(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】車両の制御および障害物の回避方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20240806BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20240806BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240806BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240806BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/10
G08G1/16 C
B60W60/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506153
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2022070878
(87)【国際公開番号】W WO2023006709
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524017168
【氏名又は名称】アンペア エス.ア.エス.
(71)【出願人】
【識別番号】524038303
【氏名又は名称】アンステイチュ ナシオナル ドゥ ルシェルス アン アンフォルマティック エ アン オートマティク
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ, アン-ラム
(72)【発明者】
【氏名】ロジェ, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】マルティネ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】セラフィム-ガルディニ, ルイズ-アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】スパランザニ, アン
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA15
3D241BA33
3D241CC17
3D241CD09
3D241CE05
3D241DC01Z
3D241DC25Z
3D241DC34Z
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC11
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF25
5H181FF27
5H181FF33
5H181FF35
5H181LL01
5H181LL08
5H181LL09
(57)【要約】
本発明は、自動車両(100)を制御するための方法であって、・自動車の初期軌道を決定するステップと、・自動車両の周囲に関するデータを取得するステップと、・決定された初期軌道および取得されたデータを考慮して、自動車両と障害物(900)との衝突のリスクを計算するステップと、次いで、障害物との衝突のリスクがリスクしきい値を超える場合に、・衝突余裕時間を計算するステップと、次いで、衝突余裕時間が時間しきい値未満である場合に、・警告運転モードを作動させるステップであって、該モードに従って、コンピュータによって新しい軌道が決定され、新しい軌道が、重大な損傷を引き起こす障害物との衝突のリスクを最小限に抑えることを可能にし、自動車両のステアリングを制御するためのアクチュエータが、新しい軌道を走行するようにコンピュータによって制御される、ステップと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両(100)を制御するための方法であって、前記自動車両(100)が公称モード、例えば運転者による手動運転モードまたはコンピュータ(140)による自律運転モードで運転されるときに、
‐例えば前記車両の動的情報から予測される、前記自動車両(100)の初期軌道(T0)を決定するステップと、
‐前記自動車両(100)の周囲環境に関するデータ(D1)を取得するステップと、
‐前記決定された初期軌道(T0)および前記取得されたデータ(D1)を考慮して、前記自動車両(100)と障害物(900)との衝突のリスクを計算するステップと、次いで、前記障害物(900)との衝突の前記リスクがリスクしきい値を超える場合に、
‐衝突余裕時間(TTC)を計算するステップと、次いで、前記衝突余裕時間(TTC)が時間しきい値(t
crit)未満である場合に、
‐警告運転モードをアクティブにするステップであって、該モードに従って、
前記コンピュータ(140)によって新しい軌道(T1)が決定され、前記新しい軌道(T1)が、重大な損傷を引き起こす前記障害物(900)との衝突の前記リスクを最小限に抑えることを可能にし、
前記自動車両(100)のステアリングを制御するためのアクチュエータが、前記新しい軌道(T1)を走行するように前記コンピュータ(140)によって制御される、ステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記時間しきい値(t
crit)が、緊急制動時間および前記運転者の反応時間のうちの少なくとも1つに等しい、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記コンピュータ(140)が、アクティブになった前記警告運転モードを、所定の最小期間、好ましくは2から4秒の間に含まれる期間にわたって維持する、請求項1または2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記警告運転モードがアクティブになると、
‐前記自動車両(100)の周囲環境に関する前記データ(D1)を取得するステップと、
‐前記新しい軌道(T1)および前記取得されたデータ(D1)を考慮して、前記自動車両(100)と他の障害物(950)との衝突のリスクを計算するステップと、次いで、前記他の障害物(950)との衝突の前記リスクがリスクしきい値を超える場合に、
‐前記他の障害物(950)との衝突余裕時間(TTC)を計算するステップと、次いで、前記衝突余裕時間(TTC)が前記時間しきい値(t
crit)未満である場合に、
‐重大な損傷を引き起こす各障害物(900,950)との衝突の前記リスクを最小限に抑えることを可能にする第2の新しい軌道(T1’)を決定するステップと、
‐前記第2の新しい軌道(T1’)を走行するように前記制御アクチュエータを制御するステップと、を規則的に繰り返すようになっている、請求項1から3のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項5】
前記警告運転モードがアクティブになっているとき、前記警告運転モードの持続時間が所定のしきい値、好ましくは6秒に等しい前記しきい値を超えるとすぐに、前記公称モードへの復帰を制御するようになっている、請求項1から4のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項6】
前記警告運転モードがアクティブになっているとき、前記新しい軌道(T1)に障害物がなくなり、前記自動車両(100)が所定の期間にわたって安定しているとすぐに、前記公称モードへの復帰を制御するようになっている、請求項1から5のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項7】
前記新しい軌道(T1)は、コスト関数(q
k)を使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択され、前記コスト関数(q
k)の値は各試験軌道(Tt
k)について計算され、前記試験軌道(Tt
k)が障害物(900)に遭遇したとき、前記値は、前記障害物(900)との衝突速度および前記障害物のタイプに依存する、請求項1から6のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項8】
前記新しい軌道(T1)は、コスト関数(q
k)を使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択され、前記コスト関数(q
k)の値は各試験軌道(Tt
k)について計算され、前記値は、前記試験軌道(Tt
k)が、前記自動車両(100)が走行する前記道路および/または前記自動車両(100)が走行する前記車線および/または前記自動車両(100)に対して許可された前記車線から外れるかどうかに応じて変化する、請求項1から7のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項9】
前記値は、
‐前記試験軌道(Tt
k)が、前記自動車両(100)が走行する前記車線から外れる場合にはゼロではなく、そうでない場合にはゼロである第1の重みと、
‐前記試験軌道(Tt
k)が、前記自動車両(100)が走行する前記道路から外れる場合にはゼロではなく、好ましくは第1の重みよりも大きく、そうでない場合にはゼロである第2の重みと、に依存する、請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記新しい軌道(T1)は、コスト関数(q
k)を使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択され、前記コスト関数(q
k)の値は各試験軌道(Tt
k)について計算され、前記値は、前記試験軌道(Tt
k)が前記初期軌道(T0)から外れるかどうかに応じて変化する、請求項1から9のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項11】
前記新しい軌道(T1)は、MPPI型アルゴリズムを使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項12】
前記データ(D1)は、前記自動車両(100)の周囲環境を表し、前記自動車両(100)の前記周囲環境に存在する前記物体に関する情報を含む確率的占有グリッドの形態である、請求項1から11のいずれか一項に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、車両の安全性に関し、特に車両とその周囲に存在する物体との間の衝突を回避するための車両の安全性に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、障害物を回避することを可能にし、またはこれが先験的に不可能である場合には、衝撃のリスクおよび重大な損傷のリスクを最小限に抑えることを可能にする自動車両を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
今日、多くの車両は、車両が展開する周囲環境を評価し、それに応じて車両を制御することを可能にする能動安全システムを装備している。これらのシステムの中でも、例えば、自律緊急ブレーキ(「Advanced Emergency Braking」またはAEB)または自律緊急ステアリング(「Autonomous Emergency Steering」またはAES)を作動させる運転支援システム(「Advanced Driver-Assistance Systems」または一般的に使用される英語の頭字語によるADAS)を挙げることができる。
【0004】
車両の周囲に危険が存在する場合、このタイプのシステムは、一般に、車両の運動学(速度および/または軌道)を補正することによって、最後の手段としてのみ介入する。
【0005】
衝突のリスクを軽減するための新しい方法が、衝突が不可避である場合に衝突の重大性を最小限に抑えるために開発されている。したがって、米国特許出願公開第2016001775号明細書は、差し迫った衝突が検出された場合に、身体の損傷を防止または最小化するために新しい軌道が確立される解決策を提供する。
【0006】
それにもかかわらず、1つの問題は、緊急処置を不必要にトリガしないように、衝突のリスクが本当に差し迫っているかどうかを正確かつ効果的に判定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016001775号明細書
【発明の概要】
【0008】
先行技術の前述の欠点を克服するために、本発明は、自動車両を制御するための方法を提供し、本方法は、自動車両が公称モード(例えば運転者による手動運転モードまたはコンピュータによる自律運転モード)で運転されるときに、
特に車両の動的情報から予測される、自動車両の初期軌道を決定するステップと、
自動車両の周囲環境に関するデータを取得するステップと、
決定された初期軌道および取得されたデータを考慮して、自動車両と障害物との衝突のリスクを計算するステップと、次いで、障害物との衝突のリスクがリスクしきい値を超える場合には、
衝突余裕時間を計算するステップと、次いで、衝突余裕時間が時間しきい値未満である場合には、
警告運転モードをアクティブにするステップであって、該モードに従って、
コンピュータによって新しい軌道が決定され、前記新しい軌道が、障害物との衝突が重大な損傷を引き起こすリスクを最小限に抑えることを可能にし、
自動車両のステアリングを制御するためのアクチュエータが、前記新しい軌道を走行するようにコンピュータによって制御されることによる、ステップと、を含む。
【0009】
したがって、本発明のおかげで、回避軌道に従って車両が制御される緊急運転モードのトリガは、これが実際に必要であると判明したときにのみトリガされる。
【0010】
以下の説明で明らかになるように、本発明は、自動車両の乗員にとって非常に安全な新しい解決策を提供するように相互作用する異なる技術的解決策を組み合わせるので、特に有利であることが判明している。
【0011】
したがって、既知の事故履歴データを考慮して、周囲の各物体に損傷のリスクを割り当てることができる。それは、確率的占有グリッドに基づく知覚方法を使用する。それは、リスク軽減を実行することによって衝撃のリスクおよび損傷のリスクを管理することを可能にする。これにより、可能な限り衝突のない軌道を見つけることができる。それは、緊急ブレーキまたは回避操作が好ましいかどうかを判定することを可能にする。最後に、障害物回避軌道を計算するために、車両および運転者の動的能力を考慮に入れる。
【0012】
個別にまたは任意の技術的に実現可能な組み合わせに従って考慮される、本発明による方法の他の有利で非限定的な特徴は、以下の通りであり、
時間しきい値は、緊急制動時間および運転者の反応時間のうちの少なくとも1つに等しく、
コンピュータは、アクティブになった警告運転モードを、所定の最小期間、好ましくは2から4秒の間に含まれる期間にわたって維持し、
警告運転モードがアクティブになると、自動車の周囲環境に関するデータを取得するステップと、新しい軌道および取得されたデータを考慮して、自動車両と他の障害物との衝突のリスクを計算するステップと、次いで、他の障害物との衝突のリスクがリスクしきい値を超える場合には、他の障害物との衝突余裕時間を計算するステップと、次いで、衝突余裕時間が前記時間しきい値未満である場合には、各障害物との衝突が重大な損傷を引き起こすリスクを最小限に抑えることを可能にする第2の新しい軌道を決定するステップと、前記第2の新しい軌道を走行するように前記制御アクチュエータを制御するステップと、を規則的に繰り返すようになっており、
警告運転モードがアクティブになっているとき、緊急運転モードの持続時間が所定のしきい値、好ましくは6秒に等しいしきい値を超えるとすぐに、公称モードへの復帰を制御するようになっており、
警告運転モードがアクティブになっているとき、新しい軌道に障害物がなくなり、自動車両が所定の期間にわたって安定しているとすぐに、公称モードへの復帰を制御するようになっており、
新しい軌道は、コスト関数を使用していくつかの試験軌道の中から選択され、前記コスト関数の値は各試験軌道について計算され、
前記値は、試験軌道が障害物に遭遇したとき、障害物との衝突速度および障害物のタイプに依存し、
前記値は、試験軌道が、自動車両が走行する道路および/または自動車両が走行する車線および/または自動車両に対して許可された車線から外れるかどうかに応じて変化し、
前記値は、
試験軌道が、自動車両が走行する車線から外れる場合にはゼロではなく、そうでない場合にはゼロである第1の重みと、
試験軌道が、自動車両(100)が走行する道路から外れる場合にはゼロではなく、好ましくは第1の重みよりも大きく、そうでない場合にはゼロである第2の重みと、に依存し、
前記値は、試験軌道が初期軌道から外れているか否かに応じて変化し、
新しい軌道は、MPPI型アルゴリズムを使用していくつかのテスト軌道の中から選択され、
前記データは、自動車両の周囲環境を表し、自動車両の周囲環境に存在する物体に関する情報を含む確率的占有グリッドの形態である。
【0013】
当然のことながら、本発明の異なる特徴、変形および実施形態は、それらが互いに矛盾しないかまたは排他的でない限り、様々な組み合わせに従って互いに関連付けられてもよい。
【0014】
添付の図面を参照した以下の説明は、非限定的な例として与えられ、本発明の範囲およびそれをどのように実行することができるかを説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
添付の図面において、
【0016】
【
図1】本発明による方法を実施するのに適した自動車両の概略上面図である。
【0017】
【
図2】車線を移動する自動車両に適用される「自転車」モデルの図である。
【0018】
【
図3】本発明による方法を実施するためのコンピュータシステムを示す図である。
【0019】
【
図4】道路上を移動する
図1の自動車両の概略上面図である。
【0020】
【
図5】緊急運転モードを始動するのに必要な様々なステップを示すブロック図である。
【0021】
【
図6】緊急運転モードを停止するのに必要な異なるステップを示すブロック図である。
【0022】
【
図7】第1の時点における、障害物が存在する道路を移動する
図1の自動車両の概略上面図である。
【0023】
【
図8】第2の時点における、
図7に示す状況と同じ状況を示す図である。
【0024】
【
図9】第3の時点における、
図7に示す状況と同じ状況を示す図である。
【0025】
【
図10】第4の時点における、
図7に示す状況と同じ状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
【0027】
この図に示すように、自動車両100は、本明細書では、車輪によって支持され、それ自体がパワートレイン、制動手段、およびステアリングユニットを含む様々な設備部品を支持するシャーシを含む普通車である。
【0028】
あるいは、別の種類の車両(トラック、ユーティリティビークルなど)から構成することもできる。
【0029】
この自動車両100は、自律型または半自律型であり、それは、少なくとも数秒の短い持続時間にわたって車両の速度および方向を制御することを可能にする機器を含むことを意味する。
【0030】
以降では、それが自律車両、すなわち運転者からの介入なしにその周囲で運転者によって入力された目的地まで進む能力を有する車両であることが考慮される。
【0031】
この自動車両100は、例えば自律的にそれ自体を制御し、その周囲を評価することを可能にするために、その周囲環境におけるそれの識別を可能にするオドメトリセンサを装備している。
【0032】
任意のセンサタイプを使用することができる。
【0033】
図1に示す例において、自動車両100は、自動車両100の前方に位置される周囲の画像を取り込むために自動車両100の前方に向けられるカメラ130を装備する。
【0034】
自動車両100は、少なくとも1つの測距センサ(レーダ、ライダーまたはソナー)をさらに含む。より具体的には、本明細書では、それは、自動車両の四隅および自動車両の前部中央位置に配置された5つのLIDARセンサ121,122,123,124,125を含んでいる。
【0035】
自動車両100はまた、例えばGNSS受信機(典型的にはGPSセンサ)と、地図記憶メモリと、これらの地図上の車両の位置を識別するように改良された計算ユニットとを含むナビゲーションシステム141を装備する。
【0036】
それはまた、2つの時点間の車両の移動量を決定することを可能にする慣性ユニット143を含んでもよい。
【0037】
これらの異なる構成要素によって提供される情報を処理するために、自動車両100はコンピュータ140を装備している。
【0038】
このコンピュータ140は、少なくとも1つのプロセッサ(CPU)と、少なくとも1つの内部メモリと、アナログ-デジタル変換器と、異なる入力および/または出力インターフェースと、を含む。
【0039】
その入力インターフェースのおかげで、コンピュータ140は、異なるセンサから生じる入力信号を受信するように改良されている。
【0040】
さらに、コンピュータ140は、例えば、以下に提示される所定のデータなどの異なるデータを記憶する外部メモリ142に接続される。
【0041】
次に、コンピュータ140の内部メモリは、命令を含むコンピュータプログラムからなるコンピュータアプリケーションを記憶し、命令をプロセッサが実行することにより、コンピュータ140によって後述する方法を実施することが可能になる。
【0042】
最後に、その出力インターフェースのおかげで、コンピュータ140は、自動車両の異なる部材に命令を送信するように改良されている。例えば、これらの部材は、パワーステアリングアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、車両の車室内に配置されたエンクロージャ、車両の車室内に配置された表示画面、車両のステアリングホイール内に配置された振動モータからなる。
【0043】
以下の説明では、コンピュータはいくつかの別個の実体によって形成されるが、代替的に、以下に提示されるすべての動作を実行するように改良された1つの単一の実体を含むことができると考えられる。
【0044】
以下の説明では、以下の順序で開示する。
自動車両100の動きをどのようにモデル化することができるか、
このモデル化に基づいて、障害物が車両の初期軌道T0上にある場合に、運転者が介入する必要なく車両がこの障害物を回避することを可能にする(または、障害物を回避することができない場合には少なくとも衝撃の影響を最小限に抑える)ために、基準軌道をどのように計算することができるか、および
基準軌道を走行することによって障害物を回避するために初期運転モード(公称モードとも呼ばれる)から緊急運転モードに切り替えるために求められる条件はどれか、またその逆の場合の条件はどれか。
【0045】
本明細書では、自動車両100の軌道は、
図2に示すいわゆる「自転車」モデルによってモデル化される。このモデルの状況では、
図2に示すように、自動車両100は、(自転車のような)フレームおよび2つの車輪150,152によって示される。
【0046】
モデルは、以下の方程式系によって記述される。
【0047】
[数1]
【0048】
【0049】
このモデルで考慮される変数は以下の通りである。
車線に取り付けられた基準フレーム(X、Y)における自動車両100の重心の座標に対応する変数XおよびY、
自動車両100の速度に対応する変数V、
δで示される前輪150のステアリング角、すなわち前輪150が自動車両100の前後軸となす角度、
自動車両100の前後軸と軌道の接線との間の角度、いわゆるヨー角に対応する、ψで示される方位角、
変数β(δ)は、以下のように定義される。
【0050】
[数2]
【0051】
【0052】
この式において、項lfおよびlrはそれぞれ、自動車両100の重心Gと前車軸および後車軸の軸との間の距離を表す。
【0053】
したがって、自動車両100の状態(したがって軌道)は、次式によって定義される集合ξによって特徴付けられてもよい。
【0054】
[数3]
【0055】
【0056】
以下の式によって定義される入力変数u(t)を導入することも可能である。
【0057】
[数4]
【0058】
【0059】
この段階で、少なくとも1つの潜在的に危険な障害物が検出される場合に、これが可能であるときには各障害物を回避すること、またはこれが可能でなければ損傷のリスクを低減することを可能にする基準軌道T1を計算する方法を説明することができる。
【0060】
図3に示すように、コンピュータ140は、自動車両の周囲を表す入力データD1を受信する。これらのデータD1は、特に車両のセンサ(カメラ、LIDARセンサなど)によって収集されたデータに従って、第三者であるエンティティ210により、コンピュータ140に詳述される。
【0061】
これらのデータD1は、本明細書では、物体の意味論に関する情報を含む確率的占有グリッドの形態である。
【0062】
これらのデータD1を生成するために使用される技術は、当業者には既に知られており、詳細には説明しない。文献「L.Rummelhard、A.NegreおよびC.Laugier、」Conditional Monte Carlo Dense Occupancy Tracker「2015 IEEE 18 th International Conference on Intelligent Transportation Systems,Las Palmas,2015,pp.2485-2490」に教示されている解決策に従っていると述べることができる。
【0063】
それにもかかわらず、グリッドが複数のセルから形成され、車両または車両の前部に中心があることを指定することが可能である。このグリッドの特性寸法は、捕捉することが望まれる周囲環境のサイズに依存する(したがって、自動車両100の移動速度に応じて変化し得る)。
【0064】
この図は、自動車両100を特徴付ける第1のデータセット(例えば、その位置およびその運動学的データ)と、周囲環境で識別された物体に関する第2のデータセット、特にその位置、その方向およびその移動速度に関する第2のデータセットと、を有する。
【0065】
図2にも示すように、コンピュータ140はまた、メモリ220に記憶された、事故歴から導出された重症度曲線を表す入力データD2を受信する。
【0066】
これらの重症度曲線は、各検出された物体と、損傷のリスクを伴う衝突の確率とを関連付けることを可能にする。
【0067】
これらのデータD2を確立するために使用される技術は、当業者には既に知られており、詳細には説明しない。文書「L.A.Serafim Guardini、A.Spalanzani、C.Laugier、P.Martinet、A.-L.およびT.Hermitte、「Employing Severity of Injury to Contextualize Complex Risk Mitigation Scenarios」2020 IEEE Intelligent Vehicles Symposium(IV)、Las Vegas,NV,USA,2020,pp.1839-1845,doi:10.1109/IV 47402.2020.9304543」に教示された解決策に準拠すると述べることができる。
【0068】
要約すると、この技術は、検出された物体ごとに損傷のリスクを判定することを可能にする。この損傷のリスクは、各物体に関連する複数のデータに従って決定される。これらのデータは、事故の統計分析データから構築された損傷リスク曲線から導出される。特に、これらの損傷リスク曲線から導出されたデータは、衝撃速度および物体の種類(車両、歩行者、自転車、不活性物体など)に応じた衝突によって引き起こされる損傷の重症度の変動の説明に対応する。例えば、それらは、軽い損傷(24時間未満の入院を要するか、または入院不要)、重篤な損傷(24時間~30日間の入院を要する)または致命的な損傷(30日間以内の事故に関連する)の確率を区別することを可能にする。各物体の種類に関連する損傷のリスクは、決定された衝撃速度に関連する死亡、重篤な損傷および軽傷の確率の加重和を計算することによって決定される。
【0069】
図3にも示すように、コンピュータ140はまた、車両のオドメトリデータξ
t,u
tを入力として受信する。
【0070】
例えば、これらのデータは、自動車両100に装備されるナビゲーションシステム141および慣性ユニット143によって得られる。
【0071】
これらのすべてのデータに従って基準軌道T1を計算するためのコンピュータ140の動作は、2つのブロック、すなわち制約計算ブロック300および軌道プロットブロック400に図式化することができる。
【0072】
制約計算ブロック300は、データD1、D2に基づいて、制約を確立することを可能にする。
301-損傷のリスクとの衝突確率、
302-走行すべき軌道、
303-車両の動力学、
304-周囲の知覚、および
305-車両の制御性。
【0073】
特に、そのような制約は、2020年7月23日に仏国特許出願公開第2007743号明細書に記載されている。
【0074】
それにもかかわらず、一例として、制御可能性制約(305)を定義することが可能である。
【0075】
この場合、これらの制約は3つである。
【0076】
第1の制御可能性制約は、パワーステアリングアクチュエータがステアリングホイールに課すことができるステアリング角を制限することを目的とする。実際、運転者がいつでも車両の運転を再開することができるように、ステアリング角δが2つの下限δminと上限δmaxとの間に含まれたままであることが望ましい。
【0077】
第2の制御可能性制約は、パワーステアリングアクチュエータがステアリングホイールに課すことができるステアリング速度を制限することを目的とする。実際、ステアリング速度dδ/dtは、前述と同じ理由で、2つの下限Sminと上限Smaxとの間に含まれたままであることが望ましい。
【0078】
第3の制御可能性制約は、自動車両100が受ける加速度を制限することを目的とする。実際、加速度dV/dtは、2つの下側Amin限界と上側Amax限界との間に含まれたままであることが望ましい。
【0079】
次に、軌道プロットブロック400は、障害物を回避することによって、または(損傷のリスクを伴う衝突の確率を最小限に抑えることによって)軽減することによって、損傷の全体的なリスクを最小限に抑える最適な基準軌道T1を決定することを可能にする。
【0080】
このブロックでは、いくつかの試験軌道Ttkがランダムに定義され(好ましくは100超、さらに好ましくは1,000超)、次いで、各試験軌道Ttkに関連するコストqkが計算され、1つの単一の軌道が選択される。
【0081】
この基準軌道T1を決定することを可能にする方法の一例は、例えば、前述の仏国特許出願公開第2007743号明細書に教示されている。
【0082】
この例では、複数の試験軌道Ttkは、数秒の範囲内(例えば、3秒の範囲内)の時間窓に対して決定される。
【0083】
「試験軌道」は、前述の制約を考慮すると、合理的な方法で操縦することによって自動車両100が辿ることができる軌道と理解されたい。例えば、自動車両100がそれに従って後退するであろう軌道は、試験軌道とはみなされない。
【0084】
これらの試験軌道Tt
kの各々は、自動車両100の現在位置が与えられると、前述の時間窓上で前述の自転車モデルM10を使用して決定される。
図4は、例として、4つの可能な試験軌道Tt
1、Tt
2、Tt
3、Tt
4を示す。
【0085】
次いで、コンピュータ140の主な目的のうちの1つは、この複数の可能な試験軌道Ttkの中から、創傷を引き起こす衝突の確率を最小にするものを決定することである。この目的のために、コスト関数を最適化することによって、従うべき基準軌道T1が決定される。
【0086】
コスト関数を使用するいくつかのタイプのアルゴリズムを使用することができる。例えば、上述の仏国特許出願公開第2007743号明細書にその一例が記載されている。
【0087】
それにもかかわらず、この場合、MPPIタイプ(「モデル予測経路積分」の英語表記の頭文字)アルゴリズム401が好ましい。このようなアルゴリズムは、例えば、文献「G.Williams,P.Drews,B.Goldfain,J.M.Rehg and E.A.Theodorou,“Aggressive driving with model predictive path integral control,”2016 IEEE International Conference on Robotics and Automation(ICRA),Stockholm,Sweden,2016,pp.1433-1440,doi:10.1109/ICRA.2016.7487277」に記載されている。この解決策に基づく他のアルゴリズムも使用することができる。
【0088】
これらのMPPIアルゴリズムの主な考え方は、最適制御問題のコスト関数をすべての可能な軌道の期待値に変換することである。これにより、確率的拡散過程の直接サンプリングを用いた(モンテカルロ型の)確率的近似により、確率的最適問題を解くことができる。MPPIアルゴリズムは、各反復における全体コストを最小化する制御シーケンスを決定する。このコストは、Wlliamsらによる前述の文書に記載されているように、ハミルトン-ヤコビ-ベルマン方程式の解がファインマン-カック定理およびKL発散を使用して近似される各ステップでの各個々のコストの積分に対応する。MPPIアルゴリズムの使用は、非線形および非凸のコストモデルおよび関数の使用を可能にし、乱暴な運転状況で良好な性能を実証した誘導体フリーの最適化方法からなるので魅力的であり、したがって、運転支援の状況での緊急軌道に特に適している。
【0089】
好ましくは、このアルゴリズムは、コンピュータの特定の物、すなわちグラフィックスコンピューティングエンティティGPUによって実施される。
【0090】
したがって、このアルゴリズム401は、コスト関数qkを使用することによって、試験軌道Ttkの中から最適なものを選択するための方法を提供する。
【0091】
アルゴリズムは周知であり、したがってここでは説明しないが、ここでは、このコスト関数qkがどのように定義されるかを指定することが可能である。
【0092】
各試験軌道Ttkについてその値が計算されるべきこのコスト関数qkは、ここでは、異なる制約(周囲環境、制御性など)を考慮に入れることを可能にするいくつかの成分cPCIR、cLane、cReference、cControl、cVarianceの合計に等しい。
【0093】
これらの成分の数は、本明細書では5つである。あるいは、以下でさらに説明するように、他の成分を使用することもできる。
【0094】
そこで、ここでは、以下の数式によりコスト関数を定義する。
【0095】
[数5]
【0096】
【0097】
成分cPCIRは、衝突に関連するコストに対応する。それは、衝突のリスクおよび関連する損傷のリスクを考慮に入れることを可能にする。
【0098】
この成分は、本明細書では以下のように計算される。
【0099】
[数6]
【0100】
【0101】
この式において、項wPCIRは、この成分cPCIRに割り当てられた重みである。この重みは、例えば予め定められており、コンピュータのメモリに記憶されている。
【0102】
この重みの値は、後述する他の重みの値と同様に、道路試験を使用して調整することができる。
【0103】
項β
PCIRは、考慮される試験軌道Tt
kが自由(障害物なし)である場合に値0をとり、障害物がこの軌道上(
図4の唯一の試験軌道Tt
3の場合)にある場合に値1をとるブール値である。
【0104】
項αPCIRは、障害物との衝突速度(試験軌道上に障害物があるというイベントでの)およびこの物体の意味論(特に障害物タイプ)に従って計算される。衝撃速度が速いほど大きく、不活発な障害物(例えば木の枝)よりも歩行者型の障害物の方が大きい。
【0105】
コスト関数qkの成分cLaneは、反対側の車線に入らず、且つ道路の境界を超えないように車両を可能な限り制限するために(特に道路の両側に安全障壁がある場合)、車両の車線から外れない試験軌道Ttkについて、そこから外れる軌道よりもコスト関数の値が低いことを保証するように意図されている。
【0106】
この成分は、本明細書では以下のように計算される。
【0107】
[数7]
【0108】
【0109】
したがって、それは、許可された車線の境界を超えるであろう任意の試験軌道Ttkを不利にする第1の重みwLaneと、道路の境界を超えるであろう任意の軌道をさらに不利にする第2の重みwlimitとの和に等しい。
【0110】
第1の重みwLaneは、試験軌道Ttkが許可された車線上に残っている場合にはゼロ値を有し、そうでない場合には非ゼロ値を有する。したがって、この第1の重みは、より良好な軌道が不可能である場合、例えば白線を横切ることによって、車両が許可された車線から外れることを可能にする柔軟な制約を定義することを可能にする。好ましくは、その非ゼロ値は、成分cReferenceと成分cControlとの間に含まれる。このように、0と異なる場合、第1の重みは、コスト関数に影響を及ぼすのに十分であるが、過度に制限されないように過度に大きくない値を有する。
【0111】
第2の重みwlimitは、試験軌道Ttkが道路上に残っている場合にはゼロ値を有し、そうでない場合には非ゼロ値を有する。したがって、この第2の重みは、車両が道路から外れるのを回避するために、より厳格な制約を定義することを可能にする。好ましくは、その非ゼロ値は重みwPCIRの値よりも大きい。このように、この値は、緩和の場合であっても、道路の境界を決して超えないように十分に制限的であることが判明している。
【0112】
成分c
Laneが取り得る異なる値をよりよく説明するために、
図4に示す試験軌道を考慮することができる。
【0113】
この図において、自動車両100は、第1の方向(自動車両100が循環する方向)に2つと、反対方向に2つの、4つの車線を含む道路を走行する。2つの第1の車線は、連続する白線によって互いに分離されている。次に、道路は、他の白線によって道路端部から分離される。
【0114】
コスト関数qkの成分cLaneは、自動車両100を道路から外れさせる試験軌道Tt1およびTt4に対して非常に高い値を有する。それは、車両100がその車線から外れることを必要としない試験軌道Tt3に対してゼロの重みを有する。また、それは、車両100が中央連続白線を横切ることを必要とする試験軌道Tt2の中間値を有する。
【0115】
コスト関数qkの成分cReferenceは、好ましくは、車両の初期軌道T0に可能な限り近い試験軌道Ttkを選択することを可能にする。
【0116】
この初期軌道T0は、この初期軌道T0上に位置する障害物を回避するために緊急操作がトリガされる前に自動車両100が辿るように意図されたものである。これは、従来、例えば車両の動的データ(速度、加速度、ステアリング角、ステアリング速度など)に従って計算される。それ以外の手順でも得ることができる。例えば、それは、車両が走行する車線の中心軌道によって形成されると考えることができる。
【0117】
この成分cReferenceは、本明細書では以下の式によって計算される。
【0118】
[数8]
【0119】
【0120】
この式では、ξという項は、車両がまだ初期軌道T0を走行しており、緊急操縦がまだトリガされていない間に車両が最初に有する状態、および車両が初期軌道T0を走行する場合、本明細書では3秒に等しい、少なくとも1秒の予測窓内の連続状態を含むいくつかの状態を有する。
【0121】
項ξrefは、3秒後に車両が考慮される試験軌道Ttkを走行する場合に有する状態に対応する。
【0122】
したがって、これらの項ξとξrefとの間の差は、予測窓に含まれるいくつかの連続する時間ステップにおける車両の状態を比較することを可能にする。
【0123】
項wReferenceは、成分cReferenceに割り当てられた重みである。状態ξ、ξrefは列行列であり、この項wReferenceは、問題のサイズに応じた正の定義された正方行列とすることができ、その値は予め決定され、コンピュータ140のメモリに記録される。
【0124】
コスト関数qkの成分cControlおよび成分cVarianceは、前述の文献「G.Williams,P.Drews,B.Goldfain,J.M.Rehg and E.A.Theodorou,“Aggressive driving with model predictive path integral control,”2016 IEEE International Conference on Robotics and Automation(ICRA),Stockholm,Sweden,2016,pp.1433-1440,doi:10.1109/ICRA.2016.7487277」で定義されている凸コストである。
【0125】
したがって、成分cControlは以下のように計算される。
【0126】
[数9]
【0127】
【0128】
この式において、項γは、以下の式によって定義される。
【0129】
[数10]
【0130】
【0131】
項αは、0と1との間に含まれる。それは、プロセスの分散に関してコントローラの積極性を設定することを可能にする。
【0132】
パラメータλは、コントローラの所望の積極性に対応する。
【0133】
行列Σは、MPPIアルゴリズムの状況で使用される可変入力utおよびガウシアンノイズεtについての重みを含む対角行列である。
【0134】
次に、成分cVarianceは、以下の式によって計算される。
【0135】
[数11]
【0136】
【0137】
この式では、項vは、MPPIアルゴリズムの状況で使用されるガウシアンノイズの分散に対応する。
【0138】
上記のように、代替的に、コスト関数qkは、上述の成分と、本明細書では成分cTerminalと呼ばれる少なくとも1つの他の成分との和に等しくすることができる。
【0139】
この変形例では、成分cTerminalは以下のように計算される。
【0140】
[数12]
【0141】
【0142】
この式において、項ξTは、障害物回避手順の終了に対応する最終状態まで車両が試験軌道を辿る場合に車両が有する状態に対応する。
【0143】
項wTerminalは、成分cTerminalに割り当てられた重みである。状態ξ、ξTは列行列であり、この項wTerminalは、予め決定され、コンピュータ140のメモリに記録されたいくつかの非ゼロ値を含む行行列とすることができる。
【0144】
各試験軌道Ttkに対して使用および計算されるコスト関数のおかげで、コンピュータ140は、MPPIアルゴリズムを実装し、最適な試験軌道(基準軌道T1と呼ばれる)を選択することができる。
【0145】
次いで、この基準軌道T1は、そのメモリに記憶される。
【0146】
好ましくは、衝突のない軌道となる。考慮されるすべての試験軌道が衝突を引き起こす状況では、選択される軌道は、衝突および深刻な損傷のリスクを最小限に抑える軌道である。
【0147】
この段階では、コンピュータ140が公称運転モードから緊急運転モードに切り替わるときを説明することができる。
【0148】
公称運転モードは、車両が運転者によって手動で、またはコンピュータのエンティティによって自律的に制御されるモードである。
【0149】
ここでは、自律モードで駆動する場合を考える。
【0150】
例えば、このモードでは、自動車両100は、その車線の中心に留まり、その速度を設定点速度(一定またはその車線上でそれに先行する車両の速度に応じて決定される)に等しい速度を維持するように制御される。
【0151】
任意の時点で生じる問題は、潜在的に危険な障害物を回避しようと試みるために、車両を自律運転モードに維持するか、それとも緊急運転モードに切り替えるかを決定することである。
【0152】
図5は、車両が自律モードにあるときに、緊急運転モードに切り替えるべきか否かをコンピュータ140が判定することを可能にする方法を示す第1の図を示す。
【0153】
この方法によれば、第1のステップS1の間、コンピュータは、例えば車両が車線の中心に留まるように、到達すべき目的地を考慮して辿るべき初期軌道T0を決定する。
【0154】
この初期軌道T0は、最大で数秒であるが少なくとも2秒の水平線に対して計算される。この初期軌道T0は、ここでは次の3秒に対して計算される。
【0155】
第2のステップS2の間、コンピュータは、周囲環境を表す取得されたデータD1を考慮しながら、自動車両100が初期軌道T0を辿る場合に障害物と衝突するリスクがあるかどうかを決定する。
【0156】
この目的のために、コンピュータは、自動車両100の位置および力学、並びに、考慮される表現のグリッドのセルを占める各検出された物体の位置および力学に従って衝突の確率を決定する。
【0157】
第3のステップS3の間に、コンピュータは、2つの累積条件が満たされているかどうかをチェックしようとする。
【0158】
第1の条件は、衝突のリスクがあることである。ここで、コンピュータは、検出された物体(ここでは「障害物」と呼ぶ)の少なくとも1つについて算出された衝突確率が所定のリスクしきい値を超える場合、衝突のリスクがあるとみなす。
【0159】
第2の条件は、この障害物との衝突余裕時間TTCが、決定された時間しきい値tcrit未満であることである。
【0160】
例えば、衝突余裕時間TTCは、障害物の速度および障害物から車両を分離する距離から、自動車両100の速度を考慮して、自動車両100が障害物に衝突するのに必要な時間に等しくてもよい。
【0161】
衝突余裕時間TTCを計算するためのより正確な方法は、文献「On computing time-to-collision for automation scenarios”,C Schwarz,Transportation Research Part F:Traffic Psychology and Behavior,Vehicle Automation and Driver Behavior,vol.27,pp.283-294,2014」にさらに詳細に記載されている。
【0162】
時間しきい値tcritは、以下のうちの最小値に等しい。
緊急制動時間、および
運転者の反応時間。
【0163】
例えば、緊急制動時間は、設定された制約を考慮すると、自動車両を停止させるのに必要な時間に対応する。
【0164】
運転者の反応時間は、例えば予め定められた定数であり、コンピュータのメモリに記憶されている。運転者のこの反応時間は、ここでは2秒に等しく選択される。
【0165】
このステップS3の間、2つの累積条件のうちの少なくとも1つが満たされない場合、コンピュータは、回避操作を行う必要がないと考える。その結果、車両は自律運転モードで制御されたままであり、方法は第1のステップS1にリセットされる。
【0166】
そうでなければ、緊急運転モードが作動される。これ以降、基準軌道T1が上記の方法で計算され、次いで、自動車両100がこの基準軌道T1を走行して障害物を自律的に回避するように、自動車両100の制御アクチュエータが制御される。
【0167】
この運転モードは、例えば3秒に等しい所定の持続時間にわたってアクティブにされたままであるように設計される。
【0168】
それにもかかわらず、このモードがアクティブになると、コンピュータは、基準軌道T1上に位置する新しい障害物を検出しようと試み続ける。次いで、そうであれば、前述と同様にして新しい基準軌道が計算される。この状況では、緊急運転モードが3秒を超えてアクティブにされたままになることが起こり得ることを理解されたい。
【0169】
緊急時運転モードがアクティブになると、それを停止することが適切であるか否かを繰り返し確認する必要がある。
【0170】
図6は、コンピュータ140が、車両が緊急運転モードにあるときに、自律モードに戻るべきか、それとも緊急運転モードのままであるべきかを決定することを可能にする方法を示す第2の図を示す。
【0171】
この方法によれば、第1のステップE1の間に、コンピュータ140は、そのメモリに記憶された基準軌道T1および周囲環境を表すデータD1を取得する。したがって、自動車両100が基準軌道T1を辿る場合に障害物と衝突するリスクが依然として存在するかどうかを決定することができる。
【0172】
次に、第2のステップE2の間に、コンピュータ140は、いくつかの停止条件のいずれかが満たされているかどうかをチェックする。この場合、これらの条件は累積的ではなく独立している。
【0173】
これらの条件の1つは、緊急運転モードが最大しきい値よりも大きい持続時間にわたってアクティブにされたことである。好ましくは、この最大しきい値は6秒に等しい。
【0174】
したがって、緊急運転モードのアクティブ化の持続時間が6秒を超えるとすぐに、それを放置するようになっている。
【0175】
別の条件は、軌道が衝突なしで、かつ、自動車両100が所定の持続時間(例えば1秒に等しい)にわたって安定していることである。したがって、潜在的に危険な障害物が基準軌道T1上になく、自動車両100の横速度およびヨーレートが1秒間所定のしきい値よりも低い場合、車両は自動的に自律運転モードまたは手動運転モードに切り替わる。
【0176】
言い換えれば、前述の条件のいずれかが満たされた場合、ステップE3の間に、コンピュータ140は緊急運転モードを停止し、結局、自律運転モードまたは手動運転モードを再度アクティブにすることになる。
【0177】
解決策がどのように動作するかをよりよく理解するために、
図7から
図10は、自動車両100が運転モードを変更すべき例を示す。
【0178】
最初に、
図7に示す時刻t
0において、自動車両100は障害物900(この場合は別の車両)と同じ車線上にあるが、障害物からかなりの距離にある。その後に、車両は、所定の設定点速度で、その車線の中央で自律モードで運転され続ける。並行して、初期軌道T0および衝突余裕時間TTCが定期的に計算される。
【0179】
次いで、自動車両100は、この障害物900に迅速に接近し、
図8に示す時点t
1において、緊急運転モードに切り替わるための2つの累積条件が満たされるように障害物から離れている。これ以降、上述の手法で基準軌道T1が算出される。その後に、車両のアクチュエータは、車両が所定の期間(例えば、3秒に等しい)、この基準軌道T1を最もよく走行するように制御される。
【0180】
自律モードに切り替わる時点t1において、運転者に状況を警告するために可聴および/または視覚信号が運転者に送信される。
【0181】
この3秒間の緊急時運転モードのアクティブ化中に、コンピュータは、基準軌道T1上に新たな障害物が検出されたか否かを確認する。この場合、
図9に示す時点t
2に歩行者950が検出される。
【0182】
この新しい障害物950は、2つの累積条件が満たされるような距離で基準軌道T1上に配置され、コンピュータは第2の基準軌道T1’を決定する。
【0183】
この軌道は、自動車両100が2つの障害物を回避してその最初の車線に戻ることを可能にする。
【0184】
最後に、
図10に示す時点t
3で、軌道T1’は衝突せず、車両は1秒を超えて安定しており、アクチュエータの制御は自律運転モードに戻る。
【0185】
損傷のリスクを伴う衝突の確率を含み、状況にあてはめられたコストマップ(すなわち、2020年7月23日に出願された仏国特許出願公開第2007743号に定義されている確率的占有グリッド)を使用するこの方法は、避けられない衝突の場合に(考慮される車両およびすべての障害物についての)損傷の全体的なリスクを最小にする軌道を計画することを可能にし、所与のシナリオに対する最良の解決策、回避もしくは制動のいずれかである解決策、あるいは、回避と制動の組み合わせを与えることを本質とする統合的な意思決定を可能にする。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両(100)を制御するための方法であって、前記自動車両(100)が公称モード、例えば運転者による手動運転モードまたはコンピュータ(140)による自律運転モードで運転されるときに、
例えば前記車両の動的情報から予測される、前記自動車両(100)の初期軌道(T0)を決定するステップと、
前記自動車両(100)の周囲環境に関するデータ(D1)を取得するステップと、
前記決定された初期軌道(T0)および前記取得されたデータ(D1)を考慮して、前記自動車両(100)と障害物(900)との衝突のリスクを計算するステップと、次いで、前記障害物(900)との衝突の前記リスクがリスクしきい値を超える場合に、
衝突余裕時間(TTC)を計算するステップと、次いで、前記衝突余裕時間(TTC)が時間しきい値(t
crit)未満である場合に、
警告運転モードをアクティブにするステップであって、該モードに従って、
前記コンピュータ(140)によって新しい軌道(T1)が決定され、前記新しい軌道(T1)が、重大な損傷を引き起こす前記障害物(900)との衝突の前記リスクを最小限に抑えることを可能にし、
前記自動車両(100)のステアリングを制御するためのアクチュエータが、前記新しい軌道(T1)を走行するように前記コンピュータ(140)によって制御される、ステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記時間しきい値(t
crit)が、緊急制動時間および前記運転者の反応時間のうちの少なくとも1つに等しい、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記コンピュータ(140)が、アクティブになった前記警告運転モードを、所定の最小期間、好ましくは2から4秒の間に含まれる期間にわたって維持する、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記警告運転モードがアクティブになると、
前記自動車両(100)の周囲環境に関する前記データ(D1)を取得するステップと、
前記新しい軌道(T1)および前記取得されたデータ(D1)を考慮して、前記自動車両(100)と他の障害物(950)との衝突のリスクを計算するステップと、次いで、前記他の障害物(950)との衝突の前記リスクがリスクしきい値を超える場合に、
前記他の障害物(950)との衝突余裕時間(TTC)を計算するステップと、次いで、前記衝突余裕時間(TTC)が前記時間しきい値(t
crit)未満である場合に、
重大な損傷を引き起こす各障害物(900,950)との衝突の前記リスクを最小限に抑えることを可能にする第2の新しい軌道(T1’)を決定するステップと、
前記第2の新しい軌道(T1’)を走行するように前記制御アクチュエータを制御するステップと、を規則的に繰り返すようになっている、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項5】
前記警告運転モードがアクティブになっているとき、前記警告運転モードの持続時間が所定のしきい値、好ましくは6秒に等しい前記しきい値を超えるとすぐに、前記公称モードへの復帰を制御するようになっている、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項6】
前記警告運転モードがアクティブになっているとき、前記新しい軌道(T1)に障害物がなくなり、前記自動車両(100)が所定の期間にわたって安定しているとすぐに、前記公称モードへの復帰を制御するようになっている、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項7】
前記新しい軌道(T1)は、コスト関数(q
k)を使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択され、前記コスト関数(q
k)の値は各試験軌道(Tt
k)について計算され、前記試験軌道(Tt
k)が障害物(900)に遭遇したとき、前記値は、前記障害物(900)との衝突速度および前記障害物のタイプに依存する、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項8】
前記新しい軌道(T1)は、コスト関数(q
k)を使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択され、前記コスト関数(q
k)の値は各試験軌道(Tt
k)について計算され、前記値は、前記試験軌道(Tt
k)が、前記自動車両(100)が走行する前記道路および/または前記自動車両(100)が走行する前記車線および/または前記自動車両(100)に対して許可された前記車線から外れるかどうかに応じて変化する、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項9】
前記値は、
前記試験軌道(Tt
k)が、前記自動車両(100)が走行する前記車線から外れる場合にはゼロではなく、そうでない場合にはゼロである第1の重みと、
前記試験軌道(Tt
k)が、前記自動車両(100)が走行する前記道路から外れる場合にはゼロではなく、好ましくは第1の重みよりも大きく、そうでない場合にはゼロである第2の重みと、に依存する、請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記新しい軌道(T1)は、コスト関数(q
k)を使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択され、前記コスト関数(q
k)の値は各試験軌道(Tt
k)について計算され、前記値は、前記試験軌道(Tt
k)が前記初期軌道(T0)から外れるかどうかに応じて変化する、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項11】
前記新しい軌道(T1)は、MPPI型アルゴリズムを使用していくつかの試験軌道(Tt
k)の中から選択される、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項12】
前記データ(D1)は、前記自動車両(100)の周囲環境を表し、前記自動車両(100)の前記周囲環境に存在する前記物体に関する情報を含む確率的占有グリッドの形態である、請求項
1に記載の制御方法。
【国際調査報告】