(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】電気生理学的処置で使用する呼吸信号を生成する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/367 20210101AFI20240808BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20240808BHJP
A61B 5/053 20210101ALI20240808BHJP
【FI】
A61B5/367
A61B5/113
A61B5/053
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512205
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(85)【翻訳文提出日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 US2022041362
(87)【国際公開番号】W WO2023028133
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511177374
【氏名又は名称】セント・ジュード・メディカル,カーディオロジー・ディヴィジョン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハイ ホアン
(72)【発明者】
【氏名】オリット ブライマー リモール
(72)【発明者】
【氏名】エリック オルソン
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB33
4C038VC20
4C127AA02
4C127AA06
4C127FF02
4C127GG10
4C127LL08
(57)【要約】
電気解剖学的マッピングシステム内で、複数のパッチ電極から受信した非駆動インピーダンス信号から呼吸信号を生成してよい。非駆動インピーダンス信号を使って、基準呼吸信号を決める。そして、非駆動インピーダンス信号のサブセットのそれぞれを基準呼吸信号と比較して、極性値を決定してよい。また、非駆動インピーダンス信号を正規化するスケール因子を算出してもよい。極性値とスケール因子とを非駆動インピーダンス信号に適用して重み付けされた非駆動インピーダンス信号を生成し、これらを合計して複合呼吸信号としてよい。リアルタイムで使用するために(例えば、データ収集のゲーティング、呼吸補正、不規則な呼吸の検出など)、複合呼吸信号にはその極性値とスケール因子が適用されてよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気解剖学的マッピングシステム内で呼吸信号を生成する方法であって、前記方法は、
電気解剖学的マッピングシステムが、
複数のパッチ電極から複数の非駆動インピーダンス信号を受信することと、
前記複数の非駆動インピーダンス信号を用いて、基準呼吸信号を決めることと、
前記複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各々の非駆動インピーダンス信号について、
前記非駆動インピーダンス信号の極性値を算出することと、
前記非駆動インピーダンス信号のスケール因子を算出することと、
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットから複合呼吸信号を算出することと、を含む方法。
【請求項2】
前記非駆動インピーダンス信号の前記極性値を算出することは、
前記非駆動インピーダンス信号と前記基準呼吸信号との間の相関係数を算出することと、
前記相関係数の符号に基づいて前記極性値を算出することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非駆動インピーダンス信号の前記スケール因子を算出することは、前記非駆動インピーダンス信号を正規化することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非駆動インピーダンス信号を正規化することは、前記非駆動インピーダンス信号をその信号範囲で除算することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットから前記複合呼吸信号を算出することは、
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセット内の各々の非駆動インピーダンス信号に、対応する極性値およびスケール因子を乗算することによって、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を算出することと、
前記複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を合計することによって、前記複合呼吸信号を算出することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複合呼吸信号の極性値を決めることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号の極性がPRS-A信号の極性に対応するように決められる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号と前記PRS-A信号との間の相関係数が予め設定された閾値を超える場合にのみ、前記複合呼吸信号の前記極性が前記PRS-A信号の前記極性に対応するように決められる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記予め設定された閾値は75%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号の呼気の持続時間が前記複合呼吸信号の吸気の持続時間を上回るという仮定に従って決められる、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号の最小値が、前記複合呼吸信号の最大値よりも前記複合呼吸信号の平均に近くなるように決められる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号のトラフの平均が、前記複合呼吸信号のピークの平均よりも前記複合呼吸信号の平均に近くなるように決められる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号がまず下向きにゼロ交差する時とその後上向きにゼロ交差する時との間の時間間隔が、前記複合呼吸信号がまず上向きにゼロ交差する時とその後下向きにゼロ交差する時との間の時間間隔よりも長くなるように決められる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記複合呼吸信号を正規化する、前記複合呼吸信号の複合スケール因子を算出することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の非駆動インピーダンス信号を用いて、前記基準呼吸信号を決めることは、前記複数のインピーダンス信号のうちの最強の非駆動インピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの第1の主成分信号のいずれかを前記基準呼吸信号として決めることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記最強の非駆動インピーダンス信号は、前記複数の非駆動インピーダンス信号のうち最も標準偏差が大きい信号を備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記最強の非駆動インピーダンス信号は、前記複数の非駆動インピーダンス信号のうち最も振幅の大きい信号を特定することを備える、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記複数のインピーダンス信号のうちの前記最強の非駆動インピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記第1の主成分信号のいずれかを前記基準呼吸信号として決めることは、一方では、前記最強のインピーダンス信号と前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットとの間の相関係数と、他方では、前記第1の主成分信号と前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットとの間の相関係数とに従って、前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記最強のインピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記第1の主成分信号のいずれかを前記基準呼吸信号として定義することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
電気解剖学的マッピングシステムであって、
複数のパッチ電極から複数の非駆動インピーダンス信号を受信し、
前記複数の非駆動インピーダンス信号を用いて、基準呼吸信号を決め、
前記複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各々の非駆動インピーダンス信号について、
前記非駆動インピーダンス信号の極性値を算出し、
前記非駆動インピーダンス信号のスケール因子を算出し、
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセット内の各非駆動インピーダンス信号に、対応する極性値とスケール因子を乗算することによって、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を算出し、前記複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を合計することで、前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットから複合呼吸信号を算出するように構成された呼吸補償モジュールを備える、電気解剖学的マッピングシステム。
【請求項20】
前記呼吸補償モジュールは、前記基準呼吸信号を、前記複数のインピーダンス信号のうち最強の非駆動インピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうち第1の主成分信号のいずれかとして、前記基準呼吸信号として決める、請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本出願は、2021年8月26日に出願された米国仮出願第63/237,269号の利益を主張するものであり、この仮出願は本明細書に完全に記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、電気生理学的マッピングおよび心臓アブレーションを含む心臓診断および治療処置などの電気生理学的処置に関する。特に、本開示は、そのような電気生理学的処置で使用する複合呼吸信号の生成に関する。
【0003】
様々な電気生理学的処置で呼吸信号を使用することが知られている。例えば、呼吸信号は、ゲーティング、不規則な呼吸の検出、および電気生理学的マッピング中の特定の動きの補正に使用できる(例えば、本明細書に完全に記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,263,397号に記載されている)。
【0004】
現存する多くの電気解剖学的マッピングシステムでは、1つまたは複数の体表面(例えば、パッチ)電極でのインピーダンス測定値から呼吸信号が得られる。しかし、このような電極の配置にはばらつきがあり、さらに環境や生理学的条件にもばらつきがあるので、これらのインピーダンス信号には、ベースラインのふらつき、低振幅、極性の反転などの欠点が見られることがある。これらの欠点は、不正確なゲーティング、不規則な呼吸の偽陽性または偽陰性の検出、呼吸運動補正アルゴリズムのエラーにつながる可能性がある。これは、ひいては電気生理カテーテルのモーションアーチファクトにつながる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、電気解剖学的マッピングシステム内で呼吸信号を生成する方法を提供する。本開示の態様によれば、この方法は、電気解剖学的マッピングシステムが、複数のパッチ電極から複数の非駆動インピーダンス信号を受信することと、電気解剖学的マッピングシステムが、複数の非駆動インピーダンス信号を用いて基準呼吸信号を決めることと、複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各非駆動インピーダンス信号について、電気解剖学的マッピングシステムが、非駆動インピーダンス信号の極性値を算出することと、非駆動インピーダンス信号のスケール因子を算出することと、電気解剖学的マッピングシステムが、複数の非駆動インピーダンス信号のサブセットから複合呼吸信号を算出することと、を含む。
【0006】
本開示の実施形態において、非駆動インピーダンス信号の極性値を算出することは、非駆動インピーダンス信号と基準呼吸信号との間の相関係数を算出することと、相関係数の符号に基づいて極性値を算出することとを含む。
【0007】
本開示の他の実施形態では、非駆動インピーダンス信号のスケール因子を算出することは、非駆動インピーダンス信号をその信号範囲で除算することなどにより、非駆動インピーダンス信号を正規化することを含む。
【0008】
複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各非駆動インピーダンス信号に対応する極性値とスケール因子を乗算することによって、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を算出し、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を合計することにより、複数の非駆動インピーダンス信号のサブセットから複合呼吸信号を算出することができる。
【0009】
また、複合呼吸信号の極性値を決めることも考えられる。例えば、複合呼吸信号の極性がPRS-A信号の極性に対応するように、複合呼吸信号の極性値が決められてよい。あるいは、複合呼吸信号とPRS-A信号との間の相関係数が予め設定された閾値、例えば約75%を超える場合にのみ、複合呼吸信号の極性値がPRS-A信号の極性に対応するように決められる。
【0010】
本開示のさらに他の実施形態では、複合呼吸信号の極性値は、複合呼吸信号の呼気の持続時間が複合呼吸信号の吸気の持続時間を超えるという仮定に従って決められてもよい。例えば、複合呼吸信号の最小値が複合呼吸信号の最大値よりも複合呼吸信号の平均値により近くなるように、複合呼吸信号の極性値が決められてもよい。
【0011】
別の例として、複合呼吸信号のトラフの平均値が複合呼吸信号のピークの平均値よりも複合呼吸信号の平均値により近くなるように、複合呼吸信号の極性値が決められてもよい。
【0012】
さらに別の例として、複合呼吸信号が先に下向きにゼロ交差する時とその後上向きにゼロ交差する時の間の時間間隔が、複合呼吸信号が先に上向きにゼロ交差する時とその後の下向きにゼロ交差する時との間の時間間隔よりも長くなるように、複合呼吸信号の極性値が決められてもよい。
【0013】
複合呼吸信号を正規化する複合呼吸信号の複合スケール因子も算出されてよい。
【0014】
複数の非駆動インピーダンス信号を用いて基準呼吸信号を決めるステップは、複数のインピーダンス信号のうちの最強の非駆動インピーダンス信号または複数の非駆動インピーダンス信号のうちの第1の主成分信号のいずれかを、基準呼吸信号として決めることを含んでよい。
【0015】
複数の非駆動インピーダンス信号のうち最強の非駆動インピーダンス信号は、複数の非駆動インピーダンス信号のうち標準偏差が最大の信号、複数の非駆動インピーダンス信号のうち振幅が最大の信号、または他の適切な信号であってよい。
【0016】
同様に、複数のインピーダンス信号のうちの最強の非駆動インピーダンス信号または複数の非駆動インピーダンス信号のうちの第1の主成分信号のいずれかを基準呼吸信号として決めるステップは、一方では、最強のインピーダンス信号と複数の非駆動インピーダンス信号のサブセットとの間の相関係数、他方では、第1の主成分信号と複数の非駆動インピーダンス信号のサブセットとの間の相関係数に従って、複数の非駆動インピーダンス信号のうちの最強のインピーダンス信号または複数の非駆動インピーダンス信号のうちの第1の主成分信号のいずれかを基準呼吸信号として決めることを含んでよい。
【0017】
本開示は、呼吸補償モジュールを含む電気解剖学的マッピングシステムであって、呼吸補償モジュールが、複数のパッチ電極から複数の非駆動インピーダンス信号を受信し、複数の非駆動インピーダンス信号を用いて基準呼吸信号を決め、複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各非駆動インピーダンス信号に対して、非駆動インピーダンス信号の極性値を算出し、非駆動インピーダンス信号のスケール因子を算出し、複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各非駆動インピーダンス信号に対応する極性値とスケール因子を乗算することによって、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を算出し、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を合計することで、複数の非駆動インピーダンス信号のサブセットから複合呼吸信号を算出するように構成されている、電気解剖学的マッピングシステムも提供する。
【0018】
呼吸補償モジュールは、複数のインピーダンス信号のうち最強の非駆動インピーダンス信号または複数の非駆動インピーダンス信号のうち第1の主成分信号のいずれかを基準呼吸信号として決めてよい。
【0019】
本発明の前述およびその他の態様、特徴、詳細、有用性および利点は、以下の説明および特許請求の範囲を読み、添付の図面を見ることにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】例示的な電気解剖学的マッピングシステムの概略図である。
【0021】
【
図2】本開示の態様で使用可能な例示的なカテーテルを示す。
【0022】
【
図3A】多電極カテーテルによって担持される電極とそれに関連するバイポールに関する英数字表示規則を示す。
【
図3B】多電極カテーテルによって担持される電極とそれに関連するバイポールに関する英数字表示規則を示す。
【0023】
【
図4】本開示の態様に従って実施可能な代表的なステップのフローチャートである。
【0024】
【
図5】本明細書に開示される態様による代表的な複合呼吸信号である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
複数の実施形態が開示されるが、例示的な実施形態を示し説明する以下の詳細な説明から、本開示のさらに他の実施形態が当業者に明らかになるであろう。従って、図面および詳細な説明は、本質的に例示的なものとみなされるべきであり、限定的なものとみなされるべきではない。
【0026】
本開示は、電気生理学的処置で使用する呼吸信号を生成するためのシステム、装置、および方法を提供する。説明のために、Abbott Laboratories社(イリノイ州アボットパーク)のAdvisor(商標)HDグリッドマッピングカテーテル、Sensor Enabled(商標)などの高密度(HD)グリッドカテーテルと、同じくAbbott Laboratories社のEnsite Precision(商標)心臓マッピングシステムまたはEnsite(商標)X EPシステムなどの電気解剖学的マッピングシステムとを併用して実施される電気生理学的調査を参照して、本開示の態様を説明する。しかしながら、当業者であれば、他の状況においておよび/または他の装置に関して本明細書の教示をどのように都合よく適用すればいいかを理解するであろう。
【0027】
図1は、心臓カテーテルをナビゲートし、患者11の心臓10で起こる電気的活動を測定し、その電気的活動および/またはそのように測定された電気的活動に関連するもしくは表す情報を三次元的にマッピングすることによって、心臓電気生理学的調査を実施するための例示的な電気解剖学的マッピングシステム8の概略図である。例えば、システム8を使って、1つまたは複数の電極を用いて患者の心臓10の解剖学的モデルを作成することができる。例えば、患者の心臓10の診断データマップを作成するために、システム8を使って、心臓表面に沿う複数の点で電気生理学的データを測定し、電気生理学的データが測定された各測定点の位置情報に関連付けて測定されたデータを保存することもできる。
【0028】
当業者であれば分かるように、システム8は、通常は3次元空間内で、物体の位置、およびある態様では物体の向きを特定し、それらの位置を、少なくとも1つの基準に対して特定された位置情報として表現する。これを本明細書では、「位置特定」と呼ぶ。
【0029】
図示を簡潔にするために、患者11は概略的に楕円形として描かれている。
図1に示される実施形態では、表面電極(例えば、パッチ電極)12、14、16、18、19、22からなる3つの組が、患者11の表面に適用され、本明細書においてx軸(12、14)、y軸(18、19)、z軸(16、22)と呼ばれる略直交する3つの軸を対で画定している。他の実施形態では、例えば複数の電極が特定の体表面上にあるなど、電極は他の配置で配置されてもよい。さらに別の選択肢として、電極は体表面上にある必要はなく、体の内部に配置されてもよい。
【0030】
図1において、x軸表面電極12、14は、患者の胸郭領域の外方面など第1の軸に沿って患者に適用され(例えば、両腕の下の患者の皮膚に適用され)、左電極および右電極と呼ばれることがある。y軸電極18、19は、患者の内腿と頸部に沿うなど、x軸に略直交する第2の軸に沿って患者に適用され、左脚電極および頸部電極と呼ばれることがある。z軸電極16、22は、胸郭領域で患者の胸骨と脊柱に沿うなど、x軸およびy軸の両方に略直交する第3の軸に沿って適用され、胸部電極および背部電極と呼ばれることがある。心臓10は、これらの表面電極対12/14、18/19、16/22の間にある。
【0031】
本開示の実施形態によれば、各表面電極は、6つの信号、具体的には3つの抵抗(インピーダンス)信号と3つのリアクタンス信号を測定する。これらの信号は、次に、3つの抵抗/リアクタンス信号対となるよう分類されてよい。以下に説明するように、1つの抵抗/リアクタンス信号対は駆動値を反映しており、他の2つの抵抗/リアクタンス信号対は非駆動値(例えば、電極17について以下に説明するのと同様に、他の駆動対によって生成された電界の測定値)を反映する。
【0032】
付加的な表面基準電極(例えば「腹部パッチ」)21は、システム8に基準電極および/または接地電極を提供する。腹部パッチ電極21は、以下でさらに詳細に説明される固定心内電極31の代替であってよい。代替の実施形態では、表面基準電極21は、代わりに又は加えて、患者の胸部に配置される磁気患者基準センサ-前部(「PRS-A」)を含んでもよい。
【0033】
さらに、患者11は、従来の心電図(「ECG」または「EKG」)システムのリード線のほとんどまたは全てを所定の位置に有してよいことも理解されるべきである。特定の実施形態では、例えば、患者の心臓10の心電図を感知するために、ECGリード線12本の標準セットが利用されてよい。このECG情報は、システム8で利用可能である(例えば、コンピュータシステム20への入力として提供されてよい)。ECGリード線がよく理解される限りにおいて、また図を明瞭にするために、
図1には、1本のリード線6と、コンピュータ20へのその接続のみが示されている。
【0034】
少なくとも1つの電極17を有する代表的なカテーテル13も図示されている。この代表的なカテーテル電極17は、本明細書において「ロービング電極」、「移動電極」、または「測定電極」と呼ばれる。通常、カテーテル13上の複数の電極17、または複数のそのようなカテーテル上の複数の電極17が使用される。一実施形態では、例えば、システム8は、患者の心臓および/または血管系内に配置される12本のカテーテル上の64個の電極を備えてよい。他の実施形態では、システム8は複数(例えば8つ)のスプラインを含む1本のカテーテルを利用してもよく、各スプラインは複数(例えば8つ)の電極を含む。
【0035】
しかしながら、前述の実施形態は単に例示的なものであり、使用される電極の数および/またはカテーテルの数は任意のものであってよい。例えば、本開示の目的のために、
図2には、Advisor(商標)HDグリッドマッピングカテーテル、Sensor Enabled(商標)などの例示的な多電極カテーテル、特にHDグリッドカテーテル13の一部が示されている。HDグリッドカテーテル13は、パドル202に連結されたカテーテルボディ200を含む。カテーテルボディ200は、第1および第2のボディ電極204、206のそれぞれをさらに含んでよい。パドル202は、第1のスプライン208、第2のスプライン210、第3のスプライン212、および第4のスプライン214を含んでよく、これらは、近位カプラ216によってカテーテルボディ200に連結され、遠位カプラ218によって互いに連結されている。一実施形態では、第1のスプライン208と第4のスプライン214が1つの連続したセグメントであってよく、第2のスプライン210と第3のスプライン212が別の連続したセグメントであってよい。他の実施形態では、複数のスプライン208、210、212、214は、(例えば、それぞれ近位カプラ216および遠位カプラ218によって)互いに連結される別個のセグメントであってもよい。HDカテーテル13が含むスプラインの数は任意の数であってよく、
図2に示されているスプライン4本の構成は単に例示的なものであることを理解されたい。
【0036】
上述したように、スプライン208、210、212、214は任意の数の電極17を含んでよく、
図2では、4×4の配列で配置された16個の電極17が示されている。電極17は、スプライン208、210、212、214に沿って測ったとき及びスプライン208、210、212、214間で測ったときに、均等におよび/または不均等に離間していてよいことも理解されるべきである。この説明に関して参照を容易にする目的で、
図3Aは電極17に関して英数字ラベルを提供している。
【0037】
当業者であれば分かるように、隣接する2つの電極17のどれもがバイポールを画定する。したがって、カテーテル13上の16個の電極17は、具体的には、スプラインに沿って12個(例えば、電極17aと電極17bの間、または電極17cと電極17dの間)、スプラインを跨いで12個(例えば、電極17aと電極17cの間、または電極17bと電極17dの間)、およびスプラインを斜めに跨いで18個(例えば、電極17aと電極17dの間、または電極17bと電極17cの間)の合計42個のバイポールを画定している。
【0038】
説明に関する参照を容易にするために、
図3Bは、スプラインに沿ったバイポールとスプラインに跨るバイポールに英数字ラベルを提供している。
図3Bでは斜めのバイポールの英数字ラベルを省略しているが、これは図示を明瞭にする目的のためだけである。本明細書の教示を斜めのバイポールに関しても適用できるということが明確に意図されている。
【0039】
任意のバイポールを使用して、当業者に周知の技術による双極電位図を生成してよい。さらに、これらの双極電位図は、電極群の電界ループを算出することによって、カテーテル13の平面の任意の方向で活性化タイミング情報を含む電位図を生成するために、結合(例えば、線形結合)されてよい。本明細書に完全に記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2018/0296111号明細書(111号公報)には、HDグリッドカテーテル上の電極群の電界ループを算出する詳細が開示されている。これらの電位図は、本明細書では「オムニポーラ電位図」と呼ばれ、それらの対応する方向は、本明細書では「オムニポール」または「仮想バイポール」と呼ばれる。
【0040】
いずれにせよ、カテーテル13は、その上に設けられた電極17によって画定される様々なバイポールの複数の電気生理学的データ点を同時に収集するために使用されてよく、このような電気生理学的データ点の各々は、位置特定情報(例えば、選択されたバイポールの位置および向き)と選択されたバイポールの電位図信号との両方を含む。説明のために、カテーテル13によって収集される個々の電気生理学的データ点を参照して本開示による方法を説明する。しかしながら、本明細書の教示は、直列的および/または並列的に、カテーテル13によって収集される複数の電気生理学的データポイントに適用可能であることを理解されたい。
【0041】
カテーテル13(または複数のそのようなカテーテル)は、通常、よく知られた手順で1つまたは複数の導入器を介して、患者の心臓および/または血管系に導入される。実際、経中隔アプローチなどのカテーテル13を患者の心臓に導入するための様々なアプローチが当業者にはよく知られているはずなので、本明細書でこれ以上説明する必要はない。
【0042】
各電極17は患者内にあるので、システム8によって各電極17の位置データを同時に収集することができる。同様に、各電極17を使って、心臓表面から電気生理学的データ(例えば、心内膜電位図)を収集することができる。当業者であれば、電気生理学的データ点の取得および処理のための様々なモダリティ(例えば、接触型電気生理学的マッピングと非接触型電気生理学的マッピングとの両方を含む)をよく知っているはずなので、本明細書に開示される技術の理解にはこれ以上の説明は必要ない。同様に、当技術分野でよく知られている様々な技術を用いて、複数の電気生理学的データ点から心臓形状および/または心臓の電気的活動のグラフィック表示を生成することができる。さらに、電気生理学的データ点から電気生理学的マップを作成する方法を当業者が理解する限りにおいて、その態様は本開示を理解するために必要な範囲でのみ本明細書で説明される。
【0043】
ここで
図1に戻ると、いくつかの実施形態では、オプションの固定基準電極31(例えば、心臓10の壁に取り付けられる)が第2のカテーテル29上に示されている。較正目的のために、この電極31は、動かない(例えば、心臓の壁に取り付けられているか、または心臓の壁の近くに取り付けられている)か、またはロービング電極(例えば電極17)に対して不変の空間的関係で配置されてよく、したがって、「ナビゲーション基準」または「局所基準」と呼ばれることがある。固定基準電極31は、上述した表面基準電極21に加えて使用されてもよいし、または表面基準電極21の代わりに使用されてもよい。多くの場合、心臓10内の冠状静脈洞電極または他の固定電極を、電圧および変位を測定するための基準として使用することができる。すなわち、以下に説明するように、固定基準電極31は座標系の原点を規定してよい。
【0044】
各表面電極は多重スイッチ24に連結され、表面電極対は表面電極を信号発生器25に連結するコンピュータ20上で実行されるソフトウェアによって選択される。あるいは、スイッチ24はなくてもよく、信号発生器25を複数個(例えば3個)、各測定軸(すなわち、表面電極対の各々)に対して1つずつ設けてもよい。
【0045】
コンピュータ20は、例えば、従来の汎用コンピュータ、特殊用途コンピュータ、分散型コンピュータ、または任意の他のタイプのコンピュータであってよい。コンピュータ20は、1つの中央処理装置(「CPU」)または一般に並列処理環境と呼ばれる複数の処理装置など、1つまたは複数のプロセッサ28を備えてよく、プロセッサ28は、本明細書で説明される様々な態様を実施するための命令を実行してよい。
【0046】
通常、生物学的導体内でカテーテルナビゲーションを実現するために、一連の駆動され検知された電気バイポールによって(例えば、パッチ電極対12/14、18/19、16/22を駆動することによって)、3つの公称直交電界が生成される。あるいは、これらの直交電界は分解されてよく、任意のパッチ電極対をダイポールとして駆動して効果的な電極三角測量を行うこともできる。同様に、電極12、14、18、19、16、22(または任意の数の電極)は、心臓内の電極に電流を流すため又は心臓内の電極からの電流を感知するために、他の任意の効果的な構成で配置されてもよい。例えば、複数の電極は患者11の背中、側部、および/または腹部に配置されてもよい。さらに、このような直交しないやり方はシステムの柔軟性を高める。任意の所望の軸に関して、駆動(ソース-シンク)構成の所定のセットから生じるロービング電極に跨って測定された電位を代数的に組み合わせて、単に直交軸に沿って一様な電流を駆動することによって得られるのと同じ有効電位を得ることができる。
【0047】
したがって、腹部パッチ21などの接地基準に対して、任意の2つのパッチ電極12、14、16、18、19、22がダイポールのソースおよびドレインとして選択されてよく、励磁されない電極は接地基準に対して電圧を測定する。心臓10内に配置されるロービング電極17も電流パルスからの電界に晒され、同じく腹部パッチ21などの接地基準に対して測定されてよい。実際には、心臓10内のカテーテルは図示されている16個よりも多い電極または少ない電極を含んでよく、各電極電位が測定されてよい。前述したように、少なくとも1つの電極が心臓の内表面に固定されて固定基準電極31を形成してよく、この基準電極31が、同様に腹部パッチ21などの接地基準に対して測定され、システム8が位置を測定する座標系の原点として規定されてよい。表面電極、内部電極、および仮想電極のそれぞれからのデータセットすべてを使って、心臓10内のロービング電極17の位置を特定してもよい。
【0048】
測定された電圧はシステム8によって使用され、基準電極31などの基準位置に対するロービング電極17などの心臓内にある電極の三次元空間における位置が特定されてよい。すなわち、基準電極31で測定された電圧は座標系の原点を規定するために使用されてよく、ロービング電極17で測定された電圧は原点に対するロービング電極17の位置を表すために使用されてよい。いくつかの実施形態では、座標系は3次元(x、y、z)デカルト座標系であるが、極座標系、球座標系、円筒座標系などの他の座標系も考えられる。
【0049】
前述の説明から明らかなように、心臓内の電極の位置を特定するために使用されるデータは、表面電極対が心臓に電界を印加している間に測定される。電極データは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,263,397号に記載されているように、電極位置の生の位置データを改善するために使用される呼吸補正値を生成するためにも使用されてよい。また、電極データは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,885,707号に記載されているように、患者の身体のインピーダンス変化を補正するために使用されてもよい。
【0050】
したがって、代表的な一実施形態では、システム8は、まず1組の表面電極を選択し、次にそれらを電流パルスで駆動する。電流パルスが送達されている間に、残りの表面電極および生体内電極の少なくとも1つで測定される電圧などの電気的活動が測定され、保存される。呼吸および/またはインピーダンスシフトなどのアーチファクトの補正は、上述したように行われてよい。
【0051】
本開示の態様において、システム8は、インピーダンスベースの位置特定機能(例えば上述の機能)と磁気ベースの位置特定機能との両方を取り入れたハイブリッドシステムであってもよい。したがって、例えば、システム8は、1つまたは複数の磁場発生器に連結される磁気源30をさらに含んでよい。明瞭性のために、
図1には2つの磁場発生器32、33のみが示されているが、本教示の範囲から逸脱することなく、さらなる磁場発生器(例えば、パッチ電極の組12、14、16、18、19、22によって規定される軸に類似する3つの略直交する軸を規定する合計6つの磁場発生器)が使用されてもよいことが理解されるべきである。同様に、当業者であれば、このように生成された磁場内でカテーテル13の位置を特定するために、カテーテル13が1つまたは複数の磁気位置特定センサ(例えばコイル)を含んでもよいことを理解するであろう。
【0052】
いくつかの実施形態では、システム8は、Abbott Laboratories社のEnSite(商標)Velocity(商標)、EnSite Precision(商標)、またはEnSite(商標)X心臓マッピング・可視化システムである。しかしながら、例えば、Boston Scientific社(マサチューセッツ州マールボロ)のRHYTHMIA HDX(商標)マッピングシステム、Biosense Webster社(カリフォルニア州アーバイン)のCARTOナビゲーション・位置特定システム、Northern Digital社(オンタリオ州ウォータールー)のAURORA(登録商標)システム、Stereotaxis社のNIOBE(登録商標)磁気ナビゲーションシステム(ミズーリ州セントルイス)、Abbott Laboratories社のMediGuide(商標)テクノロジーを含む他の位置特定システムも本教示に関連して使用されてよい。
【0053】
以下の特許(これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている位置特定・マッピングシステムも、本発明とともに使用可能である:米国特許第6,990,370号;第6,978,168号;第6,947,785号;第6,939,309号;第6,728,562号;第6,640,119号;第5,983,126号;および第5,697,377号。
【0054】
本開示の態様は、システム8によって使用される(例えば、呼吸ゲーティング、モーション補償、および/または不規則な呼吸の検出のための)複合呼吸信号の生成に関する。したがって、システム8は呼吸補償モジュール58を含んでよい。
【0055】
図4に提示される代表的なステップのフローチャート400を参照して、本開示の態様による1つの例示的な方法を説明する。いくつかの実施形態では、例えば、フローチャート400は、
図1の電気解剖学的マッピングシステム8によって(例えば、プロセッサ28および/または呼吸補償モジュール58によって)実施され得るいくつかの例示的なステップを表し得る。以下で説明される代表的なステップは、ハードウェアで実施可能であるか、またはソフトウェアで実施可能であるかのいずれかであることを理解されたい。説明の便宜上、本明細書では、本明細書の教示のハードウェアベースの実施とソフトウェアベースの実施のどちらを説明する場合でも、「信号プロセッサ」という語を使用する。
【0056】
ブロック402では、パッチ電極12、14、16、18、19、22から複数の非駆動インピーダンス信号が受信される。特に、胸部電極、背部電極、左電極、右電極、および頸部電極からの非駆動インピーダンス信号を使用することが望ましく、本教示によれば、左脚電極からの非駆動信号は通常使用されない。同様に、リアクタンス信号は外乱に対してより敏感なので、本教示を適用する際には、非駆動リアクタンス信号はほとんどの場合無視される。
【0057】
ブロック404では、通常、ブロック402で受信した(例えば、左脚電極18を除く)体表面電極12、14、16、19、22によって測定された非駆動インピーダンス信号を用いて、基準呼吸信号(ベース呼吸信号とも呼ばれる)が決められる。基準呼吸信号を決める様々なアプローチが考えられる。
【0058】
本開示の特定の実施形態によれば、ブロック402で受信された複数の非駆動インピーダンス信号のうち最強の非駆動インピーダンス信号が、基準呼吸信号として決められる。当業者であれば、「最強の非駆動インピーダンス信号」という語が、単なる例ではあるが、最大標準偏差を有する非駆動インピーダンス信号または最大振幅を有する非駆動インピーダンス信号など様々に定義され得ることを理解するであろう。
【0059】
本開示の他の実施形態では、ブロック402で受信された複数の非駆動インピーダンス信号のうち、特異値分解を用いて算出され得る第1の主成分信号が基準呼吸信号として決められる。
【0060】
基準呼吸信号として最強の非駆動インピーダンス信号を使うか、第1の主成分信号を使うかは、相関係数に基づいて選択されてよいことが考えられる。すなわち、最強の非駆動インピーダンス信号が特定されたら、最強の非駆動インピーダンス信号とブロック402で受信された残りの非駆動インピーダンス信号との間で相関係数が算出されてよい。これらの相関係数の絶対値の平均も算出されてよい。
【0061】
同様に、第1の主成分信号が算出されたら、第1の主成分信号とブロック402で受信した非駆動インピーダンス信号との間で相関係数を算出してよい。ここでも、これらの相関係数の絶対値の平均が算出されてよい。最強の非駆動インピーダンス信号と第1の主成分信号のうち相関係数の絶対値の平均がより大きい方の信号が、基準呼吸信号として選択されてよい。
【0062】
ブロック406では、ブロック402で受信された非駆動インピーダンス信号のうちの選択された1つについて極性値が算出される。極性値は、選択された非駆動インピーダンス信号を基準呼吸信号に合わせるために使用されるものであり、通常、選択された非駆動インピーダンス信号が基準呼吸信号と正の相関を有する場合には+1であり、選択された非駆動インピーダンス信号が基準呼吸信号と負の相関を有する場合には-1である。
【0063】
ブロック408では、選択された非駆動インピーダンス信号についてスケール因子が算出される。スケール因子は、例えば、選択された非駆動インピーダンス信号をその信号範囲で除算することによって、選択された非駆動インピーダンス信号を正規化する。
【0064】
ブロック410は、任意の他の非駆動インピーダンス信号の極性値とスケール因子を算出するために、ブロック406、408へのループバックを開始する。すべての非駆動インピーダンス信号が使用される必要はなく、すべての非駆動インピーダンス信号よりも少ない数の非駆動インピーダンス信号が使用されてもよいことが明確に意図されていると理解されるべきである。特に、本開示の態様では、頸部パッチ電極と左脚パッチ電極を除く、左パッチ電極、右パッチ電極、前部パッチ電極、および後部パッチ電極からの非駆動信号のみが使われる。
【0065】
処理すべき非駆動インピーダンス信号がなくなったら、ブロック410の「NO」からブロック412へ進み、ブロック412では、複合呼吸信号が算出される。特に、各非駆動インピーダンス信号にその極性値とスケール因子が乗算されて、重み付けされた非駆動インピーダンス信号が算出される。そして、重み付けされた非駆動インピーダンス信号のすべてを合計して、複合呼吸信号が算出される。数学的に表現すると、次のようになる。
【数1】
ここで、Signal
i(t)はi番目の非駆動インピーダンス信号であり、Polarity
iはそれに対応する極性値であり、Scaling
iはそれに対応するスケール因子である。
【0066】
ブロック414では、複合呼吸信号の極性値(本明細書では「極性値-複合」と呼ぶ)が算出される。様々なアプローチが考えられる。
【0067】
例えば、PRS-A信号が利用可能な本開示の実施形態では、複合呼吸信号とPRS-A信号との間の相関に基づいて極性値-複合が算出されてよい。より詳細には、複合呼吸信号とPRS-A信号との間の絶対相関が約75%など予め設定された閾値を超える場合、複合呼吸信号の極性がPRS-A信号の極性と同じ(例えば、正の相関の場合は+1、負の相関の場合は-1)になるように、極性値-複合が決められる。
【0068】
PRS-A信号が利用できない場合、または複合呼吸信号とPRS-A信号との間の相関が予め設定された閾値を超えない場合、様々な発見的手法を採用して極性値-複合を算出してよい。特に、極性値-複合は、複合呼吸信号の呼気相が吸気相よりも長いという仮定に従って決められてよい。したがって、極性値-複合は、以下の条件のうち1つまたは複数が真であるように(例えば、+1または-1のいずれかとして)決められてよい。
・複合呼吸信号の最小値が、複合呼吸信号の最大値よりも複合呼吸信号の平均値に近い
・複合呼吸信号のトラフの平均値が、複合呼吸信号のピークの平均値よりも複合呼吸信号の平均値に近い
・複合呼吸信号がまず下向きにゼロ交差する時とその後上向きにゼロ交差する時との間の時間間隔が、複合呼吸信号がまず上向にゼロ交差する時とその後下向きにゼロ交差する時との間の時間間隔よりも長い
【0069】
ブロック416では、複合呼吸信号のスケール因子(すなわち、「スケール因子-複合」)が算出される。ブロック408で算出されるスケール因子と同様に、スケール因子-複合は、複合呼吸信号をその信号範囲で除算するなどによって、複合呼吸信号を正規化する。
【0070】
極性値-複合およびスケール因子-複合が算出されたら、任意の所与の時間tにおける複合呼吸信号(すなわち、リアルタイム複合呼吸信号)が、時間tにおけるすべての重み付けされた非駆動インピーダンス信号の合計に極性値-複合およびスケール因子-複合を乗じたものとして算出されてよい(ブロック418)。これを数学的に表現すると、次のようになる。
【数2】
ここで、Polarity
compは極性値-複合であり、Scaling
compはスケール因子-複合である。
【0071】
このリアルタイム複合呼吸信号は、任意の望ましい目的(電気生理学的データの収集のゲーティング、呼吸補正、不規則呼吸の検出など)に使用することができる。
【0072】
また、リアルタイム複合呼吸信号は、使用される前に、例えば遮断周波数が約0.02Hzのフィルタを用いて、ハイパスフィルタ処理されることも考えられる。1つの適切なハイパスフィルタは、2つの指数移動平均フィルタをカスケード接続する。
【数3】
【0073】
ここで、αは約0.002である。しかしながら、リアルタイム複合呼吸信号の振幅が急に変化する場合には、ハイパスフィルタが不利になる可能性がある。したがって、本開示の代替実施形態では、リアルタイム複合呼吸信号はさらに、呼気相の終わりまで正規化される、特にシフトされる。これは、例えば、複合呼吸信号から複合呼吸信号の実行最小値(running minimum)を減算することによって達成される。
【0074】
図5は、前述の教示による複合呼吸信号500を示す。比較のために、
図5は、現存する呼吸信号アプローチに従って左パッチ電極と右パッチ電極からの駆動インピーダンス信号から導出された呼吸信号も示している。さらに、
図5は、呼吸信号500に基づくゲーティング信号504を示す。
【0075】
以上、いくつかの実施形態をある程度詳細に説明したが、当業者であれば、本発明の思想または範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多くの変更を加えることが可能である。
【0076】
例えば、本明細書の教示は、リアルタイムで(例えば、電気生理学的調査中に)、または(例えば、先に実施された電気生理学的調査中に収集された電気生理学的データ点に対する)後処理で、適用されてよい。
【0077】
すべての方向に関する言及(例えば、上、下、上方、下方、左、右、左方、右方、頂点、底、上側、下側、下方、垂直、水平、時計回り、および反時計回り)は、本発明の読者の理解を助けるための識別目的のために使用されるに過ぎず、特に本発明の位置、向き、または使用に関する限定を生じさせるものではない。接続に関する言及(例えば、取り付けられた、連結された、接続されたなど)は、広義に解釈されるべきであり、要素の接続間の中間部材および要素間の相対運動を含み得る。そのため、接続に関する言及は、2つの要素が直接接続され、互いに固定された関係にあることを必ずしも暗示するものではない。
【0078】
上記の説明に含まれるすべての事項、または添付図面に示されるすべての事項は、例示的なものとしてのみ解釈され、限定的なものとして解釈されないということが意図される。添付の特許請求の範囲に定義される本発明の思想から逸脱することなく、詳細または構造を変更してよい。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0078
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0078】
上記の説明に含まれるすべての事項、または添付図面に示されるすべての事項は、例示的なものとしてのみ解釈され、限定的なものとして解釈されないということが意図される。添付の特許請求の範囲に定義される本発明の思想から逸脱することなく、詳細または構造を変更してよい。
以下の項目は、国際出願時の特許請求の範囲に記載の要素である。
(項目1)
電気解剖学的マッピングシステム内で呼吸信号を生成する方法であって、前記方法は、
電気解剖学的マッピングシステムが、
複数のパッチ電極から複数の非駆動インピーダンス信号を受信することと、
前記複数の非駆動インピーダンス信号を用いて、基準呼吸信号を決めることと、
前記複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各々の非駆動インピーダンス信号について、
前記非駆動インピーダンス信号の極性値を算出することと、
前記非駆動インピーダンス信号のスケール因子を算出することと、
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットから複合呼吸信号を算出することと、を含む方法。
(項目2)
前記非駆動インピーダンス信号の前記極性値を算出することは、
前記非駆動インピーダンス信号と前記基準呼吸信号との間の相関係数を算出することと、
前記相関係数の符号に基づいて前記極性値を算出することと、を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記非駆動インピーダンス信号の前記スケール因子を算出することは、前記非駆動インピーダンス信号を正規化することを含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記非駆動インピーダンス信号を正規化することは、前記非駆動インピーダンス信号をその信号範囲で除算することを含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットから前記複合呼吸信号を算出することは、
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセット内の各々の非駆動インピーダンス信号に、対応する極性値およびスケール因子を乗算することによって、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を算出することと、
前記複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を合計することによって、前記複合呼吸信号を算出することと、を含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記複合呼吸信号の極性値を決めることをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号の極性がPRS-A信号の極性に対応するように決められる、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号と前記PRS-A信号との間の相関係数が予め設定された閾値を超える場合にのみ、前記複合呼吸信号の前記極性が前記PRS-A信号の前記極性に対応するように決められる、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記予め設定された閾値は75%である、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号の呼気の持続時間が前記複合呼吸信号の吸気の持続時間を上回るという仮定に従って決められる、項目6に記載の方法。
(項目11)
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号の最小値が、前記複合呼吸信号の最大値よりも前記複合呼吸信号の平均に近くなるように決められる、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号のトラフの平均が、前記複合呼吸信号のピークの平均よりも前記複合呼吸信号の平均に近くなるように決められる、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記複合呼吸信号の前記極性値は、前記複合呼吸信号がまず下向きにゼロ交差する時とその後上向きにゼロ交差する時との間の時間間隔が、前記複合呼吸信号がまず上向きにゼロ交差する時とその後下向きにゼロ交差する時との間の時間間隔よりも長くなるように決められる、項目10に記載の方法。
(項目14)
前記複合呼吸信号を正規化する、前記複合呼吸信号の複合スケール因子を算出することをさらに含む、項目6に記載の方法。
(項目15)
前記複数の非駆動インピーダンス信号を用いて、前記基準呼吸信号を決めることは、前記複数のインピーダンス信号のうちの最強の非駆動インピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの第1の主成分信号のいずれかを前記基準呼吸信号として決めることを含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記最強の非駆動インピーダンス信号は、前記複数の非駆動インピーダンス信号のうち最も標準偏差が大きい信号を備える、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記最強の非駆動インピーダンス信号は、前記複数の非駆動インピーダンス信号のうち最も振幅の大きい信号を特定することを備える、項目15に記載の方法。
(項目18)
前記複数のインピーダンス信号のうちの前記最強の非駆動インピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記第1の主成分信号のいずれかを前記基準呼吸信号として決めることは、一方では、前記最強のインピーダンス信号と前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットとの間の相関係数と、他方では、前記第1の主成分信号と前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットとの間の相関係数とに従って、前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記最強のインピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうちの前記第1の主成分信号のいずれかを前記基準呼吸信号として定義することを含む、項目15に記載の方法。
(項目19)
電気解剖学的マッピングシステムであって、
複数のパッチ電極から複数の非駆動インピーダンス信号を受信し、
前記複数の非駆動インピーダンス信号を用いて、基準呼吸信号を決め、
前記複数の非駆動インピーダンス信号のサブセット内の各々の非駆動インピーダンス信号について、
前記非駆動インピーダンス信号の極性値を算出し、
前記非駆動インピーダンス信号のスケール因子を算出し、
前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセット内の各非駆動インピーダンス信号に、対応する極性値とスケール因子を乗算することによって、複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を算出し、前記複数の重み付けされた非駆動インピーダンス信号を合計することで、前記複数の非駆動インピーダンス信号の前記サブセットから複合呼吸信号を算出するように構成された呼吸補償モジュールを備える、電気解剖学的マッピングシステム。
(項目20)
前記呼吸補償モジュールは、前記基準呼吸信号を、前記複数のインピーダンス信号のうち最強の非駆動インピーダンス信号または前記複数の非駆動インピーダンス信号のうち第1の主成分信号のいずれかとして、前記基準呼吸信号として決める、項目19に記載のシステム。
【国際調査報告】