(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】高い電子伝導率を有する急速焼結された正極
(51)【国際特許分類】
C04B 35/622 20060101AFI20240730BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240730BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20240730BHJP
H01M 4/139 20100101ALN20240730BHJP
H01M 4/13 20100101ALN20240730BHJP
【FI】
C04B35/622
C01G51/00 A
C04B35/01
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505568
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 US2022038272
(87)【国際公開番号】W WO2023009476
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】タナー,キャメロン ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィレーノ,エリザベス マリー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,リンイエン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB05
4G048AC06
4G048AE05
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB12
(57)【要約】
処理および焼結された組成物の形成方法は、リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物を含むスラリー前駆体を提供する工程と、スラリー前駆体をテープキャスティングして、未加工テープを形成する工程と、未加工テープを、500℃から1350℃の範囲の温度で60分未満の時間、焼結して、焼結された組成物を形成する工程と、焼結された組成物を、700℃から1100℃の範囲の温度で、1分から2時間の範囲の時間、酸素含有雰囲気中で熱処理して、処理および焼結された組成物を形成する工程とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理および焼結された組成物の形成方法において、
リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物を含むスラリー前駆体を提供する工程と、
前記スラリー前駆体をテープキャスティングして、未加工テープを形成する工程と、
前記未加工テープを、500℃から1350℃の範囲の温度で60分未満の時間、焼結して、焼結された組成物を形成する工程と、
前記焼結された組成物を、700℃から1100℃の範囲の温度で、1分から2時間の範囲の時間、酸素含有雰囲気中で熱処理して、前記処理および焼結された組成物を形成する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記熱処理は、750℃から900℃の範囲の温度で、10分から1時間の範囲の時間、行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理は、
前記焼結された組成物を炉に第1の速度で挿入する工程と、
前記焼結された組成物を所定の時間、保持する工程と、
前記焼結された組成物を前記炉から第2の速度で引き出す工程と
によって行われるものであり、
前記所定の時間は、1分から30分の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物は、前記スラリー前駆体の合計の少なくとも50質量%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記マグネシウム系化合物は、NaVPO
4F、NaMnO
2、Na
2/3Mn
1-yMg
yO
2(但し、0<y<1)、Na
2Li
2Ti
5O
12、Na
2Ti
3O
7、MgCr
2O
4、または、MgMn
2O
4の少なくとも1つを含むものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記未加工テープを焼結する工程の後、かつ、該焼結されたテープを熱処理する工程の前に、該焼結されたテープを100℃/分以上で冷却する工程を、
更に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理工程の前記温度は、前記焼結工程の前記温度より、約50℃以上低いものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
処理および焼結された組成物において、
コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、リチウムチタン硫化物、または、これらの組合せの少なくとも1つを含み、
少なくとも10
-5S/cmの電子伝導率を有するものである組成物。
【請求項9】
10%~30%の多孔率を有するものである、請求項8に記載の処理および焼結された組成物。
【請求項10】
10%未満の多孔率を有するものである、請求項8に記載の処理および焼結された組成物。
【請求項11】
多くても微量の二次伝導相を有するものである、請求項8から10のいずれか1項に記載の処理および焼結された組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、米国特許法第120条の下、2021年7月30日出願の米国特許出願第17/389,463号の優先権の利益を主張し、その内容は依拠され、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、高い電子伝導率を有する急速焼結された正極に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン(Liイオン)電池のエネルギー密度を高める試みが、様々なアプローチで行われている。1つの方法は、固体電解質を薄くし、電極に加える活性材料の量を増加させることによって、不活性材料の量を抑制することである。他の方法は、リチウム金属の負極を可能にする固体電解質の開発である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
急速焼結された正極に基づく電池設計を用いて、両方の方法で、エネルギー密度を高めうる。本願は、改良された電子伝導率などの物性を有する連続して急速焼結された正極を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施形態において、処理および焼結された組成物の形成方法は、リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物を含むスラリー前駆体を提供する工程と、スラリー前駆体をテープキャスティングして、未加工テープを形成する工程と、未加工テープを、500℃から1350℃の範囲の温度で60分未満の範囲の時間、焼結して、焼結された組成物を形成する工程と、焼結された組成物を、700℃から1100℃の範囲の温度で、1分から2時間の範囲の時間、酸素含有雰囲気中で熱処理して、処理および焼結された組成物を形成する工程とを含む。
【0006】
任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、熱処理は、750℃から900℃の範囲の温度で、10分から1時間の範囲の時間、行われるものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、酸素含有雰囲気は、0%より多く、70体積%までのO2を含むものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、酸素含有雰囲気は、空気である。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、酸素含有雰囲気、少なくとも1つの非反応性気体を含む。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、酸素含有雰囲気は、他の反応性気体を含まない。
【0007】
任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、熱処理は、焼結された組成物を炉に第1の速度で挿入する工程と、焼結された組成物を所定の時間、保持する工程と、焼結された組成物を炉から第2の速度で引き出す工程とによって行われる。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、第1の速度は、第2の速度に略等しい。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、所定の時間は、1分から30分の範囲である。
【0008】
任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、リチウム系化合物は、コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、リチウムチタン硫化物、または、これらの組合せの少なくとも1つを含むものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物は、スラリー前駆体の合計の少なくとも50質量%である。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、マグネシウム系化合物は、NaVPO4F、NaMnO2、Na2/3Mn1-yMgyO2(但し、0<y<1)、Na2Li2Ti5O12、Na2Ti3O7、MgCr2O4、または、MgMn2O4の少なくとも1つを含むものである。
【0009】
任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、スラリー前駆体は、更に、少なくとも1つの溶媒、分散剤、または、可塑剤を含むものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、テープキャスティング工程は、スラリー前駆体を、5μmから100μmの範囲の厚さを有するシート構成物へと形成する工程と、シート構成物を乾燥させて、少なくとも1つの溶媒、分散剤、または、可塑剤の組合せが、乾燥させたシートの10質量%を超えないようにする工程とを含むものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、方法は、更に、乾燥させたシートを所定の温度で分離する工程を含む。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、所定の温度は、175℃から350℃の範囲である。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、分離する工程と焼結する工程は、同時に行われるものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、方法は、乾燥させたシート中の有機物を175℃から350℃の範囲の温度で熱分解する工程を、更に含む。
【0010】
任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、焼結は、45分未満の範囲の時間、行われる。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、焼結する工程は、未加工テープを焼結室を通って所定の速度で連続して供給する工程を含む。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、焼結された組成物の最終厚さは、更なる処理を行わずに焼結の直後に、2μmから100μmの範囲である。
【0011】
いくつかの実施形態において、処理および焼結された組成物は、コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、リチウムチタン硫化物、または、これらの組合せの少なくとも1つを含み、少なくとも10-5S/cmの電子伝導率を有する。
【0012】
任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、処理および焼結された組成物は、少なくとも10-4S/cmの電子伝導率を有する。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、処理および焼結された組成物は、10%~30%の多孔率を有するものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、処理および焼結された組成物は、10%未満の多孔率を有するものである。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、処理および焼結された組成物は、3%未満の多孔率を有する。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、多くても微量の二次伝導相を有する。
【0013】
いくつかの実施形態において、エネルギー装置は、第1の表面および第2の表面を有する焼結され、研磨されない第1の電極と、第1の電極の第1の表面に配置された第1の集電部と、第1の電極の第2の表面に配置された電解質層と、電解質層上に配置された第2の電極とを含む。
【0014】
任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、第2の集電部は、第2の電極上に配置される。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、第1の電極は、本明細書に開示の処理および焼結された組成物を含む。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、電解質層は、少なくとも10-6S/cmの伝導率を有する。任意の他の態様または実施形態と組合せ可能な1つの態様において、第1の電極は、エネルギー装置の基板である。
【0015】
態様1 処理および焼結された組成物の形成方法において、
リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物を含むスラリー前駆体を提供する工程と、
スラリー前駆体をテープキャスティングして、未加工テープを形成する工程と、
未加工テープを、500℃から1350℃の範囲の温度で60分未満の時間、焼結して、焼結された組成物を形成する工程と、
焼結された組成物を、700℃から1100℃の範囲の温度で、1分から2時間の範囲の時間、酸素含有雰囲気中で熱処理して、処理および焼結された組成物を形成する工程とを含む方法。
【0016】
態様2 熱処理は、750℃から900℃の範囲の温度で、10分から1時間の範囲の時間、行われるものである、態様1の方法。
【0017】
態様3 酸素含有雰囲気は、0%より多く、70体積%までのO2を含むものである、態様1または2の方法。
【0018】
態様4 酸素含有雰囲気は、空気である、態様1から3のいずれか1つの方法。
【0019】
態様5 酸素含有雰囲気は、少なくとも1つの非反応性気体を含むものである、態様1から4のいずれか1つの方法。
【0020】
態様6 酸素含有雰囲気は、他の反応性気体を含まないものである、態様1から5のいずれか1つの方法。
【0021】
態様7 熱処理は、
焼結された組成物を炉に第1の速度で挿入する工程と、
焼結された組成物を所定の時間、保持する工程と、
焼結された組成物を炉から第2の速度で引き出す工程と
によって行われるものである、態様1から6のいずれか1つの方法。
【0022】
態様8 第1の速度は、第2の速度に略等しいものである、態様7の方法。
【0023】
態様9 所定の時間は、1分から30分の範囲である、態様7の方法。
【0024】
態様10 リチウム系化合物は、コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、リチウムチタン硫化物、または、これらの組合せの少なくとも1つを含むものである、態様1から9のいずれか1つの方法。
【0025】
態様11 リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物は、スラリー前駆体の合計の少なくとも50質量%である、態様1から10のいずれか1つの方法。
【0026】
態様12 マグネシウム系化合物は、NaVPO4F、NaMnO2、Na2/3Mn1-yMgyO2(但し、0<y<1)、Na2Li2Ti5O12、Na2Ti3O7、MgCr2O4、または、MgMn2O4の少なくとも1つを含むものである、態様1から11のいずれか1つの方法。
【0027】
態様13 スラリー前駆体は、更に、少なくとも1つの溶媒、分散剤、または、可塑剤を含むものである、態様1から12のいずれか1つの方法。
【0028】
態様14 テープキャスティング工程は、
スラリー前駆体を、5μmから100μmの範囲の厚さを有するシート構成物へと形成する工程と、
シート構成物を乾燥させて、少なくとも1つの溶媒、分散剤、または、可塑剤の組合せが、乾燥させたシートの10質量%を超えないようにする工程と
を含むものである、態様13の方法。
【0029】
態様15 乾燥させたシートを所定の温度で分離する工程を更に含む、態様14の方法。
【0030】
態様16 所定の温度は、175℃から350℃の範囲である、態様15の方法。
【0031】
態様17 分離する工程と焼結する工程は、同時に行われるものである、態様15の方法。
【0032】
態様18 乾燥させたシート中の有機物を175℃から350℃の範囲の温度で熱分解する工程を、更に含む、態様14の方法。
【0033】
態様19 焼結する工程は、45分未満の範囲の時間で行われ、未加工テープを焼結室を通って所定の速度で連続して供給する工程を含むものである、態様1から18のいずれか1つの方法。
【0034】
態様20 焼結された組成物の最終厚さは、更なる処理を行わずに焼結の直後に、2μmから100μmの範囲である、態様1から19のいずれか1つの方法。
【0035】
態様21 スラリー前駆体は、少なくとも1つの遷移金属を含むものである、態様1から20のいずれか1つの方法。
【0036】
態様22 未加工テープを焼結する工程の後、かつ、焼結されたテープを熱処理する工程の前に、焼結されたテープを100℃/分以上で冷却する工程を更に含む、態様1から21のいずれか1つの方法。
【0037】
態様23 熱処理工程の温度は、焼結工程の温度より、約50℃以上低いものである、態様1から22のいずれか1つの方法。
【0038】
態様24 焼結された組成物の微細構造と、処理および焼結された組成物の微細構造は、同じである、態様1から23のいずれか1つの方法。
【0039】
態様25 処理および焼結された組成物において、
コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、リチウムチタン硫化物、または、これらの組合せの少なくとも1つを含み、
少なくとも10-5S/cmの電子伝導率を有するものである組成物。
【0040】
態様26 電子伝導率は、少なくとも10-4S/cmである、態様25の処理および焼結された組成物。
【0041】
態様27 10%~30%の多孔率を有するものである、態様25または26の処理および焼結された組成物。
【0042】
態様28 10%未満の多孔率を有するものである、態様25または26の処理および焼結された組成物。
【0043】
態様29 多孔率は、3%未満である、態様28の処理および焼結された組成物。
【0044】
態様30 多くても微量の二次伝導相を有するものである、態様25から29のいずれか1つの処理および焼結された組成物。
【0045】
態様31 エネルギー装置において、
第1の表面および第2の表面を有する焼結され、研磨されない第1の電極と、
第1の電極の第1の表面に配置された第1の集電部と、
第1の電極の第2の表面に配置された電解質層と、
電解質層上に配置された第2の電極と、
第2の電極の上に配置された第2の集電部と
を含む装置。
【0046】
態様32 第1の電極は、態様21の処理および焼結された組成物を含むものである、態様31のエネルギー装置。
【0047】
態様33 電解質層は、少なくとも10-6S/cmの伝導率を有するものである、態様31または32のエネルギー装置。
【0048】
態様34 第1の電極は、エネルギー装置の基板である、態様31から33のいずれか1つのエネルギー装置。
【0049】
更なる特徴および利点を、次の詳細な記載に示し、それは、部分的には、当業者には、その記載から明らかであるか、または、明細書、請求項、および、添付の図面に記載の実施形態を実施することによって分かるだろう。
【0050】
ここまでの概略的記載および次の詳細な記載の両方が、例示にすぎず、請求項の本質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することを意図すると理解すべきである。
【0051】
添付の図面は、更なる理解のために含められ、本明細書に組み込まれ、その一部を構成する。図面は、1つ以上の実施形態を示し、明細書の記載と共に、様々な実施形態の原理および動作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】いくつかの実施形態による本明細書に記載のリチウムイオン電池を示す
【
図2】いくつかの実施形態による従来の固体薄膜マイクロ電池の断面を示す概略図である。
【
図3】いくつかの実施形態によるセラミックテープ形成におけるアトリション粉砕後のLCO粉末の粒子サイズ分布を示す。
【
図4】いくつかの実施形態による急速焼結装置におけるバインダーバーンアウトゾーンの入口から始まる温度プロファイルを示す。
【
図5】いくつかの実施形態による1050℃で急速焼結されて焼成および研削された正極のX線回折(XRD)トレースを示す。
【
図6】いくつかの実施形態による研磨後の代表的な正極ディスクの走査電子顕微鏡(SEM)断面画像を示す。
【
図7】いくつかの実施形態による焼成したLCOの導電率を、10分の一定の処理時間および20体積%のO
2および80体積%のArである一定の雰囲気の場合について、熱処理温度の関数として示す。
【
図8】いくつかの実施形態による空気中のLCO粉末の熱重量分析(TGA)の分析結果を示す。
【
図9】いくつかの実施形態による焼成したLCOの導電率を、800℃の一定の熱処理温度で10分間、更にアルゴン(Ar)をメイクアップガスとした場合について、酸素濃度の関数として示す。
【
図10】いくつかの実施形態によるコイン電池C1aの第3サイクルからの充電および放電カーブを示す。
【
図11】いくつかの実施形態によるコイン電池C1bの第3サイクルからの充電および放電カーブを示す。
【
図12】いくつかの実施形態によるコイン電池C2aの第3サイクルからの充電および放電カーブを示す。
【
図13】いくつかの実施形態によるコイン電池C2bの第3サイクルからの充電および放電カーブを示す。
【
図14】いくつかの実施形態によるコイン電池C3の第3サイクルからの充電および放電カーブを示す。
【
図15】いくつかの実施形態によるコイン電池C4の第3サイクルからの充電および放電カーブを示す。
【
図16】いくつかの実施形態による研磨後の多孔性LCO正極の走査電子顕微鏡(SEM)断面画像を示す。
【
図17】いくつかの実施形態による多孔性のLCO正極を含むコイン電池からの充電および放電カーブを示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
ここで、添付の図面に示した例示的な実施形態を詳細に記載する。全図を通して、同じ、または、類似の部分を称するには、可能な限り同じ参照番号を用いている。図面中の構成要素は、必ずしも縮尺どおりではなく、例示的な実施形態の原理を示すことに重点を置いている。本願は、明細書または図面に示した詳細または方法に限定されないと理解すべきである。用語は、単に記載のために用いたものであり、限定するものと見なされるべきではないことも理解すべきである。
【0054】
更に、本明細書に示したいずれの例も例示のためであり、限定するものではなく、請求した発明の多数の可能な実施形態のいくつかを示すものにすぎない。この他に、当業者に明らかであり、当分野において通常行われる様々な条件およびパラメータの適切な変更および適合も、本開示の精神および範囲の中に含まれる。
【0055】
近年、例えば、充電の時間間隔を短縮するために電池のエネルギー密度をいかに高めるかを理解し、他の機能のためにデバイスの空間を空け、更に、移動し易いことが不可欠な場合には、重量を削減することが活発に行われてきた。更に、エネルギー密度が高いほど、製造処理で使われる材料が少ないので、コストの低下につながることが多い。最大の関心はリチウム系電池に集まり、そのような開発努力は、大きく2つのカテゴリーに分けられうる。
【0056】
既存のリチウム電池製造技術と主に適合しうる1つのアプローチにおいて、より大きい容量を有するNMC811、NCAのような進歩した正極材料が開発中であり(単独、または、表面被膜との組合せのいずれか)、または、電池負極に加えるケイ素の量を増加させうる。第2のアプローチにおいて、リチウム金属負極を可能にする技術を目指している。このアプローチは、リチウムガーネット、リンケイ酸リチウム、および、LiPONなどの固体電解質の使用を伴うものである。
【0057】
現在、パーソナルデバイス(例えば、携帯電話、ラップトップコンピュータなど)または電気自動車(EV)で用いられるリチウム電池の正極は、約90質量%の活性材料粒子(例えば、LiCoO2(LCO))、約5質量%のバインダー(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF))、および、約5質量%の炭素を含む。正極は、液体電解質の浸透のための約20%の多孔率も有し、40~150μmの範囲の厚さを有する。しかしながら、そのような正極は、バインダーを含んでも、弱く、粉砕され易く、自立しないものである。
【0058】
本開示は、概して、電池用の電極、および、その調製方法に関する。より詳しくは、新しい正極で支持された電池設計を開示し、それは、既存のリチウム電池製造処理のために、または、薄い固体電解質(例えば、10μm未満)のための土台として設計されて、リチウム金属負極を可能にしうる。
【0059】
焼結された正極は、利用可能な空間を2つの方法で、より効率的に用いることによって、より高いエネルギー密度を可能にする。まず、焼結された電極は、(1)個々の正極粒子を合わせて保持するバインダー、および(2)電流を粒子へ、および、粒子から移動させる炭素導体を不要にする。バインダーおよび炭素導体の両方が、現在の正極材料では必要な構成要素である(上記参照)。バインダーおよび炭素導体が各々5質量パーセントであるのは、小さい数値に見えるが、この量は、(液体電解質の浸透について20%の多孔率を考慮した後に)活性材料の体積で約60%の付加につながる。
【0060】
第2に、焼結された正極は、機械的支持部として機能することによって、エネルギー密度を高める。典型的には、アルミニウム支持部を、電池構造についての機械的支持部として用いうる。わずか約0.5μmから1.0μmのアルミニウム支持部の厚さで、電流分布および集電に十分である。それは、通常、正極支持部の片側に、金属蒸着または他の産業上の薄膜成膜処理によって加えられる。本明細書に開示のLCOまたはNMCのような焼結された正極(つまり、アルミニウム支持部を必要としない)のエネルギー密度は、多孔性構造物について、約50体積%、および、約27質量%、更に、固体電池の密な構造物について、約95体積%、および、約37質量%、高まりうる。
【0061】
本願は、リチウム輸送より速い電子伝導率を有する正極で支持された電池で用いるための積層ロック塩構造物を有する急速焼結された正極(および、その形成方法)を開示する。リチウムイオン電池の正極について、現在の解決策は、炭素導体を含めて電子輸送を容易にすることである。本明細書に開示の正極は、二次伝導相を必要とせず、実際、二次伝導相を、閉鎖細孔の焼結された正極に加えることは、製造目的について実用的ではない。
【0062】
概して図面を参照し、少なくとも1つのアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む焼結された電極の様々な実施形態を開示する。焼結された電極は、2μmから150μmの厚さ、および、少なくとも3cm2の断面積を有する。従来の電極材料と比べて、この焼結された電極は、典型的な薄膜形成された電極より非常に大きく、かつ、自立するように製作されて、他の焼結された電極と異なり、研削または研磨などのいずれの追加の仕上げ技術を用いずに使用しうる。開示した焼結された電極は、これらの利点を、「中程度の」厚さの電極材料の製造速度を間違いなく速くするテープ製造処理を介して実現可能であり、処理速度は、電極の厚さと独立である。つまり、電極を、薄膜技術を介して製作された従来の電極より厚く、かつ、使用可能なサイズまで研削しなければならない他の焼結された電極より薄く製作しうる。更に、電極材料の製造に現在用いられている処理より経済的な処理で、電極を急速焼結しうる。確かに、従来の処理は、典型的には、非常に遅いものであり、厚く積層するのが難しい薄膜技術を用いるものである。このように、本開示の比較的厚い焼結された電極は、機械的支持部などの不活性要素を排除するだけではなく、電池の充電容量も増加させる。更に、電極の厚さ、および、テープキャスティング製造処理は、電極材料をロールツーロール方式で製造可能にする。
【0063】
本明細書に開示の焼結された電極は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、および、マグネシウムイオン電池、更に、固体または液体電解質を用いた電池を含む電池の様々な化学的性質に適することを想定している。本明細書に、焼結された電極、製造処理、および、リチウムイオン電池の様々な実施形態を開示する。そのような実施形態は、例示であって、限定するものではない。
【0064】
既に記載したように、焼結された電極の様々な実施形態は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む。他の実施形態において、焼結された電極は、フッ化物でありうる。態様において、焼結された電極は、リチウム、ナトリウム、または、マグネシウムの少なくとも1つを含む。態様において、焼結された電極は、コバルト、マンガン、ニッケル、ニオブ、タンタル、バナジウム、チタン、銅、クロム、タングステン、モリブデン、スズ、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、または、鉄などの少なくとも1つの遷移金属も含む。遷移金属の例示的な態様は、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、および、鉄である。
【0065】
リチウム系電極の例示的な態様は、例を挙げれば、コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、および、リチウムチタン硫化物(LiTiS2)を含む。ナトリウム系電極の例示的な態様は、例を挙げれば、NaVPO4F、NaMnO2、Na2/3Mn1-yMgyO2(ただし、0<y<1)、Na2Li2Ti5O12、または、Na2Ti3O7を含む。マグネシウム系電極の例示的な態様は、例を挙げれば、クロム苦土鉱(MgCr2O4)、および、MgMn2O4を含む。
【0066】
態様において、焼結された電極は、第1相、および、第1相と互いに混合した少なくとも1つの他の相(例えば、第2相、第3相、第4相など)を含む。態様において、更なる相または複数の相を選択して、更なる機能を追加する。例えば、リチウム電極を伴う実施形態において、第2相は、電極の有効リチウム伝導率を高める、例えば、リチウムガーネット相である。実施形態において、第2相は、電子伝導率を高める。更なる相または複数の相を焼結前に追加するか、焼結された電極は、開放細孔を有して、それに、更なる相または複数の相が浸透しうる。態様において、第2相は、更なる電子伝導性を提供するスピネルである。
【0067】
いくつかの態様において、焼結された電極は、第1相、および、微量で非有意な量の第2相を含む。
【0068】
本明細書に開示の焼結された電極の1つの利点は、薄膜技術を用いたものなど、従来の電池用電極材料より大きく製作しうることである。態様において、焼結された電極は、2μmから150μm、5μmから150μm、20μmから80μm、30μmから60μm、または、そこに開示された任意の値、若しくは部分範囲の厚さを有する。薄膜電極より厚いことの他に、焼結された電極は、比較的大きい断面積で製作されうる。態様において、焼結された電極は、少なくとも3cm2、少なくとも10cm2、少なくとも100cm2、若しくは、1m2まで、または、そこに開示された任意の値、若しくは部分範囲の断面積を有する。
【0069】
焼結された電極は、電極がテープキャスティングまたは押出成形された未加工テープを急速焼結して形成されるので、従来の薄膜電極より大きく製作することが可能である。未加工テープを形成するために、スラリー(または、ペースト)を、粉末要素、バインダー、および、溶媒から調製する。粉末要素は、リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物、および、少なくとも1つのアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む粉末状化合物、または、複数の種類の粉末状化合物を含む。リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物、および、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む粉末状化合物は、単一の粉末状化合物でありうる。その代わりに、または、追加で、化合物は、リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物、および、それとは別に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物を含みうる。更に、態様において、粉末状化合物は、更に、遷移金属を、リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物と共に、または、別の化合物として含みうる。
【0070】
例えば、リチウム電極について、粉末状化合物は、LCOまたはLMOなど、リチウムおよび遷移金属を含みうる。他の例において、1つの化合物は、リチウム化合物、および、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物を含み、他の化合物は、遷移金属を含みうる。例えば、リチウム電極について、リチウム化合物は、例を挙げれば、Li2O、Li2CO3、LiOH、LiNO3、酢酸リチウム(CH3COOLi)、または、クエン酸リチウム(Li3C6H5O7)の少なくとも1つを含み、遷移金属含有化合物は、MnO2、Mn2O3、Co2O3、CoO、NiO、Ni2O3、Fe2O3、Fe3O4、FeO、TiO2、Nb2O5、V2O5、VO2、Ta2O5、または、WO3の少なくとも1つでありうる。態様において、スラリーまたはペーストの粉末要素(全て粉末状化合物を含む)は、40質量%から75質量%のスラリー(または、ペースト)を含む。他の態様において、粉末要素は、45質量%から60質量%のスラリー(または、ペースト)を含み、更に他の態様において、粉末要素は、50質量%から55質量%のスラリー(または、ペースト)を含む。
【0071】
スラリー(または、ペースト)には、焼結前に粉末要素を合わせて未加工テープの形状に保持するバインダーが含められる。態様において、バインダーは、例を挙げれば、ポリビニルブチラール(PVB)(例えば、Eastman Chemical Companyから入手可能な「Butvar」(登録商標)PVB樹脂)、アクリルポリマー(例えば、Lucite Internationalから入手可能な「Elvacite」(登録商標)アクリル樹脂)、または、ポリビニルアルコールの少なくとも1つである。
【0072】
スラリー(または、ペースト)には、溶媒も含められ、その中に、粉末要素およびバインダーが分散する。特に、溶媒は、スラリー中のリチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物からアルカリ金属またはアルカリ土類金属のリーチングを防ぐように選択される。次の表1は、2つの溶媒のリチウムイオン、非極性1-メトキシ-2-プロパニルアセタート(MPA)、および、極性エタノール‐ブタノール混合物に対するリーチング特性を示している。2つの溶媒のリーチング特性を調べる時に、表1に特定した粉末状電極材料200gを、溶媒200gと混合した。混合物を遠心分離して、デカントした液体を、誘導結合プラズマ(ICP)分光法を介して、そのリチウム濃度について分析した。表1に示すように、極性エタノール-ブタノール混合物は、非極性MPAより、非常に高い濃度のリチウムを含んでいた。そのようなセラミック(例えば、LCO、LMOなど)からのリチウムのリーチングは、イオン交換または水酸化物の形成の結果生じうる。リチウムが溶媒に入ると、多くの望ましくない副作用を生じうる。例えば、バインダーの溶解度が低下しうる。更に、溶解したリチウムは、分散剤と干渉しうる。更に、溶解したリチウムは、乾燥中に移動して、乾燥したテープ中の化学的不均一性につながりうる。更に、無機粒子の化学的性質自体も変えられてしまう。更に、溶媒との反応は時間に応じたものなので、スリップの物性は変化し続ける傾向があり、潜在的に不安定な処理である。
【0073】
【0074】
したがって、態様において、溶媒は非極性である。更なる態様において、非極性溶媒は、20℃で20未満の誘電率を有する。他の態様において、非極性溶媒は、20℃で10未満の誘電率を有し、更に他の態様において、非極性溶媒は、20℃で5未満の誘電率を有する。更に、態様において、溶媒は、スラリー中の粉末要素からアルカリ金属またはアルカリ土類金属の1ng/L未満、0.1ng/L未満、および/または、0.01ng/L未満のリーチングを生じる。
【0075】
態様において、バインダーの化学的性質を調節して、MPAなどの非極性溶媒と働くようにしうる。例えば、「Butvar」B-79は、ポリビニルアルコール(11~13質量%)からの低い水酸基濃度を有する市販のPVBであり、他のPVBバインダーと比べて、小さい分子量を有する。これにより、溶解が容易になり、高い溶解度が、粘性を制御して、加える固体を増やすことを可能にする。
【0076】
態様において、そのスラリー(または、ペースト)は、処理を助ける他の添加剤を含みうる。例えば、態様において、スラリー(または、ペースト)は、0.1質量%から5質量%の分散剤、および/または、可塑剤を含みうる。例示的な分散剤は、魚油分散剤であり、例示的な可塑剤は、フタル酸ジブチルである。更に完全に後述するように、スラリー(または、ペースト)中に転移金属が存在することで、焼結中に触媒燃焼反応を生じうる。したがって、態様において、スラリー(または、ペースト)は添加剤を含み、そのような触媒燃焼を防ぐか、程度を軽減しうる。特に、スラリー(ペースト)は、フェノールなどの酸化防止剤(例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)またはアルキル化ジフェニルアミン)、または、無機炭酸塩および水酸化物のような吸熱分解性を有する材料を含みうる。
【0077】
スラリー(または、ペースト)は、焼結された電極の望ましい厚さを有する未加工テープにテープキャスティングまたは押出成形される。既に記載したように、厚さは、2μmから150μmの範囲でありうる。態様において、未加工テープを乾燥させて、溶媒の実質的部分を除去し、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むリチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物が主に残るようにする。態様において、乾燥工程は、常温、または、僅かに高い温度である60℃から80℃で行われる(または、常温で初めて、高い温度に移行する)。更に、態様において、空気を循環させて、乾燥を高める。態様において、乾燥後に残る有機材料の量は、乾燥した未加工テープの10質量%以下である。乾燥直後に、未加工テープは分離されて焼結される。つまり、未加工テープは、ポリマーバインダーおよび任意の他の有機物が焼失する温度まで加熱される。態様において、分離は、175℃から350℃の範囲の温度で生じる。その後、乾燥して分離した未加工テープを焼結する。焼結は、500℃から1350℃、750℃から1200℃、900℃から1100℃、若しくは、任意の範囲、または、それらの間の部分範囲の温度で生じる。この温度範囲での焼結時間は、60分未満、50分未満、または、45分未満である。態様において、焼結されたテープを、例えば、焼結温度から室温(例えば、約20℃から約50℃)まで、約50℃/分以上、約100℃/分以上、または、約200℃/分以上の速度で急速冷却しうる。理論に縛られることを望まないが、焼結された材料の酸化状態は、急速冷却された後も、焼結温度の時と略同じであると考えられる。態様において、分離と焼結は、同時に生じうる。
【0078】
未加工テープを焼結して、焼結されたテープを形成した後に、焼結されたテープに酸素含有環境で熱処理を行いうる。熱処理は、焼結されたテープを、700℃から1100℃、750℃から900℃、750℃から825℃、若しくは、任意の範囲、または、それらの間の部分範囲で加熱する工程を含む。この温度範囲での熱処理時間は、1分から2時間、1分から約30分、10分から30分、若しくは、任意の範囲、または、それらの間の部分範囲である。態様において、熱処理時間は、10分から1時間でありうる。態様において、更なる熱処理は、焼結中の温度より低く、例えば、25℃以上、50℃以上、または、約75℃以上低い温度で行われうる。酸素含有環境は、0体積%より多く70体積%までのO2を含み、例えば、空気である。態様において、酸素含有環境は、少なくとも1つの非反応性気体を含みうる。態様において、酸素含有雰囲気は、(酸素以外の)他の反応性気体(例えば、塩素、水素、一酸化炭素、オゾン、窒素酸化物、硫黄酸化物)を含まない。態様において、冷却後の焼結されたテープの微細構造(例えば、結晶構造、粒子サイズ、多孔率)は、更なる熱処理後の焼結されたテープの微細構造と実質的に同じでありうる。理論に縛られることを望まないが、酸素含有環境での熱処理は、焼結されたテープの材料(例えば、遷移金属)の酸化状態を変化させて、実施例で示されたように、結果的に得られる処理および焼結された組成物の導電率を改良すると考えられる。
【0079】
焼結直後に、焼結された電極は、30%以下の多孔率を有する。態様において、焼結された電極テープは、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、および/または、3%以下の多孔率を有する。態様において、焼結された電極の多孔率は、少なくとも0.1%である。態様において、焼結された電極の多孔率は、0.1%から30%、10%から30%、10%から20%、若しくは、任意の範囲、または、それらの間の部分範囲である。焼結処理の結果、態様において、焼結された電極は、平均で10nmから50μmの粒子サイズを有する。他の態様において、粒子サイズは、平均で50nmから10μmであり、更に他の態様において、粒子サイズは、平均で100nmから1000nmである。実施形態において、処理および焼結された組成物は、処理された状態で(つまり、研削も研磨もせずに)、2μmから150μm、2μmから100μm、5μmから80μm、若しくは、任意の範囲、または、それらの間の部分範囲の厚さを有しうる。
【0080】
更に、態様において、焼結された電極は、開放細孔を有して、焼結された電極の第1の表面と他方の表面の間で流体連通を提供する。つまり、態様において、リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物相は、固体相を含み、多孔率は、第2相を含み、第2相は、固体相における連続相である。更に、態様において、焼結された電極テープの細孔は実質的に位置合わせされて、イオン輸送を促進する。つまり、細孔は、第1および第2の表面に垂直な軸に沿って位置合わせされる。例えば、各細孔は、その細孔の他のいかなる断面寸法より長い断面寸法を有し、その長い断面寸法を、電極の第1および第2の表面に垂直に、例えば、平均で垂直から25°以内で、実質的に位置合わせされる。有利なことに、他の焼結された電極と異なり、本明細書に記載の焼結処理は、電池設計に組み込む前に、機械的研削または研磨などの更なる仕上げを必要としない焼結された電極を製造する。特に、以前の焼結された電極は、例えば、500μmから1mmの非常に厚い大きいディスクから形成されて、使用可能な寸法に切り分けて、使用可能な厚さまで研削しなければならなかった。そのような研削は、約130μmの厚さの実現だけが可能だったと報告されており、そのような処理により製造された電極の実際の限界である。電極をテープキャスティングすることによって、処理を、より経済的にするだけではなく(例えば、研削/研磨工程が不要なこと、およびロールツーロール製造法を利用できること)、望ましい厚さの電極材料を実現しうる。
【0081】
更に、焼結された電極は自立するので、焼結された電極を、更なる層を成膜するための基板として用いうる。例えば、金属層(例えば、5μmまで)を、焼結された電極の表面に成膜して、電池について集電部として機能させうる。更に、例示的な態様において、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)、リチウムガーネット(例えば、ガーネットLLZO(Li7La3Zr2O12))、またはリチウムホスホスルフィドなどの固体電解質を焼結された電極上にRF-スパッタリングで成膜させうる。その代わりに、LiPON固体電解質の薄層を、Li3PO4またはLiPO3の薄層のアンモノリシスを通して、または、反応焼結により加えうる。そのような処理は、固体電解質の従来の成膜技術よりも、速く、かつ潜在的に資本集中が少ないと想定される。同様に、リチウムガーネット(例えば、LLZO)の固体電解質を、ゾルゲル、直接焼結、および反応焼結によって加えうる。
【0082】
更に、焼結された電極は、自立層として、液体電解質を使用するリチウム電池について、利点を有する製造アプローチの基礎を提供しうる。換言すれば、正極(つまり、焼結された電極)は、電池の基板である。特に、焼結された電極を、連続処理で製造し、バッチまたはロールツーロール処理のいずれかでの被覆について、基板として用いうる。そのような処理は、例えば、スパッタリングおよび/または電析によって、焼結された電極の金属被覆を可能にして、金属被膜された焼結された電極を形成する。このようにして、従来のリチウム電池についての電極の集電部金属の厚さを、10~15μmの典型的な厚さから、5μm未満、1μm未満、更に、100nm未満に減少させうる。更に、金属被覆された焼結された電極を個片またはロール形で、独立した要素として、バッテリーセル製造会社に供給しうる。有利なことに、そのような金属被覆された焼結された電極は、典型的に集電部のために確保されるセルの体積を削減し、より多くの活性電極材料、および、より大きい容量を可能にしうる。
【0083】
この点で、焼結された電極は、イオン挿入型電池で用いるのに特に適する。
図1に、リチウムイオン電池10の例示的な態様を示す。リチウムイオン電池10は、焼結された正極12、電解質層または領域14、および、負極16を含む。態様において、焼結された正極12は、2μmから150μmの厚さを有する。更に、態様において、焼結された正極12は、少なくとも3cm
2の断面積を有する。有利なことに、焼結された正極12は、リチウムイオン電池10を機械的に支持して、焼結された正極12は、ジルコニア支持部などの機械的支持部上に担持されない。この設計の利点は、不活性要素が電池から実質的に排除されることである。つまり、機械的支持部の機能を提供しながら、焼結された正極12は、活性構成要素のままであり、電池容量に貢献する。したがって、正極で支持された設計は、より薄い形状因子で、同じ全体容量を与えるか、正極の厚さを増加させて、同じサイズで、より大きい正味容量にしうる。
【0084】
更に、焼結された正極12を、固体および液体の電解質の両方のリチウムイオン電池で用いうる。特に、固体電池において、電解質層14は、LiPON、リチウムガーネット(例えば、LLZO)、または、リチウムホスホスルフィドなどの固体電解質(例えば、10-6S/cmより高いか、10-5S/cmより高いか、または、10-4S/cmより高い伝導率を有する)を含む。特に、固体電池において、電解質層14は、LiPON、リチウムガーネット(例えば、LLZO)、リチウムホスホスルフィド、または、リチウム超イオン伝導体(LISICON)などの固体電解質を含み、リチウムイオンの伝導性と厚さの組合せで、単位面積の抵抗は約100Ωcm2未満である。特に、LiPONの1つの利点は、樹枝状結晶形成を妨げることである。液体電解質電池において、電解質層14は、LiPF6-DMC(炭酸ジメチル中にヘキサフルオロリン酸リチウム)などの液体電解質、および、正極12と負極16を分離するポリマーまたはセラミックセパレータを含む。いずれの場合も、焼結された正極12は、従来のリチウムイオン電池より充電容量を増加させる。
【0085】
電池10は、焼結された正極12の第1の表面上に配置された第1の集電部18も含む。図示した実施形態において、第2の集電部20は、負極16上に配置される。しかしながら、実施形態において、負極は、金属(リチウム金属またはマグネシウム金属など)でありうるもので、その場合には、集電部を省きうる。更に、図示した実施形態において、電池10は、保護膜22に包まれる。実施形態において、第1の集電部18は、銅であり、第2の集電部20(用いた場合)は、アルミニウムである。保護膜22は、例えば、パリレンでありうる。
【0086】
図示した実施形態は焼結された正極12のみを含むが、負極16も本開示による焼結された電極でありうる。リチウムイオン電池について、(焼結された)正極12は、コバルト酸リチウム、スピネル型マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸鉄リチウム、リン酸コバルトリチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、または、リチウムチタン硫化物の少なくとも1つを含み、(焼結された)負極16は、チタン酸リチウム、または、ニオブタングステン酸リチウムの少なくとも一方を含みうる。
【0087】
更に、リチウムイオン電池を図示しているが、電池は、その代わりに、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、または、マグネシウムイオンの化学的性質に基づくものでありうる。ナトリウムイオン電池について、(焼結された)正極12は、NaMnO2、Na2/3Mn1-yMgyO2(但し、0<y<1)、または、NaVPO4Fの少なくとも1つを含み、(焼結された)負極16は、Na2Li2Ti5O12またはNa2Ti3O7の少なくとも一方を含みうる。マグネシウムイオン電池について、(焼結された)正極12は、MgCr2O4またはMgMn2O4の少なくとも一方を含み、負極16は、マグネシウム金属(集電部20としても機能しうる)を含みうる。ここまでに記載の電池の化学的性質のいずれも、溶媒(例えば、DMC)および挿入イオンと整合する陽イオンを有する塩を含む液体電解質を利用しうる。更に、ナトリウムイオン電池について、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)を、固体電解質として用いうる。
【0088】
容量の増加を示すために、
図2は、従来の固体薄膜マイクロ電池100の断面を示す概略図である。マイクロ電池100は、不活性である機械的支持部106上に成膜された正極集電部102、および、負極集電部104を含む。正極108(例えば、LCOまたはLMO)は、正極集電部102上に形成されて、固体電解質110(例えば、LiPON)によって囲まれる。負極112は、電解質110の上、および、負極集電部104の上に成膜される。正極108、電解質110、および、負極112を保護するように被膜114が備えられる。従来の電池設計において、機械的支持部106は、電池100の製作中に取り扱う際に頼るものであり、正極108および電解質110の層を成膜するためのプラットフォームである。機械的支持部106は、典型的には、50μmから100μmの厚さを有する。機械的支持部106および保護膜114は、最終パッケージに剛性も与えて、破損を防ぐのを助ける。
【0089】
これらの従来の電池100において、正極108は、典型的には、RFスパッタリングまたはパルスレーザ成膜などの処理によって、望ましい厚さまで成長する。これらの成膜技術が、従来の電池100が機械的支持部106の使用を必要とする他の理由である。そのような従来の方法は、正極材料を、10μm/時未満の速度で製造して、これらの従来の正極材料の実現可能な厚さに実用的および商業的限界を生じる。その結果、薄膜マイクロ電池は、スマートカード、医療移植物、RFIDタグ、および、無線センシングのような小型電源が必要な利用例だけで用いられてきた。
【0090】
本開示による
図1の電池10の充電容量と
図2の従来の電池100の充電容量を、名目上同一の厚さ80μmで比較する。特に、(1)50μmの厚さでジルコニアの機械的支持部106、および、厚さ5μmの正極を有する従来の電池100と、(2)厚さ35μmの正極12を有する本開示の電池10を比較する。注目すべきことに、本開示の電池10の正極12の厚さは、従来の電池100の機械的支持部106より薄く、負極16でのリチウム金属のために空間を確保することが可能である。焼結された正極12の追加の厚さ、および、機械的支持部106の除去は、絶対値および体積で7倍の容量を提供し、更に、質量ベースでは、容量は10倍である。
【0091】
単に、より大きい電極を可能にする他に、図示した実施形態の焼結された正極12は、従来の正極より充電容量を増加させる構造的利点も提供する。従来の正極108において、活性正極粒子は、点接触する。接触部分の断面積は小さいので、リチウムイオンおよび電子の移動に対して高いインピーダンスを有する。このインピーダンスの問題を解決するために、炭素を、伝導経路として電極に加えて、電子の活性粒子の中へ、および、そこから外への輸送を促進させて、更に、リチウムイオンが速く伝導するために電極の細孔空間に液体電解質を浸透させる。このように炭素を用いることは、電池容量と、充電/充電速度性能の間でのトレードオフを生じる。活性正極粒子間の点接触についての他の問題は、それらが弱いことなので、ポリフッ化ビニル(PVF)を用いて、活性粒子と炭素を結合させて、処理中の構造的強度を与える。これに対して、焼結された正極12の粒子は、互いに結合するので、電子伝導炭素およびバインダーを省きうる。このようにして、リチウムイオンの移動のための多孔性に割り振る空間の割合を減らして、より大きい空間を活性材料に焼結された正極で与えうる。本発明者らは、所定の正極材料について、等しい正極の厚さに基づいて、集合体の容量は約30%増加しうると推定している。その代わりに、よりコンパクトな電池について、同じ容量を保ちながら、正極の厚さを20~25%、削減しうる。既に記載したように、焼結された正極12の細孔は、負極へ、および、負極からのイオンの輸送方向に位置合わせされて、空間利用を更に改良するか、電力密度を増加させうる。
【0092】
本願は、積層ロック塩構造物(例えば、コバルト酸リチウム、LCO)およびニッケル系材料(例えば、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、NCA;リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、NMC)を有し、室温で10-5S/cmより高いか、10-4S/cmより高い電子伝導率を有する自立する焼結された正極を開示する。
【0093】
本明細書で用いるように、「自立」という用語は、その下の基板(つまり、不活性の機械的支持部)に接着することも、支持されることもない構造を称する。いくつかの例において、自立する焼結された電極は、他のものに支えられずに独立したものであり、そこに接着または固定した基板を必要とせずに機械的に操作または移動しうるもので、それ自体を、更なる層を成膜するための基板として用いうる。したがって、本明細書に記載の実施形態について、自立し焼結された電極は、更なるエネルギー蓄積要素(例えば、電解質層、集電部など)が配置されうる支持部、および、電池の活性要素(例えば、正極または負極)としての2つの機能を果たす。本明細書で用いるように、「断面積」という用語は、電池構造を支持するのに用いうる正極の表面の面積を称する。例えば、
図1について、焼結された正極12の断面積は、正極の水平方向長さ(例えば、幅)(保護膜22間の長さとして測定される)と正極の深さ(紙面の奥方向)によって画定される。
【0094】
いくつかの例において、正極は、完全に密で、閉鎖または開放細孔を含み、30%までの開放多孔率を有する。焼結された正極は、5から150μmの厚さを有しうる。この伝導率を有する正極を製作する処理は、焼結後に、400℃から825℃の温度で少なくとも5体積%の酸素の雰囲気中に、少なくとも1分から1時間までの滞留時間を必要とする。滞留時間は、高温の焼結処理からの冷却中に保持時間として提供されるか、または、別の処理工程として行われうる。
【0095】
電子伝導率を高めることは、セル性能電池製作処理で利点を有する。例えば、伝導率が高まると、電池の内部抵抗が低下し、それにより、より速い充電、および、より大きい電力送出を可能にする。伝導率が高まると、より厚い電極の使用も可能にし、それは、正極製作および電池組立てに有利である。電池容量は、活性電極材料の質量によって制御される。これに対して、シート製作処理の速度は、面積によって決まる。換言すれば、シートの厚さに関わらず、同じ広さの面積が製作されうる。したがって、所定の容量の正極を、厚いほど、より短い時間で製作しうる。より薄い正極を速度性能のために使用することは、より多くの層の単一セルを組み立てて、所定の容量の電池を作ることを意味する。より厚い正極を有する電池を製作するための組立て工程数を削減して、コスト削減につなげうる。
【実施例】
【0096】
急速充電および電力送出のための電池動作において不可欠な工程は、還元反応および酸化反応のために、必要に応じて、電子を界面へ輸送、または、電子を界面から輸送する各工程である。積層ロック塩構造の正極材料(例えば、LCO、NMCなど)を含む正極の活性材料は、分離しているか、点接触のみである粒子として存在するので、有効伝導率は低い(例えば、10-5S/cm未満)。点接触は、活性材料粒子が互いに接触点で接触して、それにより、大きい細孔空間を生じて、有効伝導率が低くなる。
【0097】
従来の方法は、炭素導体を加えて間隙を繋ぎ、そのような複合材正極の電子伝導率が約10-1~1S/cmまで高まるようにし、それは、液体電解質(10-3から10-2S/cm)および活性正極材料中のリチウムイオン(10-7S/cmより高い)の電子伝導率より非常に高い。しかしながら、そのような解決策は困難なことが多く、炭素のような二次伝導相を焼結された構造物に加えるのは実用的ではない。更に、エネルギー密度も犠牲になりうる。
【0098】
本開示は、正極で支持された設計を提供し、リチウムイオンの伝導より速い電子伝導率を有するLCO、LNO、NMC、および、NCAなどの積層ロック塩材料を有する正極材料を含むものである。粒子は互いに焼結されて、より大きい断面を形成し、それにより、真性伝導率を実現しうる。粒子を焼結した結果、炭素のような二次伝導相を焼結された構造物に加えるのは困難であり、実用的ではなく、更に、その場合には、エネルギー密度も犠牲にしうる。LCOの急速焼結された正極は、正しい公称組成および結晶構造を有していても、公表されている室温での値より4桁も低い電子伝導率を有する。電子伝導率は、リチウムイオンの伝導速度より低く、それにより、電池における実際の容量および速度性能を制限しうる。
【0099】
本願は、低い伝導率の原因は急速処理工程にリンクしていること、高い伝導率を、好ましくは、少なくとも5体積%、または、少なくとも10体積%、または、少なくとも20体積%の酸素を含む雰囲気中で短い熱処理を行って回復しうることを、特定するものである。熱処理雰囲気の成分は、空気、窒素、若しくは、アルゴン、または、それらの混合物も含みうる。
【0100】
実施例1
正極の調製および特性付け
急速焼結された自立する正極を、American Elementsから購入したコバルト酸リチウムから開始して調製した。その粉末は、公称化学量的であり、XRDは、その粉末が単一相で、積層ロック塩構造物と一致するピーク位置および強度を有することを示す。受け付けた粉末をアトリション粉砕して、塊を分散可能で焼結のために必要なサイズを有する粒子にした。アトリション粉砕を、バッチモードのUnion Process Millおよび1L粉砕ジャーを用いて行った。直径2mmのジルコニア媒体を2600g、受け付けたLCO粉末を400g、および、イソプロピルアルコール360mLを、ミルに詰めた。ミルを2000rpmで3時間、攪拌した。粉砕後の典型的な粒子サイズは、0.35から0.45μmで、粒子サイズ分布(主に、0.2μmと1.1μmの間で変化する)を
図3に示し、それは、セラミックテープ形成におけるアトリション粉砕後のLCO粉末の粒子サイズ分布を示している。
【0101】
粉末と媒体を一緒に乾燥させてから、ふるいにかけて分離した。
【0102】
急速焼結のためのセラミックテープを、粉砕したLCO粉末を用いて成形した。バインダーおよび不揮発性有機物の合計濃度を決定して、テープの可燃性を制御し、急速焼結処理の間に妥当な速度で確実に分離されうるようにした。スリップ組成物は、メチルエチルケトンとトルエンの混合物と混ぜられた58~60%のLCO、2.7%の「Butvar」B76ポリビニルブチラール、0.8%のHypermer KD1分散剤、および、0.8%のフタル酸ジブチル分散剤を含むものだった。LCOは、弱い粉砕によって、バインダーを追加する前に、メチルエチルケトンとトルエンの混合物の中に分散した。スリップを、35μmと25μmの2つの厚さを有する未加工テープに成形し、各々、約25μmと20μmの焼成した厚さとなることを目標とした。両方の場合に、幅は100mmだった。成形に用いた担体は、シリコーンで被膜されたポリエチレンテレフタレートで、LCOテープが容易に離れるようにした。
【0103】
正極を製作するためのLCOテープの急速焼結は、次の工程によって行われた:
(1)未加工のLCOテープが未だ担体上に位置する間に、はさみを用いて、長さが300~400mmで幅が50~60mmの個片に手動で切断した。テープを、担体から手動で離した。
【0104】
(2)厚さが80μmで、長さが約3mのアルミナのリボンを、2つの対向する空気ベアリングからなるバインダーバーンアウト装置に通して、プラットフォーム上に、次に、隣接した長さ1mの1050℃で運転しているマッフル炉に通した。バインダーバーンアウト装置は、長さが約300mmで、入口で225℃および出口で325℃の線形温度勾配を与えるようにプログラムされた多数の加熱ゾーン、および、マッフル炉とインターフェース接続を有する。空気ベアリングは、予め、マッフル炉内のアルミナ「D」と念入りに位置合わせされた。「D」の目的は、単に、アルミナリボンまたは正極テープについて、平坦な表面を提供することである。
【0105】
(3)LCOテープ片を、アルミナリボンの上に、各片の長軸が中心になるように注意深く配置した。LCOテープを乗せたアルミナリボンを、63.5mm/分で、バインダーバーンアウトゾーンを通って引っ張り、次に、焼結のためにマッフル炉に通して、次に、室温のプラットフォーム上に出して回収した。直径12.3mmの正極ディスクを、焼結されたLCOリボンからレーザ切断した。
【0106】
図4は、急速焼結装置におけるLCOテープの温度プロファイルを、バインダーバーンアウトゾーンに入った時から示している。LCOリボンの焼結は、ちょうど20分過ぎに完了する。LCOテープは担体から自動で離されて、直に、バインダーバーンアウト装置を通り、更に、正極リボンのロールツーロール焼結を行うためのマッフル炉を通って引っ張られうる。この配置の場合には、搬送のためのアルミナリボンを必要としない。テープおよびリボンは、薄く可撓性なので、大きい温度勾配に対して破損するのではなく、ねじれる。ここで用いた処理は、焼結されたLCOリボンに同じ熱履歴を与える。
【0107】
この処理で製作された急速焼結された正極(1050℃で)は、
図5の焼成された表面およびディスクを研削して粉末にした後(研削した正極)のX線回折(XRD)トレースが示すように、単一相LCOである。従来の複合材LCO正極におけるようなCoOまたはCo
3O
4に基づく二次相は検出されない。
【0108】
図6は、研磨された代表的な正極ディスクの走査電子顕微鏡(SEM)断面画像を示し、そのディスクは平坦な構造で、厚さは19.5μmである。多孔率を約3%未満であると画像分析で特定し、閉鎖細孔構造であることを示している。少ない(つまり、微量)の量の二次相(ジルコニアを豊富に含み、研削媒体自体のアトリションにより粉砕処理中にLCOに入り込む)が存在し、明るい白色コントラストによって検出される。
【0109】
実施例2
電子伝導率
数ナノメータの金の金属被覆を、正極ディスクの反対を向いた面に、略同心に配置された9mmのマスクを通して、卓上型のElectron Microscopy Sciencesの機器を用いてスパッタリングによって成膜した。金属被覆は、イオン伝導率とは別に、電子伝導率を特定するためのブロッキング電極として機能する。金属被膜された正極の抵抗を、簡単な手に持つマルチメータで測定した。測定を行うために、正極ディスクを伝導性の金属支持部上に置いた。1つのマルチメータプローブの先端を支持部と接触させ、その間に、他方の先端を用いて、正極の上側金属被覆部をそっと押圧して、支持部との接触部を形成した。電子伝導率を、σe=t/(R・A)の式により取得し、但し、Rは、正極の抵抗であり、tは、正極の厚さであり、Aは、金の金属被覆部の面積だった。
【0110】
焼成したLCO正極の導電率は、約10-8S/cmから10-7S/cmだった。既に記載したように、この値は、文献に報告された値より、概して4桁小さく、正極を電池利用した場合には(固体電解質または液体電解質との組合せであろうと)、速度性能にボトルネックを生じ易い。予想外に、正極を短い時間、空気中で750℃~850℃(例えば、800℃)で処理した結果、電子伝導率が劇的に高まることが見出された。いくつかの態様において、焼結された正極の処理を、5~60分、または、1~30分、または、5~45分の範囲の時間、5~70体積%のO2、または、0より多く25体積%までか、または、50体積%より多いO2を含む雰囲気中で(残りは非反応性気体)行いうる。
【0111】
実施例3
処理および製品の改良
更なる研究は、電子伝導率が劇的に高まる温度範囲が、予想外に狭いことを示している。
図7は、焼成したLCOの導電率を、10分である一定の処理時間および20体積%のO
2および80体積%のArである一定の雰囲気について、熱処理温度の関数として示している。熱処理を、正極をマッフル炉の高温ゾーンに102mm/分で押し込み、10分である所定時間、保持して、更にすぐに、同じ速度で引き出すことによって行った。
図7から分かるように、伝導率は、熱処理温度が825℃より低くなると急上昇し、約3×10
-3S/cmの最大値を775℃から800℃で通り、次に、それより低い温度で、10
-6S/cm未満の値まで急低下した。
【0112】
熱処理が高い電子伝導率を回復する775℃から800℃の狭い温度範囲での重量変化が、LCO粉末の熱重量分析(TGA)で観察された。
図8は、空気中でのLCO粉末のTGA分析を示し、重量変化を、空気中での加熱および冷却温度の関数として計算している。950℃で約0.5%の重量損失が観察され、次に、冷却により、800℃近くで約0.15~0.25%の重量増加が観察された。これらの2つの事象は、LCO中のコバルトの加熱による熱還元、次に、冷却による再酸化と一致する。
図8のような重量変化は、熱処理中に正極によって取り込まれた酸素による重量増加を物理的に示している。
【0113】
800℃である一定の熱処理温度および10分である時間について、酸素濃度の影響を調べて、焼結に用いる1050℃のような高温が、LCO中のコバルトをいくらか熱還元するか検査した。
【0114】
次に、LCOリボンが高温ゾーンから移動して63.5mm/分の速度で焼結炉を出る時に、LCOリボンの温度を、約700℃分、ちょうど3分で低下する(
図4を参照)。この急速冷却は、還元された低い伝導率状態でクエンチされる。20体積%の酸素中での熱処理は、再酸化を可能にする。
図9は、焼成したLCOの導電率を、800℃の一定の熱処理温度、10分である時間、および、メイクアップガスとしてのアルゴン(Ar)について、酸素濃度の関数として示している。このような関係が機構を支持する。伝導率は、約200ppmの最も低い酸素濃度で処理した正極について、10
-8S/cmより低くなる。実際、伝導率は、焼成された状態より低く、コバルトが再酸化されないだけではなく、実際に更に還元されうることを示唆する。次に、伝導率は、酸素濃度が少なくとも70体積%まで上昇するにつれて高まり続け、10
-3S/cmより大きい値に達する。
【0115】
更に、急速焼結されたLCOの低い電子伝導率は、クエンチングによるものであり、還元された高温状態は、LCOの電子伝導率を、700℃までの温度の関数として、空気中で、1体積%の酸素およびアルゴンガス中で測定することから分かる。この測定結果は、電子伝導率は、700℃の還元アルゴンガス雰囲気下で低く、電子伝導率が冷却により、空気雰囲気中より速く低下することを示している。アルゴン中で測定したLCOの室温での伝導率は、10-7S/cmであり、これに対し、空気中では、10-3S/cmである。本開示の主題である急速焼結されたLCO正極は、空気中で焼成されるが、1000~1100℃の高温は、より低い温度のアルゴン気体中で生じるのと同様の熱還元を生じ易い。
【0116】
実施例4
コイン電池試験、容量、および、速度性能
コイン電池試験を行い、正極の導電率が速度性能に重要であることが示された。2032コイン電池を製作した。セルアセンブリは、次の要素を重ねた順に含むものだった:負極キャップ、非圧縮状態で高さが1.5mmのウエーブスプリング、直径が15mmで厚さが0.5mmのステンレス鋼セパレータ、負極としての直径が14mmで厚さが0.3mmのリチウムチップ、直径が17mmで多孔率が90%のWhatmanガラスファイバセパレータ(GF/A1820-915)、金の金属被膜を有する焼結された正極ディスク、直径が15mmで厚さが0.3mmのステンレス鋼スペーサ、および、正極キャップ。
【0117】
任意の熱処理の後で、かつ、コイン電池へと組み立てる直前に、金の金属被膜を焼結された正極に加えた。金の側が、ステンレス鋼セパレータと対向するように配置して、低抵抗接触部の形成を助けた。セルで用いた電解質は、1:1の炭酸エチレンと炭酸ジメチルの混合溶液中にLiPF6の1モル溶液だった。電解質を、自動ピペットを用いて、毎回50μmの3つの工程で加え、1回は負極チップ上に、1回はWhatmanファイバセパレータ上に、更に、1回は正極に分注した。最後に、構成要素を厚さに基づいて選択して、クリンピング後にウエーブスプリングが15から30%圧縮されるようにした。
【0118】
最初に、セルの充電を、0.0906mA/cm2の一定電流密度で4.3Vまで行った。次に、セルを、一定電圧で、電流密度が0.00906mA/cm2に減衰するまで充電した。次に、各セルを、同じ電流密度で3.0Vまで放電した。3つのサイクルを各セルに行って、3回目のサイクルを安定状態の振舞いを表すものとして用いた。
【0119】
導電率と電池速度性能を結び付けるために、抵抗の測定、および、コイン電池の試験を、僅かな質量の差を無視して、同一である焼結された正極の対に行った。換言すれば、それらは、同じリボンから切断され、各処理条件の組について同一に一緒に処理されたものである。表2、3に、抵抗測定およびコイン電池試験のための正極を、各々、4つの種類の熱処理条件について示している。その中の2つの条件は、処理を行わないもの、および、800℃で10分間、低い導電率になるように選択された0.02体積%のO2と99.98体積%のArの混合物の中で行うものだった。他の2つの条件では、800℃で1時間、空気(21体積%のO2)中で行うものと、800℃で10分間、69体積%のO2と31体積%のArの混合物の中で行うもので、正極は、酸素を豊富に含む雰囲気中で処理されて、高い導電率を生じるものだった。表2に示すように、正極の導電率の大きさは、6桁を超える範囲だった。
【0120】
【0121】
【0122】
図10~15は、各々、コイン電池C1a、C1b、C2a、C2b、C3、C4の第3サイクルからの充電および放電曲線を示している。
【0123】
セルC1a、C1b(各々、
図10、11)について、電流密度が低く正極のCレートが0.06時
-1であるにも関わらず、一定電流充電条件での容量は、約156mAh/gである理論値に対して、わずか約20mAh/gである。充電‐放電プロットは、高いインピーダンスおよび遅い輸送という特徴を示している。一定電圧の充電について延伸した平らな部分があり、更に、放電で電位の急低下がある。
【0124】
セルC2a、C2b(各々、
図12、13)について、短い1時間の熱処理を800℃で酸素が豊富な空気中で行い、他の点は同一である正極の容量が劇的に増加している。一定電流条件の容量は、約102mAh/gに増加し、それは、理論値の約65%である。R1a、R1bをR2a、R2bと比べると、短い熱処理は電子伝導率を高めて、正極は、速度制限処理ではなくなり、正極でのリチウムイオンの伝導になる。
【0125】
セルC3、C4(各々、
図14、15)について、10分間だけ800℃で、かつ、各々、0.02体積%のO
2と69体積%のO
2で、メイクアップガスとして機能するアルゴンを用いて処理した正極を、セルにロードした。これらのセルは、再酸化および高い電子伝導率の回復のためには、単に高温に曝されるだけではなく、酸素が重要であることを示している。セルC3の正極は、800℃に曝されたが、その充電容量は、低いままで、ちょうど18mAh/gである。
図14は、C3についての充電‐放電トレースを示しており、
図10、11に示した各セルC1a、C1bのトレースと同様に見える。
図15の69体積%のO
2で熱処理された正極を有するセルC4の一定電流の充電容量は、78mAh/gであり、C3と比べて4倍以上に改良している。C4の容量がC2a、C2bと比べていくらか低いのは、正極厚さの増加によると考えられ、それにより、リチウムイオンの伝導距離が長くなるからである。
【0126】
これらの例は、クエンチングされた還元状態の電子伝導率への影響、および、閉鎖細孔を有する急速焼結されたLCO正極の速度性能への影響を示している。イオン伝導率より高い電子伝導率を回復する再酸化を、開放細孔を有する急速焼結された正極、および、LCOと積層ロック塩構造物を共有するニッケル系化学成分のような他の組成物に基づく急速焼結された正極に与えると理解される。ここで示した例は、限定するものではない。更に、電子伝導率の回復に要する温度および時間は、組成、微細構造、および、設計に応じたものであると理解される。開放細孔を有するLCOの正極は、拡散距離が短いので、より速く回復すると予想されうる。高い電子伝導率を回復するのに、厚いLCOの閉鎖細孔を有する正極は、薄いものより、長い時間が掛かりうる。ニッケル系正極組成物は、熱還元に反応感度が高いことがよく分かる。したがって、それらは、LCOより、焼結後の熱処理から更に恩恵を受けると予想される。
【0127】
実施例5
開放細孔を有する急速焼結された正極
10~35%の開放多孔率を有する急速焼結された正極を用いて、より厚い複合材正極を製作しうる。一実施形態において、複合材構造物は、正極の細孔を、イオン伝達電解質で埋め戻すことによって生成される。リチウムイオン電池について、電解質は、液体電解質(例えば、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジメチル(DMC)が等分の溶媒に溶解したLiPF6dの1M溶液)などのリチウムイオン伝導体でありうる。その代わりに、細孔を、リチウムホスホスルフィド(LPS)、または、Li3YCl6、Li3YBr6若しくはLi3AlCl6などのハロゲン化物のような低温溶融(700℃未満)固体イオン伝導体で充填して、固体状態の複合材正極を作製しうる。開放細孔の複合材正極構造物は、閉鎖細孔の非複合材正極と比べて、多数の利点を有する。この利点は、優れた速度性能、内面の面積が広いので有効電荷伝達抵抗が低下すること、リチウムのようなイオンが活性材料の中へ、および、そこから外に拡散する距離が短くなることを含みうる。したがって、より厚い正極を、単一のセルの土台として用いて、容量を確立するのに、より少ない層を必要とする。
【0128】
図16は、例えば、実施例1の閉鎖細孔の方法で用いたのと同じ方法のLCOテープの急速焼結を通して製作された多孔性のLCO正極の研磨した断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示している。急速焼結を、約930℃という、より低い温度で行って、細孔を保持した。用いた引張速度は、2.5インチ/分(約6.4cm/分)だった。最終的な正極は、約30%の開放多孔率を含み、約100μmの厚さを有する。
【0129】
図17は、多孔性のLCO正極を含むコイン電池からの充電および放電曲線を示している。厚い電極は輸送距離がより長いので、電子伝導率は、厚い電極により重要である。焼成状態の本実施例の正極の電子伝導率は、約5×10
-6S/cmである。電子伝導率は、800℃で10分間、20体積%の酸素および80体積%のアルゴンの混合物における熱処理後に、8×10
-4S/cmまで上昇する。
図17は、この正極を含むコイン電池からの充電‐放電トレースを示し、0.1C(0.4858mA/cm
2)レートで行われた。放電開始時の電位の変化によって判断したセルの抵抗は、7Ωcm
2未満である。正極の容量は、充電と放電の両方で154mAh/gであり、それは、理論値の156mAh/gに近い。
【0130】
このように、本開示は、概して、電池の電極、および、その調製方法に関する。新しい正極で支持された電池設計を開示し、既存のリチウム電池製作処理のために、または、薄い固体電解質(例えば、10μm未満)のための土台として設計して、リチウム金属負極を可能にしうる。本明細書に記載の焼結された正極は、(1)(a)個々の正極粒子同士を保持するためのバインダー、および、(b)電流をそれらの粒子へ、および、粒子から移動する炭素導体が不要になること、並びに、(2)機械的支持部として機能して、支持部が不要になることによって、利用可能な空間をより効率的に用いることで、より高いエネルギー密度を可能にする。
【0131】
本願は、リチウム輸送より速い電子伝導率を有する正極で支持された電池で用いるための積層ロック塩構造物を有する急速焼結された正極(および、その形成方法)を開示する。リチウムイオン電池の正極についての現在の解決策は、炭素導体を含めて、電子輸送を容易にすることである。本明細書に開示の正極は、二次伝導相を必要とせず、実際、二次伝導相を閉鎖細孔の焼結された正極に追加することは製造目的のために実用的ではない。
【0132】
別段に明示しない限りは、本明細書に示したいずれの方法も、その工程が特定の順序で行われることを要すると解釈されることを全く意図しない。したがって、方法の請求項が、その工程が行われるべき順序を実際に記載しないか、そうではなく、請求項または明細書の記載で、工程は特定の順序に限定されると特に記載しない限り、いずれの特定の順序が推測されることを全く意図しない。更に、本明細書で用いるように、原文の英語の不定冠詞は、その構成要素または要素を1つ以上含むことを意図し、1つのみを意味すると解釈されることを意図しない。
【0133】
本明細書で用いるように、「多孔率」という用語は、「多孔率」が、焼結された物品のうち、無機材料が占めていない部分の体積を称する場合に、体積で表したパーセントとして記載したものである(例えば、少なくとも10体積%、または、少なくとも30体積%)。
【0134】
本明細書で用いるように、「略」、「約」、「概して」、および、同様の用語は、一般的で、本開示の主題が関する分野の当業者に認められた語法と一致するような広い意味を有することを意図する。本開示を検討した当業者は、これらの用語は、記載および請求した特徴を、その特徴の範囲を正確な数値範囲まで限定することなく記載することを意図することが分かるだろう。したがって、これらの用語は、記載および請求した主題の本質的ではないか、重要ではない変更または変形は、添付の請求項に記載の本発明の範囲と考えられることを示していると解釈されるべきである。
【0135】
本明細書で用いるように、「任意の」、「任意に」などは、次に記載の事象または状況は、生じても、生じなくてもよいこと、および、その記載は、事象または状況を生じる場合、および、生じない場合を含むことを意味することを意図する。英語の原文の不定冠詞、および、それに対応する単数の場合の定冠詞は、別段の記載がない限り、本明細書で用いるように、少なくとも1つ、または、1つ以上を意味する。本明細書で用いるように、「XおよびYの少なくとも一方」は、少なくともXを含みYを含まない場合、少なくとも1つのYを含みXを含まない場合、および、少なくとも1つのXおよび少なくとも1つのYを含む場合を含むと理解すべきである。本明細書において、要素の位置を記載した場合(例えば、「上」、「下」、「の上」、「の下」など)、図面における様々な要素の向きを記載するのに用いたものにすぎない。様々な要素の向きは、他の例示的な実施形態により異なりうるもので、そのような違いも、本開示に包含されることを意図することに留意すべきである。
【0136】
本明細書において、実質的にいずれの複数および/または単数の用語について、当業者であれば、複数を単数に、および/または、単数から複数に、文脈、および/または、利用例に応じて適切に変形しうる。明瞭にするために、様々な単数/複数の置換えを本明細書に明示しうる。
【0137】
当業者には、開示した実施形態の精神を逸脱することなく、様々な変更および変形を行いうることが明らかだろう。当業者は、本実施形態の精神および本質を組み込んで、開示した実施形態の変更、組合せ、部分組合せ、および、変形を行いうるので、開示した実施形態は、添付の請求項、および、それらの等価物の範囲の全てを含むと解釈すべきである。
【0138】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0139】
実施形態1
処理および焼結された組成物の形成方法において、
リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物を含むスラリー前駆体を提供する工程と、
前記スラリー前駆体をテープキャスティングして、未加工テープを形成する工程と、
前記未加工テープを、500℃から1350℃の範囲の温度で60分未満の時間、焼結して、焼結された組成物を形成する工程と、
前記焼結された組成物を、700℃から1100℃の範囲の温度で、1分から2時間の範囲の時間、酸素含有雰囲気中で熱処理して、前記処理および焼結された組成物を形成する工程と
を含む方法。
【0140】
実施形態2
前記熱処理は、750℃から900℃の範囲の温度で、10分から1時間の範囲の時間、行われるものである、実施形態1に記載の方法。
【0141】
実施形態3
前記酸素含有雰囲気は、0%より多く70体積%までのO2を含むものである、実施形態1または2に記載の方法。
【0142】
実施形態4
前記酸素含有雰囲気は、空気である、実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
【0143】
実施形態5
前記熱処理は、
前記焼結された組成物を炉に第1の速度で挿入する工程と、
前記焼結された組成物を所定の時間、保持する工程と、
前記焼結された組成物を前記炉から第2の速度で引き出す工程と
によって行われるものであり、
前記所定の時間は、1分から30分の範囲である、実施形態1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
実施形態6
前記リチウム系化合物は、コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、リチウムチタン硫化物、または、これらの組合せの少なくとも1つを含むものである、実施形態1から5のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
実施形態7
前記リチウム系、ナトリウム系、または、マグネシウム系化合物は、前記スラリー前駆体の合計の少なくとも50質量%である、実施形態1から6のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
実施形態8
前記マグネシウム系化合物は、NaVPO4F、NaMnO2、Na2/3Mn1-yMgyO2(但し、0<y<1)、Na2Li2Ti5O12、Na2Ti3O7、MgCr2O4、または、MgMn2O4の少なくとも1つを含むものである、実施形態1から7のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
実施形態9
前記スラリー前駆体は、更に、少なくとも1つの溶媒、分散剤、または、可塑剤を含むものである、実施形態1から8のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
実施形態10
前記テープキャスティング工程は、
前記スラリー前駆体を、5μmから100μmの範囲の厚さを有するシート構成物へと形成する工程と、
前記シート構成物を乾燥させて、前記少なくとも1つの溶媒、分散剤、または、可塑剤の組合せが、該乾燥させたシートの10質量%を超えないようにする工程と
を含むものである、実施形態9に記載の方法。
【0149】
実施形態11
前記乾燥させたシートを分離する工程を、
更に含み、
前記分離する工程、および、前記焼結する工程は、同時に行われるものである、実施形態10に記載の方法。
【0150】
実施形態12
前記乾燥させたシート中の有機物を175℃から350℃の範囲の温度で熱分解する工程を、
更に含む、実施形態10または11に記載の方法。
【0151】
実施形態13
前記未加工テープを焼結する工程の後、かつ、該焼結されたテープを熱処理する工程の前に、該焼結されたテープを100℃/分以上で冷却する工程を、
更に含む、実施形態1から12のいずれか1つに記載の方法。
【0152】
実施形態14
前記熱処理工程の前記温度は、前記焼結工程の前記温度より、約50℃以上低いものである、実施形態1から13のいずれか1つに記載の方法。
【0153】
実施形態15
前記焼結された組成物の微細構造と、前記処理および焼結された組成物の微細構造は、同じである、実施形態1から14のいずれか1つに記載の方法。
【0154】
実施形態16
処理および焼結された組成物において、
コバルト酸リチウム(LCO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸コバルトリチウム(LCP)、チタン酸リチウム、ニオブタングステン酸リチウム、リチウムチタン硫化物、または、これらの組合せの少なくとも1つを含み、
少なくとも10-5S/cmの電子伝導率を有するものである組成物。
【0155】
実施形態17
前記電子伝導率は、少なくとも10-4S/cmである、実施形態16に記載の処理および焼結された組成物。
【0156】
実施形態18
10%~30%の多孔率を有するものである、実施形態16または17に記載の処理および焼結された組成物。
【0157】
実施形態19
10%未満の多孔率を有するものである、実施形態16から18のいずれか1つに記載の処理および焼結された組成物。
【0158】
実施形態20
多くても微量の二次伝導相を有するものである、実施形態16から19のいずれか1つに記載の処理および焼結された組成物。
【符号の説明】
【0159】
10 電池
12 焼結された正極
14 電解質層
16 負極
18 第1の集電部
20 第2の集電部
22 保護膜
【国際調査報告】