(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-15
(54)【発明の名称】組織透明化法と組織学的方法との併用の、腫瘍内細菌を検出するための使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20240807BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240807BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240807BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240807BHJP
C12Q 1/6841 20180101ALI20240807BHJP
G01N 1/30 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G01N33/569 B
G01N33/574 D
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
C12Q1/6841 Z
G01N1/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501842
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 CN2022105674
(87)【国際公開番号】W WO2023284820
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】202110810278.5
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524015658
【氏名又は名称】南方医科大学珠江医院
【氏名又は名称原語表記】ZHUJIANG HOSPITAL OF SOUTHERN MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 253, Gongye Avenue, Haizhu District Guangzhou, Guangdong 510280 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】孫海涛
(72)【発明者】
【氏名】李▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】賀電
(72)【発明者】
【氏名】駱韵豪
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA26
2G045BB26
2G045BB30
2G045CB02
2G045CB21
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB07
2G045FB12
2G045GC12
2G045GC15
2G052AA33
2G052AA36
2G052FA09
2G052GA32
2G052JA09
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QR55
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、検出技術分野に関し、具体的には、組織透明化法と組織学的方法との併用の、腫瘍内細菌を検出するための使用を開示する。本発明では、組織透明化法と従来の組織学的方法を併用することで、試料の厚さの制限(数マイクロメートル)を破ることができ、それにより、薄い切片の表面の潜在的な汚染を回避することができ、そして、大きいサイズの組織試料の高分解能の、全体の三次元画像を完全に構築することができ、腫瘍内細菌の三次元可視化を可能にすることができる。本発明では、厚さが500μmである組織を選択し、組織透明化法を利用して光学的な透明を達成し、同時に、従来の組織学的方法(例えば、免疫蛍光標識法)と併用して腫瘍組織内部の細菌を標識し、それにより、より正確的な実験結果が得られ、腫瘍微小環境における微生物集団と腫瘍細胞との直接の相互作用を研究するための堅固な基礎を築く。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織透明化法と組織学的方法との併用の、腫瘍内細菌を検出するための使用。
【請求項2】
前記組織透明化法は、疎水透明化法または親水透明化法を含むことを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記組織学的方法は、免疫蛍光標識法、免疫酵素標識法、蛍光in situハイブリダイゼーション標識法のうちの一つを含むことを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項4】
腫瘍内細菌の検出過程中に採用される組織切片の厚さが400~600μmであることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記組織切片の厚さが500μmであることを特徴とする、請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記腫瘍は、ヒト脳グリオーマ、乳がん、膵臓がん、メラノーマの少なくとも一つを含む、ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
組織透明化法と免疫蛍光標識法を併用して腫瘍内細菌の検出に応用する方法であって、上記方法は、
厚さが400~600μmである組織切片を得て、OPTIClear組織透明化試薬を調製し、さらに洗浄剤をOPTIClear組織透明化試薬中に溶解し、混合液を得て、組織切片と混合液との体積比が1:3を超えるように、組織切片を混合液中に浸漬し、その後、自家蛍光消光剤を加え、そしてPBS溶液で浸漬した組織切片を洗浄し、さらにブロッキング剤を加えて一晩インキュベートする工程(1)と、
工程(1)で処理された組織切片をウェルプレート中に置いて、一次抗体希釈液を加えてインキュベートし、インキュベートした組織切片を緩衝液で洗浄し、そして二次抗体希釈液を加えてインキュベートする工程(2)と、
二次抗体希釈液を加えてインキュベートするとともに、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドールを加えて細胞核を標識し、その後、工程(2)と同じような緩衝液で組織切片を洗浄する工程(3)と、
工程(3)で処理された組織切片をPBS溶液で洗浄し、そしてOPTIClear組織透明化試薬を加え、遮光でインキュベートし、最後に顕微鏡観察および三次元画像再構成を行う工程(4)と、
を含む、方法。
【請求項8】
工程(2)中の一次抗体、二次抗体のそれぞれと希釈液との比率がいずれも1:100であり、組織切片と希釈液との体積比が1:2~1:3であることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
工程(2)中の一次抗体がモノクローナルマウスのリポ多糖抗体であり、二次抗体がAlexa Fluor Plus 594に結合したロバ抗マウスIgG抗体であることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項10】
工程(2)において、一次抗体、二次抗体を加えて少なくとも2日間インキュベートすることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出の技術分野に関し、特に、組織透明化法と組織学的方法との併用の、腫瘍内細菌を検出するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物と腫瘍の関係が予想以上に大きいことは、多くの研究により明らかになってきた。マイクロバイオームの同定ツールの進歩に伴い、ヒトの微小生態系が腫瘍の発生・進展、免疫反応、治療効果および予後に与える影響は、徐々に広く注目されているようになってきた。感染に関連するがんおよび腫瘍内微生物の存在もすでに多くの腫瘍タイプで確認されており、後者は直接的ながん化の誘発、発がん分子経路の調節、宿主免疫系の調節などのメカニズムによって腫瘍の発生・進展を促進する可能性があると考えられている。
近年、腫瘍内に細菌が存在するかどうか、細菌が特定の腫瘍内の微小環境を好むかどうか、また細菌の存在量がその作用とは関係ないかどうかなどの問題について強い議論がなされている。「The human tumor microbiome is composed of tumor type-specific intracellular bacteria」では、Nejmanらが乳がん、肺がん、卵巣がん、膵臓がん、メラノーマ、骨がん、脳グリオーマなど7種類の実体腫瘍に対して様々な方法で全面的な細菌検出を行ったことが報告された。彼らは、すべての腫瘍タイプで細菌のLPSと16S rRNAが検出され、しかも細菌の存在量と種類には明らかな腫瘍種間の差異があることを発見した。しかし、この研究は主にパラフィン切片のような薄い切片での免疫組織化学染色、蛍光in situハイブリダイゼーション及びシークエンスなどの方法に基づいて細菌を検出するものであり、かかる方法体系では、試料処理中に汚染されうるという問題を避けることが困難であり、また、これらの方法での破壊的加工により、細菌の数と位置の誤読を招く可能性がある。そのため、現在、腫瘍内に微生物が存在することを証明するより明確な証拠を提供し、腫瘍のマイクロバイオームの分布と機能を表現する、より完璧な方法体系が緊急に必要とされている。
【0003】
現在、より強力で直観的な証拠を提供し、腫瘍微小環境における微生物集団と腫瘍細胞との直接的な相互作用をよりよく理解するためには、厚い腫瘍組織試料に対する微生物検査及び三次元再構成が必要とされている。一方、組織透明化技術は、組織切片技術による試料の厚さに対する制限(数マイクロメートル)を打ち破り、薄い切片の表面での潜在的な汚染を避けることができ、完全な組織において単細胞分解能で微生物集団の三次元可視化を実現するのに役立つ。そのため、組織透明化技術を微生物の検出に応用するのは全く新しい試みであり、高スループットで汚染のない、偏りのない腫瘍微生物の検出方法を提供することが期待できる。
組織透明化技術とは、水溶性有機溶媒または親水性試薬を用いて、固定した組織を浸漬、電気泳動または灌流などの方法で透明化処理した後、組織の屈折率に応じて高屈折率媒質を選択して利用し、光散乱を低減し、組織を光学的に透明化し、画像の深度と画像のコントラストを高める技術である。組織構造の完全性を維持した上で、組織透明化技術は細胞レベルでの三次元イメージングを実現でき、空間構造情報の紛失を避けることができるため、組織透明化技術は光学顕微鏡の可能性を切り開く重要な技術であり、全臓器または全身細胞の略図を作成する最適な選択肢の一つでもある。従って、組織透明化技術を顕微鏡技術と組み合わせることにより、体積イメージング(全身または全臓器イメージング)の進展を大きく推進して、完全な生物システムに対する総合的な理解を強化することができ、生物医学研究分野に強い有利なツールを提供した。
【0004】
近年、組織透明化技術は急速に発展し、DISCO、Murray、uDISCO、Scale、SeeDB、CLARITY、CUBIC、iDISCO、FRUIT、TDE、PEGASOS、OPTIClearなど、様々な新しい透明化技術が登場しており、それぞれの透明化技術は特定の組織に適用可能である。ヒト組織のために開発された透明化技術OPTIClearは、新鮮でホルマリン固定パラフィン包埋ヒト脳組織(5mm厚)を効果的に透明化することができ、超微細構造を良好に保存することができ、しかも多種の蛍光染料及び親油性染料との互換性があり、親油性染料トレーサーと組み合わせると、OPTIClearはヒト脳組織のニューロン投影と樹状突起棘構造を高分解能で三次元イメージングすることができる。
Accu-OPTIClear技術は、組織を光学的に透明化し、画像の深度と画像のコントラストを増加させるものであるが、細菌への標識は、免疫蛍光(Immunofluorescence、IF)、免疫蛍光(Immunofluorescence、IF)とin situハイブリダイゼーション(Fluorescence in situ hybridization、FISH)などの従来の組織学的方法で行われる。しかし、従来の組織学的方法と現在の新しいシークエンシング技術では、サンプル処理中に汚染されうるという問題を避けることは困難であり、また、これらの方法の破壊的加工により、細菌の数と位置の誤読を招く可能性がある。さらに、従来技術では、組織透明化法を組織学的方法と併用して腫瘍内細菌の検出に応用するなどの関連研究の報告はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の従来技術の欠点を克服し、組織透明化法と組織学的方法との併用の、腫瘍内細菌を検出するための使用を提供することにあり、本発明では、組織透明化法と従来の組織学的方法を併用することで、試料の厚さの制限(数マイクロメートル)を打ち破ることができ、それにより、薄い切片の表面での潜在的な汚染を回避することができ、さらに、大きいサイズの組織試料の高分解能での、全体の三次元画像を完全に構築することができ、それにより、腫瘍内細菌の三次元可視化を可能にし、腫瘍微小環境中の細菌の全貌を示し、将来宿主の腫瘍細胞と微生物との相互作用関係を研究するための基礎を築く。
上記の目的を達成するために、本発明で採用される技術的手段は以下の通りである。
第一の態様では、本発明は、組織透明化法と組織学的方法との併用の、腫瘍内細菌を検出するための使用を提供する。
従来の組織学的方法だけを使用する場合と比較して、本発明の組織透明化法と従来の組織学的方法を併用した方法のほうが、腫瘍内の細菌の検出により信頼性の高い結果が得られ、併用方法で作られた組織は共焦点顕微鏡によって三次元再構成することができ、腫瘍組織における細菌の空間的分布状況を直観的に三次元的に表現することができる。
本発明に記載の使用の好ましい実施形態として、前記組織透明化法は、疎水透明化法(hydrophobic method)または親水透明化法(hydrophilic method)を含む。より好ましくは、疎水透明化法は、3DISCO、iDISCO、uDISCO、vDISCO等を含むが、これらに限定されず、より好ましくは、親水透明化法は、Scale、SeeDB、CUBIC、CUBIC-X、Accu-OPTIClear等を含むが、これらに限定されない。
本発明では、OPTIClearに加えて、Accu-OPTIClear透明化法を使用することで、過度の脱脂を回避することができ、また、組織の透明化時間を減らし、組織損傷を減らし、抗原をよりよく保存することができる。
本発明に記載の使用の好ましい実施形態として、前記組織学的方法は、免疫蛍光標識法(immunofluorescence method)、免疫酵素標識法(immunoenzyme method)、蛍光in situハイブリダイゼーション標識法のうちの一つを含む。
【0006】
本発明に記載の使用の好ましい実施形態として、腫瘍内細菌の検出過程中に採用される組織切片の厚さが400~600μmである。
現在、細菌の組織学的検査方法としては、パラフィン切片の免疫組織化学及び蛍光in situハイブリダイゼーション技術を使用することが多いが、パラフィン切片はほとんど薄い切片(4~6μm)であるため、処理中の表面汚染問題を避けることが難しい。本発明では、厚い組織(400~600μm)を採用し、組織透明化法を利用して光学的透明性を達成するとともに、従来の組織学的方法(例えば免疫蛍光標識法)と併用して腫瘍組織内部の細菌を標識することで、より正確な実験結果を得て、腫瘍微小環境における微生物集団と腫瘍細胞との直接の相互作用を研究するための堅固な基礎を築く。
より好ましくは、前記組織切片の厚さが500μmである。
組織切片の厚さが500μmである場合、組織透明化技術を利用して光学に透明にするとともに、免疫蛍光法と併用して腫瘍組織内部の細菌を標識することで、最も正確な実験結果が得られる。
本発明に記載の使用の好ましい実施形態として、前記腫瘍は、ヒト脳グリオーマ、乳がん、膵臓がん、メラノーマの少なくとも一つを含む。
第二の態様では、本発明は、組織透明化法と免疫蛍光標識法を併用して腫瘍内細菌の検出に応用する方法であって、上記方法は、
厚さが400~600μmである組織切片を得て、OPTIClear組織透明化試薬を調製し、さらに洗浄剤をOPTIClear組織透明化試薬中に溶解し、混合液を得て、組織切片と混合液との体積比が1:3を超えるように、組織切片を混合液中に浸漬し、その後自家蛍光消光剤を加え、そしてPBS溶液で浸漬した組織切片を洗浄し、さらにブロッキング剤を加えて一晩インキュベートする工程(1)と、
工程(1)で処理された組織切片をウェルプレート中に置いて、一次抗体希釈液を加えてインキュベートし、インキュベートした組織切片を緩衝液で洗浄し、そして二次抗体希釈液を加えてインキュベートする工程(2)と、
二次抗体希釈液を加えてインキュベートするとともに、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドールを加えて細胞核を標識し、その後工程(2)と同じような緩衝液で組織切片を洗浄する工程(3)と、
工程(3)で処理された組織切片をPBS溶液で洗浄し、そしてOPTIClear組織透明化試薬を加え、遮光でインキュベートし、最後に顕微鏡観察および三次元画像再構成を行う工程(4)と、
を含む、方法を提供する。
より好ましくは、工程(1)中の洗浄剤がドデシル硫酸ナトリウム(SDS)であり、組織の透明度と脱色の程度を高めるが、その洗浄液は他の種類であってもよい。
組織切片を混合液(組織切片と混合液との体積比が1:3を超え)に浸漬することで、組織切片の光学的透明性を実現することができ、ブロッキング剤を添加してブロッキングすることで、ブロッキング剤を予め組織切片中の交差反応のある部位と結合させ、偽陽性の出現を減少させ、系内に自家蛍光消光剤を添加することで、組織中の自発蛍光物質の干渉を排除することができる。
工程(3)では、系内に4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を添加することで細胞核を標識することができ、細菌と細胞の相対位置を観察することを可能にする。工程(4)では、さらにOPTIClear組織透明化試薬を加えることで、組織切片が光学的に透明になり、蛍光顕微鏡下での観察を容易にする。
本発明に記載の方法の好ましい実施形態として、工程(2)中の一次抗体、二次抗体のそれぞれと希釈液との比率がいずれも1:100であり、組織切片と希釈液との体積比が1:2~1:3であり、組織を浸漬できればよい。
本発明に記載の方法の好ましい実施形態として、工程(2)中の一次抗体がモノクローナルマウスのリポ多糖抗体であり、二次抗体がAlexa Fluor Plus 594に結合したロバ抗マウスIgG抗体である。
本発明に記載の方法の好ましい実施形態として、工程(2)において、一次抗体、二次抗体を加えて少なくとも2日間インキュベートする。
本発明の技術案では、一次抗体がモノクローナルマウスのリポ多糖抗体であることにより、グラム陰性細菌のLPSと特異的に結合することができ、細菌を識別し、標識することができ、Alexa Fluor Plus 594に結合したロバ抗マウスIgG抗体は一次抗体に結合することで、一次抗体で標識された細菌に蛍光をもたらす。
実験の初期段階において、本発明者が組織透明化法と従来の組織学的方法を併用する際に、いくつかの障害を発見し、それは主に免疫蛍光標識時の抗体浸透性にあり、抗体と蛍光基の分子量が大きく、組織中での浸透速度が遅いため、長いインキュベート時間を要する。そこで、本発明者は絶えず実験を行い、短いインキュベート時間内に良好な免疫染色品質を持つために、最終的に厚さ400~600μmの組織切片を選択して実験を行った。また、薄い切片の表面の潜在的な汚染を排除するために、厚い組織切片に対して組織の透明化処理を行って組織の奥の細菌を観察することに加え、蛍光標識法を用いた微生物検出では、組織中の自発蛍光物質の干渉を排除する必要がある。自発蛍光物質の干渉とは、リポフスチン、ミトコンドリア、リソソームなどの細胞内構造が光を吸収した後に自己発光した光を指し、その形態と大きさは細菌と簡単に区別できない。本発明者は、化学試薬による消光という方法を採用し、その干渉をできるだけ排除し、実験結果の正確性を高めた。
【0007】
本発明は、従来技術と比較すると、以下の効果を有する。
(1)従来の組織学的方法だけを用いる場合と比較して、本発明の組織透明化法と従来の組織学的方法とを併用した方法の方が、組織試料の厚さの制限(数マイクロメートル)を破ることができ、薄い切片の表面の潜在的な汚染を避け、より信頼性の高い結果を得ることができる。
(2)本発明の組織透明化法と従来の組織学的方法を併用する方法系で作製された組織は、共焦点顕微鏡または多光子レーザー走査顕微鏡によって三次元再構成することができ、腫瘍組織における細菌の空間分布状況を直観的に三次元的に表現することができる。
(3)本発明の併用方法では、化学試薬による消光方法を採用し、組織中の自発蛍光物質の干渉をできるだけ排除して偽陽性の結果を減らし、実験の正確性を高める。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の検出方法を用いた透明化前後の3種類の異なるタイプの組織試料の比較を示す図である。
【
図2】EGFP
Tg/+マウスの脳組織切片のレーザー走査共焦点顕微鏡画像である(
図2Aは、EGFP
Tg/+マウス脳組織切片の平面パノラマ走査画像である。
図2Bは、EGFP
Tg/+マウスのニューロン突起と接続を示す図である。
図2Cは、三次元再構成されたEGFP
Tg/+マウスのニューロン接続を示す図である。)
【
図3】ヒト脳グリオーマ試料の組織透明化と免疫蛍光標識の併用処理後の多光子レーザー走査顕微鏡で観察した画像である。
【
図4】ヒト脳グリオーマ試料の組織透明化と免疫蛍光標識の併用処理後の多光子レーザー走査後の三次元再構成図である。
【
図5】マウス腸管組織の組織透明化と免疫蛍光標識の併用処理後の共焦点顕微鏡で観察した画像である。
【
図6】ヒト脳グリオーマ試料、C57BL/6マウス脳組織および小腸組織試料のパラフィン切片の免疫組織化学染色標識図である。
【
図7】ヒト脳グリオーマ試料、C57BL/6マウス脳組織および小腸組織試料のパラフィン切片の免疫蛍光染色標識図である。
【
図8】ヒト脳グリオーマ試料、C57BL/6マウス脳組織および小腸組織試料のパラフィン切片のin situ蛍光ハイブリダイゼーション標識図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の目的、実施形態および利点をよりよく説明するために、添付の図面と具体的な実施例に関連して、本発明をさらに説明する。
以下の実施例で使用される実験方法は、特に断りのない限り、通常の方法であり、使用される材料、試薬などは、特に断りのない限り、市販のものである。
材料の前処理:
実験群:ヒト脳グリオーマ組織(GBM)3例;
対照群:陽性対照群マウス腸管組織1例+陰性対照群マウス脳組織2例。
実験動物の由来:C57BL/6マウス(5~6週齢、18~22g、雄)2匹、EGFPTg/+マウス(3月齢、雄)1匹を南方医科大学珠江病院実験動物センターから入手し(ライセンス番号:SYXK(粤)2019-0215)、恒温、恒湿、かつ特定の病原体(SPF)がない動物舎で飼育する。使用されるネズミケージ、敷料、飼料などは高圧蒸気滅菌消毒処理され、定期的に交換された。本発明では、動物のin vivo実験はすべて、実験動物福祉の倫理原則を厳守して行われた。
マウスの腸管組織と脳組織のサンプリングと前処理:EGFPTg/+マウスにペントバルビタールナトリウム(120mg/kg)を腹腔内注射し、安楽死させた後、経血管的に0.9%生理食塩水を灌流し、そして、4%(w/v)パラホルムアルデヒド(PFA)で灌流固定した。解剖は直ちに行い、脳を採取し、4%PFAで4℃、約1年間固定した。1匹のC57BL/6マウスを頚椎脱臼にて屠殺した後、直ちに解剖して脳を採取し、4%PFAで4℃、約2~3週間固定した。2匹目のC57BL/6マウスはペントバルビタールナトリウム(120mg/kg)の腹腔内注射により麻酔し、心臓を冷PBS(pH7.4)にて10ml/分間、さらに4%PFAにて10ml/分間で灌流した。全腸解剖後、4%PFAで腸内容物を洗い流し、4℃で2日間振盪せずに固定した。組織の透明化処理に先たち、3×30mLのPBS(0.01%(w/v))で4℃、一晩軽く洗浄し、パラホルムアルデヒドの残留物を除去した。
ヒト脳グリオーマ組織試料の由来:試料は、南方医科大学珠江病院の臨床生物試料バンクから入手した。3例のヒト脳グリオーマの手術切除標本をランダムに抽出し、そのうち男性2例、女性1例、年齢は2歳~47歳であった。上記標本はすべて薬物治療や化学療法を受けていないグリオーマ患者から得られたものであった。腫瘍は外科手術で切除され、直ちに滅菌生理食塩水で標本を洗い流し、腫瘍の実体部分を選んで無菌封バイアルに入れ、10%中性ホルマリン溶液の中で固定保存した。上記の操作については、無菌操作が必要であった。試料は臨床病理医によって診断を確定し、WHO分類に従って分類された(WHO II級2例:#1、#3、WHO IV級1例:#2)。このプロジェクトは、南方医科大学珠江病院医療倫理委員会の審査・承認(倫理番号2018-SJWK-004、2020-YBK-001-02)を受け、患者からインフォームドコンセントを得た。また、南方医科大学珠江病院の臨床生物試料バンクは、すでに中国人類遺伝資源管理事務室の保存審査を通過した(承認番号[2017]2042号、[2020]BC0019号)。
ヒト脳グリオーマ組織の前処理:ヒト脳グリオーマの試料から腫瘍の縁部から離れた部位をランダムに複数選択し、生検トレパン(Integra Miltex,4mm)で穿孔してサンプリングしてから、振動ミクロトーム(DOSAKA、DTK-2ER01N)または普通の刃でサンプリングした部位を切断し厚さ500μmのヒト脳グリオーマ組織切片とした。
【0010】
実施例1
組織透明化法と免疫蛍光標識法を併用して脳グリオーマ内細菌の検出に応用する方法であって、以下の工程(1)~(7)を含む。
(1)OPTIClear組織透明化試薬を調製し(20%(w/v)N-メチルグルコサミン(Sigma-Aldrich#66930)、32%(w/v)イソヘキサノール(Sigma-Aldrich#D2158)、および25% 2,2'-チオジエタノール(TDE)(Sigma-Aldrich#88559)溶液を混合し、濃塩酸で溶液のpHを7までに調整した。)、そしてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)洗浄剤をOPTIClear組織透明化試薬中に溶解し、濃度4%のSDS-OPTIClear混合液(SDS:OPTIClear=4:100)が得られた。
(2)上記で得られた脳グリオーマ組織切片を無菌EPチューブに移し、SDS-OPTIClear混合液を加え、脳グリオーマ組織切片をSDS-OPTIClear混合液中に浸漬させ、組織切片とSDS-OPTIClear混合液との体積比を1:3とし、37℃で1~3日間インキュベートした後、室温で適量のスルタンブラック溶液を滴下し、遮光で2時間振とうさせ、そしてPBS溶液で浸漬した組織切片を3×10分間洗浄し、その後、BSAブロッキング剤中に37℃で一晩インキュベートし、そしてBSAブロッキング剤を除去してPBS溶液で組織を洗浄した。
(3)工程(2)で処理された組織切片を24ウェルプレートに入れ、モノクローナルマウスのリポ多糖抗体(一次抗体)希釈液を加えてインキュベートし、ここで、一次抗体と希釈液との配合比を1:100とし、組織切片とモノクローナルマウスのリポ多糖抗体希釈液との体積比を1:2とし、37℃で2日間インキュベートし、その後、リポ多糖抗体希釈液でインキュベートした組織切片を、シェーカーで0.2%PBS-Tweenで6×30分間洗浄し、最後の洗浄液を残して37℃で一夜放置した。
(4)工程(3)で処理された組織切片を48ウェルプレートに入れ、Alexa Fluor Plus 594に結合したロバ抗マウスIgG(二次抗体)を加え、ここで、二次抗体と希釈液との配合比を1:100とし、組織切片とAlexa Fluor Plus 594に結合したロバ抗マウスIgG抗体希釈液との体積比を1:2とし、同時に、1μg/mlの4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドールを加えて細胞核を標識し、遮光して37℃で1日間インキュベートし、0.2%PBST溶液で6×30分間組織を洗浄した。
(5)キムワイプ紙で工程(4)で処理された組織切片の周囲の溶液を軽く吸引し、組織切片を無菌EPチューブに入れ、少なくとも3倍体積のOPTIClear溶液を加えて完全に浸漬させ、遮光して37℃で約15時間インキュベートした。
(6)顕微鏡観察:直径60mmの細胞培養シャーレを取り、染色した組織切片試料をシャーレに寝かせ、対物レンズの先端に浸漬できるようにOPTIClear溶液を数ml加え、多光子レーザー走査顕微鏡(Olympus FVMPE-RS、日本)下に置き、励起波長750nm(DAPI)、980nm(Alexa Fluor Plus 594)を選択して組織を観察し、対物レンズとしては、×10対物レンズ(XLPLN10XSVMP,10X/0.6 NA)を使用した。
(7)画像取得と三次元再構成:グリオーマの試料について、10倍の対物レンズの下で試料の縁部から離れた領域を観察して撮影し、Z-stackメニューでBegin/Endを選択して始点と終点のモードを設定し、画像プレビュー時に組織の全層を閲覧して始点と終点を決定した。1μmの光切断間隔を設定し、中間層の100μmの領域を選択し、ズームしてさらに2倍に拡大した後、1024×1024の解像度で層ごとにスキャンして画像を取得し、取得した画像をiMarisソフトウェアにスタックして三次元再構成した。
すべての操作は生物学的安全キャビネットで行い、試薬及び消耗品は濾過滅菌及び高温消毒を行った。組織試料を移したり、洗浄したりするときは、組織を傷つけないように優しくする必要があった。
ここで、試料が3例のヒト脳グリオーマ組織の場合、上記の検査方法を採用した場合を実験群とした。試料が陽性対照群のマウス腸管1例と陰性対照群のマウス脳組織2例の場合、上記の検査方法を採用した場合を対照群とした。
実験の結果は以下のとおりである。
図1を参照すると、厚さ1~2mmのEGFP
Tg/+マウス脳組織とC57BL/6マウス脳組織の切片を上記の方法で処理したところ、肉眼では組織の透過率が大幅に向上し、形態変化が少ないことが観察された。同じ処理後のヒト脳グリオーマ切片(厚さ500μm、1mm、2mm)は、透過率の改善が前二者よりも小さく、しかも厚さが小さいほど透過率が向上することから、ヒト脳グリオーマ試料のサンプリング及び処理の厚さとして500μmを選択した。透明化されたEGFP
Tg/+マウス脳組織切片では、共焦点顕微鏡でニューロンの基本形態と突起が確認され、その3D構造を再構成することができた(
図2参照)。
3例のヒト脳グリオーマ試料(厚さ500μm)は抗リポ多糖(LPS)抗体による免疫蛍光染色とDAPI再染色を行った後、組織の透明化と自家蛍光消光処理を行い、その後、多光子レーザー走査顕微鏡下で観察(10倍鏡)を行い、処理の全過程で汚染を慎重に管理した。
図3を参照すると、ヒト脳グリオーマの試料組織の内部の異なる層で細菌LPSの特異的な赤色シグナル(矢印で示す)が観察され、試料の表面密度は高く、内部密度は低い。その結果、陽性シグナルの直径は約0.7~2.0μmであり、紡錘状、円形などの形状を有し、細胞核の隣や細胞の間隙に分布していることが示唆された。
図4を参照すると、試料表面の潜在的な細菌汚染を排除するために、組織の深さ100μmの部分を取って再構成し、分析することにより、ヒト脳グリオーマ試料における細菌LPS特異的シグナルの空間分布を可視化することができ、平面走査で観察されたように、LPSシグナルの多くは孤立散在性に分布し、形態が不規則である。
図5(
図5(A)と
図5(B)は透明化前後の小腸組織であり;
図5(C)の矢印はマウスの腸管試料に標識された細菌を示す。)を参照すると、顕微鏡下でマウスの腸絨毛間隙に存在するLPSとLTAの特異的シグナルが観察され、選択した細菌のLPS抗体の有効性が検証された。しかし、マウスの腸内細菌の免疫蛍光形態はヒト脳グリオーマ内細菌のそれと明らかに異なり、前者はグラム陰性菌の典型的な特徴と完全な輪郭を示すことに対し、後者はしばしば散在分布し、紡錘状、円形などの不規則な形態を有していた。これは、組織の固定や透明化過程における細菌形態が変化したり破壊されたりすることによって生じる染色のばらつきによるものかもしれない。また、腫瘍内では、細菌は細胞壁欠陥状態やL型細菌である傾向があり、検出されたLPSは貪食された細菌の破片である可能性があることも指摘されている。
【0011】
実施例2
免疫組織化学方法(IHC)をヒト脳グリオーマ内細菌の検出に応用する方法であって、以下の工程(1)~(10)を含む。
(1)パラフィン切片の作製:固定したヒト脳グリオーマの試料を脱水、パラフィン包埋(脱水:さくら、VIPJ-JR;包埋:さくら、TEC-5)した後、厚さ4μmの連続切片(Leica、RM2245)を得た。
(2)パラフィン切片の脱パラフィン・再水和:切片を順次、キシレンIに15分間、キシレンIIに15分間、キシレンIIIに15分間、無水エタノールIに5分間、無水エタノールIIに5分間、85%アルコールに5分間、75%アルコールに5分間入れ、その後、蒸留水で洗浄した。
(3)抗原賦活化:抗原賦活化用クエン酸緩衝液(pH6.0)が満たされた修復ボックスに組織切片を入れて電子レンジで中火で8分間加熱して沸騰させ、火を止めて8分間保温してから中低火で7分間加熱し、抗原賦活化を行った。この過程では、緩衝液が過度に蒸発し、切片が乾燥してしまうことを防止しなければならない。自然冷却後、スライドガラスをPBS溶液(pH7.4)に入れ、脱色用シェーカーで毎回5分間、3回振とうして洗浄した。
(4)内因性ペルオキシダーゼの遮断:組織切片を濃度3%の過酸化水素水溶液に入れ、遮光、室温で25分間インキュベートし、PBS溶液(pH7.4)にスライドガラスを入れて脱色用シェーカーで毎回5分間、3回振とうして洗浄した。
(5)ブロッキング:ブロッキング液が予め組織中の交差反応のある部位と結合し、偽陽性の出現を減少させるように、組織化学サークル内に3%BSA溶液(ブロッキング液)を滴下して組織を均一に覆し、その後、室温で30分間ブロッキングした。
(6)一次抗体のインキュベーション:ブロッキング液を軽く振り落とし、組織切片に1:1000のモノクローナルマウスLPS(lipopolysaccharide)抗体(HycultBiotech、WN1222-5)と1:1000のモノクローナルマウスLTA(Lipoteichoic acid)抗体(GeneTex、GTX16470)の一次抗体を滴下し、切片をウェットボックスの中に寝かせて、4℃で一晩インキュベートした(ウェットボックス内に少量の水を入れて抗体の蒸発を防止する)。
(7)二次抗体のインキュベーション:一次抗体のインキュベーション後の組織切片をPBS(pH7.4)に入れて脱色用シェーカーで毎回5分間、3回振とうして洗浄し、切片を少し振って乾燥させた後、サークル内にHRP標識のロバ抗マウスIgG抗体を滴下して組織を覆い、室温で50分間インキュベートした。
(8)DAB発色:二次抗体のインキュベーション後の組織切片をPBS溶液(pH7.4)に入れて脱色用シェーカーで毎回5分間、3回振とうして洗浄し、切片を少し振って乾燥させた後、サークル内に新たに調製したDAB発色液を滴下し、顕微鏡下で発色時間をコントロールし、陽性は茶色で、水道水で切片を洗い流して発色を中止した。
(9)細胞核の再染色:ヘマトキシリンで工程(8)の組織切片を3分間程度再染色し、水道水で洗い、ヘマトキシリンの分別液で数秒間分別させ、水道水で洗い流し、ヘマトキシリンの色出し液で青色に発色させ、そして、流水で洗い流した。
(10)脱水および切片の封入:組織切片を順次、75%アルコールに5分間、85%アルコールに5分間、無水エタノールIに5分間、無水エタノールIIに5分間、n-ブタノールに5分間、キシレンIに5分間入れて、脱水して透徹させ、その後、組織切片をキシレンから取り出して少し乾かし、中性樹脂で切片を封入した。
【0012】
実施例3
免疫蛍光方法(IF)をヒト脳グリオーマ内細菌の検出に応用する方法であって、以下の工程(1)~(9)を含む。
(1)組織切片の作製:固定したのヒト脳グリオーマ試料を脱水、パラフィン包埋(脱水:さくら、VIPJ-JR;包埋:さくら、TEC-5)した後、厚さ4μmの連続切片(Leica、RM2245)、即ち、パラフィン切片を得た。
(2)パラフィン切片の脱パラフィン・再水和:切片を順次、キシレンIに10分間、キシレンIIに10分間、キシレンIIIに10分間、無水エタノールに5分間、95%アルコールに5分間、85%アルコールに5分間、75%アルコールに5分間入れて、その後、蒸留水で毎回5分間、3回洗浄した。
(3)抗原賦活化:クエン酸抗原賦活化緩衝液(pH6.0)が満たされた修復ボックスに組織切片を入れて電子レンジで中火で5分間加熱して沸騰させ、火を止めて5分間保温してから中低火で5分間加熱して、抗原賦活化を行った。この過程では、緩衝液が過度に蒸発し、切片が乾燥してしまうことを防止しなければならない。自然冷却後、スライドガラスをPBS溶液(pH7.4)に入れ、脱色用シェーカーで毎回5分間、3回振とうして洗浄した。
(4)自家蛍光消光:組織自家蛍光消光剤A液(Servicebio,G1221)を滴下し、室温で30分間インキュベートし、純水で5分間洗浄した。
(5)ブロッキング:その後、組織切片を3%BSA(Biofroxx,4240GR025)で2時間ブロッキングし、その後、血清をデカントした。
(6)一次抗体のインキュベーション:1:1000のモノクローナルマウスLPS (Lipopolysaccharide)抗体(HycultBiotech,WN1 222-5)、で4℃の条件で12~18時間インキュベートし、室温で30分間温度回復した。
(7)二次抗体のインキュベーション:1:1000のAlexa Fluor Plus 594に結合したロバ抗マウスIgG抗体(Invitrogen、AB_2762826)で、37℃の条件で定温でインキュベートした。
(8)自家蛍光消光:PBS溶液で毎回3分間、3回洗浄し、組織切片に組織自家蛍光消光剤B液(Servicebio,G1221)を滴下し、室温で5分間放置し、流水で3分間洗い流した。
(9)再染色、切片封入:最後にDAPI(ABCAM,ab104139)で細胞核を再染色し、マニキュアで切片を封入し、15分間後顕微鏡で観察した。
【0013】
実施例4
蛍光in situハイブリダイゼーション方法(FISH)をヒト脳グリオーマ内細菌の検出に応用する方法であって、直接蛍光細菌in situハイブリダイゼーション検出キット(EUB338プローブ)を使用して検出を行い、以下の工程(1)~(7)を含む。
(1)パラフィン切片の脱パラフィン・再水和:パラフィン切片を72℃で2時間ベーキングし、キシレンで脱パラフィンした後、順次に、無水エタノール、85%エタノール、70%エタノールで5分間再水和し、その後、PBS溶液に毎回5分間、2回浸漬した。
(2)核酸の露出:0.2mol/LのHCLを組織切片に滴下し、室温で20分間放置した後、HCLを吸引し、Triton X-100を滴下し、室温で15分間放置した後、Triton X-100を吸引し、PBS溶液に5分間浸漬し、その後、5mmol/LのプロテイナーゼKを滴下し、室温で20分間静置し、その後PBS溶液に5分間浸漬した。
(3)ブロッキング:約200μlのブロッキングバッファーを組織切片に滴下し、ウェットボックスに入れ、55℃の定温ボックスで2時間ブロッキングした。
(4)プローブの用意:ブロッキング終了直前に、プローブを25%のハイブリダイゼーションバッファーで1:100に希釈し、よく混和した後、88℃で3分間変性させ、37℃で5分間平衡化した。
(5)ハイブリダイゼーション:ブロッキング終了後、ブロッキングバッファーを吸引し、平衡化したプローブを15~30μl滴下し、カバーガラスを覆い、切片をラバーセメントで封入し、37℃で48時間ハイブリダイゼーションを行った。
(6)洗浄と脱水:洗浄バッファー(Washing Buffer)(10×)を蒸留水と1:9で均一に混合して作業溶液とし、ラバーセメントを除去し、スライドガラスを洗浄バッファーIの作業溶液に入れ、5分後にカバーガラスを自動的に剥がし、その後スライドガラスを新しい洗浄バッファーIの作業溶液(60℃に予熱)に移し、2分間洗浄した。そして、室温の洗浄バッファーIIの作業溶液に移し、15分間洗浄した。試料を順次に、70%、85%、100%エタノールに浸漬し、それぞれ2分間脱水した後、室温で乾燥した。
(7)切片の封入:20μlのDAPI防褪色溶液(Anti-fade solution)を滴下し、カバーガラスを覆い、マニキュアで切片を封入し、暗所で15分間静置した後、共焦点顕微鏡で観察した。
【0014】
実施例2~4のパラフィン切片はすべて上記のヒト脳グリオーマ試料のパラフィン切片を採用した。
結果:
図6(
図6(A)及び
図6(B)は、それぞれヒト脳グリオーマの連続切片に対して細菌LPSとLTAの免疫組織化学染色を行ったものである。
図6(C)及び
図6(D)は、それぞれC57BL/6マウスの脳組織の連続切片に対して細菌LPSとLTAの免疫組織化学染色を行ったもの(陰性対照)である。
図6(E)及び
図6(F)は、それぞれC57BL/6マウスの小腸組織の連続切片に対して細菌LPSとLTAの免疫組織化学染色を行ったもの(陽性対照)である)を参照すると、実施例2(IHC)は、3例の脳グリオーマ試料のいずれかにも細菌LPS陽性シグナルが検出され、類似した空間分布を示したことを示唆した。一方、細菌LTAは検出されなかったが、これは以前の報告と一致し、そして、陰性対照試料ではLPS及びLTA陽性シグナルが観察されず、陽性対照試料ではLPS及びLTA陽性シグナルの両方が検出された。
図7(
図7(A)、
図7(B)および
図7(C)は、それぞれヒト脳グリオーマ、C57BL/6マウス脳組織(陰性対照)、小腸組織(陽性対照)の連続切片に対して細菌LPS免疫蛍光染色を行ったものである。)を参照すると、実施例3(IF)は、実施例1と同じ抗体が使用され、薄いパラフィン切片上でも同様に3例のグリオーマ試料のいずれかにもLPSの存在が観察され、腫瘍組織ではそれが常に細胞内に局在し、陰性対照試料ではLPS陽性シグナルが観察されず、陽性対照試料では同様のLPS陽性シグナルが観察された。このことは、抗体の有効性と特異性を検証し、グリオーマ内にグラム陰性菌が存在するという実験結果に新たな証拠を追加した。
【0015】
図8(
図8(A)および
図8(B)は、それぞれヒト脳グリオーマの連続切片に対して細菌16S rRNA標識を行ったものであり、左側が陽性プローブ結果、右側が陰性プローブ結果である。
図8(C)および
図8(D)は、それぞれC57BL/6マウスの脳組織の連続切片に対して細菌16S rRNA標識を行ったものであり、左側が陽性プローブ結果、右側が陰性プローブ結果(陰性対照)である。
図8(E)および
図8(F)は、それぞれC57BL/6マウスの小腸組織の連続切片に細菌16S rRNA標識を行ったものであり、左側が陽性プローブ結果、右側が陰性プローブ結果(陽性対照)である。)を参照すると、実施例4(FISH)は、ヒト脳グリオーマ試料では細菌16S rRNAが検出され、それが細胞核の隣に分布しており、陰性対照試料では細菌16S rRNA陽性シグナルが観察されず、陽性対照試料では同様の16S rRNA陽性シグナルが観察されたことを示唆した。
【0016】
以上のことから、従来の組織学的手法のみを用いる場合と比較して、本発明の組織透明化法と従来の組織学的手法を併用する方法の方が、組織試料の厚さの制限(数マイクロメートル)を打ち破ることができ、薄い切片の表面の潜在的な汚染を避け、より信頼性の高い結果を得ることができる。本発明の併用方法では、化学試薬による消光方法を採用し、組織中の自発蛍光物質の干渉をできるだけ排除し、偽陽性を減少させ、実験の正確性をさらに高める。作製した組織はレーザー走査顕微鏡と多光子レーザー走査顕微鏡で画像を撮影し、三次元再構成と分析を行うことができ、これにより、直観的に三次元の角度から腫瘍組織中の細菌の空間分布状況を表現し、腫瘍微小環境中の細菌の全貌を表現することができ、将来宿主の腫瘍細胞と微生物の相互作用関係を研究するための基礎を築く。
なお、以上の実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の技術的思想を説明するためのものであるが、本発明を好適な実施例を参照して詳細に説明したが、当業者は、本発明の技術的思想の本質と範囲を逸脱することなく、本発明の技術的思想を修正または均等に置き換えることができることを理解する。
【国際調査報告】