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特表2024-530009多能性細胞から分化した筋肉細胞、その産生方法、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】多能性細胞から分化した筋肉細胞、その産生方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240806BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240806BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20240806BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C12N5/077 ZNA
C12N5/0735
C12N5/074
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506583
(86)(22)【出願日】2022-08-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 IL2022050861
(87)【国際公開番号】W WO2023017509
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】63/230,849
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523168847
【氏名又は名称】アレフ ファームス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラボン,ネタ
(72)【発明者】
【氏名】モロツキ‐ヘンデルマン,ナタリ
(72)【発明者】
【氏名】ロム,アビブ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA23
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB31
4B065BB32
4B065BC46
4B065BD26
4B065BD34
4B065BD39
4B065CA41
(57)【要約】
本発明は、骨格筋肉細胞を含む生物工学的に作られた組織の産生の分野に関し、具体的には、多能性幹細胞及びそれから分化した骨格筋肉細胞から複数の骨格筋肉にコミットした前駆細胞を産生するための組成物及び方法に関する。本発明は、骨格筋肉にコミットした前駆細胞塊及び/又は骨格筋肉細胞塊、それらを含む操作された組織、並びにそれらの使用を更に提供する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を産生する方法であって、前記方法が、複数の多能性幹細胞(PSC)を、(i)TGF-ベータ(TGF-β)シグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、(ii)GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培養培地中で培養し、それによって、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を産生すること、を含む、方法。
【請求項2】
前記培地が、無血清培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培養することが、三次元(3D)培養条件下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記3D培養が、懸濁培養である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記3D培養が、接着性材料及び/又は支持マトリックスを欠いている、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、自己集合して、少なくとも1つの細胞凝集体を形成する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記3D培養が、少なくとも1つの接着性材料及び/又は支持マトリックスを含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項8】
培養することが、少なくとも1つの接着性材料及び/又は支持マトリックスを含む二次元(2D)培養条件下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記TGF-βシグナル伝達経路の前記少なくとも1つの活性化因子が、アクチビンA、TGF-β、BMP2、BMP7、GDF9、NODAL、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記GSK3シグナル伝達経路の前記少なくとも1つの阻害剤が、CHIR-99021(C22H18Cl2N8)又はその塩、SB 216763、LY2090314、TWS119、チデグルシブ、GSK-3β阻害剤1、GSK-3β阻害剤2、GSK-3β阻害剤3、AR-A014418、TDZD-8、ケンパウロン、GSK3阻害剤IX、クロモリンナトリウム、CHIR-98014、AZD1080、SB 415286、IM-12、9-ING-41、インジルビン-3’-モノオキシム、1-アザケンパウロン、BRD0705、AZD2858、CP21R7、BIO-アセトオキシム、ビキニン、VP3.15、VP3.15ジヒドロブロミド、GNF4877、KY19382、SAR502250、A 1070722、(R)-BRD3731、BRD3731、BIP-135、5-ヨード-インジルビン-3’-モノオキシム、BRD5648、GSK-3阻害剤1、GSK-3/CDK5/CDK2-IN-1、インジルビン-3’-モノオキシム-5-スルホン酸、GSK3β阻害フラボノイド、リチウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記CHIR-99021塩が、CHIR-99021一塩酸塩、CHIR-99021三塩酸塩、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記GSK3β阻害フラボノイドが、ルテオリン、アピゲニン、ケルセチン、ミリセチン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記培地が、前記TGF-β経路を活性化する成長因子以外の成長因子を欠いている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記培地が、bFGFを欠いている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組み合わせが、アクチビンA及びCHIR-99021を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記組み合わせが、アクチビンA及びCHIR-99021からなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
培養することが、前記複数の細胞の総数のうち約10%~約90%の骨格筋肉にコミットした前駆細胞に達することを可能にする期間にわたって行われる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記複数のPSCを培養することが、前記TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、前記GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との前記組み合わせを含む前記培地中で連続的に行われる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記複数のPSCを培養することが、サイクルで行われ、前記TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、前記GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との前記組み合わせを含む前記培地が、各サイクル後に交換される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
各サイクルにおいて、前記TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、前記GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との前記組み合わせが、同じ組み合わせ又は異なる組み合わせである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記産生された複数の細胞が、少なくとも1つの追加の系列にコミットした前駆細胞を更に含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記追加の系統にコミットした前駆細胞が、間質にコミットした前駆細胞、脂肪細胞にコミットした前駆細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記PSCが、人工PSC(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、及び非胚性幹細胞からなる群から選択される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記PSCが、非ヒト動物及びヒトからなる群から選択される起源のものである、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記非ヒト動物が、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物、及び爬虫類からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記有蹄動物が、ウシ亜科動物、ヒツジ、ヤギ、バッファロー、ウマ科動物、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、又はサイからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を産生する方法であって、前記方法が、
a.請求項1~26のいずれか一項に記載の方法によって産生された骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む前記複数の細胞を接着性材料及び/又は支持マトリックス上に沈着させることと、
b.前記骨格筋肉にコミットした前駆細胞の骨格筋肉細胞への分化を促進する、分化培地中で前記複数の細胞を培養し、
それによって、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を産生することと、を含む、方法。
【請求項28】
前記分化培地が、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子及びGSK3シグナル伝達経路の阻害剤を欠いている、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記分化培地が、アクチビンA及びCHIR-99021を欠いている、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
PSCから骨格筋肉細胞を含む前記複数の分化細胞を得るための全期間が、約6日~約30日である、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記複数の分化細胞が、細胞の前記総数のうち約10%~約90%の骨格筋肉細胞を含む、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記複数の分化細胞が、間質細胞及び脂肪細胞からなる群から選択される少なくとも1つの追加の細胞型を更に含む、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記間質細胞が、細胞外マトリックス(ECM)産生細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
骨格筋肉細胞を含む前記複数の分化細胞が、操作された組織を形成する、請求項27~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~26のいずれか一項に記載の方法によって産生された骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む、複数の細胞。
【請求項36】
前記複数の細胞が、本質的にPSCを欠いている、請求項35に記載の複数の細胞。
【請求項37】
前記骨格筋肉にコミットした前駆細胞が、少なくとも1つの中胚葉マーカー及び/又は少なくとも1つの初期筋原性マーカーの発現を特徴とする、請求項35又は36に記載の複数の細胞。
【請求項38】
前記骨格筋肉にコミットした前駆細胞が、非ヒト動物PSCから産生される、請求項35~37のいずれか一項に記載の複数の細胞。
【請求項39】
前記骨格筋肉にコミットした前駆細胞が、ウシ亜科動物PSCから産生される、請求項38に記載の複数の細胞。
【請求項40】
請求項27~33のいずれか一項に記載の方法によって産生された骨格筋肉細胞を含む、複数の分化細胞。
【請求項41】
前記骨格筋肉細胞が、ウシ亜科動物PSCから分化している、請求項40に記載の複数の分化細胞。
【請求項42】
前記複数の分化細胞が、間質細胞、脂肪細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの型の細胞を更に含む、請求項40又は41に記載の複数の分化細胞。
【請求項43】
前記間質細胞が、コラーゲン産生細胞を含む、請求項42に記載の複数の分化細胞。
【請求項44】
請求項40~43のいずれか一項に記載の複数の細胞を含む、操作された組織。
【請求項45】
請求項41~43のいずれか一項に記載の複数の分化細胞及び/又はそれを含む操作された組織を含む、培養食品。
【請求項46】
前記培養食品が、培養肉である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数のインビトロ成長細胞であって、前記骨格筋肉にコミットした前駆細胞が、少なくとも1つの中胚葉マーカー及び/又は少なくとも1つの初期筋原性マーカーの発現を特徴とする、複数のインビトロ成長細胞。
【請求項48】
前記少なくとも1つの中胚葉マーカーが、TBXT、TBX6、MSGN1、Pax3、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記少なくとも1つの初期筋原性マーカーが、Six1である、請求項47に記載の複数のインビトロ成長細胞。
【請求項49】
前記骨格筋肉にコミットした前駆細胞が、MSGN1及びSix1の前記発現を特徴とする、請求項47又は48に記載の複数のインビトロ成長細胞。
【請求項50】
前記複数の細胞が、間質にコミットした前駆細胞、脂肪細胞にコミットした前駆細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの追加の系列にコミットした細胞を更に含む、請求項47~49のいずれか一項に記載の複数のインビトロ成長細胞。
【請求項51】
前記複数の細胞が、少なくとも1つのGSK3β阻害フラボノイド及び/又はその代謝産物を含む、請求項47~50のいずれか一項に記載の複数のインビトロ成長細胞。
【請求項52】
骨格筋肉細胞を含む複数のインビトロ成長分化細胞であって、前記骨格筋肉細胞が、少なくとも1つの筋原性マーカーの発現を特徴とする、複数のインビトロ成長分化細胞。
【請求項53】
前記少なくとも1つの筋原性マーカーが、Myf5、Pax7、MEF2C、SIX1、NYOD1、MYOG、MYH3、MYH7、NYH8、MB、MYMK、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項52に記載の複数のインビトロ成長分化細胞。
【請求項54】
前記複数の細胞が、間質細胞、脂肪細胞、又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む、請求項52又は53に記載の複数のインビトロ成長分化細胞。
【請求項55】
前記間質細胞が、細胞外マトリックス(ECM)産生細胞である、請求項54に記載の複数のインビトロ成長分化細胞。
【請求項56】
前記細胞が、非ヒト動物細胞である、請求項52~55のいずれか一項に記載の複数のインビトロ成長分化細胞。
【請求項57】
請求項52~56のいずれか一項に記載の複数のインビトロ成長分化細胞を含む、操作された組織。
【請求項58】
請求項56に記載の複数のインビトロ成長分化細胞及び/又はそれを含む操作された組織を含む、培養食品。
【請求項59】
前記培養食品が、培養肉である、請求項58に記載の培養食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格筋肉細胞を含む生物工学的に作られた組織の産生の分野に関し、具体的には、多能性幹細胞からの複数の骨格筋肉にコミットした前駆細胞及びそれから分化した骨格筋肉細胞を産生するための組成物及び方法に関する。本発明は、骨格筋肉にコミットした前駆細胞の塊及び/又は骨格筋肉細胞の塊、それらを含む操作された組織、並びにその使用を更に提供する。
【背景技術】
【0002】
動物肉は、タンパク質の良好な栄養源であり、人体の成長及び維持に必要とされる適切な割合で全ての必須アミノ酸を含有する。しかしながら、食物のために家畜を成長させる現代の慣行は、空気及び水質に対して有害な影響を有し、大きい土地面積及びエネルギー投資を必要とする。それはまた、典型的には家畜が混雑した生息地で育てられ、時には家畜対象が苦しめられる不適当な状態で育てられるので、道徳的問題を提起する。この理由から、細胞培養肉製品は、人道上の理由で肉を控える人々によって消費される可能性もあり得る。
【0003】
とりわけ、培養肉製品を製造する際の課題は、同等の屠殺肉製品のテクスチャ及び口当たりを再現できないテクスチャ及び口当たりである。培養細胞のみを含有する培養肉は、典型的にはひき肉の形態にあり、これは消費者に提供され得る食品の種類を著しく制限する。培養細胞及び植物ベースのタンパク質を含有するハイブリッド製品は、1つの潜在的な解決策を形成するが、主に筋肉から構成される屠殺肉を模倣する細胞ベースの部分を得るための必要性が依然として存在する。
【0004】
インビトロでの筋肉の分化の試みは、主に基礎科学研究及び治療薬の開発の領域で行われてきた。骨格筋肉系統は、胚性沿軸中胚葉(paraxial mesoderm、PM)に由来し、これはまた、軸骨格、真皮、褐色脂肪、髄膜、及び内皮細胞を発生させる。マウス及びヒト多能性幹細胞(胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞)からの筋形成をインビトロで再現する実験戦略が最近報告されており、全てが、胚盤葉上層期におけるWntシグナル伝達物質(CHIRなど)の早期活性化に依存している。これにより、神経中胚葉前駆物体(neuro-mesodermal progenitor、NMP)が誘導され、続いてPM運命及び骨格筋肉に誘導することができる。これらのプロトコルは、胎児筋線維及び未成熟衛星細胞を効率的に産生することができる。最近まで、適度に成熟した筋肉細胞の分化を可能にする唯一の効率的なプロトコルは、誘導された前駆物体の細胞分離が続くMyoD又はPax3/7などの転写因子の過剰発現に依存していた(Pourquie O et al.,2018.Curr Top Dev Biol.129:123-142.doi:10.1016/bs.ctdb.2018.03.003)。
【0005】
以前の研究は、アクチビン/Nodal/TGFβ、BMP、FGF、及びWNTが、多能性幹細胞から中胚葉を広く誘導することを示した(Kyle M L et al.,2016.Cell 166(2):451-467)。FGF及びアクチビンは、心臓分化に必須であることが示された(Shen M et al.,2021.Circulation Research 128:670-686;Sasano Y et al.,2020.Journal of Bioscience and Bioengineering,129(6):749-755)が、アクチビンAは、筋肉量の負の調節因子として示された(Latres E et al.,2017.Nat Commun 8:15153,DOI:10.1038/ncomms15153)。標的化(阻害)アクチビンAシグナル伝達経路は、微小重力における筋肉損失及び骨損失の両方に対する保護において著しく有益な効果を有することが示され、この戦略が筋肉損失及び骨損失の予防又は治療において有効であり得ることを示唆している(Lee Se-Jin et al.,2020.PNAS 117(38):23942-23951,doi.org/10.1073/pnas.2014716117)。既知の体中胚葉様細胞誘導因子であるTGFβ阻害剤SB431542は、PAX7誘導性筋原性分化に関連して筋管生成を増強することが示された(Selvaraj S et al.,2019.eLife 8:e47970,DOI:10.7554/eLife.47970)。
【0006】
米国特許出願公開第2012/0164731号には、多能性幹細胞、特に人工多能性細胞を使用して骨格筋前駆細胞を産生する方法であって、多能性幹細胞をアクチビンAの存在下で培養することにより、PDGFRα陽性中胚葉細胞を得た後、得られた中胚葉細胞を無血清条件下、Wntシグナル誘導剤の存在下で培養して、細胞を骨格筋前駆細胞に分化させることを含む、方法が開示されている。また、方法により得られた骨格筋前駆細胞を含有する細胞集団、並びに骨格筋再生促進剤、及び筋ジストロフィーなどの筋疾患の治療剤が開示され、促進剤は、骨格筋前駆細胞を有効成分として含む。
【0007】
米国特許出願公開第2019/0010460号には、一般に、指向性組織形成によって中胚葉分化、心臓分化、及び心臓成熟を誘導するステップを含む、多能性幹細胞から生物工学的に作られた心筋(bioengineered heart muscle、BHM)を産生するための方法が開示されている。
【0008】
多能性細胞から筋肉細胞を分化させるための現在の方法のほとんどは、高価な成長因子及び培地を含む多数の成分の使用を必要とし、長い培養期間を更に必要とする。
【0009】
培養肉製品を含む細胞培養製品の産業において使用され得る筋肉細胞を得るための単純かつ経済的な組成物及び方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、操作された組織又は培養された肉製品の一部を形成し得る骨格筋肉細胞の塊に対する上記の必要性に応え、筋肉細胞に更に容易に分化し得る骨格筋肉にコミットした前駆細胞の塊を産生するための組成物及び方法を提供する。
【0011】
本発明は、TGF-ベータ(TGF-β)シグナル伝達経路の活性化因子、特にアクチビンAと、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(Glycogen synthase kinase-3、GSK3)シグナル伝達経路の阻害剤、特にCHIR-99021との組み合わせを含む培地中で培養された多能性幹細胞(pluripotent stem cell、PSC)が、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を産生するという予想外の発見に部分的に基づく。次いで、当該筋肉にコミットした前駆細胞は、筋肉細胞に分化する。有利なことに、複数の細胞は、細胞外マトリックス(ECM)産生細胞及び脂肪細胞に容易に分化することもできる追加の系統にコミットした細胞を更に含む。
【0012】
更に、本発明の教示は、系統にコミットした分化プロセスが、栄養素、並びに少なくとも1つのTGF-β活性化因子と少なくとも1つのGSK3阻害剤との組み合わせを補充した培地のみを必要とするという点で、PSCから骨格筋肉にコミットした前駆細胞を産生するための以前から既知の方法よりも有利である。また、本発明の方法は、PSCからの筋肉細胞の産生を数日の時間枠に短縮することを可能にし、骨格筋肉細胞を含む生物工学的に作られた組織を産生する全プロセスを約2~約4週間で完了することを可能にする。更に、本方法は、数十リットルの容積の反応器に容易に拡張可能であり、このことは、食品産業における従来のプロセスのコストに匹敵するコストで食品産業におけるその使用を可能にする。
【0013】
ある特定の態様によれば、本発明は、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を産生する方法を提供し、この方法は、(i)TGF-ベータ(TGF-β)シグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、(ii)GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培養培地中で複数の多能性幹細胞(PSC)を培養し、それによって、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を産生することを含む。
【0014】
ある特定の実施形態によれば、培地は、無血清培地である。
【0015】
ある特定の実施形態によれば、培養することは、三次元(three-dimensional、3D)培養条件下で行われる。ある特定の例示的な実施形態によれば、3D培養は、懸濁培養である。ある特定の実施形態によれば、懸濁培養は、接着性材料及び/又は支持マトリックスを欠いている。これらの実施形態によれば、細胞は、自己集合し、少なくとも1つの細胞凝集体を形成する。ある特定の実施形態によれば、細胞凝集体は、クラスタ、スフェロイド、オルガノイドなどからなる群から選択される形態である。
【0016】
更に追加又は代替の実施形態によれば、懸濁培養は、少なくとも1つの接着性材料及び/又は支持マトリックスを含む。ある特定の例示的な実施形態によれば、3D培養することは、容器内で行われる。
【0017】
ある特定の代替の実施形態によれば、培養することは、二次元(two-dimensional、2D)培養条件下で行われる。いくつかの実施形態によれば、2D培養は、少なくとも1つの接着性材料及び/又は支持マトリックスを含む。
【0018】
細胞培養、特にPSC及びそれから分化した細胞の培養を可能にし、支持する当技術分野で既知の又は既知となる任意の接着性材料又は支持マトリックスを、本発明の教示に従って使用することができる。ある特定の実施形態によれば、支持マトリックスは、半固体マトリックスである。いくつかの実施形態によれば、支持マトリックスは、固体である。
【0019】
ある特定の実施形態によれば、TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子は、アクチビンA、TGF-β、BMP2、BMP7、GDF9、NODAL、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0020】
ある特定の実施形態によれば、GSK3シグナル伝達経路の阻害剤は、CHIR-99021(C22H18Cl2N8)又はその塩、SB 216763、LY2090314、TWS119、チデグルシブ(Tideglusib)、GSK-3β阻害剤1、GSK-3β阻害剤2、GSK-3β阻害剤3、AR-A014418、TDZD-8、ケンパウロン、GSK3阻害剤IX、クロモリンナトリウム、CHIR-98014、AZD1080、SB 415286、IM-12、9-ING-41、インジルビン-3’-モノオキシム、1-アザケンパウロン、BRD0705、AZD2858、CP21R7、BIO-アセトキシム、ビキニン、VP3.15、VP3.15ジヒドロブロミド、GNF4877、KY19382、SAR502250、A 1070722、(R)-BRD3731、BRD3731、BIP-135、5-ヨード-インジルビン-3’-モノオキシム、BRD5648、GSK3阻害剤1、GSK3/CDK5/CDK2-IN-1、インジルビン-3’-モノオキシム-5-スルホン酸、GSK3β阻害フラボノイド、リチウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0021】
ある特定の実施形態によれば、CHIR-99021塩は、CHIR-99021一塩酸塩及びCHIR-99021三塩酸塩からなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0022】
ある特定の実施形態によれば、GSK3β阻害フラボノイドは、ルテオリン、アピゲニン、ケルセチン、ミリセチン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0023】
ある特定の実施形態によれば、培地は、TGF-β経路を活性化する成長因子以外の成長因子を欠いている。いくつかの実施形態によれば、培地は、bFGFを欠いている。
【0024】
ある特定の例示的な実施形態によれば、TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤と、を含む組み合わせは、アクチビンA及びCHIR-99021を含む。ある特定の実施形態によれば、組み合わせは、アクチビンA及びCHIR-99021からなる。
【0025】
ある特定の実施形態によれば、播種時に、培地は、Rho関連タンパク質キナーゼ(Rho-associated protein kinase、Rock)の阻害剤を更に含む。
【0026】
ある特定の実施形態によれば、培養することは、複数の細胞の総数のうち約10%~約90%の骨格筋肉にコミットした前駆細胞に達することを可能にする期間にわたって行われる。
【0027】
ある特定の実施形態によれば、複数のPSCを培養することは、TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子とGSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培地中で連続的に行われる。
【0028】
ある特定の追加又は代替の実施形態によれば、複数のPSCを培養することは、サイクルで行われ、TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子とGSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培地は、各サイクル後に交換される。各サイクルにおけるTGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子とGSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせは、同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
ある特定の実施形態によれば、産生された複数の細胞は、少なくとも1つの追加の系列にコミットした前駆細胞を更に含む。ある特定の実施形態によれば、少なくとも1つの追加の系統にコミットした前駆細胞は、間質にコミットした前駆細胞、脂肪細胞にコミットした前駆細胞、及びそれらの組み合わせから選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0030】
ある特定の実施形態によれば、複数のPSCは、非ヒト動物及びヒトからなる群から選択される起源のものである。ある特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物、及び爬虫類からなる群から選択される。ある特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ亜科動物(bovine)、ヒツジ、ヤギ、バッファロー、ウマ科動物(equine)、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、又はサイからなる群から選択される。ある特定の例示的な実施形態によれば、有蹄動物はウシ亜科動物である。
【0031】
ある特定の実施形態によれば、PSCは、人工PSC(induced PSC、iPSC)、胚性幹細胞(embryonic stem cell、ESC)、及び非胚性幹細胞からなる群から選択される。
【0032】
ある特定の実施形態によれば、PSCは、遺伝子組換えされていない。ある特定の実施形態によれば、PSCは、遺伝子組換えされている。
【0033】
別の態様によれば、本発明は、複数の骨格筋肉細胞を産生する方法が提供され、この方法は、
-本明細書において上述される本発明の方法によって産生された骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を接着性材料及び/又は支持マトリックス上に沈着させることと、
-骨格筋肉にコミットした前駆細胞の骨格筋肉細胞への分化を促進する、分化培地中で複数の細胞を培養し、
それによって、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を産生することと、を含む。
【0034】
本発明の方法では、様々な分化培地型を使用することができる。それにもかかわらず、本発明は、栄養素及び任意選択で、ある特定のホルモンを補充した無血清培地が、本発明の方法によって産生された筋肉にコミットした前駆細胞の骨格筋肉細胞への分化を得るのに十分であることをここで実証する。ある特定の実施形態によれば、分化培地は、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子及びGSK3シグナル伝達経路の阻害剤を欠いている。ある特定の例示的な実施形態によれば、培地は、アクチビンA及びCHIR-99021を欠いている。
【0035】
ある特定の実施形態によれば、細胞は、分化培地中で約3日~約30日の期間培養される。ある特定の実施形態によれば、細胞は、分化培地中で約3日~約10日の期間培養される。ある特定の実施形態によれば、細胞は、分化培地中で約5日~約8日の期間培養される。ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を得るための全期間は、約6日~約30日である。ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を得るための全期間は、約6日~約12日である。
【0036】
ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうち約10%~約90%の骨格筋肉細胞を含む。ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉細胞は、生存可能である。
【0037】
本発明は、本発明の方法によって産生された骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を更に提供する。ある特定の実施形態によれば、複数の骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、PSCを本質的に欠いている。本明細書で使用される場合、PSCに関して「本質的に欠く」という用語は、当技術分野で現在知られている標準的な方法によって検出できないいくつかのPSCを指す。
【0038】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、非ヒト動物PSCから産生される。ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、ウシ亜科動物PSCから産生される。
【0039】
本発明は、本明細書に記載の本発明の方法によって産生された分化した骨格筋肉細胞を含む操作された組織を更に包含する。ある特定の実施形態によれば、分化した筋肉骨格細胞は、非ヒト動物PSCから産生される。ある特定の実施形態によれば、分化した筋肉細胞は、ウシ亜科動物PSCから産生される。
【0040】
ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうち約10%~約90%の分化した骨格筋肉細胞を含む。ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、分化した間質細胞、分化した脂肪細胞、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む。ある特定の実施形態によれば、分化した間質細胞は、細胞の総数のうちの約10%~約90%を構成する。ある特定の実施形態によれば、分化した脂肪細胞は、細胞の総数のうちの約10%~約90%を構成する。ある特定の実施形態によれば、間質細胞は、ECM産生細胞である。ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、心筋肉細胞を欠いている。本発明の骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞及び/又は操作された組織は、主に、骨格筋肉細胞が分化するPSCの供給源及び型に応じて、様々な用途において使用することができる。
【0041】
ある特定の例示的な実施形態によれば、本発明の骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞及び/又は操作された組織は、培養食品、特に培養肉の生産のために使用される。
【0042】
なお更なるある特定の態様によれば、本発明は、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数のインビトロ成長細胞を提供し、骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、少なくとも1つの中胚葉マーカー及び/又は少なくとも1つの初期筋原性マーカーの発現を特徴とする。
【0043】
ある特定の実施形態によれば、少なくとも1つの中胚葉マーカーは、TBXT、TBX6、MSGN1、Pax3、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、少なくとも1つの初期筋原性マーカーは、Six1である。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0044】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、MSGN1及びSix1の発現を特徴とする。
【0045】
ある特定の実施形態によれば、複数のインビトロ成長細胞は、間質にコミットした前駆細胞、脂肪細胞にコミットした前駆細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの追加の系列にコミットした細胞を更に含む。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0046】
ある特定の実施形態によれば、複数のインビトロ成長細胞は、少なくとも1つのGSK3β阻害フラボノイド及び/又はその代謝産物を含む。
【0047】
追加のある特定の態様によれば、本発明は、分化した骨格筋肉細胞を含む複数のインビトロ成長細胞を提供し、骨格筋肉細胞は、少なくとも1つの筋原性マーカーの発現を特徴とする。
【0048】
ある特定の実施形態によれば、少なくとも1つの筋原性マーカー、Myf5、Pax7、MEF2C、SIX1、NYOD1、MYOG、MYH3、MYH7、NYH8、MB、MYMK、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0049】
ある特定の実施形態によれば、複数のインビトロ成長細胞は、間質細胞、脂肪細胞、又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0050】
ある特定の実施形態によれば、間質細胞は、細胞外マトリックス(ECM)産生細胞である。
【0051】
ある特定の実施形態によれば、複数のインビトロ成長細胞内の細胞は、非ヒト動物細胞である。
【0052】
本発明は更に、骨格筋肉細胞を含む複数のインビトロ成長細胞を含む操作された組織を包含する。
【0053】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉細胞を含むインビトロ成長させた分化細胞は、非ヒト動物細胞である。これらの実施形態によれば、複数の細胞、又はそれを含む操作された組織は、培養食品、特に培養肉製品を形成する。
【0054】
本明細書に開示される態様及び実施形態の各々の任意の組み合わせは、本発明の開示内に明示的に包含されることを理解されたい。
【0055】
本発明の更なる実施形態及び適用可能性の全範囲は、以下に与えられる詳細な記述から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲内での様々な変更及び修正は、この詳細な記述から当業者に明らかになることになるため、詳細な記述及び具体的な実施例は、本発明の例示的な実施形態を示しているが、単に例示として与えられているにすぎないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】アクチビンAとCHIR-99021との組み合わせを懸濁状態で含む無血清成長培地中での4日間のインキュベーション後にウシ亜科動物多能性幹細胞から得られた骨格筋肉コミット前駆細胞の代表的な明視野画像を示す。倍率×4。
図2】アクチビンA及びCHIR-99021を含む無血清成長培地中でインキュベートされたウシ亜科動物(bovine)PSCから開始して4日後の分化のマーカーの代表的なRT-PCR分析を示す。
図3A】ウシ亜科動物PSCから開始して合計11日間の分化後のミオシン重鎖の代表的な免疫蛍光染色(MF-20抗体を使用する)を示す。ウシ亜科動物PSCを、最初の4日間、3D懸濁液(図3A図3C)又は支持体上の2D培養(図3D)中で、CHIR-99021のみを含む無血清成長培地(図3A)において、アクチビンAと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3B及び図3D)において、又はTGFβと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3C)において培養した。4日後、細胞/細胞凝集体を2D支持体上に沈着させ、アクチビンA、CHIR-99021、及びTGFβを欠く無血清培地において更に7日間培養した。灰色-DAPI/核、白-MyhC陽性細胞。倍率×10。
図3B】ウシ亜科動物PSCから開始して合計11日間の分化後のミオシン重鎖の代表的な免疫蛍光染色(MF-20抗体を使用する)を示す。ウシ亜科動物PSCを、最初の4日間、3D懸濁液(図3A図3C)又は支持体上の2D培養(図3D)中で、CHIR-99021のみを含む無血清成長培地(図3A)において、アクチビンAと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3B及び図3D)において、又はTGFβと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3C)において培養した。4日後、細胞/細胞凝集体を2D支持体上に沈着させ、アクチビンA、CHIR-99021、及びTGFβを欠く無血清培地において更に7日間培養した。灰色-DAPI/核、白-MyhC陽性細胞。倍率×10。
図3C】ウシ亜科動物PSCから開始して合計11日間の分化後のミオシン重鎖の代表的な免疫蛍光染色(MF-20抗体を使用する)を示す。ウシ亜科動物PSCを、最初の4日間、3D懸濁液(図3A図3C)又は支持体上の2D培養(図3D)中で、CHIR-99021のみを含む無血清成長培地(図3A)において、アクチビンAと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3B及び図3D)において、又はTGFβと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3C)において培養した。4日後、細胞/細胞凝集体を2D支持体上に沈着させ、アクチビンA、CHIR-99021、及びTGFβを欠く無血清培地において更に7日間培養した。灰色-DAPI/核、白-MyhC陽性細胞。倍率×10。
図3D】ウシ亜科動物PSCから開始して合計11日間の分化後のミオシン重鎖の代表的な免疫蛍光染色(MF-20抗体を使用する)を示す。ウシ亜科動物PSCを、最初の4日間、3D懸濁液(図3A図3C)又は支持体上の2D培養(図3D)中で、CHIR-99021のみを含む無血清成長培地(図3A)において、アクチビンAと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3B及び図3D)において、又はTGFβと組み合わせてCHIR-99021を含む無血清成長培地(図3C)において培養した。4日後、細胞/細胞凝集体を2D支持体上に沈着させ、アクチビンA、CHIR-99021、及びTGFβを欠く無血清培地において更に7日間培養した。灰色-DAPI/核、白-MyhC陽性細胞。倍率×10。
図4】コミットメント段階中、すなわち最初の4日間、アクチビンA及びCHIR-99021のみを含む無血清成長培地中でインキュベートされたウシ亜科動物多能性幹細胞から開始して合計11日間の分化後の筋原性マーカーMyf5、Pax7、Mef2C、Six1、MyoD1、MyoG、MYH3、MYH7、MYH8、ミオグロビン(Myoglobin、MB)、及びミオマーカー(Myomaker、MYMK)の代表的なRT-PCR分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明は、大規模で費用効率の高い産生に好適である、多能性幹細胞(PSC)から骨格筋肉細胞を産生するための方法を提供する。本発明は、これまで筋肉量の負の調節因子として知られているTGF-βシグナル伝達経路の活性化因子であるアクチビンAと、GSK3シグナル伝達経路の阻害剤であるCHIR 99021との組み合わせの存在下でPSCを培養することにより、著しい数のPSCが中胚葉系列細胞に変換され、これが次に骨格筋肉細胞に分化することができるという予想外の発見に部分的に基づく。更に、複数の骨格筋肉細胞及び/又はそれを含む操作された組織の塊を産生するプロセスを通して必要とされる培養培地は、産生するのが簡単であり、最小数の成長因子及び小分子を含み、全成長サイクルが、これまでに知られているプロトコルと比較して短く、製品が食品産業で使用される場合であっても、経済的なコストで大規模生産を可能にする。
【0058】
本発明は、複数の細胞又はそれを含む操作された組織の形態で治療用途に使用することができる、本発明の方法によって産生された骨格筋肉細胞を更に提供する。ある特定の実施形態では、本発明の骨格筋肉細胞及びそれを含む操作された組織は、食品産業用に、特に培養肉の生産用に調整される。
【0059】
定義
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他の意味を指示しない限り、複数形の言及を含む。例えば、用語「化合物」又は「少なくとも1つの化合物」は、それらの混合物を含む複数の化合物を含み得る。
【0060】
「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(including)」、「有する(having)」という用語及びそれらの活用形は、「含む(including)がこれらに限定されない」ことを意味する。
【0061】
本出願を通して、本発明の様々な実施形態は、範囲形式で提示され得る。範囲形式での説明は、単に便宜及び簡潔さのためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、ある範囲の説明は、全ての可能な部分範囲及びその範囲内の個々の数値を具体的に開示しているとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示された部分範囲、並びにその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、3、4、5、及び6を有するとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0062】
本明細書で数値範囲が示される場合は常に、示された範囲内の任意の引用された数字(分数又は整数)を含むことを意図している。第1の表示数~第2の表示数の「範囲である(ranging/ranges)」及び第1の表示数「から」第2の表示数「までの範囲である(ranging/ranges)」という語句は、本明細書では互換的に使用され、第1及び第2の表示数、並びにそれらの間の全ての分数及び整数の数字を含むように意図されている。
【0063】
本明細書で使用される「約」という用語は、数値指定の+10%又は-10%の数値指定の変動を指す。更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の各整数全体を含むと理解されるべきである。
【0064】
本明細書で使用される場合、「複数」という用語は、特にPSCに関して、「少なくとも2個」、特に少なくとも2個の細胞、少なくとも5個の細胞、少なくとも10個の細胞、又は少なくとも100個、又は少なくとも、又は少なくとも1,000個、又は少なくとも10,000個の細胞を指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞(PSC)」という用語は、無制限に増殖することができ、体内に全ての他の細胞型を生じさせることができる細胞を指す。この用語は、ナイーブ型及びプライム型多能性幹細胞の両方を明示的に含む。
【0066】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞(iPSC)」という用語は、体細胞から直接生成され得る型の多能性幹細胞を指す。
【0067】
本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞(ESC)」という用語は、多能性幹細胞由来胚盤胞の型を指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「操作された組織」という用語は、本明細書で使用される場合、複数の細胞の厚さであり、少なくとも1つの層を形成する、X及びY平面における細胞の会合を指す。いくつかの実施形態では、操作された組織は、1つの層を含む。他の実施形態では、操作された組織は、複数の層を含む。いくつかの実施形態では、層は、細胞の連続的な、実質的に連続的な、又は非連続的な細胞層を形成する。いくつかの態様では、操作された組織又はその層は、X、Y、及びZ軸に複数の細胞を含む。本発明の教示による操作された組織は、細胞接着性材料及び/又は支持マトリックスを含んでもよく、又は含まなくてもよい。いくつかの実施形態によれば、細胞接着性材料及び/若しくは支持マトリックスは、ナノキャリア、マイクロキャリア、マクロキャリア、又はそれらの組み合わせを形成する。いくつかの実施形態によれば、細胞接着性材料及び/又は支持マトリックスは、足場を形成する。
【0069】
「培養肉」という用語は、本明細書では、屠殺された動物の肉と区別される、インビトロでの非ヒト動物細胞培養から成長させた肉を説明するために使用される。インビトロでの非ヒト動物細胞培養から成長させた肉を説明するために当技術分野で使用することができる追加の用語には、細胞培養肉、養殖された肉、クリーンミート、実験室で成長させた肉、試験管肉、インビトロ肉、チューブステーキ(tube steak)、合成肉、組織操作された肉、操作された肉、人工肉、及び人造肉が含まれる。
【0070】
ある特定の態様によれば、本発明は、筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を産生する方法であって、複数の多能性幹細胞(PSC)を、(i)TGF-ベータ(TGF-β)シグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、(ii)GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培養培地中で培養し、それによって、複数の筋肉にコミットした前駆細胞を産生することと、を含む、方法を提供する。
【0071】
TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子及びGSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤の両方が、骨格筋肉にコミットした前駆細胞が形成されるまでの全インキュベーション時間の間、培養培地内に存在することが明確に理解されるべきである。
【0072】
TGF-βシグナル伝達は、細胞成長、細胞運命、及びアポトーシスを含む多くの細胞機能に関与している。シグナル伝達は、典型的には、I型受容体を動員し、リン酸化するII型受容体へのTGF-βスーパーファミリーリガンドの結合から始まる。次いで、I型受容体は、核内で転写因子として作用し、標的遺伝子発現を調節する、転写因子のSMADファミリーをリン酸化する。TGF-βスーパーファミリーリガンドは、骨形成タンパク質(Bone Morphogenic Protein、BMP)、成長及び分化因子(Growth and Differentiation Factor、GDF)、抗ミュラー管ホルモン(anti-Mullerian hormone、AMH)、アクチビン、ノーダル、及びTGF-βを含む。一般に、Smad2及びSmad3は、TGF-β/アクチビン経路中のALK4、5、及び7受容体によってリン酸化される。対照的に、Smad1、Smad5、及びSmad8は、骨形成タンパク質(BMP)経路の一部としてリン酸化される。経路間にいくらかのクロスオーバーが存在するが、本発明の文脈において、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子は、好ましくは、Smad2及びSmad3を介して作用するTGF-β経路の活性化因子である。
【0073】
ある特定の実施形態によれば、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子は、アクチビンA、TGF-β、BMP2、BMP7、GDF9、NODAL、及びそれらの任意の組み合わせからなるが、これらに限定されない群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。本発明の方法に好適なTGF-βシグナル伝達経路の任意の他の活性化因子も適用することができる。
【0074】
ある特定の例示的な実施形態によれば、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子は、アクチビンAである。
【0075】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)は、酵母から哺乳動物まで高度に保存されている。哺乳動物は、2つのGSK3アイソフォーム、α(51kDa)及びβ(47kDa)を発現し、これらは、別個の遺伝子によってコードされ、それらの触媒ドメイン内で97%のアミノ酸配列同一性を共有する。しかしながら、それらの配列は、キナーゼドメイン2の外側で著しく異なる。両方のGSK3アイソフォームは、遍在的に発現されるようであり、それらは、Wnt-β-カテニンシグナル伝達を含むいくつかのシグナル伝達経路において機能的に重複しているようであるが、それらは、他のシグナル伝達経路において異なる機能を果たす。多くの研究が、GSK3調節不全、特に過剰活性化と、真性糖尿病、肥満、炎症、神経障害、及び腫瘍形成を含む様々な病理学的状態との関連を指摘している。
【0076】
ある特定の実施形態によれば、GSK3シグナル伝達経路の阻害剤は、CHIR 99021(C22H18Cl2N8)又はその塩、SB 216763、LY2090314、TWS119、チデグルシブ、GSK-3β阻害剤1、GSK-3β阻害剤2、GSK-3β阻害剤3、AR-A014418、TDZD-8、ケンパウロン、GSK3阻害剤IX、クロモリンナトリウム、CHIR-98014、AZD1080、SB 415286、IM-12、9-ING-41、インジルビン-3’-モノオキシム、1-アザケンパウロン、BRD0705、AZD2858、CP21R7、BIO-アセトオキシム、ビキニン、VP3.15、VP3.15ジヒドロブロミド、GNF4877、KY19382、SAR502250、A 1070722、(R)-BRD3731、BRD3731、BIP-135、5-ヨード-インジルビン-3’-モノオキシム、BRD5648、GSK-3阻害剤1、GSK-3/CDK5/CDK2-IN-1、インジルビン-3’-モノオキシム-5-スルホン酸、GSK3β阻害フラボノイド、リチウム、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるが、これらに限定されない。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。本発明の方法において好適な任意の他のGSK3阻害剤もまた、適用することができる。
【0077】
ある特定の実施形態によれば、CHIR-99021塩は、CHIR-99021一塩酸塩及びCHIR-99021三塩酸塩からなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0078】
ある特定の例示的な実施形態によれば、GSK3シグナル伝達経路の阻害剤は、CHIR-99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル,C221812)である。
【0079】
フラボノイドは、GSK3βに対する阻害活性を有することが見出された(例えば、Johnson L J,et al.,2011.J Med Food 14(4):325-333、Jung Y et al.,2017.Appl Biol Chem 60(3):227-232)。ある特定の実施形態によれば、本発明の教示によるGSK3シグナル伝達経路の阻害剤は、GSK3β阻害フラボノイドである。いくつかの実施形態によれば、フラボノイドは、ルテオリン、アピゲニン、ケルセチン、ミリセチン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0080】
ある特定の例示的な実施形態によれば、複数の骨格筋肉にコミットした前駆細胞を形成するための培養培地は、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子としてのアクチンAと、GSK3シグナル伝達経路の阻害剤としてのCHIR-99021との組み合わせを含む。
【0081】
TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子及びGSK3シグナル伝達経路の阻害剤の有効量の濃度が、使用された薬剤の具体的な型に依存するであろうということは、当業者によって理解されるであろう。典型的には、複数の骨格筋肉にコミットした前駆細胞を形成するための培養培地は、TGF-βシグナル伝達経路を活性化する成長因子及びGSK3シグナル伝達経路を阻害する成長因子以外の成長因子を欠いている。代替の実施形態では、そのような追加の成長因子は、細胞のある特定の成長段階で限定された時間にわたって培地に添加され得る。
【0082】
ある特定の実施形態によれば、培養培地は、無血清である。本明細書で使用される場合、培地に関する「無血清」という用語は、動物の血清を含まない培地を指す。
【0083】
ある特定の実施形態によれば、培養培地は、動物由来の成分を含まない。本明細書で使用される場合、培地に関する「動物由来の成分を含まない」という用語は、動物起源の成分を全く含有しない培地、特に哺乳動物由来の成分を含有しない培地を指す。
【0084】
ある特定の実施形態によれば、培養することは、三次元(3D)培養条件下で行われる。3D細胞培養は、人工的に作製された環境であり、そこで生体細胞が増殖又はそれらの周囲の細胞と相互作用することができる。3D細胞培養は、最も初期のインビボ発生ステップを模倣するインビトロ成長において、自己集合した細胞凝集体又はクラスタの形成を可能にする。ある特定の例示的な実施形態によれば、3D培養は、典型的には容器内の液体懸濁液中で成長させた細胞を含む。
【0085】
「容器」又は「組織培養容器」という用語は、本明細書では互換的に使用され、細胞が懸濁液中で成長することができる任意のレセプタクルを指す。レセプタクルは、数ミリリットルの範囲(例えば、非接着性プレート又はErlenmeyerフラスコ)から数千リットルの範囲(例えば、バイオリアクタ又は培養袋)までの様々なサイズのものであり得る。
【0086】
ある特定の実施形態によれば、懸濁培養は、接着性材料及び/又は支持マトリックスを欠いており、細胞及び/又は細胞クラスタは、液体内に自由に懸濁/浮遊している。ある特定の実施形態によれば、懸濁培養は、細胞が接着しない材料の壁を有する容器内に維持される。
【0087】
細胞が接着性材料/支持マトリックスなしで、懸濁培養中で成長する場合、細胞は、他の細胞と集団化して、細胞の凝集体を形成する傾向がある。細胞凝集体は、クラスタ、スフェロイド、オルガノイドなどの形態にあってもよい。
【0088】
ある特定の実施形態によれば、培養することは、接着単層を形成する条件下で行われ、本明細書では「二次元(2D)培養」とも称される。細胞培養に使用されることが知られている任意の接着性基質/支持マトリックスを、本発明の教示に従って使用することができる。例としては、接着性物質(例えば、不活化フィーダ細胞、マトリゲル若しくはビトロネクチンのような有機細胞外マトリックス、又はフィーダ細胞馴化培地)でコーティングされた成長プレート、又はヒドロゲルが挙げられる。
【0089】
当技術分野で既知であるか又は既知となるであろう任意の供給源に由来する多能性幹細胞を、本発明の教示に従って使用することができる。ある特定の実施形態によれば、PSCは、ヒトに由来する。追加又は代替の実施形態によれば、PSCは、非ヒト動物に由来する。ある特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物、及び爬虫類からなる群から選択される。ある特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ亜科動物、ヒツジ、ヤギ、ウマ科動物、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、又はサイからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。ある特定の例示的な実施形態によれば、有蹄動物はウシ亜科動物である。
【0090】
いくつかの実施形態によれば、PSCは胚性幹細胞(ESC)である。
【0091】
いくつかの実施形態によれば、PSCは非胚性幹細胞(ESC)である。
【0092】
ある特定の実施形態によれば、PSCは、体細胞から再プログラムされた人工PSC(iPSC)である。
【0093】
ある特定の実施形態によれば、PSCは、ESCを含まない体細胞から再プログラムされた人工PSC(iPSC)である。
【0094】
iPSCを産生するための細胞の再プログラミングは、当技術分野で知られている任意の方法によって実施することができ、例えば、Bessi et al.,2021.Cells 10(6):1531、Kawaguchi et al.,2015.PLoS One 10(8):e0135403、Zhao et al.,2021.PNAS118(15):e2018505118、Poleganov et al.,Hum.Gene Ther.2015;26:751-766)に記載される方法が含まれる。
【0095】
ある特定の実施形態によれば、PSC、特にウシ亜科動物PSCの単離及び/若しくは培養、並びに/又はiPSCを産生するための細胞の再プログラミングは、本発明の出願人に対する国際(PCT)出願公開第2020/230138号に記載されている方法によって行うことができる。
【0096】
例えば、胚盤胞由来のPSCを含む、ウシ亜科動物由来のPSCの市販の調製物も利用可能である。
【0097】
ある特定の実施形態によれば、播種時に、培地は、Rho関連タンパク質キナーゼ(Rho-associated protein kinase、Rock)の阻害剤を更に含む。当技術分野で現在知られている、又は将来開発される任意のRock阻害剤を、本発明の教示に従って使用することができる。ある特定の実施形態によれば、Rock阻害剤は、Thiazovivin、Fasudil、Ripasudil、Netarsudil、RKI-1447、Y-27632、GSK429286A、Y30141からなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。ある特定の例示的な実施形態によれば、Rock阻害剤は、Y-27632二塩酸塩(1R,4r)-4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド)である。
【0098】
ある特定の実施形態によれば、複数のPSCを培養することは、TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子とGSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培地中で連続的に行われる。
【0099】
ある特定の追加又は代替の実施形態によれば、複数のPSCを培養することは、サイクルで行われ、TGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子とGSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培地は、各サイクル後に交換される。各サイクルにおけるTGF-βシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子とGSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせは、同じであっても異なっていてもよい。
【0100】
ある特定の実施形態によれば、培養することは、複数の細胞の総数のうち約10%~約90%の骨格筋肉にコミットした前駆細胞に達することを可能する期間にわたって行われる。
【0101】
ある特定の実施形態によれば、複数の細胞の総数のうちの約10%~約90%の骨格筋肉にコミットした前駆細胞に到達することを可能にする期間は、約3日~約7日である。ある特定の実施形態によれば、その期間は、約3日~6日、3日~5日、又は3日~4日である。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。ある特定の実施形態によれば、複数の細胞の総数のうちの約10%~約90%の骨格筋肉にコミットした前駆細胞に到達することを可能にする期間は、4日である。
【0102】
特にバイオリアクタにおける培養のこの短い時間枠は、3D培養を使用する選択肢とともに、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を産生するためのこれまでに知られている方法に対する、本発明の方法の意味のある利点であり、大規模産生設備における本方法の使用、特に、屠殺肉の置き換えを可能にするためにコストを低減しなければならない、培養肉製品を産生するための食品産業におけるそれらの使用を可能にする。
【0103】
ある特定の実施形態によれば、本発明は、本明細書において上述されるように産生された骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を提供する。
【0104】
ある特定の実施形態によれば、複数の細胞は、細胞の総数のうちの約10%~約90%の骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む。いくつかの実施形態によれば、複数の細胞は、細胞の総数のうちの約15%~約90%、約25%~約90%、約30%~約90%、約40%~約90%、約45%~約90%、又は約50%~約90%の骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む。
【0105】
また更なるある特定の実施形態によれば、複数の細胞は、少なくとも1つの追加の系統にコミットした前駆細胞を更に含む。ある特定の実施形態によれば、系列にコミットした前駆細胞は、間質にコミットした前駆細胞、脂肪細胞にコミットした前駆細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0106】
ある特定の実施形態によれば、複数の細胞は、細胞の総数のうちの約10%~約90%の間質にコミットした前駆細胞を含む。ある特定の実施形態によれば、複数の細胞は、細胞の総数のうち約10%~約90%の脂肪細胞にコミットした前駆細胞を含む。
【0107】
ある特定の実施形態によれば、本発明の方法によって産生される筋肉にコミットした前駆細胞は、TBXT、TBX6、MSGN1、Pax3、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの中胚葉マーカーを含み、少なくとも1つの初期筋原性マーカーは、Six1である。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、MSGN1及びSix1の発現を特徴とする。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0108】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞は、PSCを本質的に欠いている。いくつかの実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞は、PSCを欠いている。
【0109】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞は、非ヒト動物のものである。これらの実施形態によれば、複数の細胞は、非ヒト動物PSCから産生される。非ヒト動物は、本明細書上記の通りである。ある特定の例示的な実施形態によれば、非ヒト動物は、ウシ亜科動物である。
【0110】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞は、少なくとも1つのGSK3β阻害フラボノイド又はその代謝産物を含む。ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞は、ルテオリン、アピゲニン、ケルセチン、ミリセチン、それらの代謝産物、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのフラボノイドを含む。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。少なくとも1つのフラボノイド又はその代謝産物の量は、1~数ナノモルから数百マイクロモルまで変化し得る。いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つのフラボノイド又はその代謝産物の量は、1nM~100μM、又は1nM~10μM、又は1nM~1μMである。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0111】
ある特定の態様によれば、本発明は、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を産生する方法であって、
a)複数の多能性幹細胞(PSC)を、(i)TGF-ベータ(TGF-β)シグナル伝達経路の少なくとも1つの活性化因子と、(ii)GSK3シグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤との組み合わせを含む培養培地中で培養し、それによって、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を形成することと、
b)ステップ(a)で得られた骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を接着性材料及び/又は支持マトリックス上に沈着させることと、
c)骨格筋肉にコミットした前駆細胞の骨格筋肉細胞への分化を促進する、分化培地中で複数の細胞を培養し、
それによって、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を産生することと、を含む、方法を提供する。
【0112】
PSC、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子、GSK3シグナル伝達経路の阻害剤、及び培養培地、並びにステップ(a)及び(b)のプロセスは、本明細書において上述される通りである。
【0113】
ある特定の実施形態によれば、複数の培養PSCは、遺伝子組換えされていない。本発明の方法は、全プロセスを通していかなる遺伝子操作も行わずに、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を産生することを可能にする。これらの実施形態によれば、遺伝子操作されていない骨格筋肉細胞及びそれを含む組織は、製薬産業及び食品産業におけるある特定の用途において利点を有し得る。
【0114】
ある特定の代替の実施形態によれば、複数の培養PSCは、遺伝子組換えされている。遺伝子操作法を用いることは、体細胞からの誘導PSC(iPSC)の形成を容易にし、例えば、特に胚性哺乳動物幹細胞を必要とせずに、胚性幹細胞に依存しないという利点を有し得る。
【0115】
接着性材料及び/又は支持マトリックス上に骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数の細胞を沈着させるための、当技術分野において既知であるか又は既知となるであろう任意の方法を、本発明の教示により使用することができる。
【0116】
ある特定の実施形態によれば、接着性材料は、不活化フィーダ細胞、マトリゲル若しくはビトロネクチンのような有機細胞外マトリックス、又はフィーダ細胞馴化培地からなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0117】
ある特定の実施形態によれば、接着性材料又は支持マトリックスは、ナノキャリア、マイクロキャリア、マクロキャリア、足場、組織培養プレート、組織培養容器などからなる群から選択される形態である。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0118】
ある特定の実施形態によれば、支持マトリックスは、半固体形態及び固体形態から選択される形態である。
【0119】
ある特定の実施形態によれば、沈着は、当技術分野で知られている好適なプリンタを使用して、バイオプリンティングによって行われる。いくつかの実施形態によれば、バイオプリンティングは、国際(PCT)出願公開第2022/162662号に記載されるように実施される。
【0120】
筋肉にコミットした前駆細胞の骨格筋肉細胞への分化を促進するための、当技術分野において既知であるか又は既知となるである任意の分化培地を、本発明の教示に従って使用することができる。有利なことに、本発明は、ここで、例えばビタミン、無機塩、アミノ酸、抗酸化剤、糖などを含む栄養素、及びある特定のホルモン、例えばインスリンを供給された無血清分化培地が、多数の高価な成長因子を必要とせずに分化に十分であることを開示する。
【0121】
ある特定の例示的な実施形態によれば、分化培地は、TGF-βシグナル伝達経路の活性化因子及びGSK3シグナル伝達経路の阻害剤を欠いている。更なる例示的な実施形態によれば、分化培地は、アクチビンA及びCHIR 99021を欠いている。
【0122】
ある特定の実施形態によれば、細胞は、分化培地中で約3日間~約27日間培養される。いくつかの実施形態によれば、細胞は、分化培地中で、約3日間~約26日間、約25日間、約24日間、約23日間、約22日間、約22日間、約20日間、約19日間、約18日間、約17日間、約16日間、約15日間、約14日間、約13日間、約12日間、約11日間、約10日間、約9日間、約8日間、約7日間、又は約6日間培養される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。いくつかの実施形態によれば、細胞は、分化培地中で約3日間~約15日間、又は約5日間~約10日間、又は約6日間~約9日間培養される。いくつかの実施形態によれば、細胞は、分化培地中で約7日間培養される。
【0123】
本発明による骨格筋分化前駆細胞を得るために必要な時間に関しては、前駆細胞を筋肉細胞に分化させる時間もまた、これまでに知られている方法と比較して短縮される。ある特定の実施形態によれば、筋肉細胞を含む操作された組織を得るための全期間は、約6日~約30日である。ある特定の実施形態によれば、筋肉細胞を含む操作された組織を得るための全期間は、約7日~約25日、約8日~約24日、約9日~約23日、約10日~約22日、約10日~約21日、約10日~約21日、約10日~約21日、約10日~約20日、約10日~約19日、約10日~約18日、約10日~約17日、約10日~約16日、又は約10日~約15日である。
【0124】
ある特定の実施形態によれば、筋肉細胞を含む操作された組織を得るための全期間は、約11日~約14日である。
【0125】
約30日まで、典型的には11~14日のこの全期間は、筋肉細胞を含む操作された組織の大規模産生において非常に有利である。
【0126】
ある特定の実施形態によれば、接着性材料及び/又は支持マトリックス上に沈着した複数の細胞は、少なくとも1つの追加の系列にコミットした前駆細胞を更に含む。いくつかの実施形態によれば、系列にコミットした前駆細胞は、間質にコミットした前駆細胞、脂肪細胞にコミットした前駆細胞、及びそれらの組み合わせから選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。これらの実施形態によれば、形成された複数の細胞は、間質細胞及び脂肪細胞のうちの少なくとも1つを更に含む。
【0127】
いくつかの実施形態によれば、間質細胞は、細胞外マトリックス(ECM)産生細胞である。
【0128】
ある特定の実施形態によれば、本発明の方法は、筋肉細胞並びに任意選択で間質細胞及び脂肪細胞のうちの少なくとも1つを含む複数の分化細胞を、接着性材料及び/又は支持マトリックスから分離することを更に含む。
【0129】
ある特定の実施形態によれば、本発明は、本発明の方法によって産生される分化した骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を更に提供する。
【0130】
ある特定の実施形態によれば、本発明の方法によって産生される分化した骨格筋肉細胞は、Myf5、Pax7、MEF2C、SIX1、NYOD1、MYOG、MYH3、MYH7、NYH8、MB、MYMK、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの筋原性マーカーの発現を特徴とする。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0131】
ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうち約10%~約90%の骨格筋肉細胞を含む。いくつかの実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうちの約15%~約90%、約25%~約90%、約30%~約90%、約40%~約90%、約45%~約90%、又は約50%~約90%の骨格筋肉細胞を含む。ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうちの約30%の骨格筋肉細胞を含む。ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉細胞は、生細胞である。
【0132】
ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうちの約10%~約90%の間質細胞を含む。いくつかの実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうちの約15%~約90%、約25%~約90%、約30%~約90%、約40%~約90%、約45%~約90%、又は約50%~約90%の間質細胞を含む。ある特定の実施形態によれば、間質細胞は、生細胞である。
【0133】
ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうち約10%~約90%の脂肪細胞を含む。いくつかの実施形態によれば、複数の分化細胞は、細胞の総数のうちの約15%~約90%、約25%~約90%、約30%~約90%、約40%~約90%、約45%~約90%、又は約50%~約90%の脂肪細胞を含む。ある特定の実施形態によれば、脂肪細胞は、生細胞である。
【0134】
ある特定の実施形態によれば、複数の分化細胞は、本明細書において上述される、検出可能な量の少なくとも1つのGSK3β阻害フラボノイド又はその代謝産物を含む。
【0135】
ある特定の実施形態によれば、筋肉細胞並びに任意選択で間質細胞及び脂肪細胞のうちの少なくとも1つを含む複数の分化細胞は、操作された組織を形成する。ある特定の実施形態によれば、操作された組織は、複数の分化細胞の産生において使用される接着性材料及び/又は支持マトリックスを含む。ある特定の追加又は代替の実施形態によれば、操作された組織は、複数の分化細胞の産生において使用される接着性材料及び/又は支持マトリックスを欠いている。
【0136】
なお更なるある特定の態様によれば、本発明は、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数のインビトロ成長細胞を提供し、骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、少なくとも1つの中胚葉マーカー及び/又は少なくとも1つの初期筋原性マーカーの発現を特徴とする。
【0137】
ある特定の実施形態によれば、少なくとも1つの中胚葉マーカーは、TBXT、TBX6、MSGN1、Pax3、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、少なくとも1つの初期筋原性マーカーは、Six1である。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0138】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞は、MSGN1及びSix1の発現を特徴とする。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0139】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数のインビトロ成長細胞は、間質にコミットした前駆細胞、脂肪細胞にコミットした前駆細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの追加の系列にコミットした細胞を更に含む。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0140】
ある特定の実施形態によれば、骨格筋肉にコミットした前駆細胞を含む複数のインビトロ成長細胞は、少なくとも1つのGSK3β阻害フラボノイド及び/又はその代謝産物を含む。フラボノイド及びマウントは、本明細書において上述される通りである。
【0141】
追加のある特定の態様によれば、本発明は、分化した骨格筋肉細胞を含む複数のインビトロ成長分化細胞を提供し、分化した骨格筋肉細胞は、少なくとも1つの筋原性マーカーの発現を特徴とする。
【0142】
ある特定の実施形態によれば、少なくとも1つの筋原性マーカー、Myf5、Pax7、MEF2C、SIX1、NYOD1、MYOG、MYH3、MYH7、NYH8、MB、MYMK、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0143】
ある特定の実施形態によれば、複数のインビトロ成長分化細胞は、間質細胞、脂肪細胞、又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0144】
ある特定の実施形態によれば、間質細胞は、細胞外マトリックス(ECM)産生細胞である。
【0145】
ある特定の実施形態によれば、複数のインビトロ成長分化細胞内の細胞は、非ヒト動物細胞である。
【0146】
本発明は、骨格筋肉細胞を含む複数のインビトロ成長分化細胞を含む操作された組織を更に包含する。
【0147】
本発明の方法によって産生される筋肉にコミットした前駆細胞、複数の分化細胞、及びそれらを含む操作された組織は、治療用途及び食品としての使用を含む様々な使用に好適である。
【0148】
本明細書において上述されるように、使用される培地、骨格筋肉細胞を含む複数の分化細胞を得るために必要とされる時間、及び全体的な有効性は、本発明の方法を、食品産業における使用、特に、細胞培養肉を生産する技術における使用に非常に好適なものにする。したがって、本発明は、具体的には、本発明の骨格筋肉細胞及び/又はそれを含む操作された組織を含む培養肉及び培養肉製品を包含する。
【0149】
これらの実施形態によれば、操作された組織又は培養食品は、任意選択で、少なくとも1つの植物性タンパク質を更に含む。ある特定の実施形態によれば、操作された組織及び/又は培養肉は、少なくとも1つの追加の食品に使っても安全なサプリメントを更に含む。好適な追加のサプリメントとしては、飽和及び/又は不飽和脂肪酸、脂質、香味剤、着色剤、テクスチャラント、可食性繊維などが挙げられるが、これらに限定されない。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0150】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態を更に詳しく例示するために提示される。しかしながら、それらは決して本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示された原理の多くの変形例及び修正を容易に考案することができる。
【実施例
【0151】
材料及び方法
RNA抽出及びRT-PCR分析:
遺伝子発現分析のために、RNAを、NucleoSpin(登録商標)RNA精製キット(Macherey-Nagel)を使用して、ウシ亜科動物多能性幹細胞、ウシ亜科動物にコミットした細胞、及び骨格筋肉細胞から抽出し、RNA濃度をNanodrop One C(ThermoFisher)を使用して決定した。精製したRNAを、ReverseAid First strand cDNA合成キット(ThermoFisher)を使用し、Thermal Cycler SimpliAmpデバイス(ThermoFisher)を使用して逆転写した。cDNAを、TaqMan Fast Advanced Master Mix(ThermoFisher)、及びQuantStudio 5リアルタイムPCRデバイス(ThermoFisher)を使用する表1に列挙されるプライマのその後のリストを使用して、RT-PCR分析に供した。
【表1】
【0152】
免疫蛍光
2D培養におけるウシ亜科動物骨格筋肉細胞を、以下のように免疫蛍光分析に供した:細胞を、4%パラホルムアルデヒド(PFA;Santa Cruz Biotechnology)、0.5%Triton X-100(Sigma)を使用して透過処理し、5%BSA(MP biomedicals)を使用してブロックした。細胞を、一次抗体、抗ミオシンMF-20(DSHB)1:75、続いて二次ヤギ抗マウスIgG H&L Alexa Fluor 594)抗体(Abcam ab150116)1:500とともにインキュベートした。0.5μg/mlのDAPI(Sigma)を使用して核を染色した。EVOS FL Auto 2 Fluorescent Microscopy(ThermoFisher)を使用して撮像を行った。
【0153】
実施例1:複数の骨格筋コミット細胞の産生
ウシ亜科動物多能性幹細胞(PSC)を2D又は3D培養中で成長させた。細胞を採取し、解離させ、対照としての無血清成長培地、又はアクチビンA(20ng/ml)及びCHIR-99021(10μM)を含有する無血清成長培地(骨格筋前駆体培地)に4日間再懸濁した。Rock阻害剤(10μM)を、対照及びアッセイ条件の両方の下で、1日目の成長中に添加した。図1は、4日後にウシ亜科動物PSCから得られた骨格筋肉にコミットした前駆細胞の代表的な明視野画像を示す。
【0154】
4日後、細胞を採取し、中胚葉マーカーTBXT、TBX6、MSGN1、及びPax3、並びに初期筋原性マーカーSix1の発現を調べるために、本明細書において上述されるようにRT-PCR分析を行った。
【0155】
図2に示されるように、多能性マーカーOCT4及びNanogの発現の著しい減少、並びに中胚葉マーカーTBXT、TBX6、MSGN1、及びPax3並びに初期筋原性マーカーSix1の著しい増加(PSCと比較して10倍超)が観察された。完全に分化した筋肉サテライトマーカーMyf5及びPax7の上方制御は、この初期の時点では著しくなかった。
【0156】
これらの結果は、TGF-β活性化因子(アクチビンA)とGSK3阻害剤(CHIR-99021)との組み合わせを補充した基礎無血清培地中でPSC、特にウシ亜科動物PSCを培養することが、骨格筋肉細胞への分化プロセスを誘導したことを明確に実証する。約4日間の比較的短時間の後、細胞は、骨格筋肉にコミットした細胞として細胞を識別するレベルで、中胚葉マーカー及び初期筋原性マーカーを発現していた。
【0157】
実施例2:ウシ亜科動物多能性幹細胞の骨格筋肉細胞への分化
ウシ亜科動物多能性幹細胞(PSC)を2D及び/又は3D培養中で成長させた。細胞を解離させ、アクチビンA(20ng/ml)及びCHIR99021(10μM)を含有する無血清成長培地(骨格筋前駆体培地)中、CHIR99021(10μM)のみを含有する同じ無血清成長培地中、又はTGFβ(2ng/ml)及びCHIR-99021(10μM)を含有する同じ無血清成長培地中に再懸濁し、懸濁培養条件下で培養した。Rock阻害剤(RI、10μM)を全ての培地型に添加した。
【0158】
懸濁培養条件(「3D培養条件」)は、回転下で、38.5℃、5%CO及び75%超の湿度下に置かれた超低接着性(ultra-low adherent、ULA)6ウェルプレート(Corning)を含む。骨格筋前駆体培地(RIを含まない)を使用して培地をリフレッシュし、形成された凝集体を合計4日間分化させた。
【0159】
骨格筋肉にコミットした細胞を含む凝集体を回収し、無血清成長培地中の組織培養ビトロネクチン(0.005mg/ml)プレコートプレート(「2D条件」)に播種した。プレートを、38.5℃、5%CO及び75%超の湿度下で、更に7日間インキュベートし(全プロセス11日間)、培地を1日目及び3日目に交換した(RIなし)。
【0160】
合計11日間の分化後のミオシン重鎖の代表的な免疫蛍光染色(本明細書において上述されるようにMF-20抗体を使用する)は、アクチビンAとCHIR-99021との組み合わせを含有する培地に供された培養(図3B)中で、かついくらか少ない程度で、TGFβ、追加のTGF-ベータ(TGF-β)シグナル伝達経路の活性化因子、及びCHIR-99021の組み合わせを含有する培地に供された培養(図3C)中で、骨格筋肉細胞の存在を示した。対照的に、ミオシン陽性細胞は、CHIR-99021のみを含有する培地に供された培養中に観察されなかった(図3A)。
【0161】
これらの結果は、合計11日間の分化後の筋原性マーカーMyf5、Pax7、Mef2C、Six1、MyoD1、MyoG、MYH3、MYH7、MYH8、ミオグロビン(MB)、及びミオマーカー(Myomaker、MYMK)のRT-PCR分析によって更に支持された。全てのマーカーが上方制御され、骨格筋への分化を示した(図4)。
【0162】
更なる実験では、PSCを、アクチビンA(20ng/ml)及びCHIR99021(10μM)を含有する無血清成長培地中に再懸濁し、38.5℃、5%CO及び75%超の湿度下に置かれた組織培養プレート中で、2D培養条件で培養した。骨格筋前駆体培地(RIを含まない)を使用して培地をリフレッシュし、形成された凝集体を合計4日間分化させた。4日後、骨格筋肉にコミットした細胞を含む細胞を回収し、上記の3D培養条件から得られた凝集体について記載したように2D培養条件で播種した。図3Dは、コミットされた細胞の骨格筋肉細胞への更なる分化に関して、コミットメント誘導段階において2D又は3D培養条件でPSCを培養することの間に顕著差がないことを示す。
【0163】
特定の実施形態の前述の説明は、本発明の一般的な性質を完全に明らかにするので、他の人は、現在の知識を適用することによって、過度の実験なしに、及び一般的な概念から逸脱することなく、かかる特定の実施形態の様々な用途に容易に修正及び/又は適合することができ、したがって、かかる適合及び修正は、本開示の実施形態の均等物の意味及び範囲内で理解されるべきであり、そのように意図されている。本明細書で使用される表現又は用語は、説明を目的としたものであり、限定を目的としたものではないことを理解されたい。様々な本開示の機能を実施するための手段、材料、及びステップは、本発明から逸脱することなく、様々な代替形態をとることができる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2024-04-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
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【国際調査報告】