(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】リチウム電池の活性層の接着強度を高めるための方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20240806BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20240806BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/134
H01M4/70 A
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500644
(86)(22)【出願日】2022-08-09
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2022072294
(87)【国際公開番号】W WO2023017009
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】102021120624.3
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003563
【氏名又は名称】ノルクシ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライヒマン、ウドー
(72)【発明者】
【氏名】ヌーベール、マルセル
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ - バーダー、アンドレアス
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD01
5H017EE01
5H017HH00
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA04
5H050FA02
5H050GA24
5H050HA00
(57)【要約】
本発明は、リチウム電池における活性層の接着強度を高めるための方法であって、シリコン層を、好ましくは銅製の基板上に堆積させ、続いて急速アニーリングを施す方法に関する。リチウム電池における活性層の接着強度を向上させるための、特に、集電体とアノードの活物質との間の結合と、同時に、連続的な導電性接触層を介した持続的な電流接触とを確実にするための少なくとも1つの方法を特定するという本発明が取り組む課題は、基板上にシリコン層を堆積させる前に、基板にも急速アニーリングを施すことこと、及び/又は基板上にシリコン層を堆積させる前に、急速アニーリングが施される機能層を堆積させることによって解決され、熱処理された層の表面はいずれの場合も粗面化される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池の活性層の接着強度を高めるための方法であって、シリコン層を、好ましくは銅の基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施す方法において、前記基板(10)への前記シリコン層の前記堆積の前に、前記基板にも同様に加速アニーリング(11)が施され、及び/又は前記基板(10)への前記シリコン層の前記堆積の前に、加速アニーリング(11)が施される機能層(13、14)を堆積させ、それによって、いずれの場合にも前記フラッシュ処理された層の表面を粗面化することを特徴とする、方法。
【請求項2】
2つ以上の機能層(13、14)を前記基板上に堆積させ、その後加速アニーリング(11)が施される層スタックを形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
堆積させた前記機能層がシリコン層及び/又はさらなる機能層を含み、前記シリコン層及び/又はさらなる機能層が加速アニーリングを施され、それによって、前記堆積層を粗面化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記機能層及び/又は前記層スタック(13、14)がチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、炭素(C)及び/又はタングステン(W)のうちの少なくとも1つの材料から形成されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
堆積させた前記機能層が吸収層を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
堆積させた前記吸収層が炭素を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記フラッシュランプ・アニーリングが、0.3~20msの範囲のパルス持続時間、0.3~100J/cm
2の範囲のパルス・エネルギー、及び4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却で行われ、その結果、前記それぞれ堆積させた層の粗さが、Ra=200nm~Ra=3μmの粗さ値に調整されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザ・アニーリングが、0.01~100msの範囲のパルス持続時間、0.3~100J/cm
2の範囲のパルス・エネルギー、及び4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却で行われ、その結果、前記それぞれ堆積させた層の粗さが、Ra=200nm~Ra=3μmの粗さ値に調整されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
シリコン系アノードを製造するための金属基板の使用であって、シリコン層を前記金属基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施し、前記金属基板が0.2μm~3μmの粗さを有する、金属基板の使用。
【請求項10】
リチウム電池の活性層の接着強度を高めるための方法であって、シリコン層を、好ましくは銅の基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施す方法において、前記基板(10)上への前記シリコン層の前記堆積後に、選択的にエッチングされる異種層スタックを堆積し、それによって前記シリコン層を粗面化することを特徴とする、方法。
【請求項11】
銅/シリコン/シリサイドに対して総濃度が5%未満のCuCl
3、Cu
2SO
4、H
2SO
4、HFのエッチング・パラメータを使用して、Ra=0.4μm~Ra=3μmの粗さを確立することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の活性層の接着強度を高めるための方法であって、第1のシリコン層を、好ましくは銅の基板上に堆積させ、続いて、加速アニーリングを施す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池用のシリコン(Si)アノードを製造する最も簡単なやり方は、集電体上にSi層を使用することである。ここで、電池の容量は、Siの厚さによって決まる。
【0003】
分類の入門として、電池の構造を簡単に説明する。電池は、電気化学的エネルギー貯蔵装置であり、一次電池と二次電池とに区別される。
【0004】
一次電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに不可逆的に変換する電気化学的電源である。したがって、一次電池は充電式ではない。一方、蓄電池とも呼ばれる二次電池は、充電可能な電気化学的エネルギー貯蔵装置であり、発生する化学反応が可逆的であり、複数回の使用が可能である。充電中、電気エネルギーは化学エネルギーに変換され、放電時には、化学エネルギーから電気エネルギーに逆変換される。
【0005】
「電池」は、相互に接続されたセルの見出し語である。セルは、2つの電極、電解質、セパレータ、及びセル・ケーシングからなるガルバニ・ユニットである。
図1は、放電中のリチウムイオン・セルの例示的な構造及び機能を示す。セルの構成要素を以下に簡単に説明する。
【0006】
各Liイオン・セルは、2つの異なる電極、すなわち、充電状態で負に帯電する電極と、充電状態で正に帯電する電極とからなる。エネルギーの放出、言い換えれば放電は、負に帯電した電極から正に帯電した電極へのイオンの移動を伴うため、正に帯電した電極はカソードと呼ばれ、負に帯電した電極はアノードと呼ばれる。電極はそれぞれ、集電体と、その上に適用された活物質とで構成されている。電極間には、まず、必要な電荷の交換を可能にするイオン伝導性電解質と、電極の電気的分離を確実にするセパレータとが配置されている。
【0007】
カソードは、例えば、アルミニウム集電体上に適用された混合酸化物からなる。
【0008】
Liイオン・セルのアノードは、集電体としての銅箔と、活物質としての炭素層とで構成することができる。炭素化合物としては、電極電位が低く、充放電時の体積膨張が少ないことから、通常、天然黒鉛又は人造黒鉛が用いられる。充電中、リチウムイオンは還元され、グラファイト層にインターカレートされる。
【0009】
リチウムイオン電池(LiB)の構造では、カソードが、典型的には、アノードの充放電にリチウム原子を供給するため、電池容量は、カソードの容量によって制限される。今日まで使用されている典型的なカソード材料は、例えば、Li(Ni,Co,Mn)O2及びLiFePO4である。カソードが、リチウム金属酸化物で構成され、セル放電時にリチウムイオンをインターカレーションする役割を果たすため、容量を高める可能性はほとんどない。
【0010】
冒頭で述べたように、Li電池のアノードでは、炭素をシリコンで補うか、又は炭素をシリコンで置き換えることも知られている。アノード用の活物質としてのシリコンは、例えば、372mAh/gの貯蔵容量を有するグラファイトなどの従来のカーボンタイプの材料と比較して、室温でLi15Si4相に対して約3579mAh/gの高い貯蔵容量を有する。
【0011】
電池の容量は、活性層の厚さによって、より具体的にはSi層の厚さによって決まる。電池では、活物質の導電率をできるだけ高くする必要がある。半導体としてのシリコンは、導電性グラファイトとは対照的に、導電性が低い。したがって、シリコンは、導電率を高める高レベルのドーピング及び/又は構造を必要とする。標準的には、ナノスケールのシリコン粉末は、炭素含有骨格構造で囲まれ、集電体に固定される。
【0012】
活物質と電解質との間の表面の性質は、リチウムイオンの透過性を決定する重要な要素である。この表面は、電解質との接触、及びその分解生成物と活性層との接触にとって決定的である。セルが動作すると、電解質は分解し、電極材料と部分的に反応する。保護層(SEI、固体電解質中間相(solid electrolyte interphase))が形成され、これは、リチウムイオンの透過性を決定的に妨げることなく、電解質のさらなる分解及び活性層との反応を防止する。したがって、安定した電池構造の目標は、SEIを薄く連続した層とすることである。分解される電解質の量は、表面のサイズに依存する。
【0013】
特許文献1には、二次電池用のシリコン系アノードを製造するための方法が記載されている。このプロセスでは、一体型集電体として機能する金属基板にシリコン層を堆積させ、その後フラッシュランプ・アニーリングを施す。フラッシュランプ・アニーリングの目的は、金属誘起層交換プロセス及び/又は金属基板とシリコン層との間の結晶化を促進し、接着性を高めることである。複数の層は、電池の安定性及び容量を高める。層は、Si電極(アノード)の層状構造の様々な層である。層状構造は、多層構造又は多層構造体とも呼ばれる。
【0014】
層、特にシリコンの接着性は、シリコンが適用される表面の粗さによって大きく影響される。粗さが大きいと、シリコン層の微細なリム構造が生成され、したがって接着性が向上する。表面が十分に粗い場合、シャドーイング効果により、空洞がさらに形成され、それによってナノ構造又はマイクロ構造が分離する。電池の製造において、活物質のこれらの小さな粒子構造を目標に構築することは、単に接着性を向上させることができるだけでなく、電池の駆動時間にも有益であり、これは、アノード材料の堆積膨張をナノ構造間の自由空間によって吸収することができ、構造体のサイズが小さくなることで合金の形成中の相転移が促進され、アノード材料の性能向上につながるからである。
【0015】
粗い表面は、一般に、層同士の機械的接着性を高める役割を果たす。金属表面は、主に表面の湿式又は乾式化学エッチングによって粗面化される。乾式エッチング法には、プラズマエッチング又は反応性イオンビームエッチングが含まれる。さらなる可能性は、表面への金属の不均一な堆積を目標とするものであり、不均一な堆積とは、金属原子が表面上に不均一に沈着(laid down)する堆積の形態を指す。この堆積は、表面エネルギーが層構造に影響を及ぼす典型的な堆積方法を用いて行われる。例えば、高電流密度での電気化学的堆積などの化学的堆積では、表面が粗面化される。粗面化は、凝集力が接着力よりも大きい材料、例えば、アニールされた炭素上の金層によっても同様に達成することができる。銅箔に構造をエンボス加工し、続いてこれを堆積させたシリコンに転写するなどの機械的粗面化(
図2参照)は、表面の粗さを高めるためのさらなる変形例である。しかしながら、粗面化操作は、費用がかかり、及び/又は技術的に要求が厳しく、これまで電池製造の市場確立を阻んできた。非特許文献1は、例えば、パルス・レーザ・アブレーションによって粗面化された、シリコンが適用された銅箔を利用している。これにより、構造化された柱状シリコン層が生成され、この層は、リチウム・インターカレーション時に自由に膨張することができ、したがってLiBの長寿命化が可能になる。他の変形例は、シリコンの堆積前に、例えばタンタル(Ta)ナノ粒子を含むナノ構造で基板表面を粗面化することである(非特許文献2を参照されたい)。ナノ構造の高い空洞含有率及びそれらの密閉された表面により、アーチ型構造を、リチウム化応力(又は他の応力)を散逸させることができるナノ構造ユニットとして使用することができる。
【0016】
層の接着性は、機械的接着に加えて、化学的接着によっても向上させることができる。ここでは、層と基板との反応、又は追加の接着促進剤によって安定した接続が生み出される。
【0017】
シリコン又はシリコン含有化合物若しくは混合物、或いは他の活性層の場合、集電体との接着性が電池の長寿命動作にとって重要である。この接着は、リチウム・インターカレーション時にシリコンが最大400%体積膨張しても、一貫した電流接触を確実にする。リチウム・インターカレーションだけでなく、硬いシリコンの適用中の固有応力からも生じる境界層での莫大な応力により、通常、活物質(Si)と集電体(Cu)との間の電流接触が急速に失われ、したがって電池の容量の低下につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Fraunhofer IWS (Piwko, M. et al. Journal of Power Sources 351, 183-191 (2017))
【非特許文献2】Haro, M. et al. Nano-vault architecture mitigates stress in silicon-based anodes for lithium-ion batteries. Commun Mater 2, 1-10 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の目的は、リチウム電池の活性層の接着強度、特に集電体とアノードの活物質との間の接着性を向上させる方法を特定することである。同時に、持続的に導電性の接触層によって、一貫した電流接触が保証されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的は、独立請求項1の第1の変形例による本発明の方法によって達成される。リチウム電池の活性層の接着強度を高めるための方法において、シリコン層を基板、好ましくは銅の基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施し、基板にシリコン層を堆積させる前に、基板にも同様に加速アニーリングが施され、それによって基板の表面を粗面化する。
【0022】
加速アニーリングは、基板の表面の部分的な溶融を引き起こす。基板表面の特性及び採用される加速アニーリング・エネルギーに応じて、基板表面を目標通りに粗面化することができる。加速アニーリングとは、特にフラッシュランプ・アニーリング及び/又はレーザ・アニーリングを指す。フラッシュランプ・アニーリングは、0.3~20msの範囲のパルス持続時間又はアニーリング時間、及び0.3~100J/cm2の範囲のパルス・エネルギーで行われる。レーザ・アニーリングの場合、局所加熱箇所の走査速度によって0.01~100msのアニーリング時間が確立され、0.1~100J/cm2のエネルギー密度が生成される。加速アニーリングにおいて達成される加熱ランプ・レート(ramp)は、本方法に必要な104~107K/sの範囲にある。この目的のためのフラッシュランプ・アニーリングは、可視波長域のスペクトルを利用するが、レーザ・アニーリングでは、赤外(IR)から紫外(UV)スペクトルの範囲の個別の波長が使用される。フラッシュランプ又はレーザの高いエネルギー又は高いエネルギー吸収は、表面の部分的な溶融をもたらす。凝固時に、表面原子は、粗い構造に再配列される。基板表面の冷却が速ければ速いほど、基板表面はより微細粒化又は微細化されるため、この表面は、このプロセス・ステップがない場合よりも粗くなる。
【0023】
加速アニーリングのみによる基板表面の粗面化は、追加の材料を必要としない非常に単純なプロセスを表す。したがって、加速アニーリングのこのプロセス・ステップを真空下で容易に行うことが可能であり、これは、下流の堆積プロセスを真空設備内で行うために、真空を中断する必要がないため、材料表面の酸化が防止されることを意味する。しかしながら、場合によっては、部分溶融のために高い加速アニーリング・エネルギーが必要となる。
【0024】
この目的は、独立請求項1に記載の代替案によっても同様に達成される。リチウム電池の活性層の接着強度を高めるための方法において、シリコン層を基板、好ましくは銅の基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施し、シリコン層の堆積前に機能層を基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施し、それによって機能層の表面を粗面化する。機能層は、基板と反応して、高レベルの接着性を生み出し、同時に、機能層の表面を粗面化する。これに続いて、シリコン層を新しい表面に堆積させ、次いで、この層にも同様に、拡散及び銅シリサイドの形成のために、加速アニーリングを施す。
【0025】
機能層とは、所定の特性又は効果を満たす、発揮する、又は影響を及ぼす層を意味する。これは、例えば、接着強度、導電性又は吸収性であってもよい。追加の機能層を基板に適用する目的は、表面を前もって機能化することである。この層は、例えばスパッタリング又は蒸着によって適用されてもよい。この層は吸収体として作用するため、フラッシュ又はレーザの吸収を著しく増加させ、フラッシュ・エネルギー又はレーザ・エネルギーを減少させることができる。例えば、炭素は、吸収層として適用するのが容易であり、それに応じて費用対効果が高い。
【0026】
基板上に機能層を堆積させるプロセス、及びその後の加速アニーリングのプロセスは、複数回繰り返されてもよく、その目的は、元の表面よりも粗く、後続の層への銅の拡散を緩和する反応層を生成することである。
【0027】
本発明の代替の方法の有利な一実施例では、2つ以上の機能層を基板上に堆積させて、層スタックを形成し、続いてこの層スタックに加速アニーリングを施す。層スタック又はマルチスタックは、プロセス手順において実現するのが容易である。続いて、表面を粗面化する目的で、加速アニーリングが行われる。その後、リチウム電池の活物質を堆積させ、この活物質は既存の構造により効果的に付着する。シリコンの活性層を加速アニーリングすることで、物理的な接着だけでなく、前処理された基板との反応、例えば、シリサイドを形成するSiの反応なども可能になる。シリサイドは規則性のない構造で結晶化し、粗い表面を形成する。この表面は、さらなる電極構造のための良好な接着性を有する表面として機能する可能性がある。
【0028】
層スタックは、複数の機能層から構成され、その適用は、複数の特性が表面の粗面化にプラスの効果を有するが、1つの材料では粗面化を満たすことができない場合に意味がある。炭素は吸収特性に優れ、加速アニーリングによって表面温度を上昇させることができるが、銅とは反応しない。これは、ニッケルなどの、反射特性に優れるが、銅とよく反応する金属とは異なる。2つの材料、すなわち炭素及びニッケルは、層スタックにおいて一緒になって高い表面粗さを生み出すことができる。
【0029】
層スタックのさらなる利点は、材料の分布が均一化され、層スタックの層及び基板における応力が散逸されることである。層は、少なくとも2つの層から構成された層スタックの層を意味する。
【0030】
本発明の方法の異なる実施例において、堆積させた機能層は、シリコン層及び/又はさらなる機能層を含み、この層は、加速アニーリングに供されて、堆積させた機能層を粗面化する。これには、粗面化された表面の結果として、堆積のためのさらなる層が、同様に既存の層構造に対して良好な接着性を有するという利点があり、機能層は、例えば、リチウム電池のアノードの活性層として使用することができる層スタック内の金属シリサイド濃度、より具体的には銅シリサイド濃度の段階的な推移を生じさせるための拡散バリアとして機能することができる。
【0031】
エネルギー・コストを低く保つために、可能な限り少ない加速アニーリング操作を行うことが望ましい。層スタックの粗い階層(stratum)/層(layer)を生成するための層原子の完全且つ完結した反応をもたらすために、第1の堆積層が高い投入エネルギーで処理されると有利である。続いて、複数の機能層/階層から構成された層スタックを安定化させるが、第1の階層/層におけるような反応を防止するために、第1の層の階層堆積の場合よりも低いエネルギーで加速アニーリング操作を行うことができる。
【0032】
本発明の方法の一実施例では、機能層及び/又は層スタックは、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、炭素(C)及び/又はタングステン(W)の材料のうちの少なくとも1つから形成され、堆積が行われる。層スタックの機能層又は機能階層のための材料は、最終的なリチウム電池構造の所望の特性に応じて選択される。
【0033】
本発明の方法のさらなる実施例では、堆積させた機能層は吸収層を含む。
【0034】
機能層を基板に適用する目的は、表面の予備的な機能化をもたらすことである。この層は、例えばスパッタリング又は蒸着によって適用されてもよい。吸収層を介して、フラッシュ又はレーザの吸収が著しく増加し、フラッシュ・エネルギー又はレーザ・エネルギーを低減することができる。例えば、炭素は、吸収層として適用するのが容易であり、それに応じて費用対効果が高い。
【0035】
本発明の方法のさらなる有利な実施例において、フラッシュランプ・アニーリングは、0.3~20msの範囲のパルス持続時間、0.3~100J/cm2の範囲のパルス・エネルギー、及び4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却で行われ、その結果、それぞれの堆積層の粗さがRa=200nm~Ra=3μmの粗さ値に調整される。
【0036】
本発明の方法の異なるさらなる実施例において、レーザ・アニーリングは、0.01~100msの範囲のパルス持続時間、0.3~100J/cm2の範囲のパルス・エネルギー、及び4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却で行われ、その結果、それぞれの堆積層の粗さがRa=200nm~Ra=3μmの粗さ値に調整される。
【0037】
ある用途では、シリコン系アノードを製造するための、例えば銅から構成された金属基板を使用するのが有利であり、この場合、シリコン層を金属基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施し、金属基板は、Ra=0.2μm~Ra=3.0μmの粗さを有する。本発明の方法では、純粋な物理的粗さによる接着と化学吸着の両方を利用して効果的な接着が得られる。
【0038】
この目的は、独立請求項10に記載の本発明のさらなる代替の方法によって達成される。リチウム電池の活性層の接着強度を高めるための方法において、基板、好ましくは銅の基板上にシリコン層を堆積させ、続いて加速アニーリングを施し、基板へのシリコン層の堆積後、選択的にエッチングされた異種層スタックを堆積させる。表面の選択的エッチングは、表面の粗面化をもたらす。粗さは、使用するエッチング・パラメータによって調整することができる。前述の目的のために、以下のようなエッチング・パラメータが有利である。銅/シリコン/シリサイドをゆっくりエッチングするためのCuCl3、Cu2SO4、H2SO4、HFの総濃度は5%未満である。粗さは、Ra=0.4μm~Ra=3μmの範囲にある。その目的は、常に、純粋な基板の粗さよりも良い/高いだけでなく、加速アニーリングによって堆積させ反応させた層の粗さよりも良い/高い粗さを得ることであり、厚さが20μm未満の銅基板を破壊してはならない。
【0039】
異種層スタックとは、反応した部分と反応していない部分とからなる層であり、例えば、純粋なシリコンは、導電性銅シリサイド・マトリックスによって囲まれていてもよい。
【0040】
本発明の方法及び方法の変形例の利点は、粗面化をアノード製造のための既存の堆積プロセスに組み込むことができ、加速アニーリングが、特別な前処理なしにインラインで可能であることである。アノード構造にも利用される材料を使用することにより、フラッシュランプ・アニーリングによる簡単な表面構造化が可能になる。その後、適用されたシリコン層と銅基板が反応することで、シリコン以外の余分な材料を必要とすることなく、非常に良好な接着性と、さらに、非常に良好な電気的転移が生じる。銅はCu箔基板に由来する。
【0041】
銅シリサイドにはリチウムをインターカレートする能力がほとんど又は全くないため、又はインターカレーションは不可逆的なプロセスであるため、機能層を追加のプロセス・ステップとして適用することは、リチウム電池用シリコン・アノードの製造プロセスを延長し、アノードの容量の増加に寄与しないことは事実であるが、集電体とアノードの活物質との間の良好な接着性の利点がこれを上回り、良好な接着性により、電池動作のための均一で安定した電気的転移が保証される。
【0042】
シリコン層を基板、好ましくは銅の基板上に堆積させ、続いて加速アニーリングを施すリチウム電池の機能層の接着強度は、シリコン層がシリコン粒子、シリコン・ナノ粒子及び/又はシリコン・ナノワイヤから形成され、続いてその上に機能層を堆積させ、続いて加速アニーリングを施す場合にも同様に向上させることができる。
【0043】
コーティング設備に導入する前にシリコンを適用することにより、プロセスのコストを大幅に低下させることができる。シリコンは、粒子、ナノ粒子又はナノワイヤの形態で商業的に入手することができる。銅への適用及びその後の加速アニーリングの結果、シリコンは銅と反応して、非常に粗い表面を形成し、この表面をその後アノード構造のためにさらに使用することができる。SiとCuとの反応の結果として、接着性及び導電性は非常に良好である。このオプションでは、多様な前処理、例えば、銅表面のエッチング、ナノワイヤ成長、及びオーブン・プロセスによるSiとCuとの反応を回避することが可能である。この種のプロセスは、真空なしで行うことができる。
【0044】
Cu基板表面をシリコンで前処理することによって、プロセス設備での堆積プロセスを簡略化することができ、製造プロセスで必要なのは、既にシリコンで活性化された基板へのその後の堆積のみである。基板の前処理は、直径1nm~5μmの任意の所望の粒径で行うことができる。しかしながら、粒子が銅基板上で均一に分布し、付着することを確実にする必要がある。
【0045】
本発明は、例示的な実施例を参照して以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】放電中のリチウムイオン・セルの例示的な構造及び機能を示す図である。
【
図2a)】銅基板にエンボス加工された構造による規則的な構造のSEM顕微鏡写真である。
【
図2b)】
図2a)の変形例としての、機械的に粗面化されたSi表面のSEM顕微鏡写真であり、エンボス加工された構造が、堆積させたシリコンに転写されて接着強度を高める。
【
図3】接着強度を高めるためにレーザ・アブレーションによって粗面化された表面のSEM顕微鏡写真である。
【
図4】請求項1に記載の第1の変形例による本発明の方法の概略図である。
【
図5】請求項1に記載の第2の変形例による本発明の方法の概略図である。
【
図6a)】本発明の方法と、その後の加速アニーリング、より具体的には、アルミニウムと混合されたシリコンの柱状成長をもたらすフラッシュランプ・アニーリングを用いて粗面化されたシリコンの機能層の表面のSEM顕微鏡写真である。
【
図6b)】本発明の方法と、その後の加速アニーリング、より具体的には、アルミニウムと混合されたシリコンの柱状成長をもたらすフラッシュランプ・アニーリングを用いて粗面化されたシリコンの機能層の表面のSEM顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図4は、請求項1による第1の変形例による本発明の方法を示す。集電体としての役割を果たす基板10、例えば銅箔は、加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリング11を施される。フラッシュランプ・アニーリング11は、銅箔10を溶融させる。0.1~10msしか持続しないフラッシュランプ・パルスによる投入エネルギーが終了するとすぐに、基板材料10は再凝固し、基板表面の粗面化12、120をもたらす。この変形例の方法には、高い投入エネルギーが必要である。
【0048】
図5は、請求項1による第2の変形例による本発明の方法を示す。銅箔とすることができ、集電体として機能する基板10上に、例えば炭素の第1の機能層13が適用され、加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリング11が施される。炭素層13は、吸収を著しく増加させ、同時に表面の粗面化12、121をもたらす。炭素の使用には、グラファイトの形態の炭素がリチウムイオン電池の製造において既に利用されており、したがって、製造プロセスに容易に且つ適合して組み込むことができるという利点がある。別の利点は、スパッタリングされた炭素層121を銅拡散のブレーキとして使用することができ、基板からの銅原子が、その後に適用されるシリコンに入り、シリコン層と反応することが防止されるため、したがってシリサイドの形成が減少することである。炭素はさらに、非常に軽量であり、また導電性があり、リチウムが容易に拡散することができるという利点を有する。重量、並びに良好な導電性及びイオン伝導性は、中間層で使用するための他の全ての金属に対して有利である。しかしながら、後続のシリコン層が炭素層上に十分に接着しないという欠点がある。補助のために、追加の金属層14、例えばニッケルが炭素層に適用される。この金属層14は、さらなる粗面化12、122をもたらし、ニッケルとシリコンとの反応による接着を助ける。その結果、良好な接着が確保される。
【0049】
シリコンの堆積は、
図4及び
図5には示されていない。
【0050】
図6a及び
図6bはそれぞれ、本発明の方法によって粗面化された機能層表面の顕微鏡写真を示し、本実例では、シリコン/シリサイド21の柱状成長を促進する加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリング後の、シリコン層に導入されたアルミニウム層の表面を示す。図示された例における層構造は、高いフラッシュ・エネルギーでフラッシュ処理されたSi/Al/Siから構成されている。層構造はもはや明らかではなく、代わりに認識可能な柱状構造が形成されている。これらの構造は、アルミニウムがシリコンとともに固溶体/非晶質固体を形成し、シリコンの溶融温度未満でこれらの構造を形成することによって生じる。粗面化の結果として、堆積させたシリコン21が島状に成長する。柱状シリコン構造が形成され、金属原子との反応を通じて、シリサイド構造も形成されている(
図6b)。
図6a及び
図6bの2つのSEM顕微鏡写真はそれぞれ、試料の同じ構造の詳細を示しているが、これらの顕微鏡写真は、選択された検出器の点で異なっている。
【符号の説明】
【0051】
1 リチウムイオン電池
2 アノード側集電体
3 SEI-固体-電解質界面相
4 電解質
5 セパレータ
6 導電性相間
7 カソード、正極
8 カソード側集電体
9 アノード、負極
10 基板、例えば銅箔
11 加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリング及び/又はレーザ・アニーリング
12 加速アニーリング後の粗面化面
120 銅の粗面化面
121 炭素の粗面化面
122 ニッケルの粗面化面
13 炭素層
14 ニッケル層
17 銅基板のエンボス加工された構造
18 エンボス加工によって生成された構造化シリコン層
19 柱状Si構造
20 アルミニウム層
21 シリコン/シリサイド
【国際調査報告】