(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】がん診断のための糖タンパク質バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240801BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01N33/53 V
G01N33/574 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024511985
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2022073750
(87)【国際公開番号】W WO2023025927
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524048829
【氏名又は名称】グリカノスティクス エス.アール.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】トカシュ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ベルトク トマーシュ
(57)【要約】
本発明は、対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断するための方法であって、対照サンプルと比較して、バイオマーカー糖タンパク質の特定のグリカン構造への結合物質の(有意に)より低いまたは(有意に)より高い結合が、前記対象ががんのリスクを有するかまたはがんに罹患していることを示している、前記方法に関する。本発明はさらに、対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断する方法を実施するためのキットであって、バイオマーカータンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を含む、前記キットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断するための方法であって、
(1)前記対象から得られた、バイオマーカー糖タンパク質を含むサンプルを、前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質と接触させる工程であって、
前記バイオマーカー糖タンパク質の存在または過剰発現が、前記がんのリスクおよび/または存在を示しており、かつ
前記グリカン構造が、前記がんのリスクを有することも前記がんに罹患していることもない対象において発現する前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造から逸脱している、
前記工程;ならびに
(2)前記結合物質が前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合したかどうかを判定する工程
を含み、
対照サンプルと比較して、前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造への前記結合物質のより低いまたはより高い結合が、前記対象ががんのリスクを有するかまたはがんに罹患していることを示しており、
前記バイオマーカー糖タンパク質がZAGおよび/またはPAPである、
前記方法。
【請求項2】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記がんが泌尿生殖器がん、好ましくは前立腺がん(PCa)である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記結合物質がレクチン、抗グリカン抗体、アプタマー、またはボロン酸もしくはその誘導体である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数のさらなるバイオマーカー糖タンパク質が、PSA、TIMP-1、fPSA、tPSA、オステオポンチン、およびスポンジン2からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記結合物質が、コア型フコース、アンテナ型フコース、Fucα1-6GlcNAc-N-Asn含有N結合型オリゴ糖、Fucα1-6/3GlcNAc、α-L-Fuc、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、Fucα1-2Gal、Fucα1-6GlcNAc、Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc、分岐型N結合型六糖、Manα1-3Man、α-D-Man、(GlcNAcβ1-4、Galβ1-4GlcNAc、GlcNAcα1-4Galβ1-4GlcNAc、(GlcNAcβ1-4、Neu5Ac(シアル酸)、Galβ1-3GalNAc-セリン/トレオニン、Galα1-3GalNAc、Galβ1-6Gal、Galβ1-4GlcNAc、Galβ1-3GalNAc、GalNAcα1-3GalNAc、GalNAcα1-3Gal、GalNAcα/β1-3/4Gal、α-GalNAc、GalNAcβ1-4Gal、GalNAcα1-3(Fucα1-2)Gal、GalNAcα1-2Gal、GalNAcα1-3GalNAc、GalNAcβ1-3/4Gal、GalNAc-セリン/トレオニン(Tn抗原)、Galβ1-3GalNAc-セリン/トレオニン(T抗原)、GalNAcβ1-4GlcNAc(LacdiNAc)、α-2,3Neu5Ac(α2-3結合型シアル酸)、α-2,6Neu5Ac(α2-6結合型シアル酸)、α-2,8Neu5Ac(α2-8結合型シアル酸)、シアル酸(α-2,3Neu5Ac、α-2,6Neu5Ac、もしくはα-2,8Neu5Ac)、Neu5Acα4/9-O-Ac-Neu5Ac、Neu5Acα2-3Galβ1-4Glc/GlcNAc、Neu5Acα2-6Gal/GalNAc、N結合型バイアンテナ型、N結合型トリ/テトラアンテナ型、分岐型β1-6GlcNAc、Galα1-3(Fucα 1-2)Galβ1-3/4GlcNAc、Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、NeuAcα2-3Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、NeuAcα2-3Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、高マンノース、シアリルルイス
a(シアリルLe
a)抗原、シアリルルイス
x(シアリルLe
x)抗原、ルイス
x(Le
x)抗原、シアリルTn抗原、シアリルT抗原、ルイス
Y(Le
Y)抗原、硫酸化コア1グリカン、Tn抗原、T抗原、コア2グリカン、ルイス
a(Le
a)抗原、(GlcNAcβ1-4)
n、β-D-GlcNAc、GalNAc、Gal-GlcNAc、GlcNAc、Galα1-3Gal、Galβ1-3GalNAc、α-Gal、α-GalNAc、(GlcNAc)
n、または分岐型(LacNAc)
n)のいずれかの1つまたは複数に結合する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記結合物質が、ガラクトースの3位もしくは6位にαもしくはβ結合したN-アセチルガラクトサミンで終結するグリカン構造に結合するか、またはLacdiNAcエピトープ(GalNAc1-4GlcNAc)を含むグリカン構造に結合する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記結合物質が、WFA/WFLと同じグリカン構造に、WFLがグリカン構造に結合する親和性の少なくとも80%の親和性で結合する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記結合物質が、WFA/WFL、L-セレクチン、P-セレクチン、E-セレクチン、AAL、MAA、GNL、PSL、またはPHA-Eである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記結合物質がWFL/WFAである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
レクチンベースのアッセイが使用される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
酵素結合性レクチン結合アッセイ(ELLBA)が使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
バイオマーカータンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項14】
前記結合物質がレクチンである、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記レクチンが、
WFA、または
WFL/WFAと同じグリカン構造に、WFL/WFAがグリカン構造に結合する親和性の少なくとも80%の親和性で結合する、結合物質
である、請求項13または14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年8月26日に出願された欧州特許出願第21 193 158.9号の優先権の恩典を主張するものであり、その内容はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断するための方法であって、対照サンプルと比較して、バイオマーカー糖タンパク質の特定のグリカン構造への結合物質の(有意に)より低いまたは(有意に)より高い結合が、前記対象ががんのリスクを有するかまたはがんに罹患していることを示している、前記方法に関する。本発明はさらに、対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断する方法を実施するためのキットであって、バイオマーカータンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を含む、前記キットに関する。
【背景技術】
【0003】
がんは現在、文明における最大の脅威(scarecrow)の一つである。男性のがん死で最も一般的な原因は、前立腺がん(PCa)である。この診断は深刻であるという事実にもかかわらず、早期発見と適切な治療により、予後は良好である(Tkac et al., Interface Focus (2019), 9: 20180077(非特許文献1))。PCaのスクリーニングと診断は、通常、前立腺特異抗原(prostate specific antigen)(PSA)の分析によって行われる。このタンパク質は、がんに冒された前立腺組織だけでなく、健康な前立腺および他の疾患に冒された前立腺でも形成される(Damborska et al., Acta (2017), 184: 3049-3067(非特許文献2))。PCaに対してPSAを使用することの特異度が低いため、より特異度の高い、新しいバイオマーカーを同定する必要がある。糖タンパク質ZAG(亜鉛α2糖タンパク質(zinc α-2-glycoprotein)は、前立腺がんの潜在的バイオマーカーとして以前に同定されている(Katafigioti et al., Ital. Urol. Androl. (2016), 88: 195-200(非特許文献3))。ZAGは、例えば乳房、前立腺、肝臓などに見られる、数種類の分泌系上皮細胞を含む様々な組織で発現されている。いくつかの研究は、この疾患の初期段階では、ZAGレベルが尿と血液の両方で上昇し、前立腺がんや他の泌尿生殖器がんのバイオマーカーとなる可能性があることを示している(Katafigiotis et al., BJU Int. (2012), 110: E688-E693(非特許文献4))。しかし、ZAGは非がん性細胞の表面にも存在するため、ZAGレベルの検出だけで診断を下すには不十分である。
【0004】
これらの欠点およびさらなる欠点は、克服される必要がある。したがって、本発明は、これらの必要性および技術的目標に対処し、かつ本明細書に記載されかつ特許請求の範囲に定義される解決策を提供するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tkac et al., Interface Focus (2019), 9: 20180077
【非特許文献2】Damborska et al., Acta (2017), 184: 3049-3067
【非特許文献3】Katafigioti et al., Ital. Urol. Androl. (2016), 88: 195-200
【非特許文献4】Katafigiotis et al., BJU Int. (2012), 110: E688-E693
【発明の概要】
【0006】
本発明は、対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断するための方法であって、
(1)前記対象から得られた、バイオマーカー糖タンパク質を含むサンプルを、前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に(特異的に)結合することが可能な結合物質と接触させる工程であって、
前記バイオマーカー糖タンパク質の存在または過剰発現(例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍の過剰発現)または過少発現(例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍の過少発現、例えば、グリカン構造がO-グリカンもしくはN-グリカン、好ましくはO-グリカンである場合の過少発現)が、がんのリスクおよび/または存在を示しており、かつ
前記グリカン構造が、がんのリスクを有することもがんに罹患していることもない対象において発現する前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造から逸脱している、
前記工程;ならびに
(2)前記結合物質が前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合したかどうかを判定する工程
を含み、
対照サンプルと比較して、前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造への前記結合物質の(有意に)より低いまたは(有意に)より高い(好ましくは有意により高い)結合が、前記対象ががんのリスクを有するかまたはがんに罹患していることを示しており、かつ
好ましくは、前記バイオマーカー糖タンパク質がZAGおよび/またはPAP、より好ましくはZAGである、
前記方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書で使用され、当技術分野で一般的に知られるように、本明細書で使用する「糖タンパク質(または「グリコシル化タンパク質」)」とは、例えば、単糖から分岐型多糖(スルホ基またはホスホ基の結合などの修飾を含む)までの様々なタイプの、1つまたは複数のN-、O-、S-もしくはC-共有結合した糖鎖を含むタンパク質を意味する。N結合型グリカンは、アスパラギンの-NH2基に結合した糖鎖である。O結合型グリカンは、セリン、トレオニン、またはヒドロキシル化アミノ酸の-OH基に結合した糖鎖である。S結合型グリカンは、システインの-SH基に結合した糖鎖である。C結合型グリカンは、C-C結合を介してトリプトファンに結合した糖鎖である。
【0008】
「グリカン」という用語は、グリコRNAおよび/またはグリコシド結合した単糖類からなる化合物を指し、また、たとえ糖鎖が単糖またはオリゴ糖だけであっても、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどの糖複合体(glycoconjugate)の糖鎖部分を指すこともある。
【0009】
本発明の一態様では、がんのリスクを有する可能性があるかまたはがんに罹患している可能性がある前記対象は、ヒトである。
【0010】
驚くべきことに本発明との関連で見出されたように、がん(例えば、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、精巣がんなどの泌尿生殖器がん)のリスクおよび/または存在を示すことができる特定のバイオマーカー糖タンパク質(例えば、そのようなバイオマーカー糖タンパク質の存在または過剰発現)は、対象ががんのリスクを有する可能性があるかまたはがんに罹患している可能性がある場合、グリカン構造の変化を示す。本発明との関連では、これは、そのような糖タンパク質上の特定のグリカン構造が、同じ糖タンパク質の「正常な」グリカン構造から逸脱していると、がん(例えば、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、精巣がんなどの泌尿生殖器がん)のリスクおよび/または存在を示している可能性がある、という驚くべき発見につながった。本発明によれば、そのようなグリカン構造に結合することが可能な適切な結合物質を用いて、バイオマーカー糖タンパク質上のそのような変化したグリカン構造を特定することにより、対象ががん(例えば、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、精巣がんなどの泌尿生殖器がん)のリスクを有する可能性があるかどうかまたは前記がんに罹患している可能性があるかどうかを診断することができる。
【0011】
これに関連して、本発明によれば、非がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を使用し、本明細書に記載され提供される方法の工程(1)に従って前記結合物質をサンプルに接触させ、本明細書に提供される方法に記載されるように、対照サンプル(健康なサンプル、すなわち、非がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造と比較して変化したグリカン構造を有する、がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質を含まないサンプル、または、非がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造と比較して変化したグリカン構造を有する、がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質をより少なく(例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、または少なくとも約3倍少なく)含むサンプル)に含まれるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に対する前記結合物質の結合能を比較することが可能である。前記結合物質が、対照サンプルと比較して、がんのリスクを有する可能性があるかまたはがんに罹患している可能性がある対象からのサンプルに含まれるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に、より低い程度(好ましくは有意により低い程度、例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、または少なくとも約3倍低い程度)で結合する場合、それは、前記対象ががんのリスクを有するかまたはがんに罹患していることを示している可能性がある。
【0012】
同様に、本発明によれば、がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を使用し、本明細書に記載され提供される方法の工程(1)に従って前記結合物質をサンプルに接触させ、本明細書に提供される方法に記載されるように、対照サンプル(健康なサンプル、すなわち、非がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造と比較して変化したグリカン構造を有する、がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質を含まないサンプル、または、非がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造と比較して変化したグリカン構造を有する、がん状態にあるバイオマーカー糖タンパク質をより多く(例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、または少なくとも約3倍多く)含むサンプル)に含まれるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に対する前記結合物質の結合能を比較することも可能である。前記結合物質が、対照サンプルと比較して、がんのリスクを有する可能性があるかまたはがんに罹患している可能性がある対象からのサンプルに含まれるバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に、より高い程度(好ましくは有意に高い程度、例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、または少なくとも約3倍高い程度)で結合する場合、それは、前記対象ががんのリスクを有する可能性があるかまたはがんに罹患していることを示している可能性がある。
【0013】
本発明の一態様では、対象がリスクを有する可能性があるかまたは対象が罹患している可能性がある前記がんは、泌尿生殖器がんであり得る。具体的な態様では、そのような泌尿生殖器がんは、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、または精巣がん、好ましくは前立腺がん(PCa)であり得る。
【0014】
本発明によれば、本明細書に記載され提供される方法で使用される、本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に(特異的に)結合することが可能な結合物質は、グリカン構造に結合することができるあらゆる種類の作用物質であり得る。好ましくは、そのような結合物質は、グリカン構造へのその結合が測定および定量化され得る作用物質であり、例えば、結合それ自体が検出および測定され得る場合、および/または結合物質が適切な方法で検出可能なマーカー分子を含む場合のいずれかである。本発明との関連では、適切な結合物質の非限定的な例として、レクチン、抗グリカン抗体、アプタマー(核酸アプタマー、例えばDNAもしくはRNAアプタマー、またはペプチドアプタマー)、またはボロン酸もしくはその誘導体が挙げられる。本発明の一態様では、本明細書に記載され提供される方法で使用される結合物質は、レクチンである。本明細書に記載され提供される本発明の方法と関連する別の例では、前記結合物質は、ガラクトースの3位もしくは6位にαもしくはβ結合したN-アセチルガラクトサミンで終結するグリカン構造に、またはLacdiNAcエピトープ(GalNAc1-4GlcNAc)を含むグリカン構造に、好ましくは、ガラクトースの3位もしくは6位にαもしくはβ結合したN-アセチルガラクトサミンで終結するグリカン構造に、(特異的に)結合することが可能である。
【0015】
一般に、本明細書で使用される「結合物質」(または「認識分子」)には、標的エピトープに結合可能な1つまたは複数の結合ドメインを含むポリペプチド(例えば、レクチンまたは抗グリカン抗体、またはそれらの断片)、ならびにグリカン構造に結合可能な他の分子(例えば、アプタマーまたはボロン酸およびその誘導体)が含まれる。結合物質は、いわば、前記結合ドメインが所定の標的構造/抗原/エピトープと結合/相互作用できるように、前記1つまたは複数の結合ドメインのための足場を提供する。用語「結合ドメイン」は、本発明との関連では、所定の標的エピトープと特異的に結合/相互作用するポリペプチドのドメインを特徴づける。「エピトープ」は抗原性であり、それゆえエピトープという用語は本明細書では「抗原構造」または「抗原決定基」とも呼ばれることがある。本発明との関連では、グリカン構造は、結合物質、例えば、レクチン、抗グリカン抗体、アプタマー(核酸アプタマー、例えばDNAもしくはRNAアプタマー、またはペプチドアプタマー)、またはボロン酸もしくはその誘導体、好ましくは1種類または複数種類のレクチンおよび/または抗グリカン抗体、好ましくは1種類または複数種類のレクチン、に対する抗原構造として機能し得る。したがって、結合ドメインは「抗原相互作用部位」である。「抗原相互作用部位」という用語は、本発明によれば、特定の抗原または特定の抗原群(例えば、異なる種における同一の抗原)と特異的に相互作用することができるポリペプチドのモチーフを定義している。この結合/相互作用は、「特異的認識」を定義しているとも理解される。
【0016】
「エピトープ」という用語はまた、結合物質が結合する抗原上の部位をも指す。好ましくは、エピトープは、結合物質、例えば、レクチン、抗グリカン抗体、アプタマー(核酸アプタマー、例えばDNAもしくはRNAアプタマー、またはペプチドアプタマー)、またはボロン酸もしくはその誘導体、好ましくは1種類または複数種類のレクチンおよび/または抗グリカン抗体、好ましくは1種類または複数種類のレクチン、が結合する分子上の部位である。
【0017】
本明細書で使用する「アプタマー」という用語は、特定の標的分子に結合する核酸、オリゴヌクレオチドまたはペプチド分子を指す。本明細書で使用する場合、特に別段の定義がない限り、「核酸」または「核酸分子」という用語は、「オリゴヌクレオチド」、「核酸鎖」などと同義に使用され、1つ、2つ、またはそれ以上のヌクレオチドを含むポリマー、例えば一本鎖または二本鎖、を意味する。
【0018】
本明細書で使用する「レクチン」という用語は、任意の種類および起源の糖鎖結合性のタンパク質を指し、例えば、レクチン、ガレクチン、セレクチン、組換えレクチン、またはこれらの断片、さらには足場に結合しているグリカン結合部位の断片を含む。本明細書で使用する「レクチン」という用語には、グリカン構造に結合することが可能なレクチンの断片も含まれる。レクチンは、1つまたは複数の糖鎖部分に対して高度に特異的であり得る(例えば、それは、糖タンパク質のグリカン(例えば、糖タンパク質の枝分かれ糖分子、例えば、本発明の意味の範囲内での標的ポリペプチドおよび本明細書の表1に記載されるバイオマーカー)のような、他の分子の末端グリコシド残基と特異的に反応する)。レクチンは当技術分野でよく知られている。当業者であれば、どのレクチンが関心対象の1つまたは複数の糖鎖部分、例えばタンパク質に結合しているグリカンの1つまたは複数の糖鎖部分への結合に使用され得るかを容易に決定することができる。本発明との関連で適用される好ましいレクチンは、本明細書に記載されている。用語「レクチン」には、シグレック(Siglec)(シアル酸結合性免疫グロブリン様レクチン)も含まれる。注目すべきことに、「レクチン」という用語は、本明細書で使用する場合、グリカン結合性の抗体をも指す。したがって、本明細書で使用する「レクチン」という用語には、レクチン、シグレック、ならびにグリカン結合性抗体が含まれる。
【0019】
本明細書に記載され、本発明との関連で使用されるレクチンは、当技術分野で知られる従来の方法を用いて分離し、任意で精製することができる。例えば、レクチンをその天然源から分離する場合には、適切な固定化糖鎖マトリックス上で均質になるまで精製して、適切なハプテンで溶出することができる。Goldstein & Poretz (1986) In The lectins. Properties, functions and applications in biology and medicine (編集Liener他), pp. 33-247. Academic Press (Orlando, Fla.); Rudiger (1993) In Glycosciences: Status and perspectives (編集Gabius & Gabius), pp. 415-438. Chapman and Hall (Weinheim, ドイツ)を参照されたい。あるいは、レクチンは確立された方法に従って組換え法により生産することもできる。Streicher & Sharon (2003) Methods Enzymol. 363:47-77を参照されたい。さらに別の代替手段として、既知のレクチンまたは本明細書に開示されるレクチンのアミノ酸配列に基づいて、標準的なペプチド合成技術を用いるか、または当技術分野でよく知られた化学的切断法を用いて、レクチンを生成することができる(例えば、US 9169327 B2)。別の代替物は、上で特定したレクチンの化学的修飾によって調製される人工レクチンであり得る(Y.W. Lu, C.W. Chien, P.C. Lin, L.D. Huang, C.Y. Chen, S.W. Wu, C.L. Han, K.H. Khoo, C.C. Lin, Y.J. Chen, BAD-Lectins: Boronic Acid-Decorated Lectins with Enhanced Binding Affinity for the Selective Enrichment of Glycoproteins, Analytical Chemistry, 85 (2013) 8268-8276を参照されたい)。
【0020】
本発明との関連では、グリカンがレクチンに結合する場合(またはその逆)、結合親和性は、約10-1~10-10(KD)、好ましくは約10-2~10-8(KD)、より好ましくは約10-3~10-5(KD)の範囲である。結合物質がレクチンである場合に、結合物質のグリカン構造への結合に関連して本明細書で使用される「特異的に」または「特異的な」という用語は、好ましくは約10-2~10-8(KD)、より好ましくは約10-3~10-5(KD)の結合親和性を意味し得る。レクチンへのグリカンの結合に対応するKDを測定する方法は当技術分野で公知であり、当業者であれば、容易に利用可能である。
【0021】
本発明の一態様では、本発明との関連で使用される結合物質は、抗体であり得る。本明細書で使用する「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片によって実質的または部分的にコードされる(1つまたは複数の結合ドメイン、好ましくは抗原結合ドメインを含む)1つまたは複数のポリペプチドから構成されるタンパク質である。用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本明細書では「抗体」と相互交換可能に使用される。広く認められた免疫グロブリン遺伝子には、無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子だけでなく、カッパ(κ)、ラムダ(λ)、アルファ(α)、ガンマ(γ)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)およびミュー(μ)の定常領域遺伝子が含まれる。
【0022】
特に、本明細書で使用される「抗体」は、典型的には、それぞれ約25kDaの2本の軽鎖(L鎖)と、それぞれ約50kDaの2本の重鎖(H鎖)から構成される4量体型のグリコシル化タンパク質である。抗体には、ラムダ(λ)とカッパ(κ)と呼ばれる2種類の軽鎖が存在し得る。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、5つの主要なクラス:A、D、E、G、およびMに割り当てることができ、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、lgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類することができる。IgM抗体は、5個の基本のヘテロ4量体単位と、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドから構成され、10個の抗原結合部位を含む;一方、IgA抗体は、2~5個の基本の4鎖単位から構成され、これらは重合して、J鎖と共に多価集合体を形成することができる。IgGの場合には、4鎖単位が一般的に約150,000ダルトンである。
【0023】
各軽鎖は、N末端の可変(V)ドメイン(VL)と定常(C)ドメイン(CL)を含む。各重鎖は、N末端のVドメイン(VH)と、3つまたは4つのCドメイン(CH)と、ヒンジ領域を含む。定常ドメインは、抗体の抗原への結合には直接関与していない。
【0024】
VHとVLが一緒に対合すると、単一の抗原結合部位が形成される。VHに最も近いCHドメインは、CH1と指定される。各L鎖は1つの共有結合性ジスルフィド結合でH鎖に結合しているが、2本のH鎖はH鎖のアイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合で互いに結合している。VHドメインとVLドメインは、フレームワーク領域と呼ばれる比較的保存された配列の4つの領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)で構成され、これらは超可変配列の3つの領域(相補性決定領域;CDR)のための足場を形成している。CDRには、抗体と抗原との特異的相互作用に関与する残基のほとんどが含まれる。CDRはCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれる。これに応じて、重鎖上のCDR構成要素はH1、H2、およびH3と呼ばれ、一方、軽鎖上のCDR構成要素はL1、L2、およびL3と呼ばれる。
【0025】
「可変」という用語は、免疫グロブリン配列の可変性を示しかつ特定の抗体の特異性と結合親和性の決定に関与する、免疫グロブリンドメインの部分(すなわち「可変ドメイン」)を指す。可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布しているわけではない;それは、重鎖および軽鎖可変領域のそれぞれのサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変」領域または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち、非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRM)と呼ばれる。天然に存在する重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、主にβシート立体配置をとる4つのFRM領域を含み、これらのFRM領域は3つの超可変領域につながれている;超可変領域は、βシート構造をつなぐループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成している。各鎖の超可変領域は、FRMでごく近接して結び付けられており、もう一方の鎖の超可変領域と共に、抗原結合部位の形成に寄与している(Chothia et al., J MoI Biol (1987), 196: 901; およびMacCallum et al., J MoI Biol (1996), 262: 732以降)。定常ドメインは、抗原結合には直接関与しないが、例えば、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用および補体活性化といった、様々なエフェクター機能を示す。
【0026】
用語「CDR」およびその複数形「CDRs」は、相補性決定領域(CDR)を指し、そのうちの3つが軽鎖可変領域の結合特性を構成し(CDRL1、CDRL2およびCDRL3)、3つが重鎖可変領域の結合特性を構成する(CDRH1、CDRH2およびCDRH3)。CDRsは抗体分子の機能活性に寄与しており、足場領域またはフレームワーク領域を構成するアミノ酸配列によって隔てられている。CDRの境界および長さの正確な定義づけは、様々な分類およびナンバリングシステムに応じて異なっている。境界が異なるにもかかわらず、これらのシステムのそれぞれは、可変配列内のいわゆる「超可変領域」を構成する部分に、ある程度のオーバーラップを有する。そのため、これらのシステムによるCDRの定義は、隣接するフレームワーク領域に関して、長さと境界領域の点で異なる可能性がある。例えば、Kabat、Chothia、および/またはMacCallumを参照されたい(Chothia et al., J MoI Biol (1987), 196: 901; およびMacCallum et al., J MoI Biol (1996), 262: 732)。
【0027】
本明細書で使用する「アミノ酸」または「アミノ酸残基」という用語は、典型的には、当技術分野で広く認識された定義を有するアミノ酸を指し、例えば、アラニン(AlaまたはA);アルギニン(ArgまたはR);アスパラギン(AsnまたはN);アスパラギン酸(AspまたはD);システイン(CysまたはC);グルタミン(GlnまたはQ);グルタミン酸(GluまたはE);グリシン(GlyまたはG);ヒスチジン(HisまたはH);イソロイシン(HeまたはI);ロイシン(LeuまたはL);リジン(LysまたはK);メチオニン(MetまたはM);フェニルアラニン(PheまたはF);プロリン(ProまたはP);セリン(SerまたはS);スレオニン(ThrまたはT);トリプトファン(TrpまたはW);チロシン(TyrまたはY);およびバリン(ValまたはV)からなる群より選択されるアミノ酸を指すが、所望により修飾アミノ酸、合成アミノ酸、または希少アミノ酸を使用することができる。一般的に、アミノ酸は、非極性側鎖(例えば、Ala、Cys、He、Leu、Met、Phe、Pro、Val);負に荷電した側鎖(例えば、Asp、Glu);正に荷電した側鎖(例えば、Arg、His、Lys);または荷電していない極性側鎖(例えば、Asn、Cys、Gln、Gly、His、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyr)を有するものとしてグループ分けすることが可能である。
【0028】
「フレームワーク領域」という用語は、より多様性(すなわち超可変性)のCDR間に存在する、当技術分野で広く認められた抗体可変領域の部分を指す。このようなフレームワーク領域は通常、フレームワーク1から4(FR1、FR2、FR3、およびFR4)と呼ばれ、抗原結合表面を形成するために、6つのCDR(重鎖から3つと軽鎖から3つ)を3次元空間に提示するための足場を提供する。
【0029】
本明細書で使用する「抗体」という用語は、免疫グロブリン(つまりインタクト抗体)だけでなく、そのフラグメントをも指し、抗原結合フラグメントまたは抗原結合ドメインを含むあらゆるポリペプチドを包含する。好ましくは、前記フラグメントは、例えば、Fab、F(ab')2、Fv、scFv、Fd、dAb、および抗原結合機能を保持する他の抗体フラグメントである。典型的には、このようなフラグメントは抗原結合ドメインを含み、かつ本明細書に記載される抗体と同じ性質を有すると考えられる。
【0030】
本明細書で使用する「抗体」という用語には、本発明の抗体が結合するエピトープと同じエピトープへの結合について競合する抗体が含まれ、好ましくは、そうした抗体は、本明細書の他の箇所に記載される抗体の作製方法によって得ることができる。
【0031】
試験抗体が同じエピトープへの結合について競合し得るかどうかを調べるために、クロスブロッキングアッセイ、例えば競合ELISAアッセイを実施することができる。例示的な競合ELISAアッセイでは、エピトープをコーティングしたマイクロタイタープレートのウェル、またはエピトープをコーティングしたセファロースビーズを、候補となる競合抗体の存在下または非存在下でプレインキュベートし、その後本発明のビオチン標識抗体を添加する。ウェル内またはビーズ上のエピトープに結合した標識抗体の量は、アビジン-ペルオキシダーゼ結合体と適切な基質を用いて測定される。
【0032】
あるいは、抗体は、例えば、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、その他の検出・測定可能な標識で標識することもできる。抗原に結合する標識抗体の量は、その抗原上の同じエピトープへの結合について競合する候補競合抗体(試験抗体)の能力と逆の相関を有すると考えられる;すなわち、同じエピトープに対する試験抗体の親和性が高ければ高いほど、抗原をコーティングしたウェルに結合する標識抗体の量は少なくなると考えられる。
【0033】
候補となる競合抗体が、その候補競合抗体の非存在下で並行して実施された対照(しかし、既知の非競合抗体の存在下であってもよい)と比較して、本発明の抗体の結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20~50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックし得る場合、その候補競合抗体は、本発明の抗体と同じエピトープに実質的に結合する抗体、または同じエピトープへの結合について競合する抗体とみなされる。このアッセイの変形を実施しても、同じ定量値に到達し得ることが理解されると考えられる。
【0034】
また、「抗体」という用語には、限定するものではないが、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、二重特異性などの多重特異性、非特異性、ヒト化、ヒト、単鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異型、グラフト型、およびインビトロ作製抗体が含まれる;ポリクローナル抗体が好適である。この用語には、ドメイン抗体(dAb)およびナノボディも含まれる。
【0035】
したがって、「抗体」という用語は、精製された血清、すなわち精製ポリクローナル血清にも関係する。それに応じて、この用語は、好ましくは血清、より好ましくはポリクローナル血清、最も好ましくは精製(ポリクローナル)血清に関係する。抗体/血清は、例えば本明細書に記載の方法または使用によって、取得可能であり、好ましくは取得される。
【0036】
「ポリクローナル抗体」または「ポリクローナル抗血清」は、1つ(1価または特異的抗血清)または複数(多価抗血清)の抗原に特異的な抗体の混合物を含む免疫血清を指し、1つまたは複数の抗原で免疫化した動物の血液から調製することができる。
【0037】
さらに、本発明で使用される「抗体」という用語は、本明細書に記載された抗体と同じ特異性を示す、本明細書に記載の抗体の誘導体または変異体にも関係する。「抗体変異体」の例としては、非ヒト抗体のヒト化変異体、「親和性成熟型」抗体(例えば、Hawkins et al., J Mol Biol (1992), 254, 889-896; およびLowman et al., Biochemistry (1991), 30: 10832-10837参照)、およびエフェクター機能が改変された抗体変異体(例えば、米国特許第5,648,260号参照)が挙げられる。
【0038】
本明細書で使用する「抗原結合ドメイン」、「抗原結合フラグメント」、および「抗体結合領域」という用語は、抗体と抗原の間の特異的結合に関与するアミノ酸を含む抗体分子の一部を指す。抗体によって特異的に認識され結合される抗原の部分は、本明細書で上述したように「エピトープ」と呼ばれる。上で述べたように、抗原結合ドメインは、典型的には、抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)を含み得る;しかし、それは両方を含む必要はない。例えば、Fdフラグメントは2つのVH領域を有し、多くの場合、インタクトの抗原結合ドメインの抗原結合機能を若干保持している。抗体の抗原結合フラグメントの例としては、以下が挙げられる:(1)VL、VH、CLおよびCH1ドメインを有する1価のフラグメントである、Fabフラグメント;(2)ヒンジ領域でジスルフィド橋により結合された2つのFabフラグメントを有する2価のフラグメントである、F(ab')2フラグメント;(3)2つのVHおよびCH1ドメインを有するFdフラグメント;(4)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインを有するFvフラグメント;(5)VHドメインを有するdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341: 544-546);(6)単離された相補性決定領域(CDR);および(7)単鎖Fv(scFv)。Fvフラグメントの2つのドメインであるVLとVHは、別個の遺伝子によってコードされているが、組換え法を用いて、合成リンカーによりそれらをつなぎ合わせることができる;この合成リンカーは、VL領域とVH領域が対合して1価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作製されることを可能にする(単鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al., (1988) Science (1988), 242: 423-426; およびHuston et al., (1988) PNAS USA (1988), 85: 5879-5883参照)。これらの抗体フラグメントは、当業者に公知の従来技術を用いて得られ、インタクト抗体と同様の方法で機能について評価される。
【0039】
本明細書で使用する「モノクローナル抗体」という用語は、化学修飾されたモノクローナル抗体またはそのフラグメント、ならびに実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を含み、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、わずかな量で存在することがある、自然界で起こり得る突然変異および/または翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対して向けられて、高度に特異的である。さらに、一般的には様々な決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられたものである。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、ハイブリドーマ培養によって合成され、他の免疫グロブリンで汚染されていないという点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるという抗体の性質を示しており、特定の方法による抗体作製を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature (1975), 256: 495に最初に記載されたハイブリドーマ法によって、または組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号参照)によって作製され得る。「モノクローナル抗体」はまた、例えばClackson et al., Nature (1991), 352: 624-628; およびMarks et al., J Mol Biol (1991), 222: 581-597に記載された技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0040】
本明細書におけるモノクローナル抗体には、特に、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびに所望の生物学的活性を示す限りでは、そのような抗体のフラグメントが含まれる;キメラ抗体の重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種に由来する抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同であるが、前記鎖の残部は、別の種に由来する抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同である(米国特許第4,816,567号; Morrison et al., PNAS USA (1984), 81: 6851-6855)。本明細書で注目されるキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)由来の可変ドメイン抗原結合配列とヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primitized)」抗体が含まれる。
【0041】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含む、ほとんどがヒト配列のキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2または抗体の他の抗原結合部分配列など)である。たいていの場合、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)の超可変領域(またはCDR)からの残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギなどの非ヒト種抗体(ドナー抗体)の超可変領域からの残基で置き換えられた、ヒト免疫グロブリンである。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基で置き換えられる。さらに、本明細書で使用される「ヒト化抗体」は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも存在しない残基を含んでいてもよい。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良し、最適化するために行われる。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的には、ヒト免疫グロブリンのそれを含むと考えられる。さらなる詳細については、Jones et al., Nature (1986), 321: 522-525; Reichmann et al., Nature (1988), 332: 323-329; およびPresta, Curr. Op. Struct Biol (1992), 2: 593-596を参照されたい。
【0042】
「ヒト抗体」という用語には、当技術分野で公知のヒト生殖細胞系列(germline)免疫グロブリン配列に実質的に対応する可変領域と定常領域を有する抗体が含まれ、例えば、Kabatらにより記載されるもの(Kabat et al., 前掲参照)が含まれる。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでランダムもしくは部位特異的変異誘発により、またはインビボで体細胞変異により導入された変異)を、例えばCDR、特にCDR3に、含むことができる。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基で置き換えられた少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上の位置を有し得る。
【0043】
本明細書で使用する「インビトロ作製抗体」とは、可変領域の全部または一部(例えば、少なくとも1つのCDR)が、非免疫細胞選択法(例えば、インビトロファージディスプレイ、プロテインチップ、または抗原結合能力について候補配列を試験することができる他の方法)で作製される抗体を指す。したがって、この用語は、好ましくは、免疫細胞におけるゲノム再編成によって作製された配列を除外する。
【0044】
「二重特異性抗体」または「二機能性抗体」とは、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab'フラグメントの連結など、様々な方法で作製することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann, Clin Exp Immunol (1990), 79: 315-321; Kostelny et al., J Immunol (1992), 148: 1547-1553を参照されたい。一態様では、二重特異性抗体は、第2の結合ドメインポリペプチドに免疫グロブリン定常領域を介して連結された、Fab'フラグメントなどの、第1の結合ドメインポリペプチドを含んでなる。
【0045】
当業者に公知の多数の方法が、抗体またはその抗原結合フラグメントを得るために利用可能である。例えば、抗体は、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)を用いて作製することができる。モノクローナル抗体は、公知の方法によるハイブリドーマの作製(例えば、Kohler and Milstein, Nature (1975), 256: 495-499参照)によっても得ることができる。その後、このようにして形成されたハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)や表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))分析などの標準的な方法を用いてスクリーニングして、特定の抗原と特異的に結合する抗体を産生する1つまたは複数のハイブリドーマを同定する。どのような形態の特定抗原も免疫原として使用することができ、例えば、組換え抗原、天然に存在する形態、その変異体または断片、ならびにその抗原性ペプチドを使用し得る。
【0046】
一つの例示的な抗体作製法は、タンパク質発現ライブラリー、例えばファージまたはリボソームディスプレイライブラリー、をスクリーニングすることを含む。ファージディスプレイは、例えば、米国特許第5,223,409号; Smith, Science (1985), 228: 1315-1317; Clackson et al., Nature (1991), 352: 624-628; Marks et al., J MoI Biol (1991), 222: 581-597; WO 92/18619; WO 91/17271; WO 92/20791; WO 92/15679; WO 93/01288; WO 92/01047; WO 92/09690; およびWO 90/02809に記載されている。
【0047】
別の態様では、モノクローナル抗体は非ヒト動物から得られ、その後、修飾型、例えばヒト化型、脱免疫化型(deimmunized)、キメラ型が当技術分野で公知の組換えDNA技術を用いて作製され得る。キメラ抗体を作るための様々なアプローチが記載されている。例えば、Morrison et al., PNAS USA (1985), 81: 6851; Takeda et al., Nature (1985), 314: 452; 米国特許第4,816,567号; 米国特許第4,816,397号; EP 171496; EP 173494, GB 2177096を参照されたい。ヒト化抗体はまた、例えば、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子を発現するが、内因性のマウス免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を発現できないトランスジェニックマウスを用いて、作製することもできる。Winterは、本明細書に記載のヒト化抗体を作製するために使用し得る例示的なCDRグラフト法(CDR-grafting method)を記載している(米国特許第5,225,539号)。特定のヒト抗体の全てのCDRが非ヒトCDRの少なくとも一部で置き換えられてもよいし、前記CDRの一部だけが非ヒトCDRで置き換えられてもよい。ヒト化抗体が所定の抗原に結合するのに必要な数のCDRを置き換えるだけで十分である。
【0048】
ヒト化抗体またはそのフラグメントは、抗原結合に直接関与しないFv可変ドメインの配列を、ヒトFv可変ドメインからの同等配列で置き換えることによって作製され得る。ヒト化抗体またはそのフラグメントを作製するための例示的な方法は、Morrison, Science (1985), 229: 1202-1207; Oi et al., BioTechniques (1986), 4: 214; US 5,585,089; US 5,693,761; US 5,693,762; US 5,859,205; およびUS 6,407,213により提供される。これらの方法は、重鎖または軽鎖の少なくとも一方からの免疫グロブリンFv可変ドメインの全部または一部をコードする核酸配列を単離し、操作し、発現させることを含む。そのような核酸は、上述したような、所定の標的に対する抗体を産生するハイブリドーマから、ならびに他の供給源から得ることができる。その後、ヒト化抗体分子をコードする組換えDNAは、適切な発現ベクターにクローニングされ得る。
【0049】
特定の態様では、ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系列置換および/または復帰突然変異の導入により最適化される。このような改変免疫グロブリン分子は、当技術分野で知られたいくつかの技術(例えば、Teng et al., PNAS USA (1983), 80: 7308-731; Kozbor et al., Immunology Today (1983), 4: 7279; Olsson et al., Meth Enzymol (1982), 92: 3-16)のいずれかにより作ることができ、また、WO 92/06193またはEP 239400の教示に従って作ることができる。
【0050】
抗体の場合、特異的結合は、結合ドメインのアミノ酸配列中の特定のモチーフと抗原が、それらの1次、2次または3次構造の結果として、ならびに前記構造の2次修飾の結果として、互いに結合することによってもたらされると考えられる。抗原相互作用部位とその特異抗原との特異的相互作用はまた、前記抗原への前記部位の単純な結合をもたらす可能性がある。その上、抗原相互作用部位とその特異抗原との特異的相互作用は、代わりに、例えば抗原のコンフォメーション変化の誘導、抗原のオリゴマー化などのため、シグナルの開始をもたらす可能性がある。本発明に沿った結合ドメインの一例は、抗グリカン抗体である。これに関連して、結合物質が抗体である場合、結合親和性が10-1Mより高いと、結合は「特異的」とみなすことができる。好ましくは、結合親和性が約10-5~10-12M(KD)、好ましくは約10-8~10-12Mであるとき(結合物質が抗体である場合)、結合は特異的とみなされる。必要に応じて、結合条件を変えることにより、特異的結合に実質的な影響を与えることなく非特異的結合を減らすことができる。認識分子が本明細書で先に定義したように特異的に反応するかどうかは、とりわけ、認識分子とエピトープとの反応を、前記認識分子と他のタンパク質との反応と比較することによって、容易に試験することができる。
【0051】
本発明によれば、バイオマーカー糖タンパク質の存在または過剰発現(例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、または少なくとも約3倍の過剰発現)ががん(例えば、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、精巣がんなどの泌尿生殖器がん)のリスクおよび/または存在を示している、そのようなバイオマーカー糖タンパク質(本明細書ではバイオマーカー、またはバイオマーカータンパク質とも呼ばれる)は、がん(例えば、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、精巣がんなどの泌尿生殖器がん)を発症するリスクを有することも前記がんに罹患していることもない(ヒト)対象の細胞と比較して、そのようながんを発症するリスクを有するかまたはそのようながんに罹患している(ヒト)対象の細胞内に存在または過剰発現(例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、または少なくとも約3倍過剰発現)している、任意の糖タンパク質であり得る。好ましくは、本発明との関連では、そのようなバイオマーカー糖タンパク質は、非がん状態と比較して、がん状態では異なるグリカン構造を有する。例えば、前立腺がん(PCa)を発症するリスクを有するかまたは前立腺がん(PCa)がんに罹患している(ヒト)対象では、前立腺がんを発症するリスクを有することも前立腺がんに罹患していることもない(ヒト)対象と比較して、ZAG(亜鉛α2糖タンパク質)、PAP(前立腺酸性ホスファターゼ)、PSA(前立腺特異抗原)、TIMP-1(メタロプロテイナーゼ-1の組織インヒビター)、fPSA(遊離PSA)、tPSA(総PSA)、オステオポンチン、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、および/またはスポンジン2のような糖タンパク質が、細胞内に存在または過剰発現している可能性があり、それゆえに、本発明に従ってバイオマーカー糖タンパク質として機能し得る。その結果、本発明の一態様では、その存在または過剰発現(例えば、少なくとも約1.5倍、約2倍、または約3倍の過剰発現)もしくは過少発現(例えば、少なくとも約1.5倍、約2倍、または約3倍の過少発現)が、がん(例えば、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、精巣がんなどの泌尿生殖器がん)のリスクおよび/または存在を示している、特にがんが前立腺がんである場合の、バイオマーカー糖タンパク質(本明細書ではバイオマーカー、またはバイオマーカータンパク質とも呼ばれる)は、ZAG、PAP、PSA、TIMP-1、fPSA、tPSA、オステオポンチン、PSMA、またはスポンジン2であり得る。
【0052】
本明細書で使用する、糖タンパク質またはタンパク質の「過剰発現」とは、いずれにせよ、本明細書に記載されるようながんのリスクを有することも前記がんに罹患していることもない対象の細胞と比較して、そのようながんのリスクを有するかまたはそのがんに罹患している対象の細胞において、より多くの量の糖タンパク質またはタンパク質をもたらす、ことを意味し得る。例えば、本発明によれば、「過剰発現」は、そのような糖タンパク質またはタンパク質の翻訳もしくは転写速度の増加、または全体的な合成の増加を意味し、一方、「過少発現」は、そのような糖タンパク質またはタンパク質の翻訳もしくは転写速度の低下、または全体的な合成の低下を意味し得る。
【0053】
本発明との関連で見出されたように、前立腺がんのリスクを有するかまたは前立腺がんに罹患している対象由来のサンプルでは、前立腺がんのリスクを有することも前立腺がんに罹患していることもない対象由来のサンプルに含まれるZAGと比較して、ZAGは異なるグリカン構造を示す。本発明の特定の態様では、特に診断される対象のがんが前立腺がんである場合、前記バイオマーカー糖タンパク質はZAGおよび/またはPAP、好ましくはZAGまたはPAP、より好ましくはZAGである。
【0054】
本発明の方法は、さらなるバイオマーカーの追加の分析をも含むことができる。したがって、本発明の方法では、1つまたは複数のさらなるバイオマーカー糖タンパク質が、PSA、TIMP-1、fPSA、tPSA、オステオポンチン、およびスポンジン2からなる群より選択され得る。
【0055】
本発明との関連では、本明細書に記載され提供される方法で使用される、本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質は、本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合する。本発明の一態様では、結合物質(好ましくはレクチン)は、以下のいずれかの1つまたは複数と(特異的に)結合することができる:コア型フコース、アンテナ型フコース、Fucα1-6GlcNAc-N-Asn含有N結合型オリゴ糖、Fucα1-6/3GlcNAc、α-L-Fuc、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、Fucα1-2Gal、Fucα1-6GlcNAc、Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc、分岐型N結合型六糖、Manα1-3Man、α-D-Man、(GlcNAcβ1-4、Galβ1-4GlcNAc、GlcNAcα1-4Galβ1-4GlcNAc、(GlcNAcβ)1-4、Neu5Ac(シアル酸)、Galβ1-3GalNAc-セリン/トレオニン、Galα1-3GalNAc、Galβ1-6Gal、Galβ1-4GlcNAc、Galβ1-3GalNAc、GalNAcα1-3GalNAc、GalNAcα1-3Gal、GalNAcα/β1-3/4Gal、α-GalNAc、GalNAcβ1-4Gal、GalNAcα1-3(Fucα1-2)Gal、GalNAcα1-2Gal、GalNAcα1-3GalNAc、GalNAcβ1-3/4Gal、GalNAc-セリン/トレオニン(Tn抗原)、Galβ1-3GalNAc-セリン/トレオニン(T抗原)、GalNAcβ1-4GlcNAc(LacdiNAc)、α-2,3Neu5Ac(α2-3結合型シアル酸)、α-2,6Neu5Ac(α2-6結合型シアル酸)、α-2,8Neu5Ac(α2-8結合型シアル酸)、シアル酸(α-2,3Neu5Ac、α-2,6Neu5Ac、もしくはα-2,8Neu5Ac)、Neu5Acα4/9-O-Ac-Neu5Ac、Neu5Acα2-3Galβ1-4Glc/GlcNAc、Neu5Acα2-6Gal/GalNAc、N結合型バイアンテナ型、N結合型トリ/テトラアンテナ型、分岐型β1-6GlcNAc、Galα1-3(Fucα1-2)Galβ1-3/4GlcNAc、Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、NeuAcα2-3Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、NeuAcα2-3Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、高マンノース、シアリルルイスa(シアリルLea)抗原、シアリルルイスx(シアリルLex)抗原、ルイスx(Lex)抗原、シアリルTn抗原、シアリルT抗原、ルイスY(LeY)抗原、硫酸化コア1グリカン、Tn抗原、T抗原、コア2グリカン、ルイスa(Lea)抗原、(GlcNAcβ1-4)n、β-D-GlcNAc、GalNAc、Gal-GlcNAc、GlcNAc、Galα1-3Gal、Galβ1-3GalNAc、α-Gal、α-GalNAc、(GlcNAc)n、または分岐型(LacNAc)n)。
【0056】
本明細書に記載されるように、本発明の一態様では、本明細書に記載され提供される方法で使用される結合物質は、とりわけ、ガラクトースの3位もしくは6位にα-もしくはβ-結合したN-アセチルガラクトサミンで終結するグリカン構造に、またはLacdiNAcエピトープ(GalNAc1-4GlcNAc)を含むグリカン構造に、好ましくは、ガラクトースの3位もしくは6位にαもしくはβ結合したN-アセチルガラクトサミンで終結するグリカン構造に、(特異的に)結合することが可能であり得る。驚くべきことに本発明との関連で見出されたように、前立腺がんのリスクを有するかまたは前立腺がんに罹患している対象由来のサンプルに含まれるZAG(「がん性ZAG」)は、前立腺がんのリスクを有することも前立腺がんに罹患していることもない対象由来のサンプルに含まれるZAGと比較して、異なるグリカン構造を示す。本発明によれば、そのような「がん性ZAG」は、本明細書に記載されるように、そのような「がん性ZAG」のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を用いて、検出することができる。本発明との関連でさらに見出されたように、前立腺がんのリスクを有するかまたは前立腺がんに罹患している対象由来のサンプルに含まれるZAG(「がん性ZAG」)は、例えばフジ(Wisteria floribunda)レクチン(WFA/WFL)のような、特定のレクチンを用いることによって結合(それゆえに検出)され得る。その結果、本発明の一態様では、本明細書に記載され提供される方法で使用される、本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な前記結合物質は、フジ・レクチン(WFA/WFL)と同じグリカン構造に、フジ・レクチン(WFA/WFL)がグリカン構造に結合する親和性の少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%の親和性で(特異的に)結合することが可能であり得る。グリカン構造に対する結合物質(例えば、レクチン)の親和性レベルを測定する方法は、当技術分野で一般的に知られており、特に、表面プラズモン共鳴、等温マイクロカロリメトリー、またはELISAおよびELISA様フォーマットを含み、好ましくは、表面プラズモン共鳴である。
【0057】
本発明のより具体的な態様では、本明細書に記載され提供される方法で使用される、本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な前記結合物質は、フジ・レクチン(WFA/WFL)、L-セレクチン、P-セレクチン、E-セレクチン、AAL(ヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia)レクチン)、MAA(イヌエンジュ(Maackia amurensis)アグルチニン/レクチン)、GNL(スノードロップ(Galanthus nivalis)レクチン)、PSL(エンドウ(Pisum sativum)レクチン)、またはPHA-E(インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)エリスロアグルチニン)であり得る。本発明の具体的な態様では、前記結合物質は、フジ・レクチン(WFA/WFL)またはPHA-E、好ましくはフジ・レクチン(WFA/WFL)である。
【0058】
本発明との関連では、本明細書に記載され提供される方法で使用される、本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を2種類またはそれ以上組み合わせることも可能である。場合によっては、このような結合物質を2種類またはそれ以上組み合わせることで、診断の可能性が高まることがある。これに関連して、本発明によれば、本発明の方法の工程(1)で、2種類もしくはそれ以上の結合物質(例えば、レクチン類)を同じアッセイで使用するか、または、好ましくは、そのような2種類もしくはそれ以上の結合物質(例えば、レクチン類)を異なるアッセイ(同じサンプルを使用)で使用し、次に、工程(2)で、前記結合物質のそれぞれがバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合したかどうかを別々に判定し、その後、このようにして得られた情報を組み合わせて、対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断することが可能である。本発明の一態様では、2種類(またはそれ以上)のこのような結合物質を本発明の方法で使用する場合、そのような結合物質はいずれもレクチンである。これに関連した具体的な態様では、2種類(またはそれ以上)のこのような結合物質を本発明の方法で使用する場合、そのような結合物質はフジ・レクチン(WFA/WFL)とPHA-Eであるか、またはそれらを含む。
【0059】
本発明との関連で本明細書に記載され提供される方法の場合、本明細書に記載の結合物質と本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質との結合を検出および定量化することができる、どのような適切なアッセイを使用してもよい。そのような適切なアッセイは、当技術分野で一般的に知られており、とりわけ、ELISAもしくはウェスタンブロット(特に、結合物質が抗体である場合)、またはレクチンベースのアッセイ(例えば、WO2019/185515に記載されるアッセイ参照)、または酵素結合性レクチン結合アッセイ(enzyme-linked lectin-binding assay:ELLBA)(細胞上、CELLBA;例えば、Gaverieux et al., J Immunol Methods (1987), 104(1-2): 173-182参照)を含む。本発明の一態様では、レクチンベースのアッセイが使用される。本発明の別の具体的な態様では、酵素結合性レクチン結合アッセイ(ELLBA)または磁気酵素結合性レクチンアッセイ(MELLA)が使用され、ELLBAが好ましい。
【0060】
本発明はさらに、本明細書に記載の前記バイオマーカータンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を含むキットに関する。本発明の一態様では、前記結合物質はレクチンであり得る。本発明のより具体的な態様では、本明細書に記載され提供される方法で使用される、本明細書に記載のバイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な前記結合物質は、フジ・レクチン(WFA/WFL)と同じグリカン構造に、フジ・レクチン(WFA/WFL)がグリカン構造に結合する親和性の少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%の親和性で(特異的に)結合することが可能であり得る。本発明のさらに具体的な態様では、前記結合物質は、例えば、WFA/WFL、L-セレクチン、P-セレクチン、E-セレクチン、AAL、MAA、GNL、PSL、またはPHA-Eであってよく、好ましくはWFA/WFLである。ある場合には、このような結合物質を2種類またはそれ以上組み合わせることによって、診断の可能性を高めることができる。したがって、本発明の一態様では、本明細書に記載され提供されるキットは、このような結合物質を2種類またはそれ以上含む。これに関連して、本発明の具体的な態様では、前記キットに含まれるこのような結合物質は、両方ともまたは少なくとも2種類がレクチンである。これに関連したより具体的な態様では、前記キットに含まれるそのような2種類またはそれ以上のレクチンは、WFA/WFLとPHA-Eであるか、またはそれらを含む。
【0061】
本発明との関連で記載され提供されるキットはまた、当業者には容易に理解されるように、さらなる適切な成分、例えば、本明細書に記載される適切なアッセイ(例えば、ELISA、ウェスタンブロット、レクチンベースのアッセイ、ELLBA、MELLAなど)を用いることによって前記方法を実施するために必要な酵素および緩衝液、を含むこともできる。
【0062】
本発明はまた、以下の項目にも関する。
1. 対象ががんのリスクを有する可能性があるかどうかまたはがんに罹患している可能性があるかどうかを診断するための方法であって、
(1)前記対象から得られた、バイオマーカー糖タンパク質を含むサンプルを、前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質と接触させる工程であって、
前記バイオマーカー糖タンパク質の存在または過剰発現が、前記がんのリスクおよび/または存在を示しており、かつ
前記グリカン構造が、前記がんのリスクを有することも前記がんに罹患していることもない対象において発現する前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造から逸脱している、
前記工程;ならびに
(2)前記結合物質が前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造に結合したかどうかを判定する工程
を含み、
対照サンプルと比較して、前記バイオマーカー糖タンパク質のグリカン構造への前記結合物質のより低いまたはより高い結合が、前記対象ががんのリスクを有するかまたはがんに罹患していることを示している、
前記方法。
2. 前記対象がヒトである、項目1の方法。
3. 前記がんが泌尿生殖器がん、好ましくは前立腺がん(PCa)である、前記項目のいずれか1つの方法。
4. 前記結合物質がレクチン、抗グリカン抗体、アプタマー、またはボロン酸もしくはその誘導体である、前記項目のいずれか1つの方法。
5. 前記バイオマーカー糖タンパク質が、ZAG、PAP、PSA、TIMP-1、fPSA、tPSA、オステオポンチン、およびスポンジン2からなる群より選択される、前記項目のいずれか1つの方法。
6. 前記結合物質が、コア型フコース、アンテナ型フコース、Fucα1-6GlcNAc-N-Asn含有N結合型オリゴ糖、Fucα1-6/3GlcNAc、α-L-Fuc、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、Fucα1-2Gal、Fucα1-6GlcNAc、Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc、分岐型N結合型六糖、Manα1-3Man、α-D-Man、(GlcNAcβ1-4、Galβ1-4GlcNAc、GlcNAcα1-4Galβ1-4GlcNAc、(GlcNAcβ1-4、Neu5Ac(シアル酸)、Galβ1-3GalNAc-セリン/トレオニン、Galα1-3GalNAc、Galβ1-6Gal、Galβ1-4GlcNAc、Galβ1-3GalNAc、GalNAcα1-3GalNAc、GalNAcα1-3Gal、GalNAcα/β1-3/4Gal、α-GalNAc、GalNAcβ1-4Gal、GalNAcα1-3(Fucα1-2)Gal、GalNAcα1-2Gal、GalNAcα1-3GalNAc、GalNAcβ1-3/4Gal、GalNAc-セリン/トレオニン(Tn抗原)、Galβ1-3GalNAc-セリン/トレオニン(T抗原)、GalNAcβ1-4GlcNAc(LacdiNAc)、α-2,3Neu5Ac(α2-3結合型シアル酸)、α-2,6Neu5Ac(α2-6結合型シアル酸)、α-2,8Neu5Ac(α2-8結合型シアル酸)、シアル酸(α-2,3Neu5Ac、α-2,6Neu5Ac、もしくはα-2,8Neu5Ac)、Neu5Acα4/9-O-Ac-Neu5Ac、Neu5Acα2-3Galβ1-4Glc/GlcNAc、Neu5Acα2-6Gal/GalNAc、N結合型バイアンテナ型、N結合型トリ/テトラアンテナ型、分岐型β1-6GlcNAc、Galα1-3(Fucα 1-2)Galβ1-3/4GlcNAc、Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、NeuAcα2-3Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、NeuAcα2-3Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc、高マンノース、シアリルルイスa(シアリルLea)抗原、シアリルルイスx(シアリルLex)抗原、ルイスx(Lex)抗原、シアリルTn抗原、シアリルT抗原、ルイスY(LeY)抗原、硫酸化コア1グリカン、Tn抗原、T抗原、コア2グリカン、ルイスa(Lea)抗原、(GlcNAcβ1-4)n、β-D-GlcNAc、GalNAc、Gal-GlcNAc、GlcNAc、Galα1-3Gal、Galβ1-3GalNAc、α-Gal、α-GalNAc、(GlcNAc)n、または分岐型(LacNAc)n)のいずれかの1つまたは複数に結合する、前記項目のいずれか1つの方法。
7. 前記結合物質が、ガラクトースの3位もしくは6位にαもしくはβ結合したN-アセチルガラクトサミンで終結するグリカン構造に結合するか、またはLacdiNAcエピトープ(GalNAc1-4GlcNAc)を含むグリカン構造に結合する、前記項目のいずれか1つの方法。
8. 前記結合物質が、WFA/WFLと同じグリカン構造に、WFLがグリカン構造に結合する親和性の少なくとも80%の親和性で結合する、前記項目のいずれか1つの方法。
9. 前記結合物質が、WFA/WFL、L-セレクチン、P-セレクチン、E-セレクチン、AAL、MAA、GNL、PSL、またはPHA-Eである、前記項目のいずれか1つの方法。
10. 前記結合物質がWFL/WFAである、前記項目のいずれか1つの方法。
11. レクチンベースのアッセイが使用される、前記項目のいずれか1つの方法。
12. 酵素結合性レクチン結合アッセイ(ELLBA)が使用される、項目11の方法。
13. バイオマーカータンパク質のグリカン構造に結合することが可能な結合物質を含む、前記項目のいずれか1つの方法を実施するためのキット。
14. 前記結合物質がレクチンである、項目13のキット。
15. 前記レクチンが、
WFA、または
WFL/WFAと同じグリカン構造に、WFL/WFAがグリカン構造に結合する親和性の少なくとも80%の親和性で結合する、結合物質
である、項目13または14のキット。
【0063】
本発明を特徴づける態様は、本明細書に記載され、実施例で説明されて、特許請求の範囲に反映される。
【0064】
本明細書で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上別段の指示がない限り、複数形の指示対象を含むことに留意すべきである。したがって、例えば、「試薬(a reagent)」への言及は、そのような様々な試薬のうちの1つまたは複数を含み、「方法(the method)」への言及は、本明細書に記載された方法を変更し得るまたは前記方法の代わりに使用し得る、当業者に公知の同等の工程および方法への言及を含む。
【0065】
別段の指示がない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連の要素のあらゆる要素を指すと理解すべきである。当業者であれば、本明細書に記載された本発明の具体的な態様に相当する多くの均等物を認識するか、または日常的な実験だけを用いて確認することができるであろう。そのような均等物は、本発明に包含されるものとする。
【0066】
本明細書で使用する「および/または」という用語には、「および」、「または」、および「前記用語で結び付けられた要素の全てまたは任意の他の組み合わせ」という意味が含まれる。
【0067】
本明細書で使用する「約」または「およそ」という用語は、所定の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%または2%以内を意味する。
【0068】
本明細書とそれに続く特許請求の範囲全体を通じて、文脈上別段の指示がない限り、「含む(comprise)」という語、および「含む(comprises)」や「含む(comprising)」などの変形は、記載された整数もしくは工程または整数もしくは工程のグループを包含することを意味するが、他の整数もしくは工程または整数もしくは工程のグループを排除することを意味しないと理解される。本明細書で使用する「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」または「包含する(including)」という用語と置き換えることができ、時には本明細書で用いる「有する(having)」という用語と置き換えることもできる。
【0069】
本明細書で使用する「からなる(consisting of)」は、請求項の要素に明記されていない要素、工程、または成分を排除する。本明細書で使用する「から本質的になる(consisting essentially of)」は、請求項の基本的かつ新規な特性に大きな影響を与えない材料または工程を排除しない。
【0070】
本明細書中の各場合において、「含む」、「から本質的になる」、および「からなる」という用語のいずれも、他の2つの用語のいずれかと置き換えることができる。
【0071】
本発明は、本明細書に記載された特定の方法論、プロトコル、試薬などに限定されるものではなく、それゆえに変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明するためだけのものであり、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0072】
本明細書の本文を通じて引用された全ての刊行物および特許(全ての特許、特許出願、科学刊行物、メーカーの仕様書、説明書などを含む)は、上記参照または下記参照にかかわらず、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明のためにそのような開示に先行する権利がない、ことを認めるものとして解釈されるべきではない。参照により組み入れられた資料が本明細書と矛盾するか、不整合である場合に限り、本明細書はそのような資料に優先するものとする。
【0073】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。しかし、そこに記載された実施例および具体的な態様は、本発明をそのような具体的な態様に限定するものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0074】
本明細書で使用する方法論はよく知られており、例えば、Mislovicova et al., Biointerfaces (2012), 94: 163-169にも発表されている。ポリクローナル抗ZAG抗体をELISAプレートウェルの底面に固定化した。洗浄工程の後、表面を(ヒト血清アルブミンで)ブロックし、前もって最適化したプロトコルを用いて再度洗浄した。続いて(以下の各工程の後に追加の洗浄工程を用いて)、(i)希釈したヒト血清サンプル、(ii)ビオチン化レクチン、および(iii)ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼ(西洋ワサビ由来)をプレートに添加し、サンドイッチ構造体を完成させた。OPD/過酸化水素系を用いてシグナルを発生させ、硫酸を用いて反応を停止させ、シグナルを450nmで読み取った。アッセイフォーマットは、磁気ビーズを使用することなく簡略化されたが、その理由は、たとえ磁気ビーズの使用が検討されて、少なくとも明確な結果をもたらすはずであるとしても、ZAGがPSAに比べて血液中にかなり高濃度で存在するため、磁気ビーズを用いてZAGを事前に濃縮する必要がないからである。
【0075】
個々のサンプルのレクチン結合に対する応答(少なくとも2つ組で測定)は、個々のマーカー(PSAレベル、ZAGレベル、年齢、および個々のレクチン)およびそれらの組み合わせについて、それぞれROC曲線とAUCパラメータを用いて、OriginPro(登録商標)ソフトウェアおよびRStudioの無料版Rを使って、以前に報告されたように評価した(Bertokova et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry (2021), 116156; Bertok et al., Glycoconjugate Journal (2020), 37: 703-711参照)。
【0076】
実際の血清サンプルは、スロバキアの大学病院から収集した。この研究における血清サンプルの総数は、n=69である。2つの別々の実験を行った;すなわち、CASE1:良性コホート(n=18)と、すでに治療を受けているPCaコホート(n=15)の比較、およびCASE2:BPHコホート(n=21)と早期発見されたPCa患者(n=15)の比較。
【0077】
結果は、ZAGの糖鎖プロファイリングが早期PCaをBPHから識別する(CASE2)のに適用可能であることを示した。早期PCaをBPHから識別する(CASE2)のに最も適したレクチンoは、AUC 0.892のWFLであることが示された(表1)(本明細書で使用されるWFLはフジ・レクチン(WFA/WFL)である)。
【0078】
ZAG糖鎖プロファイリングの識別能をさらに高めるために、2種類のレクチンを組み合わせることが可能であった。場合によっては、PCaをBPHから識別する(CASE2)のに2種類のレクチンの使用がより適しており、2種類のレクチンの最適な組み合わせは、AUC 0.917のWFL+PHA-Eであった(表1)。
【0079】
(表1)個々のWFLマーカー(1列目)およびそれと他のマーカーとの組み合わせについてのパラメータ(AUC値と左右の信頼区間(CI))、特異度、感度、およびアッセイ精度
【国際調査報告】