(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】コンパニオンアニマルの鉄欠乏症の治療における皮下使用のための鉄錯体化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20240730BHJP
A61K 31/721 20060101ALI20240730BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240730BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20240730BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K31/721
A61P7/06
A61K47/61
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024506697
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2022071875
(87)【国際公開番号】W WO2023012242
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511228241
【氏名又は名称】ファーマコスモス ホールディング エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアセン, ハンス ビー.
(72)【発明者】
【氏名】クレステンスン, トビーアス エス.
(72)【発明者】
【氏名】グルベルグ, シモン エム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB16
4C076CC14
4C076CC41
4C076EE30
4C076EE38
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086EA20
4C086HA11
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA55
4C086ZC61
(57)【要約】
本発明は、例えばコンパニオンアニマルの鉄欠乏症、特に鉄欠乏性貧血の治療方法における皮下使用のための鉄錯体化合物、並びに鉄錯体化合物と薬学的に許容される担体とを含む皮下投与のための薬学的組成物に関する。本発明は、より具体的には、排他的ではないが、鉄八糖錯体、鉄八糖錯体を含む薬学的組成物、及びヒト又は非ヒト対象の鉄欠乏症、特に鉄欠乏性貧血の治療方法における使用のための鉄八糖錯体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンパニオンアニマルの鉄欠乏症の治療方法における皮下使用のための鉄錯体化合物。
【請求項2】
鉄欠乏症が鉄欠乏性貧血である、請求項1に記載の使用のための鉄錯体化合物。
【請求項3】
コンパニオンアニマルがイヌである、請求項1又は2に記載の使用のための鉄錯体化合物。
【請求項4】
方法が、20mg/kg体重の用量の元素鉄を投与することを含む、請求項1から3の何れか一項に記載の使用のための鉄錯体化合物。
【請求項5】
鉄錯体化合物が、鉄オリゴイソマルトース錯体又は鉄オリゴイソマルトシド錯体である、請求項1から4の何れか一項に記載の使用のための鉄錯体化合物。
【請求項6】
鉄錯体化合物が、八糖と錯体化された鉄を含む鉄八糖錯体であり、(i)八糖が1150から1350Daの範囲の重量平均分子量を有し;(ii)単糖及び二糖の含有量が八糖の10.0重量%未満であり;(iii)9を超える単糖単位を有する画分が八糖の40重量%未満であり;(iv)分子の少なくとも40重量%が6~10の単糖単位を有し;(v)八糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)が125000から185000Daの範囲にあり;(vi)錯体の分散度(Mw/Mn)が1.05から1.4の範囲にあり;かつ(vii)還元糖の量が八糖の2.5重量%以下である、請求項1から5の何れか一項に記載の使用のための鉄錯体化合物。
【請求項7】
鉄錯体化合物と薬学的に許容される担体とを含む、皮下投与のための薬学的組成物。
【請求項8】
直ぐに使用できる注射可能な組成物である、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
100mg/mLの元素鉄を含む、請求項7又は8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
鉄錯体化合物が、鉄オリゴイソマルトース錯体又は鉄オリゴイソマルトシド錯体である、請求項7から9の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
鉄錯体化合物が、八糖と錯体化された鉄を含む鉄八糖錯体であり、(i)八糖が1150から1350Daの範囲の重量平均分子量を有し;(ii)単糖及び二糖の含有量が八糖の10.0重量%未満であり;(iii)9を超える単糖単位を有する画分が八糖の40重量%未満であり;(iv)分子の少なくとも40重量%が6~10の単糖単位を有し;(v)八糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)が125000から185000Daの範囲にあり;(vi)錯体の分散度(Mw/Mn)が1.05から1.4の範囲にあり;かつ(vii)還元糖の量が八糖の2.5重量%以下である、請求項7から10の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
八糖と錯体化された鉄を含む鉄八糖錯体であって、(i)八糖が1150から1350Daの範囲の重量平均分子量を有し;(ii)単糖及び二糖の含有量が八糖の10.0重量%未満であり;(iii)9を超える単糖単位を有する画分が八糖の40重量%未満であり;(iv)分子の少なくとも40重量%が6~10の単糖単位を有し;(v)八糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)が125000から185000Daの範囲にあり;(vi)錯体の分散度(Mw/Mn)が1.05から1.4の範囲にあり;かつ(vii)還元糖の量が八糖の2.5重量%以下である、鉄八糖錯体。
【請求項13】
請求項12に記載の鉄八糖錯体と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
【請求項14】
ヒト又は非ヒト対象の鉄欠乏症の治療方法における使用のための、請求項12に記載の鉄八糖錯体。
【請求項15】
鉄欠乏症が鉄欠乏性貧血である、請求項14に記載の使用のための鉄八糖錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパニオンアニマルにおける鉄欠乏症の治療方法における皮下使用のための鉄錯体化合物、並びに鉄錯体化合物と薬学的に許容される担体とを含む皮下投与のための薬学的組成物に関する。本発明は、より具体的には、排他的ではないが、鉄八糖錯体、鉄八糖錯体を含む薬学的組成物、並びにヒト又は非ヒト対象における鉄欠乏症の治療方法に使用するための鉄八糖錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
貧血は、イヌやその他のコンパニオンアニマルに見られる比較的一般的な臨床徴候及び検査所見の異常である。2005年に米国バンフィールド病院の臨床現場に運ばれた全てのイヌのうち、3%から11%が貧血であった(Lund,2007)。これらの貧血のイヌのうち、所定の割合は鉄欠乏(鉄欠乏症;ID)による貧血であると考えられており、イヌ10000匹当たり20~110匹のイヌがイヌ科鉄欠乏性貧血(IDA)に罹患していると推定されている。米国でのイヌ個体数は約9000万(American Pet Products Association,National Pet Owners Survey 2016)で、これは180000から990000匹のイヌがIDAに罹患していることになる。従って、イヌのIDAはヒトと同様に蔓延しており、重要である。
【0003】
臨床血液学の分野は、コンパニオンアニマルにおける殆どの疾患の鍵であり、失血、溶血、骨髄疾患、出血疾患、造血毒性、感染症、及びがんによって引き起こされる貧血が含まれる。それは、赤血球(RBC)、白血球、血小板、凝固因子の日常及び特異診断と、輸血療法を含む貧血の支持及び特異療法に取り組む。
【0004】
赤血球生成の間、RBCは骨髄内の多能性幹細胞から生成され、成熟RBCが循環中に放出される前に7~10日間かけて増殖及び成熟する。赤血球生成は主に、腎低酸素症があるときに合成され腎細胞から放出される、腎ホルモンエリスロポエチンによって調節される。ヘモグロビンは、バースト形成単位及び(メタ)赤血球から網赤血球への赤血球成熟の後期段階中に合成される。ヘモグロビン化が起こるためには、骨髄に鉄が存在している必要がある。
【0005】
例えば、健康なイヌの場合、赤血球は血液量の36~58%を占める。それらは核とミトコンドリアを持たないため、寿命は約100日と有限であり、血管外でマクロファージによって破壊される。RBCの主な機能は、酸素運搬体として機能することである。各RBCには、4つのグロビン鎖と鉄を含む一つの中央ヘムで構成されるヘモグロビン(Hb)が約33%含まれている。第一鉄(Fe2+)形態の鉄は酸素と結合することができ、酸素分圧に応じて(肺)酸素をヘモグロビンに結合し、又は(末梢組織)酸素をHbから放出する。組織酸素化は、エネルギー生産と全ての細胞機能に不可欠である。
【0006】
貧血という用語は、ギリシャ語の「an」(なし)と「heima」(血)に由来している。貧血は動物の臨床徴候又はヒトの臨床症状である。低いHb濃度及び/又は低いヘマトクリット(Hct)/血中血球容積(PCV)は、貧血の存在を示す。人間医学ではHb濃度が好まれるが、獣医学ではHct/PCVが最も一般的に使用される(但し、これらのパラメーターの精度はそれほど高くない)。機構的に貧血は、溶血性貧血、失血性貧血、及び赤血球生成低下又は非効率化に分類される。溶血では、溶解したRBCのHb分解生成物がリサイクルされ、一般に大量の鉄が利用可能になる。失血は体内又は体外であり得、裂傷による局所的、又は止血障害による多巣性であり得;慢性的な体外出血により鉄IDAが起こる。また、赤血球生成の低下又は非効率化には、毒性、感染症、がん、腎臓病、鉄分及びビタミンB12欠乏などの栄養不足など、多くの原因がありうる(Giger,2005;Weiss,2010)。
【0007】
例えば、イヌは約10~50mg鉄/kg体重を有しており、その殆どは赤血球にHbとして存在し;実際、血液2mLごとに1mgの鉄が含まれている。加えて、筋肉組織内のミオグロビン及び全細胞内の多くの重要な酵素、例えばエネルギー及び薬物代謝に関与するチトクロムは、ヘムタンパク質に相当し、鉄を含む。鉄は、血液中のトランスフェリンを介して輸送され、存在する鉄の量に応じて、主に脾臓、肝臓、骨髄に可溶性移動画分(フェリチン)及び不溶性画分(ヘモシデリン)として貯蔵される(Olver等,2010;Cohen-Solal等,2014)。トランスフェリンは血漿中の鉄輸送体を表し、通常は20~60%飽和である。
【0008】
生理学的条件下では、腸、尿、皮膚からの鉄の損失は無視でき、イヌでは1~2mg/日未満の量である。鉄分は食餌によって摂取され、肉を含むイヌ科の食餌には鉄分が豊富に含まれている。鉄分が多すぎると有毒になる可能性があるため、鉄分バランスは腸からの吸収によって慎重に調節される。十二指腸における鉄吸収のメカニズムは最近解明されており、肝ホルモンのヘプシジンが主な阻害調節因子である。鉄吸収は、鉄貯蔵量の減少及び赤血球生成活性の増加と共に増加し、ヘプシジン濃度の低下と関連している。高血清鉄濃度の存在下では、ヘプシジンが肝臓から放出され、フェロポーチンと錯体を形成して腸の鉄吸収を減少させる(Olver等,2010)。
【0009】
イヌなどのIDAを患うコンパニオンアニマルは、IDAの原因の改善に加えて、輸血、非経口及び経口の鉄サプリメントによって一般的に管理されるが、イヌ科医学における治療の有効性と安全性に関する詳細な報告はない。安全で効果的な非経口鉄剤の適切な開発と規制当局の承認は、IDAを患うイヌ及び他のコンパニオンアニマルにとって大きな利益と価値をもたらすであろう。
【0010】
経口鉄剤と鉄食品サプリメントに関する限り、(確かな証拠は殆どないものの)硫酸、グルコン酸若しくはフマル酸第一鉄剤が、a)胃腸での鉄の取り込みが正常であること、b)胃腸への副作用(嘔吐及び下痢など)がないか許容できること、及びc)一日の投与量が数週間から数か月間遵守されることを条件として、1日当たり5mg/lb又は1日当たり100から300mgの用量で効果的でありうると要約できる。
【0011】
非経口鉄剤に関しては、現在、米国及び多くの他の国で、イヌのIDAの予防、治療、管理又は制御を目的として承認されたそのような薬剤はない。このような状況にもかかわらず、ヒト又は仔ブタで承認されたデキストラン鉄製品のイヌへの使用が幾つかの情報源で記載されている。様々な推奨事項がこの状況を反映している:
・ Plumb’s Veterinary Drug Handbook(Plumb,2008):「鉄欠乏性貧血に対しては、デキストラン鉄10~20mg/kgを一回投与し、その後硫酸第一鉄による経口療法を行う。」
・ Textbook of Veterinary Internal Medicine(Giger,2005):「疾患に続発する鉄欠乏性貧血において鉄貯蔵を補充するために、経口鉄補充が不適切又は不十分であるとみなされる場合、又は胃腸障害により鉄の吸収が妨げられる場合には、非経口鉄が投与されうる。一日最大2mLのデキストラン鉄錯体(50mg/mL)を筋肉注射。」つまり、鉄を一日最大100mg、又は5kg/11ポンドのイヌで最大20mg/kg、大型犬ではより低い特定用量(mg/kg/日)となる。
・ Small Animal Internal Medicine(Nelson及びCouto,1998):鉄欠乏性貧血では、「筋肉内投与デキストラン鉄がまた10mg/kgの投与量で週一回から二回投与されうる。この形式の鉄療法は、注射部位の痛みとアナフィラキシー反応の可能性を伴う。」
・ Blackwell’s Five-Minute Veterinary Consult(Weiser,2015):鉄欠乏性貧血では、「鉄注射による鉄療法を開始する。デキストラン鉄-注射可能な鉄のゆっくり放出される形態;一回の注射(10~20mg/kgIM)とそれに続く経口サプリメント。」
【0012】
Belfer(登録商標)(デキストラン鉄錯体100mg/mL、bela-pharm GmbH&Co.KG)は様々な動物種での使用について承認されているが、Belfer(登録商標)の安全性と有効性は、承認されている全ての種において研究されてはいない-特に、ネコ及びイヌではこれまで研究されていなかったようである。それにもかかわらず、幾つかの国でイヌへの使用が承認されている。イヌに対して承認されている投薬量及び投与法は、体重1kg当たり鉄1~2mg(つまり、体重1kg当たり0.01~0.02mL)で筋肉内注射として投与される。これはかなり低く、イヌIDAの治療にはおそらく治療量以下の用量である。
【0013】
適切な用量及び適切な方法で投与されるIDAのイヌのための安全な非経口鉄剤は、鉄貯蔵を補充し、Hb濃度、ひいてはHct/PCVを上昇させるという治療効果が非常に迅速に現れるという重要な利点を有するであろう。
【0014】
IDAの治療又は管理のためにイヌに10から20mg/kgの用量でデキストラン鉄を筋肉内注射した症例報告が幾つか発表されている。そのような症例報告の例は次の通りである:
・ ゴールデンレトリバーへのデキストラン鉄13mg/kgの単回注射(Cook及びKvitko-White,2014)。
・ 雑種犬へのデキストラン鉄15mg/kgの単回注射(Thrall及びGillespie,2011)。
・ 2匹のイヌへの1週間以内でのデキストラン鉄10mg/kgの3回注射(Harvey等,1982)。
・ 7匹のイヌへの6~13日間隔でのデキストラン鉄20mg/kgの1~2回注射(Fry及びKirk,2006)。
【0015】
別の報告では、健康なイヌへの鉄オリゴ糖の注入について記載されている:
・ 7.1mg/kg及び21.3mg/kgの用量での水酸化鉄(III)オリゴ糖の注入(Preusser等,2005)。
【0016】
しかし、現在、コンパニオンアニマルの鉄欠乏症の治療のために特別に開発された非経口鉄剤は存在しない。
【0017】
本発明は、上記の考察に鑑みて案出されたものである。
【発明の概要】
【0018】
一態様では、本発明は、コンパニオンアニマルの鉄欠乏症の治療方法における皮下使用のための鉄錯体化合物に関する。
前記第一の態様の第一の実施態様では、コンパニオンアニマルはイヌである。
前記第一の態様の第二の実施態様では、本方法は、体重1kg当たり元素鉄20mgの用量を投与することを含む。
【0019】
第二の態様では、本発明は、鉄錯体化合物と薬学的に許容される担体とを含む、皮下投与のための薬学的組成物に関する。
前記第二の態様の第一の実施態様では、薬学的組成物は、直ぐに使用できる注射可能な組成物である。
前記第二の態様の第二の実施態様では、薬学的組成物は、100mg/mLの元素鉄を含む。
【0020】
前記第一及び第二の態様の更なる実施態様では、鉄錯体化合物は、鉄オリゴイソマルトース錯体又は鉄オリゴイソマルトシド錯体である。特定の実施態様では、鉄錯体化合物は、オリゴイソマルトシドと錯体化された鉄を含む鉄オリゴ糖錯体であり、(i)オリゴイソマルトシドが、850から1150Daの範囲の重量平均分子量を有し;(ii)単糖及び二糖の含有量が、オリゴイソマルトシドの10.0重量%未満であり;(iii)9を超える単糖単位を有する画分が、オリゴイソマルトシドの30重量%未満であり;(iv)少なくとも40重量%の分子が3~6の単糖単位を有し;(v)錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)が、130000から180000Daの範囲にあり;(vi)錯体の分散度(Mw/Mn)が1.05から1.4の範囲にあり;かつ(vii)還元糖の量がオリゴイソマルトシドの2.5重量%以下である。或いは、好ましくは、皮下投与の内容を考慮した場合、鉄錯体化合物は、八糖と錯体化した鉄を含む鉄八糖錯体であり、(i)八糖は、1150から1350Daの範囲の重量平均分子量を有し;(ii)単糖及び二糖の含有量が八糖の10.0重量%未満であり;(iii)9を超える単糖単位を有する画分が、八糖の40重量%未満であり;(iv)分子の少なくとも40重量%が6~10の単糖単位を有し;(v)八糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)が、125000から185000Daの範囲にあり;(vi)錯体の分散度(Mw/Mn)が1.05から1.4の範囲にあり;かつ(vii)還元糖の量が八糖の2.5重量%以下である。
【0021】
第三の態様では、本発明は、治療方法における使用のため、より具体的にはヒト又は非ヒト対象における鉄欠乏性貧血などの鉄欠乏症の治療方法における使用のための、前記鉄八糖、前記鉄八糖と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物、及び鉄八糖錯体に関する。
【0022】
本発明は、組み合わせが明らかに許容されないか、又は明示的に回避される場合を除き、記載された態様及び好ましい特徴の組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下に、本発明の原理を例証する実施態様及び実験について、次の添付図を参照して検討する。
【
図1】
図1は、鉄オリゴイソマルトシド錯体の筋肉内(IM)用量(20mg/kg=T4)又は皮下(SC)用量(20mg/kg=T1;60mg/kg=T2;及び100mg/kg=T3)の投与後のベースライン補正後の血清鉄濃度(μmol/L;平均+/-SD)を示している。
【
図2】
図2は、鉄オリゴイソマルトシド錯体のIM用量(20mg/kg=T4)又はSC用量(20mg/kg=T1;60mg/kg=T2;及び100mg/kg=T3)の投与後のベースラインフェリチンからの変化(ng/mL;平均+/-SD)を示している。
【発明の詳細な説明】
【0024】
以下に、本発明の態様及び実施態様について、添付図を参照して検討する。更なる態様及び実施態様は、当業者には明らかであろう。この本文において言及されている全ての文献は、出典明示によりここに援用される。
【0025】
[定義]
本説明をより容易に理解できるようにするために、最初に所定の用語を定義する。追加の定義は、詳細な説明全体にわたって記載する。
【0026】
「治療」とは、疾患若しくは障害に関連する臨床徴候若しくは症状、合併症、状態、又は生化学的徴候の進行、発達、重症度、又は再発を逆転、緩和、改善、阻害、減速、又はその発症を予防することを目的として対象に対して実施される任意のタイプの介入若しくはプロセス、又は対象への活性薬剤の投与を指す。ここで使用される「治療」には、特に、鉄欠乏症又は鉄欠乏性貧血などの疾患又は障害の予防、制御、治療又は管理が含まれる。本発明によれば、ID、特にIDAの治療又は管理が特定の実施態様を表す。
【0027】
「対象」には、あらゆるヒト又は非ヒト動物が含まれる。「非ヒト動物」という用語には、限定されないが、非ヒト霊長類などの脊椎動物、コンパニオンアニマル、特にイヌ科、ネコ科、ウマ科、及びラクダ科、並びにマウス、ラット及びモルモットなどの齧歯類が含まれる。「非ヒト動物」という用語には、ブタ、ヤギ、ヒツジ、及びウシのような家畜もまた含まれる。「対象」及び「患者」という用語は、ここでは互換的に使用される。
【0028】
「コンパニオンアニマル」という用語は、人間の伴侶となるのに適した動物を指す。幾つかの実施態様では、コンパニオンアニマルは、イヌ科(イヌなど)、ネコ科(ネコなど)、ウマ科(ウマなど)、又はラクダである。幾つかの実施態様では、コンパニオンアニマル種は、イヌ、ネコ、ウサギ、フェレット、モルモット、齧歯類等々のような小型哺乳動物である。幾つかの実施態様では、コンパニオンアニマル種は、ウマ又はラマなどの家畜である。幾つかの実施態様では、コンパニオンアニマル種は、競争に使用される動物、例えば競走犬又は競走馬などの競走動物である。コンパニオンアニマルは、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ等々の家畜とは区別されるべきである。
【0029】
薬物又は治療薬の「治療有効量」又は「治療有効用量」は、単独で又は別の治療薬と組み合わせて使用された場合に、対象を疾患の発症から保護するか、又は疾患症状の重症度の減少、疾患症状がない期間の頻度と期間の増加、若しくは疾患の罹患による機能障害及び能力障害の予防によって証明される疾患退行を促進する薬物の任意の量である。疾患退行を促進する治療薬の能力は、臨床試験中のヒト又は動物対象、ヒトにおける有効性を予測する動物モデル系、又はインビトロアッセイでの薬剤活性のアッセイなどにおいて、当業者に知られている様々な方法を使用して評価されうる。
【0030】
「薬学的製剤」及び「薬学的組成物」という用語は、活性成分の生物学的活性が効果的であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される対象に対して許容できないほど毒性である追加の成分を含まない調製物を指す。
【0031】
「薬学的に許容される担体」とは、対象への投与のための「薬学的組成物」を一緒に構成する、治療薬と共に使用するための当該技術分野で一般的な非毒性の固体、半固体、又は液体の充填剤、希釈剤、封入材料、製剤補助剤、又は担体を指す。薬学的に許容される担体は、用いられる投薬量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性であり、製剤の他の成分と適合性がある。薬学的に許容される担体は、用いられる製剤に適切である。
【0032】
この本文の目的上、文献での慣例に従って鉄錯体化合物の用量をmg又はgで特定する場合、その値はmg又はgで提供される元素鉄の量を指す。
【0033】
[治療方法]
ここに記載されるのは、規定された投与計画に従って、及び/又は特定の対象に鉄錯体化合物を投与することを含む、治療方法、つまり鉄欠乏症の治療である。従って、本発明は、前記方法で使用するための鉄錯体化合物、鉄欠乏症の治療のための鉄錯体化合物の使用、及び/又は鉄欠乏症の治療のための医薬の製造における鉄錯体化合物の使用にも関する。
【0034】
本発明の方法は、典型的には、それを必要とする対象に対して実施される。本発明の方法を必要とする対象は、鉄欠乏症(ID)を患っているか、それと診断されているか、その疑いがあるか、又はそれを発症するリスクがある対象である。幾つかの実施態様では、鉄欠乏症は鉄欠乏性貧血である。鉄欠乏性貧血(IDA)は、鉄貯蔵が枯渇すると発症する。IDを患っている対象はIDAを患っている場合があり;IDAを患っている対象は必然的にIDを患っている。ID及びIDAを診断する方法は当該技術分野で十分に確立されており、臨床現場で一般的に使用されている。
【0035】
ID若しくはIDAを患っているか、それと診断されているか、その疑いがあるか、又はそれを発症するリスクがある対象には、例えば(i)経口鉄剤に対して不耐性であるか、又は(ii)経口鉄剤に対して不満足な反応があるか、又は(iii)必要とされる期間に対して経口鉄剤の使用が現実に完了していない(すなわち、経口鉄剤治療過程へのノンアドヒアランス/ノンコンプライアンス)対象などの対象において、経口鉄剤が許容されないか又は効果的ではないか又は使用できない場合には、鉄錯体化合物の形態で非経口鉄剤が投与される。静脈内、皮下、又は筋肉内鉄剤が必要となる別の状況は、鉄を迅速に送達する必要がある場合、つまり、鉄貯蔵を迅速に充足させる臨床的必要性がある場合である。
【0036】
[治療が施される対象-コンパニオンアニマル]
本発明は特に、イヌ科(イヌなど)、ネコ科(ネコなど)、又はウマ科(ウマなど)などのコンパニオンアニマル、特にイヌ及びネコなどのイヌ科及びネコ科における鉄欠乏症の治療に関する。好ましくは、本発明に係るコンパニオンアニマルはイヌである。
【0037】
本発明はまた、ヒト又は非ヒト対象における鉄欠乏症の治療にも関する。
【0038】
[鉄欠乏症と貧血]
鉄欠乏性貧血状態は、体内の鉄貯蔵が不十分又は枯渇しているため(絶対的IDA)、或いは他の十分な体内鉄貯蔵から鉄を動員できないため(機能的IDA)、赤血球生成中に鉄が利用できない場合に起こる。
【0039】
機能的鉄欠乏性貧血は、感染症、炎症及びがんと共に観察される(Naigamwalla等,2012)。ここで、ヘプシジンは、肝臓、脾臓、及び骨髄のマクロファージにおいて、鉄を不溶性の形態のヘモシデリンとして隔離する。従って、鉄は赤血球生成のために動員できず(Dignass,2015)、機能的IDAが続いて起こる。
【0040】
絶対的IDAでは、慢性的な失血又は食餌による鉄摂取量の低下の何れかの結果として、体内の鉄貯蔵が数週間にわたって枯渇する。慢性的な体外失血はイヌにおける鉄欠乏性貧血の主要な原因である。ノミとあまり一般的ではないダニ及びウジ寄生などの外部寄生、並びに鉤虫とあまり一般的ではない鞭虫などの内部寄生による重度の寄生が、かなりの失血を引き起こす場合がある。慢性かつ間欠性の胃腸(GI)失血は、慢性又は再発性の体外出血の原因となることが多いため、平滑筋腫/肉腫及びリンパ腫などのGI腫瘍の出血だけでなく、潰瘍形成性薬剤(グルココルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症剤、化学療法剤)によっても鉄喪失が生じる場合がある。加えて、慢性炎症性腸疾患(IBD)はかなりの失血を伴う場合がある。23kgを超える献血対象から定期的に約450mlの血液を採取するたびに、体内から約200mgの鉄が除去されるため、小型の対象の過度の献血及び診断目的での頻繁な静脈切開もまた鉄欠乏状態を引き起こす場合がある。
【0041】
上記トリガーは正常な止血にもかかわらず大量出血を引き起こす場合があるが、止血障害は更に慢性的及び/又は再発性の重度の出血を引き起こし、IDAが続く場合がある。これらには、遺伝性凝固障害、血小板減少症、血小板病症及びフォン・ヴィルブランド病が含まれる。
【0042】
子犬や若い犬など、新生仔から若年期の対象では、急速な成長と赤血球生成に必要な鉄分が、食餌及び体内貯蔵から利用できる供給量を超える場合がある。実際、新生仔の鉄貯蔵量は一般に少なく、母乳も鉄分が少ない。それにもかかわらず、IDAは、典型的には、内部及び外部寄生からの慢性的な体外失血を伴う子犬でのみ見られる。
【0043】
従って、鉄欠乏性貧血(IDA)を引き起こす状態には、限定されないが、内部寄生虫(例えば、鉤虫及び鞭虫)、胃腸新生物(例えば、平滑筋腫/肉腫)、胃潰瘍(例えば、グルココルチコイド、非ステロイド性抗炎症剤、又は化学療法剤などの薬剤によって誘発される)、炎症性腸疾患(IBD)、又はがんを含む他の重度のGI浸潤によるものでありうる胃腸(GI)管中への出血;鼻出血(鼻腫瘍、異物、感染症)、出血性膀胱炎などの他の外出血;腎臓/膀胱新生物、献血(特に頻繁に繰り返される場合)、外部寄生虫(ノミ、ダニ、ウジ虫など)、皮膚病変からの出血、手術/外傷、又は子宮及び膣の失血;凝固障害、血小板減少症、血小板症(thrombocytopathia)、血小板病症(thrombopathia)、フォン・ヴィレブランド病、又は血管障害などの止血障害;鉄欠乏食(肉を含まない)又は鉄吸収欠陥(例えば、鉄抵抗性鉄欠乏性貧血)による、例えば授乳中の子犬や離乳した子犬における、食餌鉄分不足;及び慢性腎臓病(CKD)などのその他の状態が含まれる。
【0044】
IDAを引き起こす状態は慢性的又は非慢性的でありうる。IDAを引き起こしうる慢性的又は進行中の外失血の状態は、対処及び治療が難しい病因によって生じる場合がある。例は、がん、胃腸(GI)出血(例えば切除不能な腫瘍によって誘導される)、又は炎症性腸疾患(IBD)などの炎症状態である。そのような状態は、疾患又は症状を管理又は制御する治療法を用いることによってその影響が遅延又は低減されうるという意味でのみ管理可能又は制御可能でありうる。このような疾患又は状態は、慢性的、継続的、断続的、及び/又は治療不能であると記述される場合がある。所定の実施態様では、慢性疾患又は状態によって引き起こされるIDAは、対象に一を超える用量の鉄錯体化合物を投与することによって(例えば、反復投与によって)管理又は制御される。
【0045】
IDAは、また、治療可能で非慢性的な一又は複数の基礎疾患又は状態、例えば、外部寄生虫(例えば、ノミ、マダニ、ウジ虫)及び内部寄生虫(例えば、鉤虫及び鞭虫)、胃腸(GI)出血(例えば、切除可能な腫瘍及び新生物、潰瘍、裂傷、非ステロイド性抗炎症薬誘導性出血により誘導される)、食餌性鉄の吸収不良、不適切な栄養、又は他の外出血(例えば、尿出血、膀胱炎、外傷、外科的失血、献血)によって引き起こされる場合もある。このような状態は治療されうる。このような疾患又は状態は、急性、非慢性、及び/又は治療可能であると記述される場合がある。所定の実施態様では、非慢性疾患又は状態によって引き起こされるIDAは、対象に単回用量の鉄錯体化合物を投与することによって治療される。
【0046】
コンパニオンアニマルにおいて上記状態が発生する頻度は種と共に変動する。例えばネコでは、CKDはどの年齢においても見られうるが、最も一般的には中乃至高齢のネコ(7歳以上)に見られ、加齢と共にその頻度は益々高くなる。従って、CKDを有するネコは、本発明に係る治療を受けやすい特定の対象群を代表する。本発明に係る治療を受けやすい他の特定の対象群は、獣医学の当業者には明らかであろう。
【0047】
[鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血の臨床徴候及び症状]
鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血の診断は、血液学的分析と組み合わせた対象の病歴及び提示される臨床徴候又は症状(身体検査)の評価に基づく。
【0048】
ヒトにおける鉄欠乏症の症状は、状態が鉄欠乏性貧血に進行する前に現れうる。鉄欠乏症の症状には、とりわけ、例えば、疲労、めまい、顔面蒼白、脱毛、過敏症、脱力感、異食症、脆い又は溝が入った爪、プラマー・ビンソン症候群(舌、咽頭及び食道を覆う粘膜の痛みを伴う萎縮)、免疫機能障害、嚥下症、下肢静止不能症候群が含まれうる。
【0049】
イヌなどのコンパニオンアニマルでは、鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血は数週間から数か月かけて発症し、しばしば潜行性であるため、動物の顕著な適応が可能になる。腸管を含む外出血の特定の徴候を除いて、臨床徴候はむしろ非特異的であり、貧血の程度よりも進行速度に依存する。ID又はIDA動物の一般的な臨床徴候には、限定されないが、顔面蒼白、運動不耐症、嗜眠、脈拍の跳ね上がり、ギャロップリズム、収縮期血流雑音、異食症、心肥大、爪の変化、及び筋活動の低下が含まれる。失血、外部/内部寄生虫症、GI潰瘍などのGI疾患、新生物、腎疾患、又はID及びIDAの関連する可能な別の原因の病歴が役立つ指標となる。
【0050】
ここに開示される方法による治療を受けている対象は、鉄欠乏症(ID)の改善を経験しうる。ここに開示される方法による治療を受けている対象は、鉄欠乏性貧血(IDA)の改善を経験しうる。この改善は、ここに開示される鉄錯体化合物の投与を通して、対象の体内の鉄の総量、血中ヘモグロビン濃度、及び/又は血液の酸素運搬能力が増加するにつれて起こりうる。幾つかの実施態様では、ここに開示される方法による治療を受けている対象は、ID若しくはIDAの一若しくは複数の臨床徴候又は一若しくは複数の症状の減少を経験する。幾つかの実施態様では、減少は一過性のものである。好ましい実施態様では、ID若しくはIDAの一若しくは複数の臨床徴候又は一若しくは複数の症状の一過性の減少により、対象は鉄錯体化合物の更なる用量を受けることができる。他の実施態様では、減少は永続的である。幾つかの実施態様では、ここに開示される方法による治療を受けている対象は、ID又はIDAの一若しくは複数の臨床徴候又は症状の除去を経験する。幾つかの実施態様では、ID又はIDAの一若しくは複数の臨床徴候又は症状は、顔面蒼白、運動不耐症、嗜眠、境界脈拍、ギャロップリズム、収縮期血流雑音、異食症、心肥大、爪の変化、及び筋活動の低下並びに前者の組み合わせから選択される。
【0051】
[鉄貯蔵パラメーター]
鉄欠乏症を患っている対象は、全身の鉄状態が低いか不十分なマーカーで証明される場合がある。これは、そのような対象が適切な鉄レベルを維持するのに十分な鉄をその体内に貯蔵していない可能性があることを意味する。例えば、十分に栄養が与えられた殆どの健康なイヌは、その体内に数グラムの鉄を蓄えている可能性がある。この鉄の一部は、血液を通して酸素を運ぶヘモグロビンに含まれる。残りの鉄の殆どは、全ての細胞中に存在する鉄結合錯体に含まれているが、骨髄及び肝臓、脾臓などの臓器ではより高濃度に濃縮されている。肝臓の鉄貯蔵量は、健康な体の主要な生理学的鉄貯蔵量である。体の総鉄含有量の一部は、酸素貯蔵(ミオグロビン)又はエネルギー生成酸化還元反応(チトクロムタンパク質)の実施などの細胞プロセスに鉄を使用するタンパク質で利用される。貯蔵鉄に加えて、少量の鉄がトランスフェリンと呼ばれるタンパク質に結合して血漿を循環する。
【0052】
鉄欠乏症の対象は、先ず体内に貯蔵されている鉄を使い果たす。体内で利用される鉄の大部分はヘモグロビンに必要とされているため、鉄欠乏性貧血が鉄欠乏症の主要な臨床徴候である。臓器を含む組織への酸素輸送は不可欠であり、重度の貧血は全身の酸素欠乏のため有害であり、死に至る可能性がある。鉄欠乏の対象は、細胞内プロセスに必要な鉄が細胞から枯渇するかなり前に、酸素欠乏によって引き起こされる臓器損傷に苦しみ、場合によっては死亡する可能性がある。
【0053】
対象が適切な健康を維持するのに十分な鉄貯蔵量を持っているかどうかを判定するために測定されうる全身鉄状態のマーカーが幾つかある。これらのマーカーは、循環鉄貯蔵量、鉄結合錯体に貯蔵された鉄、又はその両方であり得、典型的には、鉄貯蔵パラメーターとも呼ばれる。鉄貯蔵パラメーターには、例えば、ヘマトクリット(Hct)、充填細胞容積(PCV)、ヘモグロビン濃度(Hb、ヘモグロビンレベルとも呼ばれる)、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和度(TSAT)、血清鉄レベル、肝臓鉄レベル、脾臓鉄レベル、及び血清フェリチンレベルが含まれうる。これらのうち、Hct、Hb、TIBC、TSAT、及び血清鉄レベルが、循環鉄貯蔵量を測定するパラメーターとして一般に知られている。肝臓鉄レベル、脾臓鉄レベル、及び血清フェリチンレベルが、一般に、貯蔵鉄又は鉄結合錯体に貯蔵された鉄を測定するパラメーターと呼ばれる。
【0054】
上記の血液パラメーターは血清中で定量されるが、血漿中でも同様に定量できることに留意されたい。血清レベルと血漿レベルは相関しており、互いに変換できる。
【0055】
IDは、典型的には、網赤血球ヘモグロビン含有量又は網赤血球ヘモグロビン等量(使用される分析装置に応じて、それぞれCHr及びRET-Heと示される)などの鉄の初期指標に基づいて、貧血の前に診断される。最近の研究では、イヌの血液におけるこのパラメーターが調査され、低CHr/RET-Heと鉄欠乏及び/又は鉄欠乏性貧血の他の利用可能な指標との間に良好な相関関係があることが見出された(Fry及びKirk,2006;Prins等,2009;Schaefer及びStokol,2015;Fuchs等,2017;Steinberg及びOlver,C.S 2005)。幾つかの実施態様では、鉄欠乏対象のCHr/RET-Heは20pg以下である。IDAは、典型的には、対象の血液サンプルから測定された全血球数に基づいて診断される。焦点は、Hb、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、並びにHct/PCV及び赤血球(RBC)数などの赤血球パラメーターにある;但し、IDAによる白血球減少症及び血小板増加症の可能性もある。例えばイヌにおける鉄欠乏性貧血の特徴は、赤血球小赤血球症及び血色素減少症を伴うヘモグロビン濃度の低下である(Bohn,2013)。血液塗抹標本は低色素血を確認するために使用される。貧血はIDAで修復される可能性があるが、赤血球生成には効果がない。従って、IDAでは網赤血球増加症並びに多染性が存在する。
【0056】
簡便には、自動血液分析装置が利用されて、サンプル中のRBCの総数、Hb、Hct、MCV、MCHC、及びフローサイトメトリーによる追加の血液パラメーター(例えば、CHr/RET-He)を含む血液パラメーターが報告される。多くの国では、IDAの有無を判断するために、MCV、MCHC、Hb、RBC数の4つのパラメーターのうち少なくとも一つが測定される。一部の国では、IDAの存在を決定するためにCHr/RET-Heが使用される場合がある。Hbには所定の閾値が設定されており、対象のヘモグロビンレベルがその値を下回ると、IDAと診断されうる。
【0057】
ヘモグロビン濃度又はレベル(Hb)は、血液の容積当たりのヘモグロビンの総量である。健康な対象では、典型的なHb範囲は次の通りである:女性の場合、Hb=12.0から15.5g/dL;男性の場合、Hb=13.5から17.5g/dL;イヌの場合、Hb=11.9から18.9g/dL、ネコの場合、Hb=9.8から15.4g/dL;ウマの場合、Hb=10.1から16.1g/dL。しかし、鉄欠乏症の対象では、ヘモグロビン濃度が大きく低下する可能性がある。幾つかの実施態様では、鉄欠乏症のイヌのHbは6g/dL未満(イヌが重度のIDAを患っていることを示す);6から9g/dLの範囲(イヌが中等度のIDAを患っていることを示す)、又は9から11g/dLの範囲(イヌが軽度のIDAを患っていることを示す)である。
【0058】
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)は、赤血球内のヘモグロビンの平均濃度の尺度であり、所定の容積の濃厚赤血球内のヘモグロビンタンパク質の量によって決定される。典型的には、ヘモグロビン濃度をヘマトクリットで割ることによって計算される。健康な対象では、典型的なMCHC範囲は次の通りである:女性の場合、MCHC=31から35g/dL;男性の場合、MCHC=31から35g/dL;イヌの場合、MCHC=32.0から36.3g/dL、ネコの場合、MCHC=30から36g/dL;ウマの場合、MCHC=35.3から39.3g/dL。しかし、鉄欠乏症の対象では、MCHCが大きく低下する可能性がある。幾つかの実施態様では、鉄欠乏症のイヌのMCHCは30g/dL未満である。
【0059】
平均赤血球容積(MCV)は、赤血球の平均容積の尺度である。これは典型的には、血液の容積に細胞性血液の割合(ヘマトクリット)を掛け、その積をその容積中の赤血球の数で割ることによって計算される。健康な対象では、典型的なMCV範囲は次の通りである:女性の場合、MCV=80から100g/dL;男性の場合、MCV=80から100fL;イヌの場合、MCV=66から77fL、ネコの場合、MCV=39から55fL;ウマの場合、MCV=37.3から49.0fL。しかし、鉄欠乏症の対象では、MCVが大きく低下する可能性がある。幾つかの実施態様では、鉄欠乏症のイヌのMCVは60fL未満である(イヌが重度のIDAを患っていることを示す)。
【0060】
幾つかの実施態様では、ここに開示される方法による治療を受けている対象は、ヘモグロビン濃度の増加を経験する。幾つかの実施態様では、本開示は、それを必要とする対象におけるヘモグロビン濃度を増加させる方法を提供し、該方法は、鉄錯体化合物を対象に投与することを含み、鉄錯体化合物は、対象におけるヘモグロビン濃度の増加をもたらす。
【0061】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、投与後3週間(21日)で、0.5g/dL超、0.6g/dL超、0.7g/dL超、0.8g/dL超、0.9g/dL超、01.0g/dL超、1.1g/dL超、1.2g/dL超、1.3g/dL超、1.4g/dL超、1.5g/dL超、1.6g/dL超、1.7g/dL超、1.8g/dL超、又は1.9g/dL超のヘモグロビン濃度の平均増加をもたらす。
【0062】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、投与後3週間(21日)で、7.0g/dL未満、6.0g/dL未満、5.0g/dL未満、4.5g/dL未満、4.0g/dL未満、又は3.5g/dL未満のヘモグロビン濃度の平均増加をもたらす。
【0063】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、投与後3週間(21日)で、0.5から7.0g/dL、1.0から6.0g/dL、1.3から5.0g/dL、1.5から4.5g/dL、1.7から4.0g/dL、又は1.9から3.5g/dLのヘモグロビン濃度の平均増加をもたらす。
【0064】
1週間でのヘモグロビン濃度の平均増加は、3週間での平均増加よりも0.5から2.0g/dL低いと予想される。投与後4週間又は8週間でのヘモグロビン濃度の平均増加は、投与後3週間での平均増加とほぼ同じであると予想される。
【0065】
上述のヘモグロビン濃度の平均増加は、特にコンパニオンアニマル、好ましくはイヌ科及びネコ科、最も好ましくはイヌの治療に適用される。
【0066】
獣医学では、ヒトの医学で主として使用されるHb濃度の代わりに、Hct又はPCVが貧血とその重症度を評価するパラメーターとして伝統的に使用されている(Tvedten,2010)。Hct/PCVは一般にこの点で許容できる信頼性を有しているが、Hbよりも精度が劣る。マイクロヘマトクリットとしても知られるPCVは、抗凝固処理された血液で満たされた毛細管の遠心分離後に直接測定されるが、血液分析装置によって得られるHctは次のように計算される:Hct=(MCV×RBC数)÷10。それにもかかわらず、殆どの条件下でHbとPCV/Hctは、Hb(g/dL)≒1/3×Hct(%)のような密接な関係にある。潜在的な不正確性を排除するには、血中Hb濃度をコンパニオンアニマルの貧血の評価における主要パラメーターとして考慮する必要がある。
【0067】
Hct/PCVは、血中血球容積又は赤血球容積分率とも呼ばれ、血液中の赤血球の容積パーセンテージである。例えば、健康なイヌでは、Hct/PCVは典型的には血液量の35~57%である。健康なネコでは、Hct/PCVは典型的には血液量の30~45%であり、健康なウマでは典型的には血液量の27~43%である。しかし、鉄欠乏症の対象では、鉄の吸収不良及び/又は鉄貯蔵能力の低下により、Hct/PCVがしばしば大幅に枯渇する。幾つかの実施態様では、鉄欠乏症のイヌのHct/PCVは、18%未満(イヌが重度のIDAを患っていることを示す);18%から27%の範囲(イヌが中等度のIDAを患っていることを示す)、又は27%から35%の範囲(イヌが軽度のIDAを患っていることを示す)である。
【0068】
ここに開示される鉄錯体化合物は、Hct/PCVを増加させるために対象に投与されうる。投与の正確なタイミングは、例えば、対象が経験している鉄欠乏症の重症度、対象が経験しているか又はしていない鉄吸収レベル、治療中の健康管理専門家の判断などに応じて、必然的に対象ごとに変わりうる。幾つかの実施態様では、本開示は、それを必要とする対象においてHct/PCVを増加させる方法を提供し、該方法は、鉄錯体化合物を対象に投与することを含み、鉄錯体化合物は対象のHct/PCVの増加をもたらす。幾つかの実施態様では、増加は、1%から30%、1%から15%、1%から12%、1%から10%、1%から9%、1%から8%、1%から7%、1%から6%、1%から5%、1%から4%、1%から3%、又は1%から2%である。
【0069】
これらのパラメーターに加えて、血清フェリチンの測定はIDAの診断に役立ちうる。肝臓のフェリチン貯蔵は、体内の貯蔵鉄の主要な供給源である。フェリチンは、鉄を貯蔵し、制御された方法で鉄を放出する細胞内タンパク質である。医学的には、血液サンプル及び/又は肝臓組織サンプル中に存在するフェリチンの量は、肝臓に貯蔵されている鉄の量を反映している(但し、フェリチンは遍在しており、肝臓に加えて体内の多くの他の組織にも見出すことができる)。フェリチンは、肝臓に鉄を無毒な形態で貯蔵し、鉄が必要とされる領域に鉄を輸送する働きがある。低いフェリチンレベルは、一般的に鉄欠乏性貧血を示す。しかし、フェリチンは急性期タンパク質でもあるため、基礎をなす炎症性疾患によって上昇する場合があるため、フェリチンレベルが正常であってもIDAを除外することはできない。フェリチン測定は人間の医学では完全に標準化されている一方、幾つかの獣医血液学研究室、例えばカンザス州立大学獣医診断研究所(http://www.ksvdl.org/laboratories/comparative-hematology/-2019年9月10日及び2021年7月6日にアクセス)はイヌフェリチンのELISAベースのアッセイを開発しているが、イヌ血清フェリチンの標準化された基準範囲は存在しない。
【0070】
例えば、健康なヒトでは、基準範囲とも呼ばれる正常フェリチン血清レベルは、成人男性では通常15から300ng/mL、成人女性では通常12から250ng/mLである。しかし、鉄欠乏症の対象では、フェリチンへの結合に利用される肝臓に貯蔵される鉄の量が減少するため、血清フェリチンレベルが典型的には著しく低下し、これは、体が鉄を吸収して貯蔵する能力を失うために起こる。
【0071】
ここで使用される「血清フェリチン」(s-フェリチン)という用語は、種特異的二部位免疫酵素(「サンドイッチ」)アッセイ又は別の信頼できる定量的血清フェリチンアッセイを使用して測定される血清中のフェリチンのレベルを指す。フェリチンは体の主要な鉄貯蔵タンパク質である。フェリチンの濃度は体の総鉄貯蔵量に正比例するため、血清フェリチンレベルは鉄の状態を評価する一般的な診断ツールになる。鉄欠乏性貧血の対象は正常対象のおよそ10分の1の血清フェリチンレベルを有する。フェリチンレベルは、鉄欠乏症を早期段階で検出する高感度の手段をまた提供する。
【0072】
幾つかの実施態様では、ここに開示される方法による治療を受けている対象は、血清フェリチンレベルの増加を経験する。幾つかの実施態様では、本開示は、増加を必要とする対象において血清フェリチンを増加させる方法を提供し、該方法は、鉄錯体化合物を対象に投与することを含み、鉄錯体化合物は血清フェリチンの増加をもたらす。
【0073】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後4週間又は8週間で、100ng/mL超、110ng/mL超、120ng/mL超、130ng/mL超、140ng/mL超、150ng/mL超、160ng/mL超、170ng/mL超、180ng/mL超、190ng/mL超、又は200ng/mL超である血清フェリチンの平均増加をもたらす。
【0074】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後4週間又は8週間で、400ng/mL未満、390ng/mL未満、380ng/mL未満、370ng/mL未満、360ng/mL未満、350ng/mL未満、340ng/mL未満、330ng/mL未満、320ng/mL未満、310ng/mL未満、300ng/mL未満、290ng/mL未満、280ng/mL未満、270ng/mL未満、260ng/mL未満、又は250ng/mL未満から選択される血清フェリチンの平均増加をもたらす。
【0075】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後4週間又は8週間で、100から400ng/mL、100から375ng/mL、100から350ng/mL、100から325ng/mL、100から300ng/mL、100から275ng/mL、又は150から300ng/mLの血清フェリチンの平均増加をもたらす。
【0076】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後1週間で、200ng/mL超、230ng/mL超、260ng/mL超、290ng/mL超、320ng/mL超、350ng/mL超、380ng/mL超、410ng/mL超、又は440ng/mL超である血清フェリチンの平均増加をもたらす。
【0077】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後1週間で、600ng/mL未満、590ng/mL未満、580ng/mL未満、570ng/mL未満、560ng/mL未満、550ng/mL未満、540ng/mL未満、530ng/mL未満、520ng/mL未満、510ng/mL未満、500ng/mL未満、490ng/mL未満、480ng/mL未満、470ng/mL未満、460ng/mL未満、又は450ng/mL未満から選択される血清フェリチンの平均増加をもたらす。
【0078】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後1週間で、200から600ng/mL、250から600ng/mL、300から600ng/mL、350から600ng/mL、又は400から600ng/mLの血清フェリチンの平均増加をもたらす。
【0079】
血清フェリチンの平均増加は、特にヒトの治療に当てはまる。同様の値は、コンパニオンアニマル、特にイヌ科及びネコ科、最も好ましくはイヌに当てはまりうる。
【0080】
貯蔵鉄に加えて、少量の鉄が、トランスフェリンと呼ばれるタンパク質に結合して血漿中を循環する。従って、血清鉄(s-鉄)レベルは、タンパク質トランスフェリンに結合した血液中を循環する鉄の量によって表すことができる。トランスフェリンは、一つ又は二つの第二鉄(鉄(III)又はFe3+)イオンと結合できる肝臓によって生成される糖タンパク質である。それは血液中で最も広く存在し、鉄の動的なキャリアであり、従って、体全体で使用するために貯蔵鉄を輸送する体の能力の必須の成分である。トランスフェリン飽和度(又はTSAT)はパーセンテージとして測定され、血清鉄と総鉄結合能の比率に100を乗じて計算される。この値により、臨床医は、鉄の結合に利用可能なトランスフェリンの総量に血清鉄が実際にどれだけ結合しているかを知ることができる。例えば、TSAT値35%は、血液サンプル中のトランスフェリンの利用可能な鉄結合部位の35%が鉄で占められていることを意味する。例えば、健康なイヌの場合、典型的なTSAT値は約15~50%である。しかし、鉄欠乏症の対象では、トランスフェリンによる結合に利用可能な鉄の量が減少するため、TSAT値は典型的には著しく低下し、これは、体が鉄を吸収して貯蔵する能力を失うために起こる。幾つかの実施態様では、鉄欠乏症の対象のTSAT値は20%未満、及び/又はフェリチン濃度は<100μg/Lである。
【0081】
幾つかの実施態様では、ここに開示される方法による治療を受けている対象は、TSAT値の増加を経験する。幾つかの実施態様では、本開示は、増加を必要とする対象においてTSATを増加させる方法を提供し、該方法は、鉄錯体化合物を対象に投与することを含み、鉄錯体化合物は、対象においてTSATの増加をもたらす。
【0082】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後4週間又は8週間で、1%超、1.5%超、2%超、又は2.5%超であるTSATの平均増加をもたらす。
【0083】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後4週間又は8週間で、5%未満、4%未満、又は3%未満のTSATの平均増加をもたらす。
【0084】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後4週間又は8週間で、1から5%、1.5から4%、又は2から3%のTSATの平均増加をもたらす。
【0085】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後1週間で5%超、6%超、又は7%超であるTSATの平均増加をもたらす。
【0086】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後1週間で、20%未満、19%未満、18%未満、17%未満、16%未満、又は15%未満のTSATの平均増加をもたらす。
【0087】
幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物は、治療後1週間で、5から20%、又は5から15%のTSATの平均増加をもたらす。
【0088】
収集した情報で鉄欠乏以外の貧血の原因を完全に除外できない疑わしい状況では、骨髄穿刺が検討される場合がある。骨髄に染色可能な鉄が存在しない場合は、イヌの赤血球生成のための鉄が不足していることを示している場合がある。
【0089】
本発明に係る治療法に特に適したコンパニオンアニマルは、次の一又は複数を有するものである:
- 11g/dL未満のヘモグロビン濃度(Hb);
- 35%未満のヘマトクリット(Hct/PCV);
- 60fL未満の平均赤血球容積(MCV);
- 20pg以下の網赤血球ヘモグロビン含有量(CHr)/網赤血球ヘモグロビン当量(RET-He);及び/又は
- 30g/dL以下の平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)。
【0090】
幾つかの実施態様では、ここに開示される方法による治療を受けている対象は、Hbが閾値レベルを超えて上昇及び/又は維持されるため、鉄欠乏症及び/又は鉄欠乏性貧血の改善を経験する可能性がある。幾つかの実施態様では、鉄欠乏症及び/又は鉄欠乏性貧血の治療方法が開示され、該方法は、鉄錯体化合物を対象に投与することを含み、鉄錯体化合物は次のうちの一又は複数をもたらす:
- 11g/dL以上のヘモグロビン濃度(Hb);
- 35%以上のヘマトクリット(Hct/PCV);
- 60fL以上の平均赤血球容積(MCV);
- 20pg超の網赤血球ヘモグロビン含有量(CHr)/網赤血球ヘモグロビン当量(RET-He);及び/又は
- 30g/dL超の平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)。
【0091】
本開示は、改善を必要とする対象において一つ又は複数の鉄貯蔵パラメーターを改善する方法を提供する。少なくとも一つの鉄貯蔵パラメーターは、血清フェリチンレベル、トランスフェリン飽和度(TSAT)、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット、総鉄結合能、鉄吸収レベル、血清鉄レベル、肝臓鉄レベル、脾臓鉄レベル、及びそれらの組み合わせから選択されうる。
【0092】
一実施態様では、少なくとも一つの鉄貯蔵パラメーターはヘモグロビン濃度であり、改善することは、対象のヘモグロビン濃度を増加させることを含む。他の実施態様では、少なくとも一つの鉄貯蔵パラメーターはトランスフェリン飽和度であり、改善することは、対象のトランスフェリン飽和度を増加させることを含む。更に他の実施態様では、少なくとも一つの鉄貯蔵パラメーターは血清フェリチンレベルであり、改善することは、対象の血清フェリチンレベルを増加させることを含む。
【0093】
[鉄錯体化合物]
ここに記載されるのは、鉄錯体化合物と、追加の薬物との鉄錯体化合物の組み合わせとを投与することを含む治療方法、すなわち鉄欠乏症の治療法であり、鉄錯体化合物は所定の特性を有し、従って治療を受けている対象において所定の効果を発揮する。従って、本発明の方法は、前記特性を共有する錯体に適用可能である。例えば、鉄錯体化合物は比較的安定しているべきであり;優れた吸収特性を持っているべきであり;低い尿中排泄量を示すべきである。
【0094】
更に特定しない限り、ここで使用される「鉄錯体化合物」という用語は、Fe3+及び/又はFe2+と一つ又は複数の配位子を含む鉄イオン又は鉄粒子の任意の錯体を指す。鉄原子は、配位子とのイオン及び配位共有結合を介して、又は多核鉄配位子ナノ分子、好ましくは鉄糖ナノ分子の一部として、配位錯体中で結合している。
【0095】
[配位子]
好都合には、本発明の鉄錯体化合物に使用される配位子及び塩、並びにその組成物の担体及び他の成分は生理学的に許容されるものである。ここで使用される「生理学的に許容される」という用語は、治療有効量の鉄錯体化合物又は配位子、塩、担体若しくは他の成分を含む組成物が対象に投与されるときに、配位子、塩、担体又は他の成分が急性毒性を引き起こさないことを意味する。
【0096】
[糖]
一実施態様群によれば、鉄錯体化合物中の配位子は糖である。
【0097】
更に特定しない限り、ここで使用される「糖」という用語には、ここに記載された、還元され、酸化され、誘導体化され、又はそれらの組み合わせである糖が含まれる。特に、糖は、例えば、糖のヒドロキシル基でエーテル、アミド、エステル及びアミンを形成することによって、又は糖のアルデヒド基をグリコール基に変換してヘプトン酸を形成することによって誘導体化することができる。従って、ここで使用される「糖」という用語は、実験式Cm(H2O)nを有する化合物に限定されず、ここで、m及びnは、互いに同じであっても異なっていてもよい整数である。
【0098】
本発明の鉄糖錯体において配位子として使用されうる糖には、例えば、単糖;二糖、例えばスクロース、マルトース又はイソマルトース;オリゴ糖及び多糖、例えばマルトデキストリン、ポリグルコース、デキストラン、オリゴマルトース、オリゴイソマルトース;糖アルコール、例えばソルビトール及びマンニトール;糖酸とその塩、例えばグルコン酸、グルコン酸塩、デキストラングルコヘプトン酸、デキストリングルコヘプトン酸、デキストラングルコヘプトン酸塩及びデキストリングルコヘプトン酸塩、並びにそれらの還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化バリアント、例えばカルボキシマルトース、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル、水素化デキストラン、酸化デキストラン、カルボキシアルキル化オリゴ糖及び多糖、酸化オリゴ糖及び多糖、水素化デキストリン、酸化デキストリン、水素化オリゴマルトース、水素化オリゴイソマルトース、水素化オリゴマルトース、ヒドロキシエチルデンプン、ヘプトン酸部分を担持するヒドロキシエチルデンプン、又はそれらの二種以上の混合物が含まれる。オリゴ糖及び多糖が使用される場合、これらは典型的には、様々な鎖長を有するオリゴ糖及び多糖の混合物を含む。従って、これらのオリゴ糖及び多糖は、重量平均分子量又は数平均分子量、及び分子量の範囲にわたるこれらの分子の分布によって簡便に特徴付けることができる。簡単にするために、オリゴ糖又は多糖への言及は、そのような混合物を指すことを意味する。
【0099】
ここで使用される「オリゴ糖」という用語は、一般に、少数、典型的には3~10の単糖単位を有する糖又はその還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化バリアント、或いは二種以上の糖、又はその還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化バリアントの混合物を指し、ここで、分子の大部分(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、又は少なくとも80%)が少数、典型的には3~10の単糖単位を有する。
【0100】
ここで使用される「単量体糖」という用語は、単糖又はその還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化バリアント、或いは二種以上の単糖及び/又はそのバリアントの混合物を指す。
【0101】
ここで使用される「二量体糖」という用語は、二つの単糖単位(二糖など)を有する糖、又はその還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化バリアン、或いは二種以上の糖、又はその還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化バリアントの混合物を指し、ここで、分子は二つの単糖単位を有する。
【0102】
糖アルコールは、アルデヒド基がヒドロキシル基に変換された単糖又は二糖誘導体である。
【0103】
糖酸は、カルボキシル基を有する単糖誘導体である。カルボキシル基は、例えば、アルドースのアルデヒド基を酸化してアルドン酸を形成し、2-ケトースの1-ヒドロキシル基を酸化してα-ケト酸(ウロソン酸)を形成し、アルドース又はケトースの末端ヒドロキシル基を酸化してウロン酸を得るか、又はアルドースの両端を酸化してアルダル酸を得ることによって得ることができる。
【0104】
好ましくは、糖中の還元性アルデヒド基の含有量は少なくとも部分的に低下される。これは、水素化、酸化、グリコシル化、又はそれらの組み合わせによって達成できる。水素化及び/又は酸化された糖を含む鉄糖錯体化合物は、例えば、これらの全てが出典明示により援用される国際公開第99/48533A1号;国際公開第2010/108493A1号又は国際公開第2019/048674A1号に記載されているように調製することができる。還元性糖の量は、ソモジー試薬を使用して定量できる。
【0105】
具体的には、アルデヒド基は、例えば糖を水溶液中の水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤と反応させることによって、又はPt若しくはPdなどの水素化触媒の存在下で水素と反応させることによって、水素化によってヒドロキシル基に変換することができる。
【0106】
水素化の代わりに又は水素化に加えて、アルデヒド基を、例えばアルカリ性範囲内のpH、例えばpH8からpH12、特にpH9からpH11の範囲内のpHで次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜臭素酸塩の水溶液を使用する糖の酸化によって酸化することができる。適切な次亜塩素酸塩には、例えば、次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜塩素酸塩が含まれ、同じことが亜塩素酸塩及び次亜臭素酸塩にも当てはまる。次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜臭素酸塩の水溶液は、活性塩素として計算して、例えば少なくとも13重量%、特に13から16重量%の範囲の濃度を有しうる。酸化反応は、例えば15から40℃、好ましくは25から35℃の範囲の温度で実施されうる。反応時間は、例えば、10分から4時間、例えば、1から1.5時間の範囲である。例えば臭化ナトリウムなどのアルカリ金属臭化物の形態での、触媒量の臭素イオンの添加により酸化反応を促進しうるが、必須ではない。
【0107】
糖のアルデヒド基は、水素化と酸化の両方によって変換できる。これは、例えば、最初に糖を水素化してアルデヒド基の一部をヒドロキシル基に変換し、次に残りのアルデヒド基の実質的に全てをカルボキシル基に酸化することによって、達成できる。糖がデキストランなどの多糖である場合、それと共に形成される鉄糖錯体の平均分子量は、水素化アルデヒド基と酸化アルデヒド基の比率を調整することによって影響を受ける場合がある。安定した生成物を得るには、酸化前の糖(デキストランなど)中の還元基の量が15重量%を超えてはいけない。
【0108】
還元及び/又は酸化糖を含む糖は、糖のヒドロキシル基と例えばエーテル、アミド、エステル及びアミンを形成することによって誘導体化することができる。特定の実施態様では、糖は、糖のヒドロキシル基とカルボキシアルキルエーテル、特にカルボキシメチルエーテルを形成することによって誘導体化される。本発明の鉄糖錯体化合物のような生成物におけるカルボキシメチル化糖の使用は、対応する非カルボキシル化糖を含む生成物と比較して、対象に非経口投与した場合の生成物の毒性を低減させることができる。
【0109】
好ましい実施態様では、糖は、カルボキシマルトース、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル、デキストラン、水素化デキストラン、デキストラングルコヘプトン酸、デキストラングルコヘプトン酸塩、デキストリン、水素化デキストリン、デキストリングルコヘプトン酸、デキストリングルコヘプトン酸塩、オリゴイソマルトース、水素化オリゴイソマルトース、ヒドロキシエチルデンプン、水素化ヒドロキシエチルデンプン、ヘプトン酸部分を有するヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、水素化ヒドロキシプロピルデンプン、ヘプトン酸部分を有するヒドロキシプロピルデンプン、又はそれらの二種以上の混合物である。
【0110】
このような糖は、典型的には、500から80000Da、例えば800から40000Da又は800から10000Da、特に800から3000Daの重量平均分子量(MW)を有するであろう。特定の実施態様では、糖は、500から7000Da、例えば500から3000Da、700から1400Da、特に850から1150Da、例えば約1000Da、又は1150から1350Da、例えば約1250Daの重量平均分子量(MW)を有する多糖若しくはオリゴ糖又はそれらの混合物である。
【0111】
(任意選択的に還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化された)オリゴ糖又は多糖調製物である糖調製物中の二量体(二糖)の量は、それから調製された鉄糖錯体化合物からの生理学的鉄放出速度に関する重要な因子であると考えられる。国際公開第2010/108493A1号を参照。従って、糖が、ここに開示された水素化多糖/オリゴ糖などの(任意選択的に還元及び/又は酸化及び/又は誘導体化された)オリゴ糖又は多糖調製物である場合、前記調製物中の二量体糖の含有量は、糖の全重量に基づいて、好ましくは2.9重量%以下、特に2.5重量%以下、特に2.3重量%以下である。糖調製物中の単量体糖の含有量が、糖の全重量に基づいて0.5重量%以下であることがまた好ましい。これにより、非経口投与後に化合物から放出される遊離鉄イオンによって引き起こされる毒性作用のリスクが低減される。
【0112】
特に好ましい糖配位子を以下に記載する。
【0113】
[オリゴイソマルトース]
特に好ましい実施態様では、糖はオリゴイソマルトース、又は更により好ましくは水素化オリゴイソマルトース(すなわち、オリゴイソマルトシド)である。
【0114】
特定の実施態様では、オリゴイソマルトース(トシド)は、700から1500Daの重量平均分子量(MW)を有する。850から1150Da;好ましくは950から1050Da、最も好ましくは975から1025Da、例えば約1000Daの重量平均分子量(MW)を有するオリゴイソマルトース(トシド)が、一つの特定の実施態様を表す。1150から1350Da;好ましくは1200から1300Da、最も好ましくは1225から1275Da;例えば、約1250Daの重量平均分子量(MW)を有するオリゴイソマルトース(トシド)(ここでは「八糖」とも呼ばれる)が、別の特定の実施態様を表す。850から1150Daの重量平均分子量(MW)を有するオリゴイソマルトース(トシド)については、9を超える単糖単位を有する画分が、オリゴ糖の重量の30%未満、好ましくは25%未満、最も好ましくは20%未満;例えば、5%から15%であることが好ましい。1150から1350Daの重量平均分子量(MW)を有するオリゴイソマルトース(トシド)については、9を超える単糖単位を有する画分が、オリゴ糖の重量の40%未満、好ましくは35%未満、最も好ましくは30%;例えば、20から30%であることが好ましい。別の態様によれば、単量体及び二量体(3未満の単糖単位を有する画分)の含有量は、オリゴ糖の重量の10.0%未満、好ましくは3.0%未満、最も好ましくは1.0%未満;例えば、0.1から0.5%である。
【0115】
分子の主要割合(例えば重量で少なくとも40%又は好ましくは少なくとも50%、例えば40から70%又は50から70%)が3~6の単糖単位を有するオリゴイソマルトース(トシド)が、好ましい一実施態様を表す。これは、850から1150の重量平均分子量(MW)を有するオリゴイソマルトース(トシド)に特に当てはまる。従って、本発明の好ましい実施態様では、配位子は、任意選択的に水素化されたオリゴイソマルトース分子の主要割合(例えば、重量で少なくとも40%、又は好ましくは少なくとも50%、例えば、40から70%、又は50から70%)が3~6の単糖単位を有するオリゴイソマルトース(トシド)である。より具体的には、3~6の単糖単位を有する分子の前記割合は、6~10の単糖単位を有する分子の割合よりも高い。このようなオリゴ糖の例は、イソマルトシド1000(INN名:デルイソマルトース)である。
【0116】
分子の主要割合(例えば重量で少なくとも40%又は好ましくは少なくとも45%、例えば40から60%又は45から55%)が6~10の単糖単位を有するオリゴイソマルトース(トシド)(ここでは「八糖」とも呼ばれる)が、別の好ましい実施態様を表す。これは、特に、1150から1350の重量平均分子量(MW)を有するオリゴイソマルトース(トシド)に当てはまる。従って、本発明の好ましい実施態様では、配位子は、任意選択的に水素化されたオリゴイソマルトース分子の主要割合(例えば、重量で少なくとも40%、例えば40から60%)が6~10の単糖単位を有するオリゴイソマルトース(トシド)である。より具体的には、6~10の単糖単位を有する分子の前記割合は、3~6の単糖単位を有する分子の割合よりも重量で多い。このようなオリゴ糖の例は、ここに開示される八糖である。
【0117】
本発明のオリゴイソマルトース(トシド)は、好ましくは水素化オリゴイソマルトース(オリゴイソマルトシド)である。典型的には、このような水素化オリゴイソマルトース(オリゴイソマルトシド)中の還元糖の量は、オリゴ糖の重量の2.5%以下、好ましくは1.0%以下、最も好ましくは0.5%以下;例えば約0.3%である。水素化前、オリゴイソマルトース中の還元糖の量は、オリゴ糖の重量の少なくとも10%、通常は少なくとも15%である。しかし、還元糖の量は糖鎖の分子量分布にも依存する。鎖が短いほど還元糖の量が比較的多くなる一方、鎖が長いほど還元糖の量は少なくなる。従って、オリゴイソマルトース中の還元糖の量が、オリゴ糖の重量の35%未満、好ましくは30%以下;例えば、10%から30%の範囲、好ましくは15から25%の範囲であることが本発明の特定の態様である。
【0118】
[グルコン酸誘導体]
この発明で使用するための別の特定の糖配位子は、デキストラン又はデキストリンなどの糖のグルコン酸誘導体である。例には、ベペクテート又はデキストラングルコヘプトン酸が含まれる。ここで使用される「ベペクテート」という用語は、ヒドロキシエチル-アミロペクチン(デンプン)誘導体を指す。ベペクテートはまたポリグルコフェロンとも呼ばれる。ベペクテートは、例えば、その全てが出典明示により援用される国際公開第2012/175608号に開示されている。このようなヒドロキシエチル-アミロペクチン(デンプン)誘導体は、デンプン分子中に存在する末端グルコシル残基の数に応じて、1分子当たり多くのヘプトン酸残基を有する可能性がある。このヘプトン酸残基は、ヒドロキシエチルデンプンの親水性を増大させ、例えば鉄イオンなどの金属イオンのような配位子とこのヒドロキシエチルデンプンによって形成される錯体の安定性を高める。より一般的に言えば、ヒドロキシエチルデンプン(HES)は、単一のグルコシル残基のヒドロキシル基の一部がヒドロキシエチル残基で置換されたデンプンである。ヘプトン酸残基による修飾は、ヒドロキシエチルデンプンの末端グルコシル残基をヘプトン酸残基に変換することによって行われる。好ましくは、本方法で使用されるヒドロキシエチルデンプンは、200000g/モル未満、特に130000g/モル未満、特に100000g/モル未満、特に90000g/モル未満、特に80000g/モル未満、更に特に75000g/モル未満の重量平均分子量(Mw)を有する。非常に適切な分子量は、55000g/モルから85000g/モルの範囲にある。このようなヒドロキシエチルデンプンは、現在医療分野で使用されている(未変性)ヒドロキシエチルデンプンに比べて比較的分子量が低い。ヒドロキシエチルデンプンの分子量を定量するのに適した方法は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)である。好ましい実施態様では、ヒドロキシエチルデンプンは、0.4から0.6、特に0.45から0.55の平均モル置換度を有する。約0.50の平均モル置換度が特に好ましい。平均モル置換度は、グルコシル残基当たりのヒドロキシエチル残基によって置換されているヒドロキシル基の量の尺度である。各グルコース単位(又はグルコシル残基)には三つのヒドロキシル基があるため、平均モル置換度は最大3でありうる。0.5の平均モル置換度は、(平均又は統計ベースで)各第二のグルコシル残基において、一つのヒドロキシル基がヒドロキシエチル残基によって置換されていることを示す。好ましい実施態様では、ヒドロキシエチルデンプンは、55000から85000g/モル、好ましくは約70000g/モルの重量平均分子量(Mw)、及び0.45から0.55、特に約0.50の平均モル置換度を有する。70000g/モル±15000g/モルの分子量及び0.5±0.05の平均モル置換度を有するそのようなヒドロキシエチルデンプンは、またHES70/0.5とも呼ばれうる。
【0119】
デキストラングルコヘプトン酸、デキストラングルコヘプトン酸塩、デキストリングルコヘプトン酸、及びデキストリングルコヘプトン酸塩は、デキストラン又はデキストリンなどの糖がヘプトン酸残基を有するように修飾される適切な糖配位子の更なる例である。
【0120】
[高分子配位子]
別の実施態様群によれば、配位子は、配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物に適した配位子である。適切な配位子には、例えば、カルボン酸、例えば、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメリン酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、及び安息香酸;食品添加物、例えば、マルトール、エチルマルトール及びバニリン;配位子特性を持つアニオン、例えば重炭酸塩、硫酸塩及びリン酸塩;鉱物配位子、例えばケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩及びセレン酸塩;アミノ酸、特にトリプトファン、グルタミン、プロリン、バリン、ヒスチジンなどのタンパク質形成アミノ酸;及び葉酸塩、アスコルビン酸塩、ピリドキシン、ナイアシンなどの栄養素ベースの配位子;並びにそれらの二種以上の混合物が含まれる。適切な高分子配位子の特定の例は、米国特許第8741615B2号に記載されている生体適合性ポリエチレングリコール系ポリマー、すなわち一般式(I)
(上式中、R
1はアルキル、アリール、カルボキシル、又はアミノであり、R
2はアルキル又はアリールであり、nは5から1000の整数であり、mは1から10の整数である)の生体適合性ポリマーである。R
1及びR
2に適したアルキル基には、C
1~C
20直鎖又は分岐アルキル基が含まれる。一実施態様では、R
1及びR
2のそれぞれは独立して、C
1~C
6直鎖又は分岐アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、及びイソヘキシルである。R
1及びR
2に適したアリール基には、C
6~C
12置換又は非置換アリール基、例えばフェニル、ビフェニル、及びナフチルが含まれ、その置換基の例には、ヒドロキシル、ハロアルキル、アルコキシル、シアノ、ニトロ、アミノ、又はアルキルアミノが含まれる。メチレン単位mの数は、好ましくは1から10の整数である。オキシエチレン単位nの数は、好ましくは5から1000の整数であり、200~50000g/モルの分子量のPEGに相当する。一実施態様では、mは約3であり、nは約15である。
【0121】
生体適合性ポリマーは、酸化鉄ナノ粒子の表面を化学的に修飾して、磁性ナノ粒子と生体適合性ポリマーとを含む生体適合性磁性材料をもたらすことができるという点で有用である。
【0122】
[糖の調製]
ここに開示される糖の殆どの製造には、容易に入手可能な糖からの調製が必要とされる。一般的な出発原料はデキストラン及びデキストリン、つまり、それぞれ主にα-1,6-又はα-1,4-結合グルコース単位を持つポリグルコースである。出発原料として使用されるデキストラン及びデキストリンは典型的には高分子量の多糖であるため、通常、所望の糖の分子量を調整するには、これらを加水分解し、得られた加水分解物を分画する必要がある。
【0123】
本発明のオリゴイソマルトース(トシド)を製造するための典型的なプロセスは、次の工程を含む:
(a)デキストランを加水分解して加水分解物を得る工程;
(b)加水分解物を分別してオリゴイソマルトースを得る工程;及び任意選択的に
(c)オリゴイソマルトースを水素化してオリゴイソマルトシドを得る工程。
【0124】
更なる任意選択的工程は、次の通りである:
例えばダイアフィルトレーションによる精製により、オリゴイソマルトシド中の単糖及び二糖のレベルを低下させる工程;
例えばイオン交換による精製により、精製されたオリゴイソマルトース又はオリゴイソマルトシドを得る工程。
【0125】
例えば、本発明の八糖などのオリゴイソマルトース(トシド)は、組み合わせて限外濾過によって分画されるデキストラン画分から製造することができる。デキストラン画分は、500から2000kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する中間体デキストランから製造することができ、これを加水分解して20000から70000Daの範囲のMwを有するようにする。一又は複数の工程では、所望の分子量分布が達成されるまで、出発物質を加水分解して低分子量にし、分別し、濾過することができる。得られたオリゴイソマルトースをついで水素化して、オリゴイソマルトシドを得ることができる。ダイアフィルトレーションによる精製は、単糖及び二糖のレベルを低下させるのに役立ち、得られた生成物は例えばイオン交換により更に精製されうる。例えば、低量の単糖及び二糖は、例えば340~800Daの範囲のカットオフ値を有する膜を使用する膜濾過によって糖調製物から前記より小さい糖分子を除去することによって達成することができる。精製方法によって得られる画分中の単糖及び二糖の濃度は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって監視できる。
【0126】
ベペクテートの製造は、例えば国際公開第2012/175608A1号に開示されている。簡単に言えば、ヒドロキシエチルデンプンが水に溶解される。次に、pH値が8.0から10.0の値に調整される。その後、シアン化物化合物がヒドロキシエチルデンプン溶液に添加される。次に、溶液が80から99℃の温度に加熱され、第一の期間この温度に維持される。最後に、pH値が2.0から4.0の値に調整され、溶液を50から90℃の温度にし、この温度に第二の期間維持される。デキストラン及びデキストリンのグルコン酸誘導体の製造は、例えば米国特許第3639588号に開示されている。ポリエチレングリコール系ポリマーの製造は、例えば米国特許第8741615号に開示されている。
【0127】
[鉄調製物]
鉄錯体化合物の作製に使用できる鉄調製物は、水溶性鉄塩、水酸化鉄、及び水酸化酸化鉄から選択される形態の鉄を含む。鉄調製物は、これらの鉄形態の二種以上の混合物を含みうる。
【0128】
特定の実施態様では、鉄調製物は水溶性鉄塩、例えば臭化鉄、硫酸鉄又は塩化鉄、特に塩化第二鉄(FeCl3)、塩化第一鉄(FeCl2)又はそれらの混合物を含む。好都合には、水溶性鉄塩は生理学的に許容される塩である。
【0129】
更なる特定の実施態様では、鉄調製物は水酸化鉄、例えば水酸化第二鉄(Fe(OH)3)、水酸化第一鉄(Fe(OH)2)又はそれらの混合物を含む。
【0130】
更なる特定の実施態様では、鉄調製物は水酸化酸化鉄を含む。水酸化酸化鉄は、オキシ水酸化鉄とも呼ばれる場合がある。水酸化酸化鉄は、一つ又は複数の鉄イオン、一つ又は複数のオキソ基、及び一つ又は複数のヒドロキシル基からなる化合物である。特定の水酸化酸化鉄には、例えば、無水(FeO(OH))形態及び水酸化酸化第二鉄一水和物(FeO(OH)・H2O)などの水和(FeO(OH)・nH2O)形態で存在する水酸化酸化第二鉄が含まれる。水酸化酸化鉄は、例えばRoempp lexicon Chemie,10.Auflage,1997に記載されているように、加水分解及び沈殿によって鉄(III)塩水溶液から調製することができる。水酸化酸化鉄は、様々な多形形態で存在しうる。例えば、FeO(OH)の多形には、α-FeO(OH)(針鉄鉱)、β-FeO(OH)(赤金鉱)、γ-FeO(OH)(レピドクロサイト)及びδ-FeO(OH)(フェロキシハイト)が含まれる。
【0131】
特定の実施態様によれば、非鉄金属不純物の少ない鉄調製物が使用される。このような非鉄金属不純物の適切なレベルは、国際公開第2019/048674A1号に記載されている。このような調製物は、
(a)ペンタカルボニル鉄から;又は
(b)鉄塩のその水溶液からの再結晶化により;又は
(c)鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することにより;又は
(d)鉄塩水溶液の電気分解中にアノードに沈殿した鉄から;又は
(e)鉄塩水溶液を塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、濾過又は遠心分離によって沈殿物を液体から分離することによって;又は
(f)塩化第二鉄と非揮発性不純物を含む混合物から塩化第二鉄を蒸留することによって、得ることができる。
【0132】
好ましい実施態様によれば、鉄調製物は、鉄塩水溶液(例えば、ニッケル製造のための鉄含有ニッケル鉱石の処理中に得られる鉄塩水溶液)を有機溶媒で抽出するプロセスによって得られる。
【0133】
特に好ましい実施態様によれば、本発明の方法で使用される鉄調製物はペンタカルボニル鉄から調製される。
【0134】
(a)ペンタカルボニル鉄からの;又は
(b)鉄塩のその水溶液からの再結晶化による;又は
(c)鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することによる;又は
(d)鉄塩水溶液の電気分解中にアノードに沈殿した鉄からの;又は
(e)鉄塩水溶液を塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、濾過又は遠心分離によって沈殿物を液体から分離することによる;又は
(f)塩化第二鉄と非揮発性不純物を含む混合物から塩化第二鉄を蒸留することによる、ここに記載される鉄調製物の生成は、必須ではないが、本発明のプロセスの一工程でありうる。
【0135】
ペンタカルボニル鉄から水溶性鉄塩、水酸化鉄又は水酸化酸化鉄を調製するための方法は当該技術分野で知られている。例えば、第一の工程では、例えば米国特許第4056386号に記載されているように、任意選択的にH2、NO、PF3、PH3、NH3及び/又はI2などの触媒の存在下で、高温(例えば200℃以上)でペンタカルボニル鉄を分解して鉄(いわゆるカルボニル鉄)を形成することができる。鉄を(好ましくは過剰の)塩酸と反応させて、FeCl2を得ることができる。FeCl2を塩酸及び(好ましくは僅かに不足した)塩素酸ナトリウムと反応させて、FeCl3を得ることができる。FeCl2を、塩酸と反応させ、例えば過酸化水素を使用して酸化させて、FeCl3を形成することができる。この反応を、塩酸及び塩素酸ナトリウムとの反応で残ったFeCl2を酸化させて、FeCl2からFeCl3へのより完全な変換を達成するために使用することができる。塩素(Cl2;ガス)もまた酸化剤として使用できる。
【0136】
カルボニル鉄は、例えば、一酸化炭素を高温の鉄(例えば約200℃の高温)上に、好ましくは高圧下(例えば15~20MPaの高圧)で例えば当てることによって調製することができるペンタカルボニル鉄から製造することができる。ペンタカルボニル鉄を経由するカルボニル鉄のそのような調製法は、例えば、1926年6月26日に公開されたBadische Anilin- & Soda-Fabrikのフランス特許出願第607.134号に記載されている。
【0137】
鉄塩調製物のその水溶液からの再結晶化によってここに記載された鉄調製物を調製するための方法は、当該技術分野で知られている。この目的のために、水溶性鉄塩調製物の水溶液が提供され、鉄塩(例えば、硝酸第二鉄)が(例えば、溶液の温度を下げることによって)溶液から再結晶化され、鉄塩結晶が液体から分離され、溶解されてその水溶液が形成され、再び再結晶及び分離に供される。溶解、再結晶及び分離の工程は、鉄塩調製物の純度を増加させ、特に非鉄金属不純物の量を低減させるために、一回又は更に数回繰り返すことができる。特定の例によれば、硝酸第二鉄が、硝酸を含むその水溶液から再結晶化される。具体的には、硝酸第二鉄が50~60℃において55~65%の硝酸水溶液に溶解される。溶液を約15℃以下の温度に冷却すると、結晶性硝酸第二鉄の沈殿物が形成され、液体から分離できる。溶解、再結晶化及び分離の前記工程は、一回又は更に数回繰り返すことができる。
【0138】
鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することによってここに記載の鉄調製物を調製するための方法は、当該技術分野で知られている。この目的のために、塩化第二鉄水溶液を有機溶媒で処理して、塩化第二鉄を有機溶媒に選択的に溶解させ(抽出)、ついで、選択的に溶解された塩化第二鉄を、塩化第二鉄から有機溶媒を除去することによって回収することができる。有機溶媒の例には、4~20の炭素原子を有するアルコール、特に6~10の炭素原子を有するアルコール、例えばn-オクタノール、及びトルエン中のトリ-n-ラウリルアミン塩酸塩のようなアミン塩の有機溶液が含まれる。塩化第二鉄水溶液中に塩酸が存在すると、抽出効率を改善することができる。有機溶媒を添加する前に、部分蒸発によって出発水溶液中の塩化第二鉄の濃度を、特に280~850g/l塩化第二鉄の範囲の濃度まで増加させることが有利である。蒸発及び溶媒抽出の精製サイクルは、所望の純度の塩化第二鉄調製物が得られるまで繰り返すことができる。塩化第一鉄が最初に塩素による酸化によって塩化第二鉄に転換される場合、塩化第一鉄の水溶液もまた精製されうる。有機溶媒による鉄塩の抽出のための具体的な方法は、例えば、カナダ特許出願公開第2318823A1号及びMuller等(“Liquid-liquid extraction of ferric chloride by tri-n-laurylamine hydrochloride”,EUR2245.e,Euratom report,Transplutonium Elements Program,Euratom Contract No.003-61-2 TPUB,Presses Academiques Europeennes,Brussels,1965)に記載されている。
【0139】
鉄をアノードで沈殿させる、鉄塩水溶液の電気分解法は、当該技術分野で知られている。例えば、Cain等(“Preparation of pure iron and iron-carbon alloy”in Bulletin of the Bureau of Standards,Vol.13,1916)及びMostad等(Hydrometallurgy,2008,90,213-220)を参照のこと。電気分解に適した鉄溶液には、塩化鉄溶液、硫酸鉄溶液、及び塩化鉄と硫酸鉄の両方を含む溶液が含まれる。溶液は典型的には中性又は酸性である。
【0140】
ここに記載の鉄調製物は更に、鉄塩水溶液を塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、濾過又は遠心分離によって沈殿物を液体から分離することによって得ることができる。水酸化鉄の沈殿に適した塩基には、水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムが含まれる。或いは、重炭酸ナトリウムを使用することができる。濾過又は遠心分離によって、そのような沈殿物を残りの溶液から分離するための方法は、当該技術分野で知られている。
【0141】
非鉄金属不純物が少ない鉄調製物、例えば本発明の方法で使用される鉄調製物は、塩化第二鉄と非揮発性不純物を含む混合物の蒸留によってもまた調製することができる。蒸留の場合、混合物は、選択された圧力及び温度で混合物がその沸点付近になるように選択された温度及び圧力にさらされる。その条件で、混合物は蒸気相と液体塩化第二鉄中の非揮発性不純物のスラリーに分離する。その蒸気は実質的に純粋な塩化第二鉄であり、これを、スラリーから蒸気を分離することによって回収することができる。特定の実施態様によれば、混合物の沸点付近の温度は、前記沸点から10℃以内の温度を意味し、好ましくは前記沸点である。蒸留は、例えば、300℃から700℃の範囲の温度及び0.1から5.1MPaの範囲、好ましくは0.2から0.4MPaの範囲の圧力で実施することができ、選択された圧力及び温度で混合物はほぼその沸点にある。
【0142】
蒸留中、スラリー中の非揮発性固体の沈降は、スラリーを機械的に(例えば、パドルスターラーなどにより)撹拌することによって、又は好ましくは、ガス(例えば、窒素、ヘリウム、塩素又はそれらの混合物)をスラリーを通してバブリングさせることによって、防止することができる。
【0143】
塩化第二鉄蒸気の分離後、残りのスラリーは、スラリーを加熱して塩化第二鉄を蒸発させ、塩化第二鉄含有蒸気を分離し冷却し、それを蒸留プロセスに再投入することによってリサイクルすることができる。好ましくは、スラリーのリサイクルは、蒸留中にスラリー中に存在する固形物の量が約20重量%未満、特に約12重量%未満になるように実施される。
【0144】
蒸留プロセスに投入される塩化第二鉄と非揮発性不純物を含む混合物は、例えば、鉄含有鉱石(例えばイルメナイトなどのチタンを含む鉱石)を塩素化して、塩化第二鉄と非揮発性不純物を含むガス状混合物を生成し、ガスを冷却して塩化第二鉄と非揮発性不純物の固体混合物を沈殿させることによって、得ることができる。ついで、前記固体混合物を蒸留プロセスに投入することができる。塩化第二鉄と非揮発性不純物の固体混合物をガス状混合物から分離する前に、ガス状混合物を任意選択的に塩化第二鉄の露点より高い温度にさらし、この温度ではガス状ではなくなった非揮発性不純物を除去することができる。このように予備精製されたガス状混合物を次に冷却して、蒸留プロセスに投入できる塩化第二鉄と非揮発性不純物の固体混合物を沈殿させることができる。例えば、その全体が出典明示により援用される米国特許第3906077号を参照のこと。
【0145】
鉄調製物の純度を更に高めるために、鉄調製物を調製し精製するための異なる方法を組み合わせることができる。例えば、鉄塩水溶液の電気分解によって調製された鉄を、水溶性鉄塩に転換し、これをついで、
(1)鉄塩水溶液を形成するための溶解、
(2)水溶液からの鉄塩の再結晶化、及び
(3)残りの溶液からの再結晶化した鉄塩の分離
の一又は複数サイクルに供することができる。
【0146】
[錯体]
鉄イオンが非経口投与に適しているためには、遊離鉄イオンの量が少なくなり、投与後に鉄が制御された形で放出されるように、鉄イオンが配位子と錯体化される必要がある。好都合には、投与前に鉄錯体化合物に含まれる遊離鉄の全量は、0.01%w/v以下、好ましくは0.003%w/v未満である(100mg/mL溶液として存在する鉄錯体化合物の場合)。換言すれば、全鉄含量に対する遊離鉄の全量は、全鉄含量の重量で0.1%以下、好ましくは0.03%未満の遊離鉄である(100mg/mL溶液として存在する鉄錯体化合物の場合)。これには、最終製剤に錯体が加工され、使用されるまで保存されるのに十分な物理的安定性を鉄錯体化合物が有していることが必要である。
【0147】
[鉄糖錯体]
一群の実施態様によれば、鉄錯体化合物は鉄糖錯体化合物であり、すなわち、鉄錯体化合物中の配位子が糖である。
【0148】
本発明の鉄糖錯体化合物には、ここに開示される糖配位子との錯体、例えば、カルボキシマルトース鉄、鉄ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル錯体、鉄マンニトール錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、酸化デキストラン鉄、鉄カルボキシアルキル化還元オリゴ及び多糖、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化デキストリン鉄、酸化デキストリン鉄、オリゴマルトース鉄、オリゴマルトース水素化鉄、水素化オリゴイソマルトース鉄などの水素化オリゴ糖鉄、ヒドロキシエチルデンプン鉄、ソルビトール鉄、デキストラングルコヘプトン酸鉄(例えば、グレプトフェロン)及びそれらの二種以上の混合物が含まれる。特定の実施態様によれば、本発明の鉄糖錯体化合物は、カルボキシマルトース鉄、鉄ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル錯体、鉄マンニトール錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化オリゴイソマルトース鉄及びそれらの二種以上の混合物から選択される。より好ましい実施態様では、鉄糖錯体は水素化オリゴイソマルトース鉄(オリゴイソマルトシド鉄)である。
【0149】
本発明の鉄糖錯体化合物中の鉄の量は、乾燥物質について定量して、典型的には糖錯体の重量の10から50%、好ましくは15から35%、最も好ましくは20から30%、例えば20から25%の範囲の鉄である。
【0150】
従って、錯体中の元素鉄対糖の重量比は、典型的には、10:90から50:50、好ましくは15:85から45:55、最も好ましくは20:80から40:60、例えば約70:30である。
【0151】
本発明の鉄糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)は、典型的には800から800000Da、例えば10000から500000Da、又は20000から400000Da、又は50000から300000Da、特に90000から200000Daの範囲にある。「見かけの」ピーク分子量Mpは、例えばデキストラン標準を使用するゲル浸透クロマトグラフィーによって定量することができる。例えば、Jahn等,Eur J Pharm Biopharm 2011,78,480-491に記載された方法を参照のこと。ここに開示されるオリゴイソマルトース(トシド)鉄錯体では、「見かけの」ピーク分子量(Mp)は、典型的には120000から190000Da、特に125000から185000Da又は130000から180000Daの範囲にある。135000から175000Daの範囲、特に140000から155000Daの範囲の「見かけの」ピーク分子量(Mp)は、特にここに開示される八糖第二鉄に関して有利であることが証明された。好ましくは、「見かけの」ピーク分子量(Mp)は、特にここに開示される八糖第二鉄に関して、145000から155000Daの範囲にある。本発明のオリゴイソマルトース(トシド)鉄は、好ましくは、1.0から1.5、好ましくは1.05から1.4、より好ましくは1.1から1.3の範囲、例えば約1.2の分散度(Mw/Mn)を持つ比較的狭い分子量分布を有する。
【0152】
幾つかの実施態様では、本発明の鉄糖錯体は、有機酸などの安定剤を含みうる。好ましくは、有機酸は有機ヒドロキシ酸である。有機ヒドロキシ酸の適切な例は、グルコン酸及びクエン酸である。クエン酸が好都合な例である。クエン酸が存在する場合、クエン酸の量は典型的には元素鉄の全量の3から20重量%の範囲である。
【0153】
従って、この発明での使用に特に適した鉄糖錯体は、ここに開示されるような、オリゴイソマルトース(トシド)鉄、例えばイソマルトシド鉄1000(INN名:デリソマルトース第二鉄)又は八糖第二鉄である。ここで使用される「オリゴイソマルトシド鉄」という用語は、例えば水酸化酸化鉄などの鉄とオリゴイソマルトシドをマトリックス様構造で含むコロイド錯体を指す。
【0154】
オリゴイソマルトシド鉄は、本発明に係る使用のための好ましい鉄糖錯体である。好ましい実施態様では、本発明で使用するための鉄糖錯体は、八糖と安定に結合した水酸化酸化鉄を含む。好ましい実施態様では、鉄糖錯体は八糖第二鉄である。
【0155】
別のオリゴイソマルトシド鉄の例は、Monofer(登録商標)、Monoferric(登録商標)、又はDiafer(登録商標)という商品名で多くの国で市販されている。
【0156】
本発明の鉄オリゴイソマルトシド錯体は、その医療用途になると有利であることが判明した特性を有することが見出された。特に、鉄オリゴイソマルトシド錯体の100mg/mL溶液では、遊離鉄の全量が0.01%w/v未満、特に好ましくは0.003%w/v未満であることが見出された。
【0157】
更に、本発明の鉄オリゴイソマルトシド錯体の強度は、ヒト又は非ヒト対象に投与されると、インビボの生理学的条件下で適切な形で鉄を放出するのに十分に高いことが観察された。強度を迅速に評価できるインビトロ試験がある。一つの試験では、錯体を規定の条件下(0.24MのHCl;0.9%のNaCl)で塩酸加水分解に供する。次に、このアッセイでは、溶液中の鉄糖錯体の半分がその構成部分(鉄と糖)に解離するまでの経過時間を決定する。これは、287.3nmでの光学吸光度を測定することによって行うことができる。インビトロで測定される持続時間(T1/2)は、インビボ投与後の鉄糖錯体の解離の相対速度の代用尺度、すなわち錯体強度の尺度である。この試験では、本発明の鉄オリゴイソマルトシド錯体は、少なくとも20時間、好ましくは少なくとも25時間、より好ましくは少なくとも30時間の半減期(T1/2)を有することが見出された。好都合には、本発明での使用に適した錯体はそのような半減期を有する。これにより、鉄錯体化合物からの鉄が吸収される一方で、遊離鉄の毒性が確実に低減される。一方、半減期(T1/2)が60時間以下、好ましくは50時間以下、より好ましくは40時間以下であることもまた、体内への鉄の適切な摂取を可能にするという点で大きな利点を提供する。25~35時間の範囲の半減期が特に好ましい。
【0158】
この発明で使用するための別の特定の鉄糖錯体はベペクテート第二鉄(FBP)である。ベペクテート第二鉄は、例えば、その全てが出典明示により援用される国際公開第2012/175608A1号に開示されている。デキストラングルコヘプトン酸との鉄錯体は、この発明で使用するための更なる特定の鉄糖錯体である。これらはグレプトフェロンとしても知られており、ブタ用に市販されている鉄糖錯体である。グレプトフェロンなどのデキストラングルコヘプトン酸第二鉄は、例えば米国特許第3639588号に開示されている。
【0159】
別の実施態様群によれば、鉄錯体化合物は、高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物である。高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物は、鉄イオン(例えば、Fe3+)、配位子、並びにオキソ基及び/又はヒドロキシル基を含むか、又は基本的にそれらから構成される。鉄イオン、オキソ基及び/又はヒドロキシル基は、ポリオキソ-ヒドロキシ鉄粒子を形成する。配位子は、最初に存在するオキソ基又はヒドロキシル基の一部を置換することによってその中に取り込まれる。この置換は一般に非化学量論的であり、形式的な結合を通じて起こり、オキソ-ヒドロキシ鉄の化学、結晶化度、及び材料特性に明確な変化をもたらす。高分子配位子置換オキソヒドロキシ鉄錯体化合物は、例えば、国際公開第2008/096130A1号に記載されている。
【0160】
配位子対鉄の平均モル比は、典型的には10:1から1:10の範囲、例えば5:1から1:5、4.1から1:4、3.1から1:3、2:1から1:2の範囲、又は約1:1である。
【0161】
[鉄錯体化合物の調製]
本発明の鉄錯体化合物は、水の存在下で鉄調製物を配位子と接触させることによって調製することができる。水酸化鉄及び/又は水酸化酸化鉄の形態の鉄を含む鉄調製物は、この工程に直接使用することができる。例えば、水溶液中の水酸化鉄(例えば、水酸化第二鉄)及び/又は水酸化酸化鉄の沈殿物を配位子(例えば、糖調製物)と接触させ、続いて加熱し、pHを上昇させて、鉄錯体化合物(例えば、FeO(OH)コアを含む鉄錯体化合物)を形成する。或いは、鉄調製物の水酸化鉄及び/又は水酸化酸化鉄が、鉄調製物を酸と接触させることによって、ここに記載のように水溶性鉄塩に変換される。好都合には、この変換は、反応物(水酸化鉄及び/又は水酸化酸化鉄と酸)を含む水溶液中で実施される。酸の選択は、生成される鉄塩に依存する。例えば、塩化鉄は、鉄調製物の水酸化鉄及び/又は水酸化酸化鉄を塩酸と反応させることによって調製することができる。鉄錯体化合物を調製するための本発明の方法の工程(ii)において、鉄調製物に加えて使用される試薬は、ヒ素、クロム、鉛、水銀、カドミウム及び/又はアルミニウムなどの非鉄不純物を実質的に含まないことが好都合である。
【0162】
従って、本発明の鉄糖錯体化合物は、
(1)糖と、水溶性鉄塩(例えば、塩化第二鉄)を含むここに記載の鉄調製物とを含む水溶液を提供する工程、
(2)水溶液に塩基を添加して水酸化鉄を形成する工程、及び
(3)次に、水溶液を加熱して鉄糖錯体化合物を形成する工程
によって調製することができる。
【0163】
好ましくは、水酸化鉄の沈殿を防ぐために、工程(1)における水溶液のpHは酸性であり、例えば溶液のpHは2以下である。工程(2)における塩基の添加は、好ましくは、pHを、例えばpH5以上、例えばpH11、12、13又は14まで上昇させるように、ゆっくり又は徐々に実施される。このような漸進的な増加は、最初に弱塩基(例えば、アルカリ金属炭酸塩若しくはアルカリ土類金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム若しくは重炭酸カリウム、又は炭酸アンモニウム若しくは重炭酸アンモニウム、又はアンモニア)を添加して、pHを、例えば、pH2~4まで、例えば、2~3まで増加させ、ついで、強塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムなどのアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物)を添加することによってpHを更に増加させることによって、達成することができる。
【0164】
或いは、本発明の鉄糖錯体化合物は、
(1)糖と、水酸化鉄、水酸化酸化鉄又はそれらの混合物を含むここに記載の鉄調製物とを含む水溶液を提供する工程、及び
(2)次に、水溶液を加熱して鉄糖錯体化合物を形成する工程
によって、調製することができる。
【0165】
本発明の鉄糖錯体化合物を調製するための上記の二つの方法の最後の工程における水溶液の加熱は、鉄糖錯体化合物の形成を促進する。例えば、水溶液は、15℃から沸騰までの範囲の温度まで加熱されうる。好ましくは、温度は徐々に増加させられ、例えば第一工程では水溶液は15から70℃の温度に加熱され、ついで沸騰するまで徐々に更に加熱される。反応を終了させるために、例えばHCl又は塩酸水溶液などの酸を添加することによって、pHを例えばpH5~7に低下させることができる。一実施態様では、前記pHの低下は、溶液が約50℃に加熱されたとき、更に加熱される前に実施される。
【0166】
加熱後、生成物を濾過により更に処理することができ、そのpHを、上記のもののような塩基又は酸を添加することにより中性又は僅かに酸性のpH(例えば、pH5から7)に調整することができる。更なる任意選択的工程には、限外濾過又は透析によって達成されうる精製、特に塩の除去、並びに滅菌濾過及び/又は加熱処理(例えば、121℃以上の温度)によって達成されうる滅菌が含まれる。精製された溶液は、薬学的組成物の調製に直接使用することができる。或いは、固体の鉄糖錯体は、例えばエタノールなどのアルコールを添加して沈殿させることによって、又は乾燥、例えば噴霧乾燥させることによって得ることができる。
【0167】
鉄糖錯体化合物は、クエン酸、クエン酸グルコン酸又はグルコン酸塩などの有機ヒドロキシル酸又はその塩と混合することによって安定化させることができる。
【0168】
従って、オリゴイソマルトース(トシド)鉄を製造するための典型的なプロセスは、次の工程:
(a)デキストランを加水分解して加水分解物を得る工程;
(b)加水分解物を分別してオリゴイソマルトースを得る工程;及び
(c)オリゴイソマルトースを水素化してオリゴイソマルトシドを得る工程
(d)鉄錯体の形成工程
を含み、オリゴイソマルトシド鉄を製造するためのプロセスである場合には、水素化工程が含まれる。
【0169】
更なる任意選択工程は次の通りである:
オリゴイソマルトシド中の単糖及び二糖のレベルを低減するための精製、例えばダイアフィルトレーション;
精製されたオリゴイソマルトシドを得るための、例えばイオン交換による精製;
錯体の加熱;
加熱された錯体の濾過;
精製された錯体を得るための膜濾過;
安定化された錯体を得るためのクエン酸塩などの有機酸の添加;
錯体を固体、例えば粉末として得るための噴霧乾燥。
【0170】
例えば、本発明の鉄八糖などのオリゴイソマルトース(トシド)鉄は、開示されたオリゴイソマルトース(トシド)を水中で塩化第二鉄と接触させることによって製造することができる。ついで、Na2CO3を添加し、続いてNaOHを添加して、約10.5のpHに達する。加熱すると黒色又は暗褐色のコロイド溶液が得られ、これを、HClを使用して中和し濾過することができる。未結合の八糖の残基、遊離鉄、無機塩は膜濾過によって除去できる。クエン酸一水和物を添加して、錯体を更に安定化してもよい。中性又は僅かに酸性のpHに調整すると、溶液が得られ、これをその後粉末などの固形形態に転換できる。この目的のために、溶液を噴霧乾燥して黒ないしは暗褐色の粉末を得ることができる。
【0171】
オリゴイソマルトシド鉄は、例えば、その全てが出典明示により援用される国際公開第2010/108493A1号及び国際公開第2019/048674A1号に記載されているようにして得ることができる。
【0172】
ベペクテート第二鉄とその製造は、例えば、その全てが出典明示により援用される国際公開第2012/175608A1号に開示されている。簡単に言えば、ヒドロキシエチルデンプンを水に溶解させる。次に、pH値を8.0から10.0の値に調整する。その後、シアン化物化合物をヒドロキシエチルデンプン溶液に添加する。次に、溶液を80から99℃の温度に加熱し、第一の期間この温度に維持する。最後に、pH値を2.0から4.0の値に調整し、溶液の温度を50から90℃にし、この温度で第二の期間維持する。このヘプトン酸変性ヒドロキシエチルデンプン、HES70/0.5の製造方法は、その全てが出典明示により援用される国際公開第2012/175608A1号の実施例1に記載され、鉄錯体の形成は実施例2に記載されている。
【0173】
本発明の高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物は、ここに開示される鉄調製物を、第一のpH(A)の水溶液中で配位子と接触させ、ついで、pH(A)を第二のpH(B)に変化させて、高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の固体沈殿物を生じさせることによって調製することができる。固体沈殿物は、粒子状、コロイド状、又はサブコロイド状(ナノ粒子)構造を有しうる。
【0174】
pH(A)はpH(B)とは異なる。好ましくは、pH(A)はpH(B)よりも酸性である。例えば、pH(A)はpH2以下であり、pH(B)はpH2を超える。オキソ-ヒドロキシ重合が開始されるpHから出発して、pHを好ましくは更に上昇させて、反応を完了させ、形成される高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の沈殿を促進させる。前記pH変化の間に、更なる配位子及び/又は添加物を添加することができる。前記pH変化は、好ましくは、徐々に又は段階的な形で、例えば約24時間にわたって、又は約1時間にわたって、特に20分間にわたって行われる。pHの変化は、酸又は塩基の添加によってなされる場合がある。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は重炭酸ナトリウムを添加することによって、pHを増加させることができる。
【0175】
高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物は、典型的には、鉄イオン及び配位子の濃度が1μM以上、特に1mM以上である水溶液中で生成される。鉄イオンと配位子の比率は、鉄イオンの相対量が、オキソ-ヒドロキシ重合の速度が速すぎて効率的な配位子の取り込みが妨げられないように多過ぎず、また、鉄オキソ-ヒドロキシ重合を防ぐために配位子の相対量が多すぎないように選択される。例えば、鉄濃度は、1mMから300mM、例えば20mMから200mMの範囲、特に約40mMである。
【0176】
高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の形成に使用される配位子は、錯体形成中のpH範囲の安定化に役立つある程度の緩衝能を有していてもよい。緩衝はまた、鉄イオンとの形式的な結合に関与しない無機又は有機緩衝剤を、鉄調製物及び配位子を含む水溶液に添加することによって達成することもできる。典型的には、そのような緩衝液の濃度は、存在する場合、500mM未満又は200mM未満、特に100mM未満である。
【0177】
高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の形成は、典型的には、20℃から120℃、例えば、20℃から100℃、特に20℃から30℃の範囲内の温度で起こる。
【0178】
任意選択的に、鉄調製物及び配位子を含む水溶液中のイオン強度は、例えば、10重量%まで、例えば12重量%まで、特に1重量%までの量の塩化カリウム又は塩化ナトリウムなどの更なる電解質を添加することによって増加させることができる。
【0179】
高分子配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の固体沈殿物は、分離することができ、任意選択的に乾燥させ、更なる使用又は配合前に、例えば粉砕によって更に処理することができる。
【0180】
[薬学的組成物]
本発明は更に、本発明の鉄錯体化合物と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物に関する。
【0181】
好ましいのは非経口使用のための薬学的組成物である。これらは、直ぐに使用できる流体(注射又は注入用の流体);使用前に希釈される流体;又は再構成用の固体とすることができる。理想的には、このような流体は等張性、無菌性であり、発熱物質を含まず、意図された保存期間にわたって適切な物理的及び化学的安定性を維持する。しかし、これらの目的を全て満たすことが常に可能であるとは限らず、しばしば、その意図された目的に適した薬学的組成物の「スイートスポット」を見出すために、相反する作用のバランスをとることが必要となる。
【0182】
特に好ましいのは、直ぐに使用できる注射可能な組成物である。
【0183】
従って、本発明の薬学的組成物には、鉄錯体化合物、注射用水、及び任意選択的に更なる便宜的な添加物を含む、注射又は注入に適した流動性組成物が含まれる。流体には、好ましくは溶液として存在する液体(すなわち、流体、特に鉄錯体化合物が溶解している液体)が含まれる。これらの流体は、投与されることが望ましい鉄錯体化合物の濃度を有しうる。或いは、鉄錯体化合物の濃度を高くすることもでき;そのような濃縮物は、投与前に適切な流体で希釈する必要がある。本発明の薬学的組成物には、投与前に適切な流体で再構成するための、粉末などの固体がまた含まれる。例えば、薬学的組成物は噴霧乾燥又は凍結乾燥の形態で保存することができ、その後、対象への投与前に、典型的には非経口投与に適した水性組成物、好ましくは溶液として再構成することができる。このような組成物は、滅菌注射用水(WFI)で再構成することができる。ベンジルアルコール又はフェノールなどの静菌剤が含まれる場合がある。
【0184】
本発明の好ましい実施態様によれば、薬学的組成物は皮下投与に適している。従って、特に好ましいのは、皮下使用のための直ぐに使用できる注射可能な薬学的組成物である。通常、皮下投与は、注射される流体の全容量によって制限される。対象に投与される鉄糖化合物の量が比較的多い場合(例えば、鉄錯体化合物の形態で10~30mg鉄/kg体重)、許容可能な注射容量に達するために、比較的高濃度の鉄錯体化合物を用いて流体を処方する必要がある場合がある。一般に、注射容量を最小限に抑えるために、所与の容量の流体にできるだけ多くの鉄が含まれる必要がある。しかし、比較的高濃度の鉄錯体化合物は、注射が困難であり及び/又は痛みを伴う粘性液体を生じる可能性がある。また、pHと浸透圧を考慮すると、より低い鉄濃度が必要になる場合がある。更に、比較的高濃度の鉄錯体化合物は、鉄錯体化合物の物理的安定性を低下させる場合があり、よって、保存寿命が短くなる結果となる。
【0185】
便宜的には、本発明の薬学的組成物は、1から25%、好ましくは2.5から20%;最も好ましくは2.5から7.5%、又は7.5から12.5%、又は15%から20%;例えば、約5%又は約10%又は約20%(w/v)の元素鉄を含む。換言すると、流動性薬学的組成物中の鉄錯体化合物の濃度は、25から300mg/mL、好ましくは50から200mg/mL、最も好ましくは75から150mg/mL、例えば約100mg/mLの元素鉄である。
【0186】
非経口投与、特に皮下投与を考慮すると、流動性薬学的組成物のpHは、便宜的には、5.8から7.0、好ましくは5.9から6.8;最も好ましくは5.9から6.6、例えば6.0から6.4の範囲である。一般に、これらの範囲の上限、すなわち中性pHに近いpHを選択することが好ましい。従って、注射可能な組成物及び注入可能な組成物は、必要に応じて適切に緩衝化されるべきである。これに関連して、用いることができる滅菌水性媒体は、本開示を考慮すれば当業者には知られている。例えば、注射前に、ある容量の等張性NaCl溶液と滅菌水で一回の投与量を調製することができる。皮下注射の場合、組成物は典型的には事前に希釈せずに投与される(動物の大きさにより、投与するには注射量が低すぎる用量が必要な場合を除く)。典型的な皮下注射量は0.5から5mLである。
【0187】
流動性薬学的組成物の濁度は、好都合には、2.0NTU未満、好ましくは1.5NTU未満、最も好ましくは1.0NTU未満、例えば0.5NTU未満である。
【0188】
注射針通過可能性及び注射可能性などの流動特性は、評価及び制御すべき特性である。注射針通過可能性は、注射前にバイアルから移す際に組成物が皮下注射針を容易に通過する能力を記述する。これには、引き抜きやすさ、詰まりや泡立ちの傾向、用量測定の精度などの特性が含まれる。粘度及び密度の増加により、組成物の注射針通過可能性が低下する。
【0189】
注射可能性とは、注射中の組成物の性能を指し、注射に必要な圧力又は力、流れの均一性、吸引力、目詰まりのなさなどの要因が含まれる。組成物の注射針通過可能性及び注射可能性は、組成物の粘度に密接に関係している。プランジャーに断続的に圧力を加えながら非常にゆっくりとなされる場合、単なる組成物の空中への排出だけで、組成物に関する所定の情報を得ることができる。注射可能性のために使用される殆どの方法は本質的に定性的なものである。Instronなどの力監視装置を使用して、排出及び注射圧力を決定でき、試験結果をX-Yレコーダー上に記録できる。注射可能性を評価する別の機器は、シリンジから針を通して特定された圧力下で溶液又は懸濁液を肉にスムーズに注射するのに必要な時間を測定する。様々なサイズのガラス及びプラスチックシリンジを通して試験溶液を注射すると、様々なゲージの針を使用して、所与のシリンジの種類と直径の回帰式が得られる。これらの式により、所与の注射針系及び所定の粘度の所与のビヒクルに対する予想される注射時間を計算することができる。
【0190】
適切な注射針通過性を有する組成物を提供するために、本発明の流動性薬学的組成物は、好都合には、60cP以下の粘度を有する。別の実施態様では、組成物は、50cP以下、又は40cP以下、又は30cP以下、又は20cP以下、又は40cP以下、又は15cP以下の粘度を有する。幾つかの実施態様では、組成物は、25℃において、1cPと50cPの間、1cPと40cPの間、1cPと30cPの間、1cPと20cPの間、1cPと15cPの間、又は1cPと10cPの間の粘度を有する。幾つかの実施態様では、組成物は、約50cP、約45cP、約40cP、約35cP、約30cP、約25cP、約20cP、約15cP、又は約10cP、又は約5cPの粘度を有する。幾つかの実施態様では、組成物は、10cPと50cPの間、10cPと30cPの間、10cPと20cPの間、又は5cPと15cPの間の粘度を有する。
【0191】
ここで使用される「粘度」は、「動粘度」又は「絶対粘度」でありうる。「動粘度」は、重力の影響下での流体の抵抗流れの尺度である。同じ容積の二種の流体を同一の毛細管粘度計に入れ、重力によって流すと、粘性のある流体は粘性の低い流体よりも毛細管を流れるのに時間がかかる。ある流体が流れを完了するのに200秒かかり、別の流体が400秒かかる場合、動粘度スケールでは第二の流体は第一の流体の二倍の粘性になる。「絶対粘度」は、動的粘度又は単純粘度とも呼ばれ、動粘度と流体密度の積である:絶対粘度=動粘度×密度。動粘度の次元はL2/Tであり、ここで、Lは長さ、Tは時間である。一般に、動粘度はセンチストークス(cSt)で表される。動粘度のSI単位はmm2/s、つまり1cStである。絶対粘度はセンチポアズ(cP)の単位で表される。絶対粘度のSI単位はミリパスカル-秒(mPa-s)で、1cP=1mPa-sである。
【0192】
保存の理由から、流動性薬学的組成物は、25℃において少なくとも1年、好ましくは25℃において少なくとも2年、より好ましくは25℃において少なくとも3年の保存寿命を有する。
【0193】
[併用療法]
ここに更に記載されるのは、鉄錯体化合物と一又は複数種の追加の薬物との組み合わせである。特定の実施態様によれば、追加の薬物は、次からなる群から選択される:
(1)赤血球生成刺激剤(ESA)、例えばエリスロポエチン(Epo)、エポエチンアルファ(Procrit/Epogen)、エポエチンベータ(NeoRecormon)、ダルベポエチンアルファ(Aranesp)、メトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ(Mircera)、又はその全ては出典明示により援用される米国特許出願公開第20210032305A号に開示されているもの;
(2)ヘプシジンアゴニスト又はヘプシジンアンタゴニストなどのヘプシジンモジュレーター
(3)寄生虫駆除薬、外部寄生虫駆除薬、及び内部寄生虫駆除薬などの抗寄生虫薬;
(4)化学療法薬;
(5)抗生物質;
(6)抗ウイルス薬;及び
(7)ワクチン。
【0194】
本発明による鉄欠乏症の治療における使用に適したものは、本発明のこの態様の特定の実施態様を表す。例えば、CKDを有するネコでは、赤血球生成刺激剤が適応となり、鉄欠乏症、特に鉄欠乏性貧血の治療が必要な場合に、本発明に係る鉄錯体化合物に加えてこれらが投与されるであろう。
【0195】
[投与計画]
本発明に係る対象における鉄欠乏症の治療方法は、そのような治療を必要とする対象に治療有効量の鉄錯体化合物を投与することを含む。従って、本発明の方法は、鉄錯体化合物の前記投与に先立って、前記対象が鉄欠乏性であるかどうかを判定することと、前記対象が鉄欠乏性である場合には前記鉄錯体化合物を投与することを含み得、好ましい実施態様ではこれらを必ず含む。
【0196】
治療される動物の体重に応じて、投与量の多少の変動が必然的に発生する。何れにしても、投与責任者が適切な用量を決定する。鉄錯体化合物の典型的な治療計画は、体重1kg当たり元素鉄5から100mg、例えば10から60mg、特に15から25mg、例えば約20mgの用量からなるであろう。或いは、鉄錯体化合物の有効量は、最大50mg鉄/kg体重、特に最大30mg鉄/kg体重、又は好ましくは最大20mg鉄/kg体重の量である。従って、鉄錯体化合物の典型的な用量は、体重0.5から140kgの範囲のイヌなどの対象に対して10から2800mgの元素鉄でありうる。
【0197】
累積鉄必要量は、Ganzoni式を使用して決定することができ、一実施態様によれば、計算された用量が投与される。従って、幾つかの実施態様では、鉄錯体化合物の有効治療量は、累積鉄必要量に等しい。このような累積鉄必要量は、典型的な用量よりも低い場合もあれば、高い場合もある。
【0198】
一般に、用量は単一の設定(来診)で投与されることが好ましい。そのような(単回)用量は、投与容量に応じて、単回(1)投与(例えば、注射)として、或いは、2回、3回、又はそれ以上の投与(例えば、注射)で提供されうる。一般に、投与容量が5mL、7.5mL又は10mLより大きい場合、各投与部位に投与される容量を減らすために、用量を2回、3回、又はそれ以上の投与に分割することが好ましい。これは特に皮下投与の場合に当てはまる。用量を分割し、投与される容量を減らすことの重要性は、対象のサイズ及び対象の皮膚の弛みに応じて変わる。当業者であれば、投与される容量を決定する方法を知っているであろう。
【0199】
別の特定の実施態様では、本発明の治療方法は、例えば、単回用量が不十分である場合、或いはID又はIDAの臨床徴候が以前に消失した後に再び出現する状況、及び/又は同じ対象でID又はIDAが新たに診断される状況では、ID又はIDAの効果的な治療を確実にするために、一定期間にわたって2回、又は3回、又は4回、又は5回、又はそれ以上の用量を投与することを含む。
【0200】
更に特定の実施態様では、本発明の治療方法は、基礎疾患によって引き起こされる慢性失血を有する対象、例えばCKDを有する対象又はIBDを有する対象において、ID又はIDAを管理するために、時間をかけて数回の反復投与を施すことを含む。このような対象は潜在的に鉄分を継続的に(維持療法として)必要とするため、治療を継続的に定期的に繰り返す必要がある。
【0201】
反復投与の場合、最大50mg鉄/kg体重、特に最大30mg鉄/kg体重、又は好ましくは最大20mg鉄/kg体重の初回用量に、最大50mgの鉄/kg体重、特に最大30mgの鉄/kg体重、又は好ましくは最大20mgの鉄/kg体重の二回目用量が続く。二回の連続用量は、1ヶ月以内、2週間以内、又は好ましくは1週間以内に投与することができる。好ましくは、それらは1週間以内に投与される。更なる用量は、最大50mg鉄/kg体重、特に最大30mg鉄/kg体重、又は好ましくは最大20mg鉄/kg体重である。この更なる、例えば三回目の用量は、同じ時間枠内、すなわち、1ヶ月、2週間、又は好ましくは1週間内に投与されうる。これらの複数回投与は、好ましくは少なくとも2日、特に3日の間隔をあけて施される。例えば、1週間以内に3回の用量が投与されるべき場合、これらの用量を1日目、4日目、及び7日目に投与することが好ましい。
【0202】
本発明によれば、鉄錯体化合物は、例えば筋肉内注射、静脈内(IV)ボーラス注射、又はIV注入によって非経口的に投与することができる。しかし、本発明の好ましい実施態様によれば、鉄錯体化合物の非経口投与は皮下投与である。例えば、皮下投与に好都合の部位は、例えば、イヌなどのコンパニオンアニマルの肋骨上の肩甲骨の後ろの背面の側方上の領域のように、比較的緩い皮膚によって支配される。或いは、背側腰傍領域を注射に使用することもできる。皮下注射のための他の典型的な領域は当業者には知られている。
【0203】
一又は複数種の更なる治療薬と「組み合わせて」の投与には、同時(併用)及び任意の順序での連続的又は逐次的投与が含まれる。「併用」という用語は、ここでは、投与の少なくとも一部が時間的に重複するか、又は一方の治療薬の投与が他方の治療薬の投与と比較して短期間内に収まる、二種以上の治療薬の投与を指すために使用される。例えば、二種以上の治療薬が、およその特定数の分以下の時間間隔で投与される。「逐次」という用語は、ここでは、一又は複数種の他の薬剤の投与を中止した後に一又は複数種の薬剤の投与が継続するか、或いは一又は複数種の他の薬剤の投与前に一又は複数種の薬剤の投与が開始される二種以上の治療薬の投与を指すために使用される。例えば、二種以上の治療薬の投与は、およその特定数の分を超える時間間隔を置いて投与される。ここで使用される場合、「と併用して」とは、別の治療様式に加えての、ある治療様式での投与を指す。而して、「と併用して」とは、動物に他の治療様式での投与前、投与中、又は投与後に、ある治療様式で投与することを指す。
【0204】
[八糖第二鉄]
所定の態様では、本発明は特に八糖第二鉄錯体と八糖第二鉄錯体を含む薬学的組成物とに関する。八糖第二鉄錯体は、ここに記載の治療方法において特に有用である。本発明の八糖第二鉄に関する以下の言及は全て、ここに開示される治療方法における八糖第二鉄の使用に等しく当てはまる。
【0205】
八糖第二鉄は、八糖と錯体化された鉄を含む。好ましくは、八糖第二鉄は、八糖と安定に会合した水酸化酸化鉄を含む。幾つかの実施態様では、八糖第二鉄は有機酸などの安定剤を含む。好ましくは、有機酸は有機ヒドロキシ酸である。有機ヒドロキシ酸の適切な例は、グルコン酸及びクエン酸である。クエン酸が好都合な例である。クエン酸が存在する場合、その量は典型的には元素鉄の全量の3から20重量%の範囲である。
【0206】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄は、金属塩化物などの塩を含む。金属塩化物は、塩化ナトリウム又は塩化カリウムでありうる。好ましくは、金属塩化物は塩化ナトリウムである。塩化ナトリウムが存在する場合、その量は典型的には元素鉄の全量の3から110重量%の範囲である。
【0207】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄は水を含む。水が存在する場合、その量は典型的には元素鉄の全量の3から25重量%の範囲である。
【0208】
特定の実施態様では、八糖第二鉄は、安定剤、塩及び水を含む。好ましい実施態様では、八糖第二鉄は、クエン酸、塩化ナトリウム及び水を含む。
【0209】
本発明の一態様では、任意選択的に安定剤及び/又は金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085である)
を有する、八糖第二鉄が提供される。
【0210】
好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、任意選択的に金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;かつ
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031である)を有する。
【0211】
別の好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、金属塩化物とH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;かつ
金属塩化物は塩化ナトリウム又は塩化カリウム、好ましくは塩化ナトリウムである)を有する。
【0212】
別の好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meはナトリウムイオン又はカリウムイオン等の一価金属イオンであり、好ましくはナトリウムイオンである)を有する。
【0213】
別の好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Qは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meはナトリウムイオンである)を有する。
【0214】
別の好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R},(H2O)X,(NaCl)Y
(上式中、
Qは約0.085であり;
Rは約0.031であり;
Xは約0.34であり;かつ
Yは約0.14である)を有する。
【0215】
特に好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、式:
{FeOOH, (C6H10O6)T- (C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Tは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Zは0.25から0.75、特に0.35から0.65、好ましくは0.45から0.55、更により好ましくは約0.51であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meは、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の一価金属イオンであり、好ましくはナトリウムイオンである)を有する。
【0216】
別の特に好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、式:
{FeOOH, (C6H10O6)T- (C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(NaCl)Y
(上式中、
Tは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Zは0.45から0.55、好ましくは約0.51であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;かつ
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14である)を有する。
【0217】
別の特に好ましい実施態様では、本発明の八糖第二鉄は、式:
{FeOOH, (C6H10O6)T- (C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(NaCl)Y
(上式中、
Tは約0.085であり;
Zは約0.51であり;
Rは約0.031であり;
Xは約0.34であり;かつ
Yは約0.14である)を有する。
【0218】
特定の実施態様では、八糖第二鉄は、1150から1350Daの範囲の重量平均分子量を有するオリゴイソマルトシドの混合物を含む。特定の実施態様では、八糖は、1200から1300Da、好ましくは1225から1275Daの範囲;例えば約1250Daの重量平均分子量を有するオリゴイソマルトシドの混合物を含む。
【0219】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄は、125000から185000Daの範囲の「見かけの」ピーク分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるMp)を有する。特定の実施態様では、八糖第二鉄の「見かけの」ピーク分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるMp)は、135000から175000Da、好ましくは140000から155000Daの範囲にある。所定の実施態様では、「見かけの」ピーク分子量(Mp)は、145000から155000Daの範囲にある。
【0220】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄は、八糖の10.0重量%未満の単糖及び二糖含有量を有する。特定の実施態様では、単量体及び二量体の含有量は、八糖の重量の3.0%未満、好ましくは1.0%未満;例えば、0.1から0.5%である。
【0221】
幾つかの実施態様では、9を超える単糖単位を有する八糖第二鉄の画分は、八糖の40重量%未満である。特定の実施態様では、9を超える単糖単位を有する画分は、八糖の重量の35%未満、好ましくは30%未満;例えば、20から30%である。
【0222】
八糖第二鉄の幾つかの実施態様では、オリゴイソマルトシド分子の少なくとも40重量%が6~10の単糖単位を有する。特定の実施態様では、6~10の単糖単位を有する分子の割合は、八糖の重量の少なくとも45%;例えば、40から60%又は45から55%である。
【0223】
幾つかの実施態様では、6~10の単糖単位を有する分子の割合は、3~6の単糖単位を有する分子の割合より重量で多い。
【0224】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄の分散度(Mw/Mn)は、1.05から1.4の範囲内である。特定の実施態様では、分散度(Mw/Mn)は1.1から1.3の範囲;例えば約1.2である。
【0225】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄中の還元糖の量は、八糖の2.5重量%以下である。特定の実施態様では、還元糖の量は、八糖の重量の2.5%以下;好ましくは1.0%以下;より好ましくは0.5%以下;例えば約0.3%である。
【0226】
幾つかの実施態様では、水素化前の八糖第二鉄中の還元糖の量は、八糖の重量の(i)少なくとも10%又は少なくとも15%、及び(ii)35%未満;好ましくは30%以下;例えば10%から30%、好ましくは15から25%である。
【0227】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄は、八糖第二鉄の重量の10から50%;好ましくは15から35%;最も好ましくは20から30%;例えば、20から25%の鉄を含む。幾つかの実施態様では、八糖第二鉄中の八糖に対する元素鉄の重量比は、10:90から50:50;好ましくは15:85から45:55;最も好ましくは20:80から40:60;例えば、約70:30である。
【0228】
幾つかの実施態様では、八糖第二鉄中の遊離鉄の全量は、100mg/mL溶液の場合、0.01%w/v以下;好ましくは、0.003%w/v未満である。
【0229】
本発明の別の態様では、八糖と錯体化された鉄を含む八糖第二鉄であって、(i)八糖が1150から1350Daの範囲の重量平均分子量を有し;(ii)単糖及び二糖の含有量が八糖の10.0重量%未満であり;(iii)9を超える単糖単位を有する画分が八糖の40重量%未満であり;(iv)分子の少なくとも40重量%が6~10の単糖単位を有し;(v)八糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)が125000から185000Daの範囲にあり;(vi)錯体の分散度(Mw/Mn)が1.05から1.4の範囲にあり;かつ(vii)還元糖の量が八糖の2.5重量%以下である、八糖第二鉄が提供される。
【0230】
上記実施態様の全てが、この態様に等しく適用される。
【0231】
[例示的な実施態様]
1. 鉄錯体化合物を投与することを含む、コンパニオンアニマルにおける鉄欠乏症の治療方法。
2. コンパニオンアニマルがイヌ科、ネコ科又はウマ科である、実施態様1の方法。
3. コンパニオンアニマルがイヌ又はネコである、実施態様1の方法。
4. コンパニオンアニマルがイヌである、実施態様1の方法。
5. コンパニオンアニマルが20pg以下の網赤血球ヘモグロビン含量(CHr)/網赤血球ヘモグロビン等量(RET-He)を有する、実施態様1~4の何れか一の方法。
6. 鉄欠乏症が鉄欠乏性貧血である、実施態様1~4の何れか一の方法。
7. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、35%未満のヘマトクリット(HCT/PCV)を有する、実施態様1~6の何れか一の方法。
8. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、12g/dL未満のヘモグロビン濃度(Hb)を有する、実施態様1~7の何れか一の方法。
9. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、60fL未満の平均赤血球容積(MCV)を有する、実施態様1~8の何れか一の方法。
10. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、30g/dL以下の平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)を有する、実施態様1~9の何れか一の方法。
11. 用量が体重1kg当たり5から100mg;好ましくは体重1kg当たり10から60mg;最も好ましくは体重1kg当たり15から25mg;例えば、体重1kg当たり約20mgである、実施態様1~10の何れか一の方法。
12. 用量が最大50mg鉄/kg体重;好ましくは最大30mg鉄/kg体重;最も好ましくは最大20mg鉄/kg体重である、実施態様1~11の何れか一の方法。
13. 用量が単回用量である、実施態様1~12の何れか一の方法。
14. 用量が単回投与、好ましくは注射、特に皮下注射として提供される、実施態様1~13の何れか一の方法。
15. 用量が2回、3回、又はそれ以上の投与、好ましくは注射、特に皮下注射として提供される、実施態様1~13の何れか一の方法。
16. 一回を超える用量が投与される、実施態様1~12の何れか一の方法。
17. 一回を超える用量が最大50mg鉄/kg体重;好ましくは最大30mg鉄/kg体重;最も好ましくは最大20mg鉄/kg体重の用量である、実施態様16の方法。
18. 二回の逐次用量が1ヶ月以内;好ましくは2週間以内;最も好ましくは1週間以内に投与される、実施態様16又は17の方法。
19. 投与が皮下投与である、実施態様1~18の何れか一の方法。
20. 皮下投与の部位が、肋骨の上の肩甲骨の後ろの背面の側方上の領域、又は腰傍背部領域にある、実施態様19の方法。
21. 鉄錯体化合物が鉄糖錯体である、実施態様1~20の何れか一の方法。
22. 糖がオリゴ糖である、実施態様21の方法。
23. オリゴ糖がオリゴイソマルトースである、実施態様22の方法。
24. オリゴイソマルトースが水素化オリゴイソマルトース(オリゴイソマルトシド)である、実施態様23の方法。
25. オリゴ糖が850から1150Da;好ましくは950から1050Da;最も好ましくは975から1025Daの範囲;例えば約1000Daの重量平均分子量(Mw)を有する、実施態様22~24の何れか一の方法。
26. 3~6の単糖単位を有する分子の割合が、6~10の単糖単位を有する分子の割合より重量で多い、実施態様25の方法。
27. 3~6の単糖単位を有する分子の割合が、オリゴ糖の重量の少なくとも40%;好ましくは少なくとも50%;例えば、40から70%、又は50から70%である、実施態様25又は26の方法。
28. 9を超える単糖単位を有する画分が、オリゴ糖の重量の30%未満;好ましくは25%未満;最も好ましくは20%未満;例えば、5%から15%である、実施態様25から27の何れか一の方法。
29. オリゴ糖が1150から1350Daの範囲;好ましくは1200から1300Da;最も好ましくは1225から1275Da;例えば約1250Daの重量平均分子量(Mw)を有する、実施態様22~24の何れか一の方法。
30. 6~10の単糖単位を有する分子の割合が、3~6の単糖単位を有する分子の割合より重量で多い、実施態様29の方法。
31. 6~10個の単糖単位を有する分子の割合が、オリゴ糖の重量の少なくとも40%;好ましくは少なくとも45%;例えば、40から60%、又は45から55%である、実施態様29又は30の方法。
32. 9を超える単糖単位を有する画分が、オリゴ糖の重量の40%未満;好ましくは35%未満;最も好ましくは30%未満;例えば、20%から30%である、実施態様29~31の何れか一の方法。
33. 単量体及び二量体の含有量が、オリゴ糖の重量の10.0%未満;好ましくは3.0%未満;最も好ましくは1.0%未満;例えば、0.1から0.5%である、実施態様22~32の何れか一の方法。
34. 還元糖の量が、オリゴ糖の重量の2.5%以下;好ましくは1.0%以下;より好ましくは0.5%以下;例えば、約0.3%である、実施態様22~33の何れか一の方法。
35. 還元糖の量が、オリゴ糖の重量の(i)少なくとも10%又は少なくとも15%、及び(ii)35%未満;好ましくは30%以下;例えば10%から30%、又は好ましくは15から25%である、実施態様22~33の何れか一の方法。
36. 鉄オリゴ糖錯体が、鉄オリゴ糖錯体の重量の、10から50%;好ましくは15から35;最も好ましくは20から30%;例えば、20から25%の鉄を含む、実施態様22~35の何れか一の方法。
37. 鉄オリゴ糖錯体中の元素鉄対オリゴ糖の重量比が、10:90から50:50;好ましくは15:85から45:55;最も好ましくは20:80から40:60;例えば、約70:30である、実施態様22~36の何れか一の方法。
38. 鉄オリゴ糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるMp)が、120000から190000Da; 好ましくは130000から180000Da;又は好ましくは125000から185000Da、より好ましくは135000から175000Da、最も好ましくは140000から155000Daの範囲内である、実施態様22~37の何れか一の方法。
39. 鉄オリゴ糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるMp)が145000から155000Daの範囲内である、実施態様22~38の何れか一の方法。
40. 分散度(Mw/Mn)が1.0から1.5;好ましくは1.05から1.4;より好ましくは1.1から1.3の範囲;例えば約1.2である、実施態様22~39の何れか一の方法。
41. 鉄オリゴ糖錯体がクエン酸を含む、実施態様22~40の何れか一の方法。
42. クエン酸の量が、元素鉄の全量の3から20重量%である、実施態様41の方法。
43. 遊離鉄の全量が、鉄オリゴ糖錯体の100mg/mL溶液に対して、0.01%w/v以下;好ましくは0.003%w/v未満である、実施態様22~42の何れか一の方法。
44. 鉄オリゴ糖錯体が塩化ナトリウムを含む、実施態様22~43の何れか一の方法。
45. 鉄オリゴ糖錯体が水を含む、実施態様22~44の何れか一の方法。
46. 鉄オリゴ糖錯体が、任意選択的に安定剤及び/又は金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085である)
を有する、実施態様22~24又は29~45の何れか一の方法。
47. 鉄オリゴ糖錯体がクエン酸を含む、実施態様46の方法。
48. 鉄オリゴ糖錯体が、任意選択的に金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;かつ
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031である)
を有する、実施態様22~24又は29~47の何れか一の方法。
49. 鉄オリゴ糖錯体が塩化ナトリウムを含む、実施態様46から48の何れか一の方法。
50. 鉄オリゴ糖錯体がH2Oを含む、実施態様46から49の何れか一の方法。
51. 鉄オリゴ糖錯体が、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meは一価金属イオンである)
を有する、実施態様22~24又は29~50の何れか一の方法。
52. 一価金属イオンがナトリウムイオン又はカリウムイオンである、実施態様51の方法。
53. 一価金属イオンがナトリウムイオンである、実施態様52の方法。
54. Qは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり、かつ
Meはナトリウムイオンである、実施態様51~53の何れか一の方法。
55. 鉄オリゴ糖錯体が、式:
{FeOOH,(C6H10O6)T-(C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Tは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Zは0.25から0.75、特に0.35から0.65、好ましくは0.45から0.55、更により好ましくは約0.51であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meは、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の一価金属イオンであり、好ましくはナトリウムイオンである)
を有する、実施態様22~24又は29~54の何れか一の方法。
56. 鉄オリゴ糖錯体が、式:
{FeOOH,(C6H10O6)T-(C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(NaCl)Y
(上式中、
Tは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Zは0.45から0.55、好ましくは約0.51であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;かつ
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14である)
を有する、実施態様22~24又は29~55の何れか一の方法。
57. 実施態様21~56の何れか一の鉄錯体化合物と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
58. 再構成用の、固体、好ましくは粉末である、実施態様57の薬学的組成物。
59. 直ぐに使用できる流体、又は使用前に希釈するための流体である、実施態様57の薬学的組成物。
60. 皮下投与に適している、実施態様57~59の何れか一の薬学的組成物。
61. 1~25%;好ましくは2から15%;最も好ましくは2.5から7.5又は7.5から12.5;例えば、約5%又は約10%(w/v)の元素鉄を含む、実施態様57~60の何れか一の薬学的組成物。
62. 鉄錯体化合物の濃度が、25から300mg/mL;好ましくは50から200mg/mL;最も好ましくは75から150mg/mL;例えば、約100mg/mLの元素鉄である、実施態様57~61の何れか一の薬学的組成物。
63. pHが、5.8から7.0;好ましくは5.9から6.8;最も好ましくは5.9から6.6;例えば、6.0から6.4である、実施態様57~62の何れか一の薬学的組成物。
64. 濁度が、2.0NTU未満;好ましくは1.5NTU未満;最も好ましくは1.0NTU未満;例えば0.5未満である、実施態様57~63の何れか一の薬学的組成物。
65. 60cP以下の粘度を有する、実施態様57~64の何れか一の薬学的組成物。
66. 25℃において少なくとも3年の保存寿命を有する、実施態様57~65の何れか一の薬学的組成物。
67. 八糖と錯体化された鉄を含む八糖第二鉄であり、(i)八糖が1150から1350Daの範囲の重量平均分子量を有し;(ii)単糖及び二糖の含有量が八糖の10.0重量%未満であり;(iii)9を超える単糖単位を有する画分が八糖の40重量%未満であり;(iv)分子の少なくとも40重量%が6~10の単糖単位を有し;(v)八糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)が125000から185000Daの範囲にあり;(vi)錯体の分散度(Mw/Mn)が1.05から1.4の範囲にあり;かつ(vii)還元糖の量が八糖の2.5重量%以下である、八糖第二鉄。
68. 八糖が、1200から1300Da;より好ましくは1225から1275Daの範囲;例えば約1250Daの重量平均分子量(Mw)を有する、実施態様67の八糖第二鉄。
69. 6~10の単糖単位を有する分子の割合が、3~6の単糖単位を有する分子の割合よりも重量で多い、実施態様67又は68の八糖第二鉄。
70. 6~10の単糖単位を有する分子の割合が、八糖の重量の少なくとも45%;例えば、40から60%又は45から55%である、実施態様67~69の何れか一の八糖第二鉄。
71. 9を超える単糖単位を有する画分が、八糖の重量の35%未満;より好ましくは30%未満;例えば、20から30%である、実施態様67~70の何れか一の八糖第二鉄。
72. 単量体及び二量体の含有量が、八糖の重量の3.0%未満;より好ましくは1.0%未満;例えば、0.1から0.5%である、実施態様67~71の何れか一の八糖第二鉄。
73. 還元糖の量が、八糖の重量の2.5%以下;好ましくは1.0%以下;より好ましくは0.5%以下;例えば約0.3重量%である、実施態様67~72の何れか一の八糖第二鉄。
74. 水素化前の還元糖の量が、八糖の重量の、(i)少なくとも10%又は少なくとも15%と、(ii)35%未満;好ましくは30%以下;例えば10%から30%、又は好ましくは15から25%である、実施態様67~73の何れか一の八糖第二鉄。
75. 八糖第二鉄が、八糖第二鉄の重量の10から50%;好ましくは15から35;最も好ましくは20から30%;例えば、20から25%の鉄を含む、実施態様67~74の何れか一の八糖第二鉄。
76. 八糖第二鉄中の八糖に対する元素鉄の重量比が、10:90から50:50;好ましくは15:85から45:55;最も好ましくは20:80から40:60;例えば、約70:30である、実施態様67~75の何れか一の八糖第二鉄。
77. 八糖第二鉄の「見かけの」ピーク分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されるMp)が、135000から175000Da、より好ましくは140000から155000Daの範囲内である、実施態様67~76の何れか一の八糖第二鉄。
78. 鉄オリゴ糖錯体の「見かけの」ピーク分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されるMp)が、145000から155000Daの範囲内である、実施態様67~77の何れか一の方法。
79. 分散度(Mw/Mn)が1.1~1.3の範囲内;例えば約1.2である、実施態様67~78の何れか一の八糖第二鉄。
80. 八糖第二鉄がクエン酸を含む、実施態様67~79の何れか一の八糖第二鉄。
81. クエン酸の量が、元素鉄の全量の3から20重量%である、実施態様80の八糖第二鉄。
82. 遊離鉄の全量が、100mg/mL溶液に対して、0.01%w/v以下;好ましくは、0.003%w/v未満である、実施態様67~81の何れか一の八糖第二鉄。
83. 八糖第二鉄が塩化ナトリウムを含む、実施態様67~82の何れか一の八糖第二鉄。
84. 八糖第二鉄が水を含む、実施態様67~83の何れか一の八糖第二鉄。
85. 八糖第二鉄が、任意選択的に安定剤及び/又は金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085である)
を有する、実施態様67~84の何れか一の八糖第二鉄。
86. 八糖第二鉄がクエン酸を含む、実施態様85の八糖第二鉄。
87. 八糖第二鉄が、任意選択的に金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;かつ
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031である)
を有する、実施態様67~86の何れか一の八糖第二鉄。
88. 八糖第二鉄が塩化ナトリウムを含む、実施態様85~87の何れか一の八糖第二鉄。
89. 八糖第二鉄がH2Oを含む、実施態様85~88の何れか一の八糖第二鉄。
90. 八糖第二鉄が、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meは一価金属イオンである)
を有する、実施態様67~89の何れか一の八糖第二鉄。
91. 一価金属イオンがナトリウムイオン又はカリウムイオンである、実施態様90の八糖第二鉄。
92. 一価金属イオンがナトリウムイオンである、実施態様91の八糖第二鉄。
93. Qは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり、かつ
Meはナトリウムイオンである、実施態様90~92の何れか一の八糖第二鉄。
94. 八糖第二鉄が、式:
{FeOOH,(C6H10O6)T-(C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Tは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Zは0.25から0.75、特に0.35から0.65、好ましくは0.45から0.55、更により好ましくは約0.51であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meは、ナトリウムイオン又はカリウムイオン等の一価金属イオンであり、好ましくはナトリウムイオンである)
を有する、実施態様67~93の何れか一の八糖第二鉄。
95. 八糖第二鉄が、式:
{FeOOH,(C6H10O6)T-(C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(NaCl)Y
(上式中、
Tは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Zは0.45から0.55、好ましくは約0.51であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;かつ
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14である)
を有する、実施態様67~94の何れか一の八糖第二鉄。
96. 八糖と錯体化された鉄を含む八糖第二鉄であり、八糖第二鉄が、任意選択的に安定剤及び/又は金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085である)
を有する、八糖第二鉄。
97. Qが0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085である、実施態様96の八糖第二鉄。
98. 八糖第二鉄がクエン酸を含む、実施態様96~98の何れか一の八糖第二鉄。
99. 八糖第二鉄が、任意選択的に金属塩化物及び/又はH2Oを含む、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R}
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;かつ
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031である)
を有する、実施態様96~98の何れか一の八糖第二鉄。
100. Rが0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031である、実施態様99の八糖第二鉄。
101. 八糖第二鉄が塩化ナトリウムを含む、実施態様96~100の何れか一の八糖第二鉄。
102. 八糖第二鉄が水を含む、実施態様96~101の何れか一の八糖第二鉄。
103. 八糖第二鉄が、式:
{FeOOH,(八糖)Q,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Qは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meは一価金属イオンである)
を有する、実施態様96~102の何れか一の八糖第二鉄。
104. Xが0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34である、実施態様103の八糖第二鉄。
105. Yが0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14である、実施態様103又は104の八糖第二鉄。
106. 一価金属イオンがナトリウムイオン又はカリウムイオンである、実施態様103~105の何れか一の八糖第二鉄。
107. 一価金属イオンがナトリウムイオンである、実施態様106の八糖第二鉄。
108. Qは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり、かつ
Meはナトリウムイオンである、実施態様103~107の何れか一の八糖第二鉄。
109. 八糖第二鉄が、式:
{FeOOH,(C6H10O6)T-(C6H10O5)Z-(C6H13O5)T,(C6H8O7)R},(H2O)X,(MeCl)Y
(上式中、
Tは0.06から0.11、特に0.07から0.10、好ましくは0.08から0.09、より好ましくは約0.085であり;
Zは0.25から0.75、特に0.35から0.65、好ましくは0.45から0.55、更により好ましくは約0.51であり;
Rは0.02から0.04、特に0.025から0.038、好ましくは0.028から0.034、より好ましくは約0.031であり;
Xは0.15から0.55、特に0.25から0.45、好ましくは0.30から0.40、より好ましくは約0.34であり;
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meは、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の一価金属イオンであり、好ましくはナトリウムイオンである)
を有する、実施態様96~108の何れか一の八糖第二鉄。
110. Tは0.08から0.09、好ましくは約0.085であり;
Zは0.45から0.55、好ましくは約0.51であり;
Rは0.028から0.034、好ましくは約0.031であり;
Xは0.30から0.40、好ましくは約0.34であり;かつ
Yは0.05から1、特に0.05から0.50、好ましくは0.09から0.40、好ましくは0.09から0.30、より好ましくは0.09から0.20、更により好ましくは約0.14であり;かつ
Meはナトリウムイオンである、実施態様109の何れか一の八糖第二鉄。
111. 1150から1350Da、好ましくは1200から1300Da、より好ましくは1225から1275Daの範囲;例えば約1250Daの重量平均分子量を有する、実施態様96~110の何れか一の八糖第二鉄。
112. 125000から185000Daの範囲、好ましくは135000から175000Daの範囲、より好ましくは140000から155000Da、例えば145000から155000Daの範囲の「見かけの」ピーク分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されるMp)を有する、実施態様96~111の何れか一の八糖第二鉄。
113. 八糖第二鉄が、八糖の10.0重量%未満、好ましくは八糖の重量の3.0%未満、より好ましくは1.0%未満;例えば、0.1から0.5%の単糖及び二糖含有量を有する、実施態様96~112の何れか一の八糖第二鉄。
114. 9を超える単糖単位を有する八糖第二鉄の画分が、八糖の40重量%未満、好ましくは八糖の重量の35%未満、より好ましくは30%未満;例えば、20から30%である、実施態様96~113の何れか一の八糖第二鉄。
115. 6~10の単糖単位を有する分子の割合が、八糖の重量の少なくとも40重量%のオリゴイソマルトシド分子、好ましくは少なくとも45%;例えば、40から60%又は45から55%である、実施態様96~114の何れか一の八糖第二鉄。
116. 6~10の単糖単位を有する分子の割合が、3~6の単糖単位を有する分子の割合より重量で多い、実施態様96~115の何れか一の八糖第二鉄。
117. 八糖第二鉄の分散度(Mw/Mn)が、1.05から1.4の範囲、好ましくは1.1から1.3の範囲;例えば約1.2である、実施態様96~116の何れか一の八糖第二鉄。
118. 八糖第二鉄中の還元糖の量が、八糖の2.5重量%以下、好ましくは八糖の重量の2.5%以下;好ましくは1.0%以下;より好ましくは0.5%以下;例えば約0.3%である、実施態様96~117の何れか一の八糖第二鉄。
119. 水素化前の八糖第二鉄中の還元糖の量が、八糖の重量の、(i)少なくとも10%又は少なくとも15%と、(ii)35%未満;好ましくは30%以下;例えば、10%から30%又は好ましくは15から25%である、実施態様96~118の何れか一の八糖第二鉄。
120. 八糖第二鉄が、八糖第二鉄の重量の10から50%;好ましくは15から35;最も好ましくは20から30%;例えば、20から25%の鉄を含む、実施態様96~119の何れか一の八糖第二鉄。
121. 八糖第二鉄中の八糖に対する元素鉄の重量比が、10:90から50:50;好ましくは15:85から45:55;最も好ましくは20:80から40:60;例えば約70:30である、実施態様96~120の何れか一の八糖第二鉄。
122. 八糖第二鉄中の遊離鉄の全量が、100mg/mL溶液に対して、0.01%w/v以下;好ましくは0.003%w/v未満である、実施態様96~121の何れか一の八糖第二鉄。
123. 実施態様67~122の何れか一の八糖第二鉄と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
124. 再構成用の固体、好ましくは粉末である、実施態様123の薬学的組成物。
125. 直ぐに使用できる流体、又は使用前に希釈するための流体である、実施態様123の薬学的組成物。
126. 皮下投与に適している、実施態様123~125の何れか一の薬学的組成物。
127. 1~25%;好ましくは2から15%;最も好ましくは2.5から7.5又は7.5から12.5;例えば、約5%又は約10%(w/v)の元素鉄を含む、実施態様123~126の何れか一の薬学的組成物。
128. 鉄錯体化合物の濃度が、25から300mg/mL;好ましくは50から200mg/mL;最も好ましくは75から150mg/mL;例えば約100mg/mLの元素鉄である、実施態様123~127の何れか一の薬学的組成物。
129. pHが5.8から7.0;好ましくは5.9から6.8;最も好ましくは5.9から6.6;例えば6.0から6.4である、実施態様123~128の何れか一の薬学的組成物。
130. 濁度が2.0NTU未満;好ましくは1.5NTU未満;最も好ましくは1.0NTU未満;例えば0.5未満である、実施態様123~129の何れか一の薬学的組成物。
131. 60cP以下の粘度を有する、実施態様123~130の何れか一の薬学的組成物。
132. 25℃において少なくとも3年の保存寿命を有する、実施態様123~131の何れか一の薬学的組成物。
133. ヒト又は非ヒト対象における鉄欠乏症の治療方法に使用するための、実施態様67~122の何れか一の八糖第二鉄、又は実施態様123から132の何れか一の薬学的組成物。
134. 非ヒト対象がコンパニオンアニマルである、実施態様133の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
135. コンパニオンアニマルがイヌ科、ネコ科、又はウマ科である、実施態様134の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
136. コンパニオンアニマルがイヌ又はネコである、実施態様134の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
137. コンパニオンアニマルがイヌである、実施態様134の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
138. コンパニオンアニマルが、20pg以下の網赤血球ヘモグロビン含量(CHr)/網赤血球ヘモグロビン等量(RET-He)を有する、実施態様134~137の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
139. 鉄欠乏症が鉄欠乏性貧血である、実施態様134~138の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
140. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、35%未満のヘマトクリット(HCT/PCV)を有する、実施態様134~139の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
141. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、12g/dL未満のヘモグロビン濃度(Hb)を有する、実施態様134~140の何れか一の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
142. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、60fL未満の平均赤血球容積(MCV)を有する、実施態様134~141の何れか一の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
143. コンパニオンアニマル、好ましくはイヌ又はネコが、30g/dL以下の平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)を有する、実施態様134~142の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
144. 用量が体重1kg当たり5から100mg;好ましくは体重1kg当たり10から60mg;最も好ましくは体重1kg当たり15から25mg;例えば、体重1kg当たり約20mgである、実施態様134~143の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
145. 用量が最大50mg鉄/kg体重;好ましくは最大30mg鉄/kg体重;最も好ましくは最大20mg鉄/kg体重である、実施態様134~144の何れか一の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
146. 単回用量が投与される、実施態様134~145の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
147. 用量が単回(1)投与、好ましくは注射、特に皮下注射として提供される、実施態様134~146の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
148. 用量が2、3、又はそれ以上の投与、好ましくは注射、特に皮下注射として提供される、実施態様134~146の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
149. 一回を超える用量が投与される、実施態様134~145の何れか一の八糖第二鉄又は薬学的組成物。
150. 一回を超える用量が、最大50mg鉄/kg体重;好ましくは最大30mg鉄/kg体重;最も好ましくは最大20mg鉄/kg体重の用量である、実施態様149の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
151. 二回の逐次用量が1ヶ月以内;好ましくは2週間以内;最も好ましくは1週間以内に投与される、実施態様149又は150の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
152. 投与が皮下投与である、実施態様134~151の何れか一の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
153. 皮下投与の部位が、肋骨の上の肩甲骨の後ろの背面の側方上の領域、又は腰傍背部領域にある、実施態様152の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
154. 20mg/kg体重の単回用量がイヌ又はネコに皮下投与される、実施態様134の使用のための八糖第二鉄又は薬学的組成物。
【0232】
前述の説明、又は次の特許請求の範囲、又は添付の図面に開示され、その特定の形態で或いは開示された機能又は開示された結果を適切に得るための方法若しくはプロセスを実施するための手段によって表される特徴は、別個に又はそのような特徴の任意の組み合わせで、本発明をその多様な形態で実現するために利用することができる。
【0233】
本発明を上述の例示的な実施態様に関連して説明してきたが、この開示が与えられれば、当業者には多くの均等の修正及び変形が明らかとなるであろう。従って、上述した本発明の例示的な実施態様は、例証的なものであり、限定ではないと考えられる。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、説明した実施態様に様々な変更を加えることができる。
【0234】
誤解を避けるため、ここに提供されるあらゆる理論的な説明は、読者の理解を向上させる目的で提供されている。発明者は、これらの理論的説明の何れにも拘束されることを望んでいない。
【0235】
ここで使用されているあらゆるセクションの見出しは、整理のみを目的としており、記載されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0236】
続く特許請求の範囲を含むこの明細書全体を通して、文脈上別段の要求がない限り、「含む(comprise)」及び「含む(include)」という語と、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、及び「含む(including)」などの変形語は、指定された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外するものではないことが理解されるであろう。
【0237】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、文脈上明らかに別段の指示がない限り、単数形「a」、「an」、及び「the」には複数の指示対象が含まれることに留意されたい。ここでは、範囲は、ある特定の値から、及び/又は別の特定の値までとして表すことができる。そのような範囲が表される場合、別の実施態様には、ある特定の値から、及び/又は別の特定の値までが含まれる。当業者であれば、そのような値はその測定に使用される方法と同じくらい精確であることが理解され、従って、ここに開示される値には誤差マージンが付随することが理解されるであろう。同様に、先行詞「約」を使用して値が近似値として表される場合、特定の値が別の実施態様を構成することが理解されるであろう。ここで使用される場合、「約」という用語は、変数の示された値と、その示された値の実験誤差内(例えば、平均値の95%信頼区間内)又はその示された値の10%以内の何れか大きい方である変数の全ての値とを指す。
【実施例】
【0238】
実施例1 - オリゴイソマルトシド第二鉄の製造
組み合わせて限外濾過によって分画した様々なデキストラン画分からオリゴイソマルトシド第二鉄を製造した。デキストラン画分は中間体デキストランから生成した。幾つかの段階で、出発物質を加水分解して低分子量にし、所望の分子量分布が達成されるまで限外濾過によって分画し、濾過した。オリゴイソマルトースを最終的に水素化しイオン交換させ、次に塩化第二鉄と反応させて錯体を形成した。
【0239】
[八糖第二鉄の製造]
[糖の分画]
約2kDaから5kDa(4872kg)と推定される重量平均分子量を有する予め加水分解されたデキストラン画分を、濃HClの添加でpH1.5にして加水分解し、クロマトグラフィーのピーク上昇が外部デキストラン標準(Mw2kDa未満)のものと一致するまで90℃において撹拌した。溶液を28℃まで冷却し、NaOHで中和した。この溶液を、分子量1150から1350Daの狭い分布及び約1.2の多分散性が達成されるまで、51℃において水に対するダイアフィルトレーションによって精製した。ソモギー試薬により定量した還元糖の量は21%であった。
【0240】
[糖の水素化]
得られた画分(1652kg)を、28℃においてpH10.2の水素化ホウ素ナトリウムで処理した。ソモギー試薬によって測定した還元糖のレベルは0.02%未満であった。溶液を濃HClでpH2.0に酸性化し、3時間撹拌し、ついでNaOHでpHを4.6に調整した。
【0241】
溶液をイオン交換により脱イオン化して、500μS/cm未満の導電率を有する八糖を含む生成物溶液を得た。
【0242】
八糖の重量平均分子量(Mw)は1235Daであると定量された。
【0243】
[鉄錯体化]
錯体形成には、560kgの八糖と塩化第二鉄からの240kgの元素鉄を使用した。70kgの八糖を含む溶液を錯体化反応器に加えた。注射用水(WFI)を撹拌しながら加え、続いて240kgの元素鉄に相当するFeCl3,6H2Oを加えた。NaOHを添加して約10.5のpHにした後、撹拌しながら600kgのNa2CO3(水性)を加えた。溶液が黒色又は暗褐色のコロイド溶液になるまで、溶液を100℃以上に加熱した。続いて、溶液をHClを使用して中和し、濾過した。溶液を膜濾過によって精製して、未結合の八糖、遊離鉄、及び無機塩の残留物を除去した。水酸化ナトリウムに溶解したクエン酸一水和物を加えた。pHを5.6に調整し、得られた溶液を噴霧乾燥して、黒色から暗褐色の粉末を得た。
【0244】
八糖第二鉄錯体の「見かけの」ピーク分子量(Mp)は147121Daと定量し、Mw/Mn(分散度)は1.15と計算した。この目的のために、組成物を溶離液中で0.1%鉄(1mg/mL)まで希釈し、クロマトグラムをGPC(+参照標準、デキストラン及びデキストラン鉄)で測定した。クロマトグラムからMpを読み取り、検量線を使用してMn及びMwを算出した。
【0245】
[錯体強度]
酸加水分解後の吸光度(287.3nm)は錯体結合鉄の量に比例する。吸光度は経時的に測定される。T1/2は、元の錯体結合鉄の半分が遊離されるまでの時間である。サンプルを0.02%=200mg/Lの鉄まで希釈した。5mLの希釈サンプルを、0.9gのNaClを含む100mLの0.25M HCl中で加水分解した。
【0246】
得られた八糖第二鉄の錯体強度は高いことが見出された。試験条件下で塩酸加水分解に供すると、錯体の半分がその構成部分(鉄と糖)に解離するまでに40時間かかった。このT1/2は、デキストラン鉄及び鉄デキストラングルコヘプトン酸錯体で通常観察される(デキストランと錯体の種類に応じて、典型的には70から80時間の範囲である)T1/2よりも低い。同時に、T1/2は、スクロース鉄又はグルコン酸鉄など、弱く結合した鉄との錯体で観察されるT1/2よりも高い。
【0247】
[遊離鉄]
鉄糖錯体を含む組成物中の遊離鉄(すなわち、サイズが12~14kDa未満のコロイド状鉄)の量は、鉄を清浄水に透析し、透析液中の鉄の量を原子吸光分光法で測定することによって定量した。
【0248】
3mLの天然組成物を、20mLの水中で24時間、透析管中で透析した。ついで、透析液中の鉄の量を定量した。遊離鉄%は、組成物3mL中の鉄の全量に対する透析液中の鉄として計算される。
【0249】
八糖第二鉄の遊離鉄の量は0.003%w/v未満であると定量され、この生成物が安全であることを示している。
【0250】
[鉄及び糖含有量]
糖含有量を定量するために、鉄糖錯体を含む組成物を希釈し、錯体中の全てのグルコースを遊離させ、アントロン-HClと結合させた。グルコースの量は分光光度法により測定した。
【0251】
10%w/vの鉄濃度の八糖第二鉄の組成物中の糖含有量は、22%w/vと多いことが見出された。これは、(デキストラン及び錯体の種類によっては、八糖第二鉄の値の半分ほど低い場合もある)デキストラン鉄及びデキストラン鉄グルコヘプトン酸錯体で通常観察される糖含有量よりも有意に多い。言い換えれば、八糖第二鉄における糖に対する鉄の比率は、典型的なデキストラン鉄及びデキストラン鉄グルコヘプトン酸錯体よりも低いということである。これは、ひいては個々の鉄粒子(赤金鉱粒子)がグルコース単位によって良好に保護され、物理的安定性が向上していることを意味する。
【0252】
[更なるオリゴイソマルトシド鉄の製造]
本質的に同じプロセス工程を使用し、八糖第二鉄とは異なる分子量分布を有するオリゴイソマルトシドと鉄錯体を製造する目的で、更なるオリゴイソマルトシド鉄を製造した。例えば、別のプロセスにおいて、得られたオリゴイソマルトシドが850から1150Daの範囲のより低い重量平均分子量(GPCで測定)を有するように分画を行った。例えば、そのようなオリゴイソマルトシドの一つは、1047Daの重量平均分子量を有していた。対応する鉄錯体は、八糖第二鉄と同等の錯体強度(T1/2=33から37時間)を有することが見出されたが、糖含有量(約18%w/v)は、同じ鉄濃度で測定したとき、八糖第二鉄におけるよりも僅かではあるが有意に低かった。
【0253】
実施例2 - 健康な実験用イヌ(ID又はIDAではない)に皮下(SC)及び筋肉内(IM)注射したオリゴイソマルトシド第二鉄の耐性、安全性、薬物動態(PK)及び薬力学(PD)を評価する研究
[研究目的]
このパイロット研究は、オリゴイソマルトシド第二鉄によるイヌの治療を調査するためにデザインされた。具体的な目的には、血清及び尿中の鉄薬物動態プロファイルを決定すること;ヘモグロビン、網状赤血球数、カルシウム、フェリチン、不飽和鉄結合能、総鉄結合能、及びトランスフェリン飽和の薬力学プロファイルを決定すること;日常モニタリングを通じて注射部位反応を評価すること;並びに臨床病理学に基づいて、化合物の注射に対するイヌの耐性と化合物の初期安全性プロファイルを決定することを含めた。
【0254】
このイヌを対象とした単一施設での非臨床実験室研究には、非盲検、ランダム化並行計画において4つの用量群を含めた。14匹の雄と14匹の雌を7日間研究条件に順応させ、その間に体重測定、身体検査、血液学及び臨床化学分析のための採血、尿検査のための採尿及び一日二回の臨床観察を行った。
【0255】
順応後、24匹のビーグル犬(12匹の雄と12匹の雌;7.2から12.4kgの体重)を、それぞれ6匹ずつの4つの性別のバランスの取れた用量群の一つに無作為化した。次の表に従って、イヌにオリゴイソマルトシド第二鉄(実施例1に従って生成した化合物;100mg/mLの元素鉄;pH=6.3)を一回投与した。意図した1×用量は20mg/kg、つまり0.2mL/kgである。T3群では、用量は100mg/kg、つまり1mL/kgである。例えば、群T2の体重10.3kgのイヌには、6.2mLのオリゴイソマルトシド第二鉄を投与した。
【0256】
注射部位位置の評価を定義するために、IM部位とSC部位の両方を包含する左腰傍腰部の薄い輪郭を0日目の前に剃った。この輪郭により、全ての技師が一貫した領域内で注射部位評価を実施できるようになった。注射部位の剃毛は許可されなかった。オリゴイソマルトシド第二鉄を、SC(左腰傍腰部)又はIM(左腰傍腰部外軸筋)注射によって投与した。
【0257】
SC注射の場合(群T1、T2、及びT3):
・用量をシリンジに取り込み、空気を全て抜いた;
・イヌを注射中に動かないように拘束した;
・左腰傍腰部の皮膚を探った;
・針をSC空間に挿入し、プランジャーに陰圧を加えて、針が血管領域ではなくSC空間にあることを確認した;
・意図した用量全量を注射し、針を皮膚から抜いた;
・被験物質を注射しながら針を配置した直後に痛みを評価した;
・イヌをその檻に戻し、ハンドラーが各イヌごとに手袋を交換した。
【0258】
IM注射の場合(群T4):
・用量をシリンジに取り込み、空気を全て抜いた;
・イヌを注射中に動かないように拘束した;
・左背側腰傍(心外)筋を特定した;
・針を筋肉に挿入し、プランジャーに陰圧を加えて、針が血管領域ではなく筋肉内にあることを確認した;
・意図した用量全量を注射し、針を筋肉から抜いた;
・被験物質を注射しながら針を配置した直後に痛みを評価した;
・イヌをその檻に戻し、ハンドラーが各イヌごとに手袋を交換した。
【0259】
研究変数を次のように評価した:
・注射に対する耐性を、用量投与中に評価した;
・薬物動態及び薬力学分析のための連続採血を、投与後01、0.5、1、2、4、8、24、48、72、120、168、240、336、及び504時間で実施した;
・薬物動態分析のための尿を、投与後0から8、8から24、24から48、及び48から72時間の間隔で採取した;
・臨床観察を、順応初日から研究の最終日まで一日二回(少なくとも6時間あけて)実施した;
・注射部位評価を、投与前の0日目、1、2、及び6時間(全て±15分)、24、48、及び72時間(±1時間)、及び4、7、10、14、及び21日目(投与後±1時間)に実施した;
・身体検査を、順応中(-6日目)に一回と21日目に実施した;
・体重を、順応中(-7日目)に一回と、0日目(投与前)、7日目と21日目に測定した;
(1 投与前(0時間)PK及びPDサンプルは全てのイヌについて-1日目に採取した)
・臨床病理学のための血液を、順応中(-5日目)に一回と、2、7、及び21日目に採取した;
・尿を、順応中(-7日目又は-5日目)に一回と、1日目又は2日目、7日目又は8日目、及び20日目又は21日目に尿検査のために採取した;
・食物摂取量を、順応初日から研究終了まで測定した。
【0260】
[結果]
AUCtlast及びCmaxを決定するために血清鉄濃度をベースライン調整した後、薬物動態学的用量関係を示唆する有意な用量群効果が特定された。ベースライン補正AUCtlast値は、群T2及びT3と比較して、群T1及びT4で有意に低かった。ベースライン補正Cmax値は、群T3と比較して群T1で有意に低かった;他の比較は統計的に有意ではなかった。
【0261】
研究の主な所見は次のように要約される:
・SC(T1)注射は、IM(20mg/kg用量でのT4)よりも比較的痛みが少なかった。20mg/kgのSC注射(T1)は、100mg/kgのSC注射(T3)よりも比較的痛みが少なかった。
・研究期間中、どのイヌについても、投与後に注射部位に熱、痛み、腫れが発生したという記録はなく、その他の薬剤関連の有害事象も報告されなかった。
・しかし驚くべきことに、20mg/kgSC注射T1は、20mg/kgIM注射T4と本質的に同じ血清鉄の薬物動態プロファイルを示した。
図1を参照のこと。
・そして驚くべきことに、用量に関連したフェリチンの増加が観察され、T1とT4プロファイルは基本的に同じフェリチン応答を示し、T2とT3は比例してより大きな応答を示した;
図2を参照のこと。
【0262】
[結論]
全体として、オリゴイソマルトシド第二鉄は、全ての投薬量レベル及び両方の投与経路で忍容性が良好であった。研究過程を通して、イヌの健康状態は良好であった。
【0263】
PKプロファイルにより、イヌにオリゴイソマルトシド第二鉄を注射した後の血清及び尿鉄濃度の両方についてAUCtlast及びCmaxを規定した。血清では、ベースライン調整AUCtlast及びCmaxパラメーターを使用して、血清鉄に対する統計的に有意な用量効果が検出された。AUCtlastとCmaxは、T4(1×IM)群とT1(1×SC)群で有意な差はなく、オリゴイソマルトシド第二鉄の投与経路がPKプロファイルに有意な影響を与えなかったことを示している。T4(1×IM)群とT1(1×SC)群の間に有意差は観察されなかったため、投与経路(IM対SC)もPDパラメーターの何れにも影響しなかった。同等のPDプロファイルがT4(1×IM)群とT1(1×SC)群で観察された。
【0264】
尿中では、累積鉄排泄量により短期間の用量効果が実証されたが、この効果はサンプリング期間の終わりまでに消失した。投与経路は尿中の累積鉄排泄量に有意な影響を与えなかった。
【0265】
網状赤血球数とカルシウム、及び殆どのPDパラメーターは、一貫した短期間の用量比例効果を示した。フェリチンとTSATは用量に比例して増加した。T1(1×SC)及びT4(1×IM)治療群でも、フェリチンとTSATに対する効果が実証された。
【0266】
フェリチンは用量依存的に増加することが見出されており、鉄欠乏対象を非経口鉄化合物で治療するとフェリチンが増加すると予想されるため、オリゴイソマルトシド第二鉄の皮下注射がイヌ及び他のコンパニオンアニマルにおける鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血の治療に適していると期待するのは合理的である。
【0267】
実施例3-ウサギにおける皮下(SC)又は筋肉内(IM)注射後の八糖第二鉄の吸収
[研究目的]
八糖第二鉄を含む10%(w/v)組成物の0.4mL/kg体重をウサギの脚にIM又はSC注射し、もう一方の脚を対照として使用した。ウサギは24時間後又は7日後に安楽死させた。
【0268】
IM注射の場合、注射された筋肉にどれだけの鉄が残っているかを、視覚的かつ定量的評価によって、チェックすることで吸収を評価した。定量的評価では、筋肉を均質化し、NaOH、続いて140℃において20時間沸騰させながらのH2SO4/HNO3による破壊に供した。次に、破壊されたサンプル中の鉄の量を原子吸光分析法(AAS;英国薬局方最新版参照:デキストラン鉄注射、「鉄吸収の試験」-修正)によって定量し、注射部位に残っている鉄の画分-つまり注射部位から吸収されなかった鉄分-を計算した。それにより、吸収された鉄の画分は、100%から注射部位に残っている鉄の画分を引いたものとして計算した。
【0269】
SC注射の場合、一つの例外を除いてIM注射の場合と同じ手順に従った:筋肉全体及び皮膚を分析した。すなわち、分析前に筋肉の皮を剥がなかった。
【0270】
[結果]
八糖第二鉄は、筋肉内投与又は皮下投与の両方で、注射部位から良好かつ迅速に吸収された。7日後、用量の98~99%が注射部位から吸収され、皮下注射と筋肉内注射の間に有意差は観察されなかった。注射後24時間という短い時間枠内では、筋肉内投与された鉄の吸収は本質的に完全(99.4%)であることが判明したが、皮下投与された鉄はまだ完全には吸収されていなかった(96.3%)。
【0271】
[結論]
注射から7日後、八糖第二鉄中の鉄が注射部位から完全に吸収されたことが見出された。皮下注射と筋肉内注射との間に有意差は観察されなかった。驚くべきことに、皮下投与された八糖第二鉄からの最初の24時間以内の鉄の吸収は、筋肉内投与された場合とほぼ同じ速さであることが観察された(96.3%対99.4%)。筋肉内投与は鉄の吸収が比較的速いと予想されるが、皮下投与された鉄錯体化合物からの鉄の吸収は通常有意に遅いと予想される。
【0272】
[参考文献]
本発明及び本発明が関連する技術水準をより完全に説明し開示するために、多くの刊行物が上で引用されている。これらの参考文献に対する完全な引用を以下に提供する。これらの参考文献のそれぞれの全体がここに援用される。
【0273】
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【国際調査報告】