(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】AB2型水素吸蔵合金、その製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
C22C 30/00 20060101AFI20240730BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20240730BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240730BHJP
C22C 22/00 20060101ALI20240730BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240730BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240730BHJP
B22F 9/04 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C22C30/00
C22C30/02
C22C19/05 Z
C22C22/00
B22F1/05
C22F1/00 621
C22F1/00 641A
C22F1/00 681
C22F1/00 687
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
B22F9/04 C
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024506764
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022071620
(87)【国際公開番号】W WO2023012135
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521455006
【氏名又は名称】ジーアールゼット・テクノロジーズ・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】タイ・スン
(72)【発明者】
【氏名】ノリス・ギャランダート
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA03
4K017BA10
4K017BB04
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB09
4K017BB12
4K017CA06
4K017CA07
4K017DA09
4K017EA03
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD07
(57)【要約】
本発明は、水素を貯蔵するための金属水素化物、特にAB2ベースの金属水素化物、その製造方法および使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB2型の結晶構造を有し、
AサイトはTiおよびZrを含み、BサイトはCr、Mn、Fe、NiおよびRe元素を含み、
一般式(I)
Ti
xZr
yCr
aMn
bFe
cNi
dCu
eV
fRe
g (I)
で表され、
式中、x、y、a、b、cおよびdはモル比であり、ReはLaおよびCeから選択され;0.2≦x≦0.95;0.05≦y≦0.45;0.001≦a≦1;0.3≦b≦2;0.01≦c≦0.6;0.005≦d≦1.5;0≦e≦0.1;0≦f≦0.5;0.01≦g≦0.05;a+b+c+d+e+f+g=1.9-2.3である、水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記合金が、以下の群:
Ti
0.65Zr
0.35Cr
0.6Mn
1.15Ni
0.1Cu
0.1La
0.05;
Ti
0.2Zr
0.4Cr
0.6Mn
0.3Fe
0.05Ni
0.14La
0.05;
Ti
0.7Zr
0.1Cr
0.9Mn
0.8Fe
0.5Ni
0.05Cu
0.1Ce
0.05;
Ti
0.85Zr
0.15Cr
0.05Mn
1Fe
0.1Ni
0.45V
0.4La
0.05;および
Ti
0.95Zr
0.05Cr
0.2Mn
0.8Fe
0.3Ni
1Ce
0.05
から選択される、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金が、25℃で10bar~150barの水素吸着プラトーと、8bar~140barの脱着プラトーとを有する、請求項1または2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金が、25℃で約1.45重量%~約1.80重量%(典型的には約1.50重量%~1.65重量%)の水素吸蔵容量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
スピニングローラー急冷による急速溶融凝固による、AB2型結晶構造を有する請求項1~5のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金の製造方法であって、
前記方法が、以下のステップ:
- 約30KPa~約70KPaの圧力で制御された不活性雰囲気(例えば、アルゴンまたはヘリウム)下で炉内に全ての金属元素の溶融物を提供するステップ;
- 前記炉内の前記溶融物を、約1.5m/s~約9m/sの速度で回転するスピニングローラー上にキャストし、そこで前記溶融物が急速に凝固し、冷却ユニットに入るときにフレークに砕けるステップ;
- 前記フレークを放置して50℃未満の温度までさらに冷却するステップ;
- 前記炉を空気で充填し、得られた前記フレークを回収するステップ
を含む、方法。
【請求項6】
前記スピニングローラー(例えば、銅ローラー)が、約1m/s~約9m/sの一定速度で回転する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
得られた前記合金が、典型的には約850℃~1,150℃の温度で約0.5時間~約72時間さらなる温度処理を受ける、請求項4または5に記載の方法。
【請求項8】
請求項4~6のいずれか一項に記載の方法により得られる、合金。
【請求項9】
前記合金の粒子サイズが約0.5mm~約3mmである、請求項1~3及び7のいずれか一項に記載の合金の粉末。
【請求項10】
水素を貯蔵するための、請求項1~3および7のいずれか一項に記載の合金の使用。
【請求項11】
請求項1~3および7のいずれか一項に記載の合金またはその粉末を含む、水素貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体水素を貯蔵するための金属水素化物、特にAB2ベースの金属水素化物、その製造方法および応用に関する。
【背景技術】
【0002】
水素貯蔵は、再生可能エネルギーによる化石燃料技術の脱炭素化における重要なステップである。圧縮ガス、水素の液化および固体物質中での吸着を含む、さまざまな貯蔵方法が検討されている。
【0003】
水素化物貯蔵は水素との反応を使用する。水素を貯蔵するこの方法は「化学的水素貯蔵」としても知られており、水素による、パラジウム、マグネシウム、ランタンなどの元素金属、金属間化合物、アルミニウムなどの軽金属、または一部の合金との侵入型化合物の形成に基づく。金属水素化物は、分子水素をその表面上の原子に解離し、金属格子内に貯蔵し、それによって熱を発生させる。逆に、水素化物から水素が放出されると、熱が吸収される。これらの水素化物は大量のガスを吸収することができ、例えばパラジウムはそれ自体の体積の900倍の体積の水素を吸収できる。プロセスは次のように進行する:a)吸収:水素ガス分子(H2)は金属表面に付着し、吸収前に表面で解離し、水素原子(H)に分解する。水素原子はその後金属結晶の内部に侵入し、「金属水素化物」と呼ばれる新しい固体物質を形成する。金属原子は通常、水素原子を収容するために引き伸ばされて引き離される。金属原子の物理的配置(構造)が変化して水素化物を形成することもある;b)脱離:水素原子は金属水素化物の表面に移動し、結合して水素分子H2となり、水素ガスとして流出する。金属原子は収縮して元の金属結晶構造を形成する。
【0004】
気体水素からの水素化物形成の熱力学的側面は、
図1Aに示すような圧力-組成等温線によって説明される。
図1Aは、さまざまな温度でのAB2型金属水素化物(特許文献1)におけるH
2の典型的な脱着等温線を示す。材料内の水素吸収反応は典型的には発熱性である(熱を発生させる)が、水素脱着反応は逆に吸熱性である(熱を吸収する)。金属水素化物システムの低圧と熱力学が、システムの安全性レベルが向上させる:コンテナが故障した場合、水素はゆっくりと放出され、プロセスは吸熱脱離反応によって熱的に制限される。典型的に、良好なH
2貯蔵容量は1.6重量%以上であると考えられる。
【0005】
さまざまな金属合金および金属間化合物が水素と反応して、金属水素化物を形成する。温度と圧力を適切に制御することで、化学反応の方向を調整できる。典型的な金属水素化物は粉末の形態であり、その粒子の直径はわずか100万分の1メートル(マイクロメートル)である。
【0006】
圧縮ガスまたは液化H2貯蔵システムと比較して、金属水素化物貯蔵システムは、したがって、安全で信頼性が高く、コンパクトである。さらに、それらは最小限のメンテナンスを必要とし、寿命が長い。したがって、多くの金属や合金が大量の水素を可逆的に吸収することができ、それにより最大150kgH2/m3の高い体積密度に到達可能であり、最近の多くの開発の主題となっているため、金属水素化物は低圧下での水素の貯蔵のために高い関心を集めている(非特許文献1)。
【0007】
周期表のIIA族からVA族に属する金属は、容易に水素と結合して金属水素化物を形成する。特に、AB2型の合金は、金属AがTiまたはZrであり、金属Bが第3遷移金属である合金である。Ti/ZrベースのAB2型合金は、高容量で効率的な水素貯蔵の有望な候補と考えられている。これらは、室温で適切な水素脱離平衡圧力を有する。AB2材料の低いヒステリシスおよび顕著な熱力学特性により、圧縮媒体として機能し、水素を20MPa、さらには100MPaまで圧縮するのにも適している(非特許文献2)。しかし、現在、AB2合金の大規模応用の前には依然としていくつかの問題があり、特に、大きな内部格子応力および元素の不均一な分布に起因する大きなヒステリシスを伴う、高い吸着/脱着プラトーの傾きに起因する。例えば、特許文献2は、Ti
Q-XZr
XMn
Z-YA
Y合金を特許請求しており、
図1Bからわかるように、異なる温度における合金の脱水素プラトーの傾きは両方とも非常に大きい:基本的に、圧力-組成(PCT)曲線に平坦なプラトーはない。特許文献3には、はるかに平坦なプラトー吸収/脱着圧力を備えた圧縮用途向けのTi
xZr
yMn
zCr
uA
w合金が記載されている。しかしながら、
図1Cに示されるPCT曲線からわかるように、ヒステリシスは依然としてかなり大きい。この合金の容量は室温では低く(<1.4重量%)、その可逆性は満足のいくものではない:約0.25重量%のH
2が脱着プロセス中に合金から放出されることができない。
【0008】
さまざまな型の水素貯蔵材料が実験室スケールで合成され、スクリーニングされ、評価された(例えば、MgベースおよびAB2/AB5型)が、以下の理由により、フルスケールのタンクシステムの開発にはそのうちのほんの数種類が選択された。
【0009】
AB2型の合金は、溶融プロセス中に合金の溶融物とるつぼとの間の反応を回避する必要があり、したがって特殊な水冷銅るつぼまたは非接触溶融プロセスおよびそれに続く熱処理プロセスが必要であるため、製造コストが高くなる。これらの方法では、良好なAB2合金を製造できるが、高価な設備が必要となるため、製造コストが著しく増加し、製造効率が低下する。例えば、特許文献4では、磁気浮上高周波炉を使用して、TiaVbCrcMndMe100-a-b-c-d合金が製造される。この方法は、少量の合金にのみ適用できる。さらに、この方法では通常、合金を均質にするために数サイクルの溶融が必要である。
【0010】
さらに、いくつかの複合合金が静的水素圧縮用に開発されており、
図3Cに示すように、2つの相(AB5およびAB2)を含むように2つの異なる型の合金を混合することによって製造された(引用文献5)。第2相合金(AB5型)は第1相合金(AB2型)を活性化するために使用され、第1合金成分はTi
0.5Zr
0.5(Fe
0.1Cr
0.3Mn
0.1)
2である。
【0011】
最後に、現在存在しているAB2型の合金の大部分は、水素に含まれる不純物によって「汚染」されやすく、サイクル中に重大な容量低下を引き起こす。
【0012】
したがって、水素貯蔵および圧縮の組み合わせの用途に役立つAB2材料の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4228145号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0206424号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第1789455号明細書
【特許文献4】中国特許第100335665号明細書
【特許文献5】中国特許第109609791号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Bellosta von Colbeら、2019、International Journal of Hydrogen Energy、44、7780-7808
【非特許文献2】Johnsonら、2019、Annual Progress Report for the US Department of Energy Hydrogen and Fuel Cells Program
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、水素貯蔵および圧縮の組み合わせの用途のための水素貯蔵に適したAB2型の合金を提供することである。
【0016】
改善された水素貯蔵可逆性/脱着効率(例えば99%を超える水素が放出される)を有するAB2型の合金を提供することは有利である。
【0017】
高い圧縮圧力出力(約100℃で>700bat)を備えたAB2型の合金を提供することは有利である。
【0018】
比較的小さなヒステリシス(<5bar)で長いサイクル寿命を示すAB2型の合金を提供することは有利である。
【0019】
良好な全体容量(例えば、室温で>1.6%)を維持するAB2型の合金を提供することは有利である。
【0020】
製造中のコンタミネーションに耐性があり、室温で中程度の水素圧力(通常<5MPa)で容易に活性化できるAB2型の合金を提供することは有利である。
【0021】
汚染物質汚染に耐性があり、使用後に容易に再生されることができ、それによって合金の寿命を延ばし、適用コストを削減するAB2型の合金を提供することは有利である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、請求項1に記載のAB2金属水素化物合金、その粉末、及び請求項9に記載のその使用を提供することによって達成された。
【0023】
本発明の目的は、請求項14に記載のAB2金属水素化物合金の製造方法を提供することによって達成された。
【0024】
本発明の目的は、請求項10に記載の水素貯蔵システムを提供することによって達成された。
【0025】
本明細書において、AB2型の結晶構造を有し、そのAサイトはTiおよびZrを含み、そのBサイトはCr、Mn、Fe、NiおよびRe元素を含み、一般式(I)
TixZryCraMnbFecNidCueVfReg (I)
で表される水素吸蔵合金が開示され、
ここで、x、y、a、b、cおよびdはモル比であり、ReはLaおよびCeから選択され;0.2≦x≦0.95;0.05≦y≦0.45;0.001≦a≦1;0.3≦b≦2;0.01≦c≦0.6;0.005≦d≦1.5;0≦e≦0.1;0≦f≦0.5;0.01≦g≦0.05;a+b+c+d+e+f+g=1.9-2.3である。
【0026】
さらに、本明細書において、スピニングローラー急冷による急速溶融凝固によるAB2型結晶構造を有する水素吸蔵合金の製造方法が開示され、前記方法は、以下のステップを含む:
- 約30KPa~約70KPaの圧力で制御された不活性雰囲気(例えば、アルゴンまたはヘリウム)下で炉内に全ての金属元素の溶融物を提供するステップ;
- 前記炉内の溶融物を、約1m/s~約9m/sの速度で回転するスピニングローラー上にキャストし、そこで溶融物が急速に凝固し、冷却ユニット(例えば、水冷コレクター)に入るときにフレークに砕けるステップ;
- フレークを放置してさらに50℃未満の温度まで冷却するステップ;
- 炉を空気で充填し、得られたフレークを回収するステップ。
【0027】
さらに、本明細書において、本発明によるAB2型の合金を含む水素貯蔵システムが開示される。
【0028】
本発明のさらなる目的および有利な態様は、特許請求の範囲、以下の詳細な説明および添付の図面から明らかになるであろう。
【0029】
次に、本発明を、一例として本発明の実施形態を示す添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線を表す図である。A:水素貯蔵に有用な典型的なAB2金属水素化物の概略図表示(特許文献1)。
【
図1B】金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線を表す図である。B:特許文献2に記載されている材料のpcT曲線。
【
図1C】金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線を表す図である。C:特許文献3に記載されている材料のpcT曲線。
【
図2A】実施例2に記載した本発明による金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線を表す図である。A:比較的低圧での安全な大規模水素貯蔵に適したAB2型合金。
【
図2B】実施例2に記載した本発明による金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線を表す図である。B:さまざまな温度での高圧水素圧縮に適したAB2型の合金。
【
図2C】実施例2に記載した本発明による金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線を表す図である。C:さまざまな温度での高圧水素圧縮に適したAB2型の合金。
【
図3A】実施例3に記載した、特許文献5に記載の2相合金(A)と比較した本発明による金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線(B)を表す図である。
【
図3B】実施例3に記載した、特許文献5に記載の2相合金(A)と比較した本発明による金属水素化物の圧力-組成-温度(PCT)等温線(B)を表す図である。
【
図3C】実施例3の合金(1)およびLaNi5(AB5構造)と比較した、特許文献5に記載されている「第1合金」(C1)のX線回折スペクトルである。
【
図4】スピニングローラー急冷による急速溶融凝固による本発明の合金の製造方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明において、水素吸蔵合金は、25℃で、10bar~150barの水素吸収プラトーおよび8bar~145barの脱着プラトーを有する。
【0032】
本発明において、水素吸蔵合金は、20℃で、約1.45重量%~約1.80重量%(典型的には約1.50重量%~1.65重量%)の水素吸蔵容量を有する。
【0033】
特定の実施形態によれば、単相微細構造を有するAB2型合金が提供される。
【0034】
特定の実施形態によれば、請求項1に記載の水素吸蔵合金が提供され、前記合金は以下の群から選択される:
Ti0.65Zr0.35Cr0.6Mn1.15Ni0.1Cu0.1La0.05(5);
Ti0.2Zr0.4Cr0.6Mn0.3Fe0.05Ni0.14La0.05(1);
Ti0.7Zr0.1Cr0.9Mn0.8Fe0.5Ni0.05Cu0.1Ce0.05(2);
Ti0.85Zr0.15Cr0.05Mn1Fe0.1Ni0.45V0.4La0.05(3);および
Ti0.95Zr0.05Cr0.2Mn0.8Fe0.3Ni1Ce0.05(4)。
【0035】
本発明による水素吸蔵合金は、中国特許出願公開第1602366号明細書に記載されているようなAB2合金に使用される典型的な方法によって製造することができる。
【0036】
通常、最大300kgのバッチの場合、必要な各金属元素の原料をアーク溶解炉内の水冷銅るつぼに入れ、炉を真空下に置き(例えば、5*10-3Pa(PABS))、次に約30KPa~約70KPa(例えば、50kPa(PABS))の圧力下で、制御された雰囲気(例えば、Ar、>99.99%)で充填する。原料を溶融させ、溶融温度で約5~10分間保持し、その後、溶融した混合物を凝固させ、凝固した合金(インゴット)を上下逆にして再度溶融させ、得られる合金の均一な組成を達成するために操作を数回(例えば、3回~6回、例えば5回)繰り返す。最後のサイクルが終了し、凝固した合金の温度が50℃を下回ったら、炉を空気と連通させ、インゴット合金を回収する。
【0037】
3kg~約1,000kgのバッチについては、本明細書に記載したようなスピニングローラー急冷による急速溶融凝固によるAB2型結晶構造を有する水素吸蔵合金の製造方法が有利に使用される。特に、アーク溶解プロセスと比較して、この方法で製造された合金は、より均質な組成、安定した結晶構造、より少ないAB5構造以外の相およびより低い結晶歪みを有する(したがって、より小さいヒステリシスおよびより平坦なプラトー圧力を有する)。前記合金は、長いサイクル寿命を維持しながら、使用前に熱処理プロセスを受ける必要がある。この方法は大きなスケールの製造にも適しており、製造コストを大幅に削減する。
【0038】
特定の実施形態によれば、金属元素は、最初にパージされ、真空下に置かれ(例えば、5*10-3Pa(PABS))、その後、約30KPa~約70KPa(例えば、50kPa(PABS))の圧力で制御された不活性雰囲気(例えば、アルゴンまたはヘリウム>99.99%)で充填された炉内で溶融される。
【0039】
さらに特定の実施形態によれば、金属元素は、炉内に配置されたAl2O3ベースのるつぼ内で溶融される。
【0040】
さらに特定の実施形態によれば、金属元素は、約1850℃~2150℃の温度で炉内に置かれたるつぼ内で溶融される。
【0041】
さらに特定の実施形態によれば、すべての金属が溶融した後、温度を約1750℃~1850℃の温度まで下げ、約5分から10分間保持する。
【0042】
図4を参照すると、金属混合物は、前記制御された雰囲気の炉内に置かれたるつぼ1(例えば、誘導コイル2によって加熱される)内で溶融され、その後、一定の速度で回転するスピニングローラー3(例えば、銅ローラー)上にキャストされ、そこで溶融物が急速に凝固し、冷却ユニット(例えば、水冷コレクターなど)に入るとフレーク4に砕ける。
【0043】
さらに特定の実施形態によれば、溶融混合物は、約1m/s~約9m/sの一定速度で回転するスピニングローラー(例えば、銅ローラー)上にキャストされ、そこで溶融物は急速に凝固し、フレークに砕ける。フレークの厚さはローラーの速度に依存し、速度が低いほどフレークは厚くなる。特定の態様によれば、フレークの厚さは、典型的には0.1mm~0.6mmの範囲である。
【0044】
さらに特定の実施形態によれば、フレークは水冷チャンバー内の温度で炉内に放置されて冷却される。
【0045】
本発明の合金は、得られたフレークから直接使用されることができ、または、必要に応じて合金の溶融温度未満の熱処理を受けることができる。熱処理は、ヒステリシスをさらに低減し、サイクル性能を向上させるために適用される。典型的に、熱処理は、真空下(例えば、9×10-2Pa(PABS))の炉内で行われ、温度は約200℃まで上げられ、この温度に約20分間保持される。炉の温度をさらに上げる前に、約30KPaから約70KPaの圧力で(例えば、50KPa(PABS)の圧力まで)、炉を不活性雰囲気(例えば、純粋なアルゴン(>99.99%))で充填する。次いで、炉の温度を約850℃~1,150℃の温度まで上昇させ、約0.5時間から約72時間保持する。次いで、温度処理された合金は、約5K/分~約20K/分の速度で冷却される。合金の温度が60℃を下回ったら、炉を空気と連通させ、合金を回収する。
【0046】
さらなる実施形態によれば、スピニングローラー急冷による急速溶融凝固によるAB2型結晶構造を有する水素吸蔵合金の製造方法が提供され、前記方法は熱処理ステップをさらに含む。
【0047】
本発明による合金は(熱処理されているか、またはされていない)粉末の形態で使用されることができる。特に、得られた合金は、次いで、不活性ガス(例えばN2またはAr、Arが好ましい)下で機械的またはジェットミリングによって粉末に粉砕される。典型的に、合金の粒子サイズは、それが使用される水素貯蔵システムに応じて、約0.5mm~約3mmある。
【0048】
合金粉末は、その後、真空または不活性ガス(例えばN2またはAr、Arが好ましい)下で、粉末として保管することができる。
【0049】
前述の非特許文献1に記載されているように、合金粉末はその後水素貯蔵システムで使用されることができる。
【0050】
本発明を例示する実施例を、図面において表された実施形態を参照して、より詳細に以下に説明する。
【0051】
例
例1:本発明による合金の製造
本発明の合金は以下のように製造された。
【0052】
必要な量の金属を式(I)に従って総重量450kgで計量し、工業用誘導溶解炉内のAl2O3ベースのるつぼに入れる。真空が5*10-3Pa(PABS)に達するまで炉を排気し、その後50KPa(PABS)の圧力までヘリウム(>99.99%)で充填する。金属は1850℃まで加熱され、その後溶融される。全ての金属が溶融した後、温度を1,550℃まで下げ、10分間保持した。溶融物はスピニング銅ローラー上にキャストされ、その速度は3m/sに設定され、フレークの厚さは約0.3mmである。凝固したフレークは水冷チャンバーに送られ、さらに冷却される。炉に空気を再充填し、フレークの温度が50℃を下回ったときにフレークを取り出した。この合金はさらに処理することなく使用できる。
【0053】
本発明の合金の様々な例を、それらの水素吸蔵性能と共に以下の表1に示す。
【0054】
【0055】
例2:本発明の合金の水素吸蔵能力
例1で製造した合金のH2吸蔵性能を以下のように試験した。
【0056】
3gの合金インゴット/フレークを粉末(サイズ<100メッシュ)に砕き、ステンレス製の円筒形サンプルチャンバーにロードした。この合金に5MPaの一定の水素圧で2時間チャージした。その後、サンプルを30分間真空排気した。合金を完全に活性化するため、チャージ-排気のステップを少なくとも3回繰り返した。
【0057】
全自動かつコンピュータ制御の容積測定装置(Sievert装置またはPCT装置として知られる)を使用して、25℃の水浴中で合金に吸収された水素の量を測定する。
【0058】
図2からわかるように、本発明の合金は、従来のAB2合金よりもはるかに高く広い脱着プラトーを有する。
図2Aに示すように、大規模な水素貯蔵に使用されるAB2合金は、室温で適切なプラトー圧力を示す。チャージおよび放出の両方のヒステリシスおよびプラトーの傾きは、どちらも従来のAB2合金よりもはるかに小さい。さまざまな温度(BおよびC)での圧縮のPCT曲線は、温度の上昇に伴って圧力が急速に増加し、高圧出力時にヒステリシスが小さいままであることを示す。
【0059】
例3:本発明の単相合金の活性化能力
本発明の合金Ti
0.65Zr
0.35Cr
0.6Mn
1.15Ni
0.1Cu
0.1La
0.05(5)の、中程度の水素圧で容易に活性化される能力は、以下のように評価され、例2で説明した2つの合金のpcT曲線および活性化時間(H
2の吸収を開始するのに必要な時間)を比較することによってx=0.1(Ti
0.5Zr
0.5Fe
0.2Cr
0.6Mn
0.2La
0.1Ni
0.1Mn
0.05)の場合の特許文献5の実施例1の2相合金と比較された。特許文献5の合金の2相の性質は、上記の本発明の合金(5)およびLaNi
5(AB5構造)と比較して、
図3Cの室温および大気におけるX線回折によって示される。
【0060】
図3から分かるように、本発明の合金は、室温での2相合金よりもはるかに小さい、チャージおよびディスチャージの両方の、ヒステリシスおよびプラトーの傾きの両方を示す。
【0061】
さらに、以下の表2に見られるように、本発明の合金の活性化時間は、合金を35barのH2の圧力下に曝露した後ほぼ即時であるのに対し、比較合金の場合、80bar H2を超える圧力で、吸収を開始するのに80秒かかる。
【0062】
【0063】
したがって、これらのデータは、本発明の合金が、AB2合金の活性化を助ける第2相(AB5合金)の存在に依存する比較合金よりも、より低いH2圧力でもH2貯蔵に関してより効率的であることを裏付ける。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB2型の結晶構造を有し、
AサイトはTiおよびZrを含み、BサイトはCr、Mn、Fe、NiおよびRe元素を含み、
一般式(I)
Ti
xZr
yCr
aMn
bFe
cNi
dCu
eV
fRe
g (I)
で表され、
式中、x、y、a、b、cおよびdはモル比であり、ReはLaおよびCeから選択され;0.2≦x≦0.95;0.05≦y≦0.45;0.001≦a≦1;0.3≦b≦2;0.01≦c≦0.6;0.005≦d≦1.5;0≦e≦0.1;0≦f≦0.5;0.01≦g≦0.05;a+b+c+d+e+f+g=1.9-2.3である、水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記合金が、以下の群:
Ti
0.65Zr
0.35Cr
0.6Mn
1.15Ni
0.1Cu
0.1La
0.05;
Ti
0.2Zr
0.4Cr
0.6Mn
0.3Fe
0.05Ni
0.14La
0.05;
Ti
0.7Zr
0.1Cr
0.9Mn
0.8Fe
0.5Ni
0.05Cu
0.1Ce
0.05;
Ti
0.85Zr
0.15Cr
0.05Mn
1Fe
0.1Ni
0.45V
0.4La
0.05;および
Ti
0.95Zr
0.05Cr
0.2Mn
0.8Fe
0.3Ni
1Ce
0.05
から選択される、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金が、25℃で10bar~150barの水素吸着プラトーと、8bar~140barの脱着プラトーとを有する、請求項1または2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金が、25℃で約1.45重量%~約1.80重量%(典型的には約1.50重量%~1.65重量%)の水素吸蔵容量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
スピニングローラー急冷による急速溶融凝固による、AB2型結晶構造を有する請求項1~
4のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金の製造方法であって、
前記方法が、以下のステップ:
- 約30KPa~約70KPaの圧力で制御された不活性雰囲気(例えば、アルゴンまたはヘリウム)下で炉内に全ての金属元素の溶融物を
請求項1または2に記載の比率で提供するステップ;
- 前記炉内の前記溶融物を、約1.5m/s~約9m/sの速度で回転するスピニングローラー上にキャストし、そこで前記溶融物が急速に凝固し、冷却ユニットに入るときにフレークに砕けるステップ;
- 前記フレークを放置して50℃未満の温度までさらに冷却するステップ;
- 前記炉を空気で充填し、得られた前記フレークを回収するステップ
を含む、方法。
【請求項6】
前記スピニングローラー(例えば、銅ローラー)が、約1m/s~約9m/sの一定速度で回転する、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
得られた前記合金が、典型的には約850℃~1,150℃の温度で約0.5時間~約72時間さらなる温度処理を受ける、請求項
5または
6に記載の方法。
【請求項8】
請求項
5~
7のいずれか一項に記載の方法により得られる、合金。
【請求項9】
前記合金の粒子サイズが約0.5mm~約3mmである、請求項1~3及び
8のいずれか一項に記載の合金の粉末。
【請求項10】
水素を貯蔵するための、請求項1~3および
8のいずれか一項に記載の合金の使用。
【請求項11】
請求項1~3および
8のいずれか一項に記載の合金またはその粉末を含む、水素貯蔵システム。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB2型の結晶構造を有し、
AサイトはTiおよびZrを含み、BサイトはCr、Mn、Fe、NiおよびRe元素を含み、
一般式(I)
Ti
xZr
yCr
aMn
bFe
cNi
dCu
eV
fRe
g (I)
で表され、
式中、x、y、a、b、cおよびdはモル比であり、ReはLaおよびCeから選択され;0.2≦x≦0.95;0.05≦y≦0.45;0.001≦a≦1;0.3≦b≦2;0.01≦c≦0.6;0.005≦d≦1.5;0≦e≦0.1;0≦f≦0.5;0.01≦g≦0.05;a+b+c+d+e+f+g=1.9-2.3である、水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記合金が、以下の群:
Ti
0.65Zr
0.35Cr
0.6Mn
1.15Ni
0.1Cu
0.1La
0.05;
Ti
0.2Zr
0.4Cr
0.6Mn
0.3Fe
0.05Ni
0.14La
0.05;
Ti
0.7Zr
0.1Cr
0.9Mn
0.8Fe
0.5Ni
0.05Cu
0.1Ce
0.05;
Ti
0.85Zr
0.15Cr
0.05Mn
1Fe
0.1Ni
0.45V
0.4La
0.05;および
Ti
0.95Zr
0.05Cr
0.2Mn
0.8Fe
0.3Ni
1Ce
0.05
から選択される、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金が、25℃で10bar~150barの水素吸着プラトーと、8bar~140barの脱着プラトーとを有する、請求項
1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金が、25℃
で1.45重量%
~1.80重量
%の水素吸蔵容量を有する、請求項
1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
スピニングローラー急冷による急速溶融凝固による、AB2型結晶構造を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金の製造方法であって、
前記方法が、以下のステップ:
-
30KPa
~70KPaの圧力で制御された不活性雰囲気(例えば、アルゴンまたはヘリウム)下で炉内に全ての金属元素の溶融物を請求項1または2に記載の比率で提供するステップ;
- 前記炉内の前記溶融物を
、1m/s
~9m/sの速度で回転するスピニングローラー上にキャストし、そこで前記溶融物が急速に凝固し、冷却ユニットに入るときにフレークに砕けるステップ;
- 前記フレークを放置して50℃未満の温度までさらに冷却するステップ;
- 前記炉を空気で充填し、得られた前記フレークを回収するステップ
を含む、方法。
【請求項6】
前記スピニングローラ
ーが、1m/s
~9m/sの一定速度で回転する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
得られた前記合金が
、850℃~1,150℃の温度
で0.5時間
~72時間さらなる温度処理を受ける、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記合金の粒子サイズ
が0.5mm
~3mmである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の合金の粉末。
【請求項9】
水素を貯蔵するための、請求項1~
3のいずれか一項に記載の合金の使用。
【請求項10】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の合金またはその粉末を含む、水素貯蔵システム。
【国際調査報告】