(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-09
(54)【発明の名称】キャピラリ電気泳動による尿中前立腺特異的抗原のN-グリコシル化プロファイリングのための統合された方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023577968
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-15
(86)【国際出願番号】 HU2022050052
(87)【国際公開番号】W WO2022263873
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523473464
【氏名又は名称】パノン エジェテム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤルヴァーシュ、ガーボル
(72)【発明者】
【氏名】ライダー、バラーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンコヴィクス、ハジュナルカ
(72)【発明者】
【氏名】フォンデルヴィシュト、フェレンツ
(72)【発明者】
【氏名】グットマン、アンドラーシュ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045BB03
2G045CB03
2G045DA36
2G045DA78
2G045FB03
2G045FB05
2G045FB06
2G045FB12
(57)【要約】
本発明では、尿PSAのキャピラリ電気泳動に基づく(CEに基づく)包括的N-グリカン分析のための方法が提供される。方法は、尿からのPSAグリカンの分析及びPSA関連症状の診断に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿試料、好ましくは雄哺乳動物の尿試料からのPSA分析のための方法であって、
-尿試料を準備する工程と、
-分析のために前記尿試料を調製する工程と、
-前記尿試料から、PSAを、PSA結合分子を使用するアフィニティ分離によって分離して、濃縮PSAを得る工程と、
-前記濃縮PSAからグリカンを放出させて、放出されたPSA-グリカンを得る工程と、
-前記放出されたグリカンをキャピラリ電気泳動(CE)による分離によって分析する工程であって、前記分離された放出グリカンの検出が行われる、工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記分離された放出グリカンの検出が、蛍光検出によって行われ、好ましくはレーザー誘起蛍光検出によって検出され、好ましくは、
前記放出工程と前記分析工程との間に、以下の工程:
前記放出されたPSAグリカンを蛍光色素で標識して、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを得、前記フルオロフォア標識されたグリカンが検出される工程
が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アフィニティ分離がアフィニティ分配(affinity partitioning)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記尿試料を調製することが、前記試料の予備濃縮を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アフィニティ分離工程において、前記PSA結合分子がナノボディ、特に単一ドメイン抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アフィニティ分配のカラムがクロマトグラフィマイクロカラムであり、前記ナノボディがタグを有し、前記クロマトグラフィカラムが前記タグに結合するマトリックスを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PSAからグリカンを放出させて、放出されたPSA-グリカンを得ることが、酵素的に、好ましくはエンドグリコシダーゼを用いて行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フルオロフォア標識された放出PSAグリカンの少なくともフコシル化グリカン構造及び非フコシル化グリカン構造を分離することによって、前記フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを分析することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンの少なくともα2,3-及びα2,6-シアリル化異性体を分離することによって、前記フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを分析することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
対象、好ましくは男性対象の尿試料からPSA関連症状を診断するための診断方法であって、
-PSA分析のために請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実施する工程と、
患者の前記試料中の本発明によるグリコシル化パターン(患者グリコシル化パターン)を決定する工程と、
前記グリコシル化パターンを正常なグリコシル化パターンと比較する工程と、
を含み、
前記患者グリコシル化パターンと前記正常なグリコシル化パターンとの間に差がある場合、前記患者はPSA関連症状を有するとみなされる、
対象、好ましくは男性対象の尿試料からPSA関連症状を診断するための診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明では、尿PSAのキャピラリ電気泳動に基づく(CEに基づく)包括的N-グリカン分析のための方法が提供される。この方法は、有効、かつPSAグリカンが無傷のままであるように、依然として穏やかであり、信頼性の高い分析を提供することが証明されている。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、世界中の全ての癌診断に関する男性の2番目に高い診断率を表す。前立腺癌の発生及び進行は分子生物学レベルでは完全には発見されていないが、N-グリカンプロファイルが腫瘍発生中に変化することが示唆されている。
【0003】
今日、前立腺癌(PCa)は、世界中で全癌診断の21%を有する男性において2番目に高い診断率を有する(Carlsson&Vickers,2020)。現在、PCaのゴールドスタンダードバイオマーカは、血清前立腺特異抗原(PSA)である。ヒトカリクレイン3(KLK3又はhK3)としても知られるPSAは、精液の液化において重要な役割を果たす器官特異的糖タンパク質である(Armbruster,1993)。PSAは前立腺上皮細胞によって産生され、主に前立腺に分泌されるが、尿等の他の体液にも存在する。PCa又は良性前立腺過形成等の特定の疾患、ならびに外科手術又は生検は、血流中のPSAレベルの上昇を引き起こし得る(Pinsky et al.,2006)。血清PSA検査はPCaの死亡率を大幅に低下させたが、偽陽性診断数は急激に増加した(Carlsson&Vickers,2020)。特異性の欠如を克服するために、より良好なPCaバイオマーカの探索は、過去数十年の間に強化されてきた(Filella et al.,2018)。他の多くの癌症例と同様に、タンパク質グリコシル化は、調査の有望な標的であるようであった(Adamczyk et al.,2012)。PCaとPSAグリコシル化の変化との関連は、いくつかの研究で報告されている(Gilgunn et al.,2013;Munkley et al.,2016;Tkac,Bertok,et al.,2019;Tkac,Gajdosova,et al.,2019a)。最も一般的な癌関連グリコシル化関連変化は、シアリル化(特にα2,3-シアリル化)(Saldova et al.,2011)、フコシル化(主にコアフコシル化、すなわち、ポリペプチド主鎖の近傍の最も内側のGlcNAc残基へのフコースの付加)、O-グリカン切断(短縮されたO-グリカンの存在)、N-及びO-グリカンの分岐(すなわち、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼの活性の増加に起因する)、並びにポリシアル酸の存在(dos Santos Silva et al.,2019;Ferens-Sieczkowska et al.,2013;Gilgunn et al.,2020;Kyselova et al.,2007;Tkac,Gajdosova,et al.,2019b)で見られた。
【0004】
グリコシル化変化のいずれかを検出するために、生物分析ツールの広範なレパートリーが利用されてきた。特定の糖構造(例えば、α2,6-及びα2,3-シアリル化)を分離するために多数のレクチン系バイオセンサが開発され(Pihikova et al.,2015)、機器分析はまた、質量分析、液体クロマトグラフィ、キャピラリ電気泳動、又はPSAグリカン分析のためのそれらの様々な組合せを適用した(Reider et al.,2020)。PSAのグリコシル化が広範囲に研究されているにもかかわらず、完全なグリカンマッピングを達成するか又は重要な構造を分離することができたことを報告した方法はごくわずかであり、これらの技術は通常、特別な構成要素又は複雑な機器を必要とした(Kammeijer et al.,2018;Tkac,Gajdosova,et al.,2019a)。PSAの生物学的供給源も重要である。精液、血液、及び尿は、この目的のために最も一般的に使用される体液である。標準的な市販のPSAは、PSAを最高濃度(約1.3mg/ml)で含有するので(Lynne et al.,1999)、ヒト精液から得られるが、臨床分析における精液の使用は非常に限られている。血液は(侵襲的な手順であっても)はるかに採取しやすいため、生体試料源として頻繁に適用される。残念なことに、血液中のPSA濃度は通常非常に低く(<10ng/ml)、これは広範な定性分析を問題にする可能性がある。尿は、より高い用量(約100ng/ml(Bolduc et al.,2007))でPSAを含有するが、その濃度は非常に大幅に変化し得る。尿は、血液及び精液と比較して、そのマトリックスがより低い糖タンパク質含有量(そうでなければ特定のグリカン分析を妨げる可能性がある)を有するという別の利点を有する。
【0005】
適切な分析結果を得るためには、試料濃度が限られているため、試料の予備濃縮がしばしば必要である。生物学的マトリックスからPSAを捕捉することは、高感度方法で分析を損なう可能性がある非PSA関連糖又はタンパク質不純物を濾過するのにも有益である。モノクローナル抗体は一般的に使用される捕捉剤(Vashist&Luong,2018年)であるが、それらの利用可能性はそれらの用途を制限する可能性があり、それらは糖タンパク質であるので、分析前の試料からのそれらの除去は、起こり得る干渉を回避するためにしばしば必要である。単一ドメイン抗体(sdAb)(又はナノボディ)は、この欠点を軽減することができる(Arbabi-Ghahroudi,2017)。それらはサイズがはるかに小さく、細菌中で容易に産生され得、糖部分を含有しない。また、様々な表面への固定化を容易にするために、異なるリンカータグ(例えば、6-ヒスチジンタグ)をそれらに取り付けることができる。
【0006】
国際公開第2011074802号(Yoon et al.,2011)には、前立腺癌の診断用キット及び診断方法が記載されている。この発明では、前立腺特異抗原(PSA)に対する抗体を使用して、ヒト尿試料からPSAを検出する。PSA特異的抗体は、PSAに結合することができるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体又はそれらの断片であり得る。抗原及び抗体は免疫学的複合体を形成し、これはイムノクロマトグラフィ、ELISA、免疫組織化学等のイムノアッセイによって検出することができる。この発明では、PSAのグリコシル化は検出されず、検出の潜在的に重要な部分として言及されていない。
【0007】
国際公開第2017077162A1号(Peracaula Miro et al.,2017)は、前立腺癌のインビトロ鑑別診断のための方法を記載している。この方法は、対象からの流体試料中のPSAを部分的に精製し、次いで、PSAのシアル酸α2、3の割合及び/又はPSAの内部フコシル化の割合を決定することを含む。この方法は、高リスク前立腺癌と低又は中リスク前立腺癌患者とを区別するために使用され得る。試料は、全血、血清、血漿及び尿であり得る。シアル酸α2、3を含むPSAのパーセンテージは、アフィニティクロマトグラフィによって決定される。それらはキャピラリ電気泳動を使用しない(ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)は異なる画分からPSAを単離するために使用される)。
【0008】
国際公開第2017130578号パンフレット(Yoneyama et al.,2017)(欧州特許第3410118号明細書も参照)は、新規前立腺癌(PCa)、具体的にはPSAグリカン分析に基づく前立腺癌判定方法及びPCa悪性度判定方法を教示している。この方法は、生物試料中の遊離PSA量に対する、グリカンの末端シアル酸残基がグリカンの末端から2番目のガラクトース残基に±(2,3)連結しているグリカンを有する遊離前立腺特異抗原量の割合を決定し、次いで、割合が40%以上である場合に、前立腺癌が発症している、又は前立腺癌が発症する確率が高いと決定することを含む。しかしながら、本発明の更なる開発バージョンでは、国際公開第2019221279号(Yoneyama et al.,2019)(欧州特許第3796001号も参照されたい)は、前立腺癌の診断を得るために、第1の比と対象の前立腺の体積との間に第2の比が得られ、得られた第2の比に基づいて前立腺癌を判定することを教示している。
【0009】
国際公開第2010011357号(Zhang et al.,2010)は、対象が前立腺癌を有するかどうかを判定する方法を教示しており、当該方法は、健康な対象からのPSAのグリコシル化パターンと比較して、対象が変化したPSAグリコシル化パターンを有するかどうかを判定することを含み、グリコシル化パターンは、PSAのα2,3結合シアリル化又はα2,6結合シアリル化である。しかしながら、この方法では、キャピラリ電気泳動ではなくゲル電気泳動が使用される。
【0010】
国際公開第2004066808号(Shriver et al.,2004)は、予め選択された標的糖タンパク質、典型的にはPSAを含む試料中の対象の臨床状態を評価するための方法が開示されており、1000ng/ml未満の量でPSAを検出することができる方法を用いてPSAの糖鎖プロファイルを決定し、ここで、糖鎖プロファイルは、対象が所定の臨床状態を有することを示す。グリコプロファイルを決定することは、N結合オリゴ糖及びO結合オリゴ糖の1つ又は複数のβl-6分岐構造における変化を検出することを含み、並びに/あるいはルイス抗原、シアリル化及びフコシル化における変化の1つ又は複数を検出することを含む。キャピラリ電気泳動を使用することが望ましいと言われているが、実際の例は質量分析を用いて行われる。尿は、糖タンパク質の可能な供給源としてとりわけ言及されているが、実際には分析されていない。予備精製として、磁気ビーズが適用される。
【0011】
Reider et al.(Reider et al.,2020)は、CE-LIF法を含む前立腺特異抗原のN-グリコシル化分析のための分離に基づく特性評価法を概説している。著者らは、CE-LIF法は、主にキャピラリ内面の特性の変化のために高い再現性を欠く可能性があると結論付けており、更に、必要な試料調製方法の複雑さはまた、CEベースの分離技術にも問題を呈する。複数の試料調製工程が必要な場合、自動化が困難になる可能性がある。
【0012】
本発明では、尿PSAのキャピラリ電気泳動に基づく(CEに基づく)包括的N-グリカン分析のための新規ワークフローが提示される。分析の前に、選択的な高収率sdAbベースのPSA捕捉が行われ、様々な試料濃縮工程が含まれる。その後、グリカンを濃縮PSAから酵素的に放出し、蛍光標識し、CEによって分析した。対応するグリカン構造を、それらのグルコース単位(GU)値及びエンドグリコシダーゼシーケンシングによって同定した。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、尿試料からのPSA分析のための方法に関し、当該方法は、
-尿試料を提供する工程と、
-分析のために当該尿試料を調製する工程と、
-当該尿試料からPSAをアフィニティ分離によって分離して、濃縮PSAを得る工程と、
-グリカンを当該濃縮PSAから放出させて、放出されたPSA-グリカンを得る工程と、
-当該放出されたグリカンをキャピラリ電気泳動(CE)による分離によって分析する工程であって、分離された放出グリカンの検出が、蛍光検出、UV検出又は質量分析(MS)によって行われる、工程と、
を含む。
【0014】
好ましくは、当該尿試料を調製することは、試料の予備濃縮を含む。
【0015】
好ましくは、固定化された抗PSA結合分子を用いてアフィニティ分離が行われる。
【0016】
好ましくは、アフィニティ分離はアフィニティ分配である。好ましくは、アフィニティ分離はアフィニティクロマトグラフィである。
【0017】
好ましい実施形態では、放出されたPSA-グリカンは、検出のために調製され、好ましくは標識され、好ましくは蛍光検出のためのフルオロフォアによって標識される。
【0018】
好ましい実施形態では、分離された放出されたグリカンの検出が蛍光検出によって行われ、ここで、放出工程と分析工程との間に、以下の工程:
放出されたPSAグリカンを蛍光色素で標識して、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを得、フルオロフォア標識されたグリカンが検出される工程
が行われる。
【0019】
好ましくは、当該方法は、
-尿試料を準備する工程と、
-分析のために当該尿試料を調製する工程(予備濃縮)と、
-当該尿試料からPSAを分離して濃縮PSAを得る工程であって、
-固定化された抗PSA結合分子を含むアフィニティ分配カラムを提供する工程、及び
-当該アフィニティ分配カラムを使用して、尿試料のマトリックスからPSAをアフィニティ分配して濃縮PSAを得る工程
によって濃縮PSAを得る工程と、
-グリカンを当該濃縮PSAから放出させて、放出されたPSA-グリカンを得る工程と、
-当該放出されたPSAグリカンを蛍光色素によって標識して、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを得る工程と、
-キャピラリ電気泳動(CE)を用いた分離によってフルオロフォア標識された放出されたグリカンを分析する工程であって、分離された標識放出グリカンの検出が蛍光検出によって行われる、工程と、
を含む。
【0020】
好ましくは、結合分子はナノボディ、特に単一ドメイン抗体である。
【0021】
代替的な実施形態では、検出は、UV検出又は質量分析(MS)によって行われる。一実施形態では、検出は、スペクトル、例えばMSスペクトルを取得することによって行われる。一実施形態では、UV検出は、吸光度モード又は透過率モード、好ましくは吸光度モードのいずれかで1つ以上の波長で行われる。
【0022】
好ましくは、試料は、雄哺乳動物、好ましくはヒト、より好ましくは男性ヒトの尿試料である。
【0023】
好ましくは、尿試料を調製することは、予備濃縮を含む。
【0024】
好ましくは、アフィニティ分配カラムは、結合分子としてナノボディ、特に単一ドメイン抗体を含む。
【0025】
本発明の方法において、好ましくは、結合分子は単一ドメイン抗体である。
【0026】
好ましくは、結合分子、好ましくは単一ドメイン抗体は、30nM以下、好ましくは20nM以下、より好ましくは10nM以下、好ましくは5nM以下の解離定数Kdを有する。
【0027】
あるいは、結合分子は捕捉剤である。
【0028】
好ましくは、結合分子は非グリコシル化されている。
【0029】
本発明の方法において、好ましくは、アフィニティ分配カラムはクロマトグラフィマイクロカラムであり、好ましくはナノボディはタグ、好ましくはヒスチジンタグを有し、カラムはマトリックス結合タグ、好ましくはヒスチジンタグ、好ましくはNi-IMACマイクロカラムを有する。
【0030】
好ましくは、放出されたPSAグリカンを得るためにPSAからグリカンを放出させることは、化学的又は酵素的に、好ましくはエンドグリコシダーゼを用いて行われる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、方法は、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンの少なくともフコシル化グリカン構造及び非フコシル化グリカン構造を分離することによって、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを分析することを含む。本発明の好ましい実施形態では、方法は、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンの少なくともα2,3-及びα2,6-シアリル化異性体を分離することによって、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを分析することを含む。
【0032】
本発明の方法では、好ましくはCE分離中に、PSA-グリカンはレーザー誘起蛍光検出によって検出される。
【0033】
代替の態様では、グリカンは、UV検出又は上で定義したMSによって検出することができる。
【0034】
本発明の方法では、好ましくは陰性対照として、同じ種の雌の尿を適用する。
【0035】
本発明の方法では、好ましくは陽性対照として、同じ種のPSA-糖タンパク質添加雌尿を適用する。
【0036】
場合により、本発明の方法はまた、
-フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカン試料、それによって尿試料中の当該フコシル化及び非フコシル化構造のレベルを測定すること、及び/又は
-フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカン試料中の当該α2,3-及びα2,6-シアリル化異性体のレベルを測定し、それによってそれらのレベルを分析し、好ましくは尿試料中で測定すること
を含む。
【0037】
更なる実施形態では、本発明の方法はまた、各個々の構造の寄与を含む、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンのグリコシル化パターンを測定することを含む。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、方法は、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンの分析を含み、少なくともシアリル化され、場合により非シアリル化PSAグリカンを分離することを含み、場合により
-シアリル化PSA-グリカン及び任意で非シアリル化PSA-グリカンのレベルを測定すること
を含む。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、方法は、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを分析することを含み、α-2,3-シアリル化PSAグリカンを分離することを含み、健康な対象からのα-2,3-シアリル化PSAグリカンのレベルと比較して変化したα-2,3-シアリル化PSAグリカンのレベルが、PSA関連疾患、特に前立腺癌を示す。
【0040】
α-2,3-シアリル化PSA-グリカンのレベルに関する好ましい及び更なる実施形態並びに関連する診断方法は、本発明の詳細な説明に開示されている。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、方法は、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンの分析を含み、少なくともフコシル化及び非フコシル化PSAグリカンを分離することを含み、場合により、
-当該フコシル化及び非フコシル化PSA-グリカンのレベルを測定すること
を含む。
【0042】
一実施形態では、健康な対象からのフコシル化PSAグリカンのレベルと比較して上昇したフコシル化PSAグリカンのレベルは、PSA関連疾患、特に前立腺癌を示す。
【0043】
フコシル化PSA-グリカンのレベルに関する好ましい及び更なる実施形態並びに関連する診断方法は、本発明の詳細な説明に開示されている。
【0044】
本発明はまた、対象、好ましくは男性対象の尿試料からPSA関連症状を診断するための診断方法に関し、当該方法は、
-本発明のPSA分析方法(PSA分析方法)を実施する工程と、
患者の試料中の本発明によるグリコシル化パターン(患者グリコシル化パターン)を決定する工程と、
グリコシル化パターンを正常なグリコシル化パターンと比較する工程と、
を含み、
患者グリコシル化パターンと正常なグリコシル化パターンとの間に差がある場合、患者はPSA関連症状を有するとみなされる。
【0045】
好ましくは、正常なグリコシル化パターンは、健康なグリコシル化パターンである。健康なグリコシル化パターンは、健康な人(任意で既知のPSA関連症状のない人)から得られる又は典型的なグリコシル化パターンである。好ましくは、健康なグリコシル化パターンは、複数の健康な人(任意選択で、既知のPSA関連症状のない人)のグリコシル化パターンを分析することによって定義又は取得され、重要な各グリカンについて、健康な人に典型的な範囲が定義される。所与のグリカンの範囲は、統計的方法によって、例えば、所与のグリカンについて健常者で測定されたレベルの統計的分布を見出すこと、外れ値を発見及び破棄すること、任意選択で統計を再評価し、それに基づいて、その範囲内の所与のグリカンのレベルの値が健常者に典型的であると考えられる範囲を定義することによって、定義することができる。複数のグリカンについてのそのような範囲のセットは、正常又は健康なグリコシル化パターンと考えられる。
【0046】
一実施形態では、グリコシル化パターンは、1つ又は複数のグリカンレベルと基準レベルとの1つ又は複数の比を含み得る。参照レベルは、参照タンパク質のレベル、参照グリカンのレベル、又は複数のグリカンのレベルから得られた複合レベル、例えば複数のグリカンの総レベル又は総グリカンレベル又は総PSAレベルであり得る。
【0047】
好ましい実施形態では、診断方法は、尿試料中のα2,3-シアリル化異性体及び場合によりα2,6-シアリル化異性体を決定することを含む。α2,3-シアリル化及び場合によりα2,6-シアリル化異性体は、好ましくは、試料中のPSA-グリカンに関する。
【0048】
好ましい実施形態では、診断方法は、尿試料中のフコシル化構造及び場合により非フコシル化構造を決定することを含む。
【0049】
フコシル化構造及び場合により非フコシル化構造は、好ましくは、試料中のPSA-グリカンに関する。
【0050】
本発明の診断方法の好ましい実施形態は、各個々の構造の寄与を含む、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンの総グリコシル化パターンを測定することと、
-レベルを健常対照と比較することと、
-レベルが正常なレベル又は正常なグリコシル化パターンと異なる場合、対象がPSA関連の症状又は疾患を有すると見出すことと、
を含む。
【0051】
本発明の方法において、対照は、健常対照のグリカンプールによって定義される。
【0052】
好ましい実施形態では、標準(PSAを添加した雌尿)を陽性対照として使用する。
【0053】
好ましい実施形態では、標準(非スパイク雌尿)を陰性対照として使用する。
【0054】
特定の実施形態では、正常なグリコシル化パターンは、健康な対象に典型的な参照グリコシル化パターンである。
【0055】
好ましくは、試料は、雄哺乳動物、好ましくはヒト、より好ましくは男性ヒトの尿試料である。
【0056】
特定の実施形態では、健康とは、既知のPSA関連症状のない1人又は複数の人から得られたグリカンレベルとして理解される。
【0057】
定義
本明細書で使用される「対象」は、前立腺及び泌尿器系を有する哺乳動物の個体である。
【0058】
「哺乳動物」という用語は当技術分野で公知であり、雌が自分の体から自分の子供に母乳を与える動物種に関し、例示的な哺乳動物には、ヒト、霊長類、家畜動物(ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等を含む)、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ科動物、ネコ科動物等)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれ、これらの全て又はいずれも本明細書で企図される。
【0059】
「患者」は、医学的又は獣医学的な観察、監督、診断又は治療を受けているか、受けていることが意図されている対象である。
【0060】
「結合分子」という用語は、本明細書では、所望の結合親和性、すなわち結合分子と標的分子との間に複合体を形成するのに十分な結合親和性で標的分子に特異的に結合する分子を意味する。一実施形態において、結合分子は、相補性決定領域(CDR)を有する抗体結合部分を有するか、又は含む。そのような結合部分は、天然又は合成足場分子に挿入することができる。結合分子は、天然に存在する分子、例えば抗体に由来し得る。一実施形態において、結合分子は、抗体又はその断片である。結合分子には、抗体断片、単一ドメイン抗体、一本鎖抗体断片(scFv)、Fab断片、ナノボディ等のような抗体由来タンパク質骨格のタンパク質も含まれる。ナノボディが好ましい。あるいは、結合分子は、例えば合成ペプチドとして完全に人工的に作製することができる。
【0061】
「抗体」という用語は、1つ又は複数の免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされるポリペプチドリガンドを指すことを意味する。
【0062】
1つ以上の他の化合物から所望の化合物を分離するという用語は、本明細書では、混合物から特定の成分を除去させ、所望の化合物を除去された部分から離すものと理解される。好ましくは、当該化合物を他の化合物、例えば化合物の混合物から分離する場合、当該化合物は分離前に混合物中に存在し、分離後に混合物の他の化合物を含まない。所望の化合物が含まれていない他の化合物が多いほど、分離はより成功する。
【0063】
好ましい実施形態又は好ましい工程において、望ましい化合物は、タンパク質、例えば糖タンパク質、好ましくはPSAである。この場合、他のタンパク質又は汚染物質から「タンパク質を分離する」又は「PSAを分離する」という用語が、必要な変更を加えて使用される。
【0064】
更に好ましい実施形態又は好ましい工程において、望ましい化合物はグリカンである。この場合、「グリカンを分離する」という用語は、本明細書において、当該グリカンを他のグリカン、例えばグリカンの混合物から分離することを意味し、当該グリカンは分離前に混合物中に存在し、分離後に混合物の他のグリカンを含まない。
【0065】
分離技術は、望ましい化合物を1つ以上の他の化合物から分離するために使用される方法であり、当該方法は、望ましい化合物及び1つ以上の他の化合物の物理的及び/又は化学的特性の差、好ましくは結合パートナーに対する結合特性の差、好ましくは所与の結合パートナーに対する特異的結合特性、好ましくは所与の結合パートナーに対する親和性を利用する。
【0066】
「濃縮する」という用語は、混合物中の望ましい化合物の割合を増加させることに関する。
【0067】
混合物(元の混合物又は出発混合物)から「望ましい化合物を精製する」という用語は、本明細書では、精製工程の後に、より高いレベルの純度で望ましい化合物を提供する、すなわち、得られた混合物が望ましい化合物を含み、汚染化合物が少ない、すなわち、元の(出発)混合物よりも望ましくない、すなわち汚染化合物の割合が低いと理解される。純度のレベルは、望ましい化合物及び望ましくない化合物を合わせた量に対する望ましい化合物の割合に関する。
【0068】
特定の態様では、望ましい化合物を精製することは、望ましい化合物を1つ以上の他の化合物から分離することによって行われる。特定の態様では、得られた混合物は、元の(出発)混合物と比較して望ましい化合物が豊富である。好ましい実施形態では、所望の化合物の高レベルの純度が精製によって達成される。
【0069】
本開示において、分離によって定義される方法工程は、必要な変更を加えて、本明細書における定義を考慮して用語「濃縮」を使用することによって言い換えることができる。
【0070】
本開示において、分離によって定義される方法工程は、必要な変更を加えて、本明細書における定義を考慮して精製という用語を使用することによって言い換えることができる。
【0071】
「アフィニティ分離」という用語は、所望の化合物、好ましくはタンパク質、例えば糖タンパク質と、結合パートナー、好ましくは別の高分子、例えば別のタンパク質との間の結合相互作用(又は略して結合)、好ましくは特異的結合相互作用に基づく分離技術に関する。特異的結合(又は親和性)は、本明細書では、別の組の高分子、例えば別の組のタンパク質よりも所与の結合パートナーに対して強い結合として理解される。
【0072】
したがって、「アフィニティ」分離の概念は、その内部及び外部構造全体にわたって存在する固有の一組の分子間結合力を含む各生物学的高分子の天然に存在する特性、及び1つの高分子中のこれらの力の特定の部位と、別の(異なる)分子(結合パートナー)、例えば高分子中に存在する一組の力の部位との間でアライメントが生じると、それらの間で相互作用(引力相互作用、すなわち結合)が起こり得るという事実から生じる。
【0073】
本発明で使用されるアフィニティ分離は、アフィニティ分配、例えばアフィニティクロマトグラフィであり得る。
【0074】
「アフィニティ分配」という用語は、培地又はマトリックス中のタンパク質の混合物からの特異的結合部位を含有するタンパク質のための分離方法であって、所望のタンパク質が、結合パートナーに対するその特異的結合特性を利用して分離され、分離が、第2の相内又は上に存在するが非結合(遊離)流体(好ましくは液体)相と接触している結合パートナーを含む別の相に対して移動することができる少なくとも1つの流体(好ましくは液体)相が存在する少なくとも2相系を使用して行われる、分離方法である。一実施形態において、結合パートナーは、固相を形成し得る適切な担体に結合される。一実施形態において、結合パートナーは、別の流体(好ましくは液体)相に存在する。一実施形態において、システムは、担体(固相)と、遊離流体(好ましくは液体)相と接触する結合パートナーを含む別の流体(好ましくは液体)相の両方を含む。好ましくは、遊離流体相は移動している。好ましくは、別の液相は固定されており、好ましくは固相を形成し得る適切な担体に付着されている。
【0075】
「アフィニティクロマトグラフィ」という用語は、クロマトグラフィカラムで行われる「アフィニティ分配」方法であり、自由液相は移動相であり、固定相は他の相の一部である、例えば定置相である固体担体を含む。
【0076】
「PSAのアフィニティ分配」という用語は、本明細書では、PSAをマトリックスから分配することを意味し、PSAは、分配工程の前にマトリックス、例えば尿マトリックス中に存在する異なるグリカン構造を有するPSA-糖タンパク質の混合物であり、分配は、PSAに可逆的に結合することができる分配カラム(他のマトリックス成分が結合する親和性とは異なる親和性を有する)によって行われ、PSAの分配後、すなわちPSA-糖タンパク質の混合物はマトリックス成分を含まずに提供される。
【0077】
PSAは、結合パートナーと遊離液相との間で分配され、この分配は、その結合パートナーへの特異的結合によって決定され、それにより、異種混合物から分離され得る。
【0078】
化合物の「プール」は、本明細書では、混合物の各要素を含む全体として化合物を考慮する場合、化合物の混合物として使用される。
【0079】
「マトリックス」は、ここでは、物理的、化学的又は生化学的環境を含む、目的の物質又は化合物の環境とみなされる。一実施形態では、マトリックスは、例えば試料の単離又は任意の他の人間の行動によって、人間の行動の寄与を提供される。天然マトリックスは、目的の物質又は化合物の天然環境と同一であるか又は同一であることを目的とするマトリックスである。尿マトリックスは、例えば、本明細書ではあらゆる物質、すなわち目的の物質又は化合物が存在する尿試料の全体として理解される。
【0080】
「第1のグリカンを第2のグリカンから分離する」という用語は、本明細書において、第1のグリカンと第2のグリカンとの混合物から第1のグリカンを分離することを意味する(一実施形態において、更なるグリカンが存在し得る)。
【0081】
目的の物質(例えば、化合物)は、他の物質、例えば、他の物質が目的の物質と共に存在しないか、又はわずかなレベル若しくは量でのみ存在する場合、他の1つ以上の化合物を「含まない」。
【0082】
本明細書で使用される「グリコシル化パターン」という用語は、PSA-糖タンパク質のプール中に存在するグリカン構造(オリゴ糖)の提示を指すことを意味する。グリコプロファイルは、例えば、PSAのプール中に存在する1つ以上のグリカン構造にそれぞれ対応する複数のピークとして提示することができる。一実施形態において、グリコシル化パターンは、グリカンのレベルの複数の範囲として理解される。一実施形態において、好ましくは本明細書で定義される参照レベルに対する1つ以上のグリカンのレベルの比を含むグリコシル化パターン。
【0083】
「前立腺特異的抗原(PSA)」という用語は、ヒトカリクレイン遺伝子ファミリーのメンバーである33kDaのキモトリプシン様タンパク質を指すことを意味する。好ましい実施形態では、PSAは、前立腺の細胞によって産生されるタンパク質である。天然マトリックスにおいて、PSAは、複数のタイプのグリカン構造がPSA-糖タンパク質分子に結合しているPSA-糖タンパク質のプールの形態で存在する。
【0084】
PSAは通常、血液中に非常に低いレベルで存在し、正常なPSAレベルは、0ng/ml~4ng/mlと定義される。PSAレベルの上昇は、男性の前立腺癌又は女性の乳癌又は他の癌の存在を示唆し得る。血液中のほとんどのPSAは血清タンパク質に結合している。少量のPSAは血清タンパク質に結合していない。この形態のPSAは遊離PSAと呼ばれる。
【0085】
「試料」という用語は、本明細書では、対象からの体液又は組織から得られる、すなわち対象の当該体液又は組織から採取され、場合により分析の準備に処理される物質を指すことを意味する。試料は、好ましくは尿から得られる。本明細書で使用される試料は、濃縮されていなくてもよく、又は標準的な方法を使用して濃縮されていてもよい(すなわち、濃度によって処理される)。したがって、尿試料は、尿から採取することによって対象の尿から得られ、場合により、例えば本発明の方法によって、分析のために当該試料を調製するために処理される。
【0086】
「シアリル化」又は「シアリル化」という用語は、1つ又は複数のシアリル酸部分による共有結合修飾を指す。特定の実施形態では、シアリル化はPSAのものである。ある特定の実施形態において、シアリル化は、PSAの2,6連結シアリル化であり得る。他の実施形態では、シアリル化は、PSAの2,3結合シアリル化であり得る。
【0087】
シアリル酸又はシアル酸は、3つの主要な形態で存在する9炭素カルボキシル化糖である。「シアル化」は、1つ以上のシアル酸部分による共有結合修飾を指す。最も一般的なものは、N-アセチル-ノイラミン酸(2-ケト-5-アセトアミド-3,5-ジデオキシ-D-グリク-エロ-D-ガラクトノヌロピラノース-1-オン酸(CAS登録番号(登録商標):114-04-5;NeuSAc、NeuAc、又はNANAと略されることが多い)である。第2の一般的な形態は、NeuAcのN-アセチル基がヒドロキシル化されているN-グリコリル-ノイラミン酸(Neu5Gc又はNeuGc)である。第3の一級シアル酸は、2-ケト-3-デオキシ-ノヌロソン酸(KDN)である。好ましい実施形態では、シアル酸はN-アセチル-ノイラミン酸である。
【化1】
【0088】
「フコシル化」又は「フコシル化」という用語は、フコース糖部分又は1つ以上のフコース糖部分による共有結合修飾を指す。「フコシル化」はグリコシル化の一種である。ある特定の実施形態において、フコシル化は、PSAのフコシル化である。
【0089】
フコースは、本明細書では、以下の構造式を有するヘキソスデオキシ糖であるL-フコース(CAS登録番号(登録商標):2438-80-4;(2S,3R,4R,5S)-6-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2,3,4,5-テトラオール、別名:6-デオキシ-L-ガラクトース)として理解される。
【化2】
【0090】
2つの構造的特徴は、哺乳動物に存在する他の6炭素糖とフコースを区別する:6位の炭素上のヒドロキシル基の欠如(C-6位の炭素をデオキシ糖にする)及びL配置。これは6-デオキシ-L-ガラクトースと等価である。
【0091】
本明細書で使用される「蛍光」又は「蛍光標識」化合物は、UV又はVIS電磁放射線(「照射光」)を照射することによって検出することができ、化合物が照射光を吸収し、別の、好ましくは照射光の波長よりも長い波長の光(放出光)を放出する化合物である。好ましくは、「検出可能な蛍光化合物」は、蛍光、すなわち例えば細胞の内部での光の放射が可能である。
【0092】
本明細書で使用される「検出すること」は、試料に対するアッセイ方法の(特に最終的な)結果として、目的の物質又は化合物(好ましくは分析物)に関する観察を得ることとして広く理解される。
【0093】
「診断方法」は、本明細書では、対象、好ましくは患者の動物体から得られた試料に対して行われ、試料のパラメータ、好ましくは物質、非常に好ましくは抗体の存在又はレベル若しくは濃度の検出、好ましくは決定、評価又は測定、観察の結果の評価又は当該対象の症状若しくは状態に関する結論を含む方法として理解される。一実施形態では、当該結論は、処置に関する決定の根拠を提供し得る。
【0094】
2つのレベル、好ましくは2つの化合物のレベル又は2つの化合物パターンを「比較する」ことは、本明細書では、当該レベルを特徴付ける数値で表される量の比較を含み、どちらが高いか低いかを確立するか、又は差を確立するか若しくはレベルの比、又はレベルから導出される値を確立し、定量化又は計算方法が必要とする場合に他の数学的手順で任意に完了すると理解される。
【0095】
「含む(comprises)」又は「含むこと(comprising)」又は「含むこと(including)」という用語は、ここでは非網羅的な意味を有すると解釈されるべきであり、列挙された特徴又は方法工程又は構成要素を含むものへの更なる特徴又は方法工程又は構成要素の追加又は関与を可能にする。
【0096】
「実質的に」又は「から本質的になる」という表現は、例えば特許請求の範囲に列挙された必須の特徴又は方法工程又は成分からなるものとして理解されるべきであり、一方で、使用、方法、組成物又は他の主題の本質的な特徴に実質的に影響を及ぼさない他の特徴又は方法工程又は成分を更に含むことを可能にする。「含む(comprises)」又は「含むこと(comprising)」又は「含むこと(including)」は、必要に応じて新規事項を追加することなく、本明細書では「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「実質的に含む(comprising substantially)」と置き換えることができることを理解されたい。
【0097】
略語
aPSA antiPSA
APTS アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸
CE キャピラリ電気泳動
CDR 相補性決定領域
DTT ジチオスレイトール
GU グルコース部
LoD 検出限界
mAb モノクローナル抗体
MS 質量分析
HR-NCHO(高分解能N結合炭水化物)、
PCa 前立腺癌
PSA 前立腺特異的抗原
sdAb 単一ドメイン抗体
SDS ドデシル硫酸ナトリウム
【図面の簡単な説明】
【0098】
【
図1】APTS標識標準PSA N-グリカムのキャピラリ電気泳動分離を示す図である。分離条件:全長50cm(有効長40cm)、内径50μmのHR-NCHOゲル緩衝液を含む裸の溶融シリカキャピラリ。電圧:30kV(0.5分ランプ);温度:25℃;注入:5psi/5秒の水前注入、引き続いて5kV/2秒の試料。ピークに対応する構造を表1に列挙する。
【
図2】標準PSA N-グリカムのエキソグリコシダーゼベースの配列決定の図である。標準PSA(A)、シアリダーゼA消化後(B)、シアリダーゼA、β-ガラクトシダーゼ消化後(C)、シアリダーゼA、β-ガラクトシダーゼ及びβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ消化後(D)。分離条件は
図1と同じであった。ピークに対応する構造を表1に列挙する。
【
図3】単一ドメイン抗PSA産生の概略図である。強力なPSA結合剤N7及びC9 SdAb aPSAバリアントの遺伝子をpET23b発現ベクター及びSHuffle T7 Express大腸菌(E.coli)細胞で産生されたタンパク質に組み込んだ。SHuffleは、ジスルフィド結合の適切な形成、したがってaPSAの適切な折り畳みを確実にし、体液からのPSAの選択的捕捉のための可溶性及び機能性抗体をもたらした。
【
図4】尿PSA分析ワークフローの図である。1a)aPSA sdAbのNi-IMACカラムへの固定;1b)スピンフィルタを介した尿の濃度;2)尿マトリックスからのPSA捕捉;3)抗体-PSA複合体の溶出;4)脱塩及び濃縮;5)PSAの変性;6)PNGase F消化によるN-グリカン放出;7)蛍光グリカン標識;8)CE-LIF分析
【
図5】sdAb捕捉男性性尿PSA N-グリカム(B)及び女性尿対照(A)のキャピラリ電気泳動分離を示す図である。分離条件:全長30cm(有効長20cm)、内径50μmのHR-NCHOゲル緩衝液を含む裸の溶融シリカキャピラリ。電圧:30kV(0.5分ランプ);温度:25℃;注入:5psi/5秒の水前注入、引き続いて2kV/2秒の試料。ピークに対応する構造を表1に列挙する。
【発明を実施するための形態】
【0099】
本発明者らは、尿中前立腺特異抗原(PSA)を処理及び分析することができるハイスループットキャピラリ電気泳動(CE)ベースのグリカン分析ワークフローを開発した。実証された技術は、選択的で高収率の単一ドメイン抗体ベースのPSA捕捉と、それに続く予備濃縮及びレーザー誘起蛍光検出分離工程によって連結されたキャピラリ電気泳動を利用して、高分解能N-グリカンプロファイルをもたらす。患者のPSAグリカンプロファイルを市販のPSA標準と比較すると、提案された方法論は、α2,3-及びα2,6-シアリル化異性体を区別することさえできる信頼できるデータを提供することが明らかになる。後者は、前立腺癌の低悪性度型、有意型及び攻撃型の間の分類において重要な役割を果たす。
【0100】
生物学的マトリックスからの高度に選択的なsdAbベースの捕捉、ハイスループット予備濃縮、PSAからのN-グリカンの酵素的放出、蛍光炭水化物標識、高分解能キャピラリ電気泳動分離及び包括的なグリカン構造解明を利用した尿PSA N-グリコシル化分析のための新規な統合ワークフローが確立された。
【0101】
本発明では、固定化PSA特異的結合分子を含む親和性精製又は分配カラムによって尿試料からPSAを単離するための新しい方法工程を導入した。当業者は、いくつかのタイプのそのような結合分子が使用され得ることを認識している。そのような結合分子は、抗体断片、単一ドメイン抗体、一本鎖抗体断片(scFv)、Fab断片、ナノボディ等のような抗体由来タンパク質骨格のタンパク質を含み得る。(Muyldermans,2021年)。
【0102】
あるいは、結合分子は、例えば合成ペプチドとして完全に人工的に作製することができる。したがって、結合分子には、フィブロネクチン、リポカリン、アンチカリン等の非抗体タンパク質足場のタンパク質が含まれる(Skrlec et al.,2015;Stern et al.,2013;Gebauer&Skerra,2019)。
【0103】
非常に好ましい実施形態では、固定化抗PSAナノボディが使用される。非常に好ましい実施形態では、そのような抗体はIMAC-Niマイクロカラムに適用される。本例示的実施形態では、sdAbは社内で製造され、カラムマトリックスへの固定を助けるために特別なリンカータグで操作された。mAbよりもsdAbを使用することにより、より大量であってもより低コストでの製造が可能であるため、将来の臨床試験における適用の拡大が容易になり得る。選択的捕捉手順は、生物学的マトリックスから他の糖タンパク質夾雑物を除去すること、及びPSA含有量を予備濃縮することの両方に寄与し、より高い検出シグナルをもたらした。
【0104】
試料濃度は、プロセスの重要な特徴である。好ましい実施形態では、溶出試料を濃縮する。好ましい実施形態では、適切なカットオフを有するフィルタが使用され、当該カットオフは、好ましくは5~20kDa、非常に好ましくは約10kDaである。好ましい実施形態では、スピンフィルタが適用され、遠心分離が試料を濃縮するために使用される。遠心分離は、通常5000~20000g、好ましくは10000~15000gで、必要に応じて2~20分間、好ましくは5~15分間、より好ましくは8~12分間、10000~15000gで行うことができる。試料を必要に応じて、例えば1から10℃に冷却する。好ましい実施形態では、試料を乾燥させ、再び分解する。試料の体積は、好ましくは1~20μl、より好ましくは約10μlである。
【0105】
試料調製は、好ましくは、通常、タンパク質の変性を含む。磁気ビーズの使用は、標識反応混合物からの過剰な蛍光色素の除去を支援する。色素は、反応において比較的大過剰で使用されるものとする。水性媒体中では、グリカンは蛍光色素と共に溶解しているが、有機相中では、標識されたグリカンは磁気ビーズの表面に付着する。染料はビーズの表面に付着しないので、洗浄によって除去することができる。
【0106】
変性溶液は、典型的には、1種類以上の界面活性剤、例えば非イオン性及び/又はイオン性界面活性剤又はそれらの混合物を含む。イオン性界面活性剤は、アニオン性又はカチオン性界面活性剤であり得る。典型的なアニオン性界面活性剤は、アルキルサルファート、例えばドデシルサルファートを含む。対イオンは、それぞれ正イオン又は負イオンである。一例では、混合物は、Nonidetのような非イオン性界面活性剤及びSDSのようなアニオン性界面活性剤の混合物であり得る。
【0107】
変性溶液はまた、システイン等のアミノ酸を還元状態に保つための還元剤を含み得る。そのような還元剤は、とりわけ、DTT及び/又はβ-メルカプトエタノールを含み得る。
【0108】
PSAのオリゴ糖の分析にはグリカン誘導体化工程が必要である:グリカンを誘導体化して発色団又は蛍光団を導入し、クロマトグラフィ又は電気泳動分離後の検出を容易にすることができる。ここでは、グリカンの蛍光標識を適用した。今日、蛍光標識方法論は当業者にとって日常的であると考えることができ、単に例として、GlycoProfile(商標)Labeling Kitのようなメルクからのグリカン標識産物からの標識キットのようないくつかの標識キットが利用可能である。例において、Fast Glycan Labeling and Analysis Kitは、8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)のタグ化色素を含むSCIEX(Brea,CA,USA)からのものであった。
【0109】
一例では、標識溶液は、タグ付け色素、例えばAPTSと、有機酸、例えばAcOH、有機溶媒、例えばTHF、及び還元剤、例えばシアノ水素化ホウ素ナトリウムのような水素化ホウ素誘導体を適切な比で含む水性溶媒混合物との混合物を含み得る。
【0110】
磁気ビーズは、過剰な色素を除去するために使用される。磁気ビーズ懸濁液:磁気スタンド上のFast Glycan Labeling and Analysis Kitの磁気ビーズ懸濁液200μlから溶媒を除去し、ビーズを水200μlに再懸濁し、溶媒を磁気スタンド上で再び除去し、ビーズを水20μlに再び再懸濁した。
【0111】
酵素除去技術を用いてPSAからグリカンを除去した。酵素は、脱アミノ化されたタンパク質又はペプチド及び遊離グリカンをもたらすもの、例えば、糖タンパク質(例えば、PSA)の最も内側のGlcNAc残基とアスパラギン残基との間を切断し、したがって高マンノース、ハイブリッド及び複合オリゴ糖をN結合型糖タンパク質及び糖ペプチドから切断する酵素でなければならない。一例は、一般にPNGase Fと呼ばれるペプチド:N-グリコシダーゼFであり、ペプチド-N4-(N-アセチル-β-グルコサミニル)アスパラギンアミダーゼクラスのアミダーゼである。
【0112】
配列決定はまた、例えばシアリダーゼ(例えば、シアリダーゼA)、ガラクトシダーゼ(例えばβ-ガラクトシダーゼ)、ヘキソサミニダーゼ(β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ)等、及びエンドグリコシダーゼ(PNGase F)も含む一連のエキソグリコシダーゼ酵素を使用すべきである。配列決定の際に、グリカン構造中の糖部分の配列を調べるために、繰り返しの切断工程を明確に定義された順序で行う。
【0113】
前立腺特異的抗原のN-グリコシル化分析に適用するためのキャピラリ電気泳動及び方法は、一般に当技術分野で公知であり、例えばReider et al.(Reider et al.,2020)によって概説されている。本発明者らは、より長いキャピラリを使用しながら分離が改善されるが、この方法は比較的短いキャピラリでも実行できることを見出した。
【0114】
特定の実施形態では、キャピラリゲル電気泳動は、少なくとも5cm及び最大100cmの有効長、好ましくは少なくとも10cm及び最大60cmの有効長、非常に好ましくは少なくとも15cm及び最大50cmの有効長のキャピラリを用いて行われる。好ましくは、30か~50cmの有効長のより長いキャピラリが標準的なPSAグリカン分析及びシーケンシングに使用され、10~30cmの有効長のより短いキャピラリが捕捉された尿PSAグリカン分析に使用される。特定の実施形態では、溶融シリカキャピラリ、好ましくは裸の溶融シリカキャピラリが使用される。
【0115】
分離ゲル緩衝液は当技術分野で公知であり、特定の溶液では、HR-NCHO分離ゲル緩衝液(高分解能N結合型糖質;SCIEX)が使用される。
【0116】
印加電界は、20~40kV、好ましくは25~35kV、非常に好ましくは28~32kVの逆極性電界である。
【0117】
分離温度は最適化することができるが、特定の方法では、20~37℃、好ましくは25~35℃、非常に好ましくは28~32℃である。
【0118】
尿PSAから放出されたグリカンのCE-LIF分析は、標準PSAから得られた30個のうち19個の構造をもたらした。天然PSAに由来する各同定されたグリカン構造がシアリル化されており、捕捉及び分析手順の両方の温和な条件が不安定な糖残基、例えばシアル酸を保存したことを示唆している。CEの高い分解能のために、フコシル化構造及び非フコシル化構造の両方、並びにα2,3-及びα2,6-シアリル化異性体を分離した。最も一般的な癌関連変化は報告によればこれらの構造に関連しているので、これらの残基のあらゆる可能性のある変化を確実に検出することは、あらゆる診断用途にとって重要であった。更に、グリカンの種類だけでなく、個々の構造も同定されたため、特定のグリカンでのみ生じるより複雑な変化を発見することができた。本発明者らの結果は、開発されたワークフローが尿PSAの包括的N-グリカン分析に適しており、前立腺癌又は良性前立腺過形成等の特定の疾患によって引き起こされるPSAグリコシル化の変化を検出することを目指す将来の試みの基礎となり得ることを示した。
【0119】
したがって、方法は、尿試料からグリコシル化パターンを得るために有用である。グリコシル化パターンは、試料中の個々のグリカン構造に関するデータを含み得る。データは、例えば尿PSA試料中の個々のグリカンの比又はレベルに関して、与えられた又は選択されたグリカン構造に典型的な値を含む。好ましい実施形態では、パターンは、本発明者らのCE-LIF分析によって得られた19の構造からの少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19個のグリカン構造に関するデータを含む。
【0120】
グリコシル化パターンを得るために使用され得る典型的な値としては、1つ又は複数の選択されたグリカンの存在、任意の典型的な比又はレベル、例えば濃度、パーセンテージ、組成が挙げられ得るが、これらに限定されない。パターンは、必然的にグリカンに関する構造情報を含み、例えばグリカンの配列も含む。
【0121】
したがって、グリコシル化パターンは、複数のグリカン構造に関するデータを含み得る。好ましくは、それは、少なくともフコシル化及び非フコシル化構造に関するデータを含む。更に、少なくともα2,3-及びα2,6-シアリル化異性体に関するデータも含む。更に、両方に関するデータも含む。
【0122】
健康な対象(又は患者)の試料を分析することによって、正常なグリコシル化パターンを確立することができる。
【0123】
好ましくは、グリコシル化パターンデータは、各グリカンの範囲を含む。正常なグリコシル化パターンの場合、各範囲は、正常範囲を示す対応するグリカンに典型的な値(例えば、比又はレベル)を示す。健康な対象(又は患者)の場合、大部分のグリカン、好ましくは少なくとも80%又は90%又は95%のグリカンの値又は少なくとも値が正常範囲に入る。
【0124】
様々なPSA関連症状に典型的な全く同様のグリコシル化パターンは、本発明の方法を使用して、特定のPSA関連症状を有する患者の試料を分析することによって得ることができる。これは、例えば、良性前立腺過形成、転移性癌を含む前立腺癌、又は前癌症状、例えば癌に進行する可能性が高い症状であり得る。
【0125】
これにより、基準グリコシル化パターンのセットを確立することができる。
【0126】
診断方法では、患者試料を分析することによって得られたグリコシル化パターンを、典型的なグリコシル化パターン、例えばPSA関連症状に典型的なグリコシル化パターン又は正常なグリコシル化パターンと比較することができる。
【0127】
グリコシル化パターンを比較することは、限定されないが、標的糖タンパク質の1つ又は複数の選択されたグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成又は配列を含む、本発明の方法によって決定された任意のデータを参照と比較することを含み得る。この比較は、PSA関連症状の診断、病期分類、予後診断又はモニタリングを可能にする。
【0128】
本発明はまた、複数のレコードを含むデータベースを提供することを可能にする。
【0129】
データベース、又は例えばレコード、好ましくは各レコードは、上述のデータを含むことができる。
【0130】
より具体的には、データベースは、
参照グリコシル化パターン等、
正常なグリコシル化パターン、及び必要に応じてPSA関連症状に典型的な1つ以上のグリコシル化パターン
を含む。
【0131】
一実施形態では、データベースの記録は、以下のうちの1つ又は複数を含むことができる。
本発明の方法によって当該対象のグリコシル化プロファイルを決定することによって得られた、対象からの試料から単離された障害に関連するPSAのグリコシル化パターンに関するデータ;任意選択的に、
対象の状態に関するデータ、例えば、対象が癌を有するか、前癌症状を有するか、良性症状を有するか、又は症状を有しないか、及び任意の臨床転帰データ、例えば、転移、再発、寛解、回復、又は死亡;
対象に投与された任意の処置に関するデータ;
処置に対する対象の応答、例えば処置の有効性に関するデータ;対象に関する個人データ、例えば、年齢、性別、教育等、及び/又は環境内の物質の存在、予め選択された地理的領域内の居住、及び予め選択された職業の遂行等の環境データ。いくつかの態様において、データベースは、本明細書中に記載される方法を使用して対象からの試料における標的糖タンパク質のグリコプロファイルを決定することから生じるデータを入力することによって作成される。
【0132】
本発明の診断方法は、好ましくは、
患者の試料中の本発明によるグリコシル化パターン(患者グリコシル化パターン)を決定することと、
グリコシル化パターンを正常なグリコシル化パターンと比較することと、
患者グリコシル化パターンと正常なグリコシル化パターンとの間に差がある場合、患者はPSA関連症状を有するとみなされる。
【0133】
更なる実施形態において、本発明の診断方法は、好ましくは、
患者の試料中の本発明によるグリコシル化パターンを決定すること(患者グリコシル化パターン)、
グリコシル化パターンを、PSA関連症状に典型的な参照グリコシル化パターンと比較することと、
を含み、
患者のグリコシル化パターンが、基準グリコシル化パターンと同一である場合、患者はPSA関連症状を有すると診断される。
【0134】
一般に、本発明の方法は、PSA-グリコシル化パターンの変化を検出することを含む。
【0135】
一実施形態では、本発明は、グリカン部分のシアリル化の変化を検出することを含む。
【0136】
一実施形態では、本発明は、グリカン部分のフコシル化の変化を検出することを含む。
【0137】
本発明の好ましい実施形態では、本方法は、シアリル化パターン及びフコシル化パターンの両方の変化を検出することを含む。
【0138】
本発明の好ましい実施形態では、方法は、PSA-グリコシル化パターンのフィンガープリント分析を含む。
【0139】
好ましい実施形態では、本発明はまた、対象が前立腺癌を有するかどうかを判定する方法であって、対象が、健康な対象からのPSAのα-2,3-シアリル化パターンと比較して変化したPSAα-2,3-シアリル化パターンを有するかどうかを判定することを含み、変化したPSAα-2,3-シアリル化パターンが前立腺癌を示す方法に関する。
【0140】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、α-2,3-シアリル化グリカンのレベル又はα-2,3-シアリル化グリカンのレベルと基準値との比(それぞれα-2,3-シアリル化グリカンのレベル又は比)が、健康な対象に典型的な正常レベル又は比と比較して増加しているかどうかを測定することを含む。参照値は、値又は範囲、例えばグリカンの総量若しくはレベル又は所与の数の所定のグリカン、すなわちグリカンのセット若しくは特定のグリカンの量若しくはレベルから計算された量若しくはレベルであり得る。あるいは、参照は、PSAレベル又は別のタンパク質、例えば家庭用タンパク質のレベルであり得る。特定の方法では、α-2,3-シアリル化グリカンのレベルと基準値との比が形成される。一実施形態では、α-2,3-シアリル化グリカンのレベルを測定し、正常値と比較する。正常値は、値又は範囲、例えば、本発明のアッセイ方法によって健康な対象の試料の測定値のセットから計算された量又はレベルであり得る。
【0141】
好ましい実施形態では、α-2,3-シアリル化グリカンのレベル又は比が閾値レベルを超える場合、比が閾値より高い場合、対象は前立腺癌を有する又は前立腺癌の傾向を示すと診断される。
【0142】
特定の実施形態では、本発明は、グリカンの末端シアル酸残基がグリカンの末端から2番目のガラクトース残基に±(2,3)連結しているグリカンの量の基準値に対する比を決定することを含み、比が閾値より高い場合、対象が前立腺癌を有する又は前立腺癌の傾向を示すと診断される、前立腺癌の対象の診断方法に関する。
【0143】
好ましい実施形態では、本発明はまた、対象が前立腺癌を有するかどうかを判定する方法であって、対象が、健康な対象からのPSAのα-2,6-シアリル化パターンと比較して変化したPSAα-2,6-シアリル化パターンを有するかどうかを判定することを含み、変化したPSAα-2,6-シアリル化パターンが前立腺癌を示す方法に関する。
【0144】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、α-2,6-シアリル化グリカンのレベル又はα-2,6-シアリル化グリカンとα-2,3-シアリル化グリカンとの比及び参照値(α-2,6-シアリル化グリカンのレベル又はα-2,6-シアリル化グリカンとα-2,3-シアリル化グリカンとの比)が、健康な対象に典型的な正常なレベル又は比と比較して増加しているかどうかを測定することを含む。参照値は、値又は範囲、例えばグリカンの総量若しくはレベル又は所与の数の所定のグリカン、すなわちグリカンのセット若しくは特定のグリカンの量若しくはレベルから計算された量若しくはレベルであり得る。特定の方法では、α-2,6-シアリル化グリカンとα-2,3-シアリル化グリカンとのレベルの比及び参照値が形成される。一実施形態では、α-2,6-シアリル化グリカンのレベルを測定し、正常値と比較する。正常値は、値又は範囲、例えば、本発明のアッセイ方法によって健康な対象の試料の測定値のセットから計算された量又はレベルであり得る。
【0145】
好ましい実施形態では、α-2,6-シアリル化グリカンとα-2,3-シアリル化グリカンとのレベル又は比が閾値レベルを超える場合、対象は前立腺癌を有する又は前立腺癌の傾向を示すと診断される。
【0146】
好ましい実施形態では、本発明はまた、対象が前立腺癌を有するかどうかを決定する方法であって、対象が、健康な対象由来のPSAのフコシル化パターンと比較して、変化したPSAフコシル化パターンを有するかどうかを決定することを含み、変化したPSAフコシル化パターンが前立腺癌を示す方法に関する。
【0147】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、フコシル化のレベル又はフコシル化グリカンのレベルと基準値(フコシル化グリカンのレベル又は比)との比が、健康な対象に典型的な正常なレベル又は比と比較して増加しているかどうかを測定することを含む。参照値は、値又は範囲、例えばグリカンの総量若しくはレベル又は所与の数の所定のグリカン、すなわちグリカンのセット若しくは特定のグリカンの量若しくはレベルから計算された量若しくはレベルであり得る。あるいは、参照は、PSAレベル又は別のタンパク質、例えば家庭用タンパク質のレベルであり得る。特定の方法では、フコシル化グリカンのレベルと基準値との比が形成される。一実施形態において、フコシル化グリカンのレベルが測定され、正常値と比較される。正常値は、値又は範囲、例えば、本発明のアッセイ方法によって健康な対象の試料の測定値のセットから計算された量又はレベルであり得る。
【0148】
好ましい実施形態では、フコシル化グリカンのレベル又は比が閾値レベルを超える場合、対象は前立腺癌を有する又は前立腺癌の傾向を示すと診断される。
【0149】
以下、本発明を例によって更に説明するが、例は非限定的であり、例示目的のための特定の実施形態の説明を提供する。
【0150】
例
材料及び方法
化学物質及び試薬
水(HPLCグレード)、酢酸(氷)、アセトニトリル(MeCN)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(THF中1M)、塩化ナトリウム、イミダゾール、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)及びDTT(ジチオスレイトール)は、Sigma Aldrich(St.Louis,MO,USA)から入手した。SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)及びNonidetP-40は、VWR(West Chester,PA,USA)から入手した。Fast Glycan Labeling and Analysis Kitは、8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)のタグ化色素、過剰色素除去のための磁気ビーズ、HR-NCHO分離ゲル-緩衝系、マルトース(DP2)及びマルトペンタデカオース(DP15)のブラケット標準を含むSCIEX(Brea,CA,USA)から入手した。シアリダーゼA(Arthrobacter ureafaciens)、β-ガラクトシダーゼ(Jack bean)及びβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(Jack bean)のエキソグリコシダーゼ酵素はProZyme(Hayward,CA,USA)から入手した。エンドグリコシダーゼPNGase Fは、Asparia Glycomics(San Sebastian,Spain)から入手した。20ml容量の10kDaカットオフのスピンフィルタはPall(New York,NY,USA)から得られ、500μl容量の10kDaカットオフのスピンフィルタはVWRから得られた。PhyTip Ni-IMACマイクロカラム(40μl)は、PhyNexus(San Jose,CA)によって提供された。緩衝液「A」:100mMHEPES、500mM NaCl、50mMイミダゾール、pH=8.0。緩衝液「B」:100mMHEPES、500mM NaCl、500mMイミダゾール、pH=8.0。変性溶液:Nonidet P-40:DTT:SDS=6:1:1の混合物。消化溶液:16.7mM酢酸アンモニウム中75μユニット/μlのPNGase F。標識溶液:H2O:AcOH:THF:NaBH3CN(THF中1M)=5:5:8:2の混合物中5.7mMのAPTS。磁気ビーズ溶液:磁気スタンド上のFast Glycan Labeling and Analysis Kitの磁気ビーズ懸濁液200μlから溶媒を除去し、ビーズを水200μlに再懸濁し、溶媒を磁気スタンド上で再び除去し、ビーズを水20μlに再び再懸濁した。
【0151】
遺伝子構築物
2つの抗PSA(aPSA)コードポリペプチド配列、N7及びC9を(Saerens et al.,2004)から採取し、逆翻訳し、大腸菌(E.Coli)に対してコドン最適化し、5’-NdeI及び3’-XhoI切断部位に隣接する遺伝子をGenscript(Piscataway,New Jersey,United States)によって合成した。増幅後、両方の遺伝子を、そのNdeI部位とXhoI部位との間のpET23b(Novagen,Merck,Darmstadt,Germany)にクローニングし、したがって、C末端の6-ヒスチジンコード配列をaPSAの遺伝子に融合した。プラスミドへのインサートの適切な組み込みを配列決定によって検証した(Macrogen Europe B.V.,Amsterdam,theNetherlands)。
【0152】
タンパク質の発現及び精製
タンパク質発現のために、Shuffle T7 Express大腸菌(New England Biolabs,Ipswich,Massachusetts,US)細胞を、供給者のプロトコルに従って、N7-aPSA-pET23b及びC9-aPSA-pET23bプラスミドで形質転換した。100μg/mLアンピシリン(Amp)を含有する5mL滅菌ルリアブロス(LB)培地を、新たに調製したLB/Ampプレートから接種し、OD600が0.4~0.6になるまで激しく振盪しながら30℃で増殖させ、4℃で一晩維持した。次いで、細胞を遠心分離によって上清から分離し、5mLの新たに調製したLBに再懸濁し、2mLのLBを使用して1L LB/Ampを接種した。細胞培養物をバッフル付きフラスコ内で37℃で2時間、次いで30℃で140rpmで、OD600が0.6-1に低下するまで増殖させ、次いで温度を22℃まで下げた。15分の冷却後、0.5mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG、最終濃度)の添加によってタンパク質発現を誘導し、更に一晩インキュベートした。細胞を6,000gで30分間の遠心分離によって回収し、緩衝液「A」で洗浄し、10,000gで30分間再度遠心分離した。細胞を、2つのEDTA非含有Mini Completeプロテアーゼ阻害剤錠剤(Roche,Basel,Switzerland)を含有する20ml緩衝液「A」に再び氷上で再懸濁し、超音波処理(10×30秒、50%振幅)によって破壊した。懸濁液を30,000gで遠心分離し、上清を0.45μmシリンジフィルタで濾過した。試料を予め平衡化した5mlのHiTrap Chelating(GE Healthcare,Chicago,Illinois,US)ニッケル飽和カラムに負荷し、定組成溶出を使用して精製し、純粋なタンパク質を50%「B」緩衝液で溶出した。タンパク質溶液の高い塩及びイミダゾール含有量を取り除くために、緩衝溶液に対して透析した。aPSAの純度を15%SDSPAGEゲルで確認し、ProtParam(Gasteiger et al.,2005)によって与えられる以下のパラメータを使用してタンパク質濃度を計算した:それぞれ、N7-aPSA-6His、14.5kDa、27,180cm-1M-1及びC9-aPSA-6His、14.3kDa、21,555cm-1M-1。
【0153】
生体試料
適切な倫理的許可(承認番号:23580-1/2015/EKU(0180/15))及びSemmelweis Hospital(Miskolc,Hungary)の入院患者同意書を用いて尿試料を収集した。試料を男性及び女性(盲検対照)の健康なボランティア(白人7人の集団、年齢平均:28.3、年齢中央値27)から採取し、処理するまで4℃に保った。
【0154】
尿中のPSA定量
全ての標準的なELISA試験は、Csolnoky Ferenc Hospital(Veszprem,Hungary)の中央研究所の厚意により提供されるUniCel DxI 800 Access Immunoassay Systemを使用して行った。試料調製なしで、尿試料を直接分析した。
【0155】
尿からのPSA捕捉
300mlの男性の尿を室温に冷却し、20ml容量の10kDaカットオフのスピンフィルタ(13,500g、各連続20ml濃度について6℃で30分間)によって500μlに濃縮した。濃縮尿を希釈し、3~3mlの緩衝液「A」で2回遠心分離し(6℃で10分間13,500g)、次いでエッペンドルフバイアルに移した。フィルタをそれぞれ250μlの緩衝液「A」で2回洗浄し、両方を移した尿に添加した。最後の1mlの混合物をボルテックスし、2つの500~500μlに分割し、1つはPSA捕捉用であり、もう1つは対照用であった。2つのNi-IMACマイクロカラムを、チップを自動ピペットに接続することによって、200μlの緩衝液「A」によって5分間洗浄し、緩衝液を連続的に吸引し、2ml/分の流量でチップを通して分注した。次の工程では、チップを100μlの緩衝液「A」中の50μg/mlのC9sdAbによって10分間洗浄した。対照試料については、sdAbを含まない100μlの緩衝液「A」を代わりに使用した。両方の先端を200μlの緩衝液「A」で5分間再び洗浄した。次いで、先端を500~500μlの濃縮尿試料で10分間洗浄した。その後、先端を200μlの緩衝液「A」でそれぞれ5分間再び3回洗浄し、次いで100μlの緩衝液「B」で5分間洗浄した。溶出した緩衝液(標的を含む)を500μl容量の10kDaカットオフスピンフィルタに移し、溶媒を遠心分離した(13,500gを6℃で10分間)。フィルタを400μlの水で2回洗浄し、両方の回で水を遠心分離した(13,500g、6℃で10分間)。試料を80μlの水に取り(40~40μlの水でフィルタを2回洗浄)、エッペンドルフバイアルに移し、次いで、それらを70℃で15分間減圧下でSpeedVacで乾燥させた。乾燥した試料を10μlの水で再び分離した。
【0156】
試料調製
試料調製プロセスは、全ての捕捉PSA、対照及び標準PSA(150μg/ml)試料について同一であった。2μlの変性溶液を10μlの試料に添加し、8分20秒で30℃から80℃に加熱し、80℃で1分40秒間インキュベートした。次いで、消化溶液20μlを添加し、試料を20分で40℃から60℃に加熱した。その後、標識溶液を添加し、試料を開放キャップバイアル内で37℃で一晩インキュベートして溶媒を蒸発させた。次いで、乾燥した試料を20μlの磁気ビーズ溶液中で分離し、次いで、185μlのMeCNを添加し、溶媒を磁気スタンド上で磁気ビーズから除去した。ビーズを20μlの水に懸濁し、185μlのMeCNを添加し、溶媒を再び磁気スタンド上の磁気ビーズから除去した。この工程を更に2回繰り返した(最初にビーズを加えて合計4回洗浄した)。最後に、ビーズを60μlの水で希釈し、磁気スタンド上で、50μlの試料をCE分析用の新しいバイアルに移した。
【0157】
グリカン構造の同定
分離されたアスパラギン結合PSAグリカンの構造解明を、GUデータベースエントリー(GUcal.hu)、エキソグリコシダーゼ消化ベースの炭水化物配列決定及び同じ主題に関するいくつかの以前に公開された文献データの直接マイニングによって利用した(Kammeijer et al.,2018;Meszaros et al.,2020)。エキソグリコシダーゼシーケンシングを、Szigeti&Guttman,2017に報告されているように自動化様式で利用した。手短に言えば、放出されたN-グリカンは、結果として、単量体アノマー性特異的エキソグリコシダーゼ酵素、例えばシアリダーゼA、β-ガラクトシダーゼ及びβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼによって消化された。次いで、天然、すなわち未消化及び全ての消化プールをCE-LIFによって分離し、連続エキソグリコシダーゼ処理の結果としての個々のピークのGU値シフトから構造情報を得た(Guttman&Ulfelder,1997)。
【0158】
キャピラリゲル電気泳動
レーザー誘起蛍光検出(λex=488nm/λem=520nm)を備えたPA800 Plus Pharmaceutical Analysis System(SCIEX)を、標準PSA及び配列決定のためには有効長40cm(全長50cm、内径50μm)の裸の溶融シリカキャピラリ、及び捕捉された尿PSAのためには有効長20cm(全長30cm、内径50μm)の裸の溶融シリカキャピラリにおいてHR-NCHO分離ゲル緩衝液を使用する全てのキャピラリゲル電気泳動分離に使用した。印加電界強度は、逆極性モード(注入側のカソード、検出側のアノード)で30kVとした。分離温度は30℃とした。3段階界面動電試料注入を適用した:1)5.0秒間の水前注入では3.0psi、2)1.0秒間の試料注入では1.0kV、及び3)1.0秒間のブラケット標準(BST、DP2及びDP15)では1.0kV。32Karat(バージョン10.1)ソフトウェアパッケージ(SCIEX)をデータ取得及び解釈に使用した。
【0159】
結果
標準PSAグリコシラートの同定
ワークフロー開発プロセスの基準点を確立するために、標準PSAの全体的なN-グリコシル化プロファイルを分析した。40cmの有効長キャピラリを利用して、
図1に示すような高分解能グリカンプロファイルを達成し、最も関連する30のピークに注釈を付けた。全ての同定されたグリカンの名称、構造、移動時間及びGU値を表1に列挙する。エキソグリコシダーゼベースのグリカンシーケンシングプロセスを、対応するトレース線によって示される、シアリダーゼA、β-ガラクトシダーゼ及びβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを利用して
図2に示す。配列情報は、(Szigeti&Guttman、2017年)における連続エキソグリコシダーゼ処理の結果としての個々のピークのGU値シフトから誘導した。観察され得るように、標準PSA試料上の同定された構造の全てがシアル化され、感受性グリカン異性体を保存することができる穏やかな分離技術としてのCE-LIFの驚くべき利点を強調している。MSのような直交技術は、多くの場合、供給源内分解に起因して脱シアリル化をもたらす(Kammeijer et al.,2017)。更に、CE-LIFの高分解能は、α2,3-及びα2,6-シアリル化異性体をモノ又はマルチシアリル化構造上で容易に区別することができ、これは癌診断の鍵となり得る。コアフコシル化又は分岐の程度のような他のPCa関連変化も、特にエキソグリコシダーゼシーケンシング後に追跡可能であり得る。同定されたグリカンの数、並びに所与の構造の確実に追跡可能な比を有する高分解能分離の両方が、可能なPCa診断ツールとしてのこのワークフローの高い可能性を証明した。
【0160】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【0161】
aPSAタンパク質の発現及び精製
PSAで免疫したヒトコブラクダの重鎖抗体の可変ドメインから調製したバリアントライブラリーを使用して、ファージディスプレイによって、いくつかのaPSA単一ドメイン抗体配列を早期に選択した(Saerens et al.,2004)。低濃度の体液からPSAを収集できるようにするために、本発明者らは、2つの最も強いPSA結合剤バリアント、すなわちN7(K
d=0.16nM)及びC9(K
d=4.7nM)を選択した(
図3)。sdAbを融合ヒスチジンタグで発現させて、尿からの親和性に基づくPSA捕捉のための容易な固定化を促進した。
【0162】
C9及びN7 aPSAバリアントは、それぞれ2及び4個のシステインを含有し、これらは適切なタンパク質フォールディングを標準的な大腸菌(E.Coli)株の細胞質においてあまり効果的にしない(すなわちBL21 DE3及びその誘導体)。更に、N7バリアント由来の2つのシステインは可変領域に位置し、おそらく分子の表面に安定化ジスルフィド結合を形成する。異なるaPSAバリアント(Saerens et al.,2004)にも適用されていたが、ジスルフィド結合形成を支持するペリプラズム発現は、通常、より低いタンパク質収量をもたらす。このため、本発明者らは、細胞質でのジスルフィド結合形成を促進することができる遺伝子操作された大腸菌(E.coli)B株であるShuffleT7 Express細胞をタンパク質発現に使用することを決定した。これらの細胞は、ジスルフィド結合イソメラーゼDsbCを発現することができ、これは、誤って酸化されたタンパク質の正しい形態への補正を促進した(Bessette et al.,1999;Levy et al.,2001)。本発明者らの最適化された産生プロトコルを適用した結果、aPSAバリアントの典型的な収量は8~12mg/L培養物であった。
【0163】
PSA捕捉手順
予備実験は、放出されたN-グリカンのCE分析のための10μl試料中の検出限界(LoD)が約500ngの標準PSAであることを示唆した。最適な生物学的試料源を選択するためにLoD値を考慮すると、血液は、その非常に低いPSA濃度のために除外されなければならなかった。本発明者らの尿試料の標準的なPSA-ELISA試験は、60ng/mlの平均濃度をもたらし、最大120ng/ml及び最小30ng/mlであり、これは文献データと比較してわずかに低かった(Bolduc et al.,2007)。結果は、異なる対象からの試料間、並びに同じ対象であるが異なる提供日からの試料間で大規模に変動した。PSA-ELISA法は、血中PSAレベルを試験するために開発されたので、女性の尿試料も陰性対照として処理し、0ng/ml PSAを得た。女性の尿に陽性対照用の標準PSAも添加し、予想濃度を得た。対照結果は、尿マトリックスがPSA-ELISA試験の精度に影響を及ぼさないことを示唆した。最低濃度を考慮すると、捕捉及び分析のために十分な量のPSAを確実に得るための最低要件は150mlの尿であった。
【0164】
aPSA sdAbを固定化するために、ナノボディのヒスチジンタグに対して強い親和性を示したので、Ni-IMACマイクロカラムを選択した(
図4/1a)。生物学的マトリックスの全てをカラムに効果的に導入するためには、尿の体積を1mlスケールまで減少させる必要があった(すなわち、1000μLピペットチップベースのアフィニティカラムに適合させる。)。試料の含水量の単純な蒸発は、より高い温度が感受性シアル糖構造の喪失及び沈殿の可能性をもたらし得るため、問題であった。したがって、10kDaカットオフ値フィルタを利用したが(
図4/1b)、これは、溶媒及び小さな汚染物質(例えば、糖)を通過させながら、PSAを効果的に保持することができた。尿マトリックスを緩衝液に変更することは、複数のレベルで有益であった。それは、可変尿pH並びに残りの(>10kDa)尿成分の非特異的結合を防ぐ阻害剤として導入されたイミダゾールに起因するsdAb捕捉に対する可能な望ましくない効果を回避するのに寄与した。
【0165】
捕捉剤として、aPSA捕捉能力のバリアントC9及びN7の両方を試験した。異なる平衡結合定数にもかかわらず、それらの結合容量を緩衝溶液からの標準PSA捕捉(データは示さず)によって予備実験で試験した場合、それらはCE分析におけるシグナル強度に関して同等に高い収率をもたらした。最終的に、本発明者らの最終的な選択は、C9バリアントであった。というのは、C9バリアントは、生産及び捕捉の両方の間にわずかに高い収率を提供したからである。溶出工程中に様々な方法も試験し(
図4/3)(変性、EDTA等)、500mMイミダゾールがカラムからナノボディ抗原複合体を除去するのに最良であることが判明した。大腸菌(E.coli)はタンパク質をグリコシル化することができないので、sdAbはグリコシル化されず、すなわち試料からそれらを除去する必要はなかった。しかしながら、高い塩濃度が試料調製ワークフローにおいて後に過剰な標識色素の除去を妨げるので、溶出後に水のための緩衝液を変更することが必要であった(
図4/4)。
【0166】
捕捉方法の初期試験は、緩衝液にスパイクされた標準PSAを用いて促進された。捕捉されたPSAのグリカンプロファイルは、標準PSAプロファイルに対応していた。尿のマトリックス効果を評価するために、標準PSAもまた、女性の尿中にスパイクされ、次いで、女性の尿から捕捉され、スパイク緩衝液と比較して同様の分析信号収率、並びに標準PSAと同様のグリカンプロファイルが得られ、sdAbがマトリックスによって悪影響を受けなかったことが示唆された。濃縮及び捕捉された男性尿の結果も、両方のスパイクバリアントに対応していた。得られた全てのグリカンが尿又はスパイクPSAに由来することを検証するために、非スパイク女性尿を対照として使用し、この場合、グリカン関連ピークは検出されなかった。各グリカンプロファイルを
図5に示す。濃縮及び捕捉された男性尿19から、対応する構造が同定され、それらのピーク面積分布も標準と同様であった。本発明者らは、診療所に容易に適合させることができる高速でハイスループットの方法の開発を目指したので、捕捉された尿PSAグリカンの分離に20cmの有効長キャピラリを利用したことに留意されたい。脱シアリル化グリカンは見出されず、分析ツール及び選択的捕捉手順の両方が、感受性の高い糖構造、例えばシアル酸を保存するための十分に温和な条件を提供したことが証明された。標準PSAと同様に、α2,3-及びα2,6-シアリル化異性体を、モノシアリル化構造及びマルチシアリル化構造の両方、並びにコアフコシル化構造又はバイセクティング構造上で分離した。
【0167】
【手続補正書】
【提出日】2023-05-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿試料、好ましくは雄哺乳動物の尿試料からの
前立腺特異抗原(PSA)分析のための方法であって、
-尿試料を準備する工程と、
-分析のために前記尿試料を調製する工程と、
-前記尿試料から、PSAを、PSA結合分子を使用するアフィニティ分離によって分離して、濃縮PSAを得る工程と、
-前記濃縮PSAからグリカンを放出させて、放出されたPSA-グリカンを得る工程と、
-前記放出されたグリカンをキャピラリ電気泳動(CE)による分離によって分析する工程であって、前記分離された放出グリカンの検出が
蛍光検出によって行われる、工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記分離された放出グリカンの検出が
、レーザー誘起蛍光検出によって
行われ、
前記放出工程と前記分析工程との間に、以下の工程:
前記放出されたPSAグリカンを蛍光色素で標識して、フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを得、前記フルオロフォア標識されたグリカンが検出される工程
が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アフィニティ分離がアフィニティ分配(affinity partitioning)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記尿試料を調製することが、前記試料の予備濃縮を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アフィニティ分離工程において、前記PSA結合分子がナノボディ、特に単一ドメイン抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アフィニティ分配のカラムがクロマトグラフィマイクロカラムであり、前記ナノボディがタグを有し、前記クロマトグラフィカラムが前記タグに結合するマトリックスを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PSAからグリカンを放出させて、放出されたPSA-グリカンを得ることが、酵素的に、好ましくはエンドグリコシダーゼを用いて行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フルオロフォア標識された放出PSAグリカンの少なくともフコシル化グリカン構造及び非フコシル化グリカン構造を分離することによって、前記フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを分析することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンの少なくともα2,3-及びα2,6-シアリル化異性体を分離することによって、前記フルオロフォア標識された放出されたPSAグリカンを分析することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
対象、好ましくは男性対象の尿試料からPSA関連症状を診断するための診断方法であって、
-PSA分析のために請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実施する工程と、
患者の前記試料中の本発明によるグリコシル化パターン(患者グリコシル化パターン)を決定する工程と、
前記グリコシル化パターンを
健康な人から得られる又は健康な人の典型的な正常なグリコシル化パターンと比較する工程と、
を含み、
前記患者グリコシル化パターンと前記正常なグリコシル化パターンとの間に差がある場合、前記患者はPSA関連症状を有するとみなされる、
対象、好ましくは男性対象の尿試料からPSA関連症状を診断するための診断方法。
【国際調査報告】