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▶ ウブロ ソシエテ アノニム, ジュネーブの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】複合組成を有する合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 28/00 20060101AFI20240730BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240730BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20240730BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C22C28/00 A
C22C30/00
B22F3/14 101B
B22F9/04 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506454
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2022070897
(87)【国際公開番号】W WO2023011980
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】CH070124/2021
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513114803
【氏名又は名称】ウブロ ソシエテ アノニム, ジュネーブ
【氏名又は名称原語表記】HUBLOT S.A., GENEVE
【住所又は居所原語表記】30, Rue du Rhone, CH-1204 Geneve
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブテ, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】レカルカティ, セバスチャン
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017BA07
4K017BA08
4K017BA10
4K017BB08
4K017BB09
4K017BB12
4K017DA09
4K017EA03
4K018AA40
4K018AB01
4K018AB02
4K018AB03
4K018AB04
4K018BA20
4K018EA21
4K018KA25
(57)【要約】
【解決手段】
合金であって、30原子%以上の割合のスカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びまたはバナジウム(V)、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びまたは窒化物を含み、チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、及びまたは炭化物から選択される元素の少なくとも2つは、15原子%以上の割合を示す、合金。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金であって、30原子%以上の割合のスカンジウム(Sc)と、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びまたはバナジウム(V)、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びまたは窒化物を含み、チタン、 ジルコニウム、バナジウム、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びまたは窒化物から選択される元素の少なくとも2つは、15原子%以上の割合を示す、
合金。
【請求項2】
アルミニウム(Al)を含まない、及びまたはリチウム(Li)を含まない、
請求項1に記載の合金。
【請求項3】
Sc30Ti2520Zr25
Sc60Ti2020
Sc33Ti3333
Sc40Ti2020Zr20
Sc33Ti33Zr33
Sc60Zr20Ti20
から選択される、
請求項2に記載の合金。
【請求項4】
マグネシウム(Mg)及びまたはマンガン(Mn)及びまたはイットリウム(Y)及びまたは希土類金属を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の合金。
【請求項5】
スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びバナジウム(V)以外の前記合金のあらゆる元素は、5原子%以下の、または3.5原子%以下の、または2原子%以下の、原子比を示す、及びまたは
スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びバナジウム(V)の元素の全割合は、70原子%以上、または80原子%以上、または90原子%以上である、及びまたは
スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)及びまたは希土類金属の元素の全割合は、90原子%以上、または95原子%以上である、
請求項4に記載の合金。
【請求項6】
4以上13元素以下の、合金からなる、
請求項4または5に記載の合金。
【請求項7】
30原子%以上70原子%以下の、または40原子%以上70原子%以下の、または50原子%以上65原子%以下の、または30原子%以上60原子%以下の、または30原子%以上47原子%以下の、または30原子%以上45原子%以下の、スカンジウムと、
5原子%以上35原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、チタンと、
0原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、または10原子%以上20原子%以下の、ジルコニウムと、
0原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、または10原子%以上20原子%以下の、バナジウムと、
を含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の合金。
【請求項8】
最大原子パーセンテージを示す前記合金の元素は、スカンジウムである、
請求項1から7のいずれか一項に記載の合金。
【請求項9】
成形後であって、あらゆるその他の処理の前に測定される、4.5g.cm-3以下の、または4.2g.cm-3以下の、または4g.cm-3以下の、密度を示す、
請求項1から8のいずれか一項に記載の合金。
【請求項10】
成形後であって、あらゆるその他の処理の前に測定される、400Hv以上の、または500Hv以上の、または600Hv以上の硬度を示す、
請求項1から9のいずれか一項に記載の合金。
【請求項11】
スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びまたはバナジウム(V)、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びまたは窒化物、そして任意でマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)及びまたは希土類金属からなる、
請求項1から10のいずれか一項に記載の合金。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の合金を含む、または請求項1から11のいずれか一項に記載の合金で全体が形成される、小型時計部品。
【請求項13】
小型時計ケース、ベゼル、文字盤、ストラップリンク、ストラップ、またはストラップ用留め金である、
請求項12に記載の小型時計部品。
【請求項14】
請求項12または13に記載の小型時計部品を含む、または請求項1から11のいずれか一項に記載の合金を含む、時計、特に小型時計、または宝飾品。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の合金を含む、前記航空部門、前記自動車部門、輸送手段、測定機器、探査ロボット、兵器、またはエネルギー生産または貯蔵装置の専用の部品。
【請求項16】
請求項1から11のいずれか一項に記載の合金で全体が形成された、またはその全体厚さにわたり実質的に延長する請求項1から11のいずれか一項に記載の合金を含むバルクパーツである、
請求項12、13、または15に記載の部品。
【請求項17】
合金粉末を形成するため、純元素の粉末を破砕する、
前記合金粉末を冷間成形する、
段階を含む、
請求項1から11のいずれか一項に記載の合金、または請求項12、13、または15に記載の部品の、製造方法。
【請求項18】
前記成形段階は、放電プラズマ焼結段階を含む、請求項17に記載の合金または部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば小型時計部品用の合金、及び当該合金を含む当該小型時計部品、特に小型時計ケースといった、小型時計のケーシング用に設けられた小型時計部品に関する。本発明はまた、輸送手段の、または当該合金を含むあらゆる機器の、他のあらゆる部品に関する。本発明はまた、当該合金を含む、小型時計といった時計、または宝飾品に関する。最後に、本発明は、当該合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型時計ケースは、良好な耐衝撃性と、審美的外観を損傷する傷への耐性を提供するために、非常に硬くなければならない。最先端技術において、小型時計ケースは、一般的に、金属素材または金属合金製である。しかしながら、快適な装着のため、小型時計ケースが軽量であることが非常に有利である。硬質金属は、必然的に重く、軽金属は、必然的に柔らかいため、硬度と軽量という2つの性質は、一般的に両立不能である。小型時計ケースに加えて、硬く且つ軽い素材は、その他の多くの小型時計部品にとっても有利である。このため、既存の解決策は、良好な硬度/密度の妥協に到達することを可能にしない点で、不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このため、本発明の目的は、硬く且つ軽い小型時計部品を形成するための解決策を見つけることである。
【0004】
もちろん、このような解決策は、魅力的な審美的外観、摩耗に対する高い耐性、特に酸化及び腐食への耐性、非磁性などの、小型時計部品に求められる、他の有利な、または必須の、性質を有利に実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明は、合金であって、30原子%以上の割合のスカンジウム(Sc)と、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びまたはバナジウム(V)、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びまたは窒化物を含み、チタン、ジルコニウム、バナジウム、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びまたは窒化物から選択される前記元素の少なくとも2つは、15原子%以上の割合を示す、合金に関する。
【0006】
有利には、合金は、アルミニウム(Al)を含まない、及びまたはリチウム(Li)を含まない。
【0007】
合金は、
Sc30Ti2520Zr25
Sc60Ti2020
Sc33Ti3333
Sc40Ti2020Zr20
Sc33Ti33Zr33
Sc60Zr20Ti20
から選択されてもよい。
【0008】
加えて、合金は、マグネシウム(Mg)及びまたはマンガン(Mn)及びまたはイットリウム(Y)及びまたは希土類金属を含むことができる。
【0009】
合金の実施形態によれば、
スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びバナジウム(V)以外の前記合金のあらゆる元素は、5原子%以下の、または3.5原子%以下の、または2原子%以下の、原子比を示す、及びまたは
スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びバナジウム(V)の前記元素の前記全割合は、70原子%以上、または80原子%以上、または90原子%以上である、及びまたは
スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)及びまたは希土類金属の前記元素の前記全割合は、90原子%以上、または95原子%以上である。
【0010】
合金は4以上13元素以下の合金からなってもよい。
【0011】
合金は、
30原子%以上70原子%以下の、または40原子%以上70原子%以下の、または50原子%以上65原子%以下の、または30原子%以上60原子%以下の、または30原子%以上47原子%以下の、または30原子%以上45原子%以下の、スカンジウムと、
5原子%以上35原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、チタンと、
0原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、または10原子%以上20原子%以下の、ジルコニウムと、
0原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、または10原子%以上20原子%以下の、バナジウムと、
を含んでもよい。
【0012】
スカンジウムは、前記最大原子パーセンテージを示す前記合金の前記元素であってよい。
【0013】
合金は、成形後であって、あらゆるその他の処理の前に測定される、4.5g.cm-3以下の、または4.2g.cm-3以下の、または4g.cm-3以下の、密度を示してもよい。
【0014】
合金は、成形後であって、あらゆるその他の処理の前に測定される、400Hv以上の、または500Hv以上の、または600Hv以上の硬度を示してもよい。
【0015】
合金は、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム (Zr)及びまたはバナジウム(V)、及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びまたは窒化物、そして任意でマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)及びまたは希土類金属からなってもよい。
【0016】
本発明はまた、上述の合金を含む、または上述の合金で全体が形成される、小型時計部品に関する。
【0017】
小型時計部品は、小型時計ケース、ベゼル、文字盤、ストラップリンク、ストラップ、またはストラップ用留め金であってもよい。
【0018】
本発明はまた、上述の小型時計部品を含む、または上述の合金を含む、時計、特に小型時計、または宝飾品に関する。
【0019】
本発明はまた、上述の合金を含む、前記航空部門、前記自動車部門、輸送手段、測定機器、探査ロボット、兵器、またはエネルギー生産または貯蔵装置の専用の部品に関する。
【0020】
部品は、上述の合金で全体が形成されてもよく、またはその全体厚さにわたり実質的に延長する上述の合金を含むバルクパーツであってもよい。
【0021】
本発明はまた、
合金粉末を形成するため、純元素の粉末を破砕する、
前記合金粉末を冷間成形する、
段階を含む、上述の合金または上述の部品の製造方法に関する。
【0022】
前記成形段階は、放電プラズマ焼結段階を含んでもよい。
【0023】
本発明の目的、特徴、及び利点は、暗示的制限なくして与えられる特定の実施形態についての以下の説明において、詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、低密度と高硬度の両方を有する金属合金の製造と使用に基づく。
【0025】
この目的のため、本発明は、複合組成を有する多相合金の定義に基づく。複合高濃度合金のコンセプトは、特に高エントロピー合金(HEA)に由来する。高エントロピー合金は、等モルに近い割合の、単一の固溶体を形成する、少なくとも5つの元素からなってもよい。
【0026】
より一般的には、少なくとも4つの元素、または少なくとも5つの元素の混合が、単純な金属合金の通常の自然の性質とは程遠い、特筆すべき性質を達成可能な、組立体を形成する。複合高濃度合金の定義は、3つまたは4つの元素で構成される合金、多相合金を含み、元素の1つの濃度が有利には35原子%を超えることで、高エントロピー合金の定義を拡張する。
【0027】
本発明にかかる合金は、以下の、4つの主要元素を含む。スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zn)、及びバナジウム(V)及びまたはその酸化物、水素化物、ホウ化物、及びまたは炭化物。「主要元素」の用語は、これら元素が、合金に存在する最大割合の4つの元素であるという事実を意味すると理解される。好ましくは、これら4つの主要元素は、合金の少なくとも70原子%以上、または80原子%以上、または90原子%以上(パーセンテージは、このため原子パーセンテージである)を示す。
【0028】
本発明にかかる合金は、30原子%以上の割合のスカンジウムを含む。加えて、チタン、ジルコニウム、及びバナジウムの元素のうち少なくとも2つは、15原子%以上の割合を示す。
【0029】
各主要元素は、合金の有利な性質への寄与に参加する。例えば、スカンジウムは、軽量、色、及び機械的性質に寄与する。チタンは、硬度に寄与する。ジルコニウムは、酸化への耐性に寄与する。バナジウムは、硬度に寄与する。
【0030】
更に、これら4つの主要元素の組み合わせは、複合組成を有する多相合金を形成することを可能にする。組み合わせは、以下で説明するように、各元素の性質の単純な足し算を遙かに超えた、特筆すべき性質の合金を形成することを可能にする。当該合金を得るために、元素間の化学的適合性が特に良好であると発見された、元素の選択を行うことが必要であった。
【0031】
本発明の第一実施形態によれば、合金はこれら4つの主要元素からなる。当該第一実施形態の合金のうち、以下の合金を特定することができる(指数は、各元素の原子パーセンテージを示す)。
- Sc30Ti2520Zr25
- Sc40Ti2020Zr20
【0032】
単純化した代替形態において、実施形態は、ジルコニウムを含まなくてもよい、またはバナジウムを含まなくてもよい。例として、本発明の文脈で、以下の合金を使用することができる。
- Sc60Ti2020
- Sc33Ti3333
- Sc33Zr33Ti33
- Sc60Zr20Ti20
【0033】
有利には、合金は、アルミニウム(Al)もリチウム(Li)も含まない。換言すれば、合金には、アルミニウム及びまたはリチウムの兆しは検出できない。アルミニウムはスカンジウムと反応性が非常に高いため、合金を弱めかねない金属間化合物を形成する。リチウムは、高い揮発性を有し、このため加工を複雑にし、金属間化合物を形成することで合金を弱める。
【0034】
上述のように、合金は、スカンジウム、チタン、ジルコニウム、及びバナジウムの元素の、酸化物及びまたは窒化物及びまたは水素化物及びまたはホウ化物及びまたは炭化物の1つを含んでもよい。
【0035】
本発明の第二実施形態によれば、合金は、少なくとも1つの他の「二次」元素を含み、少なくとも1つの二次元素は、マグネシウム(Mg)及びまたはマンガン(Mn)及びまたはイットリウム(Y)及びまたは希土類金属であってもよい。
【0036】
有利には、あらゆる二次元素は、5原子%以下の、または3.5原子%以下の、または2原子%以下の、原子比で、存在する。
【0037】
また有利には、スカンジウム (Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)及びまたは希土類金属の元素の全割合は、90原子%以上、または95原子%以上である。
【0038】
最後に、本発明にかかる合金は、3つ、4つ、または5つの元素を含んでもよい。代替形態として、合金は、5元素より多い、特に6から13の間の元素を含んでもよい。
【0039】
このため、合金は、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びまたはバナジウム(V)、そして任意でマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)及びまたは希土類金属からなってもよい。
【0040】
有利には、全ての実施形態において、4つの主要元素のそれぞれは、以下の原子比で存在する。
- 30原子%以上70原子%以下の、または40原子%以上70原子%以下の、または50原子%以上65原子%以下の、または30原子%以上60原子%以下の、または30原子%以上47原子%以下の、または30原子%以上45原子%以下の、スカンジウム、及び
- 5原子%以上35原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、チタン、及び
- 0原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、または10原子%以上20原子%以下の、ジルコニウム、及び
- 0原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上30原子%以下の、または5原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上25原子%以下の、または15原子%以上20原子%以下の、または10原子%以上20原子%以下の、バナジウム。
【0041】
有利には、本発明の全ての実施形態において、スカンジウムが最大の原子パーセンテージで存在する。
【0042】
本発明にかかるこのような合金は、低密度と高硬度を達成可能であるようにみえる。有利には、合金の元素は、得られた合金が、以下に説明する成形段階後であり、あらゆる任意の処理の前に測定される、4.5g.cm-3以下の、または4.2g.cm-3以下の、または4g.cm-3以下の、密度と、400Hv以上の、または500Hv以上の、または600Hv以上の硬度を示すよう、選択される。本発明にかかる合金は、900℃より高い、または1000℃より高い温度に抵抗可能な、高い微細構造安定性を示すことも特筆すべきである。
【0043】
有利には、合金は、完全に金属合金である。本発明は、完全に錆びず、非磁性である、アルミニウムよりも軽く硬化鋼よりも硬い、合金を得ることを可能にするようにみえる。
【0044】
当該合金は、単純な、単一相、または二相、結晶質、特にナノ結晶質、の構造を有してもよい。代替形態において、合金は、非結晶質構造を示してもよい。
【0045】
本発明はまた、小型時計部品に関し、当該小型時計部品は、上述の合金を含む。一実施形態によれば、小型時計部品は、本発明にかかる合金で全体が形成されてもよい。代替形態において、当該部品の一部のみが、当該合金製であってもよい。
【0046】
一実施形態によれば、小型時計部品は、小型時計ケース、ベゼル、文字盤、ストラップリンク、ストラップ(ブレスレット)、ストラップ用留め金、等であってもよい。
【0047】
本発明はまた、上述の合金を含む、または上述の小型時計部品を含む、時計または宝飾品類に関する。本発明の一実施形態にかかる時計は、腕時計といった、小型時計であってもよい。
【0048】
本発明は、時計製造分野のために、また宝飾品分野のために、設計された。しかしながら、本発明にかかる合金は、有利には、その多数の顕著な性質の結果、他の分野に使用されてもよい。このため、当該合金は、例えば、航空宇宙部門、航空部門、または自動車部門、より一般的にはあらゆる輸送業界において、及びエネルギー及び兵器分野において用いられてもよい。このため、本発明はまた、全部または一部が本発明の合金で形成された、航空宇宙部門、航空部門、自動車部門、輸送手段、例えば測定用ロボット及びまたは宇宙探査ロボットといった測定機器、エネルギー生産または貯蔵装置、等の専用の部品に関する。当該合金を含む部品は、有利には、全体が合金からなる、即ち合金はバルク部品を形成する。合金は、部品の全体厚さにわたり延長する。代替形態において、このような部品は、主として当該合金で形成されてもよく、合金は特にそのコアまで延長する。当該合金は、任意で、特定の色または特定の外観または特定の表面保護を与えるために、表面コーティングにより被覆されてもよい。
【0049】
最後に、本発明はまた、上述の合金の製造方法に関する。高エントロピー合金の製造方法と、多数の元素を含む合金の製造方法は、既に存在する。
【0050】
本発明にかかる合金において、元素は、液相状態で高い反応性を示す。例えば、溶融スカンジウムは、液相状態では非常に取り扱いが難しい。液体チタンは、大気酸素と高い反応性を示し、弱体化酸化物を形成する。
【0051】
このため、本発明の実施形態によれば、製造方法は、機械的合金化段階を含む。
【0052】
より詳細には、方法の第一段階において、製造される合金の、粉体形状の純元素は、高エネルギー遊星ミル内に入れられる。ミルのビーズと純元素の粉末との間の衝撃により生じるエネルギーは、以下の、2つの効果を有する。
- 様々な元素を接触させることを可能にする、第一機械的粉砕効果。延性粒子は、固形粒子を包囲するよう、変形する。
- 元素の固体拡散を活性化し、合金の溶解を可能にする、衝撃で生じる熱である、第二効果。
所定の破砕時間後、結果は、均一組成を有する、新たな合金粉末である。ちなみに、破砕は、真空下で、または不活性ガスの存在下で、実施される。
【0053】
続いて、合金粉末は、第二段階で、成形される。
【0054】
合金の成形に用いられる技術は、放電プラズマ焼結である。放電プラズマ焼結技術は、粉末へのパルス電流と圧力の同時適用からなる。放電プラズマ焼結は、低い焼結温度と、圧力下に維持する短縮された時間を用いることを可能にし、このため迅速な焼結を得ることを可能にする。当該技術は、その粒子の寸法がナノメートル寸法範囲である、きめ細かい微細構造を得ることを可能にする。
【0055】
ちなみに、当該第二段階は、あらゆる蒸発のリスクを避けるために、低い焼結温度と、あらゆる合金の分解のリスクを避けるために、短い継続時間を用いる。
【0056】
高密度化の後、第二段階で得られた焼結形状は、第三段階において、あらゆる従来の処理に曝されてもよい。例えば、焼結形状は、従来通り機械加工されてもよい。

【国際調査報告】