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特表2024-530048間葉系幹細胞を培養するための方法、組成物およびそれらの実施
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞を培養するための方法、組成物およびそれらの実施
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240806BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240806BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240806BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
A61P27/02
A61K9/08
A61P1/16
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/34
A61K47/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508335
(86)(22)【出願日】2022-08-11
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 IN2022050720
(87)【国際公開番号】W WO2023017539
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202141036331
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522033896
【氏名又は名称】パンドラム・テクノロジーズ・プライベイト・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Pandorum Technologies Private Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ボウミック,トゥヒン
(72)【発明者】
【氏名】チャンドル,アルン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,ミドゥン ベン
(72)【発明者】
【氏名】セングプタ,スマン
(72)【発明者】
【氏名】メノン,ディープティ
(72)【発明者】
【氏名】カルナカラン,ウェンソン ラジャン デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】セルバム,シバラム
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AC14
4B065AC15
4B065BD25
4B065CA44
4C076AA11
4C076BB13
4C076BB24
4C076CC09
4C076CC10
4C076EE06
4C076EE23
4C076EE31
4C076EE37
4C076EE43
4C076FF11
4C076FF35
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087CA02
4C087CA04
4C087DA32
4C087MA17
4C087MA58
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZA75
(57)【要約】
本明細書には、プライミングされた間葉系幹細胞由来のエキソソームの集団を生成する方法が提供される。本開示に従う方法は、培養中の間葉系幹細胞(MSC)の集団を拡大することと、培養中に1種以上のプライミング剤を投与して、MSCの集団をプライミングし、プライミングされたMSCの集団を得ることと、培養中でプライミングされたMSCの集団を増殖させて、プライミングされたMSC由来の馴化培地を産生することと、プライミングされたMSC馴化培地を回収することと、プライミングされたMSC馴化培地からエキソソームの集団を精製することとを含み得る。1種以上のプライミング剤は、MSCの集団と異なる幹細胞の集団に由来する馴化培地、Nrf2活性化因子、またはそれらの組み合わせを含み得る。また、本明細書には、プライミングされたMSC馴化培地からのエキソソームの集団を用いて角膜および肝臓などの組織を処置する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライミングされた間葉系幹細胞由来のエキソソームの集団を生成する方法であって、
(a)培養中の間葉系幹細胞(MSC)の集団を拡大することと、
(b)MSCの集団とは異なる細胞集団に由来する細胞由来の馴化培地および少なくとも1つの規定されたプライミング剤でMSCの集団をプライミングして、プライミングされたMSCの集団を得ることと、
(c)培養中でプライミングされたMSCの集団を増殖させて、プライミングされたMSC由来の馴化培地を産生することと、
(d)プライミングされたMSC馴化培地を回収することと
を含む、方法。
【請求項2】
さらに、
(e)プライミングされたMSC馴化培地からエキソソームを精製すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MSCの集団をプライミングすることが、
(1)MSCの集団を細胞由来の馴化培地と接触させることと、
(2)MSCの集団を少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触させることと
を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MSCの集団が、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで細胞由来の馴化培地と接触し、MSCの集団が、約60%~約90%のコンフルエンシーから開始して、少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
MSCの集団が、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで細胞由来の馴化培地と接触し、その後、少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触する、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
MSCの集団が、約12時間~約72時間、少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触している、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
異なる細胞集団からの細胞由来の馴化培地が角膜間質幹細胞由来の馴化培地である、請求項1~5、6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの規定されたプライミング剤が、核因子赤血球2関連因子2(Nrf2)活性化因子、サイレンシング情報調節因子1(SIRT1)活性化因子、またはオールトランスレチノイン酸(ATRA)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのプライミング剤が、Nrf2活性化因子である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Nrf2活性化因子が、フマル酸ジメチル(DMF)またはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
MSCの集団が、骨髄由来のMSC(BM-MSC)の集団、臍帯由来のMSC(UM-MSC)の集団、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のMSC(iPSC-MSC)の集団、またはホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)の集団である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
BM-MSCの集団がヒトBM-MSCの集団である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞由来の馴化培地が角膜幹細胞由来の馴化培地であり、規定されたプライミング剤がDMFまたはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
角膜幹細胞由来の馴化培地が、約10%~約30%の濃度で存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
DMFが約50μM~約100μMの濃度で存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法で産生された、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項17】
プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、
(a)低発現レベルの血管内皮増殖因子(VEGF);および
(b)高発現レベルの神経成長因子(NGF)
のうちの1つ以上を有することによって特徴付けられる、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項18】
プライミングされたMSC由来のエキソソームが、プライミングされていない間葉系幹細胞由来のエキソソームと比較して、
(c)高発現レベルの肝増殖因子(HGF);および
(d)高発現レベルのsFLT1
のうちの1つ以上によって特徴付けられる、請求項17に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項19】
プライミングされたMSC由来のエキソソームが、プライミングされていない間葉系幹細胞由来のエキソソームと比較して、
(a)少なくとも2倍高い発現レベルのsFLT1;
(b)プライミングされていないMSC由来のエキソソームにおける発現の4分の1またはそれ未満である発現レベルのVEGF;
(c)少なくとも2倍高い発現レベルのHGF;および
(d)少なくとも3倍高い発現のNGF
のうちの1つ以上によって特徴付けられる、請求項17または請求項18に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項20】
プライミングされたMSC由来のエキソソームが、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、
(a)少なくとも2倍高い発現レベルのsFLT1;
(b)プライミングされていないMSC由来のエキソソームにおける発現の4分の1またはそれ未満である発現レベルのVEGF;
(c)少なくとも2倍高い発現レベルのHGF;および
(d)少なくとも3倍高い発現のNGF
のうちの2つ以上によって特徴付けられる、請求項17~19のいずれか一項に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項21】
プライミングされたMSC由来のエキソソームが、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、
(a)少なくとも2倍高い発現レベルのsFLT1;
(b)プライミングされていないMSC由来のエキソソームにおける発現の4分の1またはそれ未満である発現レベルのVEGF;
(c)少なくとも2倍高い発現レベルのHGF;および
(d)少なくとも3倍高い発現のNGF
によって特徴付けられる、請求項20に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項22】
プライミングされたMSCが、
(1)MSCの集団を角膜幹細胞由来の馴化培地と接触させること;および
(2)MSCの集団をNrf2活性化因子と接触させること
によって調製される、請求項17~21のいずれか一項に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団の組成物。
【請求項23】
Nrf2活性化因子がDMFまたはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である、請求項22に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団の組成物。
【請求項24】
MSCの集団が、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで角膜幹細胞由来の馴化培地と接触し、MSCの集団が、約60%~約90%のコンフルエンシーから開始して、Nrf2活性化因子と接触される、請求項22~23に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項25】
MSCの集団が、約12時間~約72時間、Nrf2活性化因子と接触している、請求項25に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項26】
角膜欠損を処置するための方法であって、角膜欠損を有する角膜表面に、請求項16~25のいずれか一項に記載の治療用量のエキソソームの集団を投与することを含む、方法。
【請求項27】
角膜欠損が、角膜瘢痕、角膜炎、角膜潰瘍、角膜擦過傷、角膜上皮損傷、角膜間質損傷、感染に基づく角膜損傷、トラコーマ、円錐角膜、角膜穿孔、角膜輪部傷害、角膜ジストロフィー、血管形成、春季角結膜炎およびドライアイからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
角膜欠損が角膜炎である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
エキソソームの集団が、角膜表面に適用するために製剤化された眼科組成物に含まれる、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
組成物が点眼液である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
点眼液が生体適合性ポリマーを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
生体適合性ポリマーが架橋性であり、方法が、点眼液を角膜表面に投与し、架橋性ポリマーの十分な部分を架橋して、点眼液をヒドロゲルに変換することを含む、請求項31に記載の方法。
[請求項32]
角膜表面に適用するために製剤化され、請求項17~25のいずれか一項に記載のエキソソームの集団を含む眼科組成物。
【請求項33】
眼科組成物が点眼液中にある、請求項29に記載の眼科組成物。
【請求項34】
点眼液が生体適合性ポリマーを含む、請求項33に記載の眼科組成物。
【請求項35】
眼科組成物がヒドロゲルであり、生体適合性ポリマーの少なくとも一部が架橋されている、請求項34に記載の眼科組成物。
【請求項36】
プライミングされた間葉系幹細胞由来のエキソソームの集団を生成する方法であって、
(a)培地中で間葉系幹細胞(MSC)の集団を培養することと、
(b)MSCの集団をNrf2活性化因子でプライミングして、プライミングされたMSCの集団を得ることと、
(c)回収培地中でプライミングされたMSCの集団を増殖させ、回収培地がプライミングされたMSCによって産生されたエキソソームで濃縮されるようになり、それによって、プライミングされたMSC由来の馴化培地を産生することと、
(d)プライミングされたMSC馴化培地を回収することと
を含む、方法。
【請求項37】
(e)プライミングされたMSC馴化培地からエキソソームを精製すること
をさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
MSCの集団が、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで第1の培地中で増殖され、次にNrf2活性化因子と接触される、請求項36または請求項37に記載の方法。
【請求項39】
MSCの集団が、約12時間~72時間、Nrf2活性化因子と接触している、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
Nrf2活性化因子が、フマル酸ジメチル(DMF)またはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である、請求項36~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
DMFが約50μM~約100μMの濃度で存在する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
MSCの集団が、骨髄MSC(BM-MSC)の集団、臍帯由来のMSC(UM-MSC)の集団、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のMSC(iPSC-MSC)の集団、またはホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)の集団である、請求項36~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
MSCの集団がBM-MSCの集団である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
請求項36~43のいずれか一項に記載の方法で産生された、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項45】
プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、
(a)高発現レベルの肝増殖因子(HGF);および
(b)高発現レベルの神経増殖因子(NGF)
のうちの1つ以上を有することによって特徴付けられる、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項46】
プライミングされたMSC由来のエキソソームが、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、
(a)高発現レベルのHGF;および
(b)高発現レベルのNGF
によって特徴付けられる、請求項45に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項47】
プライミングされたMSC由来のエキソソームが、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、
(a)HGFの少なくとも1.2倍高い発現レベルのHGF;および
(b)NGFの少なくとも2倍高い発現レベルのNGF
のうちの一方または両方によって特徴付けられる、請求項45または請求項46に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項48】
プライミングされたMSCが、
(1)第1の培地中でMSCの集団を増殖させること;および
(2)MSCの集団をNrf2活性化因子と接触させること
によって調製される、請求項45~47のいずれか一項に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項49】
Nrf2活性化因子がDMFまたはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である、請求項48に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項50】
DMFが約50μM~約100μMの濃度で存在する、請求項49に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項51】
MSCが、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで第1の培地中で増殖され、次にNrf2活性化因子と接触される、請求項48~51のいずれか一項に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項52】
MSCの集団が、約12時間~約72時間、Nrf2活性化因子と接触され、次に回収培地と交換される、請求項51に記載のプライミングされたMSC由来のエキソソームの集団。
【請求項53】
肝臓状態を有する対象に、請求項44~52のいずれか一項に記載の治療量のエキソソームの集団を投与することを含む、肝臓状態を処置する方法。
【請求項54】
肝臓状態が非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
NAFLDが、非アルコール性脂肪肝(NAFL)または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
NAFLDがNASHである、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
エキソソームの集団が静脈内経路を介して肝臓に投与される、請求項53~56のいずれか一項に記載の方法。
[請求項56] 静脈内経路が肝門脈を介する、請求項57の請求項に記載の方法。
[請求項57] 請求項44~52のいずれか一項に記載のエキソソームの集団を含む組成物。
【請求項58】
(原文に記載なし)
【請求項59】
肝臓状態の処置に使用するための、請求項44~52のいずれか一項に記載のエキソソーム。
【請求項60】
肝臓状態が非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)である、請求項59に記載のエキソソーム。
【請求項61】
NAFLDが非アルコール性脂肪肝(NAFL)または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である、請求項60に記載のエキソソーム。
【請求項62】
NAFLDがNASHである、請求項61に記載のエキソソーム。
【請求項63】
間葉系幹細胞(MSC)の集団によるエキソソームの分泌を増加させる方法であって、
(a)培地中でMSCの集団を培養することと、
(b)MSCの集団をNrf2活性化因子でプライミングして、プライミングされたMSCの集団を得ることと、
(c)回収培地中でプライミングされたMSCの集団を増殖させ、回収培地がプライミングされたMSCによって産生されたエキソソームで濃縮されるようになることと
を含む、方法。
【請求項64】
MSCの集団が、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで第1の培地中で増殖され、次にNrf2活性化因子と接触される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
MSCの集団が、約12時間~72時間、Nrf2活性化因子と接触している、請求項63または請求項64に記載の方法。
【請求項66】
Nrf2活性化因子が、フマル酸ジメチル(DMF)またはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である、請求項63~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
DMFが約50μM~約100μMの濃度で存在する、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
MSCの集団が、骨髄MSC(BM-MSC)の集団、臍帯由来のMSC(UM-MSC)の集団、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のMSC(iPSC-MSC)の集団、またはホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)の集団である、請求項63~67のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月11日に出願されたインド出願第202141036331号の優先権を主張する。すべての出願は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
線維症、炎症の処置、創傷治癒および組織再生の促進において、間葉系幹細胞(MSC)および細胞由来エキソソームを用いた無細胞療法の有効性を実証するいくつかの説得力のある前臨床研究および臨床研究がある。MSCの治療効果は、エキソソームを含む細胞によって分泌されるパラクリン因子に大いに起因している。
【0003】
エキソソームを分泌するMSCは、例えば、限定されないが、腫瘍などの細胞間通信のメディエーターとして機能し、腫瘍形成、血管新生、転移および細胞内コミュニケーションにおいていくつかの役割を果たす。エキソソームは、細胞間のクロストークのメディエーターとして作用するナノスケールの細胞外小胞(EV)である。MSC由来のエキソソーム(MSC-Exo)は、カーゴタンパク質として、例えば、増殖因子、サイトカイン、脂質部分、ならびに核酸、例えば、miRNA、mRNA、およびトランスファーRNA(tRNA)、ならびにヒトにおけるエキソソームの抗線維化、抗炎症および再生促進治療効果を提供し得る他の非コードRNA(ncRNA)を含有する。MSC-Exoはまた、組織再生および炎症において重要ないくつかのシグナル伝達経路(Akt、ERK、およびSTAT3)を活性化するとともに、多数の増殖因子の発現を誘導することが見出されている。MSC自体は治療剤として用いることができるが、MSCよりMSC-Exoを用いる利点には、免疫原性が低く、拒絶反応のリスクが低く、腫瘍形成性が低いことが含まれる。MSC-Exoはまた、肺の初回通過作用を被る可能性が低く、これは安全とシステム全体のデリバリーの両方の実行に重要である。したがって、MSCに由来するエキソソームは、ある特定の疾患および欠陥の処置において試みられてきた。
【0004】
しかしながら、エキソソームカーゴの補体は、MSCをプライミングし、それらの活性および転写プロファイルに影響する培養中のプライミング剤によって影響される。結果として、プライミングは、良くも悪くも、予期せぬ方法で、与えられたMSC集団によって産生されたエキソソームの治療効果に劇的に影響する場合がある。
【0005】
さらに、MSC-Exoは、MSC-Exoを分泌するMSCから採取される。MSCを大量に拡大することは、MSC-Exoベースの治療の特質のうちの1つである。しかしながら、当該技術分野において利用可能な従来の方法では、商業規模での治療的適用のためのMSCおよびその分泌される産物の産生の十分なスケールアップをすることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、プライミング剤および関連するMSC培養方法を特定して、プライミングされたMSCおよびそれによって産生されるMSC-Exoを産生させ、それによって、高く、改善された治療効果を有するエキソソームの十分な供給を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書には、プライミングされた間葉系幹細胞由来のエキソソームの集団を生成する方法の実施形態が提供され、本方法は、(a)培養中間葉系幹細胞(MSC)の集団を拡大することと、(b)MSCの集団とは異なる細胞集団に由来する細胞由来の馴化培地および少なくとも1つの規定されたプライミング剤でMSCの集団をプライミングして、プライミングされたMSCの集団を得ることと、(c)プライミングされたMSCの集団を培養中で増殖させて、プライミングされたMSC由来の馴化培地を産生することと、(d)プライミングされたMSC馴化培地を回収することとを含む。いくつかの変形形態では、本方法は、プライミングされたMSC馴化培地からエキソソームを精製することを含む。
【0008】
いくつかの変形形態では、MSCの集団のプライミングは、(1)MSCの集団を細胞由来の馴化培地と接触させることと、(2)MSCの集団を少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触させることとを含む。適宜、MSCの集団は、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで細胞由来の馴化培地と接触し、MSCの集団が、約60%~約90%のコンフルエンシーから開始して、少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触される。適宜、MSCの集団は、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで細胞由来の馴化培地と接触し、その後、少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触する。適宜、MSCの集団は、約12時間~約72時間、少なくとも1つの規定されたプライミング剤と接触している。
【0009】
いくつかの変形形態では、異なる細胞集団からの細胞由来の馴化培地は角膜間質幹細胞由来の馴化培地である。
【0010】
いくつかの変形形態では、少なくとも1つの規定されたプライミング剤は、核因子赤血球2関連因子2(Nrf2)活性化因子、サイレンシング情報調節因子1(SIRT1)活性化因子、またはオールトランスレチノイン酸(ATRA)である。適宜、少なくとも1つのプライミング剤は、Nrf2活性化因子である。適宜、Nrf2活性化因子は、フマル酸ジメチル(DMF)またはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である。
【0011】
いくつかの変形形態では、MSCの集団は、骨髄由来のMSC(BM-MSC)の集団、臍帯由来のMSC(UM-MSC)の集団、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のMSC(iPSC-MSC)の集団、またはホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)の集団である。適宜、BM-MSCの集団はヒトBM-MSCの集団である。
【0012】
いくつかの変形形態では、細胞由来の馴化培地は角膜幹細胞由来の馴化培地であり、規定されたプライミング剤はDMFまたはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である。適宜、角膜幹細胞由来の馴化培地は、約10%~約30%の濃度で存在する。適宜、DMFは約50μM~約100μMの濃度で存在する。
【0013】
また、本明細書には、上記方法の実施形態で産生された、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団の実施形態が提供される。
【0014】
また、本明細書には、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、(a)低発現レベルの血管内皮増殖因子(VEGF);および(b)高発現レベルの神経成長因子(NGF)のうちの1つ以上を有することによって特徴付けられる、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団の実施形態が提供される。適宜、プライミングされたMSC由来のエキソソームは、プライミングされていない間葉系幹細胞由来のエキソソームと比較して、(c)高発現レベルの肝増殖因子(HGF);および(d)高発現レベルのsFLT1のうちの1つ以上によって特徴付けられる。適宜、プライミングされたMSC由来のエキソソームは、プライミングされていない間葉系幹細胞由来のエキソソームと比較して、(a)少なくとも2倍高い発現レベルのsFLT1;(b)プライミングされていないMSC由来のエキソソームにおける発現の4分の1またはそれ未満である発現レベルのVEGF;(c)少なくとも2倍高い発現レベルのHGF;および(d)少なくとも3倍高い発現のNGFのうちの1つ、または2つ以上の組み合わせ、3つ以上の組み合わせ、またはすべてによって特徴付けられる。いくつかの変形形態では、プライミングされたMSCは、(1)MSCの集団を角膜幹細胞由来の馴化培地と接触させること;および(2)MSCの集団をNrf2活性化因子と接触させることによって調製される。適宜、Nrf2活性化因子は、DMFまたはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である。適宜、MSCの集団は、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで角膜幹細胞由来の馴化培地と接触し、MSCの集団は、約60%~約90%のコンフルエンシーから開始して、Nrf2活性化因子と接触される。適宜、MSCの集団は、約12時間~約72時間、Nrf2活性化因子と接触している。
【0015】
また、本明細書では、角膜欠損を処置するための方法の実施形態が提供され、本方法は、角膜欠損を有する角膜表面に、本明細書に開示される治療用量のエキソソームの集団を投与することを含む。適宜、角膜欠損は、角膜瘢痕、角膜炎、角膜潰瘍、角膜擦過傷、角膜上皮損傷、角膜間質損傷、感染に基づく角膜損傷、トラコーマ、円錐角膜、角膜穿孔、角膜輪部傷害、角膜ジストロフィー、血管形成、春季角結膜炎およびドライアイからなる群から選択される。いくつかの変形形態では、エキソソームの集団は、角膜表面に適用するために製剤化された眼科組成物に含まれる。適宜、組成物は点眼液である。適宜、点眼液は生体適合性ポリマーを含む。適宜、生体適合性ポリマーは架橋性であり、本方法は、点眼液を角膜表面に投与し、架橋性ポリマーの十分な部分を架橋して、点眼液をヒドロゲルに変換することを含む。
【0016】
また、本明細書には、角膜表面上に適用するために製剤化され、本明細書に開示されるエキソソームの集団を含む眼科組成物の実施形態が提供される。適宜、眼科組成物は点眼液中にある。適宜、点眼液は生体適合性ポリマーを含む。適宜、眼科組成物はヒドロゲルであり、生体適合性ポリマーの少なくとも一部は架橋されている。
【0017】
また、本明細書には、プライミングされた間葉系幹細胞由来のエキソソームの集団を生成する方法の実施形態が提供され、本方法は、(a)培地中で間葉系幹細胞(MSC)の集団を培養することと、(b)MSCの集団をNrf2活性化因子でプライミングして、プライミングされたMSCの集団を得ることと、(c)回収培地中でプライミングされたMSCの集団を増殖させ、回収培地がプライミングされたMSCによって産生されたエキソソームで濃縮されるようになり、それによって、プライミングされたMSC由来の馴化培地を産生することと、(d)プライミングされたMSC馴化培地を回収することとを含む。適宜、本方法は、(e)プライミングされたMSC馴化培地からエキソソームを精製することをさらに含む。適宜、MSCの集団は、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで第1の培地中で増殖され、次にNrf2活性化因子と接触される。適宜、MSCの集団は、約12時間~72時間、Nrf2活性化因子と接触している。適宜、Nrf2活性化因子は、フマル酸ジメチル(DMF)またはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である。適宜、DMFは約50μM~約100μMの濃度で存在する。適宜、MSCの集団は、骨髄MSC(BM-MSC)の集団、臍帯由来のMSC(UM-MSC)の集団、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のMSC(iPSC-MSC)の集団、またはホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)の集団である。
【0018】
また、本明細書には、上記の方法で産生された、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団の実施形態が提供される。
【0019】
また、プライミングされたMSC由来のエキソソームの集団が提供され、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、(a)高発現レベルの肝増殖因子(HGF);および(b)高発現レベルの神経増殖因子(NGF)のうちの1つ以上を有することによって特徴付けられる。適宜、プライミングされたMSC由来のエキソソームは、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、(a)高発現レベルのHGF;および(b)高発現レベルのNGFによって特徴付けられる。適宜、プライミングされたMSC由来のエキソソームは、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、(a)少なくとも1.2倍高い発現レベルのHGF;および(b)少なくとも2倍高い発現レベルのNGFのうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0020】
いくつかの変形形態では、プライミングされたMSCは、(1)第1の培地中でMSCの集団を増殖させること;および(2)MSCの集団をNrf2活性化因子と接触させることによって調製される。適宜、Nrf2活性化因子はDMFまたはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である。適宜、DMFは約50μM~約100μMの濃度で存在する。適宜、MSCは、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで第1の培地中で増殖され、次にNrf2活性化因子と接触される。適宜、MSCの集団は、約12時間~約72時間、Nrf2活性化因子と接触され、次に回収培地と交換される。
【0021】
また、本明細書には、肝臓状態を処置する方法の実施形態が提供され、本方法は、肝臓状態を有する対象に、本明細書に提供される治療量のエキソソームの集団を投与することを含む。適宜、肝臓状態は非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)である。適宜、NAFLDは非アルコール性脂肪肝(NAFL)または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である。適宜、エキソソームの集団は静脈内経路を介して肝臓に投与される。適宜、静脈内経路は肝門脈を介する。
【0022】
また、本明細書には、上記の本明細書に開示されるエキソソームの集団を含む組成物の実施形態が提供される。適宜、組成物は、肝臓状態の処置に使用するためのものである。適宜、肝臓状態は非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)である。適宜、NAFLDは非アルコール性脂肪肝(NAFL)または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である。
【0023】
本明細書には、間葉系幹細胞(MSC)の集団によるエキソソームの分泌を増加させる方法の実施形態が提供され、本方法は、(a)培地中でMSCの集団を培養することと、(b)MSCの集団をNrf2活性化因子でプライミングして、プライミングされたMSCの集団を得ることと、(c)回収培地中でプライミングされたMSCの集団を増殖させ、回収培地がプライミングされたMSCによって産生されたエキソソームで濃縮されるようになることとを含む。適宜、MSCの集団は、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで第1の培地中で増殖され、次にNrf2活性化因子と接触される。適宜、MSCの集団は、約12時間~72時間、Nrf2活性化因子と接触している。適宜、フマル酸ジメチル(DMF)またはイタコン酸4-オクチル(4-OI)である。適宜、DMFは約50μM~約100μMの濃度で存在する。適宜、MSCの集団は、骨髄MSC(BM-MSC)の集団、臍帯由来のMSC(UM-MSC)の集団、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のMSC(iPSC-MSC)の集団、またはホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)の集団である。
【0024】
本主題のこれらのおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲を参照して、よりよく理解される。この概要は、簡略化された形での概念の選択を紹介するために提供されている。この概要は、請求される主題の主要な特徴または本質的特徴を特定することを意図したものではなく、請求される主題の範囲を限定するために使用されることを意図したものでもない。
【0025】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の態様をさらに例示するために含まれる。本開示は、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、図面を参照することによってより良く理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1A~1Eは、角膜間質幹細胞由来の馴化培地(CSSC-CM)でプライミングされたヒト骨髄由来のMSC(hBM-MSC)のセクレトームの定量化の棒グラフを示す。定量化は、hBM-MSCを増殖させた培地またはその画分の酵素連結イムノアッセイ(ELISA)に基づいた。hBM-MSC細胞をCSSC-CMでプライミングし(培地の20%のうちの10%をCSSC-CMで置換した)、本開示の実施形態に従って、プライミングされたhBM-MSC細胞のセクレトームプロファイル、特にHGF(図1A)、VEGF(図1B)、sFLT1(図1C)、IL-6(図1D)、NGF(図1E)の分泌レベルが特徴付けられた。
図2図2A~2Eは、指示されたプライミングされたエキソソームの存在下でリポ多糖(LPS)結合タンパク質で刺激されたRAW264.7マクロファージ細胞上のプライミングされたhBM-MSC由来のエキソソームの抗炎症効果の定量化の棒グラフを示す。サイトカイン発現は、本開示の実施形態に従って、IL-6(図2A)、IL-1β(図2B)、IL-10(図2C)、TNF-α(図2D)、およびIFNγ(図2E)についてELISAによって測定された。
図3図3A~3Eは、指示されたプライミングされたエキソソーム(5億個のエキソソーム)の存在下、LPSで刺激されたRAW264.7マクロファージ細胞からのサイトカイン発現の定量化の棒グラフを示す。サイトカイン発現は、それぞれIL-6(図3A)、IL-1β(図3B)、TNF-α(図3C)、IL-10(図3D)およびIFNγ(図3E)について定量PCT(qPCR)によって測定された。
図4図4A~4Fは、TGF-βにより処置されたヒト皮膚線維芽細胞上の異なるエキソソーム変異体の抗線維化性の特徴付けの代表的な免疫蛍光画像を示す。ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)は、24時間、TGF-β(図4B)および指示されたエキソソーム(図4C~4F)と同時に処置された。細胞を固定し、α-SMA発現を免疫染色により評価した。TGF-βは、TGF-βのみにより処置された細胞においてα-SMA発現を誘導し、これは、本開示の実施形態に従って、CSSCでプライミングされたBM-MSCエキソソーム(図4D~4E)およびCSSC-エキソソーム(図4F)の存在下で、および少量でナイーブhBM-MSC-エキソソーム(図4C)によってブロックされた。
図5図5は、Nrf2活性化因子(DMFまたは4-OI)によって媒介されるBM-MSCのプライミングの効果を示す棒グラフを示し、異なるプライミング条件下でのセクレトームおよびエキソソームプロファイルを特徴付ける。データは3回の技術的複製±SEMを表す。NRF2活性化因子DMFは、本開示の実施形態に従って、エキソソームのより高い収率を示す。
図6図6A~6Fは、異なるプライミング条件下でプライミングされた細胞のセクレトームマーカープロファイリングの定量化の棒グラフを示す。HGF(図6A)、IL-6(図6B)、VEGF(図6C)、sFLT1(図6D)、NGF(図6E)およびSDF-1(図6F)の分泌は、ELISAによってタンパク質レベルで定量化された。HGF(図6A)の発現は、すべてのプライミングされた変異体において高かったが、一方、VEGFおよびsFLT1レベルは変化しなかった(図6C~6D)。クルクミンおよびNrf2活性化因子はIL-6の発現を減弱させたが(図6B)、一方、NGF分泌レベルはNrf2活性化因子4-OIおよびDMFによって増強された(図6E)。クルクミンによる馴化培地+DMFの組み合わせは、本開示の実施形態に従って、いずれの読み取りに対しても顕著な効果をもたないようであった。
図7図7A~7Eは、クルクミン(CUR)およびNrf2活性化因子DMおよび4-OIなどの異なるプライミング剤を用いたプライミング下で、MSCによって分泌されるエキソソームのカーゴ(エキソソームタンパク質など)をプロファイリングする定量化の棒グラフを示す。定量化されたカーゴには、エキソソームHGF(図7A)、エキソソームVEGF(図7B)、エキソソームsFLT1(図7C)、エキソソームNGF(図7D)、エキソソームTGF-β(図7E)、およびエキソソームSDF-1(図7F)が含まれる。エキソソームHGFは、ナイーブMSCと比較して、すべてのプライミングされた変異体において高かった。エキソソームNGFの発現は、Nrf2活性化因子プライミング(特にDMF)によって誘導された。sFLT1、TGF-βおよびSDF-1レベルは変化しなかった。
図8図8A~8Eは、RAW264.7マクロファージ細胞における、プライミングされたhBM-MSC由来エキソソーム(hBM-MSC-Exo)の抗炎症効果の定量化の棒グラフを示す。RAW264.7マクロファージ細胞は、指示されたプライミングされたエキソソーム(4億個のエキソソーム)の存在下、LPSで刺激された。サイトカイン発現は、本開示の実施形態に従って、IL-6(図8A)、IL-1β(図8B)、IL-10(図8C)、TNF-α(図8D)、およびIFNγ(図8E)についてELISAによって測定された。
図9図9A~9Dは、CSSC-CMおよびNrf2活性化因子で組み合わせてプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームのエキソソームカーゴタンパク質の定量化の棒グラフを示す。定量化は、本開示の実施形態に従って産生された精製されたエキソソームに適用されたELISAに基づいた。エキソソームHGF(図9A)、エキソソームVEGF(図9B)、エキソソームsFLT1(図9C)、およびエキソソームNGF(図9D)をELISAによってタンパク質レベルで定量化した。
図10図10A~10Eは、Nrf2活性化因子(DMF)を用いてCSSC-CMでプライミングされた異なるエキソソーム変異体の抗炎症活性の特徴付けの定量化の棒グラフを示す。RAW264.7マクロファージ細胞は、指示されたプライミングされたエキソソーム(約5億個のエキソソーム)の存在下、LPSで刺激された。サイトカイン発現は、本開示の実施形態に従って、それぞれIL-6(図10A)、IL-1β(図10B)、TNF-α(図10C)、IL-10(図10D)およびIFNγ(図10E)についてELISAによって測定された。
図11図11A~11Fは、TGF-βにより処置されたヒト皮膚線維芽細胞上の、CSSC-CMおよび/またはNrf2活性化因子(DMF)でプライミングされたBM-MSC由来の異なるエキソソーム変異体の抗線維化活性の特徴付けの代表的な免疫蛍光画像を示す。ヒト皮膚線維芽細胞は、24時間、TGF-βおよび指示されたエキソソーム変異体により処置され、α-SMA発現についてプローブされた。TGF-βは、TGF-βのみで処置された細胞においてα-SMAを誘導したが(図11B)、一方、エキソソームは、上に示されたように、異なる程度までa-SMAの誘導を阻害した。
図12図12は、複数の時点にわたって観察された、CSSC-CMおよび/またはNrf2活性化因子(DMF)でプライミングされた、異なるエキソソーム変異体、hBM-MSCの創傷治癒活性の特徴付けの代表的な画像を示す。上皮細胞の単層上の創傷閉鎖(2Dスクラッチアッセイ)の時間経過を示す代表的な画像は、0時間、24時間、48時間、および72時間の複数時点にわたって観察された。本開示の実施形態に従って、BM-MSC;CSSC-CM(20%);Nrf2活性化因子:DMF。
図13図13は、ナイーブエキソソーム、CSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム、Nrf2活性化因子、またはそれらの組み合わせを含む異なるエキソソーム変異体により処置された細胞のコンフルエンスを追跡する細胞遊走/細胞増殖アッセイのグラフを示す。
図14図14は、未処置対照、液体角膜生体ポリマー、ならびに液体角膜生体ポリマーとCSSC-CMおよびNrf2活性化因子、DMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームとの組み合わせを含む開いた上皮創傷を有するウサギ角膜を用いた創傷治癒アッセイの代表的な画像を示す。
図15図15Aは、健常な肝スフェロイド、NASH誘導性肝スフェロイド、またはエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドにおいてCYP34Aについて染色された代表的な免疫蛍光画像を示す。 図15Bは、NASH誘導性肝スフェロイドおよびエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドを含むヒト肝スフェロイド中の分泌されたアルブミンレベルの24時間、48時間、および72時間後の定量化の棒グラフを示す。 図15Cは、NASH誘導性肝スフェロイドおよびエキソソームで処置された肝スフェロイドにおいて、線維症マーカーであるコラーゲンについて染色された代表的な免疫蛍光画像を示す。 図15Dは、NASH誘導性肝スフェロイドおよびエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドを含むヒト肝スフェロイドにおけるコラーゲン沈着の被覆率の定量化の棒グラフを示す。 図15Eは、健常な肝スフェロイド、NASH誘導性肝スフェロイド、およびエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドにおいて、線維症マーカーであるα-SMAについて染色された代表的な免疫蛍光画像を示す。 図15Fは、NASH誘導性肝スフェロイドまたはエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドを含むヒト肝スフェロイドにおけるα-SMAの強度の定量化の棒グラフを示す。
図16図16Aは、BM-MSCに由来するプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドの包括的遺伝子発現プロファイルの遺伝子発現ヒートマップを示す。 図16Bは、プライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドの差次的に発現された遺伝子を比較する主成分分析プロットを示す。
図17図17Aは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドのプロファイルの肝臓特異的遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。 図17Bは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドのプロファイルの非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)/線維症関連遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。 図17Cは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドのプロファイルの星細胞特異的遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。 図17Dは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドのプロファイルの生体異物代謝プロセスに関連する遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。 図17Eは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドのプロファイルの脂肪酸代謝遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。 図17Fは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドのプロファイルのエポキシゲナーゼp450経路に関連する遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。 図17Gは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドのプロファイルの脂肪線維関連遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。
図18図18Aは、NASH/線維症関連遺伝子、包括的遺伝子、および肝スフェロイド中の肝臓特異的遺伝子についてのJaccard類似性指数に基づくプロットを示す。 図18Bは、肝スフェロイドにおける神経形成、血管形成、および炎症応答遺伝子に関連する遺伝子についてのJaccard類似性指数に基づくプロットを示す。 図18Cは、肝スフェロイドにおける細胞外マトリックス、創傷治癒、および組織リモデリングに関連する遺伝子についてのJaccard類似性指数に基づくプロットを示す。
図19図19は、未処置、NASH誘導性、またはプライミングされたエキソソーム処置されたNASH誘導性肝スフェロイドにおける濃縮された生物学的プロセスに関連する遺伝子の遺伝子発現ヒートマップを示す。
図20図20は、本開示の実施形態に従ってプライミングされたエキソソームを生成するための方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
当業者は、本開示が、具体的に記載されたもの以外の変形および改変に供されることを認識する。本開示は、すべてのこのような変形および改変を含むことが理解されるべきである。本開示はまた、本明細書において言及または指示されているすべてのこのような工程、特徴、組成物、および化合物を個別にまたは集合的に、およびこのような工程もしくは特徴のいずれかまたは複数の任意またはすべての組み合わせを含む。
【0028】
定義
便宜上、本開示のさらなる記載の前に、本明細書において採用されるある特定用語および例をここに概説する。これらの定義は、本開示の残りの部分に照らして読まれ、当業者によって理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、当業者に認識され、公知である意味を有するが、便宜上、完全性のために、特定の用語およびそれらの意味を以下に記載する。
【0029】
冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、物品の文法的対象物の1つまたは1を超える(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。
【0030】
用語「含む」および「含んでいる」は、包括的、開放的な意味で使用され、追加のエレメントが含まれ得ることを意味する。これは「だけからなる」と解釈されることを意図していない。
【0031】
本明細書全体を通して、文脈上別異の解釈が必要とされない限り、用語「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」などの変形は、記述されたエレメントもしくは工程、またはエレメントもしくは工程のグループを包含することを意味するが、任意の他のエレメントもしくは工程またはエレメントもしくは工程のグループを排除することを意味しない。
【0032】
用語「含んでいる」は、「含むがこれに限定されない」を意味するために使用される。「含んでいる」および「含むがこれに限定されない」は互換的に使用される。
【0033】
本書面の目的のために、用語「拡大されたプライミングされた間葉系幹細胞の集団」とは、培養のために最初に得られた間葉系幹細胞の集団と比較して、増加した細胞数を有する間葉系幹細胞の集団を指す。培養プロセスは細胞を分化させず、単に細胞マニホールドの数を増加させるだけである。さらに、プライミングとは、小分子プライミング剤の使用を指す。
【0034】
用語「三次元培養」または「3D培養」とは、生体細胞が、すべての三次元において、増殖し、それらの周囲と相互作用することを可能にするインビトロで細胞を培養するシステムを指す。
【0035】
用語「二次元培養」または「2D培養」とは、生体細胞がそれらの周囲と二次元的に相互作用することができる表面上の単層として細胞を培養する方法を指す。
【0036】
用語「スフェロイドベースのシステム」とは、本開示に記載される方法によるスフェロイドの形成により、三次元的に間葉系幹細胞(MSC)を培養するプロセスを指す。
【0037】
用語「マイクロキャリアベースのシステム」とは、本開示に記載される方法に従ってアルギン酸-ゼラチン(Alg/Gel)マイクロキャリアまたはマイクロビーズの形成によって、三次元的に間葉系幹細胞(MSC)を培養するプロセスを指す。
【0038】
用語「マイクロキャリア」および「マイクロビーズ」は互換的に使用され、本開示に記載されるアルギン酸-ゼラチン(Alg/Gel)マイクロキャリアまたはマイクロビーズを指す。
【0039】
用語「間葉系幹細胞由来の馴化培地」または「MSC-CM」とは、MSCの増殖後に得られる培地を指す。このようにして得られた馴化培地は、分泌される細胞モジュレーターおよび組織再生に重要な複数の因子を含む。このようにして得られた馴化培地はまた、セクレトーム、および治療目的に適用し得る前に馴化培地から精製する必要のあるエキソソームを含む。本明細書に記載されるように、拡大されたMSCを得るためのプロセスはまた、MSC-CMの形成をもたらし、したがって、単一のプロセスが、拡大されたプライミングされたMSCの集団ならびにMSC-CMの調達をもたらすと言える。
【0040】
用語「エキソソーム」とは、タンパク質、DNA、およびRNA(mRNAおよびmiRNAなどの種々のタイプを含む)などのカーゴ生体分子として、一般にそれらを分泌する生体細胞から含有する、ナノスケール範囲(例えば、20~200nm範囲)の細胞により分泌される細胞外小胞を指す。生体分子のいくつかは、抗炎症性、抗線維化性および再生性を有することができ、臨床的に興味深いものであり得る。
【0041】
用語「マイクロ分子」または「小分子」は合成または天然に存在する、細胞挙動の化学修飾剤として定義され、治療特性を誘導する。小分子は、800Da未満の分子量を有する。
【0042】
用語「巨大分子」は、800Daを超える分子量を有する生物学的因子である。本開示において、巨大分子は、タンパク質、脂質、核酸、増殖因子、サイトカイン、および馴化培地の成分を含む。
【0043】
本書面の目的のために、用語「角膜輪部幹細胞」とは、角膜輪部幹細胞ニッチに常在する幹細胞の集団を指す。角膜輪部幹細胞とは、主に角膜間質幹細胞(CSSC)および輪部上皮幹細胞(LESC)によって表される幹細胞の集団を指す。
【0044】
用語「角膜間質幹細胞由来の馴化培地」または「CSSC-CM」とは、角膜間質幹細胞(CSSC)を増殖させる培地を指す。本明細書に記載されるCSSC-CMは、当該技術分野において公知である方法でCSSCを培養することによるか、または本明細書に開示される方法に従ってCSSCを培養することにより得られる。
【0045】
本開示に記載される用語「ゼノフリー」とは、ヒト以外の動物に由来するいずれの生成物も含まない培地を指す。ゼノフリーである本方法は、その臨床応用の妥当性のために重要な利点である。
【0046】
用語「対象」とは、治療剤、例えばエキソソームを含む組成物とともに投与され得る動物対象を指す。動物対象は、哺乳動物対象であり得る。哺乳動物対象は、本開示において言及される状態を被っているか、またはその状態と診断されたものであり得る。哺乳動物対象はヒト対象であり得る。
【0047】
用語「治療有効量」は、対象の状態を処置するために必要とされる組成物の量を指す。
【0048】
本明細書中の用語「ナイーブ細胞」とは、いかなる馴化培地でもプライミングされていない、プライミングされていない間葉系幹細胞を指す。したがって、プライミングされていないおよびナイーブという用語は、本開示において互換的に使用される。
【0049】
異なるインビトロ細胞培養法によるMSCの大きな変動性にもかかわらず、臨床試験におけるMSC療法の成功を制限している従来の方法に関連する様々な制限がある。免疫媒介性、炎症性、および変性疾患の過酷な微小環境に対するMSCの高い感受性は、依然としてMSCベースの治療の成功に大きな障害である。不快な組織環境は移植されたMSCの機能および生存を制限し得る。さらに、MSCの均質な集団の使用は、治療的適用におけるそれらの使用を制限した。また、インビトロ(in vitro)での過剰拡大による細胞老化、凍結保存後の機能喪失、ならびに前臨床および臨床試験間のインビボでの治療効果の不一致など、多くの他の制限がMSCベースの治療を危うくしている。
【0050】
当該技術分野において直面する課題に対処するために、本開示の一態様は、間葉系幹細胞(MSC)の生成およびMSCから精製されるエキソソームの産生のための方法を提供する。いくつかの変形形態では、本開示で提供される方法は、マーカーのシグネチャーセットを発現する種々の供給源から間葉系幹細胞の亜集団を単離することを含む。いくつかの変形形態では、間葉系幹細胞の亜集団は、前記MSCに由来する細胞および治療用エキソソームのスケーラブルであり、均一な産生を促進するために、操作されたMSC(eMSC)の倍加可能性を延長することができるhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を用いてさらに修飾され得る。
【0051】
本開示の方法の別の態様は、他の幹細胞集団に由来する小分子および巨大分子、ならびに/または馴化培地などの1種以上のプライミング剤でMSCをプライミングすることである。本開示の方法に由来する細胞およびエキソソームは、臨床応用のために、そのようにまたは互いに組み合わせて使用することができる。いくつかの変形形態では、ナイーブMSCの集団からの馴化培地を用いて、異なる組織源からのナイーブMSCの異なる集団をプライミングすることができる。いくつかの変形形態では、2種以上のプライミング剤の使用、すなわち、コンビナトリアルプライミング戦略は、MSC、および/またはMSCによって分泌されるエキソソームの再生、抗炎症、および抗線維化性のうちの1つ以上を増強し得る。提示の便宜のために、ナイーブMSCによって分泌されたエキソソームは、本明細書において「ナイーブエキソソーム」と呼ぶことができ、例えば、1種以上のプライミング剤および/または他の細胞からの馴化培地でプライミングされたMSCによって分泌されたエキソソームは、本明細書において「プライミングされたエキソソーム」または「プライミングされたエキソソーム変異体」と呼ばれ得る。ナイーブ/プライミングされたMSCに加えてナイーブまたはプライミングされたエキソソームは、治療的適用のためにそのようにまたはそれらの組み合わせで、および複数の満たされていない臨床的ニーズに対処するために、異なる細胞ベースの治療法で使用することができる。
【0052】
本開示は、臍帯血由来の間葉系幹細胞(UC-MSC)/ホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)/骨髄由来のMSC(BM-MSC)のインビトロ培養、ならびにその後の抗線維化、抗炎症/免疫調節および血管新生促進活性のうちの1つ以上に関連する濃縮された因子を有する固有の亜集団の選択を指す。前記方法を行うために、エキソソームは、定義されたMSC集団から単離され得、包括的に特徴付けられ得る。本開示は、細胞の再生、幹性および抗炎症性を増強するために、限定されないが、Nrf2活性化因子、SRT1活性化因子、ATRA、馴化培地を単独でまたはそれらを組み合わせて含む、異なるプライミング剤(いくつかの例では、臨床的に承認されたプライミング剤)を用いて、UC-MSC、WJ-MSC、およびBM-MSCなどの種々のMSC集団をプライミングするプロトコールおよび/方法論を記載する。単一プライミングまたはコンビナトリアルプライミングを用いて、特異的な/濃縮されたカーゴ装填因子を用いて異なるエキソソーム変異体を生成することができる。いくつかの変形形態では、エキソソーム変異体は、それらの機能的有効性について物理的および分子レベルの両方で特徴付けられ得る。いくつかの変形形態では、エキソソーム変異体は、肺機能不全、急性呼吸窮迫、炎症関連障害、例えば、限定されないが、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、変形性関節症、NASH、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、心筋梗塞などの異なる炎症性および線維症関連疾患に対するそれらの機能に基づいて分類され得る。
【0053】
いくつかの変形形態では、プライミング剤は、以下のうちの1つであり得る:(a)Nrf2活性化因子によるプライミング:理論に束縛されることなく、いくつかの変形形態では、Nrf2活性化因子によるプライミングは、プライミングされたMSCおよびMSCによって分泌されるエキソソームの抗炎症性を増強する。プライミングされたMSCによって分泌されたエキソソーム(「プライミングされたエキソソーム」)は、炎症関連障害の処置に有利なカーゴで濃縮され得る。炎症関連障害の例としては、リウマチ性関節炎、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝障害(NAFLD)(非アルコール性脂肪肝(NAFL)または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であり得る)、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、および心筋梗塞が挙げられる;(b)SIRT1活性化因子を用いたプライミング;(c)Nrf2活性化因子+SIRT1活性化因子を用いたコンビナトリアルプライミング:理論に束縛されることなく、いくつかの変形形態では、再生治療効果は、Nrf2活性化因子と同様に、SRT1活性化因子でMSCをプライミングすることによって増強される。濃縮された治療グレードのエキソソームは、血管組織再生に適用することができる。いくつかの変形形態では、SRT1活性化因子およびNrf2活性化因子とのコンビナトリアルプライミングは、抗炎症、抗線維化、および血管新生促進作用のうちの1つ以上を有する増強された治療カーゴ装填因子を用いてエキソソームを産生するようにMSCを誘導し得る;(d)Nrf2活性化因子+CSSC由来の馴化培地(CCSC-CM)とのコンビナトリアルプライミング:いくつかの変形形態では、理論に束縛されることなく、CSSC-CMとのDMFなどのNrf2活性化因子とのコンビナトリアルプライミングは、抗炎症因子で濃縮されるが、血管新生因子において減少させるエキソソームを産生するためのMSCを誘導する。したがって、Nrf2活性化因子およびCSSC-CMで組み合わせてプライミングされたMSC由来のプライミングされたエキソソームは、角膜などの無血管組織の再生に使用することができる;(e)NRF2活性化因子+SIRT1活性化因子+全トランスレチノイン酸+CSSC-CM。さらに、プライミングプロセスにおける物理的(低酸素状態の微小環境を作り出す)または化学的(HIF-1α)誘導因子を介した低酸素症の誘導は、プライミングされたMSCの生存性および幹性を増加させる。本開示はまた、低酸素状態の存在下および非存在下で、特定のBM-MSC/UC-MSC/WJ-MSC中のSRT1活性化因子およびNrf2活性化因子とのコンビナトリアルプライミングのプロトコールを開示し、肺、肝臓、および血管組織のバイオエンジニアリングおよび3Dバイオプリンティングにおける再生療法の処置のために、より有意な治療的に濃縮されたエキソソームを生成する。本開示の目的は、同数の生成物生成実行および下流の処理を維持しながら、細胞収率を有意に向上させ、より大きな患者コホートに対処することである。
【0054】
いくつかの変形形態では、MSC集団は、細胞および治療用エキソソームのスケーラブルであり、均一な産生を促進するために、操作されたMSC(eMSC)の倍加可能性を延長するhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を用いて修飾され得る。MSC、eMSC、または誘導多能性幹細胞(iPSC)における特異的経路を調節すること、および/または種々のコンビナトリアルプライミングプロトコールを適用することは、下流用途にカスタマイズされるエキソソームを生成するために使用され得る。
【0055】
本開示は、供給材料として、ヒト骨髄、脂肪組織、臍帯、制限されていない体性幹細胞、ホウォートンゼリー、歯髄由来のMSC、iPSC、操作された細胞、角膜輪部幹細胞を含む種々の供給源に由来するMSCを提供する。MSCは、マーカーのシグネチャーセットを発現し、所定の条件または条件セットに対して治療的に有効であるエキソソームを産生する固有の亜集団または変異体を生成するように増殖され得、プライミングされてもよい。
【0056】
本開示の一態様は、骨髄、脂肪、臍帯などの種々の組織源に由来するMSCを、無血管または血管組織の再生のための、抗炎症、抗線維症、創傷前治癒、血管新生(促進/抗)、および再神経支配因子のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせを含む、カーゴとして濃縮された因子を有する治療用エキソソームの産生のためのある特定の経路を活性化するための誘導因子の特定の組み合わせでプライミングすることにある。
【0057】
別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示に属する当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料を、本開示の実施または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料をここに記載する。本明細書に言及されるすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
本開示は、例示の目的のみを意図した、本明細書に記載される特定の実施形態によって、範囲において限定されるものではない。機能的に同等な生成物、組成物、および方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本開示の範囲内である。
【0059】
プライミングされた間葉系幹細胞由来のエキソソームを生成させるための方法
本開示の一部の実施形態では、プライミングされた間葉系幹細胞由来のエキソソームの集団を生成する方法100が提供される。図20は、方法100の実施形態のフローチャートを示す。本方法は、以下の工程を含み得る:工程101-培養中の間葉系幹細胞(MSC)の集団を拡大する工程;工程103-培養中に1種以上のプライミング剤を投与して、MSCの集団をプライミングし、プライミングされたMSCの集団を得る工程;工程105-培養中でプライミングされたMSCの集団を増殖させて、プライミングされたMSC由来の馴化培地を産生する工程;および工程107-プライミングされたMSC馴化培地を回収する工程。いくつかの変形形態では、本方法は、さらに、工程109-プライミングされたMSC-馴化培地からエキソソームの集団を精製する工程を含む。
【0060】
MSC集団のタイプ
いくつかの変形形態では、MSCの集団は、骨髄由来の間葉系幹細胞、脂肪由来の間葉系幹細胞、臍帯由来の間葉系幹細胞、ホウォートンゼリー由来の間葉系幹細胞、歯髄由来の間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞、角膜輪部幹細胞、および角膜間質幹細胞からなる群から選択され得る。いくつかの変形形態では、MSCは、初代細胞、または操作された細胞であり得る。いくつかの変形形態では、MSCは、一次供給源に新鮮に由来され得るかまたは凍結保存され、次に解凍され得る。
【0061】
いくつかの変形形態では、MSCは、CD34、α-SMA、CD46、CD47、CD73、CD90、CD105+/-、CD54、CD58、CD106、CD142+/-、CD146、CD166、CD200、CD273、CD274、CD276、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される幹細胞マーカーを発現する幹細胞の亜集団であり得る。いくつかの変形形態では、幹細胞の亜集団は、以下の通りに単離することができる:(a)幹細胞の亜集団から間葉系幹細胞の第1の亜集団を選択し、間葉系幹細胞の第1の亜集団は、CD34、α-SMA、CD73、CD90、およびCD166からなる群から選択される陽性マーカーを発現し、(b)幹細胞の亜集団から間葉系幹細胞の第2の亜集団を選択し、間葉系幹細胞の第2の亜集団は、CD146、CD54、CD58、およびCD142+/-からなる群から選択されるマーカーを発現する。
【0062】
いくつかの変形形態では、MSCは、非ウイルス性ヒトテロメラーゼ酵素逆転写酵素(hTERT)を含み得る。
【0063】
培地
いくつかの変形形態では、MSCは、ゼノフリー培地中で拡大させることができる。いくつかの変形形態では、MSCは、低酸素状態の条件下で増殖され得、0.2~10%の範囲で培地中の酸素を有してもよい。いくつかの変形形態では、MSCは、拡大された幹細胞を得るために、最小必須培地および5~20IU/μlの範囲の少なくとも1つのタイプのコラゲナーゼ酵素と培養することができ、少なくとも1つのタイプのコラゲナーゼ酵素は、コラゲナーゼ-Iとコラゲナーゼ-IIの組み合わせである。
【0064】
プライミング剤
一部の実施形態では、プライミング剤をMSCに適用して、細胞の活性または遺伝子発現パターンを変化させ得る。プライミング剤によってMSCに誘導される変化は、影響を受けたMSCによって産生され、分泌されるエキソソームの、ある特定の生体分子の存在またはカーゴ中のある特定の生体分子の相対的発現などの、1つ以上の特徴の変化をもたらし得るかまたはその変化を誘導し得る。プライミング剤は、大分子または小分子などの定義された物質であり得る。大分子は、タンパク質、DNA、またはRNA(mRNA、miRNA、またはsiRNAなど)などの生体分子である。タンパク質は、小分子であり得る。いくつかの変形形態では、プライミング剤は、Nrf2活性化因子、SIRT1(サイレンシング情報調節因子1)活性化因子、全トランスレチノイン酸(ATRA)、ML228、MDL800、イソケルセチン、フコイダン、ルテオリン、ケルセチン、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボシド(AICAR)、5-フェニルアルコキシプソラレン(Psora-4)、チエノピリドン(A-769662)、メトホルミン、ラパマイシン、5-アザシチジン(5-Aza)、UM171、SB203580、フィセチン、アトルバスタチン、バルプロ酸、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、アスタキサンチン(ATX)、コハク酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される群からの小分子であり得る。
【0065】
いくつかの変形形態では、Nrf2活性化因子は、適宜10~250μMの範囲の濃度を有するフマル酸ジメチル(DMF)、適宜10~500μMの範囲の濃度を有するイタコン酸4-オクチル(4-OI)、および適宜0.1~10μMの範囲の濃度を有する2-シアノ-3,12-ジオキソレアナ-1,9(11)-ジエン-28-オイ酸のイミダゾール誘導体(CDDO-Im)、適宜1~20μMの範囲の濃度を有するクルクミン、および適宜0.1~100μMの範囲の濃度を有するベルベリンからなる群から選択され得る。
【0066】
いくつかの変形形態では、SIRT1活性化因子は、適宜0.01nM~10nMの範囲の濃度を有するSRT-2104、適宜0.1μM~10μMの範囲の濃度を有するトランス-レスベラトロール、適宜10~200μMの範囲の濃度を有するトランス-レスベラトロール、0.1~10μMの範囲の濃度を有するSRT-1720、適宜50~200μMの範囲の濃度を有するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、適宜0.08~2.25μMの範囲の濃度を有するニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、または1~10000μM、1~100μM、100~10000μM、10~100μM、または100~1000μMの範囲の濃度を有するニコチンアミドリボシド(NR)からなる群から選択され得る。
【0067】
いくつかの変形形態では、少なくとも1つの定義されたプライミング剤は、適宜0.1~500μMの範囲の濃度を有する全トランスレチノイン酸(ATRA)、適宜1~10μMの範囲の濃度を有するML228、適宜5~500μMの範囲の濃度を有するMDL800、適宜0.01~5000μMの範囲の濃度を有するイソケルセチン、適宜0.00001~0.001μMの範囲の濃度を有するフコイダン、適宜10~100μMの範囲の濃度を有するルテオリン、適宜0.1~10μMの範囲の濃度を有するケルセチン、適宜1000~10000μMの範囲の濃度を有する5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボシド(AICAR)、適宜0.01~200μMの範囲の濃度を有する5-フェニルアルコキシプソラレン(Psora-4)、適宜10~200μMの範囲の濃度を有するチエノピリドン(A-769662)、適宜1~10000μMの範囲の濃度を有するメトホルミン、適宜0.001~0.1μMの範囲の濃度を有するラパマイシン、適宜0.1~1μMの範囲の濃度を有する5-アザシチジン(5-Aza)、適宜0.01~0.1μMの範囲の濃度を有するUM171、適宜1~10μMの範囲の濃度を有するSB203580、適宜1~50μMの範囲の濃度を有するフィセチン、適宜0.1~20μMの範囲の濃度を有するアトルバスタチン、適宜500~5000μMの範囲の濃度を有するバルプロ酸、適宜0.01~0.1μMの範囲の濃度を有するスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、適宜0.01~100μMの範囲の濃度を有するアスタキサンチン(ATX)、適宜10~500μMの範囲の濃度を有するコハク酸塩、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0068】
いくつかの変形形態では、少なくとも1つのプライミング剤は、少なくとも1つのプライミング剤でプライミングされたMSCの集団とは異なる、細胞の集団、適宜幹細胞の集団に由来する馴化培地を含み得る。いくつかの変形形態では、馴化培地は、角膜間質幹細胞由来の馴化培地および輪部上皮幹細胞由来の馴化培地からなる群から選択される。いくつかの変形形態では、プライミング剤として役立つように培地中に添加された馴化培地の容量パーセンテージ(濃度)は、MSCが増殖している培地に関して、5~50%、10~50%、15~40%、約10%、約15%、約20%、約25%、または約30%の範囲である。
【0069】
いくつかの変形形態では、MSCの少なくとも1つのプライミング剤への曝露のための時間は、12~72時間、24~72時間、もしくは24~48時間の範囲、または約24時間もしくは約48時間であり得る。いくつかの変形形態では、MSCの少なくとも1つのプライミング剤への曝露のための時間は、播種から約60%~約90%のコンフルエンシー、約70%~90%のコンフルエンシー、約70%~80%のコンフルエンシー、約60%のコンフルエンシー、約70%のコンフルエンシー、または約80%のコンフルエンシーまでであり得る。
【0070】
コンビナトリアルプライミング
いくつかの変形形態では、MSCは、2種以上のプライミング剤に同時に、または部分的に重複させるかもしくは全く重複させないで連続的に曝露され得る。いくつかの変形形態では、各々または両方のプライミング剤についてプライミングのための時間は、12~72時間の範囲であり得る。いくつかの変形形態では、MSCは、播種から約60%~約90%のコンフルエンシー、約70%~90%のコンフルエンシー、約60%のコンフルエンシー、約70%のコンフルエンシー、または約80%のコンフルエンシーまで第1の培地中に含まれる第1のプライミング剤に曝露され得、次に、第2のプライミング剤を含む第2の培地と交換され、適宜12~72時間、24~72時間、または24~48時間の範囲で第2のプライミング剤に曝露され得る。
【0071】
いくつかの変形形態では、MSCの集団は、少なくとも1つのNrf2活性化因子および少なくとも1つのSIRT1活性化因子でプライミングされ得る。いくつかの変形形態では、MSCは、少なくとも1つのNrf2活性化因子、およびCSSC-CMでプライミングされ得る。いくつかの変形形態では、MSCは、少なくとも1つのNrf2活性化因子、少なくとも1つのSIRT1活性化因子、およびATRAでプライミングされ得る。
【0072】
いくつかの変形形態では、MSCの集団は、少なくとも1つのNrf2活性化因子および少なくとも1つのSIRT1活性化因子の組み合わせでプライミングされ得る。Nrf2活性化因子は、適宜10~250μMの範囲の濃度を有するフマル酸ジメチル(DMF)、適宜10~500μMの範囲の濃度を有するイタコン酸4-オクチル(4-OI)、または適宜0.1~10μMの範囲の濃度を有する2-シアノ-3,12-ジオキソオレアナ-1,9(11)-ジエン-28-オイ酸のイミダゾール誘導体(CDDO-Im)からなる群から選択され得る。少なくとも1つのSIRT1活性化因子は、適宜0.01~10nMの範囲の濃度を有するSRT-2104、適宜0.1~10μMの範囲の濃度を有するトランス-レスベラトロール、または適宜0.1~10μMの範囲の濃度を有するSRT-1720からなる群から選択され得る。いくつかの変形形態では、Nrf2活性化因子およびSIRT1活性化因子は、MSCに、同時に、または部分的に重複させるかもしくは全く重複させないで連続的に投与され得、各々または両方の定義されるプライミング剤についてのプライミングのための時間は、12~72時間の範囲内である。
【0073】
いくつかの変形形態では、MSCの集団は、少なくとも1つのNrf2活性化因子およびCSSC-CMの組み合わせでプライミングされ得る。理論に束縛されることなく、Nrf2活性化因子およびCSSC-CMでプライミングされたMSCによって分泌されるエキソソームは、有利には、比較可能なナイーブMSCの集団からのエキソソームと比較して、比較的減少した血管新生因子を有する一方で、抗炎症因子を比較的に濃縮することができる。このように、Nrf2活性化因子およびCSSC-CMで組み合わせてプライミングされたMSCからのエキソソームは、角膜などの非血管組織における再生を処置または誘導するのに有用であり得る。Nrf2活性化因子は、10~250μMの範囲の濃度を有するフマル酸ジメチル(DMF)、10~500μMの範囲の濃度を有するイタコン酸4-オクチル(4-OI)、または0.1~10μMの範囲の濃度を有する2-シアノ-3,12-ジオキソオレアナ-1,9(11)-ジエン-28-オイ酸のイミダゾール誘導体(CDDO-Im)からなる群から選択され得る。いくつかの変形形態では、プライミング剤として役立つように培地中に添加されるCSCC-CMの容量パーセンテージは、MSCが増殖している培地に関して、5~50%、10~50%、15~40%の範囲、約10%、約15%、約20%、約25%、または約30%であり得る。いくつかの変形形態では、MSCのプライミングは、適宜0.2~10%の範囲の酸素を有する低酸素状態の条件下で行うことができる。いくつかの変形形態では、MSCの集団は、播種から約60%~約90%のコンフルエンシーまで約20%の濃度でCSSC-CMを含む第1の培地中で増殖させ、次に、約50μMおよび約100μMの濃度でDMFを含む第2の培地と交換し、24~28時間の範囲の時間、第2の培地中で増殖させることができる。
【0074】
培養方法
いくつかの変形形態では、MSCは、中空糸ベースの方法、マイクロキャリアベースの方法およびスフェロイドベースの方法からなる群から選択される方法において、3Dバイオリアクターシステム中で培養され得る。
【0075】
いくつかの変形形態では、中空糸ベースの方法は、(i)中空糸バイオリアクターシステムを提供または得る工程;(ii)工程(a)で得られた幹細胞をゼノフリー培地中で培養して細胞の懸濁液を得る工程;(iii)細胞の懸濁液を中空糸バイオリアクターシステムのカートリッジ中に注入する工程;(iv)幹細胞の懸濁液を21~35日間の範囲の期間インキュベートして拡大された幹細胞の集団を得る工程;(v)プロテアーゼ、適宜トリプシンEDTAを、拡大された幹細胞の集団を含む中空糸バイオリアクターシステムの余分な毛細管空間に添加して拡大された幹細胞を得る工程;および(vi)拡大された幹細胞を緩衝液により処置して拡大された幹細胞を得る工程を含み得る。
【0076】
いくつかの変形形態では、マイクロキャリアベースの方法は、(i)培地中にマイクロキャリアを懸濁させて懸濁液を得る工程;(ii)工程(a)で得られたように、懸濁液を幹細胞とともに播種する工程;(iii)工程(ii)の幹細胞を培地中で培養してマイクロキャリアに付着した拡大された幹細胞集団を得る工程;ならびに(iv)工程(iii)のマイクロキャリアを塩化ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムを含む溶解緩衝液と接触させてマイクロキャリアを溶解して拡大された幹細胞を得る工程を含み得る。
【0077】
いくつかの変形形態では、スフェロイドベースの方法は、(i)工程(a)で得られた幹細胞をペレット化して幹細胞ペレットを得る工程;(ii)基底培地を含む培地に幹細胞ペレットを再懸濁して幹細胞懸濁液を得る工程;(iii)工程(ii)で得られた幹細胞懸濁液から幹細胞スフェロイドを提供または得る工程であって、幹細胞スフェロイドが、スフェロイドあたり600~10,000細胞の範囲での幹細胞の密度を有している工程;および(iv)工程(iii)の幹細胞スフェロイドを、MSC基底培地を含む培地中で培養して拡大された幹細胞を得る工程を含み得る。
【0078】
エキソソーム精製法
プライミングされたMSC由来の馴化培地に含まれるエキソソームは、エキソソーム精製プロセスで精製することができる。
【0079】
いくつかの変形形態では、エキソソーム精製プロセスは、(i)90,000~120,000×gの範囲の速度、70~110分間の範囲の時間で2~6℃の範囲の温度にてプライミングされた馴化培地を遠心分離して、ペレットを得る工程;(ii)ペレットを低血清ゼノフリー培地に溶解して、粗エキソソームを得る工程;および(iii)粗エキソソームで密度勾配超遠心分離を行い、エキソソームの画分を得る工程;ならびに(c)サイズ排除クロマトグラフィーによりエキソソームの画分を精製し、濃縮されたエキソソームを得る工程を含み得る。
【0080】
いくつかの変形形態では、エキソソーム精製プロセスは、(i)プライミングされた馴化培地または馴化培地を、200~400×gの範囲の速度で5~20分間の範囲の時間、第1の遠心分離に供し、続いて、2000~4000×gの範囲の速度で10~40分間の範囲の時間、第2の遠心分離に供して、上清を得る工程;(ii)上清を200~400×gの範囲の速度で5~20分間の範囲の時間、遠心分離し、続いて上清を濾過してセクレトームを得る工程;(c)セクレトームを遠心分離して、ペレットを得る工程;(d)ペレットを低血清ゼノフリー培地に溶解して粗溶液を得る工程;(e)密度勾配超遠心分離を粗溶液で行い、エキソソームを含む画分を得る工程;および(f)サイズ排除クロマトグラフィーによりエキソソームを含む画分を精製して、濃縮されたエキソソームの集団を得る工程を含み得る。
【0081】
プライミングされたエキソソームの分子特徴付け
MSCのプライミングは、例えば、濃縮されたエキソソームのELISAによって測定した場合、ある特定のエキソソームタンパク質の発現レベルにおける特徴的な変化を誘導する。いくつかの変形形態では、CSSC-CMおよびNrf2活性化因子を用いたBM-MSCのコンビナトリアルプライミングは、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、血管内皮増殖因子(VEGF)の低いエキソソーム発現レベルならびに神経成長因子(NGF)の高い発現レベル、肝増殖因子(HGF)の高い発現レベル、およびsFLT1の高い発現レベルのうちの1種または2種以上の組み合わせを有することによって特徴付けられるエキソソームの産生をもたらすことができる。いくつかの変形形態では、HGFのより高い発現レベルは、少なくとも1.5倍、少なくとも1.7倍、少なくとも2倍、または約2.2倍高い発現であり得る。いくつかの変形形態では、NGFのより高い発現レベルは、少なくとも2倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、または約3.2倍高い発現であり得る。いくつかの変形形態では、sFLT1のより高い発現レベルは、少なくとも1.5倍、少なくとも1.7倍、少なくとも2倍、または約2.2倍高い発現であり得る。いくつかの変形形態では、VEGFのより低い発現レベルは、半分もしくはそれ未満、1/3もしくはそれ未満、または1/4もしくはそれ未満の発現であり得る。
【0082】
いくつかの変形形態では、Nrf2活性化因子(DMFまたは4-OIなど)によるBM-MSCのプライミングは、プライミングされていないMSC由来のエキソソームと比較して、HGFのより高い発現レベルおよび/またはNGFのより高い発現レベルを有することによって特徴付けられるエキソソームの産生をもたらすことができる。いくつかの変形形態では、NGFのより高い発現レベルは、少なくとも1.5倍、少なくとも1.7倍、少なくとも2倍、または約2.2倍高い発現であり得る。いくつかの変形形態では、HGFのより高い発現レベルは、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも約1.3倍、または約1.4倍高い発現であり得る。
【0083】
上記の方法に基づく組成物
本開示の態様では、本明細書に記載される方法によって得られるプライミングされたMSCの集団が提供される。
【0084】
本開示の態様では、本明細書に記載される方法によって得られるプライミングされた馴化培地が提供される。
【0085】
本開示の態様では、本明細書に記載される方法によって得られた馴化培地から精製されたプライミングされたエキソソームの集団が提供される。本開示の態様では、本明細書に記載される精製されたプライミングされたエキソソームを含む組成物が提供される。いくつかの変形形態では、組成物は非経口投与用の形成であり得る。いくつかの変形形態では、組成物は、角膜表面への適用のために製剤化された眼科組成物または点眼液中にあり得る。いくつかの変形形態では、点眼液または眼科組成物は、生体適合性ポリマーを含み得る。いくつかの変形形態では、眼科組成物は、生体適合性ポリマーの少なくとも一部が架橋されたヒドロゲルであり得る。いくつかの変形形態では、生体適合性ポリマーは、コラーゲン、ヒアルロン酸、セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、シルク、ゼラチン、およびアルギン酸から選択される1種のポリマーまたは2種以上のポリマーの組み合わせを含み得る。いくつかの変形形態では、生体適合性ポリマーのうちの1種以上は、例えば、チオール化またはメタクリル化を介して架橋性であるように修飾することができる。
【0086】
本開示の態様では、本明細書に記載されるプライミングされたMSCを含む組成物が提供される。
【0087】
本開示の態様では、(a)本明細書に記載されるプライミングされた幹細胞;(b)本明細書に記載されるプライミングされた馴化培地;および(c)本明細書に記載される濃縮されたエキソソームからなる群から選択される少なくとも2つの成分を含む組成物が提供される。
【0088】
状態の処置に使用するための治療方法または組成物
本開示のある特定の実施形態では、対象における状態を処置するための方法が提供され、前記方法は、(a)本明細書に記載される濃縮されたエキソソームを提供するかまたは得る工程;および(b)状態を処置するためにエキソソームを対象に投与する工程を含む。いくつかの変形形態では、投与は角膜表面上にあり得る。いくつかの変形形態では、角膜表面投与は、生体適合性ポリマーを含み得る点眼剤を用いるものであり得る。生体適合性ポリマーは架橋性ポリマーであり得、そのため、液体は架橋の際にヒドロゲルとなる。いくつかの変形形態では、投与は、非経口または静脈内投与であり得る。静脈内投与は、肝門脈を介して行うことができる。
【0089】
本開示のある特定の実施形態では、対象における状態を処置するための方法が提供され、前記方法は、(a)本明細書に記載されるプライミングされた馴化培地を提供するかまたは得る工程;および(b)状態を治療するために、治療有効量の馴化培地を対象に投与する工程を含む。
【0090】
本開示のある特定の実施形態では、対象における状態を処置するための方法が提供され、前記方法は、(a)本明細書に記載されるプライミングされた幹細胞を提供するかまたは得る工程、および(b)状態を処置するために、治療有効量の拡大されたプライミングされた間葉系幹細胞集団を対象に投与する工程を含む。
【0091】
本開示のある特定の実施形態では、対象における状態を処置するための方法が提供され、前記方法は、(a)本明細書に記載される組成物、例えば、濃縮されたエキソソーム、馴化細胞培地、プライミングされた間葉系幹細胞集団を提供するかまたは得る工程;および(b)状態を処置するために、治療有効量の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0092】
ある特定の変形形態において、上述の状態は、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、心筋梗塞、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、角膜の角膜炎(CK)、ドライアイ疾患潰瘍、ヘルペス性単純角膜炎、LASIK後拡張症、術後角膜融解、角膜プロテーゼ後融解、角膜穿孔、神経栄養性角膜炎(NK)、円錐角膜シェーグレン症候群、粘膜類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学熱傷、および熱傷からなる群から選択され得る。
【0093】
本開示のある特定の実施形態では、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、心筋梗塞、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、角膜の角膜炎(CK)、ドライアイ疾患潰瘍、ヘルペス性単純角膜炎、LASIK後拡張症、術後角膜融解、角膜プロテーゼ後融解、角膜穿孔、神経栄養性角膜炎(NK)、円錐角膜シェーグレン症候群、粘膜類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学熱傷、および熱傷からなる群から選択される状態の処置に使用するための、本明細書に記載される濃縮されたエキソソーム、馴化細胞培地、またはプライミングされた間葉系幹細胞集団を含む組成物が提供される。
【0094】
本開示のある特定の実施形態では、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、心筋梗塞、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、角膜の角膜炎(CK)、ドライアイ疾患潰瘍、ヘルペス性単純角膜炎、LASIK後拡張症、術後角膜融解、角膜プロテーゼ後融解、角膜穿孔、神経栄養性角膜炎(NK)、円錐角膜シェーグレン症候群、粘膜類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学熱傷、および熱傷からなる群から選択される状態の処置に使用するための、本明細書に記載されるプライミングされた幹細胞、または本明細書に記載されるプライミングされた馴化培地、または本明細書に記載される濃縮されたエキソソームが提供される。
【0095】
ある特定の実施例およびその実施を参照して主題がかなり詳細に説明されてきたが、他の実施が可能である。
【実施例
【0096】
ここで、本開示は、本開示の動作を例示することを意図し、本開示の範囲における任意の制限を意味するように限定的に取ることを意図しない、動作実施例を用いて例示される。別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示に属する当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。開示された方法および組成物の実施において、本明細書に記載されたものと類似または同等の方法および材料を使用することができるが、例示的な方法、デバイスおよび材料は、本明細書に記載される。本開示は、記載される特定の方法、および実験条件に限定されるものではなく、このような方法および条件が適用され得るように理解されるべきである。
【0097】
材料および方法
幹細胞の供給源
本開示の目的のために、ヒト骨髄(BM)、角膜輪部幹細胞、臍帯(UC)、無制限体性幹細胞、ホウォートンゼリー(WJ)、歯髄(DP)および脂肪組織(AD)、誘導多能性幹細胞(iPSC)、操作された細胞、角膜間質幹細胞(CSSC)由来の馴化培地でプライミングされたMSCなどの供給源に由来する間葉系幹細胞(MSC)は、本明細書に記載される方法および細胞由来の生成物に用いることができる。この文脈で言及されている操作された細胞は、hTERTで不死化された細胞である。幹細胞型の選択は、標的指示され、組織特異的である。
【0098】
不死化された成体幹細胞株(非ウイルス不死化されたMSC細胞株)の供給源:
(1)hTERT不死化されたヒト骨髄間葉系幹細胞(hBM-MSC):臨床的に承認されたCD105、CD90、CD73マーカーを有する初代BM-MSC(ナイーブ)は、ナイーブエキソソーム産生に使用され、CSSC馴化培地でプライミングされたナイーブBM-MSCは、無血管組織再生のためのプライム変異体エキソソーム産生に使用された。臨床的に承認された非ウイルス性ヒトテロメラーゼ酵素逆転写酵素(hTERT)誘導化された不死化BM-MSCをエキソソームの定常産生に使用した。
【0099】
(2)hTERT不死化ヒトホウォートンゼリー由来のMSC(WJMSC)/臍帯由来のMSC(UC-MSC)細胞株:臨床的に承認されたCD166、CD90、CD73-マーカーおよびCD34、α-SMAマーカーを有するUC-MSCを選択し、ゼノフリー培地中で増殖させ、ナイーブエキソソームは、前述のマーカーを発現する上述の細胞集団から産生された。臨床的に承認された非ウイルス性hTERT誘導化された不死化UCMSCを、エキソソームの定常産生に使用した。
【0100】
[実施例1]
角膜間質幹細胞(CSSC)およびナイーブ細胞(hBM-MSC、UC-MSCおよびWJ-MSC)の取得および培養
本実施例は、角膜間質幹細胞(CSSC)、hBM-MSC、臍帯UC-MSC、およびWJ-MSCなどの幹細胞を得るかまたは培養するプロセス、ならびにゼノフリー培養条件下で拡大された幹細胞集団を得るために幹細胞を濃縮するプロセスを記載する。また、本実施例は、上述のように幹細胞から馴化培地を得るプロセスを記載する。
【0101】
1.1 CSSCをゼノフリー条件下で培養し、CSSCから馴化培地を回収する。
1.1.1.ゼノフリー条件下でのCSSCの単離および培養
角膜保存培地に保存した角膜組織を4~5日の妥当性で入手した。「組織仕様書」に次の詳細が記載されている組織が細胞抽出および培養に使用された:(1)移植/細胞採取のための使用期限がある組織;(2)主要死因、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)、HbsAg(B型肝炎表面抗原)および梅毒の欠如;(3)1平方mmあたりの細胞計数;(4)敗血症および瘢痕、任意の全身感染、組織が細胞採取に適さない任意の眼の病歴の欠如。
【0102】
徹底的なスクリーニング後、ヒトドナー由来の角膜を用いて、ゼノフリー条件下でプロトコールを用いてCSSCを誘導した。ゼノフリー条件下でCSSCを培養するためのプロセスを以下に記載する。
【0103】
ヒトドナー由来の角膜を抗生物質強化された緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後、CSSCを含むリンバスを抽出した。無菌状態では、360°の輪状輪を手術器具を用いて切除し、緩衝生理食塩水で洗浄し、より小さな断片に細かく刻んだ。細かく刻まれた組織断片を不完全培地(MEM培地)に回収し、組織懸濁液に0.5Uの濃度で20μLの再構成リベラーゼ(Roche)を添加することによりリベラーゼ消化に供した。
【0104】
16時間のインキュベーション後、2%ヒト血小板溶解物(HPL)で強化された完全培地2mLを添加することにより、酵素的消化を停止した。
【0105】
消化された組織を、ペニシリンおよびストレプトマイシンを補充した生理食塩水中で、200×gで3分間、室温で遠心分離し、続いて種々のレベルの継代を行った。
【0106】
継代0(P0):継代0中、消化した外植片を5mLのゼノフリー完全培地(MEM+2%HPL、1×ITS、10ng/mL EGF)に再懸濁し、T25 Corning CellBINDフラスコ中で14日間培養した。3日ごとに培地を交換した。
【0107】
継代1(P1):継代1の間、外植片から単離された細胞をTryple(1X、Gibco)でトリプシン処理し、14日の終わりに新鮮な完全培地に再懸濁した。細胞を、継代1において、T75 CellBINDフラスコ中で8000細胞/cmで播種した。0.7×10細胞をP1の3つのT-75フラスコに播種し、次の継代(継代2;P2)のために、細胞を2つのT-75フラスコに分割し、次に継代(継代3;P3)を細胞倍加に従って4つのT-75フラスコにさらに分割した。
【0108】
P1、P2およびP3の完全な培地交換は、以下の時点で行われた。
P1-3日目:50%培地、すなわち2.5mL培地を補給した。
5日目:5mL培地を5mL新鮮培地に交換した。
P2-3日目:50%培地、すなわち5mLを補給した。
5日目:10mL培地を10mL新鮮培地に交換した。
7日目:10mL培地を10mL新鮮培地に交換した。
P3-3日目:50%培地、すなわち5mLを補給した。
5日目:10mL培地を10mL新鮮培地に交換した。
7日目:10mL培地を10mL新鮮培地に交換した。
【0109】
P2およびP3について、約1.2×10のCSSCを回復させ、約8000細胞/cm密度で細胞播種を行った。
【0110】
表1は、継代1(P1)、継代2(P2)、および継代3(P3)で回収したCSSC使用済み培地の容量を示す。
【0111】
【表1】

【0112】
品質管理のために、P1、P2およびP3における細胞は、CD90、CD73およびCD105のような幹細胞マーカー、PAX6のような角膜細胞特異的マーカー、ならびにSMA、CD34のような陰性マーカーなどのマーカーを用いて特徴付けられた(免疫蛍光画像)。
【0113】
1.1.2.CSSC培養からの馴化培地(CSSC-CM)の回収
上述のように、継代1-2-3から、すべての培地交換には、フラスコからの使用済み/馴化培地の回収が伴った。使用済み培地をさらに、培地を300×gで10分間遠心分離することにより前処理して、上清を回収した。上清をさらに、20分間、4℃にて3000×gで遠心分離し、続いて上清を30分間、4℃にて13000×gで再遠心分離して、さらに処理された上清を回収した。培地を0.45ミクロンのフィルターを通して二重濾過し、さらに0.22ミクロンのフィルターを用いて上清を回収した。
【0114】
回収した上清(馴化培地)を4℃で短期(1~2日間)または-80℃で長期保存した。
【0115】
1.2.ナイーブhBM-MSCの培養およびナイーブhBM-MSCからの馴化培地の回収
1.2.1.ゼノフリー条件下でのナイーブhBM-MSCの培養
ナイーブhBM-MSCを培養するために、1MヒトBM-MSC(hBM-MSC)細胞(継代2)をその推奨培地(hBM-MSC高性能培地キットXF)とともに製造業者から入手し、hBM-MSC細胞を製造業者のプロトコールに従って培養した。簡単に説明すると、ブースター-MSC-ゼノフリー10mLおよび基底-MSCを室温で解凍し、バイオセーフティキャビネット内で無菌的に移し、500mL培地に再構成した。
【0116】
培養の目的で、バイアルhBM-1M-XFを液体窒素(LN)ボックスから取り出し、37℃の水浴中で2~3分間解凍した。細胞バイアルを50/15mL遠心分離管に無菌的に移し、4mL培地を細胞に滴下した。200×gで10分間遠心分離した後に得られた細胞ペレットを、5mLの完全培地に溶解し、品質管理として、細胞計数を記録した。試験管内の培地の容量を30mL(製造業者のプロトコールにより推奨される)までにし、細胞をCELLBIND T225cmフラスコに2000~3000細胞/cmの密度で播種し、培地容量を各フラスコ内で40~45mLまで増量し、37℃および5%COでインキュベートした。
【0117】
コンフルエンス細胞のパーセンテージを決定するために、細胞を3日目以降、毎日観察した。培地は、細胞が80%コンフルエンス、すなわち、(43000~50000)細胞/cmに達するまで交換させず、その後、細胞を採取する準備ができた。採取中、細胞をバイオセーフティキャビネットに移し、使用済み培地を除去し、10mLの使用済み培地を滅菌チューブ(15~50mL)に入れ、トリプシン酵素をクエンチした。培地を除去し、細胞を1×PBSで洗浄し、続いて10mLのTrypLEを添加し、37℃インキュベーター中でインキュベートした。表面からの細胞の脱着について細胞を5分毎にチェックした。TrypLE活性を停止するために、等容量のクエンチ(新鮮培地)または使用済み培地を細胞に添加した。
【0118】
細胞懸濁液を滅菌した50mL遠心分離管に移し、200gで10分間遠心分離を行った。上清を捨て、細胞を4~5mLの新鮮な培地で再懸濁し、細胞懸濁液の総容量を測定した。懸濁液を得た後、0.1mLの細胞懸濁液を細胞計数用のマイクロ遠心分離管に移し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)を用いて希釈を行い、計数範囲(0.1~1)×10細胞/mLを得、細胞を必要になるまで凍結保存した。
【0119】
1.2.2 ナイーブhBM-MSCからの馴化培地の回収
上述のように、1M hBM-MSC細胞バイアルを回復させ、3日目以降に観察した。3日目、4日目/5日目および6日目/7日目に位相差顕微鏡で画像を取得し、細胞密度を表2に示した。細胞を、細胞密度(43000~50000細胞/cm)に依存して、4/5日目に、20mLのPBSで1~2×のいずれかで洗浄し、培地をRooster EV回収培地に交換した。48時間のインキュベーション後、馴化培地を回収し、上記の実施例1.2.1に記載されるプロトコールに従って細胞を採取した。その後、細胞カウンターを用いて細胞を計数した。回収された馴化培地は、上記の実施例1.1.2に記載されるように、直ちに前処理工程で処理され、次に、前処理された馴化培地は、4℃(24時間までの短期保存)または-80℃(1ヵ月までの長期保存)で保存された。
【0120】
表2は、3日目、4日目、6日目/7日目の細胞密度(細胞/cm)を示す。
【0121】
【表2】

【0122】
1.3.ナイーブUCMSCの培養およびナイーブUCMSCからの馴化培地の回収
1.3.1.ナイーブUCMSCの培養
UC-MSC細胞は、製造業者から調達され、製造業者のプロトコールに従って、推奨されるゼノフリー培地中で培養した。簡単に説明すると、MSC-XFおよび基底-MSCを室温で暗所にて解凍し、1ボトル500mLの培地に再構成した。さらに、継代後に得られたバイアル-ヒト臍帯-1X-XF(ゼノフリー)(hUC-1M-XF)を37℃の水浴中で解凍し、細胞をバイオセーフティキャビネット内で無菌的に移した。細胞を10mL培地容量中の15/50mL遠心分離管に移し、280×gで6分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを20mLの培地に溶解した。細胞懸濁液をさらに4つのT75フラスコと2つのT225フラスコに分け、T75フラスコの播種密度を2000~3000細胞/cmの範囲内に維持し、T225の播種密度は2000~3000細胞/cmの範囲内であった。
【0123】
T225フラスコおよびT75フラスコについては、それぞれ45mLおよび15mLの培地容量を用い、37℃で培地を維持した。コンフルエンスのパーセンテージを決定するために、3日目以降に細胞を顕微鏡で観察し、画像を取得し、続いてImage Jソフトウェアを用いて細胞計数を行った。
【0124】
さらに、培養が80%にコンフルエントである4日目および5日目に細胞を観察した(例えば、細胞は、T225フラスコについて60k-100k細胞/cmの細胞密度であった)。細胞は、フラスコをバイオセーフティキャビネットに移し、使用済み培地を滅菌容器(約10mL)に回収して、トリプシン酵素をクエンチすることにより採取された。培地を除去した後、それぞれのT225またはT75フラスコに10mLまたは3mLのTrypLEを添加し、フラスコを37℃のインキュベーター中でインキュベートした。細胞が表面から脱着されるか、または細胞が穏やかなタッピングによって取り除かれるまで、細胞培養物を5分毎にチェックした。TrypLE活性を停止するために、等容量のクエンチまたは使用済み培地を細胞懸濁液に添加し、280×gで6分間遠心分離するために15/50mL遠心分離管に移した。上清を捨てた後、細胞を4~5mLの新鮮な培地に再懸濁し、細胞懸濁液の総容量を測定した。DPBS/培地で希釈して(0.1~1)×10細胞/mLの計数範囲を得た後、0.1mLの細胞懸濁液を用いて細胞計数を行い、細胞はさらに使用するまで凍結保存された。
【0125】
1.3.2.ナイーブUCMSCからの馴化培地の回収
ナイーブUC-MSCから細胞外小胞(EV)を生成するために、1M細胞バイアルを上記のように回復し、細胞を3日目以降に観察して、表3に提供されるように、細胞密度を用いて3日目、4日目/5日目および6日目/7日目に位相差顕微鏡を用いて画像を取得した。4/5日目に、細胞密度(60~100k)細胞/cm(T225フラスコ)に依存して、すなわち、ほぼ80%コンフルエンスで、細胞を20mLのPBSで2回洗浄し、培地を細胞外小胞(EV)回収培地に交換した。48時間のインキュベーション後、馴化培地を回収し、細胞を採取し、細胞カウンターで計数した。回収された馴化培地は、上記の実施例1.1.2に記載されるように、直ちに前処理工程で処理された。
【0126】
【表3】

【0127】
1.4.幹細胞の集団、そのサブタイプの選択のための細胞選別
本開示の重要な態様の1つは、抗炎症、抗線維症、創傷前治癒、(促進/抗)血管新生、および再神経支配性などの所望の治療効果を有するエキソソームを産生するための、マーカーのシグネチャーセットを発現するUC-MSC/WJ-MSCなどの幹細胞からの間葉系幹細胞(MSC)の固有の亜集団の単離である。この特徴は重要であり、従来の方法がUC-MSC細胞などの幹細胞の不均一な集団を使用するため、文献において公知である従来の方法とは異なる。一方、本開示の方法は、優れた治療活性(抗炎症、抗線維症、創傷前治癒、血管新生(促進/抗)、再神経支配)を提供するMSCの固有の亜集団を配備する。
【0128】
UCMSCおよびWJMSCなどの幹細胞によって発現されるマーカーの共通のシグネチャーセットを表4に列挙する。
【0129】
【表4-1】


【表4-2】

【0130】
さらに、上の表に列挙されたマーカーとは別に、MSCにおいてより高いレベルで発現される他の細胞マーカーには、限定されないが、CD44、CD73、およびCD90が含まれる。
【0131】
1.4.1 UCMSCの亜集団の単離
第1の継代の終了時(P4)または実施例1.3.1に記載されるhUC-1M-XF細胞バイアルの拡大後、細胞は、フローサイトメトリーベースの選別プロトコールを用いて、臨床的に承認されたMSC表面マーカーCD90、CD73、およびCD166に基づいて選別されて、UC-MSCの2つの亜集団を得た。UC-MSCの2つの亜集団は、以下のとおりであった。
【0132】
第1の亜集団:臨床的に承認されたMSC表面マーカー、例えば、CD90、CD73およびCD166を発現する幹細胞の第1の亜集団を選択した。
【0133】
第2の亜集団:CD166、CD90、CD73陽性集団を有するMSCを再選別して、2つのサブタイプの第1の亜集団(濃縮された治療的に固有のUC-MSC集団)を提供した:
(i)CD146+、CD54+、CD58+およびCD142+陽性集団;
(ii)CD146+、CD54+、CD58+およびCD142-(低/陰性)集団。
【0134】
上記のUC-MSCサブタイプは、さらに2継代(P5およびP6)を有するゼノフリー培地中に維持され、続いて、本開示の実施例1.1.2に記載されるように馴化培地を回収した。
【0135】
1.5.hTERT不死化されたWJ-MSCの培養
1.5.1 細胞の回復およびWJ-MSCの拡大
培養フラスコに動物成分不含の細胞付着基質を予め被覆した後、回復させた。簡単に説明すると、基質(1:300、1×PBS中で希釈される)を培養フラスコに添加し、少なくとも2時間、室温でインキュベートした。過剰の基質溶液を除去し、フラスコをPBS(1×)で2回リンスした。リンス後、6mlの増殖培地を25cm培養フラスコに添加し、インキュベーター内に少なくとも30分間置き、培地が正常pHに達するようにした。凍結細胞バイアルを液体窒素から取り出し、70%エタノールで外側をリンスし、最後の凍結細胞片が見られるまで手で予め温めた。解凍したバイアルを、予め4℃に冷却した9mLの培地を予め充填した15mL遠心分離管に移した。
【0136】
細胞をさらに5分間、室温にて400×gで遠心分離し、上清を捨て、続いて、予め温めた1mLの培地中に細胞を再懸濁した。細胞は、調製された培養フラスコ(T25cm)に移され、37℃でインキュベートされた。品質管理(QC)として、細胞を計数し、記録し、続いて、24時間後に培地を交換し、約70~80%のコンフルエンシーで細胞を継代した。
【0137】
1.5.2 WJMSC/hTERT不死化されたWJMSCのサブ培養
サブ培養は、細胞密度が28000細胞/cmの70~80%のコンフルエンシーを有する予め被覆された培養フラスコを用いて行われた。細胞を脱着させるために、TrypLE選択酵素液(20μL/cm)を添加し、細胞をPBS(160μL/cm)で2回洗浄した。フラスコを37℃で約2~3分間インキュベートし、顕微鏡下で細胞脱着を観察した。増殖培地を細胞に添加し、400×gで5分間遠心分離し、続いて、1mLの培地に再懸濁し、トリパンブルーを用いて被覆した。細胞は、240μL/cmの増殖培地で補充された被覆培養容器に播種され(7000細胞/cm)、80%コンフルエンス(例えば、約28000細胞/cm)に達した後、週に2回1:4の分割比を維持し、次に、細胞はTrypLE選択酵素を用いてトリプシン処理された。
【0138】
その後、細胞を増殖培地に再懸濁し、400×gで5分間遠心分離し、細胞は、5×10細胞/mLに対応する1mLの凍結保存培地、CryoStor(CS10)に懸濁された。1mLの細胞懸濁液を予め冷却したクリオバイアル中に移し、一晩-80℃または長期保存のために液体窒素に移した。さらなる使用のために、MesenCult-ACF Plus 500X Supplement、200pg/mL G418を補充したMesenCult-ACF Plus培地において細胞を増殖させた。
【0139】
[実施例2]
3D培養において幹細胞を拡大させる方法
実施例1に記載されるように、種々の供給源に由来するMSC(ナイーブ/hTERT不死化)を3D培養ベースのシステム中で培養し、拡大された幹細胞を得た。異なる3D培養ベースの方法は、以下の通りである:
(i)3Dマイクロキャリアにおける培養:3Dマイクロキャリア上のMSCの培養は、本開示にその全体が組み込まれる出願中のPCT/IN2020/050622に詳細に記載されている。
(ii)3Dスフェロイドとしての培養:3Dマイクロキャリア上のMSCの培養は、本開示にその全体が組み込まれる出願中のPCT/IN2020/050622に詳細に記載されている。
(iii)中空糸バイオリアクター内での培養。
【0140】
2.1 CellSTACKフラスコ中のhMSCの2D培養
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を継代1~2で購入し、製造業者のプロトコールに従って拡大させて、動作細胞バンクを作製した。hMSCの大規模な拡大、すなわち、CellSTACK培養チャンバ(10スタック)における拡大のために、動作細胞バンクからの2,000万個のhBM-MSCを3145細胞/cm(Corning,cat.#3271)の播種密度でチャンバ内に播種した。完全培地は、製造業者のプロトコールにより推奨されるように調製され、細胞は、細胞コンフルエンシーが約80~90%に達するまで4日間増殖させた。
【0141】
CellSTACKフラスコから細胞を採取するために、培地を除去し、0.25%トリプシン-EDTAを添加した後、細胞を37℃で6~8分間インキュベートした。さらに、トリプシン活性をクエンチするために、DPBS(Ca++、Mg++なし)中に調製された200μLの2%MSCスクリーニングされたFBSを細胞に添加し、続いて、懸濁液を50mL遠心分離管に回収し、200×gで10分間遠心分離した。懸濁液をさらに20mLの完全培地の最終容量に再懸濁し、中空糸バイオリアクターシステムに注入した。
【0142】
2.2 FiberCell中空糸バイオリアクターにおけるhMSCの3D培養
細胞は、90~220×10細胞/カートリッジ(20kD MWCO、4000cm、ポリスルホン繊維カートリッジ)の分離中空糸バイオリアクター中に播種され、ゼノフリー完全培地中に維持され、中空糸バイオリアクターシステムは調製され、製造業者の説明書に従って使用された。すべての接種前工程は、滅菌D-PBS-/-を用いて行われた。細胞懸濁液の注入に先立ち、培地リザーバーから培地1mLを採取し、グルコースメーターを用いて総グルコース含有量、および乳酸塩アッセイキット(50μLの1000倍希釈培地)を用いてL(+)-乳酸塩を確認した。バイオリアクターシステムに細胞を接種するために、調製された細胞懸濁液(20mL)を、製造業者の手順に従ってカートリッジに注入した。拍動性潅流ポンプの流速は、28日間の細胞接種期間の最初の2~3日間、22回/分に設定された。
【0143】
細胞外毛細血管腔内の培地容量を250mLに維持し、28日間の細胞接種期間の3~17日目からバイオリアクターに25回/分のシステム流速で循環させた。17日後、同じ流速で培地容量を500mLに倍加した。培地リザーバーからの培地の1mLアリコートを2~3日ごとに回収し、グルコース含有量およびpHをモニタリングした。25日間の培養期間の終わりに、40mLのトリプシン-EDTA0を用いてhMSCを回収した後、馴化培地を回収した。25%細胞を余分な毛細血管腔に注入し、10分間、37℃でインキュベートした。60mLの細胞懸濁液が得られるまで、PBSを用いてトリプシン処理細胞を押し出した。採取された細胞懸濁液は、DPBS(Ca++、Mg++を含まない)中で調製された同等容量の2%MSCスクリーニングしたFBSでさらにクエンチされ、200×gで10分間遠心分離し、トリパンブルー排除キットを用いて細胞生存率計数に使用した後、下流分析のために処理した。
【0144】
[実施例3]
幹細胞のプライミング
本実施例は、本開示の重要な態様の1つを示し、実施例1に記載されるように、種々の供給源に由来する幹細胞のプライミングである。幹細胞のプライミングは、800Da未満の分子量を有する小分子、および800Daを超える分子量を有する巨大分子などの種々のプライミング剤の存在下で行われる。幹細胞を1種以上のプライミング剤(それぞれ単独またはコンビナトリアルプライミング)でプライミングして、MSCの再生性、幹性、抗炎症性、および抗線維化性を増強する。ナイーブMSCまたはプライミングされたMSCは、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソーム(次の実施例に記載される方法によって得られる)として、またはそれに加えて、治療的適用のために使用することができる。
【0145】
3.1 本開示において使用されるプライミング剤
3.1.1.小分子による幹細胞のプライミング
プライミングによる再生増強(インビトロおよびインビボの幹性、生存性、生着能力を増強するために認可された)は、物理的誘導因子(低酸素状態)の非存在下または存在下で、限定されないが、SIRT1活性化因子、Nrf2活性化因子を含む種々の小分子(疎水性物質)を用いて行われた。これらの化合物(小分子)の大部分は本質的に疎水性であり、したがって、水溶性ではないため、それらは、最初に、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、アセトンなどの無毒性有機溶媒中に高濃度で溶解され、その後、水性培地(PBS、生理食塩水または細胞培地)中に希釈されて、MSCの処置のために動作濃度を生成するかまたはリポソームなどの脂質ベースの担体を得る。
【0146】
表5は、動作濃度および処置期間を有するプライミング剤(小分子)を列挙する。
【0147】
【表5-1】


【表5-2】

【0148】
サイレンシング情報調節因子1(SIRT1)活性化因子:一例では、小分子はサイレンシング情報調節因子1(SIRT1)活性化因子である。SIRT1はNAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素であり、細胞代謝、細胞生存と細胞老化、DNA修復、炎症、細胞増殖および神経変性疾患において重要な役割を有する(Zhu, Y.g., et al., Human mesenchymal stem cell microvesicles for treatment of Escherichia coli endotoxin-induced acute lung injury in mice. Stem cells, 2014. 32(1): p. 116-125)。SIRT1活性化因子には、限定されないが、SRT-2104、SRT-1720、トランス-レスベラトロールが含まれる。
【0149】
核因子赤血球2関連因子2(Nrf2)活性化因子:核因子赤血球2関連因子2(Nrf2)は、ほとんどの真核細胞において普遍的に発現され、酸化剤、生体異物、および過剰な栄養/代謝物供給を含む外因性および内因性ストレスに対する広範な細胞防御を誘導するように機能する。Nrf2活性化因子は、幹細胞の休止、生存、自己再生、増殖、老化、分化の重要な調節因子として作用する。
【0150】
Nrf2活性化因子には、限定されないが、フマル酸ジメチル(DMF)、2-シアノ-3,12-ジオキソオレアナ-1,9(11)-ジエン-28-オイ酸のイミダゾール誘導体(CDDO-Im)、およびイタコン酸4-オクチル(4-OI)が含まれる。他の活性化因子には、ファミリー:アリールシクロヘキシルピラゾール、スルホニルクマリン、1,4-ジアミノナフタレンコア含有、ベンゼンスルホニル-ピリミドン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンコア含有化合物が含まれる。
【0151】
本開示においてプライミング剤として用いることができるNrf2誘導ペプチド(Nrf2/Keap相互作用の遮断剤):LDEETGEFL-NH2、(NH2-RKKRRQRRR-PLFAERLDEETGEFLPNH2)、Ac-DPETGEL-OH、Ac-DEETGEF-OH、LQLDEETGEFLPIQGK(MR121)-OH、Ac-LDEETGEFL-NH、AcDPETGEL-NH2、Ac-NPETGEL-OH。
【0152】
3.1.2.低酸素状態を媒介したプライミング
低酸素状態プライミングは、インビボのMSCニッチ微小環境の模倣形質であり、MSCの再生、生存および血管新生能を改善する可能性がある。低酸素状態は、MSCの拡大中の細胞代謝を調節し、酸化ストレスに対する抵抗性を提供し、虚血微小環境における生着と生存性を改善する。HIF-1α誘導は低酸素状態プライミングにおいて検出され、HIF-1αの過剰発現は、MSCの血管新生能力に関連するmiR-15、miR-16、miR-17、miR-31、miR-126、miR-145、miR-221、miR-222、miR-320、miR-424の誘導を示した。
【0153】
本開示では、0.2~10%の範囲の酸素の存在下で低酸素状態を媒介したプライミングを行った。
【0154】
3.1.3 光媒介プライミング
光媒介プライミングまたは光バイオモジュレーションは、可視および近赤外スペクトルにおける非電離形態の光源の使用を伴う別の誘導因子プラットフォームである。この非熱的プロセスは、内因性発色団の影響下、生物学的スケールで光物理的および光化学的プロセスの両方をもたらす。伴われる光源の波長は、以下の範囲(300~650nmおよび800~1400nm)であり、一方、光エネルギーは0.5~4J/cmである。低密度および高密度でのMSCの増殖はまた、単一線量または多重線量の照射のいずれかであり得る照射(5~20mW/cm)によって影響されることが、研究により示されている。
【0155】
3.1.4.巨大分子による幹細胞のプライミング
本開示において、巨大分子は、幹細胞をプライミングするために使用され、巨大分子は、タンパク質、脂質、核酸、増殖因子、サイトカイン、馴化培地の成分などの生物学的因子と呼ばれる。本開示の目的のために、実施例1に記載されるナイーブMSC由来の馴化培地を用いて、異なる起源に由来するナイーブMSCをプライミングした。
【0156】
本開示において、ナイーブMSCはAと呼ばれ、ナイーブMSC(A)に由来するエキソソームはBと呼ばれる。核因子赤血球関連因子2(Nrf2)活性化因子、サイレンシング情報調節因子(SIRT1)活性化因子などの小分子および巨大分子を用いるAのプライミングはA’と呼ばれ、プライミングされたMSC(A’)に由来するエキソソームはB’と呼ばれる。単一の誘導因子分子による単一のプライミングおよび小分子または巨大分子を用いるコンビナトリアルプライミングのプロセスを以下の次の実施例に記載する。
【0157】
3.2.CSSC馴化培地を用いたhBM-MSCの単一プライミングプロトコール
hBM-MSC、継代4細胞は、実施例1.2に記載されるプロセスに従って維持された。hBM-MSCのプライミングは、10~20%の範囲の容量パーセンテージを有する角膜間質幹細胞(CSSC)由来の馴化培地(巨大分子)を補充した培地で行われた。CSSCのゼノフリー培養および最終濃度20%のプライミングするための馴化培地の回収は、CSSC維持の間に行われた。hBM-MSCは、80~85%のコンフルエンス(すなわち、43000~50000細胞/cm)までさらに拡大され、エキソソーム産生に使用された。上記の実施例1.2および1.1.2に記載されるように、馴化培地の回収および処理を行った。
【0158】
表6:CSSC馴化培地を用いたhBM-MSCの単一プライミングプロトコール。
【0159】
【表6】

【0160】
3.3. Nrf2活性化因子を用いたhBM-MSCの単一プライミングプロトコール
hBM-MSC、継代4細胞は、上記実施例1.2に記載されるプロセスに従って維持され、細胞はNrf2活性化因子または誘導因子(DMF、4-OI)により処置された。細胞は、一旦70~80%のコンフルエンスに達すると、PBSで洗浄され、EV回収に切り替える前に、24時間、100μM DMFまたは100μM 4-OIを有する新鮮な培地で補給され、続いて、上記の実施例1.2および1.1.2に記載されるように、馴化培地回収および処理手順を行った。
【0161】
表7:Nrf2活性化因子を用いたhBM-MSCの単一プライミングプロトコール。
【0162】
【表7】

【0163】
3.4 SIRT1活性化因子(SRT2104またはトランス-レスベラトール)によるUCMSCの単一プライミングプロトコール(EXO変異体B’)
2種のUC-MSC細胞型は、SIRT1活性化因子(SRT-2104またはトランス-レスベラトロール)の存在下で、SRT-2104のIC50値よりも小さい濃度で別々に培養された。IC50値は、UC-MSC細胞において、SRT-2104について0.04~3.78nMまたは24~1962ng/mLの濃度範囲を用いて、両方の亜集団について決定された。RSVの動作濃度範囲は、UC-MSCにおけるプライミングについて0.1~2.5μMまたは22.85~571.25μg/mLであった。UC-MSCは、SRT-2104またはRSVの存在下で80%のコンフルエンスまで培養された。その後、EV回収処置、馴化培地回収は、プライミングされたエキソソーム産生のために行われた。プライミング後、UC-MSCでプライミングされた馴化培地/セクレトームは、ELISAアッセイを用いてスクリーニングされ、両方の場合についてTNF-α、IFN-γ、IL-10およびHGFの発現を検出した。
【0164】
プライミングされたエキソソーム変異体は、SIRT1、HGF、IDO、IL-10、NRF2、VEGF、およびNGFなどのエキソソームカーゴ分子の発現レベルを検出するELISAにより特徴付けられ、これらの結果に基づいて、SRT2104またはRSV処置の濃度をUC-MSCプライミングのために最終化した。
【0165】
3.5 Nrf2活性化因子(DMFまたは4-OIまたはCDDO-IM)によるUC-MSCの単一プライミングプロトコール-(EXO変異体B’)
UC-MSCは、実施例1.3に記載されるように、プロセスに従って培養された。5~6継代ステージまで継代された細胞は、プライミングされたエキソソーム産生に使用された。(B’)。UC-MSCは、DMF((1.44~36mg/mL)または(10~250μM))、4OI((0.0024~0.060)mg/mLまたは(10~250))μM、CDDO-Im((2.56~128μg/mL)または(0.2~1))μMなどの範囲の動作濃度を有するNrf2活性化因子(DMF、4-OIまたはCDDO-IM)により処置された。
【0166】
プライミング後、UC-MSCでプライミングされた馴化培地/セクレトームをELISAアッセイキットを用いてスクリーニングし、TNF-α、IFN-γ、IL-10、およびHGFの発現レベルを検出した。プライミングされたエキソソーム変異体は、Nrf2、IL-10、HGF、およびVEGFなどのエキソソームカーゴ分子の発現レベルを検出するためのELISAアッセイによって特徴付けられ、DMFまたは4-OIまたはCDDO-Imの濃度をUC-MSCプライミングのために最終化した。
【0167】
3.6 CSSC由来の馴化培地およびNrf2活性化因子によるhBM-MSCのコンビナトリアルプライミング-(EXO変異体B’)
hBM-MSCのプライミングは、CSSC由来の馴化培地(10~20%の範囲の容量パーセンテージ)を補充した培地で行われた。角膜間質幹細胞(CSSC)のゼノフリー培養および最終濃度20%のプライミングのための馴化培地の回収は、CSSC維持の間に行われた。hBM-MSC細胞を解凍し、T225cmフラスコ中で2000~3000細胞/cmで播種し、培地は10~20%CSSC由来の馴化培地で補充された。一旦hBM-MSCが約70~80%コンフルエンシーに達すると、細胞はPBS中で洗浄され、次に、細胞外小胞(EV)回収培地に切り替える前に、Nrf2活性化因子(例えば、100μM DMFまたは100μM 4-OI)で24~72時間、補給された。
【0168】
表8は、CSSC馴化培地およびNrf2活性化因子を用いたhBM-MSCのコンビナトリアルプライミングのプロトコールを示す-(Exo変異体B’)。
【0169】
【表8】

【0170】
3.7 低酸素状態の非存在下でのSIRT1活性化因子およびNrf2活性化因子によるUC-MSCのコンビナトリアルプライミング-(EXO変異体B’)
UC-MSCおよびUC-MSCの選択された亜集団は、実施例1.3に記載されるプロトコールに従って培養され、続いて、UC-MSC幹細胞の拡大された集団をプライミングし、それは、SRT-2104(0.00001-0.01M)またはトランス-レスベラトール(RSV)(0.1~10M)などのSIRT1活性化因子の存在下における亜集団であり、80%のコンフルエンス(例えば、60-100K細胞/cmの細胞密度)に達し、続いて、10~250μmの範囲のDMF、または10~250μmの範囲の4-OIなどのNrf2活性化因子を用いて24~72時間、細胞を処置した。馴化培地をさらにスクリーニングして、ELISAを用いて抗炎症分子発現を検出した。さらに、UC-MSCでプライミングされたエキソソーム変異体(B’)をコンビナトリアルプライミングセット(低酸素状態の非存在下でのSIRT1活性化因子およびNrf2活性化因子)から単離した。次に、エキソソームのプライミングされた変異体は、カーゴ分子を検出するELISAによって特徴付けられた。
【0171】
3.8 US-MSCを低酸素状態の存在下でのSIRT1活性化因子およびNRF2活性化因子によるコンビナトリアルプライミング-(EXO変異体B’)
UC-MSCは、実施例1.3に記載されるプロトコールに従って培養され、続いて0.00001~0.01μMの範囲のSRT-2104または0.1~10μMの範囲のトランス-レスベラトール(RSV)でプライミングした。低酸素状態/正常酸素状態のサイクル(30~90分間隔で8~20サイクル)で低酸素症を生じさせた。低酸素状態では酸素濃度は0.5~10%であり、正常酸素状態では酸素濃度は14~22%であった。次に、細胞は、Nrf2活性化因子である、10~250μmの範囲のDMF、もしくは10~250mの範囲の4-OIにより処置され、またはそれらが80%コンフルエンスに達した24~72時間後に処置された。EV回収曝露、馴化培地回収は、上記実施例1.2および1.1.2に記載されるように行われた。馴化培地をさらにスクリーニングして、ELISAを用いて抗炎症分子発現を検出した。UC-MSCでプライミングされたエキソソーム変異体をコンビナトリアルプライミングセット(低酸素状態の存在下でのSRT1活性化因子およびNrf2活性化因子)から単離し、エキソソームのプライミングされた変異体は、種々のカーゴ分子を検出するためにELISAによって特徴付けられた。
【0172】
3.9.低酸素状態の存在下でのSIRT1活性化因子(SRT-2104またはトランス-レスベラトロール)によるUC-MSCのコンビナトリアルプライミングプロトコール(EXO変異体B’)
UC-MSCを、実施例1.3に記載されるプロトコールに従って継代5~6まで培養し、低酸素状態/正常酸素状態のサイクル(30~90分間隔で8~20サイクル)で低酸素症を生じさせた。低酸素濃度は0.5~10%であり、正常酸素状態では、酸素濃度はトリガスチャンバーインキュベーターセットアップを用いると14~22%であった。一旦UC-MSCが低酸素状態処置において80%コンフルエンスに達すると、細胞生存性、HIF-1α、HGF、VEGFおよびTNF-α発現をセクレトームおよび誘導性エキソソーム変異体においてチェックした。セクレトームおよびエキソソームプロファイルは、正常酸素状態の条件で細胞を維持したUC-MSC由来のエキソソームと比較された。さらに、0.00001~0.01μMの範囲のSRT-2104、または0.1~10μMの範囲のトランス-レスベラトール(RSV)を用いて、代替の低酸素状態/正常酸素状態サイクルの存在下でUC-MSCプライミングを誘導した。上記実施例1.2および1.1.2に記載されるように、EV回収曝露、馴化培地回収を行った。
【0173】
3.10 Nrf2活性化因子(低酸素状態下のDMFまたは4-OI)を用いたUC-MSCのコンビナトリアルプライミングプロトコール(EXO変異体B’)
UC-MSCを継代まで培養し、上記実施例3.8に記載されるように低酸素症を生じさせた。EV回収にシフトする前に、UC-MSCをNrf2活性化因子である、10~250μmの範囲のDMF、または10~250μmの範囲の4-OIで24~72時間処置した。上記実施例1.2および1.1.2に記載されるプロトコールに従って、EV回収曝露、馴化培地回収を行った。セクレトームは、ELISAによってNrf2、HIF-1α、HGF、VEGF、sFLT1のレベルを検出することにより特徴付けられたが、プライミングされたエキソソーム変異体(B’)は、Nrf2、HIF-1α、VEGF、sFLT1、IL-10、SIRT1などのエキソソームカーゴ分子発現のレベルを検出するELISAによって特徴付けられた。
【0174】
3.11 オールトランスレチノイン酸(ATRA)による幹細胞の単一プライミングプロトコール
UC-MSC/hBM-MSCを上記のプロトコールに従って培養した。継代5~6をプライミングされたエキソソーム産生に使用し、UC-MSC/hBM-MSCを、EV回収にシフトする24~72時間前に、一定範囲の動作濃度(0.1~500)μMを有するATRA誘導因子により処置した。Rooster EV回収インキュベーション、馴化培地回収を上記のように行った。プライミング後、UC-MSC/hBM-MSCでプライミングされた馴化培地/セクレトームをELISAアッセイキットでスクリーニングし、COX-2、HIF-1、CXCR4、CCR2、VEGF、Ang-2およびAng-4の発現レベルを検出した。次に、プライミングされたエキソソーム変異体は、COX-2、HIF-1、CXCR4、CCR2、VEGF、Ang-2およびAng-4などのエキソソームカーゴ分子の発現レベルを検出するためにELISAアッセイによって特徴付けられた。得られた結果に基づき、UC-MSC/hBM-MSCプライミングのために濃度ATRAを最終化した。
【0175】
ATRAはMSCの生存率を増加させることが見出されている。これは、MSCを種々の濃度のATRA(0.1μM~500μM)で24時間および48時間処置し、それらの生存率をMTTアッセイにより調べたときに確認された。MSC生存率は、0.1μmol/L ATRAを除くすべての処置されたMSCにおいて有意に高かった。ATRAはPGE2レベルを上昇させた。様々な濃度のATRA(1、10、100μmol/L)によるMSCの前処置は、MSCにおいて用量依存的にPGE2レベルを有意に増加させた。ATRAは、MSCの生存、遊走および血管新生に関与する遺伝子の発現を増加させた。COX-2、HIF-1、CXCR4、CCR2、VEGF、Ang-2およびAng-4のmRNAレベルは、定量的リアルタイムPCRにより推定され、MSCをATRA(1、10、100μmol/L)により処置した場合、用量依存的に上昇した。
【0176】
3.12.低酸素状態の存在下でNrf2活性化因子、SIRT1活性化因子、ATRAを用いた幹細胞のコンビナトリアルプライミングプロトコール(EXO変異体B’)
UC-MSC/hBM-MSCを継代(5-6)まで上記のように培養し、低酸素症を本明細書に記載されるように生じさせた。EV回収にシフトする前に、UC-MSC/hBM-MSCをNrf2活性化因子(DMF、4-OI)で24~72時間処置した。EV回収曝露、馴化培地回収は、上述のように行われた。
【0177】
セクレトームは、ELISAによりNrf2、HIF-1α、HGF、VEGF、sFLT1のレベルを検出することによって特徴付けられた。
【0178】
プライミングされたエキソソーム変異体は、Nrf2、HIF-1α、VEGF、sFLT1、IL-10、SIRT1などのエキソソームカーゴ分子発現のレベルを検出するELISAによって特徴付けられた。
【0179】
3.13.低酸素状態の存在下におけるATRA誘導因子を用いたUC-MSC/hBM-MSCのコンビナトリアルプライミングプロトコール(Exo変異体B’)
UC-MSC/hBM-MSCを上記のように継代まで培養し(5-6)、記載されるように低酸素症を生じさせた。EV回収にシフトする前に、UC-MSC/hBM-MSCをATRA誘導因子(0.1~500)μMで24~72時間処置した。Rooster EV回収曝露、馴化培地回収を上記のように行った。セクレトームは、さらに、ELISAによりCOX-2、HIF-1、CXCR4、CCR2、VEGF、Ang-2およびAng-4のレベルを検出することによって特徴付けられた。
【0180】
プライミングされたエキソソーム変異体は、COX-2、HIF-1、CXCR4、CCR2、VEGF、Ang-2およびAng-4などのエキソソームカーゴ分子発現のレベルを検出するELISAによって特徴付けられた。
【0181】
3.14.低酸素状態の存在下でのSIRT1誘導因子およびATRAによるUC-MSC/hBM-MSCのコンビナトリアルプライミング(Exo変異体B’)
UC-MSC/hBM-MSCは、SRT2104活性化因子またはRSV誘導化プライミング後に上記のように培養された。低酸素状態/正常酸素状態のサイクル(30~90分間隔で8~20サイクル)で低酸素症を生じさせた。低酸素状態では酸素濃度を0.5~10%に保持し、正常酸素状態では酸素濃度を14~22%に保持した。細胞が80%コンフルエンスに達した後、24~72時間、ATRA誘導因子(0.1~500)μMにより処置した。上述のように、Rooster EV曝露、馴化培地回収を行った。
【0182】
馴化培地をスクリーニングして、ELISAを用いてCOX-2、HIF-1、CXCR4、CCR2、VEGF、Ang-2およびAng-4発現を検出した。
【0183】
最適化されたエキソソーム単離プロトコールに従って、UC-MSC/hBM-MSCでプライミングされたエキソソーム変異体は、コンビナトリアルプライミングセット(低酸素状態の存在下でのSRT1活性化因子およびATRA誘導因子)から単離された。エキソソームのプライミングされた変異体は、種々のカーゴ分子を検出するためのELISAによって特徴付けられた。
【0184】
エキソソームの異なるUC-MSC/hBM-MSCプライミングされた変異体は、質量分光分析により徹底的に特徴付けられ、タンパク質プロファイリングおよびNanostring分析などの技術を介したmiRNAプロファイリングを検出した。各エキソソーム変異体の機能的有効性は、2Dスクラッチアッセイ、抗炎症アッセイ、抗線維症、促進/抗血管新生および再神経支配アッセイなどのインビトロアッセイを用いて試験された。異なる変異体の機能的有効性に基づき、最もスコアが高いエキソソーム変異体を選択し、抗炎症性疾患モデルのインビボ(in vivo)前臨床試験のために継続する。LPS誘導されたARDS誘導およびブレオマイシン処置された肺傷害モデルは、最もスコアが高いエキソソームのインビボ有効性試験に使用される。
【0185】
[実施例4]
エキソソームの単離および精製
馴化培地は、それぞれ実施例1.2.2および1.3.2に記載されるプロセスに従って、hBM-MSCおよびUC-MSCから回収された。
【0186】
得られた馴化培地をセクレトームとして直接使用するか、またはエキソソームを単離するために超遠心分離に供した。馴化培地/セクレトームからのエキソソームの単離は、3つの方法:(i)単一工程の超遠心分離;(ii)スクロースベースのクッション密度超遠心分離、および(iii)イオジキサノール密度勾配超遠心分離を用いて行われた。
【0187】
馴化培地/セクレトームからのエキソソームの単離は、以下の3つの方法によって行われた。
【0188】
4.1 スクロースベースのクッション密度超遠心分離
次の工程に従い、スクロースベースのクッション密度遠心分離を用いてエキソソームを精製した。
【0189】
(i)細胞が80%コンフルエンシーに達した後、培地を除去し、細胞を1×PBS(20mL)中で洗浄し、続いて、260mLのEV回収培地をフラスコに添加し、次に、フラスコを72時間、37℃および5%COでインキュベートした。
【0190】
(ii)上清を回収し、下記のように前処理工程に進んだ:
a.培地を300×gで10分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
b.上清を3000×gで20分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
c.上清を13000×gで30分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
d.培地を0.45ミクロンのフィルターで濾過した。
e.次に、培地を0.22ミクロンのフィルターで濾過した。
【0191】
(iii)馴化培地は、4℃で短期保存(24時間)または-80℃で長期保存(1ヵ月)で保存した。しかしながら、培地を直ちに処理した場合、または凍結した場合は、馴化培地を4℃にし、以下に記載するプロトコールに従った:
a.馴化培地を100,000×gで90分間、4℃にて遠心分離した。
b.上清を慎重に除去した。チューブの底部に透明なペレットを観察した。
c.濃縮されたエキソソームを30%スクロース(1M)含有超遠心分離管上に、記載されるように移した。
d.速度は100000gで2時間、4℃に設定し、加減速はゼロに設定した。
e.上清を慎重に除去し、エキソソームを滅菌した1×PBSに再懸濁した。
f.エキソソームを分注し、-80℃で保存した。
【0192】
4.2 単一工程の超遠心分離:
以下の工程に従い、単一工程の遠心分離を用いてエキソソームを精製した。
(i)細胞を80%コンフルエントにした後、培地を除去し、細胞を1×PBS(20mL)中で洗浄した。PBSを廃棄し、40~45mL/フラスコのEV回収培地をフラスコに添加し、次に72時間、37℃および5%COでインキュベートした。上清を回収し、次のように前処理工程を進めた:
a.培地を300×gで10分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
b.上清を3000×gで20分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
c.上清を13000×gで30分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
d.培地を0.45ミクロンのフィルターで濾過した。
e.次に、培地を0.22ミクロンのフィルターで濾過した。
【0193】
馴化培地は、4℃で短期保存(24時間)または-80℃で長期保存(1ヵ月)で保存したが、処理直後または解凍した試料を用いた場合は、以下のプロトコールを用いた:
a.馴化培地を、100,000×gで90分間、4℃にて遠心分離した。
b.上清を慎重に除去した。チューブの底部に透明なペレットを観察した。
c.ペレットをPBS/生理食塩水に溶解した。0.5mLの粗エキソソームをQCのために-80℃で保存した。
【0194】
4.3.イオジキサノール密度勾配超遠心分離
細胞が80%コンフルエント(例えば、43000~50000細胞/cm)に達した後、培地を除去し、細胞を1×PBS(20mL)中で洗浄し、続いて、40~45mL/フラスコのEV回収培地をフラスコに加え、72時間、37℃および5%COでインキュベートした。上清を回収し、直ちに下記のように前処理工程に進んだ:
a.培地を300×gで10分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
b.上清を3000×gで20分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
c.上清を13000×gで30分間、4℃にて遠心分離し、上清を回収した。
d.培地を0.45ミクロンのフィルターで濾過した。
e.次に、培地を0.22ミクロンのフィルターで濾過した。
【0195】
馴化培地は4℃で短期保存(24時間)または-80℃で長期保存(1ヵ月)で保存した。直ちにまたは凍結試料を用いて処理するために、以下のプロトコールに従った:
1.馴化培地を、100,000×gで90分間、4℃にて遠心分離した。
2.上清を慎重に除去した。チューブの底部に透明なペレットを観察した。
3.ペレットを36mLのEV回収培地(開始馴化培地300mLあたり36mL)に溶解した。0.5mLの粗エキソソームをQCのために-80℃で保存した。
【0196】
密度勾配超遠心分離(DGUC):
NaCl(150mM)および25mM Tris:HCl(pH7.4)を含有する3mLの10%w/v IDX溶液(Sigma #D1556)を3mLの55%w/v IDX溶液に浮遊させて、イオジキサノール(IDX)勾配を調製した。濃縮された馴化培地(6mL)をIDXクッションの上部に浮遊させ、Beckman Coulter SW 40 Tiローターを用いて4.5時間、100,000×g(4℃)で超遠心分離した。氷上の勾配の上部から12画分(各1mL)を回収し、予め冷却した1.5mLチューブに各画分を回収した。画分-9を新鮮な超遠心分離管に移し、11mLのPBSを1mL画分に添加した。超遠心分離を100,000×gで4時間、4℃でBeckman Coulter SW 40 Tiローターを用いるOptima XPN-100超遠心分離機中で繰り返した。上清を廃棄し、エキソソームを1mL PBS中に再懸濁した。50~100μLの異なるアリコートを調製し、4℃で短期(2~3日間)および-80℃で長期保存で保存した。
【0197】
上記の3つの方法のすべてに続いて、サイズ排除クロマトグラフィー(Captocore 700カラムを用いる)を使用して第2ラウンドの精製を行った。エキソソーム精製のプロセスは、出願中のPCT/IN2020/050622、PCT/IN2020/050623、PCT/IN2020/050653に詳細に記載されており、本開示にそれらの全体が組み込まれる。本実施例は、hBM-MSCおよびUC-MSCから回収された馴化培地からのエキソソームの単離および精製を示すが、しかしながら、当業者は、限定されないが、CSSC、WJMSCを含む幹細胞から回収された馴化培地からエキソソームを得ることができると考え得る。本明細書に記載の幹細胞は、ナイーブ幹細胞または実施例3に記載される異なるプライミング剤でプライミングされた幹細胞であり得、ナイーブ幹細胞(A)/プライミングされた幹細胞(A’)は、本実施例に記載されるプロトコールに従うことによって、それぞれナイーブエキソソーム(B)/プライミングされたエキソソーム(B’)を得るために用いることができる馴化をさらに回収するために使用される。
【0198】
[実施例5]
エキソソームの特徴付け
実施例4に記載されるように、採取または精製したエキソソームは、ナノ粒子追跡分析(NTA)、透過型電子顕微鏡(TEM)、ウエスタンブロッティング、質量分析、ならびにリアルタイムPCRおよびRNAseqによるRNA含有量の分析などの方法によって特徴付けられた。特徴付けられたエキソソーム変異体は、ナイーブエキソソーム(B)またはプライミングされたエキソソーム(B’)である。
【0199】
5.1 NTA分析
精製したエキソソームを滅菌PBSに溶解し、別のアリコート(20~50μl)のエキソソーム画分を-80℃で保存した。オートクレーブしたミリQを0.22μmシリンジフィルター/ヌクレアーゼ不含水で濾過し、試料希釈に用いる。エキソソーム試料の1:500希釈をNTAデータ獲得のために使用した。ピペッティングにより混合した後、2μlのエキソソーム試料をアリコートから取り出した。これを1.5mlマイクロ遠心分離管中の998μlのミリQに添加し、1mlピペットと複数回混合した。計器情報およびデータ獲得設定は、以下の設定:カメラレベル16、利得3および3回の実行、各30秒の実行および閾値を用いて、データ獲得のためにMalvernからのNanosight LM10を使用することによって行われた。
【0200】
5.2 エキソソームの透過型電子顕微鏡画像
エキソソームペレットを0.1Mカコジル酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の1mLの2.5%グルタールアルデヒドで1時間、4℃にて固定した。固定液を除去し、ペレットを室温で1mLの0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液でリンスした。これを3回繰り返し、各サイクルを10分間持続させた。試料を1mLの2%四酸化オスミウムを用いて1時間、4℃で固定した。固定液を除去し、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液で10分ごとに3回リンスした。試料を、段階的アセトンシリーズ(それぞれ、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%)を用いて、シェーカー上で10分間インキュベートした。アセトンを除去し、3:1のアセトン:低粘度包埋混合物の溶液を30分間インキュベートして、エキソソームペレットを得た。さらに、1:1のアセトン:低粘度包埋混合培地を再度添加し、30分間インキュベートした。培地を除去し、1:3のアセトン:低粘度包埋混合培地を添加し、続いて30分間インキュベートした。さらに、培地を除去し、100%低粘度包埋混合物を添加し、一晩、室温でインキュベートした。
【0201】
試料を包埋用鋳型を用いて純粋な低粘度包埋混合物に包埋し、24時間、65℃で焼成した。厚さ60nmの切片を超ミクロトームを用いて得、2%酢酸ウラニルで20分間、二重染色し、クエン酸鉛で10分間、二重染色し、80kVで透過型電子顕微鏡下でグリッドを観察した。
【0202】
5.3:ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティングは、以下に記載される2つのプロセスに従って行われた。
【0203】
5.3.1:プロトコール1
2億個の粒子に相当する20μlのエキソソーム溶解物を、20μlの2×Laemmli試料緩衝液(CD63、CD9およびCD81のためのβメルカプトエタノールを含まない)と混合した。95℃で10分間加熱し、ボルテックス後、ゲルに装填した(12%SDS-PAGE)。AlixおよびTSG101については、βメルカプトエタノールを含む2×Laemmli試料緩衝液(例えば、還元条件下)を抗体データシート試料調製に従って使用した。
【0204】
5.3.2 プロトコール2
約0.4 2nのエキソソームを凍結乾燥し、その後、20μlのヌクレアーゼ不含水を凍結乾燥したエキソソームに添加した。これに続いて、20μlの2×Laemmli試料緩衝液を添加し、それを95℃で10分間加熱した。ボルテックス後、ゲルに装填した(12%SDS-PAGE)。
【0205】
PVDF膜は、それが埋め込まれた2層の紙とともに適切なサイズに切断された。鉗子の手助けで白色膜を分離し、膜の活性化のために50mLのメタノールに浸漬した。1分間保存し、蒸留水でリンスした。次に、活性化された膜を50mLの1×転写緩衝液に移した。転写装置カセットを洗浄し、約30mlの1×転写緩衝液中で吸収紙を湿潤させた。1ブロットの吸収性ろ紙をカセットに入れ、次に膜、ゲルおよび濾紙を入れた。ブロットローラーを使用して、ブロットとゲルの間で気泡が除去されたことを確認した。転写は25Vおよび2.5Aで60分間設定した。
【0206】
転写完了後、PVDF膜を鉗子を用いて慎重に除去し、ブロッキング溶液(50mLの1×TBST中の5%無脂肪乳溶液)中で1時間、振とう器上で室温にてインキュベートした。次に、PVDF膜を鉗子を用いてブロッキング溶液から除去し、10分間、振とう器上で室温にて1×TBST洗浄を与えた。清潔な鉗子を用いて、タンパク質の大きさに従って、膜を慎重にストライプに切断した。
【0207】
PVDFストライプを、目的とするタンパク質に関して、それぞれの一次抗体(1×TBS中の0.1%BSA中で希釈される)中で、振とう器上で一晩、40℃にてインキュベートした。PVDF膜を翌日に一次抗体から除去し、1×TBST緩衝液中で6回リンスした(各リンスを5分間)。一次抗体を-20℃で保存することにより再使用した。膜を、振とう器上で2時間、室温にてHRPをコンジュゲートした二次抗体(1×TBS中の0.1%BSAで希釈される)とインキュベートした。膜を1×TBST緩衝液で6回洗浄し(各リンスを5分間)、最後の洗浄後、膜を発色に先立って転写緩衝液中に保持した。ブロットは、暗所でECL化学発光試薬を用いて発色させた(活性試薬は製造業者のガイドラインに従って調製した)。
【0208】
5.4 質量分析
5.4.1 試料の調製:
試料を2~8℃で解凍し、25μLの試料を25μlの溶解緩衝液(0.1%Triton-X100、100mM DTT、150mM Tris-HCl pH8.0)と混合し、続いて1時間、室温でインキュベートし、短時間超音波処理した。得られた試料を、予めキャストされたSDS-PAGEゲル(Invitrogen NuPage 4-12%Bis-Tris勾配ゲル)上の3つの異なるレーンに装填した。短時間(10分未満)の電気泳動を一定電圧で行い、タンパク質試料から界面活性剤を除去した。ゲルコードブルー染色を用いて、タンパク質バンドを可視化した。システイン残基の還元およびアルキル化を含むゲル内トリプシンタンパク質消化法を利用してタンパク質を消化した。得られたトリプシンペプチドをプールし、C18 zip-チップを用いて清澄化した。Zip-チップ溶出液を乾燥に近いように濃縮し、8μLの0.1%FAに溶解した。タンパク質の同定のため、各々2μLの3回の反復注入を行った。
【0209】
5.4.2 質量分析に基づくタンパク質の同定
ナノフローセットアップを用いて、0.1%ギ酸(FA)の直線勾配を通して逆相液体クロマトグラフィーカラム上でトリプシンペプチドを分離し、110分間(総実行時間140分)かけて展開した。データは、データ依存モードで良好に最適化された条件で回収された。最適化条件標準では、2μg負荷でのHe-La細胞トリプシン消化により、6000個のタンパク質の同定が提供された。試験試料の獲得されたMSおよびMS/MSデータは、Maxquant Softwareを用いてヒトプロテオームデータベースに対して検索された。タンパク質の同定は、以下の基準で行われた:(a)4回の切断を許容しないトリプシン消化ペプチド、(b)ペプチド耐性<10ppm、(c)≧1個の固有のペプチド、(d)FDR<1%、(e)固定修飾-システインのカルバミドメチル化および可変修飾-メチオニンの酸化。
【0210】
表9は、プライミングされたエキソソーム変異体中にカーゴとして存在することができ、ウエスタンブロット、ELISA、または質量分析などのタンパク質検出の1つ以上の標準方法を用いて検出することができるタンパク質バイオマーカーのリストを示す。
【0211】
【表9-1】

【表9-2】


【表9-3】


【表9-4】


【表9-5】

【表9-6】

【表9-7】
【0212】
5.5 エキソソームRNA単離
5.5.1 エキソソームRNA単離プロトコール
製造業者のプロトコールに従って、QiagenのRNeasy Miniキットを用いて、ナイーブBM-MSC由来エキソソームからRNA抽出を行った。50億個のエキソソームがエキソソームRNAを単離すると考えられた。RNA定量化は、NanodopropおよびQubitで行い、QubitマイクロRNAアッセイを用いてmiRNA/低分子RNA分子の存在をチェックした。
【0213】
5.5.2 100億個の凍結乾燥したエキソソームからのエキソソームRNAの単離
miRVana miRNA単離キット(Cat#:AM1560)を用いてRNA抽出を行い、4つの溶出をそれぞれ25μl、25μl、50μl、および50μlの容量で行った。RNA定量化はNanodopropおよびQubitで行い、QubitマイクロRNAアッセイを用いてmiRNA/低分子RNA分子の存在をチェックした。
【0214】
5.5.3 エキソソームmiRNAプロファイリング
抽出したエキソソームRNAの種々の溶出物を、バイオアナライザーで実行して、低分子RNAおよびmiRNAの存在をチェックした。溶出物を一緒にプールし、NanoStringプラットフォームを用いてmiRNAプロファイリングを行うために調製した。すべてのプロセスは、製造業者の説明書に基づいて行われた。
【0215】
表10は、プライミングされたエキソソーム変異体において分析されたmiRNAのリストを示す。
【0216】
【表10-1】


【表10-2】

【表10-3】


【表10-4】

【0217】
表11は、プライミングされたエキソソーム変異体において分析されたmRNAのリストを示す。
【0218】
【表11-1】

【表11-2】
【0219】
5.6 リアルタイムPCR
RNAeasyおよびmirVanaTM(n=3)を用いて単離された全RNAは、Turbo DNaseフリーキット(Ambion)を用いてDNase処置された。miRCURYTM LNATMマイクロ-PCRシステムを用いて、製造業者のプロトコールに従い、最初の鎖cDNA合成およびリアルタイムPCRを行った。簡単に説明すると、各cDNA合成は、固定容量の総RNA、miR-451特異的リバースプライマー(遺伝子ID:574411)、および第1鎖cDNA合成キット試薬を用いて二重に行って、30分間、50℃でインキュベートし、続いて10分間、85℃でインキュベートした。次に、各cDNA試料を1:10に希釈し、miRCURYTM LNATM SYBR(登録商標)Greenマスターミックス、ユニバーサルプライマーおよびLNATM PCR miR-451特異的プライマーを用いて二重にして使用した。PCRを95℃で10分間;95℃で10秒間+60℃で5秒間を40サイクル行い、融解曲線により5秒で各0.5℃について最終化した。対照試料を並行して実行した。CFX96リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)を、cDNAとリアルタイムPCR反応の両方に利用した。
【0220】
[実施例6]
エキソソームの機能的特徴付け
エキソソームは、以下のアッセイ:a)スクラッチアッセイ(創傷治癒能力);b)抗炎症アッセイ;c)抗線維症アッセイ;d)再神経支配アッセイ;e)血管新生(抗/促進)アッセイを評価することによって機能的に特徴付けられた。
【0221】
6.1 スクラッチアッセイ
不死化されたヒト角膜上皮細胞(hTCEPI)を2Dスクラッチアッセイに使用した。hTECPI細胞は、無血清培地中の5000細胞/cmの密度で組織培養処置された培養ディッシュに播種され、細胞は、ウェルの中心を横切るスクラッチを作製する前に、コンフルエントになるまで増殖させた。培地を除去し、細胞を1×PBSで洗浄して浮遊細胞を除去し、続いて、(1~20)×10エキソソーム/mLを含有する培地を各ウェルに添加した。細胞を37℃、5%COでインキュベートし、完全閉鎖まで6時間毎にスクラッチ閉鎖を評価した。細胞の画像を異なる時点(6時間毎)で取得し、創幅をImageJを用いて定量化した。採用された対照は、培地のみ(エキソソームなし)かまたはエキソソーム枯渇対照/培地のいずれかとした。
【0222】
6.2 抗炎症アッセイ
RAW264.7マクロファージ細胞を、完全培地(RPMI+10%FBS)中で5000細胞/cmの密度で組織培養ディッシュに播種し、細胞を80%コンフルエントまで増殖させた。無血清培地中で細胞を16時間飢餓状態にし、培地中に補充した(1~20)×10エキソソーム/mLの存在下または非存在下、LPS(10ng/mL)で4時間刺激した。培地を処置後に回収し、分泌されたサイトカインレベルをELISAにより測定した。さらに、細胞を溶解し、分泌されたタンパク質レベルを補足するために、サイトカインの転写レベルをqPCRにより測定した。採用された対照は、培地のみ(エキソソームなし)かまたはエキソソーム枯渇対照/培地のいずれかとした。
【0223】
6.3 抗線維症アッセイ
ヒト角膜上皮細胞は、無血清培地中で5000細胞/cmの密度で組織培養処置された培養ディッシュに播種され、細胞を80%コンフルエントまで増殖させた。培地に補充された(1~20)×10エキソソーム/mLの存在下または非存在下で、細胞をTGF-β(10ng/mL)で24時間処置した。I型コラーゲン、アルファ-平滑筋アクチン、およびフィブロネクチンの発現を免疫蛍光法により特徴付けることにより、線維症の誘導の程度を評価した。採用された対照は、培地のみ(エキソソームなし)かまたはエキソソーム枯渇対照/培地のいずれかとした。
【0224】
6.4 再神経支配アッセイ
PC12細胞を5000細胞/cmの播種密度でコラーゲン被覆したプレート上に播種し、培地を、細胞播種の24時間後に、(1~20)×10エキソソーム/mLの処置で無血清培地に置き換えた。画像は、3~5日まで24時間間隔で取得された。採用された対照は、培地のみ(エキソソームなし)かまたは陰性対照としてエキソソーム枯渇対照/培地のいずれかとし、一方、NGF(20ng/mL)を陽性対照とした。
【0225】
6.5 血管新生(抗/促進)アッセイ
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)または冠動脈内皮細胞(CAEC)をアッセイに使用した。HUVECは、10%FBS、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、100U/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補充したDMEM中で24時間増殖された。アッセイの1日前に、HUVEC細胞は、以下のように血清飢餓状態にした:細胞からの培地を吸引し、0.2%FBS、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、100U/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補充したDMEMの血清を減少させた培地を添加し、細胞をさらに24時間増殖させた。この工程後、300μLのマトリゲル(増殖因子の減少)を24ウェルプレートに添加し、37℃で30分間凝固させた。無血清培地中のHUVEC(2×10/ウェル)をエキソソーム(1~20)×10の存在下または非存在下でVEGFを補充した培地(濃縮)に24時間懸濁した。細胞を製造業者の説明書に従ってCell Tracker(商標)Green CMFDAで染色し、免疫蛍光染色を用いてチューブ形成を検出した。
【0226】
6.6.細胞形質転換アッセイ
3g/lのD-グルコース、5%ウシ胎児血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM/HAMのF-12中のマウス3T3細胞を細胞形質転換アッセイに使用した。3T3細胞(5000細胞/ウェル)をCorning(登録商標)Primaria(商標)6ウェルプレートに播種し、標準条件下(37℃、5%CO、95%湿度)で42日間培養した。播種24時間後に細胞を試料により処置し、培地を処置3日後に交換した。さらに、腫瘍プロモーターTPA(12-O-テトラデカノイル-ホルボール-13-アセテート、0.3μg/ml、Sigma#79346)を8日目、11日目、15日目、18日目に、21日目まで添加した。42日後、細胞をPBSで2回洗浄し、PBS/メタノール(50:50)で3分間固定し、100%氷冷メタノールで10分間洗浄し、最後にメタノールで2回洗浄した。
【0227】
本開示の目的のために採用された対照:(i)培地のみ(エキソソームなし);(ii)陰性対照としてエキソソーム枯渇対照/培地;(iii)陽性対照としてVEGFを採用した。
【0228】
[実施例7]
前臨床試験におけるエキソソームの有効性の調査
実施例8に記載されるように、異なる変異体の機能的有効性に基づいて、最もスコアが高いエキソソーム変異体を選択し、抗炎症性疾患モデルについてのインビボ前臨床試験のために継続し、選択されたエキソソーム変異体の適用は、特定の組織、すなわち、無血管および血管組織の再生のために使用された。
【0229】
7.1 インビボ有効性研究
以下に記載されるように、複数のインビボ急性呼吸窮迫症候群(ARDS)モデルにおいて、前臨床的有効性試験を行った。MSC由来のエキソソームをCOVID-19関連ARDSの1つ以上のin vivoマウスモデルにおいて使用した:
・LPS誘導した肺傷害モデル、または
・ブレオマイシン誘導した肺線維症モデル
【0230】
7.2 動物モデル
マウスモデル(8~10週齢)をインビボ研究の目的のために使用した。使用したマウスの系統はC57BL/6系統であった。
【0231】
7.3 投与モード
エキソソームを静脈内モード(i.v)グループ:グループ1:生理食塩水対照;グループ2:UC-MSC-Exo(ナイーブ/プライミングされた)を介して投与した。
【0232】
7.4 投薬量の計算
エキソソームの用量は、治療的適用のためのUC-MSCおよびエキソソームの使用に関する利用可能な臨床データおよび前臨床データの評価に基づいて決定された。
【0233】
7.5 前臨床研究投薬量(マウスモデル)
体重および表面積の違いに基づいて、ヒトと動物の用量等価式を計算した。
(i)マウス用量(kg体重あたり)=ヒトの用量(kg体重あたり)×12.3
(ii)ヒト用量:エキソソームを800~1,600億個の用量で投与した(平均体重70kgに対して13~26億個/kg体重)。
【0234】
エキソソームは160~320億個のエキソソーム/kg体重の高用量で投与された。
【0235】
7.6 LPS用量(LPS誘導した肺傷害モデル)
作業の本体が利用可能であることを考慮すると、本研究が亜致死および致死濃度の用量をカバーすることを保証するために、10mgと100~125mgとの間の用量が適切であると考えられた。100mgの用量は、LPS投与後の48~72時間で死亡を誘導することが予想された。
【0236】
7.7 ブレオマイシン用量(ブレオマイシン誘導した肺線維症モデル)
ブレオマイシン(50μL、3U/kg(2mg/kg))の単回気管内投与を決定した。
【0237】
7.8 インビボ読み出し:
端末読み出し:
・生存率
・組織学:HandE、マッソントリクロームまたはシリウスレッド
・総血球計数と差分血球計数の評価:自動分析装置
・線維化と炎症マーカーの特徴付け
・血清およびBAL試料における炎症性サイトカインプロファイリング
・炎症細胞型および亜集団分析
【0238】
時間的読み出し:
・総血球計数および差分血球計数の評価:自動分析装置
・血清試料中の炎症性サイトカインプロファイリング。
【0239】
[実施例8]
無血管組織(角膜)再生のためのプライミングされたBM-MSC由来の治療的に濃縮されたエキソソームの生成
タンパク質発現およびより高い再生ポテンシャルv/sカーゴタンパク質、またはバイオマーカーとの相関に基づいて、最も高いスコアのエキソソームを無血管組織再生に使用した。本実施例は、無血管組織、すなわち、巨大分子(CSSC由来の馴化培地(CSSC-CM))を媒介した骨髄由来の間葉系幹細胞(hBM-MSC)のプライミングを用いた濃縮されたエキソソームによる角膜再生を示す。
【0240】
8.1 CSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム
8.1.1 CSSC馴化培地によるhBM-MSCのプライミングの誘導
hBM-MSCは、CSSC由来の馴化培地(CSSC-CM)の10%および20%を置換するとともに、ゼノフリー培地中で培養され、80~90%のコンフルエンスに達した。次に、その後、培地を24~72時間、EV回収にシフトし、プライミングした馴化培地を回収し(実施例1.1および1.2に記載される)、イオジキサノール密度勾配法(実施例4.4に記載される)によりエキソソーム単離を行い、濃縮されたエキソソームを得た。均一画分F9は、さらなる機能分析のために考慮された。セクレトーム分析は、ELISAを用いて行われ、HGF、VEGF、sFLT1、IL-6、NGFのレベルを検出した。
【0241】
図1A~1Eは、CSSC由来の馴化培地でプライミングされたhBM-MSCに由来する濃縮されたエキソソームのセクレトームプロファイルを示す(実施例3.2を参照されたい)。図1Aは、対照エキソソームと比較して、CSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームからの分泌された肝細胞増殖因子(HGF)のレベルの増加を示す棒グラフを示す。同様に、図1C~1Eは、それぞれ、対照エキソソームと比較して、CSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームからの分泌されたsFLT1、IL-6、および神経成長因子(NGF)の増加したレベルを示す。図1Bは、対照エキソソームと比較して、CSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームからの血管内皮増殖因子(VEGF)の有意に低いレベルを示す。これらの結果は、hBM-MSCをCSSC馴化培地でプライミングして、治療的に濃縮されたエキソソームを生成することができることを示す。
【0242】
8.1.2 異なるCSSC馴化培地でプライミングされたエキソソーム変異体の抗炎症活性の特徴付け
CSSC馴化培地(CSSC-CM)でプライミングされたhBM-MSCに由来する異なるエキソソーム変異体を、RAW264.7細胞を用いてそれらの抗炎症活性を検出するために試験した。RAW264.7細胞をリポ多糖(LPS)結合タンパク質により処置して、エキソソームの存在下で炎症を誘導し、炎症におけるエキソソームの予防/予防効果をチェックした。図2A~2Bおよび2D~2Eに示されるように、CSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム変異体は、LPSにより処置されたRAW264.7細胞において、重要な炎症性サイトカイン(例えば、IL-6、IL-1β、TNF-αおよびIFN-γ)の炎症性サイトカインタンパク質発現を減少させた。さらに、全体的な炎症性サイトカイン遺伝子発現は、LPSで刺激したRAW264.7細胞においても減少し、CSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム変異体により処置した。図2A~3Eは、hBM-MSCに由来し、CSSC培地で馴化されたエキソソーム変異体が、炎症性サイトカイン発現および重要な炎症性サイトカイン(例えば、IL-6、IL-10、IL-1β、TNF-αおよびIFN-γ)の炎症性サイトカイン遺伝子発現を減少させることによる抗炎症活性を有することを示す。さらに、図3A~3Eから、CSSC-CMとNrf2活性化因子DMFの両方でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム(実施例3.6を参照されたい)は、LPSにより処置されたRAW264.7細胞において、抗炎症性サイトカインIL-10の発現レベルの増加、およびIL-6、TNFα、IL-1βのレベルの減少を示すことが推測され得る。
【0243】
8.1.3 CSSC馴化培地でプライミングされた異なるエキソソーム変異体の抗線維化性の特徴付け
CSSC馴化培地(CSSC-CM)でプライミングされたhBM-MSCに由来する異なるエキソソーム変異体(実施例3.2を参照されたい)を、プライミングされたエキソソームの抗線維化活性を検出するために試験した。エキソソーム変異体の抗線維化活性を試験するために、ヒト皮膚線維芽細胞をTGF-β(図4B)で24時間処置するか、またはTGF-βと指示されたエキソソーム(図4C~4F)を用いて同時処置し、線維化を誘導した(実施例6.3に類似する)。α-SMA発現を線維症マーカーとしてモニタリングし、エキソソーム変異体の有効性をチェックした。図4D~4Eを参照すると、20%および10%のCSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、線維芽細胞におけるTGF-β誘導したα-SMA発現を阻害することができることが観察され得る。hBM-MSCに由来するナイーブエキソソームにより処置された細胞は、プライミングされたエキソソーム(図4D~4E)と比較して、α-SMAを少量発現した(図4C)。20%および10%のCSSC-CMでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、対照およびナイーブエキソソーム処置と比較して、線維芽細胞における線維化を効率的に阻害することができた。
【0244】
8.2 Nrf2活性化因子(DMFまたは4-OI)でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム
8.2.1 NRF2活性化因子(DMFまたは4-OI)が媒介するhBM-MSC細胞のプライミングならびにセクレトームおよびエキソソームプロファイルの特徴付け
hBM-MSCは、製造業者が推奨するゼノフリー培地で培養した。hBM-MSC細胞を(80~90)%のコンフルエンシーに達するように増殖させ、Nrf2活性化因子(DMF-100μM)で24時間処置した後、EV回収培地中で細胞を24~72時間シフトさせ、維持した(実施例3.3を参照されたい)。72時間後、馴化培地を回収し、イオジキサノール密度勾配プロトコール(実施例4.4に記載される)を用いてエキソソーム単離を行った。
【0245】
図5は、ナイーブなエキソソーム、種々のNrf2活性化因子(例えば、DMFまたは4-OI)でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム、およびクルクミンなどの他のプライミング剤でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームの収率を定量化する棒グラフを示す。図5から、hBM-MScCに由来し、Nrf2活性化因子DMFまたは4-OIでプライミングされたエキソソームは、各々、未処置(ナイーブ)エキソソームおよび他のプライミング剤(例えば、クルクミンまたはクルクミンとDMFの組み合わせ)でプライミングされたエキソソームと比較して、より高い収率のエキソソームを産生したことが観察され得る。あるいは、図5はまた、Nrf2活性化因子が細胞のエキソソーム分泌において阻害効果を持たず、それらを良好なプライミング剤とすることを示唆する。
【0246】
8.2.2 プライミング剤を用いたプライミングされた細胞のセクレトームマーカープロファイリング
hBM-MSCを種々のプライミング剤(小分子)でプライミングし、セクレトームを回収した(実施例3.2~3.6を参照されたい)。セクレトーム分析はELISAを用いて行われ、HGF、VEGF、NGF、IL-6、sFLT1、SDF1のレベルを検出した。図6A~6Fは、クルクミン、4-OI、DMF、またはクルクミン馴化培地とDMFの組み合わせでプライミングされたhBM-MSCからのHGF、VEGF、NGF、IL-6、sFLT1、およびSDF-1の分泌されたタンパク質レベルの定量化の棒グラフを示す。
【0247】
Nrf2活性化因子、4-OIおよびDMFは、各々、他のプライミングされた変異体および未処置対照と比較して、HGF分泌の有意な増加を生じさせた(図6A)。VEGF分泌レベルは、使用されたプライミング剤に関係なく変化しなかった(図6C)。DMFによるプライミングは、sFLT1(図6D)、NGF(図6E)、およびSDF(図6F)の分泌の増加をもたらした。さらに、図6Bを参照すると、クルクミンおよびNrf2活性化因子(4-OIおよびDMF)は、各々、IL-6の分泌を減弱させることが観察され得る。NGF分泌レベルがNrf2活性化因子(4-OIおよびDMF)の各々によって増強されたことに留意することが適切である(図6E)。また、図6A~6Fから、クルクミン馴化培地+DMFの組み合わせは、HGF、VEGF、NGF、IL-6、sFLT1、SDF1のレベルに顕著な影響を及ぼさないようであることが観察された。
【0248】
8.2.3.種々のプライミング剤でプライミングされた細胞に由来するエキソソームからのエキソソームカーゴのプロファイリング
図7A~7Fを参照する。hBM-MSCを指示されたプライミング剤でプライミングし、セクレトームを回収し、Pandorumの最適化イオジキサノール密度勾配法(実施例4.3を参照されたい)を用いてエキソソーム単離を行い、HGF(図7A)、VEGF(図7B)、sFLT1(図7C)、NGF(図7D)、TGF-β(図7E)、およびSDF1(図7F)のレベルをELISAを用いて精製された画分9において検出した。図7Dに示されるように、DMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、ナイーブエキソソーム、または4-OI、クルクミン(CUR)もしくは合わせたクルクミンとDMF(CUR/DMF)などの他のプライミング剤でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームと比較して、有意に高いレベルのエキソソームNGFを含有する。同様に、DMFによるhBM-MSCのプライミングは、ナイーブエキソソーム、クルクミンでプライミングされた、または4-OIでプライミングされたエキソソームと比較して、エキソソームTGF-βの増加をもたらした。
【0249】
8.2.4.プライミングされたBM-MSCに由来するエキソソームの抗炎症活性
Nrf2活性化因子DMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム変異体(実施例6.2を参照されたい)は、RAW264.7細胞を用いてそれらの抗炎症活性を検出するために試験された。RAW264.7細胞をLPSにより処置して、プライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームの存在下および非存在下で炎症を誘導し、主要な炎症性サイトカインをELISAにより測定して、炎症におけるエキソソームの予防効果を決定した。図8A~8Eに示されるように、DMFまたはクルクミンでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、タンパク質レベルでのIL-6、IL-1β、TNF-αおよびIFN-γ発現の減少を示した。さらに、抗炎症性サイトカインIL-10は、DMFまたはクルクミンでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームにおいて有意に増加し、DMFおよびクルクミンでプライミングされたエキソソームが一般的な炎症性サイトカインを減少させるだけでなく、抗炎症作用も有することを示した。
【0250】
8.3 CSSC-CMおよびNrf2活性化因子でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム
8.3.1 CSSC馴化培地、Nrf2活性化因子またはその両方でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームからのエキソソームカーゴのプロファイリング
hBM-MSCは、製造業者が推奨するゼノフリー培地で培養された。hBM-MSCは、細胞が80~90%のコンフルエンシーに達するまで、CSSC-CMの存在下で、20%の総培地容量の濃度で増殖された。次に、培地を交換して、hBM-MSCをNrf2活性化因子(DMF-100μM)で24時間処置した後、EV回収培地中の細胞をシフトさせ、EV回収培地中で72時間維持した。72時間後、馴化培地を回収し、イオジキサノール密度勾配プロトコール(実施例4.4に記載される)を用いてエキソソーム単離(精製)を行った。HGF、VEGF、sFLT1およびNGFのレベルは、ELISAを用いて、異なるコンビナトリアルプライミングされたエキソソーム変異体において検出された(図9A~9D)。単一にプライミングされた(Nrf2活性化因子またはCSSC馴化培地)エキソソームは、エキソソームHGF、sFLT1およびNGFの増加を示したが、コンビナトリアルプライミングされた(CSSC-CMおよびDMF)エキソソームは、エキソソームHGF、sFLT1およびNGFの最高レベルを示した。
【0251】
CSSC-CMでプライミングされたエキソソームとDMFでプライミングされたエキソソームの両方は、エキソソームHGFの増加を示した。DMFでプライミングされたエキソソームにおけるエキソソームHGFの発現レベルは、ナイーブエキソソームの約1.2倍(1.2×)であり、CSSC-CMでプライミングされたエキソソームにおけるエキソソームHGFの発現レベルは、ナイーブエキソソームの約2倍(2×)であった。そうは言っても、コンビナトリアルプライミングされた(CSSC-CM+DMF)は、エキソソームHGFにおいて最も高い増加を示し、ナイーブエキソソームと比較してエキソソームHGFの発現レベルは2倍(2×)超または約3倍(3×)であり、DMFのみのプライミングと比較してエキソソームHGFの発現レベルは約2倍であった(図9A)。さらに、CSSC-CMでプライミングされたエキソソームおよび組み合わせてプライミングされた(CSSC-CM+DMF)エキソソームは、ナイーブエキソソームまたはDMFでプライミングされたエキソソームと比較して、エキソソームVEGF発現がいずれも実質的に減少し、VEGF発現の4分の1(1/4または25%)未満であった(図9B)。
【0252】
単一にプライミングされた(CSSC-CMまたはDMF)エキソソームは、エキソソームsFLT1およびNGFの増加を示した(図9C~9D)。DMFでプライミングされたエキソソームにおけるエキソソームNGFの発現レベルは、ナイーブエキソソームの2倍(2×)超または約3倍(3×)であり、CSSC-CMでプライミングされたエキソソームにおけるエキソソームNGFの発現レベルはナイーブエキソソームの約2倍(2×)であった。しかしながら、コンビナトリアルプライミング(CSSC-CMおよびDMF)されたエキソソームは、最も高いエキソソームsFLT1およびNGFを有し、CSSC-CMおよびDMFによるコンビナトリアルプライミングが、エキソソームまたはナイーブエキソソームの単一プライミングと比較して、より望ましいエキソソームカーゴをもたらす可能性があることを示した。コンビナトリアルプライミング(CSSC-CMおよびDMF)されたエキソソームのエキソソームsFLT発現レベルは、ナイーブエキソソームの2倍超であり、DMFでプライミングされたエキソソームの約2倍であった。コンビナトリアルプライミング(CSSC-CMおよびDMF)されたエキソソームのエキソソームNGF発現レベルは、ナイーブエキソソームの3倍(3×)超であり、DMFでプライミングされたエキソソームの約1.5倍(1.5×)であった。
【0253】
8.3.2 CSSC馴化培地およびNRF2活性化因子(DMF)でプライミングされた異なるエキソソーム変異体の抗炎症活性の特徴付け
CSSC馴化培地、Nrf2活性化因子DMF、またはそれらの組み合わせのいずれかでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、LPSにより処置されたRAW264.7細胞を用いて試験され、プライミングされたエキソソームの抗炎症活性を検出した。炎症性および抗炎症性サイトカインをELISAにより測定した。図10A~10Eに示されるように、CSSC-CMおよびNrf2活性化因子(DMF)で組み合わせてプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、タンパク質レベルでのIL-6(図10A)、IL-1β(図10B)、TNF-α(図10C)、およびIFN-γ(図10E)発現を減少させることによって炎症を減少させることができた。さらに、抗炎症性サイトカインIL-10の発現は、単一にプライミングされたエキソソーム(CSSC-CMまたはDMF)の処置により増加した。さらに、IL-10発現の最大の増加は、CSSC-CMおよびDMFによるhBM-MSCのコンビナトリアルプライミングに由来するエキソソームで達成された。
【0254】
これらのデータは、CSSC-CMとDMFの両方でプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームが、抗炎症性サイトカインの発現を増加させながら炎症性サイトカインの発現を効果的に減少させたことを示す。
【0255】
8.3.3 CSSC馴化培地+NRF2活性化因子(DMF)で組み合わせてプライミングされた細胞に由来するエキソソームの抗線維化活性の特徴付け
CSSC-CMおよびDMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、それらの抗線維化活性を検出するために試験された。ヒト皮膚線維芽細胞をTGF-βにより処置して線維症を誘導させた(実施例6.3を参照されたい)。線維芽細胞をプライミングされたエキソソームにより処置して、エキソソームの抗線維化活性を試験した。線維症マーカーであるα-SMA発現を免疫蛍光法を用いてモニタリングし、処置後のエキソソームの抗線維化活性の有効性をチェックした。図11A~11Fに示される代表的な免疫蛍光画像は、単一にプライミングされたエキソソーム(CSSC-CMまたはDMF)でさえも線維症を減少させたことを示す(図11Dおよび11E)。しかしながら、CSSC-CMおよびDMFの組み合わせでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、線維症の最大の減少を示した(図11F)。
【0256】
8.3.4 CSSC馴化培地、Nrf2活性化因子(DMF)、またはそれらの組み合わせでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームの創傷治癒活性の特徴付け
図12を参照する。CSSC-CM、Nrf2活性化因子(DMF)またはそれらの組み合わせでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、2Dスクラッチアッセイ(実施例6.2を参照されたい)においてそれらの効果を検出するために試験された。不死化されたヒト角膜上皮細胞(hTCEPi)を緑色蛍光色素(CMFDA)で標識し、hTCEPi細胞を介してスクラッチを生成した。hTCEPi細胞は、ナイーブエキソソーム(ナイーブBM-MSC)、単一にプライミングされたエキソソーム(CSSC-CMもしくはDMF)またはそれらの組み合わせにより処置され、創傷閉鎖は、蛍光顕微鏡を用いて、以下の時点0、24時間、48時間、および72時間で観察された。単一にプライミングされたエキソソーム処置およびその組み合わせは、72時間までに創傷閉鎖をもたらし、プライミングされたエキソソーム処置が有意な方向性細胞遊走をもたらしたことを示している。同様に、図13に示されるように、エキソソーム処置後の角膜細胞遊走および増殖の定量アッセイを行った。CSSC-CMおよびDMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームにより処置された角膜細胞は、ほぼすべての時点で最も高い細胞増殖を示したが、一方、DMFでプライミングされたエキソソームにより処置された角膜細胞は、CSSC-CMでプライミングされたエキソソームまたはナイーブエキソソームのみにより処置された角膜細胞と比較して、後の時点で細胞増殖が増加した。
【0257】
8.3.5 CSSC-CMおよびDMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームのウサギ角膜における創傷治癒活性の特徴付け
図14は、手術後1日目、7日目、および14日目の後に開いた上皮創傷を有するウサギ角膜の代表的な顕微鏡画像を示す。3Dモデルにおいて創傷治癒を効果的に誘導するhBM-MSCに由来するプライミングされたエキソソームの能力を試験するために、傷害されたウサギ角膜を、CSSC-CMおよびNrf2活性化因子DMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームと組み合わせた液体角膜生体ポリマー、液体角膜生体ポリマー単独、または未処置対照により処置した。術後7日目に、液体角膜生体ポリマーとCSSC-CMおよびNrf2活性化因子DMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームとの組み合わせは、液体角膜生体ポリマー単独または未処置対照と比較して有意な創傷治癒を示した。14日目に、液体角膜生体ポリマーとCSSC-CMおよびNrf2活性化因子DMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームとの組み合わせは、ウサギ角膜の完全であり、安定した上皮化を示した。液体角膜生体ポリマー単独による処置は、14日目にいくつかの破壊パッチを伴うほぼ完全な上皮化を示したが、一方、未処置対照は上皮化の欠陥を示した。図12、13、および14をまとめると、CSSC-CMとDMFの両方を組み合わせてプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームは、2Dスクラッチアッセイならびに角膜細胞遊走および増殖分析に基づいて優れた創傷治癒活性を示し、インビボでウサギ角膜において堅固な創傷治癒を示した。
【0258】
[実施例9]
血管多組織再生(肝臓、肺)のためのプライミングされたUC-MSC/WJ-MSC由来の治療的に濃縮されたエキソソームの生成
本実施例は、臍帯血由来の間葉系幹細胞(UC-MSC)/ホウォートンゼリー由来のMSC(WJ-MSC)のインビトロ培養を示す。UC-MSCおよびWJ-MSCを培養するためのプロトコールは、実施例1.5に記載されている。さらに、幹細胞の固有の亜集団(UC-MSCおよびWJ-MSC)は、実施例1.4に記載される方法に基づいて選択された。次に、幹細胞の拡大された集団を得て、異なるプライミング剤:(a)DMFまたは4-OI、またはCDDO-ImなどのNrf2活性化因子;および(b)SRT1活性化因子:SRT-2104、またはレスベラトールを単独でまたはそれらの組み合わせでプライミングした。幹細胞のプライミングは、低酸素状態の非存在下または存在下で可能である。本明細書にで言及されるプライミング剤で幹細胞をプライミングすることにより、増強された再生性、幹性および抗炎症性を有するプライミングされた幹細胞およびプライミングされた馴化培地を提供または得ることができる。Nrf2活性化因子またはSIRT1活性化因子などの単一のプライミング剤、またはNrf2活性化因子+SIRT1活性化因子などのプライミング剤の組み合わせでプライミングされたMSCは、特異的な/濃縮されたカーゴ装填因子を有する異なるエキソソーム変異体産生の供給源として使用された。次に、エキソソーム変異体は、それらの機能的有効性について物理的および分子レベルの両方で特徴付けられた。特徴付けられたエキソソーム変異体は、肺機能不全、急性呼吸窮迫、炎症関連障害、例えば、限定されないが、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、変形性関節症、NASH、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、心筋梗塞などの異なる炎症性および線維症関連疾患に対するそれらの機能に基づいて分類された。
【0259】
全体として、本開示は、プライミングされた幹細胞、およびプライミングされた馴化培地を提供または得る方法を提供する。本方法は、UC-MSCなどの間葉系幹細胞の集団、およびマーカーのシグネチャーセットを発現するWJ-MSCを単離する工程を伴う。次に、MSCの選択された集団を、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を用いて修飾し、hTERTは、細胞のスケーラブルであり、均一な集団を促進するのに役立つMSCの倍化ポテンシャルを拡大する。幹細胞は、さらに、3D培養システム(マイクロキャリアベースのシステム、またはスフェロイドベースのシステム、または中空糸バイオリアクター)中で培養され、幹細胞の拡大された集団を得る。幹細胞の拡大された集団は、さらに、異なるプライミング剤(小分子および巨大分子)でプライミングされる。プライミング剤(小分子およ巨大分子)の存在は、開示された濃度範囲とともに、細胞上のプライミング剤の処置期間は、プライミングされた幹細胞およびプライミングされた馴化培地を提供または得るために重要であり得る。単独またはそれらの組み合わせで使用される異なるプライミング剤を用いたナイーブ幹細胞のプライミングは、細胞の再生性、幹性および抗炎症性を増強するのに役立つ。プライミングされた幹細胞は、抗炎症因子、抗線維化因子、血管新生促進因子により濃縮される異なるエキソソーム変異体の供給源としてさらに使用される。次に、濃縮された治療グレードのエキソソームを、血管組織再生(肺または肝臓)、または無血管組織再生(角膜)のためにさらに適用する。本開示の開示された方法、高収率の濃縮されたプライミングされた幹細胞、またはプライミングされたエキソソームにより、限定されないが、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、心筋梗塞、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝疾患(NASH)、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、角膜の角膜炎(CK)、ドライアイ疾患潰瘍、ヘルペス性単純角膜炎、LASIK後拡張症、術後角膜融解、角膜プロテーゼ後融解、角膜穿孔、神経栄養性角膜炎(NK)、円錐角膜シェーグレン症候群、粘膜類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学熱傷、および熱傷を含む疾患を被る大多数の患者が処置され得る。
【0260】
[実施例10]
プライミングされたエキソソームによる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)誘導性肝スフェロイドの処置
本実施例は、標準条件下で増殖させたナイーブhBM-MSC(ナイーブエキソソーム)由来のエキソソーム、またはDMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソーム(プライミングされたエキソソーム)を用いた、ヒト肝スフェロイドにおける誘導性非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)表現型のインビトロ処置を示す。hBM-MSCの培養およびプライミング、ならびにプライミングされたhBM-MSCからのエキソソームの獲得のためのプロトコールは、実施例3および4、ならびに実施例8に記載される。特に、本実施例におけるNASH誘導性肝スフェロイドの処置に使用されるDMFでプライミングされたMSC由来エキソソームを産生させるためのプロトコールは、実施例8の8.2.1節に記載される。
【0261】
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、対象のアルコール消費とは無関係に、対象の肝臓に脂肪が蓄積する状態である。この疾患はいくつかの段階に分けられる。肝臓の脂肪が過剰になっても炎症または線維化が起こらない場合は、脂肪肝または非アルコール性脂肪肝(NAFL)と呼ばれ得る。いったん疾患がさらに進行し、肝組織が炎症および線維化を発症すると、この疾患は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれる。
【0262】
本研究では、ヒト肝スフェロイドを生成し、ヒト肝スフェロイドにNASH表現型を誘導するためのプロトコールは、以下の通りであった:初代肝細胞とヒトドナー由来の肝星細胞の混合物を70:30の比率(70肝細胞対30肝星細胞)で共培養した。細胞混合物を超低付着プレート上に播種し、培養して生存可能な肝スフェロイドを形成した。いったん生存可能な肝スフェロイドが得られると、脂肪症を誘導するために遊離脂肪酸、続く線維症を誘導するためにTGF-βの連続的処置を通して、NASH表現型が肝スフェロイドにおいて誘導され、そのため、肝スフェロイドが脂肪線維症肝の態様を示した。NASH誘導プロトコールは、播種後7日目に、スフェロイドをオレイン酸とパルミチン酸からなる600μM遊離脂肪酸(FFA)混合物で重量比2:1で6日間処置し、培地交換を隔日に行った。FFA処置の6日後(播種後の13日目)、FFA含有培地に20ng/mLのTGFβ1を添加し、さらに2日間、FFAおよびTGFβ1処置を組み合わせた。播種15日後(FFA処置の8日後、および組み合わせたFFAとTGFβ1の処置の2日後)、培地をTGFβ1単独処置に変更し、20ng/mLのTGFβ1を含み、FFA混合は含まない。2日後、播種後17日目に、スフェロイドをNASH誘導性(すなわち、脂肪線維症の態様を示す)と指定し、FFAまたはTGFβ1を用いない治療的処置(例えば、ナイーブまたはプライミングされたエキソソーム、HGF、または媒体対照を用いる)に供した。2日後、播種後19日目に、スフェロイドおよび馴化培地を採取し、特徴付けした。上記のNASH誘導性プロトコールは、以下:
0日目:初代肝細胞の播種
7日目:600μMのFFA混合物(オレイン酸とパルミチン酸の2:1混合物)による処置
13日目:組み合わせたFFAとTGFβ1処置にTGFβ1を追加
15日目:TGFβ1のみの処置
17日目:治療的処置(ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソーム、HGF、または媒体対照)
19日目:分析のために採取
に要約され得る。
【0263】
遊離脂肪酸混合物、続くTGF-βによる連続処置を伴うNASH誘導後、肝スフェロイドは、スフェロイドサイズの減少、コラーゲン沈着の増加、およびアルブミン分泌の低下を含むNASH様表現型を示した。次に、NASH誘導性肝スフェロイドをナイーブまたはプライミングされたhBM-MSCからのエキソソームの投与に供し、本明細書において以下に説明するさらなるアッセイに使用した。
【0264】
図15Aは、4つの条件下:(1)健常(NASH誘導なし);(2)、NASH誘導化(罹病/反転対照」);(3)NASH誘導化、続くナイーブエキソソームによる処置(「ナイーブ-Exo」);および(4)NASH誘導化、続くプライミングされたエキソソームによる処置(「プライミングされたExo」)で肝スフェロイド中のCYP3A4およびDAPIについて染色した代表的な免疫蛍光画像を示す。DAPIは核マーカーであり、CYP3A4は健常な肝組織を示すために使用されるマーカーであり、そのため、CYP3A4染色の減少は肝組織の健常の低下を示し、CYP3A4染色の増加は肝組織の健常の改善を示す。実施例6.3に記載したのと同じように、肝スフェロイドを画像化した。
【0265】
NASH誘導性肝スフェロイドは、NASH誘導に供されなかった健常肝スフェロイドと比較してCYP3A4染色の減少を示し、DMFでプライミングされたhBM-MSCからのプライミングされたエキソソーム(「プライミング-Exo」)で処置されたNASH誘導性肝スフェロイドの処置は、CYP3A4染色の部分的回復を示し、エキソソーム処置がNASH誘導性スフェロイドの健常を少なくとも部分的に回復するのに有効であることを示すことが見出された。対照的に、ナイーブエキソソーム(「ナイーブexo」)による処置は、ナイーブなエキソソーム処置と比較して、回復したCYp3A4染色を示さなかった。
【0266】
分泌されたアルブミンレベルは肝臓の健常を示すもう別のマーカーである。図15Bは、異なる条件下:(1)D19での健常(NASH誘導なし);(2)D19でNASH誘導化(「罹病/逆対照」);(3)D17-D19でNASH誘導化、続く40ng/mlの肝成長ホルモンによる処置(「HGF」);(4)D17-D19でNASH誘導化、続くナイーブエキソソームによる処置(「ナイーブ-Exo」);および(4)D17-D19でNASH誘導化、続くDMFでプライミングされたエキソソームによる処置(「プライミングされたExo」)で肝スフェロイドによる培地に分泌されたアルブミンレベルを示す棒グラフを示す。培地中に分泌されたアルブミンをELISA測定に基づいて定量化した。処置後24時間、48時間、および72時間(または健常およびNASH誘導化条件で同等の時間枠)に、それぞれの培地試料から測定を行った。DMFでプライミングされたエキソソームにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドは、上方制御されたアルブミン分泌を示し、スフェロイド健常の改善を示したことが見出された。対照的に、NASH誘導性肝スフェロイドをHGFまたはナイーブエキソソームにより処置しても、スフェロイドによるアルブミン分泌は増加しなかった。
【0267】
コラーゲンは、肝スフェロイドを含む肝組織における線維症のマーカーとして役立ち得る。図15Cは、以下の3つの条件下:(1)D17-D19でNASH誘導化および媒体対照による処置(「媒体対照」);(2)D17-D19でNASH誘導化、続くナイーブエキソソームによる処置;および(3)D17-D19でNASH誘導化、続くDMFでプライミングされたエキソソームによる処置(「プライミングされたExo」)で、肝スフェロイド中のコラーゲン1について染色した代表的な免疫蛍光画像を示す。実施例6.3に記載したのと同じように、肝スフェロイドを画像化した。NASH誘導性肝スフェロイドをプライミングされたエキソソームにより処置すると、媒体対照またはナイーブエキソソームによる処置と比較して、細胞表面コラーゲンタンパク質発現が減少した。
【0268】
図15Dは、以下の条件下での肝スフェロイドにおけるコラーゲン沈着の被覆率の定量化の棒グラフを示す。
【0269】
健常なD19は、反転群、媒体処置(罹病-D19)の健常対照として機能し、一方、右側の健常対照はD17疾患誘導群に対応し、FFAおよびFFA+TGFb1処置の対照として機能する。
【0270】
(1)D19におけるNASH誘導前(「健常」);
(2)NASHを誘導し、D17-D19で媒体対照により処置し、D19で採取した(「媒体処置」)。
(3)D17-D19でのHGF処置、D19「T1による反転」で採取;
(4)D13-D17におけるTGFβ1による線維症誘導中のナイーブエキソソームによる同時処置(「同時ナイーブエキソソーム処置」);
(5)D13-D17におけるTGFβ1による線維症誘導中のプライミングされたエキソソームによる同時処置(「同時プライミングされたエキソソーム処置」);
(6)NASH誘導後のD17-D19でのナイーブエキソソームによる処置(「ナイーブエキソソーム処置」);
(7)NASH誘導後のD17-D19でのプライミングされたエキソソームによる処置(「プライミングされたエキソソーム処置」);
(8)NASH誘導に供されず、D17で採取した(「健常対照」)。
(9)脂肪症誘導-TGFβ1を含まないFFA混合のみにより処置し、D15で採取した;
(10)FFAおよびTGFβ1による連続処置を伴う脂肪線維症誘導、D19で採取した(図15G;「脂肪線維症」を参照されたい)。
「健常対照」と「脂肪線維症」を比較すると、FFAおよびTGFβ1によるNASHの誘導は、肝スフェロイドにおいて線維症を誘導したが、FFA処置のみによる脂肪症の誘導はないことを示す。コラーゲン1染色のみに基づくと、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームのいずれかを添加すると、TGFβ1誘導性線維症が妨げられるようであった。また、コラーゲン1染色に基づいて、TGFβ1処置の停止および2日間の媒体によるその後の処置は、TGFβ1誘導性線維症を反転させるのに十分であったようである。しかしながら、NASH誘導性肝スフェロイドをナイーブエキソソームおよびプライミングされたエキソソームにより処置すると、両方とも媒体処置のみと比較して線維症の減少に媒体よりも効果的であることが見出された。
【0271】
図15Eは、図15Cにおけるコラーゲン染色に関して示されるように、肝スフェロイドについての同じ条件セットを用いて、別の線維症マーカーであるα-SMAについて染色されたエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドを含むNASH誘導性肝スフェロイドの代表的な免疫蛍光画像を示す。図15Fは、図15Dにおけるコラーゲン染色に関して示されるように、肝スフェロイドについての同じ条件セットを用いて、健常細胞と比較したα-SMA陽性細胞の相対強度の棒グラフを示す。α-SMA染色のみに基づくと、FFA混合物とTGFβ1によるNASH誘導、ならびにFFA混合物のみによる脂肪症誘導は、いずれも線維症を誘導するようである。また、α-SMA染色のみに基づくと、ナイーブエキソソームおよびプライミングされたエキソソームのいずれも、NASH誘導性線維症を減少させるのに媒体よりも効果的であったようである。さらに、α-SMA染色のみに基づくと、プライミングされたエキソソームによる同時処置は、ナイーブエキソソームではなく、α-SMAのNASH誘導に基づく増加を妨げたようである。
【0272】
本明細書で上述され、図15A~15Fに示されるように、FFA混合物またはTGFβ1などの疾患状態誘導剤、および/またはエキソソームなどの治療剤による処置の肝スフェロイドにおける効果は、免疫染色およびELISAなどの技術を用いて一度に1つのマーカー(または新しいマーカー)をアッセイすることができる。しかしながら、マイクロアレイまたは次世代シークエンシング(NGS)などのハイスループット技術を用いて、はるかに大きい計数のマーカー(数十、数百、数千)を同時にアッセイすることができる。図16Aは、マイクロアレイハイブリダイゼーションデータに基づく肝スフェロイドの遺伝子発現の変化のヒートマップを示す。マイクロアレイハイブリダイゼーションデータを以下のように獲得した:肝スフェロイド試料の増殖ならびにNASH誘導剤および/または上述の治療剤による処置後、肝スフェロイドを単離し、溶解し、mRNAを単離し、次に相補的DNA(cDNA)の配列に変換した。次に、cDNA試料をAgilent(登録商標)マイクロアレイに適用し、マイクロアレイリーダーで読み取った。マイクロアレイ分析は、標準方法を用いて、22,473個の遺伝子(マイクロアレイに含まれる)の所定のトランスクリプトームセットについて、標準化された発現値を得るために行われた。マイクロアレイ分析は、以下の条件(「肝スフェロイド状態」)下で肝スフェロイド試料を用いて行われた。
(1)NASH誘導後のD17-D19での40ng/mlのHGFによる処置(「HGF」);
(2)NASH誘導後のD17-D19でのナイーブエキソソームによる処置(「ナイーブエキソソーム処置」);
(3)D19でのNASH誘導化(「罹病」);
(4)D19でのNASH誘導に供されなかった(「健常」);
(5)NASH誘導後、D17-D19でのプライミングされたエキソソームによる処置(「プライミングされたエキソソーム処置」);
(6)D13-D17でのTGFβ1による線維症誘導中のナイーブエキソソームによる同時処置(「ナイーブエキソソーム同時」);ならびに
(7)D13-D17でのTGFβ1による線維症誘導中のプライミングされたエキソソームによる同時処置(「プライミングされたエキソソーム同時」)。
各条件は、30個のスフェロイドのプールに基づいており、ヒートマップは、プールされた試料からの発現プロファイルデータに基づいて作成された。
【0273】
ヒートマップでは、各行は遺伝子を表し、各列は肝スフェロイド状態を表す。列は、肝スフェロイド状態の各々における遺伝子発現パターンの階層的クラスター分析に基づいて配置される。それぞれの遺伝子発現パターンに関して互いに近くにクラスターを形成する肝スフェロイド状態の対は隣接する列として配置され、列を接続する括弧は、異なる肝スフェロイド状態のそれぞれの遺伝子発現パターン間の類似性の程度を反映している。図16Aに示されるように、肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルのクラスター分析は、NASH誘導性肝スフェロイドが潜在的な治療的処置に供された肝スフェロイド状態1、2、および5~7のうち、プライミングされたエキソソームで処置された肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルが、健常な肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルに最も密接に類似していることを示した。対照的に、ナイーブエキソソームで処置された肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルは、罹病肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルに最も密接に類似しており、プライミングされたエキソソームはNASH誘導を少なくとも部分的に反転させ、NASH誘導性肝スフェロイドの健常を改善するのに有効であったが、ナイーブエキソソームはこのような結果を達成するのに無効であったことを示した。
【0274】
異なる肝スフェロイド状態の各々における肝スフェロイドの遺伝子発現レベルはまた、特徴ベクター(「スフェロイド状態特徴ベクター」)としてそれぞれ表し、および保存し、所定のスフェロイド状態特徴ベクターの各エレメントはマイクロアレイにおいてアッセイされた遺伝子の1つの発現レベルであった。異なる状態間の遺伝子発現プロファイルの類似性(または類似性の欠如)は、n次元空間における特徴ベクターの対間の距離の尺度に基づいて決定した。nは、特徴ベクターの各々において表される遺伝子の数である。同様にこの距離分析に基づき、他の処置条件(すなわち、ナイーブエキソソーム同時条件、プライミングされたエキソソーム同時条件、およびナイーブエキソソーム処置条件)と比較して、プライミングされたエキソソーム処置条件(NASH誘導性肝スフェロイドをDMFでプライミングされたエキソソームにより誘導後に処置された)を表すスフェロイド状態特徴ベクターが、健常な肝スフェロイド(NASH誘導に供されなかった)を表すスフェロイド特徴ベクターまでのユークリッド距離が最も短いことが見出されたことが見出された。言い換えると、DMFでプライミングされたhBM-MSCからのエキソソームによる処置は、NASH誘導性肝スフェロイドの遺伝子発現プロファイルを健常な肝スフェロイドのそれに戻す際に試験された処置の中で最も効果的な処置であることが示された。
【0275】
図16Bは、健常対照肝スフェロイド、NASH誘導性肝スフェロイド、およびエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドにおいて差次的に発現された遺伝子の主成分分析に基づくプロットを示す。図は、図16Aに関して記載される同じ7つの肝スフェロイド条件:HGF、ナイーブエキソソーム処置、罹病、健常、プライミングされたエキソソーム処置、ナイーブエキソソーム同時、およびプライミングされたエキソソーム同時を表す種々のスフェロイド状態特徴ベクターを含むn次元空間の二次元投影を示す。二次元投影は主成分分析に基づく。肝スフェロイドにおけるNASH表現型の誘導は、健常対照遺伝子プロファイルと比較して、遺伝子プロファイルを下方および左方にシフトさせる差次的に発現された遺伝子を生成した。二次元投影で可視化されたマイクロアレイベースのトランスクリプトーム分析に基づいて、ナイーブエキソソームまたは40ng/mlのHGFによる処置はNASH誘導性肝臓の処置に有効ではないことは容易に明らかであり、図に示されるように、ナイーブエキソソームまたはHGFにより処置されたNASH誘導性肝スフェロイドの遺伝子発現プロファイルは、未処置のNASH誘導性肝スフェロイドから実質的に変化しなかった。対照的に、Nrf2活性化因子DMFでプライミングされたhBM-MSCに由来するエキソソームによるNASH誘導性肝スフェロイドの処置により、健常対照肝スフェロイドに近い、上方および右にシフトバックした遺伝子発現プロファイルを有する処置されたNASH誘導性肝スフェロイドが生じ、プライミングされたエキソソーム処置は、肝スフェロイドにおけるNASH誘導性遺伝的変化を反転させ、NASH誘導性肝スフェロイドの遺伝子発現プロファイルを健常肝スフェロイドのそれに非常に類似するように変化させる上で、他の評価した処置(ナイーブエキソソームおよびHGF)が実質的により効果的であることが示された。
【0276】
NASH誘導性スフェロイドにおけるエキソソーム処置の予防効果を検討するにあたり、NASH誘導性肝スフェロイドの処置に同時のエキソソーム(プライミングされたおよびナイーブ)を使用した。ナイーブであろうとプライミングであろうと同時にエキソソームを用いた処置は、罹病対照と比較して、差次的に発現された遺伝子の遺伝子プロファイルを有意に右にシフトさせ、同時エキソソームを伴うNASH誘導性肝スフェロイドにおける線維症進行の抑制に関連するいくつかの予防効果があることが示された。NASH誘導性肝スフェロイドにおけるナイーブ同時エキソソーム処置と、NASH誘導性肝スフェロイドにおけるプライミングされた同時エキソソーム処置との間には、差次的に発現された遺伝子にいくつかの顕著な違いがあった。そうは言っても、ナイーブエキソソームまたはプライミングされたエキソソームのいずれかによる同時エキソソーム処置は、NASH誘導性肝スフェロイドの遺伝子発現プロファイルを健常な肝スフェロイドのそれに非常によく似たものに変化させる点で、プライミングされたエキソソームによる一連の非同時処置よりも実質的に効果が低かった。
【0277】
図17Aは、図16Aに関して上述したマイクロアレイ研究においてアッセイされた遺伝子のサブセットである、ヒートマップ287個の肝臓特異的遺伝子を示す。図17Aに示されるように、図16Aに示されるのと同じセットの肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルのクラスター分析は、NASH誘導性肝スフェロイドが潜在的に治療的処置に供された肝スフェロイド状態のうち、プライミングされたエキソソームで処置された肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルが、健常な肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルに最もよく似ていることを示した。対照的に、HGF処置された肝スフェロイドの遺伝子発現プロファイルは、罹病肝スフェロイド状態の遺伝子発現プロファイルに最もよく似ており、続いてナイーブエキソソーム処置肝スフェロイド状態であった。
【0278】
図17Bを参照すると、異なる遺伝子のサブセットを用いて分析を繰り返すことにより、DMFでプライミングされたエキソソーム処置が、NASH病理を反転させるのに一貫して最も効果的であることが示された。図17B~17Gは、以下の遺伝子サブセットについてのクラスター分析を伴うヒートマップを示す。
図17B:184個のNASH/線維症関連遺伝子(Hoang et al., Gene Expression Predicts Histological Severity and Reveals Distinct Molecular Profiles of Nonalcoholic Fatty Liver Disease, Scientific Reports 9 (12541) 2019, Govaere et al. Transcriptomic profiling across the nonalcoholic fatty liver disease spectrum reveals gene signatures for steatohepatitis and fibrosis, Science Translational Medicine 12(572), Dec 2020 およびGu C et al., Identification of Common Genes and Pathways in Eight Fibrosis Diseases, Frontiers in Genetics, January 2021に基づく選択)。
図17C:294個の肝星細胞特異的遺伝子(Payen et al., Single-cell RNA sequencing of human liver reveals hepatic stellate cell heterogeneity, JHEP Reports 3(3) June 2021に基づく選択)。
図17D:生体異物代謝プロセスに関連する75個の遺伝子(遺伝子オントロジー参照文献GO:0006805に基づく選択)。
図17E:脂肪酸代謝に関連する50個の遺伝子(遺伝子オントロジー参照文献GO:0006631に基づく選択)。
図17F:エポキシゲナーゼP450経路に関連する15個の遺伝子(遺伝子オントロジー参照文献GO:0019373に基づく選択)。
図17G:脂肪線維症に関連する24個の遺伝子であって、2つの患者の独立したコホートにおける組織学的に定義されたNAFLD重症度の脂肪繊維症および線維症への悪化に関連する罹病組織における発現(Govaere et al. Transcriptomic profiling across the nonalcoholic fatty liver disease spectrum reveals gene signatures for steatohepatitis and fibrosis, Science Translational Medicine 12(572), Dec 2020に基づく遺伝子の選択)。
【0279】
図18A~Cは、エキソソーム処置前後の肝スフェロイドの状態、包括的遺伝子、肝臓特異的遺伝子、ならびにX、YおよびZ軸上のNASH/線維症関連遺伝子をそれぞれ含む状態のグラフを示す。図18A~18Cの各々は、以下の肝臓スフェロイド状態:健常(Heathy)、罹病(NASH誘導)、HGF処置、ナイーブエキソソーム処置、およびプライミングされたエキソソーム処置を表すスフェロイド状態特徴ベクトルを含む、それぞれのn次元空間を示す3次元投影図である。図18A~18Cの各々は、3つの2次元投影の組み合わせである図18A~18Cの各々に示される三次元空間を示し、X、Y、およびZ軸の各々は、本明細書の上記に記載されたマイクロアレイ研究における遺伝子アッセイのサブセットのJaccard類似性指数スコアのマトリックスの主成分分析(PCA)に基づいている(対象の一部は図17A~17Gに示される)。図18Aにおいて、X軸は、18,936個の遺伝子を有する包括的遺伝子のセットに基づいており、Y軸は、287個の肝臓特異的遺伝子のセット(図17Aにおいてヒートマップとして示される)に基づいており、Z軸は、184個のNASH/線維症遺伝子のセット(図17Bにおいてヒートマップとして示される)に基づいている。図18Bにおいて、X軸は、GO:0006954に基づく476個の炎症応答遺伝子のセットに基づいており、Y軸は、GO:0001525に基づく386個の血管新生遺伝子のセットに基づいており、Z軸は、GO:0022008に基づく937個の神経新生遺伝子のセットに基づいている。図18Cにおいて、X軸は、GO:0042060に基づく315個の創傷治癒遺伝子のセットに基づいており、Y軸は、127個の組織リモデリング遺伝子のセット(GO:0048771に基づく)に基づいており、Z軸は、GO:0031012に基づく405個の細胞外マトリックス遺伝子のセットに基づいている。図18A~18Cに示される3次元空間の一側である各2次元投影は、それぞれの3次元空間に提供される3軸のうち2軸を使用する。
【0280】
各投影において、健常肝スフェロイド状態は[1,1]の座標が割り当てられ、残りの状態の座標はJaccard類似性指数に基づいて決定される。図18A~18Cの各々に示されるように、NASH誘導性肝スフェロイドのDMFでプライミングされたエキソソーム処置は、遺伝子発現パターンに基づいて、NASH誘導性肝スフェロイドの部分的回復を誘導し健常状態に戻す:DMFでプライミングされたエキソソーム処置状態の座標値は、Z軸上で前方に、X軸上で右に、Y上で上方に、罹病スフェロイドの座標値から離れて、健常状態の座標値に向かってシフトされる。対照的に、ナイーブエキソソームで処置されたNASH誘導性肝スフェロイド、ならびにHGFで処置されたNASH誘導性肝スフェロイドは、DMFでプライミングされたエキソソーム処置状態または健常状態よりも罹病状態に実質的に類似した3軸すべてにおいて座標値を有した。
【0281】
上記の結果に基づいて、治療的に有効な用量のDMFでプライミングされたエキソソームのNASHを有するヒト対象への投与は、対象におけるNASHを処置することが期待される。また、DMFでプライミングされたエキソソームはNAFLDおよびNAFLの処置に効果的であることが期待される。さらに、DMFでプライミングされたエキソソームは肝線維症の処置に効果的であることが期待される。
【0282】
図19は、罹病状態に類似した発現レベルから、DMFでプライミングされたエキソソームによる処置後の健常状態の発現レベルに類似した発現レベルまで、その発現レベルが最も堅固に反転した、87個の遺伝子のショートリストされた選択のヒートマップを示す。これらの遺伝子は、肝スフェロイドだけでなく、インビボでの肝組織における健常状態またはNASH誘導を決定するためのマーカーとして用いることができる。これらの87個の遺伝子は、分泌(GL:0046903)、細胞ホメオスタシス(GO:0019725)、創傷治癒(GO:0042050)、脂質生合成(GO:0008610)などの、NAFLDおよびNASH疾患進行と同様に肝機能に関連する種々のシグナル伝達経路に代表される遺伝子を含む。このように、NASH誘導中の肝スフェロイドの遺伝子発現パターンおよび本明細書に記載されるDMFでプライミングされたエキソソームによるその処置は、インビボでのNAFLDおよびNASHの臨床発現、ならびにこれらの状態からの回復に機構的に連結していることが示される。
【0283】
87個の遺伝子のうち、以下の遺伝子は、DMFでプライミングされたエキソソーム:FOXA1、FOXA3、MMP10、FGFR2、FGFR3、ANGPT2、ANG、ATP1B、およびICAM2を用いた処置により、肝スフェロイドにおける肝臓の健常のためのマーカーとして、ならびに前記健常の回復のためのマーカーとして、特に堅固で有用であることが決定された。
【0284】
表12は、これら9個の遺伝子のLog2における遺伝子発現の正常化値を示す。
【0285】
【表12】

【0286】
本開示の利点
本開示は、組織の無血管および血管再生のための、抗炎症、抗線維症、創傷前治癒、血管新生(促進/抗)、および再神経支配因子を含む、濃縮された因子を伴う治療用エキソソームの産生のためのある特定の経路を活性化するための誘導因子の特定の組み合わせで、骨髄、脂肪、臍帯などの種々の組織源に由来するMSCをプライミングする方法を開示する。MSCのプライミングは、種々のプライミング剤(小分子および巨大分子)を用いて行われる。
本開示の利点は、以下のとおりである。
【0287】
1.本開示は、所望の治療効果、例えば、抗炎症、抗線維症、創傷前治癒、血管新生(促進/抗)、および再神経支配性を有するエキソソームを産生するためのマーカーのシグネチャーセット発現に基づいて、UC-MSC/WJ-MSCなどの幹細胞の固有集団の選択を提供する。
【0288】
2.本開示はまた、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を用いて、細胞および治療用エキソソームのスケーラブルであり、均一な産生を促進するためのMSC(eMSC)の倍加可能性を延長する、ヒトMSCの不死化/操作を提供する。
【0289】
3.本開示は、Nrf2活性化因子、SIRT1活性化因子、オールトランスレチノイン酸(ATRA)、CSSC由来の馴化培地などのプライミング剤を伴う方法を提供し、これらは単独でまたはそれらの組み合わせで使用することができる。プライミング剤を配備する方法は、再生治療効力において実質的に増強された濃縮された治療グレードのエキソソームを得るのに役立つ。
【0290】
4.本開示はまた、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、心筋梗塞、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝疾患(NASH)、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、角膜の角膜炎(CK)、ドライアイ疾患潰瘍、ヘルペス性単純角膜炎、LASIK後拡張症、術後角膜融解、角膜プロテーゼ後融解、角膜穿孔、神経栄養性角膜炎(NK)、円錐角膜シェーグレン症候群、粘膜類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学熱傷、および熱傷を含む炎症関連障害を処置するための誘導性および活性化エキソソームを提供する。
【0291】
5.本開示はまた、動物モデルにおいて治療効果を有するのに必要なMSCの細胞由来産物の量が約50μgのタンパク質または100億個近い粒子であるため、費用対効果の高い方法を提供する。物理的、分子的およびトランスクリプトーム分析を行うために、スケールアップ戦略は、次に、関与するコストを著しく減少させる前進の方法である。
【0292】
6.全体として、本開示は、プライミングされたMSCおよびプライミングされた馴化培地を得るために、異なるプライミング剤を用いてMSCを培養、拡大、およびプライミングするプロセスを開示する。したがって、本明細書に記載されるプロセスのスケーラビリティは、プロセスがゼノフリープロセスであるという事実とともに、商業的要件を満たすためのスケーラビリティの実施可能なオプションを与え、プライミングされたMSC、プライミングされた馴化培地に関して臨床グレードの最終製品を提供する。馴化培地(CSSC-CM)またはプライミングされた馴化培地をさらに処理して、関節リウマチ、全身性若年性特発性関節炎、特発性肺線維症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、肺炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、コロナウイルスクラスの感染症、嚢胞性線維症、ハンタウイルス、インフルエンザ、結核、全身性狼瘡、心筋梗塞、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝疾患(NASH)、肝線維症、ムーレン潰瘍、神経栄養性潰瘍、角膜の角膜炎(CK)、ドライアイ疾患潰瘍、ヘルペス性単純角膜炎、LASIK後拡張症、術後角膜融解、角膜プロテーゼ後融解、角膜穿孔、神経栄養性角膜炎(NK)、円錐角膜シェーグレン症候群、粘膜類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学熱傷、および熱傷からなる群から選択される状態を処置するために使用することができる臨床グレードのエキソソーム、セクレトーム、および他のセロ由来製品を得る。本開示によるエキソソーム収率は、生産コストに影響を与えることなくスケーラブルである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図16A
図16B
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F
図17G
図18A
図18B
図18C
図19
図20
【国際調査報告】