(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】T細胞機能の疲弊を処置し、がん免疫療法を強化するためのMCT11抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240806BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240806BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240806BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240806BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240806BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240806BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240806BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0783
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K47/68
A61K48/00
A61P37/04
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502644
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 US2022073903
(87)【国際公開番号】W WO2023004326
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504279968
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ - オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】デルゴフ, グレッグ エム.
(72)【発明者】
【氏名】ペラルタ, ロナル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AB05
4B065AC14
4B065BA08
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076BB13
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
MCT11に特異的に結合するモノクローナル抗体および抗原結合断片を提供する。前記抗体をコードする核酸分子、これらの核酸分子を含むベクター、およびこれらのベクターでトランスフェクトされた宿主細胞も開示する。がんを処置し、T細胞疲弊を阻害または処置し、そして/または免疫療法を増強するためにMCT11特異的抗体を使用する方法も提供する。本発明は、モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的に結合するモノクローナル抗体および抗原結合断片、ならびに被験体におけるがんを処置し、T細胞疲弊を軽減し、免疫療法に対する応答を増加させるためのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変重鎖(V
H)ドメインおよび可変軽鎖(V
L)ドメインを含む、モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的に結合するモノクローナル抗体であって、
前記V
Hドメインが、配列番号1の重鎖相補性決定領域(CDR)1、CDR2、およびCDR3を含み、
前記V
Lドメインが、配列番号5の軽鎖相補性決定領域(CDR)1、CDR2、およびCDR3を含む、モノクローナル抗体。
【請求項2】
前記CDR配列が、Kabat、IMGT、またはChothiaナンバリングスキームを使用して定義されている、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号2、3、および4に記載のアミノ酸配列を含み、
前記軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号6、7、および8に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1または請求項2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
前記V
Hドメインのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも90%同一であり、配列番号1の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、
前記V
Lドメインのアミノ酸配列が、配列番号5と少なくとも90%同一であり、配列番号5の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
前記V
Hドメインが、配列番号1を含むか配列番号1からなり、
前記V
Lドメインが、配列番号5を含むか配列番号5からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
前記抗体が、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’
2断片、Fv、単鎖可変断片(scFV)、単鎖抗体の二量体(scFV
2)、およびジスルフィド安定化可変断片(dsFV)から選択される抗原結合断片である、請求項1~5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体がマウス抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体がヒト化抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体がヒト抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体がキメラ抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項11】
定常領域を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項12】
前記定常領域が、前記モノクローナル抗体の半減期、安定性、および/または機能を増加させるための少なくとも1つの改変を含む、請求項11に記載のモノクローナル抗体。
【請求項13】
エフェクター分子または検出可能なマーカーに連結された請求項1~12のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を含む、抗体コンジュゲート。
【請求項14】
治療薬に連結された請求項1~12のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を含む、抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体および追加の抗原に特異的に結合する少なくとも1つの抗体を含む、多重特異性抗体。
【請求項16】
前記追加の抗原が、PD-1、4-1BB/CD137、GITR、OX40、CD105、LAG3、TIM-3/HAVCR2、NRP1、またはFASである、請求項15に記載の多重特異性抗体。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体をコードする単離された核酸分子。
【請求項18】
配列番号1のヌクレオチド配列、またはその縮重バリアント;
配列番号5のヌクレオチド配列、またはその縮重バリアント;または
配列番号1および配列番号5のヌクレオチド配列、またはその縮重バリアント
を含む、請求項17に記載の単離された核酸分子。
【請求項19】
プロモーターに作動可能に連結された、請求項17または請求項18に記載の単離された核酸分子。
【請求項20】
請求項17~19のいずれか1項に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項21】
請求項17~20のいずれか1項に記載の核酸分子またはベクターを含む宿主細胞。
【請求項22】
請求項1~12のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体、請求項13に記載のコンジュゲート、請求項14に記載の抗体-薬物コンジュゲート、請求項15または請求項16に記載の多重特異性抗体、請求項17~19のいずれか1項に記載の核酸分子、または請求項20に記載のベクター、および薬学的に許容され得る担体を含む、組成物。
【請求項23】
T細胞疲弊を軽減すること、疲弊T細胞による乳酸取り込みを軽減すること、T細胞のエフェクター機能を増加させること、または、これらの組み合わせのための方法であって、
(a)前記疲弊T細胞またはT細胞を、有効量のモノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的な抗体と接触させること;または
(b)前記疲弊T細胞またはT細胞中でMCT11に特異的な抗体をコードする核酸分子またはベクターを発現させること;
を含み、
それにより、T細胞疲弊を軽減すること、疲弊T細胞による乳酸取り込みを軽減すること、T細胞のエフェクター機能を増加させること、またはこれらの組み合わせである、方法。
【請求項24】
MCT11に特異的な抗体が、請求項1~12のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体、請求項13に記載のコンジュゲート、請求項14に記載の抗体-薬物コンジュゲート、請求項15または請求項16に記載の多重特異性抗体を含むか;
MCT11に特異的な前記抗体をコードする核酸分子またはベクターが、請求項17~19のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項20に記載のベクターを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記疲弊T細胞またはT細胞が、養子細胞移入(ACT)治療用T細胞である、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記接触させることが、疲弊T細胞を有するか、T細胞エフェクター機能が低下している被験体に投与することを含む、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記接触させるステップの前に前記疲弊T細胞またはT細胞を被験体から最初に単離することをさらに含む、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記疲弊T細胞が終末疲弊T細胞である、請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
被験体におけるがんまたは腫瘍を処置するか、がん免疫療法に対する応答を増加させるための方法であって、前記被験体に治療有効量の以下:
モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的な抗体、
請求項1~12のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体,
請求項13に記載のコンジュゲート、請求項14に記載の抗体-薬物コンジュゲート、
請求項15または請求項16に記載の多重特異性抗体、
請求項17~19のいずれか1項に記載の核酸分子、
請求項20に記載のベクター、
または請求項22に記載の組成物
を投与することを含み、
それにより、前記がんまたは腫瘍を処置するか、がん免疫療法に対する応答を増加させる、方法。
【請求項30】
前記被験体ががんを有するか、免疫療法を受けている、請求項26~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記免疫療法が、養子細胞移入(ACT)治療、アテゾリズマブ、アベルマブ、アキシカブタゲンシロルユーセル、ブリノツムマブル、セミピリマブ、デュルバルマブ、イエラミリマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ、レラトリマブ、ウレレマブ、およびウトリムマブのうちの1つまたは複数を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ACT治療が、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)治療、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)治療、または操作されたT細胞受容体(TCR)治療を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記方法が、前記被験体におけるエフェクターT細胞機能を増加させる、請求項29~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記方法が、前記被験体においてT細胞疲弊を軽減させるか、疲弊T細胞による乳酸更新を低下させるか、その両方である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記方法が、前記被験体において前記免疫療法に対する応答を増加させる、請求項29~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
試料から疲弊T細胞を除去する方法であって、
(1)前記試料を有効量のMCT11に特異的な抗体と接触させること、および
(2)前記抗体に結合した細胞を除去して、疲弊T細胞が枯渇した試料を生成する、除去すること
を含む、方法。
【請求項37】
前記疲弊T細胞が終末疲弊T細胞である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記試料が被験体またはT細胞の集団から単離されたPBMC試料である、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
T細胞の前記集団が、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、または操作されたT細胞受容体(TCR)T細胞を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体に結合した前記細胞を除去することが、フローサイトメトリー、磁気分離、またはパニングによって前記細胞を除去することを含む、請求項36~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
疲弊T細胞が枯渇した前記試料を、その後にがん免疫療法としてがんを有する被験体に投与する、請求項36~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
被験体における免疫応答を増加させる方法であって、モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的な抗体を前記被験体に投与することを含み、必要に応じて、前記被験体ががんを有する、方法。
【請求項43】
被験体におけるがんを処置する方法であって、モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的な抗体を前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項44】
モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的な抗体で処置される被験体における免疫応答を増加させる方法であって、免疫療法を前記被験体に施すことを含み、必要に応じて、前記被験体ががんを有する、方法。
【請求項45】
モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的な抗体で処置される被験体におけるがんを処置する方法であって、免疫療法を前記被験体に施すことを含む、方法。
【請求項46】
前記被験体が免疫療法を以前に受けている、請求項29~35、または42~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記免疫療法が、抗体、ウイルス、核酸、タンパク質、Fc-融合タンパク質、細胞、T細胞、またはNK細胞を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記免疫療法が、アベマシクリブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、アキシカブタゲンシロルユーセル、ブリノツムマブル、セミピリマブ、デュルバルマブ、イエラミリマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、パルボシクリブ、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ、レラトリマブ、リボシクリブ、ウレレマブ、ウトリムマブ、養子細胞移入(ACT)治療、またはタリモジーン・ラハーパレプベック(T-VEC)ワクチンのうちの少なくとも1つを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
MCT11に特異的な前記抗体がアンタゴニストである、請求項29~35、または42~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
MCT11に特異的な前記抗体が、MCT11を発現する少なくとも1つの細胞による乳酸、ピルビン酸、ケトン体、ブチラート、プロピオナート、またはスクシナートの取り込みを遮断し、必要に応じて、前記少なくとも1つの細胞が、疲弊T細胞、制御性T細胞、または常在性記憶T細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項29~35、または42~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
MCT11に特異的な前記抗体がヒト抗体またはヒト化抗体である、請求項29~35、または42~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
MCT11に特異的な前記抗体が、Fc、必要に応じて、ヒトIgG1 Fc、ヒトIgG4 Fc、フコシル化Fc、または非FcR結合Fcを含む、請求項29~35、または42~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記がんが固形がんである、請求項29~35、または42~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記がんが黒色腫である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記被験体がヒトである、請求項29~35、または42~54のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月19日出願の米国特許仮出願第63/223,473号(本明細書中で参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
分野
本発明は、モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的に結合するモノクローナル抗体および抗原結合断片、ならびに被験体におけるがんを処置し、T細胞疲弊を軽減し、免疫療法に対する応答を増加させるためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
プログラム細胞死1(PD-1)受容体は、成熟細胞障害性Tリンパ球上で主に発現されるチェックポイント受容体である。がん細胞は、PD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2など)を発現することが多く、それにより、がん性細胞の免疫寛容に至る。ある特定のがん治療は、免疫寛容を軽減するためにPD-1またはそのリガンドを標的にし、それにより、がん性細胞のT細胞媒介性消失を増加させる。しかしながら、このいわゆるPD-1遮断に応答する患者は一部しかいない。有効性を制限する潜在因子は、T細胞疲弊(T細胞が機能不全状態に至る分化の別の結果)の発現である。疲弊は、T細胞が免疫療法に応答する能力を制限する。したがって、T細胞機能を増加させる治療は、がんを処置するか、細胞治療(例えば、養子細胞移入(ACT)治療)を改善するか、あるいは種々のがん免疫療法に対する患者の応答を改善するのに有効なストラテジーであることが判明する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
終末疲弊T細胞、特に、腫瘍に浸潤するT細胞において、MCT11が上方制御されることをここに示す。疲弊T細胞による乳酸取り込みが抗MCT11抗体での処置によって遮断されることもここに示す。さらに、α-MCT11 mAbでの処置は、マウスがんモデルにおいて腫瘍成長を有意に軽減することを示す。したがって、いかなる特定の理論に拘束されないが、乳酸(または別のMCT11基質)のMCT11媒介性の取り込みは、T細胞における抗腫瘍機能を低下させ得る。これらの所見に基づいて、T細胞ベースの免疫療法などのがん処置を増強することができるT細胞疲弊を処置する方法を提供する。
【0005】
モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的に結合するモノクローナル抗体を、本明細書中に提供する。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)(それぞれ配列番号1および5に記載のVHおよびVLの重鎖相補性決定領域(CDR)1、CDR2、およびCDR3、ならびに軽鎖相補性決定領域(CDR)1、CDR2、およびCDR3を含む)を含む。いくつかの実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの例では、モノクローナル抗体は、抗体断片(例えば、抗原結合断片)、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、Fv断片、単鎖可変断片(scFV)、単鎖抗体の二量体(scFV2)、またはジスルフィド安定化可変断片(dsFV)である。抗体コンジュゲートも本明細書中に開示し、例えば、開示のモノクローナル抗体は、エフェクター分子または検出可能なマーカーに連結することができる。いくつかの実施形態では、抗体コンジュゲートは、抗体-薬物コンジュゲート(エフェクター分子が治療用分子である場合)である。さらなる実施形態では、開示の抗体は、MCT11に特異的な開示のモノクローナル抗体、および少なくとも1つの他の抗原(PD-1、4-1BB/CD137、GITR、OX40、CD105、LAG3、TIM-3/HAVCR2、NRP1、またはFASなど)に結合する少なくとも1つの追加の抗体を含む多重特異性抗体である。本明細書中に開示のモノクローナル抗体をコードする核酸分子、これらの核酸分子を含むベクター、およびこれらの核酸またはベクターで形質転換された宿主細胞も開示する。
【0006】
T細胞疲弊を軽減すること、T細胞のエフェクター機能を増加させること、またはその両方のための方法を提供する。いくつかの実施形態では、T細胞は、養子細胞移入(ACT)治療用T細胞(例えば、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、または操作されたT細胞受容体(TCR)T細胞)である。被験体におけるがん(または腫瘍)を処置し、T細胞疲弊を処置し、そして/またはがん免疫療法に対する応答を増加させるための方法も提供する。いくつかの例では、被験体は、がんを有し、そして/または免疫療法を受けている。いくつかの実施形態では、開示の方法は、被験体におけるエフェクターT細胞機能を増加させるか、T細胞疲弊を軽減する。
【0007】
本開示の前述および他の目的および特徴は、添付の図面を参照して進めていく以下の詳細な説明からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、「前駆体様」T細胞または「終末疲弊」T細胞の典型的な表現型を示す。
【
図2A-B】
図2A~2Cは、MCT11がマウスおよびヒトの疲弊T細胞中で上方制御されることを示す。
図2Aは、RNA-seqについてのLN CD8
+細胞およびTIL CD8
+細胞のFACS分取(左)、ならびに、MCT11が疲弊T細胞(PD1
hiTim3
+)で上方制御されること(右)を示す。
図2Bは、黒色腫(MEL)患者または頭頸部がん(HNSCC)患者由来のヒトPBMC、PD1/TIM3
-細胞およびPD1/TIM3
+細胞のMCT11染色を示す。ヒト腫瘍生検試料を、CD8、PD-1、Tim-3、およびMCT11に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
図2Bは、疲弊への進行の関数(PD-1+Tim3+)としてのMCT11染色を示す。
図2Cは、C56/BL6JマウスにおけるMC38(腺癌)またはMEER(頭頸部がん)モデル由来の疲弊または非疲弊の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)上のMCT11表面発現を示す。
【
図3】
図3A~3Bは、表示の細胞型のRNA-seq由来の塩基100万個あたりのSlc16a11転写物数(TPM)を示す。MCT11は、疲弊T細胞、特に腫瘍を浸潤するもの(TIL)の表面上に発現される(上方制御される)(
図3A)。
図3Bを、公開データから作成し、Slc16a11が腫瘍浸潤疲弊T細胞に特異的であることが確認される。
【
図4】
図4は、疲弊T細胞が乳酸を特異的に取り込むことを示す。実験デザインの略図を上に示し、下のグラフは、表示した各々の細胞型についての乳酸と30分間インキュベーション後の乳酸取り込みを示す。
【
図5】
図5は、疲弊腫瘍浸潤リンパ球(TIL)をポリクローナル抗MCT抗体(この図では「αMCT11」と表示)で処置した場合に乳酸(LA)取り込みが特異的に遮断されることを示す。
【
図6】
図6は、疲弊腫瘍浸潤リンパ球(TIL)をモノクローナル抗MCT抗体(「MCT11 mAb」と表示)で処置した場合に乳酸(LA)取り込みが遮断されることを示す。
【
図7A-B】
図7A~7Cは、B16黒色腫モデルおよびMEER HNSCCモデルにおいてα-MCT11 mAbが活性を有することを示す。
図7Aは、実験セットアップの図を示す。
図7Bは、IgG2a、α-PD1、またはα-MCT11 mAb(この図では「αMCT11」と表示)で処置したB16黒色腫を保有するB6マウスにおける腫瘍成長阻害を示す。
図7Cは、アイソタイプコントロールまたはα-MCT11 mAb(この図では「抗MCT11」と表示)で処置したMEER腫瘍を保有するB6マウスにおける腫瘍成長阻害を示す。
【
図8A-B】
図8A~8Cは、α-MCT11 mAb遮断の治療効果が適応免疫に少なくとも一部依存することを示す。
図8Aは、実験セットアップの図を示す。
図8Bは、示された処置で処置したB16黒色腫を保有するRAGKOマウスにおける腫瘍成長を示す。
図8Cは、示された処置で処置したMEER腫瘍を保有するRAGKOマウスにおける腫瘍成長を示す。
【
図9A-B】
図9A~9Cは、α-MCT11 mAbがMCT11発現細胞を枯渇することというよりはむしろ遮断することによって機能することを示す。
図9Aは、実験セットアップの図を示す。
図9Bは、IgG2a、α-MCT11 mAb(この図では「抗MCT11」と表示)、またはα-MCT11 mAbのFC変異体(「FC mut抗MCT11と表示)での処置後の腫瘍面積を示す。MCT11遮断(抗MCT11 CR)に応答して腫瘍が取り除かれたマウスに、MEER腫瘍細胞を再度接種した。
図9Cは、MEER腫瘍が以前に取り除かれたマウスが腫瘍に対する免疫学的記憶を示すことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
核酸配列およびアミノ酸配列を、連邦規則集第37巻1.822に定義の通り、ヌクレオチド塩基については標準的な文字の略号、およびアミノ酸については三文字表記を使用して示す。各々の核酸配列の一方の鎖のみを示すが、表示の鎖を任意に参照することによって相補鎖が含まれると理解される。
【0010】
配列表を、XMLファイル(「Sequence.xml」、作成日2022年7月17日、20,480バイト)として提出し、この配列表は、本明細書中で参考として援用される。添付の配列表において:
【0011】
配列番号1は、MCT11 VHのアミノ酸配列である。
【0012】
配列番号2、3、および4は、MCT11 VHの、それぞれ、CDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列である。
【0013】
配列番号5は、MCT11 VLのアミノ酸配列である。
【0014】
配列番号6、7、および8は、MCT11 VLの、それぞれ、CDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列である。
【0015】
配列番号9は、ヒトMCT11の例示的なアミノ酸配列である。
【化1】
【0016】
配列番号10は、ヒトSLC16A11mRNAをコードする例示的な核酸配列である。
【化2-1】
【化2-2】
【0017】
配列番号11は、MCT11の例示的な免疫ペプチドである。
【化3】
【0018】
配列番号12は、マウスMCT11の例示的なアミノ酸配列である。
【化4】
【0019】
配列番号13は、マウスSlc16a11mRNAをコードする例示的な核酸配列である。
【化5-1】
【化5-2】
【0020】
詳細な説明
I.用語の概要
別段の記述がない限り、技術用語を、従来の使用法に従って使用する。分子生物学における多数の一般用語の定義は、Krebs et al.(eds.),Lewin’s genes XII、Jones&Bartlett Learning発行,2017;The Encyclopedia of Molecular Biology、Blackwell Science Ltd.発行,1994;およびRobert A.Meyers(ed.),Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference、VCH Publishers,Inc.発行,1995;および他の類似の参考文献で見出され得る。
【0021】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上そうでないと明確に示されない限り、単数および複数の両方を指す。本明細書中で使用される場合、用語「含む(comprises)」は、「含む(includes)」を意味する。したがって、「抗体を含むこと(comprising an antibody)」は、「抗体を含むこと(including an antibody)」を意味し、他の要素を排除しない。別段の指示がない限り、核酸のために付与されたありとあらゆる塩基サイズは近似値であり、説明のために提供されるとさらに理解すべきである。本明細書中に記載の方法および材料と類似するか等価な多数の方法および材料を使用することができるが、特に好適な方法および材料を以下に記載する。矛盾する場合、用語の説明を含む本明細書を優先する。さらに、材料、方法、および実施例は、例示のみを目的とし、本発明の制限を意図しない。
【0022】
本開示の種々の実施形態の精査を容易にするために、以下に特定の用語を説明する:
【0023】
約:文脈上他の意味を示さない限り、「約」は、参照値のプラスまたはマイナス5%を指す。例えば、「約」100は、95~105を指す。
【0024】
投与:任意の有効な経路によって被験体に薬剤(MCT11モノクローナル抗体など)を提供するか与えること。投与は、局所投与または全身投与であり得る。例示的な投与経路としては、注射(皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、腫瘍内、前立腺内、髄腔内、動脈内、骨内、および静脈内など)、経口、舌下、直腸、経皮、鼻腔内、膣、および吸入経路が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、モノクローナル抗体を静脈内注射によって投与する。
【0025】
養子細胞移入(ACT)治療:改変されており(例えば、腫瘍抗原を認識するように改変されており)、そして/または拡大されているT細胞を、投与することを必要とする患者に投与する免疫療法の1つの型。ACT治療のためのT細胞は、患者自身のT細胞(例えば、ex vivoで改変および/または拡大された)、またはドナー由来のT細胞であり得る。ACT治療としては、例えば、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、操作されたT細胞受容体(TCR)、または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)での治療が挙げられる。ACT治療は、時折、養子細胞治療、細胞養子免疫療法、またはT-細胞移入治療とも称される。
【0026】
抗体および抗原結合断片:分析物(抗原)(ヒトMCT11などのMCT11など)に特異的に結合して認識する免疫グロブリン、その抗原結合断片、または誘導体。用語「抗体」を、本明細書中で最も広い意味で使用し、所望の抗原結合活性を示す限り、種々の抗体構造(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗原結合断片が挙げられるが、これらに限定されない)を包含する。
【0027】
抗体の非限定的な例としては、例えば、インタクトな免疫グロブリンならびに抗原に対する結合親和性を保持するそのバリアントおよび断片が挙げられる。抗原結合断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。抗体断片としては、抗体全体の改変によって産生された抗原結合断片または組換えDNA法を使用してde novoで合成された抗原結合断片が挙げられる(例えば、Kontermann and Dubel(Eds.),Antibody Engineering,Vols.1-2,2nd ed.,Springer-Verlag,2010を参照のこと)。
【0028】
また、抗体としては、キメラ抗体(ヒト化マウス抗体など)およびヘテロコンジュゲート抗体(二重特異性抗体など)などの遺伝子操作形態が挙げられる。
【0029】
抗体は、1またはそれを超える結合部位を有し得る。1つを超える結合部位が存在する場合、結合部位は、相互に同一であり得るか、異なり得る。例えば、天然に存在する免疫グロブリンは2つの同一の結合部位を有し、単鎖抗体またはFab断片は1つの結合部位を有し、一方で、二重特異性抗体または二機能性抗体は2つの異なる結合部位を有する。
【0030】
典型的には、天然に存在する免疫グロブリンは、ジスルフィド結合によって相互接続された重(H)鎖および軽(L)鎖を有する。免疫グロブリン遺伝子としては、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変ドメイン遺伝子が挙げられる。2つのタイプの軽鎖(ラムダ(λ)およびカッパ(κ))が存在する。抗体分子の機能活性を決定づける5つの主要な重鎖クラス(またはアイソタイプ)が存在する:IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgE。
【0031】
各々の重鎖および軽鎖は、定常領域(または定常ドメイン)および可変領域(または可変ドメイン)を含む。重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせが抗原に特異的に結合する。
【0032】
「VH」または「VH」への言及は、抗体重鎖の可変領域(抗原結合断片(Fv、scFv、dsFv、またはFabなど)の可変領域が挙げられる)を指す。「VL」または「VL」への言及は、抗体軽鎖の可変ドメイン(Fv、scFv、dsFv、またはFabの可変ドメインが挙げられる)を指す。
【0033】
VHおよびVLは、「相補性決定領域」または「CDR」として公知の3つの超可変領域によって遮られた「フレームワーク」領域を含む(例えば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,NIH Publication No.91-3242,Public Health Service,National Institutes of Health,U.S.Department of Health and Human Services,1991を参照のこと)。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち、構成性の軽鎖および重鎖のフレームワーク領域の組み合わせは、3次元空間においてCDRを位置決めし、整列させるのに役立つ。
【0034】
CDRは、主に抗原のエピトープへの結合を担う。所与のCDRのアミノ酸配列の境界を、いくつかの周知のスキーム(Kabat et al.に記載のスキーム(Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,NIH Publication No.91-3242,Public Health Service,National Institutes of Health,U.S.Department of Health and Human Services,1991;”「Kabat」ナンバリングスキーム)、Al-Lazikani et al.に記載のスキーム(”Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins,”J.Mol.Bio.,273(4):927-948,1997;「Chothia」ナンバリングスキーム)、およびLefranc et al.に記載のスキーム(”IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains,”Dev.Comp.Immunol.,27(1):55-77,2003;「IMGT」ナンバリングスキーム)が挙げられる)のうちのいずれかを使用して容易に決定することができる。各々の鎖のCDRは、典型的にはCDR1、CDR2、およびCDR3(N末端からC末端への方向で)と称され、また、典型的には、特定のCDRが配置される鎖によって同定される。したがって、VH CDR3は、これが見出される抗体のVH由来のCDR3であるのに対して、VL CDR1は、これが見出される抗体のVL由来のCDR1である。軽鎖CDRは、時折、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3と称される。重鎖CDRは、時折、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3と称される。
【0035】
いくつかの実施形態では、開示の抗体は、異種定常ドメインを含む。例えば、抗体は、未変性定常ドメインと異なる定常ドメイン(半減期を増加させるための1またはそれを超える改変を含む定常ドメインなど)を含む。
【0036】
「単鎖抗体」(scFv)は、遺伝子融合された単鎖分子として好適なポリペプチドリンカーによって連結された1またはそれを超える抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む遺伝子操作された分子である(例えば、Bird et al.,Science,242:423-426,1988;Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,85:5879-5883,1988;Ahmad et al.,Clin.Dev.Immunol.,2012,doi:10.1155/2012/980250;Marbry,IDrugs,13:543-549,2010を参照のこと)。scFv中のVH-ドメインおよびVL-ドメインの分子内配向は、典型的にはscFvにとって決定的でない。したがって、両方の可能な配置を有するscFv(VH-ドメイン-リンカードメイン-VL-ドメイン;VL-ドメイン-リンカードメイン-VH-ドメイン)が使用され得る。dsFvでは、VHおよびVLは、鎖の会合を安定化するためのジスルフィド結合を導入するように変異されている。また、VHドメインおよびVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現されるが、短すぎて同一鎖上の2つのドメインの間で対合できないリンカーが使用されており、それにより、前述のドメインが別の鎖の相補ドメインとの対合を強制され、それにより2つの抗原結合部位が作出される二価の二重特異性抗体であるダイアボディも含まれる(例えば、Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,90:6444-6448,1993;Poljak et al.,Structure,2:1121-1123,1994を参照のこと)。
【0037】
「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得た抗体である。すなわち、前述の集団を含む個別の抗体は、例えば、天然に存在する変異を含むか、あるいはモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる可能なバリアント抗体(かかるバリアントは、一般に、微量で存在する)を除き、同一であり、そして/または同一のエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物と対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られた場合の抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体産生を必要とすると解釈されないものとする。例えば、モノクローナル抗体は、種々の技術(ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全てまたは一部を含むトランスジェニック動物を利用した方法(かかる方法および他の例示的なモノクローナル抗体の作製方法は、本明細書中に記載されている)が挙げられるが、これらに限定されない)によって作製され得る。いくつかの例では、モノクローナル抗体を、被験体から単離する。モノクローナル抗体は、抗原結合や他の免疫グロブリン機能に実質的に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換を有することができる(例えば、Greenfield(Ed.),Antibodies:A Laboratory Manual,2nd ed.New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2014を参照のこと)。モノクローナル抗体としては、ヒト化モノクローナル抗体が挙げられる。
【0038】
「ヒト化」抗体または抗原結合断片は、ヒトフレームワーク領域および非ヒト(マウス、ラット、合成など)抗体または抗原結合断片由来の1またはそれを超えるCDRを含む。CDRを提供する非ヒト抗体または抗原結合断片は「ドナー」と称され、フレームワークを提供するヒト抗体または抗原結合断片は、「アクセプター」と称される。1つの実施形態では、全てのCDRは、ヒト化免疫グロブリン中のドナー免疫グロブリンに由来する。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合、ヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一であり得る(例えば、少なくとも約85~90%同一、例えば、約95%またはそれを超えて同一)。それ故に、おそらくCDRを除くヒト化抗体または抗原結合断片の全ての部分は、天然のヒト抗体配列の対応する部分と実質的に同一である。
【0039】
「キメラ抗体」は、典型的には異なる種の2つの異なる抗体に由来する配列を含む抗体である。いくつかの例では、キメラ抗体は、1またはそれを超える、1つのヒト抗体由来のCDRおよび/またはフレームワーク領域ならびに別のヒト抗体由来のCDRおよび/またはフレームワーク領域を含む。
【0040】
「完全ヒト抗体」または「ヒト抗体」は、ヒトゲノムに由来する(またはそれから得られる)配列を含み、かつ別の種に由来する配列を含まない抗体である。いくつかの実施形態では、ヒト抗体は、ヒトゲノムに由来する(またはそれから得られる)CDR、フレームワーク領域、および(存在する場合)Fc領域を含む。ヒト抗体を、ヒトゲノムから得られる配列に基づいて抗体を作出するテクノロジーを使用して(例えば、ファージディスプレイによるかトランスジェニック動物を使用して)同定および単離することができる(例えば、Barbas et al.Phage display:A Laboratory Manuel.1st Ed.New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2004;Lonberg,Nat.Biotech.,23:1117-1125,2005;Lonenberg,Curr.Opin.Immunol.,20:450-459,2008を参照のこと)。
【0041】
また、抗体としては、キメラ抗体(ヒト化マウス抗体など)およびヘテロコンジュゲート抗体(二重特異性抗体など)などの遺伝子操作形態が挙げられる。例えば、Pierce Catalog and Handbook,1994-1995(Pierce Chemical Co.,Rockford,IL);Kuby,J.,Immunology,3rd Ed.,W.H.Freeman&Co.,New York,1997を参照のこと。
【0042】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC):薬物とコンジュゲートした抗体(または抗体の抗原結合断片)を含む分子。ADCを使用して、細胞表面上に発現した標的抗原への抗体の特異的結合によって薬物が特定の細胞(がん細胞または疲弊T細胞など)を特異的に標的にすることができる。ADCと共に使用される例示的な薬物としては、抗ウイルス剤(例えば、レムデシビル、ガリデシビル、アルビドール、ファビピラビル、バリシチニブ、またはロピナビル/リトナビル)、抗微小管剤(例えば、マイタンシノイド、アウリスタチンE、およびアウリスタチンF)、鎖間架橋剤(例えば、ピロロベンゾジアゼピン;PBD)、カリケアマイシンファミリー(例えば、オゾガマイシン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、ゴビテカン/エキセテカン)、PD-1阻害剤、T細胞アゴニスト、または細菌毒素(例えば、PE38)が挙げられる。いくつかの場合、ADCは、薬物とコンジュゲートした、2つのモノクローナル抗体またはその抗原結合断片(各々が異なる抗原またはエピトープに向けられている)から構成される二重特異性ADCである。1つの例では、ADCは、抗哺乳動物MCT11抗体または抗原結合断片、例えば、抗ヒトMCT11、例えば、ヒトMCT11に特異的なmAbを含む。
【0043】
結合親和性:抗原に対する抗体の親和性。1つの実施形態では、親和性は、Frankel et al.,Mol.Immunol.,16:101-106,1979によって記載されたScatchard法の修正形態によって計算される。別の実施形態では、結合親和性は、抗原/抗体解離速度によって測定される。別の実施形態では、高結合親和性は、競合放射免疫アッセイによって測定される。別の実施形態では、結合親和性は、ELISAによって測定される。いくつかの実施形態では、結合親和性は、バイオレイヤー干渉法(BLI)テクノロジーに基づいたOctetシステム(Creative Biolabs)を使用して測定される。他の実施形態では、Kdは、例えば、BIACORES-2000またはBIACORES-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,N.J.)を使用した表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。他の実施形態では、抗体親和性は、フローサイトメトリーまたは表面プラズモン共鳴によって測定される。他の例示的な方法は、Harlow&Lane,Antibodies,A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Publications,New York(2013)で提供されている。
【0044】
抗原(例えば、MCT11、例えば、ヒトMCT11)「に特異的に結合する」抗体は、親和性の高い抗原に結合するが、他の無関係の抗原には有意に結合しない抗体である。1つの例では、MCT11に特異的に結合する抗体は、タンパク質(すなわち、生物試料中のタンパク質)が結合するMCT11基質に実質的に結合する抗体である。抗体と非標的との間にある特定の程度の非特異的相互作用が生じ得る。特異的結合により、典型的には、エピトープを欠くタンパク質または細胞または組織と比較して、エピトープまたは標的エピトープを発現する細胞もしくは組織を含むタンパク質への(単位時間あたりの)結合抗体の量において、2倍超をもたらす(5倍超、10倍超、または100倍超の増加など)。かかる条件下でのタンパク質の特異的結合には、特定のタンパク質への抗体特異性について選択された抗体が必要である。種々の免疫アッセイ形式が、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性を示す抗体または他のリガンドの選択に適切である。例えば、固相ELISA免疫アッセイを使用して、タンパク質と特異的に免疫反応性を示すモノクローナル抗体を選択することができる。いくつかの例では、モノクローナル抗体(MCT11 mAbなど)は、50nMまたはそれ未満(45nMまたはそれ未満、40nMまたはそれ未満、35nMまたはそれ未満、30nMまたはそれ未満、25nMまたはそれ未満、20nMまたはそれ未満、15nMまたはそれ未満、10nMまたはそれ未満、または5nMまたはそれ未満など)の平衡定数(Kd)で標的(ヒトMCT11など)に特異的に結合する。
【0045】
二重特異性抗体:2つの異なるモノクローナル抗体の抗原結合断片を含み、それにより、2つの異なる抗原または同一抗原の2つの異なるエピトープに結合することができる組換えタンパク質。同様に、多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるモノクローナル抗体(2つ、3つ、または4つの異なるモノクローナル抗体など)の抗原結合断片を含む組換えタンパク質である。1つの例では、二重特異性抗体としては、抗MCT11抗体、例えば、抗ヒトMCT11、例えば、ヒトMCT11に特異的なmAbが挙げられる。
【0046】
がん:異常または調節されない細胞成長を特徴とする悪性腫瘍。がんに関連することが多い他の特徴としては、転移、隣接細胞の正常機能への干渉、異常なレベルでのサイトカインまたは他の分泌産物の放出、および炎症反応または免疫学的応答の抑制または悪化、周囲または遠位の組織または器官(リンパ節など)の浸潤などが挙げられる。「転移性疾患」は、元の腫瘍部位が残存しており、かつ例えば、血流またはリンパ系を介して身体の他の部分に移動するがん細胞を指す。
【0047】
チェックポイント阻害剤(またはチェックポイント遮断):チェックポイントタンパク質を標的にする治療薬。チェックポイントは、過剰に活性な免疫応答または自己免疫応答の防止を補助し、時折、T細胞ががん性細胞を排除する能力を制限し得る。チェックポイントが遮断された場合(例えば、PD-1遮断)、T細胞は、がん性細胞をより良く標的にして死滅させることができる。T細胞またはがん性細胞上で見出されるチェックポイントタンパク質の例としては、PD-1/PD-L1/PD-L2、およびCTLA-4/B7-1/B7-2が挙げられる。
【0048】
例示的なチェックポイント阻害剤としては、イピリムマブ(Yervoy(登録商標))、ニボルマブ(Opdivo(登録商標))、ペムブロリズマブ(Keytruda(登録商標))、アテゾリズマブ(Tencentriq(登録商標))、アベルマブ(Bavencio(登録商標))、デュルバルマブ(Imfinzi(登録商標))、セミプリマブ(Libtayo(登録商標))、パルボシクリブ(Ibrance(登録商標))、リボシクリブ(Kisquali(登録商標))、およびアベマシクリブ(Verzenio(登録商標))が挙げられる。さらなる例は、Qiu et al.,Journal of the European Society for Therapeutic Radiology and Oncology,126(3):450-464,2018;Visconti et al.,J Exp Clin Cancer Res.35(1):153,2016;およびMills et al.Cancer Res.77(23):6489-6498,2017に提供されている。
【0049】
キメラ抗原受容体(CAR):免疫エフェクター細胞に任意の特異性をグラフトする人為的な操作されたT細胞受容体。典型的には、これらの受容体を使用して、T細胞(例えば、CAR-T)上にモノクローナル抗体の特異性をグラフトする;前述の抗体のコード配列はベクターによって容易に移入される。したがって、抗原に「特異的に結合する」または「特異的である」CARは、抗原に高親和性で結合し、他の無関係の抗原には有意に結合しないCARである。本開示は、MCT11に特異的なCAR、例えば、MCT11特異的抗原結合断片(例えば、本明細書中に開示のMCT11に特異的なscFv)を含むCARを含む。
【0050】
ACT治療では、CARは、がんの処置に有用であり得る。例えば、T細胞(患者またはドナーから得る)を、T細胞が患者の特定のがんに特異的な受容体を発現するように改変する。改変されたT細胞(その後にがん細胞を認識して死滅させることができる)を、患者に導入する。第1世代のCARは、典型的には、CD3ζ鎖(内因性TCR由来のシグナルの主な伝達物質である)由来の細胞内ドメインを含んでいた。第2世代のCARには、T細胞にさらなるシグナルを提供するために種々の共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB、ICOS)からの細胞内シグナル伝達ドメインがCARの細胞質尾部に付加された。第3世代のCARは、効力を増強するために複数のシグナル伝達ドメイン(CD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40など)を組み合わせている。
【0051】
多重特異性CARは、少なくとも2つの抗原結合ドメイン(scFvおよび/または単一ドメイン抗体など)(各々が異なる抗原または同一抗原上の異なるエピトープに結合する)から構成される単一のCAR分子である(例えば、US2018/0230225号を参照のこと)。例えば、二重特異性CARは、2つの抗原結合ドメイン(各々が異なる抗原に結合する)を有する単一のCAR分子を指す。バイシストロン性CARは、2つの完全なCAR分子(各々が異なる抗原に結合する抗原結合部分を含む)を指す。いくつかの場合、バイシストロン性CAR構築物は、切断リンカーによって連結された2つの完全なCAR分子を発現する。二重特異性またはバイシストロン性のCARを発現するT細胞は、結合部分が向けられる両方の抗原を発現する細胞に結合することができる(例えば、Qin et al.,Blood 130:810,2017;およびWO/2018/213337号を参照のこと)。これらのCARのうちのいずれかを、本明細書中に記載の方法を用いて使用することができる。
【0052】
相補性決定領域(CDR):抗体の結合親和性および特異性を定義する超可変アミノ酸配列領域。哺乳動物免疫グロブリンの軽鎖および重鎖は、各々、それぞれ軽鎖CDR1(時折、VL-CDR1またはLCDR1と称される)、CDR2(時折、VL-CDR2またはLCDR2と称される)、およびCDR3(時折、VL-CDR3またはLCDR3と称される);ならびに重鎖CDR1(時折、VH-CDR1またはHCDR1と称される)、CDR2(時折、VH-CDR2またはHCDR2と称される)、およびCDR3(時折、VH-CDR3またはHCDR3と称される)と命名された3つのCDRを有する。
【0053】
免疫複合体を形成するのに十分な条件:抗体または抗原結合断片がその同族エピトープに、実質的に全ての他のエピトープへの結合より検出可能に大きな程度および/または前述の結合を実質的に排除する程度に結合することを可能にする条件。免疫複合体を形成するのに十分な条件は、結合反応の形式に依存し、典型的には、免疫アッセイプロトコールで利用される条件またはin vivoで遭遇する条件である。免疫アッセイの形式および条件の記載についてはGreenfield(Ed.),Antibodies:A Laboratory Manual,2nd ed.New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2014を参照のこと。上記方法で使用される条件は、「生理学的条件」であり、この条件としては、生きている哺乳動物または哺乳動物細胞の内部で典型的な条件に関する言及(例えば、温度、容量オスモル濃度、pH)が挙げられる。いくつかの器官が極限の条件に供されると認識される一方で、有機体内および細胞内の環境は、通常、およそpH7(例えば、pH6.0~pH8.0、より典型的にはpH6.5~7.5)にあり、主要な溶媒として水を含み、0℃超かつ50℃未満の温度で存在する。容量オスモル濃度は、細胞の生存能および増殖を支持する範囲内にある。
【0054】
免疫複合体の形成を、従来の方法(例えば、免疫組織化学(IHC)、免疫沈降(IP)、フローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、ELISA、イムノブロッティング(例えば、ウェスタンブロット)、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影法(CT)スキャン、ラジオグラフィ、およびアフィニティクロマトグラフィ)によって検出することができる。
【0055】
コンジュゲート:一緒に連結した(例えば、共有結合によって一緒に連結した)2つの分子の複合体。1つの実施形態では、抗体または抗体断片(例えば、抗原結合断片)が、エフェクター分子または第2のタンパク質(第2の抗体など)に連結されている。エフェクター分子は、例えば、薬物、毒物、治療剤、検出可能な標識、タンパク質、核酸、脂質、ナノ粒子、炭水化物、または組換えウイルスであり得る。抗体コンジュゲートは、しばしば、「免疫コンジュゲート」と称される。コンジュゲートが治療薬に連結された抗体を含む場合、コンジュゲートは、しばしば、「抗体-薬物コンジュゲート」または「ADC」と称される。他の抗体コンジュゲートは、例えば、多重特異性(二重特異性または三重特異性など)抗体およびキメラ抗原受容体(CAR)を含む。1つの例では、コンジュゲートは、本明細書中に開示のMCT11に特異的なモノクローナル抗体を含む。
【0056】
ペプチドリンカー(短いペプチド配列)を、必要に応じて、抗体とエフェクター分子または第2のタンパク質との間に含めることができる。コンジュゲートを個別の機能性および/または起源を有する2つの分子(抗体およびエフェクター分子など)から調製することができるので、コンジュゲートは、時折「キメラ」とも称される。
【0057】
保存的バリアント:「保存的」アミノ酸置換は、タンパク質の機能(タンパク質が標的タンパク質と相互作用する能力など)に実質的に影響を及ぼしたり減少させたりしない置換である。例えば、MCT11特異的抗体は、参照抗体配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9まで、または10までの保存的置換を含むことができ、MCT11(例えば、ヒトMCT11)に対する特異的結合活性を保持することができる。また、保存的変動という用語は、非置換の親アミノ酸の代わりの置換アミノ酸の使用を含む。
【0058】
コードされた配列中の単一のアミノ酸またはわずかな百分率のアミノ酸(例えば、5%未満、いくつかの実施形態では、1%未満)を変化させるか、付加するか、欠失させる個別の置換、欠失、または付加は、変更によってアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸に置換される保存的変動である。
【0059】
以下の6群は、相互について保存的置換であると見なされるアミノ酸の例である:
1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0060】
非保存的置換は、抗体の活性または機能(MCT11に特異的に結合する能力など)を低下させる置換である。例えば、あるアミノ酸残基がタンパク質の機能に不可欠である場合、本来ならば保存的置換であってもその活性を破壊し得る。したがって、保存的置換は、目的のタンパク質の基本的機能を変化させない。
【0061】
接触すること:直接の物理的結合に置くこと;固体および液体の両方の形態での接触が挙げられ、接触は、in vivoまたはin vitroのいずれかで生じ得る。接触することは、1つの分子と別の分子との間の接触(例えば、抗原などの1つのポリペプチドの表面上のアミノ酸の、抗体などの別のポリペプチドとの接触)が挙げられる。また、接触することは、抗体を細胞と直接の物理的結合に置くことによる細胞(例えば、T細胞)の接触を挙げることができる。
【0062】
対照:参照標準。いくつかの実施形態では、対照は負の対照である。他の実施形態では、対照は正の対照である。さらなる他の実施形態では、対照は、ヒストリカルコントロールまたは標準的な参照値もしくは値の範囲(例えば、以前に試験した対照試料、例えば、公知の予後もしくはアウトカムを有する患者群、またはベースラインもしくは正常値を示す試料群)である。いくつかの例では、対照は、目的の薬剤(例えば、開示のMCT11に特異的なモノクローナル抗体)を用いた処置や代替処置を受けていない被験体、または薬剤での処置前の被験体のベースライン読み取り値であり得る。
【0063】
試験試料と対照との間の相違は、増加し得るか、逆に減少し得る。相違は、定性的相違または定量的相違(例えば、統計的有意差)であり得る。いくつかの例では、相違は、対照と比較した増加である(例えば、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、または少なくとも約500%の増加)。他の例では、相違は、対照と比較した減少である(例えば、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または少なくとも約100%の減少)。
【0064】
縮重バリアント:本開示の文脈では、「縮重バリアント」は、遺伝暗号の結果として縮重する配列を含むポリペプチド(抗体重鎖または軽鎖など)をコードするポリヌクレオチドを指す。20種の天然アミノ酸が存在し、そのほとんどが1つを超えるコドンによって特定される。したがって、ヌクレオチド配列によってコードされるペプチドのアミノ酸配列が不変である限り、ペプチドをコードする全縮重ヌクレオチド配列が含まれる。
【0065】
検出可能なマーカー:第2の分子の検出を容易にするために抗体(MCT11抗体など)などの第2の分子に直接または間接的にコンジュゲートされる検出可能な分子(標識としても公知)。例えば、検出可能なマーカーは、ELISA、分光光度法、フローサイトメトリー、顕微鏡法、または画像診断技術(CTスキャン、MRI、超音波、光ファイバー試験、および腹腔鏡試験など)によって検出することができる。検出可能なマーカーの非限定的な具体例としては、フルオロフォア、化学発光剤、酵素連結、放射性同位体、および重金属または化合物(例えば、MRIによる検出のための超常磁性酸化鉄ナノ結晶)が挙げられる。検出可能なマーカーの使用方法および種々の目的に適切な検出可能なマーカーの選択におけるガイダンスは、例えば、Green and Sambrook(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th ed.,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2012)およびAusubel et al.(Eds.)(Current Protocols in Molecular Biology,New York:John Wiley and Sons(増補を含む)、2017)で考察されている。
【0066】
有効量:有利な結果または所望の結果をもたらすのに十分な薬剤(本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体など)の量。有効量(治療有効量とも称される)は、1またはそれを超える以下に応じて変動し得る:臨床医によって決定することができる処置される被験体および病状、被験体の体重および年齢、病状の重症度、および投与様式など。有益な治療効果としては、診断上の決定を下すことができること;疾患、症状、障害、または病的状態の改善;疾患、症状、障害、または状態の発症の軽減または予防;および疾患、症状、障害、または病的状態の一般的な緩和を挙げることができる。
【0067】
1つの実施形態では、治療剤(例えば、本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体)の「有効量」は、被験体におけるがん(または腫瘍)を処置するのに十分な量(例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、または少なくとも600%の、腫瘍の体積/サイズ、腫瘍の重量、転移の数を減少させ、転移の体積/サイズ、転移の重量を低下させる量、またはその組み合わせ)である。別の実施形態では、「有効量」は、T細胞のエフェクター機能または活性を、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、または少なくとも600%増加させるのに十分な(例えば、本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体の)量である。いくつかの実施形態では、「有効量」は、標的タンパク質(例えば、MCT11)の活性を、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには100%低下させるのに十分な(例えば、本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体の)量である。さらなる実施形態では、(例えば、本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体の)「有効量」は、T細胞疲弊を、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%軽減するのに十分な量である。いくつかの例では、これらの効果の組み合わせが達成される。増加または減少を、好適な対照(例えば、目的の治療薬(例えば、MCT11抗体)の無投与または他の好適な対照)と比較して決定することができる。
【0068】
エピトープ:抗原決定基。これらは、抗原性を示す(特異的な免疫応答を誘発することを意味する)分子上の特定の化学基またはペプチド配列である。抗体は、ポリペプチド上の特定の抗原エピトープに特異的に結合する。いくつかの例では、開示の抗体または抗原結合断片は、MCT11エピトープに特異的に結合する。1つの例では、エピトープは、配列番号9、11、または12の連続配列の一部に特異的である。
【0069】
Fc領域:第1の重鎖定常ドメインを除く抗体の定常領域。Fc領域は、一般に、IgA、IgD、およびIgGの最後の2つの重鎖定常ドメイン、ならびにIgEおよびIgMの最後の3つの重鎖定常ドメインを指す。また、Fc領域は、これらのドメインに対する可動性ヒンジN末端の一部または全部を含み得る。IgAおよびIgMについては、Fc領域は、尾部を含んでも含まなくてもよく、J鎖によって結合されていてもされていなくてもよい。IgGについては、Fc領域は、典型的には、免疫グロブリンドメインCγ2およびCγ3を含み、必要に応じてCγ1とCγ2との間のヒンジの下部を含むと理解される。Fc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、Fcカルボキシル末端に対してC226またはP230の後の残基を含むと定義されており、ここで、ナンバリングは、Kabatに従う。IgAについては、Fc領域は、免疫グロブリンドメインCα2およびCα3を含み、必要に応じて、Cα1とCα2との間のヒンジの下部を含む。いくつかの例では、MCT11に特異的な抗体は、Fc(例えば、ヒトIgG1 FcまたはヒトIgG4 fc)、フコシル化Fc、または非Fcr結合Fcを含む。
【0070】
異種の:異なる遺伝源に由来すること。遺伝源が発現される細胞以外の、遺伝源に由来する細胞とは異種の核酸分子。1つの非限定的な具体例では、タンパク質(scFvなど)をコードする異種核酸分子は、哺乳動物細胞などの細胞中で発現される。細胞または生物中に異種核酸分子を導入する方法(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、パーティクルガン加速、または相同組換えが挙げられる形質転換法)は公知である。
【0071】
宿主細胞:ベクターを増殖させ、そのDNAを発現させることができる細胞。細胞は原核細胞または真核細胞であり得る。本用語には、本件の宿主細胞の任意の子孫も含まれる。複製中に起こる変異が存在し得るので、全ての子孫が親細胞と同一ではない可能性があると理解される。しかしながら、用語「宿主細胞」を使用する場合、かかる子孫が含まれる。いくつかの例では、宿主細胞は、ヒト細胞、例えば、ヒトT細胞(例えば、疲弊T細胞)またはPBMCである。
【0072】
IgG:認識された免疫グロブリンガンマ遺伝子によって実質的にコードされた抗体のクラスまたはアイソタイプに属するポリペプチド。ヒトでは、このクラスは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む。
【0073】
免疫複合体:抗体または抗原結合断片(scFvなど)の可溶性抗原への結合によって免疫複合体が形成される。免疫複合体の形成を、従来の方法(例えば、免疫組織化学、免疫沈降、フローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、ELISA、イムノブロッティング(例えば、ウェスタンブロット)、磁気共鳴画像法、CTスキャン、ラジオグラフィ、およびアフィニティクロマトグラフィ)によって検出することができる。
【0074】
免疫療法:がんなどの疾患を処置するために免疫系を刺激または抑制するための薬物を使用する治療。がん免疫療法のいくつかの例としては、免疫チェックポイント阻害剤、養子細胞治療、ワクチン、および免疫系モジュレーターが挙げられる。免疫療法は、抗体、ウイルス、核酸、タンパク質、Fc-融合タンパク質、または細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)であり得る。非限定的な具体例としては、アベマシクリブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、アキシカブタゲンシロルユーセル、ブリノツムマブル、セミピリマブ、デュルバルマブ、イエラミリマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、パルボシクリブ、ペムブロリズマブ(pembrolizmab)、ピディリズマブ、レラトリマブ、リボシクリブ、ウレレマブ、ウトリムマブ、養子細胞移入(ACT)治療(例えば、キメラ抗原受容体(CAR)(例えば、チサゲンレクロイセル))、または操作されたTCRまたは腫瘍浸潤リンパ球(TIL))、および腫瘍溶解性ウイルス(例えば、タリモジーン・ラハーパレプベック(T-VEC))が挙げられる。
【0075】
増加または減少:対照値(MCT11抗体なしなどの治療剤なしを示す値など)からの量のそれぞれ正または負の変化。増加は、対照値と比較した正の変化(少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、または少なくとも500%の増加など)である。減少は、対照値と比較した負の変化(少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の減少など)である。いくつかの例では、増加または減少は、好適な対照と比較して統計的に有意である。
【0076】
例えば、いくつかの実施形態では、薬剤(例えば、本明細書中に開示のMCT11特異的抗体)を投与すると、タンパク質標的(例えば、MCT11)の活性が、標的(例えば、乳酸輸送)の1またはそれを超える活性の低下(消失または阻害が挙げられる)によって減少する。いくつかの実施形態では、MCT11の活性は、好適な対照(例えば、薬剤(例えば、MCT11抗体)の非存在下で認められるMCT11活性の量)と比較して、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも99.9%、またはさらに100%低下する。
【0077】
いくつかの実施形態では、標的細胞(例えば、疲弊T細胞)は、試料中またはin vivoで増加または減少する。例えば、いくつかの実施形態では、試料を有効量のMCT11に特異的な抗体と接触させ、抗体に結合した細胞を除去することにより、試料中の疲弊T細胞(終末疲弊T細胞が挙げられる)の数を減少させる(例えば、前述の方法は、疲弊T細胞試料を枯渇させる)。いくつかの例では、前述の方法は、PBMC集団中の疲弊T細胞(終末疲弊T細胞など)の数を、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または少なくとも99.9%減少させる。いくつかの実施形態では、標的細胞(例えば、終末疲弊T細胞が挙げられる疲弊T細胞)は、in vivoで減少する。例えば、抗体を被験体に投与し、例えば、細胞毒性剤を標的細胞に送達させるか、そうでなければ細胞死を誘導することにより、in vivoでの標的細胞の消失を容易にする。いくつかの例では、前述の方法は、in vivoでの標的細胞(終末疲弊T細胞が挙げられる疲弊T細胞など)の数を、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または少なくとも99.9%、またはそれを超えて減少させる。
【0078】
単離された:「単離された」生物学的成分(モノクローナル抗体など)は、前述の成分が生じる生物の細胞または組織中の他の生物学的成分(他の細胞、染色体および染色体外のDNAおよびRNA、ならびにタンパク質など)から実質的に分離されているか、別に産生されているか、精製されて取り出されている。「単離」されている核酸およびタンパク質として、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が挙げられる。また、この用語は、宿主細胞中での組換え発現によって調製された核酸およびタンパク質ならびに化学合成された核酸およびタンパク質を包含する。例えば、被験体(被験体由来の腫瘍、または他の試料が挙げられる)から単離したT細胞は、少なくとも50%の純度、例えば、少なくとも60%、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれを超える純度であり得る。
【0079】
リンカー:例えば、検出可能なマーカーを抗体に連結するために、2つの分子を1つの連続した分子に連結するために使用することができる二機能性分子。ペプチドリンカーの非限定的な例としては、グリシン-セリン(GS)リンカーが挙げられる。
【0080】
用語「コンジュゲートすること」、「接合すること」、「結合すること」、または「連結すること」は、2つの分子を1つの連続した分子にすることを指すことができる;例えば、2つのポリペプチドの1つの連続したポリペプチドへの連結、またはエフェクター分子もしくは検出可能なマーカー放射性核種もしくは他の分子のポリペプチド(開示のモノクローナル抗体など)への共有結合性の付着。化学的手段または組換え手段のいずれかによって連結することができる。「化学的手段」は、抗体部分とエフェクター分子との間の、2つの分子間で共有結合が形成されて1つの分子が形成されるような反応を指す。
【0081】
モノカルボン酸輸送体11(MCT11):MCT11は、乳酸などのモノカルボキシラートを輸送し得る最近特徴づけられた輸送タンパク質である。MCT11タンパク質は、Slc16a11(SLC16A11)遺伝子によってコードされる。MCT11/Slc16a11の配列は公的に入手可能であり、例えば、GenBank受託番号:KJ900348.1、NM_153081.3、NM_153357.3、およびNM_001370549.1(例示的なSlc16a11核酸配列を提供する)、ならびにUniProt受託番号Q8NCK7、GenBank受託番号:NP_001357478.1、NP_694721.2およびNP_001099267.2(例示的なMCT11タンパク質配列を提供する)を参照のこと。例はまた、配列番号9、10、12、および13に提供される。
【0082】
作動可能に連結された:第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係にある場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と作動可能に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列に作動可能に連結されている(例えば、本明細書中に開示の異種核酸配列の発現を駆動するプロモーター)。一般に、作動可能に連結されたDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合、同一の読み枠中に存在する。
【0083】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1):免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、T細胞およびプロB細胞上で発現する細胞表面受容体。PD-1は、2つのリガンドPD-L1およびPD-L2に結合する。ヒト形態は、268個のアミノ酸の1型膜貫通タンパク質である。PD-1は、T細胞疲弊を媒介する抑制性受容体である。PD-1配列は、例えば、GenBank(登録商標)配列データベースから公的に入手可能である(例えば、受託番号NP_005009.2(成熟ペプチドはaa21~288である)、CAA48113.1、NP_001301026.1(成熟ペプチドはaa25~288である)、およびCAA48113.1(成熟ペプチドはaa21~288である)は例示的なPD-1タンパク質配列を提供し、一方、受託番号L27440.1、NM_005018.2、X67914.1、AB898677.1、およびEU295528.2は例示的なPD-1核酸配列を提供する)。
【0084】
薬学的に許容され得る担体:本発明で有用な薬学的に許容され得る担体は、従来の担体である。Remington’s Pharmaceutical Sciences,23rd Edition,Academic Press,Elsevier,(2020)は、治療剤(本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体など)の医薬送達に好適な組成物および製剤を記載している。
【0085】
一般に、担体の性質は、使用される特定の投与形態に依存する。例えば、非経口製剤は、通常、ビヒクルとして薬学的におよび生理学的に許容され得る流体(水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、5%ヒト血清アルブミン、またはグリセロールなど)を含む注射液を含む。生物学的に天然の担体に加えて、投与すべき医薬組成物は、少量の無毒の補助剤(湿潤剤または乳化剤、防腐剤、およびpH緩衝剤など、例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウラートなど)を含むことができる。また、補足活性化合物を、組成物中に組み込むことができる。
【0086】
プロモーター:核酸の転写を指示する一連の核酸調節配列。プロモーターは、転写開始部位付近の必要な核酸配列(ポリメラーゼII型プロモーターの場合、TATAエレメントなど)を含む。また、プロモーターは、必要に応じて、転写開始部位から数千塩基対程度の位置に存在することができる遠位のエンハンサーエレメントまたはリプレッサーエレメントを含む。
【0087】
プロモーターの例としては、SV40プロモーター、CMVエンハンサー-プロモーター、CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーター、EF1a、およびPGKが挙げられるが、これらに限定されない。構成性プロモーターおよび誘導性プロモーターの両方が含まれる(例えば、Bitter et al.,Methods in Enzymology 153:516-544,1987を参照のこと)。プロモーター依存性遺伝子発現を、外部のシグナルまたは薬剤によって細胞型特異的、組織特異的、または誘導性に調節可能にするのに十分なプロモーターエレメントも含まれる;かかるエレメントは、遺伝子の5’または3’領域中に配置され得る。また、組換えDNAまたは合成技術によって産生されたプロモーターを使用して、核酸配列を転写することができる。
【0088】
組換え:組換え核酸またはアミノ酸は、天然に存在しない配列を有するか、あるいは本来は分離されている2つの配列セグメントの人為的組み合わせによって作製された配列を有するものである。
【0089】
配列同一性:アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の間の類似性は、配列間の類似性について表されるか、そうでなければ、配列同一性と称される。配列同一性は、同一率(または類似性もしくは相同性)について測定されることが多い;百分率が高いほど2つの配列は類似性が高い。ポリペプチド(またはヌクレオチド配列)のホモログは、標準的な方法を使用してアラインメントしたときに配列同一度が比較的高い。
【0090】
比較のための配列のアラインメントの方法は、記載されている。種々のプログラムおよびアラインメントアルゴリズムは、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.2:482,1981;Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443,1970;Pearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444,1988;Higgins and Sharp,Gene 73:237,1988;Higgins and Sharp,CABIOS 5:151,1989;Corpet et al.,Nucleic Acids Research 16:10881,1988;およびPearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444,1988に記載されている。Altschul et al.,Nature Genet.6:119,1994は、配列アラインメント法および相同性計算の詳細な検討事項を提示している。
【0091】
配列解析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxと関連付けて用いるためのNCBIの基本的な局所アラインメント検索ツール(BLAST)(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403,1990)は、いくつかの情報源(国立生物工学情報センター(NCBI,Bethesda,MD)が挙げられる)およびインターネットから入手可能である。このプログラムを用いた配列同一性の決定方法の説明は、インターネット上のNCBIウェブサイトで利用可能である。
【0092】
被験体:脊椎動物(哺乳動物、例えば、ヒトなど)。哺乳動物としては、マウス、類人猿、ヒト、農場動物、競技用動物、およびペットが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、被験体はヒトである。他の実施形態では、被験体は、非ヒト哺乳動物(サルまたは他の非ヒト霊長類、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシなど)である。いくつかの例では、被験体は、がん(または腫瘍)を有するか、あるいは、がん免疫療法(養子細胞移入(ACT)治療など)を受けている。いくつかの例では、被験体は、実験動物/生物(マウス、ウサギ、またはラットなど)である。
【0093】
T細胞アゴニスト:抗腫瘍機能を促進するためにT細胞を活性化する免疫療法。非限定的な例としては、ウレルマブおよびウトミルマブが挙げられる。
【0094】
T細胞:免疫応答の重要なメディエーターである白血球(リンパ球)。T細胞としては、CD3+T細胞、CD4+T細胞、およびCD8+T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。CD4+T細胞は、その表面上に「表面抗原分類4」(CD4)として公知のマーカーを保有する免疫細胞である。ヘルパーT細胞としても公知のこれらの細胞は、免疫応答(抗体応答およびキラーT細胞応答が挙げられる)の調整を補助する。CD8+T細胞は、「表面抗原分類8」(CD8)マーカーを保有する。いくつかの例では、CD8+T細胞は、細胞障害性Tリンパ球(CTL)である。CD3+T細胞は、「表面抗原分類3」(CD3)マーカー(歴史的にT3複合体として公知の多量体タンパク質複合体)を保有する。
【0095】
活性化されたT細胞を、細胞増殖および/または1またはそれを超えるサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-6、IFN-γ、またはTNFαなど)の発現もしくは分泌の増加によって検出することができる。また、CD8+T細胞の活性化を、抗原に応答した細胞溶解活性の増加によって検出することができる。疲弊T細胞は、がん環境でよく認められる機能不全T細胞(低応答性)である。T細胞疲弊は、エフェクター機能の進行性の喪失(例えば、IL-2、TNF-α、およびIFN-γの産生の喪失)および抑制性受容体(PD-1、T細胞免疫グロブリンドメイン、およびムチンドメイン含有タンパク質3(Tim-3)、CTLA-4、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)、およびCD160など)の発現の持続を特徴とする。いくつかの例では、疲弊T細胞は、CD3+T細胞またはCD8+T細胞である。いくつかの例では、疲弊T細胞は、終末疲弊T細胞(疲弊した最終分化T細胞)である。終末疲弊T細胞は、Tim3を発現し、他のT細胞と比較してPD-1発現が高く維持される(Tim3+PD-1hiT細胞)。Tim3+および/またはPD-1hiであるT細胞を、FACs分析、例えば、T細胞の集団のFACs分析によって決定することができる。いくつかの例では、終末疲弊T細胞はMCT11を発現する。T細胞疲弊の考えられる原因は、慢性の活性化または長期の抗原刺激である。
【0096】
T細胞受容体(TCR):主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子に結合したペプチドとしての抗原断片の認識を担うTリンパ球(またはT細胞)の表面上に見出される受容体。TCRは、2つの異なるタンパク質鎖から構成される。ヒトでは、95%のT細胞においてTCRがアルファ(α)鎖およびベータ(β)鎖からなるのに対して、5%のT細胞においてTCRがガンマおよびデルタ(γ/δ)鎖からなる。この比は、個体発生中および罹患状態ならびに異なる種において変化する。TCRが抗原ペプチドおよびMHC(ペプチド/MHC)と会合するとき、Tリンパ球は、シグナル伝達、すなわち、関連する酵素、共受容体、特殊化されたアダプター分子、および活性化または放出された転写因子によって媒介される一連の生化学的事象を介して活性化される。1つの例では、TCRは、組換えTCR(ACT治療のためのTCR操作されたT細胞で使用されるものなど)である。
【0097】
形質転換された:形質転換された細胞は、核酸分子が分子生物学技術によって導入されている細胞である。本明細書中で使用される場合、形質転換されたなどの用語(例えば、形質転換、トランスフェクション、形質導入など)は、核酸分子がかかる細胞に導入され得る全ての技術(ウイルスベクターを用いた形質導入、プラスミドベクターを用いた形質転換、ならびにエレクトロポレーション、リポフェクション、およびパーティクルガン加速によるDNAの導入が挙げられる)を包含する。
【0098】
例示的な形質導入法としては、化学的方法(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション)、物理的方法(例えば、エレクトロポレーション、微量注入、粒子衝突)、融合(例えば、リポソーム)、リポフェクション、ヌクレオフェクション、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、DNA-タンパク質複合体、ウイルスエンベロープ/キャプシド-DNA複合体)、パーティクルガン加速法(遺伝子銃)、および組換えウイルスなどのウイルスによる生物学的感染が挙げられる(Wolff,J.A.,ed,Gene Therapeutics,Birkhauser,Boston,USA(1994))。レトロウイルスによる感染の場合、感染レトロウイルス粒子が標的細胞によって吸収され、それにより、レトロウイルスRNAゲノムが逆転写され、得られたプロウイルスが細胞DNA中に組み込まれる。
【0099】
処置すること(treating)、処置(treatment)、および治療:傷害、病理、または状態の減弱または改善の任意の成功または成功の兆候(任意の客観的または主観的なパラメーター(症状の緩和、寛解、減少、または患者が状態により耐えられるようにすること、変性もしくは減退の速度の遅延、変性の最終点の衰弱を少なくすること、被験体の身体または精神の健康の改善、または延命など)が挙げられる)。処置は、客観的または主観的なパラメーター(身体検査、血液検査、および他の臨床試験などの結果が挙げられる)によって査定され得る。いくつかの例では、開示の方法を用いた処置により、腫瘍および/または転移の数、体積、および/または重量が減少する。いくつかの例では、開示の方法を用いた処置により、T細胞疲弊が軽減する(被験体中の疲弊T細胞(例えば、Tim3+PD-1hiT細胞)の数の減少など)。いくつかの例では、開示の方法を用いた処置により、T細胞疲弊が軽減する(T細胞(疲弊T細胞(例えば、Tim3+PD-1hiT細胞)など)による乳酸取り込みの低下など)。いくつかの例では、これらの効果の組み合わせが達成される。
【0100】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL):腫瘍組織に侵入するリンパ球。例えば、腫瘍試料を用いて見出されるT細胞。ACT治療では、TIL治療は、一般に、患者の腫瘍からTILを単離すること、培養物中でTILを活性化および拡大すること、次いで、患者に再注入することを含む。いくつかの例では、T細胞はTILである。
【0101】
腫瘍、新形成、または悪性疾患:新生物は、過剰な細胞分裂に起因する組織または細胞の異常な成長である。新生物が成長すると腫瘍を産生することができる。個体中の腫瘍負荷量は「全身腫瘍組織量」であり、腫瘍の数、体積、または重量として測定することができる。「非がん性組織」は同一臓器由来の組織であり、悪性新生物が形成されたが、新生物の特徴的な病理を持たない。一般に、非がん性組織は、組織学的に正常と考えられる。「正常組織」は臓器由来の組織であり、前述の臓器は、臓器のがんまたは別の疾患もしくは障害の影響を受けない。「無がん状態の」被験体は、対象の臓器ががんと診断されておらず、検出可能ながんを持たない。
【0102】
開示のMCT11モノクローナル抗体を使用して処置することができる例示的な腫瘍(がんなど)としては、固形腫瘍、例えば、乳癌(例えば、小葉癌および管癌、例えば、トリプルネガティブ乳がん)、肉腫、肺の癌(例えば、非小細胞癌、大細胞癌、扁平上皮癌、および腺癌)、肺の中皮腫、結腸直腸腺癌、胃の癌、前立腺腺癌、卵巣癌(漿液性嚢胞腺癌および粘液性嚢胞腺癌など)、卵巣胚細胞腫瘍、睾丸癌および胚細胞腫瘍、膵臓腺癌、胆管腺癌、肝細胞癌、膀胱癌(例えば、移行上皮癌、腺癌、および扁平上皮癌が挙げられる)、腎細胞腺癌、子宮内膜癌(例えば、腺癌およびミューラー管混合腫瘍(癌肉腫)が挙げられる)、子宮頸部内膜、子宮頸部外膜、および膣の癌(これら各々の腺癌および扁平上皮癌など)、皮膚の腫瘍(例えば、扁平上皮癌、基底細胞癌、悪性黒色腫、皮膚付属器腫瘍、カポジ肉腫、皮膚リンパ腫、皮膚の付属器腫瘍、ならびに種々のタイプの肉腫およびメルケル細胞癌)、食道癌、上咽頭および中咽頭の癌(その扁平上皮癌および腺癌が挙げられる)、唾液腺癌、脳および中枢神経系の腫瘍(例えば、神経膠、ニューロン、および髄膜起源の腫瘍が挙げられる)、末梢神経の腫瘍、軟組織肉腫ならびに骨および軟骨の肉腫、頭頸部扁平上皮癌、ならびにリンパ系腫瘍(B細胞およびT細胞悪性リンパ腫が挙げられる)が挙げられる。1つの例では、腫瘍は黒色腫である。1つの例では、腫瘍は、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)(HPV陽性HNSCCなど)である。
【0103】
また、開示のMCT11モノクローナル抗体を使用して、液性腫瘍、例えば、リンパ、白血球、または他の白血病型を処置することができる。具体例では、処置される腫瘍は、血液の腫瘍、例えば、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、毛様細胞白血病(HCL)、T細胞前リンパ球性白血病(T-PLL)、大顆粒リンパ球性白血病、および成人T細胞白血病)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫など)、または骨髄腫である。
【0104】
ベクター:(例えば、トランスフェクションまたは形質導入によって)宿主細胞に導入し、それにより、形質転換された宿主細胞(形質転換された疲弊T細胞など)を産生することができる核酸分子。組換えDNAベクターは、組換えDNAを有するベクターである。ベクターは、複製起点などの宿主細胞中での複製を可能にする核酸配列を含むことができる。また、ベクターは、1またはそれを超える選択可能なマーカー遺伝子および他の遺伝要素を含むことができる。ウイルスベクター(AVVなど)は、1またはそれを超えるウイルス由来の少なくともいくつかの核酸配列を有する組換え核酸ベクターである。複製欠損性ウイルスベクターは、少なくとも1つの複製に不可欠な遺伝子機能の欠損に起因して複製に必要な1またはそれを超えるウイルスゲノム領域の補足を必要とするベクターである。
【0105】
II.いくつかの実施形態の説明
モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的に結合するモノクローナル抗体を本明細書中に提供する。いくつかの例では、抗体はヒトMCT11に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、抗体断片(例えば、抗原結合断片)である。MCT11に特異的に結合するモノクローナル抗体または抗体断片(例えば、抗原結合断片)を含む多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)も開示する。多重特異性抗体は、MCT11に加えて少なくとも1つの抗原を認識する。抗体は、例えば、がんを処置すること、T細胞疲弊を軽減することもしくはT細胞のエフェクター機能を増加させること、または被験体のがん免疫療法に対する応答を増加させることに有用である。
【0106】
A.MCT11に特異的に結合するモノクローナル抗体およびその断片
MCT11、例えば、配列番号9または12などの哺乳動物MCT11に特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体を本明細書中に開示する。いくつかの例では、モノクローナル抗体は、ヒトMCT11またはその一部(配列番号9または11など)に特異的に結合する。開示の抗体は、それぞれCDR1、CDR2、およびCDR3を含むV
HドメインおよびV
Lドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号1の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含むV
Hドメインならびに/または配列番号5の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含むV
Lドメインを含む。種々のCDRナンバリングスキーム(Kabat、Chothia、またはIMGTのナンバリングスキームなど)を使用して、CDRの位置を決定することができる。いくつかの例では、CDRを決定するために使用されるナンバリングスキームは、Chothiaナンバリングスキームである(例えば、表1を参照のこと)。非限定的な例では、モノクローナル抗体は、表1に提供した重鎖および軽鎖のアミノ酸配列およびCDRを含む。
【表1-1】
【表1-2】
【0107】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%(少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%など)同一のアミノ酸配列を含むVHを含む。いくつかの例では、抗体は、配列番号5に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%(少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%など)同一のアミノ酸配列を含むVLを含む。さらなる例では、抗体は、それぞれ配列番号1および5に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%(少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%など)同一のアミノ酸配列を独立して含むVHおよびVLを含む。
【0108】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%(少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%など)同一のアミノ酸配列を含むVHを含み、それぞれ配列番号2、3、および4の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含み、また、配列番号5に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%(少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%など)同一のアミノ酸配列を含むVLを含み、それぞれ配列番号6、7、および8の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含む。したがって、この特定の実施形態では、配列同一性に起因する変動は、CDRの範囲外である。
【0109】
いくつかの例では、抗体は、配列番号1を含むVHを含み、そして/または配列番号5を含むVLを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号1からなるVHを含み、そして/または配列番号5からなるVLを含む。
【0110】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は抗原結合断片である。抗原結合断片は、抗原(例えば、ヒトMCT11などのMCT11抗原)に選択的に結合する能力を保持している抗体断片である。かかる断片の非限定的な例としては、以下が挙げられる:
(1)Fab(酵素パパインでの抗体全体の消化によってインタクトな軽鎖および1つの重鎖の一部を生成することによって産生することができる抗体分子の一価の抗原結合断片を含む断片);
(2)Fab’(ペプシンで抗体全体を処置し、その後に還元することによってインタクトな軽鎖および重鎖の一部を生成することによって得ることができる抗体分子の断片);
(3)(Fab’)2(その後に還元することなく酵素ペプシンで抗体全体を処置することによって得ることができる抗体の断片);F(ab’)2は、2つのジスルフィド結合によって相互に保持された2つのFab’断片の二量体である;
(4)Fv(2つの鎖として発現されたVHおよびVLを含む遺伝子操作された断片);および
(5)単鎖抗体(scFvなど)(遺伝子融合された単鎖分子として好適なポリペプチドリンカーによって連結されたVHおよびVLを含む遺伝子操作された分子として定義される)(例えば、Ahmad et al.,Clin.Dev.Immunol.,2012,doi:10.1155/2012/980250;Marbry and Snavely,IDrugs,13(8):543-549,2010を参照のこと)。scFv中のVH-ドメインおよびVL-ドメインの分子内配向は、提供された抗体について(例えば、提供された多重特異性抗体について)決定的でない。したがって、両方の可能な配置を有するscFv(VH-ドメイン-リンカードメイン-VL-ドメイン;VL-ドメイン-リンカードメイン-VH-ドメイン)が使用され得る。
(6)単鎖抗体の二量体(scFV2)(scFVの二量体と定義される)。これは「ミニ抗体」とも称されている。
(7)ジスルフィド安定化可変断片(dsFv)
【0111】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、Fv、単鎖可変断片(scFV)、単鎖抗体の二量体(scFV2)、およびジスルフィド安定化可変断片(dsFV)からなる群から選択される抗原結合断片である。いくつかの例では、抗原結合断片は、MCT11に特異的に結合するscFvである。
【0112】
抗原結合断片を、抗体のタンパク質分解性加水分解または断片をコードするDNAの宿主細胞(大腸菌細胞など)中での発現によって調製することができる。また、抗原結合断片を、従来の方法による抗体全体のペプシンまたはパパインでの消化によって得ることができる。例えば、抗原結合断片を、抗体をペプシンで酵素的に切断してF(ab’)2と表される5S断片を得ることによって産生することができる。この断片を、チオール還元剤を使用してさらに切断し、必要に応じてジスルフィド結合の切断に起因するスルフヒドリル基の基を保護して、3.5S Fab’一価断片を産生することができる。
【0113】
断片がインタクトな抗体によって認識される抗原に結合する限り、他の抗体切断方法(一価軽鎖-重鎖断片を形成するための重鎖の分離、断片のさらなる切断、または他の酵素的、化学的、もしくは遺伝的な技術など)も使用され得る。他の好適な抗原結合断片の調製方法は、例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,2nd,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,2013に記載されている。
【0114】
いくつかの実施形態では、抗体は、非ヒト哺乳動物またはトリの抗体(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ニワトリ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、またはウマ)である。非限定的な具体例では、抗体はマウス抗体である。いくつかの例では、抗体はヒト化抗体である。いくつかの例では、抗体はヒト抗体である。さらなる例では、抗体は、キメラ抗体(例えば、1つの種(例えば、マウス)由来の可変領域および別の種(例えば、ヒト)由来の定常領域を有する抗体)である。いくつかの実施形態では、抗体は定常領域を含む。定常領域は、モノクローナル抗体の半減期、安定性、および/または機能を増加させるための少なくとも1つの改変を含み得る。
【0115】
抗体は、任意の好適なフレームワーク領域(ヒトフレームワーク領域、または最適化もしくはヒト化されたフレームワーク領域など(制限されない))を含むことができる。あるいは、異種フレームワーク領域(マウスまたはサルのフレームワーク領域などであるが、これらに限定されない)を、抗体の重鎖または軽鎖中に含めることができる。
【0116】
抗体は、任意のアイソタイプの抗体であり得る。抗体は、例えば、IgA、IgM、またはIgG抗体(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4など)であり得る。MCT11に特異的に結合する抗体のクラスを別のクラスにスイッチすることができ、例えば、元はIgGであったMCT11に特異的に結合する抗体は、IgAにスイッチしたクラスであり得る。クラスを、例えば、抗体の定常領域部分を別のクラスに変更するが、可変領域を同一に保持することによってスイッチすることができる。クラススイッチを使用して、1つのIgGサブクラスを別のサブクラス(IgG1からIgG2、IgG3、またはIgG4へなど)に変換することができる。
【0117】
抗体を、別の分子(別のペプチドまたはタンパク質など)に誘導するか連結することができる。いくつかの例では、抗体は、(化学的カップリング、遺伝子融合、または非共有結合性会合などによって)抗体または抗体の一部の、別の分子(ストレプトアビジンコア領域またはポリヒスチジンタグなど)との会合を媒介することができる1またはそれを超える他の分子(別の抗体(例えば、二重特異性抗体またはダイアボディ)、検出可能なマーカー、エフェクター分子、またはタンパク質もしくはペプチドなど)に連結されている。一般に、抗体または抗原結合断片は、MCT11への結合が誘導体化またはラベリングに悪影響を受けないように誘導体化される。
【0118】
いくつかの例では、開示の抗体は、オリゴマー(二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、セプタマー、および八量体(octomer)など)である。
【0119】
いくつかの実施形態では、抗体は、1.0×10-8M以下、5.0×10-8M以下、1.0×10-9M以下、5.0×10-9M以下、1.0×10-10M以下、5.0×10-10M以下、1.0×10-11M以下、または5.0×10-11M以下の親和性(例えば、KD(抗体とその抗原との間の平衡解離定数)によって測定)でMCT11に特異的に結合する。いくつかの例では、KD値は、約10-4~10-6M、10-7~10-9M、10-10~10-12M、10-13~10-15M、10-6~10-9M、10-5~10-6M、10-5~10-7M、または10-5~10-9Mである。KDを、例えば、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施する放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定することができる。他の方法としては、ELISAベースの方法、マイクロスケール熱泳動(MST)、表面プラズモン共鳴(SPR)、および生体層干渉法(BLI)が挙げられる。いくつかの例では、KDを、例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore、Inc.、Piscataway、N.J.)でのSPRを使用して測定する。例えば、Chen et al.,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照のこと。いくつかの例では、KDを、2またはそれを超える方法を使用して(例えば、SPR法およびBLI法の両方によってKDを決定することによって)交差検証する。
【0120】
I.多重特異性抗体
本明細書中に開示のMCT11に特異的に結合する抗体を含む多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)も開示する。いくつかの例では、多重特異性抗体は、MCT11抗原ではない抗原を標的にする少なくとも1つの他の抗体(例えば、PD-1、4-1BB/CD137、GITR、OX40、CD105、LAG3、TIM-3/HAVCR2、NRP1、またはFASを標的にする抗体)を含む。いくつかの例では、多重特異性抗体は、例えば、多重特異性抗体がT細胞を標的にするためのT細胞抗原を標的にする少なくとも1つの他の抗体を含む。さらなる例では、多重特異性抗体は、本明細書中に開示のMCT11特異的モノクローナル抗体、およびMCT11の異なる抗原を標的にする少なくとも1つの他の抗体を含む。
【0121】
任意の好適な方法を使用して、多重特異性抗体をデザインして産生することができる(同一のタイプまたは異なるタイプの2またはそれを超える抗体の架橋(例えば、本明細書中に開示のモノクローナル抗体および別の抗原に結合する抗体の架橋)または抗原結合断片(scFvなど)の架橋など)。例示的な多重特異性抗体の作製方法は、PCT公開番号WO2013/163427号に記載の方法を含む。好適な架橋剤の非限定的な例としては、適切なスペーサーによって分離された2つの個別の反応基を有するヘテロ二機能性の架橋剤(m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなど)またはホモ二機能性の架橋剤(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)が挙げられる。多重特異性抗体は、本明細書中に提供した抗体によってMCT11に結合可能な任意の好適な形式を有し得る。
【0122】
二重特異性単鎖抗体を、単一の核酸分子によってコードすることができる。二重特異性単鎖抗体およびかかる抗体の構築方法の非限定的な例は、米国特許第8,076,459号、同第8,017,748号、同第8,007,796号、同第7,919,089号、同第7,820,166号、同第7,635,472号、同第7,575,923号、同第7,435,549号、同第7,332,168号、同第7,323,440号、同第7,235,641号、同第7,229,760号、同第7,112,324号、同第6,723,538号に提供されている。二重特異性単鎖抗体のさらなる例を、PCT出願番号WO99/54440号;Mack et al.,J.Immunol.,158(8):3965-3970,1997;Mack et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,92(15):7021-7025,1995;Kufer et al.,Cancer Immunol.Immunother.,45(3-4):193-197,1997;Loeffler et al.,Blood,95(6):2098-2103,2000;およびBruhl et al.,J.Immunol.,166(4):2420-2426,2001に見出すことができる。二重特異性Fab-scFv(「バイボディ(bibody)」)分子の産生は、例えば、Schoonjans et al.(J.Immunol.,165(12):7050-7057,2000)およびWillems et al.(J.Chromatogr.B Analyt.Technol.Biomed Life Sci.786(1-2):161-176,2003)に記載されている。バイボディについて、scFv分子を、VL-CL(L)鎖またはVH-CH1鎖のうちの1つに融合して、例えば、1つのscFvがFab鎖のC末端に融合しているバイボディを産生することができる。
【0123】
最外側またはN末端の可変ドメインはVD1と称され、最内側の可変ドメインはVD2と称される;VD2は、C末端CH1またはCLの近位にある。DVD-免疫グロブリン分子を、大量に製造して均一に精製することができ、この分子は、従来のIgG1に類似の薬理学的性質を有し、in vivo有効性を示す。開示のモノクローナル抗体のうちのいずれかを、DVD-免疫グロブリン形式に含めることができる。
【0124】
II.抗体コンジュゲート
本明細書中に開示の抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を、作用物質(agent)(エフェクター分子または検出可能なマーカーなど)にコンジュゲートすることができる。エフェクター分子または検出可能なマーカーを、開示の抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体に共有結合性にまたは非共有結合性に付着させることができる。種々のエフェクター分子および検出可能なマーカーを使用することができ、特定のエフェクター分子または検出可能なマーカーの選択は、特定の標的分子または細胞、および所望の生物学的効果に依存する。
【0125】
いくつかの例では、エフェクター分子は、受容体または受容体断片(人工受容体が挙げられる)である。非限定的な具体例では、抗体コンジュゲートは、MCT11特異的抗原結合断片(例えば、本明細書中に開示のMCT11に特異的なscFv)を含むキメラ抗原受容体(CAR)である。
【0126】
いくつかの例では、エフェクター分子は、薬物(例えば、抗体-薬物コンジュゲート)である。例示的な薬物としは、抗ウイルス剤(例えば、レムデシビル、ガリデシビル、アルビドール、ファビピラビル、バリシチニブ、またはロピナビル/リトナビル)、抗微小管剤(例えば、マイタンシノイド、アウリスタチンE、およびアウリスタチンF)、鎖間架橋剤(例えば、ピロロベンゾジアゼピン;PBD)、カリケアマイシンファミリー(例えば、オゾガマイシン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、ゴビテカン/エキセテカン)、PD-1阻害剤、T細胞アゴニスト、または細菌毒素(例えば、PE38)が挙げられる。いくつかの場合、ADCは、薬物とコンジュゲートした、2つのモノクローナル抗体またはその抗原断片(各々が異なる抗原またはエピトープに向けられている)から構成される二重特異性ADCである。
【0127】
検出可能なマーカーは、例えば、ELISA、分光光度法、フローサイトメトリー、顕微鏡法、または画像診断技術(CT、コンピュータ体軸断層撮影(CAT)、MRI、磁気共鳴断層撮影(MTR)、超音波、光ファイバー試験、および腹腔鏡試験など)による検出が可能なマーカーである。検出可能なマーカーの非限定的な具体例としては、フルオロフォア、化学発光剤、酵素連結、放射性同位体、および重金属または化合物(例えば、MRIによる検出のための超常磁性酸化鉄ナノ結晶)が挙げられる。例えば、有用な検出可能なマーカーとしては、蛍光化合物(フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、5-ジメチルアミン-1-ナフタレン(napthalene)スルホニルクロリド、フィコエリトリン、およびランタニドリン光体などが挙げられる)が挙げられる。生物発光マーカー(ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、および黄色蛍光タンパク質(YFP)など)も有用である。また、抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体を、検出に有用な酵素(セイヨウワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、およびグルコースオキシダーゼなど)とコンジュゲートすることができる。抗体が検出可能な酵素にコンジュゲートされる場合、抗体を、識別することができる反応生成物を産生するために酵素が使用するさらなる試薬を添加することによって検出することができる。例えば、作用物質セイヨウワサビペルオキシダーゼが存在する場合、過酸化水素およびジアミノベンジジンを添加すると有色反応性生成物が得られ、この生成物は視覚的に検出可能である。また、抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体をビオチンとコンジュゲートし、アビジンまたはストレプトアビジンの結合の間接的測定によって検出してもよい。アビジン自体を酵素または蛍光標識とコンジュゲートすることができることに留意すべきである。
【0128】
抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体を、常磁性剤(ガドリニウムなど)とコンジュゲートすることができる。また、超常磁性酸化鉄などの常磁性剤は、標識として有用である。また、抗体を、ランタニド(ユウロピウムおよびジスプロシウムなど)、およびマンガンとコンジュゲートすることができる。また、抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体を、二次レポーター(ロイシンジッパーペア配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグなど)によって認識される所定のポリペプチドエピトープとコンジュゲートしてもよい。
【0129】
また、抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体を、例えば、診断目的で、放射性標識アミノ酸とコンジュゲートすることができる。例えば、放射標識を使用して、ラジオグラフィ、発光スペクトル、または他の診断技術によって疲弊T細胞を検出してもよい。ポリペプチドのための標識の例としては、以下の放射性同位体が挙げられるが、これらに限定されない:3H、14C、35S、90Y、99mTc、111In、125I、131I。放射標識を、例えば、写真用フィルムまたはシンチレーションカウンターを使用して検出してよく、蛍光マーカーを、光検出器を使用して照射された照明光を検出してもよい。酵素標識は、典型的には、酵素に基質を提供し、基質に対する酵素の作用によって産生された反応生成物を検出することによって検出され、比色定量標識は、有色標識を簡潔に可視化することによって検出される。
【0130】
コンジュゲート中の抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体あたりの検出可能なマーカー部分の平均数は、例えば、抗体または抗原結合断片あたり1~20の部分の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、コンジュゲート中の抗体または抗原結合断片あたりのエフェクター分子部分または検出可能なマーカー部分の平均数は、約1~約2、約1~約3、約1~約8;約2~約6;約3~約5;または約3~約4の範囲である。コンジュゲートの負荷(例えば、抗体あたりのエフェクター分子比)を、異なる方法で、例えば、(i)抗体と比較したモル過剰のエフェクター分子-リンカー中間体またはリンカー試薬の制限、(ii)コンジュゲーション反応の時間または温度の制限、(iii)システインチオールの改変のための一部の制限または制限された還元条件、(iv)システイン残基の数および位置がリンカー-エフェクター分子結合の数または位置を調節するために改変されるような組換え技術による抗体のアミノ酸配列の操作によって調節してよい。
【0131】
抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体へのエフェクター分子または検出可能なマーカーの結合手順は、エフェクターまたは検出可能なマーカーの化学構造に応じて変動する。ポリペプチドは、典型的には、エフェクター分子または検出可能なマーカーを結合するためにポリペプチド上の好適な官能基との反応に利用可能な種々の官能基(カルボキシル基(-COOH)、遊離アミン基(-NH2)、またはスルフヒドリル基(-SH)など)を含む。あるいは、抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体を、追加の反応性官能基を露出または結合するように誘導体化する。誘導体化は、任意の好適なリンカー分子の結合を含み得る。リンカーは、抗体または抗原結合断片の両方ならびにエフェクター分子または検出可能なマーカーと共有結合を形成することができる。好適なリンカーとしては、直鎖もしくは分岐鎖の炭素リンカー、複素環炭素リンカー、またはペプチドリンカーが挙げられるが、これらに限定されない。抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体、およびエフェクター分子または検出可能なマーカーがポリペプチドである場合、リンカーを、構成性アミノ酸に、その側鎖(システインへのジスルフィド結合を介するなど)またはアルファ炭素を介するか、末端アミノ酸のアミノ基、および/またはカルボキシル基を介して連結してよい。
【0132】
種々の放射線診断用化合物、放射線治療用化合物、標識(酵素または蛍光分子など)、毒素、および他の薬剤を抗体に結合させることが報告されている多数の方法を考慮して、所与の薬剤を抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)に結合させるための好適な方法を決定することができる。
【0133】
III.バリアント
いくつかの実施形態では、本明細書中に開示の抗体のアミノ酸配列バリアント、抗原結合断片、および多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を提供する。例えば、結合親和性および/または他の生物学的性質を改善することが望ましい場合がある。アミノ酸配列バリアントを、抗体のVHドメインおよび/またはVLドメインをコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入すること、またはペプチド合成によって調製してよい。かかる改変としては、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、および/または挿入、および/または置換が挙げられる。最終構築物が所望の特徴(例えば、ヒトMCT11などのMCT11の特異的結合)を保有するという条件で、最終構築物に到達するように欠失、挿入、および置換を任意に組み合わせることができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、1またはそれを超えるアミノ酸置換を有するバリアントを提供する。置換変異誘発のための目的の部位は、CDRおよびフレームワーク領域を含む。アミノ酸置換を目的の抗体に導入し、所望の活性(例えば、抗原結合の保持/改善、MCT11活性の減少、またはT細胞特異性の改善)について産物をスクリーニングし得る。バリアントは、典型的には、正確な折りたたみおよびVH領域とVL領域との間の安定化に必要なアミノ酸残基を保持し、分子の低pIおよび低毒性を維持するために残基の電荷の特徴を保持する。宿主細胞の抗体収量を増加させるためにVH領域およびVL領域中のアミノ酸を置換することができる。
【0135】
いくつかの実施形態では、抗体のVHは、配列番号1の1つとして記載のアミノ酸配列と比較して10まで(1まで、2まで、3まで、4まで、5まで、6まで、7まで、8まで、または9までなど)のアミノ酸置換(保存的アミノ酸置換など)を含む。いくつかの実施形態では、抗体のVLは、配列番号5の1つとして記載のアミノ酸配列と比較して10まで(1まで、2まで、3まで、4まで、5まで、6まで、7まで、8まで、または9までなど)のアミノ酸置換(保存的アミノ酸置換など)を含む。いくつかの例では、アミノ酸置換は、CDR配列内にない(CDR領域の外側にある)。かかる実施形態では、バリアント抗体は、MCT11の特異的結合を保持する。
【0136】
いくつかの実施形態では、置換、挿入、または欠失は、かかる変化が抗体の抗原結合能を実質的に低下させない限り、1またはそれを超えるCDR内で生じ得る。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的変化(例えば、本明細書中に提供した保存的置換)がCDRに生じてよい。いくつかの例では、CDR中の置換、挿入、または欠失は、MCT11に対する結合親和性を増加させる。上記で提供したバリアントVH配列およびVL配列のいくつかの実施形態では、各CDRは、1つ以下、2つ以下、または3つ以下のアミノ酸置換を含む。いくつかの例では、CDRは、置換を含まない。バリアントVH配列およびVL配列のいくつかの実施形態では、フレームワーク残基のみが改変され、それにより、CDRは不変である。
【0137】
抗体の結合親和性を増加させるために、VLセグメントおよびVHセグメントを、天然の免疫応答中の抗体の親和性成熟を担うin vivo体細胞変異プロセスに類似のプロセスにおいて、重鎖CDR3領域内または軽鎖CDR3領域内などを無作為に変異させることができる。したがって、in vitro親和性成熟を、それぞれ重鎖CDR3または軽鎖CDR3に相補的なPCRプライマーを使用してVH領域およびVL領域を増幅させることによって行うことができる。このプロセスでは、プライマーは、得られたPCR産物がVHおよび/またはVLのCDR3領域に無作為な変異が導入されているVHセグメントおよびVLセグメントをコードするように、ある特定の位置が4つのヌクレオチド塩基の無作為な混合物で「スパイク」されている。これらの無作為に変異したVHセグメントおよびVLセグメントを試験して、MCT11に対する結合親和性を決定することができる。特定の例では、VHのアミノ酸配列は配列番号1である。他の例では、VLのアミノ酸配列は配列番号5である。
【0138】
いくつかの実施形態では、抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体は、抗体または抗原結合断片がグリコシル化される範囲を増加または減少させるように変化している。1またはそれを超えるグリコシル化部位が作出されるか除去されるようにアミノ酸配列を変化させることによって、グリコシル化部位を付加または欠失させ得る。抗体がFc領域を含む場合、この領域に結合した炭水化物を変化させ得る。哺乳動物細胞によって産生される未変性抗体は、典型的には、Fc領域のCH2ドメインのAsn297へのN結合によって一般に結合される二分岐の分岐オリゴサッカリドを含む。いくつかの例では、抗体(例えば、MCT11に特異的な抗体)は、Fc(例えば、ヒトIgG1 FcまたはヒトIgG4 fc)、アフコシル化Fc、または非FcR結合Fcを含む。例えば、Wright et al.Trends Biotechnol.15(1):26-32,1997を参照のこと。オリゴサッカリドは、種々の炭水化物、例えば、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、およびシアル酸、ならびに二分岐オリゴサッカリド構造の「ステム」中のGlcNAcに結合したフコースを含み得る。いくつかの実施形態では、ある特定の改善された性質を有する抗体バリアントを作出するために、抗体中のオリゴサッカリドを改変し得る。
【0139】
バイセクト型オリゴサッカリドを有する抗体バリアントをさらに提供する(例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴサッカリドがGlcNAcによって二分されている)。かかる抗体バリアントは、フコシル化が低下し得る。いくつかの例では、MCT11に特異的な抗体は、アフコシル化Fcを含む。Fc領域に結合したオリゴサッカリド中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体バリアントも提供する。
【0140】
いくつかの実施形態では、開示の抗体の定常領域は、抗体のin vivo半減期を最適にするための1またはそれを超えるアミノ酸置換を含む。IgG Abの血清半減期は、新生児型Fc受容体(FcRn)によって制御される。したがって、いくつかの実施形態では、抗体は、FcRnへの結合を増加させるアミノ酸置換を含む。かかる置換の非限定的な例としては、IgG定常領域での置換T250QおよびM428L(例えば、Hinton et al.,J Immunol.,176(1):346-356,2006を参照のこと);M428LおよびN434S(「LS」変異、例えば、Zalevsky,et al.,Nature Biotechnol.,28(2):157-159,2010を参照のこと);N434A(例えば、Petkova et al.,Int.Immunol.,18(12):1759-1769,2006を参照のこと);T307A、E380A、およびN434A(例えば、Petkova et al.,Int.Immunol.,18(12):1759-1769,2006を参照のこと);ならびにM252Y、S254T、およびT256E(例えば、Dall’Acqua et al.,J.Biol.Chem.,281(33):23514-23524,2006を参照のこと)を含む。開示の抗体および抗原結合断片を、上記列挙の置換のうちのいずれかを含むFcポリペプチドに連結するか前述のポリペプチドを含めることができる(例えば、Fcポリペプチドは、M428L置換およびN434S置換を含むことができる)。
【0141】
いくつかの実施形態では、本明細書中に開示の抗体を、追加の非タンパク質性部分を含むようにさらに改変し得る。抗体の誘導体化に好適な部分としては、水溶性ポリマーが挙げられるが、これに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/マレイン酸無水物コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニル ピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド(prolypropylene oxide)/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中で安定性であるので製造において有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量のポリマーであってよく、分岐または非分岐であってよい。抗体へのポリマーの結合数は変動する場合があり、1つを超えるポリマーが結合する場合、ポリマーは、同一分子または異なる分子であり得る。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数および/またはタイプを、定義された条件下での適用において抗体誘導体が使用されるかどうかなど、改善されるべき抗体の特定の性質または機能が挙げられるがこれらに限定されない検討事項に基づいて決定することができる。
【0142】
IV.追加の説明
同一のエピトープ(例えば、開示のモノクローナル抗体が結合する同一のMCT11エピトープ)に特異的に結合する抗体および抗原結合断片を、例えば、所望の結合特性を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定および単離することができる。いくつかの例では、ファージディスプレイライブラリーを生成し、所望の結合特性(例えば、MCT11の結合)を保有する抗体についてスクリーニングする。かかる方法は、例えば、Hoogenboom et al.in Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,N.J.,2001);McCafferty et al.,Nature 348:552-554;Clackson et al.,Nature 352:624-628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992);Marks and Bradbury,in Methods in Molecular Biology 248:161-175(Lo,ed.,Human Press,Totowa,N.J.,2003);Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004);Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004);Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004);およびLee et al.,J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)に記載されている。
【0143】
ある特定のファージディスプレイ法では、VH遺伝子およびVL遺伝子のレパートリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって個別にクローン化し、ファージライブラリー中で無作為に組換え、次いで、例えば、Winter et al.,Ann.Rev.Immunol.,12:433-455(1994)に記載のように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、典型的には、単鎖Fv(scFv)断片またはFab断片のいずれかとして抗体断片をディスプレイする。免疫供給源由来のライブラリーは、ハイブリドーマの構築を必要とせずに免疫原に高い親和性を示す抗体を提供する。あるいは、Griffiths et al.,EMBO J,12:725-734(1993)に記載のように、ナイーブレパートリーを、(例えば、ヒトから)クローン化して、いかなる免疫も用いずに広範な非自己抗原、さらに自己抗原に対する抗体の単一の供給源を提供することができる。最後に、Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381-388(1992)に記載のように、幹細胞から非再編成V-遺伝子セグメントをクローニングし、高可変CDR3領域をコードし、かつin vitroで再編成を達成するための無作為配列を含むPCRプライマーを使用することによってナイーブライブラリーを合成することもできる。ヒト抗体ファージライブラリーを記載している特許公報としては、例えば、米国特許第5,750,373号、ならびに米国特許出願公開第2005/0079574号、同第2005/0119455号、同第2005/0266000号、同第2007/0117126号、同第2007/0160598号、同第2007/0237764号、同第2007/0292936号、および同第2009/0002360が挙げられる。以下の実施例の節に開示の競合的結合アッセイに類似の競合的結合アッセイを使用して、所望の結合特性を有する抗体を選択することができる。
【0144】
いくつかの例では、目的のエピトープ(例えば、MCT11エピトープ)に結合する抗体を、結合アッセイにおいて、前述の抗体が、本明細書中に提供した抗体と交差競合する(例えば、統計的に有意な様式でその結合を競合的に阻害する)能力に基づいて同定することができる。
【0145】
MCT11の同一のエピトープ(例えば、開示のモノクローナル抗体が結合する同一のMCT11エピトープ)に結合するヒト抗体を、任意の好適な方法を使用して産生することができる。かかる抗体を、例えば、抗原チャレンジに応答してインタクトなヒト抗体またはヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように改変されているトランスジェニック動物への免疫原の投与によって調製し得る。かかる動物は、典型的には、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含み、この遺伝子座は、内因性免疫グロブリン遺伝子座が置換されているか、あるいは染色体外に存在するか、あるいは動物の染色体中に無作為に組み込まれている。かかるトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般に、不活化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法の概説については、Lonberg,Nat.Biotech.23:1117-1125(2005)を参照のこと。例えば、XENOMOUSE(商標)テクノロジーを記載している米国特許第6,075,181号および同第6,150,584号;HUMAB(登録商標)テクノロジーを記載している米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)テクノロジーを記載している米国特許第7,041,870号、およびVELOCIMOUSE(登録商標)テクノロジーを記載している米国特許出願公開第2007/0061900号も参照のこと)。かかる動物によって生成されたインタクトな抗体由来のヒト可変領域を、例えば、異なるヒト定常領域との組み合わせによってさらに改変し得る。
【0146】
また、同一のエピトープに結合する追加のヒト抗体を、ハイブリドーマベースの方法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体産生のためのヒト骨髄腫細胞株およびマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株が記載されている(例えば、Kozbor J.Immunol.,133:3001(1984);Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987);およびBoerner et al.,J.Immunol.,147:86(1991)を参照のこと)。また、ヒトB細胞ハイブリドーマテクノロジーによって生成されヒト抗体は、Li et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)に記載されている。さらなる方法には、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載)およびNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)に記載の方法が挙げられる。また、ヒトハイブリドーマテクノロジー(トリオーマテクノロジー)は、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005)およびVollmers and Brandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005)に記載されている。また、ヒト抗体を、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成し得る。次いで、かかる可変ドメイン配列を、所望のヒト定常ドメインと組み合わせることができる。
【0147】
B.ポリヌクレオチドおよび発現
本明細書中に記載のMCT11に特異的に結合する抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、またはコンジュゲートのアミノ酸配列をコードする核酸分子(例えば、DNA、cDNA、またはRNA(例えば、mRNA))も提供する。これらの分子をコードする核酸を、本明細書中に提供したアミノ酸配列(表1に列挙したVH配列およびVL配列ならびに各CDR配列など)、当該分野で入手可能な配列(フレームワーク配列または定常領域配列など)、および遺伝暗号を使用して容易に産生することができる。遺伝暗号を使用して、種々の機能的に等価な核酸配列(配列は異なるが、同一の抗体配列をコードするか、あるいはVLおよび/またはVH核酸配列を含むコンジュゲートまたは融合タンパク質をコードする核酸など)を構築することができる。いくつかの実施形態では、核酸分子は、それぞれ配列番号2、3、および4の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3をコードし、それぞれ配列番号6、7、および8の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3をコードする。いくつかの実施形態では、核酸分子は、それぞれ配列番号1および5のVH、VL、またはVHおよびVLの両方をコードする。
【0148】
また、開示の核酸配列の縮重バリアントを開示する。コード配列のサイレント変異は、遺伝暗号の縮重(すなわち、重複)に起因し、それにより、1つ以上のコドンが同一のアミノ酸残基をコードすることができる。したがって、例えば、ロイシンを、CTT、CTC、CTA、CTG、TTA、またはTTGがコードすることができる;セリンを、TCT、TCC、TCA、TCG、AGT、またはAGCがコードすることができる;アスパラギンを、AATまたはAACがコードすることができる;アスパラギン酸を、GATまたはGACがコードすることができる;システインを、TGTまたはTGCがコードすることができる;アラニンを、GCT、GCC、GCA、またはGCGがコードすることができる;グルタミンを、CAAまたはCAGがコードすることができる;チロシンを、TATまたはTACがコードすることができる;イソロイシンを、ATT、ATC、またはATAがコードすることができる。
【0149】
開示の核酸配列を、特定の宿主細胞(ヒト、マウス、または細菌など)中での発現のためにコドン最適化することができる。特定の種についてのコドン優先度およびコドン使用頻度の表を使用することにより、前述の特定の種のコドン使用優先度を利用してタンパク質産物(開示のモノクローナル抗体など)をコードする単離された核酸分子を操作することができる。例えば、核酸を、目的の特定の生物(例えば、モノクローナル抗体を発現するための生物)によって優先的に使用されるコドンを有するようにデザインすることができる。いくつかの例では、核酸を、ヒトでの発現のためにコドン最適化する。いくつかの例では、核酸を、特定のタンパク質発現系(細菌、酵母、昆虫、またはCHOの発現系など)のためにコドン最適化する。
【0150】
開示の核酸を、任意の好適な方法(例えば、適切な配列のクローニングまたは標準的な方法による直接的な化学合成が挙げられる)によって調製することができる。いくつかの例では、開示の核酸を、クローニング技術によって調製する。好適なクローニング技術および配列決定技術の例を、例えば、Green and Sambrook(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th ed.,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2012)およびAusubel et al.(Eds.)(Current Protocols in Molecular Biology,New York:John Wiley and Sons、増補含む)に見出すことができる。また、核酸を、増幅法によって調製することができる。増幅法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写ベースの増幅系(TAS)、自己持続性配列複製系(3SR)、およびQβレプリカーゼ増幅系(QB)が挙げられる。多種多様のクローニング方法論およびin vitro増幅方法論が以前に記載されている。いくつかの例では、開示の核酸を、直接化学合成によって調製する。多数の化学合成法が記載されている(例えば、Narang et al.,Meth.Enzymol.68:90-99,1979のホスホトリエステル法;Brown et al.,Meth.Enzymol.68:109-151,1979のホスホジエステル法;Beaucage et al.,Tetra.Lett.22:1859-1862,1981のジエチルホスホルアミダイト法;例えば、Needham-VanDevanter et al.,Nucl.Acids Res.12:6159-6168,1984に記載の自動合成機を使用したBeaucage&Caruthers,Tetra.Letts.22(20):1859-1862,1981に記載の固相ホスホルアミダイトトリエステル法;および米国特許第4,458,066号の固体支持法)。化学合成により一本鎖オリゴヌクレオチドが産生される。これを、相補配列を用いたハイブリッド形成、またはテンプレートとして一本鎖を使用したDNAポリメラーゼでの重合によって二本鎖DNAに変換することができる。DNAの化学合成は一般に約100塩基の配列に制限されるが、より短い配列のライゲーションによってより長い配列が得られる場合がある。
【0151】
いくつかの実施形態では、開示の核酸は、宿主細胞(例えば、ヒト細胞、T細胞、疲弊T細胞、タンパク質発現細胞(例えば、細菌、昆虫、酵母、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、ヒト胎児由来腎臓(HEK293))中での発現のための発現ベクター(例えば、ウイルスベクター、プラスミド、または他のビヒクル)中に含まれる。いくつかの例では、ベクターは、選択マーカー(抗生物質耐性遺伝子(例えば、ピューロマイシン)またはレポーター遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)など)を含む。他の例では、選択マーカーおよび/またはレポーターは、ベクター中に含まれない。いくつかの例では、発現ベクターは、開示の核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む。例えば、プロモーターを、本明細書中に開示のMCT11に特異的なモノクローナル抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、または抗体コンジュゲートをコードする核酸に作動可能に連結することができる。プロモーターは、構成性または誘導性であり得る。プロモーターは、目的の任意のプロモーター(サイトメガロウイルスプロモーターが挙げられる)であり得る。典型的な発現ベクターは、タンパク質(例えば、開示のMCT11特異的抗体)をコードするDNAの発現の制御に有用な配列(例えば、適切なプロモーター、エンハンサー、転写および翻訳ターミネーター、開始配列、タンパク質コード遺伝子の前の開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能にするための遺伝子の正確な読み枠の維持のための配列、および終止コドン)を含むことができる。ベクターは、選択マーカー(薬物耐性(例えば、アンピシリン耐性またはテトラサイクリン耐性)をコードするマーカーなど)をコードすることができる。
【0152】
いくつかの実施形態では、開示の核酸は、ウイルスベクター中に含まれる。使用することができる例示的なウイルスベクターとしては、トリ、マウス、およびヒト起源のポリオーマ、SV40、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス(HSVおよびEBVが挙げられる)、シンドビス・ウイルス、アルファウイルス、およびレトロウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。また、バキュロウイルス(Autographa californica多核多角体病ウイルス(multinuclear polyhedrosis virus);AcMNPV)ベクターを使用することができる。他の好適なベクターとしては、オルトポックスベクター、アビポックスベクター、鶏痘ベクター、カプリポックスベクター、スイポックスベクター、レンチウイルスベクター、アルファウイルスベクター、およびポリオウイルスベクターが挙げられる。ベクターの具体例は、ポックスウイルスベクター(ワクシニアウイルス、鶏痘ウイルス、および高弱毒化ワクシニアウイルス(MVA)、アデノウイルス、およびバキュロウイルスなど)である。有用なポックスウイルスとしては、オルトポックス、スイポックス、アビポックス、およびカプリポックスの各ウイルスが挙げられる。オルトポックスとしては、ワクシニア、エクトロメリア、およびアライグマポックスが挙げられる。有用なオルトポックスの一例は、ワクシニアである。アビポックスとしては、鶏痘、カナリヤポックス、およびハトポックスが挙げられる。カプリポックスとしては、ヤギポックスおよびヒツジポックスが挙げられる。1つの例では、スイポックスはブタポックスである。使用することができる他のウイルスベクターとしては、他のDNAウイルス(ヘルペスウイルスおよびアデノウイルスなど)、およびRNAウイルス(レトロウイルスおよびポリオなど)が挙げられる。細胞(例えば、T細胞、疲弊T細胞、細菌、酵母、昆虫、CHO、HEK293、ヒト)中での発現および複製が可能な生物学的に機能的なウイルスおよびプラスミドのDNAベクターは公知であり、当業者は好適なベクターを同定することができる。
【0153】
開示の核酸または開示の核酸をコードするベクターを、宿主細胞中にてin vitroで、または宿主生物の細胞中にてin vivoで、細胞へのDNA移入によって発現させることができる。いくつかの例では、本明細書中に開示の核酸またはベクターを、in vitroで発現させる。宿主細胞は、原核生物または真核生物の宿主細胞であり得る。多数の発現系は、タンパク質の発現のために利用可能である(大腸菌、他の細菌宿主、酵母、昆虫、または種々の真核生物細胞(COS、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLa、骨髄腫細胞、ヒト胎児由来腎臓(HEK293)株など)が挙げられる)。これらの細胞株のうちのいずれかを使用して、本明細書中に開示の抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートを発現させることができる。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、T細胞または疲弊T細胞である。安定な移入方法(外来DNAが宿主中で継続的に保持されることを意味する)が使用され得る。
【0154】
開示の核酸を最適に発現させるために、発現カセットまたはベクターは、例えば、転写を指示するための強力なプロモーター、翻訳開始のためのリボソーム結合部位(例えば、内部リボゾーム結合配列)、および転写/翻訳ターミネーターを含むことができる(使用することができる)。細菌細胞(大腸菌など)における発現のために、プロモーター(T7、trp、lac、またはラムダプロモーターなど)、リボソーム結合部位、および好ましくは転写終結シグナルを使用することができる。ヒトなどの真核細胞については、調節配列は、例えば、免疫グロブリン遺伝子、HTLV、SV40、またはサイトメガロウイルス由来のプロモーターおよび/またはエンハンサー、ならびにポリアデニル化配列を含むことができ、スプライスドナー配列および/またはスプライスアクセプター配列(例えば、CMVおよび/またはHTLVスプライスアクセプター配列およびドナー配列)をさらに含むことができる。追加の操作エレメントとしては、リーダー配列、終結コドン、ポリアデニル化シグナル、ならびに核酸配列の適切な転写およびその後の翻訳に必要な任意の他の配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0155】
開示の核酸またはベクターを、任意の好適な方法(例えば、形質転換)によって宿主細胞中に導入することができる。以下などの多数の形質転換法が公知である:化学的方法(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション)、物理的方法(例えば、エレクトロポレーション、微量注入、粒子衝突)、融合(例えば、リポソーム)、リポフェクション、ヌクレオフェクション、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、DNA-タンパク質複合体、ウイルスエンベロープ/キャプシド-DNA複合体)、パーティクルガン加速法(遺伝子銃)、または組換えウイルスなどのウイルスによる生物学的感染(Wolff,J.A.,ed,Gene Therapeutics,Birkhauser,Boston,USA(1994))。レトロウイルスによる感染の場合、感染レトロウイルス粒子が標的細胞によって吸収され、それにより、レトロウイルスRNAゲノムが逆転写され、得られたプロウイルスが細胞DNA中に組み込まれる。首尾よく形質転換された細胞を、ベクター中に含まれる遺伝子(amp、gpt、neo、およびhyg遺伝子など)によって付与された抗生物質耐性によって選択することができる。
【0156】
コードされた産物の生物学的活性を減少させることなく開示の核酸を改変することができる。例えば、標的分子のクローニング、発現、または融合タンパク質への組み込みを容易にするために改変することができる。かかる改変としては、例えば、終結コドン、都合よく配置された制限部位を作製するための配列、および開始部位を提供するためにアミノ末端にメチオニンを付加するための配列、または精製ステップで役立てるためのさらなるアミノ酸(ポリHisなど)が挙げられる。
【0157】
抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、およびコンジュゲートを、(必要に応じてエフェクター分子または検出可能なマーカーに連結された)VHおよび/またはVLを含む個別のタンパク質として発現させることができるか、融合タンパク質として発現させることができる。また、イムノアドヘシンを発現させることができる。したがって、いくつかの例では、VHおよびVL(例えば、配列番号2、3、および4のCDR配列を含むVH、ならびに配列番号6、7、および8のCDR配列を含むVL)ならびにイムノアドヘシンをコードする核酸を提供する。核酸配列は、必要に応じてリーダー配列をコードすることができる。
【0158】
scFvを作製するために、VHおよびVLをコードするDNA断片を、VH配列およびVL配列を可動性リンカーによって接合されたVLドメインおよびVHドメインを有する連続的な単鎖タンパク質として発現することができるように、可動性リンカーをコードする(例えば、アミノ酸配列(Gly4-Ser)3をコードする)別の断片に作動可能に連結することができる(例えば、Bird et al.,Science,242(4877):423-426,1988;Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,85(16):5879-5883,1988;McCafferty et al.,Nature,348:552-554,1990;Kontermann and Dubel(Eds.),Antibody Engineering,Vols.1-2,2nd ed.,Springer-Verlag,2010;Greenfield(Ed.),Antibodies:A Laboratory Manual,2nd ed.New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2014を参照のこと)。必要に応じて、切断部位(フューリン切断部位など)を、リンカー中に含めることができる。scFvは、一価(例えば、単一のVHおよびVLを使用する場合のみ)、二価(2つのVHおよびVLを使用する場合)、または多価(2つを超えるVHおよびVLを使用する場合)であり得る。MCT11および別の抗原に特異的に結合する多重特異性または多価の抗体が生成され得る。コードされたVHおよびVLは、必要に応じて、VHドメインとVLドメインとの間にフューリン切断部位を含むことができる。核酸分子がDVD-Ig(商標)形式で二重特異性抗体をコードする場合などにおいて、リンカーをコードすることもできる。
【0159】
任意の好適な抗体および抗原結合断片の発現および単離方法が使用され得る;硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティカラム、およびカラムクロマトグラフィが挙げられる(一般に、Simpson et al.(Eds.),Basic methods in Protein Purification and Analysis:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2009を参照のこと)。さらなる非限定的な例は、Al-Rubeai(Ed.),Antibody Expression and Production,Dordrecht;New York:Springer,2011に提供されている。単離された抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートは、純度100%である必要はない。いくつかの例では、単離された抗体は、有害な夾雑物(例えば、ヒトに投与した場合に有害な組成物)を実質的に含まない。
【0160】
哺乳動物細胞および細菌(大腸菌など)に由来する抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、およびコンジュゲートの発現方法、ならびに/または適切な活性形態に再度折りたたむ方法は記載されており、本明細書中に開示の抗体に適用可能である。例えば、Greenfield(Ed.),Antibodies:A Laboratory Manual,2nd ed.New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2014、Simpson et al.(Eds.),Basic methods in Protein Purification and Analysis:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,2009、およびWard et al.,Nature 341(6242):544-546,1989を参照のこと。
【0161】
C.組成物および投薬量
薬学的に許容され得る担体中に開示のモノクローナル抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、コンジュゲート、かかる分子をコードする核酸分子またはベクターのうちの1つまたは複数を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は、MCT11に特異的なモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片を含む。組成物は、例えば、がん(または腫瘍)の処置、T細胞のエフェクター機能の増加、T細胞疲弊に対する耐性の増加(または逆にT細胞疲弊の減少)、免疫療法に対する被験体の応答の増加、またはこれらの効果の組み合わせに有用である。いくつかの例では、組成物は、免疫療法に対する被験体の応答の増加、例えば、チェックポイント阻害剤、腫瘍溶解性ウイルス(例えば、T-VEC)、または養子細胞移入(ACT)治療に対する応答の増加に有用である。いくつかの例では、チェックポイント阻害剤は、PD-1、CTLA-4、CDK4、CDK6、および/またはそのリガンドを標的にする阻害剤である。非限定的な具体例では、チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、セミプリマブ、パルボシクリブ、リボシクリブ、およびアベマシクリブである。
【0162】
組成物を、被験体への投与のためのキット中などの単位投薬形態で調製することができる。投与の量およびタイミングは、所望の目的を達成するために投与する医師の裁量に任されている。組成物を、全身投与または局所投与のために製剤化することができる。1つの例では、抗原結合断片、多重特異性抗体、コンジュゲート、またはかかる分子をコードする核酸分子を、非経口投与(静脈内投与など)のために製剤化する。
【0163】
いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも70%(少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.9%、または少なくとも99.99%など)の純度である。いくつかの実施形態では、組成物は、10%未満(5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、またはそれ未満など)の夾雑物(他のタンパク質または高分子(例えば、ヒト、細菌、酵母)など)を含む。
【0164】
組成物は、薬学的に許容され得る担体(水性担体など)に溶解されたMCT11抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、コンジュゲート、またはかかる分子をコードする核酸分子もしくはベクターの溶液であり得る。種々の水性担体(例えば、緩衝化食塩水など)を使用することができる。これらの溶液は無菌であり、一般に、望ましくない物質を含まない。これらの組成物を、任意の好適な技術によって滅菌し得る。組成物は、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤などの生理学的条件に近づけることが必要な場合の薬学的に許容され得る補助剤(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および乳酸ナトリウムなど)を含み得る。これらの製剤中の抗体の濃度は大きく変動する可能性があり、選択される特定の投与様式および被験体のニーズに従って、主に流体の体積、粘度、および体重などに基づいて選択される。
【0165】
任意の好適な方法が、投与可能な組成物を調製するために使用され得る;非限定的な例は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd ed.,London,UK:Pharmaceutical Press,2013などの刊行物に提供されている。いくつかの実施形態では、組成物は、液体製剤であり、開示のMCT11抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートのうちの1つまたは複数を、約0.1mg/ml~約50mg/ml、例えば、約0.5mg/ml~約50mg/ml、または約1mg/ml~約50mg/ml、約5mg/ml~約50mg/ml、約10mg/ml~約50mg/ml、約15mg/ml~約50mg/ml、約20mg/ml~50mg/ml、約25mg/ml~50mg/ml、約30mg/ml~50mg/ml、約35mg/ml~50mg/ml、約40mg/ml~50mg/ml、約45mg/ml~50mg/ml、約0.1mg/ml~約25mg/ml,約0.5mg/ml~約25mg/ml、約1mg/ml~約25mg/ml、約5mg/ml~約25mg/ml、約0.1mg/ml~約15mg/ml、約0.5mg/ml~約15mg/ml、約1mg/ml~約15mg/ml、約5mg/ml~約15mg/ml、約10mg/ml~約25mg/ml、約15mg/ml~約25mg/ml、約20mg/ml~約25mg/ml、約10mg/ml~約40mg/ml、約10mg/ml~約30mg/ml、または約15mg/ml~約30mg/mlの濃度で含む。非限定的な具体例では、組成物は、約10~25mg/mlまたは約50~200mg/mlの本明細書中に開示された開示のMCT11モノクローナル抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートを含む。
【0166】
いくつかの実施形態では、組成物は、開示のMCT11抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートのうちの1つまたは複数を、約0.1mg/ml、0.2mg/ml、0.3mg/ml、0.4mg/ml、0.5mg/ml、0.6mg/ml、0.7mg/ml、0.8mg/ml、0.9mg/ml、1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、7mg/ml、8mg/ml、9mg/ml、10mg/ml、11mg/ml、12mg/ml、13mg/ml、14mg/ml、15mg/ml、16mg/ml、17mg/ml、18mg/ml、19mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、または50mg/mlの濃度で含む。いくつかの例では、組成物は、少なくとも1mg、少なくとも10mg、少なくとも25mg、少なくとも50mg、少なくとも100mg、少なくとも200mg、または少なくとも500mg、例えば、1mg~1g、例えば、1mg~500mg、または10~100mgの開示のMCT11抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートのうちの1つまたは複数を含む。
【0167】
開示のMCT11抗体、その抗原結合断片、多重特異性抗体、コンジュゲート、かかる分子をコードする核酸またはベクターを含む組成物を凍結乾燥形態で提供し、投与前に好適な無菌溶液で再水和することができる。次いで、溶液を、0.9%塩化ナトリウム(USP)を含む輸液バッグに添加し、典型的には、0.5~15mg/kg体重の投薬量で投与することができる。1997年のリツキシマブの承認以来、米国で販売されている抗体薬の投与においては当該分野で相当な経験が積まれている。組成物を、静注またはボーラスよりもむしろ低速注入によって投与することができる。1つの例では、より高い負荷用量を投与し、続いてより低いレベルの維持量を投与する。例えば、4mg/kgの最初の負荷用量をおよそ90分間にわたって注入し、その後、前の用量に高い忍容性が認められた場合、30分間にわたる2mg/kgの維持量を4~8週間にわたって毎週注入し得る。
【0168】
調節放出非経口製剤を、埋込剤、油性注射液として、または粒子システムとして作製することができる。タンパク質送達システムの概観については、Banga,Therapeutic Peptides and Proteins:Formulation,Processing,and Delivery Systems,Lancaster,PA:Technomic Publishing Company,Inc.,1995を参照のこと。粒子システムとしては、ミクロスフェア、微粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェア、およびナノ粒子が挙げられる。マイクロカプセルは、セントラルコアとして活性タンパク質剤(細胞毒素または薬物など)を含む。ミクロスフェアでは、活性タンパク質剤は、粒子の至る所に分散している。1μm未満の粒子、ミクロスフェア、およびマイクロカプセルは、一般に、それぞれ、ナノ粒子、ナノスフェア、およびナノカプセルと称され、静脈内投与することができる。微粒子は、典型的には、直径がおよそ100μmであり、皮下または筋肉内に投与される。例えば、Kreuter,Colloidal Drug Delivery Systems,J.Kreuter(Ed.),New York,NY:Marcel Dekker,Inc.,pp.219-342,1994;およびTice and Tabibi,Treatise on Controlled Drug Delivery:Fundamentals,Optimization,Applications,A.Kydonieus(Ed.),New York,NY:Marcel Dekker,Inc.,pp.315-339,1992を参照のこと。
【0169】
ポリマーを、本明細書中に開示の組成物のイオン調節放出のために使用することができる。調節薬物送達における使用のためにデザインされた分解性または非分解性のポリマーマトリックスなどの任意の好適なポリマーが使用され得る。あるいは、タンパク質の調節放出のためのマイクロキャリアとしてヒドロキシアパタイトが使用されている。さらに別の態様では、調節放出および脂質でカプセル化した薬物の薬物ターゲティングのためにリポソームを使用する。
【0170】
D.使用方法
T細胞疲弊を処置するかT細胞のエフェクター機能を増加させるためにMCT11抗体(本明細書中に提供したもののうちの1つまたは複数など)を使用する方法を本明細書中に開示する。例えば、治療有効量の1またはそれを超えるMCT11抗体(本明細書中に提供したもののうちの1つまたは複数など)を、被験体(免疫療法(例えば、ACT治療)で処置することができるがんなどのがんを有する被験体など)に投与することができる。いくつかの例では、単回用量のMCT11抗体(またはその断片もしくはコンジュゲート)を投与する。いくつかの例では、複数回用量のMCT11抗体(またはその断片もしくはコンジュゲート)を、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、またはそれを超える回数の個別の用量などで投与する。いくつかの例では、核酸分子(MCT11抗体(またはその断片もしくはコンジュゲート)をコードするベクターなど)を、(例えば、1回またはそれを超える個別の用量で、例えば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、またはそれを超える回数の個別の用量で)投与する。
【0171】
いくつかの例では、開示の方法で使用されるMCT11抗体は、本明細書中に提供したものである(例えば、モノクローナルMCT11抗体またはMCT11に特異的な抗原結合断片)。非限定的な例では、開示の方法で使用されるMCT11抗体は、モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的に結合し、それぞれ配列番号1の可変重鎖(VH)ドメインおよび配列番号5の可変軽鎖(VL)ドメインを含む。さらなる例では、開示の方法で使用されるMCT11抗体は、モノカルボン酸輸送体11(MCT11)に特異的に結合し、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、それぞれ配列番号2、3、および4の可変重鎖(VH)のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む;配列番号5に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、それぞれ配列番号6、7、および8の可変軽鎖(VL)のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0172】
いくつかの例では、開示の方法で使用されるMCT11抗体は、市販のMCT11抗体(MCT11拮抗性抗体またはMCT11に特異的な抗原結合断片など)である(例えば、Santa Cruz Biotechnologyの抗MCT11抗体(G-4)sc-515145;USBiological Life Scienceの抗SLC16A11(品目番号:041802-APC.200);MyBioSourceの抗MCT11(カタログ番号:MBS8292652);AbcamのMCT-MCT11(ab230845);Abcamの抗MCT1/モノカルボン酸輸送体1抗体(ERR13706(B))(Ab179832);ThermoのSLC16A11ポリクローナル抗体(カタログ番号:PA5-98710);BiorbytのSLC16A11抗体(カタログ番号:Orb376095))。いくつかの例では、MCT11抗体は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、またはMCT11および別の抗原に特異的に結合する二重特異性抗体の一部である。他の抗原は、T細胞特異的抗原であり得る。他の抗原の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:PD-1、4-1BB/CD137、GITR、OX40、CD105、LAG3、TIM-3/HAVCR2、NRP1、またはFAS。
【0173】
いくつかの例では、方法は、T細胞を有効量の本明細書中に開示のモノクローナル抗体と接触させるか、あるいは本明細書中に開示のモノクローナル抗体をコードする核酸分子またはベクターをT細胞中で発現させ、それにより、T細胞疲弊を低下させるか、T細胞のエフェクター機能を増加させることを含む。いくつかの例では、接触することは、疲弊T細胞またはエフェクター機能が低下したT細胞を有する被験体に投与することを含む。いくつかの例では、被験体は、がんを有するか、あるいは、免疫療法(例えば、アベマシクリブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、アキシカブタゲンシロルユーセル、ブリノツムマブル、セミピリマブ、デュルバルマブ、イエラミリマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、パルボシクリブ、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ、レラトリマブ、リボシクリブ、ウレレマブ、ウトリムマブ、養子細胞移入(ACT)治療(例えば、キメラ抗原受容体(CAR)(例えば、チサゲンレクロイセル))、または操作されたTCRもしくは腫瘍浸潤リンパ球(TIL))、および腫瘍溶解性ウイルス(例えば、タリモジーン・ラハーパレプベック(T-VEC))を受けているか、受ける予定である。
【0174】
いくつかの例では、T細胞を、接触させるステップ前に被験体(例えば、ドナー被験体、または疲弊T細胞もしくはエフェクター機能が低下したT細胞を有する被験体)から単離する。いくつかの例では、T細胞は、末梢血単核球(PBMC)である。いくつかの例では、T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である。いくつかの例では、T細胞は、腫瘍特異的抗原(例えば、CD19、CD20、BCMA、MUC1、PSA、CEA、HER1、HER2、TRP-2、EpCAM、GPC3、メソテリン1(MSLN)、またはEGFRのうちの1つまたは複数)に反応性である。いくつかの例では、T細胞は、疲弊T細胞である。いくつかの例では、T細胞は、終末疲弊T細胞である。細胞(例えば、PBMC、T細胞、疲弊T細胞)を、被験体(例えば、被験体由来の血液試料(例えば、静脈血試料)、生検(例えば、腫瘍試料)、他の試料)から単離することができる。目的の細胞を単離するためのいくつかの技術が公知である(例えば、密度遠心分離(Ficollアプローチ)、細胞調製管(CPT)による単離、またはSepMate(商標)管による単離)。いくつかの例では、アフェレーシス(aphersis)または白血球搬出を使用する。フローサイトメトリー技術(例えば、FACS)を使用して、細胞集団(例えば、被験体から単離したPBMC)の組成を査定し、それにより、例えば、単球(例えば、CD14)、T細胞(例えば、CD3、CD8、CD4)、B細胞(例えば、CD20)、またはNK細胞(例えば、CD56)などの細胞型を同定することができる。また、FACS技術を使用して、細胞集団から特定の細胞型を富化または枯渇させる(例えば、CD14、CD3、CD8、CD4、CD28、CD20、CD56、TIM3、PD-1、またはこれらの組み合わせに陽性の細胞を富化または枯渇させる)ことができる。いくつかの例では、T細胞をPBMC試料から単離するか、あるいはPBMC試料中のT細胞を富化する(例えば、CD3+細胞またはCD8+T細胞を単離するか富化する)。いくつかの例では、試料を、ネガティブ選択によって、例えば、望ましくない細胞型(例えば、T細胞、ナイーブまたは記憶T細胞、疲弊T細胞以外の細胞型)を選択して試料から除去することによって富化する。いくつかの例では、FACSを使用して、疲弊T細胞(例えば、PD-1hi、TIM3+T細胞)が試料中に存在するかどうかを査定し、それにより試料を選別して疲弊T細胞を富化するか、逆に疲弊T細胞を除去する。
【0175】
非限定的な具体例では、TILを、がんまたは腫瘍を有する被験体由来の腫瘍試料(例えば、生検)から最初に単離し、その後に有効量のMCT11特異的抗体と接触させるか、あるいは、TILを、MCT11特異的抗体(例えば、本明細書中に開示のMCT11特異的抗体のうちの1つまたは複数)をコードする核酸分子またはベクターを発現するように改変し、それにより、TILのエフェクター機能を増加させる。かかる例では、有効量は、例えば、TIL(例えば、被験体中のがん(または腫瘍)の腫瘍抗原に特異的なTIL)のin vitro拡大を改善し、そして/またはTILのエフェクター活性(例えば、サイトカイン産生の増加、細胞障害活性の増加、またはTIM3もしくはPD-1などのT細胞疲弊マーカーの発現の減少)を改善する量であり得る。
【0176】
有効量の本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体を投与するか;あるいは、有効量の、本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体をコードする核酸またはベクターを投与し、それにより、被験体におけるがんまたは腫瘍を処置するか、あるいは免疫療法に対する応答を増加させることによる、被験体におけるがんまたは腫瘍を処置するか、免疫療法に対する応答を増加させるか、あるいは免疫応答を増加させる方法も本明細書中に開示する。非限定的な具体例では、方法は、被験体におけるがんまたは腫瘍を処置する方法である。
【0177】
いくつかの例では、有効量は、被験体におけるがん(または腫瘍)の1またはそれを超える兆候または症状を予防、処置、軽減、および/または改善するのに十分な量である。例えば、被験体における腫瘍サイズまたは腫瘍量を、同一の被験体のベースライン測定値、または好適な対照と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%軽減するのに十分な量。いくつかの例では、有効量は、被験体における転移を阻害するか遅延させるのに十分な量である。例えば、被験体中に広がった腫瘍を、同一の被験体のベースライン測定値、または好適な対照と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%減少させることによる。いくつかの例では、有効量は、被験体の平均余命を、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、またはそれを超えて増加させる量である。他の例では、有効量は、被験体における腫瘍密度を、例えば、同一の被験体のベースライン測定値または他の好適な対照と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%低下させるのに十分な量である。好適な対照の非限定的な例としては、無処置の被験体または本明細書中に開示のモノクローナル抗体またはモノクローナル抗体をコードする核酸もしくはベクターを投与されていない被験体(例えば、他の薬剤または代替治療を受けている被験体)が挙げられる。さらなる例では、有効量は、腫瘍細胞を標的にして排除する(例えば、好適な対照と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには100%排除する)のに十分な量である。
【0178】
いくつかの実施形態では、MCT11モノクローナル抗体の有効量は、MCT11を発現する少なくとも1つの細胞(例えば、疲弊T細胞、制御性T細胞、または常在性記憶T細胞)によるモノカルボキシラートの輸送を遮断する量である。いくつかの実施形態では、MCT11モノクローナル抗体は、MCT11を発現する少なくとも1つの細胞(例えば、疲弊T細胞、制御性T細胞、または常在性記憶T細胞)による乳酸、ピルビン酸、ケトン体、ブチラート、プロピオナート、またはスクシナートの取り込みを遮断する。
【0179】
いくつかの実施形態では、被験体は、少なくとも1つの免疫療法(例えば、アベマシクリブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、アキシカブタゲンシロルユーセル、ブリノツムマブル、セミピリマブ、デュルバルマブ、イエラミリマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、パルボシクリブ、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ、レラトリマブ、リボシクリブ、ウレレマブ、ウトリムマブ、養子細胞移入(ACT)治療(例えば、キメラ抗原受容体(CAR)(例えば、チサゲンレクロイセル))、または操作されたTCRもしくは腫瘍浸潤リンパ球(TIL))、および腫瘍溶解性ウイルス(例えば、タリモジーン・ラハーパレプベック(T-VEC))を受けているか、受けていたか、受ける予定である。いくつかの例では、免疫療法としては、養子細胞移入(ACT)治療、例えば、CAR(例えば、CAR-TまたはCAR-NK)、TCR、またはTIL免疫療法が挙げられる。非限定的な具体例では、免疫療法は、CAR-T治療である。いくつかの例では、免疫療法は、チェックポイント阻害剤、例えば、PD-1、PD-L1、CD137、CD223、CTLA-4、CDK4、および/またはCDK6を標的にするチェックポイント阻害剤を含む。例示的なチェックポイント阻害剤としては、イピリムマブ、ウレレマブ、イエラミリマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、セミプリマブ、パルボシクリブ、リボシクリブ、およびアベマシクリブが挙げられる。いくつかの実施形態では、免疫療法を実施すると、被験体、例えば、がんを有する被験体における免疫応答が増加する。
【0180】
いくつかの実施形態では、免疫療法に対する応答の増加としては、被験体におけるがんの1またはそれを超える兆候または症状の予防、処置、軽減、および/または改善が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書中に開示のモノクローナル抗体またはモノクローナル抗体をコードする核酸もしくはベクターの有効量は、免疫療法と共に投与した場合に、免疫療法のみを行った場合と比較して、組み合わせががん(または腫瘍)の処置でより有効である量である;例えば、いくつかの例では、組み合わせは、免疫療法のみの処置よりも、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、またはそれを超えて有効である(がんまたは腫瘍の1またはそれを超える兆候または症状を予防すること、処置すること、軽減すること、および/または改善すること)。いくつかの例では、有効量は、免疫療法と共に投与した場合に相乗作用のある量(例えば、がんの1またはそれを超える兆候または症状を相乗的に予防、処置、軽減、および/または改善する量)である。
【0181】
いくつかの実施形態では、被験体はがんを有する。いくつかの例では、被験体は、固形腫瘍またはがん、例えば、乳癌(例えば、小葉癌および管癌、例えば、トリプルネガティブ乳がん)、肉腫、肺の癌(例えば、非小細胞癌、大細胞癌、扁平上皮癌、および腺癌)、肺の中皮腫、結腸直腸腺癌、胃癌、前立腺腺癌、卵巣癌(漿液性嚢胞腺癌および粘液性嚢胞腺癌など)、卵巣胚細胞腫瘍、睾丸癌および胚細胞腫瘍、膵臓腺癌、胆管腺癌、肝細胞癌、膀胱癌(例えば、移行上皮癌、腺癌、および扁平上皮癌が挙げられる)、腎細胞腺癌、子宮内膜癌(例えば、腺癌およびミューラー管混合腫瘍(癌肉腫)が挙げられる)、子宮頸部内膜、子宮頸部外膜、および膣の癌(これら各々の腺癌および扁平上皮癌など)、皮膚の腫瘍(例えば、扁平上皮癌、基底細胞癌、悪性黒色腫、皮膚付属器腫瘍、カポジ肉腫、皮膚リンパ腫、皮膚の付属器腫瘍、ならびに種々のタイプの肉腫およびメルケル細胞癌)、食道癌、上咽頭および中咽頭の癌(その扁平上皮癌および腺癌が挙げられる)、唾液腺癌、脳および中枢神経系の腫瘍(例えば、神経膠、ニューロン、および髄膜起源の腫瘍が挙げられる)、末梢神経の腫瘍、軟組織肉腫ならびに骨および軟骨の肉腫、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、ならびにリンパ系腫瘍(B細胞およびT細胞悪性リンパ腫が挙げられる)を有する。
【0182】
いくつかの例では、被験体は、液性腫瘍またはがん、例えば、リンパ、白血球、または他の白血病型を有する。具体例では、処置される腫瘍は、血液の腫瘍、例えば、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、毛様細胞白血病(HCL)、T細胞前リンパ球性白血病(T-PLL)、大顆粒リンパ球性白血病、および成人T細胞白血病)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫など)、または骨髄腫である。
【0183】
非限定的な具体例では、被験体は、白血病、結腸直腸がん、子宮頸がん、肺がん、膀胱がん、頭頸部がん、膵臓がん、膠芽細胞腫、頭頸部扁平上皮癌、卵巣がん、子宮がん、前立腺がん、乳がん、黒色腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、腎細胞癌、肉腫、または副腎癌を有する。別の非限定的な具体例では、被験体は、黒色腫または頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)を有する。
【0184】
いくつかの実施形態では、本明細書中に開示の方法は、T細胞疲弊を軽減する。いくつかの例では、方法は、被験体(例えば、がんを有するか、免疫療法を受けている被験体)におけるT細胞疲弊を軽減する。いくつかの例では、T細胞疲弊は、好適な対照と比較して(例えば、MCT11抗体での処置前と比較して)少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%減少する。T細胞疲弊の減少を、例えば、好適な対照(例えば、無処置疲弊T細胞由来の測定値、またはMCT11に特異的な抗体の接触(投与することが挙げられる)もしくは発現前の疲弊T細胞のベースライン測定値)と比較した乳酸取り込みの減少、PD-1もしくはTim3の発現の減少、サイトカイン産生の増加(例えば、INF-γ、TNFα、またはIL-2)、または細胞傷害活性の増加(例えば、腫瘍特異的なターゲティングまたは殺滅の増加)、またはT細胞エフェクター活性の別の指標の測定によって測定することができる。いくつかの実施形態では、方法は、MCT11活性を、例えば、好適な対照と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%低下させる。いくつかの実施形態では、方法は、T細胞(疲弊T細胞または終末疲弊T細胞など)の乳酸の輸送または取り込みを、例えば、好適な対照と比較して(例えば、MCT11抗体での処置前の乳酸取り込みの量と比較した場合)少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%低下させる。いくつかの例では、これらの効果の組み合わせが達成される。
【0185】
いくつかの実施形態では、本明細書中に開示の方法は、T細胞(例えば、CD3+またはCD8+T細胞)のエフェクター機能(例えば、サイトカイン分泌、細胞増殖、腫瘍ターゲティング、がん性細胞の排除)を増加させる。いくつかの例では、方法は、被験体におけるT細胞のエフェクター機能を増加させる。いくつかの実施形態では、方法は、T細胞のエフェクター機能を、好適な対照と比較して(例えば、MCT11抗体での処置前のエフェクター機能の量と比較して)、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%.少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、またはそれを超えて増加させる。T細胞のエフェクター機能の増加を、例えば、好適な対照(例えば、無処置T細胞由来の測定値、またはMCT11に特異的な抗体の接触(投与することが挙げられる)もしくは発現前のT細胞のベースライン測定値)と比較した乳酸取り込みの減少、PD-1もしくはTim3の発現の減少、サイトカイン産生の増加(例えば、INF-γ、TNFα、またはIL-2)、細胞増殖の増加(in vitroまたはin vivoでの拡大)、または細胞傷害活性の増加(例えば、腫瘍特異的なターゲティングまたは殺滅の増加)、またはエフェクター機能の他の指標によって測定することができる。いくつかの例では、これらの効果の組み合わせが達成される。
【0186】
いくつかの実施形態では、方法は、本明細書中に開示のMCT11モノクローナル抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートおよび薬学的に許容され得る担体を被験体に投与することを含む。MCT11抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートの用量は変動し得るが、例示的な投薬量は、被験体の体重1kgあたり約0.01~約50mgの間、例えば、約0.01mg/kg~約20mg/kg、約0.5mg/kg~約20mg/kg、約1mg/kg~約20mg/kg、約5mg/kg~約20mg/kg、約10mg/kg~約20mg/kg、約15mg/kg~約20mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、約0.5mg/kg~約10mg/kg、約1mg/kg~約10mg/kg、約5mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約5mg/kg、約0.1mg/kg~約5mg/kg、約0.5mg/kg~約5mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kg、約5mg/kg~約15mg/kg、約5mg/kg~20mg/kg、約5mg/kg~25mg/kg、約5mg/kg~30mg/kg、約5mg/kg~35mg/kg、約5mg/kg~40mg/kg、約5mg/kg~50mg/kg、約10mg/kg~20mg/kg、約10mg/kg~30mg/kg、約10mg/kg~40mg/kg、約10mg/kg~50mg/kg、約20mg/kg~40mg/kg、または約20mg/kg~50mg/kgの範囲である。いくつかの例では、投与は、静脈内投与であり、約0.5~約3mg/kgの抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートを含み、2~4週間毎に1回投与する。いくつかの例では、用量は、3週間毎に1回の、50mg、100mg、200mg、または500mgである。
【0187】
いくつかの実施形態では、例えば、被験体の細胞機構を使用してin vivoで抗体を産生するために、MCT11抗体(開示のMCT11モノクローナル抗体、抗原結合断片、または多重特異性抗体など)をコードするDNAまたはRNAを被験体に投与する。非限定的な具体例では、有効量のscFVをコードするmRNAを、被験体に投与する。in vivoでのタンパク質発現のために外因性mRNAを投与する方法は、例えば、Schlake et al.(2019)Molecular Therapy 27(4):773-784(その全体が本明細書中で参考として援用される)に開示されている。
【0188】
任意の適切な核酸の投与方法を使用し得る;非限定的な例としては、被験体へのタンパク質をコードする核酸のいくつかの送達方法を記載している米国特許第5,643,578号、米国特許第5,593,972号、および米国特許第5,817,637号、米国特許第5,880,103号(その全体が本明細書中で参考として援用される)が挙げられる。
【0189】
いくつかの実施形態では、本明細書中に開示のモノクローナル抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートをコードする1またはそれを超える核酸分子をコードする有効量のベクターを被験体に投与する。有効量のベクターを投与すると、被験体において有効量のモノクローナル抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはコンジュゲートが発現される。いくつかの例では、核酸またはベクターを、例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、腫瘍内、前立腺内、または静脈内に注射する。非限定的な具体例では、核酸またはベクターを、筋肉内注射によって投与する。いくつかの例では、筋肉内注射のための投薬量は、約0.5μg/kg~約50mg/kg、例えば、0.005mg/kg~約5mg/kgである(例えば、米国特許第5,589,466号を参照のこと)。
【0190】
1日あたり、1週間あたり、または1ヶ月あたり、複数回用量の本明細書中に開示のMCT11抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、コンジュゲート、またはかかる分子をコードする核酸分子もしくはベクターを、例えば、医師によって決定された投与計画に従って投与し得る。いくつかの例では、抗体、抗原結合断片もしくは多重特異性抗体、コンジュゲート、またはかかる分子をコードする核酸分子もしくはベクターを、毎週、2週間毎、3週間毎、4週間毎、毎月、またはそれ未満の頻度で投与する。いくつかの例では、1日置きに3日間処置を施行する。熟練した臨床医は、被験体、処置される状態、以前の処置歴、腫瘍量および腫瘍タイプ、疾患の臨床病期および悪性度、健康全般、および他の要因に基づいて投与スケジュールを選択することができる。投薬量を、1回投与することができるか、あるいは、所望の結果が達成されるまでか、副作用によって治療を中止する必要があるまで定期的に適用し得る。一般に、用量は、患者が許容できない毒性を示すことなく所望の応答を示すのに十分である。
【0191】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得たデータを使用して、ヒトで用いるための投薬量の範囲を処方することができる。投薬量は、通常、毒性がほとんどないか最小であるED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、使用される投薬形態および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変動し得る。有効用量を、細胞培養アッセイおよび動物研究から決定することができる。
【0192】
投与としては、例えば、皮下、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮内、または髄腔内への注射などによる局所投与および全身投与が挙げられる。いくつかの実施形態では、抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、またはかかる分子をコードする核酸分子、またはかかる分子を含む組成物を、単回の皮下、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮内、または髄腔内注射によって1日1回投与する。また、抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、コンジュゲート、またはかかる分子をコードする核酸分子、またはかかる分子を含む組成物を、疾患部位(例えば、腫瘍またはがんの位置)または疾患部位付近への直接注射によって投与することができる。さらなる投与方法は、予め決定した期間にわたる抗体、抗原結合断片、コンジュゲート、またはかかる分子をコードする核酸分子、またはかかる分子を含む組成物の調節放出、連続放出、および/または緩徐放出による送達が可能な浸透圧ポンプ(例えば、Alzetポンプ)またはミニポンプ(例えば、Alzetミニ浸透圧ポンプ)による投与方法である。浸透圧ポンプまたはミニポンプを、皮下、または標的部位付近に埋め込むことができる。
【0193】
いくつかの例では、本明細書中に開示の方法は、手術、照射、化学療法、生物療法、または免疫療法のうちの1つまたは複数を用いて被験体を処置することをさらに含む。いくつかの例では、免疫療法としては、チェックポイント阻害剤、T細胞アゴニスト抗体、腫瘍溶解性ウイルス(例えば、T-VEC)、または養子細胞移入(ACT)免疫療法のうちの1つまたは複数が挙げられる。
【0194】
MCT11抗体と組み合わせて使用することができる化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えば、ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、ウラシルマスタード、またはクロラムブシルなど)、スルホン酸アルキル(ブスルファンなど)、ニトロソ尿素(カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、またはダカルバジンなど);代謝拮抗物質、例えば、葉酸アナログ(メトトレキサートなど)、ピリミジンアナログ(5-FUまたはシタラビンなど)、およびプリンアナログ、例えば、メルカプトプリンまたはチオグアニン;または天然物、例えば、ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、またはビンデシンなど)、エピポドフィロトキシン(エトポシドまたはテニポシドなど)、抗生物質(ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、またはマイトサイシンCなど)、および酵素(L-アスパラギナーゼなど)が挙げられる(しかし、これらに制限されない)。さらなる薬剤としては、白金配位錯体(シスプラチンとしても公知のシス-ジアミン-ジクロロ白金IIなど)、置換尿素(ヒドロキシ尿素など)、メチルヒドラジン誘導体(プロカルバジンなど)、および副腎皮質抑制薬(adrenocrotical suppressant)(ミトタンおよびアミノグルテチミドなど);ホルモンおよびアンタゴニスト、例えば、副腎皮質ステロイド(プレドニゾンなど)、プロゲスチン(カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、および酢酸メゲストロール(magestrol acetate)など)、エストロゲン(ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオールなど)、抗エストロゲン(タモキシフェンなど)、ならびにアンドロゲン(プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロンなど)が挙げられる。最もよく利用される化学療法薬の例としては、アドリアマイシン、メルファラン(Alkeran(登録商標))Ara-C(シタラビン)、カルムスチン、ブスルファン、ロムスチン、カルボプラチナム、シスプラチナム、シクロホスファミド(Cytoxan(登録商標))、ダウノルビシン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、フルダラビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イフォスファミド、メトトレキサート、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ナイトロジェンマスタード、パクリタキセル(または他のタキサン、例えば、ドセタキセル)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、VP-16が挙げられる一方で、より新規の薬物としては、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、イリノテカン(CPT-11)、ロイスタチン、ナベルビン、リツキシマブ(Rituxan(登録商標))イマチニブ(STI-571)、トポテカン(Hycamtin(登録商標))、カペシタビン、イブリツモマブ(Zevalin(登録商標))、およびカルシトリオールが挙げられる。熟練した臨床医は、被験体、処置されるがん、治療歴、および他の要因などの要因に応じて、被験体に適切な追加の治療(本明細書中に列挙されている治療または他の現行の治療に由来する)を選択することができる。
【0195】
いくつかの例では、方法は、追加の治療薬(モノクローナル抗体(例えば、抗CTLA-4、抗PD1、または抗PDL1)、T細胞アゴニスト抗体(例えば、ウレルマブおよびウトミルマブ)、腫瘍溶解性ウイルス、養子細胞移入(ACT)治療、または2またはそれを超える前述の任意の組み合わせなど)を用いて被験体を処置することをさらに含む。いくつかの例では、追加の治療薬は、細胞周期阻害剤またはチェックポイント阻害剤である。いくつかの例では、チェックポイント阻害剤は、PD-1、PD-L1、CTLA-4、CDK4、および/またはCDK6を標的にする。例示的な阻害剤としては、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、セミプリマブ、パルボシクリブ、リボシクリブ、およびアベマシクリブが挙げられる。いくつかの例では、被験体に、ACT治療、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞、操作されたTCR T細胞、または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を投与する。
【0196】
追加の治療薬を、開示の組成物と実質的に同時に投与し得る。いくつかの例では、追加の治療薬を、組成物の投与前に、例えば、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも7日前、少なくとも8日前、少なくとも9日前、少なくとも12日前、少なくとも14日前、少なくとも3週間前、少なくとも4週間前、少なくとも1ヶ月前、またはそれ以前に投与する。複数回用量のさらなる治療薬を、被験体に、例えば、毎日2回、毎日1回、1日置き、1週間に2回、毎週、1週間置き、3週間毎、毎月、またはそれ未満の頻度で投与することができる。熟練した臨床医は、被験体、処置される状態、以前の治療歴、腫瘍量および腫瘍タイプ、疾患の臨床病期および悪性度、および被験体の健康全般、ならびに他の要因に基づいて投与スケジュールを選択することができる。
【0197】
開示の方法と共に使用することができる組成物またはキットも提供する。いくつかの例では、組成物またはキットは、例えば、薬学的に許容され得る担体中の1またはそれを超えるMCT11抗体、抗原結合断片、多重特異性抗体、コンジュゲート、またはかかる分子をコードする核酸分子もしくはベクターを含む。キットは、追加の試薬、例えば、1またはそれを超える追加の抗体(例えば、抗CD3、抗CD8、抗CD28、抗CD44、抗PD1、抗TIM3)、トランスフェクション試薬、ベクター、培養培地、抗生物質、またはサイトカイン(例えば、IL-2、IL-15、およびIL-7)を含むことができる。キットは、細胞、例えば、タンパク質発現用の細胞を含むことができる。いくつかの例では、試薬は、個別の容器中に存在する。
【実施例】
【0198】
実施例1
材料と方法
この実施例は、以下の実施例で考察したデータを生成するために使用される材料と方法を提供する。
【0199】
RNA-seq
C57/BL6マウスにB16黒色腫を移植した。腫瘍が任意の方向で7mmに到達したときに、LNおよび腫瘍を採取して処理し、CD8
+T細胞を、リンパ節(LN)および腫瘍浸潤リンパ球(TIL)由来のCD44、PD-1、およびTim-3の発現に基づいて分取した。RNA-seqを、以下の区画から単離した1,000個の細胞に対して実施した:LN CD44
hi、TIL PD-1
lo、TIL PD-1
mid、TIL PD-1
hi、およびTIL PD-1
hiTim3
+。LNおよびTIL由来のCD4
+T細胞を、個別の実験から配列決定した。RNAを、Clontech SMARTer(登録商標)キットを使用して1000個の細胞の細胞ライセートから調製し、Illumina NextSEQ(登録商標)で配列決定した。TPMを、マウスゲノム(mm9アセンブリ)に対するアラインメント後に計算した。Slc16a11(MCT11をコードする)の100万個あたりの転写物(TPM)のプロットを示す(
図3A)。
【0200】
乳酸取り込み
上記のようにC57/BL6マウスにB16黒色腫を移植し、TIL調製物を作製した。TILにpHrodo(登録商標)Red(pH感受性色素)を負荷し、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中でインキュベートした。Watson et al.(2021)Nature,591:645-651(その全体が本明細書中で参考として援用される)に記載のように、乳酸を30分間パルスし、pHの変化をフローサイトメトリーによって測定した。MCT11の抗体阻害を試験した実験では、調製物を、LAでのパルス前に10μg/mLのポリクローナルまたはモノクローナル抗MCT11(実施例3を参照のこと)抗体とインキュベートした。
【0201】
in vivo実験
B16黒色腫
マウスに、1×10
5個の腫瘍細胞を皮下注射した。直径3mmのB16黒色腫腫瘍を保有するマウスを、腹腔内経路を介して100μg/マウスのMCT11 mAb(実施例3を参照のこと)、PD-1 mAb、またはアイソタイプコントロールで1日置きに3回の処置を施した(
図7Aを参照のこと)。腫瘍成長阻害を追跡した。
【0202】
MEER(HPV陽性頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)
マウスに、1×105個の腫瘍細胞を皮下注射した。直径3mmの腫瘍を保有するマウスを、腹腔内経路を介して100μg/マウスのMCT11 mAb(実施例3を参照のこと)またはアイソタイプコントロールで1日置きに3回の処置を施した。腫瘍成長阻害を追跡した。
【0203】
Fc変異体抗体(LALAPG)
マウスに、1×105個のMEER腫瘍細胞を皮下注射した。直径3mmの腫瘍を保有するマウスを、腹腔内経路を介して100μg/マウスのアイソタイプコントロール、MCT11 mAb(実施例3を参照のこと)、または変異体MCT11 mAbで処置した。腫瘍成長阻害を追跡した。
【0204】
MCT11遮断に応答して腫瘍が取り除かれたマウスに、除去から少なくとも30日後にいかなる処置も行わずに1×105MEER細胞/マウスのMEER腫瘍細胞を再度接種した。腫瘍成長阻害を追跡した。
【0205】
実施例2
疲弊T細胞上のMCT11の発見
RNA-seqおよび代謝プロファイルを使用して、終末疲弊T細胞(がん環境でよく見られる機能不全性T細胞)が、MCT11(Slc16a11によってコードされる)と呼ばれる新規の栄養輸送体を高度に発現することが見出された(
図3Aおよび3B)。MCT11は、モノカルボキシラート(乳酸、ピルバート、および短鎖脂肪酸などの短鎖炭素源)を輸送する可能性がある。ヒトおよびマウスにおける疲弊T細胞中のMCT11の上方制御が、フローサイトメトリーおよびRNA-Seqによって確認された(
図2A~2Cおよび
図3A~3Bを参照のこと)。さらに、終末疲弊T細胞が乳酸などのモノカルボキシラートを特異的に取り込むことが確認された(
図4)。しかしながら、MCT11は、慢性ウイルス感染によって誘導された疲弊T細胞の表面上に発現されない。これらの所見は、MCT11が終末疲弊T細胞に栄養素を流すのに重要であり得ることを示す。
【0206】
実施例3
モノクローナルMCT11抗体の生成
マウスをMCT11に対して免疫し、モノクローナル抗体を、標準的慣行としての骨髄腫細胞との融合から生成した。単一細胞のクローニングおよび十分に産生するクローンの選択後に、免疫ペプチド(配列番号11)に対する結合についてスクリーニングした。MCT11を欠損する細胞株ではなく、MCT11過剰発現細胞株への表面結合に基づいてクローンを選択した。MCT11 mAbの配列情報を、表1に提供する。
【0207】
実施例4
乳酸取り込みのMCT11遮断
非疲弊腫瘍浸潤T細胞(MCT11を発現しないTIL)およびLN由来T細胞は、乳酸を有意に取り込まない。対照的に、終末疲弊腫瘍浸潤T細胞(高レベルのPD-1およびTim-3を発現するTIL)は、乳酸を積極的に取り込む(
図4)。MCT11遮断が終末疲弊T細胞中の乳酸取り込みを阻害することができかどうかを調査した。
【0208】
マウスにB16黒色腫を移植した。腫瘍の直径が5mmに到達した後に、リンパ節(LN)および腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の調製物に、pH指示色素pHrodo(登録商標)レッドを負荷し、CD8、PD-1、Tim-3について細胞表面を染色した。LAでのパルス後、調製物を10μg/mLのポリクローナル抗MCT11抗体(Abcam、ab230845)とインキュベートした。次いで、試料を、5mM乳酸(LA)で30分間パルスした。乳酸取り込みは、ポリクローナル抗体での疲弊T細胞の処理によって遮断された(
図5)。
【0209】
乳酸取り込みアッセイを、MCT11に特異的な精製されたモノクローナル抗体(マウスIgG2a(k)アイソタイプ)(実施例3に記載)を使用して繰り返し、10μg/mLの抗MCT11とのインキュベーションが終末疲弊T細胞中の乳酸取り込みを妨害することができることが再度示された(
図6)。これは、MCT11が乳酸の取り込みを支持し、抗体媒介アプローチを使用してこの有毒な代謝産物の取り込みを防止することができることを実証している。
【0210】
実施例5
in vitroでのMCT11遮断
MCT11遮断の機能的意義を試験するために、TIL調製物を、MCT11特異的抗体を用いるか用いずに、in vitroで5時間にわたって5mM乳酸の存在下にてPMA/イオノマイシンで再刺激する。TILがサイトカインおよびグランザイムBを産生する能力を測定し、乳酸取り込みも測定する。
【0211】
実施例6
in vivoでの抗腫瘍応答の機能的モジュレーション
MCT11のmAb媒介性遮断がB16黒色腫腫瘍を保有するマウスモデルの処置によってin vivoで抗腫瘍免疫応答を機能的にモジュレートすることができるかどうかを調査した。MCT11 mAbによるMCT11遮断(実施例3を参照のこと)は、侵襲的な黒色腫のB16モデルにおいてPD-1遮断の類似の機能的効果を実証し、腫瘍成長を有意に低下させた(
図7B)。同様に、MEER腫瘍を保有するマウスモデル(HPV陽性HNSCC)におけるMCT11のmAb媒介遮断も試験した。MCT11 mAbによるMCT11遮断は、MEERモデルにおいて腫瘍成長を有意に低下させた(
図7C)。また、α-MCT11 mAb処置後に腫瘍が取り除かれたマウスは、MEER腫瘍細胞を再接種した場合に免疫学的記憶を示した(
図9C)。特に、マウスは健康で体重減少が認められず、MCT11遮断が有毒ではないことを示していた。これは、MCT11生殖系列ノックアウトマウスが明白な表現型を持たないという事実と一致する。したがって、MCT11遮断を使用して、終末疲弊T細胞上の乳酸取り込みを遮断し、細胞機能を救済することができる。
【0212】
実施例7
MCT11遮断機序
MCT11遮断が適応免疫を介して作用するかどうかを判定するために、実施例6に記載の実験に類似の実験を、B細胞やT細胞を欠くRAG1欠損マウス(RAGKO)で行った。アイソタイプコントロール(IgG2a)処置とα-MCT11 mAb(実施例3を参照のこと)処置との間に差はほとんど認められず、α-MCT11が免疫系を介して作用することを示していた(
図8A~8Cを参照のこと)。さらに、α-MCT11 mAbのFc変異体(LALAPG)を作出して、α-MCT11 mAbが遮断抗体として機能するかどうか、あるいは、α-MCT11 mAbがMCT11発現細胞を枯渇させるかどうかを判定した。MEER腫瘍細胞を接種したB6マウスを、アイソタイプコントロール、α-MCT11 mAb、または変異体α-MCT11 mAb(Fc mut抗MCT11)で処置した(
図9Aおよび9B)。結果は、α-MCT11 mAbが、MCT11発現細胞の枯渇によるよりもむしろ遮断抗体として機能することを示す。
【0213】
実施例8
がんを処置するためのモノクローナルα-MCT11の投与
この実施例では、有効量(例えば、200mgを静脈内に3週間毎に1回)のMCT11に特異的に結合するモノクローナル抗体(例えば、市販のMCT11抗体または実施例3のMCT11 mAb)を、がん処置を必要とする患者に静脈内投与する。抗体のみを投与することができるか、あるいは、他の免疫治療レジメン、例えば、チェックポイント遮断抗体(PD-1、CTLA4、LAG3)、T細胞アゴニスト抗体(41BB、OX40、GITR)、腫瘍溶解性ウイルス(T-VECなど)、またはACT(CAR-T、TCR-T、TIL)治療と組み合わせて投与することができる。
【0214】
具体例では、MCT11特異的抗体を、免疫療法、例えば、アベマシクリブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、アキシカブタゲンシロルユーセル、ブリノツムマブル、セミピリマブ、デュルバルマブ、イエラミリマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、パルボシクリブ、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ、レラトリマブ、リボシクリブ、ウレレマブ、ウトリムマブ、養子細胞移入(ACT)治療(例えば、キメラ抗原受容体(CAR)(例えば、チサゲンレクロイセル))、または操作されたTCRもしくは腫瘍浸潤リンパ球(TIL))、または腫瘍溶解性ウイルス(例えば、タリモジーン・ラハーパレプベック(T-VEC))の前、後、または実質的に同時に投与する。いくつかの例では、MCT11特異的抗体を、免疫療法と実質的に同時に投与する。がん(または腫瘍)の1またはそれを超える兆候または症状(例えば、腫瘍サイズ、腫瘍量、腫瘍密度、臨床悪性度、転移の存在、転移の数、罹病率、死亡率、または他の測定値(定性的または定量的))を、定期的に測定する。測定値を、例えば、被験体へのMCT11特異的抗体の投与前に得た測定値と比較することができるか、あるいは、対照群、例えば、MCT11特異的抗体を投与していない被験体と比較することができる。この実施例では、MCT11特異的抗体を投与すると、がん(または腫瘍)の1またはそれを超える兆候または症状が改善される。
【0215】
実施例9
疲弊T細胞を軽減するためのα-MCT11の使用
この実施例では、有効量のMCT11抗体(モノクローナル抗体(例えば、実施例3のMCT11 mAbまたは市販のMCT11抗体)など)を、試料から疲弊T細胞を除去するために投与する。いくつかの実施形態では、方法は、試料を有効量のMCT11に特異的な抗体と接触させること、および抗体に結合した細胞を試料から除去し、それにより、疲弊T細胞が枯渇した試料を生成することを含む。
【0216】
試料は、細胞試料、例えば、PBMC試料またはT細胞の集団であり得る。方法は、例えば、がんを有する被験体などの被験体からPBMC試料を得ることを含むことができる。T細胞の集団は、ACT治療のための細胞集団(ACT治療で用いるためのCAR-T細胞、TCR細胞、およびTIL細胞など)を含むことができる。細胞試料をMCT11に特異的な抗体と接触させる前または後に(または前および後の両方で)、細胞試料を、例えば、細胞を拡大させるために(T細胞を拡大することなど)培養することができる。
【0217】
非限定的な具体例では、試料はPBMC試料である。PBMCを、例えば、細胞(T細胞など)を拡大するためにex vivoで培養することができる。疲弊T細胞(終末疲弊T細胞など)を、PBMCをMCT11抗体(モノクローナル抗体など)と接触させることによってPBMC集団(被験体から直接得たPBMCまたはex vivoでその後に拡大したPBMCのいずれか)から除去することができる。MCT11抗体に結合するPBMC集団中の細胞(疲弊T細胞である)を、PBMC集団中の他の細胞から分離することができ、したがって、PBMC集団を、疲弊していないか、終末疲弊していないT細胞について富化することができる。いくつかの例では、かかる方法により、PBMC集団中の少なくとも20%の疲弊T細胞(終末疲弊T細胞など)、例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または少なくとも99.9%の疲弊T細胞(終末疲弊T細胞など)が除去される。いくつかの例では、かかる方法により、疲弊T細胞(終末疲弊T細胞など)を実質的に含まないPBMC細胞の集団が産生される。
【0218】
疲弊T細胞(終末疲弊T細胞を含む)を、例えば、フローサイトメトリー、磁気分離、またはパニングによって試料から除去することができる。1つの例では、PBMC試料またはT細胞の集団を、MCT11抗体および適切に標識した二次抗体(フルオロフォアを含むものなど)とインキュベートして、(例えば、フローサイトメトリーを使用して)標識細胞を非標識細胞から分離する。いくつかの例では、MCT11抗体を、二次抗体を使用する代わりにフルオロフォアで直接標識する。1つの例では、磁気分離を使用する(例えば、PBMCとインキュベートしたMCT11抗体をコーティングした常磁性粒子を使用することにより、例えば遠心分離および/または洗浄(ここで、上清が回収される)を使用することによって前述の粒子に付着しない細胞を分離する)。1つの例では、パニングを使用する(例えば、PBMCとインキュベートしたMCT11抗体をコーティングした固体支持体を使用することにより、例えば洗浄によって支持体に付着していない細胞を回収する)。
【0219】
いくつかの例では、本方法により、抗がん免疫療法(本明細書中に提供した方法など)で使用される疲弊T細胞(終末疲弊T細胞など)が枯渇した試料が得られる。
【0220】
別の例では、有効量のMCT11抗体(モノクローナル抗体(例えば、実施例3のMCT11 mAbまたは市販のMCT11抗体)など)を、被験体から疲弊T細胞を枯渇させるために投与する。いくつかの実施形態では、方法は、有効量のMCT11に特異的な抗体を被験体に投与し、それにより、被験体中の疲弊T細胞を枯渇させることを含む。いくつかの例では、がんを有するか、免疫療法を受けている被験体を、処置のために選択する。
【0221】
本開示の発明の原理を適用し得る多数の可能な実施形態を考慮して、説明した実施形態が本発明の例示のみであり、本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではないことを認識されるべきである。むしろ、本発明の範囲は、以下の請求項によって定義される。したがって、本発明者らは、これらの請求項の範囲および意図に含まれる全てを本発明者らの発明としての権利を主張する。
【配列表】
【国際調査報告】