBV配列内の部位へCRISPRヌクレアーゼを方向づけるために用いられる。フレームシフト変異は、例えば、早期終止コドンの生成により、HBV遺伝子を不活性化し、又はノックアウトする可能性があり、短縮型タンパク質を生成し、又はHBV転写産物のナンセンスコドン介在的mRNA分解を引き起こす可能性がある。
【0080】
いくつかの態様では、本開示は、RNA誘導型DNAヌクレアーゼ、例えば、CRISPRヌクレアーゼと結合若しくは会合し、及び/又はそれをHBVゲノム若しくは宿主ゲノム内の標的配列へ方向づける、RNAガイド配列(「RNA分子」とも呼ばれる)を提供する。
【0081】
いくつかの態様では、この方法は、HBVゲノムDNA分子における部位をRNAガイド分子及びCRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cas9タンパク質と接触させることを含み、RNAガイド分子及びCRISPRヌクレアーゼは、HBVゲノムDNAにおける部位のヌクレオチド配列と会合し、それにより、HBVゲノムによりコードされる産物の発現を改変又はノックアウトする。
【0082】
いくつかの態様では、RNA分子及びCRISPRヌクレアーゼが、B型肝炎ウイルスを有する細胞へ導入される。いくつかの態様では、細胞はヒト対象内にある。
【0083】
いくつかの態様では、この方法は、HBV感染に起因する疾患表現型を有する対象を治療するために利用される。そのような態様では、この方法は、疾患表現型を改善、寛解又は予防する。
【0084】
この明細書に記載した組成物の態様は、少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、RNA分子及びtracrRNA分子を含み、tracrRNA分子は、対象又は細胞において同時に有効である。少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ、RNA分子及びtracrRNAは、実質的に同時に送達されてもよく、又は、異なる時点に送達できるが、効果は同時に生じる。例えば、これは、RNA分子及び/又はtracrRNAが対象又は細胞中に実質的に存在する前に、CRISPRヌクレアーゼを対象又は細胞へ送達することを含む。
【0085】
いくつかの態様では、細胞は肝実質細胞又は肝臓細胞である。
【0086】
HBVノックアウトストラテジーには、(1)例えば、HBVゲノム分子における配列を1つのガイドRNA分子で標的として、フレームシフト又はナンセンスコドン介在的分解を誘導することによる短縮、及び(2)例えば2つのガイドRNA分子を用いる、HBV配列の切除、又はHBV遺伝子の大部分の切除が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0087】
短縮は、いくつかのアプローチで実現してもよい。例えば、短縮は、単一ガイドRNA分子(例.単一ガイドRNA分子又は「sgRNA」)を用いて、HBVゲノム分子のコード配列を標的とすることで実現してもよい。あるいは、切除は、2つの異なるRNA分子によってHBVゲノム分子を標的とすることで実現してもよい。
【0088】
いくつかの態様では、この明細書に記載した編集組成物のいずれも、クロマチンを改変する低分子、例えば限定するものではないがメチル化阻害剤及び脱アセチル化阻害剤、を伴ってもよく、低分子は、編集組成物のDNAヌクレアーゼの、HBVミニ染色体への到達可能性を増加させることにより切除を増加させることができる。
【0089】
あるいは、クロマチンモディファイヤー、例えば限定するものではないがデメチラーゼ又はヒストンアセチルトランスフェラーゼ、と融合したヌクレアーゼ(例.触媒活性を失ったCRISPRヌクレアーゼ)を含む編集組成物は、前記ヌクレアーゼのHBVミニ染色体への到達を増加させる可能性がある。
【0090】
編集組成物は、例えば、HBV配列から、制御エレメントの切除を媒介し、又はHBV遺伝子をノックアウトするために、HBV配列における異なる部位を標的とする複数のガイドRNA分子を含んでもよい。
【0091】
CRISPRヌクレアーゼ及びPAM認識
いくつかの態様では、ヌクレアーゼは、CRISPRヌクレアーゼ又はその機能性バリアントから選択される。いくつかの態様では、ヌクレアーゼはRNA誘導型DNAヌクレアーゼである。そのような態様では、RNA誘導型DNAヌクレアーゼ(例.Cas9又はCpf1)をガイドするRNA配列は、RNA誘導型DNAヌクレアーゼと結合し、及び/又はそれをHBVゲノム内の配列へ方向づける。いくつかの態様では、CRISPR複合体は、tracrRNAを更に含まない。RNA分子は、当技術分野において一般的に知られた方法により、ゲノム内の選択した標的と結合するように操作できることを、当業者は理解する。
【0092】
この明細書では、用語「PAM」は、標的化されるDNA配列の近傍に位置し、かつCRISPRヌクレアーゼ複合体により認識される標的DNAのヌクレオチド配列を指す。PAM配列は、ヌクレアーゼの種類によって異なっていてもよい。加えて、ほとんど全てのPAMを標的にできるCRISPRヌクレアーゼがある。本発明のいくつかの態様では、CRISPRシステムは、ガイド配列部分と、標的を認識するための追加の要件であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣にある標的DNA部位のプロトスペーサーとの間で、ワトソン・クリック塩基対を形成することにより、CRISPRヌクレアーゼを標的DNA部位へ誘導するガイド配列部分を有する1つ以上のRNA分子を利用する。その後、CRISPRヌクレアーゼは、標的DNA部位を切断し、プロトスペーサー内に二本鎖切断を生じる。限定するものではない例において、II型CRISPRシステムは、crRNAのガイド配列部分と、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的DNA上のプロトスペーサーとの間で、ワトソン・クリック塩基対を形成することにより、CRISPRヌクレアーゼ(例.Cas9)を標的DNAへ誘導する成熟crRNA:tracrRNA複合体を利用する。本発明の操作されたRNA分子が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、例えば、利用するCRISPRヌクレアーゼに関連する配列に対応するPAM、の隣の目的の標的ゲノムDNA配列と会合するように更にデザインされることを、当業者は理解する。そのPAMは、例えば限定するものではない例として、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9 WT(SpCAS9)ではNGG若しくはNAG(Nは任意の核酸塩基);黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(SaCas9)ではNNGRRT;Jejuni Cas9 WTではNNNVRYM;SpCas9-VQRバリアントではNGAN若しくはNGNG;SpCas9-VRERバリアントではNGCG;SpCas9-EQRバリアントではNGAG;SpCas9-NRRHバリアントではNRRH(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、HはA、C又はTである);SpCas9-NRTHバリアントではNRTH(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、HはA、C又はTである);SpCas9-NRCHバリアントではNRCH(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、HはA、C又はTである);SpCas9のSpGバリアントではNG(Nは任意の核酸塩基);SpCas9のSpCas9-NGバリアントではNG若しくはNA(Nは任意の核酸塩基);SpCas9のSpRYバリアントではNR若しくはNRN若しくはNYN(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGであり、YはC又はTである);ストレプトコッカス・カニス(Streptococcus canis)Cas9バリアント(ScCas9)ではNNG(Nは任意の核酸塩基);黄色ブドウ球菌のSaKKH-Cas9バリアント(SaCas9)ではNNNRRT(Nは任意の核酸塩基であり、RはA又はGである);髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(NmCas9)ではNNNNGATT(Nは任意の核酸塩基);アリサイクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)Cas12b(AacCas12b)ではTTN(Nは任意の核酸塩基);又はCpflではTTTV(VはA、C又はGである)である。本発明のRNA分子は、1つ以上の異なるCRISPRヌクレアーゼと共に複合体を形成するようにそれぞれデザインされ、かつ前記CRISPRヌクレアーゼに対応する1つ以上の異なるPAM配列を利用して、目的のポリヌクレオチド配列を標的とするようにデザインされる。
【0093】
いくつかの態様では、RNA誘導型DNAヌクレアーゼ、例えばCRISPRヌクレアーゼは、事実上、二本鎖又は一本鎖のいずれかで、細胞のゲノムにおける所望の位置に、DNA切断を引き起こすために用いてもよい。最も一般的に用いられるRNA誘導型DNAヌクレアーゼはCRISPRシステムに由来するが、他のRNA誘導型DNAヌクレアーゼも、この明細書に記載したゲノム編集組成物及びゲノム編集方法における使用のために企図される。例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2015/0211023号を参照。
【0094】
本発明の実施に使用できるCRISPRシステムは非常にさまざまである。CRISPRシステムは、I型、II型又はIII型のシステムであってもよい。適切なCRISPRタンパク質の限定するものではない例には、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(又はCasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8al、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9、Casl0、Casl Od、CasF、CasG、CasH、Csyl、Csy2、Csy3、Csel(又はCasA)、Cse2(又はCasB)、Cse3(又はCasE)、Cse4(又はCasC)、Cscl、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmrl、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csbl、Csb2、Csb3,Csxl7、Csxl4、Csxl0、Csxl6、CsaX、Csx3、Cszl、Csxl5、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4及びCul966が挙げられる。
【0095】
いくつかの態様では、RNA誘導型DNAヌクレアーゼは、II型CRISPRシステムに由来したCRISPRヌクレアーゼ(例.Cas9)である。CRISPRヌクレアーゼは、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス種(Streptococcus sp.)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、ノカルディオプシス・ダッソンビレイ(Nocardiopsis dassonvillei)、ストレプトマイセス・プリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespiralis)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス、ストレプトスポランジウム・ロゼウム(Streptosporangium roseum)、ストレプトスポランジウム・ロゼウム、アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)、バチルス・シュードマイコイデス(Bacillus pseudomycoides)、バチルス・セレニティレデュセンス(Bacillus selenitireducens)、エキシグオバクテリウム・シビリクム(Exiguobacterium sibiricum)、ラクトバチルス・デルブレッキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ミクロシラ・マリナ(Microscilla marina)、バークホルデリアレス・バクテリウム(Burkholderiales bacterium)、ポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)、ポラロモナス種(Polaromonas sp.)、クロコスファエラ・ワトソニー(Crocosphaera watsonii)、シアノセイス種(Cyanothece sp.)、ミクロキスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)、シネココッカス種(Synechococcus sp.)、アセトハロビウム・アラビティカム(Acetohalobium arabaticum)、アンモニフェツクス・デゲンシイ(Ammonifex degensii)、カルディセルロシロプトル・ベスキー(Caldicellulosiruptor bescii)、キャンディダトゥス・デスルフォルディス(Candidatus Desulforudis)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)、ナトラネロビウス・サーモフィルス(Natranaerobius thermophilus)、ペロトマクルム・サーモプロピオニカム(Pelotomaculum thermopropionicum)、アシディチオバチルス・カルダス(Acidithiobacillus caldus)、アシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)、アロクロマチウム・ビノスム(Allochromatium vinosum)、マリノバクター種(Marinobacter sp.)、ニトロソコッカス・ハロフィルス(Nitrosococcus halophilus)、ニトロソコッカス・ワッソニ(Nitrosococcus watsoni)、シュードアルテロモナス・ハロプランクティス(Pseudoalteromonas haloplanktis)、クテドノバクテル・ラセミファー(Ktedonobacter racemifer)、メタノハロビウム・エベスチガータム(Methanohalobium evestigatum)、アナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)、ノジュラリア・スプミゲナ(Nodularia spumigena)、ノストック種(Nostoc sp.)、アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)、アルスロスピラ種(Arthrospira sp.)、リングビア種(Lyngbya sp.)、ミクロコレウス・クソノプラステス(Microcoleus chthonoplastes)、オシラトリア種(Oscillatoria sp.)、ペトロトガ・モビリス(Petrotoga mobilis)、サーモシフォ・アフリカヌス(Thermosipho africanus)、アカリオクロリス・マリーナ(Acaryochloris marina)、又は既知のPAM配列を有するCRISPRヌクレアーゼをコードする種に由来してもよい。非培養性細菌によりコードされるCRISPRヌクレアーゼも、本発明に関連して使用してもよい(Burstein et al. Nature, 2017参照)。既知のPAM配列を有するCRISPRタンパク質のバリアント、例えば、SpCas9 D1135Eバリアント、SpCas9 VQRバリアント、SpCas9 EQRバリアント又はSpCas9 VRERバリアントも、本発明に関連して使用してもよい。
【0096】
したがって、Cas9タンパク質若しくは改変されたCas9、若しくはCas9のホモログ若しくはオルソログといったCRISPRシステムのRNA誘導型DNAヌクレアーゼ、又は、Cpf1とそのホモログ及びオルソログといった他のCRISPRシステムに属する他のRNA誘導型DNAヌクレアーゼを、本発明の組成物に使用してもよい。別のCRISPRヌクレアーゼ、例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2020/223514号及び同第2020/223553号に記載されたヌクレアーゼも使用してもよい。
【0097】
ある特定の態様では、CRISPRヌクレアーゼは、天然に存在するCasタンパク質の「機能性誘導体」であってもよい。天然配列ポリペプチドの「機能性誘導体」は、天然配列ポリペプチドと質的に共通した生物学的性質を有する化合物である。「機能性誘導体」には、天然配列の断片、並びに天然配列ポリペプチド及びその断片の誘導体(ただし、それらは対応する天然配列ポリペプチドと共通の生物学的活性を有する)が挙げられるが、それらに限定されるものではない。ここで企図される生物学的活性は、DNA基質を加水分解して断片にする能力である。用語「誘導体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントと、その共有結合性改変体及び融合体の両者を包含する。Casポリペプチド又はその断片の適切な誘導体には、Casタンパク質又はその断片の変異体、融合体、共有結合性改変体が挙げられるが、それらに限定されるものではない。Casタンパク質又はその断片、加えてCasタンパク質又はその断片の誘導体を含むCasタンパク質は、細胞から取得可能なものであってもよく、若しくは化学的に合成されるものであってもよく、又はこれらの方法の組合せにより得られるものであってもよい。細胞は、天然でCasタンパク質を産生する細胞、又は、天然でCasタンパク質を産生し、かつ、内因性Casタンパク質をより高い発現レベルで産生するように、若しくは、内因性Casと同じ若しくは異なるCasをコードする外因的に導入された核酸からCasタンパク質を産生するように、遺伝子操作された細胞であってもよい。場合によっては、細胞は、天然ではCasタンパク質を産生せず、Casタンパク質を産生するように遺伝子操作されている。
【0098】
いくつかの態様では、CRISPRヌクレアーゼはCpf1である。Cpf1は、Tリッチなプロトスペーサー隣接モチーフを利用する単一のRNA誘導型エンドヌクレアーゼである。Cpf1は、ねじれ型DNA二本鎖切断によってDNAを切断する。アシダミノコッカス属(Acidaminococcus)及びラクノスピラ科(Lachnospiraceae)に由来する2つのCpf1酵素が、ヒト細胞において効率的にゲノム編集を行うことが示されている(Zetsche et al., 2015参照)。
【0099】
したがって、Cas9タンパク質若しくは改変されたCas9、若しくCas9のホモログ、オルソログ若しくはバリアントといったII型CRISPRシステムのRNA誘導型DNAヌクレアーゼ、又は、Cpf1及びそのホモログ、オルソログ若しくはバリアントといった他のCRISPRシステムに属する他のRNA誘導型DNAヌクレアーゼを、本発明で使用してもよい。
【0100】
いくつかの態様では、ガイド分子は、新しい性質又は向上した性質(例.分解に対する安定性、ハイブリダイゼーションエネルギー又はRNA誘導型DNAヌクレアーゼとの結合性)を付与する1つ以上の化学修飾を含む。適切な化学修飾には、修飾塩基、修飾糖、又は修飾されたヌクレオシド間結合が挙げられるが、それらに限定されるものではない。適切な化学修飾の限定するものではない例には、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2’-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2’-O-メチルプソイドウリジン、「β,D-ガラクトシルキューオシン」、2’-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、「2,2-ジメチルグアノシン」、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、「β,D-マンノシルキューオシン」、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルチオプリン-6-イル)カルバモイル)スレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)スレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル、ウリジン-5-オキシ酢酸、ワイブトキソシン、キューオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)-カルバモイル)スレオニン、2’-O-メチル-5-メチルウリジン、2’-O-メチルウリジン、ワイブトシン、「3-(3-アミノ-3-カルボキシ-プロピル)ウリジン、(acp3)u」、2’-O-メチル(M)、3’-ホスホロチオエート(MS)、3’-チオPACE(MSP)、プソイドウリジン又は1-メチルプソイドウリジンが挙げられる。それぞれの実現可能性は本発明の個別の態様である。
【0101】
細胞への送達
この明細書に記載した組成物は、適切な手段により標的細胞へ送達してもよい。本発明の組成物は、HBVを含有し及び/又はHBV産物を発現する細胞へ標的化してもよい。例えば、一態様では、RNA分子は、HBVゲノムにおける部位を特異的に標的とし、標的細胞は、HBVを有する肝実質細胞である。細胞への送達は、in vitro、ex vivo又はin vivoで実施してもよい。さらに、この明細書に記載した核酸組成物は、DNA分子、RNA分子、リボ核タンパク質(RNP)、核酸ベクター又はそれらの組合せのうちの1つ以上として送達してもよい。
【0102】
いくつかの態様では、この明細書に記載した組成物の1つが、in vivoで細胞へ送達される。いくつかの態様では、細胞は肝実質細胞である。いくつかの態様では、組成物は対象の肝臓へ送達される。組成物は、公知のin vivo送達方法により細胞へ送達されてもよく、in vivo送達方法には、例えばレンチウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いるウイルス形質導入、ナノ粒子送達などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。追加の詳細な送達方法は、この項全体に記載されている。適切なAAV血清型の限定するものではない例として、AAV8、肝臓指向性AAV LK03が挙げられる。
【0103】
いくつかの態様では、この明細書に記載した組成物のいずれか1つが、ex vivoで細胞へ送達される。いくつかの態様では、細胞は肝実質細胞である。
組成物は、公知のex vivo送達方法により細胞へ送達されてもよく、そのex vivo送達方法には、ヌクレオフェクション(nucleofection)、電気穿孔、例えばレンチウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いるウイルス形質導入、ナノ粒子送達、リポソームなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。追加の詳細な送達方法は、この項全体に記載されている。
【0104】
いくつかの態様では、組成物におけるRNA分子は、化学修飾を含む。適切な化学修飾の限定するものではない例には、2’-O-メチル(M)、2’-O-メチル、3’ホスホロチオエート(MS)、又は2’-O-メチル、3’チオPACE(MSP)、プソイドウリジン及び1-メチルプソイドウリジンが挙げられる。それぞれの実現可能性は本発明の個別の態様である。
【0105】
適切なウイルスベクター系を、核酸組成物、例えば本発明の組成物に含まれるRNA分子を送達するために用いてもよい。核酸を導入し、組織を標的とするために、通常のウイルス及び非ウイルスに基づく遺伝子移入を行うことができる。ある特定の態様では、in vivo又はex vivo遺伝子治療のために核酸が投与される。非ウイルスベクター送達系には、裸の核酸、及び送達媒体(例.リポソーム又はポロキサマー)と複合体化した核酸が挙げられる。HDR中に使用される、送達される鋳型分子は、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づいたベクター、一本鎖ドナーオリゴヌクレオチド(ssODN)、又はPCR産生二本鎖DNA分子であってもよい。そのような鋳型は、例えば、脂質ナノ粒子(LNP)により送達されてもよい。あるいは、RNA鋳型分子は、例えばレンチウイルスに基づいた送達系により、送達されてもよい。
【0106】
遺伝子治療の手順の総説は、Anderson (1992);Nabel & Felgner (1993);Mitani & Caskey (1993);Dillon (1993);Miller (1992);Van Brunt (1988);Vigne (1995);Kremer & Perricaudet (1995);Haddada et al. (1995)及びYu et al. (1994)を参照。
【0107】
核酸及び/若しくはタンパク質の非ウイルス性送達の方法には、電気穿孔、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、パーティクルガン加速、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、脂質ナノ粒子(LNP)、ポリカチオン若しくは脂質:核酸コンジュゲート、人工ビリオン、及び促進剤による核酸の取込みが挙げられ、又は、核酸及び/若しくはタンパク質は、細菌若しくはウイルス(例.アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、リゾビウム種(Rhizobium sp.)NGR234、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)、タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus)、ジャガイモウイルスX(potato virus X)、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)、及びキャッサバ葉脈モザイクウイルス(cassava vein mosaic virus))により植物細胞へ送達できる(例えばChung et al., 2006参照)。例えばSonitron 2000システム(Rich-Mar)を用いるソノポレーションも、核酸の送達に用いることができる。タンパク質及び/又は核酸のカチオン性脂質媒介性送達も、in vivo、ex vivo又はin vitro送達として企図される。(Zuris et al. (2015)を参照;Coelho et al. (2013);Judge et al. (2006)及びBasha et al. (2011)も参照)。
【0108】
トランスポゾンに基づく系(例.組換えスリーピングビューティトランスポゾン系又は組換えPiggyBacトランスポゾン系)のような非ウイルスベクターを、標的細胞に送達してもよく、標的細胞において、組成物の分子のポリヌクレオチド配列又は組成物の分子をコードするポリヌクレオチド配列の転位に利用してもよい。
【0109】
他の代表的な核酸送達系には、Amaxa Biosystems(Cologne, Germany)、Maxcyte, Inc.(Rockville, Md.)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston, Mass.)及びCopernicus Therapeutics Inc.が提供するもの(例えば米国特許第6,008,336号参照)が含まれる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号、米国特許第4,946,787号及び米国特許第4,897,355号で説明されており、リポフェクション試薬は市販されている(例.Transfectam(登録商標)、Lipofectin(登録商標)及びLipofectamine(登録商標)RNAiMAX)。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性脂質及び中性脂質には、国際公開第91/17424号及び国際公開第91/16024号に開示されているものが含まれる。細胞(ex vivo投与)又は標的組織(in vivo投与)への送達が可能である。
【0110】
免疫脂質複合体といった標的化リポソームを含む脂質:核酸複合体の製造は、当業者によく知られている(例えば、Crystal, Science (1995);Blaese et al., (1995);Behr et al., (1994);Remy et al. (1994);Gao and Huang (1995);Ahmad and Allen (1992);米国特許第4,186,183号;同第4,217,344号;同第4,235,871号;同第4,261,975号;同第4,485,054号;同第4,501,728; 4,774,085号;同第4,837,028号及び同第4,946,787号を参照)。
【0111】
送達の別の方法には、送達する核酸をEnGeneIC送達媒体(EDV)へパッケージングすることが含まれる。EDVは、抗体の一方のアームが標的組織に対する特異性を有し、他方がEDVに対する特異性を有する二重特異性抗体を用いて、標的組織へ特異的に送達する。抗体は、EDVを標的細胞表面に運び、EDVがエンドサイトーシスによって細胞内に運ばれる。細胞内に入った後に、内容物が放出される(MacDiarmid et al., 2009参照)。
【0112】
ウイルスによる核酸の送達のためのRNA又はDNAウイルス系の使用は、ウイルスの標的を体内の特定の細胞とし、ウイルスペイロードを核へ輸送する高度に進化した方法を活用する。ウイルスベクターは、患者へ直接投与でき(in vivo)、又は、in vitroで細胞を処理するために使用でき、改変された細胞を患者へ投与する(ex vivo)。核酸を送達する従来のウイルス系には、遺伝子移入のための、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス及び単純ヘルペスウイルスのベクターが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0113】
レトロウイルスのトロピズムは、外来エンベロープタンパク質を組み入れることにより変化させることができ、標的細胞の潜在的な標的集団を拡大する。レンチウイルスベクターは、分裂していない細胞に形質導入又は感染できるレトロウイルスベクターであり、通常、ウイルス力価が高い。レトロウイルスの遺伝子移入系の選択は標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、シス作用性末端反復配列で構成され、最大6~10kbの外来配列をパッケージングする能力がある。最小限のシス作用性LTRは、ベクターの複製及びパッケージングに十分であり、治療用遺伝子を標的細胞へ組み込み、導入遺伝子を永続的に発現させるために用いられる。広く用いられるレトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)及びそれらの組合せに基づくものが挙げられる(例えば、Buchschacher et al. (1992);Johann et al. (1992);Sommerfelt et al. (1990);Wilson et al. (1989);Miller et al. (1991);国際公開第1994/026877号を参照)。
【0114】
臨床試験における遺伝子移入のために、現在、少なくとも6つのウイルスベクターが利用でき、それらは、ヘルパー細胞株へ挿入された遺伝子による欠損ベクターの相補性を含むアプローチを利用して、形質導入剤を生成する。
【0115】
pLASN及びMFG-Sは、臨床試験で使用されたことがあるレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al., 1995;Kohn et al., 1995;Malech et al., 1997参照)。PA317/pLASNは、遺伝子治療の治験で使用された初めての治療用ベクターであった(Blaese et al., 1995)。MFG-Sパッケージングベクターの形質導入効率は、50%以上であった(Ellem et al., (1997);Dranoff et al., 1997)。
【0116】
パッケージング細胞は、宿主細胞に感染する能力があるウイルス粒子を形成するために用いられる。そのような細胞には、アデノウイルス、AAVをパッケージングする293細胞、及びレトロウイルスをパッケージングするPsi-2細胞又はPA317細胞が挙げられる。遺伝子治療に用いられるウイルスベクターは、通常、核酸ベクターをウイルス粒子へパッケージングする産生細胞株により生成される。ベクターは、通常、パッケージング及び(該当する場合は)その後の宿主への組込みに必要とされる最小限のウイルス配列を含有し、他のウイルス配列は、発現されるタンパク質をコードする発現カセットで置換されている。欠損したウイルス機能は、パッケージング細胞株によりトランスで供給される。例えば、遺伝子治療に用いられるAAVベクターは、通常、パッケージング及び宿主ゲノムへの組込みに必要とされるAAVゲノム由来の末端逆位配列(ITR)のみを有する。ウイルスDNAは、細胞株においてパッケージングされ、その細胞株は、他のAAV遺伝子、つまり、ITR配列を欠くが、rep及びcapをコードするヘルパープラスミドを含有する。その細胞株は、ヘルパーとしてのアデノウイルスにも感染する。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製及びヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ITR配列の欠損のため、ヘルパープラスミドは大量にはパッケージングされない。アデノウイルスの混入は、例えば、アデノウイルスがAAVより感受性が高い熱処理によって軽減できる。さらに、バキュロウイルス系を用いて臨床スケールでAAVを産生できる(米国特許第7,479,554号参照)。
【0117】
多くの遺伝子治療において、遺伝子治療ベクターは、特定の組織に対して高度の特異性で送達されることが望ましい。したがって、ウイルスベクターは、ウイルスの外表面のウイルス被覆タンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現させることによって、所定の細胞に対する特異性を有するように改変できる。そのリガンドは、目的の細胞に存在することが知られた受容体に対して親和性を有するように選択される。例えば、Hanら(1995)は、モロニーマウス白血病ウイルスが、gp70と融合したヒトヘレグリンを発現するように改変でき、その組換えウイルスが、ヒト上皮増殖因子受容体を発現する特定のヒト乳がん細胞に感染することを報告した。この原理は、他のウイルス-標的細胞の組合せに拡張でき、その組合せでは、標的細胞は受容体を発現し、ウイルスは細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する。例えば、繊維状ファージは、事実上、選択されたいかなる細胞受容体に対しても特異的な結合親和性を有する抗体断片(例.FAB又はFv)を提示するように操作できる。この説明は、主にウイルスベクターに当てはまるが、同じ原理が非ウイルスベクターに適用できる。そのようなベクターは、特定の標的細胞による取込みを優先する特定の取込み配列を含むように操作できる。
【0118】
遺伝子治療ベクターは、以下で説明するように、個々の患者への投与により、通常、全身投与(例.硝子体内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下又は頭蓋内注入)又は局所適用により、in vivoで送達できる。あるいは、ベクターは、細胞、例えば、個々の患者から外植された細胞(例.リンパ球、骨髄穿刺、組織生検)又はユニバーサルドナー造血幹細胞へ、ex vivoで送達され、続いて、その細胞を患者へ、ベクターを組み入れている細胞の選択後に、再移植できる。限定するものではない代表的なex vivoアプローチは、培養のために患者から組織(例.末梢血、骨髄及び脾臓)を取り出し、培養細胞(例.造血幹細胞)に核酸を移入し、次いで、細胞を、患者の標的組織(例.骨髄及び脾臓)に移植することを含んでいてもよい。いくつかの態様では、幹細胞又は造血幹細胞は、生存率増強剤で更に処理してもよい。
【0119】
診断、研究のための、又は(例えばトランスフェクト細胞の宿主への再注入による)遺伝子治療のためのex vivoでの細胞トランスフェクションは、当業者によく知られている。好ましい態様において、対象から細胞が単離され、核酸組成物がトランスフェクトされ、対象(例.患者)へ再注入される。ex vivoトランスフェクションに適したさまざまな細胞型は、当業者によく知られている(例えば、Freshney, "Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique and Specialized Applications (6th edition, 2010)と、患者から細胞を単離し、培養する方法の考察において引用されている文献を参照)。
【0120】
適切な細胞には、真核細胞及び/又は細胞株が挙げられるが、それらに限定されるものではない。そのような細胞、又はそのような細胞から発生した細胞株の限定するものではない例には、COS、CHO(例.CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11、CHO-DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NSO、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例.HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)、perC6細胞、植物細胞(分化型又は未分化型)、加えて、昆虫細胞、例えば、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera fugiperda)(Sf)、又は真菌細胞、例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、及びシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)が挙げられる。ある特定の態様では、細胞株は、CHO-K1、MDCK又はHEK293細胞株である。さらに、初代細胞を単離し、誘導型ヌクレアーゼシステム(例.CRISPR/Cas)で処理した後に治療する対象に再導入するために、ex vivoで使用してもよい。適切な初代細胞は、末梢血単核球(PBMC)及び他の血液細胞サブセット、例えば限定するものではないがCD4+ T細胞又はCD8+ T細胞、が挙げられる。また、適切な細胞には、例として、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、造血幹細胞(CD34+)、神経幹細胞及び間葉系幹細胞といった幹細胞が挙げられる。
【0121】
ある態様では、細胞トランスフェクション及び遺伝子治療のために、幹細胞がex vivoで処理される。幹細胞を使用する利点は、in vitroで他の細胞に分化でき、又は、(細胞のドナーなどの)哺乳動物に導入して骨髄に移植できることである。サイトカイン、例えば、GM-CSF、IFN-γ及びTNF-αを用いて、CD34+細胞をin vitroで臨床的に重要な免疫細胞型へ分化させる方法は知られている(限定するものではない例として、Inaba et al., 1992を参照)。
【0122】
幹細胞は、公知の方法で、形質導入及び分化のために単離される。例えば、幹細胞は、CD4+及びCD8+(T細胞)、CD45+(panB細胞)、GR-1(顆粒球)並びにIad(分化型抗原提示細胞)といった不要な細胞と結合する抗体で骨髄細胞をパニングすることにより、骨髄細胞から単離される(限定するものではない例として、Inaba et al., 1992を参照)。改変された幹細胞も、いくつかの態様で使用してもよい。
【0123】
治療用核酸組成物を有するベクター(例.レトロウイルス、リポソーム)は、in vivoで細胞に形質導入するためにも、生物体へ直接投与できる。投与は、注射、注入及び電気穿孔を含むが、それらには限定されない、分子を血液又は組織細胞と最終的に接触するように導入するために通常使用される経路による。そのような核酸を投与する適切な方法が利用でき、当業者によく知られており、特定の組成物を投与する複数の経路が使用できるが、特定の経路が、別の経路より迅速かつ効果的な反応を提供できる場合が多い。いくつかの態様では、組成物はIV注射で送達される。
【0124】
導入遺伝子の免疫細胞(例.T細胞)への導入に適したベクターには、非組込み型レンチウイルスベクターが挙げられる(例えば米国特許出願公開第2009/0117617号を参照)。
【0125】
薬学的に許容される担体は、部分的には、投与する組成物によって、加えて、組成物の投与に用いる方法によって、決まる。したがって、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1989に記載されているように、利用できる医薬組成物の幅広い種類の適切な製剤がある。
【0126】
また、本発明の組成物及び方法は、患者におけるB型肝炎を治療するための医薬の製造に用いてもよい。
【0127】
HBVノックアウト方法についての作用機構
いかなる理論及び機構に拘束されるものではないが、本発明は、B型肝炎を予防又は治療するために、CRISPRヌクレアーゼを適用して、HBVゲノムDNA分子を切断し、その複製を阻止し、かつHBVゲノムDNA分子からの発現を阻止するために利用してもよい。特異的なガイド部分配列は、標的となるHBV配列及び用いるCRISPRヌクレアーゼの型(必要とされるPAM配列)に基づいて表1から選択してもよい。あるいは、宿主ゲノムに組み込まれたHBV配列は、CRISPRヌクレアーゼが宿主ゲノムをDNA切断するように、標的化されてもよい。
【0128】
HBV遺伝子をノックアウトするための一つのストラテジーは、短縮又はナンセンスコドン介在的分解(NMD)を媒介するために1つのRNA分子を用いてHBV配列を標的とすることである。限定するものではない例として、HBVにおけるフレームシフトは、1つのRNA分子を利用して、CRISPRヌクレアーゼをHBVコード配列へ標的化し、二本鎖切断を媒介することにより、導入してもよく、その二本鎖切断が、フレームシフト変異の発生、及び短縮型タンパク質の発現又はHBV転写産物のナンセンスコドン介在的分解(NMD)をもたらす。
【0129】
あるいは、HBV遺伝子は、2つのRNA分子を利用する切除ストラテジーによりノックアウトされてもよい。同じストラテジーは、HBVゲノムの複製を阻止するだろう制御エレメントを切除するために実行されてもよい。
【0130】
クロマチンモディファイヤー、例えば限定するものではないがデメチラーゼ又はヒストンアセチルトランスフェラーゼ、と融合したヌクレアーゼ(例.触媒活性を失ったCRISPRヌクレアーゼ)を含む編集組成物は、ヌクレアーゼのHBVミニ染色体への到達を増加させる可能性がある。
【0131】
あるいは、この明細書に記載した編集組成物のいずれも、クロマチンを改変する低分子、例えば限定するものではないがメチル化阻害剤及び脱アセチル化阻害剤、を伴ってもよく、その低分子は、編集組成物のDNAヌクレアーゼのHBVミニ染色体への到達可能性を増加させることにより切除を増加させることができる。
【0132】
HBV配列における複数の部位を標的とする複数のガイドRNA分子を含む1つ以上の編集組成物が、例えば、HBV配列の一部分(例.制御エレメント)の切除を媒介し、又はHBV配列からHBV遺伝子をノックアウトするために利用されてもよい。
【0133】
いくつかの態様では、1つ以上の編集組成物が、1つ以上の送達媒体により細胞へ送達される。限定するものではない例として、第1の部位を標的とする第1のガイドRNA分子が第1の送達媒体(例.第1のAAV粒子)により送達され、第2の部位を標的とする第2のガイドRNA分子が第2の送達媒体(例.第2のAAV粒子)により送達されるような、異なるガイド配列部分を有する2つのガイドRNA分子及び少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼが細胞へ送達されてもよい。別の例では、異なるガイド配列部分を有するガイドRNA分子が細胞へ第1の送達媒体により送達され、少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼ又は前記少なくとも1つのCRISPRヌクレアーゼをコードする核酸が前記細胞へ第2の媒体により送達される。さらに、第1のCRISPRヌクレアーゼ-RNAガイド複合体を含む第1の編集組成物が、細胞へ第1の送達媒体により送達されてもよく、第2のCRISPRヌクレアーゼ-RNAガイド複合体を含む第2の編集組成物が、細胞へ第2の送達媒体により送達されてもよい。
【0134】
HBVを特異的に標的とするRNAガイド配列の例
表1は、HBVゲノムを特異的に標的とするようにデザインされたガイド配列部分を示す。操作された各ガイド分子は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)(例.配列NGG又はNAG(配列中、Nは任意の核酸塩基)に対応するPAM)の隣に位置する目的の標的ゲノムDNA配列と結合するように更にデザインされる。ガイド配列は、1つ以上の異なるCRISPRヌクレアーゼと共に働くようにデザインされ、そのCRISPRヌクレアーゼには、例えば、SpCas9WT(PAM配列:NGG)、SpCas9.VQR.1(PAM配列:NGAN)、SpCas9.VQR.2(PAM配列:NGNG)、SpCas9.EQR(PAM配列:NGAG)、SpCas9.VRER(PAM配列:NGCG)、SaCas9WT(PAM配列:NNGRRT)、SpRY(PAM配列:NRN又はNYN)、NmCas9WT(PAM配列:NNNNGATT)、Cpf1(PAM配列:TTTV)、又はJeCas9WT(PAM配列:NNNVRYM)が挙げられるが、それらに限定されるものではない。本発明のRNA分子はそれぞれ、1つ以上の異なるCRISPRヌクレアーゼと共に複合体を形成するようにデザインされ、かつ使用するCRISPRヌクレアーゼ、それぞれの1つ以上の異なるPAM配列を利用して、目的のポリヌクレオチド配列を標的とするようにデザインされる。
【0135】
【0136】
本発明のより完全な理解を促進するために実施例を以下に示す。以下の実施例は、本発明を構築しかつ実施する代表的な様式を示す。しかし、本発明の範囲は、これらの実施例に開示した特定の態様に限定されず、これらの態様は例証のみを目的とする。
【実施例】
【0137】
実験の詳細
実施例1 HBVガイド配列部分のスクリーニング
保存HBV配列を標的とする最適なガイド分子を特定するために、HeLa細胞に、HBVゲノムの関連領域の合成配列を有するレンチウイルスを安定的に感染させた(
図1)。肝実質細胞核では、B型肝炎ウイルス(HBV)ゲノムは、共有結合閉環DNA(cccDNA)の形でエピソームとして存在する。細胞ごとにHBV cccDNA分子のコピー数が異なるため(通常、細胞あたり最高10コピー)、HeLa細胞に、HBVの合成配列を有するレンチウイルスを、3つの異なる感染多重度(MOI)、すなわち、細胞あたり2、5又は10コピーで感染させた。安定的に感染した細胞を、ピューロマイシン抵抗性に基づいて選択した。
【0138】
HBV DNAの別々の領域を標的とする4つの異なるガイド分子(表2)の、WT OMNI-79ヌクレアーゼ及びOMNI-79 V5570バリアントヌクレアーゼによる高オンターゲット活性について、HBV感染HeLa細胞でスクリーニングした。簡潔に説明すると、JetOPTIMUS試薬(Polyplus)を用いて、WT OMNI-79又はOMNI-79 V5570ヌクレアーゼ(64ng)とそれぞれのガイド(20ng)を同時トランスフェクトし、96ウェル形式でスクリーニングした。DNAトランスフェクションから72時間後に細胞を収集した。オンターゲット活性を次世代シーケンシング(NGS)で測定するために、細胞溶解及びゲノムDNA抽出をQuick抽出(Lucigen)で行い、特異的なプライマーを用いて内因性ゲノム領域を増幅した(
図2、表2)。
【0139】
【0140】
【0141】
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【配列表】
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