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特表2024-530199HLA融合タンパク質を含む医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】HLA融合タンパク質を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240808BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240808BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240808BHJP
   C07K 14/74 20060101ALN20240808BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240808BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K39/395 Y
A61K45/00
A61P35/02
A61P35/00
A61K38/17 100
C07K19/00 ZNA
C07K14/74
C12N15/113 140Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507944
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022072130
(87)【国際公開番号】W WO2023012347
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21190004.8
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21190005.5
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21207324.1
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524048807
【氏名又は名称】イムノス セラピューティクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】マロカン ベラウンザラン,オシリス
(72)【発明者】
【氏名】ラフィエイ,アナヒタ
(72)【発明者】
【氏名】クマール,アニル
(72)【発明者】
【氏名】レナー,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA26
4C084DA38
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C085AA33
4C085BB36
4C085BB42
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、腫瘍性疾患の治療に使用するHLA融合タンパク質を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、がんの治療に使用するためのHLA融合タンパク質とチェックポイント阻害剤との両方を含む併用医薬も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は:
a. HLA融合タンパク質であって:
i. ヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチドであって:
・ HLA重鎖の細胞外ドメイン、特にHLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53、又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖の細胞外ドメイン;又は
・ HLA重鎖の前記細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、それぞれのHLA重鎖の細胞外ドメインと比較して、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及び類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体;
から選択される、前記ヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチドと:
ii. 免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチドと;
を含む、前記HLA融合タンパク質:及び
b. ベータ2ミクログロブリン(B2m)ポリペプチド
を含む、前記医薬組成物。
【請求項2】
HLA融合タンパク質はB2mポリペプチドと非共有結合的に会合している、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
HLA融合タンパク質は、B2mポリペプチドと3:5~7:5の比、特に4:5~6:5の比、より特に約1の比で、非共有結合的に会合している、請求項1又は2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
HLA重鎖ポリペプチドは、HLA-B57の細胞外ドメインの変異体であり、かつ
HLA重鎖ポリペプチドは、46位のE及び97位のRを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
HLA重鎖ポリペプチドは、配列番号001の配列を含む、又は本質的にそれからになる、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
HLA融合タンパク質は:
a. 請求項1~5のいずれか1項で特定されるHLA重鎖ポリペプチド;及び
b. IgG Fcポリペプチド、特にIgG4 Fcポリペプチド、より特に配列番号002の配列を有するIgG4 Fcポリペプチド;及び任意に
c. HLA重鎖ポリペプチドをIgG Fcポリペプチドに連結するペプチドリンカー、特に5~20アミノ酸長のペプチドリンカー、より特に配列番号003の配列を有するペプチドリンカー;
を含み、かつ
任意に、HLA融合タンパク質は:
d. 分泌シグナル、特に16~30アミノ酸長である分泌シグナル、より特に分泌シグナルが細胞から分泌される過程の間で切断により除去される分泌シグナル、さらにより特に配列番号004の配列を有する分泌シグナル、
をさらに含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
HLA重鎖ポリペプチドは、IgG Fcポリペプチドに対してN末端に位置する、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
HLA融合タンパク質は、配列番号005と指定される配列を含む、又は本質的にそれからなる、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
HLA融合タンパク質は二量体の形態であり、前記二量体は第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体を含む、又は本質的にそれからなり;
- 第1のHLA単量体は、本質的に、請求項1~8のいずれか1項に規定される第1のHLA融合タンパク質と、第1のB2mポリペプチドとからなり;かつ
- 第2のHLA単量体は、本質的に、請求項1~8のいずれか1項に規定される第2のHLA融合タンパク質と、第2のB2mポリペプチドとからなり;
特に、第1のHLA単量体と第2のHLA単量体とは同一である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
HLA融合タンパク質はペプチドエピトープと会合していない、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
医薬組成物は、チェックポイント阻害剤の前に、それと組み合わせて、又はその後に、投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
がん、特に血球由来がん、又は固形腫瘍、の治療に使用するためのチェックポイント阻害剤であって、チェックポイント阻害剤は、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物の前に、それと組み合わせて、又はその後に、投与される、前記チェックポイント阻害剤。
【請求項13】
前記チェックポイント阻害剤は、10-7mol/L以下の解離定数で、CTLA-4、PD-1、PD-L1、又はPD-L2のいずれかに結合することが可能であり、特にチェックポイント阻害剤は、抗体、抗体断片、又は抗体様分子から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物、又は請求項12に記載の使用のためのチェックポイント阻害剤。
【請求項14】
前記チェックポイント阻害剤は全身送達に適した剤形で提供される、請求項1~11、又は12のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物、又は請求項12又は13に記載の使用のためのチェックポイント阻害剤。
【請求項15】
がんは:
a. 血球由来のがん、特にリンパ腫、白血病、又は骨髄腫から選択される血球由来のがん、又は
b. 固形腫瘍、特に肺細胞由来、乳房細胞由来、又は結腸細胞由来の固形腫瘍、
である、請求項1~11、13、又は14のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
悪性新生物疾患は、結腸がん、乳がん、膵臓がん、又は黒色腫から選択される、請求項12~14のいずれか1項に記載の使用のためのチェックポイント阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2021年8月5日に出願された欧州出願(EP)第21190004.8号及び欧州出願(EP)第21190005.5号、並びに2021年11月9日に出願された欧州出願(EP)第21207324.1号による優先権を主張し、これらは参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0002】
本発明は、抗悪性腫瘍薬として使用するための医薬組成物に関し、前記組成物は、β2-ミクログロブリンポリペプチドと会合しているHLA融合タンパク質を含み、望ましい免疫調節特性及び組換えタンパク質発現特性を有する。
【背景技術】
【0003】
古典的なMHC-I分子(ヒトではHLA-Iとしても知られている)は、細胞外ドメイン(α1、α2、及びα3ドメインを含む)により特徴付けられる膜結合型重鎖を含む二量体構造又は三量体構造である。HLA重鎖は、HLA軽鎖としても知られるβ2-ミクログロブリン(β2m)と複合体を形成し、細胞表面のHLA重鎖ペプチド結合クレフトに会合した小さなペプチドエピトープの形態で抗原を提示する。MHCクラスI分子はまた、β2m、及び/又はペプチドエピトープを欠く遊離重鎖へ解離することもある(Arosaら,Trends in Immunology 2007 Mar;28(3):115-23)。本発明者らは、免疫グロブリン(Ig)Fc部分などの安定化ペプチドとの融合タンパク質として送達される場合に、特にここでHLAがβ2m、又はHLA結合クレフト内のペプチドエピトープとの会合を欠く場合に、HIV感染における特定の免疫相関に関連するHLA-B27又はHLA-B57のハプロタイプなどの選択されたHLAを、有望な免疫調節薬として同定した(国際公開(WO)第2017/153438号(A1)、国際公開(WO)第2016/124661号(A1)、国際公開(WO)第2018/029284号(A1)参照)。
【0004】
本技術の以前の用途において使用される単離された非β2m会合HLAを得るために、HLA重鎖融合タンパク質/β2m複合体は、単離されたHLA重鎖融合タンパク質のリフォールディングの前に、例えばサイズベースのクロマトグラフィーによって、精製の前に、例えば酸性条件下で、分離される。しかしながら、本明細書で研究されるHLA-B57重鎖由来融合タンパク質などの非β2m会合HLA重鎖化合物は、望ましい免疫調節資質を有しているが、工業的な量まで製造規模を拡大することには課題がある。免疫調節HLA融合タンパク質をβ2mから分離する過程の間に、HLA融合タンパク質の最大半分が失われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開(WO)第2017/153438号(A1)
【特許文献2】国際公開(WO)第2016/124661号(A1)
【特許文献3】国際公開(WO)第2018/029284号(A1)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arosaら,Trends in Immunology 2007 Mar;28(3):115-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術状態に基づき、本発明の目的は、悪性新生物疾患の治療に使用するための、改良された医薬組成物である、良好な免疫調節特性を有するHLA重鎖ベースの融合タンパク質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成され、本明細書の従属請求項、実施例、図及び一般的説明に記載されたさらに有利な実施形態を伴う。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1-1】図1は、HLA-B57(A46E/V97R)IgG4融合タンパク質の優れた発現特性を示す。CHO細胞クローン内でベクターから発現させた、示された(A)HLA-B57 IgG4融合タンパク質及び(B)β2mのRNAプロファイル。
図1-2】細胞生存率(C)及び発現タンパク質力価(D)に基づいた、HLA-B57.β2m(DGC8-T39、DGC8-T64、及びDGC8-73)とHLA-B57(A46E/V97R).β2m(DGC8-T54、DGC8-T75、及びDGC8-91)をトランスフェクトしたクローンからの融合タンパク質発現。表は、試験した異なるトランスフェクション比における収率をまとめたものである。
図2-1】図2は、3段階で精製した(A)HLA-B57構築物及び(B)HLA-B57(A46E/V97R)構築物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)プロファイルを示す。CHO上清からのA:アフィニティー精製。
図2-2】B:2つの方法の分岐。精製はB2mの除去のための追加工程を経てからSEC Cにより行われ、B2m会合HLA-B57の精製は直接SEC Dにより行われる。挿入した要約表(下部)は、両方の構築物から精製された化合物の収率を示している。HLA-B57.β2mには多量の高分子量(HMW)種、及び低分子量種(LMW)もまた有し、単量体の含有量の減少を伴うが、HLA-B57(A46E/V97R).β2mでは有意にHMW、LWMの減少、及び単量体の高含有を有する。
図2-3】(C)は、示したHLA-A30、B57、B58及びC08の野生型及び46位と97位とに示したアミノ酸置換を有する変異型構造のIgG Fc融合体からの組換えタンパク質収量を示す。CHO細胞に、a)Fc融合HLA分子及びb)ヒトβ2mの2種のベクター構築物を1:1の割合で一過性にトランスフェクトした。発現タンパク質の力価は、Octet Red96システム(Sartorius)を用いて、プロテインAバイオセンサーを用いて定量した。
図3-1】図3(A)は、ELISAにより測定される、LILRB2と、非β2m会合HLA-B57、非β2m会合HLA-B57(A46E/V97R)及びHLA-B57(A46E/V97R).β2mとの結合親和性の定量的推定を示す。非β2m会合HLA-B57はEC50が21nMであり、非β2m会合HLA-B57(A46E/V97R)のEC50は8.3nMであり、HLA-B57(A46E/V97R).β2mのEC50は5.72nMであり、アミノ酸置換がHLA-B57重鎖のLILRB2への結合を低下させないことを示している。
図3-2】(B)バイオレイヤー干渉(Bio-layer interferometry:BLI)によって測定された、LILRB2と、非β2m会合HLA-B57(A46E/V97R)(Kd=20.3nM)及びHLA-B57(A46E/V97R).β2m(Kd=2.3nM)との結合親和性の定量的推定。β2mに会合しているB57(A46E/V97R).β2mの結合の改善が確認された。
図4-1】図4は、β2mを有する、又は有さない場合のHLA-B57(A46E,V97R)のヒト初代マクロファージによる液体がん細胞及び固形がん細胞の貪食の誘導を示す。示した液状腫瘍及び固形腫瘍由来のがん細胞株をヒト初代マクロファージと共培養し、腫瘍細胞の貪食作用をIncuCyte生細胞イメージングシステムを用いて36時間測定した。生物学的に独立した少なくとも2つの試料を用いて実験を繰り返した。エラーバーは、それぞれ2回の技術的繰り返しを含む、n=2の生物学的繰り返しのSEM。統計解析は2元配置ANOVA多重比較を用い、その後Dunnettのポストホック分析を行った。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図4-2】図4は、β2mを有する、又は有さない場合のHLA-B57(A46E,V97R)のヒト初代マクロファージによる液体がん細胞及び固形がん細胞の貪食の誘導を示す。示した液状腫瘍及び固形腫瘍由来のがん細胞株をヒト初代マクロファージと共培養し、腫瘍細胞の貪食作用をIncuCyte生細胞イメージングシステムを用いて36時間測定した。生物学的に独立した少なくとも2つの試料を用いて実験を繰り返した。エラーバーは、それぞれ2回の技術的繰り返しを含む、n=2の生物学的繰り返しのSEM。統計解析は2元配置ANOVA多重比較を用い、その後Dunnettのポストホック分析を行った。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図4-3】図4は、β2mを有する、又は有さない場合のHLA-B57(A46E,V97R)のヒト初代マクロファージによる液体がん細胞及び固形がん細胞の貪食の誘導を示す。示した液状腫瘍及び固形腫瘍由来のがん細胞株をヒト初代マクロファージと共培養し、腫瘍細胞の貪食作用をIncuCyte生細胞イメージングシステムを用いて36時間測定した。生物学的に独立した少なくとも2つの試料を用いて実験を繰り返した。エラーバーは、それぞれ2回の技術的繰り返しを含む、n=2の生物学的繰り返しのSEM。統計解析は2元配置ANOVA多重比較を用い、その後Dunnettのポストホック分析を行った。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図5-1】図5は、B2mを有する、又は有さない場合のHLA-B57(A46E,V97R)による単剤療法(それぞれB57及びB57.B2mと表示)が、BRGSF-HISヒト化PDX肺がんマウスにおいて、腫瘍増殖を抑制し、HLA-B57(A46E,V97R).B2mが生存期間を延長することを示す。A. β2mを有する場合、有さない場合のHLA-B57(A46E,V97R)の単剤療法後の相対的腫瘍増殖(腫瘍の倍加時間)及び生存期間(B)。
図5-2】A. β2mを有する場合、有さない場合のHLA-B57(A46E,V97R)の単剤療法後の相対的腫瘍増殖(腫瘍の倍加時間)及び生存期間(B)。I.p.注入は試験終了まで5日ごとに行った;注入化合物の濃度:アイソタイプIgG4(10mg/kg)、非β2m会合HLA-B57(A46E,V97R)(10mg/kg)、及びHLA-B57(A46E,V97R).β2m(10mg/kg);n=6。Aのデータは、最小値から最大値までのすべての点を示す箱ひげでプロットされている。Aの統計解析は、多重比較2元配置ANOVA(混合効果モデル)を用いて、その後Tukeyのポストホック分析を行った。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001;生存期間Bの統計解析は、Log-rank(Mantel-Cox)検定を用いて行った。
図6図6は、V-Plexマルチプレックスサイトカインイムノアッセイで測定した、図5のBRGSF-HISヒト化PDX肺がんマウスのを示された血中サイトカインの分析を示す。統計分析は、通常の一元配置ANOVAを用いて、その後Fischerのポストホック分析を行った。p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001。
図7-1】図7は、抗PD-1チェックポイント阻害剤の単剤療法及び併用療法と、(A)非β2m会合(HLA-B57(A46E/V97R))及び(B)β2m会合HLA(HLA-B57(A46E/V97R).β2m)が、C38マウス滑液性結腸癌モデルにおいて腫瘍サイズを縮小することを示す。示された治療群の平均腫瘍体積mm(上部)、及び個々の動物と各群の治療への応答を示すスパイダープロット(下部)。腫瘍体積は平均値±SEMで表し、二元配置ANOVA、その後のBonferroniポストホック分析で解析した。p<0.05、**p<0.01、****p<0.0001。
図7-2】図7は、抗PD-1チェックポイント阻害剤の単剤療法及び併用療法と、(A)非β2m会合(HLA-B57(A46E/V97R))及び(B)β2m会合HLA(HLA-B57(A46E/V97R).β2m)が、C38マウス滑液性結腸癌モデルにおいて腫瘍サイズを縮小することを示す。示された治療群の平均腫瘍体積mm(上部)、及び個々の動物と各群の治療への応答を示すスパイダープロット(下部)。腫瘍体積は平均値±SEMで表し、二元配置ANOVA、その後のBonferroniポストホック分析で解析した。p<0.05、**p<0.01、****p<0.0001。
図8図8はHLA-B57(A46E,V97R).β2m(iosH2と表示)はLILRB1及びLILRB2に結合し、天然リガンドとの相互作用をブロックする。(A)iosH2はヒトLILRB1に結合し、HLA-Gとの相互作用を競合的にブロックする。(B)iosH2はヒトLILRB2に結合し、HLA-G(自社製造)、ANGPTL2(R&D systems、9795-AN)及びANGPTL7(R&D systems、914-AN)との相互作用を競合的に阻害する。
図9-1】図9はHLA-B57(A46E,V97R).β2m(iosH2と表示)は、固形腫瘍及び液状腫瘍由来の細胞株の一次マクロファージ介在性貪食を増強する。様々な適応症に由来する癌細胞株(肺-H69、白血病-Jurkat、膵臓-MIA PaCa2、肺-H460、骨髄腫-RPMI8226、リンパ腫-Daudi)をヒト初代マクロファージと共培養し、かつIncuCyte生細胞イメージングシステムにより食作用を測定した。食作用は、(A)LILRB1(Biolegend;カタログ番号333722)、LILRB2(MK4830、US2018/0298096A1、ClinicalTrials.gov identifier NCT03564691)、モノクローナル抗体、及び(B)Trillium SIRPa Fc融合タンパク質(TTI621(Lin G.PLos One 2017 12(10):e0187626)及びTTI622(ClinicalTrials.gov identifier NCT03530683))と比較した。
図9-2】食作用は、(A)LILRB1(Biolegend;カタログ番号333722)、LILRB2(MK4830、US2018/0298096A1、ClinicalTrials.gov identifier NCT03564691)、モノクローナル抗体、及び(B)Trillium SIRPa Fc融合タンパク質(TTI621(Lin G.PLos One 2017 12(10):e0187626)及びTTI622(ClinicalTrials.gov identifier NCT03530683))と比較した。
図10-1】図10はHLA-B57(A46E,V97R).β2m(iosH2と表示)は、単剤療法及びPD-1との併用療法として、初代ヒトT細胞の殺傷活性を増強させることを示す。ヒト初代T細胞を、(A、B)AML(THP1)及び(C、D)結腸(HCT116)がん細胞と、1:1及び5:1の2種類のE:T(エフェクター細胞:ターゲット細胞)比で細胞接触的にインキュベートし、化合物で治療し、がん細胞の殺傷のパーセンテージをIncuCyteライブシステムで測定した。
図10-2】図10はHLA-B57(A46E,V97R).β2m(iosH2と表示)は、単剤療法及びPD-1との併用療法として、初代ヒトT細胞の殺傷活性を増強させることを示す。ヒト初代T細胞を、(A、B)AML(THP1)及び(C、D)結腸(HCT116)がん細胞と、1:1及び5:1の2種類のE:T(エフェクター細胞:ターゲット細胞)比で細胞接触的にインキュベートし、化合物で治療し、がん細胞の殺傷のパーセンテージをIncuCyteライブシステムで測定した。
図11図11はHLA-B57(A46E,V97R).β2m(iosH2と表示)はNK細胞の殺傷能力を高める。(A)単離したヒト初代NK細胞を異なるがん細胞株とインキュベートし、化合物で治療し、がん細胞の殺傷のパーセンテージをIncuCyteライブシステムで測定した。(B)ヒト初代NK細胞をKIR3DL1陽性集団について選別し、(A)と同じ実験を繰り返した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の概要
中間体であるHLA重鎖融合タンパク質/β2mポリペプチド複合体の免疫学的資質を、β2mポリペプチドを欠くHLA重鎖融合タンパク質と比較して調査することにより、本発明者らは、HLA融合タンパク質/β2mポリペプチド複合体分子が望ましい免疫調節特性を示し、かつがんの治療、特にがんのヒト化免疫系モデルにおいて高められた有益な治療効果をもたらすという驚くべき観察結果が得られた。
【0011】
本発明の第1の態様は、悪性新生物疾患の治療に使用するための医薬組成物に関し、前記組成物は、HLA融合タンパク質(MHCクラスI HLA重鎖細胞外ドメインポリペプチド及び免疫グロブリン(Ig)断片結晶化可能(Fc)ポリペプチドなどの安定化ポリペプチドを含む)を含み、HLA融合タンパク質がさらにβ2mポリペプチドと会合し、そして前記組成物は少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含有する。特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53、又はHLA-C12から選択される天然に存在するHLA重鎖の細胞外ドメインである。他の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、変異型HLA重鎖ポリペプチド、特にHLA-B57重鎖の変異体を含み、前記変異体は、上記のHLA重鎖の1つに対して少なくとも95%の類似性を有し、かつ同様の生物学的機能を保持する。
【0012】
本発明に係る使用のための医薬組成物のさらなる実施形態は、HLA融合タンパク質とβ2mポリペプチドとの非共有結合的な会合、並びに変異型HLA-B57重鎖ポリペプチド、Ig Fcポリペプチド、ペプチドリンカー、及び分泌シグナル(そのような医薬組成物に包含するために特に使用される)、並びにチェックポイント阻害剤をさらに含む組み合わせ医薬に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、本発明の第1の態様によるHLA融合タンパク質とβ2mとを含む医薬組成物と組み合わせて投与するために製剤化された、がん、特に血液がん、又は悪性新生物疾患を有する患者の治療に使用するためのチェックポイント阻害剤に関する。
【0014】
用語と定義
本明細書を解釈するために、以下の定義が適用され、適宜、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆もまた同様である。以下に定める定義が、参照により本明細書に組み込まれる文書と矛盾する場合は、ここに定める定義が優先されるものとする。
【0015】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び他の同様の形態、並びにそれらの文法的に同等な用語は、意味において同等であること、及びこれらの単語のいずれか1つに続く1つ又は複数の項目が、係る1つ又は複数の項目を網羅的にリストするものではない、又はリストした1つ又は複数の項目のみに限定するものではないことにおいてオープンエンドとすることを意図している。例えば、成分A、B及びCを「含む(comprising)」品目は、成分A、B及びCからなる(すなわち、成分A、B及びCのみを含有する)こともできるし、又は成分A、B及びCのみならず、1つ又は複数の他の成分を含むこともできる。このように、「含む(comprising)」及びその類似の形態、並びにその文法的同等な用語は、「本質的にそれからなる(consisting essentially of)」又は「それからなる(consisting of)」の実施形態の開示を含むことが意図及び理解される。
【0016】
値の範囲が提供されている場合、文脈上明らかにそうでないと指示されない限り、その範囲の上限と下限との間の、下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその記載の範囲内の他の記載の値若しくは介在値は、記載の範囲の具体的に除外される制限を受けて本開示内に包含されると理解される。記載の範囲に限界値の一方又は両方が含まれる場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除いた範囲もまた開示に含まれる。
【0017】
本明細書において、値又はパラメータの「約(about)」という言及は、その値又はパラメータそれ自体に向けられる変動を含む(及び記述する)。例えば、「約(about)X」と言及する記述には、「X」という記述も含まれる。
【0018】
添付の特許請求の範囲を含め、本明細書で使用されるとおり、単数形「a」、「or(又は)」、「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の参照語を含む。
【0019】
本明細書で使用される「及び/又は」は、指定された2つの特徴又は構成要素の各々を、他方のものとともに又はなしに、具体的に記載したものとみなされる。したがって、本明細書において「A及び/又はB」などの表現で使用される「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A(単独)」、及び「B(単独)」を含むことを意図している。同様に、「A、B、及び/又はC」などの表現で使用される「及び/又は」という用語は、以下の各態様を包含することを意図している:A、B、及びC;A、B、又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);及びC(単独)。
【0020】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学)により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。標準的な手法が、分子学的、遺伝学的及び生化学的手法(一般に以下を参照。Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第4編(2012)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y. 及びAusubelら,Short Protocols in Molecular Biology(2002)第5編,John Wiley & Sons,Inc.)及び化学的手法に用いられる。
【0021】
本明細書の文脈における「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸がペプチド結合によって接続されている直鎖を形成する50以上のアミノ酸からなる分子を指す。ポリペプチドのアミノ酸配列は、(生理学的に見出される)タンパク質全体又はその断片のアミノ酸配列を表すこともある。用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書において互換的に使用され、タンパク質及びその断片を含む。ポリペプチドは、アミノ酸残基配列として本明細書に開示される。
【0022】
アミノ酸残基の配列はアミノ末端からカルボキシル末端へ記載される。配列位置の大文字は、1文字コードのL-アミノ酸を指す(Stryer,Biochemistry,第3編. p.21)。アミノ酸配列の位置を示す小文字は、対応するD-又は(2R)-アミノ酸を意味する。配列はアミノ末端からカルボキシ末端に向かって左から右に記載される。標準的な命名法に従い、アミノ酸残基の配列は、以下のように3文字又は1文字のコードのいずれかで表記される:アラニン(Ala、A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)及びバリン(Val、V)。
【0023】
「遺伝子発現」又は「発現」という用語、あるいは「遺伝子産物」という用語は、核酸(RNA)の生成又はペプチド又はポリペプチドの生成のプロセス-及びその産物-のいずれか、又は両方を指す場合があり、それぞれ転写及び翻訳ともよばれ、又は遺伝情報の処理を調節してポリペプチド産物をもたらす中間プロセスのいずれかを指す。「遺伝子発現」という用語はまた、RNA遺伝子産物、例えば調節RNA又は構造的(例えば、リボソーム)RNAの転写及びプロセシングにも適用される。発現ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には真核細胞におけるmRNAのスプライシングが含まれ得る。発現は、転写及び翻訳の両方のレベルで、言い換えればmRNA及び/又はタンパク質産物で、測定することができる。
【0024】
本明細書の文脈において、「配列同一性」、「配列類似性」及び「配列同一性のパーセンテージ」という用語は、整列される2つのポリペプチド配列を位置ごとに比較することによって決定される配列比較の結果を表す1つの定量的パラメータを指す。比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野でよく知られている。比較用の配列アラインメントは、Smith及びWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム,Adv.Appl.Math.2:482(1981)、Needleman及びWunschのグローバルアライメントアルゴリズム、J.Mol.Biol.48:443(1970)、Pearson及びLipmanの類似性検索法、Proc.Nat.Acad.Sci.85:2444(1988)、又はこれらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装によって実行され、CLUSTAL、GAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTAを含むが、これらに限定されない。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公的に入手可能である。
【0025】
アミノ酸配列の比較の一例として、デフォルト設定を使用したBLASTPアルゴリズムがある:期待閾値:10;ワードサイズ:3;クエリ範囲内の最大マッチ:0;マトリックス:BLOSUM62;ギャップコスト:存在(Existence)11、拡張(Extension)1;組成調整(Compositional adjustment):条件付き組成スコアマトリックス調整(Conditional compositional score matrix adjustment)。他に記載がない限り、本明細書で提供される配列同一性値は、BLAST一連のプログラム(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-410(1990))を用いて、タンパク質について上記で特定されるデフォルトパラメータを使用して得られる値を指す。
【0026】
パーセンテージを指定しない同一配列への言及は、100%同一配列(すなわち同じ配列)の意味を含む。
【0027】
本明細書の文脈において、「解離定数(KD)」という用語は、化学及び物理の技術分野で知られている意味で使用される:[主に2つの]異なる成分からなる複合体が、可逆的にその(2つの)構成成分に解離する傾向を測定する、平衡定数を意味する。この複合体は、例えば、抗体Abと抗原Agからなる抗体抗原複合体AbAgとすることができる。Kは、モル濃度[mol/l]で表され、[Ag]の結合部位の半分が占有される[Ab]の濃度に相当し、言い換えれば、未結合の[Ab]の濃度が[AbAg]複合体の濃度と等しいことに相当する。解離定数は、以下の式により算出することができる:
【数1】
[Ab]:抗体の濃度、[Ag]:抗原の濃度、[AbAg]:抗体-抗原複合体の濃度
【0028】
本明細書で使用されるとおり、「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とともに、本発明に係るβ2mと会合するHLA融合タンパク質を指す。特定の実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、局所投与、非経口投与、又は注射投与に適した形態で提供される。
【0029】
本明細書で使用されるとおり、「薬学的に許容される担体」という用語は、当業者に知られているように、任意の溶媒、分散媒体、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香料、色素など、及びその組み合わせを含む(例えば、Remington:the Science and Practice of Pharmacy,ISBN 0857110624を参照)。
【0030】
本明細書で使用されるとおり、任意の疾患又は障害(例えば、がん)の「治療する」又は「治療」という用語は、一実施形態では、疾患又は障害を緩和すること(例えば、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの発症を遅らせるか、阻止するか、又は軽減すること、例えば、腫瘍成長を遅らせること、又は減少すること)を指す。別の実施形態では、「治療する」又は「治療」とは、患者が識別できない可能性のあるものも含めて、少なくとも1つの身体的パラメータを緩和又は改善することを指す。さらに別の実施形態では、「治療する」又は「治療」とは、身体的(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理学的(例えば、身体的パラメーターの安定化)、又はその両方のいずれかで、疾患又は障害を調節することを指す。疾患の治療及び/又は予防を評価する方法は、以下の本明細書で特に説明しない限り、当技術分野で一般的に知られている。
【0031】
本明細書の文脈において、「ペプチドリンカー」又は「アミノ酸リンカー」という用語は、一本鎖のポリペプチドを生成するために2つのポリペプチドを接続するために使用される可変長のポリペプチドを意味する。本明細書で規定する本発明の実施に有用なリンカーの例示的な実施形態は、1、2、3、4、5、10、20、30、40又は50個のアミノ酸からなるオリゴペプチド鎖である。アミノ酸リンカーの非限定的な例は、HLA重鎖ポリペプチドを安定化ペプチドと連結するポリペプチドGGGGSGGGGS(配列番号003)であり、例えば、HLA融合タンパク質においてHLA-B57ポリペプチドとIgG4 Fcポリペプチドとを連結する。
【0032】
本明細書の文脈において、「ヒト白血球抗原(HLA)重鎖」、「HLA重鎖」という用語は、MHCクラスI組織適合抗原遺伝子によってコードされるタンパク質、特に古典的な、MHCクラス1a重鎖に関する。ヒトでは、HLA重鎖は単量体であることが可能であり、又はβ2m軽鎖と非共有結合的に結合した3つの細胞外ドメイン(α1、α2及びα3)を有する重鎖を含む二量体構造の一部を形成することが可能であり、又は任意に、ペプチド結合クレフト(cleft)に低分子ペプチドが会合した三量体構造を形成することが可能である。全長HLA重鎖ポリペプチドは、α1、α2、及びα3ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを含む。
【0033】
本発明のこの態様に係る用語の実施形態と考えられる天然に存在するHLA重鎖のリストを表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
本明細書の文脈における「変異体」という用語は、天然に存在するポリペプチド配列とは異なる少なくとも1つのアミノ酸残基を有するHLA重鎖ポリペプチド配列に関する。例えば、変異型HLA重鎖ポリペプチドは、由来する本来の天然に存在するヒトタンパク質配列とは異なるように、1個又は複数個のアミノ酸置換が導入されている。
【0036】
本明細書においてHLA重鎖又はHLA重鎖の変異体に適用される「細胞外ドメイン」という用語は、細胞表面から伸びるHLA重鎖ポリペプチドの細胞外部分を指す。HLAクラス1aポリペプチドの細胞外部分は、アルファ(α)1ドメイン、α2ドメイン、及びα3ドメインを含み、これらは、本発明に係る使用のための医薬組成物中のHLA融合タンパク質の免疫調節効果を媒介するレセプターリガンド相互作用に必須である。「細胞外ドメイン」は膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを除く。
【0037】
本明細書の文脈において、「HLA融合タンパク質」という用語は、HLA重鎖の細胞外ドメインを、安定化ドメインと、特に安定化免疫グロブリン(Ig)Fcと、任意にペプチドリンカーによって、結合してなる組換えポリペプチドを指す。この用語は、哺乳動物細胞培養から分泌されるβ2-ミクログロブリンポリペプチドと複合体化したこのような「HLA融合タンパク質」、及びβ2-ミクログロブリンと会合していない精製HLA融合タンパク質を包含する。「HLA融合タンパク質」という用語は、単一の安定化免疫グロブリン(Ig)Fcドメインに結合した単一のHLAポリペプチドを含む単量体、又は第1のHLA融合タンパク質単量体、及び第2のHLA融合タンパク質単量体の、特にそれらのIgFcドメインを介して結合される、会合によって形成される二量体を指し得る。
【0038】
本明細書の文脈において、「β2-ミクログロブリン(β2m、B2m)」、「B2mポリペプチド」、又は「β2mポリペプチド」という用語は、MHCクラスI分子のベータ(β)鎖を指し、HLA軽鎖としても知られる。「β2-ミクログロブリン」という用語は、第1に、分泌シグナル、例えば、Uniprot P61769の配列、又は配列番号006の配列を含む処理前のβ2-ミクログロブリン、及び第2に、本発明に係る医薬組成物内に含まれるHLA融合タンパク質:β2mポリペプチド複合体中に見出されるとおり、タンパク質の分泌シグナル部分が分泌プロセス中の切断によって除去されている、タンパク質の分泌後形態を包含する。
【0039】
本明細書の文脈において、「分泌シグナル」、「分泌シグナルペプチド」又は「分泌シグナル配列」という用語は、ポリペプチドのオープンリーディングフレーム(ORF)を開始するN末端リーダー配列を指し、通常、約6~30アミノ酸長である。まれに、分泌シグナルがポリペプチドのC末端に配置されることがある。分泌シグナルは、標的化シグナル、局在化シグナル、トランジットペプチド、リーダー配列、又はリーダーペプチドとよばれることもある。細胞からのポリペプチドの効率的な分泌を可能にする分泌シグナルはよく知られており、細胞に基づくポリペプチド製造システムにおいてポリペプチドの上清への排出を促進し、細胞上清からポリペプチドを精製できるようにするために、組換えタンパク質のORFに含めることができる。分泌シグナルをコードするmRNAが翻訳されると、mRNA-リボソーム複合体の小胞体(ER)内のチャネルタンパク質への移行を媒介する細胞質タンパク質によって認識される。分泌シグナルペプチドを含む新しく合成されたポリペプチドは、チャネルタンパク質を介して小胞体内腔に移行し、細胞の分泌経路に入る。本発明に係る特有の使用のシグナル配列は、例えば、配列番号004のように、翻訳後に最終ポリペプチド産物から切断されるものである。
【0040】
本明細書の文脈において、「免疫グロブリン結晶化可能断片(Fc)領域」又は「Ig Fc」という用語は、CH及びCHドメインから構成される抗体若しくは免疫グロブリン(Ig)の画分を指す。Ig Fcは、単量体、又はジスルフィド結合によって共有結合した2つのIg Fcからなる二量体の両方を含む。本発明に係るHLA融合タンパク質の文脈において、ジスルフィド結合は、それぞれがIg Fcドメインを含む2つのHLA融合タンパク質分子を結合し得る。HLA融合タンパク質にIg Fcが存在することで、溶解度、安定性、アビディティ(avidity)、半減期を向上し、技術的な観点からは、哺乳動物系でのコスト効率の良い生産及び精製(プロテインA又はG精製)が容易になる。
【0041】
本明細書の文脈において、「チェックポイント阻害剤」という用語は、免疫チェックポイント機構として当該技術分野で知られている、免疫細胞の活性化、及び特にT細胞の活性化、を制限する阻害性シグナル伝達カスケードを破壊することができるがん免疫療法剤、特に「チェックポイント阻害抗体」又は「抗体様分子」、例えば、抗体断片、ダイアボディ、単鎖可変抗体断片などを包含する。「チェックポイント阻害剤」の例としては、例えば、CTLA-4(Uniprot P16410)、PD-1(Uniprot Q15116)、PD-L1(Uniprot Q9NZQ7)、B7H3(CD276;Uniprot Q5ZPR3)、VISTA(Uniprot Q9H7M9)、TIGIT(UniprotQ495A1)、又はTIM-3(HAVCR2、Uniprot Q8TDQ0)、CD137(41BB、Uniprot Q07011)、CD40(Uniprot Q09LL4)、CD27(Uniprot P26841)、OX40(CD134、UniprotP43489)、NKG2A(Uniprot P26715)、CD86(Uniprot P42081)、CD80(Uniprot P33681)、LAG-3(Uniprot P18627)、に特異的に結合する抗体、抗体様分子、又は天然リガンドレセプターが挙げられる。
【0042】
「がん」及び「悪性新生物疾患」という用語は、本明細書では同義に用いられる。本明細書に開示された態様及び実施形態のいずれかの特定の代替物は、固形腫瘍の治療における本発明の組み合わせの使用に向けられる。本明細書に開示される態様及び実施形態のいずれかの他の代替物は、骨髄性白血病又は顆粒球性白血病、特にAML、リンパ性白血病、リンパ球性白血病、又はリンパ芽球性白血病及びリンパ腫、真性多血症又は赤血球減少症などの液体がんの治療における本発明の組み合わせの使用に向けられる。
【0043】
発明の詳細な説明
がん治療のためのHLA融合タンパク質を含む医薬組成物
本発明の第1の態様は、悪性新生物疾患の治療における使用のための医薬組成物に関し、前記組成物は、B2mポリペプチドと会合している、HLA融合タンパク質を含む。本発明に係る前記HLA融合タンパク質は、以下を含む:
- HLA重鎖の細胞外ドメイン(特に、細胞外α1、α2及びα3ドメインを含むもの)を含む第1のポリペプチド、及び
- 第2の安定化ポリペプチド、すなわち免疫グロブリンのIg Fc部分。
【0044】
β2m会合HLA融合タンパク質を使用することで、免疫調節性HLA融合タンパク質の収量が増加するという利点がもたらされ、これは、この生成物の製造では、β2m解離工程で生じるタンパク質の損失が生じないためであり(図2)、非β2m会合HLA融合タンパク質である代替物と比較して、腫瘍細胞の食細胞による取り込みなど、特定の免疫学的特性が向上するためである(図4)。重要なことに、HLA融合タンパク質及びβ2mを含む本発明に係る医薬組成物は、β2mポリペプチドを欠くHLA融合タンパク質の形式と比較して、ヒト免疫細胞を含むヒト化マウスにおいてがんを治療するための本発明に係る医薬組成物を使用する場合に、生存の延長と関連している(図5)。
【0045】
本発明に係る使用のための医薬組成物のいくつかの実施形態において、β2mポリペプチドは、HLA融合タンパク質にペプチドリンカーによって連結される。
【0046】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、β2mポリペプチドは、前記HLA融合タンパク質と非共有結合的に会合している。
【0047】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、β2m分子と3:5~7:5のモル比、より特に4:5~6:5のモル比で会合している。換言すれば、HLA融合タンパク質及びβ2mポリペプチドは、1:1の比、又はそれに近い比で存在する。HLAとβ2Mとへの言及は、特に断りのない限り、本書全体を通してモル(molar)として理解される。
【0048】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、それぞれβ2mポリペプチドと会合した2つのHLA融合タンパク質は、それらのFc部分を介して二量化形態で会合し得る。
【0049】
HLA重鎖ポリペプチド
コグネート(cognate)リガンド相互作用に必要とされないHLA重鎖タンパク質の特定のドメインは、本発明に係る使用のための医薬組成物に含まれるHLA融合タンパク質のHLAポリペプチド部分には含まれない。細胞内ドメイン及び膜貫通ドメインはHLA重鎖ポリペプチドには存在しない。
【0050】
本発明に係るHLA融合タンパク質若しくは単離されたHLA融合タンパク質を製造する方法の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質中に含まれるHLA-B57ポリペプチド変異体は、天然に存在するHLA重鎖タンパク質のアルファ1、2及び3ドメインを含み、これらの領域は、本発明に係るHLA融合タンパク質の免疫調節効果を媒介するレセプターリガンド相互作用に必須である。
【0051】
本発明に係るHLA融合タンパク質若しくは単離されたHLA融合タンパク質を製造する方法のより特定の実施形態において、HLA-B57ポリペプチドタンパク質変異体は、天然に存在するHLA重鎖タンパク質のアルファ1、2及び3ドメインであるが、C末端イソロイシン-バリンジペプチドを除き、それより細胞外ドメインのスレオニン-バリン-プロリン残基が先行し、それは時々「連結ペプチド」と注釈又は参照される膜貫通ドメインを先行するHLA-B57領域内にある。
【0052】
HLA重鎖は、キラー免疫グロブリン様レセプター(KIR)及び白血球免疫グロブリン様レセプター(LILR)といったリガンドと、膜貫通領域から離れた領域を介して相互作用することが構造データから示唆されている。膜に近いアミノ酸は、一般的にレセプターと相互作用しない。さらに、本発明者らは、天然に存在するHLA重鎖配列の細胞外ドメイン連結ペプチドの5C末端アミノ酸モチーフ内に疎水性アミノ酸が多く含まれることが、タンパク質の凝集傾向といった望ましくない性質を組換えタンパク質に導入する可能性が高く、その結果、下流の生産工程における生産、精製、安定性及び毒性に影響を及ぼす可能性があると推測している。
【0053】
特に本発明に係る使用のための医薬組成物において、HLA融合タンパク質成分のHLA重鎖細胞外ドメインポリペプチドは、アルファ1、2及び3ドメインを含むHLA重鎖タンパク質配列の細胞外部分のコア構造を含み、この部分は、標的細胞上の表面分子と相互作用する能力をHLA融合タンパク質に付与するからである。
【0054】
本発明に係る使用のための医薬組成物のいくつかの実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖ポリペプチド部分は、表1に列挙される天然に存在するHLA重鎖の細胞外ドメインのポリペプチド配列を有する。特定の実施形態において、HLA重鎖細胞外ドメインは、自然免疫細胞及び適応免疫細胞の機能を変化させる制御性KIR3DL1、LILRA及びLILRB1/2細胞表面タンパク質への特異的結合といった免疫調節資質を有する天然に存在するHLA重鎖のものである。いくつかのそのような実施形態では、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B58の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。いくつかのそのような実施形態では、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B27の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。他の実施形態では、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B44の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B81の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。他の実施形態では、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-C12の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。特定の実施形態において、HLA融合タンパク質のHLA重鎖部分は、HLA-B57の細胞外ドメインに由来する、又は本質的にそれである。
【0055】
本発明に係る医薬組成物の別の実施形態では、HLA融合タンパク質は、46位のE及び97位のRを特徴とするHLA-Cw08:02重鎖の細胞外ドメインを含む。これは本発明者らがこのポリペプチドが良好な発現資質を持つことを発見したためである。
【0056】
がんの治療に使用するための医薬組成物のさらなる実施形態では、前記組成物は:
a. HLA融合タンパク質であって:
i. 46位のE、及び97位のRを特徴とするHLA-C08重鎖の細胞外ドメイン;又はHLA-C08重鎖の細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及び類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体と;
ii. 免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチドと;
を含む、前記HLA融合タンパク質、及び
b. β2mポリペプチド、
を含み、
特にここでHLA融合タンパク質は、ポリペプチド配列番号010を含み、より特にHLA融合タンパク質は、配列番号010の配列からなる。
【0057】
本発明による医薬組成物の別の実施形態では、HLA融合タンパク質は、46位のE及び97位のRを特徴とするHLA-B58:01重鎖の細胞外ドメインを含み、これは本発明者らがこの重鎖ドメインが良好な発現資質を有することを発見したためである。
【0058】
がんの治療に使用するための医薬組成物のさらなる実施形態では、前記組成物は、以下を含む:
a.HLA融合タンパク質であって:
i. 46位のE、及び97位のRを特徴とするHLA-B58重鎖の細胞外ドメイン;又はHLA-B58重鎖の細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及び類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体と;
ii. 免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチドと;
を含む、前記HLA融合タンパク質、及び
b. β2mポリペプチド、
を含み、
特にここで、HLA融合タンパク質はポリペプチド配列番号009を含み、より特にHLA融合タンパク質は配列番号009の配列からなる。本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、変異型HLA重鎖細胞外ドメインポリペプチドを含む。前記変異型HLA重鎖ポリペプチドは、HLA重鎖の非変異型細胞外ドメインに対して少なくとも(≧)95%の(タンパク質レベルにおける)配列類似性、及びHLA融合タンパク質において本来の配列と比較して類似の生物学的活性を有することを特徴とする。特定の実施形態において、変異型HLA重鎖は、HLA融合タンパク質において本来の配列と比較して類似の生物学的活性を有すると同時に、由来する天然に存在するHLA重鎖細胞外ドメインと98%以上類似している。
【0059】
「類似の生物学的活性」とは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)で測定した場合、等価な非変異体構造と比較して、変異型HLA重鎖ポリペプチドHLA融合タンパク質がLILRB2に結合する能力の少なくとも65%、又は特に85%、又は100%と定義される。生物学的活性はEC50を計算することによって評価することができる。すなわち、半最大応答を与える融合タンパク質の濃度であり、この場合はビオチン化LILRB2分子への最大結合の半分である。例えば、同等の非β2m関連HLA-B57及びHLA-B57(A46E/V97R)重鎖融合タンパク質のEC50は、それぞれ21nM及び8.3nMであることが示され、変異体の生物学的機能が野生型配列の生物学的機能を上回ることが示された(図3A)。
【0060】
本発明に係るEC50を決定するために、ストレプトアビジンでコーティングした高結合能96ウェルプレートに、PBSバッファー中で最終濃度が5μg/mlであるc末端ビオチン化LILRB2(例えば、BPS Bioscience#100335から入手)50μlでコーティングする。陰性コントロールとしてPBS及びIgGアイソタイプを使用することができる。HLA融合タンパク質の連続希釈を漸増連続で行う(例えば、8つの濃度ポイント:10、2.5、1、0.25、0.1、0.025、0.01、0.0025μg/ml)、好ましくは50ulの繰り返し(duplicate)で適用する。次いで、融合タンパク質を検出できる標識抗体(例えば、APC結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson Immuno Research #109-135-098、TBS 50μl中1:100希釈)を適用して、HLA融合タンパク質の結合とバックグラウンドとを検出することができ、かつ蛍光の励起と発光とを適切な波長(例えば、650nmと660nm)で測定することができる。ELISAによりLILRB2に結合するHLA融合タンパク質のEC50を決定するには、3種のパラメータに基づくlog(アゴニスト)モデルが一つの適切な手段である。
【0061】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、天然に存在するHLA重鎖細胞外ドメインポリペプチドのポリペプチド配列と異なる少なくとも1個、又は2個の特定のアミノ酸置換を特徴とする、変異型HLA-B57重鎖細胞外ドメインポリペプチドを含む。HLA-B57重鎖遺伝子ファミリーは、現在、221個の既知の変異体を包含し、HLA-B57:01~HLA-B57:141で番号付けした特有の核酸配列を有し、数十の特有のタンパク質配列をコードする。該タンパク質配列は既知であり、例えば、European Bioinformatics Institute Immuno Polymorphism Database,(Robinson J.ら,2013 Nucleic Acids Res. 41:D1234,https://www.ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/allele.html)が提供するMGT/HLA Allele Query Formに検索語「B57」を入力することで検索することができる。より特定の実施形態において、HLA重鎖ポリペプチドは、HLA-B57重鎖ポリペプチド配列の天然に存在する細胞外ドメインの変異体であり、この変異体HLA重鎖ポリペプチドが46位のE及び97位のRを特徴とするように、1個又は2個のアミノ酸置換が行われている。すなわち、E以外のアミノ酸が46位のEで置換され、及び/又はR以外のアミノ酸が97位のRで置換されている。これらのアミノ酸の番号付けは、分泌シグナルを欠く分泌型HLA-B57部分の細胞外ドメインを開始するG、S、Hモチーフ(又は同等のモチーフ、例えばHLA-C08ポリペプチドではC、S、H)から始まる整数を1、2、3と順次割り当てることを意味する。本発明者らは、これらのアミノ酸置換が、野生型配列と比較して得られる変異型ベースのHLA融合タンパク質の収率が高く(図1及び図2)、LILRB2結合プロファイルが良好であることと相関することを見出した。
【0062】
本発明に係る使用のための医薬組成物のより特定の実施形態において、本発明に係るHLA融合タンパク質のHLA重鎖細胞外ポリペプチド部分は、配列番号001と指定される変異体HLA-B57配列を含む。さらにより特定の実施形態では、HLA重鎖ポリペプチドは、配列番号001と指定される配列から本質的になる。
【0063】
本発明に係る医薬組成物の別の実施形態では、HLA融合タンパク質は、46位のE及び97位のRを特徴とするHLA-A30:01重鎖の細胞外ドメインの変異体を含む。これは本発明者らがこの重鎖が良好な発現資質を持つことを発見したためである。
【0064】
がんの治療に使用するための医薬組成物のさらなる実施形態では、前記組成物は、以下を含む:
a. HLA融合タンパク質であって:
iii. 46位のE、及び97位のRを特徴とするHLA-A30重鎖の細胞外ドメイン;又はHLA-A30重鎖の細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及び類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体と;
iv. 免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチドと;
を含む、前記HLA融合タンパク質、及び
b. β2mポリペプチド、
を含み、
特にここでHLA融合タンパク質は、ポリペプチド配列番号012を含み、より特にHLA融合タンパク質は、配列番号012の配列からなる。
【0065】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA重鎖ポリペプチド及びIg Fcポリペプチドは、ペプチドリンカーによって結合される。特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、5~20のアミノ酸長である。より特定の実施形態において、この結合化ペプチドリンカーは、配列番号003の配列を有する。
【0066】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、配列番号005と指定される配列を有するポリペプチドを含み、かつβ2mポリペプチドと会合している。他の実施形態では、HLA融合タンパク質は、配列番号005の配列の上流に分泌シグナルをさらに含む。特定の実施形態において、HLA融合タンパク質ポリペプチドの上流の分泌シグナルは配列番号004である。他の実施形態では、HLA融合タンパク質は、配列番号004の分泌シグナルが配列番号005と指定されるポリペプチドに結合したものから本質的になる。本発明に係る使用のための医薬組成物のより特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、本質的に配列番号005と指定される配列(IgG4 Fcに融合したHLA-B57の変異型細胞外ドメインを含むもの)からなり、かつβ2mポリペプチドと会合している。
【0067】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質と会合しているβ2mポリペプチドは、配列番号006と指定される配列を有する。
【0068】
本発明に係る使用のための医薬組成物の別の実施形態において、HLA融合タンパク質は、単一の異なるアミノ酸残基(ここで、単一の異なるアミノ酸残基は、46位又は97位ではない)を除いて、配列番号001と同一のHLA-B57重鎖ポリペプチドを含む。換言すれば、46位及び/又は97位の1個、場合によっては2個のアミノ酸置換に加えて、本実施形態による組換えHLA-B57ポリペプチドは、それが由来する天然に存在するHLA-B57分子と比較して、少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換を含む。
【0069】
ペプチドの安定化と連結
本発明に係る使用のための医薬組成物のHLA融合部分は、発現及び精製の間の安定性を付与する安定化ポリペプチドを含む。HLA融合タンパク質の安定化部分の存在は、HLA融合タンパク質の分解とオリゴマー化とを減少させることにより、収量及び溶解度を増加させ、さらに融合タンパク質を発現する細胞の生存率の改善に関連している。
【0070】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質の安定化ポリペプチドは、ヒトIg Fcポリペプチドである。また、Ig Fc部分は、リサイクルレセプターに結合することにより、in vivoでの分子のin vivo半減期を延長する可能性がある。本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、安定化ポリペプチドはアイソタイプIgG Fcである。IgG Fc安定化ペプチドドメインは、HLA融合タンパク質の精製時にさらなる利点をもたらし、プロテインA又はGでコーティングした表面への吸収を可能にする。本発明者らは、Ig Fcの代わりに機能性HLAポリペプチドに結合させれば、同様の利点をもたらす可能性のある代替物はウシ血清アルブミンであり得ると考えている。本発明者らのこれまでの研究により、ウシ血清アルブミンなどのアルブミン分子もまた安定化ポリペプチドとして機能し得ることが確立されている。PEG化は循環中のタンパク質の半減期を延長することができ、本発明による安定化ポリペプチドとしてうまく機能する可能性があることも知られている。
【0071】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、低い細胞毒性のために治療的融合タンパク質の望ましいアイソタイプであるIgG4ポリペプチドを含む。本発明に係る使用のための医薬組成物のさらに特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、配列番号002の配列を有する改変IgG4 S228P.dk分子を含む。これはIgG4のヒンジ領域の変異を特徴とし、本来のIgG4抗体の228位のプロリン(P)がセリン(S)に置換されており、及びdKは本来のIgG4配列上の最後のアミノ酸であるリジン(K)の欠失を示す。これらの変更により、IgG4フォーマットは安定化し、異種性(heterogenicity)が少なくなる。どちらの変化もよく確立されており、及び多様なFc構築物において一般的に使用される。
【0072】
本発明に係る使用のための医薬組成物の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質は、ペプチドリンカー(長さが5、10、15、又は20残基のアミノ酸の短い配列)によって単一のポリペプチド鎖の一部としてIgGポリペプチドと結合されたHLAポリペプチドを含む。
【0073】
特定の実施形態において、ペプチドリンカーは、セリン残基及びグリシン残基に富む配列などの非免疫原性配列である。より特定の実施形態において、ペプチドリンカーは、配列番号003の配列を有する。
【0074】
がんの治療に使用するための医薬組成物の特定の実施形態では、それは二量体の形式である。前記二量体は、第1の単量体と第2の単量体とを含み、及び各単量体は、他の単量体とは独立に、HLA融合タンパク質、Ig Fc部分に融合したHLA重鎖細胞外ドメインポリペプチドを含み、後者はジスルフィド結合を介して会合し得る。本発明に係る各単量体は、B2mポリペプチドとさらに会合している。
【0075】
ヒト細胞の小胞体で発現する天然HLA分子は、細胞表面への輸送及び表示を受ける前に、ペプチドエピトープと会合する。本発明に係る医薬組成物の特定の実施形態において、HLAポリペプチドは、ペプチドエピトープと会合しない。すなわち、HLAポリペプチドのアルファ1ドメイン及びアルファ2ドメインによって形成される抗原結合溝、又は抗原結合クレフトには、小さな抗原性ペプチドは結合しない。ペプチドがHLAクラス分子に結合すると、そのコンフォメーションが変化し、LILRB1及びLILRB2といった結合パートナーとの相互作用に影響を及ぼす可能性があると考えられている。本発明に係るB2mポリペプチドに会合し、さらにペプチドエピトープに結合していない、HLA-B57ポリペプチドの結合親和性及び免疫調節効果は、実施例の図3図11に示される。
【0076】
HLA融合タンパク質医薬組成物の用量及び用法
本発明に係る悪性新生物疾患の治療に使用するための医薬組成物は、B2mポリペプチドに会合しているHLA融合タンパク質を含み、典型的には、薬剤の制御が容易な投与量を提供し、患者に洗練された取り扱いが容易な製品を与えるために、医薬剤形に製剤化される。前記医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。さらなる実施形態において、本組成物は、本明細書に記載されるような少なくとも2つの薬学的に許容される担体を含む。
【0077】
本発明の医薬品組成物の投与レジメンは、特定の薬剤の薬力学的特性及びその投与様式及び投与経路;レシピエントの種、年齢、性別、健康状態、病状、及び体重;症状の性質及び程度;同時治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに所望の効果などの既知の因子によって変化する。特定の実施形態において、本発明の医薬品組成物は、1日1回投与してもよいし、1日の総投与量を1日に2回、3回、又は4回の用量に分けて投与してもよい。
【0078】
医薬組成物を調製するための多くの手順及び方法は当技術分野で知られており、例えば、L.Lachmanら,Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4編,2013(ISBN 8123922892)を参照されたい。
【0079】
併用医薬
本発明の別の態様は、チェックポイント阻害剤と組み合わせて投与するために製剤化された医薬組成物(本発明の第1の態様によるHLA融合タンパク質:B2mポリペプチド複合体を含む)である。
【0080】
本発明の別の態様は、本発明の第1の態様によるHLA融合タンパク質を含む医薬組成物と組み合わせて投与するために製剤化される、悪性新生物疾患の治療に使用するためのチェックポイント阻害剤である。
【0081】
本発明に係る医薬組成物、又はチェックポイント阻害剤の特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤は、免疫細胞の活性化、及び特にT細胞の活性化、を制限する阻害性シグナル伝達カスケードを破壊することができる。特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤は、10-7mol/L以下の解離定数でCTLA-4、PD-1、PD-L1、又はPD-L2のいずれかに結合可能な抗体断片、又は抗体様分子である。
【0082】
特に、チェックポイント阻害剤は、非アゴニストCTLA-4リガンド、非アゴニストPD-1リガンド、非アゴニストPD-L1リガンド、又は非アゴニストPD-L2リガンドであり、これらはT細胞表面のCTLA-4、PD-1、PD-L1、又はPD-L2にそれぞれ結合する場合にT細胞の活性の減衰をもたらさない。特定の実施形態において、「非アゴニストCTLA-4リガンド」又は「非アゴニストPD-1リガンド」という用語は、CTLA-4又はPD-1のアンタゴニストと、CTLA-4又はPD-1のシグナル伝達に対して中立であるリガンドの両方を含む。いくつかの実施形態において、本発明で使用される非アゴニストCTLA-4リガンドは、CTLA-4に結合した場合に、CTLA-4とその結合パートナーであるCD80及び/又はCD86との相互作用を立体的にブロックすることができ、本発明で使用される非アゴニストPD-1リガンドは、PD-1に結合した場合に、PD-1とその結合パートナーであるPD-L1及び/又はPD-L2との相互作用を立体的にブロックすることができる。
【0083】
特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤は、少なくとも、K値10-7mol/Lで表されるように少なくとも親和性を示す解離定数でCTLA-4に結合する能力、又は少なくとも10-8mol/L、さらには10-9mol/LのK値を特徴とするより強い結合能力、を介して阻害性シグナル伝達カスケードを破壊し、その結果、それぞれの標的の生物学的活性を阻害する。本発明の意味における非アゴニストPD-1リガンド又は非アゴニストPD-L1(PD-L2)リガンドとは、少なくとも10-7mol/L、特に10-8mol/L又はさらには10-9mol/L以下の解離定数でPD-1(PD-L1、PD-L2)に結合することができ、それぞれの標的の生物学的活性を阻害する分子を指す。
【0084】
さらに特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、臨床的に利用可能な抗体薬であるイピリムマブ(Bristol-Myers Squibb;CAS番号477202-00-9)、トレメリムマブ(CAS745013-59-6)、ニボルマブ(Bristol-Myers Squibb;CAS番号946414-94-4)、ピディリズマブ(CAS番号1036730-42-3)、アテゾリズマブ(Roche AG;CAS番号1380723-44-3)、アベルマブ(Merck KGaA;CAS番号1537032-82-8)、デュルバルマブ(Astra Zeneca、CAS番号1428935-60-7)、及びセミプリマブ(Sanofi Aventis;CAS番号1801342-60-8)から選択されるチェックポイント阻害抗体である。さらにより特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤はペムブロリズマブ(Merck Inc;CAS番号1374853-91-4)である。
【0085】
チェックポイント阻害剤の形式に関する抗体断片は、抗体のFabドメイン又は可変断片(Fv)ドメインであってもよく、又はペプチドリンカーで連結した抗体の軽鎖と重鎖との可変領域からなる融合タンパク質である一本鎖抗体断片であってもよい。チェックポイント阻害抗体はまた、重鎖又は軽鎖からの単離された可変ドメインからなる、単一ドメイン抗体であってもよい。さらに、抗体は、ラクダ科動物に見られる抗体のように、重鎖のみからなる重鎖抗体であってもよい。抗体様分子は、設計されたアンキリンリピートタンパク質(Molecular Partners、チューリッヒ)などのリピートタンパク質であってもよい。
【0086】
特定の実施形態において、併用療法は、2種の異なる剤形を含み、例えば、HLA融合タンパク質を含む前記医薬組成物が、例えば固形腫瘍への皮下注入又は腫瘍内注入による、腫瘍内送達又は腫瘍近傍の局所送達のための剤形として提供され、前記チェックポイント阻害剤が、特に静脈注入による、全身送達のための剤形として提供される。しかしながら、前記チェックポイント阻害剤及びHLA融合タンパク質を含む前記医薬組成物は、2種の類似の剤形で送達することもできる。
【0087】
併用投与とは、チェックポイント阻害剤とHLA融合タンパク質を含む医薬組成物とを両方同時に投与すること、あるいは別々の製剤で投与すること、あるいは第1の物質を、例えば、第2の物質の投与前1週間、あるいは少なくとも投与前1ヶ月、あるいは直後、例えば、第2の物質の投与後1週間、あるいは多くても投与後1ヶ月に投与することを包含する。
【0088】
医療、剤形、製造方法
本発明に係る使用のための医薬組成物は、様々な形態のがんの治療に使用するために提供される。他の形態のLILBR2指向性抗新生物療法(本発明に係る医薬組成物が作用すると予測される複数の機序の1つ)に関する前臨床研究では、腎がん及び卵巣がんにおける有効性が実証されている。LILRB2標的抗体MK-4830の安全性及び忍容性は、現在、幅広い固形臓器がん(中皮腫、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がん、肺がん、神経膠芽腫、膵臓がん、胃がん)を対象とする臨床試験において、化学療法との併用において調査中であり(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT03564691)、本発明者らは、これらすべてのがんが、本発明に係る医薬組成物によってうまく効果的に治療される可能性があると考える。
【0089】
HLA融合タンパク質を含む医薬組成物の特定の実施形態では、液状がん、血液がんの一種を治療するのに使用するために提供される。本発明者らは、本発明に係る医薬組成物によって誘導される特徴的なT細胞の排出、及び血液がん細胞をT細胞へ循環するアクセス性、及びマクロファージの活性化は、治療が有効である可能性が高いことを意味すると考えている。特にそのような実施形態では、医薬組成物は、T細胞白血病と診断された患者に使用するために提供される。他の特定の実施形態において、医薬組成物は、実施例においてDaudi細胞によってモデル化されたバーキットリンパ腫を含むがこれらに限定されない、リンパ腫と診断された患者における使用のために提供される。さらなる実施形態において、医薬組成物は、RPMI-8226細胞株(図4)によってモデル化されるとおり、多発性骨髄腫と診断された患者に使用するために提供される。
【0090】
他の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質を含む医薬組成物は、固形がん、又は固形がんの転移と診断された患者に使用するために提供される。いくつかの特定の実施形態において、医薬組成物は、肺がんと診断された患者に使用するためのものである。特定の実施形態では、肺がんは非小細胞肺がんの一形態である。他の特定の実施形態では、肺がんは小細胞肺がん又はがん腫の一形態である。他の特定の実施形態において、HLA融合タンパク質を含む医薬組成物は、乳がんの一形態と診断された患者に使用するためのものである。より特定の実施形態では、がんはエストロゲンレセプター陽性である。他の特定の実施形態では、がんはプロゲステロンレセプター陽性である。他の特定の実施形態では、がんはヒト上皮成長因子レセプター2陽性である。
【0091】
いくつかの特定の実施形態において、HLA融合タンパク質、又は免疫チェックポイント阻害剤を含む医薬組成物は、結腸がんと診断された患者に使用するためのものである。特定の実施形態では、転移性結腸がんである。
【0092】
チェックポイント阻害剤と組み合わせた本発明に係る医薬組成物の投与に関する本発明の態様のいくつかの実施形態では、チェックポイント阻害療法が単剤療法、又は併用療法として承認されている悪性疾患、又はがんの一形態における使用のために提供される。特定の実施形態において、併用治療は結腸がん、特に転移性結腸がんの患者に使用するためのものである。他の特定の実施形態では、がんは黒色腫である。さらに特定の実施形態では、がんは膵臓がんである。さらに特定の実施形態では、がんは乳がんである。
【0093】
同様に本発明の範囲内にあるのは、がん患者を治療する方法であって、本発明に係るB2mポリペプチドに会合しているHLA融合タンパク質を含む医薬組成物を、任意にチェックポイント阻害剤と組み合わせて、患者に投与することを含む方法である。本発明は、さらに別の態様として、がんの治療又は予防のための医薬の製造方法において使用するための、上記で詳細に規定したHLA融合タンパク質及びβ-2-ミクログロブリンを含む医薬組成物の使用をさらに包含する。
【0094】
剤形は、皮下注射、静脈注射、肝内注射、筋肉内注射などの非経口投与であってもよい。任意に、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤が存在してもよい。
【0095】
本明細書において、1つの分離可能な特徴の代替形態が「実施形態」として記載されている場合、そのような代替形態は自由に組み合わせて、本明細書に開示される本発明の個別の実施形態を形成することができると理解されるものとする。
【0096】
本発明は、以下の項目によってさらに説明される:
【0097】
項目A. 悪性新生物疾患の治療に使用するためのHLA融合タンパク質であって、前記HLA融合タンパク質は:
i. 天然に存在するMHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチド、又は変異型MHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチドであって、
天然に存在するMHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチドのポリペプチド配列と、1個又は2個以下のアミノ酸置換によって異なる、前記変異型MHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチド;及び
ii. Ig Fcポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチド;
を含み、かつ
ここで、HLA融合タンパク質はβ2ミクログロブリン(B2m)ポリペプチドと会合している、
前記HLA融合タンパク質。
【0098】
項目B. 天然に存在するMHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチドは、B57、C08、A25、B58、B27、A30、B53、又はC12から選択されるHLA重鎖からのMHCクラスIa重鎖ポリペプチドの細胞外ドメインである、項目Aに記載の使用のためのHLA融合タンパク質。
【0099】
項目C. 変異型MHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチドは、HLA-B57ポリペプチドの天然に存在する細胞外ドメインの変異体であり、
かつ変異型MHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチドは、46位のE、及び97位のRを特徴とする、項目A又はBに記載の使用のためのHLA融合タンパク質。
【0100】
項目D. 組換えMHCクラス1a重鎖ポリペプチドは、配列番号001の配列を含む、又はそれから本質的になる、項目A~Cのいずれか1項に記載の使用のためのHLA融合タンパク質。
【0101】
項目E.
a. 項目A~Dのいずれか1項に規定される変異型MHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチド、又は天然に存在するMHCクラス1a重鎖細胞外ドメインポリペプチド、
b. IgG Fcポリペプチド、特にIgG4 Fcポリペプチド、より特に配列番号002の配列を有するIgG4 Fcポリペプチド、
c. 組換えHLA-B57ポリペプチドをIg Fcポリペプチドに連結するペプチドリンカー、特に5~20アミノ酸長のペプチドリンカー、より特に配列番号003の配列を有するペプチドリンカー、
を含む、項目A~Dのいずれか1項に記載の使用のためのHLA融合タンパク質であって、かつ
任意に、HLA融合タンパク質は:
d. 分泌シグナル、特に16~30アミノ酸長であり、より特に分泌シグナルが細胞から分泌される過程の間に切断により除去される分泌シグナル、さらにより特に配列番号004の配列を有する分泌シグナル、
をさらに含む、
前記HLA融合タンパク質。
【0102】
項目F. HLA融合タンパク質は、配列番号005と指定される配列を含む、又はそれから本質的になる、項目A~Eのいずれか1項に記載の使用のためのHLA融合タンパク質。
【0103】
項目G. HLA融合タンパク質は、B2mポリペプチドと、3:5~7:5の比、より特に4:5~6:5の比で、非共有結合的に会合している、項目A~Fのいずれか1項に記載の使用のためのHLA融合タンパク質。
【0104】
項目H. 前記HLAは、第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体を含む二量体の形態であり、
前記第1のHLA融合タンパク質単量体は、本質的に、第1のB2mポリペプチドと会合している、項目A~Gのいずれか1項に規定される第1のHLA融合タンパク質からなり;かつ
前記第2のHLA融合タンパク質単量体は、本質的に、第2のB2mポリペプチドと会合している、項目A~Gのいずれか1項に規定される第2のHLA融合タンパク質からなり、かつ
特に、第1のHLA単量体と第2のHLA単量体とが同一である、
項目A~Gのいずれか1項に記載の使用のためのHLA融合タンパク質。
【0105】
項目I. 前記HLAは、ペプチドエピトープと会合していない、項目A~Gのいずれか1項に記載の使用のためのHLA融合タンパク質。
【0106】
項目J. 項目A~Iのいずれか1項に記載のHLA融合タンパク質を含む、医薬組成物であって、
特に、HLA融合タンパク質は、B2mポリペプチドと3:5~7:5の比、より特に4:5~6:5の比で非共有結合的に会合している、前記医薬組成物。
【0107】
項目K. 悪性新生物疾患の治療における使用のための、項目Jに記載のHLA融合タンパク質を含む医薬組成物。
【0108】
項目L.
- 医薬組成物は、チェックポイント阻害剤と、特に抗体、抗体断片、又は抗体様分子から選択されるチェックポイント阻害剤と、組み合わせて投与され、
- 特に前記チェックポイント阻害抗体は、CTLA-4、PD-1、PD-L1、又はPD-L2のうちの1つと少なくとも10-7-1の解離定数で結合することができ、かつ
- 前記チェックポイント阻害抗体は、全身投与用の剤形で提供される、
項目Kに記載の使用のための医薬組成物。
【0109】
項目M. 悪性新生物疾患の治療に使用するチェックポイント阻害剤であって、
- チェックポイント阻害剤は、項目A~Iのいずれか1項に記載の使用のためのHLA融合タンパク質、又は項目J~Lのいずれか1項に記載の医薬組成物と組み合わせて投与され、
- 前記チェックポイント阻害抗体は、CTLA-4、PD-1、PD-L1、又はPD-L2のうちの1つと10-7M以下の解離定数で結合可能であり、
- 前記チェックポイント阻害抗体は、全身投与用の剤形で提供され、かつ
- 特にチェックポイント阻害剤は、抗体、抗体断片、又は抗体様分子から選択される、
前記チェックポイント阻害剤。
【0110】
項目N. 悪性新生物疾患の治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は:
a. HLA融合タンパク質であって:
i. ヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチドであって:
・ HLA重鎖の細胞外ドメイン、特にHLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53、又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖の細胞外ドメイン;又は
・ HLA重鎖の前記細胞外ドメインの変異体であって、前記変異体は、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及び類似の生物学的活性を特徴とする、前記変異体;
から選択される、前記ヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチドと;
ii.免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチドと;
を含む、前記HLA融合タンパク質、及び
b. ベータ2ミクログロブリン(β2m)ポリペプチド、
を含む、前記医薬組成物。
【0111】
項目O. HLA融合タンパク質は、β2mポリペプチドと非共有結合的に会合している、項目Nに記載の使用のための医薬組成物。
【0112】
項目P. HLA融合タンパク質は、β2mポリペプチドと3:5~7:5の比、特に4:5~6:5の比、より特には約1の比で、非共有結合的に会合している、項目N又はOに記載の使用のための医薬組成物。
【0113】
項目Q. HLA重鎖ポリペプチドは、HLA-B57の細胞外ドメインの変異体であり、かつ
HLA重鎖ポリペプチドは、46位のE及び97位のRを特徴とする、項目N~Pのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物、
【0114】
項目R. HLA重鎖ポリペプチドは、配列番号001の配列を含む、又は本質的にそれからなる、項目N~Qのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0115】
項目S. HLA融合タンパク質は:
a. 項目N~Rのいずれか1項で特定されるHLA重鎖ポリペプチド;
b. IgG Fcポリペプチド、特にIgG4 Fポリペプチド、より特に配列番号002の配列を有するIgG4 Fcポリペプチド;及び/又は
c. HLA重鎖ポリペプチドをIgG Fcポリペプチドに連結するペプチドリンカー、特に5~20アミノ酸長のペプチドリンカー、より特に配列番号003の配列を有するペプチドリンカー;
を含み、かつ
任意に、HLA融合タンパク質は:
d. 分泌シグナル、特に16~30アミノ酸長である分泌シグナル、より特に分泌シグナルが細胞から分泌される過程の間で切断により除去される分泌シグナル、さらにより特に配列番号004の配列を有する分泌シグナル、
をさらに含む、
項目N~Rのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0116】
項目T. HLA重鎖ポリペプチドは、IgG Fcポリペプチドに対してN末端に位置する、項目N~Sのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0117】
項目U. HLA融合タンパク質は、配列番号005と指定される配列を含む、又は本質的にそれからなる、項目N~Tのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0118】
項目V. HLA融合タンパク質は、二量体の形態であり、前記二量体は、第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体を含む、又は本質的にそれからなり;
- 第1のHLA単量体は、項目N~Uのいずれか1項に規定される第1のHLA融合タンパク質、及び第1のβ2mポリペプチドから本質的になり;かつ
- 第2のHLA単量体は、項目N~Uのいずれか1項に規定される第2のHLA融合タンパク質、及び第2のB2mポリペプチドから本質的になり;
特に、第1のHLA単量体と第2のHLA単量体とが同一である、
項目N~Uのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0119】
項目W. HLA融合タンパク質は、ペプチドエピトープと会合していない、項目N~Vのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0120】
項目X.
医薬組成物は、チェックポイント阻害剤の前に、それと組み合わせて、又はその後に投与される、項目N~Wのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0121】
項目Y. 悪性新生物疾患の治療における使用のためのチェックポイント阻害剤であって、チェックポイント阻害剤は、項目N~Xのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物の前に、それと組み合わせて、又はその後に投与される、前記チェックポイント阻害剤。
【0122】
項目Z. 前記チェックポイント阻害剤は、少なくとも10-7mol/Lの解離定数で、CTLA-4、PD-1、PD-L1、又はPD-L2のうちの1つに結合することが可能であり、特に、前記チェックポイント阻害剤は、抗体、抗体断片、又は抗体様分子から選択される、項目N~Xのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物、又は項目Yに記載の使用のためのチェックポイント阻害剤。
【0123】
項目AA. 前記チェックポイント阻害剤は、全身送達に適した剤形で提供される、項目X若しくはZのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物、又は項目Y若しくはZに記載の使用のためのチェックポイント阻害剤。
【0124】
項目BB.悪性新生物疾患は:
a. 血球由来のがん、特にリンパ腫、白血病、骨髄腫から選択される血球由来のがん、又は
b. 固形腫瘍、特に肺細胞由来、乳房細胞由来、又は結腸細胞由来の固形腫瘍、
である、項目N~X、Z、又はAAのいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0125】
項目CC.悪性新生物疾患は、結腸がん、乳がん、膵臓がん、又は黒色腫から選択される、項目Y~AAのいずれか1項に記載の使用のためのチェックポイント阻害剤。本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を導き出すことができる。これらの実施例は本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【0126】
本発明はさらに、がん治療への適用において上記に詳細に開示されるとおり、医薬組成物を対象とした以下の項目を包含する:
【0127】
項目1:医薬組成物であって:
a.HLA融合タンパク質であって:
i. HLA重鎖の細胞外ドメインから選択されるヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチドと、
特に、HLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53、又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖と;
ii. 免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチドと;
を含む、前記HLA融合タンパク質、及び
b. ベータ2ミクログロブリン(B2m)ポリペプチド
を含む、前記医薬組成物。
【0128】
項目1a:医薬組成物であって、:
a.HLA融合タンパク質
i. HLA-B57、HLA-C08、HLA-A25、HLA-B58、HLA-B27、HLA-A30、HLA-B53、又はHLA-C12から選択されるHLA重鎖の細胞外ドメインの変異体から選択されるヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチドであって、前記変異体は、HLA重鎖のそれぞれの細胞外ドメインと比較して、少なくとも(≧)95%、特に≧98%の配列類似性、及び類似の生物学的活性を特徴とする、前記ヒト白血球抗原(HLA)重鎖ポリペプチドと;
ii. 免疫グロブリン結晶化可能断片(Ig Fc)ポリペプチド、特にIgG Fcポリペプチド、より特にIgG4 Fcポリペプチドと;
を含む、前記HLA融合タンパク質:及び
b. ベータ2ミクログロブリン(B2m)ポリペプチド
を含む、前記医薬組成物。
【0129】
項目2:HLA融合タンパク質はB2mポリペプチドと非共有結合的に会合している、項目1~2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0130】
項目3:HLA融合タンパク質は、B2mポリペプチドと3:5~7:5の比、特に4:5~6:5の比、より特に約1の比で、非共有結合的に会合している、項目1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0131】
項目4: HLA重鎖ポリペプチドは、HLA-B57の細胞外ドメインの変異体であり、HLA重鎖ポリペプチドは、46位のE、及び97位のRを特徴とする、項目1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0132】
項目5: HLA重鎖ポリペプチドは、配列番号001の配列を含む、又は本質的にそれからなる、項目1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0133】
項目6:HLA融合タンパク質は:
a.項目 1~5のいずれか1項に規定されるHLA重鎖ポリペプチド;及び
b. IgG Fcポリペプチド、特にIgG4 Fポリペプチド、より特に配列番号002の配列を有するIgG4 Fcポリペプチド;及び任意に
c. HLA重鎖ポリペプチドをIgG Fcポリペプチドに連結するペプチドリンカー、特に5~20アミノ酸長のペプチドリンカー、より特に配列番号003の配列を有するペプチドリンカー;
を含み、かつ
任意に、HLA融合タンパク質は:
d. 分泌シグナル、特に16~30アミノ酸長である分泌シグナル、より特に分泌シグナルが細胞から分泌される過程の間で切断により除去される分泌シグナル、さらにより特に配列番号004の配列を有する分泌シグナル、
をさらに含む、
項目1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0134】
項目7:HLA重鎖ポリペプチドは、IgG Fcポリペプチドに対してN末端に位置する、項目1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0135】
項目8:HLA融合タンパク質は、配列番号005と指定される配列を含む、又は本質的にそれからなる、項目1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0136】
項目9:HLA融合タンパク質は二量体の形態であり、前記二量体は、第1のHLA単量体及び第2のHLA単量体を含む、又は本質的にそれからなり;
- 第1のHLA単量体は、本質的に、項目1~8のいずれか1項に規定される第1のHLA融合タンパク質、及び第1のB2mポリペプチドからなり;かつ
- 第2のHLA単量体は、本質的に、項目1~8のいずれか1項に規定される第2のHLA融合タンパク質、及び第2のB2mポリペプチドからなり;
特に、第1のHLA単量体と第2のHLA単量体とが同一である、
項目1~8のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【0137】
項目10:前記HLA融合タンパク質はペプチドエピトープと会合していない、項目1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【実施例
【0138】
実施例1:クローンプールの生成
本発明者らは、HLA-B57:01:01ポリペプチドの重鎖細胞外ドメインをIgG4 Fcポリペプチド(配列番号002)に連結して配列番号008のHLA融合タンパク質を提供することにより、ヒトに医療的に使用するための最初のHLA融合タンパク質を開発した。このHLA融合タンパク質の収率を増加させるために、天然のHLA-B57細胞外ドメインのアミノ酸配列内で同定された阻害性アミノ酸を、46位のアラニン(A)残基をグルタミン(E)へ、97位のバリン(V)をアルギニン(R)へ置換することによって改変し、HLA-B57ポリペプチド変異体(配列番号001)を提供した。これを、連結ペプチド(配列番号003)を介してIgG4ポリペプチドへ融合し、HLA-B57融合タンパク質変異体(配列番号005)を提供した。2つの変異を欠如する天然のHLA-B57由来融合タンパク質コントロール及び組換えHLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質をコードするcDNAを、分泌シグナルをコードする核酸配列(配列番号004)の下流に市販の発現ベクター(Probiogen)内にクローニングした。HLA-B57-Fc及びHLA-B57(A46E/V97R)-Fcを発現するベクター構築物を、β2mタンパク質(配列番号006)をコードする核酸を含むプラスミドとともに、NEON Transfection Kit(Life Technologies #MPK10096)を用いたマイクロポレーション(MP)によってチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞内にコトランスフェクトした。CHO-DG44スターター細胞を、HLA融合タンパク質とβ2mプラスミドとの比率を変えてトランスフェクトした(4:1、2:1、1:1、1:2)。選択したクローンプールは、標準シェーカーフラスコで、ピューロマイシン及びメトトレキセートを含むPBG-CD-C4添加培地125mL中に、規定の4E5vc/mLの細胞播種密度で培養された。抗生物質で調整された選択圧の後、個々のクローンプールが分析のために選択された。生存率及び生存細胞密度の測定は、Vi-CELL XRシステム及びトリパンブルー細胞排除法を用いて行った。力価の定量は、プロテインAバイオセンサーを備えたOctet RED装置(ForteBio、Pall Division)を用いて、異なる時点(日数)で測定した。
【0139】
実施例2:HLA-B57(A46E/V97R).β2mの精製、及びβ2mの除去手順。
β2mに対する天然型HLA-B57又は改変型HLA-B57(A46E/V97R)の融合タンパク質の等モルRNAレベルを、選択されたクローン細胞で確認した(図1A)。HLA-B57又は変異型融合タンパク質を発現するクローンを分析した結果、HLA-B57.β2m細胞の生存率及び力価は、HLA-B57(A46E/V97R).β2mよりも有意に低いことが示された(図1B及びC)。それぞれの上清から採取したタンパク質のHPLC分析から、HLA-B57.β2mは多量の高分子量(HMW)種、及び低分子量種(LMW)も有しており、単量体含量の減少を伴うが、一方でHLA-B57(A46E/V97R).β2mは著しいHMW、LWMの減少、高い単量体含量を有し(図2A及びB)、変異型HLA重鎖の安定性が向上していることが示された。
【0140】
HLA-B57(A46E/V97R).β2m複合体は、次いでアフィニティーカラム精製によって、ろ過したCHO細胞上清から単離された。酸性条件下でのタンパク質の精製及びβ2mの除去は、2段階の精製プロトコールとして行われた。第1段階として、上清からβ2mと会合したHLA-B57(A46E/V97R)を捕捉するために、プロテインGセファロース[(4Fast Flow)Sigma、#GE-17-0618-01)]ビーズを使用した。ロッカーにおいて4度で一晩インキュベートした後、回収したビーズをPBSで洗浄し、標準IgG-Elution Buffer(pH 2.8)を用いてHLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質を溶出した(Pierce(商標)IgG Elution Buffer、Thermo Fischer #21004)。サイズ排除クロマトグラフィーに基づく精製の第二段階として、酸性条件下でHLA-B57(A46E/V97R)をβ2mと分離し、非β2m会合HLA融合タンパク質を得た。分離には、クエン酸ナトリウム(100mM、pH3.0)であらかじめ平衡化したSuperdex 10/300ゲルろ過カラムを使用した。2.0mg/ml濃度のタンパク質を0.5ml注入して、目的の非β2m会合HLA-B57(A46E/V97R)タンパク質のピークは12.7mlで溶出し、β2mのピークは22.0mlで溶出した。図2は、上述のプロセスの様々な段階の収率を示しており、非β2m会合HLA融合タンパク質を得るためにβ2mを分離することにより、免疫調節HLA-B57(A46E/V97R)融合タンパク質の約50%が失われることを示している。
【0141】
ヒト集団において異なる免疫表現型に関連する種々のHLAクラスI重鎖の最適な組換え発現における46E残基及び97R残基の重要性を確認するために、本発明者らは、ヒト集団において免疫原性効果に関連する他の代表的なHLAクラスI重鎖ポリペプチド配列、HLA-A30、HLA-B58、及びHLA-C08を含む追加のIgG Fc融合タンパク質構築物に対するこれらのアミノ酸置換の影響を測定した(図2C)。HLA-B57 IgG4融合タンパク質の場合と同じプロセスを用いて、代替の免疫原性HLAクラスI重鎖IgG4融合タンパク質をコードする核酸発現ベクターを作成した:HLA-A30、A30:01:01:01(配列番号007)、HLA-B57 B57:01:01:01(配列番号008)、HLA-B58、B58:01:01:01(配列番号009)、及びHLA-C08、C08:02:01:01(配列番号010)。次に、各HLA-Fc融合タンパク質のHLA重鎖細胞外ドメイン部分にE46アミノ酸残基又はR97残基を付加又は除去したアミノ酸置換の影響を測定するために、以下のとおり導入して改変構築物を作成した:HLA-A30E46A(配列番号011)、HLA-A30I97R(配列番号012)、HLA-A30E46A/I97R(配列番号013)、HLA-B57A46E(配列番号014)、HLA-B57V97R(配列番号015)、HLA-B57A46E/V97R(配列番号005)、HLA-B58E46A(配列番号016)、HLA-B58R97V(配列番号017)、HLA-B58E46A/R97V(配列番号018)、HLA-C08E46A(配列番号019)、HLA-C08R97V(配列番号020)、HLA-C08E46A/R97V(配列番号021)。野生型及び変異型のHLA重鎖IgG4融合タンパク質とβ2mとをコードする核酸発現ベクターを一過性にトランスフェクトしたCHO細胞による組換え発現β2m会合HLA構築物の生産収率を、CHO細胞の上清中で、プロテインAバイオセンサー(Octet Red96システム、Sartorius)を用いて評価した。
【0142】
これらの結果から、試験したすべての分子において、アミノ酸46E残基と97R残基との両方を特徴とするHLA重鎖が最適な組換えタンパク質の収量と関連し、かつHLA-B57重鎖配列にA46EとV97Rとの両方の置換を導入することで、すべての構築物の中で最も高い収量が得られることが確認された。逆に、野生型HLA-B57に存在する46Aと97Vとの両方をHLA-A30、HLA-B58、又はHLA-C08に導入する場合、生産収率が著しく低下した。このことから、アミノ酸46Eと97Rとが、β2mに会合する様々なHLA-Fc分子を含むHLA重鎖の安定化と最適な力価の産生にとって重要であることが確認された。
【0143】
実施例3:LILRB2と、HLA-B57(A46E/V97R)及びβ2mを有する、又は有さない場合のHLA-B57(A46E/V97R)との相互作用の定量化
本発明者らは、HLA-B57(A46E/V97R)の各形態に関連する腫瘍免疫に最も関連する免疫学的特性を解明するために、β2mポリペプチドに未だ会合している親HLAと比較して、HLAの精製に伴う収量の大きな損失を考慮した。第一段階として、HLA-B57 IgG4融合タンパク質からβ2mを除去することが自然免疫レセプターLILRB2との結合に与える影響を調べた。
【0144】
非β2m会合HLA-B57及びHLA-B57(A46E/V97R)、並びにHLA-B57(A46E/V97R).β2mとLILRB2との相互作用の親和性の定量は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)を用いて測定した。平底のPierce(商標)ストレプトアビジンでコーティングした高結合能96ウェルプレート(Pierce #15500)に、PBSバッファー中の最終濃度5μg/mlで固定化したc末端ビオチン化抗原分子(LILRB2、BPS Bioscience #100335)を50μlでコーティングした。陰性コントロールとしてPBS及びIgGアイソタイプを使用した。非β2m会合HLA-B57及びHLA-B57(A46E/V97R)、及びHLA-B57(A46E/V97R).β2mの連続希釈液(8段階の濃度点:10、2.5、1、0.25、0.1、0.025、0.01、0.0025μg/ml)を繰り返し(duplicate)適用した(50μl)。検出には、TBS(50μl)で1:100に希釈したAPC結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson Immuno Research #109-135-098)を用いた。最後に、各ウェルに50μlのTBSを加え、及びAPCの励起波長650nm及び発光波長660nmで蛍光スキャンを行った。Graphpad Prism v9.1.2及び3種のパラメータに基づくlog(アゴニスト)と応答モデルとを用いて、LILRB2との相互作用のEC50を決定した(図3A)。
【0145】
非β2m会合HLA-B57(A46E/V97R)、及びHLA-B57(A46E/V97R).β2の結合を、バイオレイヤー干渉(BLI)によっても評価した。Octet Red 96e(Sartorius)に基づくバイオレイヤー干渉技術(BLI)は、HLA融合タンパク質とLILRB2との結合親和性の定量化、及びHLA-GとANGPTL2/7を用いたブロッキング実験に使用した。ビオチン化LILRB2(BPS Bioscience)タンパク質をストレプトアビジン(SAXS)バイオセンサーに固定化した。バイオセンサーを、非β2m会合HLA-B57(A46E/V97R)の濃度を増加させながら(500、250、125、62.5、31.25、15.6、7.8nM)及びHLA-B57(A46E/V97R):β2mの濃度を増加させながら(105、52.5、26.3、13.2、及び6.6nM)インキュベートし、相互作用及びリファレンスのセンサーグラムを記録した(図3B)。ブロッキング実験では、ビオチン化LILRB2センサーを1μM又は4μM濃度のHLA-B57(A46E/V97R):β2mとインキュベートし、続いてHLA-G(3750~12.5nM)、又はANGTPL2及びANGPTL7(100~1.56nM)の濃度を増加させた(図8)。データ解析、二重リファレンスの差し引き、及び結合親和力と速度論パラメータの定量は、Data Analysis HT 12.0.2.59ソフトウェアパッケージを使用し、データはリガンド-アナリテート反応の二価分析物モデル(2:1モデル)を用いて局所的にフィッティングした。
【0146】
まとめると、結合アッセイでは、β2mの会合を欠くHLAとして、LILRB2への変異型HLA融合タンパク質の結合が改善されたこと、特にβ2mと会合している場合に、変異型HLA重鎖HLA-B57(A46E/V97R)が高い免疫調節能を持つことが示唆された(図3及び図8)。
【0147】
実施例4:in vitroでの腫瘍細胞に対する殺傷作用の増大
次に、ヒト初代マクロファージによるHLA-B57(A46E,V97R)IgG4融合タンパク質による腫瘍細胞の貪食誘導に影響を与えるβ2mポリペプチドの能力を、液状がん細胞(リンパ腫、白血病、骨髄腫)及び固形がん細胞(乳がん、肺がん)に対して評価した。示された液状腫瘍及び固形腫瘍由来のがん細胞株をヒト初代マクロファージと共培養し、製造元の指示に従ってIncuCyte生細胞メージングシステムを使用して腫瘍細胞の食作用を36時間モニタリングした。初代ヒトドナー由来単球は、健康なドナーのPBMCから単離され、特異的マクロファージ培養液で5~7日間培養することによりマクロファージに分化した。プレーティング後1日目に、化合物を10ug/ml(アイソタイプコントロール)又は20ug/ml(HLA融合タンパク質)でウェルに添加した。プレーティング後5~7日目に、化合物をマクロファージに再度添加し、生細胞イメージングを用いてマクロファージの貪食能を測定する2つの下流実験を行った。
【0148】
がん細胞をCellTrace(商標)CFSE(ThermoFisher)で製造者の指示に従って染色し、次いで1000細胞/ウェルを1000-5000個のプライマリーT細胞とともに平底96ウェルプレート(Greiner)内に播種した。培地には250nMのCytotox Red(Sartorius)を含んだ。生細胞イメージングはIncucyte S3 Live-Cell Analysis System(Sartorius)を用いて行った。Incucyte software v2020Cを用いて、1ウェルあたり4枚の非隣接画像を解析した。CFSEシグナルを緑色のオブジェクトで区分し、すべてのオブジェクトをがん細胞としてカウントした。死細胞はCytotoxシグナルで識別し、赤いオブジェクトで区分した。がん細胞死は、緑色及び赤色のオブジェクトの共局在によって検出された。その結果、HLA-B57(A46E,V97R).B2mはがん細胞に対するマクロファージ貪食活性を高めるが、β2mを欠くHLA-B57(A46E,V97R)は活性がわずかに低下することが示された(図4)。
【0149】
実施例5 in vivoにおける腫瘍増殖の免疫調節
非β2m会合HLA-B57(A46E,V97R)及びHLA-B57(A46E,V97R).B2mを、BRGSF-HISマウス(Rag2-/-、IL-2Rγ-/-、Flk2-/-。マウス内因性マクロファージを阻害するNOD特異的SIRPa変異を有するもの)にて、in vivoでの腫瘍増殖への影響をそれぞれ評価した。これらのレシピエントは、精製ヒト臍帯血由来CD34+細胞の肝内注入によりヒト化され、患者由来異種移植片(patient-derived xenograft:PDX)肺がん細胞を移植された。これらのマウスは、T細胞、B細胞、NK細胞、及び骨髄系細胞など、ヒトの主要な免疫細胞サブセットをすべて含んでいる。異種移植に用いた非小細胞肺がん腫瘍について、市販の免疫組織化学抗体を用いて、肺移植後のHLA融合タンパク質標的LILRB2の発現を評価したところ、生着後に陽性発現が確認され、ヒトLILRB2媒介性免疫調節効果を評価するための有効なモデルであることが示された。
【0150】
LU6425肺PDX NSCLC腫瘍片は、CrownBio社のHuPrime(登録商標)PDXコレクションから凍結状態で入手した。LU6425は西洋人女性(69歳)由来の腫瘍である。病理診断:肺腺癌。有効性試験のために18匹のBRGSF-HISヒト化マウスを得た。ヒト化は6種類のHSC(造血幹細胞)のCD34+ドナーを用いて行われ、生着カットオフはヒトCD45+細胞(Genoway)30%以上とした。LU6425のPDX腫瘍をBRGSFマウスで増殖し、PDX断片は使用まで液体窒素中でRPMI1640:FBS:DMSO(6:3:1)で凍結保存される。断片を37℃で5分間解凍し、培養液RPMI1640培地(製品番号L0500-500、Dutscher又は同等品)で2回すすいだ。10匹の雌性BRGSFマウスにLU6425腫瘍片を左脇腹に皮下移植した。in vivo増幅期のマウスの腫瘍体積が500~1000mmに達した時点で外科的に切除し、腫瘍片(2~3mm)を18匹の雌性BRGSF-HISマウスの左脇腹に皮下移植した。腫瘍を移植した日を0日目(D0)とする。腫瘍が形成されると、マウスはFlt3リガンド(1回の注入あたり10μg)を7日間かけて4回腹腔内注入を受けた。このプロトコールでは、Flt3リガンドが骨髄系細胞集団を増殖する。Flt3注入は、治療開始前1日に、腫瘍が平均体積約30~250mmに達した時点で、開始した。それぞれ6匹のマウスをIgG4アイソタイプコントロール、非β2m会合HLA-B57(A46E,V97R)、又はHLA-B57(A46E,V97R).β2mの治療群(群間の平均腫瘍体積が均一)に割り当てた。治療は腹腔内注入(IP)によって行った。投与体積は、直近の個々の体重に合わせて10mL/kgとした。マウスは腫瘍体積のカットオフで安楽死させた。この研究における動物福祉は、科学的目的に使用される動物の保護に関する2010年9月22日の欧州議会及び欧州理事会指令2010/63/EUに従い、1986年英国動物科学的手続法(UK Animals Scientific Procedures:ASPA)に準拠している。すべての実験データの管理及び報告手順は、適用されるCrown Bioscience UKガイドライン及び標準操作手順書に厳密に従った。
【0151】
両方のHLA融合タンパク質化合物を、実験期間中5日ごとに腹腔内に注入した。相対的な腫瘍増殖(倍加時間)は、非β2m会合HLA-B57(A46E,V97R)及びHLA-B57(A46E,V97R).β2m単剤療法の両方によって有意に減少した(図5A)。しかし、HLA-B57(A46E,V97R).β2m単剤療法もまた、ヒト免疫療法に非常に関連性の高いこのがんモデルにおいて、治療マウスの生存期間をコントロールに対して有意に延長した(図5B)。次いで、終末期に採取したBRGSF-HISヒト化PDX肺がんマウスの血漿中のサイトカイン濃度を、V-PLEX炎症誘発性パネル1ヒトMSD(MSD)を用いて評価した。HLA-B57(A46E,V97R).β2mは、マウスの治療後、複数の血中サイトカインを有意に調節した。一方で、非β2m会合HLA-B57(A46E,V97R)単剤療法は、コントロールのIgG4治療群と比較してIL-10レベルのみを変化させた。このことによりβ2mに会合しているHLA融合タンパク質が、このがんモデルにおいてより強力な免疫調節因子であることが確認された(図6)。
【0152】
実施例6 チェックポイント阻害剤との併用
次に、β2mとの会合を有する、又は有さない場合の両方のHLA融合タンパク質化合物に対して、PD-1中和抗体によるチェックポイント阻害剤療法を補完する能力を試験した。C38腫瘍片を、同系遺伝子雌性C57BL/6マウスの右脇腹に皮下注入した。腫瘍が±50mmに達した時点で、動物を平均腫瘍体積サイズが同等である群間に応じて均等に分配した。腫瘍径は試験過程にわたってノギスを用いて測定し、体積は式D/2×d(式中、D及びdはそれぞれ腫瘍の最長径と最短径とをmm単位で表す)のに従って算出した。細胞の注入時点と物質の注入の実験計画は以下のとおりである:アイソタイプIgG4(10mg/Kg)隔週×3;非β2m会合HLA-B57(A46E/V97R)(5mg/Kg)隔週×3;HLA-B57(A46E/V97R).β2m(5mg/kg)隔週×2。一部の群は、抗PD-1(RMP1-14)10mg/kg注入による同時併用治療を受けた。このマウスモデルでは、両方の化合物は腫瘍増殖に対抗するためにある程度の利点をもたらしたが、β2m会合HLA融合タンパク質を含む医薬組成物の方が抗PD-1抗体と組み合わせた場合、群内のすべての動物で腫瘍の増殖をより効果的に制御したのに対し、同等の非β2m会合HLA融合タンパク質群では腫瘍回避及び増殖が1例観察された(図7)。
【0153】
実施例7 HLA-B57(A46E/V97R).β2mの抗腫瘍活性のメカニズム
HLA-B57は、LILRB1、LILRB2、及びKIR3DL1を含む複数の抑制性免疫分子と結合する能力を有する。LILRB1/2及びKIR3DL1は多様な免疫細胞セットで発現しており、これには骨髄系細胞(マクロファージなど)、T細胞、NK細胞、B細胞、及び腫瘍におけるLILRB1の発現、骨髄系細胞(マクロファージなど)、T細胞、腫瘍におけるLILRB2の発現、及びNK細胞におけるKIR3DL1の発現が含まれる。ここでは腫瘍細胞が発現するHLA-G又はMHCファミリー分子などの細胞結合性リガンド、あるいはアンジオポエチン様タンパク質(ANGPTL)などの可溶性阻害因子と結合することで、細胞溶解機能が阻害されると考えられている。マクロファージにより発現されるLILRB1/2のライゲーションは、M2マクロファージ及び骨髄由来抑制細胞(MDSC)(どちらも腫瘍細胞の許容的な増殖に関連している)などの抑制性骨髄系細胞サブセットの分化を促進すると考えられている。
【0154】
本発明者らは、HLA-B57(A46E/V97R).β2mがLILRB1、LILRB2及びKIR3DL1レセプターのマルチモーダル阻害によって作用するかどうかを調査した。HLA-B57(A46E/V97R).β2m(IosH2)のLILRB1、LILRB2、及びKIR3DL1への結合はバイオレイヤー干渉法によって確認した。初代ヒトマクロファージをHLA-B57(A46E/V97R).β2mに暴露すると、SHP1及びSHP2のリン酸化が減少したことにより、これらの分子を介した免疫応答の負の制御のアンタゴニストとして作用することが示唆された。次に、HLA-B57(A46E/V97R).β2mが、様々な天然リガンドとLILRB1/2との結合をブロックする能力を評価した。実際、HLA-B57(A46E/V97R).β2m(iosH2)は、LILRB1のHLA-Gへの相互作用、及びLILRB2とHLA-G、ANGPTL2、及びANGPTL7との相互作用を競合的にブロックした(図8)。
【0155】
次に、研究者らはHLA-B57(A46E/V97R).β2mが初代ヒトマクロファージの腫瘍細胞を貪食する能力を増強することができるかどうかを評価した。HLA-B57(A46E/V97R).β2mは、LILRB1又は2を標的とするモノクローナル抗体(図9A)又はシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPa)IgFc融合タンパク質構築物(図9B)などの既存のマクロファージチェックポイント標的分子と比較して、肺がん、血液がん(骨髄腫又は白血病)、及び膵臓がんの優れた貪食を誘導した。さらに、HLA-B57(A46E/V97R).β2mは、単剤又は抗PD-1チェックポイント阻害剤との併用療法としての両方で、初代ヒトT細胞の腫瘍細胞殺傷活性を高めた(図10)。これには、抗LILRB2モノクローナル抗体と比較して、標的細胞に対するエフェクターの比率が非常に低くても、腫瘍殺傷を改善したことを含む。最後に、NK細胞に影響を与える構築物の能力を評価した。HLA-B57(A46E/V97R).β2mは、LILRB1又は2に特異的なモノクローナル抗体よりも、NK細胞の殺傷能力を高めることが示された(図11A)。この効果は、全NK細胞と比較して、選別されたKIR3DL1+NK細胞の培養液でより強かったことから、HLA-B57(A46E/V97R).β2mのKIR3DL1への結合が、この殺腫瘍効果の増強に役割を果たしたことが示唆された(図11B)。
【0156】
概要
予想外なことに、β2mの有無にかかわらず、HLA-B57(A46/V97)IgG4融合タンパク質はin vivoでの腫瘍増殖を妨げることに有効であることが示された。本発明者の知る限り、β2mのヒトHLA融合タンパク質との会合の有用性が、in vitro及び in vivoの両方でHLA融合タンパク質機能の重要な標的であるヒトリンパ球及び骨髄系細胞を試験する包括的モデルで試験されたのはこれが初めてである。HLA重鎖融合タンパク質は、より短縮された製造工程により非常に高い収率を有するため(図2)、これらの知見は、肺がん、結腸がん、乳がんなどの上皮癌、及び骨髄腫、リンパ腫、白血病などの血球悪性腫瘍を含むがこれらに限定されない抗悪性腫瘍治療の場において、本発明に係るHLA分子とβ2m分子とを含む医薬組成物を使用することが望ましい可能性を示唆している。メカニズムの研究により、HLA-B57(A46E/V97R).β2mは、単一の免疫阻害経路を標的とする既存の薬剤と比較して、マクロファージ、T細胞、及びNK細胞上の複数の阻害経路に拮抗する能力が、その強力な抗腫瘍活性の根底にあることが示唆される。
【0157】
引用文献
Arosaら,Trends in Immunology 2007 Mar;28(3):115-23
国際公開(WO)第2017/153438号(A1);国際公開第2016/124661号(A1);国際公開第2018/029284号(A1)。
本明細書中で引用されているすべての科学刊行物及び特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0158】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
【配列表】
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【国際調査報告】