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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】水素の電気分解のための電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/097 20210101AFI20240730BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240730BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20240730BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240730BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240730BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240730BHJP
【FI】
C25B11/097
C25B1/04
C25B1/26 A
C25B9/00 A
C25B9/00 C
C25B11/081
C25B11/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505607
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 EP2022071591
(87)【国際公開番号】W WO2023012124
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】102021000020735
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カルデラーラ, アリーチェ
(72)【発明者】
【氏名】モーラ, ステファニア
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA28
4K011AA30
4K011DA01
4K011DA03
4K021AA01
4K021AA03
4K021AA09
4K021BA02
4K021BA03
4K021DB18
(57)【要約】
本発明は、電極、特に産業的電解プロセスにおける水素発生のためのカソードとして使用するのに適した電極及びその製造方法に関する。電極は、触媒コーティングが設けられた金属基板を含み、前記触媒コーティングは、基板と直接接触する第1の保護層を含み、前記第1の保護層は、金属又はその酸化物の形態の白金を含み、前記第1の保護層の頂部上に第2の層が適用され、前記第2の層は、白金、パラジウム、及び希土類元素の群から選択される元素を金属又はそれらの酸化物の形態で含み、前記第2の層は、金属と見なして、15~40重量%の白金、10~30重量%のパラジウム、及び40~75重量%の希土類元素の群から選択される元素を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒コーティングが設けられた金属基板を含む、電気化学プロセスにおけるガス発生のための電極であって、前記触媒コーティングは、基板と直接接触する前記第1の保護層を含み、前記第1の保護層は、金属又はその酸化物の形態の白金を含み、前記第1の保護層の頂部上に第2の層が適用されており、前記第2の層は、白金、パラジウム及び希土類元素の群から選択される元素を金属又はそれらの酸化物の形態で含み、前記第2の層は、金属と見なして、15~40重量%の白金及び10~30重量%のパラジウム及び40~75重量%の、希土類元素の群から選択される元素を含む、電極。
【請求項2】
前記第1の保護層が、白金、又は白金とパラジウムの混合物からなり、パラジウムが、金属と見なして、40重量%までである、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
希土類群から選択される元素が、プラセオジム、セリウム又はランタンである、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
触媒コーティングが、2.5g/mと7g/mの間の全貴金属負荷量を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
(a)前記第1の保護層の成分の前駆体を含有する第1の溶液を金属基板に適用する工程と、
(b)任意選択的に、30~100℃で、2分と60分の間乾燥させる工程と、
(c)450~600℃での熱処理によって前記第1の溶液を分解させる工程と、
(d)所望の負荷に達するまで、工程a~cを、1回又は複数回任意選択的に繰り返す工程と、
(e)前記第2の層の成分の前駆体を含有する第2の溶液を適用する工程と、
(f)任意選択的に、30~100℃で、2分と60分の間乾燥させる工程と、
(g)450~600℃での熱処理によって前記第2の溶液を分解させる工程と、
(h)所望の負荷に達するまで、工程e~gを1回又は複数回任意選択的に繰り返す工程と
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記第1の溶液が白金前駆体を含有し、前記第2の溶液が白金前駆体、パラジウム前駆体及びプラセオジム前駆体を含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
イオン交換膜又は隔膜で分離されたアノードコンパートメントとカソードコンパートメントとを含む、電解プロセスのためのセルであって、カソードコンパートメントが、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極を備えている、セル。
【請求項8】
セルのモジュール構成を含む電解槽であって、各セルが請求項7に従って備えている電解槽。
【請求項9】
水の電気分解による水素の生成、又はアルカリ性ブラインの電気分解による塩素及びアルカリの生成のための、請求項7に記載のセルの使用。
【請求項10】
水の電気分解による水素の生成、又はアルカリ性ブラインの電気分解による塩素及びアルカリの生成のための、請求項9に記載の電解槽の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、特に工業的電解プロセスにおける水素発生のためのカソードとして使用するのに適した電極及びその製造方法に関する。
【0002】
発明の背景
本発明の分野は、水素生成のための電解プロセスに使用される電極のための触媒コーティングの調製に関するものであり、このコーティングは金属基板に適用される。
【背景技術】
【0003】
エネルギー生産のための水素の使用は長年にわたって大幅に拡大しており、水素の経済的且つ効果的な生産は基本的な技術問題となっている。
【0004】
エネルギーキャリアとしての水素の使用に基づいた経済のビジョンがますます広まっている中で、水の電気分解と再生可能エネルギー源の組み合わせは、水素の持続可能な生産に不可欠であると思われ、結果として二酸化炭素排出量の削減と相関している。
【0005】
太陽光や風力などの再生可能エネルギー源は時間の経過とともに変動するという特徴があるため、再生可能エネルギーの供給量を予測することは困難である。実際、定義された時間枠内でのエネルギー供給を予測することは困難である。その結果、この供給がエネルギー消費と使用の需要と一致することはほとんどない。したがって、これらの再生可能エネルギーを有効利用するには、蓄電システムと組み合わせることが必要である。
【0006】
水素は、適切な貯蔵可能なエネルギーキャリアであると考えられている。例えば、風力や太陽エネルギーが生産されている場所では、送電網に直接供給されない余剰電力を使用して、水の電気分解を行って水素を生成することができ、これは、後で使用するために貯蔵して保存できる。
【0007】
水の電気分解プロセスでは、電流を流して水をその成分である酸素と水素に分解する。本プロセスは、アノードで起こる酸素発生反応とカソードで起こる水素発生反応という2つの半反応で構成される。これら2つの半反応を達成する際の主な課題は、反応速度の遅さを克服することである。残念ながら、これらの反応によって示される速度論的な複雑さにより、プロセスの高い効率を得るには、熱力学的ポテンシャル(「過電位」又は「過電圧」で表される)を超える過剰なセル電圧が必要である。過電圧を低減するために、水の電気分解で使用される電極には触媒コーティングが施されている。
【0008】
ほとんどの電気分解プロセスでは、電極として機能する基板に適用される触媒コーティングに使用される材料のコストと、目的の反応に対する触媒活性によって目的の製品を製造するコストはほぼ決定する。水の電気分解では、ロジウム、白金、ルテニウムなどの貴金属は、水素発生反応に対して過電圧が低く、優れた触媒活性を示すが、その希少性とその結果としての高コストが相まって、高純度水素を経済的に生成するための大規模な利用は制限されている。したがって、貴金属の量が少なく、低コストの代替品を探索することが重要である。
【0009】
さらに、再生可能エネルギーの変動的且つ断続的な挙動のため、水電解システムは動的な動作に適応する必要があり、実際にシステムの起動と停止のサイクルが多数発生する可能性があり、加えて、技術的な問題による電源供給の中断が頻繁に発生する。電極に有害な極性の反転が生じ、電極の寿命に悪影響が及んだり、劣化が加速したりする可能性がある。
【0010】
一般に、電流反転は外部保護分極システムを使用することで回避されるが、コストの抑制とプロセス全体の削減の観点から、傾向としては、外部分極システムの使用を完全に避ける傾向があり、結果的に電極の寿命に悪影響を及ぼす。
【0011】
いくつかの水の電気分解プロセスの中で、水素を製造するためのアルカリ溶液の電気分解は最もよく知られた方法の1つであり、フレキシビリティ、入手可能性、生成される水素の高純度という点で実際に利点がある。しかし、広範は使用を得るために、アルカリ溶液の電気分解による水素の生成には、エネルギー消費量の削減、安全性、耐久性、信頼性、そして何よりも設置コストと運用コストの削減のために、プロセス効率の向上が必要である。
【0012】
プロセス効率の観点から言えば、セル電圧の低減によって得られる低減されたエネルギー消費は、市場競争力にとって不可欠である。
【0013】
前述のセル電圧の低減は、必要な電気化学プロセスを促進するのに適した触媒コーティングを有するアノード及びカソードを使用することによって大部分達成することができる。これらの触媒コーティングは、水素製造のための水の電気分解プロセスの効率を向上させる上で非常に重要な役割を果たす。なぜなら、それらは水素と酸素の発生反応の経路をより低い活性化エネルギーに導くからである。
【0014】
特に、カソードコーティングは、この電圧低減を達成するための重要な要素となる。
【0015】
長年にわたって、水素のカソード過電圧を低減できる触媒コーティングを有する活性化電極の使用が普及しており、ロジウム、白金、若しくはルテニウムの酸化物をベースとする触媒コーティングを設けた、例えば、ニッケル、銅、若しくは鋼自体などの金属基板を使用することで、良好な結果が得られている。
【0016】
貴金属ベースの触媒コーティングで活性化された電極を使用する経済的利便性に影響を与えるさらに重要な要素は、高電流密度での電極の動作寿命に関するものである。
【0017】
貴金属をベースとした触媒コーティングのほとんどは、産業プラントで非効率性が発生した場合に発生する可能性のある電流の反転により、深刻な損傷を受ける傾向があり、アノード電流が流れ、その結果として電極電位が高い値に上昇すると、例えばルテニウムの制御不能な溶解が引き起こされる可能性がある。
【0018】
この問題は、触媒コーティングの配合に希土類元素を追加することで部分的な解決が得られた。これらのコーティングを有するカソードは、通常のプラント運転条件では十分な耐性があることが証明されているが、持続期間は最適ではない。
【0019】
白金、ロジウム、及び/又はパラジウムを含む異なる相からなる触媒コーティングを金属基板に適用することにより、電流反転に対する耐性がさらに向上した。しかしながら、このタイプのコーティングは、触媒相に多量の白金とロジウムを必要とするため、製造コストがかなり高くなる。
【0020】
国際特許出願WO2008/043766A2は、塩素アルカリ電解における水素発生に適したカソードであって、該カソードは、パラジウムを含有する護ゾーンと、任意選択的に酸化クロムや酸化プラセオジムのような酸化性の高い金属酸化物と混合された白金又はルテニウムを含有する、物理的に異なる触媒活性化とを含むコーティングが設けられたニッケル基板からなるカソードを記載している。
【0021】
欧州特許出願EP 0298055 A1は、ニッケル表面を有し、その上に少なくとも1つの白金族成分及び少なくとも1つのセリウム成分がその上に設けられた導電性基体を含む、塩化ナトリウム水溶液の電気分解のためのカソードを記載している。
【0022】
国際特許出願WO 2012/150307 A1は、高度に規則正しいルチル型構造を有する結晶性酸化ルテニウムを含有する外部触媒層で被覆された金属基板を含む、電解プロセスにおける水素発生に適したカソードを記載している。触媒外側層には、プラセオジムなどの希土類酸化物が含まれていてもよい。電極はまた、白金ベースの内部触媒薄層を含んでもよく、これにより、偶発的な電流反転事象に対する保護が強化される。
【0023】
国際特許出願WO 2014/082843 A1は、金属基板、ロジウムを含有する内部触媒層、及びルテニウムを含有する外部触媒層を含む、電解プロセスにおける水素発生のためのカソードを記載している。
【0024】
欧州特許出願EP 2537961 A1は、ニッケル基板、金属ニッケル、ニッケル酸化物及び炭素原子を含む混合物層、並びに白金族金属又は白金族金属化合物を含む電極触媒層を含む、アルカリ金属ハロゲン化物水溶液の電気分解のためのカソードを記載している。
【0025】
電解プロセス産業では、競争力の主な原動力は電圧の低減に求められている。カソードコーティングは、この低減を達成するための重要な要素となるが、電圧の向上につながるすべての変更は、多くの場合、産業プラントの停止時に偶発的に発生する可能性のある電流の反転時に、コーティングの強度を大幅に低下させる。
【0026】
したがって、特に水素のカソード発生による電解プロセスの場合、高電流密度での優れた触媒活性を特徴としており、原材料の点で全体的なコストがはるかに低く、通常の動作条件よりも持続時間と偶発的な電流反転に対する耐性が高くなる、産業用の電解プロセスための新しいカソード組成物が必要である。
【0027】
本発明は、上記課題を解決することを目的としており、外部分極システムが存在しない場合であっても、電解が中断された場合でも、低い水素過電圧と繰り返しの電流反転に対する優れた耐性を特徴とし、低コストと両立するカソードに関する。本発明はまた、その製造方法及びそれを含有する電解槽に関する。
【発明の概要】
【0028】
本発明は、優れたセル電圧を維持しながら、耐反転性の点で強度が高い触媒コーティングを有する電極、特にカソードを提供することにより、前述の問題を解決する。
【0029】
本発明は、電極、特にその上に触媒コーティングを有する金属基板を含む、水素発生のためのカソードとして使用するのに適した電極であって、基板と直接接触する少なくとも第1の保護層と、前記第1の保護層の頂部上に適用された第2の層とを含む、前記カソードコーティングを提供する。
【0030】
「直接接触(in direct contact)」という用語は、基板と第1の保護層との間に介在層が存在せずに、第1の保護層が基板の表面上に直接適用されることを意味する。「頂部上に適用される(applied on top of)」という用語は、基板の表面から離れる方向、すなわち、第2の層が基板の反対側の第1の保護層の側上にあることを意味する。
【0031】
多数の電流反転を受ける電極で遭遇する問題の1つは、電流反転段階中、つまりカソードとしての使用に適した電極がアノード電流を受けるときの金属基板の酸化である。継続的かつ繰り返される電流反転により、基板と触媒コーティングの間で酸化物が徐々に成長し、セル電圧の進行性の低下につながる。
【0032】
本発明者らは、基板と直接接触する第1の保護層の存在により、金属基板を保護し、前記金属基板の金属の酸化物の形成を防止又は遅らせることによって、前述の問題を解決することができることを見出した。
【0033】
電解プロセス中の酸化物の形成は、とりわけ、担体への触媒コーティングの接着不良を引き起こす可能性があり、したがって触媒コーティング自体の急速な劣化を伴う。
【0034】
前記第1の保護層は薄いことが好ましく、0.05~0.3ミクロン(μm)の厚さを有する。
【0035】
本発明によれば、金属基板は、電気化学プロセスの電極支持体として使用するのに適した任意の金属であり得る。特に、水電解プロセス及び塩化ソーダ電解プロセスで使用されるカソードのための金属基板として。この場合、最も一般的に使用される金属基板は、ニッケル、ニッケル合金、銅、及び鋼から選択できる。
【0036】
第1の態様の下では、本発明は、請求項1に記載の電気化学プロセスにおけるガス発生のための電極、すなわち、触媒コーティングを有する金属基板を含み、前記触媒コーティングは、基板と直接接触する、金属又はその酸化物の形態の白金を含む第1の保護層と、前記第1の保護層の頂部上に適用される、白金、パラジウム、及び希土類族から選択される元素を金属又はそれらの酸化物の形態で含む第2の層とを含む電極に関する。
【0037】
基板と直接接触する第1の保護層の存在は、電流反転に対する電極の耐性が大幅に改善されるという利点を有し、驚くべきことに、プラチナやパラジウムなどの他の貴金属よりも堅牢ではあるが、はるかに高価な、大量のロジウムで活性化された電極の特徴的な値に非常に近い値をもたらす。
【0038】
基板と直接接触する第1の保護層は、金属又は酸化物の形態で、限られた量、例えば0.5g/mと2g/mの間の白金を有する。
【0039】
前記第1の保護層の主成分として白金を使用することにより、金属基板上に直接前記酸化物の形成を防止、又は少なくとも減速させることができる。
【0040】
第2の層に希土類元素に属する1つ又は複数の元素が存在することは、貴金属マトリックスを安定化させる目的があり、制御されていない停止イベント中に電解槽で発生する可能性のある電流反転に対する耐性を高める。
【0041】
第1の保護層はそのような安定化を必要としないため、希土類元素を必要としない。本発明による電極の一実施形態によれば、触媒コーティングの第1の保護層は白金からなる。
【0042】
本発明による電極の一実施形態によれば、触媒コーティングの第1の保護層は、白金とパラジウムの混合物からなり、パラジウムは金属と見なして重量で40%までである。
【0043】
したがって、触媒コーティングは、白金化合物が金属と見なして100重量%~60重量%、パラジウムが金属と見なして対して0重量%~40重量%である白金とパラジウムの混合物からなることができる。「からなる(consists)」という用語は、微量の他の金属の存在を排除するものではないが、それらの全体的な濃度によって上記の範囲は変化し、つまり、それらの全体の濃度は金属とみなして重量で0.5%未満である。
【0044】
本発明によれば、前記触媒コーティングの第2の層は、15~40重量%の白金、10~30重量%のパラジウム、及び40~75重量%の希土類元素の群から選択される元素を含む。
【0045】
本発明者らは、驚くべきことに、このタイプの調合物が、実質的に減少した特定の貴金属負荷で従来技術の調合物よりも数倍高い電流反転に対する耐性を与えることを観察した。
【0046】
上述のように、一実施形態では、第1の保護層は実質的に100%の白金を含む。本発明者らは、いくつかの研究を通じて、白金が金属基板の保護において最も効率的な貴金属の1つであり、耐反転性に関して予想外に改善された性能を得ることができることを観察した。
【0047】
さらなる実施形態によれば、本発明は、希土類族から選択される金属がプラセオジム、セリウム、又はランタンである電極に関する。
【0048】
さらなる実施形態において、前記触媒コーティングの前記第2の層は、20~30%の白金、15~25%のパラジウム、及び50~65%のプラセオジムを含む金属基準の重量組成を有する。
【0049】
本発明者らによって行われた実験は、プラセオジムが希土類族に属する他の元素よりも良好な結果をもたらすことを示したが、本発明はセリウム及び/又はランタンでも首尾よく実施できる。
【0050】
一実施形態では、前記触媒コーティングの第1の層は、60~98%の白金及び2~40%のパラジウムを含む金属重量組成を有し、前記第2の層は、20~30%の白金、15~25%のパラジウム、及び50~65%のプラセオジムを含む金属重量組成を有する。
【0051】
本発明者らによって行われた実験は、そのような組成物が水素過電圧の改善をもたらし、さらに、他の組成物で一般に観察されるものと比較してより短い時間でセル性能を定常状態に到達させることを可能にすることを示した。
【0052】
触媒コーティング中に存在する元素は、金属の形態又は酸化物の形態であり得ることが理解されるべきである。
【0053】
一実施形態では、触媒コーティングは、2.5g/mと7g/mの間の全貴金属含有量を有する。したがって、「全貴金属負荷量」とは、第1の保護層と第2の層とを合わせた貴金属負荷を指す。本発明者らは、示された重量組成物が、電流反転に対する優れた耐性と併せて高い触媒活性を付与できることを発見した。
【0054】
さらなる実施形態では、触媒コーティングは、2.5g/mと6g/mの間の全白金含有量を有する。発明者らは、示されている触媒コーティングの場合、白金の添加量の減少は、従来技術のロジウムベースの触媒コーティングには見られなかった、優れた触媒活性と組み合わせて、電流反転に対する優れた耐性を付与するのに十分すぎるほどであることを発見した。
【0055】
ロジウムの不足とその結果としての供給とコストの問題により、上記のことは大きな利点をもたらす。
【0056】
本発明による電極のさらなる実施形態では、好ましい金属基板はニッケル又はニッケル合金である。
【0057】
本発明の電極は、様々な電気化学的用途に使用することができる。水素過電圧値が低いため、本発明の電極は、水素発生のためのカソードとして、特にアルカリ水電解のための電解槽のカソードとして使用することが好ましい。
【0058】
さらなる態様の下では、本発明は、電解槽におけるガス状生成物の発生、例えばアルカリ性ブライン電解セル又は水電解セルにおける水素の発生のための電極を製造する方法であって、
(a)前記第1の保護層の成分の前駆体を含有する第1の溶液を金属基板に適用する工程と、
(b)任意選択的に、30~100℃で、2分と60分の間乾燥させる工程と、
(c)450~600℃での熱処理によって前記第1の溶液を分解する工程と、
(d)所望の負荷に達するまで、工程a~cを、1回又は複数回任意選択的に繰り返す工程と、
(e)前記第2の層の成分の前駆体を含有する第2の溶液を適用する工程と、
(f)任意選択的に、30~100℃で、2分と60分の間乾燥させる工程と、
(g)450~600℃での熱処理によって前記第2の溶液を分解させる工程と、
(h)所望の負荷に達するまで、工程e~gを1回又は複数回任意選択的に繰り返す工程と
を含む方法に関する。
【0059】
一実施形態において、前記第1の溶液は白金前駆体を含有し、前記第2の溶液は白金、パラジウム及びプラセオジム前駆体を含有する。
【0060】
さらなる実施形態では、前記第1の溶液は白金及びパラジウム前駆体を含有し、前記第2の溶液は白金、パラジウム、及びプラセオジム前駆体を含有する。
【0061】
上記の方法の一実施形態によれば、前記方法は、工程(a)の前に、15分以上の時間及び450℃以上の温度での前記金属基板の熱処理を含む初期処理ステップを含む。
【0062】
前駆体溶液の上記の適用は、刷毛塗り、噴霧、浸漬、又は他の既知の技術によって実行することができる。
【0063】
前記第1の溶液の前駆体は、金属の硝酸塩及び硝酸ニトロシル、並びにそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0064】
発明者らは、採用された準備条件で特定の前駆体を使用すると、緻密な保護層の形成が促進され、酸化物の形成から基板を保護するという点でプラスの効果があり、その持続時間と電流反転に対する耐性にプラスの影響を与えることを観察した。
【0065】
前記第2の溶液の前駆体は、金属塩化物、硝酸塩、硝酸ニトロシル及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物である。
【0066】
発明者らは、採用された調製条件下で特定の前駆体を使用すると、特に規則正しい結晶格子を備えた触媒の形成が促進され、活性、持続時間、及び電流反転に対する耐性の点でプラスの効果が得られることを観察した。
【0067】
さらなる態様の下では、本発明は、イオン交換膜又は隔膜で分離されたアノードコンパートメントとカソードコンパートメントとを含む電解プロセスのためのセルであって、カソードコンパートメントは上記のいずれか1つの形態による電極が備える、セルに関する。本セルは水の電気分解のためのセルとして使用できる。このような実施形態では、本発明の電極は、水素発生のためのカソードとして使用される。
【0068】
さらなる態様の下では、本発明は、セルのモジュール構成を含む電解槽に関し、各セルは上で定義されたセルである。電解槽は、水の電気分解による水素の生成に使用することができ、イオン交換膜又は隔膜で分離されたアノードコンパートメントとカソードコンパートメントとを含み、カソードコンパートメントは、上記のいずれか1つの形態による電極を備える。
【0069】
本発明のセルは、アルカリ溶液の電気分解のためのセルとしても使用でき、イオン交換膜又は隔膜で分離されたアノードコンパートメントとカソードコンパートメントとを含み、カソードは、水素の発生によるカソードとして使用される、上述の形態のいずれか1つによる電極を備える。
【0070】
さらなる態様の下では、本発明の電解槽は、アルカリ溶液から出発する、水素と酸素の生成ための電解槽としても使用でき、イオン交換膜又は隔膜によって分離されたアノードコンパートメントとカソードコンパートメントとを有する電解セルのモジュール構成を含み、カソードコンパートメントは、水素の発生のためのカソードとして使用される、上述の形態のいずれか1つによる電極を備える。
【0071】
さらなる態様の下では、本発明のセルは、塩化アルカリ溶液の電気分解のためのセルとして使用することができ、イオン交換膜又は隔膜によって分離されたアノードコンパートメントとカソードコンパートメントとを含み、カソードコンパートメントは、水素の発生のためのカソードとして使用される、上記の形態のいずれか1つによる電極を備える。
【0072】
さらなる態様の下では、本発明の電解槽は、アルカリ性ブラインから出発する、塩素とアルカリの生成のための電解槽に関し、イオン交換膜又は隔膜によって分離されたアノードコンパートメントとカソードコンパートメントとを含む電解セルのモジュール構成を含み、カソードコンパートメントは、カソードとして使用される上記の形態のいずれか1つによる電極を含む。
【0073】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を示すために含まれており、その実施可能性は特許請求の範囲の値で広範囲に検証されている。以下の実施例に記載される組成物及び技術が、発明者らが本発明の実施において良好に機能することを発見した組成物及び技術を表すことは、当業者には明らかである。しかしながら、当業者であれば、本説明に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、説明した様々な実施形態に様々な変更を加えても同一又は類似の結果が得られることを理解するであろう。
【0074】
実施例1
100mm×100mm×0.89mmの寸法のニッケルメッシュを、当技術分野で知られている手順に従って、コランダムでサンドブラストし、HCl中で酸洗いするプロセスに供した。
【0075】
白金前駆体を含有する溶液を調製した。
【0076】
さらに、重量百分率で表して33%のPt、17%のPd及び50%のPrに等しい組成を有する白金、パラジウム及びプラセオジムの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0077】
第1の溶液をニッケルメッシュに3回コーティングの刷毛塗りで適用した。40~80℃で約10分間乾燥を行った後、500℃で熱処理を行った。次のコーティングを適用する前に、メッシュを空冷した。
【0078】
続いて、第2の溶液を6回コーティングの刷毛塗りで適用した。各コーティング後、40~80℃で約10分間乾燥し、続いて500℃で熱処理した。次のコーティングを適用前に、毎回メッシュを空冷した。
【0079】
この手順を、全貴金属量が5.8g/mに達するまで繰り返した。
【0080】
このようにして得られた電極を試料E1とした。
【0081】
実施例2
100mm×100mm×0.89mmの寸法のニッケルメッシュを、当技術分野で知られている手順に従って、コランダムでサンドブラストし、HCl中で酸洗いするプロセスに供した。
【0082】
白金及びパラジウム前駆体を含有する溶液を、重量百分率で表して94%のPt及び4%のPdに等しい組成を有するように調製した。
【0083】
さらに、重量百分率で表して28%のPt、16%のPd及び58%のPrに等しい組成を有する白金、パラジウム及びプラセオジムの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0084】
第1の溶液をニッケルメッシュに刷毛塗りで2回適用した。40~80℃で約10分間乾燥を行った後、500℃で熱処理を行った。次のコーティングを適用する前に、メッシュを空冷した。
【0085】
続いて、第2の溶液を4回コーティングの刷毛塗りで適用した。各コーティング後、40~80℃で約10分間乾燥し、続いて500℃で熱処理した。次のコーティングを適用前に、毎回メッシュを空冷した。
【0086】
この手順を、全貴金属量が5.6g/mに達するまで繰り返した。
【0087】
このようにして得られた電極を試料E2とした。
【0088】
実施例3
100mm×100mm×0.89mmの寸法のニッケルメッシュを、当技術分野で知られている手順に従って、コランダムでサンドブラストし、HCl中で酸洗いするプロセスに供した。
【0089】
白金前駆体を含有する溶液を調製した。
【0090】
さらに、重量百分率で表して35%のPt、22%のPd及び43%のPrに等しい組成を有する白金、パラジウム及びプラセオジムの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0091】
第1の溶液をニッケルメッシュに2回コーティングの刷毛塗りで適用した。40~80℃で約10分間乾燥を行った後、500℃で熱処理を行った。次のコーティングを適用する前に、メッシュを空冷した。
【0092】
続いて、第2の溶液を4回コーティングの刷毛塗りで適用した。各コーティング後、40~80℃で約10分間乾燥し、続いて500℃で熱処理した。次のコーティングを適用前に、毎回メッシュを空冷した。
【0093】
この手順を、全貴金属量が5.2g/mに達するまで繰り返した。
【0094】
このようにして得られた電極をサンプルE3とした。
【0095】
反例1
100mm×100mm×0.89mmの寸法のニッケルメッシュを、当技術分野で知られている手順に従って、コランダムでサンドブラストし、HCl中で酸洗いするプロセスに供した。
【0096】
重量百分率で表して26%のPt、16%のPd、50%のPr及び8%のRhに等しい組成を有する白金、パラジウム、プラセオジム及びロジウムの前駆体を含有する溶液を調製した。
【0097】
該溶液をニッケルメッシュに6回コーティングの刷毛塗りで適用した。各コーティング後、40~80℃で約10分間乾燥し、続いて500℃で熱処理した。次のコーティングを適用前に、毎回メッシュを空冷した。
【0098】
この手順を、全貴金属量が4.7g/mに達するまで繰り返した。
【0099】
このようにして得られた電極をCE1試料と特定した。
【0100】
反例2
100mm×100mm×0.89mmの寸法のニッケルメッシュを、当技術分野で知られている手順に従って、コランダムでサンドブラストし、HCl中で酸洗いするプロセスに供した。
【0101】
重量百分率で表して33%のPt、22%のPd及び45%のPrに等しい組成を有する白金、パラジウム及びプラセオジムの前駆体を含有する第1の溶液を調製した。
【0102】
さらに、重量百分率で表して42%のPt、25%のPd及び33%のPrに等しい組成を有する白金、パラジウム及びプラセオジムの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0103】
第1の溶液をニッケルメッシュに4回コーティングの刷毛塗りで適用した。40~80℃で約10分間乾燥を行った後、500℃で熱処理を行った。次のコーティングを適用する前に、メッシュを空冷した。
【0104】
続いて、第2の溶液を4回コーティングの刷毛塗りで適用した。各コーティング後、40~80℃で約10分間乾燥し、続いて500℃で熱処理した。次のコーティングを適用前に、毎回メッシュを空冷した。
【0105】
この手順を、全貴金属量が6.3g/mに達するまで繰り返した。
【0106】
このようにして得られた電極をCE2サンプルと特定した。
【0107】
反例3
100mm×100mm×0.89mmの寸法のニッケルメッシュを、当技術分野で知られている手順に従って、コランダムでサンドブラストし、HCl中で酸洗いするプロセスに供した。
【0108】
重量百分率で表して60%のPt、40%のCeに等しい組成を有する白金及びセリウム前駆体を含有する溶液を調製した。
【0109】
該溶液をニッケルメッシュに6回コーティングの刷毛塗りで適用した。40~80℃で約10分間乾燥を行った後、500℃で熱処理を行った。次のコーティングを適用する前に、メッシュを空冷した。
【0110】
この手順を、全貴金属量が5.5g/mに達するまで繰り返した。
【0111】
このようにして得られた電極をCE3サンプルと特定した。
【0112】
反例4
100mm×100mm×0.89mmの寸法のニッケルメッシュを、当技術分野で知られている手順に従って、コランダムでサンドブラストし、HCl中で酸洗いするプロセスに供した。
【0113】
白金前駆体を含有する溶液を調製した。
【0114】
さらに、重量百分率で表して75%のRu及び25%のPrに等しい組成を有するルテニウム及びプラセオジムの前駆体を含有する第2の溶液を調製した。
【0115】
第1の溶液を片手でブラッシングしてニッケルメッシュに適用した。40~80℃で約10分間乾燥を行った後、500℃で熱処理を行った。次のコーティングを適用する前に、メッシュを空冷した。
【0116】
続いて、第2の溶液を7回塗りの刷毛塗りで適用した。各コーティング後、40~80℃で約10分間乾燥し、続いて500℃で熱処理した。次のコーティングを適用前に、毎回メッシュを空冷した。
【0117】
この手順を、全貴金属量が9g/mに達するまで繰り返した。
【0118】
このようにして得られた電極をCE4サンプルと特定した。
【0119】
上記の例の試料を、90℃の温度で、32%NaOHが供給された実験用セル内で、水素発生下における機能試験に供し、さらに、一部の試料はその後、-1~+0.5V/NHEの電位範囲でサイクリック・ボルタンメトリー試験に供した。
【0120】
表1は、9kA/mの電流密度で測定された初期カソード電位(抵抗降下値は補正されていない)を示しており、報告された値は、本発明による触媒コーティングを有する電極が、当技術分野で知られている触媒コーティングと比較して同等、又は改善されたカソード過電圧を有することを示している。
【0121】
電流反転に対する電極の抵抗を表2に示す。
【0122】
一連の電流反転後に記録されたカソード電位と、9kA/mの電流密度で測定された初期カソード電位の差が報告される。報告された値は、本発明による触媒コーティングを有する電極が電流反転に対して優れた耐性を有することを示している。
【0123】
前述の説明は本発明を限定するものではなく、本発明は目的から逸脱することなく異なる実施形態に従って使用することができ、その範囲は添付の特許請求の範囲によって独自に定義される。
【0124】
本出願の説明及び特許請求の範囲において、「含む(comprises)」及び「含有する(contains)」という用語、並びに「含んでいる(comprising」及び「含有している(containing)」などのその変形は、他の要素、成分、又は追加のプロセスステップの存在を排除することを意図するものではない。
【0125】
文書、記録、資料、装置、記事などの説明は、本発明に文脈を提供することのみを目的として本文に含まれている。しかしながら、この事項又はその一部が、本出願に添付された各請求項の優先日以前に、本発明に関連する分野における一般知識を構成していたということは理解されるべきではない。
INDUSTRIE DE NORA S.p.A.
Paolo Barattieri
Global Intellectual Property Manager
【国際調査報告】