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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】セグメント化されたガラス溶解炉
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/42 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
C03B5/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510731
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022073108
(87)【国際公開番号】W WO2023025661
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】21193304.9
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21200998.9
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ビウル, フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ブルジョワ, ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ハビビ, ザカリア
(72)【発明者】
【氏名】ファシロー, ファブリス
(57)【要約】
本発明は、ガラス化可能な材料を溶融させるための炉であって、炉は、(i)クラウンを有し、かつ電気的加熱手段が設けられた少なくとも1つの溶融タンクT1と;(ii)クラウンを有し、かつ燃焼加熱手段が設けられた清澄タンクT2と;(iii)クラウンを有し、かつ少なくとも1つの溶融タンクと清澄タンクを分離する少なくとも1つのネックとを含み;炉は、以下:W1は少なくとも1.4×W3であり;W3は少なくとも0.1×W2であり、最大0.6×W2であることによって規定され、W1:タンクT1の幅;W2:タンクT2の幅であり;W3:ネックの幅である。この炉は、高い電気入力分率(すなわち>20%又はさらには30%)により、その全体的なエネルギー消費及びそのCO排出が大幅に減少する一方、その機械的安定性及び炉の寿命には悪影響が生じず、又はさらには改善されるので、特に有利である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス化可能な材料を溶融させるための炉であって、前記炉が、
(i)溶融クラウンC1iによって覆われ、かつ電気的加熱手段が設けられた少なくとも1つの溶融タンクT1iと;
(ii)清澄クラウンC2によって覆われ、かつ燃焼加熱手段が設けられた清澄タンクT2と;
(iii)クラウンC3iによって覆われ、かつ前記少なくとも1つの溶融タンクT1iと前記清澄タンクT2を分離する少なくとも1つのネックNiと;
(iv)加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、前記少なくとも1つの溶融タンクに配置された少なくとも1つの入口手段Liと;
(v)溶融ガラスを作業ゾーンに流すための、清澄タンクの下流に配置された少なくとも1つの出口手段Oiと
を含み、
前記炉が、
0.1*W2≦W3i≦0.6*W2;
W1i≧1.4*W3i
によって規定され;
W1iはタンクT1iの幅であり;
W2はタンクT2の幅であり;
W3iはネックNiの幅である、炉。
【請求項2】
前記クラウンC1iが、前記クラウンC2の高さH2よりも低い高さH1iを有することを特徴とする請求項1に記載の炉。
【請求項3】
前記クラウンC3iが、前記クラウンC2の高さH2以下の高さH3iを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の炉。
【請求項4】
前記クラウンC3iが、前記クラウンC1iの高さH1i以下の高さH3iを有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の炉。
【請求項5】
W1i≧1.5*W3iによって規定されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の炉。
【請求項6】
0.2*W2≦W3i≦0.6*W2によって規定されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の炉。
【請求項7】
前記少なくとも1つの入口手段Liが、前記溶融タンクT1iの上流に配置されるか、又は前記溶融タンクT1iの上部に配置されることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の炉。
【請求項8】
前記少なくとも1つの入口手段Liが、前記溶融タンクT1iの上流に配置されることを特徴とする請求項7に記載の炉。
【請求項9】
- 溶融クラウンC1iiによって覆われ、かつ前記タンクの底部に配置される電気的加熱手段が設けられた溶融タンクT1ii;
- クラウンC3iiによって覆われ、かつ前記溶融タンクT1iiと前記清澄タンクT2を分離するネックNii;
- 加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、前記溶融タンクT1iiに配置された少なくとも1つの入口手段Lii
をさらに含み、
前記炉が、
0.1*W2≦W3ii≦0.6*W2;
W1ii≧1.4*W3ii
によってさらに規定され;
W1iiはタンクT1iiの幅であり;
W3iiはネックNiiの幅である
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の炉。
【請求項10】
前記クラウンC1iiが、前記クラウンC2の高さH2よりも低い高さH1iiを有することを特徴とする請求項9に記載の炉。
【請求項11】
前記クラウンC3iiが、前記クラウンC2の高さH2以下の高さH3iiを有することを特徴とする請求項9又は10に記載の炉。
【請求項12】
前記クラウンC3iiが、前記クラウンC1iiの高さH1ii以下の高さH3iiを有することを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の炉。
【請求項13】
W1ii≧1.5*W3iiによって規定されることを特徴とする請求項9~12のいずれか一項に記載の炉。
【請求項14】
0.2*W2≦W3ii≦0.6*W2によって規定されることを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載の炉。
【請求項15】
前記少なくとも1つの入口手段Liiが、前記溶融タンクT1iiの上流に配置されるか、又は前記溶融タンクT1iiの上部に配置されることを特徴とする請求項9~14のいずれか一項に記載の炉。
【請求項16】
前記少なくとも1つの入口手段Liiが、前記溶融タンクT1iiの上流に配置されることを特徴とする請求項15に記載の炉。
【請求項17】
- 溶融クラウンC1iiiによって覆われ、かつ前記タンクの底部に配置される電気的加熱手段が設けられた溶融タンクT1iii;
- クラウンC3iiiによって覆われ、かつ前記溶融タンクT1iiiと前記清澄タンクT2を分離するネックNiii;
- 加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iiiに配置された少なくとも1つの入口手段Liii
をさらに含み;
前記炉が、
0.1*W2≦W3iii≦0.6*W2;
W1iii≧1.4*W3iii
によってさらに規定され;
W1iiiはタンクT1iiiの幅であり;
W3iiiはネックNiiiの幅である
ことを特徴とする請求項9~16のいずれか一項に記載の炉。
【請求項18】
前記クラウンC1iiiが、前記クラウンC2の高さH2よりも低い高さH1iiiを有することを特徴とする請求項17に記載の炉。
【請求項19】
前記クラウンC3iiiが、前記クラウンC2の高さH2以下の高さH3iiiを有することを特徴とする請求項17又は18に記載の炉。
【請求項20】
前記クラウンC3iiiが、前記クラウンC1iiiの高さH1iii以下の高さH3iiiを有することを特徴とする請求項17~19のいずれか一項に記載の炉。
【請求項21】
W1ii≧1.5*W3iiiによって規定されることを特徴とする請求項17~20のいずれか一項に記載の炉。
【請求項22】
0.2*W2≦W3iii≦0.6*W2によって規定されることを特徴とする請求項17~21のいずれか一項に記載の炉。
【請求項23】
前記少なくとも1つの入口手段Liiiが、溶融タンクT1iiiの上流に配置されるか、又は前記溶融タンクT1iiiの上部に配置されることを特徴とする請求項17~22のいずれか一項に記載の炉。
【請求項24】
前記少なくとも1つの入口手段Liiiが、前記溶融タンクT1iiiの上流に配置されることを特徴とする請求項23に記載の炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロート設備又は圧延設備などのガラス形成設備に溶融ガラスを連続的に供給することを意図したガラス溶解炉に関する。特に、本発明は、特にエネルギー消費、CO排出、及びプロセス自由度に関して多数の利点が得られるガラス溶解炉に関する。
【0002】
本発明は、特に、高い生産能力、すなわち最大1000トン/日以上、及び最大60MWの電力要求を伴う板ガラス用溶解炉に関するが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0003】
従来技術では、ガラス化可能な材料又はガラス原材料は:
- 炉が使用されるときに溶融物を収容する、クラウンによって覆われたタンクと;
- 加熱されるガラス原材料を投入するための、炉の上流に配置された少なくとも1つの入口と;
- タンク内に配置された加熱手段と、
- 溶融ガラスが加工ゾーン又は作業端に到達するための、少なくとも1つの下流出口と、
を一般に含むガラス溶解炉中で溶融する。
【0004】
このようなガラス溶解炉中、ガラス表面の上方に設けられ、上部から溶融ガラス/原材料の浴を加熱することができるバーナーにより発生する燃焼により得られる火炎によって、一般にガラスが溶融する。オキシ燃料又は空気燃料燃焼を用いたガラス溶解炉がよく知られている。燃料は、例えば、化石燃料、天然ガス、バイオガス、又は水素であってよい。
【0005】
ハイブリッドシステムでは、燃焼加熱手段と電気的加熱手段とを組み合わせることも知られている。このような構成では、溶解炉は、バーナーに加えて、電極を含み、これは、強制的に浸漬され、タンク底部に一般に配置され、電流/電力を流して、そのバルクから溶融ガラスの浴を加熱することができる。加熱能力が電気によって全体的に得られるガラス溶解炉は、選択肢の1つとなりうるが、これらは高品質ガラスが必要な場合に板ガラス技術には採用されていないことに留意すべきである。実際、第1に、ガラス溶融物の清澄に必要な温度は、>1400℃、好ましくは1450℃を超える必要があり、一方、タンク中の底部の温度は、耐火物の腐食を制限するために、より低いレベル(すなわち<1300℃)に維持する必要があり、これは底部電極のみを用いて実現することは不可能であり、第2に、高品質板ガラスの製造には、ガラス溶融物から気泡が逃れられるようにするために、ガラス溶融物の流れが層状で階層化し自由表面を有する領域が必要となる。当技術分野において、これら2つの条件は、十分に高い温度に到達しながら、階層化された層状のガラス流を得るために、ガラス溶融物のこの自由表面を上部から加熱することによって一般に実現される。さらに、各電極において放出される熱は、局所的なガラスの大きな対流が生じ、これによって必要な階層化された層状ガラス流が完全に妨害される。
【0006】
地球温暖化及びCO排出量削減に対する要求によって、ガラス製造業者に対する圧力が高まり、エネルギー価格及びCO税が増加することで、近いうちにガラス事業の競争力に対する重大な脅威となりうる。
【0007】
電気溶融は、CO排出の減少に役立ち、溶解炉の全エネルギー消費(燃料+電気)の減少にも役立つので、解決策の一部となりうる。しかし、従来の燃焼ガラス溶解炉は、電極を用いて「ブースト」可能なだけである。実際、このような「電気ブースト燃焼炉」では、電気入力分率は、全エネルギー入力の最大10~15%に制限される。
【0008】
電気入力分率が増加する(すなわち15%を超える)場合の従来の電気ブースト燃焼炉の設計に対する主要な制限は:
(i)電極が配置された溶融ゾーン中の底部耐火物の温度が大幅に上昇し、それによってそれらの腐食が加速すること;及び
(ii)溶融ゾーン中のクラウン温度が大幅に低下し、それによって上記ゾーン中のNaOH濃度が増加し、結果として、クラウンの耐火物の腐食が増加することである。
【0009】
これら2つを合わせた腐食現象(i)~(ii)によって、電気的に大きくブーストされる溶解炉の機械的安定性及び寿命に対して大きな悪影響が生じ、このことはガラス溶解炉に投資する場合に全く望ましくない。実際に、大型ガラス溶解炉、すなわち1日当たり数百トンの生産能力を有する炉は、10年を超える期間の間中断されることなく運転されるように構成され、それらの寿命は、その壁を形成する耐火材料の腐食によって主として決定される。
【0010】
したがって、従来の燃焼ガラス溶解炉の最大電気入力分率におけるこれらの制限のため、電気溶融の利点(全体的なエネルギー消費及びCO排出の減少)による恩恵を十分に受けられない。
【0011】
しかしながら、(従来の電気ブースト燃焼溶解炉と比較して)電気入力分率を大幅に増加させながら、その機械的安定性及び寿命を維持する又はさらに改善させることができる、加熱手段として燃焼バーナーと電極とが併用されるガラス溶解炉の設計が得られることが現在必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的の1つは、すなわち加熱手段として燃焼バーナーと電極とが併用され、従来の電気ブースト燃焼溶解炉と比較して全体的なエネルギー消費の減少、及びCO排出の減少を示す板ガラス溶解炉を提供することによって、最新技術に関する前述の短所を克服し、技術的問題を解決することである。
【0013】
本発明のさらなる目的の1つは、その寿命に悪影響を与えることなく、又はさらにはそれを改善する、加熱手段として燃焼バーナーと電極とが併用されるガラス溶解炉を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的の1つは、高い自由度を有する、加熱手段として燃焼バーナーと電極とが併用されるガラス溶解炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ガラス化可能な材料を溶融させるための炉であって、
(i)溶融クラウンC1iによって覆われ、かつ電気的加熱手段が設けられた少なくとも1つの溶融タンクT1iと;
(ii)清澄クラウンC2によって覆われ、かつ燃焼加熱手段が設けられた清澄タンクT2と;
(iii)クラウンC3iによって覆われ、かつ少なくとも1つの溶融タンクT1iと清澄タンクT2を分離する少なくとも1つのネックNiと;
(iv)加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、少なくとも1つの溶融タンクに配置された少なくとも1つの入口手段Liと;
(v)溶融ガラスを作業ゾーンに流すための、清澄タンクの下流に配置された少なくとも1つの出口手段Oiと、
を含む炉に関する。
【0016】
本発明によると、炉は、
0.1*W2≦W3i≦0.6*W2;
W1i≧1.4*W3i
によって規定され;
W1iはタンクT1iの幅であり;
W2はタンクT2の幅であり;
W3iはネックNiの幅である。
したがって、本発明は、新規で発明的な方法に基づいている。特に、本発明者らは、1つ以上の電気的に加熱される溶融ゾーンと、燃焼清澄ゾーンとを、特殊な設計の1つ以上のネック(溶融ゾーンの数と同じ数)により分離することによって、高い電気入力分率(すなわち>20%又はさらには30~50%)を介して、炉の全体的なエネルギー消費及びCO排出を大幅に減少させることができ、同時に、炉の機械的安定性及び寿命には悪影響はない、又はさらには改善されることを見出した。「電気入力分率」とは、溶融/清澄のための炉の全エネルギー入力における電気の部分、すなわち電気/(燃料+電気)を意味し、全エネルギー入力は、標準的/通常の製造方式で、すなわちその標準的な引き出し範囲(起動、メンテナンス、ホットリペア、カレット化(culleting)、・・・の期間は除外される)における炉のエネルギー入力である。
【0017】
一方の側からは、(1)溶融及び清澄の上部構造/クラウンの間の開口部を減少させるため、及び(2)溶融タンク中の全体的なガラス溶融物の対流強度に対する障害物を形成するために、溶融ゾーンと清澄ゾーンとの間のネックは、理想的にはできる限り狭くすべきであり、他方の側からは、ネック耐火壁の摩耗/腐食が制限されるように、ネック内部のガラスの速度を制限するために、ネックは、理想的にはできる限り広くすべきであるという、2つの正反対の要求の間で良好な妥協点を見出すために、本発明におけるネックの幅は、本発明者らによって特に設計されている。
【0018】
本発明者らは、エネルギー消費/CO排出に有利となり、及び/又は炉の機械的安定性/寿命に有利となる多数の利点が得られることを示した。特に、特殊なセグメント化された設計を有する本発明の炉によって:
- 高温が必要となるゾーン(清澄ゾーン)中に効率的に燃焼エネルギーを閉じ込めるために、清澄タンク中の火炎から溶融タンクに向かう熱放射を遮断することができ;
- 溶融タンクと清澄タンクとの間の雰囲気を場合により分離し、それによって、清澄タンクから溶融タンクへの腐食性ヒュームの逆流を制限することができ;
- 全体的な溶融ガラスの流動を制限し、それによって有利には、溶融タンク中のガラスの対流の強度が低下し、ガラス速度が低下し、それによって底部耐火物の摩耗及び腐食を減少させることができ;
- 溶融タンクと清澄タンクの寸法決定(長さ、幅、及びクラウンの高さ)及び耐火物の性質を完全に分離し、それによって、エネルギー効率、ガラス品質、及び機械的/構造的/その他の制約を考慮して各タンクを最適化することができる。
【0019】
本明細書及び請求項において、本明細書において使用される場合、“a”、“an”、又は“the”という用語は、少なくとも「1つ」を意味し、逆のことが明示されるのでなければ「ただ1つ」に限定すべきではないことは、当業者によって十分に理解されている。また、ある範囲が示される場合、端の値が含まれる。さらに、数値範囲内の全ての整数及びサブドメインの値が、明記されているかのように明確に含まれる。最後に、「上流」及び「下流」という用語は、ガラスの流動方向を意味し、それらの一般的な意味で理解すべきであり、すなわち本発明による炉を運転する場合に、入口手段から出口手段へのガラス化可能な材料/ガラス溶融物(本明細書において「ガラスストリーム」と定義される)の平均移動方向に沿い、すなわち例えば図2中の左から右に進む方向に沿うことを意味すると理解すべきである。
【0020】
本発明によると、ガラス技術分野において一般に採用されているように、「溶融タンク」は、ガラス化可能な材料が投入され、加熱によって溶融するゾーンを画定するタンクであって、炉がプロセス中の場合に、溶融物と、溶融物上に浮遊し、溶融タンクの上流から下流まで徐々に溶融し、その結果として量が減少する、溶融していないガラス化可能な材料の「ブランケット」とを含むタンクを意味する。
【0021】
本発明によると、ガラス技術分野において一般に採用されているように、「清澄タンク」は、溶融物上に浮遊する溶融していないガラス化可能な材料の「ブランケット」がもはや存在しないゾーンであって、ガラスを清澄する(気泡の大部分を除去することによる)ために、ガラス溶融物が溶融タンク温度(一般に1400℃を超え、又はさらには1450℃を超える)よりも高い温度に加熱されるゾーンを画定するタンクを意味する。この清澄タンクは、当技術分野において一般に「清澄化タンク」とも呼ばれる。
【0022】
明確にするため、本発明によると、当技術分野において一般に承認されているように、「ネック」Niは、(i)少なくとも1つの溶融タンクT1i及び清澄タンクT2よりも、幅及び(クラウン)高さが小さくなり、及び(ii)ネックNiの開口部は、ガラス溶融物/バッチブランケット自由表面のわずかに部分的に下に存在し、それによってガラス溶融物/バッチブランケットの上に自由開口部が残ることを意味する。したがって、当技術分野において受け入れられているように、この定義では、ガラス溶融物/ブランケット自由表面の完全に下に「開口部」を有する「スロート」(その結果、ガラス溶融物/バッチブランケットの上に自由空間が残らない)は排除される。
【0023】
本発明における「幅」は、ここで、並びに本明細書及び請求項の全体で、特に記載がなければ、ガラスストリームに対して垂直の(平均の)寸法を意味する。
【0024】
本発明の別の特徴及び利点は、単純で説明的で非限定的な例によって示される好ましい実施形態及び図面の以下の説明を読めばより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】「1溶融タンク」構成における本発明による炉の一実施形態の概略斜視図である。
【0026】
図2図1の炉の概略平面図(水平断面)である。
【0027】
図3】本発明による炉の一実施形態の概略平面図(水平断面)である。
【0028】
図4】本発明による炉の一実施形態の概略平面図(水平断面)である。
【0029】
図5】「2溶融タンク」構成における本発明による炉の一実施形態の概略平面図(水平断面)である。
図6】非現実的な16MWの電力(同等の電力を考慮することによって、本発明の炉との公正な比較を実現できる)を用いた炉1、炉2、及び炉3の、入口手段から始まり出口手段までの距離(単位メートル)による底部耐火物温度の発生を示している。
図7】16MWの電気ブーストありの炉1(比較用)、炉2、及び炉3の入口手段から始まり出口手段までの距離(単位メートル)によるクラウン耐火物の温度発生を示している。
図8】16MWの電気ブーストありの炉1(比較用)、炉2、及び炉3の入口手段から始まり出口手段までの距離(単位メートル)による溶融ガラスの循環の発生を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1~3の炉1(「1溶融タンク」構成)は、1つの溶融タンクT1i、1つのネックNi、及び1つの清澄タンクT2を含む。T1i、Ni、及びT2の組立体は、一般に、温度、ヒュームの腐食、及び溶融材料の攻撃的作用に対して抵抗性である耐火材料でできている。タンク中の例となる浴の液面は破線によって示されている。
【0031】
本発明によると、少なくとも1つの入口手段Liによって、溶融タンクT1iにおいて、炉1にガラス化可能な材料が供給される。好ましくは、当技術分野において周知のように、少なくとも1つの入口手段Liは、溶融タンクT1iの上流に配置されるか、溶融タンクT1iの上部に配置されるかのいずれかである。
【0032】
一実施形態では、少なくとも1つの入口手段Liは、溶融タンクT1iの上流の(図1~2中に示されるように)上記タンクの幅、又はその長さの横方向のいずれかに配置される。この実施形態では、タンクT1iの表面にわたる分布を改善するために、溶融タンクの上流に配置される数個の入口手段を、すなわち2つの入口手段を、有利には設けることができる。
【0033】
別の一実施形態では、少なくとも1つの入口手段Liは、溶融タンクの上部に配置される。この入口手段は、当技術分野において「上部バッチ投入機」として知られている。この特定の実施形態は、ガラス溶融物の上部、特に溶融タンクT1iの表面全体の上に原材料を直接投入でき、それによってガラス溶融物表面全体を覆うバッチブランケットを得ることができ、結果として、クラウンC1iに有害な大きな温度差(溶融プロセス中にブランケットの被覆率が変動する状況と同様)を回避することができるので有利である。これは、有利には、ガラス溶融物の上及びクラウンC1iの下に配置される「回転バッチ投入機」又は「リニアX-Y-バッチ投入機」の種類であってよい。図3中、入口手段Liは、溶融タンクT1iの上部に配置され、両方の方向X-Y、すなわち溶融タンクの長さ及び幅の方向で移動可能な分配アームの形態の「リニアX-Yバッチ投入機」の種類のものである。この実施形態による「上部バッチ投入機」は、「回転クラウンバッチ投入機」として知られる種類のもの、すなわちSorg(登録商標)によって提案されている種類のものであってもよい。
【0034】
炉1は、電気的加熱手段2が設けられた溶融タンクT1iを含む。本発明による電気的加熱手段2は、好ましくはタンクT1iの底部に配置され、また好ましくは浸漬電極で構成される。変圧器への接続及び電流バランスを促進するために、電極は、有利には3又は2の倍数のグリッドパターン(チェッカー盤)で配列される。例えば、電極表面において1.5A/cmの最大電流密度を考慮することにより、各電極の最大出力が200kWに制限されるように、電極の数が計画される。また、例えば、浸漬電極の高さは、ガラス溶融物の高さの0.3~0.8倍の間である。
【0035】
一実施形態によると、溶融タンクT1iは、燃焼手段、例えばバーナーを全く含まない。
【0036】
本発明によるクラウンC1は、一般にアーチ型又は丸天井型であってよく、或いは、平坦であってよい。特に溶融タンクの幅W1iが一般的なガラス溶解炉よりも狭く、清澄タンク2の幅W2よりも狭い場合(低スパンクラウン)、クラウンC1iは平坦であってよい。クラウンC1iがアーチ型/丸天井型である場合、これは有利にはアルミナ又はスピネルの種類の耐火物で構成されてよく、これは腐食に対するより良好な耐性、したがってより良好な寿命を有する(しかし、クリープ抵抗がより低く、これはクラウンのより短いスパンによって補償することができる)。
【0037】
本発明によるクラウンC1iは、好ましくは、清澄タンクT2のクラウンC2の高さH2よりも低い高さH1iを有する(H1i<H2)。実際、より低いクラウン高さH1iによって、水平方向の放射熱伝達がより少なくなり、続いて、煙道ガスが清澄タンクT2から溶融タンクT1iに向かって抜き取られる場合に、煙道ガスからガラス溶融物への熱伝達がより良好になる。本発明においてクラウンの「高さ」は、上記クラウンの内面からガラス溶融物まで(バッチブランケットが存在する場合、これは除外される)の平均内部高さ(すなわちアーチ型/丸天井型クラウンの場合)を意味する。
【0038】
本発明によると、炉は、清澄クラウンC2で覆われ燃焼加熱手段3が設けられた清澄タンクT2を含む。
【0039】
本発明による清澄クラウンC2は、好ましくはアーチ型又は丸天井型である。
【0040】
本発明による燃焼加熱手段3は、特にタンクT2中に配置されたバーナーで構成され、タンクの実質的に幅全体にわたって火炎を広げるために、通常は上記タンクのそれぞれの側の側壁に沿って配列される。清澄タンクT2の一部(すなわち長さの約50%)にわたってエネルギー供給を分散させるために、バーナーは互いに間隔があけられる。これらはまた、一般に、タンクのいずれかの側に列をなして配列される。
【0041】
バーナーには、燃料及び空気、又は燃料及び酸素、又は燃料及び酸素に富むガスを供給することができる。燃料は、化石燃料、天然ガス、バイオガス、水素、アンモニア、合成ガス、又はそれらの混合物であってよい。
【0042】
本発明によると、炉は、クラウンC3iで覆われ少なくとも1つの溶融タンクT1iと清澄タンクT2とを分離する少なくとも1つのネックNiを含む。ネックNiの基部は、本質的に、溶融タンクT1iの床/底部の高さに配置することができる。さらに、ネックNiの基部は、本質的に、清澄タンクT2の床/底部の高さ、又は上記高さより高く、又は上記高さより低く配置することができる。
【0043】
一実施形態によると、ネックNiは、加熱手段、例えば電気的加熱手段及び/又は燃焼手段を全く含まない。
【0044】
本発明によるクラウンC3iは、アーチ型又は丸天井型であってよいし、或いは平坦であってよい。ネックNiのクラウンC3iは、好ましくは、清澄タンクT2のクラウンC2の高さH2以下の高さH3iを有することができる(H3i≦H2)。また好ましくは、ネックNiは、溶融タンクT1iのクラウンC1iの高さH1i以下の高さH3iを有することができる(H3i≦H1i)。より好ましくは、H3i≦H2及びH3i≦H1iである。
【0045】
有利な一実施形態によると、炉はW1i≦W2によって規定される。より好ましくは、本発明の炉は、W1i<W2、又はより良好にはW1i<0.8*W2によって規定される。これにより、そのスパンが減少することによって溶融クラウンC1iの内側の応力をさらに減少させることができる。実際、腐食及び温度のばらつきが、溶融ゾーン中で最も重要であることが知られている。溶融クラウンの内側の応力レベルが低下することによって、腐食に対する耐性がより高く、クリープに対する抵抗性がより低い耐火材料の使用が可能となる。
【0046】
本発明によると、炉1は、0.1*W2≦W3i≦0.6*W2によって規定される。好ましくは、本発明の炉は、0.2*W2≦W3i≦0.6*W2によって規定される。より好ましくは、本発明の炉は、0.3*W2≦W3i≦0.5*W2によって規定される。これによって、段落[0017]で前述した、より良好な妥協点に到達することができる。
【0047】
本発明によると、炉1は、W1i≧1.4*W3iによって規定される。好ましくは、本発明の炉は、W1i≧1.5*W3i、又はさらにはW1i≧1.8*W3iによって規定される。より好ましくは、本発明の炉は、W1i≧2*W3iによって規定される。これによって、ネックNiにおいてより大きな幅の制限に到達することができ、本発明の炉の前述の利点(熱放射の遮断、場合による雰囲気の分離、溶融ガラス流の制限の発生)を向上させることができる。
【0048】
本発明の有利な一実施形態によると、煙道ガスから、溶融タンク中のガラス溶融物及び/又は溶融していないガラス化可能な材料への熱を回収し伝達するために、炉は、少なくとも1つの溶融タンクT1iの上流からの煙道ガス(清澄タンクT2中で発生する)の抽出手段4を、好ましくは入口手段Liの近くにさらに含む。これに加えて、又はこれとは別に、炉は、少なくとも1つの溶融タンクT1iの下流に配置された煙道ガス(清澄タンクT2中で発生する)の抽出手段を含むことができる。またこれに加えて、又はこれとは別に、炉は、清澄タンクT2の上流部分からの煙道ガスの抽出手段をさらに含むことができる。
【0049】
本発明のさらに別の有利な一実施形態によると、(i)溶融タンクの末端に到達しうる溶融していないガラス化可能な材料を場合により停止させ、それによって、ネックを通過して清澄タンクに向かうのを回避するため、並びに(ii)清澄タンクから溶融タンクに向かうガラス溶融物の逆流の強度を制御する、又は消滅させるために、炉は、少なくとも1つのネックNiに配置された取り外し可能な壁(例えば、ネックの側壁からのスキムバー(skimbar))を含むことができる。
【0050】
本発明によると、溶融ガラスが作業ゾーンに到達するために、炉1は、清澄タンクT2の下流に配置された少なくとも1つの出口手段Oiを含む。一実施形態によると、出口手段Oiは、一般に「作業端」呼ばれ、又は「ブレーズ」(braise)とも呼ばれ、又は「コンディショニングゾーン」とも呼ばれる作業ゾーンに溶融物を誘導するために、通常はネックで構成される。或いは、出口手段Oiは、前炉などの作業ゾーンに溶融物を誘導するためにスロートで構成される。本発明による作業ゾーンは、例えば、ガラス溶融物が上記ゾーンから出口を通って形成ゾーンに到達する前に制御された冷却による熱コンディショニングが行われるコンディショニングゾーンを含むことができる。このような形成ゾーンは、例えば、フロート設備及び/又は圧延設備を含むことができる。
【0051】
本発明の一実施形態では、図4に示されるように、ガラス化可能な材料を溶融させるための炉は、横方向に拡大され、それぞれの側面に配置された入口手段Li及びLiiが取り付けられた溶融タンクT1iを含み、これによって溶融タンクは、中央の下流ゾーンを通って合流する2つの反対側のガラスストリームを有する2つの上流ゾーンを含む(炉が運転される場合)。このような構成では、溶融タンクT1iの幅W1iは、ネックNi中のガラスストリームに対して垂直に取られた(平均の)寸法として定義される。
【0052】
本発明の非常に好ましい一実施形態では、ガラス化可能な材料を溶融させるための炉は、2つの溶融タンクT1i、T1ii;2つのネックNi、Nii;及び少なくとも2つの入口手段Li、Liiを有する構成である。この有利な実施形態によると、本発明の炉は:
- 溶融クラウンC1iiで覆われ、かつ上記タンクの底部に配置される電気的加熱手段が設けられた溶融タンクT1ii;
- クラウンC3iiで覆われ、かつ上記溶融タンクT1iiと清澄タンクT2を分離するネックNii;
- 加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iiに配置された少なくとも1つの入口手段Lii
をさらに含み;
上記炉は、
0.1*W2≦W3ii≦0.6*W2;
W1ii≧1.4*W3ii
によってさらに規定され;
W1iiはタンクT1iiの幅であり;
W3iiはネックNiiの幅である。
【0053】
したがって、この「2溶融タンク」構成では、ガラス化可能な材料を溶融させるための炉は:
(i)2つの溶融タンクT1i、T1iiであって、それぞれが溶融クラウンC1i、C1iiのそれぞれで覆われ、かつ上記タンクの底部に配置される電気的加熱手段が設けられた、2つの溶融タンクT1i、T1ii;
(ii)清澄クラウンC2で覆われ、かつ燃焼加熱手段が設けられた清澄タンクT2;
(iii)クラウンC3iで覆われ、かつ上記溶融タンクT1iと清澄タンクT2を分離するネックNi;
(iv)クラウンC3iiで覆われ、かつ上記溶融タンクT1iiと清澄タンクT2を分離するネックNii;
(v)加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iに配置された少なくとも1つの入口手段Li;
(vi)加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iiに配置された少なくとも1つの入口手段Lii;
(vii)溶融ガラスを作業ゾーンに流すための、清澄タンクの下流に配置された少なくとも1つの出口手段Oi
を含み;
上記炉は、
0.1*W2≦W3i≦0.6*W2;
0.1*W2≦W3ii≦0.6*W2;
W1i≧1.4*W3i;
W1ii≧1.4*W3ii
によってさらに規定され;
W1iはタンクT1iの幅であり;
W1iiはタンクT1iiの幅であり;
W2はタンクT2の幅であり;
W3iはネックNiの幅であり;
W3iiはネックNiiの幅である。
【0054】
この特定の実施形態は、図5中に示されており、それぞれ溶融タンクT1i及びT1iiの上流に配置された入口手段Li及びLiiを有する。
【0055】
この実施形態は、1つの溶融タンクを有する構成(図1~3)よりも特に有利であるが、その理由は以下のことが可能であるからである:
- 同じ全体的な溶融タンクの面積及び炉の長さ(長さは一般に幅よりも制約が大きい)に対して、各溶融タンクのクラウンのスパンを減少させることができる。クラウンのスパンを減少させることによって、
(i)クラウン材料の内側の応力を減少させることができ、次に材料のクリープ及びクラウンのたわみに関する危険性を軽減することができる。腐食に対する耐性がより高く、クリープに対する抵抗性がより低い耐火材料、例えばアルミナ又はスピネルの使用が可能となり、それによって炉の寿命が増加する;
(ii)アーチ型のネッククラウンC3の場合にクラウンの平均高さを減少させることができ、それによって水平方向の放射線伝達がより少なくなり、続いて、煙道ガスが溶融タンクから抜き取られる場合に、煙道ガスからガラス溶融物への熱伝達がより良好になる;
- 同じ全ネック幅(W3i+W3ii)の場合で、アーチ型ネッククラウンC3の場合、溶融タンクと清澄タンクとの間の開放表面を減少させることができる;
- 同じ全ネック幅(W3i+W3ii)の場合、溶融タンク中のガラス対流の強度を低下させることができる;
- 溶融ゾーン中の炉のメンテナンスをより容易にすることができる。実際、2つの溶融タンクを有する場合、一方の溶融タンクを炉の残りの部分から分離して冷却しながら、他方の溶融タンクで製造を続けることができる。次に、摩耗/腐食に関して最も重要である溶融領域中の摩耗した耐火材料を交換することによって、炉全体の寿命を増加させることができる。
【0056】
炉が2つのネック、2つの溶融タンク、及び少なくとも2つの入口手段を有するこの有利な実施形態(図5中に示されるような「2溶融タンク」炉)では、それぞれのネック、それぞれの溶融タンク、及びそれぞれの入口手段は、前述の説明により、それぞれ他方のネック、溶融タンク、及び入口手段とは独立して設計することができる。
【0057】
前述の「1溶融タンク」構成の炉と関連して、すなわちT1i、C1i、Liと関連して記載される特定の有利な特徴は、「2溶融タンク」構成にも適用可能であり、同じ利点を有する。したがって、明確にするため、T1iに関して前述した特徴はT1iiにも適用可能であり、C1iに関して前述した特徴はC1iiにも適用可能であり、Liに関して前述した特徴はLiiにも適用可能である。
【0058】
特に、ネックNiiのクラウンC3iiは、好ましくは、清澄タンクT2のクラウンC2の高さH2以下の高さH3iiを有することができる(H3ii≦H2)。また好ましくは、ネックNiiは、溶融タンクT1iiのクラウンC1iiの高さH1ii以下の高さH3iiを有することができる(H3ii≦H1ii)。
【0059】
好ましくは、「2溶融タンク」炉は、0.2*W2≦W3ii≦0.6*W2によって規定される。より好ましくは、これは0.3*W2≦W3ii≦0.5*W2によって規定される。
【0060】
有利な一実施形態によると、「2溶融タンク」炉は、W1ii≦W2によって規定される。より好ましくは、本発明の炉は、W1ii<W2、又はより良好にはW1ii<0.8*W2によって規定される。これによって、溶融クラウンC1iのスパンが減少することで、その内側の応力をさらに低下させることができる。実際、腐食及び温度のばらつきが、溶融ゾーン中で最も重要であることが知られている。
【0061】
また好ましくは、「2溶融タンク」炉は、W1ii≧1.5*W3ii、又はさらにはW1ii≧1.8*W3iiによって規定される。より好ましくは、「2溶融タンク」炉は、W1ii≧2*W3iによって規定される。
【0062】
本発明による「2溶融タンク」炉では、2つの溶融タンクT1i、T1iiは、好ましくは、上記清澄タンクの幅W2の中に配置されたネックNi、Niiによって清澄タンクに接続される(図5中に示される)。あるいは、本発明の「2溶融タンク」炉では、一方の溶融タンクは、清澄タンクの幅W2の中に配置されたネックによって清澄タンクに接続され、他方の溶融タンクは、清澄タンクの長さ(右側又は左側)の中の、清澄タンクの上流近く(すなわちその長さの最初の3分の1)に配置されたネックによって清澄タンクに接続される。この最後の構成は、例えば、炉を収容するプラント内に存在する空間が、2つの溶融タンクをならべて配置するのには不十分である場合、有利となりうる。
【0063】
本発明による「2溶融タンク」炉では、2つの溶融タンクT1i、T1iiが、上前記清澄タンクの幅W2の中に配置されたネックNi、Niiによって清澄タンクに接続される場合、2つの溶融タンクT1i及びT1iiの間の距離Dは、好ましくは少なくとも1m、より好ましくは少なくとも2m、より良好には少なくとも3mである。このことは、メンテナンス作業及びタンク壁の上塗りの場合に、そのゾーンに到達できるので有利となる。
【0064】
本発明の別の一実施形態では、ガラス化可能な材料を溶融させるための炉は、3つの溶融タンクT1i、T1ii、T1iii;3つのネックNi、Nii、Niii、及び3つの入口手段Li、Lii、Liiiを有する構成である。この有利な実施形態によると、本発明の炉は:
- 溶融クラウンC1iiiで覆われ、かつ上記タンクの底部に配置される電気的加熱手段が設けられた溶融タンクT1iii;
- クラウンC3iiiで覆われ、かつ上記溶融タンクT1iiiと清澄タンクT2を分離するネックNiii;
- 加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iiiに配置された少なくとも1つの入口手段Liii
をさらに含み;
上記炉は、
0.1*W2≦W3iii≦0.6*W2;
W1iii≧1.4*W3iii
によってさらに規定され;
W1iiiはタンクT1iiiの幅であり;
W3iiiはネックNiiiの幅である。
【0065】
したがって、この「3溶融タンク」構成では、ガラス化可能な材料を溶融させるための炉は:
(i)3つの溶融タンクT1i、T1ii、T1iiiであって;それぞれが溶融クラウンC1i、C1ii、C1iiiのそれぞれで覆われ、上記タンクの底部に配置される電気的加熱手段が設けられた、3つの溶融タンクT1i、T1ii、T1iii;
(ii)清澄クラウンC2で覆われ、かつ燃焼加熱手段が設けられた清澄タンクT2;
(iii)クラウンC3iで覆われ、かつ上記溶融タンクT1iと清澄タンクT2を分離するネックNi;
(iv)クラウンC3iiで覆われ、かつ上記溶融タンクT1iiと清澄タンクT2を分離するネックNii;
(v)クラウンC3iiiで覆われ、かつ上記溶融タンクT1iiiと清澄タンクT2を分離するネックNiii;
(vi)加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iに配置された少なくとも1つの入口手段Li;
(vii)加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iiに配置された少なくとも1つの入口手段Lii;
(viii)加熱されるガラス化可能な材料を投入するための、溶融タンクT1iiiに配置された少なくとも1つの入口手段Liii;
(ix)溶融ガラスを作業ゾーンに流すための、清澄タンクの下流に配置された少なくとも1つの出口手段Oi
を含み;
上記炉は、
0.1*W2≦W3i≦0.6*W2;
0.1*W2≦W3ii≦0.6*W2;
0.1*W2≦W3iii≦0.6*W2;
W1i≧1.4*W3i;
W1ii≧1.4*W3ii;
W1iii≧1.4*W3iii
によって規定され;
W1iはタンクT1iの幅であり;
W1iiはタンクT1iiの幅であり;
W1iiiはタンクT1iiiの幅であり;
W2はタンクT2の幅であり;
W3iはネックNiの幅であり;
W3iiはネックNiiの幅であり;
W3iiiネックNiiiの幅である。
【0066】
この実施形態は、「2溶融タンク」構成の場合と同じように、1つの溶融タンクを有する構成と比較して特に有利である。
【0067】
この「3溶融タンク」では、それぞれのネック、それぞれの溶融タンク、及びそれぞれの入口手段は、前述の説明により、それぞれ他方のネック、溶融タンク、及び入口手段とは独立して設計することができる。
【0068】
前述の「1溶融タンク」及び「2溶融タンク」の構成の炉と関連して、すなわちT1i、T1ii、C1i、C1ii、Li、Liiと関連して記載される特定の有利な特徴は、「3溶融タンク」構成にも適用可能であり、同じ利点を有する。したがって、明確にするため、T1i、T1iiに関して前述した特徴はT1iiiにも適用可能であり、C1i、C1iiに関して前述した特徴はC1iiiにも適用可能であり、Li、Liiに関して前述した特徴はLiiiにも適用可能である。
【0069】
特に、ネックNiiiのクラウンC3iiiは、好ましくは、清澄タンクT2のクラウンC2の高さH2以下の高さH3iiiを有することができる(H3iii≦H2)。また好ましくは、ネックNiiiは、溶融タンクT1iiiのクラウンC1iiiの高さH1iii以下の高さH3iiiを有することができる(H3iii≦H1iii)。
【0070】
好ましくは、「3溶融タンク」炉は、0.2*W2≦W3iii≦0.6*W2によって規定される。より好ましくは、これは0.3*W2≦W3iii≦0.5*W2によって規定される。
【0071】
好ましくは、「3溶融タンク」炉は、W1iii<W2によって規定される。より好ましくは、これはW1iii<0.8*W2によって規定される。これによって、溶融クラウンC1iのスパンが減少することで、その内側の応力をさらに低下させることができる。実際、腐食及び温度のばらつきが、溶融ゾーン中で最も重要であることが知られている。
【0072】
また好ましくは、「3溶融タンク」炉は、W1iii≧1.5*W3iii、又はさらにはW1iii≧1.8*W3iiiによって規定される。より好ましくは、「3溶融タンク」炉は、W1iii≧2*W3iiによって規定される。
【0073】
本発明による「3溶融タンク」炉では、3つの溶融タンクT1i、T1ii、T1iiiは、上記清澄タンクの幅W2の中に配置されたネックNi、Nii、Niiiによって清澄タンクに接続することができる。或いは、本発明の「3溶融タンク」炉では、1つの溶融タンクは、清澄タンクの幅W2の中に配置されたネックによって清澄タンクに接続することができ、別の2つの溶融タンクは、清澄タンクの長さの中の、清澄タンクの上流近く(すなわちその長さの最初の3分の1)に配置されたネックによって清澄タンクに接続することができ、その第1のものは清澄タンクの右側にあり、第2のものは清澄タンクの左側にある。この最後の構成は、例えば、炉を収容するプラント内に存在する空間が、3つの溶融タンクをならべて配置するのには不十分である場合、及び/又は溶融タンク及びネックの設計された寸法(特にW1i、W1ii、W1iii及びW3i、W3ii、W3iii)が清澄タンクの幅W2の中で実現できない場合に、有利となりうる。
【0074】
本発明による「3溶融タンク」炉では、少なくとも2つの溶融タンクが、上記清澄タンクの幅W2の中に配置されたネックによって清澄タンクに接続される場合、2つの溶融タンクの間の距離Dは、好ましくは少なくとも1m、より好ましくは少なくとも2m、より良好には少なくとも3mである。これとは独立して、本発明による「3溶融タンク」炉では、3つの溶融タンクが、上記清澄タンクの幅W2の中に配置されたネックによって清澄タンクに接続される場合、2つの溶融タンクT1i及びT1iiの間の距離Dは、好ましくは少なくとも1m、より好ましくは少なくとも2mであり;2つの溶融タンクT1ii及びT1iiiの間の距離D’も、好ましくは少なくとも1m、より好ましくは少なくとも2mである。
【0075】
本発明による全ての炉の構成、すなわち「1溶融タンク」、「2溶融タンク」、及び「3溶融タンク」の構成では、投入されるガラス化可能な材料の分散を促進するために、2つ以上の入口手段を各溶融タンクに設けることができ、すなわち、溶融タンク1つごとに2つの入口手段を設けることができる。
【0076】
本発明による全ての炉の構成では、好ましくは、溶融タンクの全表面積は25~400mの範囲である。また好ましくは、本発明によると、清澄タンク表面積は25~400mの範囲である。
【0077】
当業者であれば、本発明が前述の好ましい実施形態に限定されるものでは決してないことを認識している。逆に、添付の請求項の範囲内で多くの修正及び変形が可能である。本発明は、本明細書に記載され請求項に列挙される特徴、及び好ましい特徴のあらゆる可能な組み合わせに関することをさらに留意されたい。
【0078】
以下の実施例は、説明の目的で提供されるものであり、本発明の範囲の限定を意図したものではない。
【実施例
【0079】
本発明による炉の実施例、及び従来の燃焼炉(場合により電気ブーストされる)の比較例について計算を行った。
【0080】
数学的モデリングなしでは、溶解炉の最適化及び設計は、困難であり、危険であり、非常に時間がかかる。実際、炉は非常に費用がかかり、それらの寿命は15年を超え、さらには最長20年である。そして、研究及び設計の修正を行う機械はごくわずかであり、これらの修正に関連する危険性の軽減に対して高い圧力が存在する。したがって、運転されるガラス炉中の溶融プロセスの数学的モデリングは、ガラス技術分野において十分に開発されており、ガラス製造業者の間ではよく知られている。数学的モデルの使用によって、タンク内のガラス溶融物と、燃焼/清澄空間内のガスとの詳細な温度及び速度場が求められる。これらの既存の数学的モデリングの結果は、測定(熱電対及び赤外カメラ)と比較することによって、運転される多くの炉で確認されている。
【0081】
本計算の場合、同じガラス引き出しの以下の炉を検討した:
- 炉1(比較用):従来の燃焼ガラス溶解炉:溶融ゾーン及び清澄ゾーンを含む1つのタンクであり、空気-ガスが供給されるバーナーが取り付けられ、場合により電気ブーストするための電極を有する。
- 炉2:「1溶融タンク」構成の本発明による炉であり:
- タンク幅W1i=13.0m、及び平均クラウン高さH1i=1.35mの溶融タンクT1i
- 溶融タンクの上流に配置される入口手段Li
- 16.0MWの全設置出力に到達する、溶融タンク中の電極
- 幅W3i=4.5m=0.35W1i、及び平均クラウン高さH3i=0.35mのネックNi
- タンク幅W2=13.0m、及び平均クラウン高さH2=3.5mの清澄タンクT2
- 16.0MWの全設置出力を有する、純酸素及び天然ガスが供給される清澄タンク中のオキシバーナー;
- 出口手段O
- 溶融タンクの上流部分の、ガラス化可能な材料が投入される入口の近くに配置される煙道ガスを抽出するための抽出手段
が取り付けられる;
- 炉3:「2溶融タンク」構成の本発明による炉。この考慮される計算では、両方の溶融タンクは、同一の寸法を有し、対称に配置される(図3参照)。両方の溶融タンクの間の距離は4.8mである。炉3には:
- タンク幅W1i=8.4m、及び平均クラウン高さH1i=0.95mの溶融タンクT1i
- W1ii=W1i及びH1ii=H1iの溶融タンクT1ii
- 溶融タンクT1iの上流に配置される入口手段Li、
- 溶融タンクT1iの上流に配置される入口手段Lii、
- 両方のタンクの間に同様に分配される設置出力を有する、溶融タンク中の電極、
- 幅W3i=3.6m、及び平均クラウン高さH3i=0.54mのネックNi、
- 幅W3ii=W3i及びH3ii=H3iのネックNii、
- 炉2と同じタンク寸法の清澄タンクT2、
- 炉2と同じ特徴を有する、空気-ガスが供給される清澄タンク中のバーナー、
- 出口手段O、
- 溶融タンクから煙道ガスを抽出するための抽出手段
が取り付けられる。
【0082】
これらの炉1~3のエネルギー消費(ガス/電気)、底部温度、クラウン温度、及びガラスの循環を評価した。
【0083】
エネルギー消費
表1は、炉1~3のガスの消費、電力消費、及び全エネルギー消費、並びに電気入力分率の計算値を示している。
【0084】
従来の炉1の場合、2つの状況を考慮した:全て燃焼(100%ガスエネルギー)の状況、及びこの炉の実行可能な最大電気ブーストでの状況(この最高の底部温度及びクラウン温度を超えると、激しい耐火物の腐食及び重大な炉の損傷が生じる)。
【0085】
表1は、従来の電気ブースト燃焼溶解炉と比較すると、本発明による炉は、全エネルギー消費を(約30%だけ)減少させながら、電気入力分率を増加させることができ(最大50%の値に到達する)、それによってCO排出が大幅に減少することを非常によく示している。
【0086】
底部温度
図6は、非現実的な16MWの電力(同等の電力を考慮することによって、本発明の炉との公正な比較を実現できる)を用いた炉1、炉2、及び炉3の、入口手段から始まり出口手段までの距離(単位メートル)による底部耐火物温度の発生を示している。y軸は、摂氏温度での値(Tbottom-Tref)を示しており、Tbottomは、電気ブーストされた炉1、炉2、及び炉3の底部の温度であり、Trefは、電気ブーストなしの炉1(全て燃料の従来の炉)の底部の最高温度である。それぞれの構成の関連するゾーンの位置を示し比較できるようにするため、本発明による炉1~3が図の上部に図式化されている。
【0087】
この図は、従来の炉において電力入力が増加すると大きな底部温度上昇が存在することを示しており、一方、本発明の炉は、同じ電気入力の場合、より低い値のままであり、このことは腐食の回避、それによる炉の寿命の増加に有利である。
【0088】
クラウン温度
図7は、16MWの電気ブーストありの炉1(比較用)、炉2、及び炉3の入口手段から始まり出口手段までの距離(単位メートル)によるクラウン耐火物の温度発生を示している。y軸は、摂氏温度での値(Tcrown-Tref)を示しており、Tcrownは、電気ブーストされた炉1、炉2、及び炉3のクラウンの温度であり、Trefは、電気ブーストなしの炉1(全て燃料の従来の炉)のクラウンの最高温度である。それぞれの構成の関連するゾーンの位置を示し比較できるようにするため、従来の電気ブースト炉1及び本発明による炉2~3が図の上部に図式化されている。
【0089】
従来の炉1及び本発明による炉2~3は、電気ブーストなしの従来の炉(ref)と比較すると、溶融ゾーンのクラウン温度の低下を示すことを、この図は示している。電気ブーストされた炉では、これは、クラウンで重大な腐食現象(主として清澄により生じるNaOHの濃縮のため)が生じるので、大きな欠点となる。本発明による炉では、(i)煙道ガスが清澄タンクから抽出される場合、清澄ゾーン及び溶融ゾーンからの雰囲気は少なくとも1つのネックによって分離され、それによって清澄タンクから溶融タンクへの腐食性ヒューム(NaOH)の逆流の制限又は回避が可能になり、(ii)煙道ガスが溶融タンクから抽出される場合、クラウンスパンを制限することができるので(特に複数の溶融タンクの場合)、アルミナ耐火物の使用が実現可能な選択肢となる(既知のアルミナは、腐食に対する耐性はより高いが、大きなクラウンスパンの場合には推奨されない)という理由で、このクラウン温度の低下は、より容易に管理可能である。
【0090】
ガラスの循環
図8は、16MWの電気ブーストありの炉1(比較用)、炉2、及び炉3の入口手段から始まり出口手段までの距離(単位メートル)による溶融ガラスの循環の発生を示している。y軸は、値(mbackward/mpull)を示しており、mbackwardは逆方向の質量流量であり、mpullは引き出し質量流量である。それぞれの構成の関連するゾーンの位置を示し比較できるようにするため、従来の電気ブースト炉1及び本発明による炉2~3が図の上部に図式化されている。
【0091】
この図は、本発明による炉2~3は、溶融ゾーン及び清澄ゾーン中で全体的な溶融ガラスの循環が大幅に減少することを示しており、これによって、有利には溶融ガラス速度が低下し、それによって底部耐火物の腐食が減少する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】