IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユース バイオ グローバル カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-529683軟骨関連疾患治療用組成物及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】軟骨関連疾患治療用組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20240801BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240801BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240801BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
A61K35/32
C12N5/0775
C12N5/077
A61P19/08
A61P19/02
A61P29/00 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508478
(86)(22)【出願日】2022-08-11
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 KR2022011985
(87)【国際公開番号】W WO2023018244
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0106922
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0130412
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524053052
【氏名又は名称】ユース バイオ グローバル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YOUTH BIO GLOBAL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】#1201,273 Digital-ro,Guro-gu,Seoul 08381,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ユ、スン ホ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジ ヨン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC17
4B065BA30
4B065BD50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZB15
(57)【要約】
電気刺激を印加して製造した軟骨関連疾患治療用薬学的組成物及びその製造方法に関するものであって、本発明の組成物は、具体的には、外部から由来した成長因子などの導入をせず、幹細胞凝集体に電気刺激のみを加える方式で製造が可能であり、高価な成長因子を使用せずに製造できるので、医療費を画期的に低下できるという長所を有する。また、本発明に係る軟骨関連疾患治療用組成物は、既存の軟骨関連疾患治療のために製造された細胞に比べて、成熟した軟骨細胞のマーカーであるCOL2を発現していないので、成熟した細胞に比べて免疫関連副作用が低いという長所を有する。
【選択図】図8

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特徴:
(a)Col2を発現しなく;
(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる
を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体を有効成分として含む
ことを特徴とする軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物。
【請求項2】
前記軟骨関連疾患は、骨関節炎(Osteoarthritis)、関節炎(Arthritis)、半月板異常(Meniscus derangements)、関節リウマチ(Rheumatoid arthritis)、半月板損傷(Tear of meniscus)、三角線維軟骨複合体損傷、外傷性軟骨損傷、及び退行性関節炎からなる群から選ばれるものである
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記薬学的組成物の有効成分は、前記軟骨前駆細胞と同質性の細胞を90%以上含むものである
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記軟骨前駆細胞は、幹細胞から分化誘導されたものである
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記幹細胞は、間葉系幹細胞である
請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記分化誘導は、電気的刺激によるものである
請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記電気的刺激は、
0超過20Hz以下の周波数;
-20V以上、20V以下の振幅;及び
0超過80%以下のデューティ比;を有するものである
請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記軟骨前駆細胞は、間葉系幹細胞に比べて、COL1及びCOL5からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが減少し;
間葉系幹細胞に比べて、COL6遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが増加するものである
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記軟骨前駆細胞は、間葉系幹細胞に比べて、GJB2、GJC1、PECAM1、CLDN2、CLDN7、CLDN10及びCLDN19からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが増加するものである
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記薬学的組成物は、軟骨部位に直接移植されやすい投与剤形の形態である
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記軟骨前駆細胞の凝集体は、スフェロイドの形態で凝集したものである
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記スフェロイドの直径は0.5mm乃至1.5mmである
請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
幹細胞に電気刺激を印加することによって軟骨前駆細胞又はその凝集体を製造する段階を含む、軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物の製造方法であって、
前記軟骨前駆細胞は、下記の特徴:
(a)Col2を発現しなく;
(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる
を有する
ことを特徴とする製造方法。
【請求項14】
下記の特徴:
(a)Col2を発現しなく;
(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる
を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体を、これを必要とする個体に投与する段階を含む
ことを特徴とする軟骨関連疾患治療又は予防方法。
【請求項15】
軟骨関連疾患治療又は予防用薬剤の製造のための下記の特徴:
(a)Col2を発現しなく;
(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる
を有する
ことを特徴とする軟骨前駆細胞又はその凝集体の用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気刺激を印加して製造した軟骨関連疾患治療用薬学的組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨の損傷は、数百万人が経験している非常に普遍的な問題である。関節軟骨組織は、無血管性で、且つ幹細胞(stem cell)を有していないので、大人の軟骨再生能力は制限的である。軟骨下骨にまで及ぶ欠陥は、線維又は線維軟骨性組織の形成を誘発し、修復された組織は、硝子軟骨(hyaline cartilage)とは生化学的及び生物機械的に異なり、未成熟退化を経験するようになる。関節に問題が生じた場合は、痛症を起こしたり、動きに多くの制約を受けることになってしまう。過去には、適当な治療法も存在しておらず、今よりも比較的短い平均寿命のために、関節の寿命と実際の寿命との間に大きな差を示していなった。しかし、現在は、高齢化によって寿命が長くなったが、関節の寿命は、各種の環境的要因によって実際の寿命に付いて来ていない。膝を多く使用すると軟骨がすり減ると同時に、膝関節と靭帯に炎症が生じながら退行性関節炎が発生し、大韓民国の65歳以上の高齢者人口10人のうち8人が退行性関節炎に罹患している。老人性疾患としてのみ知られていた退行性関節炎は、現代では、誤った生活習慣、無理な運動による外傷性関節炎の増加などで若年層の関節炎を引き起こす要因となっている。
【0003】
このような軟骨関連疾患を治療するために、肋骨軟骨から分離された軟骨細胞を含有する人工軟骨を使用したり(韓国出願番号:10-2006-0106812)、幹細胞などを活用して治療する方法が研究中であるが、幹細胞を活用する方法は、主に高価な成長因子の添加を通じて軟骨細胞に分化させる方法を用いるので、臨床に活用するためには費用問題を解決しなければならない。このような費用及び免疫などの問題が未だに解決されていないので、このような問題を解決した軟骨関連疾患の治療のための治療剤の開発が必要な実情にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような背景下で、本発明者等は、成長因子の添加がなくても軟骨関連疾患を治療できる治療剤を開発するために研究・努力した結果、幹細胞に電気刺激を印加する場合、成熟した軟骨細胞のマーカーであるCOL2を発現しないと共に、軟骨細胞の特徴を有している軟骨前駆細胞に分化できることを確認することによって本発明を完成した。
【0005】
そこで、本発明は、下記の特徴を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体を有効成分として含む、軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物を提供することを目的とする。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー(Alcian Blue)、サフラニンO(Safranin O)及びトルイジンブルー(Toluidine blue)からなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0006】
また、本発明は、幹細胞に電気刺激を印加することによって軟骨前駆細胞又はその凝集体を製造する段階を含む、軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物の製造方法として;前記軟骨前駆細胞は、下記の特徴を有する製造方法を提供することを他の目的とする。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0007】
また、本発明は、下記の特徴を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体を、これを必要とする個体に投与する段階を含む軟骨関連疾患治療又は予防方法を提供することを更に他の目的とする。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0008】
また、本発明は、軟骨関連疾患治療又は予防用薬剤の製造のための下記の特徴を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体の用途を提供する。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0009】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されなく、言及していない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得るだろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記の特徴を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体を有効成分として含む、軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【0011】
(a)Col2を発現しなく;
【0012】
(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0013】
本発明の一実施例において、前記軟骨関連疾患は、骨関節炎(Osteoarthritis)、関節炎(Arthritis)、半月板異常(Meniscus derangements)、関節リウマチ(Rheumatoid arthritis)、半月板損傷(Tear of meniscus)、三角線維軟骨複合体損傷、外傷性軟骨損傷、及び退行性関節炎からなる群から選ばれるものであってもよい。
【0014】
本発明の他の実施例において、前記薬学的組成物の有効成分は、前記軟骨前駆細胞と同質性(homogenous)の細胞を90%以上含むものであってもよい。
【0015】
本発明の更に他の実施例において、前記軟骨前駆細胞は、幹細胞から分化誘導されるものであってもよい。
【0016】
本発明の更に他の実施例において、前記幹細胞は、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)であってもよい。
【0017】
本発明の更に他の実施例において、前記分化誘導は、電気的刺激によるものであってもよい。
【0018】
本発明の更に他の実施例において、前記電気的刺激は、
0超過20Hz以下の周波数;-20V以上、20V以下の振幅;及び0超過80%以下のデューティ比;を有するものであってもよい。
【0019】
本発明の更に他の実施例において、前記軟骨前駆細胞は、間葉系幹細胞に比べて、COL1及びCOL5からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが減少し;間葉系幹細胞に比べて、COL6遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが増加するものであってもよい。
【0020】
本発明の更に他の実施例において、前記軟骨前駆細胞は、間葉系幹細胞に比べて、GJB2、GJC1、PECAM1、CLDN2、CLDN7、CLDN10及びCLDN19からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが増加するものであってもよい。
【0021】
本発明の更に他の実施例において、前記薬学的組成物は、軟骨部位に直接移植されやすい投与剤形の形態であってもよい。
【0022】
本発明の更に他の実施例において、前記軟骨前駆細胞の凝集体は、スフェロイド(spheroid)の形態で凝集したものであってもよい。
【0023】
本発明の更に他の実施例において、前記スフェロイドの直径は0.5mm乃至1.5mmであってもよい。
【0024】
また、本発明は、幹細胞に電気刺激を印加することによって軟骨前駆細胞又はその凝集体を製造する段階を含む、軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物の製造方法として;前記軟骨前駆細胞は、下記の特徴を提供する。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0025】
また、本発明は、下記の特徴を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体を、これを必要とする個体に投与する段階を含む軟骨関連疾患治療又は予防方法を提供する。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0026】
また、本発明は、軟骨関連疾患治療又は予防用薬剤の製造のための下記の特徴を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体の用途を提供する。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る軟骨関連疾患治療用組成物は、外部から由来した成長因子などの導入をせず、幹細胞凝集体に電気刺激のみを加える方式で製造が可能であり、高価な成長因子を使用せずに製造できるので、医療費を画期的に低下できるという長所を有する。また、本発明に係る軟骨関連疾患治療用組成物は、既存の軟骨関連疾患の治療のために製造された細胞に比べて、成熟した軟骨細胞のマーカーであるCol2を発現していないので、成熟した細胞に比べて免疫関連副作用が低いという長所を有する。
【0028】
ただし、本発明の効果は、前記効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明又は特許請求の範囲に記載した発明の構成から推論可能な全ての効果を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1a】細胞に電気刺激を与えることに関する図であって、電気刺激条件及び細胞に電気刺激を与える大略的な状態
図1b】電気刺激を印加した細胞を位相差顕微鏡で観察した結果
図1c】アルシアンブルー及びサフラニン-Oで染色した細胞を観察した結果
図1d】Live/Dead生存率/細胞毒性キット(viability cytotoxicity kit)で細胞生存能を確認した結果
図1e】単一マイクロマスの細胞数を示したもの
図1f】細胞の膜抗原レベルを確認した結果
図2a】電気刺激による細胞のカルシウムオシレーションを確認した図であって、Fluo-4染色を通じてカルシウム移動を確認した結果
図2b】細胞内のCa2+濃度の変化を時間の流れに沿って確認した結果
図2c】細胞のFITC強度を確認した結果
図3a】電気刺激による遺伝子発現変化を確認した図であって、単一細胞RNA-seq分析のためのワークフロー概略図
図3b】2D(培養されたADSC)、6時間にわたって電気刺激を印加していない細胞マイクロマス、6時間にわたって電気刺激を印加した細胞マイクロマス、72時間にわたって電気刺激を印加した細胞マイクロマスの遺伝子発現プロファイルをクラスター化した結果
図3c】4個のサンプルで差等的に発現された遺伝子(differentially expressed genes、DEGs)の発現を示すヒートマップを示した結果(上向きに調節された上位10個のマーカーは右側に表示する。)
図4a】電気刺激による軟骨形成マーカーの遺伝子発現を確認した図であって、4個のサンプルで明らかに上向きに調節された上位20個の遺伝子に対する遺伝子オントロジー分析(gene ontology enrichment analysis)を示した結果
図4b】電気刺激による軟骨形成マーカーの遺伝子発現を確認した図であって、4個のサンプルで明らかに上向きに調節された上位20個の遺伝子に対する遺伝子オントロジー分析(gene ontology enrichment analysis)を示した結果
図4c】電気刺激による軟骨形成マーカーの遺伝子発現を確認した図であって、4個のサンプルで明らかに上向きに調節された上位20個の遺伝子に対する遺伝子オントロジー分析(gene ontology enrichment analysis)を示した結果
図4d】NCBIのGEO(gene expression omnibus)を活用して関節軟骨(左側)及び発達中の軟骨細胞(中間、BM-MSCsの軟骨分化、右側)の遺伝子発現プロファイルを比較した結果
図4e】NCBIのGEO(gene expression omnibus)を活用して関節軟骨(左側)及び発達中の軟骨細胞(中間、BM-MSCsの軟骨分化、右側)の遺伝子発現プロファイルを比較した結果
図4f】NCBIのGEO(gene expression omnibus)を活用して関節軟骨(左側)及び発達中の軟骨細胞(中間、BM-MSCsの軟骨分化、右側)の遺伝子発現プロファイルを比較した結果
図4g】軟骨母細胞(又は軟骨芽細胞)であるGO0060591の遺伝子オントロジーデータを活用して軟骨細胞の発達に関与する遺伝子の発現レベルを確認した結果
図5a】電気刺激による細胞生存能及び細胞核型の変化を確認した図であって、3日間電気刺激を印加した凝縮された細胞マイクロマス及び断片化された細胞を96-ウェルプレートに移した後、CCK-8生存能分析キットで細胞の生存能を確認した結果
図5b】電気刺激を印加した細胞サンプル別に細胞死関連遺伝子であるSHARPINのmRNAの発現レベルを確認した結果
図5c】マイクロマスの単一細胞レベルで細胞死の程度をAO/PI(acridine Orange/Propidium Iodide)染色を通じて確認した結果
図5d】幹細胞能と関連した遺伝子であるMKI67、HMMR及びTOP2Aなどの遺伝子の発現ヒートマップを示したもの
図5e】電気刺激を印加したマイクロマスの細胞で正常核型を確認した結果
図6a】電気刺激の印加による細胞のコラーゲン発現レベルの変化を確認した図であって、細胞の全てのコラーゲンの発現レベルの変化を微細な細胞数における変化まで含んで示したもの
図6b】そのうち相当な変化を示したCOL1A1、COL1A2、COL3A1、COL5A2、COL6A1及びCOL6A3の発現変化を確認したもの
図6c】COL1A1の発現レベルをRT-PCRで確認した結果
図6d】COL1A1の発現レベルをウェスタンブロッティングを通じて確認した結果
図7a】電気刺激の印加によるタイプ1のコラーゲンの遺伝的発現調節を確認した結果を示す図であって、TGFβ信号伝達と関連したRBFOX2、NFIC、YBX1及びID3などの転写因子遺伝子の発現を確認した結果
図7b】COL1A1のプロモーター/エンハンサーに結合する転写因子の発現レベルを確認した結果
図7c】TGFβスーパーファミリー及びその受容体の発現レベルを示すヒートマップを示したもの
図7d】遺伝子オントロジーデータポータルを活用してGO0007043(細胞-細胞接合アセンブリ)及びGO0051495(細胞骨格組織の陽性調節)の組織形成関連遺伝子の発現レベルを、電気刺激を印加した細胞での変化を通じて確認した結果
図7e】遺伝子オントロジーデータポータルを活用してGO0007043(細胞-細胞接合アセンブリ)及びGO0051495(細胞骨格組織の陽性調節)の組織形成関連遺伝子の発現レベルを、電気刺激を印加した細胞での変化を通じて確認した結果
図8a】電気刺激を印加したスフェロイドを、実験動物であるウサギの後足大腿軟骨に埋め込んだ後、治療効果を確認した図であって、実験の全体的な進行過程を示したもの
図8b】埋め込んでから16週後に大腿を摘出し、マイクロCTによる軟骨再生を映像撮影で確認した結果
図8c】埋め込んでから16週後に大腿を摘出し、マイクロCTによる軟骨再生を映像撮影で確認した結果
図8d】組織病理スライドを製作し、組織学的再生を代表的な軟骨染色方法を通じて確認した結果
図8e】組織病理スライドを製作し、組織学的再生を代表的な軟骨染色方法を通じて確認した結果
図8f】組織病理スライドを製作し、組織学的再生を代表的な軟骨染色方法を通じて確認した結果
図8g】組織病理スライドを製作し、組織学的再生を代表的な軟骨染色方法を通じて確認した結果
図8h】5匹のウサギの軟骨欠損に対する電気刺激を印加したスフェロイドの再生評価をスコアリングを通じて評価した結果
図8i】5匹のウサギの軟骨欠損に対する電気刺激を印加したスフェロイドの再生評価をスコアリングを通じて評価した結果
図8j】5匹のウサギの軟骨欠損に対する電気刺激を印加したスフェロイドの再生評価をスコアリングを通じて評価した結果
図8k】5匹のウサギの軟骨欠損に対する電気刺激を印加したスフェロイドの再生評価をスコアリングを通じて評価した結果
図8l】5匹のウサギの軟骨欠損に対する電気刺激を印加したスフェロイドの再生評価をスコアリングを通じて評価した結果
図8m】実験動物の体重を確認することによって、欠損製作による炎症反応や動物の健康上の問題の影響を受けていないことを確認した結果
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者等は、高価な成長因子の添加がなくても軟骨関連疾患を治療できる治療剤を開発するために研究・努力した結果、幹細胞に電気刺激を印加する場合、成熟した軟骨細胞のマーカーであるCol2を発現しないと共に、軟骨細胞の特徴を有している軟骨前駆細胞に分化できることを確認し、これによって本発明を完成するに至った。
【0031】
そこで、本発明は、下記の特徴を有する軟骨前駆細胞又はその凝集体を有効成分として含む、軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【0032】
(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0033】
本発明において、Col2(Collagen 2)は、関節軟骨及び硝子軟骨の基礎を形成するものであって、軟骨の全体のタンパク質の50%、関節軟骨のコラーゲンのうち85%~90%を占める。上記のような特徴を有することから、成熟した軟骨細胞の典型的なマーカーとしてCol2が活用されているが、本発明の軟骨前駆細胞は、上記のようなCol2を全く発現していないので、成熟した軟骨細胞ではないという事実を確認することができる。
【0034】
本発明において、前記軟骨前駆細胞は、幹細胞、好ましくは、間葉系幹細胞に電気刺激を印加して製造したものであって、間葉系幹細胞の幹細胞能と関連した因子であるMKI67、TOP2A及びHMMRなどの増殖マーカーを発現しないので、間葉系幹細胞自体とは異なる。前記軟骨前駆細胞は、軟骨細胞の特徴であるアルシアンブルー、サフラニン-Oなどによる基質染色が可能であるので、軟骨細胞と類似する特性を示す。しかし、成熟した軟骨細胞の典型的なマーカーであるCOL2を全く発現していないので、成熟した軟骨細胞への分化の前段階にある細胞を意味する。成長因子の添加又は遠心分離などの外部的な要因がなくても自然にスフェロイドの形態で凝集することによって、治療のための移植などに容易な剤形として活用され得る。
【0035】
本発明において、「スフェロイド(Spheroid)」という用語は、回転楕円体の形態の細胞凝集体を意味するものであって、これを生成するためには、一般的に96-ウェルでの培養、ハンギングドロップ(hanging drop)方法などが活用される。本発明の用途である軟骨関連疾患の治療のためには、細胞又はその凝集体を埋め込む段階が必要であるが、スフェロイド形態は、このような埋め込み過程に適している。埋め込みに使用される細胞凝集体をこのようにスフェロイドの形態で作るために遠心分離などの方法を活用するが、本発明の細胞凝集体は、このような別途の段階を経ず、単純に軟骨前駆細胞への分化誘導のための電気刺激の印加のみでも、移植に容易なスフェロイドの形態を形成することを確認した。
【0036】
前記軟骨関連疾患は、これに制限されないが、骨関節炎(Osteoarthritis)、関節炎(Arthritis)、半月板異常(Meniscus derangements)、関節リウマチ(Rheumatoid arthritis)、半月板損傷(Tear of meniscus)、三角線維軟骨複合体損傷、外傷性軟骨損傷、及び退行性関節炎からなる群から選ばれるものであってもよい。
【0037】
本発明で使用される「予防」という用語は、本発明に係る薬学的組成物の投与によって軟骨関連疾患による症状を抑制させたり、発病を遅延させる全ての行為を意味する。
【0038】
本発明で使用される「治療」という用語は、本発明に係る薬学的組成物の投与によって軟骨関連疾患に対する症状が好転したり、有益に変更される全ての行為を意味する。
【0039】
前記薬学的組成物の有効成分は、前記軟骨前駆細胞と同質性の細胞を90%以上含むものであってもよく、好ましくは、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上を含むものであってもよい。また、幹細胞から分化されるものであってよく、好ましくは、幹細胞は間葉系幹細胞であってもよい。
【0040】
本発明の間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells、MSC)は、軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞及び筋肉細胞などに分化できる細胞であって、試験管内で特定の培養条件下で軟骨、骨、筋肉、靭帯及び脂肪組織などへの分化誘導が可能である。間葉系幹細胞は、骨髓からの抽出が容易であり、様々な難治性疾患に対する細胞治療剤への利用可能性に対して多くの研究が進められている。軟骨は、再生力が不足しており、一度損傷した後は、これを治療することが非常に難しい。退行性関節炎は、関節の退行性変化によって発生するので、これを完全に停止させることはできなく、現在は薬物療法や物理治療などに依存している。しかし、関節炎を治療する確実な薬物が開発されていない状態であり、ステロイド製剤及び潤滑剤の長期間使用は、軟骨の変性を促進させる結果をもたらす。近年、自己軟骨細胞移植術が開発されたが、軟骨組織の制限、軟骨細胞の試験管培養中の脱分化、高年齢による細胞増殖の限界などが問題として残っている。よって、再生力が豊富な間葉系幹細胞の利用は、生物学的復元が破壊された軟骨を再生するのに効果的な細胞治療剤として応用され得る。細胞治療剤を用いた軟骨再生は、筋骨格系疾患のみならず、消化器系及び泌尿器系などの疾患に応用され得る。すなわち、局所的に軟骨組織を再生させることによって、逆流性食道炎及び尿道逆流などの疾病の治療に応用可能である。
【0041】
本発明の分化誘導は、電気的刺激によるものであってもよく、これに制限されるものではないが、前記電気的刺激の周波数は、0超過20Hz以下の周波数を有するものであってもよく、好ましくは、3超過15Hz以下の周波数又は5超過12Hz以下の周波数を有するものであってもよく、さらに好ましくは、Hzの周波数を有するものであってもよい。前記電気刺激の電圧は、-20V以上、20V以下の振幅を有するものであってもよく、好ましくは、-15V以上、15V以下の振幅、さらに好ましくは、-10V以上、10V以下の振幅を有するものであってもよい。
【0042】
本発明の軟骨前駆細胞は、これに制限されるものではないが、間葉系幹細胞に比べて、COL1及びCOL5からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが減少し;間葉系幹細胞に比べて、COL6遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが増加するものであってもよく;間葉系幹細胞に比べて、GJB2、GJC1、PECAM1、CLDN2、CLDN7、CLDN10及びCLDN19からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子又は遺伝子が暗号化するタンパク質の発現レベルが増加するものであってもよい。
【0043】
本発明者等は、具体的な実施例を通じて、本発明の電気的刺激を印加した細胞が軟骨前駆細胞に分化可能であり、これを活用して軟骨関連疾患を治療できることを具体的に確認した。
【0044】
本発明の一実施例において、本発明者等は、イヌ間葉系幹細胞に特定の条件の電気刺激を印加する場合、細胞の凝集が起こることを確認した。細胞凝集体を確認したとき、外因性因子の追加がなくても軟骨前駆細胞への分化が起こることを確認し、アルシアンブルー及びサフラニン-O染色を行ったとき、基質染色が可能であることを確認し、これは、軟骨細胞の特性を有していることを確認した(実施例2-1参照)。このように製造された細胞の場合、分化過程で発生するカルシウムオシレーションが、電気刺激を印加していない細胞に比べて増加することを確認し、上記のような電気刺激を通じて細胞の凝集が発生し、これを通じて間葉系幹細胞の軟骨前駆細胞への分化が起こることを確認した(実施例2-2参照)。
【0045】
本発明の他の実施例において、特定の条件の電気刺激を印加した間葉系幹細胞の場合、電気刺激を印加したにもかかわらず、生存能の有意な差を確認することができなく(実施例3-2参照)、電気刺激を印加した細胞は、幹細胞能と関連している因子であるMKI67、TOP2A及びHMMRなどのマーカーを発現しないので、間葉系幹細胞とは異なると共に(実施例3-3参照)、成熟した軟骨細胞の典型的なマーカーとして使用されているCol2を全く発現していないので、成熟した軟骨細胞とは異なることを具体的に確認した(実施例3-4参照)。
【0046】
本発明の更に他の実施例において、ウサギの軟骨部位に欠損を誘導した後、上記のように電気刺激を印加して製造した軟骨前駆細胞をウサギの軟骨欠陥部位に移植した場合、欠陥があった部位を有効なレベルで再生できることを確認した(実施例5参照)。
【0047】
本発明者等は、上記のような結果を通じて、特定の条件の電気刺激を印加する場合、高価な成長因子を別途に添加しないとしても、間葉系幹細胞を間葉系幹細胞及び軟骨細胞と全て異なる軟骨前駆細胞に分化誘導可能であることを確認した。本発明の軟骨前駆細胞は、成熟した軟骨細胞のマーカーであるCol2を全く発現しないという相違点を有するので、未成熟した細胞であって、成熟した細胞の移植時に主に発生する問題である免疫関連問題からより自由になると予想される。
【0048】
一方、本発明において、「薬学的組成物」は、疾病の予防又は治療を目的として製造されたものを意味し、それぞれ通常の方法によって多様な形態に剤形化して使用されてもよい。例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップなどの経口型剤形に剤形化することができ、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用することができる。
【0049】
本発明に係る薬剤学的組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。前記薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これに限定されなく、必要によって抗酸化剤、緩衝液などの他の通常の添加剤をさらに含むことができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒、又は錠剤に製剤化することができる。適切な薬学的に許容される担体及び製剤化に関しては、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th edition、1995)に開示されている方法を用いて各成分によって好適に製剤化することができる。本発明の薬剤学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、又は経口摂取剤などに製剤化することができ、移植に容易な剤形の形態、好ましくは、スフェロイドの形態であってもよく、前記スフェロイドの直径は、これに制限されることはないが、0.5mm乃至1.5mm、好ましくは0.8mm乃至1.2mm、さらに好ましくは1.0mmであってもよい。
【0050】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与したり、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内又は局所に適用)することができ、投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物の形態、投与経路及び時間によって異なるが、当業者によって適宜選択され得る。
【0051】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/危険の比率で疾患を治療するに十分な量を意味し、有効用量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野でよく知られている要素によって決定され得る。
【0052】
本発明に係る薬学的組成物は、個別治療剤として投与されたり、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次に又は同時に投与されてもよく、単一又は多重投与されてもよい。前記各要素を全て考慮した上で、副作用なしで最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定され得る。
【0053】
また、本発明は、前記薬学的組成物を個体に投与する段階を含む軟骨関連疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0054】
本発明で使用される「投与」という用語は、任意の適切な方法で個体に所定の本発明の組成物を提供することを意味する。
【0055】
本発明で使用される「個体」という用語は、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒト又は非ヒトである霊長類、マウス、イヌ、ネコ、ウマ、及びウシなどの哺乳類を意味する。
【0056】
また、本発明は、前記薬学的組成物の軟骨関連疾患の予防又は治療用途を提供する。
【0057】
また、本発明は、幹細胞に電気刺激を印加することによって軟骨前駆細胞又はその凝集体を製造する段階を含む、軟骨関連疾患治療又は予防用薬学的組成物の製造方法であって;前記軟骨前駆細胞は、下記の特徴を有する製造方法を提供する。(a)Col2を発現しなく;(b)前記軟骨前駆細胞には、アルシアンブルー、サフラニンO及びトルイジンブルーからなる群から選ばれる一つ以上によって基質染色が行われる。
【0058】
以下、本発明の理解を促進するために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎなく、下記の実施例によって本発明の内容が限定されることはない。
【実施例
【0059】
実施例1.実験材料及び実験方法
1-1.1次細胞培養
4ヶ月の雌のビーグル犬3匹の腹部脂肪組織から、3個のバッチ(batches)分量のイヌ(Canine)脂肪由来の幹細胞(Adipose derived stem cell、以下、ADSC)を収得した。細胞を継代(passage)0で保管し、脂肪細胞、軟骨細胞及び造骨細胞への分化能を評価した。細胞を75-cmフラスコ(5×10cells/flask、BD Falcon)にプレーティングし、10%のFBS(GIBCO)及び1X抗生剤-抗真菌剤(antibiotic-antimycotic)(GIBCO)を含む低ブドウ糖のDMEM(Dulbecco’s modified Eagle medium、GIBCO)で培養した。
【0060】
1-2.マイクロマス(Micromass)培養及び電気刺激
3乃至5継代のイヌADSCを分離した後、1x抗生剤-抗真菌剤及び1xGlutaMax(GIBCO)を含む無血清培地であるserum-free advanced DMEM/F12 medium(GIBCO)で高密度(2.5×10cells/ml)で懸濁させた。マイクロマスを生成するために、10μlの細胞懸濁液を35-mmの皿(dish、Corning)に置き、37℃の温度及び5%のCO条件のインキュベーター(N-Biotek、韓国)に付着できるように培養した。培養してから1時間後、serum-free advanced DMEM/F12 medium(GIBCO)を添加した。細胞は、細胞の慢性刺激を与えることができる多チャンネル刺激器(multi-channel stimulator)に入れた。イヌ1次ADSCのマイクロマスは、2.0Hz周波数、10V/cm及び10ms条件の電気刺激(Electrical stimulation、以下、ES)の有無を異ならせて培養した。電気刺激を3日間印加した後、凝縮された細胞塊の形成を位相差顕微鏡(phase-contrast microscope(Eclipse Ti2,Nikon,Japan)を通じて観察した。
【0061】
1-3.単一細胞準備及びRNAシーケンシング
単一細胞の製造は、室温でMACS組織解離キット(MACS tissue dissociation kit、(Miltenyi Biotech))及びジェントルMACS解離器(gentleMACS dissociator、(Miltenyi Biotech))を活用して行われた。細胞懸濁液を細胞ろ過器に移した後、完全培地(complete medium)で洗浄した。細胞生存率の分析のための生存/死滅分析(Live/Dead assay、Molecular Probeを活用し、90%以下の細胞生存率を示すグループはカットオフする。)を行った。RNAシーケンシングは、マクロジェン(Macrogen,Korea)のRNA-seq分析サービスを通じて行った。
【0062】
単一細胞ライブラリの製造のために、製造会社の指針に従って約500個程度の細胞をキャプチャーできるNext GEM Single Cell 3’ Library & Single Cell3’ V3.1ゲルビード(Gel beads)を使用し、細胞を10xGenomicsプラットホームに処理した。固有にバーコードされたcDNAライブラリは、単一細胞の液滴(single-cell droplets)で逆転写、精製及びPCR過程を経てRNAから製造することができる。ライブラリは、リード1(read 1、細胞バーコード及び固有分子識別子[UMI])、8bpインデックスリード(index read、サンプルバーコード)及び91bpリード2(read 2、RNAリード)とリード長が28bpであるHiSeqX(Illumina)を用いてシーケンシングした。
【0063】
データ分析のためのFASTQファイルを生成するためには、Cell Ranger v3.1.0(10XGenomics)を使用した。このために、データをイヌ(canine)の参照ゲノム(CanFam3.1 release 100)と整列し、UMI及び細胞バーコードで遺伝子の発現を測定し、細胞クラスターを決定した後、差等遺伝子発現分析を行った。多くのデータセットに正規化するために、最終集計データセットはSeurat 3.1.3によって持って来た。ミトコンドリアの比率が>0.2である細胞集団は、低いUMI含量を含む細胞をろ過するためにフィルタリングした。UMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)分析は、統計的に有意な主成分をベースにして行った。全てのクラスターと残り細胞との特異的なマーカー比較は、最小細胞百分率(minimum percentage of cells)の最小分率(minimum fraction)を活用して決定し、Wilcox順位合計テストを行い、有意な結果のみを報告した。
【0064】
1-4.オンラインデータベースを活用したゲノム分析
イヌADSCの軟骨分化を評価するために、NCBI GEO(Gene Expression Omnibus)を活用して転写体(transcriptome)の変化を分析した。このために、GSE32398(成長板軟骨に比べて、ヒトの関節軟骨で変化した上位250個の遺伝子)、GSE51812(発達してから17週後にヒト関節軟骨細胞で変化した上位239個の遺伝子が、週別に軟骨細胞と比較して6胚発生)、及びGSE19664(軟骨形成の間、時間の経過と共に健康なヒトBMSC(Bone marrow-derived stem cell)で変化した上位128個の遺伝子)転写体を使用した。重要なプローブリストを分析するために、GOアノテーション(annotation)(Gene Ontology annotation)とPANTHER分類システム(PANTHER classification system)を使用した。
【0065】
1-5.カルシウムオシレーション(Oscillation)測定
イヌ1次ADSCを2~2.5×10cells/mlの密度で懸濁させ、細胞懸濁液10μlの液滴をCellBIND表面35-mmの皿(dish、Corning)に置いた。イヌADSCのマイクロマスごとに電気刺激印加の有無(刺激条件:2.0Hzの周波数で10msの間に10V/cm)を異ならせて培養した。ESを印加してから14時間後、プロベネシド(probenecid)がないFluo-4試薬(Molecular Probe)を製造企業のプロトコルに従って30分間1:1の比率で培地にローディングした。カルシウムオシレーションは、10分間インキュベーションなしで488nmに1秒露出させて刺激させた後、1fpsを記録した。蛍光強度の時間経過分析(Time-lapse)は、NIS-Elements Advanced Research Imaging software(Eclipse Ti2,Nikon,Japan)を活用して分析した。
【0066】
1-6.総グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)測定
グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan、以下、GAG)の測定のために細胞をPBSで洗浄した後、パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde、Biosesang)で20分間固定し、染色前まで4℃で保管した。細胞は、アルシアンブルー(Alcian Blue、IHC world)溶液を用いて室温で30分間培養したり、サフラニン-O(Safranin-O、IHC world)溶液を用いて室温で1時間にわたって培養した後、蒸留水で複数回濯いだ。GAGの蓄積は、デジタルUSBカメラを活用して撮影した(My first lab、USA)
1-7.流動細胞分析(Flow Cytometry)
前記実施例1-3で準備した単一細胞をAlexa488 anti-dog CD44(MCA1041A488、Bio-Rad)、PE anti-dog CD90(12-5900-42、BD)、PerCP-Cy5.5 anti-dog CD29(303024、BioLegend)、Alexa488 anti-dog CD45(MCA1042F、Bio-Rad)、Alexa647 anti-dog CD73(Bs-4834R-A647、Bioss)、FITC anti-dog CD54(GTX76274、GeneTex)、APC anti-dog CD49d(304308、BioLegend)、PE anti-dog CD34(559369、BD)、PE anti-hu/dog HLA-DR(361606、BioLegend)又はAPC anti-dog CD80(104714、BD)を4℃で20分間処理して染色した。流動細胞分析は、延世大学の臨床研究機関のBD LSRII分析サービスを用いて行った。
【0067】
1-8.RT qPCR分析
製造企業のプロトコルに従ってGentleMACS dissociator(Miltenyi Biotech)及びDirect-zol RNA MiniPrep(Zymo Research)を使用し、3日間多様な条件で培養されたイヌADSCでトータルRNAを分離した。RNA濃度は、バイオスペクトロメーター(biospectrometer、Eppendorf)を用いて測定し、逆転写反応は、TOPscript cDNA合成キット(Enzynomics)を用いて0.3μg~0.5μgのトータルRNAで行った。GAPDH及びCOL1A1に対するリアルタイムPCRは、10ngのcDNA/チューブが含まれたSYBR 2x Mix(Bio-Rad)とCFX連結Real-Time PCR検出システム(Bio-Rad)を用いて行った。具体的には、サンプルを95℃で15分間維持した後、95℃で10秒間の変性段階、60℃で30秒間の拡張及びアニーリング段階を含む40回の増幅サイクルを行った。
【0068】
COL1A1の発現レベルは、GAPDHの発現レベルに正規化し、相対的な遺伝子発現レベルは、2-△△CT方法を用いて計算した。プライマー配列は、Primer-BLASTを使用し、下記のように独自に決定した:イヌGAPDH正方向プライマー5’-GGTGATGCTGGTGCTGAGTA、逆方向プライマー5’-GGCATTGCTGACAATTCTGA;イヌCOL1A1正方向プライマー5’-CCGCTTCACCTACAGTGTCA、逆方向プライマー5’-CAGACAGGGCCAATATCCAT(Bioneer、Korea)。
【0069】
1-9.ウェスタンブロット分析
細胞をice-cold PBSを用いて3回洗浄した後、ホスファターゼ阻害剤カクテル(phosphatase inhibitor cocktails、genDEPOT)を含有するRIPA細胞溶解緩衝液(RIPA cell lysis buffer、genDEPOT)で収穫した。タンパク質の濃度は、BCAタンパク質分析キット(Pierce)を用いて決定した。タンパク質のサンプルは、SDS-PAGEゲルから分離した後、標準手順を用いてPVDFメンブレン(ATTO)に電気移動(electrotransferred)させた。0.05%のTBSTに溶かした5%の無脂肪粉ミルクでメンブレンを遮断した後、4℃のプラットホーム(rocking platform)で12時間にわたって1次抗体と共にインキュベーションした。膜を15分間TBST緩衝液で3回洗浄し、HRP-接合二次抗体(HRP-conjugated secondary antibody、GeneTex)を含むTBSTで1%の脱脂乳と共に1時間にわたってインキュベーションした。混成化されたメンブレンをTBST緩衝液で洗浄し、向上した化学発光検出キット(enhanced chemiluminescence detection kit、Merk)及びLAS500イメージングシステム(LAS500 Imaging system、GE healthcare)を用いて視覚化した。
【0070】
1-10.核型分析(Karyotyping)
サンプリングのために、ESによって誘導された細胞凝縮物を70μmの気孔サイズのナイロンメッシュを用いて均一な単一細胞懸濁液で破壊させた。細胞懸濁液を15mlのチューブに収集した後、450 x gで5分間遠心分離した。培地を吸引(aspiration)した後、ペレットを新しい培地に懸濁し、GenDix KaryotypingサービスのG-banding染色及び染色体映像分析機システム(chromosome imaging analyzer system)を用いて核型を分析した。
【0071】
1-11.統計分析
全てのデータは、平均±標準偏差で表示した(n=個別サンプル数)。全ての統計分析は、MS Excelソフトウェア(Microsoft 365)を用いて行い、<0.05のP値は、有意な差を示すものと見なした。
【0072】
実施例2.幹細胞への電気刺激印加を通じた軟骨前駆細胞の製造
2-1.電気刺激印加によるADSCの軟骨化
ES(10V/cm、10ms、2Hz周波数)でイヌADSC(MSC)を刺激した後、刺激によって凝集した細胞を確認した。イヌADSCのマイクロマス培養は、血清及び外因性因子を追加せずに行った(図1a)。ESを印加してから3日が経過した後、ES印加の有無による凝集体の軟骨基質関連分子の免疫組織化学染色結果を位相差顕微鏡を通じて確認した。その結果、図1bに示したように、ESを印加していない細胞に比べて、ESを印加した細胞でシート形態(sheet like)の細胞凝集及びさらに大きい凝集を確認した。また、ESによって刺激された細胞でアルシアンブルー及びサフラニン-O染色を行った後で観察したとき、図1cに示したように、プロテオグリカンの沈着を確認することができた。
【0073】
ESが細胞の死滅に及ぼす影響を確認するために、Live/Dead試薬を使用した生存力評価を行った。その結果、図1dに示したように、ES印加の有無は、細胞の生存力に有意な差を与えないことを確認することができた。また、凝集体は、図1eに示したように、約10個の細胞を含んでいることを確認した。ES印加による細胞膜タンパク質の変化を確認するために、表面分子に対する抗体を使用した流動細胞分析を行った。単相で成長するADSCと膜タンパク質の発現を比較したとき、図1fに示したように、CD44、CD90、CD29、CD73、CD54、CD34、CD49d、CD45、HLA-DR及びCD80は、類似する発現を示すことを確認することができた。
【0074】
本発明者等は、上記のような結果を通じて、ESが、イヌADSCの非常に稠密な軟骨形成前の凝縮(prechondrogenic condensation)を誘導することを確認することができた。
【0075】
2-2.軟骨化過程でのカルシウムオシレーション確認
ESによる軟骨形成は、軟骨発達で観察される自発的な細胞内のカルシウムオシレーションを再生産することが以前に報告されている。本発明者等は、ESを印加したとき、本発明のイヌADSCマイクロマスでも、これと類似するカルシウムオシレーションが発生するかどうかをモニタリングした。Fluo-4 Directを使用したカルシウム蛍光測定は、図2aに示したように、ESを印加していない対照群に比べて、ESを受けた細胞塊においてさらに規則的な周波数及び高い振幅で変動することを確認した。より具体的には、図2b及び図2cに示したように、電気的に刺激された細胞凝集体は、典型的なカルシウムオシレーションのCa2+変動パターンを示した。このような結果は、外因性因子がないES印加条件でも、マイクロマス凝集過程の間にADSC細胞内の軟骨形成前の凝縮が誘導されることを示す。
【0076】
実施例3.電気刺激によって製造された軟骨前駆細胞の特性確認
3-1.転写体プロファイルの確認
ESによって刺激された細胞の塊から単一細胞を分離した。単一細胞RNA-seqライブラリは、10X Genomics Chromiumプラットホームで準備され、データは、データ分析のためのツールキットである標準Seuratによって持って来た。細胞の転写体プロファイルを確認するための全体の実験は、図3aに示した。具体的には、Loupe Cell Browserを用いて正規化されたデータセットを分析し、可変性の高い遺伝子を識別し、12個のクラスターを4個のデータセットに細分化した(図3b)。また、図3cに示したように、2D ADSCが、表現型と機能において、ESを印加した細胞マイクロマスと転写体部分で相当の相違点を有することを発見した。
【0077】
オープンソースGO annotationとPANTHERデータベース分析道具を使用し、4個のデータセットの遺伝子発現パターンを探索した。6時間にわたってESを印加したADSCマイクロマスで陽性子イオン輸送(proton ion transport)、オルニチン代謝(ornithine metabolism)、生物発生(biogenesis)及びカルシウムイオンの出入り(calcium ion import/release)と関連した各遺伝子が上向きに調節されることを確認した(図4a)。ESを印加していない細胞マイクロマスでは、軟骨凝縮(cartilage condensation)、カルシウムイオン膜横断輸送(calcium ion transmembrane transport)、骨格筋組織発達(skeletal muscle tissue development)、NF-κB経路(NF-κB pathway)及び免疫細胞の化学走化性(chemotaxis of immune cells)と関連した遺伝子が上向きに調節されることを確認した(図4b)。72時間にわたってESを印加した細胞マイクロマスは、プロスタグランジン合成(prostaglandin synthesis)、多細胞有機体発達(multicellular organism development)、アルギニン異化作用(arginine catabolism)及び細胞死陰性調節(negative regulation of apoptosis)と関連した遺伝子が上向きに調節されることを確認した(図4c)。
【0078】
上記のような遺伝子発現パターンの役割を理解するために、公開的に利用可能な軟骨前駆細胞分化(prechondrocyte differentiation)遺伝子発現データ細胞との比較を行った。その結果、図4d乃至図4fに示したように、72時間にわたってESを印加した細胞マイクロマスは、胚軟骨形成凝縮(embryonic chondrogenic condesation)から関節軟骨細胞分化(articular chondrocyte differentiation)の間に上向きに調節された相当の数の遺伝子が軟骨形成前の変化(prechondrogenic changes)を誘導することを確認した。軟骨母細胞(osteochondral progenitor cells)の分化と関連した核心因子を識別するための研究を行ったとき、骨軟骨前駆細胞でのRUNX2とSOX9との間の均衡は、軟骨細胞と造骨細胞の分化に必須な役割をすることが確認された。ESを印加したマイクロマスに対する現在のデータは、RUNX2及びその抑制因子NKX3.2のレベルが軟骨前駆細胞の典型的な量に特異的に変更されたことを示す(図4e)。
【0079】
本発明者等は、上記のような結果を通じて、ESによって触発されたイヌADSCの凝縮が軟骨母細胞発達段階と類似する表現型を誘導することを確認した。
【0080】
3-2.生存能の確認
ESによる生理的ストレスは、多くの細胞過程に影響を及ぼし、多様な生理的及び病理学的結果をもたらし得るので、ES刺激を3日間印加したADSCに対して、CCK-8 viability kitを用いて細胞生存能を確認した。その結果、図5aに示したように、ES刺激印加は、イヌADSCマイクロマスの生存力に影響を及ぼさないことを確認することができた。GOデータベース分析を行ったときにも、図5bに示したように、電気的露出が細胞死と関連した遺伝子であるSHARPINの発現に影響を与えないことを確認した。細胞マイクロマスを機械的及び酵素的に解離させて製造した単一ADSC懸濁液にPI(propidium iodide)染色を行った。その結果、図5cに示したように、PI染色された細胞数は、ES印加の有無と関係がないことが確認された。
【0081】
3-3.軟骨前駆細胞への分化の有無確認
成体幹細胞は、成長している一般的な細胞と比較するとき、MKI67、TOP2A及びHMMRなどの代表的な増殖マーカーを発現する。上記のような増殖マーカーは、図5dに示したように、ES印加の有無とは関係なく、凝集した細胞で発現されないことを確認した。このようにESを印加した細胞で核型を観察した結果、図5eに示したように、核型の変化が発生しないことを確認した。
【0082】
本発明者等は、上記のような結果を通じて、細胞が凝集する場合、これ以上幹細胞ではない成熟した細胞類型への分化が進められることを確認した。
【0083】
3-4.コラーゲン生成レベルの変化確認
軟骨細胞の主な機能は、コラーゲンタイプ2、4、6、10、11、12及び14などの細胞外基質を合成することであるので、本発明のESを印加した細胞の分化有無を確認するためにコラーゲン生成レベルを確認した。その結果、図6aに示したように、ES刺激の有無とは関係なく、イヌADSCのマイクロマスでCOL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A5、COL5A3、COL6A1、COL6A3、COL6A5、COL8A1、COL13A1、COL14A1、COL15A1、COL16A1、COL21A1、COL23A1、COL24A1、COL24A1及びCOL27A1の発現が増加することを確認した。そのうち、COL3A1、COL5A2及びCOL6A1/3の発現は、ADSCマイクロマスで強力且つ均一に増加することを確認した。ESを印加した細胞の場合、ESを印加していない場合に比べて、COL6A3及びCOL16A1がマイクロマスで全体的に抑制されることを確認した。
【0084】
しかし、MSCの軟骨形成と共に発現され、成熟した軟骨細胞のマーカーとして知られているCol2の場合、図6bに示したように、ES印加の有無とは関係なく、発現されないことを確認することができた。既存の間葉系幹細胞に電気刺激を印加し、幹細胞を軟骨細胞に分化させる方法を開示している既出願特許(KR10-2015-0047361)では、比較例を通じて、成熟した軟骨細胞のマーカーとして使用されるCol2の発現が、成長因子を添加した間葉系幹細胞及び電気刺激を印加した間葉系幹細胞の全てにおいて有意なレベルに増加したことを確認したが、本発明の電気刺激を印加した細胞凝集体は、これとは異なり、Col2を全く発現していないことを確認した。
【0085】
一方、コラーゲンタイプ1に対するESの効果を確認するために、RT-qPCR(Real-time quantitative PCR)を行った。その結果、図6cに示したように、ESを印加した細胞の場合、そうでない細胞に比べてCOL1A1の発現が大きく増加することを確認した。COL1A1の発現は、ウェスタンブロッティングを通じて確認したときにも、図6dに示したように発現が大きく増加することを確認した。
【0086】
3-5.電気刺激印加によるコラーゲン調節関連因子の発現確認
コラーゲンタイプ1を選定し、電気刺激によって発現レベルが変化するメカニズムを分析した。メカニズムの分析のために、多様なソースのエンハンサーを統合したGeneHancerで提供するオープンソースデータベースを活用した。ESを印加した細胞でCOL1A1の発現と関連があることで知られている転写因子NR4A1、RBFOX2、NFIC、ID3、HDGF、BMI1、YBX1、SMARCE1、HLTF及びSMC3のレベルは、時間の経過と共に相当減少することを確認した(図7a)。これとは反対に、TCF12、POLR2A、ATF4、ARID4B、SMARCA5、GTF2F1、LARP7、HDAC2及びYY1などの転写因子は、ESを印加した後、72時間にわたって細胞マイクロマスで増加することを確認した(図7b)。
【0087】
前記各因子は、TGFβ信号伝達と関連があるので、COL1A1の発現レベルに変化をもたらす。COL1A1と関連のある転写因子の発現が増加するにもかかわらず、COL1A1の発現は有意に減少した。このような結果を通じて、前記転写因子以外の他の要因がCOL1A1の発現に影響を与えていることを確認した。
【0088】
実施例4.本発明の軟骨前駆細胞の組織形成能確認
細胞骨格でのESの役割を確認するために、細胞-細胞接合(cell-cell junction)を含む細胞骨格組織(cytoskeleton organization)を具体的に調節する遺伝子の発現を確認した。その結果、図7d及び図7eに示したように、軟骨細胞外基質(cartilage extracellular matrix)の機能に必須なものとして報告されたコネキシン(Connexins(GJB2/GJC1))、細胞接着タンパク質(PECAM1)及びクローディン(claudins(CLDN2/CLDN7/CLDN10/CLDN19))の発現が有意に上向きに調節されることを確認した。
【0089】
このような結果は、前記実施例2-1のGAG染色結果と符合する。細胞マイクロマスにESを印加する場合、アグリカン(aggrecan)を構成する二つのGAGであるコンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)及びケラタン硫酸(keratan sulfate)の生合成と関連した遺伝子の相当高い発現を誘導する。このようなデータは、電気刺激が軟骨前駆細胞への分化を直接誘導することができ、軟骨基質及び軟骨前駆細胞の可塑性(plasticity)を刺激し、硝子軟骨を復旧できることを意味する。
【0090】
実施例5.本発明の軟骨前駆細胞の生体内の治療効果確認
電気刺激を印加した軟骨前駆細胞凝集体の軟骨組織への分化及び組織生着による軟骨の組織学的再生及び復旧を生体内で確認するために、4kg以上の骨成熟が完了した実験用ニュージーランド白ウサギ(NZW rabbit)の大腿軟骨に4mmの直径(ウサギの平均軟骨の厚さ0.3mm)の小さい軟骨欠損部位を生成し、8個の電気刺激凝集体を埋め込んだ後、フィブリングルーを塗布することによって凝集体を固定した。本実験の全体的な進行過程は、図8aに示した。埋め込んだ電気刺激凝集体は、イヌの脂肪油由来の間葉系幹細胞から由来するので、異種間の移植を考慮した上で、免疫抑制剤であるサイクロスポリンを1日1回静脈投与(10mg/kg)し、2週以内に適用したり、又は正常な健康状態を示さない場合は直ぐ中断した。埋め込んでから16週を経過したとき、剖検によって大腿軟骨を摘出した後、マイクロ単位の解像度を有するマイクロCT撮影を通じて大腿軟骨の欠損及び再生を映像撮影を通じて獲得したイメージで評価した。その結果、図8b及び図8cに示したように、電気刺激を印加した凝集体を埋め込んだ欠損部位は、4ヶ月後、埋め込まれた部位で軟骨層として評価される範囲を収復することが確認された。
【0091】
上記のような結果を確認するために、軟骨基質染色を行った。その結果、図8c乃至図8gに示したように電気刺激を印加した凝集体を埋め込んだ場合、軟骨基質染色としてアルシアンブルー、トライクロム、サフラニンOの組織染色スライドで欠損に対する埋め込まれた凝集体の組織学的評価で正常軟骨組織の特性と類似する軟骨細胞への分化及び軟骨基質の回復を確認することができた。また、生体内で長期間の生着、周辺の正常軟骨との連結、及び下部の骨組織との滑らかな組織接合性を示すことを確認した。このような結果は、上記で確認した組織病理染色結果と符合する。
【0092】
これをスコアリングした図表において、5匹のウサギで平均的に有意な再生及び回復を確認し、その結果を図8h乃至図8mに示した。このようなデータでは、実験動物の軟骨欠損部位又は埋め込んだ凝集体部位で炎症が観察されておらず、実験動物の体重変化及び肉眼観察を通じてヘルスモニタリングを実施したとき、異常症状が観察されないことを確認し、埋め込んだ凝集体の効力を評価するにおいて追加的な影響は考慮されなかった。
【0093】
以上で述べた本発明の説明は、例示のためのものであって、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須な特徴を変更せずとも他の具体的な形態に容易に変形可能であることを理解できるだろう。そのため、以上で記述した各実施例は、全ての面で例示的なものであって、限定的なものではない。

図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6a
図6b
図6c
図6d
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図8f
図8g
図8h
図8i
図8j
図8k
図8l
図8m
【国際調査報告】