(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】有機化合物の選択的接触水素化方法ならびに該方法の電極および電気化学セル
(51)【国際特許分類】
C25B 11/075 20210101AFI20240801BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240801BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240801BHJP
C25B 3/25 20210101ALI20240801BHJP
C25B 3/05 20210101ALI20240801BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240801BHJP
B01J 27/043 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C25B11/075
C25B11/054
C25B11/081
C25B3/25
C25B3/05
C25B9/00 G
B01J27/043 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502556
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022071292
(87)【国際公開番号】W WO2023006930
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】102021119761.9
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】511110717
【氏名又は名称】ルーア-ウニヴェアズィテート ボーフム
【氏名又は名称原語表記】Ruhr-Universitaet Bochum
【住所又は居所原語表記】Universitaetsstrasse 150, 44801 Bochum, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ジークムント
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ-ペーター アプフェル
(72)【発明者】
【氏名】カイ ユンゲ プアリング
(72)【発明者】
【氏名】ケビンジョルジオス ペルンビ
(72)【発明者】
【氏名】ユリアン トビアス クラインハウス
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169BC31B
4G169BC62B
4G169BC66B
4G169BC68B
4G169BD08A
4G169BD08B
4G169BD09A
4G169BD09B
4K011AA11
4K011AA51
4K011AA66
4K011BA09
4K011DA10
4K021DB18
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
本出願は、電気化学セルにおける有機化合物の電極触媒水素化の方法であって、還元可能な有機化合物が、液体形態または少なくとも部分的に溶解した形態で存在し、還元可能な有機化合物をカソードで水素化させる方法に関する。ここで、カソードは、硫化物、セレン化物およびテルル化物から選択される遷移金属カルコゲナイドを触媒として含む。本出願はさらに、担体材料とその上に配置された触媒層とを備えた電極、該電極を備えた電気化学セル、および有機化合物の電気化学的水素化のための遷移金属カルコゲナイド触媒の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード、アノードおよび電解質を含む電気化学セルにおける有機化合物の電極触媒水素化の方法であって、還元可能な有機化合物が、液体形態または少なくとも部分的に溶解した形態で存在し、前記還元可能な有機化合物を前記カソードで水素化され、前記カソードが、触媒として遷移金属カルコゲナイドを含むかまたはそれからなり、前記遷移金属カルコゲナイドが、硫化物、セレン化物およびテルル化物から選択される、方法。
【請求項2】
前記還元可能な有機化合物が、少なくとも1つの多重結合を有し、特に少なくとも1つのC-C多重結合、C-O二重結合、C-N多重結合、NO
2基もしくはN-N多重結合を含み、かつ/または芳香族化合物もしくは複素芳香族化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記還元可能な有機化合物が、還元可能な少なくとも2つの異なる官能基を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記遷移金属カルコゲナイドが、実質的に分子式MX、MX
2、M
2X
3、M
2X
4、M
3X
4、M
9X
8またはM’’
6M
kX
mX’
nに対応し、ここで、
Mは、第4周期、第5周期または第6周期の遷移金属から選択される1つ以上の金属を表し、
M’’は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択され、
Xは、S、SeおよびTeを表し、
X’は、ハロゲン化物を表し、
k、mおよびnは、10進数を表し、24≦k≦25、26≦m≦28および0≦n≦1である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記遷移金属カルコゲナイドが、実質的に分子式M
2X
4、M
9X
8またはM’’
6M
kX
mX’
nに対応し、Mは、第4族~第10族の第4周期の遷移金属から選択され、特にFe、CoおよびNiの金属のうち1つ、2つもしくは3つを表すか、または前記金属の少なくとも1つもしくは複数を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属カルコゲナイドが、式M
9X
8に対応し、少なくとも部分的にペントランダイト構造で結晶化しており、特に式Fe
9-a-b-cNi
aCo
bM’
cS
8-dSe
dの化合物であり、ここで、
- M’は、第4周期、第5周期または第6周期の遷移金属であり、特に、Ag、Cu、Zn、Cr、Nbからなる群の1つ以上の金属から選択され、
- aは、0~7、特に1~6の数であり、
- bは、0~9、特に0~8の数であり、
- cは、0~2、特に0~1の数であり、
- dは、0~6、特に0~4の数であり、
- ここで、a+b+cの合計は、0~9、特に3~7の数である、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属カルコゲナイドが、Fe
9-a-b-cNi
aCo
bM’
cS
8-dSe
dに対応し、前記化合物は、3つの元素Fe、NiおよびCoのうち実質的に2つのみを含み、さらに、実質的に金属M’が含まれていない、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記電極触媒水素化を、バッチモードまたは連続フローモードで実施する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
印加電流密度が10mA・cm
-2より大きく、特に100mA・cm
-2より大きい、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
特に請求項1から9までのいずれか1項記載の方法による電気化学セルにおける有機化合物の電極触媒水素化のための電極であって、前記電極は、担体材料と、前記担体材料の表面の少なくとも一部に配置された触媒層とを備え、前記触媒層は、高分子バインダーと、触媒としての遷移金属カルコゲナイドとを含むかまたはこれらの成分からなり、前記遷移金属カルコゲナイドは、硫化物、セレン化物およびテルル化物から選択される、電極。
【請求項11】
前記触媒層が多孔質であるか、または前記担体材料が少なくとも部分的に多孔質材料から形成されており、前記触媒層が、コーティングとして少なくとも部分的に前記多孔質担体材料の内面にも配置されている、請求項10記載の電極。
【請求項12】
前記高分子バインダーが、ポリオレフィン、フッ素化ポリオレフィン、ポリオレフィンおよび/またはフッ素化ポリオレフィンのコポリマー、ならびにポリオレフィンおよび/またはフッ素化ポリオレフィンを含むポリマーブレンドから選択され、前記ポリオレフィンおよびフッ素化ポリオレフィンが、特にPE、PP、PVDF、FEPおよびPTFEからなる群から選択される、請求項10または11記載の電極。
【請求項13】
前記触媒層中の前記バインダーの割合が、1~90重量%、特に5~80重量%、例えば10~25重量%である、請求項10から12までのいずれか1項記載の電極。
【請求項14】
前記触媒層が、前記遷移金属カルコゲナイド、任意にバインダーおよび少なくとも1つの添加剤を含むか、またはそれらからなり、前記少なくとも1つの添加剤は、導電性を高めるための物質、イオン伝導性を高めるための物質、熱伝導性を高めるための物質、耐食性を高めるための物質、疎水性を高めるための物質、および水素化される前記有機化合物の吸着性を向上させるための物質から選択される、請求項10から13までのいずれか1項記載の電極。
【請求項15】
前記触媒層において、触媒担持量が0.1~500mg・cm
-2、特に1~250mg・cm
-2、例えば2~10mg・cm
-2である、請求項10から14までのいずれか1項記載の電極。
【請求項16】
前記遷移金属カルコゲナイドが、実質的に分子式MX、MX
2、M
2X
3、M
2X
4、M
3X
4、M
9X
8、M’’
6M
kX
mX’
nに対応し、ここで、
Mは、第4周期、第5周期または第6周期の遷移金属から選択される1つ以上の金属を表し、
M’’は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択され、
Xは、S、SeおよびTeを表し、
X’は、ハロゲン化物を表し、
k、mおよびnは、10進数を表し、24≦k≦25、26≦m≦28および0≦n≦1である、請求項10から15までのいずれか1項記載の電極。
【請求項17】
前記遷移金属カルコゲナイドが、実質的に分子式M
2X
4、M
9X
8またはM’’
6M
kX
mX’
nに対応し、Mは、第4族~第10族の第4周期の遷移金属から選択され、特にFe、CoおよびNiの金属のうち1つ、2つもしくは3つを表すか、または前記金属の少なくとも1つもしくは複数を含む、請求項16記載の電極。
【請求項18】
前記遷移金属カルコゲナイドが、式M
9X
8に対応し、少なくとも部分的にペントランダイト構造で結晶化しており、特に式Fe
9-a-b-cNi
aCo
bM’
cS
8-dSe
dの化合物であり、ここで、
- M’は、第4周期、第5周期または第6周期の遷移金属であり、特に、Ag、Cu、Zn、Cr、Nbからなる群の1つ以上の金属から選択され、
- aは、0~7、特に1~6の数であり、
- bは、0~9、特に0~8の数であり、
- cは、0~2、特に0~1の数であり、
- dは、0~6、特に0~4の数であり、
- ここで、a+b+cの合計は、0~9、特に3~7の数である、請求項16または17記載の電極。
【請求項19】
前記担体材料が、金属、炭素、セラミック材料、ポリマーおよび複合材料から選択される、請求項10から18までのいずれか1項記載の電極。
【請求項20】
前記担体材料が、面状に形成されており、織物層、フェルト、メッシュ、膜および箔から選択される、請求項10から19までのいずれか1項記載の電極。
【請求項21】
前記触媒層が、少なくとも0.2cm
2、特に少なくとも1cm
2、好ましくは1cm
2~4m
2の外面積を有する、請求項10から20までのいずれか1項記載の電極。
【請求項22】
有機化合物の電極触媒水素化の電気化学セルであって、前記電気化学セルは、リアクタを備えており、前記リアクタ内には、カソード、アノードおよび電解質が含まれており、前記リアクタ内には、還元可能な有機化合物が、液体形態または少なくとも部分的に溶解した形態で存在し、前記還元可能な有機化合物は、前記カソードで水素化され、前記カソードは、触媒として遷移金属カルコゲナイドを含むかまたはそれからなり、前記遷移金属カルコゲナイドは、硫化物、セレン化物およびテルル化物から選択され、特に請求項9から19までのいずれか1項記載の電極であり、前記電気化学セルは、ガスが発生されるようには設計されていない、電気化学セル。
【請求項23】
有機化合物の電極触媒水素化の触媒としての、遷移金属カルコゲナイド、特に、実質的に分子式MX、MX
2、M
2X
3、M
2X
4、M
3X
4、M
9X
8またはM’’
6M
kX
lX’
mに対応する化合物から選択される遷移金属カルコゲナイド、例えばペントランダイトの使用であって、ここで、
Mは、第4周期、第5周期または第6周期の遷移金属から選択される1つ以上の金属を表し、
M’’は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択され、
Xは、S、SeおよびTeを表し、
X’は、ハロゲン化物を表し、
k、mおよびnは、10進数を表し、24≦k≦25、26≦m≦28および0≦n≦1である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、触媒活性層として遷移金属カルコゲナイド、実質的には硫化物、セレン化物および/またはテルル化物を有する電極を用いた有機化学化合物の電極触媒水素化方法に関する。本出願はまた、電極触媒水素化のための電極、および前述の反応を実施するための電気化学セルに関する。使用される触媒の組成は、広範囲にわたって変化させ、調整することができるため、該触媒を使用して、還元可能な複数の化合物および水素化可能な様々な官能基に関して選択性を高めることができる。本出願による電極触媒水素化は、原理的には、あらゆる化学合成、例えば不飽和有機化合物の水素化に使用することができる。これには特に、ファインケミカルの合成、食品工業における脂肪硬化における植物油の水素化、バイオマスの有価化、対応する保護基の水素化分解、液体有機水素キャリア(LOHC)の形態での水素の貯蔵が含まれる。
【0002】
先行技術によれば、有機化合物の水素化は、以下の方法を用いて実施することができる:化学量論的水素化物キャリアによる有機化合物の水素化、熱的不均一系または均一系触媒プロセスでの水素化、および電極触媒水素化反応である。
【0003】
化学量論的水素化物キャリアを用いたこの種の水素化は、特に小規模バッチプロセスや実験室規模でのC-O多重結合の還元に使用され、得られる化学量論的廃棄物の分離を必要とする。これらの廃棄物は、環境上の懸念を引き起こす可能性がある(例えば、シアノホウ素化合物)。
【0004】
適切な触媒の存在下での単体水素を用いた熱的接触水素化には、上流で水素を発生させる必要があるという固有の欠点がある。さらに、多くの水素化反応は、十分な転化率を確保するために高温高圧で行わなければならない。これは、追加的なエネルギー投入を意味するだけでなく、プロセスの安全性に対する要求の増大をも招く。均一系触媒反応に適した触媒は、多くの場合、Pt、Pd、Ru、IrまたはRhをベースとする高価な遷移金属錯体のみである。とはいえ、より複雑な系の選択的水素化、例えば不斉水素化には、通常、貴金属触媒を用いた熱的接触水素化を用いなければならない。不均一系触媒反応でも、しばしば貴金属が使用される。貴金属を含まない触媒は、Niのような微分散した微粒子遷移金属をベースにしている。しかし、貴金属とは対照的に、十分な水素化度を達成するためには、より高いプロセス圧力と、場合によってはより高い温度が必要となる。これらの系の欠点の1つは、多価不飽和化合物の水素化における選択性が著しく制限されることである。さらに、不均一系触媒は、しばしば触媒毒の影響を受けやすい。その結果、潜在的に水素化可能な基質が限定されてしまう。
【0005】
比較的新しいタイプの水素化の1つに、電極触媒反応がある。ステンレス鋼上のラネーNiをベースとする電極を用いた不飽和有機基質の電極触媒水素化が知られている(米国特許出願公開第2014110268号明細書)。また、多孔質カーボン基材上の金属粒子を用いた電極触媒による転化も記載されている(米国特許出願公開第2015008139号明細書)。触媒毒に対する耐性が低く、コストが高く、その回収には環境上の懸念が伴う(貴金属)触媒の使用は、やはり不利である。米国特許出願公開第20190276941号明細書には、銅電極上でのアルキンからアルケンへの選択的水素化が開示されている。電子が少ないアルキンのような困難な基質に触媒側を適応させることは、ここでは不可能である。
【0006】
貴金属系触媒やラネーNiへの注目に加えて、電極触媒反応プロセスの大きな欠点は、達成可能な水素化度での(特に複数の官能基が存在する場合や多重結合の水素化の場合の)汎用性が限定的であることと、やはり触媒毒の影響を受けやすいことである。
【0007】
貴金属を含まない電極触媒反応系は、電極触媒反応による水分解でも知られている。国際公開第2020/169806号には、電解によるH2生成のための電極触媒としてのペントランダイトの使用が記載されている。
【0008】
本発明は、先行技術の欠点を克服することができる有機化合物の電極触媒水素化方法を提供するという課題に基づく。特に、使用される電極触媒は、高い選択性を有し、複雑な有機基質に適応可能であり、最大限のエネルギー効率で作動し、可能な限り高い収率を提供し、かつ/または可能な限り貴金属を含まないものであることが望ましく、さらに、該電極触媒から製造可能な電極により、可能な限り高い電流密度を実現できるようにすることも目的としている。
【0009】
これらの課題の少なくとも1つは、独立請求項に記載の方法、電極および電気化学セルによって解決される。従属請求項ならびに発明の詳細な説明および実施例は、有利な発展形態を教示する。
【0010】
本出願による有機化合物の電極触媒水素化方法は、使用される電極が、電極触媒として遷移金属カルコゲナイドを含むかまたはそれからなることを特徴とし、ここで、遷移金属カルコゲナイドは、硫化物、セレン化物またはテルル化物(または例えばスルホセレン化物などの前記カルコゲナイドの2種または3種の混合物)である。接触水素化に使用される電極(特にカソード)は、この遷移金属カルコゲナイドを触媒として含むかまたはそれからなる。ここで、水素化は、還元される(特に水素化される)有機化合物が、電気化学セル(カソードとアノードに加えて液体および/または固体電解質を有する)内でカソードにて還元されるように行われる。水素化は、連続的に(特にフローセルで)行うことも、非連続的に(バッチセルで)行うこともできる。
【0011】
本出願によれば、還元可能な有機化合物とは、特に、少なくとも1つの芳香族または複素芳香族構造単位、ただし特に少なくとも1つの多重結合を有する有機化合物を意味すると理解される。ここでは特に、C-C多重結合、芳香族化合物、複素環、C-O多重結合、C-N多重結合、NO2基およびN-N多重結合、または上述の基/結合の2つ以上を有する化合物の組み合わせが挙げられる。ここで、二重結合と三重結合の双方が該当し、低分子物質と高分子の双方が適している。ここで、還元される有機化合物は、液体であることも、少なくとも部分的に溶媒中に溶解した状態で存在することも、またどちらの場合にも部分的に固体として存在することもでき(ただし、少なくとも一部が溶液になったか液体であることが保証されるものとする)、特に、ガス状化合物が少なくとも部分的に溶解状態で存在する場合には、ガス状化合物の還元も原理的には考えられる。ここでは、室温での凝集状態が基準となる。本出願によれば、電極触媒による還元自体は、通常は-78~100℃の温度で行われる。H2が必ず存在する水素化反応とは異なり、本発明による水素化反応は、通常は吸熱性であり、現時点での見解によれば、触媒表面に存在する原子状水素が水素化剤の役割を果たすため、温度の上限に関しては基本的に制限がない。したがって、示された100℃という上限温度は、より経済的な理由によるものである。多くの場合、温度は0℃~100℃であり、20℃~80℃であることが多い。さらに、これとは関係なく、反応は、通常は常圧で行われる。還元された有機化合物も、通常は前述の凝集状態で、したがって特に溶解物質または液体として存在する(しかし、還元された化合物が固体として溶媒から析出することも原理的には可能であり、このことは、特別な場合には、触媒の選択に加えて溶媒または溶媒混合物を選択することによって、還元を特定の生成物側にシフトさせる役割を果たすことができる)。前述のパラメーターに関係なく、本発明による方法では、特に少なくとも10mA・cm-2、特に100mA・cm-2を超える電流密度を達成することができる。特にコーティングされた電極を用いれば、1A・cm-2までの電流密度を実現することも可能であり、適切な電極を用いれば2A・cm-2までの電流密度も可能である。高い電流密度は、経済的な観点から(したがって、特に工業プロセスにとって)非常に重要である。
【0012】
触媒として使用される遷移金属硫化物、遷移金属セレン化物および遷移金属テルル化物が、有機化合物を選択的に還元または水素化させる特性を有することが、今般、本発明により確立された。ここで、触媒活性は、特にカルコゲナイドの存在に基づくものであり、金属(カチオン)には二次的にしか依存しない。特に、触媒およびその選択性に関するバリエーションが幅広く、使用される遷移金属カルコゲナイドに応じて、還元可能な複数の基を有する分子のいずれの官能基が接触水素化時に還元されるか、また三重結合の水素化時にいずれの配置異性体が得られるかに影響を与えることが可能であることが判明した。当然のことながら、本発明によるカルコゲナイドは、カルコゲンがアニオンとして存在し、遷移金属がカチオンとして存在する塩のような化合物であると理解される。これらのカルコゲナイドの製造経路は、典型的には、元素の粉末の混合物から、または元素および金属カルコゲナイドの粉末から(後者は、例えば特定の化学量論を設定するために)行われ、さらに、典型的には、実質的に一貫したカルコゲナイド構造を有するカルコゲナイドが、当該方法および代替的な方法において存在し、換言すれば、カルコゲナイドは、実質的に化学量論的なカルコゲナイドとして存在し、ここで、実質的にとは、以下の2つの段落で示される範囲において、ある程度の非化学量論も存在し得ることを意味する。しかし、例外的な場合には、触媒プロセスに関与する触媒粒子の表面のみが、例えば単体金属粒子とカルコゲンとの反応によって得られた硫化物、セレン化物および/またはテルル化物の層を有する製造方法を実施することもできる。したがって、本出願によるカルコゲナイドを用いて、所望の生成物を形成するためのプロセス最適化を行うことができる。さらに、前述の触媒を用いて、高いファラデー効率を達成できることが判明した。よく知られた水素化方法とは対照的に、化学量論的還元試薬の使用は必要なく、廃棄物は避けられる。また、ガス状水素の供給も同様に省くことができ、活性還元は、H2生成の中間段階を経ることなく、触媒表面で直接行われる。このために必要なプロトンは、特にプロトン性溶媒によって供給することも、アノードハーフセルを経由し、そこで進行する酸化プロセスによりプロトンが形成され、ハーフセル間に配置された膜および/または固体電解質を通じてカソードハーフセルに供給することもできる。先行技術による、特に(これまで、最も活性の高い水素化反応触媒に属する)貴金属触媒であるパラジウム、白金またはルテニウムを用いた熱および電極触媒による水素化とは異なり、本出願による触媒は、明らかにコスト効率が高く、より持続性が高く、さらに(電極触媒反応において)同様に高い活性を示す。本発明による系を用いることで、純度の低い有機化合物を水素化させることも、含硫有機化合物の水素化を実施することもできる。これはまた、貴金属触媒や他の典型的な水素化触媒(例えばH2Sなど)の既知の触媒毒が、本発明により使用される触媒の場合には問題とならないことにも起因するものと見なすことができる。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、電極触媒水素化の遷移金属カルコゲナイドは、実質的に分子式MX、MX2、M2X3、M2X4、M3X4、M9X8またはM’’6MkXlX’mに対応する化合物から選択される。ここで、Mは、第4周期、第5周期または第6周期の遷移金属から選択され、ここで、上記で説明した理由から、第4周期の金属が好ましく、特に第4族~第10族の第4周期の金属が好ましく、従属的に、これらは貴金属ではない第5周期または第6周期の金属でもある。コスト上の理由だけでも、疑念がある場合には第4周期の金属を優先すべきである。Mは、前述の複数の金属の混合物であってもよい。多くの場合、金属Mは、Fe、Coおよび/またはNiであるか、または少なくともこれらの金属の1つ以上を含む。金属M’’は、典型元素金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、また、M’’は、複数の典型元素金属の混合物を表すこともできる。Xは、S、SeまたはTe、ならびに前述のカルコゲナイドの混合物を表し、X’は、ハロゲン化物を表し、ここで、化合物クラスM’’6MkXmX’nにおいて、k、mおよびnは、10進数を表し、24≦k≦25および26≦m≦28および0≦n≦1である。前述のカルコゲナイドのうち、硫化物およびスルホセレン化物は、毒性上の理由だけで好まれることが多い。上記および以下の一般性を制限することなく、特に、結晶構造中の遷移金属が2つの異なる酸化状態を占めることができ、かつ/またはカルコゲナイドXが、例えばX2
2-が存在する場合のように専ら電荷をX2-と見なすことができない遷移金属カルコゲナイドの使用は、本出願人の現時点での観点からは特に有利であると思われる。これは特に、ペントランダイト、スピネル構造またはスピネル様構造を有するカルコゲナイド、およびより少ない程度ではあるが、カルコゲナイドであって、その構造がX2
2-イオンを有するもの、例えばパイライト構造またはパイライト様構造を有するカルコゲナイドにも当てはまる。このような構造は、触媒表面に原子状水素を配位させるのに有利であると考えられる。一方で、分子式MXまたはMX2の化合物は、一般的に電気化学的条件下での安定性がやや低いため、従属的にしか選択されない。したがって、原則的に、式M2X4、M9X8またはM’’6MkXlX’mのカルコゲナイドが特に適していることが判明し、これは特に、Mが、第4族~第10族の第4周期の金属であり、ここでも特にFe、Coおよび/またはNiであるか、または少なくともこれらの金属の1つ以上を含む場合に該当する。
【0014】
本出願によれば、「実質的に分子式」とは、遷移金属カルコゲナイドが、純粋な化合物であっても非化学量論的化合物であってもよく、またドーピングが存在してもよいことを意味すると理解される。非化学量論的化合物の場合、モル比X/Mは、例えば、整数比と比較して、(上方または下方に)最大2%、時にはまた最大5%、また極端な場合には最大10%変動し得る。ドーピングとして、特に、金属Mに対して5原子%までの含分での、非金属、例えばB、O、N、P、As、F、Cl、Br、Iのうちの1つ以上の元素によるドーピングが存在し得る。ドーピングは、例えば、ドーピングが実施される対応する非金属を添加した状態での元素M(ここで、説明したように、Mは、様々な遷移金属を表すことができる)およびXからの化合物MX、MX2、M2X3、M2X4、M3X4、M9X8またはM’’6MkXlX’mのすべての化学量論で可能な熱的な製造によって実施することができる。例えば酸素ドーピングは、例えばペントランダイトのような遷移金属カルコゲナイドを部分的に酸化させることによって行うことができる。この際に、遷移金属カルコゲナイドXの骨格上に、カルコゲンXに加えて酸素も有する表面が存在するように、部分的な表面改質が生じる。さらに、例えば窒素やハロゲンなどのドーピングは、元素からの製造中に、例えば遷移金属窒化物や遷移金属ハロゲン化物など、ドーピングにより導入される非金属の化合物を追加で添加することによって実施することができる。
【0015】
実質的に式M9X8に対応し、少なくとも部分的にペントランダイト構造で結晶化した遷移金属カルコゲナイドが特に適していることが判明した(本出願によれば、これに関連する測定は粉末回折(PXRD)によって実施される)。ここでもまた、式Fe9-a-b-cNiaCobM’cS8-dSedの化合物が特に強調されるべきである。ここで、M’は、Mについて上記で規定したのと同じ好ましい変形形態を有する同じ遷移金属から選択され、特に、Ag、Cu、Zn、CrおよびNbからなる群の1つ以上の金属から選択される。a、b、cおよびdは、10進数であるが、しばしば整数または半整数(ここでも、化学量論的化合物および上記で定義した非化学量論的化合物が存在し得る)であり、aは0~7、特に1~6の数であり、bは0~9、特に0~8の数であり、cは0~2、特に0~1の数であり、dは0~6、特に0~4の数である。通常は、a+b+cの合計は0~9、特に3~7の数である。ここで、aが1~6の数であり、bが0~8の数であり、cが0~1の数であり、dが0~4の数であり、a+b+cの合計が3~7の数であることが同時に成り立つことが多い。ペントランダイト構造中に存在する遷移金属カルコゲナイドM9X8の割合は、通常は少なくとも80%、大抵はさらには少なくとも90%である。このような含有量は、通常の合成法、特に元素からの前述の熱的製造により問題なく達成することができる。
【0016】
さらなる実施形態によれば、化合物Fe9-a-b-cNiaCobM’cS8-dSedにおいて、3つの金属のうち2つのみ、または3つの金属のうち実質的に2つのみが鉄、コバルトおよびニッケルを含み、金属M’を含まないかまたは実質的に含まない。ここで、実質的にとは、それぞれ、金属に対する、含まれない金属あるいは金属M’の割合が5mol%未満であることを意味する。
【0017】
さらなる実施形態によれば、電極触媒による還元は、液体電解質セルおよび固体電解質セルの双方で実施することができ、特に高分子電解質セルでも実施することができる。液体電解質セルの場合、水素化される有機化合物は、通常は水溶液または有機溶液中に存在する。さらに、高分子電解質セルでは、有機化合物を純粋な形または溶液として水素化させることもできる。さらに、例えば、水やアルコールが溶媒として使用される場合、溶媒中にはさらに導電性塩が含まれることもあり、高分子電解質セルの場合、導電性塩は使用されないことが多い。水素化は、上記のいずれのセルでも、不連続バッチ運転および連続フロー運転の双方で行うことができる。所望の水素化に対するファラデー収率は、セルおよび電解質を選択することによって、さらに最適化することができる。また、異なる水素化生成物の方向への選択性にも、さらなる影響を及ぼすことができる。
【0018】
本発明による方法は、以下にさらに詳細に説明するように設計され、特に以下に説明する有利な電極設計の1つ以上を有する電極が使用される場合に有利にさらに改良可能である。
【0019】
電気化学セルにおける有機化合物の電極触媒水素化のための電極は、場合により存在し、かつ電極に属する電極の電気接点に加えて、担体材料と、担体材料の表面の少なくとも一部に配置された触媒層とを備えている。当然のことながら、接点(例えば、金属により行うことができ、多くの場合、接着または圧着される)は、本出願によれば、担体材料の一部ではない。触媒層は、触媒として遷移金属カルコゲナイドを含むかまたはそれからなり、遷移金属カルコゲナイドは、硫化物、セレン化物および/またはテルル化物から選択される。
【0020】
触媒層が担体材料「上に」配置されているということは、ここでも以下でも、触媒層が担体材料上に機械的および/または電気的に直に接触して配置または施与されていることを意味し得る。さらに、触媒層と担体材料との間にさらなる層または領域が配置されている間接的接触が表される場合もある。
【0021】
本出願による電極触媒方法の電極は、特に以下の特徴の1つ以上を有する:
・触媒層は、遷移金属カルコゲナイドに加えて、高分子バインダー、特に非イオン伝導性高分子バインダーを含むか、またはこれら2つの成分からなる。
・触媒層は、遷移金属カルコゲナイドおよび場合により存在するバインダーに加えてさらに、添加剤を含むか、またはこれら2つもしくは(バインダーが存在する場合には)3つの成分からなる。
・電極は、少なくとも部分的に多孔質領域を有する。
・電極は、少なくとも0.2cm2の触媒活性表面を有する。
【0022】
実質的に式M9X8に対応し、少なくとも部分的にペントランダイト構造で結晶化した遷移金属カルコゲナイドが触媒として使用された場合、適切な触媒に関して完全な言及がなされる方法において上記で詳細に説明されたように、特に良好な結果が通常は達成される。
【0023】
有利な実施形態によれば、触媒層は、高分子バインダー、特にイオン性ポリマーに属さない高分子バインダーを含む。このバインダーによって、個々の触媒粒子同士の接着性が向上し、大抵は機械的安定性が向上し、かつ/または触媒材料の加工も容易になる。担体材料によっては、担体材料に対するより良好な接着性も実現できる。バインダーは、触媒層がインクの形態で担体材料に施与、特に吹き付けられる場合、または触媒材料がホットプレス可能な塊状物の形態で使用される場合に有利に使用することができる。
【0024】
バインダーとしては、疎水性バインダーが特に該当する。特に、これらは、ポリオレフィン、フッ素化ポリオレフィン、ポリオレフィンおよび/またはフッ素化ポリオレフィンのコポリマー、ならびにポリオレフィンおよび/またはフッ素化ポリオレフィンを含むポリマーブレンドから選択することができ、好ましくは、全体が非イオン伝導性ポリマーである。必要に応じて、塩素化ポリマーまたはコポリマー(例えば、PVCまたはPVC含有コポリマー)を使用または補足的に使用することもできる。ここで、ポリオレフィンおよびフッ素化ポリオレフィンは、特にPE、PP、PVDF、FEPおよびPTFEからなる群から選択される。触媒層中のバインダーの割合は、通常は1~90重量%、特に5~80重量%、例えば10~25重量%である。25重量%を超える含有量では、達成される収率に関して反応効率がしばしば低下する。触媒粒子同士、および場合により存在する担体材料への十分な接着性は、通常は1重量%から、特に5重量%から実現できる。
【0025】
さらなる実施形態によれば、触媒層は、遷移金属カルコゲナイドおよび場合により存在するバインダーに加え、添加剤を含む。添加剤は、特に、導電性を高めるための物質(例えば、カーボンブラック、グラファイトまたはカーボンナノチューブ)、イオン伝導性を高めるための物質(例えば、Nafion、Sustainion、Piperion、Aemion、Durion、Orionなどのイオノマー)、熱伝導性を高めるための物質、耐食性を高めるための物質、疎水性を変更するための物質、および水素化される有機化合物の吸着性を向上させるための物質(例えば、カーボンブラックおよび活性炭)から選択することができる。前述の添加剤が複数存在することもできる。加えて、または同時に、機械的特性を向上させるための添加剤および/または吸着特性を向上させるための添加剤が含まれていてもよい。代替的にまたは追加的に、触媒層と担体材料との間に(少なくとも)1つの中間層が存在することもできる。例えば、触媒層と担体材料との接着性を向上させるための層や、導電性を向上させるための層が考えられる。触媒層中の導電性添加剤により、活性中心をより良好に分布させることもできる。最後に、例えば耐食性を向上させたり、表面の親水性や親油性を変化させたりするために、触媒層の面のうち担体材料に背を向けた方にさらなる層を設けることもできる。
【0026】
触媒層は、様々な方法で担体材料上に配置することができる。例えば、触媒層を(特にインクを使用して)吹き付けることができるが、機能的な電極アセンブリを作製するために、触媒層を浸漬、ドクターブレード塗布、印刷プロセス、デカールプロセスまたはホットプレスによって施与することもできる。電気的接触は、表面と裏面の双方で行うことができ、すなわち、接触は、担体材料上または触媒層自体上のいずれかで行うことができる。
【0027】
触媒層に使用される触媒粒子は、基本的にどのような粒度も有することができる。しかし、多くの場合、ふるい分け法を用いて決定されるd90値が10μm未満の粒子が有利であることが判明した。なぜならば、大きな粒子は、特に吹付インクに使用される場合、加工がより困難であることが多いためである。
【0028】
さらなる実施形態によれば、担体材料として多孔質材料を使用することができる。多孔質材料を使用することにより、触媒層の活性表面(内面、すなわち細孔、空洞、間隙などでは、実際の層ではなくコーティングである)を著しく拡大することができる。このような拡大された表面は、特に、多孔質担体材料に触媒インクを例えば浸漬プロセスや吹付けによって浸透させた場合に得ることができる。本出願によれば、多孔質担体材料とは、細孔(特にかなりの割合のマクロ孔)を有する担体材料(ここで、多孔質担体材料は、開孔構造を有することもできる)のみを意味するわけではなく、フェルトのような、織物のような、または組物、例えばニッケルメッシュのような担体材料をも意味する。格子状の構造も考えられる。
【0029】
担体材料が多孔質であるかどうかにかかわらず、担体材料は、通常は面状の構造物であり、特に、金属、金属酸化物、ポリマー、セラミック、炭素系材料、複合材料またはそのような物質の混合物である担体材料を使用することができる。ここで、原則として、担体材料自体は触媒活性を有していない。しかし、担体材料は導電性を有することが多い。面状の担体材料は、例えば織物、エキスパンドメタル、フェルトまたは箔として存在することができる。また、膜(特に高分子電解質セルの電極用)やフィルター箔(例えばポリマー製や金属製)、例えばPTFE膜やAgフィルターであってもよい。
【0030】
さらなる実施形態によれば、触媒層は、少なくとも0.2cm2、特に少なくとも1cm2、好ましくは1cm2~4m2の面積を有する。これは連続的な表面であり得るが、層あるいはコーティングは、中断されていてもよいし、担体材料のいくつかの別個の領域に分割されていてもよい。記載された値は、外面積であり、特に、担体材料に面していない面積(実質的に、これは担体材料に背を向けた面である)のみであり、多孔質担体材料の内面積は計算に含まれず、すなわち、数学的計算は、この場合には外形寸法、最も単純な場合には高さ、長さおよび幅から構成される外形寸法のみに基づいて行われる。したがって、本出願によれば、任意のサイズの電極を製造することができ、大規模な用途では、平方メートル範囲の面積を実現することもでき、少量の場合には、1cm2以下の面積も合理的であり得る。
【0031】
さらなる実施形態によれば、電極の触媒層は、触媒担持量が0.1~500mg・cm-2、特に1~250mg・cm-2、例えば2~10mg・cm-2となるように形成される。触媒担持量は、担体材料に触媒層を施与する前後の重量を測定することによって測定することができる。面積が0.5~1mg・cm-2以上であれば、通常は有意な転化率を達成できる活性中心の分布を行うことが可能である。触媒担持量が250mg・cm-2を超えると、わずかな追加効果しか得られない。
【0032】
層の厚さも活性中心の量にとって重要であるが、導電性添加剤を加えると、厚い層でも良好な結果が得られる。しかし、原理的には、(数ナノメートルの範囲、例えば最大10nmの値の)非常に薄い層を提供することは可能であるが、最大500μmの厚い層も可能であり、上限は触媒材料に非常に大きく依存するため、規定することは非常に困難である。経済的な理由から、5~50μmの層厚がしばしば使用される(ここで、層厚は、走査型電子顕微鏡で測定することができる)。
【0033】
本発明による課題はさらに、上記で詳細に説明した電極を電極として、特にカソードとして含む、電気化学的水素化の電気化学セルによっても解決される。電極触媒水素化の電気化学セルは、特にリアクタを備えており、このリアクタ内には、カソード、アノードおよび電解質が含まれており、前記リアクタ内には、還元可能な有機化合物が、液体形態または少なくとも部分的に溶解した形態で存在し、還元可能な有機化合物を、カソードで水素化させることができる。ここでは、電極は、上記で詳細に説明したように、触媒層と担体層とを有する。
【0034】
本出願による電気化学セルは、特にガスが発生されるようには設計されていない。したがって、本出願による電気化学セルは、副産物としてガスが生成されるが、水素化された有機化合物が主生成物として生じ得ることが保証されるように装置設計されている。このことは特に、ある程度合理的な反応条件が実現されていれば、電極触媒水素化の際にしばしば発生する水素は、(全電流効率に対して)最大で50%であることを意味する。大抵の場合、発生する水素の割合は、さらには20%未満である。理想的には、水素の発生は十分に回避され、一桁台の範囲のパーセンテージの値しか生じない。
【0035】
最後に、本発明による課題は、遷移金属カルコゲナイド、特に、実質的に分子式MX、MX2、M2X3、M2X4、M3X4、M9X8またはM’’6MkXlX’mに対応する化合物から選択される遷移金属カルコゲナイド、例えばペントランダイトを、有機化合物の電極触媒水素化の触媒として使用することによっても解決される。ここで、上記で詳細に規定された化合物の使用が特に有利であり、その際、上記で述べたことがここでも同様に適用される。
【0036】
一般性を制限することなく、本発明につき、図面および実施形態例を参照して以下にさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】実施例1について、必要電位(E/V)およびファラデー効率(FE)を示す図である。
【
図4A】インクの組成に応じた必要電位(E/V)を示す図である。
【
図4B】インクを使用した場合の収率(Y)およびファラデー効率(FE)を示す図である。
【
図5A】IPAベースのインクについて、必要電位(E/V)に対する電流密度の影響を示す図である。
【
図5B】IPAベースのインクについて、収率(Y)およびファラデー効率(FE)に対する電流密度の影響を示す図である。
【
図6A】必要電位(E/V)に対するバインダー含有量の影響を示す図である。
【
図6B】収率(Y)およびファラデー効率(FE)に対するバインダー含有量の影響を示す図である。
【
図7A】必要電位(E/V)に対する触媒担持量(CL)の影響を示す図である。
【
図7B】収率(Y)およびファラデー効率(FE)に対する触媒担持量(CL)の影響を示す図である。
【
図8A】必要電位(E/V)に対する膜の影響を示す図である。
【
図8B】収率(Y)およびファラデー効率(FE)に対する膜の影響を示す図である。
【
図9A】各反応温度について、必要電位(E/V)を示す図である。
【
図9B】各反応温度について、収率(Y)およびファラデー効率(FE)を示す図である。
【0038】
I. バッチモードでの電極触媒反応
本発明による方法を、まず、バッチモードの電気化学セルで実施した。
図1に、2つのハーフセル2,3を備えた電気化学バッチセル1の概略図を示す。カソードハーフセル3は、カソード液チャンバ37に加えて、実電極32、エンドプレート31および電極ホルダ33を備えたカソードと、参照電極36とを備えている。アノードハーフセル2は、アノード液チャンバ24に加えて、実電極22とエンドプレート21とを備えたアノードを備えている。2つのチャンバ2,3の間には、イオン交換膜4が設けられている。これらの間には、複数のシール23,25,5,34,35が配置されている。
【0039】
実施例1 - ペントランダイト触媒作用によるMBYの電極触媒水素化
図1に示すセルを、室温での2-メチル-3-ブチン-2-オール(MBY)から2-メチル-3-ブテン-2-オール(MBE)または2-メチルブタン-2-オール(MBA)への電極触媒水素化に使用する。ここでも以下でも、ほぼアルケンの段階で反応を停止するが、適切な反応条件下で実質的にアルカンのみが存在するようになるまで行うこともできる。カソードとして、金属カルコゲナイドのみからなる非多孔質のペントランダイト系触媒を使用した。アノードとして、Niワイヤを使用した。膜として、Nafionカチオン交換膜を使用した。MBYの1M溶液を、メタノール中の0.3M KOHの溶媒/導電性塩の組み合わせで使用した。カソードは、0.071cm
2の面積を有しており、PTFEハウジング内の真鍮棒を介して接触させた。電極触媒による還元を2時間行った。
【0040】
表1は、様々なペントランダイト系触媒(ここで、ペントランダイト触媒は、B. Konkena et al., Nat. Commun. 7: 12269 doi: 10.1038/ncomms12269 (2016)に従い、熱合成によって各元素から得られたものであり、その際、PXRDで測定した場合に、ペントランダイト構造において常に90重量%超が存在していた)について、実施例1による反応において、MBEへの所望の還元に関して達成されたファラデー効率、および電流密度-100mA・cm-2で水素化に必要な(参照電極としての可逆水素電極ERHEに対する)電位を示す。最大100%のファラデー効率が達成でき、必要電位は、白金電極を使用した場合よりも一貫して低いことが判明した。本出願によれば、電位は常に、Gamry 1010B Potentiostatにより求めた。本出願によれば、収率は常に、内部標準としてフタル酸水素カリウムを用いたNMR分光法により求めた。
【0041】
【0042】
図2に、Fe
3Ni
6S
8を触媒とした実施例1について、白金電極あるいはグラッシーカーボン電極を用いた実験と比較して、電流密度-100mA・cm
-2での必要電位(E/V)および達成されたファラデー効率(FE)を示す。触媒としてFe
3Ni
6S
8を使用した場合にのみ、顕著な効率が観察され、同時に、必要となる電位が、比較検討した電極よりも低いまたは明らかに低いことが判明した。
【0043】
実施例2 - ペントランダイト触媒作用によるブチンジオールの電極触媒水素化
実施例1による電気化学セルにおいて、実施例1ですでに使用した2種類のペントランダイトと、各種導電性塩/溶媒の組み合わせとによる2-ブチン-1,4-ジオールの水素化の選択性を調べた(MeOH=メタノール):
【化1】
【0044】
表2は、この反応では、Fe3Ni6S8を用いた場合には実質的にシス生成物が形成されるのに対し、Fe3Co3Ni3S8を用いた場合にはトランス生成物の形成が増加することを示している。溶媒として水、導電性塩としてKOHを使用した場合、最良の選択性および最も好ましい電位値が示されている。
【0045】
【0046】
実施例3 - M’’
6
M
k
X
m
X’
n
触媒作用によるMBYの電極触媒水素化
M’’6MkXmX’n触媒を、真空アンプル内で高温合成により製造した。ここでは、石英ガラスアンプル内の化学量論的量の各元素を、通常は650~800である温度のオーブン中で96時間処理した。この場合、選択される温度は、使用される化学量論によって異なる。Ba6Ni25:675℃、Ba6Fe12.5Co25:675℃、Ba6Fe8.33Co8.33Ni8.33:700℃。次いで、Ba6Fe12.5Co25を、775℃でさらに96時間、Ba6Fe8.33Co8.33Ni8.33を800℃でさらに96時間アニールした。触媒の合成に成功したことは、PXRD分析で確認できる。
【0047】
実施例1による電気化学セルで、2-ブチン-1,4-ジオールの水素化の選択性を調べた。実施例1および実施例2とは対照的に、金属カルコゲナイドのみからなる非多孔質のM’’6MkXmX’n系触媒をカソードとして使用した。反応を、0.3M KOH/H2Oあるいは0.3M KOH/MeOH中の1M MBY溶液を導電性塩/溶媒として用いて行い、ブテンジオールを得る。
【0048】
表3は、すべての材料が電極触媒水素化に適していることを示している。
【0049】
【0050】
実施例4 - MXおよびMX
2
触媒作用によるMBYの電極触媒水素化
分子式MSおよびMS2の遷移金属硫化物を触媒として用い、導電性塩/溶媒としての0.3M KOH/H2O中の1M MBY溶液を用いて実施例1による反応を行い、MBEを得る。比較のために、最終行に、ペントランダイト構造を有する触媒(実施例1のFe3Ni6S8)の例を示す。表4は、電流密度-100mA・cm-2での必要電位(E/V)および達成されたファラデー効率(FE)を示している。
【0051】
【0052】
実施例5 - ペントランダイト触媒作用によるニトロ化合物、アルデヒドおよび末端アルキンの電極触媒水素化
二置換アルキン以外の官能基も、本発明による水素化により還元することができる。反応を実施例1と同じ条件で行い、さらに、使用した導電性塩、溶媒、濃度および(実施例1でも使用した)ペントランダイト触媒を表5に示す。
【0053】
【0054】
実施例6 - 各種電極コンセプトでの固体電解質セルを備えたペントランダイト触媒作用によるMBYの電極触媒水素化
実施例1による反応を、金属カルコゲナイドのみからなる電極の代わりに、他の電極コンセプトも用いて実施し、すなわち、ペントランダイトコート電極、プレス加工した触媒材料を用いた電極、あるいは金属メッシュにプレス加工した触媒材料を用いた電極でも実施した。
【0055】
コート電極の場合、90重量%のFe3Ni6S8と10重量%のPTFEとからなるインクにSigracell GFD 2.5カーボンフローを数回浸漬し、所望の触媒担持量(5mg・cm-2)が達成されるまで80℃で乾燥させた。実施例1とは異なり、導電性塩/溶媒としての0.3M KOH/H2O中の1M MBY溶液を使用し、80mA・cm-2で固体電解質セルにおいて実施した。作製された電極は、セル電圧2.5Vで、MBEについては25%、MBAについては5%のファラデー効率を達成した。
【0056】
プレス加工した触媒材料の電極の場合、Kynar Superflex 2501 PVDFとFe4.5Ni4.5S7Seとの混合物をIKA M20ナイフミルで混合した。得られた材料を、170℃、接触圧1kNcm-2でホットプレスした。また、PVDFの代わりに他の熱可塑性樹脂を使用することもできる。適宜、導電性添加剤を加えて活性中心間の導電性を高めることもできる。実施例1とは異なり、この場合にも、導電性塩/溶媒としての0.3M KOH/H2O中の1M MBY溶液を使用し、固体電解質セルにおいて実施した。表6は、固体電解質セルで電流密度80mA・cm-2に必要なセル電圧(U/V)を示している。
【0057】
【0058】
金属メッシュにプレス加工した触媒材料を用いた電極の場合、Kynar Superflex 2501 PVDFとFe3Co3Ni3S8との混合物をIKA M20ナイフミルで混合した。得られた材料を、170℃、接触圧2kNcm-2でステンレス鋼メッシュ(Haver & Boecker、0.2mm×0.16mm)にプレスした。作製された電極は、機械的安定性が向上した。実施例1とは異なり、この場合にも、導電性塩/溶媒としての0.3M KOH/H2O中の1M MBY溶液を使用し、固体電解質セルにおいて実施した。表7は、固体電解質セルで電流密度80mA・cm-2に必要なセル電圧(U/V)を示している。
【0059】
【0060】
II. フローセルによる電極触媒反応
本発明による方法を、まずはバッチモードの電気化学セルで実施した。
図3は、2つのハーフセル102,103を備えた電気化学フローセル101の概略図を示す。カソードハーフセル103は、カソード液チャンバ135に加えて、実電極133およびエンドプレート131を備えたカソードと、参照電極136とを備えている。カソード液チャンバ135には、ポンプ137を通じてリザーバ138からカソード液が供給される。アノードハーフセル102は、アノード液チャンバ125に加えて、実電極123およびエンドプレート121を備えたアノードを備えている。アノード液チャンバ125には、ポンプ126を通じてリザーバ127からアノード液が供給される。2つのチャンバ102,103の間には、イオン交換膜104(以下の実施例では、例えばカチオン交換膜FS-10120-PKを使用した)が設けられる。これらの間には、複数のシール122,124,132,134および膜保持シール105,106が配置されている。
【0061】
遷移金属カルコゲナイドとバインダー、例えばPTFEとの混合物を、炭素含有多孔質担体材料、例えば炭素繊維織物に吹き付けることによって、またはホットプレス可能な塊状物の形態で担体材料に施与することによって、遷移金属カルコゲナイド含有電極を製造した。吹付けは、例えば、5重量%のPTFEと85重量%のFe3Ni6S8とからなるインク15mLを、10cm×10cmのW1S1010 CeTech Carbon Clothに施与することにより行うことができ、それにより、2mg・cm-2の触媒担持が達成される。ホットプレスは、粉砕したPTFE粉末と遷移金属カルコゲナイド触媒との混合物、および活性面積が9cm×7cmである10cm×10cmの炭素基材を用いて行う。
【0062】
これによって、より大きな電極面を、明らかに容易に作製することができる。I.で説明したセルと比較して、このような大面積の電極を用いれば、例えば1Acm-2までの電流密度など、明らかにより高い電流密度も実現できる。
【0063】
実施例7 - 各種バインダーおよび各電流密度でのペントランダイトコート電極を用いたMBYの電極触媒水素化
図3に示すフローセルで、H
2O中の0.3M KOHの1M MBY溶液を、ペントランダイトFe
3Ni
6S
8(実施例1と同様に製造)の触媒担持量が2mg・cm
-2の電極を用いて室温で水素化させる。電解液チャンバの容積は15mL、流量は8mL・min
-1である。電極触媒による還元を、2時間行った。カソードは、インクを用いて担体材料に触媒を吹き付けることにより製造し、その際、上記のような吹き付けにより得られた片面コート電極のサイズは、7.1cm
-2である。インクは、(A)バインダーとして60重量%のPTFE分散液258μL、不活性添加剤として水中1重量%のメチルセルロース(MC)15g、溶媒として水5g、および触媒1gを含むか、または(B)バインダーとして60重量%のPTFE分散液258μL、溶媒としてイソプロパノール(IPA)15gおよび水5g、ならびに触媒1gを含む。
【0064】
図4Aは、電流密度-100mA・cm
-2において、インクの組成が、必要電位にわずかな影響しか及ぼさないことを示している。しかし、
図4Bは、IPAインクを使用した場合、収率(Y)およびファラデー効率(FE)がやや良好になり、アルケン(MBE)の還元停止に関して選択性がやや向上し、アルカン(MBA)は比較的わずかしか生成しないことを示している。IPAインクの収率がやや良好であるのは、活性中心がより良好に遊離しているためであろう。
【0065】
図5Aおよび
図5Bは、IPAベースのインクについて、必要電位(E/V)および収率(Y)あるいはファラデー効率(FE)に対する電流密度の影響を示している。電流密度が必要電位に大きな影響を与えないことがわかる(
図5A)。電流密度(CD)が高くなるとファラデー効率は低下するが、収率および選択率(MBE/MBA)は、ほぼ一定である(
図5B)。
【0066】
実施例8 - 各バインダー含有量でのペントランダイトコート電極を用いたMBYの電極触媒水素化
実施例8の手順は、実施例7/IPAインクの手順と同様であるが、ただし、使用するインクのバインダーPTFE含有量が異なる。試験を、触媒層の総重量に対して10、15、25重量%のPTFEで実施した。
【0067】
図6Aおよび
図6Bは、必要電位(E/V)および収率(Y)あるいはファラデー効率(FE)に対するバインダー含有量の影響を示している。バインダー含有量の増加は、必要電位にごくわずかな影響しか与えないことがわかる(
図6A)。しかし、ファラデー効率および収率はわずかに低下し、選択率(MBE/MBA)は、ほぼ一定である。このことから、バインダー含有量が明らかに高いほど機械的安定性に好影響を与えることが推察できるが、バインダー含有量が高すぎると、通常は収率が低下する。
【0068】
実施例9 - 各触媒担持量でのペントランダイトコート電極を用いたMBYの電極触媒水素化
実施例9の手順は、実施例7/PTFE含有量10重量%のIPAインクの手順と同様であるが、ただし、より多くのインクを担体材料に吹き付けた点が異なる。吹付けは、それぞれ、0.6、1、2または5mg・cm-2の担持が検出可能となるまで行った。
【0069】
図7Aおよび
図7Bは、必要電位(E/V)および収率(Y)あるいはファラデー効率(FE)に対する触媒担持量(CL)の影響を示している。触媒担持量が非常に少ないと、印加する電位が悪化することがわかる(
図7A)。しかし、担持量を1mg・cm
-2の値から増やしても、大きな変化は見られない。必要電位に与える影響はごくわずかである。担持量が多いほど収率が増し、選択率(MBE/MBA)は、ほぼ一定である。
【0070】
実施例10 - 各種触媒および各種膜を備えたペントランダイトコート電極を用いたMBYの電極触媒水素化
実施例7とは異なり、フローセルの高分子電解質膜を変化させた。一方では、プロトン交換膜(PEM)(Fumatech BWT GmbH(FS-10120-PK))を使用し、他方では、アニオン交換膜(AEM)(Fumatech BWT GmbH(FM-FAA-3-PK-130))を使用した。さらに、実施例7とは異なり、異なる触媒を使用した。これに使用したインクは、実施例7/IPAベースのものと同様であるが、ただし、15重量%のPTFEをバインダーとして使用した。触媒担持量は、それぞれ2mg・cm-2であった。
【0071】
図8Aおよび
図8Bは、必要電位(E/V)および収率(Y)あるいはファラデー効率(FE)に対する膜(PEMまたはAEM)の影響を示している。プロトン交換膜は、必要電位の点で、一貫してより良好な結果をもたらすことがわかる(
図8A)。しかし、使用した触媒も考慮に入れると、特に有利な各種触媒/膜の組み合わせが生じることが認められる。電位に関しては、セレンを含む触媒Fe
4.5Ni
4.5S
4Se
4がPEMでは最良であり、Fe
2Co
4Ni
3S
8を用いた場合とほぼ同じであり、それに対して、AEMの場合には、Fe
2Co
4Ni
3S
8は、他の2つの触媒よりやや悪い。収率およびファラデー効率については、別の図で示す。ここでは、Fe
3Ni
6S
8はどちらの膜でも最良の結果をもたらし、その際、アニオン交換膜の方がプロトン交換膜よりも明らかに良好である。しかし、Fe
4.5Ni
4.5S
4Se
4は、MBE/MBA比に関して選択率がやや劣っている。総括すると、プロトン交換膜の方が、確かにエネルギー効率がやや高いが、必要電位が低いため、その代わり収率も低くなる。
【0072】
実施例11 - 各温度でのペントランダイトコート電極を用いたMBYの電極触媒水素化
実施例7とは異なり、水素化反応を各温度で行った。
【0073】
図9Aおよび
図9Bは、各反応温度について、必要電位(E/V)および収率(Y)あるいはファラデー効率(FE)を示している。温度が高い場合の結果では、確かに必要電位がやや低いが、収率およびファラデー効率は、室温の方がやや高い。選択率に大きな影響は見られない。
【0074】
実施例12 - 固体電解質セルのペントランダイトコート電極を用いたMBYの電極触媒水素化
図10は、2つのハーフセル202,203を備えた固体電解質セル201の概略図である。カソードハーフセル203は、カソードフローフィールド234に加えて、実電極235、アレスタープレート233、エンドプレート231およびプラスチックスペーサー232を備えたカソードを備えている。カソードフローフィールド234には、ポンプ236を通じてリザーバ237からカソード液が供給される。アノードハーフセル202は、アノードフローフィールド224に加えて、実電極225、アレスタープレート223、エンドプレート221およびプラスチックスペーサー222を備えたアノードを備えている。アノードフローフィールド224には、ポンプ226を通じてリザーバ227からアノード液が供給される。2つのチャンバ202,203の間には、イオン交換膜204が設けられている。これらの間には、複数のシール205,206が配置されている。
【0075】
実施例7とは異なり、液体電解質系ではなく高分子電解質系を使用した。カチオン交換膜FS-10120-PKの代わりに、アニオン交換膜FM-FAA-3-PK-130を用いた。さらに、実施例7と同様にIPAインクを使用したが、PTFE含有量は10重量%であった。電流密度は、-100mA・cm-2ではなく-80mA・cm-2であった。セル電圧-2.5Vで、(MBEに対して)67%のファラデー効率が達成された。
【0076】
実施例13 - 各電流密度でのペントランダイト電極を備えた固体電解質セルにおけるMBYの電極触媒水素化
実施例12による反応を、0.3M KOH/H2O中の1M MBYを用いて、まず電流密度を変えて繰り返した(Fe3Ni6S8コート電極を使用)。表8は、一定の反応時間(2時間)および高い電流密度で、ファラデー効率は確かに減少するが、収率は増加することを示している。使用する電解質を調整することで、より高い電流密度で、目的とする水素化生成物の選択率および転化率をさらに高めることができる。
【0077】
【0078】
実施例14 - 各種バインダーでのペントランダイト電極を備えた固体電解質セルにおけるMBYの電極触媒水素化
実施例12による反応について、ペントランダイトコーティングのバインダーも変化させた。まず、異なるイオン交換膜、すなわち、アニオン交換膜Piperion A80(Versogen)およびFM-FAA-3-PK-130(Fumatech)、ならびにカチオン交換膜Nafion 115(IonPower)を使用した。バインダーとして、含フッ素ポリマーに加え、イオノマーPiperion(Versogen)、Aemion(Ionomr)およびNafion(IonPower)も使用した。ここで、前述のイオノマーは、バインダーとしての機能だけでなく、導電性向上添加剤としての機能も有する。
【0079】
試験電極は、W1S1010 Carbon Cloth(CeTech)上で、バインダー担持量10重量%、触媒担持量2.5mg・cm-2でIPAインクを用いて作製した。前述の膜およびコート電極を用いて、実施例10による反応を80mA・cm-2で行った。表9は、水素化反応に対する各種バインダーの影響を示している。
【0080】
【0081】
水素化に対するファラデー効率は、使用する組み合わせによって変化する。前述の含フッ素ポリマーのような疎水性バインダーは、(PTFE、Nafion、PVDFで示すことができるように)一般に電気化学的水素化に対してより高いファラデー効率を示す。
【0082】
実施例15 - 各種触媒を備えた固体電解質セルにおけるMBYの電極触媒水素化(比較試験)
本出願による電極触媒との比較のために、実施例12による反応を、先行技術による電極触媒でも実施した。比較のために、Pd粒子(Alfa Aesar、0.35~0.8μm)を用いたPd系電極(現在の工業的な先行技術)を実施例12と同様に生成した。さらに、Ni発泡体(1.6mm、Goodfellow)を電極材料として直接使用した。表10は、MBYの水素化に対する電極触媒の影響を示す。この反応を、実施例12にしたがって、この場合にも、導電性塩/溶媒としての0.3M KOH/H2O中の1M MBY溶液を使用して80mA・cm-2で行った。Fe3Ni6S8触媒は、工業用Pd標準物質よりもやや良好なファラデー効率およびセル電圧を示す。Ni発泡体と比較して、Fe3Ni6S8は、水素化に対して明らかに高い活性および選択率を示す。
【0083】
【0084】
実施例16 - ペントランダイト触媒を用いた芳香族アルキンおよびアルデヒドの電極触媒水素化
電極を作製するため、PTFE含有量10重量%のIPAインクを炭素フェルト(Sigracell GFD 2.5)に吹き付けた。Fe3Ni6S8コーティングを、5mg・cm-2の担持量で行った。実施例7と同様に、導電性塩/溶媒としての0.3M KOH/MeOH中の1Mフェニルアセチレン溶液を80mA・cm-2の電流密度で反応させた。固体電解質セルにおいて、カチオン交換膜(Nafion 115)を使用した。水素化の際、セル電圧2.2Vで、(フェニルエチレンに対して)30%のファラデー効率が達成された。
【0085】
同じ電極を用いて、導電性塩/溶媒としての0.3M酢酸ナトリウム/MeOH中の1Mベンズアルデヒド溶液を同じ条件で水素化させた。セル電圧4.0Vで、(ベンジルアルコールに対して)10%のファラデー効率が達成された。
【国際調査報告】