(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】成形および焼結の方法で使用するための原料コンパウンド用のバインダー成分、粒子状原料コンパウンド、ならびに成形および焼結の方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/103 20220101AFI20240808BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240808BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240808BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240808BHJP
B22F 10/10 20210101ALI20240808BHJP
B22F 10/20 20210101ALI20240808BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20240808BHJP
C04B 35/634 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B22F1/103
B22F3/02 L
B22F1/00 T
B22F1/00 U
B22F1/00 L
B22F1/00 N
B22F1/00 P
B22F1/00 K
B22F1/00 M
B22F1/00 R
B22F1/05
B22F10/10
B22F10/20
B22F3/10 C
C04B35/634 080
C04B35/634 880
C04B35/634 240
C04B35/634 680
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024510258
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-10
(86)【国際出願番号】 EP2022073220
(87)【国際公開番号】W WO2023021193
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524062009
【氏名又は名称】ヘッドメイド マテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュタウディゲル,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA14
4K018AA19
4K018AA21
4K018AA24
4K018AA33
4K018AA40
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA10
4K018BA13
4K018BA17
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD04
4K018CA09
4K018CA11
4K018CA29
4K018CA31
4K018CA44
4K018DA03
4K018EA51
(57)【要約】
成形および焼結の方法で使用するための原料コンパウンド用のバインダー成分であって、当該バインダー成分b)の総体積に基づいて、b-i)3~70体積%の少なくとも1種の第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料、ならびに、b-ii)30~97体積%の少なくとも1種の第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料、あるいは可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料を含むバインダー成分。第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料と、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料は、(1)溶媒への溶解性;(2)熱および/または反応物質によって誘導される分解性;および(3)揮発性、から選択される少なくとも1つの特性が異なる。第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料は、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料よりも溶解性が低く、分解性が低く、または揮発性が低い。Tcrossは、TPと比べて60Kを超えない範囲で高い[式中、TPは、バインダー成分b)のDSC融解ピーク温度であり、Tcrossは、バインダー成分b)の動的粘弾性測定における貯蔵弾性率G’曲線と損失弾性率G’’曲線の交点の温度である]。バインダー成分と焼結可能な非有機粒子を含む粒子状原料コンパウンドは、積層造形法、射出成形法、プレス加工法、または鋳造法で使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形および焼結の方法で使用するための原料コンパウンド用のバインダー成分であって、
当該バインダー成分b)の総体積に基づいて、
b-i)3~70体積%の少なくとも1種の第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料、好ましくは、少なくとも1種の半結晶性の第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料、
b-ii)30~97体積%の少なくとも1種の第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料、あるいは可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料、
を含み;
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料と、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料は少なくとも1つの特性が異なり、この特性は以下から選択され:
(1)溶媒への溶解性
(2)熱および/または反応物質によって誘導される分解性、および
(3)揮発性;
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料は、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料よりも溶解性が低く、分解性が低く、または揮発性が低く;
T
crossは、T
Pと比べて60Kを超えない範囲で高い、好ましくは50Kを超えない範囲で高い、より好ましくは45Kを超えない範囲で高い、最も好ましくは40Kを超えない範囲で高い、特に35Kを超えない範囲で高い[ここで、T
Pは、バインダー成分b)のDSC融解ピーク温度であり、T
crossは、バインダー成分b)の動的粘弾性測定における貯蔵弾性率G’曲線と損失弾性率G’’曲線の交点の温度である]、
バインダー成分。
【請求項2】
T
initと[T
P+25K]の間のDSCによって測定される総融解エンタルピーの割合が、少なくとも94%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、最も好ましくは少なくとも97%、特に少なくとも98%、特に少なくとも99%であることを示す(ここで、T
initは初期融解温度である)、請求項1に記載のバインダー成分。
【請求項3】
T
Pが、180℃未満、好ましくは10℃~180℃、より好ましくは20℃~160℃、最も好ましくは30℃~140℃、特に35℃~120℃、特に40℃~100℃、特に45℃~90℃、特に50℃~85℃の範囲である、請求項1または2に記載のバインダー成分。
【請求項4】
130℃の温度、および1s
-1のせん断速度で測定される粘度として、6Pa・s未満、好ましくは5Pa・s未満、より好ましくは4Pa・s未満、最も好ましくは3Pa・s未満、特に2Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に700mPa・s未満、特に400mPa・s未満、特に200mPa・s未満を示す、請求項1~3のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項5】
110℃の温度、および1s
-1のせん断速度で測定される粘度として、8Pa・s未満、好ましくは6Pa・s未満、より好ましくは5Pa・s未満、最も好ましくは4Pa・s未満、特に3Pa・s未満、特に2Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に600mPa・s未満、特に300mPa・s未満を示す、請求項1~3のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項6】
100℃の温度、および1s
-1のせん断速度で測定される粘度として、10Pa・s未満、好ましくは8Pa・s未満、より好ましくは6Pa・s未満、最も好ましくは5Pa・s未満、特に4Pa・s未満、特に3Pa・s未満、特に2Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に500mPa・s未満の粘度を示す、請求項1~3のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項7】
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料b-i)、および/または、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料b-ii)が、エチレン酢酸ビニルコポリマーなどのビニルエステル重合体;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリアミド;ポリウレタン;マイクロクリスタリンワックスなどのパラフィンワックス;蜜蝋、キャンデリラワックス、カルナバワックス、カルボン酸エステル、ヒドロキシ安息香酸エステルなどのエステル系ワックス;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックスなどのポリオレフィンワックス;10~25個の炭素原子を有する脂肪酸のアミドなどのアミドワックス;ポリカーボネート、ポリ-α-メチルスチレン;ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルラクタム、およびそれらのコポリマーなどの水溶性もしくは水分散性熱可塑性ポリマー;ならびに、それらの混合物から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項8】
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料b-i)の量が、バインダー成分b)の総体積に基づいて、約5~60体積%、好ましくは7~50体積%、より好ましくは10~40体積%、最も好ましくは12~35体積%、特に15~30体積%の範囲であり、および/または、
第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料b-ii)の量が、バインダー成分b)の総体積に基づいて、約40~95体積%、好ましくは50~93体積%、より好ましくは60~90体積%、最も好ましくは65~88体積%、特に70~85体積%の範囲である、請求項1~7のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項9】
b-i)が、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリオレフィンワックス、ポリアミドおよびポリアクリレートから選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項10】
b-ii)が、極性ワックス、または極性可塑剤を含む可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項11】
b-ii)が、芳香族エステルおよび芳香族スルホンアミドから選択されるワックス系材料、または芳香族エステルおよび芳香族スルホンアミドから選択される可塑剤を含む可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料である、請求項10に記載のバインダー成分。
【請求項12】
以下の表から選択される第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料b-i)と、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料b-ii)の組み合わせを配合したバインダー成分であって、b-i)とb-ii)は、示される溶媒への溶解性が異なる、請求項1~11のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【請求項13】
成形および焼結の方法で使用するための粒子状原料コンパウンドであって、以下を含む粒子状原料コンパウンド:
a)粒子状原料コンパウンド全体に分散された焼結可能な非有機粒子であって、粒子の少なくとも80%が100nm~400μmの範囲で最大粒径A
maxを有する粒径分布を有する非有機粒子;および
b)請求項1~12のいずれか1項に記載のバインダー成分。
【請求項14】
焼結可能な非有機粒子が、以下から選択される、請求項13に記載の粒子状原料コンパウンド:
a-i)鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、青銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、銀、金、白金、チタン、ニッケル、コバルト、クロム、亜鉛、ニオブ、タンタル、イットリウム、ケイ素、マグネシウム、カルシウム、およびそれらの組み合わせから選択される金属粒子であって、粒子の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%が、500nm~400μm、好ましくは1μm~150μm、より好ましくは3μm~50μm、最も好ましくは5μm~25μmの範囲で最大粒径A
maxを有する粒径分布を有する金属粒子;
a-ii)酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化イットリウムなどの酸化物;炭化ケイ素、炭化タングステンなどの炭化物;窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの窒化物;ステアタイト、コージェライト、ムライトなどのケイ酸塩;およびそれらの組み合わせから選択されるセラミック粒子であって、粒子の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%が、200nm~25μm、好ましくは300nm~10μm、より好ましくは400nm~7μm、最も好ましくは500nm~3μmの範囲で最大粒径A
maxを有する粒径分布を有するセラミック粒子;
a-iii)ハロゲン化物ガラス、カルコゲニドガラスなどの非酸化物ガラス;リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラス、例えば、アルミノケイ酸塩ガラス、ケイ酸鉛ガラス、ケイ酸ホウ素ガラス、ケイ酸ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、アルカリケイ酸塩ガラスなどの酸化物ガラス;およびそれらの組み合わせから選択されるガラス粒子であって、粒子の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%が、200nm~25μm、好ましくは300nm~10μm、より好ましくは400nm~7μm、最も好ましくは500nm~3μmの範囲で最大粒径A
maxを有する粒径分布を有するガラス粒子;
a-iv)硬質金属または金属マトリックス複合材料などの焼結可能な非有機粒子a-i)~a-iii)の1つを超える組み合わせ。
【請求項15】
焼結可能な非有機粒子(a)を体積基準で、約0.70~0.99・φ
r、好ましくは約0.75~0.98・φ
r、より好ましくは約0.80~0.96・φ
r、最も好ましくは約0.82~0.95・φ
r、特に約0.84~0.94・φ
r、特に約0.86~0.93・φ
rの量(ここで、φ
rは体積基準の臨界固形分充填量である)で含有する、請求項13または14に記載の粒子状原料コンパウンド。
【請求項16】
焼結可能な非有機粒子(a)の量が、約20~90体積%、好ましくは30~80体積%、より好ましくは40~75体積%、最も好ましくは45~70体積%、特に50~65体積%の範囲にあり、かつ、
バインダー成分(b)の量が、約10~80体積%、好ましくは20~70体積%、より好ましくは25~60体積%、最も好ましくは30~55体積%、特に35~50体積%の範囲にある、請求項13~15のいずれか1項に記載の粒子状原料コンパウンド。
【請求項17】
温度130℃、せん断速度1s
-1で測定した粘度が、600Pa・s未満、好ましくは400Pa・s未満、より好ましくは350Pa・s未満、最も好ましくは250Pa・s未満、特に150Pa・s未満、特に50Pa・s未満、特に10Pa・s未満を示す、請求項13~16のいずれか1項に記載の粒子状原料コンパウンド。
【請求項18】
温度110℃、せん断速度1s
-1で測定した粘度が、800Pa・s未満、好ましくは550Pa・s未満、より好ましくは450Pa・s未満、最も好ましくは350Pa・s未満、特に200Pa・s未満、特に100Pa・s未満、特に60Pa・s未満を示す、請求項13~16のいずれか1項に記載の粒子状原料コンパウンド。
【請求項19】
温度100℃、せん断速度1s
-1で測定した粘度が、1000Pa・s未満、好ましくは850Pa・s未満、より好ましくは700Pa・s未満、最も好ましくは550Pa・s未満、特に400Pa・s未満、特に250Pa・s未満、特に100Pa・s未満を示す、請求項13~16のいずれか1項に記載の粒子状原料コンパウンド。
【請求項20】
以下の工程を含む方法:
- グリーンパーツを得るために、複数の請求項10~16のいずれか1項に記載の粒子状原料コンパウンドを融合する工程;
- 第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)によって互いに結合した焼結可能な非有機粉末粒子(a)を含むブラウンパーツを得るために、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)を選択的に除去することによってグリーンパーツを部分的に脱バインダーする工程;および
- ブラウンパーツを焼結して焼結された部品を得る工程。
【請求項21】
レーザー積層造形法または押出積層造形法などの積層造形法;中圧射出成形法または低圧射出成形法などの射出成形法;プレス加工法;および鋳造法から選択される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形および焼結の方法で使用するための原料コンパウンド用のバインダー成分、焼結可能な非有機粒子およびバインダー成分を含む粒子状原料コンパウンド、ならびに複数の粒子状原料コンパウンドを融合する工程および脱バインダーする工程を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形、粉末射出成形またはプレス加工などの方法は、カスタマイズされた部品を迅速かつ効率的に生成することができる。積層造形は、粉末粒子を一緒に融合させるなどして(通常は層ごとに)材料を一緒に付加することを含む。一般的に、典型的な積層造形法は、最初の材料層を形成する工程と、その後さらに材料層を連続的に付加する工程を含み、各々の新しい材料層は、3次元構造(3Dオブジェクト)全体が実体化されるまで、先に形成された材料層上に付加される。
【0003】
粉末射出成形は、材料を溶融して鋳型内に射出し、目的物を形成することを含む。特に、低圧粉末射出成形(LPIM)法は、これらの工程のために適度な処理温度と圧力が必要である。
【0004】
レーザー粉末床溶融法(Laser Beam Powder Bed Fusion)(LB-PBF)では、バインダーを含まない金属粉末を高出力レーザー光の走査によって焼結する。高出力レーザーの必要性を省くため、バインダーでコーティングされた金属粉末は積層造形によって成形された。後処理工程でバインダーを除去し、金属粉末を焼結する。
【0005】
これらの新しい方法はすべて、焼結可能な材料とバインダーを含む明確に定義された原料コンパウンドを必要とする。近年、このような原料コンパウンドの多様性が文献に記載された。特許文献1には、高分子バインダーで被覆された(金属)基材を含む選択的レーザー焼結法で使用するための粉末が記載されている。バインダーは、例えば、ブチルメタクリレートとスチレン、またはメチルメタクリレートとブチルメタクリレートの非晶質コポリマーを含む。任意に、さらにバインダーは可塑剤を含んでいてもよいが、これについては詳細には説明しない。
【0006】
特許文献2には、Fe、Co、Ni、W、Mo、または金属炭化物などの金属粒子を含む粉末粒子からなる要素が記載されている。粒子はポリアミドと可塑剤/ワックス混合物を介して結合しているが、これについては詳細には説明しない。
【0007】
特許文献3には、低圧粉末射出成形機、キットおよびその方法が記載されている。低圧粉末射出成形(LPIM)は、従来の高圧粉末射出成形(HPIM)法の変形であり、原料配合における最近の進歩により、生産量が多くても少なくてもコスト効率が高く、より複雑な形状のものを製造する新たな機会が生み出されている。通常、粉末とバインダーの混合物を鋳型キャビティに充填するために、空気圧成形機が使用される。
【0008】
最近では、Taftiらが、低圧粉末射出成形された鉄部品の焼結密度に及ぼす熱脱バインダー条件の影響について説明した(非特許文献1参照)。そこで、低粘度の原料を長方形の鋳型キャビティに射出し、3つの異なる脱バインダー温度で熱脱バインダーし、焼結した。脱バインダー温度を600℃から850℃まで上昇させると、微粒子の数が減少し、その結果、(焼結)密度が(6.2から5.1g/cm3に)低下し、それにより平均気孔径が(9から14μmに)増大した。また、気孔の円形度も(67から59%に)低下した。
【0009】
Taftiら(上記参照)によると、従来のHPIM法では、低分子量ポリマーと高分子量ポリマー(それぞれ第1バインダーと第2バインダーとも呼ばれる)のブレンドからなるバインダーは、2段階で除去される。第1段階ではバインダー系と粉末の特性に応じて、第1バインダーが、溶媒、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体、または高濃度硝酸などの触媒のいずれかによって抽出される。第2段階では、形状を保持するための骨格として働く第2バインダーが、焼結工程前の最後のバーンアウトサイクル中に除去される。
【0010】
通常、LPIMにおいては、高融点の骨格ポリマーを含まない多成分バインダーが使用される。例えば、前記多成分バインダーは、ワックスベースの担体、界面活性剤、および増粘剤を含むことができる。
【0011】
しかしながら、骨格となるバインダーが存在しない場合、脱バインダーの間(例えば熱ウィック脱バインダーの間)全てのバインダー成分が単一工程で除去されるため、LPIM法で遭遇する主な課題の1つは形状保持とブラウンパーツ(brown part)の強度不足である。前記熱ウィック脱バインダーの工程は、液体バインダーの毛細管抽出に依存してグリーンパーツ(green part)からバインダーを抽出する。このアプローチは、射出された部品をウィッキング粉末床(例えば、グラファイト、アルミナ、またはその他の不活性粉末)に埋め込み、必要に応じて保護雰囲気中で予備焼結温度(例えばバインダーの軟化温度)まで加熱することからなる。粉末床は、毛細管流によって加熱された部品から溶融バインダーを引き出すウィッキング媒体として機能する。それは物理的な支持体として、脆弱な脱バインダー部品を粉末粒子の予備焼結まで維持する。熱ウィック脱バインダーでは、ウィッキング媒体の孔径、脱バインダー温度、加熱速度、保護雰囲気または予備焼結温度などの重要なパラメータを慎重に選択することにより、適切なバインダー抽出を確保すると同時に、望ましくない応力、歪み、欠陥、化学反応などの欠点を回避する必要がある。しかし、微粉末の使用は、グリーンパーツの汚染をもたらす可能性があり、さらに洗浄が必要となる場合がある。
【0012】
例えば、特許文献4は、タングステンと青銅を含む複合材料を開示する。均質な混合物を形成するために、タングステンと青銅の粉末(非有機粒子)は、有機バインダーと混合される。有機バインダーとしては、通常、熱可塑性バインダー、ワックスまたはワックス混合物が好ましい。好ましいバインダーは、好ましくは室温~約120℃、より好ましくは約50℃~90℃、さらに好ましくは約55℃~65℃の温度で溶融する低分子量ワックスまたはワックス混合物を含む。例えば、ワックスは、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリブテンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックスなど、またはそれらの2つ以上の混合物であってもよい。熱脱バインダー工程には、熱分解によってバインダーを急速にガス状生成物に変化させ、流動する保護雰囲気によって押し出される温度まで成形部品を炉内で加熱することが含まれる。部品が加熱されると、バインダーが溶融する。ウィッキング粉末、例えばアルミナを含む粉末を使用して、バインダーを部品から引き出す毛管力勾配を作ることができる。
【0013】
特許文献5には、金属および/またはセラミック粉末、熱可塑性ポリマーおよび少なくとも1種の可塑剤を含む熱可塑性バインダー、ならびに任意に添加剤を含む微細線維(フィラメント)が記載されている。そこに記載されている好適な熱可塑性ポリマーは、例えば、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、またはポリオレフィンであり、好適な可塑剤は、ヒドロキシ安息香酸エステルなどの芳香族またはヘテロ芳香族カルボン酸エステルから選択される。
【0014】
特許文献5には、3D印刷装置で使用するのに適した微細線維(フィラメント)が開示されており、この微細線維は、金属粉末および/またはセラミック粉末、熱可塑性ポリマーおよび少なくとも1種の可塑剤を含む熱可塑性バインダー、ならびに任意に添加剤を含むか、またはこれらからなる。さらに、上記微細線維を含む成形体を製造するための方法が開示されている。当該成形体は、微細線維を用いて、成形された未焼結体を印刷し、可塑剤の少なくとも一部分を除去し、焼結することによって得られる。
【0015】
近年、金属および/またはガラスおよび/またはセラミック部品を積層造形により製造する方法が記載された。特許文献6は、金属および/またはガラスおよび/またはセラミック部品を積層造形する方法を開示している。原料コンパウンド粒子は、基材粒子および少なくとも二相のバインダーから調製される。原料コンパウンド粒子は、電磁放射によって層状に選択的に溶融され、成形部品が積層造形される。成形部品は未溶融混合物から回収され、その後、少なくとも二相バインダーが連続的に除去される。最後に、脱バインダーした成形部品を焼結する。
【0016】
しかし、印刷工程中のさまざまな要因によって、部品を定義する目的物データと比較して部品の寸法精度が損なわれる可能性がある。例えば、鋭く精密なエッジを有し、気孔率が低い(未焼結)部品を製造することは、多くの場合困難である。また、成形工程の改良が、脱バインダー工程での不利や劣化をもたらしてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO 95/30503
【特許文献2】DE 19648926 C1
【特許文献3】US 20190134712 A1
【特許文献4】US 2003/0161751 A1
【特許文献5】WO 2016/004985 A1
【特許文献6】WO 2018/197082
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Tafti et al., Metals 2021,11,264-276
【発明の概要】
【0019】
したがって、本発明の目的は、バインダー成分を含む原料コンパウンドを使用する方法において、高い印刷寸法精度と、簡単で経済的な脱バインダーの方法を可能にする、原料コンパウンド用のバインダー成分を提供することである。
【0020】
本発明は、成形および焼結の方法で使用するための原料コンパウンド用のバインダー成分に関し、
当該バインダー成分(b)の総体積に基づいて、
b-i)3~70体積%の少なくとも1種の第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料、
b-ii)30~97体積%の少なくとも1種の第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料、あるいは可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料、
を含み;
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料と、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料は少なくとも1つの特性が異なり、この特性は以下から選択され:
(1)溶媒への溶解性
(2)熱および/または反応物質によって誘導される分解性、および
(3)揮発性;
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料は、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料よりも溶解性が低く、分解性が低く、または揮発性が低く;
Tcrossは、TPと比べて60Kを超えない範囲で高い(TPは、バインダー成分(b)のDSC融解ピーク温度であり、Tcrossは、バインダー成分(b)の動的粘弾性測定における貯蔵弾性率G’曲線と損失弾性率G’’曲線の交点の温度である)。
【0021】
以下、「(可塑化)熱可塑性材料および/またはワックス系材料」という表現は、「熱可塑性材料および/またはワックス系材料」と「可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料」の両方を包含することを意図する。
【0022】
また本発明は、成形および焼結の方法で使用するための粒子状原料コンパウンドに関し、以下を含む:
a)粒子状原料コンパウンド全体に分散された焼結可能な非有機粒子(焼結可能な非有機粒子は、粒子の少なくとも80%が100nm~200μmの範囲で最大粒径Amaxを有する粒径分布を有する);および
b)バインダー成分(b)。
【0023】
また本発明は、複数の粒子状原料コンパウンドを融合する工程と、脱バインダー工程を含む方法に関する。
【0024】
以下の好ましい実施形態の説明は、特に断りのない限り、バインダー成分、粒子状原料コンパウンド、および方法について言及する。
【0025】
一般的に、積層造形法の成形工程は、通常、高温、例えば50~60℃に加熱される構築空間内に粒子状原料コンパウンドの粉末床を提供することを含む。粉末床中の粒子状原料コンパウンドは、例えば、レーザー線などの放射線源からのエネルギー線からのエネルギーを吸収することができ、その結果、粉末材料の局所領域の温度が上昇する。局所的な温度上昇により、粒子状原料コンパウンドを選択的に緻密化または溶融し、所定の方法で粒子状原料コンパウンドを互いに結合させることができる。
【0026】
バインダーの溶融挙動は印刷精度に強く影響することが判明している。局所的な領域内では、粒子状原料コンパウンド間に強力な結合が形成されることが望ましいが、近隣のまたは隣接する粒子への結合の形成は避けるべきである。最適化されていないバインダー成分を有する原料コンパウンドは、隣接する粒子に熱を放散し、その粒子が軟化して部品の外面に付着する可能性があり、その結果、表面の精細度が低下する。
【0027】
粉末射出成形では、粒子状原料は加熱されたバレルおよび/またはスクリューによって溶融され、プランジャーまたは圧力または重力によって鋳型内に射出される。同様に、溶融挙動は粉末射出成形における加工パラメータに強い影響を与えることが判明している。原料コンパウンドの粘度が低いため、射出成形機のサイズと鋳型全体のサイズを小さくすることができ、どちらもHPIMに必要なサイズよりも大幅に小さくなる。鋳型の小型化に伴うコストの低下は、生産量が少ないか多いかにかかわらず、複雑な部品をコスト効率の良い方法で製造する機会を提供する。さらに、成形が容易で原料コンパウンドの流動性が高いため、HPIMよりも大きな部品を製造することができる。
【0028】
本発明のバインダー成分では、固体または半固体から流体への温度遷移が非常に限られているため、3D印刷において隣接する原料コンパウンド粒子への影響が少なくなる。その結果、エネルギー線を照射された原料コンパウンド粒子は、比較的低温で固体から流体に変換され、隣接する原料コンパウンドに影響を与えることなく、緻密なグリーンパーツを形成することができる。固体または半固体から流体へのこの非常に限られた温度遷移は、以下に詳細に説明するように、TPとTcrossの間の小さな差によって反映されたものである。
【0029】
通常、示差走査熱量測定(DSC)では、材料の物理的特性、例えばガラス転移温度、融解温度、融解エンタルピーなどを測定することができる。
【0030】
融解工程は、DSC曲線における吸熱ピークをもたらし、融解温度は、吸熱熱流の変化率が最大となる前記DSC曲線における融解ピーク温度TPを指す。
【0031】
DSC曲線は単一の融解ピークを含む場合がある。あるいは、DSC曲線は、いくつかの融解ピーク、すなわちいくつかの局所的最大値を含む場合がある。本明細書における目的のために、融解ピーク温度TPは、全域的最大値の温度として定義される。バインダー成分(b)は、好ましくは単一の融解ピークを示す。
【0032】
一実施形態において、バインダー成分(b)は、180℃未満、好ましくは10℃~180℃、より好ましくは20℃~160℃、最も好ましくは30℃~140℃、特に35℃~120℃、特に40℃~100℃、特に45℃~90℃、特に50℃~85℃の範囲の融解ピーク温度TPを示す。これらの範囲の融解ピーク温度TPは、可能な限り少ない追加エネルギー(例えば、レーザーエネルギー)で選択的な緻密化または溶融を可能にし、低エネルギーレーザー源を好都合に使用することができる。
【0033】
本明細書において、TPは、DIN EN ISO 11357-3に従って、第1加熱/冷却サイクル後の第2加熱で決定される。この目的のために、試料は、-20℃からすべての熱的事象の完了よりも20K高い温度まで第1加熱勾配で加熱され、その後-20℃まで冷却され、最後に-20℃からすべての熱的事象の完了よりも20K高い温度まで第2加熱勾配で再び加熱される。それぞれの加熱および冷却速度は10K/分である。本明細書における目的のための「熱的事象」とは、分解以外の熱的事象、換言すると、本質的に可逆的な熱的事象を意味する。
【0034】
通常、動的粘弾性測定により、材料の貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’を含む動的粘弾性特性を決定することができる。
【0035】
貯蔵弾性率G’は、材料の弾性率を表す。それは材料に蓄えられ、応力除去後に材料から回復する変形エネルギーの割合に比例する。
【0036】
損失弾性率G’’は、材料の粘性部分を表す。それは内部摩擦によって熱に変換されるエネルギー損失の割合に相当する。
【0037】
Tcrossは、バインダー成分の動的粘弾性測定における貯蔵弾性率G’曲線と損失弾性率G’’曲線の交点の温度である。この温度は文献では「クロスオーバー」温度とも呼ばれ、その材料の溶融状態から粘性状態への転移が起こる材料の状態を指す。G’曲線とG’’曲線が複数回交差する場合、Tcrossは最高温度での交点である。「最高温度」という表現は、分解が起こる温度よりも低い最高温度を指すと当業者には理解される。
【0038】
バインダー成分(b)の試料を動的粘弾性測定にかける。
【0039】
原則として、Tcrossは加熱工程または冷却工程で決定することができる。過冷却または中断した熱遷移などの動力学的効果は、Tcrossの測定を妨害する可能性がある。動力学的効果の影響を排除するために、加熱工程または冷却工程でTcrossを測定することが望ましい場合がある。加熱中に測定したTcrossと冷却中に測定したTcrossが異なる場合は、Tcrossの高い方の値を使用する。
【0040】
バインダーの測定中に起こりうる非平衡遷移のために、原料コンパウンドの測定は、個々の例においてより正確な結果が得られる可能性がある。非有機粒子(a)が結晶化核として作用し、拡散過程を減少させる可能性があるため、原料コンパウンドを測定にかけた場合、動力学的効果が生じにくいと考えられる。
【0041】
例えば、貯蔵弾性率G曲線と損失弾性率G’’曲線は、溶融温度より低い温度(例えば、TPより20K低い温度)から材料が完全に溶融する温度まで材料を加熱する間の動的粘弾性測定で記録される。
【0042】
冷却および加熱速度をそれぞれ1K/分として、最初に110℃から60℃まで冷却し、次に110℃まで加熱した。
【0043】
本特許出願の文脈において、貯蔵弾性率および損失弾性率を決定するための動的粘弾性測定は、DIN 53019-4:2016-10に従って実施される。測定は、直径40mmのプレート-プレート形状を用いて、周波数1Hzの振動モードで適切に実施される。測定ギャップは0.15mmとすることができる。
【0044】
測定を実施するために、バインダー成分(b)の試料が完全に液化する温度、すなわちバインダー成分(b)の推定Tcrossの約20K超の温度まで当該形状を加熱し、試料を高温の下方のプレート上に置く。冷却および加熱速度をそれぞれ1K/分として、最初にバインダー成分(b)のTcrossの約20K超の温度から第1交点温度の約10K低い温度まで冷却し、次にバインダー成分(b)の融解温度の約20K超の温度まで加熱する。
【0045】
冷却勾配では、一定の変形γ=0.1%の変形制御モードで測定を開始する。トリガーポイントに達した後、測定は一定のせん断応力(バインダーの場合はσ=100Pa、原料コンパウンドの場合はσ=700Pa)のせん断応力制御モードに切り替えられる。
【0046】
加熱勾配では、一定のせん断応力σ=300Paのせん断応力制御モードで測定を開始する。トリガーポイントに達した後、測定は一定の変形γ=0.1%の変形制御モードに切り替えられる。トリガーポイントは、固体状態と液体状態の間の遷移部分に位置する。両状態の間で、せん断弾性率が大きく変化し、そのため測定ニーズに応じて様々な制御モードが必要となる。
【0047】
加熱または冷却勾配の間に試料が相変態を起こすため、線形粘弾性範囲に留まるには測定モードの変更が必要である。例えば、冷却勾配の間、試料は液体から硬質状態に変化する。液体状態での変形は大きすぎてはならない。大きすぎると試料はもはや線形粘弾性範囲にはない。液体が特定の変形にさらされた場合、与える力や応力を解放すると、液体は完全に新しい形状または位置になる。試料は液体状態で選択した変形に達するため、この段階での測定は変形が制御される。硬質状態では変形が達成されず、レオメータのトルクが限界に達する。そのため、測定モードをせん断応力制御モードに切り替える必要がある。変形制御モードからせん断応力制御モードへの測定の切り替えは、トリガーポイントによって設定される。トリガーポイントは、固体状態と液体状態の間の遷移部分に位置する。両状態の間では、せん断弾性率が大きく変化するため、測定ニーズに応じて様々な制御モードが必要となる。トリガーポイントは、線形粘弾性範囲における測定モードの変更を可能にする任意の特定のポイントまたは基準とすることができる。加熱勾配の場合も同様である。
【0048】
本発明によれば、バインダー成分は、TPと比べてTcrossが60Kを超えない範囲で、好ましくは50Kを超えない範囲で、より好ましくは45Kを超えない範囲で、最も好ましくは40Kを超えない範囲で、特に35Kを超えない範囲で高いという条件を満たす。これは、TcrossがTPよりも低い状況も含む。
【0049】
一実施形態において、バインダー成分(b)は、Tinitと[TP+25K]の間のDSCによって測定される総融解エンタルピーの割合が、少なくとも94%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、最も好ましくは少なくとも97%、特に少なくとも98%、特に少なくとも99%であることを示す。Tinitは初期融解温度である。「総融解エンタルピー」という用語は、例えば10℃から200℃の範囲など、すべての熱的事象の完了よりも10℃から20K高い範囲にある吸熱DSCピークの合計を指す。融解エンタルピーは、通常J/gとして報告され、吸熱DSCピーク曲線とベースラインで囲まれた領域から導き出すことができる。
【0050】
評価のために、完全溶融後の曲線部分を水平に回転させた。ベースラインを、サーモグラムの端から水平に引いた。初期融解温度(Tinit)は、TP未満の温度におけるベースラインとサーモグラムの間の最初の交点であり、バインダー成分(b)の初期融解温度を指す。融解温度TPはピークの最大高さの温度である。
【0051】
焼結可能な非有機粒子(a)を含まないバインダー成分(b)の試料、または焼結可能な非有機粒子(a)を含むバインダー成分(b)である原料コンパウンドの試料のいずれかをDSCにかける。焼結可能な非有機粒子(a)はDSC測定の温度範囲において相転移を示さないので、DSC曲線の全体的な形状および融解ピーク温度は本質的に変化しない。バインダー成分(b)と焼結可能な非有機粒子(a)を含む試料の測定では、バインダー成分(b)のみを含む試料の測定と比較して、絶対ピーク面積が異なる。これは、焼結可能な非有機粒子(a)による試料の「希釈」によるものである。しかし、比率はパーセント値で表されるため、結果は本質的に変わらない。
【0052】
本発明によれば、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)と第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)は、以下から選択される少なくとも1つの特性が異なる:
(1)好ましくは、エタノールまたはプロパノールなどのアルコール;ベンゼン、トルエンまたはキシレンなどの芳香族化合物;酢酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランなどのエーテル;アセトンなどのケトン;ヘキサンまたはヘプタンなどのアルカン;臭化n-プロピル、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、n-メチルピロリジンなどのハロゲン化炭化水素;およびそれらの混合物から選択される溶媒、水、ならびに超臨界状態の気体への溶解性;そして、
(2)熱および/または反応物質、好ましくは硝酸によって誘導される分解性;
(3)例えば温度および/または減圧によって誘導される蒸発による揮発性。
なお、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)は、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)よりも溶解性が低く、分解性が低くまたは揮発性が低い。
【0053】
バインダー成分(b)は、バインダー成分(b)の総体積に基づいて、3~70体積%、好ましくは5~60体積%、より好ましくは7~50体積%、最も好ましくは10~40体積%、特に12~35体積%、特に15~30体積%の第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)を含む。
【0054】
さらにバインダー成分(b)は、バインダー成分(b)の総体積に基づいて、30~97体積%、好ましくは40~95体積%、より好ましくは50~93体積%、最も好ましくは60~90体積%、特に65~88体積%、特に70~85体積%の第2(可塑化)熱可塑性および/またはワックス系材料(b-ii)を含む。
【0055】
様々な溶解性もしくは分解性または様々な揮発性により、選択的脱バインダーが可能となる。選択的脱バインダー工程では、1つのバインダー成分(本特許出願の文脈では、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii))が除去され、同時に別のバインダー成分(第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i))が製造される部品内に残り、焼結可能な非有機粒子を一緒に保持する。このような脱バインダー工程、例えば溶媒脱バインダー、熱脱バインダー、化学的脱バインダー等はそれ自体公知である。
【0056】
本発明は、熱脱バインダー、溶媒脱バインダー、または化学的脱バインダーなどの部分的脱バインダーを使用し、それによりウィッキング工程に依存する方法に伴う欠点を回避する。
【0057】
特に小型部品に適した実施形態では、ウィッキング工程を必要とすることなく、熱脱バインダーのみを行うことができる。このようなウィッキング工程では、バインダーの全量が狭い温度範囲で軟化するため、形状損失または歪みを防ぐためにウィッキング粉末で部品を支える必要がある。このため、プロセスに時間がかかり、部品の設計自由度が制限される。さらに微粉末を使用すると、グリーンパーツが汚染される可能性があり、さらなる洗浄が必要となる場合がある。本発明による方法は、分解および/または蒸発によって第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)を部品から徐々に除去することを含み、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)への影響は最小限である。
【0058】
一実施形態では、熱脱バインダーにのみ依存するプロセスに伴う欠点も、特に大型部品では回避される。第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料の熱脱バインダーの間、温度が上昇するにつれて、バインダーの塊全体から蒸発するバインダーの量が増加する。確実な出口経路がない状態でバインダー部分が急激に蒸発すると、部品が破損して完全性を失う可能性がある。したがって、部品の破裂を防ぐためには、バインダーの蒸発速度を極めて遅くする必要があり、劣化速度を低く保つ必要がある。このため、特に大きな部品の場合、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料の熱脱バインダーは、困難で時間のかかる方法となる。本発明による方法は、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料への影響が最小限となる方法で(すなわち、溶媒脱バインダーおよび化学的脱バインダーによって)、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料を部品の外側から中心に向かって徐々に除去することを含む。
【0059】
好適には、溶媒脱バインダー工程において、1つのバインダー成分は、前記バインダー成分を溶媒に溶解させる手段によって、グリーンパーツから選択的に除去することができ、第2バインダー成分は、グリーンパーツ内に残る。したがって、バインダー成分は、溶媒中で異なる溶解性を示すために、例えば分子量や極性が異なる必要がある。
【0060】
任意のポリマーまたはワックスは、ある溶媒、例えば非極性溶媒には極めてよく溶ける可能性があるが、別の溶媒、例えばより極性の高い溶媒には溶けにくいか不溶性である場合がある。したがって、特定のポリマーまたはワックスが(b-i)または(b-ii)材料として適格であるかどうかは、脱バインダー工程で使用する溶媒によって異なる。溶媒を変更する場合、例えば極性溶媒から極性の低い溶媒もしくは非極性溶媒に変更する場合、またはその逆の場合、バインダー成分の(b-i)または(b-ii)への分類が逆になることがある。
【0061】
例えば、溶媒としてアセトンを使用して溶媒脱バインダーを行う場合、脱バインダーされる部品に残存する材料(第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i))は、アセトンに難溶性または不溶性のポリマーまたはワックスとすることができ、一方、除去されるバインダー成分(第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii))は、アセトンに可溶性のポリマーまたはワックスとすることができる。
【0062】
一実施形態において、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)の溶解度は、100gの溶媒中、0.1gより低く、好ましくは0.05gより低く、より好ましくは0.01gより低く、最も好ましくは0.005gより低く、特に溶媒に不溶である。また第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)の溶解度は、所定の温度で100gの溶媒中、0.1g~500g、好ましくは0.5g~300g、より好ましくは1g~200g、最も好ましくは2g~175g、特に3g~150g、特に5g~100gの範囲である。所定の温度は、10℃~[TP-5°K]、好ましくは20℃~80℃、より好ましくは30℃~70℃、最も好ましくは35℃~65℃、特に40℃~60℃の範囲でとすることができる。
【0063】
化学的脱バインダー(「触媒的脱バインダー」とも呼ばれる)プロセスは、例えば、DE 102005027216 A1に記載されている。この目的のために、脱バインダーされる成形品は脱バインダー炉に配置され、その中で成形品は適切な処理温度に加熱される。その後、反応物質(硝酸など)を含むプロセスガスが炉内に導入される。バインダーを含む成形部品を高温の反応物質と接触させることにより、バインダー成分を成形部品から燃焼除去することができる。反応物に対するそれらの化学的安定性に応じて、1つ以上のバインダー成分が成形品中に残る場合がある。
【0064】
一実施形態において、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)は半結晶性である。用語「半結晶性」は、高度な分子間および分子内秩序を有するポリマーを特徴付ける。ポリマーの半結晶性の性質は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される一次転移点または結晶融点(Tm)により確認できる。
【0065】
好ましくは、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)は、流動状態と固化状態を分離する明確な遷移を示すため半結晶性である。さらに、これらは固化時に結晶化による強度が増加することを特徴とする。
【0066】
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)および第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)は、様々な材料から選択することができる。
【0067】
適切なポリマーとしては、以下のものが挙げられる:
ポリオレフィン;例えば、
Lupolen 2420、Lupolen 5261 Z(LyondellBasell Industries Holdings B.V.から入手可能)、Sabic P6006NA(Sabicから入手可能)、BorPure(登録商標)MB5569、BorPure(登録商標)MB6561、BorPure(登録商標)MB7541(Borealisから入手可能)、Exceed(登録商標)1018、Enable(登録商標)2203MC(Exxon Mobileから入手可能)などのポリエチレン;
【0068】
BC250MO、BC545MO(Borealisから入手可能)、Adstif HA5029、Adstif HA600U、Adstif EA600P、Adstif EA648P、Clyrell RC213M、Clyrell RC5056、Hostalen PP H5416(LyondellBasell Industries Holdings B.V.から入手可能)、Achieve(登録商標)Advanced PP6936G2、Achieve(登録商標)Advanced PP6945G1、Achieve(登録商標)Advanced PP6035G1、ExxonMobil(登録商標)PP1105E1、ExxonMobil(登録商標)PP3155E5、ExxonMobil(登録商標)PP9574E6(Exxon Mobileから入手可能)などのポリプロピレン;
【0069】
エテン、プロペン、ブテン、ヘキセンなどのモノマーのポリオレフィンコポリマー、好ましくは、Vistamaxx 8880(Exxon Mobileから入手可能)などのプロピレン-エチレンコポリマー;
【0070】
EnBA EN 33091(Exxon Mobileから入手可能)などのエチレン-n-ブチルアクリレートコポリマーまたはEscorene(登録商標)UltraUL 8705(Exxon Mobileから入手可能)、ELVAX(登録商標)250(Dowから入手可能)などのエチレン酢酸ビニルコポリマーなどの非オレフィンモノマーとのポリオレフィンコポリマー;
【0071】
グラフトポリプロピレンLicocene(登録商標)PP MA 1332(Clariantから入手可能)などの変性ポリオレフィン;
【0072】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート;
【0073】
ポリアミド12などのポリアミド;コポリアミド、例えば、Griltex 2439 A,Griltex 1796 A、Griltex 1500 A、Griltex D 2638A(EMS-CHEMIE HOLDING AGから入手可能);Orgasol 3502 D(ArkemaAGから入手可能)、UNI-REZ 2620、UNI-REZ 2638、UNI-REZ 2656、UNI-REZ 2674、UNI-REZ 2720、UNI-REZ 2291(Kraton Corporationから入手可能);ポリカーボネート、ポリ-α-メチルスチレン、ポリウレタン;ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルラクタム、ポリビニルピロリドン、およびそれらのコポリマーなどの水溶性または水分散性熱可塑性ポリマー;
【0074】
ポリエステル、例えば、ポリカプロラクトン、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシバレレート)ENMAT Y1000P(TianAn Biologic Materials Co.,Ltd.から入手可能)、フタル酸エステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート、コポリエステル、例えば、Griltex 6E、Griltex 8E、Griltex 9E、Griltex D 1365E、Griltex D 1442E、Griltex D 1539E、Griltex D 1655E、Griltex D 1841E、Griltex D 1682E、Griltex D 1939E、Griltex D 2132E、Griltex D 2245E;
【0075】
ポリエーテルエーテルケトンまたはポリオキシメチレンなどのポリエーテル;
およびそれらの混合物。
【0076】
異なる分類のポリマーを組み合わせることも可能であることが理解される。
【0077】
通常、ポリアミドは、カルボン酸とアミンのアミドへの反応、またはカルボン酸とアミンの部分/誘導体の反応によって製造することができる。ポリアミドホモポリマーは、ε-カプロラクタムの開環重合によるポリアミド6のなどの1つのモノマー、すなわち4~25個の炭素原子を有するアミノ酸またはラクタムの反応によって製造することができる。ポリアミドは、4~25個の炭素原子を有するジアミンと4~25個の炭素原子を有するジカルボン酸またはその塩の重縮合反応によって製造することができる。例えば、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応またはヘキサメチレンジアミンアジペートの反応によるポリアミド6.6である。コポリアミドは、種々のアミンと種々のカルボン酸の重縮合反応、好ましくはヘキサメチレンジアミンなどの4~25個の炭素原子を有するジアミン、好ましくはアジピン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸などの4~25個の炭素原子を有するジカルボン酸、好ましくはアミノウンデカン酸などの4~25個の炭素原子を有するアミノカルボン酸、またはその塩の重縮合反応によって製造することができる。様々なモノマーを混合し、コポリアミドの三元系、四元系、多元系に反応させることにより、コポリアミドの特性、例えば融点および/または粘度および/または接着性を調整することができる。例えば、PA6(ε-カプロラクタム)、PA6.6(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸またはヘキサメチレンジアミンアジペート)およびPA12(アミノラウリル酸)のモノマーを三元系で混合することにより、20~40%のPA6.6、20~40%のPA6、および30~50%のPA12の混合物では110~120℃の融点とすることができる。一方、純粋なPA6.6、PA6、およびPA12の融点は、それぞれ250℃、215℃、および176℃である。分岐および/または芳香族カルボン酸、および/または、分岐および/または芳香族アミンとの反応、ならびにさらなる反応相手、例えばエーテル、エステル、エラストマーおよび他多数との反応は、それ自体公知である。
【0078】
Griltex 2439 A(EMS-CHEMIE HOLDING AGから入手可能)が特に好ましい。
【0079】
ポリオレフィンは、原油およびガスなどの天然炭素源から一般的に得られるプロピレン、エチレン、イソプレン、およびブテンなどのオレフィンの重合によって形成される熱可塑性ポリマーのグループである。ポリオレフィンには、側枝の有無にかかわらず、一緒に結合した炭素原子と水素原子のみが含まれる。ポリオレフィンの特性は、主にモノマーの種類と重合経路に依存し、その結果、様々なモル質量と結晶化度となる。それらは、様々な官能基を導入することで簡単に変性させたり、または他のポリマーおよび充填材と混合したりすることで、必要な用途に合わせた特性を得ることができる。ポリオレフィン、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、メタロセンポリエチレン(mPE);架橋ポリエチレン(xPE);環状ポリオレフィン(COC);シンジオタクチック、アイソタクチック、およびアタクチックポリプロピレン(sPP、iPP、aPP);ランダムおよびホモポリプロピレン(rPP、hPP);熱弾性ポリオレフィン(TPO)、ならびに他の特殊なタイプのポリオレフィン、例えばポリブテン(PB)、ポリメチルペンテン(P4MP)、(EP)、エチレンビニルアセテート(EVA)、およびそれらの混合物(ブレンド)およびコポリマーを使用することができる。通常、ポリオレフィンは高い耐薬品性(アルカリおよび希酸に影響されない)と低い溶媒溶解性(60℃未満の温度ではほとんどの溶媒に影響されない)を特徴とする。
【0080】
Vistamaxx 8880、Achieve(商標)Advanced PP6936G2(Exxon Mobileから入手可能)が特に好ましい。
【0081】
ポリアルキレングリコール、またはポリビニルアルコール、ポリビニルラクタムおよびコポリマーから選択されるポリビニルポリマーなどの水溶性または水分散性熱可塑性ポリマーは、ポリマーをアセトン、エタノールおよび水などの一般的な溶媒に可溶または分散可能にする官能基を含む。ポリアルキレングリコールの中では、ポリエチレングリコールが好ましく、例えば、ポリエチレングリコール200からポリエチレングリコール20.000(Carl Roth GmbH+ Co.KGから入手可能)が挙げられる。通常、ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルのケン化によって製造することができる。ポリビニルアルコールの水への溶解性などの特性は、ケン化度に影響を受ける。ポリビニルラクタムの中では、ポリビニルピロリドンが特に好ましい。ポリビニルピロリドンとポリビニルアルコールのコポリマーも使用できる。
【0082】
通常、ポリエステルは、ジオールおよび二酸などの二官能性反応物質の縮合反応によって得られるポリマーであり、鎖に沿ったエステル官能基(-COO-)の存在が特徴である。直鎖状ポリエステルは、脂肪族ポリマー、部分芳香族ポリマー、および芳香族ポリマーの3つのクラスに分類できる。脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸(またはエステル)と脂肪族ジオールから得られる。部分芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸(またはエステル)と脂肪族ジオールから得られる。芳香族ポリエステルは、すべてのエステル官能基が芳香環に結合している。異なる二官能性反応物質を使用することで、コポリエステルを得ることができる。少なくとも部分的に多官能性、すなわち二官能性を超える反応物質を使用することにより、分岐ポリエステルを得ることができる。
【0083】
通常、ポリエーテルは、ポリマー鎖の「骨格」にエーテル結合を持つポリマーである。
【0084】
記載されたポリマーのクラスには、熱可塑性エラストマーの誘導体も含まれることが理解される。熱可塑性エラストマーは、いわゆる結晶化可能な短いハードセグメントと長いフレキシブルセグメントから構成されるマルチブロックコポリマーである。このような化学構造により、熱可塑性エラストマーは、熱可塑性とエラストマーの挙動の独特な組み合わせを示し、これが有益である可能性がある。ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニル、ポリウレタン、ポリエステル、およびポリアミドをベースとする熱可塑性エラストマーはそれ自体公知である。
【0085】
「ワックス」という用語は、一般的にその物理的および技術的特性の観点から説明することができる有機物質群の総称的な技術用語である。特にワックスは、融点が40℃超(通常50℃~160℃)で溶融粘度が低い(融点より10℃高い温度で10Pa・s未満)固体であることが特徴である。ワックスは分解しないで溶解する。またワックスは、パラフィン、モンタンワックスなどの化石起源の天然ワックス;蜜蝋、カルナバワックスなどの天然起源の天然ワックス;エチレン-ビス-ステアリン酸アミドなどの半合成ワックス(化学修飾天然ワックスとも呼ばれる);ポリオレフィンワックスなどの合成ワックスに分類できる。本特許出願の文脈において「ワックス系材料」という表現は、ワックスだけでなく、エステル系ワックス、高級アルコールまたは多価アルコール、ワックス様の特性を示す高級脂肪酸、およびそれらの混合物などのワックス系物質を含むことを意図している。
【0086】
適切なワックス系材料としては、以下のものが挙げられる:
マイクロクリスタリンワックスなどのパラフィンワックス;
蜜蝋、キャンデリラワックス、カルナバワックスなどのエステル系ワックス;
【0087】
スルホン酸もしくはカルボン酸などの有機酸のエステル、好ましくは6~40個の炭素原子を有する脂肪酸のエステル、または安息香酸、フタル酸、もしくはヒドロキシ安息香酸などの芳香族カルボン酸のエステル;
【0088】
アミドワックス、例えば、スルホン酸またはカルボン酸などの有機酸のアミド、好ましくは6~40個の炭素原子を有する脂肪酸のアミド、例えば、Deurex A27P(Deurex AGから入手可能)などのオレイン酸アミド、Deurex A26P(Deurex AGから入手可能)などのエルカ酸アミド、Deurex A20K(Deurex AGから入手可能)などのエチレン-ビス-ステアリン酸アミド;N-エチルトルエン-4-スルホンアミドなどのスルホンアミド;
【0089】
ポリオレフィンワックス、例えば、ポリエチレンワックス、例えば、Deurex E06K、Deurex E08、Deurex E09K、Deurex E10K(Deurex AGから入手可能)、VISCOWAX(登録商標)111、VISCOWAX(登録商標)116、VISCOWAX(登録商標)123、VISCOWAX(登録商標)135(Innospec Leunaから入手可能);
酸化ポリエチレンワックス、例えば、Deurex EO40K、Deurex EO42、Deurex EO44P、Deurex E76K(Deurex AGから入手可能)、VISCOWAX(登録商標)252、VISCOWAX(登録商標)262、VISCOWAX(登録商標)271、VISCOWAX(登録商標)2628(Innospec Leunaから入手可能);
ポリオレフィンのコポリマーワックス、好ましくはエチレン酢酸ビニル、例えば、VISCOWAX(登録商標)334、VISCOWAX(登録商標)453(Innospec Leunaから入手可能);
Deurex P36K、Deurex P37K(Deurex AGから入手可能)などのポリプロピレンワックス、
酸化ポリプロピレンワックス;
【0090】
フィッシャー・トロプシュワックス、例えば、VESTOWAX EH100、VESTOWAX H2050 MG、VESTOWAX SH105、Shell GTL Sarawax SX105、Shell GTL Sarawax SX80(Evonik Industries AGから入手可能);
【0091】
10~40個の炭素原子を有する脂肪酸などの高級有機酸;
10~40個の炭素原子を有するアルコールなどの高級アルコールまたは多価アルコール;
ポリエチレングリコール;
およびそれらの混合物。
【0092】
一実施形態では、ワックス系材料は様々なワックス系材料の混合物である。
【0093】
一実施形態において、バインダー成分b-ii)は、可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料である。「可塑化熱可塑性および/またはワックス系材料」とは、熱可塑性および/またはワックス系材料と可塑剤との組み合わせを意味する。一般的に、可塑剤は通常180℃を超える沸点を有する高沸点液体であり、熱可塑性材料および/またはワックス系材料と相溶してその溶融粘度を低下させる。当業者は、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料、ならびに可塑剤の三元組み合せが均質相を形成することを理解するであろう。通常、可塑剤は極性化合物であり、その化学構造が酸素原子または窒素原子などの少なくとも1つの電気陰性度の高いヘテロ原子を含むことを意味する。
【0094】
好適には、可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料b-ii)は、b-ii)の総量に対して、最大50vol%、好ましくは最大40vol%、より好ましくは最大30vol%、最も好ましくは最大20vol%、特に最大15vol%、特に最大10vol%の量の可塑剤を含む。
【0095】
適切な可塑剤としては、以下のものが挙げられる:
液状の脂肪族カルボン酸エステル、例えば、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジ-n-オクチル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アゼライン酸ジメチル、アゼライン酸ジオクチル、マレイン酸ジ-n-ブチル、マレイン酸ジオクチル、オレイン酸ブチル、ヘキサン二酸ジメチル、ラウリン酸ベンジル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸エチル、クエン酸ジアセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル;
液状の芳香族カルボン酸エステル、例えば、フタル酸ジメチル、2-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、安息香酸ブチル、安息香酸2-エチルヘキシル、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル);
アルキルスルホン酸フェニルエステル;
液体アミド、例えば、n-ブチルベンゼンスルホンアミド、N-エチルトルエン-2-スルホンアミド、N-エチル-4-トルエンスルホンアミド;
液体有機酸、例えば、カプリル酸、ミリストレイン酸などの脂肪酸などのカルボン酸;
1-デカノール、2-デカノール、1-オクタデカノールなどの高級アルコール;
ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール;
およびそれらの混合物。
【0096】
通常、マイクロクリスタリンワックスなどのパラフィンワックスは石油に由来する。例えば、マイクロクリスタリンワックスは、石油精製プロセスから生じる特定の留分の脱油によって生成される飽和脂肪族炭化水素を主に含む固体の精製混合物として得られる。
【0097】
通常、エステル系ワックスは、天然に存在するワックスであっても、合成的に製造されたワックスであってもよい。好適には、天然に存在するエステル系ワックスは、蜜蝋、キャンデリラワックス、およびカルナバワックスから選択される。また合成的に製造されたエステル系ワックスは、好適には、カルボン酸のエステル、好ましくは5~34個の炭素原子を有する脂肪酸のエステル、より好ましくは10~28個の炭素原子を有する脂肪酸のエステル、またはヒドロキシ安息香酸のエステルから選択される。好ましくは、エステル系ワックスは、4-ヒドロキシ安息香酸のエステルなどのヒドロキシ安息香酸のエステルを含む。Loxiol 2472(4-ヒドロキシ安息香酸ベヘニルエステル、Emery Oleochemicals GmbHから入手可能)が特に好ましい。
【0098】
通常、ポリオレフィンワックスは、分岐した高分子量ポリオレフィンを熱分解するか、オレフィンを直接重合することにより製造することができる。適切なポリオレフィンワックスとしては、例えば、プロピレンまたは高級1-オレフィンのホモポリマー、プロピレンとエチレンまたは高級1-オレフィンのコポリマー、またはそれらの互いのコポリマーが挙げられる。高級1-オレフィンは、好ましくは4~20個、より好ましくは4~6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状のオレフィンである。これらのオレフィンは、オレフィン性二重結合に共役する芳香族置換基を有していてもよい。例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンまたは1-オクタデセン、スチレンなどである。ポリオレフィンワックスは酸化されていてもよい。Deurex E06K(Deurex AGから入手可能)などのポリエチレンワックスが特に好ましい。
【0099】
通常、スルホン酸またはカルボン酸、好ましくは脂肪酸のアミドなどのアミドワックスは、エチレンジアミンなどのアミドと、スルホン酸またはカルボン酸、好ましくは脂肪酸(5~34個の炭素原子、好ましくは10~28個の炭素原子を有する)の縮合反応によって製造することができる。Deurex A27P(Deurex AGから入手可能)などのオレイン酸アミド、Deurex A26P(Deurex AGから入手可能)などのエルカ酸アミド、Deurex A20K(Deurex AGから入手可能)などのエチレン-ビス-ステアリン酸アミドが特に好ましい。
【0100】
本発明によれば、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)と第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)は、溶媒への溶解性、熱および/または反応物質によって誘導される分解性、および揮発性から選択される少なくとも1つの特性が異なる。バインダー成分(b-i)および(b-ii)の溶媒への溶解性が異なり、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)が第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)よりも溶解性が低い場合には、適切な溶媒を用いて溶媒脱バインダー工程として脱バインダーが行われる。換言すると、溶媒脱バインダーの間、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)の少なくとも一部は適切な溶媒に溶解するが、一方、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)の大部分はグリーンパーツ内に残る。したがって、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)は、脱バインダー部分の必要な形状保持を提供するので、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)は、以下「骨格ポリマー」とも呼ばれる。
【0101】
好ましくは、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)は、ポリオレフィン、ポリオレフィンワックス、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、およびそれらの混合物から選択される骨格ポリマーである。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、異なるモノマーとのポリオレフィンコポリマー、非オレフィンモノマーとのポリオレフィンコポリマー(エチレン酢酸ビニルまたはエチレンn-ブチルアクリレートコポリマーなど)、変性ポリオレフィン、ポリオレフィンワックス、およびそれらの混合物が挙げられる。市販されている適切なポリマーの代表例は、上記のものである。
【0102】
1つの実施形態において、骨格ポリマーは、DSC融解ピーク温度TP:160℃未満、好ましくは150℃未満、より好ましくは140℃未満、最も好ましくは130℃未満、特に120℃未満、特に110℃未満、特に100℃未満、特に90℃未満を有する。
【0103】
好ましくは、骨格ポリマーは、ISO 1133に従って、160℃で2.16kgを用いた溶融粘度:1500Pa・s未満、好ましくは1300Pa・s未満、より好ましくは1000Pa・s未満、最も好ましくは800Pa・s未満、特に600Pa・s未満、特に500Pa・s未満、特に400Pa・s未満、特に300Pa・s未満、特に200Pa・s未満、特に100Pa・s未満を有する。
【0104】
好ましくは、骨格ポリマーは、ISO 1133に従って、190℃で2.16kgを用いた溶融粘度:1500Pa・s未満、好ましくは1300Pa・s未満、より好ましくは1000Pa・s未満、最も好ましくは800Pa・s未満、特に600Pa・s未満、特に500Pa・s未満、特に400Pa・s未満、特に300Pa・s未満、特に200Pa・s未満、特に100Pa・s未満の溶融粘度を有する。
【0105】
好ましくは、骨格ポリマーは、ISO 1133に従って、160℃で2.16kgを用いた溶融体積流動速度:少なくとも5cm3/10分、好ましくは少なくとも10cm3/10分、より好ましくは少なくとも20cm3/10分、最も好ましくは少なくとも30cm3/10分、特に少なくとも40cm3/10分、特に少なくとも50cm3/10分、特に少なくとも60cm3/10分、特に少なくとも70cm3/10分、特に少なくとも80cm3/10分、特に少なくとも90cm3/10分、特に少なくとも100cm3/10分、特に少なくとも110cm3/10分、特に少なくとも120cm3/10分、特に少なくとも130cm3/10分、特に少なくとも140cm3/10分、特に少なくとも150cm3/10分、特に少なくとも160cm3/10分、特に少なくとも170cm3/10分、特に少なくとも180cm3/10分、特に少なくとも190cm3/10分、特に少なくとも200cm3/10分を有する。
【0106】
好ましくは、骨格ポリマーは、ISO 1133に従って、190℃で2.16kgを用いた溶融体積流動速度:少なくとも5cm3/10分、好ましくは少なくとも10cm3/10分、より好ましくは少なくとも20cm3/10分、最も好ましくは少なくとも30cm3/10分、特に少なくとも40cm3/10分、特に少なくとも50cm3/10分、特に少なくとも60cm3/10分、特に少なくとも70cm3/10分、特に少なくとも80cm3/10分、特に少なくとも90cm3/10分、特に少なくとも100cm3/10分、特に少なくとも110cm3/10分、特に少なくとも120cm3/10分、特に少なくとも130cm3/10分、特に少なくとも140cm3/10分、特に少なくとも150cm3/10分、特に少なくとも160cm3/10分、特に少なくとも170cm3/10分、特に少なくとも180cm3/10分、特に少なくとも190cm3/10分、特に少なくとも200cm3/10分を有する。
【0107】
好ましくは、b-ii)は、極性ワックス、または極性可塑剤を含む可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料から選択される。
【0108】
本明細書において、「極性ワックス」という用語は、その化学構造が炭素原子と水素原子から本質的に形成され、あるいは炭素原子と水素原子によって構成され、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子などの電気陰性度の高いヘテロ原子を少なくとも1個含むワックスを意味する。
【0109】
好ましくは、極性ワックスは、ポリオレフィンワックス、エステル系ワックス、アミドワックス、高級有機酸、高級アルコールまたは多価アルコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物から選択される。
【0110】
好ましくは、エステル系ワックスには有機酸のエステルが含まれる。好ましくは、アミドワックスには、スルホン酸またはカルボン酸などの有機酸のアミドが含まれる。市販されている適切なワックスの代表例は、上記のものである。
【0111】
好ましくは、極性ワックスは、DIN ISO 2176に従って、20~160℃の範囲、より好ましくは30~150℃の範囲、さらに好ましくは35~140℃の範囲、特に好ましくは40~130℃の範囲、特に好ましくは40~120℃の範囲、特に好ましくは40~110℃の範囲、特に好ましくは40~100℃の範囲、最も好ましくは40~90℃の範囲の滴点を有する。
【0112】
より好ましくは、極性ワックスは、160℃におけるDIN EN ISO 3104に従った溶融粘度が、30Pa・s未満、好ましくは20Pa・s未満、より好ましくは10Pa・s未満、最も好ましくは5Pa・s未満、特に3Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に700mPa・s未満、特に300Pa・s未満、特に100mPa・s未満、特に50mPa・s未満である。
【0113】
より好ましくは、極性ワックスは、120℃におけるDIN EN ISO 3104に従った溶融粘度が、40Pa・s未満、好ましくは30Pa・s未満、より好ましくは20Pa・s未満、最も好ましくは10Pa・s未満、特に5Pa・s未満、特に3Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に700mPa・s未満、特に300Pa・s未満、特に100mPa・s未満である。
【0114】
さらに好ましい実施形態では、b-ii)は、芳香族エステルおよび芳香族スルホンアミドから選択されるワックス系材料、または芳香族エステルおよび芳香族スルホンアミドから選択される可塑剤を含む可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料である。芳香族エステルのアルコールは、1~40個の炭素原子を有するアルコールとすることができる。芳香族スルホンアミドは、アミド窒素原子に1~40個の炭素原子を有する少なくとも1つの有機部分を有することができる。
【0115】
有用性が証明されているb-i)とb-ii)の特に好ましい組み合わせは以下の通りである:
【0116】
一実施形態において、(b-i)は、ポリアミド、好ましくはコポリアミドである。また(b-ii)は、有機酸のエステルおよび/または有機酸のアミド、好ましくは芳香族エステルおよび芳香族スルホンアミドから選択されるワックス系材料、あるいは芳香族エステルおよび芳香族スルホンアミドから選択される可塑剤を含む可塑化熱可塑性材料および/またはワックス系材料である。ポリアミドは、好ましくは、「骨格ポリマー」について上記で定義したDSC融解ピーク温度TP、溶融粘度および溶融体積流動速度に関する制限を満たす。
【0117】
一実施形態において、(b-i)は、ポリエステル、好ましくはポリカプロラクトン、またはコポリエステル、好ましくはポリ(ヒドロキシブチラート-コ-ヒドロキシバレラート)、および/またはポリエステルベースの熱可塑性エラストマーである。また(b-ii)は、エステル系ワックス、有機酸のエステル、アミドワックス、高級有機酸、および/または高級アルコールもしくは多価アルコールである。ポリエステルまたはコポリエステルは、好ましくは、「骨格ポリマー」について上記で定義したDSC融解ピーク温度TP、溶融粘度および溶融体積流動速度に関する制限を満たす。
【0118】
一実施形態において、(b-i)は、ポリエチレンなどのポリオレフィン;ポリプロピレン;エテン、プロペン、ブテン、ヘキサンなどのモノマーのポリオレフィンコポリマー;エチレンn-ブチルアクリレートコポリマーおよび/またはエチレン酢酸ビニルコポリマーなどの非オレフィンモノマーとのポリオレフィンコポリマー;および/またはポリオレフィンワックス;および/または変性ポリオレフィン。また(b-ii)は、エステル系ワックス、有機酸のエステル、アミドワックス、高級有機酸、および/または高級アルコールもしくは多価アルコールである。ポリオレフィンは、好ましくは、「骨格ポリマー」について上記で定義したDSC融解ピーク温度TP、溶融粘度および溶融体積流動速度に関する制限を満たす。
【0119】
一実施形態では、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)はポリエチレンワックスであり、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)はアミドワックスである。ポリエチレンワックスとアミドワックスの組み合わせは、溶媒としてエタノールまたはアセトンを使用する溶媒脱バインダーに適している。
【0120】
好ましい実施形態では、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)はポリアミドであり、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)はワックス、好ましくはエステル系ワックスである。ポリアミドとワックスの組み合わせは、溶媒としてアセトンを使用する溶媒脱バインダーに適している。
【0121】
好ましい実施形態では、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)はポリプロピレンワックスであり、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)はアミドワックスである。ポリプロピレンワックスとアミドワックスの組み合わせは、エタノールを溶媒として使用する溶媒脱バインダーに適している。
【0122】
好ましい実施形態では、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)はポリエチレンワックスであり、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(bii)はポリエチレングリコールなどの水溶性または水分散性熱可塑性ポリマーである。ポリエチレンワックスと水溶性または水分散性熱可塑性ポリマーの組み合わせは、水または水溶液を溶媒として使用する溶媒脱バインダーに適している。
【0123】
以下の表は、本発明を実施する際に有用であることが証明された(b-i)、(b-ii)および溶媒の組み合わせを示す。さらにさまざまな組み合わせが可能であり、この表に限定されるものではない。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)および第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)は、それぞれ、単一の材料または上記で定義された少なくとも1つの特性の違いの要件を満たす材料の混合物で構成されてもよい。
【0129】
バインダー成分(b)は分散剤を含んでもよい。例えば、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)を構成する1つの材料が分散剤として作用し得る。そうでなければ、外部からの分散剤をさらに配合してもよい。
【0130】
通常、分散剤は、バインダー成分(b-i)および/または(b-ii)の間;および/または非有機粒子(a)とバインダー成分(b)の間の接着促進剤および/または相溶化剤として作用する。
【0131】
好適には、分散剤は、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、またはオレイン酸などの10~24個の炭素原子を有する脂肪酸から選択され、好ましくはステアリン酸である。
【0132】
好適には、外部からの分散剤は脂肪酸の金属塩から選択される。通常、金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、および亜鉛などの遷移金属から選択することができる。好適には、脂肪酸は、上記のように、5~34個の炭素原子、好ましくは10~28個の炭素原子を有する脂肪酸から選択することができる。好ましい脂肪酸の金属塩は、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛またはオレイン酸マグネシウムから選択される。
【0133】
バインダー成分(b)の粘度が上記範囲にあるため、溶融状態において、バインダー成分(b)は、焼結可能な非有機粒子(a)の間に均一かつ均質に分散し、個々の焼結可能な非有機粒子(a)または個々の粒子状原料コンパウンドと結合する。
【0134】
バインダー成分(b)の粘度を調整するために、減粘剤または増粘剤を配合することが望ましい場合がある。増粘剤は、溶融時のバインダー成分の粘度を高める役割を果たす。この高められた粘度は、焼結可能な非有機粒子の垂れを防止し、粒子の均一な流動を容易にし、偏析および沈降に対する耐性を付与する。
【0135】
特にバインダー成分(b)の粘度は、増粘剤または減粘剤によって調整される(すなわち低下または上昇する)。減粘剤は、バインダー成分全体の粘度を下げるために使用される。増粘剤は、バインダー成分全体の粘度を高めるために使用される。減粘剤は、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)、または、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)のレオロジー特性および流動性の制御を可能にする可塑剤として作用することができる。
【0136】
好適には、増粘剤または減粘剤は、ワックスおよび/または熱可塑性ポリマー、例えば、ポリオレフィンおよびポリオレフィンワックス、ポリアミドおよびアミドワックス、パラフィンワックス、エステル系ワックス;エチレン酢酸ビニルなどのビニルエステル;アビエテート;アジピン酸塩;アルキルスルホネート;ホルムアミド、ヒドロキシルアルキルホルムアミド、アミン、ジアミンなどのアミンおよびアミド;アゼレート;安息香酸塩;クエン酸塩;塩素化パラフィン;エーテル-エステル系可塑剤;グルタル酸塩;炭化水素油;イソ酪酸塩;マレイン酸塩;オレイン酸塩;リン酸塩;フタル酸塩;スルホンアミド;ピーナッツ油、魚油、ひまし油などの油性液体;およびこれらの混合物から選択される。好適には、140℃で<40mPa・sの粘度を有するポリエチレンワックスDeurex E09Kを減粘剤として使用することができ、140℃で4000mPa・sの粘度を有するDeurex E25またはさらに高分子量のポリオレフィン系化合物を増粘剤として使用することができる。
【0137】
一実施形態において、増粘剤または減粘剤および/または分散剤は、バインダー成分(b)の総体積に基づいて、0~15体積%、好ましくは0.01~10体積%、より好ましくは0.02~8体積%、最も好ましくは0.5~6体積%の量で存在することができる。
【0138】
一実施形態において、バインダー成分(b)は、130℃の温度;および1s-1のせん断速度で測定される粘度として、6Pa・s未満、好ましくは5Pa・s未満、より好ましくは4Pa・s未満、最も好ましくは3Pa・s未満、特に2Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に700mPa・s未満、特に400mPa・s未満、特に200mPa・s未満を示す。粘度の測定は、EN ISO 3219:1994に従って行われる。
【0139】
一実施形態において、バインダー成分(b)は、110℃の温度;および1s-1のせん断速度で測定される粘度として、10Pa・s未満、好ましくは8Pa・s未満、好ましくは6Pa・s未満、より好ましくは5Pa・s未満、最も好ましくは4Pa・s未満、特に3Pa・s未満、特に2Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に600mPa・s未満、特に300mPa・s未満を示す。粘度の測定は、EN ISO 3219:1994に従って行われる。
【0140】
一実施形態において、バインダー成分(b)は、100℃の温度;および1s-1のせん断速度で測定される粘度として、10Pa・s未満、好ましくは8Pa・s未満、より好ましくは6Pa・s未満、最も好ましくは5Pa・s未満、特に4Pa・s未満、特に3Pa・s未満、特に2Pa・s未満、特に1Pa・s未満、特に500mPa・s未満の粘度を示す。粘度の測定は、EN ISO 3219:1994に従って行われる。
【0141】
粒子状原料コンパウンド
【0142】
本明細書において、「粒子状」という用語は、原料コンパウンドが、不定形、円柱状、回転楕円体、または略球状、または微細線維などの任意の形状の粒子で構成されていることを意味する。
【0143】
本発明の粒子状原料コンパウンドは、上記のように焼結可能な非有機粒子(a)およびバインダー成分(b)を含み、成形および焼結方法において有用である。
【0144】
したがって、本発明はさらに、成形および焼結の方法で使用するための粒子状原料コンパウンドに関し、以下を含む:
a)粒子状原料コンパウンド全体に分散された焼結可能な非有機粒子(焼結可能な非有機粒子は、粒子の少なくとも80%が100nm~400μmの範囲で最大粒径Amaxを有する粒径分布を有する);および
b)上記のバインダー成分。
【0145】
焼結可能な非有機粒子(a)には、従来公知の焼結可能な材料が含まれる。通常、焼結可能な非有機粒子(a)は、金属、合金、ガラス粒子およびセラミック粒子から選択される。
【0146】
一実施形態では、金属は、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、青銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、銀、金、白金、チタン、ニッケル、コバルト、クロム、亜鉛、ニオブ、タンタル、イットリウム、ケイ素、マグネシウム、カルシウム、およびそれらの組み合わせから選択される。好適には、金属粒子は、粒子の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%が、500nm~400μm、好ましくは1μm~150μm、より好ましくは3μm~50μm、最も好ましくは5μm~25μmの範囲で最大粒径Amaxを有する粒径分布を有する。
【0147】
好適には、合金は、ステンレス鋼(316L、17-4 PH)、クロム-ニッケル鋼などの鋼、青銅、Hovadurなどの銅合金、ハステロイまたはインコネルなどのニッケル基合金、コバルトおよびステライトなどのコバルト-クロム合金、アルミニウム6061などのアルミニウム合金、タングステン重合金、ASTMに従ったグレード1からグレード5(Ti-6Al-4V)を経てグレード38まで等のチタン合金から選択される。
【0148】
一実施形態では、セラミック粒子は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化イットリウムなどの酸化物;炭化ケイ素、炭化タングステンなどの炭化物;窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの窒化物;ステアタイト、コージェライト、ムライトなどのケイ酸塩;およびそれらの組み合わせから選択される。好適には、セラミック粒子は、粒子の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%が、200nm~25μm、好ましくは300nm~10μm、より好ましくは400nm~7μm、最も好ましくは500nm~3μmの範囲で最大粒径Amaxを有する粒径分布を有する。
【0149】
一実施形態において、ガラス粒子は、ハロゲン化物ガラス、カルコゲニドガラスなどの非酸化物ガラス;リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラス、例えば、アルミノケイ酸塩ガラス、ケイ酸鉛ガラス、ケイ酸ホウ素ガラス、ケイ酸ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、アルカリケイ酸塩ガラスなどの酸化物ガラス;およびそれらの組み合わせから選択される。好適には、ガラス粒子は、粒子の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%が、200nm~25μm、好ましくは300nm~10μm、より好ましくは400nm~7μm、最も好ましくは500nm~3μmの範囲で最大粒径Amaxを有する粒径分布を有する。
【0150】
好適には、焼結可能な非有機粒子(a)は、上述の金属、合金、ガラス粒子およびセラミック粒子のうちの1つを超える組み合わせ、例えば硬質金属または金属マトリックス複合材料(金属セラミックス複合材料とも呼ばれる)を含むことができる。
【0151】
一実施形態では、粒子状原料コンパウンドは、焼結可能な非有機粒子(a)を体積基準で約0.70~0.99・φr、好ましくは約0.75~0.98・φr、より好ましくは約0.80~0.96・φr、最も好ましくは約0.82~0.95・φr、特に約0.84~0.94・φr、特に約0.86~0.93・φrの量で含有する。φrは体積基準の臨界固形分充填量である。残りはバインダー成分b)で構成される。
【0152】
通常、「臨界固形分充填量」という用語は、臨界限界における原料コンパウンド中の焼結可能な非有機粒子の体積量を指す。前記「臨界限界」は、原料コンパウンドに焼結可能な非有機粒子を添加すると相対粘度が無限大になることにより、原料コンパウンドが硬くなり流動しなくなるときに到達する。物理的には、「臨界固形分充填量」は、連続的材料を保持しながらの粒子の最大充填配合を定義する。そして、それを超えるとバインダーマトリックスに固体粉末を充填し続けることができなくなる限界である。この文脈において、「相対粘度」という用語は、純粋なバインダーの粘度に対する原料コンパウンドの粘度を示し、焼結可能な非有機粒子の影響を分離する。原料コンパウンドの粘度は、焼結可能な非有機粒子の添加により上昇する。
【0153】
臨界固形分充填量を決定する方法はいくつかある。例えば、金属粉をバインダーにどんどん添加すると、ニーダーのトルクのピークを決定することができる。通常、臨界固形分充填量に達した後、原料コンパウンドが脆くなるにつれて、トルクは再び減少する。あるいは、ピクノメータの測定を使用することもできる:臨界固形分充填量までは、理論密度はピクノメータでの測定密度と一致するが、臨界固形分充填量を超えると、測定密度は細孔のため理論密度を下回る(1990,R.M.German,Powder Injection Molding,Metal Powder Industries Federation 1990,p.129-130も参照)。レオロジー測定を使用して、φ・ηr:(ηr-1)対φをプロットすることにより、臨界固形分充填量の値を推定することもできる(J.S.Chong,E.B.Christiansen,A.D.Baer,J.Appl.Polym.Sci.1971,15,2007-2021)。この文脈において、φは荷重を示し、ηrは相対粘度を示す。
【0154】
あるいは、一実施形態において、粒子状原料コンパウンドは、約20~90体積%、好ましくは30~80体積%、より好ましくは40~75体積%、最も好ましくは45~70体積%、特に50~65体積%の量の焼結可能な非有機粒子(a)を含む。またバインダー成分(b)を約10~80体積%、好ましくは20~70体積%、より好ましくは25~60体積%、最も好ましくは30~55体積%、特に35~50体積%の量で含む。
【0155】
バインダー成分(b)は、少なくとも2つのバインダー成分:第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)、ならびに第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)を含む。任意にバインダー成分(b)は、良好な加工性の観点から、さらなる機能性添加剤を含んでもよい。
【0156】
各粒子状原料コンパウンドは、バインダー成分(b)のマトリックス内で粒子状原料コンパウンド全体に分散した複数の焼結可能な非有機粒子(a)を含み、バインダー成分(b)によって一緒に保持されている。粒子状原料コンパウンド1つ当たり複数の焼結可能な非有機粒子(a)が存在することにより、粒子状原料コンパウンドの形状を焼結可能な非有機粒子(a)の形状に依存させないことが可能となる。したがって、例えば、焼結可能な非有機粒子(a)が球状である必要なく、略球状の粒子状原料コンパウンドを製造することができる。これは、任意のまたは不規則な粒子形状またはより広い粒度分布を有する焼結可能な非有機粒子(a)が、特定の、例えば球状の粒子形状を有する粉末よりも容易に入手可能であるため、製造コストを低減する。
【0157】
一実施形態において、粒子状原料コンパウンドは、温度130℃、せん断速度1s-1で測定した粘度が、600Pa・s未満、好ましくは400Pa・s未満、より好ましくは350Pa・s未満、最も好ましくは250Pa・s未満、特に150Pa・s未満、特に50Pa・s未満、特に10Pa・s未満を示す。粘度の測定は、EN ISO 3219:1994に従って行われる。
【0158】
一実施形態において、粒子状原料コンパウンドは、温度110℃、せん断速度1s-1で測定した粘度が、800Pa・s未満、好ましくは550Pa・s未満、より好ましくは450Pa・s未満、最も好ましくは350Pa・s未満、特に200Pa・s未満、特に100Pa・s未満、特に60Pa・s未満を示す。粘度の測定は、EN ISO 3219:1994に従って行われる。
【0159】
一実施形態において、粒子状原料コンパウンドは、温度100℃、せん断速度1s-1で測定した粘度が、1000Pa・s未満、好ましくは850Pa・s未満、より好ましくは700Pa・s未満、最も好ましくは550Pa・s未満、特に400Pa・s未満、特に250Pa・s未満、特に100Pa・s未満を示す。粘度の測定は、EN ISO 3219:1994に従って行われる。
【0160】
粒子状原料コンパウンドは、例えば、焼結可能な非有機粒子(a)と溶媒(例えば、バインダー成分(b)を溶解したアルコール溶媒)の懸濁液を噴霧乾燥に供することにより製造される。あるいは、焼結可能な非有機粒子(a)を分散させたバインダー成分(b)の固化溶融物を粉砕してもよい。また、より大きな粒子状の原料コンパウンドを押出機で配合し、その後造粒してもよい。
【0161】
通常、3D印刷およびプレス加工に使用する場合、粒子状原料コンパウンドは、少なくとも80体積%、好ましくは少なくとも90体積%、より好ましくは少なくとも95体積%、最も好ましくは少なくとも99体積%の粒子状原料コンパウンドが、0.005~0.3mm、好ましくは0.008~0.2mm、より好ましくは0.01~0.2mm、最も好ましくは0.015~0.15mmの範囲で最大粒径Bmaxを有する粒径分布を有する。
【0162】
射出成形工程で使用する場合、粒子状原料コンパウンドは、1~10mm、好ましくは2~8mm、より好ましくは3~5mmの範囲で最大粒径Bmaxを有する。
【0163】
方法
【0164】
さらに本発明は、以下の工程を含む方法に関する:
- グリーンパーツを得るために、複数の粒子状原料コンパウンドを融合する工程;および
- 第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)によって互いに結合した焼結可能な非有機粉末粒子(a)を含むブラウンパーツを得るために、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)を選択的に除去することによってグリーンパーツを部分的に脱バインダーする工程。
【0165】
一実施形態において、当該方法は、レーザー積層造形法または押出積層造形法などの積層造形法;中圧射出成形法または低圧射出成形法などの射出成形法;プレス加工法、および鋳造法から選択され、好ましくはレーザー積層造形法または押出積層造形法などの積層造形法から選択される。
【0166】
本特許出願の文脈において、「融合する」という用語は、方法が放射線を使用する積層造形法から選択される場合、「選択的に溶融および固化すること」を指す;または「融合する」という用語は、方法が射出成形法、鋳造法、微細線維印刷法、またはペレット印刷法から選択される場合、「溶融および固化」を指す;または「融合する」という用語は、方法がプレス加工法から選択される場合、「圧縮する」または「圧縮し、部分的または完全に溶融および固化すること」を指す。
【0167】
成分とプロセスパラメータを慎重に選択することにより、クラックのない部品を好適に得ることができる。このようなクラックは、例えば、脱バインダーの作業が速すぎる場合、または過酷な条件で行われた場合に発生する。したがって、成分およびプロセスパラメータは、好ましくは有害な条件が回避されるように選択される。
【0168】
通常、レーザーアレイ、放射線加熱素子などからの放射線を使用する積層造形法、例えばレーザー積層造形法またはHP社のマルチジェット融合法では、粒子状原料コンパウンドは層状に塗布され、次いで緻密化され、例えば冷却により固化される。緻密化の間、粒子状原料コンパウンド中に含まれるバインダー成分(b)は、例えばレーザーの電磁放射によって選択的に層状に溶融される。
【0169】
好ましい実施形態では、複数の粒子状原料コンパウンドを融合する工程は、以下の工程を含む:
- 原料コンパウンド粒子の第1層を提供する工程;
- 原料コンパウンド粒子の第1層を選択的に緻密化し、コンパウンド粒子を所定の方法で互いに結合させて第1成形部品層を生成する工程;
- 第1成形部品層上に、少なくとも1つの原料コンパウンド粒子の追加の層を設ける工程;および
- 原料コンパウンド粒子の追加の層を選択的に緻密化し、原料コンパウンド粒子を所定の方法で互いに結合させて少なくとも1つの追加の成形部品層を生成し、第1成形部品層と追加の成形部品層がグリーンパーツを形成する工程。
【0170】
通常、押出積層造形法は、原料コンパウンドを微細線維または顆粒として供給し、加熱されたプリンターの押出機ヘッドで溶融させ、層状に堆積させてグリーンパーツを造形する方法である。プリントヘッドをコンピュータ制御で動かし、印刷形状を決定する。通常、ヘッドは二次元的に移動し、一度に1つの水平面または層を堆積させる。その後、ワークまたはプリントヘッドを垂直方向に少しだけ移動させて、新しい層を開始する。印刷プロセス後、成形された原料コンパウンドは、固化したグリーンパーツとして取り出すことができる。グリーンパーツは、焼結可能な非有機粉末粒子とバインダーを含む。
【0171】
通常、中圧射出成形法または低圧射出成形法などの射出成形法は、微粉末化した原料物質をバインダーと混合して原料コンパウンドを作り、これを溶融して液体状態で鋳型に射出する(成形する)方法である。冷却後、成形された原料コンパウンドは鋳型内で固化して取り出すことができ、グリーンパーツ(成形品)が得られる。グリーンパーツは原料とバインダーを含む。微粉末材料が金属または合金の場合、この方法は金属射出成形(MIM)法と呼ばれる。微粉末材料がセラミックの場合、その方法はセラミック射出成形(CIM)法と呼ばれる。通常、微粉末材料を含む方法は粉末射出成形(PIM)法と呼ばれる。さらに適切な焼結可能な非有機粉末粒子としては、例えば、ガラス、セラミック、もしくはポリマー、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0172】
一般的に鋳造工程は、原料コンパウンドを溶融し、液体の状態で鋳型に流し込む(成形する)工程である。冷却後、成形された原料コンパウンドは鋳型内で固化して取り出され、グリーンパーツが得られる。グリーンパーツは、原料およびバインダーを含む。一実施形態では、鋳型は消失模型鋳型(lost casting mold)である。すなわち、当該鋳型は、例えばグリーンパーツを得るために破壊しなければならないので、1つのグリーンパーツだけに使用することができる。消失模型鋳型は、鋳造または積層造形などの様々な方法、例えば押出積層造形法またはインクジェット積層造形法によって製造することができる。消失模型(lost form)は、溶媒にも可溶なポリマー、例えばアセトン中のアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)で印刷することができる。一実施形態では、鋳型の一部分が印刷され、その部分が少なくとも部分的に原料コンパウンドで充填される。鋳型の印刷と鋳型の充填が終了するまで、これらの工程が繰り返される。好ましくは、鋳型とグリーンパーツの両方を同じ溶媒に溶解し、脱バインダーすることができる。グリーンパーツは、焼結可能な非有機粉末粒子とバインダーを含む。鋳造による成形工程の後、グリーンパーツは粉末を緻密化(焼結)するための調整操作を受ける。
【0173】
通常、プレス加工法では、複数の粒子状原料コンパウンドに高圧を加えて緻密化(プレス加工による成形)することにより、微粉末化した原料とバインダーを含む粒子状原料コンパウンドからグリーンパーツを形成することができる。好適には、緻密化は熱を伴うことができ、粒子状原料コンパウンドは部分的または完全に溶融してもよい。グリーンパーツは、焼結可能な非有機粉末粒子とバインダーを含む。プレス加工による成形工程の後、グリーンパーツは粉末を緻密化(焼結)するための調整操作を受ける。
【0174】
前述の工程は組み合わせることもできる。以下では、好ましい工程の組み合わせを詳細に説明する。これらの工程は、上で説明したように、粒子状原料コンパウンドを用いて実施することができる。あるいは、有機バインダー成分と焼結可能な非有機粒子を含む任意の他の粒子状原料コンパウンドを採用することができる。特に、バインダー成分が、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料と、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料を含み、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料と第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料が、上記のように少なくとも1つの特性において異なるものを採用することができる。
【0175】
一実施形態では、グリーンパーツを鋳造または成形してから、押出に基づく工程を経てグリーンパーツに印刷する。
【0176】
一実施形態では、グリーンパーツは、様々なプロセス(例えば、ある部品は3D印刷され、別の部品は成形される)を経て製造され、グリーンパーツまたはブラウンパーツとして取り出され結合される。結合に適した方法は、溶接法および接着法から選択される。接着のために適切な接着剤は、ポリビニルアルコール、ガランチンまたは寒天などの高分子バインダーと、水またはアルコールなどの溶媒と、適切な非有機粒子、好ましくは焼結可能な非有機粒子、より好ましくはグリーンパーツまたはブラウンパーツの焼結可能な非有機粒子と同じ組成の焼結可能な非有機粒子を含むスラリーから選択される。
【0177】
一実施形態では、方法は以下の工程を含む:
一 積層造形法により第1グリーンパーツを提供する工程;
- 第1グリーンパーツを鋳型に配置する工程;
- 本発明による粒子状原料コンパウンドの一部を溶融し、溶融部分を鋳型内で鋳造または射出成形し、溶融部分が第1グリーンパーツの界面を形成する工程;
- 第1グリーンパーツが鋳造グリーンパーツの一体部分となるようにその部分を固化する工程;
- 鋳造グリーンパーツを部分的に脱バインダーして、ブラウンパーツを得る工程。
【0178】
好ましくは、第1グリーンパーツは、焼結工程において第1グリーンパーツが均一に収縮し、歪みが生じない3D印刷法で製造される。したがって、第1グリーンパーツは、好ましくは、積層造形によって本発明による複数の粒子状原料コンパウンドを選択的に溶融および固化させて第1グリーンパーツを得ることによって製造される。
【0179】
換言すると、3D印刷によって第1グリーンパーツが製造され、3D印刷された第1グリーンパーツはその後鋳型に配置され、オーバーモールド(overmold)および/またはオーバーキャスト(overcast)される。
【0180】
このような工程の組み合わせは、製造される部品の1つ以上の主要部分のみが複雑な設計を有し、および/または高い幾何学的精度を必要とし、一方で部品の残りの部分(例えば主要部分の周囲)では、必要とする幾何学的精度が比較的低い場合に、工程効率の点で有利である。また、2成分金属射出成形法などにおける様々な材料の組み合わせも可能である。換言すると、1つの材料で第1グリーンパーツを製造し、次いで、その3D印刷された第1グリーンパーツを鋳型に入れ、別の適切な材料でオーバーモールドおよび/またはオーバーキャストする。
【0181】
この場合、第1グリーンパーツは、3D印刷法によって原料コンパウンドの第1部分から製造され、鋳型に配置される。その後、原料コンパウンドの第の2部分を溶融し、鋳型内にて鋳造または射出する。
【0182】
本発明の原料コンパウンドは、このような工程の組み合わせを実施するのに特に適している。これは、第1グリーンパーツの高い寸法安定性と、原料コンパウンドの溶融した第2部分の高い相溶性、すなわち溶融した第2部分が第1グリーンパーツに付着する高い能力によるものである。
【0183】
鋳型は、原料コンパウンドの溶融した第2部分が第1グリーンパーツと界面を形成するように、溶融した第2部分を受け入れるように構成される。換言すると、溶融した第2部分は、結合のために第1グリーンパーツと接触し、固化後に鋳造グリーンパーツの一体部分となる。例えば、溶融した第2部分は、第1グリーンパーツに隣接する位置に堆積されるか、または第1グリーンパーツに隣接してその上に堆積される。
【0184】
好ましくは、鋳型および/または第1グリーンパーツは、少なくとも40℃、好ましくは少なくとも50℃、より好ましくは少なくとも60℃、最も好ましくはDSC融解ピーク温度TPに近い温度まで予熱される。これは、第1グリーンパーツと原料コンパウンドの鋳造された第2部分のより良好な結合を促進するためである。
【0185】
一実施形態では、方法は以下の工程を含む:
- 第1グリーンパーツを提供する工程;
- 第1グリーンパーツを造形チャンバーに配置する工程;
- 第1グリーンパーツ上に原料コンパウンド粒子の第1層を提供する工程;
- 原料コンパウンド粒子の第1層を選択的に緻密化し、コンパウンド粒子を所定の方法で互いに結合させて第1グリーンパーツに結合した第1成形部品層を生成する工程;
- 任意に、第1成形部品層上に、少なくとも1つの原料コンパウンド粒子の追加の層を設ける工程;および
- 原料コンパウンド粒子の追加の層を選択的に緻密化し、原料コンパウンド粒子を所定の方法で互いに結合させて第1成形部品層に結合した少なくとも1つの追加の成形部品層を生成し、第1成形部品層と追加の成形部品層が第1グリーンパーツと一体化して一体部分を形成する工程;
- 一体部分を部分的に脱バインダーして、ブラウンパーツを得る工程。
【0186】
この場合、第1グリーンパーツは、原料コンパウンドの第1部分から成形、鋳造、積層造形工程によって製造され、造形チャンバー内に配置される。その後、原料コンパウンドの第2部分を塗布し、粒子状原料コンパウンドの一部をレーザーアレイ、放射線加熱素子などからの放射線を用いて溶融する。例えば、レーザー積層造形法またはHP社のマルチジェット融合法では、粒子状原料コンパウンドは層状に塗布され、次いで緻密化され、例えば冷却により固化される。緻密化の間、粒子状原料コンパウンド中に含まれるバインダー成分(b)は、例えばレーザーの電磁放射によって選択的に層状に溶融される。
【0187】
このような工程の組み合わせは、製造される部品の1つ以上の主要部分のみが複雑な設計を有し、および/または高い幾何学的精度を必要とし、一方で部品の残りの部分(例えば主要部分の周囲)では、必要とする幾何学的精度が比較的低い場合に、工程効率の点で有利である。また、2成分金属射出成形などにおける様々な材料の組み合わせも可能である。換言すると、第1グリーンパーツは1つの材料で製造され、塗布される粒子状原料コンパウンドは別の適切な材料である。
【0188】
本発明の原素材混合物は、このような組み合わせ工程を実施するのに特に適している。これは、第1グリーンパーツの高い寸法安定性と、原料コンパウンドの溶融した第2部分の高い相溶性、すなわち溶融した第2部分が第1グリーンパーツに付着する高い能力によるものである。
【0189】
造形チャンバーは、第1グリーンパーツを覆うように粒子状原料コンパウンドを受け入れるように構成されている。例えばレーザー積層造形法によって選択的に緻密化されると、原料コンパウンド粒子は所定の方法で互いに結合し、共通の界面を介して第1グリーンパーツに結合した第1成形部品層を製造する。次に、原料コンパウンド粒子の少なくとも1つの追加の層を第1成形部品層上で選択的に緻密化し、原料コンパウンド粒子を所定の方法で互いに結合させて、第1成形部品層に結合した少なくとも1つの追加の成形部品層を製造する。第1成形部品層および追加の成形部品層は、第1グリーンパーツとともに一体部品を形成する。一体化した部品は、その後、造形チャンバーから取り出され、結合していない粒子状原料コンパウンドを除去することができる。
【0190】
好ましくは、第1グリーンパーツは、少なくとも40℃、好ましくは少なくとも50℃、より好ましくは少なくとも60℃、最も好ましくは少なくともDSC融解ピーク温度TPに近い温度に予備加熱される。これは、第1グリーンパーツと原料コンパウンドの第2部分のより良好な結合を促進するためである。
【0191】
各工程において、バインダー成分(b)は、焼結可能な非有機粒子(a)の間に分散し、固化後にそれらを一緒に保持する。グリーンパーツが製造された後、未溶融層または鋳型から取り出される。
【0192】
一実施形態によれば、一時的な有機バインダーの部分的な除去は、以下の工程の1つ以上によって達成することができる:
- 第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)が、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)よりも低い溶媒溶解性を有し、部分的脱バインダーが、溶媒処理工程における溶媒処理によって実施される工程;
- 第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)が、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)と異なる熱分解性および/または異なる反応物質分解性を有し、部分的脱バインダーが、熱処理工程における熱処理および/または化学処理工程における化学処理によって行われる工程;
- 第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)が、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)と特定の温度において異なる蒸気圧を有し、部分的脱バインダーが、熱処理工程における熱処理によって行われる工程。
【0193】
バインダーを部分的に除去する工程の中では、溶媒処理工程が好ましい。
【0194】
第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)と比較して、異なる溶媒溶解性および/または異なる熱分解性および/または異なる反応物質分解性および/または異なる揮発性を有する第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)を使用することにより、脱バインダー工程中に1つ以上のバインダー成分を選択的に除去することができる。好適には、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)は選択的に除去され、一方、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)は除去されない。脱バインダー工程後に得られる部品は、ブラウンパーツと呼ばれる。ブラウンパーツは、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)および場合により残存する第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)によって互いに結合した焼結可能な非有機粒子(a)を含む。
【0195】
ブラウンパーツに保持された残りのバインダー成分は、脱バインダー工程と焼結工程の間の取り扱いと運搬に十分な強度を有する安定なブラウンパーツを提供する。
【0196】
溶媒処理工程では、グリーンパーツを適切な溶媒に浸漬する。好適には、溶媒は、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)が、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)よりもその溶媒に対する溶解性が低いか、または、好ましくは、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)がその溶媒に対して本質的に不溶性であり、第2熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-ii)がその溶媒に対して可溶性であるように選択される。適切な溶媒は、エタノールまたはプロパノールなどのアルコール;ベンゼン、トルエンまたはキシレンなどの芳香族化合物;酢酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランなどのエーテル;アセトンなどのケトン;ヘキサンまたはヘプタンなどのアルカン;臭化n-プロピル、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、n-メチルピロリジンなどのハロゲン化炭化水素;水;超臨界状態の気体;およびそれらの混合物から選択される。溶媒処理工程中、溶媒は好ましくは20~100℃、好ましくは25~80℃、より好ましくは30~60℃の範囲の温度TLに保たれる。
【0197】
化学処理工程では、脱バインダーされるグリーンパーツを反応性ガス雰囲気中で処理する。好適には、グリーンパーツを反応性ガス雰囲気中に置き、反応性ガスがバインダー成分を含むグリーンパーツの細孔に浸透するようにする。バインダー成分(b-ii)は、反応性ガスとの反応によって分解(degraded/decomposed)され、バインダー成分(b-ii)を除去した後に脱バインダーグリーンパーツ(ブラウンパーツ)が得られる。このような反応性ガス雰囲気は、ガス、好ましくは硝酸を含むことができる。好適には、化学処理工程は、高温レベルで実施される。例えば、化学処理工程における温度は、40~150℃、好ましくは60~140℃、より好ましくは80~130℃の範囲とすることができる。
【0198】
バインダー成分(b-ii)の部分的な除去により、ブラウンパーツの多孔質構造が得られる。焼結可能な非有機粒子(a)は、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)によって一緒に保持される。
【0199】
焼結工程
【0200】
一実施形態では、方法は、ブラウンパーツを焼結して焼結された部品を得る工程をさらに含む。
【0201】
この目的のために、ブラウンパーツは、好適には、脱バインダー工程の後に焼結工程に付される。焼結工程の間に、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)が除去され、脱バインダー部品(ブラウンパーツ)が焼結されて焼結された部品が得られる。通常、バインダーをさらに除去し、ブラウンパーツを焼結すると、収縮が生じる。
【0202】
好適には、残留バインダーは、100~750℃、好ましくは150~700℃、より好ましくは200~650℃、最も好ましくは300~600℃の範囲にある第1温度T1で除外される。適切な温度T1は、雰囲気にも依存する可能性がある。好ましくは、第1温度T1は、残留バインダー成分、例えば、第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)の関数として選択される。温度T1における第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)の除去は、部品形状に依存し、特に製造される部品の肉厚の二乗に比例する時間Δt1の間行われる。好ましくは、時間Δt1は、バインダー成分(b-i)および(b-ii)の少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.9%、最も好ましくは100%が除去されるように選択される。除去されなかったバインダーは、部品内では高分子バインダーとして利用できないが、例えば炭素として金属部品中に拡散し、金属部品中の炭素含有量を増加させる。熱脱バインダーは、複数の温度T1で実施されてもよく、例えば、温度T1aでの第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)の一部の除去は、時間Δt1aの間実施され、温度T1bでの第1熱可塑性材料および/またはワックス系材料(b-i)の残りの除去は、時間Δt1bの間実施される。
【0203】
焼結可能な非有機粒子(a)は部分的に焼結ネックを形成するため、残りのバインダー成分が除去されても部品は一緒に保持される。部品の微細孔構造により、熱バインダー除去は迅速かつ均一に行われる。
【0204】
熱バインダー除去中の望ましくない化学反応は、不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気または高真空によって回避することができる。不活性ガス雰囲気は、特に、少なくとも1つの希ガスを含み、その希ガスは、例えば、窒素、ヘリウムおよびアルゴンから好適に選択することができる。還元性雰囲気は、水素、二酸化炭素、および/または一酸化炭素などのガスを含むことができる。
【0205】
好適には、焼結は、600~2000℃、好ましくは800~1800℃、より好ましくは900~1500℃の範囲にある第2温度T2で行われる。セラミックおよび/またはガラス部品の製造において、第2温度T2は、好ましくは600~2400℃、より好ましくは800~2200℃、最も好ましくは1100~2000℃の範囲である。いずれの場合でも、焼結温度T2は、焼結可能な非有機粒子の溶融温度より低い。第2温度T2での焼結は、部品の形状および焼結される材料に依存する時間Δt2の間行われる。好ましくは、時間Δt2は、その後のさらなる焼結によって部品の気孔率に大きな変化が生じない程度に長い。焼結は、複数の温度T2で行うことができる。例えば、温度T2aで、焼結工程を時間Δt2aの間実施し、温度T2bで、別の焼結工程を時間Δt2bの間実施する。
【0206】
この焼結工程の間、成形部品の形状に本質的に影響を与えることなく、成形部品は収縮する。粉末粒子は融合し、粉末粒子間の空隙は消滅する。したがって、焼結中に製品の密度は増加し、製品は収縮する。通常、製品の材料およびその後の用途に応じて、焼結工程は、製品が粉末を構成する固体の体積に対して約90~100%の密度に達した時点で完了する。
【0207】
好ましくは、焼結工程の後、部品にはバインダーは完全に含まれていない。その結果、部品は緻密な一体構造を形成する。
【0208】
以下、添付の図面および実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【
図1】
図1は、1-Bの融解ピーク温度T
Pを決定するための、バインダー成分1-BのDSC測定の第2加熱勾配を示す。
【
図2】
図2は、3-Bの融解ピーク温度T
Pを決定するための、バインダー成分3-BのDSC測定の第2加熱勾配を示す。
【
図3】
図3は、4-Bの融解ピーク温度T
Pを決定するための、バインダー成分4-BのDSC測定の第2加熱勾配を示す。
【
図4】
図4は、1-Bのクロスオーバー温度T
crossを決定するための、バインダー成分1-Bの加熱中の動的粘弾性測定の貯蔵弾性率G’曲線および損失弾性率G’’曲線を示す。
【
図5】
図5は、3-Bのクロスオーバー温度T
crossを決定するための、バインダー成分3-Bの加熱中の動的粘弾性測定の貯蔵弾性率G’曲線および損失弾性率G’’曲線を示す。
【
図6】
図6は、4-Bのクロスオーバー温度T
crossを決定するための、バインダー成分4-Bの動的粘弾性測定の貯蔵弾性率G’曲線および損失弾性率G’’曲線を示す。
図6は、冷却中にT
crossの高い値が記録されたため、冷却中に記録されたものである。
【
図7】
図7は、表2に従って原料コンパウンドから得られた円柱状試験片(グリーンパーツ)の1-F(
図7A)、2-F(
図7B)、3-F(
図7C)、4-F(
図7D)を示す。
【
図8】
図8は、原料コンパウンド1-F(
図8A)、2-F(
図8B)、3-F(
図8C)、および5-F(
図8D)を用いた成形プロセスによって得られた試験片(グリーンパーツ)を前面と背面で示す。
【
図9】
図9は、表2の1-Fに従って原料コンパウンドから得られた切欠き試験片の側面と上面を示す。
【
図10】
図10は、表2の2-Fに従って原料コンパウンドから得られた切欠き試験片の側面と上面を示す。
【
図11】
図11は、表2の3-Fに従って原料コンパウンドから得られた切欠き試験片の側面と上面を示す。
【
図12】
図12は、シリコーン鋳型内で3D印刷された長方形の第1グリーンパーツ(
図12A)と、長方形の第1グリーンパーツを溶融原料コンパウンドでオーバーキャストすることによって製造された一体部品(
図12B)を示す。
【実施例】
【0210】
実施例
方法
動的粘弾性測定
貯蔵弾性率と損失弾性率の決定
【0211】
貯蔵弾性率および損失弾性率を決定するための動的粘弾性測定は、DIN 53019-4:2016-10に従って、ペルチェ温度制御測定システムを備えたNETZSCH Kinexus Pro+装置を用いて実施した。測定は、直径40mm、周波数1Hzの振動モードのプレート-プレート形状を用いて実施した。測定ギャップは0.15mmであった。測定を実施するために、当該形状を110℃(表3aの実施例2-Bでは160℃、表3aの実施例3-Bでは140℃)まで加熱し、試料を高温の下方のプレート上に置いた。最初に110℃(140℃、160℃)から60℃まで冷却し、次に110℃(140℃、160℃)まで加熱した。冷却および加熱速度はそれぞれ1K/分とした。冷却勾配では、一定の変形γ=0.1%の変形制御モードで測定を開始した。トリガーポイントに達した後、測定は一定のせん断応力(バインダーの場合はσ=100Pa、原料コンパウンドの場合はσ=700Pa)のせん断応力制御モードに切り替えられた。加熱勾配では、一定のせん断応力σ=300Paのせん断応力制御モードで測定を開始した。トリガーポイントに達した後、測定は一定の変形γ=0.1%の変形制御モードに切り替えられた。加熱勾配では、トリガーポイントが75℃であったバインダー4-Bを除き、トリガーポイントは変形γ=0.1%であった。
【0212】
バインダーと原料の粘度測定
粘度を測定するための動的粘弾性測定は、EN ISO 3219:1994に従って、ペルチェ温度制御測定システムを備えたNETZSCH Kinexus Pro+装置を用いて実施した。測定は、直径40mmのプレート-プレート形状を用いて実施した。測定ギャップは0.15mmであった。測定は以下の温度で等温的に行った:Tcross+20K、100℃、および130℃。0.01から100s-1の間様々なせん断速度を適用し、異なるせん断速度における粘度を測定した。測定は定常流の範囲で行った。定常状態は、時間に依存しない流れの指標である。純粋に粘性のある流れは、定常状態を1に導く。時間に依存しない流れの外側で測定された粘度値は信頼できない。0.90未満または1.10超、好ましくは0.95未満または1.05超、より好ましくは0.97未満または1.03超の定常状態の値は、もはや完全には信頼できないと想定される。疑わしい場合には、測定を繰り返すか、例えば、異なるプレート直径、プレートコーン形状、または同心円筒形状など、それ自体は既知である別の適切な測定設定を選択する必要がある。
【0213】
DSC測定
DSC測定は、NETZSCH DSC 214 Polyma装置を用いて行った。試料は、NETZSCHの穴あき蓋付アルミニウムConcavusパン(るつぼ)で調製した。この目的のために、試料は第1加熱勾配で-20℃から160℃(表3aの実施例2-Bと3-Bでは180℃)まで加熱し、その後-20℃まで冷却し、最後に-20℃から160℃(180℃)まで第2加熱勾配で再び加熱した。加熱速度および冷却速度はそれぞれ1K/分とした。測定は、パージガスとして品質5.0の窒素を使用し、ガス流量40mL/分で行った。
【0214】
製造の実施例
表1に従って、バインダー成分1-B~5-Bを製造した。表2に従って、バインダー成分1-B~5-Bの原料コンパウンド1-F~5-Fを製造した。融解ピーク温度TP、交点/「クロスオーバー」温度Tcrossおよび融解エンタルピーを表3aおよび3bに示す。
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
グリーンパーツの製造
レーザー積層造形
円柱状試験片は、Formiga P110(EOS GmbHから入手可能)を用いたレーザー積層造形法で作製した。表2の原料コンパウンド1-F~5-Fを出発材料として使用した。
【0220】
原料コンパウンド1-F~3-Fの場合、レーザー出力25W、粉末床表面温度60℃で、レーザー速度を4450mm/sとした。ハッチ間隔を変化させた結果(0.13mm対0.07mm)投入エネルギーが変化した:ハッチ間隔0.13mmの場合、投入エネルギーは42.3mJ/mm2;ハッチ間隔0.07mmの場合、投入エネルギーは78.5mJ/mm2であった。
【0221】
原料コンパウンド4-Fの場合、レーザー速度3000mm/s、粉末床表面温度60℃で、ハッチ間隔を0.13mmとした。レーザー出力を変化させた結果(20W対25W)投入エネルギーが変化した:レーザー出力25Wの場合、投入エネルギーは64.1mJ/mm2;レーザー出力20Wの場合、投入エネルギーは51.3mJ/mm2であった。
【0222】
表2の原料コンパウンド1-F~3-Fを出発材料として、前述のFormiga P110を用いたレーザー積層造形法により切欠き試験片を作製した(「円柱状試験片」参照)。本明細書において、「切欠き試験片」という用語は、1つ以上の切り欠きを含む直方体を指し、切り欠きは異なる幅を有していてもよい。このような切欠き試験片は、
図9から
図11に側面と上面で示す。
【0223】
図9では、原料コンパウンド1-Fを出発材料として使用し、レーザー出力25W、レーザー速度4450mm/s、およびハッチ間隔0.13mmとした結果、投入エネルギーは42.3mJ/mm
2であった。
【0224】
図10では、原料コンパウンド2-Fを出発材料として使用し、レーザー出力25W、レーザー速度4450mm/s、およびハッチ間隔0.07mmとした結果、投入エネルギーは78.5mJ/mm
2であった。
【0225】
図11では、原料コンパウンド3-Fを出発材料として使用し、レーザー出力25W、レーザー速度4450mm/s、およびハッチ間隔0.07mmとした結果、投入エネルギーは78.5mJ/mm
2であった。
【0226】
このような切欠き試験片の製造は、好ましくは低いレーザーエネルギー投入で、目的とする部品の形状を高度に表現し、粒子状原料コンパウンドのケーキングがほとんどない緻密な試料片、すなわち部品を得ることを目的とした。結果を
図9~11に示す:42.3mJ/mm
2という低いレーザーエネルギー投入においては、
図9に示す切欠き試験片のみが、緻密で、形状の高度な表現が得られ、ケーキングがほとんどなかった。対照的に、
図10と11の切欠き試験片は、78.5mJ/mm
2のエネルギー投入では、密度が低く、および/または、ケーキングのために切欠き形状が適切でない。
【0227】
成形工程
原料コンパウンド1-F、2-F、3-Fおよび5-Fを用いて、成形工程によりさらに試験片を作製した。成形工程を行うために、80×10×5mmの直方体キャビティを有するシリコーン鋳型を準備し、オーブンで60℃の温度に予熱した。調査する原料コンパウンドは、「REKA Klebetechnik」のホットグルーガンを使用して210℃(2-F、3-F、5-F)または170℃(1-F)の温度で溶融し、直径4mmのオープンノズルを介してホットグルーガンから原料コンパウンドをプレス加工するために、6バールの圧力を加えて予熱した鋳型の直方体キャビティに導入した。溶融した原料コンパウンドが固化した後、得られた試験片を鋳型から取り出した。均一な表面性状を有する試験片を得るため、はみ出した原料をサンドペーパーで研磨して取り除いた。原料コンパウンド1-Fから作製した試験片を
図8Aに示す;原料コンパウンド2-Fから作製した試験片を
図8Bに示す;原料コンパウンド3-Fから作製した試験片を
図8Cに示す;原料コンパウンド5-Fから作製した試験片を
図8Dに示す。それぞれの場合において、前面と背面が示されている。
【0228】
オーバーキャスト工程
原料コンパウンド1-Fを用いて長方形の第1グリーンパーツを作製し、それを溶融した原料コンパウンド1-Fでオーバーキャストした。長方形の第1グリーンパーツは、上記のように原料コンパウンド1-Fを用いた3D印刷によって製造され、80×10×5mmの直方体キャビティを有するシリコーン鋳型に配置された(
図12A参照)。長方形の第1グリーンパーツを含む鋳型をオーブンで60℃の温度に予熱した。次に、原料コンパウンド1Fを「REKA Klebetechnik」のホットグルーガンを使用して170℃の温度で溶融し、直径4mmのオープンノズルを介してホットグルーガンから原料コンパウンドをプレス加工するために、6バールの圧力を加えて予熱した鋳型の直方体キャビティに導入した。固化後、得られた一体部品を鋳型から取り出した。一体部品の写真を
図12Bに示す;焼結された一体部品を
図12Cに示す。
【0229】
焼結された部品の製造
引張試験片を用いて、DIN EN ISO 22068に準拠した引張試験を実施した。前記引張試験片は、表2に従った原料コンパウンド1-Fを用いて、前述のFormiga P110を使用して積層造形し、グリーンパーツを得た。次に、前記グリーンパーツを溶媒脱バインダー工程および焼結工程に供した。溶媒脱バインダーのために、原料コンパウンド1-Fのグリーンパーツを40℃の温度で6時間、アセトン中に16時間浸漬した。焼結は、加熱冷却速度5K/分、380℃で2時間、600℃で1時間、1100℃で30分、最終焼結温度1380℃で2時間の保持時間のサイクルで行った。DIN EN ISO 22068に従って5回の引張試験を実施した。結果を表4に示す。
【0230】
【0231】
レオメータ測定は、Kinexusレオメータ(NETZSCHから入手可能)を使用し、EN ISO 3219:1994に従って粘度測定を行った。
【0232】
表5~7は、100℃、130℃またはTcross+20Kの温度で測定したバインダー成分1-B~4-Bおよび原料コンパウンド1-F~4-Fの粘度値を示す。
【0233】
【0234】
【0235】
【0236】
追加の実施例
【0237】
【0238】
【0239】
【0240】
【0241】
【0242】
【0243】
【0244】
【0245】
【国際調査報告】