(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】シリコン複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/029 20060101AFI20240808BHJP
H01M 4/38 20060101ALN20240808BHJP
H01M 4/36 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C01B33/029
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571745
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2022087133
(87)【国際公開番号】W WO2023118239
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/086900
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】アレナ、カリヤキナ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ、ドレガー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ティルマン
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072EE10
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH04
4G072JJ50
4G072LL03
4G072LL19
4G072MM01
4G072RR01
4G072RR11
4G072UU30
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050DA03
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
本発明は、多孔質粒子の存在下での少なくとも1種のシリコン前駆体の熱分解によるシリコン複合体の製造方法に関し、シリコンは前記多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積され、前記シリコン複合体は35質量%~60質量%のSiの目標含有量を有し、通常運転時では、前記方法は300℃~500℃の平均温度Tおよび30体積%~100体積%の前記シリコン前駆体の濃度Cで実施される。
前記方法は、通常運転に対して、および任意にさらなる段階Aに対して、前記パラメーターTおよびCの少なくとも1つの変化Δが生じる少なくとも1つの段階Aを含み、ここで
ΔT=10℃~130℃、および
ΔC=2%~70体積%である。
これは、段階Aの間に、シリコンの上記目標含有量の0.1%~50%が堆積されること、または2つ以上の段階Aの間、シリコンの上記目標含有量の、合計で多くとも50%が堆積されることを条件とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質粒子の存在下での少なくとも1種のSi前駆体の熱分解によるシリコン複合体の製造方法であって、シリコンは前記多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積され、前記シリコン複合体は35質量%~60質量%のSiの目標含有量を有し、通常運転において、前記方法は以下の条件
- 300℃~500℃の平均温度Tと
- 30体積%~100体積%の前記Si前駆体の濃度C
下で実施されるものであり、前記方法が、通常運転に対して、および任意にさらなる段階Aに対して、前記パラメーターTおよびCの少なくとも1つの変化Δが生じる少なくとも1つの段階Aを含み、ここで
- ΔT=10℃~130℃、
- ΔC=2体積%~70体積%、
であり、ただし、段階Aの間、上記目標含有量の0.1%~50%が堆積されるか、または2つ以上の段階Aの間、上記目標含有量の合計で多くとも50%が堆積されることを特徴とする方法。
【請求項2】
多孔質粒子の存在下での少なくとも1種のシリコン前駆体の熱分解によるシリコン複合体の製造方法であって、シリコンは前記多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積され、前記シリコン複合体は35質量%~60質量%のSiの目標含有量を有し、通常運転において、前記方法は以下の条件
- 300℃~500℃の平均温度Tと、
- 30体積%~100体積%の前記シリコン前駆体の濃度Cと、
- 前記多孔質粒子1gを基準として、0.01~20NL/hの前記シリコン前駆体の体積流量VS
下で実施されるものであり、前記方法が、通常運転に対して、および/またはさらなる段階Aに対して、前記パラメーターT、CおよびVSの少なくとも1つの変化Δが生じる少なくとも1つの段階Aを含み、ここで、
- ΔT=10℃~130℃、
- ΔC=2体積%~70体積%、
- ΔVS=0.01~10NL/h、
であり、ただし、段階Aの間、上記目標含有量の0.1%~50%が堆積されるか、または2つ以上の段階Aの間、上記目標含有量の合計で多くとも50%が堆積されることを特徴とする方法。
【請求項3】
通常運転時のVSが、前記多孔質粒子1gを基準として、0.01~10NL/h、特に好ましくは0.01~5NL/hである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ΔVSが、前記多孔質粒子1gを基準として、0.01~5NL/h、好ましくは0.01~2NL/hである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記シリコン複合体が、40質量%~55質量%、好ましくは42質量%~50質量%のSiの目標含有量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Siの前記目標含有量が、ガスクロマトグラフ法、質量分析法、赤外分光法および熱伝導率測定法からなる群から選択される少なくとも1つの方法によるオフガス流の組成の分析によって前記方法中に測定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
通常運転時のTが315℃~475℃、好ましくは330℃~450℃である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
通常運転時のCが40体積%~100体積%、好ましくは50体積%~100体積%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ΔTが20℃~100℃、好ましくは20℃~50℃である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ΔCが5体積%~60体積%、好ましくは10体積%~50体積%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
段階Aの開始から終了まで、前記変化Δが連続的に実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が0.7MPa未満の圧力で実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
緊密クリアランス攪拌機を備えた反応器中で行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
2つ以上の反応器を含むカスケード反応器システムで実施される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記シリコン前駆体が、モノシラン、ジシラン、トリクロロシラン、ジクロロシラン、メチルシランおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記多孔質粒子が、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソカーボン、マイクロビーズからなる群から選択される非晶質カーボン、天然グラファイトまたは合成グラファイト、単層および多層カーボンナノチューブ、グラフェンおよびそれらの混合物である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質粒子の存在下での少なくとも1種のSi前駆体の熱分解によるシリコン複合体の製造方法であって、シリコンは前記多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積し、前記シリコン複合体が35質量%~60質量%の目標含有量のシリコンを有するシリコン複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電流の貯蔵媒体として、リチウムイオン電池(LIB)は現在、最も高いエネルギー密度を持つ最も実用的な電気化学的エネルギー貯蔵手段である。LIBは、特に携帯用電子機器、工具、また自転車、スクーター、自動車など、電動移動手段の分野で使用されている。グラファイトカーボンは負極活物質として広く使用されている。欠点は、このような炭素の電気化学容量が比較的低いことで、理論的には黒鉛1グラムあたり多くとも372mAhであり、リチウム金属で理論的に達成可能な電気化学容量の約10分の1にしか相当しない。負極の代替活物質としては、例えばEP 1730800 B1やEP 3335262 B1に記載されているように、シリコンの添加が挙げられる。シリコンは、リチウムと電気化学的に活性な二元系合金を形成し、シリコン1グラムあたり最大3579mAhという、電気化学的に達成可能な非常に高いリチウム含有量を可能にする。
【0003】
シリコン中へのLiイオンのインターカレーションとデインターカレーションには、非常に大きな体積変化を伴うという欠点があり、完全なインターカレーションの場合には300%にも達することがある。このような体積変化は、シリコン含有活物質に厳しい機械的ストレスを与え、その結果、活物質が粉々になる可能性がある。この過程は電気化学的粉砕とも呼ばれ、活物質と電極構造の電気的接触が失われ、電極の容量が不可逆的に失われる。
【0004】
さらに、Si含有活物質の表面は、電解液の成分と反応して不動態化保護層(固体電解質界面相;SEI)を形成することがある。形成された成分はもはや電気化学的に活性ではない。そこに結合したリチウムは系で利用できなくなるため、LIBの容量が著しく低下する。LIBの充放電過程におけるシリコンの体積変化により、SEIは定期的に破裂し、Si含有活物質の自由表面がさらに露出し、SEIがさらに形成される。LIBでは、使用可能な容量に相当する可動リチウムの量が正極材料によって制限されるため、正極材料は次第に消費され、わずか数サイクルで容量が低下する。
【0005】
LIB用負極活物質として知られているものには、気体または液体前駆体からのシリコンを多孔質C粒子にインターカレートしたSi-C複合粒子がある。Si-Cコンポジットの利点は、シリコンが微細に分布し、シリコンの体積変化を許容すると同時にシリコンの電気的接触を維持する炭素骨格に埋め込まれていることである。このようなSi-C複合体は、例えば、多孔質炭素マトリックスの細孔内に1つ以上のSi前駆体を気相堆積させることによって製造される。多孔質構造へのシリコンの導入は、化学気相浸透法(CVI)としても知られている。
【0006】
Si複合体がCVIによって製造される場合、Si前駆体は通常、低い絶対圧および分圧、したがって低濃度で使用されるため、シリコン含有材料中のSi比率を高くするためには長い反応時間が必要となる。そうしないと、粒子の外側に粗いシリコンとも呼ばれる厚いSi層が形成されるからである。これらの厚いSi層は、電解液と接触し、サイクルの過程で、SEIの絶え間ない改質と組み合わさって、粒子表面の重い構造化につながるという点で有害である。さらに、プロセスパラメーターの最適な調整には、すべての反応パラメーターの的確な知識が必要であり、これは通常経験的に決定されなければならない。さらに、使用される多孔質マトリックスは、その細孔および粒度分布に関して一定の変動幅を示すため、厚いSi層につながる過浸透を避けることは非常に困難である。また、生産性の理由から、シリコン前駆体(Si前駆体)の比較的高い濃度および/または比較的高い温度で連続的に浸透を行うと、厚いSi層が形成される。
【0007】
WO 2022/029422 A1は、CVIによって製造された25~65質量%のシリコンを含むSi-C複合体を開示している。この複合体は、細孔内および表面上にナノスケールの元素状シリコンの多くのドメインを含むメソおよびマイクロ多孔質C足場からなる。多孔質C粒子とシランから、温度450℃、減圧の流動床反応器で製造することができる。厚いSi層(粗いバルクシリコン)の形成を防ぐため、20体積%未満のシラン濃度が全体を通して使用された。この高い希釈率は、必然的に長い反応時間と不活性ガスの大量の消費をもたらし、プロセスの経済性を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP 1730800 B1
【特許文献2】EP 3335262 B1
【特許文献3】WO 2022/029422 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような背景から、本発明の目的は、リチウムイオン電池の負極活物質として使用する際に高いサイクル安定性を確保しつつ、既知の製造方法よりも迅速かつ経済的に得られるシリコン含有材料の製造方法を提供することにある。従って、厚いシリコン層の形成は避けるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多孔質粒子の存在下での少なくとも1種のSi前駆体の熱分解によるシリコン複合体の製造方法であって、シリコンが前記多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積され、前記シリコン複合体が35質量%~60質量%のSiの目標含有量を有し、通常運転において、前記方法が以下の条件で実施される方法に関する。
- 300℃~500℃の平均温度Tおよび
- 供給ガス流中の30体積%~100体積%の前記Si前駆体の濃度C。
前記方法は、少なくとも1つの段階Aを含み、この段階Aでは、前記パラメーターTおよびCの少なくとも1つの、通常運転に対する変化Δ、及び任意に、さらに段階Aに対する変化Δが生じる。ここで
ΔT=10℃~130℃、および
ΔC=2%~70体積%であり、
ただし、段階Aの間に、シリコンの前述の目標含有量の0.1%~50%が堆積されるか、または2つ以上の段階Aの間に、前述の目標含有量の合計で多くとも50%が堆積される。
【0011】
本発明はさらに、実質的に上述の方法に対応するさらなる方法を提供する。このさらなる方法は、通常運転において、以下の条件で実施される。
- 300℃~500℃の平均温度T、
- 30体積%~100体積%の前記Si前駆体の濃度Cおよび、
- 前記多孔質粒子1gを基準として0.01~20NL/hの前記Si前駆体の体積流量VS。
このさらなる方法は、同様に、少なくとも1つの段階Aを含み、この段階Aでは、前記パラメーターT、C及びVSの少なくとも1つの、通常運転に対する変化Δ、及び任意に、さらに段階Aに対する変化Δが生じる。ここで
ΔT=10℃~130℃、
ΔC=2体積%~70体積%および
ΔVS=0.01~10NL/hであり、
ただし、段階Aの間に、シリコンの前述の目標含有量の0.1%~50%が堆積されるか、または2つ以上の段階Aの間に、前述の目標含有量の合計で多くとも50%が堆積される。
【発明の効果】
【0012】
本発明による方法の1つの利点は、全プロセス間中のSi前駆体の転化率が30%より大きいであることである。これに加えて、多孔質粒子上、特に多孔質粒子内でのシリコンの特に均一な堆積が続き、その結果、得られるシリコン複合体は、LIB用負極活物質としての用途において高い安定性を示す。
【0013】
浸透反応を異なるプロセスパラメーターを有する段階に分割することで、高い生産性と相俟って、全体的なプロセス時間の短縮を目標とすることができる。驚くべきことに、静的な条件下では、供給されたSi前駆体の転化率は一定ではなく、むしろ反応時間の経過とともに変化し、その結果、静的なプロセスモードではSi前駆体の最適な利用が達成されないことが判明した。これは、適した堆積反応のプロセスモードによって補われ、その結果、転化率が向上する。
【0014】
さらに、本発明による方法は、厚いSi層の形成という不利な点を驚くほど克服しており、その結果、この方法によって得られたSi複合体は高い電気化学的性能を有する。
【0015】
通常運転では、反応器へのSi前駆体の供給体積流量VSは、使用される多孔質粒子1グラム当たり0.01~10NL/h、好ましくは0.01~5NL/hとすることができる。体積流量の測定は、回転計を用いるなど、一般的に用いられる方法で行うことができる。
【0016】
ΔVSは、使用される多孔質粒子1g当たり0.01~5NL/h、好ましくは0.01~2NL/hとすることができる。
【0017】
シリコン複合体は、シリコン複合体の総質量基準で、40質量%~55質量%、好ましくは42質量%~50質量%の(Si前駆体からの堆積によって得られる)目標含有量のシリコンを有することができる。
【0018】
Siの目標含有量は、本プロセス中にサンプリングを繰り返すことによって経験的に測定することができる。
【0019】
Siの目標含有量は、ガスクロマトグラフ法、質量分析法、赤外分光法および熱伝導率測定法からなる群から選択される少なくとも1つの方法でオフガス流の組成を分析することにより、本プロセス中に測定することが好ましい。
【0020】
Siの目標含有量の測定は、特に好ましくは、ガスクロマトグラフィーまたは熱伝導率測定によるオフガス組成の連続分析によって実施される。オフガス流は、ガス組成の分析のために反応器出口で直接引き抜くことができる。堆積シリコンの測定は、シラン希釈に水素が使用されていなければ、オフガス中に存在する水素の定量によって間接的に行うこともできる。
【0021】
平均温度Tは、通常運転で315℃~475℃、好ましくは330℃~450℃とすることができる。
通常運転の平均温度TRは、通常運転の全温度の平均として定義される。温度とは、プロセスを制御する手段におけるプロセス内温度を意味すると理解されたい。段階Aの温度が、Si前駆体の供給を中断することなくΔTだけ変化する場合、加熱段階または冷却段階は段階Aの一部と見なされる。そして、段階Aの平均温度(TA)が使用される。
【0022】
ΔTは20℃~100℃、好ましくは20℃~50℃である。
【0023】
通常運転では、濃度Cは30%~100体積%、好ましくは50%~100体積%である。
【0024】
Cの値は、好ましくは、反応ガス中のSi前駆体の濃度、すなわち、一般に、反応器への反応ガスの供給導管中の濃度に関する。反応ガスは、典型的には、Si前駆体および/または窒素のような不活性ガスを含む。供給される反応ガス中のSi前駆体の濃度は、ロータメータのような適切な計量装置によって調整することができる。
【0025】
ΔCは5~60体積%、好ましくは10~50体積%である。
【0026】
パラメーターC、T及びVSの少なくとも1つにおける変化Δが、段階Aの開始から終了まで連続的に実施される場合が好ましい。具体的な実施形態では、変化は段階的に実施することもできる。
【0027】
測定されたSiの目標含有量に応じて、変化Δが開始されることもあれば、終了されることもある。言い換えれば、段階Aは、変化Δに応じて開始(通常運転からの逸脱)または終了(通常運転への復帰)され得る。
【0028】
本方法は0.7MPa未満の圧力で行われるのが好ましい。特に、圧力はプロセス中実質的に一定である。ここで、実質的にとは、圧力が±0.1MPaの変動幅を有していてもよいことを意味する。
【0029】
本発明によるSi複合粒子の製造は、Si浸透に一般的に使用される任意の反応器で実施することができる。流動床反応器、レトルトオーブン、管状反応器、ロータリーキルンから選択される反応器が好ましく、これらの反応器は水平から垂直までどのような配置でもよく、固定床反応器は開放系または閉鎖系、例えば圧力反応器として操作することができる。特に、多孔質粒子と、Si前駆体を浸透させる間に形成されるケイ素含有原料(最終製品のみをケイ素複合体と表現する)とを均質に混合できる反応器が好ましい。これは、多孔質粒子の細孔内および表面へのシリコンの可能な限り均質な堆積に有利である。最も好ましい反応器は、流動床反応器、ロータリーキルン、圧力反応器、床反応器である。
【0030】
本発明による方法は、緊密クリアランス攪拌機を備えた反応器で行うのが好ましい。
【0031】
本方法はさらに、2つ以上の反応器を含むカスケード反応器システムで実施することもできる。
【0032】
カスケード反応器システムで本方法を実施することは、1つの反応器のみで本方法を実施する場合に比べ、反応器の長い冷却および加熱段階が短縮されるという利点がある。この結果、経済的な利点が得られる可能性がある。カスケード反応器システムは、さらに、個々の反応器をその目的のために的確に構成することができるという利点を提供することができる。カスケード反応器システムは、通常、個々の段階を形成するために様々な量の反応器を互いに組み合わせることができるため、よりスケーラブルである。温度、体積流量および濃度への適合は、反応器カスケード内の異なる反応器で段階Aおよび通常運転を行うことによっても実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明による方法は、少なくとも3つの段階を含む:
第1段階:反応器Aに多孔質粒子を充填し、粒子を前処理し、その後、前処理した粒子を反応器Bまたはリザーバー容器に移すか、または原料を反応器Aに残す。
第2段階:反応器Bを、Si前駆体および典型的には不活性ガスを含むガスで通過させる。Siを含まない前駆体が存在する場合もある;反応器を、Si前駆体の熱分解が多孔質粒子の表面および細孔内で起こる温度に温度制御する。通常運転に加えて、パラメーターT、CおよびVSの少なくとも1つが変更される段階Aを少なくとも1つ含むプロセスプロファイルを確立する。反応は、負圧でも正圧でも行うことができる。多孔質粒子の細孔にシリコンを導入した後、Si複合体は反応器Cに移されるか、中間貯蔵のためにリザーバー容器に移されるか、または原料は反応器Bに残る。
第3段階:ケイ素含有粒子の表面の機能化および/またはコーティングのためのSi複合体の後処理。粒子を所定の温度まで冷却し、反応器CからSi複合体を取り出し、好ましくは貯蔵容器に直接移すか、適切な容器に直接充填する。
【0034】
第1段階では、多孔質粒子を加熱可能なおよび/または耐真空性および/または耐圧性反応器Aに充填する。この充填は手動または自動で行ってよい。
【0035】
反応器Aへの多孔質粒子の充填は、不活性ガス雰囲気または好ましくは周囲空気中で行うことができる。使用可能な不活性ガスとしては、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物、例えばフォーミングガスなどが挙げられる。アルゴンまたは窒素が好ましい。
【0036】
自動充填は、計量スクリュー、ロータリースターバルブ、振動コンベア、プレート式計量装置、ベルト式計量装置、真空計量システム、負圧計量、またはその他の計量システム、例えばサイロやその他の容器システムからの計量システムによって行うことができる。
【0037】
第1段階の反応器Aにおける粒子の前処理の目的は、粒子から空気/酸素、水、または界面活性剤やアルコールなどの分散剤、および不純物を除去することである。これは、不活性ガスによる不活性化(前段参照)、最高1000℃までの温度の昇温、最高1Paまでの圧力の減圧、または個々のプロセスステップの組み合わせによって達成することができる。
【0038】
第1段階における前処理のさらなる目的は、多孔質粒子の化学的表面構造をさらなる物質で変化させることである。添加は、乾燥の前または後に実施することができ、原料が反応器Bに移される前にさらに加熱工程を実施することができる。物質は、気体、固体または液体の形態で、または溶液の形態で反応器に添加することができる。混合物、エマルジョン、懸濁液、エアロゾルまたは発泡体も可能である。可能な物質としては、二酸化炭素、水、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、フッ化水素酸、リン酸、硝酸、塩酸、アンモニア、リン酸水素アンモニウム、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、アルコキシドなどがある。
【0039】
さらなる反応器または容器への多孔質粒子の移送は、ダウンパイプ、連続コンベア、フローコンベア/吸引または圧力搬送装置(例えば、真空コンベア、搬送ブロワー);機械コンベア(例えば、動力ローラーコンベア、スクリューコンベア、吊り下げコンベア、オーバー/アンダーコンベア、バケットコンベア、ロータリースターバルブ、チェーンコンベア、スクレーパーコンベア、コンベアベルト、振動コンベア);重力コンベア(例えば、シュート、ローラートラック、ボールトラック、レールトラック)を介して行うことができる。
【0040】
第2段階では、前処理した原料を反応器Bで平均温度300℃~500℃、特に好ましくは315℃~475℃、その中でも特に好ましくは330℃~450℃に加熱する。
【0041】
温度の変更中、または温度の到達時、または温度プロファイルの実行中、反応器Bは、少なくとも1つの不活性ガス、および/または少なくとも1つのSi前駆体および/または少なくとも1つのSiを含まない前駆体からなる少なくとも1つの反応性成分からなるガスによって交互にまたは同時に通過されることができる。ガスの異なる組成が連続して可能であり、または第2段階の間、指定された組成のパラメーター内で変化させることができる。
【0042】
好ましいSiを含まない前駆体(Si前駆体を含まない前駆体)は、1種以上の炭化水素である。炭素は一般に、炭化水素の熱分解によって多孔質粒子の細孔内および表面に堆積する。
【0043】
Siを含まない前駆体は、好ましくは、それ以上の成分を含まないか、1種以上の不活性ガス、および/または水素などの1つ以上の反応性成分、および/または1つ以上のドーパントを含む。ドーパントとしては、ホウ素、窒素、リン、ヒ素、ゲルマニウム、鉄またはニッケルを含む化合物を挙げることができる。ドーパントは、好ましくは、アンモニア、ジボラン、ホスファン、ゲルマン、アルサンおよびニッケルテトラカルボニルからなる群から選択される。
【0044】
反応ガスの定量添加は連続的または断続的に行うことができる。定量添加速度は反応時間中に変化させてもよい。
【0045】
反応器Bの温度、圧力、圧力変化または差圧の測定及びガス流量測定は、一般的に使用されている測定機器と測定方法で測定可能である。典型的な校正を行えば、異なる測定機器でも通常は同じ測定結果が得られる。
【0046】
熱分解の全期間にわたって、反応器Bは、秤量された多孔質粒子の量に対して、製造されるSi複合体の目標容量に十分な量のSiが堆積されるような量のSi前駆体を、通過させることができる。
【0047】
第2段階における反応器Bの加熱は、一定の加熱速度で行ってもよいし、複数の異なる加熱速度で行ってもよい。加熱速度はプロセスの構成に応じて、例えば、反応器のサイズ、反応器内の多孔質粒子の量、撹拌技術または計画された反応時間に応じて、調整させることができる。
【0048】
第2段階における反応器Bの加熱は、毎分1℃~100℃、好ましくは毎分2℃~50℃の加熱速度で行うことができる。
【0049】
Si前駆体の分解が開始する温度は、使用される多孔質粒子、使用されるSi前駆体、および分解の際におけるSi前駆体の分圧や分解反応に影響を与える、触媒などの他の反応性成分の存在などの分解の他の境界条件によって異なり得る。
【0050】
第2段階におけるSi前駆体の分解の間、温度は一定に保たれるか、または変化させることができる。その目的は、ガスと攪拌床との接触時間中にSi前駆体をほぼ完全に転化させ、用途に適したSi複合体を製造することである。
【0051】
SiH4の目標温度は300℃~500℃、好ましくは315℃~475℃、特に好ましくは330℃~450℃である。HSiCl3の目標温度は380℃~1000℃、好ましくは420℃~600℃である。H2SiCl2の目標温度は、350℃~800℃、好ましくは380℃~500℃である。
【0052】
第2段階では、Si前駆体に加えて、C前駆体のようなSiを含まない前駆体を使用することもできる。これは、Si前駆体との混合物として、連続的または交互に用いることができる。その目的は、形成されたばかりのシリコン表面の標的機能化である。
【0053】
第2段階からのガスは、不活性ガス、および/または、Siおよび/または少なくとも1種のSiを含まない前駆体を潜在的に変化する組成で含む少なくとも1種の反応性成分から構成され得る。1種以上のSi前駆体は、一般に、混合形態で、または別個に、あるいは不活性ガス成分と混合して、または純粋な物質として反応器Bに導入することができる。
第2段階において、多孔質粒子からなる床は、好ましくは連続的に再循環される。再循環は、1つ以上の攪拌手段を介して、または反応器自体の回転運動(例えば、Maschinenfabrik Gustav Eirich製のインテンシブミキサー)またはそれらの組合せによって行うことができる。移動床の運動状態は、1から10の間のフルード数によって特徴付けられる。フルード数は好ましくは1から6の間、特に好ましくは1から4の間である。
【0054】
多孔質粒子の存在下でのSi前駆体の熱分解は、好ましくは0.05MPa~5MPa、特に好ましくは0.08MPa~0.7MPaで行われる。
【0055】
第2段階における反応の進行は、好ましくは、反応の終了を検出するために、およびそうして反応器の占有時間をできるだけ短く保つために、分析しながらモニターされる。反応の進行を観察するための方法は、例えば、発熱性または吸熱性を決定するための温度測定を含み、固体対気体の反応器内容成分の比率を変化させることによって反応の進行を測定し、さらに、反応中に変化するガス空間の組成をモニターすることができる方法を含む。本方法の好ましい変形例において、気相の組成は、ガスクロマトグラフおよび/または熱伝導度検出器および/または赤外分光計および/またはラマン分光計および/または質量分析計によって測定される。好ましい実施態様において、水分含有量は、熱伝導度検出器を用いて測定され、および/または任意に、任意のクロロシランの存在は、ガスクロマトグラフまたはガス赤外分光計を用いて測定される。
【0056】
本方法のさらに好ましい変形例では、反応器B/ガス出口の位置は、発生する凝縮性または再昇華性の副生成物を除去するための技術的解決策を備えている。特に好ましい変形例では、四塩化ケイ素が凝縮され、Si複合体から別々に除去される。
【0057】
本方法の第3段階において、反応器C中のSi含有粒子は、後処理および/または不活性化および/または被覆される。この目的のために、反応器Cは、好ましくは酸素、特に不活性ガスと酸素との混合ガスでパージされる。これにより、Si複合体の表面を修飾および/または機能化および/または不活性化することができる。例えば、Si複合体の表面に存在する任意の反応性基の反応をもたらすことが可能である。この目的のために、窒素、酸素、および任意にアルコールおよび/または水の、好ましくは多くとも20体積%、特に好ましくは多くとも10体積%、その中でも特に好ましくは多くとも5体積%の酸素および好ましくは多くとも100体積%、特に好ましくは多くとも10体積%、その中でも特に好ましくは多くとも1体積%の水を含む混合物を使用することが好ましい。この工程は、好ましくは多くとも250℃、特に好ましくは多くとも100℃、その中でも特に好ましくは多くとも50℃の温度で実施される。粒子表面の不活性化はまた、不活性ガスとアルコールとを含むガス混合物で行ってもよい。ここでは、窒素およびイソプロパノールを使用するのが好ましい。しかしながら、メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、または長鎖および分岐アルコールおよびジオールを使用することも可能である。
【0058】
粒子の不活性化は、液体溶媒または溶媒混合物への分散によっても行うことができる。これにはイソプロパノールまたは水溶液が含まれ得る。第3段階における粒子の不活性化はまた、200~800℃の温度でC-、Al-およびB-含有前駆体を使用するコーティングと、任意に続く酸素含有雰囲気での処理によって実施することもできる。
【0059】
使用可能なアルミニウム含有前駆体には、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)、アルミニウム2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート(Al(OCC(CH3)3CHCOC(CH3)3)3)、トリス(ジメチルアミド)アルミニウム(Al(N(CH3)2)3)およびアルミニウムトリイソプロパノレート(C9H21AlO3)が含まれる。
【0060】
使用可能なホウ素含有前駆体には、ボラン(BH3)、ホウ酸トリイソプロピル([(CH3)2CHO]3B)、トリフェニルボラン((C6H5)3B)、およびトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(C6F5)3Bが含まれる。
【0061】
第3段階では、例えばtert-ブチルリチウムとリン酸トリメチルの熱分解によって、固体電解質による粒子のアフターコーティングを導入することもできる。
【0062】
第3段階において、Si-複合体は、原則として、反応器Cから、任意に、反応器Cに存在する不活性ガス雰囲気を保持しながら、取り出すことができる。これは、以下の排出方法によって行うことができる:空気圧的(超または亜大気圧を通じて);機械的(回転スターバルブ、プレート型排出装置、反応器内の排出スクリュー/攪拌手段、ベルト型排出装置);重量的(ダブルフラップバルブ/ボールバルブ、任意に振動アシスト)。
【0063】
第3段階で炭化水素を使用する場合、および/または第2段階中のSi浸透に加えて、さらにSiを含まない前駆体として炭化水素を使用する場合、採用される目標温度は、炭化水素の分解が開始し、炭素が多孔質粒子の細孔内および表面に堆積する温度である。この実施形態で選択される目標温度は250℃~1000℃の範囲にある場合が好ましく、特に好ましくは350℃~850℃、最も好ましくは400℃~650℃である。
【0064】
反応器の技術的要件と、本発明の具体的な変形に関する任意の特定事項:
反応器A:
- 反応器は少なくとも温度制御可能である。
- 反応器は耐真空性であってもよい。
- 多孔質粒子を予備加熱、乾燥、不活性化するシステム。
- 多孔質粒子の目標添加/定量添加システムが接続されていてもよい。
- 乾燥/多孔質粒子からの不純物の除去は、凝縮性物質または再昇華性物質の除去を可能にするシステムを接続することによって達成してもよい。
- 多孔質粒子を反応器Bに移送するシステムを接続することが可能である。
反応器B:
- 反応器は少なくとも温度制御可能である。
- 本発明による撹拌手段を含む。
- 反応ガスを計量添加するシステム。
- 反応ガスの排出システム。
- 本方法を単純化するために、水素分離機を接続してもよい。
- ガス状反応生成物中に発生する凝縮性または再昇華性の副生成物を除去するために、凝縮または再昇華による副生成物の除去を可能にする容器を接続することが可能である。
- 原料を反応器Cまたはリザーバー容器に移送するシステムを接続することも可能である。
反応器C:
- 反応器は少なくとも温度制御可能である。
- 凝縮性または再昇華性の副生成物の除去システム。
- 凝縮または再昇華による副生成物の除去を可能にする容器を接続することが可能である。
- 機能化のための反応ガスの定量添加システム。
- 反応ガスの排出システム。
- 原料をリザーバー容器に移送するシステムを接続することが可能である。
【0065】
反応器は、温度制御可能、耐圧性、耐真空性を同時に備えていてもよく、すべての組み合わせが可能である。しかし、それぞれの反応器が上記の特徴のうちの1つだけを満たすことも可能である。
【0066】
温度制御可能な反応器とは、一般に、内部の温度を-40℃~1000℃の範囲で調整できるように操作可能な反応器のことである。より小さな温度範囲も可能である。
【0067】
反応器A、BおよびCが同じ容器であることが好ましく、言い換えれば、本方法は1つの反応器のみで実施することもできる。原則として、反応器A、BおよびCが同じ容器であることを排除するものではない。
【0068】
通常運転の工程と少なくとも1つの段階Aは、1つの反応器で実施されることが提供され得る。具体的な実施形態では、通常運転と段階Aは別々の反応器で実施することができる。
【0069】
多孔質粒子および得られるSi複合体は、プロセス中、一般に、固定床の形態であっても、混合による移動床の形態であってもよい。反応器A、BおよびCにおいて、多孔質粒子/得られるSi複合体の移動床を得るための混合が好ましい。しかし、第2段階でのSi前駆体の熱分解の間、粒子は一般に混合されなければならない。これにより、全ての多孔質粒子と反応ガスとの均一な接触、または床の均一な温度分布を確保することが可能になる。粒子の再循環は、反応器内の内部攪拌または攪拌機の周りの反応器全体の運動によって行うことができる。
【0070】
反応器A、BおよびCのさらに好ましい構成は、再循環のための移動攪拌手段を備えた固定反応器である。再循環の目的は、多孔質固体を反応ガスとできるだけ均一に接触させることである。好ましい形状は、円筒形反応器、円錐形反応器、球形または多面体の回転対称反応器またはそれらの組み合わせである。攪拌手段の運動は好ましくは回転運動である。垂直に運転される反応器A、BおよびCでは、1つの攪拌手段または2つ以上の攪拌手段が、例えばメインスターラーシャフトを介した回転運動によって床材を混合する構成が好ましい。垂直に運転される反応器A、BまたはCのさらなる構成は、搬送スクリューを利用することを特徴とする。水平に運転される反応器A、BまたはCの場合、1つの攪拌手段または2つ以上の攪拌手段が、例えばメインスターラーシャフトを介した回転運動によって床材を混合する構成が好ましい。垂直に運転される反応器A、BまたはCの場合は、ヘリカルスターラー、スパイラルスターラー、アンカースターラー、または一般に床材を軸方向または半径方向、または軸方向と半径方向の両方に搬送する攪拌手段を含む群から選択される攪拌手段が好ましい。壁面クリアランスは、攪拌手段上の追加のスクレーパーによって低減することができる。移動攪拌手段に加えて、反応器A、BまたはCは、バッフルのような剛性内部材を有することもできる。
【0071】
反応器A、BまたはCの構造に適した材料には、原則として、それぞれのプロセス条件下で必要な機械的強度および耐性を示すあらゆる材料が含まれる。耐薬品性の点では、反応器A、BまたはCは、適切な固体材料と、媒体接触部に特殊コーティングまたはメッキを施した化学的に非耐性の(耐圧)材料の両方で構成することができる。
【0072】
カスケード反応器システムとは、少なくとも2つの反応器が連結されたシステムのことである。反応器の数に上限はない。互いに相対する反応器A、BおよびCの数、ならびにそれらのサイズ、形状、材料および構成は異なっていてもよい。反応器は、互いに直接接続されていてもよいし、移動可能なリザーバー容器を介して供給が行われるように、互いに空間的に分離されていてもよい。また、2つ以上の反応器Bを互いに接続し、各反応工程を別々の反応器Bで実施することも考えられる。
【0073】
Si前駆体およびSiを含まない前駆体は、好ましくは、気体、液体、固体(例えば昇華性)、または任意に異なる物質状態の物質からなる物質組成物である。本方法の一変形例では、Si前駆体は、反応器内の多孔質粒子のバルクに、例えば下方から、または側方から、あるいは特定の攪拌機を介して直接供給される。
【0074】
Si前駆体は、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)およびそれ以上の直鎖、分岐または環状ホモログ、ネオペンタシラン(Si5H12)、シクロヘキサシラン(Si6H12)などのケイ素-水素化合物、トリクロロシラン(HSiCl3)、ジクロロシラン(H2SiCl2)、クロロシラン(H3SiCl)、テトラクロロシラン(SiCl4)、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)およびそれ以上の直鎖、分岐または環状ホモログ、例えば1,1,2,2-テトラクロロジシラン(Cl2HSi-SiHCl2)などの塩素含有シラン、塩素化および部分塩素化オリゴシランおよびポリシラン、メチルクロロシラン、例えばトリクロロメチルシラン(MeSiCl3)、ジクロロジメチルシラン(Me2SiCl2)、クロロトリメチルシラン(Me3SiCl)、テトラメチルシラン(Me4Si)、ジクロロメチルシラン(MeHSiCl2)、クロロメチルシラン(MeH2SiCl)、メチルシラン(MeH3Si)、クロロジメチルシラン(Me2HSiCl)、ジメチルシラン(Me2H2Si)、トリメチルシラン(Me3SiH)および記載のケイ素化合物の混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0075】
特に、Si前駆体は、モノシラン、ジシラン、トリクロロシラン、ジクロロシラン、メチルシランおよびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0076】
反応ガス中に存在してもよいさらなる反応性成分は、水素または、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素からなる群から選択される炭化水素、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン;1~10個の炭素原子を有する不飽和炭化水素、例えば、エテン、アセチレン、プロペン、メチルアセチレン、ブチレン、ブチン(1-ブチン、2-ブチン)、イソプレン、ブタジエン、ジビニルベンゼン、ビニルアセチレンなど、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエンなど、環状不飽和炭化水素、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、ノルボルナジエンなど、芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、p-、m-、o-キシレン、スチレン(ビニルベンゼン)、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレンなど、その他の芳香族炭化水素、例えば、フェノール、o-、m-、p-クレゾール、シメン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、ミルセン、ゲラニオール、チオテルピネオール、ノルボルナン、ボルネオール、イソボルネオール、ボルナン、カンファー、リモネン、テルピネン、ピネン、ピナン、カレン、フェノール、アニリン、アニソール、フラン、フルフラール フルフリルアルコール、ヒドロキシメチルフルフラール、ビスヒドロキシメチルフラン、および複数の化合物、例えば、天然ガス凝縮物、石油蒸留物、コークス炉凝縮物、混合留分であって流動接触分解装置(FCC)、スチームクラッカー、フィッシャー・トロプシュ合成プラントの生成物ストリームからなる混合留分、またはより一般的には木材、天然ガス、石油、石炭処理からの炭化水素含有物質ストリームからなる混合留分を含む。
【0077】
本発明による方法のための多孔質粒子は、好ましくは、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソカーボン、マイクロビーズの形態の非晶質炭素、天然グラファイトまたは合成グラファイト、単層および多層カーボンナノチューブおよびグラフェン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびケイ素-アルミニウム混合酸化物、酸化マグネシウム、酸化鉛および酸化ジルコニウムなどの酸化物、炭化ケイ素、炭化ホウ素などの炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物、および以下の成分式で表される他のセラミック材料からなる群から選択される:
AlaBbCcMgdNeOfSig
(式中、0≦a,b,c,d,e,f,g≦1であるが、a~gの少なくとも2つの係数が>0であり、a×3+b×3+c×4+d×2+g×4≧e×3+f×2である。)
【0078】
セラミック材料は、例えば、二元、三元、四元、五元、六元または七元の化合物であってもよい。好ましくは以下の成分式を有するセラミック材料である:
非化学量論的窒化ホウ素BNz(式中、z=0.2~1)、
非化学量論的窒化炭素CNz(式中、z=0.1~4/3)、
炭窒化ホウ素BxCNz(式中、x=0.1~20、z=0.1~20、x×3+4≧z×3)、
窒化ホウ素酸化物BNzOr(式中、z=0.1~1、r=0.1~1、3≧r×2+z×3)、
炭窒化ホウ素酸化物BxCNzOr(式中、x=0.1~2、z=0.1~1、r=0.1~1、x×3+4≧r×2+z×3)、
シリコン炭素酸化物SixCOz(式中、x=0.1~2、z=0.1~2、x×4+4≧z×2)、
シリコン炭窒化物SixCNz(式中、x=0.1~3、z=0.1~4、x×4+4≧z×3)、
シリコンホウ素炭窒化物SiwBxCNz(式中、w=0.1~3、x=0.1~2、z=0.1~4、w×4+x×3+4≧z×3)、
シリコンホウ素炭素酸化物SiwBxCOz(式中、w=0.10~3、x=0.1~2、z=0.1~4、w×4+x×3+4≧z×2)、
炭窒化シリコンホウ素酸化物SivBwCNxOz(式中、v=0.1~3、w=0.1~2、x=0.1~4、z=0.1~3、v×4+w×3+4≧x×3+z×2)、および
アルミニウムホウ素シリコン炭窒化物酸化物AluBvSixCNwOz(式中、u=0.1~2、v=0.1~2、w=0.1~4、x=0.1~2、z=0.1~3、u×3+v×3+x×4+4≧w×3+z×2)
【0079】
多孔質粒子は、好ましくは、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソカーボン、マイクロビーズからなる群から選ばれる非晶質カーボン、天然グラファイトまたは合成グラファイト、単層および多層カーボンナノチューブ、グラフェンおよびそれらの混合物である。
【0080】
多孔質粒子は、好ましくは、ヘリウムピクノメトリーによって測定される密度が0.1~7g/cm3、特に好ましくは0.3~3g/cm3である。これは、リチウムイオン電池の体積容量(mAh/cm3)を増加させるのに有利である。
【0081】
多孔質粒子は、好ましくは≧0.5μm、特に好ましくは≧1.5μm、最も好ましくは≧2μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒度分布を有する。直径パーセンタイルd50は、好ましくは≦20μm、より好ましくは≦12μm、最も好ましくは≦8μmである。
【0082】
多孔質粒子の体積加重粒度分布は、好ましくは直径パーセンタイルd10≧0.2μmおよびd90≦20.0μmの間、特に好ましくはd10≧0.4μmおよびd90≦15.0μmの間、最も好ましくはd10≧0.6μmおよびd90≦12.0μmの間である。
【0083】
多孔質粒子は、好ましくは≦10μm、特に好ましくは≦5μm、その中でも特に好ましくは≦3μm、最も好ましくは≦2μmの直径パーセンタイルd10を有する体積加重粒度分布を有する。直径パーセンタイルd10は、好ましくは≧0.2μm、特に好ましくは≧0.5μm、最も好ましくは≧1μmである。
【0084】
多孔質粒子は、好ましくは≧4μm、特に好ましくは≧8μmの直径パーセンタイルd90を有する体積加重粒度分布を有する。直径パーセンタイルd90は、好ましくは≦18μm、より好ましくは≦15μm、最も好ましくは≦13μmである。
【0085】
多孔質粒子の体積加重粒度分布は、好ましくは≦15.0μm、より好ましくは≦12.0μm、特に好ましくは≦10.0μm、その中でも特に好ましくは≦8.0μm、最も好ましくは≦4.0μmの幅d90-d10を有する。
【0086】
本発明による方法によって製造可能なSi複合体の体積加重粒度分布は、好ましくは≧0.6μm、特に好ましくは≧0.8μm、最も好ましくは≧1.0μmの幅d90-d10を有する。
【0087】
多孔質粒子の体積加重粒度分布は、ISO 13320に従って、多孔質粒子の分散媒としてエタノールを用い、Horiba LA 950測定装置を用いて、Mieモデルを用いた静的レーザー散乱により測定することができる。
【0088】
多孔質粒子は、好ましくは個々の粒子の形態である。粒子は、例えば、単離されたものであっても弱凝集したものであってもよい。多孔質粒子は好ましくは非強凝集体であり、好ましくは非弱凝集体である。強凝集しているとは、一般に、多孔質粒子の製造過程で、一次粒子が最初に形成され、一緒に成長し、および/または一次粒子が、例えば共有結合を介して互いに連結され、このようにして強凝集体を形成することを意味する。一次粒子は一般に孤立粒子である。強凝集体または孤立粒子は弱凝集体を形成することがある。弱凝集体は、例えばファンデルワールス相互作用や水素結合を介して互いに結合した強凝集体または一次粒子の緩やかな集積体である。弱凝集した強凝集体は、一般的な混練工程や分散工程により、容易に再び強凝集体に分割することができる。強凝集体は、そのような工程で一次粒子に部分的にしか分解できない。強凝集体、弱凝集体または孤立粒子の形態の多孔質粒子の存在は、例えば従来の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて可視化することができる。対照的に、マトリックス粒子の粒度分布または粒子径を測定するための静的光散乱法では、強凝集体と弱凝集体を区別することはできない。
【0089】
多孔質粒子は、任意のモルフォロジーを有してもよく、例えば、分割状、薄片状、球状、または針状であってもよく、分割状または球状の粒子が好ましい。モルフォロジーは、例えば、球形度ψまたは球形度Sによって特徴付けられる。Wadellの定義によれば、球形度ψとは、体積が等しい球体の表面積と、物体の実際の表面積との比である。球の場合、ψは1である。この定義によれば、本発明による方法のための多孔質粒子は、好ましくは0.3~1.0、特に好ましくは0.5~1.0、最も好ましくは0.65~1.0の球形度ψを有する。
【0090】
【0091】
多孔質粒子は、好ましくは≧0.2cm3/g、特に好ましくは≧0.6cm3/g、最も好ましくは≧1.0cm3/gのガス透過性細孔容積を有する。これは、高容量のLIBを得るために有利である。ガス透過性細孔容積は、DIN 66134に従った窒素によるガス吸着測定によって決定した。
【0092】
多孔質粒子は、好ましくは開気孔である。開気孔とは、一般に、気孔が例えば流路を介して粒子表面に連通しており、好ましくは環境と物質交換、特にガス状化合物の交換が可能であることを意味する。このことは、ガス吸着測定(Brunauer、Emmett及びTeller、``BET‘‘に従った分析)、すなわち比表面積によって実証することができる。多孔質粒子は、好ましくは≧50m2/g、特に好ましくは≧500m2/g、最も好ましくは≧1000m2/gの比表面積を有する。BET比表面積は、DIN 66131(窒素使用)に従って測定される。
【0093】
多孔質粒子の細孔は、任意の直径を有していてもよく、すなわち、一般にマクロ孔(>50nm)、メソ孔(2~50nm)およびミクロ孔(<2nm)の範囲にある。多孔質粒子は、異なる細孔タイプの任意の混合物で使用することができる。好ましくは、全細孔容積に基づいて、30%未満のマクロ細孔を有する多孔質粒子、特に好ましくはマクロ細孔を有さない多孔質粒子、非常に特に好ましくは5nm未満の平均細孔直径を有する細孔を少なくとも50%有する多孔質粒子を使用することである。多孔質粒子が、2nm未満の細孔直径を有する細孔のみを有する場合、非常に特に好ましい(測定方法:メソ細孔範囲ではDIN 66134に従ったBJH(ガス吸着)に従った細孔径分布、ミクロ細孔範囲ではDIN 66135に従ったHorvath-Kawazoe(ガス吸着)に従った細孔径分布;マクロ細孔範囲での細孔径分布は、DIN ISO 15901-1に従った水銀ポロシメトリーによって評価される)。
【0094】
0.3cm3/g未満、特に好ましくは0.15cm3/g未満のガス非透過性細孔容積を有する多孔質粒子が好ましい。これもまた、LIBの容量を増加させるために使用することができる。ガス非透過性細孔容積は、以下の式で求めることができる。
ガス非透過性細孔容積 = 1/純物質密度 - 1/骨格密度
【0095】
純物質密度は、相組成または純物質の密度(閉鎖気孔を有しないものと仮定した場合の密度)に基づく多孔質粒子の理論密度である。純物質密度のデータは、例えば米国国立標準研 究所(NIST,https://srdata.nist.gov/CeramicDataPortal/scd)のセラミック・データ・ポータル(Ceramic Data Portal)から当業者が入手することができる。例えば、酸化ケイ素の純物質密度は2.203g/cm3、窒化ホウ素の純物質密度は2.25g/cm3、窒化ケイ素の純物質密度は3.44g/cm3、炭化ケイ素の純物質密度は3.21g/cm3である。骨格密度は、ヘリウムピクノメトリーで測定した多孔質粒子の実際の密度(気体透過性)である。
【0096】
多孔質粒子は、一般に、シリコン複合体を製造するための出発原料として機能する。多孔質粒子の細孔内および表面上には、シリコン、特にSi前駆体の堆積によって得られるシリコンが存在しないことが好ましい。
【0097】
本発明による方法によって得られる、多孔質粒子の細孔内および表面上へのシリコンの堆積によるシリコン複合体は、0.5~20μmの範囲の中の直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒度分布を有することができる。d50値は、好ましくは少なくとも1.5μmであり、特に好ましくは少なくとも2μmである。直径パーセンタイルd50は、好ましくは多くとも13μm、特に好ましくは多くとも8μmである。
【0098】
シリコン複合体の体積加重粒度分布は、好ましくは直径パーセンタイルd10≧0.2μm~d90≦20.0μmの間、特に好ましくはd10≧0.4μm~d90≦15.0μmの間、特にd10≧0.6μm~d90≦12.0μmの間である。
【0099】
シリコン複合体は、好ましくは≦10μm、特に好ましくは≦5μm、その中でも特に好ましくは≦3μm、最も好ましくは≦1μmの直径パーセンタイルd10を有する体積加重粒度分布を有する。直径パーセンタイルd10は、好ましくは≧0.2μm、特に好ましくは≧0.4μm、特に≧0.6μmである。
【0100】
シリコン複合体は、好ましくは≧5μm、特に好ましくは≧10μmの直径パーセンタイルd90を有する体積加重粒度分布を有する。直径パーセンタイルd90は、好ましくは≦20μm、特に好ましくは≦15μm、特に≦12μmである。
【0101】
シリコン複合体の体積加重粒度分布は、≦15.0μm、好ましくは≦12.0μm、特に好ましくは≦10.0μm、特に≦8.0μm、その中でも特に好ましくは≦4.0μmの幅d90-d10を有することができる。シリコンの体積加重粒度分布は、好ましくは≧0.6μm、特に好ましくは≧0.8μm、特に≧1.0μmの幅d90-d10を有する。
【0102】
シリコン複合体の粒子は、好ましくは粒子状である。粒子は孤立していても弱凝集していてもよい。シリコン複合体は好ましくは非強凝集体であり、好ましくは非弱凝集体である。孤立、弱凝集および非強凝集という用語は、多孔質粒子に関して既に上記で定義した。強凝集体または弱凝集体の形態のシリコン複合体の存在は、例えば、従来の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて可視化することができる。
【0103】
Si複合体はどのようなモルフォロジーを有していてもよく、例えば、分割状、薄片状、球状、または針状であってもよく、分割状または球状の粒子が好ましい。
【0104】
Wadellの定義によれば、球形度ψは、体積が等しい球体の表面積と実際の表面積との比である。球の場合、ψは1である。この定義によれば、本発明による方法によって得られるSi複合体は、好ましくは0.3~1.0、特に好ましくは0.5~1.0、最も好ましくは0.65~1.0の球形度ψを有する。
【0105】
【0106】
LIBのサイクル安定性は、モルフォロジーや材料組成、特にシリコン複合材料の比表面積や内部空隙率によってさらに向上させることができる。
【0107】
多孔質粒子がSi化合物、例えば二酸化ケイ素の形態で構成される場合、上記の質量%データは、元素分析によって測定されたシリコン複合体のSi質量から元素分析によって測定された多孔質粒子のSi質量を差し引き、その結果をシリコン複合体の質量で割ることによって、Si前駆体からの堆積を介して得られたケイ素について測定することができる。
【0108】
多孔質粒子に堆積したシリコンの体積は、シリコン複合体の全質量に占めるSi前駆体からの堆積によって得られたシリコンの質量をシリコンの密度(2.336g/cm3)で割った分数から求めることができる。
【0109】
シリコン複合体の細孔容積Pは、ガス透過性細孔容積とガス非透過性細孔容積の和から求めることができる。シリコン複合体のGurvichガス透過性細孔容積は、DIN 66134に従った窒素によるガス吸着測定によって測定することができる。
【0110】
シリコン複合体のガス非透過性細孔容積は、上述したように以下の式に従って決定できる。
ガス非透過性細孔容積 = 1/骨格密度 - 1/純物質密度
【0111】
Si複合体の細孔容積Pは、Si複合体中に存在し、Si前駆体の堆積から得られるシリコンの容積に基づいて、好ましくは0体積%~400体積%の範囲、特に好ましくは100体積%~350体積%の範囲、その中でも特に好ましくは200体積%~350体積%の範囲にある。
【0112】
シリコン複合体の気孔率は、ガス透過性またはガス非透過性のいずれであってもよい。シリコン複合体のガス非透過性気孔率に対するガス透過性気孔率の体積の比は、一般に、0(ガス透過性気孔なし)から1(すべてガス透過性)の範囲である。シリコン複合体のガス透過性気孔率のガス非透過性気孔率に対する体積比は、好ましくは0~0.8、特に好ましくは0~0.3、特により好ましくは0~0.1の範囲にある。
【0113】
シリコン複合体の細孔は、例えば、マクロ孔(>50nm)、メソ孔(2~50nm)、およびミクロ孔(<2nm)の範囲で、任意の直径を有することができる。Si複合体はまた、異なる細孔タイプの混合物からなることもある。好ましくは、全細孔容積に基づいて最大30%のマクロ細孔を含む。特に好ましくは、マクロ孔を有さないSi複合材料であり、非常に特に好ましくは、全細孔容積に基づいて少なくとも50%の細孔を有し、平均細孔直径が5nm未満であるSi複合材料である。Si複合材料は、特に好ましくは、多くとも2nmの直径を有する細孔のみからなる。
【0114】
Si複合体は、少なくとも1つの寸法において、好ましくは多くとも1000nm、特に好ましくは100nm未満、特に5nm未満の構造サイズを有するシリコン構造体からなる(測定方法:SEMおよび/または高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM))。
【0115】
Si複合体は、好ましくは1000nm未満、特に好ましくは100nm未満、特に5nm未満の層厚を有するSi層を含む(測定方法:SEMおよび/またはHR-TEM)。Si複合体はまた、粒子の形態のシリコンを含んでもよい。Si粒子は、好ましくは多くとも1000nm、特に好ましくは100nm未満、特に5nm未満の直径を有する(測定方法:SEMおよび/またはHR-TEM)。Si粒子の数値は、好ましくは、顕微鏡写真における粒子の円周の直径に関する。
【0116】
堆積シリコン中の粗シリコンの量は3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることが特に好ましく、0.1質量%未満であることがその中でも特に好ましい。
【0117】
Si複合体は、好ましくは多くとも100m2/g、特に好ましくは30m2/g未満、その中でも特に好ましくは10m2/g未満の比表面積を有する。BET比表面積は、DIN 66131(窒素使用)に従って測定される。これにより、Si複合体をLIB用負極活物質として使用する際に、SEIの形成を低減し、初期クーロン効率を向上させることができる。
【0118】
さらに、Si複合体中のSi前駆体から堆積されたシリコンは、例えば、Li,Fe,Al,Cu,Ca,K,Na,S,Cl,Zr,Ti,Pt,Ni,Cr,Sn,Mg,Ag,Co,Zn,B,P,Sb,Pb,Ge,Bi,希土類およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれるドーパントを含んでいてもよい。Liおよび/またはSnが好ましい。Si複合体中のドーパントの含有量は、ICP-OESにより測定可能なSi複合体の総質量に基づいて、好ましくは多くとも1質量%、特に好ましくは多くとも100ppmである。
【0119】
Si複合体は、圧縮荷重および/またはせん断応力下で驚くほど高い安定性を有する。圧縮荷重安定性及びせん断安定性は、例えば、Si複合体が、圧縮荷重下(例えば、電極圧縮時)及びせん断応力下(例えば、電極作製時)であったとしても、SEMにおいて、その多孔質構造にわずかな変化しかないことから明らかである。
【0120】
Si複合体は、任意に炭素などの追加元素を含んでもよい。炭素は、好ましくは多くとも1μm、好ましくは100nm未満、特に好ましくは5nm未満、その中でも特に好ましくは1nm未満の層厚を有する薄層の形態で存在する(測定:SEMおよびHR-TEM)。C層は、Si複合体の細孔内および表面の両方に存在することができる。また、異なる前駆体を交互に定量添加する適切な繰り返しとその数により、Si複合体中の異なる層の順序を自由に選択することも可能である。したがって、まず多孔質粒子上に、炭素などの、多孔質粒子とは異なるさらなる材料の層を設け、その上にSi層またはSi粒子の層を設けることができる。また、多孔質粒子とSi層またはSi粒子からなる層との間に多孔質粒子の材料とは異なる材料のさらなる層が存在するか否かにかかわらず、Si層またはSi粒子からなる層上に、多孔質粒子の材料とは異なるかまたは材料と同一であるさらなる材料の層が存在することもある。
【0121】
Si複合体は、≦50質量%、好ましくは≦40質量%、特に好ましくは≦20質量%の追加元素を含有してもよい。Si複合体は、特に好ましくは≧1質量%、その中でも特に好ましくは≧2質量%の追加元素を含むことができる。質量%の数値は、Si複合体の総質量に基づく。Si複合体が追加元素を含まないことも可能である。
【0122】
本発明による方法によって得られるSi複合体は、LIBの負極材料の活物質として適しており、そのような負極の使用はLIBの製造に適している。製造に必要な物質や材料はすべて一般に知られている。このような電池の構成要素の製造とその組立は、電池製造の分野でよく知られた方法によって実施される。
【0123】
本発明による方法によって得られるSi複合体は、電気化学的挙動が著しく改善されていることが特徴であり、その結果、高い体積容量と優れた性能特性を有するLIBが得られる。Si複合体は、Liイオンおよび電子に対して透過性であるため、電荷輸送が可能である。得られたSi複合体により、LIB中のSEIを大幅に低減することができる。加えて、Si複合体の設計により、SEIは活物質表面から剥離するとしても、少なくともその程度は非常に小さくなる。これらにより、本発明による方法で得られるSi複合体を含む負極を有するLIBのサイクル安定性が高くなる。
【実施例】
【0124】
以下の実施例は、ここに記載された発明をさらに解明するのに役立つ。
【0125】
特性評価には以下の分析方法と機器を使用した:
【0126】
<無機分析/元素分析>
実施例で報告されている炭素含有量は、Leco CS 230アナライザーを用いて測定した。Oおよび任意でNまたはH含有量の測定には、Leco TCH-600アナライザーを用いた。その他の特定元素の定性および定量は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析(Optima 7300 DV、Perkin Elmer)で行った。この目的のために、試料はマイクロ波(Microwave 3000、Anton Paar製)で酸分解(HF/HNO3)された。ICP-OESによる定量は、ISO 11885「水質-誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)による選択元素の定量(ISO 11885:2007);EN ISO 11885:2009のドイツ語版」に基づいており、酸性水溶液(酸性化した飲料水、廃水、その他の水試料、土壌や堆積物の王水抽出物など)の分析に使用される。使用されるSi定量法は、一般的に±1質量%の精度である。
【0127】
<粒度測定>
粒度分布は、ISO 13320に従い、Horiba LA 950を用いた静的レーザー散乱法により測定した。試料の調製では、測定されるサイズが個々の粒子のサイズであり、凝集体のサイズではないことを確実にするため、測定溶液の粒子の分散に特に注意を払う必要がある。測定用に粒子をエタノールに分散させた。測定に先立ち、必要に応じて、LS24d5ソノトロードを備えたHielscher UIS250vラボ用超音波装置で、分散液を250Wで4分間超音波処理した。
【0128】
<BET比表面積測定>
材料の比表面積は、Sorptomatic 199090装置(Porotec社製)またはSA-9603MP装置(Horiba社製)を用いて、窒素によるガス吸着によりBET法(窒素を用いたDIN ISO 9277:2003-05に準拠した測定法)で測定した。
【0129】
<骨格密度>
骨格密度、すなわち外部から気体が侵入可能な空隙のみの体積に基づく多孔質固体の密度は、DIN 66137-2に従ってHeピクノメトリーにより測定した。
【0130】
<ガス透過性細孔容積>
グルビッチ気体透過性細孔容積は、DIN 66134に従った窒素による気体吸着測定によって決定された。
【0131】
<熱重量測定(TGA)と粗珪素の測定>
酸素に対する粉末の反応性は、5K/分の加熱速度を用いた25~1000℃の温度窓で、純酸素中でのTGA測定によって測定した。
【0132】
<転化率>
転化率は、使用した出発原料(反応物)の物質量(mol)に対する転化した出発原料の物質量(mol)の商として計算される。転化率は、特定の時点で、使用されたSiH
4分子のいくつがSiに転化されたかを示す。転化率は可変であり、プロセス期間中に変化しうる。
【数1】
全体的な転化率は、プロセス全体にわたって、計量されたシリコンに対してどれだけのシリコンが堆積したかを示す。
【0133】
<スループット>
スループットは、1時間に何質量%のSiが計量されたかを示す。これは、全段階の堆積時間(h)に対する、取り出された生成物のSi含有量(Siの目標含有量)(質量%)から計算される。
【数2】
【0134】
[実施例]
実施例では、47質量%~49質量%のケイ素比率を有するSi複合体を製造しようとした。
使用したSiH4、品質4.0はLinde GmbHから入手した。
すべての実施例において、アモルファスカーボンが多孔質出発原料として採用された:
- 比表面積=1636m2/g
- 細孔容積=0.76cm2/g
- 平均体積加重粒径D50=6.4μm
【0135】
目標含有量に基づく堆積シリコンの割合:
上記目標含有量の0.1%~50%が段階Aで堆積されるか、上記目標含有量の合計で多くとも50%が2つ以上の段階Aで堆積される。
【0136】
上記目標含有量に基づく1つの段階Aまたは通常運転中に堆積したSiのこの割合は、対応する段階に堆積したSiの相対的な割合を示す。例えば、ある複合体のSiの目標含有量48質量%は、堆積Siの相対的な割合100%に相当する。また、段階Aで堆積したSiの50%は、前記複合体中のSiの目標含有量の24質量%に相当する。
【0137】
試料中の微粒シリコンと粗粒シリコンの定量は、TGA測定を用いると、シリコンと酸素が反応してSiO2を形成することにより行うことができる。異なるSi種を区別できるのは、薄いシリコン層は厚い層やSi粒子よりも酸素に対する反応性が高いためと考えられる。この結果、TGA測定では、薄いSi層は低温(400~655℃)でも反応(質量増加)し、厚い層/粗いSi構造は700℃より高い温度でのみ反応を示す。理想的には、負極活物質として使用されるケイ素含有複合体は、800℃より高い温度で酸素含有雰囲気下でのTGA測定において質量の増加を示さない。この方法ではさらに、元素状シリコンの含有量を測定することができる。空気との接触により先に酸化され不動態化したシリコンは、もはや反応に関与しないため、TGA測定では考慮されない。
【0138】
存在する粗大シリコンを計算するには、TGA法による残留質量(mred)と粗大シリコンの酸化から生じる質量差(mdiff)が必要である。O
2のモル質量(32g/mol)とSiO
2のモル質量(60.08g/mol)を用いて、以下の式で堆積シリコン中の粗大シリコンの割合を計算することができる:
【数3】
【0139】
[比較例1:Si複合体の製造に適した反応器での製造]
管状反応器に、石英ガラスボート中の多孔質炭素粒子(比表面積=1636m2/g、グルビッチ細孔容積=0.76cm3/g、平均体積加重粒径D50=6.40μm)2.2gを装入した。窒素で不活性化した後、反応器を410℃に加熱した。この温度に達した時点で、Si前駆体(N2中50%SiH4、10NL/h)を反応器に通した。SiH4からSiへの分解反応は、オフガス流の熱伝導率検出器によってモニターされ、定量された。2.1gのSiが堆積した後、SiH4ガス流を純窒素流に切り替え、加熱を止めた。反応器をN2パージしながら室温まで冷却し、生成物を取り出した。
【0140】
[比較例2:Si複合体の製造に適した反応器での製造]
管状反応器に、石英ガラスボート中の多孔質炭素粒子(比表面積=1636m2/g、グルビッチ細孔容積=0.76cm3/g、平均体積加重粒径D50=6.40μm)2.2gを装入した。窒素で不活性化した後、反応器を380℃に加熱した。この温度に達した時点で、Si前駆体(N2中50%SiH4、10NL/h)を反応器に通した。SiH4からSiへの分解反応は、オフガス流の熱伝導率検出器によってモニターされ、定量された。2.1gのSiが堆積した後、SiH4ガス流を純窒素流に切り替え、加熱を止めた。反応器をN2パージしながら室温まで冷却し、生成物を取り出した。
【0141】
[実施例1-2:段階Aを有する本発明による方法によるSi複合体の製造(添字Aは段階Aのパラメーターを示す)]
管状反応器に、石英ガラスボート中の多孔質炭素粒子(比表面積=1636m
2/g、グルビッチ細孔容積=0.76cm
3/g、平均体積加重粒径D
50=6.40μm)2.2gを装入した。窒素で不活性化した後、反応器をT
A(段階(添字)A)まで加熱した。目標温度に達した時点で、モノシランを窒素との混合物として反応器に通過させた(濃度C
A、Si前駆体の体積流量VS
A)。SiH
4からSiへの分解反応は、オフガス流の熱伝導率検出器によってモニターされ、定量された。M
A[g]のSiが堆積されると、実験装置は通常運転(添字R)に切り替えられた:温度T
R、モノシラン濃度C
R、Si前駆体の体積流量VS
Rとし、さらなるSi量M
Rが通常運転で堆積された。その後、反応器をN
2パージしながら室温まで冷却し、シリコン複合体を取り出した。
【表1】
【0142】
[実施例3-4:2つ以上の段階Aを有する本発明による方法によるSi複合体の製造]
管状反応器に、石英ガラスボート中の多孔質炭素粒子(比表面積=1636m
2/g、グルビッチ細孔容積=0.76cm
3/g、平均体積加重粒径D
50=6.40μm)2.2gを装入した。窒素で不活性化した後、反応器をT
A1(段階(添字)A1)まで加熱した。目標温度に達した時点で、モノシランを窒素との混合物として反応器に通過させた(濃度C
A1、Si前駆体の体積流量VS
A1)。SiH
4からSiへの分解反応は、オフガス流の熱伝導率検出器によってモニターされ、定量された。M
A1[g]のSiが堆積されると(段階(添字)A1)、実験装置は通常運転に切り替えられた:温度T
R、モノシラン濃度C
R、Si前駆体の体積流量VS
Rとし、Si量M
R[g]が通常運転で堆積された。M
R[g]のシリコンが通常運転で堆積されると(その時点までのSiの目標含有量M
A1+M
R)、実験装置は再び切り替えられ、新たな変更Δが実施された(段階(添字)A2):温度T
A2、モノシラン濃度C
A2、Si前駆体の体積流量VS
A2とし、さらなるSi量M
A2[g]が堆積された。その後、反応器をN
2でパージしながら室温まで冷却し、生成物を取り出した。
【表2】
【0143】
Si複合体の製造反応条件と材料特性を以下の表3にまとめた。
【表3】
選択されたパラメーターM
R、M
A、T
R、T
A、C
R、C
A、VS
A、およびVS
Rによれば、Si前駆体の全体的な転化率および実験装置のスループットは、材料性能を最大化しながら著しく向上させることができる。
【0144】
<電気化学セルにおけるSi複合粒子の評価>
実施例5:本発明例1~4および比較例のSi複合粒子を、LIBの負極の構成成分として試験した。
29.71gのポリアクリル酸(85℃で一定重量まで乾燥;Sigma-Aldrich、Mw~450 000g/mol)と756.60gの脱イオン水を、ポリアクリル酸の溶解が完了するまで2.5時間、シェーカー(290 1/min)を用いて撹拌した。水酸化リチウム一水和物(Sigma-Aldrich)をpHが7.0(WTW pH 340i pHメーターとSenTix RJDプローブを用いて測定)になるまで少しずつ溶液に加えた。その後、溶液をシェーカーでさらに4時間撹拌した。中和したポリアクリル酸溶液3.87gとグラファイト0.96g(Imerys,KS6L C)を最初に50ml容器に入れ、プラネタリーミキサー(SpeedMixer,DAC 150 SP)で2000rpmで混合した。その後、各場合において、実施例1~5および比較例1、2のシリコン複合体3.35gを2000rpmで1分間撹拌した。その後、1.21gの8%導電性カーボンブラック分散液と0.8gの脱イオン水を加え、プラネタリーミキサーで2000rpmで混合した。その後、ディゾルバーで、20℃一定下、3000rpmで30分間分散を行った。インクの脱ガスは、再びプラネタリーミキサーで2500rpm、真空下で5分間行った。完成した分散液を、0.06mmの隙間のあるフィルム延伸フレーム(Erichsen、モデル360)を使用して、厚さ0.03mmの銅箔(Schlenk Metallfolien、SE-Cu58)に塗布した。こうして作製した負極皮膜を、50℃、1バールの空気圧で60分間乾燥させた。乾燥負極皮膜の平均坪量は2.7mg/cm2、皮膜密度は0.8g/cm3であった。
【0145】
電気化学試験は、2電極配置のボタン電池(CR2032タイプ、Hohsen Corp.)を使用して行った。電極皮膜は対極または負極として使用した(Dm=15mm)。リチウムーニッケルーマンガンーコバルト酸化物6:2:2をベースとし、含有率94.0%、平均坪量15.9mg/cm2の被膜(SEI社から入手)を作用電極/正極として使用した(Dm=15mm)。60μlの電解液で飽和させたガラス繊維ろ紙(Whatman,GD Type D)をセパレーターとして使用した(Dm=16mm)。使用した電解液は、フルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:4(v/v)混合物のヘキサフルオロリン酸リチウム1.0モル溶液からなっていた。セルはグローブボックス(<1ppm H2O、O2)内で組み立てられ、使用した全成分の乾燥物中の含水量は20ppm以下であった。
【0146】
電気化学試験は20℃で行った。セルの充電はcc/cv法(定電流/定電圧)で行い、最初のサイクルでは5mA/g(C/25に相当)、その後のサイクルでは60mA/g(C/2に相当)の定電流で行い、4.2Vの電圧限界に達すると、電流が1.2mA/g(C/100に相当)または15mA/g(C/8に相当)を下回るまで定電圧で行った。cc法(定電流)で、最初のサイクルでは5mA/g(C/25に相当)、その後のサイクルでは60mA/g(C/2に相当)の定電流で、電圧限界2.5Vに達するまで放電させた。選択された比電流は、正極の被膜重量に基づいている。電極は、正極:負極の容量比が1:1.2になるように選択した。
【0147】
実施例1~4および比較例1、2のSi複合材料を含有するLIBのフルセルの電気化学的試験結果を表4に示す。
【表4】
【0148】
比較例1は、Si前駆体の良好な転化率と相まって高いスループットを示すが、粗大Siの含有率は0.6%であり(表3)、したがって低いサイクル安定性しか達成できなかった。比較例2は良好な電気化学的性能を示したが、これは低い転化率とスループットでしか達成できなかった(表4)。
【0149】
発明例1~3は、非常に良好な電気化学的性能を維持しながら、比較例2に対してより高いスループットおよびより高い転化率を示す。比較例1とは対照的に、実施例1~3は粗大なSiをもたらさず、したがって有利であるとみなされる。温度およびシラン濃度を調整することにより、実施例4は、比較例1よりも優れた電気化学的性能を達成し、同時に高い転化率を示す。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質粒子の存在下での少なくとも1種のSi前駆体の熱分解によるシリコン複合体の製造方法であって、シリコンは前記多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積され、前記シリコン複合体は35質量%~60質量%のSiの目標含有量を有し、通常運転において、前記方法は以下の条件
- 300℃~500℃の平均温度Tと
- 30体積%~100体積%の前記Si前駆体の濃度C
下で実施されるものであり、前記方法が、通常運転に対して、および任意にさらなる段階Aに対して、前記パラメーターTおよびCの少なくとも1つの変化Δが生じる少なくとも1つの段階Aを含み、ここで
- ΔT=10℃~130℃、
- ΔC=2体積%~70体積%、
であり、ただし、段階Aの間、上記目標含有量の0.1%~50%が堆積されるか、または2つ以上の段階Aの間、上記目標含有量の合計で多くとも50%が堆積されることを特徴とする方法。
【請求項2】
多孔質粒子の存在下での少なくとも1種のシリコン前駆体の熱分解によるシリコン複合体の製造方法であって、シリコンは前記多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積され、前記シリコン複合体は35質量%~60質量%のSiの目標含有量を有し、通常運転において、前記方法は以下の条件
- 300℃~500℃の平均温度Tと、
- 30体積%~100体積%の前記シリコン前駆体の濃度Cと、
- 前記多孔質粒子1gを基準として、0.01~20NL/hの前記シリコン前駆体の体積流量VS
下で実施されるものであり、前記方法が、通常運転に対して、および/またはさらなる段階Aに対して、前記パラメーターT、CおよびVSの少なくとも1つの変化Δが生じる少なくとも1つの段階Aを含み、ここで、
- ΔT=10℃~130℃、
- ΔC=2体積%~70体積%、
- ΔVS=0.01~10NL/h、
であり、ただし、段階Aの間、上記目標含有量の0.1%~50%が堆積されるか、または2つ以上の段階Aの間、上記目標含有量の合計で多くとも50%が堆積されることを特徴とする方法。
【請求項3】
通常運転時のVSが、前記多孔質粒子1gを基準として、0.01~10NL/h、特に好ましくは0.01~5NL/hである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ΔVSが、前記多孔質粒子1gを基準として、0.01~5NL/h、好ましくは0.01~2NL/hである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記シリコン複合体が、40質量%~55質量%、好ましくは42質量%~50質量%のSiの目標含有量を有する、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項6】
Siの前記目標含有量が、ガスクロマトグラフ法、質量分析法、赤外分光法および熱伝導率測定法からなる群から選択される少なくとも1つの方法によるオフガス流の組成の分析によって前記方法中に測定される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項7】
通常運転時のTが315℃~475℃、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項8】
通常運転時のCが40体積%~100体積%、好ましくは50体積%~100体積%である、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項9】
ΔTが20℃~100℃、好ましくは20℃~50℃である、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項10】
ΔCが5体積%~60体積%、好ましくは10体積%~50体積%である、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項11】
段階Aの開始から終了まで、前記変化Δが連続的に実施されることを特徴とする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が0.7MPa未満の圧力で実施される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項13】
緊密クリアランス攪拌機を備えた反応器中で行われる、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項14】
2つ以上の反応器を含むカスケード反応器システムで実施される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項15】
前記シリコン前駆体が、モノシラン、ジシラン、トリクロロシラン、ジクロロシラン、メチルシランおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項16】
前記多孔質粒子が、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソカーボン、マイクロビーズからなる群から選択される非晶質カーボン、天然グラファイトまたは合成グラファイト、単層および多層カーボンナノチューブ、グラフェンおよびそれらの混合物である、請求項1
または2に記載の方法。
【国際調査報告】