(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】カルシニューリン抑制剤と幹細胞を用いて免疫疾患を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240801BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240801BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240801BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240801BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240801BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240801BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240801BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20240801BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240801BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20240801BHJP
A61K 31/7076 20060101ALI20240801BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240801BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/06
A61P37/08
A61P11/02
A61P27/02
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P5/14
A61P9/00
A61K38/13
A61K31/7076
A61K35/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510413
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 KR2022012435
(87)【国際公開番号】W WO2023022569
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0109615
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516244707
【氏名又は名称】カンステム バイオテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KANGSTEM BIOTECH CO., LTD
【住所又は居所原語表記】17F,512,Teheran-ro,Gangnam-gu,Seoul,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】カン、キュン-スン
(72)【発明者】
【氏名】シン、ナリ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ナミ
(72)【発明者】
【氏名】イ、スンヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ファンヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ソヨン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084DA11
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA331
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4C086AA01
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4C086MA04
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4C086ZA36
4C086ZA89
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4C086ZC06
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZA34
4C087ZA36
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4C087ZA96
4C087ZB08
4C087ZB13
4C087ZB15
4C087ZC06
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、カルシニューリン抑制剤と幹細胞を共に用いて免疫疾患を治療する方法に関する。本発明で提供するカルシニューリン抑制剤と間葉系幹細胞を含む薬学組成物を用いると、従来のカルシニューリン抑制剤または間葉系幹細胞を用いて得られる免疫抑制の活性より顕著に高い水準の免疫抑制の活性を提供することができるため、過剰免疫により引き起こされる免疫疾患をより効果的に予防または治療するのに活用されるものである。
【選択図】
図5d
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩が含まれた第1組成物;及び
(b)幹細胞またはその培養産物が含まれた第2組成物を含む、免疫疾患予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記カルシニューリン抑制剤は、シクロスポリンA(cyclosporin A)、タクロリムス(tacrolimus)またはピメクロリムス(pimecrolimus)である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記幹細胞は、間葉系幹細胞である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞は、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、心筋由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、軟骨由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞及びそれらの組み合わせで構成された群から選択される、請求項3に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記免疫疾患は、過剰免疫により発病する免疫疾患である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記過剰免疫により発病する免疫疾患は、アレルギー性免疫疾患または自己免疫疾患である、請求項5に記載の薬学組成物。
【請求項7】
前記アレルギー性免疫疾患は、枯草熱、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、肥満細胞症及びそれらの組み合わせで構成された群から選択される、請求項6に記載の薬学組成物。
【請求項8】
前記自己免疫疾患は、グレーブス病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、全身性エリテマトーデス(ループス)、血管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症及びそれらの組み合わせで構成された群から選択される、請求項6に記載の薬学組成物。
【請求項9】
前記第1組成物を先に1回または複数回投与しながら、さらに第2組成物を1回または複数回投与する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項10】
前記第2組成物を投与した後、第1組成物または第2組成物をそれぞれ個別に1回または複数回さらに投与する、請求項9に記載の薬学組成物。
【請求項11】
前記第2組成物を先に1回または複数回投与しながら、さらに第1組成物を1回または複数回投与する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項12】
前記第1組成物を投与した後、第1組成物または第2組成物をそれぞれ個別に1回または複数回さらに投与する、請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項13】
前記薬学組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項14】
免疫疾患が発病した個体にカルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩が含まれた第1組成物及び幹細胞またはその培養産物が含まれた第2組成物を投与する段階を含む、免疫疾患の治療方法。
【請求項15】
前記免疫疾患は、過剰免疫により発病する免疫疾患である、請求項14に記載の免疫疾患の治療方法。
【請求項16】
前記第1組成物を先に1回または複数回投与しながら、さらに第2組成物を1回または複数回投与する、請求項14に記載の免疫疾患の治療方法。
【請求項17】
前記第2組成物を先に1回または複数回投与しながら、さらに第1組成物を1回または複数回投与する、請求項14に記載の免疫疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシニューリン抑制剤と幹細胞を共に用いて免疫疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫疾患は、外因性要因、遺伝性要因、内因性要因などの多様な原因によりインビボ免疫システムが損傷したり非正常に作動することにより引き起こされる疾患であり、免疫性が顕著に低下したり、または免疫性が急激に増加する様相を示す。特に、比較的病理症状の予測が可能な免疫性が低下する場合とは異なり、免疫性が急激に増加する場合には、予想できない多様な病理症状が伴われるため、これと関連した研究が盛んに進められている。
【0003】
免疫性が急激に増加する過剰免疫により発病する免疫疾患の一つであるアトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis,AD)は、重度のかゆみと表皮バリア機能障害を伴った湿疹性皮膚病変を特徴とする慢性再発性皮膚疾患であり、その発病の原因は、過度な2型ヘルパーT(Th2)細胞媒介性の炎症反応により血清中総IgE値が増加し、皮膚バリア機能障害が発生するためであることが知られている。このようなアトピー性皮膚炎の治療方法としては、軟化剤とコルチコステロイドまたはカルシニューリン抑制剤のような抗炎症剤を使用して表皮バリアを復旧する方法として知られているが、カルシニューリン抑制剤は、最も一般に使用される治療剤である。前記カルシニューリン抑制剤は、FK506-結合タンパク質-12(FKBP-12)に結合してセリン/スレオニンホスファターゼカルシニューリンを抑制し、後続的に活性化したT細胞の核因子(NFAT)の核電位を防止することにより、結果的には、T細胞で前炎症性サイトカインのNFAT媒介転写を抑制することにより、アトピー性皮膚炎を好転させる効果を示す。
【0004】
最近、アトピー性皮膚炎の治療に間葉系幹細胞(MSC)を使用する方法が開発されているが、MSCは、自己再生が可能であり、損傷した組織再生のために種々の系統に分化することができ、先天及び適応免疫細胞の増殖、募集及び機能を調節する免疫調節剤として使用されている。また、前記MSCは、プロスタグランジンE2(PGE2)及びTGF-ベータを通じて肥満細胞の脱顆粒を抑制する方式としてアトピー性皮膚炎に対する治療効果を示すことが期待されているが(韓国公開特許第10-2009-0111269号、第10-2010-0104385号、韓国登録特許第10-1070730号など)、実質的な臨床実験では、アトピー性皮膚炎に対する特異的な治療効果を立証できていない実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2009-0111269号
【特許文献2】韓国公開特許第10-2010-0104385号
【特許文献3】韓国登録特許第10-1070730号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、幹細胞を用いてアトピー性皮膚炎を効果的に治療する方法を開発するために鋭意研究努力した結果、間葉系幹細胞とカルシニューリン抑制剤を順次処理する場合、それぞれの間葉系幹細胞とカルシニューリン抑制剤を単独で処理した場合に比べて、免疫抑制の活性が増加することを確認し、本発明を完成した。
【0007】
本発明の主な目的は、カルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩が含まれた第1組成物;及び幹細胞またはその培養産物が含まれた第2組成物を含む、免疫疾患予防または治療用薬学組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、前記薬学組成物に含まれた第1組成物と第2組成物を免疫疾患が発病した個体に順次投与する段階を含む免疫疾患治療方法を提供することにある。
【0009】
本発明のまた他の目的は、免疫疾患予防または治療用薬学組成物の製造のためのカルシニューリン抑制剤と幹細胞の用途を提供することにある。
【発明を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するための本発明の一実施様態は、(a)カルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩が含まれた第1組成物;及び(b)幹細胞またはその培養産物が含まれた第2組成物を含む、免疫疾患予防または治療用薬学組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明で提供するカルシニューリン抑制剤と間葉系幹細胞を含む薬学組成物を使用すると、従来のカルシニューリン抑制剤または間葉系幹細胞を使用して得られる免疫抑制の活性より顕著に高い水準の免疫抑制の活性を提供することができるため、過剰免疫により引き起こされる免疫疾患をより効果的に予防または治療するのに活用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ピメクロリムスまたは間葉系幹細胞が処理されたアトピー性皮膚炎動物モデルの皮膚病変重症度を比較した結果を示すグラフであり、MSCは、幹細胞単独投与群、Pimeはピメクロリムス単独投与群、MSC+Pimeは幹細胞とピメクロリムスの組み合わせ投与群を示す。
【
図2a】ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の生存率変化を比較したグラフである。
【
図2b】ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の増殖能の変化を比較したグラフである。
【
図2c】ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の細胞周期プロファイルの変化を比較したグラフである。
【
図2d】ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の形態変化を比較したグラフである。
【
図2e】ピメクロリムスの処理による幹細胞の表面マーカー(CD45、CD34、CD36、CD105、CD29、CD73)の発現水準の変化を比較したグラフである。
【
図3】ConAを処理したPBMC細胞に対する幹細胞の免疫抑制の活性に及ぼすピメクロリムスの影響を分析した結果を示すグラフである。
【
図4a】ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞から発現するTGF-βの水準を比較した結果を示すグラフである。
【
図4b】ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞から発現するPGE
2の水準を比較した結果を示すグラフである。
【
図4c】ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞から発現するCOX2の水準を比較した結果を示すウェスタンブロット写真及びその密度を分析した結果を示すグラフである。
【
図5a】幹細胞とピメクロリムスを同様の条件で処理して得られた免疫抑制の活性を比較したグラフである。
【
図5b】ピメクロリムスを先に処理し、幹細胞を後に処理して得られた免疫抑制の活性を比較したグラフである。
【
図5c】幹細胞を先に処理し、ピメクロリムスを後に処理して得られた免疫抑制の活性を比較したグラフである。
【
図5d】幹細胞とピメクロリムスを共に処理するものの、処理順序による免疫抑制の活性の変化を分析した結果を示すグラフである。
【0013】
本発明の用語「カルシニューリン抑制剤(calcineurin inhibitor)」とは、概して微生物の発酵過程で生成される免疫調節物質を意味するが、主に、T細胞の反応を抑制する効果を示すことが知られている。機能的に、前記カルシニューリン抑制剤は、リン酸化酵素の一種であるカルシニューリンの反応を阻害させて細胞内サイトカイン遺伝子の発現を抑制し、結果的に、多様な炎症性サイトカインの分泌を減少させることが知られている。
【0014】
本発明で提供するカルシニューリン抑制剤は、特にこれに制限されないが、一例として、シクロスポリンA(cyclosporin A)、タクロリムス(tacrolimus)、ピメクロリムス(pimecrolimus)などであってもよく、他の例として、ピメクロリムスであってもよい。
【0015】
本発明の用語「薬剤学的に許容可能な塩」とは、前記カルシニューリン抑制剤の生物学的活性と物性を損傷させない剤形を意味する。前記薬学的に許容可能な塩は、薬学的に許容される陰イオンを含有する無毒性酸付加塩を形成する酸、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などのような無機酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフロロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸などのような有機カルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのようなスルホン酸などにより形成された酸付加塩が含まれる。例えば、薬学的に許容されるカルボン酸塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどにより形成された金属塩またはアルカリ土類金属塩、リシン、アルギニン、グアニジンなどのアミノ酸塩、ジシクロヘキシルアミン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリン及びトリエチルアミンなどのような有機塩などが含まれる。一方、アムロジピンの場合、商業的に広く使用されるベシル酸塩が好ましい。
【0016】
本発明の用語「幹細胞」とは、優れた増殖力を有し、身体の種々の組織に分化が可能な細胞を意味する。
【0017】
本発明で提供する前記幹細胞は、特にこれに制限されないが、一例として、ヒトの成体幹細胞、ヒトの多能性幹細胞、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)、動物の胚芽幹細胞、動物の成体幹細胞、間葉系幹細胞などであってもよく、他の例として、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、心筋由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、軟骨由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞などの間葉系幹細胞であってもよく、また、他の例として、前記多様な間葉系幹細胞を単独でまたは多様に組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明の用語「培養産物」とは、前記幹細胞を培養して得られる結果を意味するが、前記培養産物は、特にこれに制限されないが、一例として、全体培養物、全体培養物から得られた培養上澄液、全体培養物から得られた細胞体、前記細胞体を破砕して得られた細胞破砕物、前記細胞破砕物から得られた抽出物、前記抽出物から得られた分画物などであり得る。
【0019】
本発明の用語「免疫疾患」とは、外因性要因、遺伝性要因、内因性要因などの多様な原因によりインビボ免疫システムが損傷したり非正常に作動するということにより引き起こされる疾患を意味する。
【0020】
本発明において、前記免疫疾患は、特にこれに制限されないが、一例として、過剰免疫により発病する免疫疾患になることができ、他の例として、過剰免疫により発病するアレルギー性免疫疾患または自己免疫疾患になることができ、また、他の例として、枯草熱、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、肥満細胞症などのアレルギー性免疫疾患になることができ、また、他の例として、グレーブス病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、全身性エリテマトーデス(ループス)、血管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症などの自己免疫疾患になることができる。
【0021】
本発明の用語「予防」とは、本発明で提供する薬学組成物の投与により免疫疾患の発病を抑制させるか、または遅延させるあらゆる行為を意味する。
【0022】
本発明の用語「治療」とは、前記薬学組成物の投与により免疫疾患の発病が疑われたりまたは免疫疾患の発病が確認された個体の症状が好転または有益に変更させるあらゆる行為を意味する。
【0023】
本発明で提供する薬学組成物は、カルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩が含まれた第1組成物と幹細胞またはその培養産物が含まれた第2組成物をそれぞれ個別に含むが、これらのカルシニューリンと幹細胞を同時に処理する場合、相互干渉によりこれらの有効成分により現れる免疫調節の活性が減少するため、本発明で提供する薬学組成物は、これらの各有効成分を個別に含む互いに異なる2種の組成物に分離した状態で含むように構成されたものであり、「第1組成物」と「第2組成物」という用語に製造または投与のための順序の意味が付与されることはない。
【0024】
前記第1組成物に含まれたカルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩は、総組成物の重量に比べて0.0001~50重量%で含めてもよく、具体的には0.01重量%~10重量%で含めてもよいが、これに制限されない。
【0025】
前記第2組成物に含まれた幹細胞の場合、1x105~9x109cells/ml、具体的には、5x105~5x109cells/ml、さらに具体的には1x106~1x109cells/mlで含めてもよく、幹細胞培養産物の場合、0.001~80、具体的には0.001~70、さらに具体的には0.001~60重量%で含めてもよいが、これに制限されない。
【0026】
また、前記第1組成物及び第2組成物は、それぞれ薬学組成物の製造に通常用いる薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含めてもよく、前記担体は、非自然的担体(non-naturally occuring carrier)を含めてもよい。前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、凍結保存剤、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱油が挙げられる。
【0027】
また、前記薬学組成物は、それぞれ常法により錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内溶液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、油剤、凍結乾燥製剤、経皮吸収剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、カタプラズマ剤、ペースト剤、スプレー、皮膚乳化液、皮膚懸濁液、経皮伝達性パッチ、薬物含有包帯または坐剤の形態に剤形化して使用することができる。
【0028】
具体的には、剤形化する場合、通常用いる充填剤、重量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調剤されることができる。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含むが、これに制限されない。このような固形製剤は、少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルシウムカルボネート、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤されることができる。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤なども使用され得る。経口のための液状物、リキッドパラフィン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを添加して調剤されることができる。非経口投与のための製剤は、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤を含む。非水性溶剤及び懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテプゾール、マクロゴール、ツイン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0029】
本発明の一実施例によると、アトピー皮膚炎動物モデルに間葉系幹細胞を投与すると、アトピー性皮膚病変が好転する効果を示すが、カルシニューリン抑制剤の一種であるピメクロリムスと間葉系幹細胞を共に処理する場合には、幹細胞を単独で処理する場合よりも治療効率が低下することを確認し、その原因を分析することにした。
【0030】
そのために、前記ピメクロリムスが幹細胞に如何なる影響を及ぼすかに関して研究した結果、ピメクロリムスは、幹細胞の生存率、増殖能、細胞形態、細胞周期、表面マーカーの発現水準などのような多様な事項については全く影響を及ぼさないが、幹細胞から発現するCOX2の発現を抑制する方式でプロスタグランジンE2(PGE2)の発現を抑制し、幹細胞の免疫抑制の活性を低下させる効果を奏することを確認した。
【0031】
これにより、ピメクロリムスと間葉系幹細胞を共に用いて免疫抑制の活性を上昇させる方法を開発するために多様な研究を進めた結果、ピメクロリムスと幹細胞は、組み合わせ処理方法により、免疫抑制の活性が大きい偏差を示す結果を招くことを確認した。即ち、幹細胞の免疫抑制の活性をピメクロリムスが干渉することもでき、ピメクロリムスが示す免疫抑制の活性にも幹細胞が影響を及ぼすことを確認し、幹細胞とピメクロリムスを順次処理する場合、免疫抑制の活性が相乗効果を示すことを確認した。
【0032】
具体的には、ピメクロリムスを先に処理し、一定時間が経過した後に幹細胞をさらに処理するか、または幹細胞を先に処理し、一定時間が経過した後にピメクロリムスをさらに処理する場合、免疫抑制の活性を顕著に増加させることができ、最も効率的な免疫抑制の活性はピメクロリムスを先に処理し、一定時間が経過した後に幹細胞をさらに処理することにより得られることを確認した。
【0033】
本発明の他の様態は、前記薬学組成物を免疫疾患が発病するか、または発病する可能性がある個体に投与する段階を含む免疫疾患の予防または治療方法を提供する。
【0034】
その時、前記カルシニューリン抑制剤、幹細胞、免疫疾患、予防及び治療の定義は、前記で説明した通りである。
【0035】
本発明の用語、「投与」とは、適切な方法で個体に所定の物質を導入する行為を意味する。
【0036】
本発明の用語、「個体」とは、前記免疫疾患が発症又は発症する可能性があるヒトを含むラット、ラット、家畜などのすべての動物を意味する。具体的な例として、ヒトを含む哺乳動物であり得る。
【0037】
本発明で提供する免疫疾患の予防または治療方法は、具体的には、免疫疾患が発病した個体に薬学的に有効な量の前記第1組成物及び第2組成物を投与する段階を含むことができる。
【0038】
本発明で提供する第1組成物及び第2組成物を投与する方式は、特にこれに制限されないが、一例として、前記第1組成物を先に1回または複数回投与しながら、さらに第2組成物を1回または複数回投与する方式であってもよく、他の一例として、前記第2組成物を投与した後、第1組成物または第2組成物をそれぞれ個別に1回または複数回さらに投与する方式であってもよい。
【0039】
また、他の一例として、前記第2組成物を先に1回または複数回投与しながら、さらに第1組成物を1回または複数回投与する方式であってもよく、また他の一例として、前記第1組成物を投与した後、第1組成物または第2組成物をそれぞれ個別に1回または複数回さらに投与する方式であってもよい。
【0040】
併せて、前記第1組成物と第2組成物を投与する方式は1回で行うこともでき、繰り返して行うこともできるが、繰り返して行う場合には、第1組成物の投与回数と第2組成物の投与回数が同一であるように行うこともでき、同一でないように行うこともできる。
【0041】
一例として、第1組成物、第2組成物及び第1組成物の順序で投与するか、または第2組成物、第1組成物及び第2組成物の順序で投与することができ、他の例として、第1組成物、第2組成物、第1組成物及び第2組成物の順序で投与するか、または第2組成物、第1組成物、第2組成物及び第1組成物の順序で投与することができ、また、他の例として、第1組成物、第2組成物、第1組成物、第2組成物及び第1組成物の順序で投与するか、または第2組成物、第1組成物、第2組成物、第1組成物及び第2組成物の順序で投与することができ、また、他の例として、第1組成物、第2組成物、第1組成物、第2組成物、第1組成物及び第2組成物の順序で投与するか、または第2組成物、第1組成物、第2組成物、第1組成物、第2組成物及び第1組成物の順序で投与することができる。また、他の例として、第1組成物を先に1回または複数回投与し、その後、第2組成物を1回または複数回投与した後、その後、第1組成物を1回または複数回投与可能であり、その反対も可能である。
【0042】
本発明の用語、「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/危険の比率で疾患を治療するのに十分であり、副作用を引き起こさない程度の量を意味し、有効用量の水準は、患者の性別、年齢、体重、健康状態、疾病の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与方法、投与時間、投与経路、及び排出比率、治療期間、配合または同時に使用する薬物を含む要素及びその他の医学分野によく知られている要素により当業者によって容易に決定されることができる。
【0043】
具体的には、本発明の組成物は、固形分を基準として1日0.0001~100 mg/体重kgで、さらに具体的には0.001~100 mg/体重kgで投与することができる。投与は、前記推奨投与量を一日に1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。
【0044】
本発明の免疫疾患の予防または治療方法において、前記組成物を投与する投与経路及び投与方式は、特に制限されず、所望の該当部位に前記組成物を含む組成物が到達できる限り、任意の投与経路及び投与方式に従うことができる。具体的には、前記組成物は、経口または非経口の多様な経路を通じて投与されることができ、その投与経路の非制限的な例としては、皮下、口腔、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻側内または吸入などを通じて投与されることが挙げられる。
【0045】
本発明のまた他の様態は、免疫疾患の予防または治療用薬学組成物の製造のためのカルシニューリン抑制剤と幹細胞の用途を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1:アトピー性皮膚炎動物モデルに対するピメクロリムスと間葉系幹細胞の影響
まず、アトピー性皮膚炎の動物モデルを製作した。
【0048】
具体的には、NC/Ngaマウス(雄性、7週齢)の耳下側から尾上方に毛を除去し、Df(Dermatophagoides farinae;Biostir-AD,Biostir,Kobe,Japan) 100mg/headを綿棒で除毛された背中と耳の後ろ側に週2回、3週間(合計6回)塗布して皮膚病変を誘導することにより、アトピー性皮膚炎の動物モデルを製作した。
【0049】
次に、前記動物モデルにカルシニューリン抑制剤として知られたピメクロリムス(Pimecrolimus)と間葉系幹細胞(hUCB-MSC)をそれぞれ個別にまたは組み合わせて投与した後、7日間皮膚病変の変化を分析した。
【0050】
具体的には、Dfを最終処理し、3日間が経過した時点でDfを処理した皮膚病変部位にピメクロリムスまたは幹細胞を処理したが、前記ピメクロリムスは0.2g/headの用量で1回/1日の頻度で7日間処理し、幹細胞は2×106細胞数の幹細胞を皮下注射した。その時、陰性対照群(NC)としては、アトピー性皮膚炎が誘導されていないマウスを用い、陽性対照群(PC)としては、アトピー性皮膚炎が誘導された後、ピメクロリムスまたは幹細胞を処理しなかったマウスを用いた。
【0051】
前記皮膚病変の変化は、皮膚病変重症度を測定し、これを比較する方式で分析したが、紅斑、瘢痕/乾燥、浮腫及びびらんの4つの症状を対象に、0点~3点(0:なし、1:軽症、2:中等度、3:重症)で点数化した(
図1)。
【0052】
図1は、ピメクロリムスまたは間葉系幹細胞が処理されたアトピー性皮膚炎の動物モデルの皮膚病変重症度を比較した結果を示すグラフであり、MSCは幹細胞単独投与群、Pimeはピメクロリムス単独投与群、MSC+Pimeは幹細胞とピメクロリムスの組み合わせ投与群を示す。
【0053】
図1で見られるように、幹細胞を単独で投与すると、アトピー性皮膚炎の病変を緩和させる効果を示したが、幹細胞とピメクロリムスを組み合わせて投与すると、アトピー性皮膚炎の病変を緩和させる効果が減少することを確認した。
【0054】
前記結果から、幹細胞のアトピー性皮膚炎の治療効果をピメクロリムスが抑制する様相を示すことを確認することができたが、これは、アトピー性皮膚炎の治療剤として知られたカルシニューリン抑制剤と幹細胞の相乗効果を期待した意図とは相反した結果であると解釈された。
【0055】
実施例2:幹細胞自体に及ぼすピメクロリムスの影響分析
前記実施例1で得られた結果の原因が、ピメクロリムスが幹細胞に影響を及ぼした結果であると仮定し、ピメクロリムスが幹細胞自体に如何なる影響を及ぼすかを分析した。
【0056】
まず、幹細胞(hUCB-MSC)を培養しながら多様な濃度のピメクロリムスを3日間処理した後、MTT分析法を用いて幹細胞の生存率の変化を比較した(
図2a)。
【0057】
図2aは、ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の生存率の変化を比較したグラフである。
【0058】
図2aで見られるように、0.1~1μg/mlの範囲のピメクロリムスは、幹細胞の生存率を変化させていないことを確認した。
【0059】
次に、幹細胞(hUCB-MSC)を培養しながら多様な濃度のピメクロリムスを3日間処理した後、幹細胞の増殖能の変化を比較した(
図2b)。
【0060】
図2bは、ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の増殖能の変化を比較したグラフである。
【0061】
図2bで見られるように、0.01~100ng/mlの範囲のピメクロリムスは、幹細胞の増殖能を変化させていないことを確認した。
【0062】
次に、幹細胞(hUCB-MSC)を培養しながら多様な濃度のピメクロリムスを3日間処理した後、細胞周期分析法を用いて幹細胞の細胞周期プロファイル変化を比較した(
図2c)。
【0063】
図2cは、ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の細胞周期プロファイル変化を比較したグラフである。
【0064】
図2cで見られるように、0.01~100ng/mlの範囲のピメクロリムスは、幹細胞の細胞周期プロファイルを変化させていないことを確認した。
【0065】
次に、幹細胞(hUCB-MSC)を培養しながら多様な濃度のピメクロリムスを3日間処理した後、幹細胞の形態変化を比較した(
図2d)。
【0066】
図2dは、ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞の形態変化を比較したグラフである。
【0067】
図2dで見られるように、0.01~100ng/mlの範囲のピメクロリムスは、幹細胞の形態を変化させていないことを確認した。
【0068】
最後に、幹細胞(hUCB-MSC)を培養しながら100ng/mlのピメクロリムスを3日間処理した後、フローサイトメトリーを使用して幹細胞の表面マーカー(CD45、CD34、CD36、CD105、CD29、CD73)の発現水準を比較した(
図2e)。
【0069】
図2eは、ピメクロリムスの処理による幹細胞の表面マーカー(CD45、CD34、CD36、CD105、CD29、CD73)の発現水準変化を比較したグラフである。
【0070】
図2eで見られるように、100ng/mlのピメクロリムスを処理しても、幹細胞の表面マーカーの発現水準が変化していないことを確認した。
【0071】
前記結果を総合すると、ピメクロリムスは、幹細胞自体には如何なる影響も及ぼさないことが分かった。
【0072】
実施例3:幹細胞の免疫調節能に及ぼすピメクロリムスの影響分析
前記実施例2の結果から、ピメクロリムスは、幹細胞自体には如何なる影響も及ぼさないことを確認したため、前記ピメクロリムスが幹細胞の免疫調節能を干渉するかどうかを分析した。
【0073】
実施例3-1:MLR分析
コンカナバリンA(Concanavalin A、ConA)を処理したPBMC細胞を培養し、これに対し、ピメクロリムスと間葉系幹細胞(hUCB-MSC)をそれぞれ個別にまたは組み合わせて処理した後、これらの各実験群で測定した免疫抑制の活性を比較した(
図3)。その時、陰性対照群(NC)としてはConAを処理せず、幹細胞と共培養せず、ピメクロリムスを処理していないPBMC細胞を用い、陽性対照群(PC)としてはConAを処理し、幹細胞と共培養せず、ピメクロリムスを処理していないPBMC細胞を用いた。
【0074】
図3は、ConAを処理したPBMC細胞に対する幹細胞の免疫抑制の活性に及ぼすピメクロリムスの影響を分析した結果を示すグラフである。
【0075】
図3で見られるように、ConAを処理した陽性対照群では免疫活性が増加したが、幹細胞またはピメクロリムスの処理により免疫活性が抑制されることを確認した。ただし、幹細胞を単独で処理した場合に現れる免疫抑制の活性は、ピメクロリムスの処理により減少する結果を示すことを確認した。
【0076】
実施例3-2:免疫活性調節因子の発現水準の分析
前記実施例3-1の結果から幹細胞の免疫抑制の活性がピメクロリムスにより抑制されることを確認したため、幹細胞から発現する免疫活性調節因子であるTGF-βまたはプロスタグランジンE2(PGE2)の発現水準がピメクロリムスにより影響を受けるかどうかを確認した。
【0077】
具体的には、hUCB-MSCを6ウェル細胞培養プレートに1ウェル当たり1.5×10
5個の細胞の密度で接種し、24時間培養した後、多様な濃度のピメクロリムスを処理し、72時間さらに培養した。培養が終了した後、遠心分離して上層液を得、得られた上層液をELISAキットであるHuman TGF-β1 Quantikine ELISA(R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)及びHuman PGE
2 Quantikine ELISA(R&D Systems)に適用し、TGF-βまたはプロスタグランジンE2(PGE
2)の発現水準を分析した(
図4a及び4b)。
【0078】
図4aは、ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞から発現するTGF-βの水準を比較した結果を示すグラフである。
【0079】
図4aで見られるように、0.01~100ng/mlの範囲のピメクロリムスが処理された幹細胞から発現するTGF-βの水準は、大きい変化を示さないことを確認した。
【0080】
図4bは、ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞から発現するPGE
2の水準を比較した結果を示すグラフである。
【0081】
図4bで見られるように、0.01~100ng/mlの範囲のピメクロリムスが処理された幹細胞から発現するPGE
2の水準は、ピメクロリムスの処理濃度に比例して急激に減少することを確認した。
【0082】
実施例3-3:COX2発現水準の分析
前記実施例3-2の結果からピメクロリムスを幹細胞に処理すると、免疫活性の調節因子であるプロスタグランジンE2(PGE2)の発現を抑制する効果を示すことを確認したため、これを検証するために、COX2の発現水準を分析した。即ち、前記PGE2は、COX(cyclooxygenase)により膜リン脂質から放出されたアラキドン酸から合成されることが知られているため、先に確認されたPGE2の発現抑制の原因がCOXの発現抑制であるかどうかを確認することにした。
【0083】
前記実施例3-2の方法によりピメクロリムスが処理された幹細胞を得、それを遠心分離して沈殿した細胞を収集した後、それを破砕して細胞破砕物を得、得られた細胞破砕物とCOX2抗体を用いたウェスタンブロット分析を行った(
図4c)。その時、内部対照群としては、GAPDHを用いた。
【0084】
図4cは、ピメクロリムスの処理濃度による幹細胞から発現するCOX2の水準を比較した結果を示すウェスタンブロットの写真及びその密度を分析した結果を示すグラフである。
【0085】
図4cで見られるように、0.01~100ng/mlの範囲のピメクロリムスが処理された幹細胞から発現するPGE
2の水準は、ピメクロリムスの処理濃度に比例して急激に減少することを確認した。
【0086】
前記実施例3-1~3-3の結果を総合すると、ピメクロリムスは幹細胞に作用してCOX2の発現を抑制することにより幹細胞でPGE2の発現水準を抑制し、このようなPGE2の発現水準の抑制により幹細胞が示す免疫抑制の活性が減少することが分かった。
【0087】
実施例4:免疫抑制の活性に及ぼす幹細胞とピメクロリムスの相関関係
前記実施例3を通じてピメクロリムスが幹細胞の免疫抑制の活性を減少させる効果を示すことを確認したため、そのような効果をより深く分析するために、多様な条件を設定し、MLR分析法でその結果を分析した。
【0088】
具体的には、コンカナバリンA(Concanavalin A、ConA)を処理したPBMC細胞を7日間培養しながら、ピメクロリムスと間葉系幹細胞(hUCB-MSC)をそれぞれ個別にまたは組み合わせて処理した後、これらの各実験群で測定した免疫抑制の活性を比較した。
その時、ピメクロリムスと間葉系幹細胞の組み合わせ様相により10個の実験群を設定した(表1)
【0089】
【0090】
前記各実験群の実験結果を分析目的に応じて分類して分析した(
図5a~5b)。
【0091】
まず、幹細胞とピメクロリムスを同様の処理条件で比較した結果を分析した(
図5a)。
【0092】
図5aは、幹細胞とピメクロリムスを同様の条件で処理して得られた免疫抑制の活性を比較したグラフである。
【0093】
図5aで見られるように、幹細胞とピメクロリムスを同時に処理した場合には、処理時間と無関係に免疫抑制の活性が示されなかった(実験群1及び6)。
【0094】
また、幹細胞とピメクロリムスをそれぞれ処理した場合には、処理時間により多少差があるが、全体的にピメクロリムスの免疫抑制の活性が幹細胞の免疫抑制の活性より比較優位を示した(実験群2及び3;実験群5及び9)。
【0095】
次に、ピメクロリムスを先に処理し、幹細胞を後に処理した結果を分析した(
図5b)。
図5bは、ピメクロリムスを先に処理し、幹細胞を後に処理して得られた免疫抑制の活性を比較したグラフである。
【0096】
図5bで見られるように、ピメクロリムスを処理した後に順次幹細胞を処理した場合には、10実験群中、最も高い免疫抑制の活性を示した(実験群4)。
【0097】
このような結果は、同様の条件でピメクロリムスと幹細胞をそれぞれ個別に処理した結果(実験群2及び5)と比較する場合、比較優位を示すため、ピメクロリムスと幹細胞が相乗効果を示すことが分析された。
【0098】
また、幹細胞を先に処理し、ピメクロリムスを後に処理した結果を分析した(
図5c)。
図5cは、幹細胞を先に処理し、ピメクロリムスを後に処理して得られた免疫抑制の活性を比較したグラフである。
【0099】
図5cで見られるように、幹細胞のみを処理した場合よりは、幹細胞を処理した後に順次ピメクロリムスを処理した場合に、比較優位の免疫抑制の活性を示した(実験群3及び7)。
【0100】
それだけでなく、幹細胞のみを処理した場合よりは、幹細胞とピメクロリムスを同時ではないが、順次処理した場合に、比較優位の免疫抑制の活性を示した(実験群8及び10)。
【0101】
最後に、幹細胞とピメクロリムスを共に処理するが、処理順序による変化を分析した(
図5d)。
【0102】
図5dは、幹細胞とピメクロリムスを共に処理するが、処理順序による免疫抑制活性の変化を分析した結果を示すグラフである。
【0103】
図5dで見られるように、幹細胞とピメクロリムスを同時に処理した場合には、免疫抑制の活性が示されなかったが(実験群1)、幹細胞とピメクロリムスを処理順序の多様な組み合わせにより順次処理した場合には、優れた免疫抑制の活性を示した(実験群4及び7)。
【0104】
特に、ピメクロリムスを先に処理した後、幹細胞を後に処理した場合(実験群4)には、幹細胞を先に処理した後、ピメクロリムスを後に処理した場合(実験群7)よりも相対的に優れた免疫抑制の活性を示した。
【0105】
前記分析結果を総合すると、それぞれ免疫抑制の活性を示すピメクロリムスと幹細胞は組み合わせ処理方法により、免疫抑制の活性が大きい偏差を示す結果を招くことを確認した。即ち、実施例3の結果によると、幹細胞の免疫抑制の活性をピメクロリムスが一方的に干渉するように確認されたが、実際には、ピメクロリムスが示す免疫抑制の活性にも幹細胞が影響を及ぼし得ることを確認した。
【0106】
結果的に見ると、幹細胞とピメクロリムスは共に処理する場合、相乗効果を示し得るが、そのためには、同時に処理するものではなく、順次処理する方法を使用しなければならないことが分かった。特に、このように順次処理する場合に、ピメクロリムスを先に処理した後、幹細胞を処理すると、最も優れた免疫抑制の活性を示すことをさらに確認した。
【0107】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されることがあることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩が含まれた第1組成物;及び
(b)幹細胞またはその培養産物が含まれた第2組成物を含む、免疫疾患予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記カルシニューリン抑制剤は、シクロスポリンA(cyclosporin A)、タクロリムス(tacrolimus)またはピメクロリムス(pimecrolimus)である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記幹細胞は、間葉系幹細胞である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞は、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、心筋由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、軟骨由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞及びそれらの組み合わせで構成された群から選択される、請求項3に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記免疫疾患は、過剰免疫により発病する免疫疾患である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記過剰免疫により発病する免疫疾患は、アレルギー性免疫疾患または自己免疫疾患である、請求項5に記載の薬学組成物。
【請求項7】
前記アレルギー性免疫疾患は、枯草熱、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、肥満細胞症及びそれらの組み合わせで構成された群から選択される、請求項6に記載の薬学組成物。
【請求項8】
前記自己免疫疾患は、グレーブス病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、全身性エリテマトーデス(ループス)、血管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症及びそれらの組み合わせで構成された群から選択される、請求項6に記載の薬学組成物。
【請求項9】
前記第1組成物を先に1回または複数回投与
し、さらに第2組成物を1回または複数回投与する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項10】
前記第
1組成物を投与した後、第1組成物
及び第2組成物をそれぞれ個別に1回または複数回さらに投与する、請求項9に記載の薬学組成物。
【請求項11】
前記第2組成物を先に1回または複数回投与
し、さらに第1組成物を1回または複数回投与する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項12】
前記第
2組成物を投与した後、第1組成物
及び第2組成物をそれぞれ個別に1回または複数回さらに投与する、請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項13】
前記薬学組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項14】
免疫疾患
の予防または治療用医薬の製造における薬学的組成物の使用であって、
(a)カルシニューリン抑制剤またはその薬剤学的に許容可能な塩が含まれた第1組成物
、及び
(b)幹細胞またはその培養産物が含まれた第2組成
物を含む、
使用。
【請求項15】
前記免疫疾患は、過剰免疫により発病する免疫疾患である、請求項14に記載の
使用。
【請求項16】
前記第1組成物を先に1回または複数回投与
し、さらに第2組成物を1回または複数回投与する、請求項14に記載の
使用。
【請求項17】
前記第2組成物を先に1回または複数回投与
し、さらに第1組成物を1回または複数回投与する、請求項14に記載の
使用。
【国際調査報告】