(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ゲルポリマー電解質を調製するための組成物、ゲルポリマー電解質、及びそれを備えるリチウム金属二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20240806BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240806BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240806BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01B1/06 A
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578096
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2022070614
(87)【国際公開番号】W WO2023002015
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509181611
【氏名又は名称】レプソル,エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス アグアド,フアン
(72)【発明者】
【氏名】アリア モレノ-オルティズ,フランシスコ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア カルボ,オイハネ
(72)【発明者】
【氏名】クバシャ,アンドリー
(72)【発明者】
【氏名】フェデーリ,エリザベッタ
(72)【発明者】
【氏名】ティエウ,トー
(72)【発明者】
【氏名】コンバロ パラシオス,イサスクン
(72)【発明者】
【氏名】ウルダンピレタ ゴンザレス,イドイア
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CD01
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM16
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA16
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
ゲルポリマー電解質を調製するための組成物が提供されている。当該組成物は、LiPF6、LiTFSI、及びLiDFOBの混合物と、フッ素化環状カーボネート溶媒及び直鎖カーボネート溶媒を含む溶媒系と、(メタ)アクリレートモノマーと、重合開始剤と、を含んでなるものである。当該組成物のその場重合によって形成されたゲルポリマー電解質、及び、そのゲルポリマー電解質を備えてなるリチウム金属二次電池もまた提供されている。
【選択図】(なし)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルポリマー電解質を調製するための組成物であって、
電解質塩として、LiPF
6、LiTFSI、及びLiDFOBと、
フッ素化環状カーボネート溶媒及び直鎖カーボネート溶媒を含む、溶媒系と、
(メタ)アクリレートモノマーと、
重合開始剤と、
を含んでなる、組成物。
【請求項2】
Li塩の総モル濃度が、0.8~1.5Mである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記電解質塩が、以下の量:
0.2~1.2MのLiPF
6、
0.2~1.2MのLiTFSI、
0.1~0.5MのLiDFOBである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記電解質塩LiTFSI:LiPF
6:LiDFOBが、1:1:1のモル比である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記フッ素化環状カーボネート溶媒が、
4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(シス-F2EC)、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(トランス-F2EC)、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(4,4-F2EC)、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(F3EC)、並びにそれらの混合物からなる群から選択され、
特に、FECである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記フッ素化環状カーボネートが、溶媒系の総量に対して、2~50重量%、又は5~40重量%、又は10~30重量%、又は20重量%の量である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記直鎖カーボネート溶媒が、
エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)、並びにそれらの混合物からなる群から選択され、
特に、ECとEMCとの混合物であり、
更に特には、EMCである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記直鎖カーボネートが、溶媒系の総量に対して、50~98重量%、又は60~95重量%、又は70~90重量%、例えば80重量%などの量である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記(メタ)アクリレートモノマーが、ペンタエリスリトールテトラクリレート(pentaerythritol tetracrylate:PETEA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリレートモノマーが、当該組成物の総重量に基づいて、1~10重量%、特に2~5重量%の量である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記重合開始剤が、アゾ系開始剤及び過酸化物開始剤からなる群から選択される、請求項1又は10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記重合開始剤が、アゾ系開始剤、特にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)である、請求項1又は11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記重合開始剤が、当該組成物の総重量に基づいて、0.01~1.5重量%、又は0.02~1重量%、又は0.1~0.5重量%の量である、請求項1又は12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物のその場重合によって形成された、ゲルポリマー電解質。
【請求項15】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に挿入されたセパレータと、
請求項14に記載のゲルポリマー電解質と、
を備える、リチウム金属二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年7月23日に出願された欧州特許出願第EP21382673.8号の利益及び優先権を主張する。
【0002】
[技術分野]
本発明は、再充電可能な電池の分野に関する。特に、ゲルポリマー電解質を調製するための組成物、組成物をその場で熱重合することにより形成されるゲルポリマー電解質、及びゲルポリマー電解質を含むリチウム金属二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム金属電池のサイクル寿命及び安全性の改善は、特に電気自動車及びeVTOL用途にとって必須である。一方で、液体電解質を有する一般的なリチウム金属電池は、可燃性液体溶媒の使用、およびセル短絡を引き起こすリチウムデンドライト形成、その結果としての過熱とそれに続く熱暴走のために、サイクル性及び安全性が不充分である。
【0004】
これに関して、固体ポリマー電解質、固体無機電解質及び複合ハイブリッド電解質などの固体電解質系による液体電解質の置換えは、安全性及びサイクル性の懸念を大いに解決する。しかしながら、これらの系は、概して異なる欠点の影響を受ける。例えば、ポリマーベースの電解質は、室温ではイオン伝導性が低く、かつ動作温度(>60℃)では機械的特性が失われており、一方で、無機電解質は、脆く、かつ電極と電解質との間の不充分で抵抗性のある界面接触をもたらし、これはセルの電気化学的性能に影響を及ぼす。
【0005】
これに関連して、ゲルポリマー電解質(gel polymer electrolyte:GPE)は、液体電解質の高いイオン伝導性を、固形状態系の改善された安全性と融合する有効な代替手段を提示する。更に、GPEは、安全性及びサイクル性の両方を改善するために、多種多様な添加剤で容易に修飾することができる。一例として、特許文献1は、ゲル電解質がLiPF6を含有する組成物のその場重合によって得られる二次電池について開示している。
【0006】
いくつかのGPE系リチウム電池が文献に開示されているが、安全性、放電容量、サイクル性、及びクーロン効率の点で改善された性能を有するリチウム電池、特にリチウム金属電池を得るために、GPEの特性を改善する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、リチウム金属セル(lithium metal cells)及びリチウム金属電池(lithium metal batteries)のサイクル性を改善することを可能にする、3つの特定のリチウム塩、フッ素化環状カーボネート、直鎖カーボネート、及び固体ポリアクリル架橋ネットワークを含む、新規のゲルポリマー電解質を見出した。固体様電解質は、液体前駆体をセル又は電池の内部で直接熱処理することによって達成される。全てのGPE構成要素間の相乗効果はセルサイクル性の改善につながり(Liイオン電池用の従来の液体電解質を用いて調製された、その場で形成されたゲルポリマー電解質の6倍)、加えてクーロン効率もまた改善される。
【0009】
本発明のその場重合ゲルポリマー電解質の別の重要な利点とは、セル損傷の場合に液体電解質の漏れを最小限に抑える点である。くわえて、本発明のGPEは、リチウム金属アノード及び異なるカソード材料(NMC622及びNMC811など)との適合性を高めることを可能にすると同時に、一般的なリチウムイオン電池製造技術及び機器(例えば、組み立てられた乾電池への液体前駆体の充填)への適応性もまた可能にする。そのうえ、組成物のゲルポリマー電解質へのその場重合は、従来のLIB製造設備と比較して、特別な設備を必要としないセルへとGPEを組み込むための費用効果の高い方法である。
【0010】
したがって、本発明の第1の態様は、ゲルポリマー電解質を調製するための組成物であって、以下:
- 電解質塩として、LiPF6、LiTFSI、及びLiDFOBと、
- フッ素化環状カーボネート溶媒及び直鎖カーボネート溶媒を含む、溶媒系と、
- (メタ)アクリレートモノマーと、
- 重合開始剤と、
を含む、組成物に関する。
【0011】
本発明の第2の態様は、本明細書の上記及び下記で定義される組成物のその場重合によって、特に熱で開始されるその場重合によって形成される、ゲルポリマー電解質に関する。
【0012】
その場重合(in-situ polymerization)技術は、多孔質電極及びセパレータへの液体前駆体のより効率的な浸透を可能にし、電解質、セパレータ、カソード、及び平坦なLiアノードの間の界面接触を改善し、かつ自立型GPEに基づくシステムと比較して改善された電気化学的性能をもたらすことが知られている。この効果はまた、従来の液体電解質に近い粘度を有する液体前駆体に基づくゲルポリマー電解質でも予測可能であるが、しかし、本発明のゲルポリマー電解質を調製するための組成物などのより粘性の高い前駆体で予想される先験的なものではない。
【0013】
本発明の第3の態様は、リチウム金属二次電池であって、以下:
- 正極と、
- 負極と、
- 正極と負極との間に挿入されたセパレータと、
- 本明細書の上記及び下記に記載のゲルポリマー電解質と、
を備える、リチウム金属二次電池に関する。
【0014】
驚くべきことに、実施例及び比較例から分かるように、本開示で定義されるGPEを含む電池は、驚くほど良好な電気化学的性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】基準液体電解質(liquid electrolyte:LE)(比較例1)、又は比較例1~比較例6のLE(実施例2の表2)を含有するLi-NMC622コインセルの電気化学的性能を、放電容量(Q、mAh/g
NMC)対サイクル数(N)(サイクル条件:3.0~4.3V、0.25C/1C、100%放電深度(Depth of Discharge:DOD)、60℃)に関して示す。
【
図2】基準GPE組成物(比較例1)、実施例1~実施例4の電解質組成物、又は比較例7の電解質組成物(実施例2の表3)から得られたLi-NMC622コインセルの電気化学的性能を、放電容量(Q、mAh/g
NMC)対サイクル数(N)(表1のサイクル条件:3.0~4.3V、0.33C/0.33D、100%DOD、25℃)に関して示す。
【
図3】基準GPE組成物(比較例1)、実施例1~実施例4の電解質組成物、又は比較例7の電解質組成物(実施例2の表3)から得られたLi-NMC622コインセルの、放電容量維持率(capacity retention:CR)80%におけるサイクル数(N)を示す。
【
図4】次の3つのLi-NMC622コインセル:実施例1の電解質組成物から得られたもの(G20_0)、比較例8の電解質組成物から得られた別のもの(1種類のLi塩、LiTFSIのみを含有)、及び比較例9の電解質組成物から得られた別のもの(1種類のLi塩、LiPF6のみを含有)のサイクル性(>150サイクル、0サイクル、及び10サイクル)を示す。
【
図5】次の3つのLi-NMC622コインセル:実施例1の電解質組成物から得られたもの(G20_0)、比較例10の電解質組成物から得られた別のもの(2種類のLi塩、LiPF
6及びLiTFSIのみ含有)、及び比較例11の組成物から得られ別のもの(2種類のLi塩、LiPF
6及びLiTFSIのみを含有)のサイクル性(>150サイクル、0サイクル、及び10サイクル)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本出願において本明細書で使用される全ての用語は、特に明記しない限り、当技術分野で知られている通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用される他のより具体的な定義の用語は以下に記載されており、特に明示的に記載された定義がより広い定義を提供しない限り、明細書及び特許請求の範囲全体にわたって均一に適用されることを意図している。
【0017】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」とは、内容が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
本明細書で使用される全てのパーセンテージは、特に明記しない限り、全組成物の重量による。
【0018】
上述したように、第1の態様は、ゲルポリマー電解質を調製するための組成物であって、以下:電解質塩としてLiPF6、LiTFSI、及びLiDFOBを含む組成物と、フッ素化環状カーボネート溶媒及び直鎖カーボネート溶媒を含む溶媒系と、(メタ)アクリレートモノマーと、重合開始剤と、を含む、組成物に関する。(メタ)アクリレートモノマーという用語は、アクリレートモノマー及びメタクリレートモノマー両方を含むものと理解されるべきである。
【0019】
一実施形態では、ゲルポリマー電解質を調製するための組成物は、電解質塩として、LiPF6、LiTFSI、及びLiDFOBの混合物と、フッ素化環状カーボネート溶媒及び直鎖カーボネート溶媒を含む溶媒系と、(メタ)アクリレートモノマーと、重合開始剤と、からなる。
【0020】
別の実施形態では、上記の実施形態の1つ以上の特徴と任意選択的に組み合わせると、ゲルポリマー電解質を調製するための組成物は、0.8~1.5Mの総Liモル濃度を有する。特に、組成物は、0.2~1.2MのLiPF6、0.2~1.2MのLiTFSI、及び0.1~0.5MのLiDFOBを含む。
【0021】
別の実施形態では、上記の実施形態の1つ以上の特徴と任意選択的に組み合わせると、電解質塩LiTFSI:LiPF6:LiDFOBは、1:1:1のモル比である。
【0022】
したがって、本発明のゲルポリマー電解質を調製するための組成物は、比較的多量のLiDFOB、この技術において現在使用されている有機溶媒中で比較的低い溶解度を有するリチウム塩を含有し得る。
【0023】
一実施形態では、上記の特定の実施形態の1つ以上の特徴と任意選択的に組み合わせると、フッ素化環状カーボネート溶媒は、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC;また、フルオロエチレンカーボネートとしても知られる)、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(シス-F2EC)、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(トランス-F2EC)、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(4,4-F2EC)、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(F3EC)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。より特定の実施形態では、フッ素化環状カーボネート溶媒は、FECである。
【0024】
フッ素化環状カーボネートは、溶媒系の総量に対して、2~50重量%、又は5~40重量%、又は10~30重量%、又は20重量%の量であり得る。
【0025】
実施例に示すように、本発明のゲルポリマー電解質を調製するための組成物は、FECなどのフッ素化環状カーボネートが比較的少量(溶媒系の総量に対して10重量%未満のパーセンテージ)で添加剤として使用される従来技術のLE及びGPEと比較して、比較的多量のフッ素化環状カーボネート、特にFECを含有することができる。この比較的多量のフッ素化環状カーボネートは、Li塩を可溶化する溶媒混合物の能力を低下させ得るとされている。したがって、二次リチウム金属電池などの特定の電池技術では、FECなどの高度にフッ素化された溶媒の存在は安定なSEI層の形成を助け得るが、これらは概して比較的少量(<10重量%)の添加剤として使用される。
【0026】
逆に、本発明のGPE用組成物において、FECなどのフッ素化環状カーボネートは、最大約50重量%まで共溶媒として使用される。くわえて、これは潜在的に有害な量のHFを放出する可能性がある。
【0027】
予想外にも、本発明のGPE用組成物は、非可溶化沈殿物がなく完全に均質であり、したがって、スケールアップが容易である。くわえて、これにより、より少ない量のFECを有するGPE組成物を含有するものと比較して、改善された性能を有するリチウム金属電池を得ることが可能となる。
【0028】
一実施形態では、上記の実施形態の1つ以上の特徴と任意選択的に組み合わせると、直鎖カーボネート溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。より特定の実施形態では、直鎖カーボネート溶媒は、ECとEMCとの混合物、より具体的にはEMCである。
【0029】
直鎖カーボネートは、溶媒系の総量に対して、50~98重量%、又は60~95重量%、又は70~90重量%、例えば80重量%などの量であり得る。
【0030】
一実施形態では、上記の実施形態の1つ以上の特徴と任意選択的に組み合わせると、(メタ)アクリレートモノマーは、ペンタエリスリトールテトラクリレート(pentaerythritol tetracrylate:PETEA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、及びそれらの混合物からなる群から選択される。より特定の実施形態では、(メタ)アクリレートモノマーは、PETEAである。
【0031】
(メタ)アクリレートモノマーは、組成物の総重量に基づいて、1~10重量%、特に2~5重量%の量であり得る。
【0032】
別の実施形態では、上記の実施形態の1つ以上の特徴と任意選択的に組み合わせると、重合開始剤は、アゾ系開始剤及び過酸化物開始剤からなる群から選択される。より特定の実施形態では、重合開始剤は、アゾ系開始剤、特にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)である。
【0033】
重合開始剤は、組成物の総重量に基づいて、0.01~1.5重量%、又は0.02~1重量%、又は0.1~0.5重量%の量であり得る。
【0034】
[ゲルポリマー電解質の調製]
まず、上記したゲルポリマー電解質を調製するための組成物であるGPE前駆体は、
(i)Li塩を溶媒系中に溶解して液体電解質(LE)系を得ることと、
(ii)(メタ)アクリレートモノマーをLE系中に溶解して混合物を得ることと、
(iii)開始剤を工程(ii)の混合物中に溶解することと、
によって調製される。
【0035】
本発明のGPEは、上記したゲルポリマー電解質を調製するための組成物を、当業者に公知の従来法により重合することにより得ることができる。例えば、本発明のGPEは、コインセル又はパウチセルなどの電気化学デバイスの内部において上記された組成物をその場重合することによって調製することができる。
【0036】
[GPEを含有するリチウム金属二次電池]
上述したように、本発明の第3の態様は、リチウム金属二次電池であって、以下:
正極と、負極と、正極と負極との間に挿入されたセパレータと、本明細書の上記に記載のゲルポリマー電解質と、を含む、リチウム金属二次電池に関する。
【0037】
負極は、例として2~100μmの厚さ、特に25~85μmの厚さを有する、リチウム金属又はリチウム合金(Mg、Al、Sn、又はそれらの混合物など)アノードであり得る。正極は、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(NMC622)、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(NMC811)、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(NMC111)、LiFePO4(LFP)、LiMnxFe1-xPO4(LMFP)、LiNixMn2-xO4(LNMO)、又はLiNi0.96Mn0.01Co0.03O2(LiリッチNMC)系カソードとすることができ、特に、1.0~5.0mAh/cm2の負荷、特に3.0~3.5mAh/cm2の負荷、及び2.5~3.8g/cm3の密度、特に3.0~3.5g/cm3の密度を有することができ、かつセパレータは、電池グレードのセラミックコーティング多孔質セパレータなどの微孔質セパレータとすることができる。
【0038】
GPE調製方法は、以下:
(i)正極、負極、及び正極と負極との間に挿入されるセパレータを一緒に並べて、電極組立体を形成することと、
(ii)本発明のゲルポリマー電解質を調製するための組成物を電極組立体へと注入することと、
(iii)ポリマーをその場重合してゲルポリマー電解質を形成することと、
を含む。
【0039】
その場重合は熱開始重合によって行うことができる。重合時間は、通常0.1~24時間、例えば4~8時間などである。重合は、約50℃~90℃、例えば70℃などの温度で行うことができる。
【0040】
上述したプロセスによって得られるGPEもまた本発明の一部を形成する。
【0041】
リチウム金属二次電池は、負極と正極とを、その間に挿入されたセパレータにより組み立て、電池容器に入れ、この電池容器中へと本発明のゲルポリマー電解質を調製するための組成物を注入し、電池容器を封止し、電解質組成物を重合させるためにその場重合を行うことによって得ることができる。
【0042】
上述したプロセスによって得られるリチウム金属二次電池もまた本発明の一部を形成する。
【0043】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、単語「備える(comprise)」及びこの単語の変形は、他の技術的特徴、添加物、構成要素、又は工程を排除することを意図しない。更に、単語「含む(comprise)」とは、「からなる(consisting of)」の場合を包含する。
【0044】
以下の実施例及び図面は説明のために提示され、これらは本発明を限定することを意図するものではない。更に、本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態の全ての可能な組合せを網羅する。
【実施例】
【0045】
[実施例1.GPEと、コインセルの調製]
(A)GPE調製のための材料
電池グレードのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、および、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI,
Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)塩は、Solvionic社(フランス)から購入した。ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiDFOB,
Lithium difluoro(oxalato)borate)はMerck社から購入した。これらの電池グレードの材料は全て低い含水量(<20ppm)を保有する。それにもかかわらず、LiDFOB及びLiTFSIを、使用前に110℃で24時間更に乾燥させた。電池グレードのEMC及びFECカーボネート溶媒もまたSolvionic社(フランス)から購入し、更なる精製も乾燥もせずに使用した。ポリマー前駆体のペンタエリスリトールテトラクリレート(PETEA,Pentaerythritol tetracrylate)、および開始剤の2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)は、受け取ったままの状態で使用した。
【0046】
(B)GPE前駆体の調製
以下のプロセスに従って、実施例1のGPE用の組成物(前駆体、すなわち重合前)を調製した(本明細書では「G20_0」と称する):
1MのLiTFSI、LiDFOB、及びLiPF6(1:1:1モル)を、EMC:FEC(7:3体積)中に溶解する。PETEA(1.5重量%)及びAIBN(0.1重量%)を架橋系として加える。このG20_0前駆体溶液を、磁気撹拌(VELP Scientifica、スペイン)によって20℃の乾燥室(露点-50℃)で調製した。混合物を、予め組み立てられたコインセル(2025、宝泉(Hohsen)、日本)を充填するために用いる前に、アクリレートモノマーの溶媒蒸発及び/又は早すぎる架橋を回避するために、閉じた琥珀色のバイアル中に保存した。
【0047】
(C)コインセル材料及び調製
96重量%の市販のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物粉末(NMC622)、2重量%のカーボンブラックC45(Imerys、スイス)、及び2重量%のポリフッ化ビニリデンバインダーSolef 5130(Solvay、イタリア)に基づく正極を、市販の炭素コーティングアルミニウム集電材上にスラリー鋳造法によって調製した。セルエネルギー密度を最大にするために、3.3mAh・cm-2の負荷及び3.0g・cm-3の密度を有する正極を設計した。直径(φ)16.60mmの正極ディスクを真空オーブン(Memmert、VO400)内で120℃にて16時間にわたり乾燥させた後、セルを組み立てた。
【0048】
φ18.20mm及び厚さ50μm(Albemarle、米国)のリチウム金属ディスクを対電極として使用した。
ゲル電解質前駆体のその場重合が行われるまで、セル組み立て最中の直接短絡を回避するために、φ18.92mmを有する電池グレードのセラミックコーティング多孔質セパレータのディスク1枚を利用した。
【0049】
リチウム金属アノード、NMC622系カソード、及びセラミックコーティング多孔質ポリオレフィンセパレータからなるコインセルに、上記のセクション(B)に記載のGPE前駆体50μLを充填した。次いで、クリンパ(HSACC-D2025、宝泉、日本)でセルを閉じ、最大70℃/真空まで6時間(VD053-230V、Binder)加熱して、固体様のゲルポリマー電解質系セルを得た。
【0050】
試験した各電解質試料(以下の表2及び表3を参照)について、少なくとも3つの同等のコインセルを常に組み立てて再現性を確保した。
【0051】
本発明のGPEに使用される液体電解質を開発するために、以下2つの要因の影響を調査した:
(a)異なるLi塩混合物、及び
(b)異なる溶媒混合物。
【0052】
[比較例1~6.異なるLi塩混合物を含有する液体電解質を用いたセル性能]
調査した材料がゲルポリマー電解質であったとしても、液体分率は、参照組成物中の主要部分を依然として表す。このため、高性能電解質の開発は、その液体分率の改善に対処すべきである。
EC:EMC:DMC(1:1:1体積)中の1M LiPF6で構成されるSolvionicから購入した市販の液体電解質を参照として使用した。
【0053】
表1は、異なるLi塩混合物の影響を調査するために最初に開発された幾つかの液体電解質(LE)組成物をまとめたものである。
【0054】
【0055】
Solvionic社の市販の液体電解質を用いた参照例を含む、表2に示す液体電解質配合物を用いてコインセルを調製した。モノマー及び開始剤を添加せず、その場重合を行わなかったことを除いて、実施例1で説明したものと同様にコインセルを調製した。
【0056】
比較例1~比較例6の電解質を伴うコインセルを、以下の表2に詳述されているプロトコル(0.25C/1C、3.0~4.3V、100%DOD、60℃として単純化)を適用して、60±1℃のセル試験システム(CTS、Basytec GmbH)でサイクルした。
【0057】
【0058】
図1に示すように、3種類の塩の組合せ(LiTFSI:LiPF
6:LiDFOB)は、同じ溶媒の混合物中に全て溶解した2種又は1種のみのLi塩を有する電解質よりも、コインセルのサイクル性に関して良好な結果を提供した(EC:EMC:DMC(1:1:1体積))。
【0059】
[実施例2~4及び比較例7.異なる溶媒混合物を含有するGPEを用いたセル性能]
表3に、異なる溶媒混合物を含有するいくつかのGPE配合物を示す。
【0060】
【0061】
コインセルを、表3の電解質配合物を用い、実施例1に記載のプロセスを実施することによって調製した。すなわち、電解質組成物は、その場重合プロセス後に、GPE系コインセルで直接試験された。
【0062】
実施例1、実施例2~4、比較例1(参照)、及び比較例7の電解質を有するコインセルを、以下の表4に詳述したプロトコル(0.33C~0.33C、3.0~4.3V、100%DOD、25℃として単純化)を適用して、25±1℃のセル試験システム(CTS、Basytec GmbH)でサイクルした。
【0063】
【0064】
図2及び
図3に示すように、本発明の実施例の電解質組成物では、選択された3種の塩と、フッ素化環状カーボネート(FEC)及び少なくとも1つの直鎖カーボネート(EMC、又はEMC及びEC;実施例1~4の電解質を参照)を含む溶媒系との間の相乗効果が観察される。この相乗効果は、1種(比較例1、2及び7)又は2種の塩(比較例3、4及び6)及び溶媒の異なる混合物を有する異なる電解質組成物と比較して、コインセルのサイクル性などの電気化学的性能(その場形成されたGPEを含む)を改善することを可能にする。
【0065】
実施例1の電解質組成物は、比較的多量のLiDFOB塩を含有しており、これは、本技術で現在使用されている有機溶媒への溶解度が比較的低い化合物であることに留意しなければならない。実際、従来技術では、LiDFOB(又は同様の低可溶性Li塩)が添加剤(<5重量%)として使用されるいくつかの例が存在する。
【0066】
更に、多量のFECを含有する実施例1の電解質組成物は、非可溶化沈殿物がなく、完全に均質である。
【0067】
結論として、本発明のその場形成されたGPE中の全ての構成要素間の相乗効果は、リチウム金属電池中に1種又は2種のリチウム塩及び/又は異なる溶媒系のいずれかを含有する試験されたその場形成されたゲルポリマー電解質の1つと比較して、改善されたサイクル性をもたらす。
【0068】
[比較例8及び9]
セルコインを、表5に示す比較例8及び9の1種のLi塩を含む2種の電解質組成物から調製した。
セル試験条件は以下の通りであった:Li金属/GPE/NMC622;0.33C~0.33C、3.0~4.3V、100%DOD、25℃。
【0069】
【0070】
図4から分かるように、実施例1の電解質組成物(G20_0)は、比較例8及び9の電解質組成物よりも、初期放電容量、サイクル性、及びクーロン効率(>150サイクル、0サイクル、及び5サイクル)の組合せにおいて、はるかに優れた電気化学的性能を提供する。
【0071】
[比較例10及び11]
セルコインを、表6に示す比較例10及び11の2種のLi塩を含む2種の電解質組成物から調製した。
セル試験条件は以下の通りであった:Li金属/GPE/NMC622;0.33C~0.33C、3.0~4.3V、100%DOD、25℃。
【0072】
【0073】
図5から分かるように、実施例1の電解質組成物(G20_0)は、比較例10および11の電解質組成物よりも、サイクル性及びクーロン効率(>150サイクル、4サイクル、及び14サイクル)の点において、はるかに優れた電気化学的性能を提供する。
【符号の説明】
【0074】
(なし)
【国際調査報告】