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特表2024-529522アルツハイマー病および/または軽度認知障害患者のバイオマーカーとしての末梢血単核細胞(PBMC)表現型
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  • 特表-アルツハイマー病および/または軽度認知障害患者のバイオマーカーとしての末梢血単核細胞(PBMC)表現型 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】アルツハイマー病および/または軽度認知障害患者のバイオマーカーとしての末梢血単核細胞(PBMC)表現型
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20240730BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/68
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506158
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022071370
(87)【国際公開番号】W WO2023012064
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21000210.1
(32)【優先日】2021-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524039849
【氏名又は名称】ドイチェス ゼントラム フュール ニューロデゲンラティブ エルクランクンゲン イー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【弁理士】
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】ファバ,エウジェニオ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,アンニャ
(72)【発明者】
【氏名】ロース,ウェラ
(72)【発明者】
【氏名】ドール,プランジャール
(72)【発明者】
【氏名】ブレッシュ,ジョセフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】デナー,フィリップ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA25
2G045CA17
2G045CA18
2G045CA19
2G045CA20
2G045DA36
2G045FB03
2G045JA01
(57)【要約】
本発明は、多変量分類アルゴリズムを使用して生成された表現型シグネチャーを使用して、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)及び/又は軽度認知障害(MCI)を患うもしくは患う可能性があるかを特定する方法に関連する。さらに、本発明は、前記疾患に対する治療のために、哺乳動物を健康な群、またはアルツハイマー病(AD)及び/又は軽度認知障害(MCI)を患うもしくは患う可能性のある群に層別化する方法に関連する。さらに、本発明は、アルツハイマー病(AD)及び/又は軽度認知障害(MCI)の治療を受けている哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行及び/又はその治療状態をモニタリングするための方法に関連する。本発明は、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)及び/又は軽度認知障害(MCI)を患うもしくは患う可能性があるかを特定するための、特定されたPBMCマーカーを含む、マーカーパネルにも関する。さらに、本発明は、診断および/または薬物リスク回避用途のための前記マーカーパネル及び/又は表現型シグネチャーの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、
i)適切な液体培地中の末梢血単核球(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、
ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、i)刺激なし、ii)Toll様受容体活性化、iii)NOD様受容体活性化、およびiv)Toll様受容体活性化とNOD様受容体活性化の組み合わせ、から選択される薬剤で刺激する工程、
iii)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、前記サンプルの培地において、および/または前記サンプルのPBMCにおいて、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell;activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell; IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml; TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell; TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte;および TNFa_pgmlを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、および
iv)表現型マーカーの分析に基づき、多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化するためのインビトロ方法であって、前記方法は、請求項1に記載の方法を実行する工程、およびさらに、v)工程iv)の分析に基づいて、哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化する工程、
を含む、方法。
【請求項3】
アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)に対する治療がされる哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするためのインビトロ方法であって、前記方法は、
i)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第1の時点で得られた第1の生物学的サンプルを提供する工程であって、好ましくは前記第1の生物学的サンプルは、治療の開始前に得られたものである、工程、
ii)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第2の時点で得られた第2の生物学的サンプルを提供する工程、
iii)第1のサンプルと第2のサンプルの両方に対して請求項1に記載の方法を実行する工程、および
iv)第1および第2の表現型シグネチャーにおいて分析された変化に基づいて、前記哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングする工程、
を含む、方法。
【請求項4】
前記第1の生物学的サンプルは、健康な患者もしくは患者群から、または別の治療を受けた患者もしくは患者群から提供される、対照サンプルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記薬剤が、リポ多糖(LPS)、LPSとATP、Leu Leu、およびナイジェリシンからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定するための、請求項1に記載の方法であって、
工程ii)の刺激がLPS刺激であって、
工程iii)の分析される表現型マーカーが、少なくともIL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; およびTNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell、およびactivCell_EstAbsBcellを含むものであって、および
表現型マーカーの分析に基づき、多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定し、好ましくは、請求項2の層別化する工程を、または、請求項3~5のいずれか1項に記載のモニタリングする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
細胞においての表現型マーカーの分析は、顕微鏡で評価可能なPBMCの細胞内のおよび/または細胞外の構造の適切な染色、およびその後の前記染色された細胞内のおよび/または細胞外の構造の顕微鏡評価、および
可溶性マーカータンパク質の適切な特定を含む培地中の表現型マーカーの分析を含み、
ここで、好ましくは、可溶性マーカータンパク質の特定は、TNF-αおよびIL1βなどのサイトカイン放出データを取得することを含み、および顕微鏡評価はクロマチン、PYCARD、IL1β、TNF-α、およびCDマーカー染色を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法
【請求項8】
細胞においての表現型マーカーの特定は、ペアごとの比較の異なるp値シグネチャーを提供するクラスターマップを生成すること、および統計的差異について前記比較を評価することを含み、
好ましくは、Kruskal-Wallisおよび/またはGames-Howell事後検定を使用して、好ましくはp値<0.05または<0.01を使用する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、
i)適切な液体培地中の末梢血単核細胞(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、
ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、i)刺激なし、ii)Toll様受容体活性化、iii)NOD様受容体活性化、およびiv)Toll様受容体活性化とNOD様受容体活性化の組み合わせ、から選択される薬剤で刺激する工程、
iii)前記サンプルを少なくとも1つの候補化合物と適切に接触させる工程、
iv)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、前記サンプルの培地において、および/または前記サンプルのPBMCにおいて、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell; activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell; IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml; TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell; TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte;および TNFa_pgmlを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、および
v)多変量分類アルゴリズムを使用して、工程iv)の分析を、前記候補化合物の非存在下におけるサンプル中の前記表現型マーカーの分析および/または対照サンプルにおける前記表現型マーカーの分析と比較した後に特定されたマーカーの変化に基づいて、前記化合物を特定する工程、を含む、方法。
【請求項10】
工程iv)で分析される表現型マーカーが、少なくともIL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte;および TNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcellおよび activCell_EstAbsBcellを含むものであり、
ここで、好ましくは、表現型マーカーを分析する工程は、請求項7または8に記載のものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物は、薬物、小分子、タンパク質、ペプチド、抗体またはその断片、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ナノ粒子、炭水化物、および脂質から選択される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記表現型シグネチャーの前記分析は、自動的に実行され、および、好ましくは、データベースのそれぞれの対照との比較を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するためのマーカーパネルであって、
TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell; activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell; IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml; TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell; TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte;および TNFa_pgmlからなる群から選択されるPBMCマーカーを含み、および
好ましくは、
IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; TNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_BcellおよびactivCell_EstAbsBcellからなる群から選択されるPBMCマーカーを含む、マーカーパネル。
【請求項14】
請求項13に記載のマーカーパネルを、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を実施するための補助剤、好ましくは適切な緩衝液、色素および/または標識、と一緒に含む、キット。
【請求項15】
請求項1に記載の哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するための、
請求項2に記載の哺乳動物を健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化するための、
請求項3に記載のアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするための、または
請求項9~12のいずれか1項に記載の哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するための、
請求項14に記載のマーカーパネルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多変量分類アルゴリズムを使用して生成された表現型シグネチャー(phenotypic signature)を使用して、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うもしくは患う可能性があるかを特定する方法に関連する。さらに、本発明は、前記疾患に対する治療のために、哺乳動物を健康な群、またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うもしくは患う可能性のある群に層別化する方法に関連する。さらに、本発明は、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の治療を受けている哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするための方法に関連する。本発明は、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うもしくは患う可能性があるかを特定するための、特定されたPBMCマーカーを含む、マーカーパネルにも関する。さらに、本発明は、診断および/または薬物リスク回避用途のための前記マーカーパネルおよび/または表現型シグネチャーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病やその他の認知症は、世界中で多くの人々を悩ませている深刻な病的状態である。これらの疾患は社会的課題を象徴しており、現時点では治療法はない。神経変性疾患の診断および臨床試験研究では、これらの疾患を正確に診断し、標的病態を有する患者のコホートを適切に層別化し、濃縮し、疾患の進行を確実にモニタリングできるバイオマーカー検査の数が限られていること、および手頃な価格で非侵襲的な検査が不足していることが、一部において、その障害となっている。
【0003】
脳内の炎症プロセスが慢性神経変性疾患の発症に関与していること、および全身/末梢免疫応答が疾患の進行に寄与していることを示す科学研究が増加している。実際に、脳は絶対的な免疫特権を保持しておらず、浸潤する末梢免疫細胞に加えて、例えばサイトカイン、危険シグナル、またはその他のシグナル伝達分子などの末梢炎症メディエーターが脳および中枢神経系(CNS)に到達する可能性がある(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。例えば、気道感染症、細菌、ウイルス、および真菌感染症などの末梢炎症事象や感染症は、認知症の認知機能低下や進行に関連しており、認知症の進行に大きく寄与していることがわかっている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。構築された分子ネットワークに基づくバイオコンピューティングシステムレベルのアプローチを採用し、前臨床データ、遺伝データ、およびバイオインフォマティクスデータを統合することにより、免疫調節経路が遅発性アルツハイマー病に強く寄与していることが明らかになった (非特許文献6)。
【0004】
炎症関連疾患、特にアルツハイマー病については、CSFのバイオマーカーが高い精度で臨床診断に使用されている。しかしながら、初期段階のアルツハイマー病を診断するための、侵襲性が低く、費用効果が高く、信頼性の高い方法が強く求められている(非特許文献7、非特許文献8)。
【0005】
最近になって、超高感度イムノアッセイが免疫沈降質量分析法に基づいて開発されており、血漿Aβバイオマーカーの測定や、健康な対照とAD患者または軽度認知障害(MCI)患者との識別に使用することに成功している(非特許文献9)。著者らは、血漿APP/Aβ比とAβ40/42比を評価することにより、脳のAβ負荷を正確に予測できることを実証できた(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【0006】
さらに、高精度の血漿Aβ42/40比は脳アミロイドーシスを正確に診断できるため、認知機能が正常な個人をスクリーニングしてAD認知症のリスクのある個人を特定するために使用できることが最近示された (非特許文献12、非特許文献13)。さらに、血漿神経フィラメント軽鎖 (NfL)は、神経変性疾患の信頼できる末梢バイオマーカーとして最近登場し(非特許文献10、非特許文献11) 、神経変性患者を対照と区別し、疾患進行の初期段階から開始する際に優れた診断精度を示す(非特許文献14)。実際に、Preischeらは、CSFのNfLレベルと血清のNfLレベルが相関しており、家族性アルツハイマー病の発症前の段階で上昇していることが判明したことを証明できた(非特許文献15)。このことから、血清NfLの評価により、家族性ADの発症前の初期段階で疾患の進行と脳の神経変性を予測できる可能性がある。これらの事実を総合すると、血液ベースのバイオマーカー検査ができる可能性があることを示している。
【0007】
しかしながら、信頼性の高い変化を検出するために使用できる方法の非常に高いニーズがあり、複数のパラメーターの組み合わせと分析が必要なステップであり、これは、血液中のバイオマーカーを「脳で起こっている事象の影」とみなし、バイオマーカー開発の制約を克服するためにフォローアップする価値のある「血液中の指紋」と表現した、Pennerらによる最近の専門家のレビューによって裏付けられている(非特許文献16)。
【0008】
近年、マーカーのパネルの使用が単一の候補マーカーよりも優れている可能性があるという仮説に基づいて、ADの診断、分類、および予後を目的として、多数の血液ベースの多変量バイオマーカーパネルが検査され、提案されている (非特許文献8)。
【0009】
しかしながら、全体として、調査結果の調和と再現性が欠如している(非特許文献8)。最近、仮説に基づいた血漿バイオマーカーのサーチが実施され、健康な対照において53種類の炎症性タンパク質が分析され、MCIおよびADの個人、ならびに炎症および補体調節異常の分析物およびマーカーのコレクションは、独立したコホートで再現できる有意な群間差を示した (非特許文献17)。
【0010】
患者における薬物の個々の作用機序をより具体的に活用し、炎症反応を回避できるようにするために、薬物は個人に合わせた方法で使用されることがますます増えている。検討中の薬剤がこの患者に効果がある可能性が高いかどうかについて、信頼できる声明を可能にする適切なバイオマーカーが求められている;特定の患者が検討中の薬物に耐えられる可能性が高いかどうか;そして、この患者にとって薬がどのように最適に投与されるのか。
【0011】
全体として、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を、特に健常者と比較して、確実で信頼性が高く、迅速で安価かつ簡便に診断すると同時に、患者の層別化し、その後の治療のモニタリングを行い、炎症を引き起こす可能性のある薬物を薬物リスク回避により事前に除外できるようにする方法が不足している。
【0012】
個別化医療の大きな課題は、得られた診断データの分析である。例えば、次世代シーケンスなどの手順から得られる遺伝データは、データの実際の分析を行う前に、計算的に複雑なデータ処理ステップを必要とする。その後の分析には、医療専門家、臨床腫瘍医、生物学者、およびソフトウェアエンジニアの専門家間の学際的な協力が必要である。したがって、個別化された治療の提供には、高度な診断努力が伴う。
【0013】
現在、先行技術で開示されている自動ワークフローは、ヒト細胞株またはマウス細胞モデルにおける均一なリードアウト(homogenous readout)または画像ベースの読み出し(image-based readout)に対して最適化されている。これらのアプローチは、単一細胞レベルの細胞内プロセスと自然免疫応答の細胞外シグナルを結び付けることはできまないが、これは予測創薬および自然免疫のリスク軽減における摂動効果の作用機序を理解および評価するために不可欠である。
【0014】
従来技術では、顕微鏡画像化から定量的データを取得および評価するための多くのアプローチを開示している。
【0015】
Looらは (非特許文献18) 表現型での単一細胞の測定(phenotypic single cell measurement)のみに基づいて、未治療および治療済みのヒトがん細胞を分類するための多変量方法を開示している。
【0016】
Bray らは (非特許文献19) 細胞成分または細胞小器官の顕微鏡画像に基づいて表現型プロファイリング方法を検出し、これらのプロファイルに基づいてサンプル間の生物学的に関連する類似点と相違点を特定し、化学的、遺伝的、または疾患的障害が表現型シグネチャーに及ぼす影響を評価する。
【0017】
Collinetらは (非特許文献20) トランスフェリンと上皮増殖因子のエンドサイトーシスの観点からヒトゲノムを分析するための自動共焦点顕微鏡を使用したマルチパラメトリック画像解析に基づく表現型プロファイリングを明らかにしている。
【0018】
特許文献1は、全血球計算(「CBC」)パラメーターの測定値を表示するための方法およびシステムであって、該方法は品質管理組成物の第1ロットの複数のサンプルから得られたCBCパラメーターの測定値を表示する工程を含むものであって、該表示することは、第1のロットからの各測定値に対応するマーカーを2次元座標系を含むプロット上に表示することを含むものであり、二次元座標系は、CBCパラメーターの測定値が得られた時間に対応する第1の次元と、CBCパラメーターの数値に対応する第2の次元とを含む、方法を開示する。
【0019】
特定の疾患に対してPBMCを使用するという従前の出願があります。例えば、特許文献2はPBMCに存在するmiRNAを使用して肺がんの診断を行っている。
【0020】
特許文献3は、リソソーム蓄積症、神経変性疾患、筋疾患など、Hsp70レベルの低下を示す疾患のバイオマーカーとして機能する、PBMCサンプル中のHsp70レベルの低下を利用する。ただし、これらの方法はすべて単一特徴マーカー分析を使用し、多変量分析は使用しない。
【0021】
アルツハイマー病やその他の認知症の診断のための検査を開発するために血液を使用する試みもいくつか行われている。多くの場合、これらの試みは単一のマーカー(例えば、Aβ-42)または多数のタンパク質の組み合わせに基づく(特許文献4または特許文献5または特許文献6)。これらの方法は、感度と特異度が限られており、拡張可能かつ経済的な方法で実装する機能が欠けている。これまでに、リンパ球と特定のペプチドを組み合わせたバイオアッセイも報告されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】US 2013-0024130
【特許文献2】US 2018-0251853 (Biomarkers inPeripheral Blood Mononuclear Cells for Diagnosing or Detecting Lung Cancers)
【特許文献3】EP3803406A1 (Hsp70 protein levelsin pbmc samples as biomarker for disease)
【特許文献4】WO2017223291A1
【特許文献5】US20100167937A1
【特許文献6】US20190219599A1
【特許文献7】WO2018226590A1 (Peptides asbiomarkers in the diagnosis, confirmation and treatment of a neurological disorder and immunoprofiling in neurodegenerative disease)
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Cunningham et al. 2013
【非特許文献2】Heppner et al. 2015
【非特許文献3】McManus and Heneka 2017
【非特許文献4】Giridharan et al. 2019
【非特許文献5】Paouri and Georgopoulos 2019
【非特許文献6】Zhang et al. 2013
【非特許文献7】Blennow 2017
【非特許文献8】Zetterberg and Burnham 2019
【非特許文献9】Nakamura et al. 2018
【非特許文献10】Baldacci et al. 2019
【非特許文献11】Zetterberg 2019
【非特許文献12】Schindler et al. 2019
【非特許文献13】Bendlin et al. 2019
【非特許文献14】Khalil et al. 2018
【非特許文献15】Preische et al. 2019
【非特許文献16】Penner et al. 2019
【非特許文献17】Morgan et al. 2019
【非特許文献18】Loo LH, Wu LF, Altschuler SJ.Image-based multivariate profiling of drug responses from single cells. Nat Methods. 2007 May;4(5):445-53. doi: 10.1038/nmeth1032. Epub 2007 Apr 1. PMID:17401369
【非特許文献19】Bray MA, Singh S, Han H, et al.Cell Painting, a high-content image-based assay for morphological profiling using multiplexed fluorescent dyes. Nat Protoc. 2016;11(9):1757-1774.doi:10.1038/nprot.2016.105
【非特許文献20】Collinet C, et al. Systems survey of endocytosis by multiparametric image analysis. Nature. 2010 Mar11;464(7286):243-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、顕微鏡による表現型評価など、単一点のリードアウト (例えば、血液ベースのバイオマーカー) のみに基づく方法は、失敗しやすい。したがって、本発明者らは、AdおよびMCIの診断、患者の層別化、疾患の進行のモニタリング、および化合物のリスク回避における上記のすべての欠点を、信頼性が高く、便利で、再現可能で、費用対効果の高い方法で改善することを可能にする表現型シグネチャー/マーカーパネルを開発した。従来技術では、比較可能なアッセイおよびパネルを開示または提案していない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
その第1の態様では、本発明は、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するための表現型シグネチャーまたはマーカーパネルであって、本明細書に開示される、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell;activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell;IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml; TNFaRel_Bcell;TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell;TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgmlからなる群から選択されるPBMCマーカーを含む、表現型シグネチャーまたはマーカーパネルを提供することにより上記課題を解決する。
【0026】
好ましくは、本発明は、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するための表現型シグネチャーまたはマーカーパネルであって、本明細書に開示される、少なくともIL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; TNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_BcellおよびactivCell_EstAbsBcellからなるPBMCマーカーを含む、表現型シグネチャーまたはマーカーパネルを提供することにより上記課題を解決する。
【0027】
表現型シグネチャーのマーカーは、以下に説明するように、顕微鏡検査に由来する特徴の選択されたセットの分析、およびPBMCの生化学マーカーおよびタンパク質マーカーに基づいて決定された。アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患う患者および/または患者群と健常者、すなわち、AD、AD/MCI(ADを伴うMCI、本明細書ではMCI-ADまたはMCIとAD(MCI-to-AD)とも呼ばれる、例えば、Varatharajah, Y., Ramanan, V.K., Iyer, R. et al. Predicting Short-term MCI-to-AD Progression Using Imaging, CSF, Genetic Factors, Cognitive Resilience, and Demographics. Sci Rep 9, 2235 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-38793-3を参照)、MCI(すなわち、ADではないMCI)、および健康であることを特定して、本明細書に記載のとおり、表現型シグネチャーは得られた。
【0028】
その第2の態様では、本発明は、本明細書に記載の本発明による方法を実施するための補助剤、好ましくは適切なバッファー、色素および/または標識と一緒に、本発明によるマーカーパネルおよび/または表現型シグネチャーを含むキットを提供することにより上記課題を解決する。
【0029】
その第3の態様では、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、以下を含む:
i)適切な液体培地中の末梢血単核細胞(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、
ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、a)刺激なし(すなわち、無処置、未処理)、b)Toll様受容体活性化(リポ多糖、LPSなど)、c)NOD様受容体活性化(すなわち、NLRP3活性化因子としてのATP)、およびd)Toll様受容体活性化の組み合わせ(例えば、LPSとNOD様受容体活性化(例えば、ATP))から選択される薬剤で刺激する工程、
iii)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、PBMCにおいて、本明細書に開示される、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell;activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell;IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml;TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell;TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; およびTNFa_pgmlのマーカーを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、および
iv)表現型マーカーの分析に基づき、多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定する工程、
の方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0030】
本発明による方法の1つの好ましい実施形態において、前記方法は、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定するためのものであって、ii)の工程の刺激はLPS刺激であって、iii)の工程で分析される表現型マーカーは少なくともIL1bRel_Tcell;activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC;TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell, およびactivCell_EstAbsBcellを含むものであり、ならびに、該表現型マーカーの分析に基づいて、および多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定する。
【0031】
表現型シグネチャーのマーカーは、顕微鏡で評価可能なPBMCの細胞内のおよび/または細胞外の構造の適切な染色、およびその後の前記染色された細胞内のおよび/または細胞外の構造の顕微鏡評価、および可溶性マーカータンパク質および/またはそれらの生物学的活性の適切な特定を含む培地中の表現型マーカーの分析、を含む細胞内の表現型マーカーの分析に基づいて決定される。
【0032】
その第4の態様では、本発明は、哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化するためのインビトロ方法であって、前記方法は、本発明による方法を実施し、およびさらにv)工程iv)の分析に基づいて、哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化する工程を含む、方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0033】
その第5の態様では、本発明は、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)に対する治療がされる哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするためのインビトロ方法であって、前記方法は、i)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第1の時点で得られた第1の生物学的サンプルを提供する工程、ii)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第2の時点で得られた第2の生物学的サンプルを提供する工程、iii)第1のサンプルと第2のサンプルの両方に対して本発明による方法を実行する工程、およびiv)第1および第2の表現型シグネチャーにおいて分析された変化に基づいて、前記哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングする工程、を含む、方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0034】
その第6の態様では、本発明は、哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、i)適切な液体培地中の末梢血単核細胞(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、a)刺激なし(すなわち、無処置、未処理)、b)Toll様受容体活性化(リポ多糖、LPSなど)、c)NOD様受容体活性化(すなわち、NLRP3活性化因子としてのATP)、およびd)Toll様受容体活性化の組み合わせ(例えば、LPSとNOD様受容体活性化(例えば、ATP))から選択される薬剤で刺激する工程、iii)前記サンプルを少なくとも1つの候補化合物と適切に接触させる工程、iv)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、前記PBMCにおいて、本明細書に開示される、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell; activCell_EstAbsBcell;TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell; IL1bRel_actCellsObj;Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml; TNFaRel_Bcell;TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell;TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgmlを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、およびv)多変量分類アルゴリズムを使用して、工程iv)の分析を、前記候補化合物の非存在下におけるサンプル中の前記表現型マーカーの分析および/または対照サンプルにおける前記表現型マーカーの分析と比較した後に特定されたマーカーの変化に基づいて、前記化合物を特定する工程、を含む、方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0035】
本発明による方法の1つの好ましい実施形態において、前記方法は、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または(好ましくは、または)治療のための化合物を特定するためのものであって、ii)の工程の刺激はLPS刺激であって、iii)の工程で分析される表現型マーカーは少なくともIL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent;IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell;IL1bRel_Bcell、およびactivCell_EstAbsBcellを含むものであり、ならびに、該表現型マーカーの分析に基づいて、および多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または(好ましくは、または)軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定する。
【0036】
その第7の態様では、本発明による哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群に層別化するための、本発明による哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするための、または、本発明による哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するための、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかまたは健康であるかを特定するための本発明によるマーカーパネルの使用を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0037】
以下、本発明の技術的特徴についてさらに説明する。これらの特徴は、特定の実施形態とともに列挙されるが、追加の実施形態を作成するために、それらを任意の方法および任意の数で組み合わせることができることを理解されたい。様々に説明された実施例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に説明された実施形態のみに限定するものと解釈されるべきではない。本説明は、明示的に記載された2つ以上の実施形態を組み合わせた実施形態、または明示的に記載された1つ以上の実施形態と任意の数の開示された要素および/または好ましい要素とを組み合わせた実施形態を支持および包含すると理解されるべきである。さらに、本出願に記載されているすべての要素の任意の順列および組み合わせは、文脈で別段の指示がない限り、本出願の説明によって開示されているとみなされるべきである。
【0038】
本発明は、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患う患者を特定するための、患者を層別化するための、患者の治療中にアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行をモニタリングするための、および効果的な治療法および/または薬物をスクリーニングするための、表現型シグネチャーおよび/またはマーカーパネルならびに診断用途のためのインビトロ方法を提供するものである。本明細書で言及する「アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)」には、表現型疾患のAD、AD/MCI(ADを伴うMCI、本明細書ではMCI-ADまたはMCIとAD(MCI-to-AD)とも呼ばれる、例えば、Varatharajah, Y.,Ramanan, V.K., Iyer, R. et al. Predicting Short-term MCI-to-AD Progression Using Imaging, CSF, Genetic Factors, Cognitive Resilience, and Demographics.Sci Rep 9, 2235 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-38793-3を参照)、およびMCI(すなわち、ADではないMCI)が含まれる。
【0039】
PBMCは免疫系の構成部分であり、リンパ球 (T細胞、B細胞、NK細胞) および単球で構成される。PBMCは静脈採血から大量に入手でき、多くの分析研究所で日常的に製造されている。したがって、本発明者らは、PBMCを細胞ベースのバイオマーカーの価値があり信頼できる供給源であると考えている。我々の発明では、PBMC細胞ベースの機能アッセイを機械学習と人工知能(AI)アルゴリズムを使用した予測分析方法と組み合わせて使用し、個人によって取得されたPBMCを、集団の統計的に関連するサンプルを含む独自のデータベースに向けてディーププロファイリングしている。
【0040】
本発明で得られる表現型マーカーは、PBMCの独創的な表現型シグネチャーを反映する数値ベクトル(numerical vector)を表し、単一点のリードアウト(single-point readout)に基づく上記の従来のアッセイと比較して、測定誤差が複数のリードアウト(multiple readout)に分散するため、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)に関する哺乳動物の状態を、特に健康状態に対して、より確実に表現したものを提供する。
【0041】
表現型マーカーは、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患う患者または健常者から得られた生物学的サンプル中のPBMCを刺激することによって得られた。PBMCを、前記生物学的サンプルの上清の少なくとも一部から刺激されて分離された、自然免疫応答の誘導剤または抑制剤と接触させて、上清の少なくとも一部を収集し、前記細胞から放出された自然免疫を誘導または抑制する因子について分析した。さらに、前記PBMCの顕微鏡で評価可能な細胞内および/または細胞外構造を適切に染色し、その後、前記染色された細胞内および/または細胞外構造の顕微鏡評価によって分析した。
【0042】
好ましくは本発明による方法では、前記薬剤は、i)刺激なし(無処置または未処理)、ii)Toll様受容体活性化(リポ多糖、LPSなど)、iii)NOD様受容体活性化(例えば、ATP、LeuLeuOMe、またはナイジェリシン、これらはすべてNLRP3インフラマソーム活性化因子である)およびiv)Toll様受容体活性化の組み合わせ(例えば、LPSおよびNOD様受容体活性化(例えば、ATP、LeuLeuOMeまたはナイジェリシン))の群から選択される薬剤である。
【0043】
多変量分類アルゴリズムを使用して上清に放出された因子および前記顕微鏡評価を分析した後、本明細書に記載されているように、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の患者および/または患者群と健常者、すなわち、AD、AD/MCI(ADを伴うMCI、本明細書ではMCI-ADまたはMCIとAD(MCI-to-AD)とも呼ばれる)、MCI(すなわち、ADではないMCI)、および健常者を特定する表現型シグネチャーが得られた。本発明は、本明細書に記載の免疫系を調べる機能アッセイと組み合わせた、細胞ベースのマーカーセットおよび/または生化学マーカーおよび/または遺伝マーカーに基づいている。アッセイのリードアウトから選択された得られた25個、好ましくは6個の特徴は、本発明による個体のPBMCの「表現型シグネチャー」または「マーカーパネル」を構成している。
【0044】
本明細書で使用されるとおり、用語「表現型シグネチャー」は、本発明による方法によって得られる数値ベクトルの形で対象となるPBMCの多変量データセットをカバーする。表現型シグネチャーは、少なくとも上清中に放出された因子(例えば、TNF-α、IL-1-β)の分析からのデータと顕微鏡による評価(例えば、クロマチン、PYCARD、IL1β、TNF-α、およびCDマーカー染色)からのデータで構成される。
【0045】
機械学習多変量分類アルゴリズムは、本発明による方法によって得られたデータセットを処理し、そこから、前記哺乳動物からの前記PBMCまたは対照サンプルからの細胞の自然免疫応答を示す表現型シグネチャーを表す数値ベクトルを生成する。このような対照サンプルのベースラインシグネチャーは、健康なドナーから得たサンプル由来の対照細胞のデータ収集によって構成される。すべてのデータが収集されると、ベクトルのデータポイントが統計的品質チェックを受け、最も堅牢なデータポイントが最終分析に使用される。分析された細胞のすべての数値ベクトルは、機械学習多変量分類アルゴリズムを使用して分類され、最終的にサンプルを自然免疫応答群 (つまり、健康または病気) に割り当てる。好ましくは、細胞内の表現型マーカーの特定は、ペアごとの比較の明確なp値シグネチャーを提供するクラスターマップを生成すること、および統計的差異について前記比較を評価することを含み、好ましくは、Kruskal-Wallisおよび/または Games-Howell事後検定を使用して、p値<0.05または<0.01を使用する。
【0046】
本明細書で使用されるとおり、用語「多変量分類アルゴリズム」 は、本発明による方法によって得られる、前記細胞の表現型シグネチャーを表す多変量データセットと、対照細胞からの表現型シグネチャー、既知の自然免疫応答を有する未処理細胞からの表現型シグネチャー、またはデータベースに含まれる既知の自然免疫応答を有する参照細胞からの表現型シグネチャーを表す多変量データセット間の類似性を特定するプロセスを意味する。従来の多変量分類アルゴリズムは当業者に利用可能であり、本発明の目的に適合させることができる。例えば、Nicholsonらは、心的外傷後ストレス障害を分類するための機械学習多変量パターン分析を明らかにした。それとは別に、先行技術(Nicholson, Densmore, Kinnon, Cambridge University Press; Volume 49, Issue 12; September 2019, pp. 2049-2059: Machine learning multivariate pattern analysis predicts classification of posttraumatic stress disorder and its dissociative subtype: a multimodal neuroimaging approach)ではさらにさまざまな文書が開示されている。
【0047】
上述のとおり、さらに本発明は、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、以下を含む:
i)適切な液体培地中の末梢血単核細胞(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、
ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、a)刺激なし、b)Toll様受容体活性化、c)NOD様受容体活性化、およびd)Toll様受容体活性化とNOD様受容体活性化の組み合わせ、から選択される薬剤で刺激する工程、
iii)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、PBMCにおいて、本明細書に開示される、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell;activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell;IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml;TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell;TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgmlのマーカーを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、および
iv)表現型マーカーの分析に基づき、多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定する工程、
の方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0048】
さらにまた好ましくは本発明は、哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定するための方法であって、前記方法は、以下を含む:
i)適切な液体培地中の末梢血単核細胞(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、
ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、a)刺激なし、b)LPSから選択される薬剤で刺激する工程、
iii)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、PBMCにおいて、本明細書に開示される、IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell;IL1bRel_Bcell, および activCell_EstAbsBcellasのマーカーを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、および
iv)表現型マーカーの分析に基づき、多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定する工程、
の方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0049】
表現型シグネチャーのマーカーは、以下に説明するように、顕微鏡検査に由来する特徴の選択されたセットの分析、およびPBMCの生化学マーカーおよびタンパク質マーカーの分析に基づいて決定された。分析のための可溶性マーカータンパク質の特定には、TNFαおよびIL1βなどのサイトカイン放出データを取得することが含まれてよく、顕微鏡による評価には、クロマチン、PYCARD、IL1β、TNF-α、および CDマーカー染色が含まれてよい。
【0050】
したがって、本発明は、個々のPBMC表現型が健康な集団から逸脱しているかどうか、個々のPBMC表現型が所与の疾患の表現型と関連しているかどうか、または所与の疾患の個々のPBMC表現型が特定の治療に反応しているかどうかを検出する方法を提供する。本発明は、細胞ベースのマーカーセットおよび/または生化学マーカーおよび/または遺伝マーカーに基づく。アッセイのリードアウトから選択された結果の特徴は、個々のPBMCの表現型シグネチャーを構成する。得られた関連する個々のPBMC表現型シグネチャーは分析され、すなわち、データベースと比較対照され、本明細書に開示されるように、特定のリスク/疾患/治療群(ADおよび/またはMCI)対健康と関連付けられる。
【0051】
特定する工程は、本明細書に開示されるように、前記表現型シグネチャーをリスク/疾患/治療群(ADおよび/またはMCI)に割り当てることを好ましくは含み、および多変量分類アルゴリズムの使用を含み、健康な哺乳動物における前記表現型シグネチャーと比較したときの前記哺乳動物の前記表現型シグネチャーの変化は、ADおよび/またはMCI関連疾患を患う哺乳動物またはADおよび/またはMCI関連疾患を患うリスクがある哺乳動物を特定する。
【0052】
本明細書で使用されるとおり、用語「生物学的サンプル」は、好ましくは液体生物学的サンプル、すなわち、前記哺乳動物から分析されるPBMCを含む任意の哺乳動物の体液を意味し、これにより、本発明による方法を実行することが可能になる。例えば、このような液体生物学的サンプルは、血液、器官または細胞型の血液サンプルから選択され得るが、これらに限定されない。液体生物学的サンプルには、適切な (栄養) 培地中のPBMCも含まれる。
【0053】
本明細書で使用される用語「インビトロ」は、哺乳動物の外部および制御された人工環境内で実行される方法を指す。例えば、「インビトロ」法のための細胞(PBMC)は、前記哺乳動物から採取されてもよいし、(不死化)哺乳動物細胞株から得てもよい。これらの方法は、例えば、試験管またはペトリ皿中で実施することができるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書で使用される用語「上清」は、目的の前記PBMCの培養および保存に必要な栄養培地を意味する。培養上清は前記細胞と直接接触しているため、前記細胞の表現型シグネチャーを得るために必須である前記細胞によって放出された因子を含む。
【0055】
本発明において、ADおよび/またはMCI対健康の文脈における表現型シグネチャーに関連するとPBMCにおいて特定された表現型マーカーは、以下の分析を含む群から選択される:
【0056】
【表1】
【0057】
測定および特定は、当該技術分野における記載、および例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT/EP2021/052306に記載のアッセイを使用して実施された。
【0058】
好ましくは、本発明において健康に対するADおよび/またはMCIとの関連における表現型シグネチャーに関連するものとしてPBMCにおいて特定されたサブセットであり、以下の分析を含む群から選択される:
【0059】
【表2】
【0060】
本明細書で使用されるとおり、用語「Toll様受容体(TLR)」は、自然免疫の構造であり、パターン認識受容体 (PRR)の群に属するものを意味する。TLRは膜貫通タンパク質であり、PAMP(病原体関連分子パターン)の認識に使用される。PAMPは高度に保存された病原体特異的なパターンであり、哺乳動物には見られない。このようなPAMPは、例えば、タンパク質、脂質、および、例えば微生物の表面に存在するリポ多糖類またはフラジェリンなどの炭水化物であり得る。対照的に、いわゆる「損傷関連分子パターン (DAMP)」は、例えば熱ショックタンパク質(HSP)またはインターロイキン-1(IL-1)などの宿主分子である。これらは内因性の、通常は細胞内分子であり、細胞が損傷すると細胞外空間に入る。PRR に結合すると、炎症反応が引き起こされる。
【0061】
本明細書で使用される用語「NOD様受容体(NLR)」は、自然免疫の構造に関連し、PRRのさらなる群にも属する。TLRとは対照的に、NLRはサイトゾルに可溶性タンパク質として存在し、細菌タンパク質分泌を介して細胞に導入された細胞内病原体関連分子パターン(PAMP)または食作用を介して免疫細胞に取り込まれたPAMPの認識を担当する。さらに、危険関連分子パターン(DAMP)も使用された(Yang X, Lin G, Han Z, Chai J.Structural Biology of NOD-Like Receptors. Adv Exp Med Biol. 2019;1172:119-141.doi: 10.1007/978-981-13-9367-9_6. PMID: 31628654.)。
【0062】
その別の好ましい態様では、本発明は、哺乳動物を健康な群、またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化するためのインビトロ法であって、前記方法は、本発明による方法を実施し、およびさらにv)工程iv)の分析に基づいて、哺乳動物を、健康な群、またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化する工程を含む、方法を提供することにより上記課題を解決する。したがって、前記哺乳動物の表現型シグネチャーが健康な哺乳動物における同じ表現型シグネチャーから逸脱する場合、前記哺乳動物は、前記アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)に対する治療のための少なくとも1つの群に層別化される。
【0063】
その別の好ましい態様では、本発明は、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)に対する治療がされる哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするためのインビトロ方法であって、前記方法は、i)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第1の時点で得られた第1の生物学的サンプルを提供する工程、ii)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第2の時点で得られた第2の生物学的サンプルを提供する工程、
iii)第1のサンプルと第2のサンプルの両方に対して本発明による方法を実行する工程、およびiv)第1および第2の表現型シグネチャーにおいて分析された変化に基づいて、前記哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングする工程、を含む、方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0064】
本発明の文脈で使用される「モニタリング」は、本明細書に記載されるような、前記哺乳動物からの前記生体サンプルの定期的な提供、および表現型シグネチャー分析に基づいて、治療中のアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)の進行の信頼できる完全な指標を提供するための本発明による方法の実行を意味する。適切な間隔は、当業者によって決定され得る。
【0065】
前記哺乳動物の前記治療中に、アルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)(すなわち、AD、MCIまたはAD/MCI)の進行に対する前記治療の影響は、前記哺乳動物の前記表現型シグネチャーの変化によってモニタリングされる。
【0066】
本発明による方法の好ましい実施形態において、治療に使用される薬物は、Toll様受容体 (TLR) および/または NOD様受容体 (NLR) からなる群から選択される因子の活性を誘導または抑制する。
【0067】
その別の好ましい態様では、本発明は、哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、i)適切な液体培地中の末梢血単核細胞(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、i)刺激なし、ii)Toll様受容体活性化、iii)NOD様受容体活性化、およびiv)Toll様受容体活性化とNOD様受容体活性化との組み合わせ、から選択される薬剤で刺激する工程、iii)前記サンプルを少なくとも1つの候補化合物と適切に接触させる工程、iv)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、前記サンプルの培地において、および/または前記PBMCにおいて、
TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell;IL1bRel_Bcell; activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc;TNFaRel_Tcell; IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc;IL1b_pgml; TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell;IL1bRel_IL1bPosCell; TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell;IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells;activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; およびTNFa_pgmlを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、およびv)多変量分類アルゴリズムを使用して、工程iv)の分析を、前記候補化合物の非存在下におけるサンプル中の前記表現型マーカーの分析および/または対照サンプルにおける前記表現型マーカーの分析と比較した後に特定されたマーカーの変化に基づいて、前記化合物を特定する工程、を含む、方法を提供することにより上記課題を解決する。
【0068】
好ましくは本発明による方法において、工程iv)で分析された表現型マーカーは少なくとも、IL1bRel_Tcell;activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC;TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; およびTNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み;IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell, およびactivCell_EstAbsBcellを含む。
【0069】
好ましくは、前記表現型マーカーの分析は、顕微鏡で評価可能なPBMCの細胞内のおよび/または細胞外の構造の適切な染色、およびその後の前記染色された細胞内のおよび/または細胞外の構造の顕微鏡評価、および好ましくは、TNFαおよびIL1bなどのサイトカイン放出データを取得することを含む、可溶性マーカータンパク質の適切な特定を含む培地中の表現型マーカーの分析、ならびにクロマチン、PYCARD、IL1β、TNF-α、およびCDマーカー染色を含む顕微鏡評価、を含む。
【0070】
さらに好ましくは、細胞における表現型マーカーの特定は、ペアごとの比較の異なるp値シグネチャーを提供するクラスターマップを生成すること、および統計的差異について前記比較を評価することを含み、好ましくは、Kruskal-Wallisおよび/またはGames-Howell事後検定を使用して、p値<0.05または<0.01を使用する。
【0071】
さらに好ましくは、本発明による方法の実施形態において、前記化合物は、薬物、小分子、ポリペプチド、抗体またはその断片、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ナノ粒子、炭水化物、または脂質から選択される。
【0072】
本発明の文脈において使用される用語「薬物(drug)」は、哺乳動物の病気を治療または予防することを目的とした任意の物質または医薬組成物を包含する。薬物は、既知の物質または医薬組成物であってもよいが、まだ知られていない物質または医薬組成物も含まれる。「医薬組成物」という用語は、すべての医療製剤を包含するもであり、純粋な物質が賦形剤と組み合わせて製剤されて医薬品を形成することから、前記物質は純粋な形ではなく、投与可能な医薬組成物として存在する。例えば、化合物の不活性化を防ぐために、化合物を物質でコーティングするか、化合物を同時投与することが必要であってもよく、または、化合物を適切な担体、例えばリポソームまたは希釈剤に入れて哺乳動物に投与してもよい。薬学的に許容される希釈剤には、例えば物質を錠剤、カプセル、注射剤、注入剤、溶液、軟膏またはシロップの形態にするための生理食塩水および緩衝水溶液が含まれる。純粋な物質に加えて、賦形剤または薬物全体も自然免疫応答を誘導または抑制することができ、それによってこの誘導または抑制の影響は、前記哺乳動物からの前記細胞の表現型シグネチャーに基づいて本発明による方法で特定することができる。
【0073】
本明細書で使用される用語「小分子」は、分子量が低い低分子量化合物を含む。これは、分子量が約 800g-mol-1を超えないクラスの活性物質を指す。
【0074】
本発明の文脈において用語「タンパク質」は、ペプチド結合によって結合されたアミノ酸モノマーから構成されるポリマーを指すために使用される。それはアミノ酸の分子鎖を指し、生成物の特定の長さを指すものではなく、必要に応じて、例えばグリコシル化、アミド化、カルボキシル化またはリン酸化によってインビボまたはインビトロで修飾することができる。約100アミノ酸未満の長さのアミノ酸鎖を「ペプチド」と呼ぶ。「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、「ポリペプチド」の定義に含まれる。「ペプチド結合」は、一方のアミノ酸のα-アミノ基が他方のアミノ酸のα-カルボキシル基に結合している、2つのアミノ酸間の共有結合である。すべてのアミノ酸またはポリペプチド配列は、特に指定しない限り、アミノ末端 (N末端) からカルボキシ末端 (C末端) まで記載される。
【0075】
本明細書でいう用語「抗体」は、完全長の抗体、および「抗原結合部分」または「抗原結合領域」またはその一本鎖が保持されているその任意の断片または誘導体、例えば、結合体の免疫原性活性部分に特異的な抗体の結合ドメインなどを含む。天然に存在する「抗体」(免疫グロブリン)は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2本の重 (H)鎖と2本の軽 (L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)および重鎖定常領域から構成される。重鎖はミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンとして分類され、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、および IgE として定義される。重鎖定常領域は、CH1、CH2、CH3 の3つのドメインで構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1つのドメイン CLで構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域 (FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する、相補性決定領域 (CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分できる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置された3つのCDRと4つのFRで構成される。重鎖と軽鎖は、可変(Fv)領域とも呼ばれるFab(断片、抗原結合)領域と、Fc(断片、結晶化可能)領域の2つの領域を形成する。重鎖および軽鎖の可変領域(Fv)には、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれる。抗体の定常(Fc)領域は、免疫系のさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞など)や古典的補体系の第1成分(Clq)を含む宿主組織または因子への結合を媒介する可能性がある。本明細書で使用される用語「Fc」には、抗体のFc領域に由来するポリペプチドの天然型および変異タンパク質(mutein)型が含まれる。二量体化を促進するヒンジ領域を含むこのようなポリペプチドの切断型も含まれる。Fc部分(およびそれから形成されるオリゴマー)を含む融合タンパク質は、プロテインAまたはプロテインGカラムと比較して、アフィニティークロマトグラフィーによる精製が容易であるという利点がある。適切なFcポリペプチドの1つは、ヒトIgG1抗体に由来する。
【0076】
本明細書で使用されるとおり、用語「ポリヌクレオチド」は、交互の核酸塩基を有する20以上のヌクレオチドから構成される線状生体高分子を包含する。ヌクレオチド数が少ない核酸ポリマーは「オリゴヌクレオチド」と呼ばれる。このようなポリヌクレオチドは、例えば、DNA、cDNA、RNA、または合成的に生成されたDNAもしくはRNA、またはこれらの核酸の1つを単独または組み合わせて含む組換え生成されたキメラ核酸分子であり得る。
【0077】
本明細書で使用される用語「ナノ粒子」は、自然に生成されるまたは合成的に生成できる、粒子サイズが0.1μm未満 (<100 nm)の粒子を定義する。このようなナノ粒子は、例えば、炭素含有ナノ粒子、金属および半金属酸化物、半導体、金属硫化物、またはポリマーであり得るが、これらに限定されない。
【0078】
本明細書で使用される用語「炭水化物」は、炭素、水素、および酸素からなるすべての炭素化合物を包含し、単糖類または多糖類として存在する場合がある。
【0079】
本明細書において使用される用語「脂質」は、脂肪および脂肪様物質の全体を指す。脂質は化学的に不均一な物質であり、水にはほとんど溶けないが、非極性溶媒にはよく溶ける。
【0080】
その別の好ましい態様では、本発明は、本発明による哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群と健康な群に層別化するための、本発明による哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするための、または、本発明による哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するための、哺乳動物が本発明によるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定するための本発明によるマーカーパネルの使用を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0081】
さらに好ましくは本発明による方法の1つの実施形態では、複合表現型シグネチャー(combined phenotypic signature)を得るために、上清中に放出された因子と、顕微鏡評価の両方を分析する工程において、前記細胞のプロテオーム、トランスクリプトーム、リピドームおよび/またはゲノムが評価され、前記複合表現型シグネチャーを補足するために臨床データが含まれる。
【0082】
本明細書で使用されるとおり、用語「プロテオーム」は、本発明の方法に従って、前記哺乳動物からの前記液体生物学的サンプル中の前記細胞の顕微鏡評価と並行して評価される、前記哺乳動物から得られたさらなる単一細胞によって発現されるタンパク質の全体を指す。発現されるタンパク質は、細胞内、細胞外、または膜貫通タンパク質として生じる可能性がある。これらのタンパク質を分析するための多くの方法が当業者に知られている。例えば、プロテオームはウェスタンブロットまたは質量分析法で分析できるが、これらの方法に限定されない。細胞タンパク質の量は測定時間によって異なる場合がある。
【0083】
本明細書で使用される用語「トランスクリプトーム」は、本発明の方法に従って、前記哺乳動物から得た前記液体生物学的サンプル中の前記細胞の顕微鏡評価と並行して評価される、前記哺乳動物から得られたさらなる単一細胞において転写された全遺伝子の全体(すなわち、前記さらなる単一細胞に存在するすべてのRNA分子の全体)を指す。転写されたRNA分子は細胞内に存在する。従来技術には、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの細胞RNAの分析のための多くの異なる方法が存在するが、この方法に限定されるものではない。細胞内に存在するRNAの量は、測定時間によって異なる可能性がある。
【0084】
本明細書で使用される用語「リピドーム」は、本発明に従って、前記哺乳動物から得た前記液体生物学的サンプル中の前記細胞の顕微鏡評価と並行して評価される、前記哺乳動物から得られたさらなる単一細胞中のすべての脂質の全体を指す。リピドームを分析するためには、質量分析法などの当業者に知られた多くの方法が存在するが、これに限定されるものではない。
【0085】
本明細書で使用される用語「ゲノム」は、本発明の方法に従って、前記哺乳動物から得た前記液体生物学的サンプル中の前記細胞の顕微鏡評価と並行して評価される、前記哺乳動物から得られたさらなる単一細胞の遺伝情報の全体を指す。用語「遺伝情報」は、細胞核、ミトコンドリア、および色素体に含まれるすべての遺伝物質が含まれる。従来技術は、例えば、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの多くの方法を提供するが、これらに限定されない。
【0086】
本明細書で使用される用語「末梢血単核細胞(PBMC)」は、丸い細胞核を持つ血液の単核細胞を包含する。前記液体生物学的サンプルを前記哺乳動物から提供した後、例えば血液からのPBMCは、親水性コロイドによる遠心分離によって精製され得る。本発明による方法では、死細胞と生細胞の両方を使用することができる。
【0087】
さらに提供される本発明による方法の一実施形態では、前記哺乳動物は、マウス、ラット、サル、ラクダ、ラマ、ウサギ、ブタ、ロバ、ウシ、ウマ、ヒツジ、および好ましくはヒトから選択される。
【0088】
その別の好ましい態様では、本発明は、本明細書に記載の本発明による方法を実施するための補助剤と一緒に、好ましくは適切な担体、例えば、固体担体、バッファー、色素および/または標識と一緒に、本発明によるマーカーパネルおよび/または表現型シグネチャーを含む、キットを提供することによって上記課題を解決する。
【0089】
さらに好ましくは、本発明による方法の実施形態では、前記分離は、透明で、好ましくはガラスまたはプラスチック材料から選択される、好ましくは化学的に不活性な固体担体材料上に前記細胞を固定化することを含む。
【0090】
用語「固体担体」は、細胞反応に影響を及ぼさず、反応条件下で不溶性かつ化学的に不活性な任意の担体を指す。さらに、担体は物質が流入および流出できるようにする必要がある。細胞固定化に適した担体が数多く知られている。
【0091】
本明細書で使用される用語「固定化」は、例えば、これらに限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、またはアセトンなどの化学物質の作用による、哺乳動物からの液体生物学的サンプル中の細胞の固体担体への空間的な固定を指す。
【0092】
本発明による方法において、前記顕微鏡で評価可能な細胞内および/または細胞外構造が染色され、顕微鏡評価が光学的に行われる。当業者は、細胞構造の光学的検出に使用できる様々な方法に精通している。例えば、中性染料は脂質構造に結合し、アルカリ性染料は酸性核酸の染色に使用できるが、これらに限定されない。例えば、PYCARD、TNF-α、CD14、CD19、CD3、IL-1-β、CASP1、NFkappaB、およびNLRP3などの細胞内および/または細胞外タンパク質の評価には、それぞれのタンパク質に特異的に結合する市販の抗体を使用して従来の免疫蛍光法を適用できる。それぞれの第2の蛍光色素標識検出抗体を添加することにより、使用したそれぞれの蛍光色素の波長範囲に従って、前記タンパク質上の対応する構造を蛍光顕微鏡で検出することができる。
【0093】
さらに好ましくは本発明による方法の1つの実施形態において、分析される上清中の放出された因子はサイトカイン、例えば、TNF-α、およびIL-1-β、ならびに任意で IL18、IL1α、IL1-RA、IL6、IL8、IL10、IL18、CXCL1/GROalpha、CXCL6、MCP1/CCL2、MCP4/CCL13、MIP1α/CCL3、MIP1β/CCL4、ENRAGE、および/またはVEGFAを含む。本明細書で使用される用語「放出された因子」は、生細胞または死細胞によって周囲の上清中に分泌または放出された、例えばホルモン、神経伝達物質、一酸化窒素、および特にサイトカインであるが、これらに限定されない、すべてのシグナル分子を包含する。本発明の文脈において使用される用語「サイトカイン」は、免疫学的反応または炎症反応の過程で細胞によって分泌されるすべてのタンパク質を包含する。当業者は、放出された因子、特にサイトカイン、を分析する多くの方法、例えば、これらに限定されるものではないが、酵素結合免疫吸収スポット(ELISpot)または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などを知っている。
【0094】
本発明による方法の別の好ましい実施形態において、顕微鏡評価は、形態、染色された細胞内構造の細胞内位置、および前記細胞の前記染色された細胞内構造のマーカー強度のうちの少なくとも1つを含む。
【0095】
本発明の文脈において使用される用語「形態」は分子レベルを超えて分析される前記細胞の形状および構造をいう。
【0096】
本明細書で使用される用語「細胞内位置」は、細胞内の染色された細胞内構造または細胞表面の細胞外構造の細胞内位置を意味する。
【0097】
本明細書で使用される用語「マーカー強度」は、検出シグナルが発せられる強度をいう。検出シグナルの強度は、細胞内に存在する検出可能な細胞内構造の量に比例し得る。
【0098】
本発明による方法の1つの好ましい実施形態において、表現型シグネチャーの評価は自動的に実行される。
【0099】
本明細書で使用される用語「自動的に」は、自動化された顕微鏡を使用することによる自律的な顕微鏡評価を指し、ならびに本発明による方法によって得られる、前記自己学習多変量アルゴリズムによる、さらなるデータの自律的な収集、保存、処理および評価を指す。
【0100】
本発明による方法の1つの好ましい実施形態において、該方法はデータベースからの対照と比較することを含む。
【0101】
本明細書で使用される用語「比較」は、本発明による方法によって得られた表現型シグネチャーを表す数値ベクトルが、前記データベースに格納された対照の表現型シグネチャーを表す数値ベクトルとの重複について検索されることを意味する。
【0102】
本明細書で使用される用語「対照」は、健康な哺乳動物から得られた未処理の対照細胞の表現型シグネチャーの数値ベクトルを包含し、比較のためにデータベースに保存された健康な哺乳動物の自然免疫応答を示す。対照は、対象細胞の表現型シグネチャーの数値ベクトルと、免疫状態または免疫応答群が健康であることが知られている対照の表現型シグネチャーの数値ベクトルとのマッチングを可能にする。本発明による方法のさらなる好ましい実施形態において、前記自然免疫応答は、前記データベースによって提供される対照と比較したときの表現型シグネチャーの変化に基づいて決定される。
【0103】
本明細書において使用される用語「変化」は、細胞の自然免疫応答、特にインフラマソーム活性化状態、を決定するための、対照細胞からの表現型シグネチャー、自然免疫応答が既知の未処理細胞からの表現型シグネチャー、またはデータベースによって提供される自然免疫応答が既知の参照細胞からの表現型シグネチャー、からの前記表現型シグネチャーの変化または逸脱を意味する。前記哺乳動物からの各検査済み生物学的サンプルは、ベースライン対照と比較され、多変量分類アルゴリズムが変化を決定し、数値ベクトル、つまり対応するサンプルを指定された自然免疫応答群に割り当てる。
【0104】
要約すると、本発明は、健康に対するAD病態および/またはMCIの診断における医師の意思決定の不可欠な部分となるインビトロ診断方法を確立する。本発明は、健康な対象の予防とスクリーニング、無症候性および症候性疾患の対象の診断、予後および層別化、慢性疾患および活動性疾患の治療とモニタリングの場合など、さまざまなレベルでの診断をサポートする。したがって、本発明は、予防およびスクリーニングのための病気を阻止する方法として健康な人に適用することができる。また、本発明は、症状のある患者と無症候性の患者の診断、予後、および層別化にも適用できます。最後に、本発明は、病気の発症後期に、最適な治療法の選択や病気の進行のモニタリングに適用できる。
【0105】
本明細書において使用される用語「本発明の」、「本発明による」、「本発明において」などは、本明細書に記載および/または特許請求の範囲に記載される本発明のすべての態様および実施形態を指すことを意図している。
【0106】
本発明の文脈において、「約」および「およそ」という用語は、問題の特徴の技術的効果を確実にするために当業者が理解できる精度の範囲を示す。この用語は通常、示された数値からの±20%、±15%、±10%、たとえば±5%の偏差を示し、好ましくは±5%または ±10%である。当業者には理解されるように、所与の技術的効果の数値に対する具体的なそのような偏差は、技術的効果の性質に依存するであろう。例えば、一般に、自然または生物学的な技術的効果は、人工または工学的な技術的効果よりもそのような偏差が大きい可能性がある。当業者には理解されるように、所与の技術的効果の数値に対する具体的なそのような偏差は、技術的効果の性質に依存するであろう。例えば、一般に、自然または生物学的な技術的効果は、人工または工学的な技術的効果よりもそのような偏差が大きい可能性がある。「a」、「an、または「the」などの単数名詞を指すときに不定冠詞または定冠詞が使用される場合、特に指定がない限り、これにはその名詞の複数形も含まれる。
【0107】
本発明の教示を特定の問題または環境に適用すること、および本発明の変形またはそれに対する追加の特徴(さらなる態様および実施形態など)を含めることは、本明細書に含まれる教示を考慮すれば当業者の能力の範囲内であることを理解されたい。
【0108】
本明細書で引用したすべての参考文献、特許、および出版物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0109】
本発明は以下の項目に関する。
項目1.哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、
i)適切な液体培地中の末梢血単核球(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、
ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、i)刺激なし、ii)Toll様受容体活性化、iii)NOD様受容体活性化、およびiv)Toll様受容体活性化とNOD様受容体活性化の組み合わせ、から選択される薬剤で刺激する工程、
iii)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、前記サンプルの培地において、および/または前記サンプルのPBMCにおいて、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell;activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell;IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml; TNFaRel_Bcell;TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell;TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgmlを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、および
iv)表現型マーカーの分析に基づき、多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定する工程、
を含む、方法。
【0110】
項目2.哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化するためのインビトロ方法であって、前記方法は、項目1に記載の方法を実行する工程、およびさらに、v)工程iv)の分析に基づいて、哺乳動物を、健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化する工程、
を含む、方法。
【0111】
項目3.アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)に対する治療がされる哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするためのインビトロ方法であって、前記方法は、
i)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第1の時点で得られた第1の生物学的サンプルを提供する工程、
ii)末梢血単核細胞(PBMC)を含む、治療される前記哺乳動物から第2の時点で得られた第2の生物学的サンプルを提供する工程、
iii)第1のサンプルと第2のサンプルの両方に対して項目1による方法を実行する工程、および
iv)第1および第2の表現型シグネチャーにおいて分析された変化に基づいて、前記哺乳動物における、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングする工程、
を含む、方法。
【0112】
項目4.前記第1の生物学的サンプルは、治療の開始前に得られたものである、項目3に記載の方法。
【0113】
項目5.前記第1の生物学的サンプルは、健康な患者もしくは患者群から、または別の治療を受けた患者もしくは患者群から提供される、対照サンプルである、項目3または4に記載の方法。
【0114】
項目6.前記薬剤が、リポ多糖(LPS)、LPSとATP、Leu Leu、およびナイジェリシンからなる群から選択される、項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0115】
項目7.哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定するための、項目1に記載の方法であって、
工程ii)の刺激がLPS刺激であって、
工程iii)の分析される表現型マーカーが、少なくともIL1bRel_Tcell;activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC;TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell, およびactivCell_EstAbsBcellを含むものであって、および
表現型マーカーの分析に基づき、多変量分類アルゴリズムを使用して、前記哺乳動物がアルツハイマー病(AD)または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるかを特定する、項目1に記載の方法。
【0116】
項目8.項目2の層別化する工程を、または、項目3~5のいずれか1項に記載のモニタリングする工程をさらに含む、項目7に記載の方法。
【0117】
項目9.細胞においての表現型マーカーの分析は、顕微鏡で評価可能なPBMCの細胞内のおよび/または細胞外の構造の適切な染色、およびその後の前記染色された細胞内のおよび/または細胞外の構造の顕微鏡評価、および
可溶性マーカータンパク質の適切な特定を含む培地中の表現型マーカーの分析を含む、項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0118】
項目10.可溶性マーカータンパク質の特定は、TNF-αおよびIL1βなどのサイトカイン放出データを取得することを含み、および顕微鏡評価はクロマチン、PYCARD、IL1β、TNF-α、およびCDマーカー染色を含む、項目9に記載の方法。
【0119】
項目11.細胞においての表現型マーカーの特定は、ペアごとの比較の異なるp値シグネチャーを提供するクラスターマップを生成すること、および統計的差異について前記比較を評価することを含み、
好ましくは、Kruskal-Wallisおよび/またはGames-Howell事後検定を使用して、p値<0.05または<0.01を使用する、項目1~10のいずれか1項に記載の方法。
【0120】
項目12.哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、
i)適切な液体培地中の末梢血単核細胞(PBMC)を含む前記哺乳動物から得られた少なくとも1つの生物学的サンプルを提供する工程、
ii)前記少なくとも1つの生物学的サンプル中の前記PBMCを、i)刺激なし、ii)Toll様受容体活性化、iii)NOD様受容体活性化、およびiv)Toll様受容体活性化とNOD様受容体活性化の組み合わせ、から選択される薬剤で刺激する工程、
iii)前記サンプルを少なくとも1つの候補化合物と適切に接触させる工程、
iv)前記薬剤に対する前記PBMCの少なくとも1つの表現型シグネチャーを生成するため、前記サンプルの培地において、および/または前記PBMCにおいて、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell;activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell;IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml;TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell;TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgmlを含む群から選択される表現型マーカーを分析する工程、および
v)多変量分類アルゴリズムを使用して、工程iv)の分析を、前記候補化合物の非存在下におけるサンプル中の前記表現型マーカーの分析および/または対照サンプルにおける前記表現型マーカーの分析と比較した後に特定されたマーカーの変化に基づいて、前記化合物を特定する工程、を含む、方法。
【0121】
項目13.工程iv)で分析される表現型マーカーが、少なくともIL1bRel_Tcell;activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC;TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; およびTNFa_pgml; 任意でTNFaRel_undefCを含み;IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell、およびactivCell_EstAbsBcellを含むものである、項目12に記載の方法。
【0122】
項目14.表現型マーカーを分析する工程は、項目9~11のいずれか1項に記載のものである、項目13に記載の方法。
【0123】
項目15.前記化合物は、薬物、小分子、タンパク質、ペプチド、抗体またはその断片、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ナノ粒子、炭水化物、および脂質から選択される、項目12~14のいずれか1項に記載の方法。
【0124】
項目16.前記表現型シグネチャーの前記分析は、自動的に実行され、および、好ましくは、データベースのそれぞれの対照との比較を含む、項目1~15のいずれか1項に記載の方法。
【0125】
項目17.哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するためのマーカーパネルであって、TNFaRel_undefC; IL1bRel_TNFaPosCell; IL1bRel_Bcell;activCell_EstAbsBcell; TNFaRel_Monoc; activCell_EstAbsMonoc; TNFaRel_Tcell;IL1bRel_actCellsObj; Activationrate_percent; IL1bRel_Monoc; IL1b_pgml;TNFaRel_Bcell; TNFaRel_IL1bPosCell; TNFaRel_TNFaPosCell; IL1bRel_IL1bPosCell;TNFa_pos_percent; IL1bRel_Tcell; activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte;IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC; TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef;TNFaPosCells_Monocyte; および TNFa_pgmlからなる群から選択されるPBMCマーカーを含み、および、
好ましくは、IL1bRel_Tcell;activCell_EstAbsTcell; IL1bPosCells_Monocyte; IL1b_pos_percent; IL1bRel_undefC;TNFaCells_IL1bCells; activCell_EstAbsUndef; TNFaPosCells_Monocyte; TNFa_pgml; 任意で TNFaRel_undefCを含み; IL1bRel_TNFaPosCell;IL1bRel_Bcell, および activCell_EstAbsBcell.からなる群から選択されるPBMCマーカーを含む、マーカーパネル。
【0126】
項目18.項目17に記載のマーカーパネルを、項目1~16のいずれか1項に記載の方法を実施するための補助剤、好ましくは適切な緩衝液、色素および/または標識、と一緒に含む、キット。
【0127】
項目19. 項目1に記載の哺乳動物がアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性があるか、または健康であるかを特定するための、
項目2に記載の哺乳動物を健康な群またはアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患うかもしくは患う可能性がある群、または健康である群に層別化するための、
項目3に記載のアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の進行および/またはその治療状態をモニタリングするための、または
項目12~15のいずれか1項に記載の哺乳動物におけるアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)の予防および/または治療のための化合物を特定するための、
項目17に記載のマーカーパネルの使用。
【図面の簡単な説明】
【0128】
図1図1は、健康なドナーに対するアルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)のための本発明により特定される特徴のフィンガープリンティング(表現型シグネチャー)の好ましい例を示し、LPSを使用した刺激(Toll様受容体活性化、「プライミングされた(primed)」とも呼ばれる)から抽出された特徴のフィンガープリンティングを示す。マーカーに関しては、実施例のセクションを参照。
図2図2は、本発明によるADおよび/またはMCI患者、すなわち、AD、MCI、AD/MCIおよび健康の予測と分類のための混同行列を示す。
図3-1】(A)タイムラインと実験セットアップを含む最終的な細胞ベースのアッセイ形式を示す。
図3-2】(B)調査された実験条件は以下のとおり:i)「未処理」すなわち、刺激なし、すなわち、未処置、ii)「プライミングされた(primed)」 、すなわち、Toll様受容体の活性化、すなわち、TLR2/4受容体の活性化因子(例えば、LPS)が適用された、iii)「活性化された」、すなわち、NOD様受容体の活性化(例えばNLRP3活性化因子としての ATP)、およびiv)「プライミングされおよび活性化された」、すなわち、Toll様受容体活性化(例えば、LPS)とNOD様受容体活性化(すなわち、ATP)の組み合わせ;評価された均一なリードアウトと免疫染色の分析されたマーカーが表示される。
【発明を実施するための形態】
【0129】
本明細書において、本発明の特定の態様および実施形態を、実施例として、本明細書に記載の説明、図および表を参照して説明する。本発明の方法、使用および他の態様のそのような実施例は代表的なものにすぎず、本発明の範囲をそのような代表的な実施例のみに限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0130】
本発明は、個々のPBMC表現型が健康な集団から逸脱しているかどうか、または個々のPBMC表現型が所与の疾患表現型(すなわち、AD、MCI、AD/MCI)に関連しているかどうか、または所与の疾患の個々のPBMC表現型が、所与の疾患表現型(すなわち、AD、MCI、AD/MCI)に対する特定の治療に応答しているかどうかを検出する方法を提供する。表現型シグネチャーは、アルツハイマー病(AD)および/または軽度認知障害(MCI)を患う患者および/または患者群と健常者、すなわち、AD、AD/MCI(ADを伴うMCI、本明細書ではMCI-ADまたはMCIとAD(MCI-to-AD)とも呼ばれる)、および健康であることを特定して本明細書に記載のように得られた。
【0131】
本発明は、免疫系を調べる機能アッセイと組み合わせた、細胞ベースのマーカーセットおよび/または生化学マーカーに基づいている。アッセイのリードアウトから選択された得られた特徴は、本発明による個体のPBMCの「表現型シグネチャー」または「マーカーパネル」を構成している。
【0132】
一般的な方法 - 概要
【0133】
本発明の方法は、ヒト末梢血単核球(hPBMC)、自動細胞ベースのアッセイによって得られるその表現型シグネチャーを使用し、最終的に TLR2/4シグナル伝達とインフラマソーム応答の評価に焦点を当てる。
【0134】
hPBMCは、i)未刺激(すなわち、無処置、つまり、未処理)、ii)TLR2/4 受容体の活性化因子(例えば、LPS)を使用してプライミング(すなわち、Toll様受容体活性化)され、iii)「活性化」、すなわちNOD様受容体活性化(例えば、NLRP3活性化因子としてのATP)、およびiv) 「プライミングおよび活性化」、すなわち、Toll様受容体活性化 (例えば、LPS)とNOD様受容体活性化、すなわちATPの組み合わせ、で放置された。hPBMCのプライミングは、特定の細胞経路の活性化を誘導し、免疫応答に関与する多数の遺伝子(例えば、TNF-αやIL-1β)の発現を引き起こす。プライミングされたhPBMCは、病原体関連分子パターン(PAMP)または危険関連分子パターン(DAMP)による適切な刺激により、インフラマソーム応答を開始することができる。本方法では、DAMP ATPを使用して自然免疫応答を誘発した。
【0135】
完全に自動化されたロボットプラットフォーム駆動の細胞ベースのアッセイを使用して、共焦点顕微鏡による自動画像取得に適したマイクロタイタープレートに細胞を播種した。PBMCは次の実験条件下で調査される:i)刺激なし(すなわち、無処置、つまり、未処理)、ii)Toll様受容体活性化(例えば、リポ多糖類、LPS)、iii)「活性化」、すなわちNOD様受容体活性化(すなわち、NLRP3活性化因子としてのATP)、および、iv) Toll様受容体活性化 (例えば、LPS)とNOD様受容体活性化(例えば、ATP)の組み合わせ。したがって、hPBMCは以下の実験条件下で調査される:1)無処置 (休止状態または未処理)、2)(Toll様受容体 (TLR4/TLR2) 活性化因子であるLPS によって媒介され)プライミングされた、3)(NLRP3インフラマソーム誘導因子ATPと組み合わせたToll様受容体(TLR4/TLR2) 活性化因子としてのLPSを介した)プライミングおよび活性化、および4)(NLRP3インフラマソーム誘導因子ATP を介した) 活性化。所与のインキュベーション時間の後、アッセイの終わりの時点で、各実験条件の細胞培養上清が収集され、凍結保存され、均一な生化学的リードアウト評価、例えば、均一時間分解蛍光(HTRF)アッセイ技術によるサイトカイン放出(例えば、TNF-α、IL-1β)の測定など、のために処理された。
【0136】
次に、アッセイプレート上のhPBMCはパラホルムアルデヒドで固定され、免疫細胞化学 (ICC) 分析用に処理される。
【0137】
次のマーカーが調査された:(1)細胞核数および核形態を評価するためのクロマチン(細胞数データに関連する特徴に関連する)、(2)機能的インフラマソーム応答に必要なIL-1β発現のプライミングと誘導を評価するためのIL-1β(IL1b-pos-/IL1bPos 関連の特徴に関連する)、(3)プライミングに対する反応を評価するためのTNF-α(TNFa-pos-/TNFaPos関連の機能に関連する)、および最後に(4)インフラマソームの集合とインフラマソームのスペック形成を評価するためのPYCARD(Apoptosis-associated speck-likeprotein containing a CARD:CARD含有アポトーシス関連の斑点状タンパク質)(Activationrate/activCell 関連の機能に関連する)。
【0138】
次に、サンプルは自動顕微鏡を使用して画像化され、得られた画像は自動画像分析ワークフローを使用して分析される。図3は、細胞の播種からプライミング、活性化、アッセイマーカーの検出といった様々な段階を経て、細胞を固定するまでのアッセイワークフローの概略図を示す。
【0139】
アッセイリードアウトコア(assay readout core)は、記載されている免疫細胞化学マーカーのハイコンテント解析(HCA)によって得られた細胞表現型記述子(phenotype descriptor)、サイトカイン解析(HTRFアッセイ)を含むがこれに限定されない生化学的リードアウト、および臨床データを含むがこれらに限定されない、さまざまなリードアウト値の統合に基づいて構築された。この段階では、さまざまなマーカーとリードアウトについてさまざまな実験的定量情報が収集された。分析の結果は、個々の特徴の集合によって表される定量的な英数字データセットに変換された (以下の表を参照)。
【0140】
特徴の収集は各実験条件(刺激)に対して実行され、統合されたデータは表現型シグネチャーを表す単一の数値ベクトル内に構築された。表現型シグネチャーは、臨床データ、既往歴データなどの他の情報と組み合わせることができる。各サンプルとその表現型シグネチャーはデータベースに保存される。
【0141】
記載された実験条件のそれぞれは、予想される表現分子表現型またはそれからの逸脱を引き起こす可能性がある。予想される表現型からの乖離は、アッセイ技術によって捕捉される病理学的表現型を表す。各患者について得られたベクトルは、患者または対照の表現型分子シグネチャー(pheno-molecualar signature)を表現する。ベースラインシグネチャー(baseline signature)は健康なドナーの集合によって構成され、このデータセットは検査されたすべてのサンプルが参照されるベースラインを表す。データ構築後、ベクトルのすべての特徴について統計分析が行われ、調査されたすべての実験条件についての群ごとの比較の差の有意性が評価された。
【0142】
次に、すべての表現型分子ベクトル(pheno-molecular vector)が機械学習/人工知能アルゴリズムを使用して分析され、最終的にサンプルが健康であるか病気であるかに分類された。次いで、各検査サンプルの結果をベースライン対照と比較し、計算手法により、本明細書に記載のようにサンプルを健康クラスまたは疾患クラスのいずれかに割り当てた。
【0143】
データベースには、患者サンプルに加えて、サンプル対照、つまり病気に罹患していない個人および/または異なる疾患に罹患している個人に関する情報も保存される。これらのサンプルは参照セットまたはベースラインを構成する。専用の機械学習アルゴリズムを使用して、各サンプルが分析され、a)対照、b)アルツハイマー病 (または検査中のその他の認知症様相)、またはc)その他の疾患に分類された。
【0144】
分析例
【0145】
本発明者らは、分析されたPBMC調製物の上清分析から得られた特徴とともに、顕微鏡画像を入力データとして使用した。
【0146】
顕微鏡画像から抽出された特徴は次のように得られた:デジタル画像は、特定の画像分析ソフトウェアによって分析された。対象となるオブジェクトが画像内でセグメント化された。個別の関心領域(ROI)は、定量的パラメーター(すなわち、強度ベース、形態ベース、オブジェクト数ベース、テクスチャベース、およびエリアベース) を抽出することによって定量化され、主要な特徴プールが生成された。定量的な二次特徴は、必要に応じて2つ以上の一次特徴を組み合わせることによって得られた。
【0147】
抽出された特徴のサブセットが選択され、表現型シグネチャーのベースとなるベクトルが構成された。各治療群において、Kruskal-WallisおよびGames-Howell事後検定を使用して、統計的差異 (p値<0.05)について特徴を評価した。これらの検定はノンパラメトリック統計検定であり、一般に3つ以上の独立した群の中央値間の差異の証拠を提供するために使用される。選択された特徴は、群間で有意な統計的差異を示し、患者と対照のPBMCが各治療に対して異なる反応を示すことを示す。
【0148】
本明細書で特定され分析された表現型マーカー/表現型シグネチャーは以下のとおり:
【0149】
【表3】
【0150】
測定および同定は、当該技術分野で記載されているような、例えば、特に参照により組み込まれるPCT/EP2021/052306に開示されているようなアッセイを使用して実施された。
【0151】
図1に示されるとおり、本明細書に記載の特徴のサブセットは、AD患者に関して統計的に異なることが観察された(ボックスA)一方、別の特徴のセットでは、健康なサンプルに関して統計的に有意である(ボックスB)。これにより、健康とAD/MCI間、および/またはAD対MCI間を識別する特徴に基づいて、各治療群のPBMCの反応を特定しモニタリングすることが可能になる。
したがって、特に好ましいマーカーは以下のとおり:
【表4】
【0152】
本発明者らのアプローチを検証するために、特定の疾患表現型、すなわちアルツハイマー病(AD)を有するPBMCを分析した。30名のAD患者、20名の軽度認知障害(MCI)患者(ADの兆候があるMCI群)、および35名の健康なドナーが含まれた。この方法では、サンプルサイズが限られている場合でも、未確認の患者からのサンプルを高い精度で正しいクラスに割り当てることに成功した。
【0153】
結果として得られたクラスターマップは、群のペアごとの比較(例えば、健常者対AD、健常者対MCI)に対して明確なp値シグネチャー(例えば、Games_Howell検定ベース) を提供した。結果として得られるさまざまな群の分類により、病理学的サンプルと健康なサンプル内のさまざまな特徴間の違いが明らかになり、各サンプルおよび状態に固有のフィンガープリント(表現型シグネチャー)が生成され、問題の関連疾患の診断を向上させることができる。この情報は、病気か健康かの診断を確立するために使用できる。
【0154】
本発明に関連して検討したAD/MCIコホートでは、3つの異なる患者クラス:1)健康、2)MCI_AD、3)AD、および4)ADではないMCI、が確立された。健康クラスは、認知障害の素質のないドナーに対応する。MCI_ADクラスは、アルツハイマー病の発症を伴う軽度の認知障害を持つドナーに対応する。ADクラスは、アルツハイマー病と診断されたドナーに対応する。
【0155】
サポートベクターマシンアルゴリズム(support vector machine algorithm)による機械学習ベースの分類では、患者ごとに4~12個の反復サンプルが検査された。したがって、サンプルの偏りを排除するために、発明者らは、各患者がデータセット内で同じ数の複製を有するように、複製について各患者のデータをランダムにサンプリングした。新しい患者の予測能力を評価するには、トレーニングおよび検査のアルゴリズムが学習段階でこれらの患者サンプルをまったく参照しないことが重要であるが、代わりに、予測可能性のための指標としてのみ使用される。したがって、本発明者らは、検証データセットを構成する各クラスから3名の患者を抽出した。残りのデータは、トレーニング検査データとして70:30の比率でランダムに分割した。
【0156】
ランダムな偶然によってアルゴリズムが「幸運を得る」ことを避けるために、本発明者らは20kフォールド(20k-fold)の検証データセットを準備した。これは、データセットが上記の方法でトレーニング、検査、検証のセットにランダムに20回分割され、堅牢性をチェックするために分類指標(classifier)によって評価されることを意味する。kフォールド(k-fold)検証により、収集された患者サンプルが所与の疾患クラスの代表的なサンプルとして構成されているかどうか、または疾患クラスを正確に予測する能力を向上させるためにさらに多くのサンプルが必要かどうかの不確実性を評価することを可能にした。得られた特徴セットは、分類指標(classifier)に対して高い信頼性を持って、所与のドナーがどの疾患カテゴリーに属するかを予測するための最も高い予測可能性を与える、本発明による特徴セットであった。
【0157】
さらに、本発明者らは、異なるkフォールド(k-fold)データセットにおいてそれらがどの程度の頻度で堅牢性のある特徴として選択されるかに基づいて、特徴の堅牢性をランク付けした。より頻繁に発生する特徴ほど、堅牢性のランクが高くなる。その結果、図2に示すとおり、前述の方法を使用して、アルツハイマー病、軽度認知障害(MCI)患者、および健常者を分類した。このアプローチの中で、本発明は、所与のPBMCサンプルが所与の疾患に関連する確率を示唆する。したがって、図2は、本明細書に記載されるように、所与のサンプルが健康な集団または観察中の疾患表現型(ADおよび/またはMCI)のいずれかに属すると予測する混同行列を示す。
【0158】
図面の用語
p-value p値
Healthy 健康
True labels 真の標識
Predicted labels 予測された標識
PBMC seeding in 384-well assay plate 384 ウェルアッセイプレートへのPBMCの播種
PBMC priming via activation of TLR2/TLR4pathway TLR2/TLR4 経路の活性化によるPBMCプライミング
Inflammasome activation via defined andvalidated activators定義されおよび検証された活性化因子によるインフラマソームの活性化
Supernatant collection for homogenousreadout analysis 均一なリードアウト分析のための上清の収集
Readouts リードアウト
soluble factors 可溶性因子
single-plex シングルプレックス
PBMC fixation and staining for imaging andhigh content analysis 画像処理およびハイコンテントアナリシスのためのPBMCの固定および染色
image-based 画像ベースの
multi-parametric マルチパラメトリック
PBMC seeding PBMC播種
LPS priming LPSプライミング
Inflammasome activation インフラマソーム活性化
Supernatant collection 上清収集
Fixation and staining 固定と染色
Untreated 未処理
Primed プライミングされた
Primed & activated プライミングされおよび活性化された
Cytokine assay サイトカインアッセイ
TNFa release TNFa 放出
IL1b release IL1b放出
activated 活性化された
Automated image analysis 自動画像解析
Cell type classification 細胞の種類の分類
図1
図2
図3-1】
図3-2】
【国際調査報告】