(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】リン酸鉄リチウム(LFP)電池のリサイクル
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240806BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240806BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240806BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240806BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240806BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B1/00 101
C22B3/06
C22B3/04
C22B3/44 101
C22B3/44 101A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506181
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 US2022074410
(87)【国際公開番号】W WO2023015171
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522346431
【氏名又は名称】アセンド エレメンツ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】グラッツ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】キム,キー-チャン
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA03
4K001DB02
4K001DB22
4K001DB23
4K001JA03
4K001JA10
(57)【要約】
本明細書に記載される本発明は、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法及びシステムを提供し、この方法及びシステムは、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)電池のリサイクルの流れに酸化剤を加えて浸出溶液を形成すること、浸出溶液を濾過して残留物を除去し、リチウムに富む溶液を得ること、リチウムに富む溶液のpHを調整して、不純物を濾過し、精製されたLi溶液を得ること、並びに精製されたLi溶液に沈殿剤を加えて、これによりリチウム化合物を沈殿させることを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)電池のリサイクルの流れに酸化剤を加えて浸出溶液を形成することと、
前記浸出溶液を濾過して残留物を除去し、リチウムに富む溶液を得ることと、
前記リチウムに富む溶液のpHを調整して、不純物を濾過し、精製されたLi溶液を得ることと、
前記精製されたLi溶液に沈殿剤を加えて、これによりリチウム化合物を沈殿させることと、
を含む、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法。
【請求項2】
前記酸化剤を加える前に、リン酸鉄リチウム電池の前記リサイクルの流れを切り、電池の粒状粉末を得ることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
濾過の前に、前記浸出溶液を20℃~100℃の範囲の温度に加熱することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記残留物は、グラファイトとFePO
4のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リチウムに富む溶液の前記pHを調整することは、塩基性溶液を加えることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記リチウムに富む溶液は、5~13の範囲のpHを達成するように調整される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記LiFePO
4の濃度に対して0.3~3.0Mの前記酸化剤の濃度を達成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記LiFePO
4の濃度に対して0.5~2.2Mの前記酸化剤の濃度を達成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
酸化剤を加えることは、酸溶液を加えることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸溶液は、無機酸又は有機酸から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記無機酸は、硫酸、塩酸、硝酸、及びリン酸から選択される少なくとも1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記有機酸は、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びアジピン酸から選択される少なくとも1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記沈殿剤は、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸、シュウ酸、及びシュウ酸ナトリウムから選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記リチウム化合物は、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、及びシュウ酸リチウム(Li
2C
2O
4)から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記浸出溶液のpHを1~6の範囲に維持することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記酸化剤は、過酸化物(O
2
2-)、過硫酸塩(S
2O
8
2-)、硫酸塩(SO
4
2-)、次亜塩素酸塩(ClO
-)、亜塩素酸塩(ClO
2
-)、塩素酸塩(ClO
3
-)、過塩素酸塩(ClO
4
-)、硝酸塩(NO
3
-)、亜酸化窒素(N
2O)、二酸化窒素(NO
2)、及びハロゲンから選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化剤は、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムから選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
酸化剤と酸のうちの少なくとも1つを、粉末状リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)電池のリサイクルの流れに加えて浸出溶液を形成することと、
前記浸出溶液の温度を20℃~100℃に維持することと、
前記浸出溶液を濾過してグラファイトとFePO
4を除去して、リチウムに富む溶液を得ることと、
前記リチウムに富む溶液のpHを11~13に調整して、不純物を濾過し、精製されたLi溶液を得ることと、
前記精製されたLi溶液に沈殿剤を加えて、これによりリチウム化合物を沈殿させることと、
を含む、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法。
【請求項19】
濾過後、酸浸出及び泡浮選法から選択される少なくとも1つのプロセスによってグラファイトを精製することを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
粉末状リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)電池のリサイクルの流れに酸を加えて浸出溶液を形成することと、
前記浸出溶液の温度を20℃~100℃に維持することと、
前記浸出溶液を濾過してグラファイトとFePO
4を除去して、リチウムに富む溶液を得ることと、
前記リチウムに富む溶液のpHを11~13に調整して、不純物を濾過し、精製されたLi溶液を得ることと、
前記精製されたLi溶液に沈殿剤を加えて、これによりリチウム化合物を沈殿させることと、
を含む、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
[関連出願]
本出願は、米国特許法第119条第(e)項の下で、その内容全体を本明細書において参照によって援用する、発明者、Eric Gratz及びKee-Chan Kimによる「Lithium Iron Phosphate(LFP)battery recycling」というタイトルで2021年8月2日に出願された米国仮特許出願第63/228,331号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
台数が大きく伸びている電気自動車(EV)がその耐用年数の終わりに近づくにつれて、電池材料のリサイクルが、大きな注目を集めている。EV、及び内燃エンジンではなく充電式電池により一般的に依存する多数の家電製品及び機器は、使い果たした(使用済み)電池のリサイクルの流れを作ることに寄与している。電池材料のリサイクルの現状は、EVから予想される使用済み電池の数に対して不十分である。更に、EV用電池に不可欠なリチウムなどの材料も不足している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
概要
従って、安全な廃棄、廃棄物管理、重要な材料の回収、及び資源の持続可能な使用のために、費用対効果が高く、経済的に実行可能なEV電池のリサイクル及びアップサイクルのための新しい方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に記載される本発明の一態様は、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法を提供し、この方法は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)電池のリサイクルの流れに酸化剤を加えて浸出溶液を形成することと、浸出溶液を濾過して残留物を除去し、リチウムに富む溶液を得ることと、リチウムに富む溶液のpHを調整して、不純物を濾過し、精製されたLi溶液を得ることと、精製されたLi溶液に沈殿剤を加えて、これによりリチウム化合物を沈殿させることとを含む。
【0005】
この方法の一実施形態は、酸化剤を加える前に、リン酸鉄リチウム電池のリサイクルの流れを切り、電池の粒状粉末を得ることを更に含む。この方法の一実施形態は、濾過の前に、浸出溶液を加熱することを更に含む。この方法の一実施形態では、浸出溶液は、20℃~100℃の範囲の温度に加熱される。この方法の一実施形態では、残留物は、グラファイトとFePO4のうちの少なくとも1つを含む。
【0006】
この方法の一実施形態では、リチウムに富む溶液のpHを調整することは、塩基性溶液を加えることを更に含む。この方法の一実施形態では、リチウムに富む溶液は、5~13の範囲のpHを達成するように調整される。
【0007】
この方法の一実施形態は、LiFePO4に対して0.3~3.0Mの酸化剤の濃度を達成することを更に含む。この方法の一実施形態は、LiFePO4に対して0.5~2.2Mの酸化剤の濃度を達成することを更に含む。
【0008】
この方法の一実施形態は、酸化剤を加える前に、酸溶液を加えることを更に含む。この方法の一実施形態では、酸溶液は、無機酸又は有機酸から選択される。この方法の一実施形態では、無機酸は、硫酸、塩酸、硝酸、及びリン酸から選択される少なくとも1つである。この方法の別の実施形態では、有機酸は、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びアジピン酸から選択される少なくとも1つである。
【0009】
この方法の一実施形態では、沈殿剤は、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸、シュウ酸、及びシュウ酸ナトリウムから選択される少なくとも1つである。この方法の一実施形態では、リチウム化合物は、炭酸リチウム(Li2CO3)、リン酸リチウム(Li3PO4)、及びシュウ酸リチウム(Li2C2O4)から選択される少なくとも1つである。
【0010】
この方法の一実施形態は、浸出溶液のpHを1~6又は2~6の範囲に維持することを更に含む。この方法の一実施形態では、酸化剤又は酸化体は、過酸化物(O2
2-)、過硫酸塩(S2O8
2-)、硫酸塩(SO4
2-)、次亜塩素酸塩(ClO-)、亜塩素酸塩(ClO2
-)、塩素酸塩(ClO3
-)、過塩素酸塩(ClO4
-)、硝酸塩(NO3
-)、亜酸化窒素(N2O)、二酸化窒素(NO2)、及びハロゲンから選択される少なくとも1つである。この方法の一実施形態では、酸化体は、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムから選択される少なくとも1つである。
【0011】
本明細書に記載される本発明の一態様は、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法を提供し、この方法は、酸化剤と酸のうちの少なくとも1つを、粉末状リン酸鉄リチウム(LiFePO4)電池のリサイクルの流れに加えて浸出溶液を形成することと、浸出溶液の温度を20℃~100℃に維持することと、浸出溶液を濾過してグラファイトとFePO4を除去して、リチウムに富む溶液を得ることと、リチウムに富む溶液のpHを11~13に調整して、不純物を濾過し、精製されたLi溶液を得ることと、精製されたLi溶液に沈殿剤を加えて、これによりリチウム化合物を沈殿させることとを含む。
【0012】
この方法の一実施形態は、濾過後、酸浸出及び泡浮選法から選択される少なくとも1つのプロセスによって精製されたグラファイトを得ることを更に含む。
【0013】
本明細書に記載される本発明の一態様は、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法を提供し、この方法は、粉末状リン酸鉄リチウム(LiFePO4)電池のリサイクルの流れに酸を加えて浸出溶液を形成することと、浸出溶液の温度を20℃~100℃に維持することと、浸出溶液を濾過してグラファイトとFePO4を除去して、リチウムに富む溶液を得ることと、リチウムに富む溶液のpHを11~13に調整して、不純物を濾過し、精製されたLi溶液を得ることと、精製されたLi溶液に沈殿剤を加えて、これによりリチウム化合物を沈殿させることとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面の簡単な説明
【
図1】リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)電池のリサイクルの流れに酸化剤を加えて浸出溶液を形成し、加熱してリン酸鉄を酸化させることにより溶液中にリチウムを浸出させることを含む、リン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法の概略図である。次いで、浸出溶液を濾過して固体のFePO
4とグラファイトを除去し、リチウムに富む溶液を得る。リチウムに富む溶液中の残りの不純物を沈殿させ、濾過して純粋なリチウム溶液を得る。溶液中のリチウムは、沈殿剤を使用して沈殿される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本明細書に記載される発明の態様は、これらの電池のカソード材料からのリチウム化合物の回収に焦点を当てる、寿命が終了したリン酸鉄リチウム電池のリサイクルプロセスを提供する。ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)系の電池とは対照的に、リン酸鉄リチウム(LFP)電池は、比較的希少なニッケルとコバルトに依存していない。NMC電池は、充電密度が僅かに高い場合があるが、LFP電池は、比較的安価な材料で製造されており、その中で最も需要が高いのはリチウムである。リン酸鉄リチウムのリサイクルの現在の方法は、経済的に有利ではない。従って、リチウム回収に向けたリサイクルの流れが重要であり、グラファイト回収の強化によりこの方法の全体的な効率が向上する。
【0016】
本明細書に記載されるリン酸鉄リチウム電池をリサイクルする方法は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)電池のリサイクルの流れからの粒状粉末に酸化剤を加えて浸出溶液を形成すること、及び浸出溶液を20℃~100℃に維持してリチウムを浸出させることを含む。多くの酸化剤を使用することができ、これらは、以下に更に説明するように、有機酸又は無機酸によって補うことができる。酸化剤には、過酸化物(O2
2-)、過硫酸塩(S2O8
2-)、硫酸塩(SO4
2-)、次亜塩素酸塩(ClO-)、亜塩素酸塩(ClO2
-)、塩素酸塩(ClO3
-)、過塩素酸塩(ClO4
-)、硝酸塩(NO3
-)、亜酸化窒素(N2O)、二酸化窒素(NO2)、ハロゲン(Cl2、Br2、I2)などが含まれ得る。酸化剤は、無機酸(硫酸、塩酸、硝酸又はリン酸など)又は有機酸(モノカルボン酸又はジカルボン酸を含む)と組み合わせることができる。他の適切な酸及び酸化剤を導入することができる。
【0017】
図1は、粒状粉末形態110に加工される、使用されなくなったEV、又はEVからの使用されなくなった電池などからの、使用済み電池105のリサイクルの流れ110を収集することから始まるリサイクルプロセス100を示す。酸化剤112及び任意の酸114は、浸出溶液120中でリサイクルの流れからの粒状材料と組み合わされる。酸化剤112は、LiFePO
4の濃度に対して0.3~3.0Mの酸化剤の濃度(モル比)を達成することができ、好ましくは、LiFePO
4の濃度に対して0.5~2.2Mの酸化剤の濃度を達成する。任意の酸114は、溶液中にリチウムを浸出させるために加熱する前に加えられる有機酸又は無機酸であり得、結果、酸は、一般に浸出溶液からの鉄の除去に基づいて選択される。
【0018】
外部熱源の存在下又は非存在下での浸出反応に続いて、浸出溶液は、130で濾過されて、リチウムに富む溶液132からグラファイトとFePO4135(濾過ケーキの形態でなど)を分離する。この溶液には、リサイクルの流れに含まれる相当量のリチウムが含まれており、過剰な鉄を浸出溶液に溶解させずに、有用なリチウムの浸出とのバランスをとろうとしている。
【0019】
不純物を濾過して、精製されたLi溶液140を形成するために、リチウムに富む溶液に強塩基134を加えて、pHを5~13に高め、好ましくはpH11~13の範囲に達する。残りの不純物は、沈殿し136で濾過されて除かれ、更に沈殿剤138が、精製されたLi溶液に加えられて、リサイクル電池での使用に適したリチウム化合物を含む充電材料を沈殿させる。
【0020】
回収されたリチウム化合物は、純粋なLi溶液に加えられた沈殿剤に基づいて生成される。例えば、精製されたLi溶液に炭酸ナトリウムを加えることにより、リチウムは、炭酸リチウム(Li2CO3)142として回収される。更に、精製されたLi溶液にリン酸ナトリウム又はリン酸を加えることにより、リチウムをリン酸リチウム(Li3PO4)144として回収することができる。別の代替方法は、精製されたLi溶液にシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムを加えることによって、Liをシュウ酸リチウム146(Li2C2O4)として回収することである。他の適切な充填材料化合物は、溶液140と組み合わせるために加えられた材料に基づいて沈殿させることができる。
【0021】
150に示されるように、FePO4を強酸に溶解し洗浄することによって又は泡浮選法によってFePO4138を除去してFePO4沈殿物154からグラファイト152を選択的に分離することによって、グラファイトは、グラファイトとFePO4の濾過ケーキ135から回収されることができる。
【0022】
電池リサイクルを含む工業プロセスにおけるリチウム回収は、溶液からの沈殿によって達成される。従って、高効率及び高純度を得るために、他の元素と比べてリチウムの濃度が高いことが望ましい。本明細書に記載される方法では、リチウムは、リン酸鉄リチウム電池から選択的に浸出され、得られるプロセスは、高純度の工業用又は電池グレードのリチウム生成物を用いて高効率でリチウムを回収することができる。
【0023】
より詳細には、本明細書に記載される実施形態では、使用済みLiFePO4電池のカソード粉末とアノード粉末の混合物から、酸の有無にかかわらず酸化剤によってリチウムイオンが浸出する。酸化剤は、LiFePO4に対して0.3~3のモル比の濃度で加えられる。好ましい濃度は、0.5~2.2のモル比である。酸は、硫酸、塩酸、硝酸、若しくはリン酸などの無機酸、又は有機酸から選択される。有機酸は、好ましくは、式RCOOH(R:H、又はアルキル(CnH2n+1、n:1~6))を有するモノカルボン酸である、又は式HO2C-(CH2)n-CO2H(n:0~8)を有するジカルボン酸である。モノカルボン酸の例は、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、又は酪酸である。ジカルボン酸の例は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、又はアジピン酸である。
【0024】
浸出溶液中の酸濃度は、0M~5Mである。無機酸を使用する実施形態では、好ましい濃度は、酸対リチウムイオンのモル比が0.5~1である。有機酸を使用する実施形態では、好ましい濃度は、酸対リチウムイオンのモル比が3~5である。いくつかの実施形態では、浸出溶液のpHをpH2~6に調整するために、NaOHなどの塩基を加えることができる。固体のLiFeSO4の量と酸溶液の量の比は、1リットル当たり100g~1000gであり、好ましくは1リットル当たり200g~500gである。浸出温度は、選択した酸化体又は酸に応じて20℃~100℃に維持される。
【0025】
浸出プロセスの完了後、処理された混合物は濾過され、残留物は脱イオン水で洗浄される。残留物は、グラファイトとFePO4を含む黒色の固体である。濾液中の不純物は、pHを5~13、好ましくは11~13に調整することによって除去される。pHは、水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カリウム溶液などの強塩基を0~5Mの濃度で加えることによって調整される。不純物からの沈殿物は、濾過によって除去されて、リチウムイオンが豊富な濾液が得られる。
【0026】
リチウムイオンが豊富な濾液は、濾液から水を蒸発させることによって濃縮することができる。リチウムは、濃縮溶液に、炭酸ナトリウムを加えることによって炭酸リチウム(Li2CO3)として、リン酸ナトリウム又はリン酸を加えることによってリン酸リチウム(Li3PO4)として、又はシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムを加えることによってシュウ酸リチウム(Li2C2O4)として回収される。水酸化リチウム又は炭酸リチウムは、加熱により、例えば350℃~500℃での熱変換によりシュウ酸リチウムから得ることができる。
【0027】
特定の構成では、グラファイトも回収できる。グラファイトは、FePO4の浸出によって又は泡浮選法によって黒色の固体からリサイクルされる。浸出のために、黒色の固体を希(2~9M)又は濃無機酸、例えば、硫酸、塩酸又は硝酸、好ましくは4~6Mの酸溶液に加える。混合物を25℃~80℃で加熱し撹拌する。精製されたグラファイトを濾過によって収集し、1~5Mの無機酸で濯ぐ。次いで、濾液が中性のpHになるまで、精製されたグラファイトを脱イオン水で洗浄する。泡浮選法プロセスでは、グラファイトを浮遊させ、リン酸鉄を沈殿又は沈降させる。
【0028】
使用済みLFP粉末からリチウムイオンを選択的に浸出させるための複数の方法が、本明細書に記載されている。この方法には、無機酸及び有機酸などの様々な酸を使用した、酸のみの浸出、酸化体のみの浸出、酸及び酸化体の浸出が含まれる。
【0029】
強い無機酸は、LFPを溶解し、リチウムイオンは、鉄及びリン酸イオンとともに浸出する。リチウムイオンと水酸化鉄の沈殿物が共沈すると、リチウムの回収効率が低下し、鉄不純物の除去が必要になる。希酸溶液では、酸化体の助けがなければリチウムイオンはLFP固体から浸出しない。しかしながら、LFP中のリチウムイオンは、酸化体として過酸化水素を使用する希酸溶液([H2SO4]/[LFP]:約0.6)中で選択的に浸出する。希酸溶液系では、過酸化水素が、LFP中の第一鉄イオンを酸化し、LFPからLiイオンを遊離する。更なる酸は、LFPから遊離したリチウムイオンを溶液に溶解するのに役立ち、これによって電荷のバランスがとれる。無機酸の中では、硫酸が好ましい選択である。しかしながら、Na2SO4の適度な溶解度により、リチウム回収溶液中の硫酸ナトリウムが共沈することが多いため、高濃度の硫酸イオンはLi2CO3の回収を妨げる。従って、希硫酸溶液が、選択的なLi浸出とLi2CO3回収に好ましい。
【0030】
過硫酸ナトリウム(Na2S2O8)は、強い酸化体であり、酸を使用せずに水溶液中のLiFePO4からLiイオンを酸化的に遊離させることにより、LFP中のリチウムを定量的且つ完全に浸出させることができる。しかしながら、反応の副生成物は、硫酸イオンであるため、Li2CO3の回収が低下することが観察される。いくつかの実施形態では、過硫酸アンモニウム(NH4)2S2O8が、干渉を低減するために使用される。
【0031】
環境に優しい有機酸は、強い無機酸の代わりに、LFPから選択的にリチウムイオンを浸出させるための代替の酸である。ギ酸及び酢酸などの有機酸は、水溶液中では弱酸であり、金属イオンをキレート化するためのカルボキシル官能基を有するため、これらの酸は、LiFe(II)PO4からFe(III)PO4へのリチウムイオンの酸化的遊離を介して、LFPからリチウムイオンを選択的に浸出させることが観察された。過酸化水素は、これらの反応にとって良好な酸化体であることが観察された。酢酸塩は、ギ酸塩よりも強いキレート剤である。従って、酢酸塩とLFPの必要なモル比は、ギ酸塩とLFPの必要なモル比に比べて小さくなり、これにより費用が低くなった。
【0032】
本明細書に記載される発明は、最も実用的な方法である。しかしながら、当業者であれば、本発明の範囲内で逸脱が可能であり、修正が行われるであろうことが認識される。上記の説明に関して、本発明のパーツの最適な寸法関係は、サイズ、材料、形状、形態、機能、工程、及び操作の方法、組み立て及び使用の変動分を含むために、当業者には明らかであろうことが認識され、図面に示され明細書に記載されるものと同等の関係全ては、本発明によって包含されることが意図される。
【0033】
従って、前述の内容は、本発明の原理を例示するものに過ぎないと考えられる。更に、数多くの修正及び変更が当業者に容易に想到されるため、本発明を、示され及び説明された正確な構成及び動作に限定することは望ましくなく、従って、本発明の範囲内にある全ての適切な修正及び等価物を利用することができる。このような等価物は、本発明及び特許請求の範囲内に含まれる。本出願で引用される発行済み特許及び公開特許出願を含む全ての参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
以上、本発明を十分に説明したが、以下の実施例及び特許請求の範囲によって更に例示される。
【0035】
実施例1:過酸化水素を用いた硫酸
LFPからの選択的リチウムイオンの浸出を、過酸化水素の有無にかかわらず、様々な濃度の硫酸溶液で調べた(0.6~4.9の硫酸とLFPのモル比[H2SO4]/[LFP]、H2O2とLFPのモル比[H2O2]/[LFP]:2.2又は0、LFP(g):水(mL):1:5、温度:周囲温度、30~50℃から制御せず、反応/撹拌時間:過酸化水素の添加の完了後3~4時間)。
【0036】
リチウムイオンの選択的浸出は、酸化体([H2O2]/[LFP]:2.2)として過酸化水素を用いた希硫酸溶液([H2SO4]/[LFP]:0.6~0.7)にて達成された。選択的浸出効率は、100%であり、鉄の浸出は、0.1%未満であった。リサイクルの流れにニッケル、コバルト、及びマンガンでの汚染が含まれている場合、硫酸ナトリウムがリチウム濃縮溶液中でLi2CO3と共沈するため、炭酸リチウムとしてのリチウムイオンの回収(pH:11~12での沈殿による不純物イオンの除去後)が影響を受けた。リサイクルの流れに純粋なLFP材料が含まれている場合、不純物の除去は、pH:7~8で実行され、Li2CO3の回収が向上したことが観察された(56%対30%)。Liイオンの向上は、不純物の除去によるLiイオンの損失の減少、低い不純物濃度、及びこれによりナトリウムイオンの導入が少なくなるより低いpHの調整によるものである。過酸化水素は、希硫酸溶液中でリチウムイオンを選択的に浸出させるために必要である。
2LiFePO4(s)+H2SO4(aq)+H2O2(aq)→2Li+(aq)+FePO4(s)+2H2O(aq)+SO4
2-(aq)
【0037】
しかしながら、硫酸の濃度が増加すると、LFPは、酸性溶液中で溶解し始める。酸濃度が高くなるほど、より多くのLFPの溶解が観察される。従って、Liイオン濃度の増加とともに溶液中の鉄及びリン酸イオン濃度が増加し、H2O2が存在しない100%のLi及び80~100%のFeの浸出で、[H2SO4]/[LFP]:2.4のモル比以上でLiの選択性が失われる。鉄及びリン酸イオンの存在は、炭酸リチウムとしてのリチウムの回収に影響を与える。溶液のpHを上げると、一部のリチウムイオンは、既存のリン酸イオンとともにLi3PO4として沈殿して、第二鉄イオンがFe(OH)3として除去され、Li2CO3の回収においてLiの損失を引き起こす。
【0038】
Liに富む溶液中の不純物(Cu、Al、Fe、Ni、Co、Mnなど)は、pH:7~12で不純物を金属水酸化物として沈殿させることによって除去された。溶液のpHは、溶液中に存在する不純物の性質に応じて調整した。不純物にCu、Al及びFeが含まれる場合、pHを7~8に調整した。不純物にNi、Co及びMnが含まれる場合、pHを11~13に調整した。
【0039】
溶液中の過剰なナトリウムイオンは、全てのLi2SO4が溶液に溶解するように溶液の体積を減らすことによって、リチウムに富む溶液中のLi2SO4の濃度を高めることによって減少する(ICP分析結果からの溶解度において約1.5倍の体積)。次いで、Na2SO4とLi2SO4の間の大きな溶解度差を使用して、Na2SO4を低温(0~5℃)で結晶化する。
【0040】
【0041】
浸出溶液中のリチウムイオンは、炭酸ナトリウム(化学量論量の1.25倍)を加えることによって沈殿する。炭酸ナトリウムは、固体として又は飽和溶液として高濃度のLi溶液に加えられる。飽和溶液として炭酸ナトリウムを加えると、リチウムの収率と純度が向上することが観察された。異なるリサイクルの流れを使用し、リチウムの純度及び収率を含む複数の試験の結果を、表1に示す。
【0042】
実施例2:酸化体として過硫酸ナトリウム(Na2S2O8)を使用
LFPからのリチウムイオンの選択的浸出は、LFP中のFe2+を水溶液中のFe3+に酸化することによって達成された。
2LiFePO4(s)+Na2S2O8(s)→Li+(aq)+FePO4(s)+2Na+(aq)+2SO4
2-(aq)
【0043】
過硫酸ナトリウムは、水溶液中のLFPにおけるFe2+の酸化体として使用された。この実施例では、酸は必要なく、水を溶媒として使用した。過硫酸ナトリウムを、LFP分散溶液混合物にゆっくりと加えた。反応条件は以下の通りであった:LFP(g)と水(mL)の比:1:2、Na2S2O8とLFPのモル比、[Na2S2O8]/[LFP]:1.00~1.37、温度:周囲温度、撹拌時間:1~4時間。
【0044】
[Na2S2O8]/[LFP]のモル比が計算され、100%のLiの浸出を達成するには約1.37であることが観察された。NMC使用済み電池からのNi、Mn及びCoのいくらかの汚染を伴うカソードとアノードの混合物である、工場細断された使用済みLFP電池材料を使用した場合、Liの浸出率は75%に低下した。過硫酸ナトリウムを水と接触させると、次の式に示すように酸と過酸化水素に変換される。従って、溶液の酸性度が増加し、LFPからFeが浸出する。
Na2S2O8(s)+2H2O(l)→2Na+(aq)+2H+aq)+2SO4
2-(aq)+H2O2(aq)
【0045】
過硫酸ナトリウムからの硫酸ナトリウムは、溶液から浸出したLiをLi2CO3として回収する能力を妨げる。従って、たとえ浸出効率が100%であっても、Li2CO3の回収率は低く(<50%)、純度は99%未満であった。リチウムの純度と収率を含む複数の試験の結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
実施例3:過酸化水素を用いたギ酸
ギ酸(HCOOH)は、適切なpKa(3.75)により、LFPからのLiの選択的浸出のための代替の酸として使用され、浸出溶液の酸性度が低くなり、これによりFeの浸出の可能性が減少する。反応条件は、以下の通りであった:LFP(g)と水(mL)の比:1:2(市販試料の場合は4)、ギ酸とLFPのモル比、[HCOOH]/[LFP]:3~6、[NaOH]/[HCOOH]:0~0.5(モル比)、[H2O2]/[LFP]:2.2~3.4(モル比)、撹拌時間:2~12時間。温度:30~50℃。
【0048】
弱有機酸溶液中で、LFP材料からリチウムイオンが選択的に浸出された。LFP分散ギ酸溶液の初期pHは、使用されたギ酸の量に応じて1以上である。過酸化水素の添加後、浸出溶液のpHは、約1単位以上増加する。浸出溶液は、強無機酸(例えば、H2SO4、HCl又はHNO3)に比べて酸性が低いため、LiFeSO4又はFeSO4の溶解は、大幅に抑制された。LFPからLiを完全に浸出させるために、LFPに対して4.5~6のモル比のギ酸を、2.2のモル比の過酸化水素とともに使用した。浸出を完了するには、LFP(g)とH2O(mL)の比が1:4で十分であった。この比は、更に最適化できる。
LiFePO4(s)+1/2H2O2(l)+HCOOH(l)→Li+(aq)+FePO4(s)+HCOO-(aq)+H2O(l)
【0049】
過酸化水素は、LFP中の第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化する。LFP中のLiイオンは、LFP固体から遊離し、副生成物のFePO4は、浸出プロセスで固体として残る。水溶液中のギ酸は、過酸化水素による酸化反応に有利であり、浸出プロセスの間にpH緩衝効果をもたらす。リチウムの純度と収率を含む複数の試験の結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
実施例4:過酸化水素を用いた酢酸
酢酸(AcOH)は、カルボキシル官能基を有する弱有機酸(pKa:4.76)であり、金属イオンの良好なキレート配位子である。酢酸は、そのpKa値から明らかであるギ酸と比較して弱い酸である。従って、酢酸/酢酸塩緩衝溶液は、LFPからの選択的且つ酸化的なリチウムイオン浸出の間の鉄の浸出を抑制することができた。反応条件は、以下の通りである:LFP(g)と水(mL)の比:1:2(市販試料の場合は4)、AcOHとLFPのモル比、[AcOH]/[LFP]:1~3、[NaOH]/[AcOH]:0~0.5(モル比)、[H2O2]/[LFP]:2.2~2.5(モル比)、撹拌時間:3時間から一晩。温度:30~50C。酢酸/酢酸ナトリウム緩衝溶液は、酢酸に対して1/3のモル比の水酸化ナトリウムを加えることによって浸出実験用に調製された。
【0052】
AcOHとLFPのモル比が1対1の場合でも、完全なリチウムの浸出が観察された。酢酸塩は、金属イオンに対する良好なキレート配位子であるため、浸出を達成するには、LFPに対して等量のAcOHで十分であった。更に、AcOH/AcONa緩衝溶液(初期pH>4)での鉄の浸出は、完全に抑制された。浸出を完了するには、LFP(g)とH2O(mL)の比が1:4で十分であった。
LiFePO4(s)+1/2H2O2(l)+AcOH(l)→Li+(aq)+FePO4(s)+AcO-(aq)+H2O(l)
【0053】
酢酸/酢酸塩緩衝溶液の初期pHは、約4であった。初期pHは、リン酸鉄の溶解を完全に防止し、LFPからのリチウムイオンの選択的浸出を達成した。過酸化水素は、酸化剤として使用され、酸化浸出プロセスの最後に水酸化物イオンに変わり、浸出溶液のpHの上昇に寄与する。酢酸は、良好な配位子であり、浸出プロセスを完了するには1対1のモル比が必要であった。酢酸は、ギ酸よりも安価であるため、費用面での利点を有する。
【0054】
リチウムの純度と収率を含む複数の試験の結果を表4に示す。
【0055】
【国際調査報告】