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特表2024-529733無溶媒で電極を製造する方法及び電極
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  • 特表-無溶媒で電極を製造する方法及び電極 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】無溶媒で電極を製造する方法及び電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240801BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240801BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240801BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240801BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240801BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240801BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240801BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240801BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240801BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240801BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240801BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/36 A
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/485
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509358
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2022072998
(87)【国際公開番号】W WO2023021107
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】102021209121.0
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(71)【出願人】
【識別番号】516386144
【氏名又は名称】テヒニシュ ウニヴェルズィテート ドレスデン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】シュミット フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】デルフラー ズザンネ
(72)【発明者】
【氏名】アルタウス ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】カスケル ステファン
(72)【発明者】
【氏名】シュム ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】チェケ セバスティアン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA23
5H050FA16
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
本発明は、無溶媒で電極を製造する方法に関する。本発明によれば、高い機械的安定性と高い比静電容量を有する電極を製造することができる。また、本発明によれば、望ましくない不可逆的な劣化反応を伴う不安定な動作を生じることなく、リチウムイオン電池のアノードとして使用することができる電極の製造を可能にする。また、上記のような利点を有する電極を提供する。さらに、本発明に係る電極の用途を提案する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無溶媒で電極を製造する方法であって、以下の工程を含むか又はそれからなる方法。
a) 電極を製造するための乾燥粉末混合物を提供し、前記混合物は、以下を含むか又はそれからなる。
電極用の少なくとも1つの活物質、
少なくとも1つの導電性添加剤、及び
少なくとも1つのバインダー;及び
b) 粉末混合物に機械的力を加え、乾燥フィルムが前記乾燥粉末混合物から形成される;
前記少なくとも1つのバインダーは、機械的力の作用下でフィブリルを形成するのに適したポリアミドを含むか、又はそれからなることを特徴とする。
【請求項2】
前記ポリアミドがポリペプチドを含み、又は前記ポリペプチドからなり、前記ポリペプチドは、好ましくは、前記機械的力の作用下でβシート二次構造を形成するのに適したポリペプチドであり、前記ポリペプチドは、特に好ましくは絹ポリペプチドであり、前記ポリペプチドは、非常に特に好ましくは、セリシン、フィブロイン、クモ糸ポリペプチド及びそれらの組み合せからなる群から選択され、前記ポリペプチドは、特に、セリシン、好ましくは加水分解されていないセリシンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥粉末混合物の前記少なくとも1つのバインダーが、
i) 工程b)の前記粉末混合物に対する前記機械的力の作用によって少なくとも部分的にフィブリルを形成すること、及び/又は、
ii) 前記粉末混合物の総重量に対する%濃度で前記乾燥粉末混合物中に0.1重量%から10重量%、好ましくは1重量%から5重量%存在すること
を特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥粉末混合物の前記少なくとも1つの活物質が、
i) アノードの活物質、好ましくは炭素、ケイ素、それらの組み合わせ、及びそれらの複合材料からなる群から選択される活物質であり、前記炭素は特にグラファイト、非黒鉛化炭素、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。又は
ii) カソードの活物質、好ましくはLiCoO、LiNiO、LiFePO、LiMnO、LiMn、LiMnNiO、LiTi12、LiFeSiO、NaS、Na(PO3、NaFePO、NaFePOF、NaNiMnO、NaTiO、NaTi(PO3、LiNi1-xCo(式中、xは0から1の範囲にある)、LiNiCoyMn(式中、x+y+z=1)、LiNiCoAl(式中、x+y+z=1)、NaMnO(式中、xは0.5から1の間にある)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される活物質であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥粉末混合物の前記少なくとも1つの活物質が、前記粉末混合物の総重量に対する%濃度で前記乾燥粉末混合物中に60重量%から99重量%、好ましくは76重量%から97重量%、特に好ましくは86重量%から96重量%、非常に特に好ましくは91重量%から95重量%、特に92重量%から94重量%存在することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥粉末混合物の前記少なくとも1つの導電性添加剤が、前記粉末混合物の総重量に対する%濃度で前記乾燥粉末混合物中に1重量%から35重量%、好ましくは1重量%から20重量%、特に好ましくは1.5重量%から10重量%、非常に特に好ましくは2重量%から5重量%、特に2重量%から4重量%存在することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥粉末混合物の前記少なくとも1つの導電性添加剤が、炭素を含むか、又は炭素からなり、前記炭素は、好ましくは、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、グラフェン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥粉末混合物が、PTFE、PVDF、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム及びポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含まないことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程b)が、前記乾燥粉末混合物をカレンダーニップに塗布すること含むか、又はそれから構成され、前記カレンダーニップは、第1の回転ローラー及び第2の回転ローラーによって形成され、前記第2の回転ローラーは、前記第1のローラーよりも速い回転速度を有し、前記乾燥フィルムは、前記カレンダーニップ内に形成され、好ましくは、前記第1の回転ローラー上を搬送されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の回転ローラーから前記第2の回転ローラーまでの距離は、前記カレンダーニップが10μmから200μmの範囲、好ましくは20μmから100μmの範囲、特に好ましくは40μmから60μmの範囲の幅を有するように設定されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程b)が、平坦な導電体上に前記乾燥フィルムを配置することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
a) 電極用の少なくとも1つの活物質、少なくとも1つの導電性添加剤、及び少なくとも1つのバインダーを含む、又はそれらからなる乾燥フィルム;及び
b) 任意に、前記乾燥フィルムが配置される平坦な導電体;
前記少なくとも1つのバインダーが、少なくとも部分的にフィブリルの形態で前記乾燥フィルム中に存在するポリアミドを含む、又はそれらからなることを特徴とする、電極。
【請求項13】
前記フィブリルが、走査電子顕微鏡によって測定される、0nmより大きく1μm未満の範囲の直径を有することを特徴とする、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
前記電極が、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法によって製造されたことを特徴とする、請求項12又は13に記載の電極。
【請求項15】
リチウムイオン電池において、好ましくはリチウムイオン電池のアノードにおいて、又はアノードとして、請求項12から14のいずれか一項に記載の電極の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無溶媒で電極を製造する方法を提供する。その結果、高い機械的安定性を有し、高い比容量を提供する電極を製造することができる。さらに、この方法は、望ましくない不可逆的な劣化反応を伴う不安定な動作を生じることなく、リチウムイオン電池のアノードとして使用することができる電極の製造を可能にする。さらに、上記の利点を有する電極を提供する。さらに、本発明に係る電極の使用を提案する。
【背景技術】
【0002】
電池電極の製造において、厚さ50-100μmの層を金属集電体に高い軌道速度で塗布しなければならない。これは、水性又は有機溶媒中の活物質の懸濁液から湿式化学的ロールツーロール塗布によって日常的に行われる。従来技術では、CMC/SBR又はPVDFが、このような湿式化学的方法、すなわち溶媒ベースの方法におけるアノードバインダーとしてしばしば使用される。ポリペプチドセリシンのようなポリアミドも含めて、多数の代替物が科学的刊行物に記載されている。しかしながら、湿式化学的方法は、電極(例えば、アノード)の製造のために、材料(例えば、活物質)の分散と製造された電池電極層の乾燥の両方のために高いエネルギー入力が必要であるという欠点を有する。
【0003】
無溶媒、すなわち乾式製造方法による電極層の製造は、エネルギー的利点を構成する。この目的のために、活物質、導電性添加剤及び適切なバインダーから形成された乾燥粉末混合物を、機械的に負荷可能な層に変換しなければならない。従来のこれらの方法では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が、剪断力の作用下でフィブリルを形成することが知られているので、バインダーとして通常使用される(例えば、WO 2018/210723 A1参照)。しかしながら、乾式化学的方法における電極材料のバインダーとしてのPTFEの欠点は、リチウムイオン電池の場合、PTFEがカソードのバインダーにしか使用されない可能性があることである。この理由は、アノード電位が0V(Li/Li+)に近いアノードのバインダーとしてのPTFEは、電気化学的に不安定であり、動作中に望ましくない不可逆的な劣化反応を引き起こすからである。
【0004】
乾式化学的方法における電極層の製造のためのPTFEの使用の代替として、PVDF及びポリオレフィンを使用することが知られている(例えば、US 7 883 553 B2参照)。しかしながら、これらのバインダーの使用の欠点は、製造された電極層の十分な機械的安定性を確保するために、バインダーの割合が高くなければならず、電極の達成可能な容量を犠牲にすることである。また、これらのバインダーの場合、加工性がはるかに困難である。
【0005】
エネルギーの観点から有利な乾式法による電極の製造において、従来技術は、一方では製造されたアノードの高い機械的安定性を確保し、他方では製造されたアノードの高容量を可能にするために低い割合で使用することができるアノード用バインダーを開示していなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この基本に基づいて、本発明の目的は、無溶媒で電極を製造する方法を提供し、さらに、従来技術で知られている欠点を克服する電極を提供することである。特に、高い機械的安定性を有し、高い比容量を提供し、リチウムイオン電池のアノードとして使用された場合に、望ましくない又は不可逆的な劣化反応なしに安定した動作を可能にする電極を提供することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本目的は、請求項1の特徴を有する方法、請求項12の特徴を有する電極、及び請求項15の特徴を有する使用によって達成される。従属請求項は、有利な実施形態を提示する。
【0008】
本発明により、無溶媒で電極を製造する方法が提供され、該方法は、以下の工程を含むか又はそれらからなる。
a) 電極を製造するための乾燥粉末混合物を提供し、該混合物は、以下を含むか又はそれらからなる。
電極用の少なくとも1つの活物質、
少なくとも1つの導電性添加剤、及び
少なくとも1つのバインダー;及び
b) 粉末混合物に機械的力を加え、乾燥フィルムが乾燥粉末混合物から形成される;
少なくとも1つのバインダーは、機械的力の作用下でフィブリルを形成するのに適したポリアミドを含むか、又はそれからなることを特徴とする。
【0009】
「乾燥粉末混合物」という用語は、溶媒を含まない(例えば、水を含まない)粉末混合物を意味する。「ポリアミド」という用語は、繰り返しペプチド結合(-CO-NH結合)を有する分子を意味すると理解され、すなわち、この用語は、ポリペプチド又はタンパク質を含むと理解される。
【0010】
工程a)で提供される乾燥粉末混合物の少なくとも1つのバインダーは、すでに部分的にフィブリル化されて存在してもよい。例えば、乾燥粉末混合物は、その提供中に機械的に剪断され、その結果、部分的に、フィブリルが少なくとも1つのバインダーから生成されてもよい。次いで、この粉末混合物は、乾燥フィルムの形成のために工程b)で使用されてもよく(任意に、新たな粉砕後に)、ここで作用する機械的力のために、さらなるフィブリルがバインダーから生成される。
【0011】
本方法において乾燥粉末混合物に作用する機械的力は、特に、押圧力及び剪断力を含み、又はそれらからなる。
【0012】
この乾燥化学的方法では、乾燥粉末混合物中のバインダーの割合が非常に少なくても、高い機械的安定性によって特徴づけられる電極が得られることがわかった。少ないバインダーの割合を使用するオプションにより、生成される電池電極層は、高い比容量を有することができる。また、このポリアミド系バインダーを用いた乾式化学的方法によって製造された電極は、PTFE系バインダーを用いて製造された電極と比較して、リチウムイオン電池の負極として使用した場合に、望ましくない不可逆的な劣化反応がなく、安定した動作が可能であるという利点を有する。
【0013】
本発明の方法は、ポリアミドがポリペプチドを含み、又はポリペプチドからなることを特徴とし、ポリペプチドは、機械的力の作用下でβシート二次構造を形成するのに適したポリペプチドであることが好ましい。ポリペプチドが機械的力の作用下でフィブリルを形成するのに適しているかどうかは、機械的力の作用下でβシート二次構造を形成するのに適しているかどうかによると考えられる。ポリペプチドは、特に絹ポリペプチド(特に絹タンパク質)であることが好ましく、絹ポリペプチド(特に絹タンパク質)は、セリシン、フィブロイン、クモ糸ポリペプチド(特にクモ糸タンパク質)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることが特に好ましい。特に、絹ポリペプチド(又は絹タンパク質)は、セリシン、好ましくは加水分解されていないセリシンである。加水分解されていないセリシンの利点は、ポリペプチドの分子鎖長(すなわち分子量)が加水分解されているセリシンの場合よりも長く、それによってフィブリル形成がまず可能であり、又は本発明の方法では、より長いフィブリルが生成され、それによって生成された電極の機械的安定性が増大することである。
【0014】
工程b)の粉末混合物に対する機械的力の作用により、乾燥粉末混合物の少なくとも1つのバインダーは、好ましくは少なくとも部分的にフィブリルを形成する。形成されたフィブリルは、生成された電極層の機械的安定性を増大させる。
【0015】
乾燥粉末混合物の少なくとも1つのバインダーは、粉末混合物の総重量に対する%濃度で乾燥粉末混合物中に0.1重量%から10重量%、好ましくは1重量%から5重量%存在することができる。乾燥粉末混合物中のバインダーの濃度(又は割合)が低いほど、それに応じて活物質の相対的割合が高くなるので、この方法によって提供される電極の比容量は高くなる。
【0016】
乾燥粉末混合物の少なくとも1つの活物質は、アノードの活物質、好ましくは炭素、ケイ素、それらの組み合わせ、及びそれらの複合材料からなる群から選択される活物質であってもよい。炭素は、特に、グラファイト、非黒鉛化炭素、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0017】
又は、乾燥粉末混合物の少なくとも1つの活物質は、カソードの活物質、好ましくは、LiCoO、LiNiO、LiFePO、LiMnO、LiMn、LiMnNiO、LiTi12、LiFeSiO、NaS、Na(PO3、NaFePO、NaFePOF、NaNiMnO、NaTiO、NaTi(PO、LiNi1-xCo(式中、xは0から1の範囲にある)、LiNiCoMn(式中、x+y+z=1)、LiNiCoAl(式中、x+y+z=1)、NaMnO(式中、xは0.5から1の範囲にある)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0018】
乾燥粉末混合物の少なくとも1つの活物質は、粉末混合物の総重量に対する%濃度で乾燥粉末混合物中に60重量%から99重量%、好ましくは76重量%から97重量%、特に好ましくは86重量%から96重量%、非常に特に好ましくは91重量%から95重量%、特に92重量%から94重量%存在することができる。乾燥粉末混合物中の活物質の濃度(又は割合)が高いほど、この方法によって提供される電極の達成可能な比容量は高くなる。
【0019】
乾燥粉末混合物の少なくとも1つの導電性添加剤は、粉末混合物の総重量に対する%濃度で乾燥粉末混合物中に1重量%から35重量%、好ましくは1重量%から20重量%、特に好ましくは1.5重量%から10重量%、非常に特に好ましくは2重量%から5重量%、特に2重量%から4重量%存在することができる。乾燥粉末混合物中の導電性添加剤の濃度(又は割合)が低いほど、活物質の割合が高くなり、この方法によって製造可能な電極の達成可能な比容量が増加する。該濃度範囲は、2重量%から4重量%である。この場合の%は、一方では導電性の最適値を表し、他方では達成可能な容量を表す。
【0020】
乾燥粉末混合物の少なくとも1つの導電性添加剤は、炭素を含むか、又は炭素からなり、炭素は、好ましくは、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、グラフェン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0021】
乾燥粉末混合物は、好ましくは、PTFE、PVDF、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム及びポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含まない。
【0022】
本方法の好ましい実施形態は、本方法の工程b)が、乾燥粉末混合物をカレンダーニップに塗布することを含むか、又はそれから構成され、カレンダーニップは、第1の回転ローラー及び第2の回転ローラーによって形成され、第2の回転ローラーは、第1のローラーよりも速い回転速度を有することを特徴とする。ここで、乾燥フィルムがカレンダーニップ内に形成される。得られた乾燥フィルムは、第1の回転ローラー上に搬送される。第1の回転ローラーに対する第2の回転ローラーの回転速度の比は、10:1から2:1の範囲(任意に9:1~3:1の範囲)である。ローラーの直径は同じであってもよい。2つのローラーの回転速度、すなわちカレンダーニップにおける2つのローラーのそれぞれの表面の回転速度が異なることが重要である。
【0023】
第1の回転ローラーから第2の回転ローラーまでの距離は、カレンダーニップが10μmから200μmの範囲、好ましくは20μmから100μmの範囲、特に好ましくは40μmから60μmの範囲の幅を有するように設定することができる。
【0024】
本方法の好ましい実施形態では、工程b)は、平坦な導電体(例えば、金属箔)上に乾燥フィルムを配置することを含む。この配置により、平坦な導電体上に電極の積層体が形成される。
【0025】
本発明によれば、以下を含む電極も提供される。
a) 電極用の少なくとも1つの活物質、少なくとも1つの導電性添加剤、及び少なくとも1つのバインダーを含む、又はそれらからなる乾燥フィルム;及び
b) 任意に、乾燥フィルムが配置される平坦な導電体;
又はそれからなり、
少なくとも1つのバインダーが、少なくとも部分的にフィブリルの形態で乾燥フィルム中に存在するポリアミドを含む、又はそれからなることを特徴とする。
【0026】
本発明による電極は、高い機械的安定性を有し、バインダーの割合が低いため、高い比容量を提供するのに適している。この電極をリチウムイオン電池のアノードとして使用すると、望ましくない不可逆的な劣化反応がなく、安定した動作を可能にする。
【0027】
電極中のフィブリルは、走査型電子顕微鏡によって測定される、0nmより大きく1μm未満の範囲の直径を有することができる。この小さな直径の利点は、フィブリルがその体積に対して大きな表面を露出することで、活物質又は導電性添加剤に対する高い結合効果を可能にし、機械的安定性を高めることである。
【0028】
好ましい実施形態では、電極は、本発明の方法によって製造された。したがって、本発明の電極は、本発明の方法の実行のために必然的に生じる特徴を有することができる。
【0029】
最後に、本発明の電極をリチウムイオン電池において、好ましくはリチウムイオン電池のアノードとして使用することが提案される。
【0030】
以下、本発明の実施形態に限定することなく、以下の図及び実施例に基づいて本発明の課題を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の方法の一例を模式的に示す。電極層(乾燥フィルム)1を製造するには、第1のローラー4と第2のローラー5との間のカレンダーニップ3に乾燥粉末混合物2を導入する。第1のローラーは第1の回転速度vで回転し、第2のローラーは第2の回転速度vで回転し、第2の回転速度vは第1の回転速度vより速い。2つのローラー4,5間の距離が短く、回転速度v1,が異なるため、乾燥粉末混合物に押圧力とせん断力が加わり、バインダーのフィブリルを有する乾燥フィルム1が形成される。乾燥フィルム1は、カレンダーニップ3を通過した後、第1のローラー4上にガイドされ、次いで平坦な導電体(例えば、金属フィルム)に塗布され得る。
図2】本発明の方法によって製造された電極層の電子顕微鏡による画像を示す。この画像では、ポリアミドが、方法中の機械的力の作用のために、バインダー(ポリペプチドのセリシン)中にサブミクロン範囲の直径を有するフィブリルを形成していることが明らかである。形成されたフィブリルは、電極層の機械的安定性を高める。
【発明を実施するための形態】
【0032】
実施例1-本発明の方法の実施形態
ポリペプチドセリシンを活物質と導電性添加剤の混合物に添加して乾燥混合物を形成する。この乾燥混合物中のセリシンの割合は、この場合、組成物の総重量に対して3重量%である。乾燥混合物をXVミルで粉砕して乾燥粉末混合物2を形成する。
【0033】
乾燥粉末混合物2に機械的力を作用させて、乾燥粉末混合物2を第1のローラー4と第2のローラー5からなるカレンダーニップ3に導入して乾燥フィルムを形成する。第1のローラー4は第1の回転速度vで回転し、第2のローラー5は第1の回転速度v1よりも速い第2の回転速度vで回転する。この場合、回転速度v2:の比は2:1であった。これにより、乾燥粉末混合物2を加圧して配向させて乾燥フィルム1を形成し、乾燥フィルム1を第1のローラー4上に搬送した。このようにして形成された乾燥フィルム1は電極である。
【0034】
その後、乾燥フィルム1を第1のローラー4から平坦な導電体(例えば金属箔)(図1には図示せず)に転写して積層体を形成することができる。この場合、平坦な導電体に付着した乾燥フィルム(電極フィルム)が得られる。
【0035】
この積層体をリチウムイオン電池セルに使用したところ、乾燥フィルム(電極フィルム)が優れた機械的安定性を有するだけでなく、バインダー含有量が低いために高い比容量を有することが確認された。この積層体をリチウムイオン電池セルのアノードとして使用したところ、このようなアノードを用いて電池セルの安定な動作が可能であり、このような電池の動作中に望ましくない又は不可逆的な劣化反応がないことが明らかになった。
【0036】
実施例2-本発明による電極内のフィブリルの証拠
実施例1で作製した電極の画像を電子顕微鏡で撮影した(図2参照)。
【0037】
この画像は、電極内にフィブリルが形成されたことを示している。乾燥粉末混合物中でバインダーとして使用したポリペプチドのセリシンのみが、フィブリル形成の源と考えられる。形成されたフィブリルは、電極層の高い機械的安定性の原因となる。
【符号の説明】
【0038】
参照記号の一覧
1:電極層(又は乾燥フィルム);
2:乾燥粉末混合物;
3:第1のローラーと第2のローラーとの間のカレンダーニップ;
4:第1のローラー;
5:第2のローラー;
1:第1のローラーの回転速度(v<v);
2::第2のローラーの回転速度(v>v)。
図1
図2
【国際調査報告】