(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】アルツハイマー病のための血液に基づく診断アッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240730BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240730BHJP
C12Q 1/37 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C07K14/47
C12Q1/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504155
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 US2022074081
(87)【国際公開番号】W WO2023049541
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524028913
【氏名又は名称】キャッサバ サイエンシズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】イアン パイク
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ブレマング
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ ソーントン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
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4H045FA16
(57)【要約】
本発明は、タウ毒性を特徴とする神経認知障害、例えば、アルツハイマー病の診断、病期分類、治療、及び治療応答の評価のためのバイオマーカーのセット及びその使用方法に関する。神経認知障害のスクリーニングにおけるバイオマーカーとして使用されることになる、リン酸化ペプチドの少なくとも3つの位置が含まれる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のポリペプチド配列を有するフィラミンAタンパク質のインビトロ消化から得られる1以上のリン酸化ペプチドを含むバイオマーカーパネル。
【請求項2】
前記フィラミンAが神経学的疾患を有することが疑われる対象から採取された生体液もしくは組織試料に含まれるか又は該生体液もしくは組織試料から得られる、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項3】
前記神経学的疾患がアルツハイマー病である、請求項3記載のバイオマーカーパネル。
【請求項4】
前記リン酸化ペプチドが配列番号1のセリン2152に対応する残基でリン酸化されている、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項5】
前記リン酸化ペプチドが、配列番号2、配列番号3、配列番号4、又は配列番号5のアミノ酸配列を有する、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項6】
前記バイオマーカーパネルが、FLNAの複数のリン酸化断片、任意に、2以上の断片又は3以上の断片を含む、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項7】
前記バイオマーカーパネルが、FLNAの少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、又は10の異なるリン酸化断片を含む、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項8】
前記バイオマーカーパネルが、各々がFLNAの断片を含み、かつ配列番号2~5のいずれか1つのアミノ酸配列を有する2以上のリン酸化ペプチドを含み、ここで、該2以上のリン酸化ペプチドのうちの少なくとも1つが配列番号1のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項9】
前記リン酸化ペプチドが配列番号1のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項10】
前記リン酸化ペプチドが、配列番号6、配列番号7、配列番号8、又は配列番号9のアミノ酸配列を有する、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項11】
前記バイオマーカーパネルが、各々がFLNAの断片を含み、かつ配列番号6~9のいずれか1つのアミノ酸配列を有する2以上のリン酸化ペプチドを含み、ここで、該2以上のリン酸化ペプチドのうちの少なくとも1つが配列番号1のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項12】
前記リン酸化ペプチドが配列番号1のセリン2180に対応する位置でリン酸化されている、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項13】
前記リン酸化ペプチドが、配列番号10、配列番号11、又は配列番号12のアミノ酸配列を有する、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項14】
前記バイオマーカーパネルが、各々がFLNAの断片を含み、かつ配列番号10~12のいずれか1つのアミノ酸配列を有する2以上のリン酸化ペプチドを含み、ここで、該2以上のリン酸化ペプチドのうちの少なくとも1つが配列番号1のセリン2180に対応する位置でリン酸化されている、請求項1記載のバイオマーカーパネル。
【請求項15】
複数のリン酸化ペプチドを含み、ここで、各々のリン酸化ペプチドが配列番号1の断片であり、かつ配列番号1のセリン2143、2152、及び/又は2180に対応する位置にリン酸化部位を含む、バイオマーカーパネル。
【請求項16】
各々が配列番号2~12の配列を有し、かつ配列番号1のセリン2143、2152、及び/又は2180に対応する位置でリン酸化されている複数のリン酸化ペプチドを含む、バイオマーカーパネル。
【請求項17】
前記1以上のリン酸化ペプチドが、配列番号1のセリン2143、セリン2152、及び/又はセリン2180のうちの2つ以上でリン酸化されている、請求項15又は16記載のバイオマーカーパネル。
【請求項18】
各々が配列番号1のセリン残基2143、2152、及び/又は2180に対応する部位でリン酸化されている少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、又は10の異なるリン酸化ペプチドを含む、バイオマーカーパネル。
【請求項19】
表4に掲載されている1以上のペプチドをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項記載のバイオマーカーパネル。
【請求項20】
前記1以上のペプチドがプロテアーゼ又はプロテアーゼの組合せを用いるフィラミンAのインビトロ消化から得られ、ここで、該1以上のペプチドの各々が配列番号1に存在するアミノ酸配列を含む、請求項19記載のバイオマーカーパネル。
【請求項21】
前記1以上のリン酸化ペプチドがFLNAにとってプロテオティピックである、請求項1~18のいずれか一項記載のバイオマーカーパネル。
【請求項22】
(i)プロテアーゼ又はプロテアーゼの組合せを用いるフィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドであって、該1以上のペプチドの各々は、配列番号1に存在するアミノ酸配列を含む、前記1以上のペプチド;及び(ii)表1~4に掲載されている1つ以上、任意に2つ以上のタンパク質のインビトロ消化から得られる1以上のペプチド:を含む、バイオマーカーパネル。
【請求項23】
前記1以上のペプチド又は前記1以上のリン酸化ペプチドが、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシンから選択されるプロテアーゼの1つ又は組合せを用いるインビトロ消化から得られる、請求項1~22のいずれか一項記載のバイオマーカーパネル。
【請求項24】
1以上の合成ペプチドを含み、ここで、該合成ペプチドのうちの1つ又は複数が、H、C、N、O、及び/又はSの重同位体で濃縮されている、請求項1~22のいずれか一項記載のバイオマーカーパネル。
【請求項25】
前記合成ペプチドのうちの1つ又は複数が、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシンから選択されるプロテアーゼの1つ又は組合せを用いる、配列番号1又は表1、2、3、もしくは4に掲載されているタンパク質のうちの1つのタンパク質のインビトロ消化から得られるペプチドの配列に対応するアミノ酸配列を含む、請求項24記載のバイオマーカーパネル。
【請求項26】
神経学的障害の診断/予後判定の方法であって、
対象から体液又は組織試料を得ること;
該体液又は組織試料中の1以上のタンパク質を1以上のプロテアーゼで消化すること;並びに
質量分析を用いて、該消化から産生された1以上のペプチドのレベルを検出及び/又は測定すること
:を含む、前記方法。
【請求項27】
前記対象がアルツハイマー病を有することが疑われる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記消化する工程が、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、キモトリプシン、又はこれらの任意の組合せを用いて実施される、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記消化から産生されたペプチドのうちの2つ以上の比を決定することをさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記比が配列番号1のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている断片対配列番号1のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている断片の比を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
配列番号1のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている断片対配列番号1のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている断片の比が10.0よりも大きい場合、前記対象をアルツハイマー病を有すると診断することをさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
配列番号1のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている断片対配列番号1のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている断片の比が5.0未満である場合、前記対象をアルツハイマー病を有さないと診断することをさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項33】
神経学的障害の進行をモニタリングするための方法であって、
(a)第一の時点で対象から体液又は組織試料を得ること;
(b)該体液又は組織試料中の1以上のタンパク質を1以上のプロテアーゼで消化すること;
(c)質量分析を用いて、該消化から産生された1以上のペプチドのレベルを検出及び/又は測定すること;並びに
(d)第二の時点で工程(a)~(c)を反復すること
:を含む、前記方法。
【請求項34】
前記対象がアルツハイマー病を有することが疑われる、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記消化する工程が、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、キモトリプシン、又はこれらの任意の組合せを用いて実施される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記対象に投与される治療的処置が、前記1以上のペプチドの検出及び/又は測定レベルに基づいて、前記神経学的障害を治療するのに有効であるかどうかを決定する工程(f)をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項37】
前記消化から産生されたペプチドのうちの2つ以上の比を決定することをさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項38】
前記比が配列番号1のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている断片対配列番号1のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている断片の比を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記比が前記第一の時点と比較して前記第二の時点でより高い場合、前記対象をアルツハイマー病に向かって進行していると診断することをさらに含む、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記比が前記第一の時点と比較して前記第二の時点でより高い場合、前記対象に投与された治療が該対象の神経学的障害を減速させ、予防し、又は治療するのに効果がないと決定することをさらに含む、請求項38記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、その内容全体が引用により本明細書中に完全に組み込まれる、2021年7月23日に出願された米国仮特許出願第63/225,423号に対する優先権の恩典を主張する。
【0002】
(電子的に提出された配列表の参照)
本出願は、2022年7月22日に作成された「SequenceListing.xml」という名前のファイルとしてEFS-Web経由で電子的に提出された同時出願された配列表を引用によりさらに組み込む。この文書に含まれる配列表は、本出願の一部であり、その全体が引用により本明細書中に組み込まれる。
【0003】
(技術分野)
本発明は、タウ毒性を特徴とする神経認知障害、例えば、アルツハイマー病の診断、病期分類、治療、及び治療応答の評価のためのバイオマーカーのセット及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
(背景)
アルツハイマー病(AD)は、最も大きな医療負担の1つであり、罹患者は全世界で3,500万人であり、2050年には人口が1億1,500万人に増加すると推定されている。[Wimoの文献、アルツハイマー病国際ワールドレポート2010。認知症の世界経済への影響。国際アルツハイマー病協会(Alzheimer's Disease International World Report 2010. The Global Economic Impact of Dementia, Alzheimer's Disease International)(2010)]。ADは、最初は進行性の記憶喪失として現れ、後に、抑うつ、妄想、激越、さらには攻撃性などの神経精神症状を含むことがある壊滅的な認知症である。現在、利用可能なAD治療は、効果が限定的でかつ長続きしない認知機能改善薬に限られている。
【0005】
これまで、ADの診断は、アミロイド沈着及び微小管関連タンパク質タウを含有する神経原線維のもつれ(NFT)の存在によって剖検時にのみ確認することができた。現在のADの臨床診断は、DSM-IV TR及びMcKhannらの文献、Neurology 34(7):939-944(1984)中のNINCDS-ADRDA作業部会によるほぼ確実なAD(probable AD)の基準を満たす。上記のMcKhannらの文献に示された主に主観的評価に基づく初期診断基準は、認知機能障害及び疑われる認知症症候群の存在が可能性のある(possible)又はほぼ確実なADの臨床診断用の神経心理学的検査によって確認されることを要求するが;それらは、確定診断のために、組織病理学的確認(脳組織の顕微鏡検査)を必要とする。
【0006】
この基準は、ADで障害される可能性のある8つの認知領域を規定している。これらの認知領域は:記憶、言語、知覚能力、注意、構成能力、見当識、問題解決、及び機能的能力である。運動障害、感覚障害、及び協調障害は、疾患初期には見られない。これらの基準は、良好な信頼性及び妥当性を示しており、ADの臨床診断の主張の根拠として本明細書で使用されるものである。
【0007】
この診断は、従来、実験室アッセイによって決定することができなかった。そのようなアッセイは、主として、アルツハイマー病の診断を確信をもって行うことができる前に除外されるべき認知症の他の可能性のある原因を特定する上で重要である。神経心理学的検査は、認知症の診断の確証的証拠を提供し、経過及び治療に対する応答を評価するのに役立つ。上記のMcKhannらによって提案された基準は、ほぼ確実な、可能性のある、及び確定的なアルツハイマー病の診断のための指針として役立つことが意図されており;これらの基準は、より確定的な情報が入手できるようになったときに修正される可能性が高い。
【0008】
診断基準は、ごく最近、「ADによる軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる前駆期(疾患の本格的な症状が現れる前に起こる初期症状)を含むように改良された。神経病理は症状が現れる10年前から始まると推定されるので、この新しい診断は、この疾患を早期に治療したいという願望を反映している。[Trojanowskiらの文献、Alzheimers Dement 6, 230-238(2010)]。潜在的な疾患修飾治療の臨床試験は非常に期待外れであったが、それは、1つには、「早期」の患者でさえも、大量のアミロイドβ(Aβ)負荷と顕著なシナプスの欠陥及び炎症を伴う実質的な病態とを既に有しているからであろう。
【0009】
Petersenらの文献、Arch Neurol 56(3):303-308(1999)によると、対照対象とMCI対象の間の主な違いは記憶領域であるが、他の認知機能は同等である。しかしながら、MCI対象を最軽度AD患者と比較すると、記憶能力は同様であったが、AD患者は他の認知領域でも障害がより大きかった。縦断的成績により、MCI対象では、対照の速度を上回る速度で低下するが、軽度AD患者よりも急速には低下しないことが示された。
【0010】
MCIの基準を満たす患者は、健常対照対象及び最軽度AD対象と区別することができる。該患者は、治療介入のために特徴付けることができる臨床的実体を構成しているように思われる。
【0011】
アミロイド-β(Aβ)は、β-及びγ-セクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の特異的なタンパク質分解的切断によってインビボで生成される長さ39~42アミノ酸残基のペプチドである。Aβ42は、APPタンパク質の残基677~713を含み、このAPPタンパク質は、それ自体、UniProtKB/Swiss-ProtシステムにおいてP05067という名称を有する770残基の膜貫通タンパク質である。Aβ、及び特に、Aβ42は、ADの主要な原因物質であると一般に考えられているが、ADの神経病理の根底にあるそのメカニズムは議論されている。
【0012】
最近まで、上記のMcKhannらの文献で論じられている症状に基づくアッセイしか、生きている患者におけるアルツハイマー病の存在の診断に利用できなかった。ごく最近、2012年4月に、Eli Lilly社のAmyvid(登録商標)から始まって、その後、GE Healthcare社のVizamyl(登録商標)とPiramal Imaging社のNeuraceq(登録商標)が承認されたことにより、PETスキャン技術が生きているヒトにおけるADのアッセイに使用されている。静脈内に注入された放射性標識陽電子放出化合物は、脳プラーク中のAβに結合する。
【0013】
正確ではあるものの、PETスキャンアッセイは、患者が自分の頭をシンチレーション検出器内の比較的限られた空間に置かなければならず、比較的じっとしているべきであるという点で、患者にとって不便である。PETスキャンアッセイはまた、特に、数ミリリットルの血液を採取して、40種もの異なるアッセイ(これには、残念ながら、ADの検査が市販でまだ含まれていない)を提供するヒトが受けるより通常の血液検査と比較すると、費用がかかる。
【0014】
45年前に最初の非筋肉アクチン結合タンパク質として発見され[Hartwigらの文献、J Biol Chem 250:5696-5705(1975); Wangらの文献、Proc Natl Acad Sci USA 72:4483-4486(1975)]、フィラミン[FLN]は、非筋肉細胞で発現される細胞骨格タンパク質-フィラミンA(FLNA)及びB、ただし、Cは除く-ファミリーである。ヒトFLNAは、UniProtKB/Swiss-ProtデータベースでP21333という識別子を与えられており、2647アミノ酸残基(約280kDa)の配列を含有する。このタンパク質は、当技術分野においてアクチン結合タンパク質(ABP-280)と呼ばれることもある。[Gorlinらの文献、J Cell Biol 111:1089-1105(1990)]。
【0015】
FLNAタンパク質は、様々な膜貫通タンパク質をアクチン細胞骨格に固定し、幅広い細胞質シグナル伝達タンパク質の足場として機能する。フィラミンは、哺乳動物細胞の運動にとって不可欠であり、タンパク質-タンパク質相互作用のインターフェースとして働く[van der Flierらの文献、Biochim Biophys Acta 1538:99-117(2001)]。細胞の運動性におけるその役割の他に、FLNAは、種々の受容体及びシグナル伝達分子と相互作用することによって細胞シグナル伝達を調節することが次第に分かってきた。[Stosselらの文献、Nat Rev Mol Cell Biol 2:138-145(2001); Fengらの文献、Nat Cell Biol 6:1034-1038(2004)]。
【0016】
FLNAタンパク質は、2つの30アミノ酸残基の柔軟なループ又はヒンジによって中断されている、N-末端のアクチン結合ドメイン(ABD)と24個の免疫グロブリン様リピートドメイン(IgFLNa)の棒状ドメイン(各々約96アミノ酸残基の長さで、N-末端から番号が付けられている)からなる。IgFLNaは、N-末端付近から始まり、C-末端付近で終わる、1から24までの番号が付けられている。H1と命名されたループは、リピート15と16の間にあり、H2と命名されたループは、リピート23と24の間にある[Gorlinらの文献、J Cell Biol 111:1089-1105(1990); van der Flierらの文献、Biochim Biophys Acta 1538:99-117(2001)]。
【0017】
H1及びH2は、カルパイン及びカスパーゼによって切断される[Gorlinらの文献、J Cell Biol 111:1089-1105(1990); Browneらの文献、J Biol Chem 275:39262-39266(2000)]。H1での切断は、アミノ酸残基1762と1764の間で起こり、ABD及びリピート1~15からなる約170kDaの断片(IgFLNa-1-15)と、それに加えて、リピート16~24からなる約110kDaのポリペプチド断片(IgFLNa-16-24)を生じる。
【0018】
UniProtKB/Swiss-Protデータベースでは、リピート15のC-末端が位置1740にあり、リピート16のN-末端がアミノ酸残基位置1779にあると記載されていることに留意されたい。他方、上記のGorlinらの文献では、カルパイン切断部位が残基1762と1764の間に配置されているのに対し、Garciaらの文献、Arch Biochem Biophys 446:140-150(2006)では、その部位が残基1761と1762の間に配置されている。同様に、上記のGorlinらの文献では、先程の著者(Hartwigらの文献、J Cell Biol 87:841-848(1980))が1089ページで全長FLNA分子が270kDaの分子量を有し、その後、1093ページで280kDaのタンパク質を有すると報告していたことが記載されている。
【0019】
上記のGarciaらの文献では、カルパインが全長FLNAを180、100、90、及び10kDaのポリペプチド断片に切断すると報告されているが、Bedollaらの文献、Clin Cancer Res 15(3):788-796(2009)では、110kDaの断片から切断された170、110、及び90kDaのタンパク質分解断片が報告されている。上記のBrowneらの文献では、細胞傷害性Tリンパ球のプロテアーゼであるグランザイムB(grB)が溶解性タンパク質パーフォリンと協調してフィラミンを切断すること、また、フィラミンがFas受容体へのライゲーション後にカスパーゼ依存的な様式で切断されることが報告されている。瀕死Jurkat細胞の溶解物のウェスタンブロットによって、約110及び95kDaの質量を有するFLNAのC-末端領域由来の2つのカスパーゼ切断ポリペプチドが同定された。精製grBは、フィラミンを、約205、200、及び110kDaの質量を有するポリペプチドを含むいくつかのポリペプチドに切断した。FLNAのC-末端領域(位置2172~2647)由来の476アミノ酸残基を含有する融合タンパク質に対して作製されたポリクローナルウサギ抗体が使用された。Umedaらの文献、J Biochem 130:535-542(2001)では、カスパーゼ-3によるタンパク質分解について、U937単芽球性白血病及びJurkatヒトTリンパ芽球性細胞で多少類似した結果(C-末端の135、120、及び110kDaのポリペプチド断片)が見られた。
【0020】
IgFLNa-16-24は、Loyらの文献、Proc Natl Acad Sci, USA, 100(8):4562-4567(2003)では、約110kDaの質量を有すると言われていることに留意されたい。その約110kDaのポリペプチド(IgFLNa-16-24)は、より長い消化時間を伴って、カルパインによってH2でさらに切断されて、リピート16~23を含有する約90kDaの断片(IgFLNa-16-23)を生じる[Gorlinらの文献、J Cell Biol 111:1089-1105(1990); van der Flierらの文献、Biochim Biophys Acta 1538:99-117(2001)]。
【0021】
上で論じられているように、当技術分野で報告されている全長FLNA及びそのタンパク質分解断片の残基位置及びいくつかの分子量が異なるため、それぞれ、「約」280kDa及び「約」90kDaの分子量を有するものとしての全長FLNA分子及びより小さいFLNA切断産物。
【0022】
FLNAは、アクチンフィラメントの直交分岐を促進し、アクチンフィラメントを膜糖タンパク質に連結させる。フィラミンAは、膜貫通領域近くのカルボキシ末端リピート(リピート24)を介して二量体化し、機能にとって重要である細胞内V字型構造を提供する。
【0023】
各々のV字型FLNA二量体は、「V字」の頂点を形成する2つの逆平行自己結合ドメイン24とそのN-末端ABD部分の各々がアクチン分子に結合した糸で繋がったビーズのように伸びている残りのドメインとを有する。さらに最近、ABDのC-末端のロッドセグメント1(IgFLNa-1-15)が、明らかなドメイン間相互作用なしに、伸長した線状構造を形成することが報告されている。ロッドセグメント2(IgFLNa-16-23)は、ドメイン16~17、18~19、及び20~21が対構造を形成する複数のドメイン間相互作用によって、コンパクトな構造を取る。[Heikkinenらの文献、J Biol Chem, 284:25450-25458(2009); Ladらの文献、EMBO J, 26:3993-4004(2007)]。
【0024】
FLNAのタンパク質分解は、全長タンパク質を安定にかつ切断されにくくすることが報告されている、そのリピート20(IgFLNa-20)中のSer 2152(S2152)上のリン酸化によって一部調節される。[Gorlinらの文献、J Cell Biol 111:1089-1105(1990); Garciaらの文献、Arch Biochem Biophys 446:140-150(2006);及びChenらの文献、J Biol Chem 264(24):14282-14289(1989)]。
【0025】
Loyらの文献、Proc Natl Acad Sci, USA, 100(8):4562-4567(2003)では、リピート16~24を含有し、かつ約100kDaの分子量を有するH1切断産物が前立腺癌細胞でアンドロゲン受容体と核に共局在することが報告されている。この研究者たちは、FLNAが、通常、細胞質構造分子とみなされていることを指摘し、カルパイン切断によって産生されるその約100kDaのポリペプチドがアンドロゲン受容体の核調節因子としてさらに機能するという彼らの発見が「全く予想外のもの」(4565ページ)であると特徴付けた。
【0026】
細胞核に見られる約100kDaのFLNA断片は、S2152上でリン酸化されない。実際、S2152上のリン酸化は、前立腺癌株及び血小板において、カルパインによる全長FLNAの切断を阻止することが報告されている。[Garciaらの文献、Arch Biochem Biophys 446:140-150(2006);及びChenらの文献、J Biol Chem 264(24):14282-14289(1989)]。
【0027】
Wangらの文献、Oncogene 26:6061-6070(2007)では、FLNAの核局在が前立腺癌におけるホルモン依存性と相関することが示された。リン酸化されていない約90kDaの断片(IgFLNa-16-23)は、アンドロゲン依存型疾患ではホルモン感受性(hormone-naive)細胞の核に移動する。対照的に、ホルモン不応性のアンドロゲン非依存性前立腺腫瘍細胞では、FLNAはリン酸化され、その切断及び核移行を妨げた。その後、これらの著者と共同研究者らは、前立腺癌転移がFLNAの細胞質局在と相関しているだけでなく、転移がリン酸化タンパク質の切断とそれに続く核移行によって妨げられ得ることも示した[Bedollaらの文献、Clin Cancer Res. 15(3):788-796(2009)]。
【0028】
細胞骨格ネットワークの重要な調節因子として、FLNAは、癌転移[Yueらの文献、Cell & Biosci 3:7(2013)]、及び他の多くの疾病に関与する多くのタンパク質と相互作用する。したがって、Nakamuraらの文献、Cell Adh Migr. 5(2):160-169(2011)では、FLNAに関する研究の歴史が論じられ、このタンパク質が、チャネル、受容体、細胞内シグナル伝達分子、及び転写因子を含む、90を超える結合パートナーの足場として機能することが指摘されている。
【0029】
FLNAは、腫瘍進行にも関係があるとされている。FLNAノックアウトマウスは、ERK及びAktの下流活性化を含むK-Rasの発癌性の低下を示す。[Nallapalliらの文献、Mol Cancer 11:50(2012)]。結腸直腸癌及び膵臓癌[Uhlenらの文献、Mol Cell Proteomics 4:1920-1932(2005)]並びに膠芽腫[Sunらの文献、Cancer Cell 9:287-300(2006)]を含む、多くの異なる癌は、対応する正常組織における低いFLNAレベルとは対照的に、高レベルのFLNA発現を示す。
【0030】
FLNA発現の阻害は、癌細胞をシスプラチンと放射線の両方に対して敏感にし[Sunらの文献、Cancer Cell 9:287-300(2006)]、癌細胞におけるFLNA欠損も同様に、癌細胞を化学療法剤[Yueらの文献、DNA Repair(Amst) 11:192-200(2012)]及び放射線[Yueらの文献、Cancer Res 69:7978-7985(2009); Yuanらの文献、J Biol Chem 276:48318-48324(2001)]に対して敏感にする。他方、Jiangらの文献、Int.J. Biol.Sci. 9:67-77(2013)では、フィラミンA発現の阻害が黒色腫及び乳癌細胞を移植したヌードマウスにおいて転移の低下をもたらすことが報告されている。
【0031】
リン酸化は、細胞活性の全体的な調節因子として認識されるようになっており、異常なリン酸化は、ヒト疾患、特に、癌の宿主に関係があるとされる。タンパク質のリン酸化は、酵素によって媒介される1以上のセリン、トレオニン、又はチロシン残基のアミノ酸側鎖の水酸基とリン酸基(-OPO3
-2)との置換を含む。
【0032】
リン酸化とその逆反応である脱リン酸化は、2つの重要な酵素型の作用によって起こる。タンパク質キナーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)又はグアノシン三リン酸(GTP)などのヌクレオチド三リン酸からその標的タンパク質へとリン酸基を転移することにより、タンパク質をリン酸化する。このプロセスは、後にリン酸基を除去することができるタンパク質ホスファターゼの作用によって平衡が保たれる。
【0033】
それゆえ、特定の時点でタンパク質に結合しているリン酸の量は、そのタンパク質及びリン酸化/脱リン酸化を受けている特定のアミノ酸残基に特異的な特定の1以上の関連キナーゼ及びホスファターゼ酵素の相対的な活性によって決定される。リン酸化されたタンパク質が酵素である場合、リン酸化及び脱リン酸化は、基本的にはスイッチのように働き、それを調節された様式でオンにしたりオフにしたりして、その酵素活性に影響を及ぼすことができる。リン酸化は、パートナータンパク質への結合の促進によって、非酵素的なタンパク質-タンパク質相互作用を同様に調節することができる。
【0034】
タンパク質リン酸化は、細胞内シグナル伝達において重要な役割を果たすことができる。細胞表面のチロシンキナーゼ受容体から下流のエフェクタータンパク質まで、シグナル伝達経路を構成するタンパク質の多くはキナーゼであり、その多くはセリン/トレオニンキナーゼである。
【0035】
FLNAは、正常細胞でも癌細胞などの疾患細胞でも、そのタンパク質配列の多くの位置でリン酸化される。例えば、酵素PAK1(EC 2.7.11.1)は、細胞の運動性及び形態を調節するSTE20ファミリーのタンパク質キナーゼである。PAK1による位置2152でのFLNAリン酸化は、PAK1媒介性のアクチン細胞骨格再編成及びPAK1媒介性の膜ラフリングに必要とされる。[Vadlamudiらの文献、Nat. Cell Biol. 4:681-690(2002); Wooらの文献、Mol Cell Biol. 24(7):3025-3035(2004)]。サイクリンB1/Cdk1(EC:2.7.11.22; EC:2.7.11.23)は、FLNA依存性アクチンリモデリングにおいて、インビトロでセリン1436をリン酸化する。[Cukier et al., FEBS Letters 581(8):1661-1672(2007)]。
【0036】
ヒトFLNAのUniProtKB/Swiss-Protデータベースエントリー(No. P21333)には、以下のアミノ酸残基位置: 11、1081、1084、1089、1286、1338、1459、1533、1630、1734、2053、2152、2158、2284、2327、2336、2414、及び2510が異なる状況下でリン酸化されるという公開報告が掲載されている。さらに、セリン-1083、チロシン-1046、セリン-1458、セリン-2152、及びセリン-2522でリン酸化されているFLNA(リン酸化FLNA)と免疫反応するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体が、Abgent社(San Diego, CA)、Abcam(登録商標)社(Beverly, MA)、Bioss社(Woburn, MA)、及びGeneTex社(Irvine, CA)のうちの1つ又は複数から市販されている。
【0037】
核に局在し、転写因子と相互作用することができる90kDaのFLNA断片には、リン酸化されることができるセリン-2152残基が含まれる。しかしながら、先に論じられた核に局在する約90kDaのFLNA断片は、セリン-2152におけるリン酸化を含まない。実際、セリン-2152におけるFLNAのリン酸化(「pS2152」FLNA)は、FLNAをタンパク質分解から保護して、約90kDaの断片を形成することが報告されている[Garciaらの文献、Arch Biochem Biophys 446:140-150(2006); Gorlinらの文献、J Cell Biol 111:1089-1105(1990);及びChenらの文献、J Biol Chem 264(24):14282-14289(1989)]。
【0038】
タウリン酸化及びアルツハイマー病に関連する神経原線維のもつれの形成をもたらすα7-ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)によるアミロイド-β42(Aβ42)の毒性シグナル伝達は、CD14を介してTLR4を活性化する足場タンパク質FLNAの動員を必要とすることが示されている。Wangらの文献、J. Neurosci. 32(29):9773-9784(2012年7月18日)。その論文では、PTI-125(シムフィラム)が同様にFLNAとtoll様受容体4(TLR4)との会合を低下させ、サイトカイン放出を妨げることにより抗炎症効果をもたらすことも示されている。
【発明の概要】
【0039】
(本発明の簡単な概要)
足場タンパク質FLNAは、α7nAChRを介するAβ42シグナル伝達へのその関与を通じて、アルツハイマー病の発症に関連することが認められており、このプロセスにおける関連因子であると考えられている異常に折り畳まれた形態のFLNAは、ADの治療における使用について現在研究されているFLNAの低分子アンタゴニストであるPTI-125(シムフィラム)の標的である。興味深いことに、FLNAは、血小板でも強く発現され、そこで、正常な血小板機能を調節すると考えられており、FLNAの突然変異は、血小板関連障害を引き起こし得る。血小板は、機能的なα7nAChRも発現している(Schedelらの文献、ArteriosclThrom, Vas, 31:928-934(2011.))。また、血小板がAβ42を脳にシャトル移動させることができるという報告もある(Catricalaらの文献、ImmunAgeing9:20(2012))。FLNAは、活性化時に血小板でプロセシングされることも知られており[Buitragoらの文献、bioRxiv 307397]、これは、血小板内部と血小板溶解後の脳の両方においてAβ42及び/又はα7nAChRに結合することができる異常に折り畳まれた形態のFLNAの生成を助けることができる。
【0040】
現在の研究は、FLNAに基づく実行可能な診断アッセイを作成することができていない。実際、アルツハイマー病の現在の診断法は、通常、組織試料(例えば、死後確認用)又は侵襲的な外科的処置によって得られる脳脊髄液を必要とする。本開示は、アルツハイマー病などの神経認知障害の診断、病期分類、治療、及び治療応答の評価のための方法において使用するための、AD及び他のタウオパチーの診断に使用することができる血液ベースの新しいアッセイ及び方法、並びに新規のバイオマーカー(例えば、特定のリン酸化プロファイルを有するFLNA)又はその断片に基づく、該アッセイ及び方法に関連するキット及び試薬を提供することにより、現在のアッセイに関連するこれらの及びその他の欠点に対処する。さらに、本発明は、タウオパチーに対する新しい治療法の開発、又はタウオパチーなどの神経認知障害の治療用に本来設計されていない既存の治療法の再利用のための新規の標的を提供する。
【0041】
第一の一般的態様において、本開示は、フィラミンA(配列番号1)のインビトロ消化から得られる1以上のリン酸化ペプチドを含むバイオマーカーパネルを提供する。いくつかの態様において、FLNAは、神経学的疾患(例えば、アルツハイマー病もしくは他のタウオパチー)を有する疑いのある対象から採取された生体液もしくは組織試料内に含まれるか、又は該生体液もしくは組織試料から得られる。簡潔にするために、配列例は、プロテアーゼであるトリプシン、GluC、及びAspNによる消化に基づいて与えられる。当業者であれば、他のプロテアーゼによる消化が同じリン酸化残基を含む代替ペプチド配列を生成させ、全てのそのような代替物が本明細書中に包含されることを理解するであろう。
【0042】
いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号1の残基セリン2152でリン酸化されている。いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、又は配列番号5のアミノ酸配列(すなわち、全長FLNAの断片)を有する。いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、FLNAの複数のリン酸化断片、例えば、各々がFLNAの断片を含み、かつ配列番号2~5のいずれか1つのアミノ酸配列を有する、2以上のリン酸化ペプチドを含むことができ、ここで、該2以上のリン酸化ペプチドのうちの少なくとも1つは、配列番号1(全長FLNA)のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている。
【0043】
いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号1の残基セリン2143でリン酸化されている。いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、又は配列番号9のアミノ酸配列(すなわち、全長FLNAの断片)を有する。いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、FLNAの複数のリン酸化断片、例えば、各々がFLNAの断片を含み、かつ配列番号6~9のアミノ酸配列を有する、2以上のリン酸化ペプチドを含むことができ、ここで、該2以上のリン酸化ペプチドのうちの少なくとも1つは、配列番号1(全長FLNA)のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている。
【0044】
いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号1の残基セリン2180でリン酸化されている。いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号10、配列番号11、又は配列番号12のアミノ酸配列(すなわち、全長FLNAの断片)を有する。いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、FLNAの複数のリン酸化断片、例えば、各々がFLNAの断片を含み、かつ配列番号10~12のアミノ酸配列を有する、2以上のリン酸化ペプチドを含むことができ、ここで、該2以上のリン酸化ペプチドは、配列番号1(全長FLNA)の残基セリン2180に対応する位置でリン酸化されている。
【0045】
いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号1の残基セリン1459でリン酸化されている。いくつかの態様において、リン酸化ペプチドは、配列番号13、配列番号14、又は配列番号15のアミノ酸配列(すなわち、全長FLNAの断片)を有する。いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、FLNAの複数のリン酸化断片、例えば、各々がFLNAの断片を含み、かつ配列番号13~15のアミノ酸配列を有する、2以上のリン酸化ペプチドを含むことができ、ここで、該2以上のリン酸化ペプチドは、配列番号1(全長FLNA)の残基セリン1459に対応する位置でリン酸化されている。
【0046】
いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、複数のリン酸化ペプチドを含み、ここで、各々のリン酸化ペプチドは、FLNA(配列番号1)の断片であり、かつ全長FLNA(配列番号1)のセリン1459、2143、2152、及び/又は2180に対応する位置にリン酸化部位を含む。
例えば、バイオマーカーパネルは、各々が配列番号2~15の配列を有し、かつ全長FLNA(配列番号1)のセリン1459、2143、2152、及び/又は2180に対応する位置でリン酸化されている、複数のリン酸化ペプチドを含むことができる。いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、上で特定されているリン酸化部位の2つ以上(例えば、全長FLNAのセリン1459、2143、2152、及び/又は2180)でリン酸化されている全長FLNAの断片を含む1以上のリン酸化ペプチドを含むことができる。
【0047】
いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、各々が全長FLNA(配列番号1)のセリン残基1459、2143、2152、及び/又は2180に対応する部位でリン酸化されている、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、又は10の異なるリン酸化ペプチドを含む。
【0048】
いくつかの態様において、バイオマーカーパネルは、プロテアーゼ又はプロテアーゼの組合せを用いるフィラミンAのインビトロ消化から得ることができる、表4に掲載されている1以上のペプチドをさらに含み、ここで、該1以上のペプチドの各々は、配列番号1に存在するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ペプチドは、FLNAにとってプロテオティピックである。
【0049】
第二の一般的態様において、本開示は、(i)プロテアーゼ又はプロテアーゼの組合せを用いるフィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドであって、該1以上のペプチドの各々は、配列番号1に存在するアミノ酸配列を含む前記1以上のペプチド;及び(ii)表1に掲載されている1つ以上、任意に2つ以上のタンパク質のインビトロ消化から得られる1以上のペプチド:を含む、バイオマーカーのパネルを提供する。いくつかの態様において、該1以上のペプチドは、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシンから選択されるプロテアーゼの1つ又は組合せによるインビトロ消化から得られる。いくつかの態様において、フィラミンA及び表1に掲載されている1以上のタンパク質は、神経学的疾患を有することが疑われる対象から得られる生体液又は組織試料内に含まれる。いくつかの態様において、神経学的疾患は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーである。いくつかの態様において、フィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドは、1以上のリン酸化部位を含む。いくつかの態様において、1以上のリン酸化部位は、全長FLNA(配列番号1)のセリン残基2143、2152、及び/又は2180に対応する。
【0050】
第三の一般的態様において、本開示は、(i)プロテアーゼ又はプロテアーゼの組合せを用いるフィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドであって、該1以上のペプチドの各々は、配列番号1に存在するアミノ酸配列を含む前記1以上のペプチド;及び(ii)表2に掲載されている1つ以上、任意に2つ以上のタンパク質のインビトロ消化から得られる1以上のペプチド:を含む、バイオマーカーのパネルを提供する。いくつかの態様において、該1以上のペプチドは、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシンから選択されるプロテアーゼの1つ又は組合せによるインビトロ消化から得られる。いくつかの態様において、フィラミンA及び表2に掲載されている1以上のタンパク質は、神経学的疾患を有することが疑われる対象から得られる生体液又は組織試料内に含まれる。いくつかの態様において、神経学的疾患は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーである。いくつかの態様において、フィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドは、1以上のリン酸化部位を含む。いくつかの態様において、1以上のリン酸化部位は、全長FLNA(配列番号1)のセリン残基2143、2152、及び/又は2180に対応する。
【0051】
第四の一般的態様において、本開示は、(i)プロテアーゼ又はプロテアーゼの組合せを用いるフィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドであって、該1以上のペプチドの各々は、配列番号1に存在するアミノ酸配列を含む、前記1以上のペプチド;及び(ii)表3に掲載されている1つ以上、任意に2つ以上のタンパク質のインビトロ消化から得られる1以上のペプチド:を含む、バイオマーカーのパネルを提供する。いくつかの態様において、該1以上のペプチドは、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシンから選択されるプロテアーゼの1つ又は組合せによるインビトロ消化から得られる。いくつかの態様において、フィラミンA及び表3に掲載されている1以上のタンパク質は、神経学的疾患を有することが疑われる対象から得られる生体液又は組織試料内に含まれる。いくつかの態様において、神経学的疾患は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーである。いくつかの態様において、フィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドは、1以上のリン酸化部位を含む。いくつかの態様において、1つ以上のリン酸化部位は、全長FLNA(配列番号1)のセリン残基2143、2152、及び/又は2180に対応する。
【0052】
第五の一般的態様において、本開示は、(i)プロテアーゼ又はプロテアーゼの組合せを用いるフィラミンAのインビトロ消化から得られる1以上のペプチドであって、該1以上のペプチドの各々は、配列番号1に存在するアミノ酸配列を含む、前記1以上のペプチド;及び(ii)表1、2、3、又は4に掲載されている1つ以上、任意に2つ以上のタンパク質のインビトロ消化から得られる1以上のペプチド:を含む、バイオマーカーのパネルを提供する。いくつかの態様において、該1以上のペプチドは、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシンから選択されるプロテアーゼの1つ又は組合せによるインビトロ消化から得られる。いくつかの態様において、フィラミンA及び表1に掲載されている1以上のタンパク質は、神経学的疾患を有することが疑われる対象から得られる生体液又は組織試料内に含まれる。いくつかの態様において、神経学的疾患は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーである。
【0053】
第六の一般的態様において、本開示は、1以上の合成ペプチドを含み、ここで、該合成ペプチドのうちの1つ又は複数が、H、C、N、O、及び/又はSの重同位体で濃縮されている、バイオマーカーパネルを提供する。いくつかの態様において、該合成ペプチドのうちの1つ又は複数は、フィラミンA(配列番号1)に存在するか;又は表1、2、3もしくは4に掲載されているタンパク質のうちの1つに存在するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、該合成ペプチドのうちの1つ又は複数は、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシンから選択されるプロテアーゼの1つ又は組合せを用いる、配列番号1又は表1、2、3、もしくは4に列挙されるタンパク質の1つのインビトロ消化から得られるペプチドの配列に対応するアミノ酸配列を含む。
【0054】
第七の一般的態様において、本開示は、神経学的障害の診断/予後判定のための方法であって、対象(任意に、アルツハイマー病などの神経学的障害を有する疑いのある対象)から体液又は組織試料を得ること;該体液又は組織試料中の1以上のタンパク質性材料(例えば、タンパク質及び/又はポリペプチド)を1以上のプロテアーゼ(例えば、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシン)で消化すること;並びに質量分析を用いて、該消化から産生された1以上のペプチドのレベルを検出及び/又は測定すること:を含む、方法である。いくつかの態様において、該1以上のペプチドの各々は、フィラミンA(配列番号1)又は表1、2、もしくは3に掲載されているタンパク質のうちの1つのタンパク質のインビトロ消化から得られるペプチドの配列に対応するアミノ酸配列を含む。
【0055】
第八の一般的態様において、本開示は、神経学的障害の進行をモニタリングする方法であって、(a)第一の時点で対象(任意に、アルツハイマー病などの神経学的障害を有する疑いのある対象)から体液又は組織試料を得ること;(b)該体液又は組織試料中の1以上のタンパク質を1以上のプロテアーゼ(例えば、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシン)で消化すること;(c)質量分析を用いて、該消化から産生された1以上のペプチドのレベルを検出及び/又は測定すること;並びに(d)第二の時点で工程(a)~(c)を反復すること:を含む、方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、対象に投与される治療的処置が、工程(c)の1以上のペプチドの検出及び/又は測定レベルに基づいて、神経学的障害を治療するのに有効であるかどうかを決定する工程(e)をさらに含む。いくつかの態様において、該1以上のペプチドの各々は、フィラミンA(配列番号1)又は表1、表2もしくは表3に掲載されているタンパク質のうちの1つのタンパク質のインビトロ消化から得られるペプチドの配列に対応するアミノ酸配列を含む。
【0056】
第九の一般的態様において、本開示は、神経学的障害(アルツハイマー病又は別のタウオパチーなど)の進行を診断又はモニタリングする方法であって、対象から体液又は組織試料を得ること;該体液又は組織試料中の1以上のタンパク質を1以上のプロテアーゼ(例えば、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシン)で消化すること;並びにフィラミンA(配列番号1)の消化から産生される1以上のリン酸化ペプチド断片のいずれかのレベルを測定すること:を含む、方法を提供する。いくつかの態様において、該1以上の断片は、フィラミンA(配列番号1)のセリン2152及び/又は2143に対応する位置にリン酸化セリンを含む。
【0057】
いくつかの態様において、本方法は、2以上の上記ペプチド断片の比を決定することをさらに含む。いくつかの態様において、該比は、フィラミンA(配列番号1)のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている断片対フィラミンA(配列番号1)のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている断片の比を含む。いくつかの態様において、該比は、各々が配列番号2~9の配列を含む2以上のペプチドを用いて決定される。いくつかの態様において、該比は、フィラミンA(配列番号1)のセリン2143に対応する位置でリン酸化されている断片対フィラミンA(配列番号1)のセリン2152に対応する位置でリン酸化されている断片の比を含み;ここで、<5の比は、対象がアルツハイマー病を有さないことを示し、>10の比は、対象がアルツハイマー病を有することを示す。
【0058】
第十の一般的態様において、本開示は、神経学的障害(アルツハイマー病又は別のタウオパチーなど)の進行を診断又はモニタリングする方法であって、対象から体液又は組織試料を得ること;該体液又は組織試料中の1以上のタンパク質を1以上のプロテアーゼ(例えば、トリプシン、GluC、ArgC、AspN、及び/又はキモトリプシン)で消化すること;並びにフィラミンA(配列番号1)の消化から産生される1以上のリン酸化ペプチド並びにインテグリンα-IIb、インテグリンβ-3、及び/又はT細胞ファミリーメンバー1の活性化のためのリンカーに由来する1以上のペプチドのいずれかのレベルを測定すること:を含み、ここで、インテグリンα-IIb、インテグリンβ-3、及び/又はT細胞ファミリーメンバー1の活性化のためのリンカーの存在が生体外での又は人工的な血小板活性化を示す、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1は、TMTcalibrator(商標)質量分析ワークフローの表示を示している。上位14の存在量の多いタンパク質を除去した後、血漿試料を消化し、TMTpro(商標)試薬で標識した。並行して、脳溶解物も消化し、TMTpro(商標)試薬で標識した。その後、血漿と脳溶解物消化物を混合し、少量のアリコートを、タンデム質量分析(LC-MS/MS)によって、全体のタンパク質発現について分析した。リン酸化ペプチド画分を残りの混合物から濃縮し、LC-MS/MSによって分析した。データ分析により、TMTpro(商標)レポーターイオンに基づくペプチド配列及び相対的存在量が同定され、線形モデリングを用いて、AD及び対照試料における示差発現を示す特徴が特定された。
【0060】
【
図2】
図2は、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料におけるFLNAの発現プロファイルのヒストグラムを示している。値は、参照脳溶解物チャンネルと比べたlog2比として表されている。
【0061】
【
図3】
図3は、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における、FLNA(配列番号1)のセリン2152でリン酸化されたトリプシン分解ペプチド
【化1】
の発現プロファイルのヒストグラムを示している。値は、同位体補正されたTMTpro(商標)レポーターイオン強度として表されている。
【0062】
【
図4】
図4は、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における、FLNA(配列番号1)のセリン2152でリン酸化されたトリプシン分解ペプチド
【化2】
の発現プロファイルのヒストグラムを示している。値は、同位体補正されたTMTpro(商標)レポーターイオン強度として表されている。
【0063】
【
図5】
図5は、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における、FLNA(配列番号1)のセリン2143でリン酸化されたトリプシン分解ペプチド
【化3】
の発現プロファイルのヒストグラムを示している。値は、同位体補正されたTMTpro(商標)レポーターイオン強度として表されている。
【0064】
【
図6】
図6は、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における、FLNA(配列番号1)のセリン2180でリン酸化されたトリプシン分解ペプチド
【化4】
の発現プロファイルのヒストグラムを示している。値は、同位体補正されたTMTpro(商標)レポーターイオン強度として表されている。
【0065】
【
図7】
図7は、
図7A、
図7B、
図7C、及び
図7Dとして4つに分けて、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における、4つのFLNAリン酸化ペプチド
【化5】
(配列番号3;
図7A)
【化6】
(配列番号10;
図7B)
【化7】
(配列番号6;
図7C)及び
【化8】
(配列番号13;
図7D)の相対的発現を表す4つの箱ひげ図を示している。示されている値は、参照脳溶解物チャンネルと比べたlog2比である。
【0066】
【
図8】
図8は、
図8A、
図8B、
図8Cとして3つに分けて、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における、脳溶解物チャンネルと比べたlog2変換されたリン酸化ペプチド発現レベルのヒートマップを示している。調節されたリン酸化ペプチドのもとの遺伝子名は、各々のパネル中の図の右側に示されている。
図8Aは、AD症例と高齢対照における調節されたリン酸化ペプチドを示している。
図8Bは、AD症例と若年対照における調節されたリン酸化ペプチドを示している。
図8Cは、AD症例と全対照における調節されたリン酸化ペプチドを示している。
【0067】
【
図9】
図9は、
図9A、
図9B、及び
図9Cとして3つに分けて、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における; FLNA(配列番号1)のセリン2143でリン酸化されたトリプシン分解ペプチド
【化9】
(
図9A)、FLNA(配列番号1)のセリン2152でリン酸化された
【化10】
(
図9B)、及びFLNA(配列番号1)のセリン2152でリン酸化された
【化11】
(配列番号138)(
図9C)の発現プロファイルを示すヒストグラムを提供している。値は、同位体補正されたTMTpro(商標)レポーターイオン強度として表されている。
【0068】
【
図10】
図10は、
図10A、
図10B、
図10C、及び
図10Dとして4つに分けて、Histopaque(登録商標)-1077で調製された6つのAD血漿試料及びEDTAチューブに収集された6つの血漿試料における、4つのFLNAリン酸化ペプチド
【化12】
(配列番号1;
図10A)
【化13】
(配列番号3;
図10B)
【化14】
(配列番号186;
図10C)及び
【化15】
(配列番号13;
図10D)の相対的発現を表す4つの箱ひげ図を示している。示されている値は、参照脳溶解物チャンネルと比べたlog2比である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
(本発明の詳細な説明)
本明細書を解釈するために、別途規定されない限り、かつ適切な場合はいつでも、以下の定義及び略語が適用され、単数形で使用される用語は、複数形も含み、その逆もまた同様とする。
【0070】
「バイオマーカー」という用語は、翻訳後修飾を含む、同定されたタンパク質の生物学的に関連する全ての形態を含む。例えば、バイオマーカーは、グリコシル化形態、リン酸化形態、多量体形態、断片化形態、又は前駆体形態で存在することができる。バイオマーカー断片は、天然に存在するもの、又は例えば、酵素的に生成され、かつ完全なタンパク質の生物学的に活性のある機能を依然として保持しているものであることができる。断片は、典型的には、少なくとも約10アミノ酸、通常、少なくとも約50アミノ酸の長さであり、300アミノ酸もの長さ又はそれより長いものであることができる。
【0071】
「正準配列」という用語は、オーソロガスな種の間で最も一般的な配列及び/又は最も類似した配列を指すために本明細書で使用される。特に、別途規定されない限り、正準配列は、本明細書において、ヒト配列を指す。
【0072】
本明細書に開示されるペプチド配列は、IUPACの1文字コードを用いて表示される。小文字の使用は、次のような修飾を示す:「c」-カルバミドメチル化シスチン;「m」-酸化メチオニン;「n」-脱アミド化アスパラギン;「q」-脱アミド化グルタミン;及び「k」-TMT標識リジン。N-末端の小文字は、TMT修飾アミノ酸を表す。さらに、記号「[p]」は、それに続くアミノ酸上のリン酸化を示すために使用され、例えば、「[p]s」は、リン酸化セリンを表し;「[p]t」は、リン酸化トレオニンを表し;「[p]y」は、リン酸化チロシンを表す。
【0073】
「KEGG経路」という用語は、代謝、遺伝情報処理、環境情報処理、細胞プロセス、生物システム、ヒト疾患、及び創薬に関する分子相互作用及び反応ネットワークを表す、手描きの一群の経路マップを指す。「KEGG経路マッピング」は、分子データセット、特に、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、及びメタボロミクスにおける大規模なデータセットを、より高次の全身機能の生物学的解釈のためにKEGG経路地図にマッピングするプロセスである(http://www.genome.jp/kegg/pathway.html)。
【0074】
「濃度又は量」という用語は、例えば、曲線下面積及びスペクトル計数などのLC-MS/MSラベルフリー定量アプローチによって決定される、試料中のバイオマーカーの相対的濃度又は量を指す。
【0075】
「比較すること」もしくは「比較する」という用語又はこれらの文法的等価物は、試料中のバイオマーカーの相対的濃度又は量を他の試料(例えば、専有又は公開データベースに保存されているタンパク質濃度又は量)と比べて測定することを意味する。
【0076】
「基準濃度又は量」という用語は、専有又は公開データベースに保存されているタンパク質濃度又は量を指すが、これらに限定されない。「基準濃度又は量」は、患者の大規模スクリーニングから、又はそのような決定と対照患者における臨床情報との間の既知の又は以前に決定された相関関係を参照して得られたものであることができる。例えば、基準値は、対照対象、例えば、対象と同様の年齢及び性別の健常人(すなわち、認知症のない人)におけるバイオマーカーの濃度又は量との比較によって決定することができる。或いは、基準値は、文献中に見出すことができる値、例えば、位置112及び158における突然変異の有無が比較されるべき基準を表すApoE 24アレルの存在、又はCSF中の>350ng/Lの総タウ(T-タウ)、>80ng/Lのリン酸化タウ(P-タウ)、及び<530ng/LのA~42のレベルのようなものである(Hanssonらの文献、Lancet Neural. 5(3):228-234(2006)。さらに、基準値は、試験時点より時間的に先行する1以上の時点で同じ対象から得たものであることができる。そのような先行試料は、試験時点の日付の1週間以上前、1カ月以上前、3カ月以上前、最も好ましくは、6カ月以上前に採取することができる。いくつかの実施態様において、複数の先行試料を縦断的に比較し、もしあれば、バイオマーカー発現の変化の傾きを、通常指摘される低下などの、認知変化の相関として算出することができる。
【0077】
「対照」又は本明細書で使用される場合、「非AD対照」又は「非AD対象」という用語は、認知的に正常であるか、又は認知異常と診断されているもしくはその症状を呈しているが、既存の生化学的検査に関しては、非AD対象として定義されている、ヒト又は非ヒト対象から採取された組織試料又は体液試料を指す。
【0078】
「選択反応モニタリング」、「SRM」、及び「MRM」という用語は、既知のバイオマーカーを表す既知の質量電荷比の前駆体イオンがイオントラップ又はトリプル四重極質量分析計でのタンデム質量分析による分析の優先的な標的とされる質量分析アッセイを意味する。質量スペクトル分析中、親イオンはフラグメント化され、第二の予め規定された質量電荷比の選択された娘イオンの数がカウントされる。通常、定量的な内部標準としての役割を果たすように、予め規定された数の安定同位体置換を有するが、それ以外はターゲットイオンと化学的に同一である等価な前駆体イオンを本方法に含める。
【0079】
「並列反応モニタリング」及び「PRM」という用語は、既知のバイオマーカーを表す既知の質量電荷比の前駆体イオンがOrbitrap(商標)質量分析計(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)でのタンデム質量分析による分析の優先的な標的とされる質量分析アッセイを意味する。分析中、親イオンはフラグメント化され、各々の娘イオンの数がカウントされる。通常、定量的な内部標準としての役割を果たすように、予め規定された数の安定同位体置換を有するが、それ以外はターゲットイオンと化学的に同一である等価な前駆体イオンを本方法に含める。
【0080】
「プロテオティピック」という用語は、ペプチド中のアミノ酸残基の配列が同じ遺伝子に由来する他の発現アイソフォーム又はスプライスバリアントは別として、同じ種由来の任意の他のタンパク質には見られないような、そのペプチドが由来するタンパク質を一意的に表すペプチドを意味する。
【0081】
「リン酸化ペプチド」という用語は、リン酸基の付加によって修飾された少なくとも1つのアミノ酸を含有するペプチドを意味する。
【0082】
「単離された」という用語又はその文法的等価物は、本明細書の全体を通じて、タンパク質、ペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、又は場合によっては化学分子が、自然界に存在し得る環境とは異なる物理的環境に存在することを意味する。
【0083】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、任意のヒト又は非ヒト動物を含む。
【0084】
「非ヒト動物」という用語は、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物及び非哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、齧歯類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。
【0085】
「治療する」、「治療すること」、「治療」、「予防する」、「予防すること」、もしくは「予防」という用語、又はこれらの文法的等価物は、治療的処置、予防的処置、及び対象が障害又は他のリスク因子を発症するリスクを軽減する適用を含む。治療は、障害の完全な治癒を要求とするものではなく、症状又は潜在するリスク因子の軽減を包含する。
【0086】
本明細書で使用される「診断」という用語又はその文法的等価物は、患者における障害の存在又は非存在又は不在又は可能性に関する任意の情報の提供を含む。これは、障害、又は障害に関連して経験されるもしくは経験され得る症状の種類又は分類に関する情報の提供をさらに含む。これは、例えば、障害の重症度の診断を含むことができる。「診断」という用語は、障害の医学的経過、例えば、その持続期間、重症度、及び軽度認知障害(MCI)からAD又は他の認知症への進行の経過の予後判定を包含する。
【0087】
本明細書で使用される「病期分類」という用語又はその文法的等価物は、対象において、神経認知障害、特に、ADの病期を特定することを意味する。例えば、ADは、使用される診断の枠組みに応じて、3段階又は7段階によって特徴付けられる。全般的認知症スケール(Global Dementia Scale)は、大域的機能の1つのそのような尺度である。これは、一連の標準化された重症度基準に対する認知及び機能を含む重症度の評価によって測定される。
【0088】
「有効性」という用語は、所与の介入(例えば、薬物、医療器具、外科的処置など)の有益な変化の能力を示す。有効性が立証された場合、その介入は、比較されている他の利用可能な介入と少なくとも同等に優れている可能性が高い。「有効性(efficacy)」及び「有効性(effectiveness)」という用語は、本明細書において互換的に使用される。
【0089】
「含む」という用語は、対象が、列挙されている全ての要素を含むが、任意に、さらなる名前のない要素も含むことができることを示す。
【0090】
本明細書で使用される場合の「及び/又は」という用語は、2つの指定された特徴又は構成要素の各々の他方の有無を問わない具体的な開示と解釈されるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、あたかも各々が本明細書に個別に記載されているかのように、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の具体的な開示と解釈されるべきである。
【0091】
文脈上そうでないことが示されない限り、上記の特徴/用語の定義は、本発明の任意の特定の態様又は実施態様に限定されるものではなく、本明細書に記載される全ての態様及び実施態様に等しく適用される。
【0092】
以下の略語は、本明細書の文脈において、以下のように理解されるものとする: CSF(脳脊髄液); LBD(レビー小体型認知症); FTD(前頭側頭型認知症); VaD(血管性認知症); ALS(筋萎縮性側索硬化症); CJD(クロイツヘルト・ヤコブ病); CNS(中枢神経系); TMT(登録商標)(Tandem Mass Tag(登録商標)); TEAB(重炭酸テトラエチルアンモニウム); TFA(トリフルオロ酢酸); SDS(ドデシル硫酸ナトリウム); TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン); ACN(アセトニトリル); Da(ダルトン); HPLC(高速液体クロマトグラフィー); FA(ギ酸); LC-MS/MS(タンデム質量分析検出を伴う液体クロマトグラフィー); MS(質量分析); MS/MS又はMS2(タンデムMS); MS/MS/MS又はMS3(トリプルMS); PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動); SCX(強陽イオン交換); ppm(百万分率); TiO2(二酸化チタン); IMAC(鉄金属親和性クロマトグラフィー)。
【0093】
AD発症において、アミロイド-βペプチド(Aβ)の蓄積は、タウのリン酸化を調節するシグナル伝達経路と相互作用する。タウの過剰リン酸化は、軸索輸送の調節におけるその正常な機能を破壊し、神経原線維のもつれ及び可溶性タウの毒性種の蓄積をもたらす。現在のところ、ADの治療法は存在しない。
【0094】
ADについては、承認されている治療が少なく、かつ有効性が限られており、ほとんどは進行を減速又は遅延させるのに役立つものである。AD及び他のタウオパチーの治療のための新しい治療法の同定及び開発は、効果的な診断、予後判定、及び予測バイオマーカーの欠如によって、並びに新しい治療法の設計のための新しい標的の欠如によっても大きな影響を受けている。現在、ADは、脳生検によるか、又は患者が死亡した後の剖検時にしか確定診断することができない。明らかに、臨床の場では、脳生検が行われることは稀であり、診断は、依然として、主に症状の履歴に基づいて行われ、神経学的、精神測定学的、及び生化学的検査に依存している。
【0095】
これらの後者の検査には、ApoE e4アレルの状態の評価並びに脳脊髄液中のアミロイドβ、タウ、及びリン酸化タウの評価が含まれる。それでもなお、これらの現在の方法は、AD及び他のタウオパチーの早期診断のためだけでなく、臨床試験への患者の募集のために重要である神経学的疾患の進行の予測、新しい治療法の設計、並びに現在の及び新しい治療法の有効性の予測のためにも、まだ満足できるものではない。したがって、本開示は、AD及び他のタウオパチーを診断するために、並びにこれらの疾患の進行を(例えば、治療の決定を導くために)モニタリング又は予測するために使用することができる新しい血液ベースのアッセイ及び方法を提供する。
【0096】
理想的な診断バイオマーカーは、非疾患と対比した疾患に対する高い特異性並びに疾患のタイプ及び病期を区別するための高い感度を有するべきである。予後バイオマーカーは、病理学的変化の強度及び重症度を反映し、かつその将来の経過を、変性が観察される前の疾患のごく初期から疾患の進行期まで予測するべきである。薬力学的バイオマーカーは、投与された治療が、血液、血小板を含む血液製剤、血清、並びに最も好ましくは、血漿及びCSFなどの容易に入手可能な体液中の疾患関連タンパク質のレベルの変化に基づいて有効であるかどうかの信頼できる指示を与えるべきである。そのような薬力学的バイオマーカーが、いつ治療を中止すべきか又はいつ異なる治療法に切り替えるべきかの指針を臨床医に提供することができることも望ましい。
【0097】
新しい標的は、効果的で、安全で、臨床的及び商業的ニーズを満たし、かつ何よりも「創薬可能な」ものでなければならない。「創薬可能な」標的は、小分子であれ、より大きい生物学的分子であれ、推定薬物分子にアクセス可能であり、かつ結合したときに、インビトロとインビボの両方で測定することができる生物学的応答を誘発する。すなわち、その阻害又は活性化が病状において治療効果をもたらす。したがって、アルツハイマー病及び他のタウオパチーを有する患者の診断、病期分類、予後モニタリング、及び治療効果の評価においてバイオマーカーとして優れた感度及び/又は特異性を伴って機能し、かつ新しい治療法の開発のための新しい標的として役立つことができるタンパク質及び/又はペプチドが依然として必要とされている。
【0098】
フィラミンA(FLNA)は、細胞の形態を調節し、かつ特に、ニューロンなどの構造化された細胞で発現されている広範に発現されているアクチン結合タンパク質であるが、発現レベルは、通常、肺、腎臓、及び筋肉などの他の器官でより高い(Human Protein Atlas)。FLNAは、インビボで、多くのセリン、トレオニン、及びチロシン残基でリン酸化されることができ、約280kDaの親タンパク質は、約110kDa及び90kDaの断片を形成するようにプロセシングされる。FLNAの3つの主要なアイソフォームは全て、セリン2152でリン酸化されることができること、及びpS2152特異的抗体を用いたウェスタンブロットにおける染色の相対強度によって、アルツハイマー病(AD)患者を認知機能が正常な対照と区別することができることが以前に示されている。
【0099】
タンパク質分解的切断及びリン酸化によるFLNAの修飾は、脳におけるタンパク質の構造及び/又は立体構造の変化を促進すると考えられている。まだ同定されていない他の疾患特異的因子も、FLNAの立体構造を変化させる可能性がある。変化した立体構造を有するFLNAは、Aβオリゴマーの毒性シグナル伝達機構において役割を果たすと考えられている。アルツハイマー病患者において、変化したFLNAは、α7-ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)とtoll様受容体4(TLR4)の両方と独立に相互作用する。α7nAChRを介するシグナル伝達は、タウを過剰リン酸化させると報告されており、TLR4を介するシグナル伝達は、神経炎症を誘導すると報告されている。
【0100】
さらに、FLNAは、シナプス機能に重要であるアクチン細胞骨格の調節因子であり、FLNAが認知機能不全に寄与し得る別のメカニズムを示唆している。したがって、変化したFLNAは、新しいAD治療薬の有望な標的であり、かつ変化したFLNAの病理学的効果を軽減又は予防する低分子構造モジュレーターであるシムフィラム(PTI-125)の標的である。
【0101】
ADの診断のためのpS2152特異的抗体の使用は、まだ検証されていない。一つには、これは、抗体がリン酸化されていないタンパク質に結合する可能性があることによるのかも知れないし、又はヒト集団におけるリン酸化の一貫性の欠如を反映しているのかも知れない。個々のアイソフォームをその分子量に基づいて容易に区別することができるウェスタンブロットでのpS2152抗体の使用に加えて、ELISAなどの液相アッセイでFLNAアイソフォーム(pS2152エピトープが各々のアイソフォームに存在する)を区別する能力が依然として課題である。さらに、FLNAの広範な発現、特に血小板で見られる発現は、末梢体液での測定を潜在的偽陽性になりやすくする。現在まで、特定のFLNAアイソフォーム又はリン酸化の測定をADの診断に信頼性をもって使用することができることは示されていない。
【0102】
抗体を用いるFLNAプロファイリングの限界を考慮して、本開示は、患者の血漿中のFLNA由来のトリプシン分解ペプチドの分布をプロファイリングするためのより特異的なボトムアップ質量分析法を、特に、特定のリン酸化事象の測定に焦点を当てて提供する。具体的には、いくつかの態様において、本開示は、TMTcalibrator(商標)法(米国特許第10,976,321号;[Russelらの文献、Rapid Commun.Mass Spectrom.31:153-159(2017)])を使用するアッセイを提供するものであり、このTMTcalibrator(商標)法では、AD脳組織溶解物の等圧標識消化物が同様に標識された血漿試料と混合され、かつ脳溶解物消化物が様々な濃度で存在し、その合計は、血漿チャンネルからの消化物の合計濃度と比べて過剰である。この取り決めにより、脳溶解物中の高濃度の疾患関連タンパク質は、ボトムアップ質量分析に必要とされる濃度を通常下回る濃度であっても、血漿中に存在する同じタンパク質のブースターとして機能する。このアプローチを使用することで、FLNAに由来するペプチドを測定する能力が大きく向上し、また、AD脳と血漿で共通に発現している遙かにより広範なタンパク質群の分析が可能になる。
【0103】
表1.グループAのバイオマーカー(有意に調節されたタンパク質)
【表1】
【0104】
表2.グループBのバイオマーカー(有意に調節されたペプチド)
【表2】
【0105】
表3.グループCのバイオマーカー(さらなるリン酸化ペプチド)
【表3】
表4A. TMTcalibrator(商標)質量分析によって検出されたフィラミンAペプチド
【表4】
【0106】
表4B. TMTcalibrator(商標)質量分析によって検出されたフィラミンAペプチド
【表5】
【実施例】
【0107】
(実施例)
上記の実施態様及び以下の実施例は、限定ではなく、実例として与えられていることが理解されるべきである。本発明の範囲内での様々な変更及び修正は、本説明から当業者に明らかになるであろう。
【0108】
(実施例1: Histopaque(登録商標)-1077で調製されたアルツハイマー病血漿及びEDTA対照血漿のTMTcalibrator(商標)分析)
【0109】
(試料)
【0110】
6人の対照(3人の高齢対照、3人の認知機能障害のない若年者)由来のヒト血漿試料を、K2EDTAを含むVacutainer(登録商標)チューブ(Becton, Dickinson and Company Franklin Lakes, NJ)に採取した。[対照由来の血漿は、pS2152に特異的なリン酸化特異的ウサギポリクローナル抗体(Origene TA313881, Origene Technologies Rockville, MD)を用いるウェスタンブロットによって示したとき、90kDa FLNAバイオマーカーが陰性(-)であった。]採血後30分以内に、血液を、約1000×Gで15分間、好ましくは、4~5℃で遠心分離した。遠心分離から30分以内に、血漿を収集した。その後、対照血漿を5%容量/容量の20Xプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテルと合わせ、添加し、1分間ボルテックス処理することにより十分に混合し、分注した。プロテアーゼ-リン酸阻害剤カクテルは、1X Roche PhosStop EASYpakを1X Rocheコンプリート錠ミニEDTA非含有EASYpack(Thomas Scientific, Swedesboro, NJ)とともに500mlの蒸留水に溶解させることにより調製した。6人のAD患者由来のヒト血漿試料をVacutainer(登録商標)チューブに採取し、処理のために実験室に運んだ。AD患者由来のヒト血漿は、pS2152に特異的なリン酸化特異的ウサギポリクローナル抗体(Origene TA313881, Origene Technologies Rockville, MD)を用いるウェスタンブロットによって示したとき、90kDa FLNAバイオマーカーが陽性(+)であった。実験室で、Vacutainer(登録商標)チューブからの4mlの全血を、14mlの使い捨てチューブに入れた4mlのHistopaque(登録商標)-1077(Sigma-Aldrich)に重層した。この使い捨てチューブを、400gで30分間、室温で遠心分離し、その後、血漿を保存用の1.5mlのエッペンドルフチューブに移し、5%容量/容量の20Xプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテルを添加し、1分間ボルテックス処理することにより十分に混合し、バイオマーカーアッセイで使用するために分注した。アリコートを-80℃で保存した。3つの死後AD脳(ブラーク病期IV~VI)溶解物のアリコートは、Proteome Sciences社によって提供され、脳由来タンパク質のトリガー試料として使用された。
【0111】
(分析方法)
【0112】
この実験のために、12のAD血漿試料をトリガー試料として使用されるAD脳組織とともに用いて、TMTcalibrator(商標)リン酸化プロテオーム分析(
図1)を実施した。血漿試料は、Top14高存在量タンパク質除去スピンカラムを用いて、高存在量タンパク質を除去した。タンパク質をトリプシンを用いて消化し、ペプチドをTMTpro(商標)で標識し、混合して、1つのTMTpro(商標) 16-plex試料を作製した(試薬は、Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USAから入手可能)。4つのTMTpro(商標)チャンネルをAD脳組織トリガーに使用した。
【0113】
TMTpro(商標) 16-plex試料を全プロテオーム分析用のアリコート(非濃縮)とリン酸化プロテオーム分析用のアリコート(リン酸化ペプチド濃縮)に分けた。リン酸化ペプチドの濃縮後、6つのリン酸化ペプチド濃縮画分と6つの非濃縮画分を作製した。各々の画分を、データ依存的取得方法(非濃縮画分についてのFLNAペプチドの包含リストを使用)を用いて、高性能Orbitrap Fusion(商標) Tribrid(商標)質量分析計(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA.)を用いるLC-MS2分析に供した。生データを、Proteome Discoverer(商標) v2.5(Thermo Fisher Scientific)を用いて検索した。データを、フィルタリング、正規化、生物統計学、アノテーション、及び機能分析を含む独自のバイオインフォマティクスパイプラインを用いてさらに処理した。目的のタンパク質のボックスプロットも作成した。
【0114】
(試料管理)
【0115】
受領後、全ての試料を目視検査して、解凍されていないこと、正確なラベリング、及び全般的な完全性を評価した。試料を-80℃で保存した。詳細を固有の参照番号の下で実験室情報管理システム(LIMS)に入力した。
【0116】
(脳溶解)
【0117】
プールされたAD脳組織溶解物由来の利用可能なタンパク質をキャリブレーター/トリガー脳試料として使用した。
【0118】
(タンパク質濃度測定及びSDS-PAGE)
【0119】
血漿、除去血漿、及び脳溶解物試料のタンパク質濃度をBradfordタンパク質アッセイによって決定し、各々の試料をクマシー染色(Imperial Stain, Pierce, Thermo Fisher Scientific) SDS-PAGE 4~20%勾配ゲル(Criterion, Biorad)によって可視化した。
【0120】
(タンパク質除去)
【0121】
35μLの血漿を、製造元のプロトコルに基づいてHighSelect Top14高存在量タンパク質除去(Pierce, Thermo Fisher Scientific)を用いて除去した。いくつかの試料については、十分な量を得るために、35μlずつの複数のアリコートを除去した(表S2)。
【0122】
(消化及びTMTpro標識)
【0123】
キャリブレーター/トリガー脳試料: 6.6mgのプールされた脳溶解物を還元(ジチオスレイトール)、アルキル化(ヨードアセトアミド)、消化(トリプシン)して、ペプチドを生成させ、脱塩し(SepPak(登録商標) tC18カートリッジ、Waters社, Milford, MA, USA)、各々1:4:6:10の比を反映する4つの部分に分注し、凍結乾燥させた。
【0124】
分析用の除去血漿試料:個々の除去血漿試料当たり180μgを使用した。除去血漿試料を等容量にした。試料を還元し、アルキル化し、トリプシンで消化して、ペプチドを生成させ、脱塩(SepPak(登録商標) tC18カートリッジ)後、試料を乾燥するまで凍結乾燥させた。
【0125】
乾燥ペプチド(除去血漿及び脳試料由来)をTEAB/ACNバッファーに溶解させた。ペプチドをそのそれぞれのTMTpro(商標)試薬と混合した(標識計画は表2に示されている)。TMTpro(商標)標識試料をヒドロキシルアミンで処理し、標識された消化物をプールして、12の除去血漿分析用試料(12×180μg=2160μg)+プールされた脳消化物混合物(1:4:6:10の比で4つのチャンネルに約3780μg)を1:1.75のタンパク質質量比で含有するTMTpro(商標) 16-plex試料を作製した。50μgの混合物を固相抽出により精製して、標識効率及びレポーターイオン分布の評価(等モル性の確認)に使用した。各々100μgの2つの部分を非濃縮群の塩基性逆分画用の試料(バックアップ試料を含む)として取り出し、約5,690μgの部分をリン酸化ペプチド濃縮用に取り出した。
【0126】
(リン酸化ペプチド濃縮)
【0127】
約5,690μgのTMTpro(商標) 16-plex試料を製造元の指示に従ってHigh Select(商標) Fe-NTAリン酸化ペプチド濃縮キット(Thermo Scientific Pierce、カタログ番号A32992)の2つのカラムでリン酸化ペプチドについて濃縮し、合わせて、1つのプールされたリン酸化ペプチド試料を得た。
【0128】
(塩基性逆相分画(bRP))
【0129】
bRP分画を、A)100μgの非濃縮試料及びB)濃縮リン酸化ペプチドを要するTMTpro(商標) 16plexについて実施した。ここでは、Thermo Scientific(商標) Pierce(商標)高pH逆相ペプチド分画キット(カタログ番号84868)を製造元の指示に従って使用した。
【0130】
(液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS))
【0131】
個々の画分(16plex当たり6つのリン酸化ペプチド濃縮画分及び6つの非濃縮画分)の各々をOrbitrap Fusion(商標) Tribrid(商標)質量分析計に接続されたEASYnLC-1000システム(どちらもThermo Scientific社製)を用いるLC-MS/MSにより分析した。ペプチドは、0.1%ギ酸(FA)を含む2%アセトニトリル(ACN)に再懸濁させた。サーモスタット制御型オートサンプラーから、試料(非濃縮画分の約5%及びリン酸化ペプチド濃縮画分の約25%)を2cmの75μm内径(ID)のC18 Acclaim PepMap 100捕捉カラム(Thermo Scientific, PN 164946)にローディングし、0.1%FA中のACNの増加勾配を用いて、200nL/分の流量で50cmの75μm IDのEasySpray分析カラム(Thermo Scientific, PN ES803A)に通して分離させた。勾配開始条件は、非濃縮画分については8%ACN、リン酸化濃縮画分については10%ACNであった。有機溶媒のパーセンテージは、最大30%ACNまで連続的に増加させた。
【0132】
ペプチド質量スペクトルは、クロマトグラフィー運転の全体(180分)を通して取得した。質量分析計は、解像度120.000のフルスキャン及び解像度50.000で取得されるMS2フラグメントスキャンを用いて、データ依存モードで動作させた。デューティ比を3秒に設定した。つまり、フルスキャンを少なくとも3秒毎に取得し、その後、最も存在量の多い標的から選択されたフラグメント化前駆体のMS2スキャンを取得した。1回フラグメント化された後、前駆体は、追加のフラグメンテーションから30秒間除外された。
【0133】
(コンピュータによる質量分析)
【0134】
合計12の個別の質量分析生データファイル(12画分-濃縮6及び非濃縮6)を、SEQUEST HT検索アルゴリズムを用いて、Proteome Discoverer(PD)v2.5(Thermo Scientific)で検索した。生スペクトルを、uniprotレビュー済みヒトデータベース(2021年1月のバージョン)に対して、完全なトリプシン分解特異性及び最大2つの切断見逃しによって検索した。潜在的な切断産物を考慮するために、高い信頼性でペプチドにマッチしない全てのスペクトルを半トリプシン分解特異性によって再び検索した。半トリプシン分解検索の後もマッチしなかったスペクトルを切断特異性によらずに再び検索した。N-末端及びリジン残基のTMTpro(商標)修飾、並びにシステインのカルバミドメチル化を静的修飾として設定し;メチオニンの酸化を可変修飾とみなした。セリン、トレオニン、及びチロシン残基におけるリン酸化は、リン酸化ペプチド濃縮画分のみの検索で可変修飾として設定した。
【0135】
前駆体質量の許容差を20ppmに設定し、フラグメント質量の許容差を0.02Daに設定した。偽発見率を、Proteome Discovererに組み込まれたPercolatorノードによって、PSMレベルで1%に制御した。レポーターイオン限定作用素ノードを、TMTpro(商標) 16plexモノアイソトピックイオン(126、127N、127C、128N、128C、129N、129C、130N、130C、131N、131C、132N、132C、133N、133C、134N)の生の強度値を抽出するように設定した。全ての生レポーターイオン強度値をさらなる処理及びバイオインフォマティクス分析用にタブ区切りのテキストファイルにエクスポートした。
【0136】
(バイオインフォマティクスデータ分析)
【0137】
統計分析は、R統計プログラミング言語(R Core Team 2017)で記述された内部開発ソフトウェアを用いて実施した。データ統合ツールは全て、TMT(登録商標)標識MSデータと連動するように開発し、アイソレーション干渉[Savitski, M.らの文献、「正確なiTRAQ/TMT定量のための圧縮比の測定及び管理(Measuring and managing ratio compression for accurate iTRAQ/TMT quantification)」. J. Proteome Research 12.8(2013):3586-3598]、同位体クロストーク[Rauniyar, N.らの文献、「ショットガンプロテオミクスにおける等圧標識に基づく相対定量法(Isobaric labeling-based relative quantification in shotgun proteomics)」. J. Proteome Research 13.12(2014):5293-5309]、PSM正規化、及びペプチドへの要約に対処するための機能を含んでいた。
【0138】
(統計分析)
【0139】
統計分析は、社内ソフトウェアを用いて実施し、線形モデリングに基づいた。[T., Tibshiraniらの文献、統計学習の要素:データマイニング、推論、及び予測(The Elements of Statistical Learning: Data Mining, Inference, and Prediction)(第2巻、pp. 1-758). New York: Springer(2009)]。特徴選択のために、緩和されたt-統計量を選択し(Ritchie, M.らの文献、「LimmaはRNAシークエンシング及びマイクロアレイ研究のための示差発現分析を強化する(Limma Powers Differential Expression Analyses for RNA-sequencing and Microarray Studies)」. Nucleic Acids Research 43.7(2015): e47-e47; Phipson, B.らの文献、「ロバストなハイパーパラメータ推定は超可変遺伝子を保護し、示差発現を検出する力を向上させる(Robust Hyperparameter Estimation Protects Against Hypervariable Genes and Improves Power to Detect Differential Expression)」. Annals of Applied Statistics 10.2(2016): 946.)]、これは、各々の個々の特徴についての推論を助けるために、特徴のアンサンブルから情報を効果的に借用するものであり、小さなデータセットに有用である。
【0140】
分析は、3つの異なる対比のために実施された:対比1=ADと対照(高齢者);対比2=ADと対照(若年者);対比3=ADと対照(全て)。各々の対比のために、倍数変化、p-値、及び調整p-値(ベンジャミーニ・ホッホベルクFDRを用いて計算したもの)が提供される。LIMMAのp-値は、緩和されたt-統計量(Ritchie、Phipson)に基づいており、試料サイズが小さいという問題を克服するために、全ての特徴にわたって情報を借用した結果である。多重検定補正は、ベンジャミーニ・ホッホベルク法を用いて適用した。
【0141】
(試料評価)
【0142】
修正されたブラッドフォードアッセイによるタンパク質測定により、血漿試料のタンパク質濃度が41.9~73.6μg/μl(平均:約59μg/μl)であることが示された。AD試料は、対照と比べてより低い平均タンパク質濃度を示した(48.7対68.5μg/μl)。全血漿試料のSDS-PAGEにより、非常に均質なバンドパターンが示された。血漿試料は、予想される範囲のタンパク質濃度を示し、試料の品質に関する懸念はなかった。脳組織片の溶解により、研究のための十分なタンパク質が供給された。3つの脳溶解物のSDS-PAGEにより、許容し得るバンドパターンが示された。
【0143】
(血漿除去)
【0144】
12の血漿試料の上位14を除去した後、利用可能な総タンパク質量は189~354μgであった。上位14を除去した血漿試料のSDS-PAGEにより、均質なバンドパターンが示された。目視評価により、典型的な除去後のパターンが確認され、例えば、アルブミンバンドが明らかに減少していた。約95%除去が達成された。
【0145】
(TMTpro(商標)分析用の品質管理)
【0146】
TMTpro(商標) 16plex実験のTMTpro(商標)標識反応効率の分析により、N-末端アミノ基の~98.2%が標識されていることが示され、これは、標識が本質的に完全であったことを示している。分画された試料の全ての質量分析の実行は、トータルイオンクロマトグラム(TIC)の最大強度、MSスキャンの数、及びペプチドスペクトルマッチ(PSM)の数に基づく内部品質評価に合格した。
【0147】
(測定法:定量されたペプチド及びタンパク質)
【0148】
本発明者らは、全12の患者由来試料にわたって発現値とともに39,686個のペプチド配列を報告している(表3)。これらのうち、9,337個はリン酸化されており、6,047個の明確に限局した異なるリン酸化部位の組合せと関連している。39,686個のペプチドは、全12の試料にわたって定量された、4,192個の異なるタンパク質群と関連している。全体として、TMTcalibrator(商標)リン酸化プロテオームワークフローのヒト血漿への適用は、血漿プロテオームとリン酸化プロテオームの優れたカバレッジを提供した。
【0149】
【0150】
表5において、ペプチドの行は、非リン酸化ペプチドとリン酸化ペプチドの両方を表し、後者は、次の行(イタリック体)に記載されている。定量された特徴は、データの前処理中に代入される一定数の欠測値を許容することに留意されたい。
【0151】
(特徴選択:リン酸化ペプチド)
【0152】
本発明者らは、対照と比較したAD群におけるリン酸化ペプチドの強い上方調節を確認し、多くのリン酸化ペプチドが6倍を超える発現変化を伴っていた。適用された閾値では、有意に下方調節されたリン酸化ペプチドは検出されなかった。
【0153】
最も高度に調節されたリン酸化ペプチドは、セリン284上に修飾を含有する、接合部接着分子A(F11R、別名、JAM-1)由来のペプチド
【化16】
(logFC:6.6、対比#1)であった。次に最も高度に調節されたリン酸化ペプチドは、セリン241上で修飾されている、カベオラ関連タンパク質2(CAVIN2、別名、SDPR)由来の
【化17】
(logFC:6.5、対比#1)であった。三番目に最も高度に調節されたリン酸化ペプチドは、
【化18】
(logFC: 6.4、対比#1)-フィラミンA(FLNA)とフィラミンB(FLNB)の間で共有されており、かつセリン2143(FLNA)とセリン2098(FLNB)で修飾されている配列であった。
【0154】
定量された4つのFLNAリン酸化ペプチドの特徴を見ると(
図7)、リン酸化FLNAは、対照群全体と比較してADでより存在量が多いように思われる。しかしながら、若年対照と高齢対照の間で若干の発現の違いがある。pS2152を含有する「RAPSVAN」ペプチドは、ADと若年対照で同様のレベルで見られるが、認知的に健常な高齢対照ではかなり低い。逆に、pS1459を含有する「CSGPG」ペプチドは、AD及び高齢対照で高く、若年対照ではかなり低い。
【0155】
本発明者らはまた、その発現変化の有意性によって選択されたリン酸化ペプチドが実験クラス間の違いを説明することができるかどうかを決定するために、事後分析を行った(
図8)。全ての比較について、選択されたリン酸化ペプチドは、AD群と対照群をうまく区別することができ、その群間発現差がデータセット中の全分散の約95%(PC1)を占めていることを示した。これらの結果に基づき、このペプチドセットは、2つの対照群間の有意差と関連していなかった(PC2<2%)。これらの結果は、ヒートマップに反映されており、この中で、対照群は、試料クラスタリング樹状図上に混在し(
図4)、一方、AD群は、有意により高い発現値を有する、明確なサブクラスターを形成した。
【0156】
(特徴選択:タンパク質)
【0157】
全ての対比により、対照と比較した疾患群におけるタンパク質の強い上方調節が明らかになり、多くのタンパク質が4倍を超える発現変化を伴っていた。適用された閾値では、有意に下方調節されたタンパク質は2つしか検出されなかった。
【0158】
3つの対比の全てにわたって、本発明者らは、その同一性と倍数変化の大きさの両方において、かなりの程度の一貫性をタンパク質間で観察した。最も高度に調節されたタンパク質は、ブリッジングインテグレーター2(BIN2)であった(logFC:4.5、対比#1)。次に最も高度に調節されたタンパク質は、インテグリンα-IIb(ITGA2B)であった(logFC:4.5、対比#1)。三番目に最も高度に調節されたタンパク質は、タンパク質S100-A12(S100A12)であった(logFC:3.6、対比#1)。先に記載された3つの高度に調節されたリン酸化ペプチドのうち、対応する総タンパク質発現(FLNA及びCAVIN2)は、疾患試料中で有意に増加したレベルと関連していた(FLNA logFC:1.8、対比#1; CAVIN2 logFC:1.9、対比#1)。
【0159】
観察された3つの試料群間の発現プロファイルを目的のタンパク質FLNAについて詳しく見てみると(
図2)、リン酸化ペプチドレベルで先に観察されたのと同じ傾向がタンパク質レベルで明らかになり: FLNA発現は、対照と比較してAD群でより高かった。2つの対照群それ自体を比較すると、同様の発現を示したが、認知機能障害のない若年群の平均値は高齢対照群と比較してわずかに高かった。
【0160】
(FLNAカバレッジのまとめ)
【0161】
フィラミンA(FLNA)は、タンパク質及びリン酸化ペプチドレベルで首尾よく検出され、AD患者と高齢及び若年対照との比較において有意に調節されていることが分かった。タンパク質それ自体は、リン酸化ペプチドを除く46個のペプチドからの85個のPSMによるトリプシン分解ペプチドの標準的な検索で定量した(表6)。検出された5つのリン酸化ペプチドのうち、4つは全ての個体で定量することができた(例えば、表7を参照)。リン酸化ペプチド
【化19】
は、対照試料のシグナルが検出可能な範囲未満であったため、それについての十分な数のデータポイントを与えなかった。しかしながら、それぞれのペプチドスペクトルマッチのレポーターイオン強度値をプロットすると、このペプチドが、対照とは対照的に、AD試料中で首尾よく検出され、タンパク質(S2152)の同じリン酸化部位をカバーしているペプチド
【化20】
について作成されたデータと一致していることが明らかになる(
図9)。
【0162】
表6. FLNAの定量されたペプチド(非リン酸化)
【表7】
【0163】
表7.標的タンパク質FLNAのリン酸化ペプチド
【表8】
【0164】
標的タンパク質FLNAのリン酸化部位が決定されたリン酸化ペプチドの概観。設定閾値(75%)未満の信頼スコアを有する、位置が曖昧に特定されている部位の位置は、「?」という文字で示されている。FLNAペプチドの強い調節は楽観材料であるが、AD血漿試料と対照血漿試料が異なる方法で調製されるため、収集後のアーチファクト、例えば、血小板の活性化が原因でシグナルが生じるリスクがある。これを調べて、アーチファクトシグナルを制御するためのバイオマーカーの拡大パネルを提供するために、本発明者らは、実施例2及び3に示されているようなさらなる実験を行った。
【0165】
(実施例2: Histopaque(登録商標) 1077血漿試料におけるFLNA、リン酸化FLNA、及び他のタンパク質の変化の分析)
【0166】
この実施例において、本発明者らは、血小板活性化を引き起こすと考えられる同一のプロセスによって調製されたADコホート及び対照コホート由来の新鮮な血漿試料を使用した。ここでも、対照(3人の高齢対照、3人の認知機能障害のない若年者)(FLNAバンド陰性又は「-」)及び6人のAD患者(FLNAバンド陽性又は「+」)由来の6つの試料を、実施例1に記載されているのと同じAD脳トリガーとともにTMTcalibrator(商標)を用いて分析した。ADコホート及び対照コホート由来の全血を収集し、先に記載されたHistopaque(登録商標) 1077プロセスを用いて処理した。
【0167】
(試料処理)
【0168】
血漿試料の解凍後、全ての処理工程を実施例1に記載されている通りに実施した。質量分析は、実施例1で検出された全てのFLNAペプチドの包含リストを用いて実施した。
【0169】
(結果)
【0170】
MS取得時に専用のフィラミンA包含スキームを用いて、本発明者らは、フィラミンA配列の良好なカバレッジ(約40%)を得た。タンパク質全体としての存在量に有意な変化は見られなかったが、配列の特定の部分は、異なる群にわたる存在量の様々な変化を示した。本発明者らはまた、定量されたリン酸化部位のうちの2つの発現レベルに微妙な違いを観察したにすぎなかった。
【0171】
FLNAに加えて、本発明者らは、3,493個のタンパク質に由来する合計29,786個のペプチド及び3,297個のリン酸化部位を定量し、アルツハイマー病の病理に依存する血漿マーカーを同定するための有用なリソースを提供した。統計分析により、実験クラスの分離を促進するリン酸化ペプチドとタンパク質の特徴のパネルが存在し、これらが血小板活性化状態から独立したバイオマーカー候補であることが示された。機能的濃縮により、細胞骨格編成、補体カスケード調節、及びリポタンパク質代謝の変化が示された。
【0172】
(FLNAカバレッジ)
【0173】
FLNAを77個の(リン酸化)ペプチドについての220個のPSMで同定し、リン酸化ペプチドを除く54個のペプチドからの158個のPSMによって、トリプシン分解ペプチドと半トリプシン分解ペプチドに対する標準的な検索で定量した(表4)。検出された4つ全てのリン酸化ペプチドを全個体にわたって定量することができた(表5は、統計データを含む)。2つのペプチドは、対照試料でのみ同定された:
【化21】
(aa 8~24、配列番号xx)は、6人の対照のうちの4人(若年者3人及び高齢者1人)で同定され;かつ
【化22】
(配列番号vv)は、1人の若年対照のみで同定された。1つのペプチド
【化23】
(aa 1636~1644;配列番号CC)は、アルツハイマー病試料でのみ同定され、6人の患者のうちの5人について、値が得られた。
【0174】
驚くべきことに、血小板活性化のレベルは、Histopaque(登録商標) 1077調製物の使用により、AD試料と対照試料で同様である可能性が高かったが、先にADで見られた上昇は失われていた。実際、AD試料では、遊離血漿FLNAのレベルがより低く、ADの血小板は、認知的に健常な対照由来の血小板よりも活性化しにくいことが示唆された。本発明者らは、この調節の消失が本研究の対照血漿試料中のFLNAの顕著な放出によるものであると考えている。
【0175】
表8. Histopaque(登録商標) 1077血漿試料中のFLNAの定量
【表9】
【0176】
本発明者らはまた、4つのリン酸化FLNAペプチドを同定し、そのうちの3つは、実施例1で見られたものであり、1つは、今回の分析に特有のものであった。先の研究とは異なり、pS2152を含有する2つのペプチドのレベルは、AD群と対照群の間で調節を示さなかったが、ADと高齢対照で「RAPSVAN」ペプチドの発現がより高い傾向があり、これが、少なくとも末梢では、試料の処理よりも疾患に関連し得ることを示唆している。逆に、pS1459を含有するペプチド「CSGPG」は、健康な高齢者での強い上方調節を示し、これは、保護的な翻訳後修飾を示す可能性がある。興味深いことに、これは、前回の研究でも見られたが、今回は見られなかったAD群での上昇もあり、むしろこの部位がアーチファクト的に産生されることを示唆する可能性があり、さらなる評価が必要である。残基T2336におけるトレオニンリン酸化部位は、前述のセリンリン酸化と同様の挙動を示し:高齢対照で検出されたレベルは、アルツハイマー病患者と若年健常対照の両方と比較してより高かった。
【0177】
表9. Histopaque(登録商標) 1077血漿中のFLNA由来の定量されたリン酸化ペプチド
【表10】
【0178】
(実施例3: AD及び対照EDTA血漿試料のTMTcalibrator(商標)分析)
【0179】
実施例2の結果から、タンパク質発現の若干の調節が試料の調製方法によって促進され得るという証拠がもたらされた。それゆえ、本発明者らは、ADの新鮮な試料と全て同一条件下でEDTA採血チューブから調製された対照血漿試料とを分析することにより研究を完了した。他の全ての条件は、実施例1及び2に記載されている通りである。本発明者らは、血小板活性化のレベルが、標準的な臨床診療をより良く反映するこの一連の試料で最も低いと予想した。
【0180】
(結果)
【0181】
FLNAは、タンパク質及びリン酸化ペプチドレベルで首尾よく検出された。本発明者らは、FLNAに関連する60個の未修飾ペプチドを検出し、そのうちの54個はFLNAに特有であり、42個は全12の試料で定量することができた。このタンパク質は、健常対照群と比較してAD試料で有意に上方調節されている(約2倍)ことが分かった。FLNAに関連する4つの検出されたリン酸化ペプチドのうち3つを定量に使用した。これらのペプチドは、リン酸化部位pS1459、pS2143、及びpS2152に修飾を保有する。3つ全てのリン酸化ペプチドの特徴は、実施例1で見られたように、AD群でより存在量が多かったが、調節の程度は、ここではそれほど強くなかった。本発明者らは、これがアルツハイマー病患者におけるFLNA存在量の真の生物学的差異を反映しているという仮説を立てている。血小板活性化が顕著である場合、放出されるFLNAの量は、疾患で見られるものを模倣し、健常人とAD患者の間の相対存在量シグナチャーを逆転させさえするのに十分である。
【0182】
表10. EDTA血漿中のリン酸化FLNAペプチドの相対的発現
【表11】
【0183】
表11. EDTA血漿中の非リン酸化FLNAの相対的発現
【表12】
【0184】
FLNAに加えて、本発明者らは、合計31,382個のペプチド、7,677個のリン酸化ペプチド、及び3,478個のタンパク質を定量した。統計分析により、実験クラスの分離を促進する複数の有意に調節されたリン酸化ペプチドとタンパク質の特徴が明らかになった。機能的濃縮により、血小板活性化、細胞-細胞外マトリックス相互作用、及び細胞接合部編成の変化が示された。
【0185】
本発明者らは、AD血漿と対照K2EDTA血漿におけるフィラミンAの良好な特徴分析を得た。Histopaque(登録商標) 1077法で調製された血漿を用いて得られた結果とは異なり、今回の研究では、フィラミンAの存在量及び他の複数のタンパク質特徴における量的差異が検出された。観察された差異はあまり顕著ではなかったものの、これらの結 果は、最初の研究(40-224)と同等であった。
【0186】
本発明者らは、AD群と対照群の間で良好に調節されているFLNAに関連する様々なトリプシン分解ペプチドを発見した。本発明者らは、これらの結果が、シムフィラムによる治療のための患者の選択及びモニタリングとの関連において、診断的及び予後的有用性を有するFLNAの標的質量分析法を開発するための良好な基盤として役立ち得ると考えている。
【0187】
(実施例4: 3つの異なる試料調製法にわたるAD個体と認知正常個体におけるタンパク質発現の比較)
【0188】
本発明者らは、AD Histopaque(登録商標) 1077と対照EDTA、AD Histopaque(登録商標) 1077と対照Histopaque(登録商標) 1077、及びAD EDTAと対照EDTAという様々な血漿群におけるFLNA及びFLNAのリン酸化ペプチドを含む、様々なタンパク質の相対的発現を比較した。これにより、アルツハイマー病の末梢バイオマーカーとして役立つFLNA、特に、FLNAのリン酸化エピトープの好適性が確認された。しかしながら、非標準的な血漿調製物を用いる血小板の潜在的活性化がADで見られるFLNAレベルの上昇を潜在的に模倣することができることが明らかであり、それゆえ、本発明者らは、そのレベルがHistopaque(登録商標) 1077血漿では上昇するが、EDTA血漿では検出されない、ペプチド及びタンパク質を検索した。本発明者らはまた、血小板生態との関連性が報告されている、そのようなタンパク質の特定のサブセットに注目した。
【0189】
FLNAの相対的発現は、血漿の調製にHistopaque(登録商標) 1077を使用することにより明らかに影響を受ける。一般に、本発明者らは、リン酸化FLNAの相対的レベルがAD患者と比較して認知的に健常な個体で特に増加していることを理解している(表12)。実施例1では、Histopaque(登録商標) 1077を用いて、AD血漿を調製したのに対し、対照は、EDTAを用いて調製した。実施例1で検出された3つのリン酸化FLNAペプチドは全て、AD群で増加していることが分かったが、これらのうちの2つは、どちらもHistopaque(登録商標) 1077によって調製したとき、対照群と比べてAD群でレベルの低下を示した。FLNAのpS1459については、対照群と比べたAD群における調節の程度が実施例3で試験されたEDTA調製血漿試料でさらに拡大することが分かった。
【0190】
表12.実施例1~3の対照と比較したAD患者由来の血漿中のFLNAリン酸化ペプチドの相対的発現
【表13】
【0191】
本発明者らはまた、血漿又は血清の調製時のアーチファクトな血小板活性化のレベルを評価するために使用することができる3つのペプチドを同定した。これらのペプチドは、血小板生態における役割への注釈を有するタンパク質に由来し、Histopaque(登録商標) 1077がAD試料のみで使用された場合、AD群と対照群で示差発現され、Histopaque(登録商標) 1077が両方のコホートに使用された場合、調節されず、EDTAが血漿を調製するために使用された場合、いずれの群でも検出されなかった。この点で、これらのペプチド又はそのそれぞれのタンパク質の本発明の方法への包含を用いて、血小板活性化が起こった試料を示すことができ、これらのペプチド/タンパク質がないことが良好な試料を示す新鮮な試料を試験すべきである。
【0192】
表13.過度の血小板活性化を示すペプチド
【表14】
【0193】
本明細書の全体を通じて、様々な特許、特許出願、並びに/又は他のタイプの刊行物(例えば、学術論文及び書籍)が参照されている。本明細書に引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物の開示は、あらゆる目的のためにその全体が引用により本明細書中に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】