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特表2024-529833熱時間応答を改善した熱流ベースのプロセス流体温度推定システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】熱時間応答を改善した熱流ベースのプロセス流体温度推定システム
(51)【国際特許分類】
   G01K 17/00 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
G01K17/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579189
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 US2022034839
(87)【国際公開番号】W WO2022272021
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/215,033
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597115727
【氏名又は名称】ローズマウント インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ウィルコックス,チャールズ・アール
(57)【要約】
プロセス流体温度推定システム(200)は、プロセス流体温度推定システム(200)をプロセス流体導管(100)の外面に取り付けるように構成された取り付けアセンブリ(202)を含む。センサカプセル(206)が、その中に配置された少なくとも一つの温度感知素子を有し、少なくとも、プロセス流体導管(100)の外面の温度を感知するように構成されている。測定回路(228)がセンサカプセル(206)に結合され、温度とともに変化する、少なくとも一つの温度感知素子の特性を検出し、センサカプセル温度情報を提供するように構成されている。制御装置(222)が測定回路(228)に結合され、プロセス流体導管(100)の外面の温度測定値を取得するように、かつ、基準温度を取得し、基準温度と、外面温度測定値と、センサカプセル中の外面温度センサと基準温度との間の既知の熱的関係とを用いる熱伝達計算を用いて、推定プロセス流体温度出力を生成するように構成されている。制御装置(222)はまた、プロセス流体推定システムの応答時間を数学的に改善するように構成されている。いくつかの例において、制御装置(222)は、測定データからシステムタウ値を抽出するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセス流体温度推定システムをプロセス流体導管の外面に取り付けるように構成された取り付けアセンブリと;
中に配置された少なくとも一つの温度感知素子を有し、少なくとも、前記プロセス流体導管の前記外面の温度を感知するように構成されたセンサカプセルと;
温度とともに変化する、前記少なくとも一つの温度感知素子の特性を検出し、センサカプセル温度情報を提供するように構成された、前記センサカプセルに結合された測定回路と;
前記プロセス流体導管の前記外面の温度測定値を取得するように、かつ、基準温度を取得し、前記基準温度と、前記外面温度測定値と、前記センサカプセル中の外面温度センサと前記基準温度との間の既知の熱的関係とを用いる熱伝達計算を用いて、推定プロセス流体温度出力を生成するように構成された、前記測定回路に結合された制御装置と
を含み、前記制御装置が、プロセス流体推定システムの応答時間を数学的に改善するように構成されている、プロセス流体温度推定システム。
【請求項2】
前記制御装置が、離散化微分方程式を用いることによって前記応答時間を数学的に改善するように構成されている、請求項1記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項3】
前記制御装置が、複数の離散化微分方程式を用いるように構成されている、請求項2記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項4】
前記制御装置が、熱変化のタイプに基づいて前記複数の離散化微分方程式の一つを選択するように構成されている、請求項3記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項5】
熱変化のタイプがステップ変化である、請求項4記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項6】
熱変化のタイプがランプ変化である、請求項4記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項7】
前記制御装置が、前記外面温度測定値の一次微分を経時的に計算することによって前記複数の離散化微分方程式の一つを選択するように構成されている、請求項4記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項8】
前記制御装置が、前記外面温度測定値の二次微分を経時的に計算することによって前記複数の離散化微分方程式の一つを選択するように構成されている、請求項7記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項9】
前記制御装置が、前記プロセス流体導管の前記外面の生の温度測定値のセットから応答時間(タウ)を抽出するように構成されている、請求項1記載のプロセス流体温度推定システム。
【請求項10】
プロセス流体温度推定システムを作動させる方法であって、
プロセス流体導管の外面の温度の示度を受けるステップ;
前記プロセス流体導管の前記外面とで既知の熱的関係を有する基準温度の示度を受けるステップ;
前記プロセス流体温度推定システムのプロセッサを用いて、前記プロセス流体導管の前記外面の温度の示度及び前記基準温度の示度に基づいて熱流計算を実行して、プロセス流体温度出力を提供するステップ;及び
制御装置によって少なくとも一つの離散化微分方程式を実行して、前記プロセス流体推定システムの応答時間を改善するステップ
を含む方法。
【請求項11】
前記微分方程式が一次時定数タウを使用する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記時定数タウが、前記プロセス流体導管の熱的性質を記述する式を使用して決定される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記時定数タウが、前記プロセス流体導管及びプロセス流体の前記熱的性質を記述する式を使用して決定される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記時定数タウが、前記プロセス流体導管の前記外面の温度の一連の示度から経時的に抽出される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
有効なタウ抽出の領域が、前記プロセス流体導管の前記外面の温度の一連の示度の第一の時間微分から経時的に決定される、請求項10記載の方法。
【請求項16】
有効なタウ抽出の領域が、前記プロセス流体導管の前記外面の温度の一連の示度の第二の時間微分から経時的に決定される、請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
プロセス工業は、化学、パルプ、石油、医薬品、食品及び他の流体加工プラントにおける固体、スラリー、液体、蒸気及びガスなどの物質と関連するプロセス変量をモニタするためにプロセス変量トランスミッタを用いる。プロセス変量としては、圧力、温度、流量、レベル、濁度、密度、濃度、化学組成及び性質がある。
【0002】
プロセス流体温度トランスミッタは、プロセス流体温度に関連する出力を提供する。温度トランスミッタ出力は、プロセス制御ループを介して制御室に送ることもできるし、プロセスをモニタし、制御することができるような別のプロセスデバイスに送ることもできる。
【0003】
従来、プロセス流体温度トランスミッタは、サーモウェルに結合されていたか、そのようなサーモウェルを用いたものであり、サーモウェルが、プロセス流体と熱的に連絡する温度センサを提供し、他の点では、温度センサをプロセス流体との直接接触から保護していた。サーモウェルは、プロセス流体と、サーモウェル内に配置された温度センサとの実質的な熱接触を保証するために、プロセス流体内に配置される。サーモウェルは通常、プロセス流体によって提供される数多くの攻撃に耐えることができるよう、比較的頑丈な金属構造を使用して設計されている。そのような攻撃としては、物理的攻撃、たとえば、比較的高い速度でサーモウェルを通過するプロセス流体;熱的攻撃、たとえば極端に高い温度;圧力攻撃、たとえば高圧で搬送又は貯蔵されるプロセス流体;及び化学的攻撃、たとえば苛性プロセス流体によって提供される攻撃を挙げることができる。さらに、サーモウェルは、プロセス施設の中へ設計することが困難であることがある。そのようなサーモウェルは、サーモウェルを取り付け、タンク又はパイプなどのプロセス容器の中に延ばすプロセス侵入を必要とする。このプロセス侵入そのものが、プロセス流体が侵入点で容器から漏れないよう、注意深く設計され、制御されなければならない。
【0004】
サーモウェルの構造完全性を損なうおそれがある要因がいくつかある。場合によっては、すべての要因を完全に考慮することはできず、ときには、サーモウェルが曲がったり、さらには破損したりして、有意な期間、プロセス施設を運転停止させることを要してきた。いくつかの用途の場合、サーモウェルは単に、潜在的な損傷なしで使用することはできない。そのような用途においては、非侵襲的プロセス流体温度計算システムを使用することが有益である場合もあるし、求められる場合さえある。そのようなシステムなしでは、パイプクランプセンサを使用して、温度センサをパイプなどのプロセス容器に結合する。そのような非侵襲的プロセス流体温度計算は、プロセス侵入を要することもないし、サーモウェルを直にプロセス流体にさらすこともないという利点を提供するが、その代償もある。具体的には、非侵襲的プロセス流体温度計算システムは通常、プロセス流体温度の検出において、プロセス流体の中へ延びて温度を直に測定するサーモウェルよりも精度が低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような、パイプの外に位置する非侵襲的温度センサを使用する要望は重要であるが、ユーザは一般に、サーモウェルセンサの応答時間により慣れている。これが、熱流ベースの温度推定システムを使用する場合にも同様な期待を抱かせる。熱流ベースの温度推定システムセンサの応答時間の改善は、この障壁を取り除き、ユーザによる採用を容易にするのに役立ち、現在はサーモウェルによって享有される適用分野を増すであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
プロセス流体温度推定システムは、プロセス流体温度推定システムをプロセス流体導管の外面に取り付けるように構成された取り付けアセンブリを含む。センサカプセルが、その中に配置された少なくとも一つの温度感知素子を有し、少なくとも、プロセス流体導管の外面の温度を感知するように構成されている。測定回路がセンサカプセルに結合され、温度とともに変化する、少なくとも一つの温度感知素子の特性を検出し、センサカプセル温度情報を提供するように構成されている。制御装置が測定回路に結合され、プロセス流体導管の外面の温度測定値を取得するように、かつ、基準温度を取得し、基準温度と、外面温度測定値と、センサカプセル中の外面温度センサと基準温度との間の既知の熱的関係とを用いる熱伝達計算を用いて、推定プロセス流体温度出力を生成するように構成されている。制御装置はまた、プロセス流体推定システムの応答時間を数学的に改善するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本明細書に記載される実施形態が特に適用可能であるプロセス流体温度推定システムの図である。
図1B】本明細書に記載される実施形態が特に適用可能であるプロセス流体温度推定システムのブロック図である。
図1C】プロセス流体導管に対する熱流を電気回路としてモデル化する図である。
図2】集中定数熱モデルの図である。
図3】集中定数熱モデルの簡素化形態の図である。
図4A-4B】入力温度Tprocess図3の熱システムに提示される例示的問題(140秒の任意のシステムタウ値を使用)を示す。
図4C】Tmeasured曲線トラッキングを図4Aの計算入力Tprocess曲線とともに示す。
図5A】入力温度Tprocessが上昇温度ランプ及び下降温度ランプで構成されているもう一つの例を示す。
図5B】Tmeasured曲線トラッキングを計算Tprocessとともに示す。
図6A】ステップ及び正弦波状温度スイングで構成された入力を示す例である。
図6B】本明細書に記載される実施形態を使用した測定応答及び計算応答である。
図7】プロセス流体温度ステップ入力及び測定応答を示すチャートである。
図8A-8B】プロセス流体温度ステップ変化の場合の測定温度の第一の時間微分及び第二の時間微分をそれぞれを示す。
図9】ステップ入力の場合の有効期間中のリアルタイム抽出タウ値を示す。
図10】プロセス流体温度ランプ入力及び測定応答を示す。
図11A-11B】プロセス流体温度のランプ変化の場合の測定温度の第一の時間微分及び第二の時間微分をそれぞれを示す。
図12A】ランプ入力の場合の一次時間微分抽出タウ値を有効期間中の時間に対して示す。
図12B】ランプ入力の場合の二次時間微分抽出タウ値を有効期間中の時間に対して示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
例示的な実施形態の詳細な説明
図1Aは、本明細書に記載される実施形態が特に適用可能であるプロセス流体温度推定システムの図である。図示するように、システム200は一般に、導管又はパイプ100を締め付けるように構成されているパイプクランプ部分202を含む。パイプクランプ202は、クランプ部分202をパイプ100に配置し、締め付けることを可能にするために、一つ以上のクランプイヤー204を有することができる。図1Aに関して例示されるクランプが特に有用であるが、本明細書に記載される実施形態にしたがって、パイプの外面にシステム200を確実に配置するのに適当な機械的構造を使用することもできる。
【0009】
システム200は、ばね208によってパイプの外径に押し当てられる熱流センサ206を含む。用語「カプセル」は、特定の構造又は形状を暗示することを意図したものではなく、したがって、多様な形状、サイズ及び構造で形成されていることができる。センサカプセル206は一般に、一つ以上の温度感知素子、たとえば測温抵抗体(RTD)又は熱電対を含む。カプセル206内のセンサはハウジング260内のトランスミッタ回路に電気的に接続され、その回路は、センサカプセル206から一つ以上の温度測定値を取得し、センサカプセル206からの測定値及び基準温度、たとえばハウジング260内で測定された、又は他のやり方でハウジング260内の回路に提供された温度に基づいてプロセス流体温度の推定値を計算するように構成されている。
【0010】
一例において、基本的な熱流計算は以下のように簡素化することができる。
corrected=Tskin+(Tskin-Treference)*(Rpipe/Rsensor
【0011】
この式中、Tskinは、パイプ100の外面の測定温度である。Treferenceは、既知の熱インピーダンス(Rsensor)を有する位置に関して、Tskinを測定する温度感知素子から得られた第二の温度である。Treferenceは、ハウジング260内の専用のセンサによって感知することができる。しかし、Treferenceは、他の方法で感知又は推測することもできる。たとえば、温度センサを、熱伝達計算における最終温度測定に代わるために、トランスミッタの外に配置することもできる。この外部センサは、トランスミッタを取り巻く環境の温度を測定することになる。もう一つの例として、産業用電子機器は通常、オンボード温度測定能力を有する。この電子機器温度測定値を最終温度の代わりとして熱伝達計算に使用することができる。もう一つの例として、システムの熱伝導率が既知であり、トランスミッタの周囲温度が固定又はユーザ制御されるならば、固定又はユーザ制御される温度を基準温度として使用することができる。
【0012】
pipeは、導管の熱インピーダンスであり、パイプ材料情報、パイプ壁厚さなどを得ることによって人為的に取得することができる。あるいはまた、Rpipeに関するパラメータを校正中に決定し、使用に備えて記憶しておくこともできる。したがって、上記のような適当な熱流束計算を使用して、ハウジング260内の回路は、プロセス流体温度の推定値(Tcorrected)を計算し、そのようなプロセス流体温度に関する示度を適当なデバイス及び/又は制御室に伝達することができる。図1に示す例において、そのような情報は、アンテナ212を介してワイヤレスで伝達することができる。
【0013】
図1Bは、本発明の実施形態が特に適用可能である熱流測定システム200のハウジング260内の回路210のブロック図である。回路210は、制御装置222に結合された通信回路220を含む。通信回路220は、推定プロセス流体温度に関する情報を伝達することができる適当な回路であることができる。通信回路200は、熱流測定システム200がプロセス通信ループ又はセグメントを介してプロセス流体温度出力を送ることを可能にする。プロセス通信ループプロトコルの適当な例は、4~20ミリアンペアプロトコル、Highway Addressable Remote Transducer(HART(登録商標))プロトコル、FOUNDATION(商標)フィールドバスプロトコル及びWirelessHARTプロトコル(IEC62591)を含む。
【0014】
熱流測定システム200はまた、矢印226によって示すようにシステム200の全構成部品に電力を提供する電源モジュール224を含む。熱流測定システム200が有線プロセス通信ループ、たとえばHART(登録商標)ループ又はFOUNDATION(商標)フィールドバスセグメントに結合している実施形態において、電源モジュール224は、システム200の様々な構成部品を作動させるためにループ又はセグメントから受けた電力をコンディショニングするための適当な回路を含むことができる。したがって、そのような有線プロセス通信ループ実施形態において、電源モジュール224は、デバイス全体が、それが結合しているループによって給電されることを可能にするのに適当な電力コンディショニングを提供することができる。他の実施形態において、ワイヤレスプロセス通信が使用される場合、電源モジュール224は、バッテリなどの電力源と、適当なコンディショニング回路とを含むことができる。
【0015】
制御装置222は、カプセル206内のセンサからの測定値及びさらなる基準温度、たとえばハウジング260内の最終温度を使用して熱流ベースのプロセス流体温度推定値を生成することができる適当な構造を含む。一例において、制御装置222はマイクロプロセッサである。制御装置222は通信回路200に通信的に結合している。
【0016】
測定回路228が制御装置222に結合され、一つ以上の温度センサ230から得られた測定値に関するデジタル示度を提供する。測定回路228は、一つ以上のアナログ・デジタル変換器及び/又は一つ以上のアナログ・デジタル変換器をセンサ230にインタフェースさせるための適当な多重化回路を含むことができる。加えて、測定回路228は、用いられる様々なタイプの温度センサに適切であるような、適当な増幅及び/又は線形化回路を含むことができる。
【0017】
熱流ベースの温度センサの場合、その熱伝達関数はH(t)と示され、これは、プロセス流体温度の変化に対するその熱応答を表す。加えて、Tp(t)は、計算されるプロセス温度であると定められ、Tm(t)は、測定出力であると定められる。そして、問題は、H(t)及びTm(t)の測定値を与えられて、Tp(t)の値(すなわちプロセス流体温度)を決定することである。プロセス温度はリアルタイムで直に抽出されているため、この手順は本質的に熱流センサの時間応答を除く。
【0018】
この手法は、より複雑なシステムへと一般化することができる簡単なケースを考えることにより、よりよく理解することができる。図1Aに示す熱流ベースの温度推定システムの場合、流体、パイプ及びモジュールは、図1Cに示す集中定数熱システムとして近似される。そのようなシステムは、熱抵抗器及びキャパシタで構成された、節点温度が電圧とアナログ等価である電気回路とみなすことができる。
【0019】
図1C中、Rconvectionは、プロセス流体からパイプ内壁への熱対流による実効熱インピーダンスである。Rpipe及びCpipeはパイプの熱抵抗及び熱容量を表す(集中定数モデルは、連続体システムをよりよく近似するために、より小さな要素へと分解することができるが、解の手順は本質的に同じであり、よってこの簡素化モデルを使用し得ることに留意すること)。最後に、モジュールと関連する熱抵抗及び熱容量は、プロセス流体条件にかかわらず一定のままである。
【0020】
図2は、同じ集中定数熱モデルを、各セクションの対応する時定数(タウ)及び温度節点とともに示す。モジュールセクションは固定されているため、基本的なシステムが理解されたならば、後で加えることができる。したがって、明瞭にするため、以下の解析では無視する。
【0021】
図3は、集中定数熱モデルの簡素化形態の図である。図3中、問題の簡素化形態が示されている。Rconvection及びRpipeは、直列であるため、Rtotalへと組み合わされていることに留意すること。R-C積は、時間の単位を有し、τによって示されている(すなわち、τ=Rtotal・Cpipe)。通常、任意の入力Tp(t)(Tprocess(t)の略)及びTm(t)(Tmeasured(t)、すなわち測定応答温度の略)を求めてこのような問題を解くためには、畳み込み積分を解く時間領域又はラプラス変換を使用する複素周波数領域で作業を実施することができる。簡素化システムのラプラス変換表現は以下のように書き表すことができる。
【0022】
m(s)=Tp(s)・H(s) 式1
【0023】
式中、図3に示す構成の場合のH(s)は単に1/(1+s・τ)である。一般に、任意の関数のラプラス変換は以下にしたがって定められる。
【0024】
【数1】
【0025】
式中、sは複素数周波数パラメータs=σ+iωである(σ及びωは実数)。この式の利点は、Tp(s)の解が簡単な代数式、すなわち
【0026】
【数2】
【0027】
によって求められることである。
【0028】
しかし、有効であるためには、Tp(s)は、逆ラプラス変換を使用して時間領域に戻される必要がある。これは、記号を用いて以下のように書き表される。
【0029】
【数3】
【0030】
式中、逆ラプラス変換は以下にしたがって定められる。
【0031】
【数4】
【0032】
残念ながら、逆ラプラス計算は、連続ベースでリアムタイムに実現することは困難である。この困難さのせいで、ラプラス変換は通常、Z変換へと書き換えられ、離散的抽出データに適したものになる。これが複素伝達関数に好ましい手法であるが、図3の場合、より簡単でより直接的なやり方で解くことができる。測定温度Tm(t)を求めて解くべき問題を思い出すと、Tp(t)は、連続時間ベースで計算されなければならない。Rtotal及びCpipeは既知であり、したがって、τ(=Rtotal・Cpipe)もまた既知である。ゆえに、数学的にTp(t)を計算することができる。図3の一次システムを解く微分方程式は以下である。
【0033】
【数5】
【0034】
これを、離散時間ステップΔtのための有限差分方程式へと変換することができる。
【0035】
【数6】
【0036】
式7は、プロセス流体温度推定システムの時間応答を改善するために使用することができる離散化微分方程式の例である。この式は、Δtのサンプリング周期で取得されたデータを使用してコンピュータ又はマイクロプロセッサ上でリアルタイムで解くことができる。
【0037】
図4A及び4Bは、入力温度Tprocess(参照番号30)が図3の熱システムに提示される例示的問題(140秒の任意のタウ値を使用)を示す。得られたTmeasured温度が、図4B中、参照番号302で標識されている。二つの曲線を比較すると、測定応答中にタウのオーダの顕著な遅れを認めることができる。これが、加速されるべき時間応答である。
【0038】
測定データに式7を適用すると、図4Cで304と標識される曲線が得られる。明らかに、図4Cの計算Tprocess(Calc)曲線は、図4Aの実入力Tprocess曲線(300)と一致する。したがって、式7の使用は、正しいタウ(τ)値(すなわち、実システム応答のタウの値)を与えられるならば、Tmeasuredにおける応答の遅れを効果的に除く。入力プロセス温度は、予測されてはいないが、Tmeasured(この簡単な例ではタウを特徴とするシステム応答とともにその中に埋められた情報を有する)から抽出されることが注目されるべきである。140秒のタウ値の使用はこのモデル化システムに特有であることに留意すること。他の値を使用することもできた。たとえば、この例において、タウが140秒よりも大きいならば、遅れはより小さくなり、タウが140秒よりも小さいならば、遅れはより大きくなるであろう。
【0039】
図5A及び5Bは、入力温度Tprocess(参照番号306)が上昇温度ランプ及び下降温度ランプで構成されているもう一つの例を示す。ここでもまた、システム応答が140秒のτ値を有すると仮定して、式7を使用してTmeasured図5Bの参照番号308曲線)を読み、Tprocess(Calc)(参照番号310曲線)を抽出した。先の例におけるように、式7を使用した図5B中の計算Tprocess(Calc)310線は、実Tprocess値(図5A中の曲線306)を高レベルに再現する。
【0040】
ステップ及び正弦波状温度スイングで構成された入力を示す最後の一例が図6Aに示されている。図6Bは、測定応答(参照番号312)及び式7を使用した計算応答(参照番号314)である。ここでもまた、測定温度データからの実プロセス温度の抽出における優れた忠実度が示されている。
【0041】
上記例は、上述の手法の有効性を例示し、プロセス応答関数が既知である、又は同等にシステム実効タウ値であるという条件で、測定された信号を使用して熱流ベースのプロセス流体温度推定システムの応答時間を効果的に加速する方法を提示する。上記計算の中でモジュールの時間応答は無視されているが、その時定数を容易に特性評価し、単にそれを近似値としてプロセスタウに加えることにより(プロセスタウよりもずっと小さいという条件で)、又はより正確には、Z変換式を介してそれを伝達関数に組み込むことにより、システム応答関数に加えることができる。
【0042】
プロセスタウ値を知ることは、前記手法にとって重要であり、パイプの詳細(たとえばラインサイズ、壁厚さ及びパイプ材料)ならびに流体の性質(たとえば液体か気体か、流速、温度など)に依存する。パイプ材料及びラインサイズならびに流れ条件に関して熱インピーダンス値及び対流値を妥当な精度で推定するのに適した式は存在する。しかし、生の測定温度データから直にシステム応答時定数を抽出することがより望ましく、より正確である。これを達成することができる方法を見るために、式6及びその第二の時間微分(式8と標識)を考えてみる。
【0043】
【数7】
【0044】
これらの式を使用して測定温度データから値τを決定することができる具体的なケースが二つある。
【0045】
第一のケースでは、プロセスが温度をステップ状に変化させるならば、ステップの終了直後に、プロセス温度は一定であるが、測定温度はなおも変化している期間が存在する。この領域の範囲では、二つの異なる時間t1及びt2に関してTp(t1)=Tp(t2)である(ただし、Tm(t1)≠Tm(t2))。この条件が満たされるとき、式6を使用して、以下にしたがってτを評価することができる。
【0046】
【数8】
【0047】
式中、Tm=Tmeasuredである。
【0048】
第二のケースでは、プロセス温度がランプアップ又はランプダウンするとき、ランプ率がほぼ一定である(すなわち、二つの異なる時間ステップにおける微分がほとんど同じであり、その結果、dTp(t1)/dt≒dTp(t2)/dtならば、式8から、以下を示すことができる。
【0049】
【数9】
【0050】
式9又は10を使用するためには、それらを適切に適用することができる場合に関するいくらかの知識が求められる。残念ながら、これは、Tp(t)から直にはわからない。理由は、それこそが抽出されなければならないものであるからである。しかし、適用領域を決定するのに役立つことができる、Tm(t)の時間微分中に埋め込まれた情報がある。
【0051】
ケース1の場合、有効範囲は、測定温度の一次及び二次時間微分をモニタすることによって決定することができる。図7中、プロセス温度(図7に参照番号316で示す)中のステップ及び測定応答(参照番号318で示す)がある場合を考えてみる。
【0052】
図8A及び8Bは、プロセス温度(324)中のステップ変化の場合の測定温度の第一時間微分(図8Aの参照番号320)及び第二の時間微分(図8Bの参照番号322)をプロットしたものである。微分値は右側の軸に示されている。図8Aを精査すると、Tprocessステップ変化の始まりでTm(t)の第一の時間微分に鋭い不連続部がある。加えて、図8Bでは、ステップの始まりでTm(t)の二次時間微分に符号の反転が示されている。これらは、プロセス温度中で温度のステップ遷移が起こっており、タウの値を抽出するための式9の適用が正当化されるという合図である。
【0053】
図9は、有効期間中で式9を使用した、参照番号326におけるリアルタイム抽出タウ値を示す。抽出されたタウ値(右軸)は、実システム応答である140秒に非常に近い。システムが定常状態及びTmeasured(t)=Tprocess(t)に達した後、微分はゼロであり、式9の抽出法はもはや使用し得ないことに留意すること。
【0054】
ケース2及び温度ランプ入力の場合、有効範囲は、ケース1の場合と同様、測定温度の一次及び二次時間微分をリアルタイムでモニタすることによって決定することができる。プロセスランプ(参照番号328)及び測定応答(参照番号330)が図10に示されている。
【0055】
図11A及び11Bは、プロセス温度(336)のランプ変化の場合の測定温度の第一の時間微分(332)及び第二の時間微分(334)をそれぞれを示す。ここでもまた、微分値は右側の軸である。図11Aを精査すると、Tprocessランプ中、Tm(t)の第一の時間微分に漸増的な上昇がある。加えて、ランプ中、Tm(t)の二次時間微分に反転が見られる。漸増的変化の領域は、プロセス温度中で温度のランプ遷移が起こっており、タウの値を抽出するための式10の適用が正当化されるという合図である。
【0056】
図12Aは、有効期間中で式10を使用した、リアルタイム抽出タウ値(338)を示す。抽出されたタウ値は、実システム応答である140秒に非常に近い。加えて、式9はまた、ランプが、図12に示す結果をもって終了したならば、適用することができる。ケース1と同様に、システムが定常状態及びTmeasured=Tprocessに達した後、微分はゼロであり、式9又は10の抽出法は、ノイズの増加(図12A及び12Bの線338及び340それぞれにおける小さな振れ)によって実証されるように、もはや使用し得ないことに留意すること。
【0057】
上記例は、システム伝達関数が既知であるという条件で、測定出力のみを使用して熱流ベースのプロセス流体温度推定システムの時間応答を増強することが可能であることを例示する。熱システムの場合、これは、システムの時間応答関数が何であるかを知ること、又は大部分の場合、一次応答時間、すなわちタウの値を知ることへと言い換えられる。システムに適切なタウの値は、プロセス条件及びパイプ構造から決定することもできるし、例示のように、特定の条件下で測定温度から直に決定することもできる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A-5B】
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
【国際調査報告】