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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】細胞を肺組織から得る方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240808BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240808BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/077
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510617
(86)(22)【出願日】2022-08-25
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 US2022041460
(87)【国際公開番号】W WO2023028193
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】63/237,003
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511266520
【氏名又は名称】ユナイテッド セラピューティクス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100227008
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 沙央里
(72)【発明者】
【氏名】ルーシュ,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ケイシー,アシュレー
(72)【発明者】
【氏名】ミショー,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】ラウドサリ,ライラ
(72)【発明者】
【氏名】ドッカム,アシュレー アール.
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AC12
4B065AC20
4B065BD14
4B065CA44
(57)【要約】
細胞を肺と分離する方法が開示される。機械的圧力は、肺胞II型細胞を含む、分離された細胞の収量を高めるプロセスの1つの段階において使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を肺組織から単離する方法であって、機械的圧力を前記肺組織に適用することを含む、方法。
【請求項2】
機械的圧力の前記適用が、5mmまたはそれよりも大きいサイズの組織片を10重量%以下有する破砕組織を生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
機械的圧力の前記適用が、5mmまたはそれよりも大きいサイズの組織片を5重量%以下有する破砕組織を生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
機械的圧力の前記適用が、5mmまたはそれよりも大きいサイズの組織片を1重量%有する破砕組織を生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記肺組織が破砕されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記破砕が、ヒト操作者の手において破砕することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
2つよりも多い肺葉が、一緒に加工処理される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酵素消化をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
酵素消化において使用される酵素が、エラスターゼを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酵素消化において使用される酵素が、IV型コラゲナーゼをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記破砕された肺組織を濾過することをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記破砕された肺組織を精製することをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記精製ステップが、白血球および少なくとも1つの他の細胞型を除去することを含み、前記1つの他の細胞型が白血球ではない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が肺胞II型細胞である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が気道上皮基底細胞である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が間質細胞である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が内皮細胞である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法によって単離された細胞。
【請求項19】
前記方法の最終的な精製収量が、少なくとも10億個の細胞である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
白血球および少なくとも1つの他の細胞型を除去することを含む、目的の細胞集団を肺組織単離物から精製する方法であって、前記1つの他の細胞型が白血球ではない、方法。
【請求項21】
磁気粒子に結合された抗体が、前記白血球および前記少なくとも1つの他の細胞型を選択して除去するのに使用される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
白血球、間質細胞、および気道上皮基底細胞を選択することを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
白血球、間質細胞、気道上皮基底細胞、および内皮細胞を選択することを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
CD45、CD16、CD32、CD90、CD31、CD144、CD140b、およびCD271細胞表面タンパク質から選択される細胞表面タンパク質に対する少なくとも1つの抗体が、非AT2細胞を選択して除去するのに使用される、請求項15、16または21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
CD45、CD90、およびCD271細胞表面タンパク質に対する抗体が、白血球、間質細胞、および気道基底細胞を除去するのに使用される、請求項15、16、19または22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
CD45、CD90、CD31、およびCD271細胞表面タンパク質に対する抗体が、白血球、間質細胞、内皮細胞、および気道基底細胞を除去するのに使用される、請求項15、16、19または22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
CD31が、内皮細胞を選択するのに使用される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
培養選択による精製をさらに含む、請求項15から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記培養選択が、白血球を除去する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
細胞を単離する方法であって、
機械的圧力を肺組織に適用することと、
白血球および少なくとも1つの他の細胞型を、破砕された肺組織から除去することと
を含み、前記1つの他の細胞型が白血球ではない、方法。
【請求項29】
機械的圧力の前記適用が、5mmまたはそれよりも大きいサイズの組織片を10重量%以下有する破砕組織を生じる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
機械的圧力の前記適用が、サイズが5mmまたはそれよりも大きいサイズの組織片を5重量%以下有する破砕組織を生じる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
機械的圧力の前記適用が、サイズが5mmまたはそれよりも大きいサイズの組織片を1重量%以下有する破砕組織を生じる、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
操作された肺構造を形成する方法であって、肺スキャフォールドに、請求項1に記載の方法から得られた細胞を播種することを含む、方法。
【請求項33】
請求項1に記載の方法からの細胞が、1つまたは複数のCDマーカーを使用するステップ後に他の細胞から分離されて、白血球および少なくとも1つの他の細胞型を、細胞懸濁液から除去する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
CD45、CD16、CD32、CD144、CD31、CD90、CD140b、およびCD271由来のCDマーカーに対する少なくとも1つの抗体が使用される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
白血球、線維芽細胞、および気道基底細胞が除去される、請求項28または29に記載の方法。
【請求項36】
前記播種された細胞が肺胞II型細胞である、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記播種された細胞が気道基底細胞である、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記播種された細胞が肺間質細胞である、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記播種された細胞が肺内皮細胞である、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、その全体が参照により組み込まれる、2021年8月25日に出願された米国仮出願第63/237,003号に対する優先権を主張する。
【0002】
本出願は概して、組織からの細胞単離に、限定されないがより具体的には、肺細胞を肺組織から単離する方法および組成物に、ならびにそのような方法から産生された細胞に関する。これらの細胞は、研究、細胞療法、組織操作、および他の適用に使用され得る。
【背景技術】
【0003】
種々の細胞集団を死体組織から単離する方法は通常、各細胞集団に特有であり、多くの場合、種々の消化酵素、インキュベーション時間、および解離アプローチを要する。各細胞型に対する種々の単離要件に起因して、複数の細胞型が同じ臓器から必要とされる場合、組織は多くの場合、別々の片に分けられ、したがって、各細胞型について全体的な見込まれる収量を低減させる。さらに、これらのアプローチは通常、集約的であり、時間がかかり、それにより、適切な細胞の健康を維持しながら加工処理することができる組織の量がさらに制限されている。その結果、1名のドナーの組織から多数の異なる型の初代ヒト細胞を生成することが課題である。この課題は、細胞数の要件が高く、初代細胞が限られた増殖能を有する、自家および同種異系適用の両方に関する組織操作の分野に特に関連している。これらの単離の制限は、個別化医療ならびに医薬品の開発およびスクリーニングにも影響を与える可能性があり、それによりin vitroモデルでは、患者の転帰を正確に代理(represent)するのに十分な細胞の複雑さを達成するために、ドナー組織の小片からの多細胞プラットフォームの生成を要する可能性がある。
【0004】
細胞単離の課題の具体例の1つは、肺組織の加工処理に端を発する。肺胞2型(AT2)細胞は、単離することが難しいことで有名である。AT2細胞は多くの場合、右肺中葉から単離される。既存の方法を使用してAT2細胞を単離することは、複数の研究者が丸一日を要し、数億個の細胞しか生じない。この長期にわたる実践的なプロセスは、肺において重要な機能を果たす他の細胞型の単離を制限することが多い。したがって、ドナー肺組織から目的の全ての重要な細胞を生じる単離方法に対する必要性は満たされていない。さらに、目的の全ての細胞型を単離する単一の消化方法の使用は、各細胞型の細胞収量を高める。
【発明の概要】
【0005】
種々の細胞型を、単一の解離方法を使用してドナー臓器から単離する方法が本明細書において記載される。一部の例では、肺胞II型細胞(AT2)、気道上皮基底細胞(AEP)、間質細胞、および内皮細胞のうちの1つまたは複数などの肺細胞をヒトドナー肺組織から単離する方法が開示される。一部の実施形態では、開示される方法は、他の既存の方法よりも大量の細胞の単離を可能にする。組織解離の方法および細胞精製の方法が本明細書において開示され、これにより、より多数の細胞を一度に単離することが可能となり得る。
【0006】
充分な数のAT2細胞などの肺細胞型の特定の型を、ヒトドナー肺組織から得ることは、長年にわたる課題であった。これらの細胞を使用して、診断検査、創薬と開発、細胞治療、または操作された臓器の構築を支持し得る。AT2細胞は、最初はLeland Dobbs氏によって開発されたノースカロライナ州立大学のSannes研究所において最適化された方法(「Sannes法」、Zhang, H., Newman, D. and Sannes, P. "HSULF-1 inhibits ERK and AKT signaling and decreases cell viability in vitro in human lung epithelial cells." Respiratory Research. 2012; 13(1): 69を参照、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を使用して単離することができる。Sannes法を使用したAT2単離は通常、ヒトドナー肺組織の1~2個の葉から数億個のAT2細胞を生じる。対比して、本明細書において開示される方法は、5つの肺葉全ての加工処理を可能にする場合があり、これにより、スタッフまたは加工処理時間を増加させずに、10億個ものAT2細胞を産生し得る。
【0007】
別の主要な課題は、Sannesまたは他の公開されている方法を使用して下流の増殖に充分な純度で、多数の、AT2細胞などの肺細胞の特定型を単離することである。例えば、Sannes法の精製アプローチは、パニングを使用して白血球を除去し(細胞のプレートへの差次的な接着)、続いて線維芽細胞についてのネガティブ選択を行う。パニングアプローチは、容易にスケーリングせず、したがって、本明細書において開示される方法によって生成される細胞数の増加に伴い困難となり得る。別の既存の精製方法は、AT2細胞表面マーカーであるHT2-280に基づく磁気活性化細胞選別(MACS)または蛍光活性化細胞選別(FACS)ベースのポジティブ選択アプローチの使用である。しかしながら、この方法も、多くの脆弱なAT2細胞が残存しないため理想的ではない(MACSベースのHT2-280選択による精製効率平均19%)。
【0008】
図1は、AT2細胞、気道上皮基底細胞、および間質細胞をドナー肺臓器から単離することに関する実施形態における特定細胞型を単離する方法の概要を示す。これは単なる実施形態であり、類似した方法が他の細胞型を他の型の臓器から単離するのに用いることが可能であるはずであることに留意すべきである。本開示の実施形態は、細胞を生体組織から単離することに関する。これらの細胞は、機械的圧力を組織に適用することによって単離され得る。一部の実施形態では、生体組織は肺組織であり得る。一部の実施形態では、機械的圧力は、肺組織の酵素消化後に適用され得る。生体組織は破砕されてもよく、例えば、生体組織は、遠位組織が液化されるまで、ヒト操作者の手で破砕されてもよい。この方法により、2つまたはそれよりも多い肺葉を一緒に加工処理することが可能である。これにより、一緒に加工処理され得る材料の量が増加し得る。単離方法は、濾過ステップをさらに含んでもよい。消化および濾過後の未精製の総収量は、300億個を超える細胞であり得る(本明細書において、濾過後の試料として記載される)。単離方法は、精製ステップを含んでもよい。本方法の最終的な精製収量は、10億個またはそれよりも多いAT2細胞であり得る。気道上皮基底細胞、間質細胞、および内皮細胞の場合、本方法は、培養選択による精製を含んでもよい。培養選択により、白血球が除去され得る。
【0009】
細胞を肺組織から精製する方法が本明細書において開示される。本方法は、白血球を除去することを含んでもよい。本方法は、1つまたは複数の他の細胞型を除去することを含んでもよい。一部の実施形態では、磁性粒子に結合された抗体は、磁気活性化細胞選別技法を使用して白血球を選択および除去するのに使用される。磁性粒子に結合された抗体は、1つまたは複数の他の細胞型を選択および除去するのに使用され得る。残りの細胞は、肺胞II型細胞(AT2)であってもよい。選択される細胞は、とりわけ気道上皮基底細胞(AEP)、間質細胞、内皮細胞のうちの1つまたは複数であり得る。本方法は、目的の細胞集団を肺組織単離物から精製することを含み得る。本方法は、白血球、間質細胞、および気道上皮基底細胞を除去することを含み得る。本方法は、内皮細胞を選択することを含み得る。本方法は、白血球およびAT2細胞を除去することを含み得る。
【0010】
一部の実施形態では、細胞表面タンパク質は、細胞を分離するのに使用され得る。本方法は、CD45、CD16、CD32、CD90、CD144、CD31、CD140b、およびCD271から選択される少なくとも1つのマーカーに対する抗体を使用して、感受性の低い細胞を選択することを含み得る。本方法は、CD45、CD90、およびCD271マーカーから選択される少なくとも1つのマーカーを使用して、感受性の低い細胞を除去することを含み得る。CD45、CD90、およびCD271ビーズは、白血球、間質細胞、および気道上皮基底細胞を除去するために使用され得る。一部の実施形態では、磁性粒子に結合された抗体は、白血球、間質細胞、および気道上皮基底細胞を選択ならびに除去するのに使用される。一部の実施形態では、2ステップ選択が実施されてもよく、それによりCD45選択に続いて、CD90およびCD271選択の組み合わせが行われる。
【0011】
操作された臓器を形成する方法が本明細書において開示される。臓器は、合成または天然の肺マトリックスから作製され得る。本方法は、スキャフォールドマトリックスに、本明細書において開示される方法から得られた細胞を播種することを含み得る。1つの実施形態では、操作された肺構造は、肺スキャフォールドに、本明細書において開示される方法から得られた細胞を播種することによって形成され得る。
【0012】
スキャフォールドに、本明細書において開示される方法から得られた細胞を播種することによって形成された操作された臓器が、本明細書において開示される。肺スキャフォールドに、本明細書において開示される方法から得られた細胞を播種することによって形成された操作された肺構造が、本明細書において開示される。細胞は、1つまたは複数の分化クラスター(CD)マーカーに対する抗体を使用して、白血球および少なくとも1つの他の細胞型を選択することによって精製され得る。CDマーカーは、CD45、CD16、CD32、CD31、CD90、CD144、CD140b、およびCD271のうちの1つまたは複数であり得る。一部の実施形態では、白血球、線維芽細胞などの間質細胞、内皮細胞、および気道基底細胞が選択され得る。一部の実施形態では、播種される細胞は、肺胞II型細胞、気道上皮基底細胞、肺間質細胞、および肺内皮細胞のうちの1つまたは複数であり得る。
【0013】
本明細書において使用される場合、「肺クラッシュ方法(Lung Crush Method)」または「LCM」は、細胞が単離されるべき組織を破砕するための機械的な力の適用を含む方法を指す。力の適用は、組織の酵素消化中または後に行われ得る。本方法はさらなるステップを含んでもよく、破砕力は、任意の適切な手段、例えば、機械的粉砕または技術者の手によって適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】組織を破砕して解離することと、肺胞2型細胞を精製するためのネガティブ選択とを含む本明細書において記載される方法(下パネル、黄色で強調表示している)と比較して、組織を解離するためのハサミの使用および肺胞2型細胞を精製するためのポジティブ選択で構成される、既存のSannesラボ法(上パネル)を使用した生体臓器からの細胞単離プロセスの概略図を示す図である。
図2】2つの組織解離方法のドナー適合性比較による、Sannes対LCMに関する組織1グラムあたりの濾過後(PF)の収量を示す図である(n=3)。
図3】2つの解離方法のドナー適合性比較による、Sannes対LCMに関する濾過後(PF)のAT2純度(HT2-280+%)を示す図である(n=3)。
図4】2つの解離方法のドナー適合性比較による、Sannes対LCMに関する理論上のAT2/g(組織)を示す図である(n=3)。理論上のAT2/gは、総細胞数/gにHT2-280%を乗算したものとして算出される。
図5】2つの解離方法のドナー適合性比較による、Sannes対LCMに関するCD45/CD90/CD271枯渇AT2試料の選択後のAT2純度(HT2-280%)を示す図である(n=3)。
図6】2つの解離方法のドナー適合性比較による、Sannes対LCMの組織1グラムあたりの選択後のAT2を示す図である(n=3)。
図7】2つの解離方法のドナー適合性比較による各単離方法に関する平均AT2収量を示す図である(n=3)。
図8】精製後の実際のAT2収量を、精製前の理論上のAT2収量で除算したものに基づいて算出されたSannesとLCMとの選択効率の比較を示す図である。
図9】LCMプロセスが単一ドナー由来の肺組織の全てを利用するようにスケーリングされた場合のAT2細胞単離の改善の要約を示す図である。
図10】プロセスの概略図を示す図であり、肺組織の全てを消化および解離する1つの方法、ならびに気道上皮基底細胞、間質細胞、AT2細胞、および内皮細胞を肺組織から分離するのに使用することができる精製方法を強調表示している。
図11】一実施形態により1名のドナーから単離された4つの細胞型全てを示す図である。
図12】肺クラッシュ法の画像を示す図である。
図13】肺クラッシュ法を使用して4つの異なる細胞型(気道上皮基底細胞、間質細胞、AT2細胞、および内皮細胞)を1名のドナーから単離した場合の肺からの細胞収量および純度の要約を示す図である。
図14】肺クラッシュ法から得られた気道上皮基底細胞の一例を示す図である。
図15】肺クラッシュ法から得られた間質細胞の一例を示す図である。
図16】肺クラッシュ法から得られた内皮細胞の一例を示す図である。
図17図10に記載したものと比較して異なる精製方法を使用して、気道上皮基底細胞、間質細胞、AT2細胞、および内皮細胞を肺組織から得るプロセスの1つの実施形態の概略図を示す図である。
図18】本明細書において記載される肺クラッシュ法およびネガティブ選択戦略によるAT2単離および特徴付けの要約を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ヒトまたは動物の臓器から単離された細胞は、in vitro診断薬および医薬品の検査、細胞療法の開発、および再生医療用のスキャフォールドの細胞化(cellularization)を支持するのに使用され得る。これらの細胞化されたスキャフォールドは、臨床製品として患者への移植に使用され得る。しかしながら、充分な数の特定の肺細胞型を得ることは、当該分野において長年にわたる課題となっている。そのような例の1つは、操作された肺組織の形成において使用するための、ヒトドナー肺組織からのAT2細胞の単離である。単離されたAT2細胞は、バンクに保存され(bank)、増殖され、ブタまたは3Dプリンターで製造され(3D-print)た肺スキャフォールドを細胞化するのに使用され得る。これらのブタまたは3Dプリンターで製造された肺スキャフォールドは、患者に移植され得る。単離されたAT2細胞はまた、AT2細胞の独自性および機能、成長特性、病態、および種々のプラットフォームにおける医薬品候補スクリーニングの研究を支持するのに使用され得る。
【0016】
AT2細胞の単離は、ノースカロライナ州立大学のPhilip Sannesの研究室において開発された方法(本明細書において、Sannes法と記載される)を使用して実施されている。Sannes法を使用したAT2単離は通常、ヒトドナー肺組織の1~2個の葉から数億個のAT2細胞を生じる。したがって、Sannes法は、10億個またはそれよりも多い細胞を確保するためには、異なるドナーに対して複数回繰り返されなければならず、時間および材料において高いコストがかかる。さらに、ヒト細胞、組織、ならびに細胞および組織ベースの産物に対する異なるドナーからの細胞のプールは、FDAによって制限されている。
【0017】
対照的に、本明細書において開示される方法は、5つの肺葉全ての加工処理を可能にする場合があり、スタッフまたは加工処理時間を増加させずに、10億個ものAT2細胞を産生し得る。さらに、本明細書において開示される方法は、バイオリアクターにおけるラージスケールの増殖を可能にし得るより大量の細胞の加工処理を可能にし得る。本明細書において開示される方法は、増加数の細胞の産生を可能にし、これにより、細胞をさらなるドナーから単離する必要性が減少し得る。本明細書において開示される方法はまた、複数の肺細胞型のドナー適合性バンクの構築を可能にし、また単一のドナーに由来する細胞を用いたスキャフォールドのリポピュレイションを可能にし得る。このことは、同種異系組織製品にとって重視すべき事項であり、それにより近いHLA適合を有する単一ドナー由来の細胞を使用することは、臓器拒絶を防ぐのに重要であり得る。
【0018】
さらに、Sannes法または他の公開されている方法を使用して下流の増殖に充分な純度で、多数のAT2細胞または他の特定肺細胞型を単離することは困難となっていた。この課題を解決する精製戦略が、本明細書において開示される。この精製方法は、ネガティブ選択を使用して、下流の培養物において異常成長する可能性のある非AT2細胞を除去し、感受性の高いAT2細胞を、下流での使用のために未標識の状態でネガティブ集団に残す。ポジティブ選択された非AT2細胞を培養物に播種して、目的の他の細胞型のバンクを生成することができる。図1は、下流の培養および増殖に充分な純度でドナー肺臓器から単離されたAT2細胞の数を最大化することに関する実施形態において、特定細胞型を単離する方法の概要を示す。これは単なる実施形態であり、類似した方法が他の細胞型を他の型の臓器から単離するのに用いることが可能であるはずであることに留意すべきである。
【0019】
図1は、生体臓器からの細胞選択の方法の1つの実施形態の概略図を示す。この実施形態では、生体臓器は肺であり、所望の精製細胞はAT2細胞である。肺はドナーから確保される。肺は、例えば気道を緩衝溶液で洗浄することによって浄化される。続いて、肺はエラスターゼまたはコラゲナーゼなどの酵素で消化される。この時点で、細胞組織は、Sannes法、または肺クラッシュ法のいずれかによって解離することができる。
【0020】
Sannes法(SM)は、大きくて白い気道および未消化組織の大きな塊を除去することを含み得る。消化された組織の小片をカップに移し、一緒にテープで留めた3対の手術用ハサミ(トリプルシザーと称される)を使用して刻み、収集し得る。このプロセスは、消化組織全てが刻まれるまで数回繰り返されてもよい。
【0021】
肺クラッシュ法(LCM)は、手などの物体または機械的に自動化された破砕デバイス、例えばローラーを直列もしくは並列に使用するものを使用して、組織を破砕する力を適用して、消化された組織全体を全て一度に破砕することを包含し得る。破砕は、胸膜を引き裂くように開き、消化された組織および細胞を注ぎ出させて、容器に収集することを包含し得る。破砕は、消化された組織を圧搾することを含み得る。破砕は、組織を引き離すことを包含し得る。破砕は、組織を絞り出して、さらなる細胞懸濁液を収集することを含み得る。肺組織は、気道および胸膜のみが残るまで破砕されてもよい。気道組織が除去され、破砕組織が収集されてもよい。破砕後の細胞懸濁液には、組織の未消化の片はほとんど残っていない。対照的に、Sannes法を使用して組織を切断した後、およそ1から5mmの範囲の組織片は、細胞懸濁液全体にわたって可視的である。例えば、LCMを使用して加工処理された組織は、20重量%、10重量%、5重量%、2重量%、または1重量%以下の、直径が1mm、2mm、もしくは5mmまたはそれよりも長い組織片を有し得る。一部の実施形態では、LCMを使用して加工処理された組織は、5重量%以下の、直径が5mmまたはそれよりも長い組織片を含有する。一部の実施形態では、LCMを使用して加工処理された組織は、5重量%以下の、直径が2mmまたはそれよりも長い組織片を含有する。一部の実施形態では、LCMを使用して加工処理された組織は、5重量%以下の、直径が1mmまたはそれよりも長い組織片を含有する。特定のサイズの組織片の相対量を決定することは、適切なサイズのふるい、メッシュなどを使用して遂行することができる。
【0022】
解離された後、収集された液体は濾過されてもよい。液体は、外科用ガーゼまたはメッシュ、絹、またはナイロンフィルターに通して濾過されてもよい。液体は、複数回、および複数のフィルターに通して濾過されてもよい。また、液体を1回またはそれよりも多い回数で遠心分離し、細胞ペレットを再懸濁させてもよい。
【0023】
LCMをスケールアップする前に、3回の直接競合的な(head-to-head)単離をドナー適合性組織で実施して、LCMをSannes法と比較した。この比較研究における各ドナーについて、組織は左肺および右肺に分けられた。各ドナー由来の肺の1つは、Sannes法を使用して加工処理され、もう1つは、LCMを使用して処理された。各プロセスに割り当てられた肺は、各ドナー、ならびに分離を実施する操作者で変化させた。この比較研究からのデータは、図2図4に含まれている。
【0024】
図2は、Sannes対LCMに関する組織1グラムあたりの濾過後の(PF)総細胞収量を示す(n=3)。これらのデータにより、組織1グラムあたりの収量が、Sannes法および肺クラッシュ法に関して類似していることが実証される。組織1グラムあたりの精製された細胞量において、統計学的有意差は見られない(ウェルチのt検定、p<0.05)。
【0025】
図3は、解離後のSannes対LCMに関する濾過後の(PF)AT2細胞純度を示す(n=3)。2つの解離法間で、濾過後の細胞の純度において有意差は見られなかった(ウェルチのt検定、p<0.05)。
【0026】
図4は、濾過後の収量に濾過後の純度を乗算したものとして算出された、Sannes対LCMに関する組織1グラムあたりのAT2細胞の理論上の数を示す(n=3)。2つの異なる解離方法を使用して組織から単離したAT2細胞の理論上の収量において、統計学的有意差は明白ではなかった(ウェルチのt検定、p<0.05)。
【0027】
濾過後、所望の細胞は精製されてもよい。選択プロセスは、ネガティブまたはポジティブ選択プロセスであり得る。Sannes精製法では、望ましくない細胞は、抗体の使用を伴って、または伴わずに、非組織培養ペトリ皿への差次的接着によって除去され得る。一部の実施形態では、差次的接着および磁気除去の組合せが使用されてもよい。SannesのAT2精製プロセスは、白血球および線維芽細胞などの間質細胞を除去するためのプレーティングおよびパニングを包含し得る。精製プロセスは、間質細胞に選択的に結合するように、AS02抗体などの抗体を使用することを包含し得る。抗体は金属粒子に結合されてもよく、間質細胞を磁気的に除去することが可能となる。別の一般的に使用される方法は、AT2細胞表面マーカーであるHT2-280に対する抗体(Terrace Biotech、マウスIgMモノクローナル抗体)を使用して、細胞をポジティブ選択し、続いて抗マウスIgM磁気ビーズで染色することである。HT2-280を介したポジティブ選択は、低レベルの、培養物を異常成長させる可能性のある混入細胞型を有する高純度試料を生じる一方で、精製効率はこの選択方法を用いた場合に低く、したがって低い全体的なAT2収量をもたらす。
【0028】
本明細書において記載される精製方法において、他の非AT2細胞も、除去され得る。例えば、CD45、CD90、およびCD271抗体が、添加されて、白血球、間質細胞、および気道基底細胞に結合し得る。これらの抗体は、金属粒子に結合されてもよい。金属粒子、抗体、ならびに結合された血液細胞、間質細胞、および気道基底細胞は、磁気的に除去され得る。
【0029】
磁性粒子に結合された抗体はまた、1つまたは複数の細胞型を選択および除去して、最も感受性の高い所望の細胞を残すのに使用され得る。ネガティブ集団中の残された所望の細胞は、後の使用のためにバンクに保存されてもよい。単離された細胞は肺胞II型細胞(AT2)であってもよい。単離された細胞は、とりわけ気道上皮基底細胞、間質細胞、内皮細胞のうちの1つまたは複数であり得る。
【0030】
所望の細胞の独自性に応じて、本方法は、白血球、間質細胞、および/または気道上皮基底細胞を除去することを含み得る。本方法は、白血球および/または肺胞II型細胞を除去することを含み得る。細胞表面タンパク質に対する抗体に結合された磁気ビーズを使用して、AT2細胞ではない細胞を選択的に分離し得る。選択された細胞は、CD45、CD16、CD32、CD90、CD31、CD144、CD140bおよびCD271から選択される細胞表面タンパク質に対する少なくとも1つの抗体を使用して除去され得る。選択された細胞は、CD45、CD90、およびCD271マーカーから選択される細胞表面タンパク質に対する少なくとも1つの抗体を使用して除去され得る。CD45、CD90、およびCD271抗体は、AT2集団由来の白血球、間質細胞、および気道基底細胞に使用され得る。代替マーカーを使用して、所望の細胞以外の全ての細胞を、試料から除去し得る。
【0031】
CD45、CD90、およびCD271に対する抗体に結合された磁気ビーズを使用したネガティブ選択アプローチが実施されて、図2図4に提示したLCMおよびSannes解離法の直接競合的な単離検査によりAT2細胞を精製した。これらの比較からの精製後のデータは、図5図8に含まれている。
【0032】
図5は、Sannes対LCMの比較によるCD45/CD90/CD271枯渇試料の精製後のAT2純度(HT2-280に関する陽性細胞の%)を示す。2つの試料の間に統計学的有意差は認められなかった(n=3名のドナー、ウェルチのt検定、p<0.05)。
【0033】
図6は、Sannes対LCMの比較による組織1グラムあたりの精製後のAT2細胞数を示す。2つの試料間に統計学的有意差は認められなかった(n=3名のドナー、ウェルチのt検定、p<0.05)
【0034】
図7は、類似した量の組織(ドナー1:Sannes400g、LCM 380g;ドナー2:Sannes244g、LCM220g;ドナー3:Sannes306g、LCM301g)で実施されたSannesおよびLCM単離法それぞれについて、精製後の平均総AT2細胞収量を示す。同量の組織が加工処理され、同じ精製戦略が実施されたと仮定して予想されるように、2つの試料間に統計学的に有意な差は見られなかった(n=3名のドナー、ウェルチのt検定、p<0.05)。
【0035】
図8は、精製後のAT2収量を精製前の理論上のAT2収量で除算したものに基づいて算出された、SannesとLCMとの選択効率の比較を示す。肺クラッシュ法は、Sannes法と比較した場合、選択効率において統計学的に有意な改善をもたらした(n=3名のドナー、ウェルチのt検定、p<0.05)。
【0036】
直接競合的な比較後に、LCMをスケールアップして、ドナー由来の左および右の肺組織の両方(両側の肺)を加工処理した。Sannesプロトコルに関するトリプルシザー解離ステップは、労力と時間がかかり、それにより一度に加工処理することができる組織の量が制限される。肺クラッシュ法を用いた簡略化された解離法により、1名のドナー由来の肺組織全体を一度に取り扱うことが可能であり、全体的な加工処理時間を減少させる。
【0037】
図9は、本明細書において開示される方法の1つの実施形態に見られる改善の要約を示す。この実施形態では、AT2細胞は、これまでのSannes法(トリプルシザーで刻まれた試料を含む)データと比較して、スケールアップした肺クラッシュ法を使用してドナー肺組織から単離された。次に、AT2細胞は、ネガティブ磁気ビーズ選択法を使用して精製され、他の確立された精製法を使用してこれまでのデータと比較された。肺クラッシュ法解離アプローチは、(a)組織加工処理能および(b)消化後の試料中の未精製AT2細胞の数(理論上のAT2細胞収量)を有意に増加させた。このデータセットは、両側の肺(肺葉全て)が加工処理された全てのフルスケールのLCM実行を包含した。(c)種々の精製戦略は、Sannesトリプルシザー法により単離された細胞に関して比較した。CD45枯渇法は、HT2-280選択法と比較して、精製効率を改善する傾向にあった。しかしながら、HT2-280選択法は、下流のAT2培養に充分な純度で細胞を産生した一方で、CD45枯渇だけでは産生しなかった。したがって、CD45/CD90/CD271枯渇法が確立され、表面マーカーによるネガティブ選択を使用して、CD45+細胞とともに基底細胞(CD271+)および線維芽細胞(CD90+)を枯渇させた。(d)種々の単離および精製アプローチから生成された最終的なAT2収量の比較。ドナー1名あたりの平均AT2収量は、元の方法(Sannes、スモールスケールMACS機器でHT2-280選択を実施)を使用して73Mであった。CD45の枯渇またはCD45/CD90/CD271枯渇と組み合わせたSannes法は、AT2収量の増加傾向にあった。しかしながら、CD45/CD90/CD271と組み合わせた肺クラッシュ法は、最も高いAT2収量を生じた。さらに、より高い細胞収量を考慮して、ラージスケールのCliniMACS精製機器は、フルスケールの加工処理に必要とされた。このデータセットは、LCMのフルスケールの実行を含んでおり、ここで、両側の肺は枯渇チュービングを使用してCliniMACSで加工処理および精製され、そこではプロセスエラーまたは逸脱は起こらなかった。これらの新しい方法を組み合わせると、1名のドナーから単離された平均9億3千万個のAT2細胞への統計学的に有意な増加が実証された。(aおよびbに関するt検定、ANOVA、cおよびdに関するテューキーの多重比較検定、p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001)。
【0038】
これらの精製方法を以下の表にまとめる:
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【実施例
【0041】
下記実施例は、当業者のために記載を説明および提供するために、本開示の一部の実施形態の特定態様について記載している。実施例は、この開示の一部の実施形態を理解および実行するのに有用な特定の方法論を単に提供するだけであるため、実施例は、この開示を限定するものと解釈されるべきではない。
【0042】
[比較例1]
Sannes法を使用した解離および精製
この方法では、葉(通常は右中葉)を加工処理用に解剖する。
【0043】
浄化:肺葉血管系を、溶液II(NaCl、NaHPO、HEPES、CaCl、およびMgSO7HOの水溶液)で37℃にて、血液が含まれない状態に灌流した。肺葉から空気を除去し、葉にカニューレ挿入し、溶液I(NaCl、NaHPO、HEPES、グルコースおよびEGTAの水溶液)で洗浄した。洗浄は、排出溶液が透明に流れるまで繰り返した。
【0044】
消化:エラスターゼを37℃で溶液II中に溶解した。肺葉を、37℃に設定した水浴中でインキュベートし、温エラスターゼ溶液を充填した。肺は、十分に弛緩するようになるまで消化させた。
【0045】
組織解離(Sannes法):組織の大きな未消化の塊を切除した。大きな白い気道を除去して、廃棄した。より小さな葉片を、冷DNase溶液(溶液II 50mL中にDNase 25mg)5mLを含有する氷上の冷却カップに添加した。これらのより小さな葉片を、タンデムで一緒に保持されたか、またはテープで留められた3対の手術用ハサミ「トリプルシザー」を用いてバッチで刻んだ。刻まれた細胞溶液を、氷上で冷やした状態の1リットルのフラスコに収集した。組織全てが加工処理されたら、FBSを細胞懸濁液に添加し、フラスコを水浴(37℃)中で3分間激しく振盪した。
【0046】
濾過:細胞懸濁液を、湿らせた手術用ガーゼの層に最大3回通して濾過した。細胞懸濁液を、湿らせた手術用ガーゼの2層に通して濾過した。これを少なくとも1回繰り返して、大きな組織片のほとんどを除去した。続いて、細胞懸濁液を、湿らせた三重層ガーゼに通して1回または2回濾過した。細胞懸濁液を、165μmの絹またはナイロンメッシュに通して濾過した。
【0047】
遠心分離:細胞懸濁液を200×gで4℃にて10分間遠心分離した。上清を廃棄し、細胞ペレットをDMEM培地5mL中に再懸濁した。
【0048】
プレーティング:pH9.5のトリス緩衝液中の500μg/mLのヒトIgGを入れたペトリ皿を調製した。一部の場合では、皿を4℃で一晩インキュベートした。細胞溶液約5mLを、調製したIgG皿に送達した。
【0049】
パニング:白血球が十分に接着されて灰色に見えるまで、調製した細胞皿をインキュベーター中で最大1時間パニングしたが、AT2細胞は依然として屈折性(refractile)があり、結合されなかった。線維芽細胞も結合し始めた。細胞皿をインキュベーターから取り出し、静かに揺動させて、AT2細胞を移動させた。未結合の細胞溶液を収集し、200×gで4℃にて10分間遠心分離した。上清を廃棄した。
【0050】
線維芽細胞枯渇選択肢1-差次的接着:線維芽細胞集団は、非組織培養物処置ペトリ皿への差次的接着によっておよそ1時間枯渇させた。
【0051】
線維芽細胞枯渇選択肢2-磁気的除去:線維芽細胞集団は、AS02抗線維芽細胞抗体ネガティブ選択ステップを使用して枯渇させた。細胞ペレットをDMEM中に再懸濁した。AS02抗体を使用して、線維芽細胞に選択的に接着させた。細胞および抗体のチューブを4℃で10分間のインキュベーション時間、静かに転がした。DMEM/0.1%細胞培養グレードBSAを添加し、溶液を遠心分離した(10分、800rpm、4℃)。上清を除去し、細胞をDMEM/0.1%BSA中に再懸濁した。
【0052】
ダイナビーズ調製:汎マウスIgGダイナビーズをDMEM/0.1%BSA 1mL中で洗浄し、磁気的に収集し、DMEM/0.1%BSA中に再懸濁した。ダイナビーズを細胞に添加し、溶液を4℃で30分間インキュベートし、端から端までゆっくりと転がした。線維芽細胞をDynaMag-15磁石によっておよそ2分間磁気的に除去した。未結合のAT2細胞を注ぎ出して、収集および計数した。細胞を遠心分離して濃縮し、播種のために培地を交換した。ペレットを、10%FBSおよび2×抗生物質/抗真菌薬を有するDMEM中で再懸濁した。細胞を計数し、後の使用のために保管した。
【0053】
線維芽細胞枯渇選択肢3:線維芽細胞は、選択肢1および選択肢2の複合方法を使用して枯渇させた。
【0054】
[実施例2]
肺クラッシュ法およびCD45/CD90/CD271枯渇を使用した、AT2細胞、気道上皮基底細胞、および間質細胞の単離
この方法では、両側の肺(肺葉全て)が、加工処理に使用される。
【0055】
浄化:肺気道にカニューレ挿入し、HBSS(-MgCl、-CaCl)を注入した。HBSSは、穏やかなマッサージで肺から排出された。洗浄を3回繰り返した。2回の最終的なすすぎをHBSS(+MgCl、+CaCl)で完了させた。
【0056】
消化:エラスターゼ、IV型コラゲナーゼ、塩化カルシウム、およびDNaseを37℃でHBSS(-MgCl、-CaCl)中に溶解し、肺に注入した(比較例1では、IV型コラゲナーゼおよびDnaseは使用していない)。肺をWhirlpakバッグに入れ、37℃に設定した水浴に入れ、肺をおよそ45分間消化させた。
【0057】
組織解離(肺クラッシュ法):滅菌手袋を着用し、ヒト操作者がバッグの中に手を入れた。胸膜を引き裂くように開き、肺組織を引き離し、気道のみが残るまで手で破砕した。この時点で、残存する気道組織をバッグから取り出して廃棄した。Whirlpakバッグの液体内容物を収集した。
【0058】
濾過:細胞懸濁液を、孔径を減少させて(2000μm、1000μm、200μm、100μm)一連のメッシュシートに通して濾過した。濾過後、細胞懸濁液をDNaseとともにDMEM/F12培地中で育成した。5%FBSを細胞懸濁液に添加し、混合した。
【0059】
遠心分離:細胞懸濁液を、300×gで8分間遠心分離した。上清を廃棄し、細胞ペレットを、DNaseを有するDMEM/F12 5mL中に再懸濁した。
【0060】
上記の方法に従って細胞懸濁液が確保されたら、AT2細胞、AEP細胞、および間質細胞を下記方法に従って精製した。
【0061】
間質細胞、気道基底細胞、および白血球の磁気ビーズ標識:細胞を、例えば、K2Cellometer(Nexcelom)を用いて計数した。細胞懸濁液を、例えば300×gで4℃にて5分間遠心分離した。細胞懸濁液を培地に再懸濁した。一部の場合では、培地にはDNaseが含まれていた。CD45、CD90、およびCD271ビーズを添加して、それぞれ、白血球、線維芽細胞、および気道基底細胞と結合させた。一部の実施形態では、ビーズは、試料中の予想される間質細胞、気道基底細胞、および/または白血球の数に対して過剰に添加した。試料を十分混合し、インキュベートした。一部の実施形態では、インキュベーションは、室温で45分間行われた。細胞を洗浄し、遠心分離し、培地に再懸濁した。
【0062】
間質細胞、気道上皮基底細胞、白血球からのAT2細胞の磁気的分離:細胞を血液移送バッグなどの容器に入れ、CliniMACSチュービングセットに取り付けた。枯渇プログラム、この実施例では具体的に、CliniMACS(商標)システム(細胞精製システム)での枯渇プログラム3.1プログラムを選択した。枯渇プログラムを使用して選択されなかった細胞(AT2細胞)を、K2 Cellometer(商標)(細胞計数器)を介して計数し、後の使用のために保管した。
【0063】
選択された細胞(CD45+/CD90+/CD271+)を分割し、気道上皮基底細胞または間質細胞を支持するよう設計された培養培地中で別々のフラスコにおよそ300,000~400,000個の細胞数/cmで播種した。これらの培養物は、継代を越えてAEPおよび間質細胞の精製された集団を生成した。
【0064】
[実施例3]
肺クラッシュ法の組織解離後の培養選択による間質精製
肺細胞を下記の方法に従って肺組織から単離した。ドナー肺組織を、本明細書において開示される方法または当業者に既知の方法に従って浄化および消化した。肺組織を、肺クラッシュ法などの方法を使用して解離した。細胞懸濁液を、本明細書において開示される方法または当該技術分野において既知の他の方法に従って、外科用ガーゼ、ナイロン、メッシュ、または他の多孔質材料に通して濾過した。
【0065】
上記の方法に従って細胞懸濁液が確保されたら、間質細胞を下記の方法に従って精製した。
【0066】
濾過後の試料を凍結した。単離後に採取した試料をCD90発現について評価した。濾過後の細胞を解凍し、3,000 CD90+細胞数/cmの濃度で間質細胞培地において播種した。これらの培養物は、継代を越えて間質細胞の精製された集団を生成した。この精製方法は、間質細胞培養物を生成するための選択された細胞の使用に対する代替法として機能し、気道上皮基底細胞培養物の生成に使用されるよう選択された集団の最大化を可能にする。
【0067】
[実施例4]
肺クラッシュ法後のポジティブ選択による内皮細胞の単離
内皮細胞を下記の方法に従って肺組織から単離した。ドナー肺組織を、本明細書において開示される方法または当業者に既知の方法に従って浄化および消化した。肺組織を、肺クラッシュ法などの方法を使用して解離した。細胞懸濁液を、本明細書において開示される方法または当該技術分野において既知の他の方法に従って、外科用ガーゼ、ナイロン、メッシュ、または他の多孔質材料に通して濾過した。
【0068】
上記の方法に従って細胞懸濁液が確保されたら、内皮細胞を下記の方法に従って選択した。
【0069】
磁気ビーズ標識および内皮細胞の分離:細胞を、例えば、K2 Cellometer(Nexcelom)を用いて計数した。細胞懸濁液を、例えば300×gで5分間遠心分離した。細胞懸濁液を培地中に再懸濁した。一部の場合では、培地はDNaseを含有していた。CD45ビーズを細胞懸濁液に添加して、白血球と結合させた。一部の実施形態では、インキュベーションは15分間行われた。細胞を血液移送バッグなどの容器に入れ、CliniMACSチュービングセットに取り付けた。枯渇プログラムを利用して、CD45陽性白血球を選択した。続いて、内皮細胞と結合させるように、CD31ビーズを第1の精製ステップからの陰性画分に添加した。一部の実施形態では、ビーズは、試料中の予想される内皮細胞の数に対して過剰に添加した。試料を十分に混合して、インキュベートした。一部の実施形態では、インキュベーションは室温で15分間行われた。細胞を洗浄し、遠心分離し、培地中に再懸濁した。次に、MultiMACS機器を使用して、内皮細胞を選択した。選択された内皮細胞を、K2 Cellometerを介して計数し、内皮細胞培養培地において培養物に播種した。
【0070】
内皮細胞はまた、培養の1~2継代後にCD31選択を使用した精製を伴う消化後に、細胞を直接培養物に播種することによって得ることができる。
【0071】
[実施例5]
1名のドナー由来の4つの細胞型の単離
図10は、プロセスの一実施形態の概略図を示し、肺組織の全てを消化および解離するのに使用された方法、ならびに気道上皮基底細胞、間質細胞、AT2細胞、および内皮細胞を肺組織と分離するのに使用された精製方法を強調表示している。肺葉は全て、肺クラッシュ法を使用して消化および解離した。間質細胞の精製された集団を生成するために、濾過後の試料を間質培地に直接播種し、3継代(P2)で成長させた。20Bの濾過後の細胞をCD45ビーズで染色し、CliniMACSでDepletion 3.1プログラムを使用して精製した。次に、この第1の精製からの枯渇試料をCD90およびCD271で染色し、MultiMACS機器で精製した。第2の精製ステップからの枯渇細胞試料をAT2集団と称した。第2の精製ステップからの選択された細胞試料を、気道上皮基底細胞成長培地中の培養物に播種し、3継代(P2)で培養を介してさらに精製した。内皮細胞を生成するために、濾過後の試料の別々のアリコートをまずCD45ビーズで染色し、CliniMACSで枯渇させ、続いてCD31ビーズで染色して、MultiMACS装置でポジティブ選択を介して精製した。選択した試料を内皮細胞培地中の培養物に播種し、4継代(P3)で成長させた。
【0072】
図11は、図10に記載される1名のドナー由来の4つの肺細胞型(AT2、内皮、間質、および気道上皮基底)の単離の結果を示す。図11(a)は、組織単離(重量および濾過後の総細胞収量)および総AT2収量情報を示し、図11(b)は、4つの細胞型それぞれの形態画像を示す。AT2:播種の24時間後、20倍対物レンズ;内皮:継代3、10倍対物レンズ;間質および気道上皮:継代2、10倍対物レンズ。図11(c)は、フローサイトメトリーによって示されるような4つの細胞集団それぞれの純度を示す(AT2、CD45/CD90/CD271枯渇後のHT2-280発現;内皮、継代3でのCD144発現;間質、継代2でのCD90発現;AEP、継代2でのCK5発現)。図11(d)は、内皮(継代3)、間質(継代2)、およびAEP(継代2)培養物の成長特性を提示している。
【0073】
図12は、プロセスを実証するために消化された肺組織に対して実施されている肺クラッシュ法を撮影した写真である。図12(a)は、肺胸膜を引き裂いて、消化された組織および細胞を収集バッグに放出させることを示す一連の画像を示す。図12(b)は、肺組織を圧迫して細胞を収集バッグに放出させることを示す一連の画像を示す。図12(c)は、肺クラッシュ法後の2つの異なる肺の画像を示しており、肺クラッシュ解離が完了した後、最小限の残存する肺組織が見られることを示している。図12(d)は、肺クラッシュ法により収集した結果として生じる細胞懸濁液の画像を示し、無傷の肺組織片が最小限であることを示している。
【0074】
図13は、AT2細胞単離および特徴付けの要約である。図13(a)は、AT2収量(総生細胞収量×HT2-280陽性細胞のパーセント)を示し、図13(b)は、両側の肺が、肺クラッシュ法を使用して消化および解離され、磁気ビーズを使用して精製され、枯渇チュービングセットを使用してCliniMACS機器でCD45、CD271、およびCD90の枯渇を除去した15個の単離物における純度(HT2-280陽性細胞パーセント)を示し、図10に記載されているようにCliniMACSおよびMultiMACSでの2ステップ精製が実施された実行を含み、プロセスエラーのある実行は排除する。平均AT2収量は、930e6個の細胞で、平均AT2純度は70%であった。図13(c)は、1名のドナー由来の単離および精製されたAT2細胞の例となるフローサイトメトリードットプロットを示し、HT2-280およびpro-SP-C抗体(黒:標的抗体、紫:アイソタイプ対照)を使用して、予想されるマーカー発現を確認している。図13(d)は、肺胞1型様(AT1様)細胞遺伝子発現に対して正規化された2名のドナーについてのAT2遺伝子発現のリアルタイムPCR分析を示す。AT1様細胞を、AT1変換を促進すると意図される培地中でAT2細胞を7日間培養することによって生成した。RNAを、QIAGEN RNeasy Mini Kitを使用して試料から単離した。cDNAを生成し、目的の遺伝子に関するプローブを使用してリアルタイムPCRを実行した。これらのデータは、SFTPB、SFTPC、SFTPD、LAMP3、ABCA3、およびNAPSAを含む、本明細書において記載される方法を使用して単離されたAT2細胞におけるいくつかの予想されるAT2遺伝子の発現を実証している。
【0075】
図14は、気道上皮基底細胞を実施例2に記載されるような肺クラッシュ法解離後のCD45/CD90/CD271枯渇の選択された画分から成長させたドナーからの気道上皮基底細胞の単離および増殖の要約を示す。CD45/CD90/CD271選択細胞を単離の当日に凍結し、その後解凍して、気道細胞培地に播種し、培養を開始した。細胞は合計3継代(継代0から継代2まで)で成長させた。図14(a)の表は、気道上皮基底細胞の増殖の測定基準を示す。あらゆる継代で、培養面積、採取時の細胞数/cm、採取した総細胞数、倍率変化、集団倍加数、集団倍加レベル、および集団倍加時間を収集した。10億よりも多い気道基底上皮基底細胞が、培養のほんの1継代(継代0)後にこのドナーから生成された。継代1および継代2における続く培養物のサイズは最大化されなかった一方で、さらなる継代を越えた基底細胞の増殖力が実証された。継代1および継代2における細胞の倍率変化は、それぞれ70.1および43.0であった。継代1および継代2における集団倍加時間は、それぞれ23.7時間および26.4時間であった。図14(b)は、継代0から継代2までのフローサイトメトリーによって測定された気道上皮基底細胞マーカーであるサイトケラチン5(ck5)および腫瘍タンパク質63(p63)の発現を示し、増殖の過程での基底細胞の独自性の維持を実証している。80%よりも多い集団が、継代0から継代2まで両方のマーカーを発現した。誘導気道からの基底細胞は通常、消化気道組織セグメントを介して単離され、続いて気道内腔が掻き出される。本明細書において記載される方法の利点は、別々の細胞単離プロセスを実施する必要なく、またいかなるAT2細胞も犠牲にすることなく、AT2細胞を単離するのに使用される精製アプローチの選択された画分から細胞を簡素に収集することができることである。
【0076】
図15は、実施例3において説明されるように、間質細胞を、肺クラッシュ法により収集された濾過後の細胞を間質細胞培地に播種することによって成長させたドナー由来の間質細胞増殖の要約を示す。濾過後の細胞を単離の当日に凍結し、その後解凍して、間質培養を開始した。細胞を合計3継代(継代0から継代2まで)で成長させた。図15(a)は、間質細胞の増殖の測定基準を示す。あらゆる継代で、培養面積、採取時の細胞数/cm、採取した総細胞数、倍率変化、集団倍加数、集団倍加レベル、および集団倍加時間を収集した。継代0での細胞収量は、7,200万個の細胞であり、増殖をさらなる2継代で継続し、継代1および継代2で倍加時間が減少し(継代0の57.6時間と比較して、それぞれ28.6時間および30.5時間)、細胞成長速度の増加が示された。図15(b)は、増殖の過程でのフローサイトメトリーによって測定された間質細胞マーカーであるCD90およびCD140bの発現を示し、間質細胞の独自性が維持されたことを実証している。CD140b発現は、継代0では低かった一方で、継代1および2では、80%よりも多い細胞が、CD90およびCD140bの両方を発現した。肺クラッシュ法解離を使用した両側の肺の加工処理による濾過後の平均収量は、およそ350億個の細胞である。したがって、AT2または気道上皮基底細胞の多くを犠牲にすることなく、過剰な濾過後の試料を、間質細胞培養物を播種するのに残したままにしているうちに、20~30Bの濾過後の細胞をAT2精製に割り当てることができる。
【0077】
図16は、実施例4において記載されるような、内皮細胞を、肺クラッシュ法による濾過後の細胞を播種することによって成長させたドナー由来の内皮細胞の単離および増殖の要約を示す。濾過後の細胞を単離の当日に凍結し、その後解凍して、内皮細胞増殖培地において播種し、内皮培養を開始した。細胞を、合計5継代で(継代0から継代4まで)首尾よく成長させ、CD31磁気ビーズ選択を継代1の採取後に実施した。図16(a)における表は、内皮細胞の増殖の要約を示す。あらゆる継代で、培養面積、採取時の細胞数/cm、採取した総細胞数、倍率変化、集団倍加数、集団倍加レベル、および集団倍加時間を収集した。図16(b)は、精製前および精製後を含む、継代1から始まるあらゆる継代後のフローサイトメトリーによって測定された内皮細胞のマーカーであるCD144の発現を示す。継代1後のCD31磁気ビーズ選択後に、CD144発現は、80%を上回って維持された。
【0078】
[実施例6]
代替精製アプローチを用いた1名のドナー由来の4つの細胞型の単離
図17は、4つの異なる細胞型(AT2細胞、気道上皮基底細胞、間質細胞、および内皮細胞)を1名のドナーから得るプロセスの異なる実施形態の概略図を示す。消化および組織解離は、実施例5に記載されるものと同じであるが、AT2および内皮細胞に対する異なる精製アプローチが、この実施形態において記載される。AT2細胞の精製された集団を生成するために、20~30Bの濾過後の細胞をCD45、CD90、およびCD271ビーズで、1ステップで一緒に染色して、MultiMACS機器でのいかなる続く精製も伴わずにCliniMACS機器で枯渇カラムに通して流す。枯渇された細胞試料は、AT2集団と称される。実施例5において記載されるように、気道上皮基底細胞の精製された集団を生成するために、選択された画分を基底細胞増殖培地に播種する。内皮細胞の精製集団を生成するために、濾過後の試料の一部を単離の当日に内皮細胞培地に直接播種する。次に、実施例4に記載されるように、細胞を1継代後に採取し、MACSベースのCD31選択アプローチを使用して精製する。続いて、内皮細胞は、続く増殖または実験のために培養に戻される。最終的に、間質細胞を生成するために、濾過後の試料の一部を、実施例3に記載されるように、間質細胞増殖培地に播種する。
【0079】
図18は、肺クラッシュ法が1名のドナー由来の4つの異なる細胞型(AT2:肺胞2型、AEP:気道上皮基底部、内皮、および間質)の単離を試みるのに使用された肺からの単離された細胞の要約を示す。図18(a)における表は、各細胞型について報告された収量および純度と関連付けられた総細胞収量、細胞純度、および継代数を示す。表における全ての細胞型について、総収量は、報告された継代からの採取時に計数された生細胞の数であり、純度は、フローサイトメトリーを介して測定された総収量における目的の細胞型のパーセントである。HT2-280発現を使用して、AT2細胞純度を決定した。Ck5発現を使用して、気道上皮基底細胞純度を決定した。CD144発現を使用して、内皮細胞純度を決定した。CD90発現を使用して、間質細胞純度を決定した。肺クラッシュ法および細胞培養培地に従った種々の精製戦略を、この表において提示される結果に使用した。総収量の隣のアスタリスクは、その細胞型の単離がそのドナーに対して最大化されなかったことを示し、したがって、総細胞収量は、より高かった可能性があると予測される。AT2細胞に関する「初期」継代の表記は、AT2細胞が総収量および純度の分析前に増殖していなかったことを示す。単離後の細胞培養物を使用して、他の3つの細胞型(AEP、内皮、および間質)をさらに精製し、これが、それらがより高い継代で含まれた理由である。最終的に、総収量の列におけるXは、その細胞型の単離が、微生物混入、細胞成長の欠如、または異なる細胞型の異常成長に起因してそのドナーでは不首尾であったことを示す。図18(b)は、図18(a)において言及した不首尾の単離の試みそれぞれについての原因の内訳を示す。
【0080】
本明細書において使用される場合、単数形の用語「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に他の状況を指示しない限り、複数の指示対象を含んでもよい。したがって、例えば、物体に対する言及は、文脈が明確に他の状況を指示しない限り、複数の物体を含んでもよい。
【0081】
本明細書で使用される場合、「実質的に」および「ほぼ」という用語は、小さな変動を記載および説明するのに用いられる。事象または状況と併せて使用する場合、この用語は、事象または状況が正確に起きる場合、ならびに事象または状況がほぼ近似して起きる場合を指し得る。数値と併せて使用する場合、この用語は、その数値の±10%未満であるか、またはそれに等しい、例えば、±5%未満であるか、またはそれに等しい、±4%未満であるか、またはそれに等しい、±3%未満であるか、またはそれに等しい、±2%未満であるか、またはそれに等しい、±1%未満であるか、またはそれに等しい、±0.5%未満であるか、またはそれに等しい、±0.1%未満であるか、またはそれに等しい、あるいは±0.05%未満であるか、またはそれに等しい変動の範囲を指し得る。第1の数値を第2の数値と「実質的に」または「ほぼ」同じであると言及する場合、この用語は、第1の数値が第2の数値の10%未満であるか、またはそれに等しい、例えば、±5%未満であるか、またはそれに等しい、±4%未満であるか、またはそれに等しい、±3%未満であるか、またはそれに等しい、±2%未満であるか、またはそれに等しい、±1%未満であるか、またはそれに等しい、±0.5%未満であるか、またはそれに等しい、±0.1%未満であるか、またはそれに等しい、あるいは±0.05%未満であるか、またはそれに等しい変動範囲内にあることを指し得る。
【0082】
さらに、量、比率、および他の数値は、場合によっては範囲フォーマットで本明細書において提示される。そのような範囲フォーマットは、便宜上および簡潔さのために使用され、範囲の限界として明示的に指定された数値を含むだけでなく、各数値および部分範囲が明示的に指定されているかのように、その範囲内に包含される全ての個々の数値または部分範囲を含むように柔軟に理解されるべきであることが理解されよう。例えば、約1から約200の範囲の比率は、約1および約200の明示的に列挙された限界を含むと理解されるべきであるが、約2、約3、および約4などの個々の比率、および約10から約50、約20から約100などの部分範囲も含むと理解されるべきである。
【0083】
本開示は、その特定実施形態を参照して説明されたが、添付の特許請求の範囲によって規定されるような開示の真の主旨および範囲から逸脱することなく、種々の変更が成されてもよく、均等物が置き換えられてもよいことが当業者に理解されよう。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、方法、操作(単数またま複数)を、本開示の目的、主旨、および範囲に適合させるように、多くの変更が成されてもよい。そのような変更は全て、本明細書に添付された特許請求の範囲内にあると意図される。特に、ある特定の方法は、特定の順序で実施される特定の操作を参照して記載されている可能性がある一方で、これらの操作は、本開示の教示から逸脱することなく、等価な方法を形成するために、組み合わされるか、細分化されるか、または並べ替えられてもよいことが理解されよう。したがって、本明細書に別記されない限り、操作の順序および分類は、本開示の限定にはならない。
図1
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【国際調査報告】