(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】適応回路検査を有する高圧トリガパルス閉鎖器
(51)【国際特許分類】
H02H 3/06 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
H02H3/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508777
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 US2022035863
(87)【国際公開番号】W WO2023018493
(87)【国際公開日】2023-02-16
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505153993
【氏名又は名称】エス アンド シー エレクトリック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】カザーレ.エドガー
(72)【発明者】
【氏名】エニス.マイケル.ジー.
(72)【発明者】
【氏名】モンテネグロ.アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】シャロン.ヨアヴ
(72)【発明者】
【氏名】ヤドゥスキー.ウィリアム
【テーマコード(参考)】
5G142
【Fターム(参考)】
5G142AB03
5G142AC06
5G142BC02
5G142CC08
5G142HH02
5G142HH12
(57)【要約】
故障に応じて高圧送電システムの電気的安定性を維持するシステム及び方法を提供する。当該方法は、故障を検出する工程と、スイッチを開放して故障を除去する工程と、最初のパルス検査を所定時間行い、故障が未だ存在するか否かを判断する工程と、当該パルス検査で故障が未だ存在すると示された場合、再閉路動作を防止する工程と、当該パルス検査で故障が存在しないと示された場合、再閉路動作を許可する工程を含む。上記最初のパルス検査で故障の残存について結論に達していない場合に後続のパルス検査を1又は複数回行うことができ、当該パルス検査で故障が未だ存在すると示された場合は再閉路動作が防止され、当該パルス検査で故障が存在しないと示された場合は再閉路動作が許可される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障に応じて電力システムの電気的安定性を維持する方法であって、
前記故障を検出する工程と、
スイッチを開放して前記故障を除去する工程と、
最初のパルス検査を所定時間行い、前記故障が未だ存在するか否かを判断する工程と、
前記最初のパルス検査で前記故障が未だ存在すると示された場合、前記スイッチによる再閉路動作を防止する工程と、
前記最初のパルス検査で前記故障が存在しないと示された場合、前記再閉路動作を許可する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記最初のパルス検査が、真空トリガギャップ(TVG)装置で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定時間が、0.5サイクル以内であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記最初のパルス検査で前記故障の残存について結論に達していない場合に、後続のパルス検査を行う工程を更に含み、再閉路動作が行われないように防止する工程が、前記パルス検査のいずれかの検査で前記故障が未だ存在すると示された場合に再閉路動作を防止することを含み、かつ前記パルス検査のいずれかの検査で前記故障が存在しないと示された場合に再閉路動作を許可することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記最初のパルス検査及び前記後続のパルス検査が、真空トリガギャップ(TVG)装置で行われることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記最初のパルス検査が、所定のポイントオンウェーブ(Point-on-Wave)時間で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電力システムが、高圧送電システムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記再閉路動作が、前記スイッチで行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
故障に応じて高圧送電システムの電気的安定性を維持する方法であって、
前記故障を検出する工程と、
スイッチを開放して前記故障を除去する工程と、
最初のパルス検査を真空トリガギャップ(TVG)装置を用いて所定時間行い、前記故障が未だ存在するか否かを判断する工程と、
前記最初のパルス検査で前記故障の残存について結論に達していない場合に、後続のパルス検査を前記TVG装置で前記所定時間行う工程と、
前記パルス検査で前記故障が未だ存在すると示された場合、前記スイッチによる再閉路動作を防止する工程と、
前記パルス検査で前記故障が存在しないと示された場合、前記スイッチによる再閉路動作を許可する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記所定時間が、0.5サイクル以内であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記最初のパルス検査が、所定のポイントオンウェーブ(Point-on-Wave)時間で行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
故障に応じて電力ネットワークの電気的安定性を維持するシステムであって、
前記故障を検出する、前記電力ネットワークに連結されるセンサ及び前記センサに連結される制御装置と、
スイッチに連結するアクチュエータであって、故障が存在する場合に前記スイッチを開放して前記故障を除去するアクチュエータと、
前記電力ネットワークに連結される第一のパルス検査装置であって、前記電力ネットワークのパルス検査を所定時間行い、前記故障が未だ存在するか否かを判断するパルス検査装置と
を備え、
前記アクチュエータが、前記パルス検査装置による最初のパルス検査で前記故障が未だ存在すると示された場合に前記スイッチの再閉路を防止するように構成され、かつ
前記アクチュエータが、前記パルス検査装置による最初のパルス検査で前記故障が存在しないと示された場合に前記再閉路を行うように構成されることを特徴とするシステム。
【請求項13】
前記パルス検査装置が、真空トリガギャップ(TVG)装置からなることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記所定時間が、0.5サイクル以内であることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記最初のパルス検査で前記故障が存在すると示された場合、前記パルス検査装置が後続のパルス検査を行うように構成され、更に前記アクチュエータが、前記後続のパルス検査で前記故障が未だ存在すると示された場合に前記スイッチの再閉路を防止するように構成され、かつ前記アクチュエータが、前記後続のパルス検査で前記故障が未だ存在すると示された場合に存在しないと示された場合に前記再閉路を行うように構成されることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
前記パルス検査装置が、真空トリガギャップ(TVG)装置からなることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記所定時間が、0.5サイクル以内であることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記パルス検査装置が、前記最初のパルス検査を所定のポイントオンウェーブ(Point-on-Wave)時間で行うように構成されることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項19】
前記アクチュエータが前記スイッチを作動して前記再閉路を行うことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項20】
前記電力ネットワークが、高圧送電ネットワークであることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月12日に出願された米国仮特許出願第63/232,313号に基づく優先権の利益を主張するものであり、その開示全体はその目的を問わず参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、真空トリガギャップ(Triggered Vacuum Gap:TVG)装置を用いたパルス検査により故障に応じて電力システムの電気的安定性を維持するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電力ネットワークは電力系統と呼ばれることが多く、通常、ガスタービン、原子炉、石炭火力発電機、水力発電ダムなど発電機を有する発電所を含む。発電所は様々な中電圧で電力を供給し、変圧器によって高圧交流信号に昇圧され、通常は地域内にある変電所に電力を供給する高圧送電線に接続され、変圧器によって中電圧に降圧されて配電される。変電所は、様々な配電変圧器や側線接続に中電圧を供給する3本の単相給電線を含む三相給電線に、中圧電力を供給する。三相及び単相の側線は、様々な配電変圧器に中電圧を供給する給電線から分岐され、ここで電圧は低電圧に降圧され、家庭や企業などの負荷に供給される。上記のタイプの電力ネットワークは、通常、ネットワークを介した電力の流れを制御する、スイッチング装置、遮断器、再閉路装置、断続器などを含む。
【0004】
動物による電線の接触、落雷、電線上の枝木の落下、車両の電柱衝突など様々な要因で、定期的に電力ネットワークに障害が生じる。このような障害によって短絡が生じ、ネットワークの負荷が増大すると、変電所からの電流の流れが故障経路に沿って大幅に増加し、例えば通常の何倍もの電流が流れることがある。この電流量により、電線が著しく加熱し、場合によっては溶融し、更には変電所やネットワーク内の様々な部品に機械的損傷を与える可能性がある。多くの場合、このような故障は、永久故障又はボルテッド故障(bolted fault)ではなく、一時的または断続的な故障であり、例えば落雷など、故障の原因となったものが故障発生後短時間で取り除かれ、配電ネットワークはほぼすぐに正常に作動し始める。
【0005】
迅速に故障を除去することは、電力系統の過渡安定性を改善又は維持しながら、同時に機器に損傷を与える可能性のある通過電流(let-through current)を制限する最も効果的な技術の1つとして広く受け入れられている。故障が最初に除去された後、できるだけ早く再閉路することで、回路を故障前の構成に戻し、ネットワークの安定性を維持又は回復させることができる。従来の再閉路は故障が除去された場合に限り最も効果的であるが、そうでない場合は、ハードウェアによる再閉路(hard-reclose)が試行されるたびに全故障電流が再適用される。永久故障への再閉路は、特に利用可能な故障電流が数万アンペアにもなる場合がある高電圧ネットワークでは、ネットワークの不安定性を引き起こしたり、悪化させたりする可能性がある。このように利用可能な故障電流が大きいと、電力系統機器に即時に又は潜在的に損傷を与える可能性もある。高電圧ネットワークのネットワークインピーダンスが特徴的に低いと、利用可能な故障電流が急速に増加することもあり、これは、故障電流が極めて迅速に遮断されない限り非常に速く損傷を与えるレベルに達することを意味する。
【0006】
極めて迅速に故障を除去するために、下流側で電力の流れを許可又は防止するスイッチを備えた、再閉路装置(recloser)などの故障遮断器がしばしば提供される。再閉路装置は、給電線の電流と電圧を検出して電流の流れを監視し、故障の検出などネットワーク回路上の問題箇所を探す。故障電流が検出されると、それに応じて再閉路装置が開き、その後少し遅れて、故障が未だ存在するか否かを判断するプロセスにおいて閉鎖される。再閉路装置が閉じた状態のときに故障電流が流れると、再閉路装置は直ぐに開き、その後の開閉動作中に故障電流が再度又は2回以上検出された場合、再閉路装置は開いたままとなり、検査のたびに検査間隔が長くなる場合がある。
【0007】
パルス検査技術を用いた再閉路装置タイプの装置が知られており、この装置ではスイッチ接点の開閉がパルス方式で行われ、パルスは通常電流サイクルの2分の1未満であるため、故障が未だ存在するか否かを再閉路装置が判断している間、全故障電流がネットワークに印加されることはない。パルス閉鎖技術(Pulse closing technologies)は、再閉路装置の検査中にネットワーク機器にかかる故障電流ストレスを大幅に低減することに成功している。しかしながら、このような短いパルス持続時間を生成するために必要なスイッチング装置は、比較的複雑で高価である。例えば、パルスを発生させるために用いられる真空遮断器は2つの磁気アクチュエータを使用することが多く、1つは接点を閉じるためのものであり、もう1つは開アクチュエータの移動質量を用いて閉アクチュエータの方向を逆転させて接点を素早く開くためのものであることは、当業者には十分理解されている。
【0008】
可動部品を必要としないパルス検査に使用するスイッチング機構として、TVG装置を採用することが提案されている。典型的なTVG装置は、真空チャンバ内に配置された2つの固定主電極を含み、主真空ギャップがこれらの電極間に画定される。またTVG装置は、トリガ電極などのトリガ要素を含み、トリガ電極と対応主電極との間に真空トリガギャップが設けられる。トリガギャップは、その破壊電圧が主真空ギャップの破壊電圧よりもはるかに低くなるように、主真空ギャップよりはるかに短い長さで設計される。トリガギャップの破壊電圧をさらに低くするために、セラミックなどの絶縁体でブリッジすることもできる。十分に高いトリガ電圧インパルスがトリガギャップを越えて主電極とトリガ電極に印加されると、トリガギャップが破壊される。この破壊により、プラズマ雲が発生し、それが100万分の1秒にも満たない間に主真空ギャップ内を伝搬して主真空ギャップの破壊を引き起こす。TVG装置のこの状態は、スイッチが閉じていることを示す。TVG装置に電流が流れ始めると、電極上の交流電流信号がゼロクロス点を通過するまで止まらない。これが起こると、プラズマは真空によって消滅し、アークは消弧する。このように真空チャンバ内でプラズマを点火することができるため、TVG装置が導通するタイミングを厳密に、即ちマイクロ秒オーダーで制御することができる。さらに、電極の移動がないため、正確な機械的作動は要求されない。
【0009】
TVG装置は、主真空ギャップを横切る電圧がわずか数kVという比較的低い電圧でも容易にかつ正確にトリガ可能であるため、スイッチを効果的に閉じるプラズマ雲の生成に伴う遅延を、パルス検査の所望の時点から数マイクロ秒以内に厳密に制御することができる。トリガギャップが電流を導通すると、最初のライン周波ゼロクロスの大電流でも遮断することができ、電流遮断直後に主電極間に高耐電圧をもたらすことができる。当該機能は強力であるが、一般に、パルス電力用途にのみ使用され、同期閉極用途の電力系統には使用されていない。より具体的に、TVG装置は、高周波電流を遮断するだけでなく、高周波電流ゼロクロスのライン周波電流も遮断する優れた機能を有している。当該機能は、電力システムのスイッチング動作中に浮遊容量やインダクタンスの充放電によって高周波電流が発生するため重要である。このような高周波過渡電流は通常極めて急速に減衰し、ほとんどの場合、機械式スイッチで閉動作を行う際に気づかれることさえない。しかしながら、TVG装置の場合、高周波電流のゼロクロスによってパルス検査中にプラズマアークが早期に消弧されるという望ましくない影響を及ぼす可能性がある。TVG装置は、TVG装置で電流がパルス生成されてから100マイクロ秒以内に発生するいくつかの高周波電流ゼロのうちの1つの電流を遮断する可能性が高い。電流の遮断は、真空アーク、di/dt、接点材料などの物理的プロセスに依存する統計的事象である。高周波電流のゼロクロスによってプラズマアークが消弧した場合、TVG装置を再トリガしなければならないが、高周波過渡電流が再び発生し、TVG電流に電流ゼロクロスが発生し、再びTVG電流が遮断される可能性がある。
【0010】
TVG装置のプラズマアークと高周波電流のゼロクロスを通る電流導通が制御された方法で維持することが可能であれば、TVG装置により導通が停止されることはないであろう。トリガから数百マイクロ秒後、TVG装置のライン周波電流は十分に高くなり、高周波電流は十分に減衰するため、「早期の」電流ゼロクロスは効果的に排除される。つまり、TVG装置が、トリガ破壊後約300マイクロ秒の間、高周波電流のゼロクロスを乗り越えて導通を維持すれば、配電又は送電システムにおけるTVG装置による閉路はほぼ成功することになる。
【0011】
機械式スイッチに基づく様々な故障遮断装置や再閉路技術は、低レベルの配電システム用には存在するが、高電圧と高電流から生じる機械的ストレスにより高圧送電システム用までは対応できないことが多く、望ましくないことに、より大型で高価な構成部品が必要となる。更に、大型の機械部品を使用すると同期の問題が生じたり、大型部品を作動させるのに必要な時間とエネルギーが増加するため、他の問題が生じたりする可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記理由から、高圧送電用途での使用に適するよう改良された故障検出装置及び再閉路方式を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に、故障に応じて高圧送電システム又は中圧配電システムの電気的安定性を維持するシステム及び方法を開示し説明する。当該方法は、故障を検出する工程と、スイッチを開放して故障を除去する工程と、パルス検査を所定時間行い、故障が未だ存在するか否かを判断する工程と、パルス検査で故障が未だ存在すると示された場合、再閉路動作を防止する工程と、パルス検査で故障が存在しないと示された場合、再閉路動作を許可する工程を含む。上記最初のパルス検査で故障の残存について結論に達していない場合に後続のパルス検査を行うことができ、当該パルス検査で故障が未だ存在すると示された場合は再閉路動作が防止され、当該パルス検査で故障が存在しないと示された場合は再閉路動作が許可される。
【0014】
本開示の更なる特徴は、付随の図面と併せて以下の説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】高圧送電ネットワークのパルス閉鎖システムのブロック図である。
【
図2】
図1に示すパルス閉鎖装置に使用可能なTVG装置の断面図である。
【
図3】横軸を時間、縦軸を電圧としたグラフであって、1サイクルの故障除去後のパルス検査とハードウェアによる再閉路の感度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に示す、パルス検査を用いて故障に応じた高圧送電システムの電気的安定性を維持するためのシステム及び方法に関する開示の実施形態の説明は、本質的に単なる例示であり、本開示、本開示の適用、又は、本開示の使用を限定することを意図するものではない。
【0017】
送電を安定させるためには瞬時に発電と消費のバランスをとることが重要であり、これは通常、発電をオンラインで保つことによって実現される。送電ネットワークに故障事象が発生した場合、これに応じた再閉路動作が送電ネットワークの不安定化を引き起こす可能性があり、これにより、その後有害無益となり得る、つまり、電力を回復しようとする試みによってより広範な電力損失が生じ得る。本開示は、ネットワークが不安定にならないように、故障が解消された後に再閉路動作をいつどのように実行するかを決定する。ネットワーク内の電圧角などの様々なパラメータを計算及び/又は観測し、故障が除去された後にネットワークが安定に戻りつつあるのか不安定になりつつあるのかを判断して、再閉路動作が実行可能か否かを決定する。ネットワークが安定に向かっている場合は、再閉路動作が実行される前にパルス検査を行い、故障が未だ存在するかどうかを判断する。
【0018】
後述するように、本開示は、ハードウェアによる再閉路(hard reclosing)を実行することなく、故障の残存を迅速かつ繰り返し検査するシステム及び方法を提案するものであり、当該システムはTVG装置を有するスイッチを採用する。システムが故障を検出して解消するとすぐに、スイッチは、速度とネットワークの安定性を最適化するために、ポイントオンウェーブ(Point-on-Wave)のタイミングやその他の要素を使用して再閉路する。以下の説明では、「スイッチ」が3つの別個の極(三相系統において各相に1つずつ)で構成され、その動作は単一の3極スイッチとして連係されることを想定している。しかしながら、他の実施形態では、独立した単極作動、又は三相実装において各極がポイントオンウェーブ開閉する個別のタイミングが可能である。
【0019】
1又は複数の高速故障検出方式を使用して故障が検出されると、制御は、開速度に最適化されたスイッチを作動させることによって、疑われる故障を除去するための初期許可を出す。制御で初期許可から除去までの処理が行われている間、DFT、スペクトル分析、V対I(V-versus-I:インピーダンス)測定などの並列計算に対してダブルチェックが行われ、疑わしい故障が誤って検出されなかったことを確認する。また、後続のトリガパルス検査の最適な方式の特定に役立つよう、故障の種類、つまり単線接地障害(line-to-ground:LG)、ライン間障害(line-to-line:LL)、二重地対地(line-to-line-to-ground:LLG)、ライン-ライン-ライン障害(line-to-line-to-line:LLL)、地絡への三相ライン障害(line-to-line-to-line-to-ground:LLLG)が可能な限り特定されることで、任意の種類の故障がいつ解消したかを判断する精度と速度が上がる。
【0020】
一実施形態では、TVG装置のトリガ電極が、ここでは真空遮断器と想定される、スイッチの固定接点にのみ配置される。これにより、トリガパルス検査は、ライン周波数サイクル内に、特に負方向の電圧ゼロクロス付近の正電圧の半サイクルに一度だけ行うことができる。別の実施形態では、トリガ電極は、真空ボトルの固定接点と可動接点端の両方に配置される。これにより、トリガパルス検査は、ライン周波数サイクル内に2回行うことができる。並列計算により故障検出が誤トリップにつながる誤検知である可能性があると示された場合、スイッチ接点が作動可能な時間枠内で初期許可が撤回され、トリガパルス閉鎖モードへの移行が抑制される。
【0021】
ダブルチェックの計算が遅く、不完全であったり、結論に達していなかったり、或いは最初の故障検出と矛盾する場合は、予め設定された選択に従って初期許可が強化又は撤回され、アプリケーションにとってどちらが悪いと考えられるかによって、誤検出や検出漏れを回避する。特定のアプリケーション用にタイミングを設定することもできる。このタイミングとは、故障を解消するためにスイッチを作動させる初期許可をシステムレベルでダブルチェックするタイミングである。
【0022】
誤りでない故障が検出され、故障を除去するためにスイッチが開放されると、上記装置はトリガパルス閉鎖モードへの移行を制御し、故障がいつ除去されたかを判断することによって、スイッチが再閉路され得る最も早い時間を決定する。このために、スイッチのトリガ電極は正確なポイントオンウェーブで定期的に通電され、開いた接点ギャップにわたりプラズマアークを点火する。その結果生じる電流は、利用可能な故障電流よりもはるかに低い大きさで、数ミリ秒しか持続しないが、測定後分析され、故障がいずれかの相に未だ存在するか否かが判断される。故障が解消されたと判断されると、接点を再閉路するための初期許可が出される。故障が解消されていない場合、許可は出されず、上記装置はパルス検査をトリガする次のポイントオンウェーブの機会まで待機する。
【0023】
変電所で利用可能な、外部電流・電圧モニタのインターフェース並びに外部制御とステータス信号伝達とのインターフェースについて説明するが、ローカルの外部測定・制御システムをトリガパルス検査と連係させるために必要とされる十分な帯域幅とデータ転送速度を備えた通信インフラが、係る変電所すべてに存在するとは限らない。したがって、この説明の目的としては、電圧と電流の検知、及び制御/ステータス信号がトリガパルス検査に対して内部で実行されると想定するが、係る検知と信号伝達は外部装置によって提供される場合もある。
【0024】
他の実施形態では、制御は一定の周期間隔でトリガパルス閉鎖を行う前に所定の時間待機してもよく、制御は可変の周期間隔でトリガパルス閉鎖を行う前に設定された時間待機してもよく、制御は、重大な再閉路間隔などの所定の時間内に故障が解消されなかったと判断された場合、トリガパルス閉鎖を停止してもよく、制御は、トリガパルス閉鎖が指定回数行われた後に故障が除去されていないと判断された場合、トリガパルス閉鎖を停止してもよく、制御は外部制御装置から指示を受信してトリガパルス閉鎖を開始又は停止してもよく、制御は従来のTCC曲線又は他のアプリケーション固有のタイミング考察に従って構成してもよく、制御は全くトリガパルス閉鎖を実行しないように又は再閉路を行わないように構成してもよく、制御は測定された故障電流の大きさに基づいてパルス検査間隔を調整してもよく、及び/又は、1つのトリガパルス閉鎖器の制御は、他のトリガパルス閉鎖器と連係し、それぞれのパルス閉動作をインターリーブして、故障の位置特定又は距離と差動リレー方式との統合など追加の状況認識を得ることができる。
【0025】
上述したように、
図1はパルス閉鎖システム10のブロック図であり、故障に応じて高圧送電又は中圧配電システムの電気的安定性を維持するために使用可能な構成要素を示す。システム10は、タービンなどの発電機18から高圧電力を受け取る、相A、B、Cにそれぞれ設けられた3つの高圧送電線12、14、16を含む。パルス閉鎖装置20は、高圧送電線12、14、16に連結され、高圧送電線12に真空遮断器などの再閉路スイッチ24とパルス検査TVG装置26とを有するスイッチアセンブリ22を含み、高圧送電線14に再閉路スイッチ30とパルス検査TVG装置32とを有するスイッチアセンブリ28を含み、高圧送電線16に再閉路スイッチ36とパルス検査TVG装置38とを有するスイッチアセンブリ34を含む。パルス閉鎖装置20はまた、故障除去及び再閉路動作中に再閉路スイッチ24、30、36を開閉するアクチュエータ制御40と、TVG装置26、32、38にプラズマアークを発生させるトリガ制御42とを含む。
【0026】
電圧センサ48はパルス閉鎖装置20の送電側で高圧送電線12、14に連結され、電圧センサ50はパルス閉鎖装置20の送電側で高圧送電線14、16に連結され、高圧送電線の電圧測定を行う。電圧モニタ52は、電圧センサ48及び50から電圧測定値を受信する。電流センサ54は高圧送電線12の電流測定を行い、電流センサ56は高圧送電線14の電流測定を行い、電流センサ58は高圧送電線16の電流測定を行う。電流モニタ60は、電流センサ54、56、58から電流測定値を受信する。この構成の電圧監視では、電圧センサ48及び50からの線間電圧測定を用いる。代替の実施形態では、電圧測定は3つの電圧センサを必要とする対地間(line-to-ground)の電圧測定であってもよい。信号プロセッサ62は、モニタ52及び60から電圧及び電流信号を受信し、信号を処理し、処理された信号を故障検出・応答論理制御装置64に提供する。故障検出・応答論理制御装置64は、本明細書における説明と一致するように、アクチュエータ制御40及びトリガ制御42に、再閉路スイッチ24、30、36及びTVG装置26、32、38を制御するように命令する。信号プロセッサ62は、通信装置66と通信して、ネットワーク内の他の構成要素から電圧・電流信号、ステータス信号などを受信する。
【0027】
TVG装置26、32、38は、本明細書で述べる目的に適した任意のTVG装置でよく、
図2は、代表的な一例を示す、電気的にトリガされるTVG装置70の例示的な実施形態の断面図である。TVG装置70は、円筒状絶縁体74と導電性端板76、78を有する真空筐体72を含む。例示的な実施形態では、真空筐体72は、10
-6mbar以上、10
-3mbar未満の真空圧で密閉される。TVG装置70はまた、その間にトリガギャップ86を画定する一対の対向する導電性電極82、84を含む。電極82は端板76の密閉孔を通って延在するステム88に接続され、電極84は端板78の密閉孔を通って延在するステム90に接続され、ステム88及び90によってTVG装置70は他のスイッチング素子と接続される。絶縁体74の内面は、円筒形の金属蒸気シールド92によって導電性堆積物から保護される。
【0028】
パルストリガ回路94は、トリガギャップ86に及ぶ十分な高電圧/低電流パルスを生成してプラズマアークを開始し、その後、低電圧/高電流パルスによってプラズマアークが数百マイクロ秒間維持される。例示的な実施形態では、最初の高電圧/低電流パルスの持続時間は数マイクロ秒であり、低電圧/高電流パルスの持続時間は数百マイクロ秒である。トリガ電極とそのターゲット表面との間の配置の幾何学的形状は、初期パルスが電極82の極めて小さな領域に集束されて、電極表面上のトリガパルスの電力密度が拡大し、電極に伝達される電気トリガエネルギーが、電極材料のほぼ瞬間的な蒸発と、プラズマプルームとして電極74に向かって膨張する高密度プラズマ雲96への蒸気の遷移をもたらし、ギャップ106の電気的絶縁破壊と、電極82と84間の真空アークの生成をもたらす。ギャップの絶縁破壊は、プラズマ雲96が生成された後、電極82と84の間の電圧差の大きさに基づいて発生する。電極材料は、真空アーク遮断能力及び真空中の絶縁耐力と併せて、そのトリガ能力、即ちレーザーパルス下でのアブレーション能力に基づいて選択することができる。
【0029】
図3は横軸を時間、縦軸を電圧としたグラフであって、永久故障の1サイクルの故障除去後のパルス検査とハードウェアによる再閉路の感度を示す。グラフ線110は、高圧送電線12、14、16のうちのいずれかの電圧を表す。電流及び電圧の測定によって故障が検出され、適切な再閉路スイッチ24、30、又は36が開放され、時間位置(経過時間)112で故障が除去される。その後、その送電線の電圧が安定し始め、故障が未だ存在するかどうかを判断するために時間位置(経過時間)114で再閉路動作が行われるように設定されるが、永久故障のため故障は未だ存在することになる。グラフ線116は0.5サイクルのパルス検査を、グラフ線118は1.5サイクルのパルス検査を、グラフ線120は2.5サイクルのハードウェアによる再閉路及び再開路を、グラフ線122は3.5サイクルのハードウェアによる再閉路及び再開路を表し、これらは経過時間114で生じ得る。グラフ線120及び122は、従来のハードウェアによる再閉路に関し、故障がネットワークに逆導入され、発電機18が作動(trip)することで、システムの安定につながる可能性があることを示している。グラフ線116又は118によって示される0.5サイクル又は1.5サイクルの高速パルス検査は、永久故障が存在する間、発電をオンラインに維持することによって、後に再開路が続く従来の2.5サイクル又は3.5サイクルのハードウェアによる再閉路と比較して、システムの安定性が間接的に維持されている。この場合、ハードウェアによる再閉路では、パルス検査と比較して発電機の電圧が低下し、トリップオフライン(trip-offline)が示されており、このグラフは、故障が未だ存在し、再閉路動作が行われていないことを示している。
【0030】
本開示では、故障の存在を検出するために、経過時間114で適切なTVG装置26、32、又は38を使用して、最初のポイントオンウェーブパルス検査、例えば0.5サイクル以内でパルス検査を実行するが、送電線に大きな故障電流が流れることはない。パルス検査で故障が解消されたことがシステムで確認されると、再閉路が許可される。パルス検査は一般にハードウェアによる再閉路に比べてネットワークに悪影響を与えないため、故障が永久的であると判断されて装置がロックアウトされるか、故障がもうシステムに適用されないと判断されて再閉路装置が再閉路の許可を得るまで、パルス検査を繰り返し適用するか、設定によって制限することができる。したがって、最初のパルス検査で故障が未だ存在するかどうかの適切な判断が得られなかった場合、同じかそれ以上の時間の間、パルス検査を複数回行うことができる。
【0031】
パルス検査は低エネルギーであるため、即ち、故障が持続している場合の装置によって許容される電流量が利用可能な故障電流よりも大幅に少ないため、変圧器や遮断器の通過電流によって生じる明白な損傷と潜在的な損傷の両方を回避することができる。パルス検査は、ネットワーク上の障害をできるだけ小さくするために、重要な再閉路間隔内で行う必要がある。しかし、シミュレーションの結果では、永久故障が存在する場合、パルス試験が早すぎると送電ネットワークが不安定になる可能性があることが示唆されている。
【0032】
前途の記述は、本発明の例示的な実施形態を開示及び説明したものにすぎない。当業者であれば、上記記述内容、並びに付随の図面及び特許請求の範囲から、以下の特許請求の範囲に定義される本開示の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更、修正及び変形が可能であることを容易に認識するであろう。
【符号の説明】
【0033】
10 パルス閉鎖システム
12、14、16 高圧送電線
18 発電機
20 パルス閉鎖装置
22、28、34 スイッチアセンブリ
24、30、36 再閉路スイッチ
26、32、38 パルス検査TVG装置
40 アクチュエータ制御
42 トリガ制御
48、50 電圧センサ
52 電圧モニタ
54、56、58 電流センサ
60 電流モニタ
62 信号プロセッサ
64 故障検出・応答論理制御装置
66 通信装置
70 TVG装置
72 真空筐体
74 円筒状絶縁体
76、78 導電性端板
82、84 導電性電極
86 トリガギャップ
88、90 ステム
92 金属蒸気シールド
94 パルストリガ回路
96 プラズマ雲
110 グラフ線(高圧送電線12、14、16のうちのいずれかの電圧)
112、114 時間位置(経過時間)
116 グラフ線(0.5サイクルのパルス検査)
118 グラフ線(1.5サイクルのパルス検査)
120 グラフ線(2.5サイクルのハードウェアによる再閉路及び再開路)
122 グラフ線(3.5サイクルのハードウェアによる再閉路及び再開路)
【国際調査報告】