(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】トンネル磁気抵抗の補償された温度係数を持つ磁気抵抗効果素子
(51)【国際特許分類】
H10N 50/20 20230101AFI20240730BHJP
【FI】
H10N50/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506750
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 IB2022056992
(87)【国際公開番号】W WO2023012612
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524154452
【氏名又は名称】アレグロ・マイクロシステムズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】ティモフィーエフ・アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】デュクリュエ・クラリス
(72)【発明者】
【氏名】チルドレス・ジェフリー
【テーマコード(参考)】
5F092
【Fターム(参考)】
5F092AA08
5F092AB01
5F092AC12
5F092BB17
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BC07
5F092BC08
5F092BC13
(57)【要約】
【課題】トンネル磁気抵抗と帯磁率の温度依存性について磁気抵抗効果素子を改良する。
【解決手段】磁気抵抗効果素子(2)が、参照層(23)と、自由検知磁化(210)を持つ強磁性の検知層(21)と、参照層(23)と検知層(21)の間のトンネル障壁層(22)とを備える。検知層(21)が、トンネル障壁層(22)と接する第1検知層部分(211)と、第1検知層部分(211)と接する第2検知層部分(212)とを備える。第1検知層部分(211)は、第1及び第2検知層部分(211、212)間の磁気結合が±10-4J/m2から±10-3J/m2の間であり、第1検知層部分(211)とトンネル障壁層(22)との間の界面に由来する垂直磁気異方性(PMA)が、8×104A/mと8×105A/mとの間であるように構成されていて、磁気抵抗効果素子(2)の感度の温度係数(TCS)を正にずらして、磁気抵抗効果素子(2)のTMRの負の温度係数を補償する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン止めされた基準磁化(230)を持つ基準層(23)と、
安定した渦構成を備える自由センス磁化(210)を持つ強磁性のセンス層(21)と、
前記基準層(23)と前記センス層(21)の間のトンネル障壁層(22)と
を備え、
前記センス層(21)が、前記トンネル障壁層(22)と接する第1センス層部分(211)と、前記第1センス層部分(211)と接する第2センス層部分(212)とを備える磁気抵抗効果素子において、
前記第1センス層部分(211)は、前記磁気抵抗効果素子(2)の感度の温度係数(TCS)を正にずらして、前記磁気抵抗効果素子(2)のTMRの負の温度係数を補償するように、前記第1及び第2センス層部分(211、212)間の磁気結合が±10
-4J/m
2から±10
-3J/m
2の間であり、かつ前記第1センス層部分(211)と前記トンネル障壁層(22)との間の界面に由来する垂直磁気異方性(PMA)が、8×10
4A/mと8×10
5A/mとの間であるように構成されていることを特徴とする、磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第1及び第2センス層部分(211、212)の間に設けられ、前記第1センス層部分(211)と前記第2センス層部分(212)とを磁気的に結合する介在層(213)を備える、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記介在層(213)が、Nb、Ti、Ru、W、Ta、Ir、Mo、Cuの中のいずれか1種類又はその組み合わせから作られている、請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記介在層(213)は、2.5nm及び0.5nmの間の厚さを持つ、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第1センス層部分(211)が、1.5nm及び4nmの間の厚さを持つ、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1センス層部分(211)は、x及びyがそれぞれ独立して0から100vol%の範囲で変化し、zが0から20vol%の範囲で変化するCo
xFe
yB
z合金を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記第1センス層部分(211)は、複数の強磁性サブ層(2111)を備え、各強磁性サブ層(2111)は、x、y、zがサブ層(2111)間で異なるCo
xFe
yB
zを含有している、請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
複数の前記センスサブ層(2111)の間に非磁性スペーササブ層(2112)をさらに備える、請求項7に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
各スペーササブ層(2112)は金属であり、0.4nmより薄い厚さを持っている、請求項8に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記第2センス層部分(212)が、NiFe合金といった軟質強磁性合金を含有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
前記第2センス層部分(212)が、総体積分率が15%未満の非磁性希釈要素をさらに含有する、請求項10に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
前記希釈要素は、前記第2センス層部分(212)において、1つ又は複数のナノ層を備える、請求項11に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
前記第2センス層部分(212)は、15nmを超える厚さを持つ、請求項1から12のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項14】
1μm未満の直径を持つ、請求項1から13のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子(2)を複数備えたセンサ装置であって、複数の前記磁気抵抗効果素子(2)が相互に電気的に接続されている、センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外部磁界の検知を意図した磁気センサ用の磁気抵抗効果素子に関する。より詳細には、本開示は、安定した渦構成と、磁気抵抗効果素子のTMRの補償される負の温度係数とを持つセンス層を備える、磁気抵抗効果素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、基準磁化230を持つ強磁性基準層23と、自由なセンス磁化210を持つ強磁性センス層21と、センス層及び基準強磁性層21、23間のトンネル障壁層22とを備える磁気抵抗効果素子2の断面図を示す。センス磁化210は、基準磁化230が実質的に乱されないまま、外部磁場60中で配向できる。外部磁場60は、磁気抵抗センサ素子2の抵抗を測定することによって感知できる。抵抗値は、検知磁化と基準磁化の相対的な向きに依存する。
【0003】
磁気抵抗効果素子2は、センス磁化210が基準磁化230と平行に配向している場合、低い測定抵抗値(RP)が測定される。高抵抗(RAP)は、センス磁化210が基準磁化230に対して反平行に配向しているときに磁気抵抗効果素子2において測定される。高抵抗と低抵抗の値の差(RAP-RP)は、トンネル磁気抵抗(TMR)としても知られている。
【0004】
センス磁化210は、外部磁界の大きな大きさ範囲において直線的で非ヒステリシス的な挙動を提供する安定した渦構成を備え得る。このような磁気抵抗効果素子は、したがって、1次元磁気センサ用途に有利であり、その感度を調整するように容易に構成できる。
【0005】
図2は、センス磁化210(M、任意単位)に対する外部磁界60(Hext、任意単位)に対するヒステリシス応答(又は磁化曲線)を示している。渦センス磁化210の完全なヒステリシスループは、H
expl点で渦追放磁場に達するまで、適用する磁場Hextに伴う磁化Mの線形増加によって特徴付けられる。この時点でセンス磁化210は磁気的に飽和する。センス層21の渦状態を回復させるには、磁場を核生成磁場H
nucl未満に下げる必要がある。適用する磁場が感知磁化210の渦の追い出し磁場(+/-H
expl)に対応する大きさの範囲内である限り、外部磁場60(H
ext)に対するヒステリシス応答は、外部磁場H
extによる渦のコアの移動に対応する可逆的な線形部分を備える。ヒステリシスループの直線部分の値と傾きは、センス層21のサイズ(大きさ、寸法)に強く依存する。磁化曲線の直線部分と非ヒステリシス部分は、外部磁場H
extの小さな変動の測定を容易にする。
【0006】
渦はその帯磁率χによって特徴づけられ、帯磁率はM(H)ループの直線領域の傾きに相当する。
【数1】
【0007】
そして磁気抵抗効果素子2の感度Sは、磁気抵抗センサ素子2の帯磁率χとトンネル磁気抵抗(TMR)の積に比例する。
【数2】
【0008】
このような磁気抵抗効果素子の欠点は、センス層21のTMR及び帯磁率χの温度依存性である。温度Tが上昇すると、センス磁化210が下がり、帯磁率χが増える。一方、温度Tが上昇すると、TMRは減衰する。この依存性により、使用温度における磁気抵抗効果素子の応答精度が制限され、磁気抵抗効果素子の潜在的な用途が制限される。一般的に、従来の磁気抵抗効果素子のTMRの温度係数は大きく負であるため、磁気抵抗効果素子の感度の温度係数(TCS)は全体的に負となる。
【0009】
TCSは、温度変化に対して磁気抵抗効果素子バイアス電圧を変化させることによって磁気抵抗センサ素子2の感度Sの変化を補償する電子回路を使って制御できる。しかし、この方法では、TCSの調整のためトリミングが必要となる。さらに、追加の電子回路を使うことは、より大きなダイサイズを必要とし、磁気抵抗センサ素子2のプロセスと開発をより複雑にする。
【0010】
本出願人による特許文献1では、磁気抵抗効果素子は、センス層の磁化率の温度依存性が磁気抵抗効果素子のTMRの温度依存性を実質的に補償するような割合の遷移金属元素を含有する部分を備えるセンス層を、備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願第20200315015号
【発明の概要】
【0012】
本開示は、ピン止めされた基準磁化を持つ基準層と、安定した渦構成を備える自由センス磁化を持つ強磁性センス層と、基準層とセンス層との間のトンネル障壁層とを備える磁気抵抗効果素子に関する。センス層は、トンネル障壁層に接する第1センス層部分と、第1センス層部分に接する第2センス層部分とを備える。第1センス層部分は、第1センス層部分と第2センス層部分との間の磁気結合が±10-4J/m2から±10-3J/m2の間であり、第1センス層部分とトンネル障壁層との間の界面に由来する垂直磁気異方性(PMA)が8×104A/mから8×105A/mの間であり、磁気抵抗効果素子のTCSを正にずらし、磁気抵抗効果素子のTMRの負の温度係数を補償するように構成されている。
【0013】
本明細書で開示する磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果素子の層の比較的控えめな変更によって、高度のTCS補償を達成できる。対照的に、センス層の磁化の希釈によってのみTCSを補償するには、高濃度の非磁性不純物が必要である。その結果、磁化率の非線形温度依存性が生じ、それが磁気抵抗効果素子のTSCの非線形性に転嫁される。
【0014】
本発明の例示的な実施形態が、本明細書において開示され、図面によって図示されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、センス層を備える磁気抵抗効果素子の断面図である。
【
図2】
図2は、センス磁化に対する外部磁場に対する完全なヒステリシス応答を示す。
【
図3】
図3は、実施形態による、第1センス層部分と第2センス層部分とを備える磁気抵抗効果素子を示す。
【
図4】
図4は、実施形態による、複数の強磁性センスサブ層を備える第1センス層部分を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図3は、1実施形態による磁気抵抗効果素子2を示す。磁気抵抗効果素子2は、ピン止めされた基準磁化230を持つ強磁性基準層23と、センス磁化210を持つ強磁性センス層21と、センス層及び基準強磁性層21、23間のトンネル障壁層22とを備える。センス磁化210は、基準磁化230が実質的に乱されないまま、外部磁場60中で配向可能に構成されている。外部磁場60は、磁気抵抗効果素子2の抵抗を測定することによって感知できる。抵抗値は、基準磁化230に対するセンス磁化210の向きに依存する。
【0017】
強磁性層は、CoFe、NiFe又はCoFeB等のFeベースの合金で作製できる。基準層23は、磁気交換バイアス結合によって反強磁性層24によってピン止めできる。反強磁性層24は、マンガンMnをベースとする合金を備え得る。Mnベースの合金とは、例えば、イリジウムIr及びMnをベースとする合金(例えば、IrMn)と、Fe及びMnをベースとする合金(例えば、FeMn)と、白金Pt及びMnをベースとする合金(例えば、PtMn)と、Ni及びMnをベースとする合金(例えば、NiMn)である。
基準層23は、1層又は複数の強磁性層を備えてよい。
図3に示す例では、基準層23は、介在する非磁性層233を介して反強磁性的に分離結合された少なくとも第1強磁性層231及び第2強磁性層232を備える合成反強磁性体(SAF)構造を備える。非磁性層は典型的にはRu層であるが、いずれかを備えてよい。Ru、Ir又はCu、又はこれらの元素の組み合わせを備えてよい。
SAF構造では、第1強磁性層231の第1基準磁化230は、非磁性層233によって第2基準磁化235に反平行に結合される。磁気抵抗効果素子2が反強磁性層24を備える場合、反強磁性層24の隣の強磁性層232の第2基準磁化235は、反強磁性層24によってピン止めされる。
基準層23の厚さは、選択される材料に依存する。一例では、基準層23は0.3nmから3nmの厚さを持ち得る。
【0018】
トンネル障壁22は、絶縁材料を備え得る。好適な絶縁材料としては、酸化アルミニウム(例えば、Al2O3)及び酸化マグネシウム(例えば、MgO)等の酸化物を挙げられる。トンネル障壁層22の厚さは、約1nmから約3nmなどのnmの範囲としてよい。
【0019】
何つかの実施形態によれば、センス層21は、トンネル障壁層22と接する第1センス層部分211と、第1センス層部分211と接する第2センス層部分212とを備える。
【0020】
第2センス層部分212は、渦状態を可能にするように構成され得る。例えば、センス磁化210は、安定した渦構成を備えてよい。第2センス層部分212は、軟質強磁性合金を備えてよい。例えば、第2センス層部分212は、場合によっては数wt%のCr、Si、B又はVを含むNi合金又はNiFe合金を備えてよい。1観点では、第2センス層部分212の厚さは、15nmより厚い。第2センス層部分212は、120nmまでの厚さを持ち得る。
【0021】
一実施形態では、第1センス層部分211は、第1及び第2センス層部分211、212間の磁気結合が10-4J/m2及び10-3J/m2の間であるように構成され、交換バイアス結合の符号は正又は負であり得る。第1センス層部分211は、第1センス層部分211とトンネル障壁層22との間の界面から発生するPMA電界が8×104A/mと8×105A/mとの間であるようにさらに構成され得る。
【0022】
第1及び第2センス層部分211、212間の交換バイアス結合を±10-4J/m2から±10-3J/m2の間の所望の交換バイアス結合値に調整し、PMA電界を8×104A/mから8×105A/mの間の所望のPMA電界値に調整することにより、第1センス層部分211の磁化率が修正され、その温度係数がより正になる。第1センス層部分211の正の温度係数は、磁気抵抗効果素子2のTCSを正の方向にずらす(シフトさせる)。磁気抵抗効果素子2のTCSの正のシフトは、磁気抵抗効果素子2のTMRの負の温度係数を補償するようなものとしてよい。例えば、磁気抵抗効果素子2のTCSは、磁気抵抗効果素子2の直径及び第2センス層部分212の材料タイプに応じて、約200から700ppm/℃、より正にずらしてよい。
【0023】
第1センス層部分211は、第1及び第2センス層部分211、212間の磁気結合が、10-4J/m2から2×10-3J/m2、又は2×10-4J/m2から10-3J/m2、又は、2×10-4J/m2から2×10-3J/m2であるように構成される。第1及び第2センス層部分211、212間の磁気結合は、典型的には、従来の磁気抵抗効果素子2のセンス層におけるものよりも4倍から5倍小さい。
【0024】
1実施形態において、磁気抵抗効果素子2は、第1及び第2センス層部分211、212の間に介在層213をさらに備える。介在層213は、第1センス層部分211及び第2センス層部分212間の磁気結合を低減するように構成される。より詳細には、調停層213は、第1及び第2センス層部分211、212間の交換バイアス結合を±10-4J/m2と±10-3J/m2との間の所望の交換バイアス結合値に調整し、PMA磁場を8×104A/mと8×105A/mとの間の所望のPMA磁場値に調整するように構成され得る。介在層213は、非磁性層、好ましくは非磁性層を備えてよい。
【0025】
1つの態様において、介在層213の厚さ及び組成は、±10-4J/m2と±10-3J/m2との間の所望の交換バイアス結合値に到達するように、及び8×x104A/mと8×105A/mとの間の所望のPMA磁場値に到達するように調整され得る。一例では、介在層213は、Nb、Ti、Ru、W、Ta、Ir、Mo又はCuの中のいずれか1種類又はその組み合わせを含有する、もしくは作られていてよい。別の例では、介在層213の厚さは、0.5nm及び2.5nmの間であり得る。
【0026】
また、±10-4J/m2から±10-3J/m2の間の第1及び第2センス層部分211、212間の交換バイアス結合は、第2センス層部分212から第1センス層部分211への渦状態の伝達を可能にするのに十分強いことが示された。したがって、介在層213を持つ磁気抵抗効果素子2のヒステリシス応答(又は磁化曲線)は、介在層213を持たない磁気抵抗効果素子2のヒステリシス応答(又は磁化曲線)と類似し得る。
【0027】
第1センス層部分211における実効TMR及び磁化率は、PMA磁場の大きさの減少に伴って減少する。PMA電界は温度とともに急速に減少するので、第1センス層部分211のTCSに補償効果を与える。この効果は、第1センス層部分211が薄い場合に、より重要である。例えば、第1センス層部分211は、第2センス層212よりも少なくとも約4倍薄くできる。
【0028】
別の実施形態では、第1センス層部分211は、x及びyが0から100%volまで独立して変化し、zが0から20%volまで変化するCoxFeyBz合金を含有する。第1センス層部分211の厚さは、±10-4J/m2から±10-3J/m2の間の所望の交換バイアス結合値に到達するように、そして8×104A/mから8×105A/mの間の所望のPMA電界値に到達するように、さらに調節できる。例えば、限定するものではないが、第1センス層部分211は、1.5nmから4nmであり得る厚さを持つ。第1センス層部分211の厚さが増加すると、PMA電界及び交換バイアス結合の両方が実質的に同量減少することに留意すべきである。
【0029】
図4に示す実施形態では、第1センス層部分211は、複数の強磁性センスサブ層2111を備えてよく、各センスサブ層2111は、x、y、zがセンスサブ層2111ごとに異なり得るCo
xFe
yB
z合金を含有する。センスサブ層2111は、0.3nm及び3nmの間の厚さを持ち得る。第1センス層部分211は、センスサブ層2111の間に非磁性スペーササブ層2112をさらに備えてよい。スペーササブ層2112は、金属ナノ層を備えてよく、そして0.4nmより小さい厚さを持ち得る。
【0030】
さらなる実施形態では、第2センス層部分212は、希釈要素を含有してよい。希釈要素は、第2センス層部分212において合金化され得るか、又は第2センス層部分212は、1つ又は複数の希釈ナノ層を備えてよい。希釈要素又は希釈ナノ層は、センス磁化210を希釈するように構成され、そしてセンス層21のキュリー温度Tcを低下させる。センス層21のキュリー温度Tcを低下させると、磁気抵抗効果素子2の使用温度範囲において、温度Tの上昇に伴う磁化の低下が速くなる。温度Tの上昇に伴う磁化の低下は、温度の上昇に伴う帯磁率χの上昇をもたらす。センス磁化210の希釈度を調整することで、温度上昇に伴う帯磁率χの上昇を伴うTMRの低下の補償が可能となる。このように、センス磁化210の希釈度を調整することにより、TCSをさらに制御することが可能となり、例えば磁気抵抗効果素子2のTCSを正にずらして、磁気抵抗効果素子2のTMRの負の温度係数を補償できる。希釈元素又は希釈ナノ層は、例えばTa、W又はRu等の遷移金属元素を備えてよい。
【0031】
実施形態において、第2センス層部分212は、15%vol(体積%)未満の割合で希釈要素を備える。
【0032】
第2センス層部分212の希釈によるTCSの補償は、第1センス層部分211による補償及び介在層213による補償とは独立して起こり得る。従って、第2センス層部分212の希釈によるTCSの補償は、磁気抵抗効果素子2のTCSの微調整に、第1センス層部分211及び介在層213による補償に加えて使うことができる。
【0033】
本発明者らは、第1センス層部分211が介在層213によって第2センス層部分212から分離される場合に、本明細書に開示される磁気抵抗効果素子2のTCSが、+600ppm程度の正のシフトのTCSを持ち得ることを示した。介在層213は、第1センス層部分211に強い(例えば±10-4J/m2及び±10-3J/m2の間の)磁化率の正の温度係数を与える。したがって、介在層213の存在下での第1センス層部分211の正の温度係数は、磁気抵抗効果素子2のTCSを正にずらして、TMR効果に由来する負の温度係数を補償できる。これは、第1及び第2センス層部分211、212間の交換バイアス結合の正及び負の両方の大きさに対して適用される。
【0034】
本発明者らは、磁気抵抗効果素子2におけるTMRの温度係数及び第2センス層部212の磁化率の温度依存性が、介在層213を備える磁気抵抗効果素子2と介在層213を備えない磁気抵抗効果素子2との間で実質的に変化しないことも示した。
【0035】
実際、磁気抵抗効果素子2は、物性測定システム(PPMS)を用いて特性評価された。)PPMSによる特性評価の結果、従来のセンス層21と比較して、第2センス層部分212の磁化率の温度依存性に差がなく、そしてTMRの温度依存性に大きな変化がないことが示された。同時に、第1センス層部分211では、磁化率の温度依存性が顕著に変化していることが観察される。実際、第1センス層部分211は、渦磁気抵抗効果素子のTCSを改善する原因となる、著しく高い正の温度係数を獲得している。
【0036】
PPMS特性は、第1センス層部分211の温度係数の増加をさらに示した。温度係数の増加は、第1センス層部分211のPMA電界(及びPMA電界の温度依存性)と関連していると考えられる。第1センス層部211の界面エネルギーは、第1及び第2センス層部211,212間のRuスペーサを介した反強磁性結合の界面エネルギーよりも高いと考えられる。
【符号の説明】
【0037】
2 磁気抵抗効果センサ素子
20 磁気抵抗効果センサ
21 センス層
210 センス磁化
211 第1センス層部分
2111 センスサブ層
2112 スペーササブ層
212 第2センス層部分
213 介在層
22 トンネル障壁層
23 基準層
230 基準磁化、第1基準磁化
231 第1強磁性層
232 第2強磁性層
233 非磁性層
235 第2基準磁化
24 反強磁性層
60 外部磁場
【手続補正書】
【提出日】2024-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン止めされた基準磁
化を持つ基準
層と、
安定した渦構成を備える自由センス磁
化を持つ強磁性のセンス
層と、
前記基準
層と前記センス
層の間のトンネル障壁
層と
を備える磁気抵抗効果素子において、
前記センス
層が、前記トンネル障壁
層と接する第1センス層部
分と、前記第1センス層部
分と接する第2センス層部
分とを備え、
前記第1センス層部
分は、前記磁気抵抗効果素
子の感度の温度係数(TCS)を正にずらして、前記磁気抵抗効果素
子のTMRの負の温度係数を補償するように、前記第1及び第2センス層部
分間の磁気結合が±10
-4J/m
2から±10
-3J/m
2の間であり、かつ前記第1センス層部
分と前記トンネル障壁
層との間の界面に由来する垂直磁気異方性(PMA)が、8×10
4A/mと8×10
5A/mとの間であるように構成されてい
る、磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第1及び第2センス層部
分の間に設けられ、前記第1センス層部
分と前記第2センス層部
分とを磁気的に結合する介在
層を備える、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記介在
層が、Nb、Ti、Ru、W、Ta、Ir、Mo、Cuの中のいずれか1種類又はその組み合わせから作られている、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記介在
層は、2.5nm及び0.5nmの間の厚さを持つ、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第1センス層部
分が、1.5nm及び4nmの間の厚さを持つ、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1センス層部
分は、x及びyがそれぞれ独立して0から100vol%の範囲で変化し、zが0から20vol%の範囲で変化するCo
xFe
yB
z合金を備える、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記第1センス層部
分は、複数の強磁性サブ
層を備え、各強磁性サブ
層は、x、y、zがサブ
層間で異なるCo
xFe
yB
zを含有している、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
複数の前記センスサブ
層の間に非磁性スペーササブ
層をさらに備える、請求項7に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
各スペーササブ
層は金属であり、0.4nmより薄い厚さを持っている、請求項8に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記第2センス層部
分が、NiFe合金といった軟質強磁性合金を含有する、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
前記第2センス層部
分が、総体積分率が15%未満の非磁性希釈要素をさらに含有する、請求項10に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
前記希釈要素は、前記第2センス層部
分において、1つ又は複数のナノ層を備える、請求項11に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
前記第2センス層部
分は、15nmを超える厚さを持つ、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項14】
1μm未満の直径を持つ、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
請求項
1に記載の磁気抵抗効果素
子を複数備えたセンサ装置であって、複数の前記磁気抵抗効果素
子が相互に電気的に接続されている、センサ装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
PPMS特性は、第1センス層部分211の温度係数の増加をさらに示した。温度係数の増加は、第1センス層部分211のPMA電界(及びPMA電界の温度依存性)と関連していると考えられる。第1センス層部211の界面エネルギーは、第1及び第2センス層部211,212間のRuスペーサを介した反強磁性結合の界面エネルギーよりも高いと考えられる。
本願は例えば次の観点を提供する。
[観点1]
ピン止めされた基準磁化(230)を持つ基準層(23)と、
安定した渦構成を備える自由センス磁化(210)を持つ強磁性のセンス層(21)と、
前記基準層(23)と前記センス層(21)の間のトンネル障壁層(22)と
を備える磁気抵抗効果素子において、
前記センス層(21)が、前記トンネル障壁層(22)と接する第1センス層部分(211)と、前記第1センス層部分(211)と接する第2センス層部分(212)とを備え、
前記第1センス層部分(211)は、前記第1及び第2センス層部分(211、212)間の磁気結合が±10-4J/m2から±10-3J/m2の間となるように構成されていて、前記磁気抵抗効果素子(2)の感度の温度係数(TCS)を正にずらして、前記磁気抵抗効果素子(2)のTMRの負の温度係数を補償するように、前記第1センス層部分(211)と前記トンネル障壁層(22)との間の界面に由来する垂直磁気異方性(PMA)が、8×104A/mと8×105A/mとの間であることを特徴とする、磁気抵抗効果素子。
[観点2]
前記第1及び第2センス層部分(211、212)の間に設けられ、前記第1センス層部分(211)と前記第2センス層部分(212)とを磁気的に結合する介在層(213)を備える、観点1に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点3]
前記介在層(213)が、Nb、Ti、Ru、W、Ta、Ir、Mo、Cuの中のいずれか1種類又はその組み合わせから作られている、観点1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点4]
前記介在層(213)は、2.5nm及び0.5nmの間の厚さを持つ、観点1から3のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点5]
前記第1センス層部分(211)が、1.5nm及び4nmの間の厚さを持つ、観点1から4のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点6]
前記第1センス層部分(211)は、x及びyがそれぞれ独立して0から100vol%の範囲で変化し、zが0から20vol%の範囲で変化するCoxFeyBz合金を備える、観点1から5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点7]
前記第1センス層部分(211)は、複数の強磁性サブ層(2111)を備え、各強磁性サブ層(2111)は、x、y、zがサブ層(2111)間で異なるCoxFeyBzを含有している、観点1から6のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点8]
複数の前記センスサブ層(2111)の間に非磁性スペーササブ層(2112)をさらに備える、観点7に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点9]
各スペーササブ層(2112)は金属であり、0.4nmより薄い厚さを持っている、観点8に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点10]
前記第2センス層部分(212)が、NiFe合金といった軟質強磁性合金を含有する、観点1から9のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点11]
前記第2センス層部分(212)が、総体積分率が15%未満の非磁性希釈要素をさらに含有する、観点10に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点12]
前記希釈要素は、前記第2センス層部分(212)において、1つ又は複数のナノ層を備える、観点11に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点13]
前記第2センス層部分(212)は、15nmを超える厚さを持つ、観点1から12のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点14]
1μm未満の直径を持つ、観点1から13のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
[観点15]
観点1から14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子(2)を複数備えたセンサ装置であって、複数の前記磁気抵抗効果素子(2)が相互に電気的に接続されている、センサ装置。
【国際調査報告】