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特表2024-530040HLA融合タンパク質を含む併用医薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】HLA融合タンパク質を含む併用医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240806BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240806BHJP
   C07K 14/74 20060101ALI20240806BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240806BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61K39/00 Z
C07K19/00 ZNA
C07K14/74
C07K14/705
C07K16/28
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K38/17
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507945
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022072133
(87)【国際公開番号】W WO2023012350
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21190003.0
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524048807
【氏名又は名称】イムノス セラピューティクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】マロカン ベラウンザラン,オシリス
(72)【発明者】
【氏名】ガランディ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ラフィエイ,アナヒタ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA41
4C084CA26
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC411
4C084ZC412
4C085AA03
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC03
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA75
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、(ヒト白血球抗原)可溶性HLA重鎖ポリペプチドと、CD47及びシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)の間の相互作用の阻害剤とを含む、がんの治療に使用するための併用薬に関する。本発明のさらなる態様は、本発明に係る可溶性HLA重鎖ポリペプチドを用いた治療を受けている患者に使用するための、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む併用医薬:
a.可溶性ヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチド、
特にHLA重鎖ポリペプチドは、以下から選択される:
○ HLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖の細胞外ドメイン;又は
○ HLA重鎖の前記細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、HLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖の細胞外ドメインに対して少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及びそれぞれのHLA重鎖に対して類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体;及び
b.CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【請求項2】
HLA重鎖ポリペプチドが、以下を含むHLA融合タンパク質を含み、特にそれからなる、請求項1に記載の併用医薬:
・ 以下から選択されるHLA重鎖ドメイン:
○ HLA重鎖の細胞外ドメイン、特にHLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖;又は
○ HLA重鎖の前記細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及びそれぞれのHLA重鎖に対して類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体;及び
・ 免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチド。
【請求項3】
HLA重鎖ポリペプチドが、β2mポリペプチドと会合している、請求項1又は2に記載の併用医薬。
【請求項4】
HLA重鎖ポリペプチドが、3:5~7:5の比、より特に4:5~6:5の比、より特に1:1の比で、β2mポリペプチドと非共有結合的に会合している、請求項3に記載の併用医薬。
【請求項5】
HLA重鎖ポリペプチド、又はHLA重鎖ドメインが、HLA-B57の細胞外ドメインの変異体であり、及び
HLA-B57の細胞外ドメインの変異体は、46位のE及び97位のRを特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項6】
HLA重鎖ポリペプチド又はHLA重鎖ドメインは、配列番号001の配列を含む、又は本質的にそれからなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項7】
HLA融合タンパク質は、IgG Fcポリペプチド、特にIgG4 Fcポリペプチド、より特に配列番号002の配列を有するIgG4 Fcポリペプチドを含み;及び
ペプチドリンカーはHLA重鎖ドメインをIgG Fcポリペプチドへ連結する、特にペプチドリンカーは5~20アミノ酸長である、より特にペプチドリンカーは配列番号003の配列を有する、
請求項2~6のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項8】
HLA重鎖ドメインがIg Fcポリペプチドに対してN末端に位置する、請求項2~7のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項9】
HLA融合タンパク質が、配列番号005と指定される配列を含む、請求項2~8のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項10】
HLA融合タンパク質が、分泌シグナルを含み、特に分泌シグナルは16~30アミノ酸長であり、より特に分泌シグナルは細胞から分泌される過程で切断によって除去される、なおより特に分泌シグナルは配列番号004の配列を有する、請求項2~9のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項11】
HLA融合タンパク質は、二量体の形態であり、前記二量体は、第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体を含む、又は本質的にそれからなる;
- 第1のHLA単量体は、請求項2~10のいずれか1項に規定される第1のHLA融合タンパク質及び第1のβ2mポリペプチドから本質的になる;及び
- 第2のHLA単量体は、請求項2~10のいずれか1項に規定される第2のHLA融合タンパク質及び第2のβ2mポリペプチドから本質的になる;
特に、第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体が同一である、
請求項2~10のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項12】
HLA重鎖ポリペプチドが、ペプチドエピトープと会合していない、請求項1~11のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項13】
がんの治療に用いるためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤であって、
CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、請求項1~12のいずれか1項に規定される可溶性HLA重鎖ポリペプチドに先だって、それと組み合わせて、又はそれに続いて投与され、特に可溶性HLA重鎖ポリペプチドは、請求項2~12のいずれか1項に規定されるHLA融合タンパク質として存在する、前記阻害剤。
【請求項14】
前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、10-7M又はそれより低い解離定数(より高度な親和性)でCD47又はSIRPαに結合する、請求項1~12のいずれか1項に記載の併用医薬、又は請求項13に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【請求項15】
前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、抗体、抗体断片又は抗体様分子を含む、又は本質的にそれである;
特に抗体はHu5F9-G4、TI-061、IBI188、CC-90002、lemzoparlimap/TJC4、SL-172154、IMC-002、GS-0189、ADU1805からなる群から選択される、請求項1~12及び14のいずれか1項に記載の併用医薬、又は請求項13又は14に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【請求項16】
CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、融合タンパク質を含む、又はそれからなり、前記融合タンパク質は以下を含む:
- SIRPαポリペプチド細胞外ドメイン;及び
- Ig fcドメイン;
特に、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、ALX148、TTI-622又はTTI-621から選択される、
請求項1~12、14及び15のいずれか1項に記載の併用医薬、又は請求項13~15のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【請求項17】
がんの治療に使用するための請求項1~16のいずれか1項に記載の併用医薬。
【請求項18】
がんは固形がん、特にがん腫である、請求項17に記載の使用のための併用医薬、又は請求項13~16のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【請求項19】
がんは液状がん、特に白血病、リンパ腫又は骨髄腫である、請求項17に記載の使用のための併用医薬、又は請求項13~16のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【請求項20】
前記可溶性HLA重鎖ポリペプチド、又は前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、全身投与に適した剤形で提供される、請求項17~19のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬、又は請求項13~16、18及び19のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【請求項21】
がんは固形腫瘍、特に乳がん、より特に乳管細胞がんの一形態である、請求項17及び18のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬、又は請求項13~16、18及び20のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2021年8月5日出願の欧州特許出願第21190003.0の優先権を主張するものであり、この全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、がん(本明細書では悪性新生物性疾患ともいう。)と診断された患者に使用する併用医薬(combination medicament)に関する。本発明に係る併用医薬は、可溶性HLA(ヒト白血球抗原)重鎖ポリペプチドと、CD47及びシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)の間の相互作用の阻害剤とを含む。
【背景技術】
【0003】
腫瘍微小環境には多数のマクロファージが存在し、腫瘍塊の50%を占めることもある。重要なのは、マクロファージが免疫監視を行うことである。したがって、自然免疫と腫瘍関連マクロファージとの両方が、自然免疫療法の標的として徐々に注目されるようになっている。しかし、腫瘍とマクロファージとの間には複雑な関係性があり、場合によっては実際に腫瘍の増殖又は転移を促進することがある。
【0004】
マクロファージの二重の役割は、その大きな不均一性及び可塑性に由来することが示された。マクロファージは、1型又は古典的に活性化されたもの(M1)、及び2型又は代替的に活性化されたもの(M2)という2つの広範な群に大別され得る。In vitroでは、M1細胞は炎症性表現型を特徴とし、殺微生物活性を示し、腫瘍抑制をもたらすが、M2マクロファージは組織修復、マトリックスリモデリング及び血管新生支援腫瘍形成(angiogenesis supporting tumorigenesis)を促進し得る。マクロファージの表現型が異なれば、貪食活性も異なる。がんの文脈では、マクロファージは、腫瘍細胞上の膜分子を素早く検出し、標的細胞と食細胞との間のレセプター-リガンド相互作用によって制御される、標的細胞の認識、細胞の飲み込み(engulfment)及びリソソーム消化を含む多段階の細胞プロセスである貪食(phagocytosis)を通じて、腫瘍細胞を飲み込むことができる。がん細胞に存在する複数の抗貪食シグナルが同定されており、その中にはLILRB1及びLILRB2が含まれる。白血球Ig様レセプターサブファミリーB(LILRB)は、リガンドと結合する細胞外Ig様ドメイン、及びチロシンホスファターゼSHP-1、SHP-2、及びイノシトールホスファターゼSHIPをリクルートできる細胞内ITIMを有するI型膜貫通糖タンパク質の群である。
【0005】
マクロファージはLILRB1レセプター及びLILRB2レセプターの両方を発現し、これらのレセプターの活性化は腫瘍微小環境におけるマクロファージの活性を下方制御する。免疫細胞におけるLILRB1遮断は、in vitroモデルを用いて固形がん及び液状がんに有効であることが実証されている。例えば、LILRB1シグナリングは、単球の活性化及びマクロファージの貪食を阻害することができる(Colonna M. et al.1997 J.Exp.Med.186(1):1809)。LILRB2の遮断は、TAMを炎症性表現型に再プログラムし、T制御細胞の浸潤を抑制し、及び免疫チェックポイント阻害剤の有効性を促進する。さらに、LILRB2の遮断は、SHP-1/SHP-2のレセプター媒介活性化を阻害し、炎症性応答を増強する(Alsina-Beauchamp D.et al.2018,J.Clin.Invest.128(12):5647)。
【0006】
ImmunOs Therapeutics社は、LILRB1レセプター、LILRB2レセプター及びKIR3DL1レセプターに結合するヒト白血球抗原(HLA)重鎖に基づく分子を開発している(例えば、WO2017153438A1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術水準に基づいて、本発明の目的は、治療用HLA重鎖に基づく分子の抗腫瘍効果を増強する手段及び方法を提供することにある。本目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成され、本明細書の従属請求項、実施例、図及び一般的説明に記載されたさらに有利な実施形態を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
阻害性CD47の相互作用は、SIRPαと結合して貪食を阻害する。CD47又はSIRPαのいずれかに結合するチェックポイント阻害剤の標的となることで、免疫成績が向上する可能性がある。LILRB1/2免疫チェックポイント阻害剤をブロックするHLAクラスI重鎖融合タンパク質は、本発明者らによって以前に開発されたもので、貪食チェックポイントを調節する能力を共有する。本発明者らは、CD47のSIRPαへの結合を阻害する薬剤が、腫瘍細胞のマクロファージ貪食に対するHLA融合タンパク質の炎症促進効果を増強できるかどうかを評価する実験を計画した(図1)。この結果は、HLA融合タンパク質候補であるiosH2が、単剤でも、特に抗CD47抗体及び抗SIRPα抗体との併用でも、固形がん及び液状がんに対するヒトプライマリーマクロファージの貪食活性を高めることを示している。
【0009】
本発明の第1の態様は併用医薬に関し、前記併用は以下を含む:
1.可溶性MHCクラスI HLA重鎖ポリペプチドであって、任意に、in vivo安定性を向上させるポリペプチド部分との融合により安定化されたポリペプチド;及び
2.CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【0010】
特定の実施形態において、可溶性HLA重鎖ポリペプチドは、免疫グロブリン結晶化可能性断片(Ig Fc)ポリペプチドに接続したHLA重鎖ポリペプチド(HLA重鎖の細胞外ドメイン)を含むHLA融合タンパク質として提供される。併用医薬のより特定の実施形態において、HLA重鎖ポリペプチドは、HLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53又はHLA-C12から選択される。他の特定の実施形態において、HLA重鎖ポリペプチドは、上記で定義されるHLA重鎖と配列が類似し、類似の生物学的活性を有する、少なくとも(≧)95%の変異体である。
【0011】
ある特定の実施形態では、HLA融合タンパク質はベータ-2-ミクログロブリン(β2m)ポリペプチドと会合される。
【0012】
別の態様は、がん、特に固形腫瘍(悪性腫瘍性疾患)の治療における本発明に係る併用医薬の使用に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、本明細書において悪性新生物疾患ともよばれるがんの治療において使用するための、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤に関し、それは、本明細書において特定されるように、可溶性HLA重鎖ポリペプチド、任意に増強されたin vivo安定性を付与するポリペプチド部分との融合によって安定化されるもの、特にHLA融合タンパク質、に先行して、それと組み合わせて、又はそれに続いて投与される。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、本明細書で特定されるCD47及びSIRPαとの間の相互作用の阻害剤の前に、それと組み合わせて、又はそれの後に投与される場合、がん、特に固形がん(悪性新生物疾患)の治療に使用するための可溶性HLA重鎖ポリペプチド、任意に、増強されたin vivo安定性を付与するポリペプチド部分との融合により安定化されたものに関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(A)は、マクロファージ上のSIRPαとLILRB2との相互作用が、腫瘍細胞上の天然リガンドとどのように関与し、免疫抑制シグナルをもたらすかを示す。図1(B)は、HLA融合タンパク質候補であるiosH2を用いてLILRB1/2をブロックすることで、マクロファージによるがん細胞殺傷のブレーキを解除することが、抗体又は天然リガンドを用いてSIRPα/CD47軸を遮断することと組み合わされ、殺腫瘍活性を高めることができるかどうかを検証する実験デザインの概要を示す。
図2AB図2は、HLA-B57(A46E/V97R)IgG4融合タンパク質の優れた細胞生存率及びHLA融合タンパク質の発現特性を示す。細胞生存率(A)及び発現タンパク質力価(B)に基づく、HLA-B57.β2m(DGC8-T39、DGC8-T64及びDGC8-73)及びHLA-B57(A46E/V97R).β2m(DGC8-T54、DGC8-T75及びDGC8-91)をトランスフェクトしたクローンからの融合タンパク質発現。
図2B図2B表は、試験した異なるトランスフェクション比率における収率をまとめたものである。
図2CD図2(C)はHLA-B57(A46E/V97R)IgG4融合タンパク質及び図2(D)はβ2m、CHO細胞クローン内のベクターから発現させたものの等価RNAプロファイル。
図3図3は、ELISAで測定した、LILRB2と、非β2m会合HLA-B57又はHLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質、及びHLA-B57(A46E/V97R).β2mとの結合親和性の定量的推定を示す。β2mフリーのHLA-B57のEC50は21nMであり、HLA-B57(A46E/V97R)のEC50は8.3nMであり、HLA-B57(A46E/V97R).β2mのEC50は5.72nMであり、アミノ酸置換がHLA-B57重鎖のLILRB2への結合を低下させないことを示している。
図4A図4は、(A)RPMI8226多発性骨髄腫細胞を用いた液状がん、及び(B)BT474乳がん細胞を用いた固形がんについての、抗SIRPα抗体又は抗CD47抗体と組み合わせたHLA-B57(A46E/V97R).β2m(iosH2)を用いた貪食作用の増加を示す。固形腫瘍及び液状腫瘍由来のがん細胞株をヒトプライマリーマクロファージと共培養し、IncuCyteライブセルイメージングシステム内で36時間貪食を測定した。生物学的に独立した少なくとも2つのサンプルを用いて実験を繰り返した。IgG1 10ug/ml、IgG4 20ug/ml、iosH2 20ug/ml、抗CD47抗体 10ug/ml、MK4830 10ug/ml、抗SIRPα抗体 10ug/ml。エラーバーは、それぞれ2回の技術的繰り返しを含む、n=2の生物学的繰り返しのSEM。統計解析は二元配置反復測定ANOVAを用い、その後Dunnettのポストホック分析を行った、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図4B図4は、(A)RPMI8226多発性骨髄腫細胞を用いた液状がん、及び(B)BT474乳がん細胞を用いた固形がんについての、抗SIRPα抗体又は抗CD47抗体と組み合わせたHLA-B57(A46E/V97R).β2m(iosH2)を用いた貪食作用の増加を示す。固形腫瘍及び液状腫瘍由来のがん細胞株をヒトプライマリーマクロファージと共培養し、IncuCyteライブセルイメージングシステム内で36時間貪食を測定した。生物学的に独立した少なくとも2つのサンプルを用いて実験を繰り返した。IgG1 10ug/ml、IgG4 20ug/ml、iosH2 20ug/ml、抗CD47抗体 10ug/ml、MK4830 10ug/ml、抗SIRPα抗体 10ug/ml。エラーバーは、それぞれ2回の技術的繰り返しを含む、n=2の生物学的繰り返しのSEM。統計解析は二元配置反復測定ANOVAを用い、その後Dunnettのポストホック分析を行った、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0016】
用語及び定義
本明細書を解釈するために、以下の定義が適用され、適宜、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆もまた同様である。以下に定める定義が、参照により本明細書に組み込まれる文書と矛盾する場合は、ここに定める定義が優先されるものとする。
【0017】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び他の同様の形態、並びにそれらの文法的に同等な用語は、意味において同等であること、及びこれらの単語のいずれか1つに続く1つ又は複数の項目が、係る1つ又は複数の項目を網羅的にリストするものではない、又はリストした1つ又は複数の項目のみに限定するものではないことにおいてオープンエンドとすることを意図している。例えば、成分A、B及びCを「含む(comprising)」品目は、成分A、B及びCからなる(すなわち、成分A、B及びCのみを含有する)こともできるし、又は成分A、B及びCのみならず、1つ又は複数の他の成分を含むこともできる。このように、「含む(comprising)」及びその類似の形態、並びにその文法的同等な用語は、「本質的にそれからなる(consisting essentially of)」又は「それからなる(consisting of)」の実施形態の開示を含むことが意図及び理解される。
【0018】
値の範囲が提供されている場合、文脈上明らかにそうでないと指示されない限り、その範囲の上限と下限との間の、下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその記載の範囲内の他の記載の値若しくは介在値は、記載の範囲の具体的に除外される制限を受けて本開示内に包含されると理解される。記載の範囲に限界値の一方又は両方が含まれる場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除いた範囲もまた開示に含まれる。
【0019】
本明細書において、値又はパラメータの「約(about)」という言及は、その値又はパラメータそれ自体に向けられる変動を含む(及び記述する)。例えば、「約(about)X」と言及する記述には、「X」という記述も含まれる。
【0020】
添付の特許請求の範囲を含め、本明細書で使用されるとおり、単数形「a」、「or(又は)」、「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の参照語を含む。
【0021】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学)により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。標準的な手法が、分子学的、遺伝学的及び生化学的手法(一般に以下を参照。Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第4編(2012)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.及びAusubelら,Short Protocols in Molecular Biology(2002)第5編,John Wiley&Sons,Inc.)及び化学的手法に用いられる。
【0022】
本明細書の文脈における「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸がペプチド結合によって接続されている直鎖を形成する50以上のアミノ酸からなる分子を指す。ポリペプチドのアミノ酸配列は、(生理学的に見出される)タンパク質全体又はその断片のアミノ酸配列を表すこともある。用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書において互換的に使用され、タンパク質及びその断片を含む。ポリペプチドは、アミノ酸残基配列として本明細書に開示される。
【0023】
アミノ酸残基の配列はアミノ末端からカルボキシル末端へ記載される。配列位置の大文字は、1文字コードのL-アミノ酸を指す(Stryer,Biochemistry,第3編.p.21)。アミノ酸配列の位置を示す小文字は、対応するD-又は(2R)-アミノ酸を意味する。配列はアミノ末端からカルボキシ末端に向かって左から右に記載される。標準的な命名法に従い、アミノ酸残基の配列は、以下のように3文字又は1文字のコードのいずれかで表記される。アラニン(Ala、A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)及びバリン(Val、V)。
【0024】
「遺伝子発現」又は「発現」という用語、或いは「遺伝子産物」という用語は、核酸(RNA)の生成又はペプチド若しくはポリペプチドの生成のプロセス-及びその産物-のいずれか、又は両方を指す場合があり、それぞれ転写及び翻訳ともよばれ、又は遺伝情報の処理を調節してポリペプチド産物をもたらす中間プロセスのいずれかを指す。「遺伝子発現」という用語はまた、RNA遺伝子産物、例えば調節RNA又は構造的(例えば、リボソーム)RNAの転写及びプロセシングにも適用される。発現ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には真核細胞におけるmRNAのスプライシングが含まれ得る。発現は、転写及び翻訳、すなわち、mRNA及び/又はタンパク質産物の両方のレベルで評価することができる。
【0025】
本明細書の文脈において、「配列同一性」、「配列類似性」及び「配列同一性のパーセンテージ」という用語は、整列される2つのポリペプチド配列を位置ごとに比較することによって決定される配列比較の結果を表す1つの定量的パラメータを指す。比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野でよく知られている。比較のための配列のアラインメントは、Smith及びWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム、Adv.Appl.Math.2:482(1981)、Needleman及び Wunschのグローバルアライメントアルゴリズム、J.Mol.Biol.48:443(1970)、Pearson及びLipmanの類似性検索法、Proc.Nat.Acad.Sci.85:2444(1988)、又はこれらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装により実施することができ、これらに限定されるものではないが、CLUSTAL、GAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTAを含む。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology-Information)(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)などで公開されている。
【0026】
アミノ酸配列の比較の一例として、デフォルト設定を使用するBLASTPアルゴリズムがある:期待閾値:3;ワードサイズ:3;クエリ範囲内の最大マッチ: 0;マトリックス:BLOSUM62;ギャップコスト:Existence 11,Extension 1;組成調整:条件付き組成スコアマトリックス調整(Conditional compositional score matrix adjustment)。他に記載がない限り、本明細書で提供される配列同一性値は、BLAST一連のプログラム(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-410(1990))を用いて、タンパク質について上記で特定されるデフォルトパラメータを使用して得られる値を指す。
【0027】
パーセンテージを指定しない同一配列への言及は、100%同一配列(すなわち同じ配列)の意味を含む。
【0028】
本明細書で使用されるとおり、医薬組成物という用語は、可溶性HLA重鎖、特にHLA融合タンパク質、及び又はCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体とともに指す。特定の実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、非経口投与、特に注射投与に適した形態で提供される。
【0029】
本明細書で使用されるとおり、「薬学的に許容される担体」という用語は、当業者に知られているように、任意の溶媒、分散媒体、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香料、色素など、及びその組み合わせを含む(例えば、Remington:the Science and Practice of Pharmacy,ISBN 0857110624を参照)。
【0030】
本明細書で使用されるとおり、任意の疾患又は障害(例えば、がん)の「治療する」又は「治療」という用語は、一実施形態では、疾患又は障害を緩和すること(例えば、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの発症を遅らせるか、阻止するか、又は軽減すること、例えば、腫瘍成長を遅らせること、又は減少すること)を指す。別の実施形態では、「治療する」又は「治療」とは、患者が識別できない可能性のあるものも含めて、少なくとも1つの身体的パラメータを緩和又は改善することを指す。さらに別の実施形態では、「治療する」又は「治療」とは、身体的(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理学的(例えば、身体的パラメーターの安定化)、又はその両方のいずれかで、疾患又は障害を調節することを指す。疾患の治療及び/又は予防を評価する方法は、以下の本明細書で特に説明しない限り、当技術分野で一般的に知られている。
【0031】
「がん」及び「悪性新生物疾患」という用語は、本明細書では同義に用いられる。本明細書に開示された態様及び実施形態のいずれかの特定の代替物は、固形腫瘍の治療における本発明の組み合わせの使用に向けられる。本明細書に開示される態様及び実施形態のいずれかの他の代替物は、骨髄性白血病又は顆粒球性白血病、特にAML、リンパ性白血病、リンパ球性白血病、又はリンパ芽球性白血病及びリンパ腫、真性多血症又は赤血球減少症などの液体がんの治療における本発明の組み合わせの使用に向けられる。
【0032】
本明細書の文脈において、「ペプチドリンカー」又は「アミノ酸リンカー」という用語は、一本鎖のポリペプチドを生成するために2つのポリペプチドを接続するために使用される可変長のポリペプチドを意味する。本明細書で規定する本発明の実施に有用なリンカーの例示的な実施形態は、1、2、3、4、5、10、20、30、40又は50個のアミノ酸からなるオリゴペプチド鎖である。アミノ酸リンカーの非限定的な例は、HLA重鎖ポリペプチドを安定化ペプチドと連結するポリペプチドGGGGSGGGGS(配列番号003)であり、例えば、HLA融合タンパク質においてHLA-B57とIgG4 Fcポリペプチドとを連結する。
【0033】
本明細書の文脈において、「ヒト白血球抗原(HLA)重鎖」、「HLA重鎖」という用語は、MHCクラスI組織適合抗原遺伝子によってコードされるタンパク質、特に古典的な、MHCクラス1a重鎖に関する。ヒトでは、HLA重鎖は単量体であるか、又はβ2m軽鎖と非共有結合した3つの細胞外ドメイン(α1、α2及びα3)を有する重鎖を含む二量体構造の一部を形成するか、又は任意に、ペプチド結合クレフト(cleft)に低分子ペプチドが結合した三量体構造を形成する。全長HLA重鎖ポリペプチドは、α1、α2、及びα3ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを含む。
【0034】
本発明のこの態様に係る用語の実施形態と考えられる天然に存在するHLA重鎖のリストを表1に示す。
表1:HLA重鎖アレルのリスト
【0035】
【表1】
【0036】
本明細書の文脈における「変異体」という用語は、天然に存在するポリペプチド配列とは異なる少なくとも1つのアミノ酸残基を有するHLA重鎖ポリペプチド配列に関する。例えば、変異型HLA重鎖ポリペプチドは、由来する本来の天然に存在するHLA重鎖ポリペプチド配列とは異なるように、1個又は複数個のアミノ酸置換が導入されている。変異型HLA重鎖ポリペプチドは、由来するHLA重鎖の整列した天然に存在する細胞外ドメインと比較して、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性を特徴とする。加えて、変化したアミノ酸は、変異型HLA重鎖がそのリガンドと相互作用する能力を阻害しないので、変異型は、それが由来する本来の配列と同様の生物学的活性を有する。
【0037】
変異型HLA重鎖ペプチドの生物学的活性は、本発明に係るHLA融合タンパク質への組み込みの文脈において、特にリガンドLILRB2への結合能を測定することによって、評価することができる。変異体の同様の生物学的活性とは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法で測定した、HLA融合タンパク質に使用される変異型HLA重鎖ポリペプチドのLILRB2への結合能力が、同等の非変異体配列と比較して、少なくとも65%、特に85%、又は95%であることと定義される。これはEC50を計算することによって評価することができる。すなわち、半最大応答を与える融合タンパク質の濃度であり、この場合はビオチン化LILRB2分子への最大結合の半分である。例えば、実施例(図3)で評価した変異型HLA-B57重鎖-IgG4融合タンパク質については、同等の非変異型野生型HLA-B57に基づく構造は、LILRB2結合のEC50が約21nM(ナノモル/L)である。したがって、ELISAによって測定される、生物学的機能が約65%である適切な変異体のEC50の閾値は約32nMであり、85%のものは約29nMであり、95%のものは約22nMである。
【0038】
本発明に係るLILRB2結合のEC50を決定するために、ストレプトアビジンでコーティングした高結合能96ウェルプレートに、PBSバッファー中で最終濃度が5μg/mlであるc末端ビオチン化LILRB2(例えば、BPS Bioscience#100335から入手)50μlでコーティングする。陰性コントロールとしてPBS及びIgGアイソタイプを使用することができる。HLA融合タンパク質の連続希釈を漸増連続で行う(例えば、8つの濃度ポイント:10、2.5、1、0.25、0.1、0.025、0.01、0.0025μg/ml)、好ましくは50μlの繰り返し(duplicate)で適用する。次いで、融合タンパク質を検出できる標識抗体(例えば、融合タンパク質がIgG Fcを含む場合、APC結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson Immuno Research #109-135-098、TBS 50μl中1:100希釈)を適用して、HLA融合タンパク質結合を検出することができる。最後に、50μlのTBSを各ウェルに加え、適切な波長で蛍光励起及び蛍光発光(例えば、それぞれ650nm及び660nm)を測定する。LILRB2に結合するHLA融合タンパク質のEC50を決定するには、3つのパラメータに基づくlog(アゴニスト)モデルが一つの適切な手段である。
【0039】
本明細書においてHLA重鎖、又はHLA重鎖の変異体に適用される「細胞外ドメイン」という用語は、HLA重鎖タンパク質(又は天然に存在するHLA重鎖タンパク質配列にアミノ酸置換が導入されている変異タンパク質)の細胞外部分を指す。HLAクラス1aポリペプチドの細胞外部分は、アルファ(α)1ドメイン、及びα2ドメイン、及びα3ドメインを含み、これらは、本発明に係る使用のための医薬組成物中のHLA融合タンパク質の免疫調節効果を媒介するレセプターリガンド相互作用に必須である。細胞外ドメインは膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを除く。
【0040】
本明細書の文脈において、「HLA融合タンパク質」という用語は、HLA重鎖の細胞外ドメインを、安定化ドメインと、特に安定化免疫グロブリン(Ig)Fcと、任意にペプチドリンカーによって、結合してなる組換えポリペプチドを指す。本発明の文脈において使用するための特定の融合タンパク質は、WO2016/124661A1として公開されたPCT/EP2016/052317;WO2017/153438A1として公開されたPCT/EP2017/055373;及びWO2018/029284A1として公開されたPCT/EP2017/070255に開示されており、これらはすべて、参照により本明細書に包含される。「HLA融合タンパク質」という用語は、哺乳動物細胞培養から分泌されるβ2-ミクログロブリンポリペプチドと複合体化したHLA融合タンパク質、及びβ2-ミクログロブリンと会合していない精製HLA融合タンパク質を包含する。「HLA融合タンパク質」という用語は、単一の安定化免疫グロブリン(Ig)Fcドメインに結合した単一のHLAポリペプチドを含む単量体、又は第1のHLA融合タンパク質単量体、及び第2のHLA融合タンパク質単量体の、特に安定化IgFcドメインを介して結合される、会合によって形成される二量体を指し得る。
【0041】
本明細書の文脈において、「β2-ミクログロブリン(β2m、B2m、B2M)」、「B2mポリペプチド」、又は「β2mポリペプチド」という用語は、MHCクラスIヘテロダイマーのベータ(β)鎖を指し、HLA軽鎖としても知られる。「β2-ミクログロブリン」という用語は、まず、分泌シグナル、例えば、Uniprot P61769の配列、又は配列番号006の配列を含む処理前のβ2-ミクログロブリン、特に、分泌プロセス中の切断によってタンパク質の分泌シグナル部分が除去されている、タンパク質の分泌後形態を包含する。
【0042】
本明細書の文脈において、「分泌シグナル」、「分泌シグナルペプチド」又は「シグナル配列」という用語は、ポリペプチドのオープンリーディングフレーム(ORF)を開始するN末端リーダー配列を指し、通常、約6~30アミノ酸長である。まれに、分泌シグナルがポリペプチドのC末端に配置されることがある。分泌シグナルは、標的化シグナル、局在化シグナル、トランジットペプチド、リーダー配列、又はリーダーペプチドとよばれることもある。細胞からのポリペプチドの効率的な分泌を可能にする分泌シグナルは当技術分野でよく知られており、細胞に基づくポリペプチド製造システムにおいてポリペプチドの上清への排出を促進し、細胞上清からポリペプチドを精製できるようにするために、組換えタンパク質のORFに含めることができる。分泌シグナルをコードするmRNAが翻訳されると、mRNA-リボソーム複合体の小胞体(ER)内のチャネルタンパク質への移行を媒介する細胞質タンパク質によって認識される。分泌シグナルペプチドを含む新しく合成されたポリペプチドは、チャネルタンパク質を介して小胞体内腔に移行し、細胞の分泌経路に入る。本発明に係る特有の使用のシグナル配列は、例えば、配列番号004のように、翻訳後に最終ポリペプチド産物から切断されるものである。
【0043】
結合;結合剤 リガンド 抗体:
本発明の文脈における「特異的結合」という用語は、リガンドの特性を指し、リガンドは、ある親和性及び標的特異性でその標的に結合するものである。このようなリガンドの親和性は、リガンドの解離定数によって示される。特異的反応性リガンドは、標的との結合時の解離定数が≦10-7mol/Lであるが、標的と化学組成がほぼ同じであるが立体構造が異なる分子との相互作用では、少なくとも3桁高い解離定数を有する。
【0044】
本明細書の文脈において、「解離定数(KD)」という用語は、化学及び物理の技術分野で知られている意味で使用される:[主に2つの]異なる成分からなる複合体が、可逆的にその(2つの)構成成分に解離する傾向を測定する、平衡定数を意味する。この複合体は、例えば、抗体Abと抗原Agからなる抗体抗原複合体AbAgとすることができる。Kは、モル濃度[mol/l]で表され、[Ag]の結合部位の半分が占有される[Ab]の濃度に相当し、言い換えれば、未結合の[Ab]の濃度が[AbAg]複合体の濃度と等しいことに相当する。解離定数は、以下の式により算出することができる:
【0045】
【数1】
【0046】
[Ab]:抗体の濃度、[Ag]:抗原の濃度、[AbAg]:抗体-抗原複合体の濃度
【0047】
本明細書の文脈において、「オフレート(解離速度)(Koff;[1/秒])」及び「オンレート(結合速度)(Kon;[L/(秒mol])」という用語は、化学及び物理の技術分野で知られている意味で使用される:これらは、抗体とその標的抗原との解離(Koff)又は会合(Kon)を測定する速度定数を指す。Koff及びKonは、当技術分野で十分に確立された方法を用いて実験的に決定することができる。抗体のKoffとKonとを測定する方法には、表面プラズモン共鳴が採用される。これは、Biacore(登録商標)又はProteOn(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムにおける原理となっている。これらはまた、以下の式を用いて解離定数Kを求めるために使用することができる:
【0048】
【数2】
【0049】
オンレートKonの自然の上限は、10L/(秒*mol)である。
【0050】
本明細書の文脈では、「抗体」という用語は、免疫グロブリンG型(IgG)、A型(IgA)、D型(IgD)、E型(IgE)又はM型(IgM)、その任意の抗原-結合断片又は単鎖、及び関連若しくは由来構築物を含むがこれに限定されない全抗体に関する。全抗体とは、ジスルフィド結合で相互に連結された少なくとも2本の重鎖(H)及び2本の軽鎖(L)を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(V)及び重鎖定常領域(C)で構成される。IgGの重鎖定常領域は、C1、C2、C3の3つのドメインで構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略記)と軽鎖定常領域(C)で構成されている。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCから構成されている。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分を含み、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。同様に、この用語は、いわゆるナノボディ又は単一のドメイン抗体、単一の単量体可変抗体ドメインからなる抗体断片を包含する。
【0051】
本明細書の文脈での「抗体様分子」という用語は、別の分子又は標的に高い親和性/Kd≦10E-8mol/lで特異的に結合できる分子を指す。抗体様分子は、抗体の特異的な結合と同様にその標的に結合する。「抗体様分子」という用語には、リピートタンパク質を包含し、例えば、設計されたアンキリンリピートタンパク質(Molecular Partners,Zurich)、高特異性及び高親和性の標的タンパク質結合を示す改変抗体模倣タンパク質(米国特許出願公開第2012142611、米国特許出願公開第2016250341、米国特許出願公開第2016075767及び米国特許出願公開第2015368302を参照。これらすべては参照により本書に組み込まれる)などがある。抗体様分子という用語は、さらに、アルマジロリピートタンパク質由来のポリペプチド、ロイシンリッチリピートタンパク質由来のポリペプチド、及びテトラトリコペプチドリピートタンパク質由来のポリペプチドを包含するが、これらに限定されない。抗体様分子という用語は、さらに、プロテインAドメイン、フィブロネクチンドメインFN3、コンセンサスフィブロネクチンドメイン、リポカリン(Skerra,Biochim.Biophys.Acta 2000,1482(1-2):337-50参照)、ジンクフィンガータンパク質由来のポリペプチド(Kwan et al.Structure 2003,11(7):803-813参照)、Srcホモロジードメイン2(SH2)若しくはSrcホモロジードメイン3(SH3)、PDZドメイン、ガンマクリスタリン、ユビキチン、システインノットポリペプチド若しくはノッティン、シスタチン、Sac7d、三重らせんコイルドコイル(アルファ体としても知られている)、クニッツドメイン若しくはクニッツ型プロテアーゼ阻害剤、及び糖結合モジュール32-2に由来する、特異的結合性ポリペプチドを包含する。
【0052】
「プロテインAドメイン由来ポリペプチド」という用語は、プロテインAの誘導体であり、免疫グロブリンのFc領域とFab領域とを特異的に結合することができる分子を指す。
【0053】
「アルマジロリピートタンパク質」という用語は、少なくとも1つのアルマジロリピートを含むポリペプチドを指し、アルマジロリピートは、ヘアピン構造を形成する一対のアルファヘリックスによって特徴付けられるものである。
【0054】
本明細書の文脈における「ヒト化ラクダ抗体」という用語は、重鎖又は重鎖の可変ドメイン(VHHドメイン)のみからなり、かつそのアミノ酸配列はヒトで自然に産生される抗体との類似性が増大するように改変され、その結果、ヒトに投与した場合に免疫原性の低下を示す抗体を指す。ラクダ抗体をヒト化するための一般的な戦略は、以下に示されている:Vinckeら、「General strategy to humanize a camelid single-domain antibody and identification of a universal humanized nanobody scaffold」、J Biol Chem.2009年1月30日;284(5):3273-3284、及び米国特許出願公開第2011165621。
【0055】
本明細書の文脈において、「免疫グロブリン結晶化可能断片(Fc)領域」又は「Ig Fc」という用語は、C2及びC3ドメインからなる抗体若しくは免疫グロブリン(Ig)の画分を指す。Ig Fcは、単量体、又はジスルフィド結合によって共有結合した2つのIg Fcからなる二量体の両方を含む。本発明に係るHLA融合タンパク質の文脈において、ジスルフィド結合は、それぞれがIg Fcドメインを含む2つのHLA融合タンパク質分子を結合し得る。HLA融合タンパク質にIg Fcが存在することで、溶解度、安定性、アビディティ(avidity)、半減期を向上し、技術的な観点からは、哺乳動物系でのコスト効率の良い生産及び精製(プロテインA又はG精製)が容易になる。
【0056】
本明細書の文脈において、「CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤」という用語は、食細胞の活性化を制限するCD47及びSIRPαの間の阻害性シグナル伝達カスケードを破壊することができる任意の薬剤を包含する。これには、CD47又はSIRPαのいずれかに特異的に結合できる抗体、抗体断片及び抗体様分子が含まれる。また、CD47又はSIRPαの細胞外リガンド結合ドメインを包含する可溶性組換えタンパク質も含まれる。
【0057】
「シグナル調節タンパク質アルファ」(SIRPα、Uniprot P78324)という用語は、CD47(Uniprot Q08722)の免疫グロブリン様表面レセプターを指す。CD47及びSIRPαのライゲーションは貪食の負の制御を媒介する。
【0058】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は併用医薬に関し、特にがんの治療に使用するための併用医薬に関する。併用医薬は以下を含む:
1.可溶性HLA重鎖分子、任意にHLA融合タンパク質として安定化されたもの、及び
2.CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【0059】
幾つかの実施形態では、これら2つの薬剤は単一の医薬組成物中に存在する。他の実施形態において、可溶性HLA重鎖分子(特に、HLA融合タンパク質として提供されるもの)は、CD47及びSIRPαの間の相互作用の前記阻害剤を含む医薬を投与されている患者における使用のために提供される。言い換えれば、HLA融合タンパク質は、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤を以降の数週間若しくは月間に投与する予定のがん患者に、又はCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤を現在数週間若しくは月前に投与しているがん患者に使用するために提供される。或いは、2つの薬剤は重複した投与レジームで投与され得る。
【0060】
本発明に係る併用医薬に関する本明細書での言及は、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤と組み合わせて投与される、指定されるとおりの使用のためのHLA重鎖又はHLA融合タンパク質に向けられた、同じ限定を有する特定の請求項、項目、態様又は実施形態の改質(re-formulation)を包含する。
【0061】
HLA融合タンパク質
本発明に係る使用のための併用医薬のHLA融合タンパク質成分、又は本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、HLA重鎖の細胞外ドメインであるHLA重鎖ポリペプチドを含む。医薬品用途について、HLA重鎖は、医薬品の製造性及び安定性を向上し、血漿中半減期を延長する、タンパク質部分との融合によって安定化される。特に有利な実施形態において、本発明者らは、HLA重鎖を免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチドと結合させることにより、これらの利点が得られることを見出した。本発明は、IgG Fcドメインを有するこのような融合タンパク質の観点からさらに説明されるが、当業者は、同様の利点を与えるために、安定化の他の様式が利用可能であろうことを認識する。
【0062】
コグネート(cognate)リガンド相互作用に必要とされないHLA重鎖タンパク質の特定のドメインは、本発明に係る使用のための併用医薬に含まれるHLA融合タンパク質のHLAポリペプチド部分には必ずしも含まれない。特定の実施形態では、細胞内ドメイン及び膜貫通ドメインは、HLA重鎖ポリペプチドには存在しない。
【0063】
本発明に係るHLA融合タンパク質若しくは単離されたHLA融合タンパク質を製造する方法の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質中に含まれるHLA-B57ポリペプチド変異体は、天然に存在するHLA重鎖タンパク質のアルファ1、2及び3ドメインを含み、これらの領域は、本発明に係るHLA融合タンパク質の免疫調節効果を媒介するレセプターリガンド相互作用に必須である。
【0064】
本発明に係るHLA融合タンパク質若しくは単離されたHLA融合タンパク質を製造する方法のより特定の実施形態において、HLA-B57ポリペプチドタンパク質変異体は、天然に存在するHLA重鎖タンパク質のアルファ1、2及び3ドメインであるが、C末端イソロイシン-バリンジペプチドを除き、それより細胞外ドメインのスレオニン-バリン-プロリン残基が先行し、それは時々「連結ペプチド」と注釈又は参照される膜貫通ドメインを先行するHLA-B57領域内にある。
【0065】
HLA重鎖は、キラー免疫グロブリン様レセプター(KIR)及び白血球免疫グロブリン様レセプター(LILR)といったリガンドと、膜貫通領域から離れた領域を介して相互作用することが構造データから示唆されている。膜に近いアミノ酸は、一般的にレセプターと相互作用しない。さらに、本発明者らは、天然に存在するHLA重鎖配列の細胞外ドメインの5C末端アミノ内に疎水性アミノ酸が多く含まれることが、タンパク質の凝集傾向といった望ましくない性質を組換えタンパク質に導入する可能性が高く、その結果、下流の生産工程における生産、精製、安定性及び毒性に影響を及ぼす可能性があると推測している。
【0066】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質成分のHLA重鎖細胞外ドメインポリペプチドは、アルファ1、2及び3ドメインを含むHLA重鎖タンパク質配列の細胞外部分のコア構造を含み、この部分は標的細胞上の表面分子と相互作用する能力をHLA融合タンパク質に付与する。
【0067】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖ポリペプチド部分は、表1に列挙した天然に存在するHLA重鎖の細胞外ドメインのポリペプチド配列を有する。特定の実施形態において、HLA重鎖細胞外ドメインは、自然免疫細胞及び適応免疫細胞の機能を変化させる制御性KIR3DL1、LILRA及びLILRB1/2細胞表面タンパク質への特異的結合といった免疫調節資質を有する天然に存在するHLA重鎖のものである。
【0068】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B58の細胞外ドメインに由来する。特定の実施形態において、併用医薬は、配列番号010と指定される配列を有するHLA-B58融合タンパク質ポリペプチドである可溶性HLA重鎖ポリペプチドを含む。
【0069】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-A30の細胞外ドメインに由来する。特定の実施形態において、併用医薬は、配列番号011と指定される配列を有するHLA-B58融合タンパク質ポリペプチドである可溶性HLA重鎖ポリペプチドを含む。
【0070】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B27の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。
【0071】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B44の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。
【0072】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B81の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。
【0073】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-C08の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。特定の実施形態において、併用医薬は、配列番号009と指定される配列を有するHLA-C08融合タンパク質ポリペプチドである可溶性HLA重鎖ポリペプチドを含む。
【0074】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-C12の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。
【0075】
特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B57の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。
【0076】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬のさらなる実施形態において、HLA融合タンパク質は、HLA重鎖細胞外ドメインポリペプチド変異体を含む。前記HLA重鎖ポリペプチド変異体は、HLA重鎖の非変異細胞外ドメインに対して少なくとも(≧)95%の配列類似性(タンパク質レベルで)を特徴とし、及び類似の生物学的活性(「類似の生物学的活性」という用語の下で定義される)を有する。特定の実施形態において、HLA重鎖変異体は、それが由来する天然に存在するHLA重鎖細胞外ドメインと≧98%で類似する。
【0077】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、ベータ-2-ミクログロブリン(β2m)ポリペプチドと会合する。β2m会合HLA融合タンパク質を用いると、β2m解離工程で生じるタンパク質の損失がないため、免疫調節HLA融合タンパク質の収量が増加するという利点がある(図2)。本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の幾つかの実施形態において、β2mポリペプチドは、HLA融合タンパク質と、ペプチドリンカーによって連結される。本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、β2mポリペプチドは、前記HLA融合タンパク質と非共有結合的に会合される。特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、3:5~7:5の間のモル比でβ2m分子と会合される。より特定の実施形態では、該比率は4:5~6:5である。換言すれば、HLA融合タンパク質及びβ2mポリペプチドは、1:1の比率、又はそれに近い比率で存在する。
【0078】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、天然に存在するMHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチドのポリペプチド配列とは異なる少なくとも1個又は2個のアミノ酸置換を特徴とする、HLA-B57重鎖細胞外ドメインポリペプチド変異体を含む。HLA-B57重鎖遺伝子ファミリーは、現在、221個の既知の変異体を包含し、HLA-B*57:01~HLA-B*57:141で番号付けした特有の核酸配列を有し、数十の特有のタンパク質配列をコードする。該タンパク質配列は既知であり、例えば、European Bioinformatics Institute Immuno Polymorphism Database,(Robinson J.et al.2013 Nucleic Acids Res.41:D1234,https://www.ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/allele.html)が提供するMGT/HLA Allele Query Formに検索語「B*57」を入力することで検索することができる。より特定の実施形態において、HLA重鎖ポリペプチドは、HLA-B57重鎖ポリペプチド配列の天然に存在する細胞外ドメインの変異体であり、1個又は2個のアミノ酸置換が、46位のE、及び97位のR(細胞外ドメインの開始を示すG、S、Hモチーフから割り当てられた番号)を特徴とするように行われている。すなわち、E以外のアミノ酸が46位のEで置換され、及び/又はR以外のアミノ酸が97位のRで置換されている。これらのアミノ酸の番号付けは、分泌シグナルを欠く分泌型HLA-B57部分の細胞外ドメインを開始するG、S、Hモチーフから始まる整数を1、2及び3と順次割り当てたものである。本発明者らは、これらの置換が、野生型配列と比較して、得られる変異体に基づくHLA融合タンパク質の高い収率と相関することを見出す(図2)。
【0079】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質と会合するβ2mポリペプチドは、配列番号006と指定される配列を有する。
【0080】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬のより特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖ポリペプチド部分は、配列番号001と指定されるHLA-B57変異体を含む。さらにより特定の実施形態では、HLA重鎖ポリペプチドは、本質的に配列番号001と指定される配列から本質的になる。
【0081】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬のさらなる特定の実施形態において、HLA重鎖ポリペプチド及びHLA融合タンパク質のIg Fcポリペプチドは、ペプチドリンカーにより連結される。特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、5~20の間のアミノ酸長である。より特定の実施形態において、この結合性ペプチドリンカーは、配列番号003の配列を有する。
【0082】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、配列番号005と指定される配列を有するポリペプチドを含む。他の実施形態では、HLA融合タンパク質は、配列番号005の配列の上流に分泌シグナルをさらに含む。特定の実施形態において、HLA融合タンパク質ポリペプチドの上流の分泌シグナルは配列番号004である。他の実施形態では、HLA融合タンパク質は、配列番号004の分泌シグナルが配列番号005と指定されるポリペプチドに結合したものから本質的になる。
【0083】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬のより特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、HLA融合タンパク質は、本質的に配列番号005(IgG4 Fcに融合したHLA-B57の変異型細胞外ドメインを含む)で指定される配列がβ2mポリペプチドと会合したものから本質的になる。
【0084】
ヒト細胞の小胞体で発現する天然HLA分子は、細胞表面への輸送及び表示を受ける前に、ペプチドエピトープと会合する。ペプチドがHLAクラス分子に結合すると、そのコンフォメーションが変化し、LILRB1及びLILRB2といった結合パートナーとの相互作用に影響を及ぼす可能性があると考えられている。β2mポリペプチドと会合したHLA-B57ポリペプチドの結合親和性及び免疫調節効果は、実施例の図4に示される。本発明に係る医薬組成物の特定の実施形態において、HLAポリペプチドは、ペプチドエピトープと会合しない。すなわち、HLAポリペプチドのアルファ1ドメイン及びアルファ2ドメインによって形成される抗原結合溝、又は抗原結合クレフトには、小さな抗原性ペプチドは結合しない。
【0085】
HLA融合タンパク質の安定化及び連結ペプチド
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬のHLA融合部分は、発現及び精製の間の安定性を付与するポリペプチドをさらに含む。HLA融合タンパク質の安定化部分の存在は、HLA融合タンパク質の分解及びオリゴマー化を減少させ、融合タンパク質を発現する細胞の生存率を増加させることにより、収率及び溶解度を増加させる。
【0086】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質の安定化ポリペプチドは、ヒトIg Fcポリペプチドである。また、Ig Fc部分は、リサイクルレセプターに結合することにより、in vivoでの分子のin vivo半減期を延長する可能性がある。
【0087】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、安定化ポリペプチドは、アイソタイプIgG Fcである。IgG Fc安定化ペプチドドメインは、HLA融合タンパク質の精製時にさらなる利点をもたらし、プロテインA又はGでコーティングした表面への吸収を可能にする。本発明者らは、Ig Fcの代わりに機能性HLAポリペプチドに結合させれば、同様の利点をもたらす可能性のある代替物はウシ血清アルブミンであり得ると考えている。本発明者らのこれまでの研究により、ウシ血清アルブミンなどのアルブミン分子もまた安定化ポリペプチドとして機能し得ることが確立されている。また、PEG化によって循環中のタンパク質の半減期が延び得ることも知られているので、これも別の実現可能な安定化ペプチドである。
【0088】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質はIgG4ポリペプチドを含み、これは細胞毒性が低いために治療用融合タンパク質において望ましいアイソタイプである。本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬のなおさらに特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、配列番号002の配列を有するIgG4 S228P.dk分子変化物を含む。これはIgG4のヒンジ領域の変異を特徴とし、本来のIgG4抗体の228位のプロリン(P)がセリン(S)に置換されており、及びdKは本来のIgG4配列上の最後のアミノ酸であるリジン(K)の欠失を示す。これらの変更により、IgG4フォーマットは安定化し、異種性(heterogenicity)が少なくなる。どちらの変化もよく確立されており、及び多様なFcコンストラクトにおいて一般的に使用される。
【0089】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態では、HLA融合タンパク質は、ペプチドリンカーによって単一のポリペプチド鎖の一部としてIgGポリペプチドと連結したHLAポリペプチドを含み、該リンカーは長さが5、10、15又は20残基のアミノ酸の短い配列である。特定の実施形態において、ペプチドリンカーは、セリン残基及びグリシン残基に富む配列などの非免疫原性配列である。より特定の実施形態において、ペプチドリンカーは、配列番号003の配列を有する。
【0090】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態では、HLA融合タンパク質は二量体の形式である。前記二量体は、第1の単量体と第2の単量体とを含み、及び各単量体は、他の単量体とは独立に、HLA融合タンパク質、Ig Fc部分に融合したHLA重鎖細胞外ドメインポリペプチドを含み、後者はジスルフィド結合を介して会合し得る。本発明に係る各単量体は、さらに、β2mポリペプチドと会合していてもよい。特定の実施形態では、HLAクラスI成分のいずれもペプチドエピトープと関連しない。
【0091】
CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤
前臨床試験及び臨床試験で報告されているCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、貪食細胞の活性化を制限するCD47及びSIRPαの間の阻害性シグナル伝達カスケードを破壊できる様々な薬剤を包含する(Zhang W.et al.2020,Front.Immunol.11(19)doi:10.3389/fimmu.2020.00018)。これには、CD47又はSIRPαに結合してリガンドとの相互作用を阻害することができる抗体、抗体断片、抗体様分子又は天然リガンドレセプター、或いはCD47又はSIRPαの細胞外リガンド結合ドメインを組み込んだ組換えタンパク質が挙げられる。
【0092】
当技術分野で公知のCD47及びSIRPαの相互作用の阻害剤としては、ALX148(ALX oncology)、TTI-662又はTTI-621(Trillium Therapeutics)、Hu5F9-G4(Stanford University 47)、TI-061(Arch Oncology)、SRF231(Surface Oncology)、SHR-1603(Hengrui)、NI-1701、NI-1801(Novimmune TG Therapeutics)、IBI188(Innovent Biologics)、CC-90002(Celgene Inibrx)、AO-176(Arch Oncology)、lemzoparlimap/TJC4(I-MAB Biopharma)、SY102(Salyuan)、SL-172154(Shattuck Labs)、PSTx-23(Paradigm Shift Therapeutics)、PDL1/CD47BsAb(Hanmi Pharmaceuticals)、MBT-001(Morphiex)、LYN00301(Lynkcell)、IMM2504、IMM2502、IMM03(ImmuneOnco Biopharma)、及びIMC-002(ImmuneOncia Therapeutics)が挙げられる。
【0093】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態では、前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、少なくとも10-7Mの解離定数(Kd)でCD47又はSIRPαの細胞外ドメインに結合する。さらなる特定の実施形態では、この相互作用のKdは、少なくとも10-8M、又は10-9Mである。
【0094】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬のいくつかの実施形態では、前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、抗体、抗体断片、又は抗体様分子を含む。他の特定の実施形態では、前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、本質的に、抗体、抗体断片、又は抗体様分子である。
【0095】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態では、前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、抗体を含む。特定の実施形態では、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、CD47に特異的に結合することを特徴とする抗体である。より特定の実施形態では、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、WO2020/068752A1に開示されるCD47に特異的に結合することを特徴とする抗体であり、特にCC-90002(Celgene)である。ある特定の実施形態では、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、SIRPαに特異的に結合することを特徴とする抗体である。
【0096】
抗体断片は、抗体のFabドメイン又は可変断片(Fv)ドメインであってもよいし、或いは抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域をペプチドリンカーで連結した融合タンパク質である単鎖抗体断片であってもよい。抗体は、重鎖又は軽鎖からの単離された可変ドメインからなる、単一ドメイン抗体であってもよい。さらに、抗体は、ラクダ科動物に見られる抗体のように、重鎖のみからなる重鎖抗体であってもよい。抗体様分子は、設計されたアンキリンリピートタンパク質(Molecular Partners、Zurich)などのリピートタンパク質であってもよい。
【0097】
すべての断片は、本発明に従って機能するために、CD47又はSIRPαのいずれかに特異的に結合することを特徴とする抗原結合部分を保持していなければならない。他の特定の実施形態では、阻害剤は、CD47に特異的に結合することを特徴とする抗原結合部分を含む抗体フラグメントである。他の特定の実施形態では、阻害剤は、SIRPαに特異的に結合することを特徴とする抗原結合部分を含む抗体断片である。本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の他の特定の実施形態では、前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、CD47若しくはSIRPαのリガンド結合細胞外ドメイン又はCD47若しくはSIRPαのリガンド結合細胞外ドメインの変異体をIg Fcに融合した融合タンパク質を含み、或いは本質的にそれである。特定の実施形態では、阻害性融合タンパク質は、本質的に、SIRPαポリペプチド細胞外ドメインであり、及びIg fcドメインである。特定の実施形態では、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、ALX148、TTI-622又はTTI-621から選択される。ALX148は、修飾SIRPαD1ドメインと不活性ヒトIgG1 Fcの融合体であり、1E-9MのKdでCD47に結合する(Kauder S.et al.2018,PloS One 13(8):e0201832)。TTI-662及びTTI-621は、それぞれIgG4又はIgG1 Fcと融合したヒトSIRPαの細胞外結合ドメインである(Trillium Therapeutics)。
【0098】
SIRPα阻害剤として有用な抗SIRPα抗体にはさらに、例えば、KWAR23(Ring et al.,2017,Proc Natl Acad Sci 114(49):E10578-E10585)、CC-95251(Celgene)、Bl 765063(OSE-172としても知られる;OSE Immunotherapeutics)が含まれる。抗SIRPα抗体のさらなる例は、WO2019/023347、WO2013/056352及びWO2018/190719に記載されている。
【0099】
他のそのような抗体には、GS-0189(Gilead、以前はFSI-189)、ES-004、ADU1805(Voets et al.,J Immunother Cancer.2019 Dec 4;7(1):340)が含まれるが、これらに限定されない。
【0100】
特定の実施形態において、SIRPα阻害剤は、例えば、US2010/0239579に記載されているような可溶性CD47ポリペプチドである。特定の実施形態において、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチド(WO2016/118754の配列番号2)を含むCD47の細胞外ドメインを含み、CD47の細胞外部分は、典型的には142アミノ酸長であり、及びWO2016/118754の配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する。本明細書に記載の可溶性CD47ポリペプチドはまた、少なくとも65%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、又は95%~99%(又は65%~100%の間で特に列挙されない任意のパーセント同一性)のアミノ酸配列を含むCD47細胞外ドメイン変異体も含み、これらの変異体は、SIRPαシグナル伝達を刺激することなくSIRPαに結合する能力を保持する。
【0101】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、SIRPαIg融合タンパク質ALX148とを含む。
【0102】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、SIRPαIg融合タンパク質TTI-662とを含む。
【0103】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、SIRPαIg融合タンパク質TTI-621とを含む。
【0104】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体Hu5F9-G4とを含む。
【0105】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体TI-061とを含む。
【0106】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体IBI188とを含む。
【0107】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体CC-90002とを含む。
【0108】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体AO-176(Arch Oncology)とを含む。
【0109】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体lemzoparlimap/TJC4(I-MAB Biopharma)とを含む。
【0110】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体SL-172154(Shattuck Labs)とを含む。
【0111】
本発明に係る併用医薬の特定の実施形態において、併用は、第一に、配列番号005の二量体の2ポリペプチドからなるHLA-B57クラスI融合タンパク質であって、各HLA重鎖部分がβ2mポリペプチドと会合することを特徴とし、ペプチドエピトープとの会合を欠く、HLA-B57クラスI融合タンパク質と、第二に、抗CD47抗体IMC-002(ImmuneOncia Therapeutics)とを含む。
【0112】
いくつかの実施形態では、本発明で使用されるCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、CD47又はSIRPαに結合すると、その結合パートナーとの相互作用を立体的にブロックすることができる。他の実施形態では、この相互作用は非アゴニスト相互作用である。
【0113】
HLA融合タンパク質医薬組成物の用量及び用法
本発明のさらなる態様は、医薬組成物に関し、特に、がん又は悪性新生物疾患の形態を処置するのに使用するためのものであって、前記組成物は、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤による治療を受けている患者に使用するための、HLA融合タンパク質の項で規定されるHLA融合タンパク質を含む。
【0114】
本発明に係る医薬組成物、特にがんの治療に使用するための医薬組成物は、β2mポリペプチドと会合したHLA融合タンパク質を含み、及び典型的には、薬剤の制御が容易な投与量を提供し、患者に洗練された取り扱いが容易な製品を与える、医薬剤形に製剤化される。前記医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。さらなる実施形態において、組成物は、少なくとも2つの薬学的に許容される担体を含む。
【0115】
本発明の医薬品組成物の投与レジメンは、特定の薬剤の薬力学的特性及びその投与様式及び投与経路;レシピエントの種、年齢、性別、健康状態、病状、及び体重;症状の性質及び程度;同時治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに所望の効果などの既知の因子によって変化する。特定の実施形態において、本発明の医薬品組成物は、1日1回投与してもよいし、1日の総投与量を1日に2回、3回、又は4回の用量に分けて投与してもよい。特定の実施形態では、併用薬は1、2又は3週間ごとに投与される。
【0116】
医薬組成物を調製するための多くの手順及び方法は当技術分野で知られており、例えば、L.Lachmanら,Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4編,2013(ISBN 8123922892)を参照されたい。
【0117】
併用投与は、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤と、HLA融合タンパク質を含む医薬組成物との同時投与又は別個の製剤での同時投与、又は第1の物質を、第2の物質の投与の直前、例えば、その1週間前、又は少なくともその1ヶ月前、又は直後、例えば、その1週間後、又は最大でもその1ヶ月後に投与することの両方を包含する。
【0118】
本発明の別の態様は、がんの治療に使用するための、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤であって、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤が、HLA融合タンパク質の前に、それと組み合わせて、又はそれに続いて投与される、前記阻害剤である。
【0119】
異なる剤形
ある実施形態において、併用療法は、2つの異なる剤形を含み、例えば、HLA融合タンパク質を含む前記医薬組成物が、腫瘍内送達、又は腫瘍近傍の局所送達、例えば、皮下注射若しくは固形腫瘍への腫瘍内注射によるもののための剤形として提供され、前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤が、全身送達、特に静脈注射によるもののための剤形として提供される。しかし、この2つの薬剤は、2つの同様の投与形態で投与することもできる。
【0120】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態では、前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、全身投与に適した剤形で提供される。
【0121】
本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬の特定の実施形態では、前記HLA融合タンパク質は、全身送達に適した剤形で提供される。
【0122】
ある一般的な剤形
本発明はまた、可溶性HLA重鎖ポリペプチド、任意に、in vivo安定性を増強するポリペプチド部分との融合により安定化されたもの、及びCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤を単一の剤形として投与することを包含する。
【0123】
医療及び製造方法
本発明に係る併用薬、又はCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、様々な形態のがんの治療に使用するために提供される。同様のLILBR2指向性抗悪性腫瘍療法の他の形態に関する前臨床研究では、腎がん及び卵巣がんにおける有効性が実証されている。LILRB2標的抗体MK-4830の安全性及び忍容性は、現在、幅広い固形臓器がん(中皮腫、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がん、肺がん、神経膠芽腫、膵臓がん、胃がん)を対象とした臨床試験において、化学療法と併用して、検討中である(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT03564691)。これらの各適応症(indication)は、本発明に係るLILRB2結合HLA融合タンパク質併用医薬品で治療することが可能であるかもしれない。
【0124】
本発明に係る併用薬、又はCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤の特定の実施形態では、血液がんを治療する使用のために提供される。本発明者らは、本発明に係る医薬組成物によって誘導される特徴的なT細胞の排出、及び血液がん細胞をT細胞へ循環するアクセス性、及びマクロファージの活性化は、この併用が有効である可能性が高いことを意味すると考えている。特にこのような実施形態では、RPMI-8226細胞株(図4)によってモデル化されるとおりの、多発性骨髄腫と診断された患者に使用するための併用薬が提供される。
【0125】
他の特定の実施形態では、本発明に係る使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬は、固形がん、又は固形がんの転移と診断された患者に使用するために提供される。他の特定の実施形態では、併用は、乳がんの一種と診断された患者に使用するために提供される。より特定の実施形態では、がんはエストロゲンレセプター陽性である。他の特定の実施形態では、がんはプロゲステロンレセプター陽性である。他の特定の実施形態では、がんはヒト上皮成長因子レセプター2陽性である。
【0126】
同様に、本発明の範囲内には、本発明に係るCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤又は併用医薬を、患者に投与することを含む、がん患者の治療方法がある。本発明は、さらなる代替態様として、がんの治療又は予防のための医薬の製造方法における使用のための、上記で詳細に規定したとおりの、併用医薬の成分の使用をさらに包含する。
【0127】
剤形は、皮下注射、静脈注射、肝内注射、筋肉内注射などの非経口投与であってもよい。任意に、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤が存在してもよい。
【0128】
本発明は、さらに以下の項目を包含する:
項目1.悪性腫瘍性疾患の治療に使用するための併用医薬品であって、以下を含む:
a.ヒト白血球抗原(HLA)融合タンパク質であって、以下を含む
・HLA重鎖ポリペプチドであって、以下から選択される:
○ HLA重鎖の細胞外ドメイン、特にHLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖;又は
○ HLA重鎖の前記細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及び類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体;及び
・免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチド;及び
a.CD47及びアルファ(SIRPα)の間の相互作用の阻害剤。
【0129】
項目2.HLA融合タンパク質が、β2mポリペプチドと会合している、項目1に記載の使用のための併用医薬。
【0130】
項目3.HLA融合タンパク質が、3:5~7:5の比、より特に4:5~6:5の比、より特に1:1の比で、β2mポリペプチドと非共有結合的に会合している、項目1又は2に記載の使用のための併用医薬。
【0131】
項目4.HLA重鎖ポリペプチドが、HLA-B57の細胞外ドメインの変異体であり、及び
HLA重鎖ポリペプチドは、46位のE及び97位のRを特徴とする、項目3に記載の使用のための併用医薬。
【0132】
項目5.HLA重鎖ポリペプチドが、配列番号001の配列を含む、又は本質的にそれからなる、項目1~4のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬。
【0133】
項目6.項目1~5のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬であって、HLA融合タンパク質は、以下を含む:
a.項目1~5のいずれか1項で特定されるHLA重鎖ポリペプチド;
b.IgG Fcポリペプチド、特にIgG4 Fcポリペプチド、より特に配列番号002の配列を有するIgG4 Fcポリペプチド;及び/又は
c.HLA重鎖ポリペプチドをIgG Fcポリペプチドに連結するペプチドリンカー、特に5~20アミノ酸長のペプチドリンカー、より特に配列番号003の配列を有するペプチドリンカー;
【0134】
項目7.HLA融合タンパク質が、配列番号005と指定される配列を含む、又は本質的にそれからなる、項目1~6のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬。
【0135】
項目8.HLA融合タンパク質が、分泌シグナルを含み、特に分泌シグナルは16~30アミノ酸長であり、より特に分泌シグナルは細胞から分泌される過程で切断によって除去される、なおより特に分泌シグナルは配列番号004の配列を有する、項目1~7のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬。
【0136】
項目9.項目1~8のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬であって、HLA融合タンパク質は、二量体の形態であり、前記二量体は、第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体を含む、又は本質的にそれからなる;
- 第1のHLA単量体は、項目1~8のいずれか1項に規定される第1のHLA融合タンパク質、及び第1のβ2mポリペプチドから本質的になる;及び
- 第2のHLA単量体は、項目1~8のいずれか1項に規定される第2のHLA融合タンパク質、及び第2のβ2mポリペプチドから本質的になる;
特に、第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体が同一である。
【0137】
項目10.悪性新生物疾患の治療における使用のための、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤であって、悪性新生物疾患の治療における使用のための、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、項目1~9のいずれか1項に特定されるHLA融合タンパク質の前に、それと組み合わせて、又はそれに続いて投与される、前記阻害剤。
【0138】
項目11.前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、少なくとも10-7Mの解離定数でCD47又はSIRPαに結合する、項目1~8のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬、又は項目10に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【0139】
項目12.前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、抗体、抗体断片又は抗体様分子を含む、又は本質的にそれである、項目1~8及び11のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬、又は項目10又は11に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【0140】
項目13.CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、融合タンパク質を含む、又はそれからなる、項目1~8、11及び12のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬、又は項目10~12のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤であって、前記融合タンパク質は以下を含む:
- SIRPαポリペプチド細胞外ドメイン;及び
- Ig fcドメイン;
特に、CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、ALX148、TTI-622又はTTI-621から選択される。
【0141】
項目14.前記HLA融合タンパク質、又は前記CD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤は、全身投与に適した剤形で提供される、項目1~8及び11~13のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬、又は項目10~13のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤。
【0142】
項目15.項目1~8及び11~14のいずれか1項に記載の使用のための併用医薬、又は項目10~14のいずれか1項に記載の使用のためのCD47及びSIRPαの間の相互作用の阻害剤であって、悪性新生物疾患は
a.血球由来のがん、骨髄腫、又は
b.固形腫瘍、特に乳がん、より特に乳管細胞がんの一種である。
【0143】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を導き出すことができる。これらの実施例は本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例
【0144】
実施例1:HLA融合タンパク質の生産
本発明者らによる以前の研究において、HLA融合タンパク質(iosH1)は、HLA-B57:01:01ポリペプチドの重鎖細胞外ドメインをIgG4 Fcポリペプチド(配列番号002)に連結することによって設計された。このHLA融合タンパク質の収率を増加させるために、天然のHLA-B57細胞外ドメインアミノ酸配列内で同定された阻害性アミノ酸を、46位のアラニン(A)残基をグルタミン(E)へ、97位のバリン(V)をアルギニン(R)へ置換することによって改変し、HLA-B57ポリペプチド変異体(配列番号001)を提供した。これを、連結ペプチド(配列番号003)を介してIgG4ポリペプチドへ融合し、HLA-B57融合タンパク質変異体(配列番号005、IosH2)を提供した。2つの変異を欠如する天然のHLA-B57由来融合タンパク質コントロール及び組換えHLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質をコードするcDNAを、分泌シグナルをコードする核酸配列(配列番号004)の下流に市販の発現ベクター(Probiogen)内にクローニングした。HLA-B57-Fc及びHLA-B57(A46E/V97R)-Fcを発現するベクターコンストラクトを、β2mタンパク質(配列番号006)をコードする核酸を含むプラスミドとともに、NEON Transfection Kit(Life Technologies #MPK10096)を用いたマイクロポレーション(MP)によってチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞内にコトランスフェクトした。CHO-DG44スターター細胞を、HLA融合タンパク質とβ2mプラスミドとの比率を変えてトランスフェクトした(4:1、2:1、1:1、1:2)。選択したクローンプールは、標準シェーカーフラスコで、ピューロマイシン及びメトトレキセートを含むPBG-CD-C4添加培地125mL中に、4E5vc/mLの細胞播種密度で培養された。抗生物質で調整された選択圧の後、個々のクローンプールが分析のために選択された。生存率及び生存細胞密度の測定は、Vi-CELL XRシステム及びトリパンブルー細胞排除法を用いて行った。力価の定量は、プロテインAバイオセンサーを備えたOctet RED装置(ForteBio、Pall Division)を用いて、異なる時点(日数)で測定した。
【0145】
HLA-B57又は変異型融合タンパク質を発現するクローンを分析した結果、野生型HLA-B57.β2m細胞の生存率及び力価は、HLA-B57(A46E/V97R).β2mより有意に低いことが示された(図2A及びB)。β2mに対する天然型HLA-B57又は改変型HLA-B57(A46E/V97R)の等モルRNA量が、選択されたクローン細胞で確認され(図2C及びD)、アミノ酸改変が発現を増加させたことが示唆された。
【0146】
HLA-B57(A46E/V97R).β2m複合体は、アフィニティーカラム精製によって、ろ過したCHO細胞上清から単離された。酸性条件下でのタンパク質の精製及びβ2mの除去は、2段階の精製プロトコールとして行われた。第1段階として、上清からβ2mと会合したHLA-B57(A46E/V97R)を捕捉するために、プロテインGセファロース[(4 Fast Flow)Sigma,#GE-17-0618-01)]ビーズを使用した。ロッカーにおいて4℃で一晩インキュベートした後、回収したビーズをPBSで洗浄し、及び次いで、各HLAポリペプチドがまだβ2mと会合しているHLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質を、標準IgG-Elution Buffer(pH 2.8)(PierceTM IgG Elution Buffer、Thermo Fischer #21004)を用いて溶出した。サイズ排除クロマトグラフィーに基づく精製の第二段階として、酸性条件下でHLA-B57(A46E/V97R)をβ2mと分離し、非β2m会合HLA融合タンパク質を得た。分離には、クエン酸ナトリウム(100mM、pH3.0)であらかじめ平衡化したSuperdex 10/300ゲルろ過カラムを使用した。2.0mg/ml濃度のタンパク質を0.5ml注入して、目的のHLA-B57(A46E/V97R)タンパク質のピークは12.7mlで溶出し、β2mのピークは22.0mlで溶出した。
【0147】
実施例2.非β2m会合又はβ2m会合HLA融合タンパク質とLILRB2との相互作用の定量
本発明者らは、HLA-B57(A46E/V97R)フォーマットと関連する腫瘍免疫に最も関連する免疫学的特性を詳細に分析したところ、それらはすべて融合タンパク質のHLAクラスIドメインのペプチド結合溝に関連するペプチドエピトープとの会合を欠如していた。β2mを欠如する野生型HLA-B57融合タンパク質(二量体)、β2mを欠如するHLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質(二量体)、及びβ2mに結合したままのHLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質二量体とLILRB2との相互作用の親和性を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法を用いて測定した。平底のPierceTM ストレプトアビジンでコーティングした高結合能96ウェルプレート(Pierce #15500)に、PBSバッファー中の最終濃度5μg/mlで固定化したc末端ビオチン化抗原分子(LILRB2、BPS Bioscience #100335)を50μlでコーティングした。陰性コントロールとしてPBS及びIgGアイソタイプを使用した。HLA-B57、又はβ2mを欠如したHLA-B57(A46E/V97R)、及びHLA-B57(A46E/V97R).β2mの連続希釈液(8濃度点:10、2.5、1、0.25、0.1、0.025、0.01、0.0025μg/ml)を繰り返して適用した(50μl)。検出には、TBS(50μl)で1:100に希釈したAPC結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson Immuno Research #109-135-098)を用いた。最後に、各ウェルに50μlのTBSを加え、及びAPCの励起波長650nm及び発光波長660nmで蛍光スキャンを行った。相互作用のEC50を決定するために、Graphpad Prism v9.1.2及び3パラメータベースのlog(アゴニスト)対応答モデルを使用した。変異型HLA-B57融合タンパク質のLILRB2への結合は、β2mとの会合を欠くHLA-B57(A46E/V97R)としても、及び特にβ2mと会合した場合のいずれでも、改善されることが観察され、この変異型が高い免疫調節能を有することが示唆された(図3)。
【0148】
実施例3 in vitroにおける腫瘍細胞の殺傷力の増加
次に、β2mに会合するHLA-B57(A46E,V97R)IgG4Fc融合タンパク質(iosH2とよぶ)のヒトプライマリーマクロファージによる腫瘍細胞の貪食を誘導する能力を、液体がん細胞(RPMI8226多発性骨髄腫、DSMZ Cat.#ACC402)及び固形がん細胞(BT474乳管がん、DSMZ Cat.#ACC64)に対して、PBS、IgG1(Biolegend;Cat.#403502)及びIgG4(Biolegend;Cat.#403702)アイソタイプコントロール、並びにベンチマーク抗LILRB2抗体(MK4830)(US2018/0298096A1の配列に基づいて社内作製)と比較して評価した。さらに、食細胞の活性化を調節する2つの経路を複合的に阻害することで、iosH2の効果が増強され得るかどうかを調べるために(図1)、抗CD47抗体(LubioScience;Cat.#BE0019-1)又は抗SIRPα抗体(WO2020068752A1における配列に基づいて社内作成、配列番号007の重鎖及び配列番号008の軽鎖)のいずれかを用いた同時処理を評価した。
【0149】
示された液状腫瘍及び固形腫瘍由来のがん細胞株をヒトプライマリーマクロファージと共培養し、及び腫瘍細胞の貪食作用を、IncuCyteインキュベーター及びライブセルイメージングシステム(Vitaris AG、MCO-230AICUVH-PE)を用いて、製造者の指示に従って36時間モニターした。がん細胞をCellTraceTM CFSE(ThermoFisher)で製造者の指示に従って染色し、次いで1000細胞/ウェルを1000-5000個のプライマリーT細胞とともに平底96ウェルプレート(Greiner)内に播種した。培地には250nMのCytotox Red(Sartorius)を含んだ。ライブセルイメージングはIncucyte S3 Live-Cell Analysis System(Sartorius)を用いて行った。IncuCyte software v2020Cを用いて、1ウェルあたり4枚の非隣接画像を解析した。CFSEシグナルは緑色のオブジェクトで区分され、及びすべてのオブジェクトががん細胞としてカウントされた。死細胞はCytotoxシグナルで識別され、赤いオブジェクトで区分された。がん細胞死は、緑色及び赤色のオブジェクトの共局在によって検出された。
【0150】
図4の結果は、HLA-B57(A46E, V97R).β2m(iosH2)が、共培養の3時間後にはすでにマクロファージの貪食を有意かつ急速に増加させたことを示している。貪食の速度及び動態は細胞株によって異なったが、iosH2の効果はがん細胞の種類には依存しなかった。IosH2刺激はまた、ベンチマーク抗LILRB2抗体MK4830によって誘発された効果よりも優れていた。MK4830は乳がんの遅延貪食を誘発したが、骨髄腫細胞には効果がなかった。抗CD47抗体又は抗SIRPα抗体は、単剤では骨髄腫の貪食率に影響を与えなかった;しかしながら、iosH2と抗CD47抗体との併用は、骨髄腫の貪食率を上昇させたが、これは抗CD47抗体とMK4830との併用では観察されなかった。乳がん細胞株BT474では、抗CD47抗体もIosH2が誘導する貪食作用を増強したが、単独ではほとんど効果がなかった。抗SIRPα抗体とiosH2との併用治療は、乳がんにおいて試験したすべての単剤治療及び併用治療と比較して最も高い貪食率を示したが、骨髄腫細胞株を治療することには効果がなかった。
【0151】
配列
配列番号001 変異型HLA-B57:01 細胞外ドメイン A46E V97R(人工)
GSHSMRYFYTAMSRPGRGEPRFIAVGYVDDTQFVRFDSDAASPRMEPRAPWIEQEGPEYWDGETRNMKASAQTYRENLRIALRYYNQSEAGSHIIQRMYGCDVGPDGRLLRGHDQSAYDGKDYIALNEDLSSWTAADTAAQITQRKWEAARVAEQLRAYLEGLCVEWLRRYLENGKETLQRADPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWEPSSQS
【0152】
配列番号002 最適化IgG4 Fc(人工)
ESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG
【0153】
配列番号003 ペプチドリンカー(人工)
GGGGSGGGGS
【0154】
配列番号004 分泌シグナル(人工)
AAAMNFGLRLIFLVLTLKGVQC
【0155】
配列番号005 変異型HLA-B57:01 細胞外ドメイン A46E V97R IgG4融合タンパク質(人工)
GSHSMRYFYTAMSRPGRGEPRFIAVGYVDDTQFVRFDSDAASPRMEPRAPWIEQEGPEYWDGETRNMKASAQTYRENLRIALRYYNQSEAGSHIIQRMYGCDVGPDGRLLRGHDQSAYDGKDYIALNEDLSSWTAADTAAQITQRKWEAARVAEQLRAYLEGLCVEWLRRYLENGKETLQRADPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWEPSSQSGGGGSGGGGSESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG
変異型HLA-B57細胞外ドメイン、ペプチドリンカー(下線)、IgG4 Fc(イタリック体)
【0156】
配列番号006 β-2-ミクログロブリン(ホモサピエンス)
IQRTPKIQVYSRHPAENGKSNFLNCYVSGFHPSDIEVDLLKNGERIEKVEHSDLSFSKDWSFYLLYYTEFTPTEKDEYACRVNHVTLSQPKIVKWDRDM
【0157】
配列番号007 抗SIRPアルファ抗体重鎖(人工)
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFRGYGISWVRQAPGQGLEWMGWISAYGGETNYAQKLQGRVTMTTDTSTSTAYMELRSLRSDDTAVYYCAREAGSSWYDFDLWGRGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0158】
配列番号008 抗SIRPアルファ抗体軽鎖(人工)
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISSWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASNLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQGASFPITFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0159】
配列番号009 HLA-CW0802融合タンパク質(人工)
CSHSMRYFYTAVSRPGRGEPRFIAVGYVDDTQFVQFDSDAASPRGEPRAPWVEQEGPEYWDRETQKYKRQAQTDRVSLRNLRGYYNQSEAGSHTLQRMYGCDLGPDGRLLRGYNQFAYDGKDYIALNEDLRSWTAADKAAQITQRKWEAAREAEQRRAYLEGTCVEWLRRYLENGKKTLQRAEHPKTHVTHHPVSDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPEPLTLRWGPSSQPGGGGSGGGGSESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG
HLA-CW0802細胞外ドメイン、ペプチドリンカー(下線)、IgG4 Fc(イタリア体)
【0160】
配列番号010 HLA-B58融合タンパク質(人工)
GSHSMRYFYTAMSRPGRGEPRFIAVGYVDDTQFVRFDSDAASPRTEPRAPWIEQEGPEYWDGETRNMKASAQTYRENLRIALRYYNQSEAGSHIIQRMYGCDLGPDGRLLRGHDQSAYDGKDYIALNEDLSSWTAADTAAQITQRKWEAARVAEQLRAYLEGLCVEWLRRYLENGKETLQRADPPKTHVTHHPVSDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWEPSSQSGGGGSGGGGSESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG
HLA-B58:01 細胞外ドメイン、ペプチドリンカー(下線)、IgG4 Fc(イタリア体)
【0161】
配列番号011 HLA-A30:01融合タンパク質(人工)
GSHSMRYFSTSVSRPGSGEPRFIAVGYVDDTQFVRFDSDAASQRMEPRAPWIEQERPEYWDQETRNVKAQSQTDRVDLGTLRGYYNQSEAGSHTIQIMYGCDVGSDGRFLRGYEQHAYDGKDYIALNEDLRSWTAADMAAQITQRKWEAARWAEQLRAYLEGTCVEWLRRYLENGKETLQRTDPPKTHMTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWELSSQPGGGGSGGGGSESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG
HLA-A30:01細胞外ドメイン、ペプチドリンカー(下線)、IgG4 Fc(イタリアン体)
【0162】
引用文献:
Colonna M. et al. 1997 J. Exp. Med. 186(1):1809
Ring et al., 2017, Proc Natl Acad Sci 114(49):E10578-E10585),
WO 2017153438 A1; WO2016124661A1; WO2018 029284 A1; WO 2019/023347; WO 2013/056352; WO 2018/190719; US 2010/0239579
本明細書中で引用されているすべての科学刊行物及び特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2AB
図2B
図2CD
図3
図4A
図4B
【配列表】
2024530040000001.xml
【国際調査報告】