(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】アンチセンスオリゴヌクレオチド薬の構造に基づいたデザイン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240730BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240730BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240730BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/88 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/7088
A61P31/14
A61P43/00 105
C12N15/88 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505032
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 US2022038037
(87)【国際公開番号】W WO2023009396
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】グオ, フェン
(72)【発明者】
【氏名】アルムガスワミ, ヴァイティリンガラジャ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を作製するための構造に基づいたデザイン方法およびこの方法によって作製されたASOを提供する。ASOは、広範な疾患と戦うのに特に好適な新たに出現した薬物クラスである。ASOは、標的RNAに特異的に結合して所望の生物学的効果および治療効果を引き出す一本鎖合成オリゴヌクレオチドである。従来のASOデザインストラテジーは、この問題に適切に取り組んでいない。本発明は、種々の疾患で必要不可欠なRNAを標的にする構造に基づいたASOデザインを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を作製するためのプロセスであって、
リボヌクレオチド標的配列を選択する工程であって、
前記リボヌクレオチド標的配列が、天然に存在するリボヌクレオチド分子中に存在する配列として選択され;
前記リボヌクレオチド標的配列が、8~30ヌクレオチド長であり;
前記リボヌクレオチド標的配列が、
前記天然に存在するリボヌクレオチド分子中のRNAループ構造を形成するリボヌクレオチドのセグメント;または
前記天然に存在するリボヌクレオチド分子中のヘアピン構造を形成するリボヌクレオチドのセグメントから1~25ヌクレオチド遠位にあるリボヌクレオチドのセグメント
を含む、選択する工程;および
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を構築する工程であって、前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を、
複数のヌクレオチドを選択することによってアンチセンスオリゴヌクレオチド産物を形成することによって構築し、その結果、
相互に共有結合された場合に、前記複数のヌクレオチドが、前記リボヌクレオチド標的配列に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド産物を形成し、ここで、:
(a)前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の1またはそれを超えるヌクレオチドが、前記天然に存在するリボヌクレオチド分子内の主溝RNA構造または副溝RNA構造と結合相互作用を形成するように選択され;そして/または
(b)前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の1またはそれを超えるヌクレオチドが、前記リボヌクレオチド標的配列とのワトソン・クリック塩基対合および前記天然に存在するリボヌクレオチド分子とのフーグスティーン塩基対合を形成するように選択され;そして/または
(c)前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内のヌクレオチドが、前記リボヌクレオチド標的配列中の少なくとも2つの近位ヌクレオチドと塩基対合相互作用を形成せず、ここで、前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物と塩基対合相互作用を形成しない前記リボヌクレオチド標的配列中の前記少なくとも2つの近位ヌクレオチドが、前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物とワトソン・クリック塩基対合を形成する前記リボヌクレオチド標的配列中の複数のヌクレオチドに挟まれている、構築する工程;および
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が作製されるように、前記複数の選択されたヌクレオチドから前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を形成する工程
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の前記1またはそれを超えるヌクレオチドを、ASO結合の自由エネルギーに寄与する前記天然に存在するリボヌクレオチド分子中の主溝または副溝のRNA構造と結合相互作用を形成するように選択し;そして/または
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の前記1またはそれを超えるヌクレオチドを、ASO結合の自由エネルギーに寄与する前記天然に存在するリボヌクレオチド分子とフーグスティーン塩基対合を形成するように選択する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が、13個と30個の間のヌクレオチドを含む;または
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が、17~25個のヌクレオチドを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも5、6、7、8、9、または10個のヌクレオチドを、前記リボヌクレオチド標的配列と100%の相補性を有する前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中にポリヌクレオチドセグメントを形成するように選択し;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が、前記リボヌクレオチド標的配列とワトソン・クリック結合を形成しない少なくとも1、2、3、4、または5個のヌクレオチドを含み、その結果、前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が、前記リボヌクレオチド標的配列に100%相補的ではない、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド中の最初の5個の末端5’および/または3’ヌクレオチドを、前記天然に存在するリボヌクレオチド分子中で(i)フーグスティーン塩基対合;または(ii)RNA主溝との結合相互作用;または(iii)RNA副溝との結合相互作用を形成する少なくとも1つのヌクレオチドを含むように選択する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が、
プソイドウリジン;
ホスホロチオアート結合;
モルホリノヌクレオチド;
リボース部分の2’糖位の修飾;
2’-MOEメトキシエチル部分;
2-フルオロ部分;または
2’-ヒドロキシ部分
のうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド産物。
【請求項7】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が13~30個のヌクレオチドからなり;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも5個のヌクレオチドを、前記リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有する前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中でポリヌクレオチドセグメントを形成するように選択し;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の末端5’および/または3’の5個のヌクレオチドを、前記天然に存在するリボヌクレオチド分子中の主溝RNA構造または副溝RNA構造と結合相互作用を形成する少なくとも1個のヌクレオチドを含むように選択する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が17~25個のヌクレオチドからなり;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも10個のヌクレオチドを、前記リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有する前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中でポリヌクレオチドセグメントを形成するように選択し;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド中の少なくとも1個のヌクレオチドが、前記リボヌクレオチド標的配列とのワトソン・クリック塩基対合および前記天然に存在するリボヌクレオチド分子とのフーグスティーン塩基対合を形成する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を、リポソームまたはナノ粒子の医薬組成物と組み合わせる工程をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
請求項1に記載のプロセスによって作製されたアンチセンスオリゴヌクレオチド産物。
【請求項11】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が、13~30個のヌクレオチドを含む、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が17~30個のヌクレオチドからなり;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも5個のヌクレオチドが、前記リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有する前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中にポリヌクレオチドセグメントを形成し;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド中の最初の5個の末端5’および/または3’ヌクレオチドが、前記天然に存在するリボヌクレオチド分子中のRNA主溝との結合相互作用;または前記天然に存在するリボヌクレオチド分子中のRNA副溝との結合相互作用を形成する少なくとも1個のヌクレオチドを含む、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項13】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が17~25個のヌクレオチドからなり;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも10個のヌクレオチドが、前記リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有する前記アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中にポリヌクレオチドセグメントを形成し;
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド中の少なくとも1個のヌクレオチドが、前記リボヌクレオチド標的配列とのワトソン・クリック塩基対合および前記天然に存在するリボヌクレオチド分子とのフーグスティーン塩基対合を形成する、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項14】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、
プソイドウリジン;
ホスホロチオアート結合;
モルホリノヌクレオチド;
リボース部分の2’糖位の修飾;
2’-MOEメトキシエチル部分;
2-フルオロ部分;または
2’-ヒドロキシ部分
のうちの少なくとも1つを含む、請求項13に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
医薬品賦形剤、リポソーム、またはナノ粒子のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
前記標的配列が、ウイルス、細菌、または真菌によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
前記標的配列が、ヒト細胞によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
前記標的配列が、ヒト寄生虫によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項19】
標的配列が、
ヒトタウ遺伝子;
ヒトベータアミロイド遺伝子;
Covid19遺伝子;
ヒトデュシェンヌ型筋ジストロフィ遺伝子;
ヒトFANCD2/FANCI関連ヌクレアーゼ1(KIAA1018)遺伝子;または
ヒトmicroRNA(miRNA)遺伝子
によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する、請求項16に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド産物。
【請求項20】
前記オリゴヌクレオチドが、以下の配列:
5’-CGTTTAGAGAACAGTTTCT-3’(配列番号41)、
5’-CGTTTAGAGAACAGATTCT-3’(配列番号42);
5’-GATGTCAAAAGCCCTGTAGTAC-3’(配列番号43);
5’-TGTCAAAAGCCCTGTAGTAC-3’(配列番号44);または
5’-ATGTCAAAAGCCCTGTAGTAC-3’(配列番号45)
を含む、請求項19に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド産物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2021年7月28日に出願され、発明の名称が「アンチセンスオリゴヌクレオチド薬の構造に基づいたデザイン」である本発明の譲受人に譲渡された同時継続中の米国特許仮出願第63/226,617号(この出願は、本明細書中で参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する声明
本発明を、米国国立科学財団によって授与された助成金番号1616265の下で政府支援を受けて実施した。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明の分野は、アンチセンスオリゴヌクレオチド組成物およびその作製および使用のための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は、標的RNAに特異的に結合して所望の生物学的効果および治療効果を引き出す一本鎖合成オリゴヌクレオチドである。このテクノロジーの分野の当業者は、ウイルス性疾患、真菌性疾患、および代謝性疾患に関与する遺伝子発現をモジュレートすることができるアンチセンス、三重鎖、および他のオリゴヌクレオチド組成物をデザインしてきており、いくつかのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、動物およびヒトの病状の処置における治療剤としての使用が承認されている。例えば、1998年に、ホスホロチオアートオリゴヌクレオチド薬ビトラベンン(ISIS2922)が、AIDS患者におけるサイトメガロウイルス網膜炎の処置用としてFDAによって承認された。アンチセンスオリゴヌクレオチドは長年にわたってヒトに安全に投与されている一方で、オリゴヌクレオチドデザイン方法論にはある特定の課題による制約があり、これらの分子に十分な治療ポテンシャルを持たせるまでには至っていない。
【0005】
標的RNAに特異的に結合して所望の生物学的効果および治療効果を引き出すようにデザインされたASOが非常に望ましい。不運なことに、RNA分子は、複雑な二次構造を形成する傾向があるために適切な親和性および特異性での所望の標的へのASO結合の妨げとなることが、本技術分野での問題となっている。
【0006】
改良されたアンチセンスオリゴヌクレオチドの作製方法およびかかる方法によって作製された改良アンチセンスオリゴヌクレオチドが必要である。例えば、種々の病状に関連する三次元RNA標的に結合することができるASOを作製するための新規のテクノロジーは、治療的介入についての、特に、以前は創薬可能ではないと見なされていたタンパク質を産生する遺伝子についての新たな機会を切り開く。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
上述のように、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、広範な疾患と戦うのに好適な新たに登場した薬物クラスである。本明細書中に開示の発明は、かかるアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製するための新規の構造に基づいたデザイン方法論の中核をなすものである。本明細書中に開示の発明の実施形態は、ASOデザインストラテジーにおいて標的RNA構造の三次元構造を考慮した方法を含む。かかる構造に基づいた方法を使用して、種々の病状に極めて重要なRNAを標的にする新規のASOを作製することができる。この文脈では、本開示は、かかる非従来型のASOをデザインするために驚異的に有用であることが発見された選択方法を含む。例えば、本明細書中に開示の方法を使用して、テンプレートとアイソステリックであり、ASO/標的相互作用を増強するヌクレオチド塩基トリプルおよびフーグスティーン対合などを含むASOをデザインすることができる。ASO標的結合におけるかかる三次相互作用の有用性および重要性を、本明細書中で本発明の例証となるASO組成物の生化学的分析によってさらに実証する。
【0008】
本明細書中に開示の3D-ASOの作製プロセスは、典型的には、標的に特異的なRNA配列を最初に同定することを含むいくつかの工程を含む。これらの標的配列としては、エクソン、mRNAスプライス部位、スプライシングに重要なイントロン領域、プログラムされたリボソームフレームシフトエレメント、microRNA結合部位、タンパク質結合部位、ポリアデニル化シグナル、翻訳開始部位、および5’および3’UTR中の他の機能的に重要な部位が挙げられるが、これらに限定されない。この文脈では、標的配列の三次元構造を、RNAstructure16およびMFOLD17などのRNA二次構造予測プログラムを使用して同定することができる。RNA二次構造予測プログラムは、殆どの場合、自由エネルギーレベルの低い一連の構造を提供する。通常、自由エネルギーレベルが低いデザイン可能な標的構造は、RNA二次構造予測プログラムを使用して高頻度に同定される。例えば、RNAループ構造は、本明細書中に開示の3D-ASOデザインに非常に望ましい標的と見なされる。対照的に、RNA二次構造予測プログラムによって同定された比較的弱いまたは信頼性が低い自由エネルギー構造を、本明細書中に開示のASOデザイン方法論では無視することができる。さらに、標的RNAの構造は、遊離状態とASO結合状態とで同一でなくてよい。時折、未変性の標的RNA構造を破壊することを目的とする。かかる状況では、本明細書中に開示の3D-ASOは、例えば、かかる天然に存在するリボヌクレオチド分子の構造の一部を乱すことおよび/または代替構造を形成することによって天然に存在するリボヌクレオチド分子の三次元構造の修飾物質(modulator)として作用することができる。
【0009】
本明細書中に提供した開示は、新規のデザイン方法論を記載し、かかる方法によって作製された一連の例証となる3D-ASO産物をさらに示す。ある特定の例証となる作業実施形態では、本開示は、SARS-CoV-2 RNAを標的にすることによるヒト細胞中のSARS-CoV-2ウイルス複製に対するある特定の3D-ASOデザインの強力な阻害を示すデータを提供する。このデータは、本明細書中に開示の構造デザイン方法論、ならびに、これらの方法によって作製されたASOの能力(power)および固有の価値を実証する。
【0010】
本明細書中に開示の方法の詳細な態様を、以下で考察する。典型的には、本発明の方法では、適切なヘアピン構造または二重鎖構造が天然に存在するRNA分子中のRNA標的配列として同定されると、この標的に結合する3D-ASO配列をデザインするために、特異的ヌクレオチド選択工程を行う。例えば、以下に考察するように、デザインテンプレートを使用して、天然に存在するRNA分子と非標準の塩基対合を形成することができるかかるASO配列の5’末端および/または3’末端上に配置すべきヌクレオチドを選択することができるのに対して、ASO中の他の内部ヌクレオチドを、かかるRNA分子中の標的オリゴヌクレオチド配列に対するその配列相補性について選択する。2つのRNA構造が天然に存在する標的RNA分子内で適切に離れている場合、ASOの両末端を、例えば、本明細書中に開示の3Dテンプレートを使用して、結合を容易にするように改変し得る。例えば、
図13に示す例証となるテンプレートA~Dでは、最強の拘束は、主溝セグメントおよび副溝セグメントを架橋しているフーグスティーン対に由来する。したがって、これらのテンプレートに基づいた3D-ASOデザインにおける最初の工程は、標的とフーグスティーン対を形成するヌクレオチドを、特異的RNAを標的にするようにデザインされたASO中で操作することができるかどうかを決定することである。できる場合、このデザインの焦点を、主溝および副溝の相互作用を最適にするために、ASOの一方または両方の末端(例えば、ASOの5’末端(the 5’ and)の最初の5個のヌクレオチドおよびASOの3’末端の最後の5個のヌクレオチド)に集中することができる。できない場合、その代わりとして標的RNA構造の動的バリアントを調査するか、あるいは主溝セグメントおよび副溝セグメントを架橋するためにフーグスティーン対を必要としない1またはそれを超えるテンプレートE~Hを適用することができる。テンプレートA、C、E、およびGでは、5’末端ASO残基は、標的のその副溝由来のヘリックス構造を認識するが、その配列に対する特異性が制限される。したがって、典型的には、2~3個の3D-ASO残基を、主溝または副溝のトリプルセグメントの相互作用(すなわち、結合相互作用を形成すること)のために割り当てることができる。さらに、選択されたヌクレオチド(
図16に示したヌクレオチドなど)の性質を使用して、標的オリゴヌクレオチド配列の主溝セグメントおよび副溝セグメントとの相互作用のための3D-ASOヌクレオチド/配列を選択することができる。テンプレートB、D、F、およびHでは、3’ASO残基は、標的のその主溝由来のヘリックス構造および主溝塩基トリプルを介した配列を認識する。
【0011】
上述のように、本発明の典型的な実施形態では、標的配列との非標準的および標準的な塩基対合の両方を形成するために、ヌクレオチドを選択してASO中に配置し、例えば、非標準的な塩基対合を、典型的には、ASOの3’および5’終末端(複数可)中に存在する1~5個のヌクレオチド中に生じるようにデザインし、標準的な塩基対合を、典型的には、これらのASOの他のヌクレオチド中で生じるようにデザインする。かかる非標準的および標準的な塩基対合の組み合わせにより、予想外に低い自由エネルギープロファイルを有する天然に存在するRNA分子中の標的配列に結合する新規の3D-ASOをデザインすることが可能である。SARS-CoV-2 RNAを標的にするようにデザインされたASOに関連する以下の開示は、本明細書中に開示の構造デザイン方法論、ならびに、これらの方法によって作製されたASOの能力および固有の価値を実証する。
【0012】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から当業者に明らかとなる。しかしながら、例証のために詳細な説明および具体例を示しており、本発明のいくつかの実施形態を示してはいるが、これらは本発明を制限しないと理解すべきである。本発明の意図から逸脱することなく、本発明の範囲内で多くの変更および修正を行うことが可能であり、本発明は、かかる修正の全てを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1A~1Dは、どのようにしてASOがシュードノット由来のヘアピンと相互作用するのかを示す絵図を提供する。
図1(A)および
図1(C)を、それぞれ
図1(B)および
図1(D)に示したヘアピン-ASO対として見なし得る。
図1(A)および
図1(C)は、同一のシュードノットを表す。
【
図2】
図2A~2Eは、ヒトテロメラーゼRNA(PDB ID:1YMO)のP2b-P3シュードノット構造を示す略図を提供する。シュードノットを、2対のヘアピン-ASO相互作用(
図2(A)ヘアピン1-ASO1および
図2(B)ヘアピン2-ASO2)として見なすことができる。パネル
図2Aおよび
図2Bでは、シュードノットの二次構造の描画を左側に示し、3D構造を右側に示す。シュードノットをヘアピン-ASO複合体へと変えるために省略することができる残基を、銀色で示す。青色破線は、パネル
図2C、
図2D、および
図2E中に詳述した三次相互作用を示す。
図2(C)A35およびA36(パネル
図2Aの3D構造中に最も容易に認められる)が関与する副溝塩基トリプル。
図2(D)2つの塩基トリプルセグメントを架橋しているフーグスティーン塩基対。
図2(E)主溝塩基トリプル(パネル
図2Bに最も容易に認められる)。
【
図3】
図3A~3Dは、三次相互作用の重要性を示す略図および親和性測定からのデータを提供する。
図3(A)ASO1-ヘアピン1および
図3(B)ASO2-ヘアピン2構築物。ASOおよびヘアピンの短縮および変異を、フィッティングから得たこれらのKd±標準誤差と併せて示す。
図3(C、D)WT ASO1-ヘアピン1およびASO2-ヘアピン2についてのITCによる結合測定。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態と共に使用することができるASOバックボーン修飾の略図を提供する。
【
図5】
図5A~5Nは、エテプリルセンを改良するための構造に基づいたデザインの略図を提供する。
図5(A)エテプリルセン配列を黒色で示す。エテプリルセン配列はエクソン-51残基とハイブリッド形成し、ほぼ配列と共にヘアピン構造(緑色)に折りたたまれる。このヘアピン構造は、エテプリルセン結合と適合せず、その親和性を低下させる。
図5(B)デザインDMD1は、同一のヘアピンに結合する。ヘアピンを破壊する代わりに、ヘアピンは、DMD1と広範囲の塩基トリプルおよび非標準的な対(破線で表す)を形成する(パネル
図5C~Gに示す)。
図5(H)第2のデザインDMD2は、ヘアピンループの反対側に結合し、
図5I~Nに示す三次相互作用に携わる。ASO残基を暗赤色に着色している。ψは、プソイドウリジン(最も豊富に天然に存在するヌクレオチド)を表す。
【
図6】
図6A~6Rは、SARS-CoV-2 RNAに対するASOの構造に基づいたデザインの略図を提供する(Li et al.,Structure-based design of antisense oligonucleotides that inhibit SARS-CoV-2 replication.bioRxiv(Preprint).2021 Aug 24:2021.08.23.457434.doi:10.1101/2021.08.23.457434.PMID:34462746;PMCID:PMC8404888;(本明細書中で参考として援用される)も参照のこと)。
図6(A)以前の研究は、転写制御配列に結合することによってSARS-CoVを有効に阻害するPMO ASO(TRS2)を同定した。
図6(B)PMOバックボーンを使用した構造に基づくデザイン(SBD1)。
図6(C~G)デザインされたSBD1と標的との間の三次相互作用。
図6(I)ヘアピンループの3’領域にハイブリッド形成する第2のPMO SBD2のデザイン。
図6(J~O)予測されるSBD2についての標的相互作用。「C+」は、プロトン化した状態のシトシンを表す。
図6(Q、R)それぞれSBD1およびSBD2に類似しているが、PSおよび2’-OMeバックボーンを有するSBD3およびSBD4/SBD5。これらは、パネルHおよびPに示すさらなる塩基トリプル(based triple)に携わることができる。ψは、プソイドウリジンを表す。T塩基およびU塩基は、相互にメチル基のみが異なり、これらのデザインにおいて概ね交換可能である。選択は商業的利用可能性によって為され得る。
【
図7】
図7A~7Cは、SARS-CoV-2 FSEを標的にする3D-ASOデザインの略図を提供する。
図7(A)滑りやすい部位でリボソーム停止を引き起こすシュードノット構造。
図7(B)PRF3pPMO(PMOバックボーンを有する)を、ステム1および2を破壊するようにデザインする。
図7(C)PRF3pPMOのギャップマーバリアント。
【
図8】
図8A~8Hは、SARS-CoV-2 TRSを標的にする3D-ASOデザインの略図を提供する。
図8(A)PMOバックボーンを有するSBD1。TRSコア残基を灰色で示す。
図8(B~F)デザインされたSBD1とウイルスRNAとの間の三次相互作用。
図8(G)SBD3はSBD1に類似するが、PSおよび2’-OMeバックボーンを有する。
図8(H)SBD3の残基13は、副溝塩基トリプルを形成することができる。T塩基およびU塩基は、相互にメチル基のみが異なり、かかるデザインにおいて概ね交換可能である。
【
図9】
図9A~9Fは、hACE2受容体を発現するHEK293細胞に基づいた細胞SARS-CoV-2感染アッセイを使用したリード3D-ASO阻害剤の同定からのデータを提供する。データを24hpiで得た。
図9(A)倍率が10倍のスパイク抗原について染色した感染細胞のICC画像。SARS-CoV-2スパイクS1タンパク質に対するウサギモノクローナル抗体を使用した。スケールバーは200μmを表す。
図9(B)スパイク陽性細胞の定量。示したデータは、平均±SDである。
図9(C)ウイルスRNAのqRT-PCR定量。標準プライマーセットは、Nコード配列を増幅する。データを、宿主GAPDH mRNAを使用して正規化した。3つの生物学的反復由来の平均±SDを示す。
図9(D、E)バリアントと共に示したPRF3pおよびSBD1のそれぞれによる用量依存性阻害。
図9(F)MTT細胞生存度アッセイの散布図。水平のバーは平均を示し、エラーバーはSDを表す。
【
図10】
図10A~10Cは、以下のデザインの略図を提供する。
図10(A)ASOが標的RNAのヘアピンループ全体に完全に相補的な2Dデザイン。
図10(B)ASO-ループ二重鎖およびヘアピンステムの3Dモデルは、不適合である。
図10(C)SARS-CoVを阻害することが以前に報告されたPREVと呼ばれるASO(空間的に不適合なデザインをあらわすもの)。
【
図11】
図11A~11Eは、ヒトテロメラーゼRNA(PDB ID:1YMO)のP2b-P3シュードノット構造から着想される略図を提供する。シュードノットを、以下の2対のヘアピン-ASO相互作用として見なすことができる:
図11(A)ヘアピン1-ASO1および
図11(B)ヘアピン2-ASO2。パネルAおよびBでは、シュードノットの二次構造の描写を左側に示し、3D構造を右側に示す。シュードノットをヘアピン-ASO複合体へと変えるために省略することができる残基を、銀色で示す。青色破線は、パネル
図11C、
図11D、および
図11E中に詳述した三次相互作用を示す。
図11(C)A35およびA36(パネル
図11Aの3D構造中に最も容易に認められる)が関与する副溝塩基トリプル。
図11(D)2つの塩基トリプルセグメントを架橋しているフーグスティーン塩基対。
図11(E)主溝塩基トリプル(パネル
図11Bに最も容易に認められる)。
【
図12】
図12A~12Fは、三次相互作用の重要性を示す親和性測定からのデータを提供する。(
図12A、
図12B)ASO1-ヘアピン1およびASO2-ヘアピン2についてのITC結合測定。(
図12C、
図12D、
図12E、
図12F)ASOおよびヘアピンの短縮および変異が親和性を減少させる。Kd値を、フィッティングから得た標準誤差と併せて示す。
【
図13】
図13A~13Hは、本発明の実施形態で有用な8つの3D-ASOデザインテンプレートの略図を、テンプレートに結合した例証となるASO構造とともに提供する。
【
図14】
図14A~14Eは、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス由来のPAN RNA構造の略図を提供する。
図14(A)ENEとポリ(A)テールとの間の相互作用を強調するPAN RNAの略図。
図14(B、C)ポリ(A)テール(赤紫色)を表すA9オリゴヌクレオチドと結合したENEコア(緑色)の結晶構造。灰色の残基は、結晶化を容易にするように操作されている。
図14(D)主溝トリプルをLeontis-Westhof表記法によって示し、A-副溝相互作用を点線で示した構造の概略図。
図14(E)A-副溝相互作用は、テロメラーゼシュードノットにおけるそれと幾何形状が異なる。Mitton-Fry et al.Science 330:1244-1247(2010)も参照のこと。
【
図15】
図15A~15Dは、ヒトlncRNA MALAT1の構造の略図を提供する。
図15(A)PANとMALAT1シュードノットの比較。MALAT1コアは、構造決定のために使用される操作された構築物である。
図15(B)MALAT1コアの結晶構造。
図15(C)主溝塩基トリプル。
図15(D)A-副溝相互作用。Brown et al.Nat.Struct.Mol.Biol.21:633-640(2014)も参照のこと。
【
図16】
図16A~16Qは、3D-ASOデザインテンプレートと幾何形状が適合する主溝トリプルを示す略図を提供する。この表を使用して、どの残基がβ位で使用され、一方、α位およびγ位の残基が標的RNAに由来することを決めることができる。非標準的な塩基対に関与するトリプルをボックスで強調し、一方、修飾塩基プソイドウリジン(ψ)を含むトリプルを破線で取り囲んでいる。パネルGおよびHは、別の選択肢である。
【
図17】
図17A~17Gは、どの残基がα位で使用され(赤色で表示)、一方で、β位およびγ位の残基が標的RNAに由来すること(緑色で表示)を決めるために使用することができる主溝トリプル表(major-major-groove triple table)を示す略図を提供する。
図17(A~D)α位にピリミジン残基を有するトリプル。これらのトリプルは、構造テンプレートに対してアイソステリックであり、したがって、好ましい。
図17(E~G)α位にプリン残基を有するトリプルも使用され得る。
【
図18】
図18A~18Hは、主溝および副溝の塩基トリプルセグメントを架橋することができるフーグスティーン対を示す略図を提供する。
【
図19】
図19A~19Dは、テンプレートAおよびC中のα位のASO残基を決定するために使用される副溝塩基トリプルのまとめの略図を提供する。
【
図20】
図20A~20Fは、テンプレート
図20Bおよび
図20D中のβ位のASO残基を決定するために使用される副溝塩基トリプルのまとめの略図を提供する。ASO残基は、化学修飾されたリボースを含むことが多い。いくつかの修飾が選択される。この事実を、図中の未修飾リボース部分の周囲の青色の円によって強調する。副溝トリプルに適合する修飾は、依然として実験によって決定されていない。パネル
図20Eおよび
図20F中に示した相互作用が実行可能であると考えられる。
【
図21】
図21A~21Gは、SARS-CoV-2 FSEを標的にする3D-ASOデザインの略図を提供する。
図21(a)SARS-CoV-2のゲノムRNAの略図。転写制御配列(TRS)およびフレームシフト刺激エレメント(FSE)を、黒色の水平線で示す。これらの部位を標的にする3D-ASOを、太い赤色のバーとして示す。
図21(b)滑りやすい部位(ボックスで示す)でリボソーム停止を引き起こすFSE中のシュードノット構造。ORF1aのUAA(配列番号5)終止コドンを黒色斜体で示す。
図21(c)PRF3pPMO(PMOバックボーンを有するASO)を、ステム1および2を破壊し、それによりリボソームが終止コドンまで進行して外れるようにデザインする。破線は三次相互作用を表す。
図21(d)PRF3pPMOとFSEとの間のフーグスティーン対。
図21(e~g)PRF3pPMOとステム3中のFSE塩基対との間の主溝塩基トリプル。
【
図22】
図22A~22Lは、SARS-CoV-2 TRSを標的にするSBD1およびSBD1-T15Aのデザインに関する略図を提供する。
図22(a)TRS2と呼ばれていたが、本明細書中でPREVと命名した以前に報告されたASOがヘアピンループに結合することをここに提唱した。
図22(b)PMOバックボーンを有するSBD1。
図22(c~h)デザインされたSBD1とウイルスRNAとの間の三次相互作用。
図22(i)最近の研究によって5’-UTRの代替立体構造が強く示唆されている。パネルb中のヘアピン中の残基(緑色で着色)は、3つのステム-ループ構造に関与する。
図22(j)SBD1は、SL3を破壊する必要があるが、SL2との三次相互作用に携わることができ、これはパネル
図22(c)、
図22(d)、および
図22(f)に示したSBD1に類似している。
図22(k)SBD1-T15Aバリアントは、代替立体構造との相互作用を最適にする。
図22(l)SBD1-T15Aは、U(5’-1)-A(3’+1)対を破壊すると同時にA15-U(5’-1)WC対およびT16-A(3’+1)フーグスティーン対を形成することによって単一ヘアピンTRS立体構造と関わる。U(5’-1)およびA(3’+1)を、中空フォントで強調している。
【
図23】
図23A~23Nは、エテプリルセン結合を改良するために使用され得る3Dデザインの略図を提供する。
図23(A)エテプリルセン配列を黒色で示す。エテプリルセン配列はエクソン-51残基とハイブリッド形成し、ほぼ配列と共にヘアピン構造(緑色)に折りたたまれる。このヘアピン構造は、エテプリルセン結合と適合せず、その親和性を低下させる。
図23(B)デザインされたDMD1は、ヘアピンループの5’領域に結合する。ヘアピンを破壊する代わりに、ヘアピンは、DMD1と塩基トリプルおよび非標準的な塩基対(破線で表す)を形成する(パネル
図23C~Eに示す)。
図23(F)本発明者らの第2のデザインDMD2は、ヘアピンループの3’領域に結合し、パネルG~Nに示す三次相互作用に携わる。3D-ASO残基を暗赤色に着色している。ψは、プソイドウリジンを表す。
【
図24】
図24A~24Eは、DMDエクソン44のスキッピングのための3D-ASOデザインの略図を提供する。
【
図25】
図25A~25Fは、DMDエクソン45のスキッピングのための3D-ASOデザインの略図を提供する。
【
図26】
図26A~26Gは、ヒトFAN1の選択的PAS部位を標的にするASOの構造に基づいたデザインの略図を提供する。
図26(A、B)PAS1を含むヘアピンに隣接する3’領域および5’領域を標的にするASO。
図26(C、D)PAS1ヘアピンループを標的にするASO。
図26(E、F)PAS2を含むヘアピンを標的にするASO。破線は三次相互作用を表す。FAN1SBD2およびFAN1SBD6中の非標準的な対(点線で示す)を、塩基トリプルの形成を容易にするように操作する。FAN1SBD6中のψは、プソイドウラシルを表す。
【
図27A】
図27A~27Dは、RNA分子中のループ構造の略図(
図27A~27C)および本明細書中に開示の例証となるテンプレートを使用したASO研究(
図27D)を提供する。
【
図27B】
図27A~27Dは、RNA分子中のループ構造の略図(
図27A~27C)および本明細書中に開示の例証となるテンプレートを使用したASO研究(
図27D)を提供する。
【
図27C】
図27A~27Dは、RNA分子中のループ構造の略図(
図27A~27C)および本明細書中に開示の例証となるテンプレートを使用したASO研究(
図27D)を提供する。
【
図27D】
図27A~27Dは、RNA分子中のループ構造の略図(
図27A~27C)および本明細書中に開示の例証となるテンプレートを使用したASO研究(
図27D)を提供する。
【
図28】
図28A~28Qは、化学修飾された核酸塩基を3D-ASOデザインにおいてどのようにして使用することができるのかを示す略図を提供する(詳細な説明については本文を参照のこと)。化学修飾を強調している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
実施形態の説明において、添付の図面を参照することができ、この図面は、本発明の一部を形成し、本発明を実施し得る特定の実施形態の例証を目的として示している。本発明の範囲を逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、構造を変化させることができると理解すべきである。別段の定義がない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語、表記法、および他の科学用語または用語集は、本発明に属する当業者に一般に理解されている意味を有することを意図する。場合によっては、一般に理解されている意味を有する用語を、明確さおよび/または容易な参照のために本明細書中に定義し、そのような本明細書中に含まれる定義が、当該分野での一般的な理解を超える実質的な相違を表すと必ずしも解釈されるべきではない。本明細書中に記載されているか参照されている技術および手順の態様の多くは、当業者に十分に理解されており、かつ一般的に使用されている。以下の文章は、本発明の様々な実施形態を考察している。
【0015】
新規の薬物の型として、ASOは、革命的な医薬である1、2。ASOハイブリッド形成は、タンパク質結合表面に対する相補性に依存せず、原理として、ワトソン・クリック(WC)塩基対合則に従って任意の配列を標的にすることができる。それ故に、ASO治療薬は、小分子を用いて容易に創薬可能ではない細胞経路を制御することができる3。1978年に、Zamecnik and Stephensonは、ASOがin vitroでウイルス複製を阻害することができることを実証した4、5。1998年に、最初のASO薬ホミビルセンが、免疫低下患者におけるサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の処置用として承認された。HIV薬が開発されたことによってCMV感染症の症例数が劇的に減少したためにその販売承認は後に取り下げられたが、ホミビルセンにより、抗ウイルス剤としてのASOの実現可能性および潜在性が実証された。2013年以来、7つのASO薬が、種々の遺伝的障害の処置用として承認された。現在まで、66種のASO薬候補が、広範な疾患6、7(肝炎Bについては3種が挙げられる(Pharmaprojectsデータベース))について臨床試験が行われている。
【0016】
ASO治療薬は、標的RNAにハイブリッド形成し、いくつかの機序(細胞RNaseHによるRNA分解の誘導、翻訳阻害、pre-mRNAスプライシング中のエクソンのインクルージョンまたはスキッピング、RNA結合タンパク質およびmicroRNAの制御の競合、ならびにウイルスRNAの複製、転写、およびウイルス粒子アセンブリの阻害など)を介して治療効果を引き出す8。血清安定性および好ましい薬物動態を達成するために、ASO薬を、血清および細胞中に豊富なヌクレアーゼに対する耐性を示すように化学修飾する。これらの化学修飾は、薬物作用機序と適合しなければならない。
【0017】
あるクラスのASOは、標的RNAとハイブリッド形成し、細胞RNaseHによって分解されるDNA残基を含む。ホミビルセンなどの最初期のASOは、バックボーン中にホスホロチオアート(PS)修飾のみを含み、この修飾は、ヌクレアーゼ耐性を増加させるが、RNaseH活性を妨害しない。第2世代のRNaseH依存性ASOは、20量体オリゴの10個の最外側残基中にさらなる2’-O-(2-メチルオキシエチル)(2’-MOE)修飾を含む。これらの残基は、標的RNA結合に寄与するが、RNaseH切断に適合しない。RNaseH切断の範囲を中心の10-ヌクレオチド領域に狭めることにより、これらの「ギャップマー」は、特異性が改善されている9。ミポメルセン、イノテルセン、およびボラネソルセンは、ギャップマーである。別のカテゴリーのASO(エテプリルセン、ヌシネルセン、ゴロディルセン、およびビルトラルセンなど)は、RNaseHに依存しないが、その代わりに、標的の細胞機序またはウイルス機序との相互作用を立体的に遮断する。これらの「立体遮断薬」は、2’-MOE、ホスホロジアミダートモルホリノ(PMO)、または標的結合親和性およびヌクレアーゼ耐性の両方を増強する他のバックボーン修飾を含む2、7。本明細書中に開示の発明は、新規の3D-ASOデザインを作製するための本明細書中に開示の方法においてこれらの機序および化学修飾を検討する。
【0018】
本明細書中の本発明の開示は、いくつかの実施形態を有する。本発明の実施形態は、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を作製するためのプロセス/方法を含む。典型的には、これらの方法は、ASOの標的であるリボヌクレオチド標的配列を選択する工程を最初に含む。この選択工程では、リボヌクレオチド標的配列は、天然に存在するリボヌクレオチド分子中に存在する配列として選択される。典型的には、リボヌクレオチド標的配列は、8~30ヌクレオチド長であり、天然に存在するリボヌクレオチド分子中のRNAループ構造を形成するリボヌクレオチドのセグメントを含むか;あるいは天然に存在するリボヌクレオチド分子中のヘアピン構造を形成するリボヌクレオチドのセグメントに対して1~25ヌクレオチド3’側もしくは5’側にあるリボヌクレオチドのセグメントを含む。この方法論では、次の工程は、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を構築する工程である。典型的には、本発明の方法では、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を、複数のヌクレオチドを選択することによってアンチセンスオリゴヌクレオチド産物を形成することによって構築し、その結果、相互に共有結合された場合に、複数のヌクレオチドが、(従来のASOを用いて生じる)リボヌクレオチド標的配列に相補的なポリヌクレオチドのセグメントを有するアンチセンスオリゴヌクレオチド産物を形成する。しかしながら、この方法論は、このASOのためにヌクレオチドを選択する工程をさらに含み、その結果、(a)アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の1またはそれを超えるヌクレオチドが、天然に存在するリボヌクレオチド分子内の主溝RNA三重鎖構造または副溝RNA三重鎖構造と結合相互作用を形成するように選択され;そして/または(b)アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の1またはそれを超えるヌクレオチドが、リボヌクレオチド標的配列との(例えば、リボヌクレオチド標的配列中の第1のヌクレオチド)とのワトソン・クリック塩基対合および天然に存在するリボヌクレオチド分子との(例えば、天然に存在するリボヌクレオチド分子中の第2のヌクレオチドとの)フーグスティーン塩基対合を形成するように選択され;そして/または(c)アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内のヌクレオチドが、リボヌクレオチド標的配列中の少なくとも2つの近位ヌクレオチドと塩基対合相互作用を形成せず、ここで、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物と塩基対合相互作用を形成しないリボヌクレオチド標的配列中の少なくとも2つの近位ヌクレオチドが、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物とワトソン・クリック塩基対合を形成するリボヌクレオチド標的配列中の複数のヌクレオチドに挟まれている。上記の選択/決定工程後のこの方法論における次の工程は、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物が作製されるように、選択された複数のヌクレオチドから(例えば、従来のポリヌクレオチド合成技術を使用して)アンチセンスオリゴヌクレオチド産物を作製することである。
【0019】
本発明のある特定の実施形態では、ASO産物への組み込みのために選択されるヌクレオチドを、種々のASOヌクレオチドの標的RNA構造との三次相互作用の強度(自由エネルギー(ΔG)値(解離定数(Kd)から計算することができる)によって示すことができる強度)を考慮することによって選択することができる。例えば、本発明のある特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の1またはそれを超えるヌクレオチドを、ASO結合の自由エネルギーに寄与する天然に存在するリボヌクレオチド分子(例えば、少なくとも0.1kcal/mole、0.25kcal/mole、0.5kcal/mole、または1kcal/moleの、結合に対する自由エネルギーに寄与するもの)中の主溝または副溝のRNA構造と結合相互作用を形成するように選択することができる。本発明のある特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物内の1またはそれを超えるヌクレオチドを、ASO結合の自由エネルギーに寄与する天然に存在するリボヌクレオチド分子(例えば、少なくとも0.1kcal/mole、0.25kcal/mole、0.5kcal/mole、または1kcal/moleの、結合に対する自由エネルギーに寄与するもの)とフーグスティーン塩基対合を形成するように選択することができる。
【0020】
多種多様のASO産物を、本明細書中に開示の方法を使用して作製することができる。典型的には、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物は、13個と30個との間のヌクレオチド(例えば、17~25個のヌクレオチド)を含む。本発明のいくつかの実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも5、6、7、8、9、または10個のヌクレオチドを、リボヌクレオチド標的配列と100%の相補性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド産物中にポリヌクレオチドセグメントを形成するように選択し;アンチセンスオリゴヌクレオチド産物は、リボヌクレオチド標的配列とワトソン・クリック結合を形成しない少なくとも1、2、3、4、または5個のヌクレオチドを含み、その結果、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物は、リボヌクレオチド標的配列に100%相補的ではない。本発明のある特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド中の最初の5個の末端5’および/または3’ヌクレオチドを、天然に存在するリボヌクレオチド分子中で(i)フーグスティーン塩基対合;または(ii)RNA主溝との結合相互作用;または(iii)RNA副溝との結合相互作用を形成する少なくとも1つのヌクレオチドを含むように選択する。本発明の1つの例証となる実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物は、13~30個のヌクレオチドからなり;ここで、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも5個のヌクレオチドを、リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド産物中でポリヌクレオチドセグメントを形成するように選択し;アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の末端5’および/または3’の5個のヌクレオチドを、天然に存在するリボヌクレオチド分子中の主溝RNA構造または副溝RNA構造と結合相互作用を形成する少なくとも1個のヌクレオチドを含むように選択する。本発明の別の例証となる実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物は、17~25個のヌクレオチドのヌクレオチドからなり;ここで、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物中の少なくとも10個のヌクレオチドを、リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド産物中でポリヌクレオチドセグメントを形成するように選択し;アンチセンスオリゴヌクレオチド中の少なくとも1個のヌクレオチドは、リボヌクレオチド標的配列とのワトソン・クリック塩基対合および天然に存在するリボヌクレオチド分子とのフーグスティーン塩基対合を形成する。
【0021】
本発明のある特定の実施形態では、ASOを作製するプロセスは、本明細書中に開示のデザインテンプレート(例えば、
図13に示す)および/または本明細書中に開示のヌクレオチド対合相互作用の性質(例えば、
図16に示す)を使用して、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物のヌクレオチドおよびリボヌクレオチド標的配列のヌクレオチドの結合エネルギーを試験する工程を含む。本発明のいくつかの実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド産物は、プソイドウリジン;ホスホロチオアート結合;モルホリノヌクレオチド;リボース部分の2’糖位の修飾;2’-MOEメトキシエチル部分;2-フルオロ部分;または2’-ヒドロキシ部分のうちの少なくとも1つを含む。
【0022】
また、本発明の実施形態は、本明細書中に開示のプロセスによってASOが作製された場合生じる性質を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。本発明の1つのかかる実施形態は、本明細書中に開示のプロセスによって作製されたASO産物である。本発明の実施形態は、例えば、(従来のASOを用いて生じる)リボヌクレオチド標的配列に相補的なポリヌクレオチドのセグメント(例えば、少なくとも5~10ポリヌクレオチド)ならびに(a)天然に存在するリボヌクレオチド分子内の主溝RNA構造または副溝RNA構造と結合相互作用を形成するアンチセンスオリゴヌクレオチド内の1またはそれを超えるヌクレオチド;および/または(b)リボヌクレオチド標的配列との(例えば、リボヌクレオチド標的配列中の第1のヌクレオチドとの)ワトソン・クリック塩基対合および天然に存在するリボヌクレオチド分子との(例えば、天然に存在するリボヌクレオチド分子中の第2のヌクレオチドとの)フーグスティーン塩基対合を形成するアンチセンスオリゴヌクレオチド内の1またはそれを超えるヌクレオチド;および/または(c)リボヌクレオチド標的配列中の少なくとも2つの近位ヌクレオチドと連続的なワトソン・クリック塩基対合相互作用を形成しないような配置で配置されたアンチセンスオリゴヌクレオチド内のヌクレオチドであって、ここで、アンチセンスオリゴヌクレオチドと塩基対合相互作用を形成しないリボヌクレオチド標的配列中の少なくとも2つの近位ヌクレオチドが、アンチセンスオリゴヌクレオチドとワトソン・クリック塩基対合を形成するリボヌクレオチド標的配列中の複数のヌクレオチドに挟まれている、ヌクレオチドを有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。
【0023】
本発明のある特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、13~30個のヌクレオチドから本質的になり;アンチセンスオリゴヌクレオチド中の少なくとも5個のヌクレオチドは、リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド中にポリヌクレオチドセグメントを形成し;アンチセンスオリゴヌクレオチド中の最初の5個の末端5’および/または3’ヌクレオチドは、主溝塩基トリプル相互作用または副溝塩基トリプル相互作用に関与する少なくとも1個のヌクレオチドを含む。本発明のいくつかの実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、17~25個のヌクレオチドからなり;アンチセンスオリゴヌクレオチド中の少なくとも10個のヌクレオチドは、リボヌクレオチド標的配列に100%の相補性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド中にポリヌクレオチドセグメントを形成し;アンチセンスオリゴヌクレオチド中の少なくとも1個のヌクレオチドは、リボヌクレオチド標的配列とのワトソン・クリック塩基対合および天然に存在するリボヌクレオチド分子とのフーグスティーン塩基対合を形成する。本発明のある特定の実施形態では、ASOを、ある特定の選択されたヌクレオチドおよび連結などを含むようにデザインする。例えば、必要に応じて、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、プソイドウリジン;ホスホロチオアート結合;モルホリノヌクレオチド;リボース部分の2’糖位の修飾;2’-MOEメトキシエチル部分;2-フルオロ部分;または2’-ヒドロキシ部分のうちの少なくとも1つを含む。
【0024】
また、本発明の実施形態は、以下のうちの少なくとも1つを含むASO組成物を含む:医薬品賦形剤、リポソーム、またはナノ粒子。例えば、本発明の組成物のある特定の実施形態は、例えば、医薬品賦形剤(防腐剤、張度調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、糖、およびpH調整剤からなる群から選択されるものなど)を含む。ヒトへの投与に好適な組成物について、用語「賦形剤」は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams&Wilkins,21st ed.(2006)(その内容が、本明細書中で参考として援用される)に記載の成分が挙げられるが、これらに限定されないことを意味する。
【0025】
本明細書中に開示のASOを、多種多様の天然に存在するRNA分子を標的にするようにデザインすることができる。本発明のいくつかの実施形態では、天然に存在するRNA中の標的配列は、ウイルス、細菌、または真菌によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する。本発明のある特定の実施形態では、天然に存在するRNA中の標的配列は、ヒト細胞によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する。本発明のある特定の実施形態では、天然に存在するRNA中の標的配列は、ヒト寄生虫によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する。本発明の例証となる実施形態では、標的配列は、ヒトタウ遺伝子;ヒトベータアミロイド遺伝子;Covid19遺伝子;ヒトデュシェンヌ型筋ジストロフィ遺伝子;ヒトFANCD2/FANCI関連ヌクレアーゼ1(KIAA1018)遺伝子;またはヒトmicroRNA(miRNA)遺伝子によって発現されるリボヌクレオチド中に存在する。
【0026】
本発明の例証となる作業実施形態では、標的配列は、Covid19ウイルスによって発現されるリボヌクレオチド中に存在し、ASOは、以下の配列を含むか、以下の配列からなる:5’-CGTTTAGAGAACAGTTTCT-3’(配列番号41);5’-CGTTTAGAGAACAGATTCT-3’(配列番号42);5’-GATGTCAAAAGCCCTGTAGTAC-3’(配列番号43);5’-TGTCAAAAGCCCTGTAGTAC-3’(配列番号44);または5’-ATGTCAAAAGCCCTGTAGTAC-3’(配列番号45)。
【0027】
上述のように、本発明の実施形態は、ASO中の1またはそれを超えるヌクレオチド(例えば、ASOの5’末端および3’末端のヌクレオチド)と天然に存在するRNA分子上の部分(例えば、フーグスティーン対を形成することができる主溝、副溝、およびヌクレオチドなど)との間の非標準的な三次元結合相互作用を考慮する方法を含む。この文脈では、主溝および副溝塩基トリプルならびにフーグスティーン対のASO/標的結合相互作用の強度を、等温滴定熱量測定法などの方法を使用した結合親和性の測定によって観察することができる。この態様および以下の節に考察した情報は、Vieregg et al.,Journal of the American Chemical Society.2007;129(48):14966-73.Epub 20071113.doi:10.1021/ja074809o.PubMed PMID:17997555;PMCID:PMC2528546;Chen et al.,Biochemistry.2013;52(42):7477-85.Epub 20131009.doi:10.1021/bi4008275.PubMed PMID:24106785;PMCID:PMC3859436;Theimer et al.,Mol Cell.2005;17(5):671-82.Epub 2005/03/08.doi:10.1016/j.molcel.2005.01.017.PubMed PMID:15749017;およびLee et al.,Nucleic acids research.1984;12(16):6603-14.doi:10.1093/nar/12.16.6603.PubMed PMID:6473110;PMCID:PMC320099(その内容が、本明細書中で参考として援用される)で考察されている。
【0028】
かかる三次相互作用の強度を、解離定数(Kd)から計算することができる自由エネルギー(ΔG)値によって示すことができる。これらの値が、3D-ASO分子がその標的RNAに対する親和性をどの程度増強することができるのかという情報が当業者に与えられるように細胞内pHおよび塩条件(例えば、20mM HEPES(pH7.0)、100mM KCl)に近い溶液中で決定されるべきであることに留意することが重要である。かかる生理学的に類似する条件が、RNA塩基対合の自由エネルギーパラメーターが典型的に測定されて得られる「標準的な」高塩条件(1M NaCl)と非常に異なることに留意のこと。塩濃度の低下およびNaのKでの置換の両方により、RNAヘアピンおよび二重鎖形成のΔG値を低下させる(例えば、Vieregg et al.,Journal of the American Chemical Society.2007;129(48):14966-73.Epub 20071113.doi:10.1021/ja074809o.PubMed PMID:17997555;PMCID:PMC2528546;Chen et al.,Biochemistry.2013;52(42):7477-85.Epub 20131009.doi:10.1021/bi4008275.PubMed PMID:24106785;PMCID:PMC3859436を参照のこと)。その結果として、ΔG値は、RNA折りたたみ研究およびRNAの二次構造予測で典型的に認められるΔG値より小さい。典型的には、1.36kcal/molの自由エネルギーの獲得が、親和性を10倍に増強するはずであり、2.72kcal/molでは親和性を100倍に増強するはずである。以下の節では、当業者のためのさらなるガイダンスを提供する。
【0029】
主溝塩基トリプル由来の自由エネルギーの獲得
3層の好ましい主溝塩基トリプルは、2kcal/molまでの、結合に対する自由エネルギーに寄与することができる。最も好ましい主溝塩基トリプルとしては、G●A-G(A-Gは非標準的な塩基対を表し、両方の塩基がそのワトソン・クリック表面を使用して水素結合している)、U●A-U、U●A-G、C+●G-C(C+はプロトン化したCを表す)、G●G-A、およびC+●G-Aが挙げられる
【0030】
2つの副溝塩基トリプルの操作に由来する自由エネルギーの獲得
2つの好ましい副溝塩基トリプルの寄与は、0.9kcal/molであると推定される。副溝トリプルの相互作用は、種々の塩基の組み合わせを許容するようであり、最も好ましい組み合わせとしては、G●G-C、C●G-C、A●G-C、C●A-U、A●A-U、およびG●A-Uが挙げられる。
【0031】
フーグスティーン対に由来する自由エネルギーの獲得
フーグスティーン対による寄与は、この相互作用の喪失が隣接する主溝および副溝塩基トリプルを破壊する可能性があるので、単独で測定することができない。例えば、U●Aフーグスティーン対(直下の図中のパネルA)が、中性pHでフーグスティーン対を形成することが不可能であるC残基およびG残基で置き換えられる場合(例えば、Theimer et al.,Mol Cell.2005;17(5):671-82.Epub 2005/03/08.doi:10.1016/j.molcel.2005.01.017.PubMed PMID:15749017を参照のこと)、ASO2とヘアピン2_Reconnectの会合を検出することができない。この結果は、少なくとも2kcal/molの自由エネルギーの喪失を示す。しかしながら、参考として最適なU●Aフーグスティーン対を使用すると、G●GおよびG●A(直下の図中のパネルBおよびC)は実行可能な代替物質であると決定されており、自由エネルギーがU●Aよりそれぞれ0.22および0.40kcal/mol高い。化学修飾された塩基は、フーグスティーン対合を媒介することができ(直下の図中のパネルD~Fに示した例、化学修飾の節で詳細に説明されている)、それにより、3D-ASOデザインで有用である。
【化1】
【0032】
自由エネルギーの獲得による3D-ASOデザインのスコアリング機能
ASO-標的相互作用の詳細な熱力学的記述は、3D-ASOデザインのスコアリングを容易にすることができる。すなわち、総自由エネルギー獲得を、3D-ASOデザインで操作された全ての三次相互作用から得た自由エネルギーの総計によって計算することができる。
【0033】
例証となるASOバックボーン修飾
3D-ASOデザインで有用なASOバックボーン修飾としては、ホスホロチオアート(PS)、ホスホロジチオアート(PS2)、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)、2’-O-メチル(2’-OMe)、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)(
図4)が挙げられる。
【0034】
ホスホロジチオアート結合(PS2)はアキラルであり、構造生物学法を使用して研究するのが容易である。以前の研究では、PS2結合を有するDNAがRNaseH(ギャップマーデザインに有用)を活性化すること、およびPS2が種々のヌクレアーゼによる加水分解に対して完全な耐性を示すことが示されている。
【0035】
例証となるASO塩基修飾
プソイドウリジン(Ψ)
【化2】
プソイドウリジンは、天然RNA中で見出される最もよく見られる修飾されたヌクレオシドのうちの1つである。Uと比較して、Ψは、フーグスティーン表面上の水素結合ドナー基が増加している(
図28A)。したがって、Ψは、CまたはAのいずれかとフーグスティーン対を形成することができ(
図28Bおよび28C)、主溝塩基トリプルC・Ψ-AおよびA・Ψ-Aを形成することができる(
図28Dおよび28E)。
【0036】
N1-メチルアデノシン(m1A)
【化3】
1位のアデノシンのメチル化により、核酸塩基中の機能が劇的に変化する(
図28F)。1-メチルアデノシン(pKa8.25)は、アデノシン(pKa3.5)より遥かに強力な塩基であり、したがって、生理学的条件下で正電荷を有する。N-1メチル化は、そのフーグスティーン表面を使用してUおよびGと対合する能力を維持しているが(
図28Gおよび28H)、そのワトソン・クリック表面を介した非特異的標的との対合能力は排除される。したがって、この修飾は、3D-ASOの特異性を増強すると予想される。
【0037】
5-メチル-C(m5C)
【化4】
C●Gフーグスティーン対(
図28I)の形成には、N3位のCをプロトン化する必要がある(ダイアグラム中にC
+として表される)。しかしながら、溶液中の遊離CのpKaが4.5であるので生理学的pH条件下でのプロトン化が困難である。これにより、C●G組み合わせが本発明者らの3D-ASOデザインテンプレートにおけるフーグスティーンで好ましくない理由が説明される。m5CのpKaは中性pHにシフトされ、したがって、プロトン化およびGとのフーグスティーン対の形成がより容易である(
図28J)(例えば、Chen et al.,Biochemistry.2013;52(42):7477-85.Epub 20131009.doi:10.1021/bi4008275.PubMed PMID:24106785;PMCID:PMC3859436を参照のこと)。さらに、C●G-C主溝塩基トリプルの形成には主溝Cがプロトン化される必要があるが、この化学的環境では、CのpKaは中性pH付近にシフトされる。3D-ASO中に組み込まれた場合、m5Cは、主溝のG-C対との相互作用を簡潔に安定化すると予想される(
図28K)。
【0038】
Zヌクレオチド
C●Gフーグスティーン対(
図28I)およびC●G-C主溝塩基トリプル中でCがプロトン化される要件に対して、Zヌクレオチド(6-アミノ-5-ニトロ-2(1H)-ピリドン)(
図28Lおよび28M)を使用して取り組むことができる。
【0039】
2,6-ジアミノプリン(DAP)
【化5】
DAPは、2位にアミノ基を有するAである。このアミノ基により、DAPがUと3つの水素結合を形成し、ワトソン・クリック対合相互作用を強化することが可能である(
図28Nおよび28O)。また、アミノ基が水素結合ドナーを提供することによって副溝塩基トリプルを強化することがより重要である。
【0040】
8-オキソ-G
8-オキソ-Gは、Aとの対合のためにそのフーグスティーン表面を使用することができる(
図28P)。さらに、8-オキソ-Gは、主溝トリプルA●Oxo-G-Cを形成することができる(
図28Q)。これらの特徴は、3D-ASOデザインに有用である。
【0041】
本発明のさらなる特徴および実施形態を、以下の節で考察する。
【0042】
構造に基づいたASOのさらなる原理
従来のASOデザインは、線状標的配列に沿ったワトソン・クリック(WC)塩基対合則に厳密に従う。しかしながら、標的RNAは、ASOハイブリッド形成を妨害する強力な二次構造および三次構造に折りたたまれることが多い。一本鎖RNAは分子内塩基対を形成する傾向があり、これらが相互に積み重ねられて二本鎖ヘリックスおよびより高次の構造を形成する。これらの構造は、RNA結合タンパク質の動員などの生物学的機能に重要であることが多い10。例えば、ウイルスは、ウイルスの複製および翻訳に重要なその5’-UTRおよび3’-UTR中11、ならびに下流ウイルスタンパク質の翻訳の継続を担うリボソームフレームシフト(RFS)部位中にRNAヘアピンを含むことが多い。これらの構造は、構造の対合相互作用および3D幾何形状が相互に適合しないので、ASOハイブリッド形成を妨げることが多い。従来のASOデザインストラテジーは、構造化された領域のターゲティングを回避するかこれらの構造を無視し、高親和性結合剤を同定するために多数のASOのスクリーニングに依存している。この課題によって多くのASO候補が失敗に終わり、重要な構造化標的に手が届かないままである。
【0043】
本明細書中に開示の構造に基づいたデザイン方法論は、三次元(3D)空間で標的構造と適合させ、WC塩基対合に加えて三次相互作用に携わることによってこの問題を解決する。この方法でデザインされた「3D-ASO」は、三次相互作用の獲得および標的構造を破壊する必要がないことによる自由エネルギーの確保に起因して高められた親和性で標的に結合する。さらに、3D-ASOが標的配列だけでなく、形状および水素結合パターンも認識するので、結合特異性が高められる。
【0044】
構造は、首尾の良い創薬に必要不可欠な検討事項である。しかしながら、三次相互作用は、ASO薬開発において取り入れられてこなかった。これは、RNAをヌクレオチドの単純な線とみなす従来の思考に一部起因する。本明細書中に開示の発明は、ASO開発分野に対して構造生物学の側面を導入/考慮する。3Dを考慮することの重要性は、
図10に示す例で強調される。1Dデザインを実施する場合、ヘアピンループ全体をASOで補完することを望むことが自然である(
図10A)。しかしながら、3D拘束に起因して全ての塩基対が形成されるわけではない。ヘアピンステム中の塩基対合には、ループの5’および3’のほとんどの残基が相互に近づく(11Å)ことが必要であるのに対して、ヘアピンループとASOとの間に形成されるヘリックスは硬い棒のようであり、21塩基対の二重鎖では56Åにわたる(
図10B)。このモデリングの課題から、ASOがヘアピンループ全体と対合することは望ましくないと結論づけられ、この状況は文献中に認められることが多い(例えば、
図10C)。
【0045】
構造デザインテンプレート
3Dデザインを達成するために、特異的ヘアピンを標的にするための8つの革新的なデザインテンプレートを生成した。デザインテンプレートを、既存のRNA構造から着想した。これらのテンプレートは、ASOおよび標的が空間的および構造的に適合すること、および、WC塩基対合に加えて、これらが広範囲の三次相互作用に携わることを確実にする。これらの三次相互作用はASO-標的境界を増加させ、したがって親和性および特異性を高める。かかるデザインテンプレートが構造化RNAを標的にすることが可能であることが重要である。ヘアピンはRNA中で最も基本的かつ最も豊富な構造であるので、本テクノロジーは、広範な標的および疾患に広く適用可能である。
【0046】
本明細書中に開示の3D-ASOの鍵となる特徴は、3D-ASOが配列中の標的と完全には相補的でないという点である。この特徴により、このテクノロジーは、産学両方における多数のASO薬開発プログラムとは明確に異なる。したがって、このプラットフォームを使用して、既存のASOを改良するか、あるいはより良いASOをde novoで開発することができる。これらの3D-ASOは標的配列と完全には相補的でなく、したがって、3D-ASOが従来のデザインと異なる明確な特徴を有することが重要である。
【0047】
テロメラーゼシュードノット構造由来の4つのデザインテンプレート
本明細書中に開示の発明は、ASOと構造化標的RNAの相互作用方法の理解によって組み立てられている。しかしながら、不運なことに、必要とされる構造の情報が不足している(すなわち、ASOとの複合体中のRNAヘアピンの3D構造はほとんど利用できない)。したがって、本発明の態様は、ASOとヘアピンとの間の会合に類似するRNA構造(シュードノットなど)の調査から着手している。シュードノットは、上流または下流の鎖とのループ対合を有するRNAヘアピンを指し、ASOと等価と見なされ得る(
図11A、B)。実際には、各シュードノットは、最小限の2つの対合領域を含む。いずれかの一方をヘアピンステムと見なし得るのに対して、他方をヘアピンループとASOとの間に形成された二重鎖と見なし得る。
【0048】
93種のシュードノット構造は、広範囲の三次相互作用(主溝および副溝塩基トリプル(第3の塩基がそれぞれ主溝側または副溝側由来の塩基対に接触している、例えば、
図3Eおよび3Cを参照のこと)、非WC塩基対、および塩基スタッキングが挙げられる)を観察するための試験物質(examiner)であった。これらのうちで、テロメラーゼRNAシュードノット構造は、最も広範囲の三次相互作用を有するものとして際立っている。いくつかのシュードノット構造を、ASO-ヘアピン対をデザインし、次いで、その結合を試験するために選択した。実際には、テロメラーゼシュードノットに由来するASO-ヘアピン対は、高い結合親和性を示した(
図12)。したがって、この構造を、その後の生化学的特徴付けおよびASOデザイン作業のためのテンプレートとして使用した。
【0049】
テロメラーゼRNAシュードノット構造から、ASOがヘアピン標的に結合することができる2つの異なる方法が示唆される(
図11A、B)。ASO1は、主にヘアピン1ループの3’領域と対合する(
図11A)。2つのA残基は、ASO1の5’末端(シュードノットナンバリングでのA35およびA36)で突出し、副溝側由来のヘアピンステム中の塩基対と接触する(
図11C)。かかる相互作用はA-副溝相互作用(RNAの折りたたみに重要であり、グループIイントロンおよびリボゾームRNAなどのRNAで広く認められる三次相互作用型)と呼ばれる
12、13。ASO2は、主に、ヘアピン2ループの5’領域と対合する(
図11B)。ASO2の3’末端の3つのオーバーハンギングU残基(シュードノットナンバリング中のU8~U10)は、主溝側由来のヘアピン2ステム中の塩基対と接触する(
図11E)。これらのASO残基はWC対合に関与していないにしても、それらは別の方法で広範囲の水素結合に携わり、塩基トリプルの連続層が互いに重なり合う。これらの三次相互作用は、結合親和性および構造特異性に寄与するはずである。いくつかの塩基の組み合わせのみが塩基トリプルと適合するので、これらのASO残基も直接接触する標的配列の認識に役立つと予想される。「ステムトリプル」の両方の型が、比較的短いループを有するヘアピンを標的にするのに特に有用である。
【0050】
2つのさらなる特徴がASOデザインに重要である。第1に、副溝および主溝の相互作用の両方が、各ASO-ヘアピン対中に存在する。ASO1 5’オーバーハング残基(A35およびA36;
図11A)が関与する副溝トリプルは、ヘアピン2中の3’ループ残基と、ASO2とヘアピン2ループとの間に形成された二重鎖との間に生じる(
図11B)。同様に、ASO2の3’オーバーハング(U8~U10)(
図11B)が関与する主溝トリプルは、ASO1-ヘアピン1ループ二重鎖(
図11A)に携わるためにヘアピン1の5’ループ残基によって使用される。第2の特徴は、フーグスティーン対(U7とA37との間、シュードノットナンバリング)が二重層の副溝トリプルおよび三重層の主溝トリプルを架橋することである(
図11D)。このフーグスティーン対は、2つの隣接するセグメントを接続するのに適切な幾何形状のために重要である。
【0051】
塩基トリプルの相互作用は、高親和性結合に不可欠である
ASO-ヘアピン対中の塩基トリプルを破壊し、等温滴定熱量測定法(ITC)を使用してその親和性を測定した(
図12A~D)。K
d値は、ASO1/ヘアピン1については70±10nMであり、ASO2/ヘアピン2については28±4nMである(
図12A、B)。2つの5’Aオーバーハングを欠失させると、ヘアピン1へのASO1結合が1/8まで低下し、副溝トリプルの重要性が示された(
図12C)。ヘアピン1ループの5’末端の3つのU残基をCに変異させると、結合が1/10超まで減少し、ASO1-ヘアピン1結合への主溝トリプルの重大な寄与が強調された。ASO2中の3つのUオーバーハンギング残基を短縮すると、ヘアピン2への結合が1/20に低下した(
図12D)。したがって、置換(ヘアピン1中)および短縮(ASO2中)の両方は、主溝塩基トリプルの重要性を実証している。ヘアピン2ループ中のA36およびA37を2つのC残基で置換すると、ASO2結合が1/130に劇的に破壊された。このことにより副溝塩基トリプルの重要性が確認され、副溝トリプルはヘアピンループ中に生じるときの方が貢献度が高いことを証明している。2つのヘアピン-ASO対についての変異誘発の結果は、シュードノット構造中に認められる塩基トリプルがASO-ヘアピン複合体中で保存されている可能性があることを示唆している。
【0052】
ヘアピン構造はASO標的結合および特異性に重要である
3D構造(
図11A)は、ASOとの三次相互作用には標的RNAがヘアピン立体構造で存在することが必要であることを示唆している。研究において、ヘアピン1ステムを6塩基対から4塩基対に短縮することによって安定なヘアピンステムがその相互作用に重要であるかどうかを試験した(
図12C)。驚くべきことに、ASO1と短縮ヘアピン1との間に結合は検出できなかった。この結果は、ASO1は欠失された残基に直接接触しない場合でさえもヘアピン1構造を認識することを示唆している。したがって、構造に基づいたASOデザインでは、この間接的読み出しが標的-結合特異性をさらに高める。
【0053】
ヘアピン隣接領域に結合する3D-ASOデザインテンプレート
ASO1およびASO2は、それぞれ、ヘアピン1および2の末端ループに結合する(
図13A、B)。これらは、本明細書中でテンプレートAおよびBと称される。類似の三次相互作用セットを、標的ヘアピンに隣接するRNA鎖にハイブリッド形成するASOに操作することができる。標的RNA鎖の再接続により、それぞれASO1およびASO2に同様に結合することができるヘアピン1再接続(Hairpin1Reconnect)およびヘアピン2再接続(Hairpin2Reconnect)を誘導した(
図13C、D)。実際には、これらは結合はしたが1/3~1/6に親和性が減少し、これは、トポロジー拘束における変化に寄与する。本明細書中でテンプレートCおよびDと称されるこれらの誘導デザインテンプレートは、本発明者らの3Dデザイン法の利用可能性を広げる。4つのさらなるデザインテンプレートは、
図13に示すテロメラーゼシュードノット構造(合計8つのテンプレート)に由来する。
【0054】
テンプレートA~Dは、フーグスティーン対(
図13A~D、黒色の実線)の形成を必要とし、それらが標的配列に適用することができるかどうかについて実質的な制限が課される。本開示は、テロメラーゼシュードノットの構造全体に類似しているが、フーグスティーン対の代わりに主溝セグメントおよび副溝セグメントに接続するためにジヌクレオチドバルジを使用する2つのRNA構造(Protein Data Bankアクセッションコード3P22および4PLX)に基づいた4つのさらなる3D-ASOデザインテンプレートを提供する(
図13E~H)。ポリアデニル化核(PAN)RNAは、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス由来の非コードRNAである。PANは、3’末端でポリ(A)テールに結合し、共にシュードノットを形成し、その減衰を防止する発現および核内繋留エレメント(ENE)を含む(
図14)。第2の構造は、転移関連肺腺癌転写物1(MALAT1)と呼ばれるヒト長鎖非コードRNA(lncRNA)の一部である。MALAT1の3’領域では、ステムループは、下流Aリッチトラクトに結合し、それにより、シュードノットを形成する。
【0055】
PAN構造およびMALAT1構造は、テロメラーゼシュードノット中の主溝塩基トリプルとほぼ同一の幾何形状を有する少なくとも5層の主溝塩基トリプルを含む。したがって、8つ全てのデザインテンプレートの主溝セグメントは同一である。PANおよびMALAT1の副溝塩基トリプルもA-副溝相互作用であるが、幾何形状は、テロメラーゼシュードノット中の副溝塩基トリプルとは異なる(
図6Eおよび7D)。
【0056】
図13中の8つのデザインテンプレートは、ほとんどの基本的なRNA構造エレメント(二重鎖)を標的にする。二重鎖は、
図13に例証したRNAヘアピンの一部であることが多いが、テンプレートC、D、G、およびHは、任意の二重鎖に適用可能である。二重鎖は機能的に重要であり得るが、機能的に重要な部位の近くに存在しても良い(意図せず存在してもよい)。二重鎖は進化的に保存され得るが、1つの種に特異的でもよい。したがって、本発明は、ASO開発に広く適用可能である。
【0057】
3D-ASOデザインテンプレートに適合する塩基トリプル
どの配列が構造テンプレートと適合するのかを評価するために、文献およびRNA Base Triple Databaseを調査し14、15、主溝および副溝塩基トリプルならびにフーグスティーン対を、構造テンプレートで見出された幾何形状に類似する幾何形状を用いて同定した。3D-ASOデザイン中のこれらの適合する塩基トリプルの使用は、本発明の重要部分である。
【0058】
本開示では、塩基トリプルをα・β-γとして表示し、ここで、残基βおよびγはWC塩基対を形成し、残基αはいずれかの溝由来のβ-γ対(主に残基βまたはβおよびγの両方)と接触する。3D-ASO残基は、使用したテンプレートおよびテンプレート中のこれらの残基の位置に応じてαまたはβの位置を取る。
【0059】
主溝塩基トリプル
テンプレートA、C、E、およびGの主溝トリプルセグメントでは、3D-ASO残基はβ位を占有するのに対して、標的RNA残基は、α位およびγ位を取る。これらの3D-ASO残基を決定するために、
図6に示すように主溝塩基トリプルの表を作成し、表中、各横列は同一のα残基を有し、各縦列は同一のγ残基を有し(共に緑色で示す)、β残基を赤色で示す。これらの塩基トリプルは、塩基トリプルデータベースから同定された全ての適合可能なα/γ組み合わせを対象にしている。
【0060】
いくつかの主溝塩基トリプルは、非WC対または修飾された塩基に関与する。A-G対は、UまたはGのいずれかと主溝トリプルを形成することができる(
図16D、M)。同様に、G-A対は、CおよびGと主溝トリプルを形成することができる(
図16H、L)。G-Uゆらぎ対は、Aと主溝トリプルを形成することができる(
図16M)。さらに、プソイドウリジン(ψ)は、水素結合ドナーを導入することによってフーグスティーン表面にUを富化する。ψはウリジンの異性体であり、窒素-炭素グリコシド結合の代わりに炭素-炭素結合を介してウラシル塩基がリボースに付着している。ψは、tRNAなどの天然RNA中に見出される最も一般的な修飾塩基である。グリコシド結合から開放された窒素は、フーグスティーン表面上に存在し、水素結合ドナーとしての機能を果たすことができる。それにより、U-A対中でUをψで置き換えると、ψはCおよびAと主溝トリプルを形成することが可能である(
図16G、P)。三次相互作用を媒介するためのASOへの非標準的な対および修飾された塩基の導入は、本発明の革新的な態様である。これらの特徴は必ずしもあらゆる3D-ASOデザインで使用されないが、これらの特徴が含まれる場合、これらの特徴により、本明細書中に開示の方法を使用してデザインされたASOに従来のデザインを超える重要な特徴が提供される。
【0061】
テンプレートB、D、F、およびHの主溝セグメントでは、3D-ASO残基はα位を占める。これらの3D-ASO残基を決定するために、
図17に示すように主溝塩基トリプルの表を作成し、この表は、
図16に示したトリプルのサブセットを含む。これらのトリプルは、構造テンプレートとアイソステリックである。
【0062】
フーグスティーン対
テンプレートA~D中のフーグスティーン対を満たすために、核酸データベースを調査して、類似の幾何形状と対合する塩基組み合わせの群を同定した(
図18)。Gは、そのWC表面を、AまたはGのフーグスティーン表面と対合するために使用することができる(
図18B、C)。同様に、プロトン化したC(C+)は、Gと対合することができる(
図18D)。プロトン化は、C-G相互作用をpH依存性にし、中性pHで比較的弱くするのに必要である(18)。さらに、AのWC表面と対合することができるフーグスティーン表面を有する残基が望ましい。1つの解決法は、CおよびAの両方とフーグスティーン対を形成することができるプソイドウリジン(ψ)を使用することである(
図17E、F)。
【0063】
テンプレートA~Dについての副溝塩基トリプル
テンプレートAおよびCでは、ASO1の5’領域は、ヘアピンステムと副溝トリプルを形成する(
図13A、C)。この位置では、(
図19)。テンプレートBでは、3D-ASO残基は、標的ヘアピンループの5’側と対合し、他方との副溝塩基トリプルに携わる(
図13B)。テンプレートDでは、3D-ASO残基は、二重鎖の3’隣接領域と対合し、5’隣接鎖と副溝塩基トリプルを形成する(
図13D)。これらの塩基トリプルでは、ASO残基はβ位を取る。そうでなければ、副溝塩基トリプルの本質的に同一のリストを使用することができる(
図20)。ASOバックボーンを化学修飾する。一般的に使用される修飾としては、ホスホロチオアート(PS)、2’-O-メチル(2’-OMe)、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)、ホスホロジアミダートモルホリノ(PMO)、ロックド核酸(LNA)、およびペプチド核酸(PNA)が挙げられる。どのようにしてこれらの修飾がこれらの副溝相互作用に影響を与えるのかについては、依然として実験によって決定されていない。
【0064】
テンプレートE~Hについての副溝塩基トリプル
これらの塩基トリプルは、A-副溝相互作用にも属するが、テンプレートA~Dとは異なる幾何形状を有する。特定の理論に拘束されないが、A残基のみがかかる相互作用を媒介することができる場合がある。
【0065】
3D-ASOデザインのための例証となる方法
3D-ASOをデザインするための手順は、典型的には、以下の工程を含む:
【0066】
標的に対するRNA配列を同定する
これらの配列としては、エクソン、mRNAスプライス部位、スプライシングに重要なイントロン領域、プログラムされたリボソームフレームシフトエレメント、microRNA結合部位、タンパク質結合部位、ポリアデニル化シグナル、翻訳開始部位、および5’および3’UTR中の他の機能的に重要な部位が挙げられるが、これらに限定されない。この工程は、従来のASOデザイン方法および構造に基づいたASOデザイン方法の両方において一般的な手法である。
【0067】
標的RNAの構造を同定する
これらの構造は、以前の報告に由来するか、あるいはRNAstructure16およびMFOLD17などのRNA二次構造予測プログラムを使用して予想することができる。三次元構造が歓迎されるが、必要ではない。RNA二次構造予測プログラムは、殆どの場合、自由エネルギーレベルの低い一連の構造を提供する。通常、RNA構造は、上位の予測の間で高頻度に生じる。これらの構造は信頼性が高く、それにより、3D-ASOデザインの適切な標的と見なされる。比較的弱いまたは信頼性が低い構造は、デザインプロセスにおいて無視される。
【0068】
さらに、標的RNAの構造は、遊離状態とASO結合状態とで同一である必要はない。時折、以下に示す例のような標的RNA構造を破壊することを目的とする(SARS-CoV-2のプログラムされたリボソームフレームシフトエレメントを標的にする3D-ASO)。かかる状況では、3D-ASOは、前述の構造の一部または別の構造上に存在することができる。
【0069】
デザインテンプレートを適用する
本開示は、一般的な手順および検討事項を記載する。適切なヘアピン構造または二重鎖構造が同定された時点で、デザインテンプレートを適用して3D-ASO配列を生成することができる。デザインテンプレートから5’末端または3’末端の配列のいずれかを得ることができるのに対して、残りを配列相補性によって決定する。2つのRNA構造が標的中で適切に離れている場合、
図13に示した3Dテンプレートを使用してASOの両方の末端をデザインし得る。
【0070】
テンプレートA~Dについて、最強の拘束は、主溝セグメントおよび副溝セグメントを架橋しているフーグスティーン対に由来する。したがって、これらのテンプレートに基づいた3D-ASOデザインにおける最初の工程は、フーグスティーン対を操作することができるかどうかを確かめることである。できる場合、主溝および副溝の相互作用を最適にするために、このデザインをいずれかのサイドに広げる。できない場合、標的RNA構造の動的バリアントを調査するか(以下を参照のこと)、あるいは、主溝セグメントおよび副溝セグメントを架橋するためにフーグスティーン対を必要としないテンプレートE~Hを適用する。
【0071】
テンプレートA、C、E、およびGでは、5’末端ASO残基は、標的のその副溝由来のヘリックス構造を認識するが、その配列に対する特異性が制限される。したがって、典型的には、副溝トリプルセグメント中の2~3個の3D-ASO残基のみを専用にし得る。
図16中の情報を使用して、主溝セグメント中の3D-ASO配列を決定することができる。
【0072】
テンプレートB、D、F、およびHでは、副溝セグメントの層の数は、標的中の特定の位置のA(またはC)残基の存在に大きく左右される。
図17中の情報を使用して、主溝セグメント中の3D-ASO配列を決定することができる。
【0073】
標的RNA構造の動的バリアント:RNA構造は、動的であり、ヘアピンまたは二重鎖の末端の塩基対が頻繁に開閉することが知られている。いくつかの環境では、さらなる塩基対(非標準的および標準的)を付加することができる。この性質により、低い自由エネルギーコストでこれらのバリアントを標的にする3D-ASOをデザインすることが可能となる。動的バリアントの標的例を、デュシェンヌ型筋ジストロフィ治療のための3D-ASOに見出すことができる(
図25B~D)。
【0074】
ヘアピンループを標的にする場合の検討事項:RNAヘアピンループは、タンパク質の結合およびmicroRNAの変異の制御などの重要な生物学的機能を媒介することが示されている。しかしながら、二次構造予測プログラムは、必ずしも安定ではないループ領域中に塩基対を導入する傾向がある。典型的な実施形態では、通常、ヘアピンステムから離れた塩基対を無視することができる。これにより、十分な長さ(13nt超)を有する3D-ASOをデザインすることができるほどの長さのいくつかのヘアピンループがもたらされる。ヒトゲノムは、109塩基対を含む。意図しないマッチ、ひいては非特異的結合を回避するために少なくとも13ntを必要とすると推定される。
【0075】
一連の3D-ASOデザイン
本明細書中に開示の構造に基づいたデザイン方法により、種々の開発段階のASO薬および薬物候補を改良することが可能となる。以下の開示は、一連の3D-ASOデザインを例として提供する。以下に認められるように、3D-ASOは、幾何学的適合性および三次相互作用を最適にするようにデザインされた非標準的な対であることに起因して、その標的に対して配列が完全に相補的ではない。これは、本明細書中に開示のデザイン方法の特徴である。また、これらのデザインは、プソイドウリジン(ψ)などの修飾塩基を含む。
【0076】
SARS-CoV-2ウイルスRNAを標的にする3D-ASO
SARS-CoV-2転写制御配列(TRS)およびフレームシフト刺激エレメント(FSE)との広範囲の塩基トリプル相互作用およびフーグスティーン塩基対合相互作用を構築するいくつかの3D-ASOをデザインした(
図21a)。
【0077】
FSEを標的にするPRF3p
コロナウイルスには、プログラムされた-1リボゾームフレームシフト(PRF)を導入し、かつ必要不可欠なORF1bを翻訳するためのFSEが必要である。FSEは、滑りやすい配列およびアテニュエーターヘアピンに先行するシュードノット構造を含む(
図21b)。翻訳中に、リボソームは、シュードノットによって滑りやすい部位で停止させられ、このプロセスがリボソームに1ヌクレオチド分スリップバックする機会を与え、その後にシュードノットを破壊し、翻訳を継続することができる
18。フレームシフトがない場合、リボソームは下流終止コドンと遭遇して外れ、タンパク質1aが産生される。フレームシフトがある場合、リボゾームはORF1bの翻訳を完了してタンパク質1a-1bを生成する。
【0078】
SARS-CoV-2に必要不可欠なPRFを排除することを目的とした、シュードノット構造を破壊する3D-ASOをデザインした。このシュードノットは、ステム1~3を含む(
図21b)。この実施形態は、リボソームが滑りやすい部位の下流の位置で停止しないか、停止するようにステム1および2を破壊するようにデザインされる。
図21cに示したデザインPRF3pは、テンプレートDに随伴する。この22-ntオリゴは、ステム3の3’側のすぐ隣接する領域にハイブリッド形成し、3つの主溝塩基トリプル、5つの副溝塩基トリプル、およびその間のフーグスティーン対に携わる(
図21d~g)。承認薬で示されたその並外れた安定性、中性のバックボーン、および安全性のために、ホスホロジアミダートモルホリノ(PMO)修飾を選択した
19。
【0079】
TRSを標的にするSBD1およびSBD1-T15A
テンプレートBを使用して、SARS-CoV-2 TRSを標的にする3D-ASOをデザインした。これらの3D-ASOは、以前に報告された1Dデザインを改良したものである。2005年に、Neuman et al.は、SARS-CoV RNAを標的にする9つのASOをデザインし、そのうちのいくつかが培養細胞中でのウイルスの様々な程度の抑制に有効であることを見出した
20。最も有効なもの(文献ではTRS2と称されているが、本発明ではTRS(転写制御配列の略語)との混同を避けるためにPREVと呼ぶ)は、10~20μMでTRSへの結合によってウイルスを抑制する。著者らは、標的TRS領域がヘアピンに折りたたまれていることを提案していた。しかしながら、21-nt PREVは、ヘアピンループのほぼ全体と相補的である(
図21a)。結果として、相当な数のPREV塩基が標的にハイブリッド形成できないか、あるいは、ヘアピンステムを破壊するのに必要な自由エネルギーを消費してハイブリッド形成する。いずれの場合にも、PREVは、意図する結合親和性および結合特異性を達成することができず、任意の非対合PREV残基のみが非特異的結合に寄与する。
【0080】
SBD1は、SARS-CoV-2ウイルスRNAを標的にするためにPREVから改変された3D-ASOであった。TRS領域中の配列は、SARS-CoVとSARS-CoV-2との間でほとんど同一であり、一塩基置換によりU-G対がU-A対に変化している(
図22a)。したがって、TRSを標的にするASOは、SARS-CoV-2を同様に抑制するはずである。SBD1は、PREVと14個のヌクレオチドを共有し、これらのヌクレオチドがループの5’領域とWC塩基対を形成し、それにより、9個の3’-ループ残基がヘアピンステムに接続し直すようにする(
図22b)。また、SBD1は、ヘアピンステム塩基対との主溝塩基トリプルおよびループの3’末端(3’-1)A残基とのフーグスティーン対を形成する5個の残基(3′-TCTTT(配列番号25))を含む(
図22c~f)。3’ループ領域の2つのさらなるA残基(3’-2および3’-3)は、SBD1-ループ二重鎖と副溝塩基トリプルを形成することができる(
図22g、h)。これらの塩基トリプルおよびフーグスティーン対合相互作用は、ASO-ヘアピン複合体をさらに安定化する強力な塩基スタッキングを伴う。他のSBD1残基は、TRSヘアピンループ(コアTRS配列ACGAAC(配列番号6)の3個の5’残基を含む)とWC対を形成する。したがって、SBD1は、不連続転写を中断させると予想される。
【0081】
TRS領域を標的にするための3D-ASOのデザインは、代替二次構造によって複雑になる。RNAが代替構造に折りたたまれることは珍しくない;したがって、構造に基づいたASOデザイン法は、これらの全てを考慮しなければならない。二次構造の予測およびSHAPE分析では、SARS-CoV-2 ゲノムRNAの5’領域が4つのステムループ構造を含む構造に折りたたまれることを強く示唆していた(
図22i)
21~26。Neuman et al.が提唱したTRSヘアピンに折りたたまれる配列は、SL2、SL3、SL4の5’領域、およびこれらの間のリンカーを占める。
【0082】
SBD1は、代替構造のSL2と広範囲の三次相互作用を構築することができる(
図22j)。SL2は、5塩基対ステムおよびペンタループを含む。テンプレートAを介してSBD1に結合するために、SL2、G45-C59、およびA46-U58の塩基での2つの塩基対を、SBD1との相互作用(SL2-A246とSBD1-T16との間のフーグスティーン対、SLC2-U58とSBD1-T15との間の非標準的な対、およびSL2-C59とSBD1-G14との間のWC対を含む)で置き換える。SBD1の3’末端の3個の残基(T19、C18、およびT17)がSL2ステムと主溝塩基トリプルを形成し、予想されるTRSヘアピンとの相互作用に類似する構造(
図22jの
図13bとの比較)を認識することができることが重要である。強力な副溝相互作用は予想されない。この代替の結合様式では、SL3は、ヘプタループを有する4個の塩基対のみを含み、非常に不安定であるとは予想されない。SBD1は、WC塩基対合を介してSL2を破壊するようにデザインされている。概して、標的構造の一部を破壊しなければならず、かつ代替構造との三次相互作用がより少ないにもかかわらず、SBD1は、両方の潜在的な構造に顕著に結合することができる。
【0083】
SBD1のバリアントであるT15Aもデザインした。代替TRS構造に結合する場合、T15A変異は、非標準的なT・U対をA-U対で置き換える(
図22k)。単一ヘアピン構造に結合する場合、A15残基は、3’-1位のAとのフーグスティーン対を媒介することができない。その代わりとして、A15は、5’-1位のUと対合し、次いで、A(3’+1)とのその対合を破壊することができる(
図22l)。次いで、SBD1-T15AのT16残基は、A(3’+1)とフーグスティーン対を形成することができ、T17~T19はSBD1と同様に主溝塩基トリプルを形成することが可能である。概して、SBD1-T15Aバリアントは、両方のTRS構造との三次相互作用を構築することができ、代替標的構造との相互作用をより最適にすることができる。
【0084】
デュシェンヌ型(Duchene)筋ジストロフィを処置するための3D-ASOデザイン
デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、ほぼ例外なく男児が罹患する進行性の筋力低下および筋肉疲労を特徴とする稀な遺伝的障害である。NIH遺伝・希少疾患(GARD)情報センターによれば、DMDは、全世界の出生男児3,500~5,000人におよそ1人が罹患する。治癒はない。症状の管理および生活の質の改善のために理学療法およびホルモン剤が使用される。近年は治療法が改善されているにもかかわらず、患者はローティーンで車椅子に拘束されるようになり、非常に短命で、典型的には30代で死亡する。
【0085】
DMDは、筋繊維の強度を支持するジストロフィンと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の変異に原因する。この3年間で、ASO薬は、DMDが処置される見込みを示した。4つのASO薬がDMD処置用として米国FDAに承認されている。
【0086】
エテプリルセンおよびゴロディルセン
エテプリルセンおよびゴロディルセンは、ジストロフィン翻訳の読み枠を変化させる変異に原因する特定のDMD型を処置するためにSarepta Therapeuticsによって開発された。約13%および8%のDMD患者がこれらのカテゴリーに含まれる。エテプリルセンは、エクソン51に結合してpre-mRNAスプライシング中にエクソン51がスキップされ、それにより、適切な翻訳読み枠が修復される30-ヌクレオチドASOである。この「エクソンスキッピング治療」は、部分的に機能するジストロフィンタンパク質を産生し、疾患の重症度を低下させる。ゴロディルセンは、エクソン53に結合してスキップさせる25-ヌクレオチドASOである。
【0087】
2016年のエテプリルセンの迅速承認は、刺激的かつ論争の的となった。この薬物は、ジストロフィンタンパク質産生を部分的に修復することができた。このクラスにおける先駆者として、新規のエクソンスキッピング機構が作用することが証明された。しかしながら、エテプリルセンは、臨床的にほんのわずかしか有効でなく、標準的な歩行試験において有意な改善を示さない。2人のFDA調査委員会のメンバーが抗議のために辞任した。2018年に、欧州医薬品庁は、その承認を拒否した。さらに、エテプリルセンは高額であり、患者あたり年間300,000ドルの費用がかかる。したがって、有効性が高いデザインに改良し、費用を下げることが重要である。
【0088】
エクソン51をスキップするための3D-ASOデザイン
エクソン-51上のエテプリルセン結合部位および周囲の配列は、信頼性が高いと予想されるヘアピン構造に折りたたまれる(
図23A)。エテプリルセンとその標的との間の塩基対合は、ヘアピン立体構造と構造的に適合しない(すなわち、エテプリルセンは、ヘアピン中の塩基対を破壊しなければならず、その後にエクソンと完全に結合することができる)。それを行うために消費されるエネルギーは、その結合親和性および結合特異性を低下させる。
【0089】
ヘアピン構造と適合するだけでなく、広範囲のさらなる三次相互作用も構築する2つの3D-ASO(DMD1およびDMD2)をデザインした(
図23B~N)。DMD1およびDMD2は、それぞれヘアピンループの5’および3’領域に結合する(
図23B、H)。これらの両方は、標的RNAとの水素結合を、WC塩基対中で認められる水素結合よりも多数形成する(
図23C~E、23G~N)。これらのさらなる相互作用から獲得され、ヘアピンステムを破壊する必要性がないことによって確保される自由エネルギーにより、本発明者らのASOは、それらがより短かったとしても(それぞれDMD1およびDMD2について19および18ヌクレオチド)、高い親和性および特異性で標的RNAに結合することが可能なはずである。より短い配列は、大きな利点(送達がより容易なこと、合成コストがより低いこと、および先天免疫を引き起こす機会がより低いことが挙げられる)もある。
【0090】
エクソン44をスキップするための3D-ASOデザイン
ヒトDMDエクソン44配列(148nt)は、以下である。
【化6】
2007年にWilton et al.
27によって報告され、その後にCarrie Miceliのグループ
28によって研究された24-nt H44A ASOは、以下の配列を有する:
【化7】
【0091】
H44Aは、エクソン残基61~84にアニールする。
エクソン44の二次構造予測から、
図27Aに示した構造(残基48~116)が得られる:
【0092】
エクソン44中の位置を得るために図面中のナンバリングに47が付加される必要があることに留意のこと。
H44Aは14~37位にアニールし、その最も近い残基は、第3のステムループから2ヌクレオチド離れている(
図24aも参照のこと)。
【0093】
DMD44-3D1およびDMD44-3D2を、それぞれテンプレートCおよびGに基づいてデザインした(
図24b、c)。
【0094】
さらに、本明細書中に開示の方法は、pre-mRNAの文脈においてASO結合部位の折りたたみを考慮することができる。これを、本発明の典型的な方法で日常的に行う。3’イントロンの存在により、
図27Bに示した代替構造を得た:
【0095】
グラフ上の残基88で終結するエクソン44中の位置を得るためにナンバリングに60が付加される必要があることに留意のこと。残基89以降は、イントロン44~45に属する。
DMD44-3D3およびDMD44-3D4を、それぞれテンプレートCおよびGに基づいてデザインした(
図24d、e)。
【0096】
DMDエクソン45をスキップするための3D-ASOデザイン
ヒトエクソン45配列(176nt)は、以下である。
【化8】
【0097】
直近の5’イントロン50-nt配列は以下である。
【化9】
【0098】
2007年にWilton et al.
27によって報告され、その後にMiceliのグループ
28によって研究された26-nt H45A ASOは、5’スプライス部位にアニールし、下線をつけた残基は隣接するイントロンと対合する(
図25a)。H45Aと比較して、FDA承認を受けたアモンディス45(カシメルセン)は、5’末端上のCおよび3’末端上のUAA(配列番号5)が除去されている。これは、5’-イントロンにアニールする塩基をわずか3つしか持たない。かかるイントロンとの短い対合でエクソン45スキッピングを生じるのに十分である。
【0099】
各隣接領域上の50ntを用いたエクソン45の二次構造の予測により、上位20の予測された構造のうちの19の構造中に常に存在するヘアピンが明らかとなった。上で示したエクソン45配列中のこのヘアピン配列に下線を引いている。この構造の文脈では、H45Aの5’末端のC残基を除去することにより、ヘアピンの5’末端のGとの結合の競合が回避され、アモンディス45-標的RNA二重鎖をヘアピンと積み重ねることが可能である。したがって、アモンディス45は2Dデザインである。
【0100】
いくつかの3D-ASOを、アモンディス45を改良するようにデザインした(
図25b~f)。DMD45-3D1は、テンプレートCを予想されるヘアピンに適用することによるデザインである(
図25b)。DMD45-3D1では、第3の位置のψは、ヘアピンに隣接する3’Aとフーグスティーン対を形成する。5’末端の2つのA残基は、ヘアピンステムと副溝塩基トリプルを形成する。5層の主溝塩基トリプルは、DMD45-3D1の残基4~8と標的RNAとの間に形成される。アモンディス45からの正味の変化は、5’末端のCAAT(配列番号8)をAAψAGGψ(配列番号7)で置き換えることである。
【0101】
DMD45-3D2およびDMD45-3D3に対して、RNAヘリックスの順応性を調査する。DMD45-3D2は、G-Aの非標準的な対によってヘアピンステムを伸長することができると仮定する(
図25c)。そのようなものとして、フーグスティーン対は、DMD45-3D2の第3の位置のAおよび標的ヘアピンの3’側のGによって媒介される。DMD45-3D1と比較して、DMD45-3D2は、5’末端のAAψA(配列番号9)をAAA(配列番号10)で置き換える。DMD45-3D3は、ヘアピンステムを2つのさらなる塩基対U・GおよびU-Aによってさらに伸長することができると仮定する(
図25d)。DMD45-3D1と比較して、DMD45-3D3は、5’末端のAAψA(配列番号9)をAAAψ(配列番号11)で置き換える。
【0102】
DMD45-3D4-1および-2は、テンプレートGをヘアピンに適用することによるデザインである(
図25e、f)。両方の3D-ASOでは、2つの5’A残基は、ヘアピンステムと副溝塩基トリプルを形成する。ヘアピンに隣接する2つの5’残基(UG)ははみ出している。この2つの3D-ASOは、主溝塩基トリプルの操作数が互いに異なる。DMD45-3D4-1は、標的RNAと7層の主溝塩基トリプルを形成し、そのうちの3つは非標準的な塩基対に関与する(
図25e)。DMD45-3D4-2は、あまり野心的でないデザインであり、5層の主溝塩基トリプルが2つの非標準的な塩基対に関与する(
図25f)。生化学アッセイおよび機能アッセイを使用して、これらのデザインを比較し、どのデザインが最も強力であるかを決定することができる。
【0103】
ヒトFAN1を制御するための3D-ASO
FAN1は、ファンコニ関連ヌクレアーゼ1である。これは、KIAA1018、MTMR15、FANCD2/FANC1関連ヌクレアーゼ1とも呼ばれる。FAN1は、DNA鎖間架橋修復に必要であるが、DNA二本鎖切断反応に関与しない。FAN1は、モノユビキチン化FANCD2によってDNA損傷部位に動員される。FAN1は、N末端にUBZ型ユビキチン結合ドメイン、中間にSAP型DNA結合ドメイン、およびC末端に「VRR_nuc」ドメインと称されるヌクレアーゼドメインを有する。FAN1は、5’フラップに対するエンドヌクレアーゼ活性および5’-3’エキソヌクレアーゼ活性(VRR_nucドメインを必要とする)を有する。
【0104】
UniProtデータベースに示されるように、FAN1タンパク質は、2つの主要なイソ型で発現される。イソ型1は、1017a.a.および全ての機能ドメインを含む全長タンパク質である。イソ型2は、533a.a.を含み、1~526はイソ型1と同一であり、残基527~533は、イソ型1中のAKALAGQ(配列番号12)からFCWLLLQ(配列番号13)に変えられている。イソ型2は、VRR-nucドメインを含む全長タンパク質中の残基534~1017を欠き、したがって、機能しないと予想される。したがって、RNAプロセシング中にイソ型2のmRNAをイソ型1に転換することによって機能的なFAN1の発現レベルを増加させることが可能なはずである。430、237、573、318、587、103、および298a.a.長を含む7つのさらなるイソ型をコンピュータによって予測する。
【0105】
より短いタンパク質イソ型をコードするmRNAイソ型が、選択的スプライシングではなく選択的ポリアデニル化によって生成されることが認められた。ヒトタンパク質アトラスの検索によって、以下の5つのmRNAバリアントが見出された:
1.FAN1-201(ENST00000362065.8)は、1017a.a.をコードする(4,891nt長の15個のエクソン(13コーディング)を含む)。エクソンおよびイントロンの長さ(nt)を以下に示し、括弧内の数字はイントロンの長さを示す。
139(500)1,386(2,220)141(2,355)202(3,042)234...(4306)1,543
最後のエクソン(1,543nt)は、ポリアデニル化シグナル(PAS)配列の複数のコピーを含む。
2.FAN1-202(ENST00000561594.5)は、533a.a.(イソ型2)をコードする(2,738nt長の4個のエクソン(3コーディング)を含む)。
36(626)1,386(2,220)141(2,355)1,175
エクソン4は、1,175ntを有し、これは、FAN1-201中に202ntのエクソン4および973ntのイントロン4~5を含む。コーディングは、TAA(配列番号14)終止コドンに到達する前に22nt伸長する。これは、FAN1-201のイントロン4~5またはエクソン5の3’領域を含まない。エクソン4の残基1149~1154が3’末端(切断部位)から約20ntであるPAS(AUUAAA(配列番号15)、PAS1)を含む(FAN1-202が選択的ポリアデニル化によって生成されることを示す)ことが重要である。
3.FAN1-203(ENST00000561607.5)は、533残基のイソ型2をコードする(2,690nt長の4個のエクソン(3コーディング)を含む)。
133(487)1,386(2,220)141(2,355)1,030
エクソン4は1,030ntを含み、より短いことを除き、FAN1-202のエクソン4と同一である。エクソン4の残基995~1000が3’末端から約30ntにPAS(AAUAAA、(配列番号16)PAS2)を含む(FAN1-203がこの部位での選択的ポリアデニル化によって生成されることを示す)ことが重要である。このPASもFAN1-202中に存在することに留意のこと。
4.FAN1-205(ENST00000562892)は、105-a.a.タンパク質をコードする(344nt長の3個のエクソン(全てコーディング)を含む)。
81(3,527)141(2,355)122
エクソン3は、より短いことを除き、FAN1-201、-202、および-203バリアントのエクソン4と同一である122ntを含む。このバリアントは、終止コドン(コード領域で終結する)を持たず、3’末端が不完全のようである。
5.FAN1-207(ENST00000565466)は、533-a.a.タンパク質をコードする(2,304nt長の4個のエクソン(3コーディング)を含む)。
119(500)1,386(2,220)141(2,355)658
エクソン4は、より短いことを除き、FAN1-202および-203のエクソン4と同一である658ntを含む。PAS配列がこの部位で選択的アデニル化を指示するかは不明である。
要するに、転写物FAN1-202およびFAN1-203の産生は、2つの選択的PAS配列によって指示されることが明らかであり、それにより、創薬の機会が提供される。
【0106】
最近の論文において、ASOを使用してより短い転写物のポリアデニル化を阻害し、より長いRNAの産生を増加させることができることが報告されている29。FAN1のポリアデニル化および有効な全長タンパク質発現を潜在的にモジュレートする4つの1D-ASO配列をデザインした。
3’-AAAUUACAAAUGAACGAAUAUUUUA-5’(配列番号17)(標的PAS1エクソン4残基1154~1129)
5’-UUUAAUGUUUACUUGCUUAUAAAAU-3’(配列番号18)(FAN1ASO1、25nt)
3’-GUCGGUCUCCCACCGAUUUAAAUUA-5’(配列番号19)(標的PAS1エクソン4残基1173~1149)
5’-CAGCCAGAGGGUGGCUAAAUUUAAU-3’(配列番号20)(FAN1ASO2、25nt)
3’-AAAUAACUUCAUGAAAAAUUUUUAG-5’(配列番号21)(標的PAS2エクソン4残基1000~976)
5’-UUUAUUGAAGUACUUUUUAAAAAUC-3’(配列番号22)(FAN1ASO3、25nt)
3’-UAAUUAAUGUUCAUACAUUAAAUAA-5’(配列番号23)(標的PAS2エクソン4残基1021~995)
5’-AUUAAUUACAAGUAUGUAAUUUAUU-3’(配列番号24)(FAN1ASO4、25nt)
【0107】
3D-ASOデザインを実施するために、本明細書中に開示の方法の実施形態は、RNA構造を用いてFAN1-202mRNAおよびFAN-203mRNAの両方のエクソン4についての二次構造予測を実施することを含み、両方のPAS配列が信頼性の高いヘアピン構造の一部として存在することを見出した。上位20個の予測配列の全てに存在するヘアピンについての残基1105~1155。PAS配列(AUUAAA(配列番号15))は、3’末端に存在する(残基1149~1154)。
【0108】
残基993~1022は、FAN1-203エクソン4については上位19個の予測配列に、ならびに、より長いFAN1-202エクソン4については上位20個の予測配列のうちの19個の予測配列に現れるヘアピンを形成する。PAS(AAUAA(配列番号26))は、5’末端に配置されている(残基995~1000)。
【0109】
これらの構造は、潜在的に、PASを隔離し、mRNA切断およびポリアデニル化機構によるアクセスを防止することができる。この所見は、これらのPAS部位がわずかな時間しか使用されない理由を説明し得る。これらの構造およびその隣接領域を標的にするいくつかのASO配列をデザインしている(
図26)。
【0110】
効能
2つのリード3D-ASO配列(SBD1およびPRF3pPMO)は、培養HEK293細胞中でのSARS-CoV-2ウイルス複製を強力に阻害する。フレームシフティング刺激エレメントに対するPRF3pPMOおよびそのバリアントの阻害活性を、デュアルルシフェラーゼレポートアッセイを使用してさらに確認する。MTTアッセイは、これらの3D-ASOが細胞障害性でないか(SBD1)、あるいは、非常に高濃度でのみ毒性である(PRF3pPMO)ことを示した。
【0111】
上記文章由来の参考文献
【化10-1】
【化10-2】
【化10-3】
【化10-4】
【0112】
以下に詳細に考察するように、本開示は、治療薬および生物医学研究のためにアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を構造に基づいてデザインする方法を提供する。これらの方法の中心概念は、結合親和性および特異性を高めるために、ASOデザイン中に塩基トリプルおよび非標準的な塩基対を組み込むことである。本開示は、様々な価値の高い標的のためのこの方法論の原理のガイドおよびASO配列の例証となるデザインを提供する。
【0113】
本明細書中に開示の方法の核心は、構造に基づいたASOデザインのための一連の指針である。設計原理を、既存のRNA構造から着想した。本開示は、例えば、モデル系としてヒトテロメラーゼRNA由来の配列を使用して、これらの設計原理をさらに立証する。短縮および変異の分析は、三次相互作用がASO-ヘアピン会合に必要不可欠であることを明確に示している。本開示は、SARS-CoV-2 RNAを標的にするASOのデザインを例示し、設計原理および検証を記載している原稿は、Li et al.,Structure-based design of antisense oligonucleotides that inhibit SARS-CoV-2 replication.bioRxiv [プレプリント].2021 Aug 24:2021.08.23.457434.doi:10.1101/2021.08.23.457434.PMID:34462746;PMCID:PMC8404888(本明細書中で参考として援用される)に見出される。
【0114】
RNAが生物学および疾患のほぼ全ての態様に関与するので、本明細書中に開示の方法は、ほとんど全ての標的RNAを特異的に制御するために広く適用可能である。
【実施例】
【0115】
実施例1:表題:アンチセンスオリゴヌクレオチド薬の構造に基づいたデザイン
本開示は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)のための構造に基づいたデザイン方法を提供し、これらの発見を、広範な疾患(COVID-19が挙げられる)を処置するためのASO薬を開発するために使用する。ASOは新興感染症と戦うのに特に有用な新規の薬物クラスである。ASOは、標的RNAに特異的に結合して所望の生物学的効果および治療効果を引き出す一本鎖合成オリゴヌクレオチドである。最近、いくつかのASO薬が米国食品医薬品局によって承認されており、開発40年後にしてこのテクノロジーの時代が到来している。原理上、ASOを、任意の病原性配列を標的にするように迅速に開発することができ、それにより、広範な疾患(デュシェンヌ型筋ジストロフィおよび新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が挙げられる)を処置することができる。さらに、ASO配列を、薬物耐性ウイルス株に対抗するように容易に修飾することができる。
【0116】
従来のASOデザインは、線状標的配列に沿ったワトソン・クリック(WC)塩基対合則に厳密に従う。通常、十分な親和性および特異性を達成するために18~25ヌクレオチドを必要とする。しかしながら、ウイルスRNAは、二次構造および三次構造に折りたたまれることが多く、それによりASOハイブリッド形成を妨害することができる。したがって、従来のASOデザイストラテジーは、構造化領域を標的にすることを回避するか、あるいは、これらの構造を単純に無視し、高親和性結合剤を同定するために多数のASOのスクリーニングに依存する。本明細書中に開示のデザインは、三次元(3D)空間における標的構造と適合し、WC塩基対合に加えて三次相互作用に携わる。この方法でデザインされたASOは、三次相互作用の獲得および標的構造を破壊する必要がないことによる自由エネルギーの確保に起因して高められた親和性で標的に結合する。さらに、ASOが標的配列だけでなく、形状および水素結合パターンも認識するので、結合特異性を、WC対合相互作用のみによって達成することができる結合特異性を超えて高める。本開示は、構造に基づいてASOをデザインする方法に関する一連の原理および同定された2つのデザインテンプレートを提供する。結合研究により、これらのデザインにおける三次相互作用の重要性が確認された。
【0117】
新規の薬物型として、ASOは、革命的な医薬である(1、2)。ASOハイブリッド形成は、タンパク質結合表面に対する相補性に依存せず、原理として、ワトソン・クリック(WC)塩基対合則に従って任意の配列を標的にすることができる。それ故に、ASO治療薬は、小分子を用いて容易に創薬可能ではない細胞経路を制御することができる(3)。1978年に、Zamecnik and Stephensonは、ASOがin vitroでウイルス複製を阻害することができることを実証した(4、5)。1998年に、最初のASO薬ホミビルセンが、免疫低下患者におけるサイトメガロウイルス網膜炎(CMV)の処置用として承認された。HIV薬が開発されたことによってCMV感染症の症例数が劇的に減少したためにその販売承認は後に取り下げられたが、ホミビルセンにより、抗ウイルス剤としてのASOの実現可能性および潜在性が実証された。2013年以来、6つのASO薬が、種々の遺伝的障害の処置用として承認された(ホミビルセン、ミポビルセン、エテプリルセン、ヌシネルセン、イノテルセン、ボランソルセン、およびゴロディルセン)。現在まで、66種のASO薬候補が、広範な疾患(6、7)(肝炎Bについては3種が挙げられる(Pharmaprojectsデータベース))について臨床試験が行われている。
【0118】
ASO治療薬は、標的RNAにハイブリッド形成し、いくつかの機序(細胞RNaseHによるRNA分解の誘導、翻訳阻害、pre-mRNAスプライシング中のエクソンのインクルージョンまたはスキッピング、RNA結合タンパク質およびmicroRNAとの制御に関する競合、ならびにウイルスRNAの複製、転写、およびウイルス粒子アセンブリの阻害など)を介して所望の治療効果を引き出す。血清安定性および好ましい薬物動態学的を達成するために、ASO薬を、血清および細胞中に豊富なヌクレアーゼに対する耐性を示すように化学修飾する。これらの化学修飾は、作用機序と適合しなければならない。
【0119】
あるクラスのASOは、標的とDNA/RNA二重鎖を形成し、細胞RNaseHによって分解されるDNAオリゴである。ホミビルセンなどの最初期のASOは、バックボーン中にホスホロチオアート(PS)修飾のみを含み、この修飾は、ヌクレアーゼ耐性を増加させるが、RNaseH活性を妨害しない。第2世代のRNaseH依存性ASOは、20量体オリゴの10個の最外側残基中にさらなる2’-O-(2-メチルオキシエチル)(2’-MOE)修飾を含む。これらの残基は、標的RNA結合に寄与するが、RNaseH切断に適合しない。RNaseH切断の範囲を中心の10-ヌクレオチド領域に狭小化することにより、これらの「ギャップマー」は、特異性が改善されている。ミポメルセン、イノテルセン、およびボラネソルセンは、ギャップマーである。別のカテゴリーのASO(エテプリルセン、イノテルセン、およびゴロディルセンなど)は、RNaseHに依存しないが、その代わりに、標的の細胞機序またはウイルス機序との相互作用を立体的に遮断する。これらの「立体遮断薬」は、2’-MOE、ホスホロジアミダートモルホリノ(PMO)、または標的結合親和性およびヌクレアーゼ耐性の両方を増強する他のバックボーン修飾を含む(2、7)。これらの機序および化学修飾は、構造に基づいたASOデザインで意図される。
【0120】
一本鎖RNAは分子内塩基対を形成する傾向があり、これらが相互に積み重ねられて二本鎖ヘリックスおよびより高次の構造を形成する。これらの構造は、RNA結合タンパク質の動員などの生物学的機能に重要であることが多い(8)。ウイルスは、ウイルスの複製および翻訳に重要なその5’-UTRおよび3’-UTR中、ならびに下流ウイルスタンパク質の翻訳の継続を担うリボソームフレームシフト(RFS)部位中にRNAヘアピンを含むことが多い。これらの構造は、構造の対合相互作用および3D幾何形状が相互に適合しないので、ASOハイブリッド形成を妨げることが多い。この課題によって多くのASO候補が失敗に終わり、重要な構造化標的に手が届かないままである。本明細書中に開示の構造に基づいたデザインは、この問題を解決する。
【0121】
本発明の構造に基づいたデザインストラテジーは、ASOの治療特性を実質的に改善する潜在性を有する。現在のFDA承認されたASOは18~30ヌクレオチド長であるが、デザインおよび予備的結合研究から、より短いASOが、標的との三次相互作用に携わることによって十分な親和性および特異性を達成することができる場合があるということが証明されている。ASOサイズが減少すると、より効率的な細胞送達、より好ましい生体内分布、製造コストの低下が可能となる。
【0122】
1.例証となる研究
本開示は、構造に基づいたASOデザインのための一般原理および方法工程を提供し、構造デザインテンプレートを同定し、このテンプレートにおける三次相互作用の重要性を実証し、デザインの基本要素としての塩基トリプルの予備的「用語集」を作成する。これらの結果は、両方の目的の基礎としての機能を果たす。
【0123】
2a.構造に基づいたASOデザインについての一般原理
これらの一般原理は、構造生物学における常識および既存のRNA構造からの学習に基づく。これらの原理は、3D空間における標的構造との適合性および三次相互作用における操作としてまとめられ得る。
【0124】
原理番号1:ヘアピンループ全体と対合するASOを決してデザインしない。1Dデザインを実施する場合、ヘアピンループ全体をASOで補完することを望むことが自然である。しかしながら、3D拘束に起因して全ての塩基対が形成されるわけではない。ヘアピンステム中の塩基対合には、ループの5’および3’のほとんどの残基が相互に近づくことが必要であるのに対して、ヘアピンループとASOとの間に形成されるヘリックスは硬い棒のようであり、ターン(11bp)あたり約30Åにわたる。これが構造生物学における常識である。
【0125】
原理番号2:ASOおよび標的RNAによって形成されたヘリックスを、ヘアピンステムとの塩基スタッキングによって安定化することができる。塩基スタッキングは、核酸の構造を安定性させるための主な原動力である。
【0126】
原理番号3:ASOのその標的に対する親和性および特異性は、塩基トリプルおよび非標準的な対合相互作用によって増強され得る。これらの三次相互作用は、折りたたまれたRNA分子の3D構造でよく見られる。塩基トリプルは、WC塩基対(ASOとヘアピンループとの間)と「非対合」ループ残基との間に形成され得る。ある意味では、これらの「ループトリプル」は、幾何学的拘束に起因して「浪費された」非対合塩基を代償する。
【0127】
2b.シュードノット構造由来のデザインテンプレート
当業者は、ASOおよび構造化標的RNAがどのようにして相互作用するのかを理解することを目的とする。しかしながら、必要とされる構造の情報が不足している(すなわち、ASOとの複合体中のRNAヘアピンの3D構造はほとんど利用できない)。本明細書中に開示されるように、当業者は、ASOとヘアピンとの間の会合に類似するRNA構造(シュードノットなど)の調査から着手することができる。シュードノットは、上流または下流の鎖とのループ対合を有するRNAヘアピンを指し、ASOと等価と見なされ得る(
図1A、B)。実際には、各シュードノットは、最小限の2つの対合領域(P1およびP2)を含む。いずれかの一方をヘアピンステムと見なし得るのに対して、他方をヘアピンループとASOとの間に形成された二重鎖と見なし得る(
図1A、C)。したがって、各シュードノット構造は、潜在的なヘアピン-ASO相互作用についての2つの知識を本発明者らに教示する(
図1B、D)。
【0128】
本発明の例証となる実施形態では、93種のシュードノット構造を着想し、広範囲の三次相互作用(主溝および副溝塩基トリプル(第3の塩基が、それぞれ主溝側または副溝側由来の塩基対と接触している、例えば、
図2Eおよび2Cを参照のこと)、非WC塩基対、および塩基スタッキングが挙げられる)が認められた。いくつかのシュードノット構造を、ASO-ヘアピン対をデザインし、その結合を試験するために選択した。これらのうちで、テロメラーゼRNAシュードノット構造は、最も広範囲の三次相互作用を有するものとして際立っており、誘導されたASO-ヘアピン対は、高い結合親和性を示した。したがって、この構造を、その後の生化学的特徴付けおよびASOデザイン作業のためのテンプレートとして使用した。
【0129】
テロメラーゼRNAシュードノット構造は、ASOがヘアピン標的に結合することができる2つの異なる方法を示唆している(
図2A、B)。ASO1は、主にヘアピン1ループの3’領域と対合する(
図2A)。2つのA残基は、ASO1の5’末端(シュードノットナンバリングでのA35およびA36)で突出し、副溝側由来のヘアピンステム中の塩基対と接触する(
図2C)。かかる相互作用はA-副溝相互作用(RNAの折りたたみに重要であり、グループIイントロンおよびリボゾームRNAなどのRNAで広く認められる三次相互作用型)と呼ばれる(9、10)。ASO2は、主に、ヘアピン2ループの5’領域と対合する(
図2B)。ASO2の3’末端の3つのオーバーハンギングU残基(シュードノットナンバリング中のU8~U10)は、主溝側由来のヘアピン2ステム中の塩基対と接触する(
図2E)。これらのASO残基はWC対合に関与していないにしても、それらは別の方法で広範囲の水素結合に携わり、塩基トリプルの連続層が互いに重なり合う。これらの三次相互作用は、結合親和性および構造特異性に寄与するはずである。一部の塩基の組み合わせのみが塩基トリプルと適合するので、これらのASO残基もこれらのASO残基が直接接触する標的配列の認識に役立つと予想される。両方の「ステムトリプル」型が、比較的短いループを有するヘアピンを標的にするのに特に有用である。
【0130】
2つのさらなる特徴がASOデザインに重要である。第1に、副溝および主溝の相互作用の両方が、各ASO-ヘアピン対中に存在する。ASO1 5’オーバーハング残基(A35およびA36)(
図2A)が関与する副溝トリプルは、ヘアピン2中の3’ループ残基と、ASO2とヘアピン2ループとの間に形成された二重鎖との間に生じる(
図2B)。同様に、ASO2の3’オーバーハング(U8~U10)が関与する主溝トリプル(
図2B)は、ASO1-ヘアピン1ループ二重鎖(
図2A)に携わるためにヘアピン1の5’ループ残基によって使用される。第2の特徴は、フーグスティーン対(U7とA37との間、シュードノットナンバリング)が二重層の副溝トリプルおよび三重層の主溝トリプルを架橋することである(
図2D)。このフーグスティーン対は、2つの隣接するセグメントを接続する適切な幾何形状のために重要である。
【0131】
2c.生化学分析により、塩基トリプルおよび構造認識の重要性を確認した
i.塩基トリプルの相互作用は、高親和性結合に不可欠である
ASO-ヘアピン対中の塩基トリプルを破壊し、次いで、等温滴定熱量測定法(ITC)を使用してその親和性を測定した(
図3A、B、C、D)。K
d値は、ASO1/ヘアピン1については70±10nMであり、ASO2/ヘアピン2については28±4nMである(
図3C、D)。2つの5’Aオーバーハングを欠失させると、ヘアピン1へのASO1結合が1/8まで低下し、副溝トリプルの重要性を示す(
図3A)。ヘアピン1ループの5’末端の3つのU残基をCに変異させると、結合が1/10超まで減少し、ASO1-ヘアピン1結合への主溝トリプルの重大な寄与が強調された。ASO2中の3つのUオーバーハンギング残基を短縮すると、ヘアピン2への結合が1/20に低下する(
図3B)。したがって、置換(ヘアピン1中)および短縮(ASO2中)の両方は、主溝塩基トリプルの重要性を実証している。ヘアピン2ループ中のA36およびA37を2つのC残基で置換すると、ASO2結合が1/130に劇的に破壊される。この結果により副溝塩基トリプルの重要性が確認され、副溝トリプルはヘアピンループ中に生じるときの方が貢献度が高いことを示唆している。2つのヘアピン-ASO対についての変異誘発の結果は、シュードノット構造中に認められる塩基トリプルがASO-ヘアピン複合体中で保存されている可能性があることを示唆している。
【0132】
ii.ヘアピン構造はASO標的結合および特異性に重要である
3D構造(
図2A)は、ASOとの三次相互作用には標的RNAがヘアピン立体構造で存在することが必要であることを示唆している。ヘアピン1ステムを6塩基対から4塩基対に短縮することによって安定なヘアピンステムがその相互作用に重要であるかどうかを試験した(
図3A)。驚くべきことに、ASO1と短縮ヘアピン1との間に結合は検出できなかった。この結果は、ASO1は欠失された残基に直接接触しない場合でさえもヘアピン1構造を認識することを示唆している。したがって、構造に基づいたASOデザインでは、三次相互作用およびヘアピン構造の全てが、標的結合特異性に寄与している。
【0133】
2d.バックボーン修飾
ASOのバックボーン修飾により、そのin vivo安定性が増加し、標的親和性が増強され、毒性が低下する。デザインされたASOは、一般的に使用される修飾を含む(
図4)。
【0134】
ホスホロチオアート(PS)は、ホスホジエステルの非架橋酸素原子が硫黄に置換されたバックボーン修飾である。この修飾は、実質的に、ヌクレアーゼ耐性を改良し、ASOの血清タンパク質への結合を強化し、送達に有利である。この修飾は、核酸の幾何形状を劇的に変化させない。PS修飾は骨格の幾何形状をわずかに変化させるだけであり、それにより、全てのASOの位置で十分に許容されると予想される。
【0135】
リボース修飾2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)および2’-O-メチル(2’-OMe)を、第2世代のRNA/DNAに基づいたASOで使用する。これらの修飾は、標的に対するハイブリッド形成親和性を増加し、ヌクレアーゼ耐性を増強し、免疫刺激活性を低下させる。未変性RNAと比較して、2’-OMeおよび2’-MOEは、2’-官能基をより嵩高くする。3D構造では、2’-OHは、ほとんどのASOの位置で溶媒を受け入れやすく、したがって、2’-MOEおよび2’-OMeは十分に許容される。唯一の例外はASO2中の残基4~7であり(
図4B)、その2’-OHは、比較的密集した周辺部に配置されている。これらの位置について、2’-MOEではなく2’-OMeが良いはずである。ある特定の実施形態は、別の選択肢としてこれらの位置に2’-フルオロ修飾を含むことができる。
【0136】
ホスホロジアミダートモルホリノオリゴマー(PMO)は、ホスホロジアミダート結合を有する6員モルホリノ環を含む核酸アナログである(
図4)(11)。PMOバックボーンは、ヌクレアーゼに対する耐性が高い。PMOバックボーンの別の特徴は、負電荷を欠き、電荷間の反発が低下するので、標的に対する親和性が増加する。PMOは、そのバックボーンに沿った共有結合数がRNA中の共有結合数と同一である。モルホリノ部分は、非水素原子数がリボースと同一であり、環内に余剰の原子を有するが、2’-OHを欠く。ホスファート上のジメチルアミン基は、未変性核酸中の単一の非架橋酸素より嵩高いが、全てのASOの位置で十分に適応されるはずである。
【0137】
ロックド核酸(LNA)は、2’-Oおよび4’-Cを共有結合性に連結しているメチレン架橋を有する(
図4)(12)。架橋は、A形態のヘリックス中に見出される立体構造中のリボースを固定し(13~15)、それ故に、標的親和性が増強される。2’-OMeについて上記で説明した理由のために、LNAが開示のASOデザインと適合すると予想される。
【0138】
ペプチド核酸(PNA)アナログは、側鎖としての核酸塩基およびバックボーンとしてのペプチド結合で連結されたN-(2-アミノエチル)グリシン単位を有する(16)。PNA ASOは、ヌクレアーゼ分解およびプロテアーゼ分解の両方に高い耐性を示す。PMOと同様に、PNAは、中性バックボーンを有し、DNAまたはRNAより高い親和性で標的に結合する。以前に決定された構造は、PNAおよび相補的RNAがハイブリッド形成して、PNA鎖がより可動性であるA形態のヘリックス立体構造を取ることが示された(17、18)。PNAをデザインテンプレートに適合させることができる可能性がある。
【0139】
2.デュシェンヌ型筋ジストロフィ
デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、ほぼ例外なく男児が罹患する進行性の筋力低下および筋肉疲労を特徴とする稀な遺伝的障害である。NIH遺伝・希少疾患(GARD)情報センターによれば、DMDは、全世界の出生男児3,500~5,000人におよそ1人が罹患する。治癒はない。症状の管理および生活の質の改善のために理学療法およびホルモン剤が使用される。近年は治療法が改善されているにもかかわらず、患者はローティーンで車椅子に拘束されるようになり、非常に短命で、典型的には30代で死亡する。
【0140】
DMDは、筋繊維の強度を支持するジストロフィンと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の変異に原因する。この2年間で、2つのASO薬がDMD処置用として米国FDAに承認されている。
【0141】
3a.エテプリルセンおよびゴロディルセン
エテプリルセンおよびゴロディルセンは、ジストロフィン翻訳の読み枠を変化させる変異に原因する特定のDMD型を処置するためにSarepta Therapeuticsによって開発された。約13%および8%のDMD患者がこれらのカテゴリーに含まれる。エテプリルセンは、エクソン51に結合してpre-mRNAスプライシング中にエクソン51がスキップされ、それにより、適切な翻訳読み枠が修復される30-ヌクレオチドASOである。この「エクソンスキッピング治療」は、部分的に機能するジストロフィンタンパク質を産生し、疾患の重症度を低下させる。ゴロディルセンは、エクソン53に結合してスキップさせる25-ヌクレオチドASOである。
【0142】
2016年のエテプリルセンの迅速承認は、刺激的かつ論争の的となった。この薬物は、ジストロフィンタンパク質産生を部分的に修復することができた。このクラスにおける先駆者として、新規のエクソンスキッピング機構が作用することが証明された。しかしながら、エテプリルセンは、臨床的にほんのわずかしか有効でなく、標準的な歩行試験において有意な改善を示さない。2人のFDA調査委員会のメンバーが抗議のために辞任した。2018年に、欧州医薬品庁は、その承認を拒否した。さらに、エテプリルセンは高額であり、患者あたり年間300,000ドルの費用がかかる。
【0143】
3b.構造に基づいたデザイン
構造に基づいたデザイン方法により、エテプリルセン、ゴロディルセン、および種々の開発段階のASO薬候補を大幅に改善することが可能である。それ故に、ここでは、エテプリルセンを例として使用する。エテプリルセン結合部位およびエクソン51上の取り囲まれている配列は、信頼性が高いと予想されるヘアピン構造に折りたたまれる(
図5A)。エテプリルセンとその標的との間の塩基対合は、ヘアピン立体構造と構造的に不適合である(すなわち、エテプリルセンは、ヘアピン中の塩基対を破壊しなければならず、その後にエクソンと完全に結合することができる)。それを行うために消費されるエネルギーは、その結合親和性および結合特異性を低下させる。
【0144】
ヘアピン構造と適合するだけでなく、広範囲のさらなる相互作用も構築する2つのASO(DMD1およびDMD2)をデザインした(
図5B~N)。DMD1およびDMD2は、それぞれヘアピンループの5’および3’領域に結合する(
図5B、H)。これらの両方は、標的RNAとの水素結合を、WC塩基対中で認められる水素結合よりも多数形成する(
図5C~G、5I~N)。これらのさらなる相互作用から獲得され、ヘアピンステムを破壊する必要性がないことによって確保される自由エネルギーにより、ASOは、それらがより短かったとしても(それぞれDMD1およびDMD2について18および17ヌクレオチド)、高い親和性および特異性で標的RNAに結合することが可能なはずである。より短い配列は、大きな利点(送達がより容易なこと、合成コストがより低いこと、および先天免疫を引き起こす機会がより低いことが挙げられる)もある。
【0145】
ASOデザインは、知的所有権を得るのに好ましい特徴を有する。比較的短い長さに加えて、ASOは、幾何学的適合性および三次相互作用を最適にするようにデザインされた非標準的な対であることに起因して、その標的に対して配列が完全に相補的ではない(
図5B、H)。プソイドウリジン(ψ)などの天然に存在する修飾塩基も含めることができる。
【0146】
3.SARS-CoV-2ウイルスを抑制するASO(Li et al.,Structure-based design of antisense oligonucleotides that inhibit SARS-CoV-2 replication.bioRxiv [Preprint].2021 Aug 24:2021.08.23.457434.doi:10.1101/2021.08.23.457434.PMID:34462746;PMCID:PMC8404888も参照のこと)
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)は、新規に発見された重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染症である。大流行以来、この感染症は、致死性および接触感染性のために、重大な世界的パンデミックに急速に展開していった。5月27日の時点で、5600万人の感染が確認され、全世界で350,000人超が死亡した。毎日確認される新規の症例数および死亡者数は、それぞれ、およそ100,000人および1,500人に達する。一般的な症状としては、発熱、身体の痛み、乾性咳嗽、疲労、悪寒、頭痛、咽喉痛、および嗅覚喪失が挙げられる。重症例では、高熱、重症の咳、および息切れを生じる。また、患者によっては神経学的および/または胃腸の症状を経験するか、あるいは、卒中のリスクが高まる。SARS-CoV-2の封じ込めにおける大きな難題は、およそ42%の感染患者が無症候であるが、他者に感染させることができるという点である(19)。SARS-CoV-2は、主に、液滴、エアロゾル、および感染表面との接触を介して人から人へ拡大する。有効なワクチンが利用できるようになる時期は不明である。レムデシビルはCOVID-19処置用に認可を受けた唯一の薬物であるが、その利益は十分とは言えない。
【0147】
呼吸器疾患を引き起こすウイルスを標的にするASOおよび他の合成オリゴヌクレオチド薬を開発する努力がなされている(20)。以前から標的にされているウイルスとしては、SARS-CoV、インフルエンザA型、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、およびアデノウイルスが挙げられる。最先端のものは、胚移植患者のRSV感染を処置するためにAlsylamによって開発されたRSV01と呼ばれる低分子干渉RNA(siRNA)である(21)。励みになるのは、その第IIb相試験において、3~6ヶ月間RSV感染を予防するという有意な有効性が示されたことである。また、この臨床試験は、siRNAが鼻噴霧を介して送達され、投与が非常に容易であるという点が興味深い。siRNAは短い合成オリゴヌクレオチドでもあるので、ASO薬候補は、鼻噴霧または静脈内のいずれかとして投与される。鼻噴霧製剤の利便性は、この薬物が医療サービスを十分に受けていない/不利な境遇の集団により容易に受け入れやすくなり、IV送達に必要な管理の行き届いた医療環境以外で投与可能であるので、特に魅力的である。siRNAは、解かれる必要がある二本鎖RNAであり、活性になる前にアルゴノートと呼ばれる細胞エフェクタータンパク質にガイド鎖が組み込まれなければならない。ヌクレアーゼ耐性に必要なバックボーン修飾がアルゴノート-siRNA相互作用を妨害し、それにより、siRNAが制約を受けることもあるので、ASO経路がある程度好ましい。
【0148】
SARS-CoV-2は、非常に巨大なゲノムを有するポジティブセンス一本鎖RNAウイルスであり、特にASO薬に感受性を示す。15年前に、Neuman et al.は、SARS-CoV RNAを標的にする9つのASOをデザインし、そのうちのいくつかが培養細胞中でのウイルスの様々な程度の抑制に有効であることを見出した(22)。最も有効なもの(
図6A中に示すようにTRS2と呼ばれる)は、10~20μMでウイルスを抑制し、転写制御配列(TRS)に結合する。TRS領域は、ヘアピンに折りたたまれると予想され、SARS-CoVとSARS-CoV-2との間で本質的に同一である。したがって、TRSを標的にするASOは、SARS-CoV-2を同様に抑制するはずである。しかしながら、21-nt TRS2は、ヘアピンループのほぼ全体と相補的である。これらが形成するA形態のヘリックスは55Åにわたって伸びており、ヘアピンステムの上部で隣接残基が対合することを不可能にしている。結果として、全てのTRS2塩基が標的とハイブリッド形成することができるわけではないか、あるいは、自由エネルギーを犠牲にしてヘアピンステム中の塩基対合を破壊する必要があるかのいずれかである。いずれの場合にも、TRS2は、意図する結合親和性および結合特異性を達成することができない。任意の非対合TRS2残基のみが、非特異的結合に寄与する。
【0149】
SARS-CoV-2 TRSヘアピンと空間的に適合し、かつ結合親和性および結合特異性を最大にするために三次相互作用の力を利用する4つのASOをデザインした。SBD1は、TRS2と14個のヌクレオチドを共有し、これらのヌクレオチドがループの5’領域とW-C塩基対を形成し、それにより9個の3’-ループ残基がヘアピンステムに接続し直すようにする(
図6B)。また、ヘアピンステム塩基対との主溝塩基トリプルおよびループの3’末端(3’-1)A残基とのフーグスティーン対を形成する4個の残基(3’-CTTT(配列番号27))を含んでいた(
図6C~F)。3’ループ領域(3’-2)のさらなるA残基は、SBD1-ループ二重鎖と副溝塩基トリプルを形成することができる(
図6G)。これらの塩基トリプルおよびフーグスティーン対合相互作用は、ASO-ヘアピン複合体をさらに安定にする強力な塩基スタッキングを伴う。幾何学的に適合するこれらの広範囲の三次相互作用は、SBD1がより高い親和性および特異性でSARS-CoV-2 RNAに結合するという強い希望を本発明者らに与える。
【0150】
SBD2は、主に、TRSヘアピンループの3’領域中の12個の残基にハイブリッド形成する(
図6I)。このデザインでは、7個の5’ループ残基(5’+2から5’+8まで)は、主溝塩基トリプルの連続層を形成することができる(
図6K~P)。塩基トリプルの非常に大きな連続層は、このASOが十分な親和性および特異性を達成するには15ヌクレオチドで十分であるという大きな希望を発明者らに与える。このデザインの別の革新的な態様は、5位での非WC対の導入である。さらに、2個のA残基を、A-副溝相互作用を介してヘアピンステムに結合させるためにSBD2の5’末端に付加し、5’+1ループ位でCとのフーグスティーン対を形成するために第3の残基Gを付加した(
図6J)。
【0151】
SBD1およびSBD2は、ほとんどの核酸バックボーンにおいて負電荷を欠くPMOオリゴである。標的RNAとのその会合は、電荷間の反発を克服する必要がない。他方では、PMOオリゴは、1つの企業(Gene Tools)のみから入手可能であり、彼らが提供する塩基は、A、T、C、およびGに制限される。
【0152】
SBD1およびSBD2に類似しているが、PSおよび2’-MOE(または類似の2’-OMe)で修飾されている3つのさらなるASO(SBD3、SBD4、およびSBD5)をデザインした(
図6Q、R)。このバックボーン立体配置は、4つの承認されたASO薬と同一である。さらに、SBD4中に架橋フーグスティーン対および主溝塩基トリプルを最適に適応させるために、4、6、11、および12位にプソイドウリジン(pseudouridin)を使用する。SBD5は、SBD4の代替物であり、3位にψを有する。得られたC-ψフーグスティーン対は、SBD4-標的複合体中のC-Gフーグスティーン対において見られるようにCをプロトン化する必要がない。
【0153】
本明細書中に提供した開示は、COVID-19の予防および処置の両方が可能な薬物の産生を容易にする。かかる薬物を、鼻噴霧としてか、静脈内注射を介して投与し得る。鼻噴霧製剤は、高リスクか、容易に医療を受けられないか、症状を示し初めたばかりの人々に容易に投与することができるので、特に魅力的である。
【0154】
実施例1の参考文献
【化11-1】
【化11-2】
【化11-3】
【化11-4】
【0155】
実施例2:コロナウイルス感染症の処置のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド
Li et al.,Structure-based design of antisense oligonucleotides that inhibit SARS-CoV-2 replication.bioRxiv [プレプリント].2021 Aug 24:2021.08.23.457434.doi:10.1101/2021.08.23.457434.PMID:34462746;PMCID:PMC8404888(本明細書中で参考として援用される)で詳細に考察されるように、新規のコロナウイルスである重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)配列が同定されている。
【0156】
以下の文章は、方法を簡潔に記載し、2つのデザインおよび結果(これらの配列についての抗SARS-CoV-2活性を実証するもの)を詳述する。
【0157】
構造に基づいたASOデザイン法の簡潔な説明
従来のASOデザインは、線状標的配列に沿ったワトソン・クリック(WC)塩基対合則に厳密に従う。しかしながら、ウイルスRNAは、ASOハイブリッド形成を妨害する強力な二次構造および三次構造に折りたたまれることが多い。従来のASOデザインストラテジーは、この問題に適切に取り組んでいない。本方法は、SARS-CoV-2を標的にするために標的RNA構造を活用し、構造に基づいたASOデザインを使用する。このデザインは、三次元(3D)空間で標的構造と適合し、WC塩基対合に加えて三次相互作用に携わる。この方法でデザインされた「3D-ASO」は、三次相互作用の獲得および標的構造を破壊する必要がないことによる自由エネルギーの確保に起因して高められた親和性で標的に結合する。さらに、3D-ASOが標的配列だけでなく、形状および水素結合パターンも認識するので、結合特異性が高められる。
【0158】
SARS-CoV-2は、巨大なゲノムを有するポジティブセンス一本鎖RNAウイルスであり、特にASO薬に感受性を示す。3D-ASOは、それぞれフレームシフト刺激エレメント(FSE)および転写制御配列(TRS)を標的にする。
【0159】
FSEを標的にするPRF3pPMO
コロナウイルスには、RNA依存性RNAポリメラーゼをコードし、レプリカーゼと転写酵素の複合体の触媒サブユニットであるORF1bを翻訳するためのプログラムされた-1リボゾームシフティング(-1PRF)が必要である。したがって、PRFは、ウイルス複製に絶対に不可欠である。FSEは、ORF1aとORF1bとの間の接合部に存在する。FSEは、滑りやすい配列およびアテニュエーターヘアピンに先行するシュードノット構造を含む。翻訳中に、リボソームは、シュードノットによって滑りやすい部位で停止させられ、このプロセスがリボソームに1ヌクレオチド分スリップバックする機会を与え、その後にシュードノットを破壊し、翻訳を継続することができる。スリッピングがない場合、リボソームは下流終止コドンと遭遇して外れ、タンパク質1aが産生される。スリッピングがある場合、リボゾームはORF1bの翻訳を完了してタンパク質1a-1bを生成する。
【0160】
PRFを排除することを目的とした、シュードノット構造を破壊する3D-ASOをデザインした。このシュードノットは、ステム1~3を含む(
図7A)。この着想は、リボソームが滑りやすい部位で停止するか、停止しないように、構造の一部を破壊することである。PRF3pPMOと呼ばれるこのASOを、
図7Bに示す。この22-nt PMOオリゴは、ステム3の3’側の領域にハイブリッド形成し、3つの主溝塩基トリプル、5つの副溝塩基トリプル、およびその間のフーグスティーン対に携わる。
【0161】
TRSを標的にするSBD1
SBD1は、標的ヘアピンループの5’領域と14個のW-C塩基対を形成し、それにより、9個の3’-ループ残基がヘアピンステムに接続し直すようにする(
図8A)。また、SBD1は、ヘアピンステム塩基対との主溝塩基トリプルおよびループの3’末端(3’-1)A残基とのフーグスティーン対を形成する5個の残基(3’-3′-TCTTT(配列番号25))を含む(
図8B~E)。3’ループ領域(3’-2)のさらなるA残基は、SBD1-ループ二重鎖と副溝塩基トリプルを形成することができる(
図8F)。これらの塩基トリプルおよびフーグスティーン対合相互作用は、ASO-ヘアピン複合体をさらに安定にする強力な塩基スタッキングを伴う。
【0162】
培養されたヒト細胞中のSARS-CoV-2を抑制するリードASOの同定
PMOバックボーンを用いて合成ASOを生成し、培養したHEK293-hACE2細胞中でのSARS-CoV-2複製の抑制能を試験した。生きているウイルスを含む全ての実験を、UCLA BSL3高封じ込め施設で行う。SARS-CoV-2感染の細胞モデルが確立されている。SARS-CoV-2(分離株USA-WA1/2020)を、BEI Resources of NIAIDから入手した。SARS-CoV-2を、Vero E6細胞中で1回継代し、ウイルスストックを等分し、-80℃で保存する。
【0163】
SARS-CoV-2複製に対するASOの効果を評価するために、ヒトアンギオテンシン変換酵素2(hACE2)受容体を発現するHEK293細胞を、ASOでトランスフェクトした。翌日に、ウイルス接種材料を、無血清培地中のトランスフェクトした細胞に、感染多重度(MOI)MOI 0.1で添加した。接種1時間後、接種材料を、血清補充培地で置き換えた。感染24時間後(hpi)に、細胞をメタノールで固定してウイルスを不活化し、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な抗体を使用した免疫細胞化学(ICC)を用いてウイルス感染を試験した。SARS-CoV-2スパイク抗原を、偽トランスフェクション(ASOなし)を用いた感染細胞中で検出することができ、活性ウイルス感染が確認された(
図9A)。PRF3pPMOおよびSBD1が強力な阻害を示し、ウイルスシグナルはICC画像上で検出可能レベル未満であることが認められた。Site1p5PMOは、SARS-CoV-2 TRSおよび周囲の領域に完全に相補的であるように従来の方法でデザインされた24量体のPMO ASOである。Site1p5PMOは、ウイルス抑制をほとんど示さなかった。以前に報告されたASOであるPREVは、軽度のウイルス抑制を示した。
【0164】
3D-ASOのSARS-CoV-2阻害活性を確認するために、総RNAを感染細胞から抽出し、qRT-PCRを使用してウイルスおよび宿主のRNAを定量した。ICCの結果と一致して、PRF3pPMOは、SARS-CoV-2複製を強力に阻害し、24hpi後の非特異的な標準対照PMOと比較して14%(10μM ASO)および4%(20μM ASO)のウイルスRNAが検出された(
図9B)。10μMおよび20μMの濃度で、SBD1は、ウイルスRNAを、それぞれ、標準対照のそれの44%および17%まで低下させた。これらの結果は、統計的に有意に高い。qRT-PCRデータから、PREVの軽度の阻害活性が確認され、Site1p5PMOについては活性はなかった。まとめると、さらなる前臨床の安全性および毒性研究のためのSARS-CoV-2抗ウイルス活性を有するリードASO候補が同定された。
【0165】
3D-ASOデザインの拡張
PRF3pPMOおよびSBD1はPMOである。3D-ASOがデザインされる方法のために、代替バックボーンを有する類似のASOがSARS-CoV-2阻害で活性な場合があると合理的に予想することができる。当業者は、どのようにこれらの修飾がリード3D-ASOのその標的への結合に影響を及ぼすのかについてさらに決定することができる。
【0166】
PRF3pGapmerと呼ばれるPRF3pPMOのギャップマーバージョン(
図7C)をデザインした。ギャップマーは、シュードノットの破壊に加えてRNaseHによる標的RNAの分解を誘導するASOの内部領域にDNA残基を含む。PRF3pGapmer中の残基4~13は、DNA残基である。残基1~3および14~22は、2’-O-メチル(2’-OMe)修飾を含む。PRF3pGapmerは、その配列の至る所にホスホロチオアート(PS)修飾を有する。
【0167】
SBD3は、SBD1に類似しているが、PSおよび2’-OMeまたは類似の2’-O-メトキシエチル修飾を有する(
図8G)。このバックボーン立体配置は、4つのFDA承認ASO薬に使用されている。SBD3は、各々が密集した残基4~7領域に2’-OMe修飾または2’-F修飾のいずれかを有する2つのハイブリッドバージョンを有する。2’-MOEが2’-OMeよりエクソンスキッピングの誘発において有効であり、かつ炎症誘発の影響が少ない場合があると報告されているので、これらのハイブリッドオリゴは、2’-MOEが有用である機会を最大化する。そのバックボーンに起因して、
図8Hに示すように、SBD3はさらなる副溝塩基トリプルを形成することができる。PRF3pPMO、PRF3pGapmer、SBD1、およびSBD3に類似する3D-ASOは、これらの配列中のLNA修飾およびPNA修飾を使用して合成される。
【0168】
実施例3:ヒトFAN1の発現を上方制御するASOのデザイン
この実施例は、FAN1(ファンコニ関連ヌクレアーゼ1)を標的にする本発明の実施形態を例証する。
【0169】
FAN1は、KIAA1018、MTMR15、FANCD2/FANC1関連ヌクレアーゼ1とも呼ばれる。FAN1は、DNA鎖間架橋修復に必要であるが、DNA二本鎖切断反応に関与しない。FAN1は、モノユビキチン化FANCD2によってDNA損傷部位に動員される。FAN1は、N末端にUBZ型ユビキチン結合ドメイン、中間にSAP型DNA結合ドメイン、およびC末端に「VRR_nuc」ドメインと称されるヌクレアーゼドメインを有する。FAN1は、5’フラップに対するエンドヌクレアーゼ活性および5’-3’エキソヌクレアーゼ活性(VRR_nucドメインを必要とする)を有する。
【0170】
UniProtデータベースに示されるように、FAN1タンパク質は、2つの主要なイソ型で発現される。イソ型1は、1017a.a.および全ての機能ドメインを含む全長タンパク質である。イソ型2は、533a.a.を含み、残基1~526はイソ型1と同一であり、残基527~533はイソ型1中のAKALAGQからFCWLLLQに変わっている。イソ型2は、VRR-nucドメインを含む全長タンパク質中の残基534~1017を欠き、したがって、機能しないと予想される。したがって、RNAプロセシング中にイソ型2のmRNAをイソ型1に転換することによって機能的なFAN1の発現レベルを増加させることが可能である。430、237、573、318、587、103、および298a.a.長を含む7つのさらなるイソ型をコンピュータによって予測する。
【0171】
より短いタンパク質イソ型をコードするmRNAイソ型が、選択的スプライシングではなく選択的ポリアデニル化によって生成されることが認められた。ヒトタンパク質アトラスの検索によって、以下の5つのmRNAバリアントが見出された:
【0172】
FAN1-201(ENST00000362065.8)は、1017a.a.をコードする(4,891nt長の15エクソン(13コーディング)を含む)。エクソンおよびイントロンの長さ(nt)を以下に示し、括弧内の数字はイントロンの長さを示す。139(500)1,386(2,220)141(2,355)202(3,042)234...(4306)1,543。最後のエクソン(1,543nt)は、ポリアデニル化シグナル(PAS)配列の複数のコピーを含む。
【0173】
FAN1-202(ENST00000561594.5)は、533a.a.(イソ型2)をコードする(2,738nt長の4個のエクソン(3コーディング)を含む)。36(626)1,386(2,220)141(2,355)1,175。エクソン4は1,175ntを有し、この中に202ntのエクソン4および973ntのイントロン4~5を含む
【0174】
FAN1-201。コーディングは、TAA(配列番号14)終止コドンに到達する前に22nt伸長する。これは、FAN1-201のイントロン4~5またはエクソン5の3’領域を含まない。エクソン4の残基1149~1154が3’末端(切断部位)から約20ntであるPAS(AUUAAA、(配列番号15)PAS1)を含む(FAN1-202が選択的ポリアデニル化によって生成されることを示す)ことが重要である。
【0175】
FAN1-203(ENST00000561607.5)は、533残基のイソ型2をコードする(2,690nt長の4個のエクソン(3コーディング)を含む)。
133(487)1,386(2,220)141(2,355)1,030。エクソン4は1,030ntを含み、より短いことを除き、FAN1-202のエクソン4と同一である。エクソン4の残基995~1000が3’末端から約30ntであるPAS(AAUAAA、(配列番号16)PAS2)を含む(FAN1-203がこの部位での選択的ポリアデニル化によって生成されることを示す)ことが重要である。このPASもFAN1-202中に存在することに留意のこと。
【0176】
FAN1-205(ENST00000562892)は、105-a.a.タンパク質をコードする(344nt長の3個のエクソン(全てコーディング)を含む)。81(3,527)141(2,355)122。エクソン3は、より短いことを除き、FAN1-201、-202、および-203バリアントのエクソン4と同一である122ntを含む。このバリアントは、終止コドン(コード領域を終結する)を持たず、3’末端が不完全のようである。
【0177】
FAN1-207(ENST00000565466)は、533-a.a.タンパク質をコードする(2,304nt長の4個のエクソン(3コーディング)を含む)。119(500)1,386(2,220)141(2,355)658。エクソン4は、より短いことを除き、FAN1-202および-203のエクソン4と同一である658ntを含む。PAS配列がこの部位で選択的アデニル化を指示するかは不明である。要するに、転写物FAN1-202およびFAN1-203の産生は、2つの選択的PAS配列によって指示されることが明らかであり、それにより、創薬の機会が提供される。;
【0178】
最近の論文(Naveed et al.”NEAT1 polyA-modulating antisense oligonucleotides reveal opposing functions for both long non-coding RNA isoforms in neuroblastoma” Cellular and Molecular Life Sciences 2020)において、ASOを使用してより短い転写物のポリアデニル化を阻害し、より長いRNAの産生を増加させることができることが報告されている。この論文によれば、FAN1のポリアデニル化および有効な全長タンパク質発現を潜在的にモジュレートする4つのASO配列をデザインした。
3’-AAAUUACAAAUGAACGAAUAUUUUAC-5’ (配列番号31)(標的PAS1エクソン4残基1154~1129)
5’-UUUAAUGUUUACUUGCUUAUAAAAUG-3’ (配列番号32)(FAN1ASO1、26nt、13U、8A、5GC)
3’-GUCGGUCUCCCACCGAUUUAAAUUA-5’ (配列番号33)(標的PAS1エクソン4残基1173~1149)
5’-CAGCCAGAGGGUGGCUAAAUUUAAU-3’ (配列番号34)(FAN1ASO2、25nt、バランスの良い配列)
3’-AAAUAACUUCAUGAAAAAUUUUUAG-5’ (配列番号35)(標的PAS2エクソン4残基1000~976)
5’-UUUAUUGAAGUACUUUUUAAAAAUC-3’ (配列番号36)(FAN1ASO3、25nt、12U、9A、4GC)
3’-GUUAAUUAAUGUUCAUACAUUAAAUAA-5’ (配列番号37)(標的PAS2エクソン4残基1021~995)
5’-CAAUUAAUUACAAGUAUGUAAUUUAUU-3’ (配列番号38)(FAN1ASO4、27nt、12U、11A、4GC)
【0179】
FAN1-202 mRNAおよびFAN-203 mRNAの両方のエクソン4の二次構造の予測を、RNAstructureオンラインサーバを使用して行い、両方のPAS配列が信頼性の高いヘアピン構造の一部として存在することが見出された。上位20個の予測配列の全てに存在するヘアピンの残基1105~1155。PAS配列(AUUAAA、(配列番号15))は、3’末端に存在する(残基1149~1154)。
【0180】
残基993~1022は、FAN1-203エクソン4については上位19個の予測配列中、同様に、より長いFAN1-202エクソン4については上位20個の予測配列中の19個の予測配列中に現れるヘアピンを形成する。PAS(AAUAA、(配列番号40))は、5’末端に配置されている(残基995~1000)。
【0181】
これらの構造は、潜在的に、PASを隔離し、mRNA切断およびポリアデニル化機構によるアクセスを防止することができる。この所見は、これらのPAS部位がわずかな時間しか使用されない理由を説明し得る。これらの構造およびその隣接領域を標的にするいくつかのASO配列をデザインしている(
図26)。
【0182】
実施例4:ヒトジストロフィンpre-mRNAのイントロン13~14中のpri-miR-3915を標的にするために3D-ASOをデザインする
この実施例は、ヒトジストロフィンpre-mRNAのイントロン13~14(エクソン13と14との間)中の推定pri-miRNAヘアピン(pri-miR-3915、ゲノム座標X32,583,656~32,583,752)を標的にする本発明の実施形態を例証する。pri-miRNAは、転写終結シグナルとしての機能を果たすことが示されている1。pri-miRNAプロセシング機序(マイクロプロセッサ複合体)によるMIR3915ヘアピンの切断が、ジストロフィン転写を終結させ、それにより、ジストロフィン発現を制御するための機序であるという仮説がある。この着想と一致して、2つのDMD転写物であるDMD-223およびDMD-214は、pri-miR-3915のすぐ下流で終結している。DMD-214およびDMD-223は、機能的ジストロフィンタンパク質を産生すると予想されない。特定の理論や作用機序に拘束されないが、この機序は、マイクロプロセッサ複合体によるpri-miR-3915切断の阻害によって転写終結を軽減し、未熟な転写終結を軽減し、したがって、より長く機能的なジストロフィンタンパク質の産生を増加させるための3D-ASOを開発することができることを示唆している。
【0183】
3D-ASOをデザインするために、pri-miR-3915の二次構造予測を、
図27Cおよび27Dに示すように最初に行った。
【0184】
【0185】
実施例4の参考文献
1.Dhir,A.,Dhir,S.,Proudfoot,N.J.&Jopling,C.L.Microprocessor mediates transcriptional termination of long noncoding RNA transcripts hosting microRNAs.Nat.Struct.Mol.Biol.22,319-327(2015)。
【0186】
本明細書中で言及した全ての刊行物(例えば、Li et al.,Structure-based design of antisense oligonucleotides that inhibit SARS-CoV-2 replication.bioRxiv [プレプリント].2021 Aug 24:2021.08.23.457434.doi:10.1101/2021.08.23.457434.PMID:34462746;PMCID:PMC8404888;2020年11月19日に出願され,発明の名称が「STRUCTURE-BASED DESIGN OF THERAPEUTICS TARGETING RNA HAIRPIN LOOPS」であるPCT出願番号PCT/US20/61299号,カナダ特許第2,459,347号、およびGennemark et al.,Sci.Transl.Med.13,eabe9117(2021)12 May 2021)は、引用した刊行物と併せて態様、方法、および/または材料を開示し説明するために本明細書中で参考として援用される。
【0187】
本明細書中に開示のプロセスによって作製された例証となる3D-ASO産物
【化12-1】
【化12-2】
【化12-3】
【国際調査報告】