(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】熱間圧延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240730BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20240730BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240730BHJP
B21B 1/26 20060101ALI20240730BHJP
B21B 1/28 20060101ALI20240730BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20240730BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/00 301T
C22C38/54
C21D9/46 J
B21B1/26 E
B21B1/28
B21B1/22 H
B21B1/22 L
B21B3/00 A
C22C38/00 301S
C21D9/46 G
C21D9/46 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024505079
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2022070919
(87)【国際公開番号】W WO2023006732
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ユグオ、アン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリク、バルト、ファン、フェルトハイゼン
(72)【発明者】
【氏名】エドガー、マテイス、トゥース
【テーマコード(参考)】
4E002
4K037
【Fターム(参考)】
4E002AD04
4E002AD05
4E002AD06
4E002BB09
4E002BC05
4E002BC07
4E002BD03
4E002BD07
4E002BD08
4E002BD09
4E002BD10
4E002BD20
4E002CA08
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB01
4K037EB02
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB08
4K037FB10
4K037FC04
4K037FC07
4K037FD04
4K037FG00
4K037FG10
4K037FJ04
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FM02
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
熱間圧延状態の鋼板であって、鋼が、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の組成:
C:1~50ppm;
Mn:最大200;
Si:最大100;
Al:10~200;
Ti:46~100;
Nb:最大100;
V:最大100;
P:最大20;
S:最大20;
N:最大100ppm;
Σ(Ti+Nb+V):合計で最大200;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大100;
Ni:最大100;
B:最大5ppm;
Ca:最大10;
Cu:最大100;
Mo:最大100;
Sn:最大50;
Feおよび不可避不純物:残部
を有し、熱間圧延条件が、鋼板から作製されるブランクから作製される仕上げ成形物品の鋼表面において、0.30μm以下のSEP1941うねり値Wsaが得られるように微調整される、鋼板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延状態の鋼板であって、
鋼が、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の組成:
C:1~50ppm;
Mn:最大200;
Si:最大100;
Al:10~200;
Ti:46~100;
Nb:最大100;
V:最大100;
P:最大20;
S:最大20;
N:最大100ppm;
Σ(Ti+Nb+V):合計で最大200;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大100;
Ni:最大100;
B:最大5ppm;
Ca:最大10;
Cu:最大100;
Mo:最大100;
Sn:最大50;
Feおよび不可避不純物:残部
を有し、
冷間圧延され、アニーリングされ、任意選択で金属コーティングされた熱間圧延鋼板から作製された最終成形製品において、0.32μm以下、好ましくは0.29μm以下、より好ましくは0.28μmのSEP1941うねり値(Wsa)を達成することを可能とするために、または、0.1μm以下、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下のデルタうねり値を達成することを可能とするために、鋼板の組成および熱間圧延条件が、
HRT=0.752-0.351P+0.004G+0.026T<0.10
[式中、
HRTは、熱間圧延状態の鋼のミクロ組織、集合組織および最終厚みに関するパラメータであり、
Pは、厚み方向に少なくとも1.5mmの長さを有する、圧延方向と平行な鋼板の断面を表す試料に対して、電子線後方散乱回折法(EBSD)を使用して決定される、集合組織成分(112)<110>および(554)<225>の合計体積分率であり、体積分率を計算するために、EBSDによって決定される組織係数が使用され、
Gは、EBSDのスキャン領域に基づく、熱間圧延状態の鋼の平均結晶粒度(μm)であり、
Tは、熱間圧延状態の鋼板の最終厚み(mm)である。]
を満たすように微調整されることを特徴とし、
デルタうねり値が、(Wsaカップ-Wsaフラット)として定義され、Wsaカップが、冷間圧延され、アニーリングされ、任意選択で金属コーティングされた熱間圧延鋼板からMarciniakツールを使用して4.5%の等二軸変形によって作製されたカップのうねり値であり、Wsaフラットが、冷間圧延され、アニーリングされ、任意選択で金属コーティングされた熱間圧延鋼板のうねり値であり、
仕上げ温度が、Ar3変態温度よりも高く、
(112)および(554)が、熱間圧延鋼板の板面法線方向に関し、<110>および<225>が、熱間圧延鋼板の圧延方向に関する、鋼板。
【請求項2】
鋼中に、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
C:1~30ppm;
Mn:10~200、好ましくは40~180;
Si:1~50、好ましくは2~15;
Al:10~100;
Ti:46~95、好ましくは46~90;
Nb:最大90、より好ましくは最大10;
V:最大90、好ましくは最大50、より好ましくは最大10;
P:最大15;
S:最大15;
N:最大80、好ましくは最大60ppm;
Σ(Ti+Nb+V):合計で最大100、好ましくは最大90
で存在し、
任意選択で、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
Cr:最大60;
Ni:最大60;
B:最大4ppm;
Ca:最大5;
Cu:最大60;
Mo:最大60;
Sn:最大30
で存在する、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
鋼中に、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
C:1~22ppm;
Mn:10~150;
Si:1~13;
Al:20~80;
Ti:46~70;
P:1~13;
S:1~13;
N:10~60ppm
で存在し、
任意選択で、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
Nb:最大3;
V:最大5;
Cr:最大50;
Ni:最大50;
B:最大3ppm;
Ca:最大2;
Cu:最大50;
Mo:最大40;
Sn:最大20
で存在する、請求項1または2に記載の鋼板。
【請求項4】
鋼中に、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
C:1~21ppm;
Mn:40~130;
Si:2~13;
Al:30~70;
Ti:50~70;
P:2~13、好ましくは1~5;
S:3~13;
N:10~40ppm
で存在し、
任意選択で、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
Nb:最大2;
V:最大4;
Cr:最大40;
Ni:最大40;
B:最大2ppm;
Ca:最大1;
Cu:最大40;
Mo:最大20;
Sn:最大10
で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項5】
HRT=0.752-0.351P+0.004G+0.026T<0.09
を特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項6】
Gが22μm以下、好ましくは20μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項7】
鋼板を熱間圧延する工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼板を製造するための方法であって、
熱間圧延の仕上げ温度が960℃未満であって、Ar3変態温度よりも高い、方法。
【請求項8】
熱間圧延の仕上げ温度が945℃未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
熱間圧延仕上げ機の最終スタンドにおける圧下率が、15%超、好ましくは20%超である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
鋼板が冷間圧延され、冷間圧延機の最終スタンドのワークロールの粗さRa2.5が、4.5μm未満である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鋼板が溶融亜鉛めっきおよび調質圧延され、調質圧延機の最終スタンドのワークロールの粗さRa2.5が、1.0μm~5.0μmである、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
熱間圧延鋼板のゲージが3mm~5mmの厚みである、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延鋼板に関する。さらなる態様において、本発明は、熱間圧延鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形を伴うまたは伴わない、車体の各所に必要とされる鋼板の特性は、うねりパラメータによって表され得る。成形性が高く、最終形状の製品への成形後に低いうねり値を示す鋼板または鋼帯が、自動車産業において必要とされている。通常、これらは自動車ボディ部品、例えば自動車外装パネルの製造に好適である。高い成形性のため、非侵入型鋼(interstitial free steel)グレードは、このような自動車外装パネルに使用される鋼グレードであり得る。さらに、車両の塗料焼き付けサイクルの改善が、自動車産業において重要となっている。これによって、卓越した塗装外観、世界的な環境の改善および塗料焼き付けサイクルのためのプロセス費用の低減を実現することができる。卓越した塗装外観を実現することについて、その一端を担う問題は、良好な塗装外観を保持または改善しながら、塗料層の厚みを所望の通りに低減することである。これは、塗料の下の鋼板の表面が優れた表面品質である場合に、達成され得る。したがって、自動車産業において、成形後の低いうねり値等の良好な表面特性を有するだけではなく、優れた成形性も有する鋼板を開発する必要がある。
【0003】
鋼板(sheet)および鋼帯(strip)という用語は、ほとんどの場合、互換的に使用可能であり、本明細書において、鋼板は、鋼帯の一部または前の部分(former part)として定義されることを留意されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、良好な成形性を有する鋼板を提供することである。
【0005】
本発明の目的はまた、成形後の低いうねり値等の良好な表面特性を有する鋼板を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、良好な外観のために低いうねり値を有する、完全仕上げ品質の鋼製品の実現を可能とする、場合により金属コーティングされた(例えば、亜鉛めっきされた)鋼板を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、自動車外装パネルであって、パネル内の異なる位置で変形度合いが異なることに起因するうねりのばらつきをほとんど示さない自動車外装パネルの製造を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
先行技術は、金属コーティングプロセス(例えば、溶融めっきプロセス)の改善およびスキンパス圧延に重点を置く。本発明の目的は、さらなる加工(例えば、冷間圧延、アニーリングおよび亜鉛めっき)の後に、得られる鋼板、ブランクまたはパネルの外表面が最適な表面を有するように、熱間圧延鋼板を改良することである。
【0009】
本発明は、成形性を改善するために、および、良好な表面特性(例えば、成形後のうねり値が低く、自動車ボディパネル等の最終製品の成形に起因するうねりのばらつきが小さいという表面特性)を有するために、確実な解決策を提供しようとするものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、ミリパーセントまたはppmが使用される場合、これらはそれぞれ、重量ミリパーセントまたは重量ppmを意味する。
【0011】
本発明の第1の態様において、
鋼板は、熱間圧延状態であり、
鋼は、ミリパーセント、または、示されている場合はppmで、以下の組成:
C:1~50ppm;
Mn:最大200;
Si:最大100;
Al:10~200;
Ti:46~100;
Nb:最大100;
V:最大100;
P:最大20;
S:最大20;
N:最大100ppm;
Σ(Ti+Nb+V):合計で最大200;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大100;
Ni:最大100;
B:最大5ppm;
Ca:最大10;
Cu:最大100;
Mo:最大100;
Sn:最大50;
Feおよび不可避不純物:残部
を有し、
冷間圧延され、アニーリングされ、任意選択で金属コーティングされた熱間圧延鋼板から作製された最終成形製品において、0.32μm以下、好ましくは0.29μm以下、より好ましくは0.28μmのSEP1941うねり値(Wsa)を達成することを可能とするために、または、0.1μm以下、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下のデルタうねり値を達成することを可能とするために、鋼板の組成および熱間圧延条件は、
HRT=0.752-0.351P+0.004G+0.026T<0.10(式A)
[式中、
HRTは、熱間圧延状態の鋼のミクロ組織、集合組織(texture)および最終厚みに関するパラメータであり、
Pは、厚み方向に少なくとも1.5mmの長さを有する、圧延方向と平行な鋼板の断面を表す試料に対して、電子線後方散乱回折法(EBSD)を使用して決定される、集合組織成分(112)<110>および(554)<225>の合計体積分率であり、体積分率を計算するために、EBSDによって決定される組織係数(texture coefficient)が使用され、
Gは、EBSDのスキャン領域に基づく、熱間圧延状態の鋼の平均結晶粒度(average grain size)(μm)であり、
Tは、熱間圧延状態の鋼板の厚み(mm)である。]
を満たすように微調整されることを特徴とし、
デルタうねり値は、(Wsaカップ-Wsaフラット)として定義され、Wsaカップは、冷間圧延され、アニーリングされ、任意選択で金属コーティングされた熱間圧延鋼板からMarciniakツールを使用して4.5%の等二軸変形によって作製されたカップのうねり値であり、Wsaフラットは、冷間圧延され、アニーリングされ、任意選択で金属コーティングされた熱間圧延鋼板のうねり値であり、
仕上げ温度は、Ar3変態温度よりも高く、
(112)および(554)は、熱間圧延鋼板の法線方向(normal direction)に関し、<110>および<225>は、熱間圧延鋼板の圧延方向に関する。
【0012】
Pは、集合組織成分(112)<110>および(554)<225>の合計体積分率である。ここで、<110>および<225>は、圧延方向に関する方向である。(112)および(554)は、法線方向に関する。体積分率Pは、2つの方向;(112)<110>および(554)<225>の体積分率の和である。各成分の体積分率は、無次元で表される。体積分率の計算では、11度の角拡散(angular spread)が使用される。ミクロ組織および集合組織の厚み勾配に起因して、異なる厚み位置において測定された体積分率は異なり得る。ここで行われるすべての測定は、厚み全体にわたる。集合組織は、厚み方向に少なくとも1.5mmの長さを有する、圧延方向と平行な板の断面を表す試料に対して、電子線後方散乱回折法(EBSD)を使用して決定され、体積分率を計算するために、EBSDによって決定される組織係数が使用される。熱間圧延状態の鋼の平均結晶粒度(μm)は、EBSDのスキャン領域に基づく。熱間圧延後の中間段階は、冷間圧延およびスキンパス圧延であり、最終冷間圧延後およびスキンパス圧延後の表面特性は、所望のうねり値を達成するために重要である。冷間圧延パートの間に、鋼は冷間圧延され、2.5mmのカットオフ閾値で測定される、冷間圧延機の最終スタンドのワークロールの粗さRa(本明細書においてRa2.5と略記される。)は、4.5μm未満であるが、0.6μm超である。スキンパス圧延操作は、ワーク表面が2.0μm~3.5μm、好ましくは1.8μm~3.5μm、より好ましくは1.8μm~2.5μmの粗さRa2.5を有する、放電ダル加工ワークロール(electric discharge textured work roll)(EDT)を使用して行われ得る。スキンパス圧延操作の間の金属板の伸びは、0.5%~2%である。
【0013】
本発明の目的の1つは、冷間圧延され、アニーリングされた状態において、または、冷間圧延され、アニーリングされ、金属コーティングされた状態において、低いうねり値を有する鋼帯、鋼板またはブランクの生産を可能とすることであり、うねり値は、規格SEP1941:2012、「Measurement of the waviness characteristic value Wsa(1-5)on cold rolled metallic flat products」に従ってWsa(1-5)として表され、以下、「Wsa」と略記する。このような鋼帯、鋼板またはブランクの低いうねり値Wsaによって、所定の品質の塗装外観を得るために使用される塗装層の厚みを低減することができ、または、塗装層が特定の厚みである場合に、塗装外観の品質を改善することができる。SEP1941において、成形操作に起因するうねりパラメータの変化に関して、その記載は、非変形板状金属の場合に有効であると述べられていることに留意されたい。本発明の一態様において、デルタうねり値として本明細書で定義されるのは、このうねり値の変化であり、これを最小化することが求められている。上記の通り特許請求される本発明の特徴が観察される場合、熱間圧延状態の最適な鋼板が実現され、例えば自動車ボディパーツの製造のための、冷間圧延され、任意選択で金属コーティングされた鋼板を製造するために有利に使用可能であることが見出された。最終成形製品におけるWsaは、このとき、0.30μm以下、好ましくは0.29μm以下、より好ましくは0.28μm以下であり、および/または、デルタうねり値は、このとき、0.1μm以下、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下である。所定の厚みTについて、式A(ここでは、Eqn(A)とも称される)に適合するように、適切なPまたはGが選択される必要がある。
【0014】
本発明の第2の実施形態では、鋼板において、鋼中に、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
C:1~30ppm;
Mn:10~200、好ましくは40~180;
Si:1~50、好ましくは2~15;
Al:10~100;
Ti:46~95、好ましくは46~90;
Nb:最大90、より好ましくは最大10;
V:最大90、好ましくは最大50、より好ましくは最大10;
P:最大15;
S:最大15;
N:最大80、好ましくは最大60ppm;
Σ(Ti+Nb+V):合計で最大100、好ましくは最大90
で存在し、
任意選択で、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
Cr:最大60;
Ni:最大60;
B:最大4ppm;
Ca:最大5;
Cu:最大60;
Mo:最大60;
Sn:最大30
で存在する。
【0015】
本発明の一実施形態では、Σ(Ti+Nb+V)の値は、合計で最大100、好ましくは最大90である。このような値を有することの利点は、連続鋳造中の詰まりを回避することである。
【0016】
本発明の代替実施形態では、鋼板において、鋼中に、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
C:1~22ppm;
Mn:10~150;
Si:1~13;
Al:20~80;
Ti:46~70;
P:1~13;
S:1~13;
N:10~60ppm
で存在し、
任意選択で、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
Nb:最大3;
V:最大5;
Cr:最大50;
Ni:最大50;
B:最大3ppm;
Ca:最大2;
Cu:最大50;
Mo:最大40;
Sn:最大20
で存在する。
【0017】
本発明の別の実施形態では、鋼板において、鋼中に、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
C:1~21ppm;
Mn:40~130;
Si:2~13;
Al:30~70;
Ti:50~70;
P:2~13、好ましくは1~5;
S:3~13;
N:10~40ppm
で存在し、
任意選択で、以下の元素の少なくとも1つが、ミリパーセントで、または、示されている場合はppmで、以下の範囲:
Nb:最大2;
V:最大4;
Cr:最大40;
Ni:最大40;
B:最大2ppm;
Ca:最大1;
Cu:最大40;
Mo:最大20;
Sn:最大10
で存在する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、
HRT=0.752-0.351P+0.004G+0.026T<0.09
を特徴とする鋼板に関する。
【0019】
HRT値がより小さい場合、得られる製品のうねり値および/またはデルタうねり値も、より小さくなる。本発明のさらなる実施形態は、Gが22μm以下、好ましくは20μm以下である鋼板に関する。Gの値がより小さい場合、HRTの値はより小さくなる。これによって、最終製品にとって好ましい、細かい結晶粒度を達成することができる。
【0020】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載される組成の各々について、上記の鋼板を製造するための方法に関する。本発明の実施形態による熱間圧延鋼板から製品を生産するための製造方法は、熱間圧延工程の後に、酸洗い工程、冷間圧延工程、アニーリング工程、亜鉛めっき工程および調質圧延またはスキンパス圧延工程等の工程を含んでもよい。本発明の実施形態によって特定される組成を有する鋼は、例えば転炉において精錬され、連続鋳造プロセス等によってスラブに成形される。
【0021】
使用されるスラブは、成分のマクロ偏析を防止するために、好ましくは、連続鋳造プロセスによって製造される。使用されるスラブは、インゴット製造方法または薄スラブ鋳造プロセスによって製造され得る。代替的には、スラブが製造された後、まず室温に冷却され、次いで再び加熱される従来の方法に加えて、エネルギー節減プロセス、例えば、熱間直接圧延または直接圧延が適用されてもよい。エネルギー節減プロセスは、室温に冷却せずにスラブ温度を保ちながらスラブを加熱炉に入れること、または短時間温度を保った後、速やかに圧延を実施することを含んでいてもよい。
【0022】
熱間圧延工程で使用されるスラブは、加熱されてもよい。加熱において、スラブ加熱温度は、エネルギー節減のために、できるだけ低いことが好ましい。しかしながら、加熱温度が1150℃未満に下がると、炭化物が十分に溶解しない。酸化重量の増加が進むことによる焼き減りの増加の観点から、スラブ加熱温度は、望ましくは1250℃以下である。
【0023】
熱間圧延において、スラブは、Ar3変態温度またはそれ以上である熱間圧延の仕上げ温度で圧延され、次いで、30℃/秒以上の平均冷却速度で冷却され、巻き取られる。ここで、Ar3温度は、冷却中にフェライト変態が開始する温度である。熱間圧延の仕上げ温度がAr3温度未満に下がると、圧延中にα相とγ相との両方が発生し、結果として、フェライトの結晶粒度が大きくなり、厚み方向で結晶粒がより均一ではなくなる。そのため、熱間圧延の仕上げ温度は、Ar3温度以上である。
【0024】
最高熱間圧延の仕上げ温度としては、970℃が好ましい。本発明の一実施形態において、本発明の方法は、鋼板を熱間圧延する工程を含み、熱間圧延の仕上げ温度は960℃未満である。したがって、本発明の方法は、鋼板を熱間圧延する工程を含み、熱間圧延の仕上げ温度は960℃未満であり、仕上げ温度はAr3変態温度よりも高い。熱間圧延の仕上げ温度の最高値は、好ましくはAr3+70℃である。本発明のさらなる実施形態は、上記の鋼板を製造するための方法であって、熱間圧延の仕上げ温度が945℃未満である方法に関する。
【0025】
最終熱間圧延工程における熱間圧延板の厚み方向での温度勾配のため、熱間圧延板のゲージ厚みがより厚い場合、好適な熱間圧延の仕上げ温度を低下させることが推奨される。例えば、3.5mmのゲージ厚みの場合、Ar3+50℃の仕上げ温度が選択され、4.7mmの厚みゲージの場合、Ar3+30℃の仕上げ温度が好ましい。
【0026】
本発明のさらなる実施形態は、上記の鋼板を製造するための方法であって、熱間圧延仕上げ機の最終スタンドにおける圧下率が、15%超、好ましくは20%超である方法に関する。圧下率が増加すると、結晶粒度Gはより細かくなり、集合組織成分Pは増加する。
【0027】
さらなる実施形態において、本発明は、上記の鋼板を製造するための方法でって、鋼板が冷間圧延され、2.5mmのカットオフ閾値で測定される、冷間圧延機の最終スタンドのワークロールの粗さRa(本明細書においてRa2.5と略記される)が4.5μm未満であるが、0.6μm超である方法に関する。
【0028】
冷間圧延の間における冷間圧延の合計圧下率は、一般に50%~85%であり、これにより、例えば0.2mm~2mmの厚みを有する基材が得られる。いくつかの実施形態では、アニーリング工程が実施されてもよい。冷間圧延された基材は、次いで、冷間圧延操作中に受けた加工硬化後の再結晶を目的として、還元雰囲気下のアニーリング炉内で、慣用の方法で実施されるアニーリングに供される。アニーリング工程は、冷間圧延鋼板を、650℃~900℃の温度に加熱する工程である。アニーリング工程は、好ましくは、780℃~820℃で実施される。再結晶アニーリング後、鋼板は、浴温に近い温度に冷却される。浴に入れた後、鋼板または基材の2つの面は、Zn系めっきによって、金属コーティングされる。表面当たりのコーティング重量は、35~45g/m2であり得る。次いで、金属板は、金属板の両側に設置された、ワイピングガスを発射するノズルによるワイピングに供される。ワイピングガスは、各ノズルから金属板に水平で直交する方向に沿って射出される。製造ラインにおける、ノズルの手前の基材の走行速度は、80m/分~160m/分である。これは、好ましくは100m/分超、さらには120m/分超であり得る。
【0029】
ノズルの射出口は、一般に、主射出方向に沿って、金属板から6mm~12mmの距離に配置される。射出口は、一般に、鋼板基材の走行方向に垂直に、金属板の幅と少なくとも同等の幅にわたって伸びる、長方形のスロットに見える。ノズルの射出口と金属板との距離は、好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm未満である。
【0030】
金属めっき鋼板が完全に冷却されると、金属板は、金属コーティングの外表面にテクスチャを与えるために、調質圧延またはテンションレベリング操作にかけられてもよい。十分な粗さを有する、金属コーティングの外表面に転写された表面テクスチャによって、金属板は、成形プロセスが適切に行われるようにするために金属板に塗布された十分な量の油を保持することができる。この転写された表面テクスチャのその他の目的は、金属板に、所望の低いうねり特性を提供することである。
【0031】
スキンパス圧延操作は、ワーク表面が2.0μm~3.5μm、好ましくは1.8μm~3.5μm、より好ましくは1.8μm~2.5μmの粗さRa2.5を有する、放電ダル加工ワークロール(EDT)を使用して行われてもよい。スキンパス圧延操作の間の金属板の伸びは、0.5%~2%である。すべての鋼板は、0.35μm未満、好ましくは0.30μm未満のうねり値Wsaを与えられる。任意選択で調質圧延またはスキンパス圧延処理された鋼板は、パーツを成形するために、切断され、成形プロセス(例えば、延伸、絞りまたは曲げによる成形プロセス)に供されてもよく、次いで、パーツの各コーティング上に塗装が施されてもよい。変形プロセスの後、パーツの金属コーティングの外表面は、0.32μm以下、または0.30μm以下、または0.28μm以下のうねり値Wsaを有する。このうねり値は、例えば、板面の圧延方向およびその直交方向(transverse direction)に4.5%、または厚み方向におよそ9%の等二軸変形後に測定されてもよい。
【0032】
さらなる実施形態において、本発明は、上記の鋼板を製造するための方法であって、鋼が溶融亜鉛めっきおよび調質圧延され、調質圧延機の最終スタンドのワークロールの粗さRa2.5が1.0μm~5.0μmである方法に関する。さらなる態様において、本発明は、熱間圧延板のゲージが3mm~5mmの厚みである鋼板に関する。
【実施例】
【0033】
以下の非限定的な例によって、本発明をさらに説明する。表1に示される化学組成を有し、残部がFeおよび不可避不純物である鋼を、真空融解炉において精錬し、225mmの厚みを有するスラブ材料を得た。
【0034】
【0035】
実施例において、スラブ厚みはおよそ225mmであり、トランスファーゲージは35mm~40mmであり、熱間圧延鋼帯の最終ゲージ厚みは3mm~5mmである。熱間圧延鋼板のミクロ組織がより均一なミクロ組織となるように、仕上げ圧延後の平均目標冷却速度は少なくとも30℃/秒である。巻き取り温度は750℃以下であるが、550℃超である。したがって、熱間圧延鋼板のミクロ組織は、より均一なミクロ組織となり、酸化に起因する焼き減りが低減される。
【0036】
すべての実験において、酸洗い工程が実施される。酸洗い工程は、熱間圧延工程において得られた熱間圧延鋼板の表面の酸化物スケールを、酸洗いを実施することによって除去する工程である。冷間圧延工程は、酸洗い工程後に、酸洗いされた板を冷間圧延する工程である。いくつかの実験において、少なくとも最終冷間圧延パスは、比較的平滑なワークロールを使用して行われる。このような場合、確実な変形のために、上記の鋼板と直接接触する、圧延機の、調整された非エッチングロールの表面は、0.5μm未満の粗さRa2.5を有する。冷間圧延鋼板のうねり値Wsa(1-5)の目標値は、0.40μm未満である。以下に列挙される実施例において、すべての鋼板は、このような表面特性で冷間圧延される。以下に列挙される実施例において、調質圧延のためのEDTワークロールのワーク表面の粗さRa2.5は、2.50μm~3.0μmである。調質圧延操作の間の伸びは、1.0%~1.5%である。熱間圧延は、表2に示されるプロセス条件を使用して実施した。残りのプロセス(酸洗い、冷間圧延、アニーリング、亜鉛めっきおよび調質圧延)は、以前のセクションに記載されているように実施した。調質圧延後、およびその後のMarciniakツールを使用した4.5%の歪みにおける二軸延伸後のうねり値も、表2に示す。実施例7~実施例15において、Ra2.5,CR(冷間圧延機の最終スタンドにおいて冷間圧延CRに使用されるワークロールの表面粗さ)は0.5μmであり、Ra2.5,TR(調質圧延機の調質圧延TRに使用されるワークロールの表面粗さ)は2.8μmである。
【0037】
【0038】
ミクロ組織および集合組織が、本発明によって定義されるHRT基準を満足するかに応じて、二軸延伸後のうねり値Wsaが低くまたは高くなり、表2に示されるように、不良な(B)、良好な(G)または優れた(E)表面外観がもたらされる。鋼板表面のうねり値Wsaは、スキンパス圧延操作後(フラット)および延伸後(カップ)に測定される。後者は、Marciniakツールを使用した4.5%の等二軸変形によって行われる。Wsaの測定の結果を、表2にまとめる。式Aを満足するパラメータHRTの使用により、0.30μm以下という、上記のスキンパス圧延および等二軸変形後のうねり値Wsaを達成することが可能となる。表2に示されるように、ホットバンドミクロ組織および集合組織がHRT基準を満足しない場合、うねり値はかなり大きくなる。大きな熱間圧延Tの値の場合、低い仕上げ温度の値が選択され得る。試料7、14、15の場合、熱間圧延Tは大きな値を有する。このような場合、Eqn(A)に適合するように、仕上げ温度をより低い値まで低下させることができる場合がある。試料8の場合、熱間圧延Tは大きな値(4.69mm)を有するが、921℃のような低い仕上げ温度が選択される結果、Eqn(A)に適合する。ここで言及するうねり値Wsaは、規格SEP1941:2012に定義される通りである。本発明は、いくつかの例示的実施形態を参照しながら上記に記載された。いくつかの部分または要素の変更および代替的実施態様が可能であり、添付の特許請求の範囲において定義される保護の範囲に含まれる。
【国際調査報告】