(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】トライボロジー用途向けポリ(メタ)アクリルイミド系ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/24 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
C08L33/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024506695
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2022071920
(87)【国際公開番号】W WO2023012268
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ヴォルホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ リヒター
(72)【発明者】
【氏名】ハートムート エルゼサー
(72)【発明者】
【氏名】イェルク クラフト
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE033
4J002BB022
4J002BB032
4J002BB033
4J002BB112
4J002BB162
4J002BD032
4J002BD102
4J002BD152
4J002BE022
4J002BG102
4J002BG121
4J002CF062
4J002CF072
4J002CH023
4J002CH072
4J002CH092
4J002CL032
4J002CL052
4J002CL062
4J002CM042
4J002CN012
4J002CN032
4J002CP033
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA066
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA096
4J002DC006
4J002DE096
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE236
4J002DG026
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DK006
4J002DL006
4J002EC067
4J002EF057
4J002EH037
4J002EH077
4J002EP017
4J002FA042
4J002FA046
4J002FA066
4J002FA082
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD060
4J002FD143
4J002FD173
4J002FD177
4J002GM00
4J002GT00
(57)【要約】
本発明は、イミド化ポリアルキル(メタ)アクリレート系、特にイミド化ポリメチルメタクリレート系のポリマー組成物であって、ポリマーマトリックスAと、特に有機または無機の固体硬化性粒子から選択される少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bとを含む、ポリマー組成物に関する。本発明のポリマー組成物およびそれから製造された成形物品は、高温下でも低摩擦係数および高耐摩耗性を示し、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの高性能材料の代替として、トライボロジー用途に有利に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを含むポリマーマトリックスAと、有機粒状フィラーB1、無機粒状フィラーB2および強化繊維B3から選択される少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bとを含む、トライボロジー用途のポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマー組成物の総重量に対して、それぞれ以下:
50~97重量%、好ましくは60~95重量%の前記ポリマーマトリックスA;
3~30重量%、好ましくは5~25重量%の前記少なくとも1つのトライボロジー添加剤B;
0~5重量%、好ましくは0~3重量%の少なくとも1つの潤滑剤C;
0~20重量%、好ましくは0~10重量%の、1つ以上のさらなる成分D
を含む、請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスAが、前記少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを、前記ポリマーマトリックスAに対して少なくとも50重量%含み、前記ポリ(メタ)アクリルイミドが、式(I)の単位を含む、請求項1または2記載のポリマー組成物。
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は、互いに独立して、水素またはC
1~C
6アルキル、好ましくは水素またはメチルであり;
R
3は、水素、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、またはC
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよい]
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドが、式(I)の単位を、前記ポリ(メタ)アクリルイミド全体に対して少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも60重量%含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【化2】
[式中、
R
1およびR
2は、互いに独立して、水素またはC
1~C
6アルキル、好ましくは水素またはメチルであり;
R
3は、水素、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、またはC
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよい]
【請求項5】
前記少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドが、以下:
i)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~95重量%、好ましくは20~92重量%の式Iの単位;
【化3】
ii)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~70重量%、好ましくは2~60重量%の式IIの単位;
【化4】
iii)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~20重量%、好ましくは1~12重量%の式IIIの単位;
【化5】
および
iv)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して0~15重量%、好ましくは0~10重量%の式IVの単位を含み、
【化6】
ここで、
R
1およびR
2は、互いに独立して、水素またはC
1~C
6アルキル、好ましくは水素またはメチルであり;
R
3は、水素、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、またはC
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよく、
R
4は、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、またはC
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよい、請求項1から4までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項6】
R
1、R
2、R
3およびR
4がメチルである、請求項3から5までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bが、少なくとも1つの有機粒状フィラーB1を含み、前記有機粒状フィラーB1が、1~3の範囲のL/D比および1~100μmの範囲の粒径を有するポリマー粒子から選択され、前記ポリマー粒子が、ポリフェニレンスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシアルカンポリマー、テトラフルオロエチレン/エチレンコポリマー;および高分子量ポリオレフィンから選択されるポリマーから実質的になる、請求項1から6までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記トライボロジー添加剤Bが、ポリテトラフルオロエチレン粒子、グラファイト、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭酸カルシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、二酸化セリウム、酸化アルミニウム、銅粒子、銀粒子、炭素繊維、ガラス繊維、およびアラミド繊維から選択される、請求項1から7までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記ポリマー組成物が、シリコーン油から選択される少なくとも1つの液体潤滑剤Cを、前記ポリマー組成物全体に対して0.5~5重量%含む、請求項1から8までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記ポリマー組成物が、架橋剤、熱安定剤、UV吸収剤、および耐衝撃性改良剤から選択される少なくとも1つのさらなる成分Dを含む、請求項1から9までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記ポリマーマトリックスAが、ISO 306(B50)に準拠して求められた、少なくとも130℃、好ましくは少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも170℃のビカット軟化温度を示す、請求項1から10までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載のポリマー組成物の製造方法であって、前記ポリマーマトリックスAと、前記少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bと、任意にさらなる成分Cおよび/またはDとを混合することを含む、方法。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項記載のポリマー組成物から製造された成形物品。
【請求項14】
前記成形物品が、ポンプケーシング、ポンプ部品、変速機制御装置、チェーンガイド、スライドベアリング、ボールベアリング、スライディングシュー、ギアホイール、ギアドライブ、ロール、ピストン、ピストンリング、ピストンロッド、クラッチ、ブレーキ、シール、膜、継手、ブッシュ、ケーシング、バルブケーシングもしくはバルブ部品の中で、またはそれらのいずれかの形態で利用される、請求項13記載の成形物品。
【請求項15】
請求項1から11までのいずれか1項記載のポリマー組成物からの、好ましくは射出成形または押出成形による、成形物品の製造方法。
【請求項16】
放射線、好ましくはベータ線、ガンマ線、電子線、X線およびUV/Vis線から選択される放射線への前記ポリマー組成物の曝露による少なくとも1つの架橋ステップを包含する、請求項15記載の成形物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド化ポリ(メタ)アクリレート系、特にイミド化ポリメチルメタクリレート系のポリマー組成物であって、ポリマーマトリックスAと、特に有機または無機の固体硬化性粒子から選択される少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bとを含む、ポリマー組成物に関する。本発明のポリマー組成物およびそれから製造された成形物品は、高温下でも低摩擦係数および高耐摩耗性を示し、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの高性能材料の代替として、トライボロジー用途に有利に使用することができる。
【0002】
さらに、本発明は、改良されたトライボロジー特性を有する本発明のポリマー組成物の製造方法、およびそれから製造された成形物品を対象とする。したがって、本発明の成形物品は、成形物品が任意の可動部分を含むかまたは金属物品やプラスチック物品などの他の物品と可動接触するトライボロジー用途に使用することができる。例えば、成形物品は、輸送および移動分野、ならびに工業用途に、例えばポンプ部品、チェーンガイド、スライドベアリング、ボールベアリング、スライディングシュー、ギアホイール、ロール、ピストン、ピストンリングなどに利用することができる。
【0003】
一般に、トライボロジーとは、摩擦、潤滑および摩耗の科学を指し、典型的には、トライボロジー用途とは、摩擦、潤滑および摩耗の原理の基礎となる相対運動する相互作用面を含むシステムを指す。トライボロジー用途は、車両、機械および発電や輸送のためのその他の機器など、機械工学の多くの分野で重要である。
【0004】
近年、トライボロジー用途において、金属の代わりにプラスチックを使用することがますます重要になってきている。金属製ワークピースと比較して、熱可塑性プラスチック製ワークピースは、低摩耗性、良好な減衰挙動および騒音低減、軽量化ゆえの軽量構造、耐腐食性、良好な緊急走行特性、良好な始動挙動、外部潤滑の不要性、メンテナンスからの解放、より高い形状自由度、経済的な生産性など、いくつかの利点を提供する。トライボロジー用途に適したプラスチック部品やワークピースには、低摩耗率や低摩擦係数など、非常に優れたトライボロジー特性を有する特定のポリマー組成物が必要である。
【0005】
先行技術には、プラスチックやプラスチック複合材料をベースとする様々な耐摩耗性部品やワークピースが記載されている。このような部品は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアリールスルホン(ポリスルホンPSU、ポリエーテルスルホンPESU、ポリフェニレンスルホンPPSUを含む)、ポリエーテルケトン(例えば、ポリエーテルエーテルケトンPEEK)、ポリエーテルイミドなどの高性能プラスチック、およびその他の低耐熱性の熱可塑性材料、例えば、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスチレンコポリマー、および様々なフィラーから製造されることが多い。このようなトライボロジー改質ポリマー材料は、例えば独国特許出願公開第10329228号明細書、米国特許出願公開第2013/0178565号明細書、米国特許出願公開第2005/0208313号明細書などの先行技術に広く記載されている。
【0006】
独国特許出願公開第19949239号明細書には、調理室用の引き出し装置が記載されており、この装置は、ボールベアリングまたはローラーベアリングによって案内されるレールを包含し、ベアリングのボールまたはローラーは、少なくともその表面では自己潤滑性材料で製造されている。例えば、適切な前記自己潤滑性材料は、金属、グラファイト複合材料、潤滑剤が埋め込まれたセラミック材料、または潤滑剤、例えば金属粉末、グラファイト粒子が埋め込まれた耐高温プラスチックである。例えば、ポリイミド(PI)、特にポリメタクリルイミド(PMI)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリテトラフルオロエチレンPTFEが耐高温性プラスチックとして挙げられている。
【0007】
改良されたトライボロジープラスチック材料を得るために、多くの場合、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイト、アラミド繊維、二硫化モリブデン、ならびに金属酸化物、窒化物および炭化物(例えば二酸化ケイ素、窒化ホウ素および窒化ケイ素)など、固体潤滑剤または硬化性フィラーとして知られる強化繊維または材料を用いた改良が使用される。一般に、このような硬化性フィラーの使用は、引張強度の低下など、機械的特性の著しい低下を引き起こすという欠点がある。
【0008】
トライボロジー特性を改良するための、ポリマー粒子、例えばポリテトラフルオロエチレンPTFEまたは超高分子量ポリエチレンPE-UHMW製の粉末材料を含むポリマー組成物が先行技術に記載されている。例えば、国際公開第2012/095214号および米国特許出願公開第2012/0114890号明細書には、ポリフェニレンスルホンPPSUおよびPTFEポリマー粒子を含む摩耗防止テープが記載されている。例えば、国際公開第2018/069838号には、PTFEなどのフルオロポリマーと高分子量ポリエチレンとの組み合わせであるトライボロジー向上剤系を含むポリオキシメチレンをベースとする耐摩耗性ポリマー組成物が記載されている。
【0009】
摩擦はしばしばトライボロジー部品の大幅な温度上昇を引き起こすため、トライボロジー用途に使用されるプラスチック材料の熱安定性も重要な課題である。材料効率やエネルギー効率を理由として、よりコンパクトな設計が求められる傾向にあるが、これらのアセンブリは、しばしば高荷重や高温に曝される。ここで、ポリメチルメタクリルイミド(PMMI)のようなポリ(メタ)アクリルイミドをベースとするプラスチックは、一般的に150℃超、好ましくは170℃超の高いガラス転移温度、高い使用温度、機械的特性、高い表面硬度、良好な加工性ゆえに有利である。
【0010】
ポリ(メタ)アクリルイミドは、イミド化ポリメチルメタクリレート(PMMA)のようなイミド化ポリ(メタ)アクリレートをベースとしており、透明性が高く、同時に特に耐熱変形性を有する熱可塑性樹脂の特定の種類である。この材料で製造された成形体は、他の高透明性熱可塑性樹脂、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)で製造された成形体よりも、長期間にわたって著しく高い温度に曝すことができる。これらの高性能熱可塑性樹脂は、例えばランプや光導体の被覆に使用される。ポリ(メタ)アクリルイミドの製造は公知であり、例えば英国特許第1078425号明細書、英国特許第1045229号明細書、米国特許第3627711号明細書または米国特許第4139685号明細書に開示されている。
【0011】
本発明の目的は、先行技術と比較して改良されたトライボロジー特性を有するポリマー組成物、特に約80℃以上の温度での改良されたトライボロジー特性を有するポリマー組成物を提供することである。特に、トライボロジーポリマー組成物は、低摩擦係数および低摩耗率、ならびに適切な機械的特性、例えば高い引張弾性率および引張強度、ならびに良好な光学的外観を示すべきである。さらに、前記ポリマー組成物からの任意の形状の物品の製造は、容易かつ安価であるべきである。
【0012】
発明の開示
ポリ(メタ)アクリルイミド系、特にポリメチルメタクリルイミド(PMMI)系のポリマーマトリックスを含み、かつ例えば固体硬化性粒子から選択される少なくとも1つのトライボロジー添加剤を含むポリマー組成物が、優れたトライボロジー特性、すなわち80~100℃のような高温下でも低摩擦係数および高耐摩耗性を示すことが驚くべきことに見出された。本発明のポリマー組成物およびそれから製造された成形物品は、ポリエーテルエーテルケトンPEEK系ポリマー材料(例えばVictrex(登録商標)triboグレード)などの標準的なトライボロジーポリマー系と比較して、さらに改良されたトライボロジー性能を示す。
【0013】
したがって、本発明は、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミド、好ましくは少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルアルキルイミド、特にポリメチルメタクリルイミド(PMMI)を含むポリマーマトリックスAと;有機粒状フィラーB1、無機粒状フィラーB2および強化繊維B3から選択される少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bとを含む、トライボロジー用途のポリマー組成物を対象とする。
【0014】
本発明のポリマー組成物は、改良されたトライボロジー特性、特に低摩擦係数および低摩耗率(すなわち低摩耗係数k)を有し、さらに良好な機械的安定性および熱安定性を有する。比較的多量のトライボロジー添加剤Bを含んでいても、本発明のポリマー組成物は、十分な引張強度、高い引張弾性率、高い表面硬度などの良好ないし優れた機械的特性を示す。さらに、本発明のポリマー組成物は、高いビカット温度などのより高い温度安定性を提供し、その結果、いくつかの標準的なトライボロジーポリマー系と比較して、より高い使用温度を可能にする。このように、本発明のポリマー組成物およびそれから製造された成形物品は、熱負荷下でも、トライボロジー抵抗性と機械的特性とのバランスの改良を示す。
【0015】
これに伴い、PMMI系ポリマー材料は、特にプレーンベアリング、スラストワッシャー、ブッシュ、ギアホイールなどの乾式潤滑機械部品において、PEEK系材料など、一般的に知られているトライボロジーポリマー材料に代わる低コストの代替物となる可能性がある。
【0016】
もう1つの利点は、本発明のポリマー組成物が良好な加工安定性および良好な加工性を示し、射出成形や押出成形などの一般的に知られている熱可塑性成形プロセスで容易に加工できることである。したがって、優れたトライボロジー特性を有する、正確に成形された成形物品を提供することが可能である。このような物品は、好ましくは、例えば自動車や機械の可動部品を含むトライボロジー用途に使用することができる。
【0017】
本発明において「トライボロジー」または「トライボロジー用途」とは、摩擦、潤滑および摩耗の原理の基礎となる相対運動する相互作用面を含むシステムを指す。
【0018】
特に断りのない限り、%単位で与えられる量はすべて、重量%を意味する。
【0019】
発明の詳細な説明
特に、本発明は、以下のものを含む(好ましくはそれからなる)ポリマー組成物を対象とする:
A.少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを含むポリマーマトリックスAであって、好ましくは、該ポリマーマトリックスAに対して少なくとも50重量%のポリメチルメタクリルイミド(PMMI)を含む、ポリマーマトリックスA;
B.有機粒状フィラーB1、無機粒状フィラーB2および強化繊維B3から選択される少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bであって、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、炭素材料(例えば、グラファイト、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブCNT)、二硫化モリブデン(MoS2)、窒化ケイ素(Si3N4)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B4C)、または金属酸化物(例えば、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化セリウム)を含む、トライボロジー添加剤B;
C.任意に、少なくとも1つの潤滑剤Cであって、好ましくはシリコーン油から選択されるもの、
D.任意に、1つ以上のさらなる成分Dであって、好ましくは従来の助剤および添加剤から選択されるもの。
【0020】
好ましい実施形態において、本発明のポリマー組成物は、ポリマー組成物の総重量に対して、それぞれ以下のものを含む:
50~97重量%、好ましくは60~95重量%、より好ましくは60~93重量%のポリマーマトリックスA;
3~30重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは7~25重量%の少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bであって、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、炭素材料(例えば、グラファイト、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブCNT)、二硫化モリブデン(MoS2)、窒化ケイ素(Si3N4)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B4C)、および金属酸化物(例えば、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化セリウム)から選択されるもの;
0~5重量%、好ましくは0~3重量%の少なくとも1つの潤滑剤Cであって、好ましくはシリコーン油から選択されるもの;
0~20重量%、好ましくは0~10重量%の、1つ以上のさらなる成分Dであって、好ましくは従来の助剤および添加剤から選択されるもの。
【0021】
任意成分Cおよび/またはDが存在する場合、ポリマーマトリックスAの量は、各成分の合計が100重量%になるように調整することができる。
【0022】
好ましくは、本発明のポリマー組成物は、熱可塑性成形組成物であり、熱的に加工および成形することができる。好ましくは、ポリマーマトリックスAは、1つ以上の熱可塑性ポリ(メタ)アクリルイミドと、任意に1つ以上の追加の熱可塑性ポリマーとを含む(好ましくはそれからなる)熱可塑性マトリックスである。
【0023】
ポリマーマトリックスA
本発明のポリマー組成物のポリマーマトリックスAは、1つ以上のポリ(メタ)アクリルイミド、好ましくは少なくとも1つのポリアルキル(メタ)アクリルイミド、好ましくはポリアルキル(メタ)アクリルアルキルイミドを含む。好ましくは、ポリマーマトリックスAは、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを、ポリマーマトリックスA全体に対して少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも80重量%含む。
【0024】
特に、ポリマーマトリックスAは、ポリマー組成物の総重量に対して50~95重量%、好ましくは60~93重量%、より好ましくは70~92重量%の量で存在する。典型的には、1つ以上の任意成分、例えば成分Cおよび/またはDが存在する場合、ポリマーマトリックスの量を、それに応じて減らしてもよい。
【0025】
ポリマーマトリックスAは、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドと均質なブレンドを形成する1つ以上の他のポリマーを含むことができる。典型的には、ポリマーマトリックスAは、ポリマーマトリックスA全体に対して50~100重量%、好ましくは70~100重量%の1つ以上のポリ(メタ)アクリルイミドと、ポリマーマトリックスA全体に対して0~50重量%、好ましくは0~30重量%の、ポリ(メタ)アクリルイミドとブレンド、好ましくは均質なブレンドを形成する1つ以上の他のポリマーとを含む。例えば、ポリマーマトリックスA中の他のポリマーは、ポリアルキル(メタ)アクリレート(例えばポリメチル(メタ)アクリレート、より好ましくはポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、スチレン-アクリロニトリルコポリマー(SAN)および熱可塑性ポリエステルから選択することができる。
【0026】
総じて、本発明で使用されるポリ(メタ)アクリルイミド(ポリグルタルイミドとも呼ばれる)は、(メタ)アクリルポリマー、特にポリ(メタ)アクリルアルキルエステルのイミド化によって得られるポリマーを指し、典型的には、隣接する2つのカルボキシル基またはカルボキシレート基がアンモニアまたは第一級アミンと反応して環状イミドを形成する。典型的には、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドは、少なくとも部分的にイミド化されたポリ(メタ)アクリレート、好ましくは少なくとも部分的にイミド化されたポリアルキル(メタ)アクリレート、より好ましくは少なくとも部分的にイミド化されたポリメチルメタクリレートから選択される。好ましい実施形態において、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドは、ポリメチルメタクリルイミド(PMMI)である。典型的には、ポリメチルメタクリルイミド(PMMI)は、メチルアミンを用いたポリメチルメタクリレートのイミド化により製造される。
【0027】
本発明において「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート(例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなど)、アクリレート(例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレートなど)、およびそれらの混合物を包含することを意図している。
【0028】
本発明において「ポリアルキル(メタ)アクリレート」とは、アルキル(メタ)アクリレートモノマー単位を少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも50重量%含むポリマーを意味し、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと1つ以上の他の共重合可能なモノマーとのコポリマーを含む。
【0029】
本発明において、特に好ましいのは、C1~C18-アルキル(メタ)アクリレート、有利にはC1~C10-アルキル(メタ)アクリレート、特にC1~C4-アルキル(メタ)アクリレートである。好ましいアルキルメタクリレートには、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、およびエチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、さらにシクロアルキルメタクリレート(例えばシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートまたはエチルシクロヘキシルメタクリレート)が含まれる。メチルメタクリレートの使用が特に好ましい。好ましいアルキルアクリレートには、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert.-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、およびエチルヘキシルアクリレート、ならびにシクロアルキルアクリレート(例えばシクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレートまたはエチルシクロヘキシルアクリレート)が含まれる。
【0030】
典型的には、ポリ(メタ)アクリルイミドは、ポリ(メタ)アクリレートをアンモニアおよび/または第一級アミン、例えば第一級アルキル置換アミンと反応させることを含む、反応押出、例えば脱気押出を使用したポリ(メタ)アクリレートの少なくとも部分的なイミド化によって製造される。典型的には、このようなイミド化反応は、溶融物中または溶液中において高圧高温で行われる。前記イミド化反応プロセスは、例えば米国特許第2,146,209号明細書および米国特許第4,246,374号明細書に記載されている。
【0031】
好ましくは、ポリマーマトリックスAは、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを含み、より好ましくは、式Iの単位を含む少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを、ポリマーマトリックスAに対して少なくとも50重量%含む。
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は、互いに独立して、水素またはC
1~C
6アルキル、好ましくは水素またはメチルであり;
R
3は、水素、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、またはC
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよい]
【0032】
特に、式Iに記載の構造単位は、ポリ(メタ)アクリルイミド中に少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも60重量%の程度で存在する。
【0033】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドは、上記で定義された式(I)の単位を、ポリ(メタ)アクリルイミド全体に対して少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも60重量%含み、好ましくは、基R3は、C1~C18-アルキル、C5~C8-シクロアルキル、C6~C10-アリール、またはC6~C10-アリール-C1~C4-アルキルから選択され、前記基は、C1~C4-アルキル、C1~C4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよく;より好ましくは、基R3は、C1~C18-アルキルから選択され、最も好ましくは、R3は、メチルである。
【0034】
好ましくは、式(I)の単位において、R1およびR2は、それぞれメチルであり;R3は、C1~C18-アルキル、より好ましくはC1~C6-アルキル、さらにより好ましくはメチルである。したがって、特に好ましいポリ(メタ)アクリルイミドは、式(I)の単位として(N-メチル)ジメチルグルタルイミド単位を含む。
【0035】
製造の結果、ポリ(メタ)アクリルイミドは、式(I)の単位(すなわちグルタルイミド単位)だけでなく、(メタ)アクリル酸単位、(メタ)アクリル酸無水物単位、さらには残留(メタ)アクリル酸エステル単位を含むことがある。
【0036】
好ましい実施形態において、ポリマーマトリックスAは、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを、ポリマーマトリックスAに対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%含み、ポリ(メタ)アクリルイミドは、上記で定義された式(I)の単位を含み、好ましくは、上記で定義された式(I)の単位を、ポリ(メタ)アクリルイミド全体に対して少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも60重量%含む。
【0037】
さらなる好ましい実施形態において、少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドは、以下:
i)ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~95重量%、好ましくは20~92重量%、より好ましくは50~91重量%、また好ましくは50~95重量%の式I
【化2】
の単位;
ii)ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~70重量%、好ましくは2~60重量%、より好ましくは2~49重量%、また好ましくは2~48重量%の式II
【化3】
の単位;
iii)ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~20重量%、好ましくは1~12重量%の式III
【化4】
の単位;
iv)ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して0~15重量%、好ましくは0~10重量%、また好ましくは1~10重量%の式IV
【化5】
の単位を含み、ここで、
R
1およびR
2は、互いに独立して、水素またはC
1~C
6アルキル、好ましくは水素またはメチルであり;
R
3は、水素、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、またはC
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよく、
R
4は、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、C
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよい。
【0038】
より好ましくは、ポリ(メタ)アクリルイミドは、上記の単位(I)~(IV)から選択される繰返し単位から構築される(実質的にそれからなる)。
【0039】
好ましくは、式(I)~(IV)の単位において、R1およびR2は、それぞれメチルであり;R3は、C1~C18-アルキル、より好ましくはC1~C6-アルキル、さらにより好ましくはメチルであり、R4は、C1~C18-アルキル、より好ましくはC1~C6-アルキル、さらにより好ましくはメチルまたはエチルである。より好ましくは、R1、R2、R3およびR4は、メチルである。
【0040】
さらに、ポリ(メタ)アクリルイミドは、例えば、スチレン、マレイン酸またはその無水物、イタコン酸またはその無水物、ビニルピロリドン、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンから生じる繰返し単位をさらに含むことができる。総じて、環化不可能であるかまたは非常に大きな困難を伴ってのみ環化可能であるコモノマーの割合は、モノマーの重量に対して30重量%、好ましくは20重量%、特に好ましくは10重量%を超えるべきではない。
【0041】
好ましいポリ(メタ)アクリルイミドは、ポリメチルメタクリレートなどのポリ(メタ)アクリレートまたはそのコポリマーから、好ましくはアンモニアおよび/またはメチルアミンを用いて、(メタ)アクリル酸エステル基の1~95重量%、好ましくは20~92重量%、より好ましくは50~91重量%(イミド化度)がイミド化されるようにイミド化反応させることにより製造される。総じて、イミド化度は、NMR分光法によって決定することができる。
【0042】
典型的には、ポリ(メタ)アクリルイミドの重量平均分子量Mwは、50,000~200,000g/mol、好ましくは80,000~120,000g/molの範囲である。
【0043】
好ましくは、本発明により使用されるポリ(メタ)アクリルイミドは、ISO 1133に準拠して10kgの荷重を使用して260℃で求められた、20cm3/10min以下、好ましくは10cm3/10min以下、好ましくは0.2~20cm3/10min、また好ましくは1.5~20cm3/10minのメルトボリュームレイト(MVR)を示す。
【0044】
好ましくは、本発明により使用されるポリ(メタ)アクリルイミドは、ISO 306(B50)に準拠して50Nの荷重を使用して50℃/hの加熱速度を利用して求められた、少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも150℃、さらにより好ましくは少なくとも170℃のビカット軟化温度を示す。
【0045】
好ましい実施形態によれば、本発明のポリマー組成物のポリマーマトリックスAは、ISO 306(B50)に準拠して50Nの荷重を使用して50℃/hの加熱速度を利用して求められた、少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも150℃、さらにより好ましくは少なくとも170℃のビカット軟化温度を示す。
【0046】
トライボロジー添加剤B
本発明のポリマー組成物は、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bを含み、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bは、有機粒状フィラーB1、無機粒状フィラーB2および強化繊維B3から選択される。好ましくは、少なくともトライボロジー添加剤Bは、ポリマー組成物の総重量に対して5~30重量%、より好ましくは7~25重量%、より好ましくは8~20重量%の量で存在する。
【0047】
典型的には、トライボロジー添加剤Bは、いわゆる固体硬化性粒子および/または繊維から選択される固体状態のトライボロジー添加剤であり、これらの固体硬化性粒子および/または繊維は、固体分散相、例えば粒状固体分散相の形態で、ポリマーマトリックスA中に分散されており、好ましくはポリマーマトリックスA中に均質に分散されている。総じて、トライボロジー添加剤Bは、ポリマーマトリックスAと均質なブレンドを形成しない。
【0048】
典型的には、トライボロジー添加剤Bの固体硬化性粒子は、50nm~100μmの範囲の平均粒径を有する。
【0049】
好ましくは、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bは、固体ポリマー粒子などの有機粒状フィラーB1、および無機粒状フィラーB2から選択される。さらにより好ましくは、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bは、少なくとも1つの有機粒状フィラーB1を、任意に無機粒状フィラーB2および/または強化繊維B3と組み合わせて含む。より好ましくは、本発明のポリマー組成物は、少なくとも1つの有機粒状フィラーB1を唯一のトライボロジー添加剤Bとして含む。
【0050】
総じて、フィラーは、その粒子形状に基づき、特に厚さに対する長さの比(L/D比、形状係数、またはアスペクト比とも呼ばれる)により、様々な群に分けることができる。球状粒子または楕円状粒子を有する粒状フィラーは、総じて1~3の範囲のL/D比を有する。針状またはラメラ状フィラーは、ほとんどが3を超えるL/D比を有し、このL/D比は、ラメラ状粒子の場合には2つの粒子寸法に適用され、針状粒子の場合には任意の粒子寸法に適用される。L/D比が100を超える場合、繊維状フィラーまたは繊維という用語が総じて使用される。
【0051】
本発明において、「粒状」または「粒状フィラー」とは、100以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下の厚さに対する長さの比(L/D比)を有する粒子から実質的になる成分、添加剤および/またはフィラーを意味する。典型的には、粒状フィラーまたは粒子には、球状、楕円状、針状、ラメラ状および/または板状の形態を有する粒子が含まれる。
【0052】
本発明において「繊維」、「強化繊維」または「繊維状フィラー」とは、100を超えるL/D比を有する粒子から実質的になる成分、添加剤および/またはフィラーを意味する。
【0053】
有機粒状フィラーB1
好ましい実施形態において、トライボロジー添加剤Bは、好ましくは20以下、より好ましくは10以下のL/D比を有する固体ポリマー粒子などの少なくとも1つの有機粒状フィラーB1を含むか、またはそれからなる。典型的には、有機粒状フィラーB1のポリマー粒子は、ポリマーマトリックスAと混和せず、ポリマーマトリックスA中で固体分散相を形成する。
【0054】
好ましい実施形態において、有機粒状フィラーB1は、1~3の範囲のL/D比を有する球状ポリマー粒子で構成される。典型的には、有機粒状フィラーB1は、1~100μm、好ましくは2~60μm、より好ましくは2~30μmの範囲の粒径、例えば数平均粒径または体積平均粒径を有するポリマー粒子で構成される。例えば、有機粒状フィラーB1は、微粉化ポリマー粉末の形態で利用される。典型的には、ポリマーA中に分散している有機粒状フィラーB1の数平均粒径は、特に電子顕微鏡法、例えば透過型電子顕微鏡法(TEM)、走査型電子顕微鏡法(SEM)または反射電子顕微鏡法(REM)により測定した場合に、1~100μm、好ましくは2~60μm、より好ましくは2~30μmの範囲である。
【0055】
好ましくは、有機粒状フィラーB1は、ポリフェニレンスルホン(PPSU)(例えば、Ceramer GmbHのCeramer(登録商標)粒子)、フルオロポリマーおよびペルフルオロポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例えば、SolvayのPolymist(登録商標)PTFE)、ペルフルオロアルコキシアルカンポリマー(PFA)(例えば、DuPontのTeflon(登録商標)-PFA、またはDyneon/3MのDyneon(登録商標)-PFA)、テトラフルオロエチレン/エチレンコポリマー(ETFE);および/または高分子量ポリオレフィン(例えば、PE-HMW GHR(登録商標)グレードまたはPE-UHMW GUR(登録商標)グレード、いずれもCelaneseより入手可能)から選択されるポリマーから実質的になる固体ポリマー粒子から選択される。
【0056】
典型的には、高分子量ポリオレフィン、例えばポリエチレンホモポリマーおよびコポリマーは、少なくとも500,000g/mol、好ましくは少なくとも800,000g/mol、より好ましくは少なくとも1,000,000g/molの平均分子量(Margolie方程式を用いて固有粘度から計算される);および特に少なくとも0.9g/cm3、好ましくは少なくとも0.93g/cm3の密度を示す。有機粒状フィラーB1として使用することができる高分子量ポリオレフィンは、例えば、国際公開第2018/069838号、米国特許第5,482,987号明細書および米国特許第5,641,824号明細書に記載されている。典型的には、有機粒状フィラーB1として使用されるそのような高分子量ポリオレフィンは、少なくとも500,000mol/g、好ましくは少なくとも800,000g/molの平均分子量を示す高分子量ポリエチレン(PE-HMW)粉末(CelaneseのGHR(登録商標)グレードなど);および少なくとも3×106mol/g、好ましくは少なくとも5×106g/molの平均分子量を示す超高分子量ポリエチレン(PE-UHMW)粉末(CelaneseのGUR(登録商標)グレードなど)から選択することができる。さらに、適切な高分子量ポリオレフィンには、いわゆる高密度ポリエチレンも含まれ、ここで、高密度ポリエチレンは、例えば、約0.9~1g/cm3、特に約0.95~0.99g/cm3の密度を有する酸化高密度ポリエチレンホモポリマーである。
【0057】
より好ましい実施形態において、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bは、少なくとも1つの有機粒状フィラーB1を含み、有機粒状フィラーB1は、1~3の範囲のL/D比および1~100μm、好ましくは2~60μm、より好ましくは2~30μmの範囲の粒径を有するポリマー粒子から選択され、ポリマー粒子は、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシアルカンポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレン/エチレンコポリマー(ETFE);および高分子量ポリオレフィン、より好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から選択されるポリマーを含むか、または好ましくは実質的にそれからなる。
【0058】
無機粒状フィラーB2
好ましい実施形態において、トライボロジー添加剤Bは、好ましくは10以下、より好ましくは3以下、典型的には1~3の範囲のL/D比を有する、少なくとも1つの無機粒状フィラーB2を含むか、またはそれからなる。
【0059】
典型的には、少なくとも1つの無機粒状フィラーB2は、ポリマー材料のトライボロジー特性を改良するために使用することができる公知のフィラー、例えば、酸化物、立方晶窒化ホウ素(BN)およびセラミック粒子などの硬質研磨粒子;またはグラファイト、二硫化モリブデン(MoS2)および六方晶窒化ホウ素(BN)などの公知の固体潤滑剤から選択することができる。例えば、適切な無機粒状フィラーB2は、独国特許出願公開第10329228号明細書、米国特許出願公開第2013/0178565号明細書、および米国特許出願公開第2005/0208313号明細書に記載されている。
【0060】
無機粒状フィラーB2の粒径は、特に制限されない。B2の平均粒径は、例えば、5nm~100μm、好ましくは10nm~10μmの範囲とすることができる。しばしば、典型的には10~1000nm、好ましくは50~1000nmの範囲の平均粒径を有するナノ粒子の形態の無機粒状フィラーB2を使用することが好ましい場合がある。
【0061】
典型的には、平均粒径は、重量平均粒径、体積平均粒径または数平均粒径を指す。例えば、粒径は、動的光散乱法(光子相関分光法または準弾性光散乱法としても知られている)によって決定することができ、典型的には、Z平均粒径または体積平均粒径が得られる。また、粒径は、電子顕微鏡法、例えば走査型電子顕微鏡法(SEM)または透過型電子顕微鏡法(TEM)によって決定することができ、典型的には、数平均粒径が得られる。
【0062】
典型的には、ポリマーA中に分散している無機粒状フィラーB2の数平均粒径は、5nm~100μm、好ましくは10nm~10μm、より好ましくは10nm~1000nm、また好ましくは50nm~1000nmの範囲であり、特に電子顕微鏡法、例えば透過型電子顕微鏡法(TEM)、走査型電子顕微鏡法(SEM)または反射電子顕微鏡法(REM)によって決定される。
【0063】
さらに、後述する無機粒状フィラーB2を表面処理した形態、例えばシラン化合物で表面処理した形態で利用することが可能である。
【0064】
例えば、適切な無機粒状フィラーB2は、金属、メタロイド(例えば、C、B、Si、およびGeを含む)、およびそれらの化合物、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物、カルコゲニド(例えば、硫化物およびセレン化物)、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、ホスフェート、カーボネート、シリケート、ジルコネートおよびアルミネートから選択することができる。
【0065】
特に、トライボロジー添加剤Bは、以下のものから選択される少なくとも1つの無機粒状フィラーB2を含む:
- 炭素フィラー、例えば、グラファイトまたは部分黒鉛化炭素;
- 水和酸化物および水酸化物を含む、金属およびメタロイド酸化物、例えば、酸化亜鉛ZnO、二酸化チタンTiO2、二酸化ケイ素SiO2(例えば、溶融シリカ、結晶質シリカ、天然シリカ、例えば石英、珪藻土またはケイ砂、および各種シラン被覆シリカ)、二酸化スズSnO2、二酸化セリウムCeO2、二酸化ジルコニウムZrO2、水酸化アルミニウムAlO(OH)を含む酸化アルミニウムAl2O3(例えば、コランダム、ベーマイト);
- 金属およびメタロイド炭化物、例えば、炭化ケイ素SiC、炭化リチウムLi2C2、または炭化ホウ素B4C;
- 金属およびメタロイド窒化物、例えば、窒化ホウ素BN、窒化ケイ素Si3N4、および窒化チタンTiN;
- 金属およびメタロイドホウ化物、例えば、ホウ化ケイ素SiBn、例えば、SiB3、SiB4、およびSiB6;
- 金属およびメタロイド硫化物、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タンタル、二硫化タングステン、および硫化亜鉛ZnS;
- 金属およびメタロイドケイ酸塩;例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム(例えば、バーミキュライト)、ならびにケイ酸カルシウムおよびメタケイ酸カルシウム(例えば、ウォラストナイト)から選択されるもの;
- 金属およびメタロイド炭酸塩、例えば、炭酸カルシウム(例えば、チョーク、石灰岩、大理石および合成沈降性炭酸カルシウム)、および炭酸マグネシウム;
- 金属およびメタロイド硫酸塩、例えば、硫酸カルシウム、例えばその無水物、二水和物または三水和物;
- 金属およびメタロイド金属粒子、例えば、モリブデン、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、銅、合金、およびそれらの混合物、特に銅ナノ粒子、銀ナノ粒子;および
- ガラスビーズ。
【0066】
好ましい実施形態によれば、トライボロジー添加剤Bは、天然グラファイト、合成グラファイト、グラフェン、六方晶窒化ホウ素、立方晶窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、銅ナノ粒子、銀ナノ粒子、二酸化ケイ素(例えば、溶融シリカ、結晶質シリカ、天然シリカ)、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化セリウム、二酸化ジルコニウムおよび炭酸カルシウムから選択される少なくとも1つの無機粒状フィラーB2を含むか、またはそれからなる。より好ましくは、少なくとも1つの無機粒状フィラーB2は、グラファイト、六方晶窒化ホウ素、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムから選択される。特に、無機粒状フィラーB2は、前に列挙された化合物から実質的になる粒子、特にナノ粒子、特に1~3の範囲のL/D比を有する粒子から選択される。
【0067】
強化繊維B3
好ましい実施形態において、トライボロジー添加剤Bは、典型的には100を超えるL/D比を有する少なくとも1つの強化繊維B3を含むか、またはそれからなる。
【0068】
総じて、強化繊維B3は、短繊維および長繊維から選択することができ、典型的には、短繊維の平均繊維長は0.1~1mmの範囲であり、典型的には、長繊維の平均繊維長は1mm超~50mmの範囲である。完成したポリマー組成物中に存在する繊維の平均繊維長は、特にプロセスの各工程(例えば押出成形)に応じて変化し得る。
【0069】
典型的には、強化繊維B3は、無機強化繊維、例えば、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラス繊維、ケイ酸塩繊維、シリカ繊維、鉱物繊維、セラミック繊維および玄武岩繊維;有機ポリマー強化繊維、例えば、ポリイミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維およびポリエチレン繊維;および天然繊維、例えば、木質繊維、亜麻繊維、麻繊維およびサイザル繊維を含む、一般的に知られている強化繊維から選択することができる。
【0070】
適切な強化繊維B3としては、例えば、ガラス繊維、例えば、E、A、C、ECR、R、S、DおよびNEガラスならびに石英、ミルドガラス繊維、チョップドガラス繊維、長ガラス繊維が挙げられる。他の適切な無機強化繊維B3としては、炭化ケイ素、二酸化アルミニウム、炭化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、グラファイト、鉄、ニッケルまたは銅から製造された単結晶繊維またはウィスカーが挙げられる。他の適切な無機強化繊維B3としては、炭素繊維、ステンレス繊維、金属被覆繊維などが挙げられる。
【0071】
特に、適切な強化繊維B3としては、例えば、ポリイミド繊維(例えば、Evonik FibresのP84(登録商標))、ポリアミド繊維、例えばナイロン繊維(例えば、ナイロン6;ナイロン6,6;ナイロン12;10)、アラミド繊維(例えば、E.I. duont de Nemoursから市販されているKevlar(登録商標))、熱可塑性ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート)、アクリルポリマーから形成された繊維(例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、ビニルピリジン、アクリル酸エステルまたはアクリルアミドなどの他のビニルモノマーと共重合可能であるアクリロニトリル単位を少なくとも約35重量%有するポリアクリロニトリル)、ポリオレフィン繊維(例えば、エチレン、プロピレンまたは他のオレフィンを少なくとも85重量%含むもの)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィドまたはポリアセタールから形成された繊維から選択される有機ポリマー強化繊維を挙げることができる。典型的な有機ポリマー強化繊維は、例えば米国特許第9,994,670号明細書に記載されている。典型的には、強化繊維B3は、モノフィラメントまたはマルチフィラメント繊維の形態で提供することができ、単独で、または例えば共編みによって他のタイプの繊維と組み合わせて使用することができる。
【0072】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの強化繊維B3は、ポリイミド繊維(例えば、Evonik FibresのP84(登録商標))、アラミド繊維(例えば、Du PontのKevlar(登録商標)の繊維またはフィラメント)、炭素繊維(例えば、SGL Carbon Groupの炭素繊維またはフィラメントSigrafil(登録商標))、および鉱物繊維(例えば、ケイ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、ケイ酸カルシウム-マグネシウム繊維、ケイ酸カルシウム-マグネシウム-ジルコン繊維)から選択される。
【0073】
さらに、強化繊維B3は、完全にまたは部分的に表面処理することができ、例えば、繊維特性を向上させるかまたはポリマーマトリックスAとの相容性を向上させる目的で、例えばシラン化合物、ポリウレタン、芳香族ポリマー、エポキシ樹脂またはグリセリンで処理することができる。典型的には、表面処理の含有量は、強化繊維B3に対して0.1~10重量%の範囲とすることができる。
【0074】
好ましい実施形態において、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、グラファイト(例えば、天然グラファイトおよび/または合成グラファイト)、窒化ホウ素(BN)(例えば、六方晶窒化ホウ素)、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、窒化ケイ素(Si3N4)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)、炭酸カルシウム(CaCO3)、二酸化チタン(TiO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化セリウム(CeO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、銅粒子(特に銅ナノ粒子)、銀粒子(特に銀ナノ粒子)、炭素繊維、ガラス繊維、およびアラミド繊維から選択される。
【0075】
より好ましくは、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、グラファイト(例えば、天然グラファイトおよび/または合成グラファイト)、窒化ホウ素(BN)(例えば、六方晶窒化ホウ素)、二硫化モリブデン(MoS2)、炭化ケイ素(SiC)、炭素繊維、およびアラミド繊維から選択される。
【0076】
任意の潤滑剤C
好ましい実施形態において、ポリマー組成物は、少なくとも1つの潤滑剤Cを、ポリマー組成物全体に対して好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.5~3重量%、より好ましくは0.6~2重量%の量で含む。好ましくは、シリコーン油が潤滑剤Cとして使用される。
【0077】
好ましくは、少なくとも1つの潤滑剤Cは、液体潤滑剤、例えば、シリコーン油、ワックス、例えば、ポリオレフィンワックス、ポリエチレングリコールワックス、および他の一般的に知られている潤滑剤、例えば、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、および脂肪酸アミドから選択される。例えば、従来の潤滑剤は、R.Gaechter,H.Mueller,Kunststoffadditive,3.Ed.,page443seqq,Hauser Verlagに記載されている。
【0078】
典型的には、潤滑剤Cとして適切な脂肪酸および脂肪酸誘導体は、8~40個、好ましくは10~40個、より好ましくは16~22個の炭素原子を有する飽和または不飽和カルボン酸、例えばカプリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、モンタン酸、およびベヘン酸をベースとする。例えば、少なくとも1つの潤滑剤Cとしては、例えば、n-ブタノール、n-オクタノール、ステアリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ステアリルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジ-(6-アミノヘキシル)アミンといった、2~40個、好ましくは2~6個の炭素原子を有する脂肪族飽和単官能性ないし四官能性アルコールまたはアミンから得られる脂肪酸エステルおよび/または脂肪酸アミドを挙げることができる。好ましくは、少なくとも1つの潤滑剤Cとしては、ジステアリン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、エチレンビスステアリン酸アミド(EBS)、モノパルミチン酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリル、モノベヘン酸グリセリルおよびテトラステアリン酸ペンタエリスリトールを挙げることができる。
【0079】
さらに、少なくとも1つの潤滑剤Cとしては、1つ以上のポリエチレングリコールおよび/またはエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマーであって、典型的には1000~15000g/molの範囲の分子量を有するものを挙げることができる。
【0080】
好ましい実施形態によれば、ポリマー組成物は、少なくとも1つの潤滑剤Cを、ポリマー組成物全体に対して0.1~5重量%、より好ましくは0.5~3重量%、より好ましくは0.6~2重量%含み、潤滑剤Cは、シリコーン油(すなわち、有機側鎖を有する液状オリゴマーシロキサンまたはポリマーシロキサン、例えばポリジメチルシロキサン)から選択される。好ましくは、シリコーン油は、5,000~100,000mPasの範囲の粘度を示す。シリコーン油は、マスターバッチ、例えばEvonikのACCUREL(登録商標)Si 755の形態で使用することができる。
【0081】
任意のさらなる成分D
任意に、本発明のポリマー組成物は、好ましくは、例えば架橋剤、熱安定剤、光安定剤、UV安定剤、UV吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、加工助剤、粘度改良剤、防炎剤、耐衝撃性改良剤、散乱粒子、可溶性または不溶性染料、顔料、抗菌剤などから選択される従来の助剤および添加剤から選択される、1つ以上のさらなる成分Dを含むことができる。特に、本発明のポリマー組成物の特性は、これらの添加剤によって悪影響を受けず、かつ/または、ポリマー組成物あるいはそれから製造された成形物品の光学的外観、耐候性、耐熱性、耐薬品性などの特定の特性を改善することができる。
【0082】
好ましくは、本発明のポリマー組成物は、架橋剤、熱安定剤およびUV吸収剤から選択される少なくとも1つのさらなる成分Dを含む。
【0083】
典型的には、さらなる成分Dは、ポリマー組成物の総重量に対して最大30重量%、好ましくは最大20重量%、より好ましくは最大10重量%、また好ましくは最大5重量%の量で存在することができる。典型的には、さらなる成分Dは、ポリマー組成物全体に対して0.0001~20.0重量%、また好ましくは0.001~10.0重量%、また好ましくは0.0001~2.0重量%の量で存在することができる。
【0084】
特定の好ましい実施形態において、本発明のポリマー組成物は、(例えばポリ(メタ)アクリルイミドの)ポリマー鎖を架橋して架橋ポリマーマトリックスAを生成することができる少なくとも1つの架橋剤を含む。適切な架橋剤としては、放射線下、特にベータ線またはガンマ線下でフリーラジカルを形成することができ、したがって放射線曝露、例えばベータ線、ガンマ線または電子線によるポリマー材料の任意の架橋を改善するものが挙げられる。このような架橋剤は、例えば国際公開第2007/106074号に記載されている。
【0085】
典型的には、少なくとも1つの架橋剤は、オレフィン性基を含む2つ以上の不飽和基を含む。適切な不飽和基としては、(メタ)アクリル基((メタ)アクリロイルまたは(メタ)アクリリルとも呼ばれる)、ビニル、アリルなどが挙げられる。好ましくは、架橋剤は、二官能性(メタ)アクリレート、三官能性または多官能性(メタ)アクリレート、および他の公知の架橋剤、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、およびジビニルベンゼンから選択することができる。架橋剤として有用な例示的なポリアリル化合物としては、2つ以上のアリル基を含む化合物、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0086】
さらに、架橋剤としては、好ましくは多官能性(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは、(メタ)アクリル酸と多官能性アルコールとのエステルから選択され、該アルコールは、典型的には、2~100個の炭素原子を含む脂肪族ジオール、トリオールおよび/またはテトラオール、例えば、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、エイコサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ドデカエチレングリコール、テトラデカエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピルグリコール、テトラデカプロピレングリコール、トリメチロールプロパンペンタエリスリトールから選択される。適切な多官能性(メタ)アクリレートの例は、エチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ジ(トリメチロールプロパン)テトラ(メタ)アクリレート、およびそれらの組み合わせである。また、N,N’-アルキレンビスアクリルアミドも挙げられる。
【0087】
典型的には、本発明のポリマー組成物は、好ましくはトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、およびアリル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つの架橋剤を、ポリマー組成物の総重量に対して0.01~20重量%、具体的には0.1~15重量%、より具体的には1~10重量%、さらにより具体的には2~7重量%含むことができる。より好ましくは、架橋剤は、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)および/またはトリアリルシアヌレート(TAC)から選択される。
【0088】
一実施形態において、本発明のポリマー組成物は、成分Eとして1つ以上の熱安定剤をさらに含むことができる。熱安定剤自体は当業者に知られており、特にKunststoff-Handbuch,Bd.IX,S.398,Carl-Hanser-Verlag,1975に記載されている。一般的に使用される熱安定剤の例としては、p-メトキシフェニルエタクリルアミド、ジフェニルメタクリルアミド、ドデシルリン酸ナトリウム、モノオクタデシルリン酸二ナトリウム、モノ(3,6-ジオキシオクタデシル)リン酸二ナトリウム、および国際公開第2005/021631号に記載されているモノ-およびジアルキル置換リン酸のアルキルアミノ塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
典型的には、そのような熱安定剤は、ポリマー組成物の重量に対して0.0001~2重量%、特に0.001~1.0重量%の量で存在することができる。
【0090】
さらに、任意のさらなる成分Dとしては、一般的に知られている光またはUV安定剤、例えば、UV吸収剤、酸化防止剤および/またはフリーラジカルスカベンジャーを挙げることができ、これは例えば、ベンゾフェノン誘導体UV吸収剤、特にヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体(例えば、BASF SEからTinuvin(登録商標)Pとして市販されている2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾールまたは2-(2’-ヒドロキシ-3’-ドデシル-5’-メチルデシル)ベンゾトリアゾール);オキサニリドUV吸収剤(例えば、BASF SEからTinuvin(登録商標)312として市販されているN-(2-エトキシフェニル)-N’-(2-エチルフェニル)エタンジアミド)、立体障害アミン安定剤(HALS)(例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3-8-トリアザスピロ(4,5)デカン-2,5-ジオン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)スクシネート、ポリ(N-β-ヒドロキシエチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジンコハク酸エステル)およびビス(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート);およびフェノール系酸化防止剤(例えば、BASF SEからIrganox(登録商標)1076として市販されているオクタデシル3-(3,5-ジ-tert.-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)から選択される。好ましくは、必要に応じて、一般的に知られているUV吸収剤がUV安定剤として使用される。
【0091】
典型的には、そのような光またはUV安定剤は、ポリマー組成物の重量に対して0.01~1.5重量%、特に0.02~1.0重量%の量で存在することができる。
【0092】
ポリマー組成物の製造方法
さらに、本発明は、上記の本発明のポリマー組成物の製造方法であって、該方法は、ポリマーマトリックスAと、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bと、任意にさらなる成分Cおよび/またはDとを混合することを含む、方法を対象とする。
【0093】
本発明のポリマー組成物に関連して言及された好ましい実施形態ならびに成分A、Bおよび任意にCおよびDの説明が、本発明の方法にも同様に適用される。
【0094】
混合は、通常、それ自体公知の方法によって行われ、例えば、粘弾性または溶融状態を経た加工、すなわち、混練、圧延、カレンダー加工、押出成形、射出成形、プレス加工、焼結または他の適切な加工によって行われる。好ましくは、成分の混合は、ポリマーマトリックスAを加熱し、好ましくは溶融し、トライボロジー添加剤Bおよび任意に潤滑剤Cおよび/または任意に1つ以上のさらなる成分Dを添加することによって行われる。好ましくは、混合は、150~350℃、特に200~300℃の範囲の温度で行われる。
【0095】
また、少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bと任意の潤滑剤Cおよび/または任意のさらなる成分Dとを混合することにより開始し、その後、この混合物を溶融ポリマーマトリックスAに添加することも可能である。さらに、本発明のポリマー組成物は、ポリマーマトリックスAと、トライボロジー添加剤Bと、任意にさらなる成分Cおよび/またはDとをドライブレンドし、典型的にはその後、この混合物を溶融させることによって製造することができ、ここで、ポリマーマトリックスAとトライボロジー添加剤Bとは、典型的には粉末、粒子または顆粒として存在する。
【0096】
好ましくは、ポリマー組成物は、押出成形により製造され、典型的には、200~350℃、特に250~300℃の範囲の溶融温度が利用される。従来の混合装置、例えば単軸スクリュもしくは多軸スクリュ押出機、または振動スクリュおよび任意に追加的にシャーピンを備えた押出機を使用することができる。
【0097】
好ましくは、ポリマー組成物は、粉末、顆粒または半製品、例えばシート、フィルム、異形材またはバーの形態で得ることができる。
【0098】
成形物品
別の態様において、本発明は、上記の本発明のポリマー組成物から製造された成形物品を対象とする。成形物品は、本発明のポリマー組成物から下記の方法により得ることができる。特に、成形物品は、射出成形により製造された成形物品、または押出成形により製造された半製品であり、特にシート、フィルムまたはバーから選択される。
【0099】
本発明のポリマー組成物に関連して言及された好ましい実施形態ならびに成分A、Bおよび任意にCおよびDの説明が、本発明の成形物品にも同様に適用される。
【0100】
好ましくは、本発明の成形物品は、比較的高い機械的負荷およびしばしば高い熱的負荷に耐えなければならないトライボロジー用途に使用される。総じて、成形物品としては、家庭用品、家庭用機器、電子部品、園芸用機器、医療技術用機器、自動車部品、車体部品、搬送システムの部品、または製造機械の部品を挙げることができる。
【0101】
本発明の成形物品は、特に、自動車分野、鉄道車両分野または航空機分野などの輸送および移動分野;ならびに工業用途に使用することができる。特に、本発明の成形物品は、前記分野で利用される任意の可動部分を含むことができる。例えば、本発明の成形物品は、ポンプケーシング、ポンプ部品(例えば、オイルポンプ)、変速機制御装置、チェーンガイド、スライドベアリング、ボールベアリング、スライディングシュー、ギアホイール、ギアドライブ、ロール、ピストン、ピストンリング、ピストンロッド、クラッチ、ブレーキ、シール、膜、継手、ブッシュ、ケーシング、バルブケーシングもしくはバルブ部品において、またはその形態で利用することができる。
【0102】
本発明はまた、車両構造体、特に自動車構造体において(例えば、オイルポンプ、変速機制御システム、オイル調節ピストンまたはケーシングの形態で)、飲食物および家庭用品分野において(例えば、電子レンジ用食器またはコーティングの形態で)、器具の構造体において(例えば、ポンプ部品、シール、保護カバー、ケーシングまたはフィルター膜の形態で)、または加熱システムおよび衛生システムにおいて(例えば、温水メータ、加熱システムの循環ポンプのローター、継手の内部部品において)、医療技術において、またはエレクトロニクスにおいて使用するための成形物品を製造するための、上記の本発明のポリマー組成物の使用を提供する。
【0103】
成形物品の製造方法
別の態様において、本発明は、本発明のポリマー組成物から、好ましくは射出成形または押出成形により成形物品を製造する方法を対象とする。総じて、本発明のポリマー組成物から成形物品を製造する方法は、射出成形、押出成形、注型、熱成形、プレス加工、焼結、圧延、カレンダー加工または他の成形プロセスのような一般的に知られているプロセスから選択される1つ以上の工程を含むことができる。成形体の構成に制限はない。
【0104】
さらに、選択的レーザー溶融法(SLM)、選択的レーザー焼結法(SLS)、熱溶解積層法(FDM)などの付加製造プロセスにより、本発明のポリマー組成物から成形物品を製造することも可能である。
【0105】
好ましくは、成形物品は、好ましくは150~350℃、特に200~300℃の範囲の温度での熱成形ステップを含んで製造される。
【0106】
好ましくは、成形物品は、200~350℃、特に250~300℃の範囲の溶融温度;および100~150℃、特に110~140℃の範囲の金型温度を利用する射出成形によって、本発明のポリマー組成物から製造される。
【0107】
特に、例えば潤滑剤Cおよびさらなる成分Dから選択される、特に架橋剤および離型剤から選択される、少なくとも1つの一般的に知られている助剤および/または添加剤を、例えば射出成形または押出成形により成形物品を製造するステップの前またはステップ中に添加することが可能である。特に、上記の潤滑剤Cまたはタルクから選択される少なくとも1つの離型剤は、成形物品を製造するステップ中に、好ましくはポリマー組成物全体に対して0.1~0.5重量%の量で添加される。特に、上記でさらなる成分Dとして記載されている少なくとも1つの架橋剤は、成形物品を製造するステップ中に、好ましくは上記の量で添加される。
【0108】
好ましくは、例えば粉末または顆粒の形態の本発明のポリマー組成物は、成形物品の製造方法で処理される前、例えば射出成形の前に乾燥される。典型的には、前記乾燥は、一般的に知られている装置を用いて、100~150℃、好ましくは110~130℃の範囲の温度で実施される。典型的には、前記任意の乾燥ステップにおいて、含水率は、ポリマー全体に対して少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%に低減される。
【0109】
好ましい実施形態において、本発明のポリマー組成物から成形物品を製造する方法は、放射線、好ましくは高エネルギー放射線、より好ましくはベータ線、ガンマ線、電子線、X線およびUV/Vis線から選択される放射線への好ましくは成形物品の形態でのポリマー組成物の曝露による(すなわち、光架橋による)少なくとも1つの架橋ステップを包含する。ベータ線、特にβ-線(電子放出)または電子線への曝露による架橋が好ましい。
【0110】
先行技術には、高エネルギー放射線、例えばガンマ線やベータ線への曝露により、ポリマー材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリアミドにおいて架橋が誘導され、材料の耐摩耗性を向上させることができることが記載されている(例えば、国際公開第2007/106074号)。これは、インプラントに適したポリマー材料によく使用される(例えば、国際公開第98/01085号参照)。総じて、「ガンマ線」または「ガンマ放射線」という用語は、200keV以上の量子エネルギーを有する電磁線を指す。総じて、「ベータ線」または「ベータ放射線」という用語は、ベータ崩壊の過程で原子核の放射性崩壊によって放出される高速電子(β-線)または陽電子(β+線)を指す。
【0111】
典型的には、成形物品は、その製造後に、固体の段階でベータ線、特にβ-線または電子線に曝露される。さらに、ポリマー組成物を、その製造後に、好ましくは固体の段階で好ましくは半製品(例えば、シート、フィルムまたはバー)の形態で、または射出成形物品の形態で曝露させることが可能である。典型的には、放射線への曝露の後に、特にフリーラジカルの量を減少させるために、再溶融やアニーリングなどの熱処理を行うことができる。
【0112】
好ましくは、ガンマ線への曝露による架橋は、上記の少なくとも1つの架橋添加剤を含むポリマー組成物または成形物品を用いて実施される。
【0113】
コーティング方法
本発明のポリマー組成物は、コーティング用途にも使用することができ、特にトライボロジーシステム上のコーティング、例えばロールコーティング、ピストンコーティングにも使用することができる。この文脈において、本発明は、金属、セラミックおよびプラスチックから選択される基材の少なくとも一部分をコーティングする方法に関する。コーティング方法は、溶射、注型、フィルム成形、スピンコーティングなどの一般的に知られている方法を用いて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【
図1】標準的なテンションロッドからの試験ピンの製造(左図)、およびピンオンディスク装置を使用したトライボロジー試験(右図)を示す図である。
【0115】
以下、実験例および必要に応じて比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0116】
a.ポリマー組成物の成分
A1:反応押出によりポリメチルメタクリレートとメチルアミンとの反応により製造したポリメチルメタクリルイミド(PMMI)であり、ここで、等重合度反応、特にイミド化を、非常に効果的な混合部を有する反応押出機と、2つのベントゾーンおよび付属の真空ラインを有するベント式押出機とを備えた反応押出システムで実施した。毎時10kgのPMMA成形材料を反応押出機に導入した。混合ゾーンの最初の部分には、液体用の供給箇所が存在する。この供給箇所に、毎時3000gのメチルアミンを反応媒体として供給した。平均反応時間は、温度250℃で5分であった。反応の完了時に、反応混合物をベント式押出機で減圧し、ガス状および揮発性フラクションを除去し、最後に押出物を製造し、冷却し、切断して顆粒にした。得られたPMMI A1は、式I[式中、R1、R2およびR3は、メチルである]による単位を約90重量%含む。PMMI A1は、ISO 1133に準拠して10kgの荷重を使用して260℃で求められた約1.7cm3/10minのメルトボリュームレイト(MVR)、およびISO 306(B/50)に準拠して求められた約170℃のビカット軟化温度を示す。
【0117】
A2 ポリエーテルエーテルケトンPEEK、Victrex(登録商標)PEEK 450G(比較材料)製の押出ロッド
B1:POLYMIST(登録商標)F5A、Solvay、トライボロジー添加剤B1としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
C1:EvonikのACCUREL(登録商標)Si755、潤滑剤CとしてのポリアミドPA6をベースとした50重量%シリコーン油。
【0118】
b.ポリマー組成物および試験片の製造
表1に示すポリマー組成物のコンパウンディングを、220℃~285℃の範囲の温度および約200min-1のスクリュ回転速度で、同方向回転二軸スクリュ押出機(ZSK30)で実施した。原料を、押出成形前に乾燥させて、0.1重量%未満の含水率を得た。予備乾燥なしでもノズル出口で溶融物が発泡することが判明した。ペレタイジングには冷却金属板を使用した。ペレタイザーを圧縮空気で冷却した。
【0119】
【0120】
例1~例5により得られたポリマー顆粒を、射出成形によりDIN EN ISO 527, Typ 1Aに準拠してテンションロッドに成形した。射出成形を、Battenfeld 350 CD射出成形機(溶融温度285℃/金型温度120℃)を用いて行った。必要に応じて、ポリマー顆粒にタルクを添加した(3000gのポリマー顆粒に対して約10gのタルク)。
【0121】
c.放射線架橋
例2および例3と同様のPMMI材料に、放射線架橋用添加剤をさらに10重量%添加した。前記放射線架橋添加剤は、キャリア材料として低密度ポリエチレン(LDPE)を用いたトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)であった(35重量%のTMPTMA、65重量%のLDPE)。
【0122】
以下のPMMI材料(表1Aにまとめられている)のポリマー顆粒およびテンションロッドを上記のように製造した。これらのテンションロッドを電子線照射に曝露し、その際、総放射線量は100kGyであり、33.3kGyずつ3回に分けて照射した(例7および例8)。
【0123】
【0124】
d.試験および結果
トライボロジー特性は、
図1に示すように、DIN ISO 7148-2(2014)に準拠したピンオンディスク試験環境を用いて評価した。ピンオンディスクのトライボロジー試験を、摺動相手としての焼入鋼(100 Cr6)のディスク(外径=110mm、内径=75mm、厚さ=7mm)を使用して実施し、その際、以下のパラメータを利用した:接触圧p=4N/mm
2;摺動速度v=0.5m/s;摺動相手(ディスク)の平均表面粗さR
z=1.5μm。試験ピン(4mm×4mm×7mm)を、DIN EN ISO 527, Typ 1Aに準拠してテンションロッドから製造した(
図1参照)。ロッドから、PEEK比較材料A2の試験ピン(4mm×4mm×7mm)を削り出した。
【0125】
第1の試験環境では、鋼製ディスクの温度を調整せずに周囲温度23℃でトライボロジー試験を実施した(表2)。第2の試験環境では、鋼製ディスクの温度を100℃または150℃に調整した(表3)。ピンオンディスクのトライボロジー試験を、外部潤滑(乾式)なしで実施した。
【0126】
比較材料のポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)およびポリオキシメチレン(POM)の結果は、同様のピンオンディスク試験環境が記載されている文献から引用した。さらに、比較例9では、市販のトライボロジーポリエーテルエーテルケトンPEEK(材料A2)を使用した。
【0127】
トライボロジー特性を評価する代表的な指標は、摩擦係数μおよび摩耗係数k(kファクターとも呼ばれる)である。摩擦係数μは、系内で放散される熱の割合を示す値も表す。摩耗係数kは、材料損失を示し、滑り経路および接触圧力に依存する材料損失を表す。さらに、摩擦による温度上昇を測定し、これはTFRで与えられる。
【0128】
摩擦係数μ(滑り摩擦係数または摩擦係数ともいう)は無次元であり、法線力FNに対する摩擦力FRの比として与えられる:
μ=FR/FN
【0129】
摩耗係数(kファクター)k(単位:mm3/(Nm))は、次式:
k=Δl/(p・v・Δt)
[式中、
Δlは、時間間隔Δt(単位:s)で観察された線摩耗量(単位:mm)を表し、
pは、接触圧(単位:N/mm2)を表し、
vは、摺動速度(単位:m/s)を表す]で与えられる。
【0130】
試験結果を、以下の表2および表3にまとめたが、ここで、測定値の標準偏差Δを示す。
【0131】
【0132】
【0133】
例2(80 PMMI/20 PTFE)および例3(78 PMMI/20 PTFE/2 ACCUREL(登録商標)Si755)による本発明のポリマー組成物は、周囲温度(23℃)において、比較系のPE、PA、POM、さらには試験したPEEK標準材料(例9)よりも改良されたまたは同様の性能を示すことが判明した。ここで、本発明の材料について、<4×10-6mm3/(N・m)の比摩耗率および約0.2の摩擦係数が観察された。
【0134】
本発明のポリマー組成物のトライボロジー特性は、高温(100℃または150℃)で非常にさらに改良された。ここで、本発明のポリマー組成物について、典型的な摩耗率<1~2×10-6mm3/(N・m)および摩擦係数<0.15が観察され、これらは、ベンチマークとなる比較系および試験したPEEK標準材料(例9)の値よりも著しく低かった。
【0135】
電子線により、周囲温度では摩擦係数μが改良され(例2および例3と比較した例7および例8)、高温では摩耗率kが改良された(例2と比較した例7)。
【0136】
さらに、23℃、相対湿度50%の条件の後に、各試験に5本のテンションロッドを用いて機械的特性を測定した:
- 破断伸び、引張弾性率、および引張強度(引張極限強度または引張破断強度)、すべてISO 527-1:2012に準拠
- ISO 179に準拠したシャルピー衝撃強さ、および
- ISO 179 1eAに準拠したノッチ付きシャルピー衝撃強さ。
【0137】
結果を表4にまとめた。
【0138】
【手続補正書】
【提出日】2023-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを含むポリマーマトリックスAと、有機粒状フィラーB1、無機粒状フィラーB2および強化繊維B3から選択される少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bとを含む、トライボロジー用途のポリマー組成物
において、前記少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドが、以下:
i)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~95重量%、好ましくは20~92重量%の式Iの単位;
【化1】
ii)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~70重量%、好ましくは2~60重量%の式IIの単位;
【化2】
iii)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して1~20重量%、好ましくは1~12重量%の式IIIの単位;
【化3】
および
iv)前記ポリ(メタ)アクリルイミドの総重量に対して0~15重量%、好ましくは0~10重量%の式IVの単位を含み、
【化4】
ここで、
R
1
およびR
2
は、互いに独立して、水素またはC
1
~C
6
アルキル、好ましくは水素またはメチルであり;
R
3
は、水素、C
1
~C
18
-アルキル、C
5
~C
8
-シクロアルキル、C
6
~C
10
-アリール、またはC
6
~C
10
-アリール-C
1
~C
4
-アルキルであり、前記基は、C
1
~C
4
-アルキル、C
1
~C
4
-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよく、
R
4
は、C
1
~C
18
-アルキル、C
5
~C
8
-シクロアルキル、C
6
~C
10
-アリール、またはC
6
~C
10
-アリール-C
1
~C
4
-アルキルであり、前記基は、C
1
~C
4
-アルキル、C
1
~C
4
-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよい、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマー組成物の総重量に対して、それぞれ以下:
50~97重量%、好ましくは60~95重量%の前記ポリマーマトリックスA;
3~30重量%、好ましくは5~25重量%の前記少なくとも1つのトライボロジー添加剤B;
0~5重量%、好ましくは0~3重量%の少なくとも1つの潤滑剤C;
0~20重量%、好ましくは0~10重量%の、1つ以上のさらなる成分D
を含む、請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスAが、前記少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドを、前記ポリマーマトリックスAに対して少なくとも50重量%
含む、請求項1または2記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリ(メタ)アクリルイミドが、式(I)の単位を、前記ポリ(メタ)アクリルイミド全体に対して少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも60重量%含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【化5】
[式中、
R
1およびR
2は、互いに独立して、水素またはC
1~C
6アルキル、好ましくは水素またはメチルであり;
R
3は、水素、C
1~C
18-アルキル、C
5~C
8-シクロアルキル、C
6~C
10-アリール、またはC
6~C
10-アリール-C
1~C
4-アルキルであり、前記基は、C
1~C
4-アルキル、C
1~C
4-アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される基で、最大で3置換されていてもよい]
【請求項5】
R
1、R
2、R
3およびR
4がメチルである、請求項
1から
4までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bが、少なくとも1つの有機粒状フィラーB1を含み、前記有機粒状フィラーB1が、1~3の範囲のL/D比および1~100μmの範囲の粒径を有するポリマー粒子から選択され、前記ポリマー粒子が、ポリフェニレンスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシアルカンポリマー、テトラフルオロエチレン/エチレンコポリマー;および高分子量ポリオレフィンから選択されるポリマーから実質的になる、請求項1から
5までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記トライボロジー添加剤Bが、ポリテトラフルオロエチレン粒子、グラファイト、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭酸カルシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、二酸化セリウム、酸化アルミニウム、銅粒子、銀粒子、炭素繊維、ガラス繊維、およびアラミド繊維から選択される、請求項1から
6までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記ポリマー組成物が、シリコーン油から選択される少なくとも1つの液体潤滑剤Cを、前記ポリマー組成物全体に対して0.5~5重量%含む、請求項1から
7までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記ポリマー組成物が、架橋剤、熱安定剤、UV吸収剤、および耐衝撃性改良剤から選択される少なくとも1つのさらなる成分Dを含む、請求項1から
8までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記ポリマーマトリックスAが、ISO 306(B50)に準拠して求められた、少なくとも130℃、好ましくは少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも170℃のビカット軟化温度を示す、請求項1から
9までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1から1
0までのいずれか1項記載のポリマー組成物の製造方法であって、前記ポリマーマトリックスAと、前記少なくとも1つのトライボロジー添加剤Bと、任意にさらなる成分Cおよび/またはDとを混合することを含む、方法。
【請求項12】
請求項1から1
0までのいずれか1項記載のポリマー組成物から製造された成形物品。
【請求項13】
前記成形物品が、ポンプケーシング、ポンプ部品、変速機制御装置、チェーンガイド、スライドベアリング、ボールベアリング、スライディングシュー、ギアホイール、ギアドライブ、ロール、ピストン、ピストンリング、ピストンロッド、クラッチ、ブレーキ、シール、膜、継手、ブッシュ、ケーシング、バルブケーシングもしくはバルブ部品の中で、またはそれらのいずれかの形態で利用される、請求項1
2記載の成形物品。
【請求項14】
請求項1から1
0までのいずれか1項記載のポリマー組成物からの、好ましくは射出成形または押出成形による、成形物品の製造方法。
【請求項15】
放射線、好ましくはベータ線、ガンマ線、電子線、X線およびUV/Vis線から選択される放射線への前記ポリマー組成物の曝露による少なくとも1つの架橋ステップを包含する、請求項1
4記載の成形物品の製造方法。
【国際調査報告】