(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】HAPLN1を含む線維性疾患の予防用または治療用の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/39 20060101AFI20240806BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240806BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240806BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240806BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240806BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240806BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61K38/39
A61P43/00 105
A61P17/00 ZNA
A61P1/16
A61P1/04
A61P9/00
A61P11/00
A61P13/12
A61P9/10
A61K48/00
C07K14/47
C12N15/12
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507029
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 KR2022011419
(87)【国際公開番号】W WO2023014062
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】10-2021-0101726
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509344010
【氏名又は名称】チュンアン・ユニヴァーシティ・インダストリー・アカデミック・コーペレーション・ファウンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】519321708
【氏名又は名称】ハプルサイエンス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テ・キョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・スン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ムン・ジュン・バク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・フン・ピョ
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ウェイ・ピャオ
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ア・ヨム
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA40
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZA891
4C084ZB211
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA10
4H045GA21
4H045GA23
(57)【要約】
本発明は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む線維性疾患の予防用または治療用の薬学的組成物、及び該組成物を利用した、線維性疾患の予防または治療方法を開示する。本発明によれば、細胞ないし組織の線維化を予防して抑制することにより、線維化に起因して誘発される各種疾患の発生または進行を根本的に抑制することになり、当該疾患を予防ないし治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む、線維性疾患の予防用または治療用の薬学的組成物。
【請求項2】
前記タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列に対し、80%以上の配列同一性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記遺伝子に係わる核酸が、発現ベクター内に含まれている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記線維性疾患の病巣が、皮膚、肝臓、腸、心臓、肺及び腎臓によってなる群のうちから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記線維性疾患の病巣が、皮膚線維芽細胞、肝星状細胞、結腸線維芽細胞、心臓末梢の血液内皮細胞、肺線維芽細胞、腎臓腎細管細胞及び腎臓近位細尿管上皮細胞によってなる群のうちから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記線維性疾患が、虚血性線維化症である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の1回投与量が、0.1ng/mlないし500ng/mlである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物をインビボ(in vivo)での投与時、0.001ないし5mg/kgBKのrhHAPLN1タンパク質の用量で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、細胞の線維化症を予防または抑制するための組成物の主要有効成分または補助有効成分として含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む、組成物を細胞に処理することにより、細胞の線維化を予防または抑制する方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のうちいずれか1項に記載の組成物、及び請求項10に記載の方法による処理のための指針を含む、細胞の線維化の予防用または抑制用のキット。
【請求項12】
請求項1ないし9のうちいずれか1項に記載の組成物を含む、細胞の線維化の予防または抑制と係わる実験用試薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む、線維化による各種組織損傷の修復、線維性疾患の予防用または治療用の組成物に係り、具体的には、HAPLN1を有効成分として含む、組織の線維化、それによる損傷の修復用及び再生用の組成物に係り、また線維化による各種組織損傷と機能喪失との修復及び回復、そして線維性疾患を含む老化性・退行性疾患の予防用または治療用の組成物に関する。
【0002】
さらには本発明は、線維性疾患の予防用または治療用の組成物、及び前記組成物を利用した、細胞の線維化を予防または抑制する方法を開示する。本発明によれば、細胞の線維化を予防及び抑制することにより、細胞の線維化が介入して誘発される各種疾患の発生または進行を根本的に抑制するだけでなく、治療することができる可能性を提示する。
【背景技術】
【0003】
肺が石のように固まる「肺線維化症(lung fibrosis)」の医学的定義は、健康な肺組織がある原因により、傷痕(scar)組織に変わり、肺組織が厚くなったり固くなったりする状態の疾病を言う。韓国で発生した加湿器殺菌剤事件のように、加湿器内の殺菌作用を維持するために使用された特定有害化学物質がその原因であるという、明確に知られたケースもあるが、ほとんどは、原因も明確に知られないまま、肺が固くなる疾患がまさに、「特発性肺線維症(IPF:idiopathic pulmonary fibrosis)」である。このような疾病は、組織学的に、肺実質の炎症と線維化とが特徴である「通常性間質性肺炎(UIP:usual interstitial pneumonia)」症状を示す一種の間質性肺疾患(ILD:interstitial lung disease)であり、高齢(aging)、喫煙、胃食道逆流疾患、環境性・職業性露出、粉塵作業、被曝、自家免疫性、薬物中毒性、過敏性肺炎、ウイルス・病源菌感染、家族歴のような多様な危険因子が知られている。ただし、最近、発達した医学的技術と、科学者の努力とにもかかわらず、該疾病の病因は、明確に明らかにされていない。平均発病年齢は、69歳と、高齢において主に発生し、男性が女性より2倍以上多く、予後も良好ではない。代表的な肺線維化症である「特発性肺線維症」の場合、韓国内患者数は、10万人当たり1.7人であり、原因が明らかにされていないだけに、治療も困難であり、非常に恐ろしい疾患である。平均生存期間は、60ヵ月であるが、1年に、患者14%において、感染(infection)などによる急性悪化(exacerbation)が生じる。急性悪化となれば、生存期間は、15ヵ月に急激に短縮される。
【0004】
肺線維化症患者は、肺胞壁が傷痕(scar)組織として厚くなっており、そのような傷痕組織は、だんだんと悪化しながら、肺実質組織が破壊される。このとき、特に、空気を吸い込む吸気が困難になり、血液に酸素を供給するほど十分な空気を吸うことができなくなる。結局、肺胞(alveoli)が本来の機能が行うことができなくなり、息切れするような呼吸、ひっきりない空咳、疲労症、手先と足指とに棍棒状の特徴的な変化が示され、三大症状として、咳、運動性呼吸困難、痰による水泡音(crackle)が誘発される。最近、パンデミックとして流行しているコロナ19ウイルスも、肺に感染、炎症ができれば、快方に向かう過程において、肺線維化が生じたりする。
【0005】
最も多く知られている線維化症の危険要因は、高齢である。特に、肺組織病変を探求してきた研究者らは、肺線維化症患者の肺細胞が、細胞老化(cellular senescence)の徴候である、分裂と成長とを持続させることができないという事実を最近明らかにした。細胞老化理論として、ヒトを含む有機体の老化は、生理的に有用ではなく、むしろ病理的状態を促進する老化細胞が蓄積されるためであると見ており、老化は、細胞が細胞周期停止(cell cycle arrest)と呼ばれる一連の過程に入り、それ以上、正常な速度で細胞を分裂させて生産しない現象である。最近の報告によれは、老人性肺炎(elderly pneumonia)において、線維化症に対する細胞老化影響につき、体系的に良好に説明されている(Yanagi 2017, Int. J. Mol. Sci. 18, 503)。
【0006】
喫煙、または加齢しながら生じる細胞内DNA損傷と、染色体「端分節摩耗」、すなわち、テロメア短縮(telomere attrition)は、高齢による免疫老化(immunosenescence)現象と共に進行しながら、体内に存在する老化細胞を除去するのに限界があるだけではなく、細胞がそれ以上増殖を放棄し、数的な増加に失敗(cell growth arrest)しながら、代わりに、細胞外に、インターロイキン1ベータ(IL-1β)のようなSASP(senescence-associated secretory phenotype)という炎症・老化誘導性物質を分泌することにより、周囲の正常細胞にまで影響を与えることになり、老化細胞に変わる。それにより、だんだんと老化細胞の数が増加しながら、さらに多くのSASPを分泌し、それにより、低レベルの炎症(chronic low-grade inflammation)を伴う病理的状態に至りながら、組織の再生能と修復能は、自然とだんだんと低減されることになり、ついには、正常な肺組織構造が破壊され始め、特に、高齢者の場合、自身が有する多様な合併要因が追加されながら、結局、多様な外部病因攻撃に対する抵抗性が低下し(high vulnerability)、初期的に発生していた線維化症は、さらに一層発展・悪化するというのである。
【0007】
すなわち、本発明者らは、前述のように、肺線維化症の危険要因が高齢であるという点に注目し、本疾患の発病を予防したり治療したりすることができる「血液における内因性物質」を発掘すべく、若年マウスと老年マウスとの並体結合(heterochronic parabiosis)技術及びプロテオミックス技術を利用した定性・定量分析技法を介して探索している最中、ヒアルロン酸(HA:hyaluronan)とプロテオグリカン(proteoglycan)との連結タンパク質(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)を最も可能性ある物質として注目することになった。さまざまな文献によれば、HAPLN1タンパク質は、脊椎動物の軟骨(cartilage)で初めて発見された細胞外基質(ECM;extracellular matrix)内の構成タンパク質の一つであり、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの構造的凝集体(aggregate)を安定化させる役割はもとより、このとき、結合されるプロテオグリカン間の間隔を、非常に密集して結合させる役割を行うことにより、ビンブラシ(bottle-brush)形態を作らせる、まさしく蝶番(hinge)の役割を行うと報告されている。本発明者らは、組み換えヒトタンパク質HAPLN1(rhHAPLN1:recombinant human HAPLN1)が、その蝶番型リンク機能を介し、実際にそのパートナー分子であるHMWHA:high molecular weight HA)と、アグレカン(aggrecan(プロテオグリカン(proteoglycanの一種))の分解を抑制することにより、損傷関連分子模型(DAMPs:damage-associated molecular patterns)物質として、LMWHA:low molecular weight HA)または32-merペプチドの生成を低減させうるということを証明している。
筋線維芽細胞(myofibroblast)は、線維性疾患において、コラーゲンのような線維組織を過多に形成する主要細胞である。そのような筋線維芽細胞は、特徴的には、αSMA(α smooth muscle actin)の発現を示し、従って、αSMA発現程度は、筋線維芽細胞の発現程度を知ることができる重要指標になる。実際、特発性肺線維症、腎臓線維化症のような多様な線維性疾患において、αSMAを発現する筋線維芽細胞が増加しており、インビボ(in vivo)線維化モデルにおいて、やはりαSMA発現増大が報告されている。そのような筋線維芽細胞は、主に、線維芽細胞(fibroblast)に由来し、それ以外に、内皮細胞(endothelial cell)、上皮細胞(epithelial cell)、幹細胞(stem cell)などにも由来すると報告されている(The American Journal of Pathology, 2007, 170 (6): 1807-1816)。肝線維化の場合には、肝星状細胞(stellate cell)が活性化され、コラーゲンなどの線維組織を過多に形成する役割を行う、肝星状細胞の活性化時にも、αSMA発現が増大し、それを肝星状細胞の活性化指標にしている(Cells 2019, 8 (11), 1419)、1419)。
【0008】
筋線維芽細胞の分化(あるいは、肝星状細胞の活性化)誘導因子として、最もよく知られた因子は、TGFβ1であり、それ以外にも、硬い(stiff)環境の機械的ストレス(mechanical stress)が筋線維芽細胞の分化要因として報告されている(The American Journal of Pathology, 2007 170 (6): 1807-1816)。従って、多様な細胞において、TGFβ1により、αSMA発現を誘導することをインビトロ(in vitro)線維化モデルに使用しており、誘導されたαSMA発現を低減させる活性につき、抗線維化効能と判断している(Molecular Medicine 2021 27: 22)。
【0009】
肺線維化症に対する有効性を証明するために、現在まで多様な動物モデルが樹立されているが、最も広く公認されて使用されているモデルは、「吸入ブレオマイシン(BL:bleomycin)誘導肺線維症(BIPF:bleomycin-induced pulmonary fibrosis)マウスモデル」である。本来、ブレオマイシンは、抗癌剤として、またはいぼ治療に使用されてきたが、1998年、デービスカリフォルニア大学獣医大のGiri教授研究チームが樹立した3回気管支吸入ハムスターモデル(a three-dose bleomycin(BL)-hamster model)(Iyer 1998)、2008年、Okuらが樹立した、ブレオマイシンマウス静脈1日1回5日間連続投与するモデル(Oku 2008, European Journal of Pharmacology 590; 400-408)、そして最近Songら(EXPERIMENTAL AND THERAPEUTIC MEDICINE 16: 1800-1806, 2018)は、ラットモデルにおいて、ブレオマイシンを1回気管支経路で投与したすぐ翌日から許可された薬物であるピルフェニドン(PFD:pirfenidone)を1日1回経口で、14回または28回投与するモデルを樹立し、成功裏に肺線維症を誘発させ、当該薬物の効能と共に、いくつかのメカニズムを研究した。その結果、14日目、28日目のグループにおいて、ブレオマイシンによって増大したペリオスチン(periostin)とTGFβ1とのレベルが低下したことを報告している(Song 2018)。
【0010】
実際、そのようなIPFマウスモデルを利用し、唯一販売許可を受けたIPF治療剤は、現在、ただ2錠だけであるが、そのうちの一つであるピルフェニドン(PFD:商品名Pirespa)は、塩野義製薬会社(Shionogi & Co., Ltd.)が、日本で最初に2008年、引き続いて、ヨーロッパ連合において、2011年、カナダにおいて、2012年、米国において2014年、それぞれ許可承認がなされた。他の1つのニンテダニブ(nintedanib)は、商品名Ofevまたは商品名Vargatefとして、最近、2020年3月、米国で許可された肺線維化症治療剤である。ピルフェニドン(PFD:pirfenidone)を開発したOkuら(Oku 2008)によれば、マウスにブレオマイシンを毎日連続5回静脈投与(IV:intravenous injection)すれば、投与開始10日目ごろ、炎症反応(inflammation)が最高潮に達した後、だんだんと炎症反応は低減され、また投与開始後の約8~9日目からは、線維化(fibrosis)がだんだんと進行することを明らかにしている。
【0011】
さらに具体的には、前記研究チームは、候補薬物であるピルフェニドンの肺線維化症効能を調べるためには、ブレオマイシン投与の初日(day 0)のすぐ翌日(day 1)から、10日間または28日間、毎日3回それぞれ投与した後、その治療効能をそれぞれ調べた。Okuら研究チームによれば、このとき、抗炎症副腎皮質ホルモン(corticosteroid)製剤の一種であるプレドニゾロン(prednisolone)を同時に処理した群においては、炎症関連バイオマーカーのレベルは低減されたが、抗線維症効能の尺度であるTGFβ1のレベル低下は、見られなかった。従って、そこから推論すれば、線維化過程において、炎症の役割は、決定的ではないだけではなく、ブレオマイシン投与直後、逸早い炎症反応が始まり、初期薬物投与によっても、その後、だんだんと進行する線維化過程を遅延させたり弱化させたりしうるという結論を下している。
【0012】
なお、du Boisらも、Okuらの発表以後、2年後の2010年に発表した論文において、類似した結論を下している(du Bois, R. M. Strategies for treating idiopathic pulmonary fibrosis、 Nature Rev. Drug Discov, 2010, 9, 129-140)。
【0013】
本発明者らは、そのような文献的根拠を介し、前述のようなTGFβ1誘導線維性疾患細胞モデル及びブレオマイシン誘導肺線維症マウスモデル(BIPF)などを利用し、HAPLN1タンパク質組成物が、非常に低い濃度においても、多様な組織の線維化症を予防して治療するすぐれた効能を示すという点を見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
HAPLN1と係わり、例えば、米国公開特許US2013/0052198には、骨髄間質細胞(MSC:marrow stromal cell)によって分泌される広範囲な個別因子のうち一つとして、HAPLN1ポリペプチドを開示しながら、それを炎症性疾患個体に投与するとき、その疾患の特徴を弱化させうるということを示唆している。しかしながら、各種組織において、線維化を予防または治療する作用については、全く言及されていない。
【0015】
生体内の細胞において、異常に過度に生じる線維化を、直接予防ないし抑制することができるならば、線維化自体が発病原因として作用したり、当該線維化作用がすでに発病した疾患の進行を促進したりする各種疾患に対し、有効な対備策になるものであり、それを求める要求は、常時存在しているのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む線維性疾患の予防用及び治療用の組成物、それを利用した、線維性疾患の予防方法及び治療方法を提供する。
【0017】
また、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む試薬組成物を提供することにより、前記疾患研究時に使用され、当該疾患のメカニズムを究明し、関連疾患の予防組成物または治療組成物を開発するのに貢献するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために本発明は、以下のような発明の態様を提供する。
【0019】
[1]本発明の一態様は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む、線維性疾患の予防用または治療用の薬学的組成物に係わるものである。
[2]また、本発明の一態様は、前記組成物のタンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列に対し、80%以上の配列同一性を有するものである組成物に係わるものである。
[3]また、本発明の一態様は、前記組成物中の前記遺伝子に係わる核酸が、発現ベクター内に含まれているものである組成物に係わるものである。
[4]また、本発明の一態様は、前記線維性疾患の病巣が、皮膚、肝臓、腸、心臓、肺及び腎臓によってなる群のうちから選択されるものである組成物に係わるものである。
[5]また、本発明の一態様は、前記線維性疾患の病巣が、皮膚線維芽細胞、肝星状細胞、結腸線維芽細胞、心臓末梢の血液内皮細胞、肺線維芽細胞、腎臓腎細管細胞及び腎臓近位細尿管上皮細胞によってなる群のうちから選択されるものである組成物に係わるものである。
[6]また、本発明の一態様は、前記線維性疾患が、虚血性線維化症である組成物に係わるものである。
[7]また、本発明の一態様は、前記組成物の1回投与量が、0.1ng/mlないし500ng/mlである組成物に係わるものである。
[8]また、本発明の一態様は、前記前記組成物が、インビボ(in vivo)での投与時、0.001ないし5mg/kgBWのrhHAPLN1タンパク質の用量で投与されるものである組成物に係わるものである。
[9]また、本発明の一態様は、前記組成物が、細胞の線維化症を予防または抑制するための組成物の主要有効成分または補助有効成分として含まれるものである組成物に係わるものである。
[10]なお、本発明のさらに他の態様は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む組成物を細胞に処理することにより、細胞の線維化を予防または抑制する方法に係わるものである。
[11]さらには、本発明のさらなる態様は、項目[1]ないし項目[9]のうち、ある1項目による組成物、及び項目[10]の方法による処理のための指針を含む、細胞の線維化の予防用または抑制用のキットに係わるものである。
[12]さらには、本発明のさらなる態様は、項目[1]ないし項目[9]のうち、ある1項目による組成物を含む、細胞の線維化の予防または抑制と係わる実験用試薬組成物に係わるものである。
【発明の効果】
【0020】
前述のように、本発明の組成物及び方法によれば、細胞の線維化を予防及び抑制することにより、細胞の線維化が介入して誘発する各種疾患の発生または進行を根本的に抑制することになり、当該疾患を予防ないし治療することができる可能性を画期的に高める。すなわち、老化、及び喫煙のような環境的要因によって引き起こされる組織再生・修復能の低下によって生じる、各組織で生じる線維化症を予防または治療することができる。
【0021】
前述の本発明の組成物は、既存の線維性疾患治療薬物による副作用が少なく、世界的な高齢化趨勢と共に、毎年増加している線維性疾患に対し、安全であって効果的に対処しうる。
【0022】
また、本発明によれば、前述の本発明の組成物を利用することにより、線維化による疾患を予防ないし治療する方法も提供しうる。
【0023】
また、本発明の試薬組成物は、細胞の線維化に係わる各種疾患研究時に使用され、当該疾患のメカニズムを究明し、当該疾患の予防組成物または治療組成物を開発するのに一助となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:normal human dermal fibroblast)を試料にし、皮膚線維化に対する本発明の組成物の抗線維化作用を示す、ウェスタンブロットのタンパク質バンド写真である。本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量が、ウェスタンブロットバンドの強度に示されている。
【
図1B】
図1Aのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図2A】ヒト肝星状細胞(HHSC:human hepatic stellate cell)を試料にし、肝線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図2B】
図2Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図2C】
図2Aのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図3A】ヒト結腸線維芽細胞株(CCD-18Co:human colon fibroblast cell line)を試料にし、腸線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図3B】
図3Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図3C】
図3Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図4A】ヒト心臓末梢の血液内皮細胞(HCMEC:human cardiac microvascular endothelial cell)を試料にし、心臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図4B】
図4Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図4C】
図4Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図5A】正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF:normal human lung fibroblast)を試料にし、皮膚線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を示すウェスタンブロットバンド写真である。本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量が、ウェスタンブロットバンドの強度として示されている。
【
図5B】
図5Aのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図6A】ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、腎臓線維化に対する、本発明組成物の線維化予防作用を評価するための実験計画図である。
【
図6B】
図6Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図6C】
図6Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図7A】ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、腎臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図7B】
図7Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図7C】
図7Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図8A】ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、TGFβ1誘導によるHK-2細胞の線維化形態変化における、rhHAPLN1の効能を評価するための実験計画図である。
【
図8B】
図8Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度による細胞の形態変化を示す顕微鏡写真である。
【
図9A】腎臓近位細尿管上皮細胞(RPTEC:renal proximal tubule epithelial cell)を試料にし、老化誘導によって示される線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を示すウェスタンブロットバンド写真である。11継代培養細胞につき、本発明組成物の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量が、ウェスタンブロットバンドの強度として示されている。
【
図9B】
図9Aで提示されるウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明組成物の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図10A】4継代培養時及び11継代培養時、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色して細胞の核を観察し、αSMA抗体(ab7817(Abcam))を、1:1000に、1X PBST(1X PBS with 0.1% Triton X-100,1% BSA)によって希薄し、細胞内αSMAを染色することにより、その発現程度を蛍光で示す写真である。
【
図10B】対照群として、4継代培養時、及び老化が誘導された11継代培養時、本発明組成物の多様な濃度及びピルフェニドン(pirfenidone)処理による、相対的な細胞のαSMAのレベルを蛍光で示す写真である。
【
図11A】BioMAP Fibrosis panelを利用し、rhHAPLN1の抗線維化マーカーに係わる影響を確認した実験であり、肺線維症(lung fibrosis)疾患モデルであるSAEMyoFシステムにおける、本発明の組成物(rhHAPLN1)が、濃度別に、αSMA及びコラーゲンIに対する有意的な低減効果を、ビヒクル対照群に対比させ、相対的倍数(fold change)で示したグラフである。
【
図11B】BioMAP Fibrosis panelを利用し、rhHAPLN1の抗線維化マーカーに係わる影響を確認した実験であり、腎臓線維症(kidney fibrosis)疾患モデルであるREMyoFシステムにおける、本発明組成物(rhHAPLN1)の、濃度別コラーゲンIに対する有意的な低減効果を、ビヒクル対照群に対比させ、相対的倍数で示したグラフである。
【
図11C】BioMAP Fibrosis panelを利用し、rhHAPLN1の抗線維化マーカーに係わる影響を確認した実験であり、筋線維芽細胞(myofibroblast)における、本発明組成物(rhHAPLN1)の、濃度別コラーゲンIVに対する有意的な低減効果を、ビヒクル対照群に対比させ、相対的倍数で示したグラフである。
【
図12A】マウスブレオマイシン誘導肺線維化症(BIPF:bleomycin-induced pulmonary fibrosis)モデルを利用した、本発明組成物の抗線維化効能(線維性疾患の予防能)を評価するための実験概要について説明する図である。
【
図12B】
図12Aのマウスブレオマイシン(bleomycin)誘導肺線維化症モデルを利用した実験において、マウスを4個の群(マウス1ないしマウス4)に分け、正常(normal)群は、PBSで処理し、対照群(control)は、いかなる処理もせず、それに対し、本発明の組成物(rhHAPLN1)0.0005%(w/w)、本発明の組成物(rhHAPLN1)0.0015%(w/w)をそれぞれ処理し、群当たり4匹のマウスの肺組織を摘出した後、左側の大きい肺葉を横に半分を切り、上部をホルマリンに入れて固定し、ヘマトキシン及びエオジン(H&E)染色を行った写真である。
【
図12C】マウス左側の最も大きくなった肺葉の肺組織の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個の部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、「Image J」ソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得て、統計的有意性を確認したグラフである。
【
図12D】肺線維化症の重症度を肉眼で簡単に測定することができる公式的な指針として提供されるAshcroft点数に係わる写真である(Ashcroft et al 1988, J Clin Pathol 41:467-470)。
【
図12E】肺線維化症の重症度を肉眼で簡単に測定することができる公式的な指針として提供されるAshcroft点数に係わる説明である(Ashcroft et al 1988, J Clin Pathol 41:467-470)。
【
図13A】マウスブレオマイシン誘導肺線維化症(BIPF:bleomycin-induced pulmonary fibrosis)モデルを利用した、本発明組成物の抗線維化効能(線維性疾患の処理能)を評価するための実験概要について説明する図である。
【
図13B】
図13Aのマウスブレオマイシン(bleomycin)誘導肺線維化症モデルを利用した実験において、マウスを4個の群(正常群、PBS対照群、0.00075%(w/w) rhHAPLN1、0.0015%(w/w) rhHAPLN1、0.003%(w/w) rhHAPLN1)に分け、群当たり4匹に設定して実験した後、群当たり4匹のマウスの肺組織を摘出した後、左側の大きい肺葉を横に半分を切り、上部をホルマリンに入れて固定し、ヘマトキシン及びエオジン(H&E)染色を行った写真である。
【
図13C】マウス左側の最も大きくなった肺葉の肺組織の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個の部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、「Image J」ソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得て、統計的有意性を確認したグラフである。
【
図13D】マウス左側の最も大きくなった肺葉の肺組織の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個の部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、「Image J」ソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得て、統計的有意性を確認したグラフである。
【
図13E】
図13Cの結果と係わり、肺線維化症の重症度をAshcroft点数で示した実験結果に係わるグラフである。
【
図14A】腎臓線維化誘発動物モデル実験であり、虚血/再灌流(ischemia/reperfusion)を利用し、腎臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図14B】
図14Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の投与によるαSMAタンパク質の発現程度を示すウェスタンブロットのタンパク質バンド写真である(SV:sham-ビヒクル、SB:sham-rhHAPLN1-dissolving solutionであり、Sham-rhHAPLN1 dose Bであり、Sham対照群をrhHAPLN1で処理したとき、いかなる影響が示されるかということを確認するための群、IRV:IR-ビヒクル、IRP:IR-ピルフェニドン(pirfenidone)、IRA:IR-rhHAPLN1 dose A、IRB:IR-rhHAPLN1 dose B、IRC:IR-rhHAPLN1 dose C)。
【
図14C】
図14Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、IRVに対するαSMAの発現レベルを倍数(fold)変化で示すグラフである。
【
図14D】急性腎臓損傷誘発モデルにおいて、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、コラーゲンの発現程度を、シリウスレッド& PAS染色の写真で示した写真である。紫色は、コラーゲン発現を示している。
【
図14E】急性腎臓損傷誘発モデルにおいて、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、コラーゲンの発現程度を定量化するために、組織染色でもって、腎臓の外髄質部(outer medulla)部位における2ヶ所をランダムにイメージング化した後、コラーゲン陽性部位のみを示す写真である。
【
図14F】
図14Eにおけるコラーゲン陽性部位をマーキングし、コラーゲンの面積(%)をi-solution software(IMT)を活用することによって数値化して示したグラフである。
【
図14G】急性腎臓損傷誘発モデルにおいて、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、クレアチニン掃除率(creatinine clearance)を、虚血/再灌流後21日目に測定し、その数値を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本明細書で示される各種用語を、以下のように定義しうる。
【0026】
本発明の明細書において、「rhHAPLN1」は、recombinant human HAPLN1の略語であり、組み換えヒトHAPLN1を示す。
【0027】
本発明の明細書において、「線維芽細胞(fibroblast)」は、上皮性、血管、リンパ管、炎症細胞ではないコラーゲン線維などの結合組織を作り、組織構造の維持に関与する細胞を意味する。
【0028】
本発明の明細書において、「筋線維芽細胞(myofibroblast)」は、物理的な傷や炎症などによって活性化され、α-SMA(alpha-smooth muscle actin)を発現し、平滑筋細胞のように収縮機能を有することになった線維芽細胞を意味する。
【0029】
本発明の明細書において、「αSMA」または「α-SMA(alpha-smooth muscle actin)」は、病的状態の血管平滑筋細胞(vascular smooth muscle cell)、基質線維芽細胞(stromal fibroblastic cell)において発現されるタンパク質であり、組織の線維化で示される主要マーカーである。腎臓線維化症の所見を示す腎臓で発現が高く示され、そのように高く示される発現量ないし活性は、間質線維症(interstitial fibrosis)の程度と密接な関連性がある筋線維芽細胞(myofibroblast)の活性が高いということを意味する。また、患者からのSMAの発現は、腎臓のクレアチン掃除率の低下と密接な関連性があるので、体内老廃物であるクレアチンが消去されないことを確認することができるマーカーとして機能する。
【0030】
本発明の明細書において、「転換成長因子ベータ1(TGFβ1またはTGF-β1)」は、本発明に係わる多様な実施例において、線維芽細胞を筋線維芽細胞に変化させるために使用されるサイトカインを意味し、細胞別転換用量は、異なる。一般的に、線維芽細胞が筋線維芽細胞に変化するには、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、ホルモンのような多様な生理活性物質が関与する。
【0031】
本発明の明細書において、「ピルフェニドン(pirfenidone)」は、肺線維化症治療剤として承認され、腎臓線維化症の治療剤として、臨床で進行中である抗線維化薬物である。本発明の実施例の実験においては、対照物質として使用された。細胞ごとに、有効用量が異なりうるが、関連文献上、100μg/mL以上から効力を示すと報告されている。
【0032】
以下、本発明について詳細に記述する。
【0033】
本発明の一態様は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む、抗線維化組成物に係わるものである。それは、線維性疾患の予防用または治療用の薬学的組成物として機能しうる。
【0034】
また、本発明の一具体例によれば、前記本発明の組成物において、配列番号1で示される組み換えヒトHAPLN1タンパク質でもある。それと係わり、本発明のHAPLN1タンパク質は、抗線維化機能を維持する限り、配列番号1のアミノ酸配列に対し、80%、望ましくは、85%、さらに望ましくは、90%、さらに一層望ましくは、95%、最も望ましくは、100%の配列同一性を有するタンパク質でもある。
【0035】
また、本発明の一具体例によれば、前記本発明の組成物中のHAPLN1タンパク質をコーディングする遺伝子に係わる核酸は、発現ベクター内に含まれ、前記組成物中に含まれるものでもある。
【0036】
また、本発明において、本発明の組成物が作用する前記細胞は、特別に限定されるものではないが、望ましくは、各種の線維芽細胞、星霜細胞、内皮細胞及び上皮細胞などを挙げることができ、さらに具体的には、皮膚線維芽細胞、肝星状細胞、ヒト結腸細胞、末梢の血液内皮細胞、肺線維芽細胞、腎臓腎細管細胞及び近位細尿管上皮細胞などであり、インビボ(in vivo)、インビトロ(in vitro)、エクスビボ(ex vivo)、インサイチュ(in situ)のような多様な状況における細胞を含む。また、適用される器官としては、線維化が誘発される可能性がある器官であるならば、特別に限定されるものではないが、望ましくは、肺、腎臓、皮膚、肝臓、腸、心臓などを挙げることができる。
【0037】
また、本発明の一具体例によれば、前記本発明の組成物は、細胞に対する1回投与量が、0.1ng/mlないし500ng/ml、望ましくは、1ng/mlないし300ng/ml、さらに望ましくは、3.0ng/mlないし50ng/ml、さらに一層望ましくは、10ng/mlないし13ng/mlである。ただし、適用される部位または場合により、さらに特定的には、3,5,11,30,50または100ng/mlでもある。
または、本発明の一具体例によれば、前記本発明の組成物は、細胞に対する1回投与量が、0.00001ないし0.1%(w/w)、望ましくは、0.0001ないし0.05%(w/w)、さらに望ましくは、0.0003ないし0.03%(w/w)、さらに一層望ましくは、0.0005ないし0.015%(w/w)である。
【0038】
なお、本発明の一具体例においては、前記本発明の組成物が、細胞の線維化作用を予防または抑制するための組成物の主要有効成分または補助有効成分として含まれるものでもある。
【0039】
さらには、本発明の一態様によれば、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)、またはそれをコーディングする遺伝子を有効成分として含む組成物を細胞に処理することにより、細胞の線維化を予防または抑制する方法に係わるものである。
【0040】
また、本発明の一態様によれば、前記本発明の組成物及び処理指針を含む細胞の線維化の予防用または抑制用のキットに係わるものである。
【0041】
また、本発明の一態様によれば、前記本発明の組成物を含む、細胞の線維化の予防または抑制と係わる実験用試薬組成物に係わるものである。
【0042】
さらには、本発明は、細胞の線維化が誘発する疾患の予防用または治療用の薬学的組成物の製造に使用するための前記本発明組成物の使用に係わるものである。
【0043】
特定具体例において、前記薬学的組成物は、一般的に、分子学的及び薬剤学的に許容される担体を含むものでもある。本明細書で使用された用語「薬剤学的に許容される担体」は、薬学的投与と両立可能な食塩水、溶媒、分散媒質、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤などを含む。補充活性化合物もまた、組成物に含まれるものでもある。言い換えれば、本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、及びそれらの任意の組み合わせによってなる群のうちから選択された薬学的添加剤をさらに含むものでもある。
【0044】
前記薬学的組成物は、意図された投与経路と両立されるように、剤形化されうる。望ましくは、本発明の組成物は、点眼液、軟膏、錠剤、丸薬、カプセル、トローチ剤、吸入剤、注射剤、パッチ剤、坐薬によってなる群のうちから選択される剤形でもある。
【0045】
投与経路の例は、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜及び直腸への投与を含む。望ましくは、非経口投与用途である。
【0046】
非経口、皮内または皮下の適用に使用される溶液または懸濁液には、以下の成分が含まれるものでもある:注射用水、食塩水、固定オイル、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他合成溶媒のような滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムのような抗酸化剤;エテチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤;アセテート、シトレートまたはホスフェートのような緩衝液;及び塩化ナトリウムまたはデキストロースのような緊張性調節製剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムのような、酸または塩基でもって調整しうる。非経口製剤は、アンプル、一回使用注射器、あるいはガラスまたはプラスチックで作られた多回用量バイアルに入れることができる。
【0047】
注射用に適する前記薬学的組成物は、滅菌された注射用溶液または分散液の即席製造(extemporaneous preparation)のための滅菌水溶液(水溶性の場合)、あるいは分散液及び滅菌粉末を含む。静脈内投与に適する担体は、生理食塩水、静菌水またはリン酸塩緩衝食塩水(PBS)を含む。全ての場合に、組成物は、無菌ではなければならず、注射が容易でるほどに流動的でなければならない。製造条件下及び保管条件下において、安定していなければならず、バクテリア及びかびのような微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコールなど)、並びにそれらの適する混合物を含む溶媒または分散媒質でもある。例えば、レシチンのようなコーティング使用の場合、分散の場合、必要な粒子サイズの維持、及び界面活性剤の使用により、適切な流動性が維持されうる。微生物作用の予防は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールのような多様な抗菌剤及び抗真菌剤によって達成されうる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖、マンニトールのようなポリアルコール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物に含めることが望ましいのである。注射可能な組成物の長期間吸収は、吸収を遅延させる製剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に含めることによって図ることができる。
【0048】
滅菌注射用溶液は、必要により、前述の列挙された成分の1つ、またはそれら組み合わせと共に、適切な溶媒に必要な量の活性化合物を混入させた後、濾過滅菌することによって製造されうる。一般的に、分散液は、活性化合物を基本分散媒質と、前述のところで列挙された他の必要成分を含む滅菌ビヒクルとに統合して製造される。滅菌注射溶液の製造のための滅菌粉末の場合、望ましい製造方法は、真空乾燥及び凍結乾燥であり、活性成分の粉末と、以前に滅菌濾過された溶液とから、所望する任意の追加成分を生成する。
【0049】
経口組成物は、一般的に、不活性希釈剤または食用担体を含む。経口治療投与の目的のために、活性化合物は、賦形剤と混入され、錠剤、トローチまたはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルの形態で使用されうる。口腔用組成物は、また口腔洗浄剤として使用するための流体担体を使用して製造されうる。薬剤学的に適する結合剤及び/または補助剤の物質が組成物の一部として含まれるものでもある。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分、または類似した性質の化合物のうち、任意のものを含むものでもある:バインダー、例えば、微細結晶質セルロース、トラガカントガムまたはゼラチン;澱粉またはラクトースのような父兄剤、アルギン酸、プリモゲルまたはとうもろこし澱粉のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステロテスのような潤滑剤;コロイド性二酸化ケイ素のような滑沢剤;スクロースまたはサッカリンのような甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料のような香料。
【0050】
吸入による投与のために化合物は、適切な推進剤、例えば、二酸化炭素のようなガス、またはネブライザーを含む圧力容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレーの形態で伝達される。
【0051】
全身投与は、また経粘膜または経皮の手段によってもなされる。経粘膜投与または経皮投与の場合、侵透する障壁に適する浸透剤が剤形に使用される。そのような浸透剤は、一般的に、当該技術分野に公知されており、例えば、経粘膜投与用のもの、洗剤、胆汁塩及びフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、鼻腔スプレーまたは坐薬を使用しても行われる。経皮投与のための活性化合物は、当該技術分野に一般的に知られえいるところのように、軟膏、膏薬、ゲルまたはクリームに剤形化される。
【0052】
化合物は、また坐薬(例えば、ココアバター、及びその他グリセリドのような一般的な坐薬ベースと共に)、または直腸伝達のための滞留浣腸の形態に製造されうる。
【0053】
細胞培養分析及び動物研究で得られたデータは、ヒトに使用するための多様な用量を剤形化することに使用されうる。そのような化合物の投与量は、望ましくは、毒性がほとんどないか、あるいは全くないED50を含む循環濃度範囲内にある。投与量は、使用される投与形態、及び使用される投与経路により、この範囲内においても異なる。
【0054】
本発明組成物の治療的有効量(すなわち、有効投与量)は、選択された患者の状況によって異なる。例えば、約1pgないし1,000mg範囲の単一用量が投与されうる;一部具体例において、10,30,100または1,000pg、10,30,100または1,000ng、10,30,100または1,000μg、あるいは10,30,100または1,000mgが投与されうる。
【0055】
さらには、本発明の一具体例によれば、前記本発明の組成物を生体に対し、直接インビボ(in vivo)での投与時、rhHAPLN1タンパク質の用量は、0.001ないし10mg/kg/BW、望ましくは、0.004ないし5mg/kg/BW、さらに望ましくは、0.1ないし1.0mg/kg/BW、さらに一層望ましくは、0.15ないし0.5mg/kg/BWである。
【0056】
または一部具体例において、1ng/mlないし100μg/ml、望ましくは、3ng/mlないし50μg/ml、さらに望ましくは、5ng/mlないし500ng/ml、特に望ましくは、10ng/mlないし200ng/mlの薬学的組成物が投与されうる。前記薬学的組成物は、1日1回以上から、1週間に1回以上投与され、隔日に1回ずつを含む。熟練された技術者であるならば、個体を効果的に治療するために、必要な用量及び時期に、特定要因が影響を及ぼしうることを認識するものであるが、それには、疾病または障害の重症度、以前の治療、個体の一般的な健康、及び/または年齢、並びにその他既存疾患を含むが、それらに制限されるものではない。さらに、本発明の分子の治療的有効量でもって個体を治療することは、単一治療を含むものでもあるか、あるいは望ましくは、一連の治療を含むものでもある。
【0057】
本発明の組成物は、患者の状況により、その投与量が、5mg/kg/週ないし500mg/kg/週、例えば、5mg/kg/週、10mg/kg/週、15mg/kg/週、20mg/kg/週、25mg/kg/週、30mg/kg/週、35mg/kg/週、40mg/kg/週、45mg/kg/週、50mg/kg/週、55mg/kg/週、60mg/kg/週、65mg/kg/週、70mg/kg/週、75mg/kg/週、80mg/kg/週、85mg/kg/週、90mg/kg/週、95mg/kg/週、100mg/kg/週、150mg/kg/週、200mg/kg/週、250mg/kg/週、300mg/kg/週、350mg/kg/週、400mg/kg/週、450mg/kg/週及び500mg/kg/週の範囲内にある。特定具体例において、本発明による二重作用性分子の投与量は、10mg/kg/週ないし200mg/kg/週、20mg/kg/週ないし150mg/kg/週、または25mg/kg/週ないし100mg/kg/週の範囲内にある。特定具体例において、本発明の組成物は、2週ないし6ヵ月、例えば、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、12週、13週、26週、6ヵ月、8ヵ月、10ヵ月または1年以上間、1週当たり、1x回投与される。特定具体例において、本発明の組成物は、1週当たり、2x回投与される。他の具体例において、本発明の組成物は、1週間おきに投与される。
【0058】
本発明の組成物は、薬理学的有効量のHAPLN1タンパク質分子、及び薬剤学的に許容される担体を含む薬学的組成物にも剤形化することができる。薬理学的または治療学的な有効量は、意図された薬理学的、治療的または予防的な結果を生成するのに効果的な含量を意味する。「薬理学的有効量」及び「治療学的有効量」、または簡単に「有効量」という語句は、意図された薬理学的、治療的または予防的な結果を生成するのに効果的な二重作用性分子の量を称する。例えば、与えられた臨床治療が、疾病または障害と係わる測定可能な媒介変数が、20%以上低減されるとき、効果的であると見なされるならば、その疾病またはその障害を治療するための薬物の治療的有効量は、当該媒介変数を最小20%低減させるのに必要な量である。
【0059】
本発明の適切に剤形化された薬学的組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、直腸、膣及び局所(頬側及び舌下を含む)の投与を含む非経口経路のような、当該技術分野に公知された任意の手段によって投与されうる。一部具体例において、薬学的組成物は、静脈内注入または非経口注入、あるいは注射によって投与される。
【0060】
一般的に、分子の適切な投与量単位は、1日当たり、受容者の体重kg当たり0.001ないし0.25mgの範囲、1日当たり、体重1kg当たり0.01ないし20mgの範囲、1日当たり、体重kg当たり0.01ないし10mgの範囲、1日体重1kg当たり0.10ないし5mgの範囲、または1日当たり、体重kg当たり0.1ないし2.5mgの範囲である。分子を含む薬学的組成物は、1日1回投与することができる。しかしながら、治療剤は、また1日において、適切な間隔に投与される2,3,4,5,6、またはそれ以上の下位用量を含む投与単位で投与することができる。投与単位はまた、例えば、数日期間にかけ、分子の持続的であって一貫された放出を提供する一般的な持続放出剤形を使用し、数日にかけ、単一用量に配合されうる。該持続放出剤形は、当該技術分野に周知されている。該具体例において、投与量単位は、1日投与量に適する倍数を含む。
【0061】
前記薬学的組成物は、投与指針と共に、キット、容器、パックまたはディスペンサーに含まれるものでもある。
【0062】
本明細書に使用された「治療」または「治療する」は、疾病または障害、疾病または障害の症状、または疾病に対する素因に対し、治療、治癒、緩和、軽減、変更、救済、改善、改良または影響を与えるための目的で、患者に治療剤(例えば、本発明の分子)の適用または投与、あるいは単離された組織または細胞株に対する治療剤の適用または投与と定義されるが、前記患者は、疾病または障害、疾病または障害の症状、または疾病または障害に対する素因を有しているのである。
【0063】
またさらには、本発明の一態様は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)を有効成分として含む組成物を、細胞の線維化作用に対する予防または抑制に利用する用途に係わるものである。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を介し、本発明についてさらに詳細に説明するが、下記の実施例は、単に説明の目的のためのものであり、本願発明の範囲を限定するものではない。
【0065】
[製造例1]
ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの連結タンパク質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein1)の製造
アミノ酸配列番号1のヒトHAPLN1タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含むベクターをCHO-K1細胞に挿入し、組み換えヒトHAPLN1タンパク質を生産するCHO-K1細胞株を作製した。
【0066】
前記アミノ酸配列番号1は、以下のとおりである:
【0067】
【0068】
タンパク質の生産量及び品質がすぐれた細胞株をMCB(master cell bank)として選定した。前記MCBを継代培養し、0.40±0.05×106cells/mLの濃度で、Thermo社のHyperforma SUB 250Lバイオリアクターに接種し、流加培養(fed-batch culture)した。基本培地としては、22.36g ActiProTM培地+0.5846gグルタミン+10.00g HT Supplement(Thermo Fisher Scientific社)+4.29g 10N NaOH+1.80g NaHCO3を使用した。培養温度は、36.5℃に設定し、溶存酸素量(DO:dissolved oxygen)は、40.0%に設定し、pHは、7.00±0.20に設定した。pH調節溶液として、1M炭酸ナトリウム一水和物(sodium carbonate monohydrate)を使用した。供給培地(FM:feeding medium)としては、181.04g HyCloneTM Cell Boost 7a+12.28g 10N NaOHのFM020a、及び94.60g HyCloneTM Cell Boost 7b+105.93g 10N NaOHのFM020bを使用した。
【0069】
前述のところように培養された細胞から、組み換えヒトHAPLN1(rhHAPLN1)タンパク質を、回収(harvest and clarification)、限外濾過/透析濾過1(UF/DF1:ultrafiltration/diafiltration 1)、陰イオン交換クロマトグラフィー、S/D(solvent/detergent)ウイルス不活性化、陽イオン交換クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー(MMC:mixed-mode chromatography)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、限外濾過/透析濾過2(UF/DF2:ultrafiltration/diafiltration 2)及び中間深層濾過(Int.DF:intermediate depth filtration)のような過程を経て、分離及び精製した。以下の実施例においては、そのような本発明の組成物を利用した。
【0070】
[製造例2]
HAPLN1タンパク質を含む本発明組成物の製造
前記製造例1で精製されたHAPLN1タンパク質を、20mM酢酸緩衝液、8%(w/v)スクロース、0.04%(w/v) PS80(pH5.0)で安定化させ、HAPLN1タンパク質自体を主な有効成分として含む本発明の組成物を製造した。
【0071】
[製造例3]
HAPLN1タンパク質をコーディングする遺伝子を込めている発現ベクターを含む本発明組成物の製造
HAPLN1タンパク質をコーディングする遺伝子を込めている発現ベクターを含む組成物を、jetPRIME Transfection Reagent Kit(14-15製品(PolyPlus社1))を使用して製造した。さらに具体的には、RC209274製品(OriGene社)を使用し、ヒトHAPLN1を発現するように設計されたプラスミドベクターを製造した(以下、「Human HAPLN1 ORF Clone」とする)。それは、ホスト(host)細胞の核内において、自体が輸送する遺伝子を発現させうる。
【0072】
参照として、jetPRIME Transfection Reagent Kitは、jetPRIME緩衝液と、jetPRIME Transfection試薬とによってで構成され、jetPRIME緩衝液は、ホスト細胞に輸送するプラスミドベクターを希釈する用途であり、jetPRIME Transfection試薬は、プラスミドベクターを、小胞(vesicle)(リポソーム)形態に捕集し、ホスト細胞内に浸透されるように作用する。
【0073】
前記Human HAPLN1 ORF Cloneを、jetPRIME緩衝液によって希釈し、HAPLN1タンパク質をコーディングする遺伝子を込めている発現ベクターを含む本発明の組成物を製造した。
【0074】
それに対し、jetPRIME Transfection試薬を添加し、10分間放置しておき、プラスミドベクターが小胞(vesicle)(リポソーム)形態に捕集されるようにした後、培養中の細胞上に落とす。細胞を48時間以上培養した後、ヒトHAPLN1遺伝子発現増大を、Real-time qPCRで確認し、ヒトHAPLN1タンパク質発現増大をウェスタンブロットで確認した。
【0075】
[実施例1]
ヒト皮膚線維芽細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価
正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:normal human dermal fibroblast)を試料にし、皮膚線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を検証した。
【0076】
1.実験方法
(1)ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:normal human dermal fibroblast)を、6ウェルプレートに分注(seeding)(1.0X105cells/well)し、FBM-2(Fibroblast Growth Medium-2)(CC-3131(Lonza))培地内において、37℃,5% CO2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)無血清培地に交換した後、24時間インキュベーティングした。
(3)それに対し、TGFβ1(10ng/ml)で処理し、線維化を誘導した条件において、プレートの各ウェルに、本発明の組成物を、製造例2を基とするものの、rhHAPLN1タンパク質の含量0,3,10,30及び100ng/ml、並びに市販される抗線維化剤であるピルフェニドン(Selleckchem)の100μg/mL及び200μg/mLでそれぞれ処理した後、24時間インキュベーティングした。
(4)その後、それぞれのサンプルを、リン酸緩衝食塩水(PBS:phosphate buffered saline(pH7.2))で2回洗浄した後、ウェスタンブロットでもって、筋線維芽細胞のマーカーであるαSMAの発現程度を確認した。
【0077】
2.結果
図1Aにおいては、正常ヒト皮膚線維芽細胞が線維化される程度につき、αSMAタンパク質バンドの濃化と太さとから見て、本発明の組成物がピルフェニドンに比べ、はるかにすぐれた抗線維化作用を示すということを、ウェスタンブロットバンド写真から確認することができた。
【0078】
また、
図1Bにおいては、TGF1β(10ng/ml)でもって線維化を誘導した後、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物で処理した場合、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、有意にαSMAの発現レベルが低く示され、抗線維化効能を示している。特に、本発明組成物のうち、rhHAPLN1タンパク質含量100ng/mlのサンプルにおいて、最もすぐれた抗線維化効能を示しているが、それは、ピルフェニドン100μg/mL(100,000ng/ml)より1,000分の1含量にもかかわらず、抗線維化効能は、25%さらに高いという結果を示している。ピルフェニドンは、その200μg/mLが、その100μg/mLよりαSMAの発現レベルが高く示されるので、高濃度において抗線維化効能がかえってさらに落ち、その100μg/mLが、最適抗線維化濃度であると推測されうる。そうであるならば、本発明の組成物は、市販される抗線維化剤であるピルフェニドンに比べ、抗線維化効能にはるかにすぐれるということを知ることができた。
【0079】
[実施例2]
ヒト肝星状細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価
ヒト肝星状細胞(HHSC:human hepatic stellate cell)を試料にし、肝線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を検証した。
【0080】
1.実験方法
(1)
図2Aの実験計画により、ヒト肝星状細胞(primary HHSC(human hepatic stellate cell))(iXCells Biotechnologies,10HU-210))を6ウェルプレートに分注(seeding)(1.5X10
5cells/well)し、Stellate Cell Growth Medium(iXCells Biotechnologies,MD-0014)培地内において、37℃,5% CO
2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)無血清DMEM培地に交換した後、24時間インキュベーティングした。
(3)それに対し、TGFβ1(2ng/ml)で処理し、線維化を誘導し、24時間インキュベーティングした。
(4)その後、プレートの各ウェルに、本発明の組成物を、rhHAPLN1タンパク質の含量0,3,10,30及び100ng/ml、並びにピルフェニドンの100μg/mL及び200μg/mLでそれぞれ処理した後、24時間インキュベーティングした。
(5)その後、それぞれのサンプルに対し、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)で処理した後で回収(harvest)した。
(6)それに対し、ウェスタンブロットtingを進めた。ここで、一次抗体としては、抗αSMAAb(ab7817(Abcam))、抗GAPDHAb(sc-32233(Santa Cruz))を使用し、二次抗体としては、HRP-conjugated抗マウスIgGAb(#7076(CST))を使用し、αSMA及びGAPDHのタンパク質発現レベルを確認した。
【0081】
2.結果
図2Bにおいては、ヒト肝星状細胞が線維化される程度につき、αSMAタンパク質バンドの濃化と太さとから見て、本発明の組成物が、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、ピルフェニドンに比べ、はるかにすぐれた抗線維化作用を示すということを、ウェスタンブロットバンド写真から確認することができた。
【0082】
また、
図2Cにおいては、TGFβ1(2ng/ml)でもって線維化を誘導した後、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物で処理した場合、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、有意に肝星霜細胞活性マーカーとして、αSMAの発現レベルが低く示され、抗線維化効能を示している。特に、本発明組成物のうち、rhHAPLN1タンパク質含量3ng/mlのサンプルにおいて、最もすぐれた抗線維化効能を示しているが、それは、ピルフェニドン100μg/mL(100,000ng/ml)はもとより、それより高用量であるピルフェニドン200μg/mL(200,000ng/ml)より200,000分の3含量にもかかわらず、抗線維化効能は、はるかに高いという結果を示している。
【0083】
[実施例3]
ヒト結腸線維芽細胞株に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価
ヒト結腸線維芽細胞株(CCD-18Co:human colon fibroblast cell line)を試料にし、腸線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を検証した。
【0084】
1.実験方法
(1)
図3Aの実験計画により、ヒト結腸線維芽細胞株(CCD-18Co(human colon fibroblast cell line))(CRL-1459(ATCC))を6ウェルプレートに分注(seeding)(1.5X105cells/well)し、10%ウシ胎児血清(FBS)が含まれたEMEM(Eagle's Minimum Essential Medium)(ATCC)培地内において、37℃,5% CO
2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)無血清EMEM培地に交換した後、24時間インキュベーティングした。
(3)それに対し、TGF-β(10ng/ml)で処理し、線維化を誘導し、24時間インキュベーティングした。
(4)その後、プレートの各ウェルにおいて、本発明の組成物を、rhHAPLN1タンパク質の含量0,3,10,30及び100ng/ml、並びにピルフェニドン100μg/mL及び200μg/mLでそれぞれ処理した後、24時間インキュベーティングした。
(5)その後、それぞれのサンプルにつき、細胞溶解緩衝液で処理した後で回収した。
(6)それに対し、ウェスタンブロットを進めた。ここで、一次抗体としては、抗αSMAAb(ab7817(Abcam))、抗GAPDHAb(sc-32233(Santa Cruz))を使用し、二次抗体としては、HRP-conjugated抗マウスIgGAb(#7076(CST))を使用し、αSMA及びGAPDHのタンパク質発現レベルを確認した。
【0085】
2.結果
図3Bにおいては、ヒト結腸線維芽細胞が線維化される程度につき、αSMAタンパク質バンドの濃化と太さとから見て、本発明の組成物が、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、ピルフェニドンに比べ、はるかにすぐれた抗線維化作用を示すということを、ウェスタンブロットバンド写真から確認することができた。
【0086】
また、
図3Cにおいては、TGFβ1(10ng/ml)でもって線維化を誘導した後、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物で処理した場合、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、有意に筋線維芽細胞(myofibroblast)マーカーとしてのαSMAの発現レベルが低く示され、抗線維化効能を示している。参照として、腸線維化(intestinal fibrosis)において、線維芽細胞(myofibroblast)は、筋線維芽細胞において変異(transition)され、線維組織を過度に作り出す。
【0087】
特に、本発明組成物のうち、rhHAPLN1タンパク質含量10ng/mlのサンプルにおいて、最もすぐれた抗線維化効能を示しているが、それは、ピルフェニドン100μg/mL(100,000ng/ml)より10,000分の1含量にもかかわらず、TGFβ1によって誘導されたαSMAの程度が、rhHAPLN1は、71.6%阻害((3.82-1.8)/(3.82-1)*100)され、ピルフェニドンは、10.6%阻害((3.82-3.52)/(3.82-1)*100)されていると計算され、薬物同士の効能比較時、抗線維化効能は、約7倍高く、ピルフェニドン200μg/mL(200,000ng/ml)よりは20,000分の1含量にもかかわらず、抗線維化効能が、2倍よりはるかに高いということを示している。
【0088】
ピルフェニドンは、200μg/mLが、100μg/mLよりαSMAの発現レベルが高く示されるので、高濃度において、抗線維化効能がかえってさらに落ち、100μg/mLが、ピルフェニドンの最適抗線維化濃度であると推測することができる。そうであるならば、本発明の組成物は、市販される抗線維化剤であるピルフェニドンに比べ、抗線維化効能が卓越してすぐれるということを知ることができる。
【0089】
[実施例4]
ヒト末梢の血液内皮細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価
ヒト心臓末梢の血液内皮細胞(HCMEC:human cardiac microvascular endothelial cell)を試料にし、心臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を検証した。
【0090】
1.実験方法
(1)
図4Aの実験計画により、一次ヒト心臓末梢の血液内皮細胞(primary HCMEC(human cardiac microvascular endothelial cell))(#6000(ScienCell))を6ウェルプレートに分注(seeding)(5.7X10
4cells/well)し、内皮細胞培地(endothelial cell medium)(ScienCell)上において、37℃,5% CO
2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)それに対し、TGFβ1(5ng/ml)で処理し、線維化を誘導し、3日間インキュベーティングした。
(3)その後、プレートの各ウェルにおいて、本発明の組成物を、rhHAPLN1タンパク質の含量0,3,10,30及び100ng/ml、並びにピルフェニドン100μg/mL及び200μg/mLでそれぞれ処理した後、2日間インキュベーティングした。
(4)その後、それぞれのサンプルにつき、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)で処理した後で回収(harvest)した。
(5)それに対し、ウェスタンブロットtingを進めた。ここで、一次抗体としては、抗αSMAAb(ab7817(Abcam))、抗GAPDHAb(sc-32233(Santa Cruz))を使用し、二次抗体としては、HRP-conjugated抗マウスIgGAb(#7076(CST))を使用し、αSMA及びGAPDHのタンパク質発現レベルを確認した。
【0091】
2.結果
図4Bにおいては、ヒト心臓末梢の血液内皮細胞が線維化される程度につき、αSMAタンパク質バンドの濃化と太さとから見て、本発明の組成物が、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、ピルフェニドンに比べ、はるかにすぐれた抗線維化作用を示すということを、ウェスタンブロットバンド写真から確認することができた。
【0092】
また、
図4Cにおいては、TGFβ1(5ng/ml)でもって線維化を誘導した後、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物で処理した場合、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、有意に筋線維芽細胞(myofibroblast)マーカーとしてのαSMAの発現レベルが低く示され、抗線維化効能を示している。参照として、心臓線維化(cardiac fibrosis)において内皮細胞は、筋線維芽細胞に変異され、線維組織を過度に作り出す。
【0093】
特に、本発明組成物のうち、rhHAPLN1タンパク質含量3ng/mlのサンプルにおいて、最もすぐれた抗線維化効能を示しているが、それは、ピルフェニドン100μg/mL(100,000ng/ml)より100,000分の3含量にもかかわらず、ピルフェニドンで示されていない抗線維化効能が示され、ピルフェニドン200μg/mL(200,000ng/ml)よりは200,000分の3含量にもかかわらず、ピルフェニドンで示されていない抗線維化効能が示されている。
【0094】
ピルフェニドンは、そのどんな濃度で処理しても、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、αSMAの発現レベルが高く示されるので、心臓末梢の血液内皮細胞においては、抗線維化効能がかえってさらに落ちるということを知ることができる。そうであるならば、本発明の組成物は、少なくとも、心臓末梢の血液内皮細胞においては、ほとんど唯一の抗線維化製剤になりうるということを示唆する。
【0095】
[実施例5]
正常ヒト肺線維芽細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価
正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF:normal human lung fibroblast)を試料にし、肺線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を検証した。
【0096】
1.実験方法
(1)9継代培養した正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF)を6ウェルプレートに分注(seeding)(1.0X105cells/well)し、FBM-2(Fibroblast Growth Medium-2)(CC-3131(Lonza))培地内において、37℃,5% CO2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)無血清培地に交換した後、24時間インキュベーティングした。
(3)それに対し、TGFβ1(10ng/ml)で処理し、線維化を誘導した条件において、プレートの各ウェルにおいて、本発明の組成物を、rhHAPLN1タンパク質の含量0,3.1,12.5,25及び100ng/ml、並びにピルフェニドン(Selleckchem)100μg/mL及び200μg/mLでそれぞれ処理した後、24時間インキュベーティングした。
(4)その後、それぞれのサンプルをリン酸緩衝食塩水(PBS(pH7.2))で2回洗浄した後、ウェスタンブロットでもって、筋線維芽細胞のマーカーであるαSMAの発現程度を確認した。
【0097】
2.結果
図5Aにおいては、正常ヒト肺線維芽細胞が線維化される程度につき、αSMAタンパク質バンドの濃化と太さとから見て、本発明の組成物が、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、ピルフェニドンに比べ、はるかにすぐれた抗線維化作用を示すということを、ウェスタンブロットバンド写真から確認することができた。
【0098】
また、
図5Bにおいては、TGFβ1(10ng/ml)でもって線維化を誘導した後、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物で処理した場合、全てのrhHAPLN1タンパク質含量範囲において、有意に筋線維芽細胞(myofibroblast)マーカーとしてのαSMAの発現レベルが低く示され、抗線維化効能を示している。
【0099】
特に、本発明組成物のうち、rhHAPLN1タンパク質含量12.5ng/mlのサンプルにおいて、最もすぐれた抗線維化効能を示しているが、それは、ピルフェニドン100μg/mL(100,000ng/ml)より10,000分の1含量にもかかわらず、抗線維化効能は、約2倍高く、ピルフェニドン200μg/mL(200,000ng/ml)についても同様に、約2倍より高いということを示している。
【0100】
ピルフェニドンは、そのどんな濃度で処理しても、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、αSMAの発現レベルがほとんど差がないので、少なくとも、肺線維芽細胞においては、抗線維化効能がないということを知ることができる。そうであるならば、本発明の組成物は、肺線維芽細胞においては、ほとんど唯一の抗線維化製剤になりうるということを示唆する。
【0101】
[実施例6]
ヒト腎臓腎細管細胞に対する、本発明組成物の線維化予防効能の評価
ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、腎臓線維化に対する、本発明組成物の線維化予防作用を検証した。
【0102】
1.実験方法
(1)
図6Aの実験計画により、ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2)を6ウェルプレートに分注(seeding)(1.0X10
5cells/well)し、10% FBSが含まれたRPMI 1640 Medium(11875-093(Gibco))培地内において、37℃,5% CO
2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)その後、PBSで何回か洗浄し、プレートの各ウェルにおいて、TGFβ1(5ng/ml)、本発明の組成物(rhHAPLN1タンパク質の含量0,5,10,20及び50ng/ml)、及びピルフェニドン0.2mg/mL(200μg/mL)でそれぞれ同時に処理した後、24時間インキュベーティングした。
(3)その後、それぞれのサンプルにつき、氷冷(ice-cold)PBSで何回か洗浄した後、プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤を含むRIPA(radioimmunoprecipitation assay) Lysis and Extraction Buffer(Thermo Scientific)で処理した後、スクレーパーで掻いてprepした後、E-tubeに移した。
(4)遠心分離(12,000rpm、20分、4℃)して上澄み液だけ取り、BCA(bicinchoninic acid)アッセイを実施し、タンパク質定量値を得た。
(5)得られた定量値に定量した後、100℃でクッキング(cooking)を3分実施してから、-20℃冷蔵庫に保管した。
(6)4~15% precast acrylamide PAGEゲルを使用し、タンパク質をレーン当たり10μgずつローディングして走行させた(80V:20分、120V:1時間30分)。
(7)100V:1時間30分に変え、スマートブロッカー(smart blocker)で5分ほどブロッキングした。
(8)一次抗体を、1% BSA-TBST(bovine serum albumin-Tris-buffered saline & polysorbate 20)に1:1,000に希釈して分注し、4℃で一晩反応させた。
(9)翌日、TBSTで10分ずつ3回洗浄した。
(10)二次抗体を、1% BSA-TBSTに1:2,000に希釈して分注し、室温(room temperature)で約1時間振盪(shaking)した。
(11)さらに、TBSTで10分ずつ3回洗浄した後、ChemiDocで検出した。
【0103】
2.結果
図6Bにおいては、ヒト腎臓腎細管細胞が線維化される程度につき、αSMAタンパク質バンドの濃化と太さとから見て、本発明の組成物が、特定rhHAPLN1タンパク質含量範囲(rhHAPLN1タンパク質含量50ng/ml)において、ピルフェニドンに比べ、すぐれた線維化予防作用を示すということを、ウェスタンブロットバンド写真から確認することができた。
【0104】
また、
図6Cにおいては、TGF-β(5ng/ml)でもって線維化を誘導した後、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物を、rhHAPLN1タンパク質含量50ng/mlで処理した場合、すぐれた線維化予防効能を示しているが、それは、ピルフェニドン200μg/mL(200,000ng/ml)より4,000分の1含量にもかかわらず、線維化予防効能は、はるかに高いという結果を示すものであった。
【0105】
[実施例7]
ヒト腎臓腎細管細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価
ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、腎臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を検証した。
【0106】
1.実験方法
(1)
図7Aの実験計画により、ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2)を60ウェルプレートに分注(seeding)(2.8X10
5cells/well)し、10% FBSが含まれたRPMI 1640 Medium(11875-093(Gibco))において、37℃,5% CO
2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)その後、PBSで何回か洗浄し、プレートの各ウェルにおいて、TGFβ1(5ng/ml)で処理し、24時間インキュベーティングした。
(3)続けて、本発明の組成物(rhHAPLN1タンパク質の含量0,5,10,20及び50ng/ml)、及びピルフェニドン0.2mg/mL(200μg/mL)でそれぞれ処理した後、48時間インキュベーティングした。
(4)その後、それぞれのサンプルにつき、氷冷(ice-cold)PBSで何回か洗浄した後、プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤を含むRIPA(radioimmunoprecipitation assay) Lysis and Extraction Buffer(Thermo Scientific)で処理した後、スクレーパーで掻いてprepした後、E-tubeに移した。
(5)遠心分離(12,000rpm、20分、4℃)して上澄み液だけ取り、BCAアッセイを実施し、タンパク質定量値を得た。
(6)得られた定量値に定量した後、100℃でクッキング(cooking)を3分実施してから、-20℃冷蔵庫に保管した。
(7)8% precast acrylamide PAGEゲルを使用し、タンパク質をレーン当たり10μgずつローディングして走行させた(80V:20分、120V:1h30分)。
(8)100V:1時間30分に変え、スマートブロッカー(smart blocker)で5分ほどブロッキングした。
(9)一次抗体を、1% BSA-TBSTに1:1,000に希釈して分注し、4℃で一晩中反応させた。
(10)翌日、TBSTで10分ずつ3回洗浄した。
(10)二次抗体を、1% BSA-TBSTに1:2,000に希釈して分注し、室温で約1時間振盪した。
(11)さらに、TBSTで10分ずつ3回洗浄した後、ChemiDocで検出した。
【0107】
2.結果
図7Bにおいては、ヒト腎臓腎細管細胞が線維化される程度につき、αSMAタンパク質バンドの濃化と太さとから見て、本発明の組成物が、特定rhHAPLN1タンパク質含量範囲(rhHAPLN1タンパク質含量10ないし50ng/ml)において、抗線維化作用を示すということを、ウェスタンブロットバンド写真から確認することができた。
【0108】
また、
図7Cにおいては、TGF-β(10ng/ml)でもって線維化を誘導した後、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物を、rhHAPLN1タンパク質含量10ないし50ng/mlで処理した場合、特に、rhHAPLN1タンパク質含量50ng/mlで処理した場合、卓越した抗線維化効能を示したことを示している。本発明の組成物50ng/mlで処理した場合は、ピルフェニドン0.2mg/ml、すなわち、200ng/mlに比べ、1/4の少量にもかかわらず、ピルフェニドンとほとんど同等な抗線維化効能を示しているということは、相当に注目すべきことである。
【0109】
[実施例8]
ヒト腎臓腎細管細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能による細胞形態学的変化の観察
ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、腎臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を、細胞の形態変化観察を介して検証した。
【0110】
1.実験方法
(1)
図8Aの実験計画により、ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2)を6ウェルプレートに分注(seeding)(3.0X10
5cells/well)し、10% FBSが含まれたRPMI 1640 Medium(11875-093(Gibco))において、37℃,5% CO
2条件のインキュベーターで24時間インキュベーティングした。
(2)その後、PBSで何回か洗浄し、プレートの各ウェルにおいて、TGFβ1(10ng/ml)で処理し、24時間インキュベーティングした。
(3)続けて、本発明の組成物(rhHAPLN1タンパク質の含量0,5,10,20,50及び100ng/ml)、及びピルフェニドン0.2mg/mL(200μg/mL)でそれぞれ処理した後、24時間インキュベーティングした。
(4)その後、それぞれのサンプルを込めているウェルにつき、1X PBSで2回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドで処理し、1時間固定させた。
(5)1X PBSで2回洗浄した後、顕微鏡下において、細胞の様子ないし形態を観察した。
【0111】
2.結果
図8Bにおいては、細胞の形態が、処理された物質によって多様に示されている。何らの処理もしていない正常細胞である対照群(control)においては、細胞の形態が丸く示されているが、10ng/ml TGFβ1処理により、丸かった細胞形態が、線維化形態により、尖ったように変わる様子が確認された。
【0112】
しかしながら、それに対し、多様なrhHAPLN1タンパク質含量を有する本発明の組成物を加えることにより、細胞の形態がピルフェニドンにおける場合と同様に、丸く変わる結果を見ることができた。
【0113】
それにより、本発明の組成物は、確実に、細胞に対するすぐれた抗線維化効能を示しているということを知ることができる。
【0114】
[実施例9]
腎臓近位細尿管上皮細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価1
腎臓近位細尿管上皮細胞(RPTEC:renal proximal tubule epithelial cell)の一次上皮細胞(primary epithelial cell)を試料にし、老化誘導による腎臓線維化に対し、本発明の組成物が有する抗線維化作用を検証した。
【0115】
1.実験方法
(1)3継代培養と10継代培養との腎臓近位細尿管上皮細胞(RPTEC)を、60Φ培養皿に分注(seeding)(5.0X105cells)し、完全なRenal Epithelial Cell Medium(ATCC PCS-400-030+ATCC PCS-400-040)において、37℃,5% CO2条件のインキュベーターで24時間培養した。
(2)続けて、本発明の組成物(rhHAPLN1タンパク質の含量0,10及び100ng/ml)でそれぞれ処理した後、72時間さらに培養した。
(4)その後、氷冷PBSで3回洗浄した後、各ウェル当たり、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含むRIPA Lysis and Extraction Buffer 300μlで処理し、スクレーパーで掻いて細胞を回収した後、E-tubeに移した。
(5)遠心分離(12,000rpm、20分、4℃)して上澄み液だけ取り、BCAアッセイを実施し、タンパク質定量値を得た。
(6)4~15% precast acrylamide PAGEゲルを使用し、タンパク質をレーン当たり20μgずつローディングして走行させた(80V:20分、120V:1h30分)。
(7)それに対し、ウェスタンブロットを進めた。ここで、一次抗体としては、抗αSMAAb(ab7817(Abcam))、抗GAPDHAb(sc-32233(Santa Cruz))を使用し、二次抗体としては、HRP-conjugated抗マウスIgGAb(#7076(CST))を使用した。
【0116】
2.結果
図9Aから分かるように、細胞の老化が進むにつれ、すなわち、継代培養の回数が、4から11に増加することにより、αSMAタンパク質の発現量が増大したということを、ウェスタンブロットバンド写真において、タンパク質バンドの濃化と太さとが強くなったことから知ることができる。
【0117】
また、
図9Bにおいては、老化された細胞(P11)において、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物を、rhHAPLN1タンパク質含量100ng/mlで処理した場合、αSMAタンパク質の発現量が、約3分の1ほど低減されていると示されている。すなわち、卓越した抗線維化効能を示しているということを示している。
【0118】
[実施例10]
腎臓近位細尿管上皮細胞に対する、本発明組成物の抗線維化効能の評価2
腎臓近位細尿管上皮細胞(RPTEC:renal proximal tubule epithelial cell)の一次上皮細胞(primary epithelial cell)を試料にし、老化誘導による腎臓線維化に対し、本発明の組成物が有する抗線維化作用を検証した。
【0119】
1.実験方法
(1)3継代培養と10継代培養との腎臓近位細尿管上皮細胞(RPTEC)を12ウェルプレートに分注(seeding)(1.5X105cells)し、完全なRenal Epithelial Cell Medium(ATCC PCS-400-030+ATCC PCS-400-040)において、37℃,5% CO2条件のインキュベーターで24時間培養した。
(2)続けて、本発明の組成物(rhHAPLN1タンパク質の含量0,10,20,50及び100ng/ml)、及びピルフェニドン0.2mg/mL(200μg/mL)でそれぞれ処理した後、72時間培養した。
(3)その後、各ウェルをPBSで2回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドで処理し、1時間固定させた。
(4)1X PBSで4回洗浄した後、1% BSAを含む1x PBST(1x PBS+0.1% Triton X-100)で処理し、2時間ブロッキングした。
(5)αSMAに対する一次抗体(Abcamab7817)を、1X PBSTdp1:200に希釈して処理し、4℃で一晩中インキュベーティングした。
(6)翌日、1X PBSTを利用し、4回洗浄した。
(7)二次抗体(抗マウスIgG Alexa FluorTM 4881:500(A28175(Invitrogen))とDAPI 1:2,000(D1306(Invitrogen))とで処理した後、常温で1時間インキュベーティングした。
(8)その後、Vectashield(H-1000(Vectorlabs))を50μl落とした後、カバースリップを覆い、蛍光顕微鏡で撮影した。
【0120】
2.結果
図10Aから分かるように、細胞の老化が進むにつれ、すなわち、継代培養の回数が4から11に増加することにより、αSMAタンパク質の発現量が増大したということ、すなわち、線維化が進行したということを、継代培養11の右側写真において、明るい蛍光部位が増大されたところから確認することができる。
【0121】
また、
図10Bにおいては、老化された細胞(11継代培養)において、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物で処理する場合、rhHAPLN1タンパク質含量が増加することにより、特に、rhHAPLN1タンパク質の含量50及び100ng/mlの場合、ピルフェニドンで処理した場合と同様に、染色された蛍光部位が少なく示されると確認された。ところで、ピルフェニドンの含量が0.2mg/mL(200,000ng/mL)であるので、本発明組成物において、rhHAPLN1タンパク質含量が、ピルフェニドンの4,000分の1ないし2,000分の1に過ぎないということを勘案するならば、本発明の組成物は、従来の抗線維化製剤に比べ、卓越した抗線維化効能を示していることを知ることができる。
【0122】
[実施例11]
各種抗線維化マーカーを利用した、本発明組成物の抗線維化効能の評価
BioMAP Fibrosis Panel(Eurofins discovery提供)を利用し、各種線維化マーカーの発現程度を調べることにより、肺線維化及び腎臓線維化につき、本発明の組成物が有する抗線維化作用を検証した。
【0123】
BioMAP Fibrosis panelは、SAEMyoFシステム(co-culturing small airway epithelial cells and adult fibroblasts)、REMyoFシステム(co-culture of renal proximal tubule epithelial cells and adult fibroblasts)及びMyoFシステム(differentiated lung myofibroblasts)の三種のモデルによって構成されている。ここで、SAEMyoFシステムは、特発性肺線維症(IPF:idiopathic pulmonary fibrosis)のような肺線維性疾患(pulmonary fibrotic disease)を含む間質性肺疾患(IDL:interstitial lung disease)を代表し、REMyoFシステムは、末期腎不全(end-stage renal failure)と係わる腎臓線維症(kidney fibrosis)疾患を代表する。ただし、MyoFシステムは、筋線維芽細胞にだけ及ぼす影響を把握するために実験を行った。
【0124】
1.実験方法
(1)それぞれの一次細胞は、さまざまなドナー(donor)(n=3~6)由来細胞をプール化(pooling)して使用し、まず、96ウェルプレートに、細胞をコンフルエントになるように培養した後、末梢血液単核細胞(PBMC:peripheral blood mononuclear cell)を添加した。
(2)続けて、本発明の組成物(rhHAPLN1タンパク質の含量0,3.7,11及び33ng/ml)を濃度別にそれぞれ処理し、1時間培養した。
(3)その後、TNFα及びTGFβ1で処理し、48時間インキュベーティングした。
(4)各種バイオマーカーの発現レベルにつき、Direct ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)を進めた。
【0125】
2.結果
それぞれの定量値は、ビヒクル対照群(control)に対比させ、相対的倍数変化数値(fold change)でもって比較した。統計処理は、unpaired t-test(significant differences vs vehicle control)(*p<0.05, **p<0.01及び***p<0.001)で進めた。
【0126】
実験結果によれば、肺線維症疾患モデルであるSAEMyoFシステムにおいて、本発明の組成物(rhHAPLN1)の、αSMA及びコラーゲンIに対する有意的な低減効果を確認した(
図11A)。すなわち、αSMAの場合、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物を処理すれば、組成物中のrhHAPLN1タンパク質の含量に関係なく、一貫して0.9倍以下に、αSMAの発現量が減少したことを確認することができた。また、コラーゲンIの場合、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物を処理すれば、組成物中のrhHAPLN1タンパク質の含量に関係なく、一貫してコラーゲンIの発現量が卓越して減少したことを確認することができた。特に、組成物中のrhHAPLN1タンパク質の含量が11ng/mlである場合、0.8倍以下にコラーゲンIの発現量が減少した。
【0127】
さらには、腎臓線維症疾患モデルであるREMyoFシステムにおいては、本発明の組成物(rhHAPLN1)の、コラーゲンIに対する有意的な低減効果を確認した(
図11B)。すなわち、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物を処理すれば、組成物中のrhHAPLN1タンパク質の含量にかかわらず、コラーゲンIの発現量が0.9倍以下に減少したことを確認することができた。特に、組成物中のrhHAPLN1タンパク質の含量が11ng/mlである場合、ほとんど0.7倍にコラーゲンIの発現量が減少したことを見れば、該濃度が、腎臓における抗線維化効能を示すための最適の濃度であるということを推測することができた。
【0128】
なお、筋線維芽細胞と係わるMyoFシステムにおいては、本発明の組成物(rhHAPLN1)の、コラーゲンIVに対する有意的な低減効果を確認した(
図11C)。すなわち、rhHAPLN1タンパク質が含まれていない組成物で処理した場合に比べ、本発明の組成物を処理すれば、組成物中のrhHAPLN1タンパク質の含量に比例し、コラーゲンIの発現量が0.8倍以下に減少したことを確認することができた。従って、組成物中のrhHAPLN1タンパク質の含量が33ng/mlである場合、0.7倍にコラーゲンIVの発現量が減少した。
【0129】
[実施例12]
肺線維化誘発動物モデルを利用した、本発明組成物の抗線維化効能(線維性疾患の予防能)の評価
本発明の組成物を、肺線維化を誘発した動物に繰り返し吸入投与し、ブレオマイシン誘導肺線維化症(BILP)を予防する効果を検証した実験を行った。
【0130】
1.実験動物の準備及び飼育
実験動物は、C57BL/6N(KBSI(大韓民国・大田市)マウス8週齢メスを使用し、正常対照群(normal)(PBS)と、2個用量の投与群(rhHAPLN1タンパク質を含む本発明の組成物)とに設定した。水は、2日に1回ずつ替え、自由に飲めるようにし、マウスは、4匹ずつ1ケージに入れ、飼育室内の温度は、21~24℃に維持し、湿度は、40%~60%に維持し、昼と夜との周期は、それぞれ12時間にした。
【0131】
2.肺組織染色及び顕微鏡観察
ブレオマイシン(bleomycin)誘導肺線維症(PF:pulmonary fibrosis)モデルを構築するために、C57BL/6Nマウス8週齢メスを使用し、4個の群(正常群、対照群、0.0005%(w/w) rhHAPLN1、0.0015%(w/w) rhHAPLN1)に分け、群当たり4匹に設定し、IPF疾病誘発方法は、Liuらの論文(Methods in Molecular Biology 2017, DOI: 10, 1007/ 978-1-4939-7113-8_2)を参照した(
図12A参照)。特発性肺線維症(IPF)を誘導するためのブレオマイシン(bleomycin sulfate from Streptomyces verticillus)(B8416(Sigma-Aldrich Co.))の投与は、1mlシリンジと経口投与用ニードル(oral Sonde needle)(0.9x50mm、20ゲージ)とを使用して麻酔を行った後、2U/kgの濃度で、25μlを1回経口器官内(orally intratracheal)に用心深く投与(instillation)した後、新鮮な10mlリン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline)(1X PBS、pH7.4(Gibco Co.))を噴霧器(nebulizer)に点滴添加し、煙霧を発生(nebulization)させ、自由に吸入するようにした。
【0132】
ブレオマイシン投与1日後から、対照群(control)は、20mM Tris-HCl、0.5M NaCl(pH8.0)、50%グリセロールで組成されたストック溶液50μlと、10ml PBS(1X,pH7.4(GibcoCo.))溶液との混合液でもって、本発明の組成物に係わる2個群については、rhHAPLN1ストック溶液50μlにおいて、rhHAPLN1重量比濃度0.0005%(w/w)、すなわち、5,000ng/mL、及び0.0015%(w/w)、すなわち、15,000ng/mLに調整した後、10ml PBS(1X、pH7.4(GibcoCo.))にそれぞれ混合し、前述の噴霧器を介し、煙霧(nebulization)方式でもって、1日1回1時間ずつ群別に投与した。実験動物それぞれの重量は、2日ごとに測定し、重量変化がないことを確認し、煙霧発生のために、Mass Dosing SystemとAerosol Chamber(Data Science International Co.)とを使用した。
【0133】
総実験期間は、12日間であり、実際の各濃度の組み換えHAPLN1タンパク質投与は、毎日1回1時間ずつ10日間10回投与した後、11日目に麻酔させた後で解剖を進めた。
【0134】
3.結果
1)肺組織の写真上の比較
図12Bは、肺組織を摘出した後、左側の大きい肺葉を横に半分を切り、上部をホルマリンに入れて固定させ、ヘマトキシン及びエオジン(H&E)染色を行った写真である。写真上から見るとき、対照群に比べ、本発明の組成物を投与したとき、特に、rhHAPLN1重量比濃度0.0015%(w/w)の場合、正常群に相当に類似した形態を示すということを知ることができた。
【0135】
2)数値で示された本発明組成物の予防効能
次に、マウス左側大肺葉の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、Image Jソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得た。赤色部分は、線維化が進行した部分を示す。
【0136】
また、残り3匹についても、同じ方法でもって、繰り返して平均値を得た後、それらをさらに再平均し、最終的に線維化が反映された面積の平均数値と偏差とを得た。ブレオマイシンを処理していない正常群と、それを処理した対照群との有意性P値は、0.00038(***P<0.001)と示され、本発明の組成物(rhHAPLN1)を処理していない群と、0.0015%(w/w) rhHAPLN1処理群との有意性P値は、0.00355(**P<0.01)と示され、統計的有意性を確認した。
【0137】
そのような平均値をグラフで示した
図12Cによれば、対照群に比べ、本発明の組成物を投与したとき8、特に、rhHAPLN1重量比濃度0.0015%(w/w)の場合、正常群に相当に近接するように、赤色部分の面積平均値が低減されていることを知ることができる。すなわち、本発明の組成物は、インビボ(in vivo)で肺線維化に対し、予防効果を示すという点を確認したのである。
【0138】
3)Ashcroft点数(score)による本発明組成物の予防効能
図12D及び
図12Eは、肺線維化症の重症度を肉眼で簡単に測定することができる公式的な指針について説明する写真及び説明(Ashcroft et al 1988, J Clin Pathol 41: 467-470)である。
【0139】
線維症の等級は、以下のように、Ashcroft点数でもって分けることができる。
score 0:一部肺胞壁に、ほとんど薄くて小さな線維が観察されることはされるが、明らかな線維性形態や負担が見えない(正常肺)
score 1:孤立した柔らかい線維化の変化(隔膜厚が正常の3倍より小さいか、あるいはそれと同じである);肺胞が部分的に拡大して希薄であるが、線維性腫塊(塊)は、存在しない
score 2:明確な線維化変化(隔膜厚が正常の3倍より大きい);肺胞が部分的に拡大して希薄であるが、線維性腫塊は、観察されていない。
score 3:全体顕微鏡領域において、主に連続した線維性隔壁が確認され(隔膜厚が正常の3倍より大きい)、肺胞が部分的に拡大して希薄であるが、線維性腫塊は、存在しない。
score 4:構造の変化;単一線維性腫塊は、顕微鏡領域の10%より小さいか、あるいはそれと同様である。
score 5:構造の変化;合された線維性腫塊(顕微鏡領域の10%より大きく、50%より小さいか、あるいはそれと同様です);肺構造がひどく損傷されているが、相変らず形態を保存している。
score 6:構造の変化;ほとんど形態が存在しない。連続した線維性腫塊(顕微鏡領域の50%より大きい);ほとんど保存されていない肺構造。
score 7:肺胞構造が存在しない。肺胞は、線維性塊でもってほとんど消えているが、相変らず最大5個の気泡が存在する。
score 8:肺胞構造が存在しない。顕微鏡領域において、肺胞は、線維性腫塊によって完全に除去されている。
【0140】
以上の評価基準に基づき、3人の観察者がそれぞれ同じデータでもって、他者の評価に影響を受けない条件下で個人的にそれぞれ判断し、スコアを付けた後、それぞれの結果を総合し、最終平均スコアを決定した結果、各評価者の結果は、非常に類似しており、そのうち代表観察者の結果を
図12Fに示した。
【0141】
結論として、正常群(normal)は、Ashcroft点数=0、対照群(control)は、Ashcroft点数=6.25、本発明の組成物1(rhHAPLN10.0005%)投与群は,Ashcroft点数=5.25、本発明の組成物2(rhHAPLN10.0015%)投与群は、Ashcroft点数=0.5であり、正常群と対照群との間、対照群と本発明組成物2投与群との間に、統計的有意性が示されている。
【0142】
[実施例13]
肺線維化誘発動物モデルを利用した、本発明組成物の抗線維化効能(線維性疾患の処理能)の評価
本発明の組成物を、肺線維化を誘発した動物に繰り返し吸入投与し、すでに生じたブレオマイシン誘導肺線維化症(BILP)を改善させる効果を検証した実験を行った。ここにおいては、基本的に、前記実施例12と類似しているが、ブレオマイシン処理後7日を経過させ、ブレオマイシン誘導肺線維化症(BILP)を十分に発生させ、それに対し、本発明の組成物が、線維性疾患の処理能を有するという実験結果を提示する。
【0143】
1.実験動物の準備及び飼育
前記実施例12の場合と同一である。
【0144】
2.肺組織の染色及び顕微鏡観察
ブレオマイシン(bleomycin)誘導肺線維症(PF)モデルを構築するために、C57BL/6Nマウスの8週齢ないし10週齢のメスを使用し、4個の群(正常群、PBS対照群、0.00075%(w/w) rhHAPLN1、0.0015%(w/w) rhHAPLN1)に分け、群当たり4匹に設定し、IPF疾病誘発方法は、Liuらの論文(Methods in Molecular Biology 2017, DOI: 10, 1007/ 978-1-4939-7113-8_2)を参照した(
図13A参照)。特発性肺線維症(IPF)を誘導するためのブレオマイシン(bleomycin sulfate from Streptomyces verticillus(B8416(Sigma-Aldrich Co.))の投与は、1mlシリンジと経口投与用ニードル(oral Sonde needle)(0.9x50mm、20ゲージ)とを使用して麻酔を行った後、50U/kgの濃度で、マウス当たり20μlを、1回経口器官内(orally intratracheal)に用心深く投与した後(instillation)、新鮮な10mlリン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline)(1X PBS、pH7.4(Gibco Co.))を噴霧器に点滴添加し、煙霧を発生(nebulization)させ、自由に吸入するようにした。
【0145】
ブレオマイシン投与8日後から、対照群(control)は、20mM Tris-HCl、0.5M NaCl(pH8.0)、50%グリセロールで組成されたストック溶液50μlと、10ml PBS(1X、pH7.4(Gibco Co.))溶液との混合液にした、本発明の組成物に係わる2個群については、rhHAPLN1ストック溶液(20mMアセテート(pH5.0)、8.0Mスクロース、0.04% PS80)をリン酸緩衝塩水(PBS)によって希釈し、50μl内において、rhHAPLN1重量比濃度0.00075%(w/w)、すなわち、7,500ng/mL、0.0015%(w/w)、すなわち、15,000ng/mLに調整した。その後、10ml PBS(1X、pH7.4(Gibco Co.))にそれぞれ混合し、前記の噴霧器を介し、煙霧(nebulization)方式でもって、1日1回1時間ずつ群別に投与した(10ml/時間/14回/1日)。実験動物それぞれの重量は、2日ごとに測定し、重量変化がないことを確認し、煙霧発生のために、Mass Dosing SystemとAerosol Chamber(Data Science International Co.)とを使用した。
総実験期間は、23日間であり、実際の各濃度の組み換えヒトHAPLN1タンパク質投与は、毎日10mlを1回1時間ずつ、14日間総14回投与し、最終露出の翌日麻酔させてあ後で解剖を進めた。
【0146】
3.結果
1)肺組織の写真上の比較
図13Bは、肺組織を摘出した後、左側の大きい肺葉を横に半分を切り、上部をホルマリンに入れて固定させ、ヘマトキシン及びエオジン(H&E)染色を行った写真である。写真上から見るとき、対照群に比べ、本発明の組成物を投与したとき、特に、rhHAPLN1重量比濃度0.0015%(w/w)の場合、やはり正常群に相当に類似した形態を示すということを知ることができた。
【0147】
2)数値で示された本発明組成物の治療効能
次に、マウス左側大きい肺葉の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個の部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、Image Jソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得た。赤色部分は、線維化が進行した部分を示す。
【0148】
また、残り3匹についても、同じ方法でもって、繰り返して平均値を得た後、それをさらに再平均し、最終的に線維化を反映させた面積の平均数値と偏差とを得た。ブレオマイシンを処理していない正常群と、それを処理した対照群との有意性P値は、0.00038(***P<0.001)と示され、本発明の組成物(rhHAPLN1)を処理していない群と、0.0015%(w/w) rhHAPLN1処理群との有意性P値は、0.00355(**P<0.01)と示され、統計的有意性を確認した。
【0149】
そのような平均値をグラフで示した
図13Cによれば、対照群に比べ、本発明の組成物を投与したとき、特に、rhHAPLN1重量比濃度0.0015%(w/w)の場合、何らの処理もしていない肺線維化症の場合に比べ、赤色部分の面積平均値が51%も低減されていることを知ることができる。すなわち、本発明の組成物は、インビボ(in vivo)で肺線維化に対し、卓越した治療効果を示すという点を確認したのである。それは、
図13Dにおいてさらにグラフ化した。***p<0.001、スチューデントのt検定で計算した。
【0150】
3)Ashcroft点数による本発明組成物の治療効能
実施例12で説明さらたような評価基準に基づき、3人の観察者がそれぞれ同じデータもって、他人の評価に影響を受けない条件下で個人的にそれぞれ判断し、スコアを付けた後、各結果を総合し、最終平均スコアを決定した結果、各評価者の結果は、非常に類似しており、そのうち代表観察者の結果を、
図13Eに示し、ここにおいても、本発明の組成物は、インビボ(in vivo)で肺線維化に対し、予防効果はもとより、卓越した治療効果を示すという点を再び確認することができた。
【0151】
[実施例14]
腎臓線維化誘発動物モデルを利用した、本発明組成物の抗線維化効能の評価
本発明の組成物を、急性腎臓線維化を誘発した動物に繰り返し投与して治療する効果を検証した実験を行った。
【0152】
1.急性腎臓損傷誘発モデルの構築
図14Aの実験計画により、8週齢C57BL/6オスマウスを、ペントバルビタール(pentobarbital)(50mg/kg BW,i.p.)麻酔下において、虚血を誘導するために、脇腹を切開し、腎臓を露出させた後、非外傷性微細動脈瘤クランプ(non-traumatic microaneurysm clamp)(Roboz Surgical Instruments)を使用し、両側腎茎(pedicle)を塞ぎ、血流を25分間遮断した。続けて、クランプを除去した後、切開部位を縫合した。対照手術(sham-operation)は、血流の遮断を除き、虚血/再灌流(ischemia/reperfusion)実験と同一に行った。
【0153】
虚血1日後、血液尿素窒素(BUN:blood urea nitrogen)を測定し、その値が約98mg/dL(今後、100mg/dLと明記)以上に上がったマウスのみを実験群としてグルーピング(grouping)して実験を進めた。該実験群には、手術後7日目から、本発明の組成物を含んだ各種薬物を毎日投与し、14日目に腎臓を取り、組織学的及び生化学的な分析に使用した。薬物濃度は、表1に示し、実験群の詳細は、表2に示す。
【0154】
【0155】
【0156】
また薬物投与後7日目に血液を取り、血液尿素窒素BUN濃度を測定し、14日目後には、血液と尿とを取り、血液と尿とにおけるクレアチニン(creatinine)濃度、血液における血液尿素窒素(BUN)濃度を測定した。また、クレアチニン掃除率を算出した。
【0157】
2.結果導出実験
A.αSMA低減に対する本発明組成物の効能評価
(1)実験方法
生化学的分析(線維化指標発現評価)は、腎臓組織における、αSMAの発現量を調べるために、それらに対する抗体を活用し、ウェスタンブロットを施した。
【0158】
対照手術(sham(sham-operation))と、虚血/再灌流(IR:ischemia/reperfusion)マウス腎臓組織とにおいて、αSMAの発現を確認するために、各実験群の試料を1ゲルにローディングし、ウェスタンブロットを施し、各バンドの密度を測定した。PonceauとGADPHは、均等負荷(equal loading)マーカーとして活用した(
図14B)。ここで、SV:sham-ビヒクル、SB:sham-rhHAPLN1-dissolving solution、IRV:IR-ビヒクル、IRP:IR-ピルフェニドン、IRA:IR-本発明の組成物(rhHAPLN1)A、IRB:IR-本発明の組成物(rhHAPLN1)B、IRC:IR-本発明の組成物(rhHAPLN1)Cをそれぞれ示し、さらに詳細な事項は、前述の表1及び表2に示されている通りである。さらに具体的には、Sham-ビヒクルは、Sham対照群群に、rhHAPLNB1がない緩衝液だけPBSによって希釈し、IP注射(injection)した群である。Sham-rhHAPLN1-dissolving solutionは、rhHAPLN1が正常条件に及ぼす影響を確認するために、rhHAPLN1濃度B(0.02mg/kg)を希釈し、IP注射(injection)した群である。IR-ビヒクルは、I/R線維症(fibrosis)誘導モデルに、rhHAPLN1がない緩衝液の処理群である。IR-ピルフェニドンは、I/R線維症(fibrosis)誘導後、300mg/kgのピルフェニドンを経口投与した群である。
【0159】
また、αSMA発現と係わり、IRVに対する発現量の倍数(fold)変化をグラフで示した(
図14C)。
【0160】
(2)結果
腎臓において、線維化の指標であるαSMAの発現は、対照手術(sham-operation(SV及びSB))に比べ、虚血/再灌流を誘発した場合に有意に高かった。
【0161】
しかしながら、本発明の組成物(rhHAPLN1)を投与した群(IRA及びIRB)におけるαSMAの発現は、対照薬物投与群(IRV)に比べ、ピルフェニドンと類似したレベルに低い様相を示している。ここで、IRCは、極めて低い濃度であるので、IRVと同等なほどに高く示されていると見られる。
【0162】
B.コラーゲン低減に対する本発明組成物の効能評価
(1)実験方法
線維化の組織学的分析の一環として、パラフィン(paraffin)固定された腎臓を3μmに切断した後、そのスライド切片につき、それぞれシリウスレッド/PAS染色を施し、コラーゲン発現と、組織の線維化病変とを評価した(
図14D)。ここで、SV:sham-ビヒクル、SB:sham-rhHAPLN1-dissolving solution、IRV:IR-ビヒクル、IRP:IR-ピルフェニドン、IRA:IR-本発明の組成物(rhHAPLN1)濃度0.1mg/kg、IRB:IR-本発明の組成物(rhHAPLN1)濃度0.02mg/kg、IRC:IR-本発明の組成物(rhHAPLN1)濃度0.004mg/kgをそれぞれ示す。
【0163】
(2)結果
図14Dから分かるように、虚血/再灌流に露出された腎臓の群(IRV)においては、腎臓間質(細尿管間)において、コラーゲン陽性部位(赤色)が、対照手術群(SV及びSB)に比べ、顕著に多く示されている。それと係わり、コラーゲン低減と係わる本発明の抗線維化効能をさらに客観的に確認するために、
図14Dの組織染色写真につき、総3人の研究者を介し、ブラインド検査を実施した。その結果、コラーゲンの発現が、IRV群に比べ、ピルフェニドンを処理した実験群であるIRP、本発明の組成物を処理した群(IRA及びIRB)において、弱く示されていることを3人がいずれも確認した。
【0164】
また、前述の組織内におけるコラーゲン発現を定量化するために、
図14Dの組織染色写真において、腎臓外髄質部(outer medulla)部位のうち2ヶ所をランダムにイメージング化した後、コラーゲン陽性部位をマーキングした。ここで、赤色は、シリウスレッド陽性(Sirus red positive)信号である(
図14E)。
【0165】
それを基に、i-Solution software(IMT)を活用してそれを数値化したが、
図14Dの顕微鏡下で観察されているところと同様に、IRV群に比べ、IRP群、IRA群及びIRB群において、コラーゲン陽性部位が弱く示されている(
図14F)。それは、本発明の組成物(rhHAPLN1)が、ピルフェニドンと同等なほどに、コラーゲン発現を低減させたということを示し、それほど、インビボ(in vivo)での抗線維化効能を有するということを意味する。
【0166】
C.クレアチニン掃除率に対する本発明組成物の効能評価
(1)実験方法
腎臓機能を分析するための実験であり、それに利用するための血液は、後眼窩静脈叢(retro-orbital vein plexus)を介し、ヘパリンが添加されたガラス毛細管で取り、尿は、代謝ケージを活用して得た。血液尿素窒素とクレアチニン(PCr:plasma creatinine)との濃度は、Vitros250(Johnson & Johnson)を利用して測定した。
【0167】
クレアチニン掃除率(creatinine clearance)は、腎臓で除去されるクレアチニンの量を利用し、糸球体濾過率を推定する方法でもって、
【0168】
【0169】
で算出したが、本実験においては、虚血/再灌流後21日目に測定した(*p<0.05,N=4~6);*IR実験群は、手術後1日目が、血液尿素窒素(BUN)濃度が100mg/dL以上に上がり、類似レベルの損傷が誘発された動物のみを使用した)。
【0170】
(2)結果
図14Gから分かるように、虚血/再灌流に露出された腎臓群(IRV)は、虚血/再灌流がなかった対照群に該当する群(SV及びSB)に比べ、クレアチニン掃除率、すなわち、腎臓が正常に機能して血液から除去されるクレアチニンの量が顕著に低減されたところを示している。
【0171】
しかしながら、本な発明の組成物を処理した群(IRA、IRB及びIRC)においては、クレアチニン掃除率が上昇し、そのうち、特に、IRA群(0.1mg/kg/BWのrhHAPLN1で投与される本発明の組成物)の場合、クレアチニン掃除率が、本発明組成物のうち、rhHAPLN1タンパク質はなく、バッファ(PBS)だけあるrhHAPLN1バッファ(IRV)とピルフェニドン投与群(IRP)とに比べ、相当に高い様相を示している。特に、IRAのCrClは、IRVに比べ、統計的に有意に高かった。それは、本発明組成物の投与が、虚血/再灌流損傷によって誘発された腎臓の機能低下を実在的に緩和させるということを意味する。
【0172】
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配列番号1:
【0173】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-02-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
【
図1A】正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:normal human dermal fibroblast)を試料にし、皮膚線維化に対する本発明の組成物の抗線維化作用を示す、ウェスタンブロットのタンパク質バンド写真である。本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量が、ウェスタンブロットバンドの強度に示されている。
【
図1B】
図1Aのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図2A】ヒト肝星状細胞(HHSC:human hepatic stellate cell)を試料にし、肝線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図2B】
図2Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図2C】
図2Aのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図3A】ヒト結腸線維芽細胞株(CCD-18Co:human colon fibroblast cell line)を試料にし、腸線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図3B】
図3Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図3C】
図3Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図4A】ヒト心臓末梢の血液内皮細胞(HCMEC:human cardiac microvascular endothelial cell)を試料にし、心臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図4B】
図4Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図4C】
図4Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図5A】正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF:normal human lung fibroblast)を試料にし、皮膚線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を示すウェスタンブロットバンド写真である。本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量が、ウェスタンブロットバンドの強度として示されている。
【
図5B】
図5Aのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図6A】ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、腎臓線維化に対する、本発明組成物の線維化予防作用を評価するための実験計画図である。
【
図6B】
図6Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図6C】
図6Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図7A】ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、腎臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
【
図7B】
図7Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットバンド写真である。
【
図7C】
図7Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図8A】ヒト腎臓腎細管細胞(HK-2:human kidney 2)の上皮細胞株を試料にし、TGFβ1誘導によるHK-2細胞の線維化形態変化における、rhHAPLN1の効能を評価するための実験計画図である。
【
図8B】
図8Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の多様な濃度による細胞の形態変化を示す顕微鏡写真である。
【
図9A】腎臓近位細尿管上皮細胞(RPTEC:renal proximal tubule epithelial cell)を試料にし、老化誘導によって示される線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を示すウェスタンブロットバンド写真である。11継代培養細胞につき、本発明組成物の多様な濃度によるαSMA及びGAPDHタンパク質の発現量が、ウェスタンブロットバンドの強度として示されている。
【
図9B】
図9Aで提示されるウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、本発明組成物の多様な濃度により、相対的なαSMAのレベルを示すグラフである。
【
図10A】4継代培養時及び11継代培養時、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色して細胞の核を観察し、αSMA抗体(ab7817(Abcam))を、1:1000に、1X PBST(1X PBS with 0.1% Triton X-100,1% BSA)によって希薄し、細胞内αSMAを染色することにより、その発現程度を蛍光で示す写真である。
【
図10B】対照群として、4継代培養時、及び老化が誘導された11継代培養時、本発明組成物の多様な濃度及びピルフェニドン(pirfenidone)処理による、相対的な細胞のαSMAのレベルを蛍光で示す写真である。
【
図11A】BioMAP Fibrosis panelを利用し、rhHAPLN1の抗線維化マーカーに係わる影響を確認した実験であり、肺線維症(lung fibrosis)疾患モデルであるSAEMyoFシステムにおける、本発明の組成物(rhHAPLN1)が、濃度別に、αSMA及びコラーゲンIに対する有意的な低減効果を、ビヒクル対照群に対比させ、相対的倍数(fold change)で示したグラフである。
【
図11B】BioMAP Fibrosis panelを利用し、rhHAPLN1の抗線維化マーカーに係わる影響を確認した実験であり、腎臓線維症(kidney fibrosis)疾患モデルであるREMyoFシステムにおける、本発明組成物(rhHAPLN1)の、濃度別コラーゲンIに対する有意的な低減効果を、ビヒクル対照群に対比させ、相対的倍数で示したグラフである。
【
図11C】BioMAP Fibrosis panelを利用し、rhHAPLN1の抗線維化マーカーに係わる影響を確認した実験であり、筋線維芽細胞(myofibroblast)における、本発明組成物(rhHAPLN1)の、濃度別コラーゲンIVに対する有意的な低減効果を、ビヒクル対照群に対比させ、相対的倍数で示したグラフである。
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図12A】マウスブレオマイシン誘導肺線維化症(BIPF:bleomycin-induced pulmonary fibrosis)モデルを利用した、本発明組成物の抗線維化効能(線維性疾患の予防能)を評価するための実験概要について説明する図である。
【
図12B】
図12Aのマウスブレオマイシン(bleomycin)誘導肺線維化症モデルを利用した実験において、マウスを4個の群(マウス1ないしマウス4)に分け、正常(normal)群は、PBSで処理し、対照群(control)は、
PBSを除いていかなる処理もせず、それに対し、本発明の組成物(rhHAPLN1)0.0005%(w/w)、本発明の組成物(rhHAPLN1)0.0015%(w/w)をそれぞれ処理し、群当たり4匹のマウスの肺組織を摘出した後、左側の大きい肺葉を横に半分を切り、上部をホルマリンに入れて固定し、ヘマトキシン及びエオジン(H&E)染色を行った写真である。
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図12C】マウス左側の最も大きくなった肺葉の肺組織の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個の部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、「Image J」ソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得て、統計的有意性を確認したグラフである。
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図12D】肺線維化症の重症度を肉眼で簡単に測定することができる公式的な指針として提供されるAshcroft点数に係わる写真である(Ashcroft et al 1988, J Clin Pathol 41:467-470)。
【
図12E】肺線維化症の重症度を肉眼で簡単に測定することができる公式的な指針として提供されるAshcroft点数に係わる説明である(Ashcroft et al 1988, J Clin Pathol 41:467-470)。
【
図13A】マウスブレオマイシン誘導肺線維化症(BIPF:bleomycin-induced pulmonary fibrosis)モデルを利用した、本発明組成物の抗線維化効能(線維性疾患の処理能)を評価するための実験概要について説明する図である。
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図13B】
図13Aのマウスブレオマイシン(bleomycin)誘導肺線維化症モデルを利用した実験において、マウスを4個の群(正常群
、対照群、0.00075%(w/w) rhHAPLN1、0.0015%(w/w) rhHAPLN1、0.003%(w/w) rhHAPLN1)に分け、群当たり4匹に設定して実験した後、群当たり4匹のマウスの肺組織を摘出した後、左側の大きい肺葉を横に半分を切り、上部をホルマリンに入れて固定し、ヘマトキシン及びエオジン(H&E)染色を行った写真である。
【
図13C】マウス左側の最も大きくなった肺葉の肺組織の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個の部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、「Image J」ソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得て、統計的有意性を確認したグラフである。
【
図13D】マウス左側の最も大きくなった肺葉の肺組織の中間部分を切り、一匹当たり3枚の組織スライドを作製し、1スライドにおいて、任意にそれぞれ3ヵ所を写真に撮った後、総9個の部分につき、染色された赤色部分と、そうではない白色部分とを区分し、「Image J」ソフトウェアを利用し、染色された赤色部分の面積を測定して得られた各数値を平均し、匹当たり平均値を得て、統計的有意性を確認したグラフである。
【
図13E】
図13Cの結果と係わり、肺線維化症の重症度をAshcroft点数で示した実験結果に係わるグラフである。
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図14A】腎臓線維化誘発動物モデル実験であり、虚血/再灌流(ischemia/reperfusion)を利用し、腎臓線維化に対する、本発明組成物の抗線維化作用を評価するための実験計画図である。
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図14B】
図14Aの実験計画により、本発明の組成物及びピルフェニドン(pirfenidone)の投与によるαSMAタンパク質の発現程度を示すウェスタンブロットのタンパク質バンド写真である(SV:sham-ビヒクル、SB:sham-rhHAPLN1-dissolving solutionであり、Sham-rhHAPLN1 dose Bであり、Sham対照群をrhHAPLN1で処理したとき、いかなる影響が示されるかということを確認するための群、IRV:IR-ビヒクル、IRP:IR-ピルフェニドン(pirfenidone)、IRA:IR-rhHAPLN1 dose A、IRB:IR-rhHAPLN1 dose B、IRC:IR-rhHAPLN1 dose C)。
【
図14C】
図14Bのウェスタンブロットバンドの強度を数値化し、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、IRVに対するαSMAの発現レベルを倍数(fold)変化で示すグラフである。
【
図14D】急性腎臓損傷誘発モデルにおいて、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、コラーゲンの発現程度を、シリウスレッド& PAS染色の写真で示した写真である。紫色は、コラーゲン発現を示している。
【
図14E】急性腎臓損傷誘発モデルにおいて、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、コラーゲンの発現程度を定量化するために、組織染色でもって、腎臓の外髄質部(outer medulla)部位における2ヶ所をランダムにイメージング化した後、コラーゲン陽性部位のみを示す写真である。
【
図14F】
図14Eにおけるコラーゲン陽性部位をマーキングし、コラーゲンの面積(%)をi-solution software(IMT)を活用することによって数値化して示したグラフである。
【
図14G】急性腎臓損傷誘発モデルにおいて、ピルフェニドン(pirfenidone)及び本発明組成物の多様な濃度により、クレアチニン掃除率(creatinine clearance)を、虚血/再灌流後21日目に測定し、その数値を示したグラフである。
【国際調査報告】