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特表2024-530045リナプラザングルレート塩酸塩の多形
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】リナプラザングルレート塩酸塩の多形
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20240806BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C07D471/04 108A
C07D471/04 CSP
A61K31/437
A61P1/04
A61P29/00
A61P31/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508060
(86)(22)【出願日】2022-11-04
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2022080850
(87)【国際公開番号】W WO2023079094
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/128918
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.CREMOPHOR
(71)【出願人】
【識別番号】522176768
【氏名又は名称】シンクルス・ファーマ・ホールディング・アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シェル・ヤリング
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ラーション
(72)【発明者】
【氏名】シンバン・リン
(72)【発明者】
【氏名】ダン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・ヒルグレン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086CB05
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB11
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、5-{2-[({8-[(2,6-ジメチルベンジル)アミノ]-2,3-ジメチルイミダゾ[1,2-a]ピリジン-6-イル}カルボニル)-アミノ]エトキシ}-5-オキソペンタン酸(リナプラザングルレート)の塩酸塩の多形、より具体的には、リナプラザングルレートのHCl塩の形態1及び形態2に関する。本発明は、そのような多形の調製のための方法、そのような多形を含む医薬組成物、及び胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患、特にびらん性胃食道逆流症(eGERD)の治療又は予防におけるこれらの多形の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項2】
室温で94%の相対湿度で安定である、請求項1に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項3】
無水物である、請求項1又は2に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項4】
CuKα1線を用いて得られる、3.8±0.2、9.1±0.2、13.8±0.2、14.0±0.2、20.0±0.2、22.9±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも2つのピークを有するXRPDパターンを有する形態1である、請求項3に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項5】
形態1が、CuKα線を用いて得られる、20.0±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項4に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項6】
形態1が、CuKα線を用いて得られる、9.1±0.2、13.8±0.2、20.0±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項4に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項7】
CuKα1線を用いて得られる、実質的に図1に示されるXRPDパターンを有する形態1である、請求項3に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項8】
形態1が、約230℃~約240℃の間、例えばおよそ233℃での吸熱を含むDSC曲線を有する、請求項4から7のいずれか一項に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項9】
非化学量論的水和物である、請求項1又は2に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項10】
CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも2つのピークを有するXRPDパターンを有する形態2である、請求項9に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項11】
形態2が、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、15.0±0.2、22.6±0.2、及び25.0±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項10に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項12】
形態2が、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項10に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項13】
CuKα1線を用いて得られる、実質的に図2又は図3に示されるXRPDパターンを有する形態2である、請求項9に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項14】
形態2が、約175℃~約185℃の間、例えばおよそ180℃での吸熱を含むDSC曲線を有する、請求項10から13のいずれか一項に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項15】
99%超の結晶化度を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の、治療有効量のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤と合わせて含む医薬組成物。
【請求項17】
治療に使用するための、請求項1から15のいずれか一項に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項18】
胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患の治療又は予防に使用するための、請求項1から15のいずれか一項に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項19】
胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患が、胃炎、胃食道逆流症(GERD)、びらん性胃食道逆流症(eGERD)、ヘリコバクター・ピロリ感染症、ゾリンジャー・エリソン症候群、消化性潰瘍疾患(胃潰瘍及び十二指腸潰瘍を含む)、出血性胃潰瘍、胃食道逆流症の症状(胸やけ、逆流、及び吐き気を含む)、ガストリノーマ、又は急性上部胃腸出血である、請求項18に規定の使用のためのリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項20】
胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患が、びらん性胃食道逆流症(eGERD)である、請求項18に規定の使用のためのリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項21】
リナプラザングルレートのHCl塩の形態1の調製のための方法であって、
a)酢酸中のリナプラザングルレートの遊離塩基の溶液を調製する工程と、
b)酢酸エチルを加える工程と、
c)濃塩酸を加え、HCl塩の形態2が得られるまで撹拌を維持する工程と、
d)工程c)において得られた固体を回収する工程と、
e)酢酸エチルを工程d)の固体に加える工程と、
f)工程e)の懸濁液を、HCl塩の形態2の形態1への変換が完了するまでスラリー化する工程と、
g)工程f)において得られた固体を回収する工程と、
h)工程g)の固体を真空下及び/又は上昇させた温度等で乾燥させる工程とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月5日に出願された国際特許出願第PCT/CN2021/128918号の優先権を主張し、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、5-{2-[({8-[(2,6-ジメチルベンジル)アミノ]-2,3-ジメチルイミダゾ[1,2-a]ピリジン-6-イル}カルボニル)-アミノ]エトキシ}-5-オキソペンタン酸(リナプラザングルレート)の塩酸塩の多形、より具体的には、リナプラザングルレートのHCl塩の形態1及び形態2に関する。本発明は、そのような多形の調製のための方法、そのような多形を含む医薬組成物、及び胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患、特にびらん性胃食道逆流症(eGERD)の治療又は予防におけるこれらの多形の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
化合物リナプラザングルレート(5-{2-[({8-[(2,6-ジメチルベンジル)アミノ]-2,3-ジメチルイミダゾ[1,2-a]ピリジン-6-イル}カルボニル)-アミノ]エトキシ}-5-オキソペンタン酸、以前はX842として知られていた)は、WO 2010/063876に開示されている。リナプラザングルレートの構造を下記に示す。リナプラザングルレートは、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker)(P-CAB)であり、壁細胞における胃水素カリウムポンプ(H+/K+ ATPase)を競合的に阻害する。したがって、リナプラザングルレートは、胃における胃酸の分泌を制御するために使用することができる。
【0004】
【化1】
【0005】
リナプラザングルレートは、リナプラザンのプロドラッグであり、WO 99/55706に開示され、以前フェーズI及びフェーズII試験で研究された。これらの試験により、リナプラザンは忍容性が高く、作用発現が早く、一回の用量で十分な効果があることが示された。しかし、リナプラザンは体から速やかに排出され、酸阻害の持続時間があまりにも短かった。これと比較すると、リナプラザングルレートは、体内での半減期がより長く、リナプラザンと比較してより長い時間胃酸の産生を完全に制御する。臨床フェーズI試験により、リナプラザングルレートの単回用量の投与はpH4超の胃内酸度を24時間維持することができることが示された。したがって、リナプラザングルレートは、重度のびらん性胃食道逆流症(eGERD)の患者のために調整されている。
【0006】
医薬製剤中で使用するために、医薬品有効成分(API)は、高度に結晶化した形態であることが望ましい。非結晶性(すなわち、非晶質)物質は、より高いレベルの残留溶媒を含む場合があり、望ましくない。また、結晶性物質と比較した場合、化学的及び物理学的安定性が低いために、非晶質物質はより早い分解を示す場合があり、様々な程度の結晶化度の結晶を自然に形成する場合がある。これにより、溶解速度が再現性のないものとなり、物質の保存及び取扱いが困難になる場合がある。
【0007】
リナプラザングルレートの遊離塩基の2つの結晶形態が、CN 106279151に開示されている。遊離塩基の形態A及びBは、無水物であることが見出され、形態Aは非常に低い吸湿性を有することが示された。形態Aは良好な物理的及び化学的安定性を有し、高い結晶化度で得ることができ、pH6.8で実質的に水に不溶性であり、pH1でわずかに可溶性であるだけである。低い溶解性は、所望の特性を有する製剤の開発を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 2010/063876
【特許文献2】WO 99/55706
【特許文献3】CN 10627915
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. Jenkins及びR.L. Snyder、「Introduction to X-ray powder diffractometry」、John Wiley & Sons、1996
【発明の概要】
【0010】
したがって、非晶質のリナプラザングルレート及び以前に開示されたその結晶形態よりも良好な特性を有するリナプラザングルレートの更なる結晶形態が必要とされている。特に、良好な溶解性を有し、低いレベルの残留溶媒を含み、高い化学的安定性及び低い吸湿性を有し、高いレベルの結晶化度で得ることができる、リナプラザングルレートの安定な結晶形態を提供することが、本発明の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】DMF中のスラリーから得られたリナプラザングルレートのHCl塩の形態1のX線粉末回折図を示す図である。
図2】メタノール及び水の混合物から冷却により得られたリナプラザングルレートのHCl塩の形態2(「試料1」)のX線粉末回折図を示す図である。
図3】メタノールから冷却により得られたリナプラザングルレートのHCl塩の形態2(「試料2」)のX線粉末回折図を示す図である。
図4】逆溶媒としてEtOAcを使用してDMFから結晶化させた形態1の熱重量分析(TGA)質量減少曲線を示す図である。
図5】形態2、試料1のTGA質量減少曲線を示す図である。
図6】形態2、試料2のTGA質量減少曲線を示す図である。
図7】逆溶媒としてEtOAcを使用してDMFから結晶化させた形態1の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを示す図である。
図8】形態2、試料1の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを示す図である。
図9】形態2、試料2の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを示す図である。
図10A】逆溶媒としてEtOAcを使用してDMFから結晶化させた形態1の動的蒸気収着(dynamic vapour sorption)(DVS)質量変化プロットを示す図である。
図10B】逆溶媒としてEtOAcを使用してDMFから結晶化させた形態1のDVS等温線プロットを示す図である。
図11A】MeOH中のスラリーから得られた形態2のDVS質量変化プロットを示す図である。
図11B】MeOH中のスラリーから得られた形態2のDVS等温線プロットを示す図である。
図12】リナプラザングルレートの遊離塩基及びHCl塩の胃液を模倣した媒体(FaSSGF及びFeDSGA)への溶解性(μg/mL)の比較を示す図である。
図13A図13Aは、形態1の、胃液及び腸液を模倣した媒体(FaSSIF-V2、FeSSIF-V2、及びFEDGAS)への溶解性(μg/mL)を示す図である。
図13B図13Bは、形態2の、胃液及び腸液を模倣した媒体(FaSSIF-V2、FeSSIF-V2、及びFEDGAS)への溶解性(μg/mL)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
リナプラザングルレート塩酸塩は、特定の条件下で安定な結晶形態(多形)を形成する場合があることが発見された。高い結晶化度及び高い化学的安定性に加えて、これらの多形は、リナプラザングルレートの遊離塩基の形態A及びBよりも著しく高い溶解性を有する。したがって、この新しい多形は、リナプラザングルレートの医薬組成物において有用であることが予期される。したがって、第1の態様では、本発明は、リナプラザングルレートの結晶性HCl塩に関する。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、室温で94%相対湿度(RH)で安定なリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を提供する。そのような結晶性HCl塩は、これらの条件下で少なくとも1日、1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、3年、又は更に長い間安定でありうる。
【0014】
いくつかの実施形態では、結晶性HCl塩は、無水物である。特定の実施形態では、結晶性無水物は、形態1である。この形態は、リナプラザングルレートの遊離塩基から直接、又はその塩酸塩を使用して特定の結晶化技術により、例えば、DMF、ピリジン、ベンジルアルコール、若しくはエタノール中のスラリーから;DMF若しくはピリジン及び特定の逆溶媒から逆溶媒結晶化により;又はDMF若しくはピリジンから冷却により調製することができる。一実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、3.8±0.2、9.1±0.2、13.8±0.2、14.0±0.2、20.0±0.2、22.9±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも2つのピークを有するX線粉末回折(XRPD)パターンを有する。いくつかの実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、20.0±0.2及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、3.8±0.2、9.1±0.2、13.8±0.2、14.0±0.2、20.0±0.2、22.9±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも4つのピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、20.0±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、20.0±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2、並びに3.8±0.2、9.1±0.2、13.8±0.2、14.0±0.2、22.9±0.2、及び23.4±0.2のうちの1つ又は複数の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、9.1±0.2、13.8±0.2、20.0±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、3.8±0.2、9.1±0.2、13.8±0.2、14.0±0.2、20.0±0.2、22.9±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態1は、CuKα1線を用いて得られる、3.8±0.2、9.1±0.2、13.8±0.2、14.0±0.2、20.0±0.2、22.9±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2、並びに16.2±0.2、18.6±0.2、22.2±0.2、25.6±0.2、及び27.9±0.2のうちの1つ又は複数の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。特定の実施形態では、本発明は、実質的に図1に示される、CuKα1線を用いて得られるXRPDパターンを有する形態1に関する。さらなる実施形態では、本発明は、実質的にtable 5(表6)に示される、CuKα1線を用いて得られるXRPDパターンを有する形態1に関する。
【0015】
いくつかの実施形態では、形態1は、約230℃~約240℃の間の吸熱を含むDSC曲線を有する。特定の実施形態では、形態1は、およそ233℃での吸熱を含むDSC曲線を有する。
【0016】
動的蒸気収着分析により、形態1が非常に低い吸湿性を有し、90%RHで水の取込みがわずか約0.2%であることが示された。この低い吸湿性は、約30%~約80%RHの通常の相対湿度範囲内で湿度が変化しても結晶の含水量が実質的に一定であるため、有利であると考えられる。いくつかの実施形態では、形態1は、25℃の温度で90%までの相対湿度で安定である。
【0017】
いくつかの実施形態では、結晶性HCl塩は、非化学量論的水和物等の水和物である。特定の実施形態では、結晶性水和物は、形態2である。この形態は、リナプラザングルレートの遊離塩基から直接、又はその塩酸塩を使用して特定の結晶化技術により、例えば、酢酸、メタノール、若しくはメタノール及び水の混合物中のスラリーから;メタノールから蒸発により;メタノール及び特定の逆溶媒から逆溶媒結晶化により;又はメタノール若しくはメタノール及び水の混合物から冷却により調製することができる。一実施形態では、形態2は、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも2つのピークを有する、X線粉末回折(XRPD)パターンを有する。いくつかの実施形態では、形態2は、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2及び15.0±0.2の°2θ値、又は7.1±0.2及び25.0±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態2は、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも4つのピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態2は、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、15.0±0.2、22.6±0.2、及び25.0±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態2は、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも6つのピークを有するXRPDパターンを有する。いくつかの実施形態では、形態2は、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する。特定の実施形態では、本発明は、実質的に図2又は図3に示される、CuKα1線を用いて得られるXRPDパターンを有する形態2に関する。さらなる実施形態では、本発明は、実質的にtable 6(表7)又はtable 7(表8)に示される、CuKα1線を用いて得られるXRPDパターンを有する形態2に関する。
【0018】
いくつかの実施形態では、形態2は、約175℃~約185℃の間の吸熱を含むDSC曲線を有する。特定の実施形態では、形態2は、およそ180℃での吸熱を含むDSC曲線を有する。
【0019】
形態2の含水量は、相対湿度に応じて約0~5%の間で変化しうることが見出されている。約20~90%RHの間で、形態2の水の取込みは、相対湿度の増加とともにほとんど直線的に増加する。したがって、結晶性非化学量論的水和物は、チャネル水和物として特徴付けられる。いくつかの実施形態では、形態2は、25℃の温度で90%までの相対湿度で安定である。
【0020】
実験の項に記載されるように、溶解性実験により、結晶性遊離塩基及び結晶性HCl塩は、低pH及び中低pHで異なる挙動をすることが示された(図12を参照のこと)。絶食状態の胃液を模倣した媒体(FaSSGF;pH1.6)では、遊離塩基の溶解性は、1時間のインキュベーション後、HCl塩の溶解性よりも約1.4倍高かった。しかし、驚くべきことに、摂食状態の胃液を模倣した媒体(FeDSGA;pH5.0)では、2つの結晶性物質の相対溶解性は逆転し、HCl塩は、1時間のインキュベーション後、遊離塩基よりも6.5倍を超えて可溶性であった。高pHでの結晶性HCl塩の溶解性の増加は、特に、胃のpHがリナプラザングルレートを用いた進行中の治療の間に上昇するため、有用であると考えられる。
【0021】
2つの結晶性HCl塩が、腸液(摂食又は絶食状態)への溶解性よりも胃液(摂食状態)への溶解性の方が高いことも見出されている;図13A及び図13Bを参照のこと。
【0022】
別の態様では、本発明は、リナプラザングルレートのHCl塩の形態1の調製のための方法に関する。形態1は、リナプラザングルレートの遊離塩基から直接、又は添付の実施例に記載されるように、リナプラザングルレートの非晶質若しくは部分的結晶性塩酸塩を使用して特定の結晶化技術により調製することができる。代替的に、形態1は、中間体として形態2を介して調製されうる。この経路は、形態1の大規模な調製により適しており、形態1がリナプラザングルレートの遊離塩基から直接調製されるときよりも大幅に低い残留溶媒レベルで生成物を調製することを可能にすることが発見された。
【0023】
したがって、いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートのHCl塩の形態1の調製のための方法は、
a)酢酸エチル等の適切な溶媒中の、HCl塩の形態2の懸濁液を調製する工程と、
b)工程a)の懸濁液を、HCl塩の形態1の形態2への変換が完了するまでスラリー化する工程と、
c)工程b)において得られた固体を回収する工程と、
d)工程c)の固体を真空下及び/又は上昇させた温度等で乾燥させる工程とを含む。
【0024】
工程b)は、好ましくは約25~約40℃の間の温度、より好ましくは約30℃で実施される。懸濁液は、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更に好ましくは少なくとも24時間スラリー化される。乾燥させる工程c)は、好ましくは真空下、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、又は約70℃等の上昇させた温度で実施される。
【0025】
HCl塩の結晶形態2は、添付の実施例に記載されるように、非晶質若しくは部分的結晶性塩酸塩から、又はリナプラザングルレートの遊離塩基から直接調製することができる。したがって、さらなる実施形態では、リナプラザングルレートのHCl塩の形態1の調製のための方法は、
a)酢酸中のリナプラザングルレートの遊離塩基の溶液を調製する工程と、
b)酢酸エチルを加える工程と、
c)濃塩酸を加え、HCl塩の形態2が得られるまで撹拌を維持する工程と、
d)工程c)において得られた固体を回収する工程と、
e)酢酸エチルを工程d)の固体に加える工程と、
f)工程e)の懸濁液を、HCl塩の形態2の形態1への変換が完了するまでスラリー化する工程と、
g)工程f)において得られた固体を回収する工程と、
h)工程g)の固体を真空下及び/又は上昇させた温度等で乾燥させる工程とを含む。
【0026】
リナプラザングルレートの溶液から任意の不溶性物質又は微粒子を除去するために、工程a)及び/又はb)の後に、1つ又は複数のインラインろ過工程を任意選択で実施することができる。工程f)での結晶化を誘導するために、種結晶を任意選択で使用してもよい。工程f)は、好ましくは約25~約40℃の間の温度、より好ましくは約30℃で実施される。懸濁液は、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更に好ましくは少なくとも24時間スラリー化される。乾燥させる工程h)は、好ましくは真空下、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、又は約70℃等の上昇させた温度で実施される。
【0027】
別の態様では、本発明は、本明細書に開示される、治療有効量のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤と関連して含む医薬組成物に関する。賦形剤は、例えば、充填剤、結合剤、界面活性剤、崩壊剤、流動促進剤、及び滑沢剤を含みうる。いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートの結晶性HCl塩は、形態1である。いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートの結晶性HCl塩は、形態2である。
【0028】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、少なくとも約90%の多形純度を有する、形態1又は形態2等のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む。いくつかの実施形態では、多形純度は、少なくとも約95%である。いくつかの実施形態では、多形純度は、少なくとも約98%である。例えば、多形純度は、少なくとも約98.5%、例えば少なくとも約99%、例えば少なくとも約99.5%、例えば少なくとも約99.8%、又は例えば少なくとも約99.9%でありうる。いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む医薬組成物は、リナプラザングルレートの他の形態を実質的に含まない。例えば、いくつかの実施形態では、形態1を含む医薬組成物は、リナプラザングルレートの形態2等の、リナプラザングルレートの他の形態を実質的に含まない。いくつかの実施形態では、形態1は、約15質量%未満のリナプラザングルレートの形態2又は任意の他の多形を含む。例えば、形態1は、約14質量%、約13質量%、約12質量%、約11質量%、約10質量%、約9質量%、約8質量%、約7質量%、約6質量%、約5質量%、約4質量%、約3質量%、約2質量%、約1質量%未満、又はそれ未満のリナプラザングルレートの形態2又は任意の他の多形を含む。他の実施形態では、形態2は、約15質量%未満のリナプラザングルレートの形態1又は任意の他の多形を含む。例えば、形態2は、約14質量%、約13質量%、約12質量%、約11質量%、約10質量%、約9質量%、約8質量%、約7質量%、約6質量%、約5質量%、約4質量%、約3質量%、約2質量%、約1質量%未満、又はそれ未満のリナプラザングルレートの形態1又は任意の他の多形を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約1質量%~約100質量%の間、例えば約1質量%~約50質量%の間、又は例えば約1質量%~約20質量%の間のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含みうる。例えば、組成物は、約1質量%~約15質量%の間、又は約5質量%~約20質量%の間、例えば約1質量%~約10質量%の間、約5質量%~約15質量%の間、及び約10質量%~約20質量%の間、又は例えば約1質量%~約5質量%の間、約5質量%~約10質量%の間、約10質量%~約15質量%の間、及び約15質量%~約20質量%の間のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含みうる。いくつかの実施形態では、組成物は、約20質量%、約19質量%、約18質量%、約17質量%、約16質量%、約15質量%、約14質量%、約13質量%、約12質量%、約11質量%、約10質量%、約9質量%、約8質量%、約7質量%、約6質量%、約5質量%、約4質量%、約3質量%、約2質量%又は約1質量%のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、組成物は、約25mg~約150mgの単位用量のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む。例えば、組成物は、約25mg~約50mgの間、約50mg~約75mgの間、約75mg~約100mgの間、約100mg~約125mgの間、又は約125mg~約150mgの間を含みうる。いくつかの実施形態では、組成物は、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約105mg、約110mg、約115mg、約120mg、約125mg、約130mg、約135mg、約140mg、約145mg、又は約150mgのリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む。1日用量は、単回用量として、又は2回、3回、若しくはそれよりも多い単位用量に分割して投与することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、又は非イオン性界面活性剤でありうる。カチオン性界面活性剤の例は、臭化セチルトリメチルアンモニウム(臭化セトリモニウム)及び塩化セチルピリジニウムを含むが、これらに限定されない。アニオン性界面活性剤の例は、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)及びドデシル硫酸アンモニウム(ラウリル硫酸アンモニウム)を含むが、これらに限定されない。非イオン性界面活性剤の例は、グリセロールモノオレエート、グリセロールモノステアレート、ポリオキシルヒマシ油(Cremophor EL)、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー407又は188)、ポリソルベート80、及びソルビタンエステル(Tween)を含むが、これらに限定されない。
【0032】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、充填剤を含む。適切な充填剤の例は、リン酸二カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース(例えばラクトース一水和物)、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶セルロース、乾燥デンプン、加水分解デンプン、及びアルファ化デンプンを含むが、これらに限定されない。
【0033】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、結合剤を含む。適切な結合剤の例は、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、糖(例えばスクロース、グルコース、デキストロース、ラクトース、及びソルビトール)、ポリエチレングリコール、ワックス、天然及び合成ゴム(例えばアカシアゴム及びトラガカントゴム)、アルギン酸ナトリウム、セルロース誘導体、(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(又はヒプロメロース)、ヒドロキシプロピルセルロース、及びエチルセルロース)、並びに合成ポリマー(例えばアクリル酸及びメタクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、メチルメタクリレートコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸コポリマー、並びにポリビニルピロリドン(ポビドン))を含むが、これらに限定されない。
【0034】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、崩壊剤を含む。適切な崩壊剤の例は、乾燥デンプン、加工デンプン(例えば(部分的)アルファ化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、及びカルボキシメチルスターチナトリウム)、アルギン酸、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC))、及び架橋ポリマー(例えばカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、及び架橋PVP(クロスポビドン))を含むが、これらに限定されない。
【0035】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、流動促進剤又は滑沢剤を含む。適切な流動促進剤及び滑沢剤の例は、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、コロイド状無水シリカ、水性二酸化ケイ素、合成ケイ酸マグネシウム、微細粒状酸化ケイ素、デンプン、ラウリル硫酸ナトリウム、ホウ酸、酸化マグネシウム、ワックス(例えばカルナバワックス)、硬化油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、及び鉱油を含むが、これらに限定されない。
【0036】
一般に、医薬組成物は、従来の賦形剤を使用して従来の方法で調製することができる。いくつかの実施形態では、製剤の成分は、均質な混合物に混合された後、錠剤又はカプセル剤として製剤化される。成分の均質な混合物は、ロータリー式打錠機等の従来技術を使用して錠剤に圧縮することができる。成分の混合物は、顆粒化されてもよい。例えば、成分の混合物は、水及び/又は適切な有機溶媒(例えば、エタノール又はイソプロパノール)等の液体の添加により湿潤させ、その後顆粒化し、乾燥させることができる。代替的に、顆粒は、ローラー圧縮等の乾式造粒により調製することができる。得られた顆粒は、従来技術を使用して錠剤に圧縮することができる。カプセル剤は、成分の粉末混合物又は小さい多粒子(multiparticulate)(例えば顆粒、押出しペレット、又はミニ錠剤)を含みうる。望ましい場合、上述の任意の錠剤、カプセル剤、顆粒、押出しペレット、及びミニ錠剤は、1つ又は複数のコーティング層でコーティングすることができる。そのようなコーティング層は、有孔パン及び流動床を含むフィルムコーティング等の当技術分野で知られている方法により施すことができる。いくつかの実施形態では、製剤は、錠剤の形態である。
【0037】
血流に吸収された後、リナプラザングルレートは、活性代謝物であるリナプラザンに速やかに代謝される。リナプラザングルレートの血漿中濃度は極めて低く、決定するのは困難である一方で、代わりにリナプラザンの血漿中濃度を決定することができる。フェーズI試験により、特定の用量のリナプラザングルレートが、投与後24時間、胃内のpHを4超に維持できるはずであることが示された。これには、22時間後にリナプラザンの最小血漿中濃度(Cmin)が少なくとも約240nmol/Lであることが必要と推定される。そのような用量では、製剤の1日1回の経口投与で十分であろう。したがって、いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートの医薬組成物の単回単位用量は、ヒトへのその医薬組成物の経口投与後22時間後に、前記ヒトにおいて、少なくとも約240nmol/LのリナプラザンのCminをもたらす。他の実施形態では、リナプラザングルレートの医薬組成物の2単位用量の毎日の投与は、ヒトへのその医薬組成物の最後の単位用量の経口投与後10時間後に、前記ヒトにおいて、少なくとも約240nmol/LのリナプラザンのCminをもたらす。
【0038】
一態様では、本発明は、治療に使用するための、本明細書に開示されるリナプラザングルレートのHCl塩の結晶形態に関する。
【0039】
本明細書に開示されるリナプラザングルレートのHCl塩の結晶形態は、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)の除菌等、胃酸分泌の阻害が必須又は望ましい疾患又は状態の治療又は予防に使用することができる。そのような疾患及び状態の例は、胃腸炎症性疾患及び胃酸関連疾患、例えば胃炎、胃食道逆流症(GERD)、びらん性胃食道逆流症(eGERD)、ヘリコバクター・ピロリ感染症、ゾリンジャー・エリソン症候群、消化性潰瘍疾患(胃潰瘍及び十二指腸潰瘍を含む)、出血性胃潰瘍、胃食道逆流症の症状(胸やけ、逆流、及び吐き気を含む)、ガストリノーマ、及び急性上部胃腸出血を含む。
【0040】
したがって、一態様では、本発明は、本明細書に開示される、治療有効量のリナプラザングルレートのHCl塩の結晶形態を含む医薬組成物を投与する工程を含む、それを必要とする対象における胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患を治療又は予防するための方法に関する。いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートのHCl塩の結晶形態は、形態1である。いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートのHCl塩の結晶形態は、形態2である。
【0041】
いくつかの実施形態では、GERDの治療は、GERDのオンデマンド治療である。
【0042】
別の態様では、本発明は、胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患の治療又は予防に使用するための、本明細書に開示される、治療有効量のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む医薬組成物に関する。
【0043】
本明細書では、「多形」という用語は、結晶格子中の分子の順序の結果として異なる物理的特性を有する同一分子の結晶を指す。単一化合物の多形は、1つ又は複数の互いに異なる化学的、物理的、機械的、電気的、熱力学的、及び/又は生物学的特性を有する。多形により示される物理的特性の違いは、保存安定性、圧縮性、密度(組成物及び生成物の製造において重要)、溶解速度(生物学的利用能の決定における重要な因子)、溶解性、融点、化学的安定性、物理的安定性、粉末流動性、水収着、圧縮、及び粒子形態等の医薬パラメーターに影響を及ぼしうる。安定性の違いは、化学的反応性の変化(例えば、ある多形で構成されるときに、別の多形で構成されるときよりも剤形が急速に変色するといった酸化の差)又は機械的変化(例えば、動力学的に有利な多形が熱力学的により安定な多形に変換するときの保存中の結晶変化)、又はその両方(例えば、ある多形が他の多形よりも吸湿性が高い)から生じうる。溶解性/溶解の違いの結果として、いくつかの移行は、効力及び/又は毒性に影響を及ぼす。更に、結晶の物理的特性は、加工において重要である場合があり、例えば、ある多形は溶媒和物を形成しやすい又は不純物を含まないようにろ過及び洗浄することが困難である場合がある(すなわち、粒子形状及びサイズ分布が、ある多形と他の多形とで異なる場合がある)。「多形」は、化合物の非晶質形態を含まない。
【0044】
本明細書では、「非晶質」という用語は、化合物の固体状態形態又は化合物の可溶化形態でありうる化合物の非結晶形態を指す。例えば、「非晶質」は、分子又は外表面(external face plane)の規則的な繰り返し配置を有さない化合物を指す。
【0045】
本明細書では、「無水物」又は「無水形態」という用語は、0.5質量%以下の水、例えば0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、又は0.1質量%以下の水を有するリナプラザングルレートの多形を指す。
【0046】
本明細書では、「多形純度」という用語は、リナプラザングルレートの多形を含む組成物に関連して使用されるとき、参照化合物におけるリナプラザングルレートの別の多形又は非晶質形態に対する、ある特定の多形の割合を指す。例えば、90%の多形純度を有する形態1を含む組成物は、形態1を90質量部、リナプラザングルレートの他の結晶形態及び/又は非晶質形態を10質量部含む。
【0047】
本明細書では、「有効量」又は「治療有効量」という用語は、対象への投与後、治療される疾患又は状態の1つ又は複数の症状をある程度軽減するのに十分なリナプラザングルレートの量を指す。その結果は、疾患の徴候、症状、若しくは原因の軽減及び/若しくは緩和、又は生物学的システムの任意の他の望ましい変化を含む。例えば、治療上の使用のための「有効量」は、疾患症状の臨床的に有意な減少をもたらすのに必要なリナプラザングルレートの量である。あらゆる個々の症例における適切な「有効」量は、用量漸増試験等の任意の適切な技術を使用して決定される。
【0048】
本明細書では、「治療(treatment)」、「治療する(treat)」、及び「治療すること(treating)」という用語は、本明細書に記載される疾患若しくは障害、又は1つ若しくは複数のそれらの症状を逆転させること、緩和させること、その発症を遅延させること、又は進行を阻害することを指す。いくつかの実施形態では、治療は、1つ又は複数の症状が発症した後に行うことができる。他の実施形態では、治療は、症状がないときに行うことができる。例えば、治療は、症状の発症の前に、感受性のある個体に行うことができる(例えば、症状の既往歴及び/又は遺伝的若しくは他の感受性因子を考慮して)。治療はまた、症状が解消した後も、例えば、その再発を防止する又は遅延させるために継続することができる。
【0049】
本明細書では、「薬学的に許容される」という用語は、ヒト医薬用途に適し、一般に安全で、無毒で、生物学的にもそれ以外でも望ましくないものではない化合物、物質、組成物、及び/又は剤形を指す。
【0050】
本明細書では、化合物又は組成物が1つ又は複数の他の成分を相当量含まない場合、その化合物又は組成物はそのような他の成分を「実質的に含まない」。そのような成分は、出発物質、残留溶媒、又は本明細書で提供される化合物及び組成物の調製及び/若しくは単離から生じうる任意の他の不純物等の不純物を含みうる。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される多形は、不純物を「実質的に含まない」。特定の多形の純度は、好ましくは約90%(w/w)超、例えば約95%(w/w)超、例えば約97%(w/w)超、又は例えば約99%(w/w)超である。いくつかの実施形態では、特定の多形の純度は、99.5%(w/w)超、又は更には99.9%(w/w)超である。いくつかの実施形態では、特定の多形中の不純物は、約1%(w/w)未満、例えば約0.5%(w/w)未満、又は例えば約0.1%(w/w)未満である。不純物の総量は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により決定することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される多形形態は、他の多形形態を実質的に含まない。いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートの特定の多形が存在するリナプラザングルレートの少なくとも約95質量%を構成する場合、その特定の多形は他の多形を「実質的に含まない」。いくつかの実施形態では、リナプラザングルレートの特定の多形が存在するリナプラザングルレートの少なくとも約97質量%、約98質量%、約99質量%、又は約99.5質量%を構成する場合、その特定の多形は他の多形を「実質的に含まない」。
【0052】
本明細書では、少なくとも約50質量%の化合物がその多形の形態である場合、例えば少なくとも約60質量%、少なくとも約70質量%、少なくとも約80質量%、又は少なくとも約90質量%の化合物がその多形の形態である場合、その化合物は所与の多形として「実質的に存在する」。いくつかの実施形態では、少なくとも約95質量%、例えば少なくとも約96質量%、例えば少なくとも約97質量%、例えば少なくとも約98質量%、例えば少なくとも約99質量%、又は例えば少なくとも約99.5質量%の化合物がその多形の形態である。
【0053】
本明細書では、「安定な」という用語は、多形が、多形形態(例えば、特定の形態の増加又は減少)、外観、pH、不純物の割合、活性(インビトロアッセイにより測定される)、又はオスモル濃度のうちの1つ又は複数において経時的な変化を示さないことを意味する。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される多形は、少なくとも1、2、3、又は4週間安定である。例えば、多形は、多形形態(例えば、特定の形態の増加又は減少)、外観、pH、不純物の割合、活性(インビトロアッセイにより測定される)、又はオスモル濃度のうちの1つ又は複数において少なくとも1、2、3、又は4週間にわたり変化を示さない。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される多形は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12ヶ月間安定である。例えば、多形は、多形形態(例えば、特定の形態の増加又は減少)、外観、pH、不純物の割合、活性(インビトロアッセイにより測定される)、又はオスモル濃度のうちの1つ又は複数において少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12ヶ月にわたり変化を示さない。上記において、「変化を示さない」という語句は、関連する期間にわたり任意のパラメーターについて測定した変化が5%未満(例えば、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満)であることを指す。
【0054】
リナプラザングルレートのHCl塩の多形の結晶化度は、例えば、X線粉末回折(XRPD)法により、又は示差走査熱量測定(DSC)法により測定することができる。本明細書において結晶化合物に言及するとき、好ましくは結晶化度は、約70%超、例えば約80%超、特に約90%超、より特に約95%超である。いくつかの実施形態では、結晶化度の程度は、約98%超である。いくつかの実施形態では、結晶化度の程度は、約99%超である。結晶化度%は、結晶である総試料質量の質量パーセントを指す。
【0055】
本明細書では、「約」という用語は、その値又はパラメーター自体を対象とする実施形態を含む(かつ説明する)本明細書における値又はパラメーターを指す。例えば、「約20」に言及する記述は、「20」の記述を含む。数値範囲は、その範囲を定義する数を含む。一般的に、「約」という用語は、変数の指示値及び指示値の実験誤差内(例えば、平均値の95%信頼区間内)又は指示値の10パーセント以内のいずれか大きい方の変数のすべての値を指す。
【0056】
これより本発明を以下の実施例により説明するが、これらは本発明をいかなる点においても限定しない。本明細書で言及されるすべての引用文献及び参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【0057】
略語
DMF N,N-ジメチルホルムアミド
DMSO ジメチルスルホキシド
EtOAc 酢酸エチル
EtOH エタノール
MeOH メタノール
RH 相対湿度
【0058】
実験方法
一般方法
1H-NMRスペクトルは、Bruker社の400MHzの機器で25℃で記録し、使用した重水素化溶媒中の残留プロトン性溶媒を基準とした:DMSO-d6(δH 2.50ppm)。
【0059】
分析HPLC-MSは、エレクトロスプレーインターフェイス及びUVダイオードアレイ検出器を備えたAgilent社1100シリーズ液体クロマトグラフィー/質量選択検出器(MSD)(シングル四重極型)を使用して実施した。分析は、ACE 3 C8(3.0×50mm)カラムを使用して、0.1%TFA水溶液中のアセトニトリルの3分にわたる勾配及び1mL/分の流速で実施した。
【0060】
溶解性研究では、HPLCは、DAD分光計を備えたAgilent社1100シリーズ液体クロマトグラフィーシステムを使用して実施した。分析は、Waters社X Bridge BEH C18カラム(4.6×100mm、2.5μm)を使用して30℃で実施した。移動相:A=水中0.1%ギ酸、B=アセトニトリル中0.1%ギ酸。流速0.8mL/分。移動相プログラム:
【0061】
【表1】
【0062】
X線粉末回折(XRPD)分析
分析は、Cuアノード(45kV、40mA)、Kα-1ヨハンソンモノクロメーター(1.54060Å)及びPixcel検出器を備えたPanAlytical社X'Pert Pro回折計で実施した。走査速度0.10°/秒及びステップサイズ0.013°を使用して、2シータの範囲は、2~35°であった。低速回転の試料ホルダーを使用した。試料は、Siのゼロバックグラウンドウエハ上に塗りつけられ、平らな粉末表面が得られた。測定は、プログラム可能な入射発散スリットを使用して実施した。
【0063】
当技術分野では、X線粉末回折パターンが、測定条件(装置、試料調製、又は使用する機械等)に応じて1つ又は複数の測定誤差を伴って得られうることが知られている。特に、XRPDパターンの強度は、測定条件及び試料調製に応じて変動しうることが一般に知られている。例えば、XRPDの当業者であれば、ピークの相対強度が、試験下の試料の配向性並びに使用する機器の種類及び設定に応じて変動しうることを理解するであろう。当業者であれば、試料が回折計に置かれる正確な高さ、及び回折計のゼロ較正により、反射の位置が影響を受ける可能性があることも理解できるであろう。試料の表面平面性もわずかに影響する可能性がある。したがって、当業者であれば、本明細書に提示される回折パターンは、絶対的なものとして解釈されるものではなく、本明細書に開示されるものと実質的に同一の粉末回折パターンを提供する任意の結晶形態が本開示の範囲内に入ることを理解するであろう(さらなる情報は、R. Jenkins及びR.L. Snyder、「Introduction to X-ray powder diffractometry」、John Wiley & Sons、1996を参照のこと)。
【0064】
熱重量分析(TGA)
分析は、PerkinElmer社TGA7機器で実施した。試料数mgをオープンPtパンに静かに投入し、不活性雰囲気を確実にするために乾燥窒素ガス(20mL/分)の流れの中で質量分析した。10℃/分の連続走査速度を使用して、試料を25から200℃まで走査した。
【0065】
示差走査熱量測定(DSC)
分析は、Netzsch社DSC 204F1機器で実施した。試料数mgをAlパンに静かに投入し、秤量した。予め作られたピンホール付きの蓋をパンに適合させ、圧着させた。加熱速度10℃/分の従来のDSCを用いた。最低温度(開始)は0℃で、最高温度は250℃であった。
【0066】
動的蒸気収着(DVS)
分析は、SMS社DVS-1機器で実施した。物質数mgをAlパンに加え、オープンループモードを使用して0-10-20-30-40-50-60-70-80-90-80-70-60-50-40-30-20-10-0%RHに従って、2つの同一の連続サイクルの間に段階的なRH変化にさらした。実験は、200mL/分のガス流速を使用して、25℃で実施した。適用されたdm/dt基準は、5分ウィンドウの間に0.001質量%/分であり、すべての工程で最大許容時間が360分、最小許容時間が10分であった。
【実施例
【0067】
(実施例1)
リナプラザングルレートの塩酸塩の調製
リナプラザングルレート(8.12g、16.9mmol)を22℃で2-プロパノール(200mL)に懸濁し、懸濁液を撹拌した。HCl水溶液(12M;1.67g、16.9mmol)を加えると、スラリーが生じた。撹拌を2.5時間継続した。それから、懸濁液をP3フリットガラスフィルター漏斗を通してろ過し、固体を真空下で乾燥させた。収率:94%(8.20g、無色粉末)、LCMSによれば100%純度。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 12.07 (s, 1H), 9.10 (t, J = 5.6 Hz, 1H), 8.43 (d, J = 1.2 Hz, 1H), 7.35 (s, 1H), 7.27-7.03 (m, 3H), 6.48 (s, 1H), 4.44 (d, J = 3.9 Hz, 2H), 4.21 (t, J = 5.7 Hz, 2H), 3.58 (q, J = 5.7 Hz, 2H), 2.45-2.30 (m, 11H), 2.24 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 1.74 (p, J = 7.4 Hz, 2H). MS: (ESI+) m/z 481 (M+H).
【0068】
(実施例2)
多形選別
溶解性、多形性、及び熱力学的安定性を決定するために、リナプラザングルレートのHCl塩について多形選別を実施した。
【0069】
X線粉末回折(XRPD)、熱重量分析(TGA)、及び示差走査熱量測定(DSC)は、選別に使用した原薬が形態1及び形態2の混合物であることを示した。TGA走査は、140℃に加熱したとき、約1%の緩やかな質量減少を示した。(データは示さず)。結晶化実験の前に、原薬の溶解性を20種類以上の溶媒及び溶媒混合物で決定した。
【0070】
スラリー実験:
スラリー実験を様々な溶媒中で実施し、リナプラザングルレートのHCl塩は中間の溶解性を有することが見出された。原薬およそ50~200mgを、11種類の溶媒(純溶媒及び二成分溶媒)中で、別段の指示がない限り、室温及び40℃で3週間スラリー化した。すべての溶媒は、別段の指示がない限り、スラリーを調製する前にモレキュラーシーブを加えることにより乾燥させた。固相を単離し、XRPDにより分析した。結晶性固体形態が、Table 1(表2)に示される実験で得られた。
【0071】
【表2】
【0072】
蒸発実験:
実験を6種類の溶媒中で実施し、リナプラザングルレートのHCl塩は十分に高い溶解性を有することが見出された。すべての溶媒は、別段の指示がない限り、溶液を調製する前にモレキュラーシーブを加えることにより乾燥させた。原薬およそ10又は20mgを溶解し、バイアル中又は直接XRPDゼロバックグラウンドプレート上に、室温及び周囲相対湿度で10日間放置して蒸発させた。結果は、Table 2(表3)に示される。
【0073】
【表3】
【0074】
逆溶媒結晶化:
特定の溶媒から結晶化を実施し、リナプラザングルレートのHCl塩は高い溶解性を有することが見出され、併せて、特定の逆溶媒から実施し、リナプラザングルレートのHCl塩は実質的に不溶性であった。すべての溶媒は、実験を実施する前にモレキュラーシーブを加えることにより乾燥させた。
【0075】
原薬を溶媒1に溶解し、その後溶媒2を0.5mLずつ加えた。いずれの実験においても、沈殿が速やかに生じなかったため、沈殿を誘導するためにバイアルを5℃に置いた。4日後に結晶が形成されていない場合、結晶化を誘導するために金属ワイヤー片を加え、バイアルを更に7日間放置した。固相を真空ろ過により分離し、XRPDにより分析した。結晶性固体形態が、Table 3(表4)に示される実験で得られた。
【0076】
【表4】
【0077】
冷却実験:
冷却実験を溶媒及び溶媒混合物中で実施し、リナプラザングルレートのHCl塩の溶解性は、妥当な量が溶解するのに十分高いことが見出された。すべての溶媒は、別段の指示がない限り、溶液を調製する前にモレキュラーシーブを加えることにより乾燥させた。試料を調製し、室温で原薬の大部分を溶解した。それから、温度を40℃に上げ、原薬を完全に溶解した。室温に置いたDMSO溶液を除き、バイアルを5℃の冷蔵庫に置いた。固相を真空ろ過により分離し、XRPDにより分析した。結晶性固体形態が、Table 4(表5)に示される実験で得られた。
【0078】
【表5】
【0079】
40℃のDMF中のスラリーから得られた形態1のXRPDピークが、下記Table 5(表6)に列挙される。形態1の回折図は、図1に示される。
【0080】
【表6】
【0081】
MeOH/水9:1から冷却により得られた形態2(「試料1」)のXRPDピークが、下記Table 6(表7)に列挙される。形態2、試料1の回折図は、図2に示される。
【0082】
【表7】
【0083】
MeOHから冷却により得られた形態2(「試料2」)のXRPDピークが、下記Table 7(表8)に列挙される。形態2、試料2の回折図は、図3に示される。
【0084】
【表8A】
【0085】
【表8B】
【0086】
特定の実験で得られたDMSO溶媒和物は、高度に結晶性の固体形態であったが、薬学的に実行可能であるとは考えられなかった。TGA実験により、この形態は、リナプラザングルレートのHCl塩1モルあたりDMSO約1モルを含むことが確認された。TGA実験で試料を加熱した後、乾燥試料のX線粉末回折図は、形態1のものと同一であることが見出された(データは示さず)。
【0087】
(実施例3)
熱重量分析
形態1の試料(逆溶媒としてEtOAcを使用してDMFから結晶化により得られた)は、30から140℃まで加熱すると0.1%の質量減少を示した。これにより、形態1が無水物であることが確認された。形態1のTGA質量減少曲線は、図4に示される。
【0088】
形態2の試料1及び2は、30から140℃まで加熱するとそれぞれ1.8及び3.1%の質量減少を示した。この質量減少は、水の放出に起因する。この2つの試料間の違いは、おそらく試料の分析時の相対湿度の違いによる。より高い温度での質量減少は、試料の分解に起因すると考えられる。形態2の試料1及び2のTGA質量減少曲線は、それぞれ図5及び図6に示される。
【0089】
TGA実験の後に、形態2の試料2をXRPDにより分析した。乾燥試料の回折図は、形態1で得られた回折図と同一であることが見出された(データは示さず)。
【0090】
(実施例4)
示差走査熱量測定(DSC)分析
形態1の試料(逆溶媒としてEtOAcを使用してDMFから結晶化により得られた)は、無水HCl塩の融解に起因しうるおよそ233℃(開始230.7℃)での単一の吸熱事象を示した。DSCサーモグラムは、図7に示される。
【0091】
形態2では、試料1及び2を調査した。DSCサーモグラムは、それぞれ図8及び図9に示される。試料1は、形態2の融解に起因する1つの吸熱事象のみを示した。この事象は幅が広く、融解が開始するときに水がいくらか残っていて、融解過程の間に放出されることを示唆している。この事象は、およそ171~172℃にピークを有する(開始163.0℃)。試料2は、より複雑な熱挙動を示した。約150℃での最初の小さな吸熱は、水の放出に起因しうる。およそ180℃で開始する2番目の事象は、形態2の融解(吸熱性)が形態1への再結晶化(発熱性)と重なり合っていると解釈される。最後の吸熱事象は、形態1の融解である。およそ232℃の融解温度(開始229.3℃)は、形態1で見出されたものと一致している(図7を参照のこと)。
【0092】
(実施例5)
動的蒸気収着(DVS)分析
形態1(逆溶媒としてEtOAcを使用してDMFから結晶化により得られた)及び形態2(MeOH中のスラリーから得られた)の吸湿性を、DVSを使用して25℃で調査した。形態1の質量変化プロット及び収着等温線プロットは、上昇させた湿度で少量の水の取込みのみを示した;それぞれ図10A及び図10Bを参照のこと。90%RHで水の取込みが0.2%であるため、形態1は非吸湿性と分類することができる。
【0093】
形態2では、質量変化プロット及び収着等温線プロット(それぞれ図11A及び図11B)は、上昇させた湿度で水の顕著な取込みを示した。相対湿度を上げると水の取込みが速くなり、相対湿度を下げると水の損失が同様に速くなる。収着挙動はチャネル水和物の典型的なものであり、結晶構造が周囲の湿度に応じて異なる量の水を収容するように適応する。90%RHでの4.7%の水の取込みは、リナプラザングルレートHCl 1単位あたり1.3個の水分子に相当する。
【0094】
(実施例6)
形態1の大規模調製
工程1:
250Lの反応器に、酢酸(142.75kg)及びリナプラザングルレート(粗生成物、28.50kg)を投入した。更に酢酸を加え(28.55kg)、混合物を30℃に加熱し、透明な溶液が得られるまでその温度で撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を500Lの反応器に移した。最初の反応器を追加の酢酸(14.17kg)ですすいだ。それから、酢酸エチル(199.40kg)を反応器に投入した。それから、酢酸中HClの溶液(10.9%w/w、19.44kg)を反応器に2時間かけて滴下添加した。その後混合物を30℃で2時間撹拌した。混合物を遠心分離によりろ過し、ウェットケーキを酢酸エチル(28.44kg)で洗浄した。
【0095】
工程2:
反応器に酢酸エチル(285kg)及び工程1のウェットケーキ(37.98kg)を投入し、形態1の種結晶(0. kg/kg)を加えた。更に酢酸エチル(28.49kg)を加えた。それから、懸濁液を30℃で16時間スラリー化した。物質に粘りが出たため、追加の酢酸エチル(85.5kg)を加えた。懸濁液を遠心分離によりろ過し、ウェットケーキを酢酸エチル(28.56kg)で洗浄した。ウェットケーキを真空下、65℃で乾燥させた。白色固体が得られた(28.5kg、93.1%収率、形態1)。
【0096】
(実施例7)
溶解性研究
I.リナプラザングルレートの遊離塩基及びHCl塩の胃液を模倣した媒体への溶解性
リナプラザングルレートの結晶性遊離塩基(形態A)及び結晶性HCl塩(形態1及び2の混合物)の溶解性を、絶食状態模倣胃液(Fasted State Simulated Gastric Fluid)(FaSSGF、Biorelevant社、バッチFFF-0119-B;pH1.6)及び摂食状態胃液(Fed State Gastric Acid)(FeDSGA、Biorelevant社、バッチFEDGAS-120-A;pH5.0)で研究した。
【0097】
試料調製、分析、及び結果
4mLバイアル中で、固定質量の結晶性塩基又は結晶性HCl塩を、異なる緩衝液各2mLに加えることにより、飽和溶液を調製した。バイアルを10分間超音波処理した後、水浴(37℃)上で24時間磁気撹拌器で撹拌した。試料を1、4、及び24時間後に反復して採取し、HPLC-UVにより分析した。8つの較正標準(リナプラザングルレートの遊離塩基及びHCl塩の原液の連続希釈物)を使用して作成した較正曲線から濃度を計算した。
【0098】
遊離塩基はFaSSGFへの溶解性がより高いが、HCl塩はFeDSGAへの溶解性がより高いことが見出された。違いは1時間後に最も顕著であり、FaSSGFでは、遊離塩基の溶解性はHCl塩の溶解性よりも1.4倍高く、一方でFeDSGAでは、HCl塩の溶解性は、遊離塩基の溶解性よりも6.5倍超高かった。結果は、図12に示される。
【0099】
II.形態1及び形態2の胃液及び腸液を模倣した媒体への溶解性
リナプラザングルレートの2つの結晶性HCl塩の、摂食状態模倣胃液(Fed State Simulated Gastric Fluid)(FEDGAS)中期、絶食状態模倣腸液(Fasted State Simulated Intestinal Fluid)の第2バージョン(FaSSIF-V2)、及び摂食状態模倣腸液(Fed State Simulated Intestinal Fluid)の第2バージョン(FeSSIF-V2)への溶解性を研究した。
【0100】
緩衝液の調製
FaSSIF-V2:
ミリQ水90mLにNaOH 139mg、マレイン酸222mg、及びNaCl 401mgを加え、得られた混合物を完全に溶解するまで撹拌した。1MのHCl及び1MのNaOHでpHを6.5に調整し、ミリQ水で100mLにした。FaSSIF-V2(Biorelevant社、バッチV2FAS-1020-A)179mgを、調製した緩衝液100mLと混合し、完全に溶解するまで撹拌し、使用前にRTで1時間平衡化した。
【0101】
FeSSIF-V2:
ミリQ水90mLにNaOH 327mg、マレイン酸639mg、及びNaCl 733mgを加え、得られた混合物を完全に溶解するまで撹拌した。1MのHCl及び1MのNaOHでpHを5.8に調整し、ミリQ水で100mLにした。FeSSIF-V2(Biorelevant社、バッチV2FES-1020-A)976mgを、調製した緩衝液100mLと混合し、完全に溶解するまで撹拌し、使用前にRTで1時間平衡化した。
【0102】
FEDGAS(中期、pH4.5):
FEDGAS緩衝液濃縮物(Biorelevant社、バッチFEDBUF45-0122-A)3.68g、ミリQ水73.1g、及びFEDGASゲル(Biorelevant社、バッチFEDGAS-0322-A)15.3gを十分に混合した。この媒体を使用前に37℃で保存した。
【0103】
試料調製、分析、及び結果
4mLバイアル中で、固定質量(過剰量)の形態1又は形態2を、異なる緩衝液各2mLに加えることにより、飽和溶液を調製した。各実験は、二重で実施した。溶液を37℃で24時間、磁気撹拌子で撹拌した。試料を1、3、6、及び24時間後に採取した。各採取時点で、0.2μmのPPシリンジレスフィルターを使用して試料溶液200μLをろ過した。ろ過した試料溶液をDMAで2又は5倍に希釈した後、HPLC-UVにより分析してリナプラザングルレートの濃度を決定した。7つの較正標準(100及び250μg/mLの原液、及びそれらの連続希釈物)に基づく較正曲線から濃度を計算した。
【0104】
形態1及び2のそれぞれのFEDGASへの溶解性は、FaSSIF-V2への溶解性よりも約20~25倍高く、FeSSIF-V2への溶解性よりも約7~8倍高いことが見出された。結果は、図13A(形態1)及び図13B(形態2)に示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
【手続補正書】
【提出日】2024-02-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項2】
室温で94%の相対湿度で安定である、請求項1に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項3】
無水物である、請求項1記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項4】
CuKα1線を用いて得られる、3.8±0.2、9.1±0.2、13.8±0.2、14.0±0.2、20.0±0.2、22.9±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも2つのピークを有するXRPDパターンを有する形態1である、請求項3に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項5】
形態1が、CuKα線を用いて得られる、20.0±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項4に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項6】
形態1が、CuKα線を用いて得られる、9.1±0.2、13.8±0.2、20.0±0.2、23.4±0.2、24.4±0.2、24.6±0.2、及び26.7±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項4に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項7】
CuKα1線を用いて得られる、実質的に図1に示されるXRPDパターンを有する形態1である、請求項3に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項8】
形態1が、約230℃~約240℃の間、例えばおよそ233℃での吸熱を含むDSC曲線を有する、請求項4記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項9】
非化学量論的水和物である、請求項1記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項10】
CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2からなるリストから選択される°2θ値に少なくとも2つのピークを有するXRPDパターンを有する形態2である、請求項9に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項11】
形態2が、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、15.0±0.2、22.6±0.2、及び25.0±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項10に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項12】
形態2が、CuKα1線を用いて得られる、7.1±0.2、9.9±0.2、10.2±0.2、15.0±0.2、15.7±0.2、22.6±0.2、22.8±0.2、及び25.0±0.2の°2θ値に少なくともピークを有するXRPDパターンを有する、請求項10に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項13】
CuKα1線を用いて得られる、実質的に図2又は図3に示されるXRPDパターンを有する形態2である、請求項9に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項14】
形態2が、約175℃~約185℃の間、例えばおよそ180℃での吸熱を含むDSC曲線を有する、請求項10記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項15】
99%超の結晶化度を有する、請求項1記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の、治療有効量のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤と合わせて含む医薬組成物。
【請求項17】
求項1から15のいずれか一項に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む医薬
【請求項18】
胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患の治療又は予防に使用するための、請求項1から15のいずれか一項に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む医薬
【請求項19】
胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患が、胃炎、胃食道逆流症(GERD)、びらん性胃食道逆流症(eGERD)、ヘリコバクター・ピロリ感染症、ゾリンジャー・エリソン症候群、消化性潰瘍疾患(胃潰瘍及び十二指腸潰瘍を含む)、出血性胃潰瘍、胃食道逆流症の症状(胸やけ、逆流、及び吐き気を含む)、ガストリノーマ、又は急性上部胃腸出血である、請求項18に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む医薬
【請求項20】
胃腸炎症性疾患又は胃酸関連疾患が、びらん性胃食道逆流症(eGERD)である、請求項18に記載のリナプラザングルレートの結晶性HCl塩を含む医薬
【請求項21】
リナプラザングルレートのHCl塩の形態1の調製のための方法であって、
a)酢酸中のリナプラザングルレートの遊離塩基の溶液を調製する工程と、
b)酢酸エチルを加える工程と、
c)濃塩酸を加え、HCl塩の形態2が得られるまで撹拌を維持する工程と、
d)工程c)において得られた固体を回収する工程と、
e)酢酸エチルを工程d)の固体に加える工程と、
f)工程e)の懸濁液を、HCl塩の形態2の形態1への変換が完了するまでスラリー化する工程と、
g)工程f)において得られた固体を回収する工程と、
h)工程g)の固体を真空下及び/又は上昇させた温度等で乾燥させる工程とを含む、方法。
【国際調査報告】