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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】抗HBV抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/08 20060101AFI20240806BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20240806BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240806BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240806BHJP
   C07K 17/14 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C07K16/08 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0781
C12P21/08
C12Q1/02
A61K39/395 S
A61P31/20
C07K17/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502012
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 SG2022050468
(87)【国際公開番号】W WO2023287352
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10202107784Y
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(71)【出願人】
【識別番号】511002216
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティー ホスピタル (シンガポール) ピーティーイー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】310008860
【氏名又は名称】エイジェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
【住所又は居所原語表記】1 Fusionolopolis Way,#20-10 Connexis North Tower,Singapore 138632 Singapore
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】マッカリー,ポール アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ジャジャリア,サキット
(72)【発明者】
【氏名】リム,セン ジー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ライ,フリッツ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR79
4B063QS33
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085BA90
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、HBsAgの少なくとも1つの構造的(非線状)エピトープに特異的に結合して、B型肝炎ウイルス感染を中和する単離された組換えヒト抗体、該抗体の製造方法、およびヒトHBV感染症の治療におけるその使用に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HBsAgの少なくとも1つの構造的(非線状)エピトープに特異的に結合して、B型肝炎ウイルスによる感染を中和する単離された中和抗体またはその断片であって、
前記抗体が、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDRL1のアミノ酸配列と、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDRL2のアミノ酸配列と、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDRL3のアミノ酸配列と;配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDRH1のアミノ酸配列と、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDRH2のアミノ酸配列と、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDRH3のアミノ酸配列とを含む、単離された中和抗体またはその断片。
【請求項2】
前記抗体が、少なくとも1つの軽鎖可変領域と少なくとも1つの重鎖可変領域を含むこと;
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むこと;
前記抗体が、IgA骨格、IgG1サブクラス骨格、IgG2サブクラス骨格、IgG3サブクラス骨格およびIgG4サブクラス骨格を含む群から選択される定常領域を有し、好ましくはIgG4サブクラス骨格を有すること;
前記抗体が、完全ヒト型抗体であること;ならびに/または
前記B型肝炎ウイルスの遺伝子型が、遺伝子型A(adw2)、遺伝子型B(adw)、遺伝子型C(adr)および遺伝子型D(ayw)を含む群から選択されること
を特徴とする、請求項1に記載の単離された中和抗体またはその断片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の単離された中和抗体またはその断片と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項4】
HBV感染症および/または少なくとも1種のHBV関連疾患の予防用または治療用の医薬品の製造のための、請求項1または2に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片の使用。
【請求項5】
前記予防または治療が、周産期のHBV伝播の予防、妊娠第三期のHBV陽性母体の治療、肝移植レシピエントにおけるHBV再発の予防、HBVもしくはHBsAg陽性材料に暴露されたワクチン不応答者におけるHBV暴露後の予防、または慢性感染個体の治療のためのものである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
HBV感染症および/または少なくとも1種のHBV関連疾患を予防または治療する方法であって、請求項1または2に記載の抗体またはその断片を対象に投与する工程を含む方法。
【請求項7】
前記予防または治療が、周産期のHBV伝播の予防、妊娠第三期のHBV陽性母体の治療、肝移植レシピエントにおけるHBV再発の予防、HBVもしくはHBsAg陽性材料に暴露されたワクチン不応答者におけるHBV暴露後の予防、または慢性感染個体の治療のためのものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(a)請求項1または2に記載の中和抗体の少なくとも1つの軽鎖可変領域と;
(b)請求項1または2に記載の中和抗体の少なくとも1つの重鎖可変領域
をコードする単離された核酸分子。
【請求項9】
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の中和抗体の少なくとも1つの軽鎖可変領域と;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の中和抗体の少なくとも1つの重鎖可変領域
をコードする、請求項8に記載の単離された核酸分子。
【請求項10】
前記(a)に記載の少なくとも1つの核酸配列が、遺伝子コードの冗長性により、配列番号9と少なくとも80%の配列同一性を有し、
前記(b)に記載の少なくとも1つの核酸配列が、遺伝子コードの冗長性により、配列番号10と少なくとも80%の配列同一性を有する、
請求項9に記載の単離された核酸分子。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの単離された核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項13】
請求項1もしくは2に記載の少なくとも1つの中和抗体もしくはその断片、または請求項3に記載の組成物を含むキット。
【請求項14】
ウイルス特異的抗体の発現用のB細胞をスクリーニングする方法であって、
a)ウイルス特異的非中和抗体でELISAプレートのウェルをコーティングする工程;
b)前記ウェルに標的ウイルスを添加して、前記ウイルス特異的非中和抗体に該ウイルスが結合するのに十分な時間にわたって維持する工程;
c)活性化されたメモリーB細胞により産生された抗体を含む培地を前記ウェルに添加して、前記メモリーB細胞により産生されたウイルス特異的抗体が前記標的ウイルスに結合するのに十分な時間にわたって維持する工程;
d)標識された二次抗体を前記ウェルに添加して、前記メモリーB細胞により産生された前記ウイルス特異的抗体を検出する工程;および
e)前記ウイルス特異的抗体を産生したメモリーB細胞を同定する工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記B細胞がヒトB細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記B細胞が、クローン増殖したものであること;
前記ウイルスが、HBVであること;
前記標識された二次抗体が、抗ヒトIgG抗体であること;
前記メモリーB細胞が、抗CD3抗体、抗CD14抗体、抗CD19抗体、抗CD27抗体、抗CD38抗体、抗IgG抗体および抗IgM抗体を含む組成物を用いて単離されたものであること;ならびに/または
前記方法が、同定された前記メモリーB細胞からウイルス特異的抗体を単離する工程をさらに含むこと
を特徴とする、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HBsAgの少なくとも1つの構造的(非線状)エピトープに特異的に結合して、B型肝炎ウイルス感染を中和する単離された組換えヒト抗体、該抗体の製造方法、およびヒトHBV感染症の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス(HBV)感染症による死亡は、2015年には134万人と計上されており、WHOにより、全世界で2億5700万人の慢性感染者がいると推計されている[WHO. Global Hepatitis Report 2017]。HBVは、急性感染症または慢性感染症を引き起こし、慢性感染症は、肝硬変または肝細胞癌(HCC)を引き起こす可能性が高く、これらが主な死因となっている[WHO. Global Hepatitis Report 2017; Trepo, C., et al., The Lancet 384: 2053-2063 (2014)]。現在選択可能なHBV感染症治療は、機能的治癒の達成に年間1~2%の有効性を示している[Lok, A.S., et al., Hepatology 66: 1296-1313 (2017)]。B細胞除去療法を受けた回復期患者では、HBVが再活性化することから、機能的治癒の達成には、効果的なB細胞/抗体応答が中心的な重要性を有することが示されている[Palanichamy, A. et al., J Immunol 193: 580-586 (2014).; Tsutsumi, Y. et al., World J Hepatol 7: 2344-2351 (2015); Chen, K.L. et al., Chin J Cancer 34: 225-234 (2015)]。
【0003】
回復期患者において産生される主要なIgGのサブクラスは、過去の研究によると、IgG1応答が最も優位であり、これに次いでIgG3応答が優位であり、この次にIgG4応答が優位であると報告されている[Tsai, T.H. et al., Viral Immunol 19: 277-284 (2006); Gregorek, H. et al., J Infect Dis 181: 2059-2062 (2000)]。慢性HBV感染症患者では、抗HBs IgG4抗体が他のサブクラスよりも多く、その大部分が、抗体とHBsAgからなる免疫複合体を形成しており、この免疫複合体はFcγRへの結合が弱いことから、循環系から効率的に排除することができない[Rath, S. & Devey, M.E. Clin Exp Immunol 72: 164-167 (1988)]。
【0004】
HBVは、脂質膜に埋め込まれた3種の表面タンパク質(L、MおよびS)を持ち、これらの表面タンパク質ではS抗原領域が共通している[Julithe, R., et al., J Virol 88: 9049-9059 (2014)]。S抗原領域は、99~160番目の残基からなるa抗原決定基を含んでおり、抗HBs抗体の主な結合ドメインと考えられている[Alavian, S.M., et al., J Clin Virol 57: 201-208 (2013)]。a抗原決定基を標的とする抗体は、強力な中和剤であることが報告されていることから、予防剤または治療剤として試験する価値が高いとされている[Walsh, R. et al., Liver Int 39: 2066-2076 (2019)]。
【0005】
その他の研究グループからも、様々な探索方法を利用して、いくつかの種類のヒト型抗HBsAg抗体またはヒト化抗HBsAg抗体が単離されており、抗HBsAg抗体の探索方法として、具体的には、モノクローナルハイブリドーマ技術[Kucinskaite-Kodze, I. et al., Virus Res 211: 209-221 (2016); Zhang, T.Y. et al., Gut 65: 658-671 (2016)];Fab抗体を発現させたファージディスプレイ[Li, D. et al., Elife 6: (2017); Kim, S.H. & Park, S.Y. Hybrid Hybridomics 21: 385-392 (2002); Wang, W. et al., MAbs 8: 468-477 (2016)];ヒト化マウス[Eren, R. et al., Immunology 93: 154-161 (1998)];およびヒトB細胞培養[Cerino, A., et al., PLoS One 10: e0125704 (2015); Heijtink, R.A. et al., J Med Virol 66: 304-311 (2002)]が利用されている。これらの抗体は、組換えウイルスタンパク質に対してスクリーニングすることにより単離された。
【0006】
現在、発症のリスクがある人に使用される予防剤としてB型肝炎免疫グロブリン(HBIG)が選択されている[Crespo, G., et al., Gastroenterology 142: 1373-1383 e1371 (2012); Both, L. et al., Vaccine 31: 1553-1559 (2013)]。しかし、HBIGは入手が難しく、バッチ間の変動があり、特異的活性が低いという問題がある[Crespo, G., et al., Gastroenterology 142: 1373-1383 e1371 (2012); Li, D. et al., Elife 6: (2017)]。有効な治療選択肢と予防選択肢が不足していることから、HBVの臨床管理を改善できる新たな手段が明確に求められている。
【0007】
したがって、臨床適用可能な改良されたHBV抗体が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、mAb006-11と命名した完全ヒト型抗HBsAg-Sモノクローナル抗体の開発に関する。mAb006-11は、HBV(遺伝子型D)に対して直接スクリーニングを行うことによって、HBV回復期患者から単離された。本明細書では、mAb006-11が、主要な4種の遺伝子型のすべてで見られるHBsAg上構造的エピトープに結合し、強力な中和活性を有することを示している。次に、mAb006-11の組換えヒトIgGサブクラスバリアントを作製し、これらのサブクラスバリアントが、HBVに対する結合活性および中和活性に影響を及ぼすかどうかを試験した。mAb006-11はIgG1サブクラスから単離されたものであったが、この抗体のIgG4サブクラスは、インビトロアッセイにおいて有意に良好な中和能力を示した。さらに、mAb006-11-IgG1が、インビボ条件でHBIGと比べて優れた予防的有用性および治療的有用性を示すことを報告している。mAb006-11は、感染後の抗ウイルス剤として、HBV DNAレベルと循環HBsAgを有意に低下させた。これらの知見から、mAb006-11が、HBVの医学的介入のための予防手段または治療手段となり得ることが示された。
【0009】
第1の態様において、本発明は、HBsAgの少なくとも1つの構造的(非線状)エピトープに特異的に結合して、B型肝炎ウイルスによる感染を中和する単離された中和抗体またはその断片であって、
前記抗体が、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDRL1のアミノ酸配列と、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDRL2のアミノ酸配列と、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDRL3のアミノ酸配列と;配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDRH1のアミノ酸配列と、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDRH2のアミノ酸配列と、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDRH3のアミノ酸配列とを含む、単離された中和抗体またはその断片を提供する。
【0010】
抗体分子のイディオタイプを含む抗体断片は、公知技術によって製造することができる。例えば、抗体分子のイディオタイプを含む抗体断片は、抗体分子のペプシン消化によって製造することができる。より具体的には、Fab断片は、F(ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することによって製造することができ、抗体分子をパパインと還元剤で処理することによっても製造することができる。このような抗体断片は、本発明の抗体のいずれからでも製造することができる。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記抗体は、少なくとも1つの軽鎖可変領域と少なくとも1つの重鎖可変領域を含み;前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記抗体は、IgA骨格、IgG1サブクラス骨格、IgG2サブクラス骨格、IgG3サブクラス骨格およびIgG4サブクラス骨格を含む群から選択される定常領域を有し、IgG4サブクラス骨格を有することが好ましい。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記抗体は完全ヒト型抗体である。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記B型肝炎ウイルスは、遺伝子型A(adw2)、遺伝子型B(adw)、遺伝子型C(adr)および遺伝子型D(ayw)を含む群から選択される。
【0015】
第2の態様において、本発明は、本発明のいずれかの態様に記載の単離された中和抗体またはその断片と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0016】
第3の態様において、本発明は、HBV感染症および/または少なくとも1種のHBV関連疾患の予防または治療において使用するための、本発明のいずれかの態様に記載の単離された中和抗体もしくはその断片、または前記中和抗体もしくはその断片を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記予防または治療は、周産期のHBV伝播の予防、妊娠第三期のHBV陽性母体の治療、肝移植レシピエントにおけるHBV再発の予防、またはHBVもしくはHBsAg陽性材料に暴露されたワクチン不応答者におけるHBV暴露後の予防のためのものである。
【0018】
第4の態様において、本発明は、HBV感染症および/または少なくとも1種のHBV関連疾患の予防用または治療用の医薬品の製造のための、本発明のいずれかの態様に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片の使用を提供する。
【0019】
好ましい一実施形態において、前記医薬品は、本発明の完全ヒト型抗体またはその断片を含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記予防または治療は、周産期のHBV伝播の予防、妊娠第三期のHBV陽性母体の治療、肝移植レシピエントにおけるHBV再発の予防、またはHBVもしくはHBsAg陽性材料に暴露されたワクチン不応答者におけるHBV暴露後の予防のためのものである。
【0021】
第5の態様において、本発明は、HBV感染症および/または少なくとも1種のHBV関連疾患を予防または治療する方法であって、本発明のいずれかの態様に記載の抗体またはその断片を対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記予防または治療は、周産期のHBV伝播の予防、妊娠第三期のHBV陽性母体の治療、肝移植レシピエントにおけるHBV再発の予防、HBVもしくはHBsAg陽性材料に暴露されたワクチン不応答者におけるHBV暴露後の予防、または慢性感染個体の治療のためのものである。
【0023】
本発明の抗体またはその断片および本発明の組成物の有効な用量および投与スケジュールは実験に基づいて決定してもよく、そのような判断は、当業者の技能の範囲内である。本発明の組成物を投与する際の用量範囲は、疾患の症状に影響を与えることができる所望の効果を得るのに十分な量であればよい。この用量は、望ましくない交差反応や、アナフィラキシー反応などの有害な副作用を引き起こすほど多量であってはならない。一般的に、用量は、患者の年齢、状態、性別および疾患の程度、投与経路、または投与計画に含まれるその他の薬剤の有無に応じて異なり、当業者により決定することができる。禁忌がある場合、個々の医師により用量を調節することができる。用量は様々に変動してもよく、1日1回またはそれ以上の回数で1日または数日間投与することができる。特定の種類の医薬品の適切な用量は、文献に記載の指針を参考にすることができる。例えば、抗体の適切な用量を選択するための指針は、抗体の治療的使用に関する文献に記載がある[例えば、Ferrone, S., & Dierich, M. P., Handbook of monoclonal antibodies: Applications in biology and medicine. Noges Publications, Park Ridge, N.J. (1985) ch. 22およびpp. 303-357; Smith, T.W., et al., In: Antibodies in Human Diagnosis and Therapy. Haber, E., Krause, R.M. (eds.) New York: Raven Press (1977) pp 365-389を参照されたい]。
【0024】
本発明の抗体を単独で使用する場合、本発明の抗体の1日用量は、典型的には、前述の要因に応じて、1日あたり約1μg/kg体重~100mg/kg体重またはそれ以上であってもよい。
【0025】
第6の態様において、本発明は、
(a)本発明の中和抗体の少なくとも1つの軽鎖可変領域と;
(b)本発明の中和抗体の少なくとも1つの重鎖可変領域
をコードする単離された核酸分子を提供する。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記核酸分子は、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの軽鎖可変領域と;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの重鎖可変領域
をコードする。
【0027】
いくつかの実施形態において、
前記(a)に記載の少なくとも1つの核酸配列は、遺伝子コードの冗長性により、配列番号9に示される核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有し;
前記(b)に記載の少なくとも1つの核酸配列は、遺伝子コードの冗長性により、配列番号10に示される核酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有する。
【0028】
本発明の単離された核酸分子は、発現ベクターにクローニングした後、この発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換することにより、本発明のいずれかの態様に記載の抗体を産生させてもよい。
【0029】
第8の態様において、本発明は、前記少なくとも1つの単離された核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0030】
第9の態様において、本発明は、前記発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0031】
具体的には、前記宿主細胞は、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または組換え植物細胞であってもよい。植物細胞を用いてヒト治療抗体を製造する方法は、Qiuらにより報告されている[Nature 514(7520): 47-53 (2014)、この文献は参照により本明細書に援用される]。
【0032】
第10の態様において、本発明は、前記少なくとも1つの中和抗体もしくはその断片または前記組成物を含むキットを提供する。
【0033】
本明細書に含まれる文献、操作、材料、装置、物品などに関する考察は、これらのいずれかまたはそのすべてが、本明細書の記載のそれぞれの優先権主張日よりも以前に存在したかのように、先行技術基準の一部を形成していることや、本開示の関連分野の技術常識であることを容認するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A-E】mAb006-11の探索とその特性評価を示す。A.抗体探索方法論の模式図を示す。B.ハイスループット抗体探索用にメモリーB細胞を選択した際のフローサイトメトリーデータを示す。C.生きたウイルス、組換えHBsAg S抗原および組換えPreS1/2タンパク質に対して5μg/mlのmAb006-11の結合特異性を評価した。D.HBV(遺伝子型D)とHepG2-hNTCP細胞株を利用したインビトロアッセイにより、mAb006-11とHBIGの中和能力を試験した。E.最も一般的な4種のHBV遺伝子型に対するmAb006-11の結合能力をELISAアッセイにより試験した。t検定により統計分析を実施し、*P<0.05とした(表2)。すべてのデータは平均値±SEMで示し、N=4の独立した実験を行った。
【0035】
図2A-C】生ウイルススクリーニングアッセイ用のキャプチャーELISAの開発と最適化を示す。A.生ウイルススクリーニングアッセイの模式図を示す。B.キャプチャー抗体試薬の性能を判定するための2種の市販マウス抗体の試験を示す。免疫沈降法によりこれら2種の抗体を比較することによって、どちらの抗体がより効果的にウイルスを捕捉するのかをHBVゲノムコピー数の比較に基づいて決定した。C.様々に濃度を変えた一次抗体(ヒト)とヤギ抗ヒト二次抗体を用いたキャプチャーELISAアッセイの最適化を示す。
【0036】
図3A-E】エピトープの結合、エピトープの結合に及ぼすIgGサブクラスの影響、およびインビトロでの中和能力を示す。A.ループ2領域に特異的なBio-Plex mAbによるHBsAgウイルス様粒子の検出は、このHBsAgウイルス様粒子にmAb006-11が結合することにより阻害されて低下する(抗体8および抗体17)。B.予測されたHBsAgの構造データ(I-Tasser)を示し、ループ2領域を強調表示している。この構造データから、mAb006-11が広い結合領域を有することが示された。C.mAb006-11の主要な4種のIgGサブクラスの重鎖と軽鎖を、還元条件と非還元条件でポリアクリルアミドゲル上で分離した。D.組換えHBsAgに対する5μg/mlの濃度のmAb006-11の主要な4種のIgGサブクラスの結合特異性をELISAにより試験した(平均値±SEM、N=4の独立した実験)。E.水晶振動子微小天秤法(QCM)によるmAb006-11の各サブクラスの親和性とBmaxの測定値を示す(平均値±SEM、N=3の独立した実験)。各サブクラスの解離平衡定数(KD)とBmaxを右上に示す。
【0037】
図4A-D】mAb006-11の探索とその結合性の評価を示す。A.抗体探索のためのB細胞のゲート方法およびフローサイトメトリーによる選別を示す。B.生きたウイルスと組換えHBsAgに対して二重スクリーニングを行うことによりmAb006-11を単離した。枠内に該当したウェルの細胞をピックし、配列を回収した。C.還元条件(SDS+2-β-メルカプタノール)または非還元条件(SDSのみ)での組換えHBsAgに対するmAb006-11-IgG1の結合を免疫ブロット法により検出した結果を示す。陽性コントロールとして、市販のヤギ抗HBs抗体(ポリクローナル)を用いた。タンパク質ラダーをマーカーとして示している。D.HBsAgのループ1領域の線状ペプチドとループ2領域の線状ペプチドに対するmAb006-11の結合は検出されなかった。この結果から、mAb006-11が構造的エピトープに結合することが示された。
【0038】
図5A-D】中和能力に基づいたmAb006-11の4種のIgGサブクラスとHBIGの比較を示す。A.インビトロ中和アッセイの模式図を示す。B.分泌されたHBsAgとC.分泌されたHBeAgとに基づいてmAb006-11の主要な4種のサブクラスとHBIGを比較した中和データを示す。D.HBcAg中和曲線のプロットに用いた、細胞内HBcAgの定量用の代表的なフローサイトメトリーデータを示す。
【0039】
図6A-B】フローサイトメトリーによる細胞内HBcAgのゲート方法および測定を示す。A.感染後7日目の細胞内HBcAgの定量に用いたゲート方法を示す。BV510-(生細胞/死細胞染色)とAF647+(マウス抗HBcAgに対するヤギ抗マウス二次抗体の結合)を染色することによって、HepG2-hNTCP感染細胞を定量した。B.様々な濃度のmAb006-11の4種のIgGサブクラスとHBIG、ウイルスなし、およびウイルスのみのウェルのフローサイトメトリープロットを示す(1つの実験からの代表的なプロットを示す)。*HBIGは10倍以上に希釈して濃度を調整した(3000μg/ml、300μg/ml、30μg/ml、3μg/ml、0.3μg/ml、0.03μg/ml)。
【0040】
図7A-J】インビボでのmAb006-11の特性評価を示す。A.ヒト肝臓キメラマウスの作製の模式図を示す。B.すべてのマウスにおいてhALBの産生を測定したところ、約5mg/mlであった。C.予防処置のための、抗体の注射、ウイルスの接種および血清の採取を示した模式図である。コントロールmAb、HBIGまたはmAb006-11を注射したマウスにおいて、HBV接種の前日から接種後35日目まで測定したD.HBV DNAの週1回の定量の結果(mAb006-11群とコントロールmAb群の間の統計学的分析は、t検定を用いて行った)と、E.HBsAgの産生の週1回の定量の結果(mAb006-11群とコントロールmAb群の間の統計学的分析はF検定を用いて行った)を示す。F.hFAH染色、HBcAg染色およびH&E染色を行ったマウス肝切片の組織学的分析を示す。G.治療処置のための、抗体の注射、ウイルスの接種および血清の採取を示した模式図である。コントロールmAb、HBIGまたはmAb006-11を注射したマウスにおいて、HBV感染症の確立後42日目に測定したH.HBV DNAの週1回の定量の結果(mAb006-11群とHBIG群の間の統計学的分析は、F検定を用いて行った)と、I.HBsAgの産生の週1回の定量の結果(mAb006-11群とHBIG群の間の統計学的分析はF検定を用いて行った)を示す。抗体注射の1~4日後に、これらの定量を15日間ごとにさらに実施した。J.hFAH染色、HBcAg染色およびH&E染色を行ったマウス肝切片の組織学的分析を示す。*P<0.05、**P<0.005、***P<0.0005。
【0041】
図8A-E】インビボにおけるmAb006-11の予防有効性の検証を示す。A.すべてのマウスにおいてhALBの産生を測定したところ、約7mg/mlであった。コントロールmAbまたはmAb006-11を注射したマウスにおいて、HBVの接種の前日から感染後63日目まで、B.体重の変化(g)の測定と、C.HBV DNAの定量を週1回行った結果を示す。D.感染後63日目のすべてのマウスにおけるHBsAgの産生の測定結果を示す。E.H&E染色したマウス腎切片と脾切片の組織学的分析を示す。
【0042】
図9A-D】インビボにおけるmAb006-11の治療有効性の検証を示す。A.すべてのマウスにおいてhALBの産生を測定したところ、約4mg/mlであった。B.コントロールmAbまたはmAb006-11を注射したマウスにおいて、HBV感染症の確立後42日目に測定したHBV DNAの週1回の定量の結果を示す。抗体注射の1~3日後に、これらの定量を8日間ごとにさらに実施した。C.感染後42日目と抗体注射の1~3日後に8日間ごとにHBsAgの産生を測定した。D.H&E染色したマウス腎切片と脾切片の組織学的分析を示す。
【0043】
図10A-B】mAb006-11とHBC34の比較を示す。A.インビトロアッセイを用いて、mAb006-11とHBC34の中和能力を比較した。このデータから、mAb006-11のG1形態とG4形態はいずれも、HBC34と比べて優れた中和能力を有していたことが示された。B.エピトープへの結合に関してmAb006-11とHBC34を比較したところ、mAb006-11は、還元条件と非還元条件のいずれでもHBV S抗原に結合しないことが見出され、これとは異なり、HBC34は、非還元条件下でS抗原に強力に結合し、還元条件下でS抗原に弱く結合することが示された。
【発明を実施するための形態】
【0044】
簡便に参照できるように、本明細書において引用した参考文献の一覧を実施例の後ろに付記している。この一覧に記載の参考文献はいずれも引用によりその内容全体が本明細書に援用される。
【0045】
用語の定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項において使用される特定の用語を以下にまとめた。
【0046】
本明細書において、「抗体」は、特定のエピトープに結合する免疫グロブリンまたはインタクトな分子を指す。このような抗体として、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体および完全ヒト型抗体が挙げられるが、これらに限定されない。「モノクローナル抗体」を「Mab」と呼ぶ場合もある。本発明の抗体は、IgG1またはIgG4の形態の完全ヒト型抗体であるHDAC006-11を含む。抗体HDAC006-11の重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、各ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)の定常領域とともにプラスミドにクローニングすることによって、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4の形態の組換えHDAC006-11抗体を製造してもよい。IgG1またはIgG4の形態の抗体であるHDAC006-11は、B型肝炎ウイルス(HBV)に特異的に結合することができ、このHBVは、HBVの少なくとも1つのHBsAgタンパク質を含む構造的エピトープを含むが、これに限定されない。
【0047】
本明細書において、「抗体断片」は、抗体の全長配列に由来し、親抗体の抗原結合機能を保持する不完全な部分または単離された部分を指す。抗体断片の例として、一本鎖抗体、一本鎖可変領域断片(scFv)、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片および/またはFv部分;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子;ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。HDAC006-11抗体の断片は、全長抗体の所望の親和性を保持している限り、本発明に包含される。
【0048】
本明細書において、「抗原」は、抗体の産生を誘導して、免疫応答を起こすことができる物質を指す。本発明において、「抗原」は、「免疫原」という用語と同じ意味で使用されることがある。厳密な意味では、「免疫原」は、免疫系から応答を惹起する物質であるのに対して、「抗原」は、特異的な抗体に結合する物質として定義される。抗原またはその断片は、特定の抗体に接触する分子(すなわち、エピトープ)であってもよい。タンパク質またはその断片を使用して宿主動物の免疫を行う場合、そのタンパク質の様々な領域によって、様々な抗体の産生が誘導され(すなわち、免疫応答が惹起され)、産生された抗体が、抗原(タンパク質上の所定の領域または三次元構造)に特異的に結合する。抗原の例として、HBVのHBsAgタンパク質が挙げられるが、これに限定されない。さらに、抗原として、HBVの表面タンパク質が挙げられるが、これに限定されない。特に、「エピトープ」という用語は、抗体結合部位を形成する約5~13個のアミノ酸からなる連続した配列を指してもよい。抗体または結合性タンパク質に結合する形態のエピトープは、実質的に三次構造を持たない変性タンパク質であってもよい。また、エピトープは、不連続な配列に由来する不連続なエレメントを含む構造的エピトープであってもよい。さらに、エピトープは、四次構造を持つエピトープであってもよく、四次構造を持つエピトープは、2種以上のタンパク質またはポリペプチドに由来する不連続なエレメントを含み、このような不連続なエレメントが、ビリオンやその他の種類のアセンブリなどの微粒子にアセンブルされている。
【0049】
本明細書において、「構造的エピトープ」は、抗体の軽鎖可変領域と重鎖可変領域に直接接触する抗原を含む複数のサブユニット(通常は、アミノ酸)からなる配列として定義される。抗体と未消化の抗原の相互作用において、この抗原タンパク質がほどかれていない場合、抗体と接触する表面アミノ酸は互いに不連続である可能性が常に存在する。このような不連続なアミノ酸は、互いに集合して三次元構造を形成し、抗体のパラトープと相互作用する。このような三次元構造のエピトープを「構造的エピトープ」と呼ぶ。これに対して、抗原が消化された場合、ペプチドと呼ばれる小さなセグメントが形成され、これが主要組織適合遺伝子複合体分子に結合し、線状に連続したアミノ酸を介してT細胞受容体が結合する。このようなエピトープは、「線状エピトープ」として知られている。
【0050】
本明細書において、「含む」とは、本発明の実施に際して、様々な成分、材料または工程を組み合わせて使用することと定義される。したがって、「含む」という用語には、この用語よりも限定的な意味の「実質的にからなる」および「からなる」という用語も包含される。
【0051】
抗体またはこれに関連する結合性タンパク質の「免疫結合特性」という用語は、あらゆる文法上の形式において、抗体または結合性タンパク質の抗原に対する特異性、親和性および交差反応性を指す。
【0052】
本明細書において、「単離された」は、ある生物学的成分(例えば、核酸、ペプチドまたはタンパク質)が、自然界においてその生物学的成分を産生する生物の細胞内のその他の生物学的成分(すなわち、その他の染色体DNA、染色体外DNA、RNA、タンパク質)から実質的に分離されているか、これらのその他の生物学的成分から実質的に別個に産生されるか、これらのその他の生物学的成分から実質的に精製されていることを意味する。したがって、単離された核酸、ペプチドおよびタンパク質は、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質を含む。さらに、「単離された」という用語は、宿主細胞での組換え発現によって作製された核酸、ペプチドおよびタンパク質、ならびに化学合成された核酸を含む。
【0053】
本明細書において、「中和抗体」は、病原体が宿主の体内で感染を開始および/または持続させる能力を中和することができる抗体として定義される。本発明は、HBV由来の抗原を認識する少なくとも1つのヒトモノクローナル中和抗体を提供する。
【0054】
本明細書において、「変異体」は、少なくとも1つの核酸の置換、欠失または付加が存在することから参照配列とは異なるヌクレオチド配列を少なくとも1つ有しているが、変異していない核酸配列によりコードされるアミノ酸配列が認識するHBV上の構造的エピトープと同じ構造的エピトープを認識して、これに結合する能力を保持するアミノ酸配列をコードする核酸配列として定義される。具体的には、変異体は、遺伝子コードの縮重により、参照配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有していてもよく、このような配列同一性であっても、抗体の重鎖と軽鎖のアミノ酸配列をコードする。さらに、「変異体」は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失または付加が存在することから少なくとも1つの参照配列とは異なっているが、変異していないアミノ酸配列が認識するHBV上の構造的エピトープと同じ構造的エピトープを認識して、これに結合する能力を保持するアミノ酸配列を指す。具体的には、この変異体は、参照配列と少なくとも90%または少なくとも95%の配列同一性を有していてもよい。
【0055】
本明細書において、「バリアント」は、参照配列と比べて1つ以上のアミノ酸が異なっているが、非バリアント参照配列が認識するHBV上の構造的エピトープと同じ構造的エピトープを認識して、これに結合する能力を保持するアミノ酸配列を指す。バリアントは、元のアミノ酸と類似した構造特性または化学的特性を有するアミノ酸への置換(例えば、ロイシンからイソロイシンへの置換)である「保存的」変化を有していてもよい。ごくまれな場合として、バリアントは、「非保存的」変化(例えば、グリシンからトリプトファンへの置換)を有していてもよい。これに類似したわずかな変化として、アミノ酸の欠失もしくは挿入、またはこれらの両方が挙げられる。生物学的活性または免疫学的活性を失うことなく、どのアミノ酸残基を置換、挿入あるいは欠失できるのかを判断するための指標は、当技術分野でよく知られているコンピュータープログラム、例えば、DNASTAR(登録商標)ソフトウェア(DNASTAR社、米国ウィスコンシン州マディソン)を使用して見出すことができる。
【0056】
「薬学的に許容される」は、生物学的に望ましくない材料やその他の望ましくない材料に該当しない材料を指し、すなわち、望ましくない生物学的作用を引き起こしたり、医薬組成物に含まれるその他の成分と有害な相互作用を起こしたりすることなく、抗体またはその活性断片とともに対象に投与してもよい材料を指す。担体は、当業者であれば熟知しているように、通常、有効成分の分解を最小限に抑え、かつ対象において有害な副作用を最小限に抑えるように選択される。
【0057】
抗体を含む組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、治療に使用することができる。
【0058】
適切な担体およびその製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (19th ed.) ed. A.R. Gennaro, Mack Publishing Company, Easton, PA 1995に記載されている。通常、製剤を等張化するため、適切な量の薬学的に許容される塩が使用される。薬学的に許容される担体の例として、生理食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液が挙げられるが、これらに限られない。これらの溶液のpHは、約5~8であることが好ましく、約7~7.5であることがより好ましい。さらに、担体として、抗体を含有する疎水性固体ポリマーからなる半透過性マトリックスなどの徐放性製剤も挙げられ、このマトリックスは、例えば、フィルム、リポソーム、微粒子などの成形物の形態である。当業者であれば十分に理解しているように、例えば、投与経路や投与される組成物の濃度に応じて、特定の担体がより好ましい場合がある。
【0059】
医薬担体は当業者に公知である。医薬担体は、最も一般的には、ヒトへの薬剤の投与用の標準的な担体であり、このような担体として、滅菌水、生理食塩水、および生理学的pHの緩衝液などの溶液が挙げられる。本発明の組成物は、筋肉内投与または皮下投与することができる。その他の化合物は、当業者により利用されている標準的な手順により投与される。
【0060】
医薬組成物は、選択された分子に加えて、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、保存剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。また、医薬組成物は、抗微生物剤、抗炎症剤、麻酔剤などの1種以上の有効成分をさらに含んでいてもよい。
【0061】
医薬組成物は、局所治療と全身治療のいずれが望ましいのかということや、治療部位に応じて、様々な方法で投与してもよい。投与は、局所投与(眼投与、経膣投与、直腸投与、鼻腔内投与など)、経口投与、吸入投与、非経口投与(例えば、点滴静注)、皮下投与、腹腔内投与または筋肉内注射であってもよい。本開示の抗体は、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、腔内投与または経皮投与することができる。
【0062】
非経口投与用の製剤として、滅菌水溶液、滅菌非水性溶液、懸濁液およびエマルションが挙げられる。非水性溶媒の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油など)、および注射用有機エステル(オレイン酸エチルなど)が挙げられる。水性担体としては、水、アルコール/水溶液、エマルションまたは懸濁液が挙げられ、これらには、生理食塩水および緩衝媒体が含まれる。非経口溶媒としては、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖加リンゲル溶液、ブドウ糖加塩化ナトリウム溶液、ラクトリンゲル液、または不揮発油が挙げられる。静脈内投与用溶媒としては、流動化剤、栄養補液、電解質補液(例えば、ブドウ糖加リンゲル液をベースとした溶媒)などが挙げられる。また、保存剤およびその他の添加剤、例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどを添加してもよい。
【0063】
本明細書において、「特異的結合」または「特異的な結合」とは、1つ以上のタンパク質またはペプチドと、アゴニスト、抗体またはアンタゴニストとの間の相互作用を指す。具体的には、特異的結合は、抗原と抗体の間の結合である。この相互作用は、1つ以上のタンパク質の特定の構造が、結合性分子(すなわち、抗原またはエピトープ)によって認識されることに依存する。上述したように、抗原またはエピトープは、1種類のタンパク質または異なる種類のタンパク質に由来する2種以上のペプチド配列から構成されていてもよく、これらの2種以上のペプチド配列が、空間的に互いに集合して、構造的抗原または構造的エピトープを形成してもよい。例えば、ある抗体がAというエピトープに対して特異的である場合、標識された遊離のAと前記抗体を含む反応において、エピトープAすなわち非標識の遊離Aを含むポリペプチドが存在すると、前記抗体に結合する標識Aの量が減少する。
【0064】
本発明の文脈において使用される「治療」という用語は、予防的処置、緩和的処置、治療的処置または治癒的処置を指す。
【0065】
本明細書において、「対象」は脊椎動物として定義され、具体的には哺乳動物、より具体的にはヒトを指す。より具体的には、研究を目的とする場合、対象は、少なくとも1種の動物モデル、例えば、マウスやラットなどであってもよい。具体的には、HBV感染症および/またはHBV関連疾患の治療を目的とする場合、対象はHBVに感染したヒトであってもよい。
【0066】
当業者であれば、本明細書に記載の方法に準じて、過度な実験を行うことなく、本発明を実施できることを十分に理解しているであろう。本明細書に記載の方法、技術および化学物質は、本願で引用した参考文献に記載されているものであるか、あるいは標準的な生物工学や分子生物学の教科書に記載のプロトコルから得たものである。
【実施例
【0067】
当業者であれば、本明細書に記載の方法に準じて、過度な実験を行うことなく、本発明を実施できることを十分に理解しているであろう。本明細書に記載の方法、技術および化学物質は、本願で引用した参考文献に記載されているものであるか、あるいは標準的な生物工学や分子生物学の教科書に記載のプロトコルから得たものである。本明細書において具体的には述べていない当技術分野で公知の標準的な分子生物学的技術は、Sambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (2001)の記載に概ね準じた。
【0068】
実施例1
材料と方法
血液試料
ヒト末梢血は、インフォームド・コンセントを受けた急性期から回復したHBV患者から得た(DSRB 2015/00354、B型肝炎ウイルスの根絶および消失(HEAL)のためのコホート研究)。本研究プロトコルは、シンガポール国立大学による承認を受けている。参加者を伴う本研究において実施したすべての手順は、本研究に関連する倫理規程に準じて行った。
【0069】
全長抗体または抗体断片の発現
選択した抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域を、各ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)の定常領域とともにプラスミドにクローニングした。ヒートショック法により、E.Coli TOP10にプラスミドを導入して形質転換した。1つのコロニーを釣菌し、一晩増殖させ、EZNA(登録商標) endo-free plasmid DNA mini kit(Omega Bio-Tek社)を用いてプラスミドを抽出した。シーケンシングを行って、変異が導入されていないことを確認した。ポリエチレンイミン(シグマ アルドリッチ社)を用いて、重鎖プラスミドと軽鎖プラスミドをHEK293細胞にトランスフェクトし、全長抗体を発現させた。Protein G SepharoseTM 4 fast flow resin(GEヘルスケア社)を用いて培養上清から抗体を精製した。
【0070】
HepG2-hNTCP細胞
HepG2-hNTCP細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco社)と2.5%ピューロマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を入れたT75フラスコで培養し、細胞インキュベーター内において5%CO2、37℃で維持した。
【0071】
ウイルスの製造
感染用HBVウイルスを製造するため、HepAD38細胞(遺伝子型D)をT75フラスコ内で増殖させ、細胞インキュベーター内において、テトラサイクリンを添加したDMEM培地中で5%CO2、37℃にて培養した。2週間後に、テトラサイクリンを含まないDMEMに培地交換した(tet off)。3日ごとに細胞上清を回収した。細胞上清の回収後、8%PEG 8000を用いてウイルスを濃縮し、1:100の体積比で10%FBS含有PBS中に再懸濁した。このウイルス混合液を小分けし、使用まで-80℃で保存した。
【0072】
キャプチャーELISA
簡単に述べると、MaxiSorpTMプレートを5μg/mlの抗HBVキャプチャー抗体(PreS2、Fitzgerald社)で一晩コーティングした。4%スキムミルクを含むPBS(SM-PBS)バッファーを用いて、プレートを室温でブロッキングし、約4×108個のビリオンを加えて4℃で一晩インキュベートした。次に、ブロッキングバッファーで(様々な濃度に)希釈した様々な抗体をプレートに加えて1時間インキュベートした。これらの抗体は、スクリーニング中にB細胞から得られた上清であってもよく、抗体回収後の特性評価用に様々な濃度に希釈した抗体そのものであってもよい。次に、HRP標識ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号:31413、3000倍希釈)を各ウェルに加えて1時間インキュベートし、発色用TMB基質とインキュベートし、H2SO4を添加して発色を停止させた。OD450を記録した。各インキュベーション工程間では、プレートをPBSで4回洗浄した。陰性コントロールとして、抗体でコーティングしたウェルにウイルスを添加しなかったものも実験に含めた。
【0073】
メモリーB細胞の選別
凍結保存されたヒトPBMCを完全培地中で37℃で解凍した。細胞をPBSで洗浄し、Live/DeadTM blue viability色素(サーモフィッシャー社)で染色し、モノクローナル抗体カクテル(CD19 1:50-Biolegend社、CD14 1:50-Biolegend社、CD3 1:100、CD27 1:50、CD38 1:50、IgG 1:50、IgM 1:50)とインキュベートした。得られたB細胞を洗浄し、BD FACSAriaTM IIIセルソーターを用いて、単一細胞を選別して384ウェルプレートに播種した。
【0074】
【表1】
【0075】
B細胞のスクリーニング
10%ultra-low IgG、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、50μg/mlヒトトランスフェリンおよび5μg/mlヒトインスリンを添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)+GlutaMAXTMを用いて、ヒトメモリーB細胞を培養した。この培地を完全IMDMと呼ぶ。次に、20U/ml IL-2、50ng/ml IL-10、10ng/ml IL-15および50ng/ml可溶性組換えヒトCD40L単量体を含む活性化サイトカイン環境を添加した完全IMDMに、選別したヒトメモリーB細胞を再懸濁した。この条件下でメモリーB細胞を4日間培養して、刺激と拡大培養を行った。4日後に、細胞をペレット化し、20 U/ml IL-2、50ng/ml IL-10、10ng/ml IL-15および50ng/ml IL-6を含む分泌サイトカイン環境を添加した新しい完全IMDMに再懸濁した。これによって、抗体を産生する形質芽球への分化を促進した。さらに3日間培養した後、細胞をペレット化し、QuickExtractTM RNA extraction kit(Lucigen社)を用いて細胞を溶解した。上清を回収し、ELISAによるスクリーニングを行った。サイトカインはいずれもCell Guidance Systems社(英国)から購入した。
【0076】
抗体配列の回収および合成
次に、ELISAでのスクリーニングにおいて陽性を示した細胞の溶解物を用いて、後続のPCR分析およびNGS分析を行った。製造業者のプロトコルに従って、MaximaTM H Minus cDNA合成マスターミックス(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)と、10μLの反応液あたり5μLの抽出バッファーを用いてcDNAを作製した。得られたcDNA産物2μlを、製造業者のプロトコルに従って、PlatinumTM Taqマスターミックスを用いた20μLでの反応にそのまま使用して、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を別々に増幅させた。Q5(登録商標) Hot Start Hi-Fidelityマスターミックスを用いたPCRをさらに実施して、イルミナアダプター配列とイルミナバーコード配列を付加し、AMPure XP磁気ビーズでPCR産物を精製した。精製したPCR産物をプールして4nMのライブラリーを作製し、25%PhiXをライブラリーに添加し、イルミナMiSeqキット(2×300bp)を用いてシーケンシングした。個々のリードを分離し、各リードに対応する生殖細胞系配列をInternational ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)から取得した。得られた個々の重鎖配列および軽鎖配列をTwist Biosciences社に送付して、プラスミド合成を行った。
【0077】
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
12%/15%ポリアクリルアミド分離ゲルを用いてゲル電気泳動を行って、還元条件下または非還元条件下でタンパク質サイズを可視化した。タンパク質5μgを還元色素または非還元色素と混合し、95℃で10分間インキュベートした後、別々のレーンにロードした。参照マーカーとして、タンパク質ラダー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号:26619)をロードした。クーマシーブリリアントブルーでゲルを染色し、ゲル撮影装置(バイオ・ラッド社)で撮影した。
【0078】
ウエスタンブロット
簡単に述べると、SDS-PAGE上で分離したタンパク質バンドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。5%スキムミルクを含むPBSTで膜を1時間ブロッキングし、10μg/mLの一次抗体またはコントロール抗体とインキュベートした。次に、HRP標識ヤギ抗ヒトIgG(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号:31413、10,000倍希釈)を用いて膜をインキュベートした。その後、PBSTで10分間の洗浄を3回行った。WesternBright(登録商標) ECL(Advansta社)を暗室で加えてタンパク質を可視化した。X線フィルム(Advansta社)を用いて画像を撮影した。
【0079】
HBV中和アッセイ
簡単に述べると、5×104個のHepG2-hNTCP細胞を中和用96ウェルプレートに播種し、細胞1個あたり1×103ゲノムコピーのHBVと各抗体を混合し、4%PEG 8000の存在下でHepG2-hNTCP細胞に接種した。5%CO2、37℃で20時間インキュベーション後、1×PBSで細胞を3回十分に洗浄し、感染培地中で維持した。2日ごとに培地を交換した。7日目に、各ウェルから上清を回収し、分泌されたHBsAgの分析(バイオ・ラッド社製MonolisaTM HBsAgキット)と分泌されたHBeAgの分析(バイオ・ラッド社製MonolisaTM HBeAgキット)に使用した。さらに、細胞をトリプシン処理して回収し、フローサイトメトリーにより細胞内HBcAgの分析(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号:MA1-7606)を行った。
【0080】
フローサイトメトリー(HBV HBcAg)
キットの説明書に従って固定/透過溶液キット(BDバイオサイエンス社、カタログ番号:554714)を用いて、回収したHepG2-hNTCP細胞の固定と透過処理を行った。透過バッファー中で、1000倍希釈したHBcAg(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号:MA1-7606)と細胞を4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、300倍希釈したAlexaFluor(登録商標)-647標識ヤギ抗マウスIgG抗体(インビトロジェン社、カタログ番号:A21235)で細胞を染色した。コントロールとして、感染させていない細胞を同じプロトコルで染色した。すべてのサンプルデータは、Attune NxTフローサイトメーターを用いて取得し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを分析した。
【0081】
抗体親和性測定
抗体の動態特性と親和性は、Attana Cell A200(Attana社)を用いて25℃で測定した。LNBカルボキシルセンサーチップを用いて実験を行った。スルホ-NHS/EDC(アミンカップリングキット、Attana社)でチップを活性化させ、実験用チップのみにrHBsAgを飽和させた。エタノールアミンを添加してチップの表面を不活性化した。以降の注入では、ランニングバッファーとしてPBSを用いた。抗体の希釈は、再生条件とともに最適化し、ロボットアームを用いて無作為的に試験した。抗体の注入は、20μL/分の流量で105秒間のパルス注入を行うことにより実施し、解離を300秒間観察した。チップの再生は、20mMグリシン(pH 5.0)の10秒間のパルス注入を2回行うことにより実施した。カーブフィッティングとデータ解析は、Trace Drawerソフトウェアを用いて行った。
【0082】
HBV DNAの定量
キアゲン社製のQIAamp(登録商標)DNA Blood Kitの説明書に従って、HBV DNAを単離した。簡単に述べると、プロテイナーゼKを含む溶解バッファーを試料に加えて、57℃で15分間インキュベートした。前記キットに付属のカラムを通して試料を遠心し、十分に洗浄してから溶出を行った。溶出された試料5μLを用いてqPCRを実施した。qPCRは、ABI7500 Fastリアルタイムシステム装置(アプライドバイオシステムズ社)において、HBV DNA特異的プライマーとして、1)HBVウイルス特異的フォワードプライマーと、2)HBVウイルス特異的リバースプライマーを用いて、SYBR(登録商標) Green qPCR(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号:4309155)により実施した。ウイルスDNAコピー数は、コピー数が既知の試料から作製した検量線に基づいて計算した。
【0083】
免疫沈降アッセイ
アイソタイプコントロール抗体とGタンパク質セファロースをHBV100μlに加え、4℃で2時間インキュベートすることによりプレクリア処理を行った。試料を分割し、目的の抗体、陽性コントロール(Fitzgerald社製PreS2抗体)またはPBS(陰性コントロール)とともに4℃で一晩かけて免疫沈降させた。次に、Gタンパク質ビーズを加え、4℃で2時間回転振盪した。ビーズを遠心分離し、0.1%PBSTで3回洗浄した。HBV DNAを抽出し、定量した。
【0084】
マルチプレックスイムノアッセイ
Bio-PlexTM 200プラットホーム(バイオ・ラッド社)を用いて、5つのHBsAgドメインにおいて抗HBs抗体のエピトープを標的としたHBsAgのマルチプレックスエピトープマッピングを作製した[Walsh, R. et al., Liver Int 39: 2066-2076 (2019); Hyakumura, M. et al., J Virol 89: 11312-11322 (2015)]。蛍光色素により個々に判別可能な磁気ビーズを抗HBsモノクローナル抗体とあらかじめ結合させ、多重化測定を行った。フィコエリトリン標識ポリクローナル抗体を検出に使用した。特定のHBsAgドメインに対して選択したマルチプレックス抗HBsモノクローナル抗体のエピトープ特異性は、a抗原決定基の99~160番目の残基に認められ、ループ1領域とループ2領域を標的とする。この方法を利用して、マルチプレックスイムノアッセイにおいて試験を行う前に、mAb11を参照用の野生型HBsAgとプレインキュベートすることによって、HBsAgエピトーププロファイルに対する抗HBs抗体の効果を調べた。分析の際、HBsAgのみの場合とmAb11とプレインキュベートしたHBsAgの場合の間でエピトーププロファイルマッピングの変化を比較した。ループ1エピトープとループ2エピトープの両方でエピトープの認識が減少した場合に、意義のある結果と考え、クリアランスプロファイルが「誘導」されたと見なした。
【0085】
標識したモノクローナル抗体の特異性として、mAb5、mAb6およびmAb10はループ1に特異性を有し、mAb7、mAb8、mAb11、mAb12、mAb16およびmAb17はループ2に特異性を有している。各mAbの由来は、Hyakumuraらによって見出されており[Hyakumura, M. et al., J Virol 89: 11312-11322 (2015)]、抗体結合部位の例は、Walshらにより報告されている[Walsh, R. et al., Liver Int 39: 2066-2076 (2019)]。参照骨格を基準としたときのエピトープの認識の変動の正常範囲の95%信頼区間(CI)は、±0.5倍の変化とした。0.5未満の倍率変化は、このアッセイの正常な分散を反映しているものとして、有意差なしとした。陽性の倍率変化(>0.5倍)は、エピトープへの結合が増加したものとし、陰性の倍率変化(>0.5倍)は、エピトープへの結合が減少したものと見なした。倍率変化が3分の1になった場合、エピトープがノックアウトされたものと見なした。
【0086】
線状エピトープの結合
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のHBsAgペプチド(50ng/ウェル)(ループ1:T-C-T-T/I-P-A-Q-G-N/T-S-M-F-P-S-C;ループ2:C-T-K-P-T/S-D-G-N-C-T)でプレートをコーティングして、直接ELISAプロトコルを実施した。これらのHBsAgペプチドをマイクロタイタープレート(Maxisorp、Nunc社)に4℃で一晩かけて結合させ、5%スキムミルクを含むTween20(0.05%)添加PBSを用いて各ウェルを室温で2時間ブロッキングした。PBSで適切な希釈倍率に希釈した抗体(mAb11)を各ウェルに加えて室温で1時間インキュベートした。ホースラディッシュペルオキシダーゼで標識した抗ヒト免疫グロブリン(Ig)抗体を用いて、各ウェルに結合した抗体を検出した。洗浄工程を数回行った後、ABTS[2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸);シグマ社]とクエン酸リン酸バッファーに溶解したH2O2を添加することにより抗体の結合を検出した。30分間後に410nmでODを測定した。
【0087】
ヒト肝臓キメラマウスの作製
Fah-/-/Rag2-/-/IL2rg-/-(FRG)トリプルノックアウトマウスをYecuris Corporationから購入し、16mg/lの濃度の(2-(2-ニトロ-4-トリフルオロメチルベンゾイル)-1,3-シクロヘキサンジオン(NTBC)を投与して飼育した。シンガポール農業食品畜産庁とNational Advisory Committee for Laboratory Animal Research of Singaporeのガイドラインに従って、Biological Resource Centre, Agency for Science, Technology and Research(シンガポール)において、すべてのマウスを12時間ごとの明暗サイクル条件下の特定病原体不在下で飼育・維持した。簡単に述べると、4~6週齢のマウスに、1×106個のヒト初代肝細胞(PHH)(ロンザ社)を脾臓内注射した。外科手術後、明暗サイクル条件を維持したままNTBCの投与を中止し、マウス肝細胞死を促した。ヒト肝細胞の再増殖には通常2~3ヶ月ほど要し、マウス血清中において約5mg/mlのヒトアルブミン(hALB)が産生されていれば、肝臓の約70%がヒト化されており、マウスを実験に使用可能と判断できる。
【0088】
hALBの産生の定量
製造業者(Bethyl Laboratories社)の説明書に従ってELISAにより、マウスによるhALBの産生を測定した。簡単に述べると、キットのプロトコルに従って、マウス血液から単離した血清を試料希釈液で106倍希釈した。
【0089】
マウス血清におけるHBsAgの定量
マウス血清をPBSで10倍希釈し、製造業者の説明書に従って(HBsAg CLIA、カタログ番号:CL0310-2、Autobio社)、HBsAgの定量を行った。簡単に述べると、プレコートELISAプレートにおいて、様々な時点で得た血清と酵素標識抗体を1時間インキュベートした。PBSで6回洗浄し、前記キットに付属の基質カクテルを添加した。テカン社製のプレートリーダーを用いて化学発光を測定することにより、HBsAgを検出した。このキットには、一連のHBsAg標準品(1mlあたりの国際単位(IU/ml))も付属しており、これらの標準品を使用してHBsAg定量用の検量線を作成した。
【0090】
マウスの臓器の組織学的分析
マウスの肝臓、腎臓および脾臓はいずれもエンドポイントで摘出し、処理を行って組織学的分析を行った。簡単に述べると、いずれの組織も、10%ホルマリン中で固定し、パラフィン包埋した。いずれの組織切片も、製造業者のプロトコルに従って再水和し、H&E染色した(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)。肝切片は、製造業者のプロトコルに従って、hFAH(ab140167、Abcam社)と精製組換えHBcAg抗体(MA1-7607、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)でさらに染色して、免疫組織化学分析を行った。すべての画像はZEISS Axio Scan.Z1で撮影し、Zen liteソフトウェアを用いて処理した。
【0091】
血漿抗体濃度の測定
MaxiSorpTM ELISAプレートを1μg/mlプロテインAで一晩コーティングした。プレートを洗浄した後、4%ミルクを含むPBSで各ウェルをブロッキングした。4%ミルクを含むPBSで血清試料を50倍に希釈して、各ウェルに加え、1時間インキュベートした。プレートを十分に洗浄し、HRP標識マウス抗ヒトIgG二次抗体を加えて1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄した後、TMBを添加して、HRPシグナルを5分間発色させ、H2SO4を加えてシグナルを停止させた。450nmの波長でプレートを読み取って吸光度を測定した。抗体濃度に使用したものと同じプレート上で検量線を作成し、抗体濃度を測定した。
【0092】
実施例2
HBV特異的ヒト抗体の単離
非常に強力な抗HBsAg抗体を容易に見出すため、偏りなくHBVウイルス全体のスクリーニングが可能なキャプチャーELISAを開発した(図1A図2A~C)。このアッセイを単一細胞抗体探索法と併用して、HBVが沈静化した個体から得られたPBMCから抗HBsAg特異的抗体を単離した。図1Aに、この抗体探索法の模式図を示す。組換え小型HBsAg(HBsAgと呼ぶ)とHBVビリオンにのみ結合性を示した完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体を単離し、mAb006-11と命名した(図1B図4A~B)。
【0093】
次に、HBV感染に感受性を示すHepG2/NTCP細胞を使用して、mAb006-11の中和能力をインビトロで試験した。上清中に分泌されたHBsAgを定量したところ、mAb006-11は、ナノモルレベルの抗体濃度でHBV感染を阻止することができたことから、mAb006-11が、強力な中和剤であることが判明した(図1C)。また、低ナノモル濃度範囲でのEC50値を比較したところ、mAb006-11は、HBIGよりも優れた中和抗体であることが観察された。mAb006-11が、インビトロ条件で活発な感染症を阻止することが可能な強力な中和剤であることが判明したことから、mAb006-11の交差結合の程度をさらに試験したところ、mAb006-11は、既知の10種のHBV遺伝子型のうち、主要な4種の遺伝子型A、B、CおよびDのいずれに対しても、類似した結合プロファイルを有することが示された(図1D、表2)。
【0094】
【表2】
【0095】
HBsAgを化学的に還元した場合、mAb006-11は結合活性を失うことが観察された(図4C)。Bio-Plex(登録商標)アッセイを用いてさらに分析したところ、mAb006-11は、ループ2領域のエピトープへのアクセスのみを遮断することが示された(図3A)。さらに、ループ1の線状ペプチドとループ2の線状ペプチドに対するmAb006-11の結合活性を試験したところ、mAb006-11はいずれの線状ペプチドに対しても結合能力を示さなかった(図4D)。mAb006-11の予測される結合部位を可視化するため、I-TASSERサーバを用いて、HBsAg遺伝子型Aの三次元構造を予測し、結合領域を赤色で示した(図3B)。このデータから、mAb11は、HBsAg上に見出された変性に非常に高い感受性を示す構造的エピトープに結合することが示唆された。
【0096】
実施例3
mAb006-11-IgGサブクラスの機能の比較
mAb006-11-IgG1が強力な中和剤であることが判明したことから、mAb006-11の重鎖可変領域を主要な4種のIgGサブクラスの骨格に組み込んだ。この実験は、サブクラスの違いによってmAb006-11の結合能力と中和能力に影響があるのかどうかを試験するために行った。図3Cは、発現された4種のサブクラス抗体を還元条件と非還元条件で分離したゲルを示す。非還元条件でのゲルに約150kDaの単一バンドが認められ、還元条件のゲルに約50kDaと約25kDaの2つのバンドが認められたことから、抗体が適切に発現されたことが示された。IgG3の重鎖のバンドは他のバンドのサイズよりも大きいが、これは、IgG3が他のサブクラスと比べて長いヒンジ領域を有することに起因する。組換えHBsAgに対するIgG2サブクラス、IgG3サブクラスおよびIgG4サブクラスの結合能力をELISAにより確認したところ、いずれのサブクラスでも、IgG1サブクラスとよく似た結合性が示された(図3D)。
【0097】
水晶振動子微小天秤法(QCM)技術を利用して、mAb006-11の主要な4種のIgGサブクラスとHBsAgの間の相互作用の詳細な生物物理学的分析を行った。これら4種の分子の解離平衡定数(KD)を計算したところ、IgG1のKDは22.7nMであり、IgG2のKDは49.8nMであり、IgG3のKDは26.0nMであり、IgG4のKDは23.7nMであった(図3E)。親和性の点では、IgG1とIgG3とIgG4の間で観察された親和性の差異は極めて小さかったが、IgG2の親和性はわずかに低かった。主要な4種のサブクラスの別のパラメータとしてBmax値を分析したところ、IgG1のBmax値は105.14Hzであり、IgG2のBmax値は189.61Hzであり、IgG3のBmax値は149.09Hzであり、IgG4のBmax値は212.12Hzであった(図3E)。Bmax値は、抗原に結合する抗体分子の最大数を示す。したがって、IgG2サブクラスとIgG4サブクラスはわずかに大きさが小さく、IgG3は柔軟性の高いヒンジ領域を有することから、IgG1サブクラスよりもこれらの分子のBmax値が高かったと考えられる。
【0098】
次に、インビトロ中和アッセイにより、4種のサブクラスの中和能力を比較した。このインビトロ中和アッセイの模式図を図5Aに示す。図5B図5Cおよび図5Dは、分泌されたHBsAg、分泌されたHBeAgおよび細胞内HBcAgをそれぞれ定量することによって4種の抗体サブクラスの中和能力を比較したものである。これらの3つのデータセットから、mAb006-11-IgG4サブクラスは、0.242nMのEC50値(HBeAgのデータ)を示し、最も強力な中和剤であることが示された。これに続いてmAb006-11-IgG3(EC50:1.05nM)が強力であり、その次にmAb006-11-IgG2(EC50:1.325nM)が強力であり、その次にmAb006-11-IgG1(EC50:12.63 nM)が強力である。mAb006-11のいずれのサブクラスも、HBIG(EC50:329.9nM)よりも強力な中和能力を有することが観察された。
【0099】
様々なサブクラスの中和能力と生化学的性質を分析したところ、mAb006-11-IgG4は、高い結合親和性と高いBmax値を有していたことから、最も優れた中和剤であることが判明した。mAb006-11-IgG4に次いで優れた中和剤であり、中和能力がわずかに異なるmAb006-11-IgG2とmAb006-11-IgG3を比較したところ、IgG2はIgG3よりもBmaxが高いが、親和性が低く、これに対して、IgG3はBmaxがわずかに低いが、親和性は高いことが認められた。これは、Bmaxと親和性の両方が、抗体の中和能力の判定において極めて重要であることを意味しており、KD値によって、抗体がどのぐらい速く結合し、どのぐらい長く結合を維持するのかが決まり、Bmax値によって、標的抗原上に結合する抗体分子の総数が決まる。Bmaxと親和性はいずれも、抗体の拮抗力の解明に重要な役割を果たす。
【0100】
実施例4
インビボでのHBVに対する予防戦略および治療戦略としてのmAb006-11
HBV感染症を持続感染させることができるヒト肝臓キメラマウス(HuFRGマウス、肝臓の約70%がヒト肝細胞に置換されたマウス)[Azuma, H. et al. Nat Biotechnol 25, 903-910 (2007)]において、mAb006-11の予防有効性および治療有効性を調べた。図7Aに、HuFRGマウスのヒト化の模式図を示す。図7Bに示すように、HuFRGマウスのhALBレベルが約5mg/mlに達した時点で、HBV接種の実験に使用可能である。
【0101】
最初の実験セットアップでは、HBVに感染させたHuFRGマウスにおいてmAb006-11の予防有効性を評価した。HBVに感染させる前日に、各マウスへのコントロールmAbまたはmAb006-11の単回投与(マウス1匹あたり100μg)を腹腔内投与により行い、感染から63日後までHBV DNAを週1回測定した。2つのマウス群はいずれも、身体異常や体重の変化を示さず(図8B)、健康であったことが示された。しかし、これら2つの群の間で、HBV DNAレベルと血清HBsAgレベルに大幅な違いが観察された。治療群(mAb006-11)のHBV DNAレベルは、検出限界を下回ったが、コントロールmAb群では、HBV DNAレベルが段階的に増加して、最大で約9Logコピー/mlとなった(図8C)。さらに、mAb006-11で治療したマウスは、コントロール群と比較して、エンドポイントにおいてHBsAgレベルが低下し、約3Log IU/mlとなったことから、ウイルスの侵入が完全に阻止されたことが示された(図8D)。
【0102】
治療濃度でのmAb006-11の効果を調べた。まず、コントロールmAbまたはmAb006-11の単回投与(マウス1匹あたり300μg)を行う42日前に、HuFRGマウスにおいてHBV感染症を確立させた。抗体注射を行ってから1日後、4日後および8日後に、HBV DNAレベルとHBsAgレベルの両方を測定した。エンドポイントにおいて、mAb006-11を注射したマウスでは、コントロール群と比べて、HBV DNAレベルが約3Logコピー/mlに低下し、HBsAgレベルが約2Log IU/mlに低下したことが観察された(図9B図9C)。
【0103】
インビボにおいて、mAb006-11の強力な予防有効性と治療有効性が観察されたことから、次に、mAb006-11の単回投与の予防有効性を、HBIGおよびコントロールmAbと比べた。HBVでチャレンジする前日に、前記と同様にして、抗体の単回用量(マウス1匹あたり100μg)をHuFRGマウスに腹腔内投与した(図7C)。9匹のHuFRGマウスに、コントロールmAb、HBIGまたはmAb006-11を同じ濃度で無作為に注射し、35日間にわたり観察した。HBIG群とコントロール群はいずれも、感染後35日目までHBV DNAレベルが安定して増加したが(約6Logコピー/ml)、mAb006-11群では、HBV DNAレベルは検出不能なまま維持された(図7D)。さらに、感染後35日目におけるコントロールmAb群とHBIG群の血清HBsAgレベルの測定値は、約1Log IU/mlであったが、これは、mAb006-11で治療したマウスの約100倍であった(図7E)。エンドポイントにおいて、マウスの肝臓、脾臓および腎臓を摘出し、組織学的分析を行った。免疫組織化学分析(IHC)により、すべてのマウス肝切片において、ヒトフマリルアセトアセテートヒドロラーゼ(hFAH)が陽性に染色されたことから、ヒト肝細胞が強力に再増殖したことが示された(図7F)。また、コントロールmAb群とHBIG群の肝切片において、IHCにより細胞内HBcAg(活発な感染症を示す)が検出されたが、mAb006-11で治療したマウスでは細胞内HBcAgは検出されなかった。すべてのマウス肝切片のH&E染色(図7F)と、脾切片および腎切片のH&E染色(図8E)において、有害な毒性が認められない正常な臓器形態が示された。これらのデータから、ウイルスを完全に遮断することが可能なmAb006-11の予防有効性により、活発な感染症の確立を阻止することができたことが示された。
【0104】
次に、確立された感染症に対するmAb006-11の治療有効性を評価した(図7G)。感染後42日目におけるHBV DNAレベルの平均測定値が約5Logコピー/mlであった6匹のマウスに、各抗体を無作為に単回投与(マウス1匹あたり300μg)した。HBIGで治療したマウスは、24時間後にHBV DNAレベルとHBsAgレベルがわずかに低下したが、注射の5日後には、HBV DNAレベルとHBsAgレベルが最初のレベルまでリバウンドし、時間の経過とともに継続的に上昇した(図7H図7I)。一方、mAb006-11で治療したマウスは、注射後の1日目に、HBV DNAレベルが大幅に低下し(約2Logコピー/ml)、HBsAgレベルも大幅に低下した(約2Log IU/ml)ことから、mAb006-11は、HBIGよりもHBVの複製を単純に効率的に阻止したことが示唆された(図7H図7I)。さらに重要な点として、ウイルス力価のリバウンドは最小限に抑えられ、HBsAgの産生は検出レベル以下付近で維持された(図7H図7I)。前記と同様に、mAb006-11群とHBIG群のマウス肝切片の組織学的分析では、強力なhFAH染色が示された。これに対して、HBcAg染色は、mAb006-11で治療したマウスよりもHBIGで治療したマウスの肝切片において多く見られた(図7J)。マウスの肝切片、腎切片および脾切片のH&E染色では異常は認められなかった(図7J図9D)。
【0105】
実施例5
公知の抗HBV抗体であるHBC34とmAb006-11の比較
実施例1に記載のインビトロアッセイを用いて、mAb006-11とHBC34(WO2017/060504(A1))の中和能力を比較した。実験データから、mAb006-11のG1形態とG4形態はいずれも、HBC34と比べて優れた中和能力を有していたことが示された(図10A)。0.03μg/mlの濃度において、mAb006-11G1は、約92%のHBsAgを中和したが、HBC34は、約29%のHBsAgしか中和しなかった。エピトープへの結合に関してmAb006-11とHBC34を比較すると、mAb006-11は、還元条件と非還元条件のいずれでもHBV S抗原に結合しないことが見出され、これとは異なり、HBC34では、非還元条件下でS抗原に強力に結合し、還元条件下でS抗原に弱く結合することが示された(図10B)。この結果から、mAb006-11は、構造依存的にエピトープに結合することが示された。
【0106】
まとめ
強力な中和効力を有する完全ヒト型モノクローナル抗体の単離、詳細な特性評価およびインビボ試験を開示した。mAb006-11の重鎖はIgG1サブクラスに属し、その軽鎖はλ軽鎖群に属する。過去の研究では、抗HBs抗体を探索する際に、組換えタンパク質または合成タンパク質を利用したことが報告されている。したがって、本研究は、ウイルス全体に対して直接スクリーニングを行うことによって、重鎖と軽鎖が自然にペアを形成した抗HBs抗体を単離できることを報告した初めての研究である。本研究で採用した直接スクリーニング法は、天然の状態でHBVウイルスの表面上に見られる3種の表面抗原のすべてに対して偏りなく抗体を単離できるという明らかな利点がある。組換え準ウイルス粒子上でのHBsAgの提示とビリオン上でのHBsAgの提示の間に差異が存在する可能性を解明した構造学的研究はいまだ報告されていないことから、上記の利点は極めて重要である。図1Cでは、mAb006-11の中和能力を示すとともに、インビトロでのHBV感染の予防においてmAb006-11がHBIGよりも優れていることを示した。mAb006-11は、最も一般的な4種のHBV遺伝子型(A、B、C、D)への交差結合能を示したことから、mAb006-11が、保存されたエピトープに結合し、広範囲な保護を提供できる可能性が示された。
【0107】
抗体サブクラスの組換えを実施して、サブクラス間での構造の違いが、mAb006-11の結合能力と中和能力に影響を及ぼすかどうかを調べた。最も一般的に見られる3種のサブクラスの解離定数がナノモルレベルであったことから(図3C)、サブクラス間での構造の違いは、各mAb006-11サブクラスのHBsAgに対する結合親和性にほとんど影響を及ぼさないと見られたが、各サブクラスのBmax値は有意に異なっており、このことから、サブクラス間での構造の違いが、HBsAgに対する抗体の結合の化学量論に影響を与えていることが示唆された。最も小型の2種のIgGサブクラス(IgG2、IgG4)が最も高いBmax値を示し、柔軟性の高いヒンジを有するIgG3のBmax値がその次に高く、これに続いてIgG1のBmax値が高かった。4種のサブクラスの中和能力は、IgG4、IgG3、IgG2、IgG1の順で高いことが判明した(図5B図5C図5D)。中和能力はBmax値に緊密に相関しており、親和性が中和能力にある程度の影響を及ぼしていることから、これらのパラメータが両方とも、不可欠な役割を果たしていることが示された。抗HBs抗体のサブクラスについて分析した過去の研究において、回復期患者および慢性患者では、IgG1レベルとIgG3レベルが最も優位であり、これにIgG4レベルが続くことが報告されている。また、別の論文では、抗HBs IgG4抗体は免疫複合体を形成しており、この免疫複合体は、Fc受容体への結合親和性が低いことから排除することが難しいことが報告されている。この報告から、慢性患者で見られるIgG4抗体産生応答は、炎症反応を阻止する防御機構である可能性が示唆される。したがって、mAb006-11-IgG4において観察されたより強力な中和作用は、ビリオンの表面をより効率的に覆うことができるIgG4分子によるものだと考えられ、これによって、ウイルスの受容体への結合と感染症を阻止することができると考えられる。これは、IgG4抗体が、アンタゴニストとして効率的に機能して、ウイルス感染症とその蔓延を予防できることを示唆している。IgG1抗体とIgG3抗体は、下流のエフェクター機能の活性化に重要な役割を果たしていることから、急性感染症または慢性感染症を排除することができ、一方で、IgG4サブクラスは予防薬としてよりよい選択肢になると考えられる。
【0108】
本明細書に記載のデータから、mAb006-11をHuFRGマウスに単回投与することによって、活性なHBV感染症の発症を効果的に予防できることが示された。さらに、これらのデータから、mAb006-11は、最前線でウイルスの侵入を強力に抑制するだけでなく、血液循環からビリオンを効率的に排除することができることも示された。また、臨床現場で使用されている市販の予防用抗体であるHBIGと比較した場合、mAb006-11は優れた保護効果を示した。さらに、mAb006-11は、治療的介入として用いた場合に、HBV DNAレベルを強力に2~3Logコピー/ml低下させ、血清HBsAgレベルを強力に2~3LogIU/ml低下させることが示された。より重要な点として、その他の抗HBs抗体(予防用量として15~20mg/kg、治療用量として20mg/kgの複数回投与)[Li, D. et al., Elife 6 (2017); Zhang, T.Y. et al., Gut 65: 658-671 (2016)]と比べて、インビボでのmAb006-11抗体の用量は有意に低かった(予防用量として3mg/kg、治療用量として9mg/kg)。このことからも、mAb006-11が、ウイルスの侵入に必要とされる必須エピトープを特異的に標的とすることにより、HBV感染症を効果的に抑制するという本発明者らの主張が実証された。
【0109】
mAb006-11の別の利点として、モノクローナル抗体であるという特性があるが、これと比較した際、HBIGは、精製されたヒト血漿に由来するものであり、入手が困難であり、特異性が低く、バッチ間の変動があるといった問題がある。HBIGに対して、モノクローナル抗HBsAg抗体は、臨床で使用するための安定かつ再現可能な供給源となるであろう。
【0110】
参考文献
本明細書で引用された過去に発表されている文献の一覧およびこれらに記載の考察は、当技術分野の技術水準や技術常識の一部を構成するものであると認識する必要は必ずしもない。
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図1A-C】
図1D-E】
図2
図3A-D】
図3E
図4
図5
図6A
図6B
図7-1】
図7-2】
図7H-J】
図8A-D】
図8E
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】