(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-14
(54)【発明の名称】視覚障害を治療するための眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/12 20060101AFI20240806BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240806BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20240806BHJP
A61K 36/9066 20060101ALI20240806BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240806BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240806BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240806BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240806BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240806BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61K31/12
A61P27/02
A61K31/575
A61K36/9066
A61K9/08
A61K9/06
A61K47/02
A61K47/40
A61K9/107
A61K9/127
A61K47/14
A61K47/24
A61K47/10
A61P27/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531741
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 IB2022057330
(87)【国際公開番号】W WO2023012754
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】MX/A/2021/009520
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MX
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524050981
【氏名又は名称】フードビカ ソシエダ アノニマ ド キャピタル バリアブル
【氏名又は名称原語表記】FOODVICA,S.A. DE C.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】カノ-サルミエント、シンシア
(72)【発明者】
【氏名】カスティーヨ-オルモス、アナ グアダルペ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア-ガリンド、ウーゴ セルヒオ
(72)【発明者】
【氏名】モラレス-メンドーサ、ミズライム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、特に水晶体を形成するタンパク質の変化に関連する、眼の水晶体構造の変化によって引き起こされる視覚障害の治療及び/又は予防のための眼科用組成物を提供する。治療有効量のテルペノイド又はその塩若しくは結晶形態と組み合わせたポリフェノール化合物からなる眼科用組成物であって、低減された適用数で疾患を治療するために低用量の生物活性化合物を必要とする組成物。具体的には、本発明の眼科用組成物は、疾患によって引き起こされる水晶体の混濁を逆転させることができることによって、白内障などの水晶体構造の変化によって引き起こされる視覚障害の治療及び逆転のために使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノール化合物及びテルペノイド、又はそれらのそれぞれの薬学的に許容される塩若しくは結晶形態を治療有効量で含むことを特徴とする眼科用組成物。
【請求項2】
前記ポリフェノール化合物が、天然クルクミノイド又はその誘導体から選択されることを更に特徴とする、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
前記ポリフェノール化合物が、クルクミン、ビスデメトキシクルクミン、デメトキシクルクミン及び合成由来ビス-o-デメチルクルクミン及び/又は他の脱メチル化クルクミノイド、又は上記の安定な異性体から選択されることを更に特徴とする、請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記ポリフェノール化合物が、天然クルクミンであることを更に特徴とする、請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
前記テルペノイドが、ラノステロール及びそのステロイド誘導体から選択されることを更に特徴とする、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
前記テルペノイドがラノステロール;ジヒドロラノステロール;4,4-ジメチルコレスタ-8(9),14,24-トリエン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8,24-ジエン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8-エン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8(9),14-ジエン-3β-オール;14-デスメチルラノステロール;ラトステロール;Δ7.24-コレスタジエノール;コレステロール;コレスタ-7-エノール;コレステロールエステル、7-デヒドロコレステロール;デスモステロール;7-デヒドロデスモステロール;ジモステロール;27-ヒドロキシコレステロール;コレスタ-7,24-ジエン-3-β-オール;コレスタ-8(9)-エン-3-β-オール;5α-コレスタン-3β-6-オン;5-コレステン-3β,25-ジオール;5-コレステン-3β,25-OSO3H(5-コレステン-3β,25-サルフェート);5-コレステン-3β-OSO3H,25-オール(5-コレステン-3β-サルフェート,25-オール);5-コレステン-3β,25-ジオール;ジスルフェート及び/又はそのエステル;又は上記の安定な異性体から選択されることを更に特徴とする、請求項5に記載の眼科用組成物。
【請求項7】
前記テルペノイドが、ラノステロールであることを更に特徴とする、請求項6に記載の眼科用組成物。
【請求項8】
前記クルクミンが、多年生草本ウコンの根茎に由来することを更に特徴とする、請求項4に記載の眼科用組成物。
【請求項9】
前記テルペノイドが、スクアレン又はラノリンなどのワックスから合成される、両親媒性の四環系テルペノイドとしてのラノステロールであることを更に特徴とする、請求項7に記載の眼科用組成物。
【請求項10】
局所、結膜下、眼球後、眼周囲、網膜下、脈絡膜上、前房内、硝子体内又は眼内適用のための眼科的に許容される賦形剤を含むことを更に特徴とする、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項11】
その医薬形態が、眼科用溶液、眼科用軟膏、眼科用ウォッシュ、眼内注入液、前房ウォッシュ、内服薬、注射、眼インプラントの一部として、又は抽出された角膜の保存剤として、から選択されることを更に特徴とする、請求項10に記載の眼科用組成物。
【請求項12】
前記賦形剤が、水、緩衝液若しくは塩化ナトリウム溶液、界面活性剤若しくはシクロデキストリン、エマルジョン、リポソーム、眼科的に許容されるゲル若しくは懸濁液、又はそれらの組み合わせから選択されることを更に特徴とする、請求項10に記載の眼科用組成物。
【請求項13】
前記眼科的に許容される賦形剤が、眼科用ナノエマルジョンであることを更に特徴とする、請求項10に記載の眼科用組成物。
【請求項14】
水相中にナノエマルジョン化された5~999nmの平均粒径を有する油相を含むことを更に特徴とする、請求項13に記載の眼科用組成物。
【請求項15】
20~300nmの平均粒径を有する油相を含むことを更に特徴とする、請求項14に記載の眼科用組成物。
【請求項16】
前記油相が、油、界面活性剤及び眼科的に許容される有機溶媒を含むことを更に特徴とする、請求項14に記載の眼科用組成物。
【請求項17】
前記油相の油が、トリアシルグリセリド油であることを更に特徴とする、請求項16に記載の眼科用組成物。
【請求項18】
前記油相中の油が、グリセロール誘導体及び3つの脂肪酸であることを更に特徴とする、請求項17に記載の眼科用組成物。
【請求項19】
前記油相中の油が、中鎖トリアシルグリセリドの混合物であることを更に特徴とする、請求項17に記載の眼科用組成物。
【請求項20】
前記界面活性剤が、合成又は天然起源の両親媒性であることを更に特徴とする、請求項16に記載の眼科用組成物。
【請求項21】
前記界面活性剤が、ホスファチジルコリン並びにモノ及びジアシルグリセリドから選択されることを更に特徴とする、請求項20に記載の眼科用組成物。
【請求項22】
前記眼科的に許容される有機溶媒が、アルコールであることを更に特徴とする、請求項16に記載の眼科用組成物。
【請求項23】
前記アルコールが、1~3個の炭素原子を有することを更に特徴とする、請求項22に記載の眼科用組成物。
【請求項24】
前記アルコールが、エタノールであることを更に特徴とする、請求項23に記載の眼科用組成物。
【請求項25】
前記水相が、脱イオン水及び安定剤としてグリセロールを含むことを更に特徴とする、請求項14に記載の眼科用組成物。
【請求項26】
正常な水晶体構造の変化、主に水晶体を形成するタンパク質を修飾又は変化させる状態によって引き起こされる眼疾患の治療及び/又は予防に使用される、請求項1~25のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項27】
前記眼疾患が、白内障、老眼、水晶体硬化、網膜変性症、レフサム病、スミス-レムリ-オピッツ症候群(SLOS)、ドルーゼン、シュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)、無ベータリポ蛋白血症(ABL)、家族性低βリポ蛋白血症(FHBL)、加齢、黄斑変性症、及び糖尿病性網膜症から選択されることを更に特徴とする、請求項26に記載の眼科用組成物。
【請求項28】
前記眼疾患が、前記組成物の少なくとも1回の適用によって治療又は予防されることを更に特徴とする、請求項26に記載の眼科用組成物。
【請求項29】
前記疾患が白内障である場合、本発明の組成物が、前記疾患によって引き起こされる混濁を最小限度まで逆転させ得ることを更に特徴とする、請求項26に記載の眼科用組成物。
【請求項30】
前記眼疾患が、前記組成物の硝子体内への最大2回の適用によって治療又は予防されることを更に特徴とする、請求項26に記載の眼科用組成物。
【請求項31】
水晶体を形成するタンパク質を修飾又は変化させる状態を含む、正常な水晶体構造の変化によって引き起こされる眼疾患を治療及び/又は予防するための医薬を製造するための、テルペノイド又はその塩若しくは薬学的に許容される結晶形態と組み合わせたポリフェノール化合物の使用。
【請求項32】
前記ポリフェノール化合物が、天然クルクミノイド又はその誘導体から選択される、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記ポリフェノール化合物が、クルクミン、ビスデメトキシクルクミン、デメトキシクルクミン及び合成由来ビス-o-デメチルクルクミン及び/又は他の脱メチル化クルクミノイド、又は上記の安定な異性体から選択される、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記ポリフェノール化合物が、天然クルクミンである、請求項32に記載の使用。
【請求項35】
前記テルペノイドが、ラノステロール及びそのステロイド誘導体から選択される、請求項31に記載の使用。
【請求項36】
前記テルペノイドが、ラノステロール;ジヒドロラノステロール;4,4-ジメチルコレスタ-8(9),14,24-トリエン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8,24-ジエン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8-エン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8(9),14-ジエン-3β-オール;14-デスメチルラノステロール;ラトステロール;Δ7.24-コレスタジエノール;コレステロール;コレスタ-7-エノール;コレステロールエステル、7-デヒドロコレステロール;デスモステロール;7-デヒドロデスモステロール;ジモステロール;27-ヒドロキシコレステロール;コレスタ-7,24-ジエン-3-β-オール;コレスタ-8(9)-エン-3-β-オール;5α-コレスタン-3β-6-オン;5-コレステン-3β,25-ジオール;5-コレステン-3β,25-OSO3H(5-コレステン-3β,25-サルフェート);5-コレステン-3β-OSO3H,25-オール(5-コレステン-3β-サルフェート,25-オール);5-コレステン-3β,25-ジオール;ジスルフェート及び/又はそのエステル;又は上記の安定な異性体から選択される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
前記テルペノイドが、ラノステロールである、請求項35に記載の使用。
【請求項38】
前記クルクミンが、多年生草本ウコンの根茎に由来する、請求項34に記載の使用。
【請求項39】
前記テルペノイドが、スクアレン又はラノリンなどのワックスから合成される、両親媒性の四環系テルペノイドとしてのラノステロールである、請求項37に記載の使用。
【請求項40】
前記眼疾患が、白内障、老眼、水晶体硬化、網膜変性症、レフサム病、スミス-レムリ-オピッツ症候群(SLOS)、ドルーゼン、シュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)、無ベータリポ蛋白血症(ABL)、家族性低βリポ蛋白血症(FHBL)、加齢、黄斑変性症、及び糖尿病性網膜症から選択される、請求項31に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康管理に関し、より詳細には、視覚障害、特に眼の水晶体の正常な機能に影響を及ぼすものの治療のための眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼の水晶体の正常な構造に影響を及ぼす視覚障害は、水晶体を構成するタンパク質を改変あるいは変化させ、視力障害を引き起こす状態である。水晶体タンパク質(クリスタリン)の凝集によって引き起こされる水晶体の透明度及び/又は剛性の変化がしばしば起こる。この種の再発性状態は、「白内障」として知られている。本発明において言及される「白内障」という用語は、存在するタンパク質の構造及び/又は凝集の変化に起因して、眼の水晶体に混濁を引き起こし、入射する光の量を減少させ、その結果、視力障害を引き起こす疾患を意味する。白内障の形成は、先天性、若年性、加齢性あるいは二次的な疾患(特に、糖尿病、筋緊張性ジストロフィー、ガラクトース血症、神経線維腫症2型、風疹)、外傷などであり得る。白内障は、核、皮質及び後嚢下であり得る。しかしながら、老眼、水晶体硬化、網膜変性症、レフサム病、スミス-レムリ-オピッツ症候群(SLOS)、ドルーゼン、シュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)、無ベータリポ蛋白血症(ABL)、家族性低βリポ蛋白血症(FHBL)、加齢、黄斑変性症及び糖尿病性網膜症などの、水晶体構造の変化に関連する他の疾患が存在する。
【0003】
これらの状態の治療は、元の状態に依存するので、これらの状態の形成を予め決定し得る全ての病理は、最初に解決されるべきである。これらの状態のいくつかの症状(例えば、初期の白内障)は、処方レンズ、太陽のための反射防止レンズの使用、あるいは薬物(例えば、滴剤、軟膏及び丸剤)の使用によって低減され得る。
【0004】
別の治療選択肢は手術である。手術が行われるためには、白内障は成熟あるいは混濁段階にあるべきであり、その前に、レンズの使用による矯正措置は、混濁の発生から生じる屈折異常を低減することのみを意図していることに留意されたい。水晶体を除去し、それを人工眼内レンズに置き換えることからなる白内障手術が、高い費用並びに後嚢破裂及び角膜浮腫などの副作用といった欠点を示すことは言及する価値がある。
【0005】
手術によって引き起こされる問題のために、最新技術は、視覚障害の治療に生物活性化合物を使用する可能性を検討してきた。
【0006】
おそらく、現在までに最も研究されている生物活性化合物はテルペノイド、特にラノステロールであり、その白内障逆転における使用は最終的に実証されていない。この化合物に関して、最も成功した実験は、Zhaoらによって行われた(Zhao et al.Lanosterol Reverses Protein Aggregation in Cataracts.Nature.2015;523:607-611)。彼らは、ラノステロールナノ粒子(最終用量1.4mg)を充填した14回の硝子体内注射の使用が、50μLのラノステロール液滴を6週間にわたって1日3回、7匹のイヌの群に提供しながら、これらの動物が有する白内障の段階を最大2度まで低下させ得たことを実証することができた。残念なことに、結果を得るために必要な注射の数は多すぎるため、手術から生じるリスクを大幅に低減することも、進行した場合の問題を除去することもない。
【0007】
Zhaoらの努力に続いて、他の著者は、同様の結果を得ることに近づいていない。Chenら(Chen et al.Lanosterol and 25-hydroxycholesterol Dissociate Isolated Crystalline Aggregates from the Human Cataract Lens Through Different Mechanisms.Biochemical and Biophysical Research Communications.2018;506(4):868-873)は、ラノステロールが陽性インビトロ活性を有し得ることを彼らの研究において確認し、外科的に除去された白内障から得られた2mg/mLのタンパク質凝集体に、10μM及び200μMのラノステロール、並びに10μM及び200μMの25-ヒドロキシコレステロールを14日間添加した。肉眼的所見は、ラノステロール及び25-ヒドロキシコレステロールが、室温での6日間の処理後に用量依存的に最初の暗色溶液を劇的に除去したことを示唆した。著者らは、これらの化合物の有効性が白内障の程度あるいは重症度に大きく依存することを見出した。しかし、本研究は、皮質白内障群では、推定平均最大発生効果(EC50)の50%に達するのに必要な濃度の値が、核乳白斑群と比較して1.5~4倍増加することを示唆した。更に、放出されたタンパク質の量は、重症度の増加と共に減少した。この研究は、Zhaoらによって報告されているように、制限を示し、高用量及び高頻度の治療の必要性を確認する。重度の核白内障では、化合物が水晶体の内部に浸透しない可能性もある。したがって、実際には、成熟あるいは高密度白内障を有するヒト水晶体に対する化合物の有効濃度は、エクスビボで決定されたEC50値よりも数百倍高い可能性がある。
【0008】
Daszynskiら(Daszynski et al. Failure of Oxysterols such as Lanosterol to Restore the Clarity of the Cataract Lens.Scientific Reports.2019; 9:8459)は、ヒト水晶体のみでのタンパク質可溶化研究と共に、ラット水晶体でのインビトロでの白内障逆転研究を行った。リポソーム中の15mMラノステロールは、混濁を逆転させることも、進行を防ぐこともできなかった。対照的に、全てのラノステロール処置レンズの混濁は、明らかな核の関与を伴う、より進行した成熟白内障段階に進行した。Nagaiら(Nagai et al.Intravitreal Injection of Lanosterol Nanoparticles Rescues Collapse of Lens Structure at an Early Stage in Shumiya Cataract Rats.International Journal of Molecular Sciences.2020;21(3):1048)は、ボールミリング法を使用することによって、ラノステロールナノ粒子(LAN-NP)を含有するZhaoらの知見に基づいて硝子体内注射製剤を開発した。彼らは、2つのラット白内障モデル(SCR-N、わずかな水晶体構造崩壊を有するラット)(SCR-C、顕著な水晶体構造崩壊及び混濁化の組み合わせを有する)を使用することによって、水晶体構造崩壊及び混濁化に対するLAN-NPの治療効果を評価した。残念ながら、LAN-NPは水晶体構造を修復せず、これらは混濁化の開始を遅らせただけであった。LAN-NPを用いたラノステロール補充では、水晶体の重度の構造崩壊を改善することはできなかった。
【0009】
同様の結果が、Shanmugamらによっても見出された(Shanmugam et al.Effect of Lanosterol on Human Cataract Nucleus.Indian Journal of Ophthalmology.2015;63(12):888-90)。彼らは、加齢性白内障ヒト水晶体核に対するラノステロールの効果を研究した。彼らは、手動小切開白内障手術によって除去した40個の加齢白内障核を使用し、20個の核を25mMラノステロール溶液にランダムに浸漬し、残りはラノステロールなしの対照溶液下で暗所で6日間保存した。結論として、25mMのラノステロール溶液は、加齢性ヒト白内障核の混濁化を逆転させなかった。
【0010】
米国特許第10471076B2号には、ラノステロールを使用することによって視覚障害を治療あるいは予防する方法が記載されている。この論文は、全身経路により、約70kg体重のヒトに投与されるべき化合物の用量を、単位用量当たり0.1mg~5g、例えば、1mg~2.5gの化合物と提案している。しかしながら、水晶体組織の白内障減少に対するラノステロールの効果を評価するために、ウサギの天然の白内障水晶体を単離し、25mMのラノステロール濃度の溶液中で6日間インキュベートした。続いて、ラノステロール処置の前後の水晶体の透明度を比較し、水晶体の透明度の増加によって証明されるように、白内障の重症度の減少に向かう堅固な傾向を得た。この特許に示されている情報は、特にShanmugamらによって報告されているように、同じ濃度のラノステロールを使用して、白内障の治療におけるラノステロールの使用について見出された制限に関する他の参考文献に報告されている情報と異ならない。
【0011】
中国特許第106344587号は、眼用のラノステロール化合物、特に5~250mMのラノステロール化合物を含む医薬組成物の調製及び医薬組成物の調製方法、並びに眼疾患の予防及び治療に関する医薬組成物の適用を記載している。Canis familiaris L.に投与された、25mMのラノステロール(11.4mg/mL)を含有する点眼剤の形態の記載された組成物を、毎日3回適用した:50μLの25mMのラノステロールを、各投与の間に少なくとも5時間の間隔で、12週間連続して朝、午後及び夕方に適用した。明確なデータは示されていないが、この組成物が2週間で外傷性白内障を完全に治癒し得ることが提案されているが、前述のその後の実験的証拠は、特に高グレードの進行した白内障におけるその使用を支持していない。
【0012】
ラノステロールに対する化学修飾もまた、その効果を増強するために提案されている。特許出願WO2019097434A1号は、酸化保護剤、フリーラジカルスカベンジャー、タンパク質カルボニル化の調節剤、脂質過酸化、レドックス酵素強化あるいは酸化防止剤と組み合わせて使用される、ラノステロール及び25-ヒドロキシコレステロール誘導体(それらの薬学的に許容される塩を含む)の組成物に関する。この論文は、0.010%w/v~約5%w/vのラノステロール誘導体の阻害濃度を提案している。白内障と診断され、水晶体の混濁を示す患者を、治療前に写真撮影する。論文には「3週間後に水晶体の混濁が劇的に改善し、6週間後に混濁がほぼ完全になくなる」と報告されているが、白内障の発生段階に関してグレード低下の測定は報告されていない。したがって、行われた改変が進行した発達段階の白内障の場合に役立ち得るかどうかは不明である。
【0013】
米国特許出願公開第2020016176A1号は、他のものと組み合わせてラノステロールなどのステロイドを含む、眼の疾患、損傷あるいは損傷を治療するための水性眼科用組成物を記載している。しかしながら、これは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(CD)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を使用した最終的な治療効果における賦形剤の重要性を強調している。彼らは、ステロイド製剤(100μg)を含ませたナノ粒子の注射を手順として使用して、3つの異なる種のイヌの白内障水晶体の治療に関する研究を正確に行った。これらには、ラノステロール及び別のコレステロール由来ステロイドが含まれ、3週間、およそ午前7時、午後1時及び午後4時に1日3回、50μL(1滴)に等しい容量であった。実験データは、使用したイヌにおいてこの実験で20%の最大改善を示す。
【0014】
白内障の治療のために試みられてきた他の生物活性化合物は、特にクルクミンの場合のように、天然起源のポリフェノール化合物である。
【0015】
Manikandanらの場合のように、クルクミンが、亜セレン酸ナトリウム誘発性酸化的ストレスを阻害し得ることが報告されている(Manikandan et al.Effect of Curcumin on Selenite-Induced Cataractgenesis in Wistar Rat Pups.Current Eye Research.2010;35:122-129)。彼らは、仔ラットにおけるセレン酸ナトリウム誘発性(15μM/kg体重)白内障に対するクルクミンの抗酸化能を試験した。この研究者らのグループは、クルクミン(単回用量として75mg/kg体重)での処置が脂質過酸化、酵素的酸化防止剤及び非酵素的酸化防止剤のレベルの有意な低下をもたらし、食物中の遊離クルクミンの消費が老人性白内障の発症を予防するのに役立ち得ることを裏付け得ると結論付けた。別の研究では、Manikandanら(Manikandan et al.Effect of Curcumin on the Modulation of αA-and αB-crystallin and Heat Shock Protein 70 in Selenium-Induced Cataractgenesis in Wistar Rat Pups.Molecular Vision.2011;17:388-394.)は、ウィスター系仔ラットにおける亜セレン酸ナトリウム誘発性白内障発症のクルクミン処置の間のαA及びαB-クリスタリン並びに熱ショックタンパク質70(Hsp 70)の発現を研究した。彼らは、同様に、クルクミンがセレナイト及びHsp 70によって誘発されるαA及びαBクリスタリン発現を抑制すると結論付けた。したがって、クルクミンは、仔ラットにおける白内障形成を抑制及び/又は予防し得る。
【0016】
予防及び治療におけるクルクミンの有効性に関しては、Yogarajら(Yogaraj et al.Quaternary Ammonium Dendrimeric Poly(Amidoamine)Encapsulated Nanocurcumin Effectively Prevents Cataracts in Rat Pups by Regulating Pro-Inflammatory Gene Expression.Journal of Drug Delivery Science and Technology.2020;58:1773-2247)は、カプセル化されたクルクミンを有する官能化ポリアミドアミンデンドリマー(PAMAM)(第三世代)を使用するナノクルクミン製剤を開発し、特徴付けた。彼らは、インビトロでヒト水晶体上皮細胞(HLE-B3)系を使用して炎症促進性遺伝子を発現させることによって、ウィスター系仔ラットにおいて、マニカンダン群と同じモデルでそれらの製剤を試験した。それらの結果は、ナノクルクミンが、亜セレン酸ナトリウムによって誘発される細胞死、RNA分解及びiNOS(誘導性酸化窒素シンターゼ)レベルの遺伝子発現の低減において遊離クルクミンと同程度に有効であることが証明されたことを示す。したがって、彼らは、QPAMAMを使用するカプセル化クルクミン製剤が、酸化剤媒介性白内障の発症を予防することによって、より高い溶解度、持続放出及びより高いバイオアベイラビリティでその遊離対応物の主な制限を補償すると結論付けている。
【0017】
中国特許出願公開第106511269A号にも、眼科用ナノ懸濁液製剤及び調製方法が記載されている。特に、ナノ懸濁液眼科用調製物は、眼科用調製物医薬アジュバントをクルクミンと組み合わせることによって調製される。クルクミンの眼科的に許容されるゲル及びナノ懸濁液調製物を、亜セレン酸塩誘発性白内障を有する同じラットモデルにおいて試験した。3回/8日レジメンでの投与は、クルクミン眼科用ナノ懸濁液の有益な効果を示した。より大きな表面積を有する、より良好な生物学的利用能の証拠が存在し、薬物吸収の程度を改善し、したがって作用時間を延長する。しかしながら、復帰が達成されることはインビボで実証されておらず、むしろエクスビボで酵素活性が特徴付けられている。
【0018】
欧州特許第2346520B1号は、眼の疾患あるいは障害の治療に有用な、クルクミン、ビスデメトキシクルクミン、デメトキシクルクミン及び合成由来ビス-o-デメチルクルクミン及び/又は他の脱メチル化クルクミノイドなどの天然クルクミノイドを、単離あるいは組み合わせて、浸透促進剤としての適切な界面活性剤及び共溶媒と共に、他の眼科用賦形剤と共に含む水性眼科組成物に関する。他のクルクミン関連論文と同様に、98%クルクミン眼科用製剤をウィスター系仔ラットの眼に点眼すると、セレナイト誘発白内障の影響が効果的に低下し、予防効果があると結論付けられた。
【0019】
しかしながら、クルクミンなどの天然起源のポリフェノール化合物に関する実験的証拠は、それらが高い達成レベルで白内障の形成を逆転させ得ることを示しておらず、それらの形成を防ぐだけである。同様に、ラノステロールなどのテルペノイド化合物に基づく組成物の開発は、反復的で非常に積極的な治療を高用量で用いることによって、白内障の最小限の減少を達成した。これらのタイプの生物活性化合物に基づく組成物を開発する努力は、白内障の有意な減少あるいは排除を達成していない。
【0020】
上記の結果として、進行した発達段階における白内障の復帰を可能にすることに加えて、効果的である低用量及び適用数の減少を必要とする組成物を開発することによって、現在使用されている視覚障害の治療のための眼科用組成物の問題を解決することを試みている。
【0021】
発明の目的
先行技術の欠陥を考慮して、本発明の目的の1つは、眼の水晶体の正常な構造の変化、主にそれを形成するタンパク質を改変あるいは変化させる状態を逆転及び/又は防止するために低用量の生物活性化合物を必要とする視覚障害を治療するための眼科用組成物を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、この種の障害の治療に有効である、低減された適用数を必要とする、視覚障害を治療するための眼科用組成物を提供することである。
【0023】
これら及び他の対象は、本発明による視覚障害を治療するための眼科用組成物によって達成される。
【発明の概要】
【0024】
本発明の目的を達成するために、視覚障害を治療するための眼科用組成物が発明された。これは、治療有効量でテルペノイドと組み合わせたポリフェノール化合物を含み、水晶体の正常な構造、主にそれを形成するタンパク質を修飾あるいは変化させる状態の変化を、逆転させる及び/又は防止することを可能にすることを特徴とする。
【0025】
本発明の他の態様は、本発明の眼科用組成物の製造方法、及びタンパク質の変化あるいは凝集によって引き起こされる眼疾患の治療におけるその使用を考慮する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の特徴であると考えられる新規な態様は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載される。しかしながら、いくつかの実施形態、特徴、並びにそれらのいくつかの目的及び利点は、添付の図面に関連して読まれたときに、詳細な説明においてよりよく理解されるであろう。
【
図1】異なる白内障発達度を説明するための、実験動物における水晶体混濁の異なる段階の一組の写真図である。
【
図2】グレード4の白内障を発症した健常コントロール動物及び疾患コントロール動物の水晶体の一連の写真図である。
【
図3】硝子体内適用されたクルクミンナノエマルジョンでの処置前後の動物の水晶体の一連の写真図である。
【
図4】硝子体内適用されたラノステロールナノエマルジョンでの処置前後の動物の水晶体の一連の写真図である。
【
図5】硝子体内適用されたラノステロールを1:1の比で含有するクルクミンナノエマルジョンでの処置前後の動物の水晶体の一連の写真図である。
【
図6】硝子体内適用されたラノステロールを1:3の比で含有するクルクミンナノエマルジョンでの処置前後の動物の水晶体の一連の写真図である。
【
図7】硝子体内適用された遊離クルクミンでの処置前後の動物の水晶体の一連の写真図である。
【
図8】硝子体内適用された遊離ラノステロールでの処置前後の動物の水晶体の一連の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
いくつかの既知の視覚障害において、少数の適用によって、水晶体の正常な構造の変化、主に水晶体を形成するタンパク質を修飾あるいは変化させる状態を逆転及び/又は防止することと、治療有効量のテルペノイドあるいはそれらのそれぞれの薬学的に許容される塩又は結晶形態と組み合わせてポリフェノール化合物を含む眼科用組成物によって、これらの視覚障害を効果的に治療することと、が可能であることが見出された。
【0028】
ポリフェノール化合物とテルペノイドとの新たな組み合わせは、より少ない適用回数及びより短い時間で、両方の化合物について個々に最新技術で報告されているものよりも低用量で、より効果的に水晶体構造の変化を逆転及び/又は防止することを可能にする相乗効果を示す。
【0029】
本発明の原理によれば、眼科用組成物は、ポリフェノール化合物とテルペノイドとの間の任意の比を含み得る。好ましい実施形態では、本発明の眼科用組成物は、ポリフェノール化合物をテルペノイドに対して1:10~10:1の比で、好ましくはポリフェノール化合物をテルペノイドに対して1:3~3:1の比で含み、より好ましくは両方の化合物が眼科用組成物中に1:1の比で存在する。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、ポリフェノール化合物は、天然クルクミノイドであり;好ましくはクルクミン;ビスデメトキシクルクミン;デメトキシクルクミン及び合成由来ビス-o-デメチルクルクミン、及び/又は他の脱メチル化クルクミノイド;上記の安定な異性体;又はその薬学的に許容される塩若しくは結晶形態から選択され、天然起源のクルクミンが、その抗酸化活性及び抗炎症活性のために特に好ましい。これらの化合物は、当業者が本発明の背景において先に記載された技術を使用することによってそれらを得ることができるように、最新技術において十分に記載されている。
【0031】
テルペノイドは、ラノステロール及びそのステロイド誘導体、ジヒドロラノステロール;4,4-ジメチルコレスタ-8(9),14,24-トリエン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8,24-ジエン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8-エン-3β-オール;4,4-ジメチルコレスタ-8(9),14-ジエン-3β-オール;14-デスメチルラノステロール;ラトステロール;Δ7.24-コレスタジエノール;コレステロール;コレスタ-7-エノール;コレステロールエステル;7-デヒドロコレステロール;デスモステロール;7-デヒドロデスモステロール;ジモステロール;27-ヒドロキシコレステロール;コレスタ-7,24-ジエン-3-β-オール;コレスタ-8(9)-エン-3-β-オール;5α-コレスタン-3β-6-オン;5-コレステン-3β,25-ジオール;5-コレステン-3β,25-OSO3H(5-コレステン-3β,25-サルフェート);5-コレステン-3β-OSO3H,25-オール(5-コレステン-3β-サルフェート,25-オール);5-コレステン-3β,25-ジオール;ジスルフェート及び/又はそのエステル;上記の安定な異性体;あるいはその薬学的に許容される塩又は結晶形態から選択され、ラノステロール及び/又はその誘導体が特に好ましい。同様に、これらの化合物は、それらが得られることが本発明の背景における既知の技術を参照することによって当業者にとって明らかであるように、最新技術において記載されている。
【0032】
特に好ましい実施形態では、組成物は、ポリフェノール化合物としてクルクミンを含み、クルクミンは、好ましくは、最新技術に記載されている技術を用いて多年生草本ウコン(Curcuma longa)の根茎から得られる。
【0033】
別の特に好ましい実施形態では、組成物は、同じく最新技術に記載された技術を使用して、スクアレンあるいはラノリンなどのワックスから合成された、両親媒性の四環式テルペノイドとしてラノステロールを含む。
【0034】
本発明の眼科用組成物を調製するための他の眼科的に許容される成分に関して、これらは、局所、結膜下、眼球後、眼周囲、網膜下、上脈絡膜、前房内、硝子体内、あるいは眼内経路による組成物の適用のために適切に選択されることが好ましく、それには、限定されないが、眼科用溶液、眼科用軟膏、眼科用ウォッシュ、眼内注入液、前房ウォッシュ、内服薬、注射、眼インプラントの一部として、あるいは抽出された角膜の保存剤として、から選択される医薬形態が含まれる。本発明の組成物を製剤化するために、水、緩衝液若しくは塩化ナトリウム溶液、界面活性剤若しくはシクロデキストリン、エマルジョン、リポソーム、眼科的に許容されるゲル若しくは懸濁液、又はそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない眼科的に許容される成分及び賦形剤を使用することが更に可能である。特に好ましい賦形剤は、眼科用ナノエマルジョンからなる。
【0035】
本発明の組成物は、好ましくは組成物の少なくとも1回の適用によって、水晶体構造の変化、主に水晶体タンパク質の変化を逆転及び/又は予防するのに有効である。このため、それらは、その原因にかかわらず、白内障を含む視覚障害、あるいは老眼、水晶体硬化症、網膜変性症、レフサム病、スミス-レムリ-オピッツ症候群(SLOS)、ドルーゼン、シュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)、無ベータリポ蛋白血症(ABL)、家族性低βリポ蛋白血症(FHBL)、加齢、黄斑変性症、及び糖尿病性網膜症などの水晶体の構造の変化に関連する他の疾患の治療に有用である。疾患が白内障である場合、本発明の組成物は、疾患を実質的に完全に逆転させることができる。
【0036】
本発明の組成物を調製するための技術は、最新技術において公知であるが、ポリフェノール化合物及びテルペノイドを眼科用ナノエマルジョンに含めるために、最新技術において記載されている任意の公知の方法、例えば、Agame-ラグネスら(Agame-Lagunes et al.Curcumin Nanoemulsions Stabilized with Modified Phosphatidylcholine on Skin Carcinogenesis Protocol.Current Drug Metabolism.2020,21,(3):226-234)によって報告された方法が用いられ得るが、この方法は、一般に、当該技術分野において公知の方法によってナノエマルジョンを得るために、当該化合物を含む油相と水相とを混合することからなり、高エネルギー又は低エネルギーのいずれでもよいが、高エネルギーのほうが好ましい。これらの方法は、一相、好ましくは油相から、5~999nmの範囲、好ましくは20~300nmの範囲のナノメートルスケールの粒径を得ることを可能にする。
【0037】
特定の実施形態では、ナノエマルジョン形成のために、油相に関して80:20~95:5の水相の比を有する混合物が提供され、少なくとも95%の含量の水相を有する混合物が特に好ましい。
【0038】
本発明の化合物のナノエマルジョンを調製するために、眼科的に許容される油、界面活性剤及び有機溶媒が油相に含まれることが好ましい。油が好ましく、トリアシルグリセリド油がより好ましく、グリセロール誘導体及び3つの脂肪酸を有するものがより好ましく、中鎖トリアシルグリセリドの混合物が好ましい。界面活性剤はまた、合成あるいは天然起源の両親媒性であることが好ましく、ホスファチジルコリン、モノ及びジアシルグリセリド、より好ましくはホスファチジルコリンなどの天然であることが好ましい。眼科的に許容される有機溶媒は、アルコールであることが好ましく、1~3個の炭素原子を有することがより好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0039】
水相に関して、好ましい実施形態は、眼科的に許容される賦形剤を形成するために、脱イオン水及び安定剤としてグリセロールを含む。本発明の好ましい実施形態において、水相は、5%~60%のグリセロールを含み、10%~45%の範囲のグリセロールが好ましく、15%~25%の量のグリセロールが更により好ましい。
【0040】
本発明の原理に従って得られる眼科用組成物は、眼への適用に有用な任意の薬学的形態で、特にタンパク質変化に関連する、眼の水晶体の構造の変化によって引き起こされる視覚障害の治療及び/又は予防におけるその使用のために調製される。これは、視覚障害をほぼ完全に逆転させるために使用され、治療後最長でも7日以内に逆転を達成するために、好ましくは少なくとも1つの適用において使用されるように適合可能である。
【0041】
本発明は、以下の実施例によってより良く理解されるであろう。それらは、本発明の好ましい実施形態の完全な理解を可能にし、それらの実現を導くために、例示目的のためにのみ提示される。これは、前述の説明に基づいて実施され得る、図示されていない他の実施形態がないことを意味するものではない。
【実施例】
【0042】
A.最新技術及び本発明のための眼科用組成物の調製
本発明の組成物の新規な効果を説明するために、表1に示す組成物の6つの例を、滅菌ナノエマルジョンとして、その硝子体内適用のために、クルクミンをポリフェノールとして使用し、ラノステロールをテルペノイドとして使用して、最新技術で最も研究されているものであるように、10mLの基剤を用いて作製した:
【0043】
【0044】
試験対象のナノエマルジョンを調製するために、10%ホスファチジルコリン、3mLエタノール及び5%中鎖トリアシルグリセリドの混合物と共に、表に従ってクルクミン及び/又はラノステロールを用いて油相(分散された)を得た。本発明の化合物の混合物が作製されたら、均質化の前に、油性相を水浴に供して過剰の有機溶媒を除去した。
【0045】
水相(分散剤)は、60%の水及び25%のグリセロールからなっていた。ULTRA-TURRAXデジタルT25ローターステーターホモジナイザー(IKA Works,Inc.、シュタウフェン、ドイツ)で更に処理するために両方の相を手動で含めて粗エマルジョンを作成し、次いで、ブランソンデジタルソニファイアーS-450D(Branson Ultrasonic Corp.、ダンベリー、コネチカット州)を使用して超音波処理を施して粒径を減少させ、関連するナノエマルジョンを得た。
【0046】
組成物を、UV光ランプを使用して滅菌した。滅菌のために、系を10mLの容量の滅菌培養プレートに注ぎ、次いでUV光ランプ下で40分間覆っていないままにした。次いで、動物モデルで使用するまで、系をパラフィルムで密封したガラス瓶中の滅菌シリンジで収集した。全ての手順を滅菌条件下で実施した。
【0047】
また、用いた分散相に化合物のみを溶解して調製した遊離クルクミン(C)及び遊離ラノステロール(L)を含む組成物E5及びE6をそれぞれ調製した。このとき、中鎖トリアシルグリセリドの混合物は、表に記載の配合比で、10mLとした。
【0048】
B.ウィスターラットにおける白内障誘発
インビボでの白内障復帰の評価を行うために、群(n=3)に無作為に割り当てた体重120~140gの7週齢のアルビノウィスターラットを、23±2℃の温度、及び40~70%の相対湿度の制御された環境で、12時間の明及び12時間の暗のサイクルで、限られた領域に保ち、市販の食餌及び水を自由に与えた。動物は、Mexican Official Standard NOM-062-ZOO-1999の仕様に従って飼育した。
【0049】
30匹のラットに亜セレン酸ナトリウムを硝子体内投与して白内障を発症させた。処置後、実験動物は疾患を発症したが、これらの動物のうち、両眼で白内障を発症したのはわずか26.66%であった。残りは片眼のみで疾患を発症し、左眼で有病であった。
【0050】
硝子体内治療にあたって、感染を回避するために、局所麻酔薬(テトラカイン)、並びに眼潤滑剤(ヒプロメロース)及び抗生物質(シプロフロキサシン)に加えて、ゾレチル50(40mg/kg体重)の腹腔内注射によってラットを麻酔した。
【0051】
硝子体内注射を行うために、立体視鏡を取り扱って処置中により高い精度を有するようにした。眼内圧を解放し、硝子体液を除去するために、27Sゲージ針を有する1mLインスリン注射器を使用して、強膜を通して45°の角度で硝子体に穿刺孔を作った。26Sゲージの取り外し可能な針を備えたハミルトンシリンジを、セレナイト溶液を含む同じ穴に挿入し、水晶体に触れることを避けてチャンバに注入した。次に、針を注意深く取り除き、各眼に1滴の抗生物質を入れた。
【0052】
硝子体内の亜セレン酸ナトリウム投与後の混濁評価を、スリットランプ顕微鏡法によって4週間にわたって毎週行った一方で、水晶体の混濁化の分類を以下の表2に示すように行った:
【0053】
【0054】
白内障発症の程度は
図1に示されており、実験動物における水晶体混濁化の写真図を証明することができる。
図1は、グレード0の水晶体(G0)、グレード1の水晶体(G1)、グレード2の水晶体(G2)、グレード3の水晶体(G3)、最後にグレード4の水晶体(G4)を示す。
【0055】
C.白内障を有するラットへの眼科用組成物の適用
3匹のアルビノウィスターラットの8つの群を形成した。健康コントロール陰性対照群(E0)は、亜セレン酸ナトリウムで誘発されず、白内障を発症しなかったが、別の陽性対照あるいは罹患対照群(E7)は、上記のように白内障が誘発されたが、本発明のクルクミン若しくはラノステロール又はそれらの混合物による処置を受けなかった。残りの群は、それぞれ、組成物E1~E6で硝子体内に、亜セレン酸ナトリウムの適用に使用されたものと同じ技術を使用して、各眼科用組成物の5μLの体積で、1週間間隔で2回の適用(対照群を除く)で処置し、各ラット(R1~R3)について表3の結果を得た。
【0056】
【0057】
白内障の発症及びその低減の程度は、表3に示される図において証明され得、それによって、本発明の組成物(E3及びE4)から得られる相乗効果が観察され得、これは、ほとんど全ての混濁化を逆転させた。これは、組成物E4でも起こり、ここでは、当業者がクルクミンよりも多くのラノステロールを使用する動機を与えられないことを考慮しても、遊離ラノステロールよりもクルクミンで良好な逆転を示した、従来技術の結果並びに例えば実施例E5及びE6で得られた結果に基づいて、ラノステロールと共に有意に少ない量のクルクミンが2倍を超える逆転を達成した。
【0058】
上記の全ては、本発明の組成物の群においてほぼ1であった、処置後の最終混濁化を分析したときに証明される。これは、群E4及びE3がサブセット2にあり、同様の結果を有する、表4に示されるダンカンの統計分析によって確認されるように、高度に統計的に有意である。表4では、均質なサブセット内の群の最終混濁化平均が表示され、調和平均サンプルサイズ=3000が使用される。
【0059】
これに関して、ダンカンの統計分析によれば、最良の治療は、E0と共にサブセット1に見出される群であるE3に対応し、E0(健常対照)と統計的に有意な差がないことを報告することによって、E3組成物が顕著な方法で白内障を逆転させることができたことが示される。
【0060】
【0061】
統計グループ3の最小値と最大値との間の最終混濁化平均の差が1度(1.3333~2.3333)であるのに対して、グループ2の最小値と最大値との間の差は0.3333度(1.0000~1.3333)であることも注目すべきである。これは、本発明の組成物による治療が、視覚障害の治療において非常に有効であることを示す。
【0062】
したがって、本発明の原理の下で、別々の化合物によって得られるものよりも優れた新規な効果が達成されることが実証された。更に、他のポリフェノール化合物と、実施例E1、E2、E5あるいはE6と同等の、それ自体ではるかに有意でない白内障逆転効果を当技術分野の状態ですでに実証している他のテルペノイドとの組み合わせを作製して、前述の実施例で説明した組成物E3及びE4で得られるものと同等の相乗効果を得ることが可能であることは、当業者には明らかであろう。
【0063】
最新技術によれば、本発明の組成物が眼科用途のために異なる医薬形態で製剤化され得ることも当業者には明らかであろう。これは、従来技術自体が、局所、結膜下、眼球後、眼周囲、網膜下、脈絡膜上、脈絡膜上、眼房内、硝子体内あるいは眼内経路などのいくつかの眼科用組成物における別々の化合物の効果を示しているためである。
【0064】
上記に従って、本発明の視覚障害の治療のための眼科用組成物は、水晶体の構造の変化によって、主に水晶体タンパク質の変化によって引き起こされる、このような障害の逆転及び/又は予防を達成するために調製されたことが証明される。上記で記載され、添付の図に例示されるようなそのような組成物の実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなくそれらの詳細において考慮すべき多くの変更が可能であるため、本発明を例示するにすぎず、本発明を限定するものではないことも当業者には明らかであろう。
【0065】
したがって、本発明は、最新技術及び添付の特許請求の範囲によって必要とされる場合を除いて、限定されると見なされるべきではない。
【国際調査報告】