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▶ オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240808BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240808BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20240808BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240808BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/12
A61K31/7105
A61K48/00
A61K47/54
A61K47/62
A61K35/76
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506731
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 GB2022052052
(87)【国際公開番号】W WO2023012481
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】2111250.3
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517352500
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ、トーマス チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ウッド、マシュー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC26
4C076CC41
4C076DD68
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB21
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、RNA転写物におけるスプライシングシグナルを標的とする化合物を用いて、対応するRNA転写物における制御エレメントの存在を調節して、該制御エレメントを含む1つ以上のエキソンのスプライス調節を誘導することにより、遺伝子の発現又は活性を調節することに関する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA転写物における制御エレメントの存在を調節するための方法であって、前記制御エレメントを含む1つ以上のエキソンのスプライス調節を誘導するために、RNA転写物におけるスプライシングシグナルを標的とする化合物を細胞に送達することを含む方法。
【請求項2】
前記制御エレメントが、上流オープンリーディングフレーム(uORF)等の翻訳制御エレメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記uORFが、
(a)一次オープンリーディングフレーム(pORF)の上流100ヌクレオチド以内にある;
(b)pORFと重複している;
(c)コザックコンセンサス配列n[a/g]nnAUGg(配列番号17)を含む;
(d)開始コドンと終止コドンとの間に、≦5個、≦4個、≦3個、≦2個、1個、又は0個のコドンを含む;及び/又は
(e)芳香族疎水性アミノ酸と比較して、酸性及び塩基性のアミノ酸の割合が高い組成を有する、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のエキソンが、≦10個、≦5個、又は1個のuORFを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記uORFが部分的にスキップされる、例えば、開始コドンをコードしているuORFの一部がスキップされる、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記制御エレメントが、3’非翻訳領域(UTR)にあり、前記制御エレメントが、任意でmiRNA結合部位又は選択的ポリアデニル化シグナルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記制御エレメントが、長鎖非コードRNA転写物中にあり、前記制御エレメントが、任意でマイクロペプチドコード配列、RNA結合ドメイン、又はタンパク質と相互作用する二次構造である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物がエキソンスキッピングを誘導し、任意で、前記化合物が、
(a)RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む単一のエキソンのスキッピング;又は
(b)RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む複数のエキソンのスキッピング、
を誘導する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が、エキソンのインクルージョンを誘導し、任意で、前記化合物が、
(a)RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む単一のエキソンのインクルージョン;又は
(b)RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む複数のエキソンのインクルージョン、
を誘導する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
複数の化合物を細胞に送達することを含み、各化合物が異なる標的部位を標的とし、任意で、前記複数の化合物がコンジュゲートしている、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記スプライシングシグナルが、
(a)5’スプライスドナー部位;
(b)3’スプライスアクセプタ部位;
(c)エキソンスプライシングエンハンサー(ESE)配列;
(d)スプライシング分岐点;
(e)ポリピリミジントラクト;又は
(f)イントロンスプライシングサイレンサー(ISS)配列、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が、RNA二次構造を欠く標的部位を標的とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が、オリゴヌクレオチドである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記オリゴヌクレオチドが、アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項15】
前記オリゴヌクレオチドが、
(a)一本鎖である;
(b)5~40ヌクレオチド長である;
(c)修飾オリゴヌクレオチドである;及び/又は
(d)標的部位に対して≧50%の配列相補性を有する、
請求項16又は17に記載の方法。
【請求項16】
前記オリゴヌクレオチドが、配列[C/A]AGgu[a/g]ag(配列番号18)を有する5’スプライスドナー部位に対して相補的な配列を含み、任意で、前記オリゴヌクレオチドが配列番号22を含むか又はからなる、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチドが、配列cagG[G/U](配列番号19)を有する3’スプライスアクセプタ部位に対して相補的な配列を含み、任意で、前記オリゴヌクレオチドが配列番号23を含むか又はからなる、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記オリゴヌクレオチドが、エキソンスプライシングエンハンサー(ESE)配列(例えば、配列CACACGA(配列番号20)を有するSRSF1部位)に対して相補的な配列を含み、任意で、前記オリゴヌクレオチドが配列番号24を含むか又は24からなる、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記オリゴヌクレオチドが、配列cu[a/g]A[c/u](配列番号21)を有するスプライシング分岐点に対して相補的な配列を含み、任意で、前記オリゴヌクレオチドが配列番号25を含むか又はからなる、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記オリゴヌクレオチドが、ポリピリミジントラクトに対して相補的な配列を含み、任意で、前記オリゴヌクレオチドが配列番号26を含むか又はからなる、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記オリゴヌクレオチドが、40~60%のGC含量を有する、請求項13~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記オリゴヌクレオチドが、少なくとも1つの修飾された糖部分、少なくとも1つの修飾されたヌクレオシド間結合、及び/又は少なくとも1つの修飾されたヌクレオチドから選択される1つ以上の修飾を含む、請求項13~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記オリゴヌクレオチドが、ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記オリゴヌクレオチドにおける各糖部分が、2’-O-メトキシエチル修飾を含み、各ヌクレオシド間結合がホスホロチオエートである(すなわち、オリゴヌクレオチドは完全にPS-MOEオリゴヌクレオチドである)、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記化合物が、核酸分子、ペプチド、又は他の化学物質等の1つ以上の更なる化合物にコンジュゲートされる、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記RNA転写物が、ABCA1、ABCB11、ABCC2、ABCG5、ADAM10、ALB、ANK1、APOE、ATP2A2、ATP7B、ATRX、ATXN1、ATXNIL、BAX、BCL2L11、BDNF(例えば、BDNF v11)、BLM、BRCA1、C/EBPa、CA2、CASP8、CCBE1、CD36、CD3D、CDKN1B、CDKN2A、CEP290、CFH、CFTR、CHRNA4、CHRNA5、CNTF、CNTFR、COL1A1、CR1、CSPP1、CTNND2、CTNS、CYP1B1、DBT、DCAF17、DNASE1、DDIT3、DICER1、DRD3、EED、EFNB1、EPO、ESR1、ETHE1、EZH2、F8(及びF2、3、5、7、11、13)、FAP、FMR1、FNDC5、FXN、GALNS、GATA3、GBA、GCH1、GCK、GH2、GRN、HBB、HBD、HBE1、HBG1、HBG2、HCRT、HGF、HNF4a、HR、HSD17B4、IDO1、IFNE、及び他のインターフェロン遺伝子、IFRD1、IGF1、IGF1R、IGF2、IGF2BP2、IGFBP3、IGHMBP2、IL6、INS、IQGAP1,IQGAP2,IRF6、IRS2、ITGA7、JAG1、KCNJ11、KCNMA1、KCNMB1、KCNMB2、KCNMB3、KCNQ3、KLF4、KMT2D、LDLR、LRP1、LRP5、LRP8、LRPPRC、MBTPS1、MECP2、MSRA、MSX2、MTR、MUTYH、MYCN、MYF6、NAMPT、NANOG、NEU4、NF1、NKX2、NKX3、NKX5、NKX8、NOD2、NR5A、NRF1、NSD1、PAH、PARK2、PKD1、PLAT、PON1、PON2、PPARD、PRKARIA、PRPF31、PTEN、PYCR1、RB1、RBL1、RBL2、RBBP4、RNASEH1、ROR2、RPS14、RPS19、SCNIA、SCN2A、SERPINF1、SERPING1、SHBG、SIRT1、SLC1A2、SMAD7、SMCHD1、SMN1、SMN2、SNX27、SPINK1、SRB1、SRY、ST7、ST7L、STAT3、TFE3、TFEB、TGFB3、THPO、TP63、TP73、UCP2、USP9Y/SP3、UTRN、又はVEGFA等のuORF含有遺伝子によってコードされている、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記RNA転写物が、BDNF v11等のuORF含有遺伝子のアイソフォームによってコードされている、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記RNA転写物が、ATP7B、ATRX、BLM、BRCA1,CA2、CCBE1、CD3D、CD4、CDKN2A、CFL2、CFTR、CSPP1、CTNS、DBT、DCAF17、DCLREIC、DFNB31、DLG4、DMD、DNASE1、ETHE1、GALNS、GCH1、HAMP、HBB、HMBS、HR、IGHMBP2、IRF6、ITGAZ、ITGB2、KCNJ11、KCNQ3、LDLR、LRP5、LRP5L、MECP2、MLH1、MSH6、MUTYH、NR5A1、PALB2、PANK2、PEX7、PHYH、PIK3R5、POMC、POMT1、ROR2、SCN2A、SGCA、SGCD、SLC16A1、SLC19A3、SLC2A2、SLC7A9、SPINK1、SRY、STIL、TK2、TMPRSS3、TP53、TPI1、TPM3、TRMU、TSEN54、又はZEB1等の1つ以上のuORFを作り出す変異又はSNPを有する遺伝子によってコードされている、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記RNA転写物が、長鎖非コードRNA(lncRNA)、長鎖介在非コードRNA(lincRNA)、又はマクロRNA等の非コード転写物である、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
ウイルスベクター(例えばAAV、レンチウイルス)等のベクターによって前記化合物を細胞に送達することを含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
遺伝子の発現又は活性を調節する方法であって、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法に従って前記遺伝子にコードされているRNA転写物における制御エレメントの存在を調節することを含む方法。
【請求項32】
タンパク質発現を増加、減少、又は回復させる方法であって、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法に従ってRNA転写物における制御エレメントの存在を調節することを含む方法。
【請求項33】
制御エレメントを含む1つ以上のエキソンがスキッピング及び/又は保持されるようにオルタナティブスプライシングを誘導するための、RNA転写物におけるスプライシングシグナルを標的とするオリゴヌクレオチド。
【請求項34】
請求項13~24に記載した通りの、請求項33に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項35】
(a)前記制御エレメントが、請求項2~7のいずれか一項に記載の通りであり、
(b)前記オリゴヌクレオチドが、請求項8又は9に記載の通り1つ以上のエキソンのスキッピング及び/若しくはインクルージョンを誘導するためのものである;
(c)前記オリゴヌクレオチドが、請求項11に記載のスプライシングシグナルを標的とする;
(d)前記オリゴヌクレオチドが、請求項12に記載の標的部位を標的とする;並びに/又は
(e)前記RNA転写物が、請求項26~29のいずれか一項に記載の通りである、
請求項33又は34に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項36】
前記オリゴヌクレオチドが、核酸分子、ペプチド、又は他の化学物質等の1つ以上の更なる化合物にコンジュゲートされる、請求項33~35のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項37】
請求項33~36のいずれか一項に記載の2つ以上のオリゴヌクレオチドを含むコンジュゲートオリゴヌクレオチド。
【請求項38】
請求項33~36のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド又は請求項37に記載のコンジュゲートオリゴヌクレオチドをコードしているポリヌクレオチド又はベクターであって、任意で、前記ベクターがAAV又はレンチウイルスである、ポリヌクレオチド又はベクター。
【請求項39】
請求項33~37のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドを含む送達ビヒクル。
【請求項40】
未改変RNA転写物と比較して制御エレメントを含む1つ以上のエキソンが存在しないか又は含まれていることを含む改変RNA転写物。
【請求項41】
請求項33~37のいずれか一項に記載の2つ以上のオリゴヌクレオチドを含む組成物であって、任意で、前記オリゴヌクレオチドがコンジュゲートされている組成物。
【請求項42】
請求項33~36のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド、請求項37に記載のコンジュゲートオリゴヌクレオチド、請求項38に記載のポリヌクレオチド若しくはベクター、請求項39に記載の送達ビヒクル、又は請求項41に記載の組成物と、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物。
【請求項43】
ヒト又は動物の身体に対して実施される治療方法において使用するための、請求項33~36のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド、請求項37に記載のコンジュゲートオリゴヌクレオチド、請求項38に記載のポリヌクレオチド若しくはベクター、請求項39に記載の送達ビヒクル、請求項41に記載の組成物、又は請求項42に記載の医薬組成物。
【請求項44】
遺伝子の発現を調節することによって対象における疾患又は病態を治療又は予防する方法において使用するための、請求項33~37のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド、請求項38に記載のポリヌクレオチド若しくはベクター、請求項39に記載の送達ビヒクル、請求項41に記載の組成物、又は請求項42に記載の医薬組成物であって、治療的に有効な量の前記オリゴヌクレオチド、前記ポリヌクレオチド若しくはベクター、前記送達ビヒクル、前記組成物、又は前記医薬組成物を対象に投与することを含む、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物。
【請求項45】
請求項1~30のいずれか一項に記載の方法に従ってRNA転写物における制御エレメントの存在を調節すること;請求項31に記載の方法に従って遺伝子の発現又は活性を調節すること;又は請求項32に記載の方法に従ってタンパク質発現を増加、減少、若しくは回復させることを含む、請求項43又は44に記載の通り使用するためのオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物。
【請求項46】
遺伝子の発現又は活性を調節することにより対象における疾患又は状態を治療又は予防するための医薬の製造における、請求項33~37のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド、請求項38に記載のポリヌクレオチド若しくはベクター、請求項39に記載の送達ビヒクル、請求項41に記載の組成物、又は請求項42に記載の医薬組成物の使用。
【請求項47】
遺伝子の発現又は活性を調節することにより対象における疾患又は病態を治療又は予防する方法であって、治療的に有効な量の請求項33~36のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド、請求項37に記載のコンジュゲートオリゴヌクレオチド、請求項38に記載のポリヌクレオチド若しくはベクター、請求項39に記載の送達ビヒクル、請求項41に記載の組成物、又は請求項42に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項48】
請求項1~30のいずれか一項に記載の方法に従ってRNA転写物における制御エレメントの存在を調節する;請求項31に記載の方法に従って遺伝子の発現又は活性を調節する;又は請求項32に記載の方法に従ってタンパク質発現を増加、減少、若しくは回復させる、請求項46に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の発現又は活性を調節するための化合物、並びにその方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
内因性遺伝子の発現を調節する技術は当技術分野において公知である。例えば、遺伝子発現の調節は、DNA結合剤、低分子、又は合成オリゴヌクレオチド等によって転写のレベルで媒介することができる。遺伝子発現はまた、例えばRNA干渉によって転写後に調節することもできる。
【0003】
アンチセンス技術、低分子干渉RNA(siRNA)技術、及びCRISPR干渉技術を含む標的遺伝子サイレンシング技術は比較的十分に開発されている。しかし、標的遺伝子のアップレギュレーションを誘導することができる技術は比較的少ない。
【0004】
本発明の目的は、特定の遺伝子の発現又は活性を調節するための、更なる改良された化合物及び方法を同定することである。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、特定の遺伝子の発現又は活性を調節する新規方法を見出した。具体的には、本発明者らは、上流オープンリーディングフレーム(uORF)等の遺伝子の発現又は活性に大きな影響を与える多くの制御エレメントがRNA転写物のエキソンに位置することを見出した。従って、特定のエキソンの有無、ひいてはそこに含まれる制御エレメントを変化させるためにスプライス調節を利用することができる。
【0006】
スプライス調節が誘導された結果として制御配列が除去されると、その制御エレメントの効果が逆転する。例えば、負の制御エレメント(例えば、uORF)を含むエキソンを除去するスプライス調節を行うと、該負の制御エレメントを欠くRNA転写物が生成され、それによって該制御エレメントが天然では調節することになったであろうタンパク質のアップレギュレーションが誘導される。あるいは、正の制御エレメント(例えば、転写物を安定化させるモチーフ)を含むエキソンを除去するスプライス調節を行うと、該正の制御エレメントを欠くRNA転写物が生成され、それによって該制御エレメントが天然では調節することになったであろうタンパク質のダウンレギュレーションが誘導される。更なる例としては、細胞内局在シグナルを含むエキソンを除去するスプライス調節を行うと、その転写物の細胞内局在が変化する。別の例としては、非コードRNA転写物中の他のRNA又はタンパク質と相互作用する制御エレメントを含むエキソンを除去するスプライス調節を行うと、特定の相互作用が喪失し、それによって該非コードRNA転写物の活性が調節される。
【0007】
逆に、スプライス調節が誘導された結果として制御配列が含められると、新たに含められたエキソンに存在する制御エレメントの性質に依存した結果を促進する効果が得られるであろう。例えば、負の制御エレメント(例えば、uORF)を含むオルタナティブスプライシングされたエキソン又は隠れエキソンを含めると、該負の制御エレメントを追加的に含むRNA転写物が生成され、それによって、該制御エレメントが天然では調節することになったであろうタンパク質のダウンレギュレーションが誘導される。あるいは、正の制御エレメント(例えば、転写物を安定化させるモチーフ)を含むオルタナティブスプライシングされたエキソン又は隠れエキソンを含めると、該正の制御エレメントを追加的に含むRNA転写物が生成され、それによって該制御エレメントが天然では調節することになったであろうタンパク質のアップレギュレーションが誘導される。更なる例としては、細胞内局在シグナルを含むエキソンを含めるスプライス調節を行うと、その転写物の細胞内局在が変化する。
【0008】
従って、本発明は、RNA転写物における制御エレメントの存在を調節するための方法であって、該制御エレメントを含む1つ以上のエキソンのスプライス調節を誘導するために、RNA転写物におけるスプライシングシグナルを標的とする化合物を細胞に送達することを含む方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、遺伝子の発現又は活性を調節する方法であって、本発明の方法に従って該遺伝子にコードされているRNA転写物における制御エレメントの存在を調節することを含む方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、タンパク質発現を増加、減少、又は回復させる方法であって、本発明の方法に従ってRNA転写物における制御エレメントの存在を調節することを含む方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、制御エレメントを含む1つ以上のエキソンがスキッピング及び/又は保持されるようなオルタナティブスプライシングを誘導するための、RNA転写物におけるスプライシングシグナルを標的とするオリゴヌクレオチドを提供する。
【0012】
本発明はまた、2つ以上の本発明のオリゴヌクレオチドを含むコンジュゲートオリゴヌクレオチドを提供する。
【0013】
本発明はまた、本発明のオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドをコードしているポリヌクレオチド又はベクターを提供し、任意で、該ベクターはAAV又はレンチウイルスである。
【0014】
本発明はまた、本発明のオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドを含む送達ビヒクルを提供する。
【0015】
本発明はまた、未改変RNA転写物と比較して制御エレメントを含む1つ以上のエキソンが存在しないか又は含まれていることを含む改変RNA転写物を提供する。
【0016】
本発明はまた、本発明に係る2つ以上のオリゴヌクレオチドを含む組成物であって、任意で、該オリゴヌクレオチドがコンジュゲートしている組成物を提供する。
【0017】
本発明はまた、本発明のオリゴヌクレオチド、コンジュゲートオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、又は組成物と、薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明はまた、ヒト又は動物の身体に対して実施される治療の方法において使用するための、本発明のオリゴヌクレオチド、コンジュゲートオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物を提供する。
【0019】
本発明はまた、遺伝子の発現を調節することによって対象における疾患又は病態を治療又は予防する方法において使用するための本発明に係るオリゴヌクレオチド、コンジュゲートオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物であって、治療的に有効な量の該オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物を該対象に投与することを含む、オリゴヌクレオチド、コンジュゲートオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明はまた、遺伝子の発現又は活性を調節することにより対象における疾患又は病態を治療又は予防のための医薬の製造における、本発明に係るオリゴヌクレオチド、コンジュゲートオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物の使用を提供する。
【0021】
本発明はまた、遺伝子の発現又は活性を調節することにより対象における疾患又は病態を治療又は予防するための、本発明に係るオリゴヌクレオチド、コンジュゲートオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物の使用を提供する。
【0022】
本発明はまた、遺伝子の発現又は活性を調節することにより対象における疾患又は病態を治療又は予防する方法であって、治療的に有効な量の本発明のオリゴヌクレオチド若しくはコンジュゲートオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド若しくはベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1Aは、予測uORFを含むヒト及びマウスの転写物の割合を示す。図1Bは、転写物あたりのuORFの数を示す。図1Cは、uORFの長さの分布を示す。図1Dは、pORFと重複するuORFの割合を示す。図1Eは、転写開始点とuORFとの間の距離の分布を示す。図1Fは、uORFとpORFとの間の距離の分布を示す。図1Gは、pORF及びuORFの終止コドン使用率の分布を示す。図1Hは、弱い又は強いコザックコンテキストを含むuORF及びpORFの割合を示す。図1Iは、uORF及びpORFにおけるコザックコンテキストのロゴプロットを示す。図1Jは、他のゲノム特徴に対するuORFにおけるphastConsスコアの分布を示す。図1Kは、追加のriboseq及びRNA-seqのトラックと共に、ゲノムブラウザにマッピングされたHTT遺伝子の予測uORFを示す。
図2図2Aは、FOXL2、HOXA11、JUN、KDR、RNASEH1、SMO、及びSRYについての予測uORFのルシフェラーゼ検証データを示す。各5’UTRをウミシイタケ(Renilla)レポーター遺伝子の上流にクローニングし、uORFのATGをTTGに変化させることによりuORFを不活化した変異体コンストラクトを作製した。ルシフェラーゼ発現の活性化は、uORFを介した翻訳抑制が解除されたことを示す。図2Bは、図2Aのコンストラクトの転写レベルデータを示す。図2Cは、MAP2K2も含む図2Aの独立した検証を示す。図2Dは、BDNF(2つのアイソフォーム)、C9orf72、GATA2(3つのアイソフォーム)、GDNF、HTT、及びSCN1Aのルシフェラーゼレポーターデータを示す。まとめると、これらプロットにより複数のuORFの存在が確認される。図2Eは、29の健常ヒト組織から得られたプロテオミクスデータ(遍在的に発現しているタンパク質のみ)(1)の累積分布関数プロットを示し、それによって、uORFを含むものとuORFを含まないものとに転写物を分類した。タンパク質発現値の分布は、uORFを含む転写物の方が有意に低い。図2Fは、29の健常ヒト組織から集計したプロテオミクスデータ(全タンパク質)(1)の累積分布関数プロットを示し、それによって、uORFを含むものとuORFを含まないものとに転写物を分類した。タンパク質発現値の分布は、uORFを含む転写物の方が有意に低い。
図3図3Aは、uORFの特性の解析を示す。HOXA11のuORFに対して、コザックコンテキスト配列の強度を変化させた、uORFの長さを長くした、uORFを徐々に切断した、並びにuORFにFLAG及びHiBiTのタグを付加した種々の機能変異体を作製した。ヌクレオチド配列は、配列番号29~41として配列表に示す(上から下に付番)。ポリペプチド配列は、配列番号42~50として配列表に示す(上から下に付番;4アミノ酸未満のポリペプチドには配列番号が割り当てられない)。図3B、C、及びDは、29の健常ヒト組織から得られたプロテオミクスデータ(1)の累積分布関数プロットを示し、それによって、転写物を以下の通り分類した:(B)強い又は弱いコザックコンテキスト、(C)最小uORF(ATG-終止)又は他のuORF、及び(D)翻訳開始部位(TIS)に及ぶか否か。
図4図4は、制御エレメント含有エキソンスキッピング戦略を示す概略図である。(A)エキソン2に制御エレメントを含む仮想mRNAの構造を示す概略図。これは、一次ORF(pORF)の翻訳出力を抑制する上流オープンリーディングフレーム(uORF)であり得る。プレmRNAが正常にスプライシングされると、制御エレメントによる制御を受ける成熟mRNAが生成される。(B)アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)によって、制御エレメントを含むmRNAエキソンのエキソンスキッピングが媒介された。この結果、成熟mRNAから制御エレメントが排除される。制御エレメントがuORFである場合、結果として生じるエキソンスキッピングされたmRNAの抑制が解除される。
図5図5は、制御エレメント含有エキソンインクルージョン戦略を示す概略図である。(A)「エキソン1b」とラベル付けされた、通常スプライシングされた成熟mRNAには存在せずかつ制御エレメントを含有する、オルタナティブスプライシングされるエキソン(又は隠れエキソン)を有する仮想mRNAの構造を示す概略図。この制御エレメントは、一次ORF(pORF)の翻訳出力を抑制する潜在力を有する上流オープンリーディングフレーム(uORF)であり得る。プレmRNAが正常にスプライシングされると、制御エレメントによる制御を受けない成熟mRNAが生成される。(B)アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)によって、制御エレメントを含むmRNAエキソンのエキソンインクルージョンが媒介された。この結果、結果として得られる成熟mRNAに制御エレメントが含められる。制御エレメントがuORFである場合、結果として生じるエキソンインクルージョンされたmRNAは直ちに抑制される。
図6図6は、長鎖非コードRNA(lncRNA)に適用される制御エレメント含有エキソンスキッピング戦略を示す概略図である。(A)エキソン2に制御エレメントを含む長鎖非コードRNA(lncRNA)の仮想の構造を示す概略図。これは、細胞内で何らかの機能を発揮する翻訳されたマイクロペプチドであり得る。逆に、制御エレメントはlncRNAの機能にとって重要なドメイン(例えば、RNA:タンパク質相互作用を媒介するRNA二次構造を形成する)であってもよい。プレlncRNAが正常にスプライシングされて成熟lncRNAが生成されると、マイクロペプチドが生成される/制御ドメインが含められる。(B)アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)によって、制御エレメントを含むlncRNAエキソンのエキソンスキッピングが媒介された。この結果、成熟lncRNAからエレメントが排除される。制御エレメントがマイクロペプチドである場合、このペプチドはもはやエキソンスキッピングされた成熟lncRNAによっては生成されない。制御エレメントがRNA:タンパク質相互作用ドメインである場合、エキソンスキッピングされた成熟lncRNAの場合にはこの相互作用が結果的に破壊されることになる。
図7図7は、BDNF遺伝子座における予測uORFの解析を示す。(A)17のRefSeq転写物アイソフォームを示すBDNF遺伝子座のゲノムブラウザのスクリーンショット。MANEセレクトバリアントが示されている。NM_001143811及びNM_001143814は、スキッピング可能な5’UTRエキソンを有する2つのアイソフォームである。予測uORFの位置が示され、データはGWIPS-vizブラウザから公的に入手可能なriboseq及びRNA-seqのデータと組み合わされている。(B)特定のuORFにおける翻訳のriboseqによる証拠と共に9つの転写物アイソフォームの最初のエキソンを拡大した図。
図8図8は、エキソンの欠失がBDNFの一次ORF翻訳に及ぼす影響を示す。(A)エキソンのサイズ及び位置、予測uORFの位置、並びにエキソンあたりのuORF数を示すBDNF v11転写物(NM_001143811)の5’UTRの概略図。pORFの開始コドンはエキソン4に位置する。(B)HEK293T細胞に、指定通りBDNF v11の5’UTR-DLRの野生型及び変異型のコンストラクトをトランスフェクトし、24時間後にルシフェラーゼ活性を求めた。各変異体について、エキソンの構造及び機能的uORF(白丸)の数を示す。HOXA11 WT及びHOXA11 TTG(uORF破壊)のコンストラクトを、uORF制御及びトランスフェクション成功についての陽性対照として並行してトランスフェクトした。(C)RT-qPCRを用いて、FLuc発現に対して正規化したRLuc転写レベルを並行して求めた。(D)BDNF v14転写物(NM_001143814)の5’UTRの概略。pORFの開始コドンはエキソン3に位置する。(E)HEK293T細胞に、指定通りBDNF v14の5’UTR-DLRの野生型及びΔエキソン2型のコンストラクトをトランスフェクトし、24時間後にルシフェラーゼ活性を求めた。値は平均+SEMであり、DLRデータではn=4、RT-qPCRデータではn=3である。各実験につき少なくとも3回の独立した反復実験から、非常によく似た結果が得られた。一元配置分散分析及びボンフェローニ事後検定によって群間差を検定した。****P<0.0001。
図9図9は、uORFがBDNF v11エキソン2の抑制活性に部分的に関与していることを示す。(A)HEK293T細胞に、指定通りBDNF v11(NM_001143811)の5’UTR-DLRの野生型及び変異型のコンストラクトをトランスフェクトし、トランスフェクション24時間後にルシフェラーゼ活性を求めた。エキソン2、エキソン3、又はエキソン2及び3の両方を欠失させたコンストラクトを作製した。更に、開始コドンをTTGに変異させることによって、エキソン2の8つのuORFを全て破壊したコンストラクトも作製した。各コンストラクトについて、エキソンの構造及び機能的又は破壊されたuORFの数(それぞれ白丸及び黒丸)を示す。HOXA11 WT及びHOXA11 TTG(uORF破壊)のコンストラクトを、uORF制御及びトランスフェクション成功についての陽性対照として並行してトランスフェクトした。(B)HuR#1及びHuR#2モチーフ部位が示されているBDNF v11の5’UTRの概略。エキソンのサイズ及び位置、予測uORFの位置、並びにエキソンあたりのuORFの数も示す。(C)HEK293T細胞に、種々のBDNF v11の5’UTR-DLRコンストラクトをトランスフェクトした。HuRモチーフの一方又は両方が欠失した変異体を作製した。両モチーフが欠失し、エキソン2のuORFが全て破壊された追加のコンストラクトも並行して試験した。トランスフェクションの24時間後にルシフェラーゼ活性を求めた。値は平均±SEM、n=4である。各実験につき少なくとも3回の独立した反復実験から、非常によく似た結果が得られた。一元配置分散分析及びボンフェローニ事後検定によって群間差を検定した。***P<0.001、****P<0.0001、ns、有意差無し。
図10図10は、BDNF v11エキソン2の欠失ウォーク解析を示す。(A)HEK293T細胞に、指定通りBDNF v11(NM_001143811)の5’UTR-DLRの野生型及び変異型のコンストラクトをトランスフェクトし、トランスフェクション24時間後にルシフェラーゼ活性を求めた。エキソン2に及ぶ50bpの領域を逐次欠失させたコンストラクトを作製した。HOXA11 WT及びHOXA11 TTG(uORF破壊)のコンストラクトを、uORF制御及びトランスフェクション成功についての陽性対照として並行してトランスフェクトした。(B)HEK293T細胞を、エキソン2の最初の50bpに及ぶ10bp領域を逐次欠失させたBDNF v11コンストラクトで上記の通り処理した。値は平均±SEM、n=4である。各実験につき少なくとも2つの独立した反復実験から、非常によく似た結果が得られた。一元配置分散分析及びボンフェローニ事後検定によって群間差を検定した。P<0.05、****P<0.0001、ns、有意差無し。
【発明を実施するための形態】
【0024】
制御エレメント
本発明は、RNA転写物における任意の制御エレメントであって、関心対象の遺伝子の発現又は活性を制御する制御エレメントに関する。例えば、制御エレメントは、遺伝子がRNA又はタンパク質の形で発現する時期、場所、及び量、並びに/又はその活性を制御することができる。例えば、制御エレメントは、翻訳制御エレメント、RNAプロセシング制御エレメント、局在化エレメント、鉄応答エレメント(IRE)、リボスイッチ、miRNA認識エレメント、RNA結合タンパク質認識部位、又は別の内因性RNA転写物とのハイブリダイゼーション部位であり得る。
【0025】
翻訳制御エレメントは、上流オープンリーディングフレーム(uORF)、又はステムループ、ヘアピン、若しくはグアニン四重鎖等の二次構造であり得る。
【0026】
RNAプロセシング制御エレメントは、スプライシングシグナル、アデニル酸-ウリジル酸リッチエレメント(ARE)、又は転写物安定化モチーフであり得る。
【0027】
制御エレメントは、シス制御エレメントであってもトランス制御エレメントであってもよい。通常、制御エレメントはシス制御エレメントである。一実施形態では、制御エレメントはトランス制御エレメントではない。
【0028】
制御エレメントがトランス制御エレメントである実施形態においては、制御エレメントは、例えば、長鎖非コードRNA(lncRNA)内にコードされているマイクロペプチドコード配列であり得る。マイクロペプチドとは、短いオープンリーディングフレームによってコードされている100~150アミノ酸長未満のポリペプチドである。例えば、参照文献2を参照。従って、マイクロペプチドを翻訳できないように、マイクロペプチドをコードしている配列を含むエキソンを本発明に従ってスキッピングし得る。
【0029】
制御エレメントはRNA転写物のどこに存在してもよい。例えば、RNA転写物がタンパク質をコードしているRNA転写物である場合、制御エレメントはuORF等の5’非翻訳領域(UTR)に存在し得る。あるいは、制御エレメントはmiRNA結合部位又は選択的ポリアデニル化シグナル等の3’UTRに存在してもよい。一実施形態では、制御エレメントはRNAプロセシング制御エレメントではない。一実施形態では、制御エレメントはスプライシングシグナルではない。
【0030】
制御エレメントは、uORFであってもよい。uORFは5’UTRに存在する制御配列であり、開始コドン及びインフレームの終止コドンからなる。RNA転写物中の1つ以上のuORFの存在は、下流pORFの翻訳抑制と関連している。uORFはまた、ナンセンス媒介崩壊を介した転写物の安定性等の他の機序を介して遺伝子発現に影響を与えることもできる。uORFの特徴は当技術分野で公知であり、同定方法は当業者の技能の範囲内である(例えば、参照文献3及び4を参照)。
【0031】
本発明者らは、RNA転写物における1つ以上のuORFを付加及び/又は除去することにより、下流pORFのタンパク質発現を大幅に調節できることを見出した。具体的には、本発明者らは、それぞれRNA転写物の5’UTRに複数のuORFを含有するBDNF、SCN1A、及びBRD3の3つの遺伝子のRNA転写物に対して機能的変異誘発を行った。次に、これら各uORFを逐次欠失させることにより、uORFを介した抑制が相加的であること、そして、RNA編集を用いて単一のuORFを標的破壊すると、下流のタンパク質に対する抑制効果が減少し、タンパク質発現が著しく増加することが実証された。
【0032】
従って、本発明は、1つ以上の制御エレメント(例えば、uORF)、例えば≦50個、≦40個、≦30個、≦20個、≦10個、≦5個、又は1個の制御エレメント(例えば、uORF)を含む1つ以上のエキソンを導入及び/又は除去することを含み得る。制御エレメントは1つ以上のエキソンに位置し得る。
【0033】
本発明者らは、制御エレメント(例えば、uORF)が強力であるほど、制御エレメント(例えば、uORF)を導入及び/又は除去したときの機能的影響(すなわち、下流pORFの発現)がより有効になることを見出した。従って、本発明は、下記の特徴のうちの1つ以上を含む、強力なuORF等の制御エレメント(例えば、uORF)を同定する工程を含み得る。例えば、導入及び/又は除去される制御エレメント(例えば、uORF)は、それが天然で調節するタンパク質(例えば、下流pORF)の発現を≧50%、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、又は100%低下させることができる。
【0034】
本発明で有用なuORFは、pORFの上流500ヌクレオチド以内に存在し得る。例えば、制御エレメント(例えば、uORF)は、pORF開始コドンの≦400ヌクレオチド、≦300ヌクレオチド、≦200ヌクレオチド、≦100ヌクレオチド、≦90ヌクレオチド、≦80ヌクレオチド、≦70ヌクレオチド、≦60ヌクレオチド、≦50ヌクレオチド、≦30ヌクレオチド、≦20ヌクレオチド、≦10ヌクレオチド、≦5ヌクレオチド上流にあり得る。例えば、uORFは、成熟RNA転写物(RNA転写物の天然のスプライシングが行われた後)においてpORFの上流100ヌクレオチド以内に存在することになったであろうものであり得る。
【0035】
本発明者らは、uORFが成熟RNA転写物(RNA転写物の天然のスプライシングが行われた後)のpORF開始コドンに近いほど、その抑制作用が強くなるので、これらuORFは本発明の有用な標的となるであろうことを見出した。従って、複数のuORFを含むRNA転写物において、本発明は、成熟RNA転写物(RNA転写物の天然スプライシングが行われた後)においてpORF開始コドンに最も近接することになったであろうuORFを少なくともスキッピングすることを含み得る。
【0036】
本発明で有用なuORFは、任意の長さであってよい。本発明者らは、最小配列(開始-終止)からなるuORFが強力な翻訳抑制因子であるので、これらuORFが本発明の有用な標的となるであろうことを見出した。従って、本発明で有用なuORFは、開始コドンと終止コドンとの間に≦50個、≦40個、≦30個、≦20個、≦10個、≦5個、≦4個、≦3個、≦2個、1個、又は0個のコドンを含み得る。特定の実施形態においては、uORFは、開始コドンと終止コドンとの間に、≦5個、≦4個、≦3個、≦2個、1個、又は0個のコドンを含み得る。
【0037】
本発明で有用なuORFは、pORFと重複していてもよい。例えば、uORFは、成熟転写物(RNA転写物の天然のスプライシングが行われた後)においてpORFと重複することになったであろうものであり得る。この実施形態では、本発明に係るスプライス調節の結果、uORFは部分的に切り取られるが、pORFはインタクトなままである。
【0038】
本発明で有用なuORFは、pORFと重複していなくてもよい。
【0039】
本発明で有用なuORFは、別のuORFと重複していてもよい。
【0040】
本発明で有用なuORFは、コザックコンセンサス配列nnnnAUGn(配列番号16)を含み得る。コザック配列は、(開始コドンの最初のヌクレオシド、例えばAUG開始コドンのAに対して)+4位のグアニン及び-3位のプリンを含む強力なコザック配列であってよい。コザック配列は、(開始コドンの最初のヌクレオシド、例えばAUG開始コドンのAに対して)-3位のプリンを含むが+4位のグアニンは含まない弱いコザック配列であってもよく、逆もまた同様である。コザック配列は、(開始コドンの最初のヌクレオシド、例えばAUG開始コドンのAに対して)-3位のプリン及び+4位のグアニンの両方を欠く弱いコザック配列であってもよい。例えば、uORFは、n[a/g]nnAUGg(配列番号17)等のコザック配列を含み得る。
【0041】
本発明で有用なuORFは、芳香族疎水性アミノ酸と比較して、酸性及び塩基性のアミノ酸の割合が高い組成を含み得る。
【0042】
本発明で有用な制御エレメントは、RNA転写物中に天然に存在していてもよい。あるいは、制御エレメントは非古典的及び/又は異所的なスプライシング事象によって導入されてもよい。あるいは、制御エレメントは変異によって導入されてもよい。
【0043】
例えば、一塩基多型(SNP)又は他の変異によって制御エレメント(例えば、uORF)が導入されてもよい。そのような実施形態では、本発明に係るスプライス調節は、変異によって誘導される制御エレメント(例えば、uORF)の効果を逆転させる目的で、変異体転写物の発現を調節するために利用され得る。例えば、uORFを作り出す変異又はSNPを有する遺伝子及びその関連疾患の例を表4に列挙する。
【0044】
更なる例では、制御エレメント(例えば、uORF)を含む隠れエキソンが、RNA転写物の5’UTRのイントロンのうちの1つ以上に存在していてもよい。隠れエキソンは、野生型RNA転写物中に天然に存在する場合もあり、変異の結果として導入される場合もある。隠れエキソンの非古典的及び/又は異所的なスプライシングによって、RNA転写物中に隠れエキソンが導入される場合もある。そのような実施形態では、本発明に係るスプライス調節を利用して隠れエキソンを除去し、それによって、挿入された制御エレメント(例えば、uORF)を除去することができる。
【0045】
典型的には、本発明は、開始コドンから終止コドンまでのuORF全体等、制御エレメント全体の存在の調節に関する。しかし、本発明は制御エレメントの一部の存在の調節に関する場合もある。例えば、本発明は、uORFの一部の存在の調節、例えば、uORFの開始コドンをコードしている部分のみを除去するが、残りのuORFはRNA転写物中に残すことに関する場合もある。従って、本発明の方法及び使用において、制御エレメントは完全に除去又は導入されてもよく、部分的に除去又は導入されてもよい。
【0046】
スプライス調節
本発明は、1つ以上の制御エレメント(例えば、uORF)を含む1つ以上のエキソンをスキッピングする及び/又は含めるようにスプライス調節を誘導することに関する。疾患の治療のためにスプライス調節を誘導する方法は、当技術分野において公知である(5)。しかし、これまでのスプライス調節アプローチは、機能的タンパク質産物が生成されるようにRNA転写物のリーディングフレームを復元することを目的として、RNA転写物のコード領域に適用されるのが一般的であった。対照的に、本発明は、RNA転写物における制御エレメントの存在を変化させるためにスプライス調節を用いることに関する。
【0047】
5’UTRにおけるエキソンスキッピングが関与する本発明の実施形態においては、標的RNA転写物は、天然では成熟RNA転写物(天然のスプライシング事象が行われた後)においてスプライシングされた5’UTRを有することになったであろうものである。従って、RNA転写物は、天然のスプライシング事象が行われる前に、pORF開始コドンを含むエキソンの上流に少なくとも2つのエキソンを含有する(図4参照)。例えば、エキソンスキッピングは、5’UTRにおけるエキソン2及び/又は1つ以上の下流のエキソンを除去することを含み得る。pORF開始コドンを含むエキソンはスキッピングされない。
【0048】
本発明は、単一のエキソン又は複数のエキソンのスキッピングを含み得る。制御エレメントは1つ以上のエキソンに位置し得る。従って、本発明は、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む単一のエキソンをスキッピングすることを含み得る。あるいは、本発明は、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む複数のエキソンをスキッピングすることを含み得る。
【0049】
本発明は、単一のエキソン又は複数のエキソンのエキソンインクルージョンを含み得る。制御エレメントは1つ以上のエキソンに位置し得る。従って、本発明は、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む単一のエキソンを導入することを含み得る。あるいは、本発明は、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む複数のエキソンを導入することを含み得る。
【0050】
本発明は、マルチエキソンスプライス調節、すなわち、1つ以上のエキソンをスキッピングし、1つ以上のエキソンを導入することを含み得る。従って、本発明は、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む単一のエキソンをスキッピングし、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む単一のエキソンを導入することを含み得る。あるいは、本発明は、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む複数のエキソンをスキッピングし、RNA転写物における1つ以上の制御エレメントを含む複数のエキソンを導入することを含み得る。
【0051】
マルチエキソンスプライス調節は、以下に更に説明する通り、本発明の2つ以上の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)の組成物を用いて達成することができる。
【0052】
標的部位及びRNA転写物
本発明は、スプライシングシグナルを標的としてスプライス調節を誘導することを含む。
【0053】
本発明で有用なスプライシングシグナルは、5’スプライスドナー部位、3’スプライスアクセプタ部位、エキソンスプライシングエンハンサー配列(ESE)、スプライシング分岐点、ポリピリミジントラクト、イントロンスプライシングサイレンサー(ISS)配列等のスプライシングモチーフを含み得る。このようなスプライシングモチーフは当技術分野で公知であり、当技術分野で公知である方法、例えばバイオインフォマティクス技術を用いて同定することができる。
【0054】
5’スプライスドナー部位は、配列[C/A]AGgu[a/g]ag(配列番号18)を含み得る。
【0055】
3’スプライスアクセプタ部位は、配列cagG[G/U](配列番号19)を含み得る。
【0056】
エキソンスプライシングエンハンサー(ESE)は、SRファミリーのタンパク質によって認識されるモチーフであり、スプライシング機構の構成要素をスプライス部位に動員する機能を有する。本発明で有用なESEは、セリン/アルギニンリッチなスプライシング因子1(SRSF1)結合部位(SF2/ASFモチーフとしても知られている)、SC35結合部位、SRp40結合部位、又はSRp55結合部位であり得る。例えば、本発明で有用なESEは、配列CACACGA(配列番号20)を含むSRSF1結合部位であり得る。ESEは当技術分野において周知であり、バイオインフォマティクスによって同定することができる(例えば、参照文献6、7を参照)。
【0057】
スプライシング分岐点は、配列cu[a/g]A[c/u](配列番号21)を含み得る。
【0058】
本発明の実施形態においては、標的部位が、5’スプライスドナー部位、3’スプライスアクセプタ部位、エキソンスプライシングエンハンサー配列(ESE)、スプライシング分岐点、又はポリピリミジントラクトである場合、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、エキソン排除を誘導し得る。
【0059】
ISS配列が標的となる本発明の実施形態では、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)はエキソンインクルージョンを誘導し得る。
【0060】
本発明の化合物は、スプライシングシグナルに直接結合(例えばハイブリダイズ)し得る。例えば、化合物は、スプライシングシグナルに完全又は部分的にハイブリダイズし得る。本発明の化合物は、通常、スプライシングシグナルから離れて結合することはない。
【0061】
標的部位は、通常、RNAの二次構造を有しない。
【0062】
本発明で有用なRNA転写物は、典型的には、前駆体メッセンジャーRNA(プレmRNA)である。プレmRNAは、スプライシングを受けていなくてもよい。プレmRNAは、部分的にスプライシングを受けていてもよい、すなわち、部分的にプロセシングされたmRNA転写物であってよい。RNA転写物は、成熟mRNAではなくてもよい。
【0063】
RNA転写物は、タンパク質をコードしているRNA転写物であってもよく、非コードRNA転写物であってもよい。非コードRNA転写物は、長鎖非コードRNA(lncRNA)、長鎖介在非コードRNA(lincRNA)、又はマクロRNAであってよい。
【0064】
RNA転写物は、通常、関心対象の遺伝子の天然の転写物である。
【0065】
あるいは、RNA転写物は、例えば異常な遺伝的事象又はRNAプロセシング事象から生じるキメラRNAであってもよい。例えば、キメラRNAは、例えばBCR-ABL融合体等、多くの場合変異(染色体配置等)の結果である並置を通して結合した可能性のある2つの遺伝子からなる融合遺伝子から生じる場合がある。更なる例として、キメラRNAは、隣接する2つの遺伝子が同じ転写物において転写され、その後スプライシングを受け、それらのエキソンが互いに結合した結果として生じる場合もある。このような場合、本発明の化合物、方法、又は使用を利用して、融合遺伝子の発現又はキメラRNAの発現若しくは活性を調節することができる。
【0066】
本発明はまた、未改変RNA転写物と比較して制御エレメントを含む1つ以上のエキソンが存在しないか又は含まれていることを含む改変RNA転写物を提供する。
【0067】
化合物
本発明の化合物は、細胞内の1つ以上のスプライシングタンパク質複合体を活性化させて、RNA転写物から1つ以上のエキソンを除去又は導入することができる。化合物は、スプライシング活性を制御するタンパク質を阻害し得る。化合物は、スプライシング活性を制御するタンパク質を活性化し得る。化合物は、1つ以上のスプライソソーム構成要素がスプライスモチーフを認識する及び/又はスプライスモチーフにアクセスするのを妨げ得る。
【0068】
本発明の化合物は、標的RNA転写物の切断を惹起するようには設計されない。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明の化合物は標的配列のステリックブロックを誘導し、RNaseHの動員を介した標的切断を誘導しないようにする。従って、本発明の特定の実施形態においては、本発明の化合物は、標的核酸のRNaseH切断を誘導しないか、又は誘導する能力が低下している。
【0069】
本発明の化合物は、遺伝子の発現又は活性に対する意図した効果に反する作用をもたらさないように設計される。例えば、遺伝子発現のアップレギュレーションが望ましい場合、本発明の化合物は、誘導されるスプライス調節によって負の制御エレメント(例えば、uORF)が導入も形成もされないように設計される。
【0070】
化合物は、典型的にはオリゴヌクレオチドである。幾つかの実施形態では、化合物は、低分子(例えば、900Da未満の分子量を有する)であってもよい。あるいは、化合物は、ポリペプチド、例えば抗体であってもよい。
【0071】
オリゴヌクレオチドは、例えばDNA又はRNA等の複数の連結されたヌクレオシドを含む。オリゴヌクレオチドは、修飾オリゴヌクレオチドであってもよい、すなわち、少なくとも1つの修飾ヌクレオシド(例えば、少なくとも1つの修飾糖部分及び/又は少なくとも1つの修飾核酸塩基部分)及び/又は少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含む。修飾オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、核酸アプタマー、トリプレックス形成オリゴヌクレオチド(TFO)、及びポリプリン逆フーグスティーン型ヘアピンであってよい。
【0072】
好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドは、修飾オリゴヌクレオチドであってもよい。修飾オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0073】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、50ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、又は5ヌクレオチド長以下であり得る。オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、少なくとも5ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、又は40ヌクレオチド長であり得る。例えば、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、5~40ヌクレオチド長、10~40ヌクレオチド長、18~30ヌクレオチド長、又は13~25ヌクレオチド長であり得る。
【0074】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、生理的条件下でのハイブリダイゼーションを可能にするために、標的核酸に対して十分に相補的な領域を含む。オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、標的部位(上記で説明)に対して相補的な配列を含む。オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、標的部位に対して完全に又は部分的に相補的であってよい。例えば、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、標的部位に対して≧50%、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%又は100%の配列相補性を有し得る。
【0075】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、オリゴヌクレオチド内部及び/又はオリゴヌクレオチドの末端にミスマッチ領域を含んでいてもよい。
【0076】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、≧3、≧4、≧5、≧6、≧7、≧8、≧9、≧10、≧11、≧12、≧13、≧14、≧15、≧16、≧17、≧18、≧19、及び/又は≧20の連続する標的部位の相補的塩基を含み得る。
【0077】
オリゴヌクレオチドは、配列番号22~26のいずれかを含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。
【0078】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)が5’スプライスドナー部位に対して相補的な配列を含む実施形態においては、オリゴヌクレオチドは、
5’-[N]GARUGGAM[N]-3’(配列番号22)
(式中、
Nは、任意のヌクレオシド又はその修飾ヌクレオシドであり;
Rは、アデノシン(A)若しくはグアノシン(G);又はそれらの修飾ヌクレオシドであり;
Mは、アデノシン(A)若しくはシチジン(C);又はそれらの修飾ヌクレオシドであり;
aは、0~27であり;
bは、0~27である)
を含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。
【0079】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)が3’スプライスアクセプタ部位に対して相補的な配列を含む実施形態においては、オリゴヌクレオチドは、
5’-[N]KGGAC[N]-3’(配列番号23)
(式中、
Nは、任意のヌクレオシド又はその修飾ヌクレオシドであり;
Kは、グアノシン(G)若しくはウリジン(U);又はそれらの修飾ヌクレオシドであり;
aは、0~27であり;
bは、0~27である)
を含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。
【0080】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)がSF2/ASFモチーフに対して相補的な配列を含む実施形態においては、オリゴヌクレオチドは、
5’-[N]UCGUGUG[N]-3’(配列番号24)
(式中、
Nは、任意のヌクレオシド又はその修飾ヌクレオシドであり;
aは、0~27であり;
bは、0~27である)
を含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。
【0081】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)がスプライス分岐点に対して相補的な配列を含む実施形態においては、オリゴヌクレオチドは、
5’-[N]RUYAG[N]-3’(配列番号25)
(式中、
Nは、任意のヌクレオシド又はその修飾ヌクレオシドであり;
Yは、シチジン(C)若しくはウリジン(U);又はそれらの修飾ヌクレオシドであり;
Rは、アデノシン(A)若しくはグアノシン(G);又はそれらの修飾ヌクレオシドであり;
aは、0~27であり;
bは、0~27である)
を含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。
【0082】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)がポリピリミジントラクトに対して相補的な配列を含む実施形態においては、オリゴヌクレオチドは、
5’-[N][R][N](配列番号26)
(式中、
Nは、任意のヌクレオチド又はその修飾体若しくは誘導体であり;
Rは、グアノシン(G)若しくはアデノシン(A);又はそれらの修飾ヌクレオシドであり;
aは、0~27であり;
bは、0~27であり;
cは、0~27である)
を含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。
【0083】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、≧40%、≧50%、≧60%のGC含量を有し得る。例えば、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、40~60%のGC含量を有し得る。
【0084】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)はオーバーハングを含んでいてもよく、それにより配列の一部が標的転写物(標的認識ドメインに関して部分的又は完全な相補性を有する)に結合し、またオリゴヌクレオチドの一方又は両方の末端に(最大100ヌクレオチドの)配列オーバーハングを含む。これらオーバーハングは、(例えば)アプタマー構造を形成することによって細胞タンパク質(すなわち、スプライシング因子)の動員を促進したり、オリゴヌクレオチドの送達を支援したりすることができる。
【0085】
典型的には、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は一本鎖であってよいが、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、部分的又は完全に二本鎖であってもよい。
【0086】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、任意でウラシルヌクレオチドがチミンヌクレオチドで置換されている、配列番号1~5から選択される配列に対して≧70%、≧80%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、又は100%の同一性を有する核酸配列を含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。本発明で有用なオリゴヌクレオチドの例を表1及び表2に提供する。
【0087】
オリゴヌクレオチド化学
本明細書で論じるオリゴヌクレオチドは、修飾オリゴヌクレオチドであってもよい。例えば分子の生物学的安定性(例えば、ヌクレアーゼ耐性)を増大させる、標的結合を強化する、組織への取り込みを増加させる、及び/又はオリゴヌクレオチドと標的核酸との間に形成される二重鎖の物理的安定性を増大させる等の有用な特性を付与するためのオリゴヌクレオチドに対する修飾は、当業者に周知である(例えば、参照文献8を参照)。
【0088】
典型的には、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は標的配列のステリックブロックを誘導し、RNaseHの動員を介した標的切断を誘導しないようにする。例えば、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、RNaseHの切断をサポートしない(すなわち、DNA又はDNA様塩基の連続するランを生成しない)化学物質を含んでいてもよい。例えば、参照文献9を参照。例えば、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、オリゴヌクレオチドが2つ以上の異なる核酸化学物質を含み得るが、2つ又は3つを超えるDNA又はDNA様塩基(これはRNaseHを介した切断をサポートする)のランが回避される「ミキシマー」パターンを含んでいてもよい。
【0089】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、DNA、RNA、及び/又はヌクレオチド類似体を含み得る。ヌクレオチド類似体は、ペプチド核酸(PNA)、FANA、DANA、LNA、及び他の分岐核酸(ENA、cEt)、ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)、並びに/又はトリシクロDNAであり得る。
【0090】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、無塩基部位、すなわち、プリン(アデニン及びグアニン)又はピリミジン(チミン、ウラシル、及びシトシン)核酸塩基が存在しない部位を含んでいてもよい。
【0091】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、DNA又はRNAに天然にみられるような3’→5’ホスホジエステル(PO)結合を含んでいてもよい。オリゴヌクレオチドは、修飾されたヌクレオシド間結合、例えば、ホスホトリエステル結合、ホスホロチオエート(PS)結合、ボラノホスフェート結合、ホスホロジアミデート連結、ホスホアミデート結合、及び/又はチオホスホルアミデート結合を含んでいてもよい。修飾されたヌクレオシド間結合は、当技術分野で公知である他の修飾であってもよい。
【0092】
オリゴヌクレオチドは1つ以上の不斉中心を含んでいてもよく、従ってエナンチオマー、ジアステレオマー、及び他の立体異性体配置、例えばR、Sが生じる。例えば、立体化学は、1つ以上の修飾されたヌクレオシド間結合で制約を受けることがある。例えば、オリゴヌクレオチドは、反復する左-左-右(又はSSR)キラルPS中心を含んでいてもよい。
【0093】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するRNAにみられるような糖部分(すなわち、リボフラノシル)又は天然に存在するDNAにみられるような糖部分(すなわち、デオキシリボフラノシル)を含んでいてもよい。オリゴヌクレオチドは、修飾された糖部分、すなわち置換された糖部分又は糖サロゲートを含んでいてもよい。置換された糖部部分としては、2’位、3’位、5’位、及び/又は4’位に置換基を含むフラノシルが挙げられる。置換された糖部分は、二環式糖部分(BNA)であってもよい。糖サロゲートとしては、モルホリノ、シクロヘキセニル、及びシクロヘキシトールが挙げられる。
【0094】
修飾された糖部分は、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、2’-O-アミノプロピル、2’-デオキシ、2’-O-プロピル(2’-O-AP)、2’-O-ジメチルアミノエチル(2’-O-DMAOE)、2’-O-ジメチルアミノプロピル(2’-O-DMAP)、2’-O-ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’O-DMAEOE)、若しくは2’O-N-メチルアセトアミド(2’O-NMA)の修飾、又はロック若しくは架橋されたリボース立体構造(例えば、LNA、cEt、又はENA)を含み得る。修飾された糖部分は、当技術分野で公知の他の修飾を含んでいてもよい。
【0095】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、その5’末端及び/若しくは3’末端に末端修飾、例えばビニルホスホネート、並びに/又は逆位末端塩基を含んでいてもよい。
【0096】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するRNA及びDNAにみられるような核酸塩基(すなわち、アデニン(A)、チミン(T)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)、イノシン(I)、及び5-メチルC)を含んでいてもよい。オリゴヌクレオチドは、修飾された核酸塩基、例えば5-ヒルドキシメチルシトシン、5-ホルミルシトシン、及び5-カルボキシシトシンを含んでいてもよい。5’メチルシトシンが含まれると、オリゴヌクレオチドの疎水性が変化することによって塩基対合が強化され得る。
【0097】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、一種類の核酸化学物質(例えば、完全PS-MOE又は完全PMO)又は異なる核酸化学物質の組み合わせを含み得る。
【0098】
例えば、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)における各糖部分は、2’-O-メトキシエチル(2’MOE)修飾を含んでいてよく、各ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエートであってよい(すなわち、完全PS-MOEオリゴヌクレオチド)。PS修飾は、広範なヌクレアーゼに対する耐性をもたらし、タンパク質結合を増加させ、このことが組織への取り込みを改善することも知られている(10、11)。2’MOE修飾は、最小限の毒性で標的mRNAへの結合親和性を高め、血漿タンパク質の結合を減少させ得ることが知られている。
【0099】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、完全ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)であってもよい。モルホリノは、より高い標的親和性を提供し、ヌクレアーゼ回避を容易にすることが知られている(12)。
【0100】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、PO及びPSのヌクレオシド間結合の組合せを含んでいてもよい。これにより、オリゴヌクレオチドの薬物動態の微調整が容易になり得る。
【0101】
オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、当技術分野において公知の手順を使用して、化学合成及び/又は酵素的ライゲーション反応を使用して構築され得る。例示的な方法としては、参照文献13、14、15、16、17、18、19、又は20に記載されているものを挙げることができる。
【0102】
あるいは、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、オリゴヌクレオチドがアンチセンス配向でサブクローニングされている発現ベクターを用いて生物学的に産生され得る(すなわち、挿入されたオリゴヌクレオチドから転写されるRNAは、関心対象の標的核酸に対してアンチセンス配向となる)。
【0103】
本発明の化合物は、小核RNA(snRNA)ベースのトリガー(例えば、U7 snRNA又はU1 snRNA)等の発現したエキソンスキッピングトリガーであってもよい。上流エキソンのオルタナティブスプライシングを促進するための発現したスプライス調節系は、プラスミド又はウイルスベクター(例えば、アデノウイルス随伴ウイルスベクター(AAV)又はレンチウイルス)を介して送達され得る。
【0104】
コンジュゲート
(例えば、特定の組織、細胞型、又は細胞発生段階への)ターゲティングを改善する目的、細胞浸透(例えば、送達)を改善する目的、エンドソーム脱出を改善する目的、細胞内局在を改善する目的、活性を改善する目的、及び/又は細胞タンパク質の動員を促進する目的で、本発明の化合物を核酸分子、ペプチド、又は他の化学物質等の1つ以上の更なる化合物にコンジュゲートさせてもよい。化合物は、当技術分野で公知の任意の手段によってコンジュゲートさせてよく、例えば、切断可能又は非切断可能なリンカーを介して更なる化合物に化学的に結合させてよい。
【0105】
例えば、本発明のコンジュゲート化合物(例えば、コンジュゲートオリゴヌクレオチド)は、本発明の更なるアンチセンスオリゴヌクレオチドにコンジュゲートした本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。各コンジュゲート化合物は、同じRNA転写物における異なる部位を標的とすることができる。
【0106】
更なる化合物は、細胞透過性ペプチド、タンパク質形質導入ドメイン、ターゲティングペプチド、エンドソーム溶解性(endosmolytic)ペプチド等のペプチドであってもよい。本発明の化合物にコンジュゲートしたペプチドは、スプライシングを強化、阻害、又は調節するためのスプライシング因子を含んでいてもよい。
【0107】
更なる化合物は、RNA転写物の5’UTRにおけるスプライシングシグナルを標的としなくてもよい。
【0108】
更なる化合物は、低分子リガンド(例えば、分子量900Da未満)であってもよい。
【0109】
更なる化合物は、抗体、例えばナノボディ、Fab断片であってもよい。
【0110】
更なる化合物は、糖ベースのリガンド、例えばGalNAc又はその誘導体)であってもよい。
【0111】
更なる化合物は、脂質ベースのリガンド、例えば、コレステロール、リピドイド、脂質様コンジュゲート、親油性分子であってもよい。
【0112】
更なる化合物は、ポリマー(例えば、PEI、デンドリマー)であってもよい。
【0113】
更なる化合物は、ポリエチレングリコール、クリック反応性基、又はエンドソーム溶解性基(例えば、クロロキン又はその誘導体)であってもよい。
【0114】
更なる化合物は、RNA分子、例えばアプタマー又はスプライシングを強化、阻害、若しくは調節する任意の構造体であってもよい。
【0115】
本発明の化合物は、プラットフォーム分子、例えば動的ポリコンジュゲートの一部として組み合わせてもよい。
【0116】
本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、送達ビヒクルにコンジュゲートしてもよい。従って、本発明はまた、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)を含む送達ビヒクルを提供する。送達ビヒクルは、部位特異的、組織特異的、細胞特異的、又は発生段階特異的な送達を行うことができる。
【0117】
送達ビヒクルは、脂質ベースのナノ粒子、カチオン性細胞透過性ペプチド(CPP)、直鎖状若しくは分岐状のカチオン性ポリマー、又はコレステロール、胆汁酸、脂質、ペプチド、ポリマー、タンパク質、若しくはアプタマー等のバイオコンジュゲートを含み得る。
【0118】
例えば、送達ビヒクルは、抗体又はその一部を含み得る。抗体は、特定の細胞に本発明の化合物を送達するために、関心対象の細胞上の細胞表面マーカーに特異的であってよい。例えば、特定の細胞は、膵臓のβ細胞、胸腺細胞、悪性細胞、及び/又は前がん状態の細胞(例えば、前白血病及び骨髄異形成症候群、又は病理組織学的に明確な前がん病変又は病態)であってよい。
【0119】
送達ビヒクルは、細胞透過性ペプチド(CPP)を含んでいてもよい。好適なCPPは当技術分野において公知であり、例えば参照文献21に記載されている通りである。例えば、CPPは、アルギニン及び/又はリジンリッチなペプチドであってよい。従って、CPPは、ポリ-L-リジン(PLL)及び/又はポリ-アルギニンを含んでいてよい。CPPは、Pipペプチドを含み得る。有利なことに、Pipペプチドコンジュゲートは高い効力を有し、全身送達後に心筋に到達することができる。送達ビヒクルは、複数のCPPが電荷相互作用を介してポリ核酸ポリマーと複合体を形成する、ペプチドベースのナノ粒子(PBN)を含んでいてもよい。
【0120】
送達ビヒクルは、ナノ粒子を含んでいてもよい。ナノ粒子の利点としては、サイズ、形状、材料、及びターゲティングのためのリガンド機能付与等、ナノ粒子の生物物理学的特性をオーダーメイドで最適化できることが挙げられる。好適なナノ粒子の例としては、リポプレックス、リポソーム、エクソソーム、球状核酸、及びDNAナノ構造体(例えばDNAケージ)が挙げられる。
【0121】
本発明の化合物は、送達ビヒクルと(例えば、イオン結合により)複合体を形成又は共有結合していてもよい。好適なコンジュゲーション法は当技術分野で公知であり、例えば参照文献22に記載の通りである。例えば、コンジュゲーション方法は、反応性基(例えば、-NH又は-SH)を含む好適なテザーを、活性中間体としての本発明の化合物及び送達ビヒクル(例えば、ペプチド)に合成後に導入し、続いて、水性媒体中でカップリング反応を実施することを含み得る。別の方法は、単一の固相支持体上においてリニアモードでコンジュゲートを行うことを含み得る。
【0122】
ポリヌクレオチド及びベクター
本発明はまた、本発明に係るオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドをコードしているポリヌクレオチドを提供する。
【0123】
本発明のオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドをコードしているポリヌクレオチドは、当業者に周知の方法によって得ることができる。ベクターを構築することができる一般的な方法であるトランスフェクション法及び培養法は、当業者に周知である。例えば23を参照。
【0124】
本発明のポリヌクレオチドは、挿入された配列に動作可能に連結され、それによって、インビボで本発明のオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドを発現させることができる制御配列を含む発現カセットの形態で提供され得る。従って、本発明はまた、本発明のオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドをコードしている1つ以上のポリヌクレオチドをコードしている1つ以上の発現カセットを提供する。次に、これら発現カセットは、通常ベクター内で提供される。従って、一実施態様において、本発明は、本発明のオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドをコードしているベクターを提供する。ベクターは、クローニング目的のベクター(例えば、プラスミド)であってよい。ベクターは、ポリヌクレオチドを細胞内で発現させるためのベクターであってもよい。
【0125】
ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)又はレンチウイルスベクター等のウイルスベクターであってよい。ベクターは、本発明に係るオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドに特定の細胞型を標的とさせる任意のウイルスを含み得る。
【0126】
本発明のポリヌクレオチド、発現カセット、又はベクターは宿主細胞に導入される。従って、本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド、発現カセット、又はベクターを含む宿主細胞を提供する。本発明のポリヌクレオチド、発現カセット、又はベクターは、宿主細胞に一過的又は持続的に導入することができ、発現カセット又はベクターからのオリゴヌクレオチド又はコンジュゲートオリゴヌクレオチドの発現を可能にする。
【0127】
組成物
本発明は、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)、コンジュゲート化合物(例えば、コンジュゲートアンチセンスオリゴヌクレオチド)、ポリヌクレオチド、又はベクターを含む組成物を提供する。組成物は、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)の組み合わせ(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)を含み得る。各化合物は、同じRNA転写物の異なる(しかし重複する可能性のある)配列を標的とすることができる。あるいは、各化合物は、異なるRNA転写物を標的とすることもできる。
【0128】
組成物は、医薬組成物であってよい。本発明の医薬組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤、担体、バッファー、安定化剤、又は当業者に周知の他の材料を含んでいてよい。このような材料は、通常、非毒性であり、活性成分の有効性には干渉しない。担体又は他の材料の正確な性質は、投与経路に従って当業者が決定することができる。
【0129】
一実施形態において、医薬組成物は、滅菌生理食塩水(例えば、PBS)及び1つ以上の本発明のアンチセンス化合物を含む。
【0130】
本発明の組成物は、1つ以上の薬学的に許容し得る塩、エステル、又はそのようなエステルの塩を含み得る。薬学的に許容し得る塩とは、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、任意の望ましくない毒性作用を付与することのない塩を指す。そのような塩の例としては、ナトリウム塩又はカリウム塩が挙げられる。
【0131】
本発明の化合物は、プロドラッグの形態であり得る。プロドラッグは、投与時に内因性ヌクレアーゼによって切断されて活性化合物を形成するオリゴヌクレオチドの一端又は両端における追加のヌクレオシドを組み込むことを含み得る。
【0132】
医薬組成物は、脂質部分を含み得る。例えば、本発明のオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、カチオン性脂質と中性脂質との混合物で作製される予形成リポソーム又はリポプレックスに導入される。脂質部分は、特定の細胞又は組織、例えば脂肪組織又は筋肉組織へのオリゴヌクレオチドの分布を増加させるように選択してよい。
【0133】
医薬組成物は、化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)及び1つ以上の賦形剤を含み得る。賦形剤は、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、アミラーゼ、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、及び/又はポリビニルピロリドンであってよい。
【0134】
医薬組成物は、リポソーム及びエマルション等の送達系を含んでいてもよい。特定の実施形態では、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒が使用される。
【0135】
医薬組成物は、本発明の1つ以上の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)を特定の組織又は細胞型に送達するように設計された1つ以上の組織特異的送達分子を含み得る。例えば、送達分子は、組織特異的抗体でコーティングされたリポソームを含み得る。
【0136】
遅延放出のために、徐放のために製剤化された医薬組成物中、例えば生体適合性ポリマーから形成されたマイクロカプセル中又は当技術分野で公知の方法によるリポソーム担体系中にベクターを含めてもよい。
【0137】
本発明の医薬組成物は、追加の活性剤、例えば薬物又はプロドラッグを含んでいてもよい。
【0138】
医薬組成物は、例えば本明細書に記載の通り、任意の投与経路によって投与されるように製剤化され得る。医薬組成物は、通常注射によって投与される。そのような実施形態においては、医薬組成物は、担体を含み、水又は生理学的に適合するバッファー、例えばハンクス液、リンゲル液、若しくは生理食塩水バッファー等の水性溶液中で製剤化される。特定の実施形態では、他の成分が含まれる(例えば、溶解性を支援する成分又は防腐剤として機能する成分)。
【0139】
使用及び方法
本発明の方法及び使用は、インビトロ、エクスビボ、又はインビボのいずれであってもよい。例えば、本発明はまた、RNA転写物における制御エレメントの存在を調節するためのインビトロ又はエクスビボ法であって、該制御エレメントを含む1つ以上のエキソンのスプライス調節を誘導するために、RNA転写物におけるスプライシングシグナルを標的とする化合物を細胞に送達することを含む方法を提供する。
【0140】
従って、幾つかの実施形態では、本発明の方法又は使用は、手術又は療法によるヒト又は動物の身体の治療ではなく、ヒト又は動物の身体に対して実施される診断法でもない。
【0141】
本発明は更に、例えばヒト又は動物の身体に対して実施される治療方法における本明細書に記載の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)、コンジュゲート化合物、化合物をコードしているポリヌクレオチド若しくはベクター、又は組成物の使用に関する。
【0142】
例えば、本発明は、治療的に有効な量の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)又は本発明の組成物を対象に投与することを含む、遺伝子の発現又は活性を調節することによって対象における疾患又は病態を治療又は予防する方法に関する。
【0143】
本発明はまた、遺伝子の発現を調節することによって対象における疾患又は病態を治療又は予防するための医薬の製造における、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)又は組成物の使用に関する。
【0144】
本発明はまた、遺伝子の発現又は活性を調節することによって対象における疾患又は病態を治療又は予防する方法において使用するための、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)又は組成物に関する。
【0145】
本発明はまた、遺伝子の発現又は活性を調節することによって対象における疾患又は病態を治療又は予防する方法のための本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)又は組成物に関する。
【0146】
本発明の方法及び使用は、所望の終点に達するまで疾患状態を阻害すること、例えばその発症を阻止すること;及び/又は疾患状態を緩和すること、例えば疾患状態の後退を引き起こすことを含み得る。本発明の方法及び使用は、疾患状態の症状の重症度、持続時間、又は頻度の改善又は低減(例えば、疼痛又は不快感の減弱)を含み得、そのような改善は、疾患に直接影響を及ぼすこともあり、及ぼさないこともある。
【0147】
例えば、本発明は、表3又は表4に列挙する疾患を治療又は予防する方法に関する。従って、本発明の方法及び使用は、治療的に有効な量の本発明の化合物又は本発明の組成物、本発明の化合物を対象に投与することを含み、該化合物は、表3又は4に列挙するそれぞれの遺伝子のRNA転写物を標的とする。
【0148】
RNA転写物は、例えばABCA1、ABCB11、ABCC2、ABCG5、ADAM10、ALB、ANK1、APOE、ATP2A2、ATP7B、ATRX、ATXN1、ATXNIL、BAX、BCL2L11、BDNF(例えば、BDNF v11)、BLM、BRCA1、C/EBPa、CA2、CASP8、CCBE1、CD36、CD3D、CDKN1B、CDKN2A、CEP290、CFH、CFTR、CHRNA4、CHRNA5、CNTF、CNTFR、COL1A1、CR1、CSPP1、CTNND2、CTNS、CYP1B1、DBT、DCAF17、DNASE1、DDIT3、DICER1、DRD3、EED、EFNB1、EPO、ESR1、ETHE1、EZH2、F8(及びF2、3、5、7、11、13)、FAP、FMR1、FNDC5、FXN、GALNS、GATA3、GBA、GCH1、GCK、GH2、GRN、HBB、HBD、HBE1、HBG1、HBG2、HCRT、HGF、HNF4a、HR、HSD17B4、IDO1、IFNE、及び他のインターフェロン遺伝子、IFRD1、IGF1、IGF1R、IGF2、IGF2BP2、IGFBP3、IGHMBP2、IL6、INS、IQGAP1,IQGAP2,IRF6、IRS2、ITGA7、JAG1、KCNJ11、KCNMA1、KCNMB1、KCNMB2、KCNMB3、KCNQ3、KLF4、KMT2D、LDLR、LRP1、LRP5、LRP8、LRPPRC、MBTPS1、MECP2、MSRA、MSX2、MTR、MUTYH、MYCN、MYF6、NAMPT、NANOG、NEU4、NF1、NKX2、NKX3、NKX5、NKX8、NOD2、NR5A、NRF1、NSD1、PAH、PARK2、PKD1、PLAT、PON1、PON2、PPARD、PRKARIA、PRPF31、PTEN、PYCR1、RB1、RBL1、RBL2、RBBP4、RNASEH1、ROR2、RPS14、RPS19、SCNIA、SCN2A、SERPINF1、SERPING1、SHBG、SIRT1、SLC1A2、SMAD7、SMCHD1、SMN1、SMN2、SNX27、SPINK1、SRB1、SRY、ST7、ST7L、STAT3、TFE3、TFEB、TGFB3、THPO、TP63、TP73、UCP2、USP9Y/SP3、UTRN、又はVEGFA等のuORF含有遺伝子によってコードされ得る。
【0149】
RNA転写物は、BDNF v11等のuORF含有遺伝子のアイソフォームによってコードされていてもよい。
【0150】
RNA転写物は、ATP7B、ATRX、BLM、BRCA1,CA2、CCBE1、CD3D、CD4、CDKN2A、CFL2、CFTR、CSPP1、CTNS、DBT、DCAF17、DCLREIC、DFNB31、DLG4、DMD、DNASE1、ETHE1、GALNS、GCH1、HAMP、HBB、HMBS、HR、IGHMBP2、IRF6、ITGAZ、ITGB2、KCNJ11、KCNQ3、LDLR、LRP5、LRP5L、MECP2、MLH1、MSH6、MUTYH、NR5A1、PALB2、PANK2、PEX7、PHYH、PIK3R5、POMC、POMT1、ROR2、SCN2A、SGCA、SGCD、SLC16A1、SLC19A3、SLC2A2、SLC7A9、SPINK1、SRY、STIL、TK2、TMPRSS3、TP53、TPI1、TPM3、TRMU、TSEN54、又はZEB1等の1つ以上のuORFを作り出す変異又はSNPを有する遺伝子によってコードされていてもよい。
【0151】
RNA転写物は、長鎖非コードRNA(lncRNA)であってもよい。
【0152】
本発明の方法及び使用は、そのRNA転写物のスプライス調節によって、関心対象のタンパク質の発現を増加、減少、又は回復させることを含み得る。
【0153】
RNA転写物の5’UTRにおける特定のエキソン、ひいてはその中に含まれる制御エレメントの包含及び/又は排除を誘導するためのスプライス調節は、下流pORFに対する機能的影響を有する。
【0154】
従って、本発明はまた、本明細書に記載の1つ以上のエキソンのオルタナティブスプライシングを誘導する方法を含む、標的遺伝子の発現量又は活性を増加、減少、又は回復させる方法を提供する。
【0155】
遺伝子の発現又は活性が増加する本発明の実施形態において、遺伝子の発現又は活性は、本発明の化合物と接触したことのいない細胞における遺伝子の発現又は活性と比較して≧50%(すなわち、50%以上)、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、≧100%、又は≧200%増加し得る。
【0156】
遺伝子発現又は活性が減少する本発明の実施形態において、遺伝子の発現又は活性は、本発明の化合物と接触したことのない細胞における遺伝子の発現又は活性と比較して≧50%(すなわち、50%以上)、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、又は100%減少し得る。
【0157】
本発明の方法及び使用は、患者由来のサンプルにおける、スプライシングによって調節されるRNA転写物(例えば、成熟mRNA)及び/又はRNA転写物によってコードされているタンパク質の発現及び/又は活性のレベルを求める工程を含み得る。RNA及びタンパク質の発現及び/又は活性のレベルを求める方法は、当技術分野で公知である。例えば、当技術分野で公知である通り、サンプルからRNAを単離し、ハイブリダイゼーション又はPCR技術によって試験してよい。あるいは、タンパク質発現アッセイは、核酸の精製を必要としないように、インビボ、インサイチュ、すなわち、生検又は切除によって得られた患者組織の組織切片(固定及び/又は凍結)に対して直接行うことができる。例えばウェスタンブロット又はELISA等のイムノアッセイも使用できる。
【0158】
RNA転写物は、表3又は4に列挙されている遺伝子によってコードされ得る。表3中の各遺伝子に関連する疾患は、それぞれの遺伝子のRNA転写物を標的とする本発明の化合物を用いる本発明の方法によって治療又は予防することができる。
【0159】
本発明の方法及び使用は、本発明の化合物を細胞に送達することに関する。細胞は、真核細胞、例えばヒト細胞であってよい。マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、又はイヌ等の非ヒト動物由来であってよい細胞も企図される。
【0160】
典型的には、本発明は、それを必要とするヒト対象のための方法及び使用に関する。しかし、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、又はイヌ等の非ヒト動物も企図される。
【0161】
本発明は、対象からのサンプルの分析に関する。サンプルは、対象から単離された組織、細胞、及び生物学的流体、並びに対象内に存在する組織、細胞、及び流体であってよい。サンプルは、血液、及び血清、血漿、又はリンパを含む血液の画分又は成分であってもよい。
【0162】
タンパク質検出アッセイはインサイチュで実施することができ、この場合、サンプルは対象から生検又は切除によって得られた組織の組織切片(固定及び/又は凍結)である。
【0163】
本発明の化合物又は組成物は、皮下投与、静脈内投与、皮内投与、経口投与、鼻腔内投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、くも膜下腔内投与、脳室内投与、硝子体内投与、又は局所投与(例えば、皮膚用クリームの形態)してよい。
【0164】
本発明で使用するのに適切な投与量及び投与レジメンは、組成物の投与を担当する医師の通常の技能の範囲内で決定することができる。例えば、治療目的の場合、治療的に有効な量の本発明の化合物又は組成物をそのような対象に投与する。治療的に有効な量とは、障害の1つ以上の症状を改善するのに有効な量である。
【0165】
投与量は、様々なパラメータに応じて、特に治療される患者の年齢、体重、及び状態;活性成分の性質;投与経路;並びに必要なレジメンに応じて決定することができる。医師は、任意の特定の患者に必要な投与経路及び投与量を決定することができる。
【0166】
例えば、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、約1mg/kg~約300mg/kg、例えば約50mg/kgの用量で筋肉内注射により投与することができる。
【0167】
用量は単回用量として提供されてもよいが、繰り返し提供されてもよい(例えば、ベクターが正しい領域及び/又は組織を標的としていない可能性がある場合(外科合併症等))。
【0168】
本発明の化合物又は組成物は、複数の投与レジメンで投与してもよい。例えば、初回用量に続いて、第2の又は複数のその後の用量の投与を行ってよい。第2の及びそれ以降の用量は、適切な時間をおいて投与してよい。
【0169】
本発明の化合物又は組成物は、通常、単一の医薬組成物/組み合わせ物(共製剤化される)で使用される。しかし、本発明は、一般に、別々の調製物/組成物において本発明の化合物又は組成物を併用することも含む。本発明はまた、本明細書に記載の通り、本発明の化合物又は組成物を追加の治療剤と併用することも含む。
【0170】
2つ以上の剤の併用投与は、多数の異なる方法で達成され得る。一実施形態では、全ての成分を単一の組成物で一緒に投与してよい。別の実施形態では、各成分を併用療法の一部として別々に投与してよい。
【0171】
例えば、本発明の化合物又は組成物は、本発明の別の化合物又は組成物の前、後、又は同時に投与してよい。
【0172】
本発明はまた、本発明と共に使用するためのキット及び製品も提供する。キットは、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)、コンジュゲート化合物(例えば、コンジュゲートアンチセンスオリゴヌクレオチド)、ポリヌクレオチド、ベクター、送達ビヒクル、組成物、又は医薬組成物と、使用説明書とを含み得る。キットは、本発明の化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)の構成及び送達に必要なバッファー等の1つ以上の追加の試薬を更に含んでもよい。キットは更に、使用説明書と共に添付文書を含んでいてもよい。
【0173】
その他
本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0174】
更に、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「制御エレメント(a regulatory element)」に対する言及は、2つ以上の制御エレメントを含む。
【0175】
更に、本明細書において「≧x」という場合、これはxに等しいか又はxよりも大きいことを意味する。
【0176】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」及び「からなる(consisting)」も包含し、例えば、Xを「含む」組成物は、Xのみからなる場合もあり、例えばX+Yのように何らかの追加物を含む場合もある。
【0177】
本発明の目的で、2つの配列(2つのポリヌクレオチド又は2つのポリペプチドの配列等)の同一性パーセントを求めるために、最適な比較の目的のための配列のアラインメントを行う(例えば、第2の配列と最適にアラインさせるために第1の配列にギャップを導入してもよい)。次いで、各位置のヌクレオチド又はアミノ酸の残基を比較する。第1の配列におけるある位置が第2の配列における対応する位置と同じヌクレオチド又はアミノ酸で占められている場合、その位置のヌクレオチド又はアミノ酸は同一である。2つの配列間の同一性パーセントは、該配列によって共有されている同一位置の数の関数である(すなわち、同一性パーセント=同一位置の数/参照配列における位置の総数×100)。
【0178】
通常、配列比較は、参照配列の全長に対して行われる。例えば、所与の(「試験」)配列が配列番号3に対して95%同一であるかどうかをユーザが判定したい場合、配列番号3が参照配列となる。配列が配列番号3(参照配列の一例)に対して少なくとも95%同一であるかどうかを評価するために、当業者は配列番号3の全長に対してアライメントを実施し、試験配列における何箇所が配列番号3と同一であるかを特定する。位置の少なくとも95%が同一である場合、試験配列は配列番号3に対して少なくとも95%同一である。配列が配列番号3よりも短い場合、ギャップ又は欠損している位置は非同一位置であるとみなすべきである。
【0179】
当業者は、2つの配列間の相同性又は同一性を求めるために利用可能な様々なコンピュータプログラムを認識している。例えば、数学的アルゴリズムを用いて配列を比較し、2つの配列間の同一性パーセントを求めることができる。実施形態では、2つのアミノ酸又は核酸の配列間の同一性パーセントは、Blosum 62マトリクス又はPAM250マトリクスのいずれか、及び16、14、12、10、8、6、又は4のギャップ加重、及び1、2、3、4、5、又は6の長さ加重を用いて、Accelrys GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラム(http://www.accelrys.com/products/gcg/で入手可能)に組み込まれているNeedleman and Wunsch(1970)アルゴリズムを用いて求められる。
【0180】
本明細書で使用するとき、オリゴマー化合物に関する「相補的」とは、そのようなオリゴマー化合物又はその領域が、ストリンジェントな条件下で核酸塩基の相補性によって別のオリゴマー化合物又はその領域にハイブリダイズする能力を意味する。例えば、DNAでは、アデニン(A)はチミン(T)に対して相補的である。例えば、RNAでは、アデニン(A)はウラシル(U)に対して相補的である。特定の修飾を含む核酸塩基は、対応する核酸塩基と対合する能力を維持することができ、従って、依然として核酸塩基相補的であり得る。
【0181】
相補性パーセントとは、標的核酸の等長部分に対して相補的であるオリゴマー化合物の核酸塩基の割合を意味する。2つのオリゴマー化合物の相補性パーセントは、最適な比較の目的でアライメントを行い(例えば、第2の配列と最適にアラインさせるために、第1の配列にミスマッチ又はギャップを導入してもよい)、各位置の核酸塩基を比較することによって求めることができる。相補性パーセントは、標的核酸における対応する位置の核酸塩基に対して相補的なオリゴマー化合物の核酸塩基の数を、オリゴマー化合物の全長で除することによって計算することができる。
【0182】
本願に添付された配列表における核酸配列は、必要に応じて各配列を「RNA」又は「DNA」のいずれかとして識別している。しかし、当業者であれば、配列表中のこのような配列には修飾オリゴヌクレオチドも記載されると理解するであろう、すなわち、これら配列はまた、本明細書に記載される修飾の任意の組合せを有するオリゴヌクレオチドを表す場合もある。例えば、配列「GAATGGAC」を有するオリゴヌクレオチドは、修飾又は非修飾にかかわらず、このような核酸塩基配列を有する任意のオリゴヌクレオチド、例えば、RNA塩基、例えば「GAAUGGAC」を有するオリゴヌクレオチド及び/又は「GAAUGGAC」(式中、Cは5-メチルシトシンである)等の他の修飾された若しくは天然に存在する塩基を有するオリゴヌクレオチドを包含する。
【0183】
上記であろうと下記であろうと、本明細書に引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0184】
以下の実施例は、本発明を説明する。
【実施例
【0185】
実施例1
ヒト及びマウスのトランスクリプトームにおけるuORFの予測
真核生物のmRNAでは、一次オープンリーディングフレーム(pORF)の前に1つ以上の上流オープンリーディングフレーム(uORF)があることが多い。これらuORFは、配列の長さ、転写物あたりのuORFの数、5’m7G-capからの距離、pORFからの距離、uORFコザック配列の強度、進化的保存、及びuORFがpORFと重複しているかどうかという点で非常に多様である。uORFは、コンピュータで計算することにより予測することもでき、又は実験で観察することもできる。この実験の目的は、ヒト及びマウスのタンパク質コード遺伝子のuORFを同定することであり、その結果を以下に説明する。
【0186】
カスタムスクリプトを用いて、ヒト及びマウスの全タンパク質コード遺伝子の5’UTRにおける予測uORFを同定した。ヒト転写物の59.3%及びマウス転写物の48.5%が少なくとも1つの予測uORFを有することが見出された(図1A)。これは、以前のゲノムビルドで同様のアプローチを用いた過去の推定値と同程度であった(24、25、26、27)。予測uORFを有する転写物では、大部分はuORFを1つしか含んでいなかったが、ヒト転写物の約6%及びマウス転写物の約4%は10個以上のuORFを含んでいた(図1B)。uORFの大多数は6~約30アミノ酸長であり(図1C)、uORFの約85%はpORFと重複していなかった(図1D)。転写開始部位(TSS)とuORFの開始点との間(図1E)及びuORFとpORFとの間(図1F)の距離は、各群の転写物の大部分で約100~400ntであり、ヒトゲノムでは1~約6000nt、マウスゲノムでは1~約3000ntの範囲であった(図1E及びF)。最もよく使用される終止コドンは、pORFとuORFとの間で同様であり、UGAが最も高頻度であった(図1G)。
【0187】
コザックコンセンサス配列は、一般にpORFよりもuORFの方が弱かった(図1H、I)。予測uORFについてゲノム座標(すなわちBEDフォーマット)を計算し、それによって、各uORFについて平均phastConsスコアを求める(そして、5’UTR、3’UTR、CDS、及びイントロンの領域と比較する)ことが可能になった。uORF配列の保存値は非常に多様であり、本質的に可能性のあるphastCons値の全範囲に及んでおり、このことは、高度に保存されているものもあれば、それほど保存されていないものもあることを示唆している(図1J)。全体として、予測uORFの特性はヒトとマウスとの間で非常に類似していた(図1A~J)。
【0188】
集約したリボソームプロファイリング及びRNA-seqデータと共にGWIPS-vizゲノムブラウザ(28)を用いてuORF予測を可視化し、これにより、実験的証拠のあるuORFを同定することが可能になる。HTT遺伝子を例として示すと(図1K)、予測uORFでは顕著な初期リボソームピーク及びリボソームフットプリントが観察される。
【0189】
予測uORFの機能性の検証
デュアルルシフェラーゼレポーター系においてウミシイタケルシフェラーゼの上流の対応する5’UTRにクローニングすることによって、予測ヒトuORF含有遺伝子を試験した。各候補遺伝子について、uATGからTTGへの変異を誘発することによってuORFを破壊した対照コンストラクトを作製した。ウミシイタケ及びホタルのルシフェラーゼの相対レベルを、各5’UTR及び変異体対照についてRT-qPCRによって分析した。
【0190】
結果を図2に示す。FOXL2、HOXA11、JUN、KDR、RNASEH1、SMO、及びSRYでルシフェラーゼ発現の有意な増加が観察されたが(図2A)、これは転写レベルの変化では説明することができなかった(図2B)。ルシフェラーゼのデータを独立に再作成し、追加の遺伝子MAP2K2をパネルに追加した(図2C)。BDNF(2つのアイソフォーム)、C9orf72、GATA2(3つのアイソフォーム)、GDNF、HTT、及びSCN1Aのレポーターコンストラクトでは、予測uORFを全てATGからTTGに変異させた場合、有意なuORFを介した抑制が更に観察された(図2D)。
【0191】
翻訳抑制に対するuORF配列の影響を世界規模で評価するために、29の健常ヒト組織から得られた公的に入手可能な対応するプロテオミクス/トランスクリプトミクスデータ(1)を利用した。これらデータにより、18,072の転写物及び13,640のタンパク質を研究することが可能になる。複数の転写物アイソフォームを有する遺伝子のうち、アイソフォームのうちの少なくとも1つがuORFを欠くものを除外するためにデータをフィルタリングし、残りのデータはそれぞれuORFを含むもの又はuORFを欠くものとしてビニングした。次に、各ビン内の全遺伝子について、タンパク質発現データの累積分布(全組織にわたって集計)をプロットし、遍在的に発現しているタンパク質(図2E)又は全タンパク質(図2F)について、分布間の差をマン・ホイットニー検定によって検定した。uORFを含む遺伝子は、uORFを欠く遺伝子よりもタンパク質発現レベルの中央値が有意に低いことが観察された。
【0192】
uORFの構造及び機能の解析
レポーター試験において強い抑制翻訳抑制効果(~4倍)を付与し、5’UTR及びuORFの両方の長さが実験的操作を容易にするのに便利な長さであったことから、HOXA11 uORFを更なる試験のために選択した。HOXA11 uORFをクローニングサイトで置き換えたプラスミドを構築し、その後、野生型HOXA11 uORFの様々な変異体を作製した。HOXA11 uORF uATGのコザックコンセンサスを変化させた結果、下流遺伝子の抑制が22%増強されたが、P<0.05レベルでは統計的有意には達しなかった(図3A)。同様に、公的に入手可能なタンパク質発現データのグローバル解析によって、予測uORFに「弱い」コザックコンテキストを含む転写物(n=1,729)又は「強い」コザックコンテキストを含む転写物(n=350)の間で発現中央値に差がないことが明らかになり、コザックコンテキストの強さがuORF活性を決定する主な要因ではないことが示唆された(図3B)。この解析は、強いコザックコンセンサス配列を有する単一のuORFを含む転写物の数が比較的少ないため複雑である。注目すべきことに、この知見は、マウスのプロテオミクスデータセットを利用した以前の報告とは対照的であるが、この研究では、「強い」uORFコザックコンテキストを有する転写物が92しか含まれていなかった(24)。
【0193】
次に、一連のC末端からのC末端切断(すなわち、9アミノ酸長、7アミノ酸長、5アミノ酸長、3アミノ酸長、2アミノ酸長、及び1アミノ酸長のuORFの生成)を通して、uORFペプチドの長さの重要性について調べた。HOXA11 uORFの切断が進むと、切断の程度に比例して抑制活性が部分的に失われた。最小uORF(すなわちATG-終止、M、メチオニン-終止)はこのパターンに当てはまらず、代わりに野生型HOXA11 uORFと統計的に差のない抑制を示した(図3A)。リボソームE部位が未占有であると、翻訳が抑制されることが報告されている(29)。このことは、少なくとも2つの翻訳抑制機序があることを示唆している。注目すべきことに、このような最小uORFは予測データセットにおいて高頻度で出現し、ヒトでは5,447個(全uORFの6%)、マウスでは2,759個(6.5%)である。
【0194】
ヒトのプロテオミクスデータを集計したグローバル解析では、uORFを含む転写物全ての場合、最小uORF(n=802)を含むものは、他のタイプのuORFを含むもの(n=4,991)よりも低いレベルで発現する傾向がある(P=0.0027)ことが明らかになった(図3C)。
【0195】
全アミノ酸配列を繰り返すことによってuORFの長さを長くすると、抑制活性が統計的に有意に約40%増加した。しかし、タグ配列(すなわち、FLAG及びHiBiT)の付加によってuORFの長さを延長しても、翻訳抑制の程度には最小限の効果しかなかった(図3A)。
【0196】
プロテオミクスの集計データから、TISに及ぶuORF(n=816)と5’UTRに完全に含まれるuORF(n=1,652)との間には抑制能に差がないことが示され(図3D)、これは以前の所見と一致している6。pORFをレポーター遺伝子(本明細書に記載の通り)で置き換えた場合、TISに及ぶuORFの実験的検証が複雑になる。
【0197】
実施例2
この実施例では、少なくとも1つのuORFを含むエキソンを除去する目的で、ACY3、CLGN、又はSYS1のRNA転写物の5’UTRにおけるスプライシングシグナルを標的とするようにアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を設計する。ACY3、CLGN、又はSYS1タンパク質の発現に対するこれらASOの効果について調べる。
【0198】
ACY3、CLGN、及びSYS1はそれぞれ3つの上流エキソンを含み、pORFの開始コドンはエキソン3に位置し、少なくとも1つのuORFがエキソン2に位置していた。
【0199】
ASOの幾つかの例の配列を表1に提供する。各ASOは完全にホスホロチオエートRNAであり、完全に2’MOE修飾されている。
【0200】
【表1】
【0201】
培養中の哺乳類細胞にASOを投与するか、又はヒト患者若しくは動物モデルにASOを注射する。ヒト患者又は動物モデルに筋肉内注射することによってASOを注射する。約50mg/kgの用量で滅菌バッファー(例えば、生理食塩水)中ASOを注射する。
【0202】
細胞又は対象にASOを投与する前及び後に、ACY3、CLGN、又はSYS1タンパク質の量及び/又は活性を求める。
【0203】
各ASOは、ACY3、CLGN、又はSYS1のRNA転写物におけるエキソン2のスキッピングを誘導し、対照(細胞又は対象にモックASOを投与した場合)と比較して、ACY3、CLGN、又はSYS1のタンパク質の発現及び/又は活性を増加させる。
【0204】
実施例3
この実施例では、マイクロペプチドをコードしている配列を含むエキソンを除去する目的で、長鎖非コードRNA(lncRNA)を標的とするようにアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を設計する。マイクロペプチドの発現に対するこれらASOの効果について調べる。
【0205】
lncRNA HOXB-AS3は、結腸がんに関与する短いペプチドをコードしている。このペプチドの配列は、HOXB-AS3転写物(例えば、NR_03201.2及びNR_033204.2)のエキソン2から始まる。この転写物のエキソン2をスキッピングするように設計されたASOは、この短いペプチドの翻訳を妨げるであろう。
【0206】
表2に、HOXB-AS3のエキソン2のスプライシングシグナルを標的とするASOの幾つかの例を示す。各ASOは完全にホスホロチオエートRNAであり、完全に2’MOE修飾されている。
【0207】
【表2】
【0208】
培養中の哺乳類細胞にASOを投与するか、又はヒト患者若しくは動物モデルにASOを注射する。ヒト患者又は動物モデルに筋肉内注射することによってASOを注射する。約50mg/kgの用量で滅菌バッファー(例えば、生理食塩水)中ASOを注射する。
【0209】
細胞又は対象にASOを投与する前及び後に、マイクロペプチドの量及び/又は活性を求める。
【0210】
各ASOはlncRNAにおけるエキソン2のスキッピングを誘導し、対照(細胞又は対象にモックASOを投与した場合)と比較してマイクロペプチドの発現を欠如させる。
【0211】
実施例4
この実施例では、ヒトBDNF遺伝子座を解析して、riboseq/RNA-seqのデータを重ね合わせて予測uORFを同定した(図7)。
【0212】
推定エキソンスキッピング標的と認定された2つのBDNFアイソフォーム:転写バリアント11(NM_001143811)及び転写バリアント14(NM_001143814)が同定された。これら転写物は、5’UTRに少なくとも3つのエキソンを含み、スキッピング可能なエキソンは少なくとも1つのuORFを含んでいた(図7)。
【0213】
これら各転写物の5’UTRを、社内のデュアルルシフェラーゼレポータープラスミドの一部としてウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子の下流にクローニングし、各スキッピング可能なエキソン又はエキソンの組み合わせを欠失させたバリアントを作製した。全てのコンストラクトをHEK293T細胞にトランスフェクションし、トランスフェクション24時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0214】
BDNF v11では、エキソン2(予測uORFを8つ含む)の欠失により、pORFレポーター遺伝子の発現が約8倍アップレギュレーションされた(図8A、B)。エキソン2及び3の両方を欠失させると、更に抑制が解除され、ウミシイタケルシフェラーゼ活性が約23倍上昇した。しかし、エキソン3(予測uORFを2つ含む)だけを欠失させても、pORFレポーター遺伝子の発現に影響はなかった。タンパク質レベルの大幅なアップレギュレーションを転写物レベルの変化では説明することはできなかったが、それは、群間に差がなかったためである(図8C)。
【0215】
これらデータは、成熟BDNF転写物からエキソン2又はエキソン2及び3を排除することを目的としたエキソンスキッピング戦略を、翻訳レベルでの治療的BDNFアップレギュレーションに利用できる可能性を示唆している。
【0216】
対照的に、BDNF v14の解析では、エキソン2を欠失させた場合(uORFを1つ含む)、レポーター遺伝子の発現に対して有意な効果はなかった(図8D、E)。これらデータから、この転写物のバリアントは上流エキソンスキッピングの標的としてあまり適していないことが示唆される。
【0217】
これら所見に基づき、BDNF v11を更なる分析のために選択した。エキソン2を欠失させたときに観察されたアップレギュレーションは、結果として生じた「エキソンスキッピングされた」mRNAから8つのuORF配列が排除された結果である可能性があるという仮説を立てた。この目的のために、開始コドンのATGトリヌクレオチドをTTGに変異させることによって、エキソン2のuORFを8つ全て破壊したコンストラクトを試験した。エキソン2のuORFを破壊すると、レポーター遺伝子の発現が約3倍アップレギュレーションし(図9A)、これは、uORFを介した抑制が緩和されたことと一致していた。興味深いことに、このアップレギュレーションは、エキソン2を完全に欠失させた場合に観察されたアップレギュレーションのほんの一部に過ぎなかった。このことは、uORFがpORF抑制に寄与しているとはいえ、抑制活性の全てを占めることはできないことを示唆している。
【0218】
BRIO(BEAM RNA Interaction mOtifs)(参照文献30)を用いてBDNF v11エキソン2の配列を解析したところ、関心対象の2つのRNA結合モチーフ(HuR#1及びHuR#2)が同定された(図9B)。しかし、これらモチーフの欠失は、個々に欠失させた場合も、一緒に欠失させた場合も、pORFレポーターの発現に有意な効果を及ぼさなかった(図9C)。このことから、これらモチーフはエキソン2内に含まれる翻訳抑制活性に関与していないことが示唆される。
【0219】
次に、翻訳抑制活性の主な原因である可能性があるBDNF v11のエキソン2における配列を同定するために、欠失ウォークを行った。エキソン2の50bpの領域を逐次欠失させた変異体コンストラクトを作製した。この実験の目的のために、エキソン2内の全てのuORFを破壊し、その結果、非uORF抑制エレメントを同定することが可能になった。最初の50bpを欠失させると(Δセグメント1)、エキソン2の全てのuORFを破壊した対照コンストラクトと比較してレポーター活性が顕著に3倍アップレギュレーションした(図10A)。これらデータは、uORFを介した抑制と、この最初の50bpに含まれる更なるモチーフとの組み合わせが、このエキソンの抑制活性の大部分を占めることを示唆している。エキソン2の開始点における関心対象の50bpの領域にわたって10bpの領域を欠失させた第2の一連の欠失変異体を作製した。これらコンストラクトのいずれについても、アップレギュレーション活性は観察されなかった(図10B)。
【0220】
これらデータを総合すると、エキソン内に含まれる複雑なシグナルは、標的遺伝子のアップレギュレーションを目的として成熟mRNA転写物から排除される可能性があることが示される。これらシグナルとしては、uORFが挙げられるが、これに限定されない。これらシグナルは、RNA結合モチーフ及び/又はRNA構造的特徴を含み得る。
【0221】
【表3-1】
【0222】
【表3-2】
【0223】
【表3-3】
【0224】
【表3-4】
【0225】
【表3-5】
【0226】
【表3-6】
【0227】
【表3-7】
【0228】
【表4-1】
【0229】
【表4-2】
【0230】
【表4-3】
【0231】
参照文献
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【0232】
配列表
配列番号1~15を表1に列挙する。
配列番号27~28を表2に列挙する。
【0233】
【表5】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】