(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/021 20160101AFI20240806BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240806BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20240806BHJP
C25F 3/06 20060101ALI20240806BHJP
C23F 1/28 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M8/021
C22C38/00 302Z
C22C38/50
C25F3/06
C23F1/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501637
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 KR2022008457
(87)【国際公開番号】W WO2023008737
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0097751
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, クァンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジョンヒ
(72)【発明者】
【氏名】ソ, ボソン
【テーマコード(参考)】
4K057
5H126
【Fターム(参考)】
4K057WA05
4K057WB02
4K057WB11
4K057WD05
4K057WE03
4K057WE08
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4K057WG02
4K057WN10
5H126AA12
5H126DD05
5H126GG08
5H126HH01
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5H126JJ02
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
(57)【要約】
【課題】燃料電池分離板素材として接触抵抗の低いステンレス鋼とその表面形状を代表する表面粗さパラメータを規定して提供する。
【解決手段】
本発明は重量%で、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下、Si:0超過0.4%以下、Mn:0超過0.3%以下、P:0超過0.04%以下、S:0超過0.02%以下、Cr:15~34%、Cu:0超過1%以下、Ni:0超過0.4%未満、TiとNbの少なくとも1つを含み、含まれる元素の組成比は、0超過0.5%以下、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下、Si:0超過0.4%以下、Mn:0超過0.3%以下、P:0超過0.04%以下、S:0超過0.02%以下、Cr:15~34%、Cu:0超過1%以下、Ni:0超過0.4%未満、TiとNbの少なくとも1つを含み、含まれる元素の組成比は、0超過0.5%以下、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、
表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を有することを特徴とする接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項2】
前記ステンレス鋼の接触抵抗が10mΩ・cm
2以下であることを特徴とする請求項1に記載の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項3】
重量%で、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下、Si:0超過0.4%以下、Mn:0超過0.3%以下、P:0超過0.04%以下、S:0超過0.02%以下、Cr:15~34%、Cu:0超過1%以下、Ni:0超過0.4%未満、TiとNbの少なくとも1つを含み、含まれる元素の組成比は、0超過0.5%以下、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、
表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を有するステンレス鋼を熱間圧延及び冷間圧延して冷延薄板を製造する段階と、
前記冷延薄板を酸溶液に浸漬する段階と、を含むことを特徴とする接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項4】
前記酸溶液は、塩酸または硫酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
0.15~0.45A/cm
2の電流密度で1次電解処理した後、0.03~0.07A/cm
2の電流密度で2次電解処理する段階と、
混酸溶液に浸漬処理する段階と、をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、分離板表面の形状を制御してGDL(Gas Diffusion Layer)との接触面積を増やし低い接触抵抗確保が可能な接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に燃料電池スタックは、電解質、電極とGDLを含むMEA(Membrane Electrode Assembly)と分離板からなるセルが積層されている形態である。したがって、分離板は、GDLと接触しており、分離板/GDL界面で引き起こされる抵抗である接触抵抗によりセル及び燃料電池の性能が減少させる。
【0003】
このような分離板の接触抵抗は、主に2つの影響を受ける。第一に、金属分離板の表面にある酸化物層である不動態皮膜である。不動態皮膜は、高い耐食性を確保できる方法であるが、接触抵抗の側面では非伝導性の酸化物層であるため、できるだけ薄い厚さを有することが好ましい。第二に、接触抵抗に影響を与えるのは、分離板とGDLの接触面積である。分離板とGDLの見かけの接触面積ではなく、2つの物体の実際の接触面積が重要である。分離板とGDLの実際の接触面積は、見かけの面積とは異なり、分離板とGDLの表面形状に大きく影響を受け、特に表面に存在するミクロン単位以下の微細な表面形状が主な影響を及ぼすものと判断される。分離板とGDLとの間の実際の接触面積が大きいと接触抵抗が低く、実際の接触面積が小さいと接触抵抗は高い傾向を示すため、分離板の表面形状がどのように変更されるかによって接触抵抗減少効果が異なる。
【0004】
表面形状を調節して接触抵抗を減少しようとする試みは、以前から行われてきたが、特許文献には、表面に凹凸を形成したステンレス鋼からなる分離板を使用し、主として表面粗さパラメータ:中心線平均粗さ(center line average surface roughness,Ra)、すなわち、算術平均粗さ(arithmetic avrage surface roughness)が0.03~2μmであることが好ましいと記載されている。しかし、類似のRaを有するステンレス鋼でも接触抵抗の差が異なる場合がある。したがって、2D表面パラメータであるRaの範囲だけでは接触抵抗の変化を予測しにくいという短所がある。
【0005】
したがって、接触抵抗を大幅に減少するためには、接触面積と表面パラメータとの関係を把握する必要があり、GDLとの接触面積を最大化できる表面形状を具現化し、これを代表する表面パラメータとして規定することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、燃料電池分離板素材として接触抵抗の低いステンレス鋼とその表面形状を代表する表面粗さパラメータを規定して提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼は重量%で、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下、Si:0超過0.4%以下、Mn:0超過0.3%以下、P:0超過0.04%以下、S:0超過0.02%以下、Cr:15~34%、Cu:0超過1%以下、Ni:0超過0.4%未満、TiとNbの少なくとも1つを含み、含まれる元素の組成比は、0超過0.5%以下、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を満たす。
【0009】
本発明の他の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は重量%で、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下、Si:0超過0.4%以下、Mn:0超過0.3%以下、P:0超過0.04%以下、S:0超過0.02%以下、Cr:15~34%、Cu:0超過1%以下、Ni:0超過0.4%未満、TiとNbの少なくとも1つを含み、含まれる元素の組成比は0超過0.5%以下、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を有するステンレス鋼を熱間圧延及び冷間圧延して冷延薄板を製造する段階、及び前記冷延薄板を酸溶液に浸漬する段階を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明による分離板の製造方法によれば、燃料電池環境で高価なコーティング工程なしに低い接触抵抗を有する分離板を製造しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼は、重量%で、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下、Si:0超過0.4%以下、Mn:0超過0.3%以下、P:0超過0.04%以下、S:0超過0.02%以下、Cr:15~34%、Cu:0超過1%以下、Ni:0超過0.4%未満、TiとNbの少なくとも一つを含み、含まれる元素の組成比は0超過0.5%以下、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を満たす。
【0013】
本明細書が実施例のすべての要素を説明するものではなく、本発明が属する技術分野で一般的な内容または実施例において重複する内容は省略する。
また、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0014】
単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
【0015】
以下、本発明について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[燃料電池分離板用ステンレス鋼]
本発明の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼は、重量%で、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下、Si:0超過0.4%以下、Mn:0超過0.3%以下、P:0超過0.04%以下、S:0超過0.02%以下、Cr:15~34%、Cu:0超過1%以下、Ni:0超過0.4%未満、TiとNbの少なくとも一つを含み、含まれる元素の組成比は0超過0.5%以下、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を満たす。
【0017】
前記表面パラメータであるSaは、分離板表面の算術的平均粗さであり、Sdrは、分離板表面に存在する凹凸によって発生する表面積増加比である。前記パラメータは、従来の2次元表面パラメータとは異なる3次元パラメータで表面の形状をより詳細に定義できるという長所がある。したがって、前記パラメータは、分離板とGDLの実際の接触面積に影響を与えて分離板接触抵抗の減少要因として作用する。前記Sa及びSdrパラメータは、ISO 25178規格に従って定義されており、Saは、2次元算術的平均粗さであるRaとは異なる3次元面に対する算術的平均粗さとして単位はμmであり、Sdrは、3次元の表面積増加比として、測定した形状の実際の表面積である展開面積の見かけの面積に対して増加した比率を意味し、単位は、増加比率に100を乗じた%を使用する。完全平面である表面は、見かけの面積に対して増加した面積がないため、Sdrが0%であり、表面に凹凸やシワなどの高さを有する何らかの形状が存在すれば、Sdrは、0より大きい数を有することを意味する。
【0018】
したがって、本発明の実施例による分離板の表面は、少なくとも一面が0.05μmまたはそれ以上の3次元算術平均粗さSa、5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を有する。これは分離板表面の形状によって高さを有する凹凸が表面に存在し、GDLとの実際の接触面積が増加することを意味し、接触抵抗が大きく減少されてもよい。
【0019】
また、本発明の実施例によれば、前記接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼は、接触抵抗値が10mΩ・cm2以下であってもよい。ここで、接触抵抗とは、分離板表面とGDL表面の接触面の一面の界面接触抵抗を意味する。
【0020】
以下で特に断りがない限り、単位は重量%である。また、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0021】
炭素(C)、窒素(N)
炭素(C)及び窒素(N)は、鋼中でCr炭窒化物を形成し、その結果、Crが欠乏した層の耐食性が低下するので、両元素はその含量が低いほど好ましい。したがって、本発明では、C:0超過0.02%以下、N:0超過0.02%以下にその組成比を制限することが好ましい。
【0022】
シリコン(Si)
高温耐酸化性を向上させ、ステンレス鋼で不動態皮膜を強化して耐食性を向上させるという利点はあるが、過剰添加時に延伸率を低下させるところ、本発明ではSiの組成比を0超過0.4%以下に制限することが好ましい。
【0023】
マンガン(Mn)
脱酸を増加させる元素であるが、介在物であるMnSは耐食性を減少させるので、本発明では、Mnの組成比を0超過0.3%以下に制限することが好ましい。
【0024】
リン(P)
耐食性だけでなく靭性も減少させるので、本発明ではPの組成比を0超過0.04%に制限することが好ましい。
【0025】
硫黄(S)
MnSを形成し、MnSは腐食の起点となり耐食性を減少させるので、本発明ではこれを考慮してSの組成比を0超過0.02%以下に制限することが好ましい。
【0026】
クロム(Cr)
ステンレス鋼の酸化物の形成を促進する元素で、耐食性のためには15%以上のCr添加が必要であり、過剰添加する場合、熱延時に緻密な酸化スケールの生成によりSticking欠陥が増加するという問題があり、Crの組成比を35%以下に制限することが好ましく、34%以下がより好ましい。
【0027】
チタン(Ti)、Nb(ニオブ)
チタン(Ti)及びニオブ(Nb)は、鋼中のC及びNを炭窒化物で形成するのに有効な元素であるが、靭性を低下させるので、本発明ではこれを考慮してTi及びNbの少なくとも1つを含み、含まれる元素の組成比は、0超過0.5%以下に制限することが好ましい。
【0028】
銅(Cu)
燃料電池が作動する酸性雰囲気で耐食性を増加させるが、過剰添加時にCuの溶出により燃料電池の性能の低下及び成形性が低下することがあるので、本発明ではこれを考慮してCuの組成比を0超過1%以下に制限することが好ましい。
【0029】
ニッケル(Ni)
ニッケル(Ni)は鋼中に不可避に含まれる不純物であり、C、Nのようにオーステナイト相を安定化させる元素として、腐食速度を遅らせて耐食性を向上させる元素であるが、過剰添加時に成形性が低下する問題と高価による経済性を考慮して0超過0.4%未満に制限する。
【0030】
[燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法]
本発明の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0超過~0.02%、N:0超過~0.02%、Si:0超過~0.4%、Mn:0超過~0.3%、P:0超過~0.04%、S:0超過~0.02%、Cr:15~34%、Cu:0超過~1%、Ni:0超過~0.4%未満、TiとNbの少なくとも1つを含み、含まれる元素の組成比は、0超過~0.5%、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、表面は少なくとも一面が、0.05μm以上の3次元算術平均粗さ(Sa)及び5%以上の表面積増加比(developed interfacial area ratio,Sdr)を有するステンレス鋼を熱間圧延及び冷間圧延して冷延薄板を製造する段階、及び前記冷延薄板を酸溶液に浸漬する段階を含む。
【0031】
また、本発明のステンレス冷延薄板を浸漬する酸溶液は、塩酸または硫酸を含んでもよい。
【0032】
また、本発明の接触抵抗に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、ステンレス冷延薄板を酸溶液に浸漬する段階後に、0.15~0.45A/cm2の電流密度で1次電解処理した後、0.03~0.07A/cm2の電流密度で2次電解処理する段階、及び混酸溶液に浸漬処理する段階をさらに含んでもよい。
【0033】
以下、本発明を実施例を通じてより具体的に説明する。
【0034】
本発明は、下記実施例のみに限定されるものではなく、他の形態で具体化されてもよい。
【0035】
(実施例)
表1は、燃料電池分離板用ステンレス鋼の合金成分を示した。本発明に使用されたステンレス鋼は、冷間圧延段階で前記の組成を有するステンレス鋼をZ-mil冷間圧延機を用いて冷延薄板を製造した後、熱処理段階で冷延薄板を光輝焼鈍熱処理した。
【0036】
【0037】
表1に記載の発明鋼及び比較鋼を下記表2の条件に従って表面形状を調節し、接触抵抗と表面パラメータとの関係を調べた。ステンレス鋼の表面形状を調節する方法は、下記工程を通じて製造されてもよい。表面形状調節工程は、A工程のみが行われてもよく、AとD工程、BとD工程が順に行われてもよく、C、C、D工程が順に行われてもよい。表面形状調節工程を経る前後の燃料電池環境における耐食性を評価した。耐食性評価は、表面形状調節工程後の燃料電池作動環境である0.05M硫酸と2ppmフッ酸混合溶液内の80℃で陽極分極実験後、基準電極である飽和カロメル電極(saturated calomel electrode,SCE)に対して0.6Vでの電流密度を測定した。電流密度が1.0μA/cm2以下を良好、1.0μA/cm2超過を不良と判断した。
【0038】
接触抵抗評価は、表面形状調節工程を経た後に測定した。製造された冷延素材2枚を準備し、その間にカーボンペーパー(SGL-10BA)を2枚の間に配置し、接触圧力100N/cm2で界面接触抵抗を4回評価後、その平均値を計算した。
【0039】
【0040】
表2の結果を参照すると、実施例1~実施例13は、本発明による0.05μm以上のSa及び5%以上のSdr値を満たすことにより、10mΩ・cm2以下の低い接触抵抗を有することが分かる。また、燃料電池環境での耐食性評価においても1.0μA/cm2以下で耐食性が良好であることが確認できる。
【0041】
一方、比較例1と比較例2は、表面形状調節工程を通じて10mΩ・cm2以下の低い接触抵抗確保が可能であるが、比較鋼1の低いCr含量で耐食性が不良であった。したがって、燃料電池分離板素材として耐食性は燃料電池の耐久性に大きな影響を及ぼすことがあるため、耐食性不良素材は、分離板用素材として適用しにくいことが分かる。
【0042】
また、単純塩酸浸漬のみ行った実施例1~実施例3に比べて混酸浸漬が追加された実施例4~実施例7がより高いSaとSdr値を示した。これは、混酸浸漬を通じて表面の溶解がさらに活発に行われ、これを通じて表面の小さな凹凸が多く発生したためであると考えられる。
【0043】
また、実施例8~実施例13の結果を参照すると、硫酸電解を適用することにより表面形状調節がより効果的であることが分かる。硫酸電解を通じてステンレス鋼の表面に存在する不動態皮膜を効果的に除去し、母材の溶出を発生させてより高いSa、Sdrの表面が形成された。高いSdrは、平坦な表面ではなく粗い表面形状により見かけの面積とは異なり、大きく増加した展開面積を意味する。したがって、高いSdrを有するステンレスを分離板として使用する場合、スタック内のGDLとの実際の接触面積が大きく増加し、低い接触抵抗値が確保されるものと予想される。
【0044】
表2の表面形状制御工程を見ると、塩酸溶液に浸漬するだけでも10mΩ・cm2以下の低い接触抵抗確保が可能であるが、混酸溶液に浸漬する工程が追加されることがより好ましいことが分かる。また、硫酸電解工程は、1、2次の2回行われ、0.15~0.45A/cm2の電流密度で1次電解処理された後、0.03~0.07A/cm2の電流密度で2次電解処理することが好ましいことが分かる。しかし、表2の表面形状制御工程だけでなく、酸溶液を活用した多様な電解、浸漬などの工程を通じて少なくとも一面が0.05μmまたはそれ以上のSa及び5%以上のSdrで表面を制御できれば、10mΩ・cm2以下の低い接触抵抗を確保しうる。また、ステンレス鋼表面溶解を引き起こすことがある塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などをはじめとした無機酸溶液と酸化剤を含む溶液に置き換えられてもよい。
【0045】
一方、15%以下のCr含量を含むステンレス鋼は、表面形状制御工程を通じて耐食性不良により分離板素材として適用しにくいと判断される。
【0046】
図1は、比較例3の3D表面形状であり、
図2は、実施例10の3D表面形状である。
図1及び
図2を比較すると、比較例3は、表面形状調節工程を実施していない表面であるのに対し、実施例10は、表面形状調節工程を経ることにより、Saが0.111、Sdrが29.7として微細かつ尖った凹凸が表面に多く存在し、分離板表面の展開面積を大きく増加させることができることが分かる。
図2のような表面形状を有する分離板は、実際の燃料電池作動中にGDLと広い実際の接触面積が確保されて低い接触抵抗を示し、燃料電池の性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、燃料電池環境で高価なコーティング工程なしに低い接触抵抗を有する分離板を製造できるため、産業上の利用可能性が認められる。
【国際調査報告】