(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240806BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240806BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/46 Q
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506270
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 KR2022008906
(87)【国際公開番号】W WO2023022351
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0108635
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, サンソク
(72)【発明者】
【氏名】パク, ミナム
(72)【発明者】
【氏名】イ, ジェピル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, イルチャン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA21
4K037EA27
4K037EB06
4K037EB09
4K037EC01
4K037FB00
4K037FF00
4K037FJ05
4K037JA02
4K037JA07
(57)【要約】
【課題】304系、301系オーステナイト系ステンレス鋼板を自動車外板用、建築用部品用、自動車部品用などの調質材(特に301 1/4H)代替目的で高強度-高延性具現が可能な超細粒製造技術を提供する。
【解決手段】
本発明は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満のオーステナイト系ステンレス鋼である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなりみ、
551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、
[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、
平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、引張強度が850MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、延伸率が25%以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項5】
重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、
551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、
[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、
平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼を連続鋳造工程を通してスラブを製造する段階と、
前記スラブを熱間圧延、焼鈍酸洗を行った後、冷間圧下率60%以上に冷間圧延する段階と、
焼鈍温度800~850℃の範囲で焼鈍する段階と、を含むことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、引張強度が850MPa以上であることを特徴とする請求項5に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする請求項5に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、延伸率が25%以上であることを特徴とする請求項5に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、高強度-高延性の具現が可能な超細粒304系、301系オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
304系、301系汎用オーステナイト系ステンレス鋼は、低い降伏強度(200~350MPa)により構造材などの高強度要求特性の用途に対してその適用性が制限されているのが実状である。このような汎用300系ステンレス鋼より高い降伏強度を得るためには、調質圧延工程を経ることが一般的な方法であるが、コスト上昇問題を発生させる。301系の1/4H調質材の要求特性は、降伏強度500MPa以上、引張強度850MPa以上、延伸率25%以上の特性を要求し、これにより本発明では調質圧延工程なしに高い降伏強度、引張強度及び優れた延伸率を同時に具現可能な超細粒300系ステンレス鋼の製造方法を提示した。
【0003】
超細粒(UFG:Ultra Fine Grain)素材は、優れた強度-延伸バランス、耐疲労性、エッチング加工性などの特徴を有する。特許文献1の場合、フォトエッチング加工のためのレーザーメタルマスク用として冷延焼鈍材を調質圧延を行った後、2回SR(Stress Relief)熱処理によりHalf-Etching後も曲げが小さい300系ステンレス鋼の製造方法を記述している。しかし、前記特許文献1の場合、エッチング性とエッチング後の曲げを制御するための製造技術として、0.4~2.0mmの厚さを有する構造用部品に対する技術的内容を含んでいない。
【0004】
また、特許文献2の場合、原子力用部品用として平均結晶粒のサイズを10μm以下に製造するために600~700℃の範囲で48時間以上長時間熱処理を行う内容を提示した。前記特許文献2の場合、実際の生産ラインで具現するには生産性が低下し、長時間の熱処理方法のために製造コストが上昇するという問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第0216/043125号
【特許文献2】特開2020-50940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が目的とするところは、304系、301系オーステナイト系ステンレス鋼板を自動車外板用、建築用部品用、自動車部品用などの調質材(特に301 1/4H)代替目的で高強度-高延性具現が可能な超細粒製造技術を提供することである。
【0007】
具体的には、構造用部品の場合、0.4~2.0mmの厚さを有する素材が多く適用されるため、本発明では、当該厚さ範囲で高強度-高延性を持たせる低原価の成分設計と低原価の製造技術に集中し、技術的な問題を解決しようとした。300系ステンレス鋼での超細粒の具現技術は、一般に冷間圧延を通じてオーステナイト相をマルテンサイト相に変態させ、その後の段階で低温焼鈍を通じて超細粒を具現する。しかし、超細粒が具現されたとしても降伏強度、引張強度及び延伸率が同時に優れた素材を発現することは容易ではない。304規格、301規格範囲内でのNi含量、Cr含量が異なり、ASP(Austenitic Stability Parameter)値によって冷間加工によるマルテンサイト相の変態量が異なり、また、引張試験時のTRIP(Transformation Induced Plasticity)変態挙動が異なり、引張カーブ特性がかなり多様に変化する。したがって、本発明では、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値の制御、[100*N]/[Ni+Cu]値の制御、スラブを熱間圧延、焼鈍酸洗を行った後の冷間圧下率の制御、冷間圧延を行った後の焼鈍温度の制御、 結晶粒のサイ, 結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒のサイズ分率の制御などを通じて高強度・高延性の具現が可能な超細粒300系製造技術を提供しようとした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満である。
【0009】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満である、オーステナイト系ステンレス鋼を連続鋳造工程を行ってスラブを製造する段階、前記スラブを熱間圧延、焼鈍酸洗を行った後、冷間圧下率60%以上に冷間圧延する段階、及び焼鈍温度800~850℃の範囲で焼鈍する段階を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、0.4~2.0mm厚さの範囲を有する301系の1/4H調質材の要求特性(降伏強度500MPa以上、引張強度850MPa以上、延伸率25%以上)を満たし、301系1/4Hを代替できる300系超細粒製品の製造技術を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の最終冷延製品の厚さ中心部のTD(Transverse Direction)面を後方散乱電子回折パターン分析器(Electron BackScatter Diffraction,EBSD)で分析し、5μm以上の結晶粒のサイズを示す結晶粒を灰色(gray)で表示し、その分率を示す図である。
【
図2】実施例3の最終冷延製品の厚さ中心部のTD面を後方散乱電子回折パターン分析器で分析し、5μm以上の結晶粒のサイズを示す結晶粒を灰色(gray)で表示し、その分率を示す図である。
【
図3】比較例1の最終冷延製品の厚さ中心部のTD面を後方散乱電子回折パターン分析器で分析し、5μm以上の結晶粒のサイズを示す結晶粒を灰色(gray)で表示し、その分率を示す図である。
【
図4】比較例2の最終冷延製品の厚さ中心部のTD面を後方散乱電子回折パターン分析器で分析し、5μm以上の結晶粒のサイズを示す結晶粒を灰色(gray)で表示し、その分率を示す図である。
【
図5】実施例1の応力(stress)-ひずみ(strain)曲線を示すグラフである。
【
図6】比較例1の応力(stress)-ひずみ(strain)曲線を示すグラフである。
【
図7】比較例2の応力(stress)-ひずみ(strain)曲線を示すグラフである。
【
図8】比較例5の応力(stress)-ひずみ(strain)曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満である。
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な異なる形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
本発明で使用される用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。また、ここで使用される単数形は、文句がこれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数形も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、定数、段階、動作、要素及び/又は成分を具体化し、他の特定の特性、領域、定数、段階、動作、要素、成分及び/又は群の存在や付加を除外するものではない。他に定義されていないが、ここで使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に符合する意味を持つものと追加解釈され、定義されていない限り、理想的または非常に公式な意味に解釈されない。
【0014】
(オーステナイト系ステンレス鋼)
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満である。
【0015】
(成分含量)
C(炭素)の含量は、0.005~0.03重量%である。
Cは、オーステナイト相安定化元素である。これを考慮して、本発明においてCは、0.005重量%以上添加される。しかし、C含量が過剰な場合には、低温焼鈍時にクロム炭化物を形成して粒界耐食性を低下させるという問題が発生するので、本発明においてC含量は0.03重量%以下に制限される。
【0016】
Si(シリコン)の含量は、0.1~1重量%である。
Siは、製鋼時に脱酸剤として添加される成分であり、光輝焼鈍(Bright Annealing)工程を行う場合、不動態皮膜にSi酸化物を形成して鋼の耐食性を向上させる効果がある。これを考慮して、本発明においてSiは、0.1重量%以上添加される。しかし、Si含量が過剰な場合には、延性を低下させるという問題があるため、本発明においてSi含量は、1.0重量%以下に制限される。
【0017】
Mn(マンガン)の含量は、0.1~2.0重量%である。
【0018】
Mnは、オーステナイト相安定化元素である。これを考慮して、本発明においてMnは、0.1重量%以上添加される。しかし、Mn含量が過剰な場合には、耐食性を低下させるという問題があるため、本発明においてMnの含量は、2.0重量%以下に制限される。
【0019】
Ni(ニッケル)の含量は、6.0~9.0重量%である。
Niは、オーステナイト相安定化元素であり、鋼材を軟質化する効果がある。これを考慮して、本発明においてNiは、6.0重量%以上添加される。しかし、Ni含量が過剰な場合には、コストが上昇するという問題があるため、本発明においてNiの含量は、9.0重量%以下に制限される。
【0020】
Cr(クロム)の含量は、16.0~19.0重量%である。
Crは、ステンレス鋼の耐食性を向上するための主な元素である。これを考慮して、本発明においてCrは、16.0重量%以上添加される。しかし、Cr含量が過剰な場合には、鋼材が硬質化し、冷間圧延時に変形有機マルテンサイト変態を抑制させるという問題があるため、本発明においてCrの含量は、19.0重量%以下に制限される。
【0021】
N(窒素)の含量は、0.01~0.2重量%である。
Nは、オーステナイト相安定化元素であり、鋼材の強度を向上させる。これを考慮して、Nは、0.01%以上添加されてもよい。しかし、N含量が過剰な場合には、鋼材が硬質化し、熱間加工性が低下するという問題があるため、本発明においてNの含量は、0.2重量%以下に制限される。
【0022】
Cu(銅)の含量は、0.01~0.4重量%である。
Cuは、オーステナイト相安定化元素であり、0.01%以上添加されてもよい。しかし、Cu含量が過剰な場合には、鋼材の耐食性が低下し、コストが上昇するという問題があるため、本発明においてCuの含量は、0.4重量%以下に制限される。
【0023】
Mo(モリブデン)の含量は、0.01~0.2重量%である。
Moは、耐食性と加工性を向上させる効果があるので、0.01%以上添加されてもよい。しかし、Mo含量が過剰な場合には、コストが上昇するという問題があるため、本発明においてMoの含量は、0.2重量%以下に制限される。
【0024】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図しない不純物が不可避的に混入することがあるため、これを排除することはできない。前記不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及するものではない。
【0025】
本発明において、ASP(Austenitic Stability Parameter)は、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moにより計算され、30~60の範囲を満たし、ASP値が前記範囲から外れる場合、引張試験時、素材のTRIP(Transformation Induced Plasticity)変態が過度に発生し(加工硬化が過度に発生し)、本発明で目的とする延伸率を満たしていない。
【0026】
本発明は、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、1.4未満える場合、降伏強度に寄与する固溶窒素量が低く、本発明で目的とする降伏強度を満たしていない。
【0027】
(微細組織)
平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満であり、前記範囲から外れる場合、本発明で目的とする降伏強度及び引張強度を満たしていない。
【0028】
(特性)
また、本発明の前記オーステナイト系ステンレス鋼は、引張強度が850MPa以上であってもよい。
【0029】
また、本発明の前記オーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度が500MPa以上であってもよい。
【0030】
また、本発明の前記オーステナイト系ステンレス鋼は、延伸率が25%以上であってもよい。
【0031】
(オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法)
本発明の他のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Cu:0.01~0.4、Mo:0.01~0.2、Ni:6~9%、Cr:16~19%、N:0.01~0.2%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60であり、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒サイズ分率(%)が10%未満である、オーステナイト系ステンレス鋼を連続鋳造工程を行ってスラブを製造する段階、前記スラブを熱間圧延、焼鈍酸洗を行った後、冷間圧下率が60%以上に冷間圧延する段階、及び焼鈍温度800~850℃の範囲で焼鈍する段階を含む。
【0032】
冷延焼鈍温度値が前記本発明の範囲から外れる場合、平均結晶粒のサイズが5μm以上であり、5μm以上の結晶粒分率が10%以上であるため、本発明で目的とする降伏強度及び引張強度を満たしていない。
【0033】
冷間圧下率(%)値が60%未満の場合、平均結晶粒のサイズが5μm以上であり、5μm以上の結晶粒分率が10%以上であるため、本発明で目的とする降伏強度を満たしていない。
【0034】
(実施例)
表1は、オーステナイト系ステンレス鋼の実施例と比較例の炭素、シリコン、マンガン、ニッケル、クロム、銅、窒素の成分を示し、主成分パラメータであるASP(Astenite Stability Parameter)値、[100*N]/[Ni+Cu]値、冷間圧延率(%)値、冷延焼鈍温度(℃)[焼鈍時間5分以内]値を示す。
【0035】
本発明の一実施例による連続鋳造工程を通じて生産されたスラブを熱間圧延を行った後に焼鈍を行い、常温で冷間圧延を行った後に冷延焼鈍を行ったコイルに該当する。前記鋼の一部はLab.真空溶解を行ってIngotを製造し、一部は電気炉-連続鋳造工程を経てスラブを作製した。実施例1~6は、すべて551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Moで計算されるASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60の範囲を有し、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上であり、冷間圧延率(%)値が60%以上であり、冷延焼鈍温度(℃)値が800~850の範囲を満たす。比較例1~11は、ASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60の範囲から外れるか、または[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4未満であるか、または冷間圧延率(%)値が60%未満であるか、または冷延焼鈍温度(℃)値が800~850の範囲から外れる場合を示す。
【0036】
【0037】
表2は、最終冷延製品の厚さ中心部のTD(Transverse Direction)面を後方散乱電子回折パターン分析器(Electron BackScatter Diffraction,EBSD)により分析した平均結晶粒のサイズ、5μm以上の結晶粒分率(%)及びJIS13B引張試験片に対して、常温引張試験により得られた降伏強度、引張強度、延伸率値を示す。
【0038】
【0039】
実施例1~6は、平均結晶粒のサイズが5μm未満であり、5μm以上の結晶粒分率(%)が10%未満である特徴を有することが分かり、また、ASP(Austenitic Stability Parameter)値が30~60の範囲を満たし、[100*N]/[Ni+Cu]値が1.4以上を満たし、最終的に301系の1/4H調質材の要求特性(降伏強度500MPa以上、引張強度850MPa以上、延伸率25%以上)を満たす。
【0040】
比較例1は、冷延焼鈍温度値が本発明の範囲から外れて、平均結晶粒のサイズが5μm以上であり、5μm以上の結晶粒分率が10%以上であるため、本発明で目的とする降伏強度及び引張強度を満たしていない。比較例2、比較例3、比較例4は、ASP(Austenitic Stability Parameter)値が本発明の範囲から外れて引張試験時、素材のTRIP(Transformation Induced Plasticity)変態がよく起こらず(加工硬化がよく起こらず)、本発明で目的とする引張強度を満たしていない。
【0041】
比較例5、比較例6は、ASP(Austenitic Stability Parameter)値が本発明の範囲から外れて引張試験時、素材のTRIP(Transformation Induced Plasticity)変態が過度に発生し(加工硬化が過度に発生し)、本発明で目的とする延伸率を満たしていない。比較例7は、[100*N]/[Ni+Cu]値が本発明の範囲から外れて降伏強度に寄与する固溶窒素量が低く、本発明で目的とする降伏強度を満たしていない。比較例8、比較例9は、ASP(Austenitic Stability Parameter)値及び[100*N]/[Ni+Cu]値が本発明の範囲から外れて平均結晶粒のサイズが5μm以上であり、5μm以上の結晶粒分率が10%以上であるため、本発明で目的とする降伏強度及び引張強度を満たしていない。比較例10、比較例11は、冷間圧下率(%)値が本発明の範囲から外れて平均結晶粒のサイズが5μm以上であり、5μm以上の結晶粒分率が10%以上であるため、本発明で目的とする降伏強度を満たしていない。
【0042】
図1によれば、実施例1の最終冷延製品の厚さ中心部のTD(Transverse Direction)面を後方散乱電子回折パターン分析器(Electron Backscatter Diffraction,EBSD)で分析した結果、結晶粒のサイズが5μm以上の結晶粒分率が0%であることが分かった。
【0043】
図2によれば、実施例3の最終冷延製品の厚さ中心部のTD面を後方散乱電子回折パターン分析器で分析した結果、結晶粒のサイズ5μm以上の結晶粒分率が7%であることが分かった。
【0044】
図3によれば、比較例1の最終冷延製品の厚さ中心部のTD面を後方散乱電子回折パターン分析器で分析した結果、結晶粒のサイズ5μm以上の結晶粒分率が85%であることが分かった。
【0045】
図4によれば、比較例2の最終冷延製品の厚さ中心部のTD面を後方散乱電子回折パターン分析器で分析した結果、結晶粒のサイズ5μm以上の結晶粒分率が14%であることが分かった。
【0046】
図5~8は、実施例及び比較例の応力(stress)-ひずみ(strain)曲線を示すグラフであり、
図5は、実施例1に対するグラフであり、
図6は、比較例1に対するグラフであり、
図7は、比較例2に対するグラフであり、
図8は、比較例5に対するグラフである。
図5~8を比較すると、本発明の一例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、変形度による応力変化率が相対的に大きくないので、比較例に比べて高強度、高延伸率を同時に満たすことができることが確認できる。
【0047】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、当該技術分野で通常の知識を有する者であれば、以下に記載する請求範囲の概念と範囲から逸脱しない範囲内で、様々な変更及び変形が可能であることが理解できるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、0.4~2.0mm厚さの範囲を有する301系の1/4H調質材の要求特性(降伏強度500MPa以上、引張強度850MPa以上、延伸率25%以上)を満たし、301系1/4Hを代替できる超細粒ステンレス鋼を提供できるので、産業上利用可能性が認められる。
【国際調査報告】