(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】金属又は金属合金表面に保護層を適用する方法及びそのような保護層を含む物品
(51)【国際特許分類】
C23C 16/34 20060101AFI20240808BHJP
C23C 16/513 20060101ALI20240808BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240808BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240808BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C23C16/34
C23C16/513
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510362
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2022073362
(87)【国際公開番号】W WO2023021224
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520233386
【氏名又は名称】フィート エンフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジェイ・シャンカール・ランガサミー
(72)【発明者】
【氏名】アニック・ファンフルセル
(72)【発明者】
【氏名】ディルク・ファンヘネーグデン
【テーマコード(参考)】
4K030
5H050
【Fターム(参考)】
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA01
4K030BA38
4K030CA02
4K030FA01
4K030JA03
4K030JA05
4K030JA06
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA16
4K030JA18
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA20
5H050CA11
5H050CA12
5H050CB12
5H050DA03
5H050EA01
5H050FA04
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、基板の少なくとも一部の露出面上に保護層を適用する方法であって、プラズマ放電室中で大気圧プラズマ放電によって窒素含有ガスを活性化して活性化ガスを得る工程と、露出面を、プラズマ放電室から放出される活性化ガスの残光と接触させる工程と、を含み、保護層が少なくとも一部の露出面上に形成され、表面が金属元素又はその合金を含み、金属元素がアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、露出面が活性化ガスの残光と接触する間、表面及びプラズマ放電室が互いに相対的に移動する、方法を開示する。本発明は更に、基板と基板の少なくも一部を被覆する保護層とを含む物品であって、基板及び保護層が金属元素又はその合金を含む界面を共有し、保護層が、界面から突き出ている、離間している複数の柱を含み、柱が、金属元素の窒化物の結晶の積層された層で作られ、結晶の積層された層が多面体形状を含む、物品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(21)の少なくとも一部の露出面(23)上に保護層(22)を適用する方法であって、
(i)大気圧プラズマ放電によってプラズマ放電室中のガスを活性化させて活性化ガスを得る工程であり、ガスが窒素(N
2)を含む、工程と、
(ii)露出面(23)を、プラズマ放電室から放出される活性化ガスの残光と接触させて、少なくとも一部の露出面上に保護層を形成する工程と
を含み、表面が、金属元素及び/又は金属元素の合金を含み、
金属元素が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、保護層が、金属元素の窒化物を含み、
露出面を活性化ガスの残光と接触させている間、表面及びプラズマ放電室が、互いに相対的に移動していることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
ガスが、少なくとも90vol%、好ましくは少なくとも95vol%、より好ましくは少なくとも98vol%、最も好ましくは少なくとも99vol%、特に少なくとも99.5vol%の量のN
2を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガス中のO
2等の酸化ガスの濃度が、0.5vol%以下、好ましくは0.05vol%以下、より好ましくは0.005vol%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
金属元素が、ナトリウム(Na)又はリチウム(Li)であり、窒化物が、それぞれ、窒化ナトリウム(Na
3N)又は窒化リチウム(Li
3N)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
金属元素がマグネシウム(Mg)であり、窒化物が窒化マグネシウム(Mg
3N
2)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
露出面が、大気圧プラズマ放電から遠位に離れたままにある、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
露出面を、700℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下、最も好ましくは100℃以下、特に75℃以下の温度で活性化ガスと接触させる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
露出面を活性化ガスと接触させる工程が、露出面をより高濃度の反応種を含む活性化ガスと接触させる期間及び露出面をより低濃度の反応種を含む活性化ガスと接触させる期間を交互に含む工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
露出面を、プラズマ放電室の出口と平行する面内でプラズマ放電室から放出される活性化ガスの残光に対して移動させる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
表面を、マルチパスで、活性化ガスの残光と接触させる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる物品(20)であって、物品が、基板(21)と基板(21)の少なくとも一部を被覆する保護層(22)とを含み、保護層(22)及び基板(21)が界面(23)を共有し、界面(23)が金属元素及び/又は金属元素の合金を含み、金属元素がアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり;保護層(22)が、界面(23)から突き出ている、離間している複数の柱(30)を含み、柱(30)が、金属元素の窒化物の結晶の積層された層で作られ、結晶の積層された層が多面体形状を含むことを特徴とする、物品。
【請求項12】
複数の柱がそれぞれ先端を含み、先端が、多面体形状の頂点又は辺を形成する、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
金属元素がリチウムであり、Li
3N結晶の積層された層が、六方両錐体構造を含む、請求項11又は12に記載の物品。
【請求項14】
柱が、10nmから100μmの間、好ましくは50nmから50μmの間、より好ましくは250nmから25μmの間、最も好ましくは500nmから15μmの間、特に1μmから15μmの間の自由高さを有する、請求項11から13のいずれか一項に記載の物品。
【請求項15】
保護層が、実質的に金属元素の窒化物のα相で作られ、好ましくは窒化物のβ相を実質的に含まない、請求項11から14のいずれか一項に記載の物品。
【請求項16】
保護層が、金属基準で少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の金属元素の窒化物のα相で作られる、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
窒化物のα相が、物品の繰り返しのめっき/ストリッピングサイクル時に、特に1mA/cm
2の電流密度で少なくとも250サイクル、好ましくは少なくとも500サイクル、より好ましくは少なくとも600サイクル、最も好ましくは少なくとも700サイクルの間、維持される、請求項15又は16に記載の物品。
【請求項18】
保護層(22)が、少なくとも60mol%、好ましくは少なくとも70mol%、より好ましくは少なくとも80mol%、最も好ましくは少なくとも90mol%の金属元素の窒化物を含む、請求項11から17のいずれか一項に記載の物品。
【請求項19】
請求項11から18のいずれか一項に記載の物品(20)を含む、電極(41、61、62)、好ましくはアノード。
【請求項20】
アノードとして請求項19に記載の電極(41)を含む、バッテリーセル(40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層を基板の表面に適用する方法であって、該表面が金属元素又はその合金を含み、特に金属元素がアルカリ金属又はアルカリ土類金属である、方法に関する。更に、本発明は、そのような基板と、少なくとも一部の基板上に配置された又は少なくとも一部の基板を被覆する保護層と、を含む物品に関する。更に、本発明は、物品を含む電極、特にアノードと、該電極を含むバッテリー(セル)とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルカリ金属アノード及びアルカリ土類金属アノードを含む高密度エネルギーバッテリー及びバッテリーセルにおける関心が急速に高まってきている。特に、アルカリ金属のリチウム(Li)やナトリウム(Na)及びアルカリ土類金属のマグネシウム(Mg)は、Liイオン及びリチウム-硫黄(Li-S)バッテリー及びバッテリーセル等のためのアノードの電極材料として関心を集めてきた。リチウムにおける関心は、リチウムが元素の中でも最も低い還元電位を有し、リチウム系バッテリーが非常に高いセル電位を有することを可能にすることに関連している。リチウムは三番目に軽い元素であり、単一荷電イオンの中で最も小さいイオン半径の一つを有する。更に、アノードにリチウムを使用することによって、バッテリー又はバッテリーセルの電解質中の非電気活性材料の存在を減らすことができ、更には最小限にすることができる。これらの因子は、リチウム系バッテリーが、最新のバッテリー、例えば、炭素アノード又は黒鉛アノード等のインターカレーションをベースとするアノードを含むバッテリーと比較して高い重量及び容積並びに電力密度を有することを可能にする。
【0003】
リチウム金属アノード等のアルカリ金属アノード及びマグネシウム金属アノード等のアルカリ土類金属アノードは、非水電気化学的セル(電気化学的セル、即ち非水電解質を含むバッテリーセル)中で使用するとき、金属と電解質と及びカソードから電解質へ移動する材料との反応によって表面膜を生じる。この表面膜は、バッテリーの技術分野において、固体電解質界面(SEI)層として知られる。
【0004】
SEI層は、典型的には、金属と電解質及びその構成成分との反応を軽減しながら、アノードを構成する金属イオンに導電性である。しかしながら、SEI層は、放電電圧及びセルの容量も減少することがあり、有効性又は効率が低下したSEI層は、金属アノードの腐食をもたらすことが多い。
【0005】
Liイオンバッテリーの場合、SEI層は、カーボネート系電解質の還元生成物を含み、且つ、実質的に該還元生成物からなる。
【0006】
Li-Sバッテリーの場合、カソードから電解質へ移動する材料は概ね、多硫化物の形態の硫黄カソードに由来する電気化学的還元生成物を含む。多硫化物は、反応性が高く、Li-Sバッテリー及びバッテリーセル中のSEI層の効果を弱め、更には無効までにし、そのため不安定になり、リチウムの腐食をもたらすことが多い。多硫化物の反応は、いわゆる多硫化物間輸送及び電解質の消耗をもたらし得る。これは、ほとんどの場合、Li-Sバッテリーのクーロン効率の低下につながる。
【0007】
更に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属をベースとするアノードを含むバッテリーセルの充電及び放電、特に繰り返される充電及び放電の間、電極(特にアノード)表面上の各金属の不均一な溶解及び付着は、針状の付着物、即ち(針状の)樹状突起の形成につながる。バッテリーセルのアノードとカソードとの間にバッテリーセパレーターを設けたとき、これらの針状の付着物は、バッテリーセパレーター材料に浸透し得、それによってバッテリーセルの短絡のリスクが高まり、バッテリーセルの安全性が低下する。
【0008】
とりわけLi-Sバッテリーにおける上述の不安定なSEI層の問題は、バッテリーセルの電解質中の硝酸リチウム(LiNO3)等のアルカリ金属硝酸塩の存在によって有意に軽減できることが、最新技術において知られている。
【0009】
別の解決策としては、電極の表面上への保護層の提供がある。保護層としての使用に適した公知の材料としては、Li3PO4、炭素系物質及びAl2O3等の無機材料、並びに有機材料、特にポリエチレンオキシド(PEO)及びアイオノマー(イオン特性を有するポリマー)等のポリマー、例えばスルホン化テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー-コポリマー、例えばNafion(商標)(CAS31175-20-9)が挙げられる。こうした材料はリチウム樹状突起の成長をある程度まで抑えることができるが、複雑な製造プロセス、低い機械的強度及び/又は低Liイオン導電率等の幾つかの欠点を示す。更に、有機材料が使用される場合、十分なLiイオン導電率を生むために、より高い動作温度も必要とされる。例えば、PEO及びNafion(商標)は、約60℃の動作温度を必要とする。
【0010】
窒化リチウム(Li3N)、窒化ナトリウム(Na3N)及び窒化マグネシウム(Mg3N2)等のアルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物は、固体リチウムイオン導電体として、高いイオン導電率(室温で6*10-3S/cm)及びセラミック材料に匹敵する機械的強度をもたらすことができることが知られる。
【0011】
「An ex-situ nitridation route to synthesize Li3N-modified Li anodes for lithium secondary batteries」、Y.J. Zhang、W. Wangら、J. Power Sources 277 (2015年)、304~311頁は、リチウム基板を、室温で2時間の間、少なくとも100sccmの窒素(N2)ガス流に曝露することによってリチウム基板上にLi3N層を形成することを開示している。この方法の欠点は、Li3N層が多孔質であり、そのため電解質が通過でき、リチウム樹状突起が形成され得ることである。更なる欠点は、この方法にかかる時間が長く、管理が難しいことである。不十分な工程管理は、不均一なLiイオン輸送を示す多結晶Li3N層を生成し得、これは特定領域に非常に大きな電力をもたらし、樹状突起の成長につながる。
【0012】
WO2013/055573は、基板の露出面上にセラミック保護層を含むリチウム金属基板を開示している。保護層は、窒化リチウムで作られ、リチウムイオンに高導電性であり、電解質中の成分との反応からリチウム金属表面を保護する。窒化リチウム層は、リチウム金属基板を、窒素等のガスのイオンを含むプラズマに曝露することによって得られる。
【0013】
「Flower-shaped lithium nitride as a protective layer via facile plasma activation for stable lithium metal anodes」、Ke Chen、Rajesh Pathakら、Energy Storage Materials 18 (2019年)、389~396頁は、短時間内、即ち数分以内のN2環境下でのプラズマ活性化によって、リチウム金属表面、特にリチウム金属電極上に保護層として窒化リチウム(Li3N)膜を生成する方法を開示している。それに加えて、リチウム金属基板を、対向する電極対の間の放電空間内に配置し、数分間、低圧プラズマ放電において活性化された窒素ガスと接触させる。N2プラズマは、N2ガスを真空石英管に導入し、ガスを電場に供することによって発生させた。これらの条件下、即座に、即ち1分以内に、独特な花形のLi3N保護層が形成される。花形の層の密度は、窒素プラズマへの曝露時間の増加に伴って高くなる。主にα相のLi3N結晶が観察され、これは、Liイオンによって結合された六方晶Li2N層で構成される。この構造は、N-Li-N構造中に開いたトンネルを設けてLiイオン導電率を確保する。Li3N層の典型的な厚さは、最大100μmまでの範囲である(4分の処理時間)。Li3N層は、48GPaの高いヤング率を有し、Li樹状突起を機械的に阻止できる。
【0014】
循環(充電/放電又はめっき/ストリッピング)に供した後、花形Li3Nの形態は半球形に変形し、それによって相互結合された界面保護層が形成される。その欠点は、Li金属表面被覆率の均一性が高いため、Liイオン輸送が制限されることであり、これはバッテリー容量を制限する。更なる欠点は、リチウム金属表面上に存在する窪み及び欠陥が、不均一なリチウム付着及び樹状突起形成の核として作用することであり、これは、アノードの最長寿命を制限する。
【0015】
EP1739732は、高融点誘電体、特に焼結セラミック等の金属窒化物、例えばAIN、Si3N4及びBNの窒化膜を形成する方法を開示している。この方法は、ほぼ大気圧下で互いに対向する電極対の対向面のうちの少なくとも1つに固体誘電体を設ける工程と、窒素ガスを、対向する電極対の間の空間内に導入する工程と、電場をパルス状に窒素ガスに適用する工程と、結果として得られた(パルス状の)プラズマガスを、対向電極間の放電空間外の拡散領域内で処理される物体と接触させて、物体表面上に窒化膜を形成する工程と、を含む。プラズマは、主に中性の活性N2種を含有し、したがってプラズマによる損傷が低減される。低圧条件下、且つHe又は別の不活性ガスとの混合物中にN2を使用した場合、低活性窒素種及び窒素イオンN2
+種が発生すると考えられる。遠隔タイプの例では、放電空間外に位置するシリコンウエハーに向かってプラズマガスを吹いて誘導するプラズマ誘導ノズルを形成するように、固体誘電体を延伸させてもよい。所望の組成の膜を得るために、放電電極の吹き出し口と基板との間の距離が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO2013/055573
【特許文献2】EP1739732
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】「An ex-situ nitridation route to synthesize Li3N-modified Li anodes for lithium secondary batteries」、Y.J. Zhang、W. Wangら、J. Power Sources 277 (2015年)、304~311頁
【非特許文献2】「Flower-shaped lithium nitride as a protective layer via facile plasma activation for stable lithium metal anodes」、Ke Chen、Rajesh Pathakら、Energy Storage Materials 18 (2019年)、389~396頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記の欠点のうちの1つ又は複数を克服することを目的とする。本発明の目的は、金属元素又は金属元素の合金を含む表面を不動態化するための改善された方法であって、保護層が、より安定性で且つ/又は改善された電極若しくはバッテリー性能をもたらす、方法を提供することである。他の利点の中でも、より単純であり、処理時間が短く、且つ/又はより良好な工程管理をもたらす、そのような方法を提供することを目的とする。
【0019】
本発明は更に、金属元素又は金属元素の合金を含む表面を有する基板と、表面の少なくとも一部を被覆する保護層と、を含む物品であって、保護層が、より安定性で且つ/又は改善された電極若しくはバッテリー性能をもたらす、物品を提供することを目的とする。保護層が、他の利点の中でも、最新の保護層と比較して特定の構造若しくは形態を有し、且つ/又は、特に電極として使用するために改善された特性を有する、そのような物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の第1の態様によれば、添付の特許請求の範囲に記載する基板の表面上に保護層を適用する方法を提供する。本明細書に記載の方法は、金属元素及び/又は金属元素の合金を含む露出面を含む基板を提供する。金属元素は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である。方法は、(i)大気圧プラズマ放電によってガスを活性化して活性化ガスを得、ガスが窒素(N2)を含む工程と、(ii)露出面を活性化ガスと接触させ、保護層が、少なくとも一部の露出面上に形成される工程と、を含む。
【0021】
保護層は、有利には、少なくとも60mol%の金属元素の窒化物、好ましくは少なくとも70mol%、より好ましくは少なくとも80mol%、最も好ましくは少なくとも90mol%の金属元素の窒化物を含む。mol%はXPSによって決定することができる。
【0022】
本発明によれば、露出面は、大気圧プラズマ放電から生じた残光中の活性化ガスと接触する。残光は、大気圧プラズマ放電から放出される、即ちプラズマ放電室から放出される、活性化ガスを指す。言い換えれば、残光は、プラズマ放電室から遠位に位置する。大気圧プラズマ放電は、活性化ガス中の反応種の形成を誘発する。これらの反応種の寿命は制限されているが、典型的には、残光の中に、場合によってはより低濃度で、より低い活性で、且つ/又は緩和状態で依然として存在する。
【0023】
残光プラズマ処理、又は言い換えればプラズマ放電から遠い位置でのプラズマ処理は、大気圧プラズマ放電への直接的な曝露と比較して「より軽度の」処理と考えられる。これは、基板と反応種との反応深さの制御を可能にし、基板の表面又は表面領域に制限することができ、基板の大部分の変質を最小限まで低減できる又は回避さえできる。そのような軽度の処理により、プラズマ残光の反応種との反応前又はその間中の基板表面の過熱のリスク及び望ましくない変質も、より良好に制御され得る。
【0024】
有利には、基板の露出面及びプラズマ放電室(及びそれによる残光)は、露出面を残光中の活性化ガスと接触させる間、互いに対して(with respect to each other)、即ち互いに相対的に(relative to one another)移動される。
【0025】
プラズマ(残光)処理中、露出面及びプラズマ放電室を互いに相対的に移動させることによって、プラズマ放電(室)から放出され、基板表面に接触する高濃度の活性化ガスの局在点の存在は、より良好に制御され得る又は必要に応じて回避され得る。加えて、基板表面の温度をより良好に制御することができ、望ましくない過熱及び/又は基板表面における溶融のリスクを最小限に抑えることができる。溶融は基板特性を局所的に変質し得るため、これは、基板表面が低融点物質を含む場合に特に重要である。また、後続する活性化ガスとの接触の合間に基板表面の緩和が有利に生じ得る。
【0026】
有利には、基板の表面及びプラズマ放電室、即ち残光は、曝露された基板表面に沿って(その方向で)、例えば露出面に平行する方向で、互いに対して移動する。有利には、基板は、プラズマ残光及びプラズマ放電室に対して移動する。或いは又は加えて、プラズマ放電室は、基板表面に対して移動する。表面及び残光のこの相対運動は、保護層を基板表面の所望の部分に適用することを可能にし、基板表面の異なる部分を、時間の関数として様々な強度の活性化ガスに供することを可能にする。或いは、本発明の更なる実施形態によれば、基板は、プラズマ残光に向かって及びプラズマ残光から離れて、例えば露出面に対して垂直の方向に移動する。有利には、表面は、マルチパスで活性化(残光)ガスと接触する。
【0027】
本発明者らは、驚くべきことに、基板の表面を大気圧プラズマ放電の残光と接触させることによって、したがって基板をプラズマ放電に直接曝露させない(即ち、表面を残光中に配置し、したがってプラズマ放電から遠く離す)ことによって、高結晶質であり且つ以下で更に記載する特定の形態を有する金属元素の窒化物を得ることが可能であることを発見した。この形態は、即座に形成され、処理時間が増加しながら維持される。驚くべきことに、そのような保護層は、バッテリー(セル)用の電極中で使用されるとき、金属と電解質との間のより安定な界面及び金属イオン拡散に対する低活性化バリアによる最適な電場をもたらすことが観察された。
【0028】
大気圧プラズマ放電によって活性化されるガスは、キャリアガスを含むことができる。或いは又は加えて、大気圧プラズマ放電によって活性化されるガスは、前駆体、特に前駆体ガス、蒸気、エアロゾル、又はこれらの組合せのうちの1つ又は複数を含むことができ、これは、大気圧プラズマ放電中又は大気圧プラズマ放電から生じる残光中で導入される。
【0029】
有利には、ガスは、少なくとも90vol%、例えば少なくとも95vol%、好ましくは少なくとも98vol%、より好ましくは少なくとも99vol%、最も好ましくは少なくとも99.5vol%、特に少なくとも99.95vol%の量の窒素を含む。
【0030】
有利には、ガス中のO2等の酸化ガスの濃度は、0.5vol%以下、例えば0.25vol%以下、0.1vol%以下、0.075vol%以下、好ましくは0.05vol%以下、0.025vol%以下、0.01vol%以下、0.0075vol%以下、より好ましくは0.005vol%以下である。
【0031】
本発明者らは、本明細書で開示する方法において純度が約90vol%しかない技術的品質のN2ガスを使用することによってさえ、主に金属元素の窒化物からなり、金属元素の酸化物、水酸化物又は炭酸塩等の不純物を実質的に含まない保護層が依然として得ることができることを発見した。「不純物を実質的に含まない」は、保護層中のこれらの不純物の濃度が分析技術の検出限界を下回ることを意味する。したがって、本明細書に記載の方法は、不純物による汚染に対して驚くほど頑強であり、より安価な基材の利用を可能にする。
【0032】
有利には、アルカリ金属はリチウム(Li)又はナトリウム(Na)であり、対応するアルカリ金属窒化物は、それぞれ窒化リチウム(Li3N)又は窒化ナトリウム(Na3N)である。有利には、アルカリ金属の合金は、アルカリ金属合金の総質量に対して少なくとも5wt%のリチウム又はナトリウム、好ましくは少なくとも7.5wt%、より好ましくは少なくとも10wt%のリチウム又はナトリウムを含む。
【0033】
有利には、アルカリ土類金属はマグネシウム(Mg)であり、対応するアルカリ土類金属窒化物は窒化マグネシウム(Mg3N2)である。有利には、アルカリ土類金属の合金は、アルカリ土類金属合金の総質量に対して少なくとも5wt%のマグネシウム、好ましくは少なくとも7.5wt%、より好ましくは少なくとも10wt%のマグネシウムを含む。
【0034】
有利には、露出面を、700℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下、最も好ましくは100℃以下、特に75℃以下の温度で活性化ガスと接触させる。
【0035】
有利には、露出面と残光中の活性化ガスとを接触させる工程は、露出面とより高濃度の反応種との接触期間及び露出面とより低濃度の反応種との接触期間を交互に含む工程を含む。これらの期間は、有利には、例えば少なくとも0.5秒、有利には少なくとも1秒の継続時間を有する低周波期間であり、マルチパスで、表面をプラズマ残光で繰り返し局所的に処理することによって又は露出面を残光に向かって及び残光から離して繰り返し移動させることによって若しくはその逆によって得ることができる。
【0036】
本発明の第2の態様によれば、添付の特許請求の範囲に記載の物品を提供する。本明細書に記載の物品は、基板と、基板の少なくとも一部を被覆する保護層とを含む。保護層及び基板は界面を共有する。界面は、金属元素及び/又は金属元素の合金を含む。金属元素は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である。有利には、保護層は、対応する金属元素のイオンに導電性である。有利には、保護層は、界面から突き出た複数の柱を含む。有利には、柱は、金属元素の窒化物の結晶の積層された層で作られる。有利には、柱は、基板表面/界面に沿って離間している。有利には、結晶の積層された層は、実質的に多面体形状又は構造を有する。
【0037】
有利には、複数の柱は、それぞれ、柱の突出方向に垂直な平面中の断面、例えば界面の平面と実質的に平行である断面、多角形形状を有する断面を有する。多角形形状は、シダ形、凧形、蝶形、又は特に星形であってもよい。有利には、複数の柱は、それぞれ、多面体形状又は構造の頂点又は辺を形成する先端を含む。
【0038】
好ましくは、金属元素はアルカリ金属であり、より好ましくは、金属元素はリチウムであり、Li3N結晶の積層された層は、実質的に六方両錐体の構造を含む。
【0039】
有利には、柱は、5nmから500μmの間、例えば10nmから100μmの間、好ましくは50nmから50μmの間、例えば250nmから25μmの間、最も好ましくは500nmから15μmの間、特に1μmから15μmの間、例えば5μmから15μmの間の高さを有する。高さは、自由高さ、例えば界面から突き出た高さを指す。
【0040】
本発明の第3の態様によれば、基板と、基板の少なくとも一部を被覆する保護層とを含む物品を提供する。保護層及び基板は界面を共有する。界面は、金属元素及び/又は金属元素の合金を含む。金属元素は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である。有利には、保護層は、金属元素の窒化物を含む。有利には、保護層は、金属元素の窒化物のα相で実質的に作られ、金属元素の窒化物のβ相を実質的に含まない。好ましくは、保護層は、少なくとも90%、例えば少なくとも95%(金属基準)の金属元素の窒化物のα相で作られる。高濃度の窒化物のα相は、Liイオン導電率を高レベルで維持できるという利点を示す。
【0041】
有利には、窒化物のα相は、物品の繰り返しのめっき/ストリッピングのサイクル時に、特に1mA/cm2の電流密度で少なくとも250サイクル、例えば少なくとも300サイクル、少なくとも400サイクル、好ましくは少なくとも500サイクル、より好ましくは少なくとも600サイクル、最も好ましくは少なくとも700サイクル、例えば少なくとも750サイクルの間、維持される。
【0042】
本発明の第4の態様によれば、上記の第2の態様及び第3の態様の特徴及び利点を合わせた物品を提供する。
【0043】
有利には、保護層は、少なくとも60mol%の金属元素の窒化物、好ましくは少なくとも70mol%、少なくとも80mol%、又は少なくとも90mol%の金属元素の窒化物を含む。mol%は、XPSによって決定することができる。
【0044】
有利には、本発明の第2、第3及び第4の態様の物品は、本発明の第1の態様の方法によって得られる。
【0045】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第2、第3又は第4の態様の物品を含む電極を提供する。電極は、アノードであってもよい。
【0046】
本発明の更なる態様によれば、特にアノードとしての、第5の態様による電極を含むバッテリーセルを提供する。
【0047】
保護層を適用するための非プラズマベースの方法と比較したプラズマベースの(付着)法の利点は、付着プロセスのパラメータをより正確に制御でき、これにより、得られた保護層の組成のより良好な制御及び/若しくは任意の不要な副生成物の形成の低減を可能にすること、並びに/又はプロセスを低温で実施できることである。更なる利点は、プラズマベースの方法が、エネルギー等の資源の利用がより効率的であることである。
【0048】
本発明者らは更に、驚くべきことに、本発明の方法によって、電極及びバッテリー用途において使用される場合に、特に繰り返しのめっき及びストリッピングサイクル又は充電及び放電サイクルの際に非常に安定性で且つ比類のない性能特性を示す特定の形態及び/又は特定の結晶化度を有する保護層が得られることを発見した。
【0049】
本開示の態様による保護層は、以下の利点のうちの1つ以上を有することが判明した:
- 保護層は、基板の表面に形成され、基板の大部分には及ばない、
- 繰り返しのめっき及びストリッピングサイクル又は充電及び放電サイクルにおける保護層の安定性の改善、
- 特に長期使用における充電-放電効率(クーロン効率)の改善、
- 保護層の機械的安定性の改善、
- 保護層の可撓性の改善、並びに
- 基板と電解質との間の界面の改善。
【0050】
ここで、本発明の態様を、添付の図面を参照して、より詳細に記載していくが、ここで、同じ参照符号は、同じ特徴構成を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明において使用できるプラズマ放電機器を概略的に示す図である。
【
図3A】本発明の方法によって得られる物品の表面のSEM画像である。
【
図3B】従来技術の方法によって得られる物品の表面のSEM画像である。
【
図4】典型的なコイン電池の構成を概略的に示す図である。
【
図5A】本発明の方法によって得られる物品の表面のSEM画像である。
【
図5B】本発明の方法によって得られる物品の表面のSEM画像である。
【
図5C】本発明の方法によって得られる物品の表面のSEM画像である。
【
図5D】本発明の方法によって得られる物品の表面のSEM画像である。
【
図6】対称コイン電池の構成を概略的に示す図である。
【
図7A】保護層を有さないリチウム金属アノードを含む対称コイン電池のEIS結果を示すグラフである。
【
図7B】保護層を有するリチウム金属アノードを含む対称コイン電池のEIS結果を示すグラフである。
【
図8A】リチウムの繰り返しのめっき及びストリッピング時の保護層を有する及び有さないリチウム金属アノードの安定性を示すグラフである。
【
図8B】保護層を有するリチウム金属アノードの安定性のクローズアップを示すグラフである。
【
図9A】リチウムの繰り返しのめっき及びストリッピング後の保護層を有するリチウム金属アノードの表面のSEM画像である。
【
図9B】保護層のクローズアップのSEM画像である。
【
図9C】保護層のクローズアップのSEM画像である。
【
図9D】保護層における形態学的特徴の幾何学的輪郭を示す図である。
【
図10】リチウムの繰り返しのめっき及びストリッピング後のリチウム金属上の保護層の3Dモデルを示す図である。
【
図11A】175時間及び54日それぞれの繰り返しのリチウムのめっき及びストリッピング時の保護層を有さないリチウム金属アノードの表面のSEM画像である。
【
図11B】175時間及び54日それぞれの繰り返しのリチウムのめっき及びストリッピング時の保護層を有するリチウム金属アノードの表面のSEM画像である。
【
図12】Li
3Nの積層された層の六方両錐体構造を概略的に示す図である。
【
図13A】プラズマ放電のための前駆体ガスとしての窒素及びキャリアガスとしてのアルゴンを用いた本発明の方法によって得られる物品の表面のSEM画像である。
【
図13B】繰り返しのリチウムのめっき及びストリッピング時の保護層を有する及び有さないリチウム金属アノードの安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の態様によれば、基板の露出面上に保護層を適用するための方法を提供する。表面は、金属元素及び/又は金属元素の合金を含む又はそれらからなる。表面は、2種以上の金属元素及び/又は2種以上の金属元素の合金を含んでもよい。金属元素は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である。得られた保護層は、金属元素の窒化物を含む又はそれからなる。
【0053】
アルカリ金属は、元素周期表(PSE: periodic system of elements)の第1族(Ia族)の任意の元素、即ち、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)又はフランシウム(Fr)であってもよい。好ましくは、アルカリ金属はリチウム(Li)であり、対応するアルカリ金属窒化物は窒化リチウム(Li3N)である。しかしながら、アルカリ金属はまた、ナトリウム(Na)であってもよく、それに対応するアルカリ金属窒化物は窒化ナトリウム(Na3N)である。
【0054】
表面は、アルカリ金属の合金を含み得る。好ましくは、アルカリ金属合金は、リチウム(Li)、例えばアルカリ金属合金の総質量に対して少なくとも5wt%のリチウム、好ましくは少なくとも10wt%のリチウム、及び/又はナトリウム(Na)、例えばアルカリ金属合金の総質量に対して少なくとも5wt%のナトリウム、例えば少なくとも10wt%、少なくとも15wt%、少なくとも20wt%、少なくとも25wt%、好ましくは少なくとも30wt%のナトリウムを含む。アルカリ金属合金は、1種又は複数の他の元素、例えばPSEの第2族の元素、例えばマグネシウム(Mg)、及び/又はPSEの第3族の元素、例えばアルミニウム(Al)、及び/又はPSEの第4族の元素、例えばケイ素(Si)を更に含んでもよい。
【0055】
アルカリ土類金属は、元素周期表(PSE)の第2族(IIa族)の任意の元素、特にベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)であってもよい。好ましくは、アルカリ土類金属はマグネシウム(Mg)であり、対応するアルカリ土類金属窒化物は窒化マグネシウム(Mg2N3)である。
【0056】
表面は、アルカリ土類金属の合金を含んでもよい。好ましくは、アルカリ土類金属合金は、マグネシウム(Mg)、例えばアルカリ土類金属合金の総質量に対して少なくとも5wt%のマグネシウム、例えば少なくとも10wt%、少なくとも15wt%、少なくとも17wt%、少なくとも20wt%、少なくとも25wt%、少なくとも30wt%、好ましくは少なくとも34wt%、例えば少なくとも35wt%のマグネシウムを含む。アルカリ土類金属合金は、1種又は複数の他の元素、例えばPSEの第1族の元素、例えばリチウム(Li)若しくはナトリウム(Na)、及び/又はPSEの第3族の元素、例えばアルミニウム(Al)、及び/又はPSEの第4族の元素、例えばケイ素(Si)を更に含んでもよい。
【0057】
本発明によれば、保護層は、大気圧プラズマ放電の残光に曝露された基板の表面上に適用される。ガスは、大気圧プラズマ放電によって活性化される。活性化されたガスをプラズマ放電室から放出させ、反応種が存在する、いわゆる残光を形成させる。残光は、大気圧プラズマ放電から離れて、即ち、プラズマ放電から遠位に位置する。基板の表面を残光と接触させる。反応種が、露出面上の金属元素と反応し、それによって保護層を生成する。
【0058】
大気圧プラズマ放電は、直流(DC)励起(DCプラズマ放電)若しくは交流(AC)励起(ACプラズマ放電)によって、誘導結合プラズマ励起によって、電波若しくはマイクロ波(無線周波若しくはマイクロ波プラズマ放電)による励起によって、又は当分野において公知の他の励起手段によって得ることができる。それらに限定されないが、DC励起による大気圧プラズマ放電は、電気アーク放電(アークプラズマ放電)であってもよい。AC励起による大気圧プラズマ放電は、これらに限定されないが、コロナ放電、誘電体バリア放電(DBD)、圧電直接放電、又はプラズマジェットであってもよい。
【0059】
図1を参照して、本発明の方法の例示的実施形態を実施するために、大気圧プラズマジェット装置(又はプラズマトーチ)1を利用することができる。装置1は、誘電体バリア放電(DBD)によって大気圧プラズマ放電を得ることを可能にする。装置1は、有利には、第1の電極2及び第2の電極3を含む。第2の電極3は、第1の電極2と同軸上に配置され得る。例としては、第1の電極2は中央に配置され、第2の電極3は第1の電極2の周囲に且つ第1の電極2と同軸上に配置してよい。電気絶縁体4は、第1の中央電極2と第2の外部電極3との間で同軸上に配置される。プラズマ放電が生じる放電管腔5は、電気絶縁体4と第1の電極2との間に設置される。この場合、第2の電極3は高圧電極として作用し、第1の電極2は接地され得る。或いは、放電管腔5は、電気絶縁体4と第2の電極との間に設置され、第1の電極2を高圧電極とすることができる。高圧(HV)電極は、当技術分野において公知の無線周波電源6に接続された電極を指す。第1及び第2の電極は、二者択一的に平面構造又は他の任意の好適な構造、例えば楕円形構造を有してもよく、電気絶縁体はそれらの間に介在され、片方の電極から離間して、放電管腔を画定することが理解されよう。
【0060】
電気絶縁体4は、Al2O3等の誘電体媒質であってもよい。有利には、第1の電極2(又は場合によっては第2の電極3)の外面と放電管腔5を画定する電気絶縁体4の内面との間の間隔は、0.1mmから10mmの間、例えば1~5mm、好ましくは約1.5mmである。距離は、セラミックスペーサ7によって制御可能である。放電管腔5は、遠位端8と近位端9との間で延伸し、出口を形成する。
【0061】
放電管腔5の遠位端8に配置された供給口は、放電管腔5へのキャリアガス11の供給を可能にする。キャリアガスは、有利には、窒素、ヘリウム若しくはアルゴン、又はこれらの2つ以上の組合せ等の不活性ガスである。好ましくは、キャリアガスは窒素を含む。より好ましくは、キャリアガスは、窒素から本質的になる。電源6が動作されると、プラズマ放電を放電管腔5中で生じさせ、これが放電管腔中でキャリアガス11を励起する。プラズマ励起キャリアガスは、近位端9で放電管腔5を出る。残光ゾーン12が、隣接するが遠位にある領域内に、即ち、近位端9から少し離れて且つ/又はその下流に形成される。基板を残光ゾーン12中に導入する。
【0062】
特にガス、蒸気又はエアロゾルの形態の前駆体13を、供給口14に通して、プラズマ放電室(放電管腔5)中又は残光ゾーン12中のいずれかに直接適用することができる。例としては、中央の第1の電極2は、内部管腔を有する中空である。前駆体13は、接地電極2の内部管腔に通して導入され、プラズマ励起キャリアガスによって活性化され得る残光ゾーン12中で放出される。後続して、活性化前駆体は、処理される基板の露出面と反応する。本方法では、前駆体は、有利には、プラズマ放電又は残光中で導入されない。
【0063】
スリット口15を、任意選択により、近位端9とプラズマ残光ゾーン12との間に設けることができる。スリット口15は、前駆体13の供給量の制御を可能にする。スリット口15は、0.1mmから5mmの間、例えば0.2mmから2.5mmの間、0.25mmから1mmの間、好ましくは、本発明の方法では約0.5mmの幅を有してもよい。
【0064】
金属元素を含む表面を有する基板は、その上又はその中に基板が置かれる基板ホルダー、例えば、プレート又はグリッド又はトレイによって残光ゾーン12中に配置され得る。基板ホルダーをプラズマジェット装置1に対して移動させて、全表面にプラズマ処理を施すことができる。好ましい実施形態によれば、基板ホルダー及びプラズマジェット装置1を互いに対して移動させることができ、特に基板ホルダー及び残光を互いに対して移動させることができる。好ましくは、露出面を放電管腔5の近位端9に向かって配向させ、残光ゾーン12中の活性化ガスとの最適な接触が確保される。有利には、基板ホルダーを、基板表面に沿って延伸する方向、例えば表面と実質的に平行の方向で、プラズマジェット残光に対して移動させることができる。或いは又は加えて、且つ有利には、基板ホルダーを、プラズマジェット残光に向かって及びプラズマジェット残光から離れて移動させることができ、即ち、基板表面をプラズマジェット残光に向かって及びプラズマジェット残光から離れて移動させることができる。
【0065】
キャリアガスは、有利には、窒素(N2)を含む、又は窒素(N2)から本質的になる。一実施形態によれば、前駆体ガスは、使用する場合、窒素を含む、又は窒素から本質的になる。キャリアガス及び/又は前駆体ガスは、窒素に加えて、1種又は複数の更なる不活性ガス、例えばヘリウム(He)又はアルゴン(Ar)から実質的になってもよい、又はこれらを含んでもよい。
【0066】
好ましくは、キャリアガス及び/又は前駆体ガスは、少なくとも90vol%、例えば少なくとも92vol%、好ましくは少なくとも95vol%、例えば少なくとも97.5vol%、より好ましくは少なくとも98vol%、最も好ましくは少なくとも99vol%、例えば少なくとも99.5vol%、少なくとも99.75vol%、少なくとも99.9vol%、又は少なくとも99.95vol%の量のN2を含む。本発明者らは、純度が約90vol%の技術的品質のN2ガスを使用した場合でも、金属元素の窒化物から本質的になり、対応する金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩又は他等の不純物が存在しないか又は利用可能な分析法で検出できないようなレベルでしか存在しない保護層を得ることができることを観察した。
【0067】
有利には、本開示の方法によって得られる保護層は、金属元素の窒化物を、金属元素の窒化物の少なくとも60mol%、少なくとも70mol%、少なくとも75mol%、少なくとも80mol%、少なくとも85mol%、少なくとも90mol%、又は少なくとも95mol%の量で含む。Mol%は、保護層の組成と関連して表され、XPSによって決定される。
【0068】
有利には、キャリアガス及び/又は前駆体ガス中の酸化ガス、特にO2の濃度は、5vol%以下、例えば1vol%以下、0.75vol%以下、好ましくは0.5vol%以下、例えば0.25vol%以下、0.1vol%以下、0.075vol%以下、より好ましくは0.05vol%以下、例えば0.025vol%以下、0.01vol%以下、0.0075vol%以下、最も好ましくは0.005vol%以下である。
【0069】
電源6は、好ましくは、0.5kVから50kVの間の、例えば1kVから10kVの間のAC又はDC電圧を供給するように配置される。電圧を連続波として電源によって第1及び第2の電極のいずれか片方又は両方に印加してもよい、即ち、プラズマ放電は、連続波放電であってもよい。或いは、電圧をパルス波として電源によって第1及び第2の電極のいずれか片方又は両方に印加してもよい、即ち、プラズマ放電は、パルスプラズマ放電であってもよい。
【0070】
電源によって印加された電圧の周波数は、kHzからGHz、例えば18kHz又は13.56MHzであってもよい。
【0071】
本発明の態様によれば、いわゆる間接プラズマ処理、遠隔プラズマ処理、又は残光プラズマ処理において大気圧プラズマ放電によってガスを活性化させた後で、金属元素及び/又はその合金を含む露出面を接触させる。それによって、処理する表面を放電管腔5から遠位に維持する。本発明者らは、驚くべきことに、表面を直接プラズマ放電に曝露することなく、基板の表面を大気圧プラズマ放電の残光と接触させることによって、高結晶質であり且つ以下で更に記載するような特定の形態を有する金属元素の窒化物を得ることが可能であることを発見した。この形態は、露出面を活性化ガスの残光と接触させてから1分以内に即座に形成される。更に、この形態は、処理時間が増加しながら維持される。特に、保護層は、金属元素の窒化物の複数の柱を含み得る且つ/又は実質的に単結晶であり得る。単結晶とは、窒化物が、実質的に単一タイプの結晶格子を含む結晶中に存在することを意味する。本発明では、単一タイプの結晶格子は、具体的には、実質的にα相タイプの結晶格子である。驚くべきことに、そのような保護層は、バッテリー(セル)用の電極中で使用されるとき、金属と電解質との間のより安定性の界面及び金属イオン拡散に対する低活性化バリアによる最適な電場をもたらすことが観察された。
【0072】
金属元素及び/又はその合金の溶融のリスクを最小限にするために、工程(ii)で曝露される金属及び/又は金属合金の表面の温度は、有利には、金属元素及び/又は金属元素の合金の融解温度未満に維持する。これは、基板表面をプラズマ残光処理に曝露することによって及びプラズマ放電(プラズマ放電室)への直接曝露を回避することによって達成され得る。加えて又は別法では、これは、基板表面をプラズマ放電室に対して、したがって前述したように残光に対して移動させることによって達成され得る。当業者は、金属又は金属合金の性質を考慮して適当な温度を選択することができるであろう。好ましくは、工程(ii)における、即ちプラズマ残光処理の間の露出面の温度は、700℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは400℃以下、最も好ましくは250℃以下、特に200℃以下、より特定すると180℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、特に75℃以下である。
【0073】
プラズマジェット装置1をXYテーブル上に取り付け、装置1を、処理する露出面上にわたって移動させることが可能である。或いは、基板をXYテーブル上に置いて、プラズマジェット装置1の下を移動させてもよい。そうすることによって、より大きな表面を処理することができ、且つ/又はマルチパスでの処理を実施することができる。
【0074】
有利には、工程(ii)は、基板の表面を、マルチパスで活性化(残光)ガスと接触させる工程を含む。これは、反復パスにおいて放電管腔の出口(近位端9)及び基板の表面を互いに相対的に移動させることによって実施することができる。そうすることによって、基板の表面上の同じ点が、例えば点が放電管腔の出口により近くに近接する場合はより高濃度の活性化ガスに、及び、例えば点が放電管腔の出口から更に離れる場合はより低濃度の活性化ガスに交互に曝露されることが達成される。パスの数は、印加される電力、表面と放電管腔の出口との間の距離、及び金属元素等の多数の因子によって決まり得、有利には1から10の間、有利には1から8の間、有利には1から5の間である。
【0075】
露出面の各単位部分は、有利には、0.1秒から5分の間、1秒から4分の間、例えば2秒から4.5分の間、5秒から4分の間、10秒から3.5分の間、15秒から3分の間、好ましくは20秒から2.5分の間、例えば25秒から2分の間、より好ましくは30秒から90秒の間、例えば約60秒の総処理時間の間、残光中の活性化ガスと接触させる。総処理時間は、単位表面積が活性化ガスによって接触される単一パス又はマルチパスの処理の時間を指し得る。
【0076】
処理時間は、これらに限定されないが、得られる保護層の厚さ、ガスの組成、ガス流、プラズマ放電機器の構成(電極が存在する場合、電極間の距離等)、及びプラズマ放電のタイプ(AC又はDC又は他、パルス波又は連続波等)、プラズマ放電出力、又は金属元素若しくはその合金を含む露出面の温度によって決まる。処理時間は、有利には、プラズマ残光中に存在する活性種との反応が、所望の厚さの保護層が基板表面上に形成され得、且つ基板の大部分の反応が最小限まで低減され得るか若しくは更には回避され得るように基板表面に限定されたままになるように選択される。
【0077】
前処理を、基板、特に活性化ガスに曝露される表面に対して実行してもよい。前処理は、1回又は複数の還元前処理及び清浄を含んでもよい。前処理は、プラズマ放電によって、又は1種若しくは複数の液体を使用する方法等の別の方法によって実施することができる。しかしながら、本明細書に記載の方法は、保護層の適用前に露出面の前処理を要しないことが理解されよう。
【0078】
後処理、特に乾燥工程等の熱後処理を、保護層に対して実行してもよい。
【0079】
プラズマ装置を、窒素、ヘリウム若しくはアルゴン又はこれらの2つ以上の混合物等の不活性ガスで有利に充填された閉環境(図示せず)中に取り付けることができる。好ましくは、閉環境はN2で充填される。閉環境は、残光ゾーン中の不要な不純物の存在を低減することを可能にする。
【0080】
本発明の第2の態様によれば、基板と少なくとも一部の基板上に配置された保護層とを含む物品を提供する。保護層は、有利には、本明細書に記載の方法によって得られる。保護層及び基板は界面を共有する。界面は、金属元素及び/又は金属元素の合金を含む。金属元素は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である。金属元素及び基板は、本発明の方法と関連して上記に規定した通りである。保護コーティングは、有利には、金属元素の窒化物を含む。
【0081】
図2を参照して、本明細書に記載の態様による物品20は、基板21とその上に配置された保護層22とを含む。バルク基板21及び保護層22は、界面23を共有する。したがって、保護層は、有利には、界面23で、基板21上に直接配置され、それらの間に他の一切の介在層は存在しない。
【0082】
有利には、保護層は、金属元素のイオンに導電性である。例えば、金属元素がリチウム(Li)である場合、保護層は、有利にはリチウムイオンに導電性である。
【0083】
好ましくは、保護層は、電子に不浸透性である。好ましくは、物品がバッテリー又はバッテリーセル中の電極として、好ましくはアノードとして使用される場合、保護層は、電解質との反応に対して不動態化される。言い換えれば、保護層は、有利には、基板と電解質との間の反応を最小限に抑える。
【0084】
有利には、保護層は、界面から突き出た複数の柱を含む。界面から突き出たとは、柱が成長し、したがって界面の平面とは異なる方向にある表面上に存在することを意味する。有利には、複数の柱は離間している。
【0085】
柱は、分枝されていてもよく、例えば側枝を含んでもよい。或いは、柱は、実質的に直線形であってもよい。柱は、柱の頂部に及び/又は柱の側枝にピラミッド形の先端を含んでもよい。有利には、複数の柱はそれぞれ、多角形形状を有する、柱の又は枝の突出方向(即ち、延伸方向)に垂直な平面中に断面を含む。多角形形状は、シダ形、凧形、蝶形、又は特に星形であってもよい。
【0086】
有利には、柱は、10nmから100μmの間、例えば25nmから75μmの間、好ましくは50nmから50μmの間、例えば75nmから45μmの間、100nmから40μmの間、150nmから35μmの間、200nmから30μmの間、より好ましくは250nmから25μmの間、例えば350nmから20μmの間、最も好ましくは500nmから15μmの間、特に1μmから15μmの間、又は5μmから15μmの間の高さを有してもよい。柱の高さは、基板を、プラズマ残光との接触時間を増やして曝露することによって増すことができる。厚さ及び高さは、物品の断面の走査電子顕微鏡(SEM)によって測定することができる。例えば、FEI NovaSEM 450走査電子顕微鏡を使用してもよい。断面は、セラミックナイフによって物品をスライスすることによって作製できる。次いでスライスした試料を、移動モジュール(商標:Kammrath Weiss Gmbh)中に置かれたSEM試料ホルダー上に配置して、走査電子顕微鏡へ移動する間に大気中の水分及び酸素による一切の汚染を回避させることができる。
【0087】
有利には、柱は、金属元素の窒化物の結晶の複数の積層された層で作られている。有利には、積層された層は全て、同じ又は同一の結晶構造を有する。これらの積層された層のそれぞれは、多面体形状を有してもよい。多面体形状は、平らな多角面、直線形の辺及び鋭角な角又は頂点を有する三次元の形状を指す。この形状は、典型的には、基板がプラズマ残光と接触すると基板表面上に形成され、プラズマ残光への曝露時間が増えると維持される。
【0088】
好ましくは、柱内の結晶の隣接層は、実質的に同じ配向を有する。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、金属元素の窒化物の第1の結晶は、更なる結晶の成長のための核又は種として機能することができ、それによって実質的に同じ配向を有する隣接層を得ることができる。層の配向は、幾何学的図形の長軸によって決定することができる。結晶の層は、幅及び長さを更に含む。
【0089】
隣接柱間の距離は、100nmから5μmの間、例えば200nmから4μmの間、250nmから3μmの間、好ましくは500nmから2μmの間、特に1μmであってもよい。プラズマ放電の接触時間が増えると、隣接柱間の距離は短くなり得る。基板のプラズマ放電接触時間が特定の値を超えて増えると、活性種と基板表面との反応はもはや不可能であり、基板の大部分の変質が生じ始める。通常、これは、そのような材料を含有する電極のエネルギー効率を低下させるため望ましくない。
【0090】
本発明者らは、驚くべきことに、保護層が複数の柱を含むとき、金属元素のイオンの拡散チャネルが隣接柱間で生成されることを発見した。そのようなイオン拡散チャネルは、イオン導電率の増加に貢献することができる。
【0091】
例としては、界面の表面がLi又はLi合金を含む場合、柱及び/又は柱の頂部における少なくとも一部の積層された層が、8個の頂点V1~V8、12個の面F1~F12及び18個の辺E1~E18を含む、
図12に示すような六方両錐体の形態を有することが観察された。幾何学的に、六方両錐体は、6つの対で配置された、12個の三角形の面からなる。
【0092】
有利には、六方両錐体の構造又は形態は、45°から85°の間、好ましくは50°から75°の間、例えば50°から60°の間、より好ましくは55°から60°間の、底部の各頂点の各辺の間の平均角を含む。
【0093】
有利には、六方両錐体の形態は、40°から75°の間、好ましくは45°から70°の間、例えば50°から65°の間、より好ましくは55°から60°の間の、頂部の各頂点の平均角を含む。
【0094】
Li3N結晶の層の最長寸法は、0.5μmから5μmの間、好ましくは1μmから4μmの間、より好ましくは1.5μmから2.5μmの間であってもよい。Li3N結晶の層の最短寸法は、0.5μmから5μmの間、好ましくは1μmから4μmの間、より好ましくは1.5μmから2.5μmの間であってもよい。
【0095】
Li3N結晶の六方両錐体構造は、0.75から1.25の間、例えば0.8から1.2の間、好ましくは0.9から1.1の間、例えば1のアスペクト比を有してもよく、アスペクト比は、結晶の幅の結晶の高さに対する比である。アスペクト比が0.9から1.1の間であるとき、結晶は、実質的に対称の形態又は構造を有すると考えることができる。
【0096】
有利には、保護層は、実質的に金属元素の窒化物のα相で作られ、特に金属元素の窒化物のα相の濃度は、金属基準で少なくとも90%、例えば少なくとも92.5%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。有利には、保護層は、金属元素の窒化物のβ相を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、金属元素の窒化物のβ相の濃度が、分析法、特にX線回折(XRD)の検出の限界値を下回ることを意味する。
【0097】
例としては、界面の表面がLi又はLi合金を含む場合、保護層が主に結晶質α-Li3N(α相Li3N)を含むことが観察された。有利には、α-Li3N結晶相は、Li又はLi合金の表面(界面)から突き出た柱の中に配列され、互いに(少なくともそれらの高さ部分を超えて)離れ、それらの間にLiイオン拡散チャネルが生成される。保護層は、β-Li3N(β相Li3N)を含まないことが観察され、これは、X線回折で検出できる量のβ-Li3Nを含有しないことを意味する。有利には、α相Li3N結晶は、ab面内で窒素を中心に置く平面リチウム六角形の辺共有層を含む六面構造を有する。これらの六角形の各々は、上のリチウムイオン及び他方の下のリチウムイオンによって接続され、両方のリチウムイオンはc面に沿っている。更に、各窒素原子は、六方両錐体幾何学において合計8個のリチウム原子によって配位結合されている。
【0098】
本明細書に記載の保護層は、繰り返しのめっき/ストリッピングサイクルの形態において変化する電場に供されたときでも、及び繰り返しの充電/放電サイクルの形態においてバッテリーの電極中で使用されるときでも、機械的に安定性であることが判明した。特に、複数の柱及び/又は結晶質形態は、物品の繰り返しのめっき/ストリッピングサイクル時、特に1mA/cm2の電流密度で少なくとも250サイクル、例えば少なくとも300サイクル、少なくとも400サイクル、好ましくは少なくとも500サイクル、より好ましくは少なくとも600サイクル、最も好ましくは少なくとも700サイクル、例えば少なくとも750サイクル時に維持される。
【0099】
有利には、物品をバッテリー中の電極中で使用するとき、窒化物のα相は、物品の繰り返しの充電/放電サイクル時、特に1mA/cm2の電流密度で少なくとも250サイクル、例えば少なくとも300サイクル、少なくとも400サイクル、好ましくは少なくとも500サイクル、より好ましくは少なくとも600サイクル、最も好ましくは少なくとも700サイクル、例えば少なくとも750サイクル時に維持される。
【0100】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明の保護層は、優れた金属イオン輸送が生じ得る高導電性の経路(高いイオン導電率)を含む。そのような高導電性経路は、有利には、柱の形態及び/又は保護コーティング中の高濃度のα結晶によってもたらされる。
【0101】
保護層はまた、異なる結晶化度及び/又は形態を有する従来技術の保護層と比較して、バッテリーの充電及び放電時での基板の体積変化に対する改善された耐性ももたらし、経時的な保護層の損傷の低減につながる。
【0102】
有利には、保護層は、少なくとも60mol%、例えば少なくとも70mol%、少なくとも75mol%、少なくとも80mol%、少なくとも90mol%、又は少なくとも95mol%の金属元素の窒化物を含む。
【0103】
有利には、保護層は、最大40mol%の金属元素の酸化物、例えば最大20mol%、最大15mol%、好ましくは最大10mol%、より好ましくは最大5mol%、最も好ましくは最大3mol%の金属元素の酸化物を含む。
【0104】
有利には、本明細書に記載した通りに得た保護層は、45GPa以下のヤング率を有し、特定の柔軟度を示し、物品の繰り返しのストリッピング/めっきによる層のクラッキングに対する耐性をもたらす。特定の柔軟度の結果として、不動態化基板、即ち本発明の保護層を含む基板が、有利には、裸の基板と同等の可鍛性を有する。
【0105】
本発明の物品は、有利には、電極(の一部)として使用される。電極は、有利にはアノードである。電極は、バッテリー又はバッテリーセル中で使用され得る。好ましくは、電極は、アノードとして、バッテリーセル中で使用される。特に好ましいのは、本明細書に記載の保護層を有するリチウムアノードを含む、リチウムイオン、固体リチウムイオン、Li-S(リチウム-硫黄)又はリチウム空気バッテリー若しくはバッテリーセルである。
【0106】
図4は、バッテリーセル40の例示的な実施形態を示す。バッテリーセル40は、CR2032タイプの構成として当技術分野において公知のコイン電池の構成を有する。バッテリーセル40は、アノード41及びカソード42を含む。アノード41は、本発明による電極である。バッテリーセル40は、液体電解質(図示せず)を更に含む。バッテリーセルは、有利には、アノード41とカソード42との間にバッテリーセパレーター膜43を含む。カソードは、例えば、硫黄をベースとするカソード、例えばLi-Sバッテリーセルであってもよい。バッテリーセル40は、コイン電池蓋44、コイン電池ベース45、スペーサ46及びスプリング47を更に含む。スペーサ46及びスプリング47は、バッテリーセル40の他の構成要素41、42、43、44、45間に良好な接触をもたらす。
【0107】
電解質は、固体電解質であってもよい。固体電解質は、固体ポリマー又は固体無機ガラスであってもよい。例えば、固体電解質は、リチウム塩がPEOのポリマーマトリクス中に分散されたポリ(エチレンオキシド)(PEO)であってもよい。
【0108】
或いは、電解質は、液体電解質であってもよい。電解質は、任意選択で有機成分、塩-溶媒混合物、好ましくは過飽和塩-溶媒混合物を含むイオン性液体であってもよい。例えば、液体電解質は、リチウム塩が溶解されたイオン性液体であっても又はリチウム塩が溶解されたイオン性液体及び有機液体の混合物であってもよい。使用され得る液体の例としては、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEG DME)又はジメチルエーテルと混合されたジオキソラン等の有機溶媒が挙げられる。液体電解質は、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)の化合物を含んでもよい。有用なイオン性液体は、メチルブチルピリジニウムトリフルオロスルホニルイミド(PYR14TFSI)である。一例では、電解質は、1:1質量比のPYR14TFSI及びPEGDME(1mol/kgのLiTFSI)を有する。別の例では、電解質は、ジメトキシエタン(DME):1,3-ジオキソラン(DOL)(質量比2:1)中1Mリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含む。
【0109】
更に別法では、電解質は、ゲル電解質であってもよい。ゲル電解質は、ポリマーゲル化有機媒体であってもよい。例えば、ゲル電解質は、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、リチウム塩及び少量の液体の混合物であってもよい。
【0110】
バッテリーセパレーター膜は、多孔質セパレーター膜であってもよい。当分野において公知のポリマーバッテリーセパレーター膜、例えば多孔質ポリプロピレン(PP)膜又は多孔質ポリエチレン(PE)膜を使用してもよい。例えば、厚さ25μm及び有孔率50%のポリプロピレン膜を使用してもよい。PP及びPEは、それらの化学的不活性の特性により好ましい材料である。しかしながら、多孔質セパレーターは液体電解質を吸収できることが好ましいが、これらは容易に濡れない。そのために、疎水性PP及びPEを表面処理又はスプレーコーティング、浸漬被覆若しくはプラズマコーティング(大気圧プラズマ若しくは低圧プラズマ)等のコーティングで処理してもよい。或いは、バッテリーセパレーター膜は、セラミック材料であってもよい。
【実施例】
【0111】
(実施例1)
リチウム金属基板を、本発明の方法で処理した。
図1のプラズマジェット装置を使用し、ここで、リチウム金属基板を基板ホルダー上に取り付け、大気圧誘電体バリア放電の残光ゾーン12中に置いた。表面全体を残光ゾーンに曝露するように、プラズマジェット装置の放電管腔の出口に平行な面内のXY変換テーブルによって基板ホルダーを移動させた。プラズマジェット装置を上記の閉環境内に取り付けた。窒素を閉環境に添加し、不要な不純物、特に酸素及び水蒸気の存在を制限した。プラズマ放電に使用したガスは、前駆体及びキャリアガスとしてのN
2だった。N
2キャリアガス及び前駆体ガスの合計公称ガス流は20slmだった。プラズマ出力は300Wであり、周波数は17kHzだった。露出面と活性化N
2ガスとの接触の継続時間は1分(1パス)だった。露出面の温度は約80℃だった。放電管腔の近位端と基板の曝露されたリチウム金属表面との間の距離は3mmだった。閉環境は、50ppm未満のO
2を含んでいた。
【0112】
図3Aは、3つのパス後に得られた窒化リチウム層のSEM画像を示す。3つのパスとは、基板の露出面が活性化ガスと3回接触したことを意味し、3つのパスの各々は上述した通りに実施された。保護層は、基板から突き出ている複数の柱30を含む形態又は構造を明確に示す。柱は、ピラミッド型の先端を有する。窒化リチウム結晶は、基板のリチウム金属表面から離れる方向に積層される。比較すると、
図3Bに示すように、プラズマ放電が一切存在せずに、同じ基板の表面が室温で数時間、窒素流に曝露されたとき、柱を含む該構造は観察されなかった。
【0113】
図5A、
図5B、
図5C及び
図5Dは、2、3、4及び5つのパスの後に得られたそれぞれの窒化リチウム層の形態を示し、パスの各々は上述した通りに実施された。2つ及び3つのパス(露出面の各部分の総処理時間1分及び1.5分)後の保護層の形態は、窒化リチウム層が複数の柱を含むのに対して、4つ及び5つのパス後では、これは不明確であることを示す。これは、各パスにより、窒化リチウム結晶が、柱の頂部のみでなく側部でも得ることができ、「直線状」又は「線形」が減じた構造又は形態を有する柱がもたらされるという事実によって説明され得る。
【0114】
本発明者らは、保護層の最適な性能のために、より「線形」又は「直線状」の形状の柱が有利には存在することを発見した。したがって、この特定の及び特に有益な形態を得るために、パス数又は総処理時間を制限することは有益であり得る。
【0115】
(実施例2)
充電/放電特性及び保護層を含むアノードのサイクル寿命特性を評価するためにLiイオンバッテリーセルを作製した。製造中の汚染リスクを低減するために、バッテリーセルは、アルゴン及び酸素で充填され且つ水分レベルが1ppm未満のグローブボックス中で製造した。
【0116】
アノードが実施例1によって得た電極である、
図4で示したタイプのバッテリーセルを作製した。アノードが一切の保護層を含まないリチウム金属である基準バッテリーセルを作製した。両方のバッテリーセル用に、適当な量のコバルト酸リチウム(LCO)、炭素及びバインダを含有するスラリーをアルミホイル上にコーティングすることによって、カソードを自家調製した。ポリマーセパレーターをアノードとカソードとの間に置いた。バッテリーセルを、炭酸エチレン及び炭酸ジメチル(EC/DMC)の質量比1:1の混合物中の1Mヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を含む電解液90μLで充填した。バッテリーセルを空気プレスで密封した。
【0117】
(実施例3)
充電/放電特性及び保護層を含むアノードのサイクル寿命特性を評価するためにLi-Sバッテリーセルを作製した。製造中の汚染リスクを低減するために、バッテリーセルは、アルゴン及び酸素で充填され且つ水分レベルが1ppm未満のグローブボックス中で製造した。
【0118】
アノードが実施例1によって得た電極である、
図4で示したタイプのバッテリーセルを作製した。アノードが一切の保護層を含まないリチウム金属である基準バッテリーセルを作製した。両方のバッテリーセル用に、適当な量の硫黄、炭素及びバインダを含有するスラリーをアルミホイル上にコーティングすることによって、カソードを自家調製した。ポリマーセパレーターをアノードとカソードとの間に置いた。バッテリーセルを、質量比2:1のジメトキシエタン(DME)/1,3-ジオキソラン(DOL)(LiNO
3添加剤を含まない)中の1Mリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含む電解液90μLで充填した。バッテリーセルを空気プレスで密封した。
【0119】
(実施例4)
保護層を含む及び含まないアノードの内部抵抗が時間の関数としてどのように発展するかを評価するために、
図6に示したLi-S対称バッテリーセルを作製した。製造中の一切の汚染リスクを低減するために、バッテリーセルは、アルゴン及び酸素で充填され且つ水分レベルが1ppm未満のグローブボックス中で製造した。
【0120】
Li-S対称バッテリーセル60は、
図4のバッテリーセル40と類似しているが、両方の電極61、62が同一である点が異なる。基準バッテリーセルでは、電極は、一切の保護層を含まないリチウム金属基板だった。本発明によるバッテリーセル60の場合、電極61、62は、実施例1を通して得た。ポリマーセパレーター63を電極61と62との間に置いた。バッテリーセル60を、質量比2:1のジメトキシエタン(DME)/1,3-ジオキソラン(DOL)(LiNO3添加剤を含まない)中1Mリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含む電解液90μLで充填した。更に、コイン電池蓋64及びコイン電池ベース65並びにスペーサ66及びスプリング67を設けて、セル60の構成要素間の良好な接触を確保した。バッテリーセル60を空気プレスで密封した。
【0121】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を基準対称バッテリーセル及び本発明による対称バッテリーセル上で実施した。周波数掃引中、10mVのAC電位をセルに印加した。周波数掃引は、100kHzから0.01Hzまで実施した。
【0122】
図7A及び
図7Bは、基準対称バッテリーセル及び本発明による対称バッテリーセルそれぞれのインピーダンスデータのナイキストプロットを示す。ナイキストプロット中、各周波数点からのインピーダンスデータがプロットされる。横座標(x軸)は、インピーダンスデータの実部を示し、縦座標(y軸)は、インピーダンスデータの虚部を示す。
図7A及び
図7Bは、6時間の間隔で示した、実験の開始(時間0)から試験120時間までの結果(時間0、6時間後、12時間後、18時間後、24時間後、後続して120時間後までの結果)を示す。
【0123】
基準セル及び本発明によるバッテリーセルの両方のインピーダンススペクトルは、表面層抵抗に対応する、高-中周波領域中の半円からなる。試験0時間から120時間までのインピーダンススペクトルの獲得を比較したとき、実施例1の保護層を含む電極で作られた
図6の対称セル中で形成された表面層抵抗が経時的に安定性を保ち、保護層が優れた保護を提供し続けることを示すことが、
図7A及び
図7Bから明らかである。
【0124】
(実施例5)
実施例4の対称バッテリーセル構成60を使用して、1mA/cm2の定電流を印加したときの経時的な過電圧の発生を監視することによって電極のリチウムめっき/ストリッピング挙動を評価した。Ametek PARSTAT PMC-200マルチチャネルポテンシオスタットを使用して、これらの測定を実施した。
【0125】
図8Aは、基準バッテリーセルに対して約500時間の継続時間で測定された電位値(A、黒色)及び本発明のバッテリーセルに対して約1400時間の継続時間で測定された電位値(B、灰色)を示す。最長で約175時間の試験継続時間まで、電位値はリチウム金属の劣化を示す。より高い絶対電位値、即ちより大きな電位値増減は、より大きな劣化を示す。したがって、保護層を含まないリチウム金属基板を含む電極が、本発明の電極より早く(試験継続時間175時間から)、より大きな劣化を示すことが明らかである。本発明の電極は、少なくとも約1300時間の試験継続時間まで(より長時間は試験しなかった)検知可能な劣化の兆候を示さない。
【0126】
図8Bは、約1200時間の試験継続時間後の本発明の電極のめっき/ストリッピング過電位のクローズアップ図を示す。電位-時間プロフィールは、優れた効率及び保護層の安定性、したがって不動態化されたリチウム金属を示す。
【0127】
図9Aは、めっき/ストリッピング試験(ほぼ1400時間の試験)の終了時での本発明による対称バッテリーセル中の電極の1つのSEM画像を示す。SEI層90が電極上に形成され、一部の保護層91は視認できる。
図9B及び
図9Cは、保護層91の形態の詳細図を示す。複数の柱を含む形態並びにピラミッド型の頂部92は依然として明確に視認でき、したがって層の形態はさほど変化されていなかったことを示す。
図9Dは、個々の結晶層上に重ねられたピラミッド型の頂部の形態特徴の幾何学的略図を示す。
【0128】
本発明のLi
3N層のSEM画像からImageJソフトウェアによって作製した3D表面プロットは、複数の柱を含む保護層を明確に示し(
図10)、窒化リチウム結晶の層の積層は、リチウム金属表面から離れた面に実質的に沿って延伸し、該面は、表面に対して実質的に垂直に配向されている。柱の(測定可能な)平均高さは5μmであり、標準偏差は0.9μmである。そのような積層は、結晶格子の異方性につながるように見え、これは、特定の方向に沿ったリチウムイオン移動に対する低活性化バリア及び後続する材料における高いイオン導電率等の有益な特性を付与することができる。
【0129】
図11Aは、175時間以上の試験継続時間での基準バッテリーセル(保護層なし)中のリチウム樹状突起の形成を示し、一方で、本発明のバッテリーセルは、試験54日(1300時間)後、一切の樹状突起の形成を示さない(
図11B)。そのようなリチウム樹状突起は、最終的に、セルの短絡につながる。絶対過電位値がより高いことと、本発明のバッテリーセルと比較して基準バッテリーセルの過電位シグナルがより不安定であることとが
図9Aから明らかである。ピーク値が視認でき、350時間超の試験継続時間でより頻出になり、経時的に抵抗が増す不均一表面膜の形成に起因するリチウムの不均一なめっき/ストリッピングを示す。これは、インピーダンス分光法によって測定された、結果を
図7A及び
図7Bに示す実施例4で考察した表面膜抵抗の増加と一致する。したがって、保護層は、抵抗の増加を最小限にしながら滑らか且つ安定な表面膜を可能にすることによってリチウム樹状突起形成に対して明確な保護をもたらす。
【0130】
(実施例6)
リチウム金属基板を、プラズマ放電に使用するガスを、キャリアガスとするAr中の前駆体ガスとしてN2としたことを除いて、実施例1に記載した通りに処理した。Arキャリアガス及びN2前駆体ガスの合計公称ガス流は20slmだった。プラズマ出力は300Wであり、周波数は17kHzだった。露出面と活性化N2ガスとの接触継続時間は2分(3パス)だった。露出面の温度は約80℃だった。放電管腔の近位端と基板の曝露されたリチウム金属表面との間の距離は3mmだった。閉環境は、50ppm未満のO2を含んでいた。
【0131】
図13Aは、得られた窒化リチウム層のSEM画像を示す。3パス後の保護層(例えば、実施例1の保護層)の形態は、前駆体及びキャリアガスとして窒素を使用したときに得られる形態と同じである。
【0132】
(実施例7)
実施例6の保護層を有する及び有さないアノードの内部抵抗が時間の関数としてどのように発展するかを評価するために、
図6に示すLi-S対称バッテリーセルを作製した。バッテリーセルを上述した通りに製造した。基準バッテリーセルでは、電極は、一切の保護層を有さないリチウム金属基板だった。本発明によるバッテリーセル60では、電極61、62は実施例6を通して得た。バッテリーセルの他の構成要素は、実施例5に記載した通りだった。
【0133】
対称バッテリーセル構成60を使用して、1mA/cm2の定電流を印加したときの経時的な過電圧の発生を監視することによって電極のリチウムめっき/ストリッピング挙動を評価した。Ametek PARSTAT PMC-200マルチチャネルポテンシオスタットを使用して、これらの測定を実施した。
【0134】
図13Bは、基準バッテリーセルに対して約500時間の継続時間で測定された電位値(C、黒色)及び本発明のバッテリーセルに対して約700時間の継続時間で測定された電位値(D、灰色)を示す。最長で約175時間の試験継続時間まで、電位値はリチウム金属の劣化を示す。より高い絶対電位値、即ちより大きな電位値増減は、より大きな劣化を示す。したがって、保護層を含まないリチウム金属基板を含む電極が、本発明の電極より早く(試験継続時間175時間から)、より大きな劣化を示すことが明らかである。本発明の電極は、少なくとも約700時間の試験継続時間まで(より長時間は試験しなかった)検知可能な劣化の兆候を示さない。更に、実施例5で試験し且つ
図8Aに示したバッテリーセルと比較して、実施例7のバッテリーセルの安定性は、(驚いたことに)700時間後のより低い過電位(
図8Aで観察された83mVと比較して54mV)によって示されるように、実施例4を通して得られた電極61、62を有する(即ち、前駆体及びキャリアガスとして窒素ガスのみが使用された)バッテリーセルの安定性より優れてさえいる。
【符号の説明】
【0135】
1 大気圧プラズマジェット装置
2 第1の電極
3 第2の電極
4 電気絶縁体
5 放電管腔
6 電源
7 セラミックスペーサ
8 遠位端
9 近位端
10 キャリアガス供給口
11 キャリアガス
12 残光ゾーン
13 前駆体
14 前駆体供給口
15 スリット口
20 物品
21 基板
22 保護層
23 界面
30 柱
40 バッテリーセル
41 アノード
42 カソード
43 バッテリーセパレーター膜
44 コイン電池蓋
45 コイン電池ベース
46 スペーサ
47 スプリング
60 Li-S対称バッテリーセル
61 電極
62 電極
63 ポリマーセパレーター
64 コイン電池蓋
65 コイン電池ベース
66 スペーサ
67 スプリング
90 SEI層
91 保護層
92 頂部
110 リチウム樹状突起
【国際調査報告】