(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】生体分子の同一性を決定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/00 20240101AFI20240806BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240806BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20240806BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20240806BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240806BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240806BHJP
【FI】
G01N15/00 A
G01N33/483 C
G01N21/49 Z
G01N21/45 A
C12Q1/04
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502025
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 GB2022051853
(87)【国際公開番号】W WO2023285842
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522368754
【氏名又は名称】レフェイン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ラングホースト,マティアス・カール・フランツ
(72)【発明者】
【氏名】ビショップ,ジョシュア
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045FA14
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB09
2G059BB12
2G059CC16
2G059DD13
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2G059EE02
2G059FF03
2G059GG01
2G059HH01
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2G059HH03
2G059JJ22
2G059KK04
2G059MM01
4B063QA18
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、干渉法光散乱装置を使用して生体分子の同一性を決定するため、特に生体分子のバリアント、例えばウイルス血清型などの間で区別するための改良された方法に関する。そのような方法は、生物学的生産のため、ならびに疾患を診断するため、環境上の問題をモニターするためおよび夾雑物の決定のための試験を単純化する潜在能力を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉法光散乱装置を使用して試料中の生体分子を同定する方法であって、
(i)第1の表面と前記試料を接触させ、前記第1の表面上の前記生体分子の複数の測定を行い、前記測定を使用して、前記表面上の前記生体分子の可動性を決定するステップと、
(ii)第2の表面を使用してステップ(i)を繰り返し、前記表面上の前記生体分子の可動性を決定するステップと、
(iii)ステップ(i)およびステップ(ii)において決定された前記生体分子の可動性を使用して、前記生体分子についてのプロファイルを構築するステップと、
(iv)ステップ(iii)において得られた前記プロファイルを少なくとも1つの参照プロファイルと比較して前記生体分子を同定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1および第2の表面が異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の表面が前記第1の表面と同じであるが、前記試料が、前記第1の表面と比較して少なくとも1つの変更された条件下で前記第2の表面と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変更された条件が、温度、pH、イオン強度、レドックス電位、表面と溶液との間に印加される電位、および試薬の存在のいずれか1つから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試薬が、界面活性剤、カオトロピック剤、還元剤、緩衝剤、イオン、塩、溶媒、変性剤、および/または架橋剤のいずれか1つまたは複数から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの単一の生体分子の可動性が、干渉法光散乱装置を使用して追跡される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記生体分子の可動性が、
(i)前記表面上で前記生体分子が移動した距離、
(ii)前記表面上での前記生体分子の移動の速度、
(iii)前記生体分子が前記表面と相互作用する時間の長さ、および/または
(iv)前記表面との前記生体分子の相互作用の頻度
により定義される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップ(i)が、さらなる表面を用いて1または複数回繰り返されてもよく、この表面上での前記生体分子の可動性が、ステップ(iii)において前記プロファイルを構築するために使用され、前記さらなる表面が、前記第1および/または第2の表面と異なる表面であってもよいか、または同じ表面であってもよいが、前記試料が、少なくとも1つの変更された条件下で接触させられる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記表面のいずれか1つが、以下:ガラス、ダイヤモンド、プラスチック、ポリマー材料(例えば環状オレフィンコポリマー、ポリビニル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)および高密度ポリエチレン(HDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)を含むポリエチレン(PE)、ポリアクリレート(アクリル)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)を含むポリスチレン(PS)、シリコーン、ポリエステル(例えばポリ乳酸(PLA)またはポリ乳酸コグリコール酸(PGLA))、ポリウレタン、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(ナイロン)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PE/ABS)、ベークライト、ゴム、ラテックス、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PC/ABS)ならびに例えばポリ塩化ビニリデン(PVDC)を含むポリ塩化ビニル、ならびにサファイアのいずれか1つから選択されてもよい、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記表面が、活性化、被覆、処理および/または誘導体化される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記表面が、官能化されたPEG、シラン、カルボキシ-シラン、アミン、アミノシラン、トリメチルクロロシラン、アミン修飾試薬を用いるアルデヒド修飾、エポキシ修飾、カルボン酸修飾、NHS、HOBt、TBTU、PAMAM、ジアゾ、および超分子のいずれか1つまたは複数を用いて活性化、被覆、処理および/または誘導体化される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記表面が、脂質膜、任意選択的に脂質二重層である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(i)またはステップ(ii)からの少なくとも1つの測定を使用して、前記生体分子の質量を決定する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記表面および/または前記表面に適用される条件を選択して、前記生体分子の物理的特徴を決定する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記物理的特徴が、電荷、pI、サイズ、結合親和性、親油性および/または疎水性のいずれか1つまたは複数から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に定義される方法を使用するステップを含む、生産の間に生体分子を出荷試験する方法。
【請求項17】
前記生体分子が、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸、ウイルスもしくはウイルス様粒子、脂質ナノ粒子またはリポプレックスである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
生体分子の異なるバリアントの間で区別することができる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記バリアントが、血清型、アイソフォーム、グリコフォーム、リポフォーム、または突然変異型である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記生体分子の前記バリアントが、干渉法光散乱装置により測定された場合に同じ質量を有する、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記干渉法光散乱装置が質量光度計である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記測定が、前記表面と前記試料との間の境界面において行われる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記生体分子が標識されない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
新鮮な試料が各々の表面のために使用される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記参照プロファイルが、既知の生体分子を使用して用意される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子の同一性(アイデンチティー(identity))を決定するため、特に生体分子のバリアント、例えばウイルス血清型などの間で区別するための改良された方法に関する。そのような方法は、生物学的生産のため、ならびに疾患を診断するため、環境上の問題をモニターするためおよび夾雑物の決定のための試験を単純化する潜在能力を有する。
【背景技術】
【0002】
生物学的医薬、またはバイオロジクス(biologic)は、生物学的プロセスにより作られるかまたは生物学的供給源に由来する複雑な活性物質を含有する処置として記載され得る。「バイオロジクス」は広い用語であり、広範囲の製造物、例えば細胞、組織、血液由来製造物、核酸、組換えタンパク質、抗体、ワクチン、遺伝子治療ウイルス、ホルモン、および酵素を包含する。バイオロジクス薬物は、注射または注入により一般に投与され、多数の疾患を処置するために既に利用可能である。
【0003】
多くのバイオロジクスの製造は、遺伝子マニピュレーション方法を一般に使用する、生細胞、例えばヒト細胞、動物細胞または微生物の使用を含む。例えば、モノクローナル抗体は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)において製造され得る。
【0004】
バイオロジクス試験は製造の間の不可欠なプロセスであり、というのは、これらの複雑な分子は、それらの生産プロセスにおける変化により変更されることがあり、それらは、バイオロジクスの活性、製造物の安全性、および品質に影響する凝集および分解を引き起こし得る要因に対して感受性を有し得るからである。生産プロセスにおける意図されないかまたは説明されない変更は、異なる製造物属性(すなわち、ドリフト)に繋がり得る。製造物の正確な性質の決定がしたがって不可欠である。
【0005】
品質、安全性、および有効性は、厳格な規制上の要件を満たすために絶えずモニターされなければならない。例えば、製造の間の夾雑物の存在、同一性および濃度の決定は規制上の要件である。
【0006】
バイオロジクス製造において、製造物の正確な性質の他に夾雑物の同一性および相対濃度は、産生細胞の不均質性の増加、細胞の代謝状態の他に、バイオリアクターまたは下流の精製における他のプロセス条件に起因して経時的に変化し得る。そのようなドリフトは分析上の課題であり、数多くの起こり得る変化(オリゴマー化およびタンパク質アセンブリー、翻訳後修飾、精製効率における変化または加工ステップの失敗)は、製造物品質の様々な態様を探索する多様な分析技術を組み合わせることによってのみ分析され得る最終製造物の組成における非常に異なる変化に繋がり得るからである。これは、長いかつ高価な出荷試験手順を結果としてもたらす(Ramananら、BioDrugs 28、363~372頁(2014))。これは、バイオシミラーが上市される際に特に重要であり、これらは、別の既に承認された生物学的医薬(「基準医薬」)に高度に類似したバイオロジクスである。そのため、類似したバイオロジクスが、異なる品質システムと共に複数の生産者により製造されることが起こり得る。製造物ドリフトの異なるパターンは、バイオロジクスの間で臨床的に意味のある差異を結果としてもたらし得る。
【0007】
バイオロジクスの1つのクラスはモノクローナル抗体(MAb)であり、これは、利用可能な最も強力な治療および診断ツールの1つとなっている。分子生物学、免疫学、および堅牢な製造プラットフォームの開発における最近の進歩は、他の疾患および状態を処置するために好適なより多くの抗体の開発を駆動する。これは、増加する需要を満たすために製造を増加させるためのより大きい産業設備の開発に繋がることが予想される。この分野における当業者は、抗体に特徴的な不可欠な品質管理属性、および為される必要があるスケールアップの考慮を認識している(Gaughan,C.L.、Molecular Diversity、20巻、255~270頁(2016))。
【0008】
現在、ドリフトおよび出荷または完成製造物試験は、外見、重量オスモル濃度、pH、細胞ベースバイオアッセイ、エンドトキシン試験、様々なクロマトグラフィー技術:サイズ排除クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アミノ酸分析、タンパク質濃度決定、ペプチドマッピング、グリカンプロファイリング、キャピラリーゲル電気泳動、キャピラリー等電点フォーカシング、ならびに糖、ビタミン、代謝物、タンパク質(一般にELISA)およびDNA決定を含む宿主細胞アッセイを含むがこれらに限定されない、多数の試験プロトコールを伴い得る。
【0009】
バイオロジクスのためのよりリアルタイムの出荷試験を提供する動機が存在する。リアルタイム出荷試験(RTRT)は、「測定された材料属性およびプロセス制御の妥当な組合せを典型的には含む、プロセスデータに基づいてプロセス中および/または最終薬物製造物の品質を評価しかつ確実にする能力」として定義される(Jiangら、Biotech & Bioeng 2017、https://doi.org/10.1002/bit.26383)。しかしながら、RTRTが提供し得る潜在的な改善にもかかわらず、生産者は、このアプローチを実行する実用性を調べているところであり、したがって、その有望性からの利益を未だ十分に受けていない。いずれの機器を使用するべきかならびに生産の間のいつおよびどこでアッセイを行うべきかを含む、多くの問題が残っている。
【0010】
干渉法光散乱顕微鏡法(interferometric light scattering microscopy)の1つの特定の方法は質量測光法(mass photometry)であり、これは、より高い感度を可能にするために特定の空間フィルターを用いる。質量測光法は、試料中の生体分子の質量および相対濃度を測定するための効率的かつ有効な方法を提供する。この技術は、境界面において各々の分子により散乱された光を捕捉することにより個々の生体分子の質量を測定する。散乱コントラストの抽出は質量の間接的な測定を提供する。質量測光法は、干渉反射顕微鏡法(interference reflection microscopy)および干渉法散乱顕微鏡法(interferometric scattering microscopy)の原理の上に構築されている。慎重に制御された照明、検出ビーム経路における新規の空間フィルタリング戦略および注意深い画像分析を通じて、単一の分子により散乱された微量の光が信頼性をもって検出され得ること、および、より重要なことに、それは分子質量と正比例していることが実証されている(Youngら、Science 2018、360(6387)、423~7頁)。しかしながら、現在、質量測光法および干渉法光散乱技術は、一般に、非常に類似した分子質量の粒子の間で区別することができない。粒子は、例えば、同じ生体分子のバリアントであることから、非常に類似した質量を有し得る。そのようなバリアントは、異なるグリコシル化をされたタンパク質であり得る。時に、分解能は、個々の種(species)の間で区別するために不十分である。そのため、干渉法光散乱顕微鏡法、特に質量測光法の現在の方法は、追加の試験が必要となるため、単独では出荷試験などの技術を加速させることができない。
【発明の概要】
【0011】
したがって、類似した質量の生体分子の間で区別する方法を提供することは本発明の目的である。類似した質量の生体分子は、互いに関係するもの、すなわち同じ生体分子のアイソフォームであってもよい。類似した質量の生体分子は同じ生体分子のバリアントであってもよい。追加的に、試料中の生体分子の同一性を決定するため、例えば可能なバリアント、例えばアイソフォーム、グリコフォーム、リポフォーム(lipoform)、種、血清型または突然変異型の間の識別を可能にするための改良された方法を提供することは本発明の目的である。そのような決定は、試料が生体分子を含むことが既知である、技術、例えば出荷試験を行うことを可能にする。そのため、方法は、ある特定の質量を有する分子の特定の特徴を決定するために使用されてもよい。出荷試験において、生体分子の予測される質量は既知であってもよく、したがって、適切な質量を有する分子のさらなる特徴の決定が決定されてもよい。
【0012】
生物学的分子は、疾患発症を含む、生物学的プロセスにおいて不可欠の役割を果たすため、生体分子の正確な検出および/または同定は疾患診断および治療に不可欠である。さらに、生物環境および産業試料などもまた、類似した質量の粒子を含有し得ることを考慮すれば、試料中の生体分子を同定するための方法はさらなる応用を有し得る。
【0013】
生物学的分子は疑いなく複雑である。細胞中で産生される生物学的分子は、細胞の細胞経路にしたがってプロセシングされる。異なるプロセシングは天然の状況においてもアイソフォームの産生を結果としてもたらし得る。宿主細胞は、生物学的分子のための起源細胞と比較した場合にプロセシングのために異なる経路を使用し得る。これは、差次的なプロセシング、例えば、タンパク質フォールディングにおける変化、核酸メチル化における変化、グリコシル化パターンにおける変化、および表面電荷における変化などを結果としてもたらし得る。生物学的分子の物理的特徴は、したがって、異なる細胞タイプ中でのプロセシングにより変更され得る。生物学的分子は、用いられる単量体単位に依存して、4つの一般的クラスであるタンパク質、炭水化物、脂質および核酸に分類され得る。これらの単量体単位は様々であり、異なる属性を有することができる異なる化学基を含み、例えばアミノ酸(ペプチドおよびタンパク質のビルディングブロック)は、極性、非極性、正荷電または負荷電であることができる。生物学的分子は、1つより多くの種類の単量体から構成されてもよく、これは例えば、グリコシル化されたタンパク質、グリコシル化されたRNA、リポタンパク質、脂質修飾されたオリゴヌクレオチドおよび糖脂質である。一般に、生体分子は、何らかの程度までフォールディングされて、単量体の一部をコア中に置き、かつ他の単量体を表面において露出させる。生物学的分子はしたがってそれらの表面上に数多くの化学基を有し、それらのすべては生体分子の物理的特徴を決定することを助ける。生物学的分子が製造される方法に対する変化は表面化学を変更する可能性があり、これは特徴、特には表面の特徴における変化に繋がる。同様に、分子がコンホメーションを変化させ、かつ以前には内部にあった部分が外部表面の部分を形成する場合、これらもまた特定の特徴を有する。
【0014】
タンパク質、炭水化物、または核酸のいずれであれ、いかなる生体分子も、何らかの物理的特徴における差異に基づいて他の分子から区別され得る。物理的特徴は、長さまたは質量のいずれかとして定義されるサイズ、電荷、結合親和性(例えば、弱い非共有結合、すなわち水素結合、イオン結合、およびファンデルワールス力、ならびに好都合な疎水性相互作用を形成する能力)ならびに疎水性を含むが、これらに限定されない。生体分子は、したがって、例えば、それらの分子量(質量)により、およびそれらの等電点(pI)により定義されてもよい。生体分子の等電点または等イオン点は、生体分子が正味の電荷を持たず、それゆえ中性であると考えられるpHである。生体分子のpIは、任意のイオン化可能な基の解離定数(Kd)に主に依存する。アルギニン、アスパラギン酸、システイン、ヒスチジン、グルタミン酸、リジン、およびグルタミン酸はすべて、タンパク質中の例示的なイオン化可能な基であり、それらは、タンパク質のpIの決定において大きな役割を果たす。しかしながら、翻訳時および翻訳後修飾(リン酸化、メチル化、アルキル化を含む)は、生体分子のpIの決定において意義深い役割を有し得る。ウイルス、核酸、多糖および脂質を限定なしに含む、すべての生体分子は、等電点を有する。
【0015】
本発明は、表面との生体分子の相互作用に依拠する。生体分子が表面とどのように相互作用するのかは、その生体分子の特性または特徴により決定される。これは、適切な表面を選択して、生体分子が表面と接触させられる1つまたは複数の条件、例えば温度の変更のありまたはなしで、特定の特性または特徴を決定することにより活用され得る。生体分子と表面との相互作用は、干渉法光散乱顕微鏡法を使用して決定されてもよい。そのような技術は、表面と試料との境界面を調べ、かつ表面と相互作用する生体分子を検出する。各々の生体分子は、繰返しの測定を行うことにより追跡されてもよく、これは生体分子と表面との相互作用の描写を与える。これは、表面上の生体分子の可動性(mobility)の決定を可能にする。
【0016】
表面と生体分子との間の相互作用は、疎水性から共有結合形成まで、いかなる種類の相互作用に起因してもよい。表面と生体分子との間の相互作用は、イオン性/静電相互作用に起因してもよい。これらの相互作用は生体分子の物理的特徴に起因する。
【0017】
本発明は、そのため、試料中の生体分子の同一性を決定する方法であって、表面との生体分子の相互作用を決定するステップを含む方法を提供する。
干渉法光散乱装置を使用して試料中の生体分子を同定する方法であって、
(i)第1の表面と前記試料を接触させ、かつ前記第1の表面上の前記生体分子の複数の測定を行い、かつ測定を使用して、前記表面上の前記生体分子の可動性を決定するステップと、
(ii)第2の表面を使用してステップ(i)を繰り返し、かつ前記表面上の前記生体分子の可動性を決定するステップと、
(iii)ステップ(i)およびステップ(ii)において決定された生体分子の可動性を使用して、前記生体分子についてのプロファイルを構築するステップと、
(iv)ステップ(iii)において得られたプロファイルを少なくとも1つの参照プロファイルと比較して生体分子を同定するステップと、
を含む方法が提供される。
【0018】
本発明の方法は、したがって、任意の適切な順序で行われてもよいいくつかのステップを含む。
表面は、表面化学が生体分子の少なくとも1つの物理的特徴の決定を可能にするように選択されてもよい。表面は、表面との生体分子の相互作用、最も特には表面上の生体分子の可動性を決定するために選択されてもよい。
【0019】
表面は、生体分子を含有し得る試料と接触させられる。表面が試料と接触させられる1つまたは複数の条件は、生体分子の少なくとも1つの物理的特徴の決定を可能にするように選択されてもよい。表面は、表面との生体分子の相互作用、最も特には表面上の生体分子の可動性を決定するために選択されてもよい。
【0020】
試料中の生体分子の同一性は、プロファイルを作成または用意することにより表面上の生体分子の可動性を決定することにより決定されてもよく、プロファイルは、少なくとも第1の表面および第2の表面(例えばステップ(i)および(ii))から得られたデータを含む。
【0021】
第1および第2の表面は異なる表面であってもよい。
第1および第2の表面は同じ表面であってもよい。このシナリオにおいて、第2の表面は、(第1の表面と比較した場合に)少なくとも1つの変更された条件下で試料と接触させられる。変更された条件は、温度、pH、イオン強度、レドックス電位、表面と溶液との間に印加される電位および試薬の存在のいずれか1つから選択されてもよい。試薬は、生体分子と表面との相互作用を変更する任意の試薬、例えば界面活性剤、カオトロピック剤、還元剤、緩衝剤、イオン、塩、溶媒、変性剤、および/または架橋剤のいずれか1つまたは複数であってもよい。複数の条件が要求に応じて変更されてもよい。
【0022】
生体分子が表面に検出されたら、その生体分子が表面と接触したままである間に、繰返しの測定がその生体分子について行われ得る。これは、生体分子が適宜に表面を移動する際の生体分子の追跡を可能にする。これらの繰返しの測定は、「複数の測定」を行うとして記載され、経時的にまたは時間的期間にかけて行われた測定としても記載され得る。これらの測定が行われるレート(rate)は、生体分子の予想される可動性に依存して適切に選択されてもよい。レートは、10Hz~10kHz、任意選択的に50Hz~5KHz、好ましくは100Hz~1kHzの範囲内であってもよい。任意の好適なレートが、これらの範囲内でまたはこれらの範囲から選択されてもよい。複数の測定は、そのため、表面上の生体分子の可動性をモニターするために経時的に生体分子について行われる。
【0023】
表面との生体分子の相互作用の複数の測定を行うことは、その生体分子の追跡を可能にする。検出および/または追跡は、単一の生体分子のレベルにおいて行われ得る。
任意の測定が、生体分子の質量を決定するために使用されてもよく、任意選択的にステップ(i)もしくはステップ(ii)において行われた測定が使用されてもよいか、または独立した測定が質量を決定するために行われてもよい。
【0024】
参照プロファイルは、既知の生体分子を選び、かつ少なくとも第1および第2の表面を用いて方法を行うことにより用意されてもよい。この参照プロファイルは、単一の組み合わせられたプロファイルまたは各々の表面から得られたプロファイルのセットであってもよい。表面との生体分子の相互作用(例えば可動性)の要約が、プロファイルを構築するために使用されてもよい。プロファイルは、特定のバイオマーカーを同定するかまたは同定すると考えられる特徴のセットとして定義されてもよい。プロファイルは、区別的な特徴を表す、任意の適切な形態、例えばグラフまたは表の、データの要約または分析であってもよい。
【0025】
本発明の代替的な態様によれば、試料中の生体分子を同定する方法であって、第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ複数の測定を使用して第1の表面上の生体分子の質量および可動性を決定して、前記生体分子の少なくとも1つの物理的特徴を決定するステップを含む方法が提供される。
【0026】
以下の特色は、本発明の任意の態様に適用され得る。
第1の表面は、表面化学が生体分子の少なくとも1つの物理的特徴の決定を可能にするように選択されてもよい。
【0027】
第1の表面は、生体分子を含有し得る試料と接触させられる。第1の表面が試料と接触させられる条件は、生体分子の少なくとも1つの物理的特徴の決定を可能にするように選択されてもよい。
【0028】
試料中の生体分子の同一性は、さらなる測定が要求されることなく第1の表面上の生体分子の質量および可動性を決定することにより決定されてもよい。代替的に、さらなる測定が、例えばより複雑な試料においてまたは生体分子の潜在的なバリアントが類似した特徴を有する場合に、要求されてもよい。
【0029】
さらなる測定は、
第2の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ複数の測定を使用して第2の表面上の生体分子の質量および可動性を決定して、前記生体分子の少なくとも1つの物理的特徴を決定するステップ
を含んでもよい。
【0030】
代替的にまたは追加的に、さらなる測定は、
第1の表面と前記試料を接触させ、かつ前記試料の1つまたは複数の条件を変更して前記生体分子の少なくとも1つの物理的特徴を決定するステップ
を含んでもよい。前記条件は、表面への生体分子の結合に影響し、そのため表面と生体分子との反応に影響する条件として定義されてもよい。
【0031】
変更されてもよい試料の条件は、温度、pH、イオン強度、化学的実体、例えば界面活性剤、カオトロピック剤、還元剤、酸化剤、レドックス試薬、緩衝剤、イオン、溶媒、変性剤、および/または架橋剤の存在を含むが、これらに限定されない。
【0032】
さらなる測定が要求される場合、異なる表面および/または変更された条件を用いて得られた測定は、生体分子を同定するための十分な情報を提供するために第1の表面を用いて得られた測定と組み合わせられ得るかまたは比較され得る。これは、生体分子の質量および2つまたはより多くの物理的特徴の決定を結果としてもたらし得る。
【0033】
1つもしくは複数の表面上または1つもしくは複数の条件下での複数の測定が適用され得るため、生体分子と合致するプロファイルが決定され得る。このプロファイルは、生体分子の同一性を決定するために単独で十分なものであり得るか、またはプロファイルは、既知の生体分子について以前に得られた参照プロファイルと比較されてもよい。
【0034】
1つの態様によれば、本発明の方法は、試料中の生体分子を同定する方法であって、
第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ複数の測定を使用して第1の表面上の生体分子の質量および可動性を決定するステップ、ならびに前記質量および可動性を使用して、参照プロファイルと比較されてもよい生体分子についてのプロファイルを定義するステップ
を含む方法を提供する。
【0035】
方法は、プロファイルを補充するために、第2の表面を用いてかつ/または第2のセットの条件を用いて繰り返されてもよい。方法は、プロファイルを補充するために、さらなる表面を用いてかつ/またはさらなるセットの条件を用いて繰り返されてもよい。
【0036】
1つの態様によれば、本発明の方法は、試料中の生体分子を同定する方法であって、
第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ複数の測定を使用して第1の表面上の生体分子の質量および可動性を決定するステップ、
第2の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ複数の測定を使用して第2の表面上の生体分子の質量および可動性を決定するステップ、
ならびに第1および第2の表面上の測定を組み合わせてまたは比較して生体分子の同一性を決定するステップ
を含む方法を提供する。
【0037】
1つの態様によれば、本発明の方法は、試料中の生体分子を同定する方法であって、
第1のセットの条件下で第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ複数の測定を使用して第1の条件下での第1の表面上の生体分子の質量および可動性を決定するステップ、
第2のセットの条件下で第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ複数の測定を使用して第2の条件下での第1の表面上の生体分子の質量および可動性を決定するステップ、
ならびに第1および第2の条件下での測定を組み合わせてまたは比較して生体分子の同一性を決定するステップ
を含む方法を提供する。
【0038】
以下の特色は、本発明の任意の態様に適用され得る。
経時的な複数の測定が、表面との各々の生体分子の相互作用の時間および/または表面上での生体分子の移動を決定するために使用されてもよい。そのような測定は、表面上の生体分子の「可動性」であると考えられてもよい。そのため、可動性は、表面上で移動した距離および/または生体分子が表面と相互作用する時間の長さとして定義されてもよい。いずれかまたは両方が測定されてもよい。表面上で生体分子が移動した距離を測定することが可能であり、それは、表面における側方または水平の動きとして記載されてもよい。代替的にまたは追加的に、表面との生体分子の相互作用の時間が測定されてもよい。そのような相互作用時間は、生体分子が表面ともはや相互作用しておらず、試料溶液中に移動または拡散するような表面からの動きを指し示す。この形態の可動性は、表面との生体分子の相互作用の強度に依存する。表面と生体分子との間の相互作用は、生体分子の特徴の指標となり得、そのためそれに関する情報を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、干渉法光散乱(interferometric light scattering、iSCAT)顕微鏡を示す図である。
【
図2】
図2は、iSCAT顕微鏡により捕捉された画像である。
【
図3】
図3は、試料中のAAV5およびAAV9が移動した距離を示す図であり、挿入されたボックスは、表面上のウイルス粒子の動きの軌跡を示す。
【
図4】
図4Aは、ガラス上のIgG分子が移動した距離を示す図であり、
図4Bは、トリメチルクロロシラン修飾された表面上のIgG分子が移動した距離を示す図である。トリメチルクロロシラン修飾された表面上の移動の減少が示される。
【
図5】
図5は、強調された表面との相互作用のために利用可能な考え得る基を有する典型的な抗体分子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
すべての生物学的分子(生体分子またはバイオロジクス)は、露出された化学的実体を有する表面を有するので、生体分子の特徴はそれらの化学的実体に依存する。例示的な実体は、タンパク質中のアミノ酸側鎖、一本鎖核酸中のヌクレオチド塩基、核酸中の糖-リン酸骨格、グリコシル化された生体分子中の単糖単位の化学および構成、一部の脂質の疎水性側鎖および極性ヘッド基、ならびにそのような基のいずれかを有する任意の相互作用性金属イオンまたは溶媒を含む。
【0041】
疾患状態におけるものまたはトランスジェニック動物におけるものまたはex vivo生産を含む、これらの生体分子がどのように製造されるのかにおける単純な変動は、例えばタンパク質のフォールディング、グリコシル化または脂質化における変化を介して、生体分子の表面特徴を変更する。生体分子の特徴を決定する方法を提供することは本発明の目的である。特徴が決定され得る場合、次にこれらは、生体分子の既知の試料を用いて決定された「野生型」または予想される特徴と比較されてもよい。これは、バイオロジクスの生産のために特に該当する。
【0042】
本明細書において使用される場合、生体分子は、物体(object)、粒子(particle)または種(species)として記載され得る。
本発明は、表面と生体分子を接触させるステップを伴う。生体分子はこの表面と相互作用してもよく、生体分子の可動性(接触/非接触および/または側方可動性)に基づいて、本発明が決定しようとするのはこの相互作用である。粒子は経時的に追跡および画像化され、その結果、表面との粒子の相互作用の時間および/または表面に沿って移動した距離が決定され得る。そのようなパラメーターは、生体分子と表面との間の相互作用の強度の指標となり、これは生体分子の物理的特徴の間接的な決定である。物理的特徴は一般に生体分子の外表面の特徴であるが、試料は、生体分子の内部部分が露出(変性またはアンフォールディング)される条件下に置かれてもよい。
【0043】
生体分子の特徴を決定するために、表面(第1、第2および/またはさらなるもの)は、特定の化学的実体と相互作用するように選択されてもよい。そのため、表面を構成する材料は、生体分子上または中に存在する化学的実体と相互作用する能力に基づいて選択されてもよい。例えば、表面はガラスであってもよく、多くの生体分子は、(例えば、タンパク質吸着を介して)ガラスに非特異的に結合する傾向を有することが知られている。例えば、
図4Aはガラス表面上のIgGの可動性を描写する。
【0044】
例えば、タンパク質および脂質は両親媒性高分子として記載されることがあり、その理由は、それらは、それぞれ非極性基および極性基に誘引される疎水性基および親水性基の両方を有するからである。親水性基および荷電性基は、粒子の外部表面上に位置する傾向がある。しかしながら、疎水性基は外表面上にも存在する。そのような基は、表面と静電気的に相互作用し得る。粒子の結合は、粒子と表面との間の自由エネルギーが表面と水(または他の溶媒)との間の自由エネルギーよりも低い場合に起こる。
【0045】
本発明における使用のための表面は、干渉法検出方法と適合性の任意の好適な表面であってもよい。好適な表面は、官能化または誘導体化、または表面化学を変更するための他の被覆をされる能力を有してもよい。
【0046】
表面は好適には固体である(すなわちゲルでも液体でもない)。好適には、表面は、紫外光(10nm~380nmの範囲内の波長を有するとして本明細書において定義され得る)、可視光(380nm~740nmの範囲内の波長を有するとして本明細書において定義され得る)、および/または赤外光(740nm~300μmの範囲内の波長を有するとして本明細書において定義され得る)を透過させる。好適には、表面は、可視光スペクトル中の光の透過を可能とする。好適には、表面は実質的に透明である。表面は滑らかであってもよいか、またはテクスチャー加工されていてもよい。滑らかな表面が好ましい。表面はパターン加工されていてもよい。
【0047】
表面は、例えば限定なしに、ガラス、ダイヤモンド、プラスチック、ポリマー材料(例えば環状オレフィンコポリマー、ポリビニル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)および高密度ポリエチレン(HDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)を含むポリエチレン(PE)、ポリアクリレート(アクリル)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)を含むポリスチレン(PS)、シリコーン、ポリエステル(例えばポリ乳酸(PLA)またはポリ乳酸コグリコール酸(PGLA))、ポリウレタン、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(ナイロン)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PE/ABS)、ベークライト、ゴム、ラテックス、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PC/ABS)ならびに例えばポリ塩化ビニリデン(PVDC)を含むポリ塩化ビニル、ならびにサファイアを含む、任意の好適な材料のものであってもよい。
【0048】
表面は、脂質膜、例えば脂質二重層、脂質ミセル、および脂質ナノディスクなどを含んでもよい。脂質二重層は、任意の好適な二重層、例えば支持された脂質二重層であってもよい。二重層は、例えば、ガラスカバースリップ上に支持されてもよい。iSCAT用の表面としてのそのような支持された脂質二重層は、Foley,E.D.B.ら、Mass photometry enables label-free tracking and mass measurement of single proteins on lipid bilayers.Nat Methods 18、1247~1252頁(2021)およびVala,M.、Piliarik,M.Weighing single protein complexes on the go.Nat Methods 18、1159~1160頁(2021)において議論されている。
【0049】
脂質膜は、要求される場合に任意の好適な脂質および/またはタンパク質の配合を伴う、任意の適切なフォーマットにおいて提供されてもよい。脂質膜は任意の好適な幾何形状を有してもよい。
【0050】
表面は任意の好適な幾何形状を有してもよい。例えば、表面は、平坦なプレート、例えばカバースリップを含んでもよいか、またはウェル、プレート、ビーズ、チャネル、コンテナー、フローセル、フローチャンバー、マイクロ流体セルもしくはチャンバー、もしくはスライドであってもよい。表面は、より大きい幾何形状またはデバイスの部分であってもよい。好適な表面はガラスカバースリップまたはプラスチックカバースリップであってもよく、プラスチックは、表面に関して上記される通りである。
【0051】
表面は、好ましくは、試料ホルダー(sample holder)の部分を形成する。前記試料ホルダーは光散乱顕微鏡の要素であってもよい。試料ホルダーは、高い表面対体積比のチャンバーであってもよい。
【0052】
表面は官能化されてもよい。表面は、不動態化、活性化、被覆、処理または誘導体化されてもよい。表面は、不動態化された表面であってもよい。不動態化は、化学反応性を増強または低減させ、そのため相互作用事象の回数を増加または減少させるために、表面を処理または被覆するプロセスである。当業者は好適な不動態化剤を認識しており、その例は、BSA、PVPA、DDSおよび/またはPEGを含む。代替的に、表面は不動態化されない。
【0053】
表面は、表面の化学を変更するために活性化、被覆、処理および/または誘導体化されてもよい。表面の官能化は、生体分子の特定の特徴の決定を可能にする。表面の官能化は、様々な相互作用、例えば化学的相互作用(例えば共有結合)または物理的相互作用(例えば吸着)を可能にするためであってもよい。表面が、被覆、誘導体化または修飾される場合、薄い表面の変更が望ましいことがある。厚すぎる表面層の変更は表面の光散乱特性を変化させ得る。最も外側のわずかな分子層(3~10nm)のみの変更が望ましいことがある。
【0054】
表面の化学を変化させるために、任意の好適な表面被覆が適用されてもよい。表面は、疎水性を増加させるかまたは親水性を増加させるために変更されてもよい。好適な方法および被覆は、当業者に公知かつ利用可能であり、例えば限定なしに、官能化されたPEG、シラン、カルボキシ-シラン、アミン、アミノシラン、トリメチルクロロシラン、アミン修飾試薬、例えばAPTESを用いるアルデヒド修飾、例えばGOPTSを使用するエポキシ修飾、例えばEDC、NHS、HOBt、TBTU、PAMAMを使用するカルボン酸修飾、例えばNaNO2、および超分子、例えばカリックスアレーンを使用するジアゾを含む。
【0055】
好適には、表面の表面化学を変化させることは、表面の光透過に実質的に影響しない。
表面の性質、例えば化学は、生体分子に対する影響力を有してもよい。例えば、疎水性被覆は、タンパク質の部分的なアンフォールディングを結果としてもたらして疎水性「内部」区画を露出させてもよく、その結果、特徴の決定は生体分子の外表面の評価を超えたものとなり得る。代替的に、異なる表面修飾を付与することにより、異なる結合特徴、例えば被覆性アミノまたはカルボキシル基による異なる表面電荷の導入が、試験されてもよい。中性pHにおいて、アミノ基はプロトン化され、カルボキシル基は脱プロトン化される。
【0056】
生体分子は、多数の異なる仕方で表面と相互作用してもよい。生体分子は表面上に吸収されてもよく、これは疎水性相互作用により有利にされ、したがって疎水性表面を要求し得る。生体分子は、遊離反応性基、例えばアミンまたはカルボキシル基を介して表面の官能基と化学的に反応してもよい。そのような共有結合は、側方的なものおよび表面との接触/非接触の両方の、移動/可動性を制限する。疎水性、水素、ファンデルワールス、イオン性および配位結合タイプもまた、静電相互作用と共に、生体分子と表面との間で起こってもよい。これらのタイプの相互作用は条件により特に影響されることがあり、その結果、温度およびpHにおける変化は表面との生体分子の相互作用を変更し得る。
【0057】
試料は、表面(第1、第2および/またはさらなるもの)と接触させられ、かつこれは、光散乱を検出するための任意の装置の内側で行われてもよい。しかしながら、ステップは、表面が装置中に置かれる前に行われてもよい。
【0058】
異なる表面および/または異なる条件を使用して試料が繰り返し試験される場合、各々の表面を接触させるために新鮮な(以前に使用されていない)試料を使用することが好ましいことが当業者により理解される。そのため、本発明の方法は、複数の部分またはアリコートが複数の表面と並列で接触させられ得るように、試料の部分またはアリコートに対して行われるとして記載され得る。
【0059】
生体分子は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、スフィンゴ糖脂質、リポタンパク質、核酸、オリゴマー、オリゴヌクレオチド、グリコシル化された核酸、脂質と核酸との複合体、脂質、糖脂質、トリグリセリド、リン脂質、ステロイド、炭水化物、オリゴ糖および多糖を含むがこれらに限定されない、任意の好適な生物学的分子であってもよい。本明細書において使用される場合、生体分子は、様々な単位のオリゴマーであることができ、かつより大きい構造、例えばウイルス粒子を形成することができる。ウイルスは、質量および/または表面上の可動性を含む特徴を評価することにより、より低い複雑性の生体分子と精密に同じ仕方で同定されてもよい。ビリオンの外的な部分は、タンパク質性であってもよいか、または脂質膜を伴ってもよい。生体分子はしたがってウイルスまたはウイルス様粒子(VLP)であってもよい。生体分子は、リポプレックス、脂質シェルまたは脂質ナノ粒子(LNP)、例えば医薬品、例えばRNA治療剤を送達するために設計されたLNPであってもよい。
【0060】
生体分子は、バリアント形態、例えばアイソフォーム、グリコフォーム、リポフォーム、種、血清型または突然変異型において存在してもよい。いずれのバリアント生体分子が試料中に存在するのかを決定することは本発明のいくつかの態様の目的である。例えば、本発明の方法は、表面における差次的な移動に起因して、血清型AAV5およびAAV9のビリオンを区別できることが示されている。この可動性に基づくプロファイルは、未知の試料中のこれらのAAV血清型を区別するために使用され得る。
【0061】
アイソフォームは、同じ遺伝子によりコードされ得るが、差次的なプロセシングを伴い得る。結果としてもたらされる生体分子は、類似した機能および類似した質量を有し得るが、異なる特徴を有し得る。血清型(serotypeまたはserovar)は、ウイルスの種内の別個のバリエーションである。グリコフォームは、結合したグリカンの数またはタイプに関してのみ異なる生体分子のアイソフォームである。糖タンパク質は、多くの場合に、結合したサッカリドまたはオリゴ糖における変更を伴う、多数の異なるグリコフォームからなる。グリコシル化におけるバリエーションは免疫グロブリンと特に関連する。リポフォームと称される、脂質の異なるアイソフォームが存在してもよい。
【0062】
生体分子のバリアントは類似した質量を一般に有するので、単なる質量の決定が、生体分子の同一性をより精密に決定するための十分な情報を提供し得ないことがある。本発明は、したがって、バリアントがより緊密に同定され得るように、生体分子の特徴に関するさらなる情報を決定しようとする、例えば電荷、pI、または特定の化学基の存在を決定しようとする。これらは、生体分子の構造的および物理化学的特徴として記載され得る。例えば、モノクローナル抗体の場合、重要な特徴は、質量、N/C末端、電荷、グリコシル化パターン、凝集およびFcgR結合を含む。生物学的分子の生産において、製造物の予測される質量は既知であり得るが、本発明の方法は、ある特定の質量を有する製造物に関するさらなる情報を提供しようとする。この方法は、質量の決定を超えた生体分子のさらなる特徴の決定を可能にする。そのようなものは、プロセスがタンパク質製造物の不正確なグリコシル化を結果としてもたらし得る場合に特に重要である。
【0063】
タンパク質はアミノ酸単量体から構成され、これらは、多くのタンパク質の特徴を提供する多様な側鎖を提供する。アミノ酸側鎖は、サイズ、電荷、形状、水素結合能力、疎水性の特徴、および化学反応性の観点において様々である。
【0064】
これを可能にするために、生体分子は表面と接触させられ、表面は、異なる結合特徴を提供するように用意されてもよい。追加的にまたは代替的に、条件は、特有の効果を調べるために変更され得る。条件は、pH、塩濃度、イオン強度の変化、緩衝剤、界面活性剤、カオトロピック剤の追加などを含むがこれらに限定されない、任意の適切な仕方で変更されてもよい。例示的に、pHを変化させることは、(プロトン化/脱プロトン化に起因して)生体分子上の正味電荷を変化させることがあり、これは、電荷媒介性表面結合に対する影響力を有する。塩濃度を変更することもまた、電荷媒介性結合に影響を及ぼすために使用され得る。イオン強度を変化させることは、例えば、二本鎖核酸の変性を可能にする。界面活性剤、変性剤、カオトロピック剤は、表面に露出されていない特徴を調べるために生体分子を部分的にアンフォールディングまたは解離させるために使用され得る。架橋剤は、表面化学のより緊密な検査を可能にするために分子を安定化させることができる。代替的にまたは追加的に、レドックス電位が、例えば試料中の酸化剤および/または還元剤の濃度を変更することにより、変更されてもよい。変更された条件の別の例は、表面と溶液との間の電位の印加であり、これは表面への生体分子の誘引を変更する。
【0065】
変更されてもよい試料の条件は、温度、pH、イオン強度、化学的実体/試薬、例えば界面活性剤、カオトロピック剤、還元剤、緩衝剤、イオン、溶媒、変性剤、および/または架橋剤の存在を含むが、これらに限定されない。さらなる条件は、レドックス電位および表面と試料との間の電位の印加を含む。
【0066】
生体分子の質量もまた本発明の方法において決定されてもよい。質量は、ステップ(i)および/または(ii)のいずれかを含む、任意の適切なステップにおいて決定されてもよい。質量を決定するための独立した測定ステップが行われてもよい。
【0067】
干渉法光散乱は、溶液中の個々の生体分子からの光散乱を定量化することにより分子質量を正確に測定する。そのような技術は、例えばYoungおよびKukura、Annual Review of Physical Chemistry 2019 70:1、301~322頁;Youngら、Science 27 Apr 2018:360巻、6387号、423~427頁ならびにStrack,R.Weighing single proteins with light.Nat Methods 15、477(2018)(いずれも参照により本明細書に組み込まれる)において以前に記載されている。
【0068】
試料は任意の好適な試料であってもよいが、既知の生体分子が存在するような、生体分子生産から採取されたものであることが好ましく、かつ方法は、正しいバリアントが存在するかどうか、および/または望ましくない夾雑物の存在を決定するために使用される。試料は、したがって、好ましくは、複数の異なる未知の生体分子が存在する複雑な試料ではなく、その理由は、類似した質量の多くの生体分子の存在は混乱させるものとなり得るからである。試料は、好ましくは、液体、例えば溶液または懸濁液である。
【0069】
試料は、生物学的試料、例えば医学的または獣医学的試料であってもよい。そのような生物学的試料は、任意の適切なタイプの体液であってもよいか、または任意の適切なタイプの組織の懸濁液であってもよい。試料は環境試料であってもよい。そのような環境試料は、水試料、または環境から採取され、かつ溶媒中に懸濁された試料であってもよい。
【0070】
試料が濃縮されていることが疑われる場合、それは、表面と試料を接触させるのに先立って適切に希釈されてもよい。希釈は、任意の適切な溶媒、例えば水を使用してもよい。実施例1および2において、試料は、測定される生体分子/表面相互作用事象の回数が、デバイスによる検出および追跡を可能にするための好適なレベル内にあることを確実にするために適切に希釈される。
【0071】
本明細書に記載される方法において、任意の好適な装置が使用されてもよい。標準的なiScat装置または干渉反射顕微鏡は一部の実施形態のために好適であり得る。Refeyn、UKから入手可能な質量光度計は好適であり得る。一般に、生体分子の標識化は要求されない。一般に、生体分子は表面にテザー連結されない。
【0072】
本発明は、干渉法光散乱装置、例えば顕微鏡または質量光度計の使用を伴う。そのようなデバイスは、試料と表面との間の境界面を調べる。そのような装置は複数の測定を行ってもよい。表面上の生体分子は光を散乱して、測定におけるコントラストを生成する。コントラストシグナルをプロファイル(例えばガウスプロファイル)にフィッティングし、かつその事象をそのフィットのピークに位置特定することにより各々の散乱事象(およびそのため各々の生体分子)を位置特定することが可能である。繰返しの測定が、生体分子の移動の予想される速度に依存して、好適なレートで行われてもよい。測定が行われる好適なレートは、10Hz~10kHz、任意選択的に50Hz~5KHz、好ましくは100Hz~1kHzの範囲である。任意の好適なレートが、これらの範囲内でまたはこれらの範囲から選択されてもよい。個々の生体分子は、そのため、コントラストシグナルの繰返しのフィッティングおよび繰返しの位置特定を使用することにより追跡されてもよく、これにより表面上の生体分子の「軌跡」が作成され得る。コントラストシグナルが消失する場合、これは、生体分子が表面から離れたことの指標となる。したがって可動性を指し示すために行われてもよい測定は、表面と会合した時間、表面上で移動した距離、表面上での移動の速度および/または表面との相互作用の頻度(表面との会合/解離の測定)を含むが、これらに限定されない。
【0073】
行われる測定は、生体分子についてのプロファイルを構築するために使用されてもよい。例えば、移動した距離についての正規化された数がプロットされ得るか、または生体分子が移動する速度がプロットされ得る。代替的に、生体分子の軌跡がプロットされ得(
図3の挿入図を参照)、軌跡は、表面において生体分子により取られた経路である。構築されたプロファイルは、したがって、表面との生体分子の相互作用にしたがって、生体分子の様々な特徴または特性を反映し得る。
【0074】
参照プロファイルは、既知の生体分子を選び、かつ少なくとも第1および第2の表面を用いて記載されている方法を行うことにより用意されてもよい。この参照プロファイルは、2つもしくはより多くの表面についての複数のデータセットに基づく単一の組み合わせられたプロファイルであってもよいか、または各々の表面から個々に得られたプロファイルのセットであってもよい。表面との生体分子の相互作用(例えば可動性)の要約が、プロファイルを構築するために使用されてもよい。プロファイルは、特定のバイオマーカーを同定するかまたは同定すると考えられる特徴のセットとして定義されてもよい。プロファイルは、区別的な特徴を表す、任意の適切な形態、例えばグラフまたは表の、データの要約または分析であってもよい。参照プロファイルは、コンピューターにより実行される手段により比較が行われることを可能にするデータベース中に保存されてもよい。
図3および
図4は、バイオマーカーについてのプロファイルを構築するために使用されてもよい収集されたデータの表現を含有する。
【0075】
本発明の方法を使用して(例えば、方法のステップ(i)~(iii)を使用して)構築されたプロファイルは、参照プロファイルと比較されてもよい。これは、類似性を見出すためにバイオマーカープロファイルおよび参照プロファイルを調べることを伴う。プロファイル属性における類似性は生体分子の同定を可能にする。未知の試料が参照試料と比較されるために、比較は、同じ特徴が試料中の参照バイオマーカーおよびバイオマーカーの両方について決定されるような意味のあるものである必要があることが当業者により理解される。一般に、これは、第1および第2の(および任意のさらなる)表面が、参照バイオマーカーおよび試料バイオマーカーの両方について同じであることを意味する。しかしながら、1つまたは複数の表面が、特徴を決定する場合に交換可能であり、そのため表面が参照および試料プロファイルについて同じクラスのものであるべき一部の事例があり得る。例えば、疎水性を決定するために使用され得る表面は、露出されたメチル(-CH3)、メチレン(-CH2-)、メトキシ(-OCH3)、もしくはトリフルオロメチルエステル(-OCF3)基を有し得るか、または代替的にポリマーバイオマテリアル、例えば、PTFE、PDMS、PET、ポリエチレン、およびポリプロピレンを含むかもしくはそれで被覆され得る。そのため、表面は、生体分子の特定の特性または特徴を調べるために設計された表面のクラスから選択されてもよい。比較ステップは、したがって、「疎水性」表面上の未知のバイオマーカープロファイルを比較するステップおよびそれを代替的な「疎水性」表面の使用を伴った参照バイオマーカープロファイルと比較するステップを伴ってもよい。
【0076】
本明細書に記載される装置、顕微鏡および方法において、使用される光は、紫外光(10nm~380nmの範囲内の波長を有するとして本明細書において定義され得る)、可視光(380nm~740nmの範囲内の波長を有するとして本明細書において定義され得る)、赤外光(740nm~300μmの範囲内の波長を有するとして本明細書において定義され得る)であってもよい。光は波長の混合であってもよい。本明細書において、用語「光学的」(optical)および「光学」(optics)は、方法が適用される光を一般に指すために使用される。
【0077】
図1は、以下のように構成されるiSCAT顕微鏡1を図示する。
顕微鏡1は、以下により詳細に記載される空間フィルターを除いて、顕微鏡法の分野において従来的な構成を有する以下の構成要素を含む。
【0078】
顕微鏡1は、試料位置において試料3を保持するための試料ホルダー2を含む。試料3は、以下により詳細に記載される、画像化されるべき物体を含む液体試料であってもよい。試料ホルダー2は、試料3を保持するために好適な任意の形態を取ってもよい。典型的には、試料ホルダー2は表面上に試料3を保持し、表面は、試料ホルダー2と試料3との間の境界面を形成する。例えば、試料ホルダー2はカバースリップであってもよく、かつ/またはガラスから作られていてもよい。試料3は、例えばマイクロピペットを使用して、直接的な方式において試料ホルダー2上に提供されてもよい。
【0079】
顕微鏡1は照明供給源4および検出器5をさらに含む。
照明供給源4は、照明光を提供するように構成される。照明光はコヒーレント光であってもよい。例えば、照明供給源4はレーザーであってもよい。照明光の波長は、試料3の性質および/または調べられるべき特性に依存して選択されてもよい。1つの例において、照明光は405nmの波長を有する。
【0080】
任意選択的に、例えばKukuraら、「High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus」、Nature Methods 2009 6:923~935頁に詳述されるように、照明光は、照明のコヒーレントな性質およびレーザーノイズから生じるスペックルパターンを除去するために、空間的に変調されてもよい。
【0081】
検出器5は、試料位置からの反射において出力光を受け取る。典型的には、顕微鏡1は広視野モードにおいて作動してもよく、その場合、検出器5は、試料3の画像を捕捉する画像センサーであってもよい。顕微鏡1は代替的に共焦点モードにおいて作動してもよく、その場合、検出器5は、画像センサーであってもよいか、または点状検出器、例えばフォトダイオードであってもよく、その場合、走査構成が、試料3の領域を走査して画像を構築するために使用されてもよい。検出器5として用いられてもよい画像センサーの例は、CMOS(相補型金属酸化物半導体)画像センサーまたはCCD(電荷結合デバイス)を含む。
【0082】
顕微鏡1は、試料ホルダー2、照明供給源4および検出器5の間に構成された光学システム10をさらに含む。光学システム10は、試料3を照明するために照明光を試料位置に方向付けるため、および試料位置からの反射において出力光を収集するためおよび出力光を検出器5に方向付けるために以下のように構成される。
【0083】
光学システム10は、試料ホルダー2の前方に配されるレンズシステムである対物レンズ11を含む。光学システム10はまた、コンデンサーレンズ12およびチューブレンズ13を含む。
【0084】
コンデンサーレンズ12は、光供給源11からの照明光(
図1において実線により示される)を対物レンズ11を通じて試料位置における試料3に凝縮させる。
対物レンズ11は、(a)試料位置から反射された照明光(
図1において実線により示される)、および(b)試料位置において試料3から散乱された光(
図1において点線により示される)の両方を含む出力光を収集する。反射された光は、試料ホルダー2と試料3との間の境界面から主に反射される。典型的には、これは、相対的に弱い反射、例えばガラス-水反射である。例えば、反射された照明光の強度は、入射照明光の強度の0.5%のオーダーであってもよい。散乱された光は、試料3中の物体により散乱される。
【0085】
従来のiSCATと類似した方式において、試料の表面またはその近くにおける物体からの散乱された光は、反射された光に積極的に干渉するため、検出器5により捕捉される画像において可視的である。この効果は、透過において作動する顕微鏡とは異なり、透過の場合、検出器に達する照明光は、試料の深さを通じて透過されて、はるかにより小さい画像化コントラストに繋がる。
【0086】
図1に示されるように、反射した照明光および散乱した光は異なる方向性を有する。特に、反射した照明光は、光供給源4および光学システム6による光出力のビームの幾何形状から生じる開口数を有する。散乱された光は、広い範囲の角度にかけて散乱されるため、反射された照明光よりも大きい開口数を満たす。
【0087】
チューブレンズ13は、対物レンズ11からの出力光を検出器5に焦点させる。
光学システム6はまた、光供給源4からの照明光および検出器5に方向付けられた出力光について光路を分割するように構成されたビームスプリッター14を含む。以下に記載されている空間フィルターの提供を除いて、ビームスプリッター14は、それへの光入射の部分的な反射および部分的な透過を提供する従来の構成を有してもよい。例えば、ビームスプリッター14は、光路に対して45°に構成された、金属性または誘電性であってもよい、フィルムを典型的には備えた、プレートであってもよい。代替的に、ビームスプリッター14は、プリズムの間の境界面において部分的に反射性のフィルムを有するプリズムのマッチしたペアにより形成されるキューブビームスプリッターであってもよい。代替的に、ビームスプリッター14は、ビームスプリッター14と試料3との間の四分の一波長板と組み合わせて使用される、偏光ビームスプリッターであってもよい。
【0088】
図1に示される例において、光供給源4は対物レンズ11の光路からオフセットされ、その結果、光供給源4からの照明光はビームスプリッター14により対物レンズ11の中に反射され、反対に検出器5は対物レンズ11の光路と位置合わせされており、その結果、試料位置からの出力光はビームスプリッター14を通じて検出器5に向けて透過される。
【0089】
従来の構成であってもよい上記される構成要素に加えて、顕微鏡1は空間フィルター20を含む。
図1に示される例において、空間フィルター20は、ビームスプリッター14上に形成されており、それにより、対物レンズ11の後部開口部の後ろ、およびそのため対物レンズ11の後部焦点面15のすぐ後ろに位置付けられる。そのため、空間フィルター20は、位相コントラスト顕微鏡法におけるように対物レンズに入ることなく構築されてもよい。(例えば以下に記載されるように)共役面においてではなく対物レンズの入口開口部のすぐ後ろに空間フィルターを置くことは、高い開口数の顕微鏡対物レンズ内の多数のレンズを起源とする背面反射を強く抑制するという別個の利点を有する。これは、次いで、画像化ノイズを低減させ、非干渉バックグラウンドを低下させ、かつ実験の複雑性を低減させ、光学部品の数および光路長は、光学セットアップおよびそのため画質の安定性の増加に繋がる。
【0090】
しかしながら、この位置は必須ではなく、同等の機能を有する空間フィルターが、以下に記載されるように他の場所に提供されてもよい。
空間フィルター20はそれにより、検出器5へと通過する出力光をフィルターするために位置付けられる。検出器5が対物レンズ11の光路と位置合わせされている
図1に示される例において、空間フィルター20はしたがって透過性である。
【0091】
空間フィルター20は部分的に透過性であり、したがって、強度における低減を伴うが、反射された照明光を含む、出力光を通過させる。空間フィルター20はまた、光軸と位置合わせされており、かつ予め決定された開口数を有するため、予め決定された開口数内で強度における低減を提供する。本明細書において、開口数は、出力光が起源とする試料位置に関する角度の範囲を特徴付ける無次元量であるとしてその通常の方式において定義される。特に、開口数NAは、式NA=n・sin(θ)により定義されてもよく、θは、収集の半角度であり、nは、出力光が通過する材料(例えば光学システム6の構成要素の材料)の屈折率である。
【0092】
空間フィルター20は、予め決定された開口数の外側の強度低減を提供しない。原理的に、空間フィルター20は、代替的に、予め決定された開口数内の強度における低減よりも小さい強度における低減であるが、その予め決定された開口数の外側の強度における低減を提供し得るが、これはあまり望ましくない。
【0093】
空間フィルター20は、堆積された材料の層を典型的には含む、任意の好適な方式において形成されてもよい。材料は、例えば、金属、例えば銀であってもよい。堆積は、任意の好適な技術を使用して行われてもよい。
【0094】
境界面の近くのサブ回折サイズの物体は、反射された照明光よりも大きい開口数に優先的に光を散乱させるため、空間フィルター20により提供される強度における低減は、散乱された光に対して反射された照明光の検出における強度を優先的に低減させる。よって、低い開口数における空間フィルター20による強度における低減は、反射された照明光に主に影響し、かつ散乱された光に対して最小の効果を有し、それにより捕捉画像におけるコントラストが最大化される。増強された画像化コントラストは、弱い散乱物である物体の高コントラスト検出を可能にする。
【0095】
コントラスト増強は以下のように理解され得る。空間フィルター20が、予め決定された開口数において出力光の部分を通過させる際に(すなわちこの例において部分的に透過性である)、照明光および散乱された光視野の一部は、検出器に達し、かつ十分にコヒーレントな照明供給源に干渉する。検出器に達する光強度Idetは次に、Idet=|Einc|2{r2t2+|s|2+2rt|s|cosΦ}により与えられ、Eincは入射光視野であり、r2は境界面の反射率であり、t2は空間フィルター20の透過率であり、sは物体の散乱振幅であり、Φは透過された照明光と散乱された光との間の位相差である。そのため、検出される光子の総数の犠牲はあるが、散乱コントラストは増強される。
【0096】
そのため、コントラストは、従来のiSCATと類似した方式において提供されるが、空間フィルターの透過率により追加的に制御される。これは、標準的なiSCATにおけるようにガラス-水境界面の反射率により固定されるのとは対照的に、直接的に空間フィルター20の透過率t2の選択を通じて参照視野の振幅をチューニングする能力を提供する。空間フィルター20が堆積された材料の層である場合において、透過率t2は、材料の選択および/または層の厚さにより選択されてもよい。そのようなチューニングは、例えば、目的の散乱物体、カメラのフルウェルキャパシティおよび倍率にしたがって行われてもよい。
【0097】
iSCATに対してこれらの有益な効果を最大化するために、予め決定された開口数は、出力光内の反射された照明光の開口数であってもよいが、それは必須ではない。例えば、予め決定された開口数が、反射された照明光の開口数よりもわずかに小さいか、またはより大きい場合に、類似した性質の利益が達成され得る。
【0098】
空間フィルター20の使用は、所与の物体、入射光強度および曝露時間により散乱のために達成可能な感度限界またはSNR(シグナル対ノイズ比)を根本的に変更しない。しかしながら、コントラストを向上させ、かつ全体的な検出されるフォトンフラックスを低減させることにより、それは、しかしながら、所与の感度またはSNRを達成するためのiSCATのインプリメンテーションを劇的に単純化する。既存のiSCAT顕微鏡は、例えば光学テーブル、および高価かつ複雑な光学部品、電子機器を要求する他に、専門家による操作を必要とする、複雑かつ高価な構成要素を有する。そのような要求は、空間フィルター20の使用により大きく緩和される。既存のiSCAT顕微鏡と同等の性能が、例えば、上記される複雑かつ高価な構成要素を有しない既存の商用の顕微鏡に空間フィルター20を単純に加えることにより、達成され得る。空間フィルター20それ自体は当然ながら単純かつ安価な構成要素である。追加的に、空間フィルター20は、画像化感度の損失なしに低いフルウェルキャパシティを有する標準的なCMOSまたはCCDカメラの使用を可能にする。
【0099】
顕微鏡1の例を使用して獲得された画像が
図2に示される。この例において、コヒーレントな明視野照明光が提供され、かつ空間フィルター20は、1×10
-2の反射光強度を透過するように3.5mmの直径を有する溶融シリカ上に堆積された厚さ180nmの銀の層により構成された。これは、(10フレーム/秒の画像捕捉レートにおいて、10kW/cm
2の照明光の強度を用いて)単一の395kDaのタンパク質について1%の散乱コントラストおよび10のSNRを結果としてもたらす。
図2は、検出器5として低コストのCMOSカメラを使用して捕捉された画像である。見られ得るように、高コントラスト画像が達成される。さらに、明視野照明は、通常は対物レンズを起源とする、最も強い望ましくない背面反射が、検出器5から離れるように方向付けられて、画像化バックグラウンドを最小化し、かつ照明光のビームの複雑な走査なしに大きい視野を可能にすることを確実にする。
【0100】
増強されたコントラストの利点は、他の技術を用いて画像化することが困難な非常に弱く光を散乱させる物体の画像化を可能とする。例えば、本発明は、5000kDaまたはそれ未満の質量を有する物体を含む試料に利点と共に適用され得る。典型的には、本発明は、10kDaまたはそれより大きい質量を有する物体、例えば10kDa~5000kDaの範囲内の質量を有する物体を含む試料に適用されてもよい。
【0101】
代替的にまたは追加的に、本発明は、10-12m2もしくはそれ未満、またはより好ましくは10-17m2もしくはそれ未満の照明光に関する散乱断面積を有する物体を含む試料に適用されてもよい。典型的には、そのような物体はまた、照明光に関する散乱断面積を有してもよい。典型的には、そのような物体はまた、10-20m2、またはより好ましくは10-26m2もしくはそれより大きい、例えば10-17m2~10-26m2の範囲内の、照明光に関する散乱断面積を有してもよい。散乱断面積は、測定のために使用される技術から独立した、特定の波長の入射光に対する物体の有効サイズに関する基礎的な、測定可能な特性である。散乱断面積は、例えば、暗視野顕微鏡法により測定され得る。本発明が応用されてもよい物体の例は、タンパク質もしくはその小さい凝集物、またはそれらの結合パートナーを含む。
【0102】
相対的に弱い散乱物である物体を画像化するために、空間フィルター20は、10-2~10-4の入射強度(この文脈において、空間フィルター20における入射である出力光の強度)の範囲内の強度への予め決定された開口数内の強度における低減と共に反射された照明光を通過させるように構成されてもよい。
【0103】
他の場合に、顕微鏡1は、空間フィルター20に関係なく設計および操作されてもよい。例えば、視野は、照明光の焦点条件を変化させることにより調整可能である。同様に、多色画像化は、シングルモードファイバーが照明光を伝えるために使用される場合に、そのようなファイバー中に追加のレーザー供給源を連結する以上のことを要求しない。一般的に、顕微鏡1は、例えばKukuraら、「High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus」、Nature Methods 2009 6:923~935頁、およびOrtega-Arroyoら、「Interferometric scattering microscopy(iSCAT):new frontiers in ultrafast and ultrasensitive optical microscopy」、Physical Chemistry Chemical Physics 2012 14:15625~15636頁において開示されるように、iSCATのために公知の他の構成要素および技術を使用するように適合されてもよい。
【0104】
第1の方法
生体分子を含むことが疑われるかまたは既知である試料が、ガラス表面を有する試料ホルダー上に置かれる。顕微鏡1は、100Hz~1kHzのレートにおいて表面の試料中の粒子の複数の測定を行う。表面と接触している個々の粒子は測定光を散乱させて、測定におけるコントラストを生成する。各々の散乱事象は、コントラストシグネチャーをプロファイル(例えばガウスプロファイル)にフィッティングし、かつ事象をそのフィットのピークに位置特定することにより位置特定される。個々の粒子は、コントラストシグナルの繰返しのフィッティングおよび繰返しの位置特定を使用して追跡されて、表面上の各々の粒子の軌跡が作成される。これは、「側方」可動性がモニターおよびそのため測定されることを可能にする。しかしながら、コントラストシグナルが消失する場合、粒子は表面から離れており、これは表面との接触/非接触の可動性の指標となる(表面との相互作用の観点における特定の特徴を指し示す)。これらの測定から、各々の生体分子が表面とのその相互作用の間に移動する距離が算出され得るか、または生体分子が表面と相互作用する時間の長さが、可動性を決定するために測定され得、また各々の生体分子の分子質量が算出されてもよい。移動した距離についての正規化された数は、
図3に示されるようにプロットされ得る。表面との相互作用の間に生体分子がどれほど遠くに移動するかは、表面との相互作用の強度を指し示し、したがって生体分子に関する異なる特徴を指し示すことができる。生体分子がどの程度の頻度で表面から離れるように移動するかおよび/または生体分子がどれほど長く表面と相互作用するかもまた、表面との相互作用の強度を指し示し、生体分子に関する異なる特徴を指し示すことができる。いずれかまたは両方の測定は分子の可動性を表す。見られ得るように、
図3において使用された2つの試料は各々、生体分子 - アデノ随伴ウイルス(AAV):AAV5およびAAV9ウイルス粒子を含有した。AAV5およびAAV9は表面上の異なる可動性を有することが見られ得、AAV9は、0~10nmの範囲のより著しい範囲の可動性を有する。異なるAAV血清型は、受容体結合、宿主トロピズム、および抗原決定因子に関与し得るそれらのカプシドの表面上のバリエーションを有する。そのため、方法は、異なるカプシド化学に基づいてAAV5とAAV9との間の判定を行うことができ、その理由は、異なるカプシド化学は表面上の可動性を変更するからである。そのため、このデータは、未知のAAV試料のために本発明の方法を使用してプロファイルを構築することにより未知のAAV試料の血清型を決定するために使用され得るAAV5および/またはAAV9についての参照プロファイルを構築するために使用され得る。
【0105】
試料ホルダーの表面および/または試料ホルダーの表面上の被覆は、生体分子の特有の特徴を決定するために選択され得、生体分子の外表面の特徴、または内部の特徴のいずれかは、すなわち、アンフォールディングを引き起こすことができる疎水性表面にタンパク質を曝露することにより、または試料に変性剤を加えて生体分子を意図的にアンフォールディングさせることにより、決定され得る。
【0106】
上記される方法は、可動性の指標として移動した距離を使用する。しかしながら、相互作用の時間が等しく使用され得るか、または、代替的に、相互作用の時間と移動した距離、例えば、移動の速度との組合せが等しく使用され得る。
【0107】
第2の方法
免疫グロブリンIgGを含む試料が、ガラスまたはTMCSで被覆されたガラス表面(トリメチルクロロシラン修飾された表面)のいずれかである表面を含む試料ホルダー上に置かれ、可動性が(第1の方法と同様に)測定される。顕微鏡1は、100Hz~1kHzのレートにおいて表面の試料中の粒子の複数の測定を行う。これらの測定から、各々の生体分子が表面とのその相互作用の間に移動する距離が、可動性を決定するために算出され得、また各々の生体分子の分子質量が算出されてもよい。移動した距離についての正規化された数は、
図4aおよび
図4bに示されるようにプロットされ得る。表面との相互作用の間の生体分子の移動の頻度、速度および距離は、表面との相互作用の強度を指し示し、したがって生体分子に関する異なる特徴を指し示すことができる。生体分子がどの程度の頻度で表面から離れるように移動するかおよび/または生体分子がどれほど長く表面と相互作用するかもまた、表面との相互作用の強度を指し示し、生体分子に関する異なる特徴を指し示すことができる。いずれかまたは両方の測定は分子の可動性を表す。
【0108】
免疫グロブリンG(IgG)抗体は、2つの異なる種類のポリペプチド鎖から構成される約150kDaの分子量を有する大きい球状タンパク質である。約50kDaのポリペプチド鎖は重鎖と称され、他方の25kDaのポリペプチド鎖は軽鎖と称される。各々のIgG分子は2つの重鎖および2つの軽鎖からなる。2つの重鎖はジスルフィド結合により互いに連結されており、各々の重鎖はジスルフィド結合により軽鎖に連結されている。IgGはさらにグリコシル化されていてもよい。
図5は、2つの重鎖(ドット付きバー)および2つの軽鎖(ストライプ付きバー)を有する典型的なIgG分子を図示する。各々の鎖は、末端および内部アミノ酸により提供される、カルボキシル(-COOH)およびアミン(-NH2)基を有する。重鎖はヒンジ領域において2つのジスルフィドブリッジで連結されている。各々の軽鎖はジスルフィドブリッジを通じてそれぞれの重鎖に連結されている。アミンおよびカルボキシル基は、生理学的状態において存在する反応性官能基である。スルフヒドリル基は、(例えば、DTTまたはTCEPを含む還元試薬を含むように条件を変化させることにより)ジスルフィド結合を還元させた後に生成され得る。炭水化物は過ヨウ素酸処理(酸化剤)により活性化され得る。正味の負電荷が、そのpIよりも高いpHにおいて達成され、これは、緩衝剤を使用して達成されてもよい。免疫グロブリンは次に、正に荷電した表面上でより低い可動性となり得るが、その理由は、それらはイオン性/静電相互作用により「固定化される」からである。
【0109】
シランは、無機基材(例えばガラス)と反応して安定な共有結合を形成することができ、かつ処理された基材の物理的相互作用を変更する有機置換を有する加水分解的に感受性の中心を有するケイ素化学物質である。シランで改変され得る表面の特性の一部は、疎水性、付着、放出、誘電性、吸収、配向性、親水性、および/または電荷伝導性を含む。表面のシラン処理は、液相または蒸気相化学反応を伴い、直截的に行われ、かつ低コストである。シラン反応は、ヒドロキシル化された表面を修飾するために最も多くの場合に使用される。ガラスはヒドロキシル基に富むため、シランはこの材料を修飾するために特に有用である。多数のシラン化合物が商業的に入手可能であり、広範囲の化学官能性が表面上に組み込まれることを可能にする。シラン反応の利点は、共有結合性の架橋された構造に帰せられる、簡便性および安定性である。
【0110】
見られ得るように、IgG分子はガラス上で相対的に可動性が高く、一部のIgG分子は、モニターされている間に400nmもの遠くに移動する。しかしながら、修飾された表面上での比較において、可動性の量は大きく制限される。これは、IgG分子と表面との間の異なるタイプの相互作用を表す。修飾された表面上のIgGは共有結合を形成して、それが表面上の可動性を制限し、さらに免疫グロブリンが表面から離れることを制限し得るか、またはIgGは部分的にアンフォールディングされて、可動性を制限することが起こり得ることが推論される。ガラスおよび修飾された表面上のこのIgGの可動性は、未知の免疫グロブリンに関するデータが得られる場合の比較として使用され得るIgGについての参照プロファイルを構築するために使用されてもよい。
【0111】
本発明の様々なさらなる態様および実施形態は、本開示を考慮して当業者に明らかであろう。文脈が他に規定しなければ、上記に示される特色の記載および定義は、本発明の任意の特定の態様または実施形態に限定されず、記載されるすべての態様および実施形態に等しく適用される。
【0112】
本発明はいくつかの実施形態を参照して例によって記載されているが、本発明は開示される実施形態に限定されないこと、および代替的な実施形態が、添付の特許請求の範囲において定義されている本発明の範囲から離れることなく構築され得ることが当業者によりさらに理解されるであろう。
【0113】
「および/または」は、本明細書において使用される場合、2つの特定される特色または構成要素の各々の、他方を伴うかまたは伴わない特有の開示として解釈される。例えば、「Aおよび/またはB」は、以下の各々が本明細書において個々に記載されているかのように、(i)A、(ii)Bならびに(iii)AおよびBの各々の特有の開示として解釈される。
【0114】
刊行物に関するすべての言及は参照により本明細書に組み込まれる。
本発明はこれより、いくつかの特有の実施例を参照して記載されるが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0115】
実施例1
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、小さい、一本鎖のDNAゲノムを取り囲みかつ保護するタンパク質シェルから構成される非病原性ウイルスである。エンプティーAAVカプシドの予想される分子量(MW)は約3700kDaである。本明細書に記載されるすべての実施例のために、Refeyn(Oxford、UK)からの質量光度計を利用した。
【0116】
既知のAAV5またはAAV9の試料を約1×10
11pp/mlまたは1×10
11vg/mlの最終濃度まで希釈した。目的は、質量光度計を使用してAAV質量範囲における500~2000の事象を得ることである。ガラススライド(この事例において、混合された天然の電荷を有する官能化されていない表面)を有する試料ホルダー上に試料を置いた。質量光度計により、100Hz~1kHz、一般に1kHzのレートにおいて表面の試料中のAAVの複数の測定を行う。表面と接触している個々のAAV粒子は測定光を散乱させて、測定におけるコントラストを生成する。各々の散乱事象は、コントラストシグネチャーをプロファイル(例えばガウスプロファイル)にフィッティングし、かつ事象をそのフィットのピークに位置特定することにより位置特定される。個々の粒子は、コントラストシグナルの繰返しのフィッティングおよび繰返しの位置特定を使用して追跡されて、表面上の各々のAAV粒子の軌跡が作成される。これは、「側方」可動性がモニターおよびそのため測定されることを可能にする。しかしながら、コントラストシグナルが消失する場合、粒子は表面から離れており、これは表面との接触/非接触の可動性の指標となる(表面との相互作用の観点における特定の特徴を指し示す)。これらの測定から、各々のAAV粒子が表面とのその相互作用の間に移動する距離が算出され得るか、またはAAV粒子が表面と相互作用する時間の長さが、可動性を決定するために測定され得、また各々のAAV粒子の分子質量が算出されてもよい。これらの測定から、各々のAAV粒子が表面とのその相互作用の間に移動する距離を算出して可動性が決定され、かつ各々のAAVの分子質量が算出された(データ示さず)。
図3に示されるように、移動した距離についての正規化されたカウントをプロットした。実験研究はAAV5およびAAV9について個々に行い、かつ可動性における差異を示すために結果を一緒にプロットした。ガラス表面上の可動性に関するそのようなデータは、AAVの未知の血清型を含有する試料が同じ表面上で調べられる場合の比較を可能にするために、AAV5およびAAV9についての参照プロファイルを構築するために使用されてもよい。そのため、これらのAAV血清型は、それらの異なるカプシド化学に起因して、表面上のそれらの可動性により区別され得る。
【0117】
実施例2
質量光度計を使用してIgG質量範囲における500~2000の事象が達成可能であるようにIgGの試料(Sigma Aldrich、UK)を希釈し、ガラス表面を含む試料ホルダーまたはトリメチルクロロシランを用いて誘導体化された表面(Gelest、US)を含む試料ホルダーのいずれかの中に置いた。実施例1におけるように、質量光度計により、100Hz~1kHzのレートにおいて表面の試料中のIgGの複数の測定を行う。これらの測定から、分子質量(データ示さず)と共に、各々のIgG分子が表面とのその相互作用の間に移動する距離を算出して可動性を決定した。
図4aおよび
図4bに示されるように、移動した距離についての正規化されたカウントをプロットした。IgGは、誘導体化された表面との相互作用の異なる機序と合致して、ガラスと比較して誘導体化された表面上で実質的に低減された可動性を有する。クラスおよび誘導体化された表面上のIgGの可動性は、このIgG分子についての参照プロファイルを構築するために使用されてもよい。そのような参照プロファイルは、未知の免疫グロブリンの同一性を決定するための他の免疫グロブリンからのプロファイルとの比較用として役立つ。
【0118】
条項:
A.試料中の生体分子を同定する方法であって、第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ前記複数の測定を使用して前記第1の表面上の前記生体分子の質量および可動性を決定して、前記生体分子の少なくとも1つの物理的特徴を決定するステップを含む方法。
B.第2の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ前記複数の測定を使用して前記第2の表面上の前記生体分子の質量および可動性を決定して、前記生体分子の少なくとも1つの物理的特徴を決定するステップをさらに含む、条項Aに記載の方法。
C.前記第1および第2の表面が異なる、条項Bに記載の方法。
D.第1の表面と前記試料を接触させ、かつ前記試料の1つまたは複数の条件を変更して前記生体分子の少なくとも1つの物理的特徴を決定するステップをさらに含む、条項A~Cのいずれか1つに記載の方法。
E.前記条件が、前記表面への前記生体分子の結合に影響するもの、例えば温度、pH、イオン強度、化学的実体、例えば界面活性剤、カオトロピック剤、還元剤、緩衝剤、イオン、溶媒、変性剤、および/または架橋剤の存在である、条項cに記載の方法。
F.前記質量および可動性が、参照プロファイルと比較されてもよい前記生体分子についてのプロファイルを定義するために使用される、任意の先行する条項に記載の方法。
G.第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ前記複数の測定を使用して前記第1の表面上の前記生体分子の質量および可動性を決定するステップと、
第2の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ前記複数の測定を使用して前記第2の表面上の前記生体分子の質量および可動性を決定するステップと、
前記第1および第2の表面上の前記測定を組み合わせてまたは比較して前記生体分子の同一性を決定するステップと、
を含む、条項Aに記載の試料中の生体分子を同定する方法。
H.第1のセットの条件下で第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ前記複数の測定を使用して前記第1の条件下での前記第1の表面上の前記生体分子の質量および可動性を決定するステップと、
第2のセットの条件下で第1の表面と前記試料を接触させ、かつ干渉法散乱装置を使用して経時的に前記生体分子の複数の測定を行い、かつ前記複数の測定を使用して前記第2の条件下での前記第1の表面上の前記生体分子の質量および可動性を決定するステップと、
前記第1および第2の条件下での前記測定を組み合わせてまたは比較して前記生体分子の同一性を決定するステップと、
を含む、条項Aに記載の試料中の生体分子を同定する方法。
I.前記表面が、以下:ガラス、ダイヤモンド、プラスチック、ポリマー材料(例えば環状オレフィンコポリマー、ポリビニル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)および高密度ポリエチレン(HDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)を含むポリエチレン(PE)、ポリアクリレート(アクリル)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)を含むポリスチレン(PS)、シリコーン、ポリエステル(例えばポリ乳酸(PLA)またはポリ乳酸コグリコール酸(PGLA))、ポリウレタン、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(ナイロン)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PE/ABS)、ベークライト、ゴム、ラテックス、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PC/ABS)ならびに例えばポリ塩化ビニリデン(PVDC)を含むポリ塩化ビニル、ならびにサファイアのいずれか1つから選択される、任意の先行する条項に記載の方法。
J.前記表面が、活性化、被覆、処理および/または誘導体化される、任意の先行する条項に記載の方法。
K.前記表面が、官能化されたPEG、シラン、カルボキシ-シラン、アミン、アミノシラン、トリメチルクロロシラン、アミン修飾試薬を用いるアルデヒド修飾、エポキシ修飾、カルボン酸修飾、NHS、HOBt、TBTU、PAMAM、ジアゾ、および超分子のいずれか1つまたは複数を用いて活性化、被覆、処理および/または誘導体化される、条項Jに記載の方法。
L.前記複数の測定を使用して前記生体分子の可動性を決定する前記ステップが、前記試料中の前記生体分子と前記表面との間の表面相互作用がどれほど長く続くか、前記試料中の種が前記表面相互作用の間に前記表面に沿ってどれほど遠くに移動するか、またはこれらの組合せのいずれか1つまたは複数を決定するステップを含む、先行する条項のいずれか1つに記載の方法。
M.前記物理的特徴が、電荷、pI、サイズ、結合親和性および/または疎水性のいずれか1つまたは複数から選択される、任意の先行する条項に記載の方法。
N.条項A~Mのいずれか1つに定義される方法を使用するステップを含む、生産の間に生物学的分子を出荷試験する方法。
O.生体分子の異なるバリアントの間で区別することができる、任意の先行する条項に記載の方法。
【国際調査報告】