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特表2024-529496アルツハイマー病を処置するための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】アルツハイマー病を処置するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240730BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240730BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240730BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K48/00
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/7088
A61K35/76
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/06
A61K9/20
A61K9/48
A61P25/28
A61P43/00 105
C12N15/113 Z
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505419
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 CN2022108136
(87)【国際公開番号】W WO2023005959
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】63/226,165
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.eBioscience
(71)【出願人】
【識別番号】598082547
【氏名又は名称】ザ・ホンコン・ユニバーシティー・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】The Hong Kong University of Science & Technology
(71)【出願人】
【識別番号】524163579
【氏名又は名称】ホンコン センター フォー ニュロウディジェナラティヴ ディジージズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イップ、ナンシー ユク ユイ
(72)【発明者】
【氏名】フー、キット ユイ
(72)【発明者】
【氏名】イップ、ファニー チョイ ファン
(72)【発明者】
【氏名】チアン、ユアンピン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、シアオプー
(72)【発明者】
【氏名】オウヤン、リー
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ヒウ イー
(72)【発明者】
【氏名】トアン、ヤンヤン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB25
4C076CC01
4C076CC26
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA28
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA161
4C084ZB212
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA59
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA16
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA23
4C087MA28
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA43
4C087MA52
4C087MA59
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA16
4C087ZB21
(57)【要約】
rs1921622及び/又は他の574個のsST2関連ゲノム部位及び/又はsST2遺伝子/転写物の3’-UTRを含むIL1LR1遺伝子のゲノム座位を破壊することによる、アルツハイマー病の治療、予防、及び潜在的治癒に有用な新しい組成物及び方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病(AD)の治療又はADのリスクの低減を必要とする個人においてADを治療するため又はADのリスクを低減するための方法であって、rs1921622、並びに/又は表4及び表5に列挙されたそれ以外の574個のsST2関連遺伝子バリアントのいずれか1個若しくは複数、並びに/又はsST2遺伝子/転写物の3’-非翻訳領域(UTR)を包含するゲノム配列を破壊する有効量の組成物を前記個人へと投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記投与する工程の前に、前記個人のゲノムの少なくとも一部をシーケンシングすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個人が、APOE-ε4キャリア又は非APOE-ε4キャリアである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記個人が、女性又は男性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記個人が、rs1921622にAアレル若しくはGアレルを有するか、又は前記個人が、表4若しくは表5に示される特定の遺伝子座に少なくとも1つのアレルを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記個人が、ADと診断されているか、又は前記個人が、まだADと診断されていないが、ADの既知のリスク因子を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
rs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)を包含する前記ゲノム配列が、rs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側に約300塩基対、好ましくはrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側に約250塩基対、200塩基対、150塩基対、100塩基対、50塩基対、30塩基対、又は20塩基対の配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、rs1921622又は前記sST2遺伝子の前記3’-UTRを包含する前記ゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ及びrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)を包含する前記ゲノム配列内の2つの位置を標的とする2つのsgRNAをコードする1又は複数のベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1又は複数のベクターが、1又は複数のウイルスベクターである、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって投与されるか、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、溶液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセルの形態で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アルツハイマー病(AD)の治療又はADのリスクの低減を必要とする個人においてADを治療するため又はADのリスクを低減するためのキットであって、rs1921622(若しくは表4若しくは表5の別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列を破壊する組成物を含有する容器を含む、キット。
【請求項15】
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射のために製剤化されているか、又は経口投与若しくは経鼻投与のために製剤化されている、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記組成物が、rs1921622又は前記sST2遺伝子の前記3’-UTRを包含する前記ゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項14に記載のキット。
【請求項17】
前記組成物が、スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ及びrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)を包含する前記ゲノム配列内の2つの位置を標的とする2つのsgRNAをコードする1又は複数のベクターを含む、請求項14に記載のキット。
【請求項18】
前記組成物が、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記個人のゲノムの少なくとも一部をシーケンシングするための薬剤を含有する第2の容器を更に含む、請求項14に記載のキット。
【請求項20】
前記組成物の投与のための取扱説明を更に含む、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年7月27日に出願された米国仮特許出願第63/226,165号の優先権の利益を主張し、その内容は、全ての目的のために全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患及び神経炎症性障害などの脳疾患は、集団の大きなサブセットに影響を及ぼす破壊的な状態である。そのような疾患の多くは、不治であり、非常に消耗性であり、しばしば経時的に脳の構造及び機能の進行性の低下をもたらす。高齢者はこれらの状態を発症するリスクが高いので、世界中で高齢化人口が増加していることに起因して、疾患の有病率もまた急速に増加している。現在、多くの神経変性疾患及び神経炎症性障害は、これらの疾患の病態生理学の理解が限られていることに起因して、診断が困難である。一方で、現在の処置は効果がなく、かつ市場の需要を満たさず、人口の高齢化の進行に起因して、需要が毎年大幅に増加している。例えば、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)は、学習及び記憶の漸進的であるが進行性である低下、並びに高齢者の死亡の主な原因によって特徴付けられる。ADの有病率の増加は、より良好かつ早期の診断の必要性及び要求を推進している。Alzheimer’s Disease Internationalによると、この疾患は現在、世界中で4680万人が罹患しているが、今後30年間で症例数は3倍になると予測されている。高齢者の人口増加が最も速い国の1つは中国である。人口予測に基づくと、2030年までに、4人に1人が60歳を超えると予測され、その大部分にADを発症するリスクがあろう。実際、中国でのAD症例数は1990~2010年に370万例~920万例に倍増し、2050年までに2250万例になると予測されている。香港の人口もまた急速に高齢化している。65歳以上の高齢者は、2025年までに人口の24%を占め、2050年までに人口の39.3%を占めるものと推定される。AD症例数は2039年までに332,688症例までに増加すると予測されている。そのため、この破壊的な状態に罹患しているAD患者を効果的に処置するための新しい方法を開発する緊急の必要性が存在する。本発明は、疾患の効果的な処置に有用であり、かつ潜在的に治癒を提供する新規な組成物及び方法を開示することによって、この必要性及び他の関連する必要性を満たす。
【発明の概要】
【0003】
本出願は、遺伝子操作によるアルツハイマー病の治療的介入の標的として、破壊されると可溶性ST2(soluble ST2:sST2)タンパク質の発現低下をもたらす、rs1921622及び/若しくは他の574個のsST2関連遺伝子バリアント、並びに/又はsST2の3’末端(3’)非翻訳領域を含む、遺伝子座位を初めて開示する。したがって、rs1921622、他の574個のsST2関連遺伝子バリアント、又はsST2の3’末端(3’)非翻訳領域を包含するゲノム配列の効果の抑制又は排除によってアルツハイマー病を処置するための新しい組成物及び方法が、この発見から考案される。
【0004】
そのため、第1の態様では、本発明は、個人におけるアルツハイマー病を処置する方法、又は個人が後日(later)アルツハイマー病を発症するリスクを低減する方法を提供する。特許請求される方法は、(i)rs1921622、並びに/又は(ii)表4及び表5に列挙されたそれ以外の574個のsST2関連遺伝子バリアントのいずれか1個若しくは複数、並びに/又は(iii)sST2遺伝子コード配列若しくは転写物の3’-非翻訳領域(untranslated region:UTR)を包含するゲノム配列を破壊する、有効量の組成物を個人へと投与する工程を含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、特許請求される方法は、投与する工程の前に、個人のゲノムの少なくとも一部をシーケンシングすることを含む。いくつかの実施形態では、個人は、ヘテロ接合体キャリア又はホモ接合体キャリアのいずれかのAPOE-ε4キャリアと見なされる。他の場合では、個人は、非APOE-ε4キャリアである。いくつかの場合では、個人は、女性である。いくつかの場合では、個人は、男性である。いくつかの実施形態では、個人は、rs1921622にAアレルを有する。いくつかの実施形態では、個人は、表4に示される特定の遺伝子座に少なくとも1つのアレルを有する。いくつかの実施形態では、個人は、ADと診断されている。いくつかの実施形態では、個人はまだADと診断されていないが、ADの家族歴などのADの既知のリスク因子を有するか、又はADリスクを増加させることが知られている1若しくは複数の遺伝的アレル(genetic allele)を、例えば女性APOE-ε4キャリアとして保有している。いくつかの実施形態では、rs1921622(又は表4若しくは表5で命名された別の遺伝子座)を包含するゲノム配列は、rs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側約300塩基対、好ましくはrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側約250塩基対、200塩基対、150塩基対、100塩基対、50塩基対、30塩基対、又は20塩基対の配列を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、rs1921622(若しくは表4若しくは表5の別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ及びrs1921622(又は表4若しくは表5に列挙した別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列内の2つの位置を標的とする2つのsgRNAをコードする1又は複数のベクターを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む。いくつかの実施形態では、1又は複数のベクターは、1又は複数のウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、組成物は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって投与されるか、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、溶液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセルの形態で投与される。
【0006】
第2の態様では、本発明は、(i)rs1921622、並びに/又は(ii)表4及び表5に列挙されたそれ以外の574個のsST2関連遺伝子バリアントのいずれか1個若しくは複数、並びに/又は(iii)sST2遺伝子コード配列若しくは転写物の3’-非翻訳領域(UTR)と、くわえて1若しくは複数の生理学的に許容される添加剤(excipient)とを包含するゲノム配列を破壊する、有効量の1又は複数の薬剤を含む組成物を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、rs1921622(又は表4若しくは表5で命名された別の遺伝子座)を包含するゲノム配列は、rs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側約300bps、好ましくはrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側約250bps、200bps、150bps、100bps、50bps、30bps、又は20bpsの配列を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、rs1921622(若しくは表4若しくは表5の別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ及びrs1921622(又は表4若しくは表5に列挙した別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列内の2つの位置を標的とする2つのsgRNAをコードする1又は複数のベクターを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む。いくつかの実施形態では、1又は複数のベクターは、1又は複数のウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、組成物は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって投与されるか、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、溶液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセルの形態で投与される。
【0008】
第3の態様では、本発明は、個人におけるアルツハイマー病を処置するキット、又は後にアルツハイマー病を発症する個人のリスクを低減するキットを提供する。キットは、rs1921622(若しくは表4若しくは表5の別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列を破壊する組成物を含有する、第1の容器を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、組成物は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射のために製剤化されているか、又は経口投与若しくは経鼻投与のために製剤化されている。いくつかの実施形態では、組成物は、rs1921622(若しくは表4若しくは表5の別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、(1)スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ及び(2)rs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列内の2つの位置を標的とする2つのsgRNAをコードする1又は複数のベクターを含む。いくつかの実施形態では、キットは、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む組成物を含有する。いくつかの実施形態では、キットは、個人のゲノム(例えば、APOE-ε4遺伝子)の少なくとも一部をシーケンシングするための薬剤を含有する第2の容器を更に含む。所望により、キットはまた、組成物の投与のための取扱説明を更に含む。
【0010】
本発明のこの態様に関連して、(1)アルツハイマー病を処置するための医薬品;及び/又は(2)アルツハイマー病を処置するための医薬品を含有するキットを製造するための、rs1921622、及び/又は他の574個のsST2関連遺伝子バリアント、及び/又はsST2の3’-非翻訳領域を包含するゲノム配列を破壊する1又は複数の薬剤の使用が、本明細書の開示に従って更に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】IL-33/ST2シグナル伝達を図示する図。(a)可溶性ST2(sST2)転写物及び全長ST2(ST2L)転写物を示す概略図。(b)IL-33/ST2シグナル伝達経路。IL-33、インターロイキン33。
図2】循環sST2レベルは、アルツハイマー病及びその病理学的変化に関連する。(a)疾患表現型(n=336の健常対照[healthy control:HC]、n=277の中国人_コホート_1からのAD患者;線形回帰試験、T=3.241、**P<0.01)に従って層別化された個々の血漿可溶性ST2(sST2)レベル。データは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む箱ひげ図として提示される。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(b)血漿sST2レベルと頭蓋内体積(intracranial volume:ICV)-正規化灰白質体積との相関(n=192の参加者、中国人_コホート_1から);r、ピアソンの相関係数。(c)血漿sST2とP-tau181レベルとの相関(n=271の参加者、中国人_コホート_1から)。(d)血漿sST2とNfL(神経フィラメント光ポリペプチド)レベルとの相関(n=251の参加者、中国人_コホート_1から)。(e)脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)とsST2の血漿レベルとの相関(n=107の参加者、Stanford Alzheimer’s Disease Research Center[ADRC]コホートから)。(f)疾患表現型(n=11のHC、n=75のUKBBNコホートからのAD患者;線形回帰試験、T=3.355、**P<0.01)に従って層別化された個々のCSF sST2レベル。(g、h)AD患者における死後の前頭皮質におけるアミロイドベータ(Aβ)染色とCSF sST2レベルとの相関関係(n=51、UKBBNコホートからの参加者)。参加者を、CSF sST2レベル:低、≦3.6ng/mL;高、>3.6ng/mLに従って2群に層別化した。(h)の垂直の破線は、CSF sST2レベル(3.6ng/mL)を指し示し、AD患者とHC識別するための最も大きいヨーデン指標(Youden’s index)値を有する。CSF sST2レベルが低いAD患者及び高いAD患者におけるAβ染色の代表的な画像(g)及び相関分析の結果(h)。スケールバー、100μm。
図3】血漿sST2レベルは、中国人_コホート_1において心血管疾患の病歴のないアルツハイマー病患者において上昇した。(a)心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)表現型によって層別化された個々の血漿可溶性ST2(sST2)レベル(それぞれ、n=97のCVDの病歴がない認知機能が正常な(cognitively normal)参加者[非CVD]、n=30の心疾患を有する認知機能正常参加者[HD]、n=201の高血圧を有する認知機能正常参加者[HT]、n=72の真性糖尿病を有する認知機能正常参加者[DM]、n=98の中国人_コホート_1からの高脂血症を有する認知機能正常参加者[HL];線形回帰試験、心臓疾患、高血圧、真性糖尿病、及び高脂血症に関する試験については、それぞれ、T=2.206、0.296、-1.493、及び-0.461;*P<0.05)。データは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む箱ひげ図として提示される。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(b~e)血漿sST2レベルは、アルツハイマー病(AD)及び関連するエンドフェノタイプと関連する。(b)疾患表現型によって層別化された個々の血漿sST2レベル(それぞれ、n=97の健常対照[HC]、n=70のCVDの病歴のない中国人_コホート_1からのAD患者[非CVDコホート];線形回帰試験、T=3.151、**P<0.01)。(c~e)AD患者における血漿sST2レベルとエンドフェノタイプとの相関。(c)頭蓋内体積(ICV)に対して正規化された灰白質体積(n=48の参加者、非CVDコホートから)。(d)血漿P-tau181レベル(n=77の参加者、非CVDコホートから)。(e)血漿NfL(神経フィラメント光ポリペプチド)レベル(n=60の参加者、非CVDコホートから)。r、ピアソンの相関係数。
図4】脳sST2レベルの上昇は、Aβ蓄積を増悪させ、かつミクログリアAβクリアランス能力を損なう。(a)3月齢の5XFADマウスへの可溶性ST2(sST2)の脳室内(i.c.v.)送達の概略図。(b~e)対照としてのsST2-Fc又はFcのi.c.v.送達後の4月齢の5XFADマウスの皮質におけるアミロイドベータ(Aβ)沈着。(b、c)AβのDAB染色。(b)代表画像;スケールバー、1mm。(c)Aβプラークの定量化(総皮質面積の%)(対照:n=6のマウス、sST2:n=7のマウス;独立スチューデントt検定、T=2.758、*P<0.05)。棒グラフのデータは平均+SEMである。(d)X-34染色Aβ沈着物(青色)及び4G8標識Aβ(赤色)の共焦点像。繊維状(白塗りの矢印)のAβプラーク及びコンパクトな(黒塗りの矢印)Aβプラークを標識する。スケールバー、100μm。(e)繊維状Aβプラーク、コンパクトなAβプラーク、及び不活性Aβプラークの定量化(対照:n=6のマウス、sST2:n=7のマウス;独立スチューデントt検定、それぞれ、T=3.325、2.274、及び-0.770;*P<0.05、**P<0.01)。(f、g)対照としてのsST2-Fc又はFcのi.c.v.送達後の4月齢の5XFADマウスの皮質におけるミクログリア及びAβプラークの共局在。(f)直交するX-Z視像及びY-Z視像を有する合併共焦点Zスタック画像を用いた4G8標識Aβプラーク(白色)及びIba-1ミクログリア(緑色;赤色の矢印はミクログリア細胞体を指し示す)の共染色を示す、代表的な画像。スケールバー、10μm。(g)Aβプラークのミクログリア被覆率の定量化(対照:n=6のマウス、sST2:n=7のマウス;独立スチューデントt検定、T=-2.298;*P<0.05)。(h、i)対照としてのsST2-Fc又はFcのi.c.v.送達後の4月齢の5XFADマウスの皮質におけるミクログリアAβ取込活性。代表的な散布図(h)及び定量化(i)は、メトキシ-X04標識Aβ(対照:n=7のマウス、sST2:n=7のマウス;独立スチューデントt検定、T=-3.620、**P<0.01)を含有するCD11b細胞のパーセンテージを示す。(h)の野生型(wild-type:WT)マウスの散布図を使用して、メトキシ-X04ミクログリア(すなわち、MeX04CD11b細胞)をゲーティングした。
図5】5XFADマウスにおける繊維状Aβプラーク、コンパクトなAβプラーク、及び不活性Aβプラークの代表的な画像。4月齢の5XFADマウスの皮質におけるX-34染色アミロイドベータ(Aβ)沈着物(青色)及び4G8標識Aβ(赤色)の共焦点像。スケールバー、10μm。
図6】脳sST2の上昇は、5XFADマウスにおけるミクログリア数の増加をもたらす。(a、b)脳可溶性ST2(sST2)は、5XFADマウスのミクログリア数を増加させる。対照としてのsST2-Fc又はFcの脳室内送達後の4月齢の5XFADマウスの皮質におけるIba-1ミクログリアの代表的な画像(a)及び定量化(b)(対照:n=6のマウス、sST2:n=7のマウス;独立スチューデントt検定、T=4.491、***P<0.001)。スケールバー、50μm。棒グラフのデータは平均+SEMである。(c)小さい(すなわち、半径≦8μm)及び大きい(すなわち、半径>8μm)アミロイドベータ(Aβ)プラーク(それぞれ、対照:n=6のマウス、sST2:n=7のマウス;独立スチューデントt検定、それぞれT=2.661及び2.551、*P<0.05)の周囲のミクログリアの定量化。
図7】アミロイドベータ(Aβ)ミクログリアのゲーティング戦略。細胞を前方(FSC=サイズ)及び側方散乱(SSC=内部構造)でゲートした。本発明者らは、FSC及びトリガーパルス幅を使用して、単一細胞を、細胞のダブレット(doublets)又は凝集物から区別した。本発明者らは、非染色対照を使用してCD11b細胞集団を同定した。本発明者らは、C57BL6Jマウス由来の試料を使用して、メトキシ-X04細胞集団を同定した。
図8】sST2レベルに対する性別及び年齢の影響。(a)性別及び疾患表現型によって層別化された個々の血漿可溶性ST2(sST2)レベル(それぞれ、n=132の男性健常対照[HC]、n=84のアルツハイマー病の男性患者[AD]、n=204の女性HC、n=193の中国人_コホート_1からの女性AD患者;線形回帰試験、性別の影響についての試験:それぞれ、HC及びAD患者におけるT=-4.918及び-2.407、P<0.05、###P<0.001;ADの効果の試験:男性及び女性で、それぞれ、T=1.534及び3.008、**P<0.01)。データは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む箱ひげ図として提示される。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(b)男性及び女性における血漿sST2レベルと年齢との相関(n=216及び397:それぞれ、中国人_コホート_1の男性及び女性;男性:ピアソンのr=0.0010、P=0.6410;女性:ピアソンのr=0.0366、P<0.0001)。(c)INTERVAL及びLonGenityコホート20からの男性及び女性における血漿sST2レベルと年齢との相関(それぞれ、INTERVALコホートからのn=1,685及び1,616の男性及び女性、LonGenityコホートからのn=432及び530の男性及び女性;INTERVALコホート[年齢18~76歳]における相関試験、男性:ピアソンのr=0.0169、P<0.0001;女性:ピアソンのr=0.0001、P=0.7715;LonGenityコホート[年齢65~94歳]における相関試験、男性:ピアソンのr=0.0100、P=0.0093;女性:ピアソンのr=0.0196、P=0.0001)。(d)日本人コホートからの男性及び女性における脳脊髄液(CSF)sST2レベルと年齢との相関(それぞれ、n=68及び65男性及び女性;男性:ピアソンのr=0.0441、P=0.0812;女性:ピアソンのr=0.1521、P=0.0014)。(e、f)sST2レベルの分散に対する年齢及び性別の寄与。数字は、それぞれ、中国人_コホート_1及び日本人コホートにおける年齢、性別、及び他の要因によって説明される血漿sST2(e)及びCSF sST2(f)分散の割合を表す。
図9】rs1921622 Aアレルは、より低い循環sST2レベルと関連する。(a)中国人_コホート_1における血漿sST2レベルのゲノムワイド関連研究によって同定された、血漿可溶性ST2(sST2)レベルと関連する、IL1RL1座位での遺伝子バリアントを示すマンハッタンプロット。水平線は、示唆的閾値(P=1E-5、青色)及びゲノムワイドな閾値(P=5E-8、赤色)を指し示す。(b)IL1RL1座位及び血漿sST2レベルでの遺伝子バリアントの領域的関連プロット。紫色の菱形は、センチネルバリアントrs1921622を指し示す。カラースケールは、rs1921622とその隣接バリアントとの連鎖不平衡(rとして測定)を指し示す。(c、d)rs1921622遺伝子型に従って層別化された個体における血漿(c)及び脳脊髄液(CSF)(d)sST2レベル(血漿sST2レベル:それぞれ、n=107、206、及び114のG/G、G/A、及びA/Aキャリア、中国人_コホート_1から;線形回帰検定、T=-11.207、***P<0.001;CSF sST2レベル:それぞれ、n=20、44、及び22のG/G、G/A、及びA/Aキャリア、UKBBNコホートから;線形回帰試験、T=-2.615、*P<0.05)。箱ひげ図のデータは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む;プラス記号(+)は対応する平均値を表す。
図10】IL1RL1遺伝子におけるsST2関連遺伝子バリアントのファインマッピング分析。(a)ゲノムワイド関連研究結果のp値分布を示す、分位数-分位数(Quantile-quantile:Q-Q)プロット。ゲノムインフレーション係数(λ)が示される。(b)rs1921622に関連する79の遺伝子バリアントのハプロタイプ分析(r>0.7)。番号が付けられた各カラムは、79個のバリアントのうち1つを表す;赤色及び青色は、それぞれ、マイナーアレル及びメジャーアレルを指し示す。各行は、ハプロタイプブロック中のメジャーアレルとマイナー次的アレルの特定の組合せによって定義される特定のハプロタイプを表し、ここではハプロタイプ頻度を右側に指し示し、遺伝子座位(±10kbp)を上部に指し示す。三角形はrs1921622の位置を指し示す。(c)IL1RL1遺伝子のバリアントと血漿可溶性ST2(sST2)レベルとの関連を示す、ファインマッピングプロット。ドットの色彩強度は、血漿sST2レベルに対する個々のバリアントの効果量を指し示し、ドットのサイズは、バリアントがその因果効果を発揮する確率を指し示す。
図11】rs1921622遺伝子座位における標的欠失は、脳内皮細胞におけるsST2発現及び分泌を減少させる。(a)GTExデータセットからのヒト組織における、可溶性ST2(sST2)(ENST00000311734.2)の転写レベルに対するrs1921622 Aアレルの影響。rs1921622 Aアレルの効果量及び各組織の95%信頼区間(詳細については表1を参照)を、それぞれ、ボックス及び線で指し示す。赤色及び青色は、rs1921622遺伝子型とsST2転写物レベルとの有意な関連(P<0.05)及び有意でない関連(P≧0.05)をそれぞれ指し示す。(b~d)単一核RNAシーケンシング分析は、ヒト脳の内皮細胞におけるrs1921622とsST2転写物レベルとの関連を明らかにした。(b)ヒト前頭皮質(UKBBNコホートからの21人の参加者からのn=169,496の細胞)における細胞型を示す、均一多様体近似及び投影(Uniform manifold approximation and projection:UMAP)プロット。興奮、興奮性ニューロン;抑制、抑制性ニューロン;アストロ、アストロサイト;ミクロ、ミクログリア;エンド、内皮細胞;オリゴ、オリゴデンドロサイト;OPC、オリゴデンドロサイト前駆細胞。(c)ヒト前頭皮質におけるsST2転写物(上部)及びCLDN5転写物(下部)の発現プロファイル。(d)ヒト前頭皮質からの内皮細胞におけるrs1921622遺伝子型に従って層別化された、sST2(上部)及びCLDN5(下部)の発現レベルを示すドットプロット。正規化実験、正規化された発現。(e~h)CRISPR/Cas9ゲノム編集により、rs1921622座位がsST2発現に重要であることが明らかになった。(e)rs1921622座位を保持する領域(赤色)を標的とする2つのsgRNA対(すなわち、67bp欠失[Δ67bp]についてsgRNA-1及びsgRNA-4;38bp欠失[Δ38bp]についてのsgRNA-2及びsgRNA-3)の位置を示す図。(f)hCMEC/D3細胞における24時間のIL-33投与後のrs1921622座位でのH3K27ac変化のChIP-qPCR分析(群あたりn=3;独立スチューデントt検定、T=4.593、*P<0.05)。棒グラフのデータは平均+SEMである。(g、h)rs1921622座位の欠失は、hCMEC/D3細胞におけるsST2の転写レベル及びタンパク質分泌を減少させる。(g)sST2転写レベル(それぞれ、n=6、8、及び10の同質遺伝子コントロールクローン、38bp欠失を有するクローン、並びに67bp欠失を有するクローン;独立スチューデントt検定、Δ38bp対対照及びΔ67bp対対照について、それぞれ、T=-5.444及び-7.612、***P<0.001)。(h)馴化培地(conditioned medium:CM)における分泌されたsST2タンパク質レベル(それぞれ、n=3、3、及び4の同質遺伝子的コントロール系統、38bp欠失を有する系統、及び67bp欠失を有する系統;独立スチューデントt検定、Δ38bp対対照及びΔ67bp対対照について、それぞれ、T=-13.450及び-16.030、***P<0.001)。
図12】IL-33は、脳内皮細胞におけるsST2の発現及び分泌を誘導する。(a、b)IL-33の投与は、hCMEC/D3細胞における可溶性ST2(sST2)の発現(群あたりn=4)(a)及び分泌(群あたりn=3)(b)を増強する(独立スチューデントt検定、sST2転写物及びタンパク質レベルについて、それぞれ、T=6.484及び28.89、***P<0.001)。棒グラフのデータは平均+SEMである。CM、馴化培地;対照、対照群。(c)hCMEC/D3細胞における24時間のIL-33投与後のsST2プロモータ領域におけるH3K4me3変化のChIP-qPCR分析(群あたりn=3;独立スチューデントt検定、T=29.69、***P<0.001)。
図13】hCMEC/D3細胞におけるrs1921622含有領域でのCRISPR/Cas9ベースの標的欠失の検証。(a)rs1921622含有領域(赤色)を標的とする2つのsgRNA対(すなわち、67bp欠失[Δ67bp]ではsgRNA-1及びsgRNA-4、及び38bp欠失[Δ38bp]ではsgRNA-2及びsgRNA-3)の位置を示す図。(b)同質遺伝子的対照系統(対照)、38bp欠失系統(Δ38bp)、及び67bp欠失系統(Δ67bp)の単一クローンのゲル画像。L、DNAラダー。(c)単一クローンのサンガー検証。
図14】rs1921622 Aアレルは、APOE-ε4キャリアにおいてアルツハイマー病に対する保護効果を発揮する。(a、b)6つのアルツハイマー病(AD)データセットからの全体的なAPOE-ε4キャリア(a)及び女性APOE-ε4キャリア(b)におけるrs1921622 Aアレルのメタ分析結果を示す、フォレストプロット(N=5,436の健常対照、N=5,556のAD患者)。独立したデータセット及びメタ分析から得られた効果量(対数オッズ比)を、それぞれ、長方形及び菱形で表示する。独立したデータセットの場合、水平線は95%信頼区間を指し示し、長方形のサイズはメタ分析で使用される重みに比例する。RE2、Han及びEskinのランダム効果モデル。(c)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたADを有する女性APOE-ε4キャリアにおける累積認知症非罹患確率(cumulative dementia-free probability)の生存プロット(それぞれ、n=58、108、及び66のG/G、G/A、及びA/Aキャリア、LOADコホートから)。HR、ハザード比。(d)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたADを有する女性APOE-ε4キャリアの個々の認知能力(ミニメンタルステート検査[MMSE]スコアによって決定されるとおり)(それぞれ、n=80、97、及び41のG/G、G/A及びA/Aキャリア、中国人_コホート_2から;線形回帰試験、A/A対G/G及びA/A対G/Aについて、それぞれ、T=2.644及び2.207、*P<0.05、**P<0.01)。箱ひげ図のデータは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(e)認知障害を有する女性APOE-ε4キャリアにおける脳領域体積に対するrs1921622 Aアレルの効果量(それぞれ、n=29、72及び46のG/G、G/A、及びA/Aキャリア、ADNIコホートから)。各脳領域について、rs1921622 Aアレルの効果量及び95%信頼区間を、それぞれボックス及び線で指し示す。赤色及び青色は、rs1921622遺伝子型と脳領域体積との有意な関連(*P<0.05)及び有意でない関連(P≧0.05)をそれぞれ指し示す。紡錘形、紡錘状回;中側頭、中側頭回。(f)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたアミロイドベータ(Aβ)APOE-ε4キャリアにおける個々の認知スコア(n=133のGキャリア[G/-]、n=57のA/Aキャリア、AIBLコホートから;ウィルコクソン順位和検定、AIBLPACCスコアに対するrs1921622遺伝子型の影響についての試験、アテンション処理スコア、エピソード想起スコア、及び認識スコア:それぞれ、W=4336.0、1970.5、1610.0、及び1523.5;*P<0.05、**P<0.01)。(g)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたAβAPOE-ε4キャリアにおける縦方向灰白質体積(それぞれ、n=281、並びにAIBLコホートからの128人のGキャリア[G/-]及び55人のA/Aキャリアからの112データポイント;線形混合モデル試験、β=-0.046、F=4.839、*P<0.05)。
図15】アルツハイマー病のリスクは、APOE-ε4非キャリアにおけるrs1921622遺伝子型と関連していない。6つのアルツハイマー病データセットからのAPOE-ε4非キャリアにおけるrs1921622のメタ分析を示すフォレストプロット。独立したデータセット及びメタ分析結果から得られた効果量(対数オッズ比)の値を、それぞれ、長方形及び菱形で表示する。独立したデータセットの場合、水平線は95%信頼区間の範囲を指し示し、長方形のサイズはメタ分析で使用される重みに比例する。RE2、Han、及びEskinのランダム効果モデル。
図16】rs1921622 Aアレルは、LOAD及びADCコホートにおけるアルツハイマー病を有する女性APOE-ε4キャリアにおける認知症の発症年齢の遅延に関連する。(a、b)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたLOADコホートからのアルツハイマー病(AD)群における、全APOE-ε4キャリア(それぞれ、n=82、164、及び99のG/G、G/A、及び99A/Aキャリア)(a)及び、女性APOE-ε4キャリア(それぞれ、n=197、477、及び276のG/G、G/A、及びA/Aキャリア)(b)での、累積認知症非罹患確率の生存プロット。(c、d)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたADCコホートからのAD群における全APOE-ε4キャリア(n=438,959、及びそれぞれ543G/G、G/A、及びA/Aキャリア)(c)及び女性APOE-ε4キャリア(n=197,477、及びそれぞれ276G/G、G/A、及びA/Aキャリア)における累積認知症非罹患確率の生存プロット。コックス回帰試験。HR、ハザード比。
図17】rs1921622 Aアレルは、ADNIコホートにおいて認知障害を有する女性APOE-ε4キャリアにおいて嗅内皮質の萎縮から保護する。(a)認知障害を有するAPOE-ε4キャリア(ADNIコホートからのn=374の参加者)における、脳領域体積に対するrs1921622 Aアレルの影響。各脳領域について、rs1921622 Aアレルの効果量及び95%信頼区間を、それぞれ、ボックス及び線で指し示す。(b)rs1921622遺伝子型に従って層別化された認知障害を有するAPOE-ε4キャリアにおける個々の頭蓋内体積(ICV)-正規化された嗅内皮質体積(n=80、180、及び114のG/G、G/A、及びA/Aキャリア、ADNIコホートから;線形回帰試験、T=0.330)。箱ひげ図のデータは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(c)認知障害を有する女性APOE-ε4キャリア(ADNIコホートからのn=147の参加者)における脳領域体積に対するrs1921622 Aアレルの影響。(d)rs1921622遺伝子型に従って層別化された認知障害を有する女性APOE-ε4キャリアにおける個々のICV正規化嗅内皮質体積(それぞれ、n=29、72、及び46のG/G、G/A、及びA/Aキャリア、ADNIコホートから;線形回帰試験、T=2.285、*P<0.05)。紡錘形、紡錘状回;中側頭、中側頭回。
図18】rs1921622 Aアレルは、中国人_コホート_1のアルツハイマー病を有する女性APOE-ε4キャリアにおいて神経変性から保護する。(a、b)rs1921622遺伝子型に従って層別化された中国人_コホート_1からのアルツハイマー病(AD)を有するAPOE-ε4キャリアにおける、P-tau181(それぞれ、n=14、32、及び11のG/G、G/A、及びA/Aキャリア)(a)及びNfL(神経フィラメント光ポリペプチド)(それぞれ、n=14、33、及び12のG/G、G/A、及びA/Aキャリア)(b)の個々の血漿レベル(線形回帰試験、血漿P-tau181及びNfLについて、それぞれ、T=-0.419及び-1.622)。箱ひげ図のデータは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(c、d)rs1921622遺伝子型に従って層別化された中国人_コホート_1からのADを有する女性APOE-ε4キャリアにおける、P-tau181(それぞれ、n=13、23、及び4のG/G、G/A、及びA/Aキャリア)(c)及びNfL(それぞれ、n=13、23、及び5のG/G、G/A、及びA/Aキャリア)の個々の血漿レベル(線形回帰試験、血漿P-tau181及びNfLについて、それぞれ、T=-2.065及び-2.498;*P<0.05)。
図19】rs1921622 Aアレルは、AIBL Aβコホートでの女性APOE-ε4キャリアにおいて認知低下及び灰白質萎縮から保護する。(a、b)AIBLコホートにおけるアミロイドベータ(Aβ)APOE-ε4キャリアのうちrs1921622遺伝子型に従って層別化された個々の認知スコア及びベースライン灰白質体積(それぞれ、n=45、88、及び57のG/G、G/A、及びA/Aキャリア;AIBLPACCスコア、アテンション処理、エピソード想起スコア、及び認識スコアでのrs1921622(A/A)に対するウィルコクソン順位和検定:それぞれ、W=4,336、1,970.5、1,610、及び1,523.5、*P<0.05、**P<0.01)。(c、d)AIBLコホートでの女性AβAPOE-ε4キャリアにおけるrs1921622遺伝子型に従って層別化された個々の認知スコア及びベースライン灰白質体積(それぞれ、n=23、45、及び33のG/G、G/A、及びA/Aキャリア;ウィルコクソン順位和検定、AIBLPACCスコアでのrs1921622(A/A)に対する試験、アテンション処理、エピソード想起スコア、認識スコア、及びベースライン灰白質体積に対する検定:それぞれ、W=641、692.5、584,572、及び819;*P<0.05、**P<0.01)。データは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む箱ひげ図として提示される。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。
図20】rs1921622 Aアレルの共保持(Co-harboring)は、アルツハイマー病を有する女性APOE-ε4キャリアにおけるAβに対する損なわれたミクログリア活性を回復させる。(a、b)APOE-ε4は、アルツハイマー病(AD)の女性患者におけるアミロイドベータ(Aβ)沈着の増加と関連する。(a)前頭皮質におけるAβプラーク染色の代表的な画像。スケールバー、200μm。(b)性別及びAPOE-ε4遺伝子型に従って層別化した前頭皮質におけるAβプラーク負荷の定量化(n=14の男性APOE-ε4非キャリア[非ε4]、n=22の男性APOE-ε4キャリア[ε4]、n=19の女性非APOE-ε4キャリア、n=23の女性APOE-ε4キャリア、UKBBNコホートから;線形回帰試験、性別の影響についての試験:それぞれ、非APOE-ε4及びAPOE-ε4におけるT=2.507及び5.022、P<0.05、###P<0.001;APOE-ε4の効果の試験:それぞれ、男性及び女性でT=-0.802及び2.062、*P<0.05)。箱ひげ図のデータは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(c)APOE-ε4及びrs1921622遺伝子型に従って層別化されたADを有する女性患者の前頭皮質におけるAβプラーク染色の代表的な画像。スケールバー、5mm。(d、e)rs1921622バリアントは、APOE-ε4キャリアではAβのミクログリア被覆率の増加と関連するが、非キャリアでは関連しない。(d)rs1921622遺伝子型に従って層別化した女性APOE-ε4非キャリアの前頭皮質におけるAβプラーク(褐色)及びIba-1ミクログリア(紫色)の共染色の代表的な画像。スケールバー、100μm。(e)APOE-ε4遺伝子型及びrs1921622遺伝子型に従って層別化されたミクログリアと共局在化したAβプラークの面積の定量化(APOE-ε4非キャリア[非ε4]のうちそれぞれn=4及び15のG/Gキャリア及びAキャリア[A/-]、APOE-ε4キャリア[ε4]のうちそれぞれn=5及び18のG/Gキャリア及びA/-キャリア、UKBBNコホートから;線形回帰試験、APOE-ε4の効果の試験:G/G及びA/-でそれぞれT=-2.991及び-1.553、P<0.05;rs1921622の効果の試験:非ε4及びε4でそれぞれT=0.229及び2.409、*P<0.05)。
図21】rs1921622 Aアレルは、アルツハイマー病を有する女性APOE-ε4キャリアのAβに対するミクログリア活性を増強する。(a、b)rs1921622 Aアレルは、アルツハイマー病(AD)を有する女性APOE-ε4キャリアにおけるアミロイドベータ(Aβ)沈着の減少と関連する(それぞれ、APOE-ε4非キャリア[非ε4]のうちn=4及び15のG/Gキャリア、Aキャリア[A/-];UKBBNコホートからのAPOE-ε4キャリア[ε4]のうちn=5及び18のG/Gキャリア及びA/-キャリア)。(a)前頭皮質におけるAβプラーク染色を示す代表的な画像。スケールバー、200μm。(b)APOE-ε4及びrs1921622遺伝子型に従って層別化した前頭皮質におけるAβプラーク面積の定量化(線形回帰試験;APOE-ε4の効果:G/G及びA/-キャリアにおいて、それぞれ、T=2.912及び0.956、P<0.05;rs1921622の効果:それぞれ、非APOE-ε4及びAPOE-ε4キャリアにおけるT=-0.833及び-3.706、*P<0.05)。箱ひげ図のデータは、最大値、75パーセンタイル、中央値、25パーセンタイル、及び最小値を含む。プラス記号(+)は、対応する平均値を表す。(c、d)rs1921622 Aアレルは、ADを有する女性APOE-ε4キャリアにおけるAβとのミクログリア共局在化の増加と関連する(それぞれ、APOE-ε4キャリアのうちn=5及び18のG/G及びA/-キャリア、UKBBNコホートから)。(c)前頭皮質におけるAβプラーク(褐色)及びIba-1ミクログリア(紫色)の共染色を示す代表的な画像。スケールバー、100μm。(d)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたAβプラーク面積とミクログリアとの共局在化の定量化(線形回帰試験、T=2.409、*P<0.05)。(e)ADを有する女性APOE-ε4キャリアの前頭皮質における、rs1921622遺伝子型と、ミクログリアによって発現される遺伝子との関連性を示すボルケーノプロット(UKBBNコホートからの8人の参加者からのn=2,636ミクログリア)。青色及び赤色のドットは、それぞれ、rs1921622 Aアレルと負及び正に関連するミクログリア遺伝子を指し示す。ドットサイズは、偽発見率(false discovery rate:FDR、log10スケール)に比例する。上位5つの負及び正に関連するミクログリア遺伝子を標識する。(f)rs1921622関連ミクログリア遺伝子が濃縮された代表的な遺伝子オントロジー(Gene Ontology:GO)ターム。rs1921622 Aアレルキャリアにおけるダウンレギュレートされたミクログリア遺伝子及びアップレギュレートされたミクログリア遺伝子について濃縮されたGOタームを、それぞれ、青色及び赤色で指し示す。(g)rs1921622遺伝子型に従って層別化されたミクログリア活性化遺伝子及び恒常性遺伝子の発現レベルを示すドットプロット。
図22】rs1921622 Aアレルと脳脊髄液sST2レベルとは、アルツハイマー病を有する女性APOE-ε4キャリアのミクログリア転写体に対して反対の効果を呈する。アルツハイマー病(AD)を有する女性APOE-ε4キャリアの前頭皮質におけるミクログリア遺伝子発現に対する、脳脊髄液(CSF)可溶性ST2(sST2)レベルの正規化効果量(β)と、rs1921622 Aアレルとの相関性を示す、散布図(UKBBNコホートからの8人の個体からのn=2,636ミクログリア)。
図23】sST2の3’-非翻訳領域の欠失は、5XFADマウスにおいて、sST2レベルを低下させ、アミロイド関連病態を軽減する。(a、b)sST2の3’-非翻訳領域の欠失は血清sST2レベルを低減させる。(a)sST2の3’-非翻訳領域の欠失の概略図。sST2とST2Lはコード配列の大部分を共有しているが、一方で、sST2の3’-非翻訳領域は特異的である。(b)ELISAによる血清sST2レベルの定量分析。値は平均±s.e.mである(***P<0.001、独立両側t検定)。(e~h)sST2の3’-非翻訳領域の欠失は、5XFADマウスのアミロイド関連病態を軽減する。(c、d)ELISAによる可溶性及び不溶性のAβx-40及びAβx-42の定量分析。値は平均±s.e.mである(*P<0.05、独立両側t検定)。(e、f)AβのDAB染色。(e)代表的な画像。(f)Aβプラークの定量化(総皮質面積の%)。値は平均±s.e.mである(*P<0.05、独立両側t検定)。(g、h)X-34染色Aβ沈着物。(g)代表的な画像。(h)X34陽性Aβプラークの定量化(総皮質面積の%)。値は平均±s.e.mである(*P<0.05、独立両側t検定)。
図24】sST2の3’-非翻訳領域を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドは、sST2レベルを低減させ、アミロイド病態を軽減する。(a)sST2の3’-非翻訳領域を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(Antisense Oligonucleotides:ASO)の概略図。(b、c)マウス線維芽細胞NIH-3T3細胞におけるマウスsST2-ASOの系統的スクリーニング。(b)全てのマウスsST2 ASOにおけるsST2転写物レベル(c)上位13の効率的ASOにおけるsST2転写物レベル。値は平均±s.e.m.である。(d)sST2-ASOの全身送達は、インビボで血清sST2レベルを低減させる。値は平均±s.e.mである。(e、f)X-34染色Aβ沈着物。(e)代表的な画像。(f)X34陽性Aβプラークの定量化(総皮質面積の%)。
図25】sST2の3’-非翻訳領域を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヒト細胞においてsST2タンパク質及び転写レベルを低減させる。(a)標的sST2の3’-非翻訳領域を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の概略図。(b、c)ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)におけるヒトsST2-ASOの系統的スクリーニング。(b)培地中の分泌sST2のレベル。値は、陰性対照ASOでトランスフェクトしたHUVECにおけるsST2レベルを正規化している。(c)上位15の効率的なASOにおけるsST2転写物レベル。値は平均±s.e.m.である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
表1.ヒト組織におけるrs1921622 Aアレルと可溶性ST2及び全長ST2転写物レベルとの関連性。年齢、性別、RNA完全性、及び集団構造について調整した線形回帰試験。β、効果量;SE、標準誤差;sST2、可溶性ST2;ST2L、全長ST2。太字及び赤色の文字は、P<0.05のカットオフでの統計的有意性を指し示す。発現を呈した個体の50%超(マッピングされたリード1キロベースあたりのリード[RPKM]>0)での組織のみが、候補遺伝子の平均発現、及び候補遺伝子レベルとrs1921622遺伝子型との関連試験を計算するように含まれた。各組織における個体のうちの候補遺伝子の平均発現。
表2.中国人_コホート_1の人口統計的特徴。CVD、心血管疾患;ICV、頭蓋内体積;MoCA、Montreal Cognitive Assessment;MRI、磁気共鳴画像法;NfL、神経フィラメント光ポリペプチド;SD、標準偏差;sST2、可溶性ST2;WGS、全ゲノムシーケンシング。
表3.UK Brain Bank Networkコホートの人口統計的特徴。SD、標準偏差;PMD、死後期間;CSF、脳脊髄液;sST2、可溶性ST2。
表4.中国人_コホート_1における血漿sST2レベルと関連した候補遺伝子バリアント(P<1E-5)。年齢、性別、AD診断、及び集団構造について調整した、線形回帰試験。
表5.ファインマッピング後の血漿可溶性ST2レベルと関連したIL1RL1遺伝子における候補遺伝子バリアント(原因可能性>0.001)。ファインマッピング分析により、年齢、性別、AD診断、及び集団構造について調整した線形回帰試験。β、効果量;SE、標準誤差;SNP、一塩基多型;sST2、可溶性ST2。血漿sST2レベルの推定原因バリアントである確率。
表6.メタ分析のための5つのアルツハイマー病データセットの人口統計的特徴。MMSE、ミニメンタルステート検査;SD、標準偏差。
表7.6つのアルツハイマー病データセットにおける全参加者、APOE-ε4キャリア、及びAPOE-ε4非キャリアにおけるrs1921622 Aアレルのマイナーアレル頻度。AD、アルツハイマー病;HC、健常対照;OR、オッズ比。太字の文字は、P<0.05のカットオフでの統計的有意性を指し示す。
表8.6つのアルツハイマー病データセットにおける男性APOE-ε4キャリア及び女性APOE-ε4キャリアでのrs1921622 Aアレルのマイナーアレル頻度。AD、アルツハイマー病;HC、健常対照;OR、オッズ比。太字の文字は、P<0.05のカットオフでの統計的有意性を指し示す。
表9:オリゴヌクレオチド配列。
【0013】
定義
「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖形態又は二本鎖形態のいずれかである、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid:DNA)又はリボ核酸(ribonucleic acid:RNA)、及びそれらのポリマーを指す。具体的に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で代謝される、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含有する核酸を包含する。別段示されない限り、特定の核酸配列はまた、その保存的に修飾されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)、アレル、オーソログ、SNP、及び相補的配列、並びに明示的に指し示された配列も暗黙的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1若しくは複数の選択された(若しくは全ての)コドンの第3位が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列を産生することによって達成され得る(Batzerら、「Nucleic Acid Res.」第19巻:第5081頁(1991年);Ohtsukaら、「J.Biol.Chem.」、第260巻:第2605~2608頁(1985年);及び、Rossoliniら、「Mol.Cell.Probes」、第8号:第91~98頁(1994年))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、及び遺伝子によってコードされるmRNAと互換的に使用される。
【0014】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNAのセグメントを意味する。セグメントは、コード領域の前及び後の領域(リーダ及びトレーラ)、並びに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含みうる。
【0015】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によってエンコードされるアミノ酸、並びに後に修飾されるアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を指し、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。そのような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。「アミノ酸模倣物」とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様の様式で機能する化学化合物を指す。
【0016】
非天然アミノ酸誘導体又は類似体を、部位特異的な様式でポリペプチド鎖へと組み込むことを可能にする、様々な公知の方法が当技術分野に存在する(例えば、国際公開第02/086075号を参照のこと)。
【0017】
アミノ酸は、一般に知られている3文字の記号、又はIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される1文字の記号のいずれかによって本明細書で言及され得る。同様に、ヌクレオチドは、一般に受け入れられている一文字のコードによって参照され得る。
【0018】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」とは、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用される。3つの用語は全て、1又は複数のアミノ酸残基が対応する天然発生アミノ酸の人工化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然発生アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用される。本明細書で使用される場合、この用語は、全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、ここで、アミノ酸残基は、共有結合性ペプチド結合によって連結されている。
【0019】
本明細書で使用される場合、「rs1921622を包含するゲノム配列を破壊する組成物」とは、ゲノム配列の転写又は翻訳を抑制又は排除することが可能な1又は複数の薬剤を含む任意の組成物を指し、これは、ゲノム配列の少なくとも一部の直接欠失又は改変によって(例えば、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeat:CRISPR)システムなどのゲノム編集技術によって)達成され得るか、又は低分子阻害性DNA若しくはRNA分子若しくは他の酵素の作用を介してゲノム配列から転写されたmRNAの低減又は排除によって達成され得る(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA又はshRNAなどの低分子阻害性RNA、及びリボザイムなど)。本開示で使用され、かつ他の遺伝子座(「表4及び表5に列挙された他のsST2関連遺伝子バリアント」など)に関して同様に表現される用語及び語句は、機能的に同一又は同様に定義される。
【0020】
「標的化」という用語は、阻害性オリゴヌクレオチド又は遺伝子編集システムが負に調節するために使用されるゲノム配列に関して、阻害性オリゴヌクレオチド(低分子阻害性RNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドなど)又はsgRNAを説明する文脈で使用される場合、sgRNA又はオリゴヌクレオチドとゲノム配列又はそのmRNA転写物との特異的ハイブリダイゼーションを可能にするために、オリゴヌクレオチド又はsgRNAの少なくとも一部とゲノム配列との充分な配列相補性、例えばワトソン・クリック塩基対合原理に基づくヌクレオチド配列相補性の少なくとも80%、85%、90%、95%、又はそれを超えるパーセンテージを指し、これはその後、所定の位置でのゲノム配列の切断、又はそのmRNA転写物の破壊をもたらす。
【0021】
「組換え」という用語は、例えば細胞、又は核酸、タンパク質、又はベクターに関して使用される場合、細胞、核酸、タンパク質、又はベクターが、異種核酸若しくはタンパク質の導入、又は天然核酸若しくはタンパク質の改変によって修飾されていること、又は細胞がそのように修飾された細胞に由来することを指し示す。このようにして、例えば、組換え細胞は、細胞の天然(非組換え)形態内に見られない遺伝子を発現するか、又はそうでなければ異常に発現されるか、低発現されるか、若しくは全く発現されない天然遺伝子を発現する。
【0022】
「プロモータ」は、ポリヌクレオチド配列の転写を指示する核酸制御配列のアレイとして定義される。本明細書で使用される場合、プロモータは、転写の開始部位付近の必要なポリヌクレオチド配列、例えばポリメラーゼII型プロモータの場合、TATAエレメントなどを含む。プロモータはまた、所望により、転写の開始部位から数千塩基対も位置し得る遠位のエンハンサーエレメント又はリプレッサーエレメントを含む。「構成的」プロモータは、ほとんどの環境条件下及び発達条件下において活性なプロモータである。「誘導性」プロモータは、環境下又は発生調節下において活性なプロモータである。用語「作動可能に連結された」とは、ポリヌクレオチド発現制御配列(プロモータ、又は転写因子結合部位のアレイなど)と、第2のポリヌクレオチド配列との機能的連結を指し、ここで、発現制御配列は、第2の配列に対応するポリヌクレオチド配列の転写を指示する。
【0023】
「発現カセット」は、宿主細胞における特定のポリヌクレオチド配列の転写を可能にする一連の特定のポリヌクレオチドエレメントを有する、組換え的又は合成的に産生された核酸構築物である。発現カセットは、プラスミド、ウイルスゲノム、又は核酸フラグメントの一部であり得る。典型的には、発現カセットは、転写され、プロモータへ作動可能に連結されるポリヌクレオチドを含む。
【0024】
2つのエレメントの相対位置について記載する文脈で使用される「異種」という用語は、同じ相対位置で天然には見られない、ポリヌクレオチド配列(例えば、プロモータ、及びmRNAコード配列又はタンパク質/ポリペプチドコード配列)、又はポリペプチド配列(例えば、融合タンパク質内の融合パートナーとしての2つのペプチド)などの、2つのエレメントを指す。このようにして、コード配列の「異種プロモータ」とは、そのコード配列に自然に作動可能に連結されていないプロモータを指す。同様に、特定のタンパク質又はそのコード配列に対する「異種ポリペプチド」又は「異種ポリヌクレオチド」は、その特定のタンパク質とは異なる起源に由来するもの、又は同じ起源に由来するが同じ様式でその特定のタンパク質又はそのコード配列に天然には連結されていない場合のものである。1つのポリペプチド(又はそのコード配列)と異種ポリペプチド(又はポリヌクレオチド配列)との融合は、自然界で見出すことができるより長いポリペプチド又はポリヌクレオチド配列をもたらさない。
【0025】
「特異的にハイブリダイズする」という語句は、ポリヌクレオチド配列が複雑な混合物(例えば、全細胞又はライブラリDNA又はライブラリRNA)中に存在する場合、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下におけるワトソン・クリック型ヌクレオチド塩基対合に基づく、1つのポリヌクレオチド配列の別のポリヌクレオチド配列への結合、二重鎖化、又はハイブリダイゼーションを指す。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、核酸(例えば、ポリヌクレオチドプローブ)が、典型的には核酸の複雑な混合物中でその標的ヌクレオチド配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、かつ異なる状況では異なるであろう。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションの広範なガイドは、Tijssen、Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes、「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993年)に見出される。概して、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度pHでの特定の配列の熱融点(T)よりも約5~10℃低いように選択される。Tは、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態(標的配列が過剰に存在するので、Tでは、プローブの50%が平衡状態で占有される)で標的配列にハイブリダイズする温度(定義されたイオン強度、pH、及び核酸濃度の下における)である。ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0~8.3にて、約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01~1.0Mのナトリウムイオン濃度(又は他の塩)であり、温度が、短いプローブ(例えば、10~50ヌクレオチド)では少なくとも約30℃、及び長いプローブ(例えば、50ヌクレオチド超)では少なくとも約60℃である、条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によっても達成され得る。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションでは、陽性シグナルは、バックグラウンドハイブリダイゼーションの少なくとも2倍、好ましくは10倍である。例示的な高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件としては、42℃でインキュベートした50%ホルムアミド、5×SSC、及び1%SDS、又は65℃でインキュベートした5×SSC及び1%SDS、並びに65℃で0.2×SSC及び0.1%SDSでの洗浄が挙げられる。
【0026】
「宿主細胞」とは、発現ベクターを含有し、かつ発現ベクターの複製又は発現を支持する細胞を意味する。宿主細胞は、大腸菌(E.coli)などの原核細胞、又は酵母、昆虫、両生類などの真核細胞、又は例えばCHO、HeLaなどの哺乳動物細胞、例えば培養細胞、外植片、及びインビボ細胞であり得る。
【0027】
本明細書で使用される「阻害すること(inhibiting)」又は「阻害(inhibition)」という用語は、可溶性ST2(sST2)タンパク質の発現、AD患者の脳中のアミロイドβ(Aβ)プラークの形成、AD患者の認知低下、タンパク質リン酸化、細胞シグナル伝達、タンパク質合成、細胞増殖、腫瘍形成性、及び転移能など、阻害剤が標的生物学的プロセスに及ぼす任意の検出可能な負の効果を指す。典型的には、阻害は、阻害剤に曝露されていない対照と比較した場合、標的プロセス(例えば、sST2タンパク質発現又はAβプラーク蓄積)の少なくとも10%、20%、30%、40%、若しくは50%の減少、又は上述の下流パラメータのいずれか1つの減少に反映される。同様に、「増加させること(increasing)」又は「増加させる(increase)」という用語は、エンハンサーの非存在下において対照と比較した場合、少なくとも25%、50%、75%、100%、又は2倍、3倍、4倍、5倍、若しくは最大10倍若しくは20倍の正の変化など、増強剤が標的生物学的プロセスに対して有する任意の検出可能な正の効果を説明するために使用される。逆に、「実質的に変化しない」という用語は、正の変化又は負の変化が10%、5%、2%、1%、又はそれ未満である状態について記載する。
【0028】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、物質が投与される意図された効果を生じるのに充分な量を指す。効果は、生物学的プロセス(例えば、AD患者における、sST2発現の検出可能な減少、Aβプラーク形成の低減、又は認知低下の遅延)の望ましい変化、並びに疾患/状態及び関連する合併症の症状の進行の任意の検出可能な程度までの予防、補正、又は阻害を含みうる。所望の効果を達成するため「有効」である正確な量は、治療剤の性質、投与様式、及び処置の目的に依存し、かつ公知の技術(例えば、Lieberman、「Pharmaceutical Dosage Forms」(第1~3巻、1992年);Lloyd、「The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding」(1999年);及び、Pickar、「Dosage Calculations」(1999年))を用いて当業者によって確認される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「処置(treatment)」又は「処置すること(treating)」という用語は、疾患若しくは状態の存在、又は後にそのような疾患若しくは状態を発症するリスクに対処するためにとられる治療的措置及び予防的措置の両方を含む。これは、進行中の症状を軽減する、疾患の進行を阻害若しくは遅延させる、症状の発症を遅延させる、又はそのような疾患若しくは状態によって引き起こされる副作用を排除若しくは低減するための、治療的措置又は予防的措置を包含する。この文脈及びその変形における予防措置は、事象の発生の100%排除を必要とせず、むしろこれらは、そのような発生の可能性若しくは重症度の抑制若しくは低減、又はそのような発生の遅延を指す。
【0030】
「医薬的に許容される」添加剤又は「薬理学的に許容される」添加剤とは、生物学的に有害でなく又は他の点で望ましくない物質であり、すなわち、添加剤は、いかなる望ましくない生物学的効果をも引き起こさずに生物活性剤と共に個体へと投与され得る。添加剤は、添加剤が含有される組成物の構成成分のいずれとも有害な様式で相互作用しない。
【0031】
「添加剤」という用語は、本発明の組成物の完成剤形中に存在し得る任意の本質的に付属的な物質を指す。例えば、「添加剤」という用語は、ビヒクル、結合剤、崩壊剤、充填剤(希釈剤)、潤滑剤、流動促進剤(流動増強剤)、圧縮助剤、着色剤、甘味料、防腐剤、懸濁剤/分散剤、フィルム形成剤/コーティング剤、香料、及び印刷インクを含む。
【0032】
「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、1つの活性成分又は複数の活性成分含有する組成物を説明する文脈で使用される場合、組成物が、活性成分(複数可)の任意の類似生物学的活性又は関連生物学的活性を所有するか、活性を増強又は抑制することが可能な他の成分を含有せず、一方で、生理学的又は医薬的に許容される添加剤などの1又は複数の不活性成分が組成物中に存在し得るという事実を指す。例えば、対象においてrs1921622含有ゲノム配列を破壊するために、又はゲノム配列から転写されるmRNAを抑制するために有効な活性薬剤(複数可)から本質的になる組成物は、同じ標的プロセスに対していずれかの検出可能な正の効果若しくは負の効果を有し得るか、又は対象において疾患の発生又は症状を任意の測定可能な程度まで増加又は減少させ得る、任意の他の薬剤を含有しない組成物である。
【0033】
「約」という用語は、所定の値の+/-10%の範囲を表す。例えば、「約10」は、10の90%~110%の範囲、すなわち9~11を設定する。
【0034】
I.序論
それらの初期の研究において、本発明者らは、アルツハイマー病(AD)患者の脳における可溶性ST2(sST2)タンパク質血清レベルの増加とアミロイドβ(Aβ)プラーク形成の増加との相関、並びに特に一般集団(例えば、女性APOE-ε4キャリアのうち)のある特定のセグメント内での血清sST2レベル及びAβプラーク蓄積の顕著な低減に示されるような、rs1921622のAアレルの抗AD保護効果を発見した。例えば、国際公開第2017/009750号及び国際公開第2021/037027号を参照されたい。本発明者らは、表4及び表5に列挙されるrs1921622及び/又はその他のsST2関連遺伝子バリアントを包含するゲノム配列の破壊が、脳内皮細胞におけるsST2タンパク質の発現及び分泌を直接抑制する有効な手段として役立ち得ることを更に発見した。したがって、rs1921622遺伝子座のそのような破壊は、アルツハイマー病に罹患している患者の処置における治療上の利益、並びに疾患とまだ診断されていない個体におけるアルツハイマー病の予防又はリスク低減における予防上の利益を提供することが実証される。
【0035】
II.一般的な組換え技術
組換え遺伝学の分野における一般的な方法及び技術を開示する基本的な文章としては、Sambrook及びRussell、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual」(第3編、2001年);Kriegler、「Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual」(1990年);及び、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」(1994年)が挙げられる。
【0036】
核酸の場合、サイズはキロベース(kilobase:kb)又は塩基対(base pair:bp)のいずれかで与えられる。これらは、アガロース又はアクリルアミドゲル電気泳動、シーケンシングされた核酸、又は公開されたDNA配列に由来する推定値である。タンパク質の場合、サイズはキロダルトン(kDa)又はアミノ酸残基番号で与えられる。タンパク質サイズは、ゲル電気泳動、シーケンシングされたタンパク質、由来するアミノ酸配列、又は公開されたタンパク質配列から推定される。
【0037】
市販されていないオリゴヌクレオチドは、Van Devanterら、「Nucleic Acids Res.」、第12巻:第6159~6168頁(1984年)に記載されているように、自動合成機を用いて、例えば、Beaucage及びCaruthers、「Tetrahedron Lett.」、第22巻:第1859~1862頁(1981年)によって最初に記載された固相ホスホラミダイトトリエステル法に従って化学合成することができる。オリゴヌクレオチドの精製は、任意の当技術分野で認識されている戦略、例えば、Pearson及びReanier、「J.Chrom.」、第255巻:第137~149頁(1983年)に記載されている天然アクリルアミドゲル電気泳動又はアニオン交換HPLCを用いて実施される。
【0038】
目的の遺伝子の配列、目的のポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチド、及び合成オリゴヌクレオチドは、例えば、Wallaceら、「Gene」、第16巻:第21~26頁(1981年)の二本鎖鋳型をシーケンシングするための連鎖停止反応法を用いて、クローニング又はサブクローニングの後に検証され得る。
【0039】
II.ゲノム配列を破壊する組成物
本発明者らによる以前の研究は、アルツハイマー病の発症におけるsST2タンパク質及び遺伝子座rs1921622の関与を例示した。彼らの最新の発見は、遺伝子座rs1921622並びに表4及び表5に列挙される他のゲノム部位を包含するゲノム配列を破壊することによって、脳におけるsST2発現及びAβプラーク蓄積を低減させることができることを明らかにしている。この発見により、このゲノム配列を破壊する組成物の治療的使用及び予防的使用がもたらされ、これは、rs1921622の遺伝子座並びに/若しくは表4及び表5に列挙される他の候補ゲノム部位におけるインタクトなゲノム配列のレベル、若しくはそれらを直ちに取り囲むインタクトなゲノム配列のレベルで作用し得るか、又はゲノム配列から転写されるmRNAのレベルで作用し得るものであって、既に疾患を有すると診断された患者におけるアルツハイマー病を処置するため、かつ、例えば家族歴又は既知の遺伝的バックグラウンド(例としては、1つ又は2つのAPOE ε4アレルのキャリア、21番染色体上のアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP)をエンコードするゲノム配列における点突然変異、14番染色体上のプレセニリン1(Presenilin 1:PSEN1)をエンコードするゲノム配列における点突然変異、及び1番染色体上のプレセニリン2(Presenilin 2:PSEN2)をエンコードするゲノム配列における点突然変異)に起因して、まだ診断を受けていないが疾患のリスクが高い個体におけるアルツハイマー病の後の発症のリスクを予防/低減するためのものである。異なる機構(例えば、ゲノム編集又はmRNA抑制によって)を介して作用する様々なカテゴリーの可能な薬剤は、rs1921622含有ゲノム配列の破壊のためのそのような組成物を製剤化するのに有用であり、かつ以下に論じられる。
【0040】
A.アンチセンスオリゴヌクレオチド
いくつかの実施形態では、薬剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、sST2遺伝子、例えば、rs1921622又はsST2遺伝子の3’-非翻訳領域(3’-UTR)(Chr2:102、959、893~102、961、182)を包含する、ゲノム配列から転写されたRNAのコード鎖(センス鎖)に相補的(又はアンチセンス)である、比較的短い核酸である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは典型的にはRNAベースであるが、また、DNAベースであってもよい。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、安定性を増加させるために修飾されることが多い。
【0041】
理論に拘束されるものではないが、mRNAへのこれらの比較的短いオリゴヌクレオチドの結合は、内因性リボヌクレアーゼによるメッセージの分解を引き起こす二本鎖RNAのストレッチを誘導すると考えられている。くわえて、オリゴヌクレオチドは、コード配列のプロモータ付近に結合するように特異的に設計される場合があり、これらの状況下においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの翻訳を追加的に妨害し得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドが機能する具体的な機構にかかわらず、細胞又は組織へのそれらの投与は、sST2遺伝子、例えばrs1921622又はsST2遺伝子の3’UTR(Chr2:102、959、893~102、961、182)を包含するゲノム配列から転写されたRNAの分解を可能にする。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ゲノム配列からのエンコードされた生成の発現及び/又は活性を減少させる。
【0042】
オリゴヌクレオチドは、DNA若しくはRNA、又はキメラ混合物若しくは誘導体、又はそれらの修飾バージョン、一本鎖又は二本鎖であり得る。オリゴヌクレオチドは、例えば、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなどを改善するために、塩基部分、糖部分、又はリン酸骨格で修飾することができる。オリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、宿主細胞受容体を標的化するため)、又は細胞膜(例えば、Letsingerら、1989年、「Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.」、第86巻:第6553~6556頁;Lemaitreら、1987年、「Proc.Natl.Acad.Sci.」、第84巻:第648~652頁;国際公開第88/09810号参照)若しくは血液脳関門(例えば、国際公開第89/10134号参照)を通過する輸送を推進する薬剤、ハイブリダイゼーショントリガー切断剤(例えば、Krolら、1988年、「BioTechniques」、第6巻:第958~976頁参照)、又は挿入剤(例えば、Zon、1988年、「Pharm.Res.」、第5巻:第539~549頁)などの、他の付随基(appended group)を含みうる。この目的のために、オリゴヌクレオチドを別の分子へとコンジュゲートさせることができる。
【0043】
本発明のオリゴヌクレオチドは、当技術分野で公知の標準的な方法によって、例えば、自動DNA合成装置(例えば、Biosearch、Applied Biosystemsなどから市販されている)の使用によって合成され得る。例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、Steinら(1988年、「Nucl.Acids Res.」、第16巻:第3209頁)の方法によって合成されてもよく、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは、制御細孔ガラスポリマー支持体(Sarinら、1988年、「Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.」、第85巻:第7448~7451頁)などを使用することによって調製され得る。
【0044】
アンチセンスDNA又はRNAを細胞へと送達するためのいくつかの方法が開発されている:例えば、アンチセンス分子は、標的解剖学的部位へと直接注射することができ、又は所望の細胞(例えば、標的細胞表面上に発現される、受容体又は抗原に特異的に結合するペプチド又は抗体に連結されたアンチセンス)を標的とするように設計された修飾アンチセンス分子を体系的に投与することができる。
【0045】
ある特定の場合において、内因性mRNA上の翻訳を抑制するのに充分なアンチセンスの細胞内濃度を達成することは困難であり得る。したがって、別のアプローチは、アンチセンスオリゴヌクレオチドが強力なpol IIIプロモータ又はpol IIプロモータの制御下に置かれる組換えDNA構築物を利用する。例えば、ベクターは、細胞によって取り込まれ、アンチセンスRNAの転写を指示するようにインビボで導入することができる。そのようなベクターは、転写されて所望のアンチセンスRNAを生成することができる限り、エピソームのままであり得るか、又は染色体に組み込まれ得る。そのようなベクターは、当技術分野で標準的な組換えDNA技術方法によって構築することができる。ベクターは、哺乳動物細胞における複製及び発現に使用されるプラスミド、ウイルス、又は当技術分野で公知の他のものであり得る。アンチセンスRNAをエンコードする配列の発現は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞において作用することが当技術分野で公知の任意のプロモータによるものであり得る。そのようなプロモータは、誘導性又は構成的であり得る。そのようなプロモータとしては、SV40初期プロモータ領域(Bernoist及びChambon、1981年、「Nature」、第290巻:第304~310頁)、ラウス肉腫ウイルスの3’長末端反復に含有されるプロモータ(Yamamotoら、1980年、「Cell」、第22巻:第787~797頁)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモータ(Wagnerら、1981年、「Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.」、第78巻:第1441~1445頁)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinsterら、1982年、「Nature」、第296巻:第39~42頁)などが挙げられるが、これらに限定されない。任意のタイプのプラスミド、コスミド、YAC、又はウイルスベクターを使用して、標的組織部位へと直接導入することができる組換えDNA構築物を調製することができる。あるいは、所望の組織に選択的に感染するウイルスベクターを使用することができ、その場合、投与は別の経路によって(例えば、体系的に)達成され得る。
【0046】
B.低分子干渉RNA
いくつかの実施形態では、薬剤は、低分子干渉RNA(siRNA又はRNAi)分子である。RNAi構築物は、標的遺伝子の発現を特異的にブロックすることができる二本鎖RNAを含む。「RNA干渉」又は「RNAi」とは、二本鎖RNA(dsRNA)が特異的かつ転写後の様式で遺伝子発現をブロックする現象に最初に適用される用語である。RNAiは、インビトロ又はインビボで遺伝子発現を阻害する有用な方法を提供する。RNAi構築物は、低分子干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、及びインビボで開裂されてsiRNAを形成することができる他のRNA種を含むことができる。本明細書のRNAi構築物はまた、細胞内でdsRNA又はヘアピンRNAを形成する転写物、及び/又はインビボでsiRNAを生成することができる転写物を生じさせることが可能な発現ベクター(「RNAi発現ベクター」を含む。
【0047】
RNAi発現ベクターは、構築物が発現される細胞においてsiRNA部分を生成するRNAを発現(転写)する。そのようなベクターは、(1)遺伝子発現において調節的役割を有する遺伝子エレメント(複数可)(例えば、プロモータ、オペレータ、又はエンハンサーのアセンブリ)と、(2)転写されて二本鎖RNA(細胞内でアニーリングしてsiRNAを形成する2つのRNA部分、又はsiRNAにプロセシングされ得る単一のヘアピンRNA)を生成する「コード」配列に作動可能に連結されるものと、(3)適切な転写開始配列及び転写終結配列と、のアセンブリを含む、転写単位を含む。プロモータ及び他の調節エレメントの選択は、概して、意図される宿主細胞に応じて変化する。
【0048】
RNAi構築物は、細胞の生理学的条件下において、阻害される遺伝子(すなわち、rs1921622又はsST2遺伝子の3’UTRを包含するゲノム配列から転写されたRNA)のmRNA転写物の少なくとも一部のヌクレオチド配列にハイブリダイズする、ヌクレオチド配列を含有する。二本鎖RNAは、RNAiを媒介する能力を有する天然のRNAと充分に類似してさえいればよい。このようにして、本発明は、遺伝子突然変異、株多型、又は進化的分岐に起因して予想され得る配列突然変異を許容することが可能だという利点を有する。標的配列とRNAi構築物配列との許容されるヌクレオチドミスマッチの数は、5塩基対中1個以下、又は10塩基対中1個以下、又は20塩基対中1個以下、又は50塩基対中1個以下である。siRNA二重鎖の中心におけるミスマッチが最も重要であり、かつ標的RNAの切断を本質的に消失し得る。対照的に、標的RNAに相補的なsiRNA鎖の3’末端のヌクレオチドは、標的認識の特異性に有意に寄与しない。
【0049】
RNAi構築物の製造は、化学合成法又は組換え核酸技術によって行うことができる。処置された細胞の内因性RNAポリメラーゼは、インビボで転写を媒介し得るか、又はクローニングされたRNAポリメラーゼは、インビトロでの転写に使用され得る。RNAi構築物は、例えば、細胞ヌクレアーゼに対する感受性を低減させ、バイオアベイラビリティを改善し、製剤特徴を改善し、及び/又は他の薬物動態学的特性を変更するために、リン酸-糖骨格又はヌクレオシドのいずれかに対する修飾を含みうる。例えば、天然のRNAのホスホジエステル連結は、窒素又は硫黄ヘテロ原子の少なくとも1つを含むように修飾されていてもよい。RNA構造の修飾は、dsRNAに対する一般的な応答を回避しながら、特異的な遺伝子阻害を可能にするように合わせられてもよい。同様に、塩基は、アデノシンデアミナーゼの活性をブロックするように修飾され得る。RNAi構築物は、酵素的に又は部分的/全有機合成によって生成されてもよく、任意の修飾リボヌクレオチドは、インビトロ酵素合成又は有機合成によって導入され得る。
【0050】
ある特定の実施形態では、主題のRNAi構築物は、「低分子干渉RNA」又は「siRNA」である。これらの核酸は、およそ19~30ヌクレオチド長、更により好ましくは21~23ヌクレオチド長であり、例えば、より長い二本鎖RNAのヌクレアーゼ「ダイシング」によって産生されたフラグメントに対応する長さである。siRNAは、ヌクレアーゼ複合体を動員し、特定の配列と対合することによって複合体を標的mRNAへとガイドするものと理解される。その結果、標的mRNAは、タンパク質複合体中のヌクレアーゼによって分解される。特定の実施形態では、21~23ヌクレオチドのsiRNA分子は、3’ヒドロキシル基を含む。
【0051】
ある特定の実施形態では、RNAi構築物は、短いヘアピン構造(shRNAと呼ばれる)の形態である。shRNAは、外因的に合成され得、又はインビボでRNAポリメラーゼIIIプロモータから転写することによって形成され得る。哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングのためのそのようなヘアピンRNAの作製及び使用の例は、例えば、Paddisonら、「Genes Dev」、2002年、第16巻:第948~58頁;McCaffreyら、「Nature」、2002年、第418巻:第38~9頁;Yuら、「Proc Natl Acad Sci USA」、2002年、第99巻:第6047~52頁)に記載されている。多くの場合、そのようなshRNAは、所望の遺伝子の連続的かつ安定な抑制を確実にするために細胞又は動物において操作される。siRNAは、細胞内でヘアピンRNAをプロセシングすることによって生成され得ることが当技術分野で公知である。
【0052】
プラスミドを使用して、例えば転写産物として二本鎖RNAを送達し得る。そのような実施形態では、プラスミドは、RNAi構築物のセンス鎖及びアンチセンス鎖の各々に「コード配列」を含むように設計される。コード配列は、同じ配列であってもよく、例えば、逆方向プロモータに隣接し得、又は各々が別個のプロモータの転写制御下にある2つの別個の配列であり得る。コード配列が転写された後、相補的RNAは、塩基対を転写して二本鎖RNAを形成する。
【0053】
C.リボザイム
いくつかの実施形態では、薬剤は、リボザイムである。mRNA転写物を触媒的に開裂するように設計されたリボザイム分子もまた、mRNAの下流効果を破壊及び防止するために使用される(例えば、国際公開第90/11364号参照;Sarverら、1990年、「Science」、第247巻:第1222~1225頁、及び米国特許第5,093,246号)。部位特異的認識配列でmRNAを開裂するリボザイムを使用して特定のmRNAを破壊することができるが、一方でハンマーヘッド型リボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッド型リボザイムは、標的mRNAと相補的塩基対を形成する隣接領域によって指示される位置でmRNAを開裂する。唯一の要件は、標的mRNAが2つの塩基:5’-UG-3’の続く配列を有することである。ハンマーヘッド型リボザイムの構築及び生成は当技術分野で周知であり、Haseloff及びGerlach、1988年、「Nature」、第334巻:第585~591頁に更に詳細に記載されている。
【0054】
本発明で使用するためのリボザイムはまた、例えば、テトラヒメナ・サーモフィラ(IVS、又はL-19 IVS RNAとして知られている)において天然に存在するような、RNAエンドリボヌクレアーゼ(本明細書では以下「Cech型リボザイム」)を含んでもよく、Thomas Cech及び共同研究者(Zaugら、1984年、「Science」、第224巻:第574~578頁;Zaug及びCech、1986年、「Science」、第231巻:第470~475頁;Zaugら、1986年、「Nature」、第324巻:第429~433頁;国際公開第88/04300号;Been及びCech、1986年、「Cell」、第47巻:第207~216頁)によって広く記載されている。Cech型リボザイムは、標的RNA配列にハイブリダイズし、その後標的RNAの切断が起こる、8塩基対の活性部位を有する。本発明は、8塩基対活性部位配列を標的とするCech型リボザイムを包含する。
【0055】
アンチセンスアプローチの場合と同様に、リボザイムは、修飾オリゴヌクレオチド(例えば、改善された安定性、標的化などのため)から構成され得、かつインビトロ又はインビボで細胞に送達され得る。好ましい送達方法は、トランスフェクトされた細胞が標的mRNAを破壊し、かつその効果を阻害するのに充分な分量のリボザイムを生成するように、強力な構成的pol IIIプロモータ又はpol IIプロモータの制御下においてリボザイムのDNA構築物「エンコーディング」を用いることを含む。リボザイムはアンチセンス分子とは異なり触媒的であるので、効率のためにはより低い細胞内濃度が必要である。
【0056】
現在、2つの塩基性タイプのDNA酵素が存在し、これらの両方は、Santoro及びJoyceによって同定された(例えば、第6,110,462号参照)。10-23 DNA酵素は、2つのアームを連結するループ構造を含む。2つのアームは、特定の標的核酸配列を認識することによって特異性を提供し、一方でループ構造は、生理学的条件下において触媒機能を提供する。
【0057】
簡潔には、標的核酸を特異的に認識及び開裂する理想的なDNA酵素を設計するために、当業者は、最初に固有の標的配列を同定しなければならない。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドについて概説したのと同じアプローチを用いて行うことができる。好ましくは、固有又は実質的な配列は、およそ18~22ヌクレオチドのG/Cリッチである。高いG/C含有量は、DNA酵素と標的配列とのより強い相互作用を保証するのに役立つ。
【0058】
DNA酵素を合成する場合、酵素をメッセージに標的化する特異的アンチセンス認識配列は、それがDNA酵素の2つのアームを含むように分割され、DNA酵素ループは2つの特異的アームの間に配置される。
【0059】
DNA酵素を作製及び投与する方法は、例えば、米国特許第6,110,462号に見出され得る。同様に、インビトロ又はインビボでDNAリボザイムを送達する方法には、上記で詳細に概説したように、RNAリボザイムを送達する方法が含まれる。くわえて、当業者は、アンチセンスオリゴヌクレオチドのように、安定性を改善し、かつ分解に対する耐性を改善するために、DNA酵素を所望により修飾することができることを認識するであろう。
【0060】
D.ゲノム編集
sST2タンパク質発現の阻害は、遺伝子座rs1921622、並びに/又は表4及び表5に列挙される他のゲノム部位、又はsST2遺伝子/転写物の3’-UTRを包含する遺伝子配列の破壊によって達成され得る。標的遺伝子切断の1つの有効な手段は、CRISPRシステムである。
【0061】
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートの略語である、CRISPRという用語は、細菌及び古細菌において最初に見出された短い反復塩基配列を含有する、原核生物DNAのセグメントに関して最初に作り出された。回文反復では、ヌクレオチドの配列は、両方向で同じである。各反復の後に、外来DNA(例えば、ウイルスのDNA)への以前の曝露からのスペーサDNAの短いセグメントが続く。Cas(CRISPR関連)遺伝子の小さなクラスターは、CRISPR配列の隣に位置する。後に、CRISPR/Casシステムは、外来遺伝子エレメント、特にウイルス起源のものに対する耐性を付与し、それによって獲得免疫の形態を提供する、原核生物免疫システムであることが認識された。スペーサ配列を保持するRNAは、Cas(CRISPR関連)タンパク質が外因性DNAを認識及び切断するのを助ける。他のRNAガイドCasタンパク質は外来RNAを切断した。CRISPRは、シーケンシングされた細菌ゲノムのおよそ50%、及びシーケンシングされた古細菌のほぼ90%に見られ、最近、CRISPR/Casシステムは、真核細胞における標的遺伝子編集での使用に適合している。例えば、Ledford(2016年)、「Nature」、第531巻(第7593号):第156~9頁を参照のこと。
【0062】
CRISPR/Casシステムの単純なバージョンであるCRISPR/Cas9は、ゲノムを編集するために修飾されている。1又は複数の合成ガイドRNA(gRNA)と複合体化したCas9ヌクレアーゼを細胞へと送達することによって、典型的には、Cas9ヌクレアーゼ及びgRNA(複数可)をエンコードする1又は複数の発現ベクターで細胞をトランスフェクトすることによって、細胞のゲノムを、1又は複数の予め選択された位置で切断し、標的遺伝子(例えば、rs1921622を保持するゲノム配列)を除去し、及び/又は新しい配列で置換することを可能にすることができる。
【0063】
この場合、表4及び表5に列挙される部位を含有するrs1921622包含ゲノム配列及び/又は他のゲノム配列に特異的な1又は複数のgRNAに対するコード配列を保有する、発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)を、内因性rs1921622含有ゲノム配列並びに/又は表4及び表5に列挙される部位を含有する他のゲノム配列が、ノックアウトされる細胞(例えば、内皮細胞又は内皮前駆細胞)へと導入され得る。同じ発現ベクターはまた、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼ又は同等物に対するコード配列も所望により保有する。代替的には、別個の発現ベクターが、標的細胞におけるその発現のためのCRISPR/Cas9ヌクレアーゼコード配列を導入するために使用され得る。いくつかの場合では、2以上(例えば、2)の異なるgRNAを使用して、標的ゲノム配列(例えば、rs1921622座位、並びに/又は表4及び表5に列挙される他のゲノム部位を包含するもの)の除去及び/又は置換を確実にする。
【0064】
本発明を実施するために使用することができる追加的な遺伝子編集システムとしては、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)、ZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、及び塩基編集、並びにホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼ(MegN)(DNA配列を標的化し開裂する)及びプライム編集(遺伝子改変のためのRNA鋳型を産生する)などの新たに開発された技術が挙げられる。
【0065】
III.医薬組成物及び投与
本発明はまた、予防的用途及び治療用途の両方における本発明の方法において有用な有効量の1又は複数の薬剤を含む、医薬組成物又は生理学的組成物を提供する。そのような医薬組成物又は生理学的組成物はまた、1又は複数の医薬的又は生理学的に許容される添加剤又はキャリアを含む。例としては、本発明の1つの例示的な組成物は、CRISPRシステム(例えば、Cas9ヌクレアーゼ又は同等物、及び1つ又は2つのsgRNA)をエンコードする1又は複数の発現ベクターと、1又は複数の生理学的に許容される添加剤又はキャリアと、を含むか、又はこれらから本質的になる。本発明の別の例示的な組成物では、1又は複数の阻害性オリゴヌクレオチド(例えば、低分子阻害性RNA分子、又はアンチセンスDNAオリゴヌクレオチド若しくはRNAオリゴヌクレオチド)をエンコードする1又は複数の発現ベクターと、1又は複数の生理学的に許容される添加剤又はキャリアと、を含むか、又はこれらから本質的になる。本発明の医薬組成物は、種々の薬物送達システムにおける使用に好適である。本発明での使用に好適な製剤は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Company、Philadelphia、PA、第17版(1985年)に見られる。薬物送達のための方法の簡単な総説については、Langer、「Science」、第249巻:第1527~1533頁(1990年)を参照されたい。
【0066】
本発明の医薬組成物は、様々な経路、例えば、経口、皮下、経皮、筋肉内、静脈内、又は頭蓋内によって投与され得る。医薬組成物を投与する好ましい経路は、レシピエントにおける標的疾患に対する関連器官又は組織への、所定の1日用量での局所送達である。適切な用量は、1日1回の用量で、又は適切な間隔で提示される分割用量として、例えば1日当たり2回、3回、4回、又はそれ以上の分割用量として投与され得る。
【0067】
本発明の1又は複数の活性薬剤を含有する医薬組成物を調製するために、不活性かつ医薬的に許容されるキャリアもまた使用される。典型的には、医薬的キャリアは、固体又は液体のいずれかであり得る。固形の調製物としては、例えば、散剤、錠剤、分散性顆粒剤、カプセル剤、カシェ剤、及び坐剤が挙げられる。固体キャリアは、希釈剤、香味剤、可溶化剤、潤滑剤、懸濁化剤、結合剤、又は錠剤、崩壊剤としてもまた作用することができる1又は複数の物質であり得、これはまた、カプセル化材料であり得る。
【0068】
散剤において、キャリアは、概して、微粉化された活性成分と混合された微粉化固体である。錠剤において、活性成分は、必要な結合特性を有するキャリアと好適な割合で混合され、所望の形状及びサイズに圧縮される。
【0069】
坐剤の形態である医薬組成物を調製するために、脂肪酸グリセリドとココアバターとの混合物などの低融点ワックスを最初に溶融し、活性成分を、例えば撹拌することによってその中に分散させる。次いで、溶融した均質な混合物を、便利な大きさの型に注ぎ、冷却して、固化させる。
【0070】
散剤及び錠剤は、好ましくは、約5重量%~約70重量%の活性成分を含有する。好適なキャリアとしては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ラクトース、糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバターなどが挙げられる。
【0071】
医薬組成物は、キャリアがしたがって薬剤(複数可)と会合するように、(他のキャリアの有無にかかわらず)1又は複数の薬剤がキャリアによって囲まれたカプセルを提供するキャリアとしての、カプセル化材料を有する活性薬剤(複数可)の製剤を含みうる。同様に、カシェ剤もまた含まれ得る。錠剤、散剤、カシェ剤、及びカプセル剤は、経口投与に好適な固体剤形として使用され得る。
【0072】
液体医薬組成物としては、例えば、経口投与又は非経口投与に好適な溶液、懸濁液、及び経口投与に好適なエマルジョンが挙げられる。水、緩衝水、生理食塩水、PBS、エタノール、又はプロピレングリコールを含む溶媒中における活性成分(複数可)の滅菌水溶液又は活性成分(複数可)の滅菌溶液は、非経口投与に好適な液体組成物の例である。組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、等張性調整剤、湿潤剤、洗剤などの生理学的条件に近似するために必要とされるような、医薬的に許容される補助物質を含有し得る。
【0073】
滅菌溶液は、活性成分(複数可)を所望の溶媒システム中に溶解し、次いで得られた溶液を膜フィルタに通して滅菌することによって、又はあるいは、滅菌条件下において滅菌構成成分(複数可)を予め滅菌した溶媒中に溶解することによって、調製することができる。得られた水溶液は、そのまま使用するためにパッケージングされてもよく、又は凍結乾燥されてもよく、凍結乾燥調製物は、投与前に滅菌水性キャリアと組み合わされる。調製物のpHは、典型的には、3~11、より好ましくは5~9、最も好ましくは7~8である。
【0074】
1又は複数の活性薬剤を含有する医薬組成物は、予防的処置及び/又は治療的処置のために投与され得る。治療用途では、組成物は、既にアルツハイマー病に罹患している患者に、疾患の発症、進行、持続期間、及び重症度などの、疾患及びその合併症の症状を予防、治癒、逆転、又は少なくとも部分的に遅らせる若しくは停止するのに充分な量で投与される。これを達成するのに妥当な量を「治療的有効用量」と定義する。この使用に有効な量は、疾患の重症度、患者の体重及び全身状態、並びに活性薬剤(複数可)の性質に依存する。
【0075】
予防的用途では、1又は複数の活性薬剤を含有する医薬組成物は、症状の発症を遅延又は予防するのに充分な量で、アルツハイマー病にかかりやすい患者、又はそうでなければアルツハイマー病を発症するリスクがある患者に投与される。このような量を「予防的有効用量」と定義する。この使用では、活性薬剤(複数可)の正確な量は、やはり患者の健康状態及び体重、並びに活性薬剤(複数可)の性質に依存する。
【0076】
組成物の単回投与又は複数回投与は、処置医によって選択される用量レベル及びパターンで行われ得る。いずれの場合でも、医薬製剤は、治療的又は予防的のいずれかで、患者のsST2タンパク質の血清レベル及びAβプラーク形成を効果的に抑制するのに充分な分量の薬剤(複数可)を提供すべきである。
【0077】
IV.核酸を用いた治療用途
コード配列が転写され、ポリペプチド剤又はオリゴヌクレオチド剤が細胞内で生成されるように、rs1921622包含ゲノム配列、並びに/又は表4及び表5に列挙される部位を含有する他のゲノム配列を破壊する1又は複数の薬剤をエンコードする核酸を細胞へと導入すること、又はゲノム配列によってエンコードされるmRNA(アンチセンス又はmiRNA又はCas9ヌクレアーゼ及びsgRNAなど)を阻害することを含む、治療アプローチによって、種々の状態を処置することができる。遺伝性疾患及び後天性疾患の治療に対する遺伝子療法の適用に関する議論については、Miller、「Nature」、第357巻:第455~460頁(1992年);及び、Mulligan、「Science」、第260巻:第926~932頁(1993年)を参照されたい。
【0078】
A.遺伝子送達用ベクター
細胞又は生物への送達のために、1又は複数の活性薬剤をエンコードするポリヌクレオチドを、ベクターへと組み込むことができる。そのような目的のために使用されるベクターの例としては、標的細胞における核酸の発現を指示することが可能な発現プラスミドが含まれる。他の例では、ベクターは、ポリヌクレオチドが標的細胞をトランスフェクトすることが可能なウイルスゲノムへと組み込まれている、ウイルスベクターシステムである。一実施形態では、エンコードポリヌクレオチドは、所望の標的宿主細胞におけるポリペプチド又はオリゴヌクレオチドの発現を指示することができる発現配列及び制御配列に作動可能に連結され得る。このようにして、標的細胞で適切な条件下において、ポリペプチド阻害剤又はオリゴヌクレオチド阻害剤の発現を達成することができる。
【0079】
B.遺伝子送達システム
rs1921622、並びに/又は表4及び表5に列挙される他のゲノム部位を包含するゲノム配列を破壊するポリペプチド又はオリゴヌクレオチドの発現に有用なウイルスベクター系には、例えば、天然に存在するウイルスベクターシステム又は組換えウイルスベクターシステムが含まれる。特定の用途に応じて、好適なウイルスベクターには、複製コンピテント、複製欠損、及び条件付き複製ウイルスベクターが含まれる。例えば、ウイルスベクターは、ヒトアデノウイルス又はウシアデノウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス、マウス微小ウイルス(minute virus of mice:MVM)、HIV、シンドビスウイルス、及びレトロウイルス(ラウス肉腫ウイルス及びレンチウイルスを含むが、これらに限定されない)、及びMoMLVのゲノムに由来し得る。典型的には、目的のコード配列(例えば、本発明のポリペプチド活性薬剤又はオリゴヌクレオチド活性薬剤をエンコードするもの)を、そのようなベクターへと挿入して、典型的には付随するウイルスDNAと共に遺伝子構築物をパッケージングし、続いて感受性宿主細胞を感染させ、目的のコード配列を発現させる。
【0080】
本明細書で使用される場合、「遺伝子送達システム」とは、目的のポリヌクレオチド配列を標的細胞へと送達するための任意の手段を指す。本発明のいくつかの実施形態では、核酸は、DNA連結部分(Wuら、「J.Biol.Chem.」、第263巻:第14621~14624頁(1988年);国際公開第92/06180号)などの適切な連結部分を介して、又は超音波-マイクロバブル送達システム(Lan HYら、「J.Am Soc.Nephrol.」、第14巻:第1535~1548頁)によって、取り込みの推進(例えば、コーティングピットの陥入及びエンドソームの内部移行)のために、細胞受容体リガンドへとコンジュゲートされる。例えば、核酸は、ポリリジン部分を介して、肝細胞のアシアロ糖タンパク質受容体に対するリガンドであるアシアロ-オロムコシドに連結され得る。
【0081】
同様に、目的の核酸を含む遺伝子構築物をパッケージングするために使用されるウイルスエンベロープは、受容体に特異的な受容体リガンド又は抗体を添加して、受容体媒介エンドサイトーシスを特定の細胞に可能にすることによって修飾することができる(例えば、国際公開第93/20221号、国際公開第93/14188号、及び国際公開第94/06923号を参照されたい)。本発明のいくつかの実施形態では、本発明のDNA構築物は、エンドサイトーシスを推進するために、アデノウイルス粒子などのウイルスタンパク質に連結される(Curielら、「Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.」、第88巻:第8850~8854頁(1991年))。他の実施形態では、本発明の活性薬剤は、微小管阻害剤(WO/9406922号)、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(Plankら、「J.Biol.Chem.」、第269巻:第12918~12924頁(1994年))を模倣する合成ペプチド、及びSV40 T抗原(WO93/19768号)などの核局在化シグナルを含みうる。
【0082】
レトロウイルスベクターはまた、本発明のポリペプチド活性薬剤又はオリゴヌクレオチド活性薬剤のコード配列を、標的細胞又は組織へと導入するためにも有用であり得る。レトロウイルスベクターはレトロウイルスを遺伝子操作することによって生成される。レトロウイルスのウイルスゲノムはRNAである。感染の際、このゲノムRNAは、高度の安定性及び効率で形質導入細胞の染色体DNAへと組み込まれる、DNAコピーに逆転写される。組み込まれたDNAコピーはプロウイルスと称され、任意の他の遺伝子と同様に、娘細胞によって継承される。野生型レトロウイルスゲノム及びプロウイルスDNAは、2つの長末端反復(long terminal repeat:LTR)配列に隣接し、3つの遺伝子:gag遺伝子、pol遺伝子、及びenv遺伝子を有する。gag遺伝子は、内部構造(ヌクレオカプシド)タンパク質をエンコードする;pol遺伝子は、RNA指向DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をエンコードする;env遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をエンコードする。5’LTR及び3’LTRは、ビリオンRNAの転写及びポリアデニル化を促進するのに役立つ。5’LTRに隣り合って、ゲノムの逆転写(tRNAプライマー結合部位)及びウイルスRNAの粒子への効率的な封入(Psi部位)に必要な配列がある(Mulligan、「In:Experimental Manipulation of Gene Expression」、Inouye(編)、第155~173頁(1983年);Mannら、「Cell」、第33巻:第153~159頁(1983年);Cone及びMulligan、「Proceedings of the National Academy of Sciences,U.S.A.」、第81巻:第6349~6353頁(1984年)を参照されたい)。
【0083】
レトロウイルスベクターの設計は当業者に周知である。手短に言えば、キャプシド形成(又はレトロウイルスRNAの感染性ビリオンへのパッケージング)に必要な配列がウイルスゲノムから欠失している場合、結果は、ゲノムRNAのキャプシド形成を予防するシス作用欠陥である。しかしながら、得られた突然変異体は、依然として全てのビリオンタンパク質の合成を指示することが可能である。これらの配列が欠失されたレトロウイルスゲノム、及び染色体へと安定に組み込まれた突然変異ゲノムを含有する細胞株は、当技術分野で周知であり、レトロウイルスベクターを構築するために使用される。レトロウイルスベクターの調製及びその使用は、例えば、欧州特許出願公開第EPA0178220号;米国特許第4,405,712号;Gilboa、「Biotechniques」、第4巻:第504~512頁(1986年);Mannら、「Cell」、第33巻:第153~159頁(1983年);Cone及びMulligan、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、第81巻:第6349~6353頁(1984年);Eglitisら、「Biotechniques」、第6巻:第608~614頁(1988年);Millerら、「Biotechniques」、第7巻:第981~990頁(1989年);Miller(1992年)、上記;Mulligan(1993年)、上記;及び、国際公開第92/07943号を含む、多くの刊行物に記載されている。
【0084】
レトロウイルスベクター粒子は、所望のヌクレオチド配列をレトロウイルスベクターへと組換え的に挿入し、パッケージング細胞株を使用してレトロウイルスキャプシドタンパク質でベクターをパッケージングすることによって、調製される。得られたレトロウイルスベクター粒子は、宿主細胞内で複製することは不可能であるが、所望のヌクレオチド配列を含有するプロウイルス配列として宿主細胞ゲノムへと組み込むことが可能である。結果として、患者は、例えば、本発明の方法において有用なポリペプチド活性薬剤又はポリヌクレオチド活性薬剤を生成することが可能であり、このようにして、標的細胞(例えば、脳内皮細胞)を正常な表現型に回復させることが可能である。
【0085】
レトロウイルスベクター粒子を調製するために使用されるパッケージング細胞株は、典型的には、パッケージングに必要な必要なウイルス構造タンパク質を生成するが、感染性ビリオンを生成することが不可能である、組換え哺乳動物組織培養細胞株である。一方で、使用される欠陥レトロウイルスベクターは、これらの構造遺伝子を欠くが、パッケージングに必要な残りのタンパク質をエンコードする。パッケージング細胞株を調製するために、パッケージング部位が欠失された所望のレトロウイルスの感染性クローンを構築することができる。この構築物を含む細胞は、全ての構造ウイルスタンパク質を発現するが、導入されたDNAはパッケージングすることが不可能である。あるいは、パッケージング細胞株は、適切なコア及びエンベロープタンパク質をエンコードする1又は複数の発現プラスミドで細胞株を形質転換することによって生成することができる。これらの細胞において、gag遺伝子、pol遺伝子、及びenv遺伝子は、同じレトロウイルス又は異なるレトロウイルスに由来し得る。
【0086】
本発明に好適ないくつかのパッケージング細胞株もまた、先行技術において利用可能である。これらの細胞株の例としては、Crip、GPE86、PA317及びPG13(Millerら、「J.Virol.」、第65巻:第2220~2224頁(1991年)参照)が挙げられる。他のパッケージング細胞株の例は、Cone及びMulligan、「Proceedings of the National Academy of Sciences,USA」、第81巻:第6349~6353頁(1984年);Danos及びMulligan、「Proceedings of the National Academy of Sciences,USA」、第85巻:第6460~6464頁(1988年);Eglitisら(1988年)、上記;及び、Miller(1990年)、上記、に記載されている。
【0087】
キメラエンベロープタンパク質を有するレトロウイルスベクター粒子を生成することが可能なパッケージング細胞株を使用してもよい。あるいは、PA317及びGPXパッケージング細胞株によって生成されるものなどの両種指向性又は異種指向性のエンベロープタンパク質を使用して、レトロウイルスベクターをパッケージングしてもよい。
【0088】
C.医薬製剤
医薬的目的のために使用される場合、ポリペプチド活性薬剤又はオリゴヌクレオチド活性薬剤をエンコードする核酸は、概して、好適な緩衝液中に製剤化され、これは、任意の医薬的に許容される緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水又はリン酸ナトリウム/硫酸ナトリウム、トリス緩衝液、グリシン緩衝液、滅菌水、及びGoodら、「Biochemistry」、第5巻:第467頁(1966年)に記載されているものなどの当業者に公知の他の緩衝液などであり得る。
【0089】
組成物は、安定剤、エンハンサー、又は他の医薬的に許容されるキャリア若しくはビヒクルを追加的に含みうる。医薬的に許容されるキャリアは、例えば、本発明の核酸及び任意の関連するベクターを安定化するように作用する、生理学的に許容される化合物を含有し得る。生理学的に許容される化合物は、炭水化物、例えばグルコース、スクロース、若しくはデキストランなど、酸化防止剤、例えばアスコルビン酸若しくはグルタチオンなど、キレート剤、低分子量タンパク質、又は他の安定剤若しくは添加剤を含みうる。他の生理学的に許容される化合物には、湿潤剤、乳化剤、分散剤、又は防腐剤が含まれ、これらは、微生物の成長又は作用を予防するために特に有用である。様々な防腐剤が周知であり、例えば、フェノール及びアスコルビン酸が含まれる。キャリア、安定剤、又はアジュバントの例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Company、Philadelphia、PA、第17版(1985年)に見出すことができる。
【0090】
D.製剤の投与
ポリペプチド活性薬剤又はオリゴヌクレオチド活性薬剤をエンコードするポリヌクレオチド配列を含有する製剤は、当業者に公知の任意の送達方法を用いて標的組織又は標的器官へと送達され得る。本発明のいくつかの実施形態では、エンコードするポリヌクレオチド配列は、皮下注射用、筋肉内注射用、静脈内注射用、若しくは腹腔内注射用、又は経口摂取用若しくは局所適用用に製剤化される。
【0091】
目的の核酸を含有する製剤は、典型的には、細胞に直接投与される。細胞は、循環システムの一部としての赤血球などの組織の一部として、又は組織培養などで単離された細胞として提供され得る。細胞は、インビボ、エクスビボ、又はインビトロで提供され得る。
【0092】
製剤は、種々の方法によってインビボ又はエクスビボで目的の組織へと導入することができる。本発明のいくつかの実施形態では、目的の核酸を、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム融合、超音波、エレクトロポレーション、又はバイオリスティックなどの方法によって細胞へと導入される。更なる実施形態では、例えば、標的細胞が脳内皮細胞頭蓋内注射である場合、核酸は、処置されている疾患又は状態に関連する標的組織又は標的器官によって直接取り込まれることが適切である。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態では、目的の核酸を、患者から外植された細胞又は組織にエクスビボで投与し、次いで、患者に戻す。治療用遺伝子構築物のエクスビボ投与の例としては、Noltaら、「Proc Natl.Acad.Sci.USA」、第93巻(第6号):第2414~9頁(1996年);Kocら、「Seminars in Oncology」、第23巻(第1号):第46~65頁(1996年);Raperら、「Annals of Surgery」、第223巻(第2号):第116~26頁(1996年);Dalesandroら、「J.Thorac.Cardi.Surg.」、第11巻(第2号):第416~22頁(1996年);及び、Makarovら、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、第93巻(第1号):第402~6頁(1996年)が挙げられる。
【0094】
製剤の有効投与量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、及び投与される他の薬剤を含む、多くの異なる要因に応じて変化する。このようにして、治療投与量は、安全性及び有効性を最適化するために滴定する必要がある。投与されるべきベクターの有効量を決定する際に、医師は、使用される特定の核酸、診断されている疾患状態;患者の年齢、体重、及び全身状態、循環血漿レベル、ベクター毒性、疾患の進行、並びに抗ベクター抗体の生成を評価すべきである。投与のサイズはまた、特定のベクターの投与に伴う、任意の有害な副作用の存在、性質、及び程度によって決定され得る。例えば、1~1000mg、10~200mg、又は20~100mgの量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを、少なくとも1~3ヶ月又はそれより長い期間にわたって、毎週投与、隔週投与、又は毎月投与の頻度で静脈内注射によって患者へと送達され得る。sST2ゲノム領域を標的とするCRISPR編集のために、別の例として、各5×10細胞(例えば、hCMEC/D3細胞)は、一対のsgRNAと一緒にCas9をエンコードする遺伝子を保有する0.5μg~50μg;1~20μg;又は2~10μgのベクターでトランスフェクトされる。ヒト患者におけるsST2ゲノム領域を標的とするCRISPR編集のために、sgRNA及びCas9をコードするmRNAを保有する脂質ナノ粒子の用量は、1~4週間にわたって1~3回のi.v.注射によって送達される、0.01~2mg/kg体重;0.02~1.0mg/kg体重;0.05~0.5mg/kg体重;又は0.10~0.30mg/kg体重の範囲である。
【0095】
V.キット
本発明はまた、本発明の方法に従って、アルツハイマー病の治療又はアルツハイマー病のリスクの低減を必要とする個人において、アルツハイマー病を治療するため又はアルツハイマー病のリスクを低減するためのキットを提供する。キットは、典型的には、(1)rs1921622、及び/若しくは表4及び表5に列挙される他のゲノム部位を包含するゲノム配列を破壊すること、並びに/又はゲノム配列から転写されるmRNAを抑制することが可能である、有効量の1又は複数の活性薬剤を有する医薬組成物と、(2)治療され得る患者の種類(例えば、アルツハイマー病に罹患しているか、又は疾患のリスクが高いヒト患者)、スケジュール(例えば、用量及び頻度)及び投与経路などの説明を含む、医薬組成物をどのように分注するかについての指示を含む情報材料と、を含有する容器を含む。いくつかの場合では、有効量の少なくとも1つの活性薬剤、例えば、ベクター、又はCRISPRシステム(例えば、Cas9ヌクレアーゼ、又は同等物及び1若しくは複数のsgRNA)の構成成分をエンコードするか、若しくはsST2遺伝子/転写物の3’-UTRを含むrs1921622を包含するゲノム配列を標的とするsiRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチドをエンコードするベクターなどを各々が含む、複数の医薬組成物を提供するために、キットに2つ以上の容器が含まれる。所望により、キットは、1又は複数の追加的な容器を更に含んでいてもよく、各々が、その個人のゲノムの少なくとも一部、特に遺伝子座rs1921622、並びに/又は表4及び表5に列挙される他のゲノム部位を包含するゲノム配列をシーケンシングするのに有用な、少なくとも1つの薬剤を含有する。
【実施例
【0096】
以下の実施例は、例示のみを目的として提供され、限定を目的として提供されない。当業者は、本質的に同様の結果をもたらすように変更又は修正することができる、種々の重要でないパラメータを容易に認識するであろう。
【0097】
概要
循環タンパク質のレベルの変化はアルツハイマー病(AD)と関連するが、一方で、ADにおけるそれらの病原的役割は不明である。ここで、本発明者らは、IL-33/ST2シグナル伝達の可溶性デコイ受容体である可溶性ST2(sST2)が、AD病因に関与することを報告する。本発明者らは、sST2レベルの上昇が、AD患者におけるより重篤な神経変性及びAβ病理学的病変と関連し、かつアミロイド症マウスモデルにおいてAβ蓄積の増悪及びAβ-ミクログリア共局在化の低減をもたらし得ることを見出した。本発明者らのゲノムワイド関連研究は、減少したsST2レベルと関連するIL1RL1(sST2をエンコードする遺伝子)における遺伝子バリアントを同定した。典型的には、IL1RL1のエンハンサーエレメントに位置するCRISPR/Cas9ゲノム編集によるrs1921622バリアントの欠失は、脳内皮細胞におけるsST2の発現及び分泌を減少させる;そのsST2レベルの低下は、女性APOE-ε4キャリアにおいて、AD及びそれほど重篤ではないAD関連エンドフェノタイプを発症するリスクの減少と関連している。AD脳の免疫組織化学的及び単一核トランスクリプトーム分析は、女性APOE-ε4キャリアにおいて、rs1921622/より低いsST2レベルが、ミクログリアの活性化及びAβとのそれらの共局在化を増強することによってAβ蓄積を低減させることによって保護効果を発揮することを更に示唆する。更に、sST2 3’-UTRのゲノム領域の欠失、又はsST2 3’-UTR標的化アンチセンスオリゴマー(antisense oligomer:ASO)の投与のいずれかによる、sST2転写物の3’-非翻訳領域(UTR)の破壊もまた、sST2の遺伝子及びタンパク質レベルを減少させ、アミロイド症マウスモデルにおけるAD関連病理学的変化を改良した。まとめると、これらの所見は、sST2がADの新規な疾患原因因子であり、sST2レベルの減少が疾患に対する潜在的な介入戦略であることを実証している。
【0098】
序論
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な神経変性疾患であり、かつ高齢者の死亡の主な原因であり、記憶力低下及び認知障害を特徴とする。その病理学的特徴には、Aβプラークを形成するアミロイドベータ(Aβ)ペプチドの細胞外蓄積、及び過剰リン酸化tauタンパク質(P-tau)から構成される細胞内神経原線維変化が含まれる。ADでは、Aβは、ミクログリアの活性化を引き起こすリスク因子関連分子パターンとして作用し、食作用を介してAβプラークに向かって遊走し、かつAβプラークを除去するようにそれらを刺激する3、4。ADの根底にある病態生理学的機構は不明のままであるが、一方で大規模ゲノムワイド関連研究(genome-wide association study:GWAS)により、ミクログリア機能と関連する40超のAD関連遺伝子が明らかにされており(例えば、APOE、TREM2、BIN1、及びCD33)、これは、ミクログリアがADの病因において重要な役割を果たすことが示唆されている5~7。注目すべきことに、孤発性ADの最も強い既知のリスク因子であるAPOE-ε4は、ADにおけるAβ蓄積に主に影響を及ぼすことが示唆されている8、9。APOE遺伝子は、異なる細胞機構を介してAβのクリアランスに寄与する;具体的には、Aβ周囲のミクログリアのクラスター形成を促進し、その後、Aβプラークを分解する6、10、11。AD脳の死後の単一細胞/核トランスクリプトーム分析は、ADにおいてAPOE発現が増加したミクログリア亜集団を明らかにした12、13。更に、アミロイド症マウスモデルでは、APOEは、Aβプラークと相互作用する特定のミクログリア亜集団を誘導するために必要である。このようにして、ミクログリア機能不全は、ADの本質的な原因因子である。
【0099】
遺伝的要因に加えて、脳環境及び循環における分泌されたシグナル伝達タンパク質の変化は、ミクログリア活性を破壊し、ADの病因に寄与し得る14、15。例えば、細胞外ドメインを含有するミクログリア受容体TREM2のタンパク質分解性開裂生成物である可溶性TREM2(sTREM2)のレベルは、AD患者の脳脊髄液(CSF)中で増加する16~18。アミロイドーシスのトランスジェニック・マウス・モデルにおいて、sTREM2の注射は、ミクログリアとAβとの相互作用、それ故にその後のAβ食作用を増強することによって、Aβ蓄積を軽減し、記憶欠損を救済する19、20。更に、内皮細胞上の全長タンパク質から開裂された可溶性形態のVCAM1(血管細胞接着分子1)の発現は、AD患者の血漿及びCSFにおいて上昇している21、22;これは、老化中のミクログリアの海馬神経発生の低減及び炎症誘発性応答を媒介することが示唆される23
【0100】
ADの病因に寄与し得る他の分泌型の可溶性受容体には、デコイ受容体として機能し、かつサイトカイン媒介性シグナル伝達を減弱させる膜結合サイトカイン受容体の外部ドメインを含む、可溶性サイトカイン受容体が含まれる24、25。特に、可溶性ST2(sST2)は、代替プロモータ活性化(図1)によって生成されるサイトカインIL-33(すなわち、ST2L[全長ST2])の受容体の分泌アイソフォームである26。ST2Lは脳のミクログリアによって発現され27、IL-33/ST2シグナル伝達の活性化は、アミロイドーシスのトランスジェニック・マウス・モデルにおいて、Aβ蓄積を減少させ、かつミクログリアのAβクリアランス能を増加させる28、29。一方で、sST2はIL-33のデコイ受容体として作用し、IL-33/ST2シグナル伝達を効果的に阻害することができる30、31。血漿中の変化したsST2レベルは、複数の炎症性疾患、がん、及び心疾患で観察され、末梢におけるこれらの疾患の有望なバイオマーカである32~35。注目すべきことに、最近のエビデンスはまた、sST2レベルが軽度認知障害又はAD患者の血液中で上昇することを示す28、36。それにもかかわらず、sST2の調節不全の根底にある調節機構、及びsST2がADにおいて病理学的役割を有するかどうかは不明のままである。
【0101】
したがって、本研究では、本発明者らは、AD病因におけるsST2の役割、並びに遺伝的要因によるsST2発現及びAD関連病理学的変化の調節を調査した。本発明者らは、sST2レベルの上昇がミクログリア機能を損ない、かつアミロイドーシスのマウスモデルにおけるAβ蓄積を増悪させることを示した。更に、本発明者らは、より低い血漿及びCSF sST2レベルと関連したIL1RL1(sST2及びST2Lをエンコードする遺伝子)の一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)を同定した。典型的には、遺伝子型-発現関連分析及びCRISPR/Cas9ベースのゲノム編集は、sST2関連SNPのうち1つであるrs1921622が、ヒト内皮細胞におけるsST2の遺伝子発現及び分泌をダウンレギュレートすることと、このバリアントを保持する女性APOE-ε4キャリアが、ADのリスクが低く、かつAD関連エンドフェノタイプの重症度が低いことと、を実証した。その後の単一核トランスクリプトームプロファイリングは、rs1921622の存在及び低減したsST2レベルの両方が、APOE-ε4を保有するADを有する女性患者におけるミクログリア活性化の増強と関連することを明らかにし、このことは、sST2レベルがADにおけるミクログリア活性化状態を調節することを指し示している。一致して、アンチセンスオリゴマー(ASO)を用いたsST2 3’-非翻訳領域(UTR)の破壊又はゲノム編集による、sST2レベルの減少は、アミロイド症マウスモデルにおけるAD関連病理学的変化を減弱させた。まとめると、本発明者らの所見は、sST2が、ADの病因において疾患を引き起こす役割を果たす脳環境における可溶性因子であり、これが、AD療法の新規標的となり得ること、及びsST2レベルの減少が、疾患に対する潜在的な介入戦略となり得ることを指し示している。
【0102】
結果
sST2のレベルは、アルツハイマー病及びその病理学的変化と関連する
sST2がADの病因にどのように関与するかを調査するために、本発明者らは、sST2レベルと、AD及びその関連するエンドフェノタイプとの関連を調べた。具体的には、本発明者らは、香港で動員されたAD及びHCを有する中国人患者の血漿sST2レベルを測定した(本明細書以下、「中国人_コホート_1」;n=345のHC及びn=345のAD患者;表2)。その後、本発明者らは、年齢、性別、及び集団構造について調整して、血漿sST2レベルとADとの線形回帰分析を実施した。結果は、血漿sST2レベルが、HCよりもAD患者において有意に高かったことを示す(P<0.01;図2a)。更に、sST2が心血管疾患(CVD)の周知のバイオマーカであり35、37、本発明者らのコホート(P<0.05;図3a)では心臓疾患患者で上昇していたことを考慮して、本発明者らは、CVDの臨床歴のない参加者のサブコホートにてADの血漿sST2レベルの変化を調べた(「非CVDコホート」と称される)。非CVDコホート内の全体コホートにおける本発明者らの所見と一致して、ADを有する患者は、やはりHCよりも有意に高い血漿sST2レベルを有し(P<0.01;図3b)、ADにおける血漿sST2レベルの増加がCVD状態とは無関係であることを示唆した。くわえて、血漿sST2レベルは、調べたAD関連エンドフェノタイプ、すなわち灰白質萎縮、並びに全体コホート(図2b~図2d)及び非CVDコホート(図3c~図3e)における神経変性及びAD(すなわち、P-tau181及び[NfL]神経フィラメント光ポリペプチド38、39)に対応する血漿バイオマーカのレベルと正の相関があった。これらの観察結果は、血漿sST2レベルがAD及び関連するエンドフェノタイプと関連していることを集合的に示唆している。
【0103】
更に、本発明者らは、血漿及びCSF sST2レベルが同じ個体内で正の相関があることを示した(P<0.0001;n=ADRCコホートからの107人の参加者40図2e)。したがって、本発明者らは続いて、CSF sST2レベルとADとの関連を調べた。ADにおける血漿sST2レベルの調節と一致して(図2a)、UK Brain Bank Networkコホート(本明細書以下、「UKBBNコホート」;n=11のHC及びn=75のAD患者;表3)では、CSF sST2レベルは、HCよりもAD患者で有意に高かった(P<0.01;図2e)。注目すべきことに、AD患者では、CSF sST2レベルは前頭皮質におけるAβプラーク負荷と正の相関があった(P<0.05;図2g、図2h)。これらの所見は、血液及びCSFの両方における循環sST2レベルが、ADにおいて増加し、かつ疾患進行と関連することを指し示している。
【0104】
脳内のsST2レベルの増加は、Aβ蓄積を増悪させ、かつミクログリアのAβクリアランス能力を損なう
sST2レベルの増加とAD進行との因果関係を調査するために、本発明者らは、アミロイドーシスのトランスジェニック・マウス・モデルである5XFADマウスにおけるAD関連病理学的変化に対するsST2レベルの増加の影響を調べた。IL-33/ST2シグナル伝達の活性化がADの病理学的特徴、特にAβ蓄積を減弱させること28、29を示す本発明者らの以前の所見と一致して、組換えマウスsST2の3月齢の5XFADマウスへの28日間にわたる連続的な脳室内投与(図4a)は、ビヒクル対照で処置したマウスと比較して、皮質領域におけるAβプラーク負荷を有意に増加させた(P<0.05;図4b~図4c)。特に、Aβプラークの繊維状形態(すなわち、高密度コアのないX-34拡散フィブリル41)及びAβプラークのコンパクト形態(すなわち、4G8ハローを有するX-34高密度コア)の両方の分量が、sST2処置マウスにおいて増加した(P<0.05;図4d、図4e、及び図5)。しかしながら、sST2投与は、5XFADマウスにおける毒性の低い不活性Aβプラーク(すなわち、4G8標識なしのX-34高密度コア)の負荷に影響を及ぼさなかった。
【0105】
ミクログリアがAβクリアランスにおいて重要な役割を果たすことを考慮して、本発明者らは続いて、sST2がミクログリアとAβプラークとの相互作用をどのように調節するかを調べた。5XFADマウスでは、sST2注射は、ミクログリアの総数、及び皮質領域のAβプラークの周りのミクログリアのクラスター化を増加させた(P<0.05;図6)。しかしながら、皮質領域におけるミクログリアによるAβプラークの被覆率は、ビヒクル対照注射5XFADマウスよりもsST2注射5XFADマウスで低く(図4f、図4g)、これは、sST2がAβプラーク周囲のミクログリアのバリア形成を減少させることを示唆した。更に、フローサイトメトリー分析は、Aβミクログリアのパーセンテージの減少によって指し示されるように、sST2投与が5XFADマウスにおけるミクログリアのAβ食作用能を減少させることを示した(すなわち、sST2処置群における23.57%のCD11b及びメトキシ-X04細胞対対照群における32.79%;P<0.01;図4h、図4I、及び図7)。このようにして、これらの所見は、脳内のsST2レベルの増加がAβ蓄積を増悪させ、かつミクログリアAβクリアランス能力を損なうことを集合的に示唆する。
【0106】
sST2のレベルは、IL1RL1の遺伝子バリアントと関連する
ADの発症中にsST2がどのように調節されるかを理解するために、本発明者らは、様々な要因がsST2レベルの変化にどのように寄与するかを調べた。以前の研究と一致して、本発明者らは、血漿sST2レベルが、中国人の集団及びヨーロッパ人家系の集団において年齢及び性別の両方と有意に関連することを見出した42;これは、男性よりも女性で有意に低く(中国人_コホート_1、INTERVALコホート、及びLonGenityコホートにおいてP<0.001 42)、かつ年齢と共に有意に増加した(両方のコホートにおいてP<0.001;図8a~図8c)。更に、CSF sST2レベルはまた、日本人コホート(両方P<0.01;図8d)において年齢と性別の両方と関連していた43。しかしながら、本発明者らがsST2レベルの分散に対する年齢、性別、及び他の要因の寄与を調べたとき、年齢と性別とを合わせると、における中国人_コホート_1における血漿sST2レベル及び日本人コホートにおけるCSF sST2レベルでの分散のそれぞれ6.92%及び13.01%しか占めず(図8e、図8f)、これは、他の要因がこのような変化を調節することを示唆している。
【0107】
ヨーロッパ人家系の集団における関連研究により、血漿sST2レベルと関連するIL1RL1遺伝子の様々な遺伝子バリアントが同定され44、これは、遺伝的要因がsST2レベルの調節に寄与することを示唆する。それにもかかわらず、これらの同定されたSNPがこの遺伝子領域においてハプロタイプ構造を形成し得ること45を考慮すると、これらのSNPは、単に原因バリアントと一緒に遺伝され得る。したがって、sST2の重要な遺伝子調節因子(複数可)を同定するために、本発明者らは、血漿sST2レベルのGWASについて、中国人_コホート_1の本発明者らの全ゲノムシーケンシングデータセット46を利用した。したがって、本発明者らは、血漿sST2レベル(P<1E-5)と有意に関連した575の遺伝子バリアントを同定し、かつこれらのバリアントが、そのバリアントの54.86%を占めることを見出した(図9a、図10a、及び表4)。具体的には、これらの575のバリアントのうち、ハプロタイプを形成するIL1RL1内又はIL1RL1付近の79の遺伝子バリアントは、sST2レベルと最も強く関連していた(図9b及び図10b)。CAVIARによるその後のファインマッピング分析47では、センチネルバリアントrs1921622(G/A)が、血漿sST2レベルを調節する推定因果バリアント(確率99.9%)として同定された(図10c及び表5)。中国人_コホート_1では、rs1921622 Aアレルは、アレル用量依存的様式での血漿sST2レベルの20%の減少と関連した(P<0.001;図9c)。更に、CSF sST2レベルは、UKBBNコホートの非キャリアよりもrs1921622 Aアレルのキャリアで一貫して低かった(P<0.05;図9d)。注目すべきことに、rs1921622単独は、それぞれ血漿及びCSF sST2レベルの分散の18.04%及び18.29%を占め、これは、年齢及び性別の寄与よりもはるかに大きい。したがって、全ゲノムシーケンシングデータを用いた本発明者らのファインマッピング分析は、sST2の血漿及びCSFレベルを調節する重要な遺伝的因子としてrs1921622を同定した。
【0108】
rs1921622座位は、ヒト脳内皮細胞におけるsST2発現を調節する
rs1921622は、sST2をエンコードする領域の下流にあるST2Lのイントロン領域に位置する非コードバリアントであるので、本発明者らは、それがsST2転写物及びST2L転写物の発現を調節するかどうかを調べた。遺伝子型-組織発現(Genotype-Tissue Expression:GTEx)データセットを用いた遺伝子型-発現関連分析48、49は、非キャリアと比較して、rs1921622 Aアレルを保有する個体が、複数の脳領域においてST2LではなくsST2の有意に低い転写レベルを呈したことを示した(例えば、側座核、扁桃体、海馬、及び前頭皮質;P<0.05;図11a及び表1)。更に、UKBBNコホートの本発明者らの以前に公開されたヒト前頭皮質単一核RNAシーケンシング(snRNA-seq)データセットの分析50は、sST2が前頭皮質(図11b、図11c)において内皮細胞(すなわち、CLDN5発現細胞)によって排他的に発現されることを明らかにした。くわえて、細胞型特異的遺伝子型-発現関連分析は、主要なアレルを保有する個体と比較して、rs1921622 Aアレルを保有する個体が、アレルの用量依存的様式にてより低い内皮細胞sST2転写物レベル(P<0.01)及びより少ないsST2発現内皮細胞を有することを示した(P<0.05;図11d)。これらの結果は、rs1921622バリアントが、ヒトの脳内皮細胞におけるsST2発現の減少と関連することを集合的に指し示している。
【0109】
内皮細胞における減少したsST2発現におけるrs1921622の役割を調査するために、本発明者らは、rs1921622及び周囲のゲノム領域(図11e)がsST2転写を調節するかどうかを調べた。非コードバリアントが、一般にエンハンサーエレメントとして機能することによって遺伝子発現を調節することを考慮すると51、本発明者らはまず、ヒト脳微小血管内皮細胞株であるhCMEC/D3細胞におけるrs1921622座位でのエンハンサー活性を調べた。サイトカインIL-33(ST2Lのリガンド)の投与は、hCMEC/D3細胞におけるsST2の発現及び分泌を増加させた(両方P<0.001;図12a、図12b)。更に、クロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation:ChIP)アッセイは、これらのIL-33処置hCMEC/D3細胞がrs1921622座位にて活性エンハンサーヒストンマーク(すなわち、H3K27ac)の占有率の増加を呈し、sST2プロモータ領域で高レベルのH3K4me3ヒストン修飾(活性プロモータ領域を指し示す)を伴ったことを示した(両方P<0.05;図11f及び図12c)。したがって、これらの結果は、rs1921622がsST2遺伝子の潜在的エンハンサーエレメントに位置することを指し示している。
【0110】
rs1921622を保持する領域がsST2発現の調節に寄与することを更に実証するために、本発明者らは、CRISPR/Cas9ベースのアプローチを使用して、hCMEC/D3細胞においてrs1921622座位を保持するゲノム領域を欠失させた。したがって、本発明者らは、rs1921622座位を包含する二アレルの38bp及び67bpの欠失(それぞれ、Δ38bp及びΔ67bpと指定)を伴う、2つの異なるhCMEC/D3細胞株を産生した(図11e及び図13)。注目すべきことに、rs1921622座位に隣接する38bp又は67bpの損失は、hCMEC/D3細胞におけるsST2転写レベルを有意に減少させ(P<0.001;図11g)、同時にsST2タンパク質分泌を消失させた(P<0.001;図11h)。これらの結果は、まとめて、rs1921622含有領域が、内皮細胞におけるsST2発現を調節するエンハンサーエレメントとしての推定上の調節的役割を有することを指し示している。
【0111】
rs1921622 Aアレルは、APOE-ε4キャリアにおけるアルツハイマー病から保護する
循環sST2レベルがADリスク及び関連するエンドフェノタイプと関連するという本発明者らの所見を考慮して、本発明者らは、rs1921622 AアレルがADリスクの減少と関連するかどうかを調べた。したがって、本発明者らは、発見コホートとして以下の6つの独立したADデータセットを使用した:中国人_コホート_1データセット;中国人_コホート_2のWGS及びアレイデータセット52;並びに、ヨーロッパ人家系の集団からの3つの公開データセット(すなわち、遅発性アルツハイマー病[Late-Onset Alzheimer’s Disease:LOAD]53、Alzheimer’s Disease Center[ADC]54、55、及びアルツハイマー病神経画像処理イニシアチブ[Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative:ADNI]データセット)(N=5,436のHC、及びN=5,556のAD患者;表2、表6)。遺伝子型-表現型関連分析は、rs1921622 Aアレルが全ての対象においてADリスクと弱く関連していたことを示した(オッズ比[odds ratio:OR]=0.945、Han及びEskinのランダム効果モデル[RE2]=8.90E-2;表7)。それにもかかわらず、本発明者らは、rs1921622 AアレルとAPOE-ε4との有意な遺伝的相互作用を観察した(P=0.0046):rs1921622 Aアレルは、APOE-ε4キャリアにおいてADリスクに対する有意な保護効果を発揮し(OR=0.860、RE2=3.18E-2;図14a及び表7)、この保護効果は、APOE-ε4非キャリアでは存在しなかった(OR=0.964、RE2=5.22E-1;図15)。具体的には、rs1921622 Aアレルは、男性APOE-ε4キャリアよりも女性APOE-ε4キャリアにおいてADリスクに対するより顕著な保護効果を有していた(OR=0.717、RE2=1.77E-4;図14b及び表8)。更に、AD関連エンドフェノタイプに関して、rs1921622バリアントの保護効果は、ADを有するAPOE-ε4キャリア全体では明らかではなかったが、認知症の発症の遅延、より良好な認知スコア、嗅内皮質の萎縮の減少、及び神経変性の減少(P-tau181及びNfLの血漿レベルによって指し示される)を含む、ADを有する女性APOE-ε4キャリアでは有意であった(全てのP<0.05;図14c~図14e及び図16図18)。
【0112】
ADに対するrs1921622 Aアレルの保護効果を確認するために、本発明者らは、独立した複製コホート(参加者の脳におけるAβ沈着(すなわち、Aβ)がポジトロン放出断層撮影によって確認された、Australian Imaging,Biomarkers and Lifestyleコホート(AIBL;n=190))における、AD関連エンドフェノタイプを調べた56。APOE-ε4アレルを保持するAβ対象のうち、発見コホートからの所見と一致して、rs1921622 Aアレルの存在は、AIBL前臨床アルツハイマー型認知複合(AIBL Preclinical Alzheimer Cognitive Composite:AIBLPACC)スコア、並びにエピソード想起及び認識を含む認知サブプロセスによって指し示されるように、認知能力の改善と関連していた(全てのP<0.05;図14f)。更に、rs1921622 Aアレルは、アテンション処理能力及び灰白質体積を含むrs1921622 Aアレルとエンドフェノタイプとの関連によって指し示されるように、全体的なAβAPOE-ε4キャリアよりも、女性のAβAPOE-ε4キャリアにおいて強いAD保護効果を発揮した(両方P<0.05;図19)。重要なことに、灰白質体積を10年間追跡したこのコホートからの183人のAβAPOE-ε4キャリアのサブグループでは、灰白質萎縮の進行は、rs1921622 Aアレルを保有する者の方が非キャリアよりも遅かった(P<0.05;図14g)。このようにして、これらの結果は、独立したAβコホートにおけるAPOE-ε4キャリア間の認知低下及び灰白質萎縮に対するrs1921622 Aアレルの保護効果を検証する。
【0113】
アルツハイマー病を有する女性APOE-ε4キャリアにおけるrs1921622 Aアレルの保持は、Aβ沈着の減少及びミクログリア活性化の増加と関連する
rs1921622 AアレルがAPOE-ε4キャリア、具体的には女性においてAD保護効果を発揮するという本発明者らの所見を考慮して、本発明者らは続いて、この保護バリアントが死後ヒト脳におけるAβ沈着を調節するかどうかを調べた。AD患者のうち、女性であるが男性ではないAPOE-ε4キャリアは、APOE-ε4非キャリアよりも前頭皮質においてより大きなAβ沈着を呈した(P<0.05;図20a、図20b)。しかしながら、rs1921622遺伝子型に従って更に層別化する際、rs1921622 Aアレルを保持する女性APOE-ε4キャリアは、このアレルを有しないものよりも有意に少ないAβ沈着を呈し(P<0.05;図21a、図21b、及び図20c)、これは、rs1921622 AアレルがAβ関連病理学的変化に対するAPOE-ε4の効果を減弱させることを示唆した。免疫組織化学的分析により、ADを有する女性APOE-ε4キャリアは、APOE-ε4非キャリアのものよりも低いAβプラークのミクログリア被覆率(すなわち、Iba-1ミクログリアと共局在するAβの割合の減少)を呈したことが明らかになったが(P<0.05;図20d、e)、一方で、rs1921622 Aアレルを保持するものは、Iba-1ミクログリアとAβプラークとの共局在化の有意な増加を呈した(P<0.05;図21c、図21d)。このようにして、これらの結果は、ADを有する女性APOE-ε4キャリアにおいて、rs1921622 Aアレルが、ミクログリア-Aβ相互作用の増強及びAβ病理学的病変の減少と関連することを示唆する。
【0114】
次に、分子レベルでミクログリア活性に対するrs1921622バリアントの調節効果を調査するために、本発明者らは、UKBBNコホートからのADを有する女性APOE-ε4キャリアの前頭皮質50におけるミクログリアsnRNA-seqデータセットとの関連分析を行った。rs1921622 Aアレルの効果とミクログリア遺伝子発現に対するCSF sST2レベルの効果との間に強い負の相関があり(P<0.0001;図22)、保護的なrs1921622バリアントが、CSF sST2レベルの調節を介してミクログリアにその調節効果を発揮するという考えを支持している。具体的には、本発明者らは、rs1921622遺伝子型と有意に関連した1,696個のミクログリア遺伝子を同定した:rs1921622 Aアレルを有しない患者と比較して、当該アレルを保持する患者では、発現がそれぞれアップレギュレート及びダウンレギュレートされた445個及び1,251個の遺伝子が存在した(偽発見率[FDR]調整P<0.05;図21e)。更に、遺伝子オントロジー(GO)分析は、rs1921622 Aアレルと関連したミクログリア遺伝子のうちで、発現がアップレギュレートしたものは白血球遊走(FDR調整P=1.2E-4)及び自然免疫応答(FDR調整P=5.4E-3)と関連するが、一方で発現がダウンレギュレートしたものは、主にタンパク質リフォールディング(FDR調整P=8.1E-3)又はmRNAスプライシング(FDR調整P=7.7E-2)に関与することを示した(図21f)。
【0115】
マウス及びヒトの脳におけるミクログリアの最近の研究は、CD74、APOE、及びTREM2を含む「ミクログリア活性化遺伝子」のサブセットを明らかにし、その発現レベルは、ADに関連してアップレギュレートし12、13、かつミクログリアによるAβ食作用に関与している6、57、58。したがって、本発明者らは、これらの遺伝子がrs1921622 Aアレルと関連しているかどうかを調査した。興味深いことに、ADを有する女性APOE-ε4キャリアのうち、rs1921622 Aアレルは、アレル用量依存的様式で、これらのミクログリア活性化遺伝子の発現の増加、特にミクログリアにおけるCD74、APOE、及びTREM2の転写レベルの増加、並びにTMEM163ミクログリアの割合の増加と関連していた(図21g)。対照的に、rs1921622 Aアレルはまた、SRGAP2、TMEM119、及びP2RY12を含む恒常性遺伝子の発現減少と関連しており、これは一般に、反応性の低いミクログリア状態を指し示す6、57図21g)。したがって、これらの結果は、rs1921622 Aアレルが、ADを有する女性APOE-ε4キャリアにおいてミクログリアのより活性化された状態への移行を促進することを集合的に指し示す。
【0116】
sST2の3’-非翻訳領域の破壊は、5XFADマウスにおいて、sST2レベルを低減させ、アミロイド関連病態を軽減する
sST2レベルを低減させ、かつAD関連遺伝子型を改良するためのより一般化された方法を確立するために、本発明者らは、ST2Lの発現に影響を与えることなくsST2レベルを操作するための代替的な解決策を探索した。sST2及びST2Lはコード配列の大部分を共有するが、一方で、sST2転写物の3’-非翻訳領域(UTR)は固有である(図23a)。したがって、sST2の3’UTR領域は、sST2レベルを操作するための完全な標的であり得る。sST2の欠失を伴うマウスモデルの産生により、本発明者らは、sST2の3’UTR領域の欠失が血清sST2レベルを有意に低減させることを見出した(図23b)。更に、sST2 3’UTRの欠失はまた、6月齢のアミロイド形成マウスモデル、5XFADマウスにおいて可溶性及び不溶性の両方の内容物の皮質Aβレベルを低減させた(図23c、図23d)。sST2の3’UTRの欠失もまた、アミロイドプラーク負荷の減少につながった(図23e~図23h)。まとめると、3’UTR領域は、sST2レベル及びAD関連病態を低減させるための良好な標的であり得る。
【0117】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、3’UTR領域を標的とし、mRNAのRNアーゼH媒介分解を引き起こし、かつ最終的に標的遺伝子のmRNAレベルを低減させることができたので(図24a)、sST2レベルを操作するための良好な翻訳ツールとして役立ち得た。本発明者らは、マウス線維芽細胞NIH3-3及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)においてsST2 3’UTR領域を特異的に標的とし得る全ての潜在的なASOについて系統的スクリーニングを実施した(図24b、図25a、表9)。本発明者らは、上位13のmsST2-ASO及び上位15の効率的なhsST2-ASOで2回目のスクリーニングを実施し、sST2転写物レベルを調べた。ほとんどのASOは、sST2転写物の低減の50%超を示した(図24c、図25b)。更に、マウスsST2 ASOの静脈内注射は、C57マウスの血清sST2レベルを低減させ(図24d)、かつ5XFADマウスのAβ負荷もまた減少させる(図24e、図24f)。これは、将来の臨床翻訳のための可能なヒントを提供する。
【0118】
考察
GWAS研究は、ほとんどのADリスク遺伝子がミクログリアにおいて濃縮されており、それらの発現の変化がミクログリアの食作用機能を調節することを示唆している。それにもかかわらず、新たな研究は、脳環境における可溶性因子もまた、ミクログリア活性及び疾患関連病理学的変化を調節することを示唆している20、23。ここで、本発明者らは、sST2(IL-33/ST2シグナル伝達のための分泌されたデコイ受容体)をエンコードする内皮遺伝子IL1RL1の発現が、遺伝子バリアントであるrs1921622によって調節されることを報告する;このバリアントは、血漿及びCSF sST2レベルの調節を介してADに対する保護効果を発揮し、これが次にミクログリア表現型及びADにおけるAβ蓄積を調節する。sST2レベルの上昇は、AD患者におけるより高いAβ沈着と関連し、アミロイドーシスのマウスモデルにおいてAβプラーク形成を増悪させ、かつAβのミクログリアクリアランスを損なうが、一方で本発明者らは、rs1921622がsST2発現をダウンレギュレートすることを示す;このバリアントは、AD及びより重度のAD関連病理学的変化のリスクがより高い傾向にある女性APOE-ε4キャリアにおける、神経変性、認知低下、及びAβ蓄積から保護する59。死後ヒト脳の分析は、rs1921622の保護効果が、ミクログリア-Aβプラーク相互作用の調節によって媒介されることを示唆する。このようにして、本発明者らの結果は、内皮細胞によって分泌される可溶性タンパク質であるsST2が、ミクログリアの活性を調節し、かつ脳環境におけるsST2レベルの改変がミクログリアのAβクリアランス能を損ない、したがってAPOE-ε4と関連したADのリスク及び病理学的変化を調節することを集合的に示す。
【0119】
sST2は、ST2Lの細胞外ドメインのみを含み、かつ独立して転写されるので26、IL-33/ST2シグナル伝達のための効果的なデコイ受容体である。IL-33/ST2シグナル伝達が、組織修復、Aβクリアランス、及びシナプス貪食に関与するミクログリア活性のために不可欠な調節的役割を有することを考慮すると28、29、60、61、脳sST2レベルの増加は、ミクログリア上のST2LへのIL-33の結合をブロックすることによってミクログリア機能及びAD関連病理学的変化に影響を与える可能性が高い。ADでは、Aβの蓄積は、ミクログリアをAβプラークに向かって遊走させ、それらを取り囲むバリアを形成するプロセスを延長させ、食作用クリアランスを開始させる62。ADが進行するにつれて、これらのミクログリア機能が損なわれ、Aβプラークの蓄積をもたらす63。この研究では、アミロイドーシスのマウスモデルにおけるsST2注射は、ミクログリアとAβとの相互作用、並びにその後のAβの食作用を乱した(図4)。この所見は、これらのマウスにおいて、IL-33投与がIL-33/ST2シグナル伝達を活性化し、かつAβプラークへのミクログリア走化性を開始させ、続いてAβ食作用を増強する28、29という本発明者らの以前の観察と一致している。APOE-ε4を保有するADを有する患者の中で、ADでのミクログリアにおけるsST2の病理学的役割を更に裏付けると、rs1921622を保有する者(脳環境においてより低いsST2レベルを有する者)は、非キャリアよりも増強されたミクログリア-Aβプラーク相互作用及びより小さいAβプラーク面積を呈した。このようにして、sST2による内因性IL-33/ST2シグナル伝達の乱れは、ミクログリア走化性、バリア形成、及びAβ取り込みの障害をもたらし得、これらは全てその後にADの病因に寄与する。
【0120】
sST2の調節機構とは何か? 中国人の集団及びヨーロッパ人家系の集団における本発明者らの分析は、sST2レベルが、年齢、性別、及び遺伝子バリアントと関連するという以前の研究と裏付けられ42、44、更に、遺伝的構成成分はsST2レベルの調節において支配的な役割を果たし、sST2レベルの分散の54.86%を占めることを明らかにする。特に、本発明者らのGWAS及びファインマッピング分析は、rs1921622をsST2と関連する推定因果バリアントとして同定した(因果確率=99.99%);本発明者らのChIPアッセイ及びCRISPR/Cas9編集実験は、rs1921622含有領域が内皮細胞におけるsST2発現を調節するエンハンサーエレメントであることを検証した。これらの結果は、rs1921622がsST2の重要な遺伝的調節因子であることを集合的に示唆する。そのため、rs1921622座位におけるエピジェネティック事象に関する将来の調査は、sST2の調節機構を解明するのに役立ち得る。実際、最近の研究は、TNFα媒介性のNF-κBシグナル伝達の活性化が、内皮細胞からのsST2の発現及び放出を誘導することができ64、65、かつNF-κBシグナル伝達の阻害がsST2生成を消失させることを示唆している66。NF-κBが内皮細胞における遺伝子発現を調節する必須の転写因子であることを考慮すると67、NF-κBが、内皮細胞におけるsST2発現のrs1921622媒介調節に関与する候補転写因子であるかどうかを調査することは興味深いであろう。
【0121】
本研究において、死後ヒト脳の単一核トランスクリプトームプロファイリングは、sST2が主に脳内皮細胞で発現されることを示す(図11)。脳におけるsST2発現の調節不全は、ADに関連する病理学的変化を増悪させ、特にミクログリアの食作用能を損なう。このようにして、本発明者らの結果は、分泌された可溶性因子であるsST2を介して脳内のミクログリアの活性を媒介するADにおける、脳血管構造の新規な病原的役割を実証する。実際、Aβ及びタウ関連の病理学的変化とは別に、神経血管性機能不全は、ADの初期に起こり、かつその病因に関与している68。脳トランスクリプトームプロファイリングは、血管新生及び抗原提示と関連するADの内皮細胞における多数の調節不全遺伝子を明らかにした50。更に、APOE-ε4は、トロンビン及びプラスミンなどの血液由来タンパク質の漏出をもたらし69、70、シナプス損失をもたらす71、72、血液脳関門の破壊を増悪させることが最近示された。ADを引き起こす脳血管構造の正確な病理学的機能は不明なままであるが、一方で末梢システムでは、血管構造分泌可溶性のサイトカイン及びケモカイン(例えば、CXCL1)が、一般に免疫細胞の活性化及び遊走を調節し、それによって組織における免疫応答を媒介する73。同様に、新たな研究は、脳血管構造が栄養素の供給及び代謝産物の除去を担うだけでなく、IL-1β、IL-6、IL-8、TNFα、TGFβ、及びMCP-1などの可溶性炎症性タンパク質の重要な供給源としてもまた機能することを示唆している74、75。したがって、sST2に加えて、血管構造と他の細胞型との他の可溶性因子ベースのクロストークが脳内で起こり得る。したがって、そのようなクロストークのそれらの構成成分及びメディエータを同定することは、脳血管構造の役割の本発明者らの理解を拡大し、かつADの新規な病理学的機構への洞察を提供し得る。
【0122】
本発明者らの遺伝子分析は、rs1921622が、APOE-ε4キャリアにおいてADに対する保護効果を発揮することを実証し、このことは、IL-33/ST2シグナル伝達とApoEとの間における潜在的な相互作用を示唆した。リポタンパク質、及びAβプラークの主要な構成成分であるApoEは、コレステロール輸送、脂質代謝、及びAβクリアランスを含む様々な機能を有する6、76。脳において、ApoEは主にアストロサイトによって生成され、その発現は、ADを含む神経病理学的状態の下においてミクログリアではアップレギュレートされる12、77。アミロイド症マウスモデルの単一細胞RNAシーケンシングにより、ミクログリア亜集団が恒常性状態から、「疾患関連ミクログリア」又は「活性化応答ミクログリア」と称される活性化状態へと移行することが明らかになった6、57。この活性化状態は、パターン認識、脂質代謝、及びリソソーム経路と関連し、かつ検出、貪食、及び分解78~81を含む食作用プロセスの重要な調節因子である、ミクログリア活性化遺伝子(APOE、AXL、TREM2、及びCD74を含む)12、13、57、58の発現増加を特徴とする。対照的に、脳におけるAPOE及びTREM2の機能の乱れは、このミクログリア活性化状態の誘導を消失させ、恒常性状態のミクログリアをロックし、その結果、より低いAβ食作用能をもたらす6、57。このようにして、ApoE媒介性ミクログリア活性化は、ADに対する保護的役割を有し得、Aβクリアランス及び脳恒常性のために要求され得る。本研究では、ヒト死後脳のsnRNA-seq分析により、APOE-ε4を保有するAD患者において、rs1921622の存在が、前述したミクログリア活性化遺伝子の発現増加を特徴とする、恒常性状態から活性化状態へのミクログリアの移行を調節することが明らかになった(図21)。したがって、IL-33/ST2シグナル伝達及びApoEが収束して、ミクログリアにおけるこれらの特定の遺伝子の発現を調節し、それによって、ミクログリアの活性化状態及びAβクリアランス能を調節し得る。興味深いことに、末梢において、IL-33投与は、アテローム性動脈硬化症のApoE-/-モデルにおけるマクロファージ泡沫細胞(アテローム性動脈硬化症を引き起こす脂質含有マクロファージ)の形成、及びアテローム硬化性プラークの発生を改良する82。したがって、IL-33/ST2シグナル伝達の調節が、ADにおける脂質代謝の調節を介したAβ蓄積に対するAPOE-ε4の有害な影響を低減させるかどうかを決定することは興味深いであろう。実際、コレステロール流出を担うABCA1(ATP結合カセットトランスポータA1)及びABCG1(ATP結合カセットトランスポータG1)は、その発現がrs1921622によってアップレギュレートされるミクログリア遺伝子の中にある83。更に、これらの2つの遺伝子は、ApoE脂質化において必須の役割を果たし84、85、これは、Aβ分解に関与するが86、APOE-ε4キャリアにおいて損なわれる87、88。これらの2つの遺伝子は、ADにおけるApoE媒介シグナル伝達及びIL-33/ST2媒介シグナル伝達の両方によって共有される重要な構成成分であり得るが、一方で、どのようにしてこれらの2つのシグナル伝達経路間のクロストークに関与するのかは、更なる研究を待つ。
【0123】
本発明者らの所見は、sST2がADの有望な治療標的であることを集合的に示唆する。第1に、sST2は主に内皮細胞によって発現されるので、これはsST2発現の細胞型特異的操作を可能にし、その操作は血液脳関門を通過する必要がない可能性がある。第2に、sST2レベルは、軽度認知障害又は初期ADの患者において上昇しており28、36、これは、早期介入戦略におけるsST2の適用可能性を示唆している。第3に、本発明者らが示したrs1921622座位の欠失は、ヒト脳内皮細胞株において高い有効性で行うことができ、ST2Lの活性を破壊することなくsST2の発現及び分泌を特異的にサイレンシングする実行可能な方法であり得る;これは、sST2のエピジェネティック制御及び転写制御がST2Lのエピジェネティック及び転写制御とは異なり89、rs1921622はST2LではなくsST2の発現のみを調節するからである。第4に、rs1921622が一般的なAD関連バリアントであることを本発明者らが示したように、この遺伝子バリアントを標的とするsST2の操作を、高いsST2レベル(例えば、APOE-ε4を保有するがrs1921622 Aアレルを保有しない女性患者は、AD患者の6.2%~12.2%を占める)を有する患者の特定のサブグループのために開発することができ、患者の層別化及び精密医療を可能にした。くわえて、sST2はまた、アテローム性動脈硬化症及び敗血症において潜在的な病原的役割を有する82、90CVDの周知のバイオマーカであるため35、37、sST2を標的とするそのようなゲノムベースの操作もまた、そのような末梢疾患の治療に有益であり得る。
【0124】
それにもかかわらず、ADにおけるsST2の機能及び調節に関しては更に説明する必要があることが残っている。最初に、脳内のsST2レベルの増加がADの病因に寄与することを本発明者らは実証したが91、末梢内皮細胞によって生成されるsST2の主要なプールを構成する血漿sST2が、ADにおいて病理学的役割を果たすかどうかは不明のままである。血漿sST2レベルとCSF sST2レベルとの正の相関は、sST2が血液脳関門透過性であり得ることを示唆する。したがって、末梢sST2が脳実質に浸透し、疾患に関連する病理学的変化に寄与し得るかどうかを確認するために、更なる調査が必要である。実際、最近の研究は、バルサルタンなどのいくつかのアンジオテンシン受容体ブロッカーが、心不全患者の末梢sST2レベルを低減させることができることを示している92。これらの薬物がまた、AD患者の末梢sST2レベルも調節し、疾患関連の病理学的変化を改良することができるかどうかを調べることは興味深い。第2に、複数のコホートにおける本発明者らの関連分析は、rs1921622がAPOE-ε4キャリア、特に女性においてADから保護することを一貫して実証した。このバリアントは、男性及び女性の両方においてsST2発現を調節するが、一方で、ADにおけるこの性別特異的保護効果の理由は不明のままである。注目すべきことに、エストロゲン及びテストステロンを含む性ホルモンは、IL-33/ST2シグナル伝達に対して異なる調節効果を有する93、94。したがって、そのようなシグナル伝達がADの男性及び女性において異なる活性及び機能を有するかどうかを調べることは興味深いであろう。最後に、IL-33、ST2L、及びsST2は全てIL-33/ST2シグナル伝達に寄与するので、sST2レベルの増加に加えて、IL-33及び/又はST2Lの調節不全もまたADに寄与し得る。最近の研究は、IL33遺伝子における遺伝子バリアントがADリスクと関連すること95、及び脳IL-33転写物及びタンパク質レベルがADにおいて生理学的状態よりも低いこと36、95を示す。したがって、ゲノムレベル及び遺伝子レベルの両方でのADにおけるsST2、IL-33、及びST2Lの将来の統合研究は、損なわれたIL-33/ST2シグナル伝達がどのようにAD病因に寄与するかを更に明らかにし得る。
【0125】
要約すると、本発明者らは、脳内の可溶性タンパク質であるsST2によって媒介されるミクログリア機能不全に関与する、ADの代替病原性機構を発見した。内皮細胞分泌sST2の調節不全は、sST2の血漿及びCSFレベルの増加をもたらし、ミクログリアによるAβクリアランスを損ない、これによりADにおけるAβ蓄積の増悪をもたらす。更に、本発明者らは、sST2発現をダウンレギュレートするAD保護遺伝子バリアントrs1921622が、ミクログリアシグナル伝達の調節を介してADのAPOE-ε4関連リスク及び病理学的変化を減弱させることを見出した。一致して、3’-UTR標的化ASO又はゲノム編集によるsST2発現及びタンパク質レベルの減少は、AD関連病理学的変化を改良した。このようにして、sST2(ADの新規バイオマーカ及び潜在的な薬物標的)の循環レベルがどのように遺伝的に調節されるかをよりよく理解することは、介入戦略及び臨床試験の設計を支援することができる。
【0126】
方法及び材料
中国人_コホート_1の参加者募集
2013年4月から2018年2月までに香港中文大学医学院プリンス・オブウェールズ病院(the Prince of Wales Hospital of the Chinese University of Hong Kong)の専門外来部門を訪問した、AD患者345人及びHC345人を含む、60歳以上の合計690人の香港人参加者が募集された。ADの臨床診断は、「American Psychiatric Association’s Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」、第5版(DSM-5)に基づいて確立された96。全ての参加者が、病歴評価、臨床評価、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)試験を用いた認知及び機能評価、並びにMRIによる神経画像評価を受けた97、98。AD又は精神障害以外の任意の有意な神経疾患を有する参加者は除外した。年齢、性別、学年、病歴、及びCVDの病歴(すなわち、心臓疾患、高血圧、真性糖尿病、及び高脂血症)を記録した。DNA及び血漿試料を全血試料から調製し、使用するまで-80℃で保存した。T1強調MRIを使用して、Prince of Wales Hospitalからの192人の参加者(n=77のAD患者、n=115のHC)から脳画像処理データを検索した。未処理画像処理ファイルを匿名化し、灰白質体積の分析のためにAccuBrain(登録商標)IV1.2(BrainNow Medical Technology Ltd、Hong Kong、China)によってプロセシングした。CVDの病歴のない参加者のみからなるサブコホートもまた、中国人_コホート_1(「非CVDコホート」;n=86のAD患者、n=97のHC)から選択した。
【0127】
この研究は、Prince of Wales Hospital,the Chinese University of Hong Kong、及びHong Kong University of Science and Technologyによって承認された。全ての参加者が、研究登録及び試料収集の両方について書面によるインフォームドコンセントを提供した。
【0128】
ヒト血液試料からのDNA及び血漿の抽出
本発明者らは、参加者からの全血試料(3mL)をK3EDTAチューブ(VACUETTE)へと収集した。本発明者らは、試料を2,000×gで15分間にわたり遠心分離して、細胞ペレットと血漿とを分離した。血漿を収集し、アリコートに分け、使用するまで-80℃で保存した。本発明者らは、QIAsymphony SP platform(QIAGEN)においてQIAsymphony DSP DNA Midi Kit(QIAGEN)を用いてゲノムDNAを抽出するために、細胞ペレットを、Centre for PanorOmic Sciences(Genomics and Bioinformatics Cores,University of Hong Kong、Hong Kong、China)へと送った。ゲノムDNAを、水又は溶出緩衝液ATE(QIAGEN)で溶出し、4℃にて保存した。本発明者らは、BioDrop μLITE+(BioDrop)によってDNA濃度を決定した。
【0129】
UKBBNデータセット
以下の試料を、MRC UKBBN(Bristol Brain Bank)から得た:CSF試料、前頭皮質切片、凍結前頭皮質組織、及びゲノムDNA試料(表3)。UKBBNデータセットからの最初の試料選択のために、他の神経変性疾患、血管疾患、中毒状態、感染症、プリオン、炎症性疾患、構造的脳障害、代謝/栄養性疾患、心的外傷、せん妄、遺伝性障害(例えば、ダウン症候群)、又は他の全身性疾患を有する対象を除外した。CSF試料については、死後期間30時間以下の試料を選択し、合計86人の参加者(n=75のAD患者、n=11のHC)を得た。くわえて、UKBBN(n=12のAD患者、n=9のHC)からの凍結前頭皮質試料からのsnRNA-seqデータを、本発明者らの以前に公開されたデータセットから得た50
【0130】
関連研究のための他のコホート及びデータ
複製研究のために以下のデータを得た:(i)参加者は以前に記載されたように募集した、中国人_コホート_2からのゲノムデータ、人口統計学データ、及び臨床データ52;(ii)LOAD Family Studyからのゲノムデータ、人口統計データ、及び臨床データ53;(iii)NIA ADCコホートからのゲノムデータ、人口統計学データ、及び臨床データ54、55;(iv)ADNIコホートからのゲノムデータ、人口統計学データ、臨床及び脳画像処理データ;(v)GTExデータセットからのゲノムデータ、人口統計学データ、及びトランスクリプトームデータ48、49;(vi)Stanford Alzheimer’s Disease Research Center(ADRC)コホートからの血漿バイオマーカデータ、CSFバイオマーカデータ、人口統計データ、及び臨床データ40;(vii)オンラインデータベース(https://twc-stanford.shinyapps.io/aging_plasma_proteome/)から検索したINTERVAL及びLonGenityコホートの血漿バイオマーカデータ及び人口統計データ42;(viii)日本人コホートからのCSFバイオマーカ及びの人口統計学データ43;並びに、(ix)AIBLコホートからのゲノムデータ、人口統計学データ、臨床及び脳画像処理データ56
【0131】
ヒト試料及び細胞株におけるタンパク質レベルの測定
中国人_コホート_1からの613人の参加者におけるsST2の血漿レベル(n=277のAD患者、n=336のHC)、UKBBNコホートからの86人の参加者におけるsST2のCSFレベル(n=75のAD患者、n=11のHC)、及びhCMEC/D3細胞によって分泌されたsST2のレベルを、Human ST2/IL-33 R Quantikine ELISA Kit(DST200;R&D Systems)を用いて測定した。中国人_コホート_1からの参加者におけるNfL(n=135のAD患者、n=116のHC)及びP-tau181(n=145のAD患者、n=126のHC)の血漿レベルを、それぞれ、Quanterix NF-light SIMOA Assay Advantage Kit(103186)及びP-Tau 181 Advantage V2 Kit(103714)を用いて、Quanterix Accelerator Lab(Boston、MA、USA)によって測定した。
【0132】
遺伝子型判定のための全ゲノムシーケンシング及びSNPアレイ
中国人_コホート_1(n=233のAD患者、n=194のHC)からの427名の参加者からのDNA試料を、ライブラリ構築及び全ゲノムシーケンシングのためにNovogene(Shenzhen、China)に提出した。試料を、Illumina HiSeq Xプラットフォーム(平均深さ:5倍)でシーケンシングし、個々の遺伝子型を、GotCloudパイプラインを用いて分析した46。TaqMan Assays(それぞれ、rs1921622、C___1226146_10、カタログ番号4351376;rs7412、C___904973_10、カタログ番号4351376;及び、rs429358、C___3084793_20、カタログ番号4351376;Thermo Fisher Scientific)を用いた、chr2:102966067(GRCh37/hg19)、APOE-ε2、及びAPOE-ε4の遺伝子型判定のために、SNPアレイを使用して、中国人_コホート_1(n=112のAD患者、n=151のHC)からの263個のゲノムDNA試料及びUKBBNコホート(n=102のAD患者、n=11のHC)からの113個のゲノムDNA試料を遺伝子型判定した。本発明者らは、7500 Fast and QuantStudio 7 Flex Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を用いて、リアルタイム定量的PCRを実施した。本発明者らは、結果をEDSファイルに保存し、SNPの共同遺伝子型判定のために、TaqMan Genotyper Software(Applied Biosystems)に入力した。
【0133】
死後ヒト脳切片の免疫組織化学的染色
AD患者78人からの、ホルマリン固定しパラフィン包埋した死後の前頭皮質切片を、UKBBNコホートから得た。切片を、最初に脱パラフィンし、キシレン及び段階的エタノール溶液で再水和した。Aβを染色するために、切片を、最初に室温で5分間にわたりギ酸で処理した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、3%過酸化水素溶液でクエンチした。次いで、切片を、マウス抗ヒトAβ抗体(1:500、クローンNAB228、SC-32277、Santa Cruz Biotechnology)と、4℃にて一晩インキュベートした。洗浄後、切片をHRP標識抗マウスIgG(QD 440-XAKE、RTU、BioGenex)とインキュベートし、シグナルを3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)基質(QD 440-XAKE、BioGenex)で発生させた。ミクログリア及びAβタンパク質を共染色するために、二重免疫組織化学的染色を実施した;脱パラフィン及び再水和の後、切片を、クエン酸ナトリウム緩衝液(10mMクエン酸ナトリウム、pH6.0)で25分間にわたり処理し、ブロッキング処理し、その後、内因性ペルオキシダーゼ活性を3%過酸化水素溶液によってクエンチした。次いで、切片を、マウス抗ヒトAβ抗体(SC-32277)及びウサギ抗ヒトIba-1抗体(1:100、019-19741、ポリクローナル、富士フイルム和光純薬株式会社)と4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、切片を、HRP標識抗マウスIg及びAP標識抗ウサギIg(HK597-50K、二重染色キット、BioGenex)とインキュベートし、続いて、DAB(QD440-XAKE、BioGenex)及びFast Red Substrate(HK182-5KE、BioGenex)で基質を発生させた。次いで、切片をマイヤーのヘマトキシリン(HK100-9K、BioGenex)で対比染色し、カバーガラスを取り付けた。洗浄に使用した緩衝液は、0.01%Triton X-100を有するトリス緩衝生理食塩水(Tris Buffer Saline:TBS)であり、一次抗体をTBSで希釈した。画像は、ZEISS Axio Scan.Z1スキャナで撮影し、ZEN顕微鏡ソフトウェアv3.2(ZEISS)でプロセシングした。
【0134】
Aβプラークを定量化するために、本発明者らは、各切片のランダム画像を10枚撮影した。バックグラウンド減算及び閾値調整の後、本発明者らは、Fiji-ImageJ(v1.53c)のAnalyze Particles関数を用いてAβプラークを分析した。本発明者らは、各切片の総Aβ面積、Aβプラークの数、及びプラークサイズの中央値を決定した。本発明者らは、総Aβ面積を総画像面積(10mm)で割ることによって、Aβプラーク負荷(面積%)を計算した。ミクログリア-Aβ共染色を定量化するために、本発明者らは、各切片の20個のランダム画像を選択し、それらをColour Deconvolution関数でプロセシングして、データを3つのカラーチャネル(すなわち、DAB、Fast Red、及びヘマトキシリン)に分離した。閾値を調整した後、本発明者らは、Create Selection関数を用いてAβプラーク及びミクログリアを選択し、次いで、Analyze関数を用いてそれらを分析した。本発明者らは、Iba-1染色と共局在した総Aβ面積及びAβ面積を決定した。本発明者らは、Iba-1染色と共局在したAβ面積を総Aβ面積で割ることによって、ミクログリアと共局在したAβプラーク面積(総Aβ%)を計算した。2名の独立した研究者が、切片染色、画像取得、及び画像定量化を実施した;それらはまた、盲検様式で画像をランダムに選択及び定量化した。
【0135】
GWASの関連分析及びデータの視覚化
以下のパラメータ:--keep-allele-order、--linear、--ci 0.95、--hwe 0.00001、及び--maf 0.05を用いて、年齢、性別、AD診断、及び共変数としての上位5つの主構成成分について調整した、PLINKソフトウェア(v1.9)を用いて、中国人_コホート_1におけるゲノムワイドレベルでのSNPと血漿sST2レベルとの関連分析を実施した99。データを視覚化するために、R qqmanパッケージ(v0.1.4)のマンハッタン()関数及びqq()関数をそれぞれ用いて、マンハッタンプロット及び分位数プロットを産生した。IL1RL1座位の領域プロットは、LocusZoomを用いて産生した。血漿sST2レベルに対するIL1RL1座位の効果のファインマッピング分析を、以下のパラメータ:--hwe 0.00001、--maf 0.05、--r、--matrix、--chr 2、--from-bp 102000000、及び--to-bp 104000000を用いて、PLINKソフトウェア(v1.9)から産生された関連試験結果及びペアワイズ連鎖不平衡情報と共に、CAVIARソフトウェア(v2.2)を使用して実施した47。ファインマッピングされた領域プロットは、R plotlyパッケージ(v4.9.1)のplot_ly()関数を用いて産生された。Haploview(v4.2)を用いて、連鎖不平衡及びハプロタイプ構造をプロットした。全ての独立したsST2関連バリアント(r<0.2)を同定するために、sST2 GWASにかかるP<1E-5のバリアントを、PLINKソフトウェア(v1.9)(パラメータ:--hwe 0.00001、--maf 0.05、--clump-p1 0.00001、--clump-r2 0.2、--chr 2、及び--clump-kb 2000)による分析に供し、29個の独立したsST2関連バリアントを得た。R relaimpoパッケージ(v2.2-3)のcalc.relimp()関数100、101を使用して、sST2レベル分散に対する遺伝的要因(すなわち、29の独立したsST2関連バリアント)及び非遺伝的要因(すなわち、年齢及び性別)の寄与を定量化した。
【0136】
組織レベル及び単一細胞レベルでのトランスクリプトームデータセットにおけるrs1921622の関連分析
GTExデータセットからのヒト組織sST2及びST2L転写物レベル48、49並びにrs1921622遺伝子型データを、年齢、性別、RNA完全性(すなわち、RNA完全性番号)及び集団構造(すなわち、上位4つの主構成成分)について調整して、遺伝子型-発現関連試験に使用した。転写物レベルのランクベースの正規化を、GenABELパッケージ(v1.8)のR rntransform()関数を用いて実施した。
【0137】
単一細胞レベルでのヒト前頭皮質におけるsST2及びST2Lの転写レベルは、修飾された参照ゲノムを用いて、本発明者らが以前に公開したsnRNA-seqデータセットのFASTQファイルを再編成することによって得た50。具体的には、元のGRCh38/hg38プレmRNA参照ゲノムのGTFファイル中のIL1RL1領域(chr2:102、311、563~102、352、037)を3つの部分:sST2特異的領域(chr2:102、343、416~102、346、100)、ST2L特異的領域(chr2:102、311、563~102、337、147、及び102、346、101~102、352、037)、並びに重複領域(chr2:102、337、148~102、343、415)へと分離した。修飾された参照ゲノムを、新しいGTFファイル及び元のFASTAファイルを用いてCell Ranger(v3.0.1)によって産生した。その後の品質管理工程では、遺伝子レベルの定量化及び細胞型同定を上記のように実施した50。各細胞クラスターにおける遺伝子型と候補遺伝子発現との関連分析のために、年齢、性別、AD診断、及び死後期間について調整して、線形回帰分析を実施した。有意レベルを、FDRで調整したP<0.05に設定した。関連遺伝子のGO分析を、DAVID Bioinformatics Resourcesを用いて実施した102、103
【0138】
rs1921622とアルツハイマー病リスクとの関連の分析
ADリスクに対するrs1921622遺伝子型の影響を調べるために、メタ分析を実施した。具体的には、6つのADデータセット(すなわち、中国人_コホート_1データセット、中国人_コホート_2のWGS及びアレイデータセット、並びにLOAD、ADC、及びADNIデータセット)からのAPOE-ε4キャリア及び非キャリアについての効果量(すなわち、対数オッズ比)及び標準誤差(SE)を、年齢、性別、及び上位5つの主構成成分を共変数として用いたロジスティック回帰を用いて決定した。結果をまとめ、METASOFT(v2.0.0)によってプロセシングして104、Han及びEskinのランダム効果モデル(RE2)の下における関節リスク効果及び有意性レベルを推定した。次いで、結果をForestPMPlot(v1.0.2)に入力して、データ視覚化のためのフォレストプロットを産生した。
【0139】
マウスにおけるインビボ実験
本発明者らは、全てのマウスをHKUST Animal and Plant Care Facilityに収容した。全ての動物実験は、HKUST Animal Ethics Committeeによって承認され、HKUSTのAnimal Care Facilityのガイドラインに従って実施された。本発明者らは、22℃及び相対湿度60%で、12時間の明/暗サイクル、並びに食物及び水を自由に摂取させて、ケージ当たり4匹の同性マウスを収容した。野生型(WT)C57BL6JマウスをJackson Laboratoryから得た。5XFADマウスを、ヒトAPPにおけるK670N/M671L(スウェーデン)、I716V(フロリダ)、及びV717I(ロンドン)突然変異、並びにヒトPSEN1におけるM146L及びL286V突然変異を過剰発現させることによって、以前に記載されるように産生した100。本発明者らは、尾部又は耳の生検標本のPCR分析によって遺伝子型を確認した。sST2 3’UTR欠失マウスは、GemPharmatech Co.,Ltd.によって産生した。sST2 3’UTR欠失マウスは、CRISPR/Cas9媒介性欠失によって産生した。gRNAの配列は5’-GTCCCTTGTAGTCGGTACAA-3’及び5’-GACACTCTACTTGTACCTAG-3’であった。本発明者らは、尾部又は耳の生検標本のPCR分析によって遺伝子型を確認した。本発明者らは、年齢が一致する群で全てのインビボ実験を実施し、マウスを実験条件にランダムに割り当てた。本発明者らは、主に同様の種類の実験での本発明者らの経験に基づいて試料サイズを選んだ。本発明者らは、明期の最中に全ての動物実験を行った。マウス組換えsST2-Fc(1004-MR-050;R&D Systems)を、ミニ浸透圧ポンプ(モデル1004;Alzet)を介して0.11μL/時で、5XFADマウス(B6.Cg-Tg(APPSwFlLon,PSEN1*M146L*L286V)6799Vas/Mmjax)へと送達した。具体的には、ポンプを右半球の上の脳室内に植え込み、人工脳脊髄液(119mM NaCl、2.5mM KCl、2.5mM CaCl・2HO、1mM NaHPO・2HO、1.3mM MgCl・6HO、26.2mM NaHCO、及び11mM dグルコース)中の、マウス組換えsST2-Fcタンパク質(ポンプ当たり240ng;10μg/mL)又はヒトIgG(対照として)を負荷した。投与の28日後、マウスを、イソフルランで麻酔し、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline:PBS)を経心臓的に灌流し、マウスの脳を収集した。40mg/kgのマウスsST2 ASOを、C57マウス及び5XFADマウスへと静脈内注射した。投与の5日後、マウスを、イソフルランで麻酔し、PBSで灌流し、血清及び脳を収集した。
【0140】
マウス脳の免疫組織化学的染色
マウス脳の左半球を、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で24時間にわたり固定し、30%スクロースへ移し、切片化するまで4℃で保存した。脳を、振動ブレードミクロトーム(VT1000S、Leica)で50μm切片へと冠状に切断し、使用するまで-20℃で凍結保護溶液(30%グリセロール、30%エチレングリコール、及びPBS)中で保存した。免疫組織化学のために、切片を、PBST(すなわち、PBS中の0.1%Triton X-100)ですすぎ、次いで、抗原回復のために室温で5分間にわたりギ酸で処理し、続いて内因性ペルオキシダーゼ活性をクエンチするために3%過酸化水素溶液で10分間にわたり処理した。切片を、PBST中5%ウマ血清で2時間にわたりブロックし、次いで、ブロッキング緩衝液中4G8抗体(1:1000、800703、BioLegend)で4℃にて一晩標識した。翌日、切片を、ビオチンコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:1000、BA 2000、Vector Laboratories)、続いてアビジン-ビオチン-HRP複合体(PK-6100、Vector Laboratories)とインキュベートし、シグナルを、DAB(SK-4100、Vector Laboratories)で発生させた。画像処理は、Leica DM6000 B化合物顕微鏡を用いて実施した。Fiji-ImageJ(v1.53c)のAnalyze Particles関数を用いて、皮質切片のAβプラーク面積を分析した。具体的には、皮質領域(約200~300μm離れている)におけるマウス当たり4つの脳切片を分析し、Aβプラークが占有する皮質面積の平均パーセンテージを計算した。
【0141】
免疫蛍光分析のために、本発明者らは、切片を洗浄し、それらを1μM X-34中で10分間にわたりインキュベートした。次いで、本発明者らは、それらをX-34緩衝液(PBS中40%EtOH)で洗浄し、次いでPBS中で洗浄した。次いで、本発明者らは、ブロッキング緩衝液(PBS中4%ウマ血清、1%ウシ血清アルブミン[BSA]、及び0.3%Triton X-100)中で2時間切片をブロックした。実験において使用される一次抗体には、マウス抗Aβ抗体(1:1000、クローン4G8、800703、BioLegend)、ウサギ抗Iba-1(1:1000、019-19741、和光)、及びラット抗Ki67(1:200、クローンSolA15、14-5698-80、eBioscience)が含まれる;本発明者らは、これらをブロッキング緩衝液で希釈し、切片を4℃で一晩インキュベートした。その後、切片を、ブロッキング緩衝液中のマウス、ウサギ、及びラットIg(Alexa Fluor 488、568、及び647;1:1000、Life Technologies)に対するフルオロフォアコンジュゲート二次抗体と、室温で2時間にわたりインキュベートし;PBSTで広範囲に洗浄し;SYTOX Green(1:300000、S7020、Life Technologies)又はDAPI(1:5000、D3571、Life Technologies)で染色し;FluorSave(商標)試薬(345789、Millipore)を用いてマウントした。
【0142】
本発明者らは、Leica 40倍油浸対物レンズを備えたLeica TCS SP8共焦点顕微鏡を用いて画像処理を実施した。本発明者らは、1μmの工程サイズで各マウス皮質から、合計40μmの5つの画像を撮影し、次いでそれらを、最大強度Z投射を有する単一の画像へと統合した。本発明者らは、抗Aβ免疫標識(すなわち、4G8)及びX-34染色を用いて3つの異なるプラーク形態を同定した:(i)プラークコアのない繊維状X-34及び4G8標識によって特徴付けられる繊維状プラーク;(ii)X-34標識コアで半径方向外側に突出する4G8アミロイド原線維を特徴とするコンパクトなプラーク;及び、(iii)4G8標識なしのX-34標識コアを特徴とする不活性プラーク。本発明者らは、カスタムマクロを使用して個々のAβプラークをセグメント化し、各プラークの種類を手動で同定した。プラーク関連ミクログリアについて、本発明者らは、プラーク及びプラークと接触しているプロセスを取り囲むバリア内のDAPI核染色によって定義されるように、小さいプラーク(すなわち、半径≦8μm)及び大きいプラーク(すなわち、半径>8μm)を取り囲むミクログリアの数を手動で計数した。本発明者らは、Ki67ミクログリアを、核内にKi67シグナルを有するミクログリアとして定義した。Aβプラークのミクログリア被覆率を定量化するために、本発明者らは、コンパクトなプラークのみを選択した。本発明者らは、分析のためにプラークの中心を通って0.5μm離れた10個の光学スライスを使用した。本発明者らは、Fiji-ImageJ(v1.53c)においてカスタマイズされたマクロを用いて全ての画像をプロセシングした。各スライスで、閾値を調整した後、本発明者らは、分析粒子及び線に対する面積の関数を用いてプラークの周囲を決定した。本発明者らはまた、ミクログリア染色と共局在するプラーク周囲及びプラーク周囲の弧を決定した。本発明者らは、Iba-1免疫標識細胞(群当たり約25個のプラーク)と密接(1μm以内)に接触している、三次元(3-dimensional:3D)スタックにわたるプラーク周囲の弧を合計することによって、ミクログリアによって覆われたプラーク周囲の割合を計算した。本発明者らは、Imaris v9.7.2(Oxford Instruments)を用いてミクログリア-プラーク相互作用の3D再構成を行った。
【0143】
ミクログリアAβ食作用能の評価
ミクログリアAβ食作用能は、以前に記載されたように調べた29。簡潔には、4月齢の5XFAD又は野生型マウスに、メトキシ-X04(10mg/kg)を腹腔内注射してAβを標識した。マウスをメトキシ-X04注射の3時間後にイソフルランで麻酔し、左心室を氷冷PBSで灌流した。マウスの前脳を、単離し、切り刻み、酵素消化のために5U/mLのパパイン(LS003126)及び35U/mLのDNアーゼI(LS002140;Worthington Biochemical)において37℃にて30分間にわたりインキュベートした。インキュベーション後、ミエリンデブリを、30%等張パーコール(P1644;Sigma-Aldrich)勾配遠心分離によって枯渇させ、単核細胞懸濁液を、氷冷10%熱不活性化FBSを有するDMEM/F12培地で得た。細胞集団同定のために、異なる試料細胞懸濁液の混合物から非染色対照を調製した。ミクログリアを標識するために、Alexa Fluor 488コンジュゲートマウスCD11b抗体(1:200;53-0112-82;eBioscience)を使用して、細胞懸濁液を4℃で45分間にわたり染色した。得られた標識細胞懸濁液を、BD Influxセルソータ・フローサイトメータを用いて分析した。ミクログリア細胞集団について記録された散布図データを、FlowJoソフトウェアv10.5.0(TreeStar)を用いて分析した。
【0144】
細胞培養システムにおけるrs1921622保持領域のCRISPR/Cas9媒介性ゲノム欠失
ヒト脳微小血管内皮細胞株(hCMEC/D3)を、Cedarlaneから購入し、以前記載されたように培養した101。簡潔には、本発明者らは、組織培養プレートを、100μg/mLのI型コラーゲン(Millipore)で37℃にて、5%COで1時間にわたりコーティングした。その後、本発明者らは、プレートを、ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で洗浄し、完全培養培地(5%FBS[HyClone]、1%の化学的に定義された脂質濃縮物[Gibco]、10mM HEPES[Gibco]、5μg/mLアスコルビン酸[Sigma]、1.4μMヒドロコルチゾン[Sigma]、1ng/mL bFGF[PeproTech]、10U/mLペニシリン、及び10μg/mLストレプトマイシン[Gibco]で補充された、内皮細胞増殖培地-2[EGM-2][Lonza])と交換した。培養細胞を0.05%トリプシンで5分間にわたり解離させ、25,000細胞/cmで再プレーティングし、5%COインキュベータ内で37℃にて培養に戻した。播種の3~4日後、細胞は、コンフルエンスに達し、継代することができた。本発明者らは、実験のために27継代~35継代の細胞を使用した。
【0145】
ChIP定量的PCR(ChIP-qPCR)実験のために、本発明者らは、処理の2時間前にhCMEC/D3細胞の培地を完全に変更した。本発明者らは、次いで、培養細胞を、ビヒクル対照として組換えヒトIL-33(BioLegend)又はDPBSで24時間にわたり処理した。
【0146】
内皮細胞における単一ガイドRNA(single guide RNA:sgRNA)編集の効率を評価するために、本発明者らは、Nucleofector 2b装置(Lonza)を備えたHuman Umbilical Vein Endothelial Cell Nucleofector Kit(Lonza)を用いたヌクレオフェクションによる単一CRISPR構築物で、5×10個のhCMEC/D3細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの1日後、本発明者らは、培養培地を1μg/mLピューロマイシン(Thermo Fisher Scientific)を有する完全培養培地へと変更した。ピューロマイシン選択の3日後、本発明者らは、QuickExtract(商標)DNA Extraction Solution(Lucigen)を用いてゲノムDNAを抽出し、続いてT7EI(NEB)編集効率試験を行った。4つ全てのsgRNAが高い編集効率を呈した(データ示さず)。
【0147】
hCMEC/D3細胞においてrs1921622を保持する領域を欠失させるために、二重ガイドRNA媒介ノックアウトアプローチを利用した。サンガーシーケンシングによってrs1921622の上流側及び下流側300bpから、細胞の遺伝子型を決定した。潜在的化膿性連鎖球菌Cas9(SpCas9)ガイドRNAのスクリーニングを、rs1921622の上流側及び下流側100bpでCRISPR設計ツール(crispr.mit.edu)を用いて実施した。以下のsgRNAを利用した:sgRNA-1,5’-TTATGGACAGAATTAAGAAG-3’(配列番号1);sgRNA-2,5’-CTGTCCATAAGATTTGAAAG-3’(配列番号2);sgRNA-3,5’-AATTTTGTTCTGGTAGCCAT-3’(配列番号3);及び、sgRNA-4,5’-GGTATTTCAGCTAGTGCCTA-3’(配列番号4)。sgRNAを、sgRNAカセット、ヒトコドン最適化SpCas9、及びピューロマイシン耐性遺伝子を含有する、PX459v2へとサブクローニングした。
【0148】
二重gRNA媒介欠失細胞株を産生するために、sgRNA-1/sgRNA-4(標的67bp欠失)、又はsgRNA-2/sgRNA-3(標的38bp欠失)、又はsgRNAなし対照としてのPX459v2を含有するプラスミドで、hCMEC/D3細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの翌日から開始して3日間のピューロマイシン選択(1μg/mL)後、ピューロマイシン耐性細胞を2つの24ウェルプレートに播種した。培地を週2回交換した。単一コロニーが観察された3週間後、1コロニーのみを含有するウェルを12ウェルプレートに継代した。各クローンを遺伝子型判定し、標的欠失が生じた可能性のあるクローンをサンガーシーケンシングに供した。このプロトコルにより、6つの対照系統、38bp欠失を有する8系統、及び67bp欠失を有する10系統が産生された。
【0149】
ヒト患者におけるCRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集
アルツハイマー病の診断を受け、かつADの高リスクを指し示す遺伝子マーカ(例えば、女性患者APOE-ε4キャリア)を持つように遺伝子型判定されたヒト患者に、s1921622座位から上流側及び下流側約100bpの領域に及ぶ、rs1921622座位を包含するゲノム配列を欠失させることを目的とした二重ガイドRNA媒介ゲノム編集システムにおいて、化膿性連鎖球菌Cas9(SpCas9)ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをエンコードする、CRISPR/Cas9システム又はリボ核タンパク質(ribonucleoprotein:RNP)複合体をエンコードするDNA又はRNAからパッケージングされたウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター若しくはアデノ随伴ウイルスベクター)又は脂質ナノ粒子を、静脈内注射によって投与する。sgRNA標的化及び欠失戦略は、培養システムで使用されるものと同じである(最後のセクションを参照されたい)。ヒト患者におけるsST2ゲノム領域を標的とするCRISPR編集のために、sgRNA、及びCas9をエンコードするmRNAを保有する脂質ナノ粒子を、0.01~2mg/kg;0.02~1.0mg/kg;0.05~0.5mg/kg;又は0.1~0.3mg/kgの患者体重の範囲で患者へ送達する。4週間後、0.1mg/kgのナノ粒子の投与は、標的タンパク質(例えば、sST2タンパク質)の循環レベルの約50%の低減を達成するものと予想されるが、一方で、0.3mg/kgのナノ粒子の投与は、標的タンパク質レベルの80%を超える低減を達成するものと予想される。
【0150】
sST2アンチセンスオリゴヌクレオチドのスクリーニング
sST2アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の特異性は、マウスゲノム参照(GRCm38)及びヒトゲノム参照(GRCh37)における他の転写物中では、同じ配列はなく、配列と1~2のミスマッチもないことによって定義された。全てのASOは、Integrated DNA Technologies(IDT)によって合成された。各ASOの効果を調べるために、マウス線維芽細胞NIH-3T3細胞(ATCC)及びヒト臍帯静脈内皮細胞(ATCC)を、Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent(ThermoFisher)を用いて500nM ASOでトランスフェクトした。トランスフェクションの1日後に細胞を収集した。細胞溶解のタンパク質量を測定して、培地sST2レベルのレベルを正規化した。
【0151】
他の統計学的分析及びデータの視覚化
ヒト対象の残りの統計学的分析について、AD関連エンドフェノタイプと、sST2レベル及びrs1921622遺伝子型との関連の有意性を、線形回帰分析によって決定した。CSF sST2レベルカットオフは、Rのoptimal.cutpoints()関数、及びOptimalCutpointsパッケージのYouden法(v1.1-4)を用いて、Youdenインデックスの最大値で、CSF sST2のレベルに従って決定した105。認知症発症年齢とrs1921622 Aアレルとの関連を調べるために、Rの生存パッケージ(v1.3-24)のcoxph()関数を用いて、性別及び上位5主構成成分を共変数として、コックス回帰を実施した。有意レベルをP<0.05に設定した。データの視覚化のために、Rのplot()関数を使用してボルケーノプロットを産生し、R ggplot2パッケージ(v3.2.1)のggplot()関数を使用して、ドットプロットを産生した。マウス及び細胞培養システム実験から得られたデータについて、独立スチューデントt検定、又は一元配置分散分析若しくは二元配置分散分析、続いて指し示されるボンフェローニ事後検定によって、差の有意性を評価した。有意レベルをP<0.05に設定した。全ての統計学的プロットは、GraphPad Prism v8.0(GraphPad Software)を用いて産生した。
【0152】
データ可用性
中国人_コホート_1からの個々の参加者によって与えられる同意フォームは、研究内容が、病院及び研究チームの管理下において非公開に保たれることを述べた。したがって、個々の参加者の表現型、ゲノム、及びプロテオミクスデータが利用可能であり、かつ正式な共同研究において共有される。データ共有及びプロジェクト協調のための用途は、HKUSTでホストされるレビューパネルによってプロセシング及びレビューされる。研究者は、本研究と関連したデータ共有及びプロジェクト協力の詳細について[sklneurosci@ust.hk]に連絡してもよい。
【0153】
コード可用性
データ分析及びデータ視覚化に使用される全てのコードのリクエストは、対応する作成者、及びHKUSTでホストされるレビューパネルによって迅速にレビューされて、リクエストが任意の知的財産、機密性、又はその他のライセンス義務の対象であることを検証する。制限がない場合、対応する作成者は、コードを共有するために要求者と通信する。
【0154】
本出願で引用された、GenBankアクセッション番号又は均等物を含む全ての特許、特許出願、及び他の刊行物は、全ての目的のために全体が参照により組み込まれる。
【0155】
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【0166】
【表1-1】
【0167】
【表1-2】
【0168】
【表2】
【0169】
【表3】
【0170】
【表4-1】
【0171】
【表4-2】
【0172】
【表4-3】
【0173】
【表4-4】
【0174】
【表4-5】
【0175】
【表4-6】
【0176】
【表4-7】
【0177】
【表4-8】
【0178】
【表4-9】
【0179】
【表4-10】
【0180】
【表4-11】
【0181】
【表4-12】
【0182】
【表4-13】
【0183】
【表4-14】
【0184】
【表4-15】
【0185】
【表4-16】
【0186】
【表4-17】
【0187】
【表4-18】
【0188】
【表5】
【0189】
【表6】
【0190】
【表7】
【0191】
【表8】
【0192】
【表9-1】
【0193】
【表9-2】
【0194】
【表9-3】
【0195】
【表9-4】
【0196】
【表9-5】
【0197】
【表9-6】
【0198】
【表9-7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
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図19
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図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
2024529496000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-04-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0198
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0198】
【表9-7】

本願発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
アルツハイマー病(AD)の治療又はADのリスクの低減を必要とする個人においてADを治療するため又はADのリスクを低減するための方法であって、rs1921622、並びに/又は表4及び表5に列挙されたそれ以外の574個のsST2関連遺伝子バリアントのいずれか1個若しくは複数、並びに/又はsST2遺伝子/転写物の3’-非翻訳領域(UTR)を包含するゲノム配列を破壊する有効量の組成物を前記個人へと投与する工程を含む、方法。
<2>
前記投与する工程の前に、前記個人のゲノムの少なくとも一部をシーケンシングすることを更に含む、<1>に記載の方法。
<3>
前記個人が、APOE-ε4キャリア又は非APOE-ε4キャリアである、<1>に記載の方法。
<4>
前記個人が、女性又は男性である、<1>に記載の方法。
<5>
前記個人が、rs1921622にAアレル若しくはGアレルを有するか、又は前記個人が、表4若しくは表5に示される特定の遺伝子座に少なくとも1つのアレルを有する、<1>に記載の方法。
<6>
前記個人が、ADと診断されているか、又は前記個人が、まだADと診断されていないが、ADの既知のリスク因子を有する、<1>に記載の方法。
<7>
rs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)を包含する前記ゲノム配列が、rs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側約300塩基対、好ましくはrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)の上流側及び下流側約250塩基対、200塩基対、150塩基対、100塩基対、50塩基対、30塩基対、又は20塩基対の配列を含む、<1>に記載の方法。
<8>
前記組成物が、rs1921622又は前記sST2遺伝子の前記3’-UTRを包含する前記ゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、<1>に記載の方法。
<9>
前記組成物が、スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ及びrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)を包含する前記ゲノム配列内の2つの位置を標的とする2つのsgRNAをコードする1又は複数のベクターを含む、<1>に記載の方法。
<10>
前記組成物が、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む、<9>に記載の方法。
<11>
前記1又は複数のベクターが、1又は複数のウイルスベクターである、<9>又は<10>に記載の方法。
<12>
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって投与されるか、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される、<1>に記載の方法。
<13>
前記組成物が、溶液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセルの形態で投与される、<12>に記載の方法。
<14>
アルツハイマー病(AD)の治療又はADのリスクの低減を必要とする個人においてADを治療するため又はADのリスクを低減するためのキットであって、rs1921622(若しくは表4若しくは表5の別の遺伝子座)又はsST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列を破壊する組成物を含有する容器を含む、キット。
<15>
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射のために製剤化されているか、又は経口投与若しくは経鼻投与のために製剤化されている、<14>に記載のキット。
<16>
前記組成物が、rs1921622又は前記sST2遺伝子の前記3’-UTRを包含する前記ゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、<14>に記載のキット。
<17>
前記組成物が、スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ及びrs1921622(又は表4若しくは表5の別の遺伝子座)を包含する前記ゲノム配列内の2つの位置を標的とする2つのsgRNAをコードする1又は複数のベクターを含む、<14>に記載のキット。
<18>
前記組成物が、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む、<17>に記載のキット。
<19>
前記個人のゲノムの少なくとも一部をシーケンシングするための薬剤を含有する第2の容器を更に含む、<14>に記載のキット。
<20>
前記組成物の投与のための取扱説明を更に含む、<14>に記載のキット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病(AD)の治療又はADのリスクの低減を必要とする個人においてADを治療するため又はADのリスクを低減するための方法において使用するための、sST2遺伝子/転写物の3’-非翻訳領域(UTR)を包含するゲノム配列を破壊する医薬組成物であって、前記方法は有効量の前記医薬組成物を前記個人へと投与する工程を含む、医薬組成物
【請求項2】
前記方法は、前記投与する工程の前に、前記個人のゲノムの少なくとも一部をシーケンシングすることを更に含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記個人が、APOE-ε4キャリア又は非APOE-ε4キャリアである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記個人が、女性又は男性である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記個人が、ADと診断されているか、又は前記個人が、まだADと診断されていないが、ADの既知のリスク因子を有する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項6】
記sST2遺伝子の前記3’-UTRを包含する前記ゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項7】
表9に列挙されるアンチセンスオリゴヌクレオチドのうち1又は複数を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
as9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む、請求項に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記1又は複数のベクターが、1又は複数のウイルスベクターである、請求項又は請求項に記載の医薬組成物
【請求項10】
下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって投与されるか、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項11】
液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセルの形態である、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項12】
アルツハイマー病(AD)の治療又はADのリスクの低減を必要とする個人においてADを治療するため又はADのリスクを低減するためのキットであって、sST2遺伝子の3’-UTRを包含するゲノム配列を破壊する組成物を含有する容器を含む、キット。
【請求項13】
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射のために製剤化されているか、又は経口投与若しくは経鼻投与のために製剤化されている、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記組成物が、前記sST2遺伝子の前記3’-UTRを包含する前記ゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、ミニRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項12に記載のキット。
【請求項15】
前記組成物が、表9に列挙されるアンチセンスオリゴヌクレオチドのうち1又は複数を含む、請求項12に記載のキット。
【請求項16】
前記組成物が、Cas9ヌクレアーゼ及び2つのsgRNAをコードする1つのベクターを含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記個人のゲノムの少なくとも一部をシーケンシングするための薬剤を含有する第2の容器を更に含む、請求項12に記載のキット。
【請求項18】
前記組成物の投与のための取扱説明を更に含む、請求項12に記載のキット。
【国際調査報告】