(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】アッテネータ又は放散要素
(51)【国際特許分類】
H10N 60/81 20230101AFI20240808BHJP
【FI】
H10N60/81
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024511967
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 FI2022050541
(87)【国際公開番号】W WO2023025985
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512068592
【氏名又は名称】テクノロギアン トゥトキムスケスクス ヴェーテーテー オイ
【氏名又は名称原語表記】TEKNOLOGIAN TUTKIMUSKESKUS VTT OY
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】レティネン,ジャンヌ
(72)【発明者】
【氏名】プランニラ,ミカ
(72)【発明者】
【氏名】ユルッタグール,ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】ロンザニ,アルベルト
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114BB02
4M114BB05
4M114DA31
(57)【要約】
無線周波数の信号、又は無線周波数より低い周波数の信号をそれぞれ熱化するように配置されたアッテネータ又は放散要素が、容量的にグランドに接続されていて、電子フォノン結合による熱放散を行うように配置されている、少なくとも第1のヒートシンク及び第2のヒートシンク(230、231、232、233)と、第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクと結合された少なくとも1つのトンネル接合(220、221、222、223、224)であって、少なくとも1つのトンネル接合及びそれと結合されたヒートシンクの合計抵抗がh/e2を下回る、且つ/又は、第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクのそれぞれの合計キャパシタンスがe2/2kbTを上回る(但し、hはプランク定数であり、eは素電荷であり、kbはボルツマン定数であり、Tは上記要素の最低動作温度である)、少なくとも1つのトンネル接合(220、221、222、223、224)と、を含む。好ましくは、超伝導ではない金属-絶縁体-金属トンネル接合のN行(204)M列(202)のアレイ(200)が用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数構成要素を熱化するように配置されたアッテネータ、又は、無線周波数構成要素より低い周波数の構成要素を熱化するように配置された放散要素であって、
少なくとも第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクと、
前記第1のヒートシンク及び前記第2のヒートシンクと結合された少なくとも1つのトンネル接合であって、前記第1のヒートシンク及び前記第2のヒートシンクは、容量的にグランドに接続されており、電子フォノン結合による熱放散を行うように配置されており、単電荷効果を最小化するために、
前記少なくとも1つのトンネル接合及びそれと結合されたヒートシンクの合計抵抗がh/e
2を下回る、且つ/又は、
前記第1のヒートシンクの合計キャパシタンスがe
2/2k
bTを上回り、前記第2のヒートシンクの合計キャパシタンスがe
2/2k
bTを上回る(但し、hはプランク定数であり、eは素電荷であり、k
bはボルツマン定数であり、Tは、前記アッテネータ又は前記放散要素が使用されるように配置された場所の最低温度である)、
前記少なくとも1つのトンネル接合と、
を含むアッテネータ又は放散要素。
【請求項2】
前記少なくとも1つのトンネル接合及びそれと結合された前記ヒートシンクの前記合計抵抗が
【数1】
を下回り、
【数2】
は換算プランク定数である、請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項3】
前記第1のヒートシンクは入力電極として機能し、前記第2のヒートシンクは出力電極として機能する、請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項4】
入力電極及び出力電極、並びに前記入力電極と前記出力電極との間に結合されたトンネル接合のアレイであって、トンネル接合の前記アレイは、少なくとも1つの行のトンネル接合を含み、前記少なくとも1つの行は、少なくとも、第1のトンネル接合、第2のトンネル接合、及び第3のトンネル接合を含む、前記入力電極及び前記出力電極並びにトンネル接合の前記アレイと、
少なくとも第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクであって、前記第1のヒートシンクは、前記第1のトンネル接合及び前記第2のトンネル接合と結合されており、前記第2のヒートシンクは、前記第2のトンネル接合及び前記第3のトンネル接合と結合されている、前記少なくとも第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクと、
を含む、請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項5】
前記トンネル接合は、超伝導性がないことによって特徴付けられる2つの導電ボリュームの間にトンネルバリアを形成している絶縁層を含む、
請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項6】
前記ヒートシンクは、熱化のための金属ボリュームを含み、前記金属は、超伝導性がないことによって特徴付けられる、
請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項7】
前記第1のヒートシンクは2つ以上の行に対して共通であり、同じ前記第1のヒートシンクが、前記2つ以上の行のうちの前記第1のトンネル接合及び前記第2のトンネル接合と結合されている、請求項4に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項8】
前記ヒートシンクの厚さが少なくとも10μmであり、且つ/又は、前記ヒートシンクの合計ボリュームが少なくとも10
5μm
3である、請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項9】
超伝導性が前記ないことは、逆近接効果によって、又は超伝導性ボリュームに常磁性材料を含めることによって達成される、請求項5に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項10】
前記絶縁層は酸化アルミニウム層であり、前記導電ボリュームはアルミニウム層であり、超伝導性が前記ないことは、前記アルミニウム層とチタンタングステン層との間のガルバニック接触によって達成される、請求項5に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項11】
前記絶縁層は酸化スカンジウム層であり、前記導電ボリュームはスカンジウム層であり、超伝導性が前記ないことは、超伝導になっていないスカンジウムを使用することによって達成される、請求項5に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項12】
前記ヒートシンクは銅又は金を含む、請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項13】
前記ヒートシンクと前記トンネル接合との間の結合は、前記トンネル接合の上を横切っている金属層によって配置されている、請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項14】
前記トンネル接合の2つの導電ボリュームの間の電気的接続を防ぐために、前記金属層の下に誘電材料を含む、請求項13に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項15】
前記金属層は、前記アッテネータ又は前記放散要素を取り巻くように配置されて、近接するアッテネータ同士又は放散要素同士の間にシールドを形成している、請求項13に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項16】
前記アッテネータの入力電極が、GHzスケールの周波数を有する信号を受けるように配置されている、請求項1に記載のアッテネータ。
【請求項17】
前記少なくとも1つのトンネル接合は、常伝導金属層間に形成されたトンネル接合を基板(299)上に含むトンネル接合構造を含み、前記トンネル接合は金属層間に絶縁体層を含み、
第1の層(291)が前記基板の上の常伝導金属層であり、前記第1の層の材料がTiW、Sc、Wのうちの1つであり、
第2の層(292)が前記第1の層の上の金属層であり、前記第2の層の材料がTiW、Sc、W、Ti、Alのうちの1つであり、
第3の層(293)が前記第2の層の上の絶縁体層であり、前記第3の層の材料がTiO
x、AlO
x、WO
x、ScO
xのうちの1つであり、
第4の層(294)が前記第3の層の上の金属層であり、前記第4の層の材料がTiW、Sc、W、Ti、Alのうちの1つであり、
第5の層(295)が前記第4の層の上の常伝導金属層であり、前記第5の層の材料がTiW、Sc、又はWのうちの1つである、
請求項1に記載のアッテネータ又は放散要素。
【請求項18】
希釈冷凍機と、
量子プロセッサと、
請求項1~17のいずれか一項に記載の1つ以上のアッテネータ又は放散要素と、
を含むシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
様々な例示的実施形態が、超低温での量子技術において使用されるアッテネータ及び放散要素に関する。
【背景技術】
【0002】
量子技術では、信頼できる動作のために非常に低い温度が必要である。希釈冷凍機は、数ミリケルビン(mK)もの低い温度まで冷却できる極低温装置である。
【0003】
室温にある古典的な制御電子機器と、(例えば、希釈冷凍機の混合チャンバにマウントされる量子電子機器及び/又は量子プロセッサを包含する)量子技術とをインタフェースする必要がある場合は、量子素子の不要な熱励起を防ぐために多数の信号線を漸進的に熱化することが必要である。信号温度を希釈冷凍機にアンカリングするためにアッテネータが使用されてよい。同様に、付勢信号をアンカリングすることにおいては、パッシブ分圧器の構成要素等の低周波直流(DC)素子が使用されてよい。1Kより低い温度では、熱化を達成することは、実際的関心の対象である導体における電子フォノン結合の減衰のために困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の技術における課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
幾つかの態様によれば、独立請求項の発明対象が提供される。幾つかの例示的実施形態が従属請求項において定義される。様々な例示的実施形態に関して求められる保護の範囲は、独立請求項によって提示される。本明細書に記載の、独立請求項の範囲に含まれない例示的実施形態及び特徴がもしあれば、それらは、様々な例示的実施形態の理解に役立つ例として解釈されたい。
【0006】
第1の態様によれば、無線周波数構成要素を熱化するように配置されたアッテネータ、又は、無線周波数構成要素より低い周波数の構成要素を熱化するように配置された放散要素が提供され、これは、少なくとも第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクと、第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクと結合された少なくとも1つのトンネル接合と、を含み、第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクは、容量的にグランドに接続されており、電子フォノン結合による熱放散を行うように配置されており、少なくとも1つのトンネル接合及びそれと結合されたヒートシンクの合計抵抗がh/e2を下回る、且つ/又は、第1のヒートシンクの合計キャパシタンスがe2/2kbTを上回り、第2のヒートシンクの合計キャパシタンスがe2/2kbbTを上回る(但し、hはプランク定数であり、eは素電荷であり、kbはボルツマン定数であり、Tは、アッテネータ又は放散要素が使用されるように配置された場所の最低温度である)。
【0007】
第2の態様によれば、希釈冷凍機と、量子プロセッサと、第1の態様及びその実施形態による1つ以上のアッテネータ又は放散要素と、を含むシステムが提供される。
【0008】
第3の態様によれば、常伝導金属層間に形成されたトンネル接合を基板上に含むトンネル接合構造が提供され、トンネル接合は金属層間に絶縁体層を含み、第1の層が基板の上の常伝導金属層であり、第1の層の材料がTiW、Sc、Wのうちの1つであり、第2の層が第1の層の上の金属層であり、第2の層の材料がTiW、Sc、W、Ti、Alのうちの1つであり、第3の層が第2の層の上の絶縁体層であり、第3の層の材料がTiOx、AlOx、WOx、ScOxのうちの1つであり、第4の層が第3の層の上の金属層であり、第4の層の材料がTiW、Sc、W、Ti、Alのうちの1つであり、第5の層が第4の層の上の常伝導金属層であり、第5の層の材料がTiW、Sc、又はWのうちの1つである。
【0009】
更なる態様によれば、第3の態様のトンネル接合構造を含む第1の態様のアッテネータ又は放散要素が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2d】例として、トンネル接合構造の側面図を示す。
【
図2e】例として、トンネル接合構造の側面図を示す。
【
図4a】例として、トンネル接合アセンブリを示す。
【
図4c】例として、量子デバイスの減衰方式を示す。
【
図5】例として、電子温度に対するヒートシンクボリュームの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、例として、超伝導量子ビットセットアップのための極低温冷凍システム100を示す。希釈冷凍機110がヘリウム同位体の混合物を冷却プロセスに使用する。希釈冷凍機は、温度を下げる複数の熱段階を有する。例えば、第1の段階112又はプレートは約3K~4Kであってよく、第2の段階114又はプレートは1Kであってよく、最後の段階116は混合チャンバであってよく、これは装置の最低温エリアである。混合チャンバ内の温度は1Kより低くてよく、例えば、約15mK~20mKより低くてよい。混合チャンバの前には、
図1に示されたものとは異なる数の段階(例えば、より多くの段階)があってよい。
【0012】
冷凍機の最低温部(例えば、希釈冷凍機の混合チャンバ、断熱磁気冷凍機のコールドフィンガ、又はソリッドステート極低温冷却機の低温段階)内に量子電子機器(例えば、物理量子ビットプロセッサ)又は量子プロセッサ120が配置されている。これらの場所の温度は非常に低く、例えば、1Kより低く、典型的には100mKより低く、約5~20mKですらある。物理量子ビットの層への入力140は制御信号であり、物理量子ビットからの出力150は読み出し信号である。制御信号(例えば、マイクロ波パルス)が周囲温度又は室温で生成され(130)、それらの信号は、量子ビットでのノイズを減らすためにフィルタリング及びアッテネートされてよい。読み出し信号を増幅して高忠実度の読み出しが得られるように、増幅器が使用されてよい。その後、読み出し信号は処理されてよく、例えば、デジタルプロセッサ160(カスタマイズされたフィールドプログラマブルゲートアレイ(FBGA)等)によって処理されてよい。量子誤り訂正(170)プロセスは、
図1の例では室温で実施されるが、将来の応用では希釈冷凍機内で実施されてもよい。デジタルプロセッサ160が実施する信号処理は、
図1の例では室温で実施されるが、将来の応用では希釈冷凍機内で実施されてもよい。量子誤り訂正プロセッサは、入力機能及び出力機能の制御を担当する。
【0013】
無線周波数(RF)ケーブル配線、即ち、RF伝送路は、様々なマイクロ波構成要素(例えば、アッテネータ、フィルタ、及び増幅器)を含む。RF伝送路は、量子プロセッサに接続されており、量子プロセッサの制御及び読み出しに使用される。従って、RF伝送路(例えば、同軸アセンブリ)は、周囲温度(例えば、約300K)の電子機器を、絶対零度近くの温度値まで冷却されたシールドされたエンクロージャに接続する。同様に、付勢信号をアンカリングすることにおいては、熱化されたパッシブ分圧器の構成要素及び直列抵抗等の低周波DC素子が使用されてよい。伝送路の熱化が不十分であると熱励起が発生し、これは、例えば、量子ビットの位相散逸につながる。
【0014】
量子システムを対象とする実験では、エンクロージャ(例えば、希釈冷凍機)だけでなく、駆動用及び診断用のRF伝送路も低温まで冷却しなければならない。こうすれば、デリケートな量子状態の操作及び進化において誤りを引き起こしうる擬似励起を避けることが可能である。
【0015】
希釈冷凍機における個々の段階に対する熱負荷を管理するためには、ケーブル、アッテネータ、及びマイクロ波構成要素を漸進的に熱化する必要がある。例えば、RF伝送路にはアッテネータ(例えば、コネクタ化されたRFアッテネータ)が挿入されることがある。アッテネータは伝送路を、希釈冷凍機内の利用可能な固定温度点まで熱化する。熱化が十分に行われないと、最終アッテネータの出力ポートのノイズ温度が量子デバイスと結合して、高エネルギの非平衡光子によってコヒーレンスが制限される。アッテネータは、例えば、金属合金(例えば、NiCr、TaN等)で作られた薄膜抵抗器のT型又はπ型ネットワークで構成されてよい。金属皮膜は、入力信号に対しては広い帯域で損失の大きい素子として働く。しかしながら、これらの薄膜抵抗器に使用される金属合金は大きな固有抵抗を有しており、これは磁場に依存しうるため、不安定な又は再現性のない動作を引き起こす可能性がある。更に、これらの金属合金は、電子フォノン結合、即ち、電子と格子振動との間の結合が弱く、これは、アッテネータ内での信号の全体的に非効率な熱化につながる。結果として、RF伝送路の最終的な実効温度は、希釈冷凍機内のベース温度より大幅に(100mK超も)高くなる可能性がある。良好な熱化を達成するためには、物理的に大きな抵抗器ボリュームが必要である。しかしながら、大きなボリュームの金属皮膜抵抗器は、有限サイズ効果、寄生キャパシタンス、又は寄生インダクタンスに起因して(例えば、1~20GHz帯(例えば、3~10GHz帯)での)周波数応答がフラットでなくなることにつながりうる。
【0016】
RF伝送路の効率的な熱化のための放散デバイス180がアッテネータ内に設けられている。又は、RF構成要素より低い周波数の構成要素を(例えば、DCからRFに)熱化するように放散素子が配置されている。放散デバイスは、例えば、混合チャンバ内に配置されてよい。代替として、放散デバイスは、少なくとも一部分が混合チャンバの外にありながら混合チャンバと熱的に結合されていてよい熱伝導性ホルダに載せられてよい。追加として、放散デバイスは、希釈冷凍機内のより高い温度の段階(例えば、静止プレート、3Kプレート等)において熱アンカリング点として存在してよい。極低温冷凍システム100は、1つ以上の放散デバイス180を含んでよい。
【0017】
図2aは、例として、放散デバイス200の略図を示しており、放散デバイス200は、入力電極210と出力電極212との間に結合されてよい。入力電極及び出力電極の材料は、例えば、金、銅又はアルミニウム、又は他の何らかの適切な接点材料であってよい。このデバイスは、トンネル接合220、221、222、223、224のアレイを含む。アレイは、N行(204)M列(202)の基本素子を含む構造であると考えられてよい。この構造の基本素子は、ヒートシンクに接続されたトンネル接合からなると考えられてよい。電極210、212は、ヒートシンクとして動作してよい。アレイのサイズは、用途に適するように選択されてよい。例えば、行数は1から100万であってよい。列数は、例えば、1から100万であってよい。列内に1つのトンネル接合アセンブリがある場合、電極210及び212は、単なるヒートシンクして動作する。比N/Mは、用途に適するように選択されてよい。例えば、比N/Mには合計インピーダンス及び/又は合計熱化ボリュームが影響しうる。アレイは、1つ以上の行を含んでよい。行(例えば、各行)は、複数のトンネル接合220、221、222、223、224を含んでよく、例えば、少なくとも第1のトンネル接合220、第2のトンネル接合221、及び第3のトンネル接合222を含んでよい。アレイは、用途の要件に適する回路ネットワークとして組み合わされてよく、それによって、200は、電位的にはグランド又は他のコモンに接続されたシールドを有する、回路ネットワーク内のインピーダンス素子であり、外部信号を取得するデバイス、又は被試験デバイス、又は1つの入出力インピーダンスノードに接続されているデバイスである。一例は、インピーダンス素子で形成された分圧器である。
【0018】
各ヒートシンク又はアイランドは、シールド又は接地板に接続されている。シールドは、容量的又はガルバニックにグランドに接続されている。
図2aは、簡略化のために、2つのヒートシンクがグランドに接続されている様子を示している。少なくとも幾つかの実施形態では、追加シールド層は使用されず、ホルダに対するダイレクトスルーチップ容量結合が使用される。グランド接続は、例えば、システムの幾何学的形状に依存しうる。
【0019】
放散デバイスは、トンネル接合同士の間に、接合のリードに接続されたヒートシンク230、231、232、233を含む。例えば、少なくとも第1のヒートシンク230が第1のトンネル接合220及び第2のトンネル接合221と結合されており、第2のヒートシンク231が第2のトンネル接合221及び第3のトンネル接合222と結合されている。ヒートシンクは、電子フォノン結合による熱放散を行うように配置されている。入力電極210及び出力電極212は、同時にヒートシンク及び導電体として動作することが可能である。ヒートシンクは、個別アイランドとして実装されてよく、又は、
図3に示すように、異なる複数の行に対する共通のアイランドとして実装されてもよい。
【0020】
トンネル接合とヒートシンクは電気的に接続されており、例えば、
図2dに示すように、トンネル接合の上に配置されてよい金属層240、241、242、243によって接続されている。トンネル接合の金属層間の電気的短絡を防ぐために、
図2dに示すように、トンネル接合構造に対して誘電体スペーサが配置されてよい。
【0021】
各ヒートシンク又はアイランドは、直接又は容量的にグランドと結合されてよい。シールドは、グランドとして機能してよく、又はグランドに接続されてよい。シールドは、1つ又は複数のヒートシンクに、並びに出力電極及び入力電極に容量的に接続されてよい。
【0022】
システム(例えば、
図1の希釈冷凍機)において放散デバイスが使用されている場合、システムは、全行キャパシタンスに関連する制限を有する可能性がある。実施態様に応じて、個別又は共通のヒートシンクが、例えば、より平坦な又はより広い周波数応答の観点でよりよい使いやすさを提供しうる。個別ヒートシンク(
図2a)、即ち、独立した熱ユニットであれば、シールドに対するキャパシタンスが小さくなる。共通ヒートシンク(
図3)であれば、即ち、熱ユニット同士が結ばれていれば(
図3)、シールドに対するキャパシタンスが大きくなる。これらの構造の中から選択することは、少なくとも幾つかの実施形態では、例えば、用途への適合性とフォールトトレランスとのトレードオフでありうる。フォールトトレランスの観点からは、行間に共通シャントを有する
図3の構造が有利である。それは、例えば、1つの行が壊れた状況でも他のヒートシンクとの接続による補償が可能であるためである。幾つかの適用例では、例えば、動作の帯域幅が高いほど、個別ヒートシンクが好ましいかもしれない。
【0023】
トンネル接合及びヒートシンクは基板上に形成される。トンネル接合において発生した熱は、ヒートシンクによって基板に伝導されることが可能であり、トンネル接合によって発生した高温電子は、電子フォノン結合によって冷却されることが可能である。電力が放散されると、電子温度Teが駆動されて、フォノン温度Tpとの平衡状態から外れる。これにより、電子温度が高くなる(即ち、Te≫Tpになる)。個別ヒートシンクの場合、熱が電子からフォノンに伝達される際の正味電力は次式で与えられうる。
【0024】
【数1】
(但し、V
mは金属のボリュームであり、Σは電子フォノン結合の材料依存パラメータである)。べき数nも材料依存パラメータであり、例えば、典型的には、純金属ではn=5が観測される。金属のボリュームは、ヒートシンク素子における金属の電子の熱のフォノン温度への熱化に関与する任意の個別金属元素の合計ボリュームを意味してよい。
【0025】
トンネル接合は、局所的な抵抗素子である。トンネル接合は、本質的には、動作温度全体にわたって基底状態にある。即ち、トンネル接合には超伝導性がない。接合は、2つのヒートシンク(例えば、金属電極)を隔てる絶縁層(即ち、誘電体バリア)を含んでよい。代替として、接合は、半導体と金属電極との間にショットキーバリアを含んでよい。半導体はドープされてよい。後者の例でもやはり、接合は薄い誘電体バリアを含んでよい。
【0026】
バリア抵抗素子は、導体-絶縁体-導体トンネル接合(例えば、金属-絶縁体-金属トンネル接合)によって形成される。トンネル接合は、トンネル接合の2つの導電ボリューム(例えば、金属ボリューム)と、その間にトンネルバリアを形成する十分薄い電気絶縁層とを含む(又はそれらからなる)。導電ボリュームは、超伝導性がないことによって特徴付けられることが望ましい。超伝導性がないことは、a)逆近接効果によって通常の超伝導性が抑圧されたハイブリッド金属アセンブリ(
図2bを参照)、又はb)約5mKより高い温度では超伝導相転移を示さないドープ半導体、元素金属、又は金属の合金(
図2cを参照)において達成可能である。超伝導性がないことにより、超伝導エネルギギャップによって引き起こされる、電子のトンネリングの可能な遮断は防がれうる。
【0027】
図2bは、例として、トンネル接合構造250を示す。例えば、金属-絶縁体-金属トンネル接合251は、アルミニウム/酸化アルミニウム/アルミニウムのスタックによって形成されてよい。アルミニウムは超伝導体であるが、アルミニウム膜255、256がチタン-タングステン層260、261とガルバニック接触していて、アルミニウム膜内で超伝導性が有効に抑圧されるようになっている配置によって、超伝導性のないことが達成可能である。AlO
x層の厚さは、例えば、約1~3nmであってよい。
【0028】
図2cは、例として、トンネル接合構造270を示す。
図2bと同様に、金属-絶縁体-金属トンネル接合271は、アルミニウム/酸化アルミニウム/アルミニウムのスタックによって形成されてよい。
図2bの例の代替として、超伝導性は、記載の温度範囲では本質的にないものであってよく、或いは、超伝導体275、276(例えば、アルミニウム/マンガン合金)に適量の常磁性材料を含めることによって抑圧されることが可能である。AlO
x層の厚さは、例えば、約1~3nmであってよい。
【0029】
図2dは、例として、基板281上のトンネル接合構造280の側面図を示す。金属-絶縁体-金属トンネル接合は、スカンジウム282/酸化スカンジウム283/スカンジウム284のスタックによって形成されてよい。Sc/ScO
x/Scトンネル接合は、ScO
xによって十分大きなトンネルバリアを形成することを可能にする大きな抵抗率を有する。ScO
x層283の厚さは、例えば、約1~3nmであってよい。スカンジウムは、最低達成可能温度に至るまでは超伝導にならない。
図2dは又、トンネル接合の上を横切っている上部金属層285を示している。上部金属層は、他の接合及び熱化アイランドとの電気的接続を可能にする。
図2aを参照すると、トンネル接合(例えば、全てのトンネル接合)は、上部金属層240、241、242、243を含む。上部金属層285の材料は任意の適切な金属であってよく、例えば、スカンジウム(Sc)、銅(Cu)、タングステン(W)、金(Au)であってよい。従って、幾つかの超伝導体は、上部金属層として好ましい材料ではない。上部金属層285は、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、チタン(Ti)等の金属又は合金のスタックであってよいが、それは、それらの超伝導性が中性化されて、超伝導性ではなく低抵抗率が達成されている場合である。超伝導性がないことは、
図2b及び/又は
図2cの文脈で記載されたように達成可能である。
図2b及び
図2dの構造は、誘電体スペーサ286、287を含んでよい。誘電体スペーサ286、287の材料は、例えば、SiO
2又はAlO
xであってよい。誘電体スペーサは、スカンジウム素子282、284の間の電気的短絡を防ぐ。誘電体スペーサがないと、上部層285が接合の2つの面と電気的につながることになる。
【0030】
図2b及び
図2cのトンネル接合構造も同様に、誘電体スペーサ及び上部層を含む。
【0031】
図2eは、例として、基板299上の一般的なトンネル接合構造290の側面図を示す。金属294-絶縁体293-金属292トンネル接合は、常伝導金属層295、291の間に形成されてよい。金属層294、292は、単独では超伝導性であるが、294及び291によって常伝導状態に逆近接化されることが可能である。上部金属層296は、他の接合及び熱化アイランドとの電気的接続を可能にする。誘電体スペーサ297が、接合の2つの面の間の電気的短絡を防ぐ。各層の材料の可能な組み合わせとして、第5の層295、第4の層294、第3の層293、第2の層292、第1の層291は、例えば、それぞれ、
TiW、Al、AlO
x、Al、TiW、
TiW、Ti、AlO
x、Al、TiW、
TiW、TiW、AlO
x、Al、TiW、
TiW、Ti、TiO
x、Ti、TiW、
TiW、W、WO
x、W、TiW、
Sc、Sc、AlO
x、Al、TiW、又は
Sc、Sc、ScO
x、Sc、Sc
であってよい。
【0032】
関心対象の温度範囲では超伝導にならない金属及び合金(スカンジウム(Sc)、タングステン(W)、チタンタングステン(TiW))、及び超伝導金属(アルミニウム(Al)及びタングステン(Ti))は、別の場合には半導体の金属汚染物質の使用が禁止される製造設備における堆積技術に適合する。それらの酸化物(ScOx、AlOx、WOx、TiOx)は、上述のように、トンネル接合の実現に好適である。
【0033】
少なくとも幾つかの実施形態では、第1の層291は基板の上の常伝導金属層であり、第1の層の材料はTiW、Sc、Wのいずれかであり、第2の層292は第1の層の上の金属層であり、第2の層の材料はTiW、Sc、W、Ti、Alのいずれかであり、第3の層293は第2の層の上の絶縁体層であり、第3の層の材料はTiOx、AlOx、WOx、ScOxのいずれかであり、第4の層294は第3の層の上の金属層であり、第4の層の材料はTiW、Sc、W、Ti、Alのいずれかであり、第5の層295は第4の層の上の常伝導金属層であり、第5の層の材料はTiW、Sc、又はWのいずれかである。
【0034】
トンネル接合の絶縁層の厚さは、トンネリング抵抗及び接合キャパシタンスの制御に影響を及ぼす。更に、接合の電気的キャパシタンスの制御にも影響を及ぼしうる。厚さを変えることにより、回路特性を調整することが可能である。
【0035】
ヒートシンクは熱化フィンを含む。これらは、バリア抵抗素子間に堆積された厚い(例えば、10μm以上の厚さの)金属ボリュームによって有効化されて、電子を格子振動(フォノン)に結合することにより、これらの点での電子熱化を促進する。
【0036】
少なくとも幾つかの実施形態では、大きなボリュームのアイランドが、アッテネータアイランドノード(即ち、ヒートシンク)に(例えば、フリップチップで)ガルバニック接続されている個別チップの上にあってよい。この種の構造は、フル3Dプレーンが使用可能であるため、アッテネータ又は放散要素を取り巻くシールドを有することを可能にする。
【0037】
ヒートシンクに使用される材料は、その材料が超低温で超伝導にならないように選択されてよい。それは、超伝導性が熱流を妨げうるためである。熱化フィンは、電子とフォノンとの間の相互作用が強いこと、5mKに至るまで超伝導性がないこと、並びに、電気化学堆積法によってそれらを厚い膜として局所的に堆積させることが可能であることによって特徴付けられる。適切な材料の例として、金(Au)及び銅(Cu)がある。
【0038】
ヒートシンクは、大きなボリュームと良好な電子フォノン結合とを有する金属アイランドであるため、アッテネータの効率的な熱化を実現する。トンネル接合とヒートシンクとを組み合わせることにより、出力ポートのノイズ温度を希釈冷凍機の温度に至らせることが可能になる。厚い金属ボリュームであってよいヒートシンクを接合間に実現することは、強力な電子フォノン結合を有する金属のマスク電着によって可能であり、或いは例えば、スパッタ堆積、化学気相堆積(CVD)、又は原子層堆積(ALD)によって可能である。
【0039】
トンネル接合及びヒートシンクに使用される材料は、変動磁場内での安定動作を保証するために非磁性材料であってよい。少なくとも幾つかの実施形態では、ヒートシンクに使用される材料は、断熱減磁冷却を可能にするために磁性冷凍冷却剤を含んでよい。
【0040】
各トンネル接合は抵抗RT,i,jを有する。各アイランドは、トンネル接合キャパシタンスとグランド又はシールドに対するキャパシタンスとを含むキャパシタンスCI,i,jと、抵抗RI,i,jとを有する。添え字のjは行を表し、iは列を表す。抵抗RI,i,jは、アレイ内でばらつきがあってよく、或いは、公称的に製造公差内で同じであってよい。抵抗RT,i,jは、アレイ内でばらつきがあってよく、或いは、公称的に製造公差内で同じであってよい。
【0041】
アレイがアッテネータ、フィルタ、又は分圧器等のパッシブ構成要素として使用される場合には、デバイスの線形動作を保証するために、単電荷効果が存在してはならない。このことは、単電荷効果が構成要素の機能性をもたらす、より従来型の(通常の)トンネル接合アレイの使用例(例えば、クーロンブロッケード温度測定)と大きく異なる。
【0042】
パッシブ構成要素の場合、個々のトンネル接合及びそれに接続されたアイランドの合計抵抗が、全てのi及びjに対して、抵抗量子RT,i,j+RI,i,j<h/e2≒25.8kΩ(但し、hはプランク定数であり、eは素電荷である)を下回る場合、且つ/又は、各アイランドの合計キャパシタンスが、全てのi及びjに対して、CI,i,j>e2/2kbT(但し、kbはボルツマン定数であり、Tは最低温度である)を上回る場合には、単電荷効果が存在しないか、パッシブ構成要素の機能性に対して十分小さい量の単電荷効果が存在する(但し、構成要素は、典型的には、数mKから100mKの間で使用される)。アイランドの合計キャパシタンスは、アイランドに接続されたトンネル接合の接合キャパシタンスと、グランド又はシールドに対するキャパシタンスとを含む。
【0043】
単電荷効果を阻止又は排除又は少なくとも最小化するために、トンネル接合及びアイランドは、各トンネル接合及びそれに接続されたアイランドの合計抵抗が抵抗量子h/e
2を下回るように、好ましくは
【数2】
を下回るように(但し、
【数3】
は換算プランク定数である)設計される。
【0044】
少なくとも幾つかの実施形態では、少なくとも1つのトンネル接合及びそれと結合された第1のヒートシンクの合計抵抗は抵抗量子h/e2を下回り、少なくとも1つのトンネル接合及びそれと結合された第2のヒートシンクの合計抵抗は抵抗量子h/e2を下回る。少なくとも幾つかの実施形態では、任意のトンネル接合及びそれと結合されたヒートシンクの最大抵抗は、抵抗量子h/e2を上回ることはありえない。トンネル接合のアレイでは、第2のトンネル接合及びそれと結合された第1のヒートシンクの合計抵抗が抵抗量子を下回り、第2のトンネル接合及びそれと結合された第2のヒートシンクの合計抵抗が抵抗量子を下回り、第3のトンネル接合及びそれと結合された第2のヒートシンクの合計抵抗が抵抗量子を下回る。
【0045】
少なくとも幾つかの実施形態では、個々のトンネル接合及びそれに接続されたアイランドの合計抵抗が、全てのi及びjに対して、抵抗量子R
T,i,j+R
I,i,j<
【数4】
≒4kΩ(但し、
【数5】
は換算プランク定数(h/2π)であり、eは素電荷である)を下回る。合計抵抗が
【数6】
を下回る場合は、単電荷効果が存在しないことが保証されうる。従って、デバイスの線形動作は、各トンネル接合及びそれに接続されたアイランドの合計抵抗が
【数7】
を下回ることによって保証される。
【0046】
アレイのサイズに関しては、フィルタ内で最適熱化勾配(これは用途に依存する)を達成するために、トンネル接合ネットワークは、インピーダンスを伝送路又はデバイスと整合させるように完全にカスタマイズ可能である。同様に、複数のアレイを組み合わせて、用途の要件に応じた回路ネットワークを実現することが可能である。
【0047】
放散デバイス内でトンネル接合を使用することは、例えば、薄膜を使用する場合に比べて有利である。薄膜は、典型的には、厚さが約10nm~1μmであると考えられてよい。放散によって発生した高温電子がそれらのエネルギをフォノン槽に放出することは(例えば、薄膜のボリューム及び/又は厚さが小さいことにより)困難であろう。放散された電力が、トンネル接合に接続している電極に直接放出される場合には、トンネル接合の使用により、ヒートシンク電極を有するトンネル接合は、内部的には、トンネル接合によって決定されるインピーダンスに無関係に、フォノン槽に向かう高熱伝導率によって特徴付けられることが可能である。トンネル接合内で放散によって発生した高温電子は、熱化アイランドを容易に見つける。トンネル接合の極低温インピーダンスは、室温での結果から十分に予測可能である。超伝導性及び拡散がないことの結果として、トンネル接合抵抗は磁場に無関係であり、それによって、広範な状況での(例えば、強磁場下での)安定動作が可能になる。
【0048】
電子フォノン結合は更に、トンネル接合のリードに接続された個別ヒートシンク(即ち、熱化アイランド)によって最大化(又は少なくとも増強)されることが可能である。ヒートシンク(即ち、アイランド)の、環境との熱的結合は、アッテネータの周波数応答を大きく変えることなく調整可能である。アレイ内で複数のトンネル接合が接合されている場合は、デバイスの抵抗に対する良好な制御が達成される。言い換えると、アレイ設計は、フレキシブルなインピーダンス整合及び周波数応答を可能にする。トンネル接合のアレイは更に、各ノード(即ち、各ヒートシンク)上の電子温度の制御を可能にする。熱化アイランドの最初の列、即ち、入力電極210、310の近くの列は、出力電極212、312の近くの列より温度が高い可能性がある。このアレイ構造は、特定のクライオスタット温度段階でどれだけの合計電力を放散すべきかに応じて温度プロファイルを精密に制御することを可能にする。トンネル接合は空間的にコンパクトであり、又、トンネル接合はアレイ構造内で分散しているため、1GHz~20GHzの周波数帯、特に3GHz~10GHzの周波数帯において、フラットな周波数応答と均一な減衰が達成可能である。
【0049】
抵抗バリアは、入ってくる電子流に対していかに透過的であるかに関して強弱が検討されてよい。透過性は、バリアの厚さに依存する。弱いバリアは、入ってくる電子流に対する透過性が高いことを意味する。トンネル接合が透過的であると見なされるためには、絶縁層の厚さのオーダーは約1nmであってよい。高透過性のトンネル接合は、必要な放散をコンパクトなサイズ(例えば、約1×1μmのサイズ)で実現するため、無視できるほどの寄生キャパシタンスが達成される。
【0050】
本明細書に開示のアッテネータは、有限の電子熱伝導率を劣化させることなく、良好な電子フォノン結合により、(例えば、数mKに至るまでの、例えば、2mKまでの、例えば、約10~20mKの温度の)RF伝送路の効率的な熱化を可能にする。アッテネータは、コンパクトであり、信頼性が高く、再現性があり、量子技術用途用信号線における熱光子によるデコヒーレンスを防ぐ。
【0051】
本明細書に開示の放散要素は、(例えば、分圧器を実現するために)RF構成要素より低い周波数の構成要素の効率的な熱化を可能にする。
【0052】
図3は、例として、放散デバイス300の略図を示しており、放散デバイス300は、入力電極310と出力電極312との間に結合されている。このデバイスは、トンネル接合320、321、322、323、324のアレイを含む。アレイは、N行(304)M列(302)を含む構造であると考えられてよい。アレイのサイズは、用途に適するように選択されてよい。アレイは、1つ以上の行を含んでよい。行(例えば、各行)は、複数のトンネル接合320、321、322、323、324を含んでよく、例えば、少なくとも第1のトンネル接合320、第2のトンネル接合321、及び第3のトンネル接合322を含んでよい。
【0053】
放散デバイスは、トンネル接合同士の間に、接合のリードに接続されたヒートシンク330、331、332、333を含む。入力電極310及び出力電極312は、同時にヒートシンク及び導電体として動作することが可能であり、これによってデバイスの製造を容易にすることが可能になりうる。例えば、少なくとも第1のヒートシンク330が第1のトンネル接合320及び第2のトンネル接合321と結合されており、第2のヒートシンク331が第2のトンネル接合321及び第3のトンネル接合322と結合されている。ヒートシンクは、電子フォノン結合による熱放散を行うように配置されている。
図3の例では、ヒートシンクは2つ以上の行に対して共通であり、同じヒートシンク、例えば、第1のヒートシンク330が、その2つ以上の行のうちの第1のトンネル接合320、340、350、360及び第2のトンネル接合321、341、351、361と結合されている。同様に、第2のヒートシンク331は、2つ以上の行に対して共通であり、その2つ以上の行のうちの第2のトンネル接合321、341、351、361及び第3のトンネル接合322、342、352、362と結合されている。
【0054】
各ヒートシンク又はアイランドは、シールド又は接地板に接続されている。シールドは、容量的又はガルバニックにグランドに接続されている。
図3は、簡略化のために、2つのヒートシンクがグランドに接続されている様子を示している。少なくとも幾つかの実施形態では、追加シールド層は使用されず、ホルダに対するダイレクトスルーチップ容量結合が使用される。グランド接続は、例えば、システムの幾何学的形状に依存しうる。
【0055】
図4aは、例として、トンネル接合アセンブリ400を示す。トンネル接合410は、ヒートシンク420、430、又は金属アイランド、又はむしろヒートシンクの半分と結合されている。ヒートシンク420及び430は、シールドと結合されてよい。放散デバイスは、これらの種類のアセンブリ同士を直列に接続して行を形成することによって製造されてよく、複数の行が並列に接続されてよい。トンネル接合は抵抗値R
Tを有する。
【0056】
図4bは、例として、トンネル接合アレイ450を示す。このアレイは、多数の
図4aのトンネル接合アセンブリからなると考えられてよい。このアレイは、1行にM個の列を含む。このアレイは、N個の行を含む。このアレイは、フレキシブルな放散ネットワークを形成し、接合及びヒートシンクの数は、個々の用途に適するように調整されてよい。
【0057】
図4cは、例として、量子デバイスの減衰方式を示す。室温の電子機器からの信号は、最初に希釈冷凍機の上部段階で冷却され、混合チャンバ480に入る前には、入力信号460の温度は、例えば、約1Kでありうる。放散デバイス470は、混合チャンバ480と熱的に接触している。放散デバイスは、入力信号を(例えば、約10mKを下回る温度に至るまで)冷却するアッテネータとして動作する。冷却された信号、即ち、出力信号490は、デバイス(例えば、量子ビット等の量子デバイス)への入力であってよい。
【0058】
図5は、例として、電子温度520に対する金属ヒートシンクボリューム510の効果を示す。ヒートシンクの材料として使用される金属は、
【数8】
に従う電子フォノン結合に利用可能なボリュームを含む(但し、n=5であり、フォノン温度は5mKで一定であり、これは希釈冷凍機の混合チャンバ温度に相当する)。標準値をΣ=2・10
9Wm
-3K
-5と仮定すると、放散デバイスにおいて達成可能な電子温度T
eは、50Ω負荷に対して放散される、1~100nAの範囲の電流について評価される。曲線530は1nAの電流についてのものであり、曲線532は10nAの電流についてのものであり、曲線534は100nAの電流についてのものである。一定電力は、電子温度を、5mKを上回る値まで持ち上げ、これは縦座標にプロットされている。
【0059】
グラフから分かるように、約10mKに至る平衡電子温度を可能にする、ヒートシンクに適するボリュームは、少なくとも106μm3ということになる。単一アイランド上に(例えば、電気化学堆積によって)組み込み可能な現実的なボリュームが103~104μm3のオーダーであると考えてみる。放散された電力がアイランド上に均一に分散すると仮定すると、顕著な放散の存在下での効率的な電子フォノン熱化には100~1000個のアイランドが必要であろう。これは、一例示的用途において適切なアイランド数がいかにして規定されうるかを示す一例に過ぎない。少なくとも幾つかの実施形態では、アイランド又はヒートシンクの総数は少なくとも10~100である。少なくとも幾つかの実施形態では、アイランド又はヒートシンクの総数は100~1000である。
【0060】
製造プロセスは、金属薄膜をエッチングして個別の隔離されたアイランドにすることを含み、これらは、金属の酸化、又は十分薄い絶縁膜の堆積によって実現されるトンネルバリア誘電体によってパッシベートされる。その後、第2の金属層が堆積され、パッシベートされたアイランドにつながってアイランド当たり2つのトンネル接合が得られるようにエッチングされる。代替として、金属のスタックが堆積され、これは、酸化によって金属層間にトンネル接合が導入され、その後、スタック全体がエッチングされるように行われる。個々の金属電極はスペーサパッシベーション層によって画定されてよく、これにより、上部金属電極にのみガルバニック接触することが可能になる。金属ヒートシンクの堆積は、フォトレジスト又はパターニング済み絶縁体の所定マスクの中に金属を電気化学堆積させることによって行われる。このプロセスは、各金属アイランドとの電気的接触が行われて、効率的な電子フォノン熱化に適する特定のボリュームが各アイランドにコーティングされるように適合される。
【0061】
トンネル接合の製造には側壁パッシベーション接合(SWAPS)形成技術が用いられてよい。
【0062】
代替として、トンネル接合の製造は、最低達成可能温度に至るまでは超伝導にならない金属の酸化によって行われてよい。この種のトンネル接合の例について、
図2d及び2eの文脈で説明した。
【0063】
本明細書に開示のアッテネータ又は放散要素は、熱雑音の最小化又は少なくとも低減が必要とされる極低温用途、又は、フィルタリング及び振幅低減を含む信号調整において使用されうる。アッテネータ又は放散要素は、(例えば、熱雑音に敏感な量子ビット又は他の任意の極低温デバイスへの)入力信号を冷却する(即ち、入力信号中の熱雑音を低減する)ように構成されたシステム、装置、又はデバイスの一部であってよい。
【0064】
クーロンブロッケード温度計(CBT)は、極低温温度に適する一次温度計である。CBTは、トンネル接合のアレイにおけるクーロンブロッケードの特性に基づく。クーロンブロッケード温度測定では、電流-電圧曲線の一次導関数が測定され、この曲線の特性から、自然定数と、微分コンダクタンスのディップの幅(その半分の深さのところで測定される)とを使用して絶対温度が抽出されうる。測定された微分コンダクタンスのディップの半値幅はV
1/2=5.439Nk
BT/eである(但し、Nは、1つの行にあるトンネル接合の数であり、k
Bはボルツマン定数であり、Tは温度であり、eは素電荷である)。
図2a又は
図3に示したようなアレイは、各トンネル接合及びそれに接続されたアイランドの合計抵抗が
【数9】
を上回る場合に、CBTのセンサ構成要素として使用されてよい。合計抵抗がこの限度を上回る場合には、そのような量の単電荷効果が存在しており、これは、CBTの機能性にとって必要である。トンネル接合の構造は、例えば、
図2bに示したようであってよい。
【0065】
従って、一実施形態によれば、CBTは、入力電極と出力電極との間に結合されたセンサ構成要素であって、センサ構成要素は、少なくとも1つの行のトンネル接合を含むトンネル接合のアレイを含み、その少なくとも1つの行は、少なくとも、第1のトンネル接合、第2のトンネル接合、及び第3のトンネル接合を含む、センサ構成要素と、少なくとも第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクであって、第1のヒートシンクは第1のトンネル接合及び第2のトンネル接合と結合されており、第2のヒートシンクは第2のトンネル接合及び第3のトンネル接合と結合されており、第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクは、電子フォノン結合による熱放散を行うように配置されている、少なくとも第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクと、を含む。トンネル接合は、TiW-Al-AlO
x-Al-TiW接合を含む。即ち、絶縁層は酸化アルミニウム層であり、導電ボリュームはアルミニウム層であり、超伝導性がないことは、アルミニウム層とチタンタングステン層との間のガルバニック接触によって達成される。代替として、トンネル接合は、
図2dに示したように、Sc/ScO
x/Sc接合を含む。ヒートシンクは、熱化のための金属ボリュームを含み、この金属は、超伝導性がないことによって特徴付けられる。ここでの熱化は、CBTの設計が、トンネル接合間にある電子の温度を、可能な限り、結晶格子振動(フォノン)の温度の近くに保つことを意図していることを意味している。フォノンは、CBTを使用して温度を測定される物体との熱的接触をもたらす。超伝導性がないことは、逆近接効果によって、又は超伝導性ボリュームに常磁性材料を含めることによって達成される。CBTは、センサ構成要素の電圧-電流依存性を測定するように構成された測定装置である。
【国際調査報告】