(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】骨の成長の促進における使用のための多孔質親水性複合材料
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20240730BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20240730BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240730BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240730BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240730BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/14
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/24
A61L27/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530057
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2022071400
(87)【国際公開番号】W WO2023006969
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524043167
【氏名又は名称】プロミミック アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キェーリン, ペル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィキングソン, ライン
(72)【発明者】
【氏名】ファタリ, ホダ
(72)【発明者】
【氏名】シモナーソン, グンナー
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッドソン, オスカー
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AB04
4C081AB05
4C081AB06
4C081BA13
4C081BB08
4C081CA051
4C081CA161
4C081CD081
4C081CD091
4C081CD121
4C081CE11
4C081CF012
4C081CF022
4C081CF032
4C081DB03
4C081EA02
(57)【要約】
骨の成長における使用のための多孔質親水性複合材料が、その調製方法と共に開示される。本複合材料は、多孔質生分解性ポリマーマトリックス、およびポリマーマトリックス全体に均一に分散されたナノサイズリン酸カルシウム(CaP)を含む。CaPは、約180~約380m2/gの範囲の比表面積を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨の成長を促進するための多孔質親水性複合材料であって、前記複合材料は、
(a)多孔質生分解性ポリマーマトリックス、および
(b)約180~約380m
2/gの範囲の比表面積を有する、前記ポリマーマトリックス全体に均一に分散されたナノサイズリン酸カルシウム(CaP)
を含む
多孔質親水性複合材料。
(ただし、前記複合材料は、乳酸およびグリコール酸のコポリマーをまったく含有しないことを条件とする。)
【請求項2】
前記ナノサイズCaPが、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、ベータ-TCP、カルシウム欠損HA(CDHA)またはヒドロキシアパタイト(HA)である、請求項1に記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項3】
前記CaPがナノ結晶である、請求項1に記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項4】
前記CaPがアモルファスである、請求項1または請求項2に記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項5】
前記CaPが、約200~約350m
2/gの範囲の比表面積を有する、前記請求項のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項6】
前記ポリマーマトリックスが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGL)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、可溶性コラーゲン、ヒアルロン酸、グリセリンまたはキトサンを含む、またはのみからなる、前記請求項のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項7】
前記ポリマーマトリックスが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)を含む、またはのみからなる、前記請求項のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項8】
ポリマーマトリックスに対するCaPの比が、重量基準で約1:4~約3:1である、前記請求項のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項9】
約5~約50m
2/gの範囲の比表面積を有する、前記請求項のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項10】
生体適合性有機ポリオールを含む前記複合材料の総量に対して、約0.5~50重量%の前記生体適合性有機ポリオールをさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項11】
前記有機ポリオールが、その内部表面および/または外部表面の少なくとも一部に吸着され、および/またはその内部表面および/または外部表面の少なくとも一部にコーティングを形成する、請求項10に記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項12】
前記有機ポリオールが、グリセロール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、または約200~約2,000の範囲の分子量を有するポリエチレングリコールである、請求項10または請求項11に記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項13】
前記有機ポリオールがグリセロールである、請求項10~12のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料。
【請求項14】
基材および前記請求項のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料を含む、骨の再構築における使用のための足場。
【請求項15】
前記基材が、整形外科用インプラントおよび歯科用インプラントから選択される、請求項14に記載の足場。
【請求項16】
前記基材が、ネジ、脊椎固定ケージ、ワイヤ、メッシュ、くぎ、ピン、ロッド、プレート、股関節ステム、ストーマバッグのポート部、骨固定型補聴器および歯科用インプラントアバットメントから選択される、請求項15に記載の足場。
【請求項17】
前記基材が、金属、セラミック、グラファイト材料またはポリマーから作製される、請求項14~16のいずれかに記載の足場。
【請求項18】
前記基材が、チタンおよびその合金、ステンレス鋼、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、熱分解炭素またはPEEK、好ましくはチタンまたはPEEKから作製される、請求項14~17のいずれかに記載の足場。
【請求項19】
骨の成長を促進するための多孔質親水性複合材料を調製する方法であって、前記方法は、
(a)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体に前記CaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b)工程(a)の前記混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c)第3の溶媒で洗浄して工程(b)の前記ゲルから前記第1および第2の溶媒を除去し、多孔質ポリマーマトリックス中に均一に分散した前記ナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料を残す工程
を含む、調製方法。
【請求項20】
前記第3の溶媒が、IPAまたは水、好ましくは水である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
骨の成長を促進するための親水性複合材料を調製する方法であって、前記方法は、
(a1)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体に前記CaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b1)基材に工程(a)の前記混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c1)溶媒蒸発により工程(b)の前記ゲルから前記第1および第2の溶媒を除去し、表面のポリマーマトリックス全体に分散した前記ナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料層を残す工程
を含む、調製方法。
【請求項22】
前記第1および第2の溶媒が同一である、請求項19~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記第1および第2の溶媒が、THF、ジオキサンおよびアセトンから独立して選択され、好ましくは、前記第1および第2の溶媒がどちらもアセトンである、請求項19~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記ナノサイズCaPが、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、ベータ-TCP、カルシウム欠損HA(CDHA)またはヒドロキシアパタイト(HA)である、請求項19~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記ポリマーマトリックスが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGL)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、コラーゲン、ヒアルロン酸、キチンまたはキトサンを含む、またはのみからなり、好ましくは、前記ポリマーマトリックスが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)を含む、またはのみからなる、請求項19~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
(d)生体適合性有機ポリオールを含む溶液に、前記多孔質親水性複合材料を浸漬する工程、
(e)前記溶液から前記多孔質親水性複合材料を取り出す工程、および
(f)前記多孔質親水性複合材料を乾燥する工程
をさらに含む、請求項19~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記有機ポリオールが、グリセロール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、または約200~約2,000の範囲の分子量を有するポリエチレングリコールである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記有機ポリオールがグリセロールである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記CaPが、約180~約380m
2/gの範囲の比表面積を有する、請求項19~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記CaPが、約200~約350m
2/gの範囲の比表面積を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ナノサイズCaPを調製する方法であって、前記方法は、好適な非水性溶媒中の非リン酸カルシウム塩の分散液をリン酸水溶液と混合して、アモルファスナノサイズCaPを形成する工程、および必要に応じて、前記アモルファスCaPを水に接触させて、前記アモルファスCaPをCaPの異なる形態に変換する工程を含む、調製方法。
【請求項32】
請求項19~31のいずれかに記載の方法により得ることができる、製造物。
【請求項33】
請求項1~13または請求項32のいずれかに記載の多孔質親水性複合材料の粒子の分散液ならびに薬学的に許容される溶媒を含む、注射可能配合物。
【請求項34】
前記薬学的に許容される溶媒が、グリセロール、注射用水、プロピレングリコールおよびPEG-12から選択される、請求項33に記載の注射可能配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、骨細胞の成長のための足場として働くことができる多孔質親水性複合材料、およびこれを調製する方法に関する。本複合材料は、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)および生分解性ポリマーを含む。本複合材料は、インプラント表面などの表面に施用することができる。インプラント表面の複合材料層の厚さは制御することができる。
【背景技術】
【0002】
医療分野では、新しい骨を構築するために人体を手助けする必要がある状況が多数存在する。骨折の端部同士が互いに十分に接近した位置にある場合には、小さな骨折は、通常誘導なしに修復される。骨組織は、数ミリメートルの空隙を橋渡しすることができるが、5~10mmを超える骨喪失は、修復のための処置を必要とする、いわゆる致命的な大きさの欠陥となる。複雑骨折は、正常な修復が不十分な程まで骨組織を損傷することがある。骨組織の大部分を破壊する腫瘍によって、身体自体が傷害を修復することが不可能となり得る。別の例は、いわゆるサイナスリフトであり、この場合、自然の骨は薄すぎるので、歯科用インプラントを支持することができず、骨組織は強化されなければならない。
【0003】
骨足場の挿入は、人体が新しい骨を生成する一助となる一般的手順である。骨足場材料は、人体にインプラントされると骨の形成を誘発する構造および組成を有し、骨細胞のための育成基材として作用する。
【0004】
骨足場は、生物学的起源とすることができ、例えば、手術前に患者自体の骨(自家移植)から、または他のドナー(同種移植片)から取得され得る。骨足場はまた、ウシの骨(異種移植片)などの動物から製造されてもよい。自家移植および同種移植片は、骨組織の成長に優れた作用を及ぼすが、骨の除去のための手術を必要とし、グラフトの取り扱いおよび保管が複雑である。異種移植片は、取得のために患者の手術をなんら必要としないという利点を有するが、感染リスクのため、厳格な洗浄および殺菌手順を必要とする。
【0005】
合成骨足場もまた、提案されてきた。生物起源の骨グラフトと比較した合成足場の主要な利点は、合成足場は、多量にかつ仕様を制御して作製することができる点である。合成骨足場は、ヒドロキシアパタイト(HA)またはリン酸三カルシウムなどの粉末の形態にすることができる。粉末をベースとする生成物は、骨組織の回復には有用だが、耐荷重性用途にとってはそれほど好適ではない。骨足場の別のタイプは剛直なタイプであり、これは、通常多孔質HA、または高温で焼結されたリン酸三カルシウムからなる。剛性骨足場生成物の主要な利点は、インプラント時の形態安定性および多孔性であり、これによって、新しい骨細胞が成長に利用可能な表面積を増大させる。欠点の1つは、構造体の脆さである。剛性な骨足場は、通常ポリマーなどの可撓性物質を含有せず、これは、材料にかかる力を散逸させて、亀裂の形成を防止することができる。
【0006】
剛性の無機足場の脆弱な性質を低下させる方法の1つは、構造体内にポリマーを取り込ませることである。ポリマー/無機複合材料は、生分解できるポリマーと、HAなどの骨再生特性を有する無機物から構成される。ポリマーは、複合材料を弾性にして、耐亀裂性にする一方、無機物は、内在性骨の形成を誘導する。
【0007】
骨足場の多孔性に加え、リン酸カルシウムの結晶サイズもまた、内在性骨の成長を刺激するために重要である。化学式Ca5(PO4)3OHを有するHAは、自然の骨に見出される無機のリン酸カルシウムに非常に似た無機物である。ある特定の生体材料用途の場合、人骨にあるような大きさおよび形状に似た、すなわち長さ1~100nmの粒子サイズを有する、ナノサイズHAを使用することが非常に望ましい。自然の骨は、コラーゲンネットワークによって取り囲まれた、長さ20~40nm、厚さ2nm、幅2~4nmのロッド形状のリン酸カルシウム結晶からなる(H.A.LowenstamおよびS.Weiner,On biomineralization,Oxford University Press、New York、1989年)。
【0008】
HAの生物活性は、HA結晶が人体で生成する結晶と大きさおよび形状が類似する場合に改善されると一般に考えられている。身体がナノサイズHAを身体自体の骨組織の一部と認識し、異物の周囲に新しい骨を成長させ始めるため、ナノ結晶性HAは骨の再構築を促すことができる。インプラントの場合、ナノサイズHAによりコーティングすると、マイクロサイズHAに比べて、骨細胞の活動を顕著に増大させる。ポリマー/HA複合材料では、生物活性および強度がナノサイズHAにより大きく改善される(J.Wei,Y.LiおよびK.Lau,Composites part B:engineering 2007年、38巻、301~305頁;H.RamayおよびM.Zhang,Biomaterials,2003年、24巻、3293~3302頁)。
【0009】
文献中では、ポリカプロラクトンおよびヒドロキシアパタイトなどのポリマーおよびセラミック材料から作製された、いくつかの生物活性および生分解性の多孔質足場の製造が記載されている。例えば、HAの割合が異なる、多孔質PCLおよびHAの複合材料が、選択的レーザー焼結によって製造され得る。その研究者らは、HAの量が増加するに伴って、圧縮剛性が増大し、多孔性が低下することを見出した(K.Rezwanら、Biomaterials 2006年、27巻(18号):3413~31頁)。別の例は、精密押出成形による多孔質PCL/HA複合材料の製造であり、これによって、異なる多孔度および細孔サイズを有する足場が製造される。骨芽細胞が育成され、これらの足場のために移動および増殖することが示された(L.Shorら、Biomaterials 28巻、35号、2007年12月、5291~5297頁)。
【0010】
米国特許出願公開第2010/226956号明細書は、ポリカプロラクトン、ヒドロキシアパタイトおよび様々な生体吸収性可塑剤から作製された成形可能な複合材料を記載している。複合材料の成形能は、使用される可塑剤の量および種類によって制御される。複合材料が身体にインプラントされると、可塑剤は吸収されて、多孔質構造体が残る。複合材料は、溶融混合によって作製される。しかし、親水性HAは溶融混合中に疎水性ポリマーに完全に分散することができず、大部分が純粋なポリマーを含む複合材料となり、複合材料全体が疎水性になってしまう(すなわち、水接触角度>90°)ことが判明している。
【0011】
中国特許出願公開第102008752号明細書は、化学沈殿を使用する、多孔質二相系リン酸カルシウム生物足場表面に、ナノ-ヒドロキシアパタイトコーティングを形成する方法を開示している。結果は、ナノ-ヒドロキシアパタイトコーティングを備える、多孔質二相系リン酸カルシウム生物足場となる。しかし、HA結晶は、ポリマーマトリックスには分散しない。
【0012】
欧州特許出願公開第3785743号明細書は、リン酸カルシウム含有物を含む、多孔質ポリマー足場を生成する様々な方法を提示しているが、足場に使用されているリン酸カルシウムはナノサイズではない。
【0013】
中国特許出願公開第107823715号明細書は、足場がポリカプロラクトンおよびヒドロキシアパタイトからなることを特徴とする、PCL/HA複合多孔質骨組織工学用足場を開示している。ヒドロキシアパタイトの含有率は、質量百分率基準で0.5~50%であり、残りはポリカプロラクトンである。多孔度は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸カリウムなどの細孔形成剤の使用によって制御され、これらの化合物は、次に、細孔形成性化合物を溶解する塩酸、硫酸または硝酸などの強酸の使用によって除去される。溶解している間の二酸化炭素の形成が、細孔を生成し、相互連結性多孔質構造体を生成する一助となる。しかし、細孔形成剤を溶解するために使用される酸は、ポリマーマトリックスによって完全には埋め込まれておらず、保護されていない、いかなるHAも溶解する。結果は、ポリマー表面にHAがほとんどまたは全く存在しないポリマー/HA複合材料となり、これによって、親水性、および骨細胞の成長に対する生物活性が低下する。さらに、PCLは、酸性pHにおいて分解を始めるので、この方法は、PCLマトリックスの早期分解のリスクを増大させる。
【0014】
米国特許第6165486号明細書は、HA、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリ(乳)酸とポリ(グリコール)酸とのコポリマー(PLGA)を含む組成物、ならびに混合物およびバイオセラミックのインプラントへの成形を開示している。多孔性は、細孔形成剤としてNaClを添加することによって生成され、細孔形成剤は水で除去される。しかし、複合材料中に存在する残留NaCl結晶を有するというリスクが常に存在し、このことは、インビボでの性能に負の影響を及ぼす。リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)中、37℃で保管した様々な複合材料に関する重量減少曲線が、米国特許第6165486号明細書の
図1および2に示されている。PCLおよびPLGAは、酵素がなんら存在しない、pH7.4の滅菌PBS緩衝液中で非常にゆっくりと分解することが予想されるので、観測された重量減少は、多孔性を生成するために添加されたNaCl結晶が溶解して重量が減少したことに起因する可能性があり、構造体からの浸出には8週間を超えてかかる。
【0015】
スペイン国特許出願公開第2330823号明細書は、ヒドロキシアパタイトの堆積を伴う熱誘導性相分離によって形成された高分子性足場を開示している。この足場は、ポリマーネットワーク内の細孔の内部表面にHAの薄層コーティングを備えるポリマーネットワークからなる。
【0016】
中国特許第100546661号明細書は、インシチュでの細孔形成性の自己硬化性リン酸カルシウム複合材料足場を調製する方法を開示している。続いて、この多孔質リン酸カルシウム足場に、ポリマーが充填され、これをその後架橋させてもよい。得られた生成物は、多孔度が低く、連続気泡のない密な構造体である。
【0017】
骨足場は、多くの場合、脊椎固定ケージなどの耐荷重性の非分解性構造体と一緒に使用される。この手法は、より大きな体積の骨をインプラントの周囲に構築する必要がある場合に、特に有効である。脊椎固定術の場合、脊椎固定ケージの内部は、骨足場材料により包まれて、脊椎ケージの高い機械強度と骨足場の骨刺激特性とを併せ持つことができる。しかし、このようなタイプのインプラントは取り扱いにくく、部位表面に骨足場を含むインプラントを調製する必要がある。したがって、インプラント向けにテーラーメード可能な足場を有することは大きな利益になると思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の第一の目的は、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、ベータ-TCP、カルシウム欠損HA(CDHA)またはヒドロキシアパタイト(HA)などのナノサイズリン酸カルシウム、および生分解性ポリマーを含み、骨細胞成長のための足場として働く、多孔質親水性複合材料を提供することである。本発明の別の目的は、インプラント表面などの表面に複合材料の層を製造し、インプラントに骨伝導性コーティングを形成する方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、インプラントの隙間内、またはインプラントの表面、または多孔質金属格子構造体の細孔内に、インシチュで多孔質複合材料を製造する方法であって、複合材料の幾何形状を制御することが可能な方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、層ごとの堆積によって幾何形状を制御して、高度に秩序だった構造体を生成することを可能にすることである。
【0019】
本発明の別の目的および利点は、読者には自明であり、これらの目的および利点は、本発明の範囲内にあることが意図される。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一態様では、骨細胞の成長のための足場として働くことができる、多孔質親水性複合材料が提供される。本多孔質親水性複合材料は、
(a)多孔質生分解性ポリマーマトリックス、および
(b)約180~約380m2/gの範囲の比表面積を有する、ポリマーマトリックス全体に均一に分散されたナノサイズリン酸カルシウム(CaP)
を含む。
ただし、前記複合材料は、乳酸およびグリコール酸のコポリマーをまったく含有しないことを条件とする。
【0021】
別の態様では、本発明の多孔質親水性複合材料およびインプラントなどの基材を含む、骨の再構築における使用のための足場が提供される。本複合材料は、基材の表面のコーティングとして存在してもよく、または基材は、複合材料によって全体または一部が取り囲まれていてもよい。
【0022】
別の態様では、多孔質親水性複合材料を調製する第1の方法であって、前記方法は、
(a)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b)工程(a)の混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c)第3の溶媒で洗浄して工程(b)のゲルから第1および第2の溶媒を除去し、多孔質ポリマーマトリックス中に均一に分散したナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料を残す工程
を含む、調製方法が提供される。
【0023】
別の態様では、骨の成長を促進するための親水性複合材料を調製する第2の方法であって、前記方法は、
(a1)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b1)基材に工程(a)の混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c1)溶媒蒸発により工程(b)のゲルから第1および第2の溶媒を除去し、表面の多孔質ポリマーマトリックス全体に分散したナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料の層を残す工程
を含む、調製方法が提供される。
【0024】
本発明の方法においては、第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液は、好適な溶媒中のCaOなどの非リン酸カルシウム塩の分散液をリン酸水溶液と混合することによって調製されてもよい。
【0025】
本発明の方法において、第1および第2の溶媒は、同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。第1の方法に使用される第3の溶媒は、第1および第2の溶媒と異なる。
【0026】
別の態様では、本発明の方法は、(d)生体適合性有機ポリオールを含む溶液に、多孔質親水性複合材料を浸漬する工程、(e)溶液から多孔質親水性複合材料を取り出す工程、および(f)複合材料構造体の親水性をさらに向上させるために多孔質親水性複合材料を乾燥する工程をさらに含んでもよい。
【0027】
上記の方法において使用されるCaPは、好ましくは約180~約380m2/gの範囲の表面積を有する。
【0028】
別の態様では、ナノサイズCaPを調製する方法であって、前記方法は、好適な非水性溶媒中の非リン酸カルシウム塩の分散液をリン酸水溶液と混合して、アモルファスナノサイズCaPを形成する工程、および必要に応じて、アモルファスCaPを水に接触させて、アモルファスCaPをHAまたはβ-TCPに変換する工程を含む、調製方法が提供される。
【0029】
本発明の方法の製造物は、本発明の別の態様を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】ナノ結晶性HA試料の粉末X線回折図(diffractogram)である。
【
図2】ナノサイズアモルファスHA試料の粉末X線回折図(diffractogram)である。
【
図4】トルイジンブルーに浸漬した後の、ナノサイズHAを含まない、実施例1dにより調製した多孔質複合材料(a)、および試料の内部を示す、2つの片に切断した同一の試料(b)の図である。トルイジンブルーに浸漬した後の、ナノサイズHAを含む、実施例1cにより調製した多孔質複合材料(c)、および試料の内部を示す、2つの片に切断した同一の試料(d)の図である。
【
図5】インプラントの内側(右側の画像)に、実施例6に従って調製した、複合材料の層を備える脊椎ケージ(左側の画像)の図である。
【
図6】アリザリンレッドに浸漬する前の、インシチュで形成したCaP/PCL発泡体を含む、チタン格子の画像(a)および(b)である。アリザリンレッドに浸漬した後の、様々なメッシュサイズを有する3Dプリントした異なるチタン試料の画像(c)である。
【
図7】1mmの複合材料の層によりコーティングされたネジを製造する方法の図である(a)。複合材料によりコーティングされたネジの写真である(b)。
【
図8】ウサギの頭蓋冠に置いた、6週間後のシャム(a)、および6週間後の多孔質複合材料を所定の位置に備えるシャム(b)のマイクロCT画像である。多孔質複合材料を備える部位は、骨と共に完全に成長した。
【
図9】
図8bに示す試料のMasson-Goldner色素で染色したスライドである。
【
図10】実施例1cにおいて製造した試料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図11】実施例10による発泡体に置いたピンアレイの画像である。
【
図12a】赤色色素に30分間浸漬した後の実施例1cの複合材料の写真である。
【
図12b】実施例11によりグリセロール処理し、次いで、赤色色素に30分間浸漬した後の実施例1cの複合材料の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の現在、好ましい実施形態をこれより詳細に参照する。
【0032】
以下に言及されている参照文献はすべて、本開示と一致しない程度にそれらの全体が参照により組み込まれている。
【0033】
本明細書において開示されている範囲の下限値のいずれかと上限値のいずれかを組み合わせることによって得られる範囲もまた、本発明に含まれる。
【0034】
本発明は、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)および生分解性ポリマーのマトリックスを含む(または、これらから実質的になる、またはこれらのみからなる)多孔質親水性複合材料を含む。ナノサイズCaP粒子の生物活性特性、ポリマー/CaP複合材料の表面積が高いことおよびその親水性のために、本複合材料は、骨細胞の成長のための優れた足場として働くことができる。
【0035】
CaP
本明細書において使用する場合、ナノサイズとは、最長寸法1~100nmを有する粒子を指す。1~50nm、例えば、5~40nmまたは10~20nmの最長寸法を有する粒子が好ましい。
【0036】
粒子は、実質的に球状、六方晶断面、または繊維状などの任意の形状であってよい。
【0037】
本明細書において使用する場合、CaPとしては、任意の形態のリン酸カルシウムを指し、以下に限定されないが、アモルファスCaP(ACP)、ベータ-リン酸三カルシウム(β-TCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)、ヒドロキシアパタイト(HA)またはカルシウム欠損HA(CDHA)が挙げられる。CaPの好ましい形態としては、HAが挙げられる。
【0038】
アモルファスリン酸カルシウム(ACP)は、非結晶性であり、様々なCa/P比を有することができ、ベータ-リン酸三カルシウム(β-TCP)は、1.5のCa/P比を有する。リン酸カルシウム粒子の溶解は、その構造およびサイズによって大きく影響を受ける。酸性環境におけるリン酸カルシウムの多形の吸収速度は、ACP>β-TCP>TTCP>HAであり(S.V.Dorozhkin,Biomaterials 31巻(2010年)1465~1485頁)、インビボでのカルシウムおよびリンの溶解および放出は、使用されるCaP化合物の選択によって制御することができる。
【0039】
CaPは、アモルファスであっても結晶性であってもよい。結晶性CaPの場合、用語「ナノサイズ」とは、個々の結晶のサイズを指す一方、アモルファスCaPの場合、それは、個々の粒子のサイズを指す。ナノサイズ結晶性CaPはまた、「ナノ結晶性CaP」と称されてもよい。
【0040】
Ca/P比が5/3であるアモルファスCaPが本発明の複合材料に使用される場合、このアモルファスCaPは、インビボで体液に曝露されると、結晶性HAへ変換されることがある。アモルファスCaPは、結晶性HAに比べて、より低い機械的強度を有するので、この効果は、インプラント後に強度が増大する複合材料を生成するために使用することができる。さらに、ACPからHAへの変換は、熱力学的に有利であるので、この変換は体液の浸潤を加速させて、複合材料と周囲の骨との間の接着強度をやはり増大させる。
【0041】
ナノサイズCaPは、通常、粉末形態で市販されているか、または当分野において公知の方法を使用して合成することができる。例えば、ナノサイズCaPの合成方法は、国際公開第2005/123579号および米国特許出願公開第2010/0226956号明細書に開示されている。
【0042】
ナノサイズ結晶性CaPは、(i)水または非水性溶媒中の非リン酸カルシウム塩の分散液と(ii)リン酸水溶液との混合を含む方法によって合成することができる。これによってナノ結晶性CaPの分散液がもたらされ、これを、第1または第2の方法に直接使用して、以下に議論されている複合材料を形成することができる。
【0043】
水性分散液の代わりに、非リン酸カルシウム塩の非水性分散液を、必要に応じてさらにエージング工程と共に使用することによって、本方法を使用して、HA、またはACP、ベータ-TCPもしくはCDHAなどの他のタイプのリン酸カルシウムを製造することができる。
【0044】
リン酸に対する非リン酸カルシウム塩の比は、形成されるCaP化合物に影響を及ぼし得る。
【0045】
高い表面積を有するCaPを得るためには、非リン酸カルシウム塩は、水または非水性分散液を形成するために使用される溶媒への溶解度は低くあるべきである。好ましい非リン酸カルシウム塩は、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムである。
【0046】
したがって、別の態様では、本発明は、アモルファスナノサイズCaPを調製する方法を提供し、前記方法は、好適な非水性溶媒中の非リン酸カルシウム塩の分散液をリン酸水溶液と混合して、アモルファスナノサイズCaPを形成する工程を含む。この方法に使用するための好適な非水性溶媒としては、グリセロールおよびエチレングリコールが挙げられる。
【0047】
好ましくは、非水性溶媒は、水と混和できる。好ましくは、非水性溶媒は、アセトンまたは別の揮発極性溶媒と混和でき、このような非水性溶媒で洗浄することによって、アセトンまたは別の揮発極性溶媒を容易に除去することが可能である。
【0048】
必要に応じて、この方法で形成されるCaPは、その後、これを水と接触させることによって処理され、異なる形態のCaPに変換されることができる。例えば、エチレングリコールまたはグリセロールを使用して、水以外の非リン酸カルシウム塩の分散液を形成する場合、ACPを製造することができる。ACPは、必要に応じて、室温で水と接触させることによってエージングさせ、HAを製造することができる。あるいは、オートクレーブ中などの高温および高圧での水との接触により、β-TCPを製造し得る。オートクレーブ処理は、水の存在下、密封容器(例えば、ステンレス鋼製ボンベ)中で粉末を加熱することを含む。これは、高温(例えば、180℃~220℃)で行われるので、圧力は、1気圧超、通常5~15気圧になろう。製造するCaPの粒子サイズおよび表面積は、水との接触温度および接触期間を制御することによって、制御することができる。
【0049】
CaPの比表面積は、BET法によって測定すると、約180~約380m2/gの範囲にある(S.Brunauer,P.H.Emmet,E.Teller,J.Am.Chem.Soc.1938年、60巻、309~319頁)。好ましくは、CaPの比表面積は、約200~約350m2/gの範囲、より好ましくは、約200~約250m2/gの範囲にある。アモルファスナノサイズCaPは、ナノ結晶性CaPよりも大きな表面積を有する傾向がある。
【0050】
X線回折(XRD)もまた、複合材料中のCaPの表面積の大まかな測定値を得るために使用されてもよい。一層精密な測定のためには、適切な溶媒(例えば、アセトン)を使用して複合材料からポリマーを溶解させ、こうして得られたCaPの表面積はBET法によって測定することができる。
【0051】
ポリマー
複合材料に使用されるポリマーは、インビボで生分解性であるべきであり、好ましくは、約3か月~約3年間、例えば約6か月~約2年間、好ましくは約3~約12か月の期間をかけて分解する。
【0052】
複合材料に使用されるポリマーはまた、生体適合性であるべきである。
【0053】
生分解性ポリマーは、合成ポリマーであっても天然ポリマーであってもよい。好適な生分解性ポリマーとしては、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGL)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)などの合成ポリエステル、および可溶性コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチンおよびキトサンなどの天然ポリマーが挙げられる。これらのポリマーは、人体において加水分解を受け、非毒性分解生成物を製造する(L.NairおよびC.Laurencin,Progress in polymer science、2007年、32巻、762~798頁)。
【0054】
生分解性ポリマーは、水溶性であっても非水溶性であってもよいが、非水溶性ポリマーが好ましい。PCL、PLAおよびPGLなどのポリエステルは非水溶性である一方、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、可溶性コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチンおよびキトサンは水溶性である。
【0055】
生体分解の速度は、ポリマーの選択によって制御できる。例えばPCLは、一般にインビボでは、PLAまたはPGAよりもゆっくりと分解する。
【0056】
本発明で好適に使用されるポリマーは、PCLである。より好ましくは、PCLは、複合材料に存在する唯一のポリマーである。例えば、ポリマーマトリックスは、PCLからなってもよい。PLAおよびPGLは、インビボで分解し、酸性分解生成物(それぞれ、乳酸およびグリコール酸)を生成し、これらは、望ましくない炎症反応を生じさせる恐れがある。対照的に、PCLのインビボでの分解生成物(6-ヒドロキシヘキサン酸)は、酸性がより低いので、望ましくない炎症反応を引き起こす可能性は低い。乳酸のpKaは3.86である一方、6-ヒドロキシヘキサン酸のpKaは4.75である。
【0057】
好ましくは、ポリマーマトリックスは、単一ポリマーから形成されるが、混合物もまた使用されてもよい。
【0058】
複合材料は、ポリ(D,L-乳酸-co-グリコール酸)またはポリ(乳)酸とポリ(グリコール)酸との共重合体などの、乳酸とグリコール酸のコポリマーを含まない。好ましくは、生分解性ポリマーは、ホモポリマーである(すなわち、コポリマーではない)。好ましくは、本発明の複合材料は、いずれのコポリマーも含まない。
【0059】
複合材料
本発明の複合材料は、一旦形成された後インビボで使用される前には、多孔質である。それらは、連続気泡発泡体様構造を有しており、「発泡体」とも称されることがある。
【0060】
複合材料中の細孔は、好ましくはナノ孔およびマイクロ孔を含み、ナノ孔は、ナノサイズCaP粒子によって生成され、マイクロ孔は、ポリマーネットワークによって生成される。ナノ孔は、約1~約100nmの最長寸法を有しており、マイクロ孔は、約1~100μmの最長寸法を有する。
【0061】
ナノ孔のサイズは、SEMを使用して、および/またはBarett-Joyner-Halenda(BJH)法を使用する窒素吸着および脱着によって測定することができる。マイクロ孔のサイズは、SEMを使用して、および/または水銀ポロシメトリーによって測定することができる。
【0062】
複合材料の多孔度は、実験試料の密度を測定し、この密度を塊状試料(すなわち、ポリマーおよびCaPを同量含有する非多孔質試料)の理論密度と比較することによって計算することができる。例えば、PCLの密度が1.14g/cm3であり、HAの密度が3.15g/cmであり、その組成物が2:1のPCL/HA比を有する場合、この試料の理論密度は、(2*1.14+3.15)/3=1.81g/cm3となろう。したがって、この組成物の1cmの辺を有する塊状立方体(非多孔質)は、1.81gの重量となるはずである。1cmの辺を有する、この組成物の立方晶試料の実際の重量が0.181gである場合、多孔度は、1-(0.181/1.81)=90%となる。
【0063】
本発明の多孔質複合材料は、好ましくは約20~約95%の範囲、より好ましくは約50~約90%の範囲、さらにより好ましくは約60~約90%の範囲の多孔度を有する。高レベルの多孔度が、インビボでの骨の成長の促進には望ましいが、高多孔性の複合材料は、低い機械的強度を有し、すべての用途に好適であるとは限らない。
【0064】
複合材料は、取り外し可能な支持体によって生成されるさらなる空隙をさらに含んでもよい。このような空隙は、約5~40mmの最長寸法を有していてもよい。空隙は、取り外し可能な支持体の周囲で複合材料を固化させることによって、複合材料に導入されることができ、支持体が取り外されると、複合材料に空隙が残る。例えば、複合材料は、取り外し可能なピンアレイの周囲に成形されてもよい。複合材料の固化後、ピンアレイを除去し、複合材料中にピンアレイの形状およびサイズに相当する空隙を残すことができる。ピンは、任意の断面を有してもよいが、円筒形のピンが好ましい。円筒形ピンの好適な直径は、約0.25~約2mmである。
【0065】
取り外し可能な支持体は、金属、例えばステンレス鋼から作製できる。複合材料から任意の取り外し可能な支持体を取り外す手助けとするため、支持体の表面は滑らかであるべきであり、例えば、研磨された金属表面であるべきである。
【0066】
複合材料中のミリメートルサイズの空隙の存在により、例えば、患者に複合材料がインプラントされると、インビボで、複合材料内で、血管新生化、すなわち血管の成長を促進することができる。
【0067】
本発明の複合材料は、製造時には親水性であり、ポリマーマトリックスがインビボで生分解しても親水性のままである。親水性とは、複合材料が<90°の水との接触角を有することを意味する。接触角が小さいほど、複合材料の親水性が高く、インビボでの骨の成長の促進に優れる。複合材料は、好ましくは約70°以下、より好ましくは約60°以下の水との接触角を有する。
【0068】
試料の接触角は、試料の平坦部分にタイプ1の水(18.2MΩ/cmの抵抗率)の滴を配置し、ゴニオメータにより、その滴と試料表面との間の接触角を測定することにより、測定できる。
【0069】
複合材料の多孔質性および親水性は、インプラントされた際に、体液の速やかな浸潤および吸着、骨結合および新しい骨細胞の接着を促す。経時的に、マトリックスのポリマーは生分解し、CaPは溶解して、複合材料は、最終的に新しい骨組織によって置き換えられる。
【0070】
本発明の複合材料では、ナノサイズCaPは、ポリマーマトリックス全体に均一に分散される。その結果、CaPの一部は、最初にポリマーによって完全に取り囲まれ(すなわち、ポリマー内部に埋め込まれ)、一部はポリマーマトリックス内部の細孔表面を含むポリマー表面で露出される。露出したCaPは、PCLなどの疎水性ポリマー、またはPLAなどの親水性の低いポリマーが複合材料を形成するために使用される場合でさえも、全体として複合材料を親水性にする。
【0071】
CaPが、ポリマー構造体の表面コーティングとして存在する従来のインプラントは、最初は親水性であるが、CaPがインビボで溶解すると、下部のポリマーが露出される。ポリマーは、骨結合の促進にはCaPよりもより一層効率が悪いので、このことは、新しい骨の成長に有害となる恐れがある。対照的に、本発明では、CaPは、マトリックスを形成するポリマー全体に均一に分布する。ポリマーマトリックスの表面におけるCaPは、複合材料を最初に親水性にする。ポリマーは、インビボで生分解するので、ポリマーによって先に取り囲まれたCaPが露出され、これは経時的に複合材料の親水性を維持する一助となる。これによって、骨結合の改善がもたらされ、新しい骨組織の成長が持続される。
【0072】
本発明の複合材料は、連続気泡構造を有する。これによって、新しい骨細胞のマトリックスへの浸潤が可能となり、新しい骨の成長が促される。
【0073】
CaPが分散して存在するために、本発明の複合材料は、CaPの配合なしに作製された、類似の多孔質ポリマーマトリックスよりも高い表面積を有する。このことは、ナノサイズCaPの少なくとも一部は、ポリマーマトリックスの表面に露出されており、複合材料の表面積に寄与していることを示す。複合材料の好適な表面積は、5~50m2/g、好ましくは7~50m2/gの範囲にある。
【0074】
複合材料の剛性は、使用されるポリマーおよびCaPの相対量を制御することによって制御することができる。ポリマーに対するCaPの量を増加させると、複合材料の剛性は増大するが、複合材料をより脆くする傾向がある。ポリマーの量に対するCaPの量を低下させると、複合材料の可撓性は向上するが、剛性は低下する。
【0075】
複合材料の親水性も、使用されるポリマーおよびCaPの相対量を制御することによって制御でき、使用されるCaPの量が増加するにつれて、親水性が向上する。
【0076】
ポリマーに対するCaPの好適な重量比としては、約1:4~約3:1、好ましくは1:3~約1:1が挙げられ、好ましくは約1:2である。1:1を超える比、例えば、2CaP:1PCLでは、複合材料は脆くなり、取り扱いが一層困難になる。
【0077】
一実施形態では、本発明の複合材料は、NaClを一切含まない。
【0078】
複合材料は、一旦形成されると、好ましくは直径が約0.1~約1mmの粒子に摩砕され、この粒子は薬学的に許容される溶媒中に懸濁されてもよい。さらに、得られた懸濁液またはペーストは、修復を促すよう、損傷部位に直接注入され得る。注入に好適な薬学的に許容される溶媒としては、グリセロール、水、プロピレングリコールおよびPEG-12が挙げられる。1:1を超えるポリマーに対するCaPの比を含有する複合材料は、粒子に摩砕するのに特に好適である。
【0079】
方法
別の態様では、多孔質親水性複合材料を調製する第1の方法が提供され、前記方法は、
(a)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズCaPの分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b)工程(a)の混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c)第3の溶媒で洗浄して工程(b)のゲルから第1および第2の溶媒を除去し、多孔質ポリマーマトリックス全体に分散したナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料を残す工程
を含む。
【0080】
上記で議論した多孔質複合材料の好ましい特徴は、第1の方法およびその生成物に等しく適用される。
【0081】
工程(a)は、第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程を含む。
【0082】
第1の溶媒は、ポリマーが完全に溶解するが、溶解度が適切な温度範囲(約0℃~50℃など)で、温度依存性が高いものであるべきである。約10℃未満、例えば約5℃未満の温度で、ポリマーが限定的な溶解度を有する第1の溶媒が好ましい。好ましくは、第1の溶媒は、適切な時間内に、室温(ambient temperate)(20℃)において、または加温により、例えば、40~45℃などの50℃以下の加温により、ポリマーが第1の溶媒に完全に溶解することができる溶媒である。ポリマーの溶解は、溶媒の撹拌または他の振動によって促進され得る。
【0083】
好適には、費用面の理由と、後の溶媒除去を容易にするために、ポリマーを溶解するために必要最小量の第1の溶媒が使用される。第1および第2の溶媒の量も、ゲルが工程(b)において形成され得ないよう、それほど多くするべきではない。しかし、使用される第1および第2の溶媒の全量が、最終的な複合材料の多孔度に影響を及ぼすので、使用される溶媒の量は、最終生成物の所望の多孔度に対してバランスが取られなければならず、溶媒量が多いほど、複合材料はより多孔質になる傾向がある。
【0084】
ナノサイズCaP粒子は、粉末形態で添加される場合、凝集が起こる傾向があり、ポリマー溶液に分散させることは困難である。したがって、CaPは、第2の溶媒中の分散液として使用されるのが好ましい。例えば、ナノサイズCaPは、好適な分散液の形成を直接もたらす方法を使用して合成されてもよい。好ましくは、第2の溶媒中のCaPの分散液は、CaPおよび第2の溶媒以外のものを含有しない。
【0085】
第1および第2の溶媒は、同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。第1および第2の溶媒が異なる場合、第2の溶媒は第1の溶媒に混和できるべきであり、ポリマーの溶解度に悪影響を及ぼすべきではない。
【0086】
ポリマーが、PCL、PLAまたはPGAなどの非水溶性ポリマーである場合、好適な第1の溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、酢酸エチルおよびアセトンが挙げられ、アセトンが好ましい。ポリマーが非水溶性である場合、使用に好適な第2の溶媒としては、THF、ジオキサン、酢酸エチル、アセトンおよびそれらの混合物が挙げられ、アセトンが好ましい。
【0087】
ポリマーがポリ(ビニルアルコール)(PVA)、可溶性コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチンまたはキトサンなどの水溶性ポリマーである場合、好適な第1および第2の溶媒としては、水、エタノール、メタノールおよびイソ-プロピルアルコール(IPA)が挙げられ、水が好ましい。
【0088】
第1および第2の溶媒は、複合材料がインビボで使用される場合に多孔質複合材料に残るいずれの残留溶媒も健康リスクをもたらさないように、生体適合性であるものが好ましい。この理由のため、非水溶性ポリマーが使用される場合、アセトンが好ましい第1および第2の溶媒であり、水溶性ポリマーが使用される場合、水が好ましい第1および第2の溶媒である。
【0089】
第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液、および第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液などのナノサイズリン酸カルシウム(CaP)は、CaPが得られる混合物全体に均一に分布するまで混合されるべきである。これには、約1時間かかることがある。混合物中のCaPの均一な分布は、目視で評価することができる。
【0090】
混合が完了し、CaPがこの混合物全体に均一に分布したら、この混合物が固化してゲルを形成し始めるまで、混合物を冷却させてもよい。好都合なことに、これは、混合物を室温まで冷却させて(必要な場合)、さらに、これを約4~5℃の冷蔵庫に入れることによって行うことができる。あるいは、混合物を冷蔵庫内に直接、入れてもよい。より低い温度、例えば、0℃以下とすることもできるが、これらの温度は、処理の観点からはそれほど好ましくない。
【0091】
あるいは、混合物はまた、混合物よりも低い温度の鋳型に注ぎ入れることによって冷却されてもよい。例えば、この混合物を予め冷却された鋳型に注ぎ入れてもよい。さらに、充填済みの鋳型を冷蔵庫に入れることによって、ゲルを形成するための固化を完了することができる。鋳型は、使用前に冷蔵庫または冷凍庫に入れ、予め冷却されてもよい。
【0092】
一実施形態では、第1の方法の工程(b)は、好ましくは工程(a)の混合物を冷却して、これを固化させる工程を含む。
【0093】
混合物が固化し始めると、この混合物は、CaPならびに第1および第2の溶媒を取り込んだゲルを形成する。特に、固化に時間がかかる大型の複合材料の構造体を形成する場合、形成されるゲルは、CaP粒子の沈殿を回避するため、定期的に振動(例えば、撹拌または振とう)してもよい。これは、得られた複合材料中にCaPの均一な分布を確実にする一助となる。
【0094】
ゲルが形成し始めたら、後の洗浄工程(c)を容易にするために混合物全体をフィルターに移してもよい。
【0095】
混合物の固化が実質的に完了したら、得られたゲルは、第3の溶媒で洗浄されて、第1および第2の溶媒が除去される。固化したゲルから第1および第2の溶媒を除去すると、ポリマーマトリックス内に細孔が生じる。
【0096】
混合物の固化は、混合物を入れた容器を傾けたときに混合物が流れるか否かを観察することによって評価することができる。あるいは、容器の側面を穏やかにタップしたときに混合物の表面に小さな波が形成される場合、これは、この混合物が未だ固化していないことを示す。
【0097】
第3の溶媒は、第1および第2の溶媒と異なる。第3の溶媒は、第1および第2の溶媒に混和できるべきであり、そのため、第1および第2の溶媒は、第3の溶媒に溶解して、洗浄によって除去される。第3の溶媒は、ポリマーのための溶媒であるべきではない。
【0098】
ポリマーが非水溶性である場合、好適な第3の溶媒としては、水、IPA、エタノールおよびメタノールが挙げられる。第3の溶媒は、好ましくはIPAまたは水であり、より好ましくは水である。ゲルのある程度の収縮が洗浄工程中に起こることがあり、水はIPAほどの収縮をもたらさない。
【0099】
ポリマーが水溶性である場合、好適な第3の溶媒としては、THF、ジオキサン、酢酸エチル、エチレングリコール、グリセロールおよびアセトンが挙げられ、アセトンが好ましい。
【0100】
アモルファスHAをCaPとして使用する場合、第3の溶媒として水を使用すると、結晶性HAへの変換をもたらす恐れがある。これを回避するため、CaPがアモルファスHAである場合、メタノールが好ましい第3の溶媒である。
【0101】
第3の溶媒はポリマーのための溶媒ではないので、洗浄工程(c)もまた、ポリマーの最終的な固化を促す一助となり得る。
【0102】
洗浄工程(c)において、ゲルから第1および第2の溶媒を除去すると、全体にナノサイズのCaPが分散した、多孔質ポリマーマトリックスが後に残る。
【0103】
好ましい実施形態では、第1および第2の溶媒は、どちらもアセトンであり、第3の溶媒は水である。より好ましくは、ポリマーはPCLであり、第1および第2の溶媒は、どちらもアセトンであり、第3の溶媒は水である。
【0104】
多孔質複合材料に残る微量の水により、多孔質複合材料は望ましくない微生物成長を受けやすくなる恐れがある。したがって、第3の溶媒が水である場合、工程(c)の後に、得られた多孔質固体複合材料を第4の溶媒で洗浄し、微量の水を除去することができる。
【0105】
第4の溶媒は、水と混和性で、水よりも揮発性であるべきであり、そのため、微量の第4の溶媒は、得られた複合材料を乾燥することによって容易に除去することができる。第4の溶媒もまた、ポリマーのための溶媒であるべきではない。好適な第4の溶媒としては、MeOH、EtOHおよびイソ-プロピルアルコール(IPA)が挙げられ、好ましくはIPAである。IPAは、40℃で乾燥することにより容易に除去できること、少量を複合材料中に残ったとしても毒性が非常に高いわけではないこと、常に少量の水を含むメタノールやエタノールに比べて吸湿性が低く、構造中に微量の水分した残し得ないことから、好ましい第4の溶媒である。
【0106】
ポリマー冷却および固化工程(工程(b))は、得られる複合材料の形状を制御するため、鋳型中で行われてもよい。ポリマーが十分に固化したら、複合材料は、鋳型から取り出すことができ、第3の溶媒に浸漬して、第1および第2の溶媒を除去できる。第3の溶媒が水である場合、得られた多孔質固体の成形済み複合材料を、さらに、上記で定義した第4の溶媒に浸漬して、微量の水を除去してもよい。
【0107】
また、複合材料を取り外し可能な支持体の周囲で固化させることにより、複合材料に空隙を導入することができ、これは、取り外し可能な支持体の形状および大きさに対応する空隙を複合材料中に残す。例えば、複合材料は、取り外し可能なピンアレイの周囲に成形されてもよい。複合材料の固化後、ピンアレイを除去し、複合材料中にピンアレイの形状および大きさに相当する空隙を残すことができる。このような空隙は、複合材料中の溝または穴の形態をとってもよく、約5~40mmの最長寸法、および約0.25~2mmの幅または直径を有する。
【0108】
本発明の方法は、骨足場を形成するための従来技術の方法よりもいくつかの利点を有する。例えば、CaPを溶解し、および/またはポリマー分解を引き起こす恐れがある強酸の使用が回避される。ポリマーを融解するために加熱する必要はなく、第1の溶媒の好適な選択により、ポリマーを溶解させるために過度に加熱する必要性が回避される。ゲルを形成するために0℃未満に冷却することもまた、通常必要ではない。
【0109】
工程(a)において形成される混合物はまた、3Dプリンターを使用して堆積させてもよい。これによって、複雑な形状の複合材料を層ごとに構築することが可能となり得る。混合物は、ポリマーの性質に応じて、水または他の好適な第3の溶媒に浸漬したノズルから噴出され得る。ノズルの移動は、x-y-z方向で制御可能であり、これによって、複合材料の構造体の層ごとの構築を制御することが可能となる。
【0110】
インプラントの形成
本発明の複合材料は、新しい骨の成長の促進のための足場として使用されてもよい。一部の実施形態では、本複合材料は、インプラントとも称することができる、耐荷重性非分解性構造体と組み合わされてもよい。
【0111】
上記で議論した多孔質複合材料および方法の好ましい特徴は、このような態様にも等しく適用できる。
【0112】
異なる方法の実施形態では、基材は、生分解性ポリマー、第1の溶媒、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)および第2の溶媒から形成された混合物に浸漬され、続いて取り出され得る。混合物の薄層が基板の表面に残り、ポリマーが固化し、第1および第2の溶媒が除去されると、基板表面にコーティングとして存在する複合材料の薄層が生じる。基材表面に複合材料の多層を構築するため、浸漬工程は繰り返されてもよい。
【0113】
浸漬工程およびポリマーの固化の後に、溶媒除去は、第3の溶媒中にコーティングされている基材を浸漬することによって行われてもよい。あるいは、第1および第2の溶媒は、溶媒蒸発によって除去されてもよい。
【0114】
第1の方法の工程(c)における、第1および第2の溶媒を除去するために第3の溶媒を使用すると、得られた複合材料において、約50%~約90%などの高い多孔度をもたらすことが判明している。そうではなく第1および第2の溶媒を蒸発させる場合、溶媒の蒸発によって残ったポリマーネットワーク中の空隙はつぶされる傾向にあり、ポリマー鎖は凝集し、例えば10~20%の最大多孔度しか有さない、より密な構造体を形成してしまうことがある。
【0115】
したがって、基材表面の層の厚さおよび多孔度は、第1および第2の溶媒を除去するために使用される方法を選択することによって制御できる。第1および第2の溶媒が、本発明の第1の方法にあるように、第3の溶媒を使用して除去される場合、多孔質層となる。あるいは、第1および第2の溶媒が蒸発によって除去される場合、より密で(すなわち、多孔度が低い)より薄い層がもたらされる。
【0116】
浸漬によって形成される複合材料層は、約400nm~約100マイクロメートルの厚さ、例えば、500nm~50マイクロメートルの厚さであってもよい。
【0117】
別の態様では、骨の成長を促進するための親水性複合材料を調製する第2の方法が提供され、前記第2の方法は、
(a1)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b1)基材に工程(a)の混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c1)溶媒蒸発により工程(b)のゲルから第1および第2の溶媒を除去し、表面のポリマーマトリックス全体に分散したナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料の層を残す工程
を含む。
【0118】
上記で議論した多孔質複合材料および第1の方法の好ましい特徴は、第2の方法およびその生成物に等しく適用される。
【0119】
浸漬工程の前に、例えば、4~5℃まで事前に基材を冷却すると、基材表面上でポリマーの固化を開始する一助となり得る。
【0120】
複合材料が基材を混合物に浸漬することによって調製される場合、好ましくは、第1および第2の溶媒の両方がアセトンであり、ポリマーはPCLである。
【0121】
第1の方法の別の実施形態では、基材の少なくとも一部分は、ポリマーが固化する前に、工程(a)において形成した混合物に完全にまたは部分的に浸漬されてもよい。その後、ポリマーは基材の周りで固化する。第1および第2の溶媒の除去後に、多孔質複合材料内にその一部または全部が埋め込まれた基材を含有する足場が形成される。
【0122】
この実施形態では、基材は、任意の好適な容器中、例えば、鋳型中の混合物に導入され得る。あるいは、基材が鋳型に入れられて、その後、混合物が鋳型に導入されてもよい。基材が鋳型に入れられる場合、得られた足場の形状全体が鋳型の形状によって制御される。さらに、複合材料の形成は、鋳型に接触していない基材の表面を対象とし得る。例えば、
図5bは、脊椎ケージの内側表面に複合材料が形成されていることを示す。これは、ケージの外面がその鋳型と接触した状態の適切な形状のテフロン製鋳型内にケースを配置し、その後このケースをその複合構造から取り除くことによって製造された。
【0123】
したがって、一実施形態では、第1の方法の工程(b)は、基材表面またはその周囲でポリマーを固化させる工程を含むことができる。
【0124】
必要に応じて、コーティングされた表面を混合物中に浸漬する前に、複合材料の1以上の層が、浸漬により基材表面に堆積されていてもよい。これによって、第1および第2の溶媒の除去に使用される方法に応じて、異なる密度および多孔度の複合材料の層の形成が可能となる。
【0125】
密度の高い層は、一般に、下部の基材に一層強力に接着する一方、より多孔度の高い層は、骨の成長をよりよく促進する。好ましい一実施形態では、第1の層は、第1および第2の溶媒を蒸発させることによって形成され、第1および第2の溶媒を除去するために洗浄することによって、第2および任意の後続の層が形成される。
【0126】
本発明で使用される好適な基材としては、整形外科用インプラントおよび歯科用インプラントが挙げられ、特に限定されないが、ネジ、脊椎固定ケージ、ワイヤ、メッシュ、くぎ、ピン、ロッド、プレート、股関節ステム、ストーマバッグのポート部、骨固定型補聴器および歯科用インプラントアバットメントが挙げられる。
【0127】
好適な基材としては、特に限定されないが、チタンおよびその合金、ジルコニウムおよびその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金およびコバルトクロム合金などの金属;アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニアおよびSi3N4などのセラミック;グラフェンおよび熱分解炭素などのグラファイト材料;ならびにポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボネート)、ポリ(エチレンテレフタレート)およびPEEKなどのポリマーから作製される基材が挙げられる。好ましい基材としては、チタンおよびその合金、ジルコニウムおよびその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、コバルトクロム合金、アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、熱分解炭素、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボネート)およびPEEKが挙げられる。より好ましい基材としては、チタンおよびその合金、ステンレス鋼、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、熱分解炭素およびPEEKが挙げられ、最も好ましい基材としては、チタンまたはPEEKが挙げられる。
【0128】
上記の方法によって形成される、多孔質親水性複合材料の親水性は、複合材料を生体適合性有機ポリオールで処理することによってさらに増大されてもよい。したがって、本発明の方法は、工程(c)または工程(c1)の後に、
(d)生体適合性有機ポリオールを含む溶液に、多孔質親水性複合材料を浸漬する工程、
(e)溶液から多孔質親水性複合材料を取り出す工程、および
(f)多孔質親水性複合材料を乾燥する工程
をさらに含んでもよい。
【0129】
有機ポリオールは、生体適合性であるべきである。好適な有機ポリオールとしては、グリセロール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、またはPEG-12などの低分子量ポリエチレングリコールが挙げられる。好適なポリエチレングリコールは、約200~2000g/molの分子量を有するものである。好ましいポリオールは、グリセロールである。
【0130】
ポリオールは、揮発性有機溶媒中のポリオールの溶液に複合材料を浸漬することによって、複合材料に施用される。「揮発性有機溶媒」とは、ポリオールよりも揮発性が高い溶媒を意味する。好適な揮発性有機溶媒は、非毒性である。溶媒はまた、有機ポリオールと完全に混和できるべきである。ポリオールが固体である場合、溶媒に可溶できるべきである。溶媒は、ポリマーマトリックス中のポリマーのための溶媒であるべきではない。
【0131】
好適な揮発性有機溶媒は、イソプロパノールおよびエタノールを含む。好適な溶液は、イソプロパノール中、約0.25~50重量%の有機ポリオール、例えば、約0.25~50重量%のグリセロールを含有する。好ましくは、混合物は、イソプロパノール中、少なくとも0.5重量%のグリセロールを含有する。
【0132】
好適には、複合材料は、最大で10分間、より好ましくは最大で5分間、溶液中に浸漬される。一般に、複合材料は、最初は溶液に浮き、その後、溶液が空気に置き換わり複合材料中の細孔を充填すると沈む。複合材料が沈む際には複合材料の細孔は溶液が充填しており、もはや複合材料から目視可能な気泡はなんら放出しなくなる。
【0133】
溶液から複合材料を除去した後、複合材料を乾燥して揮発性有機溶媒を除去する。乾燥は、複合材料を室温に置き、揮発性有機溶媒を蒸発させることを含み得る。処理後の複合材料はまた、揮発性有機溶媒の蒸発を速めるよう、加熱されてもよい。加熱温度は、ポリオールを蒸発させるほど、またはポリマーマトリックスを損傷させるほど高くするべきではない。このような加熱の好適な温度は、約30~40℃の範囲、好ましくは約35℃である。揮発性溶媒の除去は、加熱中の複合材料を秤量することによってモニタリングすることができる。揮発性溶媒が除去されると、浸漬前の出発複合材料と比較した処理後の複合材料の重量のいかなる増加も、ポリオールによるものとすることができる。
【0134】
理論によって拘束されないが、ポリオールは、複合材料の内部表面および/または外部表面の少なくとも一部に吸着され、および/またはその内部表面および/または外部表面の少なくとも一部分にコーティングを形成し、これらによって、親水性が増大すると考えられる。「複合材料の内部表面」とは、複合材料内のあらゆる細孔または空隙の表面を意味する。
【0135】
したがって、別の態様では、本発明は、本明細書に記載されている通り、骨の成長を促すための多孔質親水性複合材料であって、約0.5~50重量%の生体適合性有機ポリオールをさらに含む、多孔質親水性複合材料を提供する。重量%とは、複合材料および生体適合性有機ポリオールの総重量に基づく。生体適合性有機ポリオールは、多孔質親水性複合材料の内部表面および/または外部表面の少なくとも一部に吸着され得、および/またはその内部表面および/または外部表面の少なくとも一部分にコーティングを形成することができる。
【0136】
生体適合性有機ポリオールの濃度がより高いと親水性が改善され、また、複合材料はより軟質になり、それほど脆くならない/壊れない。
【0137】
上記の方法のすべての生成物もまた、本発明の部分を形成する。
【0138】
本発明の実施形態は、以下を含む:
実施形態1:骨の成長を促進するための多孔質親水性複合材料であって、前記複合材料は、
(a)多孔質生分解性ポリマーマトリックス、および
(b)約180~約380m2/gの範囲の比表面積を有する、ポリマーマトリックス全体に均一に分散されたナノサイズリン酸カルシウム(CaP)
を含む、
多孔質親水性複合材料。
(ただし、前記複合材料は、乳酸およびグリコール酸のコポリマーをまったく含有しないことを条件とする。)
【0139】
実施形態2:前記ナノサイズCaPが、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、ベータ-TCP、カルシウム欠損HA(CDHA)またはヒドロキシアパタイト(HA)である、実施形態1の多孔質親水性複合材料。
【0140】
実施形態3:前記CaPがナノ結晶である、実施形態1の多孔質親水性複合材料。
【0141】
実施形態4:前記CaPがHAである、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0142】
実施形態5:前記CaPがACPである、実施形態1~3のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0143】
実施形態6:前記ポリマーマトリックスが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGL)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、可溶性コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチンまたはキトサンを含む、またはのみからなる、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0144】
実施形態7:前記ポリマーマトリックスが、ε-ポリ(カプロラクトン)(PCL)を含む、またはのみからなる、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0145】
実施形態8:ポリマーマトリックスに対するCaPの比が、重量基準で約1:4~約3:1である、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0146】
実施形態9:ナノ孔およびマイクロ孔を含む、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0147】
実施形態10:前記CaPが、約200~約350m2/gの範囲の比表面積を有する、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0148】
実施形態11:約5~約50m2/gの範囲の比表面積を有する、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0149】
実施形態12:生体適合性有機ポリオールを含む複合材料の総量に対して、約0.5~50重量%の前記生体適合性有機ポリオールをさらに含む、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0150】
実施形態13:前記有機ポリオールが、その内部表面および/または外部表面の少なくとも一部に吸着され、および/またはその内部表面および/または外部表面の少なくとも一部にコーティングを形成する、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0151】
実施形態14:前記有機ポリオールが、グリセロール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、または約200~約2,000の範囲の分子量を有するポリエチレングリコールである、前記請求項のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0152】
実施形態15:前記有機ポリオールがグリセロールである、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0153】
実施形態16:20~95%の多孔度を有する、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0154】
実施形態17:50~90%の多孔度を有する、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0155】
実施形態18:60~90%の多孔度を有する、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0156】
実施形態19:水との接触角が70°以下である、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0157】
実施形態20:水との接触角が60°以下である、前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料。
【0158】
実施形態21:基材および前記実施形態のいずれかの多孔質親水性複合材料を含む、骨の再構築における使用のための足場。
【0159】
実施形態22:前記基材が、整形外科用インプラントおよび歯科用インプラントから選択される、実施形態21の足場。
【0160】
実施形態23:前記基材が、ネジ、脊椎固定ケージ、ワイヤ、メッシュ、くぎ、ピン、ロッド、プレート、股関節ステム、ストーマバッグのポート部、骨固定型補聴器および歯科用インプラントアバットメントから選択される、実施形態22の足場。
【0161】
実施形態24:前記基材が、金属、セラミック、グラファイト材料またはポリマーから作製される、実施形態21~23のいずれかの足場。
【0162】
実施形態25:前記基材が、チタンおよびその合金、ジルコニウムおよびその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、コバルトクロム合金;アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、Si3N4;グラフェン、熱分解炭素;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボネート)、ポリ(エチレンテレフタレート)またはPEEKから作製される、実施形態21~24のいずれかの足場。
【0163】
実施形態26:前記基材が、チタンおよびその合金、ジルコニウムおよびその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、コバルトクロム合金、アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、熱分解炭素、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボネート)またはPEEKから作製される、実施形態21~25のいずれかの足場。
【0164】
実施形態27:前記基材が、チタンおよびその合金、ステンレス鋼、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、熱分解炭素またはPEEKから作製される、実施形態21~26のいずれかの足場。
【0165】
実施形態28:前記基材が、チタンまたはPEEKから作製される、実施形態21~27のいずれかの足場。
【0166】
実施形態29:前記複合材料が、前記基材の表面のコーティングとして存在する、実施形態21~28のいずれかの足場。
【0167】
実施形態30:前記基材が、前記複合材料に一部または完全に埋め込まれている、実施形態21~28のいずれかの足場。
【0168】
実施形態31:前記コーティングが、異なる多孔度の少なくとも2つの層を備える、実施形態29の足場。
【0169】
実施形態32:前記コーティングが、20%未満の多孔度を有する、基材に最も近い第1の層、および第1の層の上に20%超の多孔度、好ましくは50~90%の多孔度を有する第2の層を備える、実施形態31の足場。
【0170】
実施形態33:骨の成長を促進するための多孔質親水性複合材料を調製する方法であって、前記方法は、
(a)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体に前記CaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b)工程(a)の前記混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c)第3の溶媒で洗浄して工程(b)の前記ゲルから前記第1および第2の溶媒を除去し、多孔質ポリマーマトリックス中に均一に分散したナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料を残す工程
を含む、調製方法。
【0171】
実施形態34:工程(a)が、第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程を含む、実施形態29の方法。
【0172】
実施形態35:工程(b)が鋳型で行われる、実施形態29または30の方法。
【0173】
実施形態36:工程(b)および(c)が、前記第3の溶媒の浴に工程(a)の混合物をプリントする工程を含む、実施形態29または30の方法。
【0174】
実施形態37:前記第3の溶媒が、水、イソ-プロピルアルコール(IPA)、エタノールまたはメタノールである、実施形態29~32のいずれかの方法。
【0175】
実施形態38:前記第3の溶媒が、IPAまたは水である、実施形態29~33のいずれかの方法。
【0176】
実施形態39:前記第3の溶媒が水である、実施形態29~33のいずれかの方法。
【0177】
実施形態40:前記第3の溶媒が、THF、ジオキサンまたはアセトンである、実施形態29~32のいずれかの方法。
【0178】
実施形態41:前記第3の溶媒がアセトンである、実施形態29~32のいずれかの方法。
【0179】
実施形態42:親水性複合材料を調製する方法であって、前記方法は、
(a1)第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、ナノサイズリン酸カルシウム(CaP)、好ましくは第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程、
(b1)基材に工程(a1)の混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および
(c1)溶媒蒸発により工程(b1)の前記ゲルから前記第1および第2の溶媒を除去し、基材上の多孔質ポリマーマトリックス全体に分散したナノサイズCaPを含有する多孔質親水性複合材料の層を残す工程
を含む、調製方法。
【0180】
実施形態43:工程(a1)が、第1の溶媒中の生分解性ポリマーの溶液と、第2の溶媒中のナノサイズリン酸カルシウム(CaP)の分散液とを、生じた混合物全体にCaPが均一に分布するまで混合する工程を含む、実施形態42の方法。
【0181】
実施形態44:工程(c1)の後に、工程(c1)において形成した層上に工程(a)のさらなる混合物を固化させて、ゲルを形成する工程、および第3の溶媒で洗浄することにより、ゲルから前記第1および第2の溶媒を除去して、層の上部にポリマーマトリックス中に均一に分散したナノサイズCaPを含有する多孔質ポリマーマトリックスを残す工程をさらに含み、前記第3の溶媒が、好ましくは実施形態33~37のいずれかに定義されている、実施形態42または43の方法。
【0182】
実施形態45:前記第1および第2の溶媒が同一である、実施形態33~44のいずれかの方法。
【0183】
実施形態46:前記第1および第2の溶媒が、THF、ジオキサンおよびアセトンから独立して選択される、実施形態33~39または42~45のいずれかの方法。
【0184】
実施形態47:前記第1および第2の溶媒がどちらもアセトンである、実施形態33~39または42~45のいずれかの方法。
【0185】
実施形態48:前記第1および第2の溶媒が、水、イソ-プロピルアルコール(IPA)、エタノールまたはメタノールから独立して選択される、実施形態33~36または40~45のいずれかの方法。
【0186】
実施形態49:前記第1および第2の溶媒が、IPAまたは水から独立して選択される、実施形態33~36または40~45のいずれかの方法。
【0187】
実施形態50:前記第1および第2の溶媒がどちらも水である、実施形態33~36または40~45のいずれかの方法。
【0188】
実施形態51:前記CaPが、好適な溶媒中の非リン酸カルシウム塩の分散液とリン酸の水溶液とを混合することによって調製される、実施形態33~50のいずれかの方法。
【0189】
実施形態52:前記非リン酸カルシウム塩が、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムである、実施形態51の方法。
【0190】
実施形態53:前記好適な溶媒が、水、エチレングリコールまたはグリセロールである、実施形態51または52の方法。
【0191】
実施形態54:工程(b)または工程(b1)が、工程(a)の混合物を冷却する工程を含む、実施形態33~53のいずれかの方法。
【0192】
実施形態55:工程(b)または工程(b1)が、基材の少なくとも一部の表面または周囲に混合物を固化させる工程を含む、実施形態33~54のいずれかの方法。
【0193】
実施形態56:前記基材が、整形外科用インプラントおよび歯科用インプラントから選択される、実施形態55の方法。
【0194】
実施形態57:前記基材が、ネジ、脊椎固定ケージ、ワイヤ、メッシュ、くぎ、ピン、ロッド、プレート、股関節ステム、ストーマバッグのポート部、骨固定型補聴器および歯科用インプラントアバットメントから選択される、実施形態56の方法。
【0195】
実施形態58:前記基材が、金属、セラミック、グラファイト材料またはポリマーから作製される、実施形態54~57のいずれかの方法。
【0196】
実施形態59:前記基材が、チタンおよびその合金、ジルコニウムおよびその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、コバルトクロム合金;アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、Si3N4;グラフェン、熱分解炭素;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボネート)、ポリ(エチレンテレフタレート)またはPEEKから作製される、実施形態54~58のいずれかの方法。
【0197】
実施形態60:前記基材が、チタンおよびその合金、ジルコニウムおよびその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、コバルトクロム合金、アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、熱分解炭素、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボネート)またはPEEKから作製される、実施形態54~59のいずれかの方法。
【0198】
実施形態61:前記基材が、チタンおよびその合金、ステンレス鋼、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、熱分解炭素またはPEEKから作製される、実施形態54~60のいずれかの方法。
【0199】
実施形態62:前記基材が、チタンまたはPEEKから作製される、実施形態54~61のいずれかの方法。
【0200】
実施形態63:(d)生体適合性有機ポリオールを含む溶液に、前記多孔質親水性複合材料を浸漬する工程、
(e)前記溶液から前記多孔質親水性複合材料を取り出す工程、および
(f)前記多孔質親水性複合材料を乾燥する工程
をさらに含む、実施形態54~62のいずれかの方法。
【0201】
実施形態64:前記有機ポリオールが、グリセロール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、または約200~約2,000の範囲の分子量を有するポリエチレングリコールである、実施形態63の方法。
【0202】
実施形態65:前記有機ポリオールがグリセロールである、実施形態63~64の方法。
【0203】
実施形態66:前記CaPが、約180~約380m2/gの範囲の比表面積を有する、実施形態54~65のいずれかの方法。
【0204】
実施形態67:前記CaPが、約200~約350m2/gの範囲の比表面積を有する、実施形態66の方法。
【0205】
実施形態68:前記ナノサイズCaPが、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、ベータ-TCP、カルシウム欠損HA(CDHA)またはヒドロキシアパタイト(HA)である、実施形態33~62のいずれかの方法。
【0206】
実施形態69:前記CaPが、ナノ結晶である、実施形態33~63のいずれかの方法。
【0207】
実施形態70:前記ポリマーマトリックスが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGL)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、コラーゲン、ヒアルロン酸、キチンまたはキトサンを含む、またはのみからなる、実施形態33~64のいずれかの方法。
【0208】
実施形態71:前記ポリマーマトリックスが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)を含む、またはのみからなる、実施形態33~65のいずれかの方法。
【0209】
実施形態72:ポリマーに対するCaPの比が、重量基準で約1:4~約3:1である、実施形態33~66のいずれかの方法。
【0210】
実施形態73:前記CaPが、約200~約350m2/gの範囲の比表面積を有する、実施形態33~72のいずれかの方法。
【0211】
実施形態74:前記溶液が、揮発性有機溶媒中の生体適合性有機ポリオールの溶液である、実施形態63~65のいずれかの方法。
【0212】
実施形態75:前記揮発性有機溶媒がイソプロパノールまたはエタノールである、実施形態74の方法。
【0213】
実施形態76:ナノサイズCaPを調製する方法であって、前記方法は、好適な非水性溶媒中の非リン酸カルシウム塩の分散液をリン酸水溶液と混合して、アモルファスナノサイズCaPを形成する工程、および必要に応じて、前記アモルファスCaPを水に接触させて、前記アモルファスCaPをCaPの異なる形態に変換する工程を含む、調製方法。
【0214】
実施形態77:実施形態33~75のいずれかの方法により得ることができる、製造物。
【0215】
実施形態78.実施形態1~20または77のいずれかの多孔質親水性複合材料の粒子の分散液および薬学的に許容される溶媒を含む、注射可能配合物。
【0216】
実施形態79:前記薬学的に許容される溶媒が、グリセロール、注射用水、プロピレングリコールおよびPEG-12から選択される、実施形態78の注射可能配合物。
【0217】
実施形態80.ナノサイズCaPの調製方法であって、前記方法は、
好適な非水性溶媒中の非リン酸カルシウム塩の分散液をリン酸水溶液と混合して、アモルファスナノサイズCaPを形成する工程、
および必要に応じて、前記アモルファスナノサイズCaPに水を接触させて、前記アモルファスナノサイズCaPをCaPの別の形態に変換する工程
を含む、調製方法。
【0218】
実施形態81.前記非水性溶媒が、グリセロールおよびエチレングリコールから選択される、実施形態80の方法。
【0219】
本発明は、本明細書において開示されている好ましい特徴および実施形態のありとあらゆる組合せを含む。特に、複合材料のすべての好ましい特徴がまた、本発明の方法により得ることができる複合材料およびコーティングされている基材の好ましい特徴である。
【0220】
以下の実施例は、本発明の非限定的な例示である。
【実施例】
【0221】
化学物質
エチレングリコール(無水、99%)、イソプロパノール(99.5%)、グリセロール(無水、99%)、CaO、H3PO4(85%)およびポリ(カプロラクトン)80000g/mol(PCL)は、Sigma Aldrich(スウェーデン)から得た。
【0222】
分析機器
Gemini光学系を備えるZeiss FEG-SEM Sigma300をSEM分析に使用した。XRD分析に関しては、CuKα放射線(1.54Å)を用いるBruker D8機器を使用した。窒素吸着分析に、Micromeritics TriStar機器を使用した。
【0223】
[実施例1]
多孔質HA/PCL複合材料の合成
1a)HAゲルの合成
方法の概略図を
図3aおよび3bに示す。ビーカー中で、2.82gの粉末CaOを150mlのH
2Oと混合し、得られた分散液を1時間撹拌した。別のビーカー中で、3.48gのH
3PO
4(85重量%)を150mlのH
2Oと混合した。2つのビーカーの内容物を室温で混合し、得られたゲルを12時間撹拌した。次に、ゲルをグレード4のガラスフィルターでろ過し、1Lの水、続いて1Lのアセトンにより広範囲に洗浄した。生成物は、ナノサイズHA(約5g)およびアセトン(約25ml)を含有するゲルであった。
【0224】
1b)HAゲル試料の分析
工程1a)からのゲルの一部を乾燥し、XRDおよび窒素吸着を使用して分析した。XRD分析(
図1)により、試料は結晶性HAからなることが示された。この試料の比表面積は、Brunauer-Emmet-Teller(BET)法により求めると、200m
2/gであることが分かった。
【0225】
1c)発泡体の製造
工程1a)において調製したアセトン/CaPゲル(約25gの総重量を有する)をボトルに移し、75mlのアセトンを加えた(約100mlの全アセトン体積にした)。得られた混合物を12時間、撹拌した。別のボトル中で、10gのPCLを80mlのアセトンと混合し、このボトルを、撹拌下、42℃まで12時間加熱し、PCLを溶解した。次に、PCL/アセトン混合物をアセトン/CaPゲル混合物に加え、42℃で約1時間撹拌した。次に、混合物を室温まで冷却しながら、撹拌を継続した。次に、約5分おきに振とうしながら、上記のボトルを4~5℃の冷蔵庫に1時間入れた。得られたHA/アセトン/PCLゲルをガラスフィルターに入れて、これを4℃に冷却した。ガラスフィルターにHA/アセトン/PCLゲルを注ぎ入れると、混合物はただちに固化し、固体のHA/アセトン/PCL発泡体が生じた。約60分間かけて発泡体を4℃で完全に固化させた後、発泡体およびガラスフィルターを室温でブフナーフラスコに入れた。この発泡体を1Lの水、次いで、1Lのイソプロパノールで洗浄した。得られた固体発泡体を12時間、35℃で乾燥し、PCL/HA複合材料を得た。
【0226】
1d)発泡体の分析
工程1c)において製造した発泡体の試料を金でスパッタリングし、SEMを使用して分析した。代表的な画像を、
図10に示す。この画像から分かる通り、発泡体の細孔の大きさは、0.25~10μmの間にある。HAの大きな凝集体は見られず、HA結晶がポリマーマトリックス中に均一に分散していることも分かる。
【0227】
発泡体の一部を窒素吸着(BET)でも分析した。発泡体の分析により、比表面積は22.0m2/gと判明した。比較として、純粋なPLC発泡体も合成した。これは、CaP/アセトンをなんら添加せず、総量で160mlのアセトン(他にアセトン/CaPゲルに由来する余分な量を補うために、80mlのアセトンを追加した)を使用して、工程1c)に記載されている手順を使用して行った。純粋なPCL発泡体は、6.2m2/gの比表面積を有していた。
【0228】
実施例1dに従って調製した純粋な多孔質PCL発泡体および実施例1cに従って調製した複合材料をトルイジンブルーに浸漬させた。複合材料の親水性が高いほど、トルイジンブルーが構造体の内部に浸潤する程度が高い。
図4は、この試験の結果を示しており、
図4aは、発泡体の外側を示し、
図4bは、浸漬後の実施例1dの発泡体の内側を示し、
図4cおよび4dは、それぞれ浸漬後の実施例1cの複合材料の外側および内側を示す。
図4aおよび4bと
図4cおよび4dとの比較から分かる通り、本発明の複合材料は、純粋なPLC発泡体よりも親水性が高かった。
【0229】
[実施例2]
エチレングリコールを使用した多孔質ACP/PCL複合材料の合成
2a)ACPゲルの合成
ビーカー中で、135gのエチレングリコールおよび2.82gのCaOを、15mlのH2Oと混合した。別のビーカー中で、135gのエチレングリコールおよび3.48gのH3PO4を、15mlのH2Oと混合した。各ビーカーの内容物を個別に30分間撹拌した。次に、2つのビーカーの内容物を室温で混合し、得られたゲルを24時間撹拌した。ゲルをグレード4のガラスフィルター中でろ過し、2Lのイソプロパノール、続いて1Lのアセトンにより徹底的に洗浄した。生成物は、ナノサイズACP(約5g)およびアセトン(約25ml)を含有するゲルであった。
【0230】
2b)ゲル試料の分析
工程2a)において製造したゲルの試料を乾燥し、XRDおよび窒素吸着(BET)を用いて分析した。XRDの結果により、アモルファスリン酸カルシウムが得られたことが分かった(
図2)。比表面積は、BET法により求めると、315m
2/gであった。
【0231】
2c)発泡体の製造
工程2a)において調製したアセトン/CaPゲルをボトルに移し、75mlのアセトンを加えた。得られた混合物を12時間撹拌した。別のボトル中で、10gのPCLを80mlのアセトンと混合し、このボトルを、撹拌下、42℃まで12時間加熱し、PCLを溶解させた。次に、PCL/アセトン混合物をアセトン/CaPゲル混合物に移し、42℃で約1時間撹拌した。次に、混合物を室温まで冷却しながら、撹拌を継続した。次に、これを、約5分おきに振とうしながら、4~5℃の冷蔵庫に1時間入れた。得られたACP/アセトン/PCLゲルをガラスフィルターに入れて、これを4℃に冷却した。ガラスフィルターにACP/アセトン/PCLゲルを注ぎ入れると、混合物はただちに固化し、固体のACP/アセトン/PCL発泡体が生じた。約60分間かけて発泡体を4℃で完全に固化させた後、発泡体およびガラスフィルターを室温でブフナーフラスコに入れた。この発泡体を1Lのメタノール、次いで、1Lのイソプロパノールで洗浄した。得られた固体発泡体を35℃で12時間乾燥した。
【0232】
[実施例3]
エチレングリコールを使用した多孔質HA/PCL複合材料の合成
3a)HAの合成
ビーカー中で、135gのエチレングリコールおよび2.82gのCaOを、15mlのH2Oと混合した。別のビーカー中で、135gのエチレングリコールおよび3.48gのH3PO4を、15mlのH2Oと混合した。ビーカーの内容物を個別に、30分間撹拌した。次に、2つのビーカーの内容物を室温で混合した。1000mlの水を混合物に注ぎ入れた。この混合物を3日間撹拌し、得られたゲル物質をグレード4のガラスフィルター中でろ過して、2Lのアセトンで徹底的に洗浄した。生成物は、ナノサイズHA(約5g)およびアセトン(約25ml)を含有するゲルであった。
【0233】
3b)ゲル試料の分析
工程3aにおいて製造したゲルの試料を乾燥し、XRDおよび窒素吸着(BET)を用いて分析した。XRDの結果により、ナノサイズのヒドロキシアパタイトが得られたことが分かった。比表面積は、BET法により計算すると、320m2/gであった。
【0234】
3c)発泡体の製造
工程3a)において製造した混合物を、実施例2工程c)に従って処理し、発泡体を製造した。
【0235】
[実施例4]
グリセロールを使用した多孔質ACP/PCL複合材料の合成
この複合材料は、エチレングリコールをグリセロールに置き換えて、実施例2に記載されている通りに製造した。ACP粉末の比表面積を測定したところ、318m2/gであった。
【0236】
[実施例5]
ガラス表面でのHA/PCLコーティングの製造
CaP/アセトン/PCL混合物を実施例1a~1cに従って調製したが、CaP/アセトン/PCL混合物を4℃まで冷却する代わりに、混合物を42℃に維持した。顕微鏡観察に使用するスライドガラス(O.Kindler GmbH、26x76mm)を混合物に浸漬して取り出した。次に、アセトンをスライドから蒸発させると、スライドの表面に薄く均一なCaP/PCLフィルムが得られた。
【0237】
ガラス表面に対するCaP/PCLフィルムの接着強度は、Scotch(登録商標)テープ(810、3M)を使用したScotch(登録商標)テープ試験により評価した。この試験は、CaP/PCLをコーティングした顕微鏡用スライドにScotch(登録商標)テープを置き、次いで、約30秒間荷重(1kg)をかけ、その後テープを取り外し、テープ上およびスライドガラス上に存在するCaP/PCLフィルムの量を目視検査によって定性的に評価した。その結果、CaP/PCLフィルムは、Scotch(登録商標)テープ試験によって大きな影響を受けなかった、すなわちCaP/PCLフィルムは、基材に十分に接着した。
【0238】
[実施例6]
PEEK脊椎ケージインプラントにおけるHA/PCL複合材料のインシチュ形成
CaP/アセトン/PCL混合物を実施例1a~1cに従って調製したが、CaP/アセトン/PCL混合物を4℃まで冷却する代わりに、混合物を42℃に維持した。PEEKケージ(
図5aに図示)を、PEEKケージと同じ内部チャネル(溝)の形状に成形された挿入部(インサート)を有し、さらにその鋳型とPEEKケージのチャネル(溝)の間に2mmの隙間が設けられたTeflon製鋳型に入れた。Teflon製鋳型およびPEEKケージを4℃まで冷却した。CaP/アセトン/PCL混合物を、ケージと鋳型との間の隙間に注ぎ入れて、混合物を60分間かけて固化させた。ケージおよび鋳型を60分間水中に入れ、鋳型を慎重に取り出し、PEEKケージの内側チャネル表面に複合材料の薄層を残した(
図5bに図示)。PEEKケージにイソプロパノールを勢いよく流し、室温で乾燥させた。
【0239】
[実施例7]
チタン格子におけるCaP/PCL複合材料のインシチュ形成
4℃に予め冷却した、トラス長2.5mmの多孔質チタン基材を、CaP/アセトン/PCLの混合物(実施例1a~1cの通り調製したが、CaP/アセトン/PCL混合物を4℃まで冷却する代わりに、この混合物を42℃に維持した)中に完全に浸漬し、次いで、固化を誘発するため4℃に置いた。約60分後、構造体の周囲の余分なCaP/アセトン/PCL発泡体を取り除いた。100mlの水を含むビーカー中で、基材を10分間浸漬することによってアセトンを置き換え、次いで、100mlのイソプロパノールを含むビーカー中に10分間浸漬し、その後に室温で乾燥した。得られた生成物は、チタン構造体に浸透してチタン基材中の細孔を充填したCaP/PCL発泡体を備える多孔質構造体であった(
図6aおよび6bを参照されたい)。
【0240】
この手順を様々なチタン多孔質構造体に試験し、次にこれらの試料をアリザリンレッドの1重量%溶液に浸漬し、これによってカルシウムを選択的に染色した。次に、試料を水中で洗浄し、余分なアリザリンレッドを取り除いた。
図6cに示す通り、構造体が赤色で完全に染色され、これによって、リン酸カルシウムがポリマーマトリックス中に均等に分布していることが分かる。
【0241】
[実施例8]
インプラントネジ表面にコーティングを製造するためのCaP/PCL複合材料のインシチュ形成
CaP/アセトン/PCL混合物を実施例1a~1cに従って調製したが、CaP/アセトン/PCL混合物を4℃まで冷却する代わりに、混合物を42℃に維持した。脊椎固定術用の椎弓根ネジを混合物に浸漬し、次に、10分間水中に入れ、これによって、CaP/PCL発泡体の薄いコーティングが生成した。次に、このネジをイソプロパノール中に10分間入れ、室温で乾燥させた。このネジの画像を
図7に示す。
【0242】
[実施例9]
ウサギの頭蓋冠における多孔質HA/PCL複合材料のインプラント
HA/PCL発泡体を実施例1に記載した通りに調製した。適切な器具を使用して、直径5mmおよび高さ6mmの円筒形プラグを発泡体から型抜きした。プラグをE-ビーム放射線(5KGy)を使用して滅菌した。ウサギの頭蓋冠に6mmの直径の穴を空けた。次に、滅菌済み発泡体プラグを穴のいくつかにインプラントした一方、一部を、HA/PCL発泡体複合材料の骨形成を誘導する能力を評価するため、対照(シャム)として埋め込まないままにした。インプラントを含む穴およびインプラントを含まない穴を6週間修復させた。次に、動物を安楽死させて、領域をマイクロCTにより画像化した。続いて、試料を組織学的形態計測のために処理した。
【0243】
図8は、対照シャムのマイクロCT画像(画像a)、および挿入した発泡体プラグを有した穴のマイクロCT画像(画像b)を示す。画像bから分かる通り、この複合材料は、新しい骨と共に完全な成長が遂げられた一方、シャムは、新しい骨の成長をほとんどまたは全く示さなかった。これにより、本発明の多孔質複合材料は、大きすぎるために自然の修復が難しい欠損において、骨の成長を促すことできることが示された。
【0244】
図9は、
図8bにおける試料の組織学スライドを示す。このスライドにより、この複合材料は、新しい骨の薄層を伴って成長が遂げられたことが確認される。新しい骨の形成は、複合材料の底面にも観察された。複合材料の縁部に沿って不規則な形状があることは、この複合材料は、インプラント期間の間に部分的に生分解したことを示している。
【0245】
[実施例10]
複合材料における規則的に分布した細孔の形成
発泡体を実施例1cに従って製造した。316ステンレス鋼から作製された、直径0.9mm、長さ30mm、およびピン同士の間に5mmの間隔が設けられた、規則的に配置されたピンを有するピンアレイを、
図11に示す通り、水での洗浄手順後に発泡体(15g)に入れた。次に、発泡体をイソプロパノールで洗浄し、ピンアレイを取り除き、発泡体を35℃で12時間乾燥させた。その結果、それぞれが、直径0.9mmを有する、規則的に配置した円筒形チャネルを有する発泡体複合材料が得られた。
【0246】
[実施例11]
1,2,3-プロパントリオール(グリセロール)を使用した複合材料の親水性の改善
一群の発泡体を実施例1cに従って製造した。イソプロパノール中の0.5重量%のグリセロールの混合物を調製した。約1gの発泡体を50mLグリセロール/イソプロパノール混合物中に30分間浸漬した。次に、この発泡体片を溶液から取り出し、35℃で12時間乾燥した。次に、発泡体片を、1重量%のアゾルビン色素のタイプ1水溶液に30分間浸漬し、その後、発泡体の断面の写真を撮影した(
図12b)。グリセロール/イソプロパノール処理をなんら行わずに、実施例1cに従って合成した第2の発泡体片も赤色色素に30分間浸漬し、その後、発泡体の断面の写真を撮影した(
図12a)。未処理発泡体片の内側部分には、色素は届かなかった(
図12aにおける白色領域)。グリセロール/イソプロパノール処理した発泡体片の場合、色素は、全発泡体片を完全に湿潤し(
図12b)、グリセロール処理により、親水性が増大し、その結果、色素による発泡体の濡れ性が増大したことが示される。
【0247】
[実施例12]
種々のCaP/PCL比を有するHA/PCL複合材料の製造
実施例1cにおいて記載されている33.3:66.7のCaP/PCL重量比に加え、CaP/PCF重量比を変更させて、実施例1cに従って一群の発泡体を製造した。種々の複合材料の特性の定性的説明は、以下の通りである:
【0248】
0CaP/100PCL:可撓性かつ軟質な発泡体を形成し、これは、容易に変形し、疎水性であった。多孔度は、約90%であった。
【0249】
10CaP/90PCL:0CaP/100PCLと類似の特性を有した。疎水性。
【0250】
20CaP/80PCL:軟質かつ可撓性。容易に変形。親水性。多孔度は85~90%であった。
【0251】
33.3CaP/66.7PCL:軟質および可撓性で、20CaP/80PCLよりも硬質。親水性。
【0252】
50CaP/50PCL:硬質で、いくぶん脆かった。非常に親水性。複合材料を外科用メスを用いて顆粒に分割し、水と混合して、成形可能なボリュームのあるパテを形成した。多孔度は、約80%であった。
【0253】
75CaP/25PCL:極めて硬質で、脆かった。60~70%の多孔度を有する、密な構造体を形成した。非常に親水性。この複合材料を乳鉢中で顆粒に砕き、次に、この顆粒を50重量%のグリセロールと混合し、注射可能なペーストを形成した。
【国際調査報告】