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特表2024-529430がんの処置における使用のための1-(4-{[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]カルボニル}フェニル)-3-[4-(4,6-ジモルホリン-4-イル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル]尿素(ゲダトリシブ)およびその組合せ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】がんの処置における使用のための1-(4-{[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]カルボニル}フェニル)-3-[4-(4,6-ジモルホリン-4-イル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル]尿素(ゲダトリシブ)およびその組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5355 20060101AFI20240730BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 31/567 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K31/5355
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 111
A61K31/519
A61K31/506
A61K31/567
A61P35/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504503
(86)(22)【出願日】2022-07-25
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 US2022038188
(87)【国際公開番号】W WO2023009438
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】63/285,327
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/225,707
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514316237
【氏名又は名称】セルキュイティー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】サリバン, ブライアン フランシス
(72)【発明者】
【氏名】レイン, ランス ギャビン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086BC73
4C086CB05
4C086CB09
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC42
4C086ZC75
(57)【要約】
ヒト対象におけるがんを処置する方法が、提供される。本方法は、がんの処置を必要とする対象を選択するステップと、対象に、治療有効量のゲダトリシブを、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、ゲダトリシブの投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブの投与を再開するステップとを含む。少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、このサイクルは、少なくとも2サイクル反復される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象におけるがんを処置する方法であって、
がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップと、
前記ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルを、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、
中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与を再開するステップであって、少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、前記サイクルが、少なくとも2サイクル反復される、ステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの再開した投与が、3週間の期間にわたり少なくとも1週間に1回生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
投与の前記サイクルが、少なくとも3サイクル、少なくとも4サイクル、少なくとも5サイクル、少なくとも6サイクル、少なくとも7サイクル、少なくとも8サイクル、または少なくとも9サイクル生じる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルが、1週間に1回、180mgの用量で投与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト対象に、CDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、
前記CDK 4/6阻害剤の投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、
中断期間の後に、前記CDK 4/6阻害剤の投与を、少なくとも1週間にわたり再開するステップであって、前記CDK 4/6阻害剤の投与および前記CDK 4/6阻害剤の投与の中断のサイクルが、少なくとも2サイクル反復される、ステップと
をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記CDK 4/6阻害剤を投与するステップが、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与と同じ週の間に生じる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記CDK 4/6阻害剤が、パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブ、トリラシクリブ、ダルピシクリブ、リビシクリブ、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記CDK 4/6阻害剤が、パルボシクリブである、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記パルボシクリブが、1日当たり125mgの用量で投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを投与するステップをさらに含む、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記エストロゲン受容体アンタゴニストが、フルベストラントである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記フルベストラントが、2週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フルベストラントが、4週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを投与するステップをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記エストロゲン受容体アンタゴニストが、フルベストラントである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記フルベストラントが、2週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記フルベストラントが、4週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
ヒト対象におけるがんを処置する方法であって、
がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップと、
前記ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、および前記CDK 4/6阻害剤の投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、
中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、および前記CDK 4/6阻害剤の投与を再開するステップであって、少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、前記サイクルが、少なくとも2サイクル反復される、ステップと
を含む、方法。
【請求項19】
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、および前記CDK 4/6阻害剤の再開した投与が、3週間の期間にわたり少なくとも1週間に1回生じる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
投与の前記サイクルが、少なくとも3サイクル、少なくとも4サイクル、少なくとも5サイクル、少なくとも6サイクル、少なくとも7サイクル、少なくとも8サイクル、または少なくとも9サイクル生じる、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルが、1週間に1回、180mgの用量で投与される、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記CDK 4/6阻害剤が、パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブ、トリラシクリブ、ダルピシクリブ、リビシクリブ、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記CDK 4/6阻害剤が、パルボシクリブである、請求項18から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記パルボシクリブが、1日当たり125mgの用量で投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを投与するステップをさらに含む、請求項18から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記エストロゲン受容体アンタゴニストが、フルベストラントである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記フルベストラントが、2週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記フルベストラントが、4週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
ヒト対象におけるがんを処置する方法であって、
がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップと、
前記ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、および前記CDK 4/6阻害剤の投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、
中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、および前記CDK 4/6阻害剤の投与を再開するステップであって、少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、前記サイクルが、少なくとも2サイクル反復される、ステップと、
前記ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを投与するステップと
を含む、方法。
【請求項30】
ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、および前記CDK 4/6阻害剤の前記再開した投与が、3週間の期間にわたり少なくとも1週間に1回生じる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
投与の前記サイクルが、少なくとも3サイクル、少なくとも4サイクル、少なくとも5サイクル、少なくとも6サイクル、少なくとも7サイクル、少なくとも8サイクル、または少なくとも9サイクル生じる、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
ゲダトリシブが、1週間に1回、180mgの用量で投与される、請求項29から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記CDK 4/6阻害剤が、パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブ、トリラシクリブ、ダルピシクリブ、リビシクリブ、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項29から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記CDK 4/6阻害剤が、パルボシクリブである、請求項29から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記パルボシクリブが、1日当たり125mgの用量で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記エストロゲン受容体アンタゴニストが、フルベストラントである、請求項29から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記フルベストラントが、2週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記フルベストラントが、4週間ごとに500mgの用量で投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記がんが、固形がんである、上述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記固形がんが、乳がん、膣がん、外陰部がん、子宮頸がん、子宮がん、卵巣がん、子宮内膜がん、卵管のがん、前立腺がん、精巣がん、陰茎がん、肺がん、結腸直腸がん、黒色腫、膀胱がん、脳/CNSがん、食道がん、胃がん、頭/頸部がん、腎臓がん、肝臓がん、膵臓がん、および肉腫からなる群より選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記固形がんが、ホルモン依存性がんである、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記ホルモン依存性がんが、乳がん、膣がん、外陰部がん、子宮頸がん、子宮がん、卵巣がん、子宮内膜がん、卵管のがん、前立腺がん、精巣がん、および陰茎がんからなる群より選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記ホルモン依存性がんが、乳がんである、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
前記乳がんが、転移性、ホルモン耐性、エストロゲン受容体陽性、エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、プロゲステロン受容体陽性、トリプルネガティブ、HER2陽性、またはHER2陰性の乳がんである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記乳がんが、基底またはルミナルサブタイプである、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記ヒト対象が、閉経前または閉経後の女性患者である、請求項1から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記ヒト対象が、12ヶ月未満の期間で、がんに対する先行する処置が失敗している、請求項1から46のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
前記ヒト対象が、6ヶ月未満の期間で、がんに対する先行する処置が失敗している、請求項1から47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記ヒト対象が、がんに対する2つまたはそれよりも多くの先行する処置が失敗している、請求項1から48のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
失敗した前記先行する処置が、がんに対する内分泌処置である、請求項47から49のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年12月2日に出願された米国仮出願第63/285,327号および2021年7月26日に出願された同第63/225,707号に対する優先権を主張し、これらの全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、1-(4-{[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]カルボニル}フェニル)-3-[4-(4,6-ジモルホリン-4-イル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル]尿素を投与することによる、患者におけるがんを処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
ゲダトリシブとしても公知の1-(4-{[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]カルボニル}フェニル)-3-[4-(4,6-ジモルホリン-4-イル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル]尿素は、化学構造:
【化1】
を有する。
【0004】
1-(4-{[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]カルボニル}フェニル)-3-[4-(4,6-ジモルホリン-4-イル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル]尿素は、がんの処置に有用なPI3キナーゼおよびmTORの阻害剤である。ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)は、栄養素および成長因子に対する腫瘍細胞の応答の調節、ならびに血管内皮成長因子(VEGF)に対する作用を通じた腫瘍血液供給の制御を行う細胞シグナル伝達タンパク質である。mTORの阻害剤は、mTORの作用を阻害することによって、がん細胞を飢餓状態にさせ、腫瘍を縮小させる。すべてのmTOR阻害剤は、mTORキナーゼに結合する。これは、少なくとも2つの重要な作用を有する。第1に、mTORは、PI3K/Akt経路の下流媒介因子である。PI3K/Akt経路は、多数のがんにおいて過剰に活性化されていると考えられており、mTOR阻害剤に対する様々ながんからの広範な応答の原因となっている可能性がある。上流経路の過剰活性化は、通常、mTORキナーゼの過剰活性化も同様に引き起こすであろう。しかしながら、mTOR阻害剤の存在下において、このプロセスは遮断される。この遮断作用により、mTORが細胞成長を制御する下流経路にシグナル伝達することが防止される。PI3K/Aktキナーゼ経路の過剰活性化は、PTEN遺伝子における変異と関連していることが多く、これは、多くのがんで共通しており、どの腫瘍がmTOR阻害剤に応答するかを予測するのに役立ち得る。mTOR阻害の第2の主要な作用は、VEGFレベルを低下させることを通じた抗血管新生である。
【0005】
乳がんは、がんのもっとも一般的な形態であり、世界中で女性におけるがんによる死亡の主因である。現在、乳がんの全身処置には、3つの主要な異なる処置モダリティがあり、これらの異なる処置選択肢の適用性は、患者の受容体ステータスに実質的に依存する(Bernard-Marty et al., 2004)。内分泌および生物学的治療法は、がん細胞上のそれぞれの受容体の存在を必要とするが、細胞傷害性化学療法は、それらの特定された受容体とは独立している。
【0006】
ホルモン受容体陽性(HR+)、ヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2-)乳がんを有する患者において、単独、またはサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害剤、PI3K-α阻害剤、もしくはmTOR阻害剤と組み合わせた内分泌療法が、通常、選ばれる処置である(NCCN Treatment Guidelines for Breast Cancer, 2021)。
【0007】
選択的ERモジュレーター(タモキシフェン)、選択的ER分解因子(フルベストラント)、およびアロマターゼ阻害剤(AI)は、HR+/HER2-転移性乳がん(mBC)の女性における確立された標準ケアである。mBCを処置する場合のこれらのレジメン間で選ぶことは、先行する内分泌療法処置のタイプおよび期間、ならびに先行する内分泌療法の終了からの経過時間に依存する。内臓発症(visceral crisis)を有さない女性における第1選択の治療としてのこれらの処置の有効性が周知であるにもかかわらず、ほとんどの患者は、内分泌耐性を生じ、治療が失敗することになる。一次内分泌耐性は、先行する内分泌療法の最初の2年間の間の再発、またはmBCについては第1選択の内分泌療法の最初の6ヶ月以内の進行性疾患として定義される。(1)アジュバント内分泌療法から最初の2年間の後に再発が生じた場合、(2)アジュバント内分泌療法の完了から12ヶ月以内に再発が生じた場合、または(3)mBCについては内分泌療法の開始から6ヶ月よりも後に進行性疾患が生じた場合には、二次耐性が存在する。
【0008】
内分泌耐性には、ER経路の複数の構成要素の調節不全(ER発現の異常、ER共活性化因子の過剰発現、および共抑制因子の下方調節)、細胞周期または細胞生存に関与するシグナル伝達分子の変更された調節、ならびに細胞複製を提供し得る回避経路の活性化を含む、いくつかの機序が関与する。
【0009】
内分泌療法に対する耐性の1つの一般的な機序は、サイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)経路の活性化である。これらのキナーゼは、細胞周期進行および分裂を駆動させる。CDK4/6の活性化を阻害することにより、エストロゲンがサイクリンD1-CDK4/6-Rb複合体を活性化することが防止され、したがって、内分泌療法に対する耐性の重要な機序が遮断される。結果として生じる細胞周期停止は、腫瘍進行の著しい遅延を誘発する。
【0010】
CDK 4/6阻害剤は、2015年に初めて導入された。内分泌療法を経口CDK4/6阻害剤と組み合わせて投与することにより、単剤療法としての内分泌療法と比較した場合に、改善された臨床有効性がもたらされる。2つのランダム化二重盲検臨床試験において、パルボシクリブとレトロゾールまたはフルベストラントのうちのいずれかとの組合せを用いたHR+/HER2-進行性乳がん患者の処置は、パルボシクリブをレトロゾールまたはフルベストラントのうちのいずれかと組み合わせて受けた患者について、レトロゾールまたはフルベストラントを単剤として受けた患者と比較して、メジアン無増悪生存(PFS)期間の有意な増加を示した(Turner et al., N. Engl. J. Med. 373:209-19 (2015); Finn et al., N. Engl. J. Med. 375:1925-36 (2016)。これらの患者は、以前に、先行する内分泌療法の際またはその後に進行していた。
【0011】
内分泌阻害剤に対する耐性の別の一般的な機序は、細胞成長および代謝を調節する重要な細胞内経路であるPI3K経路の活性化である。内分泌療法に対して耐性であるHR+乳がん腫瘍のおよそ3分の1が、PIK3CAと称されるPI3Kの触媒サブユニットの活性化変異を有する。フルベストラントを、2019年5月にFDAに承認された経口PI3K-α阻害剤であるアルペリシブと組み合わせて使用することにより、腫瘍がPIK3CA変異を有し、CDK4/6阻害剤での処置をまだ受けていない患者において、改善された臨床有効性が実証されている。これらの患者は、以前に、先行する内分泌療法の際またはその後に進行していた。
CDK4/6およびPI3Kと同様に、mTOR経路もまた、内分泌療法に対する耐性の機序として特定されている。エベロリムスは、AIであるエキセメスタンとの組合せで、HR+/HER2-進行性乳がんの処置に現在FDAに承認されているmTOR阻害剤である。エベロリムスはまた、フルベストラントとの組合せでも臨床的利益を示している。これらの患者は、以前に、先行するAI療法の際またはその後に進行したことがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Turnerら、N.Engl.J.Med.(2015)373:209~19
【非特許文献2】Finnら、N.Engl.J.Med.(2016)375:1925~36
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
新しい治療選択肢の利用可能性にもかかわらず、HR+/HER2-乳がんを有する女性、特に、がんが他の器官に転移しているもの、および内分泌療法に対して耐性であるものは、依然として、長期予後不良に直面する。したがって、内分泌療法での処置が成功していない患者における乳がん処置に対する必要性がある。
【0014】
概要
患者におけるがんを処置する方法が、本明細書に提供される。本方法は、患者に、ゲダトリシブを、1週間に1回、3週間にわたり静脈内投与し、続いて、1週間ゲダトリシブを投与しないことを含む。28日サイクル(3毎週用量のゲダトリシブ、続いて1週間のゲダトリシブ休薬)を構成するこの投与レジメンは、次いで、必要に応じて反復される。3週間投薬し1週間休薬するサイクルを使用したゲダトリシブの周期的投与は、毎週の様式または非周期的な様式でのゲダトリシブの投与よりも、がんの処置においてより成功することが示されている。
【0015】
したがって、一つの態様では、本発明は、ヒト対象におけるがんを処置する方法に関する。方法は、がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップと、ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルを、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与を再開するステップとを含む。少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、サイクルは、少なくとも2サイクル反復される。
【0016】
一部の実施形態では、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの再開した投与は、3週間の期間にわたり少なくとも1週間に1回生じる。投与のサイクルは、少なくとも3サイクル、少なくとも4サイクル、少なくとも5サイクル、少なくとも6サイクル、少なくとも7サイクル、少なくとも8サイクル、少なくとも9サイクル、または少なくとも10サイクル、またはそれよりも多くのサイクルにわたり生じ得る。さらなる実施形態では、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルは、1週間に1回、180mgの用量で投与される。
【0017】
一部の実施形態では、本方法は、ヒト対象に、CDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり共投与するステップと、CDK 4/6阻害剤の投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、中断期間の後に、CDK 4/6阻害剤の投与を、少なくとも1週間にわたり再開するステップとを含む。CDK 4/6阻害剤の投与および投与中断のサイクルは、少なくとも2サイクル反復される。さらなる実施形態では、CDK 4/6は、パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブ、トリラシクリブ、ダルピシクリブ、リビシクリブ、およびこれらの組合せから選択される。好ましくは、CDK 4/6阻害剤は、パルボシクリブである。さらに、パルボシクリブは、1日当たり125mgの用量で投与され得る。
【0018】
一部の実施形態では、本方法は、ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを共投与するステップを含む。好ましくは、エストロゲン受容体アンタゴニストは、フルベストラントである。フルベストラントは、2週間ごとに500mgの用量で投与され得る。加えて、フルベストラントは、4週間ごとに500mgの用量で投与され得る。一部の事例では、フルベストラントは、まず、2週間ごとに500mgの用量で投与され、次いで、4週間ごとに500mgの用量に減少される。
【0019】
本発明のさらなる態様は、ヒト対象におけるがんを処置する方法であって、がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップと、ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与を再開するステップとを含む、方法に関する。少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、このサイクルは、少なくとも2サイクル反復される。
【0020】
一部の実施形態では、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の再開した投与は、3週間の期間にわたり少なくとも1週間に1回生じる。
【0021】
本発明の別の態様は、ヒト対象におけるがんを処置する方法であって、がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップと、ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与を再開するステップであって、少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、サイクルが、少なくとも2サイクル反復される、ステップと、ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを投与するステップとを含む、方法に関する。
【0022】
一部の実施形態では、対象のがんは固形がんである。例示的な固形がんとして、乳がん、膣がん、外陰部がん、子宮頸がん、子宮がん、卵巣がん、子宮内膜がん、卵管のがん、前立腺がん、精巣がん、陰茎がん、肺がん、結腸直腸がん、黒色腫、膀胱がん、脳/CNSがん、食道がん、胃がん、頭/頸部がん、腎臓がん、肝臓がん、膵臓がん、および肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
一部の実施形態では、対象の固形がんはホルモン依存性がんである。例示的なホルモン依存性がんとして、乳がん、膣がん、外陰部がん、子宮頸がん、子宮がん、卵巣がん、子宮内膜がん、卵管のがん、前立腺がん、精巣がん、および陰茎がんが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、ホルモン依存性がんは乳がんである。さらなる実施形態では、対象の乳がんは、転移性、ホルモン耐性、エストロゲン受容体陽性、エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、プロゲステロン受容体陽性、トリプルネガティブ、HER2陽性、またはHER2陰性の乳がんである。乳がんはまた、基底またはルミナルサブタイプのいずれかであり得る。さらなる実施形態では、ヒト対象は、閉経前または閉経後の女性患者である。
【0024】
一部の実施形態では、ヒト対象は、12ヶ月未満の期間(例えば、6ヶ月未満の期間)で、がんに対する先行する処置が失敗している。一部の実施形態では、ヒト対象は、がんに対する2つまたはそれよりも多くの先行する処置が失敗している。失敗した先行する処置は、がんに対する内分泌または非内分泌処置であり得る。一実施形態では、ヒト対象は、がんに対する少なくとも1つの内分泌処置が失敗している。一実施形態では、ヒト対象は、がんに対する少なくとも1つの非内分泌処置が失敗している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
ヒト患者におけるがん(例えば、乳がん)を処置する方法が、本明細書に開示される。本方法は、患者に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルを、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与し、続いて、1週間の期間、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルを投与しないことを含む。この方法は、28日サイクル(毎週ゲダトリシブを投与する3用量、1週間のゲダトリシブ休薬)を構成し、これは、少なくとも2サイクル反復される。この周期的投与方法を使用したがん患者の処置は、驚くべきことに、非周期的投薬レジメンでのゲダトリシブの使用よりも、より成功することが見出された。
【0026】
本説明がより容易に理解され得るために、ある特定の用語を、まず定義する。さらなる定義は、詳細な説明を通じて記載されている。別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0027】
本明細書において使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈により別途明確に示されない限り、複数形の参照物を含む。「または」または「および」の使用は、別途示されない限り、「および/または」を意味する。
【0028】
測定可能な値、例えば、量、時間的な期間などに言及する場合、本明細書において使用される「約」という用語は、指定された値から最大で±10%の変動を包含する。別途指し示されない限り、本明細書において使用される成分、特性、例えば、分子量、反応条件などに関する量を表すすべての数字は、「約」という用語によって修飾されていると理解されるものとする。
【0029】
ゲダトリシブは、ホスファチジルイノシトール-3キナーゼおよびラパマイシンの哺乳動物標的を阻害する、がんの処置に有望である小分子である。ホスファチジルイノシトール-3キナーゼ(PI3K)は、ホスファチジルイノシトールのイノシトール環の3位をリン酸化する酵素である(D. Whitman et al., (1988))。複数のPI3Kサブタイプがあり、PI3Kの3つの主要なサブタイプが、それらのin vitro基質特異性に基づいて特定されている。これらの3つは、クラスI(aおよびb)、クラスII、ならびにクラスIIIと名付けられる(B. Vanhaesebroeck, (1997))。
【0030】
ホスホイノシチド3-キナーゼシグナル伝達経路は、ヒトがんにおいてもっとも高度に変異している系の1つである。PI3Kは、ホスファチジルイノシトールまたはホスホイノシチドにおける3’-OH基をリン酸化する細胞内脂質キナーゼの固有かつ保存されたファミリーのメンバーである。PI3Kファミリーは、別個の基質特異性、発現パターン、および調節様式を有する15個のキナーゼを含む。クラスI PI3K(p110α、p110β、p110δ、およびp110γ)は、典型的に、チロシンキナーゼまたはG-タンパク質共役型受容体によって活性化されて、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)-トリホスフェート(PIP3)を生成し、これが、AKT/PDK1経路、mTOR、Tecファミリーキナーゼ、およびRhoファミリーGTPaseにおけるものなど、下流エフェクターに関わる。クラスIIおよびIII PI3Kは、ホスファチジルイノシトール3-ビスホスホネート(PI(3)P)およびホスファチジルイノシトール(3,4)-ビスホスホネート(PI(3,4)P2)の合成を通じて細胞内輸送において重要な役割を果たす。PI3Kは、細胞成長を制御する(mTORC1)、またはゲノム完全性をモニタリングする(ATM、ATR、DNA-PK、およびhSmg-1)タンパク質キナーゼである。
【0031】
クラスI PI3Kには、PI3K-α、β、δ(クラスIa PI3K)、およびPI3K-γ(クラスIb PI3K)の4つの哺乳動物アイソフォームが存在する。これらの酵素は、PIP3の産生を触媒し、細胞の生存、分化、および機能に重要な下流エフェクター経路の活性化をもたらす。PI3K-αおよびPI3K-βは、広範に発現され、細胞表面受容体からのシグナル伝達の重要な媒介因子である。PI3K-αは、がんにおいて変異されていることがもっとも頻繁に見出されているアイソフォームであり、インスリンシグナル伝達およびグルコース恒常性における役割を有する(Knight et al., (2006); Vanhaesebroeck et al., (2010))。PI3K-βは、ホスファターゼおよびテンシンホモログ(PTEN)が欠失しているがんにおいて活性化される。いずれのアイソフォームも、がんに対する開発中の小分子治療薬の標的である。
【0032】
PI3K-δおよび-γは、白血球において優先的に発現され、白血球機能に重要である。これらのアイソフォームはまた、血液悪性疾患の発生および維持にも寄与する(Vanhaesebroeck et al., (2010); Clayton et al., (2002); Fung-Leung, (2011); Okkenhaug et al., (2002))。PI3K-δは、細胞受容体(例えば、受容体チロシンキナーゼ)によって、PI3K調節性サブユニット(p85)のSarc相同性2(SH2)ドメインとの相互作用またはRASとの直接的な相互作用を通じて活性化される。
【0033】
他の関連キナーゼと比べた選択性もまた、PI3K阻害剤の開発のための重要な検討事項である。不要な副作用を回避するために選択的阻害剤が好ましい場合があるが、PI3K/Akt経路における複数の標的(例えば、PI3KαおよびmTOR[ラパマイシンの哺乳動物標的])の阻害が、より高い有効性をもたらし得るという報告が存在する。
【0034】
ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)は、栄養素および成長因子に対する腫瘍細胞の応答の調節、ならびに血管内皮成長因子VEGFに対する作用を通じた腫瘍血液供給の制御を行う細胞シグナル伝達タンパク質である。mTORの阻害剤は、mTORの作用を阻害することによって、がん細胞を飢餓状態にさせ、腫瘍を縮小させる。すべてのmTOR阻害剤は、mTORキナーゼに結合する。これは、少なくとも2つの重要な作用を有する。第1に、mTORは、PI3K/Akt経路の下流媒介因子である。PI3K/Akt経路は、多数のがんにおいて過剰に活性化されていると考えられており、mTOR阻害剤に対する様々ながんからの広範な応答の原因となっている可能性がある。上流経路の過剰活性化は、通常、mTORキナーゼの過剰活性化も同様に引き起こすであろう。しかしながら、mTOR阻害剤の存在下において、このプロセスは遮断される。この遮断作用により、mTORが細胞成長を制御する下流経路にシグナル伝達することが防止される。PI3K/Aktキナーゼ経路の過剰活性化は、PTEN遺伝子における変異と関連していることが多く、これは、多くのがんで共通しており、どの腫瘍がmTOR阻害剤に応答するかを予測するのに役立ち得る。mTOR阻害の第2の主要な作用は、VEGFレベルを低下させることを通じた抗血管新生である。
【0035】
本明細書において使用される場合、「ゲダトリシブ」および「1-(4-{[4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル]カルボニル}フェニル)-3-[4-(4,6-ジモルホリン-4-イル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル]尿素」という用語は、同じ化合物を指し、互換可能に使用され得る。本発明の一部の実施形態では、ゲダトリシブの薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはエステルは、当業者には公知のように、がんを処置する方法において使用され得る。
【0036】
代表的な「薬学的に許容される塩」としては、例えば、水溶性および水不溶性塩、例えば、酢酸塩、アルミニウム、アムソン酸塩(4,4-ジアミノスチルベン-2,2-ジスルホネート)、ベンザチン(N,N’-ジベンジルエチレンジアミン)、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、ビスマス、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、酪酸塩、カルシウム、エデト酸カルシウム、カンシル酸塩(カンファースルホン酸塩)、炭酸塩、塩化物、コリン、クエン酸塩、クラブラン酸塩(clavulariate)、ジエタノールアミン、ジヒドロクロリド、二リン酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩(カンファースルホン酸塩)、エシル酸塩(エタンスルホン酸塩)、エチレンジアミン、フマル酸塩、グルセプト酸塩(グルコヘプトン酸塩)、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩(hexylresorcinate)、ヒドラバミン(N,N’-ビス(デヒドロアビエチル)エチレンジアミン)、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエート、1-ヒドロキシ-2-ナフトエート、3-ヒドロキシ-2-ナフトエート、ヨウ化物、イセチオン酸塩(isothionate)(2-ヒドロキシエタンスルホネート)、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リチウム、マグネシウム、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メグルミン(1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-D-グルシトール)、メシル酸塩、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、ムケート(mucate)、ナプシル酸塩(napsylate)、硝酸塩、N-メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(4,4’-メチレンビス-3-ヒドロキシ-2-ナフトエート、または、エンボン酸塩)、パントテン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、カリウム、プロピオン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ナトリウム、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩(subasetate)、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリクレート(sulfosaliculate)、スラメート(suramate)、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩(8-クロロ-3,7-ジヒドロ-1,3-ジメチル-1H-プリン-2,6-ジオン)、トリエトイオダイド(trieth iodide)、トロメタミン(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール)、吉草酸塩、および、亜鉛塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
薬学的に許容されるエステルとしては、カルボン酸、リン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、スルフィン酸、およびボロン酸を含むがこれらに限定されない酸性基のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、およびヘテロシクリルエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
薬学的に許容される溶媒和物および水和物は、化合物と、1つまたは複数の溶媒または水分子、または1~約100個、または1~約10個、または1~約2、3、もしくは4個の溶媒または水分子との複合体である。
【0039】
「阻害」または「低減」という用語は、本明細書において使用される場合、生物学的活性における任意の統計学的に有意な減少を指し、これには、部分的または完全な活性の遮断が含まれる。例えば、「阻害」または「低減」は、生物学的活性における約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の統計学的に有意な減少を指し得る。「阻害する」または「遮断する」という用語(例えば、結合または活性の阻害/遮断を指す)は、互換可能に使用され、部分的および完全な阻害/遮断の両方を包含する。
【0040】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。例えば、本明細書に記載される方法および組成物は、がんを有する対象(例えば、ヒト患者)を処置するために使用され得る。好ましくは、対象は、乳がんを有し、12ヶ月未満の期間(例えば、6ヶ月未満の期間)で、先行する処置(例えば、内分泌処置)中にがんの進行を経験した、ヒトである。
【0041】
「治療有効量」は、対象に投与した場合に、治療作用を与えるのに有効である、本明細書に記載されるゲダトリシブまたは他の活性剤の量を意味する。
【0042】
本明細書において使用される場合、「投与すること」は、当業者に公知の様々な方法および送達系のいずれかを使用した、治療剤を含む組成物の対象への物理的導入を指す。本明細書に記載される治療剤の好ましい投与経路としては、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、脊髄、またはその他の非経口投与経路、例えば、注射または注入によるものが挙げられる。本明細書において使用される「非経口投与」という語句とは、経腸および局所投与以外の投与様式、通常、注射によるものを意味し、これには、限定することなく、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ内、病巣内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内注射および注入、ならびにin vivoエレクトロポレーションが含まれる。あるいは、本明細書に記載される抗体は、非経口ではない経路、例えば、局所、上皮、または粘膜投与経路を介して、例えば、鼻腔内、経口、膣、直腸、舌下、または局所的に、投与することができる。また、投与することは、例えば、1回、複数回、および/または1つもしくは複数の長期間にわたって、実施され得る。
【0043】
本明細書において使用される場合、「処置」、「処置すること」、「処置する」などの用語は、少なくとも1つの症状もしくは適応症の重症度を軽減もしくは低減すること、症状の原因を一時的もしくは恒久的のいずれかで排除すること、または有益もしくは所望される臨床結果を得ることを意味する。有益または所望される臨床結果としては、症状の軽減、状態、障害、もしくは疾患の程度の縮減、状態、障害、もしくは疾患の状況の安定化(すなわち、悪化しないこと)、状態、障害、もしくは疾患の発症の遅延もしくは進行の減速、状態、障害、もしくは疾患状況の好転(amelioration)、ならびに検出可能か検出不可能かを問わない寛解(部分的もしくは完全)、または状態、障害、もしくは疾患の向上もしくは改善が挙げられるが、これらに限定されない。処置は、過剰なレベルの副作用を伴うことなく、臨床的に有意な応答を誘起することを含む。処置はまた、処置を受けていない場合に予測される生存と比較して、生存を延長することも含む。処置は、部分奏効(PR)または完全奏効(CR)を結果としてもたらし得る。
【0044】
「内分泌処置」または「ホルモン処置」(「抗ホルモン処置」と称されることもある)は、ホルモンシグナル伝達を標的とする処置、例えば、ホルモン阻害、ホルモン受容体阻害、ホルモン受容体アゴニストまたはアンタゴニストの使用、スカベンジャーまたはオーファン受容体の使用、ホルモン誘導体の使用、およびホルモン産生の妨害を指す。具体的な例は、エストロゲン受容体のシグナル伝達をモジュレートするタモキシフェン療法、またはステロイドホルモン産生を妨害するアロマターゼ処置である。
【0045】
「失敗した先行する処置」という用語は、がんの処置を受けている対象が、処置中、例えば、処置の指定期間内(例えば、処置の始まりから12ヶ月以内または6ヶ月以内)にがんの進行を経験していることを指す。がんの「進行」という用語は、典型的には、身体スキャン(例えば、MRIスキャン、PETスキャン、CATスキャンなど)、生検、および/またはバイオマーカーの測定を含むがこれらに限定されない、がんの成長および/または拡がりを評価するための当該技術分野において確立されている手段によって測定される、成長および/または拡がり(例えば、転移)の増加を指す。一部の実施形態では、進行は、標的とされる測定可能な病変部(例えば、腫瘍)の直径の合計における、観察された最小合計またはベースラインの直径合計よりも少なくとも20%の増加として定義され、最小の絶対値増加は少なくとも5mmである。
【0046】
「治療モダリティ」、「治療様式」、「スケジュール」、「レジメン」、ならびに「治療レジメン」という用語は、がん治療のための抗腫瘍薬、および/または抗血管薬、および/または免疫刺激薬、および/または血液細胞増殖剤、および/または放射線療法、および/または温熱療法、および/または低温療法の時間的に逐次的または同時の投与を指す。これらの投与は、アジュバントおよび/またはネオアジュバント様式で実施され得る。そのような「プロトコール」の組成は、定義された治療ウインドウ内で、単一剤の用量、適用の時間フレーム、および投与の頻度が変動し得る。
【0047】
「細胞傷害性化学療法」という用語は、細胞の増殖および/または生存に影響を及ぼす様々な処置モダリティを指す。処置は、アルキル化剤、抗代謝剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ならびにモノクローナル抗体およびキナーゼ阻害剤を含む他の抗腫瘍剤の投与を含み得る。特に、細胞傷害性処置は、タキサン処置に関連し得る。タキサンは、微小管機能を防止することによって細胞分裂を遮断する植物アルカロイドである。プロトタイプタキサンは、通常、タキソールとして公知であり、最初に太平洋イチイという木の樹皮から誘導された、天然の産物であるパクリタキセルである。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成アナログである。タキサンは、微小管の安定性を増強させ、分裂後期の染色体の分離を予防する。
【0048】
本明細書に記載される様々な態様は、以下の小節においてさらに詳細に記載されている。
【0049】
I.ゲダトリシブ
対象(例えば、12ヶ月未満の期間(例えば、6ヶ月の期間)でがんに対する先行する処置(例えば、がんに対する内分泌処置)が失敗したヒト対象)に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルを、周期的な様式で投与することによって、がんを処置するための方法が、本明細書に提供される。周期的投与は、例えば、対象に、ゲダトリシブを3週間にわたり投与し、続いて、1週間にわたる投与中断期間があることを含み得る。このサイクルは、所望される結果を得るために、必要に応じて複数回反復され得る。
【0050】
ゲダトリシブは、高い効力を有する汎クラスIアイソフォームPI3K/mTOR阻害剤である(NCT02626507、2020年4月24日)。ゲダトリシブの化学合成は、米国特許第8,039,469号、同第8,217,036号、同第8,445,486号、同第8,575,159号、同第8,748,421号、同第8,859,542号、同第9,174,963号、同第10,022,381号に開示されており、これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。ゲダトリシブは、結晶形態で調製され得、25℃および相対湿度(RH)60%で、最大3年間この形態で化学的および物理的に安定している。しかしながら、この遊離塩基は、必要とされる治療的投薬量レベルで静脈内または非経口投与に好適な水溶液製剤の調製を可能にするには水溶性が不十分である。したがって、治療的投薬量レベルを可能にする製剤が、開発された。
【0051】
治療的投薬量レベルのゲダトリシブを含む医薬製剤は、当該技術分野において公知であり、これには、水性静脈内製剤ならびにナノ粒子製剤が含まれる。
【0052】
PCT出願公開第WO2016097949号は、微粒子を含まない透明な溶液を形成する、乳酸および/またはオルトリン酸を有するゲダトリシブの水性静脈内製剤を開示している。この製剤は、ゲダトリシブ、乳酸、および水を含む。ゲダトリシブは、溶液中、6mg/ml未満(好ましくは、約5mg/ml)の濃度を有し、透明な溶液を提供するのに十分な乳酸が存在する(好ましくは、少なくとも2.5モル当量)。ゲダトリシブは、乳酸と1:1(モル当量)乳酸塩を形成する。したがって、製剤は、ゲダトリシブ遊離塩基を使用して、またはゲダトリシブの乳酸塩を使用して、調製することができる。
【0053】
オルトリン酸を用いた製剤は、ゲダトリシブ、オルトリン酸、および水を含む。ゲダトリシブは、4mg/ml未満(好ましくは、3.0~3.5mg/ml)の溶液濃度で存在し、透明な溶液を提供するのに十分なオルトリン酸が存在する(好ましくは、少なくとも5モル当量)。
【0054】
ゲダトリシブおよびシクロデキストリンを含む製剤が、PCT出願公開第WO2019234632号に開示されている。水性医薬製剤は、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される有機もしくは無機酸塩、スルホン酸ではない薬学的に許容される有機もしくは無機酸、薬学的に許容されるベータもしくはガンマ-シクロデキストリン、および水を含む。ゲダトリシブは、少なくとも6mg/mlの溶液濃度で存在し、溶液は、透明である。
【0055】
使用される薬学的に許容される有機酸(その塩を含む)は、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、またはマレイン酸である。酸は、そのラセミ形態で使用されてもよく、または適用可能な場合は単一の立体異性体形態(もしくはその混合物)として使用されてもよい。薬学的に許容されるベータ-シクロデキストリンの例は、2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、およびスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBECD)である。そのような薬学的に許容されるガンマ-シクロデキストリンの例は、ガンマ-シクロデキストリンおよび2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリンである。製剤における使用のための薬学的に許容されるベータまたはガンマ-シクロデキストリンの好ましい量は、2~30%重量/体積、5~20%重量/体積、または15~30%重量/体積であり、好ましくは、約20%重量/体積または約25%重量/体積である。好ましくは、本発明の製剤における使用のための薬学的に許容されるベータまたはガンマ-シクロデキストリンの量は、約20%重量/体積である。
【0056】
ゲダトリシブならびにメタンスルホン酸および/またはエタンスルホン酸を含む製剤は、PCT出願公開第WO2019038657号に開示されている。
【0057】
製剤は、ゲダトリシブ、またはそのメタンスルホン酸塩、メタンスルホン酸、および水を含む。ゲダトリシブは、35mg/ml未満または最大30mg/ml(好ましくは、6~30mg/ml)の溶液濃度で存在し、透明な溶液を提供するのに十分なメタンスルホン酸が存在する。開示される別の製剤は、ゲダトリシブ、またはそのエタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸、および水である。ゲダトリシブは、35mg/ml未満または最大30mg/ml(好ましくは、6~30mg/ml)の溶液濃度で存在し、透明な溶液を提供するのに十分なエタンスルホン酸が存在する。
【0058】
メタンスルホン酸およびエタンスルホン酸の使用は、患者への静脈内または非経口投与に好適である、すなわち、透明な本質的に粒子を含まない溶液である水溶液医薬製剤のために、最大30mg/mlまでのゲダトリシブの溶液濃度の達成を可能にする。
【0059】
上述の水性製剤において、少なくとも6mg/mlであるゲダトリシブの溶液濃度が、市販の薬物製品の単回バイアル提示を使用する対象への用量投与を可能にするのに望ましい。6mg/ml未満の薬物製品溶液を含有する凍結乾燥薬物製品(再構成用)は、必要とされる治療用量を送達するための複数のバイアルを必要とする。用量送達への複数バイアルアプローチは、これらの製品タイプに関する現在の規制予測を踏まえると、望ましいものではない。
【0060】
上述の製剤のいずれも、フリーズドライさせて、凍結乾燥固体組成物を得ることができ、増量剤を、フリーズドライプロセスの開始の前に製剤に添加してもよい。増量剤は、本発明の製剤が薬学的に許容されるベータまたはガンマ-シクロデキストリンを含有しない場合には存在しなくてもよい。増量剤の主な機能は、フリーズドライした固体に崩壊しない構造的完全性を提供し、それによって、投与の前の水性製剤の構成時の急速な再構成を可能にし、これは、効率的な凍結乾燥も促進するはずである。増量剤は、典型的に、製剤中の溶質の総質量が、2g/100ml未満である場合に使用される。増量剤は、血液との等張性を達成するためにも添加され得る。増量剤は、糖類、糖アルコール、アミノ酸、もしくはポリマーから選択されてもよく、またはこれらのうちのいずれかの2つもしくはそれよりも多くの混合物であってもよい。好ましくは、増量剤は、糖もしくは糖アルコール、またはこれらの混合物である。好ましくは、糖は、スクロースである。好ましくは、糖アルコールは、マンニトールである。凍結乾燥固体組成物の構成は、透明な溶液を得ることを確実にするために、適切な量の水および/または好適な張度調節剤の水溶液を使用して、達成され得る。
【0061】
少なくとも1つの塩基性窒素原子を含む治療剤(すなわち、プロトン化可能な窒素を含む治療剤)、例えば、ゲダトリシブは、治療剤の重要な基を表す。しかしながら、このクラスの薬物のナノ粒子製剤は、望ましくない特性、例えば、好ましくないバースト放出プロファイルおよび薬物負荷の乏しさが妨げとなることが多い。PCT出願公開第WO2015138835号は、治療剤の放出速度が制御されたゲダトリシブの治療用ナノ粒子を開示している。
【0062】
治療用ナノ粒子は、ゲダトリシブ(好ましくは、約1~20重量パーセントの量で)、実質的に疎水性の酸、ならびにジブロックポリ(乳酸)-ポリ(エチレン)グリコールコポリマーまたはジブロックポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレン)グリコールコポリマー、およびこれらの組合せから選択されるポリマーを含む。ゲダトリシブに対する実質的に疎水性の酸のモル比は、約0.25:1~約2:1の範囲に及び、プロトン化されたゲダトリシブのpKは、疎水性の酸のpKよりも少なくとも約1.0pK単位高い。疎水性の酸およびゲダトリシブは、治療用ナノ粒子において疎水性イオン対を形成する。加えて、ナノ粒子は、標的結合(細胞結合/標的取り込み)を増加させ得る標的化リガンドを含み得、ナノ粒子を標的特異性にする。
【0063】
一般に、「ナノ粒子」は、1000nm未満の直径を有する任意の粒子を指す。好ましくは、治療用ナノ粒子は、60~120nmの範囲の直径を有し得る。例えば、ナノ粒子は、約60nm、約70nm、約80nm、約90nm、約100nm、または約110nmから、最大約70nm、約80nm、約90nm、約100nm、約110nm、または約120nmまでの範囲に及ぶ直径を有し得る。
【0064】
本明細書において使用される場合、「実質的に疎水性の酸」とは、水中で約-1.0~約5.0のpKaを有する酸である。好ましくは、実質的に疎水性の酸は、水中で約2.0~約5.0のpKaを有する。例示的な実質的に疎水性の酸としては、脂肪酸が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、脂肪酸は、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンエイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸、ペンタコシル酸、セロチン酸、ヘプタコシル酸、モンタン酸、ノナコシル酸、メリシン酸、ヘナトリアコンチル酸(henatriacontylic acid)、ラセロン酸(lacceroic acid)、サイリン酸(psyllic acid)、ゲド酸(geddic acid)、セロプラスチン酸(ceroplastic acid)、ヘキサトリアコンチル酸(hexatriacontylic acid)、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、飽和脂肪酸であり得る。加えて、脂肪酸は、ヘキサデカトリエン酸、アルファ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ヘンエイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、テトラコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、オメガ-3脂肪酸であってもよい。脂肪酸はまた、リノール酸、ガンマ-リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ-ガンマ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸、アドレン酸、ドコサペンタエン酸、テトラコサテトラエン酸、テトラコサペンタエン酸、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、オメガ-6脂肪酸であってもよい。脂肪酸はまた、オレイン酸、エイコセン酸、ミード酸、エルカ酸、ネルボン酸、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、オメガ-9脂肪酸であってもよい。脂肪酸はまた、ルーメン酸、a-カレンジン酸、β-カレンジン酸、ジャカル酸、a-エレオステアリン酸、β-エレオステアリン酸、カタルプ酸、プニシン酸(punicic acid)、ルメレン酸(rumelenic acid)、a-パリナリン酸、β-パリナリン酸、ボセオペンタエン酸、ピノレン酸、ポドカープ酸(podocarpic acid)、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、ポリ不飽和脂肪酸であってもよい。
【0065】
あるいは、疎水性の酸は、胆汁酸であってもよい。例えば、一部の実施形態では、胆汁酸としては、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、デオキシコール酸、ヒコール酸(hycholic acid)、ベータ-ムリコール酸、コール酸、リトコール酸、アミノ酸抱合胆汁酸、またはこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
あるいは、疎水性の酸としては、ジオクチルスルホコハク酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ドデシル硫酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、パモ酸、ウンデカン酸、またはこれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0067】
ナノ粒子は、医薬組成物を形成するために、薬学的に許容される担体と組み合わせることができる。当業者には理解されるように、担体は、投与の経路、標的組織の位置、薬物の送達の時間過程などに基づいて選ばれ得る。
【0068】
ナノ粒子医薬組成物は、経口および非経口経路を含む、当該技術分野において公知の任意の手段によって、患者または対象に投与され得る。ナノ粒子組成物は、注射(例えば、静脈内、皮下、もしくは筋肉内、腹腔内注射)、直腸、膣、局所(粉末、クリーム、軟膏、もしくは液滴によるものとして)、または吸入(スプレーによるものとして)によって投与され得る。
【0069】
注射用調製物、例えば、滅菌注射用水溶液または油性懸濁物は、好適な分散剤または湿潤剤、および懸濁化剤を使用して、公知の技術に従って製剤化され得る。滅菌注射用調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液、懸濁物、またはエマルション、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液であってもよい。利用することができる許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンガー溶液、U.S.P.、および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌の固定油が、従来的に、溶媒または懸濁媒体として利用される。この目的で、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、任意の無刺激固定油を利用することができる。加えて、脂肪酸、例えば、オレイン酸が、注射用調製物において使用される。一実施形態では、本発明のコンジュゲートは、1%(重量/体積)のカルボキシメチルセルロースナトリウムおよび0.1%(体積/体積)のTween(登録商標)80を含む担体流体中に懸濁化される。注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通した濾過によって、または使用前に滅菌水もしくは他の滅菌注射用媒体中に溶解もしくは分散させることができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって、滅菌することができる。
【0070】
経口投与のための固体剤形としては、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、または顆粒が挙げられる。そのような固体剤形において、封入型または非封入型コンジュゲートは、少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤または担体、例えば、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、および/または(a)充填剤もしくはエクステンダー、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸、(b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアカシアなど、(c)保水剤、例えば、グリセロール、(d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム、(e)溶解遅延剤(solution retarding agent)、例えば、パラフィン、(f)吸収促進剤、例えば、第四級アンモニウム化合物、(g)湿潤剤、例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなど、(h)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイトクレイ、ならびに(i)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物と、混合される。カプセル、錠剤、および丸剤の場合には、剤形は、緩衝化剤も含み得る。
【0071】
ゲダトリシブを含有するナノ粒子の正確な投薬量は、処置しようとする患者を踏まえて個々の医師によって選ばれ、一般に、投薬量および投与は、処置されている患者に、有効量のゲダトリシブナノ粒子を提供するように調整されることが、理解されるであろう。本明細書において使用される場合、ゲダトリシブを含有するナノ粒子の「有効量」は、所望される生物学的応答を誘起するのに必要な量を指す。当業者には理解されるように、ゲダトリシブを含有するナノ粒子の有効量は、所望される生物学的エンドポイント、標的組織、投与の経路などの因子に応じて変動し得る。例えば、ナノ粒子の有効量は、所望される期間にわたって所望される量だけ腫瘍サイズの低減を結果としてもたらす量であり得る。考慮され得る追加の因子としては、疾患状況の重症度、処置されている患者の年齢、体重、および性別、食事、投与の時間および頻度、薬物の組合せ、反応の感受性、ならびに治療に対する耐容性/応答が挙げられる。
【0072】
静脈内投与に好適であるゲダトリシブの水性医薬製剤、例えば、上述のものは、一般に、3~9のpHを有する。しかしながら、ある特定の状況では、より低いpH値が許容される。pHは、約3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、または8から、最大約3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、または9の範囲に及び得る。好ましくは、pHは、3~8または4~8である。
【0073】
上述の製剤を使用して、がんの処置のために静脈内経路によって投与されるゲダトリシブの毎週用量は、好ましくは、1週間当たり100~400mg/mlの範囲内である。例えば、用量は、1週間当たり約100mg/ml、1週間当たり約110mg/ml、1週間当たり約120mg/ml、1週間当たり約130mg/ml、1週間当たり約140mg/ml、1週間当たり約150mg/ml、1週間当たり約160mg/ml、1週間当たり約170mg/ml、1週間当たり約180mg/ml、1週間当たり約190mg/ml、1週間当たり200mg/ml、1週間当たり約210mg/ml、1週間当たり約220mg/ml、1週間当たり約230mg/ml、1週間当たり約240mg/ml、1週間当たり約250mg/ml、1週間当たり約260mg/ml、1週間当たり約270mg/ml、1週間当たり約280mg/ml、1週間当たり約290mg/ml、1週間当たり300mg/ml、1週間当たり約310mg/ml、1週間当たり約320mg/ml、1週間当たり約330mg/ml、1週間当たり約340mg/ml、1週間当たり約350mg/ml、1週間当たり約360mg/ml、1週間当たり約370mg/ml、1週間当たり約380mg/ml、1週間当たり約390mg/ml、または1週間当たり400mg/mlであり得る。
【0074】
II.CDK 4/6阻害剤
本出願の一部の実施形態では、がんを処置する方法は、対象に、ゲダトリシブとともにCDK 4/6阻害剤を共投与するステップを含む。本明細書において使用される場合、「CDK 4/6阻害剤」という用語は、CDK4活性、CDK6活性、またはCDK4およびCDK6の両方の活性を阻害する化合物を含む。
【0075】
細胞周期の調節は、特定のタンパク質によって支配および制御されており、そのタンパク質は、主として、リン酸化/脱リン酸化プロセスを通じて正確にタイミングをとった様式で活性化および脱活性化される。細胞周期プログラムの開始、進行、および完了を協調する重要なタンパク質が、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)である。サイクリン依存性キナーゼは、セリン-スレオニンタンパク質キナーゼファミリーに属する。それらは、触媒性キナーゼサブユニットおよび調節性サイクリンサブユニットから構成されるヘテロ二量体複合体である。CDK活性は、それらの対応する調節性サブユニット(サイクリン)およびCDK阻害剤タンパク質(CipおよびKipタンパク質、INK4)との会合によって、それらのリン酸化状態によって、ならびにユビキチン媒介タンパク質分解によって、制御される。
【0076】
細胞増殖に有意に関与するCDKが4種存在する:主としてG2からM期への移行を調節するCDK1、ならびにG1からS期への移行を調節するCDK2、CDK4、およびCDK6。初期から中期のG1期において、細胞が、分裂促進性刺激に応答性である場合、CDK4-サイクリンDおよびCDK6-サイクリンDの活性化は、網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)のリン酸化を誘発する。pRbのリン酸化は、転写因子E2Fを放出し、これが、核に進入して、細胞周期のさらなる進行を促す他のサイクリンの転写を活性化する。CDK4およびCDK6は、基本的に区別できない生化学的特性を有する緊密に関連するタンパク質である。
【0077】
特定のピリド[2,3-d]ピリミジン、2-アニリノピリミジン、ジアリール尿素、ベンゾイル-2,4-ジアミノチアゾール、インドロ[6,7-a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、およびオキシインドールを含む、いくつかのCDK 4/6阻害剤が特定されている。例えば、国際公開第WO03/062236号は、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD0332991)を含む、CDK4/6に対する選択性を示すRb陽性がんの処置のための一連の2-(ピリジン-2-イルアミノ-ピリド[2,3]ピリミジン-7-オンを特定している。Tateらは、CDK4/6阻害剤アベマシクリブ(LY2835219)の抗腫瘍活性について記載している(“Semi-Mechanistic Pharmacokinetic/Pharmacodynamic Modeling of the Antitumor Activity of LY2835219, a New Cyclin-Dependent Kinase 4/6 Inhibitor, in Mice Bearing Human Tumor Xenografts”, Clin Cancer Res (Jul. 15, 2014) 20; 3763)。Raderらは、CDK4/6阻害剤リボシクリブ(LEE011)を使用した神経芽細胞腫由来細胞系における増殖の低減について記載している(“Dual CDK4/CDK6 Inhibition Induces Cell Cycle Arrest and Senescence in Neuroblastoma”, Clin Cancer Res (Nov. 15, 2013) 19(22): 6173-82)。VanderWelらは、強力かつ選択的なCDK4阻害剤としてのヨウ素含有ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン(CKIA)について記載している(VanderWel et al., J. Med. Chem. 48 (2005) 2371-2387を参照されたい)。Glaxo Group Ltdによって出願された国際公開第WO99/15500号は、タンパク質キナーゼおよびセリン/スレオニンキナーゼ阻害剤を開示している。Novartis AGによって出願された国際公開第WO2010/020675号は、CDK阻害剤としてのピロロピリミジン化合物について記載している。これもNovartisによって出願された国際公開第WO2011/101409号は、CDK 4/6阻害活性を有するピロロピリミジンについて記載している。Novartisによって出願された国際公開第WO2005/052147号およびJanssen Pharmaによって出願された同第WO2006/074985号は、さらなるCDK4阻害剤について開示している。Tavaresによって出願され、G1 Therapeuticsに譲渡された国際公開第WO2012/061156号は、CDK阻害剤について記載している。Francis Tavaresによって出願され、G1 Therapeuticsに譲渡された国際公開第WO2013/148748号は、ラクタムキナーゼ阻害剤について記載している。
【0078】
選択的CDK4/6阻害剤は、一般に、CDK4/6複製依存性がんを標的とするように設計される。例えば、Michaudらは、CDK4/6阻害剤PD-0332991が、Rb陰性腫瘍に対して不活性であったことを報告している。(Michaud et al., Pharmacologic Inhibition of Cyclin-Dependent Kinase 4 and 6 Arrests the Growth of Glioblastoma Multiform Intracranial Xenografts. Cancer Res. 70:3228-3238 (2010))。
【0079】
一部の実施形態では、CDK 4/6阻害剤は、パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブ、トリラシクリブ、ダルピシクリブ、リビシクリブ、およびこれらの組合せからなる群より選択される。
【0080】
CDK 4/6阻害剤は、当該技術分野において公知の方法を使用して投与され得る。一部の実施形態では、CDK 4/6阻害剤は、パルボシクリブである。パルボシクリブ(Ibrance(商標)、Pfizer、New York、NY)は、125mg、100mg、および75mgの錠剤およびカプセルで利用可能である。Ibrance(商標)の処方情報を参照されたい。パルボシクリブの推奨用量は、21日間連続で1日1回、経口で125mgを摂取、続いて7日間の処置休止であり、これにより完全な28日間のサイクルが構成される。同文書。この処置サイクルは、処置の結果および患者の耐容性に基づいて改変されてもよい。同文書。例えば、患者が好中球減少症を経験する場合、パルボシクリブの投与は、21日間連続で1日1回、100mgまたは75mg、続いて7日間の処置休止に低減され得る。同文書。
【0081】
リボシクリブ(Kisqali(商標)、Novartis、Switzerland)は、200mgの錠剤で利用可能である。Kisqali(商標)の処方情報を参照されたい。リボシクリブの推奨用量は、21日間連続で1日1回、経口で600mg(200mgの錠剤3錠)を摂取、続いて7日間の処置休止であり、これにより完全な28日間のサイクルが構成される。同文書。この処置サイクルは、処置の結果および患者の耐容性に基づいて改変されてもよい。同文書。例えば、患者が負の副作用を経験する場合、リボシクリブの投与は、21日間連続で1日1回、400mgまたは200mg、続いて7日間の処置休止に低減され得る。同文書。
【0082】
アベマシクリブ(Verzenio(商標)、Eli Lilly、Indianapolis、IN)は、200mg、150mg、100mg、および50mgの錠剤で利用可能である。Verzenio(商標)の処方情報を参照されたい。アベマシクリブの推奨用量は、フルベストラントとの組合せで投与する場合、150mgで1日2回である。同文書。アベマシクリブの推奨用量は、フルベストラントなしで投与する場合、200mgで1日2回である。同文書。用量低減が必要な場合、アベマシクリブ用量は、一度に50mgだけ低減されることが推奨される。同文書。
【0083】
トリラシクリブ(Cosela(商標)、G1 Therapeutics,Inc.、NC)は、単回用量バイアルにおける300mgの凍結乾燥粉末で利用可能である。Cosela(商標)の処方情報を参照されたい。トリラシクリブの推奨用量は、静脈内(IV)注入として投与される1用量当たり240mg/mである。同文書。トリラシクリブは、15mg/mLの濃度を得るために、19.5mLの0.9%塩化ナトリウム注射または5%デキストロース注射USPで再構成されるべきである。同文書。トリラシクリブは、一般に、30分間の静脈内注入として投与され、これは、化学療法が投与される各日に、化学療法の開始前4時間以内に完了しなければならない。同文書。
【0084】
ダルピシクリブ(SHR6390、Jiangsu Hengrui Medicine Co.)は、臨床試験中であり、28日サイクルごとの1日目から21日目に1日1回、経口で150mgが投薬され、続いて7日間の処置休止がある。NCT04236310、2020年1月17日を参照されたい。ダルピシクリブは、現在、HR陽性およびHER2陰性の進行性乳がんを有する患者において、レトロゾールまたはアナストロゾールまたはフルベストラントとの組合せで調査されている。
【0085】
リビシクリブ(P276-00、Piramal Enterprises Ltd.、Mumbai、IN)は、臨床試験中であり、21日サイクルの1~5日目に、1日当たり30分間にわたって、200mlの5%デキストロース中185mg/mの濃度で静脈内注入として投与されている。NCT00898287、2012年1月20日を参照されたい。リビシクリブは、転移性トリプルネガティブ乳がんを有する患者において、ゲムシタビンおよびカルボプラチンとの組合せで調査されている。
【0086】
III.エストロゲン受容体アンタゴニスト
エストロゲン受容体(ER)は、様々な生物学的作用の誘導を、内因性エストロゲンとの相互作用を通じて媒介する、リガンド活性化転写調節タンパク質である。内因性エストロゲンとしては、17β(ベータ)-エストラジオールおよびエストロンが挙げられる。ERは、ER-α(アルファ)およびER-β(ベータ)という2つのアイソフォームを有することが見出されている。
【0087】
本出願の一部の実施形態では、がんを処置する方法は、対象に、ゲダトリシブとともにエストロゲン受容体アンタゴニストおよび必要に応じてCDK 4/6阻害剤を共投与するステップを含む。本明細書において使用される場合、「エストロゲン受容体アンタゴニスト」という用語は、エストロゲンを受容体から変位させることによって競合的に作用する化合物を含む。
【0088】
ARN-810(GDC-0810、Seragon Pharmaceuticals、Genentech Inc.)は、エストロゲンの作用をアンタゴナイズし、プロテアソームを介してER分解を誘導する小分子の非ステロイド性選択的ERモジュレーターである。ARN-810は、進行性転移性ER-α陽性(ER+)乳がんを処置するための経口送達治療として臨床試験中である。
【0089】
PCT出願公開第WO2013/090836号は、フッ素化エストロゲン受容体モジュレーターおよびその使用について開示している。
【0090】
PCT出願公開第WO2014/205136号は、アゼチジンエストロゲン受容体モジュレーターおよびその使用について開示している。
【0091】
米国特許出願公開第2003/0130274号は、エストロゲン剤としての2-フェニル-1-[4-(2-アミノエトキシ)ベンジル]-インドールについて開示している。
【0092】
本出願の方法に有用な1つの例示的なエストロゲン受容体アンタゴニストは、フルベストラントである。
【0093】
フルベストラント(Faslodex(商標)、AstraZeneca、Cambridge、UK)は、250mg/5mLバイアルとして供給される筋肉内投与用の注射で利用可能である。Faslodex(商標)の処方情報を参照されたい。フルベストラントの推奨投薬は、1日目、15日目、29日目、およびそれ以降は1ヶ月に1回、2つの5mL注射としての500mgの臀部(臀部領域)への緩徐な筋肉内投与である。同文書を参照されたい。中等度の肝臓障害を有する患者については、推奨用量は、1日目、15日目、29日目、およびそれ以降は1ヶ月に1回、1つの5mL注射としての筋肉内投与される250mgである。同文書を参照されたい。
【0094】
IV.製剤
一部の実施形態では、本出願の方法において使用されるゲダトリシブ、CDK 4/6阻害剤、およびエストロゲン受容体アンタゴニストは、医薬組成物を形成するために、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化され得る。
【0095】
本明細書に開示される方法において使用される医薬組成物は、例えば、滅菌溶液または懸濁物として、例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、または筋肉内注射または注入による非経口投与に適合されるものを含む、固体または液体の形態で特別に製剤化され得る。
【0096】
本明細書に開示される方法において使用される医薬組成物の注射用製剤または注入のための製剤は、公知の方法によって調製され得る。例えば、注射用または注入用製剤は、例えば、FcRn阻害剤またはその塩を、注射に従来的に使用されている滅菌水性媒体または油性媒体中に溶解、懸濁、または乳化させることによって、調製され得る。注射または注入のための水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の補助剤を含有する等張溶液などがあり、これらは、適切な可溶化剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物))などと組み合わせて使用され得る。利用される油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油などがあり、これらは、可溶化剤、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと組み合わせて使用され得る。このようにして調製された注射用または注入用製剤は、好ましくは、適切な注射用アンプルまたは注入に好適なバイアルもしくはバッグに充填される。
【0097】
薬学的に許容される賦形剤は、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクル、例えば、液体または固体の充填剤、希釈剤、担体、製造補助剤(例えば、滑沢剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくはステアリン酸亜鉛、またはステアリン酸)、溶媒または封入材料、対象への投与のための治療用化合物を運搬または運ぶことに関与するもの、増量剤、塩、界面活性剤、および/または保存剤であり得る。薬学的に許容される賦形剤として機能し得る材料の一部の例としては、糖、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース、デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン、セルロースおよびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロース、ゼラチン、タルク、ワックス、油、例えば、ピーナツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびダイズ油、グリコール、例えば、エチレングリコールおよびプロピレングリコール、ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール、エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル、寒天、緩衝化剤、水、等張食塩水、pH緩衝化溶液、ならびに医薬製剤において利用される他の非毒性の適合性物質が挙げられる。
【0098】
増量剤は、医薬製剤に質量を追加し、凍結乾燥形態における製剤の物理的構造に寄与する、化合物である。本発明による好適な増量剤としては、マンニトール、グリシン、ポリエチレングリコール、およびソルビトールが挙げられる。
【0099】
界面活性剤の使用により、再構成されたタンパク質の凝集を低減させることができる、および/または再構成された製剤における微粒子の形成を低減させることができる。添加される界面活性剤の量は、再構成されたタンパク質の凝集を低減させ、再構成後の微粒子の形成を最小限に抑えるようなものである。本発明による好適な界面活性剤としては、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20もしくは80)、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)、Triton(登録商標)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム(sodium laurel sulfate)、オクチルグリコシドナトリウム、ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-、もしくはステアリル-スルホベタイン、ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-、もしくはステアリル-サルコシン、リノレイル-、ミリスチル-、もしくはセチル-ベタイン、ラウロアミドプロピル-、コカミドプロピル-、リノールアミドプロピル-、ミリスタミドプロピル-、パルミドプロピル-、もしくはイソステアラミドプロピル-ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル)、ミリスタミドプロピル-、パルミドプロピル-、もしくはイソステアラミドプロピル-ジメチルアミン、メチルココイル-タウリン酸ナトリウムもしくはメチルオレイル-タウリン酸二ナトリウム、ならびにポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、ならびにエチレンおよびプロピレングリコールのコポリマー(例えば、Pluronics(登録商標)、PF68など)が挙げられる。
【0100】
保存剤が、本明細書に提供される製剤において使用されてもよい。本発明の製剤における使用のための好適な保存剤としては、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム(アルキル基が長鎖化合物であるアルキルベンジル-ジメチルアンモニウムクロリドの混合物)、および塩化ベンゼトニウムが挙げられる。他のタイプの保存剤としては、芳香族アルコール、例えば、フェノール、ブチルおよびベンジルアルコール、アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾールが挙げられる。他の好適な賦形剤は、標準的な薬学教本、例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”, The Science and Practice of Pharmacy, 19th Ed. Mack Publishing Company, Easton, Pa., (1995)において見出すことができる。
【0101】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法において使用されるゲダトリシブ、および必要に応じてCDK 4/6阻害剤、および/またはエストロゲン受容体アンタゴニストは、凍結乾燥され、投与前の再構成のための組成物で提供されてもよい。
【0102】
V.キットおよび単位剤形
ゲダトリシブ、および必要に応じてCDK 4/6阻害剤、および/またはエストロゲン受容体アンタゴニスト、ならびに薬学的に許容される担体を、本明細書に記載される方法における使用に適合される治療有効量で含有する医薬組成物を含むキットもまた、本明細書に提供される。キットは、必要に応じて、実施者(例えば、医師、看護師、または患者)が、中に含有される組成物をがんを有する患者に投与することを可能にするように、例えば、投与スケジュールを含む指示も含み得る。キットは、シリンジも含み得る。
【0103】
必要に応じて、キットは、それぞれが上記に提供される方法による単回投与のための有効量のゲダトリシブ(例えば、180mg)を含有する、単回用量の医薬組成物の複数のパッケージを含む。医薬組成物の投与に必要な機器またはデバイスもまた、キットに含まれ得る。例えば、キットは、ゲダトリシブの再構成に必要な量の液体を含有する、1つまたは複数の事前充填されたシリンジを提供してもよい。
【0104】
VI.対象集団
本明細書に記載される方法で処置される対象は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を有し得る。
【0105】
一実施形態では、対象は、がんの処置を必要とする。一部の実施形態では、がんは、固形がん(すなわち、固形腫瘍)である。固形がんは、乳がん、膣がん、外陰部がん、子宮頸がん、子宮がん、卵巣がん、子宮内膜がん、卵管のがん、前立腺がん、精巣がん、陰茎がん、肺がん、結腸直腸がん、黒色腫、膀胱がん、脳/CNSがん、食道がん、胃がん、頭/頸部がん、腎臓がん、肝臓がん、膵臓がん、および肉腫からなる群より選択され得る。
【0106】
本明細書に記載される方法および組成物で処置することができるがんとしては、ホルモン依存性、ホルモン応答性、および/またはホルモン感受性である固形がん(集合的に、「ホルモン応答性がん」)が挙げられるが、これらに限定されない。処置することができる例示的ながんとしては、限定することなく、アンドロゲン応答性がん、例えば、エストロゲン応答性がんおよびテストステロン応答性がんが挙げられる。一部の実施形態では、がんは、以前はホルモン処置に応答していたがんが後に非ホルモン非応答性になった、非ホルモン応答性がんであり得る。例示的なホルモン依存性がんとしては、乳がん、膣がん、外陰部がん、子宮頸がん、子宮がん、卵巣がん、子宮内膜がん、卵管のがん、前立腺がん、精巣がん、および陰茎がんが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、ホルモン依存性がんは、乳がんである。
【0107】
一部の実施形態では、本明細書における方法の対象は、乳がんの処置を必要としている。乳がんは、当該技術分野において公知の任意の方法を使用して診断され得る。例えば、がんは、対象の腫瘍(例えば、腫瘍生検)、血液、体液、または他の組織の試験を通じて診断され得る。対象はまた、乳がんの分類を決定するためにバイオマーカー試験を受けてもよい。
【0108】
「バイオマーカー」という用語は、もっとも一般的な意味で、細胞または患者の健康または疾患ステータスに関する状態の生物学的測定基準を指す。一般的なバイオマーカーの非限定的なリストには、哺乳動物において見出される生物学的に誘導される分子、哺乳動物細胞または組織の生物学的活性、遺伝子コピー数、遺伝子変異、単一ヌクレオチド多型、遺伝子発現レベル、mRNAレベル、スプライスバリアント、転写改変、転写後改変、エピジェネティック改変、細胞表面マーカー、タンパク質または核酸の差次的発現(機能性RNAのすべての形態を含む)、核酸の増幅、細胞形態学、翻訳後改変、タンパク質切断、リン酸化、脱リン酸化、ユビキチン化、脱ユビキチン化、代謝産物、生合成の任意のステージにおけるホルモン、サイトカイン、ケモカイン、およびこれらの組合せが挙げられる。病理医が疾患を診断するのを補助し、医師が治療を処方するのを補助するために、バイオマーカーのサブセットが、診断および治療の選択目的で使用される。バイオマーカーは、典型的に、固定しマウントした組織において、遺伝子コピー数、遺伝子変異、またはタンパク質の状態もしくは活性の指定なしでのタンパク質のレベルを、測定する。
【0109】
「バイオマーカーステータス」という用語は、患者または患者の細胞におけるバイオマーカーの評価を指し、典型的には、バイオマーカーが存在する場合には「バイオマーカー陽性」として、バイオマーカーが不在である場合には「バイオマーカー陰性」として報告される。タンパク質受容体をバイオマーカーとして使用する場合(例えば、HER2/ErbB2またはER)、バイオマーカー陽性結果はまた、受容体が過剰発現または増幅されていることを指し、バイオマーカー陰性結果は、受容体が正常に発現されているかまたは増幅されていないことを指す。バイオマーカーまたはバイオマーカーシグネチャーが疾患進行の予後指標であるか、またはそれらが治療有効性を予測する疾患については、現在の臨床実施は、バイオマーカーの量またはその関連する変異の測定値に依存して、患者をバイオマーカー陰性または陽性のいずれかとして分類することによって、患者の診断を精緻化している。
【0110】
「HER2/ErbB2ステータス」という用語は、バイオマーカーとしての患者または患者の細胞(例えば、がん細胞)におけるHER2/ErbB2の発現の評価を指し、このステータスは、典型的には、固定した組織試料のIHC染色試験によって決定した場合に、バイオマーカーが、正常な健常非がん乳房組織試料と比較して過剰量で存在する場合には「HER2/ErbB2陽性」として報告されるか、またはバイオマーカーが、正常な健常非がん乳房組織試料を上回らないレベルで存在する場合には「HER2/ErbB2陰性」として報告される。典型的には、患者の細胞によって発現される、受容体の量(IHC)、またはmRNAレベル(qPCR)、または遺伝子コピー数(FISH)に焦点を当てて、HER2/ErbB2ステータスを評価し、それによって、患者をHER2/ErbB陽性(この受容体が患者の細胞において過剰発現もしくは増幅されている場合)またはHER2/ErbB陰性(この受容体が患者の細胞において過剰発現も増幅もされていない場合)として診断するための様々な方法が、当該技術分野において公知である。過剰発現および増幅は、疾患を有さない正常な個体に由来する類似の組織において見出されるものを上回って上昇しているレベルを説明する、技術用語である。
【0111】
「エストロゲン受容体ステータス」または「ERステータス」という用語は、患者または患者の細胞(例えば、がん細胞)におけるバイオマーカーとしてのERの発現の評価を指し、このステータスは、典型的には、バイオマーカーが染色し固定した標本の核内に過剰発現されている場合には「ER陽性」として、またはバイオマーカーが染色し固定した標本の核内に正常に発現されているかもしくは不在である場合には「ER陰性」として報告される。典型的には、患者の細胞によって発現される受容体の量(IHC)またはmRNAレベル(qPCR)に焦点を当てて、ERステータスを評価し、それによって、患者をER陽性(この受容体が患者の細胞において発現されている場合)またはER陰性(この受容体が患者の細胞には発現されていない場合)として診断するための様々な方法が、当該技術分野において公知である。
【0112】
「標的化経路薬」、「経路薬」、または「標的化薬」という用語は、疾患プロセスに関与する特定の生体分子(例えば、タンパク質)に結合し、それによってその活性を調節するように設計された治療能力を有する任意の分子または抗体を指す。
【0113】
「HER2療法」または「HER2標的化療法」という用語は、HER2分子および/またはシグナル伝達経路を特異的に標的とするように設計された1つまたは複数の治療剤を使用した処置を指し、これには、例えば、HER2分子および/またはシグナル伝達経路を標的とする抗体および小分子が含まれるが、これらに限定されない。そのようなHER2療法はまた、HERファミリーの他のメンバーを標的としてもよく、例えば、HER1およびHER2の両方、HER1、HER2、およびHER4、またはHER3単独を標的とする治療法であり得る。
【0114】
「ER療法」、「ER標的化療法」、または「ホルモン療法」という用語は、ER分子および/またはシグナル伝達経路を特異的に標的とするように設計された1つまたは複数の治療剤を使用した処置を指し、これには、アロマターゼ阻害剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、および選択的エストロゲン受容体分解因子、ならびにそのような治療法と、サイクリン依存性キナーゼCDK4およびCDK6を阻害する治療法との組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0115】
一部の実施形態では、乳がんは、転移性、ホルモン耐性、エストロゲン受容体陽性、エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、プロゲステロン受容体陽性、トリプルネガティブ、HER2陽性、またはHER2陰性の乳がんである。さらなる実施形態では、対象は、閉経前または閉経後の女性患者である。
【0116】
一部の実施形態では、乳がんは、基底またはルミナルサブタイプである。乳がんは、不均一な疾患であることが公知である。(i)乳がん腫瘍の分子プロファイル、(ii)遺伝子アレイ試験、または(iii)免疫組織化学分析アプローチに基づいて定義することができる異なるサブタイプが存在する。具体的には、乳管は、管腔層および筋上皮層が基底膜に付着したものから構成される、二重層構造である。基底という用語は、重層上皮の基底層から生じるある特定のがんを指す。基底サブタイプの乳癌は、乳房の乳管上皮の先端層または管腔層とは逆側の基底層に存在する。そのようながんは、別個の異なる細胞学特質および遺伝子発現プロファイル、例えば、皮膚の基底細胞において最初に観察される中間径線維プロファイル(サイトケラチン)を有する。
【0117】
乳がんのうちのおよそ14~20%が、基底様である。基底様乳がんは、免疫表現型マーカーに関してトリプルネガティブER-/PR-/HER2-であるが、CK5/6を発現するという点で、ルミナルがんとは異なる。基底様乳がんは、低酸素症の増加および高い腫瘍グレードを示し、高い細胞増殖および臨床転帰不良によって特徴付けられる侵襲性表現型を有する。ほとんどのBRCA1乳がんおよび多くのBRCA2乳がんは、いずれも、トリプルネガティブ/基底様である。トリプルネガティブ/基底様腫瘍は、侵襲性であり、エストロゲン受容体陽性サブタイプ(ルミナルAおよびルミナルB腫瘍)と比較してより不良な予後を有することが多い。トリプルネガティブ/基底様腫瘍は、通常、外科手術、放射線療法、および化学療法のなんらかの組合せで処置される。これらの腫瘍は、ホルモン受容体陰性でありHER2/neu陰性であるため、ホルモン療法またはトラスツズマブで処置することができない。
【0118】
ほとんどの乳がんは、ルミナル腫瘍である。ルミナル腫瘍細胞は、乳管を裏打ちする内部(管腔)細胞を起源とする乳がんの細胞に似ている。ルミナルA乳がんは、ER+および/またはPR+、HER2-、低Ki67である。乳がんのうちの約42~59%は、ルミナルAである。ルミナルA腫瘍は、低または中等度の腫瘍グレードのものである傾向にある。4つのサブタイプのうち、ルミナルA腫瘍は、もっとも良好な予後を有する傾向にあり、生存率が非常に高く、再発率が非常に低い。ルミナルA腫瘍のうちの約15%のみが、より不良な予後とつながっている因子であるp53変異を有する。
【0119】
ルミナルB乳がんは、ER+および/またはPR+、HER2+(または高Ki67を伴うHER2-)である。乳がんのうちの約6~17%が、ルミナルBである。ルミナルB腫瘍を有する女性は、ルミナルA腫瘍を有するものよりも若齢で診断されることが多い。ルミナルA腫瘍と比較すると、ルミナルB腫瘍はまた、より不良な腫瘍グレード、より大きな腫瘍サイズ、およびp53遺伝子変異を含む、より不良な予後をもたらす因子を有する傾向にもある。一般に、ルミナルB腫瘍を有する女性は、ルミナルA腫瘍を有するものほどは高くないが、非常に高い生存率を有する。
【0120】
一部の実施形態では、乳がんは、乳管上皮内癌(乳管内の癌)、非浸潤性小葉癌(lobular carcinoma in situ)、侵襲性(もしくは浸潤性)乳管癌、侵襲性(もしくは浸潤性)小葉癌、炎症性乳がん、トリプルネガティブ乳がん、乳首のパジェット病、葉状腫瘍、血管肉腫、または侵襲性乳癌である。一部の実施形態では、侵襲性乳癌は、さらに、サブタイプにカテゴリー分けされる。一部の実施形態では、サブタイプとしては、腺様嚢胞(もしくは腺嚢胞)癌、低グレード腺扁平上皮癌、髄様癌、粘液性(もしくは膠質)癌、乳頭状癌、管状癌、化生性癌、微小乳頭状癌(micropapillary carcinoma)、または混合型癌が挙げられる。
【0121】
一部の実施形態では、乳がんは、ステージ、または腫瘍細胞が乳房組織内でおよび身体の他の部分へどの程度拡がっているかに従って分類される。乳がんには、ステージ0~IVの5つのステージがある。本明細書に記載されるがんを処置する方法は、ステージ0~ステージIVとして分類される乳がんを有する患者を処置するために使用され得る。
【0122】
ステージ0の乳がんは、非侵襲性乳がん、またはがん細胞もしくは異常な非がん性細胞が起源部位から出ているエビデンスがないものを指す。ステージIの乳がんは、がん細胞が周囲組織に侵襲している侵襲性乳がんを指す。ステージIは、ステージIAおよびIBに細分類され、ステージIAは、腫瘍測定値が最大2cmであり、がん細胞の拡がりがないものを説明する。ステージIBは、乳房に腫瘍がないが、リンパ節内に0.2mm~2mmのがん細胞の小さなしこりを有するものを説明する。ステージIIの乳がんは、さらに、ステージIIAおよびIIBに細分割される。ステージIIAは、乳房のみに2cm~5cmの腫瘍がある、または乳房に腫瘍がないが、腋窩リンパ節に2mm~2cmのがんを有するものを説明する。ステージIIBは、乳房のみに5cmよりも大きな腫瘍がある、または乳房に2cm~5cmの腫瘍があり、腋窩リンパ節に0.2mm~2mmの小さな腫瘍が存在するものを説明する。ステージIIIの乳がんは、さらに、ステージIIIA、IIIB、およびIIICに細分割される。ステージIIIAは、乳房に腫瘍がないか、または5cmを上回る腫瘍があり、4~9箇所の腋窩リンパ節に小さな腫瘍がある、または腋窩リンパ節にサイズが0.2mm~2mmの小さな腫瘍があるものを説明する。ステージIIIBは、腫瘍が胸壁または乳房の皮膚に拡がり腫脹または潰瘍を引き起こしており、最大9個の腋窩リンパ節に腫瘍が存在するものを説明する。炎症性乳がんもまた、ステージIIIBと考えられる。ステージIIICは、腫瘍がないか、または腫瘍が胸壁もしくは乳房の皮膚に拡がっており、10個またはそれよりも多くの腋窩リンパ節に腫瘍が存在するものを説明する。ステージIVの乳がんは、リンパ節および身体の他の部分に転移した侵襲性乳がんを指す。
【0123】
他の実施形態では、がんは、副腎がん、リンパ系、例えば、リンパ節のがん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、単クローン性高ガンマグロブリン血症、良性単クローン性高ガンマグロブリン血症、重鎖病、骨および結合組織の肉腫、脳腫瘍、甲状腺がん、膵臓がん、下垂体がん、眼がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、胆嚢がん、胆管癌、肺がん、口腔がん、皮膚がん、腎臓がん、ウィルムス腫瘍、および膀胱がんであり得る。
【0124】
一部の実施形態では、ヒト対象は、12ヶ月未満(例えば、6ヶ月未満)の期間で、がん(例えば、乳がん)に対する先行する処置(例えば、内分泌処置)が失敗している。一部の実施形態では、ヒト対象は、がんに対する2つまたはそれよりも多くの先行する処置が失敗している。失敗した先行する処置は、がんに対する内分泌処置および/または非内分泌処置であり得る。
【0125】
VII.投与
28日サイクルでのゲダトリシブの投与(3週間にわたる毎週の投与および1週間のゲダトリシブ休薬)は、非周期的な(毎週の)投与スケジュールと比較した場合に、より有効であることが見出された。28日サイクルは、ゲダトリシブを、1週間に1回、3週間にわたり静脈内投与すること(例えば、サイクルの1日目、8日目、および15日目に)、続いて1週間ゲダトリシブを投与しないこと(例えば、21日目にゲダトリシブを投与しないこと)を含む。
【0126】
本発明の一態様は、ヒト対象におけるがんを処置する方法に関する。本方法は、がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップを含む。ヒト対象は、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルを、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与される。これに続いて、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与が中断される1週間がある。ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与は、次いで、中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、再開される。少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、このサイクルは、少なくとも2サイクル反復される。
【0127】
一部の実施形態では、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの再開した投与は、3週間の期間にわたり少なくとも1週間に1回生じる。
【0128】
さらなる実施形態では、投与のサイクルは、少なくとも3サイクル、少なくとも4サイクル、少なくとも5サイクル、少なくとも6サイクル、少なくとも7サイクル、少なくとも8サイクル、少なくとも9サイクル、または少なくとも10サイクル、またはそれよりも多くのサイクルにわたり生じる。投与は、所望される転帰(例えば、がんの寛解)を得るために必要に応じたサイクル数、または処置が必要となくなるまで、生じ得る。例えば、投与は、少なくとも20サイクル、少なくとも30サイクル、少なくとも40サイクル、または少なくとも50サイクルにわたり生じ得る。
【0129】
一部の実施形態では、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルは、1週間に1回、180mgの用量で投与される。当業者には明らかであるように、対象に投与されるゲダトリシブの用量は、対象、疾患の重症度、および投与の様式に応じて増加または減少させてもよい。例えば、投与されるゲダトリシブの用量は、1週間当たり約25mg、1週間当たり50mg、1週間当たり100mg、1週間当たり150mg、または1週間当たり200mgから、最大で1週間当たり約50mg、1週間当たり100mg、1週間当たり150mg、1週間当たり225mg、または1週間当たり250mgまでの範囲に及び得る。
【0130】
本明細書に記載される方法はまた、追加の治療用化合物の投与を含んでもよい。追加の治療用化合物は、ゲダトリシブと同時に投与され得る。あるいは、追加の治療用化合物の投与は、ゲダトリシブの投与とは非同時的に生じ得る。
【0131】
一部の実施形態では、本方法はまた、ヒト対象に、CDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップも含む。CDK 4/6阻害剤の投与は、次いで、1週間の期間にわたり中断され、続いて、少なくとも1週間にわたりCDK 4/6阻害剤の再開した投与がある。CDK 4/6阻害剤の投与および投与中断のサイクルは、少なくとも2サイクル反復される。
【0132】
がんを処置する方法の一部の実施形態では、CDK 4/6阻害剤の投与は、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステルの投与と同じ週の間に生じる。本明細書における方法に有用であり得るCDK 4/6阻害剤としては、パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブ、トリラシクリブ、ダルピシクリブ、リビシクリブ、およびこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、CDK 4/6阻害剤は、パルボシクリブである。パルボシクリブは、医師によって決定される所望される転帰を生じる用量で投与され得る。例えば、パルボシクリブの用量は、1日当たり125mg、1日当たり100mg、または1日当たり75mgであり得る。好ましくは、パルボシクリブの用量は、1日当たり125mgである。
【0133】
がんを処置する方法の一部の実施形態は、ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを投与するステップを含む。本発明の方法において使用され得るエストロゲン受容体アンタゴニストの例は、上記に考察されている。好ましくは、エストロゲン受容体アンタゴニストは、フルベストラントである。フルベストラントは、医師によって決定される所望される転帰を生じる用量で投与され得る。例えば、フルベストラントの用量は、6週間にわたり1週間おきに(例えば、1日目、15日目、29日目に)、それ以降は1ヶ月に1回で、筋肉内注射として、500mgまたは200mgであり得る。一部の実施形態では、フルベストラントは、2週間ごとに500mgの用量で投与される。さらなる実施形態では、フルベストラントは、4週間ごとに500mgの用量で投与される。
【0134】
本出願のさらなる態様は、ヒト対象におけるがんを処置する方法であって、がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップを含む、方法に関する。本方法は、ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップを含む。これに続いて、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与が中断される1週間の期間がある。次いで、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与は、中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、再開される。少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、このサイクルは、少なくとも2サイクル反復される。
【0135】
一部の実施形態では、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の再開した投与は、3週間の期間にわたり少なくとも1週間に1回生じる。
【0136】
本願の別の態様は、ヒト対象におけるがんを処置する方法に関する。方法は、がんの処置を必要とするヒト対象を選択するステップと、ヒト対象に、治療有効量のゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤を、少なくとも1週間に1回、3週間の期間にわたり投与するステップと、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与を、1週間の期間にわたり中断するステップと、中断期間の後に、少なくとも1週間に1回、ゲダトリシブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはエステル、およびCDK 4/6阻害剤の投与を再開するステップであって、少なくとも3週間の期間にわたる投与および少なくとも1週間の期間にわたる投与中断が、1サイクルを構成し、サイクルが、少なくとも2サイクル反復される、ステップと、ヒト対象に、エストロゲン受容体アンタゴニストを投与するステップとを含む。
【0137】
一部の実施形態では、ヒト対象は、ホルモン依存性がん(例えば、乳がん)の処置のために、ゲダトリシブを、1週間に1回、3週間にわたり静脈内投与され、続いて、1週間、ゲダトリシブは投与されない。一部の実施形態では、対象は、12ヶ月未満の期間(例えば、6ヶ月の期間)で、乳がんに対する先行する処置(例えば、内分泌処置)が失敗している。一部の実施形態では、対象は、がんに対する2つまたはそれよりも多くの先行する処置が失敗している。失敗した先行する処置は、がんに対する内分泌処置および/または非内分泌処置もしくはがんであり得る。
【0138】
本発明の方法は、アジュバント処置として使用され得る。本明細書において使用される場合、「アジュバント処置」は、最初の非化学療法的治療、例えば、外科手術または放射線療法の直後のがん患者の治療法を意味するものとする。一般に、アジュバント療法の目的は、アジュバント療法なしの場合と比較して、有意に低い再発のリスクを提供することである。例えば、対象は、外科手術または放射線療法を受け得、その後に、本明細書に記載される方法を使用した処置を受けている。
【0139】
本明細書に記載される方法の転帰および有効性は、任意の好適な方法を使用して評価することができる。本明細書に開示される方法によって減弱または排除され得るがんの症状としては、対象または患者における任意の主観的、客観的、または定量的な疾患または他の身体異常のエビデンスが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、症状としては、腫瘍サイズ、疼痛、頭痛、悪心、がんまたはがんの進行の指標である血液マーカー(例えば、CA15.3、TRU-QUANT、CA27.29、CA125、CEA(癌胎児性抗原)、循環腫瘍細胞)などを挙げることができる。
【0140】
一部の実施形態では、処置の方法は、延長された無増悪生存(PFS)、全生存(OS)、および生活の質の改善を結果としてもたらす。
【0141】
一部の実施形態では、対象は、部分奏効(PR)を達成する。部分奏効は、完全寛解を達成することのない腫瘍サイズの低減として定義され得る。腫瘍サイズの低減により、対象が腫瘍を除去するための外科手術を受けることが可能となり得る。
【0142】
一部の実施形態では、対象は、完全奏効(CR)を達成する。完全奏効は、がんの完全寛解として定義され得る。
【0143】
VIII.追加の組合せ治療
一部の実施形態では、本発明は、がんを処置する方法であって、対象に、1つまたは複数の追加の抗がん剤と組み合わせて、またはそれとの併用処置レジメンで、ゲダトリシブを(例えば、本明細書に記載される投薬量レジメンに従って)投与するステップを含む、方法を提供する。ある実施形態では、抗がん剤は、チェックポイント阻害剤である。ある実施形態では、チェックポイント阻害剤は、生物学的治療剤または小分子である。チェックポイント阻害剤は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、融合タンパク質、またはこれらの組合せであり得る。チェックポイント阻害剤は、CTLA-4、PDL1、PDL2、PD1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK 1、CHK2、A2aR、B-7ファミリーリガンド、およびこれらの組合せから選択されるチェックポイントタンパク質を阻害し得る。チェックポイント阻害剤は、CTLA-4、PDL1、PDL2、PD1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK 1、CHK2、A2aR、B-7ファミリーリガンド、またはこれらの組合せであり得るチェックポイントタンパク質のリガンドと相互作用し得る。一部の実施形態では、治療剤は、免疫刺激剤、T細胞成長因子、インターロイキン(例えば、IL-7もしくはIL-15)、抗体、ワクチン(例えば、樹状細胞(DC)ワクチン)、またはこれらの組合せである。
【0144】
一部の実施形態では、処置有効性は、臨床転帰、例えば、T細胞による抗腫瘍活性の増加、増強、もしくは延長、抗腫瘍T細胞もしくは活性化T細胞の数の処置前の数と比較した増加、またはこれらの組合せによって決定される。別の態様では、臨床転帰は、腫瘍安定化、腫瘍退縮もしくは安定化、腫瘍縮小、腫瘍壊死、免疫系による抗腫瘍応答、腫瘍増殖、再発、もしくは拡がりの阻害、またはこれらの組合せである。
【0145】
さらなる実施形態では、チェックポイント阻害剤およびゲダトリシブは、同時、またはいずれかの順序で逐次的に、投与される。追加の実施形態では、ゲダトリシブは、チェックポイント阻害剤の前に投与される。
【0146】
ある実施形態では、対象に共投与され得る追加の抗がん剤は、化学療法剤、例えば、細胞傷害性化学療法医薬化合物である。
【0147】
本明細書において使用される場合、「化学療法」または「化学療法剤」という用語は、望ましくない細胞、例えば、がん細胞の成長または増殖を低減または排除するための細胞増殖抑制性または細胞傷害性の薬剤(すなわち、化合物)での処置を指す。したがって、本明細書において使用される場合、「化学療法」または「化学療法剤」は、増殖性障害、例えば、がんを処置するために使用される細胞傷害性または細胞増殖抑制性の薬剤を指す。
【0148】
例示的な細胞傷害性化学療法医薬化合物としては、シクロホスファミド、イホスファミド(ifosamide)、メトトレキサート、置換ヌクレオチド、置換ヌクレオシド、フルオロウラシル、マイトマイシン、アドリアマイシン、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、またはこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
一部の実施形態では、ゲダトリシブに加えて、対象は、補助治療、例えば、頭痛に対する鎮痛薬、注入関連反応(IRR)に対する処置、および注入関連反応に対する予防が投与される。IRRの症状としては、例えば、紅潮、心拍数および血圧の変化、呼吸困難、気管支痙攣、背部痛、発熱、蕁麻疹、浮腫、悪心、および発疹が挙げられる。
【0150】
一部の実施形態では、IRRに対する処置は、アセトアミノフェン、IV水分補給、ジフェンヒドラミン、ヒスタミン遮断剤(例えば、ファモチジン)、およびコルチコステロイドからなる群より選択される。
【0151】
一部の実施形態では、IRRに対する予防(例えば、対象がコルチコステロイドでの処置を必要とするIRRを経験する場合)は、ゲダトリシブの投与の前にヒドロコルチゾン(例えば、ヒドロコルチゾンIV)を投与することを含む。
【0152】
本出願全体を通じて引用された、すべての図面およびすべての参考文献、Genbank配列、論文刊行物、特許、ならびに公開特許出願の内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に明確に組み込まれる。さらに、参照により本明細書に組み込まれる参考文献中に用語の定義または使用が、本明細書に提供されるその用語の定義と一致しないかまたは反する場合、本明細書に提供されるその用語の定義が適用され、参考文献中のその用語の定義は適用されない。
【0153】
以下の実施例は、単なる例示であり、本開示を読めば多数の変化形および同等物が当業者には明らかであるため、決して本開示の範囲を制限するものと見なされるものではない。
【実施例
【0154】
(実施例1:転移性乳がんまたは局所進行性/再発性乳がんを有する女性におけるゲダトリシブ+パルボシクリブ+フルベストラントの3アームのフェーズ1b試験)
PI3K/AKT/mTOR経路の上方調節は、ホルモン依存性および非依存性ER転写活性を促進し、これが、内分泌耐性に寄与し、腫瘍細胞の成長、生存、運動性、および代謝をもたらす。PI3KおよびmTOR阻害により、内分泌療法に対する感受性を回復させることができ、2つの治療法の組合せについての強力な理論的根拠を提供することもまた、in vivoで実証されている。加えて、PI3K/AKT/mTOR経路は、他の分裂促進経路と同等に、サイクリンDおよびCDK4/6の活性を促進して、増殖性細胞周期を駆動させることもできる。Pfizerによって実施された内部前臨床研究では、細胞系異種移植片モデルにおいて、PI3KおよびCDK4/6阻害剤の組合せが、内分泌療法に対する本質的および適応性の両方の耐性を克服し、腫瘍退縮をもたらし得るというエビデンスが提供された。MCF7異種移植片モデル(ER+/HER2-/PIK3CA変異体)において、ゲダトリシブとパルボシクリブおよびフルベストラントとの組合せは、長期間の腫瘍退縮をもたらした。重要なことに、腫瘍は、20日間以内の3剤療法で最小体積まで退縮し、最大で90日間、さらなる治療なしで休眠した状態が継続された。
【0155】
この仮定を評価するために、Pfizerは、ER+/HER2-転移性乳がんを有する患者において、標準用量のパルボシクリブ+レトロゾールまたはパルボシクリブ+フルベストラントのいずれかに追加した場合にゲダトリシブを評価するために、安全性および有効性に関して4アームの拡大部分を用いたフェーズ1b試験用量探索試験を開始した。PI3K変異ステータスは、適格性基準として使用しなかった。この試験の患者登録は完了している。フェーズ1b臨床試験の拡大部分に登録された103名の患者についての予備分析では、データベースカットオフ日である2021年1月11日時点で、以下が示された:
・60%の客観的奏効率(ORR):88名の評価可能な患者のうちの53名が、確認または未確認のいずれかの部分奏効、すなわちPRを有した(確認48名、未確認5名)。
・75%の臨床有益率(CBR):88名の評価可能な患者のうちの66名が、確認されたPRまたは24週間にわたり安定病態のいずれかを有した。
・アームDに登録された患者は、この試験に登録される研究集団である直近の先行する治療がCDK4/6阻害剤と組み合わせた内分泌療法であった患者を表す。
・メジアン無増悪生存は、13.2ヶ月間であった。
・これは、およそ5.7ヶ月間の標準ケア治療についての加重平均メジアンPFSと同等である。
【0156】
1.目的
この研究の主要目的は、ゲダトリシブを標準用量のパルボシクリブ/レトロゾールまたはパルボシクリブ/フルベストラントのいずれかに追加した3剤の組合せの安全性、耐容性、最大耐容量(MTD)を評価することであった。別の目的は、ゲダトリシブ+パルボシクリブ/レトロゾールまたはゲダトリシブ+パルボシクリブ/フルベストラントの3剤の組合せが、転移性乳がん(mBC)を有する患者において、パルボシクリブにレトロゾールまたはフルベストラントのいずれかを追加した2剤の組合せに関する過去の対照データと比較して、優れた客観的奏効(OR)を生じるかどうかを決定することであった。
【0157】
副次目的には、用量漸増部分において抗腫瘍活性を評価するため、拡大部分において奏効期間(DR)および無増悪生存期間(PFS)を含む追加の有効性パラメーターを評価するため、QTc間隔延長の可能性を特徴付けるため、ゲダトリシブおよびパルボシクリブの単回用量および複数回用量の薬物動態(PK)、ならびにフルベストラントおよびレトロゾールの複数回用量の薬物動態(用量漸増部分のみ)を評価するため、ならびにゲダトリシブの単回用量および複数回用量の薬物動態(PK)(用量拡大部分のみ)を評価するための、この研究において試験した組合せの安全性および耐容性のさらなる評価が含まれた。
【0158】
2.研究設計
これは、mBCを有する患者におけるフェーズ1b多施設オープンラベル研究である。この研究は、用量漸増および拡大部分の両方を有する。用量漸増部分では、ゲダトリシブ+パルボシクリブ/レトロゾールおよびゲダトリシブ+パルボシクリブ/フルベストラントの組合せのMTDを特定する。拡大部分では、ゲダトリシブ+パルボシクリブ/レトロゾールの組合せ、およびゲダトリシブ+パルボシクリブ/フルベストラントの組合せの客観的奏効率を推定する。
【0159】
用量漸増および用量拡大の研究集団は、ER陽性、HER2陰性、転移性、または局所再発性/進行性乳がん(mBC)を有する任意の閉経ステータスの患者からなる。
【0160】
この研究の用量漸増部分は、まず、180mg/週の用量のゲダトリシブ+標準用量のパルボシクリブ/レトロゾール、または180mg/週の用量のゲダトリシブ+標準用量のパルボシクリブ/フルベストラントの安全性および耐容性を評価する。用量漸増部分は、次いで、ゲダトリシブ+それぞれのレジメンの用量の漸増を探求する。用量漸増中に、10名のDLT評価可能な患者を、予測MTDで処置する。
【0161】
それぞれの組合せのMTDが決定されると、これにより、以下の4つのアームを含む拡大部分の開始がトリガーされる:(1)アームA:第1選択の内分泌ベースの治療法、(2)アームB:第2または第3選択の内分泌ベースの治療法、先行するパルボシクリブ(または他のCDK阻害剤)療法なし、(3)アームC:第2または第3選択の内分泌ベースの治療法、先行するパルボシクリブ(または他のCDK阻害剤)療法への曝露あり、ゲダトリシブを1週間に1回、4週間にわたり投与、ならびに(4)アームD:第2または第3選択の内分泌ベースの治療法、パルボシクリブ(または他のCDK阻害剤)療法(直近のレジメンとして)で進行、ゲダトリシブを3週間投薬/1週間休薬(3:1)のスケジュールで投与。
【0162】
すべてのサイクルは、長さが28日間である。ゲダトリシブを、それぞれのサイクルの1日目、8日目、15日目、および22日目に、毎週に静脈内投与し(ゲダトリシブがそれぞれのサイクルの1日目、8日目、および15日目に投与されるアームDは除く)、パルボシクリブを、125mg/日の経口連続投薬で3週間にわたり投与し、続いて1週間休薬し、それぞれの後続のサイクルを反復する。毎日2.5mgのレトロゾールを、連続的に(毎日)経口で投与し、フルベストラントを、500mgの用量で、サイクル1の1日目、サイクル1の15日目、サイクル2の1日目、次いでそれぞれの後続のサイクルの28日目に(±3日間)筋肉内投与する。
【0163】
処置は、疾患の進行、制御できない毒性、患者もしくは治験責任医師による処置中断の判断、または研究が終了するまで、継続した。DLTを含む毒性を経験した患者は、用量改変または処置の中断により管理する。
【0164】
3.研究手順
安全性臨床検査(血液学、血液化学、尿分析、凝固)および腫瘍評価は、診療所訪問の時点で治験責任医師に結果が入手可能となるのを容易にするために、いずれのサイクルにおいても、予定されている1日目の来院の最大72時間前までに行った。
【0165】
他の試験および/または検査もしくは臨床フォローアップの頻度の増加が、研究から得られる所見に応じて患者の管理に必要となる場合がある。これらの追加の試験または検査の結果は、症例報告書(CRF)に記録される。
【0166】
患者は、登録が承認され登録された時点で、個々の試験識別番号が割り当てられる。
【0167】
スクリーニング評価は、被験製品の開始前の28日以内(別途指定されない限り)に行わなければならない。ベースライン腫瘍生検試料は、記録保管用であってもよく、患者が、新たな腫瘍生検に同意した場合には、これは、被験製品の開始前の28日以内に行わなければならない。
【0168】
スクリーニング/ベースライン評価の一部として、すべての患者は、進行中の同時薬物適用を含む全医療歴、臨床評価(身体検査、バイタルサイン、身長、体重、ECOGパフォーマンスステータス、ベースライン徴候および症状、三連12リード安静時心電図[ECG])、ならびに腫瘍評価を含む)を受ける。必要とされるベースライン臨床検査としては、血液学、凝固および化学、HbA1c、妊娠検査、ならびに尿検査が挙げられる。
【0169】
腫瘍表現型および遺伝子型の文書化は、組織学的または細胞学的分類、ステージの情報、腫瘍グレード、組織学的サブタイプ、ER/プロゲステロン受容体ステータス、HER2ステータス、および任意の公知の腫瘍特異的分子マーカーを含む。初期診断生検に使用される方法に関する情報(生検部位、生検の日付、生検のタイプ)が、提供されている。変異ステータスを確かめるために使用されるゲノム手法が、提供されている。先行する抗腫瘍処置、最良の応答、および処置の期間に関する情報が、すべての患者について提供されている。
【0170】
この研究に登録されたすべての患者は、記録保管されている腫瘍生検にアクセスすること、ならびに様々な細胞シグナル伝達経路と関連するタンパク質および遺伝子における遺伝的変動を検査することに対して、同意を提供することを求められていた。これには、PI3Kおよび他のシグナル伝達経路、例えば、PTEN、PIK3CA、PIK3R1、およびAKTの構成要素が含まれる(が、これらに限定されない)。
【0171】
ベースライン時点で、記録保管されている生検が利用可能でなかった場合、新たな腫瘍生検が、研究参加の前に必要であった。スクリーニング評価および適格性の確認の完了後に、患者が登録され得る。
【0172】
参加者は、割り当てられた研究アームに従って処置を受けた。処置は、疾患進行または許容できない毒性が生じるまで、継続された。
【0173】
4.研究薬の投与
被験製品の投与は、地域、州、および施設のガイダンスによって許容される適切に資格を得た優良臨床試験基準(GCP)の訓練を受けたワクチンの経験を有する研究スタッフのメンバー(例えば、医師、看護師、医師の助手、医療従事者、薬剤師、または医療助手)によって行った。
【0174】
ゲダトリシブの投与
ゲダトリシブを、およそ30分間にわたる静脈内注入として、毎週投与した。(用量漸増;用量拡大:アームA、アームB、およびアームC)。
【0175】
用量拡大部分のアームDでは、ゲダトリシブを、3週間投薬/1週間休薬のスケジュールで、およそ30分間にわたる静脈内注入として投与した。前投薬は必要なかった。
【0176】
パルボシクリブの投与
患者には、パルボシクリブカプセルを、飲み込む前に操作することも噛むこともなく、そのまま飲み込むように指示した。破損、ひび割れ、または他の点で無傷ではないカプセルは、摂取すべきではない。患者には、各日、およそ同じ時間に用量を服用するように勧めた。患者には、患者の日誌に毎日の投与を記録し、パルボシクリブを食事とともに服用するように指示した。パルボシクリブを、それぞれの28日サイクルの間、1日1回、21日間にわたり経口で投与し、続いて、7日間処置を休止した。
【0177】
レトロゾールの投与
レトロゾールの推奨用量は、食事の有無にかかわらず、1日1回投与される2.5mgの錠剤1錠である。
【0178】
フルベストラントの投与
フルベストラントは、最初の1ヶ月の処置の間、負荷用量を必要とする。フルベストラントの用量(500mg)は、1日目、15日目、およびサイクル2の1日目(PKスケジュールに対応するため)に投与する。その後は、毎月の用量を、後続のサイクルの28日目(±3日間)に投与する。
【0179】
フルベストラントの注射は、筋肉内(IM)注射として与えられる。500mgの用量は、250mgずつの2つの注射として、それぞれの臀部に1回5mLの注射として緩徐に(注射1回当たり1~2分間)投与される。
【0180】
5.エンドポイント
この研究の共主要有効性エンドポイント(coprimary efficacy endpoint)は、(1)第1のサイクルの用量制限毒性(DLT)、および(2)治験責任医師によって評価される客観的奏効(OR)であった。
【0181】
この研究の副次有効性エンドポイントは、以下であった。
【0182】
1)タイプ、頻度、重症度、タイミング、重篤性、および研究治療法との関連性によって特徴付けられる有害事象、ならびにタイプ、頻度、重症度、およびタイミングによって特徴付けられる臨床検査異常を含む、安全性。
【0183】
2)研究の用量漸増部分に関する腫瘍応答。
【0184】
3)研究の拡大部分に関するDRおよびPFS(RECIST v 1.1を使用して評価される)。
【0185】
4)QTc間隔。
【0186】
5)ゲダトリシブおよびパルボシクリブの単回および複数回用量のPKパラメーター。フルベストラントおよびレトロゾールの複数回用量のPKパラメーター(用量漸増部分のみ)。
【0187】
6)ゲダトリシブの単回および複数回用量のPKパラメーター(用量拡大部分のみ)。
【0188】
7.結果
アームD患者は、ゲダトリシブ(180mg IVを3週間投薬/1週間休薬)を受けた。データの分析により、ゲダトリシブの処置スケジュールをパルボシクリブの3週間投薬/1週間休薬のスケジュールと同調させることが、内分泌療法での先行する処置により有意な利益を受けられなかった患者において、より有効性があることが、見出された。これは、12ヶ月未満で先行する内分泌処置が失敗した、ゲダトリシブを毎週のスケジュールで受けた患者(アームC)と、ゲダトリシブを3週間投薬/1週間休薬のスケジュールで受けたもの(アームD)との間で、処置の客観的奏効率および期間を分析することによって、決定した。この患者集団のサブセット(6ヶ月未満で先行する処置が失敗した対象)もまた、分析した。アームCの20名の患者およびアームDの11名の患者は、直近の先行する治療で、12ヶ月以内で進行していた。これらの患者の直近の先行する治療での処置のメジアン期間は、本質的に同じであった(146日間対155日間)。これらの患者のうち、アームCで15%およびアームDで73%が、部分的な客観的奏効を報告した。アームC患者のゲダトリシブ、パルボシクリブ、およびフルベストラントでの処置のメジアン期間は、131日間であり、一方で、アームD患者の処置のメジアン期間は、276日間、すなわちアームCよりも2倍を上回って長かった。直近の先行する治療と比較したゲダトリシブでの処置のメジアン期間は、アームCでは0.9倍であり、アームDでは1.8倍であった。アームCの12名の患者およびアームDの7名の患者は、直近の先行する治療で6ヶ月以内で進行していた。これらの患者の直近の先行する治療での処置のメジアン期間は、本質的に同じであった(97日間対106日間)。これらの患者のうち、アームCで0%およびアームDで71%が、部分的な客観的奏効を報告した。アームC患者のゲダトリシブ、パルボシクリブ、およびフルベストラントでの処置のメジアン期間は、わずか81日間であり、一方で、アームD患者の処置のメジアン期間は、270日間、すなわちアームCよりも3倍を上回って長かった。直近の先行する治療と比較したゲダトリシブでの処置のメジアン期間は、アームCではわずか0.8倍であり、アームDでは2.6倍であった。結果を、表1に要約する。
【表1】
【0189】
表1に提示されたデータから見ることができるように、12ヶ月未満(例えば、6ヶ月未満)の期間で以前の処置が失敗している対象(アームD)には、3週間投薬し1週間休薬する周期的な投薬スケジュールのゲダトリシブを受けることの利点が存在する。ゲダトリシブの毎週の投与(アームC)と比較した場合に、アームD群は、より高い部分的な客観的奏効を報告しており、アームC群のものの2倍の処置のメジアン期間を有した。
【0190】
ゲダトリシブの3週間投薬し1週間休薬する周期的な投薬スケジュールの利点はまた、がんに対する2つまたはそれよりも多くの先行する選択の治療が失敗した患者においても見られた。アームDの患者は、アームCの患者よりも、客観的奏効を得る可能性が2.4倍高く(腫瘍量の30%またはそれを上回る低減)、2.28倍長い腫瘍が進行しない期間(無増悪生存)を経験した。この患者集団の分析の結果を、表2に要約する。
【表2】
【0191】
がん患者の治療レジメンの投薬スケジュールを決定するための従来的なアプローチは、フェーズ1臨床試験において最大耐容量を決定することである。このアプローチは、がん治療薬の有効性が、投与される薬物の量と直接的に相関するという理論的根拠に基づいている。投与される治療薬の用量の低減は、したがって、典型的には、患者のその薬物の耐容性を改善する必要性によって動機付けられる。この実施例では、しかしながら、ゲダトリシブは、予想外なことに、投与される投薬量が最大耐容量よりも低い場合に、優れた有効性を示した(毎週180mg)。
【0192】
当業者であれば、多数の様々な改変形態を、本開示の範囲および趣旨から逸脱することなく作製することができることを理解するであろう。したがって、本明細書に記載される本発明の様々な実施形態が、例示にすぎず、本発明の範囲を制限することを意図するものではないことが理解される。本明細書に引用されるすべての参考文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】