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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】心臓弁プロテーゼ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024510266
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2022073232
(87)【国際公開番号】W WO2023021199
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】102021121556.0
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524062191
【氏名又は名称】マイトラストリーム ハート バルブ テクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】MITRASTREAM HEART VALVE TECHNOLOGY GMBH
【住所又は居所原語表記】Bahnhofsring 5 76676 Graben-Neudorf Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユング,ヨハネス
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC04
4C097DD05
4C097DD10
4C097EE19
4C097SB01
(57)【要約】
本発明は、低侵襲の静脈内移植用の心臓弁プロテーゼであって、放射状に拡張可能な材料からなるステント様の筒状格子からなる保持エレメントに取り付けられ、心臓の心房と心室の間の通路を開閉するための少なくとも1つの可動弁尖を有する生物学的に適合するフレキシブル材料を含み、前記ステント様格子が、バルブ装置の上から見て、腎臓、豆、バナナ、又はその背後で接する二重Dの形の断面を有することを特徴とする心臓弁プロテーゼに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低侵襲の静脈内移植用の心臓弁プロテーゼであって、放射状に拡張可能な材料からなるステント様の筒状格子からなる保持エレメントに取り付けられ、心臓の心房と心室の間の通路を開閉するための少なくとも1つの可動弁尖を有する生物学的に適合するフレキシブル材料を含み、前記ステント様格子が、バルブ装置の上から見て、腎臓、豆、バナナ、又はその背後で接する二重Dの形の断面を有することを特徴とする心臓弁プロテーゼ。
【請求項2】
二重Dによって形成される前記断面は、一方のDが、その仮想背側直線で、他方のDの背側直線に対して反転し、2つのDのうちの1つは、もう1つのDよりも大きな曲率を有するように設計されていることを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項3】
曲率が大きい方のDの仮想背側直線からの最大距離と、曲率が小さいもう一方のDの対応する最大距離の比が20:1mmから2:1mmであることを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項4】
曲率が小さいDの側面のステント様格子は、より大きな曲率を有するステント側の桟よりも桟幅が小さいことを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項5】
前記ステント様格子は、損傷した僧帽弁に固定するための円周方向の非外傷性保持エレメントを有することを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項6】
前記ステント様格子は、位置決め補助手段を有することを特徴とする前記請求項のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項7】
前記ステント様格子は、20~50mmの高さを有することを特徴とする前記請求項のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項8】
前記適合材料が、自家移植片、ヒト移植片、異種移植片又はコラーゲン培養物から選択される生体組織であることを特徴とする前記請求項のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項9】
前記格子の長さは、心房内に少なくとも2mm突出するように選択されることを特徴とする前記請求項のいずれか1つに記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項10】
前記ステント様格子材料がニチノールであることを特徴とする前記請求項のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項11】
前記ステント様格子は、外向きの保持エレメントを有することを特徴とする前記請求項のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項12】
前記ステント様格子は、前記心房から前記通路まで減少し、前記通路後の流れ方向に再び増大する断面を有することを特徴とする前記請求項のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項13】
前記プロテーゼは、2つのマイター(mitre)形状の二尖の弁尖を有することを特徴とする前記請求項のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項14】
前記請求項のいずれかに記載の心臓弁プロテーゼを移植するための埋め込み装置であって、操縦可能なカテーテルを含み、且つ記録のみを目的とした位置決め補助エレメントを有することを特徴とする埋め込み装置。
【請求項15】
前記位置決め補助手段が「7時」位置にあることを特徴とする請求項14に記載の埋め込み装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持スキャフォールドに取り付けられる心臓弁プロテーゼ、特に、カテーテルを使用して、心房と心室の間の開口部に、低侵襲で経静脈的に移植することができる僧帽弁プロテーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
後天性心臓弁欠損症の頻度は、年齢とともに増加する。大動脈弁狭窄症は、現在、主にカテーテルによる弁置換術(TAVI)を用いて治療されている。TAVI弁の固定は、自然の大動脈弁に通常存在するカルシウム沈着物のために容易に可能である。
【0003】
僧帽弁の後天性疾患では、漏れ(不全)が主な役割を果たす。しかし、原則として、僧帽弁の石灰化は心臓弁プロテーゼを固定するのに十分ではない。さらに、左心房と左心室の間の血流を制御する僧帽弁は、その位置のために低侵襲でアクセスすることが難しく、狭い屈曲部やカーブを通過しなければならないため、カテーテルを用いた移植は非常に困難である。さらに、僧帽弁の機能は大動脈弁の機能よりもはるかに複雑である。僧帽弁の臨床的に重大な漏れ(僧帽弁閉鎖不全症)は、欧米先進国では、75歳以上の人口の約8%が罹患し、大動脈弁狭窄症と同様に、死亡率の有意な上昇を伴う(Nkomo VT, Gardin JM, Skelton TN, Gottdiener JS, Scott CG, Enriquez-Sarano M. Burden of valvular heart diseases: a population-based study. Lancet 2006;368:1005-11)。とはいえ、外科的治療を受ける患者は全体の2%に過ぎない(Head SJ, van Leeuwen WJ, Van Mieghem NM, Kappetein AP. Surgical or transcatheter mitral valve intervention: complex disease requires complex decisions. EuroIntervention 2014;9:1133-5)。手術のリスクが高いことと、簡単で安全なカテーテルによる弁置換術がないことが、治療が不十分な理由であろう。
【0004】
現在、マイトラクリップ(MitraClip)などの修復術が主に用いられている。困難な学習曲線と有効性の欠如が主な限界のひとつである。カテーテル埋め込み型僧帽弁は、2012年以来開発が続けられている。ほとんどのシステムは、大動脈弁(TAVI)で成功した技術を僧帽弁に転用しようとしているが、この2つの弁は構造も機能も全く異なる。その他の欠点としては、これらのシステムは、経肩甲骨アクセスルート(開腹手術)を必要とするか、最初に僧帽弁輪の領域に固定構造を挿入する必要があること、左心室流出路の変位につながること、弁尖が厚すぎる(大動脈弁に最適化されている)こと、又は非生理学的設計により自然な解剖学的構造が変化することなどが挙げられる。これらの因子はすべて、埋め込み時の合併症の増加や、たとえ技術的に成功したとしても血栓性リスクの上昇につながる(Head SJ, van Leeuwen WJ, Van Mieghem NM, Kappetein AP. Surgical or transcatheter mitral valve intervention: complex disease requires complex decisions. EuroIntervention 2014;9:1133-5)。理想的なシステムは、単一の経静脈的/経中隔的アクセスルートで埋め込み可能であり、僧帽弁輪と支持装置の自然な解剖学的特徴に適合する細長い設計であり、自然の僧帽弁に類似した流量プロファイルを有する細長い弁、好ましくは二尖弁であるべきである。可能であれば、左心室流出路を損なわないことが望ましいが、これは現在提案されているほとんどのコンセプトの欠点である。
【0005】
円形、楕円形又はD字形の断面が文献に記載されている。これらの断面はいずれもステントを僧帽弁開口部の自然な形状に正確に適合させることができない。例えば、国際公開第2013/075215号には、弁尖を取り付けたD字形ステント様のキャリアリングからなるカテーテル埋め込み型僧帽弁プロテーゼが記載されている。キャリアリングの断面はD字形である。その結果、自然弁装置に生理的でない変化が生じる。
【0006】
米国特許公開第2016/0331527号は、ヘリンボーン弁が内壁と外壁を有するワイヤー状のチューブに取り付けられているヘリンボーン弁プロテーゼを開示している。管状ワイヤーの断面は、円形若しくは腎臓のような形又は大きなDの形状であり得る。
【0007】
欧州特許公開第3456293号には、心臓弁プロテーゼの移植システムが記載されている。心臓弁は、心房側に襟状の拡張半径を有する拡張可能な格子状の固定システムに取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/075215号
【特許文献2】米国特許公開第2016/0331527号
【特許文献3】欧州特許公開第3456293号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nkomo VT, Gardin JM, Skelton TN, Gottdiener JS, Scott CG, Enriquez-Sarano M. Burden of valvular heart diseases: a population-based study. Lancet 2006;368:1005-11
【非特許文献2】Head SJ, van Leeuwen WJ, Van Mieghem NM, Kappetein AP. Surgical or transcatheter mitral valve intervention: complex disease requires complex decisions. EuroIntervention 2014;9:1133-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、経静脈的に容易に埋め込み又は適用でき、簡単かつ容易に移植できる心臓弁、特に僧帽弁を提供することである。さらに、本発明は、弁縫合糸の過度の伸張によって引き起こされる既存の心室拡張を簡単な方法で改善することを目的とする。
【0011】
さらに、心臓弁プロテーゼを埋め込むために、非常にスリムで柔軟な埋め込みツールも好ましくは提供されるべきであり、このツールにより、心臓弁プロテーゼを容易に位置決めし、解放することができ、カテーテルから解放されたときに既に正しい解剖学的アライメントにあり、それ自体もアライメントすることができる。心臓弁プロテーゼは、自然の僧帽弁の形と機能を模倣し、特に左心室の負のリモデリングが起こるように自然の腱索を修正することが望ましい。また、左心室流出路の閉塞をもたらさず、血栓性合併症が起こらないように、流量プロファイルが2つのセイル構造を有する自然な流量プロファイルに対応していることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的は、特許請求の範囲に定義された特徴によって達成される。
【0013】
本発明によれば、心臓弁膜又は心臓弁システムを、心臓の解剖学的構造に最適に適合した形状を有するステント様支持体(以下、ステントともいう)に取り付けることが提案され、この支持体は、この目的のために最適化された移植用カテーテルを介して心臓弁の部位に導入され、そこに留置することができる。本発明によれば、筒状ステントが完全な円形ではなく、流れ方向にこれとずれた断面を有し、腎臓、豆又はバナナの形を有する場合に有利であることが証明されている。断面は、最大長a、最大幅b、最小幅cを有する。ここで、aはbよりも大きく、bはcよりも大きい。aのサイズは心臓弁を囲む円の直径に対応している。
【0014】
腎臓の形において、特に外側の丸みは、最小幅cの端点を中心とする円に似た円周によって簡便に表すことができる。最も単純なケースでは、丸みは、中央の最小幅c、すなわち腎臓の形のくぼみの深さの端で腎臓の形の内側に位置する中心点を有する円を表す。この中心点は、長さaに対して+/-20%、特に+/-10%、好ましくは+/-5%変動する。その結果、長円形又は楕円形の断面になる場合がある。この場合、長さaは不均等に分割され、2つの部分の長さはもはや同じ長さではなくなる。
【0015】
本発明によれば、好ましい腎臓の形の断面は、最大長aが典型的には20~45mm、特に25~40mm、好ましくは28~38mmであり、最大幅bが典型的には10~30mm、特に13~28mm、好ましくは15~25mmである。中央の最小幅cは典型的には5~25mmで、7~23mm又は9~20mmが好ましい。ここで、aはbよりも大きく、bは常にcよりも大きい。
【0016】
特に好ましくは、対向する2つのD文字の形を有する断面であり、ここで、Dは横方向に配置され、2つのDの真っ直ぐな垂直線が隣接して横たわり、断面エッジはDの異なる湾曲又は屈曲によって形成される。この形態では、上述した断面形状で規定される長さcを省略し、対向する2つのD文字の最大距離(最大腹曲率)の和dに置き換えられており、この和は、それぞれDの仮想的な直線状垂直線で測定される大距離(最大腹曲率)dと小距離(最大曲率)dの和からなる。ここで、aはdよりも大きい。この距離d(大きな曲率又は大きな円弧)は、上述の断面形状の長さbに対応する。2つのDの曲線の接点で、曲線はねじれることなく互いに合流する。特別な実施形態では、この領域は、短い長さのため、短時間の間、直線であることもできる。上述の寸法は、断面の長さa及びdに適用される。小さい方のDの場合、文字Dの想像上の一画又は直線からの最大距離dは、少なくとも0.5mm、好ましくは少なくとも0.75mmであり、少なくとも1mm、特に少なくとも2.5mm又は3.0mmが特に好ましい。便宜的な実施形態では、膨らみは少なくとも7.5mmである。したがって、大きいd(半径が小さい)と小さいd(半径が大きい)の間の仮想直線dラインからの2つの高さの比率、すなわちd対dは、最大で20:1、特に少なくとも2:1であり、最大で5:1又は最大で10:1、特に最大で15:1の比率が好ましい。所望の心臓弁サイズに応じて、仮想D背側線aの高さは、15mm~50mm、特に20mm~45mmである。
【0017】
別の好ましい実施形態では、ステントは、距離dの小さい曲率(大きな半径)の側では、(距離dの)大きい曲率の側よりも小さな桟幅を有する。曲率の大きい方の桟側は、通常0.3mm~0.6mmであるが、好ましくは少なくとも0.35mm、最大で0.4mm又は0.55mmである。この桟幅は、平らな曲率(大きな半径)の側ほど細くなり、曲率の大きい側の桟幅の55%以下である。好ましい形態では、最小桟幅は、より湾曲した側(図8の右側に示される)の桟幅の10%、特に20%又は25%である。本発明によるプロテーゼでは、特にステント桟の厚さが異なるため、挿入された心臓弁プロテーゼが、特にそのステント領域において、拍動する心臓に適応することが可能である。桟幅がより細い又はより狭い実施形態では、収縮中に可動心筋がステントプロテーゼと共に動くことができ、ステントの強い逆圧のために相対的に硬いままでないことが示されている。これにより、ステントが心筋の自然な動きに適応すること、又はその可動状態であっても開口部が確実に密閉されることが可能になる。
【0018】
好ましくは、心房からの流れ方向におけるステント様格子の断面積は、心室への通路でのみ減少し、通路後に再び増大するので、心臓の筋肉に囲まれたわずかな腰状の狭窄部が形成される。このようにして、プロテーゼのステント様格子又はスキャフォールドは、心臓の開口部にしっかりと収まる。
【0019】
図6に示す断面は、心房側にくびれた円柱であることが好ましい。それは、2つの異なる円錐形の切り株で表される。ステントの全長に対して、上部円錐台の高さは51~80%であり、下部円錐台の高さは49~20%である。
【0020】
本発明によるステント様弁尖ブラケットは、僧帽弁の自然な形状に適応する形状を有し、これは、明らかに円形から逸脱し、断面において豆の形、腎臓の形又はバナナの形を形成し、これは、全ての断面平面において(流れの方向に対して)対称又は非対称であり得る。
【0021】
好ましい実施形態では、ステントは、心房と心室の間の通路開口部の領域において、自然環境よりも大きな寸法又は面積を有し、これは、拡張したフラップ縫合糸に再張力をかけ得る。
【0022】
別の好ましい実施形態では、ステント様格子又は保持装置は、心房に面する側及び/又は心室に面する側に、小さな外向きの保持エレメント又はバーブを有する。このようにして、ステント様保持エレメントをフラップ開口部に強固に固定することができる。
【0023】
図1は、円周方向に非外傷性保持エレメントを備えたステントを示している。保持ブラケットの数は2~15個で、典型的には少なくとも4個であり、少なくとも8個が好ましい。
【0024】
フラップセイルは、保持エレメント又はステント様保持装置に取り付けられている。
【0025】
自然の後尖の領域では、ステント又は心臓弁ホルダー若しくはスキャフォールドは、異なる曲線半径(PML;前交連へのP1セグメント、PMLのP2中間セグメント、後交連へのP3セグメント)を有する湾曲した経路を有し(図7)、それによって、曲線半径は互いに異なり、特にP1セグメントとP3セグメントの間には完全な鏡面対称性はない。P2セグメントの領域の曲率は半径が最も大きく、P1とP3の半径は小さく、それにより、本発明によれば、P1の半径がP3より小さいか、又はP1の半径がP3より大きい場合、P1及びP3の領域における同一の曲線半径も可能である。
【0026】
別の好ましい実施形態では、前尖(AML)の領域における心臓弁ホルダーの形状は、僧帽弁の自然な解剖学的構造に適合している。
【0027】
自然の僧帽弁の交連の間に延びる自然のPMLに向かって湾曲した仮想曲線に対して、A1及びA3セグメントの交連に近い領域におけるステント又は心臓弁ホルダー若しくはスキャフォールドの形状は、左室流出路(LVOT)に向かう外向きの曲線であり、これは、A1及びA3セグメントの中間セクション又はA2セグメントへのそれぞれの移行における曲線となり、交連間の仮想曲線は、自然のPMLに向かって内側に交差し、これを円弧状の曲線形状で継続する。それぞれの曲線半径は、通常、A1セグメントとA3セグメントの間で対称ではなく、A2セグメント内の曲線形状も鏡面対称ではない。それぞれの半径は同じでも、大きくても小さくてもよい。
【0028】
僧帽弁の生理学的機能には、心周期に応じた三次元の動きも含まれる。この目的のために、ここで提示する僧帽弁は、弁輪のレベルと、左心房及び左心室の方向の両方で心周期中の変形が可能である。また、自然の僧帽弁の自然な解剖学的構造に適応することで、プロテーゼのより良い適合とより良い保持も可能である。さらに、この形状にはセルフセンタリング効果があることが示されている。
【0029】
本発明によるプロテーゼでは、弁の自然の保持装置は無傷のままであり、プロテーゼは自然の弁開口部に固定されるため、他の解剖学的条件を大きく変化させることなく、弁の自然の保持装置はそのまま維持される。さらに、実際のフラップ弁尖が取り付けられるステントを、開口部の以前の直径よりも大きく選択することが特に有用であることが証明されている。このようにして、拡張したり伸びすぎたりした実際のフラップを保持するフラップ糸を締め直すことができる。
【0030】
これはまた、自然の腱索とそれに関連する乳頭筋の初荷重の増加につながり、その結果、最良の場合には左心室の負のリモデリングが起こる。これは、本発明によるプロテーゼの形状及び機能が自然の僧帽弁を模倣しており、したがって、自然の腱索の初荷重がすべての平面において均一に改善される。
【0031】
自然の解剖学的構造に適合した位置決めにより、たとえ解剖学的構造が不利であったとしても、すべての症例で左心室流出路の閉塞が防止される。弁尖は通常二尖弁であるが、3つ又は4つの個別の弁尖を備えたプロテーゼも使用し得る。
【0032】
弁構造に組み込まれ、それに取り付けられた保持糸は、自然の腱索を模倣し、心室が収縮したときに弁尖が心房内に侵入するのを防ぐ。セイル1枚あたりの保持糸の数は1~15本で、通常は少なくとも3本であり、少なくとも4本が好ましい。保持糸の最大数は15本であり、9本又は7本が好ましい。
【0033】
フラップセイルは、接触面に適応線を形成し、それに沿ってフラップ弁尖が互いに向かい合って逆流を防止/閉鎖する。セイルの適応線は、典型的にはステントの形状に基づいているが、これから逸脱することもできる。典型的には、適応線はA1/P1間の自然交連部位からA3/P3間の自然交連部位までであるが、前方又は後方にそれぞれ最大5mm、特に4mm又は3mmまでシフトすることもできる。適応線の曲率は、自然の弁の適応線に従うが、前方又は後方に最大5mm、特に4mm又は3mmずれることもあり得る。好ましい設計では、例えば図6bに示されるように、弁尖は、ステントの内側の心房側で、側方シーリングのために心室に向かって継続している。このような心臓弁膜システムを挿入するためには、まず、解剖学的に尾側に位置する静脈(典型的には経皮的に大腿静脈又は外科的に視覚化された骨盤内の静脈、但し、限定されない)又は頭側に位置する静脈(典型的には経皮的又は外科的に頸静脈又は鎖骨下静脈又は腋窩静脈、但し、限定されない)を介して経静脈的に挿入されるアプリケーションツール/カテーテルシステムに装填する必要があるが、それに限定されない。アプリケーションツールは、経中隔穿刺高さと僧帽弁面の間の距離が典型的には4cm以下、典型的には3cm以下、好ましくは2cm以下であっても、経中隔アクセスルートを介して右心房から左心房に入り、さらに事前に敷設されたガイドワイヤーを介して自然の僧帽弁を通って左心室に向かうのに必要な寸法と、とりわけ柔軟性を有する。
【0034】
本発明によるプロテーゼの位置決めには、いわゆるステアラブルカテーテルが使用される。このようなカテーテルでは、遠位端をアーチ状に曲げることができる。次に、このアーチは、同様に曲がったフィーダー静脈と平面を形成する。ここで静脈の断面を見ると、アーチの外側、つまり心臓の反対側の右心室に面した側は12時の位置を表し、アーチの内側の場所は6時の位置を表している。アプリケーションツールのデザインはスリムで柔軟性があり、遠位部は制御可能な方法で曲げることができる。カテーテルシャフトのサイズは最大14フレンチで、通常は8~12フレンチである。アプリケーションツールの遠位部には、フラップを取り付けたステントが装着されているが、このステントの外周はカテーテルシャフトより数ミリメートル大きいだけで、典型的には2mm、場合によっては0.5~4mmの間である。カテーテルシャフト又はアプリケーションツールの遠位部の曲げ角度は、通常-20度~約210度の範囲で制御することができる。アプリケーションツールにより、フラップを所定の向きで装填し、目的地まで運び、解剖学的に決められた位置で解放することができる。
【0035】
本発明によるプロテーゼのステントは、好ましい実施形態において位置決め補助手段を有し、この位置決め補助手段は、指定された場所にのみ装着することができる。これは、位置決め補助手段が、鍵穴に鍵を差し込むようにカトラリーに収まる唯一の場所である。上記の位置に従って、位置決め補助手段を6~8時の位置、好ましくは6.5~7.5時の位置に配置することが有用であることが証明されている。さらに、ステント上に放射線不透過性及び/又は超音波可視マーキングを配置することも有用であることが証明されており、これにより、医師は、ステントの位置、ひいては弁尖の位置を確認することができる。
【0036】
本発明を以下の図に例を挙げて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】ステント様心臓弁ホルダー又は心臓弁保持エレメント1.0を示す図である。
図2図1のステント様保持格子又はエレメントを示す正面図又は断面図である。
図3】本発明による心臓弁を設置するためのカテーテルシステムを示す図である。
図4】部分的に排出したステント/インプラント3.3を示す図である。
図5】豆、腎臓又はバナナの形をしたステント様保持エレメントを血流方向からみた上面図及び側面図である。
図6a】本発明による僧帽弁プロテーゼ1.0の断面図である。
図6b】弁尖を示す図である。
図6c】A1/P1間からA3/P3間の自然交連の位置までの適応ラインを示す図である。
図7】前方A1-A3交連と後方P1-P3交連の位置を示した自然僧帽弁のセグメント解剖図である。
図8a】本発明による心臓弁プロテーゼの桟の特に好ましい実施形態を示す図である。
図8b】本発明による心臓弁プロテーゼのステント断面の好ましい形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、ステント様心臓弁ホルダー又は心臓弁保持エレメント1.0を示している。ステント様ブラケット又は格子は、ステント様エレメントを心臓に固定するための固定エレメント1.1を含む。このような固定エレメント1.1は、アイレットの形態で設計されることが好ましい。アイレット自体は、ステント様格子状エレメントの中心軸(血流方向)から外側に曲げられ、心筋に固定される。さらに、円筒形の外周面には狭窄部1.2がある。この狭窄部1.2に沿って、ステント又はステント様格子は、その2つの遠位端よりも小さい円周を有する。固定エレメントの反対側の他方の遠位端に、ホルダーの格子は、ホルダーをアプリケーションツール又はカテーテル内の指定された場所に取り付けるための保持アイレット1.3を有し、少なくとも1つの保持エレメントは、心臓に開かれた弁ホルダー又はステントの位置を確認できるようにするマーカー1.4を備えている。このようなマーカーは、好ましくは放射線不透過性である。原理的には、超音波で特に見やすい材料を用いてこのようなマーカーを設けることも可能である。
【0039】
図2は、図1のステント様保持格子又はエレメントの正面図又は断面を示す。これらからわかるように、このようなステントは、好ましくは完全に円形ではなく、少なくとも片側が平坦化されている。このようにして、心房と心室の間にある心臓の開口部の自然な形状に適応する。図1及び図2は、弁のステント構造の基本構造を示している。その形状は、自然の僧帽弁の自然な形状に適合している。好ましくは、プロテーゼを装填するために心房側に1つ以上の位置決め用アイレット(1.4)があり、この位置決め用アイレットは、アプリケーションツール/カテーテルシステム(図3図4)の保持システム内で予め定義された位置のみを可能にし、これが回復や再位置決めのために必要な場合、或いは最終的な解放がまだ望まれていない場合、解放の直前まで心臓弁をアプリケーションツールに引き戻すのに役立つ。位置決め用アイレットは、カテーテルの一点で体にフィットするように所定の位置に保持される。さらに、自然の僧帽弁輪の高さにはステント様心臓弁支持体の狭窄部(1.2)があり、これによって高さを定めることができると同時に、解剖学的に正しい位置での安定性が得られる。心室側には、ステント(1.1)の丸い形状又は固定エレメントがあり、これらはシステムの解剖学的に正しい高さと安定性に役立つ。
【0040】
図3は、ステントホルダー3.2によってカテーテルシステム3.1に保持された装填済みステント/インプラント3.3を備えた本発明による心臓弁を設置するためのカテーテルシステムを示している。カテーテルシステムは、ガイドワイヤー3.5でガイドされたフレキシブルな先端部3.4によって前面で閉じられている。
【0041】
したがって、カテーテルシステム3.1及びステント様保持構造用ホルダー3.2は、カテーテル先端を上方から見たときに、芯出しエレメント又は芯出しアイレット2.1を収容するために、「7時」位置に凹部が配置され、その結果、ステント様保持エレメントがカテーテル内のこの位置にのみ装填され得るように設計されることが好ましい。ステント/インプラント3.3上には、芯出しエレメント2.1がある。芯出しエレメントは、2つの主要な機能を有する、すなわち、第一に、ステントを排他的に且つ正しい位置にのみ装填すること、第二に、ステント様ホルダー又はインプラント全体を固定することである。ステント様保持構造1.0上の保持アイレット1.3及び1.4は、ステントが「飛び跳ねる」ことなく均等に解放又は位置決めされるように、プロテーゼをホルダー3.2に固定する役目も有する。アイレット1.3には、さらにマーカーが装備されており、マーカーは、位置決め後のステントの位置と場所を示すと共に、開放型ステント/インプラントの制御を示す。
【0042】
定義された解剖学的位置は、僧帽弁の自然な形状に可能な限り密に対応している。弁が解放されると、弁は-30度から+30度の範囲、通常は15度から25度の範囲、特に最大20+/-3度の回転で再び自然解剖学的構造に整列する。
【0043】
自然の僧帽弁に対するカテーテルシステムのアライメントは、心房中隔に垂直な湾曲したカテーテルシステムによって定義される平面によって定義され、この平面も弁面と垂直に交差する。この仮想平面は、僧帽弁の仮想水平時計と、12時位置と6時位置で交差する。フラップを備えたステントの位置は、位置マーカーが7時位置を指すように、カテーテル内で右に30度回転する(図2)。図4は、部分的に排出したステント/インプラント3.3を示しており、位置決めアイレット2.2は、透視中のステント/インプラントの位置又は場所を示す。位置決めアイレットは、ステント/インプラントの正しい位置を示し、位置決めアイレットには、保持アイレットの機能も備わっている、すなわち、アイレットは古いフラップのストッパーとみなされる。固定アイレット1.1は、ステント/インプラントを配置した位置にさらに固定する。
【0044】
本発明によるフラップブラケット1.0の水平断面は、豆又は腎臓の形状であることが好ましい。この形状及びカテーテルシステム3.1内の「7時」位置により、弁ホルダー(ステント/インプラント)1.0は、カテーテルシステム3.1から排出されるとき、心臓内の位置及び場所に関して予め定められた最適な方向を既に有している。
【0045】
図2は、ステント/インプラント3.3の上面図を示しており、ここでは、芯出しアイレット2.1が「7時」位置に非常によく見える。
【0046】
本発明による、アプリケーションツールにおける予め定義された荷重の測定、その制御可能で定義された曲げ挙動、及びそれに対する弁平面の方向付け、並びに弁の自己位置合わせ特性(回転及び高さ)により、移植は、標準的な撮像方法及び撮像における検査者の通常の専門知識で可能である。連続血管造影、右心室血管造影、心エコー、経胸壁心エコー、経食道心エコーなど、二次元又は多次元解像度の従来のX線透視検査で十分な画像診断が可能である。或いは、心腔内超音波(ICE)も使用され得る。
【0047】
また、様々な位置決め補助手段を追加するのにも有用であることが証明されている。また、これらの位置決め補助手段を異なる方法で設計することも有利であることが証明されており、これにより、植え込み中に主治医は、ステント様ホルダーを埋め込みのための正しい位置に安全かつ簡単に回転させる方法を常に認識できる。
【0048】
このような位置決め補助手段は、例えば、放射線不透過性である。原理的には、例えば、超音波など、はっきりと見える他の手段で使用することも可能である。
【0049】
図5は、豆、腎臓又はバナナの形をしたステント様保持エレメントを血流方向からみた上面図及び側面図を示す。
【0050】
この側面図は、最も狭いところに狭窄部1.2を有する2つの逆回転ファンネルを示すステント様保持エレメントを示す。この狭窄部は、分離したステントを弁面の中央に配置して位置決めする役割を果たす。さらに、狭窄部は、ステント/インプラント3.3をロックする機能も有し、その結果、上方向及び下方向に固定される。
【0051】
図6aは、セイル6.1と、それらを保持する腱又はセイルスレッド6.2と、狭窄部1.2を有する本発明による僧帽弁プロテーゼ1.0の断面を示す。A1/P1間からA3/P3間の自然交連の位置までの適応ラインを図6cに示す。
【0052】
図7は、前方A1-A3交連と後方P1-P3交連の位置を示した自然僧帽弁のセグメント解剖図である。
【0053】
図8は、本発明による心臓弁プロテーゼの桟の特に好ましい実施形態を示す。この図からわかるように、断面は垂直側で互いに向かい合う2つの形状によって形成され、それぞれが大文字のDを表している。断面の大きいD字形の部分は、Dの仮想直線からの距離が最大dである。(左側の小さい方の)Dの弧は、仮想直線からの距離が最大dである。したがって、ステントの全幅(左側のDの最大曲率から右側のDの最大曲率まで)は、d+dである。Dの最大長(文字Dの仮想垂直線に対応する)は、長さaで表される。図8bは、本発明による心臓弁プロテーゼのステント断面の好ましい形状を示す。図8に示す形状は、特に左側の桟幅が狭くなっている。
【符号の説明】
【0054】
1.0 心臓弁ホルダー
1.1 固定エレメント
1.2 狭窄部
1.3 保持アイレット
1.4 位置決め用アイレット
2.1 芯出しアイレット
2.2 位置決め用アイレット
3.1 カテーテルシステム
3.2 固定ホルダー
3.3 インプラント(ステント格子及びセイル)
3.4 カテーテル先端部
3.5 ガイドワイヤー
6.1 僧帽弁セイル
6.2 僧帽弁フィラメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8a
図8b
【手続補正書】
【提出日】2024-04-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低侵襲の静脈内移植用の心臓弁プロテーゼであって、放射状に拡張可能な材料からなるステント様の筒状格子からなる保持エレメントに取り付けられ、心臓の心房と心室の間の通路を開閉するための少なくとも1つの可動弁尖を有する生物学的に適合するフレキシブル材料を含み、前記ステント様格子が、バルブ装置の上から見てその背後で接する二重Dの形の断面を有することを特徴とする心臓弁プロテーゼ。
【請求項2】
二重Dによって形成される前記断面は、一方のDが、その仮想背側直線で、他方のDの背側直線に対して反転し、2つのDのうちの1つは、もう1つのDよりも大きな曲率を有するように設計されていることを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項3】
曲率が大きい方のDの仮想背側直線からの最大距離と、曲率が小さいもう一方のDの対応する最大距離の比が20:1mmから2:1mmであることを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項4】
曲率が小さいDの側面のステント様格子は、より大きな曲率を有するステント側の桟よりも桟幅が小さいことを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項5】
前記ステント様格子は、損傷した僧帽弁に固定するための円周方向の非外傷性保持エレメントを有することを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項6】
前記ステント様格子は、位置決め補助手段を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項7】
前記ステント様格子は、20~50mmの高さを有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項8】
前記適合材料が、自家移植片、ヒト移植片、異種移植片又はコラーゲン培養物から選択される生体組織であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項9】
前記格子の長さは、心房内に少なくとも2mm突出するように選択されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1つに記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項10】
前記ステント様格子材料がニチノールであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項11】
前記ステント様格子は、外向きの保持エレメントを有することを特徴とする請求項1~10のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項12】
前記ステント様格子は、前記心房から前記通路まで減少し、前記通路後の流れ方向に再び増大する断面を有することを特徴とする請求項1~11のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項13】
前記プロテーゼは、2つのマイター(mitre)形状の二尖の弁尖を有することを特徴とする請求項1~12のいずれか1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の心臓弁プロテーゼを移植するための埋め込み装置であって、操縦可能なカテーテルを含み、且つ位置決め補助手段として封入専用のエレメントを有することを特徴とする埋め込み装置。
【請求項15】
前記位置決め補助手段が「7時」位置にあることを特徴とする請求項14に記載の埋め込み装置。
【国際調査報告】