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特表2024-530151金属-有機構造体に基づく共に圧力の変更によって誘導される冷却/加熱方法およびデバイス
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  • 特表-金属-有機構造体に基づく共に圧力の変更によって誘導される冷却/加熱方法およびデバイス 図1
  • 特表-金属-有機構造体に基づく共に圧力の変更によって誘導される冷却/加熱方法およびデバイス 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】金属-有機構造体に基づく共に圧力の変更によって誘導される冷却/加熱方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20240808BHJP
   F25B 29/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C09K5/14 E
F25B29/00 421
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506172
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 ES2022070514
(87)【国際公開番号】W WO2023012393
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P202130753
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524040269
【氏名又は名称】ウニベルシダド ダ コルーニャ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルムデス ガルシア,フアン マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】セニャリス ロドリゲス,マリア アントニア
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス アンドゥハル,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】カストロ ガルシア,ソコロ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ベン,ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ベセイロ,ホルヘ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】アルティアガ ディアス,ラモン ペドロ
(57)【要約】
本発明は、呼吸転移を生じさせるハイブリッド有機-無機多孔質材料(MOF)への、加圧ガスの印加および除去を含む冷却/加熱方法に関する。この転移では、化合物に加圧ガスを印加および除去した後のガスの吸着/脱着と共に、化合物の細孔が開/閉する場合に、化合物の構造の体積変化が起こり、周囲温度に近い温度(-20℃~60℃)および低圧(10-5バール~最大50バール)で、大きな等温エントロピー変化(>100JK-1kg-1)を伴って呼吸が生じる。本発明はまた、上記のハイブリッド材料を含む冷却/加熱デバイスに関する。
【選択図】(なし)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却/加熱方法であって、
a) 化合物に加圧ガスを印加および除去した後のガスの吸着/脱着と共に、その細孔が開/閉する場合に前記化合物の構造の体積変化が起こるところの一次相転移からなる呼吸転移を被ることが可能な多孔質有機-無機ハイブリッド化合物を提供することと、
b) 10-6MPa~5MPaの範囲の圧力で前記有機-無機ハイブリッド材料に圧力を印加および除去するサイクルによって前記呼吸転移を誘導することと、
を含み、
圧力の印加が、N、CO、CH、空気、および、体積比で任意のパーセンテージでの前記四者による任意の混合物からなる群から選択される加圧ガスによって生じ、
圧力の除去が、減圧弁を介して前記加圧ガスを放出することによって、または真空ポンプを介して真空を適用することによって、または真空ポンプを介した真空の適用と共に減圧弁を介することによって行われ、
前記呼吸転移が、温度変化を生じさせると共に、-20℃~60℃の間に含まれる温度で起こり、
前記呼吸転移が、100JK-1kg-1以上のエントロピーの等温変化を生じさせる、ことを特徴とする冷却/加熱方法。
【請求項2】
作動温度が-20℃~60℃の範囲の用途向けである、請求項1に記載の冷却/加熱方法。
【請求項3】
前記有機-無機ハイブリッド化合物が、
[Cu(C(COO)(N(C)]、
[Cu(C(CH(CHO)(COO)(N(C)]、
[Zn(C(COO))(C(CN))]、
[Zn(C(COO))(C(CN))]、
[Zn(C(CH(COO)((CN)(CH))]、
[Zn(C(CH(COO)((CN)(CH)]、
[Zn(C(CH(COO)((CN))]、
[Zn(C(CH(COO)((CN))]、
[Zn(C2012(C10)]、
[Zn(C2012(C10)]
[Cu(SiF)(C(Si(OC)]、
[(Ni(C1434))((C(COO)]、
[Cu(CN)(BF]、
[Co(CN)(NCS)
[Zn(C(COO)(CN)]、
[(MeNH)In(C(NH(COO)]、
[Cd(C11]、
[Zn(C(COO))(C)]
[Zn(C10(COO)((CN))]、および
M(OH)[C(COO)
からなる群から選択され、
ここで、
nは、1より大きい整数であり、
Mは、酸化状態+3の周期表の任意の金属カチオン、酸化状態+2の周期表の任意の金属カチオン、および、任意の原子比率での前記金属カチオンによる任意の混合物からなる群から選択され、
mは、Mのカチオンの酸化状態を補うために0~1に含まれる任意の値をとり、
Xは、H、Br、Cl、F、I、CH、CF、OCH、COOH、NH、NO、NCO、NCS、SH、SOH、ならびに、1:4、2:4、および3:4のモル比での前記十五者による任意の混合物からなる群から選択される、請求項1から2のいずれかに記載の冷却/加熱呼吸方法。
【請求項4】
前記有機-無機ハイブリッド材料が、化合物Al(OH)[C(CO]である、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷却/加熱方法。
【請求項5】
前記有機-無機ハイブリッド材料が、化合物Cr0.5Fe0.5(OH)[C(CO]である、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷却/加熱方法。
【請求項6】
前記有機-無機ハイブリッド材料が、化合物Cr(OH)[C(CO]である、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷却/加熱方法。
【請求項7】
前記有機-無機ハイブリッド材料が、化合物Al0.5Cr0.5(OH)[C(CO]である、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷却/加熱方法。
【請求項8】
前記有機-無機ハイブリッド材料が、化合物[Zn(C(COO)(CN)]である、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷却/加熱方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の冷却/加熱方法であって、
当該方法は、周期的かつ連続的であり、各サイクルが、
a) 前記ハイブリッド材料が外部に伝導される熱を放出する所与の期間にわたって前記加圧ガスを印加し維持すること、
b) 前記ハイブリッド材料が冷却されて、冷却/加熱サイクルが完了する所与の期間にわたって前記加圧ガスを除去すること
を更に含んでなる、冷却/加熱方法。
【請求項10】
圧力を印加し、前記加圧ガスを一定の圧力に一定期間維持することによって、過剰な熱が生成されると共に、その熱はヒートシンクに、前記ハイブリッド材料の前記ヒートシンクとの直接接触によって、あるいは熱伝達流体を使用することによって伝達され、
前記加圧ガスを除去することによって、前記ハイブリッド化合物の冷却が起こり、
冷却されるように意図されたチャンバーまたは空間からの熱の吸収が、前記ハイブリッド材料と当該チャンバーとの直接接触により、あるいは熱伝達流体を使用することにより起こる、
請求項9に記載の冷却/加熱方法。
【請求項11】
前記熱伝達流体が、前記加圧ガス自体、空気、水、およびアルコールから選択される、請求項9から10のいずれか一項に記載の冷却/加熱方法。
【請求項12】
-20℃~60℃の範囲の作動温度を有する用途での冷却/加熱のための、多孔質有機-無機ハイブリッド材料の使用であって、
当該多孔質有機-無機ハイブリッド材料は、請求項1~8のいずれか一項に記載されるように、化合物に加圧ガスを印加および除去した後のガスの吸着/脱着と共に、その細孔が開/閉する場合に前記化合物の構造の体積変化が起こるところの一次相転移からなる呼吸転移を被ることが可能なものであり、
前記用途のために、前記材料がデバイスの一部になる、ことを特徴とする使用。
【請求項13】
加圧ガスによる圧力変動、真空の適用、または、真空の適用を伴う加圧ガスによる圧力変動によって誘導される冷却/加熱能力を有するデバイスであって、
a) 請求項1から8のいずれか一項に記載されるように、化合物に加圧ガスを印加および除去した後のガスの吸着/脱着と共に、その細孔が開/閉する場合に前記化合物の構造の体積変化が起こるところの一次相転移からなる呼吸転移を被ることが可能な多孔質有機-無機ハイブリッド材料と、
b) 所与の期間にわたって前記ハイブリッド材料に前記加圧ガスを印加/除去するための手段と、
を備える、ことを特徴とするデバイス。
【請求項14】
呼吸転移を有する前記多孔質有機-無機ハイブリッド材料が、当該冷却/加熱デバイスに収容されたリザーバ内で粉末の形態をなしている、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
呼吸転移を有する前記多孔質有機-無機ハイブリッド材料が、加圧ガス伝導パイプ上でのコーティングの形態をなしている、請求項13に記載のデバイス。
【請求項16】
当該デバイスは電子装置であり、前記有機-無機ハイブリッド材料が薄膜の形態をなしている、請求項13に記載のデバイス。
【請求項17】
呼吸転移を有する前記多孔質有機-無機ハイブリッド材料が、布地に埋め込まれた、マイクロメートル粒子、サブマイクロメートル粒子、またはそれらの混合物の形態をなしている、請求項13に記載のデバイス。
【請求項18】
c) 熱を外部に放散する役割を果たすヒートシンクと、
d) オプションとして、熱交換流体と、
e) 冷却される必要があるチャンバーまたは空間と、
を更に備える、請求項13~17のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年8月2日に出願されたスペイン特許出願第P202130753号の優先権を主張するものである。
【0002】
[技術分野]
本発明は、金属-有機構造体(Metal-Organic Frameworks)、即ちMOFと呼ばれる化合物のファミリーに属する多孔質有機-無機ハイブリッド化合物の使用に基づく冷却/加熱方法に関し、MOFは、加圧ガスの圧力変化に非常に敏感なガスの吸着/脱着との組み合わせにおいて、該材料の細孔の開/閉が起こる一次相転移を示すものである(この効果はMOFの呼吸転移(breathing transition)、ゲート開口転移(gate opening transition)または細孔開口転移(pore opening transition)として知られる。)。本発明はまた、
上述の呼吸転移を伴う前記MOFと、加圧ガスおよび真空ポンプによって圧力を印加/除去する手段とを備えるデバイス、並びに、冷却および加熱用途のための「MOF化合物」の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
国際エネルギー機関からの最近の報告によれば、世界の電力消費の約20%が、冷蔵庫、冷凍庫、暖房、換気、および空調(HVAC)機器などの冷却技術に提供されている。さらに、この部門の需要は今後数十年で大幅に増加すると予想される。並行して、現在のCOVID-19のパンデミックは冷却への非常な重要性を強調している。この世界的災害は、建物内にいる可能性のある人々の快適温度の維持を無視することなく、当該建物の換気を改善して屋内での空気感染を回避することを余儀なくさせた。これに従って、最も差し迫った課題のうちの1つは、COVID-19ワクチンの冷却であり続けており、このことは、世界的な分配および当該ワクチンへのアクセスを制限する重大な障壁となっている。
【0004】
今日、ほとんどの冷却技術は、180年以上前に最初に使用された揮発性冷媒ガスの圧縮/膨張サイクルに基づいている。これらの技術は、長年の確立された技術であるが、理論上の最大熱力学効率(平均効率はわずか60%)未満で動作し続けている。次に、冷却システムは、世界の温室効果ガス排出の7%を占めており、5%がこれらの技術の非効率的なエネルギー消費に由来する間接排出によるものであり、2%が冷媒ガス、主にCOの数千倍を超える地球温暖化係数(GWP)を有するフッ素化炭化水素(Fガス)の直接排出によるものである。したがって、キガリ協定およびFガス規制(EU規則第517/2014号)は、これらのフッ素化冷媒の80%を2030年までに段階的に廃止することを要求している。
【0005】
この重大な状況において、Fガスの主な代替案は、低GWPを有する非フッ素化炭化水素、アンモニアまたはCOである。しかしながら、これらの代替案はまた、環境およびユーザにとって新たなリスクをもたらす。例えば、ほとんどの炭化水素は可燃性であり、アンモニアは毒性および腐食性が高い。
【0006】
COに関しては、これは化学的に安定で無毒で不燃性であり、広く入手可能であり、安価なガスである。また、COは、疑いなく最もよく知られている温室効果ガスであるが、冷却用途では空気から抽出されることに留意されたい。したがって、地球温暖化には寄与せず、むしろその逆であり、冷却におけるその使用は、大気中のCOの低減に寄与する。
【0007】
更に、COは、より低いGWPを有する冷媒ガスのうちの1つである。したがって、CO冷却システムは、正味ゼロの炭素排出をもたらす可能性がある。この意味で、欧州はCO冷却システムの使用を主導しており、全食品店の約14%がこの種のシステムを採用している。
【0008】
しかしながら、ほとんどのCO冷却システムは、周囲温度では45~70バールの間、30℃を超える温度では100~150バールの間の作動圧力を必要とする。これらの圧力は、通常は数十バール(10~20バール)で動作する他の冷媒ガスによって使用されるものよりもはるかに高い。
【0009】
一方、さらに環境に優しい代替案は、圧縮/膨張によっても誘導される固相間転移を示す固体材料である。バロカロリック化合物として知られるこれらの固体材料は、一次転移に関連する大きな熱変化(エントロピーの等温変化、ΔS、または温度の断熱変化、ΔT)を示し、冷媒ガスと同様に冷却と加熱の両方に使用することができる(非特許文献1を参照されたい)。一次転移は、第1の相と第2の相との間で体積の変化が生じる相転移として定義される。
【0010】
これらのバロカロリック化合物のいくつかは、市販の冷媒ガスで観察される熱変化に匹敵する熱変化、ΔS>100JK-1kg-1も示す(非特許文献2を参照されたい)。このため、2050年までに炭素排出量をゼロにするという目標を達成するための有望なツールとして、バロカロリック化合物がヘンリーロイス研究所によって最近仮定された(非特許文献3を参照されたい)。しかしながら、この報告はまた、バロカロリック材料のほとんどが1000~2500バールの間の圧力を必要とするため、バロカロリック材料の作動圧力を300バール未満に劇的に低下させる必要性を強調している(非特許文献1を参照されたい)。
【0011】
1から70バールの間の圧力で動作することができるバロカロリック材料も記載されており、これは、これらの材料の作動圧力の著しい低下を表す(非特許文献4;非特許文献5を参照されたい)。これらの低い作動圧力は、非多孔質有機-無機ハイブリッド化合物である使用される材料が、それらの構造中に存在する有機成分のために高度に圧縮可能であり、それらを高度に可撓性にするという事実に起因する。しかしながら、これらの材料の熱変化(ΔS<40J K-1kg-1)および作動温度範囲(T(作動)>57℃)は、冷媒ガスと比較して比較的小さく、実践適用の数を制限する。
【0012】
一方、「MOF」タイプの多孔質ハイブリッド材料もまた、冷却目的のために広く研究されてきたが、それらの顕著な吸着特性の利点を得るという異なる戦略を有する。これらの多孔質ハイブリッドは、キャビティに挿入された水分子の気化を引き起こす環境温度の変化によって誘導されるエンタルピーの変化を使用して、冷却効果を誘導する(非特許文献6;特許文献1;または特許文献2を参照されたい)。この機構は、ゼオライトで観察される吸着冷却と類似し、圧力の変化によって誘導される一次相転移が起こるバロカロリック効果とは異なる。しかしながら、これらの吸着冷却方法の主な欠点は、吸着/脱着材料として水を使用する必要があり、これは、開放系で水が蒸発すると、水が大気中に漏れるため、これらの技術に関連するウォーターフットプリントへの負の影響を意味する。さらに、水が固体状態にあり、吸着/脱着することができないため、これらのシステムは0℃付近および/または0℃未満の温度で動作することができない。したがって、これらは、低温の冷凍庫や冷蔵庫では使用できず、通常、空調システムに使用される。同様に、これらは、圧力の変化下では動作せず、むしろ環境温度の変化下で動作するため、外部熱源に依存することになる。
【0013】
このすべてを考慮すると、周囲温度(冷凍庫、冷蔵庫およびHVAC機器全般を含む)に近い温度および小さい作動圧力下で冷却および加熱用途のために大きな熱変化を示すことができる新しい固体材料を提供するために、依然として大きな改善の余地があることは明らかである。この意味で、大きな熱変化(ΔS>100J K-1kg-1として定義される)を示し、これまで固体材料では満たされていなかった条件である、周囲温度に近い温度(0℃に近いおよび/または0℃未満の温度を含む)および70バール未満の圧力下で動作することができる新しい材料を見出すことが望ましい。さらに、これらの材料は、水を消費しないか、または水の使用を必要としないこと、または他のより重要な生活領域にとって限られた不可欠な資源である大気中に逃げることができない閉鎖系で製造されることも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2014/028574 A2
【特許文献2】WO2018/118377 A1
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】P.Lloveras et al.,MRS Energy Sustain.2021,8,3-15
【非特許文献2】P.Lloveras et al.Nat.Commun.2019,10,1-7
【非特許文献3】X.Moya,et al.Materials for the Energy Transition Roadmap,Henry Royce Inst.2020
【非特許文献4】J.M.Bermudez-Garcia et al.,Nat.Commun.,2017,8,15715
【非特許文献5】J.M.Bermudez-Garcia et al.J.Mater.Chem.C,2018,6(37),9867-9874
【非特許文献6】M.F.De Lange et al.Chem.Rev.2015,115(22),12205-1225
【発明の概要】
【0016】
本発明の発明者らは、呼吸転移を示す金属-有機構造体すなわちMOFと呼ばれるファミリーに属するハイブリッド有機-無機化合物が、周囲温度に近い温度、特に-20℃~60℃の温度で、家庭用、商業用および工業用冷却システム(冷凍庫、冷蔵庫およびHVAC機器全般を含む)における冷却/加熱用途に使用できることを見出した。
【0017】
かくして、MOFは、高い多孔性および比表面積を有するため、多孔質と定義される有機-無機ハイブリッド材料のサブクラスである(S.R.Batten et al.,CrystEngComm,2012,14,3001-3004を参照されたい)。これらの材料は、記載されているすべてのバロカロリックハイブリッド材料が非多孔質材料であるため、科学文献または特許で報告されているすべてのバロカロリック有機-無機ハイブリッド材料とは異なる(G.Kieslich et al.,Chem.Sci.,2014,5,4712、およびJ.Garcia-Ben et al.,Coord.Chem.Rev.,2022,454,214337を参照されたい)。
【0018】
これまでに記載されたバロカロリックハイブリッド材料に対する、本発明のMOFの利点は、それらの高い多孔性により、それらが呼吸転移を有することが可能になることである。これらの転移は、加圧ガスの圧力の変化に非常に敏感である材料の高い多孔性に起因するガスの吸着/脱着と共に、材料の細孔の開/閉が起こる一次相転移を組み合わせたものである。
【0019】
上述のシステムおよび条件における冷却/加熱用途に有用な呼吸転移を有するこれらのMOFは、ΔS>100J K-1kg-1より大きい等温エントロピー、-20℃~60℃の作動温度範囲、および10-5バール(10-6MPa)~50バール(5MPa)の作動圧力の変化を示さなければならない。
【0020】
一次相転移は、エントロピーおよび体積の変化があり、さらに、ギブスポテンシャルの一次導関数が不連続性を示す場合に生じる任意の転移である。本発明の材料は、加圧ガスの圧力変化に非常に敏感なガスの吸着/脱着と組み合わせて、材料の細孔の開/閉が起こることを意味する一次相転移を示す(MOFの呼吸転移、ゲート開口転移または細孔開口転移として知られる効果)。呼吸転移という用語は、ゲート開口転移および細孔開口転移と同等に使用されている。
【0021】
したがって、本発明の第1の態様は、冷却/加熱方法であって、
a)化合物に加圧ガスを印加および除去した後のガスの吸着/脱着と共に、その細孔が開/閉する場合に化合物の構造の体積変化が起こる一次相転移からなる呼吸転移を受けることができる有機-無機ハイブリッド化合物を準備(提供)することと、
b)10-6MPa~5MPaの範囲の圧力範囲で、有機-無機ハイブリッド材料に圧力を印加および除去するサイクルによって呼吸転移を誘導することと、を含み、
圧力の印加が、N、CO、CH、空気、および体積比で任意のパーセンテージの上記のいずれかの混合物からなる群から選択される加圧ガスによって生じ、圧力の除去が、減圧弁を介して加圧ガスを放出することによって、真空ポンプを介して真空を印加することによって、または真空ポンプを介した真空の印加と共に減圧弁を介して行われ、呼吸転移が、温度変化を生じさせ、-20℃~60℃の間に含まれる温度で起こり、呼吸転移が、100J K-1kg-1以上のエントロピーの等温変化を生じさせる、方法に関する。
【0022】
特定の実施形態では、冷却/加熱方法において使用されるハイブリッド有機-無機化合物は、250J K-1kg-1以上のエントロピーで等温変化を生じる。
さらにより好ましい実施形態では、冷却/加熱方法において使用されるハイブリッド有機-無機化合物は、400J K-1kg-1以上のエントロピーで等温変化を生じる。
特定の実施形態では、冷却/加熱方法において使用されるハイブリッド有機-無機化合物は、100~400J K-1kg-1のエントロピーで等温変化を生じる。
別の特定の実施形態では、冷却/加熱方法において使用されるハイブリッド有機-無機化合物は、100~250J K-1kg-1のエントロピーで等温変化を生じる。
好ましい実施形態では、冷却/加熱方法において使用されるハイブリッド有機-無機化合物は、250~400J K-1kg-1のエントロピーで等温変化を生じる。
【0023】
MOFとも呼ばれる本発明の有機-無機ハイブリッド化合物は、2つの主成分:金属イオンまたは金属イオンの群と、金属中心間の架橋として作用し、50nm以下の直径で構造中に潜在的空隙(細孔)を生じさせる有機配位子とで構成される。細孔サイズは、例えば、X線回折により測定することができる。よって、例えば、APEX II CCD検出器および単色MoKα放射線(λ=0.71073Å)を装備したBruker Kappa回折計を使用することができ、試料(単結晶形態の)は、Paratone(登録商標)(Chevron Corporation)を使用してMiTeGen MicroMount(商標)に載せられ、100Kに冷却することができる。データ収集、統合および削減は、APEX2 V2015.9-0ソフトウェアパッケージ(Bruker AXS、2015)を用いて実施することができる。構造は、SHELXT 2014プログラムを使用する直接法によって解明することができ、SHELXL2014/7の最小二乗法によって精密化することができる。
【0024】
特定の実施形態では、細孔径サイズは2~50nmの間である。別の特定の実施形態では、細孔径サイズは10~25nmの間である。別の特定の実施形態では、細孔径サイズは2~25nmの間である。別の特定の実施形態では、細孔径サイズは2nm以下である。
【0025】
特定の実施形態では、ハイブリッド化合物は、
[Cu(C(COO)(N(C)]、[Cu(C(CH(CHO)(COO)(N(C)]、[Zn(C(COO))(C(CN))]、[Zn(C(COO))(C(CN))]、[Zn(C(CH(COO)((CN)(CH))]、[Zn(C(CH(COO)((CN)(CH)]、[Zn(C(CH(COO)((CN))]、[Zn(C(CH(COO)((CN))]、[Zn(C2012(C10)]、[Zn(C2012(C10)]、[Cu(SiF)(C(Si(OC)]、[(Ni(C1434))((C(COO)]、[Cu(CN)(BF]、[Co(CN)(NCS)、[Zn(C(COO)(CN)]、[(MeNH)In(C(NH(COO)]、[Cd(C11]、[Zn(C(COO))(C)]、[Zn(C10(COO)((CN))]、およびM(OH)[C(COO)]からなる群から選択され、
ここで、nは、分子式がポリマーに属することを示す1より大きい整数であり、Mは、酸化状態+3の周期表の任意の金属カチオン、酸化状態+2の周期表の任意の金属カチオン、および任意の原子比率の上記金属カチオンのいずれかの混合物からなる群から選択され、mは、Mのカチオンの酸化状態を補うために0~1の任意の値をとり、
Xは、H、Br、Cl、F、I、CH、CF、OCH、COOH、NH、NO、NCO、NCS、SH、SOH、ならびに、1:4、2:4および3:4の比率の上記のいずれかの混合物からなる群から選択される;
【0026】
また、本発明の一部を形成するのは、冷却/加熱方法であって、
a) [Cu(C(COO)(N(C)]、[Cu(C(CH(CHO)(COO)(N(C)]、[Zn(C(COO))(C(CN))]、[Zn(C(COO))(C(CN))]、[Zn(C(CH(COO)((CN)(CH))]、[Zn(C(CH(COO)((CN)(CH)]、[Zn(C(CH(COO)((CN))]、[Zn(C(CH(COO)((CN))]、[Zn(C2012(C10)]、[Zn(C2012(C10)]、[Cu(SiF)(C(Si(OC)]、[(Ni(C1434))((C(COO)]、[Cu(CN)(BF]、[Co(CN)(NCS)、[Zn(C(COO)(CN)]、[(MeNH)In(C(NH(COO)]、[Cd(C11]、[Zn(C(COO))(C)]、[Zn(C10(COO)((CN))]、およびM(OH)[C(COO)]からなる群から選択される多孔質有機-無機ハイブリッド化合物
(ここで、nは1より大きい整数であり、Mは、酸化状態+3の周期表の任意の金属カチオン、酸化状態+2の周期表の任意の金属カチオン、および任意の原子比率の上記金属カチオンのいずれかの混合物からなる群から選択され、mは、Mのカチオンの酸化状態を補うために0~1の任意の値をとり、Xは、H、Br、Cl、F、I、CH、CF、OCH、COOH、NH、NO、NCO、NCS、SH、SOH、ならびに、1:4、2:4および3:4のモル比の上記のいずれかの混合物からなる群から選択される)を準備(提供)することと、
b) 有機-無機ハイブリッド材料に10-6MPa~5MPaまでの圧力範囲の圧力を印加および除去するサイクルを適用して、加圧ガスの吸着/脱着と共に、化合物の細孔の開/閉を生じさせ、-20℃~60℃の間の温度での温度変化および100JK-1 kg-1以上のエントロピーでの等温変化を生じさせることと、を含み、
圧力の印加が、N、CO、CH、空気、および体積比で任意のパーセンテージの上記のいずれかの混合物からなる群から選択される加圧ガスによって生じ、圧力の除去が、減圧弁を介して加圧ガスを放出することによって、真空ポンプを介して真空を印加することによって、または真空ポンプを介した真空の印加と共に減圧弁を介して行われる、方法である。
尚、nが1より大きい整数であるという事実は、それがポリマーであることを示す。
【0027】
上記形態のいずれかで定義される方法の特定の実施形態では、ハイブリッド化合物は、分子式M(OH)[C(COO)]を有し、式中、Mは、V3+、Al3+、Cr3+、Fe3+、In3+、Ga3+、Sc3+、Fe2+、Co2+、Ni2+およびMn2+、ならびに上述の金属カチオンのいずれかの混合物からなる群から選択され、Xは、官能基H、Br、Cl、F、I、CH、CF、OCH、COOH、NH、NO、NCO、NCS、SHおよびSOH、ならびに上述の官能基のいずれかの混合物からなる群から選択される。
【0028】
好ましい実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、Al(OH)[C(COO)]である。
別の好ましい実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、[Zn(C(COO)(CN)]である。
別の好ましい実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、Al0.5Cr0.5(OH)[CNH(COO)]である。
別の好ましい実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、Cr(OH)[C(CO]である。
別の好ましい実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、Cr0.5Fe0.5(OH)[C(CO]である。
【0029】
特定の実施形態では、冷却/加熱方法は、一般に以下の工程を含む方法で、上で定義された有機-無機ハイブリッド化合物に加圧ガスを加圧および減圧することによってデバイス内で実行される:
a)加圧ガスを使用することによって圧力を上昇させ、ハイブリッド材料の温度を上昇させる工程、
b)ハイブリッド材料が熱を放出し、その温度が低下する所与の期間にわたって、先行する工程で到達した圧力を維持する工程;
c)ハイブリッド材料の温度がさらに低下するように、加圧ガスを除去することによって圧力を低下させる工程、ならびに
d)ハイブリッド材料が熱を吸収し、その温度が上昇する期間にわたって、先行する工程で到達した圧力を維持する工程。
【0030】
一般に、印加された圧力が維持される時間は0.05~60秒である。好ましくは、印加された圧力が維持される時間は1~10秒である。より好ましくは、印加された圧力が維持される時間はおよそ1秒である。
【0031】
一般に、除去された圧力が維持される時間は0.05~60秒である。好ましくは、除去された圧力が維持される時間は1~10秒である。より好ましくは、除去された圧力が維持される時間はおよそ1秒である。
【0032】
本明細書において「およそ/約」という用語は、対応する単位±5%で示される値を意味する。
【0033】
特定の実施形態では、材料の熱吸収は冷却方法を生じさせるために使用され、材料によって生成された熱は取り除かれる。
【0034】
別の特定の実施形態では、材料の熱の発生は加熱方法を生じさせるために使用され、材料の熱の吸収は使用されない。
【0035】
別の特定の実施形態では、材料の熱の吸収は冷却方法を生じさせるために使用され、生じた熱は加熱方法を生じさせるために使用される。
【0036】
別の特定の実施形態では、冷却/加熱方法は、圧力を印加し、加圧ガスを一定の圧力に一定期間維持することによって、過剰な熱が生成されると共に、その熱はヒートシンクに、ハイブリッド材料のヒートシンクとの直接接触によって、あるいは熱伝達流体を使用することによって、当該ヒートシンクに伝達される方法であり、
加圧ガスを除去することによって、当該ハイブリッド化合物の冷却が起こり、ハイブリッド材料とこのチャンバーとの直接接触によって、あるいは熱伝達流体を使用することによって冷却されるように意図されたチャンバーまたは空間からの熱の吸収が起こる。
【0037】
別の特定の実施形態では、冷却/加熱方法は、熱伝達流体が加圧ガス自体、空気、水、およびアルコールから選択される方法である。
【0038】
一例として、当該方法の第1の工程では、有機-無機ハイブリッド化合物、例えばAl(OH)[C(COO)]上の加圧ガスを使用することによって圧力が上昇し、これによりこの材料が加熱される。第2の工程では、印加された加圧ガスは、発生した過剰な熱がヒートシンクに伝達されるように、一定の期間にわたって一定の圧力のままである。生成されたこの過剰な熱は、ハイブリッド材料のヒートシンクとの直接接触によって、または熱伝達流体(例えば、加圧ガス自体、空気、水、アルコールなど)を使用することによって、当該ヒートシンクに導くことができる。第3の工程では、有機-無機ハイブリッド化合物が発生した過剰な熱を放出すると、加圧ガスが除去され、これにより当該ハイブリッド化合物が冷却される。第4の工程では、除去された加圧ガスを一定時間維持することによって、ハイブリッド有機-無機化合物(先の工程で冷却された)が、冷却されることを意図したチャンバー(または空間)、例えば、冷蔵庫内から吸熱する。当該熱は、ハイブリッド材料のこのチャンバーとの直接接触によって、または熱伝達流体(例えば、加圧ガス自体、空気、水、アルコールなど)を使用することによって吸収される。この4工程の方法は、特定の所定期間にわたって周期的に繰り返され、ここで、加圧ガスは、無限サイクルで自動的に圧力を増減させる動因となる。
【0039】
特定の実施形態では、加圧ガスは、N、CO、CHおよび空気、ならびに体積比で任意のパーセンテージの上記のいずれかの混合物からなる群から選択される。
好ましい実施形態では、加圧ガスは空気である。さらにより好ましい実施形態では、加圧ガスはNである。さらにより好ましい実施形態では、加圧ガスはCOである。
【0040】
好ましい実施形態では、加圧ガスは、圧力を1バール(0.1MPa)~50バール(5MPa)まで上昇させる。さらにより好ましい実施形態では、加圧ガスは、圧力を1バール(0.1MPa)~40バール(4MPa)まで上昇させる。さらにより好ましい実施形態では、加圧ガスは、圧力を1バール(0.1MPa)~30バール(3MPa)まで上昇させる。さらにより好ましい実施形態では、加圧ガスは、圧力を1バール(0.1MPa)~20バール(2MPa)まで上昇させる。さらにより好ましい実施形態では、加圧ガスは、圧力を1バール(0.1MPa)~10バール(1MPa)まで上昇させる。さらにより好ましい実施形態では、加圧ガスは、圧力を1バール(0.1MPa)~5バール(0.5MPa)まで上昇させる。
【0041】
好ましい実施形態では、真空ポンプは、圧力を1バール(0.1MPa)~10-6バール(10-7MPa)に低下させる。さらにより好ましい実施形態では、真空ポンプは、圧力を1バール(0.1MPa)~10-5バール(10-6MPa)に低下させる。さらにより好ましい実施形態では、真空ポンプは、圧力を1バール(0.1MPa)~10-4バール(10-5MPa)に低下させる。さらにより好ましい実施形態では、真空ポンプは、圧力を1バール(0.1MPa)~10-3バール(10-4MPa)に低下させる。さらにより好ましい実施形態では、真空ポンプは、圧力を1バール(0.1MPa)~10-2バール(10-3MPa)に低下させる。さらにより好ましい実施形態では、真空ポンプは、圧力を1バール(0.1MPa)~10-1バール(10-2MPa)に低下させる。
【0042】
好ましい実施形態では、圧力を印加および除去するサイクルは、10-5バール(10-6MPa)~50バール(5MPa)の範囲である。さらにより好ましい実施形態では、圧力を印加および除去するサイクルは、10-4バール(10-5MPa)~40バール(4MPa)の範囲である。さらにより好ましい実施形態では、圧力を印加および除去するサイクルは、10-3バール(10-4MPa)~30バール(3MPa)の範囲である。さらにより好ましい実施形態では、圧力を印加および除去するサイクルは、10-3バール(10-4MPa)~20バール(2MPa)の範囲である。さらにより好ましい実施形態では、圧力を印加および除去するサイクルは、10-2バール(10-3MPa)~10バール(1MPa)の範囲である。さらにより好ましい実施形態では、圧力を印加および除去するサイクルは、10-1バール(10-2MPa)~10バール(1MPa)の範囲である。さらにより好ましい実施形態では、圧力を印加および除去するサイクルは、1バール(0.1MPa)~10バール(1MPa)の範囲である。
【0043】
特定の実施形態では、本発明の冷却/加熱方法において使用されるハイブリッド有機-無機化合物は、-20℃~60℃の動作温度範囲での作動を可能にする。
好ましくは、作動温度範囲は、-10℃~40℃である。より好ましくは、作動温度範囲は、-5~30℃である。
【0044】
冷却/加熱方法の特定の実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、
Al(OH)[C(CO]である。
冷却/加熱方法の別の特定の実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、
[Zn(C(COO)(CN)]である。
冷却/加熱方法の別の特定の実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、
Al0.5Cr0.5(OH)[CNH(COO)]である。
冷却/加熱方法の別の特定の実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、
Cr0.5Fe0.5(OH)[C(CO]である。
冷却/加熱方法の別の特定の実施形態では、ハイブリッド有機-無機化合物は、
化合物Cr(OH)[C(CO]である。
冷却/加熱方法の別の好ましい実施形態では、有機-無機ハイブリッド化合物は、
化合物Cr0.5Fe0.5(OH)[C(CO]である。
【0045】
さらに、本発明の別の態様は、周囲温度(冷凍庫、冷蔵庫およびHVAC機器全般を含む)に近い用途、特に-20℃~60℃の範囲の動作温度を有する用途における冷却/加熱デバイス用の冷却/加熱材料としてのハイブリッド有機-無機材料の使用に関する。
【0046】
上述の冷却/加熱方法の特定の好ましい実施形態はまた、本発明のこの実施形態における特定の好ましい実施形態である。
【0047】
これらの材料は、冷却/加熱デバイスに組み込むことができる。デバイスは、空調およびヒートポンプの冷却/加熱部門、HVAC機器全般、家庭用冷却機器、産業用冷却機器、業務用冷却機器、冷蔵庫、冷凍庫、電子機器、自動車、個人用保護具などの様々な部門で使用することができる。
【0048】
したがって、本発明の別の態様は、冷却/加熱デバイスを含み、その冷却能力は、加圧ガスによる圧力変動、真空の適用、または真空の適用を伴う加圧ガスによる圧力変動によって生じ、当該デバイスは、
(1)上で定義されたような呼吸転移を有するハイブリッド有機-無機化合物、及び
(2)当該有機-無機ハイブリッド化合物に対して、加圧ガス、真空、または真空の提供を伴う加圧ガスによる圧力変動を使用して、所与の期間、周期的に圧力を印加および除去する手段を含む。
【0049】
冷却/加熱方法のために上で定義された加圧ガスおよび真空によって発揮される圧力の特定の好ましい値はまた、デバイスの媒体の特定の/好ましい値である。
【0050】
別の特定の実施形態では、本発明のデバイスは、
(3)熱を外部に放散する役割を果たすヒートシンク、
(4)必要に応じて、熱交換流体、および
(5)冷却される必要があるチャンバーまたは空間、をさらに含む。
【0051】
ヒートシンクは、例えば、ファン、ラジエータなどであってもよい。熱交換流体は選択的であり、存在する場合、加圧ガス自体、空気、水、アルコール、油などから選択することができる。一例として、冷蔵庫の場合には、冷却される必要があるチャンバーまたは空間は、当該冷蔵庫内のチャンバーである。別の例として、スマートフォンの場合には、冷却される必要がある空間は、電話機の内部である。別の例では、空調機またはヒートポンプの場合には、リザーバは、温度が制御されるべき建物または部屋の内部である。
【0052】
さらに、冷却/加熱デバイスにおいて、呼吸転移を有する有機-無機ハイブリッド化合物は、冷却/加熱デバイスに収容されたリザーバ内で粉末形態で、または加圧ガス伝導パイプ内でコーティングとして、または電子デバイス内で薄膜(薄層)として、1000μm以下の直径を有するマイクロメートル粒子、1μm以下のサイズを有するサブマイクロメートル粒子、またはそれらの混合物の形態で、布地、例えば衣類、履物および個人用保護具(PPE)に埋め込まれて使用することができる。粒子のサイズは、例えば、透過型電子顕微鏡によって決定することができる。よって、例えば、100kVで動作するJEOL 1010モデル透過型電子顕微鏡を使用することができ、試料(イソプロパノールに懸濁された粉末の形態)は、銅グリッド上に置かれ、顕微鏡の試料ホルダー上に導入される。
【0053】
よって、冷却/加熱デバイスの特定の実施形態では、呼吸転移を有する有機-無機ハイブリッド化合物は、加圧ガス伝導パイプ上でコーティングの形態である。
【0054】
冷却/加熱デバイスの別の特定の実施形態では、呼吸転移を有する有機-無機ハイブリッド化合物は、冷却/加熱デバイスに収容されたリザーバ内で粉末の形態である。
【0055】
本発明の特定の実施形態は、化学式:Al(OH)[C(CO
(すなわち、式:M(OH)[C(CO]の化合物であり、式中、
MはAl3+カチオンであり、m=1であり、X=Hである)の呼吸転移を有する有機-無機ハイブリッド化合物を含む。この化合物は、A.Boutin et al.,J.Phys.Chem.C,2010,53,22237-22244において報告された、図1に例示される単結晶X線回折によって得られる結晶構造を示し、呼吸転移に関連する開孔および閉孔多形(構造)を表す。
【0056】
例として周囲温度での単結晶X線回折は、化合物Al(OH)[C(CO]が、斜方晶対称性を有する開孔結晶構造および以下のセルパラメータ
a=19.513(2)Å、b=7.612(1)Å、c=6.576(1)Å
を有することを示す。
【0057】
本明細書および特許請求の範囲を通して、「含む/備える(comprise)」という語およびその変形は、他の技術的特徴、追加、構成要素または工程を排除することを意図しない。さらに、「含む/備える(comprise)」という語は、「からなる(consists of)」の場合を含む。当業者にとって、本発明の他の目的、利点および特徴は、本発明の説明および実践的使用の両方から推定されるであろう。以下の実施例および図面は例示として提供され、本発明を限定することを意図するものではない。さらに、本発明は、本明細書で示される特定の好ましい実施形態のすべての可能な組合せを網羅する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】単結晶X線回折により得られた化合物Al(OH)[C(CO]の結晶構造を示す概略図。注記:左側の構造は、材料が減圧された場合の開孔多形体に対応し、右側の構造は、材料がCOガスによって加圧された場合の閉孔多形体に対応する。
図2】化合物Al(OH)[C(CO]の異なる等温条件での圧力の関数としての熱量曲線を示すグラフ。
図3】最良の市販の気体冷媒およびバロカロリック固体材料のいくつかの特性と比較した、材料MOF(1)=Al(OH)[C(CO]、MOF(2)=Al0.5Cr0.5(OH)[C(CO]およびMOF(3)=[Zn(C(COO)(CN)]の熱特性を示す( (a)エントロピーの等温変化ΔS、および(b)作動圧力pに対する作動温度範囲T[スパン]、ここで、以前のパラメータが観察される。)。注記:異なる陰影領域は、異なる材料がそれらの熱特性を示す領域に対応する:GASES=冷媒ガス;BARO=バロカロリック固体材料、MOFs=呼吸転移を有する金属-有機構造体。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、実施例として説明する。
【実施例
【0060】
[実施例1]:熱特性(エントロピー、作動圧力範囲および作動温度範囲の等温変化)の決定。
【0061】
本明細書に記載の材料の熱特性は、示差走査熱量測定によって研究された。かくして、約4mgの異なる材料の試料を、圧力セルを備えたTA Instruments Q2000熱量計で分析した。試料を異なる温度で異なる等温条件に維持しながら、約1バール/分の速度で、CO雰囲気下で加圧ガス(CO)による加圧および減圧勾配に供した。これらの加圧および減圧サイクルは、1バールの最小圧力および50バールの最大圧力で行われた。図2は、Al(OH)[C(CO]事例について得られた熱量曲線を示す。図3は、最良の市販の気体冷媒およびバロカロリック固体材料のいくつかの特性と比較した、材料Al(OH)Al(OH)[C(CO]、Al0.5Cr0.5(OH)[C(CO]および[Zn(C(COO)(CN)]の熱特性(エントロピーの等温変化ΔS、作動温度範囲T(スパン)、作動圧力pに対する作動温度範囲T(スパン)、ここで、以前のパラメータが観察される。)を示す。
エントロピーの等温変化は、得られた熱量曲線を積分し、測定を行った等温温度で得られた値を割ることによって得られる。作動温度範囲は、エントロピーの等温変化の値が0JK-1kg-1とは異なる最大温度値と最小温度値との間の範囲として定義される。作動圧力範囲は、エントロピーの等温変化の値が0JK-1kg-1とは異なる最大圧力値と最小圧力値との間の範囲として定義される。
【0062】
[参照文献のリスト]
「非特許文献」
- Regulation EU No 517/2014
- P. Lloveras, J.-L. Tamarit, MRS Energy Sustain. 2021, 8, 3-15
- P. Lloveras, A. Aznar, M. Barrio, P. Negrier, C. Popescu, A. Planes, L. Manosa, E. Stern-Taulats, A. Avramenko, N. D. Mathur, X. Moya, J.L. Tamarit, Nat. Commun. 2019, 10, 1-7
- X. Moya, I. M. Ilevbare, Materials for the Energy Transition Roadmap: Caloric Energy Conversion Materials. Henry Royce Inst. 2020
- J. M. Bermudez-Garcia et al., Nat. Commun., 2017, 8, 15715
- J. M. Bermudez-Garcia et al. J. Mater. Chem. C, 2018, 6 (37), 9867-9874
- M. F. De Lange et al. Chem. Rev. 2015, 115 (22), 12205-1225
- S.R. Batten et al., CrystEngComm, 2012, 14, 3001-3004
- G. Kieslich et al., Chem. Sci., 2014, 5, 4712
- J. Garcia-Ben et al., Coord.Chem.Rev., 2022, 454, 214337
- M. Alhamami et al., 2014, 7, 3198-3250
- A. Boutin et al., J. Phys. Chem. C, 2010, 53, 22237-22244
「特許文献」
WO2014/028574 A2
WO2018/118377 A1
【符号の説明】
【0063】
図3の(a)中において、
GASES=冷媒ガス
BARO=バロカロリック固体材料
MOFs=呼吸転移を有する金属-有機構造体
図1
図2
図3
【国際調査報告】